■ 【春まで限定】静かに小雪舞う高台【雑談スレ】
- 1 名前:名無し客:2009/09/05(土) 21:59:11
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・ここは月がよく見える高台です。
・紅葉も舞っております。
・ベンチや自動販売機もあります。
・10月末まで開放しております。
・マナーを守ってご利用ください。
・場合によっては戦車が治安維持にやってきます。
- 2 名前:名無し客:2009/09/06(日) 11:34:37
- ガチャゴトガチャゴト♪
(自販におでん缶やラーメン缶を入れている)
- 3 名前:名無し客:2009/09/09(水) 19:00:27
- うーむ、何をすればいいんじゃろうか
- 4 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/23(水) 00:27:49
- 秋。
葉は色づき落ち始め、実を遺し、冷たい風が吹き始める。
これから来る死を感じさせる季節。
空には大きな月。
地には静かな林。
なにもない。
それ自体が完成してしまったかのような、
あるいは季節に先駆けて枯死してしまったかのような光景。
その静寂が打ち破られた。
静かに地上に舞い降りた……つもりであったが落ち葉は思いのほか大きな音を立てた。
ひとつため息をつき、もう音をおさえる事は諦めてザクザク音をたてながら
手近な大樹の幹に歩み寄る。
持っていた鞄を足元に下ろすと幹にもたれて月を見上げた。
相変わらず、暇をもてあます。
今晩は休暇。
騒ぎの中故、詰めていたかったがお嬢様の命令では仕方が無い。
妹様は今日は名無しと遊んでいるので暴れだす心配はなさそうだ。
そして、最近では吸血鬼まで擁するようになった臨時門番隊が中庭を固めている。
今晩くらいはゆっくりして来なさいと言われてしまった。
最初は香霖堂に行こうとしたのだが、昨日の今日だしと躊躇していたら、
白黒が入っていくのが見えたのでなんとなくやめてしまった。
門番は忙しく、邪魔をしにいくだけになってしまう。
どうしていいか分からず、なんとなくここまで来てしまった。
何故か昔の鞄をもって。
また溜息。
幸せが逃げていくという迷信など信じないが、
なにか大事な内の熱さが静かに逃げていってしまうような、
そんな気がして……ずるずると幹に背をつけたまま地べたに座り込んだ。
- 5 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/23(水) 00:45:34
- どこまでも静かな丘。
林の中にぽつんと張り出した高台はまるで月へと続く階段のように。
しかし、たとえ月まで駆け上がっても楽しい事などなにもない。
足元の鞄を開けると幻想郷の外に居た頃のものが顔を出す。
何故こんなものを持ってきたのだろう。
珍しく捨てたはずの思い出にでも浸りたくなったのか。
それともあの頃の悪い病気が蘇ったのか?
しかし、このあたりに人は居ない。
その必要もなければ、リスクも尋常ではない。
そもそも食事の支度で手馴れているではないか。
なにも仕事以外でわざわざ望む必要がどこにあろうか。
既に起こる事の無い事件だ。
夜霧の幻影殺人鬼は幻想の中に消えたのだから。
鞄から煙草を取り出し、一つ火をつけてくわえる。
ただの気分だ。ふかしているだけ。
だがその香りはわずかに昔を思い浮かべるに十分な力を持っていた。
そうだ、元から内に熱いものなどなかったではないか。
今もって居る熱はすべてあの吸血鬼からもらったもの。
十六夜咲夜が十六夜咲夜である証。
ああ、そうか。
それを確かめるために私は鞄をもってきたのかもしれない。
まるで時が止まったかのような周囲を見るとは無しに眺めながら、
そんな益体も無い事を考えていた。
- 6 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 01:11:01
-
風が頬に当たって、それで視線が高いな、と気付いた。
足場も高い。
何せ立っているのは小高い高台で、振り返れば通ってきた道は起伏のある稜線になっている。
……落ち葉の跡を辿っていたら辿り付いた、というのが正直な話で、目的があって歩いていた訳でもない。
思えば遠くまで、などと言ってはみたものの、感慨などビタイチ沸いてこなかった。
待機しろ、と言われることがままある。
これは文字通りの意味で、動くな、遠くに行くな、だがやることはない、じっとしていろ、むしろ動くな動けば殺
す、という脅迫じみたコードをひとくたにした言葉なので、それが出たときはカタツムリのようにホテルか手近な
喫茶店に立て篭もるしかない。幸い日本ではその種の場所に事欠くことはなく、コンビニに入った途端に店主
と殺し合いを演じる強盗や喫茶店でド突き合いを始めるバカと遭遇することも(あまり)ない。
まあ、ただ。
出歩くな、と言っても、あくまで連絡が付くようにしろ、という意味ではある。比較的外出可能な場所なら足を
向けて怒られることもない――そういうわけで、気付けばアレがコレだった、ということになるだろう。
世間はシルバーウィーク最終、ということでいかにも忙しなく、それに釣られるように俺の周囲も慌しい。ただ
し休暇のプランを立てるのに忙しいのではなく、純粋に厄介事が山済みになったりならなかったりする地獄が
常態だというだけだ。
ささくれた気分を癒す手段としてなら、散歩も悪くはないだろう。
なんで、ブラブラ歩き続けてかれこれ三十分。
五分前に買った缶コーヒーはとっくに底を尽いていて、ゴミ箱を見付けるまでは単なる邪魔物だ。ポイ捨て厳
禁、環境を大事に。
……とはいえ、人間がいなければ環境の定義などそもそも存在しないのだが。
それはいかにも人間主義的だ、と普段のツレなら笑うところだが、笑う相手もいないので自分で笑うしかない。
自給自足のツッコミほど虚しいモノもないので、三秒ほどで止めておく。
確認した携帯にも通信なし。
どうしたもんか、とぐるりと見回したところで、人影一つ。
デカいカバンを足元に、デカい木に(奇妙に油断ない姿勢で)背を預けた誰かは、遠目には年齢の判別が付
き辛い空気を発散している。
感想は一つ。
タバコ、あんまり似合わないんじゃないか。
「……まあ。偏見だよな、コレも」
- 7 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/23(水) 01:11:32
- 日本の諺には行きはよいよい帰りは怖いという言葉があるらしい。
…諺だったっけ?なんでもいいか。
しかしちょっとした高台を登るのに不健康で環境に悪い車なんて物は使う気がせず
ここは健康志向で行こう、と自転車で向かったのであった。
…まあ、車を使う以前に軍服のまま少し自転車で出かけた帰り道、紅葉が綺麗そうだったんで気紛れで上ったに過ぎないんだが。
結果、それなりの勾配がある道で自転車を押す羽目になったんだけど。いやはや。結構体力を使うもんだ。
普段鍛えてあるから後悔するほどじゃあないんだが。
で、無心で押しているうちに高台に到着。この辺り一帯を眺める事が出来るなかなか綺麗なスポットだ。
辺りを支配しているのは満月の光、乱舞する紅葉に虫の声、そして…。
ん?煙草の臭い?微かだが風に乗って流れてきた。
>>5
「…おや」
メイドが木にもたれかかりながら煙草を吸っている。
絵になるんだかならないんだかよく分からない状況だ。
メイド自身はそれはもうかなりの美人の部類に入るのは間違いないほど綺麗なんだけど。
…少しだけ煙草が邪魔かな?いや、ある意味これも芸術の一種かもしれない。
ミレー?だったっけ。油絵にするならあんな感じ。
- 8 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/23(水) 01:21:20
- いつの間にか煙草は灰の柱になっていた。
静かに皮袋で火を消し、鞄に戻す。
ふと門番とのやりとりを思い出す。
「あの丘、静かで紅葉もきれいで月見には最適でしょうねぇ、
お酒でももって今度いきましょうか?」
「あら、いいわね。でもそんなにいい場所なら先客に場所をとられているかもしれないわよ?」
「いいじゃないですか。その時は一緒に騒げばいいんです。
お酒とおつまみのバリエーションがお互い増えるんですからきっと先方も喜びますよ」
「……貴方のそういうどこまでも前向きな所は時に感心するわ」
「あはは、褒められて悪い気はしませんねぇ」
「皮肉だったりして?」
「ええ!?」
「……冗談よ、まぁ、今度下見にでも行ってみるわ」
「おや、下見なら私が行きましょうか?」
「いいのよ、私なら時間を止めれば一瞬だし、それに興味も出てきたし」
「それはなにより。じゃお任せしちゃいますね」
確かに、いい場所ね。
落ち着くには悪くない。
だが、先客はどうかしら、誰も居ないんじゃ……
>>6-7
複数の足音。
聴覚がそれをとらえたと同時に反射的に時を止め確認する。
幻想郷で妖怪と同等に立ち回るためにいつのまにかついた癖だ。
確認してみたものの、どうしたものか。
同行者では無さそうだが、一方は軍服のような格好。
もう一方は自分と似たような剣呑な香りの漂う男ときた。
さて、どうするか。
このまま消えるか?
そう思ったときに先の門番とのやりとりが蘇る。
溜息。
そうね。先客を恐れていても仕方ない。
「こんばんは、良い月ですね」
停止を解除して、腰の後ろのナイフの柄に行っていた手を放して静かに戻し、
そして、二人に微笑みかけた。
柄にも無いとも思ったが、笑顔は基本。
門番に言われるまでも無く、そのくらいのことは分かっている。
- 9 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 01:35:59
- >>7-8
いい月だろうか。
どっちに言ったんだ、というのがまず最初。どっちにもだろ、という解釈がコンマ一秒後に付いてくる。
いつの間にやら視線の先――木を挟んだ対角線上に人影がもう一つ。早い話、この女――の子は、
十数メートル離れた二箇所の気配を感じ取っていたという意味であって、どう考えても素人の風情で
はありえない。
……まあ、それも今更。
この周辺ではそんな連中が多い――ここらで会った連中は、大概が素人でないどころか普通人で
すらなかったのだ。月が綺麗だから吸血鬼だ、とか風が強いから風神だ、とか無茶な論理(ですらな
い)展開を叩き込まれても驚かない。
軽く手を上げて会釈する。
「……ですかね。まあ、下の方よりは綺麗に見えますけど」
改めて見上げた空には、確かに眼球じみた月輪一つ。ここに来る前でも雲間から漏れていた月代
は、この高台に至ってちょっとした電灯めいた明るさすら放っている。
確かに、と一人ごちて納得した。
- 10 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/23(水) 01:37:16
- >>8
カチン
…ん?あ、あれ?
いつの間に立ち上がったんだ、この娘―――年齢的にはまだ10代に見える―――は?
妙な感覚だ。脳が違和感を激しく訴えている。
そう、昔見た映画の出来が少し残念で、同一のシーンでカットなんてするもんだから一瞬で体が
少し瞬間移動したように見えたことがある。
さっきのはそれに似ている。しかも映画のときよりもこれはずっと露骨な形だ。
気にすれれば気にするほど頭が混乱する。
座っている状態から立つまでの動き、どこに行ったんだ?
「…あ、えーと」
挨拶されて始めて違和感が薄れていった。
目の前に居るのは格好だけ除けば普通の少女だからか。…さっきの違和感はどこかしら疲れているから故なんだろう。
さっさと忘れる事にしよう。
「ああ、こんばんは。やっぱり地球で見る月って言うのはどこかしら趣があるものだからな。
宇宙だと味気のない岩の星だって言うのに」
いつもの調子を取り戻そう。笑顔で談笑しているうちにな。
>>6
…えーと。結構見たことあるような無いような。
俺の記憶が正しければ確かこの人は…。
「…神父様、でしたっけ」
イマイチ確証が持てないのは何故だろうか?
- 11 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 01:45:29
- >>10
「……あー、それ。疑問系っつーのはどうなんだろうな」
……言ってから思い出した。
こんな場所で軍服を着てるのが色々と解らないが(ファッションとして通じるには通じるが――たぶん)、
見た目そのままに突っ立っている軍人は、正にそのまま軍人だ。
久し振り、と返してやるべきなんだろうが、生憎と吹っ掛けられた最初のセリフが失礼すぎた。憮然とし
そうになる顔を緩めて、一秒半でまあいいかと納得した。
なんというか、こんな時間に苛立ってもどうしようもない。
「で、あんたは軍人だっけ? ……でもさ。それ言ったら、あんたもちょっとそれっぽくないぜ。もっとこう、
首周りとかゴムみたいに鍛えられててもいいんじゃないか」
というのは、もちろん最前線でドンパチをやらかす連中か、でなければ日に焼けたカラダにGショックを
巻いて酒場でバドワイザーなど飲みながら、何してる人、と聞くと「コンピューター技師さ!」などとホザく
特殊部隊の連中くらいのものだ。
まあ。これくらいの仕返しなら、サラっと流してもいいだろう。
- 12 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/23(水) 01:51:18
- >>9
きょとん
そんな擬音が書き添えられそうな表情で男が答える。
月が目的で無いならこの高台になにを見に来たと言うのか。
紅葉か、あるいは移動そのものに目的があるのか、
はたまた先ほどの自分のように、なにか自分の内にあるものを見にきたのだろうか……
だとしたら話しかけることで彼の邪魔をしてしまっただろうか?
わからない。
が、わからないなら仕方ない。
迷惑であれば向こうから切り上げるはずだ。
普段の私がよくそうするように。
「遠くから見てこその月ですもの、綺麗に見えるが重畳ですわ」
>>10
味気ない岩の星。
男はそう言った。
まるで間近で見た事があるかのように。
自分も見たことはある。
二つの月の光景を。
一方は写真と雑誌で、男の言うとおりの岩の塊の月を。
一方は自らの目で、少し話と異なる月を。
しかし、今見ているのは岩の塊ではなく、遥けき大地でもなく、そこに反射する日の光。
綺麗なのは光なのだろう。
吸血鬼は太陽を苦手とするが月の光は力に変える。
クスと笑みが自然に毀れた。
突き詰めれば同じようなものだというのに、なんだか不思議で可笑しかったのだ。
「そうですね。やはり月見するならばそういった要素は欠かせません」
- 13 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/23(水) 01:58:23
- >>10-11
「…神父様、でしたっけ」
ぴくり。
期せず体が緊張する。
神父と言ったか。この男が?
私と同じ香りを潜ませるこの男が?
時に吸血鬼と、悪魔と対峙することもある聖職者だと?
一瞬、悪魔の狗の笑みが浮かびそうになったがすぐにそれを掻き消す。
落ち着け。
もし外の人間だとしたら聖職者がこの世界にどれほど居ると思っている。
吸血鬼や悪魔と対峙できる聖職者など世界に数えるほどしかいない。
この男がそうとは限らない。
仮にそうだとしてもここにいるのは自分ひとり。
ただの人間の十六夜咲夜、ただひとりだ。
気にする必要はない。
とは言え、もしこの男が悪魔祓いだとすれば恐ろしい敵になるだろう。
自分が悪魔祓いに就職するのと同等かそれ以上には面倒な存在になるはずだ。
そんな思いからか無意識に神父の顔を凝視している自分に気づき、
あわてて視線を軍人に移した。
「軍のお仕事ですか、大変なのでしょうね」
わずかに笑みがぎこちない。
修行が足りない自分を内心叱咤した。
- 14 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 02:06:28
- >>12
言われてみれば、それはまあ。
現実が人それぞれであるように、感傷も人それぞれだ。美観の類が磨耗を通り越して摩滅していた最近では、こうして
月を見上げることが殆どなかった。月と言えば夜間行動の明かりでしかなく、その種の行動下において、月が照らすの
は死体か死体か死体か死体かもしくは死体か死体で、でなければ死体だった。
ぬらぬらとぬめる内臓を白く染め、炸裂弾で弾けた筋肉を青褪めさせる無慈悲な夜の女王。
とはいえ――。
見方を変えれば変わる物で、なるほど見上げる月は風流の対象としてみても遜色ない。ワグナーと血煙に染まる世界
の月から、安東ウメ子かゼン・ガーデンの似合う日本の月へ。
綺麗なモノは綺麗だ。そんなトートロジーが罷り通るのは、なかなかどうして新鮮だ。
「綺麗だから綺麗だ、ってワケですね。……なるほど。うん、確かにまあ、それなら理由はないな――悪くない」
……と、空から視線を戻すと、所在無く握っていた空の缶に視線が落ちる。
月見で一杯、というには缶コーヒーは役不足すぎるが、近くに自販機の一つもないのが少しだけ惜しいかな、と思った。
- 15 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/23(水) 02:14:07
- >>11
良かった、当たってて。
…いや、妙に神父というにしては納得できない雰囲気をまとっているせいか。
「あ、いや、間違ってたらなんか失礼じゃないですか。ほら、日本人的考慮、みたいな」
少し薄まったくらいではこういったことは遺伝子レベルで覚えている事か、はたまた
ただ単に親がそういった性格だったせいなだけか。
まあ、考慮に越した事はないし。
「首周り…痣なら良く出来るんですけどね。仕事柄」
軍人である以上身体の鍛錬は全くもって欠かしていない。
ただ首周りがゴムのようになるまで鍛えているわけではない。
その代わり正面でクロスさせる安全ベルトが付加Gによりよく食い込むのだ。
地上宇宙問わずMSのりにはよくある症状らしい。
「で、神父様も月でも身に来たんですか」
頭上には麗しき丸い星が輝いている。誘われたとしても不思議ではない。
>>12-13
クスリと妖美さも含んで笑った。
…ん?なんか笑われるようなこと言っただろうか。
「月の光は太陽光が反射しているだけだっていうんだけどな。…ま、実感も沸かないのも当然か。
夜にあれだけ不思議な姿をさらすんだし」
天文学の発達は宇宙の姿を宗教的世界観から切り離してありのまま、裸の世界を我々に教えた。
それは神話からの脱却であり、味気ない科学に基づいた現実を目の前にする。
しかしそれでも宇宙は神秘の塊だ。
奇跡に奇跡を累乗し、そこにまた偶然を掛け合わせて出来たのが人間。
星の数ほど分の1で生み出された奇妙な存在。
そんな人間は自らの可能性の枠を超える事が出来るのか、宇宙への進出自身がまだ可能性の枠内であったのか。
…ん?
なぜかメイドが神父様を注視している。それに気づいたかと思えば、向こうもまたこちらに視線を戻してきた。
「あー、まあ、な。ちょっと化かし外に所用があって、ここには帰りにたまたまよっただけさ」
とりあえず真面目に答えるとしておこう。嘘をつくほどでもない。
- 16 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 02:23:44
- >>13
「……」
マジかよオイ視線逸らされちゃったよ。
……思いっきりヘコむと同時に頬の端が引き攣りそうになるが、根性で押し留める。
ああいや、うん。
いや。いや効いた。
無茶苦茶効いた。
普段こういう対応されてないとね、効くよねこの反応。
え? 何? 俺なんかした? あっちの軍人のが好みのタイプだったとか?
ネガに落ち込む内心を蹴り殺し、蹴り殺した傍から再生するネガティヴマインドを押さえ込む。
「あ、あー……あー、うん」
……風が涼しい。
涼しいから色々忘れよう。
眩暈がするような熱気が抜けた日本の風は、実にサワやかで心地いい。普段の住処が盆地だからか、
尚のことこの清涼感は涼やかだ。――だから忘れよう。初見の時点で空間内の常態ベクトルが変動して
たこととか――というのはつまり、この子が俺と同系統の能力(に近い)なんらかのコード改竄能力を持っ
てることとか、どう考えても漂う文脈から物騒なモノが詰められてることとか、その類の一切はチャチな問
題だ。
だって!
だってそうでしょう!?
目ぇ逸らされましたよ? 思いっきり! 真正面から!
「……いやいやいや」
カン違いかもしれない。
そういうことにしておこう。しておきたい。精神衛生上問題から。
にしても、と思う。
さっきから感じる妙な既視感は――と、そこまで考えて思い至った。
月明かりの下のメイド。
そのチグハグな光景が、知り合いの時代錯誤な格好と似ていたのだ。月明かりに映えるプラチナ色
の髪も手伝って、デジャヴが奇妙に寂寥を運ぶ。
……ほんと。
どうしてんだろうな、アイツ。
- 17 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/23(水) 02:24:34
- >>15
帰りに寄っただけだとか。
仕事のある時間には思えないが軍ともなればそれもありか。
こんな時間にうろついているのは殺人鬼くらいのもの、お気をつけてくださいね。
そんな言葉が脳裏に浮かび、却下された。
悪趣味にも程がある。
相変わらず自分はユーモアのセンスがずれている。
お嬢様に変な子呼ばわりされるのもやむなしという所だ。残念ながら。
「あら、それではお呼び止めしてしまってご迷惑でなければよかったのですが……」
まぁ、神父に話しかけていることから急いでは居ないのだろうとは察する事ができるが、
それでも一応、気遣ってみる。
反射的に呼びかけたのは私、それは紛れもない事実なのだから。
>>14
若干の表情の推移。
そして得心。
なんだろうか、妙に親近感の湧くこの所作は。
そうか、ちょうど中国の一見頓珍漢でいて妙に奥深い言葉に戸惑う時の私の所作に似ているのだ。
知らずに影響されたかしら。
嬉しいような陰鬱なようなそんな気分を感じつつ、
「紅茶しかありませんが、よろしければいかがですか?
そちらの軍人さんも。」
彼の視線の動きに、ついいつものクセでティーセットを盆に載せ、茶を勧めていた。
……器材は時間を止めて鞄から取り出したことは言うまでもない。
「あ」
……失敗した。
それなりに緊張していたのだろうとは自己診断するが、
時間をとめて悠長にお茶を淹れている間に気づいてもよさそうなものだ。
私は時間を止める事はできても過去を消す事はできない。
これはひどい。
昨日どこぞの名無しさんにどじっこですかと尋ねられたが、これはそのときの返答を笑えない。
「て、手品……上手でしょう?」
さらにひどい。
こんな理由で騙されてくれるお人よしが居るはずがない。
焦りでさーっと体温が下がるのが感じられた。
- 18 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 02:29:44
- >>15
「日本人ならそこで口には出さないんだけどな」
案外この軍人、俺より日本人度が低いのかもしれない。具体的にはこう、名前が漢字でなくてカタカナ
だったりとか。本名も解らない俺に言えた義理ではないのは確かなので、まあ口に出すのはよしておく。
っつーか。
「……多分、適材適所、じゃないかな。職能集団じゃねえけど、この現代にマッチョじゃなきゃやってられ
ない軍隊なんて逆に稀だ。ガキだってAK持ってりゃ人は殺――」……ああ、違う違う。メイドさんいるよね。
言葉選ぼうね俺。「……誰だって剣呑な人間にはなれるんだからさ」
普段見ている連中がアレすぎるせいで、軍人らしさの基準が違っているのかもしれない。
……いやだってこのヒトとか、首掴んで振ったら折れそうなんだもん。
「俺は……まあ、それでいいよ。理由とか考えるの面倒だし。月は綺麗だ――うん、今決めた。理由はそ
れだ。月見だな」
- 19 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 02:52:34
- >>17
――へえ、と言ったと思う。
感慨が先にきたから、この反応は俺の反射に近い。
面白いモノを見た、とか、珍しいな、とか、その類の自覚だ。
ティーカップが出現した。
文字通り、虚空から引っ張り出すみたいに、自然に、唐突に――イメージ的には、一連の映像記録のAとBの間に
存在する瞬間をぶった切って、それを無理やり接続したようなもんだ。
無論、手品ではない。
”哲学者の卵”を頭に入れてない今は空間文脈の変質は読み取れないが、間違いなく世界法則が一瞬(或いは主
観的に一瞬以下で)改竄されている。
当然だ。コンマ一秒を無限に裁断した一秒であっても、動いている以上は俺に知覚できない道理がない。身体の重
心移動を幾ら巧くこなしても、時間そのものを滑落させた動きは人間に成し得ない。
そして、状態ベクトルの操作ならタイムラグが出て然るべきだ。
となると。
時間とは無限に裁断された「一瞬」の総体だ、とゼノンじみた戯言を言うまでもない。
停めたのか、コレ。
「へえ……なるほど。上手ですね、手品」
とはいえ、害意がなければ面白いモノを見せて貰ったと解釈して問題ない。いかにも「やっちゃった」みたいな顔を見
ると、コレは日常茶飯事なのかもしれない。
反応が白々しくはなかったか逆に恐縮するが、自覚済みなら向こうもツッ込まないだろう。
何もヴァチカンは変わったヤツは誰彼構わずブチ殺せ、などと中世の野蛮なスペイン人みたいなことを言ってるワケ
じゃないのだ。
誰しも聞かれたくないことがある。見たくないものもあるだろうし、言いたくないこともまた然りだろう。
なんで、カップを受け取るのに遠慮はない。
「――あ、美味い」
これは割と遠慮抜きの感想だ。妙なモノが入っていたら流石に反応する。
月見に紅茶はどうかと思ったが、これはこれで悪くないかもしれない。
- 20 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/23(水) 02:55:37
- >>18
「おーけーあいあんだーすたんど。次から気をつけます」
やる気のない英語で答えた。家族の内での会話と学校で第二言語日本語選択したおかげで
俺は日本語がかなり上手いと言われている。
宇宙に上がってもアイデンティティーを確立する為家族内では自国に近い言語を使うという風習が有ったり無かったり。
「火器の発達もまた、人間の罪なんでしょうかね。撃ち方さえ覚えれば競争するように罪深い技能を伸ばしていく…」
旧世紀にはアフリカやベトナムで大量に発生した少年兵。
中には無知な少年を使って靴磨きのふりをさせて敵兵士に近づけ、少年ごと爆破したという事例が有ったと言われてるくらいだ。
「銃がなければ子供も戦う事は無いんですかねえ。…あ、ダヴィデは石で人を打ち倒したっけ」
いやあ、神父様に言うジョークではないな。これ。
>>17
「ああ、いや、別に気にしちゃあいないよ。ごく個人的な所用だから」
そういって自転車の籠の中に入ったビニール袋を見せる。
袋には大きなチェーン店を展開している企業の名前がプリントしてある。
…ま、辺境に飛ばされたせいで基地の規模は小さいし、規律も羽目を外し過ぎなければいいという程度のせいか。
酒保、品揃え悪いんだよ。異様に。
…で、何か神父様を見て妙に納得したような顔。ほら、知り合いに似てるなあ、って感じの。
そして彼女は神父様の目の動きに反/
/
カチン
/
/応してか手の上には立派なティーセットが
って、うおっ!?いつの間にトレイが!?
またあの違和感だ。手品だといっているがはっきり言ってあの出来の悪い映画を見たときと同じような
脳が悲鳴を上げるような気持ち悪さがある。
あんまり細かい事は気にしない性格であると自分でも思っているんだが…。
「は…はは…いやあ、ノーモーションで手品が出来る人なんて始めて見たよ」
…っとしまった。思わず見たままの感想を出してしまった。
いや、だって手まで瞬間移動されちゃあそりゃびっくりするじゃん、普通。
- 21 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/23(水) 03:11:25
- >>16
???
なにやら神父が葛藤している。
ちょうど先ほど凝視してからの事だ。
……なにか感づかれたのだろうか?
なんだかよく分からないが、敵意のようなものは感じないので
おそらく大丈夫なのだろうと判断を無理やりにつけておく。
>>18
全くだ。
AKがなんだかは分からないが、子供がナイフ一本もって殺人鬼になることもある。
そんな世界で軍人だけがイメージどおりの姿をしていなければいけない理由は……
……まぁ、対外的には無いわけでも無さそうだが。
とりあえず、言いよどんでわざわざ言い換えた神父に微笑む。
「神父様はお優しいんですね」
慮ってくれているのを感じての微笑だ。
買い被りでなければ……自分がその「剣呑な人間」だと分からないほど
暢気な人間には見えないのだが。
まぁ、いずれにせよ配慮の根底にある感情はおなじものだろう。
だから、横から言葉を挟むのもどうかとは思いつつも、
露骨な礼はしないまでも感謝は伝えておこうと思った。
>>19
喜色?
彼の顔に一瞬浮かんだ表情はなんとも判断のつき辛いものだった。
だが、何事もなかったかのように神父は軽い賛辞と共にティーカップを受け取り口にする。
あ、なんだろうこの感覚。
お嬢様がたまにする表情に似ている。
「知っているけど、問題にはしないわ」という表情。
そう簡単に能力の正体を特定できる者などそうは居ないだろうが、
さりとて、この表情はその可能性を考えさせるに十分……のような気がするのは
私が焦っているからだろうか?
顔が火照る感覚があるのでおそらく私は今赤面しているのであろう。
いつもなら時間を止めて気分を落ち着ける所だが、
さすがに今これ以上に時間を止めるのは不味い予感がする。
「ありがとうございます」
その葛藤と内心の落ち着きのなさは紅茶の感想を彼が述べるに至って漸く落ち着いた。
>>20
軍人さんがかざした袋には店の名前と思しき印刷が載っていた。
買い物の途中だろうか。
こんな時間に開いている店舗とはまた珍しい。
いや、もしかすると自分が幻想郷に行っている内に珍しくなくなっているのかもしれないが。
>「は…はは…いやあ、ノーモーションで手品が出来る人なんて始めて見たよ」
「あう」
ひどくマヌケな声が出た。
白黒にでも見られたら指をさして笑われそうな。
「そ、その……無様な仕草をお見せして申し訳ありません」
だめだ。
普段から当たり前のように能力を使いすぎた弊害。
自分がどうして他人から遠ざけられたのか忘れたとでも言うのか。
何故夜霧の殺人鬼が生まれたのか。
そのきっかけすら忘れるほどに最近の生活は幸せだったのだろうか。
ようやく思い出した。
最近は白黒や紅白など規格外の人間が多すぎて忘れていたが……
他人との付き合いがニガテだったのだ、私は。
ああ、また溜息が。
- 22 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 03:14:37
- >>20
……罪。
勘弁してくれ、と言いたかったが、戦争観もまた人それぞれなんだろう。
ラングレーやヴォクスホールで演算機に向かう連中が、ソマリアやユーゴで、或いは南アフリカで殺し合うガ
キの実情を知らないことはままある――だから多分、ある意味ではこのヒトもそうなんだろう。パイロットだ、と
言っていたから、恐らくは『前線』の意味すら俺と違えている可能性がある。
前線、と一口に言っても様々だ。二キロ先からライフルで誰かの頭を吹き飛ばすのは、眼窩に親指を突っ込
んで脳を掻き回すより心理的抵抗は少ない。爆撃はライフルよりも更に抵抗がない。
罪とは、自分が背負う責任の所在だ。
世界にはそんな『罪』が冗談みたいに軽い場所が腐るほどある――命の価値が、スニッカーズ一本に満た
ない世界が。
そんな場所において、『罪深い』技能などありはしない。銃器は日常の延長で、銃声もまた日常でしかない。
少年兵とはその全体の差分であり、誰かを『殺す』ことにおいて大人との違いはない。火薬は万人に平等で、
運動エネルギーもまた万人にとって平等な死神だ。
大人と子供の差は、と言うのなら、それは選べないことだ。
生きることを。
死ぬことを。
誰かを殺すことを――かつての俺と同じように。
家族を殺すことも選べないし、友人を殺した大人達の仲間にならないことを選べない。
だから。
眉を顰めてしまったと思う。
たぶん。
銃がなければ、って。
……あんたな。
勘弁してくれ。
「そもそも、ガキが銃を手に入れられるって時点でイカれてるんじゃないかな。ついでに言うなら、そんな場所
じゃガキは銃がなきゃどうにもならなかったりするんですけどね」
前線、というのはそういうことだ。
この高台。
この稜線の果て――地平線を延長した彼方で続く銃声は、耳に瘡蓋じみて貼り付いている。
「……気にしないで下さい。アレだ、神父っぽくない述懐です。あと、ちょっとした愚痴かな」
- 23 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 03:32:10
- >>21
「は、あ……優しい?」
ああ。
言われてから、さっきの対応のことだと気付くのに大分時間が掛かった。
なにしろ、そんな真っ向からの対応はころのところされたことがなかったのだ。
行き来するのは気遣いで溢れた日常と気遣いがそもそも存在しない日常。気遣いを当然だと思っている連中は
さも当然だと好意を空気のように受け流し、気遣いを知らない連中は意味が解らないとばかりに困惑する。
なので、こんな反応をする人間を見ることは逆に少なくなるのだ。
なんだか、妙にホッとしてしまう。
このメイドさん、特技や物騒な気配とは反比例して、気遣いの類には外見通りに敏感なのかもしれない。
……メイド。
そういえばマジなのか。マジでメイドなのか。……そうだよな、日本だもんなここ。メイドの一人や二人、普通にい
たり――するの?
「……まあ、どっちでもいいか」
さしあたり、さっきの反応が(目ぇ逸らされたのが)「イヤなもん見た」な反応じゃないと解っただけでも気分的には
大分救われている。
気分転換に出歩いて気分が沈んでは元も子もない。
ポケットの中の携帯に意識を向ける――が、この時間に呼び出されることは、まあ、多分ないと思っていいだろう。
素直に弛緩して、適当な場所に座り込む。
紅茶を啜る。
高い月とそよぐ風。漂う茶葉(銘柄は解らない)の香りに脱力する。
……うん。
今度、自分でも試してみるのもいいかもしれない。
- 24 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/23(水) 03:33:16
- >>21
あうっ、て。いやあんたそんな端正な顔立ちであうっ、て。
勘弁してくれ、そんな顔されるのは苦手なんだ。
「や、ちょ、あのさ…」
と、とりあえずトレイの上の紅茶を手にして口に含む、が味が分かんなくなっている。
ちょっとまて、おい。何なんだよ、この空気!?
言いようのない気まずさが辺りを覆っている。神父様が平然としているのが尚それをかきたてる。
「い、いいんだ、気にしないでくれ。そんな、無礼だなんてひとかけらも思っちゃいないからさ。
まあ、何だ……………その、ごめん」
あれだ、こんなときにはお互い一見して何も悪いようには思えないんだが
実は悪いのは俺であったという話なんだろう。
こんな女の子に溜息を尽かさせた時点で。だから謝らなくちゃいけないんだ。時期を逃せばさらに気まずくなるに決まっている。
>>22
妙に考え込まれてしまった。
やっぱりあのつまらないジョークが不味かったのだろうか。
「…いや、でもですね。銃が無きゃどうにもならないっていわれますけど、もし銃が必要が無かったらもっと幸せ…って言い方がおかしいのかも
しれないんですけど、そういった異常状態から離れられた生活が出来るんじゃないかって。
全員が全員そんな生活できるわけないって言うのにやっぱり時々そんな事思ってしまって…」
知り合いにそんなやつがいる異常どうしてもそう思ってしまう。
小生意気なやつだが、戦争から離れて暮らす事すら願っていたんだ。
だけど戦争は逆に彼女を追いかけてきた。平和という領土を全てローラーで鋼色に塗りつぶすように。
もし彼女が平和な世界で暮らしていたらどれほど真っ当な出会いを果たせていたか。
「あ、いや、すみません。自分も軍人らしくない青臭い事言ってしまったり」
まったく。やはり笑われても仕方ない性格だな、俺は。
- 25 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 03:45:19
- >>24
銃がなければどうなるか――A.無抵抗で殺されます。
銃を持っていればどうなるか――A.抵抗する相手を殺すか、でなければ抵抗した後に殺されます。
どちらがマシかと言えば、前者だ、と答える子供は多い。というか、多かった。
俺はそんな子供達を殺したし、殺すしかなかったし、だから殺すことを迷わなかった。
国が国として成立しない世界において、個人とは自分の命を死守する一人きりの王様だ。万人が暴
力を持ち得なければ『平和』の息吹すら見えない世界は現に存在する。なにせガンジーとて暴力それ
体を否定した訳ではないのだ。
暴力を預かる『国』がなければ、暴力の在り処は自分にしか帰依しない。
というより。
「戦わないといけない――って、それ押し付けてるの、俺達なんだけどな」
小声で呟いて、どうでもいいか、と首を振る。
それは――それだけのことだ。
俺は日本人でしかなく、ヴァチカンの殺し屋でしかない。
俺達に――俺にできるのは、罪を引き受けることでしかない。
ここにこうして存在する罪を、罪を自覚する罪をすら。
それを言葉でイジり回せば、どう考えても俺は最悪以下でしかなくなる。
「……いや、俺もヘンなこと言いましたから。なんっつーか、まあアレです。軍人さんも大変なんだし」
或いは、そんな平和を見越すのが幸いなのだろう。
大半の人間がただ静かに暮らすように――静かに暮らしていいように。
どうにもならないのなら、どうにもならない事実をフィルタリングしてしまうのが。
……まあ。
どう足掻いても、俺には無理そうだったのだが。
- 26 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/23(水) 03:56:37
- >>23
驚いたのは向こうのようだ。
自分が子供の頃、大人にとって子供などは背景にすぎなかった。
気遣う対象ではなかった。
それは私にとって幾多の苦しみの原因となり、
また、ある殺人鬼に非常に大きな有利さを与えた。
いや、子供に限った話ではない。
気遣いとは下心の延長にあるものであり、それが当然の常識であった。
そんな大人ばかり見てきた私にとってそんな小さな気遣いと
それを指摘されて戸惑う神父の所作は好ましいものとして写った。
いつか互いの立場が不幸な事態を呼んだとしても、
きっと微笑みながら話が出来る、そんな気がした。
無論、会話の手段が言葉とは限らないのがこの世界の辛い所だが。
>>21
一方、こちらはなんだか困らせてしまったらしい。
困っているのはこちらも同じなので空気が少し重くなる。
「そんな、謝るのは此方の方です。
失礼でなければ何よりです……それだけですから」
なんだろう。
このおかしな気恥ずかしさは。
お互いに謝りあうなど滑稽な情景だ。
それもこんなメイドに……
……ああ、メイド、ひいては使用人に慣れていないのかもしれない。
この軍人にとっては普通の女性相手でしかないのだろう。
それなら、畏まるのはかえって気まずいというのは分からないでもない話だ。
人里ではたまにこういう人間も居る。
彼はきっととても人間らしい人なのだろう。
「……それではお菓子で手打ちというのはいかがでしょうか?
昨日のもので申し訳ありませんが、もしよろしければどうぞ」
今度は時間を止めずに、鞄からクッキーの入った袋を取り出す。
用意の良さだけは昔から私の特技のひとつだ。
……と、動きが止まる。
思わずクスクスと笑ってしまう。
お嬢様に言わせればこれも運命なのだろうか。
「いえ、失礼しました。
せっかくですので、神父様と軍人さん、それに私で一つずつ、食べませんか?」
クッキー袋の中にはちょうどみっつ。
チョコレート風味のクッキー。
- 27 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/23(水) 04:18:36
- >>25
この静かな世界。神父様の呟き声は聞こえた。はっきりと。
「…まったくもって。世界に戦いに無関係になれる人間なんていないのかもしれない。
俺だって要因だ。戦闘を激化させる一端を担って…望まぬ死を増やしているのだろう」
ぼそりぼそりと苦しむように吐き出すしかなかった。
連邦とジオンが戦う限り永劫としてこの呪われた宇宙世紀を脱する事が出来ない。
新たな時代の開幕だというのに何故このような昏らい世界になってしまったのか。
正義と誇りと名誉の為に命を投げ込んだ俺をまっていたのは徹底したリアリズムであった。
大儀と名文は戦場においては意味の何もかもを喪失し、ただ人の敵意が火薬と粒子ビームに変わって全てを焼き尽くす。
後には焼け野原と涙しか残らなかった。
だから、それでも
夢しか見れなくなる。現実主義に包まれたとしても俺は理想を見出さなければ狂ってしまいそうだ。
出来るだけ前に進むために俺は最後まで甘い世界を捨てるつもりはない。
「あー、いえ、神父様も仕事は大変でしょう。つつましい暮らしなんて簡単なようで難しいでしょうし」
聖職者というのはやはり楽じゃないだろう。
だって聖職者だし。
>>21
「ああ、いや、だめだ、そっちがそれ以上自分のことを悪く思うのは」
少し冷えた紅茶を一気に飲み干してから彼女の眼前まで歩を進め、両手で彼女の肩をぽんっと掴んだ。
そしてしっかりと目を見つめ。
「いいか?君は全く悪くはない。本当に悪くは無いんだ。
だから自身のことを悪いと思うのはやめるんだ。悪いのは俺だけだ。そうはっきりさせておこう」
とだけ、半ばヤケクソ気味で言った。
これでいいんだ。状況がこれ以上悪化する事なんてない。
変人だあ?そうだとも。よく言われるよ。
…まあ、とはいえさすがに肩から手を離した後、背を向けて片手で目を覆ってしまったが。
ちょっとやりすぎなくらいか。後悔はしておこう。反省はしないけど。
「…ん、ああ、そうだな。じゃ、このクッキー一つ分の好意には甘えておくよ」
鞄から―――今度は手品なしで―――取り出されたクッキーは湿気ることなく最良の状態を保たれていた。
結構細かいところに目が届く女性だ。だからメイドなのか。それともメイドだからなのか。
四分の一ほどを噛み砕き味わってみるとそれはまた、個人で作ったのかと思えないほどよく出来ていた。
「ん…美味いね、このクッキー」
そういや味覚が元に戻ったな。何とか落ち着けたか、俺。
- 28 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 04:31:36
- >>26
「ポケットの中には――じゃ、ないな」
袋の中にはクッキーが三つ。
菓子を、と言われて大量に詰め込まれたお茶請けを想像したので、クッキーが三つだけという、子供が
おやつを友人に分け与えるようなその様子は、見ていてどことなく微笑ましくなる。
「……んじゃ、遠慮なく――あっと。俺、コレで」
均整の取れたカタチのクッキーから、比較的大きいのを寄って摘み上げる。
左右前後から目測して、縦横のサイズと厚さが一番大きいのがコレだったのだ。
なにしろ早いもの勝ちのブツなら先手必勝なのだ。
うっし。
……間違いなくこれが最大。ガキっぽい満足感に自分で笑って、偶にはいいかとクッキーを齧り取る。
適度な甘さと、手作り特有の生地の香りが鼻に抜ける。
流石はメイドさん、この手の技量も整ってるのだろう。
口の中を紅茶で流して、ぐっと伸びをして草叢に倒れ込む。
月が高い。
このまま眠ってしまいたくなるが、カゼでも引くと面倒なので(まあ、まずありえないが)それは却下。
ぐるん、と身を捩って草の香りを数秒堪能したところで起き上がる。
「ん……あーっ!」
思い切り背を伸ばす。
ブチ当たる風が心地いい。不思議と充電された身体から、みじめったらしい気分が抜けているのに気
付いて、それが妙に嬉しい。
カップをソーサーに載せて、メイドさんに返却する。
散歩の甲斐は――うん、充分だ。
「それじゃ、俺はこの辺で失礼します。……はは、なんかもう、気付いたらすげぇ夜中だ。どっかでまた
会ったら、その時は――」
その時は。
穏やかだといいですね、と心中に濁す。
それはそれだけのことで、今日の余韻を台無しにする理由ではありえない。
「……それじゃ。お休みなさい、メイドさん」
>>27
と、そこまで言って思い出した。
断じてついでというワケではないのだが、まあ、うん、男女の違いだろう。
俺の中の優先度の。
「あと、軍人さんも。……アンタはアレだ、身体に気を付けないと。そのまんまそれが財産みたいなもん
だからさ」
多分、あんたと俺の現実は噛み合わない――口に出すのは止めておいた。
悔恨できる人間と俺とでは、何から何まで違い過ぎる。
それはもちろん、それだけのことだ。
互いに正しさはどっこいで、正義などハナからどこにもない。
それを知っているかどうかより、それをどう理解しているかの違いしか俺達には残されていない。
だから――或いは、俺はそれを罪と呼んでいたのだろう。
ウォークマンを取り出してイヤホンを耳に突っ込む。ランダム再生直後に飛び込んできたのがドアーズ
の”ジ・エンド”だったから色々台無しだ。早送り一度で流れる『見晴らし台からずっと』。それで妥協する。
後ろ手に二人へ挨拶して、高台の頂上へ。
正直サッパリどこをどう通ったか来た道を憶えていないので(というか見てすらいなかったので)、やる
ことは一つしかない。
小高い丘はざっと三十メートルほど。
とんと地を蹴って、高台を後にする。
月は高い。
面倒事を気にせず飛び込めば、足場がどこだろうが見晴らしのいい場所に辿り着くだろう。
そんな気分の理由を気にする必要は――とりあえず、どこを探しても見付からなかったのだし。
- 29 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/09/23(水) 04:39:39
- >>28
「……あ」
一番近いビルの屋上に着地する寸前、そういえば名前聞いてなかったな、と今更のように思った。
が、今更聞きに戻る理由はなく、それはそれで色々ヌケていて、何よりお互いその方がいいということ
もある。どことなく現実感がなかった時間なら、夢のように締めておくのも悪くない。
だから問題は――。
「……ぬあ!?」
鳴り響く着信音。夜の帳を引き裂くセパルトゥラの”ルーツ・ブラッディ・ルーツ”。現実感がアリアリの
トライバルなドラムを途中で打ち切って着信を確認。メール一件。件名『どこに行っている? 死ぬか?
死ぬのか?』――送り手はフランス人だが、どうやら日本語レベルを上げまくってきているらしい。
内容を確認する勇気はない。やることは一つ。遅刻の理由をカバーする為にひたすら謝りまくること
だけだ。
ビルの屋上を蹴って次のビルの屋上へ。目指すホテルまで一直線にビル街を跳梁しながら、口の中
に残ったクッキーの残滓を舌で舐め取った。
<退場>
- 30 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/23(水) 04:51:33
- >>27
突然肩を両手でつかんできた軍人さんに目を丸くする。
意外に積極的な。あまりそういうタイプには見えなかったのだが。
呆気に取られて時間を止めるのも忘れてそのまま掴まれてしまった。
しかも気に病むなと言いたいだけのようだ。
なんというか……何この……何?
上手く表現できないが、とにかく変わった人だ。
クッキーを食べて感想を述べる彼の声を聞いて、
ようやく私は笑顔を取り戻した。
「フフ……おかしな人ですね。
ありがとうございます、喜んでいただけて何よりですわ」
>>28
慎重に袋の中を吟味し、僅かに大きい一つを選び出した神父に
期せず笑みがあふれ出す。
まるでお嬢さ……もとい、まるで子供のような仕草。
ああ、もしかするとこの人はお嬢様に似ているのかもしれない。
もちろん容姿の話ではない。精神性の話だ。
孤高で強く、だが、あどけなく。
ユーモア好きで移り気で、その実影を持っている。
器が大きいように見えて、どこか穴でも開いてそうな危なっかしさがある。
別れの言葉。
そして彼は高台から虚空に身を躍らせる。
「ありがとうございます。
また、いつかどこかでお会いする好縁御座いましたら、どうぞよしなに」
最後まで語られなかった言葉をなんとなく察して私は小さく呟く。
たとえとなりに立っていても聞こえない程度の音量で。
当然だ、もし読み違えていたら恥ずかしいではないか。
「……穏やかでないのもそれはそれで好きですよ」
そして、私は出来る限りの笑みを向けて彼を見送った。
- 31 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/23(水) 04:52:05
「さて……」
随分と高くなった月を見上げ、私は立ち上がった。
日の出まであとわずか。そろそろ潮時だろう。
スカートの埃を静かに払い落とすと、軍人さんに一礼する。
「そろそろ主人がお休みになる時間が近いので、これで失礼させていただきます。
また、どこかでお会いできるといいですね」
言ってふわりと浮かび上がる。
きっと大丈夫だろう。
この実直で善良な軍人は異能の力で私を疎んじはしない。
なら、いい。隠さなくてもいい。
私は空中で小さく会釈すると……時間を止めて、飛び去った。
彼の時間が動き出す頃には、きっと紅魔館の門前に辿り着いていることだろう。
私、十六夜咲夜の不意の休暇は、こうして過ぎていったのであった。
<了>
- 32 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/23(水) 05:02:44
- >>28-29
完全に分かり合える人間なんてものは存在しないのかもしれない。
だってそうなればその人の生き方はとても詰まらなくなるだろうから。
ある程度のすれ違いは存在したほうがいい、生きることを果たす上でも。
「…ああ、ありがとうございます。頑丈であると自己を過大評価しすぎないように注意しろということですね」
まわりくどい。
言い換えればただ風引くなよといいたいだけだというのに。
彼が向かうのは帰り道ではなく頂上だった。
そちらには目を向けないようにした。知ったところで何かしら関係が変わるわけでもないのだが
これもまた情緒と思いやりなのだろう。日本人的に。
気がつけば彼はこの場から消えうせていた。
>>30-31
アウチッ!
笑われた上に変な人だといわれた。
予想できていた事だとは言え実際には少しガクリと来る。
「あー…ま、そりゃそうか…いや、ほんと気にしなくていいってだけだから、さ」
頭を掻いてごまかそうにも、なあ。やっちまったことはやっちまったんだし。
ま、いいか。
そういえば月もそろそろ落ちようとしている。
銀の夜は終わり、黄金の朝を迎える。静寂が過ぎ去り、賑わいが戻る。
何気ない事でも一つ意識を変えれば一大イベントとなる。
「…ったく、それなら最初から隠さなくてもいいっての。それじゃさよなら。…いい朝を」
空に浮かんで微笑む彼女にそれだけの言葉を投げかけた。
この不思議な土地においては例え空を飛ぼうとも、今更、といった風である。
そしてメイドは消え去り、残るは俺ひとりとなった。
- 33 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/23(水) 05:08:40
- さてと、坂道。普通は事故に気をつけて安全にとろとろと降りるところであるが。
だが帰りだけは「よいよい」でいたいのだ。
怖くはあるけどさ。
「よっと」
ペダルを踏まずとも傾斜は自動で車輪を回すには十分なほどあった。
ひとりでに動き出す愛機は見る見るスピードを上げていく。
風を切る音が今の自分には心地よかった。
これなら一切ペダルを踏まずとも基地にたどり着けるんじゃないか?
「…んなわけないか」
そりゃそうだろ。慣性の法則に頼りすぎである。
「あ、名前聞いてなかったな、そういや…」
気がついたときには自転車は猛スピードで坂を下り終えたところであった。
次は聞く事にしようと未定の予定について思いをはせながら基地までペダルを漕ぎ続けた。
【退場】
- 34 名前:◆iDSouriSFE :2009/09/25(金) 22:32:39
- 『おーらい、おーらい〜・・・・ストーーーップ!!』
ばさばさばさーーーー!
高台の隅につけられたダンプ。オリーブドラブに塗られた車体で、所属が自衛隊だと
分かるそのダンプから、大量の枯葉が降ろされた。全ての枯葉を降ろすと、ダンプの
助手席のドアから小柄な人影が飛び降りた。年のころは14、5歳。中学校の制服らしき
ものを着た少女が一人。両手には、何かを抱えている・・・・・
走り去るダンプを見送ると、枯葉の山を見つめながら少女は満面の笑顔で言った。
『焼き芋よっ!!』
- 35 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/09/25(金) 22:33:12
- 『しっかし、ちょっと多すぎたわねー。』
さすがにあたしの背丈ぐらいの枯葉山はやり過ぎだわ。仕方ないので芋を入れた
バスケットを脇に置き、小山から両手に抱えられるだけの枯葉をすくって木の下へ
移動ー。木から少しはなれたところに手ごろな枯葉山を作って、芋を投入!
周囲の雑木林からは、虫の音。少し雲がかかった夜空には、風流なお月様。
そよ風が紅葉を散らし、あたしの頬を撫でる。
『絶好のロケーションよね、我ながら♪』
ポッケから取り出したライターで着火!!徐々にくすぶり始める枯葉。その中で
こんがり焼けるのを待っているであろうお芋!時期外れなのでわざわざ取り寄せた
だけあって、味のほうは多分折り紙つき!!そんな事を想像しつつ、煙を風下に
避けながら、ふと気付く。
『出来上がるまで、なにしてよ・・・・・?』
仕方がないので、お月様でも眺めてることにした。
『今ならお芋が出血大サービスよー』
とか言いながら。
- 36 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/09/25(金) 23:19:56
- 『やっけたかなー・・・・?』
ぼけーっと、お月様を見ていたら30分も経っていた。だって綺麗だったんだもん。
仕方ないわよねー、とか思いながら枯葉からお芋を取り出して・・・・・・・
『・・・・・・・・炭・・・・・?』
炭化したお芋ちゃん(享年30分)。なーむー。
『やっぱお団子の方が良かったかしら?』
とか言いながら、とりあえずスペアを投入。とりあえず、一個ぐらいは食べないと。ねぇ?
- 37 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/09/25(金) 23:55:18
- 『炭・・・・・・・・・・・・・・・』
日が悪いんだろーか?かといって、コレ持って帰るのもなぁ・・・
ま、おいときゃ誰かがやるでしょー。
『てい。』
<『ご自由にお食べください』の看板を立てて、退場。
焦げたお芋は後でスタッフが美味しくいただきました>
- 38 名前:ホシノ・ルリ ◆Ruri2Un6.c :2009/09/27(日) 02:22:17
- 普段はどこかへ出かけるときは、賑やかな漫才コンビを連れて歩くんだけど、
今日はそんな気分になれず、1人で宿舎を離れ外に出て、目に付いた公園の中へと入った。
自動販売機に自分のカードをかざしてお茶を購入してベンチに座り、一つため息をつく。
『いやぁほら、艦長も天河くんもさらわれちゃったんでねぇ。戸籍上死んでもらったってわけ。
敵を欺くにはまず味方からってヤツ』
火星の後継者戦時、アカツキさんに言われた言葉を思い出した。
アカツキさんの言ってることは分かってる・・・。
A級ジャンパーの生き残りであるイネスさんを敵にさらわれないように、狙われないようにするには、
彼女の戸籍を抹消して死亡扱いにし、ネルガルで匿う以外に無かった。
「だけど・・・・・・」
−アキトさんとユリカさんを匿って欲しかった。
あの当時、それが無理だったのは分かってるけど。
そういう気持ちの整理は付けたつもりだったけど。
イネスさんだけがさらわれず、実験対象にならずに済んだことを恨んでいるわけでもない。
むしろイネスさんが無事だったからこそ、私たちは火星の後継者に勝つことができた。
しかし、それでも。
もしもかなうのならばもう一度あの屋台でチャルメラを吹きたい。
もう一度だけで良いから、私の吹くあのへたくそなチャルメラを、
アキトさんやユリカさんに「上手になったねルリちゃん!」って笑顔で言ってもらいたい。
そう思ってる私もいる。
「もう卒業したはずだったのに。過去は過去、思い出は思い出になったはずなのに。
モラトリアム、か・・・」
お茶を持ってない方の手でポケットから一枚の紙切れを取り出し、それにじっと見入ってしまう。
あの賑やかだった日々を思い出しながら。
- 39 名前:ホシノ・ルリ ◆Ruri2Un6.c :2009/09/27(日) 02:23:38
- 「艦長」
不意に声をかけられた。
そう。
それは付いてきているとは思っていたけど、同時に決して声をかけてこないと思っていた人からだった。
「焼き芋食いませんか?なぜか焼いてあったんで」
両手に持ったほかほかの焼き芋の一つにかぶりつきながら、サブロウタさんがベンチに腰掛ける。
一人分くらいの隙間を空けて。
紳士にでもなったつもりなんだろうか・・・。
それとも私とくっついて座ると、ハーリーくんやリョーコさんに誤解されると思っているのか。
そんなことを思うとほほえましくて、口元がゆるんでしまう。
「何ですか?俺、なんかおかしいですか?」
別に・・・、と私は素っ気なく答えた。
手に持っていたラーメンのレシピをポケットにしまう。
「まーいいや」
私の手が空くのを待って、サブロウタさんは私の方にもう一つの焼き芋を差し出してきた。
私は一言、感謝を告げるとそれを受け取り、ちょっとだけかじる。
口の中に焼き芋の仄かな甘みが広がっていく。
しばし2人して、黙々と焼き芋にかぶりついた。
年相応には見えない少女とサーファースタイルの兄ちゃんがベンチに座って焼き芋にかぶりついている。
このおかしな光景を醸している2人が、実は軍隊の上官と部下である・・・・・・ようには見えないよね。
やっぱり。
「たまにゃー・・・モ、モラトロリム・・・?何だっけ・・・?
あー横文字はわかんねーけど、昔の思い出に浸るのも悪かあないですよ」
- 40 名前:ホシノ・ルリ ◆Ruri2Un6.c :2009/09/27(日) 02:25:29
- 焼き芋を平らげたサブロウタさんが口を開く。
「分かっていてもなかなか割り切れないもんです、人間ってのはね。
そう言ってたのは誰だったか・・・・・・。あ、そうそう、日々平穏のおかみさんでしたっけね。
俺もそうですよ。たまに優人部隊のこととかを思い出すんです。かんなづきからデンジンで出撃して、
ナデシコのエステバリス相手に死にかけたこととかね」
サブロウタさんの口元に浮かんだ笑みは、自嘲するものだったのか、それとも苦笑いか。
私には分からなかった。
「でもどんなに浸ったところで、所詮過去は過去に過ぎないんです。ボソンジャンプで過去に戻っても、
それは単に時間をさかのぼるだけで、俺や艦長が昔の自分になれるわけじゃないんですよ」
分かってる。
だから私も、もう2度とあの屋台でチャルメラを吹くことなんて無い。
たとえアキトさんが戻ってきても。
「ま、俺やハーリーじゃ物足りねーかもしれないけど。
テンカワ達の代わりに今は俺たちと一緒に今を生きていきましょうや」
・・・・・・そう。そうですね。
「さて。芋食い終わりましたね?・・・んじゃーそろそろ帰りませんか?
宿舎に帰ったらハーリーが『仲間はずれにしないでください!』とかうるさそうですが」
「ハーリーくんを焚きつけてるのはサブロウタさんですよ・・・?」
そんなハーリーくんの怒った顔を、サブロウタさんも私と同じように思い浮かべたらしい。
2人で顔を見合わせて私はクスクスと微笑み、サブロウタさんはカカカと哄笑した。
「さて。
ではお手を、お姫様」
先に立ち上がったサブロウタさんが、右手を差し出した。
自分の左手をサブロウタさんの右手に差し出すと、遅れて私も立ち上がる。
ハーリーくんへのお土産の焼き芋を手に取り、私たちは公園を後にした−−
<自己完結して退場>
たまにはこんなのもいいかな、なんて思ってみたり。
- 41 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/27(日) 22:17:09
- 今宵もまた月が昇る。
夜の時間。
人が眠り、魔が活動する時間帯。
夜風には冷たいものが混じり、秋の深まりを感じさせる。
そんな夜に再び落ち葉が踏みしめられる音が響く。
一瞬前まで月と林と静寂のほか、何もなかったその丘に、
突如、メイド服の女性が現れた。
染み出すように、湧き上がるように。
その出現は突然であり、しかし、当然であるかのようだった。
ごく自然に忽然と出現したその女性はなにやら両の手に大きな袋と箒をそれぞれ持っている。
その女性……つまり、この私、十六夜咲夜だ。
私は一息ついて周囲を見渡した。
人影は無く、静かな林が広がる小高い丘。
先日の光景と何も変わらないその風景の中、
時折吹き抜ける風が紅葉した葉をひらひらと舞わせている。
「……こんなにすぐにまた訪れる事になるとは思わなかったわ」
私は乱暴に袋を木の根元に放った。
そう、確かその木は先日、自分がもたれかかったあの木だ。
やや他の木に比べて大きいとは言え、目印もないのに無意識によく分かったものだ。
それとも偶然、いや、運命だろうか。
少しばかり感心する。
- 42 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/27(日) 22:31:34
「さて、ぼんやりしていても仕様が無い。さっさと済ませましょう」
私は最近くせになりつつある独り言を呟くと、
箒で地面に降り積もった落ち葉を静かに掃き始めた。
別に掃除を始めたわけではない。
その証拠に、掃き集められているのは上積みだけで、掃いた跡にも落ち葉はまだたくさん残っている。
目的は掃除ではなく収集。
そう、私は落ち葉を掃き集めているのだ。
その原因は今日も今日とてお嬢様の思いつきであった。
「咲夜、今日は焼き芋を中庭で焼いて食べましょう」
「分かりました。ではただいま人里で買ってまいります」
「待ちなさい」
「はい?」
「焼き芋が食べたいだけではない。中庭で焼きたいの。分かるわね?」
「……成る程」
「今晩中ならいつでもいいわ。準備できたら言って頂戴。
そうね、フランにも話をしてくるからそんなに急がなくてもいいわよ?」
「承知いたしました」
そんなわけで、私は落ち葉を用意しなければならなくなったのである。
相談してみたところ、芋は美鈴が昼のうちに買ってあったということなので、
今晩はそれで乗り切ろうという事になった。夜間の人里での調達は面倒だ。
しかし、落ち葉焚きには中庭の木の葉では到底足りない。
どこかたくさん落ち葉がある場所はと考えて、ここの事を思い出したのであった。
- 43 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/27(日) 22:43:32
- 掃きためた落ち葉がいくらか集まるとそれを袋の中に移す。
しかし、一度で一杯になるかに見えた袋はまだまだ容量がありそうだ。
当然だ。私が中の容積をいじっている。
今のこの袋の中にはお嬢様と妹様、それぞれの焚き火に使っても
問題ない程度の量の落ち葉を満載できる容量がある。
重量だけが少々気になるが、もし重くて持てなければ空間ごと引っ張るか、
さもなくば美鈴にでも来て貰えば良いかと楽観していた。
急ぐ必要は無いというお達しと、取り立てて手が空いていたから、
こうやってのんびり来ているが、まぁ、最悪、時間を止めて
もう一度来ればいいというだけのことだ。
ふと、件の焼き芋のような香りを感じたような気がして顔を上げる。
周りを見回すと、木立の向こうに焚き火の跡のようなものが目に入った。
「フフ、誰しも考える事は同じと言うわけね」
箒を先の木に立てかけると、焚き火の跡に歩み寄る。
しゃがみこむとその辺に落ちていた小枝で焚き火跡の葉を掘り返してみた。
- 44 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/27(日) 22:54:11
「……ビンゴ。お芋の皮の焦げカスだわ」
これを作った誰かさんもどうやら芋を焼いたらしい。
と、今の自分の姿を見て苦笑した。
仕事でもないのに暢気に焚き火跡をつついて笑っている。
悪魔の狗が随分と可愛らしい格好ではないか。
笑わせる。
なにがビンゴだ。
昔は地面を調べるなんて楽しい事ではなかったろうに。
そう、調べて見つけるべきは獲物のことか、あるいは追っ手のことか……
またつまらない事を考えているわね、咲夜。
ああ、捨て去ったつもりでも抜けきらない。
抜けないどころか、かつての経験は確実に自分の土台となり、自分を支えている実感があった。
鬼の長い宴会の時も、天人が起こした異変の時も、自分の力になったのは
弾幕ごっこの知識や魔女からてほどかれた初歩の魔法でもなく、夜霧の幻影殺人鬼の体術、技術、経験。
十六夜咲夜の名を受けて、かつての自分を捨てたつもりでも、
所詮この卑しい狗は何も変わっていないのかも知れない。
ただ、お嬢様の威光を上に被せて自己満足に浸っているだけの浅ましい悪党なのかも……
ぱきり
つまらない方向へ走り出した考えをかき消すために手に持った枝を握り折った。
- 45 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/27(日) 23:10:25
- 溜息をついて立ち上がる。
最近溜息が多い。
秋だからだろうか。
根拠も無く季節に責任を押し付けて、箒の元に戻る。
ああ、落ち葉の下にこっそり古新聞を入れるとかさを誤魔化した上で、火が燃えやすくなるかもしれない。
でも、烏天狗に気付かれると面倒だな。
そんな事を思いながら、私は落ち葉を掃き集めた。
そしてふと思いいたり手を止める。
そう言えば、何故お嬢様は突然焼き芋などと言い出したのだろう?
たしかにお嬢様の思いつきはいつも唐突なものではあるが、
その思い付きには必ずきっかけというものが存在する。
何故思いつくに至ったのか。その理由があるはずだった。
「……そう言えば、今日は中庭が綺麗だった」
そうだ、私が掃除に行くまでも無く中庭は綺麗に掃除されていた。
掃除した跡の落ち葉やゴミまで綺麗に処分されていたのは何故?
いつもは指示を出さなければ誰もやらないというのに、
何故、今日に限って妖精メイドは殊勝に言われる前に動いたのか。
そうだ、そして今日は門のあたりに氷精や闇の妖怪が遊びに来ていた。
何故、今日に限って彼女らは紅魔館に寄ってきた?
考えると腑に落ちない点が次々に思い至る。
そして決定的な疑問に気付く。
何故、美鈴はたまたま芋を買ってもっていた?
「ふ……ふふ……なるほど、なるほどね。そういうことなの……」
月の下。
人影がない林の中、メイドが不気味な笑い声を響かせていた。
- 46 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/27(日) 23:25:21
- 元凶はヤツか。
おそらく、芋を手に入れた彼女は妖精メイド達に声をかけたのだろう。
焼き芋の魅力に奮起したメイドたちは必要な落ち葉を速やかに収集すべく中庭の掃除に取り掛かる。
落ち葉が多いとは言えないため、おそらくその掃除は庭全域に及んだだろう。
そして、集めた落ち葉を門の外にあつめ、焚き火を行う。
氷精と闇の妖怪は煙だか匂いだかに釣られて集まったに違いない。
そして事が終わり、日が落ちて、お嬢様がお目覚めになり、美鈴に漫画の話をしに行く。
そこで焚き火跡を目にされたお嬢様は「アレは何?」と美鈴に尋ね……
……見える、私にも運命が見えます、お嬢様。
あのクソ門番、こんな面倒ごとを私に押し付けといて涼しい顔してやがったな。
しかも焼き芋をメイド妖精たちにまで振舞っておきながら、
お嬢様と妹様と私はスルーとか……許せん。コイツはめっちゃ許せんよなァ?
うねりまくった挙句まるで別人のような悪口雑言を思い浮かべ、箒を握る手に力が篭る。
- 47 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/27(日) 23:32:35
- が、その力をすぐに抜いた。
「はぁ、まぁ、あの子らしいわ」
おおかた美鈴は焼き芋なんてお嬢様には下品な食べ物と見られかねないと思ったのだろう。
だから勧めなかった。
お嬢様とは私なんかよりずっと長い付き合いだろうにそんな事も分かってないのだ、あの子は。
お嬢様にとっては世間の見方がどうかなんてどうでもいい。
お嬢様が興味をもつかどうか、それが全てだと言うのに。
そのくせ、妹様あたりが食べたいーと言い出した時に備えて芋の予備をとってあったのだろう。
まったく……ちゃっかりしているんだか抜けているんだか分からない。
お嬢様の興が乗った以上、パチュリー様も出てくる可能性はある。
それなら落ち葉は多めに集めておかなくては。
私は袋の容積をさらに拡大すべく空間をいじり始めた。
もう重量的に絶対持てない。
後で美鈴に荷物持ちをさせてやる。
その道すがら、お嬢様はともかく私に声をかけなかった事は後悔させてやらなければ。
うん。
さっきの激昂を分析するに。
寂しかったのだ。多分、私は。
ああ、なんだ。ちゃんと昔と違うじゃない。
自分の情動を思わぬところで確認し、ほっとする自分を感じつつ、
私は落ち葉を集める作業を続行した。
- 48 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/27(日) 23:44:48
- さすがにこれ以上は要らないか。
満腹の息でもつきそうな袋を眺め、箒を再び木に立てかける。
かすかな疲労を感じ、いつかのように幹にもたれかかって座り込んだ。
今日は煙草はもっていない。
なにやら口寂しくて、楓の葉を一枚くわえて空を見上げた。
夜空には満天の星。一際輝く月が明るい。
視線を落とすと丘の先に小さな明かりが幾多見える。
「ああ、ここ、外なのかもしれないわね」
今更と言えば今更な感想を抱き、呟いた。
八雲の妖怪の結界も万全ではないということか。
それとも彼のスキマ妖怪の悪戯の類だろうか。
戻れなくなっては困るが、不思議と空間には安定感がある。
なんとなくだが……そんな事にはならないような気がした。
ただ、ただぼんやりと周囲の静けさに身を任せていた。
- 49 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/28(月) 00:04:16
暫し、完全に風景の一部となっていたメイドが立ち上がる。
「さて、する事もないからと言って、いつまでもこうしては居れないか」
口にくわえていた楓の葉をぷっと吹き捨てると、腰に手を当てて伸びをする。
お嬢様もそろそろ妹様を口説き終わった頃だろうか。
なら、こちらもそろそろ戻って焚き火の準備をしなくては。
「それじゃあね」
先日に続き世話になった木の幹になんとはなしにお礼を言うと、
私は……メイド服の女性と箒と袋は、現れたときと同様にその場から忽然と姿を消した。
後には何事もなかったかのように、月明かりの下、林が夜風に吹かれ落ち葉を舞わせていた。
<了>
- 50 名前:イネス・フレサンジュ ◆Ruri2Un6.c :2009/09/28(月) 01:30:30
- ぼんやりと闇の中に浮かぶ白い粒子。
やがてその霧状の粒子の中心に、うっすらと影が浮かび出した。
影はやがて実体を持ち始め、霧が晴れていくのと対照的に人の形を為し始める。
ふぅ・・・。
久しぶりにボソンジャンプなんてしてみると、身体がおかしい。
ネルガルからここまでのジャンプなんて月から火星へのジャンプに比べたら、
比較にならないくらい楽なはずなのに。
いささか身体に怠さを感じながらも私は空を見上げた。
夜空の主役とも言うべき月も、季節は秋であってもこの時間になると見えてくる冬の星座も、冬の大三角も私には見えていない。
そもそもそんなものを見るつもりで夜空なんかを見てはいない。
私は空を見ていながら、今は見えない「赤い惑星」を見ているのだから。
そう。
もう当分は帰れそうにない生まれ故郷。
大好きだったお母さんと過ごしたユートピア・コロニー。
木星蜥蜴に襲われた地球連合の戦艦が落ちてきて起きた、一つのコロニーの悲劇。
逃げ込んだ地下シェルターでの「お兄ちゃん」とのほんの少しの出会い。
何とか地下で生き延びていたネルガルの研究者。やむを得ない状況だったとは言え、救出に来た戦艦に殺された人たち。
そして古代へ、古代から20年前へと飛ばされる数奇な運命をたどってきた自分の人生。
それら全てを知っている星、火星を見ていた。
突然奪われた、大好きな人。
お母さん。
記憶を無くしていたにもかかわらず、あの出来事はトラウマとして知らないうちに私の脳に刻み込まれていたのだろうか。
私のような年齢の人間の趣味にしては幼い、様々な熊の縫いぐるみを集める趣味も、
お母さんを目の前で殺されたトラウマが関連しているのだろうか・・・。
あの熊たちの中には、アキトくんとルリちゃんがピースランドで買ってきてくれた特に大きな縫いぐるみももちろんある。
・・・・・・でもおばさんっていうな。
そんなことを思いながら視線を『火星』から離した。
- 51 名前:イネス・フレサンジュ ◆Ruri2Un6.c :2009/09/28(月) 01:38:50
- あら、こんな時間に誰かいるのかしら?
ふと人の気配を感じた私は、気配の方へ視線を向け、奇妙な光景を目にすることになった。
離れたところで、
夜に、公園で、箒を持って、せっせと落ち葉をかき集め、袋に投入している、怪しげなメイド
柄にもなく目が点になる。
どう見たってそれは不自然だもの。
しかし月の光に映し出されたその横顔に私は納得した。
顔を見知った彼女ならば、この時間にこんなことをしていようとちっとも不自然じゃない。
箒と袋を抱えている理由も何となく見えてくる。
落ち葉を拾い集めて一息ついている彼女に声をかけようか迷ったが、表情を見て声を掛けるのはやめた。
やがて姿を消すメイドを見送った後、私は「言い訳」のロジックを頭の中で組み立て始める。
ネルガルの研究所から勝手に持ち出してボソンジャンプに使ったCC(チューリップ・クリスタル)について、
エリナにどう答えるべきか、と。
単独でボソンジャンプができる人間は限られている。
少なくとも今のネルガルで、CCの数に異常があれば不審に思われるのはまず私。
研究所内でCCの保管場所を知っている人間は私を含めて片手ほどしかいない。
そして管理責任者は、几帳面で口うるさい会長秘書兼開発部長のエリナ・キンジョウ・ウォン。
CCの数なんて毎日毎晩チェックしていることだろう。
融通の利かない彼女のことだから私が何を言っても無駄っぽい。
そのときふと・・・、あの「ちゃらり〜らら♪」のメロディが耳に入ってきた。
その音を発している元はすぐに分かった。
隅っこに見えた赤提灯に私は吸い寄せられるように向かい、注文を頼んだ。
「オヤジ、醤油ラーメン一つ」
−白衣を着た人間が屋台でラーメンってのもさっきの落ち葉拾いのメイドと同じくらいおかしな光景かしらね。
周りの客の視線を感じてそう思う。
しかし私は周りにどう思われようと、かつて屋台に立っていた「お兄ちゃん」を思い浮かべながら、
目の前に置かれたラーメンを口にするだけだった。
−しっかしこれ・・・醤油ラーメンにしては濃すぎじゃないかしら・・・。
水を頼んで何とか完食すると、私はお代を置いて帰路についた。
<退場>
- 52 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/29(火) 00:05:26
- 適当に人の邪魔にならないところに自転車を停め、足を地に下ろせば枯葉を踏む軽い音が聞こえてきた。
これはまた不快な音というわけでもなく、静かな秋の世を彩る一つの名物といったところだろうか。
昔の日本の貴族は何かにつけて風流だといっていたらしいが、一切風流心がないようなただの軍人でも
秋という一際美しい季節の到来を感じさせる。
「あー…空が綺麗だなあ…」
このあたりは空気が比較的綺麗なのか星が良く見える。
紅葉狩りや月見と言った静かに楽しむイベントにはうってつけといったところだろう。
しかし俺は最初から目的があったわけじゃなくて、たまたままた行ってみようかなという気が起きたから再び自転車を漕いで
何と無しにこの高台を登ったのであった。
「…なんか誰か焚き火した跡があるな。そして誰かがそれを掘り起こした跡も」
一部だけ明らかに黒ずんだところがある。この時期だと恐らく焼き芋でも焼いたのだろうか。
焼き芋…そういや秋の風物詩だったな。食欲の秋と言う言葉もある。
それはこの季節が春から手間をかけて育てた農産物の収穫する時期であるからだが。
「んー、他に秋の果物といったら」
俺はその場で考え込むことにした。
- 53 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/29(火) 00:36:04
- 葡萄といって親指を閉じる。
梨といって人差し指を閉じる。
林檎といって中指を閉じる。
秋刀魚といって薬指を閉じる。
「…んー、あとなんだろう。魚関係で行くか山の幸関係で行くか…」
多いような少ないようなで数えているはずなのに適当なものが思い浮かばず小指だけが遊んでいる。
小指で数回親指を叩いているとそれらしいものが頭に浮かんだ。
「柿だ」
そうだ柿だ。アレもなかなか美味い秋限定の味覚といえる。
柿色とは派手さはないが、そのまま秋のイメージカラーとして起用できる。でも秋のイメージカラーの最高峰といえば
「…米?」
なのだが、どうも左手の親指を閉じるのを躊躇してしまう。
確かに収穫するときは風物詩であるが、食卓に並ぶのは春夏秋冬いつでもいけるといった万能主食。
農業技術の発達によってそれだけ貯蔵できるようになったということだろうが。
「…もうちょっと秋らしいものないかな」
そういって俺は再び食べ物を頭に思い描く作業に戻って行った。
それにしても重労働でもないのに腹の減る行為だ。
- 54 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/29(火) 00:55:09
「秋らしい食べ物。……栗などはいかがですか?」
突然、声が響く。
タイミングは偶然。
たまたま時間の凍結を解除し、地上に降り立ったら見覚えのある軍人が考え込んでいたのだ。
驚かせるかも知れないと思いつつ、その反応がちょっぴり楽しみで、そのまま声をかけた。
悪戯心を抑える事ができなかった自分に内心で少し驚く。
「小さな秋でもお探しですか、軍人さん」
にこりと声をかけると高台から周囲を見渡す。
暗くてよく分からないが……どうやら栗の木は近くにはなさそうだ。
秋深し、隣は何を探す人ぞ。
我が探し物どうやら見当たらず。
- 55 名前:名無し客:2009/09/29(火) 00:55:30
- 大福…饅頭…
- 56 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/29(火) 01:06:55
- >>55
大福、お饅頭。
そうね、栗饅頭なんかはいいかもしれない。
芋大福はちょっとダメかな。
月見団子というのも考えたが、ちょっと遅い。
気にはしないだろうが、他に無難な選択肢はあるように思えた。
「まったく、お嬢様も毎晩よく思いつくものだわ」
それを言うならここにくれば何か閃くかもなどと安易に訪れた自分も大概だ。
けど、どうやら今日は一人ではないらしい。
無駄話をする中でなにか思いつくかもしれない。
頼りにならない自問自答よりはいくぶんか建設的な気がした。
- 57 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/29(火) 01:10:25
- >>54
南瓜といって親指を閉じる。
筍といって人差し指を閉じる。
銀杏といって中指を閉じる。
椎茸といって薬指を閉じる。
残るは小指のみ。厳選して最後は有終の美を飾りたい。秋に食べて美味いもの、それは―――
「栗、そうか、栗か」
全てが閉じた。もやもやとしていたものが全て取り払われ、後に残ったのは満足感。
手のひらで数えられる分の秋は全て数えた。
…ん?
「うおわっ!?」
び、び、び、びっくりしたああああああ!この枯葉の上で足音も無く何で近づけるんだ!?
…あ、飛べばよかったか。
「あ、秋は見つかったがその代わり心臓が止まりそうだった…」
どこかで焼き栗焼いている。
メイドを見て驚く子一人。
- 58 名前:名無し客:2009/09/29(火) 01:12:52
- 咲…大福…ザク大福? ザク饅頭?
- 59 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/29(火) 01:21:02
- >>55
あ、いいな、それ。
秋の和菓子というのも集めてみるのもまた一興。
お萩がやっぱり代表なんだろうけどな。春になれば牡丹餅だというのに。
他には月見団子や栗餅や地方では紅葉を揚げたものを食べると聞く。
だが実際はかりんとうみたいな味で紅葉自身には何の味もしないそうだ。
日本の和菓子というのはとかく甘さは控えめで上品な味がする。
西洋菓子と比べてもはっきりと違っていた。なんだろうか、遠い俺の日本人の血が不思議と好むようにしているのだろうか。
>>58
まてや、こら。
それは違うだろ。
- 60 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/29(火) 01:22:33
- >>57
想像以上のリアクションにいささかの高揚を覚え、
不謹慎だと内心で自分を叱り付ける。
タネもないくせに手品と宣言し、奇術師を気取るのも、
やはりこういう不謹慎さ故の事なのだろうなと瞬時思考が巡り、
内心の叱責がまるで効果を発揮していないことに苦笑した。
「驚かせてしまいまして申し訳ありません。
秋探しがあまりに楽しそうだったものでつい……」
苦笑交じりに軍人さんに会釈しながらベンチを見つけて腰掛ける。
先日の木の幹にもたれるのにも心惹かれないではないが、
さすがに殿方の目の前でわざわざ地べたに座り込むこともなかろう。
「南瓜……そう言えばハロウィンが近いのでしたね。忘れていました」
先ほどの秋数えを思い出し、ぽんと手を打つ。
栗が見つからなければ南瓜でも手に入れる事にしよう。
日が昇ってから人里に行けば手に入れるのはたやすいはずだ。
>>58
さすがにアプサラス呼ばわりをされるなんて思いもよりませんでした。
- 61 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/29(火) 01:35:27
- >>60
楽しそうにクスクスと笑われている。
人はコミュニケーションの上で生きていく動物だ。驚かして遊ぶというのもまた一つの
心の安泰を得る上で必要な行動なのだろう。
やられた方はたまったものではないが。
「…まあ、実際やってて楽しかったからな。秋って何でこんなに綺麗なんだろうか、不思議だ」
心臓に手を当てて一つ深呼吸。
アレだ、面白くてからかいがいのある人だなあって言うその笑いはどうかと思いますよと
いう思いを込めて非難がましいジト目を向けた。
「といってもあれはイギリス系の国のお祭りだからなあ。やるところとやらないところがあるんだよ。
メイドさんはああいうの好きなのか?」
話には聞いている。ケルト民族の古代宗教とキリスト教が融合して出来上がった祭り。
子供が家を訪ねて回りお菓子をねだる。そんなイベント。
「…あ、すまない。隣いいか?」
立っているのもあれなのでベンチの隣に座っていいかどうか許可を求めた。
- 62 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/29(火) 02:23:24
- >>61
綺麗。
……綺麗か。
自分の最初の感想が死の近づく季節だった事を思い
何事も人それぞれに感じ方があるのだという事実を再認識する。
たしかに木々が色づき、様々な実を付けるこの季節は
花々咲き乱れる春ほどではないにせよ、十分に彩色豊かと言えるだろう。
視線に混じるわずかな非難に苦笑したまま軽く頭を下げて謝意を示す。
この人は美鈴にどこか似ているなと思った。
表情豊かで感情をストレートに表に出し、よく驚き、よく笑い、よく怒る。
例に挙げておいて美鈴が人間でなく妖怪だったことを思い出し、
人間の自分が妖怪に対して使う表現としては異常な話だなと内心呆れた。
この場合、呆れるべきは彼女の人間らしさに、か。
それとも自分の人間味のなさに、だろうか?
「そうですね。ハロウィンは最近は周りではあまり見かけませんね。
あのあたりの出なもので、子供の時分はよく目にしたのですが」
トリックオアトリート。
ジャックランタンのおまつり。
子供の時分の私にとっては顔を隠してお菓子がもらえるという
なかなかに都合の良いイベントだった……
……と。
またぞろおかしな方向へ思考が揺れそうになり、あわててかき消す。
隣に腰掛ける許可をわざわざ求めた軍人さんに
どうぞと答えながらふと考え込む。
「多分、好きだったんじゃないかしら、ハロウィン」
自分に多分というのも何だが。
- 63 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/29(火) 02:45:15
- >>62
生があるからこそ死があり死があるからこそ生がある。
当然の理ながら一度考え出すとつい深く考え込んでしまう。
死というのはいつも自分の傍にある。
もしかしたら次の瞬間には俺は原因不明の心臓麻痺に「たまたま」襲われるかもしれない。
そう、生物の死ぬ瞬間は「たまたま」だ。
確約と不確定が合わさった実に奇妙でありながら、当然の事である。
しかし一生が短い生物となればこの一年で必ず死を迎える。この秋に一斉に。
その時、まるで消える寸前の蝋燭が一瞬燃え上がるように、生命は自身の歩んできた道の集大成を見せる。
それは醜くも無く、華美でもなく、ただ鮮やかで美しき「老い」。
誰もが避けたいものをこの上なく雅に映し出す、唯一の季節。そいつが秋なのだ。
緩やかに促され、俺は彼女の横に座る。
舞い散る紅葉の中、場違いな服を着てもしっかりと周りとマッチさせる不思議な雰囲気が彼女に備わっていた。
「流行るときもあれば、廃れるときもある。祭りなんてそんなものさ。新しい物を求めるのは悪くは無い」
しかしある程度流行の最先端がもてはやされるとふと思い出したかのように過去のものが流行り出す。
俺はそれでいいと思う。過去を振り返りながら、未来を見据えるのだ。
「…………『だった?』」
一瞬不思議なものいい棚と思ってその後に不思議でもなんでもないことに気がついた。
「ああ…子供のころってさ、楽しいって記憶があっても、好きって記憶があっても、何でそう思ったのかって記憶は
概して残ってないもんだろ。親や友人に言われてそういえば好んでたなと思い出してもそこまで。
必死に過去の記憶の泉からその時を汲み出そうとしても濁りきっているなんて良くある事さ」
少年時代とは正に閃光の如く過ぎていく。
輝きの尾を後ろに残しながら。
- 64 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/29(火) 03:01:22
「流行廃りと言うよりは……環境的な理由ですわね。私の場合。
ここのところ、日本風な文化の土地に居るものですので、
自然とハロウィンのようなイベントとは縁遠くなっておりました」
だが、クリスマスは忘れないあたり、悪魔らしいと言うか、悪魔らしくないというか。
ハロウィンの時期になってもうちの魔女は特にそういう動きを見せたことは無い。
まぁ、あれだけ地下にこもって読書ばかりをしていれば
暦どころか昼夜ですらもはや判然としていない生活になってしまっているのかもしれない。
結局祭りなどというものは慣習の繰り返しだ。
実に染み付いていてこそ、絶えずに続いていくもの。
そうでなければ忘れられるが相応ということなのだろう。
「だった?」
ああ、そうだ。
その通り、確かに私は今、無意識に過去形にまとめていた。
軍人さんは過去の思い出の印象のせいと解釈したようだが、
多分、真実は異なる。
あの頃の私はそれはもうひどいものだったから。
だから、当時の記憶の中の自分の感情がひどく作り物じみて現実味を感じられないのだ。
だから、多分。だから、完了形。
「軍人さんでもお仲間でお祭りなどはなされるんですか?
ほら、クリスマスとか……」
ちょっと光景が想像できなかったので尋ねてみる。
戦場のメリークリスマスなんて名前に心当たりがあるが、どんな話だったかは既に思い出せない。
- 65 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/29(火) 03:21:39
- >>64
「あー、そういやここら辺は大してハロウィンはやってないからな。ケルト文化が流入した土地じゃないから仕方ないんだが
風土なんてそんなもんだしなあ。幸いそれ以外のイベントは充実してるんだけど」
もともとケルト人は自然崇拝を主とした民族であった。
その名残がクリスマスツリーなどのキリスト教の所々に現れている。
そしてその子孫は後の大航海時代に各地に散っていった。
「残念、俺の場合はクリスマス迎える前に戦争終わったんだ。今はクリスマスのたび各自が帰省して基地は閉鎖される。
…ま、古い時代の大きな戦争だとクリスマスまでには帰れるなんていわれながらも塹壕の中で細々と
祝ったなんて話も残ってるけどな。その日はキリスト教圏同士の戦いだと不思議と戦闘は起こらないそうだ」
家族との触れ合いも大切なのだ。
普段家を留守にしている分その軍人にはその傾向が強い。
「帰省が許されないところだと部隊内でパーティーやったり市民たちとの交流をするために祭りをしたりするんだけど
ここはそうじゃないからなあ。で、メイドさんのほうもその西洋風の格好してるくらいだしクリスマスも盛大に祝うのか?」
ま、イスラム教徒やガチガチの仏教徒じゃないのは見て明らかだ。
- 66 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/29(火) 03:35:18
- >>65
成る程。
折角のイベント、家族で共に祝いたいというのは、そうなのかもしれない。
職業軍人ならばこそ、家庭に帰るというのも分かる気がした。
祭りは家族の為のもの。
それはひとつの真理かもしれない。
家族無き者にはまた別の真理があるのだが、それはまぁ良い。
しかし、この物言い。
おそらく、この軍人さんは家族を持っているのだろう。
主観の置く位置から見ての推測でしかないが、なんとなく間違いないように思えた。
「私どもの所はちょっと祝うと言うのとは違いますね。
彼の宗教からすれば滅ぼすべき存在ですので、
イメージ的には『口実にして騒ぐ』というのが近いでしょうか。
……日本人には多いらしいですけどね」
そう、口実は大事だ。
なればこそ、お嬢様は今晩も私を探索に出発させた。
ああ、探索だ。忘れていた。
月の位置から見て、銀時計を見るまでも無く結構な時間になってしまっているようだ。
家族持ちの軍人さんを朝まで拘束するのも忍びない。
そろそろこの楽しいトークタイムもおしまい、と言う所であろう。
ベンチから立ち上がり、スカートの後ろを払う。
「……さて、そろそろ魔法の解ける時間です。
12時はとっくに過ぎていますが、シンデレラは家に帰らなくては」
- 67 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/29(火) 03:55:03
- >>66
口実にして騒ぐ。実に素晴らしい事じゃないか。
神様には悪いが、めんどくさい信仰抜きにしてでも楽しく騒いでいたいというのもわかる気がする。
一応こちら側としては慣習として家族とゆったりした時間を過ごすというのが目的にはなる。
まあ、しかしだ。
自身に関係のないことを丁度目出度いらしいから記念日にしようと言うのはなかなか日本人らしい発想というべきか。
ようは家族と触れ合う、恋人と過ごす、子供にプレゼントを渡す。
それに丁度良い日だから彼らは記念日として信仰するんだろうさ。
そうで無かったら誕生日くらいにしかプレゼントが出来ない。
「あら?じーざすくらいすとと対立関係?意外だな。
それでも騒ぐってのは実に日本人らしい発想ではあるけどな」
聖母マリアだって日本に来れば観音様。
ヤハウェだってきたら八百万の中にいるちょっとした変り種程度にしかならない。
「おや、もうこんな時間か。…そうだな、結構遅くなったし俺も帰るとするか」
そうやってメイドさんに続いて立ち上がろうとしたとき、ふと思い出した。
まだこの人が、「メイドさん」であることを。
「お姫さん、お姫さん。よければ、この卑しい戦争屋の名を聞き、その代わりにあなた様の名前を聞かせていただけないか?」
二回目だ。お互い名前を知っていてもいいだろう。
ちょっと変わった友人がまた一人増える。それもまた人生のスパイス。
「…私の名はシロー・アマダ、と申します。あなた様の名は?」
わざわざ跪き―――メイドに跪くというのも妙だが―――芝居がかった口調で名を尋ねた。
- 68 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/09/29(火) 04:09:39
「ええ、うちの主がちょっと人気者でね。向こうが放っておかないの」
正確にはそのしもべたちが、だが。
まぁ、大きな違いはないだろう。
もっとも幻想郷に移動してからはそんな襲撃者は殆ど居なくなってしまったとも聞く。
たまに居ても、ただの悪魔祓いにうちの門番は属性上、突破不可能だろうが。
手を振って時を止めようかとしたその時、
軍人さんは芝居がかった仕草で私の前にひざまずいた。
思わず目を見開き、彼の目を凝視する。時を止めることも忘れて。
……そして、その瞳に、最初に声をかけたときの私の瞳と
同じ色があるのを見てとり自然と笑みがこぼれた。
「ご丁寧に有難う、十字星の騎士様」
彼の手を取り、吐息が耳元にかかりそうなほどに顔を寄せ……悪戯っぽく微笑んだ。
「私は咲夜。十六夜咲夜と申します。
またお会いしましょう、アマダさん。いつか……どこかで」
かちり
銀時計が刻む。
次の瞬間、シンデレラは姿を消した。
最初からそんな人物はいなかったかのように。
あたかも泡沫の魔法が解けて消えてしまったかのように。
<了>
- 69 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/09/29(火) 04:30:53
- >>68
イザヨイサクヤ。十六夜 咲夜。
口元には微笑を浮かべたまま彼女の顔をじっと見つめる。
カチン
その後目の前には誰も居ない。自分だけが一人高台に残されていた。
じっと目を瞑る。しっかりと、新たな名前を知った人の顔を覚える為に。
「…にしても騎士ねえ。そんな偉い身分じゃないよ、俺は」
スペースノイドとは二人に一人が引いた貧乏くじであると誰かが言っていたか。
だからなのか、地球の人間は、宇宙に住む人間を見下す傾向がある。
俺は見下される側。騎士という身分を持った側では決して無い。
「って、もう時間遅いんだった。帰んないと」
自転車を押し、坂道にかける寸前、彼女の言葉を思い出した。
秋は見つかったか、と言う言葉を。
「―――誰かさんが」
そう大きな声ではなかったが不思議と俺は古い童謡を歌っていた。
何だ、濁ってても歌詞はなかなか思い出されるじゃないか。
目隠し鬼さん手の鳴る方へ。澄ましたお耳に霞に沁みた。
【退場】
- 70 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/01(木) 00:04:51
- 以前、まるでコヨーテ犬の様だと称されたことがある。
行動が常に気紛れで掴み所が無いことかららしい。
いい加減、仕事の舞い込みを待ちながらマンガ鑑賞にも若干飽き気味なので
偶にはフラリとこうして、たまたま旅行雑誌で目にした秋の風景とやらを
堪能してみようと思っただけなんだが。
それも俺の相棒に言わせると気紛れな行動と取れるらしい。
普段の俺からは風景を堪能するなんて趣味は想像がつかなかった、とでも言うのだろうか。
俺だってそういう気分になる時ぐらいある。
ところでこの秋の風景というものは実に不思議なものだ。
高台までの階段を上るだけで美術館を歩いている様な気分を味わえる。
恰も一つの路上のアートの様に地面を彩る紅葉。
道往く端々から聞こえてくる虫達の生み出す涼しげなコーラス。
雲間から覗く月は、思わずここから捕まえてみたい衝動に駆られるほど。
本来、ディープで刺激的なモノが基本的に好きなんだが
こういう繊細なバランスの元に成り立つ一種の芸術的風景というのも偶には悪くない。
どこかの国―そう言えば一度仕事で足を踏み入れたか―でいう「雅」とでも言った所か。
何というのか…お上品な貴族気分を味わえる。
一先ず「ライブ」の必需品を詰めたこの、普通の人間には手に余るサイズのギターケースは
今腰掛けたベンチの端にでも立て掛けとくとして…
徒然なるままにただ眺めながら独り言ちてみる。
「月、か…可愛いウサギちゃんでも住んでりゃ飛んでいくんだが」
そんな光景を一人勝手に想い浮かべながら。
- 71 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/01(木) 01:13:20
- ふと月を眺めながら、常々自分を取り巻く連中を漠然と思い出してみる。
ちょっと部屋が散らかると騒ぐ…オツムばっか成長してて
肝心のトコはまるでアレなマセガキ、
すぐフラフラ出てっては戻ってくる気紛れな相棒、
何かにつけてアレな仕事ばかり受けさせるオッサン、
俺の稼ぎを嗅ぎつけては情け容赦なく取り立てに来る、悪魔も泣き出す借金取り…
まったく困った奴らばっかりだ。
その癖まるで俺が一番困ったヤツみたいに言いやがる。
まあただ、別に嫌ってるわけじゃない。
寧ろ世話になってるし、内心感謝はしてるがな。
ああ、あと誰がいたやらな…
―――ああそうだ、あのヤケに口の減らない白髪で変な右腕の坊やがいたな。
俺の身内―――そして俺に最も近しかったあの男の忘れ形見。
アイツ今頃どうしてるんだろう。
つい前まで顔合わせて「セッション」ってのをやってたがそれっきりまた連絡はない。
まあアイツもまたこの道を往く男、また道を重ねることもあるだろう。
その時を楽しみにしていることにするさ。
―――さて、今宵の月は高台周りを彩る風景とともに結構味わえた。
それこそトロけて眠りこけそうなほど。
こんな穏やかな月の元じゃ、「ライブ」をやることもない。
これなら本当にウサギがいてもおかしくない筈だろう。違いない。
とりあえず隣のギターケースを背に、今日の所は去るとしよう。
そして機が来ればまた足を運ぶだろう。
アディオス、秋月下の高台。
【自己完結退場】
- 72 名前:名無し客:2009/10/01(木) 07:44:34
- 〜♪(チャルメラの音が辺りに響く)
- 73 名前: :2009/10/03(土) 00:36:50
- 【つ】空に「中秋の名月」
- 74 名前:ケフカ ◆4d4rVw/dxA :2009/10/03(土) 22:34:58
- 空には月が浮かんでいた。
中秋の名月・・・・は!あんなものたちがウロウロしている月を
崇めて何が楽しいのだ。
結局、兄弟に甘いままだったゴルベーザ。幾度となく繰り返される闘争の中で、
己に徹し切れなかった男。
空には、満月が冷たく、虚ろに浮かんでいた。
「?」
足に何かが触れる。焚火の跡。脇に置かれているのは芋・・・・・・?
まだ枯葉は詰まれたまま。
「・・・・・・ほう?」
パチン。
ファイアを小さく詠唱し、火をつける。ほのかに、チラチラと揺れる火を見つめながら
丁寧に積まれた芋を掴み、投げ入れる。立ち上る煙の向こうに、月が霞んでいた。
「いい月だ」
唇の端がつりあがるのが自分でも分かる。誰もいない丘の上。満月をバックに、
焚き火のはぜる音をBGMに、佇む男は狂気の魔導士。笑える話だ。
- 75 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/03(土) 23:24:38
-
「お前は――」
人の話を聞かない、人に面倒を押し付ける、自分の居場所を告げない、云々のエトセトラ。
イチイチ数え上げているとキリがないというか再帰性の原則に従った愚痴のプロトコルが設
定されてるんじゃないかと疑いたくなるのでそこらは考えない。
……ともあれまあ、大まかに言って、セシルが告げたのはそんなあれこれだ。
隣を歩くブロンドのガキは、そうして都合三十分、矢継ぎ早に今週の俺の悪行(らしい)を片
端から述べ上げ続けていた――というか、続けている。
「だからお前は抜けていると――」
「いやいや、だから最近のクランシーは変わっちゃったんだって。読むなら「今、そこにある危
機」の前後に限定だって」
「誰もそんな話は――」
……エンドレス。
斜面の起伏を上がる際に歩幅を広げたり意図的にペースを上げ下げしたりと小細工したも
のの、生憎と相手のスタミナもエンドレスだ。無呼吸状態のまま恒常的にスタミナを維持でき
る相手に仕掛けるには明らかに無駄な小細工すぎたのが我ながら情けない。
互いに普段の司祭然とした格好をしてない今現在、「口論する司祭と修道女」なんてユカイ
な誤解は受けなくて済むが、これだけ続くと(ヤケに流暢な日本語で)延々と言葉を飛ばす外
国人を連れ歩くのは悪目立ちする。
……ていうかすいません、色々悪いところはあったのでそろそろマジ勘弁してください。
だから、と割り込んで話を打ち切る。
「そういうの込みで悪いと思ってるから誘ったんだろ」
は? と露骨に怪訝な表情で俺を見返すセシル。
「誘う? 話があるからと――」
「だから、話は散々聞いたって。本題はこっち。月見でもどうかってさ」
「月――」
今更のようにセシルは視線を上向ける。
僅かに視線を緩めたかと思うと、速攻で怪訝な表情がリバースする。
「……それで、なぜ私だ」
「あ? イヤだったか。だったら悪い」
と。言うが早いか襟首を掴まれた。握り込むようにシャツが絞られる。
ていうか待て、破れる!
「だっ……誰が嫌だと言った!?」
「あ、あの、悪いセシル、とりあえず手、手ぇ離して。マジこのシャツ持たない」
「シャツなどどうでもいい!」
「どうでもよくないよ!? ……いや、ていうかそこでまた怒られるの俺!?」
「貴様が妙なことを言うからだ――どうして私だ、と言っている」
どうして、と言われても。
「ねえだろ、理由とか」
「……理由もなくか」
「毎度そうだよな、お前――前よりはマシになったけど。解釈しなきゃやってらんねえってか。
んなもんなんとなくだ――なんとなくだよ、なんとなく。イヤじゃないなら付き合えっつーの」
コンビニの袋を持ち上げる。
……というかコイツは、俺がコンビニで月見団子やら缶コーヒーやら物色していたのをどん
な目的だと思っていたのか。
「用事はだな」
「用事?」
「月見だよ」
はあ、とセシルは気が抜けような声を上げる。
ああ、と俺は頷いて、丘の頂上を指差すことにする。
「前に一度来たことあってさ。……で、どうだよ。イヤ?」
数瞬、逡巡するようにセシルは視線を俺とコンビニ袋の間で彷徨わせ、次いで大仰に肩を
すくめた。
「……少しだけだぞ」
オッケー。
がしがしとセシルの頭を撫でて道を行く。
「な、馬鹿、触るな――」
「はいはい。んじゃ、あっちな」
……正直、この道すがらは周囲にあれこれと人が多過ぎて居辛いのだ。
具体的にはカップルとかカップルとかカップルとか。司祭は司祭らしく、静かな場所を選ぶ
べきだろう――司祭と静寂の因果関係はさて置いてだ。
- 76 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/03(土) 23:31:16
- ぴしり
空にヒビが入った。
ガラスが割れるような澄んだ音と共に空が割れ、
空を割ったナニカと思しき影が地に堕ちる。
その紅い流星は大地に突き刺さり、降り積もった落ち葉を盛大に巻き上げた。
爆音。
音が収まり、もうもうと舞い上がった土煙が晴れるにつれ、
着弾点で子供が咳き込むような甲高い声が鳴るのが聞こえる事だろう。
「ケホッ!ケホケホケホ!!」
咳き込む声に苛立ったような響きが混ざり、
次いで、風が逆巻き、舞い上がった土埃と落ち葉が吹き飛ばされる。
背丈の低い少女がゆっくり浮かび上がる。
広げた枯れ枝のような翼の先に七色に輝く水晶のような物体が揺れ、
埃が入ったのか目のはしに涙を浮かべながら、さかんに帽子の汚れを叩いて落とそうとしている。
「うぅ、成功したんだか失敗したんだか……」
そして周囲を見回すと……とたんに打って変わってハイテンションに叫びだした。
「おそと?おそと。うん、おそと。うはーーーー!
私は495年待ったのだ!おそとよ!私はかえってきたーーーーーーーーー!!!」
腕をぐるんぐるんまわしながらはしゃいでいた少女は、
そこで初めてその高台に居る他の存在たちに気がついた。
……ピエロ?黒服?少女?
はて?
そんなふうに首をかしげると、どうしたものかと一瞬考え込むそぶりを見せ……
……面倒になったのか、モーションをキャンセルして手を振ってみた。
「なんかお呼びかしら!」
よんでねえよ。
この場にナレーターでも居たならば、きっと即座にそうツッコミをいれたことだろう。
破砕された空は、いつの間にか何事も無かったかのように元に戻り、静寂を取り戻していた。
- 77 名前:ケフカ ◆4d4rVw/dxA :2009/10/03(土) 23:48:57
- パチ。
火がはぜる。枯葉が一枚、全身を崩壊させ、芋が位置を変える。
皮は焼け、ほのかに甘い香りが漂う。
やはり空にはうすくけぶる満月。
パチ。
枯葉が一枚、またその身を灰に変える。そろそろ頃合だろう・・・・・・
だが、派手に爆発するでもなく、ちろちろと燃える火を久しぶりだったからか。
加減を間違えたために、目の前にはほんのり甘い芋が6個ばかり。
「少し、多すぎましたかねぇ?」
月。焚き火。芋。道化師。なぜだろうか。我ながらあまりにも似合わぬその状況が
楽しくて仕方がなかった。
>>75
パキ。
火がはぜるのとは違う音がした。つづいて、若い男と女の話し声。なにやら、楽しげに。
恋人同士だろうか?普段ならば、自分ひとりの時間を邪魔されることは喜ばしいこと
ではない。だが、今私の気分は悪くない。そして、目の前には多すぎる芋。
「おやぁ?こんなところで散歩ですか。どうですか、お芋などは?」
ニンマリと笑いながら、顔を上げる。数m先。そこには、以前私を真っ二つにした男がいた。
楽しすぎる。
>>76
パシッ。
また異音。ここで発生せぬはずの音。何かが割れる音。そして―――爆音。
「うきゅ?!」
地面に盛大にたたきつけられる。それでも、両手に抱えた芋(新聞紙で丁寧に抱えてある)を
手放さなかったのは我ながらほめられて良い。芋を丁寧に脇へ置きながら、立ち上がる。
マントについた埃を叩き落し、詠唱の準備を整えながら見つめた爆心地には―――
一人の少女。
まったく、今日はなんと楽しい日でしょうか!!!
>「なんかお呼びかしら!」
満面の笑みを浮かべた少女は、邪気のない・・・・・不自然なまでに邪気のないその瞳を
輝かせながら、のたもうた。
「そうかもしれませんねぇ・・・お芋でもいかがです?おいいしいですよ。」
満面の笑みを浮かべた年端もいかぬ少女と、それに芋を差し出す
やはり顔面に笑みを張り付かせた狂気の道化師。
笑える話だ。
- 78 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/03(土) 23:54:06
- そういえば今日は日本の旧暦で言う中秋の名月、つまり満月で月見に最適な日であることは
仕事が一通り終わってふとカレンダーに目を通したときに気づいた。
時間はある。ちょっとばかし前に酷いトラウマを負ったような気がするがあれはたぶん幻聴なんだ。
何も気にする事はないと、適当な団子と酒―――おかげで自転車を放棄せざるを終えなかった―――を買い
とてとてと坂道を登っていた。
>>75
「おや」
前を見ればコンビニ袋を持って何かとじゃれあう二人組。
そのうちの一人は見たことがある背中。
今回は疑問形をつける事無くその職を最初から確定させて呼ぶことが出来そうだ。
にしても隣にいる子は誰だろうか。ずいぶん流暢な英語を話す外国人だ。俺も人のことを言えないんだが。
>>74
もう少し目を凝らして奥のほうを見据えると何かを燃やして出した明かりが見えた。
その傍らにはピエロが。
…ピエロ?え、なんで。軍人、ピエロ、(私服じゃああるが)神父とはまた珍妙な組み合わせ。
今日もまた騒がしくなりそうだ。
>>76
さて、まず馴染みの神父様にでも声をかけようかと思っていたら上方から異音。それも硝子が割れるような。
明らかに自然界に空中でする音ではない。また魔法か何かなんだろうか。
何事かなという疑問と共に上を見上げると…え、流星?赤い?
「のわっ!?」
飛びのく間もなく爆発に巻き込まれぶっ飛ばされる。
慣性に身を任せるしかなく地面を転げ、次いで来る土埃と枯葉の応酬に俺は喉と目を痛めざるを得なかった。
しかも落ちてきたの人だよ人。それも女の子。咳き込んだ後やたらとはしゃいでいる。
およびかなって、そりゃあ。
「呼ばれて出てくるのはランプの中からだけにしてもらえないかな…」
口の中に入った土を吐き出しながら俺は立つ前にまず見上げて抗議の声を上げた。
…お、コンビニの袋の中身は無事そうだ。
- 79 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2009/10/04(日) 00:08:11
- >>77
「お芋?」
小首をかしげ、しかし、すぐに先日館の中庭で食べたものだと思い至る。
おおお、と目を輝かせ、少女は枝から舞い降りると
地面を駆け、そして、道化姿の魔法使いに抱きついた。
「むはーーー!お芋お芋お芋ーーー!食べる食べる食べる!
ちょーだいちょーだいぴんきーちょうだい!」
ピンキー違う。もとい、魔法使いからお芋を受け取ると、
疑いもせずにかぶりつく。
口いっぱいにほうばると幸せいっぱいという風情に租借した。
もりもりもぐもぐ、その姿はハムスターやウサギのようだ。
「私はフラン、フランドール!オジさんの目には私と同じ光が見えるね?
世界一綺麗で世界一汚いぐるぐるでげれげれでホロホロな素敵な光。
オジさんはだあれ?もしかして人間?」
>>78
「うん、おまたせー!」
抗議の声を理解しているのかいないのか。
まぁ、まず理解する気がなさそうではある。
満面の笑みを顔に浮かべると少女、フランドール・スカーレットはふらりと宙を舞い、
紅葉を枝先に花咲かせている大樹の枝に腰掛ける。
そして、枝の上でぷらんぷらんと両足を揺らしながら嬉しそうに周囲を睥睨する。
冷たい秋夜の風
その風に舞う赤や黄色の木の葉たち
ぽっかりと浮かぶ大きな月
そして満天の星……
胸いっぱいに息を吸い込み、その全てを満喫するのだとばかりに大きく大きく息を吐く。
いい、やはりおそとはいい。
淀んで沈んだ地下とは空気が違う、肌触りが違う、見晴らしが違う。
思わず叫びたい暴れたい壊したい欲求に身を任せたくなるが、
暴れないこと。壊さないこと。帰ってくること。
危うい所で姉との約束を思い出し、留まる。
「飛び出すのがランプの精ばかりじゃ電球の立場が無い。
いつだって世界は驚きに満ち溢れているでしょ?騎士サマ?」
ニタァと上弦の三日月を顔に貼り付けて軍人に感謝の会釈をひとつ。
そう、この軍人が過日の楽しい時間の一翼をになってくれたことをこの幼女は識っているのだ。
- 80 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/04(日) 00:28:41
- >>79
お待たせって、お待たせってこのやろ。望みもせずに地面に這い蹲る身も考えてくれよ。
軍服が土塗れになったんだぞ、こっちは。
…あんまり気にする事でもないか。泥沼に嵌るよりかはマシだろう。
しかも平然と空富んでるよこの子。後ろにある七色の羽といい隠す気は最初から無いと言うのか。
…まあ、今更飛ぶのがどうとかはそれほど気にする事ではない。
世界は驚きで満ち溢れている。そりゃそうだ。思えば色々な新しい出会いが有ったものだ。
ある者は何もないところから火を出したり、ある者はノーモーションで手品やったり
ある者は全裸で石に乗ったまま温泉にダイビングしたり…。
概ね楽しい経験、かな?
「ランプと同じくアナログな提灯だって破れりゃ妖怪になるって言うのにな。
発明王の考えた現代を代表する科学の産物には幻想的な伝説は不要なんだろうさ…」
…っておい、今なんていった、この子。
騎士?騎士って言ったか?俺のこの前の電波傍受は幻聴だった説をもう覆すつもりか?
フランドールと名乗って芋を頬張る彼女は、もしや。
「…えーと、フラン、って呼んでいいんだよな?もしかしなくても咲夜の知り合い?」
知っている人物は限られる。俺だって誰にも話してないんだから尚更だ。
- 81 名前:ケフカ ◆4d4rVw/dxA :2009/10/04(日) 00:29:54
- >>78
爆音と同時に盛大に吹っ飛ぶ若い男。咄嗟に受け身をとって衝撃を和らげた辺りから
考えれば、何か訓練を受けた男だろう。
「ま、ま、ご無事なようで何より。お芋、いかがかな〜?」
少女に抗議している男へ、私は満面の笑みを浮かべながら芋を差し出した。
>>79
トン。
異音。動く暇もなく、少女が抱きついてくる。その軽さに、そして軽やかに過ぎる
身のこなしに少しばかり驚いた。少女は、私の姿に違和感を訴えるでもなく、
私から受け取った芋を、無心に食べている。
・・・・・こんな光景を、私は遥か昔に見たことがある?
帝国で作られた、二人の魔導の娘。
未だ子供であった彼女らとの記憶。
忌々しい。
可愛らしい、と形容すべきその状況。しかし、私は素直に受け取るべき心を失っている。
貼り付けた笑顔のままで少女を見つめていると、彼女はこちらを見つめ返して言う。
>「私はフラン、フランドール!オジさんの目には私と同じ光が見えるね?
> 世界一綺麗で世界一汚いぐるぐるでげれげれでホロホロな素敵な光。
> オジさんはだあれ?もしかして人間?」
聡い娘だ。あるいは、同じ穴の狢・・・それが為せる業だろうか。私は矢張り貼り付けた
笑顔のまま応える。
「ぐるぐるでげれげれでホロホロですか。なにか、楽しそうですねぇ?でも
フランさんの瞳は、とても綺麗ですよ?そう、とても綺麗で・・・・深いですね。
私はケフカ・パラッツォ。」
一呼吸置いて、続ける
「人間に―――見っえっるっかなぁ?!
シンジラレナーーーーイ!!」
笑顔で芋を頬張る少女と、その前でおどける男、道化師にはお似合いだ。
- 82 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/04(日) 00:31:49
-
「……まあ、つまりさ。お前と来たかったんだよ」
小高い丘の頂上。
背の高い木に凭れ掛かって、ほらよ、と紅茶(リプトン。158円也)を手渡す。少々肌寒いのが
アレだが、お互い身体は無駄に頑丈だ。壊れ辛いって意味で頑丈なのはともかく、壊れもしな
いモノを『頑丈』と呼んでいいかはさておいてだが。
「私と……だと」
そ、と肩をすくめる。
目をしばたかせるセシルは落ち着きなく紅茶のカップを両手で支えたまま指をわしわしと絡め
たり離したりと落ち着かない。
とはいえまあ、言っていることはお世辞などではなく、このところはお互いに外出しても何かを
殺したり殺したり殺したりしながら世話話など繰り返すだけで、致命的に風流と離れていた。
ここらで一息ついてもいい頃合ではある。
つまり、剣呑なあれこれとは離れて――、
>>77
「……わーお」
思わず額を押さえたくなる。
なんか知り合いだよ。
殺した憶えあるヤツだよ。
なんかもう最近不死身のヤツって多いなあ。隣にも居るしなあ。流行なのかなあ。もしかした
ら俺も不死身属性が付いてんじゃねえか、などと思えてこなくもない。
「知り合いか」
――と。
ヤボな思索を寸断するようにセシルが俺を見上げている。心なし不快げな声音なのは、うん、
多分気のせいだろう。
コイツが団欒(モドキ)を中断された程度で不快になるなんてありえない。
ので、まあ。
別に、と俺は肩をすくめ、
>>76
セシルが何事か口にするのと、俺とセシルと中心とした半径数メートルがびっしりと燐光ざわ
めく幾何学模様の乱舞に包まれたのは同時だ――世界から音が寸断され、空気はその振動
を停滞させる。
――なので、その直後に模様の外で炸裂した某かの爆撃は内側には響いてこない。
空間、という位相をそれ自体の要素として数量的に変化させるセシルの結界は、彗星の直撃
でも打ち抜けない。
が、それでもその様子は目に入った。
轟く雷撃、と言うにはあまりにも大仰だ。――さながらバンカーバスター。地殻が抉れる勢い
で地面を抉った何か。
燐光のサークルが弾け、内界と外界が合一する。弾けた隔離空間の外に躍り出て、ああもう
面倒だな、と頭を掻いた。
「あー……ちょい待ってろセシル。なんか知らないけど、俺がカタ付けて――」
なんかもう、なんだクソ結局このパターンか、と――。
「――くる、って、お、お?」
- 83 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/04(日) 00:32:21
- >>82
傍らで空を見上げるブロンドの小娘。
月を捉えていた視線は、ふ、と奇妙に凄絶な笑みで濛々とけぶる正面に向けられる。
やにわにセシルの足元に光条の円陣が展開する――それに異を唱えるヒマはなかった。
見上げる夜空に、光の粒が舞った。空気の流動にもまるで影響されずに煌々と黒い燐光を放
ち始める。
質量がないかのように淡々と中空を席巻し、秋風を無視して微細に空を覆い尽くす黒い絵の
具の群。
……現実に薄皮のように重なった論理層は、虚在のまま実在する現実だ。この世界が実体と
重量によって維持されるなら、現にそれがそうであるという法則を組み上げているのが論理層と
いう設計図と言っていい。
黒光が磨り上げた墨を流すように幾何学的なパターンを描いて発展する。生命進化を模倣す
るように自らを増殖させ、燐光は互いを接合し、接合し、接合して接合し、瞬く間に空を――とい
うのは、文字通り全天、視界の果てから果てまで――を覆い尽くす。燐光は増殖したパターン
を基盤に増殖し、指数的な効率で自らを繁殖させたパターンは怒涛の勢いで空を塗り潰してい
く。パターンがパターンを生み、生まれたパターンがまた無数のパターンを生み出す起点と化し
て機能する。
自己増殖の坩堝。空を侵食し続ける光の絵の具。……無数の構造を作り上げるのに、けして
無数のパーツは必要ではない。あるパーツとあるパーツを組み合わせて作り上げたパーツを最
初のパーツと組み合わせ、それと同様のパーツを組み合わせるだけでも、可能性としては無限
のパターンが存在する。
対角線論法的な欺瞞の無限。
無数の光点を連絡して編み上げられた巨大な紋様は見様によっては光で描かれた無数の文
章にも見える――現実を書き換える記述が世界に広げる影響は、皮肉にも文字通りに文字の
体裁を為している。
現実という法則を塗り替える法則の記述。喩えるならそれは、濃いインクで描いた文字が紙の
裏にまで染み出すようなものだ。
物理現実を強引に書き換え、存在しない存在を存在させるこの無数の記述群は、現実を規定
する法則――の、その法則を形作る法則だ。法則には法則が存在し、その法則にも法則が存
在する。物理法則を規定する最下層のルールと、その法則を束ねる法則を束ね、更に束ねに
束ねた無限の最上層に配置されるルール――審問局でただ四人、この最上層から万象を書き
換えることのできる例外がセシルであり、セシルはつまり法則そのものなのだ。
爆発的に空を覆った黒い光のテキスタイル。弱々しい月明かりを淡いではためかせ、黒い燐光
は互い違いに連絡し合い、巨大な絵画を全天に現出させている。自動筆記する光の先端は絵画
を描き抜き、自らを描き続け――結果。
空には一部の隙もなく描かれた巨大な図像――縦に数百層連なる、幅無限大のテキスタイル。
千にも届きそうなその図像が、月と地上の間で断続的に右回り左回りに回転する様は、正直に
言ってあまりに現実感がない。増殖し、侵食し、切断しながら接合し、断続的に編み上げられる
天空の絵画――、
――って。
「止めないと駄目じゃないのこれ!?」
- 84 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/04(日) 00:33:01
- >>83
叫んだ。
叫んだし慌てた。
隣には表情もなくただブツブツと何事かを呟くセシル――月見の予定が、などとぼそぼそと聞こ
えたのはきっと幻聴だ。たかがその程度の理由でこんな無茶をするハズが、って、
気付けばセシルの手には一本の黒ナイフ。
何する気だ、と問うまでもなかった。無造作にセシルは空に向かってそれを投じている。もはや
天蓋と化した光条にナイフが触れるや否や、
「――敵だな」
その声とどちらが早かったか。
大気が内側から裂けた。
黒い端光が輪舞し、光の絵画が四散する。
大量の墨汁が弾けたかのように、空が黒く塗りたくられる。
爆発的な質量が空を圧迫する。
見上げる遥かな全天に月は既にない。遥か地平線までの空を覆い尽くす、黒刃の雲海。
「……いや、」
いや。
いやいやいやいやいやいやいや!
目を疑う。小高い丘から数十メートル先の空――それを構成する要素の一つ一つは、間違いな
く先のセシルが手にひらめかせたナイフのそれとまるで同じだ。
……遍く広がった黒鋼の積乱雲はギチギチと軋りながら、未だ密度を増しつつある。セシルが投
じたナイフと同系同質な刃物の群は、空の天蓋を成しながら尚も増殖を続けていく。
ジャクソン・ポロックの悪ふざけ。
思わずそんな雑感をした後、
「って、待てぇぇぇぇ! マジで待てセシル!」
「なんだ」
「いや、だから! だから待て! 何これ!? なんなのこれェェェェ!?」
「だから敵がいるんだ」
「敵って! いや! 待て! その前になにこれ! 落とす気!? ねえこれ落とす気!?」
視線の交錯は一秒。こくん、と無表情に頷きが返る。二秒。
「――だから! 死ぬだろうが俺も! 俺って言うかこの下の街とか全部!」
再度交錯する視線。一秒。
あ、と間の抜けた声が返る。
……見上げる空で、燐光が弾けた。再帰する月明かり。
何かの冗談だったように、そこに佇む満月。
「……えーと、セシル、さん?」
「ああ」
うん、とセシルは一つ頷いて、
「冗談だ」
「冗談だったんすか!?」
なんか、もう。
俺、頭イタいです。
- 85 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/04(日) 00:44:17
- >>78
……なんかもう疲れた。帰りたい。
深々と木に凭れ掛かってコンビニの袋からマウントレーニアを引っ張り出す。
悪びれずにリプトンを弄っている諸悪の根源が隣にいたりするのがまったくもって
解らない。
なにせ。
「……すまない」
……などと謝られようものなら、さしあたりこちらとしてはそれを受け入れる他はな
いのであって、精々俺はこの頭痛が治まるまでじっとしているしかないのだ。
と――視線の端に、こちらも見覚えのある人影。
もう会うこともない、と思っていたのだが、何かと奇縁というヤツだろう。
軍人だと名乗った人影は、ぽつねんと丘の最中に立っている。
取り立ててする挨拶もないので、軽く会釈しておくことにする。
……とりあえず、なんかもう。
静かにしていたい気分で一杯なのだった。
- 86 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2009/10/04(日) 00:48:47
- >>80
道化の魔法使いにもらったお芋を齧る手を止めると
少女は戸惑いの気配を放つ軍人に微笑みかける。
「幻想は忘却の彼方、忘却はヒトの美徳。
いつかは全てが彼方に消えるわ。
科学だけが過去にならない、なんてことはない」
過去にしてあげてもいいけれど。最後の言葉だけは口にしないで幻想送り。
ゆがんだ光が瞳の奥で明滅する。
なにか言おうとして、もぐもぐが邪魔をする。
もぐもぐが優先なので喋るのはあきらめた。
もぐもぐ。ごっくん。
「そうだよアマダサマ。私はフラン。
咲夜はうちで飼ってるペット。可愛いでしょ?」
ナニカを試すような挑戦的な視線を投げかけながら、騎士を見下ろす。
……自分より背の高いアマダを見下ろすために反り返ってしまっているが、
彼女にとっては些細なことなのだろう……か?
>>81
おどける道化にケラケラと笑う。
「しんでらなーい」と道化のマネをして(できていないが)喜ぶ少女は傍目に見れば
あるいは、ほほえましい光景に見えるかもしれない。
しかし、聡い者はこの異様な光景に恐怖するだろう。
道化も少女もおどけ、はしゃぎ、笑い声を上げているが……
……二人ともまったく目は笑っていないのだ。
ただ、目の奥のさらに奥のなにか深遠の渾沌のようなものが不気味にひしゃげた笑みを浮かべていた。
「みえなーい!オジさんはピエロにみえるー!
ドナルドマジックしてー!らんらんるー!」
ピエロを間違いつつ、少女ははしゃいでいる。
その目にはもう先ほどの渾沌の気配は存在しなかった。
まるで挨拶は終わったとばかりに。
- 87 名前:ケフカ ◆4d4rVw/dxA :2009/10/04(日) 00:49:21
- >>82-85
>「……わーお」
男の―――神父の表情が一瞬曇った。真っ二つにした筈の相手と再会したことを
考えるなら、一切動揺を見せなかった、そう表現しても良いレベルの曇りではあるが。
隣の金髪の少女に何事かを問われ、何事かを応える神父。
知り合いか。別に。
嫌われたものだ。唇の動きから大方そんな会話だろうと予想し、それでも満面の笑みで
一礼をする。
「はじめましてお二方。デートのお邪魔をして申し訳ないが、まずは一つ、お芋でも如何?」
デートのくだりを強調しながら続ける。
「甘くておいしいですよ?」
殺された報復としては、軽いものだろう。そう考えながら、顔を上げると・・・・・・
フランを見つめた金髪の娘の周りには魔方陣らしき何か。
上を見れば空を、埋め尽くさぬばかりの黒いナイフ。だが、少女が纏う気配は殺気ではない。
怒りでもない・・・・言うなれば、機械の様に精密な、システムが正常に作動した結果による
排除の論理。
「月見で月を消すとは物騒ですねぇ――――?!」
せめて自分の周りだけは守ろうかとリフレクやら何やらを詠唱しようとしたその時。
全てが消えた。空を見上げれば、やはり虚ろに輝く満月。
「随分と楽しすぎる彼女さんでいらっしゃる、神父さん?」
さすがに、呆れた口調は隠し切れない。
- 88 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2009/10/04(日) 00:59:14
- >>82-84
空が翳る。
月が隠れ、天を覆うは無機質で無慈悲な鋼の戦陣。
詠唱を聞いて横目で視線を投げた。
陣を敷いたのを感じて、顔は向けずに顔の三日月の切れ込みが鋭くなった。
「敵だ」の声を耳にして、最高の笑みを浮かべ……
それがピエロや騎士に見えないように手を顔にかざして隠した。
あそびたいあそべそうアソビタイアソボウヨあそびたいあそべそうアソビタイアソボウヨ
あそびたいあそべそうアソビタイアソボウヨあそびたいあそべそうアソビタイアソボウヨ
あそびたいあそべそうアソビタイアソボウヨあそびたいあそべそうアソビタイアソボウヨ
あそびたいあそべそうアソビタイアソボウヨあそびたいあそべそうアソビタイアソボウヨ
あそびたいあそべそうアソビタイアソボウヨあそびたいあそべそうアソビタイアソボウヨ
/ /:::. ‐- .,_ ,. -‐- .,_
i! /! __, /::: `゙"ー- - 一'" ̄ ̄ ̄`ヽ
jヽ,/::i! , -z=/:::::. ヽ
l:::,、:::γヽ /:/ ./:::::::::::.. __,. -z=- z .,_ / _,. 、
j::/1ヽ:::く /! /:/ l⌒j::::::::::::::::::........,- ,ヾ:::::.. ヽ/-‐'´::::{
ノ/〈!〉 8ヽ::\__/:::i:::/ rヽ ヽ:::::::::::r-、':::. ::... _::::::::.. /:.::::::::::::j
-=く/ l ∧ ヽ。.,_::::::::! l ..: r- 、 `/:::/==zzr 、--,( ヽ=:::::::/1:::::::、::ヽ,_/、
ヾ、 .〈:Y〉 ○{:0:::::l ヽ_,./: ::/ ヾ、 j! :ヽ `'‐、ヽ \、l l::.::::::!::::::::::ヽ ,
i! .∨ ..∧ l:::! `ーヘ__ノ`ヽ/-=L!´lヘ.,__,.>- .,`' -‐、ヽ ヽ::/l:::::::::::::::ゝl i!
;l! 〈、,.〉 6::ヽ / / ! リ/ ,_:ヽ、ヽ─- - .,_'コ ` ヽl_,./´ lj /:
j! .∨ fヽ::::ヽ、 l1 {1 、ゝ ヾfz゚ノ>:ヽ、─- - 、 ヽ jヽ! /j /:::
l|! ∧ \::::ヽ、ゝ!ヘ、 !へ、`=-:::::::::、 ,r──'´ ヽ ./1 /:/´
j!' 〈、r〉 8、::::ヽ,/ゝ、_ヾ、: 、ヽ‐r-___`ニv7⌒ヽ、 ヽイ"´:::ノ8
{ ∨ ∧ ヽf/:/ l ヾ !7ー─'´1/l jヽ_r ヽ:/ ∧
ヽ / ヽ{! ! i ヾ、 j!ィf l !i /夂⌒ヽ、 ヽ 〈Y'〉
ヽY./ ヽ ヾ、_fニヽ ト!`ー 、 r‐'フ1 /クヘ{ .ヽ ヽ .∨
∨ `>´ 弋1.ノ >'⌒`'ヽ、V'えイ j! ヽ
/ /、l/ヘr 〉 /f勹テ´1 l ヽ
_,.-'7 /::::::'ーr__/1⌒lヘ/r'^ー'::::::1 l rvヘ ,
r'": /.:::::::::::::::/ ! .l1 ヽ:::::::::::::::l f ノ、 ヽ、 l
l::::. ..: : : l:::..:::::::::::/ / lキ ,:::::::::,..::1"´ `ヽ、 、 l
f:::::::....::::: .. ::l::::::::::..:/ /! l i! 、:::::::::::::ヽ `ー'一-‐'
ヾr 、::::::::::::/1::::::::/ i! l i! lヽ::::: .:::.ヽ、
/::`ーヘrィ7 ,l::::/ ! l ! _〉:::::..::::::ヽ
/:. ::/.γ/ i! |! ,.ゝ::::::.:::::::.::::!
/ :/ ヽヾr、 /! /::::.:::::::.::.::::ノ
右手に魔力が集まる。
開いた右手に詠唱していた女の胴中央の「目」が近寄る。
指先がぴくりと動く……
「妹様、おそとにでてもあんまりどかーんしちゃダメですよ?」
ドカーン以外で乗り切るのが大人のオンナの器量ですよ。
そう言ってしたり顔でうなずく美鈴の顔が思い出された。
んー。
なんとなく、どうでもよくなって右手の魔力をポイする。
フランドールが右手の中の「目」を放して魔力を吹き消すのと、
天の戦陣が消えるのはほとんど同時であった。
- 89 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/04(日) 01:00:52
- >>87
「楽しいのは否定する。あと芋は貰う。それと彼女じゃない」
矢継ぎ早に三言。
セシルが何か言い掛けたようだが、どうにも調子が狂っているっぽいのでそっとしておく。
歩く最終兵器のタガが外れたら、俺では管理責任とか負い切れない。
改めて道化姿に目を移す。
場違いと言えば大概に場違いな人間しか集まっていない気はするが、格好だけならコイ
ツが図抜けて場所を間違えている。
「まあ……アレだ。あんたも大概悪ふざけしたんだから、お相子って事で――」
ピエロの服装を無理やり正装に仕立て上げたらこうなる、みたいな格好の男は呆れたよ
うにこちらを見据えていた。
「……まあ、今回はこっちのが具合が酷いけどな。あんたの気分なんてのは正直知った
ことじゃないけど、市民代表として謝罪は受け取ってくれ」
まあ。
言ってみて、これが市民代表というのもどうかとは思ったが。
- 90 名前:ケフカ ◆4d4rVw/dxA :2009/10/04(日) 01:04:01
- >>86
>「しんでらなーい」
>「みえなーい!オジさんはピエロにみえるー!
> ドナルドマジックしてー!らんらんるー!」
興味深い娘だ。そう思った。全く無邪気で、ただただ自分に素直なだけで。
そして・・・・だからこそ全てを見透かすかのような瞳をしている。
あるいは、いやおそらく自覚などしていないのだろう。おそらくは、そんな自分を
持て余しているのだろう。目の前で、今は屈託のない笑顔ではしゃぐフランに
少しばかり共感が湧いた。我ながら、胸糞の悪いことだ。楽しんでいる自分に
気付いてしまった。なんと楽しい夜。
「ホァーホッホッホッホ!!」
気が付けば笑っていた。朧月夜に、丘の上で哄笑する狂気の魔導士。
サマになりすぎる。
「可愛いお客さんの頼みは聴かないと行けませんねぇ・・・・・そぉれ!
ドナルド・マジック!!」
右手を振り、魔力を集中し、芋を浮かせる。左手に込めた魔力を操り、枯葉の山を
作り上げる。そこへ芋をカミカゼさせて、仕上げにファイア。
「もう一つ、お芋を食べてみますか?おいしかったでしょう」
道化師は子供に優しいもの。そう、決まっている。
- 91 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/04(日) 01:11:16
- >>81
この奇妙なメイクをした男性、やはり道化師だ。
はて、近くでサーカスなんて公演していただろうか?
「あ、どうも。ありがとうございます」
渡されたのは熱い焼き芋。酒のつまみが一つ増えたか。
秋を感じられるなかなか良い食べ物だ。この道化師、外国人だけど風流をよく分かっている。
「もしかして道化師さんもこの満月を見に?中秋の名月なだけあって、この時期に見る月は綺麗ですよね」
そう言って俺は上空を見上げ。
>>85
………………………―――――。
俺は知らない。何も見ていない。
一時的に空が風情も何もない馬鹿げた光景に変わったかと思ったがそうでもなかったぜ。
俺の脳じゃあ状況は説明つかない。忘れよう、うん。
「…あ、どうも」
なにやら疲れきった顔をしている。一体何がどうしたというのか。どうしたもない。
隣ではペットボトル入りの紅茶を弄繰り回しながら何食わぬ顔で神父様について行く少女。
先程彼女の周りに光る何かが出来たところを考えれば彼女が間違いなく元凶なんだろう。
そして神父様はそれに振り回された被害者なのだろうか。
とりあえず気の聴いた言葉でも何か一つ出して落ち着きたいのだが跳ね上がる心臓がそれを拒む。
「…え、えーと。ず、随分と可愛い子連れてますね」
やっと捻り出した言葉がこれだったが、言葉の取捨選択を間違えた気がする。
>>86
「…確かに。科学は時によって科学に淘汰される。要らなくなり、途絶えた技術は
もはやロートルの域を超えて幻想なのかもしれないな」
彼女が美味そうに頬張っているのを見て俺も芋を食べる事にした。
しかしこの芋はどうして焼いただけでこんなに甘くなるのだろうか。
ジャガイモなんてキャンプで焼いてもそのまま食う事なんてまず無い。バターか塩が必要だ。
しかしこの芋に関しては逆に何かを付ける事がナンセンスとなる。
酒でもそろそろ出そうかなと思っていると、目の前に居る少女は物騒な言い方をした。
ペットか。あのメイドさんがね。
「…ペットね。家畜身分の奴隷じゃなくて安心したよ。あんまり人間を畜生扱いするのは褒められた事じゃないな」
もしかしたら俺より長い事生きているかもしれない。
だが俺は、見下ろすような目を下から浴びせる少女に、逆に子供をしかるような目つきで返した。
…ああ、俺もしかして自分の命を粗末に扱っているのかも。
- 92 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/04(日) 01:12:37
- >>88
「でも……まあホラ、見る限り物騒でもないだろ」
「そうか――」
そうか? と疑問系で付け加えるのも忘れずに、セシルは矮躯の少女に視線を据える。
文字通りに殺しても死なないというかそもそも死に方が解らないセシルが怒り出した理由
は、そう、いきなり空から降ってきたことに対する義憤、辺りにしておくべきなんだろう。
挙句、行動を追う限りでは無害そうに振る舞う様を見ていれば悪いのはこっちなんじゃ
ないかとすら思えてくるからタチが悪い。なんせあちら、パッと見は可愛いし。
「や、こんばんは」
なので、そんな風に声を投げてみる。
大概セシルも見た目はガキだが、バンカーバスター――もとい、女の子はそれに輪を掛
けて外見年齢は低い。しかし残念なことに外見の年齢はアテにならないのがこの世界の
常識らしいので、実際はどうだかわかったもんじゃない、と注釈を付けておくことは忘れな
い。案外と百歳二百歳は有り得るのだ。
とはいえ常識が常識として成り立つかどうかは誰にとっての常識が常識なのか、という
アタマの痛くなる定義に引き摺られるので、そこらを追求しても意味がないのだ。
ほら、とセシルの肩を軽く小突く。
む、と少し不機嫌そうに呟いて、セシルが少女に会釈する。
……ああ。
なるほど、と思う。
そういえばコイツ、(見た目だけにせよ)同年代の知り合いとかあんまりいないんだっけ。
「人見知りですか、局長様」
「……。何を言っている」
別に――と、言いつつ笑いが漏れた。
睨むような視線が飛んでくるが、とりあえずは些細な問題だろう。
- 93 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/04(日) 01:21:34
- >>91
「ああ。どうも涼しくなると調子を崩すらしい。俺も今日初めて知った」
可愛い、の部分は別に否定する必要がないが、今日のセシルは大分おかしい。
コイツと今しがたの終末直前風景を結び付けるような論理はどこにも転がってはいないが、
追求されない以上は流しておくのが最善だ。
……誤魔化せてんのかな、なんて疑問はこの際考慮しないことにする。
- 94 名前:ケフカ ◆4d4rVw/dxA :2009/10/04(日) 01:25:23
- >>89
>「まあ……アレだ。あんたも大概悪ふざけしたんだから、お相子って事で――」
「お相子。お相子、ねぇ?」
目を見開きながら、しかし相変わらず唇の端をつりあげて応える。
はてさて、少なくとも私は神父の命を危うくしたことなどなかったはずだが。
そう・・・なにしろ、そんなことをする暇もなく両断されたのだ。
「ま、そういうことにしておきましょー。」
芋を差し出しながら・・・・魔導士の笑顔で、ボソッとつぶやく。
「空間を書きかえるなんてマネが出来る娘さん、楽しいと思いますけどねぇ」
相手の反応を見ないまま、くるりと一回転し―――道化師の笑みで
「何の力もない一市民の代表として、謝罪は受け取っておきましょー!!
あぁ、ぼくちんなんて心が広いのだろう?!そうは思いませんか?!」
ほぁーほほほほ。
>>91
>「もしかして道化師さんもこの満月を見に?中秋の名月なだけあって、この時期に見る月は綺麗ですよね」
素直に受け取る男。こいつもまた、私の姿に特に不審な様子を抱かぬらしい。
ここは常に私のようなモノが出入りをしているのだろうか?だとすれば、
この男もまた・・・・?
だが、どう見てもこの男は人間だ。訓練され、ひょっとしたら優秀ですらあるかも
しれないが、神父やフランと違い――どうしようもなく、人間だ。
「ノーノー!!ツ・キ・ミーーー!!」
ドナルドマジック。
「お月様が綺麗ですからねぇ。あなたも月見ですか?難儀な所へ来てしまいましたねぇ?」
神父一行と、フランを交互に見比べながら応える。
「まぁ、スリリングな月見を楽しみましょう。死なないようにねぇ?」
ニタリ。
- 95 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2009/10/04(日) 01:29:32
- >>90
魔法使いは焚き火の追加をはじめた。
宙空に蛍光色の光が乱舞し、芋が舞い、枯葉が踊る。
見ようによってはマヌケ極まる光景にも見えるが、少女はすごいすごいとはしゃいでいる。
紅魔館にも魔女が居るが、あまり無駄な魔法を見せてはくれない。
ウィッチマジックはフランドールにとっては不愉快で詰まらない封じ込めの結界と同義だ。
彼女が憧れるのはただ、微笑みのためだけに無駄に使われる魔法。
かつてスマイル0円を歌った別の道化師の姿を思い浮かべ、
フランドール・スカーレットはケフカ・パラッツォの使った、
「ただの無駄な魔法」にひどく喜んでいたのだ。
「お芋はね、食べるのも焼くのも楽しいのよ?
それはとっても素敵なことだわ」
一転、先ほどまでとは打って変わってひどく大人びた表情で、道化師に静かに語りかけた。
「ずっと覚えておかなくちゃ。ほぁーっほっほっほ!」
少し悲しそうに、道化師の真似をして笑った。
>>91
騎士の非難の視線を受けて嬉しそうに体勢を戻す。
だが、それでも腕を組み挑むような視線はやめない。
「だって、咲夜はお姉様の自慢の愛犬ですもの。ああ、人間だっけ?
人間も犬も妖怪も吸血鬼も動物でしょ?
生きてて話をして笑って怒って壊れてしんじゃうモノ。いっしょだよ。いっしょ」
壊れないものがあるというなら見てみたい。
それは彼女の積年の願い。
だが、そんなものはなかった。これまでは。そしておそらくこれからも。
だからいっしょ。
ぎゅってすればどかーんってなってしまうモノ。
フランドールにはシロー・アマダの非難の意味は伝わっていないのだ。
- 96 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2009/10/04(日) 01:38:26
- >>92
こんばんはの声にきょとんと振り向いた。
背の翼の水晶のようなものがシャランと涼しげな音を立てる。
「あら、こんばんは。今宵も良い月だな、人間ども……って言えばいいのかな?」
牙の生えた口を隠そうともせずにあははと能天気な笑い声をあげ、
フランドール・スカーレットは声をかけてきた男性に答えた。
らしくもない皮肉げな言い回しになったのは、
先ほどの空の破壊の気配に幾分でも本能を刺激されたからであろうか?
「お嬢さんもこんばんは。『そのうち』いっしょに『遊べ』たらいいね♪」
お芋をまくまく齧りながら、少女にも微笑みかける。
遊べる相手が少ない彼女なりの言葉。
人間なんてどうせ『その内』という時間が経つ前に消えていってしまうのだろうから。
だから最初から希望を持たない話し方しかしない。
オネエサマニメイワクガカカルカラフランハガマンスルノヨ。
古くからの壊れた強迫観念。小さな狂気の芽。
- 97 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/04(日) 01:38:53
- >>94
……チ。
思わず殺意が湧かないでもないが、局地的な異常気象(ですらない)を発生させたのは
明らかにこちらの非であって、飲み込んでおくべき皮肉でもある。
問題は、飲み込もうとしてリバースしかねない類の皮肉もある、というだけのことだ。
芋を受け取りつつ――食事は無駄、と割り切っているセシルには渡さない――、軍人の
方へと歩いていく道化師の背中を見送る。
「誰だ、あれは」
「ピエロ。見て解るだろ」
まあな、と返すセシルの声は落ち着いてきている。
「で、最近の道化師はあれだけ不快な気配を纏う物か」
「不快?」
ああ、とセシルは紅茶のカップを弄って頷く。
「他人も自分も信じられない、と言った人間に特有の空気だ」
ああ。
なるほど。
つまり俺と同じってワケね。
- 98 名前:ケフカ ◆4d4rVw/dxA :2009/10/04(日) 01:53:57
- >>95
手品を見せる道化師。それを見て朗らかに笑う少女。
周りにはカップルと、月を見て芋を頬張る青年。
よくある情景。
あるいは、二度とは訪れぬ平和。
何かが。絶対に思い出せない、思い出しなくない何かが壊れた心を
ざわつかせる。
>「ずっと覚えておかなくちゃ。ほぁーっほっほっほ!」
フランの笑い声が、空へ響く。年端も行かぬ少女にしては、深すぎる悲しみを
たたえた哄笑。狂気が渦巻き、溢れ、そして小さな身体に収束していく。
心がざわつく。魔導実験によって弄繰り回された脳裏にこびりついた何かが
私の心を刺激する―――不愉快だ。
「そう・・・・食べるのも、焼くのも楽しいですねぇ。」
パチ。
火のはぜる音。焚き火から、嫌な臭いが立ち上る。コワレタ少女から目線を外し、
一本だけこげてしまった芋を浮かせ、その小さな内部に魔力を送り込み―――
ファイガ。
視線をそのままに言葉を繋ぐ。
「ぎゅっとしてどかーん・・・・・・・
くろこげだじょーーーーー!!!」
道化師、いや、魔導士の顔で笑った。
- 99 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/04(日) 01:58:38
- >>93
「季節の変わり目は風邪ひきやすいですからね」
などとお決まり文句を言って無難な会話をしているうちに落ち着きを取り戻した。
いや、落ち着くも何も俺が幻覚を見ていただけなんだ。
周りの人間もいろいろと騒いでいたようだが、俺は無かった事にしておこうと思った。
あったことにしてたらいろいろと、精神衛生上良くない。
しかし表情少なげに神父の横にいる彼女は何者だろうか。
さっきやったあれを思い出すと絶対堅気の人間じゃない事は明らかだ。
しかしだ、何か普通っぽい職を想定して逃げ道を与えてみるのもいいんじゃないだろうか、うん。
「…えーと、神父様が連れているということはもしかして聖歌隊か何かですかね、この子」
何で一人だけって言うのが気にはなるが。
>>94
おうっ、びっくりした。
こういきなり異様な声でおどけられるのもなかなか怖い。
道化師なのだから仕方ないのだろうけど。いつか読んだパンを焼く漫画に常識ハズレな事をしてこそ
一流のピエロだと描いてあったような気がする。
「いや、本当にとんでもないところに来たもんだ。ちょっと酒を飲みに来ただけなのに」
日本酒のビンを開けながら答える。徳利も持参。
杯を酒で満たし、少し喉に詰まり気味だった芋を酒で胃の中に流し込んだ。
「…そうだね、お互いに死なないように」
というかこいつは人間じゃないのかよ。言い方的に。
なんてこった、改めてとんでもないところに足を踏み入れてしまったようだ。
>>95
はあ、と溜息が出る。
いやはやなんとも捻じ曲がった価値観をお持ちのようだ、この吸血鬼の令嬢は。
人間には理解しがたいが、出来るだけ矯正してやったほうがよろしいだろう。
…ああ、俺もまた嫁さんいるのに命を投げ捨てるような真似して。自分は化け物だと憚らない少女相手に。
「そうじゃなくてな…」
ま、あくまで見下ろすというのならよろしい。こちらからそこまで階段を上ってやろうじゃないの。
俺は肩ひざをついて彼女と視線の位置を合わせた。
「フランにとって咲夜は沢山居るものなのか?彼女の他に容姿も性格も、生きてきた軌跡すら同じ人間なんて存在しない。
そして彼女は動物とは違う人間だ。数多の生きるものの中で最も尊厳を大切にするものだ。
この世で唯一の人の尊厳を踏みにじる事が彼女にとっても、また君にとっても幸せな事か?」
しかし人間を飼い犬扱いとはその姉もまた結構な性格破綻者だな。
- 100 名前:ケフカ ◆4d4rVw/dxA :2009/10/04(日) 02:08:42
- >>97
背を向けた神父たちの方から、声が聞こえる。
なるほど、あの娘聡い。もしくは、やはりフランのように同じ穴の狢。
他人も自分も信じられない。なかなかに的を射た意見と言えるだろう。
だが、少し違う。
信じられないのではない。
信じる必要性を認めないのだ。
人も人外も、ただそこにあり、自分の意思だと信じる何かに突き動かされて
日々を送っている。そこに、信頼関係など作ったところで、永続するはずもない。
この娘は知っているのだろうか?人外である自分は、死すべき人間との間に
信頼関係を作っても、必ず「死」によって裏切られるということを。
どうせ皆死ぬ。破壊される。壊される。死のない破壊などツマラン。
面倒だった。口に出せば、また殺される。殺されること自体は大した痛手でもないが
この場がこれ以上荒むのは御免蒙りたい。しばらくぶりに、静かに楽しんでいるのだ。
それに、神父が死ぬという光景もなかなか想像はできない。
あるいは彼もまた不死ならば、彼女との間には結構幸福な生活が生まれるのではないか。
首だけをくるりと、神父らに向け、そういう言葉を含めたつもりで笑顔を向けた。
満面の、道化師としての笑みを。
- 101 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/04(日) 02:16:11
- >>96
「あのさあ、セシル――」
「問題ない」
返る言葉は凪いでいる。完全に落ち着いた声音に含むところはゼロだ。
……というか、本来のセシルはこうであって、さっきまでのあれこれはタチの悪い冗談と
思うべきなのだ。
思考に余剰のない審問官には無駄がない――有体に言って、善意も悪意も等価に扱う
のがセシルの本来のスタンスで、コイツが何かに対して極端に反応する例は殆ど見られ
ない。
「遊ぶのは苦手なんだが――だが、少々不快な思いをさせたのは申し訳ない」
夜目に映える白いワンピースを着たセシルは穏やかに頷くと、怖いぐらいに白いその手
を、鶴のようなしなやかさで自分の胸の辺りへ、つつつ、と這わせていく。ピタリと静止する
指は左胸の少し下。
そして。
「貴方の言う、『人間諸氏』と違って謝罪も苦手でな――だから」
なにがだからなのか――止める間もなかった。
白い指先が無造作にその胸へと突き込まれる。熱したナイフをバターに入れるような鋭
さで、胸の中へと没入する手首。
「ちょ――」
何にどうツッコミを入れてやればいいのか解らない。
……コードでも引き摺るように。
血管を伴って胸郭から引き摺り出されたそれが、トクトクと蠕動しながら自己主張してい
る。人体の細部から細部まで模造された(らしい)セシルの身体は、外見的にも中身にも
変わるところはない。
端的に言ってグロい……と言ってやりたいが、整った外見との対比が凄絶なコントラスト
を作っていて、傍目にはいっそ幻想的な光景でもある。
なので、ツッコミは遅れに遅れた。
ぎゅっ、と小さな手が握り締められる。
水風船が割れるように――ではなく、砂でも毀れるように手の中で燐光が溢れる。
それで終わり。手の平と左胸を繋いでいた血管も淡い光のように散っていて、既に死生
を曖昧にしていた風景の痕跡を探すのは難しい。
破れて血で汚れたワンピースだけをその名残に、セシルは右手を差し出したままの姿勢
で忍ぶように笑う。
「……人間のようには死ねない――というか、生憎と私は死に方を知らん。謝罪には足り
ないかもしれないが、他に手段も思い付かなくてな――なにせ、貴方の類のあれこれは、
これまで永らえさせておいた憶えがなかったんだ」
だからすまない、と、謝罪にもならない謝罪を口にする。
……七割近くは自分への皮肉だろう。
なんだろう。
ホントこいつ、今日は調子おかしいんじゃないだろうか。
- 102 名前:ケフカ ◆4d4rVw/dxA :2009/10/04(日) 02:19:21
- >>99
「なんとまぁ・・・・・」
素直に感心した。この男、この状況で酒を飲み始めた。ここにいるモノたちは、
全員が全員、その気になれば彼を塵すら残さず一瞬で壊すことができるというのに。
お互い死なないように。
根が素直な男なのだろう。そういいながらも、「お前、死ぬんか?ってか人間なんか?」
という疑問が顔に出ている。胆の据わった人間は何人か見てきたが、この男の場合
据わっているというよりも、根を生やして完全に固定されている。
面白い。
「月見でお酒とは、また風流ですねぇ?お芋を馳走した代わりと言っては何ですが、
一口もらえますかー?」
言いながら、魔力をほんの少しそちらへ働かせ、男が持っていた徳利を宙に浮かせると、
私の口の上で傾ける。
「んまい!!」
指先に少しだけためた魔力で、徳利を男の手に戻すとにやりと笑って付け加える。
「間接キスは勘弁ですからねぇ?ま、こういうやり方なら、大丈夫でしょう。」
これで、少なくとも彼の疑問に対する一つの回答にはなっただろう。
- 103 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2009/10/04(日) 02:21:44
- >>98
ファイガ。
火炎の高等呪文により爆散した芋を見て、
彼女……フランドール・スカーレットは凍りついた。
「どかー……ん。
うん……黒こげだね。コナゴナでばらばら」
いつものこと。
椅子を、家具を、ぬいぐるみを、扉を、妖精メイドを、
壁を、天井を、結界をいままで壊し続けてきた。
いや、壊れてしまった。
それと同じように、今またおなじように一つの物体が壊れた。
「世界も……ぎゅってしたらどかーんってなるのかな?
だからお姉様は私を閉じ込めたのかな。
だから私は黙って閉じ込められたのかな……?」
ぶつぶつと呟く。
挨拶を終えて去ったはずの渾沌が目の奥に蘇る。
「簡単にこわれちゃうような世界ってさ。
なんかもぉ要らないような気がしちゃうよね」
ひどく遠く彼方を見つめながら、道化にだけ聞こえる音量で呟くと、
芋の最後のひとかけを口に放り込むと指をぺろりと舐めた。
>>99
目線をそろえてきた騎士に、フランの眉根が少し上がる。
おそらく面白い人間、そのようなメモを頭の容量のどこかに書き付けながら
どうやら咲夜の目がおかしいわけではないようだと結論付ける。
だだ、面白い人間の言う事は面白くなかった。
「フフフ、幸せってなぁに?
幸せとみんが呼ぶものが私にとって幸せであるのかしら?
世界が尊厳と呼ぶものは当人にとってそれほど大事なものでないかもしれない。
お兄ちゃんの言ってる事はよくわからないわ。
いいえ、わかってあげられない。
咲夜が他と違うことなんて私やお姉さまにとって当たり前のことよ。
大切にしているのも間違い無いと思う、あいつ、咲夜が死なないように配慮してるもの」
ふわり。
シロー・アマダが立った時の目線の高さにあわせて浮かび上がる。
「私が聞きたいのはそんな素敵な『正義』や『常識』や『道徳』じゃあないわ。
でも、まぁ悪くない。貴方本人はそんな嫌いじゃないよ。
もしつまんない事いって飾るようなら壊しちゃおうかって思ってたんだ」
コロコロと転がすような笑い声をあげながら、
フランドール・スカーレットはシロー・アマダの頭をなでる。
「なーんてね。
冗談よ、騎士さん。
咲夜はメイド長、紅魔館じゃ特別扱いなのは間違いないって」
- 104 名前:名無し客:2009/10/04(日) 02:27:43
- >>103
妹様、ご歓談のところちょっと名無しですまぬが失礼するよ。
紅魔館の方で抜け出したのがばれて大騒ぎになってるんで・・・。
ま、そんなに遅くならんうちにお戻りをば・・・。
妹様の顔をちょっと見に行っただけなんだけどねえ。
- 105 名前:ケフカ ◆4d4rVw/dxA :2009/10/04(日) 02:32:00
- >>103
世界を壊す。
破壊。あるいは破戒。はかいはかいはかいはかいハカイハカイハカイ!!
この娘は面白い。無邪気な狂気。混沌の渦に飲み込まれ、そして逆に、
それを全て呑み込んでいる狂った少女。可愛いかわいいフランちゃん。
小さな声で呟く少女の、前にかがむ。目線の高さをあわせ、同じ穴の狢に
敬意を表し、ケフカ・パラッツッォが応える。
「一度壊したら、二度と壊せないじゃありませんか。それに」
程よく焼けた芋を、彼女の小さな手に渡しながら、やはり彼女にしか聞こえない
小さな声で続ける。
「世界を壊すのは私だよ。邪魔者もイッパイいるけどねぇ?」
視線は、神父のほうを向いていた。
- 106 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/04(日) 02:37:09
- >>99
「聖歌隊ってことにしてたことも……まあ、あったんじゃねえかな」
……曖昧な返事になってしまうのは仕方ない。
義理の妹だ、などと言ってしまうのが実は一番手っ取り早い逃げ道ではあるのだが。
が、「穏便に収めたいですよ」なんて視線を送られているこっちとしては適当な落とし所を
模索してやるのが筋というもので、こっちとしてもその方がありがたい。
見た目中学生のコイツを連れ回すと苦労するのは、ぶっちゃけこんな日常(とは程遠いの
が現状だが)会話なのだ。
>>100
で、こっちはこっちで大概日常とは遠い。
信じること、とセシルは言う。
或いは、それだけがコイツを形作っている根幹要素かもしれない――セシルが死に方を
知らない、というのは比喩でも冗談でもなく、歴然とした事実そのものだ。
……人間が事の真偽を判定できるのは機知の事実と比較できる現象に限る。故に、セシ
ルの事実は前提から俺達のそれと違っている。
信じること。
正しいと信じること――ある時代のある正しさを自分の正しさで覆うこと。
誰しもそうして『正しさ』を定義するしかないが、セシルの『信仰』は、恐らくその『正しさ』に
こそ向けられているのだ。
生も死も等価な自分にとって、とセシルは語ったことがある。
自分の全ては指向性なのだ、と。
死に意味がないというのはそういうことだ――誰の死にも意味はないが、意味付けするの
は誰かでしかないのだと。
無数の信念が織り成すシステム・オブ・ビリーフ。
ささやかな信仰を口にすることでしか俺達は生きられない。
傍らに視線を落とす。
……傷は跡形もないが、正直、その破れたワンピースはいただけない。念の為に持って
きていたジャケットを投げ渡す。
「なんだこれは」
「着てろ」
「私は別に――」
「女の子が肌を晒すもんじゃない、だろ」
む、と不満げにうなると、セシルは不承不承と言った様子でジャケットに袖を通した。
男物でサイズもデカいが、この際文句は拒否させて頂くとしよう。
- 107 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2009/10/04(日) 02:43:30
- >>105
世界を壊すのは私だよ。
剣呑な台詞を堂々と言い放った道化に、フランはすこし寂しそうに言った。
「そう。もし、壊せちゃったらどんなカンジだったらお話しに来てね」
言葉遊び。
希望と絶望。
しかしこの狂気の先にはほんのわずかななにかがあった。
>>101
すうっ
そんな擬音が適当だろうか。
ブロンドの少女が自らの胸を突き破ったあたりでフランドールから表情が消えた。
「なぁに、それ?」
まるで他人の声のような音の声が出た。
人間ではないという主張か、吸血鬼に心臓を破壊してみせることで謝意を示したとでも言うつもりか?
それとも、心臓やそれが送り出す血などに価値等ないのだと挑発しているのか。
それともそのすべてか。
ぎり。無意識に歯を食いしばる。
思考を高速で担当が入れ替わっていく。
瞳の放つ色がめまぐるしく入れ替わっていき、
その一方で表情はポーカーフェイスのままぴくりとも動かない。
「うん、訂正しよう。
良い月だな、バケモノども?
謝罪はいらないよ、私は人間や妖怪と遊びたいだけだから」
無表情に声をかけた。
右手がうずく。意識が右手に行った……
……ところで通りの向こうに人影を見つける。
>>104
フランドールに表情が戻った。
瞳の奥の渾沌が逃げるが如く影を消す。
「あは、名無しだぁーーーーー!
なになになに?わざわざ来たの?
私に会いに来たくなっちゃったの?」
戻らないと騒ぎになっている。らしい。
あいつの都合なんか知ったことではないが……まぁ、いちおうお芋も堪能したことだし、
また今度改めて出ればいいじゃないかという考え方もある。
フランドールは名無しの手をとると、
振りかえって皆に手を振った。
「ピエロさん、アマダさん、それにその他お二人さんも。
お姉さまが帰って来いって言うから今日は帰るね。
機会があったらまた『遊んで』くれたらうれしいな♪
じゃねじゃね、じゃあね〜」
ぎゅっ
握った右手が空間を打ち砕く。
そしてふわりと浮かび上がると宙空に出来た穴に
名無しの手を掴んでぶらさげながら飛び込んだ。
「いいよ、帰ろうか、おいおい名無しよー今夜は寝かさないZE?」
後に残された空の穴は、静かに静かにふさがっていった。
<了>
- 108 名前:ケフカ ◆4d4rVw/dxA :2009/10/04(日) 02:59:55
- >>107
行った。気まぐれな少女は、紛れもない殺意を一瞬ひらめかせ、
そして帰っていった。
「なるほどね。」
詠唱の準備を終えていた、ある魔法を発動させるのは止めた。
楽しいひと時を名もないただの人間に邪魔されるのは不愉快だったが、
彼女自身が許容するならばそれも仕方あるまい。
「一度、遊んでみたいものですねぇ?」
フランドール・スカーレットが割って戻っていった虚空に向けてそう呟く。
また会ってみたい。
そう思わせるモノと最後に出会ったのは、どれほど昔のことだろう。
ふと、そんなことを考えている自分に気付き、嫌気が差した。
この場は、身体に悪い。あるいは、夜空に変わらず浮かび続ける月のせいか。
「さて、と。」
視線を神父と娘、そして青年へ向けて・・・・一礼する。
「今宵はなかなかに楽しい一夜でした。しかし時が流れるの早いもの。夜は更け、
ご婦人が外にお出になるのも危ない時間。そろそろ私はお暇させていただきます。
が、最後に一つ、皆様に手品をお見せして、お別れいたしましょう!」
バッ。
服が裂け、漆黒の翼が広がる。筋肉は変質し、体内が作り変えられ・・・・・・・・
月の浮かぶ夜空に「わたし」が、姿を見せる。
_
|ヽ~=-ー,_ ~=-,, ~)ヽ
ヽ`ヾ=-ー,,/ニニ=ー-,.,.____,,, ヽ~=,,..,,, ~=--"/;:i_,./i,.
`~^=-,.// /./ ソ~^ノ)=ー-,._ ~`ヽ, ヾ~=-,.>--,, |ヾ;:;;i l〜^il,,-~^=-、
`=-'-'=-',,,フ=-ー-,,,,...フ`ヽ \ ~=-,,.~=--,ヽ.i/~|6`ソ"^`ヾ~>=-,、
┌”ソ=->=---`ヽニ,.,,. \ ,,.,,,ニニニ>ソ/ヽ,' ゝヽノヾ,, ')
┌"~フ~^^"(,,,...ニニ>,,,,,,..ソノ >";; ヽ, 彡 i| ヽ,,,,.ゝ レ'
,,./,,-~~`フ",,-~,,,,,..;:i(,,,,...,,,,,>ソ /ヾ,/~ヽノ' ~=,.. {`-="
,,./-=~=-,,);;,,..-=",,,,-~>;;;''''/'フ/ ー──--,,,,,,,,~^j=ゝ=、
/,,,..ニ/ //''/"i~././il~l~|ヾ,/|i[二ニニ==--- \i ijノヽ
,,,./,,,-~,,,.ミ|i |i | | | | |Ui,,i./ | .| |/|`>ー--,,,_,,,,-=-、 \ソ),,,,|
,,-~ ,,-~;:''__,,-~ヾ--|i | ゝ,,ソ\/'' ̄ヾ,,i,|ソソ;;;:|i, -=(ニ ヾ ヽ>-, ヽ、
,,-~ ,,-=~^,,,-~,,,..-~フ~",,,>ヾ,,,,,丿;;;;;;::ヾ ,//,,,)ソ;;;;;;ヾ; -=(,,,,,=-iJjj/;::;;ヽ, |
/,,-=~,,,-=~,,,-~,,,,,..-"_,,-=";;::::;;;;;;;;;;:::::;;\//,,,.)ソ;;;;;;;;;;;\,._-=(,,,,,.-="-=;;^-">-、
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/ /,,-~,,-=-~==~^ / /~^|i∧ il ∧ヽ彡i< ┌┐|i;::::::::`;:=--~ニ;;;;::::::,,-=~~;;::::イ~=- |,
| i|// / /ミ//i;/`i| |ミi| i彡ヾ|iソ \ヾ;;::::/:;;::,,,-~^;;::==~;;;;::,,-~;;:)/iヽ,,ヽ'ヽ ,,,,-=、
il |/ ./ /ミ//ミ| |彡i |,ミ.| |√~^ >il>;|;::,,-~;;;;::-~;;;:::::::,,-=~|i::|:i" ヽ ヾヽ//三
ヽゝ / /ミ//ミ| |彡|/ ̄ ̄ 丿::;;;;;~il;;:;;;,=--" ~^^|i;::|;:|i;/ゝ \、 /つ'ヾ
/ /ミ//,,-=" |;;::;;;;;;;;;;;ヾ;:;;;ji;ソ、~ヽ, | ヽ:i/,~ヽ
il | / ,,,i;;;;;;-=~;:::::フ;|i,,, \ / |iノ^\ `i
レ" /;:::::::..-~;:::::,-~`'''-~`i;;:|i ソ ヾ ~) .i|
./;;;;;:,,-~:::::::,/ ミ/="フノ> ~) il |
~=,;::;;;=--=~/ ミ/ /:i~^ ,,,-~_j,,,J
t;:::::,,-~;:::/ ,,-~ /;;;::::|,-~_=-~
il;::::::::;;:/ ,,-~ ,,./;;;.-^::/ ̄
ノ;:::::;;/ , ,-~ ;:,/;;;,^;::,=^
|;;:::/ ,, =~::,,-~;::,-~:=~
__フ ",,-~;;::-/~"
(,,-~ /;;;;::::::ノ
/ /,, /ー---"
ι mnO/
`=--~
『では、諸君!!良い夜を!!!!』
あの金髪の娘がまた物騒なものを出す前に、退散するとしよう。
今日は、気分が良い。
<退場>
- 109 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/04(日) 03:07:05
- >>102
揺れてはならない。例え宇宙空間にいても足を地から離してはならない。
自身の心を揺さぶられれば、その次には俺は閃光の塵になってしまうだろう。
戦場の危ない橋を渡ってきた俺にはその理屈が良く染みていた。
とっさの判断は踏みしめずに行えばその場で頭を打って死んでしまう。
「ん、ああ、いいさ。この場で全部飲んじまうには多すぎ…」
ふわりと俺の徳利が宙に浮く。
やはり、予感はしていたが彼もまたそうなのだろう。俺の生きる世界の人間ではない。
幻想となった力をいとも簡単に行使できる人間なのだ。
「…安酒じゃああるんだがな。美味いと思えたのなら何よりだ」
こちらに帰ってきた杯を受け取り、もう一度杯を杯で満たした。
「これが全て酒の見せる幻想であれば俺も安らかな精神を保てるって言うのに…ったく。今日は無事で帰れるか…」
そう言いながらもう一杯を胃に流し込んだ。
>>104-106
ぞわりと、背中が粟立った。
冷たい目と俺とは正反対の言動―――それは『不義』であり『非常識』であり『背徳』である。
ここにいるものの中で、ずば抜けた狂いようを前面に押し出す。
普通の人間では推し量れない狂気は間違いなく俺の恐怖心を刺激してくる。
しかし、だ。
「この世界には答えが満ち溢れている。当然だ。君の答えだって間違いはない。
世界にとっての幸福がフランを不幸にする事もあるだろうさ、だけどな」
彼女がさっきと打って変わって明るい雰囲気で俺の頭をなでてくる。
やはり、というか、当然外見に似合わず俺よりも高齢なんだろう。
でも俺は撫でてくるのに構わず立ち上がる。目線を同じくして。
しかしメイド長か。雰囲気からして只者じゃないと思ったがやっぱり偉かったのか。
ペットというほど酷い扱いを受けてない事には安堵するが、やはり言わなければならない事はある。
揺るぎはない。俺は揺るがない。揺るいで大切なものを失わない。心にそう決めている。
「いいか、フラン。他人を幸福にする幸福だけは間違ってはいないはずだ。少なくとも俺は、そう信じている」
しっかりと彼女の目を見て答えた。俺の中の正義と道徳を。
>>106
そう、彼女は聖歌隊。神父様はその保護者。
ちょっと夜をつれまわすには幼すぎる年齢ではあると思うけど、問題はないんだろう。
これで全てに筋を通した。この出会いもまた先程の異常体験を除けばまた日常として回る。
「あったんじゃねは余計だと思いましたが、そういうことにしておきましょうか、うん」
同じくうなずき納得。日常の歯車の一つに組み込み、また回りだした。
とりあえず芋も食ったし、持参した団子でも一つ食って…。
ううむ、三つも腹に入れるのは流石にきつそうだな、よし。
「神父様、団子二つあまっているんだけど貰ってくれるかい?」
そう、差し出した。三色団子を。その後の行動は決まっていたし。
>>107
「…いいさ、また遊ぼう。俺は構わない」
俺よりも高く浮かび上がり空間を壊し、そして名無しと共に空に消える。
これほどスリリングな月見があっただろうか。酷い名月の日だった。
月を睨み付けてみるが、そ知らぬ顔して淡い光を俺にさしたままだ。
「…疲れたしそろそろ帰るとするか。これ以上命を台風にさらすのもあれだ」
嫁さんのところに帰るまでに持たない。
子供の顔を見ずに余計な事して死ぬ夫というのもまた間抜けな話だ。
洒落にならない。
「それじゃ、道化師さん、神父さん、えーと…」
女の子の名前がわからない。かといって適当な呼び名も思いつかずに帰るというのもまた決まりが悪い。
少しだけ神父様の横の娘に近づいて笑顔で手を振りさよならを告げた。
「じゃあな」
これでやり残したことはない。俺は持ち物を片付けて帰路についたのであった。
【退場】
- 110 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/04(日) 03:10:38
- >>107
「いいのか、放っておいて」
「……あー、それ。それな。俺が言うべきなのかと思ってた……なんか珍しいな、お前。気分
で潰す相手とか選ばないだろ。逃がして良かった?」
「別に」
無表情に声を返す。
タイムラグ抜きで空間を引っぺがせるコイツなので、素直に状況を見送ったのは少し驚き
でもある――が、それも少しは予想できてしまった辺り、大概に付き合いが長い。
「聞いてもいいか」
「どうぞ」
「お前にとって――私とあちらは、どこがどう違う」
……何を言い出すかと思えば。俯いて呟いたセシルの頭に手を乗せる。文句を言われる
前にがしゃがしゃと髪を掻き回した。
「お前は解りやすいけど、他の奴は多分解り辛い――なんでって、付き合いが長いからだ、
お前は」
「それは……」
「いいんじゃねえの、詭弁でも。なんならアレだ、今度また今の子と話してみたらどうだよ。
案外と気ぃ合うかもしれないし」
「……どんな冗談だ、それは」
割と本気で言いました。
不機嫌そうに睨む視線を受け流して、やれやれと肩をすくめる。
>>108
「いいのかね、放っておいて」
「……私が言うべきだったか? お前が気分で潰す相手を選ぶのは知っているから、生憎と
私は驚かない」
まあ。
その通りなのだが、その場合はサポート役のコイツが相手を潰している。何が言いたいかと
言えば、お互いに今日は調子がポンコツなのだ。
いつか見た彫像めいた姿。
ギリシャの神像をパロディしたような体躯と化した道化師が消えるのを眺めながらコーヒー
を啜る。その道化師から貰った芋はと言えばすっかり冷めていて、まあ冷蔵庫に突っ込んで
置くことに個人的な異存はない。
ハナっから道化ていた男のプレゼントは、最初から最後までジョークの塊だったというだけ
の話だ。
そういう訳で。
「……帰ろっか。なんだ、正直ダルくなっちまったし」
返答は呆れた目線なので、ポンポンと頭を叩いてやって反論は黙殺する。どうあれ帰りは
小言オンリーなのだ。
出費はコンビニのあれこれ680円と、セシルのワンピース――多分コイツが適当に選んだ
ブランド物、絶対に安くないので数万円から十万円くらい。
「んじゃ、俺達はこれで――またな、軍人さん」
軽く手を振ってその場を後にする。
なんというか。
疲れだけで眠れそうだった。
(退場)
- 111 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/08(木) 23:46:46
- 台風一過とはよく言ったものだ。
雨雲を掻っ攫っていった台風は瞬く間に過ぎ去り、所々に少しばかり傷跡を残しながら
後には少しばかりの雲とはっきりと月が見える夜空を残してくれた。
「…この木もよく耐えたよなあ。まだ死ぬときじゃないってか?」
下には多くの濡れた枯葉があったが、紅葉も負けずと雨の滴を垂らしながら多くの葉を残していた。
暴力的な風が吹き荒れようと、枝に必死に掴まり今まで耐え切っていたのだ。
ニュースを聞けばやはり農作物は大きな被害を受けていたらしいがこれもまた自然現象の一つであり
人間には抗うすべのないもの。出来る限りの対策をした後にはどうか被害を少なくしてくれますようにと
神に祈る他無くなってしまう。下手に動き回れば自分が風が運んできた不幸に流され、不本意にも
最後を迎えてしまうことだってある。
「折角だから見に来たけど、あまり意味がなかったようだな…」
苦笑しながらも、せっかくだしゆっくりしていこうとベンチに足を運ぶ。
今年はもう紅葉が見れないのではと危惧したが、そうでもないらしい。
雨が無くなって結構時間が経っていたせいか、ベンチはすっかり乾いていたので腰を下ろし、
ゆったりと冷たい風の中、暖かい缶コーヒーをすする事にした。
- 112 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/09(金) 00:33:06
- 天候とは実に気分屋で、折角の美景すらちょっとした気紛れでぶち壊しにするモノらしい。
先日の台風が吹き荒れた後故か、先日見た路上の紅葉アートはほぼ吹き飛び
代わりに枯葉のアートが創り上げられていた。
ただ、残る紅葉はまだまだしぶとく枝葉から雨雫を零しながら垂れ下っている。
幹もまた、暴風吹き荒れる間まるで屈した様子を見せなかったらしく
雄々しく地に根を下ろしている。幹も幹なら枝葉も枝葉らしい。
「しかし、折角芸術的な光景だったってのにな…」
しかしその反動か少し前の雲間は多くが吹き消され、
ただ澄んだ夜空と月が静かながら眩しく映えていた…
背中に大型のギターケース※を背負いフラフラと
闊歩しながら取り敢えずどう憩おうか思案してみる。
何しろ今日もここに足を運んだのはただの気分に過ぎないからだ。
※ ギターケースの中身は背中に背負う事もある剣。
- 113 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/09(金) 00:51:15
- >>112
野性のギタリストを発見した。コマンド?どうするもこうするもないだろう。
白い髪に赤いジャケット。こりゃあどんなバンドを組んでいるかなんて一目でわかる。
ジョン・デンバーの『故郷に帰りたい』とかを奏でるタイプじゃないだろう。音楽音痴である俺の偏見じゃああるんだが。
「や、こんばんは。一人隠れて練習か?」
缶コーヒーを啜りながら喋りかける。まあ、あんなに派手な格好されたら普通
話しかけるのなんて戸惑うんだけど、不思議と俺は臆さなかった。
いきなり殴りかかるようなやつではないだろう。そう直感で感じたからだ。
「…それともお前も心配だったか?ここの紅葉が全部落ちてないか」
こんな変わった事気にする人間なんて殆どいないだろうけどさ。
- 114 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/09(金) 01:08:48
- >>113
闊歩しつつ思案していたら軍服でベンチに腰掛けコーヒーを片手にする男に
声を掛けられる。
何だ、軍人にしちゃ随分優男風に見える。
どうやら(というかそう見てほしいんだが)、俺の事をどこかのバンドマンと見ているらしい。
掛ける声は結構気安いものだった。どちらかというと気安いぐらいが丁度いいが。
「練習?フッ、俺程になりゃ別に必要ないさ。
その気になった時に軽く触れるだけで事足りる。
それと…光景なんて別に気にしたわけじゃない。
まあ、折角の路上のアートが崩れて残念じゃあるが。
アンタも、その辺が気になるクチか?」
やる事が思いつかないので取り敢えずこれで話のネタを繋いでみるとする。
- 115 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/09(金) 01:37:00
- >>114
随分と自信満々。なるほど、これほどまでにみなぎるエネルギーが
ギターに魂を吹き込み、まるで魔術のように聞き入る人々を熱狂の渦の中に叩き落すのだろう。
一度魔法にかかってしまえばそれで最後。弦をかき鳴らすその手が止まるまでただ言葉にならない
狂ったような声をあげ続けるのみ。
悪くはないな、そういうの。
「…そうか。俺はおたまじゃくしもろくに読めないんでそういうの、羨ましいよ。
なんか楽器できるってのは楽しそうだもんなあ」
そういやサンダースもピアノ上手かったっけ。バーでよく弾いていたな。
見た目に反して結構繊細な趣味(と思えるもの)をしている。
練習すれば出来るといっていたが今までまともに楽器に触った事のない俺には全く持って現実味の無い
言葉だった。
「ん、光景が気になったのは確かだ。何度かここに来たんで気に入ってさ。
紅葉ってのは季節物だし、散ったらちょっと残念かなって」
コロニーの中だったら滅多に意識なんてしなかった、季節の移り変わりをこうしてまじまじと見つめる事が出来るのは
単に美しいという感想を自然に人に抱かせる為だろう。この高台も人に紅葉を楽しませるという事を目的として作られた
謂わば人工の場だというのに、同じく人口の場であるコロニーよりも美しく感じられる。
その理由は………何だろう、な。
- 116 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/09(金) 02:04:55
- >>115
音楽のオ―英語ならmusicのm―の字も知らない、と云った風な事を軍人と思しい男が零す。
どうやら話題は俺の見た目に沿って動いているらしい。
と云う訳で巧く俺の普段の「ライブ」と世に云われる「ライブ」との共通項のみを
抜き出しつつ、話を繋いでいくとしよう。
まあ別に素性がバレたって少々おかしな奴扱いされるだけだが。
「楽しむ気でやりゃ身体なんてそれこそ勝手に動く様になる。そういうもんさ。
ハマり過ぎると時によって狂っちまいそうになるのがアレだが、
それも含めて…ってヤツだよ」
そう、それはこのギターケースの中に本来「入っているべきモノ」然り
「実際に入ってるモノ」然りだ。
そして話を、崩れてしまった路上のアートに映してみる。
「成程な。解らない話じゃないぜ。
この木とか紅葉とかが常々毎日見れる様なものだったら…俺だって恐らくは今来てないだろうよ」
気分に過ぎないとは思ってみたが、曲がりなりにもその気にさせたのは
このヤケに心を撫でるような地に散らばった枯葉、それにこの澄んだ夜空と月。
そんな気がしないでも無い。
まして普段通り自宅で昼寝などしていたり、「仕事」に励んでいたりしてたらまず出会わなかったろう。
- 117 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/09(金) 02:24:32
- >>116
「ロックだとかメタルだとか…そういうのはさ、狂って何ぼなんじゃないか?
もともと音楽ってのはリズムとメロディーを刻んで人間が大地だったり農作物だったり
はたまた神だったりに祈る行為だったそうだ。神との交信のためにトランス状態になる。何も間違ってはいないんだろ」
楽しむつもりで。そんなものなんだろうか。
しかし洗練された音楽というのはなかなか敷居の高いものだ。
ピアノだってある程度の技量と基本を知らなければまともに弾くことすら叶わない。
長年自分の人生に刻み付けてきた経験が楽しめる音楽を引き出す。
素人が適当に弾いてもそれは音楽と呼べるものではなかった。
「毎日が紅く染まった木なんてそれはちょっと…なあ。緩やかな死は一時の煌きだからこそ冴える。
常に老成した木々なんてもんがあったら高齢化社会が自然界に到来したかとか思って気が滅入ってしまうさ」
笑って答える。
そう、これは少しの間だけ見れるから素晴らしい。
残るは50回前後しかこの季節を見れないだろうけどそれもまたいい。名残惜しさが魅力を引き立てるんだから。
- 118 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/09(金) 02:50:12
- >>117
音楽と云うものはそもそもが祈りなどの「極原始的な所」から始まったモノ…
要するにそう言った話だと聞かされる。
成程、確かに。
その原始性はこの「中身」とて同じ様なものだろう。
まあ因みに、歴史学等そういったものは学のない俺には縁の無い話だが。
「ま、確かに間違ってないさ。
狂う程でも無きゃ身体が勝手に…なんてなる訳もないからな。
後は積み重なる経験が動きを研ぎ澄ましていくが、その経験ってのも
そもそもはその楽しむ心構えから生まれたもの、俺はそう思うぜ」
そう、これも…だ。
幼い頃から親に叩き込まれた「技」。
それもまた、ただ「コレ」を振るう事を楽しむ事から始まったと言える。
その心構えが今の俺を創り上げた、そう言って差し支えないだろう。
「ひとときの…か。
確かに、爺さん婆さんだらけの社会ほど見てるこっちまで力の抜ける光景もねェからな。
それに、当たり前の事こそ見落としがち…ってヤツか?
どうも人ってのは一つの物事が当たり前になると、その時気付くべき事にさえ
気付きにくいモノらしい…からな」
更に、笑いながらの答えに俺も静かに瞑目しつつの微笑で返す。
これは恐らく、俺の「仕事」にも連なるような気がしないでも無い。
例えば、日常俺の周りでちょいとうるさい連中…とかな。
- 119 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/09(金) 03:15:05
- >>118
原始の時代から音楽は随分と発展してきた。
不思議な事にどんな地域だろうと音楽の無い文明は無いそうだ。
宗教的儀礼の音楽はやがて大衆娯楽へと移り変わり、音を蓄える科学とも結びつき
今は0と1の世界にも結びついた。西洋と東洋が織り交ざり新しい世界も切り開いていった。
音楽は進化を止めない。新しい技術は何にだって音楽の進化を促す可能性を秘めている。
「俺は聴いているだけで十分満足さ。俗っぽい意見だろうけどさ」
音楽と縁のある生活も悪くは無いけど、そんな生まれを持つ人間なんて少数派だ。
チャンスが無い以上俺は聴き手にずっとまわろうと思っている。聴き手が居なければまた音楽の発展も無い。
「当たり前ってのもなかなか味気ないもんだよ。ずっと続くという安心感は人が無意識の内に望んでいるもんだ。
所謂保守性ってやつかな?望まない変革。そういったもんは往々にして失ったときに初めて大切さに気づく。
ああ、こんなにも必要だったもんなんだなって。普段はつまらないと思っているのに無くしたら惜しむなんてまた我儘な話だ」
家族しかり平和しかり。大きな変革は思った以上に堪える物だ。
例え当然だったんだって言っても自分のものが二度と返らなければ埋めがたい大きな穴に苦しむのは当たり前。
失った状態を当然にするって言うのもまた長い時間がかかる。俺もまた、家族を失った事を理解するのに…。
いや、やめよう。もう過ぎた事だ。失ったものを嘆いてももう仕方が無い。そんな当たり前のことを認知するのに随分と
長い時間がかかったものだ。
ふと時計を見るともうこんな時間だ。そろそろ帰るべきか。
ベンチから立ち上がると空になった缶コーヒーをゴミ箱の中に投げ入れた。
「んじゃあさ、もう遅いからそろそろ俺はこれで帰るよ。…風も冷たいし」
台風が去って一気に気温が下がったのだろうか。
微かに残った夏も雨雲と共に太平洋へと掻っ攫われたのかもしれない。
後は色鮮やかな季節から緩やかに真っ白へと移り変わるのを待つのみだった。
俺は自転車のストッパーを外し、坂まで押していった。
今日は下るときの風が一段と冷たいだろうなあ、と思いながら。
【退場】
- 120 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/09(金) 04:01:28
- >>119
聴いてる側に回る事で演る側を鑑みる感覚を研ぎ澄ます…それもまたアリだ。
というより、そういう人間もいなければより良い音楽と云うのは世に出ない。
まあ尤も…俺の場合「R指定」な上に観客が人間でないのだが。
いや、「観客が人間じゃないからR指定」と云うが正しいか。
変わりたい時は勝手に変わっていく。
そのままでいたい時は勝手にそのまま。
詰まる所、人や世界というのはそうやって動いてきたのではないだろうか。
軍人風の兄さんからそれとなく哀愁じみた空気が滲み出る。
どうやら今の言葉と併せて鑑みるに、この兄さんも恐らく過去に
そうした想いに駆られたらしい。
今まで気づかなかったくせに無くした途端惜しむのは我儘…
だが別にそれでも構わないんじゃないか、俺はそう思う。
気付けなかったものをどうして守りようがあろうか。
俺だって、まさかいつも周りでうるさいだけと思ってたマセガキに
助けられるなんてのは想いもよらなかった訳だし。
それに、たとえ一度無くして痛い思いしてもそこで
「全て諦めなければならない」なんて理屈はない。
次は何としても失わないように努めればいい、突き詰めるとそうなる。
「守ろうという強い心構え」一つあれば守り方と云うのも勝手に解ってくる。
俺は今までそうやって歩んできた。
そう、「勝手に解ってくる」―「勝手にそうなる」―…
―――ああ、そういうことかもな。
俺の「仕事」と「音楽」とこの「光景」…
一見何の脈絡もないように見えるこの要素を今の会話通して繋いだのは、
恐らくコレだったのかもしれない。
彼も嘆く様にこうしたセリフを零してはいるが、恐らくは既に解っているんだろう。
だからこそ尚更そういうセリフが出てくるのではないか。
この言葉は「自戒」―二度と失わない強い想いの顕れ―…俺にはそう取れる。
「じゃあな、縁があったらまた会おうぜ」
ともあれ、この兄さんは俺の素性にはベンチを立ち
今自転車で立ち去るその時まで気付かなかったらしい。
別にどっちでもいい。
大事なのは…「俺がこの兄さんと出会い会話した」って事だ。
「袖振り合うも他生の縁」と云うヤツだろう。
「そういやあの兄さん、名前聞いてなかったな…まあいいか」
まあ次に会ったら出来るだけ聞いておきたいが。
後はこの少し残念な事になった秋の光景を背に往き、昼下がりまで事務所で寝てるだけ。
―――さて、この時期の空気はヤケに冷たい。
だが「連中」はこんな冷たさにも負けず暴れ回ってる事だろう。
全く元気の有り余ってる奴等だ。
まあ今の内に精々持て余しているがいいさ、その元気をな。
【退場】
- 121 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/10(土) 00:15:25
随分枝が良く見えるようになったな。
それが最初の感想。
嵐が吹き抜けて葉の大半をもっていかれてしまったのだろう。
紅葉に彩られた木々はすっかり寂しい風景に移り変わりつつあり、
その姿は冬の訪れを予感させるに十分だった。
いまだ幻想郷に冬の妖怪は姿を見せてはいないが、
外の世界は一足先に冬が訪れているのだろうか……
半分の月が静かに見下ろす高台に十六夜咲夜が降り立った。
相変わらず着地に際しざくりと派手な音をたてて侵入者の報を叫ぶ落ち葉に苦笑する。
うちの門番隊より仕事熱心かもしれない。
もっとも、ただ吼えるだけでは犬と変わらないのだが。
掃除してやりたい欲求を抑えて私は例の樹を探す。
1度目は偶然。
2度目は必然。
3度目があるならきっと運命だろう。
そんな下らない遊びが無性に楽しかった。
ことに今の私には。
- 122 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/10(土) 00:26:43
「…………」
樹はあった。
無残な姿で。
嵐に引き裂かれ、なぎ倒されたのだろう。
その樹は幹の半ばから斜めに割れ、その先を大地に横たえていた。
2度背を預けた親近感がかすかな悲鳴を上げる。
大きな樹だからずっとそこに在るものだと思っていた。
それこそ、100年やそこらでこの舞台から退場する自分のような人間なぞより
ずっとずっと長い時間をここで在り続けるものだと思っていた。
勝手に……思い込んでいた。
こんなものか。
いや、こんなものなのかもしれない。
どんなに安定して見えても壊れるのは一瞬。
きっとこの世界のすべてのものはそうなのだろう。
いつ何時、この樹と同じ運命をたどるのか、それは誰にも分からない事。
いや、お嬢様であれば分かるのだろうか?
あのノーライフキングの少女はこの十六夜咲夜の退場の運命すらも
その眼差しの先に乗せているのだろうか?
……自分が運命を見通せぬただの人間であることに少し……そう少し、感謝した。
- 123 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/10(土) 00:45:13
とぼとぼと……という表現が正しいのだろうか。
とにかく足取り重く、私は高台の通りまで戻った。
なんとなく所在がなくて、見つけたベンチに腰掛けて月を見上げる。
半分になってしまった月が、半分になってしまった樹を連想させ、
やや不愉快な気分になる。
思えば最初にあの樹にもたれた時は昔の自分を思い起こしていた。
その樹が斃れたのならば仕方ないではないか。
過去の自分に触れたものは須らくこの世から消えていった。
あの樹も例外ではなかった。それだけだ。
妙な思い出を呼び起こすからこうなる。
今の私は十六夜咲夜。
それを揺らがすからいけないのだ。
しかし、夜霧の幻影殺人鬼も樹を殺すハメになるとはさすがに思わなかったろう。
「まさに自然の敵。人間らしくて面白いわね」
くつくつと喉の奥で小さく笑いながら口元に手をやる。
ああ、そろそろマフラーでも箪笥から引っ張り出しておこうか。
いつかの異変解決の時のように、急に使う事がないとも限らない。
- 124 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/10(土) 00:52:59
- 何故だかここ最近はずっとこの高台を登っているような気がする。
坂で二輪車を押す事がもはや日課となりつつあるのだろうか。
巨人の胸の中で揺られながら、ただ味気ないデータを映し出すモニターをずっと見つめる作業が終わると無性に
上りきったときに目の前に広がる木々の紅みと静かに佇む月が見たくなるのだ。
…ちょっとナイーブになる季節なのかもしれない。俺らしくも無い。
細かい事は気にしない性質だって言うのに。美しく、かつ寂しい光景を見て心を落ち着けたくなる。
このどうしようもなくそわそわとして、辛さすら感じる動悸を納めたい。
こんな有り触れた光景が心の処方箋となりえるのか。なんだか年寄りじみている。
地面が水平になると枯葉が急に多くなった。
乾いた、パイでも踏み潰すような音が足と車輪の下から鳴る。
目の前に広がっている景色は相変わらずのようではあった。多少、寂しくなったようだけど。
でもこれでいい。自然の葉が散り行く時の美しさが人の心を落ち着かせる。
熱い缶コーヒーを開けずに懐炉としながら少し散策をしてみると、特徴的な格好をした知り合いがいた。
ベンチに座っているんだが、少しばかり落ち込んでいるように見える。
周りに誰もいなかったせいか取り繕う様子も全く無かった。
「………なんか無くし物でもしたのか?」
彼女に近づきながらなんとなく、そう静かに聞いてみた。
- 125 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/10(土) 01:03:32
- 遠くから響く音、かすかな気配。
いつものように反射的に時を止め、
いつものように無意識に停止空間で周囲を確認する。
ああ。
止まった時間を動かし、声をかけてきた知り合いに微笑みかけた。
「こんばんは、アマダ様」
無くし物。
そうか、無くし物なのかもしれない。
この感覚は喪失感に近いなにかだ。
冷静に分析すれば全然大したこともないのだが……どうも運命に期待しすぎていたようだ。
だからショックを受けているのだろうか、私は。
そう言えば山の神社でお嬢様のきまぐれにつきあって引いた御神籤には
「失せ物出ない」などと書いてあったか。
そんなくだらないことを考えながら、軍人に言葉を返す。
「そうですねぇ……ちょっとした知人を訪ねたら、既に居なくなっていた事を知った。
そのような感じですわね」
無意識に少しベンチの端に寄って座りなおした。
- 126 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/10(土) 01:03:38
- 「ライヴ」を一つ終えて再びこの寂しくも心擽る高台へ。
相変わらず身体を撫でる空気が冷たい。
その冷たさこそ寂しさの象徴と言えるだろう。
昨日と同じ様に澄んだ夜空の月は半分しか顔を見せない。
いい加減全部晒すのが照れ臭くなってきたか?
毎度のごとくギターケース※を背に。
昨日の夜明け前のような出会いもあるのでここに足を運ぶのは実に止めかねる。
他愛もない話から急にそれなりに重い話になる変化もたまらないものだ。
「Going on and on I have the future in my hands―――♪」
いつもレコードが擦り切れるほど聴いていた「あの歌」が急に口からメロディを伴い漏れる。
俺の気分が少しばかり口の栓を緩めてるらしい。
というかいつも緩いように思えるがそれもまた良し。
さて、少し眼をスライドさせてみれば…幹を裂かれ無残な姿晒す大樹。
過日の暴風の前に敢え無く屈したか。
どれだけ重なった年季も一陣の風の前には無力らしい。
更にスライドさせれば、ベンチに呆然と空を見上げたるメイドさん一人。
おやまぁ、メイドさんがこんな夜更けにこんな場所で何してんだろうな。
御主人様に勘当でもされたか?
>>124
視界に入りこむは昨日会話してた軍人の兄さん。
バイシクル両手に坂を上ってくる。
アンタもこの場所に御執心ってクチかい?
「よう、また会ったな」
※ (中身は>>112参照)
- 127 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/10(土) 01:14:27
- >>116
歌が聞こえた。
そこで始めて気配を認識する。
……いや!
そこまで気配を認識できなかった!?
第六感が警報を放った。
硝煙の香り、血の香り、死の香り、そして悪魔の香り。
いずれもわずかなものだ、ゼロに限りなく近い程度のごく僅かな香り。
硝煙の匂い自体は先に現れた軍人の方がよほど強い。
だが、だからこそ危険を感じるのだ。
「それ」を隠そうとするからこそ、僅かな香りになるのだ。
だからこそ、十六夜咲夜の……いやどちらかと言うとその過去が警告を告げたのだ。
少し視線が険しくなる。
……が、現れた楽器のケースのようなものを担いだ男は警戒の色も無く
シロー・アマダに気さくに声をかける。
……アマダ様の知り合い。
なら、いきなり攻撃してくる可能性は低いか。
脳は緊張を解いてはいないが、とりあえずいつでも立ち上がれるように
足と腰に入っていた力は抜いてベンチに重心を戻した。
「……こんばんは」
表面だけでも笑みを浮かべて挨拶をする。
こんな時、うちの門番の自然に出る軽口とのほほん笑顔が少しねたましい。
- 128 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/10(土) 01:18:44
- >>125
やっぱり、かな。用心深いなあ。
そんな振り向くまでの動作を飛ばさなくても良いじゃないか。
「ああ、こんばんは。咲夜」
こちらも向けてくれた笑みに対して笑みで返す。
以前メイド長とかって仕事についているらしい事を聞いた。
物言いもやはり丁寧だ。瀟洒なんて言葉は彼女の為にあるんじゃないかって思えるくらい。
「………そうか。確か『袖振り合うも多生の縁』って言葉もあるんだしあんまり気にしない事を勧めるよ。
仕事柄、突然居なくなる人間が多くてな。あ、今は全然マシだけどな」
っと、あんまり寂しい話をするもんじゃないな。
下手をすればいきなり目の前の人間が砲撃で月まで吹っ飛ばされるという事もよくある業界だ。
語り始めれば限が無い。ちょっと仲良くなったかと思えば病院か天国行きだ。
あまりにも酷な話。和む為の話題としては不適切だろう。
>>126
ここでまた野生のギタリストか。
縁なんてこんなもんなんだろう。ぶらついて居たら不思議と付いてくる。
「や、昨日の。背負いもんの調子はどうだい?」
やっぱりいい場所なんだろうな、この高台は。
不思議と人を惹きつけてやまない。見えない力に引っ張られるようにふらふらと訪れてしまう。
秋の色彩が見せる魔力か。
- 129 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/10(土) 01:29:34
- >>128
「ああ、いえ、違うの。ちょっと残念だっただけです。
亡くなっていたのはアレだから」
本気で心配してくれている空気をまとう軍人に逆に面食らう。
苦笑しながら後ろの木立の中の折れ倒れた樹を指差した。
樹ならその死を気にしなくていいのか?
そもそも、貴様は人間の死を気にした事があるのか?
この殺人ドールめ。
脳内に響き渡る自嘲の声をねじ伏せて、頭の片隅へ追いやる。
今、考える事ではない。
いや、考えるべきことでもない。
昔を思い起こしたせいか余計な事ばかり考える。
こんなことであの樹のような運命に目の前の軍人が直面したらどうするのだ。
忘れろ。
考えるな。
感じるな。
.r、 ) )
______ ( ( ,,.--‐゛"`ヽー--| lヽ、/[|_ ) ) _
\___\. /~__,ゝヘi、_rヘ,-、//::、ゝ/ l / /
ヽr /´i ! ̄i i ̄ハ'=rLi___,i/ / ,-  ̄
,ヘ, 〈 ハ; |イハ l.レイハ iハ⌒/ 人_ r/__
'、 '、-‐'ヽ.レ|/○`' ○`'λ ̄ヽマリサ ノノ\ \ ふははははは
>、ソフランアi.""r-‐‐v,""イ `´゛-イ r/  ̄
<-、ソ,/ノイ |lゝ,ヽ、__,ノ_ノ j ,,,.‐' ノノ____
`-r'_,.,___`、ハ ~」_/、 ',-‐< \ \
`l^レ'´iニi ヽ、__」 |-、  ̄
,^'ー、_| \,r-v⌒ヽハ, アマダは私と弾幕ごっこするうんめいなのだー
/~ヽ"゛V~‐L/゛`'⌒'\'\
なんだか一瞬、余計なものまで幻視したような気がしないでもないが
敢えて考えない事にした。
「アマダ様は夜のお散歩ですか?」
この時間、幻想郷だったらフラフラ一人で歩く人間がいればあっという間に妖怪に襲われかねない。
あまり散歩に適した時間には思えないのだが……。
少し小首をかしげながら、尋ねてみた。
- 130 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/10(土) 01:31:38
- >>127
一瞬妙に険しい表情になったかと思えばすぐに少し強張ったような笑みで
俺に挨拶掛けてくるメイドさん。
表情ついでに身体の動きも微妙に硬いが…
………?
不図、俺の首が傾げられる。
そろそろ(ただでさえ無いに等しい)俺の女運もそこを突き抜けて奈落行きか?
見ず知らずのメイドさんに一瞬とはいえ睨まれるって。
まあいいか、別に今に始まった話じゃない。
いきなり串刺しとか脳天直撃とかそれ以上でも無けりゃ、事もなくだ。
「おう、今晩は。しかしひでェなあの樹…そうそう倒れないと思ってたんだが」
無残な姿の大樹に話を振ってみる。
ネタが無いので例によって適当なファクターで話を繋いでみよう。
>>126
兄さんから帰ってくる挨拶。
「調子?いつでも変わりなく、ってヤツさ。
それにしてもアンタ、この場所気に入ってんだな?」
この兄さんは見た所日系のようだ。
こういう何処か日本をダブらせる光景にノスタルジアの様なものを抱かずにいられないんだろう。
俺も日本には一度立ち寄った事はあるが…その時はイメージとは明らかに違っていた。
風情どころの話じゃない。
- 131 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/10(土) 01:47:32
- >>130
心なしか、少し首をかしげられたようだ。
笑顔が不自然だっただろうか。
しかし、最初に恐れた同じ種類の人間という可能性は少し薄れたようだ。
その無造作な動きに、私への警戒は感じられない。
あるいは、私は少し考えすぎなのだろうか。
倫敦のように周囲が敵だらけなわけでもなく、
幻想郷のように妖怪の中に一人、人間が居るわけでもない。
いささか、警戒が過ぎたというだけなのかもしれない。
だから、覿面に引き裂かれた樹を彼が指差した事も、
警戒すべき要因などではないはずなのだ。
そう、地霊殿の主のようなケースがそうそうあっては堪らない。
たまたま、来る途中で目にしたと言うだけの事だろう。
うん。きっとそうだ。
「ええ、頑丈そうに見えて、内側は脆くなっていたのかもしれませんね」
いっそ雷のせいだ、とかなら話は別なのだが。
神社の裏の樹に雷が落ちた話は有名、あれはなかなかに無残な破壊の跡であった。
だが、これは風と雨によるもの。
どれほどの力がかかったと言うのだろうか。
- 132 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/10(土) 01:57:51
- >>129
指差されたほうを見ればそこには一つの倒木があった。
結構年をとった木のように見えるけど。
「…ああ、なるほど」
そうだ、記憶を遡って行くと思い当たる事があった。確か、最初咲夜が立っていたのはあの場所だ
あの木を背にして、一人煙草を咥えていた。
失せ物。そういうことか。確かに少しばかりショックを受けるだろうさ。
じぶんがもたれかかっていた木が嵐で倒れてしまったら。
「…何とか元の姿に戻してやりたいんだけど流石にこいつはなあ。何だって自然の力には逆らえないんだし
咲夜が気にする事は無いよ。後でここの高台の管理人に連絡しないとな…放って置くわけにも行かないだろうし」
真ん中からぽっきりと折れてしまっている。木を再生させる程度の能力でもあれば別なんだろうが
あいにく俺にはそんな都合のいいものは持っていない。
どう頑張っても空も飛べないし魔法も使えない。ただの人間である以上は。
彼女みたいに遠い所にいる者の気配を感じる事は出来な
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::::::::::::::::::| |,,.. --------!」::;;「ノヽ、 /|
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::::::::::::::::::| | ヽ!ヽ、._ _,,..イイ ハ/::/|'ヽ
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:::::::::::::::::と_ ヽ::ムゝ-=、_ン..:ノ|'ヽ\|
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::::::::::::::::::| |::::::::::::::::::::::\
ちょっと嫌な予感がしたので後ろを振り返ったが誰も居なかった。
…疲れてるのだろうか。
「仕事から解放されたらさ、不思議とここに向かいたくなるんだよ。
…秋の魅力に取り付かれたというか、さ。ストレス解消及び健康的な生活の為と」
相変わらずじじむさい理由だ。部下に馬鹿にされても仕方ないだろう。
「…不思議と人が集まるからな、ここ。見えざる手があるような気がするよ」
>>130
気に入ってるかって?そりゃそうだ。じゃなきゃ、色に溢れてはいるものの何も無いここの坂を
わざわざ上ったりなんかしないさ。
「そういうあんたも。そんな重い物しょって上るくらいなんだから気に入ってるんだろ?」
実際ギターの重みなんて知らないんだがな。
しかしこんな所に上るには少々重すぎる荷物だともいう事が出来る。
昨日はあんな事を言っていたが、もしかしたら本当はここが秘密の練習場なのかもしれない。
- 133 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/10(土) 02:11:06
- >>131
取り敢えず話題はあの死に樹が選ばれることとなる。
「中は長い事ムシにでも喰われちまったんだろうかね。
ま、何れにしろあの風が大方の原因ってのには変わりねェが。
まったく、残酷なもんだな自然ってのは」
しかしてその残酷な自然の中にあってさえ不思議と生き抜くのが人間。
発展し過ぎた文明に身体が蝕まれたとかよく言われるが、
それでも結局土壇場の底力で何とかしちまう。
まだまだ侮られたものじゃないな、ヒューマン。
>>132
やはり相当のお気に入りらしい。
というか、この日系の兄さんと俺の趣味が似通いつつあるのは気のせいだろうか。
いつから俺はワビサビの精神を習い始めたのか。まあそれはいいとして。
「そりゃな。
重いのどうの言ってても扱いたくなった時手元に無いと寂しいだろ、やっぱ?」
まあ要る時は「呼べば来る」だけだ、と言ってしまっては身も蓋もないが。
仕事をより潤滑に進める為のアクセサリーとでもしているさ。
ところで傍で聴いていた所、兄さんもあのメイドさんとは例の樹で話を繋いでいる模様。
なら俺を入れて3人全員で共有してみるとする。
「しかしよ…折角のお気に入りの場所も、少々残念な事になっちまったみてェだな。
あの樹とかよ。無残なもんだろ?」
- 134 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/10(土) 02:34:05
- >>133
改めて木々を見上げてみればポロリ、ポロリと天寿を全うして落ちる紅の葉。
これを見て郷愁を感じないものなんて居ないだろうか?
惹かれている理由の一つは帰巣本能なのかもしれない。
俺は馴染みの無い景色に懐かしみを感じている。俺に体に流れている極東の島国の血が
見たことの無い憧憬を思い起こさせているのではないかとも考えてしまう。
「楽器はミュージシャンの心臓ってか?」
無理に引き離せば死んでしまう。
心より音楽を愛するものならばそう考えたって不思議ではない。
だから心臓。手放す事もないし忘れる事も無い。常に自身の近くにある。
この木何の木ただの木だ。
折れた木は土へと還り、次の世代を育てる為の養分へと変わる。
「ああ、確かに無残な折れようだ。運が悪かったのか、寿命が近かったのか…。
出来ればこいつも、大地の一部にしてやりたいな。それがこいつにとっても本望だろうに」
俺は撤去する業者ではないのでこれがこの後にどうなるかなんて判らない。
丁重に次の命を育む為の肥料となるのか、ゴミとして酷くぞんざいに打ち捨てられるのかなど。
- 135 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/10(土) 02:35:39
- >>132
「戻す?」
どうやら私は心底驚いていたらしい。
一瞬呆然としたのを自覚して、その事にまた、驚く。
死は終わり。
死ねばそんな存在も塵になるだけ。
去ったものは戻らない。
既にそれは当たり前の事になってしまっていて、
治そうとか、蘇らせようとか、そう言った思考は
既に自分の常識の外に追いやられてしまっている。
秋の魅力に惹かれたのだろうか?
自分も。
仕事の合間は確かにそうと思えたが、うちの場合はいささか事情が異なる。
お嬢様は暇つぶしのために私に休暇を与えているのだ。
「まぁ、私の場合は他に行くあてがなかっただけのことなんですが、
それも含めてこの高台の魔力なのかもしれませんね」
内心一つため息ついて意識を切り替えた
>>133
確かに残酷なものだ。
しかし、自然は時に残酷なものだが、残酷なだけだ。
人間のような残虐さは無い。
「これも運命……というところかしら」
抗っても無駄。
風と雨の塊が先日訪れたその時に、命運は決まっていたのだろう。
「ある意味、これも風情かもしれませんね。
すくなくとも『侘び』とやらはあるように思えます。
一般ウケはしそうにありませんが」
はかなく消えるも美しき。
げに世はかくも整然と残酷なものか。
- 136 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/10(土) 02:51:40
ふと顔を上げると遠くの空を舞う蝙蝠。
……今日は覗かないなどと言ってはいたが、やはり。
「お話の途中ですが……どうも主人が暇を持て余しているようですので、そろそろあがりますわ」
お嬢様にも困ったものだと内心いささかの呆れを抱き、立ち上がる。
さすがに先日のように見せ物になった挙からかわれるなど、御免だ。
それに何度も耐えられるほどに頑丈な心臓はしていない。
「お二方も、どうか健やかに。
また、機会があればいずこかでお目にかかりましょう」
スカートの両側をつまみ、優雅に一礼する。
軍人に、音楽家に、そして因果の彼方へ去った名も知れぬ古木に。
次の瞬間、十六夜咲夜は高台からその存在を完全に消失せしめた。
場所はともかくとしても、二人にも、古木にも、
またきっと何処かで会えるだろうから、咲夜は振り向かず、
時を止めて紅魔館への道のりを急いだ。
<了>
- 137 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/10(土) 02:58:21
- >>135
こう、驚かれるとは予想だにしなかった。
元に戻す。時間の逆行と言う禁忌。叶うはずの無い願い。あんまりな驚かれようだったので
思わすこっちも吹き出してしまった。
「子供っぽい理屈、かな。壊れたりしたものは誰でも直したいって思う。
それが玩具だろうと、大事にしていた皿だろうと、人間同士の関係だろうと。
…でも生命にはそれが叶わない。この木が長い時を掛けて元に戻ったとしてもそれは今折れたこの木じゃない。
別の生命なんだ。…それでも戻したい」
人は二度と返ってこないことを知ろうとも復元された物を見てみたいと思う。
大切な物を失った事で自分の心に穿かれた穴を塞ぐ為に偽物でもいい。別物でもいい。
風がそこを素通りしてギスギス心が痛むくらいなら代わりの板を探したほうがマシだ。
「寂び、ね。これも高台が見せてくれた自然の有りの侭の姿か。確かに一般受けするような趣味じゃないな。
でも時には高台も粋な事をしてくれる。
俺だってこうやって遇にしか会わない人との会話を楽しむ事が出来るんだから」
俺は今更ながら缶コーヒーの蓋を開けてぐいっと液体で口の中を満たし、焦げた豆の香りを味わった。
流石に保温性は高いな。まだ暖かい。
- 138 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/10(土) 03:04:00
- >>134
「ま、差し詰めそんなトコさな。
まあ世の中には手振りだけでギターリフ演るバカもいるが」
約1名思い出した。
最近会ったあの生意気な坊やに他なるまい。
そいつともなるとメロディが身体から飛び出るって境地なのだろう。
まあそういった境地は別に音楽に限った話じゃない。
そう、この『中身』など。
何れにしろ、その境地を確実に体現する為の道具なのは間違いない。
「ま、どんな廻りくどい道をたどるにしろ廻り回って何かに還元されるんだろうけどな。
ただ、早い処然るべき使い方をして欲しいとは思ってるだろうさ…コイツも」
命とは循環するモノらしい。
だが、変な所に廻ってくるのだけは死んだ者も望みはしまい。
その変な所に廻らせるのを止める一環を担うのが俺の仕事、とも言える。
>>135
「運命、ね…」
溜息交じりの一言。
確かにこの木にしろ人間にしろ、何時何処でどうやって死ぬか解ったものじゃない。
だがそれを一言でそんな簡単に片づけられると実際はウザイものだ。
だから抗う…まあそれが命の答え、とでも言うべきものだろう。
この木とてただでは折れず自分なりに精一杯踏ん張ったのだろう。
だが結果として折れた…しかし逆に「折れたのは結果に過ぎない」とも言える。
その意味は各々深く考えられたい。
「ワビサビ、ってヤツか。
確か消えゆく儚さを味わうって趣向か?」
そう言えばこのメイドさん、髪こそ銀色だが面立ちはどこか日本人じみている。
なるほど、そういう趣向に浸るのも納得だ。
空に舞いたる蝙蝠を見やるや否やメイドさん、どうにも些か浮かなげな顔で上がりを告げる。
あの蝙蝠がどうかしたのだろうか?「御主人」…まさかアレの事じゃないよな。
ともあれ今日は一先ずここでお別れだ。
「ああ、またな」
優雅に別れの挨拶を告げた瞬間、姿を消すメイドさん。
…なるほど、取り敢えずただの人間じゃないってわけか。
別に驚きは無い。あの手のマジックは割と見慣れてる。
最初睨まれた理由は流石に不明だが。
となれば今度はいきなりパッと現れるんだろうな…そう考えると少し楽しみでもある。
- 139 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/10(土) 03:13:38
- >>136
げっ、蝙蝠。しかもでかい。
これはひょっとすれば以前の会話が筒抜けだったカラクリか。
咲夜だって呆れた表情で見据えてるんだし間違いは無いだろう。
「ん、ご主人によろしくな。…あ、やっぱりよろしくされなくていいや」
優雅な一例に対してあくまでもフランクな対応をとる。
この前のは悪乗りが過ぎていろいろと問題を起こした。普段通りで良いんだ。
カチリ
瞬きと共に目の前から消えうせる。
種が有るのか無いのかも判らない一瞬にして消失するマジックショー。
見回してももうメイドも蝙蝠も居ない。男二人が高台に残されただけだった。
>>138
「しかしそいつの行方を見届ける義務も術も俺達には持ち合わせてはいない。
せめて望み通りにいきますようにって祈るくらいだ」
俺は倒木に、主よどうかこの木の望むままの運命を辿らせ給え、とだけ心の中で祈った。
そう、俺ができる事はこれだけ。変なところに循環するかどうかなんてわからない。
俺はただの軍人なのだから。
「…さーて、俺も帰るか」
落ち着いちゃあいるが、例えうるさく質問を浴びせかけられても俺は答えようも無い。
目の前に起こった事が真実。それだけの事だと無理にでも納得して胃の腑に落とすしかない。
足早にストッパーを蹴り上げて昨日と同じく坂を下る事にした。
「…あ、そうだ。俺はシロー・アマダって名前なんだ。縁が有ったらまた会えるかもな」
質問には一つだけ答えておこう。
もし後ろから名前が聞こえたら心に留めて置こう。
自転車は独りでに車輪を回し、徐々にスピードを上げようとしていた。
【退場】
- 140 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/10(土) 03:26:45
- >>139
「ま、確かにな。
その代わり要らん扱いしたヤツが相応の報いを受けると考えれば…少しは楽だろう?」
そう、その報いを与える仕事が主なのだ。
血も涙もない男だと世間で思われても、為されるべき業は俺が為す。
それが俺の選んだ道だからな。
シロー・アマダ…それがこの軍人らしい兄さんの名らしい。
やはり名前も日系だったか。
「そうか。俺はダンテだ。また会おうぜ、シロー」
自転車で駈け去っていくシローを見送り、再びこの冷たい木枯らしの風が支配する高台を後に。
これで2度目。これからただの気紛れ以外で足を運ぶことが多くなりそうだ。
ただ一つ、あのメイドさんの名前は聞きそびれたのが心残りだがな。
【退場】
- 141 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 00:16:03
- きゅ。
ベンチに腰掛けてナイフを布でぬぐう。
既に任務は完了。
かかるのは情報収集の時間のみ。追跡は10秒もかからない。
当然だ。時間を止めて追うのだから。
出す方も手に入れる方も追い詰めた。
泣くまで脅して手打ちにする。
ヤってしまってもいいのだが、見せしめにしてその恐怖を語る人間が居た方が今後の予防には良いだろう。
こんな面倒なことを考えるようになるなんて、甘くなったものだ。
こんなことを考える余裕をもてるようになったとも言えるが。
手に入れたほうが追跡中にブツを失くしたというのが気がかりだが……
あの場所でなければソレが何かを理解することは難しいはず、
万が一にも件の人物の手に渡ることはないと見ていいだろう。
……そんなわけで私、十六夜咲夜は館に帰る前に寄り道をしているのであった。
お嬢様は既にお休みになっている。
であれば、今夜は覗かれる心配はないだろう。
- 142 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 00:24:14
- いつもは時間をとめて手入れをするのだが、
今日はなんとなく風を感じていたかった。
既に肌寒くなりつつあるが、かつての霧の都市の晩秋を思えば、
これは快適と言って過言でもあるまい。
ぬぐったナイフを街燈の明かりにかざす。
こまかいキズが増えてきた。
妖精やザコ妖怪を追い払うだけならまだしも、
鬼やら天人やら美鈴やら、固い連中を相手にしていれば無理も無い。
その上、上空での戦闘での投擲は落下のダメージが以外に洒落にならない。
落ちた場所が悪くて完全破損してしまうことも少なくは無かった。
「そろそろ里の鍛冶屋さんに相談にいくべきかしらね」
呟いてかざしたナイフをしまい、
また、別のナイフを取り出して手入れを始める。
- 143 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 00:35:28
- 何本目かなど意識していないが……
かざしたナイフの派手な刃こぼれに気付き、一瞬身がこわばる。
「これは……直しに出さないと駄目だわ」
投擲であれば軌道は刺突に等しく、すなわち多少の刃こぼれであれは問題ないのだが、
多少どころでない刃こぼれとなるとさすがにそうはいかない。
投擲の軌道に影響が出る。
軌道計算と空間制御を組み合わせて敵を追い詰めるのにあたって、これは不味い。
破損と判断し布を巻いて鞄の方へ入れた。
石にでも直撃させてしまったか。
銀製のナイフのためお世辞にも衝撃に強いとは言えない。
館の小悪魔に簡単な強化の呪をかけてもらってはいるが、
元々の強度に引きずられる形で限界があるのだ。
ぼんやりと、こんな光景を見たら人は逃げるでしょうねと内心呟く。
「まぁ、人の気配がないから始めたんだけど……」
誰か現れたら切り上げてしまえばいい。
なに、大丈夫、1秒もかからない。
文字通りの意味で。
それに何度か訪れて分かったが……
「ここに現れる人間に普通人は居ない」
だから平気と結論付けた。
- 144 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 00:41:26
- >>142
ベンチに座っている人間を後ろから覗く。
あからさまに酷い趣向だと自嘲したいが、わざとでないなら仕方ない。
例によって例のように歩いて辿り付いた丘の上。草を掻き分けるように歩いていたら、見覚えのある
アッシュブロンドが視界の先にあった、というだけの話だ。別に首を掻き切ろうとして近付いたワケでも
なければ、工作員の取引よろしく秘密めかした意味合いもない。
秋風に揺れる髪が、月代を受けて銀の漣を立てる。現実感が剥離した――こう言っていいなら、幻
想的な光景だ。
プラハの人形館に飾られていた西洋人形(ビスク)がこんなだったかな、と、これも剥離した思考が
適当な雑感を垂れ流す――いかん、気分がトんでる。
「……鍛冶屋に頼むより、新しいのを買った方がいいんじゃないですかね」
ばつが悪くなり過ぎて漏れ出た声。
我ながら情けない響きに、頬を掻きつつ、どうも、と会釈する。
……まあ。
黙っているのに疲れた、というのもあるのだが。
- 145 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 00:52:47
- 最後のナイフの手入れに入る。
拭ってかざすが、キズひとつ存在せず。
全く曇りないその刃はいつ見てもほれぼれする。
さすがは噂に名高い超合金Z製のナイフだ。
先日、ふとした事で知り合った少年の務めている雑貨店で手に入れたものであるが、
これは本当に掘り出し物だったと思う。
密の極みの状態の伊吹の鬼の防御をぶち抜けるナイフなど存在しないと思っていた。
幻想郷の某店の店主なら喉から手を出すほど欲しがることだろう。
銀製でない故に一部魔族にダメージを与えられないが、
投擲せず、格闘戦の要として最近の自分の戦術を支えてくれている。
模擬戦をしたときに本気でやって折れないナイフを見て美鈴が涙目になっていたっけ。
知れず思い出し笑いがこぼれる。
まぁ、今にして思えばあの涙目は悔しかったのではなく、
全力でいったのに折れなかったがために、折ろうとした手刀が痛かったのかもしれない。
>>144
『……鍛冶屋に頼むより、新しいのを買った方がいいんじゃないですかね』
ぎくり
ひどい音が私の内側から出た。
まるで漫画のような。
ぎぎぎと音でもしそうな風情で振り向くと木立の中にいつぞやの神父様が立っていた。
「あう」
思考が凍る。
頭に血が上る。
き、気付かなかったのか!?
気配に!私が!
それほど私は手入れに夢中になっていたのか!?
いやまーZのナイフのあたりでちょっとうっとりしていたのは否定できない事実だが
そんなことはどうでもいい。
というかさっき手に渡ったらどうとか言ってたまさにその当人じゃないですかって
ちょっと読点とかどうなっているのよ私落ち着け落ち着いて頂戴!
とりあえず。
落ち着きを取り戻すまで時間を止めて体感3分ほどかかった。
……ようやく落ち着きを取り戻した私は停止した時間の中で慌ててナイフをみんなしまいこむと
ベンチに座りなおしてぎこちない微笑をうかべて停止を解除する。
「こ、こんばんは神父様。奇遇ですわね」
だめだ。
まだ落ち着きを取り戻せていなかったかもしれない。
- 146 名前:ディーン・スターク ◆DEAN/sbyaY :2009/10/12(月) 01:12:03
- 奥行き深い夜空と優しく照る月の下、一人の少年が左右を物珍しそうに見渡しながら
枯葉の路を踏み締め来る。
彼の名はディーン・スターク。
またの名を荒野の惑星ファルガイアの先導者ジョニー・アップルシード。
若くしてファルガイア人民を導く立場にある彼は余命後数年とない母星を
一刻も早く再生させなければならない。
だが、流石に仕事尽くめではいつかパンクしてしまう事もある。
それでは元も子もない。
なので、幼馴染にして助手である一人の少女はそんな彼に気を遣い
こういう場所で一息ついてくるよう進言した。
その代わり面白いと思ったら感想を聞かせてほしいという条件付きで。
面白ければ自分も来てみる、とのことだ。
そんな彼女の薦めに従い彼は今この高台に訪れている。
枯葉が地を彩り、荒涼たる風景だ。
どこか果ての荒野たる母星を想わせる。
冷たくも優しい風が常に身を撫で、どこかエスニックなコートと踝に届きそうなマフラーを靡かせる。
闊歩していると、
「ていうかレベッカも一緒に来ればいいのにさー。
一緒に仕事してるんなら息詰まりそうなのは一緒だろって」
などと残念な口を零してみる。
>>141-145
「そういえばリンゴの季節だっけ。ここならゴウノンのヤツとはまた違うの採れそうかも」
と、今頃になって閃いた案を発していると視界内に移るのは神父とメイド。
バツ悪そうに零す神父とメイドとはどうやら見知った仲らしい。
ヴィジュアルはコレ
ttp://images4.wikia.nocookie.net/wildarms/images/thumb/a/ab/Dean_Stark.jpg/250px-Dean_Stark.jpg
- 147 名前:ディーン・スターク ◆DEAN/sbyaY :2009/10/12(月) 01:16:33
- >>146(追記)
「鍛冶屋がどうかしたんですか?」
メイドが手に何も持っていないと見えるにも拘らず、神父が何か見たかのように思えたからと
思わず割り込んでみる。
彼は基本的に余り空気が読める方ではない。
こうした発言をしては聡明な幼馴染によく突っ込まれる。
- 148 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 01:20:51
- 夜空に月の朧なる……
メイドと神父とガンナーの運命がが高台で刹那交差する。
ようやく落ち着いた。
何も恐れる必要も焦る必要もない。
あれは行方不明だ。それなら何も問題ないではないか。
>>146
気配を感じて目をやると、歩いてくるのはマントに身を包んだ少年。
さっきまで全く人の気配のしなかった高台だが、どうやら類は友を呼んだらしい。
とすれば類は私なのだろうが……
これもお嬢様の近くに在る私への運命の影響だろうか。
どうやら退屈はしなくて済みそうだ。
落ち着きを取り戻した私の心はそんな事を思う余裕も出てきたようだ。
「こんばんは、貴方も月と風に誘われましたか?」
声をかけて微笑む。
>>147
少年の言葉に先ほど神父様が言っていたことを思い出す。
買った方がいいのではないか。だったか。
ふと考え……まぁ、他愛も無い話としては問題も感じず、
私は脚のベルトにつけてあるナイフを右手で一本取り出し、刃先を持って神父様の方に掲げた。
「銀で出来ているナイフの手配を鍛冶屋に頼むかお店に頼むか。
そんな話ですわ。
ただ、私の身の回りで売っているお店がありませんの」
苦笑しつつ、ナイフを手の上でくるくると回す。
一本が二本、二本が三本。
能力は使っていない。
正真正銘、タネも仕掛けもある手品。
それもさほど上手でもない。
注意してみれば左手が腰の後ろから鞄に伸びているのに気付けるくらいの。
- 149 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 01:21:43
- >>145
「こんばんは。……まあ、奇遇っちゃ奇遇なんでしょうけど」
言いつつ言葉を濁す。
いや、だって、ほら、なんだ。
ここまで露骨に凍り付いた表情を向けられる憶えはないのだが。
……気付けばキレイさっぱりと消失したナイフの群には差し当たりツッコミを入れず、メイドさんが座る
位置の隣、空席の背凭れ部分に両手を落ち着かせる。
「あー……」
話題に困るのはいつものことだ。
どうしたもんか、と言葉を探って、少しだけ琴線に触れた言葉を引っ張り出す。
「最後のナイフ、面白いブレードでしたね」
悪戯心に口にする。
というかまあ、メイドとナイフ、という項目を繋ぐ接点がサッパリ過ぎたので、個人的にはその共通点
の方が気になるところではある――えらく使い込まれたナイフはどう見ても銀製で、とどのつまりは中
世の貴族が大好きな、実用ではなく装飾一点張りのそれだった。
折れない刃物も錆びない刃物もない――そりゃまあ、石器は錆びないだろうが――ことを考えれば、
趣味で銀製のナイフを集めるというのはアリだろうが、それにしては刃物の酷使が過ぎている。ステー
キを切って刃毀れするナイフ? なるほど、そんな例もあるにはあるだろう。マッコウクジラかマストド
ンかマンモスか、その辺りの肉を捌いたのなら。
銀のナイフの用途。
そう問われたなら、まず返す言葉はこうだろう。「飾っておくんですよ」と。
そうでない例は、と俺が問われたなら、とりあえずはこう返す。
「しっかし、あれだな。銀のナイフって、吸血鬼の首とか殺ぎ落とすのに向いてるらしいですよ」
吸血鬼殺しの専門家だった教授はそうは説かなかった。
とはいえ、今やそれも常識ではある――メディアが敷衍した『銀の常識』は、流転に流転を繰り返し
てそんな場所に辿り付いた。
とはいえ、吸血鬼だ。
どんな話題だよ、と思わないでもないが、口にした後で妙にしっくりきている自分に気付く。
現実味の欠けたこのメイドさんの雰囲気が、どこかそんな空気に通じていたのかもしれないが。
- 150 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 01:31:49
- >>147
「……いや、鍛冶屋なんてのは少ないなって話」
肩越しに振り返る。
……この程度の珍妙な格好に驚いていては、ピエロが焼き芋をしていた時の違和感は
拭い切れない。
そもそも知人には世紀末の地球に生まれるべきだった筋肉ダルマな神父だのエプロン
ドレスの上から浴衣を羽織るようなネジの外れ気味なセンスの持ち主もわんさかと溜って
いるのだ。それを見慣れた俺にこの程度は何をか況やである。
が――まあ、なんだ。
こんな時間にこんな場所で話し掛けてくる相手がこれだけいて、揃いも揃って妙なのば
かりというのもどうなんだろう、とは思わないでもないが。
「ま……そりゃ俺もか」
- 151 名前:ディーン・スターク ◆DEAN/sbyaY :2009/10/12(月) 01:34:02
- >>148
メイドの女性の微笑込みの挨拶を受け、返す。
「こんばんはー。
うーん、そういうことはよく解らないんですけど…」
メイドの女性の詩的表現に対し、頭を悩ませぎみの模様。
これがあのポエムノートを懐に収める幼馴染なら話がすんなり通りそうだが。
「幼馴染の仕事仲間にあんまり仕事尽くめはパンクしかねないから一息休んで来いって
勧められたんです。
まあちょっと今リンゴでも採っちゃおうかなーって思った所なんですけどね。
それにしても、大変なんですね。
ナイフを売ってる店も周りに無いなんて…」
空気は読めてるとは言い難いものの、流石に初対面に対しては丁寧語を使えるほどではある。
脚に仕込んだナイフを神父の方へ掲げるのを見ても何も疑問に感じない。
「わぁッ!すっげぇーッ!
なになに、今のどんな手品なんですかッ!?」
メイド女性の手元で増殖するナイフ。
ただただそのマジックに目を見開き驚く。
- 152 名前:ディーン・スターク ◆DEAN/sbyaY :2009/10/12(月) 01:41:38
- >>150
「ああ、確かにですね。場合によっては要らなかったりもしますけど…」
ファルガイアではARMマイスターというのも確かに居るには居る。
ただ、一流の渡り鳥ともなれば調整や修理は自前でこなせてしまうのだ。
その意味では鍛冶屋の少ないというのはある意味彼にはうなずけるだろう。
「『俺も』…?」
神父の独り言に思わず突っ込んでしまう。
しかもその突っ込み方が―――
「えっと、もしかして神父さんも実は鍛冶屋掛け持ちしてたりするんですか?」
相手の言葉をそのまま額面どおり受け取ってしまう悪い癖。
彼の幼馴染の指摘事項その2。
- 153 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 01:44:49
- >>149
やっぱりあそこから見られていたのか。
神父が最後のナイフと口に出したのを聞いて陰鬱な気分になる。
ナイフをみつめて恍惚とした視線を一瞬でも瞳にのせた過去を心底悔やむ限りだ。
あんな恥ずかしい姿を偶然見られるのなんて美鈴以外でははじめてに近いのではないだろうか。
いや、まぁ、あの門番は気配が読めないくせに
よくノックを忘れて部屋に入ってくるのでもうどうしようもないのだが。
「最近手に入れまして。
なんでも超合金Zとかいう素材らしいのですが、無茶をさせても壊れないので助かります」
正直に自白する。
ちょうごうきんぜっとという響きがどこかコミックじみていて口に出すのが少々恥ずかしい。
誰がこんな名前を付けたのかは知らないが、もう少し学術めいた響きになるよう考えて欲しいものだ。
だが、つづいて神父が挙げた例に少し心の温度が下がった。
吸血鬼。
ああ、そうか。
そういえば最初に会った時、警戒したものだ。
彼は神父であり、また身のこなし、気配を見るにただものでなく、
どことなく昔の自分と同じ香りをもっていると。
必要なら笑って子供の首を躊躇無くかき切るような、そんな無機質な香りを。
やはりそうなのか。
可能性が低いと結論付けはしたが、彼が宗教の敵を滅ぼす立場の人間ではないか?
そういう疑惑は小さく十六夜咲夜の中に潜んでいた。
とは言え、不意打ちのようなあの時と今は違う。
情報の整理は私なりに終えている。
「おはずかしながら妖怪退治みたいな事を副業にしておりまして」
だから私の顔に浮かんだ表情はただの苦笑だった。
主の事等話さねば分かりようもない。
今は主は就寝しており、眷属の監視もないからなおさらだ。
彼にとって私はナイフを云々するすこしおかしなメイドでしかないだろう。
……あれ?
問題ないのに腹立たしいのは何故?
「でも、ナイフで首を落とすのは面倒ですわね、
銀製かどうか、相手が吸血鬼かどうかにかかわらず」
首は意外と固い。
胴と頭を切り離さなければ退治できないようなバケモノでなければ
そんな面倒はしたくないものだ。急所に撃ち込んでおしまい。
なにせ後で刃こぼれしたナイフの手入れも大変だし。
>>151
「いえ、普通のナイフは売っているわ。銀のナイフが売っていなくてね」
手品に興奮してくれる少年は素直に好ましい。
妹様に最初に見せたときは喜んでもらえたが、ダメだ。
魔法とか使える連中相手ではどうしても「だから何?」感が拭えない。
はっきり言って妹様とかは耳に模型をあてて「おっきくなっちゃった」とか言った方がウケる。
だから手品を見せる相手も少なく、こういった反応は最近では新鮮だった。
疲れている気分転換になるというのなら、お安い御用である。
……しかし、リンゴの木などあっただろうか。
いい気分になって手品の種を説明してしまい、後でしまったと後悔しつつ、
周囲の木を見回す。
柿はなかった。
栗もなかった。
りんごは……どうだっただろうか?
木立に視線がむかって分析しようと脳ががんばるが……暗くてよくわからない。
- 154 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 01:51:58
- >>152
「……は?」
何が、と言い掛けて口篭る。
鍛冶屋。司祭と鍛冶屋。なんだそれ。
文化の慣習が違えばそんな例も――ねえよ。職業としては成立しないことはないだろうが、
そんなニッチな例は聞いたことがない。
どう返答すればいいのか盛大に迷うが、異文化の住人に返せる言葉というのは驚くほど少
ない、というのは、マチュピチュの住人が証明していた筈だ。
が――。
「まあ、ナイフくらいなら作れるかな」
石とか鉄で、と付け加える。
……というのは別に冗談でもなんでもなく、適当な石を叩き割って、破片を研いでから木片
に巻き付ければ立派な殺傷用具にはなる、という意味だ。
廃材の鉄を木片で熾した火で熱して即席のナイフを設えても同じことで、ナイフというのは
上古、尤も原始的な武器であり、祭礼の傍らに、生贄の傍に、あらゆる死に供えられていた
武器の総称でもある。
「でも、鍛冶屋ってのは解んないな。……ってか、そうか。神父に見えるんだ、俺」
なるほど。
服装の描写をしておかなければ、俺イコール司祭。これ重要。うん、憶えとこう。
この時間にカソックはちょっとありえなかったな、と、今更ながらに反省した。
- 155 名前:ディーン・スターク ◆DEAN/sbyaY :2009/10/12(月) 01:56:13
- >>153
「ああ、銀のナイフですか…そういえば割とレアですよねアレ」
どうも彼の中ではアルミのナイフも銀のナイフも似たようなものに思えたらしい。
今になって違いに気づかされる。
彼女の高揚ながらの手品の種明かしにただひたすら得心するとともに益々驚愕と興奮を
禁じ得ない模様。
「オレの幼馴染、曲撃ちっての得意でそれがまたスゴイんですけど…
メイドさんの今の手品はそれとはまた違ったスゴさがありましたよッ!
…アレ?何か失くしちゃったんですか?
さっきのナイフ…じゃないですよね?」
急に辺りを見渡すメイド女性に対し問いかけてみる。
探している対象がまさか自分で口走った事だとは素知らぬ模様。
- 156 名前:ディーン・スターク ◆DEAN/sbyaY :2009/10/12(月) 02:09:01
- >>154
「…アレ?オレ、何かマズいこと言いました?」
マズいと言うよりズレているだけである。
何処をどうやれば彼の神父が鍛冶屋掛け持ちなどという発想に至るのか。
極常識的な目で見れば神父の反応は至極当然と言わざるを得ない。
「うーん、その恰好見たらやっぱりそう見えてしまうんですよね。
でも刃物の一つでも自前で作れるって色々ラクじゃないですか?
特に、荒野の世界とか生き抜く事になれば尚更って言うか…」
図らずも彼の真剣な一面がやや顔を見せ始めた。
それというのも、彼の故郷たる世界は街を一歩出れば凶悪な魔獣が跳梁跋扈する荒野の星。
どんなに日常呆けた顔でいても嫌でもそういう面を持つ事になる。
- 157 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 02:10:18
- >>154
ナイフくらいは作れる。
その発言にちょっと驚く。
彼は教会関係者であろうとは思っていたが、いいとこ裏の暗殺者かなにかだろうと思っていた。
失礼ながら説教をして信頼を集める優しい教会の主には見えない。
表向きの肩書きはともかくとして。
となると武具への法儀礼なども取り扱うことがあるのだろうか。
すこし興味がある。
幻想郷には教会は無いが、山の神社の巫女は神の祝福を受けた武器を飛ばすことがある。
あの鉄の輪の威力(ことに魔族に対しての)はすこし羨ましく思っていた。
悪魔の狗が神の武具を扱うのは罰当たりな話ではあろうが、
手に入るものなら手に入れてみたい。
「法儀礼済み投擲用銀短剣、装備用の帯も含め揃っております」
「パーフェクトだ執事!」
いつかお嬢様が見せびらかしていた漫画の一コマの風景が脳内で改変される。
いい。
これはちょっといい。
だが口に出さない程度の自制心は
「神父様のつくったナイフですか。
うーん……ちょっと欲しくなっちゃいますね」
なかった。
>>155
「曲撃ち?あら、すごいですね。
みんなでサーカスでも開けそうな風情だわ」
すごいと言ったのはウソではない。
銃の扱いの上手い知り合いはあまり居なかった。
当時の私にとって銃は追っ手が乱射するものであって、
技量を競うような道具としての銃は見世物の中だけの存在であったから。
私?
私も当時持っていたが……別に上手ではなかった。
ナイフのほうがずっと信頼性が高いと断言する程度の腕前だ。
その上、幻想郷に来たときに壊してそれっきり。
はっきり言って今はさわったことのない素人も同然。と言っていい。
だから感嘆は素直に出た。
『…アレ?何か失くしちゃったんですか?』
一瞬焦りが内心を走ったがすぐに吹き消す。
視線を彷徨わせていたから言われただけだろう。
「ああ、りんごの木がみえるかなってね」
生憎夜目は効かないのだ。
こう見えてもただの人間なのだから。
- 158 名前:ディーン・スターク ◆DEAN/sbyaY :2009/10/12(月) 02:26:39
- >>157
「そうなんですよ。
実際そいつ、子供の頃からサーカススターに憧れてて曲撃ちの練習ずっとやってたんです。
でも今じゃサーカスって見世物自体がそこら中から無くなっちゃって…
その上、今オレと一緒に大事な仕事の最中だから再興しようってもそれどころじゃなくて。
まあ、休みの日に近所の子供たちに見せたりしてますけどね」
幼馴染は助手として彼と共にファルガイア再生に励んでいる最中。
本業でやるには流石に厳しいだろう。
だが、子供たちの笑顔を絶やす事もまたならぬ事。
そういう意味では彼女は上手く両立していると言える。
ところでこのメイド女性、林檎の木を探しているとの事らしい。
「あぁー、そういえば暗くてよく見えないや…」
どうやら思案しておいてそもそも見える見えないさえ考えていなかったらしい。
行き当たりバッタリもいい所である。
少なからず呆れられることもある。よくそれで先導者が務まるなと。
- 159 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 02:33:29
- >>153
「そりゃまた……なんつーか」
ロボットの材料になりそうですね、と苦笑する。
どちらにしろ、そんな材質は加工する方が大変だろう。刃物は使い捨て、と割り切っているこちらとしては、
そんなモノは正直使い辛いだけではあるのだが。
「けど、まあ――妖怪退治か。や、なるほどなるほど。拝み屋さん、って雰囲気じゃありませんから――うん、
しっくりきました」
実際の話。
その言葉には、違和感なく頷けた。
以前の遭遇で、所作諸々からの把握ではある。
気配を消すだのナイフを微細に点検するだのがメイドの標準技能だとしたら、ハッキリ言って世のメイド諸
氏は職種替え必死だ。
しかし、と思案する。
首をヘシ折る。そう言ってしまえば単純で、案外と勘違いされる話ではあるのだが、ボンド氏が首を捻るや
り方で頚椎を折るのは難しい。モーメントを応用して体重を掛けて『首を外す』というのが個人的なニュアンス
に近いところだ。
それはナイフでも同じで、首の骨に真正面から叩き付ければ刃毀れは必死だ。
以前――と言っても壮絶にガキの頃だが――キャンプの虐殺を演出する為に兵士と村人の首をナイフで
切り落としたことがあったが、五人片付けるのにショボいステンレス鋼のナイフを三本使い潰して、いい加減
イヤになって途中からは素手で引き千切っていった憶えがある。NPOが「猛獣に襲われたような惨劇」と大
々的に広告してくれたので結果オーライではあったが、あまりいい思い出ではない。
まあ、それよりなにより。
腰の後ろを探る。ベルトで逆向きに固定していたケースからシースナイフを引き抜き、ブレードを握って背
凭れ越しに差し出す。いきなり刃部を差し向けられても驚くようなヒトではないだろうが、差し当たりの礼儀で
はある。
「すげえガキの頃……っても、十年ちょいくらい前から使ってたヤツです。ま、見た目はボロいけど、これで
も愛用のアレですよ。首なら何度か落としたけど、正直、なんかこれ、俺から離れなくなっちゃって」
呪いですかね、なんて付け加える。
ブラックパウダーでコーティングされた、日本刀を模したナイフ。某ファクトリー社が独自の製鉄を使って
造ったナイフで、審問局の単分子な気狂い武装でもなければ悪魔殺しの神造兵器でもないのだが、とにか
く矢鱈と頑丈で、靭性に無闇に富んだ一本でもある。
一時期、SEALS用に出荷されたデッドストックが流れてきた時、SMITH――英国の審問局外局――の連
中から「一本いっとく?」とばかりに差し出されたのだ。「わーカッコいー」とガキだった俺が受け取ったかは
定かではないが(その可能性はあるのだ。あの頃の俺ならば)、なんとはなしに使い続けたこの一本は、ナ
イフで首を刈り取るよりも素手で顔面をブチ抜いた方が余程に早くなってしまった今も手放せなくなってし
まったアレでもある。装備した瞬間に剥がれなくなるってアイテムは呪われてるのが相場らしいが、だとした
らこれは明らかに呪いだろう。
……事実、呪詛じみた執着で俺はこれを持ち歩いている。
「離れなくなるんですよ、この手のモノって。――うん、手放せなくなるっていうより、離しちゃいけないって気
になるんです。愛用の道具だからとかじゃなくて、単に――なんだろ、記憶の再生装置、っていうか。あー、
……いや。すいません。なんでもないです」
何言おうとしたのか解らなくなりました、と苦笑する俺は、当然ながら解っていた。
――多分。
俺は、それを罪とか呼ぶのだろう。
殺害の記憶。殺戮の記録。手ずから束ねた死者の記憶――もちろん、撃ち殺した相手の記憶は俺の中に
宿っている。爆殺し、殴殺し、圧殺した相手の記憶も。
だから、これは例外なのかもしれない。直接他者の死を記憶した、物理的な記憶――安らかな死に包まれ
ていった、俺の中に眠る死者との会話。
月明かりを吸収する黒い刀身は、それでも月代に煽られて微細な傷を表面に走らせている。編み込まれた
瑕が描くパターン。引っ掛かれたような疵が記憶する死者の声。
久しく抜いていなかったそれに思わず魅入りかけて、マズい、と首を振った。
……ああ。
なるほど。
さっきのメイドさん、多分今の俺みたいなカオだったのかもしれない。
- 160 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 02:48:17
- >>156
「ラクかな。……刃物なんて、100均で買った方が手っ取り早いと思うけど。テキサスでも二束三文で
買えるだろ、こんなの」
というか。
「この時代に荒野で生きようと思ったら、社会病質者扱いされないかを気にする方が優先事項だろ。
社会が生存を保障するなら、こんな技能はハッキリとアレなサイコパス扱いだ。「ナイフ作れます」な
んて言ってみろよ――ドン引きされるのがオチだぜ、ここらじゃ」
そも、荒野で生きること自体が難しいと言ってもいい――生きることの難易度が高いのではなく、こ
の時代にあって、「刃物で生きる荒野」がそもそも存在しないと言った方がいい。アメリカのド田舎でも、
数キロ単位で街と警察機構が網を張り巡らせる現在、「刃物集めが趣味の誰某がいる」なんてのは間
違いなく監視の対象だ。
荒野は簒奪され、そこに満ちていた危険は根こそぎヒトが都市へと持ち去った。
早い話――今や荒野とは人に溢れる街そのものに他ならない。この現代、文字通りに何もない地平
で生きようと思うのなら、完全にヒトの気配が失せた秘境にでも篭るしか道はない。
或いは、人に見放された場所が荒野だと言うのなら。
ソマリアや南アフリカ――今も誰かが死に続ける地平こそが、その荒野だとは言えるだろう。世界の
監視から一度見放さされれば、この世界はどこでも一瞬で死の様相を表出させる。
当然のようにそこにある死。
幾層にもそれを覆った「安全」という薄膜を引っぺがせば、荒野は普遍的に存在する。
さしあたり、この荒野にあって「刃物を造る」なんて技能があることを暴露するのは、ケモノの前で裸
になるようなモノだ、ということなのだが。
- 161 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 02:57:24
- >>158
眩しいな。
そう、思った。
憧れたものに近づくために修練を積む。
それはひどく真っ当な事で、そして、ひどく自分からかけ離れたことのように思った。
自分の持つ技術はすべて必要から生じたもの。
必然の結果として身についた技術。
しかも必要になった理由もけっして褒められたものではありえない。
小さい頃、自分はなにかに憧れていたのだろうか?
既に思い出せない事にひどく落胆する。
……物心つくころ、既に世界は灰色だった。
「いつか、ゆっくりサーカスでみんなの笑顔を見れるようになるといいですね」
多忙らしい彼とその彼女を思い、素直にそう思った。
彼の仕事が何なのかは想像もつかないが、それが無事に終わることを願っても構わないだろう。
リンゴを採りに来たと言いつつも探すことを忘れていたらしい
彼の朴訥とした所に自然と笑みがうかんだ。
「りんごはありませんけど、もしよろしければ持って行きますか?」
傍らの鞄から取り出したのはクッキー。
持ち歩くのは最早定番になってしまったが、
先日みっつしか持って居なかったのでその後少し作り置いてみた。
と言っても昨日の話だが。
部屋に置いていたのは気付くと妹様と門番のコンビの襲撃を受けて壊滅の被害を出していたが、
鞄にいれたものまで手をつける者もいない。
>>159
しっくりきたという神父の得心に
内心でだけ「妖怪だけじゃないんですけどね」と付け加える。
まぁ、どうでもいい話だ。
そう、ちょっとした。ちょっとした料理に使うというだけのこと。
と、神父様は腰の後ろからナイフを取り出した。
10年ものですよ。
その言葉に相応しく、ナイフには無数の細かい傷が刻まれている。
傷の数からするととっくに駄目になっていてもおかしくないのだが、
指先で触れた感触と表面加工からして、知らない技術で作られていることが感じられる。
外の世界の技術が進んだ話は河童や道具屋の店主からよく聞くが、
ナイフに及んでいたとはあまり考えなかった。
深く考えてみればそれも当然なのだが、発達するのは銃ばかりと勝手に思い込んでいたかもしれない。
今度流れ着いたのがないか探してみるとしよう。
「それにしても」
と、私は苦笑した。
首を切り落とす話で盛り上がる若い男女。
ひどい風景だ。少年が可哀想になる。
「治安に悪い話題ですわね。人のことは言えませんが」
隠すつもりとかないのだろうか。
妖怪退治の話ですよ、はははで済むかどうか微妙なラインだ。
既にある程度のあたりをつけている、と私を見透かしているからなのか。
お互い、カマをかけるほど相手がぬるいと思っていないだろうに。
「離れなくなる呪いですか。
よくは分かりませんが……放すこと、忘れることが怖い。
そんな気持ちなら、分からないでもありませんね」
手の上で弄んでいたZの短剣をしまいながらすこし遠い目で月を見上げた。
- 162 名前:ディーン・スターク ◆DEAN/sbyaY :2009/10/12(月) 03:20:15
- >>160
「うーん。
確かに言われてみれば危ない響きがしないでも無いですよね…」
確かに此方でも社会に於けるヒトの生存は保障されている。
尤も少し前までは上級貴族が下の者を労働力として扱い、またそれを最低限保全する為
自分で守らせる意味で持たせていた、要するに保障などあってないも同然だった訳だが。
「ただ、一歩出れば危険な怪物だらけの世界となるとまたちょっと
勝手が違ってくると言いますか…
そういう時、自前で作れたりしたらそれに越した事もないって思いません?
そもそも、そんな世界ってちょっと信じられない話と思いますでしょうけど」
実際何度も危ない目に遭い、死にかけた事さえあった。
それに越した事もないというより、必須アイテムと言うほかない。
丸腰ではどうしても限界がある。
ところで振り返れば先刻より神父、メイド女性と首を落とすのどうのという話で
熱が上がっているが、彼は敢えて触れない事にしている。
そういう社会の闇は少なからず覗いてきた。誰しも事情があるのだろう。
触れぬが人心、と決めている。
- 163 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 03:22:56
- >>157
「俺の作ったナイフって……」
マジですか。
……いや、その反応は予想してなかった。ていうかできるか。どこの世界に司祭からナイフを欲しがる
メイドがいるのか。ああ解ってる。皆まで言うな。ここにいる。
「あー……っと、そうだな」
……ホントに欲しがってるのかジョークかはさておき、まあ、この程度のジョークに付き合うのは吝か
では――ウソ、悪ノリです。
なんせ、ホラ。
――外様の同類に合ったのは、ここんとこは久し振りなので。
ぐるりと周囲を見回して、適当なサイズの石――人の頭程度――を拾い上げる。
「あー……じゃ、少しだけ待っててください」
言って、メイドさんと西部劇から距離を取る。
ぐっ、と拳を握り――。
「よ、っと」
拳を無造作に振り下ろす。
拳が触れた瞬間、石の硬度を文脈制御で無化――パン、と花火みたいに炸裂する石片。
万物万象は無数の文脈に過ぎない――運動エネルギーもモノの硬度も密度も。ダイヤだろうが恐竜
のウロコだろうが宇宙怪獣の体表だろうが、理屈の上では同じ素材に過ぎない。
……石片を見繕い、カケラ一つ三十センチ程度の一本を拾い上げる。短刀状に砕けた石のパターン
は、見た目にも美しい稜線を描いている。
これまた適当な木を探し、適当な枝に狙いを絞って引き千切る。ベストなのは弾性に跳んだジャング
ルの木だが、生憎とここの木がなんであるかは判別が付かない。自分のナイフで太い枝に切れ込みを
入れ、薄い石刃を挟み込む。ポケットから取り出した革紐で周囲を完全に固定。
ガッチリと締まった刃を点検して、よし、と頷いた。
試しに指先に刃を沿わせると、つ、と血の泡が毀れる。
「自然に」砕いた石片の鋭さは、事実上、分子単位の鋭さで物質を切断する天然の鋭刃だ。純粋な切
れ味で言えば、日本刀と遜色ない――どころか、場合によっては上回る。単にモロいことこの上なく、切
り合いになど使えるハズもなく、加えて言うなら一度使えばそれで壊れるのは間違いない、ということで
はあるのだが。
どうぞ、と差し出して、そこで気付いた。
「ってか……アレかな。もしかして儀礼的なモノとか期待してました?」
だとしたら悪いのだが、何しろその類のあれこれは俺よりも相棒の手管なのだ。
しかしまあ、それはそれで片手落ちで気分が悪い。主に俺の。
なので。
月明かりに刃を翳して、指の血泡をブレードに這わせる。
――Atha gior leolam adonai.
一気に引く指の軌跡は、赤く文字を連ね上げた。
「……ま、カトリックと数秘術とカバラのコラージュってことで、どうかな。結構なレア物になってると思
いますよ」
多分、と、今度こそ自作凶器を差し出しつつ苦笑した。
- 164 名前:ディーン・スターク ◆DEAN/sbyaY :2009/10/12(月) 03:36:20
- >>161
「ええ。その為にも一刻も早く―――ってヤツです」
そう言えば仕事の内容には触れていない。
別に触れてもいいが、一から長々説明するのも面倒だろう。
まさかこんな少年が星の環境再生の為に多忙を極めているなどとは誰が想像し得よう。
「あ、いいんですか?
ありがとうございますッ!じゃあコレ、地元のみんなと分け合いしますねッ!」
柔らかな笑みと共にメイド女性がカバンから取り出したクッキーを
ポケットに偶々入っていた小袋に詰め、そのままポケットへ。
地元の仲間と分け合おうという訳だ。
行き当たりバッタリというのも強ち悪いものばかりではないらしい。
- 165 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 03:45:53
- >>162
「怪物ねえ」
いやまあ、なんだ。
ぶっちゃけた話、そんなのはさんざっぱら日常で殺しまくっているので、それこそどうでも良かったりは
するのだが。「殺せば明らかに世界だとか国だとかが良くなるのに殺してはいけない相手」が多過ぎる事
実の方が最悪の難敵であって、武器が作れたらどうにかなるような相手の方がどれだけかはラクではあ
る――なにせ、殺せばそれで終わるのだし。
「……ま、でもそうだな。誰でも武器を持てる状況ってのは、一つの理想ではあるよ。誰か一人が武力を
独占するってのは、近代が勝手に作った幻想でしかない――同じように誰もが武器を持てば、誰かが一
人が誰かを殺すって自体はなくなる。殺せば殺される、って前提を全員が理解するなら、だけどさ」
力とはそういうものだ。
誰かが誰かを殺すのを止めたければ、殺そうとしている誰かを殺す力を周囲の誰もが持てばいい。
全ての人間が同じように力を持つことを、かつて世界は混沌だと断罪した――結果、殺す者と殺される
者は決定的に隔てられたワケだが。
危険な怪物だらけの世界、とは或いはそんな世界の比喩なのかもしれない。
……だとしたら、この西部劇氏はどこかの宗派かどこかのカルトの先鋭、ということにもなりかねないの
だが。
- 166 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 03:51:10
- >>161
囁く言葉に、でしょうね、と短く返す。
妖怪退治の正義の味方。そう言い切ってやるには、メイドさんの文脈は少し翳りが強すぎる。
が。
まあ、それは――それだけのことだろう。少なくとも、この場においては。
「まあ、それに。うん、確かに酷い話題だ――ははは、いや、我ながら最低すぎる。でも、ま」
抜きっ放しだったブレードに視線を落とす――見飽きた筈の疵のパターン。
忘れるな、と誰かが言って、
忘れねえよ、と俺は答えた。
「お互い、何かしら自覚してるんじゃないか、とは思いますけどね」
- 167 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 03:51:37
- >>163
本当につくってしまった。目の前で。
恐るべき短時間で。
呆けていたか?
その間の私、十六夜咲夜は呆けていただろうか。
おそらく呆けていたのだろう。
その工程をずっと眺めていたことと、その間とくに発言した記憶が無いことを考えれば
それを否定することはできないだろう。
少し照れくさそうな表情で神父の差し出した血文字の記された石剣は
恩恵に預かるばかりで魔術そのものに詳しくない私にも尖った力の波動のようなものを感じ取る事ができた。
ありがとうございます、と素直に受け取りながら、
後で魔女に見せて意見を聞いてみようと考える私はすこし浮かれた表情をしていたかもしれない。
幻想郷は先ほど少年の言っていた状況に近い。
安全域を出ればそこは妖怪や魔の領域だ。
いまだに紅魔館へ続く道で明け方に見つかる人の死体は絶えない。
昼間などや美鈴の視界内であれば人を襲う妖怪などいないが、
夜間でかつ門番の見えない場所であれば人食い妖怪達が遠慮する余地などありはしない。
無論そんな怪物が潜んでいたのは幻想郷の外でも同じだった。
そいつらは妖怪などよりもっと薄汚くて姑息で狡賢い化け物で都市の夜に巣食っていた。
退治が面倒という点で言えばそっちの方が脅威度は高い。
しかし、武器を選ぶ必要はあまりない。
ついでに言えば幻想郷では武器を作れるものも少なく、
また有効な武器を作れるものはもっと少ない。
手に入れる機会が少ないという事はすなわち希少であるという事で……
まぁ、ごちゃごちゃ言うまい。
素直に嬉しかった。
「大事にはできませんが、在り難く有効活用させていただきますわ」
受け取った石剣を両手でそれぞれ握ってみて感覚を確かめつつ、
改めて神父に礼を言った。
>>164
一瞬少年が浮かべた表情はひどく真剣なもので、
その仕事が何かは分からないが、少なくとも……
そう、少なくとも複数の命がかかっているか、それ以上の深刻さは感じ取れた。
そのまっすぐさは素直に応援したくなる類のもの。
がんばれと無責任に言うのも好みではないし、言われるまでもないだろうから、
ただ、内心で完遂を願うのみに留める。
彼はきっとやりとげるだろう。
この表情で。
「どういたしまして。喜んでもらえてうれしいわ」
喜んでもらう。
それは作る者として一番嬉しいことだ。
茶を淹れる、クッキーを焼く、料理をつくる、掃除をする、
当然のことにいちいち理由付けなどしないが、
いずれにしても、誰かに喜んでもらえれば最上の喜びには違いない。
……普段の対象はお嬢様だが、たまにはこういうのも悪くはない。
- 168 名前:ディーン・スターク ◆DEAN/sbyaY :2009/10/12(月) 04:02:56
- >>164
「武器が要らない世界ならそれに越した事もないですけどね…
それが夢物語に過ぎないってのも重々承知ですよ。
そもそも、みんな自分が殺されるのが嫌だから『ヒトを殺したらダメ』って
倫理が出来たんじゃないでしょうか?
オレ、あんまり頭良くないのでよく解りませんけど…結局そう言う事な気がします」
極当たり前の答え。だが忘れるべからざる最も大切な事。
素朴な所に然るべき答えは転がっているとは屡ある事らしい。
図らずもそうした一面の理を語って見せる。
―――と、そう言っていても彼はまた雰囲気を一転する事に。
>>163
自分とメイド女性から距離を置くと、人の頭ほどもある石を拾い上げ、それを拳で砕く神父。
更にその欠片は無造作に砕かれたにもかかわらず一流の職人の打った一振りの刃と
何ら遜色なかった。
その切っ先はその辺りの木の枝にさえ難無く食い込む。
幼馴染の曲撃ちやメイド女性のナイフ芸ともまた違う方向の神業ぶりには
ただただ驚嘆を禁じ得なかった。
- 169 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 04:08:52
- >>167
「有り難く――って。……あ、ああ。ええ、そう言って貰えるなら……」
慣れた様子で感触を確かめるメイドさん。
何しろハンドメイドだけに、グリップの握り心地なんかは人口工学的に計算されたファクトリーナイフ
とは比較にならないだろう。
が、それはそれ。使い手の技量が正確なら、ヘタな安ナイフよりは余程に凶悪だ。あとまあ、何しろ
錆びないので土産物としては最適かもしれない。量産したい気分になどサラサラならないが。
「いや……でも驚いたな。ホントにそんなので喜んで貰えるなんて。もっとこう……」
こう、何だというのだろう。
テディベアもロジャーラビットも的外れだ。
無骨なナイフを弄り回す姿は、華奢な外見とはチグハグすぎる。
ふと、鏡の前で佇むアリスを連想する。
虚無と混沌の縁に爪先立ちするような、ギリギリの正常。
……そこまで想像して、漸く自分の行動の真意に思い至った。
俺はシャーマンを想像していたのかもしれない。刃を打ち、木で括り、革紐で刃を閉ざして、淡々と、
儀礼のように意味を成していく祭儀を。
なら、まあ。守り刀というには余りにも即席ではあったが、多少は祈っておこう。
「……なんでもないです。今日はこればっかりだな、俺」
せめて貴方の正常と、その正常を信頼する貴方に平穏在れ、と。
……半ば、自分に向けている言葉なのは自覚済みだ。
それでも――まあ、悪くはないだろう。
多少は。
些少でも、俺の言葉が外で解釈されることがあるのなら。
そこには、意味を見出してもいいだろうから。
- 170 名前:ディーン・スターク ◆DEAN/sbyaY :2009/10/12(月) 04:11:58
- >>167
メイド女性の何気なく零した笑顔に対し更に満面の笑顔で。
彼女もまたそうした仕事を心から天職としているのだろう。
そう、丁度今の彼の様に―――
一つの仕事を喜んでこなせる。それがどれだけ幸せな事か。
たとえ途中が苦難の道となるとしても。
「じゃあオレ、そろそろこの辺で。皆心配してると思うし…」
特に幼馴染兼助手も心配しているだろう。
この夜更けに今更何を言い出すと言う話でもあるが。
「神父さんもメイドさんも帰り道気をつけてッ!
今日はいろいろありがとうございましたッ!
あ…オレ、ディーン・スターク。また会うかもしれないからよろしくお願いしますッ!」
もし向こうから名乗り返すことがあれば聴いておこう。
去るのはそれからでも遅くは無い。
そう言って彼はこの木枯らし風吹く高台を後にする。
木枯らし色のコートと薄赤色のマフラーが意気揚々と靡いていた―――
【退場】
- 171 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 04:21:56
- >>166
何かしら自覚している……か。
そう零す神父は一体何を想っているのだろうか。
先ほどのナイフへの説明の端々からわずかに覗く心情の発露などを考えればおそらく……
しかし、それに対し、私の自覚していることはなにか。
少し分析してみる。
武器を使い込んでも呪いには感じない。
忘れることは怖いが……忘れるまいとは思っていない。
どうやら神父とは似ているようで少し違う所があるようだ。
そこはどこだろうか。
……フラッシュバック。
夜霧の都市。
人通りも無い裏通り。
右手にはナイフ。
眼下にはうごかない無機物。
そして……
顔面には快楽と愉悦の浅ましい化け物の表情。
……ああ、ここか。
ここに違いない。
(多分だが)暗殺者と殺人鬼の違いだ。
過去の記録に対して大事にする理由が異なっているのではなかろうか。
最大の点として十六夜咲夜は罪の意識をもっていないのだ。
「ふふ、そうですね。
本当に面白いものですわ、世の因果の巡りと言う物は」
この違いは今後の私たちをどう分けるのだろう。
互いの理解を深めることにはひどく危険な香りを感じる。
今、自然に零した微笑は邪悪なものとしてそれを助けるかもしれない。
立場も考えれば……もしかすると……
少し楽しみに感じる部分を自分の中に見つけ、救えないなと自嘲した。
>>169
「すいません、実用性にばかり目がいくたちなものですので」
先ほどの笑みとは異なり、自然な苦笑が浮かぶ。
妖怪も悪魔も吸血鬼も身近な存在であり、それらとの戦闘すらも日常の延長でありすぎた。
ついつい有効そうな対魔武器に心躍らせてしまったのは事実だ。
年頃の女性の反応ではない。
まぁ、年頃の女性の反応をしろといわれてもなかなか難しいのだが。
「でもこんな大層なものを貰ってばかりも悪いですから、
そうですね、なにか差し上げたいかな……」
言って身の回りを確認する。
大したものは持っていないが……
……ああ、これがあった、が、いいのか?いいか。
十分コレの代わりになる、いやそれ以上の切り札になるものを貰ったではないか。
「お守りです。大したものではありませんが」
鞄から古い時計の文字盤を取り出す。
そう、あえて名づけるならば『時符「咲夜特製インスタントタイマー」』
持っていれば一番必要なとき、ほんの少しだけ体感時間を有利にしてくれるだろう。
さほど大したものではない。
なにより神父のかけた労力とそう変わらないだろうから、これを選んだ。
- 172 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 04:28:18
- >>170
「そうね、ディーンさんもどうかお気をつけて」
心配してもらえる環境というのはいいものだ。
周りが妖怪や悪魔や吸血鬼ばかりでもその真理に変わりは無い。
生憎、こちらは心配を得るような時間帯ではないが……
なにより連中の行動時間は夜が基本だ。門番は除くが。
ともあれ、心配してくれる人のもとに戻るに越したことは無い。
そして出会ったばかりの私を素直に案じて声をかけてくれる少年を笑顔で見送る。
名乗られたからには名乗り返すのが礼儀であろうか。
すこし考えたが……なんだか眩しくて名乗り難く感じる自分がイヤになる。
むしろ、同じ世界に彼が踏み込むことがないよう祈ってあげたかった。
神に、ではなく主の見通す運命に。
だから、ただ微笑んで手を振り、彼を見送った。
- 173 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 04:30:14
- >>168
「「なぜ人を殺してはいけないのか」――か。……どうだろうな。人を殺しちゃいけない、って理屈は、人を
殺す人間を殺す理由になるから」
言って、どうしようもなく自嘲したくなる。
あらゆる原因を作ったカトリックが言うセリフではない。
「”倫理”は、確かに俺達が作ったもんだよ。人間が本能的に持ってた理屈じゃない。お互いの役に立て、
お互いを尊重しろ、それは正しいからだ――ってね。だから国ってのは成り立ってるし、世界はそれを前
提にして動いてる。けど、それに加われない人間がいるってのもマジな話でさ」
テロリストが悪いのはなぜか――「悪いから悪いのだ」などとホザくのは、素でイカれているアレな馬鹿
か、でなければ知っていて知らないフリをする俺達のような最悪かのどちらかだ。
世界に適応できない人間はいる。
キリスト教が作った世界に、「世界に加われない人間を殺す」世界に適応できない人間は。
ある意味では俺もその同類で、俺がテロリストやサイコパスだとかその他諸々と同じ場所に立っていな
いのは、単に俺がその連中を殺すことを生き甲斐にしているからに他ならない。
血の臭い。
鉄の香り。
飛び交う銃弾と降り注ぐ土埃と、街や村が焼けて落ちる瞬間の、なだらかで穏やかな喘鳴――無数の
死が世界に描き出すパターン。
俺はそれを見ることでしか生きていることを実感できない――それをアドレナリン中毒、と言う人間はい
るだろう。否定する理由もないし否定もしないが、俺はそう在ることしかできなかった、というだけの事だ。
「世界を守れ。それは正しいからだ」「社会を守れ。隣人を守れ。隣人の敵を殺せ」
爆笑したくなる、というか、事実俺は笑いっ放しだが、断言してもいい、ああ、俺はこう思っている。
――だったら、てめえらは根こそぎクソでも食らってろ。
あらゆる弱者の責任があらゆる弱者にあるというのなら、弱者が牙を向いたときに引っ被る痛みの責任
は、強者が自ら引き受けるべきだ。
差し当たり俺はどちらも殺しているだけで、どちらを擁護する理由もない。
関わりたくない、と言ってしまえばそれまでなのだろう。
俺には俺の理由がある――なにしろ俺が負うべき死の数は、この世界の生者の数とは釣り合いが取れ
ていないのだ。
こちらには住人が多過ぎる。
なので、わざわざヨソ様に関わる理由もない。
「人を殺してはいけない――殺してはいけないって理由は、それだけで人を殺すよ。……それだけは無視
しない方がいいんじゃないかな」
- 174 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 04:59:56
- >>171
と。
不意に毀れた感情に、こめかみに刺すような痛みが走る。
慣れた感触。馴染んだ意識。
剥離しかける理性を強引に繋ぎ止める。
それは、潰すべきだと判断した対象と相対した時の、眩暈にも似た確信だ。
……普段なら、反射的に殺意が顔を覗かせる。
普段なら。
普段ではない今日は、気のせいだと首を振ることで自分を欺瞞する。
それは――それだけのことなのだ。
つくづく気分屋になっている自分に嫌気が刺さないでもないが、命令でもないのに無闇矢鱈と
自分を駆り立てるのは正直遠慮したい。
何より、相手が相手だ。折角の気分を自分で汚したくはない。
気分をとっかえるように笑って、肩を竦めた。
「実用性は……でも、そうだな。ある意味、相手によっちゃそっちのが効くかもしれないな」
何せあの文句と石は護符の定番のアグラスだ。わざわざ刃物に加工するようなヤツは俺くら
いのものだろうが(というよりまあ、本題が刃物だったからだが)、身を守る術を心得ているのな
ら、わざわざ護符を握り締めて震えているより、手ずから脅威を切り払った方が手っ取り早い
こともザラにある。
主流が154CMだのATS-34だのに移って久しいナイフの材料だが、相手が人間でないなら、
時には野生に近い武器の方が効果的なことも多々としてあるのだ。
「まあ、満足してもらえたなら何より……って。お守り?」
言い切る前に受け取っていた。
パッと見、アンティーク調な時計の文字盤。ロンドン辺りのアンダーグラウンドオークションで
出品されていそうな、どことなく秘跡じみた風合い。翳る色彩は、年経た彫刻を思わせる。
アミュレットかタリズマンか。
この類のツールは身に着けなくなって久しい。頼る必要がなくなったからだが、だからと言っ
てその要度を軽視している訳ではない。
専門家が言う「お守り」だ。額面通りに受け止めるのは難しい。
どんなお守りなんです、と聞こうとして、止めた。
解る時があるのなら、それは自然に解るモノなのだろう。
「ありがとうございます。誰かからこんなプレゼント貰うのは久し振りだ――大切にしますよ」
言って、気付けば人気が失せていることに気付いた。
大概に自分も珍客ではあったのだが、この時間まで残っていたのは最初の面子、というわ
けだ。
前もこんなだったな、と回想しつつ、込み上げてきた理由のない笑いを噛み殺す。
「……いい加減、遅くなっちゃったかな。メイドさんって、門限とかあるか解らないけど」
大丈夫ですか、時間?
貰ったアミュレットの文字盤を指差して尋ねてみる。
「そろそろ俺も――と、言いたいけど、その前に」
うん、と一泊置いて、忘れていた言葉を今度こそ取り出すことにした。
「――名前、まだ聞いてませんでした」
- 175 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/12(月) 05:14:54
- >>174
「色気の無いプレゼントですいません。
大した役には立たないと思うけれど、ほんの少しの助けにはなると思いますわ。
……そして、確かにもうこんな時間。さて、帰りますね」
簡潔に述べて立ち上がる。
少年とも神父とも楽しい話をした。
だが、ここまでだ。
これ以上、いっしょにいると昔の私が
遠慮を忘れてどんどん表に出てきてしまう気がした。
完全に出てきてしまったら、きっと我慢できない。
だが、それは今の私……十六夜咲夜にとってはあってはならないことだ。
この身の全てはお嬢様のために在る。
勝手な事をするのにも許される範囲というものがある。
いや、お嬢様は笑って許すかもしれないが、従者として自身を許せる範囲は確実に存在するのだ。
だから、ここまで。
内心で蠢く黒い感情には気にするなと告げる。
もし、そんな縁が……運命があるならば焦ることはない。
なるようになる以上、望む機会があるかもしれないし、ないかもしれない。
なにより、お楽しみは後に取っておくほうが良い。
そうだったではないか。
心中の淀みが渋々引き下がったのを感じ、静かにスカートの端をつまんで一礼。
「それではまた、いつかどこかで」
こちらからは名乗るまい、と思っていた。このまま帰ろうと。
名を知り、名を知られればその時は早く訪れてしまう気がした。
時間がないわけでもない。しかし、尋ねられれば答えるのを我慢もできまい。
だからこのまま立ち去ろうと思っていた。
が、神父が思い出したように名を尋ねる。
どうやら運命は悪戯をお望みのようだ。
胸の内の闇なる部分がじわりと歓喜を叫ぶ。
綺麗にまとめようとしたって無駄よ。
オマエ、今喜んでいるだろう?
私はお前、名前を貰ったからってそうそう変わるものか。
狂犬が飼い狗になっただけじゃない。
ふぅ。
わかったわ、私の負けね。
ひとつ息をついてから少し悲しげに微笑んで答える
「楽しい時間をありがとう神父様。
今の私は十六夜咲夜と申します。どうか咲夜とお呼びください。
神父様のお名前も覚えておきたいと思いますが……如何かしら?」
神父の返事を聞いて後、あらためて一礼。
かちり
そして懐の銀時計が秒針を刻んだその瞬間、
いつもの如く、十六夜咲夜は文字通り一瞬とかからず姿を消しさったのである。
<了>
- 176 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/12(月) 05:34:59
- >>175
取り残された秋風の伽藍で、寒風に吐き出す息に混ぜてみる。
十六夜咲夜。
「月は翳り往き、夜は咲く――いや、夜に咲く、か。夜が咲くか、霞む月が夜に映える、か。……どっち
にしろ、まあ――」
頷ける名前ではあった。
アリスが残した時計の文字盤。ウサギ(満月)の役割を食っているのが十六夜だと言う辺り、なるほ
ど皮肉が効いている。
アミュレットをポケットに仕舞い込む。
イル、などといつもの調子で名乗ったのは礼を欠いていたろうか。
などと思案してみるものの、向こうも事情は同じだろう。
自分の名前、などと大層なモノはとっくに廃棄済みだ。
在るように在れ。
俺がここにこうしていることに必要なラベルは、それで必要充分以上だ。
「さて、と……そんじゃまた、咲夜さん」
いつもの調子で丘の頂上を蹴り、明ける街へと身を躍らせる。思案のあれこれは保留と繋留。考
えるとドス黒いモノがカオを覗かせそうな思考には、スキマなくフタを掛けておく。
で。
そんな具合で。
本日のあれこれはつつがなく締め括っておくことにした。
(退場)
- 177 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/13(火) 00:30:39
- 「…ったく、あのヤンチャ娘め。あれでも重要な索敵要員なんだぞ。
文字通り酒で酔い潰しやがって…」
いつもの時、いつもの場所、いつものベンチ。
俺はそこで近くの自販機から買ったコーヒーを啜っていた。
この寒さだしそろそろ口の部分から白い湯気が出るかなとでも思ったが流石に秋の半ばでは
そうもいかないらしい。という事はこれからさらに寒くなるという事か。やだなあ。
コツリ、と木のベンチを何かが叩いた。
なんだろうかと思えばまるで弾丸のような形をした木の種子。そういえば秋の風物しか、これも。
「どんぐり、か」
指先で転がし、感触を確かめる。
そういえばコロニーではどんぐりを見かけることは無かった。何か不都合があったのだろうか。
こうやってまじまじと見たことはあまり無い。
そういえばこれ、栗鼠とかが食うんだったっけと思い出した。
だからせっかくなので土を払い、少し齧ってみた。
「不味っ!?」
口に含んだ瞬間噴出し、あまりの渋さに後悔する事になった。
ううむ、やはり特定の種類か、渋抜きしないと人間には食えないように出来ているのだろうか。
- 178 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/13(火) 01:37:31
- >>177
秋風すさぶ高台に足音も立てずに歩く人影がひとつ。
落ち葉はあたり一面に散らばっているというのに、だ。
人民服とチャイナドレスの中間のような奇妙な服装の女性が一人、
羽でも舞うかのようにふわふわと落ち葉を潰さず、その上を歩く。
ベンチに腰掛けた人間をみかけ、興味がわいて近づいてみることにした。
いつかお嬢様の魔法で見た事がある噂の人物ではないか。
見れば木の実を齧って辟易している様子。
しかし、あれはどんぐりに見えるけどなぁ。
「あらあら、喰うに困ってどんぐりですか?
いや、でも炒るとかアク抜きとかしないと不味いですよ、それ」
私……おっと説明してませんでした。
紅美鈴はのんびりとした声で尋ねてみた。
- 179 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/13(火) 01:47:48
- >>178
渋抜き!そういうのもあるのか!
…って当然だろうが頭を指でがりがり掻く。
そりゃ栗鼠だって地面に埋めるかなんかして渋を抜くと聞く。
そして生めた場所を忘れたがためにそこにまた新しい木が生えるという自然の素晴らしいサイクル。
このどんぐりはそもそも栗鼠に食われぬように進化して渋を持つようになったのではないか。
「いや、ちょっと試しに生で食ってみただけさ。好奇心は猫を殺すって言うけどこりゃ確かにひっくり返りそうだ」
しかしいい大人がこんな事やっていいのだろうか。いや、よくないな。
周りに人がいないこと確認して食っていたのにいつの間に近づいたのだろうか、声の主は。
ごまかすように笑いながら顔を上げるとそこには赤い長髪のチャイナな雰囲気を身にまとった女性がいた。
「…あー、にーはお、とでも言えばいいのか。しかし今は夜だな」
中国語の夜の挨拶はなんだったか。思い出すも何も聞いた事がなかった。
- 180 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/13(火) 01:50:00
好奇心結構。
世の中はなんでも物のためしで動いている。
渋みもまた勉強。良き哉良き哉。
「や、どうも」
男の挨拶に軽く会釈すると許可も得ずにベンチの男の座るとなりにどっかと腰掛ける。
最近、うちのメイド長が入り浸っているこの高台、
先に目を付けたのは私なんだけどなぁ。
そんな思いでフラフラと立ち寄ったのだ。
まぁ、せっかくの非番だし。
風良し、月良し、空腹具合程々によし。
残念なのは葉っぱが随分落ちてしまっていること。
も少し早く来るべきだったのは疑いようも無い。
私は腰の帯からさげた袋を開けると葡萄を3房取り出して、
ベンチの上、ちょうど男と自分の間あたりに置く。
ついで、同じく腰から下げていた酒瓶を取り出し、呷った。
「ん〜、いいなぁ。
咲夜さんが入り浸るのもよくわかるってもんです。
あ、少尉さん、いかが?」
にこにこしながら酒瓶を男に向けた。
中身は紹興酒。
紅魔館では飲むのは自分くらいのものだがそれなりに質にはこだわっているつもり。
- 181 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/13(火) 02:16:10
- >>180
「あ、お構いなく…」
彼女が座った後にその言葉が出てきた。年は若く見えるけど結構長身。
それに動きを見るからに運動量がかなり多い事が予想できる。
…いや、身体能力はもしかしたら高いというレベルじゃないのかもしれない。
そもそも音を立てずに俺に近づいて来たと言うだけで異常だろう。こんなに落葉が多いのに。
座るとすぐさまごそごそと葡萄ときついアルコールの芳香を振りまいている瓶を取り出した。
わずかに出た月は満月とはまた違った趣を見せる。
勧められた俺はじゃあ遠慮なくと一つ葡萄を摘み、口の中に放り込んだ。
「うん、美味い。その酒も欲しくなったよ。帰りは自転車を押す事になるな、こりゃ。
それで、俺の階級知ってるってことは俺の知り合いの知り合いってことだな」
つまり現時点では他人。彼女の素性を知れば彼女との関係から知り合いという言葉を一つ減らす事ができる。
しかし彼女が最初に出した知人の名前で大体どのような人間?であるかは想像できるが。
- 182 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/13(火) 02:23:45
- 酒瓶を差し出してアマダ少尉にまぁ、飲みねぇなんて声をかけつつ、
今更ながら自己紹介。
「改めまして今晩は、アマダ少尉。
紅美鈴、お兄さんにも分かりやすい説明としちゃ咲夜さんの同僚ってとこかな」
これできっと分かってもらえる。
こっちは向こうを知ってるんだからそりゃ酒くらいは奢りましょうよ。
あの晩は咲夜さんが暴れて大騒ぎだったが、妹様も心底楽しそうだった。
なら、そのくらいの借りは十二分にあるだろう。
ひょいと葡萄の房から粒を取り外して口に放り込む。
「葡萄は道中の戦利品、酒はそれなりの秘蔵品。
問題は葡萄が思ったより甘くて肴にちと向かない事かな」
聞かれもしないのに説明する。
いやね。もうちょっとね、すっぱいと思ったんですよ。
なにしろその辺になっているような葡萄だ。
こんな甘味がついてたら普通は鳥にやられている。
なんで既に味を知っているのかって?
当然歩きながらも、ちびちびやってたに決まってるじゃあないですか。
最初は7房くらいあったなんてレディの口からはとてもとても。
光陰矢の如し。
歩いている時間だって修行と飲酒を平行。
ウソです。単になんとなくです。
いやまぁ、修行はウソでもないけれど〜。
- 183 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/13(火) 02:46:48
- >>182
置かれた一つの杯を手に取り、酒で満たす。
一口含んでみると思ったより滑らかで上品な味が広がる。美味いな、こいつは。
「ご丁寧にどうも、美鈴、で呼び方はいいか?発音とかも」
格好がチャイニーズなら当然名前もチャイニーズなのだろう。
帽子に龍という字が書かれているくらいだ。もしかすると昔の香港映画に出てくるような
拳法の達人という事も予想できる。椅子さえあれば無敵になれたり。
「戦利品って…この葡萄は買ったやつじゃないのか?…にしては甘いな、こいつ。」
というか野葡萄なんてどこで発見したんだろう。歩いてて早々見つけるもんじゃないだろう。
やっぱり住む場所が違うのだろうか。
「ま、いいさ。これはこれで美味い。わざわざ持ってきてもらったものにケチつけるほど俺はふてぶてしくないさ」
今日は部下が中国酒で倒れたんだけどな。
にしても美味い酒だ。思わず深酒しないように気をつけなくては。
- 184 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/13(火) 02:53:31
「そうそう、メイリン。ホンメイリンとお呼びくださいな騎士様」
楽しそうに呟くが、生憎とあんまり咲夜さんには似ていなかった。
妹様の方が真似っこ上手いなぁ。
なんて思いながら酒瓶を直接呷る。
「ん。その節は失礼を〜」
まぁ、ムカつくだろうからフォローを入れて見る。
苦笑しながら無造作に足元のどんぐりをつま先で一つひょいと宙に放り上げる。
ぱしっと右手で掴み取り、手の中で転がした。
「うちの主は過保護なもので」
端的に過ぎる説明。
細かいことは言わない。
どう解釈するかは相手の自由だろうと思ってる。
もしお嬢様が見てたらなにか後で言うかもしれないが、別に構わないやー。
また一口、酒を口に含み、手慰みに右手のどんぐりを指弾にして弾く。
びす。
弾かれたどんぐりは弾丸のように丘の上の鎖つきの柵の支柱に突き刺さった。
おー、飛ばしやすい形してると思ったらよく飛ぶなぁ。
でもどんぐり突き刺さっちゃうとか、あの杭、強度甘いんじゃないの?
「結果的には謝るしかないですけどねぇ。正直アレは遊んでたし」
今もだがな!
まぁ、詫びもかねて一献。
そんな感じでアマダ少尉の酒盃に注ぎ足した。
- 185 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/13(火) 03:12:52
「…なんだ、あんたらの所では俺を騎士と呼ぶのが流行っているのか。
生憎だが俺はそんな高貴な身分じゃなくて、ただの薄汚い戦争屋だよ」
そういえばこの前はフランにも騎士と呼ばれた。
しかし咲夜は俺の事を名前でしか呼ばないというのはやはり気にしているのだろうか、シンデレラ事件。
偶然盗聴してしまった俺も俺だが。
そして、その酒を喇叭飲みか。行儀が悪いというか豪快というか。
杯を取っていなければ危うく俺まで喇叭飲みさせられていたところだ。つまり間接キス。
…いや、流石に。外見はキキよりも年上だし不味い気がする。
「過保護…ああ、悪い虫が付かないようにか?立派なお父さんじゃないか、その主は」
そういえば主のことは何も知らないな。
女性の声だけしか聞こえなかった事によるとフランの姉、である事は予想が付く。
どのような姿か。少なくとも羽根は付いているのだろうか。疑問は尽きない。
で、彼女の指から弾かれたどんぐりは戦場でよく聞く弾丸が風を切る音を発しながら飛び、転落防止用の柵に突き刺さった。
なんて指の力してるんだ。肉体的にはかなりの鍛錬をしているとは見えていたがここまでだとは。
人間の領域なんて軽く超えているじゃないか。
「…あー、あんたにはライフルの弾とか渡したくないな。ハンティング以外で」
もう一杯注がれた酒を飲む前にまず葡萄を一粒口の中で噛み潰した。
甘い香りが口いっぱいに広がったことを確認し、それごと酒で流し込んだ。
お、意外といけるか、この飲み方?
- 186 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/13(火) 03:24:54
「あはは」
笑って誤魔化す。
騎士呼ばわりの流行は間違いなく妹様と自分のせいだ。
しかし、薄汚い、ねぇ。
「おやまぁ、随分と卑下しますねぇ。
ん。逆かしら?騎士の方に幻想があるみたいな感じ?」
そして、騎士なんてただの戦争屋ばっかでしたけどね。と
葡萄をつまみながら昔の記憶を掘り起こして少しつまらなそうに呟く。
はて?心なしか顔が赤いようだけど?
そんな急に酔った風にも見えないのだけど……
アマダ少尉の目が酒瓶にいっているのに気付き、小首をかしげながらも酒盃に注ぎ足してやる。
「主……お嬢様の過保護は……んー、まぁいいや」
大して変わらないといえば変わらないだろう。
まぁ、虫がつく云々はあまり気にしていないとは思うが。
んー。
ああ、もしかして。
指弾に目を丸くしている少尉にニヤリと悪戯っぽく微笑みかけた。
ずずいと顔を近づけてみる。
「いやいや、ライフルの弾なんてのは怖くないんですよ。
ほら、貫通するでしょすぐに?
石ころとか木片の方がよっぽど怖い。
まぁ、最近じゃそんなやりとりするような相手、いないですけどね」
最後だけちょっと物足りなそうな声だったかも。
- 187 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/13(火) 03:26:26
「おや」
何度目か。
呷ろうとして酒瓶の中身が空になったのに気付く。
ありゃー、早いな。
まぁ、仕方ない。
もともと一人で飲むつもりだった量だ。
それを二人で飲んでいればさっさと無くなっても詮無い話。
少尉もいけるクチともなれば尚更。
腹で言うと4,5分目。
まーだ物足りないカンジだ。
そうしてくると、なんだか少尉さんとかおいしそうに見えてくるのがよくない。
「うん。帰ってさらに飲みなおすかぁ」
ぐーっと伸びをしてほろ酔い気分を満喫。
とん、とベンチから立ち上がる。
初めて足元で落ち葉が音を立てた。
当然至極。さっきまでと違って軽気孔は練ってないもの。
酒瓶を紐ごしに肩から背中にひっかけてアマダ少尉に手をふる。
「や、短い間でしたが楽しかったわ。
またどっかで会ったら今度はしっくりくるまで飲みましょう」
勝手に約束。
まぁ、非番などそう多くない。
実際会えるかどうかも分からないのだ。
そんな偶然があるのなら、このくらいは叶ってもバチは当たるまい。
でわ。と会釈しつつ、相変わらずの笑顔で鼻歌など歌いつつ、
高台の道を麓へむかって下っていく。
予想したとおり、ここはなかなかいい場所だ。
咲夜さんには説明しなかったが、気脈もいいんですよねぇ。
あのベンチあたりなんかその影響で知れず感情の起伏が強くなったりすることもあるかもしれない。
ああ、シンデレラ騒ぎはそのせいかもなぁ。
益体もないことを考えながら私はその場を去っていく。
そうして虹色の門番はその晩、高台をまるで台風のように通り抜けていったのである。
<了>
- 188 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/13(火) 04:03:23
- >>186
「…戦場に行った人間の9割9部は現実に失望してしまう。俺もそうだった。
騎士道物語のように上手くなんて、いかないものさ。俺は名誉ある連邦軍人じゃなく、ただの戦争狂いに過ぎなかった。
戦争で多くの知人を失った事の憎しみで…」
喋りすぎた事に気づき、ごまかすように葡萄を口の中に放り込む。
いかん、酔ったか?こんな昔の事をべらべらと。なんでもないと付け加え酒で葡萄と言葉を流し込む。
いい具合に出来上ってしまったようだ。そろそろ止めたほうがいいか。
そう声をかけようと思ったら顔を一気に寄せてきた。
不意打ちだったので思わずのけぞってしまう。顔が近いぞ、美鈴。
もしかして若干遊ばれているのか、俺は。
「普通ならどっちも投石器を使うかある程度重みがないと人を殺傷できないんだって。
…ああ、俺はそういうやり取りは勘弁だぞ。一人でも荷が重いって言うのに」
っと、早く本題を切り出したほうがいいか。
ちょうど向こうも酒がなくなったようだ。
「じゃ、俺もここで。…少し飲みすぎた」
帰りが安全である事を確定したならばいいんだがこれじゃあな。
無事に帰れるといいんだが。部下は倒れてるしあいつには頼りたくはない。
借りを作ったらあとでどんな目に合わされるか。
「ハハハ…俺はもう十分しっくりきているんだけどな。いいさ、俺でよければ」
また余計な約束をしたような。
ま、いいか。酔っているせいか上手く頭が回らない。
先に行った門番が見えなくなると俺も立ち上がって伸びる。
…うん、少しだけ楽になったか。でも安全の為乗るのは止めておこう。
俺は出来るだけしっかり意識を保つ事を心がけながら坂を下ったのであった。
【退場】
- 189 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/15(木) 23:52:35
- 高台に鼻歌が響く。
上機嫌で歩いているのは華人小娘。
いつぞやと同じく右肩に酒瓶を担いで道を歩く。
「いやはや、こんなに早くお休みもらえるなんてラッキーねぇ」
串らしきものをくわえているところを見るにどこかで一杯飲んできたのだろうか。
答えはYES。
八目鰻の屋台で一杯と言わず飲んできたその帰り道。
寄り道と言うにはあまりに遠回りに過ぎるが、私の足は自然とここに向いていた。
先日のベンチを見つけてひょいっと腰掛ける。
肩の酒瓶と腰の袋を足元に下ろして背もたれに寄りかかった。
「あ〜夜風が頬に染みるなぁ〜」
見上げた月に咲夜さんの姿を幻視する。
__,.‐‐-、
,.、_,:'"´`''"´ "''‐、
,.-、_,.:'" ,'⌒,,:''"´` `へ
く, __ ァ-‐-、! /,.-─、 -‐-、, `'‐┐
>'´ ` \ ,.イ
,/ , `く `:, 勝手に休日決め込みやがって〜
,:' , i i , 、 `, ',
/ ,イ / Λ ハ '_,__ ', ', i i
,' ,:' i i メ, ノ ' , !大'´ ヽ、 ', i i ‐◇‐
! /i ! !,ノ `,>- \i ->、,,_\ ':, ':, i !
i ,' '、! ノ ヲ-r‐-、 '´i ´'i`i"`'' 、\ `ヽ、
. V /ノ ,.イ | | i ゝ-‐' ノイ 、 `"' `T`
∠-‐'i'イ" ゝ.', ゝ- ' ⊂⊃i´ ) `i `> 帰って来たら殺す〜♪
i ( )⊂⊃ ,,.. -‐フ ,イ i、, メ, ノ、!´
ノイ r'` '、 > ,, _ __ __ ,, . ' :iヘ,i__, ノ∠、 `
レゝ く | Λr‐ァ'`Y / .i`ヽ,レ'`i `ー、
(___ j,ィヘ`i-‐,:':/´ i, , ' レ',ス,_ノ -‐、 i
i `Y、_i´ /:r'-‐、ヽ,/_ ./:::i´ ,! ':, `!
,ゝ'i´ Y _,'::::/ ,.ァ=0=,、`ヽ,':::::/'vv' Y´
/ !w、,:'´::::'-((_ノバ、,))´::::ノ i
く,_ 〈:::::::::::::::`ンハヾ::´:::::,:'´ ヽ、
`"7 `:::::::::::ノノ::::i_|::::::::〈 ノ
「おー、今閃いた。
見える、私を恋しがっている咲夜さんが私にも見えるぞ〜」
<見えてねぇ>
- 190 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/16(金) 00:11:51
- 意味も無く単語をつぶやきながら周囲の風景を眺めてゆく。
「月、風、秋、林、夜……」
季節の移り変わりをぼんやり眺めやるなんて何度繰り返したことだろうか。
幻想郷の外に居た頃、紅魔館と共に幻想郷に来た頃、弾幕ごっこのルールが決まった頃。
そして今……
その折々に見てきた季節は同じようだったようにも思えるし、
違うものであったようにも感じられる。
それはおそらく見る側……つまり自分の心境によるものなのだろう。
自然は常に変化するが、永く変化しない。
ふと人の世界の事を考えても色々な事があったようにも思えるし、
特に成長せず流行り廃りが入れ替わっているだけようにも思える。
しかし、自然の移り行きと人の暮らしでひとつ明らかに違う点があった。
この百数十年で外の人は妖怪と共に在る事をやめた。
足元から酒瓶をとりあげ指先で底をついてくるくると回す。
「ま、幻想郷じゃそうでもないけれど」
ぴたりと止め、蓋を開けて一口呷る。
- 191 名前:紅美鈴& ◆HONGidIKL2 :2009/10/16(金) 00:33:41
- ふと月の光が影に隠れたのを感じ、顔を上げると頭上に見知った顔があった。
「おや、随分と意外な遭遇ですねぇ。今晩のラスボスってやつですか?」
のほほんと尋ねる私に苦笑する人影。
蝙蝠の翼で風を切って、ふわりと高台に舞い降りる。
「私はいつだってラスボスだよ?」
「いや、ごもっとも」
ラスボスの言葉に心底同意。
でもね、お嬢様。
ラスボスが出向いてくるのは顔見せの時だけなのが定番ですよ?
「散歩しようと思うんだ。たまにはつきあいなさいな」
「咲夜さんは?」
「あんたの代わりに門に突っ立ってる」
「あちゃあ、そりゃ帰るのがこわいですねぇ」
てっきり飛ぶのかと思いきや、お嬢様は高台の道を歩き始めた。
小首をかしげて酒瓶片手に後を追って歩く。
「どういう風の吹き回しで?」
「こうう風の吹き回しだよ」
「で、真意は?」
「かわいくないなぁ」
自分で見てみたくなったのさと首をすくめると、お嬢様は周りを見回す。
ふと私の手の酒瓶に目を留めたのを見て、何も言わず酒瓶を差し出した。
「まーた、これか」
「ええ〜また、これですよ」
紹興酒。
お嬢様の好みとはちょっと離れている。
それでも止めずに呷るあたり、今日のお嬢様はいつもとちょっと違うようだ。
「今日のサボリは気分展開?」
「ええ、今晩お一人で抜け出されたのも気分転換ですね?」
「困った主従だね、咲夜が可哀想だ」
「主犯は運命ですね。つまりお嬢様。あまり咲夜さんを苛めちゃダメですよ」
「お前天才か?てっきりバカだと思ってたよ」
軽口たたき合いながら高台の木立の中を歩く。
- 192 名前:名無し客:2009/10/16(金) 00:35:15
- パープー
ラッパを鳴らしながら一台の屋台が引かれてくる。
屋根には『拉麺』の文字が刻まれている
- 193 名前:紅美鈴& ◆HONGidIKL2 :2009/10/16(金) 00:43:53
- >>192
「久しぶりに体を動かしたいのよね。
最近ごっこ遊びばかりで体が腐りそうだ。
なぁ美鈴、あの晩の続きとかしてみる気はない?」
ニヤニヤ笑いながらお嬢様が横目で尋ねる。
わきわきと右手を開いて握って……おいおい、ちょっと本気なのかよ。
「えー」
「ひどい、レディの誘いを無下に断るつもりなの?」
「や、だって、あの晩ってあの晩ですよね?」
「そうあの晩、あんなに燃えたじゃない?胸を突かれるような衝撃だったわ」
「燃えたのは私じゃないですか。
胸は私が突いたような気もしますけど……」
胸に手をあてて「ぁあん」と身もだえするお嬢様に苦笑しながらブーイング。
あれからもう何年経ったのか。
数えるのも面倒なので正確な所は自信がない。
「加減効かなくなって後始末が大変ですよ〜」
「まぁ、確かにね。私も加減する自信もつもりもないし」
「つもり、くらいは省かないで下さいよ、そこは」
胸を張って言うお嬢様に裏手でツッコミを入れる。
咲夜さんに見られたらお説教ものだろう。
だが、まー見てないからいいや、というのが二人の共通の見解。
「で、ホントの所は?」
「蒸し返したよ……」
「私は咲夜さんが楽しそうでつい」
「先に白状したよ……」
しょうがないわねぇ、と腰に手をあてながらお嬢様も語りだした。
よし、成功。
戦り出すと確実にどっちか滅ぶまで止まらない自信があるので(高確率でこっちだろうが)ここは避けておく。
ほら、お楽しみはとっておけって言うじゃないですか。
「らーめん小盛。ニンニク抜きで」
「っていきなり注文してる!」
「いいじゃない、美鈴、お金だしといてね」
「まぁ、いいですけど」
偶然みかけた屋台に腰掛けてラーメンを注文する。
ワインはないの?と無茶を言うお嬢様をなだめて店主に焼酎を出してもらう。
「まー、あれよ。見てるだけだと物足りなくなってきちゃって」
「それで肝試しですか」
「そう、肝試しよ。いつかとお供は違うけどね」
「というか私一人連れて散歩って100年に一回レベルの珍事じゃないですか?」
「そこまででもないでしょ、20年くらい前にたしかあった」
よく覚えてるなぁ、とか思いながらお嬢様と焼酎でカンパイ。
そう言えば蝙蝠羽の少女が座ってるのに動じないとか、店主プロの仕事だなぁ
- 194 名前:王ドラ ◆jLr39t.yGY :2009/10/16(金) 00:50:43
- 「はぁ〜。なんともいい景色ですねぇ」
近場の林の中での鍛錬の帰り、何となく寄り道した高台で思わずそう声を漏らした。
紅葉が舞い、それを月の光が彩る光景は誰が目にも美しいと感じさせる物があり、
王ドラはその光景をじっくりと眺めていた
- 195 名前:紅美鈴&???? ◆HONGidIKL2 :2009/10/16(金) 00:59:11
- >>194
「そう言えば最近咲夜さん物騒なもの持ってますね」
「ああ、あれか」
そう、最近の咲夜さんからはなにか教会っぽいオーラのマジックアイテムの気配がするのだ。
本人が気にしてないし、特に問題があるわけでもないので黙っていたが、
気にならないといえば嘘つきの謗りを免れない。
「なんか貰ったらしいわ」
「貰ったって……教会なんて幻想入りしてきてましたっけ?」
「いや、ここで」
「ああ、ここで」
ラーメンを受け取りながらお嬢様は親指で後ろを指す。
ここなら致し方なし。
誰に貰ったのか知らないが……まぁ、咲夜さんに限ってどうということもないだろう。
「そう言えば」
「今度はお嬢様がそう言えば、ですか?」
「そうよ、今度は私のターン。むしろずっと私のターン。
あんたはきりきり答えるしかないの、さぁ包み欠かさずお姉さんに話してごらん?」
「えー」
「ノリ悪いわねぇ。まぁいいや。
めーりん、フランに最近会ってないでしょ?」
「あ」
「うわ、ひでえ!?
素で!素で忘れてましたよこの門番!?アナタニイモウトハヤレナイワー」
「うそ!うそですってば!
つかなんですかそのカタコトのうさんくせー台詞は!?
こないだも門前で宴会した時に……会って……ま……すよ……」
「ほほう、門前で宴会とな?」
「お、おおお……」
「なんで私はいないのかしら?かしら?かしら?」
「は、はわぁ!?お代官さま〜お、おゆるしを〜」
かなり酔っ払いっぽいやりとりに興じていると、
ふとお嬢様が屋台の脇から遠くに手を振った。
「おや、来訪者ですかぁ?」
ひょいとお嬢様の上から覗く。
お嬢様の機嫌がちょっと悪くなる気配。いけね。
- 196 名前:王ドラ ◆jLr39t.yGY :2009/10/16(金) 01:08:18
- >>195
「へひゃっ?」
声をかけられるとは思わず、王ドラは思いっきり裏返った声をあげてしまった
声がしたほうに立っていたのは紅い長髪の女性と銀の髪の少女であった
少女の背からは蝙蝠のようなハネがのぞき、どう見ても人外の存在であることが見て取れる。
王ドラも正気であればそう気付いただろう
「は、はわわわわわわわわわわわわ…(お、女の人ぉぉぉ!?)」
……あいにくと彼は憐れむほどに慌てていたが。
- 197 名前:紅美鈴&???? ◆HONGidIKL2 :2009/10/16(金) 01:13:48
- 慌てるその人物の都合などおかまいなしに屋台の椅子に座ったままお嬢様が声をかける。
お嬢様の羽を見てしまったのか?
なにやら驚き方がおかしい気もするが……。
「本当に見たこと無い顔ね、何ていうか……なんていう種族?」
「お嬢様、失礼ですよ」
横目で蓮華のラーメンのスープをふーふーしながら尋ねるなとお嬢様を嗜める。
あ、今、私咲夜さんぽかった?
ダメ?だめかくそ。
「私は美鈴と申します、こちらはレミリアお嬢様」
「ん」
「箸で挨拶せんでください。失礼ですってば」
麺をくわえたまま、箸を上げたお嬢様に突っ込みを入れる。
つか店主、私のラーメンまだか!?
うわ、忘れてやがる!?
二人しかいないのに何故忘れる!?
うわ、お嬢様がニヤニヤしてる!?
くそ、お嬢様の仕業だ!運命を操る能力をこんなくだらないことに!?
泣く泣く再度オーダーをしなおして焼酎をすする。
まー、そんなおなか減ってないからいいですけどね。
- 198 名前:王ドラ ◆jLr39t.yGY :2009/10/16(金) 01:21:30
- >>197
「ど、どうも…ワタクシ王ドラと申しまひゅ。ネコ型ロボットでしゅ」
嚙んだ
もう、分かりやすすぎるほどに
あたりに気まずい雰囲気が漂う。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「……あ、て、店主さんっ!私にも塩ラーメンひとつ!」
とりあえず、ラーメンをたのむことにした
けっして場の雰囲気を誤魔化すためではない
ないったらない
- 199 名前:美鈴&レミリア ◆HONGidIKL2 :2009/10/16(金) 01:25:52
- >>198
「ネコガタロボット?知らない種族だなぁ」
「だから失礼ですってのにいい加減にしろよ、このダメ主」
「なんだとデストロン、よし戦いだ」
「いつのネタですか」
「忘れたなぁ」
ワンドラさんの自己紹介を聞いてのやりとり。
失礼なのは二人とものような気がする。
ラーメンをたのんで席につくワンドラさんに「飲まれますー?」と焼酎の瓶を向ける。
なんで持っているのかって?
さっき継ぎ足すスピードが速すぎて色々諦めた店主から預かったからー。
まぁ、先払いで外のお金を多めに置いたので文句は無いだろう。
小金持ちの自分にちょっと感謝する。
まぁ、門番にお金を使うチャンスなどないというだけだが。
- 200 名前:王ドラ ◆jLr39t.yGY :2009/10/16(金) 01:38:44
- >>199
「はう、あう、おう、はう…え、あ、い、いただきます…」
あまり飲めたほうではないが、空気を読んでそう答えた。
コップに入った酒をクイッと飲み込む。
…コップごと
「ゲフウッ!?」
無論ながらコップはすぐ吐き出した。
「ガフッ、ゲホッ…と、ところで紅さんは中国の方なのですか?」
が、それで少しは冷静な思考を取り戻したのかそう問いかける
>「ネコガタロボット?知らない種族だなぁ」
「それは…まあ、機械の人形ですから生き物の種族ではないのですけど」
- 201 名前:美鈴&レミリア ◆HONGidIKL2 :2009/10/16(金) 01:44:12
「豪快!豪快だわ!」
コップごと口に放り込んだワンドラさんを見てお嬢様が噴出す。
私は単純に驚きが先にたった。
さすがに鬼だって杯は飲まないというのに。
「んー。そうですね。中国の方から来ました」
答えになってるんだかなってないんだかな返事を返す。
正確な出身地、実はわからないんだ。
まぁ、あのあたりのどこかなのは確かなんだけど。
塩ラーメンおまちーと、ワンドラさんにラーメンが渡される。
お、店主早いな……
……ってちょっと待て。
私のラーメン(並)は!?
私のラーメンはどおしたああああああ!?
店主が「あ」という顔をする。
バカな!?
ありえないだろ!?
と反射的にお嬢様の方を見ると……案の定ニヤニヤしていた。
「さて、食べ終わったし帰るわよ、美鈴?」
「なん……だと……!?」
お嬢様は屋台の席から立ち上がり、優雅にワンドラさんに一礼する。
お先に、と妖艶に微笑み、宙に舞い上がる。
「めーりん、今日のあんたの運命はラーメンたべれない、と決まってるの。
おとなしく諦めるといいわよ?」
びき。
どん、と焼酎の瓶を店主に突き返して立ち上がる。
笑顔でひとつワンドラさんに「それではまたいつかどこかで」と会釈すると
こちらも空へ飛び上がった。
「ふふふ……その喧嘩、買いましょうかぁ」
「まぁ、素敵、だからめーりんってダイスキー」
「遺言として受け取っておきましょう」
そうして二人は空の彼方へ飛び去っていったのであった。
ちなみに、翌日服はボロボロ、全身血塗れで帰ってきた二人を見て
咲夜さんがマジ焦りしたのは余談である。
<了>
- 202 名前:王ドラ ◆jLr39t.yGY :2009/10/16(金) 01:58:33
- >>201
「そうなのですか…ああ店主さんどうも…」
美鈴の話を聞きつつも、ラーメンを受け取りわりばしをパチンと割ったところで
「あ、お帰りですか。夜も遅いですので夜道には…って、このお酒の代金は!?
紅さん、ちょ…」
王ドラが言い終わる前に夜空に飛び立っていく二人に、彼は何も言えなくなる。
「・・・・ズルルルル」
彼はとりあえず、ラーメンを食べることにした
「…あ、おいしい」
【了!】
- 203 名前:<非想非非想天の娘> 比那名居 天子 ◆pYUTORIB/o :2009/10/17(土) 01:19:56
- 暇
釣りも歌も踊りもかったるくてやってらんないわ。
他の天人連中は何百年もやってて飽きないもんね、感心するわ。
寿命がストレスでマッハもいいところよ。
よろしい、ならば地上だ。
さてと久々に降りてきた記念に天子参上とかそこらの樹にばばんと。
うーん、インパクト、弱いわね、ぱっと見た目、わかんないし。
これぞ、一級天人ってものがほしいところね。
- 204 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/17(土) 01:37:56
- 紅葉が減っていく。
地面に降り積もった枯葉を踏むたびにその事実を実感し、また寂しさが一段と増す。
そしてその寂しい心にまた冷たい風が吹き付ける。そんな秋の中ごろ。
クラシックな日本の考え方によれば暦上もう冬である。
俺は飽きもせず缶コーヒー片手にベンチに座ってぼんやりとしていた。
ここは不思議と気分が落ち着くような気がする。
それも落ち着こうと思えばより強く効果として現れる。そんな新事実を今日発見した。
これのせいなんだろうか。足繁く通ってしまう理由は。
そう考えながらもコーヒーを啜っていると天から少女が降りてきた。
なんだ、いつものことか。
そう思っていると目の前で木に落書きし始めた。
天子参上
恥知らずな天子がいた!台無しだよ、いろいろと!
サツに裏tellすんぞ、この野郎。
- 205 名前:<非想非非想天の娘> 比那名居 天子 ◆pYUTORIB/o :2009/10/17(土) 01:57:16
- 更に隣の樹に<世露死苦とアートを。
緋想の剣でじょりじょりと。
こういう用途で使うとは思わなかったけど、よく斬れるわね、流石。
ふう。やったわ。
ト、 ,. -──-ァ'⌒ヽ-、 /| /!
_| \ /_;;;:::-──` ー< ノY´ // /
./ \_>'"´:::_;;;::: --─- 、:::::::`'く| /´ / i
レ'´ ̄`7>''ア"´ , `' 、:::::\ /. |
/::::/ ./ | i \ \::::`く.
〈:::::::/ / ハ /!. __/! ', ':,:::::〉 ‐─ ┼ ─−
\| | ./`メ、| / ,|イ´ハ| | ∨.
| |/.ァi7ハ|/ j_り| | | |
| |,イ .j_り, ゙' | | i ',. !
∧ !7'" r─┐ ! ! | \.
/ |\ト、 | │ .| |. ', \
/ ! | |> 、 イ| ハ ___ 、 、 ',
/ /.| | / _`アTこ.ン | /`´ `ヽ. .! |
.| /'! !\|' /´ 、 //ム __ レ' | \/ , -‐'"`ヽ.
\| \| |/ ,| ̄7‐r'´ |,/ 〈 _〉| 、 !
/∧ r! /〉_/ァrヘ_j 、 >''"´`ヽ ヽ| /
/´`'く. `,ヘ/ く__,}|::|{_〉 Y`'Y´ _,,.. -、| / ,'
/! _ `!)く,_i 、 {|:::|{ , i ヽ,ヘ. ∨ /
/ ,| ,ンイ/ ヘ }|:::|} ノ ,! ∧ ' ,'
(一仕事を終えた表情)
確か、外ではこうやって〆るのよね、うん。
次は樹をなぎ倒して「天」と、どどん、と。
と…・・誰が恥知らずよ!
天人のセンスをふつくしいと感じるやつは本能的に長寿タイプ。
ってか、確か、外の地上人はいろいろ詳しいのよね。
後は盗んだバイクとやらで走り出して寺小屋の硝子を全部割ればいいんだっけ?
- 206 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/17(土) 02:16:49
- ……………―――――。
早 /::::l:::l::、:::::、:::::ヽ::、::::::::::::\:::\::::::::ヽヽ::::::ヽ 駄
.く /:::!::::i:::!:::ヽ:::ヽ::::::ヽ::ヽ、::::::::::\:::ヽ:::::::ヽヽ::::::', 目
な. /:l::::!::::ヽ!::ヽ:::::::ヽ:::::::\:::ヽ、::::::::ヽ:::ヽ::::::::!::i:::::::! だ
ん ハ:::l:::::、::::ヽ::::\:::::\:::::::\:::`ヽ、:::ヽ::ヽ:::::!:::!:::::l
と /:::::::l::::::!ヽ:ヽ::::、:::::ヽ:::、:\::::: \::::::\::::!::::ヽ:!:::i:::l:l こ
か !:/!:::::!::::::!::ヽ:ヽ{:::\:::ヽ::::\:::\::ヽ:::::::ヽ!:::::::}!::::l::li| い
し j/:::l:::::!:、:::!::ト、:、:ヽ:::::`ヽ{、::::::\::::\{、::::::::::::::::i::!::l:l ! つ
な l:i:l::::i::i:、:l::lテ=-、:ヽ、_、::\_,≧ェュ、_、\:::::::::i::li::!::リ :
い !ハト:{:!:i:トN{、ヒ_ラヘ、{ >、{ 'イ ヒ_ラ 》\::l::!:ト!!:l::l! :
と ヽ i、ヽ:ト{、ヾ ̄"´ l!\ `" ̄"´ |::!:l::! j:ll:!
: !::、::::i l u |:::/lj/l:!リ
: ヾト、:!u j!/ j|:::リ
ヾ! ヽ ‐ u /イ´lハ/
}ト.、 -、ー-- 、__ /' !:://
リl::l゛、 `二¨´ / |/:/
rー''"´ト!::i{\ / / !:/
/ ^ヽ ヾ! ヽ _,,、'´ / j/
常識がないってレベルじゃねえぞ、これ。
勝手に他人の敷地内の木に悪戯書きしただけじゃなく切り倒すっておい。
「…一仕事終えた表情、じゃねえっ!」
不意打ちだまし討ち。略して不意だま。カカッと踏み込んで帽子の上から拳骨。
サツの到着待つまでもない。ここで説教くれてやる!
「尾崎豊の歌は聞くのはともかく実行はNGだ!てかここまでやるやつなんていねえよ普通!」
拳骨を食らわせた頭にさらにぐりぐり攻撃。
何でここまで来て悪ガキのしつけみたいな事せにゃならんのか。
銃刀法違反完全抵触の長物まで持ちやがって。
「ったく、ちょっとこっち来い!本来なら正座させてやりたいところだが地面が地面だしベンチで勘弁してやる!」
俺は説教をするため、この目の前にいる素行が最悪の少女をベンチに座るように促した。
- 207 名前:<非想非非想天の娘> 比那名居 天子 ◆pYUTORIB/o :2009/10/17(土) 02:32:16
- ふべっ!?
何いきなり殴って来てるわけ?
親にも殴られたこと無いのに!
いきなり殴られる気持ち考えたことありますか?
事前に殴られるとわかっていれば無念無想も出来ますが
わからない場合手の打ち様が遅れるんですわ?お?
ちょとsYレならんしょこれは…?
早くあやまッテ!
はぁはぁ……全く、大声あげさせないでよ。
ふん、ここに座ればいいのね。で、何?
ああ、コーラとか9本でいいわよ。
地上の飲み物は珍しいから、持って帰るし。
- 208 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/17(土) 02:49:30
- >>207
「いきなりも何も!故意に器物を破損させるってことは、逮捕か!殴られるかだ!」
そもそも殴られるだけで済むのは子供の間だけにして欲しいものだ。
ここでは一応子ども扱いはしてやるが。
しかしだ、この年でそいつはちょっとどうかと。
「親にも殴られなかった事が他人の木を勝手に切る事の免罪符になるかっ!
お前に必要なのはコーラじゃなくて冷や水だっ!このっこのっ!」
反省の色が全く無いって言うか殴られた理由すらわかった様ではないどちら様のこめかみに
中指の第二関節を当て、ねじ込むように痛めつける。
これこそ馬鹿なことをやった人間に対する伝統芸能的折檻、『ぐりぐり攻撃』である。
無念無想だかむーざんむーざんだかなんだか知らないが、そんな奇術なんて発生させる前に
破壊力ばつ牛ンのこの原始的な技の威力を思い知れ!
…で、ひとしきり摂関が終わったあと、俺はなんだか疲れて溜息が出てしまった。
なかなか大変なんだな、これって。
「…それでだ。何で他人の木を勝手に切り刻んだりしたんだ?謝って欲しいと思うのはその人だろ。
朝起きたら勝手に自分の管理する木が切られていたら誰だってショックだろうが」
俺は頬を指で掻きながら、この壮大な非行の訳を聞いた。
- 209 名前:ビュコック ◆IKCwFPDFgg :2009/10/17(土) 03:09:00
- たまの休日。眠れぬ夜に、珍しく散歩をしてみれば・・・・・・・・・・・はてさて。
小さな丘の上、紅葉がはや散り始めた樹。そのたもとのベンチで、見慣れぬ軍服姿らしい青年と
青い髪の上品そうな少女がなにやら言い争いをしていた。と、青年が少女のこめかみに拳を当て、
ぐりぐりと折檻を・・・・・・・・・
「 お い 。 」
思わず声が出てしまった。
「お若いの。事情があるのかも知れんが、とりあえずその子供から手を離せ。
いくらなんでもやり過ぎじゃ。」
声をかけながら、ベンチに近づいた。
- 210 名前:<非想非非想天の娘> 比那名居 天子 ◆pYUTORIB/o :2009/10/17(土) 03:09:39
- >>208
痛い痛い痛い痛いってば!
内側に来るのは黄金の鉄の塊の天人を
以ってしても防げないっての!
それに冷や水は怪異紫ババア(仮)や怪異花咲ババア(仮)といった
年寄りが取るものでしょ!?
私はまだ二百年とちょっとしか、痛いってば!
あー、痛かった、まだひりひりする。
……えーと、貧弱一般人がやれば、ただの悪戯。
リアル天人属性の私がやれば、アートとかいう感じで。
最近、本気で暇なのよ。
天界まで上ってくる物好きも一時期に比べて減ったし。
この前入手した人生ゲームとかいうので暇潰しになると思って、
一人でルーレット回していても、単調でつまんなくて、
実は多人数でやるものと後で知ったんだけど、
相手してくれる人がいなくて……じゃなくて!
ほ、ほら、じ、人生の侘しさを擬似的に楽しんでいたけど、
そろそろ別の楽しみを見出そうと思っただけ!
―――つまり、これが若さかってことよ! わかった!?
- 211 名前:<非想非非想天の娘> 比那名居 天子 ◆pYUTORIB/o :2009/10/17(土) 03:25:03
- >>209
……うん?
(匂う。
こいつはくせえッー!衣玖以上の
においがプンプンするわッーーーッ!!
慌てない、一級天人は慌てないッ!)
ごほん。
こんばんは。とんだ見苦しい所をお見せしました。
いえいえ、大した事ではありませんので、ご心配無く。
ひとの擦れ違い、誤解による諍いというものは、
何処にでもありますから。
人が二本の足で地に立ってから、
そして、虚空の彼方に飛び出る時になっても。
けれど、幸いにして私も、この目の前の方も
前向きに話し合おうという意思はあるのですから、
大丈夫ですから、お構いな――誰が子供か
あのねえ!
これでも私は++高貴な天人++なのよ!
それを子供呼ばわりするなんて!?
- 212 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/17(土) 03:27:35
- >>209
年老いた、しかし力のある声が俺を射止めた。
振り向けば威厳ある、年相応とは思えぬ動きの男性がいた。
…いや、しかし。これは見覚えがある動きだな。軍隊系の訓練を受けた人間の。
退役将校の方だろうか。敬意を払わなければ。
「…失礼。大人気ない行動でありました。猛省いたします」
すっと背筋を伸ばし、上官への報告のようにきびきびと言葉を紡いだ。
「経緯をお話いたします。
まずその倒木ですが、信じられないと思いますが、彼女が切りました。落書きの上で。無論管理人に無断で。
及び、この銃刀法に抵触するであろう武器を所持。警察への通報を行おうと思いましたが、考慮の上、私が独断で指導しました」
包み隠さず過去を俺は語った。
>>210
アートって、まだ言うかこいつ。
頭を抑えながらも何か本質的な意味で勘違いしている。
あと200年って言ったな。その言葉は真実だろう。俺よりも年上じゃねえか。
「…一人人生ゲーム?ああー…そりゃ、侘しいな」
専門用語が多そうなので一度頭の中に纏めなおしてみる。
彼女は天界在住。天界がどんなとこかは知らないが、そこに住んでいるから天人と名乗っているのだろう。
そんでもって以前はよく客が来たが最近は来なくなった。
そして暇で寂しくなったもんだから地上に降り、破壊活動を行った。
「…ん?つまりボードゲームで一緒に遊んでくれる友達がいないからここで木に八つ当たりしてたと。この解釈で良いか?」
あ、もうちょっとオブラートに包むべきだったかな?
- 213 名前:<非想非非想天の娘> 比那名居 天子 ◆pYUTORIB/o :2009/10/17(土) 03:43:01
- >>212
そりゃ侘しいっていうか、イベントのご祝儀でも
誰からも何も貰えない虚しさって言ったら、もう
……じゃない!
だからッ!私は天人ッ!
対等な者なんていようはずもない!
それを言ったら、身も蓋もないでしょ!
良い?
私は上ッ! 貴方は下ッ!
この八つ当たりもといラクガキは
愚劣なる地上の民に対する裁きの鉄槌!
地上人は我ら優良種たる天人に、管理運営され、はじめて未来を見ることができるのである。
その事実を無能なる者どもに思い知らせ、全人類の未来の為に天人は立たねばならんである!
という訳で天人の私が大地に立ったでおk。
理解した!?
/\ヽ,/ `/\ / ハ
{ _/ ( ノ .)'ヘ_,rく
<´ ̄  ̄二ニ === ニ二 ¬‐''.,, 人 Y
` ゙</ ̄ / / ヽ ', ヽ`ヽ、 `ヽ  ̄
/ ./.、 { } )_」 l l !`ヽ \
l / /.|/l/l/\ 匕|ノ|__リ / 从___)_)
| ,' l./!、「{`ヽ`ゝノr'"´j゙ル' / ト、
l/l ', 从,._ノ〕 , ゞ-'ノ'//| l \
. _ ', ,/ヽ人'' r‐ヘ '' ノ! ,' ,' \
/ ` ー/ `Y />r'´ ヽ>‐-ヽ--'<__j / / ヽ
ゝ. ___ l ノ´ `i ト、゙ヽ\ヽ/ | / /、. ヘ
/(__ノ 人 _ノ ,ノ ', ', ノ |ヽ' / ,/ } ヽヽ ハ
ゝ-、_ _ノ´ ̄ `ヽ. _,,..', く.._」_r'´ /', ソ| ヘヘ ',
 ̄ / 「 }.リ .', ', / レ'_ノ l l リ
//! ノ ノ' `'ー | |' ,'´ | ; ,'/
l/ { _〈 | | ./ 〈 ,'
\, '´ <>、_ | | _> 、', /
, '´ <> {ヽ.` ̄`ー -‐ァ⌒ヽ 丶._/
/ <> 人  ̄\ ̄ ̄ \ \
- 214 名前:ビュコック ◆IKCwFPDFgg :2009/10/17(土) 03:46:03
- >>211
>(前略)とんだ見苦しい(中略)天人++なのよ!
こちらに気付いた少女は、乱れた髪や服装を手早く整えると、優雅に微笑しながら
応えてきた。長く蒼い髪、清楚なスカート、上品に傾いだ帽子の羽(葉?)飾りが風で
可愛らしく揺れている。
「おぉ、思ったより元気そうだな。結構。どこも怪我はしておら――」
>それを子供呼ばわりするなんて!?
「――かね。」
語尾がおかしくなったのは、ご愛嬌、じゃな。少女は突然小さな体全体で怒りを表現しながら
大声で叱ってきた。
「なるほど。」
子ども扱いされたのが気にいらないようだ。自分にも、覚えがあるその非常に子供らしい、
微笑ましい有様を見て自然と頬が緩む。子供時分は誰もが、大人になりたいと願ったものだ。
なればなったで、子供に戻りたいと思うものもいるようだが。
こういうとき、自分はどういう対応に出会って喜んだだろうか?数十年前の記憶を手繰り・・・
答えを出した。
「これは失礼した、お嬢さん。わしはアレクサンドル・ビュコックという。
あなたのお名前は?」
外に出るときは、用心の為に必ず着てください。警護の士官に言われた通りに着込んだ
軍服のベレー帽を取り、気をつけの姿勢で尋ねた。
>>212
少女の返答を聞いた後。
青年の方を見ると、彼は彼で直立不動の姿勢でこちらへ報告してきた。どうやら、やはり
軍人であるらしい。生真面目そうな瞳に、少女暴行犯のような卑劣な光は見えなかった。
>「経緯をお話いたします。
> まずその倒木ですが、信じられないと思いますが、彼女が切りました。落書きの上で。無論管理人に無断で。
> 及び、この銃刀法に抵触するであろう武器を所持。警察への通報を行おうと思いましたが、考慮の上、私が独断で指導しました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
嘘を言っているようには見えない。目の前では、一抱えもあるほどの樹が倒れており、
青年の手には、少女が扱うには難渋するだろうほどの剣が握られている。青年の目を見るが
そこには真摯な光がたたえられたまま。
やはり、嘘を言っているようには見えない。
「・・・・・・・・・なるほどな。貴官、軍人のようじゃが名と階級は?あぁ、所属はいらない。
どうせ、わしの知らぬ名じゃ。」
後半はただの勘だが。とりあえず、軍人であるならば答えざるを得ない質問をして時間を稼ぐ。
こちらからは名乗らない。好奇心の強い、あるいは義務感の強い軍人ならば、勝手に聞いてくるだろう。
少女に振り返る。
「お嬢さん、この軍人が言っていることは本当かな?」
- 215 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/17(土) 04:07:14
- >>213
「理解できるかっ!」
もう一度拳骨食らわせてやろうと握りこぶしを振り上げたが、老人―――ビュコックと名乗った―――
の面前であるし、何よりも怒りより呆れが強くなったのでやめにした。
「…はぁ。そんなんだから友達できないんだろ」
ストレートな言葉の矢を彼女めがけて放つ。
…鏃はもうちょっと丸めたほうが良かったかもしれない。
「いいか?天人だかなんだか判らんがそんな意思があるならもう大挙して人間界攻めてるはずだろ。
…その考え方、実は天人全体のものではなく、お前一人だけのもんだろ?」
虎の威を借る狐、という言葉があるが彼女も天界の威を借る俗人であろう。
天人がコーラを要求するわけ無いだろ。
…ま、人間俗っぽいほうが付き合えば楽しいんだけどね。
「身体能力とかその辺りだったら確かにお前のほうが上かもしれない。だけどさあ…」
もう一度溜息。
「上だ下だビクビク気にしながら友人を探して、ほんとに出来ると思うか?」
率直な、嘘偽りの無い言葉を出した。
>>214
…いや、信じないよなあ。俺もここに着任したばっかだったら信じないと思う。
しかし俺はこの目ではっきり見たからな。木をまるで麩菓子の如くザクザク切ったのを。
「…自分の階級は少尉、名はシロー・アマダと申します」
彼女からビュコックに視線を変えた時、姿勢も背筋を伸ばした、軍隊流の回答をする。
…もしかしたら彼女は不満そうな目でこちらをにらんでいるのかもしれない。
まあ、とにかくこの自信満々な少女の事だ。
さっきから俺に向かって大声で八つ当たりだとか叫んでたし。
- 216 名前:<非想非非想天の娘> 比那名居 天子 ◆pYUTORIB/o :2009/10/17(土) 04:10:02
- >>214
なな、何よ、その見世物小屋の珍獣を見るかの様な
生暖かい眼差しは!?
私はれっきとした大人なのよ!
二百年ほど前にすでに大人への階段――
バーニング・ダーク・フレイム・オブ・ディッセンバー
(古代伝説の暗黒魔竜の力を借りて、
お父様が天界で成り上がり天人と蔑視されている事を知った夜、
人生で初めてのタバコを吸う。)
――も上ったわ!
最近じゃ下着も黒のレースのに変えて……
……こほん。
う、うん。えっと。
私は日出づる国のとある所の大地を管理する比那名居一族の長の娘、
比那名居 天子(ひななゐ てんし)と申します。
ビュコック様、聊か騒がしい出会いとなりましたが、
こうして知り合えて光栄です。
_ ト 、
\ `ヽ! ,ハ
,. -─-\, | /,. -‐─-..、., /|
∠.,,__ `>'´::::::::::::::::::::::::::::`::、/ /
__`>'´-‐-、::::::::::::::;:'´ ̄i`Y ./__
\__:;:. ''"´ ̄`○)i ノ ハ/ __/
/ ´ ヽ、__ノ::::`''<i
/ . / __ ヽ. \:::::::::::::\
,' / ,' ,! ,ハ` | | | ` ー--r‐'
i. ! .i__! /ァ‐テ‐-、,| |/ ! !
| | |ァレ' j__ソ^レ/ / !
| 八 !ハ! ''"/ , ' !
|' /\|〈 / / | |
ノ´ ,' '! -‐' / / ,ハ | |
/ `>、 ,|/ ∠ ! / |
/ / |`rイ,' ,' />-‐く |
/ / _,r'ソr/ ,'/ \ !
/ /)/「7‐|7 . / `ヽ!
,' /,.-'‐‐'ァくム! ,' /! _ 〉
/ / ,.-‐</:::/ | / // _ァ'"´::::::::`Y |
/ / -─イ!o:;' !/! ./〈 /:::/´ ̄`∨ .|
"´ ,! _,..イ´!:::|{ レ' !>‐〈:::∧ ', |_ _
/ /ヽ| {|__|} /-'ァヘ ∨´ ̄ /
ー-<7 .ム /! }!:::|{ イ ,〈 ,' ∧ ヽ. ,〈
- 217 名前:<非想非非想天の娘> 比那名居 天子 ◆pYUTORIB/o :2009/10/17(土) 04:13:18
- >>216
>「お嬢さん、この軍人が言っていることは本当かな?」
う……は、はい、本当です。
秋の陽気に誘われて、少々羽目を外してしまいました。
夜分、遅い事ですし、ここの管理者の方には
後日改めて、正式に謝罪と賠償を行いつもりでございます。
- 218 名前:<非想非非想天の娘> 比那名居 天子 ◆pYUTORIB/o :2009/10/17(土) 04:26:16
- >>215
>「…はぁ。そんなんだから友達できないんだろ」
ぐ。
>「いいか?天人だかなんだか判らんがそんな意思があるならもう大挙して人間界攻めてるはずだろ。
> …その考え方、実は天人全体のものではなく、お前一人だけのもんだろ?」
ぐぎぎぎぎぎぎぎぎ。
>「上だ下だビクビク気にしながら友人を探して、ほんとに出来ると思うか?」
………分かってるわよ、そんなの。
百年単位で家族も私自身も周囲全てから、
見下されてる気持ちは絶対分かんないでしょうけどね
ふん。
興が冷めたわ。
|`\ ,. -──-...、 ト、 ./|
人 .! /:::::____:::::::>-、/ ∨ /
/ ̄`ヽ|>''"´:::::::::::::::::`( ノ )‐ く/
 ̄>'"´>''"´ ̄ ̄ ̄ ̄`゙''<! ,ノ)\
;'::::::/ /` 、 `'<\::ハ いいっ!?
\/ / /| , ハ | `Y/
,' ./ ! メ、 / ! /| /_, ! .! | ちょっと正論で運よく論破出来たからって
| .| |ァ'7>、, ', / ァ'イiヽ! .| |
∨`| |! '、_り ∨ '、_り ノ | | 調子に乗らない事ね!
, ! !、xx ' xx,| ! .八
/ | | > 、 i´  ̄ `! ,.イ! !/ ヽ. 今夜は引き分けにしといてあげる!
./ ∧ |,.-‐イ`i7ァニi"´ト-| ,ハ ハ
/ ∨ r'─ ァ‐r-─'ァ. レ'`ヽ! / !
,' r〈 〉:::::ァト-ヘ:::::〈ハ 〉 ' |
! ∧>、__トイ_」o|__(\ |ー-‐イノ ,' こんな所、二度と来ないわ、ばーか!
! |/`ー-ァ| |( ∨ー‐ァ' ./
| __,/ /∧、 |o|>-、 \ / /
',(__,r/::::/ `ァー---r‐`ー‐イ\イ でも、コーラとかたこ焼きとか地上の
ヽr/::::::::/、 / | ,ハ::::ハ、 のものでもてなしてくれるなら、
く人:::::く\へ.__ __rへ/::::::人> 来て上げてもいいからね!
\\::7--へ._><><__/::://
`ト>、:::/___:::::::::___::!>'r '´ あんまりクドクド説教ばかりだと
ト、_ア`'ー-‐'´ ̄`ー‐ヘ _.ノ| 幸せになれないんだから!
!__/ ∨_,!
(退場)
- 219 名前:ビュコック ◆IKCwFPDFgg :2009/10/17(土) 04:31:37
- >>215
>「…自分の階級は少尉、名はシロー・アマダと申します」
不承不承、という訳でもないが些か不満げな顔で青年は――シロー・アマダ少尉は名乗った。
きちんと背筋を伸ばし、簡潔明瞭な軍人特有の話し方である。少なくとも、危険人物では
ないらしい。
だが、先ほどの所業を見ているため、一言言わずにはおれなかった。
「なるほどな。そこのお嬢さんから手を離した後の貴官の話、たしかに尤もなものじゃ。
じゃが、それだけ誠意を持って理路整然と話をできるのならば、最初は言葉で諭すべきでは
なかったかね。人命がかかっていたわけでもあるまいて。」
ここで、少女に聞こえぬように少し声を潜める。
「子供を教え諭すのが、我々大人の仕事じゃろう?」
声を戻す。
「とにかく、貴官が怪しい人物でないことも、おそらく嘘を言ってないだろうことも分かった。
・・・意外かね?だが、そもそもわしと貴官が出会ったこと自体が既に異常じゃ。こう言うと
ボケ老人と思われるかも知れんがね、おそらく貴官とわしとは所属する軍だけでなく、
住む世界が違う。おそらく、ここはどういう場所なのだろう。」
樹と月と、少女と青年とを順繰りに見回しながら言い・・・ここでアマダ少尉に答えていないことに
気付いた。
「わしは、アレクサンドル・ビュコック大将だ。」
言いながら右手を上げかけ―――そのまま、握手の形で差し出した。
軍が違うなら、敬礼もそれほど重要ではないだろう。最初に怒鳴りつけた詫びだ。
>>216
>私は日出づる国のとある所の大地を管理する比那名居一族の長の娘、
>比那名居 天子(ひななゐ てんし)と申します。
少女はそう名乗ると可愛らしく、また見ようによっては優雅に一礼した。どうやら、旧家の娘らしい。
こうしてみると、少尉の言うような傍若無人な振る舞いをしたとはとても思えない可憐な少女だ。
バーニング・ダーク・フレイム・オブ・ディッセンバー、が少しばかり気になるが。
「ご丁寧にありがとう、テンシさん。わしもお会いできて光栄だ。」
微笑みながら礼を返し、どういうことだと少尉に質問しようとするとテンシは、とんでもないことを
口にした。
>>217-218
>う……は、はい、本当です。
>秋の陽気に誘われて、少々羽目を外してしまいました。
>夜分、遅い事ですし、ここの管理者の方には
>後日改めて、正式に謝罪と賠償を行いつもりでございます。
あっさりと認めおった。
「最近の秋の陽気には、興奮剤でも混入されておるのかな。」
少しばかり呆れながら一人ごちる。とまれ、誰も怪我をしたわけでなし、樹が数本倒れたのみ。
同盟領であれば口も効けるだろうが、本人が謝ると言っているのならこれ以上言うこともない。
「ま、元気があるのは良いことじゃ。じゃが、趣味は時と場所を選んでやるのが
大人の嗜みじゃて。」
そんなことを言っているうちに、少尉の言葉に刺激されたのかテンシは可愛らしく怒り、
去っていった。
「・・・・・次は、何か御菓子を用意しておいたほうが良いだろうな?」
少尉を振り返り、苦笑しながら言葉を投げかけた。
- 220 名前:不確定名:メイド服の女性 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/17(土) 04:55:49
- 宙に浮いた買い物鞄を押しながらメイドが宙を行く。
篭からは魚や茸などが顔を出しており、内に随分な量が詰まっているのは一目瞭然だ。
と、飛び去る不良天人を見かけて思わず宙に静止。
珍しい顔を見た。
いつぞやの異変の折以来だろうか。
なにやらぶちぶち不機嫌にこぼしながら飛んでいくのを見て声をかける気力を失う。
やつあたりを望んで受けに行くほど、M気質ではない。
転じて眼下に目を向けると軍人らしき姿が二つ。
一方はどこかで見たような顔。
「あら」と思わず声に出た。
もう日の出も間近のこんな時間に一体何をやっているのか。
たしか家族のある身とか前に言っていたような言っていないような。
離れて暮らしているから迷惑をかける心配はないということなのだろうか。
あるいは作戦行動中か。
挨拶だけでもしていこうかな。
……が、いずれにせよ空中から声をかけるべきではないか。
時間停止
ふわりと地上に降り立って停止を解除する。
そして宙に浮いた買い物籠をカートの如く片手で押しながら、二人に会釈した。
「こんばんは、もう夜も終わりですのにお仕事かしら?
軍人さんは大変ですわね」
自分の事など完全に棚に上げて、二人に微笑みかけた。
- 221 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/17(土) 04:56:50
- >>218
言葉の一つ一つがクリティカルヒットというか、効果はばつぐんだというか。
ただ最後に少しだけ気になる言葉を小声で呟いた。
その後、バヒューンという擬音が出てきそうな勢いで去る天人。
…多少は反省してくれただろうか。
してるといいんだけどなあ、とこれでは希望的観測じゃないか。
「はいはい、引き分けね。勝ち越したかったらいつでもくるんだな」
初めて笑顔―――といっても苦笑いみたいなもんだが―――を見せて見送る。
木は、まあ…後でどうにかするって言ってたから良いか。
…良いのか?
>>219
言葉で諭すべき、か。ううむ、そうしたいのは山々なんだけどなあ…。
「…返す言葉もありません。―――ただ確かに命の危険はありませんでしたが、度を越した非行行為でした。
思わず体が動いてしまいまして…その」
言葉が後に続かない。
どうにもいってしまえば小恥ずかしいような気もする。
「強い形で引き止めないでおくと、なにか大きな間違いをしかねないと思えまして。
…彼女、親に殴られた事も無いと言っておりました」
何の形であれ痛みは知らなければならない。
もしかすると彼女の言いようから痛みを無くす能力でも持っていたのだろうかと推測できる。
しかし、自身の痛みを知らずにどうして他人の痛みを知る事が出来ようか。
その思いは口に出さず、前に出された手を握った。
「ご丁寧にどうも…ビュコック閣下。あまり気になさらない事です。自分はもう慣れました。酒によって見る幻覚とでも思えばいいです」
にしても大将か。だいぶ階級が離れている。
昔はおーベルシュタイン閣下やヤン提督にもお目にかかったが、これまたどこかの大将とは。
菓子、菓子か。
「…まあ、話している限り性根から完全にひん曲がっていたわけじゃないようです。
大いに非常識ではありますが、誠実でないというわけではありませんから」
そう言っているともう月も落ちようとしている事に気づいた。
「それでは閣下。自分はこれで。失礼します」
ビシッとした敬礼。軍人同士の別れの挨拶。
それを済ませると俺は自転車という酷く俗っぽい移動手段に頼って自身の基地に戻ったのであった。
【退場】
- 222 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/17(土) 05:03:17
- >>220
さて、これから坂道を下ってと。帰って仮眠を取って…と考えハンドルを切ったら。
なんだって。何でこんな時に。
まさかこんな時間帯にあうなんて。ブレーキをかける。
思いもよらないさ。なんせペダルを漕ごうとしたらいきなり目の前に現れるんだもの。
「のわっ!?」
大きな金属音がして自転車が倒れる。籠、また曲がったのだろうか。
加速する寸前だった為軽症で済んだが。
「いてて…やあ、相変わらず心臓に悪い登場をするな」
カラカラという音を立てて宙で車輪が回っていた。
- 223 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/17(土) 05:10:17
- >>221-222
あらあら。
老軍人に敬礼するとこちらに気付きもせずに走っていって……あ、気付いた。
随分と焦っておいでのご様子ね。
「こんばんはアマダ様、
脅かさないように地上に降りたのだけど、かえって驚かせてしまいましたね」
苦笑しつつ自転車を起こすのを手伝う。
カゴが曲がっているようだが、車体そのものの傷は少ないようだ。
と、周りを見回して初めて惨状に気がつく。
いや、むしろ参上というか。
「これはこれは……」
あの子の仕業に間違いない。
ああ、なるほど。
なんとなく状況が推理できた。
あの不良天人が暴れている所にアマダ少尉が出くわしたらどうなるか。
およそ予想がつくと言うものだ。
「損なご性分ですのね……小さな親切は通じまして?」
悪戯っぽく問うて見る。
- 224 名前:ビュコック ◆IKCwFPDFgg :2009/10/17(土) 05:14:10
- >>220
>「こんばんは、もう夜も終わりですのにお仕事かしら?
> 軍人さんは大変ですわね」
声を掛けられた方向を見ると、メイド服の若い女性が一人いた。年のころは十代半ば。
足音も気配も一切しなかったのは気のせいか年のせいか、あるいは――――。
こちらへ歩んでくる銀髪のメイドはたおやかな笑みを浮かべていた。こころなしか、
視線はアマダ少尉のほうへと向けられている。
「なに、ただの散歩じゃよ。年よりは、朝が早いでな?」
こちらも笑顔で返しながら言葉を続ける。
「あぁ少し遅かったな。『彼』は行ってしまったようじゃ。色々とあったようでな。
・・・あなたこそ、こんな時間にお仕事かね?女性の身でご苦労なことだ。」
少女とともに、自転車で去っていく少尉を見送りながら話しかけた。
>>221
少尉の背中を見ながら、先ほどの遣り取りを思い出す。
・・・・・・・・・・・・・・なるほどな。
「やはり貴官は、誠実な人間であるらしい。」
少尉の瞳には、信念のような何かが浮かんでいるようにも思えた。
「貴官は貴官なりに、あの娘を慮っていたわけじゃ。わしとしたことが気付かなんだ
・・・・・悪い事をしたな。」
だが、この青年士官は何事もなかったかのように手を離すと、色気のある(見事な)敬礼を
して自転車にまたがった。その背中へ声をかける。
「あの娘も、それなりに暇つぶしにはなったじゃろう。無論、わしらもじゃが。
次は、もう少し穏やかに話せればよいな。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と見送ったはずだったのだが。
>>222
>「のわっ!?」
目の前で少尉が盛大にこけた。
「・・・・・・・・・・愛しの君でも現れたような慌て方じゃな、少尉。あそこまで見事なコケッぷりは
久々だて。」
笑いながら、助け起すために手を差し出した。
- 225 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/17(土) 05:20:30
- >>224
ああ、こちらも顔だけは見た記憶がある。
スキマ妖怪が置いていった本に載っていた遠い世界の共和国の軍幹部。
だが、なんと言ったか、眺めるに留めたため、名前までは記憶していない。
門番が読み込んでいたから、きっと彼女なら覚えていたかもしれないが。
「ああ、私ですか?
昨日、食糧を不意に消耗してしまったので少し用意しようと思ったのですが」
言って買い物籠に視線をやる。
実は容積をいじっているので見た目以上に大量に物が入っている。
とは言え焼け石に水だ。
日が登りきったら人里へ再度買い物にいく必要があるだろう。
「最近主人が昼夜半逆転気味でして……ついついこんな時間になってしまいましたの」
夜が明けますのでそろそろ一区切りつけようかと思いまして。
軍人の言葉に同調してそう言ってはみたが……
老人の朝が早いと言っても出歩くにはまだ早すぎるような気はした。
まぁ、他人事ではあるのだが。
「散歩は太陽が顔を出してからの方がいいですよ?
妖怪や殺人鬼に出会ったら大変ですもの」
と、抜け抜け余計なお世話を語ってみた。
- 226 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/17(土) 05:29:46
- >>223
「いや、そりゃびっくりするだろ。普通人間は突然ワープなんてしないんだって、知ってるか?」
不満げに口をこぼしたくもなるさ。
視界に人間が何の兆候も無しに目の前に出たらハンドルも誤るっての。
で、周りを見回す咲夜は何かを心得た様子で呟いている。
…まさか。
「…なんだ、あの非常識天人は知り合いか?」
向こうもいろいろな人妖がいるものだ。
羽根が生えた吸血鬼の姉妹の妹の方にチャイナなどんぐりを弾丸に変える程度の能力を持つ妖怪に
後はこの正体不明の手品でいきなり現れるメイドと来たものだ。
「まあ、損っていうかなんていうか…次は安い菓子折り付きで来いと要求された」
あの程度ならもって言ってやってもいいんだがなあ。とはいえ境界の超え方はなんとなくはわかるが
非常に危険なので実行しない。そっちの世界のキーポイントとなるお守りを持っているとはいえ。
家内安全がどこまで保障されるのかわかったものじゃない。
>>224
「…閣下。愛しの君は遠く離れた土地に居ます。このメイドさんは違います」
差し伸べられた手に甘んじて立ち上がったが
やはり只者じゃない、か。デスクワークのみで上り詰めたとは思えない力だ。
どこの所属か気になるものだが、聞いても無駄だろう。
- 227 名前:ビュコック ◆IKCwFPDFgg :2009/10/17(土) 05:36:07
- >>225
>「ああ、私ですか?
> 昨日、食糧を不意に消耗してしまったので少し用意しようと思ったのですが」
>「最近主人が昼夜半逆転気味でして……ついついこんな時間になってしまいましたの」
相変わらずたおやかな笑みを浮かべたまま、答えるメイド少女。一体どこへ何をどんな時間に
どれだけ買い込めばこんな時間になるのか。とは思うが、それぞれに事情があるだろう。
初対面で聞くべき事ではない。
「なるほどな、お互いに宮仕えはつらいものだて。」
肩をすくめ(素振りだけだ。この年になるとそういう動作もなかなかに辛い)ながら苦笑する。
すると、少女は微笑んだまま妙なことを口にした。
>「散歩は太陽が顔を出してからの方がいいですよ?
> 妖怪や殺人鬼に出会ったら大変ですもの」
妖怪。殺人鬼。目の前にいる少女と、吐き出された単語とのあまりの落差に少しばかり驚くが
まぁそれも「この場所」だからこそだろう。あのテンシのような娘が出入りする場所ならば、
何が起きても不思議はない。
「そうさな、殺人鬼はともかく妖怪は面倒じゃな。白兵戦技など習ったのは遠い昔だし、
悪霊退散のまじないなど聞いた事もない。お手上げじゃな。」
言いながら不器用にウィンクをしてみせる。まぁ、片目を閉じただけなんじゃが。
「尤も、妖怪の類は若い女性を好むとか。危ないのはあなたの方ではないのかな?」
>>226
>「…閣下。愛しの君は遠く離れた土地に居ます。このメイドさんは違います」
どっこらっせっと・・・・・やれやれ、多少骨が折れるな。
「こうやって誰かを助け起すのは、一兵卒だったとき依頼じゃて。」
年は取りたくないものだ、たったこれだけの動作で少し息があがってしまうとは。
少しばかりの無念さと、転んだ直後というのに何事もなかったかのように振舞う
若者への羨望を込めながら聞く。
「その口ぶりじゃと、どうやら知り合いのようじゃな。少尉、紹介してくれんかね?」
- 228 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/17(土) 05:37:03
- >>226
「こちらに走ってくると思わなかったのよ」
そりゃワープはしないだろうが、こちらとて降りる前は走り出す仕草もなかったのに、
停止した時間が動くと同時に自転車でいきなり走り出すとは思いもしない。
非常識天人。
なるほど。
やはりと言えばやはりだが。
アマダ様は想像した通りの反応をされたご様子。
天人がぶつぶつ言いつつ飛んで行ったのは……もしかしなくても説教のせいだろう。
「ええ、まぁ、ちょっとした……」
知り合いは知り合いだが……
すこし言葉が濁るのはやむをえない事だろう。
例の異変はそれは大きな騒ぎになったものの、原因はひどく小さなものであった。
その異変の過程で顔をあわせ、宴会でも同席したことが何度かあるが、
それ以上につっこんだ付き合いはまだした事はない。
あくまで知り合いであって友人と呼ぶにはまだ少し距離があった。
アマダ様の説明に我慢できず少し噴出してしまう。
菓子折りは菓子折りでも駄菓子の菓子折りとは気が利いている。
ビックリマン神社でも用意しろと言うのか。
……と、空がうっすら明るくなっているのに気付く。
「それはそうと、アマダ様、お時間は大丈夫ですか?
もう日が出ますよ?
ここで会ったのも何かのご縁、なんでしたら基地につくまで時間を稼いで差し上げますけど」
懐から銀時計を取り出して時刻を確認し、上目遣いで心配の視線を投げつつ尋ねてみる。
たやすい事だ。それこそ私には時間を止めてでも時間を稼ぐ事ができるのだから。
なんとなく、これも答えは想像できていたが。
- 229 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/17(土) 05:43:44
- >>227
殺人鬼はともかく。
その言葉にはっとする。
「そう言えば軍人様でしたわね。
申し訳ありません、そちらについては要らぬ心配でした」
表向き過剰な心配を侘び、裏で悪ふざけを詫びる。
「妖怪の方は私が専門家ですので、今襲ってきたらお引き受けしますわ」
まじないなど知らぬ、女性は危険ではとの言葉に涼しい顔で答える。
まぁ、冗談ととるかもしれないが、それはそれで良いだろう。
ちなみに「殺人鬼でしたら目の前にいますよ」なんて素敵な言葉が脳裏で暴れるが、
さすがに笑えないだろうからそのまま脳裏の奥に封印してお札をはっておく。
- 230 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/17(土) 05:56:56
- >>227
一兵そ…え?叩き上げ?
いや、それってどうなんだろ。国家が緊急事態かビュコック閣下が偉人なのか。
どっちもなのだろうか。後者だけというのが理想的なんだが。
「あーはい、紹介します。…いいのかな、こんなもんで。
とある有閑貴族の屋敷で働いているメイドの十六夜咲夜さんです」
間違ってはいない…よな?
>>228
「そりゃ…自転車に乗りながら歩くやつは―――あー、もういいや…」
なんかややこしくなってきた。
まあ、もうなんでもいいんだろう。とにかく俺が突然こけただけで。
んでもって俺のさっきの天人の評価を聞いて言葉を濁し、なんとも微妙な表情をする。
交友が少ないのだろうか。…友達がいないっていうとずばり図星だったからなあ。
あれだけ尊大な態度をとりながらもクラスで目立たない存在のような立場なのだろうか。
「…ま、そんなに天界が退屈なら地上の下層の楽しみでも見せてやるさ。
一人人生ゲ…ああ、なんでもない。もし子供に渡す菓子の詰め合わせでどれだけ喜ぶか」
俺も想像してみたら思わず笑ってしまった。
彼女はどこかに純粋さを隠しているような雰囲気がある。
貰って内心嬉しいながらも口では全然嬉しくないと相反する態度をとるように…あ、最近の言葉のステロタイプだ。
「時間を短縮って…願ったり叶ったりだが、出来るのか?」
取り出されたのは銀時計。覗き込んでみれば…ああ、なんと言う時間。
日の出も見れるだろ、これ。
「…でどういった形で時間短縮するんだ?後ろにでも乗る?」
自転車を立て直しながらも、視線をサドルの後ろの荷台に注いだ。
- 231 名前:ビュコック ◆IKCwFPDFgg :2009/10/17(土) 06:05:44
- >>229
>「そう言えば軍人様でしたわね。
> 申し訳ありません、そちらについては要らぬ心配でした」
「要らぬ心配、でもないかな。なにせもう70歳を超してしまった。」
白髪を指差しながら答える。
「今誰かに襲われたら、ひとたまりもなかろうて。銃も持っておらんし、撃っても
当たるとは思えん。まぁ、間接的にでも殺した数で言えばおそらく百万人は
超すじゃろう。殺されても、文句は言えんよ・・抵抗はするがね。」
直接、目の見える範囲で誰かを殺したという数なら殺人鬼には遠く及ばないだろう。
だが、わしの命令で死んだ人間となれば・・・・・そして、戦死者一人ひとりの裏には
その分だけの家庭、生きた年数だけの物語がある。そんな答えの出ない思考の回廊に
入りかけたとき、メイドの声が聞こえてきた。
>「妖怪の方は私が専門家ですので、今襲ってきたらお引き受けしますわ」
妖怪の専門家。
その言葉を聴いた瞬間、彼女のたおやかな笑みが不敵な笑みに見えた気がした。
勿論、次の瞬間には気品のある微笑に戻っている。
「なるほど、どうやらあのテンシというお嬢さんともお知り合いのようじゃ、多分そうなんじゃろう。」
ふと感じた違和感を無視して、話を続ける。
「まぁどうやら日も昇ってきたようじゃ、あなたが戦う姿を見れなくて残念、というべきか
幸いというべきか。わしはこう見えても差別論者でな。女子供が戦う世界なんぞ、
好きにはなれんのだよ。」
女性軍人が珍しくもない当今、こういう男が宇宙艦隊司令長官でも悪くなかろう。
>>230
と、少尉が彼女を紹介した。
>「あーはい、紹介します。…いいのかな、こんなもんで。
> とある有閑貴族の屋敷で働いているメイドの十六夜咲夜さんです」
「イザヨイ・サクヤさん。すまんが発音がおかしいのは許してもらいたい。
わしは、アレクサンドル・ビュコックじゃ。大将だの宇宙艦隊司令長官だのと
偉そうな肩書きはついておるが、御覧の通りただの老軍人じゃよ。」
しかし・・・・・・・・・
「少尉。別に悪いことではないが・・・誘うなら、せめてクッションでもまいてやったらどうかね。」
全く最近の若い者は。自然と笑いがこみ上げてくる。
「わしの部下にヤン・ウェンリーというのがいるが、彼も貴官のように不器用でな。
・・・・そういう面は、よく似ている。」
- 232 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/17(土) 06:12:14
- >>230
ゆ……!?
ゆうかん……!?
……貴族表現にいささか気になる部分はあるが、
言っても無駄と判断して諦め、一瞬横目でジトい視線を送りつつ、
アマダ様の紹介にあわせて、老軍人に深々とお辞儀をする。
「十六夜咲夜と申します、紅魔館でメイド長を勤めさせていただいております。
どうぞ、以後お見知りおきを」
驚いた。
アマダ様はあの天人の遊びにつきあおうと言うのだ。
妹様の話もきくに、彼のおせっかいは飛び切りのようだ。
命しらずさもトップクラスではあるのでしょうけど。
まぁ、アマダ様らしいなと思った。
>「…でどういった形で時間短縮するんだ?後ろにでも乗る?」
「いえ、そちらに行ってしまうと私も戻るのが大変だと思いますので、
このように……」
【時符『咲夜特製ストップウォッチ』】
指をならすと、アマダ様の周囲にいくつかデフォルメされた時計のようなものが浮かび上がる。
それらはゆっくりと秒針を刻んでいる。
「手持ちの時符を皆、差し上げます。
浮かんでいる時計はひとつにつき針が一回転すると消えます。
全ての時計が消えるまでは夜続行中…・・・というわけですわ」
専門的な説明はどうかと思ったが、一応説明しておく。
気味悪がられるのも癪だ。
「でも、急ぎすぎて事故などなさらないで下さいね?」
- 233 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/17(土) 06:23:41
- >>231
ビュコック様は鷹揚と年だからなと達観する。
自己紹介によると大将。最高幹部もいい所だ。
内心で溜息。ならばこそ、普通は用心するものだ。
年を取ったなら取っただけ老獪になればよいだろうに、
どうもこの老人は穏やかに過ぎるように感じる。
好々爺と言えば聞こえはいいが、面倒を見る部下は心配が絶えないのではないか。
他人事にも関わらず、柄にも無く心配してしまう。
だって、ほら。
私が殺人鬼や軍高官を狙う暗殺者だったらどうなるのか。
だが、そんなこの老人が不思議と嫌いではなかった。
覚悟があるからか、単に穏やかさにひかれたか、
そのあたりは自己分析が及んでいない。
あえて分析するまい。
>女子供が戦う世界なんぞ、好きにはなれんのだよ
ご立派なことだ。
素敵なお題目、それが建前でない世界であればたしかに平和だろう。
だが、生憎とそんな世界は今まで聞いた事もない。
「それは結構な話ですが……そのためには仕事が際限なく舞い込むでしょうね。
理想も素敵ですけど、ご無理はなさらない方が良いと思いますよ?」
いささか不遜に過ぎるか。
だが、なんとなく口に出してしまった。
少し推敲が足りなかったような気もしなくもない。
- 234 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/17(土) 06:25:10
- >>231
さそ…。
「ああ…いえ、ですから自分は他に愛する人が…。
…まいったな。そういうものなんですか、女性の扱いって」
目を覆ってやってしまった感を出した。
いや、自転車の後ろには悪友が乗るものと相場は決まってなかったっけ。
女性を乗せると意味が変わるのだろうか。
そしてビュコック閣下はどこかで聞いた名前を出したが、反応すると後がややこしそうなので知らないふりをした。
それよりも気になったところがあったし。
「あの…自分不器用ですかね」
>>232
あ、いや、間違ってはいないだろ、多分。屋敷に呼ばれた事無いからわからないけどさ。
俺は咲夜のじと目に心の中で一生懸命反論するしかなかった。
空を飛べるのだからそうするのかと思ったがそうでもない。
取り出されたカードはなにやら奇怪な術を発生させた。
それぞれが歪んだストップウォッチを象った不思議な文様が周囲に現れた。
思わず口笛を鳴らしてしまう。
「…魔法とかそういうのはじかに体験するのは初めてだよ。今まで眺めるくらいしかなかったから。
あ、余ったやつは貰っといていいんだな?」
MS単位を包み込めるかどうかは疑問だが、戦場においてあっても損はしないだろう。
これなら扱けた分は補って有り余る。マジックアイテムなんて滅多にお目にかからないしな。
「センキュー。それじゃ安全運転を心がけるよ。それじゃ今度こそ」
じゃあなといって俺は再びペダルに足をかけた。
もう扱ける事は無いだろう。
【退場】
- 235 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/17(土) 06:32:25
- >>234
まぁ、もし着いて行くつもりであれば飛んだかもしれないし、
荷台に腰掛けたかもしれない。
……腰掛ける方を選びそうな気もしないでもない。
腰が痛いようなら空間に干渉し始めるだろうとは思うが、
配慮の話についてはコメントのしようがない。
ジェントル的な意味ではおそらく提督の言う通りなのだろう。
と、余ったら貰っていいか。
何気なくもらった質問にあいまいに微笑んで、走り去るアマダ様を見送る。
「お気をつけて」
ごめんなさい。無理だと思います。
全部使い切るまで夜続行中は継続ですもの。
今日の時符は以前に神父にあげたような自動で危機に自力発動するようなものではない。
使い切るまでタイム延長。
既に発動してしまったから……まぁ、いいか。
手を振った。
- 236 名前:ビュコック ◆IKCwFPDFgg :2009/10/17(土) 06:38:45
- >>233
>「それは結構な話ですが……そのためには仕事が際限なく舞い込むでしょうね。
> 理想も素敵ですけど、ご無理はなさらない方が良いと思いますよ?」
イザヨイ・サクヤ。なかなかに辛らつなことを言う。これが部下達からの進言であれば
そろそろ引退為されては?という意味になるだろう。だが、この娘の言葉にはそういった
ある種の暗い意味合いが全く感じられない。
「そうさな・・・女子供が戦わずに住む世界、これが来ることは多分ないじゃろう。
来るとすれば戦争そのものがなくなった世界・・・つまり、わしら人間が滅んだ
世界だろうな。」
イザヨイ嬢から何かを貰って去っていく少尉を見つめながら、続ける。
「ま、これが本音じゃよ。だが、わしらの軍には・・・というよりも人間には、あのアマダ少尉の
ようなやつがいる。若者には特にな。そして、若者を導くものは何か?それは希望だ。
いくら努力したところで理想の世界はやってこない。そんな現実を見せられて、それでも
なお頑張り続けられる者がどれだけおるか。」
目線をイザヨイ嬢に戻す。
「だからこそ、わしは夢を語らねばならんのじゃ。どうせ彼らも気付いてはいるだろうが、
それをわしが口に出した瞬間、彼らの夢も希望も崩壊する。公的に、な。そして士気を
失った軍隊は脆い・・・わしらが滅びれば今、戦火とは無縁に生きている者たち全員が
苦汁を舐めることになる。あるいは死ぬ。それは寝覚めが悪いじゃろう。」
一息つく。
「じゃから、わしが死ぬならば理想に殉じて死なねばならんのだよ。
・・・・尤も、生き延びられるならそれに越したことはないがね。アマダ少尉のような後進に
面倒は全部譲って、妻と二人楽隠居じゃ。」
・・・・・・それこそ、夢だ。できるはずもない。分かってはいるが、あまり口に出したくはなかった。
- 237 名前:ビュコック ◆IKCwFPDFgg :2009/10/17(土) 06:44:14
- >>234
>「ああ…いえ、ですから自分は他に愛する人が…。
> …まいったな。そういうものなんですか、女性の扱いって」
>「あの…自分不器用ですかね」
「はは。」
ついに笑い声が出てしまった。
「そうさな、そうやって気にするところが不器用、なのかも知れんな。言い換えれば
純朴、素直とでも言うか。わしのことばなど、笑い飛ばしておれば良いのじゃよ。
だが、それが出来ずについ聞き返してしまうのが貴官の不器用さの表れじゃて。
しかし―――」
わりあい真剣な面持ちで聞いてくる少尉に合わせ、多少威厳めいた口調で続ける。
「不器用は悪ではない。むしろ、人間としては得難い性質じゃろう。大事にすることだ。」
戦死した息子が生きていれば、あるいは孫はこんなふうに育っていたかもしれない。
イザヨイ嬢と会話を交わし、去っていく少尉の背中を見送りながらふとそんな事を
思った。
- 238 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/17(土) 06:52:51
- >>236
少し目を細める。
この老軍人、生贄になるつもりなのか。
いつ、どこで、かは分からないが……それに類する思想が感じられた。
「……僭越ながら、賛同しかねますわね」
つま先で地面に四角を書く。
「限定された範囲で理想を実現する事はそう難しくはないと思います。
例えば、この四角の外側すべてを踏みつけにすれば、
四角の内側でだけは理想は実現できるかもしれない」
世界全てを背負うのは無理だろう。
しかし、視点を変えれば悲観するほどの事でもないように感じる。
無論、そういった犠牲も許せぬ優しい人間であれば、
これ以上はどうにもならないのだろうが。
「袖すりあう程度のご縁ではありますが、
無事、全うされて楽隠居されることをお祈りしておきますわ」
そうしたら隠居した好々爺にまたここで会えるだろうか?
そんな益体も無い祈りに、ほんの少し、希望を混ぜてみた。
お嬢様に運命は尋ねまい。
老人と少女が他愛も無い話題に笑い合える高台。
それは、きっと彼の理想に近しい情景であろうと思ったから。
「……さて、では私もそろそろ引き上げますね」
もうお嬢様がお休みになる時間。
すこし長居してしまったかもしれない。
時間を止めて早く帰ろう。
「ビュコック様、今晩は有難う御座いました。
また、いずれどこかでお会いしましょう」
スカートの両端をつまんで軽く一礼。
次の瞬間、メイドの姿はどこにも見当たらなくなっていた。
<了>
- 239 名前:ビュコック ◆IKCwFPDFgg :2009/10/17(土) 07:09:53
- >>238
>「袖すりあう程度のご縁ではありますが、
> 無事、全うされて楽隠居されることをお祈りしておきますわ」
無事を祈られてしまった。
簡素な、国防委員長や最高評議会議長が投げかけてくる美辞麗句の嵐に比べれば
あまりにも簡単なことば。だが、だからこそ、飾る必要のない真意らしきものを感じ取れた
―――と思うのは自惚れか。
イザヨイ・サクヤは一礼すると、文字通り姿を消した。
「・・・・せいぜい、そうなるようにわし自身も努力しよう。」
これもまた簡単な宣言。だが、家に残り、彼女以上の真摯さで無事を祈ってくれるだろう妻と、
孫のようにも思えた、今日この場で出会った三人にまた会えれば良い、そう思う自分がいた。
『閣下。帝国軍がイゼルローン方面へ向け出動したとの報告が入りました。』
いつの間にやら「この場所」は、ただの場所となっていたらしい。ファイフェル中佐が
地上車で迎えに来ていた。
「・・・・司令部へ急げ。」
『は!』
車に乗る前に、一度樹を振り返る。わしと同じように年を経た老木は、ひどく古ぼけ、一部は
枯れてさえいるように思えた。
「一将功成って――――」
万骨を、枯らせるものか。ファイフェル中佐も乗り込むと、地上車は司令部へ向けて速度を上げた。
【退場】
<宇宙暦798年10月。ロイエンタール上級大将指揮下のイゼルローン攻略軍進発は、
同盟領侵攻作戦『ラグナロック』の第一陣であり、その後に続く自由惑星同盟最期の時を告げる
戦いの鐘であった。アレクサンドル・ビュコック「元帥」の戦死は、この一年半後である。>
- 240 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/18(日) 00:09:05
- この高台の光景を彩る紅葉もすっかり朽ち果て、今や随分とこの風共々
艶を欠いたものになろうとしている。
だが尚、俺はここに足を踏み入れるのを止められない。
理由は以前と同様。毎度毎度どんな出会いやサプライズに出くわすか解らないからだ。
「刺激があるから人生は楽しい」
俺の人生における持論だが、何も「本業」に限った話じゃない。
つまりそう云う事だ。
「犬も歩けば棒に当たる」とも言うだろう?
今、誰が犬だと突っ込みたくなったのは秘密だ。
たまにコヨーテ犬のように呼ばわられるが。
―――さて、今日は少し趣向を変えて軽く買い物袋を提げてみたわけだが…
中はスミノフ瓶3本に…おや、酒のツマミを買い忘れちまったな、まぁいいさ。
ともかく何がやりたいのか大体解るだろう?ま、これからの流れ次第だが。
無論、いつものギターケースもお供してるさ。
序でにそこのベンチは真っ先に頂きだ。このギターケースはその端に。
とりあえずスミノフ片手に流れを眺めているとしようか。
さてもさても、今日の月もまた眩しいものだな…
- 241 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/18(日) 01:29:20
- さて…今日はどうも風の流れが悪いらしい。
折角景気づけに酒まで持ち込んでみたわけだが…
流石に一人でドカドカ飲み散らす訳にも行くまいさ。
ただどうも自分で思う話、意外に趣味が少ない様な気がしないでもないが。
まぁこういう日もあるさ。別に今に始まった話じゃない。
今日の所は一先ずここで引き上げ。
いつものごとく一日中ピザ食ってるか寝てるかしてるとしようか。
不健康な生活と小馬鹿にするヤツの声なんざ知った話じゃない。
動きたくなったら動く。寝たい時は寝る…それが俺のライフスタイル。
昼間ッから酒飲んでピザ食ってマンガ読んでて何が悪い。
その分だけ仕事はきっちりこなしてるつもりさ。
変なツケやら借金やらが何時までも消えないのはどうした事かって話だが。
いざ傍らのギターケースを背に、赤い便利屋は風と共に去りぬ…さ。
【退場】
- 242 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/18(日) 01:42:53
-
「……どうしたもんかな」
いい加減、秋風が冷たい。
花も枯れ、紅葉も散らぬ山里は寂しさを又訪ふ人もがな――などと、呼ぶヤツがいたらいた
かもしれない。そんなワビだのサビだのを知っている知り合いは片手で数えて足りるワケだが、
まあ、生憎と現状――。
「どうしたモンって、何がさね」
「いや、秋の歌って何があるかなって考えてた」
「ダルシャン・アンビエントがイーノ風の曲で作ってなかったかい? ”オータムズ・アップル”」
「歌詞すらねえよ」
それは歌とは言わねえ。
……まあ、そんな無茶を抜かす同伴者はワビサビの意味を壮絶にブッ飛ばしていることは
疑いようもなく。
スキニージーンズとトレーナーの上にへちま衿コート。秋物として云々以前で明らかに壊滅
的な組み合わせのファッションでニコヤカに歩くイギリス人。170センチを少し出るコイツの身
長では着物の良さなど引き出せない、と踏んではいたのだが、素材の良さが無理矢理にチグ
ハグな前衛芸術を演出してしまっていて、なんというか残念なことにツッコミを入れられない。
以前に会った時はざっくりと肩よりも上で落とされていた薄茶の髪はセミロングになる程度に
伸びていて、端正すぎて中性的に見られかねないツラをファミニンに仕立て上げている。
ユニクロの上下で合わせたこちらは少し申し訳ない。ぶっちゃけた話、隣に歩かせるには少
し高級すぎる西洋人形さんだ。
眠れないから付き合え、と不躾に掛かってきた電話に出たところ、数ヶ月振りにツラを合わせ
た知り合いが平然としたカオで隣を歩いている。いかがなもんかと思うぶっきら棒さんだが、い
つものことなのでスルーしておくしかない。
「んでも、散歩ってもなあ」
「この辺は来たことあるんだろう? エスコートしてくれればそれでいいよ。あたしはあんたと歩
きたいだけなんだし」
「そりゃどうも」
ならヘッドホンは外せ、と言いたくなるのだが、イヤホンを耳に嵌めたままの俺はお互い様な
ので口には出さない。BGMはクリス・ワトソンのギアナなアンビエント。延々と風の音だとか動
物の声が垂れ流される環境音楽なので、会話なんかを邪魔することはない。
なのでつらつらと駄弁りながら頂上まで来ると、
「……今日はロッカーか」
また珍客を発見。
いつもながらここは変わった人間を見るのに事欠かない。
「また?」と言葉尻を捉えるマリアさん。二人で揃えて向ける視線の先には、銀髪長身の男
が一人。ギターケースを片手に、というスタイルなら、正直日本では駅前が定番なのだが、も
しかしたら来日ツアーかなんかの帰りかもしれない。風合いとしてはロスかオレンジカウンティ
かDC辺りのアングラなクラブ(ハードコア系)で弾いてそうなアンちゃんである。
「なに、前にもああいうのを見たとか?」
「いや、前はもっと酷――じゃないな、変わってた。いつもここ、ブッ飛んだの見掛けるんだよ。
メイドさんとか空飛ぶ女の子とかピエロとか軍人とか他にも色々」
「……ストーンヘンジでも近くに立ってんのかね」
さあな、と肩を竦める。
もしかしたら呪いの墓碑でも立ってるのかもしれない。
真っ黒で人類の文明を刻んでそうなヤツとかが。
- 243 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/18(日) 02:12:33
- >>242
―――と、さっさと引き上げる勢いに見事に足止め喰わせてくれた人影二つ。
片方はどこか調和のとれていないファッションのセミロングの女。
もう片方は上下ともにどうにも地味な雰囲気の男。
女の方はヘッドフォン両耳のまま男と会話している。
会話の内容と裏腹に、男の話を聴く気があるのだろうかと疑問を禁じ得ない。
男の方もまた然り。イアフォンがしっかり耳に減り込んでる。
こいつら会話通じてるのだろうか。
それはともかく、とりあえず一声掛けてみるとしようか。
「よう。深夜のデートかい?」
他に掛ける声が考え付かなかった訳だが。
とりあえずギターケースを背に、片手にはスミノフ3本詰め込んだ買い物袋。
小規模な宴会でもする勢いまでイケるか?にしちゃ酒の量が足りてない感じだが。
ツマミも無いしな。
- 244 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/18(日) 02:28:31
- >>243
今日は適当に引き上げようか、などと考えていたところで声が掛かる。割合流暢な日本語に
は、指し当たってクセのあるイントネーションはなかった。
「へぇ、そう見える?」
くすり、と嫣然と笑うマリア。
彫像じみた顔が有機的に動く様は、こう言ってはなんだが見慣れないと呑まれそうになる事
がある。不気味の谷ではないが、完璧すぎる整い方をした顔は人間味が欠けているのだ。
「……いや、ただの散歩。こっちはセレブさんで、俺は無理矢理付き合わされてる小市民だ」
「あら、つれないね」
間近で見ると背は俺よりもまだ高い――と言っても、そこらは日本人との差で、175センチ前
後、としか自分の背丈を把握してない俺にとっては180センチ以上は「背ぇ高いなコイツ」では
あるのだが。
と、見ると無造作に下げていた袋が目に付いた。……正直な話をすると、この奇抜なナリの
外人が日本の酒屋だのコンビニだのに入って買い物をしている様が想像できない。店員さん
のビックリ具合を見たかった気もする。
しかし、そういえば。
改めて自分が何も持ってきていない事実に気付く。
「どうしたい?」
「いや、そういや買い物してなかったな、と」
……まあ、散歩のつもりだったから当然だ。
「……あー、やべ。なんも持ってきてねえや。自販機ねえんだよ、ここらへん」
コーヒーでも、と思ってしまったのが運の底というヤツで、わざわざ麓のコンビニにまで足を
伸ばすのが壮絶に面倒だ。……実のところ、マリアさえいなければ一分もあれば言って帰る
ことは不可能ではないが、そんな人外魔境を見せていい相手は限られている。ファッションが
頓珍漢なだけで、あくまでこの女は美人なだけの学者にすぎない。
ガマンするか、と肩を竦める。
と、いきなり差し出される紙コップ。
- 245 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/18(日) 02:34:07
- >>244
何すんだ、と問うまでもない。
ピンと弾かれる紙コップ――同時に、並々と満たされる黒い液体。
「……は? 手品?」
見間違うこともないだろう。馴染んだ香りのブラックコーヒーは、いつも通りの風味を漂わせ
ている。
さあね、とくすくす笑うマリアは自分のコップを同じように弾いている。
「お代わりをご所望なら、どうぞどうぞ、お気軽に」
マリアのコップには魔法のように満たされる紅茶。
ずずず、とそれを一口啜ると、
「弾けるのかな――お兄さん、一曲リクエストしても?」
いや。
そりゃまあこんな場所で騒音もクソもないだろうが、どう想像してもケースの中身はエレキ
だろう。アンプもなしで何を言う、と言いたくもなる。
「……いや、適当に流してくれ。コイツはなんだろ、いつもこうなんだ」
- 246 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/18(日) 02:52:58
- >>244
デートは流石に見当違いだったか。
まぁ、とりあえず絡むネタを設ける為に声をかけたに過ぎないが。
「ま、それとなくな。タダの散歩か…そりゃちょいと冷やかし過ぎたな、悪い」
微笑する姉さんの表情は、恰もフランス人形のごとく何処か冷たくも見える。
隣の兄さんは流石に慣れたのか余り動じないようだが。
とりあえずただ来て駄弁るだけってのも味気ないんで若干趣向を変えて
そこらのスーパーでこのスミノフ瓶を適当な数買ってみたわけだが…
因みに何故かそこの店員には少々奇異の視線に晒されていた。
俺は普通のつもりなんだが。
赤コートとギターケースがそんなに目につくとでも言うのだろうか。
姉さんの方が兄さんに差し出した紙コップに並々注がれていくコーヒー。
鼻を突くその香りは紛う事無きブラックのものだった。
これまた、以前合ったメイドさんとよく似たマジック。
「面白いモノ見せてもらったよ、姉さん。
因みにリクエストを御期待の所残念だが、ちょいとそいつには答えられそうもない」
と、云うよりは―――そもそもこの中身はギターじゃない。
「ライヴ」をやるのは同じだがな。
「それより、コイツが余ってるんだが―――ひとついってみるか?
何しろ一人でってのも退屈だったもんでね。
生憎ツマミは買い合わせてないが」
手元のスミノフを軽く揺さぶって一言。
こういう時の為に買った訳だが、ちょいと時間とか厳しいか?
- 247 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/18(日) 03:08:29
- >>246
「だとさ」
「あら、残念」
さして残念そうでもない口調で嘯いて、マリアは紅茶を飲み干している。
「てことは――そうさね、そのケースはアントニオ・バンデラスへのオマージュってことかね」
「……いや、ニッチすぎるだろ」
どっちだ。いやどれだ。
ランチャーかマシンガンかガンケースか。
いつもの調子に呆れつつコーヒーを啜る――と、差し出されるウォッカ。
いきなりこの手のジョークをカマしてくるのはやはりアメリカ人か、と言った具合ではある。
しかも多分きっと恐らくジョークではないので、やんわりと首を振って辞退する。酒は苦手
と言うほどではないが、ウォッカは流石にシュミではない。
のだが。
「ああ、そりゃいいね――ちょいと拝見」
軽く屈んで差し出されたビンを覗き込むと、マリアはふむ、と一息。左手の指をビンに指し
向けるや、とんと触れる。
チン、と爪がビンを弾く音が、ヤケに小高く周囲に響く。
――のは、別に構わなかったのだが。
……気付けばマリアの右手に握られている酒瓶らしきモノが明らかに問題だ。
マリア姿勢を正すと、男が持っているウォッカと寸分違うところがないビンを軽く揺らす。
「ん、そんじゃこれで――ははは、人様のモンを分けて貰うのがイヤってワケじゃなくてさ。
酒ってのはやっぱ、自分の適量ってヤツがあるだろう? お一人さんなあんたからそいつ
を奪うワケにゃいかないさね」
言いながらビンのアタマを弾く――バーナーでぶった切ったみたいに首を飛ばされたビ
ンをラッパに煽って、人形ライクな美人さんは粗野に笑う。
……なんだろう。
ここに来る連中ってのは、俺の知り合いも含めて変人ばかりになるんだろうか。
- 248 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/18(日) 03:29:51
- >>247
「ギターケースの中身は銃火器…ってか。
フッ、そんなベタな映画みたいなネタはそうそう無いだろ」
まあ剣なわけだが。余り変わりは無いな。
さて、手元のスミノフを軽く差し出してみるも兄さんの方はあまり乗り気でないらしい。
―――と、この瓶の頭に軽く触れるは例の姉さん。
更に、その手を良く見てみれば俺の買ったスミノフとまるで寸分ないであろう
酒瓶が収まっている。
今度はコピーマジックか。ホトホト飽きさせないなココって場所は。
しかもそのキャップの飛ばし方が豪快なものと来ている。
首を吹っ飛ばすように弾き飛ばす。
そして一気にラッパ飲みだ。
全く、うちの相棒でもここまでワイルドじゃないぜ。
「別に一人でこれだけ飲むつもりじゃなかったんだがな…
しかし気合入った飲みっぷりだな、姉さん。
うちの女友達でもそこまでいかないぜ」
そう言えばうちの相棒もどこか似た気性の筈だが、アイツは変な所で細かい。
例えば俺がピザ三昧酒三昧だとすぐに文句付けてきたり。
- 249 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/18(日) 04:00:09
- >>248
「あら、そうかい? ヘタなメタよりは馬鹿げたベタ、ってね。ま、流石にベタベタなばっかりの
最近はイヤになるけどさ」
「……つうか、お前に話合わせようと思ったら映画監督の背景とか作品の履歴にまで焦点合
わせなきゃ駄目じゃねえか」
そんなメタは俺でも御免だ。
鼻を付くアルコールの匂い。マリアは淀みなくビンを傾けてウォッカを喉に流し込む。
この呑み方で品の無さを感じさせないのは大したモンだ――と言うか、コイツに躊躇無くそ
ういうマネをされると、あたかもそれが基準であって、チマチマとコーヒーを啜るこっちの方が
水を啜るサルなんじゃねえかという気分にさせられるからタチが悪い。
……断じて西洋人への劣等感ではない、と付け加えてはおくが。
「あーいやいや、ホメても何も出やしないよ。……ふふ、ま、酒がキライなヤツは有史以来、
本質的にはいなかったってのが――」
「ねえよそれは」
「――ああ、なにイル。あんた、「酒がないとコミュニケーションを取ることができなかった人
類は文化的に劣ってた」とか言うんだ」
「いや、それは拡大解釈がすぎる!」
というか、明らかに酔っ払いの言い掛かりだ。酔ってもいないのがまた腹立たしい。真っ白
な白磁の頬は、赤見のカケラも差しちゃいない。ザルだコイツ。
なんにせよ、このアンちゃんもそうだが、無闇と整ったツラのヤツが「当然ですよ」とばかり
にルールから外れたマネをするのは勘弁して頂きたい。そんな基準は世間の常識外だ。俺
は多分きっとそんな常識人の中にいる(ハズ)のだし。
「……つーか、流石に遅いだろ。来るのがいい加減深夜も深夜だったんだ」
そろそろお暇しようぜ、と言いたいのが本音ではある。
この外人さんは時差ボケ解消のタメに夜っぱりになってる可能性はあるが(ツアー中の連
中はよくやるのだ)、二日前からここに適応し始めている俺は流石に寝た方が宜しいのだ。
「んー。じゃ、まあお土産なんかを」
はあ? と首を傾げる俺。
マリアはちちち、と軽くこちらに指を振って笑うと、手品のように左手に紙コップを取り出し
ていた。またかよ、と言うより早く、右手がそのコップの上でさっと閃く。
そして。
- 250 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/18(日) 04:00:30
- >>249
「ウォッカだけじゃ腹に堪んないでしょ――あたしは食いモンって好きじゃなくてさ」
意味の解らないことを言うマリアが持っているのは――。
「ソイレント・グリーン、ってとこかね」
「……シュミ悪ぃって、お前」
そうかな、とマリアは小首を傾げる。
……100均で10個100円で売ってそうな紙コップ。
そこで山を作っているのは、緑も鮮やかなクッキー……のような、スコーン……のような、
クロレラ……のような……タブレット……のような、まあそんな何かである。
「つーか、なんだそれ……ってか、どこに持ってたんだ」
甘ったるい匂いが唐突に鼻を突く。どう考えても作りたて、と言った雰囲気のそれを隠し
ておくような余裕はマリアの服装のどこにもなかったハズなのだが。
「えー? ああ、割と組成がカンタンなヤツでね。お気に入りなんだよ――デザインとか分
子構造とかさ」
「はあ……?」
「まあまあ、気にしなさんな」
現実感を剥奪する食物(ただし紙コップ入り)を銀髪ギタリスト(仮)に押し付けるマリア。
「それじゃ、あたしらはここで――あんたもカゼなんて引かないようにね」
それじゃあな、と言葉を継いで手を振っておく。
そこで背を向けて、はたと気付く。
隣を歩くマリアの手には、握られていたビンが綺麗サッパリと消失している。
景観が景観だ。ポイ捨てはよくない。
「……お前、ビンは?」
「んー? ああ。ふふ、ちゃんと消しといたよ」
「はぁ?」
「ああ、違った違った――捨てといたよ。ゴミ箱に」
「……手品っつーかお前、視覚ゲシュタルトでも書き換えてねえだろうな、これ……」
「それじゃ手品じゃなくて魔法でしょうに――ふふ。あーあ、存外時間食っちまったね、あ
んた、これからどうする?」
「寝る」
「付き合いなよ。いいじゃん。どうせ今日は休みだろ」
お姫様は平然と無茶を言う。
……まあ。麓に降りるまでは時間がある。
結論は保留しつつ、とりあえずは帰る間の雑談のネタを考えることにしよう。
(退場)
- 251 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/18(日) 04:29:26
- >>249-250
「ベタは嫌いじゃない。ホットで面白けりゃ何でもアリだ。
まぁ面白さってのもバリエーションはある程度必要だろうが」
というかいつからそういう話に流れ込んだのだろうか。
兄さんの話によるとこの姉さんはすぐそうした所謂メタな話に流し込もうとするらしい。
正直、あまりそうした領域は興味が無い。
別にコーヒー啜ってる兄さんがショボく見える訳じゃない。
単に姉さんが豪快なだけだ。
…そう言えばこっちは一杯もやって無い。コイツはウッカリものだ。
相手側に煽るだけ煽っておいてこっちはやらないってのも失礼な話だろう。今更だが。
時間も時間かと引き上げに掛かる二人。
と…姉さんの方から俺にお土産の模様。
またも例の良く解らないマジックで紙コップを取り出したかと思えば、
その紙コップを覆った右手が閃く。
するとどうだ。
紙コップの中にはどうも見覚えの無い緑の菓子の山…らしきものが。
しかしその匂いはヤケに甘ったるい。これがまた中々好みの匂いだからまた困る。
組成が簡単とか分子構造がどうのとか楽に口にしてくれる。
こっちにはまるで未知の世界だ。
あんなどう見てもブッ飛んだのを彼女になんか持った日にゃ、あの兄さんも大変だろう。
「ああ、アンタらも気をつけてな」
色々案じつつそのまま二人に別れを告げる。
さて、俺の方もさっさと引き上げて事務所でこの妙にファンタジックな菓子でも堪能させてもらうとするか。
またあのマセガキに勝手に取られないように防護しておく必要はありそうだが。
背にギターケース、片手に結局飲まずじまいのスミノフ瓶入りの袋を。
秋の色とやらも褪せつつあるこの光景を後に今度こそ、風と共に去りぬ―――
【退場】
- 252 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/18(日) 21:16:55
がごん!
空に撲撃音が鳴り響く。
ぎしりと空間そのものがきしむ気配が本能を刺激する。恐怖と言う名の本能を。
空間がそのプレッシャーに耐えたのはほんの一瞬だけだった。
ガラスが割れるような音とともに空が割れる。
割れた空のスキマから覗くのは小さな手。
子供のようなその手は宙をまさぐり、そして虚空を握り締めた。
再び破砕音。
割れた空がさらに壊れる。
スキマからするりと抜け出してきたのは七色の羽を持つ悪魔。
破壊の化身、悪夢の忌子、狂気の妹、
そう、フランドール・スカーレットであった。
「んふふふふ」
目を細めて含み笑いに揺れる彼女の後ろで急速に空間が再生、修復していく。
まるでこの世界を司る者が焦りに焦がされるかのように。
「今日はまあまあ。加減はいつだって難しいのね」
ふざけるな。
修復している誰かにとってはそうも言いたくなろうこの光景。
たしかに以前は流星と化して空だけでなく地も砕いた事を考えれば、
上手くいったと言っていいのだろう。
比較的、だが。
ふわりふわりとあたりを見回しつつ、悪魔の妹は高台に降り立った。
- 253 名前:名無し客:2009/10/18(日) 21:17:37
- ひ、ひぃぃぃぃ!
- 254 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/18(日) 21:30:12
「ん?」
声が聞こえた?
満面の笑みを浮かべて音を頼りに振り返る。
そこに人がいた。おそらく人が居た。
私は人と妖怪の区別をしない、区別になれてない。
だから、それがどっちなのかは聞いてみないことには自信はもてない。
仮に人と呼ぼう。
その人は顔に表情を浮かべていた。
恐怖、畏れ、生への渇望、死への忌み、それらがないまぜになった表情。
ヨウセイタチガズットワタシニムケテキタヒョウジョウ
「あは」
満面の笑みの位相がわずかにずれる。
上弦の三日月が顔で揺れる。
胸のうちに湧き上がるキモチ。
おさえきれない衝動、忘れられていく約束。
ツメが伸びる。羽が鉱物的な音を鳴らす。三日月に牙が覗く。
宙を舞ってゆっくりとその人に近づく。
その顔の前に顔をもっていって私はひとつ質問をした。
「アナタはニンゲン?」
ときめきに近い渾沌の衝動に恍惚としながら、尋ねた。
- 255 名前:名無し客:2009/10/18(日) 21:43:04
- チャルメラの音と共に一台のキャンピングカーがゆっくり走ってくる。
ボディには『中華』と書かれている。
『今日のオススメ:泰山印の麻婆豆腐他』
- 256 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/18(日) 21:56:41
小首をかしげて様子をうかがう。
しゃがみこんで下から見上げてみる。
腰の後ろに両手をくんで側面から耳に息を吹き込んでみる。
「…………?」
へんじがない。
ただのえんしゅつのようだ。
もとい、気絶でもしてしまったのか。
その人はうごかなくなってしまった。
なんだ、壊してしまおうと思ったのに、壊れる前から動かなくなってどうするのだ。
ツマラナイツマラナイツマラナイ。
「ほぁーっほっほ」
いつか会ったピエロの笑い声を真似しながら、
最早興味も失い、私はその人を放置して高台を歩き始めた。
>>255
「みーかんのーかわをすてるやーつーがーいるー♪」
歌を歌いながらあっちへふらふら、こっちへふらふら
高台を見て回る。
「お」
向こうからゆっくりと車が走ってくる。
「おおお」
パチュリーの本で存在は知っていたが、実際に見るのは初めてだ。
とててと走りよって横をついて歩く。
すごい、この箱、本当に馬無しで自分で走ってる。
側面になにか書いてあるが、漢字が難しくて読めるのに意味がわからない。
大陸の国の公立機関だろうか?
豆腐をお勧めする公立機関ってなんだろうか。配給?
タイヤのホイールの回転をしげしげと眺めながら車と共に歩き……
_ ,
l\ ∠ノ
ヽ|/
<^\ | _ ∧
( ̄ ̄丶 ̄ y' _,\ヽ V ぁぅ
(. ) \∞ ノヘイ<ゝy―く ̄`ト 、
⌒ .,へ,ヘ| ̄ |;;;;; ヽハ/メゥ 々 \l っ
(;;::.. ) ,__ <\,,,;;;;| |⌒ヾ;;;>,,イノソy ) っ
/≡/~ ̄)丶,,ノ⌒ソ;;;> ~)--- η
(___ノ---''゙--ヽ - ′----''゙---.,,.ノ
ベンチにつまづいて転んだ。
- 257 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/18(日) 21:57:09
- いや、なんか、これ。どうしたもんだろうか。
硝子が割れるけたたましい音が聞こえたから慌てて上ってみればそこは存在自体が暴力主義の女の子がいた。
おまけに人を襲っているよ。こいつはヤバイ。とてつもなくヤバイ。
確かに、俺は軍人であり、身体能力に自身がないわけではない。
武器は一応規定により所持している。コンバットナイフと、地球連邦軍制式拳銃U.N.T.M71A1のみ
15発装弾で弾幕ってのも泣けるが、だからといって俺はホルスターに手を伸ばしたりはしない。
…そもそも無意味だろう、これは。
「さて、それ以上一般人を怯えさせるのはだめだ、フラン」
いきなり触ればぶっ飛ばされないだろうか。
吸血鬼の腕力というものは体験した事はないが、話によればその凄まじさは人間の想像を超える。
人を襤褸雑巾のように引き裂く力。そう思えば自然と冷や汗が背中に流れる。
北斗七星の横の星もまた一段と輝きを増しそうだった。
…無駄に命張ってしまったな、俺は。
だが死ぬ気なんて無いぞ。ここで死んだら嫁さんに申し訳がなさ過ぎる。
「…よ、こんばんは」
ああ、そういえばまだ挨拶してなかったな。警句より先にすべきだったか。
- 258 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/18(日) 22:06:30
- >>257
頭上から聞き覚えのある声。
「ふぇ?」
涙目で顔をあげるといつぞやの騎士が立っていた。
つっぷしたまま顔だけ向けて、「やっ」とばかりに右手をあげて挨拶をする。
「私は何もしてないよ?
あのニンゲンがかってに動かなくなっただけ」
いつだって……私はなにもしなくても……
言葉にしない思いが胸のうちで渦を巻くが、勝手に巻かせておく。
どうせ無駄よ。
お姉様はそこから目を背けた。
魔女はそんなところを身もせずに危険と結論をだした。
咲夜は苦手意識でATフィールドを全開、近づいてすらこない。
めーりんですら、怖がらず慰めてくれるだけで助けてはくれない。
「そうだ、アマダに聞きたいことがあるのよ」
つっぷしたまま、キリッと表情を引き締めた。
- 259 名前:名無し客:2009/10/18(日) 22:09:59
- ねーねー、せっかくトンボをつかまえたのに、
強くにぎっちゃったから動かなくなっちゃった。どうしよう。
- 260 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/18(日) 22:17:34
- >>256>>258
声をかける前にチャルメラ鳴らす車にまっしぐら。
そういえば彼女のいる土地には車がないのだろう
あ、転んだ。
「…大丈夫か?」
上げた右手を握って彼女が立つのを手伝った。
ついでに目の端に浮かんでいる涙をポケットの中のハンカチでふき取る。
「いや、明らかに恫喝してただろ、あれは。悲鳴上げてたじゃないか」
結果には原因がつき物。過程無くしてハプニングはありえない。
奇妙な羽根が生えてるし爪も伸びる。
そんなのが空間を硝子のようにかち割って空から降りてきたらそりゃびっくりもするしパニックも起こす。
無自覚か。この世で怖いものベスト10に入る。
「聞きたい事?あー、オカルトの類とかは判らないからな。俺はただの人間だし」
そう、ただの人間。
宇宙で生まれたとはいえニュータイプといった進化した人類ではない。
いいじゃないかそれで。何も不満に思う事なんてない。オールドタイプもニュータイプも
生まれ事それ自体が悪にはなりえないんだ。
- 261 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/18(日) 22:17:53
- >>259
聞こえたのか、あるいは脳内に浮かんだのか、
そんなフレーズが脳裏を走る。
強く握った?
バカだなぁ、触れるだけでモノはこわれるのよ?
握ったらこわれるに決まってるじゃない。
お気に入りのぬいぐるみはみんな消えてしまう。
興味をひいたちょうちょは触れる前にみんなこなごな。
机は木屑に、布団は羽に、ベッドは砂になる。
バカね。
気に入ったら、触っちゃだめなの。
興味が消えるまではただ、眺めるだけで我慢。
それが常識でしょ?
セカイは我慢でできているのよ。
- 262 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/18(日) 22:26:49
- >>260
右手を出すアマダ。
私の手を引いて引き起こそうと言うのか。
フレタモノハスベテコワレテキエルノヨ?
びくっ
反射的に逃げようとした私の手を気にした様子も無く掴み引き上げる。
目を丸くして起こしてもらったお礼も忘れてアマダを凝視する。
動揺している。
こいつ、ちゅーごくと同じタイプなのか。
危険の察知を直前の本能にまかせ、事前に想像しないが故に、
目前の迫る恐怖に震えない。畏れない。
呆けて涙をぬぐるのも埃をはらうのもされるがままになっていたが、
アマダの言葉で我にかえる。
「恫喝?
それは違うよアマダ少尉。順番が違う。
アレが悲鳴をあげてから、私はアレに近づいた。
悲鳴の原因はツメをのばして近づいたからじゃ、ない」
言って自分のツメがとがったままなのに気付いて元にもどす。
ツメがはがれたら大変だ。
転んだときにひっかけなくてよかった。
「聞きたいことっていうのはね……」
アマダに真面目そのものと言った表情で問う。
答え次第では困った事になる。
そんな質問。
- 263 名前:サーナイト♂@探検隊オスメスズ ◆suKEbEVebI :2009/10/18(日) 22:29:48
「テレポーテーショーン♪ 心のっ 翼がぁ〜♪」
――シュビン、スタッ
あまりにもカンペキすぎる。さすが俺。
テキトーに座標軸を決めないで「のんびりできそうなところ」と念じたら
こんな眺めのいい高台にテレポートしたぜ。
とりあえずここは普通に人間が住んでる世界…でよさそうだな。
まぁ人間に見つかっても面倒なことにはならねぇだろう。
ヤバくなったらどこかに跳べばいいだけだ。
さぁて… そこらへんをブラブラするか。
願わくば、おねいさんとのロマンチックな出会いを期待したいところだが。
- 264 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/18(日) 22:34:03
- 今日の夜明け前、妙に綺麗すぎる顔立ちの姉さんから頂いた緑の菓子は見事な味だった。
酒のツマミにはちょいと過ぎた代物とも思ったが。
さて週休6日仕事の俺に忙しいなんて言葉はそうそうなく、暇を持て余して
夜風に釣られホイホイやって来たいつもの高台。
例の相棒も当然、このちょいとシケたギターケースの中さ。
ところで何やら空からガラスの割れるような音がしたが……イヤな予感がする。
取り越し苦労だといいがな。
なにぶん、空が割れるなんて現象は「その事情」を知ってる人間にはいい話じゃない。
小気味のいいメロディが聞こえた気がするがありゃ何なんだろうな。
生憎聴き覚えが無い。
「おや、あの見覚えある顔は―――…」
到着した先で見掛けたのはツッ転げて涙目の七色の羽の少女と、2度も顔合わせた上
名も互いに知れたるであろう軍人の兄さん。
「よう、誰かと思えばシローじゃねェか。久しぶりだな。
その子は何だ?知り合いか?」
ところでお嬢ちゃんの方からはどうも「アイツら」と似たような匂いがするが、何なんだろうな。
- 265 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/18(日) 22:38:00
- >>262
アマダに尋ねる。
「あの車はなんだ?
中華人民共和国が豆腐をどうしてお勧めするの?
ま、まさかアレは広告塔とかそういった意味合いの車輌なのかっ!?」
そう、答え次第では困った事になる。
主に私が。
だってわかんないよ。
なにさ、あれ。
パチュリーに聞いてもきっと知った風な事しか言わないだろう。
この場においてもっとも私の疑問を解決するのに近しい存在はこの軍人だった。
迷宮入りは困る、だから大真面目なのよさ。
「……いや、兵器『豆腐のカド』を量産してセカイ征服を狙うと言うセンも!?」
495年のひきこもり生活が鍛えたダメ推理力が唸りを上げる。
むうぅ聞いたことがある。
豆腐のカドは一撃でバンパイアハンターの脳を打ち砕く威力があると!
>>263
ざんねん、テレポート先は狂気のデストラップだった!
空気が揺れるのに気がついてあたりを見回すと妖怪がいた。
ニンゲンには見えないからきっと妖怪だろう。
……あれ?
あの妖怪、屋敷で見たことあるような気がする?
私は一生懸命記憶を掘り起こすべく腕組みしてうんうん唸った。
ぽくぽくぽくちーん。
「あー!あのときの西棟廊下の女装メイド!」
指をさして大声で叫んだ。
遠目に見ただけですぐにメイド妖精に引っ張り戻されてしまったが、
その時にメイド妖精から対価として得た噂話は記憶に新しい。
なんでも咲夜のやとった臨時メイドで男だけどメイド服持参で現れたらしい。
- 266 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/18(日) 22:44:09
- >>262
ビクッと反射したり不思議とオドオドしたり。
先程の悪魔のような姿とは打って変わって少女らしい素振り。
抵抗しようとしているのかしようとしていないのか。
「…いや、さ。何でそんなビクビクするんだ?別にそんな叱ろう何て思っちゃいないさ」
うん、怯えないでくれ。
そりゃ二度しか会ってないあんまり知らないお兄ちゃんが近づいているってのはちょっと怖い事かもしれないけどさ。
しかしそれは年相応の人間の娘であって吸血鬼に当てはまるとは到底思えない。
本来なら俺がびくつく筈なのだ。
「登場の仕方が悪いんじゃないのか?咲夜は静かに下りてくるぞ。静か過ぎて逆にびっくりするけど」
ポケットにハンカチを押し込めながら低音量ハイブリッドカーの例を思い出した。
静か過ぎて逆に事故が起きるというやつだ。
おかげで歩行者のために音がなるようになったが、本末転倒な気がする。
「…?で、何なんだ?」
どうも様子がおかしいなあ。真剣な表情だからこちらも目を逸らさず見つめる。
心の準備が整うまで静かに待つ事にした。
>>263
何だあの生き物は。人の形をしていないってのはなかなかレアだ。
そうなれば話す事すら躊躇われる。人語を解してくれるか判らないから。
昔は犬と一緒に温泉に入った事があったような。人語は勿論話さなかった。
あれだ、ここは待ち戦法。人語が判らないのに話しかけて恥をかくよりよっぽど効率的だ。
話しかけられるか、何かの泣き声を上げるか。それまで待とう。
- 267 名前:サーナイト♂@探検隊オスメスズ ◆suKEbEVebI :2009/10/18(日) 22:46:41
- >>260 >>262
人間の男が、ええと… 脳波が感じられないからたぶん人間じゃないと思われる少女といっしょにいる。
一瞬スリーパーがよくおこなう「誘拐」とゆーヤツかと思ったがそうではないよーだ。
いかんいかん邪推はイカンよサナくん。
なんだか仲もよさそうだし問題はなし、と。
一応人間の言葉は話せる。
もしわからなくてもテレパシーもあるしな。とりあえずごあいさつを〜
「どーも、こんばんわだぜ。
俺は――詳しい説明はめんどうだからやらないので、結論からいうと
いわゆるポケモンってヤツさ。」
>>265 「あー!あのときの西棟廊下の女装メイド!」
やーめーてーくーれー。
まさか… まさかまさか俺がヒジョーに不本意ながらメイドのかっこうで
仕事してたことを知ってるヤツが、なんでここに!?
しかも大声で女装メイドだなんて… まるで俺が女装趣味があるみたいじゃねぇかッ!
事情を知ってるとなると、あのお屋敷の関係者か…
「えーと、その。覚えててくれるのは嬉しいけど、女装よばわりはよしてくれ。
仕事だからやったんだ。決して趣味じゃないんだぜ。」
- 268 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/18(日) 22:46:46
- >>263
―――なんて若干思案に暮れていると眼前にいきなり何やら見覚えの無いイキモノが。
この前のメイドさんと似たようなマジックか?
「よう、お前さんも木枯らし風に誘われてきたか?」
プラプラしてる所ちょいと声掛けてみるとするか。
人間じゃないのは確かだろうが、同時に妙な匂いも出さない。
また得体の知れないヤツに出くわしたもんだ…これだからここは病み付きになる。
- 269 名前:サーナイト♂@探検隊オスメスズ ◆suKEbEVebI :2009/10/18(日) 22:52:02
- >>268
今度は人間… いや、微妙に違う感じだな。まぁいいや。
男が現れた。
俺を見てもそう驚かないってことは、そーゆー仕事をやってんのかな?
「ま、そんなところだぜ。
俺はサーナイト。一応モンスターって呼ばれてるらしいが
人畜無害なんでそこんとこヨロシク。」
- 270 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/18(日) 22:52:37
- >>265
それかっ!ただそれだけかよっ!
「…まあ確かに豆腐のカドは凶器になりえる。カッチカチに凍らせたものだけだが…」
なんとも微妙な質問だ。
中華人民共和国が勧める豆腐。しかしあんまり食いたいとも思えない。
日本の大豆の輸入元じゃああるんだけど。
「あれは中華料理の移動屋台だな。停めて頼んだら中華料理を売ってくれるって訳。
で、本日は麻婆豆腐が美味いですよって言ってる」
しかしあの泰山印ってなんだろうか。
泰山って料理店があるのかもしれないが何故か嫌な予感がする。
頼んだら後悔しそうだ。
ふと思いつく。金なら多少余裕はある。横にいる少女にフラン、と声をかける。
「食うか?中華」
車を指差しながら言った。
- 271 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/18(日) 22:53:19
- >>264
「興がそがれた」「とうそうの空気ではないな」
お姉様の漫画で言うとそんなイメージ。
渋々と言ったカンジで胸の奥底にとぼとぼ帰ろうとしていた渾沌がふと足を止める。
死の香り。
現れてアマダに挨拶するその男に興味を刺激されて
むくむくと渾沌が悪戯心の背中を後押しする。
ぴしりと羽の七色が嬉しそうに自己主張の音をたてるので、大きく左右に広げてあげる。
「オジちゃん、今晩はぁ。
私はフランよ、アマダとはペット友達かなー?」
指先のツメをぺろりと舐めて男を睥睨した。
邪悪な気配が立ち込める。
死と破壊のオーラがこの空間全てを威嚇する。
そして……
「あれ?エンコー相手だったっけ?」
小首をかしげてアマダに横目で尋ねてみる。
<カリスマブレイク!>
周囲の気配が一気にしぼんだ。
効果を破られたスペルカードがごとく、一瞬で空気が弛緩する。
心中の渾沌が「もう帰っていいよね?」と布団に入って、寝た。
>>266
なんなんだ?
その質問、やっぱりそうか。
こいつ分かってないんだ。
でも、それはとりあえず私を怖がらないでくれるということ。
最低限不愉快ではない。
ブチ壊したくなるような衝動に襲われることはきっとないだろう。
中国がそうであるように。
よかった、こわすと咲夜にさらに嫌われてしまう。
「ん。なんでもないわ。
壊してしまうのが怖いだけさ。
アマダも機械人形でニンゲンを掴もうとしたら同じ気持ちになれるよ、きっと」
すこし大人びた表情で笑った。
495年も生きていれば大人っぽいところだってあるのだ。
不安定でなかなか出てこないと言うだけで。
- 272 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/18(日) 23:01:26
- >>267
「えー、メイド妖精の間で噂になってるよー?」
私は不満そうに頬をぷくーとふくらませる。
じょそーでいいじゃん、掃除だけに。
わたしのしごとはじょそーです
韻も踏んでとっても素敵。
「うんうん、趣味と仕事を両立してるってことね」
勝手に納得する。
〜だからやったんだ。〜じゃないのよ。
そのフレーズは嫌いだった。
490年くらい前からずっと。
だから意地悪。
それだけの意地悪。
他意はない。純粋な意地悪心だから、他意はない。
>>270
「いどうやたい?」
よく分からないが、アマダの説明によると呼び止めるとご飯をくれるらしい。
すごいなニンゲン。
いつからそんな紳士だらけになったんだ。
「ぎぶみーちょこれいとー」
「HAHAHA お嬢さん、チョコをおたべ」
すげえなニンゲン。
大事な事なので二回言いました。
お姉様に後で教えてあげなくちゃ。
食べるかと指差すアマダにぶんぶんとヘッドバンキングで肯定の意図を伝えた。
- 273 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/18(日) 23:11:00
- >>269
「人畜無害のモンスターね…ま、確かにそのナリは人を襲いそうには見えないか」
この手の仕事やってればそういう手合いにも飽きるほど顔合わせる。
有害か無害かの見極めなんて実に楽勝なものだ。
「ところでさっきそこらの空でガラスの割れたような音がしたが、お前さん心当たりないか?
どうも余りいい予兆じゃねェと思うんだアレは」
コイツは後から現れたんで関係無いと思うが、こういう現象に詳しくないか一応訊いてみる。
って何で探偵まがいのコトやってんだ俺は?まぁ便利屋なんだが。
>>271
ペット―――少々その言い回しで眉間が若干皺を作ったような気がする。
オマケに―――
爪を舌舐めずるお嬢ちゃんの眼つきがその時怪しく、というより妖しくなった。
連なってこっちも懐に手が伸びかける。
一瞬、場を張り詰めた空気が支配したらしい。
そう来るならこっちも問答無用の―――――って…
隣のシローに何やら訊いた時、その空気が萎んだ気がする。
俺が懐に伸ばした手も勝手に止まってしまう。
ベタなコメディ番組ならマヌケなSEが飛び出てきそうなシーンだ。
というか、エンコーって何だ?若者の言葉ってのは偶によく解らない。
「訳の解んねェヤツだな…」
思わず零してしまった訳だが。
- 274 名前:サーナイト♂@探検隊オスメスズ ◆suKEbEVebI :2009/10/18(日) 23:19:37
>>272 「えー、メイド妖精の間で噂になってるよー?」
,.. -‐- 、
l Nヽ、ヾl
\ゝ^ヮ^ヽ!/ おわた。
俺はスデにあの真っ赤な館では「女装が趣味の妖怪」とゆー肩書きなんですね。
もう決して消えることの無いタトゥーなのですね。こんちくしょう。
めのまえが まっくらに ならない。
ムリヤリ女装されるのは日常茶飯事だ。くじけてたまるか。苦しくったってダンジョンの中では平気なの〜
>>「うんうん、趣味と仕事を両立してるってことね」
「任務ですよッ!」
サナくんはロラン・セアックの気持ちを理解できたッ!!
「あー、失礼。 ともかく、俺はこんな女っぽい種族的な姿をしてるが
♂なんだ。しごくまっとうな男なんだ。せめてそこだけは理解していただきたいぜ。」
>>273 「人畜無害のモンスターね…ま、確かにそのナリは人を襲いそうには見えないか」
ちょいとひっかかるが、まぁ理解いただけて幸い。
誰かに退治されるよーな悪いことはしてないもんな。 ぼくわるいポケモンじゃないよ。
え?ガラスが割れたような音?
「そんなもんしたッスか? 何せ俺は落ちこぼれエスパーだからなぁ…
まぁテレポートしてくる時に空間のうねりみてぇなもんはあったかも知れないッス。」
どことなーくここに引き寄せられた気がしたりしなかったり。
- 275 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/18(日) 23:21:57
- >>267
人語を話してきた。どうやら言葉は通じるようだ。
さあて、人間一人に吸血鬼一人に変な生き物一匹。空間がカオスになってきたぞ。
「はあ、なるほど。ポケモン…。そりゃ…なんだ、大変だ」
何が大変なんだろうか。俺が大変なだけじゃないか。
巷で噂のボールを投げつけて狭いところに押し込めるのが流行の動物だろうか。
でもあのボールの中はネコ型ロボットもびっくりの広々とした空間になっているとか。
「…んで、その様子だとフランの知り合いか?」
>>264
おや、奇遇だ。いつぞやのギターマン。
「や、こんばんは。久しぶり」
当たり障りのない挨拶。名前は確か、ダンテ。
イタリア系なんだろうか。その割にはどちらかというと日系の血が強いような気がする。
しかしダンテなんて名前は世の中には思ったよりも沢山あるものだ。
誰もが地獄の門をくぐったりなんかしない。
「この子か?ちょっとした知り合いで今からそこの屋台で中華でも食おうかと相談してたんだ。
よかったら一緒に…」
>>271-272
…ペット仲間?…えんこー?ハハハ、こやつめ。
「勝手に人を犯罪者に仕立て上げるんじゃないっ!」
ペシンと後ろ頭にツッコミ。
どんだけ女に飢えてるように見えるんだよ、俺は!?
「あー、ホントただの知り合いね。そんな如何わしい関係じゃないから」
ダンテにはそういって取り繕った。さっきまでちょっとした緊張状態にあったって言うのに
全く、この悪戯っ子は。
「…人間を握りつぶす…ね。…………妙な事、聞くな」
誤魔化すようにそう呟いた。
人間を握っている時に、このスロットルを一気に倒せばどうなるか。目の前のモニターに映る人間は、原形をとどめなくなってしまうであろう。
そのような狂った破壊衝動は湧き出ればすぐに引っ込む。ばかな考えだと一笑する事も出来る。
歯止めがかからなかったらどうなるんだろう。
ちょっとした眩暈を覚えた。大丈夫。俺は抑えられる。
>>272
「あー、そっちチャルメラの屋台ってのも知らないのか。
移動屋台ってのは平たく言えば人の手によって動いて好きな場所で開店出来る店の事だ。
車は多くのものを運べるんでそういった運用も出来る」
ちょっとした勘違いをしているような。
ギブミーチョコレートの時代じゃないんだぞ、今は。
ま、しかし百聞は一見に如かず。実際に食ってみて堪能してもらおうじゃありませんか。
「おっちゃん、お品書きみせてくれないか?」
豆腐のほかにも色々あるだろう。炒飯とか唐揚げとか。
好奇心に満ちた目をした彼女と共に、俺は屋台を呼び止めた。
- 276 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/18(日) 23:25:04
- >>273
懐に一瞬延びた手に愉悦が脳内をかすかに走るが、
今日はこの遊び方はしないともう決めた。
だから、アマダをダシに空気を緩める。
無心にそれを選択した。
だが、心のどこかで計算した495歳の悪魔がいたのも事実。
思考は平行して駆け抜けるもの。
リレーじゃないのさ。
巻き込まれるアマダはたまらないだろうが、
争いを止める礎になったと思えばあの優しい人間はきっと許すだろう。
「あら、分からないのが他人というものよ?
オジさんにとって『分かる』と断言できる知り合いは今までに何人いた?」
くすくす笑いながらくるりと一回転。
指差して興味半分暇つぶし半分に尋ねてみた。
>>274
「あはは、安心しなよ、妖精はアタマ悪いから噂になってもすぐに忘れるもの。
人の噂は75日だけど妖精は7日で飽きるのよ」
外の妖精に伝わったら知らないけどね。
最後の言葉は無情故に口にしないで封じておく。
烏天狗とかに伝わればそれこそオワタになる。
>「あー、失礼。 ともかく、俺はこんな女っぽい種族的な姿をしてるが
> ♂なんだ。しごくまっとうな男なんだ。せめてそこだけは理解していただきたいぜ。」
その言葉を吟味して……
心底不思議そうな表情で尋ねた。
「お前は何を言ってるんだ。女に女装はできないのよ?
というか女が女装してもそれを女装とは言わないのさ。
そしてまっとうな男は」
最後だけは濁した。
すごい、フランちゃん優しい!
<異議あり!>
- 277 名前:名無し客:2009/10/18(日) 23:29:30
- つおしながき(家庭料理程度から本格中華まで色々記載されている)
- 278 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/18(日) 23:33:29
- >>275
「あいたっ!?」
叩いたね?
お姉さまにはよく叩かれるけど美鈴にも顔面にパンチもらったことあるけど
えっとえっと……そうだ、咲夜!
咲夜やパチュリーにも殴られた事ないのに!
これはアレか?
私とちゅーごくけんぽーごっこで遊んでくれると言う意思表示か!?
よーし、手加減しないぞー
と思ったが、屋台を呼び止めているアマダを見て議決をとる。
全会一致。
屋台の件が先だ。
そう言えばめーりんが八目鰻の屋台の話をしてたっけ。
見たこと無いけど、こういうのなのかな。
>>277
「ツバメの巣って食べれるのー?」
メニューを見ていて素朴な疑問。
私はアマダにとっていささか危険な質問をしていた。
- 279 名前:サーナイト♂@探検隊オスメスズ ◆suKEbEVebI :2009/10/18(日) 23:44:37
- >>275 「はあ、なるほど。ポケモン…。そりゃ…なんだ、大変だ」
「そうなんッスよ。大変なんだぜ。変態なんだぜ。
ああ間違えた。いや、間違ってないか。まぁいいや。」
>>「…んで、その様子だとフランの知り合いか?」
そのことを説明すると、俺が女装してたことを話さなくてはならない…
えーいままよ。ここまできたらハラをくくるぜ。
「とある依頼でね、俺♂なのにメイド服を着せられてお屋敷の掃除をやらされたんス。
それをこの子―― ああフランちゃんっていうのか。フランちゃんがそれを見てたみたいで…
いや、まさか関係者がここにいるとは思わなかったぜ。」
ん?待てよ。この軍人さん… どっかで…
ポンッ 思い出した。前にシャワーズのヤツが話してた人間じゃねぇか?
そうだ、確か…
「つかぬことをたずねるけどよぉ、
海でおぼれてたところに水鉄砲をぶっ放されたこと、ないッスか?あんた。」
>>276 妖精はアタマ悪いから噂になってもすぐに忘れるもの。
頭悪くてよかったー!
ホッと胸をなでおろす俺。他の世界でまで女装好きとか誤解されたらたまらんち会長だぜ。
…なんだか彼女が何かあえて口にしない言葉があったよーな気がするが
そんなことなかったぜ。
>>女に女装はできないのよ?
天 才 あ ら わ る 。
そうか… 女装は男のみに許された特権だったのか。
そんな特権いらねぇーッ。
>>そしてまっとうな男は
「まっとうな男は――― 何?何なのかな?
あれか。女装なぞハナっからしないってことスか。なんてヒドいことを言うんだぁーッ!!」
言ってないって?わかってるぜ。
- 280 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/18(日) 23:50:38
- >>274
「空間のうねりで、ねぇ…云い得て妙かもなそりゃ」
そう言えばここには結構レア度高い連中が集まって来てる。
いきなり消えるメイドさん、酒をコピーしたり豆やコーヒーを手から出したりする姉さん、
そんでこの変な羽のお嬢ちゃんに更にこの女顔モンスター…
何かの専門用語を借りれば「特異点」とでも行った所か。
「ところで、お前さんはこんな場所に何をしに来た?
そのちょいと甘いマスクで女でも引っ掛けようなんて考えてたんじゃないよな?」
ぶっちゃけ当てずっぽう。外れたらワビ入れとくとする。
>>275
「ああ、そこのな。
確かに美味そうな匂いじゃある。まぁ落ち着けって」
確かに、シローはそんなすぐ遊びに走るような男には見えない。
というかある意味俺と逆方向で女運が無い、そんな感じがする。
「ところで…さっき機械人形がどうのって話なんだが…アンタ、ロボットか何か扱ってたりするのか?」
シローとお嬢ちゃんの会話にそれとなく割り込んでみる。
何しろこっちはあまりロボットってものに触れたことが無い。
なんで、勝手に興味が向いてしまう。
とりあえず俺も一つ何か頼むとしようか…
メニューに目が行くが、どうも気が惹かれない。ピザとか無いのか?
>>276
全く…いつもの俺ならこの程度ですぐ手を伸ばす筈は無いんだがな。
どうも再び山を作っていく請求書の束がイライラの原因か。
さっさと片付けちまわないとなアレ。
さて、いつものフォームで会話といこうか。
「さぁ?実際そんなに相手の事突っ込んでわかろうとするなんて、
メンドくさくてやった事無いしな」
どうも対して重大な話と思っていないんでどうもアクビが零れちまう。
「というか、解る解らないって実は結構大した問題でも無いと思うぜ?
それでもやってけるヤツはやってけるし」
ま、そういう事だ。
多少なりともそこを越えた域に踏み込んだ身としてはこれぐらいは言わせてもらう。
- 281 名前:サーナイト♂@探検隊オスメスズ ◆suKEbEVebI :2009/10/18(日) 23:58:18
>>277 つおしながき
フガっ?どこからともなく食い物店のメニューらしきものが。
えーい、ちょうど今俺はあらぬ疑いをかけられて腹が立っている!こうなったらヤケ食いだ!
フッフッフ… 俺は知ってるんだぜ?
どーゆー注文の仕方ををすればカッコよく見えるってことをな。
「ハイオク満タンで。」
…決まった。キリッ☆
みんなあっけにとられてるぜ。
>>280 「空間のうねりで、ねぇ…云い得て妙かもなそりゃ」
やった、今ちょっといいこと言ったよね俺。
久々にエスパーとしてプロっぽいことを言えた気がするぜ。
- 282 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/19(月) 00:00:30
- >>279
「そうは言ってない」
___,,,,,___ へ,.へ
,. -''' ` '"|_/ /
/ __,.r´i ̄7ヽ _く _」
ir'マ-´ ̄ ` "サ'ヽヨメ
/"/ ,ハ ,' ハ |,.ノ i, ヽ
| ハ .ノ リ ヾ iハ } . }
| |.レi O` 'O ゙i i .ノ < 言ってない、言ってないよ
ヽルイ"" " |/ /
レレ.\ r‐--‐、,ノ| /
r、 r、/ヾ ̄下ヘ レ,_ ,<ニ>
ヽヾ 三 |:l 1、_ヽ/__ ィ" ,} /-、
\>ヽ/ |` }:::::::::ハ::::::::| _.,ノrく\!
ヘ lノ `'ソ::::::::/ ';::::::|-‐|ハヽ!
/´ /:::::::::ムハ」:::::|. |V
\. ィ_:::::::::::::::::::::::::_| |
/::7ー-r-ーt"::| |
/:::/:::::::/::::::::::\:| |
言ってないだけだけど〜
「そういえば女装の達人の名前を聞いていなかったわ。
私はフラン、あなたのおなまえなんてーの?」
名乗らなかったらジョン・スミスって呼ぼう。
そんな恐ろしい罠をひっそりとしかけつつ、尋ねてみた。
>>280
あくび交じりにさぁねと答える男。
もう緊張とは無縁の状態のようだ。
もうすこし他人は疑った方がいいよと内心で無用のおせっかいを焼きつつ答える。
「でしょ?セカイはこんなにも無関心で溢れている。
『わけわかんねぇヤツ』しか居ないのに相手にそのカテゴリを告げるのは無意味だわ」
例えるならば、お前はニンゲンだぜー、そんな言い回しが興味深かったのだ。
「無関心でもつきあっていける。
でもね、私はその面倒をしてくれる人をずっと探しているの。
もしオジさんにそんな人が一人でも居るなら、きっと大事にするべきなのよ」
大事なものはどこにもありません。
大事なものと気付いたときには壊した後だったから。
手にしている時には大事なものと気付きもしないから。
ああ、セカイはかくもつまらない。
ひどくつまらない。
- 283 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/19(月) 00:01:07
- >>277-278
身構えないでくれ。寿命が磨り減る。
思わず彼女が吸血鬼であるという事を忘れていた。反射的に叩いてしまった俺も俺だが。
弾幕ごっこやらのほかには拳法ごっこもあるのだろうか。
どちらにせよ付き合ったら命が消し飛ぶのは間違いないだろう。気をつけよう。
で、屋台の店主が椅子を用意する。
俺がそこに座ると横にフランがちょこんと座った。出されたメニューを眺めている。
さて、俺は何を頼んだものか。結構メニューの幅が広い。
定番の中華料理は勿論の事、なんだかよく分からない家庭料理まである。
漢字と読み方、そしてちょっとした注意書き。読んでいるうちにこんなものまであるのかと感心してしまう。
>「ツバメの巣って食べれるのー?」
ツバメの巣?そんな物あるのか。
メニューの後ろのほうには確かにある。鱶鰭スープやらとならんでい値段やべえ。
「…フラン?横にある数字が5桁以上の物を頼むのは止めようか。1500以下ぐらいで選ぼう、ね?」
危ない。俺に別の意味で死ねというのか。
>>279
変態、なのだろうか。こんなかわいらしい外見をして。
残念なイケメンという言葉を度々聞くがその類の生物なのだろうか。
そしてそいつを公言するというのはまたこれはどうなのだろうか。
「メイド服を着て、なあ。ま、いいんじゃないか?外見的に。俺は着ても全く似合う自信がないしなあ。残念とも思えないけど」
しかしこういった小動物にメイド服を着せてもペットに服を着せるのと同等のような気が。
本人に意思があるのだから少し違うんだろうけど。
海に溺れ…。何だ、そんなことあったっけか。
どうしてかそれを思い出そうとすると砂の味を思い出してしまうんだけど。なんでかな。
妹紅との記念すべき初対面の日だったはずなのに。
「…あったようななかったような。どちらにしろあまり思い出したい事じゃないな」
着任してすぐだったよなあ、あれ。
- 284 名前:名無し客:2009/10/19(月) 00:03:01
- >>281
つポリタンク(無言で差し出される)
……リッター150円、その体なら十リットル位が限度と見た
- 285 名前:サーナイト♂@探検隊オスメスズ ◆suKEbEVebI :2009/10/19(月) 00:07:42
>>280 そのちょいと甘いマスクで女でも引っ掛けようなんて考えてたんじゃないよな?
「半分当たりってとこだぜ。
ここでは仕事をサボ―― ゲホゲホ のんびりするために来たッス。
もし俺好みの年上のおねいさんがいれば声をかけてただろーけど。」
…おそらくフランちゃんは俺の見たところ数百年はザラに生きてそーだが
さすがに外見がちょいとばかり残念だぜ。
>>282 「そうは言ってない」
その思考波はウソをついている味――
やめておこう。安易に他人のココロは覗いちゃあなんねぇ。
それくらい…俺でもわかるぜ。
>>私はフラン、あなたのおなまえなんてーの?
「俺はサーナイトである。名前はまだない。どこで生れたかとんと見当がつかぬ…わけでもない。
まぁ俺たちはあまり名前にはこだわらないんだよ。
たいてい種族名で通してるんだ。ま、サナくんでいいぜ。」
- 286 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/19(月) 00:10:35
- >>280
「少しばかり大型のロボットを扱っててね。
ま、戦車に変わる有力な機動兵器として高い注目を上げているやつに乗っているのさ」
もう主役になるのは決定済みじゃあるけどな。
主力戦車の代わりとしては十分な機動性と火力を備えている。
何より先の大戦で大きな活躍を見せたんだ。これで戦車に固執するやつがいればそいつは車産業に並々ならぬ
執着心を持ったやつだけさ。マニア的な意味でも、政治的な意味でも取れる。
フランとは逆側に座ったダンテがお品書きを見て眉をひそめる。
中華料理とかには慣れてないんだろうか。
「迷ったら今日のお勧めの麻婆豆腐だとかにすればいいんじゃないか?」
泰山印、というのはやはり気になるが。
食えない物出すような店じゃないだろ、流石に。
- 287 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/19(月) 00:16:20
- >>285
「うん、わかったよサナダちゃん」
満面の笑みで答える。
間違っているが。
屋台のメニューをころがしながら傍らのサナダちゃんに尋ねる
「ハイオクなんて書いてないよ?
何?裏メニュー?ジョーレン?サツバツとした雰囲気が足りないのかー?」
ポリバケツを指差して首をひねる。
>>283
5ケタ以上はだめ。
むぅ、やむをえまいな。
しかし、いい事を聞いた。
帰ったら雀の巣とか襲って食べてみよう。
ツバメは心当たりが無いが、雀はめーりんに居場所を聞いたことがある。
どうやって食べるのか、ちょっとわかんないけど、
そのへんはフィーリングとその場のノリがきっと解決してくれるだろう。
ああ、そういえばおなかすいたな。
差し入れのラーメンたべたっきりだ。
ご飯前の時間に突破してきたのは失敗だったかもしれない。
妖精が少なかったのはその時間帯だったからかな?
いつしか私の視線はメニューから離れてアマダの顔の方を向いていた。
目が潤む。
頬が火照る。
吐息がなる。
徐々に背伸びをして顔が顔(の横へ下から)に近づいていく。
「ちょっと齧ってもいい?」
< Warning! Warning! Warning! >
- 288 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/19(月) 00:30:00
- >>287
様子がおかしい。
そう気づいた時にはもう遅かった。無心にメニューの文字に視線を走らせたのがまずかったのか。
俺は彼女の熱い吐息が首にかかってやっと気づいた。
しかし首にかかる熱い息とは対照的に体に走るのは悪寒のみ。
ゆっくりと―――間違っても噛まれない様に―――彼女のほうに顔を向けると
異常事態であることがはっきりと取れた。
人間である俺の耳元で「齧っていい?」などと聞くのが正常である物か。
しかし、しかしだ。逃げられはしないし逃げてはいけない。
彼女から逃げてはいけないのだ。そして逃げる以外の助かる道を探すんだ。
戦場で培った平常心を必死に保ちながら、考えを張り巡らさせる。
こんな時、吸血鬼に対して何をすればいいのだろう。あらゆる記憶を総動員して吸血鬼に関する情報を
かき集める。齧りたいかどうかというのはいわば血を欲しているという事だ。首筋に噛まれれば確かに
彼女の欲求は満たされるだろうが、そうはいかない。よくて俺が吸血鬼になるか、悪くて死んでしまう。
少しばかりの血を飲ませよう。これで余計に火がつくか落ち着きを取り戻すか。
ギリギリの賭けだった。
俺はシースに納められたナイフを気づかれないように少しだけ刀身を露出させ、左手の人差し指を走らせる。
念のために少し大きめに傷をつけた。多少の痛みと共に血が流れ出す。
「…フラン。少しだけ、俺の血をやる。だけど噛んだり、齧ったりするのは駄目だ」
右手で少しフランの体を離すと、俺は彼女の綺麗な唇の合間に傷つけた左手の人差し指を滑り込ませた。
- 289 名前:サーナイト♂@探検隊オスメスズ ◆suKEbEVebI :2009/10/19(月) 00:32:44
- >>283 こんなかわいらしい外見をして。
…コイツ。俺をかわいらしいとか思ってんな。
ちょっとしたココロのボヤきが聞こえちまうのがエスパーの悲しいサガだぜ。
へ?いやいや俺キレてないッスよ。
これくらいでキレないって。平常心ッスよ。
【サーナイト♂の近くの木の枝が、突然 バキッ と折れた。】
>>「メイド服を着て、なあ。ま、いいんじゃないか?
外見的に。俺は着ても全く似合う自信がないしなあ。残念とも思えないけど」
「まーあんたら人間がエンカイとかの『罰ゲーム』でそんな格好されるもんだと思ってくれ。
…俺も好き好んでこんなメイド服の似合う、かわいらしい外見はしてないッスよ。」
ちょっと皮肉っぽい言い方になっちまった。
なんか男らしくないぜ。いかんいかん。
>>「…あったようななかったような。どちらにしろあまり思い出したい事じゃないな」
「よーするにヒドい目にあったってわけッスね。
シャワーズも水タイプのくせに水難事故者を救助しそこねるなんて、とんだマヌケだぜ。
いちおーアイツの悪友として詫びておくッスよ。」
…聞かれてないよな。(汗)
アイツ液化してどこにでも忍び込めるし。さすがにいないことを祈る。
>>284 ……リッター150円、その体なら十リットル位が限度と見た
俺の目の前に出されたのは…油だった。
えっ?確かに中華料理は脂っこいとか聞くけど、まさかここまでかよ!?
それとも注文の仕方を間違えたか?
――みんなの視線が突き刺さる。
アレですか。俺はひょっとして通ぶろうとして墓穴を掘った超絶マヌケヤローですか。
はずかちぃぜ。もうお婿にいけないッ。
- 290 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/19(月) 00:34:32
- >>282
「互いが解んねェって思っててそんままそれで変なぶつかり合いになって…
ま、そういうの少なくないさな。
そこで後から変な縁が出来たりするのがまた面白いんだが。腐れ縁にしろな」
実際理解の無い状態からのぶつかり合いなんて1度や2度じゃない。
だがそこで出来た縁ってのも今少なからずある。
互いにすれ違ったままってのもあったがそれも結局ただの結果だ。
当たってみなけりゃ結果の出しようもない。
「そりゃ御忠告どうも。
普段煩いヤツほど…ってのもよくある話だしな。それこそ聞き飽きるほど」
そう、良くある話。
これも1度2度じゃない。それこそ言われるまでもない。
「ま、そこらをプラプラ適当に往ってりゃ勝手にそういう相手にぶつかりました、
なんて話にも出くわすだろうさ」
まあ何にせよ…このお嬢ちゃんは面白いヤツだ。色んな意味で。
>>285
当てずっぽうのつもりだったが…どうやら図星らしい。
「隠すこたねェよ。俺だってサボリみたいなもんだ。
まぁサボリというより最初から週休6日スタイルなだけなんだがな」
何しろ便利屋だ。
仕事の選好みなんて相応の力さえあればやりたい放題だ。
「何にしろ残念だったな、今日は」
例の羽のお嬢ちゃんのことを指してだが、顔や目線はそいつに合わせない。
後が煩そうだしな。
>>286
シローが扱っているのは人が乗れるほどデカいロボットらしい。
俺には全く未知の世界、そして憧憬の対象たりうるものでもある。
何しろそんなもの映画やコミックやアニメでしか見覚えが無い。
「またそいつはロマン溢れるねェ…戦車でも乗るだけで興奮しそうだってのにな」
ところでまだメニューがはっきり決まってない。
どうもチャイニーズって覚えがあまりない。
と、そこでシローが口をはさむ。麻婆豆腐とやらも覚えが無いが他に目当ても無いのでそれで。
「じゃあそいつにしとくか…麻婆豆腐っての一つ!」
- 291 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/19(月) 00:41:03
- >>288
「ん」
口に突っ込まれた指を舐める。血の味。
そうだ、差し入れのラーメンには血は入っていなかった。
だから良く考えたら昨日からずっと血を飲んでなかったのだ。
咲夜はお姉様とめーりんの対応に忙殺されていて
ラーメンを食べている私を見てそのことに気がつかなかったのだろう。
仕様も無い。
なにしろ自分自身で忘れていたくらいなのだから。
血の味を感じたことで精神の平衡が取り戻される。
指を引き出して、傷を塞いであげる。
姉と違って魔法はへたくそだが、このくらいの切り傷を塞げないほどでもない。
魔女は最初から比較対象から外すよ。
魔法技術力53か、ゴミめ。
プロと比較すると自分がゴミくずのような気分になる。
「……ごめん。もう大丈夫」
落ち着いた表情でアマダに礼を言う。
借り1にしといてあげるよとぼそぼそ呟きながら
照れ隠しにメニューに視線を落とす。
「……この大蒜ってなんて読むの?」
指差して聞いた。
この際、質問はなんでもよかった。
>>289
「なにこれ?これがハイオク?」
言って指をつっこんで舐める。
まずッ!?
まず過ぎッ!?
なにこれ、まずい。
サナダちゃんへの視線が変わる。
「変わった味覚ですね」
何故か敬語になった。
- 292 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/19(月) 00:48:46
- >>290
アマダごしに会話を続けるのもアレだが、まぁ支障もないので続ける。
プラプラ歩いて出くわすならプラプラ歩いてみようか。
問題は会うなり逃げ出す奴ばっかで精神衛生上よろしくないことだ。
そのうち我慢できなくなって片っ端からぶっ壊すモードになってしまいかねない。
「難しいよ。出会っても区別がつかないしさ。
待ってたっていいことななかないのは骨身に染みて分かってるけどさ」
割り箸の先をツメでかりかり削って変なロボの顔をつくりながら零す。
名づけてガンダムヒソーテンソク。
必殺技はタイサイセークンランチャー、相手は死ぬ。
スパロボで出たら最初は敵ね。
ひどくくだらない話を組み立てながら腐れ縁とか羨ましいな、と思った。
うちの縁はバカな姉が好き勝手にいじるから。
そういうの無いんだ。
- 293 名前:サーナイト♂@探検隊オスメスズ ◆suKEbEVebI :2009/10/19(月) 00:56:41
>>287 「うん、わかったよサナダちゃん」
あははー サナダちゃんだってさー
「誰が真田志郎だッ!
『こんなこともあろうかとー リフレクターをおぼえておいたのだー』
とでも言うのかーッ!?」
いかん、興奮のあまりヘンなツッコみをしてしまった。
まぁいいや。好みでなくとも女の子には俺、優しいぜ。
あんなキュートなスムァイルで言われちゃ…な。
>>290 「まぁサボリというより最初から週休6日スタイルなだけなんだがな」
うーらーやーまーしーいーッ。
「俺もそんなセレヴな生活をしてみたいぜ…
ウチはいわゆる中小企業的な何でも屋だから依頼とあればすぐ出動かかるッスよ〜」
俺たちもそれなりに力はあるつもりだけど、上には上がいるし。
ぶっちゃけ探検隊チーム内ではイロモノの烙印押されてるし。
選り好み… したいなぁ。グスン
>>「何にしろ残念だったな、今日は」
「まぁ、ね。今日はそれが目的じゃあないッスから。
こーして知らないヒトたちとダベるのも悪かないッス。」
何せ人間すら俺たちの世界にゃいないからなぁ。
カゴから初めて外の世界に出たカナリア、とまではいかねーけど…
>>291 「変わった味覚ですね」
あぁ…さっそく通ぶって見当違いの注文をしたことがバレそうだぜ…
「えーっと… これは―― そう!お持ち帰りようなんだぜ!
いや〜知り合いの炎タイプのヤツがどーしても飲んでみたいって言うんでさぁ…
だからそいつのために注文したんだ。俺ってトモダチ思いだろう?」
よし、これでいこう。
炎タイプの友達はいるにはいるが… あの子はこんなもん飲まないよなぁ。
- 294 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/19(月) 01:08:09
- >>291
緊張した時間が流れる。俺の額を汗が伝う。
彼女が口の中で指の血を舐める少しの時間が一時間にも永遠にも感じられた。
目を逸らす事なんか出来ない。逸らせばヤラレル。
その場で硬直するほかなかった。
一か八か。俺の行動はサイコロよりも複雑なルーレットの中で数少ない当たりを引いたようだった。
指から口を離したときには、平常心を取り戻した顔であった。
首の筋にかかった死神の鎌を、俺は再度払い除けたのだった。
いくつか吸血鬼関連の本を読んでおいてよかった。
ありがとう、局長。
謝るフランの頭を気にするなと微笑んで右手で撫でる。
魔法をかけられたようで俺の指の傷はすっかり塞がっていた。
…無論涎塗れにはなったが。後でそっと布巾で拭き取った。
「にんにく。ガーリック。頼んだら駄目だからな。他のにしなさい」
一気に緊張感が抜けると今度は腹が減ってきた。
俺は適当に目に付いたチャーシューメンと唐揚げを頼んだのであった。
>>289
うおっ、いきなり近くの木が折れた。
ポルターガイストか。シルフスコープがないとトラウマなあれか。
しかし今の俺はお化けに動じるほどの気力は全く持って残ってないぞ。
「罰ゲームっといっても大分際物だな、それ。一般人は触れる機会すらないぞ。
ま、線が細いなら大丈夫だったんじゃないか?」
そういえば咲夜のメイド服はどうなんだろうか。罰ゲームで着たら案外似合ってたから今でも着続けているとか
あるかもしれな…ねーよ。しかしそういった類の服はどこで手に入るのか。謎である。
「…あ、いや、気にしないでいい。俺も忘れたいし」
主に砂浜に投げ飛ばされた事を。不死鳥娘によって。
>>290
「ロマンを感じるだろ?だけど戦場はリアリズムが支配するんだ。乗れば拍子抜けさ」
グッと出された水を飲み干す。
実際はそうだった。戦争が始まってから俺はザクから作られたシミュレーションで急ごしらえの
パイロットとなった。そのときは案外思うように動かずいらついた物だ。
それでも俺は他のやつより成績がよかったけど。
「特殊な製法の大豆の塊と肉を混ぜたもんだ。不味くはないだろうから安心しろ」
…それにしても結構香辛料入れてるな。大丈夫か?
- 295 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/19(月) 01:13:37
- >>292
お嬢ちゃんと二人でシローを挟んで座る形となる。
しかしこの麻婆豆腐っての、中々面白い味わいじゃないか。
チャイニーズに馴染みの無い俺には新鮮な味わいだ。
ピザばかり喰ってんじゃないとか言われるのも今は少しばかり納得できるか。
他者とぶつかることすらそもそも許されない環境に置かれている…とでも言うわけか。
それこそ何かに運命とやらを勝手に弄られてるかの如く。
文字通り箱入り娘。
閉じ込められてる自覚さえなければどんなに楽だったろう。
何にしろ全く色々と不憫なヤツだ。
と、お嬢ちゃんがチョップスティックで変な顔作って見せている。
子供らしいしょうもないイタズラに瞑目で軽く吹きだす。
「ま、どうしても憂さ晴らしの相手に飽き足らなくなったら…俺の所にでも来な。
そうそう退屈はさせないつもりだぜ」
気紛れで零れた一言。
何故か知らないが言わないと気が済まなかった。
- 296 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/19(月) 01:13:52
- >>293
リフレクターがどうとか。
よくわからないが不満そうなご様子だ。
「んー、じゃあサナサナにしようか?」
妥協点を探ってみる。
確かにサナダちゃんと呼んだときに連想していたものが
実は虫だったなどと知ったら怒られそうなので、変更するにやぶさかではないのだ。
>そう!お持ち帰りようなんだぜ!
「成る程、まりさが良く言ってる!
……でも、それ持てるの?
重いものもってテレポートするのって感覚がずれてけっこーしんどいじゃない?」
- 297 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2009/10/19(月) 01:14:43
……と、背後に吸血鬼が降り立つ。
その姿は私とうりふたつ。
すなわちフランドール・スカーレット。
「あれ?どうしたの?
お姉様をかく乱してたのに二人も同じ場所に集まったら見つかっちゃうよ?」
フォー・オブ・アカインド。
私の得意技のひとつ、4人に分身し、それぞれが独立行動をとることができる。
今回は出先を特定されないために4人の内のゆうに3人を囮に使い、
あいつの目を誤魔化す目的で使用していた。
それが戻ってきたという事は…・・・
『咲夜にショボシャキスレのダミーが見つかった、
アイツにここも見つかった。限界だ』
溜息。
せっかくのおそとなのに。
せっかくのちゅーかなのに。
「ごめんねみんな。帰る時間になっちゃったみたい。
また今度、遊ぼうねぇ」
手を振って屋台から離れて宙に飛び上がった。
それじゃね、と言って右手をギュッ!
虚空が破壊され、空に再び穴が開く。
私と私の分身はひとしきり手を振ると、その穴へ飛び込んでいった。
やがて先ほどと同じように急速に穴が修復されて行くのが見えた。
<了>
- 298 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/19(月) 01:26:51
- >>293
「奇遇だな。その辺も実は一緒だ。24時間待機状態ってヤツか?」
週休6日スタイルとしちゃ居るが、それは飽くまでも便利屋としての話。
『裏』の顔となればそれこそ連日無給無休だろうがぶっちぎってみせる。
要するにそっちの顔では24時間臨戦態勢って訳だ。
「ま、それもアリだな。
実際ここって場所はいつ来ても退屈させない」
俺のこの仕事スタイルと相俟って様々なサプライズが待ち受けている。
実に僥倖と言えるだろう。
>>294
「そっか、そいつはまた残念な話だな…」
ロマンの裏側。まぁ何もこのロボットに始まった話じゃない。
綺麗な薔薇には棘があるという言葉があるように、こういう華のある話には必ず黒い面が潜む。
まあそれも飽きるほど聴いた話。
ただロボットを「本業」に持ち込めたらまた刺激的な話だろう。
それを使わせるだけの相手が居ないのが残念だが。
そう言えばこの麻婆豆腐ってのにうっかり香辛料やたら次ぎ込んだな。
周りからはお子様味覚などと言われる。
「まぁな。何でも刺激的なのが好みなんだ、俺は」
- 299 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/19(月) 01:27:22
- >>297
誰かが来たと思ったらフランだった。
俺の隣にもフラン。俺の後ろにもフラン。何だ、これは。
忍法影分身というやつか。ジャパニーズニンジャの術まで使えるのか、このごろの吸血鬼は。
で、時間切れか。残念だ。折角の中華なのに何も頼まないままというのは可愛そうだ。
どうした物かと、ふと硬貨数枚で買える中華菓子の袋詰めを発見した。
例の如く飛び立って帰ってしまうのだろう。俺は手早く金を払い、麻花、だとか書いてある袋を買った。
「それじゃあな、フラン。また機会があったら遊ぼうか」
弾幕ごっこ以外で、と心の中で付け加えた。
飛び立とうとする少女の後ろに見えた羽に対して悪戯心が湧き上がる。
穴に飛び込む寸前、端の羽根に菓子の入ったビニール袋をかけた。
「…これでよし、かな?」
羽根だって体の一部だ。早々気づくと思うが。
さて、少し空を見回してみると、予想通り場違いな蝙蝠がいた。
姉の監視の目なんだろうか。何か不機嫌そうなんだが。
とりあえず俺はその蝙蝠に手を振っておく事にした。
- 300 名前:サーナイト♂@探検隊オスメスズ ◆suKEbEVebI :2009/10/19(月) 01:33:22
>>294「…あ、いや、気にしないでいい。俺も忘れたいし」
女関係で何かあったんだ。間違いない。
いや〜この人もマジメそーな顔してよくやるぜ。にやにや。
しかし…
「ところでさっき、けっこうあんた命がキケンでピンチだったッスねェ〜。
いざとなったら手持ちの『復活のタネ』を分けてあげよーかなと思ってたぜ。
…人間用じゃないから効果のほどは保障しねぇけど。」
失敗すると 「*はいになりました*」 ってヤツだな。
人間ってモロいぜ。
>>296 「んー、じゃあサナサナにしようか?」
何その奇妙な冒険。
…いや、このへんで妥協しておこう。
ゲレゲレとか名付けられたら泣くに泣けない。
「あー うん… それでいいぜ。
虫っぽい名前はイヤだからな。虫はエスパーにこうかばつぐんだぜ。」
>>重いものもってテレポートするのって感覚がずれてけっこーしんどいじゃない?
「フッ… 甘くみられたもんだぜ。
これくらい、ちょちょいのちょいで―――」
はっ! ふん! おりゃあッ!!
きてますきてます! やめろテツオ! ロデェェェェム!!
ゼェゼェ ゼェゼェ
「いや、これは単なる準備運動。コンセントレーションだぜ。」
>>297 ごめんねみんな。帰る時間になっちゃったみたい。
よかった。女の子の前で恥をかかずにすんだ…
「うん!そーか、なら仕方ないなッ!!
またあそぼーぜ、フランちゃんっ。」
- 301 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/19(月) 01:40:50
- >>297
―――と、ふと背後を見ればお嬢ちゃんと瓜二つの姿が。
古代日本のニンジャってのがよく使ってた分身の術ってヤツか?
何にしろその二人の会話の内容から察するに、
お忍びで遊びに来たのに誰かに見つかってしまったらしい。
要するにここで残念なお知らせ…七色の羽のお嬢ちゃんはここで引き上げだという。
お嬢ちゃんが右手を強く握ると、突然空が割れてそのままその割れ目の先へ―――
成程、さっきの空が割れたような音はコイツが主犯だった訳か。
まあ主犯っても別に何か誰かに被害が及んだ訳じゃないが。
「フッ、じゃあな」
ふと気になるがあの子は俺のさっきの一言を聴いていただろうか。
聴いてもらえてればまあ幸い、聴いてなくてもまた会う機会はいつかある。
その時にでも伝えてやるか…ただそんなトコだ。
まあ飽くまで気紛れで零した一言に次とか言うのもアレだろうが。
- 302 名前:サーナイト♂@探検隊オスメスズ ◆suKEbEVebI :2009/10/19(月) 01:45:42
>>298 「奇遇だな。その辺も実は一緒だ。24時間待機状態ってヤツか?」
なーんだそうか。よかった…
ウチみたいにメシ食ってる時や、トイレで用足しの時にまで徴集かかるのはフツウなんだな。
いや、それはどうだろう。
「お互い大変ッスよねぇ… ここで同業者に会えるとは思わなかったぜ。
こうしてグチも聞いてもらえるし。」
さて、俺も帰るとするかね。
また隊長にドヤされるのはイヤだし…
「じゃ、俺もそろそろ帰らせてもらうぜ。また機会があったらヨロシク!
ペコペコン☆ テレポーテーショーン♪ あぁ〜未確認〜♪」
【サーナイト♂は さっていった】
【…ハイオクいりの ポリタンクをおいて。】
- 303 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/19(月) 01:48:31
- >>298
人間考える事代わりが無いのさ。
新しい技術が出たらすぐに争いに使えたりしないか考える。
飛行機だって元はそうだったじゃないか。空を飛ぶというのは人類の長年の夢だった。
それをライト兄弟が叶えたと言うのに実際にはすぐに戦争に投入された。
「別の使い道だって一杯あるんだ。それでチャラになるには荷が重過ぎるけどな」
テクノロジーは常にそれ自身は中立。善悪どちらかに転ぶかは使い手次第。
そして戦争が去れば主に善の方向で使い道がないか模索される。
MSは十分に善となりえる。人間の夢である人型二足歩行ロボットなのだから。
っと、俺にもチャーシューメンと唐揚げが届いた。
先ずはスープを一口啜って良い味だと思い、次にチャーシューと共に麺を口の中に放り込む。
うん、なかなか美味い。
「食い方なんて人それぞれだから気にすんなよ。場合によっちゃあ調味料無しで食って欲しい人もいるけどさ」
そういう時は場の空気を読むのが一番。現代人には必要なスキルだ。
>>300
女性関係においては酷い目にあうことが多々。
この世には危険が満ち溢れている故、俺は様々な障害を乗り越えながらもアイナへの愛を忘れない。
例え…どんだけ苦しもうとも…!…もうちょっと頻繁に帰ってやりたい物だ。
「…あ、いや、気づいてたか。…あれほど危険な目にはそうそう会いたくはないんだがな。
ホントに命の炎が台風の前にさらされている気分だった。平常を取り戻してくれてよかったけど」
女性関係にリスクはつき物。いや、交友でもリスクが付くって言うのは正直驚きだが。
特に生命の危機に直結するリスクが。
- 304 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/19(月) 01:55:22
- 出された食事は早々に食べ終わった。
二品頼んだが夜食としては十分な軽さだろう。
値段を抑えてこうやって客に配慮するとは、この店は間違いなくやり手だ。
「…んじゃあ俺もそろそろ失礼させてもらうか」
この国の札を二枚出して清算。ジャラジャラと渡された釣りを財布の中に入れる。
二人分負担する事になるかなと思ったら菓子代だけで軽く済んだ。
良かったような、悪かったような。
「じゃあな、ダンテ。また縁があったら会おうか」
そういって俺は停めてあった自転車の鍵を外す。
先日扱けてもなんともない。流石一刻号(基地の物。勝手に命名)だ。
コジマ号(大隊の時の物。やはり勝手に命名)と同じ血を引いているのだろう。
いつものように俺は坂を下り基地に帰ったのであった。
【退場】
- 305 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/19(月) 02:14:03
- >>302
「まあ大変っちゃ大変だ。もうかる仕事なんてそうそう来ないしな」
…と、またも一人、いや一匹か?退場宣告。
例の瞬間移動で何処かへともなく去っていく。
「じゃあまたな。今度はいいオンナに出くわせればいいな。
…全く、変なヤツだったな」
次会う時があればまたグチ話でも聴いてやるか。
>>303
「ま、そう言う事だろうな結局」
実際俺も今ロボットを「本業」に持ち込んでみたいと思ったわけだしな。
それも人から見れば「善」の使い方なんだろう。
まあ例のアレな書類を贈られる羽目にさえならなければだが。
と、またしても退場宣告。
これで残るは俺一人…というより、これまで俺が先に引き上げコールした験しが無い。
「ああ、またなシロー」
苦労してんだろうな、アイツも。それこそ理想と現実の狭間を揺れ動いて。
最初から思っていたが、そういう顔つきと眼つきしている。
さて、スパイス漬けの麻婆豆腐も平らげたわけだし…とりあえず俺も帰るか。
と、手元はドル札とセント銭だがまあいいだろうさ。
適当に換算して計算でもしてくれ。無責任だな我ながら。
一応食い逃げでないのはアピールしとく。最悪ツケ扱いで。
じゃ、ちょいと今日は冴えが悪かったがここまでだ。
【退場】
- 306 名前:零崎人識 ◆kILLEREa5g :2009/10/20(火) 22:14:20
-
何だってこんな場所に来てしまったのか――なんて問いはどーだって良い事だ。
人のやる事為す事総てに理由がある筈なんてねーし、理屈を並べる意味もない。
犬も歩けば棒に当るように。
豚に真珠を与えるように。
猫が居れば撫でてみたくなるように。
馬の耳に念仏を唱えるように。
――人を気付けば解しちまっているように。(勿論、今は禁欲中だ。念の為)
理由を付けるまでもなく、無意味である事も理解せず、なんとなくそうなってしまっている事なんてのは多々
ある。あるだろ? ないって?――まあ、俺にはあるんだよ。
「だからって――紅葉狩りってガラじゃねーだろ、俺」
しかも夜に紅葉狩りはねーだろ。
だがしかし、なんでも今夜はオリオン座流星群なんてモノが一番見易いとかどーとか。家電屋にふらっと立
ち寄ってテレビ眺めてたらそんな事を言ってやがった。
じゃあまあ見てみるかと今に至る――訳じゃあないが、奇しくもこんな事になったらしい。
「かはは、傑作だな」
星にどんな夢を見ろってんだ。
- 307 名前:名無し客:2009/10/21(水) 06:38:39
- 高台警備員
「お兄さん?こんな所で寝てると風邪引きますよ?」
- 308 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/21(水) 22:03:06
- 夜の高台をメイドが歩く。
買い物籠を片手にメイドが歩く。
月は雲間より空の上に、紅葉した葉は地の上に。
今宵は最初から蝙蝠同伴。
肩の上にしがみつくようにお嬢様のサーバントフライヤー。
有体に言えば面倒になったのである。
見たいならつけないで最初からこうしてくれればよかったのだ。
お嬢様ご本人でないのがいささか残念ではあるが、
妹様もまだ不安定な状態では仕方が無い。
動けないなりに退屈しのぎはしたいということなのだろうか。
お嬢様らしいと言えばその通りだけど。
肌を刺す風は既に冬に近いもの。
長袖にロングスカートで出てきたのは正解だったようだ。
それでもあの霧の街の冬ほどではないけれど。
立ち止まる。
高台の柵の前。
周囲が一望できる場所で一つ大きく伸びをした。
肩にしがみついている蝙蝠がずりおちそうになって慌てている。
ここのところ色々あったので、
何も考えずゆっくりしようと思った。
そう思ったら自然とここに足が向いた。
お嬢様は最初からここにいくとおもっていらしたようだが……
まぁ、そういうことにしておこう。
- 309 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/21(水) 22:26:08
ふと足元の柵に目をやるとどんぐりが食い込んでいるのに気がついた。
風……というのはさすがにないだろうから、誰かがこうなるようにしたのだろう。
押し込んだにしては綺麗に刺さっているわね。
まるで撃ち込まれた弾丸の様。
ひとしきり分析すると興味を失い、私は崖から離れる。
木立を覗いていつぞやの折れた樹がすっかり後片付けを受けて
切り株を残すのみになっているのを見かけ、小さな溜息をつく。
いや、ものは考えようだ。
切り株だけでも残されたというのはそれはそれで風情ではないか。
そして自分の内心の言葉に苦笑。
悪魔の狗が風情を語れるのね。
可笑しい。
切り株に近づくのも気が乗らず、ベンチに戻って腰掛ける。
「あら」
思わず声が出る。
どうやら意外と足が疲れていたらしい。
座って足先を浮かせると痺れにも似た疲労感が抜けていく。
「少し、こうして座っているのもいいかもね」
夜空を見上げて呟いた。
- 310 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/21(水) 22:27:52
- 「あらま」
前に来た丘。珍しく真面目に仕事をして少し疲れたので、ちょっと出かけて来て見れば・・・
樹が心なしか疲れていた。風は思ったより冷たく、紅葉が・・・・枯葉がさわさわと揺れている。
制服のスカートだと、ちょっと寒いかも。
「今年もお疲れー。後で越冬用の藁でも巻かせるわ。」
ぽんぽん。樹を叩きながら呟く。もうすぐ盛りは過ぎるけど、きっと来年もまた綺麗な紅葉を
見せてくれるだろう。だから、樹は凄い。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
樹の陰からひらひらと覗く何か。スカート?二抱えぐらいはある大きな樹の陰から、ひょいと
顔を出して何かのほうを見る。
綺麗な女の人が柵によりかかって景色を眺めていた。綺麗な銀髪に、素敵なカチューシャ。
ロングスカートに可愛らしいエプロン。そして肩には・・・・
「こ、蝙蝠?」
気が付くと、つい大きな声を出していた。
- 311 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/21(水) 22:36:55
- >>310
蝙蝠と驚く声が聞こえる。
いつもなら無意識に時間を止める所だが、今日は我慢。
聞くに心臓によくないらしい。
そうやって時間をとめて振り返るのは。
だから、ベンチに腰掛けたまま、肩越しに声の方を振り返った。
目をまんまるにした可愛らしいお嬢さんがひとり。
樹の陰から顔を出して、こちらをまじまじと見つめていた。
蝙蝠。
ああ、蝙蝠。
そう言えばそうだ。
蝙蝠も一般的な動物ではなかった。人里では。
ちょっとジト目でサーバントフライヤーに視線を送ってみるが、
煙たそうに背後を見ているのみで、特に形を変えて誤魔化してくれる気配は無い。
ぬいぐるみやアクセサリに化けてくれたっていいようなものを。
まぁ、内心で愚痴っていても仕方が無いので、
肩越しに視線でお嬢さんに会釈する。
「こんばんは、お嬢さん。
ご名答、確かにこれはこれは蝙蝠と呼ばれる動物よ」
悪戯心の悪い癖がうずいたのか、少し反応が楽しみだった。
- 312 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/21(水) 22:40:56
- 蝙蝠とは吸血鬼の象徴だったり時によっては吸血鬼そのものだったり。
夜行性で血を吸うという動物の蝙蝠がいる以上そういったイメージが定着するのも仕方がない。
でもそれじゃあ蚊はどうなるんだろうか。蚊の吸血鬼は聞いた事ない。
一叩きで潰れるほど弱い昆虫の為かあまり禍々しい寓話は聞かないな。
あるとすれば調子に乗ってライオンを刺しまくってアイアムNo.1!とか言っているうちに蜘蛛の巣に掴まって
食われるという、そんな話ぐらい。
「ん?今日は最初っから見張り付きか?」
俺はコーヒー片手に、ベンチに座っているメイドに話しかける。
肩には大きめの蝙蝠。いつもの見張りに来ているあれだろう。
何かの魔法を通して目から捉えられた情報を遠方に飛ばしているとも予測できる。
「…しっかし随分とここら辺も寂しくなったもんだなあ。10月が終わるころには殆ど落ちるみたいだし」
幾度となく惹かれた場所ももうすぐ来秋まで見納めとは、これもまた寂しい。
しかしここは四季が明確にある国。自然に我侭を言ったところで聞きうけられるとは思えない。
「引っ越せ」の一言で片付けられるのが関の山か。
- 313 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/21(水) 22:51:22
- >>312
聞きなれた声。
見張りつきかとは勘の良い、しかし、立ち回りの下手な事を言うものだ。
悪意ある見張りであったらきっと不利に働くだろうに。
実際肩に張り付いている蝙蝠は胡乱げにアマダ様を眺めている。
しかし、少なくとも悪意はないはずだ。
お嬢様はアマダ様をそれほど低く評価してはいない。
まぁ、悪印象までもないとは言い切れないが。
「ええ、こそこそするのはお互いの精神衛生上
良く無いと分かっていただけたようでして」
皮肉げな声音に蝙蝠が気まずそうに目を反らす。
まぁ、可愛らしい事。
アマダ様の呟きに「冬も近いのですね」と相槌を打って木立を眺める。
ああ、確かに寂しくなってきた。
最初に来たときはあれほど多くの葉が舞っていたというのに。
「それはそうと、先日は妹様がご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません」
立ち上がって深くお辞儀。
私が外出を止められなかったばかりに命の危機にまで至ったのだ。
いくら謝った所で許されるはずも無い。
が、謝らないという選択肢もまた、私には存在しなかった。
- 314 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/21(水) 22:52:54
- >>311
あたしの声が届いたんだろう、お姉さんは肩越しにこちらを振り返ると
一瞬怪訝そうな顔をした。それから目線で軽く頷いて、答えてくれる。
>「こんばんは、お嬢さん。
> ご名答、確かにこれはこれは蝙蝠と呼ばれる動物よ」
綺麗な顔して、平静にひどいことをゆーおねーさんである。なんか、あたしが蝙蝠すら知らない
可哀想な子みたいじゃない。よかろう!その勝負受けて立とう!
「えぇ?!そ、それが蝙蝠なの!!そんな!蝙蝠って言えば吸血鬼が変身したり
吸血鬼の使い魔だったりするオソロソシー生き物なのに!!危ないわ!!!」
樹から顔だけ出したまま言ってから気がついた。ノるにしてもこのノり方は最悪だと。
これじゃ本当にただのバカ扱いだわ。
さすがに初対面のおねーさんにアホ呼ばわりされたくはない。だから、ちゃんと樹の陰から出て
おねーさんの前に立ってご挨拶。
「なんてね。こんばんわ、おねーさん。蝙蝠と一緒にお散歩?あんまり見たことないから
少し驚いちゃった・・・・こんな綺麗なおねーさんが蝙蝠と一緒なんて。
ねぇねぇ、ちょっと見せてもらえません?」
実際、手乗りならぬ肩乗り蝙蝠はちょっと気になった。
>>312
と、話したそばから随分前に見た顔が。
「あーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
指差した。
「愛妻家の軍人さん!!ひっさしぶりー!!!」
ちょっと冷静に考えるととてつもなく失礼な再会の挨拶だけれど、あたしは気にしない。
この軍人さん、確か優しかったし。
- 315 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/21(水) 23:06:33
- >>314
おお、鋭い。
声には出さないが、心の中でご名答。
たしかにこれは吸血鬼の使い魔そのものよ。
「改めましてこんばんは、お嬢さん」
木立から出てきたお嬢さんにあわせてベンチから腰をあげてご挨拶。
なかなか利発そうで礼儀正しい。
美鈴あたりが可愛がりそうなお嬢さんだ。
「危ないのはそっちかもしれないわよ?
ほら、蝙蝠が吸血鬼の使いならそれと一緒にいる私は吸血鬼かもしれないじゃない?」
くすくす笑いながらベンチに腰を下ろす。
手を伸ばす少女に危機感を感じたか、サーバントフライヤーが
よじよじと背をはって少女と反対側の肩へ逃げる。
「見るのはいいけど、手は出さない方がいいわ。
ほら、吸血蝙蝠なのがセオリーでしょう?
血をすわれちゃうかも」
ちょっとからかいすぎただろうか。
だが、サーバントフライヤーがおとなしくしてくれる保証がなかったので、
警告しておくにこしたことはない。
こんなところで面倒ごとを起こしたくないというのはお嬢様も同じだとは思うが……
>「愛妻家の軍人さん!!ひっさしぶりー!!!」
どうやら少女はアマダ様のお知り合いであるようだ。
先日の音楽家の方もそうだったようだし、交友関係の広い人だ。
それにご家族が居るという話は聞いた覚えがあった。
奥様はどんな方だろうか。
どんな人であれ、彼が奥様を大事にしているだろう事は疑いようも無い。
会った回数もそれほどではないというのに、これまでの性格から断言できてしまう。
それだけに自分のミスで危地に追いやった事は、いささか心苦しかった。
- 316 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/21(水) 23:12:21
- >>313
おお、睨んでる睨んでる。
こいつは主人の感情まで反映させる事が出来るのか。
最初はこれによく分からない展開を撮られたものだ。お陰でお互い恥かいたよ。
「無闇に秘密って物は作るもんじゃないからな。見つけられたくなければ膨大な情報の海に
埋めてしまえばいいって考えもあるもんだし。いいんじゃないか、そのアイディア」
いえーい、見てるー?と言いたいがように笑顔で蝙蝠に手を振ってみた。
これで以前みたいな悪ふざけをすることはない。
木の葉を隠すなら森、とはよく言うがこれって後で見つけるのは大変じゃないだろうか。
最初っから拾い直す気が無いなら非常に有効な戦法だが。
「や、いいんだよ。切った手も結局治してくれたし。…こっちも奢るって言っておいて唐揚げ一つ食わせて
やれなくてすまないって伝えておいてくれよ。…あ、もう聞こえてるか、そっち」
一人だけ盗聴用か、その場にいる多くの人物に聞こえるのか。
噂が大きく広まったとなると後者と考えやすいが。
>>314
耳が痛い。そんなに大きな声出すもんじゃないだろ。
実際に会ったのは二回目ほど。新聞じゃあ、日本に関する項目によく載っている。
「お久しぶりでございます、のえる総理大臣閣下」
姿勢を正し、敬礼。
堅物の軍人のように振る舞い他国の軍人として相応しい態度をとる。
「…んで、その表情から察するにもっと相応しい言葉があるようで。よお、久しぶりだな、のえる。
これでいいか?」
にっと笑い先程の雰囲気を一気に崩す。
無礼なやつだ。自分でもそう思う。だが彼女にとっての無礼の境界は曖昧。
かえってラフな態度がよろしいと思うときだってあるだろう。
- 317 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/21(水) 23:18:06
- >>315
>「改めましてこんばんは、お嬢さん」
立ち上がると、優雅に一礼しするおねーさん。どうやら色々とやらかした失礼は気にしないで
いてくれるみたい。それどころか・・・・・
>「危ないのはそっちかもしれないわよ?
> ほら、蝙蝠が吸血鬼の使いならそれと一緒にいる私は吸血鬼かもしれないじゃない?」
あたしの巧くもない冗談にノってくれた。くすくすと可愛らしく笑いながら話すおねーさんを
見ながら、あたしはおねーさんを「あたし的とっても良い人」リスト登録を決定した。
「おねーさんが吸血鬼かぁ。うーん、美人さんだから結構似合うかも?吸血鬼にしては
可愛らしすぎる恰好だけど。」
言ってから気付く。
「えっと、お嬢さんなんて言われると照れちゃうわ。そーゆー柄じゃないし。誰もお嬢さんなんて
言ってくれないしねー」
閣下と呼ばれたことはあるけど、と思ったりしたがそれは心の奥深く、喩えるならば防衛出動命令発令の
書類が仕舞われた金庫の一番奥辺りに相当するところに仕舞いこんで続ける。
「あたしは折原のえる。蝙蝠ちゃんに逃げられて少し悲しい14歳よ。」
よじよじとおねーさんの背中を移動していく蝙蝠、物凄く可愛いなー。なんて考えつつ聞く。
「おねーさんのお名前は?」
- 318 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/21(水) 23:29:31
- >>316
>「お久しぶりでございます、のえる総理大臣閣下」
うあ。敬礼された。せっかくおねーさんには何にも言わなかったのに。
ま、バレたからってどうにかなるもんじゃないけど。
「ご苦労様、シロー・アマダ少尉。楽にして宜しい。」
いつだったか自衛隊の人に格式ばった席で会った時のような対応をした。
なんなら巡閲でもしようかしら?なんて思っていると――
>「…んで、その表情から察するにもっと相応しい言葉があるようで。よお、久しぶりだな、のえる。
> これでいいか?」
楽にしすぎだろう、jk
という感想が心に浮かんだけど、その思いは心の奥深く喩えるならば以下略。
ま、あたし自身がこんなだし、そもそもここで格式ばった状況は面倒だし。
だから、あたしもいつもの調子で答えた。
「おっけーおっけー!久しぶりね、少尉さん。元気してた?
なんか最近はいろんな人と浮名を流してるみたいだけど?」
ニヤニヤ。政府の情報力を舐めちゃいけない。
「噂によると年下の少女と幼女とイチャイチャしてたゆー通報が!!」
・・・・・・・・・・・・・言ってから思ったけど、あたしも楽にしすぎだろう、jk
- 319 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/21(水) 23:32:13
- >>316
曇りのない笑顔で私を許す。
まぁ、そんなところだろうとは思っていた。
この人は、無頓着なのだ。自分に。
とりあえずアマダ様の分まで自分を責めて反省しておこう。
そう考えてとりあえず棚上げする。
「私は別に主に秘密をつくろう等と思ったこともないのですけどね」
手を振るアマダ様にサーバントフライヤーが目を丸くする。
お嬢様、アマダ様はこういうお方ですわ。
胆力というか……その、ぶっちゃけめーりんに近いタイプ。
「いえ、お嬢様だけだと思います。
妹様はその……今はおそらく地下室にいると思いますので。
伝言は、私が必ずお伝えいたしますわ」
誓って。
妹様の問題に対し、なにも手を出そうとしてこなかった身を恥じないわけではない。
せめて、そうせめてこれくらいは妹様のお役に立つべきだろう。
>>317
可愛すぎる?
甘い、甘いわ、お嬢さん。いえ、折原様。
本当の吸血鬼はもっともっともっともっと可愛らしいお姿をなさっておいでなのですよ。
ええ、私など足元にも及びません程に。
お嬢様ばんざい。
……失礼いたしました。
余計な事を考えたようです。
静止したままとは言え、妄想中時間を止めていた事は幸いでした。
「私の名前?」
……少し躊躇する。
可愛らしいこの折原様に私の名前を告げることで
つまらない争いに巻き込んでしまいはしないだろうか?
いや、かつての名前ならともかく、幻想郷でお嬢様に頂いたこの名前なら、
そう問題は無いだろう。ことに外の世界であれば。
「私は……咲夜。十六夜咲夜と申します。
今後ともよろしくお願いしますね、折原様」
さっきのそーりだいじんのあたりから、
サーバントフライヤーがちらちらと折原様を注目しているが、何なのだろうか?
聞きなれない役職だが、彼女はこの年齢ですでになにかの地位にあるということだろうか?
アマダ様への態度からもその片鱗はうかがえるが……一体どういうことかしら。
「蝙蝠は……ごめんなさいね。
私のではなく主のペットなものですので……」
あまり理由にはなっていないが、他にどう誤魔化していいか思いつかなかった。
- 320 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/21(水) 23:49:59
- >>319
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
ちょっとした違和感。あれ?えと・・・・・・・・あれ?
何かがおかしかったような気がするんだけど、何がなのか全然・・・・そんな事を
思う間もなく、間髪いれずに返事が返ってきた。
>「私の名前?」
少しだけ頬が紅潮したように見えるおねーさんは、同じくほんの少しだけ間を空けて
教えてくれた。
>「私は……咲夜。十六夜咲夜と申します。
> 今後ともよろしくお願いしますね、折原様」
十六夜咲夜。いざよい、さくや。
綺麗な名前だなぁ・・・・と、この気持ちは別に隠す必要もないので素直に言った。
「綺麗な名前ねー。うん、こういう夜にはぴったり。あ、別にこういう寒い夜だからとかじゃなくて、
咲夜さんと出会えて、少尉さんと再会できた夜に・・・・って言う意味だからね?」
と言いながら手を差し出す。
「のえる、で良いわよ。「様」は要らないけど・・・まぁ、それが咲夜おねーさんの癖なら気にしないわ。」
咲夜おねーさんの返事を聞いてから、ふと気になってさらに質問。
「主・・・?咲夜おねーさんは、どっかのお屋敷にでも勤めてるの?」
とか言いながらさらに気になることが。うん、ちょっと質問が多すぎるわ、あたし。
「ってあたしばっかり聞いちゃ変よね。ごめんなさい。かわりに咲夜おねーさんからの
質問にもお答えしましょう!・・・生憎と筋道立てて分かりやすく説明するのは苦手なんだけどね。」
苦笑い。
- 321 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/22(木) 00:01:12
- >>318
おおっと、向こうもそれなりにノってくれるつもりだったらしい。
しかしもう崩したんだからこれ以上続けても仕方ないだろう。
ここにいるのはのえる総理ではなく折原のえるであると自分の頭に言い聞かせ。
幸い、別に出会った閣下よりかは緊張せずに済む。
「…いんめー?はて…そんなことやったっけ」
あまり心当たりは無いな。近日接触した女性といえばキキ、咲夜、フラン、美鈴、フレサンジュ医師、そしてのえる。
後は神父が連れていたあの聖歌隊の女の子ぐらいか。
…うーむ、俺はアイナにしか恋愛感情は向けないし、誰かと酒宴だとかは毎度のことだし。
結論:気になる要素は全く無い。
「…なんかの間違いじゃないか?幼女云々も周りから見りゃそうみえなくもないけど、内実は全く違うんだ…」
さらりと、後ろの咲夜に視線を切り替える。
あ、責めてるわけじゃないからな。笑って手を振って気にするなというジェスチャーを送る。
>>319
そういえば最近自分を大事にしていないような気がする。
元からこういった性格だったかと思えばそうだったとも頷けるんだけど
よく死の間際ギリギリまで歩を進めている様な。先日といい、な。
ナイフを走らせた指を見てみる。傷一つ無い見慣れた指だ。ぎりぎりの判断で自身の命を助けた。
俺が、死に急いでる?まさか。
「そりゃ主従の間に鉄のカーテン引くような間柄じゃ長続きしそうにないしなあ。
監視社会ってのもいただけない職場だし」
んー、色々な反応するなあ。向こうの感情がダイレクトで伝わるのか。
意味も無く目先で指をくるくる回したり指を鳴らしたりしてみた。
やりすぎると噛みかねないからほどほどにしておこうと思うがつい反応が見たくて遊んでしまう。
「ああ、頼んだ。俺の方またいつでも遊びに来てもいいからさ。
…命が無くならない範囲で」
そういえばこの前は見方を変えれば吸血鬼化してしまう可能性もあったのか。
夜のみが活動時間か…不便だな。
「あ、そうそう。この前かけてもらった札なんだけどさ。どういうわけか結構余ったのに夜が明けなくてさ。
部下たちも起きる動き見せなかったからありがたく仮眠時間に使わせてもらったよ、ハハハ」
ちょっともったいない使い方だった気がするが自身での止め方知らないんだから仕方がない。
- 322 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/22(木) 00:13:13
- >>321
>「…なんかの間違いじゃないか?幼女云々も周りから見りゃそうみえなくもないけど、内実は全く違うんだ…」
心なしか疲れた声。あ、ちょっと悪いことしたかしら?かといってここで真剣に話を聞いたりすると
何となく面倒なことになりそうだったので、つとめて明るく茶化した。そう、これは飽くまでも少尉さんの為を
思ってのことであり、けしてけしてあたし自身が楽しんでいるわけではないのだよ!と固く心に誓ったところで
少尉さんへ―――
「ちぇー、つまんないのー。」
ぶーぶー。ブーイングを送ってみせる。頬を膨らませて唇をとんがらせて。ただまぁ、これ以上やるとただの
嫌がらせなので、一転満面の笑みで続ける。
「ま、少尉さんが真面目な愛妻家なのは知ってるからね。冗談よ、じょーだん。」
あははは、とちょっとばかり豪快に笑い飛ばしてみる。よし、話題完了。
ところで――と思い出したように付け加える。
「咲夜おねーさんとは知り合い?仲良さ気だけど。ほんと、いろんな人と知り合いだよねー。
かぐや姫さんとかもこーおねーさんとか。良い人には、良い人が集まるのかしら?」
行間には「あたし」が含まれてることにもご注目ー。
- 323 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/22(木) 00:26:23
- >>320
「有難う御座います。
そうね。素敵な夜にお会いできたのが名前のせいなら、
この名前に感謝しなくてはね」
縁ゆえに。
名前というものが持つ意味というのは意外と大きなものだ。
名前が運命を引き寄せる。
良いものも悪いものも。
名づけた人を使い魔ごしにうかがう。
蝙蝠の表情はうかがい知れないが、どこか得意げな風にも見えなくは無かった。
「ええ、メイドですもの。
使用人とはご主人様に仕えるものでしょう?」
のえる様の問いに先ほどと同じように答える。
質問してもいいよと言ってくれるので先ほどから気になっている点を尋ねてみる事にした。
「のえる様は……なにかお仕事の役職についておられるのですか?
先ほど、ソウリダイジンと聞こえてまいりましたが、
生憎とこの国のシステムに疎いものでして……」
私はヨーロッパの出であり、また小さいときにちゃんとした教育を受けていない。
大臣がなんなのかは分かるが……あまり目の前のこの少女と合致するイメージをもっていなかった。
- 324 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/22(木) 00:37:44
- >>321
サーバントフライヤーの目つきが悪い。
からかわれているのが分かってきたのだろう。
蝙蝠がこちらを視界から外しているのを頼みに、
それとなくアマダ様に視線でよせと忠告する。
見てくれはただの蝙蝠だが、これはお嬢様の分身だ。
その気になれば妹様のフォーオブアカインドに近い危険性を発揮する。
少なくとも人一人どうにかするのに不十分とは思えない。
「妹様が遊びに行くのは……難しいと思います。
申し訳ありませんが」
目を伏せて搾り出すように答える。
適当な事を答えたくはなかったので、率直に。
妹様の外出の許可は取り消された。
館内こそうろつくのに支障はないが、外へは出れまい。
あの剣幕では……そう、少なくとも数年の間は難しいだろう。
>部下たちも起きる動き見せなかったからありがたく仮眠時間に使わせてもらったよ、ハハハ
ふと思い出したようにいつぞやの時符の話。
ああ、やはり多すぎたか。
元々、永夜異変の時に夜をとめるのに使った符の残りだが、
役に立ったのであれば渡した甲斐があったというものだ。
「ああ、そうですね。
基地までどのくらいか分からなかったものですのでつい。
でも、余計なお世話にならなくてなによりでした」
そう、なによりだ。
あの時、帰りかかっていた彼を呼び止めたのは私だ。
そのせいでお仕事に影響でもあったら申し訳が立たない。
- 325 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/22(木) 00:40:20
- >>322
「酷っ!?…いや、世の中楽しい事だけが都合よく転がっているわけ無いだろう。
しかも当事者が全く持って楽しくないって点、救い無いし」
まあ、いんめーどうこうはともかく、俺は勤めて袖触れ合うだけの人間とも楽しみを共有できる
良き関係を構築する事を、半ば無意識ながら、実行しようとしているのは事実だ。
表層的な仲が良いということだけというわけではなく、外道を正すというのもまた。
そして知っているならなお性質が悪い。
自身でそれを肯定するのもどうかと思うので溜息のみにしておくが、本当に
一生を持って大切にしようとしているのは彼女だけ。
命を投げ出す覚悟があるのも、彼女の為だけだ。
「んー、のえるが悪かったら悪が集まってるんじゃないか。バイクに乗ったツッパリリーゼントとか」
昔見た内閣総理大臣上等!と書かれた旗を思い出す。
全く持って意味不明だが、とりあえず知っている名前で一番偉いのを出したという気兼ねだけはわかった様なわからない様な。
きっと作画も大きく変わって不幸と踊っちまったんだよとなっても別段
可笑しくは無い。!?
「あーそう。咲夜とは知り合い。結構最近の事なんだけどね」
話し振りから妹紅と同郷っぽいのはなんとなく察す事が出来る。
…それにしてもマトモな人間率が低いなあ。
- 326 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/22(木) 00:50:24
- 二人の会話を耳にしながらそれとなしにぼんやり考える。
いい人にはいい人が集まる。
本当だろうか?
いや、あまり正しいとは思えない。
もし正しいのならばアマダ様やのえる様のようないい人に私が出会うはずがないのだから。
ここにいるのは悪魔の狗です。
殺人鬼でもいいですけれど。
類が友を呼ぶという。
ならば、この友を呼んだ類はこの中においでなのですか?
表情にはおくびにも出さず、取り澄ました顔でニコニコ笑いながら内心で毒づく。
相変わらず嫌な女だこと。
もう何度目になるかもしれない自己嫌悪。
- 327 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/22(木) 00:51:27
- >>323
>「有難う御座います。
> そうね。素敵な夜にお会いできたのが名前のせいなら、
> この名前に感謝しなくてはね」
そう丁寧に言うと、咲夜おねーさんは一瞬何かを考えているような様子を見せた。
きっと、名前に何か思い入れがあるんだろう。普通の人なら、名前を褒められても
戸惑うだけだろうけど、咲夜おねーさんはしっかりとことばを受け止めて、丁寧に
答えてくれる。
と――――
>「ええ、メイドですもの。
> 使用人とはご主人様に仕えるものでしょう?」
メイド。
家政婦さんは居てくれると色々と助かる人。
メイドさんは居てくれるだけで幸せな気分にさせてくれる人。
そんなことをなんかの漫画で読んだ気がする。
「なるほどー。咲夜おねーさんみたいな人がメイドさんをやってくれるなら、
ご主人様も幸せよねー。」
とか言いながら実は物凄いドジっ子とかだったら面白いのになぁ、という感想は例の場所に
仕舞っておくとして。
>「のえる様は……なにかお仕事の役職についておられるのですか?
> 先ほど、ソウリダイジンと聞こえてまいりましたが、
> 生憎とこの国のシステムに疎いものでして……」
れれ?
「あら、咲夜おねーさん日本人じゃ・・・・・・・・・・・って、そっか。」
今さら気付く。
「そんなにキレーな銀髪で、そこまで完璧にメイドさんの服を着こなせる日本人もそういないわよねー。」
いやぁ、失敗失敗。頭を掻いた後、コホンと咳払いをして
「あたしは、日本国内閣総理大臣よ。
ソウリダイジンって言うのは・・・・えぇと、ちょっと待って。」
携帯電話を取り出して、ネットの和英辞書をピッポッパ、と。
「えっと・・・あったあった。英語では【Prime minister】。外国風に言うと【宰相】とか言うのかな。
簡単に言うと、日本政府の責任者。」
携帯の画面に映るPrime ministerの文字を見せながら言う。
「ま、勿論ホントはなれないんだけどね。悪魔と契約、というかそのお試し期間で総理にしてもらったのよ。
で、その後はいろいろあって今では法律上も正式な総理大臣!」
と、ここでニヤリと笑って言葉を結ぶ。
「―――って言ったら、信じる?」
- 328 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/22(木) 01:01:13
- >>324
さて、流石に目つきが悪くなってきたか。
「ご無礼申し訳ない」と静かに蝙蝠に告げて手を後ろに回し軽く頭を下げる。
無邪気な妹君と違い、正反対の高貴な性格をしているようだ。把握した事を頭に叩き込み
もしも、だが、本人と対峙した時の対応法に役に立つかもしれない。
「…そうか。ま、ただじゃ済まないとは少しは思ってたけどな。フランが元気でいるならそれでいい」
笑ってはいるが心じゃ苦々しく思う。
あの分身が告げた言葉に幼い吸血鬼の妹は酷い落胆を覚えていた。
蝙蝠に自分というものを失いかけていた、あの危険な姿を見せていたのだから当然といえば当然。
加えてこの誇り高いであろう主は自分の身内の失態を許しはしないだろう。
もう少しで俺を殺しかけたところなのだから。
「…いやあ、恥ずかしいながら欲張って自転車を飛ばしたもんだからなあ。
無駄な努力にならずに済んだのはなりよりだったし」
先程まで抱えていた暗い思いを振り払うように笑って答える。
何故だか彼女の一軒は酷く頭に引っかかっている。戦場で命からがら生還した後のトラウマが引き起こす
軽い病気のようなもの。
いかん、また遊ぼうと言ったのに俺は…。
- 329 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/22(木) 01:02:25
- >>327
光栄ですわなどとお褒めの言葉にお礼を申し上げていたところ、
先の質問に対し、予想外の回答が帰ってきた。
Prime minister?
日本の?
「政府…・・・代表?」
さしもの私も一瞬凍りつく。
この少女はこの年で国家の代表を務めていると言うのだ。
日本は王政だっただろうか?
そんな気もしないでもないが……持っている知識がそれは違うと告げる。
彼女の言葉もそれを証明しているではないか。
悪魔との契約で代表になったと。
彼女は姫君ではなく、後天的事由にょり国家代表についたのだ。
今頃驚いて……。
そんな視線をサーバントフライヤーが送ってくる。
申し訳ありません、お嬢様。
私、思った以上に察しが悪かったようです。
しかし、成る程。
悪魔と契約した人間か。
これなら悪魔の狗と類友も成立しそうではある。
ひどく納得してしまった。
「ええ、信じますよ。
さすがにすこし驚きましたけど……。
しかし、魔術もお使いになるとは、のえる様は多才でらっしゃるのね」
知り合いに悪魔と契約している魔女が一人。
彼女も魔女のように魔界と契約して悪魔をつれているのだろうか?
普段図書館で司書をしているウチの小悪魔をぼんやりと想像する。
- 330 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/22(木) 01:03:13
- >>325
>「酷っ!?…いや、世の中楽しい事だけが都合よく転がっているわけ無いだろう。
> しかも当事者が全く持って楽しくないって点、救い無いし」
「ふっふっふ・・・政治とは常に少数の犠牲の上に成り立つのだよ少尉殿!」
と、どこかの独裁者みたいなセリフは置いといて。どうせすぐに冗談だって通じるし。
この点に関しては、少尉さんは話しやすい。軍人としてはどーなのかと思えるぐらい
素直だし。
>「んー、のえるが悪かったら悪が集まってるんじゃないか。バイクに乗ったツッパリリーゼントとか」
・・・・・・・・・・・・・・・・言ってしまおうか、あるいは言わないべきか。迷ったときには、既にその言葉は
あたしの唇から放たれていた。
「ツッパリリーゼント・・・・少尉さん、あんまり言いたくはないけれど、奥さんのためにもあえて言うわ。
その発想、オジサン臭いわよ?」
けらけらけら。多分この中で最年長であろうと思われる少尉さん。世間的には十分若いのに・・・・
相手が悪かったと諦めてもらうしかないわね。
あたしは(おそらく精神的ダメージを受けているであろう)少尉さんを無視し、そのまま咲夜おねーさんの方を
見ながら続けた。泣いてる姿は、他人見られたくないでしょう?
「へー。割と最近なんだ。あ、じゃあひょっとしてさっき話した噂になってた少女って、咲夜おねーさん?
だとしたら、悪いこと言っちゃったかなぁ・・・・」
腕組みをしながら、小首を傾げてみた。
- 331 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/22(木) 01:18:13
- >>328
大仰にサーバントフライヤーに礼をとるアマダ様。
そういうことをするから恥をかいたというのに。
芝居がかった仕草は彼の癖ということだろうか。
……いつぞやの事を思い出して少し赤面する。
蝙蝠がニヤついているように感じるのは私の自意識過剰のせいだろうか?
>「…そうか。ま、ただじゃ済まないとは少しは思ってたけどな。フランが元気でいるならそれでいい」
元気で居るならいい。
そのフレーズだけはお伝えしておこう。
今はまさに元気が無い状態だ。
この言葉を聴くだけで幾分かは元気になっていただけるかもしれない。
「あまりお気になさらないでください。
妹様はすこしなんと申しますか……狂気に揺れる事があるのです。
外出禁止はそのせいですので、別にアマダ様が気に病まれることはありません」
今語りかけている相手は誰だろう。
アマダ様か?
それとも私は今、自分に言い聞かせているのだろうか?
仕方ないのだ、と。
>>330
「わ、私ですか……?」
心当たりも無いのでうろたえる。
噂になるようなことなどあっただろうか?
もしやシンデレラの……いやいやいや、あれは目撃者が限られるはず。
噂になんてなるはずがない。多分。
そ、そもそも、私とアマダ様はなんでもない。
友人、そう良い友人だ。
そんな噂になるようなことこそが考えにくい事態のはずだ。
というかアマダ様は妻帯者ではないか。
これはゴシップ!
そう、マスコミの陰謀ですね?わかります。
脳内でニタニタ笑う射命丸の姿が思い浮かんだ。
- 332 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/22(木) 01:18:30
- >>329
>「ええ、信じますよ。
> さすがにすこし驚きましたけど……。
> しかし、魔術もお使いになるとは、のえる様は多才でらっしゃるのね」
あっさりと信じられた。咲夜おねーさん、可憐な見た目に拠らず、結構豪胆なとこがあるっぽい。
「・・・そんなにあっさり信じたのは、かぐや姫さん以来かしら。」
逆にちょっとびっくりした。でも、信じてもらえたのがちょっと嬉しかったりする辺り、あたしも
まだまだ子供だなーと思ったり。なんだかんだ言って、自分では分かってるのよ。
「えぇと、魔術は使えないわよ。能力的には、ほんとにフツーの14歳・・・だと思う、多分。
悪魔云々って言うのはね、あの悪魔が「寿命30年の替わりに願いをかなえてやろう」とか
言うから「信用できない、試させて!」ってお願いしたのよ。一ヶ月無料体験コース。」
ホントは世界の支配者に、ってお願いしたんだけど「現実の職じゃなきゃ無理」と言われて
仕方なく総理を選んだ、という事実は伏せて伏せて伏せまくって最終的にはマリアナ海溝
辺りに沈めておこうと思います。
「いやぁ、今までそんな事言ってきた人間はいない、って驚いてたわ。ま、あたしの能力は
こうやって人や悪魔を驚かすことかしらねー。」
・・・・・・・・・・・・・・・・ここまで言ってふと気付いた。
「あのー、魔術とかいう言葉が自然に出てきたり、悪魔をあっさり認める咲夜おねーさんって
一体・・・・・・・・?」
あんた何者?とは流石に聞けなかった。
- 333 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/22(木) 01:19:14
- >>330
俺をいじめるのも政ですかそーですか。
まあしかし、一年戦争というのはお互いに多数派の主張であるから酷い禍根を残す事になったが。
オジサン臭い…オジサン臭い?え、オジサン臭い!?
マジかよ、俺はまだまだ20代前半…ってこの子らからしたら十分おっさんか、俺は。
しかし何が間違っていたというのだ。暴走族以降不良はどうなったんだ。
「え、えーと、それじゃあ改造学帽に長ランで高下駄、マスク、ゲバ棒、ヘルメットと火炎瓶と造反有理…」
いかん、むしろ逆行しているような気がする。って言うか不良じゃねえのも混ざってる!
不良はいつの世も嫌われているが最近の日本の不良事情って一体!?
駄目だ、思いつかない…!向こうは咲夜と俺との関連性探っているって言うのに!
- 334 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/22(木) 01:29:16
- >>333
>「え、えーと、それじゃあ改造学帽に長ランで高下駄、マスク、ゲバ棒、ヘルメットと火炎瓶と造反有理…」
「・・・・・・おじちゃ、じゃない少尉さん。ごめん、ジェネレーションギャップだわ。
何を言ってるのかサッパリ分からないの。」
さり気なく止めを刺したような気がしないでもないけど気にしない。しかしひょっとして不良を見たことないんだろうか。
士官学校に通うようなエリートには無縁なのかも。・・・・・・・とはいえ、どう見てもエリートには見えないしなぁ・・・・
「まぁ、最近の不良は昔の映画なんかに出てくるような人たちと違って全然根性ナシよ。
たかだか戦車で近づいただけで逃げるんだもん。」
軟弱すぎると思わないー?全く最近の若いもんはー・・・とおどけながら続ける。
「そんなにしどろおどろで、一生懸命話をそらさなくてもだいじょーぶよ。この場ではともかく、
他所で咲夜おねーさんとの事を面白おかしく言いふらしたりしないからー。」
そもそも、全部当てずっぽうだし。
という真相はH2ロケットに乗せて衛星軌道まで打ち上げとこう。
「大事な友達・・・って言っていいかな。そんな人たちを傷付ける気はないわ。」
- 335 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/22(木) 01:32:25
- >>332
なんと、聞いてみると悪魔の側からのセールスだと言う。
そんなケースもあるものなのか。
今度小悪魔に会ったら聞いてみよう。
かぐや姫以来というのが少しひっかかるが、
あれも暇人という事では幻想郷に並ぶものの居ない年季の入った暇人だ。
こんなところに姿を見えることがあったとしても珍しいことは……
……撤回、外出という時点で珍しい気もする。
それにしても悪魔にストレートに世界の支配者になることを望む少女とは、
なんとシュールな話だろう。
シンプルではあるが王道とは言えない。
この可愛らしいお嬢さんも見た目によらずなかなかの曲者だという事だ。
「私?私は普通の人間ですよ。
少し普通じゃないのは仕えている家が悪魔の館と呼ばれている事くらいでしょうか?」
にっこり笑って答えた。
ウソはついていないが受け取りようによってどうとでもとれる答え。
はぐらかそうというつもりはないが、真実の全てを知っても彼女の得にもなりそうもないことだし。
一瞬吸血鬼や悪魔のふりをしてからかうのも楽しそうだなんて思ったが、
「私はただの人間です」というのは私の中でちょっと譲りたくない部分だったのだ。
って……
>他所で咲夜おねーさんとの事を面白おかしく言いふらしたりしないからー。
なん……だと……!?
- 336 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/22(木) 01:35:23
- >他所で咲夜おねーさんとの事を面白おかしく言いふらしたりしないからー。
ああ、しないから、か。
驚いた……。
ええと、今の感覚は恐怖?
何を!?というのもあったが。
というか落ち着いてよ。私。
- 337 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/22(木) 01:39:43
- >>321
…あれ、前にもこんな事やって恥じかいた様な。
でも蝙蝠の機嫌が明らかに先程より良くなったので良いとしよう。
やはり蝙蝠もマイブームなのか、シンデレラ。
ちょっとばかり調子に乗ったがために悲劇を招いたあの日の惨事。
たまたま、運命的に繋がったのが災いして悲鳴と爆発音を聞く事になった。
思い出すだけで頭を押さえたくなる。
「狂気…か」
狂気、インサニティ、人が内包し、かつ怖れるそのもの。
戦場は狂気で満ちていた。戦う時、自身のタガが外れ剥き出しになる錯覚すら覚えた。
冷静に、鉄の人形ゆえに殺したという事実すら覆い隠そうとする。
人を殺す事に罪悪感を感じることがなくなればそれは十分狂気に満ちている。
今の俺は…。
「…そっちこそ気にするなよ。そんな辛い顔されたら本当に伝えられるかどうか心配になるだろ?」
大丈夫だ。俺は踏みとどまれる。
禁忌を越えて、人の果ての果てへと流れ着く事など無いはずだ。少なくとも今は。
ああ、そうか、だから俺は人に優しくしてしまうのか。
優しくしてないと狂ってしまいそうだから、何よりも自分自身のためなんだ。
って感じで綺麗に結論出そうと思ったらやってくれたな、のえる。
そして…咲夜、お前もか…!
「ちょっと待て、咲夜!何でそこでうろたえるんだよ!?」
う、う、う、うろたえるんじゃあないッ!瀟洒なメイドはうろたえないッ!
俺だってしっかりうろたえてしまってるけどなっ!
脳裏に真理がささやかれる。ああ、そうか、こいつは全部。
全部天狗の仕業か!なんてこったッ!
- 338 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/22(木) 01:50:51
- >>337
気にするなと声をかけるアマダ様に苦笑を返す。
こんなときでもこの人は優しい。
心配などいらないのに。
私は心の壊れた人間だから。
すくなくとも使命達成の点においては心理状態と無関係にこなす自信がある。
いや、こなすようにできている。
……だから、心配などいらないのだ。
いらないはずなのだが。
何故か隠し切っているはずの動揺がばれている。
どういうことなの……?
「うろたえてなんかいますん」
噛んだ……だと……!?
何故動揺している?
バカな、動揺する要素が一体何処に……
はっ!?
まさかトラウマか!?
シンデレラ事件を思い起こすたびに私は無意識にトラウマを刺激されてしまっているとでも!?
脳裏にふぉっふぉっふぉと両手ピースで笑う地霊殿の主の姿が思い浮かんだ。
- 339 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/22(木) 01:57:04
- >>334
なん・・・だと・・・!
「ふっ…やはり映画で集めただけの日本情報では少し古かったか」
ここだけの話だが、実は俺少数民族として侍が日本に生きている事を大真面目で信じていた口である。
ルームメイトは普通に同意していたしそういうものなのだと信じきっていた。
だが、いざ来てみれば殆どが着物なんて着ていなかった。裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったんだ!
「総理、対戦車兵器無しで守るべき目標が一切無ければ自分でも逃げます」
某国では民主化デモの際に戦車の前に立ちはだかって戦列を組んだ戦車体を止めたというが。
拳銃で戦車を?そんな無茶な。プライベートライアンでも航空支援が間に合ったから
戦車を破壊できたというのに。
「…いや、君。俺と咲夜のことなんだと思ってるの」
ただの友人…だよな。え、だよな?
いまだに妙に慌てている(>>336)咲夜が説得力を落としているけど!
「大切な友人、か。そんなまっすぐな目をした人に言われたら光栄だよ」
ふう、と一息を付いて再び微笑む。彼女は嘘を語ることは無いのだろう。
紛うこと無き真実が彼女の瞳の置くから姿を覗かせていた。
- 340 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/22(木) 01:58:50
>>335
>「私?私は普通の人間ですよ。
> 少し普通じゃないのは仕えている家が悪魔の館と呼ばれている事くらいでしょうか?」
咲夜おねーさんは、にっこり笑って応えてくれた。悪魔の館か・・・昔、外務省が伏魔殿と
呼ばれたことがあったけど、どうもそういう喩えとは違うらしい。言外に、あまり知らなくても
良いですよ、という咲夜おねーさんの声が聞こえた気がした。
「悪魔の館かぁ・・・そうねぇ、今ぐらいの時間にそんなところで、咲夜おねーさんみたいな
綺麗な人に出会ったら、そう思っちゃうかもね。アニメとかだと美形の悪魔って結構多いし。」
だから、適当な答えを返す。今、おねーさんの全てを知っても面白くないだろうし・・・・・
「ま、美女に謎はつき物よね。」
ということで。我ながら綺麗にまとめたと思いきや、思わぬところからひびが入った。
>>336
少尉さんとの会話を耳に挟んだ瞬間、つい今まで穏やかに笑っていたおねーさんが凍りつく。
と見えた瞬間安堵に緩み、そしてまた何かを畏れるような表情を浮かべ、最後に呆れたような
表情で頭を振っていた。その間実に二秒!・・・・・・・見間違えかも。
そんな疑惑を抱きながら、それでも一応声をかける。
「ど、どうs」
>>337
>「ちょっと待て、咲夜!何でそこでうろたえるんだよ!?」
今度は少尉さんが素っ頓狂な声を上げる。そちらを見れば、やっぱりこっちも右往左往の表情。
っていうか、ホントに分かりやすいな少尉さん。捕虜とかになったら大変そう。
さらにさらに!
>>338
>「うろたえてなんかいますん」
・・・・・・・なんだろう、この可愛い二人。
「あっはっはっはっはっは!!!」
気が付くと大笑いしていた。おなかいたいー。ひー。
「だ、だいじょ、ぶ・・・くす、よ。くくく・・・なんか隠してるのは分かったけど、くすくす。
そこまで可愛くうろたえられたら、うふふふふ、突っ込めないわははははは!!」
ダメだー。死ぬー。酸素がー!!
- 341 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/22(木) 02:06:50
- >>338
うろたえてなんかいますん
いますん
いますん
「うろたえてるじゃないかっ!?その笑顔にびっしりと浮かび上がった汗は何だ!?」
もはや言い逃れできぬぞって言い逃れさせてくれぇ!
肩を掴んで咲夜の体を揺らしながら全力で問い詰める。もはや今までの会話が意味を持たなくなった。
我々は放りこまれてしまったんだ、ギャグ空間に!
「い、いや、こんな時こそ落ち着け…!お互いに、そう、素数を数えて落ち着くんだ…!」
解決策すらしどろもどろ。
というか解決策になってるかどうかも怪しかった。
- 342 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/22(木) 02:11:29
- >>340
「悪魔なんてそんな大層なものじゃありませんわ。もっと……」
薄汚い人間の……などと言うわけにはいかない。
ジョークにしても面白みが無いから。
美女呼ばわりは気恥ずかしかったが、お世辞でも嬉しいですよと返しておく。
妖怪に近づきすぎたら戻れなくなるかもしれない。
あまり紅魔館に興味を持ってもらうべきではないだろうと思った。
が
それはそれとして
>「あっはっはっはっはっは!!!」
>「うろたえてるじゃないかっ!?その笑顔にびっしりと浮かび上がった汗は何だ!?」
両肩をもってアマダ様がゆっさゆっさと私を揺らす。落ち着けって落ち着けませんわそれじゃ。
肩からぼとりと蝙蝠が地面に落ちる。
あれ?
もしかして笑い転げていますか、お嬢様?
おかしい……
. /⌒ /ヽ // / /\ `
/ / _ィ´/ l{ 丶 \ /_
. / / i´ / 、} ヽ \ -─ \
/ 〈 } 7 ハ ヘ /`ヽ-─ _ `
{ ` / l / /___ヘ ト、 {'≠´─ 、ー/ _、
ゝf´ ̄/ ノ| / イ´_ -\ヽ ', ヽ彳 いu`ソハ \ ̄ヽ
/´ l イ l /! /´,≠示ヽl\ヽ  ̄¨~´ \/ \!
l/ |/ | ヘ{ ! ハ,ァ´んuリ | `ヽ U f\_ / ……どうしてこうなった?
ヘ. |! ! | | /へz=ゞ-'´ 、 ヽ / 〈
ヽ´|,ヘ! ハヘ / | , ─_、 /!{ l
l |ヘ ヽ ハ ´ _ /!| l/∧
ヽ! }\ l | ∧ |t l ,'
冫ノ {| ! ゝ _ /、_ Y´l´|_
/´/ ヘヽ | / ヽ 〉 ̄ ャ--< _|/:::\-./::::
 ̄ l ハ `ヽt / /、 ⊥ヘ-、,_( _|::::::`;t:}::':::
ヘ{ ヽ \_! lゝ,´ ∨}┴f´ _〉一::||::
ヽ_\ 八 /ヽ=_⊥,..-f´::{f:`!ヾゞ'Τ
/  ̄  ̄_ヽ_}-/:::::::Y:::::::;ゞイ:::::ヽトー-l
f´ _ /::::::::;ヽ:〉:::::::ト;:/:::l l::::::::::::ヘ
. }-─/ \ ゞ、:::´:::':トΤ::::/:::::! !::::::::::::::ヘ
ゝィr-、 l___\|:::\;;/:;ヽ_`´ヽ::::l |:::::::::::::/
/:}l ヘ 7|,} /尓<二_ヽ_ゞヽノ─__二>'彳 ̄
ノ:::lヘ ゞ-'|ゝル∨ { /l /{ ̄`/ ̄`l/´l/ | | {_
/:::::::::{ ト、__) /` ┴ - _ ん_ - ´
/::::::::::::::::rヽ| `ヽ r─-rr-─,
- 343 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/22(木) 02:27:30
- >>339
>「ふっ…やはり映画で集めただけの日本情報では少し古かったか」
一体どんな映画を見ていたんだろう。仁義なきナントカとか、ビーバップなんとかかしら。
あたしは見たことないけど。
>「総理、対戦車兵器無しで守るべき目標が一切無ければ自分でも逃げます」
ま、そりゃそーなんだろうけど・・・・
「街中を我が物顔で走り回って、通行人に向けてロケット花火打ち込むような人たち、
120mm砲で撃っても良いと思わない?」
どかーん、と手のひらをひらひらさせながら続ける。
「機動隊を出動させて穏便に鎮圧したんだから、つくづくあたしもお人よしよねー」
>「大切な友人、か。そんなまっすぐな目をした人に言われたら光栄だよ」
・・・・・・・・うぅん。
どうしよう、ちょっと嬉しい。
「あはは。そうやって真剣に受けて止めてくれるんだから、少尉さんイイ人よねー。」
照れ隠しに付け加える。
「奥さんは、その辺りにほれたのかしら?」
うりうり。このこのー、色男ー・・・・とやろうと思ったら、いきなり少尉さんは咲夜おねーさんの
とこに駆け寄って肩を掴んで・・・・・・・・・・・・・おいおい。
「きゃー、子供が見てる前よー」
とりあえず茶化した。棒読みで。
>>342
>「悪魔なんてそんな大層なものじゃありませんわ。もっと……」
咲夜おねーさんは、そこまで言って口ごもる。なにか、言葉を飲み込んで優しく微笑む。
あー、やっぱ綺麗だなー・・・・なんて思ってるとこに、少尉さんが肩を掴んでガクガクガク!
「・・・・・・ど、どこまで私を笑わせれば気が済むのよーーー!!」
ぷははははは!!思わず洩れた笑い声。おねーさんの肩からぽとりと落ちた蝙蝠も、
心なしか肩を震わせているように見えた。
- 344 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/22(木) 02:48:27
- >>343
子供の前……
言われてみれば両肩を掴んでいるこの状態は
ひどく密着状態に近く、顔も随分と近くに……
泥沼。
ジリ貧。
そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
こ、このままでは……
ザ・ワールド!
時は止まる……ッ!
時符を発動、停止した時間の中で深呼吸。
落ち着きをとりもどす。
そして打開策を考え……覚悟を決めた。
……そして時は動き出す!
「アマダ様」
私は逆にアマダ様の両肩をつかみ静かに引き離す。
そうして口元に指をやると妖艶に微笑んだ。
「いけませんわ。アマダ様は色男でいらっしゃるのですから。
そのように女性を誘惑されては困ります。
なにより、奥様がお可哀想ですわ」
そうして、一歩距離をとり、のえる様に一礼。
「お恥ずかしい姿をお見せしました。
何分、異性との交流がすくないものですので」
そうして今度は二人に一礼。
「さて、夜も更けてまいりました。
これ以上は主も心配いたしますので、申し訳ありませんがお先に失礼させていただきますね。
また、いずこかで機会があれば、どうぞよろしくお願いいたします」
そしてそこで「え?心配してないけど?」って顔をしている蝙蝠をひょいと拾い上げると
二人に手を振り、再度、時間を停止!
その場を逃げるように立ち去った。
J家にも伝わる兵法36計、最早これしかない!
そのように判断したので御座います。
つまり、すべてアマダ様におしつけて逃げ延びる作戦!
逃げるんだよぉぉぉ!という奴です。
そうして止まった時が再び動き出した時、
十六夜咲夜の姿はどこにもなかったのである。
<投了>
- 345 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/22(木) 02:49:35
- >>340-343
…どう収集するんだ、これはッ!
総理大臣が大声で笑い声を上げ、蝙蝠が地面で痙攣し俺は咲夜の肩を掴んだまま周囲の異常事態に固まっている。
阿鼻叫喚図。何だ、何なんだこの謎の集団は。
「どうして…」
ポツリと一言言葉が口から漏れた。
「どうしてこうなった…」
…とりあえず咲夜の肩から手を離して額を押さえて周囲の騒ぎが収まるまで待った。
待つしか他は無かった。落ち着こう。この間に何とか落ち着こう。
「…我が物顔で好き放題やる連中をどうにかしてやりたいのは判るがその為に100万円近い120mm砲を使う事無いだろう」
二重の意味で税金の無駄遣いでは。
確かに人に向けてロケット花火を打ち込む時点で確実に警察は出るだろうけど。
「自分が無理に掻っ攫ったらオーケーをくれた。俺にとってはそれだけさ」
支えてもらいながら安全な場所で夜を過ごすときに改めて自分の思いを打ち明けた。
そして彼女は優しく微笑んでそれを受け取ってくれた。
俺にとって妻がいる人生の始まり。自分の世界を構築する為の一欠片。
本当にそれだけのことだった。
「…でさ、いつまで笑ってるの…?」
これ以上はちょっと、涙が出そうだぞ。
- 346 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/22(木) 02:59:44
- >>344
…え?ちょっと待て、またノーモーションでいきなり表情変えて!
多分この時間を操る能力で止めて深呼吸したな、こっちはそんな余裕作れないというのに!?
>「アマダ様」
「は、はいっ!?何でございましょうか!?」
思わず敬語になっている。だって雰囲気が全く違うんだもの。
何でそんな色っぽい仕草してるのっ!?
>「お恥ずかしい姿をお見せしました。
> 何分、異性との交流がすくないものですので」
>「さて、夜も更けてまいりました。
> これ以上は主も心配いたしますので、申し訳ありませんがお先に失礼させていただきますね。
> また、いずこかで機会があれば、どうぞよろしくお願いいたします」
待て、待て、まてっ!?
そこの蝙蝠大して心配そうな顔して無いだろうが!?笑い転げてるだけだろうが!?
ちょ、おまっ!この流れはもし/
/
/
カチン
/
/
/かしなくてもこれかよ!おのれ咲夜!逃げるとは卑怯なり!
「…えーと」
この場に残ったのは俺とのえる、そして如何ともし難い誤解だけであった。
- 347 名前:折原のえる ◆iDSouriSFE :2009/10/22(木) 03:10:38
- お、おなかが・・・腹筋が・・・・・・・・!!
ようやく笑いを収めると・・・・・・・・・・・・・・・・・
>>344
>「いけませんわ。アマダ様は色男でいらっしゃるのですから。
> そのように女性を誘惑されては困ります。
> なにより、奥様がお可哀想ですわ」
少尉さんの唇に指を当てて、妖しく微笑む咲夜おねーさん。うわ。うわ?!
色っぽーーーーい!!!
と、ちょっとドキドキしながら見てるとくるりと振り返るおねーさん。
>「お恥ずかしい姿をお見せしました。
> 何分、異性との交流がすくないものですので」
優雅に一礼。・・・・いや、あそこまで妖しく色っぽく笑えるおねーさんがそんなわけ・・・
と口に出す間もなく!
>「さて、夜も更けてまいりました。
> これ以上は主も心配いたしますので、申し訳ありませんがお先に失礼させていただきますね。
> また、いずこかで機会があれば、どうぞよろしくお願いいたします」
気がついたら、咲夜おねーさんは蝙蝠共々消えていた。
「はっやー・・・・・・・」
飛ぶ鳥跡を濁さず、あれ?どんな意味だっけ?とにかく何の痕跡も残さずきれーに
居なくなってしまった。
「・・・・・・・・・・また、会えるかな?」
多分、また会えると思う。根拠はないが、そんな気がした。だから、誰も居ない方向へ向けて
一言。
「またね、咲夜さん!」
>>345
>「自分が無理に掻っ攫ったらオーケーをくれた。俺にとってはそれだけさ」
いろんな意味でひどい状況に呆れたような表情で、それでもちゃんと応えてくれた。
「格好良いー!!男らしい行動力だわ。きっと、奥さんも幸せ者ねー♪」
ありきたりな言葉で返したが、紛れもなく本心だった。この少尉さんと奥さん、色々ありそうだけど
きっと今は幸せだろう。そうじゃなければ、少尉さんもこんなに元気なはずはない。
>「…でさ、いつまで笑ってるの…?」
いやいや、だって仕方ないじゃない。
「あんな綺麗で冷静な咲夜さんが、あんなになって。で、少尉さんもあんなんで・・・・そりゃ笑うわよー。
いーでしょー、子供の笑顔を守るのが軍人なんだから〜。」
笑い声は止まったものの、まだ頬の辺りが少しひくついている。と・・・・・・・・・・・・・・・・
<BooooooOOOッ!!>
車の音。高級車にありがちな、重低音。丘のふもとを見れば、数台の車列・・・何台かには
赤色灯も見える。
「あらま、もうこんな時間だわ。」
気が付けば未明を遥かに過ぎて、もうすぐ夜明け。
「それじゃあ、あたしも愛しい健ちゃんの下に帰るわ。少尉さんも、奥さんをあまり待たせちゃダメよ?」
ウィンク。あ、そうだ―――と、車列に向けて一歩踏み出したところで回れ右。
「今日は有難うございました、アマダ少尉。また会えたら、嬉しいわ。」
敬礼の真似事をしてにっこり微笑む。その後すぐに歩き出したので少尉さんがどんな表情で
返事をしてくれたのかは私には見えなかった。
<白バイ数台とパトカー数台を引きつれ、総理大臣旗を掲げた高級車に乗って退場>
- 348 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/22(木) 03:23:17
- >>347
嵐のような時間が瞬く間に過ぎようとしている。
もうこんな時間かよ。慌てふためいているうちに夜の憩いの時間が終わった。
「帰ったらそれだけで幸せそうな顔してくれるんだ。それが実家に帰るときの楽しみだよ」
人の幸せそうな顔を見れば喜び、人の不幸そうな顔を見れば悲しむ。
なかなか難しい事。人は他人の幸せをねたみ、不幸を嘲笑するところがどこかに必ず
存在しているからである。
「ア…ハハ…そんな笑顔じゃないんだけどな、守るのは…」
その笑顔の頬が引きつっている。
こりゃ彼女がこれを思い出すたびに笑いそうな勢いだ。
>「今日は有難うございました、アマダ少尉。また会えたら、嬉しいわ。」
警察車両などが殺到することで改めて彼女の地位を確認する。
そうか、今は日本の総理なんだな。彼女がこちらに振り向いて行った敬礼に。
「ええ、こちらこそ。総理、お元気で」
会った時と同じくきっちりとした敬礼で返す。
しばらくして麓の車列が全てこの国の中枢へと向いて行く。
彼女のような人間がいればこの国も安泰だろう。不安はもちろんあるけどな。
「さて、俺も帰るか。そう、毎度の如くな…」
そうだ、今回も自転車だ。
【退場】
- 349 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/23(金) 02:10:08
- 思えばここを訪れるのは最早何度目になるだろうか。
まあ考えるだけヤボってものだろうが。
この季節特有の紅葉や果実は最初訪れた頃に比べればだいぶ目で数えられるほどまでになり、
また一段と冷たくなっていく木枯らしの風と相俟って一つの終焉が告げられようとしている。
それでも俺がここを訪れるのを止めない理由は…もう語るまでもないだろう。
当然、背中の相棒もギターケースの中でお伴だ。
持ち歩いてるだけなのも同じで。
さて―――徒然なるままに夜空の星でも眺めてるか。
- 350 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/23(金) 03:13:58
- さて―――帰るか。
何、これだけ?気にするな、そういう風に締めたい時だってある。
夜空の星に見とれる余りついついベンチで居眠りしてましたってわけにもいかないさ。
また折の合ったその時にでもな。
【退場】
- 351 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/25(日) 20:54:58
ガラスが割れるような音。
空に揺れ、歪む割れ目。
幾度かこの地に響いた音が今夜も鳴った。
そして。
高台を歩く影がひとつ。
ねじれた杖を片手にもって、その小さな体と不釣合いに大きな南瓜の皮を被っている。
中をくりぬいた南瓜のマスクはこの季節には見かけなくは無いが、
歩くたびにずれるほどおおきなマスクを片手で直しながら歩くその姿はどこか奇妙で滑稽だった。
ぶかぶかのマスクのくりぬかれた目口のスキマから顔が覗いている。
キュートな八重歯と言うには少々発達しすぎた牙。
大きな瞳。やわらかな金髪。
見知った人間なら正体を見破るのに苦労は無いだろう。
「わったしは〜かぼちゃ〜」
即興に違いないテキトーな音程の歌。
ひどく上機嫌な声。そしてひどい歌詞。
「こーまかんとはなんのかんけーもないかぼちゃマスク〜」
この場に居るはずのない人物。
吸血鬼、フランドール・スカーレットが歩いていた。
- 352 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/25(日) 21:11:10
「たおせ腋巫女、白黒、ひそーてんそく〜
わたしはわたしは大幹部、かぼちゃまーすくー♪」
ひとしきり即興の歌を(3番まで)歌い上げると、
かぼちゃマスクは満足したのか歌をとめて、てとてととベンチへ駆けて行く。
こないだ躓いたベンチだ。
気にせずそのままこしかけて、両腕を背もたれにかけて足を組む。
「やらないか?」と姉に読もうとして取り上げられた本の
開かれたページにたまたま乗っていた1コマの台詞を真似る。
フフンと格好をつけたところでかぼちゃが前のめりに傾き、前が見えなくなった。
諦めてポーズを崩して両手でかぼちゃを平行に戻す。
「ンモー!うっとうしいなぁ。
誰も見てないし、そろそろとっちゃおうかな?」
姿勢はそのまま、つむじあたりを視点に支え、
かぼちゃだけをぐるぐる回転させる。
まぁ、それなりにシュールな光景ではあろう。
- 353 名前:名無し客:2009/10/25(日) 21:14:04
- ホーホー
(梟の鳴き声)
- 354 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/25(日) 21:24:49
- 今の俺は差し詰めこの高台の重力に魂を引かれた、とでも言う所だろうか。
それでも別に構う話じゃない、面白いからだ。
ところで、大木さえ枯らす冷風身に染みるこの時期…
またしても何時ぞ聴いた、ガラスの割れるような音が天に響く。
更にまるで聴き覚えのない、というより明らかに即興としか思えない
テキトー極まりないメロディとフレーズで構成された歌…
しかし、その声はどうも聴き覚えがある。
ギターケース背に駈け付けてみれば、ベンチに腰掛けるは
明らかにサイズの合わないカボチャのマスクを被っているジャック・オー・ランタン
―というか、中身が丸見えなんだが―
そのどう見ても本来の役割を果たしていないマスクから覗けるのは明らかに見覚えのある顔。
尖った牙、ブロンドの髪、ヤケに大きな瞳…
ああ間違いない、コイツはあの時俺とちょっとした禅問答のようなものを繰り広げ、
更に「暇したら遊んでやる」って言ってやった吸血鬼娘だ。
まあコイツがそれを聴いてたかは知らないが。
何しろ俺がそう言ってた時、既に慌てて退場しようとしてた所だ。
「そいつの時期にはまだちょいと早いんじゃないか。フラン…だったか?」
確かシローやあのサーナイトとかいう色男モンスターはそんな風に呼んでいたと思うが。
とりあえず、都合よく買ってたアーモンドチョコレート一箱でも軽く放ってやるとするか。
- 355 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/25(日) 21:36:20
- >>353
梟が鳴く声。
虫たちの奏でる歌。
風が木々を揺らす音。
おそとは音で溢れている。
いつだってそう、いつだってそとは多くのものがあった。
地下には何も無い。
自分が居るだけ、自分の音がするだけ、自分が作り出した影が居るだけ。
壊すものは少ないが、その代わりに壊れていくものがあることをお姉様は気付いていないのだろうか?
それともやはり、気付いた上で壊そうとしているのだろうか。
今、本当の私は寝ているから。
だから冷静に考えることができた。
ぐらぐらしない。狂気はここまで届かない。
でも、代わりにひどく悲しかった。
姉が万能ではない事が、そして、姉もまた壊れずにはいられないであろうことが。
「少なくとも精神衛生上よろしくないとは思うのよ」
きゅぽん。
かぼちゃマスクを頭から外して自分に顔を向けると、
マスクに語りかけるかのようにそう言った。
かぼちゃは笑っているだけで何も答えてはくれない。
黙って再びかぼちゃを被る。知れず溜息をついていた。
>>354
ちと早かったな。
そんな台詞と共に放られた小箱を反射的に壊そうとして、
ふと気付いてそのまま動きを止める。
ちょどぎゅっとしようかどうか躊躇している形で突き出された手に、
運よくその小箱は綺麗に吸い込まれた。
「ん?何これ?」
見慣れない箱に目を落とし、そして顔を上げて尋ねる。
ああ、見覚えがある。
こないだの名も知れぬ戦士ではないか。
いつでも遊んでくれると言ったあの戦士。
だが、いかんせん今日は戦闘あそびは難しい。
そんなことをしたらあっという間に時間切れでスペルブレイクしてしまうだろう。
極力魔力は使用せずに居る必要があった。
「早いって、食卓にこれが並ぶなら早くはないってことじゃないの?」
かぼちゃマスクは「ひーほー」と挨拶の声を上げ、
そしてまたぞろずれたかぼちゃを両手で元に戻した。
- 356 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/25(日) 21:36:55
- …カボチャだ。ケルト民族に伝承される妖精ジャック・オー・ランタンを模したマスクを被った少女。
相変わらず畏怖されるにしては幼く可愛い外見だ。
だか本当の悪魔は外見で人を騙す。美男美女の姿をして実態は…というのも各国の神話や童話に多い。
警戒を怠るべきじゃないだろう。
とはいえ今の彼女は本当に無邪気そのもの。
ベンチに座って某ちょっとワルの自動車工の物真似をしている。
ほいほいついて行くべきじゃないな、こいつは。注意深く、かつ接近する。
「はっぴーはろうぃーん?こんな土地じゃ、あんまり流行っちゃいないけどな」
アイルランドは遠い。だが純粋な土着の祭りを見たいならあそこが一番。
日本は…ま、日本人らしく土用丑、つまりコマーシャリズムの一つに組み込まれハロウィーンに因んだ
菓子だけを発売する。祝う?何を?そんなものなのだ。
儲けられるか騒げるかだったら中身などどうでもいいんだろう。
…しかしケルトと言えば音楽が綺麗な事で有名だった、かな。
ああいうのは俺は嫌いじゃないと言うか、むしろ好きだ。あんな曲を収めたディスクなんて
どこで売っているんだろうか。不思議である。
- 357 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/25(日) 21:50:03
- >>356
ハッピーハロウイン。
いつでも状態異常ハッピーを受けた状態の軍人がそろそろ近づいてきた。
ずきり。
なにがずきりだ。このバカが。
血を吸うバケモノを実感した直後に近づくのを躊躇して何がおかしい。
内心で自分をクソのように罵る。
495年も生きてきてあんな衝動も我慢できずに迷惑をかけるなんて、
貴様はそれでもスカーレットか。
今、私にできることなんて決まっているだろう。
狂気の破壊魔であることと、礼儀知らずのあばずれであることはイコールではないのだ。
私は居づまいを正すとぺこりと軍人に頭を下げた。
「こんばんはアマダ。先日はごめんなさい」
怖くてかぼちゃを外せずにそのまま頭を下げた自分をまた内心で罵る。
けどしょーがないじゃない。
私は臆病なのよさ。
490年も言われるまま外へ出てこない程度には。
- 358 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/25(日) 21:52:25
- >>355
「何って、見ての通りチョコレートの箱だが」
こっちが投げた箱は上手く掴んでくれたらしい。
少々気になるのは、その前に若干眼がただ受け取るだけの時のものに思えなかった事だが。
「おいおい、そいつは店に行けば24時間365日いつでも売ってる代物だぜ?
それとハロウィンならまだ1週間ほど先のはずだが」
余程物珍しいんだろう。あの時の眼も納得だ。
そう言えばそれとなく箱入り娘な感じはしていた。
なら知らないからと云って無闇に論うのは無粋だろう。
因みに、俺が何でこんなものを買っていたのか…まあ多分理由は単なる気分なんだが。
「それより、この前俺が言ってた事憶えてるか?
ま、そん時お前さんはバタバタと帰ろうとしてたから聴いてなくても無理無いし、
聴いてなくても何時かあった時に聴いてもらうつもりだったんだが」
そう言えば、何か更に言い忘れていたことがあった気がする…何だったか?
- 359 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/25(日) 22:02:27
- >>358
チョコレート。
それは知っている。
咲夜がつかっているのを見た事があるし、
使った食べ物も食べた事がある。茶色い甘いお菓子。
「ふうん。お店って行った事ないから知らなかったわ」
しげしげとチョコレートの包装を観察して剥いて行く。
人里にはお店があるそうだ。
外の世界にはもっとすごいお店があるらしい。
そこではチョコレートはこういう形で売っているものなのか。
夢中で包装をはがしてチョコに齧りつこうとして、
あまりのかぼちゃの邪魔っぷりにキレそうになる。
が、壊す魔力は勿体無い。
魔力は全てすこしでも入れる時間を延ばすために使うべきだ。
私はかぼちゃを外してベンチの脇に置くと、あらためてチョコを齧った。
甘い♪
「言ってたこと?
おぼえてるよ、いつでも遊んでくれるんでしょ?
私、とっても楽しみにしてるんだ。
……でも、駄目みたい」
お姉様は当分私を外に出してくれないと思うと彼に告げる。
おそらくは数年は無理だろう。
今日ここにいるのは分身。
本体は館の地下に囚われの身なのよ。
「だからごめんね」
断られることは多いが、断るのは多分はじめてだった。
私はめーりんがたまにする悲しそうな笑顔を自分もしていることに気付いて驚いた。
ひどく胸が痛い。申し訳ないって言うのはこういうことなんだろう。
ちろりとチョコを舌先で舐めた。
- 360 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/25(日) 22:09:45
- >>357
…躁病?さあな。だけどそれは薬で治せる病気だ。
俺は多分命知らずってのと馬鹿なお人よしって言う不治の病に冒されているんじゃないだろうか。
血を吸われたっていうのに近づくのを止めないなんてな。
なんて言うか、心配になってしまうんだ。あの時、少し異常だったから。
…はぁ。こんな俺でもまだ恐怖を抱くか?心配しているくせに相手を怖がったりして。
矛盾している。何故そろりと近づくんだ?いつものように、自信を持って堂々と歩けばいいじゃないか。
例え片足を飛ばされようと俺は地を踏みしめているのは変わらない。
立ち止まって少し深めの息をすると、恐れが歪ませた世界がまた元に戻ってきた。
彼女だけに集中していた神経が散発し、周りの木々のざわめきと月光の美しさを感じ始めた。
そうだ、地球ってこんない綺麗だったんだなって。
何だ、やれば出来るじゃないか。これでまた区別なく誰にでも優しく接する事が出来る。
彼女だけ特別優しくしているのでもなく、だからといって距離を取ろうとするわけじゃなく
いつもの表情で、いつものように彼女の前に立てたじゃないか。
「…お前もまだ気にしてるのか?大丈夫だって、死ぬほど血を取られたわけじゃない」
にっと笑ってうつむく事で傾いたカボチャの端を少し持ち上げる。
空いた穴から彼女の目の輝きを覗く事が出来た。
「それにあとでお前が治してくれたじゃないか。そいつで十分だって」
全て万事問題なし。ノー・プロブレムだ。
それだというのになんでお前の目は少しばかり怯えているんだ?本来怯えるはずの俺は怯えちゃあいない。
元気を出せよ。
- 361 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/25(日) 22:18:44
- >>360
どうやら許してくれるらしい。
軍人が私に作っていた「距離」が曖昧になったのを感じる。
そう、曖昧。
彼は壁を作らない。
代わりに彼は曖昧な距離を作る。
近づきすぎず、遠ざかりすぎず、掴めず、忘れられない。
でもいいか。
今はこれでもいい。
私の周りには壁を作る者が多すぎた。
壁を作らない心当たりは二人居るが、一方は爽やかな風のように吹き抜けてしまう。
そしてもう一方は虹の様にどこにいるのか把握できない内に消えてしまう。
だから、とりあえず見える位置に立ってくれるだけで十分だ。
そこに在る事は感じられるから。
ふさぎこむ気持ちを叱咤して気分を変える。
悪戯っぽい笑みが浮かび上がる。かぼちゃのマスクのような。
「そりゃあ気にするよ。
はじめてだったんだもの。直接オトコノヒトから血を舐めるの」
アマダは私のハジメテノオトコだよウフフと笑う。
顔を出した気分はえらく恩知らずな奴だった。
- 362 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/25(日) 22:19:10
- >>356
と、ふと傍目を動かせばまたも見慣れた顔の軍人。
もうこの場所とこの男とこの俺とは切っても切れない縁な気がする。
「ハッピーハロウィーン…ってな。というかまあちょいと早いが」
ところで、この男にはまだ俺の「本業」を伝えてなかった気がする。
このお嬢ちゃんは既に気付いている事だろうし、そろそろ明かしてもいい頃か?
それはここからの流れに任せるとして―――
>>357
「ま、機会があったら行ってみな。
今俺がやったそれなんて安っぽく見えるのがゴロゴロしてるぜ」
無邪気にチョコの包装を剥がし、マスクと若干格闘しながらも
何とかそれを外してから嬉しそうにチョコに齧りついている。
余程美味らしい。
こんなことだったらもう少し買って来た方が良かったか。
ところで、俺のあの言葉は確かに聞いてくれていたらしい。
ただ…諸事情により遊ぶ事は出来ないとの事だ。
その辺りの事情を豪く悲しげな笑顔で語るフラン。
何でも今この場に居るのは分身に過ぎず、本体は地下深くに囚われているらしい…
後数年は外に出れないとの事だ。
「そうか…そいつは残念だ。
折角イイ‘暇潰し’が出来ると思ったんだが。
住所教えようとしたが、するだけ無駄だったか」
さて、この会話…そろそろ本業明かす流れか?
- 363 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/25(日) 22:35:17
- >>362
機会があったら行ってみなとか言ってきた。
どこに?店に?
店はどこにある?
吸血鬼の来店はOK?
チョコはおいくらなの?
コインいっこで買える物なんだろうか?
疑問が殺到、想像力は沸騰。
人里だって夜のおそらから眺めたことしかない私が外の世界の街のお店にいけるだろうか?
「オジさんがつれてってくれるなら行ってみようかなぁ」
子供の買い食いには保護者同伴が望ましかろう。
495歳の子供だが。
チョコを齧りながら冗談半分に言って笑う。
「住所を聞いても迷子になっちゃうわ。
どうせなら遊びに来てよ。ウザいあいつを懲らしめてくれるなら歓迎するわ。
もちろん、その後いっぱいいっぱい遊べるし」
オジさんの瞳にナイフの刃先のような光を感じて、私も無邪気に微笑んだ。
ひどく剣呑で残酷な無邪気さだったが。
もちろん冗談だ。
このオジさんが強いのは十分感じられるが、
尋ねてきてもらうにはうちの防御が鉄壁過ぎる。
弱点の多い魔女やお姉様はともかくとしても、
人間が門番とメイド長を突破するのはおよそ難易度がルナティックすぎる。
一方だけならともかく。
だから、私がお外に出るか、みんなが留守にするか。
そんな都合の良いタイミングが必要だろう。
「いつかそんな機会が来るのを願ってみるわ、カミサマとかに。
だから囚われのお姫様にガチりに来るミドルの王子様のなまえを教えてくれないかしら?」
覚えておくよ。きっと。
- 364 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/25(日) 22:43:41
- >>361
…初めての男とな。
ハッハッハ…全くこの子は…これだから本当に…。
「馬鹿野郎、人心配させておいてそいつは何だ、そいつは!」
少し持ち上げた事で出来たカボチャの隙間から手を潜り込まして彼女の柔らかい頬を摘む。
そのあとぐにーっと少し引っ張った。
ああ、いかん。思わず声出して笑ってしまう。愉快で仕方がない。
優しくするってのはお互いに笑いあえる関係にするってこと。難しくは無い。
彼女は笑ってくれた。俺は心のそこから笑い声を出せている。
ミッションコンプリートだ。こっちだって沈みかけてた気持ちが再び持ち上げられたようだ。
俺はまた俺らしく在れる。この心地よい距離を大切にしなければならない。
こちらが手を伸ばせば触れられる。あちらが手を伸ばせば握り返してやれる。
世界にはたった一人だけ常に傍にいる人は出来たけど、他のこの世を生きる殆どの友人たちとは
このぼやけた境界で繋がっている。大切にしなければならない絆と呼ばれる物。
今更。存在に気づくのが遅いなあ。
「んー、しかし大人として菓子をやりたいんだがそんな都合よく持っているわけじゃないしなあ」
ひとしきり笑ったあとは彼女の横に腰掛けた。
目の前には大きなカボチャの頭がこちらを見つめている。
「ポケットの中には…あ」
ガサリと何か手ごたえ。引っ張り出してみたら煮干だった。
…にぼし?なんで。
>>362
「や、はっぴーはろうぃーん。売れる予定は出来たかい?」
軽口を目の前のギターマンに叩く。そういえば8小隊にはプロがいたんだっけ。
野戦病院で自分の曲を頼むようなやつ。今頃必死でギターをかき鳴らしている真っ最中か。
それもまた生き方としては楽しいものだろう。
曲が出たらまたCDを買いに言ってやろう。密かにそう決意した。
- 365 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/25(日) 22:55:48
- >>364
「いひゃいいひゃい」
頬をひっぱられて変な声がでた。
アマダは知らないようだ。
吸血鬼にとっての吸血の意味とか大事さとか。
まぁ、私もあんまりよく知らないからいいやと結論付けて、
しっしっと頭の中のプンスカなお姉様を追っ払う。
フランブリーカーお姉様しねえ。ぎゃー。
よし退治。
「お菓子?
アマダもお菓子をくれるの?
なんでか知らないけどラッキーだね」
さっきから言っているハロウィンと関係あるのだろうな、程度には類推がつく。
魔女が説明していたような気がするが起源がどうとか
ジャックがどうとかのくだりが長すぎてあんまり理解できなかった。
というかあんまり理解する気になれなかったのだ。
咲夜に聞けばよかった。
- 366 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/25(日) 22:59:50
- >>363
「おいおい、まるで俺が保護者みてェじゃねェか」
まったくマセたヤツだ、まるで誰かみてェだ。
そんな風についつい苦笑いが零れる。
こういう会話だってさぞ普通にやっていたいだろうにな。
住所を訊いても迷子になりそうなんでこっちから遊びに来てくれと。
なるほど、御尤も。
そっちでしこたま遊べるってんならそれもまた大歓迎だ。
さぞかし常時Dante Must Die!でHell&Hellの境地なんだろうな。
想像するだけで楽し過ぎて狂っちまいそうだ。
「このしがない便利屋兼ハンターの名が訊きたいってか?
―――ダンテだ。因みに神曲は関係ない。
あと、カミサマに祈るのは程々にな。
偶に祈られてるのをいいことに調子コイてくれるからな。
まあこれは余談だが」
例えば自作自演の大虐殺、とかな。
まぁどこぞの坊やにクラッシュエンドされるという天罰もとい人罰が下ったわけだが。
ともあれ、約束するか。
この小さなお姫様兼ラスボスに。
いつかハデな火遊びに来るって事を。
- 367 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/25(日) 23:03:33
- >>364
「イマイチだな。まだ目処が立ってなくてな。
ところで、そちらさんこそ日頃の調子はどうなんだ?
いつも見て思うんだが、左足辺りが微妙におかしくねェか?」
まだその流れではないらしい。
それより、常々気になっていたので一つ訊いてみるとしようか。
まあ流石に、誰かさんのように悪魔が宿ってましたなんて事は流石に無いだろうが。
普通に痛めてるだけなら重畳な話さ。
- 368 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/25(日) 23:11:01
- >>366
「あれぇー?オジさんは幼女に保護者になってほしいのー?」
どこかの名探偵みたいな口調で言ってクスクス笑う。
保護者か、相棒か、仇敵か、腐れ縁か。
なんでもいい。
なんでもいいのだ。
縁が繋がっているというのはそれだけで羨ましいことなんだ。
いつもの私に繋がる縁は大抵姉が事前に断ってしまっていたから。
私の為に。だから。
小さな親切は大きな迷惑。
ならば大きな親切は一体何になるのだろうか。
「ダンテ、か。
OK分かったよ、ダンテ。
祈るのは魔界の神あいてにしとく。もしくは3時間のかみ」
いや、バーンではなく。
名前も知らないが、小悪魔が言うにはなんかいるらしい。
後者のご利益はなさそうだって?
たしかに、でも、万に一つ世界の法則をぶち壊してくれるかもしれないじゃないか。
アマダがまた心配しかねないので
「辿り着けたら全身全霊で壊してあげるからね」という発言は封印した。
すごいぞ私、空気を読めるレディなのよ?
さすがフランドール・スカーレットは大人のオンナだ。
- 369 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/25(日) 23:25:44
- >>365
「…そこら辺はケルトとかキリストとか詳しい説明しなくちゃならないんだけどな。
ま、子供は大人にTrick or Treatというとお菓子が貰えるって言う習慣だよ」
とはいえ俺もなんとなく知っているだけで完璧にこの記念日の起源を理解しているわけではない。
なんせアングロ・サクソン系の住民が多いコロニーならやる事もあるらしいが
残念ながら俺の住んでいた家の近くではハロウィーンを開催する事は無かった。
文化の壁とは厚い。
「…ってか本当なら煮干なんかじゃなくてチョコレートだとかクッキーだとか。甘いやつを用意するもんなんだ。
こんなものやってちゃあ悪戯されちまう…」
お菓子が気に入らなければ悪戯をしていいって理不尽だと呟きながら手の上で煮干を転がす。
…猫にでも会ったらやるべきものなのに。吸血鬼にあげる事になるとは。
>>367
「…ああ、こいつはな」
と左足に目を移す。軍服の上からだと判り辛いが肌蹴てみれば左右のその違いは一目瞭然。
本物に近いが決して本物とはなれない。
色だって本人の足の色と比べれば明らかに違っている。
「戦争ってのは人にとって最も体の一部をなくしやすい機会だからな。
俺はたまたま足を持っていかれたと言う、そんだけだよ」
コンコンと、明らかに皮膚の音で無い音を指で叩いて聞かせた。
- 370 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/25(日) 23:28:14
- >>368
「俺にそういう趣味は無いっての…」
心なしか頭が少々痒くなった気がする。
まったくコイツは…ナリにあわず人を躍らせてくれる。
それでいて寂しさをチラつかせてくれるからタチが悪い。
そういう手合いに会ったら構わずに居られないだろう。愚かしくも。
こと便利屋ともなれば尚更。
「この名前を憶えてくれるってんなら幸いだ。
そん代わり精々楽しませろよ?来る時ゃ豪い遠路になるかもだからな」
ところで傍で聴いてるシローはこの会話の真意に気付いているだろうか?
気付いてもらえない方が幸いだろう。
俺はともかく、フランがな。
まあコイツは上手く伏せ切ってると思うが。
なら流れは再び「伏せる」方向へとしてみるか。
- 371 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/25(日) 23:38:28
- >>369
晒した左足は義足だったらしい。微妙な動作のおかしさも納得だ。
叩かれた足から無機質な音声が響く。
「兵隊稼業には常にリスクが付き物、ってわけか。
そう…ハンターよろしく、な」
再び流れを伏せる方向に向かわせつつ、それと思しい単語だけをチラつかせてみせる。
因みに、四肢の動作に響く大怪我はした覚えは無い。
何しろそんなもの、してもすぐ治ってしまう。
しかし、生身の身体で「それ」をやるとなると―――…?
手足の1、2本なんて幸いな方だろう。
それでもヤるヤツはヤる。要するに傍から見ればコレはクレイジーな稼業なのさ。
- 372 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/25(日) 23:39:50
- >>369
ふぅん。
お菓子をもらえるなんて面白い祭りだ。
祭りと言えば神社に集まってお酒を飲んで騒ぐものだとばかり思ってた。
最近お姉様が参加してるのはそんな祭りばかりだったと聞くから。
ん?
トリート?
or悪戯?
ほほう、悪戯とな?
面白いことを聞いた。
私はウフフと妖艶に微笑みかける。
/| ______/\ ,. -/\___
| / _,. -‐''"´ ̄  ̄ `ヾ、/::::::::::::::/
|/ ,.. '´ Y::::/|
_______ / / _,ゝ-ァ'二v二ヽ-、_ノ i'´:::::::|
\_____Y / _r'ア-‐'´  ̄ヽ、_)、ノ_へ、」、
| __!、,ゝ‐ァ'´ / / i i , ヽ、ノ、 Y
| .!´ / _ノi ./ ハ ´i ̄|`ハ /'l ハ Y |
| Y'Y´ .ノ i ./,ィ'ア7=ー!;、| / |/ ̄i` | i | あれ?
______. / . 、i / ノノi ,ゝ、,_c! レ' ァ-,rァ| ハ | | |
\___\| . | レ'´| i ! """ ゞ-' /レ' `ハ! | アマダに悪戯してもいいのぉ?
| | ヽ.i l l', ' ""'!ハ / | !
| | i ,ハ.___',ヽ、 (`'ァ、.,_,,..イ,._-'‐- 、!/
| ハ | , '"´ `ヽ.!_>.、.,,_´>、.,  ̄ ヽ!
\i´〈rヘ!/ ヽ>‐'iァ'、.,_し>、.,_ i
__,ゝ、 i Yヽ、_r'_」_/ヽ!`ヽ. `i' |
∠___/ `ヾハ _」___rイ>::::::::/ ハ:::::', ', | |
ゝ、.,,_`r' `Y:::::::/___,ヘ」:::::! ヽ| |
`ヽ;:ヘ ':,:::::::::::::i::::::::::::',rン'7 |
ヽ;:::':, ':;::::::::::ハ::::::::::::i-' ! ノ
ゝヽ':, ';"´ ._.`''-、. ! ` ´
>>370
「もちろんだよ。
もともと手加減とか苦手なの。
遊ぶからにはいつだって全力さぁ」
いつかくるあしたのために言葉の契約は交わされた。
その時を楽しみに。
その為に楽しもう。
それはそうと、そんな趣味は無い。
ダンテはさっきそう言った。
でもそれはイコールで別の趣味があるってことだ。
「成る程。よく分かったわ。では聞こう」
ちょこんとベンチの上に正座すると、膝の上にかぼちゃをのせてダンテに向き直る。
永いヒキコモリ生活の中で幾度と無く遊んだ一人ごっこ遊びで鍛えた演技力を全開。
お見合いのようにしずしずと恥らいながら顔を赤らめて問うた。
「ダンテ様の……ご趣味は?」
- 373 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/25(日) 23:56:25
- >>371
「リスクを避けるのは大人の判断だがリスクを避けてばっかだと大人になれないってね」
しかし損失に見合った掛け替えの無いものを手に入れることが出来たのは本当に幸いだ。
あの時にリスクを恐れていれば俺は大事なものを無くしていた。
仲間にはひたすら馬鹿呼ばわりされたけどな。
「ハンター?バンドの名前か?」
おお、なんと言うか俺の想像しているメタルな集団にはぴったりだな。
狩猟的というか、とにかく獰猛なイメージが付いてくる。
確かに言われてみればこの鋭い目つきにハンターという言葉はマッチする。
>>372
「…………………ど、どうなんだろうな」
しまった、妙なスイッチが入ってしまった…!
前回とは別の意味で危険を感じる。吸血鬼の悪戯?非常に危険な香りがする…!
悪戯していいのかってそりゃ祭りの趣旨によったらさあ…!
「に、煮干、気に入らなかった?」
気に入るわきゃねえだろ。
悪戯って…何?何するの!?頼むから危険なのは止めてよ!?いろんな意味でも!
- 374 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/26(月) 00:02:55
- >>372
「そいつは願ってもない」
気紛れから始まった、だがいつか叶えたい約束。
結んだからには果たさなければ死ぬに死にきれない。
と…急にベンチの上で正座しカボチャマスクを膝の上に置くと
突然態度がおずおずとなり、顔を赤らめて「御趣味は?」と問うてくる。
丸で結婚前の見合いのような態度。
先程までのアレとは豪い違い…にしては本気に思えてしまうから困る。
それならこちらは…とここで流れるようにコウベを垂れてみせる。
実に恭しく。畏まった様で。
それでいて尚且つ華麗に流麗に…そう、恰もバトラーが客を歓迎するかの如く。
「ロックミュージック鑑賞に、コミック鑑賞に、飲酒に昼寝にピザでございます」
何、こういう事を訊きたかったんじゃない?気にするな。
回答の内容がアレ過ぎる?何の話だ。それが俺だからしょうがねェだろ。
「さて、お嬢様の趣味は何でございましょう?」
尚も恭しく。他意は別にない。
ちょっとした余興さ。
- 375 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/26(月) 00:05:12
- >>373
「えー、どんなのするってそりゃー」
小首をかしげてちょっと考え、
思いつく悪戯を順に指折り数える。
「えーと、今晩ずっと背中にしがみつくとか。
ずぼんおろすとか、顔にラクガキするとか。
背中に『ILOVEフランちゃん』って書いた紙貼るとか。
あとはジャイアンシチューをゴチソウするとか」
なーんて悪戯を聞かせて楽しもうと思ったんだけど、
なんだかおびえているアマダを見てテンションがみるみるさがっていく。
フラッシュバックするメイド妖精たちの恐怖の表情。
…………。
つまんない。
やめだ、やめ。
「……でも優しくて大人のオンナのフランドール様は
にぼしでカンベンしてあげるのよ。
よかったね、アマダ!」
ひょいとアマダの手からにぼしを奪って口に放り込んだ。
……かたい。
- 376 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/26(月) 00:13:01
- >>374
のってきたダンテにニヤリと笑う。
まぁ、多趣味でいらっしゃるのねーと目を伏せながら答えつつ、
ちらちらと顔を見ては目を伏せる。
今の私ははじめてのお見合い体験中の箱入り娘役ッ!
ならばッ!
完璧に演じ切ってみせる!
そう、完璧にだっ!
「趣味……ですか?
趣味はその……鬼ごっこです。
弾幕の鬼的な意味で。当たったら相手はぴちゅーん」
そんな箱入り娘がいるかああああああ。
よし。セルフ突っ込み完了。
……あれー、でもはじめての体験の箱入り娘って、
なんかあんまり私そのものじゃねー?
そう思ったら光の速さで萎えた。
というかさ、箱入り娘ってグロい想像を連想するよね?
ミステリー的な意味で。
え?しない?
ウソだぁ。
- 377 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/26(月) 00:13:38
- >>373
「御尤も、だな。まぁ俺はリスクのある方にばかり目がいっちまうが」
仕事が仕事だ。金ばかり追いかけてるとそのうち退屈してしまうので
結局金より歯応えに転ぶ。
傍から見ればバカとしか言いようがないだろう。だからどうしたって話だが。
「因みにバンドの名前ってわけじゃない。
知り合いにハンターがいてな。
そいつは面白ければタダ同然の仕事でも選ぶクレイジーな野郎なのさ」
まるで他人事。本来こういう風に語っていいものやら。
- 378 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/26(月) 00:22:06
- >>375
>今晩ずっと背中にしがみつくとか
>ずぼんおろすとか
>顔にラクガキするとか
>背中に『ILOVEフランちゃん』って書いた紙貼るとか
>ジャイアンシチューをゴチソウするとか
社会的制裁4!殺人型1!
ノリスさん、俺の頭の中で変な事叫ぶの止めてくれ。
悔しいけど合ってるけどさあ…!特に上から2番目ッ!一歩間違えると逮捕物!
本当にフランの悪戯は地獄だぜ!フゥハハハーハァー!
だが、次の瞬間一気に冷めたようにフランの顔が変わる。
…?何かまずい事をしただろうか。いけない、冷静を失ったらもうこうだ。
こちらも努めて平常心を取り戻す。
…勘弁してくれるか。良かった。
うろたえた間に何か少しばかりフランに悪い事をしたようなのは反省する。
悪戯だって口で言ってるだけで本当に実行する気なんて
…どうなんだろう。
「…ありがとうフラン。ごめんな、折角仮装してるって言うのに碌な物持ってなくて」
煮干を硬そうに齧るフラン。
…ここ、確か近くに自動販売機があったはずだ。前回の中華の分も含めて何か買ってやろうか?
「なあ、なんか飲み物いるか?硬いだろ、そいつ」
- 379 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/26(月) 00:28:06
- >>376
「弾幕の鬼ごっこ…でございますか。
それはそれは元気のあってよろしい事で。
お言葉ですが左側にお気をつけて。ともすれば薄くなりがちですので」
なぜ左って?そこは要考察。
互いに依然無駄に恭しく。
道楽か本気かと訊かれれば、両方としか言いようがなく。
「どうやら御趣味が合いそうで何よりです。
私のライブはR指定ですが、お嬢様もそうした御趣味とあればさぞ喜んでいただけるかと」
さり気なくキメ科白を挿入してみる。
これはどうしてもいずれ言っておきたかった。
「それともう一つ…お嬢様、ストロベリーサンデーなどはお好きで?」
- 380 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/26(月) 00:29:23
- >>377
「安全に生きたいなら不必要なリスクを負うのはよろしくないな。
さもなくば自転車に乗りながら手を離して電柱に激突する苦い少年時代が待っている」
別に俺はやってないぞ。コロニーの電線は全て地中に埋まっている。
電柱にぶつかって周りから馬鹿呼ばわりされた事なんて…決して…。
「…随分とアグレッシブな猟師なんだな。
熊とかが住宅地に出現したら燃えるタイプか?ちょっとなあ…」
ハンターってそのままの意味か。
じゃあ俺の想像は全部はずれってことじゃないか、残念。
でもハンター、バンド名に似合うと思うんだけどなあ。
- 381 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/26(月) 00:41:34
- >>380
「ま、リスク選んだ分だけハイになれるならそれも一種のリターンだろうからな。
世の中、自転車どころかバイク振り回してブッ飛ばすバカもいる」
今でも似たような事はやらかしてるがな。
年甲斐も無い?何の話だ。
「さて、な。
何でも熊程度じゃ飽き足らなくて悪魔狩りに奔ってるそうだが」
日本語にすれば一文字違いで豪い違い。
最初ッから熊なんてOut Of Sight.
無辜の動物相手にしてもしょうがないからな。
- 382 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/26(月) 00:42:04
- >>378
ばりばり煮干を牙で砕きながらアマダの謝罪を不思議そうに聞く。
まぁ、もらえるのが当たり前の外の行事ならそう思うかもしれないけど、
私はそうじゃない。
もらえるのがラッキーってだけ。
そもそもこのかぼちゃ、いつぞやの食卓の飾りの残りだ。
魔女が馬車に変えようとしてたあれ。
そのまま持ってきたってだけで、仮装ってほど手はこんでない。
「飲み物?別にいいよ、のど渇いてないし」
分身で飲み食いしても味は分かるが身にはならない。
そもそも乾いてたとしても茶や水では潤わないし。
それに見たところ飲み物をもってそうにも見えない。
血をくれるとか言い出したらその……困るし。
「それよりアマダ、聞きたいことがあるんだけど」
>>379
お見合いごっこは続く。
どうメリハリをつけようかシナリオが難しい。
今の私は即興劇に挑む俳優そのもの。
だれかみたいに時を止めて熟考できればいいのにね。
「左側は仕方ありませんわよ、
右舷に集中しろってノアさん言ってたの忘れてるんですわ」
なんの話だ。
そっちに話を広げてどうする。
ガウを木馬にぶつけてやる話はもういい。
「R指定だなんて……大胆。
きっと熱いものを奥へ撃ち込むライブですのね?」
ぽっと顔を赤らめていやいやと身をくねらせる。
そこまでよ!
怒鳴り込む魔女のイメージが脳内で炸裂。
うっせーひっこんでろぎゅー。ぎゃー。
撃退した。
が、ストロベリーサンデーでぴたりと止まる。
えーと……
「ごめん、いちごの日曜日ってなにさ?」
演技を止めて素で聞いた。
バレンタインデーの仲間だろうか?
ブラックマンデーの仲間だろうか?
- 383 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/26(月) 00:52:02
- >>382
とりあえず止め所の見当たらないアドリブ祭りは依然続く。
まあいきなり止めるのもヤボだろうし、その時その場の流れこそが完成品って
考えればラクになれる。
とりあえずコイツ、このナリでこういう言い回しは只者でないらしい。
ならこっから更に便乗してみるとするか。
「ええ、それはもう…
絶頂を迎えた時、えも言われぬほど解放感に溢れますとも」
―――と、流れは突如スラッシュされる。
どうやらストロベリーサンデーという食べ物を素で知らないらしい。
ならもうこのまごまごしい演技ももう必要ない。素に立ち返るとしようか。
「ストロベリーサンデー…かなり甘くて美味い食べ物だ。
一度口にしたら止められなくなる程に。一度館のヤツにでも頼んでみな」
長々説明は面倒臭い。
とりあえずこう言っておけば後はなるがまま。
- 384 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/26(月) 00:55:22
- >>381
「バイクで手放し運転…?
何だ、友人にスタントマンでもいるのか?」
いやしかし、その運転はアレだ。
公道でやれば間違いなく警察に停められる。周りからしても止めてくれと思うだろう。
事故に巻き込まれるのもまたリスク。不要なところで他人のリスクをあげないで貰いたいと。
「…悪魔狩りとはまた豪勢な。聖水とか持参か?」
本当に悪魔を狩っているとなると認識をまた改めなければならないが
恐らく、悪魔のように強い何かなんだろう。
熊より強い陸上の動物とはなんだろうか。思いを巡らせてみた。
>>382
あ、そうか。吸血鬼って人間よりも歯が丈夫だったんだっけ。
そりゃそうか。人間の分厚い皮膚食い破って血管に牙突き立てるわけなんだし。
だから煮干も一旦効率の良い食べ方を覚えてしまえばバリバリと食べれる。
余計な心配だったかと頭を掻く。
俺だってコーヒーの一杯でも飲みたいが、向こうが遠慮したんだし俺だけ買いにいくというのも
気が引けてしまった。
そうかと一言返事して俺はフランの持ってきたカボチャの仮面を手の仲でくるくると回した。
「…聞きたい事?なんだ」
さて、近くに中華屋台は来ていない。外は彼女にとって未知数の世界。
どんな質問が飛び出すのやら。
- 385 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/26(月) 01:03:47
- >>384
「スタントマン志望しようにも、事情あって辞退したらしい。
相当持て余してると思っていいだろうぜ」
実際持て余してる。その位するシチュに中々巡り合えなくて。
無理にやるほどでもないが、時折やらずに居られない。
「まあ聖水も持たない訳じゃないんだが…基本的に銃と剣だけと来てるからな。
文字通りのハンターだろう」
そう言えば聖水なんて長い事手にしてない。
悪魔相手にこれは常識だろうと言われているが…
どうも俺の場合先述の通りで事足りる。
「ところでシロー…お前さん、既婚者だったりするか?」
- 386 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/26(月) 01:04:30
- >>383
「まぁ!
でも開放感の後で虚無感に襲われるのでしょう?」
そんな台詞を思い浮かべたところで、
またも魔女が「そ、そこまでよ……」とボロボロのイメージで登場。
うっさいぎゅー。ぎゃー。
また撃退した。
「ストロベリーさんでー」
もう一回繰り返してみる。
頼んでみれば分かると言うが……咲夜で大丈夫だろうか?
あの完全で瀟洒なメイドはアレで意外とものを知らないのだ。
「ストロベリーサンデーですか?
ああ、それでしたらチャンピオンRED苺の仲間ですわ」
とか言い出さないかちょっと不安だった。
まぁ、でも聞いてみるしかないか。
「わかった、今度咲夜に聞いてみるわ」
>>384
聞く態勢をとってくれたアマダを上目遣いで見つめながら、
少しの躊躇の上で、それでもゆっくりと口を開く。
「アマダは身近な人が憎くて仕方ないとき、どうする?
そうね、殺したいほど憎いとき」
飾らず、簡潔に問うた。
狂気の影響を受けず、この問題と向き直れる機会はあまり多くない。
だから今、聞いてみた。
- 387 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/26(月) 01:22:37
- >>386
「そうだな…もし気に入ってくれたら、いつか奢るぜ。
いつかそこから出られたときにでもな」
子供の頃から今にかけて、馴染んだ味。
俺は知っている。人魔問わず、それを好きなヤツに悪者はいない。
何しろ俺の前での前例が後を絶たない。
コイツなら気に入りそう…何故かそんな気がした。
恐らくそういう事だろう。
「…ところでサクヤ、ってのは?親戚か?」
少し気になって訊いてみる。
- 388 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/26(月) 01:33:20
- >>387
出られたら……か。
「早速約束が増えちゃったね、じゃあ早いうちに出なくちゃね」
そのためにはあいつをどうにかしないといけない。
ダンテは多分人間で、そんなに永くは生きられないだろう。
となれば少しでも早く、だ。
運命を壊しておそとに出る。
何度目か分からないが、あらためてそれを心に決めた。
「咲夜?
ああ、お姉さまの飼ってるペットよ。
人間の。あれ……犬だったかしら?」
そう言えばこの話で前にアマダが機嫌悪くなったっけ?と思い出し、
冗談だよとクスクス笑いながらメイド長の事を教える。
あれだけ忠実にお姉さまに仕えてる姿はまぁ、犬っぽくはあるのだが。
だが、あれはお姉様のしもべだ。
こっちには絶対に靡かない。
- 389 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/26(月) 01:38:34
- >>385
「スリル求めるのはいいけど肝心の腕のほうが駄目だったとか?」
そりゃまあ、採用されないだろうなあ。
世の中には命知らずかつ神懸りレベルのテクニックを持つ人間もいる。
彼らの横に並ぼうと思えば文字通り命がいくつあっても足りない。
「…ん?本当に悪魔退治やってるのか、まさか」
俺は表向きはただのミュージシャン、しかしその実態は
日夜悪魔と戦い続けるエクソシストなのだっ!って感じだろうか。
…おお、クールじゃないか。
「ん?ああ、そうだ。遠い土地に嫁さんが居る。もうすぐクリスマスだし帰る予定になってるんだ」
思わず笑みがこぼれる。
短い時間だが彼女と一緒にいると幸せな気分になれる。
これだけは世界の全人類の中でも俺だけの特権だ。
- 390 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/10/26(月) 01:46:46
ザザッ
指先がぶれる。
驚いて目を向けると足元のつま先からじわりと薄らいでいるのに気がついた。
<スペルブレイクまであと……>
時間切れか。
まもなくフォー・オブ・アカインドのスペルカードが時間切れで破れる。
せめてアマダにした質問の答えを聞いてからと思ったが、残念だ。
でも、いい。
この方法ならまた外に出る事はできる。
弾幕ごっこはできなくてもお話することはできる。
だから、また会ったときに答えを聞こう。
ひょいとベンチから立ち上がった。
「時間切れみたい。魔力が切れちゃう。
今日はあそんでくれてありがと!」
最後に精一杯笑って……やらない。
そんなもう二度と会えないみたいな演出、してやるもんか。
だからさいごはいーってして消える事にした。
二人に。
rー'"7´`''ー--、!__,,..ゞ ヽ //:::::::::`ヽ,イ::::| |
,ノヽ、_/ `ヽ.,__,. '"´ ̄`ヽ、 / | !:::::::::ニ=-i7i:::::| |
!_ `ヽ r'"´`>-‐'´ヽ. `7´⌒/´ ̄`ヽ| |::::::::::::::::/i:::::::::| |
`ヽ/ '´ 丶rァ'"`ヽ、 7 .| |:::::::::::;:イ´⌒ヽ! |
/ ヾ._ ノ´ ̄`ヽ ヘ,ヽ、∠/ Y
/ / ハ `Y` / ヽ
i ,' / ! ,' i : ', i7 ヽ
i i /`ヽ !, ハ i i i {} ',
', l / /メ i ハ ,ハ/ i i リ i i
/ l / ァ''テ示ミ、、 | / i /'⊥==ハ / ∧ | |
ハ, 人/ イ{ i:{ t.:ハ:iヽ レ' ´ァ7ス.だ:ハ ヾ ', ,.' ,'i ヽ l !
ノ } !| . リ ぃ辷ッリ {:{. し' }リ }イ /i | ', ! /
レ ノ |,レく ,,,,,, `−'´ j ヾ辷ッ ∠_ レ' !i i | / /
, /、 ,、ヽ 〈 '''''' i'´ , 、ヽ | i | ,'
,' r'´⌒ヽヽ〉┘ ___ l/,.ヘヽ、 | ハ | (!
| 7´,ィ' /'、 ∨ニ辷_ ̄¨_二マ ヽ〈 r'´ヽ / / ', ', ', またね♪
l `i└ク l> .._ − ̄ _,.イヘ} } V イ ハ ノ i'
.l ∨ |!ハ:::::,、> 、 _,.. 爪}:::::ヽ冫′ 广/_ '/ ヽ、 /
,.-┤ ! j |,:::/ ヽ /` ー '"´ヽ_/\:/ /_ : レ ソ
<「フォー・オブ・アカインド」スペルブレイク!>
そうして魔力でできた分身は光の粒になって消えていった。
かぼちゃのマスクとチョコレートの包装紙だけをベンチに残して。
<了>
- 391 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/26(月) 01:49:47
- >>386
「どうしたいきな…」
見つめたその視線は真剣そのもの。
茶かそうだとかからかおうだとか、そういった雰囲気は一切無い。
俺の口から真実が語られるのを待っていた。
「………そう、だな」
右腕を左手で掴み、しっかりと頭の中で自分の気持ちを拾い上げ、言葉へと組み立てる。
偽りは一切混ぜないように。率直に自分自身の心を見つめて。
答えを搾り出した。
「…生きてたらさ、そりゃ一人や二人は絶対に憎らしいやつが出てくるだろうさ。
身近に居れば居るほど繊細に、そして強く感じてしまうんだ。そしてその強さはどれだけ…そいつに
好意を持っていたかでとても変わる」
元から嫌いなやつが憎くなっても、実際殺したいほどになるのは稀だ。
やっぱり、当たり前、前々から。そんな思いが憎しみをかえってすり減らす。
そしてその逆に行為という感情が憎しみに変わるとそれは倍増する。
「大の親友だと思っていた。無二の友達だと思っていた。だから、そんな人間の憎むべき行動…
例えば理不尽だとか裏切りだとか。許せなくなるのは当たり前だ。殺したくなるまで、憎みたくなる時もある…」
空を見上げれば美しい星が黒の海に輝いていた。
「大親友だろうと、血縁だろうと、愛する人だろうと、全てが分かり合えるわけじゃない。
誰だって自分の中に宇宙を持っているし、そこから抜け出す術なんてありはしない。
全てが事実に基づいた思い込みなのか、それとも互いの関係が真理だったのかなんてものは
自分にも、相手にもわかりはしないんだ。誰だって、本質は孤独だから。
だからこそ、自分が孤独だと知れば相手を許す事だって出来る。
一旦発見してしまえば殺したいと思っていた自分すら恥じることができる。そんな可能性があるから、
俺は殺したいほど憎いと思ったら、まず許す為の道を探す。どうやったら殺せるかじゃなくて、どうすれば許しあえるか。
許しあえば、分かり合うという言葉の意味の欠片を捉えられる。俺はそう思っている」
溜息をして、再びフランと向き合う。
「誰かと…いや、姉と喧嘩しただろ、フラン?」
- 392 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/26(月) 01:52:16
- >>388
「ああ、出来るだけ俺がジジイになって足腰立たなくなっちまいそうな前に頼むぜ。
ま、こちとら仕事が仕事なんでそんな簡単に老いはしないんだが」
仕事などで充実してる人間は歳を取りにくい、と言われる。
俺の場合、実はそれも半分悪魔が故なんだが。
70-80ぐらいなっても恐らくはこのままだろう。
「ああ、この前会ったあのいきなり消えるメイドさんか。
まあ流石に出してくれるのはムリでも、さっき言ったサンデー作るぐらいはしてくれるんじゃねェの?」
人間にして悪魔の従者。別に珍しくなどない。
悪魔が人間に靡くぐらいだ。逆もまた然り。
「ま、押し込められて怒る元気があるなら大丈夫だろうさ」
コイツも常々ムカついてる事だろう、自分をそこに押し込めた‘運命’というものが。
運命と云うものは、絶えず意せず自分で創り上げ選んでいるもの。
たとえそれが、他人に操られているものにしろ…俺はそう考えている。
だが、なればこそ尚更意地でも自分でどうにかしたくなるというものが情と云うものだろう。
自分が生み出したものにおめおめ従ってやるものか、その気概さえあればいい。
- 393 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/10/26(月) 01:58:44
- >>390-391
と、ここまでの言葉。心の内に重ねた。
周囲を見渡せば彼女はいない。どうやら行ってしまったようだ。
溜息をついて、次の再会までこれをとっておこうと思う。
帰ったらもっと考えて補強しておこう。長くなるかもしれないが、それでもいい。
一つ一つの言葉に嘘偽りは無い。
それでも満足してくれるかどうか、まだ判らないが。
「…いかんな、こんな事文章に残したくないんだけどな」
苦笑する。忘れないように先程までの長文を何度も何度も頭の中に反響させる。
自身の心から生み出した真実の言葉。忘れてもまた汲み出せばいいじゃないか。
「じゃ、ダンテ、俺はこれで。やることが出来たみたいだ」
自転車に飛び乗って車輪を回す。基地へと向かう途中だって考えられるし
仕事が終わればたっぷり考えられる。時間はまだまだある。
納得のいくまで組みなおそう。これが俺の宿題だと心に決めた時には自転車は坂へと差し掛かっていた。
【退場】
- 394 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/26(月) 02:04:00
- >>389
「腕はズバ抜けてるが性格に問題があって…よくある話だろう?」
実際同業者からは問題児扱いされる。仕事を選びまくるが故らしい。
勝手にそう扱ってろって話だが。
「もし本当だ、としたら…信じるか?
たとえば、それが…俺―――だとしたら…?」
どうも興味の視線に晒されたらしい。
いいだろう、そろそろチラチラとでいいんで明かしていこうか。
「そうか、やっぱりな…どうもマジメそうな顔立ちしてるからな。
家族、か…あまりムチャして嫁さん泣かすなよ?」
対する俺は、最早身内は遠い地の一人のみ。
家族だ親戚だと言われても今一実感がわきにくい。
だが、道を重ねる事は出来る。
アイツもまた、俺と同じ様な道を往く以上―――血筋故だろう。
- 395 名前:ダンテ ◆xc.T/DANTE :2009/10/26(月) 02:21:39
- >>390
会話の途中だがまたも残念なお知らせ。
フラン―正確にはその分身―が足元から砂の様に薄らいでいく。
どうやら分身を構成する魔力も切れかけているらしい。
感謝の言葉と裏腹に顔はあからさまなイジワル少女を気取って見せる。
そしてそのまま別れの言葉と共に光となって消えゆく―――…
「フ…悪ガキめ。だがそれでいいさ。Adios...」
決してAdueではない。飽くまでもAdios.
果たすべき約束を交わした俺達にAdueなどという言葉は場違いだ。
それ以上語る必要があるだろうか?
>>393
そしてまた一人―――
「ああ、またな」
結果的に本業は明かすことは無かったが、あの感触ならもう問題ないだろう。
近い内また会う日にでも。
「やること―――か」
先のフランとの問答を訊いていれば概ね想像はつく。
何しろあの性格だ。あまり悩み過ぎるなよ、と心の中で窘めるぐらいはさせてほしい。
そして残るは俺一人のみ―――以上、ハムレットの捩り。
まあ毎度の事だが。
後は、アイツの残したカボチャマスクを片手に。
チョコレートの包装紙も敢えて捨てずに持ち帰る。
その意味はだいたい解るだろう?
【退場】
- 396 名前:八神 庵:2009/10/26(月) 22:55:11
-
カチリ――と音を立てる三日月の刻まれたジッポ。
燈る火は赤を交えた蒼。
煙草に火を着ければ、漂うのは紫煙。
変わる事の無い血の味。
――何時も通りだ。
何処も彼処も血の匂いに溢れている。
『死』の香りに溢れた、高台で独り。
在るモノは風に吹かれ堕ち逝く葉だけ。
何時だったか。
何処だったか。
こうして、煙草本来の味を愉しみ、月と共に移ろう季節を眺めたのは。
思い出す事も無い。
感傷に浸るのは、らしくも無い。
「フン―――――」
この手に紫焔は滾らない。
紅に染まる焔すら無し。
「―――――下らん」
気に寄りかかるように腰を下ろし、ただ月を眺める。
星が――瞬いていた。
- 397 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/10/26(月) 23:12:18
- 風に誘われて気がついたらここに居た。
「……あれ」
たしか、雨の中を歩いてたんじゃなかったのだろうか、私は。
けれど、気づけばこの有様。
降っていた雨はいつの間にか止んでいて、雲の合間から月が空を切り開いていた。
地上の灯は遠い。小高い丘と立ち並ぶ槭樹は、夜天の光だけを掬い取っている。
―――ま、いいか。
狐か妖精か狸かは知らないが、こういうところに足を着けられるならそこそこ歓迎だ。
雨上がりの土の匂い、冷たく濡れた風と、ほの暗く紅く揺れる紅葉の合間を行く。
行き先に、小さな紫炎が点ったように見えたのは、その時だった。
- 398 名前:八神 庵:2009/10/26(月) 23:20:44
-
――何かが居る。
紫煙を吐き出し、その心根を探る。
探った所で如何にも成らないが、敵意があるなら殺せば良い。
味方など存在はしない。
ギブアンドテイク――これこそ下らない言葉だ。
己に利が在ろうと、無かろうと。
殺して行く事しか出来ないのだから。
――紫煙は揺れる。
大当たり!ですら血の味だ。
手にした物は、総てが血染め。
だからこそ――だからこそ?
意味など無い。
気付かぬフリで、紫煙を見つめ続ける。
- 399 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/10/26(月) 23:38:18
- そろそろ互いの顔がわかる距離に来たというのに、そいつは相変わらずだった。
無愛想、無口、無惨が人の形になったような鋭い眼が、爪先で煙草を銜えている。
何か言うような雰囲気でもなかったので、黙って隣に並ぶ。
言葉は人の世界に線と色と形をつけた立役者だけど、この場では不要だ。
なら、沈黙を保つのもまた好い。騒ぐような歳でも無い。
丘の下には燎原の火が槭樹の中に垣間見える。
そして空も―――不吉なくらい冴えた月が見える。
不吉つながりで気がついたが、こいつの目の色がちょっと違っている気がする。
鋭い眼に何か別の要素が見えるのだろう。
例えるなら透明な殺意に諦観のような濁りがある……気がする。
アレから炎は戻ってきていないのか、それとも果ての見えぬ血道に飽いたか。
―――まあ、どの道にしろ、まだ私には関わりが無い、が。
この手のことに本人以外が口を挟んでもロクな結果にはならない。
そもそも他人を当てにするような奴でもないし、私がどうこう言うことでもない。
ただ、話くらいは聞くけれど。
だから待つ。向こうから何か言って来るなら楽だし判りやすい。
こっちから何か言うのは……まあ、まだアレだな。良くない。
だから黙って近くの丸太を組んだ柵に座って、夜の槭樹のざわめきを聴いている。
こうしていると人の言葉がどれだけ姦しいかに初めて気づく。
人は人の間にいる限り、このざわめきは聴こえない。
自分から求めない限りは。
- 400 名前:八神 庵:2009/10/26(月) 23:56:15
-
――月は不器用ながら輝いている。
お陰で朧気に顔程度なら確認が出来な……そう言えば幾度か見えた顔だった。
記憶を漁らなければ思い出せない程度ではあるが。
そも、人の顔などどうでもいい話ではあるが。
「―――――久しいな」
なんでもない言の葉。
それでも俺にとってはかなりの気紛れであり、奇跡に等しい問いである。
今宵は、月が綺麗だからこそ――。
迷う。
惑う。
「相も変わらず、抱けるか? その境遇を」
満月を忌み、三日月を思う。
この眼に映る何もかもが――■■い。
- 401 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/10/27(火) 00:16:13
- 「久しいね」
ようやく、梢に紛れて囁きが聞こえてきた。
相変わらず粗く研いだ刃物みたいな声が判りやすい。
半ば奇跡的な確率で相手から言葉を発したわけだが―――
月は人を狂わせる。あらゆる意味で、狂気だけではない意味で。
それは普段は向かぬ方向へ人の意志を誘うほどに美しい。
あの天蓋が司るのは豊穣と狂気なのだ。
凍結した心も溶かす程度には温かく、恐ろしいのかも知れない。
それは信仰や悪魔の象徴として流転していくが、本質は大して変わらなかった。
あまりにも強固過ぎたのだ。月という存在が。太陽の対、常に天を回るものが。
だから人を惑わすし、導きもする。自然とはそういうものだし、神も同じ。
なら私も付き合うだけのこと。
自分で決めていくという事実を軽く握って。
「迷えるなら、長く続くさ。形が変わっても」
憎悪にも復讐にも、妄念にも幸福にも揺らぎは生じる。
けれど、それを超えるたびに補強されるものでもある。形を変えたとしても。
私は―――多分妙な形で固まってしまったんだろう。
怨念もある、矜持もある、歳月もある。
故郷はなく、家族は無く、人生も無い。
けれど、数奇な運命は私から殺意をいつの間にか全く別のものに変えていたのだ。
それが何かは、未だに判らない。ただ、昔よりマシな生き方はしている。
その変化にだけは、感謝をしたい。
「決着のつけ方って難しいもんだね」
ある意味の自嘲。別の意味では問い掛けであり―――彼の方法論を知りたい欲求。
好奇心と、ちょっとした余計なお世話(感染するらしい)の産物が槭樹の囁きに混じった。
- 402 名前:八神 庵:2009/10/27(火) 00:29:52
「決着――か」
解消しきれない因縁。
未だに生き永らえるという矛盾。
「死だけが答えではなく――
勝敗すら無意味で。
生も死も無意味となり。
殺したい欲求は集えど。
―――結局、答えは見つからないままだ」
「お互いにそうだろう?」と言う答えは飲み込む。
そろそろ別の答えを模索するべきか?
いや―――――アレを殺さねば先は無い。
これは―この世界のルール。
- 403 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/10/27(火) 00:51:29
- 「まあね。私も迷ってる。今更なのに」
かつては千年燃えた執念、月まで届けと足掻いた憎悪。
そして、火種が費えた先での―――予想すらしなかった再点火。
滅茶苦茶だった。だから滅茶苦茶に暴れて……暴れて……なんか気が抜けてしまった。
人と触れ合うのも、里の役割を得たのも……そのせいかも知れない。
記憶は消えない。年月は返らない。
失ったものは拾えないし、自身は引き剥がせない。
けれど、それでも―――私はうっかり生きている。人の生きる場所で。
「自分で作ったルールは、案外あっさり変わっちゃうなんてね。
私自身が、正直、今でも信じられないよ」
すでに互いの死は意味が無くなった。ただの回数、通過点に過ぎない。
だけれども、私の“命題”はまだ生きている。理想の決着を得るまで。
そしてそれは―――未だに見えてこない。
「なんか最近は焦りとか無くなってね。世界が滅びる時、あいつより一秒でも長く生きてりゃいいや、
って程度になったよ。結局は、私の意地だけのことだったのかしらね」
それは不安にならなかった。むしろ、背に掛かっていたものが軽くなったようだ。
……後で過去の出来事を紐解いて、私の行為は無意味だった、と気づいたのもある。
それに対する後悔は今でも大きい。人生で最も敬愛していた相手を信頼し切れなかったのも悔しい。
けれど、それ以上に―――無事で良かった、と思う気持ちの方が強かったのだ。
もちろん、アレのやったことを許すつもりは無い。恨みも消えない。
ただ、幾分か生きるのが楽しくなっただけだ。
- 404 名前:八神 庵:2009/10/27(火) 01:03:42
「変わるな……――人は」
変わる。
変える。
変わってしまう。
罪悪は過ぎ行く年月。
止まる事すら知らぬ、時間。
「クッ――そうか、そうだろうな」
持続すれば、堕ちる、
エネルギーガ必要デ、不可欠だ。
- 405 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/10/27(火) 01:18:19
- 「―――だから、思い出す、なんて機能があるんだろうけどね」
過去の自分を想起する。再認する。
断片的な記憶にも強力で鮮烈な感情と意志は宿る。
そして、何をすべきかを常に再考する。
その結果が常に原点とは限らない。
だが―――より良い何かの為には、やらなければならない。
それがあるから、忘却と諦念の中でも人はがんばれるのだ。
「何故、を探るのは大事だよ。自分の感情の原因は特に」
―――それを潰さなきゃいつまで経っても、自分の時間は進まない。
私は……進んでいるのだろうか?
「……さて、そろそろ帰ろうか。じゃあね」
その答えは、これから決まる。
なら、とりあえず迷う必要はない。
私は、進むだけだ、という話。
紅い葉を踏み締めながら、月の光を辿る道。
影の中に真っ直ぐ、一本の道を描いていた。
【退場】
- 406 名前:八神 庵:2009/10/27(火) 02:00:36
-
――紡がれる言葉を空虚に流す。
結局、どれだけ正論であり、認める事が出来たとしても詰れ過ぎた思考に流すには無意味、
相似でもなく近似値でもない。
ただ憎しみだけが共通点であり、それが希薄になった相手だ。
それ以上の、意味は意義は―――――無い。
摂理と性を消せば己を保つことも出来ない。
「人間、失格、か――」
月に吐き捨てこの場を去る。
化物で良い。
修羅で。
悪鬼で。
羅刹で。
己が死すら――勘定の内。
――月影は、淡く、佇んでいた。
- 407 名前:零崎人識 ◆kILLEREa5g :2009/10/27(火) 23:12:01
-
「しっかし――どーにも傑作だ。侘び寂びなんて知らねーってのによ」
つい最近警備員辺りに叩き起された場所に舞い戻ってみる。
どーにも生臭い方が来られた様で慣れ親しんだ匂いが鼻腔を擽るのが不可解だが。
だからって何だという話。
咎め立てする立場じゃない――現実を呪うだけさ。
そもそも、夜にこんな場所に訪れるなんざズレてる証拠だ。
陽光に照らされるからこそ紅葉は美しくも儚い。
月明かりに照らされてる紅葉なんざ無残を通り越してちょっとしたホラー。
しかしながら、幹がデケーお陰で良い具合に風除けになる。
つまりは寝床にしとくにゃ最適――街灯もぽつぽつとしかねーからな。
浪漫に溢れているぜ?
寝そべれば見えるのは黒のキャンバスに白いペンキを点々と振りまき過ぎた光景。
隣に可愛い彼女が居て、星の説明をしてくれる――その後にキス……なんてのはロマンチズムに溢れる、
物語の中でしか語られない事象だろう。
ああ、そうだとも。
一人さ。
手首が千切れ飛んで――代わりに真っ黒な義手をつけた女なんぞ居る筈もない。
だから金も無い。
それでも取り敢えず腹は減る。
「――侘しいもんだな、この人生」
呼吸すら侭成らなくても生理現象を止める手立ては皆無で、絶無で、不可能だ。
「……まあ、戯言だけどよ」
悪くねーさ、きっと。
- 408 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/28(水) 00:25:34
- >>407
蝙蝠を両手に抱いて静止した時の中でメイドが空を飛ぶ。
今宵もまたお嬢様の暇つぶし。
そして同時に私のささやかな気分転換。
兼、妹様の暴れた跡がないかの確認の旅。
私は高台の上空で静止して少し考えると、
やがて、いつものベンチの前に降り立った。
そして、高台に舞い降り時間停止を解く。
と、すぐに違和感に気がついた。
なつかしい匂いがする。
生憎と愉快な匂いではないが。
感覚に従って違和感の源泉を手繰ると振り向いた先にその源は在った。
木立の中、大樹の根元にもたれた男が一人。
すこし逡巡したものの、声をかけてみることにする。
「こんばんは。
……お加減でも悪いのですか?」
普通ならば眉のひとつも顰める所ではあろう。
しかし、私は少し楽しそうな笑みを浮かべていた。
- 409 名前:零崎人識 ◆kILLEREa5g :2009/10/28(水) 00:37:34
- >>408
「いいや――少しばかり人生について考え事ってなもん……だ?」
声を掛けられて無視を決め込むほどに眠くはなく、星をただ眺めているのも退屈であり、珍しくも話し
掛けられたのであれば、声の方へと視線を動かし応対する程度には社交性はある――つもりだ。
しかも女。男としては反応もするってもんだが――メイド?
こんな時間に?
こんな場所で?
「――ところで、アンタはなんだ?」
廃業しちゃ居るが、一流のプレーヤーだった過去もある。
それは廃業しようとしていなかろうと、殺人鬼であろうとなかろうと、殺し屋であろうとなかろうと、七度の
殺し合いの果てに別れたアイツであろうとも。
この距離まで。
この間合いまで。
その気になれば殺してしまえる距離にまで!
一切気付く事もなく接近を、近接を許すなんて事は有り得ない!
「かはは、それもメイドの嗜みなんてお茶を濁してくれるなよ、同類」
赤く染まった影を見る――ああ、幻視だとも。
何時だって影は黒い。
それでも隠し切れないものはあるって事だ。
- 410 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/28(水) 00:54:12
- >>409
ご同類。
その言葉を涼しい顔で聞き流しながら、万が一の事態に備えて蝙蝠を放す。
サーバントフライヤーは夜の空に舞い上がり、やがて見えなくなる。
近くには居るのだろうが、今はどうでもいい。
目の前に楽しそうな「ご同類」が居るのだから、彼が言うには、だが。
しかし、果たしてご同類なのだろうか?
広義で?狭義で?
実績で?精神で?
「ええ……確かにお出しするお茶を濁すようではメイド失格ですわね」
くすくすと笑いながら彼を見やる。
体に緊張がある。
いつでも全身の筋肉にGOを命じられる状態。
そう、いつでも一足飛びに間合いの中の獲物を無機物に変えられる状態。
向き出しの殺意が心地いい。
かつての霧の街ではごくごく稀にしか会えなかったタイプ。
ときめきにも似た感覚に頬が緩むのを感じる。
まったく、はしたないオンナだこと。
「それにしても、なんだ……とはご挨拶ですわね。
一応、レディのつもりなのですが……」
胸に手をあてて天を仰ぐ。
ああ、神よ。
そんな風なゼスチュア。
彼に対して私は筋肉が緊張していない状態。
いつでも一足飛びに殺される事ができる状態。
ただ、代わりに精神が研ぎ澄まされている。
そう、いつでも時を止められる状態。
「私は十六夜咲夜。
ただ変わった館に使えていると言うだけの普通のメイドです。
強いて言えば、神出鬼没が美徳だと思っている所くらいでしょうか。
……普通でない場所があるとすれば」
私は今までで初めて自分から喜んで名乗った。多分。
自分に近しい空気をまとった人間とは幾人かここで会ったが、
その中でも彼は自分に一番近いタイプの人間だと感じた。
理由があるとすれば、おそらくそれだろう。
- 411 名前:零崎人識 ◆kILLEREa5g :2009/10/28(水) 01:06:10
- >>410
「――ミルクを入れ過ぎた紅茶っつーより、クリープを入れ過ぎたインスタントコーヒー出しやがって……
ったく、傑作過ぎんぜ、あー、えーっと、俺も自己紹介したほうが良いのか御同類?」
うん、まあ、好み的には悪くない。
もうちょっと背が高ければベター。
正しい抱く感情はライバル心。珍しそうなナイフとか太腿辺りに隠してそうじゃん?
「零崎人識――何処にでも居て何処にも居ない、殺人鬼の絞りカス」
弛緩仕切った筋肉とは裏腹の緊張感。
思考に浮かぶのは――
例え先に動いたとしても、後に動いたとしても――殺されるであろうと言う結末。
最悪にして最高な、最低にして最上な、メイド。
お手上げだと肩を竦め――
「メイドってのは化物揃いかよ――”ロベルタ”だってもうちょっとマシだぜ。近接戦闘なら殺して解して並べて
揃えて晒せそうだかんな」
――聴こえないように呟いた。
- 412 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/28(水) 01:28:58
- >>411
殺人鬼の絞りかす……か。
彼が絞りかすなら私は何だろうか?
殺人鬼の……ふむ。
狗に喰われた殺人鬼の喰い残し……あたりが妥当な所か。
成る程、確かにお互いに同類のようだ。
私もまた、何処にでも居て何処にも居ない。
なんだ、驚くほどにそっくりだ。
こんなこともあるものなのか。
「素敵な自己紹介、有難う御座います。
さすがは深夜遅く、物騒な時間帯ここに極まれり、ですね」
気をつけないと妖怪や殺人鬼に出会ってしまうかも。
いつかの老提督に書けた言葉を思い出す。
ほらご覧くださいまし。
殺人鬼だけでここに二人も居るなんて、実に物騒な場所ではありませんか。
……彼の戦闘態勢が解かれるのを感じる。
それが私に伝わるという事はすなわち、この場でやりあう事を避ける合図。
何故か?
簡単な事だ。
殺人鬼にとって「殺す」というのは呼吸のような行為。
理由も意思も命令も必要とせず、次の瞬間には相手の首を掻っ切っていて当然。
それを我慢する合図を送るというのは、そういうことに違いあるまい。
時を止めるのが早いか、それより先に私の首が落ちるか。
そんな早撃ちのようなやりとりにも心惹かれるものが無いと言えばウソになるが。
「私は、今はただのメイドよ。
昔はすこしやんちゃをしていた時期もあったけれど」
まぁ、今は会話を楽しもうか。
この数奇な出会いを果たした余にも奇妙な近似の遠きともがらと共に。
「それで、人識様はこんなところで寄らば大樹の影とは一体どうかなさって?
一仕事やりとげた後の一服?それとも愉快なイベントに後でも追われているのかしら?」
いつかの神父様と相対したときとは違う。
ドロドロした感覚こそが表を覆いつくし、メイド長は内側で膝をかかえているかのような。
そんな状態。
だが、気楽だった。
口調にそれが現れているのが笑える。
これほどにかつでの私は感情豊かであったのか。
ひどく人としてダメな方向で。
- 413 名前:零崎人識 ◆kILLEREa5g :2009/10/28(水) 01:45:30
- >>412
「ただのメイドが俺にこんな物騒な思いをさせるかってんだ――戯言が過ぎんぜ?」
殺す殺さないは別として――殺したいと思える、或いは殺されても良いと思える。
そんな矛盾を孕んだ台詞を口にしたくなるのも致し方ない。
まるで時間が止まったかのようにばっさりと。
まるで時間を止めたかのようにばっさりと。
散々足る結果を笑顔の侭でこなしてくれそうな予感。
笑顔に看取られて死ぬなら――いや、笑顔で殺してくれるなら、それはきっと素晴らしい。
自殺願望があるわけでもない。
自殺願望なんて物はある筈が無い。
生きている事に疑問を抱きながらも地べたに這い蹲って生きている。
死ぬまでは生きる。
それが基本にして忠実にトレースすべき肯定であり、結局末路は誰かに殺されて死ぬんだろう。
殺してきたのだから仕方ない。
だからこそ――殺される相手くらいは選びたいもんだと思うまでで。
「なんて事はねーよ? ただ一人で眠りたかっただけさ」
ビジネスホテルでピーチクパーチク囀る誰かと眠るのはゴメンな気分だった。
やかましい。騒々しい。壊れたラジオかアイツは。
「で、気付いたら喫茶店にでも行かなきゃ会えないメイドと駄弁ってる、傑作も良いところだ」
ホント、数奇な運命だぜ。
「あー、『様』はやめてくんねーか? 人識でも零崎でも好きに読んでくれてかまわねーから、なあ、咲夜?」
ニヤリと、そう告げる。
素面じゃなくても恥ずかしいわ!
- 414 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/28(水) 02:01:21
- >>413
ただのメイド。
確かにただのメイドなのだ。
ただのメイドが脅威にならないという事こそが思い込みではないか?
どちらかと言えば十六夜咲夜はそう考える。
歴戦の殺人鬼がただの巫女に負けることもあるのだ。
情けないことに。
「されど戯言の中に真理はあるかもしれないわ。
いつだって殺人鬼をとらえるのでただの人間で、
いつだって怪物を退治するのはただの人間でしょ?」
言葉遊び。
ただの人間というのは恐ろしい存在だ。
そんな事を語ったのは誰だったか。
ああ、門番だ。
「ただの人間ってのは怖いですよ。数と、縁と、思いと、そして集団心理」
彼女の台詞が思い出される。たしか、一人の人間は怖くないとかなんとか。
妖怪が人間を怖がってどうするんだと笑ったものだが、成る程、彼女の言葉は正しいのかもしれない。
「一人で眠るって……こんなところで?」
立ち話もなんだろう。
彼に半身を向けたままベンチの端に横向きに腰掛けた。
木の根元。
ああは言ったが、まぁ、たしかに悪くは無い。
アスファルトの路地裏よりはよほど快適な環境と言えるだろう。
屋内で寝る予定がないのであれば、の話だが。
喫茶店にメイドがいるというのも妙な話だ。
メイドがいるのは主人の元であってお店の給仕はメイドとは呼ぶまいに。
あるいは外の世界の喫茶店にはメイドがいるのだろうか?
「喫茶店ではないけれど……」
次の瞬間、私は紅茶の入った魔法瓶(香霖堂で買った)と
クッキーの乗った木皿を両手に掲げていた。
一瞬以下で用意した。
つまり、0秒で。
「よかったらいかが、人識?」
此処で寝るなら、体は温めて置くにこしたことはないだろう。
優しい自分に驚くが……野宿の辛さを知る者同士のよしみ、ということにしておこう。
- 415 名前:零崎人識 ◆kILLEREa5g :2009/10/28(水) 02:21:31
- >>414
「だけどまあ、人間を殺すのが魔で。化物を殺すのは英雄だ。
―――――だからこそ人間は英雄を駆逐する。
なあ、御同類……何時だって、人間はただの人間だ。野宿だってする。一人になりたい夜もある。それ
でも誰かと居たい時もある。矛盾を孕んで、孕み続けるのが人間だ。
でもなあ、割り切りすぎちまってんだろ、お互い。失格したことを素直に認めといたほうが楽だぜ?」
願うには汚れすぎた。
願うには遅すぎた。
人間として生きるのはそもそも不可能な生まれだったとしても、気付いた時には遅すぎる。
俺はそういう風にしか存在できなくて、そんなレールが目の前にあって、其処から外れ、気付けばこの
有様だったが――違うとでも言うのだろうか。
「――ま、戯言だぜ?」
そんな事より――手品だ。
手品だった。
湯気の立った紅茶に、クッキーまで甘美。
「パーフェクト――パーフェクトだ、咲夜。珈琲よりも胃に優しく、珈琲よりもカフェインのキツイ紅茶を差し
出して来る辺り、ホント傑作なほどパーフェクト」
文句を垂れつつも手は伸ばす。
温かで、芳しい方向を前にして我慢出来るほど出来ちゃいない。
しかも本職っぽいメイドに給仕だぜ?
――……鏡面存在辺りは悔しがりそうな話だぜ、ミニスカだしな。
「種も仕掛けもねー、か。『DIO様』じゃ在るまいし、時間止めてねーだろうな?」
かはは――と次いで紅茶を一口。
美味いな、世辞抜きで。
- 416 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/28(水) 02:35:48
- >>415
「感謝の極み。ふふ」
ビシっと胸に手をあてポーズをとって笑う。
カップに紅茶を注いで手渡しながら言葉を反芻する。
失格か。
あまり意識になった概念だ。
自分は壊れてしまった人間だとは思っていたが、
失格した……そんな表現を当てはめてみた経験は無い。
「合格失格を定める試験官もただの人間なのでしょ?
そんな括りより、気になる事は、気に病むことも、たくさんあると思うけど。
……少なくとも、私はね」
失格の方がしっくり来るという事もあるのだろうけれど。
理屈は分からなくはない。
これはただの邪推だが、彼にはきっとあるのだろう。
気に病むべき試験官の概念存在が。
私にはなかった。
何も、本当に何もなかった。
何もなかったので、壊れてるなぁとしか考えなかった。
だから快楽の為に霧の街の夜を恐怖で彩ったし、
いつしか名前だけが現象として語られるようになり、
中身の本体は忘れ去られて幻想郷に辿り着いてしまった。
「ま、戯言だけど」
チョコに紅茶味にハーブに……
彼が手に取ったクッキーの種類を説明しながら呟く。
「DIOが何かが良く知らないけれど、ただの手品よ。
タネも仕掛けもありません。
手品でちょっと時間を止めただけ」
カフェインをとれば寝れなくなるって?
なに、大したことはない。
暖まった体から体温が逃げるときに人は眠くなるようにできている。
その誘惑はきっと茶の構成成分に負けはすまい。
疲れという援護射撃があればなおさらだ。
- 417 名前:零崎人識 ◆kILLEREa5g :2009/10/28(水) 02:49:48
- >>416
極上に分類されるべきスマイル。
『ビシッ』なんて効果音が付きそうなほどに嵌ったポーズ。
メイドさんは芸達者らしい、同類の癖に。
「あー、まー、気に病む事は多くあるさ。でもそれも、成るようにしかならねーし、どんなに足掻いたって俺だけ
の手じゃ変えようも無ければ変わりようも無い。
誰かに協力してもらってやっとって所だが――残念ながら、一人は独りなのさ。俺に手を貸してくれる酔狂な
ヤツなんざ――どっかの舞姫様くらいのもんで、出来れば馴れ合いたくねーヤツだったりするのが悲しい所だ
がなー」
家賊なんてのはもう居ない。
喧しいアレは――なんだろな、一体全体・
雰囲気的にこの御同類は居心地の良い場所を見つけているようだし――本当の意味での御同類には成らな
いのだろう。
流血のみによって繋がる最悪の殺人鬼集団には加われない。
喜ばしい事だぜ?
「かはは――手品で時間が止まるかっつーの。仮に止まるとすればそれはもう手品でもなんでもない」
そう――
「崇めてやんよ、そうしてクイックドロウの決闘だ。意識と手癖のな――ってのは戯言だけどよ」
美味いぜこれ――なんて呟きつつかははと笑う。
まあ――割合愉しいんだわ、これが。
- 418 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/28(水) 03:03:18
- >>417
「そう、成る様にしかならないのよ、何事も。
けれど私たちはそんな中で、そうあれかしと願い、するりと片付ける。
もしくは片付けられる。そうでしょ?」
憂いに翳ったご同類にそう言って微笑むと、静かにベンチから立ち上がる。
夜空の木々の間にジト目の蝙蝠。
どうやら脱線が過ぎたようだ。
それでも黙って待ってくれるのはお嬢様の優しさか。
あるいは物見高さだろうか?
まぁ、どちらでもいい。
あまりイヤミを言われないようにそろそろ一旦引き上げよう。
「手品でなければマジックだとでも?
あら、鋭いのね、さすが私が興味津々の男の子だけの事はあるわ」
クッキーの盆はそのまま彼に進呈。
魔法瓶はちょっと希少なので回収させてもらおう。
そのまま会釈。
「世は憂いに満ち満ちて、されど、憂いばかりでなし。
伊達と酔狂で生きて御覧なさいな、人識。
そうしたら、縁だか運命だかの悪戯でそのうちクイックドロウの機会は来るかもしれない。
愉快な愉快な一度限りの一発勝負の機会がね」
それじゃ、また運命が導いたら会いましょう。
手を振って宙に浮かび上がる。
手札を見せておきたいだなんて、本当に今日の私は可笑しい。
月のせいだとでもしておいてもらうとしよう。
蝙蝠が飛び来たりてその肩にとまったその瞬間。
世界の時が静止する。
次の瞬間、夜空には奇妙なメイドの姿は影も形もなくなっていた。
<了>
- 419 名前:零崎人識 ◆kILLEREa5g :2009/10/28(水) 03:16:27
- >>418
「ハッ――たっく、訳わかんねーよ」
サクサクとした食感を楽しみながら、言葉とは裏腹に見当をつけて――
「発動のキー次第だが、不意討つことが出来なければ待ってるのは『死』じゃねーか」
かはは――と大の字に寝そべって笑う。
修羅場の数は劣っていようとも、密度で劣るはずが無い。
人類最強ですら恐らく凌駕していた『強さ』を目の当たりにしていた俺にとってそこに脅威は無い。
「でも俺には――殺せないんだよ、結局さ」
そう――殺したくとも殺せない。
呼吸が、出来ない。
息苦しい。
生き苦しい。
逝き苦しい。
「だって――オマエは人間じゃん?咲夜」
人殺には励めない。
そういう契約だ。
俺には抗う事も出来ない人類最強の暴力が訪れる約束だ。
「――――――――――――――まあ、殺されるなら」
眠い。
寝るか。
「オマエが、良いのかもな。御同類」
(野宿)
- 420 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/30(金) 00:38:22
いつもと同じように夜空を通りかかり、
いつもと違うものを目のはしにとらえて、静止した。
振り落とされそうになったサーバントフライヤーが慌てて肩にしがみつきなおす。
「……立て札?」
ふわり。
高台の道沿いに突き立った見慣れない立て札の存在が気になり、降下する。
『・10月末まで開放しております。』
10月末。
暦の上ではあと数日もない。
末までの解放という事はすなわち、イコールで解放は終わるという事。
始まりがあれば終わりがあるのは世の習いだが、
終わりが目前と言う事実はやはりそれなりに重みをもっていた。
「成る程、まもなく見納め……ということね」
ざあっと木々が風にゆれる。
そう思うと、このすっかり見慣れてしまった光景もどこか物寂しく感じられた。
- 421 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/30(金) 00:47:09
「見納めか……」
私の足は自然に木立へ向かっていた。
初めて此処に来たときに背を預け、二度目もまた同じく、
だが、嵐の猛威の前に屈し、やがて切り株のみが残ったあの樹。
ここへ来るようになってからそう長い時間が過ぎたわけではない。
その短い時間の中でめまぐるしく姿を変え、
私に色々考えさせてくれたあの樹を、探していた。
切り株は、最後に見かけた時と同じ状態で、同じように其処に在った。
「……随分と、ちっぽけな姿になったわね」
指先でそっと撫で、次いでロングスカートを両手で膝裏で折って切り株に腰掛ける。
最初に見たときは随分と大きな樹に見えたものだが、
これは私の記憶による美化の賜物なのであろうか?
切り株に腰掛けたまま空を見上げる。
サーバントフライヤーが不思議そうに覗き込んでいるのを感じ、苦笑してみせる。
「ちょっと下らない感傷に浸ってみたくなりました」
その時の蝙蝠の表情には諦観が混じっていたように思う。
- 422 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/30(金) 00:54:12
- ふと思い至って、肩から提げていた鞄を膝の上に載せてごそごそと中を漁る。
サーバントフライヤーは付き合いきれないと判断したのか、
夜空に舞い上がり木々の合間に姿を消した。
ひょっとしたらお嬢様が気を利かせてくれたのかも知れない。
やがて鞄から姿を現したのはいつかの煙草のケース。
残っているのはあと4本。
持ち込んだのは幻想郷に来る前だ。
愛煙家にしてみれば、しけってしまって味も何も最悪の最悪と評される事だろう。
だが、ふかすだけの私にはさほど問題は無い。
何より、香りをきっかけに思いをめぐらすためだけの道具だ。
そもそも味などどうでもいいのである。
「最初にここに来たとき、こうやって煙草をくわえていたっけ」
一本取り出して口にくわえる。
火はつけず、そのままぼんやりと高台を眺め、物思う。
- 423 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/30(金) 01:05:20
最初の時は何を考えていたっけ?
ああ、そうだ、お嬢様に会う前の事。
つまらない記憶。
灰色の記憶。
霧と闇と人と血と死と、そして霧の物語。
そこに愉悦はあった。快楽も……まぁ、あった。
だが、そこには何もなかった。
私も無かった。
マッチで煙草に火をつける。
ジジ、としけた音をたてて煙草は不承不承ケムリを吐き出し始めた。
ああ、最初は月見の下見に来たんだ。
なのに結局月見をしに皆でここに来ることにはならなかった。
まぁ、仕方の無い事だ。
ウチの住人は出不精の者が多いから。
うまく全員がその気になって、そのタイミングでたまたま妹様が安定していて……
要するに運命が微笑むか、そうでなければ奇跡でも起こらなければ実現は難しい。
それはつまり、お嬢様のお考え次第ということ。
そうなるかもしれないし、そうならないかもしれない。
今回はたまたまそうならなかったというだけのことか。
「ちょっと勿体無かったかも知れないけれど」
- 424 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 01:11:25
- 老いから死へと近づかんとする風当たりと風景の中、二人の少年少女が
そんな事は知った話でないとばかりに揚々と高台を登ってくる。
「ディーンの言ってた場所って、ここでいいのよね?」
「もちろんさ。オレが迷子になんてなるわけないだろ?」
「…や、充分考え得るから」
「ひっどいなーそれッ!」
不安がる少女とそれを受けて不貞腐れ気味の少年。
朱のマフラーと枯木色のコートの少年の方は恐らくここで一度見覚えある者もいる事だろう。
赤い髪と黄色のリボン、それに桃色主体のファッションで露出度と相俟って
明らかにこの季節に不似合いな服装な少女はレベッカ・ストライサンド。
少年―ディーン―の幼馴染にして、仕事の助手である。
「でも何にもないわね?見事に」
「それがそうでもないんだよ。
ここに来るとさ、不思議な縁が出来たりするんだよね。例えば―――」
「例えば―――あっちでタバコ吸ってるメイドさんとか?」
「あっ―――あの人って…」
「知ってるの?ディーン」
レベッカがそれとなく指し示してみせると、ディーンが見慣れた顔の様な反応を露わにする。
レベッカ
ttp://www.wired.com/images_blogs/photos/uncategorized/2007/03/21/rebecca_01_illustration.jpg
- 425 名前:<祀られる風の人間> 東風谷早苗 ◆FaiTHBh.1M :2009/10/30(金) 01:14:48
- ・・・ふう、こうやって歩いて散策するのも久しぶりね。
外と違って、こっちは飛ぶのが基本だったからなあ。
あら、確かに紅魔館の十六夜咲夜さんでしたよね。
こんばんは。
―――へえ、驚きました、タバコ、お吸いになるんですね。
そういうイメージがなかったので、びっくりしました。
私の居た「外」ではメイドさんは意外に珍しくなかったんですけど、
タバコはどんどん珍しくなってるんですよ、健康に悪いとかで。
今では年齢を示す証明書がないと買えなくなってる筈です。
近い将来、タバコも幻想入りするかもしれませんね。
でも、何かお考えになってたんですか?
黄昏ている様に見えましたから。
- 426 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/30(金) 01:20:33
- 思いをめぐらすにつれ、記憶は思い出したくないことも綴ってくれた。
失敗した事。なんと恥ずかしい。
時間を止めて紅茶を出した事。
ちょっとした言い回しのつもりが、乗ってこられてしまって小芝居を始めてしまった事。
ナイフの手入れに夢中になって接近に気付かなかった事。
国家代表に笑われて動揺してみっともない姿を見せた事。
「…………」
頭をかかえたくなった。
というか抱えた。うー。
ああ、お嬢様、咲夜は思ってるよりずっとダメな子かもしれません。
空間の穴をつくって入ってしまいたい気分。
出るのが難儀するのでやらないが。
>>424
……と。
声が聞こえた。
顔を上げてそちらを向くと、いつか見た少年が少女を連れて歩いてくるのが見える。
たしか……ディーンとか言っていただろうか?
女の子連れのディーンの邪魔になってはいけない。
というわけで……
とりあえず、微笑んで手を振ってみた。
- 427 名前:パイフウ ◆SENSEIbRTY :2009/10/30(金) 01:26:24
- そういえば、紅葉を見たのは初めてだったか。
広大な砂漠―――並みの植物や生物では足を踏み入れる資格さえない空間。
そこかしこに点在する人の営みの場所でも、青々とした葉や鮮やかな花をつける植物は
稀なものだ。辺境では最も乾燥に強い、ダイヤモンド構造をした珪素化合物を葉の表面に
並べて砂嵐の研磨を凌ぐ岩石サボテンでさえ、オアシスのそばから生息圏を広げることは
出来ない。
しかし、ここにあるカエデの木が織り成す植物相はどうだろうか。
砂や塩害にも負けず、たくましく育った枝が鮮やかな紅葉を天に地に飾っているのだ。
鮮やかな紅―――夜明けのように染まった五本指の葉が舞い散り、やがて町中に散って
行く様は、訪れる旅人の全てを魅了する。“大戦”以前の自然の姿を垣間見れる、とさえ
賞賛する者が後を絶たないように。
“奇跡の森”―――いつしか、この街はそう呼ばれるようになっていた。
「―――善い夜ね」
そして、彼女もまた。蒼く冴えた月と、紅く舞う楓に誘われて、この場所にいる。
呟いた言葉は誰に向けたものだろうか。誰でもなく、ここに立ち並ぶ木々に対してかも
知れない。不自然なはずの独白は夜気に消えて、やがて夜の闇や眠る草木と同じになる。
それほどまでに自然で、驚くほど優しげな声だった。
―――かつての彼女の生業を考えれば、考えるほどに。
- 428 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 01:30:09
- >>426
微笑で手を振ってみせる、何時か見たマジック使いのメイドに対し
満面の笑みと手振りで返して見せるディーン。
「こんばんは、メイドさん。コイツがこん前言ってたヤツで…」
「レベッカです。初めまして。
この前は確かここでディーンがお世話になったんですよね?
それ聞いてちょっとお礼がしたいと思ったんですけど…すみません。何もできなくて」
そう、ディーンが止めたのだ。
彼女の手料理は、味の方は決して悪くは無いのだが…
如何せんその形状が独特過ぎる。
見慣れたディーンならばともかく、一見者でそれを食してみようと思える猛者がどれだけいることやら。
「ところで、この前来た時ディーンが何か迷惑をお掛けしませんでしたか?
彼、ちょっと色々と外れてるところがありますので…」
「ちょ…何だよそれッ!?まるでオレが非常識人みたいじゃないかッ!」
「何よ、ホントのことじゃない?」
- 429 名前:<祀られる風の人間> 東風谷早苗 ◆FaiTHBh.1M :2009/10/30(金) 01:31:37
- >>424
ううーん、夜の方が盛んなのかしら・・・・・・
人間以外が夜、元気になるのは分かるけれど。
こんばんは。もう遅い時間ですけれど、貴方達もお散歩ですか?
・・・・・・
(むむむむ。こんな時間にオトコノコとオンナノコが二人ってことは
そういう関係よね。私なんて、外に居た頃は・・・・・・じゃなくて!
そうそう、いい機会よね、信仰を得る為の、よし、GO! 早苗!
まずは掴みから軽く。スマイル0円!!))
_」_
×´ _,,.. -──- 、,_ァo 、__ `メ.
/ , '"´ (- 、__ oヽ _|__
/ `ヽ. ヽハ) ノ
/ Y⌒ヽ.
/ / ヽ. | ',
,' ! , /! ,| _ !. | ! お二人ともデートですか?
| |. __/|_ ,' .| / ! __ `./! /| |
| |´/ |_/ レ' ァ'´ ̄` |/、ト、 | こういう静かな秋の夜に
'、 |/ァ'´ ̄` ,, | |ソ ハ
\,ハ ,, ' (\| / .| 月を眺めながら、なんて
| ハ、 i7´ ̄`i ,/ \_) ,' |
,' / `> 、,` ,. イ/\__! ! ! | ロマンチックですよね。
/ / `T7´ //ヽ、__ノ__ | | __,メ
| .| r/´`ー'-、/ ,' .//::/`ヽ/
八 i/ rノ ,! ̄`ヽ、|/:/ i_
,' X`;くト、 _ノ、 /ヘ`ヽ..Y /:::>
! // |:::| / .|:::|\/ ノ 八___ノr‐:':::://
|/ |:::|./ |:::|/ )' ノ:::/--‐''´ ,'
/ 八::'、___ノ::ノ _,. イ/ |
,' \_/,| / !
| /| / / |
- 430 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/30(金) 01:32:02
- >>425
さらに人の気配。
いや、巫女の気配。
最近になって馴染みが深くなった感覚にちょっと眉を顰めて顔を向けると、
果たして……いや、予想と違って緑色の影。
ああ、たしか山の方の神社の巫女だ。
早苗さん、だったか。
最近外の世界から幻想郷に来たそうだが、宴会で同席する以上の縁も無く、
(縁はないッ!自機決定戦とかそんなのは知らないッ!くそっメタいこと言うな!)
さほど詳しいことまでは聞いていない。
紅魔館に興味がありそうでもなかったので調査もあまりしていないし。
「こんばんは早苗さん。
煙草は……ちょっと香りで『むかし』を思い出していただけよ。
大したことを考えていたわけではないの」
苦笑しつつ、煙草を皮袋の縁で消して、そのまま皮袋に放り込む。
一人で物思うための玩具だ。むかしの私に落ち着いて逢う為の儀式。
……もう用は済んだ。
「そちらはお散歩?
……随分遠くまで来たのね」
>>427
さらに人影。
千客万来とはこの事か。
だが、この場合のホストは誰になるのか。
高台そのものか、それとも貴方?
尻に敷いている樹に内心語りかける。
善い夜。
果たして人集う夜は善い夜なのか。
こんな時間に出歩いているのだ。
ここに居る連中は、良い子とは言えなさそうなのだが。
「そう、多分……良い夜なのかもしれないわね」
まぁ、都合の良い夜ではあるのかもしれない。
気付けば相変わらずのひねくれた感想が口から流れ出ていた。
- 431 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/30(金) 01:40:51
- >>428
ああ、そうか。
そう言えばあの時、幼馴染の話をしていた。
事態が事態だけにサーカスができないとか……
紹介を受けて頭を下げる。
名乗ると同時にディーンの心配。
逆?いや、逆ではないはずだ。
心配しているのはディーンのこと。
彼がしたことを心配すると言うのは、そういうことなのだ。
「こんばんはレベッカさん。それにディーンも。
お世話だなんてとんでもない。
むしろ、知人と物騒な話で盛り上がってしまってね。
こちらが彼に迷惑をかけてしまったくらい」
まぁ、あのときの話題はひどかった。
およそ若い男女が公園で語り合うに相応しくない内容。
だから気にしないでと笑い、こちらも自己紹介する。
黙っていても多分、早苗さんが呼ぶだろうし。
「十六夜咲夜と申します。
奇術師兼メイドというところかしら」
- 432 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 01:42:36
- >>429
さてもう一方を振り返れば、そちらにはどこか不思議な雰囲気を纏う緑の髪の少女が―――
「デ、デデデートって…ッ!!///
アタシと彼はそんな仲じゃないですッ!ただの幼馴染で―仕事仲間なんですッ!///」
「え?レベッカ、何でそんな赤くなってんのさ?熱でも出ちゃった?
大体デートって何の話―――」
「ディーンは解らなくていいからッ!
ん、んーでも…こんな夜空だと月を眺めてるだけで何か素敵な気分になる事ってありますよね?」
後半部分に焦点を絞って見せる。
思い当たる節が別にあるわけでもないのに勝手に赤くなるのが彼女の一種繊細とも呼べるところ。
- 433 名前:<祀られる風の人間> 東風谷早苗 ◆FaiTHBh.1M :2009/10/30(金) 01:49:40
- >>427
・・・・・・?
今、何か気配がしたようなって、あら。
・・・・・千客万来ですね。
ここの土地にはそういう縁か力でもあるのかしら。
けど、一瞬、気がつきませんでしたよ、気配。
人間の気配ぐらいなら、捉えられるはずなんだけど、うーん
まだまだ稽古が足りてないのかしら、むー。
(でも、綺麗な人だなあ。神奈子様とかは違う雰囲気の「大人」。
いわゆるクールビューティー系みたいな)
ええ、確かに良い夜ですね。
もう少し日付が遅ければ、まんまるお月様なんですが、
・・・・・・あ、そのころにはここ閉まっちゃってますね(苦
- 434 名前:パイフウ ◆SENSEIbRTY :2009/10/30(金) 01:50:25
- どれほどの時間が経ったのか。ただ高台の柵に少し身体を預けて、風に吹かれるまま。
ここの風に砂は混じらない。立ち並ぶ木々が、不毛の力を常に遮っている。長い月日は、
植物たちに砂漠で生き抜くだけのしたたかさを与えていた。例えばそれは自己の乾燥質量
の十倍の水分を蓄えるような木であり、数百メートルに渡って地下茎を伸ばし、砂漠の下
に眠る水脈を探り当てる野草のように。
ふと、物憂げな瞳を、かすかに動かした。
何人かの客が、ここに来ているのだ。夜の散歩にしては、随分と数が多い。
珍しいこともある、と納得することにした。
どれも、足取りは獲物を狙うそれではないから。
廃業したといっても、名を売るためや恨みで狙ってくるものはいる。
もちろん、それを斃すことに躊躇はしない。
―――ただ、それが女の子の場合は、少しだけ、彼女には意味合いが変わって来る。
>>425
なんだかよく分からない服を着た快活そうな少女。
緑髪と屈託のなさそうな笑みが目を引いた。
辺境では立派に生計を立てられる程度の年齢―――御執心のあの子のような。
物憂げな瞳に魅力的な光が宿る。
>>426
長い三つ編みと活動的な服装―――腰のホルスターにはやや旧式らしいリボルバー拳銃。
砂漠の環境は苛酷だから、そのチョイスも正しいだろう。
―――そして隣には、同年代くらいの少年。
彼氏持ちか。パスしよう。
>>430
そしてフレンチメイド―――だろうか。パイフウにその手の服装の知識は無い。
が、物憂げに紫煙をたなびかせる姿、かすかに陰のある表情が可愛いと感じる。
まだ容貌は成人に満たない少女といったところだが、それと煙草のギャップが好みに触った。
そして向こうもまた、こちらのつぶやきに気づいたのか話しかけてくる。
「善い夜よ―――風も綺麗だから」
かすかに微笑みながら、そう答えた。
潤いを帯びた冷たい風―――確か、風が来る先には大きな湧水地があったはずだ。
砂漠の乾いた風を知っているものには贅沢なほどの心地よさ。
「貴女は、何処から?」
無感動めいた言葉は、しかし他人への柔らかい興味に満ちていた。
- 435 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 01:52:51
- >>431
心配そうな顔でディーンを見つめるメイド女性。
「えっと…物騒な話って…?」
「レベッカ」
「う、うん…ごめん」
確か首を落とすとかどうとかいう話だったろうか―――
だが、話した当人がこう悪びれている以上わざわざ思い出させる事もない。
普段空気読まないと言われていてもこういう時は一応の気を利かせてみせる。
「十六夜…咲夜さんですか」
「そうそうレベッカ、この人ってさ…手からいきなりナイフを出したり消したりできるんだよ?
まるで時間でも止めたみたいにさッ!」
「それ、何回も聴いたから…
でもホント凄いらしいですね。えっと…よろしかったら一度生で拝見したいですけど…」
サーカスとマジック、畑は違えど人から見れば「魅せる」という根に於いては同じ様なものだろう。
彼女としても是非気になる所だ。
- 436 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 01:59:22
- >>427
もう一つ見渡すは、どこか冷たい雰囲気に覆われた女性。
この風景にはある種似つかわしくもあると言える。
「こんばんはー。良い夜だね」
まずディーンが声を掛けてみせる。
その姿勢は人によっては不用意と大らかの真っ二つで分かれる。
端でレベッカはまだ止める姿勢にない。
流石にそういう空気ではないと見做したらしい。
- 437 名前:パイフウ ◆SENSEIbRTY :2009/10/30(金) 01:59:48
- >>433
やや遅れて、緑髪の少女はこちらの存在に気づいたようだ。
しきりに首をかしげながらも、先ほどの呟きへ真面目に応えてくれている。
―――好い子なのね。
一生懸命な姿が可愛い、とそう思う。
「……気配については、そうね。私は“本職”だから。今は廃業したけど」
気にしなくていいわ、とだけ告げて、ふと空を見上げた。
彼女の言うとおり、満月には少しだけ足りない。
弓張り月、という言葉は今でも残っている。数少ない過去を知る手がかり。
「……でも、私はこのくらいの方が優しくて好きね」
素直な感想を、そのまま告げた。
満ち足りた月は確かに美しいだろう。けれど、その光は残酷なくらい強すぎる時もある。
もし、月が最も自らの魅力を引き出すとしたなら、わざと雲を羽織るか、満月から少し
自らを欠けさせた時だろう。
不完全ゆえの美も、人は見出すことが出来る。
「ところで……流石にこの時間の夜歩きは危ないんじゃないかしら」
ふと思いついての呟きだった。
まあ、この辺りの治安はなかなかいい。
無防備に裏通りにでも行かない限りは何も無い。
杞憂には違いないが、何となくの気遣い―――自分でも呟いてから意外に思うような言葉だった。
- 438 名前:<祀られる風の人間> 東風谷早苗 ◆FaiTHBh.1M :2009/10/30(金) 01:59:51
- >>430
(・・・・・・何か敵意とかそんなのに近いものを感じた様な、むむ)
早苗、でいいですよ。
さんづけされるほど、偉い訳でもありませんしね。
霊夢さんや魔理沙さんには、咲夜さんは呼び捨てだったでしょう、確か。
私も皆さんと名前で呼び合える関係になりたいですしね。
まあ、私の場合は地で様づけやさんづけになってしまいますけど、そこはご容赦ください。
昔って・・・・・・確か、幻想郷縁起でヴァンパイアハンターとかされてたか書いてあった様な。
今はナイフをお使いになってるみたいですけど、やっぱり昔は鞭でしばいたりしてたんですか?
まあ、外の一種のヴァンパイアハンターのイメージですけどね。
今も異変解決屋らしいですけど、もし異変でぶつかる事になったら、
お手柔らかにお願いしますね(にっこり
(何かそっちの方も十分に似合いそうだから、怖いんだけど。というかドツボ?)
たまに一人きりでふらっと歩きたくなるんですよ。
今の自分は正しいのかどうかとか考えながら。
何でもかんでも手探り状態ですし。
- 439 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/30(金) 02:06:26
- >>434
何処から。
人は何処から来て何処へ行くのでしょうか。
使い古された話題ではあってもなかなかに哲学的な問いだ。
彼女のかすかな微笑みにどこかで警戒する神経がある。
特に同好のニオイも強くは感じないのだが……なんだろうか、これは。
危機感の理由も見当たらないのでとりあえず判断は保留する。
彼女の問いにすこしばかり逡巡し……やがて悪戯っぽく微笑みながら答えた。
予想通りだ捻くれものめ、ですって?
エスパー自重なさい。素直な女の子をいじめてはダメと習わなかったのか。
「メイドが来る場所は決まってますわ。
無論、仕える主人の所有するお館から、参りました」
ああ、しまった。
「冥土から」の方がパンチが効いていただろうか……?
>>435
「本業に見せるほどの芸ではありませんわよ?」
苦笑しながらナイフをくるくると手の中で取り回す。
能力は使っていないから、きっとサーカス関係者には見破れることだろう。
最近このネタばかりだわ。
そろそろ他の手品のネタを探さなくちゃいけません。
もっと大きな芸は……むやみやたらにやるものでもないから。
多分、そういうものだ。
- 440 名前:<祀られる風の人間> 東風谷早苗 ◆FaiTHBh.1M :2009/10/30(金) 02:10:36
- >>432
(図星ですね。霊夢さんには全然及びませんけど、私の勘も捨てたものじゃないですね)
なるほど。
夜も一緒にする(わざと強調)様な幼馴染なんですね。
(でも、私なんて外では男子生徒には東風谷は電波系とか宗教系とかいわれて
一線をひかれて、たまに勢いあまって壁にめりこませたり、出会いといえばテニスで
皆で行ったものの私だけテニヌになったり・・・く。ああ、もう妬ま・・・・・・落ち着け、早苗!)
そうですね。
こういう月を見ながら、お散歩って一種の定番ですよね。
日常と隔絶した穏やかな光挿す静寂な空間といえば、それだけで十分に神秘的です、ふふ。
こういう「場」を「知り合い」と歩くってこと自体、割とトクベツな事なんですよね、うん。
- 441 名前:パイフウ ◆SENSEIbRTY :2009/10/30(金) 02:14:29
- >>436
少しだけ、声をかけられたのが意外だった。
黒を基調にしたタイトなスーツは闇に溶け込むのにうってつけだが、ここは闇ではない。
紅葉の散る足元と、空から降る月明かりでぼんやりと浮き上がっている感じだ。
―――ま、いっか。
男は好きではないが、子供にムキになるのも違うし、そもそも子供は嫌いではない。
ただ、その無邪気さにちょっとだけ気後れをするだけで。
「ええ―――善い夜」
そんなことだから、少しだけ余計なことを言ってみる。
「でも、“彼女”を放っといて他の娘に声かけてちゃいけないと思うわよ?」
物憂げな物腰はそのまま、少しばかりからかうように言ってみた。
こんな風に悪戯心を込めて何かを言ったのは久しぶりな気がする。
“ほのちゃん”と親しく呼ぶ彼女となら、良く言い合っているのだが。
- 442 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/30(金) 02:17:18
- >>438
「ああ、御免なさい。
一瞬紅白かと思ったものだから」
一瞬表情が曇ったのに気付いて慌ててフォローする。
当館において紅白は明確に面倒極まる客なのだ。
お嬢様の好意が向いていることも含めて、面倒極まる客なのだ。
だからさん付けなどしてやらない。
白黒は論外だろう。
「ま、貴方がそう望むのであれば」
よろしくね、早苗。
熱意のこもった視線に早々に降参して手を上げる。
こういうまっすぐなのには弱いのだ。眩しくて目がくらんでしまう。
「昔よ、もっとずっと昔」
多くは語らない。
真実はこの胸に。そしてお嬢様の元に。それでいいのだ。
鞭は使ったこと無いわね。魔剣ダイレクとか暗器じゃダメかしら?
茶化す。何を聞かれても聞きたい答えをあげればいい。
この子にも、そしてあの稗田の子にも。
そもそも、聞いて愉快な話ではないのだし。
「迷っているときに一人歩きだなんて冒険者ねぇ。
心につられて体も迷子になってしまわないようにしないといけないわね」
幻想郷に着たばかりで戸惑うことは多いだろう。
自分もそうだった。
ここはどこまでも異質で素敵で不気味で奇妙な場所だから。
- 443 名前:パイフウ ◆SENSEIbRTY :2009/10/30(金) 02:22:57
- >>439
かすかに戸惑うような、困ったような顔を見せる。
それを気に障らない程度に見つめて、何となく感じ取ったものがあった。
かつて、自分にあったような何か。
濃い闇と、零れた人の命の匂い。
だがそれについては、触れるつもりも無かった。
辺境のルールは聞かず語らず。一期一会に痛みまで付き合わせることは無い。
もし話す時が来るとしたらそれは、本当に縁で繋がっている時だろう。
つかの間の交錯ではなく、遺伝子のような二重螺旋で何度も重なり続ける道。
「ふぅん。お館……ね」
少しだけ残念に思う。彼女の中にはすでに誰かがいるということなのだろう。
ビジネスライクな関係も想像には浮かんだが、出自を口にする様子からして、たぶん違う。
珍しくきちんとした主従関係を結んでいる、ということか。
「その人って、女の子かしら」
どうでもいい話だったが―――彼女の心を寄せる人物が気になった。
女の子だったら、いつか足を向けた時にでも会いに行ってみようか。
- 444 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 02:24:04
- >>439
何時ぞディーンが見たナイフ芸を披露してみせるメイド女性―咲夜―。
その華麗な芸にただ目を見張るレベッカ。
それ以上に、以前も見たにも関わらず2度も括目して見るディーン。
ただ流石に、サーカス志望のレベッカには何となくその種は解る…だが彼女にその辺りは
然して重要とされない。
大事なのは、咲夜の芸が彼女にとって食い入って見る程だったという事だ。
「そんなに謙遜しなくてもいいですよ。
ディーンなんてまたこうやって目をやたら輝かせてますし。
じゃあお礼に…今度はアタシの曲撃ちを披露させてもらいますね」
と、懐から空き缶一つを取り出し、放り投げる。
まずは腰元でガンスピン―――シュート。
手早くリロード。
身を翻し、低姿勢からシュート。
ガンスピン&シュートを連続。
そこから更にジャンプして側転からエリアルシュート。
着地後更に後方へバック宙しつつ連続シュート。
樹木群や街灯への跳弾や空き缶の跳ねは当然ながら自然と計算されている。
最後に着地後、空き缶をキャッチし銃口に吹きかけてウィンク。
- 445 名前:<祀られる風の人間> 東風谷早苗 ◆FaiTHBh.1M :2009/10/30(金) 02:27:38
- >>437
本業って・・・・・・えーと、気配をたつといえば・・・
もしかして、アレですか?
賛美歌13番とかで依頼を受けたり、背後に立つ者を許さなかったりする?
たまにポエマーになったり、盗賊からクラスチェンジしたりする?
すごい!
はじめてみました!!
まだ幻想入りしてなかったんですね!!
と、すいません。ちょっと興奮してしまいました。
雰囲気壊してしまったら、ごめんなさい。
確かに危ないですね。
私の今住んでいる所なんて、夜は文字通りの百鬼夜行ですから。
といっても、私は慣れないとどうしようもないんですよ、夜もその闇も。
畏れるべきである事も知っています。
人には踏み込むべきでない領域があるだろう事も知っています。
場合によっては、私の住んでいる所が相当ゆるくなってるにしても、
命に関わることだってあるでしょう。
それを全て受け容れないと駄目なんです、私は。
人だけなら兎も角、一応神でもありますから、知らないでは済みません。
正直、さっきはどきっとしました。
今言った事もまだ実感に染み付いてないんですよ、半分は言葉遊びのそれです。
一応、気は張ってたんですけどね・・・まあ、貴女みたいな方で優しい方で幸いでした。
- 446 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 02:34:12
- >>440
露骨な強調部分に耳が尖ったらしいレベッカ。
(…この人、もしかしてアタシをおちょくってるのかしら?#)
「アレ?どうしたのレベッカ?何か雰囲気悪いよ」
「……気のせいよ」
しかしその青筋は次の瞬間、冷や汗に変わる。
哀しいかな、それとなく感じてしまったらしい。
彼女から滲み出るジェラシーのオーラを。
(何なんだろう、この人…どことなくディーンと似通ってるかも…?
若干ズレた所とか;)
と、引き攣り気味のレベッカを余所に会話を繋ぐディーン。
「うん。一種の定番だよな。
こういう夜空にそびえ立ったゴーレムなんて、やっぱり絵になるだろうなぁー」
「―――はぁ!?ちょ、アンタ…どこをどうやったら夜空からゴーレム…ロボにつながるってのよッ!?」
「だってアレじゃん?夜空に悠然と聳え立って吼えるゴーレムなんて、一種の芸術風景じゃないか」
「……やっぱりディーンのそういう所、わかんないわ」
無軌道ショーが始まりつつあるらしい。
- 447 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/30(金) 02:36:37
- >>443
彼女は明らかな婉曲にも眉一つ動かさず、
いや、むしろ僅かに楽しそうにすらしながら、
それが女性かどうかを尋ねてきた。
ポーカーフェイスかくあるべし。
最近内心が表情に出て失敗することがある自分をひっそりと内心で戒める。
ぱちぱちぱち。
軽い拍手。
「ご名答、私のご主人様はお嬢様だわ」
まぁ、よもやそれが500歳の幼女とは思うまいが。
>>444
彼女の披露した妙芸にも拍手を贈る。
驚いた。本当にサーカスレベルの曲撃ち。
言うだけの事はある。
職にあぶれたらサーカスにでも入ろうかしらね。と
考えもしない事を冗談にして笑う。
- 448 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2009/10/30(金) 02:40:04
- キィ
……蝙蝠の声が聞こえた気がした。
ああ、こんな時間。
お嬢様が待ちくたびれてしまったのだろう。
あるいは最近の昼型への生活リズムのずれのせいで、
お嬢様は眠くなってしまわれたのかもしれないわ。
放っておいても大丈夫とは思うが、
無理に長居しなければならないわけではない。
だから引き上げることにしよう。
切り株から立ち上がるとその場の皆に手を振る。
「お話の途中で悪いけれど、お嬢様がお休みになるようだから、
ここらでお先に失礼するわ。ごめんなさいね」
高台を歩き、集団から離れると蝙蝠が舞い降りてきた。
とがめだてるような視線に苦笑して頭を下げる。
そうして蝙蝠が私の肩にとまった瞬間、
メイドの姿は高台から消えていた
<了>
- 449 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 02:40:35
- >>441
黒スーツの女性から返ってくる声。
その口調には明らかにからかい気味に聴こえ、レベッカは少し例の反応を隠せない。
「えー?何で?
声掛けられたら返さないと失礼じゃん」
「…そりゃまぁ、そうだけどね。
ただ、ディーンにガールフレンドとか出来たら…そうもいかなくなるって話なのよ」
「えぇ?益々訳がわかんないんだけど」
「だから―――…」
と語る彼女の口調には、何処かもどかしささえ混じっている。
恐らく気付かぬはディーンだけだろう。
- 450 名前:<祀られる風の人間> 東風谷早苗 ◆FaiTHBh.1M :2009/10/30(金) 02:41:20
- >>442
私が霊夢さんと間違えられるぐらいになったら、それは凄く嬉しいんです。
もう人間とは思えませんから、霊夢さん。
でも、きっと巫女だから、で間違えられたんでしょうね、はあ・・・・・・。
私自身、霊夢さんに全然及ばないのは自覚してますから。
はい、どうもありがとうございます、咲夜さん。
十六夜さん、だと他人行儀ですし、こう呼ばせてもらいますね。
ううーん・・・・・
(どうもまだ踏み込まない方がいいかも)
そうですね、その話はいずれまたさせていただくとして
いつだって迷子ですよ、人間は。
だから、信仰は儚き人間の為にあるんです。
信じつつ、迷って迷って、道をみつけて進んでいくんですから。
それに霊夢さんや魔理沙さん、咲夜さんたちが出来ている事、
今の場合は、夜を、闇の中を歩く事ぐらい、私も出来ないといけないんです。
まだ私は皆さんと同じ土俵に立っているとは思っていませんから、
だからこそ、飛んで歩いて、慣れないといけないんですよ。
幻想郷では常識に囚われてはいけないんです。
- 451 名前:パイフウ ◆SENSEIbRTY :2009/10/30(金) 02:44:57
- >>445
ちょっと例えがよく分からなかった。そういう小説でも流行っているのだろうか。ただ、
背後に立つ人間は大抵ろくでもないことはパイフウも知っている。大体は意識の死角に滑り
込むだけで見失うが、ついてくるようなその手の連中もいる。命や情報、安全を求めて。
最も―――そのほとんどは、夜明けを迎えることは無かったが。
「そうね。そんな感じ。でも今はやる気がないから廃業、ね」
何となく口にするのは気が引けるが、嘘をつくのも面倒だった。
どの道、もう追って来る人間はほぼいないのだから。
―――誰が知るだろうか。その手袋の下にある繊手は、不死身の怪物すら殺せることを。
誰が理解できるだろうか、その銃さばきが自動歩兵の群れすら打ち倒せることを。
誰が想像できるだろう。彼女が、辺境で最も恐ろしい暗殺者だったことを。
「今は学校の先生やってる、なんて言ったら、笑うかしら」
ただ、それはもう過去で、今は、今のままだ。もう過去は未来を否定しない。
あるがままに。不器用だけど、駆け抜ける砂漠の風のように、自由に。
「でも、案外気に入っちゃったから。保健室の先生も」
だから、自分が数少ない、“好き”と感じたことをやっている。
自分より小さな、でも人生経験では大先輩であろう彼女のように。
「そうね。優しくなっちゃったかも。でも、女の子には前から」
優しいのよ、と告げて、さりげなく近づいてみた。
ちょっと口説いてみようかな、などという思いはあったが、まだ早いとも思う。
焦り過ぎて怖がらせるなんてあってはならないのだ。
- 452 名前:パイフウ ◆SENSEIbRTY :2009/10/30(金) 02:53:00
- >>448
―――残念。
ちょっとだけそう思って、彼女の姿を見送った。
夜道は危ない―――とはいったが、彼女のナイフ捌きなら誰も触れられないだろう。
「そう……お嬢様、か」
もしも縁があるのだったら、もう一度会う機会でもあるのなら。
遊びに行ってみてもいいかも知れない、などと思う程度には心地よい名残があった。
>>449
―――にっぶ。
ちょっとだけ眉をひそめてしまう。
これでは彼女も苦労しているだろう。
「……それとも、実は浮気性、だったりする?」
少し露骨になってしまったが、鈍いのが悪い、とパイフウは結論付ける。
女の子に好意寄せられてるなら気づけよ、と言い出したいがそれを言うと当の少女の方が
困るだろう。そもそも向こうがこっちの男嫌いと女の子好きを知ってるはずも無い。何とも
むず痒い状態だったが―――たまには悪くない、と思うようにする。
忘れていたもの、拾えなかったものを取り戻すように。
「デートしてるなら、他の女に目を向けちゃ駄目。それが男の必須条件」
だからまあ、ちょっと怒るのもいいだろう。
主に女の子のために。男は嫌いだが女を幸せに出来ない男はもっと嫌いなのだ。
- 453 名前:<祀られる風の人間> 東風谷早苗 ◆FaiTHBh.1M :2009/10/30(金) 02:53:57
- >>446
夜空に・・・・・・ゴーレム・・・ロボ?
\ /
● ●
" ▽ "
――――その発想はありませんでした!
言われてみれば、絵になりますよね、ええ!
聊か、私は常識に囚われすぎていた様です、反省すべきですね。
思い返せば、人とかが月夜に舞い戦うお話は数多くあっても、
ロボットが月夜を背景にするって少ないですよね!
あっても、大抵宇宙空間で背景月だったり、月面上で背景地球だったりとかが大半です。
鋼鉄の巨神が無骨な音を立てて、静寂の月夜に吼える。
そのギャップが素晴らしい、芸術です!!
こういう常識に囚われない発想する貴方の名前、聞かせてもらえませんか?
- 454 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 03:02:23
- >>447-448
「もう。メイドさんが職に炙れるなんて考えちゃだめですよ?」
と軽口を叩いてる内、空から大きな蝙蝠が一匹。
良く解らないが、ここで上がるということだろう。
「じゃあまたね、咲夜さんッ!」
「今日は楽しかったですよッ!」
まるで時間でも止めたかのごとく急に姿を消し、その場を去る咲夜。
まだもう少しだけ話したい事があるんだけど…と二人とも名残惜しむ。
>>452
「浮気性、ねぇ…確かにオレ、自分のゴーレム持っても
他のゴーレムに目が行くってあるけど…そういうのは所謂―――」
「や、そっちの話じゃないから…ていうかいきなり解るわけないでしょそういう話が」
話をとぎるかの如くもどかしさ混じりのツッコミ。二重の意味で。
「はぁ、まぁ…よく覚えとくけど…」
覚えるとは言ったものの、まるで意味が解っていない。
ゴーレム関連で解る癖に、女性関連ではまるでかすりもしないらしい。こういう少年だ。
- 455 名前:<祀られる風の人間> 東風谷早苗 ◆FaiTHBh.1M :2009/10/30(金) 03:08:18
- >>451
それで何よりですよ、少なくとも私には。
まあ、次はきちんと気づく様にしたいんですけれど。
結界とか張れば一発ですが、私の知り合いの巫女はそんなの関係ねえ!とばかり
気づくですよね。私もそういう勘を研ぎ澄まさないと。
うーん、そういうのは笑う事じゃない、というか笑ってはいけない事だと思います。
人間って一個人とっても、ひどく残酷な一面もあれば、その逆もある。
貴方にとって多分、保健室の先生って後者の発露だと思います。
まあ、後、余りにイメージに合いすぎて怖いぐらいです。
母性全快か、クールビューティーか二択ですから、私のイメージとして。
(!・・・・・・何かデジャブが。そう、これは攻めに回った時の神奈子様の・・・・・・)
あはははは・・・・・・私はこれでも現人神ですから、一応。
恵みにおいても、祟りにおいても、男性、女性の区別は出来ないし、してはいけないんですよ。
男の方とはなぜか昔から縁はないですけどね。
車田落ちがどうして特大ホムーランにまで誇張されるのやら(ブツブツ
- 456 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 03:12:39
- >>453
ディーンの無軌道に始まったロボ話に、どうしたことか齧り付きだす緑髪の少女。
「でしょッ!
静かな夜空に逞しい鋼の身体携えてガシャン、ガシャンッ!って
デッカイ足音と駆動音鳴らして巨大ロボ・ゴーレムッ!
刺す様な日差しの青空の下とはまた違った趣があってアツいよねッ!
そうだよ、常識にとらわれてたら芸術なんて成り立ちゃしないってッ!」
最早何が起こってるのか良く解らないレベッカ。
常識を外れた者同士の会話は常識人にはかなり堪える。
「ああ、オレの名前?ディーン・スタークッ!
こっちはレベッカ・ストライサンドッ!
キミとは友達になれそうだね…今後ともよろしくッ!」
また変な縁が…と溜息つくレベッカ。
ディーンとこの少女がこの先何度か会うことがあれば、またその度これなど比ではない
化学反応的会話が始まりそうだと思うと、そうもなる。
- 457 名前:<祀られる風の人間> 東風谷早苗 ◆FaiTHBh.1M :2009/10/30(金) 03:31:19
- >>456
そうです! そうです!
単純な燃えも悪くないですが、マンネリ化打破の為にこういう追求は必要です!
更に思慮をめぐらすなら、格闘でしょうか!!
圧倒的な砲撃もいいですけれど、近年では(作画的面倒さもあって)軽視されがちな格闘戦で!
相対する二体のロボの格闘戦!
軋む間接、飛び散るオイル。
鋼の巨体を支える大地が衝撃にめり込み、それをただ月が眺める・・・・・・
ありそうで中々ない描写です!
はい! 貴方とは良い関係を築けそうです!
私の名前は東風谷早苗、今後ともよろしくお願いします!!
と有意義な時間でしたが、そろそろ戻ります。
大変お疲れ様でした!
(退場)
- 458 名前:パイフウ ◆SENSEIbRTY :2009/10/30(金) 03:31:45
- >>454
―――ああ、子供だなあ。
これは仕方ないか、とため息をつく。大人にも居るには居るが、玩具で喜ぶならそれは子供だろう。
そういえばパイフウの知っている彼女も似たような部分があった、と思う。
それは悪くは無い、というよりも可愛い部分ではあるのだが、この場合はちょっと憎たらしい。
こういうのについていけるということは相応の魅力はあるんだろうが、今はそうは見えなかった。
「そうね……まあ、もう少し大人になってから、ね。
―――そっちのお嬢さんも、大変だと思うけど、頑張って」
ちょっと癪に障るが、思いがそっちに向いているなら応援せざるを得ない。
嫉妬に近いような複雑な思いを、よもやもう一人の男に抱くとは思わなかった。
こんな可愛い子をー、というもどかしさがきっとそういう余計なものを生むのだろう。
>>455
真面目に頑張る女の子は本気で可愛いと思う。
うっかりキスしたくなりそうなくらいには。
「あー、そうね。私みたいなのを見つけたいなら」
少しだけ意識を逸らしながら、
「―――普段は気にも留めない、誰も視線を向けないようなところを見ること。
どんなに開けている場所でも、そこに人の目も心も行かないなら、それは隠れ家なの」
少しだけ、助言を与えてみる。
流石に夜の闇や道端の石、風に揺れる草木と同レベルまで気配を落とせる相手には無理だが、
それでもほとんどの相手に通用する探し方。慣れてくれば視線を巡らせなくても気配で見つける
ことさえ可能だ。
「でも―――それで何か見つけたとしても、自分に関わり無いなら無視しなさい。
そういうのは大抵、死と隣り合わせの場所に居る連中だから」
そう、この世界には、この少女の想像など簡単に飛び越えるものが潜んでいる。
そしてそれは、常々、死という理不尽の形で我々の前に現れるのだ。
「そうね。そうかも。
―――でも、私は残酷だって感じたことは、ないから」
ズレている、と感じる部分でもある。
というよりも、コトを成す時に何かを思った時は無い。
ただ、鳥が虫を取るように、機械が鋼鈑から部品を打ち抜くように。
相手から命を抜き取っているのだから。
彼女は、“死”そのものだった。辺境に満ちる理不尽が形を成したものだった。
「でも、いのちが大切なものって言うのは、分かるの」
―――教えてもらったから。
とてもとても大切な、想い人に。
「似合ってる、か」
幾度目かの呟きが、風に乗って砂漠へ散っていった。
そういえば紅葉の身頃の終わりも近い。
貴重な四季が少しずつ過ぎ去り、巡っていく気配は寂しくも、綺麗だった。
「ありがと。たぶんずっと続けてくわ、先生を」
「……ところで、それって女の子もOKってことでいいのかしら」
まあ現人神が何なのかはさておくが。
というより、彼女の目はすでにそういうモードに入っている。
「……この近くに宿を取ってるんだけど。そこでもう少し話さない?」
- 459 名前:パイフウ ◆SENSEIbRTY :2009/10/30(金) 03:35:57
- >>457
「あ」
変な気配を感じ取られてしまったのか、そそくさと帰ってしまう少女。
「……駄目ね、私」
こつん、と軽く自分の頭を小突いて、反省する。
次があるならまずは食事にでも誘わないといけない。
久しぶりだから少し焦っていたのかも知れない。
「らしくないなぁ」
あるいは、この風と、木と、夜に当てられて高揚していたのか。
ずっと前に風花を見たときも、こんな気分だった気がする。
あの時はもっとポーカーフェイスを気取っていられたのだけど。
―――またね。
次がいつかは分からないが、そんな願いを込めて、後姿を見送った。
- 460 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 03:51:17
- >>457
青と緑でマニア会話は更にヒートアップ。
「そうそうッ!確かにガチで互いに身体から破片とオイル飛び散らせ、
足元から土砂撒き散らしながらぶつかり合う格闘戦は必須だよねッ!
リアルで観てきた身としちゃ特にさッ!
更に言うなら関節技とかクロスカウンターとかはハズせないよねッ!
で、それらを悠然と夜空と云う特等席で眺める月…サイコーじゃないッ!」
何でこういう時ばっかりホイホイと舌が回るのやら。呆れるしかないレベッカ。
…と、退場を告げる緑の髪の少女―東風谷早苗―。
「東風谷早苗、か…覚えとくよキミの事。またね、早苗ッ!」
「フゥ…まったく凄い子よね、色々と」
「やー、ホントに。良い子だったよ…」
これ程ない良き趣味友人を得たらしく、満面の笑みで腕組のディーン。
例のもどかしさよりも先に呆れの方が洩れるレベッカ。
>>458
当然ながら溜め息の意味も理解していないディーン。
一方レベッカの方は何となくでも解ってもらえたようで喜びが洩れがちだ。
心配する事は何も無い。
レベッカは常に現在進行形でディーンに想いを伝えている様なものだ。
ディーンの為の力になるという形で。そう、彼女なりの形で。
後はディーンの方に成長が起こるのを待てばいい。その時にこそ―――後は語るまでもないだろう。
「何か知らないけど胸が撫でおろされた気分だわ…アナタとは友達になれそう。
ねぇ、アナタの名前は?
アタシはレベッカ・ストライサンド。彼はディーン・スターク」
- 461 名前:パイフウ ◆SENSEIbRTY :2009/10/30(金) 03:53:12
- 「さて、と」
夜も更けてきた。風も流石に凍みるような冷たさを帯びてきている。
もう十分堪能できたことだ。そろそろ引き際も近い。
「それじゃ、私は帰るから―――さよなら」
別れを告げて、来た時と同じように、ただ歩くだけで静かに夜の闇の中に溶けていった。
【退場】
- 462 名前:パイフウ ◆SENSEIbRTY :2009/10/30(金) 03:57:21
- >>460
と、呼び止められた。
―――名前、か。
そういえばすっかり忘れていた。さほど名乗る機会が無かったこともある。
「そうね。名前、聞いちゃったし」
レベッカ・ストライサンド。ディーン・スターク。
何となく異国のような響きを感じる。遠い街から来ているのだろうか。
どちらも―――男の方も―――記憶に書き込んで、
「―――パイフウ」
そっと、名前を秘密のように囁いて、するするとそばを通り抜けていく。
「それじゃあ、またね」
改めて別れの挨拶を告げて、先ほどといった言葉が違うことに気がついた。
―――未練かしらね。
そんな自分に苦笑して、改めて宿の方へと歩いていった。
- 463 名前:ディーン&レベッカ ◆VthV5FgUV6 :2009/10/30(金) 04:16:37
- >>461
パイフウ。それが黒スーツの女性の名という。
「覚えとくわ、パイフウ。
今度は女の子同士だけで話がして見たいわね、是非」
―――と、彼女はそこで引き上げにかかろうとする。
「またね、パイフウ」
二人揃えて別れを告げる。
「じゃあオレ達もそろそろ引き上げようか。仕事に響いちゃいけないしさ」
「そうね。一刻も早くファルガイアの再生にかからないと」
「でもさ、思うんだけど…今日のこの色んな出会いが、何らかの形で
オレ達のこれからの糧になってくるとしたら、今日のコレは必要な時間だったと思うよ。
仕事にしろ、生活にしろさ」
「そうね、確かに…
世の中、何がいつどこで幸いしてくるかわからないもの」
そう…先刻の緑髪の少女、早苗の言葉ではないが「常識に囚われてはいけない」のだ。
常識は時として思考に怠惰を生むことさえある。安定するが故に。
彼らの今の在り方は、まさに常識破りの先にあったものと言える。
殊に今、先導者としてファルガイア人民すべてを導きながら星の再生に奔走するディーンは。
季節は老いと死で彩られたものへと向かうだろう。
だがその先にはまた―――生と華と若さで彩られたものが巡ってくる。
その時を待ちながら、二人はこの数多の出会いが交錯した高台を後にする。
【退場】
- 464 名前:有里 湊 ◆YTFOOL/P3. :2009/10/30(金) 22:04:32
-
季節が移ろえば風景は彩を変えていく――なんて。
携帯プレーヤーから流れる音に身を委ね、ブラリ、ブラリと夜の街を行く。
喧騒は相変わらずで。
倦怠も相変わらずで。
笑顔もあれば、怒っている人も泣いている人も居て。
自分には関係が無いと無表情を貼り付ける人も居る。
諦めの染み付いた顔。
幸せな微笑を浮かべる人。
――僕?
さあ? 何処に立っているんだろうね?
自分の顔なんて見えないだろ?――つまりはそう言う事。
ブラリ。
ブラリ。
元々目的があったわけでもなく。
かといって暇過ぎて退屈を感じていた訳でもなくて。
歩きたくなったから歩く……そんなとこ。
フラリ。
フラリ。
風に舞う葉が赤茶けている事で、冬の訪れを少しだけ感じて。
気付けば年の瀬だって見えてくる頃合だ。
何時だってそうだ。
時間は止まってくれないし、都合よく戻ってもくれない。
寧ろ年々早くなっているような?
知ってる?
歳を重ねる事に時間が過ぎるのは早く感じるんだってさ。
- 465 名前:有里 湊 ◆YTFOOL/P3. :2009/10/30(金) 22:13:09
-
”――ガシャン”と不釣り合いの音が響く。
自販機に温かいコーヒーや、ココアが置かれ出すと、冬も近いんだなと思う。
コンビニのおでんや、肉まんなんかでもそうだ。
現代人の四季の感覚は、どうやらコンビニで左右されているらしい。
悲しい事だね?
――なんて事はなくて。
外を歩けば肌寒い。
紅葉は街ですら見かけられる。
日の落ちる速さも、季節を知るには充分だ。
「ま――それでも。身近な所じゃ自販機、かな」
”――カシュッ”と小気味の良い音を立ててプルタブを起こし、一口。
やっぱ、缶コーヒーって……コーヒーとは別物だよね。インスタントも。
でもこの味が、たまに飲みたくなる。
一息着くには持って来いだからなのかは、定かではないけれど。
「――紅葉狩りなんて、ガラじゃない」
それでもこの場に止まるのは、何故だろう。
答えなんて――
「どうでもいい」
――のかもしれない。
- 466 名前:有里 湊 ◆YTFOOL/P3. :2009/10/30(金) 22:41:01
-
手の中にある缶コーヒーは温かで。
イヤホンからは静かに音が紡がれる。
それがなければ静止した時の中に居るようで、少しばかり昔の事を思い出す。
怒る誰か。
泣く誰か。
笑う誰か。
今でもそれは日常で。
何も変わる事はないのに。
それでも、欠け落ちた絆がある。
手を伸ばした所で届かない。
背伸びをしたって見えない。
この手の中にあった筈なのに、零れ落ちてしまった二つ。
欲を出した罰?
――それならいっそ全部持って行け。
ああ――感傷か。
優しい歌が、染みたんだ。
一人には荒っぽく活を入れられるだろう。
一人には――柔らかな苦笑と共に、励まされそうだ。
「――笑ってた、泣いていた、怒ってた……君の事覚えている」
なんて、ガラじゃない。
僕は、行くだけ。
- 467 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/30(金) 23:03:18
たんっ
軽快な音が響く。
それは蹴り足が大地を刹那叩く音。
その間隔は異常に長い、どれだけの歩幅で跳ねればこんな音の間隔になるのだろうか。
その音が響くのは高台の林の中。
音が鳴るたびに僅か落ち葉が舞い上がり、宙を舞う。
そして、ようやく音の発信源は動きを停止した。
林の中でも一際その姿の際立つ大樹の枝の上にひょいと軽く飛び乗ったのだ。
「っと、振り切ったかな」
枝の上にやれやれと腰を下ろし、幹に寄りかかる。
ふうとため息をひとつ。
そこでやっと彼女は道を歩く青年に声をかけた。
「やぁ、今晩は。
お恥ずかしいところを見せちゃいましたかねぇ?」
飛び乗ったときと全く変わらない軽快な身のこなしで
枝からひょいと飛び降り、ニコニコと無警戒に笑いながら手を振る。
人民服とチャイナドレスの中間のような服装、
被った帽子には星に龍の文字。
彼女は静かな高台に、無遠慮な喧騒を率いて現れた。
- 468 名前:有里 湊 ◆YTFOOL/P3. :2009/10/30(金) 23:20:39
-
静かだった。
喧騒から離れればそれは当然で。
だからこそ、感傷に浸ったりもする。
毎日が賑やかで楽しいからこそ――独りになるとそんな事が起こる。
でもまあ――それも、終わりで。
>>467
”――タンッ”と夜を駆ける影/人の業との乖離=人外?
影時間は終わりを向かえた――それでもこの世界は怪奇に溢れている。
ならば――敵/味方=判定を急ぐ。
降りかかる声=まるで鈴のよう/女性……?
挨拶――最低限の常識を持つ/会話が成り立つ=即時に敵と認識するには材料が不足。
イヤホンを外す/握られた缶コーヒーが急速に冷めたかのよう=体温の上昇/若干の緊張。
視線を声の方へ/暗闇の中でも流れるような紅髪――ふと去来する誰か。
被りを振るう――”あのお嬢様はここまで活発じゃない”
「――こんばんは。
恥、ね。暗くて見えなかったから大丈夫――なんて答えが必要?」
視界――過不足なく視認出来る程度に良好。
視線――故に彼女の笑顔すら確認。
なんだか――馬鹿馬鹿しいんじゃない?
チェンジチェンジ。
どうせ、僕の想像へは至らない。
- 469 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/30(金) 23:30:44
「お、なかなかの紳士な答え。
いや、助かるなぁ、ぽんぽん跳ね回ってるのなんて、
一般的な常識からするとはしたないってことになってるじゃないですか。
そう言って貰えると……って自分からばらしちゃ仕様も無い」
暗くて見えませんでしたと答える青年に
興が乗ったか、暢気に自白しながら彼女は木立から道へと歩み出る。
柵をまたいで道に踏み出し、そこで初めて立て看板に気が付いたようだ。
「根が傷みますので入らないでください、か。
あちゃー、やっぱ道を歩かないとダメねぇ」
追っ手を振り切るために道を避けたくせに彼女はぺしと
自分でひとつ頭を叩くと舌を出す。
本当に反省しているのかは怪しいところだろう。
「お兄さんはお散歩ですか?
って、ああ、お邪魔しちゃってたら申し訳ないな。
お急ぎでしたら失礼しました」
言って苦笑。
相手の都合も考えずについつい声をかけてしまうのは彼女の悪い癖。
基本的に静かにしている事に向かない気質なのだ。
天候気質はなぜか黄砂だけれど。
- 470 名前:有里 湊 ◆YTFOOL/P3. :2009/10/30(金) 23:44:51
- >>469
「まあ僕は――非常識にも慣れている方だから。
浮かぶ苦笑。
今宵の月は綺麗過ぎるが故に、紅葉の寂寥感と合さり魔を誘うには良い夜だ。
こんなに気も漫ろとなる夜もあるまい。
それが化生であれ、人間であれ、ね。
「こんな時間に、用があって高台を訪れるなんて――カップル位のものだよ。
だから僕はノープラン」
”月夜に誘われて――”などと言うフレーズを履くには気障に過ぎる。
のほほんとした印象を持つ彼女だ。会話は合わせるべきだろう。
――それが、紳士の嗜みってモノでしょ?
僕が紳士かどうかは――人の判断する事だ。
「アンタこそ――こんな時間に、そんな事をして、どうするの?」
慇懃無礼に過ぎる問い。
いまだ疑惑を解消し切れていないのであれば――片隅に置くのは疑心と暗鬼。
人の容姿で人在らざるモノと言う事例は多々ある。
用心に越した事はあるまい。
―――――チェンジ。
- 471 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/30(金) 23:56:46
- >>470
非常識に慣れている。
青年の言葉に彼女はうんうん、と頷く。
「泰然自若、いやいや結構な事です。
その上で波乱万丈な身の上ならば言う事もない。
やっぱり一度しかない人生は楽しんで行きたいもので〜」
勝手な解釈でひとり納得。
「ノープラン、そう、それです。
私もそれなわけだったりするんですね、これが。
あ、嘘じゃありませんよ。
あくまで目的は追っ手を振り切る事、
個々へ来たのも偶然なら、ここでこの後どうするかも考えちゃあいない。
……ね?ノープランでしょう?」
青年の声に混じるかすかな疑心を知ってか知らずか、
彼女はひとりのんびりと喋る。
さらっと重大な点があったような気もするが、
彼女自身にとってはどうでもいいことなのか、
流れるように先を話し、用事など後付だと笑う。
「まぁ、用事がないなら作ればいいじゃないってのもありますか」
平然と青年に無防備な背中をさらし、近くのベンチに歩み寄り、
そしてどっかと腰掛けた。
腰にさげていた酒瓶を取り出して平然と煽り始める。
「……んー、もしかしてお兄さんは未成年?」
表情が……というか。
目が口ほどにモノを言っていた。
- 472 名前:有里 湊 ◆YTFOOL/P3. :2009/10/31(土) 00:08:18
- >>471
「二度も会っちゃ大変だろうけどね――ま、引継ぎがないなら悪くない話かもね」
世間の柵ってヤツは実はとても大変なのである。
ビックリするほどにかき集められた因果と因果と因果。
マイナスの方向へ全力疾走する人類に完敗。
――しませんでしたけどね?
しかしこのお姉さん(?)は剣呑な雰囲気を持っている訳で。
油断すると頭からぱっくりって感じな訳で。
知らず知らずの内に咽が渇いている訳で。
そんな訳で姉さん、事件です。……何処の姉さんだ?
「用事がなければ作る――それが風流に飲酒で、僕を付き合わせようって言うのはまるで――」
まるで――。
まるで―――
「昼ドラにでもなりそうな、素敵に不道徳なお話だね」
缶コーヒーなんてモノのはその実一息に飲み終わってしまう。
がぶ飲み出来る訳ではねーが、そもそもの内容量がない以上は簡単だ。
一息で飲乾し――ゴミはゴミ箱へ。リサイクルされて人の為になるんじゃねー?
新たにコインを投入しボタンを押せば自販機と言うヤツは意図も簡単に答えてくれる魔法の箱だ。
買ったのはウーロン茶、ペットボトルで。
苦味を知るのもたまには悪くはありませんよ? きっと。
「ま――僕はコッチでお付き合い」
蓋を開けて少しだけ掲げる。
気分ってモンだ。
――チェンジ。
- 473 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/31(土) 00:25:04
- >>472
「酔わせて襲うような女に見えますか?
あらあら、お姉さんショックだなぁ」
ちいともショックを感じさせない顔で妖怪が笑う。
青年の賢察や然り。
彼女は確かにこれでも人食いの妖怪である。
けど人食いの妖怪だからと言って人しか食えぬわけでもなし、
さらに言えば別段好物と言う訳でもない彼女にとっては、
人間とは第一に話し、手合い……
要するに交流する相手であった。
だが、彼女の長い人生においてこんな事は慣れっこであり、
もっとひどい対応しかしてくれない退治屋などもざらであった。
酒は適わずとも茶でも共にしようというだけ十分に有難い話だ。
「そいつは残念。
まぁ、人は酒のみに酔うものにあらず。
楽しくなれば気分ってのは勝手に盛り上がるもんです。
お茶、大いに結構〜」
言って再び酒瓶を煽り、彼を、そして周囲を見渡した。
「なんか、ほら、ここ閉まっちゃうらしいじゃないですか。
知り合いに聞いたんですけど、まぁ、見納めに来ようかな。
なーんて心理も働いたのかもしれませんねぇ」
ふと遠い目をして、静かに語る。
結果的にここにたどり着いたが、おそらく原因は心の中にあったのであろう、と。
ならば、これは偶然ではない。
必然か運命か、いずれにせよ、彼女はきっと来るべくしてここへ来たのだろう。
「見届けて見送って、その繰り返しですからね」
ぽつりと一言。
その一瞬だけ、ひどく冷めた表情を浮かべ、
そして、何事も無かったかのように先ほどまでと同じ微笑を浮かべなおす。
- 474 名前:有里 湊 ◆YTFOOL/P3. :2009/10/31(土) 00:38:12
- >>473
彼女は笑う。
「――それはきっと、戯言だよね」
僕は笑わなかった。
だってそれは、人を食っている事に他ならない。
だってこれは、人を食っている事に他ならない。
言葉は扱い方一つで人は人を食う。
これはそのホンの一例に過ぎない。
「へぇ――知らなかったよ。閉まるんだね、ここ」
なんていうのは戯言だ。
ここに来るまでの間に立て看板に気付かなかったわけじゃない。
と言うか――あそこまででかでかと表記されては目にしないほうが無茶と言うものだ。
だけれど――
「見届けて、見送って。その繰り返し。それってさ、寂しくもあるけど――悪くないんじゃない?」
個人に割り振られた時間は限りがあり、その限りの中でしか活かされない束縛。
それが例えば――十年も。
それが例えば――百年も。
それが例えば――千年も。
それが例えば――万年も。
続くと言うのなら。
続いてくれると言うのなら。
記憶と言う名の容量のキャパシティには限界がある。
古いものは忘れられ、インパクトの成る事象だけが残り、それが悲しみに彩られていたとしても。
それに応じて喜びも、楽しみも。
加算され、乗算され、差分割いた所でプラスが残る筈だから――。
人間と言う限りなく狭い器の中で。
矮小で、卑屈で、救い難いほどの破滅主義であろうとも。
「きっと――プラスが残る、筈」
傑作すぎる祈りだとしても、願う事は罪なのだろうか?
- 475 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/31(土) 00:50:06
- >>474
人を食ったような。
「そんな唯我独尊ですかねぇ。
これでも結構気を使う方なんですけども」
上手い事を言う。
クスクス笑いながら彼女もまた言葉遊びに一口乗る。
酔わせて襲うのは詐欺師の手口だ。
正直者の私には似合わないなぁ。
そんな事を思いながら舌の上のアルコールを味わう。
「悪くはね、ないんですよ。
たしかにお兄さんの仰るとおり」
そういえば最初からどこか影のある表情。
その視線の先は何を見るのか。
その思索の先には一体何を想うのか。
盤古の先の人の営みか、あるいは明日の晩御飯か。
「プラスもマイナスも同時にたまっていくんです。
それはいい。
でもね、だんだん何にも思わなくなって行っちゃうんですよね。
人も妖怪も精神ってのは実に鍛えづらいものでして」
その悲しげな愛想笑いは、ひどく妖怪らしくないものだった。
「……って言うか若いのに達観してますねぇ、お兄さんてば」
ちょっと呆れの入った感心顔の彼女。
失礼きわまるが、そこに邪気は感じられない。
- 476 名前:有里 湊 ◆YTFOOL/P3. :2009/10/31(土) 01:14:22
- >>475
「”気”を使えるのかな?――なんて」
踏み込んじゃならない境界と言うのがある。
クローゼットを空けたら頭からパックリと逝かれてしまう様なC級ホラーの様に。
それでも――それでも、踏み込んで見なければ判らない領域は存在している。
虎穴に入らずんばなんとやら。
二日酔いに迎え酒を突きつけるように、泥沼に嵌ってしまう事はあったとしても。
はっきりさせて置きたいのなら、アクセルを踏み込む必要もあったりするのだ。
「そう、かもね。心ばっかりは鍛えるのが難しい」
だからこそ、ショウウィンドウに飾られた人形のような表情が張り付いて、それが自然と振舞うように
なった。
無味無臭の乾燥し過ぎたジャーキーを詰め込まれたかのような人生。
味もしなければ、肴にもなりはしない、歯車にもなれない異物――だったのに。
「そうだね――伊達に絶望を見た訳でもないし、その水を飲んだ訳でもないから」
世界はクソッタレタ肥溜めだ。
アレも、コレも、ソレも、全部が全部放り込まれた魔女の釜。
そんな毒にしかならないぐつぐつと煮え立ったスープを飲まされちゃ、キリストの如き自己献身も行え
るかも知れない。
ああ、でも。
こんな事には何の意味だって存在できやしない。
価値をつけるのは己自信だ。
朝のトーストにバターかジャムかで迷うように、それこそどうだっていい話しだ。
「――ま、”選択”に慣れちゃった所為かな。エゴで世界を回すなんて早々経験できないし」
コイントス。
偶々状況が、偶々僕の楽しみが、偶々重なり合って。
お陰でこの有様だ。
でも選んだのは僕だ。
「おねーさんこそ、見た目以上なんじゃない?」
- 477 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/31(土) 01:30:01
- >>476
「お気に召すかは分かりませんが、嗜む程度に」
言ってにやりと笑ってみせる。
天地万物気を持って生じざるもの無き也。
なにかの仙術のフレーズだったかと思うが、良く覚えていないが
まぁ、端的に分かりやすく言えば器用貧乏といったところだ。
ああやっぱり。
彼の話を聞くにつれ、彼女の中で得心する。
この歳でどれだけの絶望の深淵へ身をさらしたのであろうか。
ま、只者とは思わなかったけど。
内心の議論にケリをつけて顔を上げる。
と、たずねられた。
「私?私は大したことありませんよぅ。
ただの特徴の無い妖怪♪
ま、人間に比べたら長生きということになるのでしょうけども」
酒瓶を煽りながら右手でひらひらと蝶を気取る。
- 478 名前:有里 湊 ◆YTFOOL/P3. :2009/10/31(土) 01:44:18
-
――チェンジ。
>>477
「嗜むってフレーズが既に謙遜っぽいね」
裏に何か隠しているようで。
でも隠して居るって事は、知られたくないって事。
二面性――それは誰もが持っている事だし。
別段気にしなくても良い。
今はだた――会話に身を委ねれば、それで。
それが――楽しめるなら、それで。
「ヨーカイ? 溶ける?」
なんて言葉を挟んで。
「おねーさんも、色々見てきてるんだろうね」
出来れば目を背けたいのが現実。
砂糖菓子で出来手入れ場と願うものが、現実。
それでも渋く、苦いのが、現実。
「――儚いのかな、おねーさんは」
長く、永く。
在れば在るほど存在を増すのは極一部の例で。
悠久の時は、川を流れる石の様に、丸くして行く。
原形を留めなくなれば、果たしてどうなるのか。
事象として落ちるのか――現象として残るのか。
「害がなければおねーさんみたいなのは長く居て欲しいものだけど」
僅かに浮かべる笑みと共に、告げた。
――もう、変わらない。
仮面は、必要ない。
- 479 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2009/10/31(土) 01:57:58
「溶けて儚くなりにけり?
ご冗談を。私はこれでも頑丈なのが売りなのよ〜」
頑丈だから、見送る側なのか。
見送る側であったからより頑丈になるよう妖力がついたのか。
最早因果も分からないが、この紅美鈴は随分長く生きている。
無論、人間と比較しての話だ。
妖怪の中にはそれこそ、お前もう神の一柱でよくね?
って言うほど長生きしているものもいるし、
人間にだって死という概念をどこかで落っことしてきてしまった奴はいる。
「こんなしみったれた話で心配おかけするとは、
私もなかなか修行が足りないようで」
苦笑しながら酒瓶をもう一度。
ああ、さすがにそろそろなくなるか。
これが現実。
彼女にとっての今現在の辛い現実だ。
「害がないかどうかなんてのは主観論ですからねぇ。
妖怪なんてみんな滅んじゃえばいいんだーてなヒトだっているわけで。
ま、今のところ、お兄さんに害為す予定はない。
それでこの場は十分じゃないかと思います」
この青年。
意外と、襲い掛かってもなんとかしてしまうかもしれないが。
落ち着き払った雰囲気からなんとなくそんな事を夢想してみた。
「さて、そろそろいい時間ですかねぇ」
ベンチから立ち上がりぐーっと背を伸ばす。
そして拳を手のひらにあわせて軽く一礼。
「今宵は楽しい時間を有難う、お兄さん。
私は美鈴、機会があればまたいずれどこかで〜」
そして再び最初のあの音。
たーん、と跳ねて高台の崖から眼下の林へ消えてゆく。
お茶目に手を振りながら降下していくのが彼女らしい暢気さ。
かくして、華人小娘は高台を去っていった。
彼女が戻ったところで妖精たちの伏兵を踏んで銅鑼を鳴らされるのは
また別のお話で御座います。
ではこれにて。
<了>
- 480 名前:有里 湊 ◆YTFOOL/P3. :2009/10/31(土) 02:13:59
- >>479
「――言っただろ、エゴで世界を回したって」
”――タンッ”と軽快な音を響かせ去って行く彼女……美鈴を見送りながら呟く。
思い通りにならなかったものを思い通りにした。
個人の力ではないにせよ、決定権は僕に。
”あの時滅んでおけば――”なんて言葉は巷ではよく聞くし、終末思想なんてのはいつでも蔓延っていて。
それでも前に進もうとする人も、多い。
「僕はかなり――自分勝手なんだよ」
息苦しくても。
生苦しくても。
生きてればそのうち良い事あるじゃん?
人を食う妖怪とだって共存の道は在るかもしれないし?
害為すなら戦えば良い。
人は何時だって――”愚者”
この手に。
その手に。
未知なる道を抱いて進めるのだし。
影の時間がなくなった所で――心の力は偉大だ。
右手を銃に。
添えるようにコメカミへ。
笑って。
「―――――Bang」
世界は何時だって救えない。
それでも――
「――愛を……哀を謳うと良いさ、オルフェウス」
紅葉の映える木の下で。
諦念でなく希望を抱け。
冬が来ようとも春は訪れる。
明けない夜はないのだし。
(退場)
- 481 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/31(土) 23:52:36
-
壊れたラジオからはドゥルッティ・コラムが漏れていた。
リズムボックスとシンセサイザーの音に併走して爪弾かれるギターが、淡々と空気分子を振動させる。がたがたと揺れる
バスの安っぽい座席で左右に振られながら、俺は眠るようにそのリズムを享受する。
エルサレムの市内を走っていくバスは、路線バスに体当たりするブルドーザーや、国境線に投石する人々の間を縫って
ゆっくりと、草原の牛のように進んでいく。
俺と向かい合った席で窓の外の景色を眺めていた少年は、不意に俺に視線を合わせると微笑んで、
「僕達の国じゃ、こういう音楽は許されないのさ」
にっこりと笑う。笑ってはみせるのだが、口の端は手榴弾の破片に粉砕されていて引き攣り笑いになってしまう。俺はそ
れがおかしくて、顔が引き攣ってる、と指摘すると、困ったように少年は苦笑する。
「いい音楽だとは思うんだけどね」
耳を澄ませる。ヴィニー・ライリーが引き綴るギターの音色を背景に小鳥の声が響いている。窓の外でも小鳥が鳴いて
いるようで、どちらが作り物(ラジオ)でどちらが本物の小鳥なのかと判断するのは難しい。なんだいこれ、と少年が返す
のだが、音楽的背景というのは存外に複雑なので、イギリス人の音楽だよ、と俺は答えるしかない。
「うちのお店でも流してたのよ」
と言うのは、俺の隣でカズオ・イシグロのペーパーバックを読んでいた女の子だ。
三日前に立ち寄ったオープンテラスのレストランで給仕をしていた子で、この子が持ってきたピラフの葡萄の葉巻きを
食べた事を思い出す。丁度その時に店のラジオから漏れていたのがこのスケッチ・フォー・サマーで、曲のタイトルを告
げた俺に、この子は季節が違うね、と笑っていたのだ。とはいえ、その翌日にはその店は突っ込んできた自動車爆弾で
粉微塵に吹き飛んでいたし、俺が店に顔を出した時には瓦礫の下でこの子はこんな姿になっていたのだけど。
「やっぱり季節じゃない」
片足と顔面が半分吹き飛んでいるが、口までは潰れていないので会話には不自由しないのだろう。残った右足はまだ
短くて床に着かないので、音楽に合わせてそれをぶらぶらと振り子のように揺らしている。
楽しげなリズムだな、と俺はぼんやり思う。一本しかない事も相俟って、女の子の足が刻むリズムは、まるで振り子時
計の振り子のようだ。
「だけど、イギリス人の音楽じゃね。いくら好きでも、好きになっちゃいけないんじゃないかな」
と言うのは、もちろん俺の正面に坐る少年で、女の子の店に車を突っ込ませた武装勢力の下っ端だ。どうして、と問う
女の子に、だって、とそいつは唇を尖らせる。
- 482 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/31(土) 23:52:57
- >>481
「僕達の国をめちゃくちゃにしたのは、最初はイギリス人なんだぜ。やつらが勝手に『国』だとかなんだとかを作って、僕
達の街を壊したんだ。その音楽は悪魔の歌なのさ。プロパガンダだよ」
「でも、音楽とそれは関係ないんじゃない?」
「僕達が君の店に爆弾を突っ込ませた理由だって、元をただせばやつらのせいじゃないか」
「元?」
少女は不思議そうな顔になって、次いで皮肉っぽく、
「元って、どのくらい元?」
「元は元さ」
少年は言って、大人はそう教えてくれたよ、と続ける。そうなの、と少女は笑って頷く。そういうものかもしれないね、と。
「でも、音楽は音楽よ」
「そうなのかな」
そうだな、と俺は口を挟んだ。「音楽は音だよ。作ったヤツはどうだっていい」
ただのリズムだから、と付け加える。
「リズム?」
「言葉だよ」
ことば、と少年が問い返す。口の中で言葉を転がすように。ことば、ことば。
「こうしなさい、ああしなさい、こうするんだ、って言葉。気持ちいいかそうでないかだけだから、どこの国の人間が作っ
ても同じなんだよ。マイケル・ジャクソンが歌ってる内容が解らなくても、「スリラー」はカッコいいとか」
「ウォー・ドラムの音?」
「うん。あとはそうだな、心臓の音」
「AKの銃声もかな」
「そいつは凄くクールだ」
「なるほどね」
得心したように頷いて、そいつは身体を左右に揺らし始める。なるほどね、と呟きながら。
隣ではぶらぶらと足が揺れて、目の前ではぐらぐらと身体が揺れる。そんな不思議な穏やかさに包まれながら、俺
は窓の外に目を移す。過ぎ去っていく風景では、嘆きの丘に向かって投石する人が見えた。
「ねえ」
と唐突に言われて、俺は窓から視線を戻す。
「どうして君は僕を殺したのかな」
正面に座る少年は不思議そうに首を傾げる。
- 483 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/31(土) 23:55:55
- >>482
「どうしてって」
「私を殺したからじゃない?」
そう言って笑うのは隣の少女で、まあ、それもあるかな、と俺は内省する。テロリストを殺す必要があった。それは理由
になるんじゃないだろうか――だから俺は頷くことにする。
「うん、それもある」
「ほらね」
「待ってよ。彼はそれも、って言ってるだろ……」
少年は不服そうに言って、ねえ、と俺に呼び掛ける。どうして、と。
どうして。ねえ、どうして。そう言われても俺は困ってしまうのだが、なぜ困るのか、と追想を深めると、あまり探るまで
もなく理由は記憶の浅瀬に転がっていた。錆の匂いのする、ささくれて鉄の色をした言葉。
「頼まれたからかな」
「頼まれたの?」
「そう。頼まれたんだ。仕方なかった」
「誰に」
もう死んでるから教えてよ、と少年が言う。
バスはエルサレムを抜けて郊外に出ていく。イスラエルの警官隊とパレスチナ人が激しく撃ち合った名残で、ところど
ころには死体が転がっていた。バスはそんな死体たちの海をモーゼのようにかきわけ、でなければ盛大な音を発てて
踏み潰していく。窓から顔を出して背後を覗くと、轢断された死体が轍の中に没しているのが見える。俺がバスに顔を
戻すと、少年は、ねえ、と繰り返した。あの死体たちと僕は同じなんだから、と。
そう、死んでいるなら教えてやってもいい筈だ。だから俺は滔々と語り始める。
パレスチナゲリラ残党をイスラエル軍が理由をデッチ上げて掃討しようとしていた、というのは実は真っ赤なウソっぱ
ちで、本当の理由は、イスラエルの武官が数年来取引していたゲリラの一団を始末しなければいけなくなったからだ。
けれど、ただテロリストを殺す、と言ってもそれなりの理由が必要で、ゲリラの親玉は自分の身の安全を引き換えに、
ゲリラ達に連続自爆テロを決行させた。「どうせ殺されるなら、朗らかに神の御許に往く為に神敵を打ち倒せ」とかなん
とか。
「酷いな」
と、少年は泣き笑いのような顔を作る。
「それじゃあ、僕は無駄死にだったのかな……」
「どうだろう」
と俺は答える。それは解らない、と。
「君は、それを知っていて僕を殺したの」
「知っていても殺すしかなかったからね。だって君はテロリストで、つまりクソ野郎だった」
「だけど、僕を殺すかどうかは君が選べたんじゃないの」
それは無理だよ、と俺は首を振る。
「君を止めないと、君は他の人間を殺しただろ。だから、俺はクソ野郎だった君を殺して他の人間を守ったんだ」
「でもさ」
と、少年は首を傾げる。
「他の人達は、君が守るべき人達だったのかな。君はバスに乗っていた人達と面識があったの」
- 484 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/10/31(土) 23:58:06
- >>483
「ないよ」
「もしかしたら、殺人犯が乗っていたかも――僕みたいなクソ野郎が混じっていたかも」
「かもしれないね」
「なのに、君は僕を殺したの?」
そうだな、と俺は言って、少し考えたフリをする。選択の余地はなかった、と俺は知っていて、その罪を考えるフリを
する。
「いや、つまり君はクソ野郎なんだ。死ぬしかなかったんだよ」
「だから、君は悪くないの。大勢の人間を助ける事が出来れば、その大勢がどうしようもないクソったれだったとしても
許されるの……」
「俺が悪いかどうかは問題じゃないよ。だって、それは――」
だって、と俺は言葉に詰まる。なぜって、俺はその先に続けるべき言葉を忘我してしまったからだ。
「――だって、君と同じなんだ。それは」
「同じ……」
「君は神様を信じていたんだろう。君にとってそれは正しかったんだ。自分の正しさを信じている人を説得するのは難
しいだろう。説得しているヒマがないなら、殺した方が早いんだよ」
だけど、と少年は首を振る。
「僕は信じたフリをするしかなかったんだ。神様を信じてるやつしかいない部隊にいたから、信じていない、なんて言う
ことはできなかったし」
ああ、と俺は頷く。そのプロフィールは実は俺の既知事項で、俺に抹殺対象のリストを手渡した武官がゲリラのボス
づてに知らせてくれた内容そのままだった。要するに、俺は何もかも承知の上で、出来レースじみた自爆テロの犯人
をバールのようなもので殴殺したのだ。
「でも、自爆しようとしたなら、君は神様を信じている自分を信じられたんだろう」
「それは君と同じだよ。正しいことを信じてるって信じたいんだ」
まあね、と俺は認める。くすくすと笑い出した少年は、
「じゃあ、そうか。なるほど君は悪くないんだ。だって、もしも神様が正しいなら、神様の為に僕を殺した君は悪くない」
「そうだな、その理屈だと君も悪くない」
と、俺は繋げ、
「ということは、誰も悪くないのね」
と、少女が纏める。
- 485 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 00:08:33
- >>484
「だって、人間が『いいこと』をしようと思うのは、例えば他人に良く見られたいからだもの。それは他人にとっても自分にとっ
てもプラスになることだから」
「どういうこと?」
少年の問いに少女は頷き、
「例えば、人間は環境に適応しようとするわ。人間の社会は複雑だから、単純で生的な気質だけでは対応しきれない。ライ
オンの社会では身体が大きな方が強いけれど、人間の世界ではそうでもないでしょう」
「僕の住んでた場所はそうだったかも」
そうかも、と俺達は笑う。
「人間はたくさんの数で群を成して生活する動物だから、そうやって『たくさんであること』が重要なのは間違いないの。そこ
で求められる力は色々あるけれど、誰かに好かれる、っていう能力はそれだけで有益でしょう。だって、キライな人の話な
んてみんなは聞き流すけど、好きな人の話はみんな素直に受け入れるでしょう。有名なスターや俳優が環境破壊について
CMするのが、政治家の通り一遍なコメントよりも有効な理由だわ」
「『善意』って言うのは、そういう人間の能力の一つだっていうこと?」
「そう。私達のセカイでだけ通用する、ライオンの爪や牙が私達の『善意』だとか『好意』なの。それは何も不思議なことじゃ
ないわ」
「でもさ。誰かの為に生きたい、それが生き甲斐だ、っていう人がいるんだろう? そんな人達は『利益』を考えて生きてる
のかな」
それは違う、と俺は首を振る。
- 486 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 00:11:54
- >>485
「誰も『利益』を意識は出来ないよ。誰かの為に生きたいって人は、脳がそう感じるようになってるんだから。誰かの為に尽
くすこと、それ自体が生存の理由になってるんだ。結果として誰かに好かれるかどうかは副次的な問題で、本人はそれに
ついては意図しない。人間は自分が何を好きになるか選べないからね」
「それじゃあ、他人の為に生きたい、って思える人は幸せなんだ」
「”思える”ことや”幸せ”自体、人間のシステムの一部でしかないもの。ヒトは獣をただ賢くしただけの動物じゃないし、危
険な世界で自分にだけ気を配ってる生き物でもないし、「なんとなく」生まれる相互の便益の為に群れてる群生動物でも
ないわ。ヒトの社会性っていうのは色々な層を貫いてる現象だから、相互認識を伴った互恵的な現象がたっぷりと伴うの。
そんな複雑さがあるから、ヒトは約束したり約束を破ったり、崇拝したり抽象したり誰かを信じたり自分を信じたり誰かを裏
切ったり自分を裏切ったりするの。ヒトは生きてるけど、ヒトが生きてるシャカイっていうのは、ヒトが作ったモノだからヒト
のように生きてるのよ」
「社会が複雑だから、人は裏切りを憶えたっていうこと……?」
「そうだな。でも、それに適応できるかどうかは運次第だ」
「運?」
「だって、人はそれぞれ違う形で生まれるんだもの。生まれる場所も違うし、違う遺伝子を持って生まれてくるから、身体
がどう発達するかも違う。運動に向くかもしれないし、何かを考えることに向くかもしれない。だけど、考えることにメリット
がない場所に生まれた場合、考える力に特化した人間は適応が難しくなってしまう。人の「心」は、そんな複雑な状況を
処理する為に生まれたシステムなの」
「人間は環境から逃れられない――っていうのは少しおかしいけど、人間自身が環境だからね。”考える”ってことは何
かを選択できる、みたいに考えがちだけど、”考える”能力は個人に左右されるし、環境にも左右される。何かを「選んだ」
つもりになってみても、それは自分が考えられる範囲で、最適の状況を選択するしかなかっただけなんだ」
「それが誰かを殺すことでも?」
「そう」
「それが誰かを憎いと感じることでも」
「そう。それまでの経過が、誰かを憎い、と感じるしかない状況を作ってる。憎むしかないって言う状況は、人間にとって
その脳の状態がどうにもならないことを言うんだ」
脳の状態、と少年は聞き返す。
「人間の脳は、周囲の環境を分析して、正しい答えを出そうとする。脳それ自体の機能に許された限界で、自分にとっ
て何が役に立って、何が役に立たないのかを割り出そうとするんだ。ビリヤードを考えれば解り易いんじゃないかな。
一つの玉が一つの玉にぶつかる。ぶつかった玉は運動エネルギーを与えられて別の方向に飛んでいく。ぶつけた玉
も反動で飛ばした方向へ跳ね返るけど、その角度や勢いは打ち出す時の玉が持っている初速や運動量、激突の角度
で決まってる」
「人間の脳の中身は、そうやって跳ね回っている玉がどんな状態かってこと……」
そうだね、と俺は言う。
「どんな初期値を与えられたかで、人間の思考は決定される。どんな風に生まれたか、どんな風に育ったか、どんな
状況に置かれているのか。脳はその初期値と状態とを結び付けて、当然のように誰かを好きになったり誰かを憎んだ
りする。誰かが憎い、と感じること――それは、脳が命じる、そいつを敵だと思え、って指令なんだよ。人間がまだケモ
ノだった頃、そうやって敵を明確にしなければ、人間は誰かに利用されてしまっただろうから」
それは罪の話なの、と少年は言う。
俺はチョコレートバーの包みを向いて少年に手渡しながら、そうかもしれない、と答える。
「こうして僕にお菓子を渡すのは、君が話を円滑に進めたいから?」
そうかも、と俺は笑い、少年は綻んでチョコレートにかぶりつく。
「例えば俺は、君を殺したことについて悩んでいない――どうしようもなかったからね。命令だったし、君達はとりあえ
ず殺さなきゃいけない状況にあった。俺の初期値は君達を通過点にして、君を殺す閾値に達していたことになる。どう
あっても、俺の殺意は君を殺すしかなかった」
「そうなの」
不思議そうな顔を浮かべる少年に頷きながら、そうだろうか、と俺は考える。
「『罪』があるから、人間は罰を恐れる。無駄な『怒り』が他人を傷付けて、それが社会の課す『罰』に結び付くから、人
間は罪を恐れる事ができる」
「でも、君は社会の『罰』なんて恐れてはいない」
唐突に言われて、俺は少年を見る。それは予想していなかった、とジェスチャーを込めて。
「……罪には、種類があるってことになるかな」
不思議なほど穏やかに、俺はその言葉を口にする。
- 487 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 00:12:41
- >>486
「”してはいけないこと”は、社会から俺達が獲得する物なんだ。人間は原罪なんて持っていやしないし、本質的に恐
れる「罪」なんてのも持ち合わせていない。それが社会のいう「罪」なんだ」
「もう一つは」
「倫理や論理が、俺達が普段「罪」と呼ぶ何かなんじゃないかな。罪悪感に意味なんてないけれど、あるってことにし
た方が都合がいいから」
じゃあ、と少年は言う。
「責任を取る事に意味はあるのかな。どうしようもないことしかこの世界にないのなら、責任は意味がない」
「あってもなくても、あった、ってことにした方が都合がいいんだ。責任を引き受ける覚悟があるのなら、自分を奮い立
たせる理由にはなるからね。その意味では『責任』はなくても、『責任を取ろうとする事』に意味はあるかもしれない。
それは――それだけのことなんだよ」
そう、と少年は微笑んで頷き、
「君には――」
俺に視線を合わせて、心底不思議そうに尋ねた。
「どんな責任があるの?」
呆然としたまま、俺はそれに返答しない。
どんな、と言われた俺は、続けるべき言葉をまったく心象に浮かべられていない。あらゆる反応が必然なら、俺はそ
の言葉によって全ての言葉を続けられなくしていると言ってもいい。
「それは貴方のお話だわ」
穏やかで、照らすような声。傍らの少女は、見上げるように俺に声を掛ける。
「俺の?」
そう、と少女は言う。
「だって、それは貴方の考える罪で、貴方の背負った解答だもの。私が望んだ罪のカタチは別のモノだったかもしれな
いでしょう」
なるほど、と俺は頷く。
それきり、示し合わせたように全員が黙った。冷たい沈黙ではなく、全員が全てを納得したような、どこまでも静謐で、
優しい静けさ。ガタガタと揺れるバスの中で、柔らかなギターノイズに包まれて、俺達はどこかに運ばれていく。
- 488 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 00:14:50
- >>487
停車したバスから降りると、そこは真っ白な世界だった。
あるいは、墓地と言った方がいいのだろうか。
地平線が消失した彼方まで、視界一面を覆う砂漠。その白い砂の海を、転々と隙間なく十字架の山が覆っている。
まるで巨大なハリネズミの背中。色も形も雑多な無数の墓碑は、白い砂が風で吹き付けるままに晒されている。ここ
が世界の果てだと言われたら、俺は一も二もなくそれを肯定するかもしれない。
「こいつを使いなよ」
少年は自分の胸に刺さったバールのようなものを俺に差し出してくれる。
なんだこれ、と俺は聞き返すと、にっこりと微笑みが返ってくる。
君が突き刺したんだろう、と。
ああ、そうだ。
バスジャックしようとした少年の胸にバールのようなものを投げ付けたのは俺だった。
だから俺は、そうだったそうだった、と笑って返すのを忘れない。そうだよ、と少年は優しく笑って返してくれる。少年
は更にもう一本、自分の腹に刺さったバールのようなものを手に取ると、行こうよ、と十字架の丘をバールのようなも
ので指し示した。先端からはボタボタと血が毀れていて、ヘンゼルとグレーテルのパンくずのように道しるべを作って
いる。
振り返るとバスからはたくさんの人達が降りてきて、みんな、思い思いに身体やバスや地面に転がったバールの
ようなものを拾い上げている。なんだってバールのようなものはこんなにどこにでもあるのかを考えても仕方がない。
バールのようなものはそういうものだと相場が決まっているのだ。
ガツンガツンと皆で十字架の林を殴打して打ち倒しながら、俺達は行進していく。自分の名前が刻まれた十字架を
見付けた人達は、喜び勇んでそれを打ち倒す。自分の名前が書かれた十字架がない俺は、それならと別の十字架
を殴り倒していく。
丘一杯の十字架を打ち倒す頃には、青かった空の西に陽が沈み掛けていた。天蓋のように敷き詰められた、綿が
連なるような高積雲に押し隠されながら、それでもなお自己主張するように太陽は空の底を橙に染め上げる。闇が多
い始めた空の一部だけがオレンジに塗り分けられて、バーネット・ニューマンの抽象画もどきの色彩を連ね上げる。
墓碑銘を確認する。
コスマス、ボスエ、ハルナック、ヨシフ、アドルフ、ロナルド。どこかで見た死者の名前は、ただの記号としてそこに記
載されている。
辿り付いた丘の頂上で、死者たちが十字架を積み上げていた。
なにをしているの、と俺は少年に問うと、彼はにこやかに俺の手を引いて、詰まれた十字の椅子を薦めてくる。
白い丘の頂上に作られた、十字架の椅子。
そこに坐ると、果てだと思われた丘の先が見渡せた。
少年の背後、丘の下には光が瞬いている。
人の息吹だ、と俺は思う。耳を澄ますと、無数の笑い声や流行の音楽が聞こえてくる。
切り立った巨大な崖で隔たれた、明るく暖かなあちらと寂しく静かなこちら。無限に近くて無限に遠い此岸と彼岸。
こうして十字架でこの白い丘を埋め尽くして、こちらの世界を永久に閉じ込めてしまおうとする光に溢れた世界がそ
こにある。
さあ、と少年は言う。
「号令が欲しいんだ、王様。君の声が欲しい。何か言ってくれないか――君の声で」
王命に於いて、と笑って、少年は俺を見上げる。
何を言えばいいんだい、と俺は少年に聞き返す。
なんでも、と少年は答える。
砕けた十字架の丘には、大勢のひとびとが並んでいる。穏やかな世界を遠目に眺めながら、手に手に刃物や銃を
携えて、遥かな世界を静かに見据えている。広大な白い世界。無限に続く白い砂漠は、無限に等しい死者たちで埋
め尽くされている。けれど、と俺は思う。無限に等しい死者たちは、だけど無限そのものであるこの砂漠を埋め尽くす
ほどではなく、この白い世界にはまだまだ死者を抱える余力が余りすぎるほどに余っている。
だから、俺の言葉は決まっていた。
- 489 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 00:23:16
- >>488
「Mow'em Down」
御意に、と少年は恭しく頷き、そしてぱっと顔を輝かせると、行くぞ、とひとびとに号令する。少年は、涙を流して笑
いながらAKを片手に崖から飛び降りていく。
その後を追って崖を駆け下りていくひとびとの数は、軽く見積もって一万、十万を下らない。誰もがみんな、AKと
マチェットを、鋭く尖ったスコップを携えて、泣き顔のような笑顔で暖かな世界へと駆け下りていく。怒涛の勢いで崖
を駆け下りていく人波は、黒い絨毯になって街へと押し寄せていく。
その背中を見送りながら手を振っていると、みんなが手を振り返してくる。ありがとう、と皆は言う。
そんな光景を眺めながら、俺は不思議と暖かくなっている自分の気持ちに気付く。
たたたた、と遠くで銃声が聞こえる。
進軍が始まったのだろう。鼓膜を叩く音は、聴き慣れた心地良いAKの発射音だ。
瓦礫の玉座に腰掛けた俺に、レストランの女の子は歩み寄ってきて言う。弾んだ声で、酷く楽しげに。片足で器用
に飛び跳ねながら俺の椅子に凭れ掛かる少女は、AKを杖代わりにして身体を支えている。
「人が死んでるわ」
「だろうね」
と返す俺の声は、やはり楽しげに聞こえたかもしれない。
「素敵ね」
「そうかな」
「そう思う。だって、みんな一つの場所に行くんだもの」
一つの場所、と俺は問い返す。
そう、と少女は頷く。
「みんなで歌ってるの。みんなが一生懸命、殺すひとも、殺されるひとも」
「みんなが……」
丘の下に目を凝らすと、身体のあちこちが欠けたひとびとが、町々で談笑していた人達を殺していくのが一望できた。
至近距離から7.62ミリを叩き込み、マチェットの厚い刃を頭蓋骨に叩き込みながら、ひとびとは一列になって街を駆け
抜けていく。
鳥瞰する風景は、エルサレムを目指す信徒の群のようにも、巨人の手が街をキャンパスに描く墨流しの絵画のように
も見える。みんなが通り過ぎた道には転々と死体が転がっていて、そんな死体たちはリンゴの皮を向くように頭から足
先まで皮を剥がされていたり、ミキサーに放り込んだように身体のあちこちが砕けていたりする。
奇妙にねじくれた死体たち。見慣れたそんな風景は、だけど普段、街の中ではけして見ることができない。街の中で
死体は異物であって、当然のように転がってはいないからだ。
悲鳴と絶叫が彩る音を刳り貫いて、吹き付ける風に乗って血の匂いと生活の匂いが濃密に漂ってくる。どこかで放火
が始まったらしく、立ち昇る煙が幾何学模様を空一杯に描き出す。
何もかもが綯い交ぜになって、世界は一直線に転がっていく。
綺麗だな、と思わず一人ごちる。涙が出そうになるほど穏やかで密やかな、静謐に彩られた騒々しさ。
気付けば、俺はその穏やかさに包まれて泣いていた。頬が濡れていることに気付いて、少女に弁解するように笑う。
「これは、そうだね、綺麗だ。その、とっても」
- 490 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 00:23:30
- >>489
思わず見蕩れていると、少女が俺の肩に寄り掛かって言う。
「みんな同じ。悲鳴も、怒った声も、笑い声も、みんな同じ場所に流れていくの。一つの場所に」
「あそこには君の家族がいるかもしれないよ」
「そうね。でも、私は死んでるから」
「死ねばまた会えるとか?」
「まさか。「魂」なんてあると思う……?」
と、彼女は笑う。
「じゃあ、どうして?」
「とても静かになるのよ。誰も泣かなくなるの。とても素敵」
そうかな、と俺は考える。
そうだよ、と少女は言う。
そうかもしれない、と俺は答える。
と、少女は微笑んで俺の手を取ると、自分の額に押し当てた。
彼女の砕けた頭蓋は血でぬめっていて、その暖かさが手の平を通して伝わってくる。
「そこなる山辺に、夥しき豚の群れ、飼われありしかば、悪霊ども、その豚に入ることを許せと願えり。イエス許し給う。
悪霊ども、人より出でて豚に入りたれば、その群れ、崖より湖に駆け下りて溺る。牧者ども、起こりしことを見るや、逃げ
行きて町にも村にも告げたり。人々、起こりしことを見んとて、出でてイエスの元に来たり、悪霊の離れし人の、衣服を
つけ、心も確かにて、イエスの足元に坐しおるを見て懼れあえり。悪霊に憑かれたる人の癒えしさまを見し者、これを彼
らに告げたり」
少女は一息に言うと、
「貴方はこの世界に満足してくれる?」
できると思う、と俺は答える。
多分、と。
はにかみ屋の少女は笑って、私も行かなくちゃ、とAKを杖の代わりにして崖から降りていく。
はらはらしながらその様子を見守っていると、崖の下に降りた少女は危なっかしい手付きでAKをフルオートにして、倒
れた妊婦の頭を挽肉にしていた。たたたた、と操車音を響かせながら、彼女は道に蹲った重傷者達にとどめを叩き込ん
でいく。窓から恐る恐る顔を出した子供達をてきぱきとフルオートで薙ぎ払いながら、少女は先行く使徒の群を追い掛け
ていく。
大丈夫、と俺は言う。
だって大丈夫。もう、ここにいる誰もが争う事はない。
バスから漏れてくる柔らかなドゥルッティ・コラムのリズムに囁かれながら、俺は静かに目を閉じる。
小鳥の囀りとギターノイズ。
そのリズムに乗って、世界は雪崩れ落ちていく。
どこまでも。
- 491 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 00:28:32
- >>490
アルコールの匂いで目が覚めた。
近くで誰かが飲んでいる、なんて正月ライクな状態ならまだマシだ。
というのも。
「……なんだこれ。頭からボタボタなんか毀れてきてる」
「おお。そりゃオマエあれだ、頭のテッペンから酒ブチまけられたんだ」
「うぜえ……マジでうぜえ……」
高い丘。
白い砂漠でもなければ、十字架の林でもない。割合見慣れた――ここ数日で見慣れた、高い月を望む小高い丘だ。
月見酒にはもってこいの場所ではあるのだが、風情を楽しむならそれなりの相手が必要だ。間違ってもその相手は身
長二メートル三十センチオーバーのザルな酔っ払いであってはいけない。
眠気を散らした目を擦って、放り投げられたタオルで顔を拭く。
月明かりの下でニヤけ面を浮かべるのは、(あまり認めたくはないが)それなりに男前の蓬髪の巨漢だ。山男さながら
に手入れもされていない髪と髭はさておき、頭上の月を思わせる金色がかった双眸がイヤでも視線を惹く。
ヴァチカンでもド級の有名人であるところのエリスは、実のところただの酔っ払いでしかない。
少なくとも、俺にとっては。
「……標的は」
「いいや、まだ姿を見せねえな――案外、この話自体がイリヤのヨタなんじゃないかってオレは疑ってんだが」
ありそうだから困る。
俺は鬱陶しさを振り払うように首を振って、丘の彼方を見下ろした。
やけに騒がしいな、と思って、その理由に気付く。何せ今日はハロウィンで、市内のライブハウスでもそれっぽいイベン
トをぶち上げるフライヤーがそこらじゅうに張り出されていた。
この時期にむさ苦しい巨漢と二人きりで月見。どんな地獄だこれ。
「……今、何時?」
「十二時回った」
都合二時間ほどコイツに寝顔を酒のサカナにされていたらしい。
なんかもう、色々と散々だった。
- 492 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 00:58:13
「じゃじゃあ〜ん」
___l~l____
/ / / | ヽ \ \
./ / /| | |\ ヽ ヽ 我輩、参上!
l l / | | | \| |
i l  ̄| ̄ △  ̄| ̄ | |
ヽ ,| l~~l_l ̄ ̄l_|~~| l /
ヽ , ヽ / l / トリート オア トリートォ!
ゝ 、 ゝ_l ̄l_/ ノ
<>、 イ i. ト、 __ _zイハ∧ / r<>
/| ̄\i/Vr'⌒i又又厂ヾ} /`ァ ヽ( ,.ノ
|/ /lーl ̄ |/[ム]:ゝ/ \/}ーイ ̄ |ヽ
レ {_/i::/ |::::::\ ,ノ |ヽ ヽ!
_____/::ヽ/:::\::::丁l:::\ V
{::::::ヽ--- 、:::::/:::|::::::::ヽ
_>:::::::/:::::::::: ̄/:::::::!:::::::::::〉
 ̄`ヽ::::::::::::::/::::::::/::::::/
今宵はハロウィン。
今度こその祭りの日。
先日聞いたとおり一週間待ったのだ。
その上、この高台の最後の日のロスタイムとなれば来ないはずがあろうか、いやない(クス、反語♪)
ニューウォーズマン!ニューロビンマスク!ニューかぼちゃマスク!
というわけでマスクも新調し、再び私はこの地に立ったのである。
嫌がる魔女からここの結界に限って機能するすりぬけの魔法も習ってきたので
今日は空間を破壊せずに侵入できた。
だから、魔力も前ほど使っていない。
「魔法使いや妖術使いって結界をすりぬけられるんでしょ?キーッヒッヒヒヒとか言って」
と言ったら魔女がひどく嫌そうな顔をしていたのは記憶に新しい。
私、フランドール・スカーレットは魔と人の邂逅するこの奇妙な夜に、
杖を振りながら鼻歌を歌いつつ、高台を上機嫌で歩いていた。
- 493 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 00:59:04
- >>491
「失礼します」
と、なんだかんだでウダウダと話していると、唐突に話し掛けられた。
暗いが、一目で日本人だと解る。俺より僅かに背が高く、キッチリとフォーマルなスーツを着こなした大人のオトコ。『レ
オン』あたりのモデルになっていてもおかしくない伊達男だ。
「ええと、ああ、後藤――」
「後藤、でいいですよ」
確かに、と俺は心中で納得する。長い付き合いにもならないのだし、フルネームを覚える理由がない。
検疫局――日本における審問局の外局――が送り込んできたのがこの後藤氏で、俺達への指示だのなんだののあ
れこれを仕切っているのもこの人、ということにもなる。審問局への出向では先日のエルサレムにも同行した日本の前
衛要員で、所謂デスクワーカーの風体とは裏腹に、それなりにソリッドな実戦派、ということになるだろうか。
なんでも、先月アタマから今月の半ばに掛けて、麓の町では自殺者が二桁に跳ね上がったらしい。
なんだ二桁か、なんて答えるのはロスかNYかその他諸々の国外に住む一部の層だけで、この日本の片田舎で自殺
者の二桁は異常である。加えて暴動。街中で突然刃傷沙汰に発展したケンカでの死者が十人を超えた、というあまりと
言えばあまりなニュースに、全国のアレな視線がこの街に集まることになったのだ。
それに原因を求めるのはバカらしいが、バカらしいと切って捨てられないのがこの国の実情で、俺達の事情でもある。
外交ルートを通じて審問局に投じられた話は、曰く、要度Bの状況及び現象不定災害(MIT)。
今月初めから終盤に掛けて、この丘周辺で見られた異常気象や現象の数々は地元ニュースでも取り上げられていた
らしく、総務、外務の両省は手駒としては最善の選択になる検疫局に対策を命じた、と言うのが現状らしい。
異常な現象の原因に異常な現象を当て嵌める。……色々とツッコミどころが満載で、いかにもオカルトで陰謀論の手
際だとしか言えないが、これに関してはそんなに間違ってもいないのだから困り者だ。論理構造体(しんわ)が作り上げ
られている場合、確かに俺達の出番ではある。
ただ。
「……解ってると思うけどさ。この類の状態の場合、原因が個人であるって可能性はむしろ低いんだぜ」
「解っています」
と、検疫局の後藤某氏。生真面目な表情に張り付いたクールな視線は崩れない。こちらのツレはと言えば既にハナっ
から崩れまくっているので比べられると非常に申し訳ない状態だ。エリスの飲酒量は加速に加速を加え、トップスピード
に至って持参した度数80以上の酒瓶二十本を絶滅させつつある。
「ですが、状況に原因が見られない以上、原因は個人に起因すると推定した方が道理は通る」
「見落としって可能性もあるんだけどな……」
呟く俺に苦笑を浮かべ、後藤氏は視線そのままにクールなコーヒーを渡してくれる。何のイヤガラセかと言いたくなる
が、恐らくは素で冷たいコーヒーしか買わない類の人間なのだろう。マジでもう超クール。
「私は一度支部の方へ戻ります。申し訳ありませんが――」
「ああ、いいよ。別にここがイヤだって言ってんじゃない。引き受けとくから、さっさと行ってくれ」
というか、正直いられても気まずいだけなので。
- 494 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 01:07:40
- >>492
「トリック、オア、トリート」
疲れたような口調になったのは色々と俺のせいじゃないと思う。
なんでこんな場所にこんなのが。カボチャ。カボチャなハロウィン。麓の街はオールナイトのイベントの真っ最中だろうし、
こっちにまで余波が及んだ、と考えれば解らなくもないのだが。
ちなみに俺の背後ではいよいよ上機嫌のヨッパライモードに突入した巨漢は、酒瓶にゴム(どこに持ってた)を括り付けた
マイクを頭上で振り回しながら「スレイヴ・トゥ・グラウンド」を熱唱中。いやもう俺帰りたい。
引き受けたお仕事の難易度には辟易するが、放り出すワケにはいかないのがお仕事である。仕事は仕事だから仕事だ。
どんなトートロジーだと溜息を吐く俺と、熱唱するエリス。ハタから見たら可哀想な二人組(それぞれ違う意味で可哀想な
のだ、勿論)にしか見えないだろう事実を意識しながら、俺は零す。
「トリックオアトリート。……悪戯はちょい勘弁――やるならそっちのデカブツに頼む。菓子とかは在庫切らして――」
どうだっけ、とスーパーの袋を探る。
大量に買い込まれた酒のツマミを掻き分けると、二つだけ転がったチロルチョコが。
一つを摘み出すと、肩を竦めてカボチャな怪人に差し出した。
「……ちなみに菓子の場合はコレね。選ぶのは君だ」
どっちも微妙だろ、と付け加えて。
- 495 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 01:14:57
- >>494
見たことある顔だった。一度だけ。
たしかあの傲慢な人外の少女といっしょにいた男。
その時は女連れ、今は男連れ?
なるほど、これがリョウトウツカイってやつなのかー。
酒瓶持って熱唱中の男を背にチョコを取り出す彼を見て、
ニタァと笑った。
今度のマスクはぶかぶかじゃないから笑みが見えないかもしれないが、
というか、その意味ではマスクは笑いっぱなしだが。
「かかったな!どっちもトリートなのさ!」
水晶のような独特の羽をゆらして勝ち誇る!
ワハハハハ!ひどい罠だ。
ひとしきり笑ってからマスクをぬいだ。
「こんばんは、オジさん。久しぶりだね」
. -─────-- 、 __
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厂 フ__,人ノ-─个<⌒ヽ ̄`ヽ:.:}く__:.:.:.:.:.:.:.:_/
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∨/ l _,_/ /|/ /イ -┼- 、| \_,.ィ⌒}、\
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∧ ∧ \ /イレ′ |. {Jjl :} ,ィ爪ハ Y | |/__/
∨ ∨ /| \ | | |l 乂..ノ {Jjl :} }}/ ! | |
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. . /| l ハ 八 マ ー‐--rァ  ̄厶 / | | . < ∧
. . . . . |/ |/く∨廴>、 ヽ _/ .ィ//\/l/: |_/ ∧ ∨ .
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- 496 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 01:31:06
- >>495
いや。
まあ、解ってはいたんだけどね。
いつか見た少女に、驚いた、というようにジェスチャーしてみせる。
「君とは気付かなかったな――ところで、そりゃこっちに言ってやれ」
肩を竦めて熱唱中のエリスに視線を向ける。なにか凄く失礼な想像をされた気がするので、ちなみにあれはただのバカだ
よ、と付け加えるのは忘れない。
とはいえ、外見上の年齢がセシルとどっこいのこの娘にしてみれば、俺は――いや、そもそも俺は自分の年齢を知らない
のでなんとも言えないのだが。年齢について俺達が判断することと言えば、殺した相手が何歳くらいだったか、などという至
極業務的な報告に関してだけであって、それ以外の余分な情報(タグ)がくっついてきたりしないのだ。
それより何より俺が問題視したいのは、背後でバカ声を張り上げる巨漢で、
「……スレイヴ・トゥ・グラァァァ――ッ! …………あん?」
……そこで漸く気付いたのか、エリスは俺と少女を交互に見比べる。
「……セシルのガキ、じゃあ、ねえな。なんだイル、またガキ相手にしてんのか。年下趣味もいい加減に――」
「違うよ!?」
「いや、オレは別にオマエがロリコンでも構いやしねえが」
「なんでそんなどうでもいい語彙を蓄えてやがる! 違う! 俺にロリの要素はカケラもない!」
即効否定。
迂闊に喋られるとヨッパライの発言が公式設定にされかねない。後ろ盾のないキャラクターは色々大変なのだ。
大変。大変なんだよ、マジで!
「……まあ、いいんだけどさ。つーか、俺もそんな面識ある訳じゃねえよ。前に一度あっただけ――名前も聞いてなかったっ
けな、そういえば」
ふうん、と赤ら顔で返答するエリスは、外見そのまま、ガキを相手にする時の視線で少女を見下ろす。
実に一メートル以上高い位置から見下ろすカタチになるので、現場が現場ならお巡りさんが止めに入るような状況だ。
まあ。
お巡りさんだろうが米五軍をまとめた総力だろうが、この怪物を止められるとは思えないのだが。
「あァ、まァなんでもいいわ。テメエの知り合いで生きてる外部の人間ってだけで行幸だろ――ハッ、オマケにどうにも人間臭
くねえ。テメエの知り合いはこんなのばっかだな、よくよくよ」
チ、と舌打ちしながらエリスを睨み付ける。
悪びれない視線に見下ろされながら、どんな状況だコレ、ともう一度肩を竦めた。
- 497 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/11/01(日) 01:42:10
- そういやもうここ閉まるんだったな。時計で日付を確認してみたら
10月は終わり…11月1日を示していた。しかし1日ほどの差が何なのだろうか。
まだ夜の延長、10月31日の終わりではない。だったらせめて来年までの見納めにというのもありだ。
そういうわけで、俺は酒を携えて丘を登る。
ポケットには相変わらずの煮干を入れて。これを齧りながらつきと命を散らす木を眺めて最後の高台を楽しもうと。
心にそれだけを決めて今年最後の坂を上れば、賑やかな声と見知った顔がいくつか。
一人の少女は4度目の出会い。俺が初めての男だそうだ。吸血的な意味で。
もう一人の疲れた顔をした人は神父様。少し影があるのだがその正体を俺はつかめてはいない。
ま、掴む気もサラサラないんだけどさ。
人は誰だってのぞかれたくない過去を持っている。そう、俺も、誰も彼も。
それを無理やりこじ開けてみるというのは無礼であり、野暮であり、また馬鹿だ。秘密は秘密のままでいい。
彼が空を飛ぼうと、俺に害がなければ何も言うまい。
「よお、フラン。お前も見納めに来たのか?あ、あと神父様も?」
後ろで歌っている男には見覚えはない。まあしかし、あれだ。
楽しそうだなあと。
- 498 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 01:43:35
- >>496
酒は飲んでも飲まれるな。
誰の言葉だったかなんて知らないが、後ろのオジさんは確実に飲まれてる。
歌はサビに入ったのかますます熱の入る声。
こんなに楽しそうに歌を歌う人はあまり見た事がないから、
メロディとか発声とか、そんなものはどうでもよく、
いい気分になって歌に耳を傾ける。
「はじめまして楽しそうに歌を歌うオジさん。
また会ったね、いつもは色々な女性といっしょにいるオジさん。
私はフランドール・スカーレット。
紅いお屋敷に幽閉された吸血鬼の分身だよ」
歌がとても楽しかったから。
だから、正直に全部答えてあげた。
ウソをつかないのは人付き合いじゃ大事な事なんですよという門番の言葉を思い出す。
私は正直者だから、だから、狂気さえなければきっと上手くいくはずなんだよ。
多分ね。
「今晩はハロウィン。吸血鬼が歩いていても何もおかしくはない。そうだよね?」
ひょいとオジさんからチロルチョコを奪い取ると口に放り込んだ。
いつかの板チョコに似た味。
「今日はオバケは人を襲わない日だってさ。咲夜が言ってた」
お菓子は奪うけどね。
- 499 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 01:51:57
- >>497
またまた聞き覚えのある声。
ああ、アマダだ。
ここに来るといつも会ってる様な気がする。
お姉様が運命でも操っているのだろうか?
あるいは、この男、もしかして逆に運命の影響を受けないのだろうか?
「やぁ、アマダ。
今夜が本番だって教えてくれたのは貴方じゃなかった?」
記憶違いかしら?
口元に手を寄せ、ウフフと妖艶に笑ってアマダをからかう。
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/ ヽ、 `'<;::::::/-、
|\ ,r┴‐ァ'´ ̄`7ー‐r'´ ̄\__ `Y´ ̄/7
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\/ / / / __メ | ,ハ `ヽ.,__]、:」」
.ト、 ト‐ '| ! /7´lてヽハ / -!‐| Y ,| __
.| \ /\/ |/,八 j__rリ |/イてト/ / 八/ /
\ |/// ,! |.xw . l_rノ,ハ イ| ヽ./
`7/〈 | 八. ト 、 ` - wxノ |ヽ. ', 「トリック オア トリック?」
.|.| `ヽ,ハ'. \.\!>/')--r,<! / 〉 ./
/ ̄>!|. `ア´ ̄`ヽ/ /ヽ]∧-、| /\/ ./
 ̄ ̄ ',', / ,' ´`ヽ.!:::! ∨| | ! 〈
∧\._/ .! ,rノ|:ハ |//、__\)
/ |ヽ,__〈 、__」_ ,| ,ノ |::::|_ 〉' \ ̄\
|/ ∧\_[>‐∨ ム_」::;ハ_]´  ̄ ̄
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サインペンを取り出しながら悪魔が嗤う。
- 500 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/11/01(日) 02:03:56
- >>499
運命…そう、運命か。
我々は皆運命に選ばれし兵士だと、誰が言ったんだろうか。
俺は正直あの蝙蝠の向こう側の目に好かれている自信はない。
だが、こうしてフランと何度も出会っているのは果たしと本当に偶然なんだろうか。
数多に分かれた運命から、どうして彼女と会う運命を引き当てるのだろうか。
「…そう、今日が本番のハロウィーンだ。それでお菓子をねだるか?」
返答は決まっている、彼女は定型文を出して俺から菓子を…待て、何でトリックしかないの?
「さ、最初から落書きする気満々だな、オイ」
額に肉とか書かれるのだろうか。
いや、勘弁して欲しいぞ。油性でそれやられたら本当に落とすのに苦労する。
そういや随分昔寝ている時に頬に髭書かれた事があったっけ。
勿論犯人にはそれなりの報復をしたが、彼女には報復は望むべくもないのだ。彼女の前では諦めるしか手立てがないのか?
- 501 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 02:05:22
- >>497
「ついでみたいに言われてもな」
辟易とした、と空気で解るように告げた。
誰、と視線で問うエリスに、誰でもない、と視線で返す。
「軍人だよ、一応言っとくなら」
言いつつ、待て、と俺は自省した。
俺の知り合いで軍人、などと紹介した場合、エリスの行動は非常に定型化されたパターンを形成する。つまり。
「――言っとくが、普通人だからな。殺したりするなよ」
「え? ああ、うん。大丈夫」
「何する気だったの!?」
>>498
ルナティック、ファナティック、フランティック――フランドール・スカーレット。
ふと空を見上げていたらしい俺は、同じように空を見上げていたエリスが引き戻した視線とカチ合うことになる。
「吸血鬼、ねえ」
視線を横に向けてもエリスには反応なし。
一部ヴァチカンのキラーマシーン軍団は吸血鬼と見れば「テメエはミートボールだ!」とばかりに狂喜乱舞してミンチ機と化
すのだが、エリスが興味を向けるのはケンカができる相手であって殺したい相手ではない。明らかに出演する作品を間違え
ているので、どうぞ君はドラゴンボールでも探しに行ってください、と俺はコレまでに何度告げたか知れない。
「まあ、コイツが普段から色んな女をとっかえひっかえしてんのは今更だが」
「違うよ」
「普段から色々な女をあれこれすることしか興味がないってのは今更だが」
「だから違うよ!」
「まあそれはイイんだよ。興味もねえし。で、誰だサクヤ」
「興味ないなら聞くなよ! 女っぽい名前だから質問しただろてめえ!」
酒も飲んでないのに頭痛がする。ステータス異常は長期戦になればなるほど放置しておくのが非常によろしくないのだが、
エリスはそんなこと気にしないししてくれない。
「……いや」
待て、と俺は眉を顰める。
「サクヤ……咲夜?」
無意識に胸元を探る。シャツの内側から引っ張り出したペンダント。時計盤のあしらわれたアンティーク調のアミュレットを
撫でて、もしかして、とフランドールに視線を向ける。
「……聞くけど。もしかして、十六夜咲夜って知ってるか」
- 502 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 02:17:21
- >>501
―memory―
「とまあ、見事にこうして我々は厄介ごとの地平から帰還したワケだ――お疲れ様」
もちろん、何が見事だったかはわからない。
エルサレムからヴァチカンを通さず名古屋空港へ――ついでにJRとかをあれこれしてどこかの田舎町である。
安い部屋の安いテーブルを囲むのは男三人と少女一人。最後の一人に至っては性別にも意味がない。心情的なネガも
換算するなら、個人的にその勘定は置き物ということにでもしておきたい。
雑然としたホテルの一室。
どうしてこのクソ狭い部屋に大男含む大所帯で押し込んでいるのか。理由は一つで、俺以外の三人が冗談みたいに目立
つからだ。
「まあ、オレは日本の酒もキライじゃねェから全然構わねえんだが。二週間はいるんだろ。善哉善哉――泡盛買ってこいよ
イル」
空になったiichikoの瓶を無造作に背後のゴミ箱へ放るエリス。
テーブルに投げ出した脚は六十センチ四方の台座を殆ど埋めてしまっており、丸太じみた脚の周囲には食い散らかした
ツマミだの酒瓶だの酒瓶だの酒瓶だのビールの缶だのが転がっていて、駄目ウエスタン風味が充満中。なにこの地獄。
「自分で行け。あと死ね」
巨漢にコーラを投げ付ける。エリスは片手でそれを受け止めると、なんだコーラか、とばかりにプルタブを引き起こして一
息に煽り切る。どうやら体内でジョースターの法則はなかったことになっているらしく、ゲップ一つ漏らさない。
「つーか、何この……何?」
僅かに数時間前。コーラを買いに出掛けて戻ってきた俺がドアを開けて目にしたのは、この有様、と言わんばかりの驚愕
の光景だった。
完全にデキ上がった巨漢は2リットルの日本酒(アルコール47%)をラッパ呑みに煽り、その傍らでは見た目少女の何かが
同じように酒瓶を傾け、そんな二人がただの置き物だとでも言うようにモデル然とした男が眺めている。
……あまりにシュールすぎる切り抜きだ。俺はといえば、部屋と廊下を隔てるドアは実はドア型映写機で、上映されている
のはナイトシアターでもレアなイタリアのB級映画(ブラックジョーク系)なのではないかと疑って、そのまま回れ右して見な
かったことにしよう、と決意してしまいそうになったものである。
- 503 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 02:17:50
- >>502
「どうしたイル。体調が優れないなら早く言うべきだぞ」
「体調は別にいいんだけどさ……優れねえのはこの部屋の空気だよ。末期オーラが酷過ぎる」
「そうだろうか」
「そうなんだよ」
ふむ、と心底不思議そうに首を傾げる劉。
清濁合わせて人間、とは言うが、清のケが強くなりすぎたこの仙人サマには濁を百回重ね塗りしても意味がない。……まあ、
空気に色は塗る事ができないのだし、当然と言えば当然なのだが。
イリヤが何かを話してエリスが無意味に爆笑し、劉は何事もなかったように小さく頷く。意味ありげで実はこれっぽっちもない
バカなジョークや雑談までイタリアのB級映画的で、その一員に加わるのはあまりにも楽しくなさすぎた。
問答無用の局長命令でイリヤに同伴させられて早三日。
二人の忠実な従者とオマケ一人、という水戸のご老公スタイルを踏襲した訳でも(多分)ないのだろうが、どうやらエルサレム
の静寂から帰還したイリヤは世界を股に掛けた行脚を決意したらしく、今はこうして日本の片田舎に腰を落ち着けている。
窓の外には見慣れない景観(まち)と聞き慣れない声。
外には地方都市独特の長閑なんだか賑やかなんだか解らない気配が漂っている。実はコンビニ帰り、絶滅危惧種かと案じた
特攻服を見掛けてしまい、携帯のカメラに収めようとして絡まれたくらいだ。だが、和やかなムードで鉄拳制裁して岐路に着いて
みればコレである。欝にもなる。旅の醍醐味は異境の空気を満喫するこであって、異郷を自分の空気で染め抜いてしまう連中と
顔を突き合わせていることではない。
「……いつまで待機する必要あるんだよ。先方からの連絡ってヤツは?」
「ないよ」
事も無げに言う。
頭痛をこらえて、俺はアルコールの匂いで淀んだ天上に視線を馳せた。
エルサレム――連夜として続く死の風景から日本に戻ってみれば、訪れたのは待機地獄で、何かしていないと鬱々としてくる
心情の俺としては、正直勘弁してくれ、と言いたくなる現状である。千夜一夜の銃撃の方が、耳鳴りがするほどの静寂よりマシ
だ、という状況は現に存在するのだ。
「ま、状況は解ってるんだがね」
「……っつーと?」
見た目十代前半の少女がウォッカの瓶を一息にして空瓶をテーブルに置く。すばらしく前衛的な光景を見せてくれたイリヤは、
そうだね、と前置きして、
「先日のエルサレム。アレの亜流のヴァージョンだよ、これは」
眉を顰めた、と思う。はぐらかすな、と毒づく俺に、イリヤは軽く首を振り、
「だから。解らないかな。あの暴動にしたって、どう考えても自然発生的なモノじゃなかっただろう? 確かにあの種の大規模テ
ロには下準備から何から何までを含む潜伏期間が必須だが、それにしたってあのタイミングはおかしすぎた。現にモサドもまる
で対応できちゃいない」
- 504 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 02:18:38
- >>503
エルサレム、と言うのは、俺達がここに来るまでに対応していた案件のことだ。
イスラエル・パレスチナ国境地帯。
住民多数に死傷者を出した連続テロは、この数日間、各種メディアを終日引っ掻き回している。
「だから、アレはそもそも人為的なモンだったろ。何のために俺達が出掛けたんだよ」
「そうだよ。だから私達が原因を除去したら自然に状況は収束した――イスラエル全土に張り巡らされた反応のネットワーク。
アレが原因の根幹だった」
ああ、と俺は頷く。
「アレの要諦はわかるね? 理屈は凄く単純なんだ。特定の思想を持つグループやその周辺の人脈が築いた環境の連合。流
行り言葉と特定の差別――その連鎖反応が自発的に拡大して、最終的には大規模な暴動を引き起こす。傍目には様々な偶
然が重なったようにしか見えないから、一見して人為的な暴動だとは思われない」
「冷戦時代のCIAもやってた手口だ」
「そ。あの時代のラングレーは優秀だった――まあ、ともかくそれだよ。ある状況を作り上げることで、人間は特定の状況を進
んで作り上げてしまうんだ」
「今回もそれだって?」
「そういうこと」
と、イリヤは俺に携帯を放ってくる。ガンガンにイレギュラーなチート改造を施された携帯の画面には、それまでブラウジング
されていたネットのBBSが表示されていた。ローカルな地域掲示板らしいが、内容は非常に物騒だ――「機能の自殺について」
「三日前に殺されてた人って」――その他諸々がこの調子。とてもではないが、一地方の掲示板の内容とは思えない。
「似てると思わないか? 街の規模で言えば、こんな田舎町なんてあの国境ほどのサイズもない。だってのに日本は無駄にイ
ンフラが充実してるから、情報の伝達速度は段違いだ」
まあな、と納得して頷きながら、俺は釈然としない気分を飲み込む。
「……でも解らない。そうやってインフラが充実してても、日本は法整備も無駄に進んでる。そんなアレな思想が蔓延し始めたら、
警察だって一応は気付く。まして検疫局が気付かない訳が――」
「インフラがどうの、なんて関係ないよ。状況に応じた情報が蔓延することで、この情報流はクリティカルな効果を発揮する。そ
のパターンは国々で様々だ。なにも危険思想だけが破綻を促す訳じゃないんだよ――そうだなあ、ちょっと例を出してみようか」
何が、と問い返す俺に、イリヤはミネラルウォーターのボトルを差し出してくる――喉が渇いていたのもあって、そのまま口に含
んで、問答無用で吹き出した。
鼻が熱い。というか喉が熱い。
口に含んだのが水でなくてアルコールだ、と気付いたが、バカ高かった度数は喉の中で気管をイジめながら暴れている。ほら、
と次のボトルを差し出してきたイリヤを恨みがましく睨みつつ、焼ける視界でそれを受け取って一気に飲み干す。ここでアルコー
ルを追加すれば日本風のコメディではあるのだが、それをやれば俺がこの部屋で暴れることを解っているイリヤはボケに走るこ
とはなかった。
「……悪い、助かった」
思わず先に差し出されたイリヤの水を受け取ってしまってから、劉が差し出してくれたウーロン茶に気づいた。
ボトルが宙で浮いたままの形で静止している。
劉は半瞬そこで固まって、俺とイリヤを交互に一瞥、ほんの一瞬、イリヤにきっつい視線をくれたかと思うと、ずい、とボトルを
差し出してくれる。
「飲むといい」
「……いや。あの、もう大丈夫なんだが」
「飲むといい」
ずい。
「……どうも」
ボトルを受け取ると満足げに頷く美形俳優――ではなく、美人な仙人様。
正直こいつがわからない。こいつ以外の二人もわからない。世界は不思議に満ちているが、近所はカオスに満ちている。
- 505 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 02:19:19
- >>504
「とまあ、こうして私は劉に先んじて君に水を渡せた訳だ――なぜだと思う?」
「はぁ?」
イリヤはくすくすと笑いながら、テーブルごしに、ずい、と顔を近付けてくる。鼻先が俺の鼻に触れるような至近距離。アルコ
ールの匂いが鼻を突くが、それ以前に色々とまずい距離でヤバい位置だった。
「何故だ」
と聞いたのは、俺ではなく、俺の鼻先にあったイリヤの顔に手を当てて横に振り払った劉だ。
黒曜石のような瞳は剣呑にイリヤを睨み付けている。イリヤは肩を竦めると、
「……んーと、ま、ラプラスの悪魔を想像してくれるといいね。ある未来は、単にありきたりな次元の一つとして表現される世界
だ――その系におけるあらゆる事象は、ある一点の状態が定義されれば、その点から進んだ未来は現在の状態から演繹さ
れる条件で定義される。つまるところ、この世界の全ての状態は決定されている」
「量子不確定性はどうすんだ」
「無論、割り込んでくるだろうね。けれど、その不確定性さえも計算されるのなら?」
舌打ちする。
コイツはこう言っている――自分にとっては過去も現在も未来も同列の事象に過ぎないのだ、と。
それはその通りなので、尚更に苛立たしい。あらゆる結果と結末を知りながら、イリヤは易々とこの世界を見捨て続ける。
「イルは酒に強くない。ビールやカクテル程度ならいいが、泡盛なんて飲んだら一発でアウトだ。私はこの部屋でのイルの行
動を全て観察して、イルの思考条件を精査する事で、劉、君に先んじたというわけさ。人間は自分で考えてるほど「選択」なん
てしていないんだよ。ある条件下に置かれた人間は、思想や思考の違いはあっても、驚くほどに似通った傾向を示す。逆に言
えば、「思想」だの「思考」だのの差は、物理的な条件下にあっては容易く制御されてしまう物だ、と言ってもいいかな」
「俺のアルコール耐性なんぞに託けて言われてもな……」
「それに限らないよ。サブリミナル効果なんてみんなそうさ」イリヤはおかしげに笑い、「マクドナルドの座席の硬さを調整する
事で客入りのサイクルを加速させる、なんて戦略は大真面目に存在するし、80年代に流行った映画でのコーラの画像埋め込
みなんてのは、心理学と社会学の合いの子が生み出した実に効果的な心理戦略だ」
それで、と俺は促す。
話の筋は完全に見えてしまっていたが、一応締めておかなければいけない話もあるのだ。
「エルサレムでの一件はそれだよ。思考バイアスの統制――オーウェル流の思想制御だ」
「……制御……」
「元はイスラエルで作られた神話素だったんだが、どこかのバカがパレスチナ人のデモグループ内部に浸透させたらしくてね。
その結果が――」
連続自爆テロの再演と、それに引き摺られたアサシンと十字軍の宗教戦争の再現。一夜で死者500人を叩き出す、今年最
大の殺戮劇。
エドワード・サイードはオリエンタリズム、という言葉を憎悪した。
強く、豊かな西側の国家が、道路も満足な研究施設も持たない愚鈍な国だ、と一括りにする言葉。その言葉が憧れのような
響きを持っているのはまやかしで、それは単に未知の世界が野蛮な脅威と科学から切り離された未開地だと言っているような
物でしかない。
それはここ、日本でも同じことで、この国ではパレスチナも南アフリカもソマリアも「危険な東側」でしかない。……「秘境探検」
だのなんだのはアメリカにも日本にも共通のバラエティ番組だが、俺達がそれを嫌悪と共に視界の外に締め出すのはそんな
理由だ。
「……そんなこと言ったら、メディアなんて全部アウトだ。アフガンもイスラムもタリバンもビン・ラディンも、「アレは悪い」って繰
り返し語られることで「とりあえず悪いなにか」でしかなくなった――そういうことだろ、それって」
繰り返しメディアで語られることで、テロリスト、と名指しされる者達はテロリストでしかなくなっていく。世界はそんな人間を丸
ごと「テロ屋」としてしか見なくなるし、そうなれば本人達はますます強固に世界への敵意を剥き出しにする。
次から次へと繰り返されることで意味を肥大化させる言説のパラフレーズ。引用され、確認され、悪は悪だから悪なのだ、と
世界は認識を確実にしていく。
そして。
そうやって、まるで人事のように語る自分を、口にしてから殺したくなる。自分が本質的にはアフガニスタンにもタリバンにも関
係がないのだと理解することで安心している自分がそこにいる、という欺瞞。
そこで、俺は自分が日本人であるという事実を強く意識する――殺し、殺されることに関わりながら、本質的にはそれを傍観
している自分が存在することで。
- 506 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 02:21:17
- >>500
サインペンのキャップをきゅぽんっと外す。
ふわりとペン先から香りが漂う。
そう、まごうことなき、油性。
どこで手に入れたかって?
レントンのとこのコンビニに決まっているじゃない。
ラクガキするならどのペンがオススメ?って聞いたら
油性に決まってますとの答え。
ならば是非も無し。
「大丈夫だよ、ラクガキされても。減るもんじゃないし」
カリスマが減るからやめてー。
そんなふうに言うお姉様を幻視して脳内で苛めながら、
アマダにニコニコと笑いかける。
「でもね。悪魔はチャンスをくれるものなのよ?」
そう言ってキャップを戻す。
手の上でペンをくるくると回しながら先を続けた。
「こないだの答えを聞かせてよ。
そしたら、いたずらは先送りにしたげるからさ」
>>501
「吸血鬼に見えない?
じゃ悪魔でもいいよ、どっちにしてもただの分身だけどね」
退治するならきっとわけないはずさ。
フォーオブアカインド。
魔法で作り出された仮初の体。
本体が寝ている今だからこそ、本体に限りなく近い制御ができているが、
所詮はつくりもの。
本体からこんなに離れた今、戦闘能力は見る影も無い。
その上、稼働時間を延ばすために魔力をケチりまくっている。
ひょっとしたらそこのアマダでも勝ち目があるくらいに。
「ん?
オジさん、咲夜を知ってるの?」
イザヨイのサクヤがそう何人もいるとは思えない。
うちのシンデレラに違いない。
アマダが神父と呼んだ方のオジさんが取り出した時計の文字盤を見て目を丸くする。
「……すごいね、オジさん。
咲夜が他人にプレゼントを贈るなんて、珍しい」
あの人間の娘はお姉様にべったりすぎて友達が少ない。
ましてプレゼントを贈る相手など……
それこそ紅魔館の人間以外じゃ片手で足りる数だろう。
しかも手作りっぽいし、なにより彼女の能力が込められている「ホンモノ」だ。
だから、茶化すこともなく、嫉妬する事もなく、
ただ、感心した。
「よっぽど気に入られたのね」
- 507 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/11/01(日) 02:23:04
- >>501
むむ、順に目が入った者から挨拶していったんだが、気に障ったらしい。
ついでみたい、か。しかし俺にとってのメインはここでゆったり酒を飲んで過ごすことであり
出会いというのはたまたまついてきた肴でしかない。筈なんだが、どうしても会話が弾んで
メインに成り上がるのもまた出会いの恐ろしさ。
「…ああ、えっと。主よ、日ごとの糧を感謝します。いただきます。アーメン」
混ざったな。食前の祈りなんて最後にやったのはどれほど前なのか。
教会にいくことすらこのご時世疎かになってしまった。科学の発達と娯楽の氾濫は
宗教的儀礼の価値を薄める。戦争によってまた縋る者が増えているという統計もあるが。
彼が後ろの大男に俺を紹介した瞬間、寒気が俺を襲った。
風の冷たさではない、もっとこう、今から挽肉にしてやるといったグロテスクな悪意を含んだ殺気とでも言えばいいんだろうか。
神父様がフォローをするとそれはすぐに形を潜めたが。
「…いや、お気になさらず。俺は月を見ながら酒を飲みに来ただけですから」
- 508 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/11/01(日) 02:32:02
- >>506
ペン先から漂う独特の香りはどうしても俺に絶望しか思い起こさせない。
定番の落書きから、彼女の独特のセンスが爆発した作品まで。何を頭に思い描き
何を人の体に書き込むつもりなのだろう。
だいたいなんで人体なんて限られたキャンパスに書きたがるんだ。もっと広いところでやれよ。
そんな恨み言を全国で人の顔にマジックで落書きする事が趣味の人間に向かって吐いた。
「社会的信用と俺の心が磨り減るの、それは」
適当の木の根元に腰掛け、俺は安くて小さな酒瓶から栓を抜いた。
俗っぽい臭いが鼻を突付き、悪酔いしそうだなと心の中で呟いて苦笑した。
「…この前の、続き。『身近な人が殺したいほど憎かったら、どうするか』か」
持参した杯の中に酒を並々と湛え、月を映し、次いで自分自身の苦笑いを映した。
難しい問題だが、自分なりに考えるだけは考えた。
あとは言葉にするだけなのだが。
「待て、素面でする話じゃない。多少酔って心のブレーキを外したほうがいい」
俺は一気に胃に酒を流し込んだ。
- 509 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 02:39:35
- >>506
「ビンゴかよ」
……以前にここで会った知人を思い出す。
月代の色を思わせるメイドさん。重要なので繰り返そう。メイドだ。断じてジョークでなければメイドっぽい何か、でもない。
ともあれそんな稀人からのプレゼントがここ数日付けっぱなしの護符の主だったのだ。
どうしてサクヤ、なんて名前でこの少女と彼女が結び付いたか、を説明するのは難しい。
『君は文脈をカラダで理解するからね。空気は読めないくせに』
そうイリヤに言われたことがある。
あらゆる物事の相互作用――場所が秘めた文脈、行間。どこでどんな人間がどんな縄張りを作って、どんな思想が地域
では支配的な層を形成しているのか。
――俺には、あらゆる状況が別個の事象として感じられる。
マクスウェルが、アインシュタインが、ワトソンやクリックがそうだったように、と言えば言いすぎだろうが、俺にとって状況は
不確定な何か、ではなく、名前を付けて明示されるべき状態、としてしか捉えられないのだ。
「……気に入られたって、俺がか」
だから、と言うわけではないが、フランドールの背景とサクヤ、という音には連なりを感じていた。
つくづく偶然が重なる。偶然――いや、イリヤに言わせればこれも必然なのだろう。
俺達は何も選択できない。
濁った心象を噛み砕くと、頭上に視線を感じた。頭二つ分高い位置から、巨漢が俺を睥睨している。
「なんだよ」
「別に。オマエ、ここで知り合いができたのか」
「そうだよ」
「ふうん」
と、エリスは目を細めると、
「腑抜けてんじゃねえだろうな」
凍て付くような声が落ちてきた。
>>507
「だとさ」
「オレらが先客ってワケだろ。……念押しすんじゃねえよ。獲って喰いやしねえ」
する気だったのか。
額を押さえる俺と、次のビンを早速煽り始めるエリス。
アルコールの匂いを濃密に振り撒きながら、で、と俺に横目に問う。
「なんでオマエはこんな場所でワケの解らない縁なんぞ作ってやがるんだ?」
それは――心底から解らない、と言いたげな、殺意すら孕んだ声だった。
- 510 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 02:46:32
- >>508
お酒お酒お酒。
周りにお酒好きは多い。
幻想郷故致し方無しという声が脳内に響いてくるが、
そんなことを言ったって、私はあんまり得意じゃないのは変わらない。
いや、嫌いなわけじゃない。
すぐに酔ってしまうのだ。
そうなるとタガが外れていい気分になって加減が聞かなくなって見境がなくなる。
端的に言えばそれだけのことで大したことじゃないんだけど、
その範囲に巻き込まれる方にとってはそうじゃないんだろう。
そのくらいは分かる。
「ラクガキくらいで磨り減るほど心弱くないくせにぃ。
初対面のオンナノコとシンデレラごっこした猛者の台詞じゃないだろ」
ケケケと笑う。
意地悪。
まぁ、ちゃんと悪戯は止めているのだからこのくらいは……
……あれ?種類が変わっただけで悪戯してない、私?
まぁいいや。
私は崖の柵の間に張られたロープに腰掛ける。
道を挟んでアマダと、神父とあと歌のオジさんと相対する。
これはきっと人間とそうでない物の距離。
>>509
呆けたような声で神父が呟く。
実感無いのか。
普通気に入りもしない人にプレゼントなんてしないと思うんだけど。
一般常識的な意味で。
と常識の無い悪魔が思う。
しかし、彼に冷たい言葉をかけるのは歌のオジさん。
さっき歌っていたときとうってかわって楽しく無さそうな気分が伝わってくる。
「うふふアハハ」
大丈夫、狂気におかされたわけじゃない。
これはわざと。
挑発のためのピントのずれた笑い。
「おかしな事言うね、歌のオジさん。
縁ができると腑抜けなの?知り合いが出来るとダメダメなの?」
可笑しかった。
運命を操る吸血鬼の僕が出会う縁を断ち切ることなんて簡単にできやしないだろう。
そんなことで不機嫌になるオジさんが可笑しくて、ちょっと共感した。
お姉様を見る私みたいだってね。だから。
そう、だから。
「決めたよオジさん、私、フランドールはオジさんを友達にしよう。
だから名前を教えなさい」
これでお前も腑抜けの仲間入りなのさ!
- 511 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 02:57:02
- >>510
「普通ならな。――だがな、生憎と状況が違うんだよ」
穏やかに笑うエリスの表情は、実情を語るならまるで穏やかでない空気を詰め込んでいる。
待て、とフランドールを庇う形で向き直る。
「何絡んでんだ、てめえ。今日は状況が――」
「――どうしようもない人間はいるんだよ。オマエが真っ当な人間でないようで何よりだ――遠慮なく喋れるからな。いいか、知
り合った人間を根こそぎ殺しちまうような野郎がだ、縁だのなんだの持ち合わせていいワケねえだろうがよ。自殺に巻き込まれ
た方は災難だ」
冷めた金色の双眸が語る。
否定する言葉はなく、俺は黙り込む。
そうだ。
だから俺は必要以上に関わらない――関われない。
「友達ってのは正直よく解らねえが――名前ってのは、ただの記号だ。そんなもんに意味があるって信じられるのが、オレには
かなり信じられねえ。――だから教えてやるよ。オレはエリス。<災いの女>だ」
- 512 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/11/01(日) 03:05:21
- >>509
「ワケの分からない縁!いいじゃないか。自分が自分として生きる、きわめて無駄でありながら
なおかつ人を輝かせる要素だろう。素晴らしい」
酒が入っていたせいかいつもよりも大きな身振りでこんな事を平気で言える。
たまたま耳に入った言葉は俺を電気で撃ったかのようにこのような言葉を吐き出させた。
「人間らしく生きたいというのは人間の欲求だ。支えられながら生きていくのが人間。
他人無しでは生きてられない。だからこそ他人を多く作りたがる。顔と名の知れた他人を」
俺は何故この冷たい目をした男に熱く語っているのだろうか。
理由なんてわからない。酒の勢いかそこらだろう。
- 513 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 03:07:37
- >511
時がとまったかのように私の笑みが凍りつく。
「え?」
彼の言葉が脳内で反芻される。
だめだだめだだめだだめだ。考えてはだめだ。
全力で各所がブレーキ体制に入るが思考が止まらない。
>いいか、知り合った人間を根こそぎ殺しちまうような野郎がだ、
『いい、フラン?
貴方の力は制御できていない、誰を壊してしまうかわからないのよ?』
>縁だのなんだの持ち合わせていいワケねえだろうがよ。
『だから貴方は地下に』
>自殺に巻き込まれた方は災難だ
『その気もないのに壊される者が可哀想だわ。
貴方も壊したくないものを壊してしまうのは嫌でしょう?』
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-=く/ l ∧ ヽ。.,_::::::::! l ..: r- 、 `/:::/==zzr 、--,( ヽ=:::::::/1:::::::、::ヽ,_/、
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j! .∨ fヽ::::ヽ、 l1 {1 、ゝ ヾfz゚ノ>:ヽ、─- - 、 ヽ jヽ! /j /:::
l|! ∧ \::::ヽ、ゝ!ヘ、 !へ、`=-:::::::::、 ,r──'´ ヽ ./1 /:/´
j!' 〈、r〉 8、::::ヽ,/ゝ、_ヾ、: 、ヽ‐r-___`ニv7⌒ヽ、 ヽイ"´:::ノ8
{ ∨ ∧ ヽf/:/ l ヾ !7ー─'´1/l jヽ_r ヽ:/ ∧ 「……なんだと?」
ヽ / ヽ{! ! i ヾ、 j!ィf l !i /夂⌒ヽ、 ヽ 〈Y'〉
ヽY./ ヽ ヾ、_fニヽ ト!`ー 、 r‐'フ1 /クヘ{ .ヽ ヽ .∨
∨ `>´ 弋1.ノ >'⌒`'ヽ、V'えイ j! ヽ
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_,.-'7 /::::::'ーr__/1⌒lヘ/r'^ー'::::::1 l rvヘ ,
r'": /.:::::::::::::::/ ! .l1 ヽ:::::::::::::::l f ノ、 ヽ、 l
l::::. ..: : : l:::..:::::::::::/ / lキ ,:::::::::,..::1"´ `ヽ、 、 l
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/::`ーヘrィ7 ,l::::/ ! l ! _〉:::::..::::::ヽ
/:. ::/.γ/ i! |! ,.ゝ::::::.:::::::.::::!
空気が震撼する。
周囲に殺気が満ちる。
滲み出した狂気と魔力に空間そのものが軋みを上げる。
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- 514 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 03:10:20
- >>513
STOP!
踏みとどまった。
自分でも信じられないことだが。
分身だから狂気の影響が弱いせいか。
それとも最初から魔力をセーブしていたからか。
あるいは沈み込んだ神父の顔を見たからか。
とにかく、私は、フランドール・スカーレットは踏みとどまった。
大きく深呼吸すると静かに魔力を収めていく。
おさまったのには理由がある。
それは……
- 515 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/11/01(日) 03:16:11
- >>510
「引きずってくれるな…俺だって今だと恥ずかしいと思ってるんだ。咲夜と俺のために心の中にしまっててくれ」
酔えば周りがいつもより陽気に見える。
例え見た目の豪奢を追い求めて実際はくすんだ色をした町でも、酒はいつもより色とりどりに見せてくれる。
どこか冷めた目で斜めから見下ろす自分を、殺してくれる。
素直に、その町を綺麗だなと思わせてくれる。
「…オーケー。それじゃあ始めようか」
いつでも二杯目を胃の中に押し込めるぞという準備をして、俺は不思議と冴えている頭から
以前と現在の考えを混ぜ合わせて答えを積み上げていった。
「人間は」
ゴホン、と一度咳き込んだ。
「人間は誰だって、身近な人間を憎いと思うことだってある。程度の差があれ…時には殺してやりたいと思うときも。
極限の報復を行ってやりたいという考えに行き着く可能性は、誰だってある」
そこまでに行き着く可能性。誰だって、勿論俺だって。神父様だって。
そしてそこにいる答えを求めて座す少女だって…彼女は俺と違って、もうたどり着いている。
憎い、殺したいほど憎いものが、間近に居るのだ。
「そして、それはかつて多大な好意を持っていたという場合も、経験上多かった。しかし、だからこそ許せなくなったりする。
好意の大きさに比例するかのように、そんな親身の裏切りや不理解や…理不尽。それらが許せなくなる。
大好きだという感情が、そのままそっくり裏返って、大嫌いだになる時だって。許せない、殺してやるっていう風に。
でもさ、だからこそ俺はそんな感情を抱いたら…」
抱いたら…どうするって言ったら決まっているんだけどなあ。
もう一杯酒を飲んだ。今度はすんなり出そうだ。視線を彼女から、スペースノイドの母たる宇宙に移す。
「そんな感情を抱いたら、勤めて許そうと思う。どれだけ苦しくたって、許そうって。
心の中身ってさ、ある意味宇宙なんだ。広々としていて、危なくって、難解で、だけど綺麗で、果てがなくって…。
俺たちはその中で無数の輝きを見て生きている。だけど、その中から出る事は、出来ない。
だから、人が人の全てを分かり合おう何て叶わない幻想に過ぎないんだ。他人の考え全てを見通すのは俺にできる事ではない…。
俺は嫁さんを愛しているが、その嫁さんは俺を本当に愛しているかどうかなんて知る由がないんだ」
溜息。言葉をひねり出しすぎて、頭の言葉の貯水槽が空っぽになった気分。
だけどそれは瞬時にまた満たされる。
「だけど、俺は表面的でいいから分かり合いたい。人間の本質が例え孤独だったとしても。
お互いに孤独なら、俺は相手を許そうと思う。許さなければ…二度と人を許す事が出来なくなりそうだから。
許しあう事が、相手の閉ざした心に触れる、一つの手だと思うから。
俺は、憎しみを抱いたら、相手を殺す手段を考える前に、許す道を探す。それが俺の答えだ」
一息ついて、また酒を飲んだ。
- 516 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 03:17:12
- >>512
チ、と盛大に舌打ちする音が聞こえる。
エリスだ。
「ヨソで言ってくれや、軍人サン――少なくとも、このガキの視界の外でだ。コイツがカン違いしちまったらどうしてくれる――
『もしかしたら、自分も誰かと関われるのかもしれない』だとかよ」
救えねえ、と吐き捨てる。
知ってるよ、と俺はエリスを睨み付ける。
知ってるから、わざわざ口に出すんじゃねえ、と。
「聞くがよ。アンタは誰にでもそう言えるか? シリアルキラーだのサイコパスだのに、『優しさ』が溢れた世界に切り刻まれて
きたヤツに、平然とそんな声を掛けられるか? 助けてほしい時に限って他人全部に裏切られたヤツに、支えがある人間が
いる、ってその事実に自体に殺されそうになってるヤツにだ」
止めろ、と俺は呟く。
「救われる誰かがいる、って事実がコイツを殺すとしても、だ」
「――黙れ」
傍らの巨漢を睨み付ける。
フン、と嘲るようにエリスは笑う。
「台風だの核爆弾だのが知り合いを欲しがるってのがハナから間違ってるんだよ――寝惚けるな、クソガキ」
- 517 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 03:18:18
- >>511
「エリス、似合わない名前ね」
落ち着きを取り戻し、いつもの調子が戻ってくる。
少しばかり声のトーンが高いが、このくらいは容赦してもらいたいものだ。
危うくレーヴァティンを取り出す所だった。
「いいか、エリス。
私はお前と意地でも友達になってやる。
お前は絶対に壊さないわ。
知り合った人間を根こそぎ壊してしまうとお姉様のお墨付きをもらった私が、
全身全霊をかけて、お前を壊さずに友達にしてやる」
そう。
私は神父に自分を重ねていた。
その上でここで暴れたら、壊そうとしたら。
全てはエリスの言ったとおりになる。
お前なんか忌まわしい破壊の存在に過ぎない。友達などできるものか。
知り合いですら忌まわしい。
縁をつくるな、このクソ餓鬼が。
そんな声に膝を屈するのが我慢ならなかった。
だから狂気も怒りも悲しみもなにもかも、かろうじてねじふせるのに成功した。
もちろん本体だったらこうはいかないだろう。
狂気に飲まれ、踏みとどまることも出来ず、この高台そのものを世界から消し去っていたかもしれない。
そこでようやく私は自分のクチビルを噛み切ってしまっていることに気がついた。
- 518 名前:不確定名:悪魔の妹とは何の関係もない南瓜怪人 ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 03:28:22
- >>515
「アマダは強いね……」
クチビルを袖口で拭いながらぽつりと呟く。
私はちょっと罵声を聞いただけでこれだ。
悪いのは自分。
本当に憎いのはお姉様じゃない。自分だ。
壊してやりたいのは自分だったんだ。
でも自分を壊せるほどの強さは私にはなくて、
お姉様に壊してもらいたいから、私は暴れだしたのかもしれない。
そこの神父は自殺を願うのか?
だとしたら私より強いのかもしれない。
相手を許す。
もはやそれは想像のはるか彼方だった。
理解の地平の……いや次元そのものが違う感覚。
許すって何を?
許せないのは誰だ?姉か?それとも……
「アマダみたいにはなれそうもないよ……」
悔しいから諦めはしないけれど。
- 519 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 03:37:33
- >>517
ク、と囀るような声。
くつくつとくぐもるような声で喉を鳴らしたかと思うと、時を置かずに笑声は空気を震わせるような爆笑に変じた。
心臓を鷲掴みにされたような冷気が、背筋から首筋へ這い上がってくる。
「――どこぞのガキが同じようなお墨付きを持ってやがる。一度狂ったら隅から隅まで世界を焼いちまうから、誰とも関わる
な、ってな――まあ、そいつは自分で『友達』なんてセリフを口にすることもできねえ臆病モンなワケだが」
金色の瞳が俺を見下ろす。
だから、と言葉は続ける。
「分を弁えてるワケじゃあねえ。ただそいつは怖がってるだけだ――だがな、オレ達みたいなのは、お互いしか理解し合えね
え。どう足掻こうが、どう理解しようが、だ」
フランドールが語る。
お前を友達にしてやる、と。
俺は――知っている。自分がそんなことを願ってはいけないのだ、ということくらいは。
割り切っているし、理解もしている。縋れば朽ちる誰か。頼れば死ぬ誰か。
「俺、は……」
目が霞む。
脚が震える。
何を今更、と誰かが呆れた声を上げる。
いつかどこかで殺した誰かだとは解ったが、どう頑張っても名前が出てこない。
バカじゃないか、と誰かが落胆する。
当然どこかで殺した相手だとは解るのだが、やはり名前は出てこない。
「イル」
「え」
反射的に両腕を交差させて顔面を庇っていた――飛んでくる拳を認識したのはその瞬間。
「――っ!」
飛んできた裏拳を受け止めた瞬間、ダイナマイトが爆発したような衝撃。一瞬、目の奥に光が走り、直後に視界が暗転。
ばっしゃん、と盛大な水音。冷たい水温で視界が開ける。
「痛っつ……! てめ、エリス……!」
ゲホゲホと噎せながら水面に顔を出す。
目前には揺れる月影と蓮の漂う黒い水。
現実味がまるでない。ロケットを背中に括り付けられたみたいに中空を滑走した距離はざっと二十メートル。遥か視界の
遠くには、裏拳を振った姿勢のエリスの姿がある。
両腕には激痛。叩き込まれた裏拳で両腕の筋肉は破断寸前だ。
……ある意味、ブッ飛ばされて正解だ。下手に耐えていたら確実に両腕はヘシ折れている。
周囲には大量の蓮。背後には二メートル前後の巨大な岩が突っ立っていて、よく見れば煤けて解れた注連縄が巻かれ
ている。何かを奉っていたのか鎮守の名残かは解らないが、擦り切れて千切れそうなそれを見る限り、大切にされている
とは言い難い。
- 520 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 03:37:52
- >>519
空と目前の水面には上弦の月。
叩き込まれた蓮池は腰辺りまでの深さ、広さは直径三十メートルあるかないかだが、丘の上にこんな物があったことに
こそむしろ驚いた。
俺が身じろぎするのに合わせて、水に映る幽陽は不安定に揺れる。奇妙に神秘的な光景ではあるが、それをブチ壊す
のは向こうからズカズカと無造作に歩いてくる巨漢の影だ。
「……どういうつもりだ、このハゲ野郎」
「ハゲてねえだろ。時期外れだぜ、水浴び」
「フザけんな。なんだ、ハエでも止まってたってか」
悪びれずにエリスは言う。
「ん、おお。それだイル、ハエ止まってた」
「ウソでしょうそれ!」
「まあウソだけどな!」
ガハハと笑いつつ、巨漢は酒瓶を傾けて更にゲラゲラ笑う。ガハハとゲラゲラ。品の無さでは既に天上知らずだ。
実際、ハエでも払うような動作でしかない。エリスにとっては事実そうだろうし、意図もその程度だろう。問題はその実情で
――コイツが意図して振り払ったなら、その一振りは山すら砕く――そして、それは比喩でもなんでもない。
俺を薙ぎ払ったエリスの左手を、月光が薄明かりでライトアップする。
浮かび上がるオリエンタルなタトゥー。聖痕じみた印章。それがただの刺青なら珍しくもなんともない――が、ジャクソン・
ポロックのアートを彩ったような幾何学模様は、見紛うこともなく手の甲で生物のようにのたくっている……ばかりか、己が
下地である手は狭すぎるとばかり、陽炎のように揺れながら周囲の空間を侵食している。
「しっかしまあ、アレだ――オイ、よく消し飛んでねェな。ああもう、毎度笑える肴だぜオマエ。今のはアレだ、ちょっとした小
隕石の衝突程度にはなってたと思うんだが」
「笑えるな――即死狙いかよ。ああ、そりゃ笑える。お前ちょっと校舎の裏まで来い」
フン、と鼻で笑うと、エリスは歩いてきた方を振り返る。
フランドールと軍人さんが立っていた位置は、既に数十メートルも先だ。
「解るか――コイツはコレで死んでない。人間語るにゃ、とっくに遅すぎるんだよ」
- 521 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/11/01(日) 03:46:42
- >>516
「そいつは正論だ。俺がいくらイカレタ連中に優しい言葉をかけようと彼らは聞かない可能性が大きいし
聞かせている間に俺が切り刻まれる可能性だって含有している。今の『優しい世界』が誰かを追い詰めている
のもまた、一つの事実だ。だけどなあ」
中々頑固な男だ。俺には理解し得ない領域。
だが、それでもだ。
「この今の『優しい世界』が本当に全員に優しいかどうかなんて分かりはしない。そして全ての人間を救う事が出来ない
不完全な優しさであるという事実があるからこそ、個人は目の前の人間に優しくするんだろうが、違うか?
イカレタ連中モドキなら俺は躊躇せずに言葉をかけてやれるさ。テキサスタワーに上る一歩を踏み出さないために」
酒は怖いもんだ。ここまで俺は饒舌であっただろうか。
>>518
「いいや、弱いさ。人に何かおせっかいをかいて、優しくしてやらないと無力さで窒息しそうなくらい」
自嘲気味な笑みを口元に浮かび、酒をまた飲んだ。
そうだ、俺は上辺は強いように見せているけど内心は酷く脆い。
特にフランと話し始めたころから強く意識するようになった。自分の優しさの理由を。
「…人は孤独だ。だから、優しさも他人ではなく、自分の為でしかない」
空の瓶を袋の中に放り込み、フランのほうへと歩く。
そして目線をしっかり水平に合わせて、彼女の肩を掴んだ。
「…なれるさ。お前はただ許したり許されたり、優しくしたり優しくされたり。
その意味にただ慣れていないだけだ。大丈夫、きっと少しずつ慣れていけば自分が何をすべきなのか、分かる。
殺したいほど憎い相手を、どうすればいいのか。俺よりもずっと良い答えが見つかる」
そういって笑いかけたが、もしかしたら顔に寂しさが浮き出ていたのかもしれない。
- 522 名前:フランドール ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 03:52:13
- >>519-520
何をするのかと眺めていたらいきなりのパンチ。
神父は吹き飛んで池に落ちた。
何が可笑しいのかエリスはゲラゲラと笑う。
人間語るのには遅すぎるそうだ。
私は小首をかしげてエリスに問うた。
「素でわかんないんだけどさ、我が友エリスよ。
人間だとかそうでないとか、それって大事なの?」
というか、そんなパンチ打てるお前だって人間扱いしてもらえるとは思えないね。
人間の集団ってのはそういう連中だ。違うのは怖い。
実感したわけではないが、お姉様にせよ門番にせよ人間への見解はほとんど同じ。
何度も聞いたらさすがに頭に入るというものだ。
「そもそも、死んだって死なない人間だっていっぱいいるじゃん。
お姉様が咲夜と夜遊びと肝試ししに行ったときに会ったって聞くよ?
カグヤとかいうのとモコーとかって言うの。
私は友達が人間かどうかなんてどうでもいい。
手加減して弾幕ごっこで遊ぶのはできれば人間と、がいいけどね」
足をぶらぶらさせて、声が届くように大声でエリスに言う。
「で、結局エリスは何が言いたいのさ?
そのイルって子に友達になろうって言わせたいの?」
すぐ核心をつくのは私の悪いクセだ。
- 523 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 03:57:44
- >>521
「最悪だな」
嘲るように巨漢は笑う。
「――なるほど、テメエみたいのがこのガキをカン違いさせるワケか。
優しい世界に殺される人間は弱いから仕方ない――だから殺されるヤツは放っておけ、つまりそういうことか?
あァ? ハッ、そいつァ傑作――これだから軍人は笑えるんだ。
軍人って人種は大別すりゃ距離に換算できる――知ってるか?
至近距離で敵兵を殺す兵士、
遠距離射撃で敵兵を殺す兵士、
爆撃機だの戦車だので人間を殺す兵士だ。
距離が遠くなればなるほど「殺す」意味を扱いかねる――だがそれより最悪なのは、そうやって生きてきた自分
を誇ることだ。昔のこのガキがそうでな――そうやって生きるしかなかったもんだから、あろうことかその生き方を
誇りやがった」
正に最悪だ、と笑うエリスを、俺は冷たい池から見上げる。
「カン違いしてるみたいだから教えてやる。”優しさに殺される”って事実は、それだけでどうしようもない。卑屈に、
ただ世界を恨み続けて生きていくことの正しさを否定することこそ最悪だ――いいか。お前の言ってる「イカれ野
郎」は、年齢性別を問わずに溢れてる。十歳に満たないガキが、世界を呪うことでしか生きられない場所なんぞ
腐るほど見てきたんだよ、オレも――コイツもだ。
恨め。
憎め。
そうやって生きられるなら――そうするべきなんだよ。
生きる為に憎悪することを否定するヤツは、冗談抜きのクソ野郎だ」
「テメエは――何を言って」
巨漢は横目に俺を見下ろし、
「阿呆。当然の話をしてるだけだ。憎んでりゃいいンだよ。呪っていいし、怨んでいい――恨むことでしか生きられ
ない人間は現に溢れてる」
言いつつ、エリスは池の縁にあったデカい石に腰を下ろすと、腰のポーチからスキットルを出して無造作に煽る。
つくづくアルコールを手放しては生きていられない御仁だ。死んでくれ。
「罪を憎んで人を憎まず、だったか? ありゃなんだ、日本人が考えた言葉か。それとも聖書の引用か」
「……阿呆扱いするなら正しく認識しろ。そりゃ孔子だ。っても、日本人は意味を間違えて使うけどな」
「間違える? 聞くがよイル。そりゃァなんだ、日本人ってのは、『罪』なんて目に見えもしねェもんを憎んで、それ
を犯した人間を許すって意味か」
「憎むな。殺すな。聖書でも言うだろうが」
「『それを行うのは、最早私ではなく私の内に住み付いている罪なのです』だな――はッ、クソ以下の話だな。あァ、
笑えるぜイル。最高じゃねえか。笑えよイル。いつからてめえはこんな戯言の飼い犬に成り下がった」
- 524 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 04:00:26
- >>521
ふと仮説をたてる。
アマダは優しくされたいから優しくするのかもしれない。
許されたいから、許したいのかもしれない。
私は逆。
壊して欲しいから壊してしまうのかもしれない。
憎まれたいから、憎んでいるのかもしれない。
ちょっと考え込んだ。
あまり……間違ってない?
なんだろう。
ここ一ヶ月くらいで私にすごく大量の情報が入ってきている。
地下室で過ごした時間と時間の質が全然違う気がした。
いまいち整理はついていないが、なにかが分かりそうな気がした。
そう、後は狂気。
狂気さえなければ……こうやって冷静に考えることができるのに。
先日、お姉様が怒った理由がほんの少しずつ分かり始めた自分がちょっと怖い。
「フフ、その話し方、まるでおじいさんみたいだよアマダ」
私の1/9も生きてないだろうに。
- 525 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 04:12:33
- >>522
「解ってんじゃねェか、我が友フランドール。まあ、コイツはオレにそう言い出したことなんて一度もねえけどな」
「……初めて聞いたぜ、それ。世界で一番嬉しくないプロポーズだ」
返るのは嗤笑。
「重要なのは人間なのかどうかじゃねえよ。社会だの世界だのと折り合いを付けていいのかどうかだ。折り合えねえヤツはど
こにでもいる。ハリウッド映画のヒーローがヒーロー面して世界を救うって事実に耐えられない人間は現にいる訳だ」
ここにな、とエリスは池の俺を睥睨する。
「聞くぜクソガキ」
「なんだ酔っ払い」
「人間に魂はあるか」
「今日聞いた中で最悪の部類に入るジョークだ」
「人間の意思は尊いか」
「二番目に酷い」
だろうな、とエリスは爆笑し、だからなんだ、と俺は額を抑える。いい加減フラつく足で立ちながら睨み付けるのがバカらしい
ので、どっかりと背後の岩に持たれ掛かる。
「最後の質問だ。人間は自分で自分のやってることを『正しい』だとか裏付けを取れるか」
「自分以外のヤツを全部殺せばな」
その通りだ、とエリス。
「殊更それで”正義”なんてクソにも劣るお題目が祭り上げられるのが、オレらにはガマンならねェってだけでな――世間サマ
が語る正しさを追従しながら、オレ達にはその「正義」が見えてねえ。そういう場所で生きてきたからな。「関わっていい相手」っ
てのが残らず「正義」を信じてる以上、オレやこのガキに居場所があっていい理由はねえんだよ」
「冗談だろ。俺達は大好きじゃねえか、『正義』」
くっ、と喉を鳴らすように笑って(口に含んでいた酒を飲み込んだだけかもしれない)、エリスは続ける。
「便利だからな。道具としちゃあ、だ――ハリウッドで言うなら、アルマゲドンのクソ同然の偽善もスーパーマンの馬鹿げた正
義も納得してやるが、それを大真面目に受け取って納得する視聴者にゃガマンならん。あえて言うぜ、そんな連中はカスだっ
てよ」
「高望みしすぎだ。人間はそんな強かねえよ」
嘆息して落ち着くと、急に冷え込んだような錯覚を覚えた――事実、とっくに身体は冷え始めている。
……風が濡れたシャツに絡んで体温を奪っているのだから当然の話で、病気だのウイルスだのに縁のないエリスと違って
こっちは人間としてはデフォルトなのだ。秋風ブリザード。相手は風邪引いて死ぬ。
だから、と息を吸うように言う。
「暮らす場所が違えば基準が違う。日本語を知らない外国人を日本に連れてきたらハイ幸せになりました、とはいかない。ど
こで暮らそうがどこで生きようが、死ぬヤツは死ぬ。俺もお前も、偶々人殺しが成り立つ場所で生きてるってだけじゃねえか」
「で、そんなテメエがどうして誰かと関われる、なんて考えやがる」
刺すような言葉が池の縁から飛んでくる。
古来、水は生死の境界として扱われた。
彼岸と此岸、ではない。
彼岸と彼岸。
噛み合わない言葉をすり合わせるように、俺は首を振る。
「――誰がいつそんなこと考えたってんだ」
そうだ。
俺はそんなこと一言も言ってない。
願ってもいない。
だから――そんな目で、俺を見るな。
- 526 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 04:24:14
「―――生きてりゃ人は、誰かと関わってるもんじゃないかい?」
- 527 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 04:26:41
- >>525
「迷路だね」
一言で切って捨てた。
なにかと思って一生懸命分析してたらひどいオチだ。
おかげで随分頭を使ってしまった。
「ねぇ、我が友エリス、ループって怖くない?」
こいつ結局そのイルってオジさんをつつきまわしてるだけだ。
谷に蹴落として、上がってきて欲しいのに上から石落としてるんだ。
でも上がってこない。
で、イラついてまた石を落とす。
おおかたそんなところではあるまいか。
「……でも参考にはなったよ。
私も同じだね。壊しちゃだめだけど壊すのを恐れて離れても駄目なのか。
世界ってひどいや。正直落ち込みそうになるよ」
静かに立ち上がる。
かぼちゃのマスクはいつのまにか壊れていた。
ああ、さっきの魔力の放出に耐えられなかったんだろう。
影響が及ばないように注意してたのはあくまでこの場の3人だけだった。
かぼちゃは守り忘れていた。
凹む。
無意識の破壊こそが一番注意すべきことなのに早速壊してるじゃないか。
「ねぇ、エリス。
友と語り合いたいんだけどもう魔力が切れるわ。
だから約束しようよ。またどこかでお話しようって」
きらきら魔力の粒に変わり始めている指先を見せ付ける。
逃がさないよ。
もう決めたんだから、お前は私のエモノだって。
- 528 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 04:29:08
珍しく夜明け前に目が覚めた。
せっかくだから、散り際の紅葉を見に行こう。
そう思ってたらなんか騒がしかった。
こんな夜中をうろついてる相手なんて―――まあ、いないとは言わないけれど。
何事かと顔を出してみれば――
半ギレの吸血鬼と酔っ払いが二人、後は死にそうな顔をしてる神父が一人。
どういうことなの……。
とりあえず聞こえてきた口論にも近い声に返してみたものの、状況が分からない。
「今日は珍しく男連れなのね。なんかあったの?」
考えても分からなかったら、素直に人に聞く。
うん、単純だけど真理だ。
- 529 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/11/01(日) 04:29:12
- >>523
3つ目、そう、3つ目だ。
俺は最も戦場で殺す実感の遠いところにいる。だから俺は甘いんだ。
歩兵から見ればムカつくぐらいだろう。
「…憎しみや恨みで生きても最後には自身の肥大化させた悪感情に潰されるだけさ」
ポツリともらした。
「確かに世界を見渡せば俺の救えない人間だとか、弱いから死んでいく人間だとか、憎しみを糧に生きる人間だとか
そんな人間なんて腐るほど居る。そしてそれら全員を救えるほど人間一人の手は大きくはない。
だったら目の前に居る人間をまずは救っていけば良い。歪んだ価値観の上に生を成り立たせているならば、矯正してやれば良い。
それは誇りに思うべきものではないんだと教えれば良い。最悪な人間はどこまで意識を変えようとも最悪か?」
>>524
労働には対価が必要だ。
だが、優しさの対価が優しさだ何て、そうは望みたくない。
でも心のどこかでは望んでいるのかもしれない。優しさの報酬の優しさを受け取る事も。
「…爺むさいか。でも俺はまだ20代後半だというのになあ」
声を出して笑いながらフランの肩から手を離し、立ち上がる。
「フラン、考える事を止めるな。理解する事の恐れを乗り越えるんだ。
自分の価値観が変わる事なんて誰でも恐れる。でも、その時を乗り越えれば真実は見える」
俺も考えがめまぐるしく変わった。
敵も見方も生きている。殺しあうなんて可笑しい…か。傑作だ。
甘っちょろい理想論だと笑われても仕方ない。でも、この理想論を捨てたくない。
「…おじいさんみたいに聞こえるってことは俺ももう子供じゃないのかもしれない。
もしくは夢を失った子供になってしまったのか…」
- 530 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 04:29:54
- >>526
「……って、あれ?」
幻想郷のニオイがして振り返る。
こいつたしか……件のモコーって奴じゃなかったっけか?
魔女の魔法でしか知らないが、たしかそうだったような気がする。
「こんばんは、蓬莱人。
入れ違いになりそうだけど、一応挨拶しておくよ」
ニッと笑った。
- 531 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 04:33:27
- >>527
「怖ェな。円環連鎖ってな――オレ達は四六時中見せ付けられて、気付いたらミノタウロスよろしく迷ってた」
視線の端で捉える。
エリスの笑みは、穏やかさすら湛えて声を繋いでいる。
珍しい、と言ってもいい。弱者以外には優しさのカケラも見せないエリスがそんな表情を見せるのは、ハッキリ言って稀だ。
いや――だからか。
「エリス、てめえ……」
「物分りのいいガキはキライじゃねえよ。少なくとも――フランドール、狂気人形。テメエはこのガキよりも余
程にモノの道理を伝え易い」
何せ素直だ、と余計な一言。
「好きにしな。テメエがなんでも壊せるなら――オレは壊れることもできねえ」
- 532 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 04:33:39
- >>530
「おう、いい夜だったね。……でもお前が出歩いてるのは初めて見た気がするな。
今日は大丈夫だったのかしら」
笑顔にゆったり構えて挨拶を返しておく。
出てこようとするだけで騒ぎになるようなトリックスターだ。
その辺も色々と不便なんだろうと思う。
「で、喧嘩でもしてたのかい。もう終わってるなら話さなくてもいいけど」
帰り際の相手を引き止めるようなつもりは無いしね。
どういう形であれ、オチてるならそれはそれで僥倖だろう。
- 533 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/11/01(日) 04:38:23
- >>528
「酔っ払いが、お互いの持論をぶちまけまくってなんか…こう…口で言い表せない状態になっているのさ」
語彙力が減っているのもまた酒が回っている証拠。
適当な言葉なんて見つからなかった。
「…神父様に余計な縁は必要ないんだってよ。自然現象や大量破壊兵器に友など要らないって。
彼は優しい世界に殺されそうになった人間だ。だから余計な優しさなどいらないと。
…だけど彼は俺から見れば十分人間だ。彼が人としての当たり前の生き方を否定される権利は…誰にもない。
余計な縁は、素晴らしい事だ。俺はそう思っていると、これが俺の主張だ」
久方ぶりの銀髪の友人に簡単に、纏めた。
当然酔った頭で考えた事なので間違っているかもしれない。
- 534 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 04:40:16
- >>526,>>528
――え、と声が漏れた。
エリスが眉を顰めて視線を横に向ける。
夜目にも鮮やかな銀色。
聞き慣れた声に、喉が詰まった。
なんでここに、と。
「……妹紅……、」
慌てて腰を浮かせ――そうになって、エリスの視線に気付く。
打った鉄に冷水をぶっ掛けた直後のような、煮えるように焼けた瞳。
「待て」
反射的に水の中に歩み出て、目を細めたエリスに追い縋る。
エリスは俺と違って知覚能力が冠絶している。
フランドールに何を感じ取っていたのか、と考えるなら、恐らくは俺よりも遥かに子細な情報を空間から
読み取っていた筈だ。
だから、拙い。
藤原妹紅。
エリスが妹紅から何を読み取るのか――想像したくもない。
「なんだ」
「止めろ――そいつは、ただの知り合いだ」
だから、絶対に手を出すな。
凍えた声で引き止める。
視線の端には銀色の髪。
見ないでくれ、と潰れた声は、喉元で滑り落ちて消えていた。
- 535 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2009/11/01(日) 04:46:58
- >>532
「ちがうちがう、私はフランだけどフランじゃないのさ」
もう手のひらまで光に変わろうとしている腕を見せ付けて
魔力で作った分身だという事を伝える。
オソトデテナイヨ。一応。
でも喧嘩については説明しない。
私のそれはもうエリスと終えたのだし、
あっちの一戦は彼らだけのものだ。
私がどうこういう事じゃない、そんな風に感じたから。
「まぁ、そのうち機会があったら話を聞かせてよ。
あいつの視点の土産話は脚色が多くて相手に不公平なんだもの」
腰に手を当てて頬を膨らませる。
それからニヤリと笑ってお姉様を揶揄した。
>>531
くすくす笑って約束を締結。
おぼえたぞ、エリス。
もう逃げられないからね。
「好きにするよ。だから、好きにしてもらおうかな。
エリスが壊れることもできないなら、私が『壊れさせて』あげるから」
友達だろう?
頼られたなら全力で応えるよ。
もしくは全力で止めるよ。
……それがどんな事であってもね。
>>528
難しいことを言う。
すぐにはできんぞ。
そんなに簡単に変われるから人間。
変わらないから妖怪。
なのだが、そんなことは分からないようだ。
それでも、それでもアマダの言葉を頭に焼き付ける。
分身だから、回収される魔力に焼き付ける、の方が正しいが。
とりあえず色々と頭がまとまらないし、
なにより残り時間もわずかなので一言だけ返すことにする。
_,,,,.... -──-- 、.,_|\r;/ヽ.____
,. -''"´ `ヽ/:::;:::::::::/
/ ______,,..、_,.-‐-、_ Y:::::::/|ヽ.
/ 、 __,ゝ-‐ァ´_>-'、ァ'-、‐-<`7-、イ::;/ ',
i _rへ!___,.-ァ'"´ , / i `ヽ、.,__7 i | ,'´7
___,.!へ、,.-ァ'" !-‐/|-、/| /!-!‐ヽ. く」 | .| / |
r'"ヽ. ,.-' ,' /| _,':;」_/_ l/ _」ニ!,、 | i ', | | | |
ヽ、_Y i. i /ァi´、 c! ` ' ´ト c!.ゝ! ハ ,ハ !| |/
,>i └i ', !へ.,|`.ゝ-‐' `''" / ,.ヘ レ' i .! /ヽ
', ,' ヽ| ハ """ '___ ""レ' ', ! / /
,.\ ./ i ! i ':、 i´ ̄ヽ.リ ,ハ i ヽ. //|∠., 夢が見れなくなったなら
<.,_>ヽヘ / /i. | ,.ヘ>.、., ` ー ''´,,.イ _,./、ヘへi、! ノ___,.>
レ', '⌒ヽ.>-':、-ハ``'ニT´/-ァ'" ヽ./`(
〈rヘ!/ Y \-/ ,ヘ/ ', ',
ゝ、 ヽ. /rヘ/::::i. i ',
`ヾハ _,.r 、 〉:::7-ヘ::〈_、,ゝ-!、._ 〉 | 夢見るみたいに生きればいいじゃない
ゝ、, '⌒`ヽ!/:::/ i ';::::Y Y」 i !
':, ';/ ハ i::::::! ! ノ
_,,':,, 、iヽ-ヘ__」::::::| ヽ!
ハ:::l ',::::::::::::::::::::! ',
|::::':, ';-‐=ニ二ハ. |
!ゝ::ハ 、!:::::T::::::__;!_,,. !
ノ::`7ーi !、_ ``'ー'"、 _,ハ
r--‐''":::::/::::::ト、., -‐ =ニヽ_)- ノヽ
<スペルブレイク『フォー・オブ・アカインド』>
そうして、私の分身はエリスに、アマダに、神父に、モコーに、手を振ると
風に溶けるように光になって消えていった。
<了>
- 536 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 04:51:19
- >>529
噛み合わねえな、とエリスは笑う。
会話を諦めている――というか、俺にも解る。
俺達は、噛み合えない。
それが、絶望的なくらい、どうしようもなく解ってしまう。
なぜなら――俺には、エリスの言葉が理解できてしまう。
「オレが言いたいのはそうじゃあねえ」
怒りもなく、憎悪もなく、諭すでもなく。
ただ事実を述べるように、エリスは語る。
「強くなりたかがっんだよ、コイツは」
「なり……たがった?」
日本語間違えてんのか、とツッコミを入れ掛けて、そうじゃない、と結論する。
酔っ払いは酔っ払いだが、年中酔っているこの男にとってその状態はデフォルトだ。これまでエリスが積み重ねてきた会話
は全てそのアルコールの呪縛から解き放たれてはいない。
「スーパーマンだのバットマンだの、その手のアホなイコンにてめえを投影したろ、ってハナシだ。トップガンを見てパイロット
になろうとしたり、ランボーを見て兵士になろうとした連中と同じ、最悪の手合いじゃなかったかって言ってンだよ、オレは」
「……くだらねえモンに憧れた自分を否定すんなってことか」
乾いた拍手が報いる。
とっくにカラになったスキットを無造作にポーチに押し込むと、エリスは大笑して若木の幹のように太い指を突き出してくる。
お前が、と。
「憧れることは仕方ねェよ。人間のアタマなんざ、どっかしら単純にデキてんだ。イリヤだの劉だのが身近にいりゃあムリもね
え。強くなりたかった、正義の味方ゴッコをやりたかった、それは仕方ねえよ。ガキはどこかしら頼れるモンを探したがるから
な。強いのはカッコいい、正義はカッコいい、そんなだ」
……そして当然、その逆もある。
アウトローに憧れる奴もいれば、無意味に悪辣なキャラを演じてみたがる奴もいる。
大昔に絶滅したこの国の不良はそうだったらしいし、シエラレオネで武装する少年兵の大半の理由など「銃が格好いいから」
だった。
憧れは問答無用で俺達に割り込んできて、容赦のカケラもなく俺達のあれこれを決定する。選択の余地なく兵士になるガキ
もいれば、戦争映画だの歴史小説だのに憧れて兵士になろうとする奴もいる。
- 537 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 04:51:38
- >>536
「……ヘタな考え休むになんとやらってか」
「それも言ってねえだろう、阿呆。――考えて答えが出るのは考えにそれだけの幅があるヤツだ。だがな、考えるのが駄目だ
からってヘタに動いても死ぬだけだ――何度殺し合いしてんだ、テメエは。こんな事は言うまでもないと思ってたんだがな。殺
す相手は自分と同じように考えるアタマを持った「自分」だ。そいつの裏を掻いて殺すのがテメエのやり口だ。どうやって動くの
か、どんな家族構成なのか、何を大切にしてるのか、どうして戦うのか、そいつを丸ごと裏切って殺してきたのがテメエだ。殺
し屋って意味ならオレよりも純度が高い。この世界が誰かとカチ合うように出来てる以上、判断がマズけりゃそれでアウトだろ
うが」
「人型決戦兵器と一緒にされても困るんだよ」
……精一杯の軽口で返しながら、俺はエリスの言いたい事を理解する。
感情は遮る事ができない。例えば、どうしようもなく気分が落ち込んでいて、アルコールなりドラッグなりで気分を盛り上げた
い、という奴がいるとする。翌日には予定が詰まっていて、アルコール漬けの脳ミソは明らかに本人にとって不都合だが、しか
し、そこでアルコール(か、薬)に頼らなければ本人は明日に至る前に自殺してしまう、という状況だ。
それを感情に負けた、と語れるヤツは、根本的に考える気力が足りてない――いや、考えるつもりがないのだろう。途上国を
指して『努力が足りない』などと平然とのたまう脳の腐った政治家同様(勿論、そんな政治家はこの事実を解った上で言うのだ
が)、そう語れる奴はどうしようもなく弱く生まれた人間のことなど考えない。
「弱い環境で生まれた奴は、どうしようもなく弱くなる。そういいたいんだろ、おまえ」
「さあな。弱くなる奴は多いだろうよ――そうでない奴もいるだろうが、弱くさせられる状況は動かせやしねえ。テメエの『意思』
でその状況を変えられるだのテメエの『自由』がそこにあるだのとホザいて切り捨てるようなバカはいるだろうがな。だがな。テ
ロ屋になったガキのアタマの中身を推し量れるか? 人間が人間を殺す理由なんぞ一定しねえ。親だの兄弟だのどこの誰と
も解らんパッと出の武装勢力に殺されて拉致られて別の家族の親だの兄弟だのを殺すようになるしかなかったガキの頭の中
身なんぞを理解してどうなる。それこそ時間の無駄だ阿呆」
生まれながらに弱い場所にしかいられなかったら。
或いは、生まれ付きの疾患で正常な思考力を欠いていたなら。
冷たい意味が喉を滑り落ちていく。
解ってしまう――どうしようもなく。
地獄で生まれた人間にこそ共感してしまう俺達は、その弱さがどうしようもなく愛しくて、その弱さこそを救いたいと願ってしま
う。強さから、優しさから、暖かさから見放された場所。
それこそ救われるべきなのだ、と願ってしまう。
「それでも最悪か、と聞いたな」
ただ淡々と。
これ以上は無駄だ、と含むようにエリスは言う。
「最悪に決まってるだろう――この上なく、正に最低最悪だ」
- 538 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 04:53:31
- >>533
―――なんだ、そんなことか。
「別に“悩む台風”や“考える爆弾”があったっていいじゃない。
此処に在るなら、そりゃ誰かが居てもいい、って考えただけのことだ。
そうでなきゃ、そもそもこの世に生まれてないじゃないか」
そうでなきゃ、私もきっと此処には居ないだろう。
世の中は無関心に見えて、私のような奴を許容するくらいには元々優しいのだ。
そいつを悪意で塗りつぶす手合いが居るのも否定はしないが、それが全部とは思わない。
「そーだね、その人がヒトとして生きたいなら、誰にも手を加える権利はねぇよ。
―――人をヒト足らしめる最大の要素ってのは、“人間であれ”って意志なんだから。
縁を結ぶのも人の好きだし、何を成すのもその人次第。
自分で失敗はすれども、他人に制限する権利はないね。それこそ思い上がりだ」
体がどうなろうと、人で在りたいと願うなら、それは人なのだ。
人のままでも悪魔に魂を売った奴がいるように。
妖になっても人の心だけは無くさなかった奴がいるように。
「だから、後は本人次第だろうよ。こうして世間話をしたいならそれでいい。
自分で関わるのが怖いなら、離れるのもまた一つの真理だろう。それも優しさの形だ。
だが―――確かに人間の思考は環境に依存するがね。
意図的に環境を歪めて是とするのは間違いだよ。
それなら、結論が出ていても悩める人間の意味が無いじゃないか。
その悩みと迷いがヒトをヒトたらしめるもんだからね。
……これが私の結論。長い時間がかかったにしちゃシンプルだけど。
ま、悪くないもんだろ?」
それだけ答えて、とりあえず買っておいたペットボトル入りの水を渡してやった。
飲んで少しは酔いを覚ましといた方がいいだろう、というちょっとした優しさだった。
酒飲んでると頭に血が上りやすいしね。なによりこいつは元々が熱血タイプだし。
- 539 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 05:01:26
- >>534
―――で、なんだろうかこの非友好的な視線とか色々。
Wizで遠慮なく友好的な相手に強盗しそうな感じ。
なんか悪いことしたかな。散歩ついでに来ただけなのに。
「……ふぅん」
とりあえず大男の方を観察してみる。
まあ、こいつの知り合いであるなら普通とは一味違うんだろうけど。
なんかダイヤモンドで出来た要塞が服を着て歩いているような気がする。
「まあ、なんだ……えーっと」
死にそうどころか泣きそうな神父の顔。
相変わらず肌に感じる謎の殺気。
その源流とは言えば、言うまでも無くあと一人の見知らぬ人と言うわけで。
「初対面から喧嘩する趣味でもあるの? 私は遠慮したいんだけど」
あのパイルバンカーみたいな腕で殴られたら間違いなく死ぬだろうし。
死なないけど。でもまあ痛いのは痛いし、怒る時は怒るのだ。
- 540 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/11/01(日) 05:13:21
- >>535
夢はどこにでも転がっている。
だから、無くしたのならまた拾い集めれば良い。
また夢を見ながら生きていけばいい。そういう風に生き方を変えてしまえばいい。
自らを御する事の出来ない少女は、そういいながら儚い笑みを浮かべ、消えていった。
夢見る事を忘れかけていた俺の心に、その表情は強く焼きついた。
「…そう、だな。もう一度、探してみるよ。」
夢を。
俺が俺として生きるべき指針を。
>>536
ホント絶望的だ。何でここまで食い違うんだろうなあ。
生きる世界が違うんだ。派手にニュースになる表の戦場と世界が目を背けたくなる裏の戦場。
大抵の兵士―――勿論俺を含む―――は前者であり、彼らは数少ない後者だ。
「士官だってそうさ。平静時の職業の安定か…小説か映画で憧れるか。両方が混合されるか。
…そんな過去は戦場で目を背けたくなるというのも確かだ。何故、俺は軍に入ったのか。そんな意味を問い直したくなる」
「確かに強くなろう何て間違ってはいないさ。自らの強さを極限に求める人生だってありだ。
だがな、無駄な人間関係は人を弱まらしたりなんか決してしない。孤独であるからこそ、他の孤独を知りたがるんだろうが」
これ以上は、無駄だろうか。
酔っ払いの戯言に過ぎないのだ、今までの言葉全て。
>>538
よく透き通った声で妹紅が意見を纏める。
ああ、やっぱ敵わないよな、こいつには。どれだけ長く生きていたんだっけか。
年長者の重みが未熟な自分の身によく染み渡った。
「…相変わらず、すごいよお前は。何でこう綺麗に纏められるんだ」
ぶつぶつと呟きながら、俺は妹紅からペットボトルを一本渡される。
ラベルを見てみれば単純に産地と水と、それだけがかいてある一品だった。
キャップを捻って俺は一気に水を飲んだ。
「ングッングッ……うぐっ、げ、ゲホッ!ゲホッ!」
いかん、急ぎすぎたせいか気管に入った。
涙目で咳き込んでしまう。
- 541 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 05:21:09
- >>535
「頼もしいじゃねえか。とっくに壊れることなんざ諦めてたからな――えェ、イルよ。見習ったらどうだ」
蔑むような視線。
夜に溶けたフランドールを見送って、エリスは俺に語る。
……今日は絡みすぎる。
普段から酒癖の悪いヤツではあったのだが、これはちょっとおかしいと言ってもいい。
挨拶くらいはするべきだったろうか。
するべきだったかもしれない――なのに、意識は凍り付いて働かない。
>>539
「あン? オレに言ってんのか――いいや、まさか」
背筋が凍る。
俺の浸かる池を挟んで、対岸の妹紅に向けてエリスはケモノのような笑みを向ける。
ザワザワと手の甲で赤黒い燐光がざわめく。
……どう足掻こうが、人間の拳なんぞが叩き出せる破壊力など高が知れる。
質量を乗せた速度と加速度。筋力と体重。重心移動とバランス操作。どれだけの体重をどれだけ巧く移動させてどれだけ
インパクトの瞬間に力を込めようが、その限界値は大型のケモノに及ばない。鈍器で殴る、車で突貫する、ビルを倒壊させ
て下敷きにする――運動量と質量が行う破壊は、当然のように初期条件に縛り付けられる――が。
そんな空気に縛られないのがヴァチカンの審問官であり、騎士団の騎士だ。俺達は誰も彼も空気読めてない。読む気も
ない。
巨漢の指先から腕、肩口から胸を通して背中へ、背中から首筋と下半身に至り、頬と腰を覆って額と足先までビッシリと
掘り込まれた無数の印象。
北欧のルーンかケルトのオガムかと言った文様の詳細は、実のところ問うだけ無意味だ。その文字の発祥はエリスで、そ
の意味の抽象はエリスにしか理解できず、そのカタチが恣意する表意はコイツの中で完結している。
酒瓶を持つ手と開いた胸元で赤黒い幾何学模様が蠕動する。
吹き荒ぶ風が落ち葉を舞い上げ、踊る枯葉は見えない壁があるかのようにエリスの脇を迂回していく。
「だがまあ、ケンカしてえなら――」
ズ、とエリスが状態を沈める――それだけで周辺の地面が波のように振動する。
反射的に動いていた。
止めろ、と。
「あン? なンか言ったか、イル」
「いいから止めろ。動くな――つーか帰れてめえ。後は俺が引き継ぐ」
「へェ。ところで――あの女。知り合いだ、と言ったな」
背筋が凍て付いた。
エリスは無表情に足元の石――というか岩を爪先で小突くと、そのまま目の高さまで蹴り上げて、無造作にそれを掴んで
いる。
快音一つ。
巨石がその手の中で粉砕されて、無数の飛礫に変じる。
待て、と口で意思するより、身体が動く方が早い。
無造作に右腕を振り被ったエリスと妹紅を繋ぐ斜線上に躍り出た瞬間、全力で空間の文脈を書き換えた。
直後、全身に被弾する飛礫の嵐。叩き伏せられるように池に打ち込まれ、三回ほどバウンドして背中から水中に沈む。
再びムセながら水面に顔を出すと、エリスは冷然と俺を見下ろしていた。
「ただの知り合いか。――よく言った。初めて見たぜ、テメエのその反応」
- 542 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 05:41:20
- >>540
「いや、凄いって言うか、難しく考えすぎなだけでしょ。
そもそも関わったら誰かが不幸になる、なんて自意識過剰もイイところだし。
いちいちそんなこと考えてたら何も出来ないし、何もしないじゃない。
それが美徳って言うなら、もう何も言わないけどさ」
まあ、社会やら何やらがこれほど複雑化してるんだ。
私でも、リアルタイムで生きて死んでいたなら理解なんて出来なかっただろうし。
「……ま、アツくなるのは分かるけど。
立場の違いで水掛け論になるなら退くのも一つの手だよ。
平行線なら勝ち負けなんて彼岸の彼方に行っちゃってるわけだしね」
まあ、性善説だの性悪説だのはどうでもいいとしても。
そこにある意志を否定してまで言うことではない、とは思う。
>>541
―――で、なんかこっちは急展開してるんだけど。
でかい方がいきなり岩を握りつぶして飛ばしてきた。
ああ、やっぱアレか。喧嘩売ってるんだなこいつ。男ってどうしようもないな。
もちろん、目の前で戦闘準備から攻撃までされてぼうっと突っ立ってるほど馬鹿じゃない。
ほとんど自動的にスペルカードを抜いて、
―――展開しようとしたところで、神父が瞬間移動して瓦礫に突っ込んでいった。
そのまま池に突入コース……っておい待て。
「ちょっ、イル!? なにやってんのよ!!」
何がなんだか分からない。
慌てて池の中まで駆け寄る―――服の裾が濡れたのはこの際無視しよう。
つか、あんなの食らったらヤバいだろ、流石に。
こいつも大概頑丈だけど、それでも殺せば死ぬんだ。
「まったく……無茶してさ」
……ため息。もう、何と言うか、アレだな。
神父の知り合いはだいたいどっか破綻してるもんだと思ってたけど。
それでも一線は引いてて、それでバランス取れてるんだろうと考えてたけど。
こいつみたいな“馬鹿”は、実際、初めてだな。
「―――流石にさ。やっていいことと悪いことがあると思うんだけど」
とりあえず池の中から引き上げてやって、再びの対峙。
図らずも、まあ、そういうことになりかけて来ている。
……こっちじゃ暴れようとも思わなかったんだけど……。
なんだか、すでに頭の中では戦いが始まってるみたいだ。
どう捻じ伏せるか、どう切り抜けるか。
さっきの一撃で基本スペックはおおよそ想像が付いた。
後はそれの対策とこっちの反射神経の問題だろう。
「喧嘩はヤだ、って言ったんだけどね。―――言ったよ?
……だから、これ以上はどうなっても知らないから」
その覚悟があるんだったら来いよ、若造。
手合い違いといわれそうな体格差。そんなもん、たいしたもんじゃない。
……私は人の形すらしてない者とも散々戦ってきた。
たとえ、こいつがイージスの盾くらい硬くても、こっちは負ける気はしない。
- 543 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2009/11/01(日) 05:54:44
- >>542
「ゲホッ…ハハハ…そうだよな。難しく考えて、理屈こねくり回して
自分の意思を頑固に捻じ曲げようとしないで言葉を吐きあったって何も解決しないって言うのにな。
そんな単純なことを気づかせてくれるお前が凄いって言いたいのさ…」
一通り落ち着いてからまた水を飲み、体から失われた水分を取り戻す。
意識が幾分かはっきりしてきた。ぼやけて陽気だった世界からまた、シャープでくすんだ世界に。
「…関わった人間全てが不幸になる事はない。でも、必ず幸福に出来るとも限らない。
優しくする事で俺は、誰かを幸福に出来るんだろうか。
俺は出来るだけ人に優しくありたい。でも、先ほどアイツが言ったような、10歳やそこらの子供が
銃を持って殺人を自慢するような世界だってどこかにある。俺は全てが全てを救えない事を大人になって知った。
でももし俺がそいつらと会ったらそいつらに優しくすることで本当に…」
酔いが幾分か醒めたとはいえ体内には過分なアルコールが残っている。
ごめん、馬鹿な考えだなと曖昧に笑いかけて俺は立ち上がった。
…時間も時間だ。そろそろ帰る事にしよう。
今日は酒を浴びるほど飲むつもりだったので帰りは徒歩だ。
それに…最後の高台だ。ゆっくりと歩いて帰りたかったという心境もある。そして…空気が不穏でもあるから。
「じゃあな。妹紅、水、ありがとうな」
俺は頭を抑えながら、その場を立ち去った。
【退場】
- 544 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 06:00:43
- >>540
ふと、エリスが背後に笑みを向けた。
これ以上は同じことだ、と語るように。
俺達には手の届かない明るさ。穏やかさ。暖かさ。
それを全て知りながら、エリスはその全てに否を突き付ける。
全ての弱さに救いあれ、と願いながら。
だから――そう。
だからコイツは怒っているのか。
>>542
「くだらねえコトでキレんなよ小娘――カタギにゃ見えてねえぞ、テメエも大概よ。――あと、そいつから離れろ。でねえと問
答無用で巻き込むぜ」
「違……、妹紅、コイツは……!」
逆効果だった。
……考えれば解ることじゃないか。バカか俺は。
俺を池から引き上げた妹紅は、対岸のエリスをそれだけで焼くような視線で射抜いている。
だから、尚更に拙い。
大丈夫、と妹紅に断って、池中を突っ切って中ほどまで侵入する。
肺に氷を詰め込まれたようだ。
息をするだけで身体が凍りそうになる。
エリスの視線は、掛け値なしの冷たさで俺を突き刺している。
「だが、実際――そこだけは手放しで賞賛してやるぜイル。オレの射程に入って死なずにいられるヤツは、劉をハブいたら
オマエだけだ」
”聖文字の単子”のエリス。
一言で言えば、この巨漢は地上の法則で動いていない……だけならまだしも、コイツは法則の一端として稼動する。この
大男が全身に纏った無数の文字列は、その瞬間瞬間に現実を作り出す。どうやって俺をブッ飛ばしたかといえば、コイツは
運動エネルギーを直接書き出したのだ。
保存則を嘲笑う。コイツには恒常的にエネルギーが無限大に溜め込まれているも同然だ。実に馬鹿馬鹿しい話だが――
月面からの質量投射さえコイツの右ストレート一発に及ばない。エネルギーを無化していなければ、粉微塵以下が顛末だ。
現実を記録し、記録を解析し、解析を押し付ける。万象を記号化し、事象を言語化することで現実を改竄する形而の織物。
ありとあらゆる現実をコトバとして捉えて振るう魔人は、池の縁から漫然と水浸しの俺を睥睨する。
「……もう帰れ」
「軽いジョークじゃねえか――流せよこんなモン」
じりじりと意識が焦げ付いていく。
池の縁に立つエリスから放射状に光の文字群が広がる――池の中にまで波紋のように波打ってきた光の波濤は、俺の
周囲で弾けて溶けるように消えていく。その様子を一瞥して、巨漢は凄惨に口元を吊り上げる。
とっくにスイッチの入ったバカが相手では、正直、巻き込めない。
違う。
巻き込みたくないのだ。
「……イカれてんのか。月見に来て殺され掛けるとは思わねえぞ普通」
「そいつァお前、注意が足りてねえだけだろ。誰がいつどこで発狂するかなんて解ったもんじゃねェからよ。慣れてるだろ、
こんなもん」
「ケンカ売ってんのか」
「まさか。良かれと思ってな――気合入れ直してやったンだよ」
「だったら帰れ。今のテメエなんぞ信用できるか」
「おぉ。なんだオマエ、知ってたのか」
舌打ち。
注連縄が巻かれた岩に凭れ掛かってエリスを睨み付ける。
「……もういいよ。てめえはここで呑んでろ。動くな。俺は――俺達は先に帰る」
「ンなワケにはいかねえだろ――そんな辛気臭ぇツラで帰られてみろよ。今度はオマエぶん殴るのに塒までブッ壊すハメに
なる」
- 545 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 06:01:56
- >>544
なんだその死刑宣告。
エリスは立ち塞がるようにその場から動かない。
「……誰が辛気臭いってんだ」
「あァ? そりゃオマエ、自爆やらかそうとしたガキ殺してヘコんでるバカなガキだな。どっちもガキだからタチが悪い――よく
解ったぜ。オレぁどうもガキって種類のイキモノがキライらしい」
「そりゃてめえに比べたらガキだろうよ」
「あ? なんだそりゃ」
「お前から見たら俺はガキだってハナシだろ。なんだ、他になんかあるってのか?」
一瞬。
ポカンと口を開けたエリスは次いでくっくっと喉を鳴らして笑い、間を置かずに豪快に爆笑へと発展させた。
月夜にケモノの咆哮めいた声が谺する。
一頻り笑った後、巨漢は、
「阿呆」
にべもなく吐き捨てて、冷然とした視線をこちらに向ける。頭上の月を連想させる金色がかった双眸は、感情を根こそぎ欠
いている。
「あ? なんだって……」
「死ななきゃ治るモンも治らねえかな――どうだテメエ、一度死んでみろ」
問い返す間もない。
面前から気配ごと巨漢の姿が掻き消える――人芥の中ですら頭二つ分抜けて目立つ巨漢は、幽寂の平野から音もなく
姿を消していた。問い返す間はなかったが、意味を理解するヒマもない。
「え――」
マズい、と身体が語る。
反射は思考に先駆ける。
状況の不可解を脳が半歩遅れて理解した瞬間、水面で揺れる月が不意に失せた。
見上げた遥かな頭上で月が翳る。
何故なら。
「ちょっ、と……!」
月光を遮って鬼が舞う。
巨体は前触れもなく空へ。たった今存在した場所に在ることを拒絶したエリスは、頭上数十メートルの高度で高々と右手
を振り被っている。
――一泊の間。
掲げられた拳を中心に、暗天が赤黒い文様で侵食されているのを呆然と見上げる。現実味はゼロ。拳を支点に傘のよう
に広がるのは、光の記号群。
- 546 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 06:04:54
- >>545
「そういうワケだ――死んでみろ、イル」
酷薄な宣言と、それを体現した意味が落ちてくる――ほぼ無意識に背後の要石の上に飛び退る。
直後、夜気を揺るがして轟音が弾けた。目前には、隕石が墜落する勢いで水面を打ち抜く巨漢という異形――月まで届
けと立ち昇る、龍のように巨大な水柱。
正気を疑う風景が顕現する。
一瞬で腰の位置まであった蓮池の水がまるごと巻き上げられる――のみならず、局地的な地震にでも晒されたかのよう
に地盤が大きく揺れた。カラになった池で足場にした御影石がぐらりと前方に傾く。
「な……っ、」
瞠目する暇もない。
水柱の壁を突き破ってきた巨体が、目の前で拳を振り被っている。
背後に飛び退けば、勢いそのままに打ち抜かれると理解する――逃げれば死ぬ。かと言って、エリスは真っ向から受け
止められるような常識は持ち合わせていない。身体を地面に投げつつ、飛んでくる腕の側碗に両手を当てて受け流す。一
刹那前まで俺の顔があった位置を、颶風を巻き込んで巨腕がブチ抜いていく。
枯れた池の底を転がった視界一杯に広がるのは、こちらが体勢を立て直すよりも早く、追撃とばかりに振り上げられた
足裏。
「てめ……っ!」
泥濘を転る――エリスと逆側に突っ立った要石を目印に身を転がして避けるのと同時に響く轟音。トレッキングシューズ
が踏み込んだ位置を中心に、枯池全体が陥没する。
「正気か、てめえ――!」
返答など待たない。今の行動は既に十全な回答だ。
鎮守の岩を引っ掴み、叩き付けるようにエリスに投擲する。レールガンの速度でカッ飛ぶ岩を、しかし巨漢は避けようとも
しない。その速度ですら、騎士団の人間にとっては反応など容易い――だから、次の行動は目を見張るしかなかった。
轟音が響く。
両足でしっかりと地面を支えたエリスは、両手を腰に添えたまま、その額を岩に叩き付けていた。
ガラガラと、頭部で受け止められた岩が破片になって毀れていく。
「正気ってのはなんだ――オマエに言わせりゃオレがイカれてるってか? だとしたら尚更救いがねえぞ。正気のつもりっ
てんならよ――正気でこの程度か、イル。くだらねえ――この分じゃ、マジでブッくたばった方が良さそうじゃねえか」
……質量と速度を考えれば、装甲車でも二台か三台はまとめて大破させられるエネルギーを内包した即席の質量兵器
だ。それを頭突きで粉砕した巨漢に正気を説かれるというのは、端的に言って色々と間違った状況だ。
巨漢の頬から額までを覆った幾何学模様がうねりながら躍動する。状況を演算し、エリスを不変化する。
相対距離は二メートルに満たない。ゼロにも等しい互いの射程で、エリスは悠然とポケットに手を突っ込んで嗤笑する。
「――そもそもだ。オレにこんな遊びを仕掛ける時点で、オマエが正気だとは思えねえんだが」
だろうよ、と吐き捨てる。
慨嘆するには及ばない。この怪物が怪物じみている怪物以上の怪物であることなど、生憎と先刻承知だ。なにせ俺が殺
し屋を始めた時にはもう、コイツはターミネーターとしての極北に一人で立っていた。
”聖文字の単子”。その真価は、と問うのなら、それは際限のないエネルギーの解放なんぞではない。刻み込まれた言
葉は、かつてからこの世界を満たしていた事象の成り立ちを読み解き、その構造を記したモノだ。エネルギーの記述は、
あくまでコイツの文脈の一端でしかない。熱がなんであるのか、衝撃がなんであるのか、モノが壊れるとはどういうことな
のか、エリスはその言葉で記憶している――あらゆる事象は、「それ」であることで構造を分解される。解析された”衝撃”
は1キログラムの炸裂も15メガトン級の炸裂も等しく弾き散らされて届かない。
指向性も状態も性質すらも合切問わない。エリスの全身を隈なく全身を覆った印象の群は、互いに連携し、連結し、意
味を交換し、刻まれた言葉は恣意的に現象を解析し、エリスとそれを断絶させる。ノーモーションで空間を渡った理屈も同
じで、『自分がそこにいる』ことを否定したのだろう。
「俺は正気じゃないかもしれない」
そうだな、とエリスは肩を竦めてみせる。
「けど、今のお前は明らかにイカれてる。――帰れ。でないと本気でツブすぞてめえ」
打ち付けた肺が鈍痛を訴える。
黙れ、と身体にコマンドを送って、背中の妹紅に一言告げた。
「悪い。今日は――ホント悪い。会えてすげえ嬉しかったけど、先に帰ってくれ。ちょっと面倒事片付けて帰るから、俺」
- 547 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 06:33:03
- >>546
「ちょ」
待て、あの石曰く有りげだろ明らかに。
いやその前に何このルナティック。
展開が想像の斜め上過ぎて喧嘩以前の問題だ。外の世界はまだまだ幻想に満ちてる。
……というか、私が売られた喧嘩じゃないのか、コレ。
……それでなんか、先に帰っててくれとか。死亡フラグ立ててるし。
―――あーもー、手間のかかるヤツめ。
「……あのさー、それで私が帰るって思ってるの?」
帰れないし、帰りたくもないよ。ぶっちゃけ。
喧嘩を売られたまま宙ぶらりんなのは事実だし、相手がけっこうヤバいのも事実。
ノーモーションでコマ送りみたいなことをされればまあ、流石に楽な相手じゃないのは分かる。
けど―――喧嘩買おうとしたのは私じゃないか。
此処で帰ったら、筋通らないじゃん。
「そっちの人間災害、どうにかするんでしょ? だったら私もやるよ。
―――元々、私の買おうとしてたケンカだったんだもの」
向こうが盛大に手の内を見せてきてるから、とりあえず凌ぐ手は見えてきた。
問題は攻撃が逆立ちしても通らなさそうなことだけど、まあ、それもおいおい。
浮き世に絶対などというものは無い。どんな完璧にも必ず綻びはある。
なら、そいつを見つけ出すだけのことだ。
「さて、攻略法を見つけるのはそこそこ得意だけど。今回はどうかな」
一歩踏み出して再びの対峙。
久しぶりの手加減抜きだ。周りはよく見て闘るとしようか。
- 548 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 07:03:44
- >>547
/memory 2
「というと、エリスと君の能力も理屈としては同じだよね」
あぁ? と、俺とエリスは同時に反駁する。
「……なんで。コイツはただの無敵戦艦だろ。マインドコントロールだのなんだの、知的な要素とはホド遠い」
「そうかな。指向性を操作するって点じゃ同じだと思うけど」
言うや、イリヤはコップに入っていた酒(ワインだ)を宙にブチ撒いている――
――が、当然のようにアルコールの一滴もテーブルに毀れる事はなかった。テーブルの真上、俺達の目の高さでワインの
中身は滞空する。
つ、と白い指が中空のワイン塊に差し伸べられる。途端、塊はその形質を変容させる。ロールシャッハテストを空中でやらか
したような抽象図を描いていたワインは、ウネウネとのたくって漢字の『大』の字を――というか、人間の形を描く。
「この内側が君達の――私達がこうしている世界だな。空間三次元、時間一次元、四次元を持ったこの時空だよ。そして、そ
こに住む君ら人間だ」
無造作にそのワインに人差し指を突き入れるイリヤ。当然のようにヒトガタは指に貫かれ、胸部に大穴を開けられる。貫通
した指は、ヒトガタの背中側で血のようにポタポタと雫を垂らしている。
「まあ、こうなれば普通は死ぬよね。「モノがそこにある」という状態は、「そこに別のモノがあることを許さない」ということだ。
人間は心臓に杭を通されたら死ぬ――ああ、ヴァンパイアも死ぬのかな」
引き抜いた指をペロリと舐めるイリヤ。
「当然だろ。……なにこれ、小学校の授業ですか」
「まさか」
そして、とイリヤは伸ばした指を横に振った。
パン、と空気でも吹き入れられたかのように水人形が四散する――のは一瞬で、すぐにヒトガタを取り戻す。ただし、次の
ヒトガタは滑らかな水面で構成されたモノではなく、その全身が泡立つ隆起に覆われたモノだ。
「……泡?」
「そ。こう仮定してくれたまえ。この泡は隙間なく寄り合い、物質を構成している――これだけ言うと物質の原子モデルと大
差ないが――よ、っと」
イリヤが人差し指を差し向ける。そのまま招くように指を折ると、ヒトガタから泡の一粒が引き抜かれる。それが原子モデ
ルだとすれば、人間を構成する原子の一粒がそれ、ということになるだろうか。
ピン、とイリヤが指を弾く――と、一粒原子のモデルがその半球を赤に、もう半分が青に塗り分けられる。
「全てがこの理屈で構成された物質が存在するなら?」
- 549 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 07:04:15
- >>548
イリヤは笑みを含んで語る。
……数秒。
その意味を理解しようとして、納得した瞬間に否定したくなった。
「粒子レベルで、余分な次元を含んで構成された物質、ってことか?」
正解正解ー、とイリヤは手を叩く。
「……次元一つ増やして、あらゆる現象はそこを通過する(、、、、、)?」
「ま、解り易く言えばね」
なんだそれ。
今更ながらに知人の生態を知った俺の驚愕は、しかしこの部屋で共有できるモノではないらしい。イリヤとエリスは当然
として、劉はさもありなん、とばかりにコクコクと頷いている。
「それ、この世に居ないってのと同じだろ」
「そう言ってもいいんじゃないかな――君らの感覚で言うならね」
アッサリと答えるガキと、つまらなそうにそれを聞き流すエリス。
巨漢はアクビなど漏らしつつ、恐らく壮絶に胡散臭い目を向けたであろう俺にぶしつけな視線を返してくる。
「なんだイル。運動してえのか」
「冗談だろ。勝手にやってろ筋トレマニア」
「ま、要はさ。エリスはこの世界について自由すぎるくらい自由だ――誰もエリスを傷付けられないし、なにもエリスを害す
る事はできない」
「――そう。つまりね、エリスはこの世界の現象に並走するんだ」
- 550 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 07:06:37
- >>547
■
「だっ、いや、それは――」
妹紅は凛然と俺の隣でエリスと対峙する。
人間災害、と評するその形容は正鵠だ。
が――妹紅の力を知った上で――だからこそ、俺はコイツの前に立ってほしくない。
俺にもエリスにも、死が付き纏い過ぎている。
「やる気になったか――ハッ! 結構! ガキ二人でオレに通用すんならよォ――終末が千回訪れても人間は誰一人死
にゃしねェ――!」
顔面に飛んできた右ストレートを半身になって逸らす。
巌じみた正拳の風圧は、それだけで容赦なく身体を傾がせる。
「っ……! 現実放り出してんじゃねえぞ、相変わらず……!」
音速で叩き込まれる杭打ち機の咆哮。
突き込まれる拳は唐突に軌道を変えて拳槌での打ち払いに、更に身体ごと旋転して孤拳での顎打ちに。半歩引いて際
どく避けたと思えば、掌低が磨り潰すように頭頂部に落ちてくる――無駄などカケラもなく、動作に贅肉は微塵もない。動
きそのものは荒々しいが、体裁きは芸術的な精妙さで技と技とを連動させる。
「ハッ! よく避けるじゃねえか、あァ!? テンポ上げてやればもうちょいマジになるか――よ!」
「うぜえ! マジでうぜえぞ筋肉マン! こっちはとっくにマジだよバカヤロウ!」
叫びが風圧で掻き消される。宣言通りにテンポは苛烈に刻まれ始めている。嵐の暴威が竜巻の猛威に加速する。口に
した言葉ほどの余裕はない。視界全域が当たり判定の極悪ゲーは直撃イコールゲームオーバーの超高難度。
弾き、捌き、受け流し続ける。
受け流した拳が擦過した位置で巨木の列が半ばから千切れて宙を舞い、避けた踏み込みが易々と地面を踏み穿つ。
背後に飛び退って距離を離せば、同速で追い縋ってきた巨体は頭上から杭のように拳を打ち下ろし、紙一重で避けた
拳打は当然のように地面を叩き割ってクレーターじみた渓壑を刻み入れる。
情景は地獄の突貫工事。
狂濤する猛打の霰は、容赦なく周囲の地形を作り変えていく。
と。
大きく踏み込んだストレートをバックステップで避ける。
追撃を見越して低く腰を落として構えた俺に、しかしエリスはその場に留まって視線だけを向けてくる。
背景は完全に死んでいる。爆撃機の編隊が猛攻に晒そうとこうはならない。仮にここがスターリングラードの激戦地と
言われても、たぶん誰も疑わないだろう。
「なんだ。やっとこのクソ馬鹿げたジョークを謝る気になったか。今ならてめえの汚ねぇ首置いてくだけで許してやる」
「馬鹿言うな。ちょっと楽しくなってきたとこで止める訳ねえだろ。やっぱ救いようのねえバカだろテメエ。――ああ、だが
ま、それだ。思い切り暴れて壊れねえ相手ってのはなんだかんだで貴重でな――オマエと戦う分には、自分の身体が
ここにあるって実感できる」
- 551 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 07:09:35
- >>550
彼我の相対距離は十メートル。
妹紅の傍にまで下がった俺を眺めるように、エリスは粉砕された枯池の中心に立っている。
互いに瞬き一つで詰められる距離とは言え、ここが分水嶺だと互いに理解している――なにせ。
これが俺の射程範囲だからだ。
エリスの”聖文字の単子”が分解されていく――いや。
どんな事象も例外ではない。
”君のリズムは例外的だからね。エリスは世界そのものを否定するけど、君は否定すら否定する”
全ては意味を成して連結している。
クォークから電子、陽子から原子へ、分子はカタチを成して有機を束ねる。分子と原子のあらゆる詳細な動作、神経
伝達物質が記載されたルール、外界との相互作用、分子の運動と記述される熱量の規範。
――その意味を打ち払う。
あらゆる文法を改竄し、文脈を破綻させる。
ただ一つ――たった一つ、俺がエリスと拮抗できる理由があるとするなら、それがコレだ。
俺には、全てが文脈や行間として理解できる。
ヴァチカンの誰も――イリヤすら例外ではなく、俺の射程ではその意味を剥奪される。
「偶によ」
懐かしむような口調で、俺と、俺の背後の妹紅へエリスは声を投げてくる。
「オレの場合、てめえのカラダってヤツがどの程度の性能だったのか解らなくなっちまってな」
「あぁ?」
「イルよ、テメエもそうだろ。
「……何がだ」
「実感ってヤツだ」
太い指で自分の頭を小突く。ここだ、と。
「ここが感じる現実だ。酒とは違う――肉の軋みと骨の軋みだ。この痛みだ。オレ達の脳ミソは、これを抑えるように作
られてる。痛みに耐える為に、カラダってヤツは疲労だの痛みだのに快楽を感じるようにデキてんだ。否応なくな。「尊
さ」だとか「崇高さ」だとかが割り込む余地はねえよ。――いや。そもそも崇高さだとか自体が、自己満足で頭を酔わせ
る為の言い訳にすぎねえだろ」
「……てめえが嗜んでるアルコールとどう違う。痛みに酔えないお前は酒に酔って誤魔化してるだけだ。酔えればいい
なら、わざわざ戦う必要なんてねえだろ。素直にアル中はアル中らしく酒でもかっ喰らって寝てりゃいい」
苦痛はなく、摩擦もない。
痛みは生存の為に人間が獲得した機能だ――この状態は危ないと警告するアラート。ここにいては拙い、と報告す
る発令塔。この世界で自分を傷付けるモノを根こそぎ喪失したエリスにとって、あらゆる脳内麻薬の代用品がアルコー
ルなのだ。
- 552 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 07:09:59
- >>551
「で、テメエは人殺しに酔ってるワケだ――誰かを殺すコトが楽しくて堪らねえ。自分でない誰かが死ぬのを感じるの
が、自分の手で誰かの価値を奪い取るのが、誰かが死ぬ中でまだ自分が生きてるってことを感じることが気持ち良く
て堪らない――違うか、イル」
――反論はしない。
正論に声を荒げても無様なだけだ。
ただ、背後の妹紅にそれを聞かれている、という事実だけが酷く痛い。
否応なく感じてしまう憎悪。
問答無用で自我を押し潰す達成感。
楽しんでしまう自分がいて、満足してしまう自分がいる――そう感じてしまう感情(おれ)がいる事実。
自分が存在して感情があるのではない。感情がただ、自分自身である、というこの事実。――こう思考している俺は、
思考そのものがただの物理現象でしかない、という厳然な事実に刺し殺される。
……蔑まれても結構だ。
俺はそれで満たされていた。
欠け落ちた意識は、死と隣り合わせの環境でだけ呼吸を取り戻す。周囲の一切をノイズとして断絶し、銃炎と銃声
と悲鳴だけを網膜と鼓膜に焼き付ける。
なぜなら――俺の脳は、それが素晴らしいことだと理解するように作られている。
「代用が効くモンじゃねえんだよ。違うか? だからオレ達は未だに地獄にしがみ付いてる。とっくにこの世界と縁が
切れてるオレ達を現実に繋ぐのは、アルコールだとか死体だとか、解り易いインパクトだけだからな」
敵意が自分の中で芽吹く熱。殺意に揺られて白熱する視界。誰かが誰かを殺し、殺されるという状況が傍らにあ
ること。それは、死が傍らに息衝いている、と実感することで得られる生の実感だ。
熱を持った身体を納得させようと、脳内麻薬がアタマを満たしている――意志が快楽に陵辱される。即物的な意
味に理性が塗り替えられていく。
だが。
強く意識する。
背中の気配を。
俺は、エリスの言葉を否定できるかもしれない、と言うことを。
「吼えてろ。ただのアドレナリン中毒だよ、てめえは」
「お互い様だな」凄惨な微笑は揺らがない。「――だろうがよ、人殺し。これまでにさんざっぱら殺しまくっといて、何
を今更にペシミってやがる。あァ? 今更何をカタギの知り合いなんぞを作って浸ってやがる――笑わせるなクソ
ガキ。テメエの地獄に他人を巻き込んでんじゃねえぞ」
地獄はここにある。
死地とはここにこそ存在する。
俺達が救いを求めるパターンに。俺達が苦悩する状況に。
逃げられやしねえよ、と鬼は笑う。
「オマエは逃げられねえ。どこにいてもどこに行っても誰に縋っても誰と通じ合っても――そいつがオマエの求め
てる「普通」や「理性」に満ちている以上、オマエは救われない――まァ、当然だ。そいつはオマエの本質を知らね
え。知ってたらオマエの傍には留まってやしねェだろうよ」
それも――正論。
だろうよ、と認めようとして――それを口にすれば、決定的に何かが崩れてしまうような気がして、思わず言葉を
飲み込んだ。
「――違うか、小娘」
刺すように鋭い言葉が、朝焼けに飛んだ。
- 553 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 07:36:16
- >>552
「知ってるよ」
―――真っ向から、叩き切った。
「だからどうしたってのさ。誰だって殺し殺されの一つや二つ、やってるだろう。
生命の本質は命のやり取りじゃない。形はどうあれ、生き物はそういうものよ。
……そう、どういう形であれ、ね」
足元から視線の届く範囲まではクレーターや破砕痕だらけだ。
実は見慣れてたりするのだが、コレを生身でやらかすのはたいしたものだと思う。
楽に回避できてるのは攻撃が基本的にイルに集中しているからだ。
……ま、露骨に手を抜いてるのも見えるけど。
ナメてんのか。
「だからこいつも―――そういう風にしか生きられないのは分かってるよ。
誰もが生き方を選べるわけじゃない、恵まれてるわけじゃない。
私みたいなのもラッキー・ケースだしね。
……でも、それを“どうにかしたい”って悩んでるのは。
そうやって足掻いていくのは、果たして否定すべきことなのかしらね」
―――だから、たぶん私もここまで付き合ってるんだろう。
最終的に生き方を選ぶのは彼だけど。
助けてやれるなんて思わないけれど。
でも、地図の一つくらいは渡してやりたいのだ。
「一つ、こっちの国でいい言葉があるんだ。教えてやるよ」
だから、とりあえず。
お前さんは黙れ。黙って殴られろ。
殴り合いたいんなら、いくらでもぶん殴ってやるから。
それがそっちの流儀なら、こっちも乗るだけのことだ。
「無理を通せば―――」
構える―――身体をひねり、ありったけの力を溜める。
体格差/技術特性を見ても普通に殴っただけじゃ微動だにするまい。
そもそも物理法則ごときキャンセルしかねないような式を全身に彫ってる巨人だ。
この一撃でもたぶん徒労に終わるかも知れない。
―――それでも、ぶん殴る。
身体強化/属性付与/解呪術式―――通じそうな手札を全部載せて、狙い打つ。
ようやく覚えたもの。
どうやっても分かり合えないなら―――言葉より、現物を見せることだ。
自分そのものを叩きつける―――相手に/世界に/それ以外の誰かに。
えぐれた地面へさらに皹が入る勢いで、跳んだ。
「―――道理が、引っ込むッ!!」
シンプルで、故に強力な一撃を、真っ直ぐに。
一番相手をブッ飛ばせそうな顔面に狙いを定めて、ぶん殴る。
下手をすれば自分の腕も折れかねないような一撃が、相手に突っ込んで行った。
- 554 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 08:21:59
- >>553
/memory 3
「どうでもいいんだよ、そんなクソくだらねえ仔細なんぞは」
漂うアルコールの匂い。
エリスはウォッカの注ぎ口を指で弾き割り、またもグラスをパスして口に運ぶ。水を飲むように酒を流し込みながら、
エリスは赤ら顔で正気を語る。……コイツが酔っていないところなど、実のところ俺は見たことがない。
アルコールのフィルターを通した目と鼻と口。エリスは酒越しにしか世界を見ないし語らない。能力が現実を見下
すなら、エリスの理性は現実など些事とも思っていない。
「ま、実際のハナシ、エリスはほとんど無類の性能を誇るターミネーターだよ。劉はともかく、ここ百年の間にはエリ
スに比肩するような騎士は見たことがない。ただそこにある言葉――エリスは正にそれだ。言葉は殺せないし触れ
ない」
ただ、とイリヤは笑いながら言う。
「――君は例外なんじゃないかな、イル」
アルコールに浸った視線が俺を睥睨する。
何かを納得したような色を帯びながら。
- 555 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 08:31:00
- >>554
「妹紅!?」
気付くよりも動くのが早い。
閃電の勢いで打ち込まれるストレート――避けようともしないエリス。
無理をしすぎているし、道理は確かに引っ込んでいる――事実、ブン殴られる直前、エリスはありえない、と言いたげな表情
を浮かべていた。
こちらにまで肉と骨を打つ鈍い音が響く。
「――気に入った」
そこには。
突き込まれた妹紅の腕を掴むエリスの巌のような腕。
「真正面からブン殴ってくるヤツはマジで久し振りだ――中々どうして、あんなガキにマトモな知り合いがいるもんじゃねえか」
意識が白熱する。
憎悪が過熱する。
沈めた身体は、一足飛びにできる距離を補足し、
「その手を、」
放せ、までは言う必要がなかった。
小荷物でも投げるように、巨漢はこちらに妹紅の矮躯を放っている。衝撃をまとめて殺しながら受け止めて、
――直後、目の前に短距離転移してきたエリスの射程から放すように、その身体を投げ出した。
- 556 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 08:33:16
- >>555
赤黒い燐光を散らして迫る拳を打ち払う。
踏み込むエリスの周囲で、空間を侵食する光の文字群が砕けて散る。俺の半径十メートル内に踏み入ったエリスは、纏っ
た死の気配を散逸させていく。
この能力とカチ合う上で、エリスはその本領を発揮できない――本来であれば無限に等しく際限ない破壊力は、尋常ではな
いが観測に収まる領域での破壊しか成し得ていない。この地形自体が爆砕しかねないエリスの式は、効果を成す前に演算を
破綻させて砕け散っていく。
天性の怪物――息をするように極大の魔術を吐き出す神話の住人。
元より膂力で勝負できる相手ではない。というか、コイツと力勝負できるヤツなどこの世を隅から隅まで探しても存在しない。
速度は僅かにこちらに分がある――慣性モーメントを制御しないエリスの長い腕は、(こいつに比べれば)小柄な俺に比べて
僅かに小回りが効いていないからだ。
が、そんな極微の優勢は慰めにもなっていない。
振り回される魔人の腕は掠るだけでも致命傷だ。この巨漢は自分の行為と結果の間に挟まる全てを短絡させて問答無用で
自分の望む結果を押し付ける。殺す気で殴り掛かってくるなら、殴られれば死ぬしかない。
致死性の拳打から逃れる為の回避動作の中、視界はとうに焦点となるエリス以外を認識していない――高速で振り回される
周囲の背景は筆で刷いたような抽象画と化している。
断続的な烈音が鼓膜を乱打する――空気の膜をブチ抜いて迫る拳は、ライフル初速など凌駕する。
網膜が情報を捉えてから脳に届くまでの0.3秒、鼓膜が情報を取り入れてから脳に至るまでの0.5秒――人間の情報処理系
は、この非現実を前に致命的にトロい。脳内で稼動する”賢者の卵”は、銀紐を通じて視覚聴覚と脳内の処理系を直結、その
致命的な半秒を殺してはいるが、エリスの拳は0.1秒を十六等分するより早く俺に到達する――。
――つまり。
見てから避けていては死んでいる。
聞いて反応したのでは殺される。
脳を通していたのでは遅過ぎる。
意識的に拳の動きを追うのは馬鹿馬鹿しい。眼球はとうに拳の軌跡を追うのを放棄している。意識を添削する――識域下で併
走する思考の分布図から、最適解を反射で送り込む。
- 557 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 08:34:12
- >>556
そも、『主観』とはそうして走り回る無数の思考の原稿の最適化選択に過ぎない。
身体の制御など愚考の極み。刻まれた瘢痕(けいけん)は自動的に最適解を叩き出す――だからこそ。
どう動くかを読み抜け。自分の反応にどう反応するのか、その反応にどう反応するのかこそを思考しろ。
視覚は荒れ狂う竜巻と化した巨体を丸ごと補足する――細部に反応する点の防御ではなく、全体を捉える面の回避。視線移
動と体重移動。腰から肩に伝わる運動方向――巨躯の運動を一つの巨大なパターンとして認識し、そのパターンに対応して反
射神経を励起させる。
純化された行動に『意識』など割り入る余地はない。
加えて、俺達は互いの手口を把握し切っている――身体は溜め込んだ瘢痕だけを頼りに、辛うじて探ることのできる安全な
動作を選択する。
趨勢は詰め将棋に似ている。
戦闘には無数の展開があるように感じられても、「そうしなければそれで終わる」という状況が含まれた状態において、正解以
外の選択肢はないも同然だ。
エリスを前にして、一見して無数の選択肢は、直撃イコール即死という事実で現実を束縛している。
俺が致命の運動量を改竄する間にも、エリスは次の即死攻撃を叩き込んでくる――対して、俺の攻撃は意味を成さない。
文脈操作は俺の主観でしか具現しない。降り注ぐ拳の雨の一発一発に意識を集中しなければ、エリスの一撃は易々とこの丘
を丸ごと消し飛ばす破壊力を取り戻す。
……言うまでもないが、そんな破壊力は『避ける』ことすら不可能だ。余波で生まれる衝撃波は易々と周辺区画を灰燼に返す
だろう。俺とコイツの能力の相性など問題ではない。煮え滾る火山の火口にコップ一杯の氷を放り込んだところでなにも変わり
はしないだろう。
――対して、この巨漢は『能力を行使する意思』など必要としてはいない。
鳥が飛べる事を意識しないように、蝙蝠が超音波で位置を探ることを常態とするように――エリスは息をするような自然さで無
尽の破壊力と冠絶の防壁を作動させる。人間としての性能を極める内に、エリスは人間がどんな生き物だったのか解らなくなっ
たらしい。
クソ面白くもない話だが――生物として、この酔っ払いは究極を通り越して冠絶している。
コイツを黙らせるには叩き伏せなければならない――が、今の俺では黙らせることが出来るのは、コイツの破壊力か防壁の
片方だけだ。鉄壁の鎧を解除したところで、コイツの一撃を貰えばそれで終わる。その上、雨霰と降り注ぐ瀑布のような連撃は、
それ自体が俺に反撃を許さない。
無敵の矛と絶対の盾を標準装備。
「――ッ!」
顔面に飛んできた肘を半歩引いて避ける――や、巨体が沈み込み、蛇のようなしなやかさで懐に滑り込んでくる。
拙い、と直感が警鐘を叩き鳴らすが、致命的に遅い。顔面を蹴り飛ばそうとすれば足を掴み倒される。が――この姿勢は。
躊躇なくその場で跳ねる――間髪擱かずに長身が眼前に聳り立つ。跳ねるように持ち上がった岩石のような肩が全体重を乗
せて叩き付けられる――貼山靠、と心中に理解が落ち、咄嗟に論理層に干渉するのと同時に、タイムラグ抜きで走る衝撃。
壊滅的なエネルギーを改竄で殺すが、跳ねていた身体は純粋なエリスの怪力で弾き飛ばされる――枯池の外にまで弾き飛
ばされながら、両手両足で擦るように着地するが、勢いを殺し切れずに地面を十メートル以上も転がって、巨木に強かに背を打
ち付ける。
無理に踏ん張っていれば、確実に両腕ごと胸郭を粉砕されていたハズだ。
- 558 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 08:34:46
- >>557
致命傷に至る攻撃だけを避けながら、エリスの壊滅的な破壊力と無尽の防御力を殺ぎ取り続ける。
が。
それでは届かない。
俺の反撃速度にエリスは先んじる――破壊力を殺した正にその隙に、エリスの素の力が俺を磨り潰そうとする。
破滅的なエネルギーを殺いでも、エリスの破壊力は当たれば誰でも死ねる。
破壊力と防壁を剥ぎ取る為の一泊。エリスにこちらの意図を直撃させる為の二泊。
どう足掻こうが、この二段構えを突破しなければ勝機もなければ生機もない。
「言ってんだろうが――テメエはオレに届くかもしれないが、まだ届き切っちゃいねえ」
エリスの前では現実が現実として機能しない――現実を観測する基準が違う。非現実的な要素が強すぎて、現実の方が軋
みを入れられる。
審問官なら「殺す」事は難しい事ではない。殺しても「死なない」連中だが、それでもその肉体を破壊する事は不可能事では
ない。だが、エリスにはそも「攻撃」という概念が通らない。極論、沛然と降り注ぐ核の雨の中ですら、コイツは悠々と歩いて過
ぎるだろう。
端的に言って、他者に殺されないことに掛けては、コイツの右に出るヤツは存在しないのだ。
届かない。
選択肢が――。
「――いいや」
叩き込まれる拳を打ち払う。エリスの右腕で増大した死の気配と共に、その全身が纏う無敵の聖衣が粉砕される。
防壁が死んだ一瞬を俺は狙えない――だが。
「ナメすぎだよ、おまえ」
声を投げたのはエリスの背後。
そこにいる、赤く灼熱した不死鳥の気配。
「――俺達を」
- 559 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 08:58:23
- >>555-558
全力で叩き込んだ一撃は―――予想通りだった。
でも、微動だにしないというのは予想外だった。
ないわー。
「……あれー?」
何だかよく分からない賞賛と一緒に、あっけなく放り投げられる。
―――いや、実感してみるとヤバいなこいつ。珪素生物か何かか。
流石に今の一撃を衝撃ゼロで受け流せるとなると、打つ手は限られる。
手ごたえと全身に彫り込んだ術式、そして―――
須臾の思考に柔らかな衝撃がさざめく/後ろを見るとイルが受け止めてくれている。
「あ、ありがと―――ってえ!?」
例を言う間もなく再び投擲―――直後にとんでもない乱打戦が始まった。
目で見えないどころの話じゃない。まるで津波だ。連打が壁のように見えるのだ。
素の身体能力も狂っているのかも知れない。
―――目の前の神業的ウィービングを見ながら、思考を再び回し始める。
原理としては多分、イルやセシルさんみたいに世界そのものを書き換えて何かやってるのだろうか。
その結果はさっきの完全防御で、おそらく攻撃も即死に至るレベルに変更できるだろう。
で、イルがそんな弾幕を凌げているのは―――多分、似たことをして相殺しているようだ。
ただそれが決め手にならない。相殺は出来ても侵食は出来ていない。ダメージを与えられない。
攻撃と防御を同時にやってる相手に、防御しか出来ないのでは勝ち目が無いだろう。
例え全力で防御を破壊できたとしても、相手は次の攻撃で叩き伏せることが出来る。
イルの方は、攻撃と防御どちらかしか出来ない。
―――んじゃ、もう一人、手が増えたら?
- 560 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 09:10:58
- >>559
一瞬だけクロスする視線。
―――うん、分かった。
あの視線の中でこっちに眼を向けるというのだ。
それだけで何となくやるべきことは悟れた。
目で会話するってこんな感じなんだ、などとズレた感想を抱きつつ。
紫電と土石が跳ね上がる―――こちらは式を起こしている。
爆撃を受ける塹壕のような視界―――それでも的は見えている。
手に/足に/背に/胸に/全身に炎が走る。
さっきは使わなかったが、出し惜しみ出来ないともう分かっているから使うことにする。
やることはさっきと大体同じ。ただし、今度はさらに上を行く一撃を。
「さっきのに耐えてくれたんだ―――こいつで死んでくれるなよ」
流石にやっちゃったら寝覚めが悪いが、加減の出来る相手でもない。
相手の頑丈さに祈りながら―――最後の引き金を絞る。
意識の奥で、呪法(スペル)を宣言する。
不死―――火の鳥―――
「鳳」
地を蹴る/紫電が一際強く弾ける。
雲に覆われた空が顔を出すような気配。
たぶん、「壊」した。
「翼」
それを信じて突っ込む。
時間がどうしようもなく遅く感じる。
倍近く経過しているように感じるのに、実際は半分にも満たない。
「天」
それでも電流みたいな速さで飛翔する。
一発の銃弾になったような錯覚―――ジェットコースターのようにゆがむ視界。
目の前に、少し、ほんの少しだが驚いたような顔をしたモンスターがいる。
それに、思いっきり笑ってやった―――“どうだ、ざまあみろ”。
「翔ォォォォォォォォォォッ!!」
着弾。
冗談のような大爆発。
すべて散り終えた楓と、叩き折られた木が、再び粉砕されて宙に舞い上がった。
- 561 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 09:17:59
- >>560
―――もちろん、後先を考えない最大の一撃だ。
こっちも盛大に吹っ飛んで、宙を飛んで地面にぶつかり、何回か転がってようやく止まった。
辺りを紅葉が渦を巻いて飛び回っている。
……ちょっとした見物だけど再起不能かなここの高台。
爆煙やらなんやらで見通しは殆ど立たない。
……手ごたえは間違いなくあった。掛け値なしの直撃。
「……ったぁ……ちょっと、防御相殺してコレっておかしくない?
殴ったこっちがめちゃくちゃ痛いんだけど」
それでも硬かった。モース硬度60くらいはありそうなほど硬かった。
殴りつけたこっちもアレだけど、その殴った腕にヒビ入ってんじゃなかろうか。
すぐ治るからいいけど、なるほどさすが神父の知り合いだけはある。
「……あ、イルー? 生きてるー?」
ふと思い出して、ちょっと慌てる。
やば、巻き込んじゃってないよね? 避けてるよね?
- 562 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 10:12:11
- >>561
世界が炎上するのを見た。
ブチ上げられた炎の塊。
俺が剥ぎ取った聖衣が砕け散った一瞬。その、刹那を更に刹那で当分したよりも僅かな間隙。
エリスの背中が、炎の翼を得たように炎上した。
俺が一人でエリスを突破できる可能性はあるだろうか、と自問してみる。
有限個の解答は存在するだろう――しかし、エリスの持つ無限個の解答がそれを否定する。有限を無限で割ってみれば、
確率はゼロにしかならない。
この世界とは即ち無数の意思と主張の鬩ぎ合うコロッセオだ。自身の解答を粉砕しようとする解答を計算に含めば、あらゆ
る状況は不確定性に満ちたカオスへと転がり落ちる。
どれだけ個人の中で完結した計算だろうと、そこに他者を含めば状況は一変する。
因果においてエリスは不変だ。
その無敵に一穴を開けられる俺は、それでもその穴を押し広げることはできない。
そう。
「俺だけならな」
ディザスター映画のエンディングを見るようだ。
薙ぎ払われた一条の炎が、穏やかに世界を燃やし尽くしていく。そんな光景に見蕩れそうになった瞬間、向こう側から声が
飛んでくる。
「……あー。いや、大丈夫。まだ生きてるよ」
割とギリギリだったが。
爆心地を避けて妹紅のところに回り込むと、周囲で焼かれた巨木が中心部に向けて倒れていく。
直撃したエリスを押し潰すように圧し掛かる木の本数はざっと十数本。
死にはしないだろうが、エリスとてこれだけのダメージを一度に叩き込まれた経験は滅多にないだろう。
やっと黙ったか、と俺は妹紅に声を掛けようとして、
「調子――に、」
声が聞こえた。
聞き慣れた、しかし今は一番聴いていたくない声。
待て。
洒落ではない。冗談でもない。
焼けた巨木。圧倒的な熱量に煽られた沼地は、ぐずぐずに焼け爛れて異臭を放っている。
あらゆる生命が純粋な熱量で生存を否定するそこで――
「――調子ブッてんじゃあねぇぞガキどもがぁぁぁぁぁぁぁッ!」
- 563 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 10:15:47
- >>562
鬼が吼えた。
数トンにも及ぶ木々を高々と跳ね上げる。屹立する長身――金色の双眸が赤味を帯びて敵意に染まる。
セリフが負け犬じみている、なんてツッコミは成り立たない。服を粗方焼き尽くされ、灰を身体に纏っただけのエリスは、超
高熱の直撃を素で受けながら立ち上がっている。
なんというか――もう、生物としてどうの、という次元ではない。
改竄され尽くした肉体は、とうに細胞の結合レベルでおかしいことになっている。
「テメエが……そうか、テメエ――あァ、思い出した――」
俺を睨み付けたエリスは、そのまま横に移動させた視線で妹紅を凝視する。
神でも睨み殺す、邪視まがいの敵意を込めて。
「モコウ、ってのは――テメエか」
焼けた吐息。
荒い口調でエリスは続ける。
「……このクソガキがしょっちゅう喚き散らしてたヤツぁ――誰かと思えば――チッ、女の名前だったとはな」
視線が絡む。
「信仰に縋り切れなくなったと思えば、次は女か――洒落で済んでねえぞ、バカ野郎。本質的に無神論者のテメエが赦しだ
のなんだので納得してるワケにゃいかねえだろうが、そのオチは少しねえんじゃねえか」
「知ったことかよ」
- 564 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 10:17:45
- >>563
打ち付けた背中が鈍痛を訴える。
末梢神経が過度の衝撃に悲鳴を上げ、脳内の”賢者の卵”は痛覚信号のエラー取りに熱を上げる――その証拠に、視界
がちらちらと黒い斑点に覆われている。処理限界が近い証拠だ。いい加減、コイツとのケンカはラスボス戦にすぎる。
「イリヤの野郎が言ったろ――オレは何からも自由だとかよ」
だからなんだ、と俺は血の混じった唾を吐き捨てる。
エリスは自嘲するように笑い、
「違うな」
と首を振った。
「例外がいるだろう。ここに。オレの目の前に。オレの身体をココに引っ張り出したテメエがいる」
煤が身体から零れ落ちる。彫像のような身体には無数の神韻。赤黒く輝く無数の刻印が蠕動し、その度に周囲の空気が
グラグラと揺らぐ。
条理と正常を喰らう神の獣の周囲で、現実が軋んで悲鳴を上げる。
「オレがオレである以上、なにからも自由だってことはありえねえ。テメエが――イリヤが、劉が、テメエらがその証明だ」
現象の域に達した強梁。
それに比例した比類なき強穀。
人間として枠をハミ出した怪物は、それでも自分が人間のように弱い、と吐き出した。
「例外じゃねえんだよ。オレがこうなったのは、オマエやイリヤがいたからだ――オレがこうしてオマエの前に立ってるのは、
オマエが生きてオレの前に立ってるからだ」
「意味――わかんねえよ」
言い切る前に噎せた。肺を痛めたのか、呼吸と激痛がイコールになっている。かなりちょっとよろしくない。そんな俺に構
わず、俺を見下ろすエリスは淡々と言葉を飛ばす。
「今のオレを作るパーツには、テメエが組み込まれてるってことだよ、クソガキ」
「……なんだって」
「オレだけが何もかもから自由だと思うか? そんなワケねえだろうが。幾ら強かろうがどれだけ強くなろうが、オレ達は過
程の中でしか動いてねえ。解るか。オレは生まれたからここにいる。赤ん坊の頃の記憶なんて残ってるかよ。その頃のテ
メエがどんな環境でどんな風に生まれてどう育ったか――」
憶えてるか、とエリスは嘲笑する。
「下らない。昔の自分なんてのは他人だ。『もしも違う育ち方をしたら』なんて考え方するヤツは冗談抜きに救えないバカだ」
「――だろうよ、同感だ」
- 565 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 10:30:37
- >>564
だがな、とエリスは目を細める。
「それはオレ達を作り上げたパーツだ。オレ達の身体を、オレ達の思考を、オレ達がどう生きるかってパターンを編み
上げた織糸だ。だから聞かせろよイル。オレ達は何かを選べたか? 選ぶ事ができたか? オマエが殺してきた連中
は、お前の前で何を選択できた?」
それは、と俺は言葉に詰まる。
「ガキの頃の選択なんざ、そんなモンを覚えてるやつはいねえ。オレ達は気付いたらこうなってるし、こうなるしかない
――どう足掻いても生きられない連中を殺し続けてきたオレ達が連中を憶えていてやらねえで誰が憶えていてやれる
――逃げんじゃねえよ、テメエが殺しまくった連中の嘆きを背負ってやれんのは、テメエだけだ」
網膜が焼け付いていく。
瞋恚の感染に、乾いた絵の具のように理性が剥離していく。
「忘れんじゃねえぞ瓦礫の王。テメエは――テメエが殺した連中の罪を丸ごと背負ったモノリスだ。だが――それを忘
れるってんなら」
金の瞳が輝きを増す。
焼け崩れた服の下、肌が見えないほど刻み入れられた印章が赤い燐光を帯びて励起していく――あらゆる事象とあ
らゆる罪を、これまでに死に、嘆き続けた者の声を記録し続けた生きた石碑。
遥かな白い石版を遠くに望む、書き潰された罪の歴史。
空間が歪むほどに励起した銀紐が、エリスの周囲の待機を円形に切り取る。
閃電の間。
十メートル以上――俺の射程外で駆動したエリスの巨躯は、俺と妹紅の真正面。
「――消し潰れて考え直せ」
振り翳される両手。左右から切り落とすように掲げられた怪腕の周囲に、空間を押し潰す量のパターンが励起する。
容易に丘を磨り潰す気配。
俺は射程内にありながら、その反応に僅かに遅れている。
そして。
振り落とされる両腕――、
――を、踏み込んでのアッパーストレートでブチ砕く。
思うさま顎に叩き込んだ一撃が、エリスの姿勢を崩している。
破壊された式の残骸が周囲に散る。
「――ッ……どういう理屈だ、テメエ……!」
驚愕面のエリスの視線が向かう先は、俺の胸元。
淡い燐光を帯びてガチガチと文字盤で回転する時計の針。
胸元に視線を落とす。ガチガチガチ、と断続的に時計盤が回転を続ける。
歯車一つ組み込まれていないアンティーク時計のペンダントは、燐光を放ちながら空気を切り分ける。
エリスの活動は意思するより早い。
が――。
意思は時間の中にしか非ず、その活動もまた然り。
停滞した時間を渡った俺の方が早いのは、これも道理だ。
- 566 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 11:16:15
- >>565
「どんなジョークだ。いつから魔術師に職替えした」
口元の血を手の甲で拭って、エリスは俺とペンダントを交互に睨む。
それも当然だろう。俺の知る限り、エリスがこの数年で――もしかしたら十数年、数十年で――劉とイリヤ以外に真っ
当な手段で傷を付けられたことはなかった筈だ。俺にしてもそれは例外ではない。
それが今日で二度。
別の人間に一度づつだ。
そして。
巨漢の唇が狂喜に歪む。
「――いつオレに並んだ、テメエ」
「並べるワケねえだろ、筋肉ダルマ。俺が普通にやったならな」
ペンダントを持ち上げる。
ここでの貰い物だ、と付け加えて。
……正直な話をすれば、俺自身予想外だ。このアミュレットの効果は――存外、コイツ相手には凶悪だったらしい。
「言ったろ、エリス。俺達は何も選べやしねえって。……まあ同感だっつーか、そんなモンは当然だ。最初から知ってる。
言われなくても解ってる。人間が何かを選択できるなんてのは、クソにも劣るまやかしだ。認めるぜ――けどな」
チン、とペンダントを弾いてみせる。
時計盤が朝日を跳ね返す。
「選択はできないけど――選択したフリはできる。いや、選択なんてクソみたいなペテンができなかろうが、俺達はその
時々で最善に足掻いてんだよ」
「そいつらも選択した上でお前を認めてるワケじゃねえぞ――履き違えるな。どんなヤツも自分の気分でしか動いちゃ
いねえ。正しさもクソもない。正しさを感じるのはオレ達だが、正しさを選択するのは遺伝子で、環境だ」
「だとしてもだ」
首を振る。
金色の双眸を睨み返す。
「俺に関わってくれたヤツのことまで否定する理由がねえよ。俺は、そいつらを否定するって選択肢が見付からない」
妹紅を否定する理由は、俺の中にビタイチない。
「――チッ」
眼前で巨体がブレる。
一瞬で射程外へと離脱したエリスは、左右に首を倒してゴキゴキと鳴らしている。
「その程度には理解しやがったみたいじゃねえか――多少はマシになりやがったか」
低く、ケモノのようにエリスが身構える。長大な手足を地面に這わせた姿勢。
その距離はエリスのフィールドだ。
瞬き一つの間隙で万物を殺し尽くす魔人の。
「てめえがガキ扱いしすぎなんだ。ほっといてもガキは育つんだよ」
左半身に構え、軽く右手を開いて姿勢を落とす。
身長差のせいで視線がエリスと一直線に並ぶ――神獣の黄金色の瞳が、爛々と喜悦に輝くのを直視する。
胸元では動作する時計盤。背中には俺の言葉なんぞをマトモに聞いてくれる奇特な相棒。
退く理由はなく、コイツをツブさない理由もない。
「来いよ負け犬。おまえは、いい加減うるさい」
「黙ってろよ飼い犬。分を弁えてろ」
- 567 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 11:19:37
- >>566
個々人に流れる時間は違う。
思考速度、ニューロンの発火関連、発火するシナプスの符号化された情報の関連。樹状突起の成長と結合の度合い
――あらゆる脳内の条件こそが、俺達だ。
キャロルのアリスは言った。
貴方の時間は早歩き、と。
エリスの身体が沈む。
その初動作。身体を深く落とすだけで地面が撓み、焼けた灰が中空に舞い上がる。
踏み込みは世界を踏み砕く巨人の足音。
奇妙に幻想的な赤い世界の中、地面を爆散させてエリスが馳せた。
それを捉えることはできない。
反射限界すら引き千切った怪物は、そもそも条理の世界に生きていない。
人間が光速度を限界値と認識するしかないのと同じ意味で、エリスの速度に生物は反応できない。
その踏み込みが打ち出す拳が、俺の脇を掠めて通り過ぎる。
時計盤がガチガチと滑らかに動作する。
あらゆる状況は空間に張り付いたファサードだ――全ての物事は空間に定義され、空間は時間に規定される。
時間と空間は不可分だ――故に。
「チィ……ッ! 空間の改竄――ランカスターの”無限の庭園”か、こりゃあ……!」
三度。超越した速度からの踏み込みは、ただ虚空を叩くに終始する。
一メートル。
ただ首を振り向ける程度の動作で俺を破壊できる距離にありながら、エリスの拳が空を切る。
「――知らねえよ、そんなの」
理屈など解らない。
そもこれは俺の能力ではない――教えてやる義理はないので、俺は口元に笑みを浮かべるに留めておく。
が――この能力の理屈は掴めている。
プランク秒単位での時間の改竄。
この世界の基礎を成す粒子の運動――その運動自体を構築する文法の改竄だ。
「敢えて言うなら”刹那が食む那由多”ってとこか――気にすんなよエリス、てめえの反則よかよっぽどマシだ」
「……ワケがわからねえ。テメエはその類の能力を根こそぎ殺しちまうハズだろうが。テメエを守るアミュレットが存在
する筈が――」
知るかよ、ともう一度笑って捨てる。
- 568 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 11:27:56
- >>567
「言ったろ、貰いもんだ。それに――俺が使う魔術が、俺に殺される道理はない」
なんだと、という煩悶を磨り潰すように、
ガチ、と時計が針を刻んだ。
――世界が停止した。
視界には箱庭の世界。
時間流から切り出された目に映るのは、時間という長大な文脈を一部分だけ切り離して俯瞰するような異界だ。
その世界を認識する――。
――結晶のように凍り付いた時間と空間を。
凍った世界をエリスに向かって駆ける――加速する――大気が身体に纏わり付く。指先にまでコールタールのように
空気が絡み付く。
運動速度が改竄された訳でもないのに、俺の踏み込みはエリスのそれに数倍先んじて発動する。音速の域に踏み込
む巨体がゆっくりと動き出す――が、その細部までがつぶさに観察できる。
俺がエリスを射程に捉えた時点で、巨体はまだ拳を振り被った姿勢にある。
飛び込んだ懐で、巨漢の纏う聖衣を粉砕する――同時に、エリスより圧倒的にリーチの短い俺の拳が顎を打ち抜く。
そのまま振り被られた左手に手刀を叩き落し、振り落とされる拳を無化する。
――三手。
三手先んじる。防壁を殺し、こちらの打撃を叩き込み、反撃を粉砕する。
厳密な意味で『時間を停止』させている訳ではないのだろう。完全に止まった時間では光を認知できず、空気分子は鉄
の羽毛と化して身体を束縛する。
そうではない。
俺を活動させる時間の基準が違っている。
互いに常人の運動量を超越した上で、今の俺はエリスとの相対速度で実に二十倍を超えている。視界が色を失ってい
く。『余分な情報』と判断された色彩が滑落して、世界はまるでモノクロのシネマみたいだ。
それより何より――。
- 569 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 11:29:25
- >>569
常態の数倍速で思考は発火する。思考は反射に追随し、同期し、見てからの反応を可能にする。
超音速の暴力を全て寸前で避け、返す刀でカウンターを叩き込む。
今や、一瞬ごとに数秒の猶予を付け加えられているも同然だった。
外界と共有する『一瞬』の間に、俺の脳内では三秒が経過する――拳の起動を読み、脚運びの所作を観測し、その位
置から安全圏までの距離と歩幅を逆算する。身体は粘着質の空気を泳いでいるようだ。最速のライフルと比してすら最
速である筈のエリスの拳が、コマ送りのように感知できる。
平時であれば文脈を剥ぎ取ってなお俺を即死させる質量と速度を保持した鉄槌が馳せる――左に避けるか右に伏せ
るかを判断して、俺はエリスの懐に踏み込んでいる。
”賢者の卵”で調律された視神経が、超加速の視界で現実と俺のラグを刷り合わせる。
意志が身体に先んじる。
反射を思考が俯瞰する。
数千倍に引き伸ばされた思考時間の中で、ひどくゆっくりと自分の身体が稼動するのを傍観する――巨大な時計の
歯車が稼動するのを眺めるように、俺は俺を見下ろしている。
内部時間にして一秒――俺は拳を固める。エリスが振り抜いた拳が耳元を掠めて背後の虚空を穿つ。展開した虚無
の円環が防壁を喰い千切る。
二秒――本来なら有り得ない筈の選択肢の出現。胸元で固有の時間を刻み込む時計は、俺がエリスから聖衣を殺
ぎ取り、先手を叩き込むまでのパースを作り上げている。
地面を打ち鳴らして踏み込む。反動が全身を包み込む――顎下から直上へ突き上げる拳は、狙い違わずに巨体の
全身を揺らしている。
防壁を殺ぎ落とされたエリスの身体が、ぐらり、とゆっくりと傾いでいく――それを緩慢に眺めながら、
まだだ、と判断する。
運動量の操作。弾道ミサイルの直撃に等しい一撃を叩き込まれながら、
くず折れる怪物の瞳が狂喜に揺れて俺を映し込む――酷く楽しそうに。
身体が熱に囚われる。脳内の神経が根こそぎ敵意を描く形状に繋ぎ変えられる。
まだ。
まだコイツを打ち抜けない――だから。
「――頼んだぞ、妹紅!」
声を張り上げる。
問答無用で――外聞もなにもなく。
ただ、頼む、と背後の一人に、自分を投げ託した。
- 570 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 11:38:58
- >>562-569
―――どうやら、のんきに会話する時間も無いみたいだ。
再び立ち上がる男の姿。全裸ながら全くのノーダメージ……って。
ここまで来ると笑うしかない。前に見せてもらった映画の敵みたいだ。
どう名づけようか、マジカルターミネーター? なんか微妙だ。
「ひっどいなオイ……今の最大出力なのに……」
さすがにちょっとヘコむ。が、まあ気を取り直そう。
駄目なら駄目でまだ手はある。
―――そう、手はある。伊達に長くは生きていないのだ。
「―――任せな!」
だから、その声には一秒未満で反応できた。
すでに身体は動き始めている。
―――とはいっても、状況が状況だから手は限られる。
さっき使ったスペルはもう使えない。
他のスペルを使うにしても、広範囲すぎて巻き込みかねない。
というか、下手したら粉塵爆発が起きそうなくらい葉と土とその他諸々が舞っている。
何より、たぶん。イルの張ってる結界は凝った術なんか使おうとしたら即座にぶっ壊す
だろう。ゴッホが狂ったように絵の具を疾走させている中で点描画を描くようなものだ。
マトモな形にはなりそうにない。
なら、利用できるのは内側に作用する術と、五体で繰り出す技だけ。
そして、並の人間じゃアレに傷をつけることすら難しい。
そこまで考えて、却って気が楽になった。せっかくだ、そこまで身体をいじらなくても、
人間ここまで強くなれるってことを教えてやろうじゃない。
今まで手に入れてきた技術と創意工夫と年月の研鑽は、限界を知らないってことを。
再び、爆発的に飛翔―――否、跳躍。着地点は至近距離。誰も巻き込まず、打撃が最大
の威力で命中する距離。全力で発射することに躊躇いはない。先ほどの一撃でさえ、コレ
は余裕で耐え切ったのだ。だったら遠慮なんてむしろ無粋という奴だろう。
踏み込んだ時点で構えは出来ている。後はイメージと、型の問題。
速く―――より速く。
鞭の先端のような柔軟性と加速。
骨格から腱、筋肉のロスレスでの連続動作。
地響きのするような最後の踏み込み。地面のほうが耐え切れずに罅割れる。
同時に回転と加圧する筋肉が、放つ正拳突き―――馬鹿馬鹿しいくらいに只の正拳突き
を、究極の域まで加速させる。荒削りな套路/身体操作ですら発揮される破壊力。
そして、それでもなお足りない技術と筋力と耐久力は身体強化の式で埋める。一時的に
生物の限界から解放され、機械より精密に動作できるようになった私の五体は、この瞬間
だけ、私ですら遠い領域の技術を取り寄せる。
嘗て伝え聞いた“武”の究極系。触れずに相手を倒す一撃。
見よう見まねですらなく、ただ実現させるためになりふり構わず組み上げた技。
見る人が見れば滅茶苦茶な体系だが、それは一つの現象を発生させるには最短の道だ。
その時は、組み上げきった時は知らなかった、とある一つの現象がある。
速く、速く、より速く駆ける時、必ず現れる壁。
音の壁。音速の壁。空気そのものが生む衝撃。
それを、生身で、超える。
無理で道理を蹴り飛ばす。
そうあれかしと願い、そうするべしと祈るなら、届かない道理はない。
そして到達する音速/その先を行く。
放たれる霊気さえ帯びた打撃―――命中せず、否、命中させない。
引き戻す。当てずに引き戻す。それだけで事足りる。
何故ならそれは、より加速させるために必要な距離。
何よりこの一撃は、
「っしゃあああああぁぁぁぁ……!!」
通り過ぎるだけで、何もかもを吹き飛ばすのだから。
無色透明の爆発が、ゼロ距離で炸裂する。
何かを打ち破るような轟音。一瞬遅れて聞こえたような錯覚。
そして己の全身すら打ち据える痛烈な打撃。
さっきの赤い爆発と同じか、それを越える衝撃が指向性を持って放たれた。
人間の限界を超える―――押し上げる一撃。
その代償で打ち込んだ右腕はずたずたになってしまった。
袖は吹き千切れ肌は盛大に血の帯を巻いていたが、別に大したことじゃない。
「……今ッ!!」
反動で吹き飛びながら、ぶっ壊れた右腕を抱きしめて、それだけを叫んだ。
お膳立ては済んだ。ここまでやった。
―――これで、失敗なんてするはず無いだろ?
目を閉じていても簡単に信頼できる。
だから、シメは任せた。
私はもう、十分なくらいぶん殴ったしな。
自分なりの答えを教えてやるといい。
- 571 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 11:53:45
- >>570
核爆発の吹き戻しを連想する。
一瞬で消し飛ばされた大気が、収束点に向かって真空を殺す絶対現象。
今は亡き「世界は真空を嫌う」なんて言葉が、ヤケに強く脳裏に浮かぶ。
――横合いから射抜くような斬撃。
銀色の髪が、世界に長々と残像を残す――妹紅より一メートル近く高い巨躯が、その滑走に合わせて大きくくず折れる
――金色の双眸が大きく見開かれる。
まだ。
今、ここだ。
「――っらぁぁぁぁぁぁ!」
空いた左手で襟首を引っ掴み、左足で踏み抜くように腹を蹴り飛ばす。慣性を全身で知覚する。勢いは殺さない。
イメージするのは精緻な時計。
一連の動作は無数の歯車が重ねる連動のように滑らかに――そのまま、階段を駆け上がるように右足を顔面に叩き込
んだ。足先で捕えた顔面ががくんと歪む。爆発するような勢いで巨体がフッ飛んでいく。
まだだ。
ガチガチガチ、と文字盤の回転が加速する。淡い燐光を放ちながら、アミュレットの励起は周囲の時間をザクザクと切り
刻んでいる。
引き絞られた弓が放つ矢のように、一直線にエリスに踏み込んでいく。巨木に叩き付けられる巨体が、凄絶な笑みを浮
かべて馳せる俺を迎え入れる。
「ブッ砕け――ろッ!」
その顔面に、額を叩き付ける。
衒いもなく、遠慮もなく、容赦など微塵もない。
単純明快な頭突き。
朽ち掛けた木と挟み込むように叩き込んだ額での一撃は、エリスの巨体が押し潰して折れ掛けていた巨木を今度こそ
完全にヘシ折った。
ズズン、と焼けた木が沈んでいく。
笑みながら倒れていく巨漢。
ガチン、と動作を止める時計盤。
老木と巨人が臥す轟音を聞きながら――荒い息と共に、最後の余力で一言を吐き出した。
てめえは――今の、この俺を認めやがれ。
- 572 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 13:02:01
- なんか、気がついたらとっくに夜は明けていた。
よく分からないけど、馬鹿馬鹿しいくらいに朝日は綺麗だった。
>>571
巨星墜つ、とでも言うべきか。
一時間、二時間くらいに感じた暴力戦は、高台のひしゃげかけた時計を見るに、十分の
一にも満たないくらいの間だったらしい。
ともあれイルの謎の裏技と、私の右腕一本、とどめの頭突きでこの人型要塞はようやく
沈黙した、ということか。
深呼吸して、痛む右腕にもう片方の袖を破いて乱暴に縛る。傷はほっといても治るから
止血の意味合いの方が強い。片手と口だけで結び目を仕上げて、ようやく気を抜いて腰を
下ろすことが出来た。闘ってる時は気づかなかったけど凄い疲れてるのが分かる。全く、
とんでもないのと出会っちゃったな。
で、なんで幸せそうなんだろうかコイツ。
なんか腹立つな。ヒゲでも書いてやろうか。
―――でもまあ、今はいいや。
「……やったじゃん」
なんとか倒れなかった木の一本に背を預けて、それだけを言った。
何しろこの男、ようやっと今の自分を叩きつけて見せたのだから。
他人事だけど割と嬉しい気がする。
「で、さっきは何やってたの?
なんか急に相手の動きが、というかイルの方が速くなった気がするんだけど」
あ、そうだ。これだけは聞いておきたい。
多分今聞かなかったら忘れるだろうし。
- 573 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 13:42:38
- >>572
気付けば、高台全体がブッ壊れていた。
……壊れていたというか、なんだろう。
うん、そう。
俺が言いたいのはそうじゃなく。
ここは本当はなんだったんだろう。
捩れた鉄柱十数本――多分元は外灯とか時計とか。
炭化したあれこれ――多分元はこの高台の景観を成していた木々の残骸。
確か巨大な池があった気がするけど多分そんなことはなく、そこには何かを鎮守した注連縄巻きの岩なんかが置かれてた
気もするけどなんてことはなく、ていうか周囲はどうやら突発的に飛来した戦略級爆撃機の絨毯爆撃に晒されたらしく、林ご
と周辺区域を消し飛ばす勢いで降り注いだ破壊の余波は、問答無用で区画を地図から抹消しなければならないレベルの荒
野へと変えていた。
黒い山羊でも迷って頓死しかねない焼け付いたカインの野原。
周囲にはクレーター群。
エリスが踏み込んだ地面は渓谷さながらの亀裂が深々と刻み込まれ、拳が打ち抜いた痕跡は隕石の衝突さながらのクレ
ーターを形成している――言うまでもないが、クレーターは質量に相当するのではなく、爆発が刻み込む破壊の痕跡に比例
して構築される。
無数のクレーターの円盤同士が接触して巨大な四重五重六重クレーターが刻まれる様子など、正直外部の天体でもお目
に掛かれないだろう。断じてここはネバダの実験場でもなく、アメリカと核の威力を競い合っていた時代のソ連がクレーター
形成実験の為に作った盆地でもない。
盆地ではないというか、ここは高台だった筈だ。
筈なのだ。
まあ、でもそんなあれこれはさて置いて。
「――キッツい。流石にこれはキツい」
ばたん、と盛大にその場で倒れ込む。見栄とかもうどうでもいい。
息をするだけで死にそうだ――生きているのは割と奇跡かもしれない。
ふと、胸元の硬い感触に手をやる。
ペンダントは活動を停止しているが、アレだけ凶悪な能力の割に反動は驚くほど少ない。
臓器の損傷程度は覚悟していただけに、これはかなりの行幸だったと言ってもいい。
大の字に寝そべったまま、視線を傍らに移動させる。
木に持たれ掛かる妹紅が、複雑そうな表情でエリスを一瞥した後で苦笑を投げてくる。
呼吸のペースを乱れに妙な艶かしさを感じてしまって、いかん、と内心に蹴りをくれる。なんというか、ホッとし過ぎである。
なので、不意の質問には実はかなりビックリした。読心術の類が使える、とは聞いていないが、こいつのことなのでそんな
スキルを隠し持っていてもおかしくない。
「あー……俺?」
質問の内容に内心ほっとしながら、解答に迷った。
何やってた、と言われても。
寝転がったまま、ペンダントを頭上に翳す。アンティーク調の時計盤。活動を停止したそれが、今は穏やかに時針と分針
を重ねて眠っている。
「俺がやったっつーか……コレなんだけどさ」
その姿勢のままペンダントを翳してみせる。
「ここで前に会ったメイドさんに貰ったんだよ。アミュレットとしちゃ破格だな、これ――時間とか止めちゃう、ナイフ好きの
メイドさん」
言ってから、なんかディオっぽいよな、と今更のように付け加えて。
いや、妹紅がディオ様とか知ってるかは置いとくけれど。
- 574 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 21:34:20
- >>573
ああ、時間停止。そういう手もあるのか。
ただそんな稀有な技術持ってるようなのは―――あ、そういえば一人居た。
「ははは……どういう縁なんだか。たぶんそいつ、私の知ってる相手だよ」
時計でメイドでナイフ好きと来たらたぶん一人しか居ない。
にしてもどこで接点持ったのか……は後で聞けばいいや。
とりあえず彼女には感謝しとこう。
「で、えーっと……とりあえず、これからどうしようか」
後始末―――といっても、多分そこで寝てるサドマゾを片すくらいしか出来ないけど。
ここまで吹き飛んだ地形を直せる奴なんて神様くらいのものだろう。
とすると私はもう帰るくらいしかやることがないんだけど……。
あー、うん。結構距離あるからな。
都合三度、限界まで絞った攻撃やったわけだし。すごい疲れた。
「今から帰るのはつらいなー……」
ばたーん、と仰向けに寝っ転がる。実際右腕はもう痛すぎて何も感じない。
身体も三倍くらい重い。空も飛べないくらい霊力も消耗してる。
……あ、そうだ。
「もしここから近いならさ。今日はそっち泊まってっていいかな」
そういえば孤児院にはまだ顔を出して無かった気がする。
久しく会ってなかった妹さんにも挨拶したいし、悪くないかも。
- 575 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 22:40:38
- >>574
「……お前の?」
どんな偶然だ、と笑いながら、停止したペンダントを胸に戻す。
まあ、ここまで無茶苦茶に偶然が重なると、もう何があってもおかしくないんじゃないかって気はするのだが。
ぶっ倒れた位置で視界を横に向けると、同じく大の字に寝そべる妹紅。色々とはしたない、と言いたいが、お互いにこれは
どうしようもない。
というか――冗談抜きで、エリスに拮抗できた真実が冗談みたいなものだ。デススターを単独で壊滅させられるような怪物
とケンカで抜けた事実は、我ながら常軌を逸している。
寝転んだまま瓦礫の山と化した周囲を見回す。
見回したところで、とんでもないセリフが飛んできた。
「ああ、泊まるくらい全然構わな……泊まる!?」
思わず、がば、と上半身を起こして、倒れたままの妹紅を見てしまう。
物凄くナチュラルに言われたので、その言葉の真意を全力で測りかねる。
カラダはみしみしと軋んでいるのだが、それ以上にアタマがマトモに思考してくれない。考えなくてもいいような思考がグル
グルとループを描いているような気がする。
「ま、あ、それはうん、俺は全然構わな――か、構わないんですが!」
ず、と痛む身体を立ち上げる。痛みはするのだが、そんなあれこれはどうでもいい。
とりあえず、だったらやることは限られてくる。
携帯――は、さっきの衝撃で多分死んでるから、エリスを担いで麓まで――エリス。
そういえばどうしてんだ、アレ。
吹き飛ばした木の辺りに目をやって、
「――え」
視界に影が落ちる。
肩越しに振り返れば、そこにはお約束。
狂相を浮かべた鬼の姿――
「……頑丈って、限度があるだろ。不死身も行き過ぎるとギャグにしかなんねえぞ」
「ホザいてろ――それと、ホメてやる」
――笑みと共に怪腕を掲げる、ケモノの姿。
「よくここまで辿り着きやがった」
反射的に動く。
視線と肩。足先から肩先までの筋肉が連動する。
論理層へのアクセスを一足飛びに成し遂げて周辺の魔術を根こそぎブチ殺し、その顔面に右ストレートを――
「はいはい、そこまでそこまで」
拍子抜けに明るい声。
それを聞く俺は、当然ながらエリスの一撃を叩き込まれた訳ではない。
が、俺の拳もまた、エリスに届いてはいない。
俺の拳はエリスの鼻先――エリスの巨大な拳は、俺の鼻先で止まっている。
何故なら。
「……劉」
「と、イリヤ……?」
そこには。
俺とエリスの手首を鷲掴みにする美形長身の影と、その傍ら、妹紅の外見をそっくり写し取ってシニカルな笑みと諧謔に
歪んだ瞳でアレンジした少女の姿。
「や、一日ぶり――それと、そっちのヒトは始めまして。いや、初めて見るかな――こうして見るのは初めてだ。イルからい
つも話を聞かされてるよ。仙人サマ」
俺達をここに送り込んだ張本人は、芝居めかした仕草で妹紅に一礼した。
- 576 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/01(日) 22:59:14
- >>575
「っく、あはははは、何そんな焦ってんのよ。変な想像すんなよ」
思わず腹を抱えて笑い出してしまう。
やっば、何この面白い反応。
ここまで分かりやすいと、うん、弄りたくなる気持ちも判る気がする。
笑ったら幾分か気だるさも抜けた。身体を起こしてその場に胡坐をかくと、改めて回り
を―――あれ、いな、い?
「……なんでそんな元気なんだ、おい」
気がつくと新しい面子が二人割り込んで、早速殴り合おうとしてた二人を止めていた。
もう驚かない―――といおうとしたけど自分と瓜二つの姿を見てちょっと動揺する。
空似にしては細密過ぎるし、分霊にしては歪曲が過ぎる、って所だろうか。
そしてあれだけ暴れてた核弾頭二人が静止しているのだ。
何となく格が違うのは分かる。
たぶん機械仕掛けの神みたいな何かだ。
「え、あ……どうも」
慇懃な一礼にこちらも会釈を返す。
……たぶん、こっちがイリヤ、という人なのだろうか。
断片的に話を聞いたことはある。曰く、人間で留まってる理由が不可解な相手とか。
「……んー、どういう状況なの、これって」
ほこりを払いながら立ち上がって、説明を求めてみる。
いかんせん急ブレーキとアクセル全開の展開が多すぎる。
とりあえず殴り合いが終わるって言うなら歓迎だけど……。
あれだけ暴れて肝心の部分から置いてけぼりはちょっと勘弁かなあ。
- 577 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/01(日) 23:48:25
- >>576
「んー、なんだ、その様子だとまだ何も話しちゃいないみたいだな」
やれやれ、と大袈裟なジェスチャーで肩を竦めるイリヤ。
普段なら見慣れているが、妹紅本人がここにいるだけに、鏡写しの外見だけがシニカルに振る舞う様は、幻想的、を通り
越して奇怪だ。どこだかで読んだ、鏡の中の自分が暴走する小説を思い出してしまう。
「ま、説明がヘタな君らに代わって私が説明しようかな」
機械仕掛けの神は語る。
曰く、エルサレムで作られた大量死を促すメソッドが、日本に持ち込まれた可能性があるということ。
曰く、その現場は確実にこの二ヶ月で自殺者数、殺人件数がハネ上がったこの麓街であるということ。
曰く、外交ルートを通じてヴァチカンに依頼してきたのは日本の検疫局ということになっていたが、実情は局の一幹部の
独走だったということ。
曰く、そのメソッドはとっくに崩壊していて、ヴァチカンへの依頼は体のいい後始末の口実だったということ。
――って、待て。今さり気なく、なんかとんでもない情報が混じってなかった?
「……後半二つ。初めて聞いたんですが」
「そりゃそうだろう。黙ってたんだもの」
ケラケラ笑う妹紅コピー。
本人を前にしてなんだが、その。
すげぇイラつく。
外見がこれだけ似てても、こんだけ受ける印象って違うんだ……。
「後藤氏はどうなってんだ」
「え? ああ」
だからさ、と物分りの悪い子供を諭すようにイリヤは苦笑し、
「黒幕があの人だよ。気付かなかったの?」
「……」
気付けって。
無理だろ。
情報少なすぎるもん。
このスレッドでやってたの、殆どケンカだけだったもん。
- 578 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/02(月) 00:00:19
- >>577
「検疫局の情報検閲能力は、ま、あれで中々に大したもんさ――ヴァチカンと比較しちゃ可哀想だが、それでもこの国じゃ
図抜けてる。フィルタリングでなくゾーニング。意思力の統制。この地方でのローカルなネットや情報網を使って、ほとんど
一週間足らずで彼はこの地域に死の世界を作り上げた。この世界はもう駄目だ、ここで生きる意味はなく、誰もが誰もを
憎み続ける場所はここにある、とか、まあそんなの。さてさて、憶えがあるだろう? エルサレムはどうやって死体の山を
量産したんだったかな?」
「あの人が……一人で?」
「ほぼ一人で。実情を知る人間はいなかっただろうね。まさか検疫局の人間が、日本を丸ごとブチ殺してやろうなんて考え
てるとは思わない。あのクールなメガネ男子がそう考えてると想定するのは、尚のこと難しいことだったろう」
「……ツッコミ入れるヤツはいなかったのか。外交ルートで話があったんだろ」
「いやいや、なんせ検疫局と言えば、外務・総務両省のプール資金で作られた非公式の殺し屋部隊、なんてのが一般の
認識だ。触らぬ神になんとやら、ゴタゴタはこの時期の日本も遠慮したかったろうし、この国の官僚の体質としちゃ、好き
好んで非公式の一支局の細部にまで首を突っ込みたくはなかったんだろう――表向きには『ない』組織なんだからさ」
コーヒーを渡してくれた後藤氏を思い出そうとする。
が、あまりにも邂逅は短い。その背景を想像しようとしてみるが、あまりにも断片しかなさ過ぎて情景が浮かばない。
「ざっと言うなら、さ」
イリヤは歌うように語る。
エルサレムの暴動の顛末を。
検疫局からの出向で死地を覗き込んだ後藤氏は、あの世界に囚われてしまった。
或いは――俺達と同じように。
俺が覗き続ける世界がそうであるように。
「じゃあ、なんだ。あの人は――」
>>481-490
「知ったんだろうね。君が良く知るあの言葉を――あのリズムを聞いてしまった。人知れず啜り泣くバンシーの嘆きを、万
人を憎悪と狂熱で包み込むローレライの声を」
……それは、不可避だ。
知ってしまうこと。記憶してしまうこと。この世界の地獄を、この世界に満ちた言葉を理解してしまうこと。
その瞬間に齎された感情を殺しても、記憶は消せない。
人間は完全に忘れることなどできない――完全に憶えていることができないように。
「そうさ」
俺の内心を見透かすように、イリヤは笑う。
「言葉は自分の中で世界を作り上げる――彼の中には、彼の地獄が作り上げられた。君のそれと同じように――まあ、
君よりは幾らかマシだったろうが」
それでも、とイリヤは言う。
後藤氏は知ったのだ。
この世界と地続きに、この国の人間が見捨て続ける世界があることを。
- 579 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/02(月) 00:17:42
- >>578
「彼の目的は実験と実践。そしてこの街を踏み台にして、この国にあの情景を再現すること――ふふ」
と、そこで。
イリヤは俺と妹紅を見る。
何かを見透かすように。
「君はそうしなかったな」
「は?」
「後藤氏はそうした――だけど、彼よりも巨大な地獄を抱え込んだ君はそうしなかった」
……なんだって、と俺は呟く。
呟くのと同時に、脚が縺れている。
眩暈がする。
立っているのが難しい。
イリヤが口にする言葉が、亡霊のように生気を奪い去っていく。
「少し――期待してたんだがね。やれやれ。もっと巨大な砂漠を抱え込むまで待ってみるとしようか――いやいや、しかし」
洒楽で頑是無い視線は俺の隣に移行する。
鏡写しの外見。自分とまるで同じ立ち姿の妹紅へ。
「案外、や、違うな――間違いなく君のせいなんだろうな、イルがここに踏み止まったのは」
イリヤは神のように下知し、悪魔のように笑い、やれやれ、と首を振る。
「どこが違うんだろうね――私と君と。わざわざカラダまでこうしてみせたってのにさ」
- 580 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/02(月) 00:32:29
- >>579
事のあらましは何となく理解できた。
……まあ、あまり見てて気持ちのいいようなものじゃなかったけど。
さて―――違いとは、ね。
まあ、この場で即答するのは難しいのだけど。
私は私の姿をした別物に告げる。
「―――形は同じでも、中身が違えばそれは別物よ。
水と酒が入った同じ形の瓶をそれぞれ口にして、取り違える奴は居ないでしょ?」
そしてその違いとは、経験と歳月によって得られるものだ。
それが完全にシンクロする人間なんて、平行世界にも存在はしないだろう。
見た目は同じでも、触れてしまえば違いは簡単に分かる。
「―ー−正直、あんまり気分の良くない意図でそんなカッコしてるみたいだけど。
無駄だよ。止めときな。どんな奴でも、全く同じ人間になりきるなんて不可能なんだから」
私の生きた道は私だけのものだ。
他の誰かが真似しようたってそうは行かない。
それこそ、神様にだって出来やしないのだ。
「……んで、まあ何も問題ないんだったらそろそろ帰ってもいいの?
正直いうと腕も痛いし服はコゲるしで散々なんだ。シャワーくらい浴びたいよ」
んでもってこんなところで突っ立ってたらうっかり出てきた人に見られるとも限らない。
もうこれ以上の馬鹿騒ぎはごめんだよ、正直ね。
- 581 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/02(月) 01:04:18
- >>580
とんとんとその場でステップを踏んで、イリヤは踊るようにその場で回転する。
「ふふ。や、想像通りの反応だな。確かに、私にはそう答えられないな。なんせほら、神様ってヤツは、アイデンティティが
大事でね。キリスト教にも然りだ。――ま、一応、よろしく、とだけは言っておくよ。一期一会かどうかは解らないし――それ
にね。私はこう見えて嫉妬深いんだ。かつてはこう自称したことにもなってるくらいでね」
タンタンと妹紅の周囲で跳ねていたイリヤは、鏡を覗き込むように妹紅の傍で腰を屈める。
「妬む神」
鈴が鳴るような音色の禍言。
それだけを告げて、さて、とイリヤは反転した。死屍累々の瓦礫の山を見回して、さもおかしげに嬉笑する。
「だけど、なんだいなんだい、月見だと思ってきてみれば――凄い風情の場所で酒盛りしてるじゃないか。んん?」
イリヤは冗談みたいに場違いな声で踊るように歩き、手首を掴まれた俺とエリスの間に割って入る。
「エリスも。ちょっと冗談が過ぎるんじゃないかな――ん?」
「……別に。どうでもいいじゃねかそんなの」
ばつが悪そうにエリスは掴まれた手首を振り払う。
振り払った、のだが。
「エリス」
なんだ、とエリスが口にした瞬間、フリッカージャブめいた拳が巨漢の顎を打ち抜いている。
問答無用、というか、口出し無用、みたいな雰囲気だった。
「り、劉――だっ、待てオマエ、」
エリスが、露骨に上擦った声を漏らす。
上半身焼け焦げたエリスと俺と妹紅を交互に見た劉は、こくりと頷き、テンポも軽く巨漢の顔面を今度は右ストレートでブチ
抜いた。仰け反る巨人と無言の美形。
「……っ! だからオイ劉、なんでオレお前に殴られて――」
「制裁」
「ちょ」
反問が反問にならない。どすんばたんと顔面に腹に胸に突き刺すような拳を叩き込みながら、劉がエリスを打ちのめす。
ジャレ合っているように見えなくもないが、実際あれは凄く痛いのだろう。
「そうだよ劉。それじゃ不公平だ。せめてイルも一発殴らないと」
「む」
「ちょ……っ、何余計なこと言ってんのお前!?」
満身創痍だ、とアピールする俺に劉は無言でツカツカと近付き、
「無理しすぎだ」
こつん、と額を小突かれた。
……ええと。
「……まて劉。待てこの中国。テメエ、オレとイルへの対応が違い過ぎるんだが」
「お前は大きい」
「大きいって……」
「大きい奴が小さい者を虐めてどうする」
「……いや、オマエの言い分がオレには普通に理解できねえ」
いや。
その基準は俺も解りません。
「――ま、状況は収束済みっぽいしね。今回はこともなし、ってことでいいかな」
- 582 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/02(月) 01:21:23
- >>581
「……収束済み?」
「ん? そうだよ?」
イリヤは高く昇り始めた太陽を見上げると、楽しげに焼けた地面でステップを踏む。妹紅と同色の長い銀髪が泳ぐように揺れ
る――が、妹紅と違って、徹底的に人間味の欠けた表情と所作ではある。
なので、口にするセリフも人間味に欠けていた。主に人情とかが。
「最初っから収束済み。カタなんて君が最初にココに来た時点で――早い話、数週間前にカタ付いてるんだよ?」
「なんだと」
一秒。
イリヤと瓦礫とエリスを見比べて、俺はもう一度呟くことにする。
「なん……だと……?」
「なんだとっていうか、んー、君、ホントに自分の能力の特性って解ってる?」
「……特性って」
「君はあらゆる文脈を殺す――魔法だのなんだのだけじゃない。神話ってパターンも、神様もだ。この街で異常事態が終結し
たのは、君がこの丘に来たからさ。なんだ、ホントに解ってなかったんだな」
「……何がだ」
「後藤氏の作り上げた神話は、基本的には噂の断片だ。中にはオカルトめいたモノも含まれてて、それが一部の集団から些
細なカルトとして発展していったんだよ。異常事態が頻発するココは、彼の神話の基点としては持って来いだった――ここは
元々、歴とした神地でね。自然崇拝の信仰形式を片隅で伝えていた場所なんだ。それなりの伝統とそれなりの逸話、それな
りの稗史がここには蓄えられていた。……というか、なんだな。ここには池とご神体の岩があった筈なんだが」
「え? えーと、うん、あった、の、かな?」
すいません。
それもうありません。
「まあいいさ。とにかくだ、後藤氏はこれを利用した。神話を地獄の道標に作り変えた――効果は覿面だったワケだよ。ちょっ
と前まではね」
「待て。だったら俺達がここに来る理由なんて――」
「あるだろう」
何が、と俺は言う。
イリヤはぞっとするほど朗らかに笑う。
「後藤氏がどうして外交ルートを通して正式に依頼してきたのか――無論、私達がこの事態を収束させた、と対外的にアピー
ルする為だ。けれど、それじゃ面白くない」
- 583 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/02(月) 01:29:12
- >>582
「君はエリスとハデにド突き合ったようだけど、疑問には思わなかったのか? どうしてエリスはこんなに突っ掛かってくる
んだろう、ってさ」
「は?」
エリスに視線を移動させる。
巨漢は舌打ち一つ、ガリガリと頭を掻くと、大仰に肩を竦めた。
「……あー、ったく」
心底鬱陶しげな嘆息。
やってられねえ、と言いたげにエリスは吐き捨てる。
「クソみてえにソンな役割だったわ、アホくせえ」
なんだそれ。
エリスに詰問系の目線を向けるも効果なし。
「まだ効果が継続してる――後藤氏にはそう考えて貰いたくてね」
だから、解答を用意したのはイリヤだ。
「――ま、下らないオチではあるけど、オチはオチ。そろそろ幕引きにしないかな?」
瓦礫の山の陰が蠢く。
夜闇に溶けるような人影は一日振り。
フォーマルスーツの伊達男。
「……あんた」
久し振りです、と苦笑して、人影は月明かりの下へ歩み出る。
「後藤さん」
- 584 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/02(月) 02:51:53
- >>583
「勘違いしないで頂きたいのは――」
終わりがけの秋風にスーツの裾をはためかせながら、後藤氏は肩を竦めた。
「私は、命乞いの為に貴方達に連絡を入れたのではない、と言うことです」
「だろうね」
イリヤは楽しげな様子を崩さない。
後藤氏はその様子に苦笑し、
「この場所を終息させたら、別の場所で同じ実験を繰り返すつもりでしたからね。正直、ここは既に破棄したつもりでいたので
すが――ヴァチカンの騎士が罹患するほどの狂気が未だにこの周辺に残っているのなら、とは考えましたよ。結果はこうでし
たが」
追懐するように後藤氏は言う。
この国を殺すつもりだった、と。嗟咨するでもなく悲嘆するでもなく、ただ淡々と語る。
「貴方の言う通り、私はここを基点にこの国を殺したかった」
「そうだろう。うん、それは楽しそうだ」
「とはいえ――生憎、これはここまでのようだ。そう、まあ、これは――それだけのことです」
それは――それだけのこと。
夜風に言葉が揺れて溶ける。
俺はその言葉を繰り返す。
それは――それだけ。
懐に手を差し入れる後藤氏。反応する奴は誰もいない――その手にシグ(検疫局採用のカスタムだ)が握られているのを
見た時も同じ。
ここに銃撃なんぞを恐れる人間はいない。
それより何より、氏の意図は俺もイリヤも――エリスも、劉も充分に理解しているからだ。
銃口をこめかみに添える後藤氏。
その手を、エリスの巨大な手が鷲掴みにする。
「死体。残したいか、アンタ」
「いえ。できれば遠慮したいですね――家族がいますから、これでも」
苦笑する後藤氏に、エリスは柔らかく微笑み掛ける。
シグを取り上げて手の中で握り潰すと、そのまま右拳を振り被った。
右手を視点に、夜目にも解るほど空気が膨張していく。常識外れの領域で展開された銀紐が周辺のエーテルをまとめて
食い散らす。赤黒い燐光が夜を浸食し、その手を覆う光は、さながら翼のようだ。
審問官でも扱いかねる量のエネルギーを一挙動で溜め込んだエリスの右手は、今や部外者にも解るほどの異形を成し
ている。
「大サービスだ」
「恐れ入ります」
心底。
本当に感謝を込めるように囁いて、後藤氏は、あ、と思い出したように声を上げた。エリスに右手を差し出すと、ちょっと
待って下さい、と俺に振り向く。
「イルさん」
「え」
飛んできた物を咄嗟に受け取った。
冷たい感触。先日と全く同じ缶コーヒーだ。
「さっき買ったのですが、なんでしょうね、飲みそびれてしまいまして」
「え? あ、はあ」
「餞別、というと少しおかしいですか? ま、受け取ってください――貴方は私のことを知らなかったでしょうが、私は貴方
の事を知っていました。イリヤさんに色々と聞いていましたから。私が見てきたモノを知っているヒトがいると知った時、私
はこれでも少し嬉しかったんです」
「嬉しい……?」
「今も――でしょうね。私がいなくても貴方がいる。貴方が私の死を背負う必要はないが、貴方の作った墓標は、私のそ
れの範囲を既に取り込んでいる。――それが、私にはとても安心できる。私の墓標もそこにあることが、私には」
私には――。
とても安らげる。
何の感慨もなくそう言って、後藤氏は軽笑した。
エリスがもういいか、と聞いて、
ええ、と後藤氏は笑う。
「貴方は、逃げられません」
その声が最後。
振り下ろされる拳――撃砕される背景。
それで本当に終わり。
轟音は、エリスが振り下ろした拳の先にあった事象の全てを――。
瓦礫も煤も木々も何もかも、一切合切をまとめて磨り潰していた。
- 585 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/02(月) 03:22:59
- >>584
「……ん、む。さて、それじゃそろそろお開きだな。エリス、劉。お疲れ様。イルも大変だったね」
「いや、まったくだ」
コーヒーを飲みながら、俺は見晴らしが良くなった高台――だか盆地だかもうよく解らない平地に目を凝らす。
星が綺麗だなあ、とかなんとか考えはするが、いかにも現実逃避ライクなのは仕方ない気がする。
「あ、俺は勝手に帰るから。つーか暫くヴァチカン戻らないから。あと宜しく」
「おいおい、そりゃ勝手すぎないか。エリスをあれだけボコッといて勝ち逃げはないぜ」
「……つーか、それだよ」
じろりと巨漢を睨む。
それもこれもねえのである。ポケットに両手を突っ込んで月など見上げているエリスは、どう見ても司祭らしさがゼロを通り越
してマイナスだ。
「最初っから芝居か」
「あん?」
「さっきの話だよ」
フン、と鼻を鳴らす。
どうでもいい、とばかりに無関心モードに移行したエリスをよそに、イリヤはそれを揶揄するように笑みを浮かべる。
「まさか。エリスがそんなに器用だと思うのかい? 途中からは本気だよ――本気で君を諭そうとしてたワケさ。あの話の流れ
で言うなら、プロポーズ辺りはそれなりにマジだったんじゃないかな」
「ねえよ」
「いや、ねえな」
口を揃える俺と巨漢。
「いいじゃないか、エリスはエリスなりに君を心配してた訳だ。ああ、それとエリス。君、彼女に言っておくことがあるんじゃない
か? ちょっと無茶しすぎだよ」
「あァ? オレぁ別に――」
チ、と舌打ちしたエリスは妹紅に睨むような視線をくれ、半秒置いてから、はあ、と嘆息する。
「ま……しかし正直、オマエみてェのがいるとは思ってなかったわ。ガキにしちゃ、ちょっとだけは見直してやれる」
「いや、ガキっつーか……」
そいつ。多分、この中で二番目くらいに年長者。
……などとツッコミを入れようとする俺を一瞥した筋肉ダルマが、そこで意地悪く笑う。
「アレだ。イルのバカに飽きたら声でも掛けろ。オレが代役務めてやる」
「いや。ブチ殺すよ筋肉ダルマ」
「あァ何。やるか。ここで連戦か」
「いややるよ。やってやるけどね? ソイツに手ェ出したら素で殺すよ?」
襟首を掴んでエリスを睨み上げる俺と、ケラケラと笑うイリヤと、それをただ頷いて傍観する劉。
なんやかんやで終わってみればこうである。
「いや、こう見えてだな、オレは女にはそこそこ優し――」
「っしゃオラぁ!」
黙らせるように顔面に一撃を叩き込む。
本気でないと解っていても、口にしていいことと悪いことがあるのだ。
祭りの後、と言えば寂寥感しか残らない物なのだろうが、生憎と最初から寂寥に浸るほどの価値を持っていなかった俺達
はそうもいかない。
さて、とイリヤが背を向け、これからどうする、と俺達に聞く。
「俺は、だからここでいいよ。もうカタは付いてるんだし」
「ふうん。――ま、いいか。それじゃ私達はここらで失礼しようかな。あ、それと」
イリヤが指を弾く。
――と。
唐突に、消し崩れた背景が時計を巻き戻すように回帰してくる。焼き崩れた木々が、折り取られた鉄柱が、屠られた池と鎮
守の岩が――。
死を願った男以外の全てを巻き戻している。
「ハイデガーならこう言ったかな。『時間は成熟するものである』――とかさ。ま、手品として受け取っておいてくれたまえ。流
石にヴァチカンにこんな遊びで請求書を叩きつけられても困るし、彼もヘンな追及をされるのは好まなかったろうし。……あ、
それでイル。ホントに私達帰っちゃうけど、いいの?」
返答済みの解答に付け加える言葉はなく、ゲラゲラ笑いながら去っていく巨漢達を見送り、今度こそ。
やれやれ、と本気で溜息を吐いた。
空には月。
周囲には静寂。
取り残されたもう一人に、さて、と声を掛ける。
「色々とお疲れさん。――んじゃま、そろそろ帰らない?」
- 586 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/11/02(月) 03:34:51
- >>585
……やっぱり、彼岸を覗いた人間ってのは狂うもんだね。
結末を最後まで見届けて、嘆息する。
非日常の力。暴力と、死と。そしてそれを操作する感覚。
やっぱりろくなもんじゃない、と自戒する。傷ついた自分の右腕を見下ろし、
―――溺れるな、と。
この痛みが、今も私を彼岸から切り離している。
私もイルも、いやここにいる連中も一歩間違えばこうなるのだから。
さて。と。殴ったら殴りっぱなしってわけにもいかないし。
筋は通しとくか―――と思ったけど。なんだ意外と、意外だな。
言ったら怒りそうだから止めとくけど。
「……そりゃどうも」
どつき漫才を見ながら、思わず笑ってしまう。
ただまあ、流石に二度とやりたくない部類のファイトだったから。
「流石にもう殴り合いはごめんだけど、酒くらいなら付き合うよ。
―――こう見えて、そっちより年上だしね」
それだけ言って、別れを告げる。
次はもうちょっと平和的に顔を合わせたいものだ。
さて。証拠隠滅も終わって、まあちょっと微妙だけど厄介事も全部終わった。
だから、後は。
「―――じゃ、帰ろっか」
そういって、その背中にもたれかかる。
「……やー、実を言うと立ってるのもきつくてね。
場所、近いんでしょ? ちょっとそこまでお願いしていいかな」
そういって、イタズラっぽく笑って見せた。
たまにはこういうのもいいだろう、なんて思いながら。
- 587 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/11/02(月) 04:07:22
- >>586
「って、うぇ――えぇ!?」
心地良い重さと暖かい体温。
妹紅がもたれかかってきたのだと気付くのに一秒。気付いてから言葉を失うのに一秒、パニくらないように気を静めるのに
実に五秒。駄目だった。暖かい吐息が耳元に掛かる。ていうかなんか背中に、ちょ、背中――背中に!
「……え、ええと。近いっちゃ、近い……かな?」
何駅あるかは知らないけど、と、小声で呟く。
こほん、と咳払いして、気合を入れて妹紅を背負って麓への道を探り出す。
流石に街の往来を行くのはこっぱずかしいので裏道を探す必要はあるだろうが、その程度は苦にならない。というかむしろ
ご褒美である。
一難去ればなんとやら。
とはいえ。
報酬などてんで期待できなかった一件とはいえ、これは充分すぎる見返りだ。
見返りなど期待するな、というのは強者の言い分で、俺はやっぱり多少は何かを見返りにしていたい。
感情に振り回されるのはやっぱりゴメンだ、と胸を張って言ってやれるが、それはそれ。信仰が生きる為のツールなら、感
情もそうであっていけない理由はない。
生きる理由は、などと微妙な命題を突き付けられたら、まあ、今は迷うこともなく答えてやれる筈だ。
ここにある、と。
「ああ。そうだ、帰ろうか」
(退場)
- 588 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2009/12/30(水) 00:02:07
- ちらちらと空に舞う白い結晶。
暗闇の中、うっすらと雲が淡くかかる空を雪が舞っていた。
その小雪舞う高台に降り立つは蝙蝠の羽を持つ少女。
楽しそうに、そして自信に満ち溢れた表情で少女は雪と共に舞い降りる。
「さて、一人で来るのは初めてだね」
そう、初めてであった。
従者を、眷属を差し向けたことは幾度もあった。
一度は部下と共に散歩したこともある。
しかし、この地を一人で訪れるのは彼女にとって初めてのこと。
少女、レミリア・スカーレットは高台を見回し、
平和そのものの光景を眺めやる。
「楽しい遊び場なら最後まで遊びきらないと勿体無いしねぇ」
この地は本来、この姿……つまり、平和な高台の姿をもって
歴史の闇に消えていく運命であるはずだった。
しかし、それは今、しずかに捻じ曲げられ始めている。
他ならぬ彼女の手によって。
そう、彼女の持つ能力。
運命を操る程度の能力をもってこの高台は侵食されていたのである。
- 589 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2009/12/30(水) 00:19:52
「ふふん。さすがだね。このままではダメか」
高台に処置を施しただれかさんに賞賛の言葉を上げる。
運命の改変に対してこの地形が抵抗をかけているのだ。
おそらく修復の際にひとつひとつ直すのではなく、
まとめてこのフィールドそのものを再記述したのではないだろうか。
それが過剰な安定を生んでおり、運命操作の妨げとなっている。
意図したものではなかろうが大した仕事ではあった。
レミリアは少し歩いてベンチなどがある高台の展望台を離れると、
少し下ったところの社のあたりに目をつけた。
「このへんでいいかな?丁度いい象徴もあることだし」
そうして首や手足を回して体をほぐし、ややあってゆっくりと両手を左右に大きく広げた。
全身に急速に魔力が満ちる。
立ち込めるオーラに触れた雪がジュッと一瞬で蒸発した。
爆発音。
そうとしか表現のしようのないエネルギーの奔流が高台の一角で荒れ狂う。
竜巻の如く、渦を巻き、柱の如く天を目指す膨大な魔力の光。
触れた物体は削れ、砕け、分解していく。
「不夜城レッド」
レミリアが得意とする広域殲滅用全方位攻撃魔法。
広げた手にあわせてか途中で左右に枝分かれし、さらに伸びる魔力の光は、
遠目にはさながら高台に突き立てられた巨大な十字架のように見えた。
光が収まったとき、その高台の一角は瓦礫と廃墟がたたずむ荒地となっていた。
- 590 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2009/12/30(水) 00:59:39
「これで良し」
これでこの場所「高台」は「一部区画が廃墟と化した高台」に書き換わった。
展望台とそれにつながる坂はそのままに、
その反対側の一角は瓦礫が散らばる荒地になったのである。
よって、この地に設定された運命の対象からここを外すのはもうたやすいことだ。
静かに消え逝く定めの「高台」は既に無い。
あとは意味合いを変えたこの地に新しい運命をくれてやるだけだ。
「そうだねぇ、与えるべき運命は『奇妙な邂逅』ってところか」
レミリアは指先で曇ったガラス窓に絵を描くかのように宙をなぞる。
この地の物理実体に触れず、この地の精神概念に触れず、
記憶層の情報が書き換わっていく。
かくてこの地は新たな運命に向かう事となったのである。
- 591 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2009/12/30(水) 01:09:02
「さて、新しい運命はこの地になにをもたらすのかね」
そしてできるならば我が身にもまたもたらして欲しいものだ。
楽しい日々。
それこそが今のレミリア・スカーレットにとって、
もっとも喜ばしい事態であるのだから。
「お楽しみはこれからだね。
ではせいぜいその日を楽しみにするとしよう」
腕を組んで不敵に笑う吸血鬼は最後にそう呟くと
無数の蝙蝠に姿を変えてこの地を立ち去ったのである。
<了>
- 592 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 20:24:04
- 一人、雪のちらつく高台の道を歩きながら私は呟いた。
「まさか本当に出るとは思わなかったわね」
先ほどの話だ。
お嬢様の命令で人里の初詣希望者を博麗神社までの道中、護衛した。
さすがに元旦から神社への道中で人を襲いに出てくる妖怪もいないだろうと
たかをくくっていたのだが、事実は逆。
ゆうに3回もの襲撃を受け、一度は時間まで止めさせられる事態となった。
当然人々に怪我人はいない。
この十六夜咲夜の目の前で護衛対象を傷つけるなどさせはしない。
それも名も知れぬ小妖怪などに。
正月の初詣客、いつもなら少人数が移動するのみだから、
狙いやすかったのかもしれない。
その上、巫女は神社を離れないとなれば良いチャンスであったのだろう。
明日は行けとは言われていないが、
お嬢様の命を口実に守りに行ってもいいかもしれない。
「…………」
ふと、足を止めた。
昨年の終わりに何度となく足を運んだこの高台。
その一角が完全に崩壊しているのだ。
話はお嬢様から聞いていたが……
私は足を速め、木立の中へ向かった。
- 593 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 20:30:39
「…………!」
私は息を飲んだ。
探していたのは例の切り株。
破壊の嵐に巻き込まれたのではないかと思い、
探していたそれは新たに出来た崖の上に存在していた。
ほんの数歩進めば崖。
崖の下は一面が崩壊した瓦礫と廃墟。
ギリギリ。
そう、ギリギリで切り株は破壊を免れていた。
ほっと息をつくと切り株に腰掛ける。
ちょうど崖になったせいで見晴らしが良い。
「貴方、そんな姿でもう死に体だと言うのに、しぶといのね」
視線は雪舞う崖下に向けたまま、切り株の断面を片手でさする。
お嬢様は正確な位置は気にしていなかっただろう。
破壊されなかったのは本当に偶然なのだ。
運の良いこと。
……いや、それともこれも運命なのだろうか?
- 594 名前:名無し客:2010/01/01(金) 20:33:00
- つ[純米大吟醸]
ミ [純米大吟醸]
- 595 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 20:42:23
- 随分と明るいな。
そう思って顔を上げた。
小雪のちらつく空にかかった薄雲の一部が淡い光を放っている。
「……あ、満月だっけ」
漸くその事実に気付いて思わず声が出た。
あの薄雲の向こうには月が真円を描いているのだろう。
雲越しに降り注ぐ月の光が木の枝葉や草の上に積もった雪に反射し、
この明るさの原因となっているのだ。
道を歩いていたときは街灯の明かりで気が付かなかった。
>>594
ふと気配を感じ、顔を下ろす。
空に向けていた視線を戻すと切り株の裏に日本酒の瓶が。
小さな気配はこれを届けに現れた妖精のものか。
ひょいと持ち上げてラベルを確認する。
「吟醸酒、悪くないけれど……」
溜息をつきながら苦笑して、誰とはなしに呼びかける。
いや、これをもってきた妖精に、だろうか。
「雪見酒も月見酒も一人ではね……」
言葉とは裏腹に鞄をまさぐる。
残念、グラスもティーカップも今日は持ち歩いていなかった。
護衛の帰りだから仕方が無いが。
喇叭飲みするのもねぇ。
昨晩、平然とビンで酒を煽っていた門番を思い出す。
- 596 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 20:55:12
- 手の中で酒瓶を転がしながら、眼下の廃墟に視線を向ける。
人工物と自然物が入り混じった異様な光景。
一様に共通するのはどれもが破壊を受けた残骸であることだ。
この廃墟を見ていると霧の街の荒れた区画を思い出す。
破壊された廃墟だったわけではないが、
その荒涼とした雰囲気はどこかあの街の寂しさに似ていた。
霧に隠れて他人は遠く。
路地で人が殺されていても、隣の通りの人間は何も反応しない。
あそこは他者に無関心と言うか、とにかく縁と言うものが希薄なエリアだった。
そこでの暮らしは愉快なものであり、不愉快なものだった。
私の中のわずかな人間性の部分にすれば地獄同然だったと言っていい。
今の暮らしの方がよほど人間的で充実している。
外の世界の人間は人間らしくない奴ばかりだった。
裏通りに生きる人間は特に。
今、幻想郷で目にする妖怪たちの方がよほど情緒豊かだ。
- 597 名前:名無し客:2010/01/01(金) 21:02:10
- ω・)つ[竹]←(コップに出来るように切ったもの)
ミ [竹]
- 598 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/01(金) 21:04:49
年初めの一日―――だから何があったというわけでもない。
復興途上の地元に元日の賑やかさを求める方が無理強いというものだ。
まずはその街が元のカタチを取り戻してからだ。
誰もが―当然俺も―当面数年間は同じ目標を唱え続けることになるので、
今年の目標と云ったものは特に要らない。
ただ子供達や数少ない友人とハンドボールやサッカーに興じ、騒ぐ。
たまに悪戯で‘右手’を使って‘ネロ、そっちは使わないって言ってたじゃないか’と
軽く詰られる愛嬌も忘れてはいない。
ただ夜間になると、流石にそういう娯楽も控えざるを得なくなる。
暗いし、何より少々危険な奴等がたまに顔を出すのだ。
なので、俺は一人ふらりと夜風に当たりにでも出ることにする。
俺が今こういった場所に現れている理由。至極簡単だろう。
- 599 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/01(金) 21:04:58
身を包む葉々を悉く喪い、冷酷に流れ続ける大気と深々と降り注ぐ小雪の前に
ただ剥き出しの枯れた身を晒すしかない路傍の樹木と草木の群れ。
夜天の星と月はただそれらを我関せずとばかりにその高見から見下ろしているだけだ。
洩れる息が一々真っ白い。だが別段寒くはない。
この程度の気温、俺にはこの紺のコートの袖を肘まで捲って歩ける程度でしかない。
当然、首周りを覆う赤いフードも単なるアクセサリに過ぎず。
尤も右は袖を伸ばしきり、レザーグラブを嵌めて覆いきっているが。
こっちは寒さとは「別問題」で。
背中にはギターケース。だが生憎と中身はギターじゃない。
愛用の仕事道具が一つ詰まっているだけだ。
この静寂な空気に抗うが如く耳元のヘッドフォンで流れるのは、ロックンロールかヘヴィメタルか。
かくて長い坂を上り切り、辿り着いた先に見えたものは―――
冷淡な夜天の空を睨み上げるように聳え立つ展望台。
その向こう側には何が建っていたのか知らないが無残な瓦礫が山を成しているだけ。
その光景に丁度似たものが脳裏を過ぎって、少し居た堪れなくなる。
後は―――切り株の隣でメイド女性が酒瓶を持って何やら逡巡しているようだが。
一人で酒盛りでもしたいって所だろうか?
ひとまず、音楽を止めたヘッドフォンを耳から首元へずらす。
- 600 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 21:06:11
- しかし、何故こんなことを考えるんだろう。
自己分析していてひとつの結論が導かれる。
それはおそらく、今日襲って来た妖怪。
そのうちの一匹が原因か。
かくれての不意打ち、狙うのは子供、獲物は銃。
非常に妖怪らしくない妖怪だった。
幻想郷で人を襲う化け物は幾多居るが、大抵は堂々と襲いかかる。
人間相手にこんなやり方をする妖怪は正直、初めて見た。
おそらく、最近外の世界から来たのだろう。
銃声に反射的に時間を止める事が出来たのは
間違いなく私の中の夜霧の幻影殺人鬼の部分のおかげだ。
長年の経験が反射として時間停止を行わせた。
銃弾の進路も確認せずに叩き落し、周囲の敵影を捜し求める。
下卑た表情を浮かべる屍鬼の銃口の向きを目にして
初めて狙いが子供であることに気付いた。
銃を破壊して、回避不能なほどにナイフを大量配置して一行の下に戻り停止を解く。
少し待っている様に告げて、再び時間を停止。
妖怪の元に戻って時間を動かすと、奴は見苦しく悲鳴を上げながら這って逃げる所であった。
しばし尋問して仲間がいないことを確認して早々に処分する。
甚振り尽くしてやりたい悪い虫が疼くが、今は一行を待たせている。
結局、人里に戻るまで警戒した別襲撃はなく、それが最後の襲撃になった。
「外の世界は……グールが銃を振り回す時代なのね」
理由は上手く説明できないが、なんだか面白くない気分だった。
- 601 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 21:12:58
- >>597
「竹のコップとは洒落ているわね」
永遠亭の姫君を連想する。
この国の御伽噺によればあの姫はこのサイズで見つかったのだったか。
遠巻きに様子を見ている妖精に微笑みと感謝の言葉を捧げて、有難くコップを二つ頂戴した。
>>598-599
「そして、こんばんは」
背後に立つ男に顔も向けずに挨拶を送る。
それにあわせてか、軽快な音楽がかすかに聞こえてきた。
……ラジオでももっているのだろうか。
そんなことを思いながら、マフラーの裾を口元に持ち上げた。
「どなたかは存じませんが、一杯飲んでいかれますか?」
ここで漸く振り返る。
そこに居たのは大きなギターケースを背負った男だった。
手袋ごしにつかんだ竹のコップをひとつ男に向けて微笑む。
- 602 名前:名無し客:2010/01/01(金) 21:29:29
- つ[おつまみ一式]
彡 [おつまみ一式]
- 603 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/01(金) 21:30:00
- >>601
振り向きもせず挨拶をかける銀髪のメイド女性。
別に気配を消したつもりはないので、些か礼を失して見える。
声をかける時は相手に顔を向けるのがマナーだと思うのだが…
などと軽く嘆息する俺にお構いなくマフラーを口元まで引き上げながら、
振り向きつつ竹のコップを俺に差し出す。
「悪いな、酒は経験がない」
苦笑いと共に、差し出されたコップを柔和に制する。
酒と聞いてあまり根本的に良いイメージは持っていない。
「というか、こんな所で一人酒盛りかい?」
皮肉っぽく聞こえてもあまり気にはしない。本来はすべきだろうが。
- 604 名前:名無し客:2010/01/01(金) 21:30:59
- つ[おつまみ一式]
彡 [おつまみ一式]
- 605 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/01(金) 21:44:00
- 一週間ぶりに舞い戻ってみたこの世界の風はなんて冷たいんだ。
そしてこの無常っぷりはなんだ、ていうか、何でだ。どうしてこうなった。
「…気に入ってたんだけどなあ、ここ」
誰だよ、こんな無碍なことするのは。
かつて紅葉を楽しんだ高台がこんな瓦礫の山になってしまうなんて。
雪見、などというのはどこでも出来るが折角だし景色が綺麗なところを選んで来て見たらこれだよ。
看板に世紀末のマナーを守れって書いたやつに小一時間ぐらい説教をしたい。
「…んまあ、折角だし景色だけでも見ておくか」
アイナと過ごした時はゆったりとしていたが、短かった。
心境的には非常に時間の流れが緩慢だったのだが気がつけばもう年が開けた。
そろそろ基地の閉鎖も終了、俺にもいつもどおりの日常が戻ってくる。
出来れば妻と過ごす時間を日常に持ってきたいが、まあそれは軍に辞表を提出した後でもいいだろう。
>>601>>603
案の定誰かいたか。冬だからコートでも羽織っているかなと思ったがそうでもなかった。
俺は戻ってきたばっかりだし軍服ではなく私服なんだけど。
「よお、あけましておめでとう、咲夜」
手を振って近づく。久しぶりといえば久しぶりなのだろうか。
年末に強烈に記憶に残ったのはフランだったからか。
あんなことは滅多に無いんだろうけどさ。
「…っと、アンタは」
男がもう一人立っている。奇妙な腕をした男。
今はレザーグラブで隠している。公にして外を出歩くわけにもいかないのだろう。
…名前、何だっけか。
- 606 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 21:44:23
- >>603
渋い顔の男。
どうやらお酒はお気に召さないようだ。
「それは残念ね」
本当に。
手に持ったコップを下ろすのも何なので、そのまま日本酒を注ぐ。
ビンを用済みのもうひとつのコップと共に切り株の端に置くと、コップを傾けて味を見る。
悪くは無い。
「そうよ、たった今、一人酒盛りが確定しましたから」
悪戯っぽく笑う私。
今はプライベート、ここに居るのは紅魔館のメイド長ではなく、
十六夜咲夜、その人だ。
しかも先ほどまでの夢想のせいで少し感覚が昔寄りであるらしい。
「こんな所とは言うけれど、これで結構いい場所だと思うわよ?
見晴らしよし、腰掛よし、枝のおかげで雪も積もらない」
無礼に思われるかもしれないが、生憎と私の中の夜霧の幻影殺人鬼は
プロの足運びをする人間相手では警戒を解いてくれない。
彼は何者だろうか。
音楽家?
かもしれない。
だが、それだけではない。
>>604
降って沸いたおつまみを平然と受け取ると切り株の酒瓶のとなりに置いた。
今は生憎と食べる気にはなれない。
一人酒ならちびちびやるだけだ。
- 607 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 21:53:18
- >>605
もうひとつ近づく足音。
ああ、この足音のリズムは聞き覚えがある。
心中の警戒は一瞬で解かれた。
あの暢気な軍人に対しての警戒など徒労に過ぎないと私は知っているのだから。
「あら、アマダ様。
あけましておめでとございます。
年明け早々ですが、帰省はもうお仕舞いなんですか?」
軍の休暇が今はどういうシステムなのか知らないが、
おおよそ簡単に長期に取れるものでない事は確かだろう。
というか年末年始に帰省するという事が、そもそもの配置先の状況を物語っている。
辺境の基地と聞いたが、まぁ、そういうことなんだろう。
「コップがひとつ余っているの。
新年の祝い酒がてら、いかがでしょうか?」
すこしお酒を口に運んでから、竹のコップを指差した。
- 608 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/01(金) 22:06:54
- >>607
足音で誰かわかるって顔じゃないか。こやつめ。
とはいえあの警戒は妙に気になるから程々にして欲しいけど。
「いや、もう十分ゆっくりさせてもらったしさ。
今日までが休暇、明日から仕事だよ。俺は家が離れてるんで早めに帰る事にしたんだ」
一年戦争の爪痕は非常に大きい。
今だ戦争は終わってないとジオンの敗残兵が主張すれば、その分連邦軍も引きづられる。
この地域一体にばらけるように存在している残党群の一掃は大部隊を動かしても難しい。
よって俺は当分この地域から離れた仕事場に転属することは無いだろう。
もっとも、あの基地自体が不良の掃き溜めみたいなもんだけど。コジマ大隊長すみません、まきこんで。
「いいねえ、雪が降ってるし俺も寒さにはうんざりしていたところなんだ。
ありがたく頂戴するよ」
そう言って俺はコップに並々注がれた酒を一気に煽る。
大きな溜息と共に飲み干したことを回りに知らせるころには周囲の景色がいくらか陽気に見えた。
「クァーッ!新年の一杯は格別だよ。ありがとう、咲夜」
何がどう格別なのかは、気分の問題だが。
- 609 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/01(金) 22:10:11
- >>606
「何ぶん未成年なもんでな。そういうのに迂闊に手は出さない主義だ。
悪いな、俺がもう3コ年喰ってたら付き合ったかもなのに」
しかし俺の鼻を突くアルコールの匂いはあまりいいモノには思えない。
寧ろ危険な感じだ。
よくこういうものを平気で口にできるなと思ってしまう。
「ま、確かに…
ここはちょっとした登山感覚の散歩には丁度いいかもな。
地元の山に似てな」
>>605
その折、見覚えのある男がこの高台へと上りきってくる。
プライベートらしく、今日は私服の模様。
「アマダ少尉か…また会ったな。
悪い、そういえばこっちゃまだ名乗ってなかったか…ネロだ」
―――その時、少尉が何とはなしであろうに呼んでいたそのメイド女性の名を聞いて、
俺は一瞬硬直感を覚える。
「サク…ヤ…?
おい少尉、今アンタこの人のこと…‘サクヤ’って言わなかったか?」
不意に問い詰め気味になる。
俺はその名を聞いたことがあるのだ。
- 610 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 22:23:21
- >>608
一息で飲み干すアマダ様。
警戒などまったくない。困った人だ。
私に化けた妖怪にとって食われないことを祈るばかりね。
「あら、新年の一杯ということは、お家では飲んでいらっしゃらなかったんですか?」
くすくす笑いながら自分とアマダ様のコップに次を注ぐ。
つまみも置いてあるが……まぁ、すすめなくともその気があれば取るだろう。
そういえばこの人、妹様を止めたうちの一人だっけ。
複雑な思いが胸に去来する。
あの日、メイド妖精から話を聞いてすぐに飛び出そうとした所をお嬢様に止められた。
手出しは無用だと。
たしかに私では妹様をお引止めする事はできないだろう。
よしんば殺す事はできたとしても、救う事は確実にできない。
この軍人のように命の危険も顧みず、
語り掛けるというたった1枚のカードに全てを賭けることなど理解の外だった。
それを思うと……
やはり少し、印象が変わったかも知れない。
>>609
未成年?
意外だった。
若いとは思っていたが、まさかそれほどとは。
「失礼ながら意外ですわね、そんなに経験豊かなのに」
戦闘経験が。
彼は何気なく立っているだけだが、相変わらず隙が無い。
楽器ケースにすぐ届く範囲内でしか腕が安定しない所を見るに、
あれの中身は武器なのだろうか?
それともあれそのものが武器なのか。
私は身体的には構えない。
ただ、いつでも停止できる精神状態を保つだけだ。
戦闘に長けた人間相手に肉体を緊張させても初手を読まれるのがオチ。
だから、構えないのが十六夜咲夜の構えなのだ。
「確かに散歩はいいですね。
昔よくライフワークにしていましたわ。
山は遠いのでもっぱら街を、ですけど」
それも、夜の街を。
霧に包まれた、夜の。
- 611 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/01(金) 22:23:49
- >>609
「…ん、オーケー。あけましておめでとう、ネロ」
朗らかな笑顔を浮かべ手を振る。
うん、仕事始めに二日酔いなんて事態は絶対によしたいな。
「ん?ああ、確かに咲夜の名前は呼んだけど。お二人さん、知り合い…ってわけでも無さそうだな」
にしてはそれほど親しげに話していたようでもないけど。
どうにも初対面って雰囲気がしているな。酒が飲めないことを知っていれば
最初から咲夜が誘うことも無いだろうに。
「こっちは俺の友人で有閑貴族のところで働いている十六夜咲夜。
あ、勇気の有るじゃなくて暇を持て余しているの方だからな、ゆうかん」
まあ、暇そうだしね、実際。
- 612 名前:名無し客:2010/01/01(金) 22:30:06
- 音声オンリーのラジオでは見えない三人の正月ファッションを語ってください
- 613 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 22:33:12
- >>611
ゆ、ゆうかんきぞく……
「ア、アマダ様、その仰り様は余りにも……」
お嬢様は気まぐれで暇つぶしがお好きですけど、
別にその表現に相応しいような方ではないのですが……
前にも言ったような気がするが、どうも彼の中のイメージではそういう感じであるらしい。
「はぁ……まぁ、いいわ。
それでアマダ様は彼とはお知り合いなの?」
二人を見比べて小首をかしげる。
共通点などなにもないような二人なのだが……
いや、共通点どころか対照的ですらあるだろう。
>>612
ここで今の格好を説明して置こう。
……と言っても変わった格好はしていない。
マフラーに長袖のメイド服、手袋にロングスカートにブーツ。
肩から小さな鞄をかけて大きな切り株に腰掛けている。
ナイフは袖口とスカートの内側と鞄の中に持っていた。
- 614 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/01(金) 22:36:47
- >>610
「俺が経験豊富だって何処を見ての事かは知らないが、
人は見かけによらず…って言うだろう?」
まあ確かに戦闘経験なら豊富だが。
実際そうも老けて見えるのだろうか?
「仕事でばかり出歩くのがデフォルトなんでね、こういうレクリエーション目的って
結構気分転換になるんだよな」
デビルハンティングというのはそういうもの。
雪山も城内も樹海も問うていられない。
なのでちょっとやそっとの劣悪環境などモノともならない。
「―――ところでアンタ、今アマダ少尉が呼んでたんだが…
確かサクヤ、って言ったか?」
>>612
いつもと同じだよ。
紺のコートにフード付赤シャツ。
- 615 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/01(金) 22:40:35
- >>610
「クリスマスにちょっと上等な酒を飲んだ。…あと嫁さんは全くアジア系の血筋を引いてないからな。
正月料理とか作れないんだよ。俺だって詳しいレシピ知らないし。
まあ、そういうわけで正月は少し豪勢なだけの普通の料理にして昼間に家を出たよ。
それで今こっちについたとこ。なんだかんだでこっちは久しぶりだしさ、荷物は基地に置いて散歩してたんだ」
彼女の小さな笑声が耳に入る。
いやなに、俺の飲みっぷりに呆れてるんだろうか。
まあ、楽しそうな感じであったので許そう。悪い気はしないのは性分か酒のせいか。
「っと、悪いな」
再び酒でコップの中が満たされる。透明なこの液体にどれほど人を
惑わせる魔力が込められているのか。最初に発見した人間と会って見たい。
十中八九会話通じないだろうけど。そんなどうでもいい夢想を思い浮かべながら近くにあったピーナッツを摘み
ヒョイッと口の中に放り込んだ。
「…どうかしたか?これ食ったら駄目だったか?」
つまみを咀嚼している俺を見る顔が少しだけ変わったな。
それに少し考え事をしているような、そんな感じ。
>>612
オリーブ色のダッフルコート。正月らしさも何もあったもんじゃない。
- 616 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/01(金) 22:44:50
- >>611
「ああ、今年もよろしく…でいいのかな。
あんまり深い付き合いじゃないから微妙な感じだが。
このサクヤってのとは別に知り合い、って訳じゃない。
ただ既に名前を聞いたことがあるからな。ある人物から」
悪魔を人物、と言っていいものかはアレだが…
とにかく、流れによっては別に素性を明かしてしまうことも厭わない。
必要がないから伏せているだけだ。無用な殺伐はあまり好まない。
「暇を持て余してる…なるほど、貴族だけにか」
あの立ち振る舞いを見て多忙に追われているという想像はどうも及ばなかった。
他人の家に遊びに行ったり部下と娯楽格闘を繰り広げたりしか見てないのだろうが。
- 617 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 22:49:53
- >>614
「ふふ、足運びですわ。
随分と歩き慣れているようでしたので」
戦いの年季は足に顕れる。
狙ってよい獲物と危険な獲物の区別がつけられないようではやっていけない。
彼はとびきり危険なタイプである。
私の中の危険な部分がそう結論付けていた。
「ええ、私は咲夜ですが……
……失礼、お会いしたことがありましたでしょうか?」
無いと思うのだが……。
よく似た雰囲気をもった戦士であれば
妹様から話に聞いたダンテという方がそうだろうが、聞いた話と彼では特徴が一致しない。
>>615
相変わらずのんびりしたノリのアマダ様に安心する。
だが、私の意識が変わった事はどうやら気付かれたらしい。
相変わらず、必要の無い所で鋭い感性の持ち主だ。
「……いいえ、暴れるお姫様を救った騎士の事を考えていただけですわ」
大したことでは在りません。
そう言いながらも、殺人ドールに他者を救うことなどできないのだと内心で溜息をついた。
聞けばクリスマスに神父にも窮地があったそうではないか。
結末はまだ聞き及んでいないが、そちらにも私は力になる事は無かった。
なにかが私には足りないのだろうか?
それともそれを羨むことそのものが間違っているのだろうか。
答えは出ない。
- 618 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/01(金) 23:07:46
- >>617
些か戸惑い気味のサクヤに続けて話す。
まあ、いきなり顔も知らぬ男に名を知られてるというのはあまりいい気がしないだろう。
「いや、俺が名前を聞いたことあるだけの話だ。
アンタの事は或る悪魔から聞いててな。
いつぞの居間で頂いたクッキー、上々の味だったぜ。
ま、俺の彼女には譲るがな」
ここまで言えば恐らくは‘核心’に届くだろうか。
ただ、アレも見た所割とズボラな感があるから一応ダメ押しで名前を出しておく必要はありそうだ。
「…ってのは聞いてなかったか?レミリア・スカーレットから」
- 619 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/01(金) 23:15:57
- >>613
「クク………悪い悪い」
手をひらひらさせながら別段悪いとも思わず謝る。
まあ、あれだ。ド級がつくほどの暇人であることには変わりあるまい。
ドレッドノート級有閑貴族レミリア・スカーレット。うん、だいたいあってる。
「ん?ああ、居間の方でちょっと会った。まあ、今名前を知ったくらいだから
別段そう親しい間柄であったって訳じゃないんだけど」
名前を知っているのは他人伝いからか。
>>616
ビンゴか。フランかレミリアからか。以前俺が行った時にはレミリアと一緒だった記憶がある。
まあ、どちらにしろ咲夜と親しい誰かから聞いたのは間違いない。
そしてそれは、割かし限られている。
「まあまあ、正月限定のお決まりの挨拶だよ。こちらこそよろしく」
そして彼の中でも暇人のイメージは見事に合致したらしい。
ほれみろ、咲夜。俺の言いようは的確じゃないか。
「資産とかを大量に所持していて仕事しなくなったら特別な血筋無くてもそう呼ぶけどな。
まあ、例え血筋にこだわったとしても有閑夜族には変わりあるまい」
あんまり上手くは無いかな。
>>617
…こっちはこっちで思わぬ場で聞いてしまったというのに。
「………なあに、自然災害の如き幼き姫の猛威から民間人を守るのも騎士の務めですからな、シンデレラ姫」
ええい、まだ俺を騎士と呼ぶか。
ちょっと面白い別れの挨拶に面白い反応をしてみただけじゃないか。
だから俺は騎士と呼ばれるほど高潔な人間じゃないっての。
「ま、なんだ。あの時はよくも判らない力に引っ張られたようだったし。
…他人を信じる心ってのはさ、自分を信じる心が無けりゃ手に入らないもんなんだな」
フランが泣きながら放ったような感情の矢を思い出す。
自身の周りには誰も居ない。だから誰も信じることが出来ない。
自分さえも。
「だけど自分を信じる心も、他人を信じる心がなければ手に入らない。
…あの時さ、お前がフランのことを信じているということを『信じていた』から彼女に対して言葉をかける事が出来た。
なあに、お前は無力じゃないさ。俺に自分の正しさを信じる心をくれたからさ」
俺の予想が正しければ、フランがああなるまでに救えなかったことを後悔しているのではないだろうか、この子は。
- 620 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 23:20:34
- >>618
……クッキー、成る程。
妹様と違ってお嬢様はあまり外出中の話はなさらないので、思い至らなかった。
となると……居間あたりでのお知り合いと言うところだろうか?
「お嬢様のお知り合いでしたか。
これは失礼をいたしました」
そういうことならただの咲夜ではなくメイド長としてご挨拶する必要があるだろう。
コップを置いて立ち上がりスカートをつまんで一礼。
「改めまして、初めてお目にかかります。
紅魔館でメイド長を務めております、十六夜咲夜と申します。
粗末なものをお召し上がりいただき、感謝の限りですわ」
どうかご無礼についてはご容赦いただけますよう。
言って目を伏せる。
危うく昔の悪い癖のターゲットにしてしまう所だった。
- 621 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 23:28:31
- >>619
「守ったのは民間人だけではないでしょう?」
私はシンデレラなどではあるまい。
戯れの言葉がむなしく響く。
ただのシンデレラに憧れる薄汚い殺人鬼なのだ。
狂気に暴れる妹様を前に、その当人すら守ろうとするなど、
私にはとても真似はできない。
「そう……ですわね。
信じる力……それがあるからきっとアマダ様は妹様を止められたのでしょう」
自分ほど信じられないものはない。
信じられるものはお嬢様のみ。
だから、私は他人を信じられないのか。
そして、それは他者を救うことが出来ないのとイコールなんだ。
ひどく……納得した。
妹様が一人になったあの時、
余計な事をしたのは私だけだった。
魔女も門番も察して距離を置いたと言うのに、私だけがちょっかいをかけてしまった。
きっと私は妹様を心配していたのではない、信用していなかったのだ。
私は力なく切り株に腰掛けるとコップの中身をあおった。
- 622 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/01(金) 23:33:31
- >>619
「ああ…よろしく頼むぜ、ってな。
しっかし、金ばっか入って仕事要らず…ってか。
まったく羨ましい身分だぜ」
便利屋として必要以上に休みを取らず地元復興にあくせくしてる身としては尚更。
それにしても有閑夜族。妙にツボに嵌るフレーズだ。
今度アレに会ったらからかい気味に使ってみるのもいいか。
「しかしよ、騎士とかシンデレラとかどんな関係だよアンタら…
というか少尉、ホントそういうムチャ好きだな」
などとからかいつつ二人の会話に割り込んでみる。
その幼き姫とやら、話の流れから察するにサクヤの知り合いのようにも思えるが、
恐らくレミリアではないだろう。
自他共に認める悪のカリスマのアレならもう少しエレガントな手口で出るはず。
自然災害のようと来てはどう察しても八つ当たり気味だ。
- 623 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/01(金) 23:42:30
- >>622
「仕事要らずというわけでもないんですが……
まぁ、大した事はありませんわね。
どこかの神社のように困窮しているわけではありませんし」
仕事はなんなのだろうか。
殺し屋あたり怪しいが、それにしては殺気が薄い気がする。
ボディガードか荒事屋あたりか?
零すのを聞く限り、あまり儲かっては居ないようだ。
「関係……どんな関係なんでしょうか。
難しいわね、友人と片付けてしまうのも何だけど、
現状ではそれが一番近いかしら。
ただ、今の話に関しては、とりあえずは主の妹様の恩人ですか」
どうにも説明が難しい。
そもそも妹様の現状自体が説明しやすいとは言えない状況だ。
少し気がふれておりましてと説明するが伝わった自信はいまひとつない。
- 624 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/01(金) 23:47:18
- >>620
俺に対して恭しく礼。
絵に描いたようなメイドの一礼だ。
「何、そう気にしてくれんな。
俺はネロ。あの辺の一角よろしく半ば廃墟となった街の便利屋だ」
あの廃墟―――昔の俺もまたあのような風体だったのだろう。
幼い頃から親の顔解らぬ故に周りから虐げられ、ただ何事にも
希望を見出せなかった。
特にその親が流れ者の娼婦かもしれないという噂など立っては。
- 625 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/01(金) 23:58:05
- >>623
「貧乏暇無し、とでもいったところだろうな。
その神社とやらにしても、俺にしても。
儲けようにも肝心のその元、つまり街がちょっとアレな状態でね。
ま、別に儲けのためにやってるわけじゃないが」
昔は堅苦しい風習や宗教などで好きになれなかった街。
だが今は皆、前の暮らしを取り戻そうと一丸となって励んでいる。
そんな街の為働けるなら別に莫大な報酬など要らない。
「妹…一度会ったんだが、あの変な羽のか?」
一度見覚えがある。
以前レミリアが帰る(というか寧ろ強制送還される)時
少しだけ会った事があるのだ。
例によって流れを追うと、その妹とやらが八つ当たり気味に暴れたということになりそうだ。
どうもある意味姉より性質が悪そうだ。
- 626 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/02(土) 00:03:35
- >>621
「…まあ、な。あんな幸運が何度も起こるなんて思っちゃいないけどさ。
だが限りある未来を守らなければならないのは人々全体の役目だ。俺はその一人であり、そして役目を果たした。
ただそれだけのことだよ」
フランには、よく判らないのだが、輝きがあるような気がする。
影が表面に出てきたときにはそれこそ恐ろしいまでに濁ってはいるが、だが
その瞳にはまだ未熟だがとても大きい未来があるのではないかと。そう思えてしまう。
「…おいおい。その言い様、お前も自分を信じられない性質か?」
コップの中の焼けた水を一気に喉に流し込む。
素面じゃ駄目だ、今は。
「他人に信じられているかどうかなんてものは誰にも確かめようが無い。他人の心に踏み入るなんて誰にもできないからだ。
だから信頼といってもそれは相互関係じゃなく、実質は一方通行だ。
だから他人に信じられているという感情は他人を信じなきゃ持つことは出来ない。
そして誰が誰を信じているかなんてものもまた知りようが無い。その感情を信じるにはまたさっき言ったことと同じ心構えが
必要となる。そして他人を本当に信じているのかどうか、それは自分を信じる心がなければ懐疑的になるんだ」
もう一度、酒を口に含む。
「ケホッ…さて、俺は自分を信じ、お前を信じ、『お前がフランを信じていることを』信じた。
そしてその結果は判るな?フランを救うことが出来た。
…俺は一応、人を見る目に自身が有る。お前は信用に足りる人物なのだと。
お前が信用に足りる人物でなければ、俺はフランの影が発する言葉そのままを信じるしかなかった。
フランは誰にも信用されていない、孤立した子供であるということを」
もう一度、酒を口に含む。
「…咲夜、お前は俺が信用できる人物たりていた。
それだけでお前は、フランに投げかける言葉のピースを担っていたんだ。
俺はお前を信用しているよ?だからさ、自信を持てよ」
少々悲しげな顔になってしまったが、俺は何とか咲夜に笑いかけた。
人は人を信じることで生きれる生き物だ。そうでなかったら繋がりなんて持てるはずが無いんだ。
>>622
「…どうだろう。働かなくても金は入ってくるんだろうか。
中世の貴族は領民の税金で生活費を賄っていたらしいけど」
しかしそれだけじゃあ有閑とはいえないな。
肉体を酷使する代わりに人心の掌握という重労働が課せられるのだから。
「…や、シンデレラと騎士のことはもう言わないでくれ。
そう呼ばれるのは幾らなんでも恥ずかしい」
半分事故の様なもんだしねえ。
- 627 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/02(土) 00:08:53
- >>624-625
「便利屋、なるほど何事も多方面にわたってご体験なさってこその経験というわけですか。
しかし、あのレベルまで壊れてしまっては修復は困難ですわね」
いや、まぁ、あの破壊は当の紅魔館当主の手によるものなのだが、
雰囲気的に言い出し辛いものがある。
このまま胸のうちに伏せておくのが良いだろう。
「その街がお好きなのですね、良い事だと思います。
故郷の町に嫌な思い出しかない私にしてみれば少し羨ましい話だわ」
彼の遠い目を見ると、きっと複雑な思いはあるのだろう。
それでもその町のために力を振るうだけのなにかがあるのだ。
「妹様にもお会いになられたんですか?
ええ、そうです、水晶のような羽の……
鬱屈されていたのでしょう、狂気に取り込まれて暴走なさいまして」
幾人かに止めていただいて、その後はお嬢様が狂気を押さえ込んで事なきを得たんです。
そのように簡単にまとめて説明する。
- 628 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/02(土) 00:17:06
- >>626
「まあ働かざるもの喰うべからず、なんてヤボな事はいわないが…
働く楽しさ、ってのを知らないのは少々勿体無い話だよな」
こう見えても今は仕事尽くめなほうだ。
あまり辛くはない。寧ろその仕事の方向上喜んで受けている方だ。
シンデレラ騎士云々に関し小恥ずかしい顔で答える少尉。
どうも過去に何かあったらしい。
「そいつは悪かった。じゃあ訊かないでおく」
- 629 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/02(土) 00:21:05
- >>626
静かに頭を振る。
そうではない。
そうではないのです、アマダ様。
「私は私を信じています。
ですがそれはお嬢様の道具として信じているのです。
『人間、十六夜咲夜の本質は信用なら無い』事を信じているのです。
そこに愛はないのよ。全てはお嬢様の為になるかどうか」
だから私に妹様は救えないのだ。
話してしまっていいものか暫し躊躇の末、さらに彼に瞳をあわせて見せる。
普段の蒼い瞳とは違う真っ赤な瞳。
「お嬢様の為に。それがなかったら、私は貴方を殺すかもしれないような人間なのよ、シロー?
それも快楽のためだけに」
殺人鬼の笑顔がそこにあった。
そう、妹様とよく似た所が私にもある。
ただ、違う点は完全に制御下にあることと、そちらが私の本質だという事だ。
似てはいても妹様とは違う。
「それが申し訳なくてね、すこし落ち込む事があるの。
この上なく自分勝手な話でごめんなさい……」
お気をつけ下さい、アマダ様。
ある意味で妹様より性質の悪い存在なのだ。私は。
- 630 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/02(土) 00:33:02
- >>627
「あっちは粉々、だからな…
街で例えて言うなら人も皆消えてしまった状態だろう。
人の直す気どうの以前の問題だな」
故郷について触れた際、ふと視線が落ちているようにも見える。
それに一々触れるのも当然ヤボなのでノータッチ。
「なるほど、数人係りで取り押さえてレミリアがダメ押しをね…
そんな厄介なのとはな。いつぞ会った時は想像もつかなかったが。
しかし、どんだけストレス溜めてりゃそうもネジ飛ぶんだか」
とは言うが決して他人事じゃない。
俺だって悪魔に魂を売り渡してでも力が欲しいとさえ思ったことがある。
傍から見れば狂気そのものと見えるだろう。
ただ幸い、その過程で無辜の人間は全く巻き添えにせずにすんだが。
- 631 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/02(土) 00:50:35
- >>630
「そうですね、聞いた話では約490年ほど溜め込んでいたとか。
……狂気のせいでそうなったのか、そのせいで狂気が育ったのか、
最近、お嬢様の従者になった私には分かりませんが……」
少なくとも外に出るようになったのは紅霧異変以降のことだ。
それ以前は地下から出てこられることもなかった。
今回の騒動はお嬢様がわざと離れたせいでストレスを高めたせいなのは聞いたが、
難しいところだ。
「ですので、ネロ様も一応お気をつけいただいたほうが良いかと。
最近は随分とたがが外れにくくなったのですが……」
- 632 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/02(土) 00:54:33
- >>628
「古代ギリシアの有名な詩人だって労働が一番とか言ってたらしいからな。
贅沢ってのは飽きが来るって言うしなあ」
ま、労働も飽きない保証はないんだけどな。
今のところ俺は現状の労働に満足しているだけであり
この仕事を他の人間がやってみたらすぐに飽きるほど大切なものかもしれない。
「知らなくてもいいってことは世間には色々有るからな。
そういうことなんで俺と咲夜は友人、シンデレラ云々は出来れば忘れてくれ」
>>629
人間としての本質は信用なら無い。
そう咲夜はきっぱりと言い放った。だけど…。
「…人間は、過去を元に今の自分を立脚する。君が過去に何を起こしたかは知らない。
だが本質を嫌うということは…俺の想像も及びつかないような過去だったのかもしれない」
赤い瞳に、俺はそのままの黒い瞳を返した。
彼女の肩にゆっくりと手を添える。
「だが、過去にこだわりすぎていれば誰しも前には進めない。過去のどれを立脚点は、可変なんだ。
俺だって一つの時間に囚われれば、今の妻すら殺しかねないんだ…!
…過去は必要だろう。過去が無ければ『今』は無い。だけど本当に大切なのは『今』だ。
今が過去となったとき、立脚点は変えられる。過去が永劫風化しようことの無いものだとしたら
お前がフランを心配していたという過去も変わる事の無い、『真実』なんだ…!
それを基にすれば、お前だってフランの為に何がしてやれるかなんてものは俺よりも簡単に分かるだろう?
レミリアの使いとしてのお前も、その目を持った過去のお前も、お前の『真実』全てじゃないんだ…」
気がつけばきつく彼女の肩を握り締めていたようだ。
悪いと一言かけてゆっくりと手を離す。
「人は場面に応じていくつもの役者を演じこなして生きていくものだ。
一つだけの役柄だけが目立つからってそれを自分の全てと思って生きるのは間違いだよ。
…案外不器用だな、咲夜は」
そこだけを、静かに笑い飛ばした。
- 633 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/02(土) 01:08:44
- >>631
「おいおい、何だってそんな長い事溜め込んでたんだか。
引き篭もってたか閉じ込められてたかしらないが、そりゃウサも溜まるだろうよ」
長い事外界に触れぬが故に周囲との接し方も解らず、
その有り余るエネルギーをあらぬ方向へ暴発させてしまう。
丁度人間社会も一部が同じ病理に苛まれている。
何にしても一面哀れなものだ。被害者も加害者も。
「ご忠告は痛み入るよ。
ただ、そういうトチ狂ったの1人や2人に一々ビビってちゃこういう仕事はやれないんでね」
まあこれだけでは何のことか掴めないだろう。
便利屋とは言ったが、まさか「そういうものを相手する仕事」まで
請け負っているなどとは想像もしまい。
- 634 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/02(土) 01:14:16
- >>632
「ええ、だから」
静かに彼が掴んでいた肩をさすりながら目を伏せて笑う。
やはり理解はできないか。
仕方の無い事だが。
「一つだけの役割が私の全てではない。
だからどれもが私なのよ、シロー。
今この瞬間、貴方の首をかき切ったらどんなに素敵かしら。
そんな想像をしている私も、確かに間違いなく私の一面。
それをしないのはお嬢様のメイドとして都合が悪いから。
妹様を心配するのもお嬢様のメイドとしてそうあるべきだから」
私は酒をコップに注ぎ足して一気に飲み干すと決定的な結論を告げる。
「そして、私は過去を都合が悪い、好ましくないとは思っているけれど
その結果の過程を嫌ってはいないのです。
そう、お嬢様のことがなければいつでも立ち戻れるくらいに。
だから、そんな私から見れば、貴方は騎士と呼ぶに相応しい高潔な人物なのよ」
今、私は安心しているのだろうか?
それとも落胆しているのだろうか?
自分の気持ちが上手く理解できなかった。
>>633
閉じ込められた年月が妹様を変えたのか。
自ら閉じこもるほどに狂気とは危険なものだったのか。
あるいはその両方か。
「妹様は一人や二人でなく四人ですのでなかなか大変なのですよ」
フォーオブアカインドの事だが、察しろと言うのは無理な話だろう。
冗談で返したようにしか見えないはずだ。
- 635 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/02(土) 01:18:07
- >>632
「結局仕事の長続きも人の相性や性格次第って話だからな。
今の仕事なんて俺にはもう天職ってヤツだよ」
どんな形にしても、人の役に立てるという喜びは何物にも変えがたい。
何かと捻くれ者呼ばわりされがちな俺だが、それぐらいの人間的感情は健在だ。
それは前から変わっていない。
「OK、そういう事でその話は終わりにさせてもらうよ。
ところで少尉。奥さんが居るって話らしいが―――」
少し小耳に挟んだ話。
確か今もそういうネタが上がっているので、充分通じるだろう。
- 636 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/02(土) 01:18:33
「さて、そろそろ良い時間ですね。
私はこれで上がらせて頂きますわ」
眼下の廃墟を眺めながら、切り株から立ち上がってロングスカートの埃を払う。
無意識に頭を払うと、枝の間から僅かに迷い込む雪がほんのすこし積もっていた。
寒いわけだ。
「アマダ様もネロ様もお二方とも、どうかお元気で。
いずれ運命が交差したらまたお会いしましょう」
言って恭しく頭を下げる。
そして時間が停止し、再び動き出したときにはメイドの姿はどこにもなかった。
<了>
- 637 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/02(土) 01:24:23
- >>634
「別に数の話云々ってわけじゃない。
要するにそういう手合いも捌けてこそ、って話だよ。
大体4って何だよ。ちょいと縁起悪いぜそれ」
こういう軽口ぐらい叩けなければこんな仕事やっていけない。
因みに便利屋というのは従来こういうゲンをやたら担ぐものだそうだが。
例えば黒い服を着るなとか。4とか13といった数字は避けろとか。
何れにしろ俺には正直どうでもいい。
あくまで小噺として持ち込んだだけなので。
- 638 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/02(土) 01:39:11
- >>636
という取り止めのない話もここまで。
体裁を整え、退場準備にかかっている。
そして―――どんな術を使ったかは解らないが、悪魔の従者の姿は一瞬で消えていた。
あたかも映画やテレビのコマで一部のシーンがカットされたかのごとく。
時間でも止めたとでも言うのだろうか?
「ああ、またな…アンタの御主人様によろしく言っといてくれ」
心なしか瞑目と共に口元が釣りあがっていた。
まだあのメイドは俺の真の姿を知らない。
いつか知った時が楽しみでもある。
「じゃあ少尉、俺もここまでだ。
またどこかで会ってこういう小噺、ってのも悪くないしさ」
銀の髪に降り積もっている小雪。
傍目からは解りにくいだろうが。
別段冷たくはないが、少々煩わしいので払いのけてしまう。
背中を向けたまま「またな」とばかりに手を振り、高台を後にする。
何かに引っ張られてやってきた、そして出会った―――そういうのも悪くない。
【退場】
- 639 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/02(土) 01:41:25
- >>634
「…それじゃあお前は、フランを純粋に心配しているお前は…何処に居るんだ?
お前はレミリアの従者として『そうあるべき』といった理屈だけじゃない感情で
フランを気にかけたことは無いって言うのか…?」
感情は感情であり、理屈で全てが決められるものじゃあない。
彼女は一つのレミリアという支えの元に今の感情を作り出しているのだろう。
でも…それじゃあ納得が行かない。今までの仕草に、納得が。
「その本質と、メイドと…もう一つ『別』は何処にも無いって言うのかよ…」
先ほど赤い目を見せた殺人鬼。
レミリアの従者としての瀟洒なメイド。
その二つだけが全てなのだろうか。まだもう一つは何処にも無いというのだろうか。
計り知ることが、出来なかった。
「…運命の交差点、か」
彼女はフランを救うことが出来ないことを後悔していたようだ。
でも、彼女もまた心の奥底に何か重いものを抱えている。
自分を騙していれば、何時までたっても自分を信用するなんて出来ない。
しかし、正直者だけが好まれるというわけでもない。
>>635
「趣味は仕事にならないって言うしな。
まあ、俺なんか軍人が天職だなんてぜんぜん思ってないけど。
労働なんて仕方なしにやるくらいが一番いいんじゃないかなって思うけど」
というか軍人が天職だなんて言われて嬉しいやつはよほど頭のネジがいかれている様な。
国民を守ると慕われる一方、戦時には真っ先に死ぬ人間であり
殺人を許容される特殊な職業なのだ。
「…ああ、確かに嫁さんは居るが。それがどうした?子供はまだ出来てないよ」
もうちょっと…仕事が安全になればいいんだけど。
- 640 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/02(土) 01:42:37
- 「うっし、俺もそろそろ帰るか」
寒いもんな、十分。
なんか雪までちらほら見え始めてるし。
「…しかし」
妙に咲夜の言うことが引っかかった。そんな元旦の夜。
新年と共にまた俺に何かを考える新しい課題が加えられたのかもしれない。
【退場】
- 641 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/06(水) 00:13:51
- 風が若干強かった。
厚い雲の割れ目から月の淡くも暖かい光が辺りを照らし、白く輝きながら
宙を舞う細かな雪の欠片は廃墟の中を一層幻想的な空間に仕立て上げて行った。
白の絨毯を踏みしめながら気まぐれに高台を歩く。
行き着いたところは崖付近。
柵は無残にも吹き飛ばされ、崩れそうな淵には近づくことが躊躇われた。
少し探せば雪の布団を被った切り株。流石に寒くは無いのだろうか?
木にも意思表示する力はあるという。白いシーツの裏側ではガタガタ震えたいにも関わらず
その構造上からそうも出来ない木の葛藤があるのかもしれない。
雪を払う。
ベンチは先ほど見たところ、完膚なきまでに破砕されていた。
やれやれ…ここも廃墟のまま置いておくわけには行くまいて。
何時の日か元に戻る日が来るのか。
出来れば春が到来するまでにはそうなって欲しい。春は春で、ここには情緒がありそうだった。
ここは不思議な高台。運命と運命が交錯する特異点。
切り株の上に積もった冷たい毛布を払いのけると、俺はその上に座った。
軍用外套の内側から温かい缶コーヒーを出す。懐炉代わりにしていたのだ。
俺は肩に降り積もった雪を払い、缶コーヒーのプルタブに指をかけた。
- 642 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/06(水) 00:28:15
- うむ、そうか、すまなんだ。
だらだらと作っていたらえらい時間になったんで。
…と、電波を受信したので帰るか。
いや、天候のコンディションも凄まじいなあ、今日は。
コーヒーとっとと飲んでもうちょいと晴れた日に仕切りなおすとしよう。
【退場】
- 643 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/06(水) 22:39:26
―――さて、仕切り直し。
- 644 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/06(水) 22:39:48
- 昨日よりかは幾分、天候はマシだった。
空間を引き裂くような風の音は止み、小吹雪の様相は呈していない。
だが相変わらず雪は降り続け、歩くたびに秋のときとは違った軽い音がする。
どうにも誰も来ないせいか、雪は麓よりも綺麗だった。
さて、雪というものそれ自体は道に積もった時は綺麗だ。
しかしそれは人通りが多くなると別。
往来の激しい道では多くの人間が薄汚れた靴で歩き回り
穢れすらないように思われた白の絨毯も灰色と黒と泥にまみれた汚らしい道となる。
それに比べるとこの高台は未踏の地とも思えた。
当然だ、ここには何も無い。
秋の時に残っていた色鮮やかだった木々も今ではすっかりと姿を変え
寒々しい廃墟を残すのみとなった。誰が壊したかも今では知り得ない。
春が来るころには、また元に戻っているのか?
- 645 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/06(水) 22:40:11
- 過去は不変だ。
あの吸血鬼は運命を変えられるというが、運命とは過去を辿るものではなく
未来へと延々と続くレール。
どこを切り替えポイントとするかは自分次第だ。
そして自分次第とは、心ありようをどうするかが自分次第、ということなのだ。
忌々しい過去から逃げるか、それとも立ち向かうかも。
「…………ああ」
こんな何も無いところに来る俺はきっと物好きなのだろう。
切り株の前に広がっている崖からは、明かりがぽつぽつと点いている町を見渡せた。
決して、大都会ではない。しかし閑散としているわけでもない。
ましてや大絶景というわけでもない。
ごくありふれた、日常の形があった。
どれに誰が住んでいるかなど把握しようも無いというのに。
だけどあそこにはきっと幾許かの日々の幸せがいくつもあるんだろうなあ、と思えたのだ。
笑いあっているだろう、くつろいでいるだろう、眠りに落ちているだろう。
無残にも台風にその巨体をなぎ倒されたこの切り株は、この光景を見て何を思っているのだろうか。
そんななんでもない光景。
こんなものを実に来る人間なんて滅多にいやしない。
そうだな。少なくとも、二人を除いては。
- 646 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/06(水) 22:45:40
シロー・アマダに礼の品を届けろ。
お嬢様に頂いた命令に頭をひねる。
何故、素人には扱いにくい銀のナイフを魔除けに渡すのか。
どうせならアミュレットのひとつでも渡した方がいいだろうに。
相手が妹様ならなおさらだ。
魔女の護符の方がよほどいい。
ナイフ一本で妹様がどうにかできるとは到底思えない。
……いや、あの人ならナイフがなかったとしても……
そして、何故、このタイミングなのか。
考えられる理由はひとつしかない。
お嬢様はご存知なのだろう。
あの一件を。
私は重い息をついて高台に降り立った。
此処に行けば出会う運命である。
お嬢様がそう仰る以上、私にそれを疑う理由は微塵もないのだ。
果たしてシロー・アマダはそこに居た。
「……今晩は」
平然とした表情で凛と挨拶をする……のが理想なのだが、
生憎と上手く表情を作れている自信はあまりなかった。
- 647 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/06(水) 22:52:23
「せ、先日は随分と失礼をいたしました。
どうやら少量にも関わらず酔いが悪い所に回っていたようです。
どうかお忘れください」
話をしてから渡せと厳命されたからには渡して逃げるわけにもいかない。
困ったときは逃げる。
古くよりそれが身についた私には、いささか苦しい対決だ。
どうか。
どうか何事も無く流して頂けますよう。
願いながら鞄の中に手を入れ、渡す予定のものに指先で触れる。
布で丁寧に巻かれた銀のナイフ。
私の取り出したものからお嬢様が選ばれた一本。
ただの銀のナイフ。
なんの変哲も無い……
恐れる必要は無い。
きっと大丈夫だ、気にしていないよ、とか言ってくれるはずだ。
そうしたらナイフを渡して、去ればよい。
それだけ。
たったそれだけだ。
畏れる必要は無い。
- 648 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/06(水) 23:02:06
- >>646
ほら、来たよ物好きが。
雪を踏みしめる微かな音を鳴らしながらこの場に来た。
「よお、こんばんは」
黒の軍用外套のポケットに手を突っ込んだまま振り向く。
俺は何時も通りの親しい友人と会った時の喜びを顔に浮かべていたが
咲夜のか細い声で出された挨拶はよく注意をしなければ聞こえなかっただろうもので
顔は闇にうずもれてしまうのではないかと思える程の暗い表情。
おずおずと、どこか間誤付いた心で謝罪の言葉を述べる。
「…なあに、この前のことは気にはしていないよ。
それよりも、お前が来てくれたってことは主の約束を果たしに来たってことか?」
こちらに変わりは無い。
だが、向こうは大きく変わりがある。
今ほど瀟洒という言葉が会わない、この完璧なメイドはいるまい。
- 649 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/06(水) 23:15:38
- >>648
怪訝な表情が一瞬漏れ出ただろうか?
アマダ様はいつもの通りのアマダ様だった。
しかし、いつも通り過ぎる。
先日の一件の去り際に見た何かを噛み潰しているような悲痛な表情と今の表情が結びつかない。
なにか、あったのか。
それとも、直後であればまだしもその後まで意識するほどの事ではなかったのだろうか。
彼にとっては。
それでも一礼しながら私は鞄から布に包まれたナイフを取り出した。
もっとも危惧していた追求がないならば、それはそれで良いではないか。
重い荷が下りた、と思うべきだ。
そう結論づけたから。
「はい、お嬢様に言い付かった物です。
手入れはしておりますが、何分実用しておりますものですので、多少の痛みはご容赦願います」
恭しく彼に両手で差し出す。
手で振るうものではなく投げて使っているものの一本。
男性には華奢と言ってよいシャープで細身な刀身。
- 650 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/06(水) 23:35:03
- >>649
一瞬、顔に疑問符を浮かべられた。弱ったなあ、少し普通すぎたかな。
まあでも、今更前と今をつなぐために取り繕うわけにはいくまい。
あらゆる意味で、これも運命のうちか。誰かが仕組んだレールか天の采配か。
「…そいつが、例の銀のナイフか」
これも楽しみにしてなかったといえば嘘になる。
渡されたそれを早速布から取り出して―――一般的なこちら側の贈り物に対する反応だ―――しっかりと
磨きぬかれた刀身を露にさせる。
細いダガー。俺の持っているサバイバルナイフのように物を切ることよりも
目標に刺す、または投げつることに適していた。
表、ひっくり返して裏側、そしてもう一度表に返す。
それから逆手に持ち、空けておいたシースの中に収めたが、若干このナイフには大きすぎたようだ。
「や、ありがとう、咲夜。大事にするよ」
そう言って彼女の右手を両の手を添える。
周囲の温度のせいかお互いの手は冷たかった。
「…ああ、そうそう。そういえばさっきこの前のことは気にしてない…って言ったな」
笑顔で、しっかりと彼女の四本指を握る。
もう遅いよ。時を止めたって離したりなんかするもんか。
どうしても逃げたかったらこの指を切り落とすんだな。
「ゴメン、アレは嘘だ」
俺の顔には先ほどの何時も通りの笑顔は消えており
真剣な表情が浮かんでいた。
自身の目が彼女の目をしっかりと射抜く。
「…質問が一つ。何が、怖いんだ?」
- 651 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/06(水) 23:45:55
- >>650
アマダ様がナイフを受け取る。
早速確認するアマダ様を見て、心のどこかで安堵した。
よかった。
何も無い。
何事も無く、後は静かに立ち去るのみでおしまい。
<どこかでスイッチの入る音がした>
「では私はこれd」
と、脳内で何度もシミュレートした別れの言葉を再生しようとした瞬間、
彼は私の手を掴んだ。
心臓が跳ねる。
「ア、アマダ様、なにを……?」
嘘?
なにが嘘だというのだ?
いや、アマダ様が嘘?そんなバカな。
アマダ様に限ってそんな女性を騙すような事……
まっすぐと私を見つめる瞳。
直視できず、即座に視線をそらす私に質問が。
何が怖いのか。
「な、何を言っているのか分かりません。
そのように指を握られては……その……困りますわ」
何も 怖く ない はずだから。
そのとき、ふと、背後に気配を感じた。
「……?」
反射的に振り返る先には時計とナイフが浮かんでいる。
空中に支えも無く、ふわふわと。
その見覚えのある形状にハッとして懐を探った。
無い。
あれは、私の懐中時計とナイフだ。
それも、もっとも愛用しているもの。
それが一体何故……?
一瞬の後、二つは閃光を放った。
思わず顔の前に手を翳して光を避ける。
「え……!?」
光が収まった後、そこには
私とアマダ様を眺めるように立つ十六夜咲夜が二人。
- 652 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/07(木) 00:14:58
- >>651
「何をするのか、と言われてもな。状況が物語っている」
すっと腕を引き寄せる。
顔を背けられたとしても、構わず言葉を紡ぐ。
丁度彼女の耳に語りかけている構図となった。
「困られても、構いはしないんだ。
今お前には俺がどうにかしているように思えるだろうさ。
だが、俺にとって今どうにかしているのは、お前だ。お前が肩を震わしているのは寒さのせいじゃない。
強大な敵を前にしているという恐怖でもない。
無形の、もっと抽象的な何かを恐れている。白状するんだ。それまで離しはしない。
一体何を…」
問い詰めている最中だった。
光が広がる。爆弾が落ちてきたように、頭を殴るような乱暴な閃光。
驚いた一瞬を突かれて腕を解かれたが、こちらもそれどころではない。
慌てて目をつぶり、腕で顔を隠す。
「―――っつ、一体何…だ…?」
目の前には摩訶不思議な光景が広がっていた。
- 653 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/07(木) 00:22:19
- >>652
アマダ様の囁く声は光と共に私の脳を焼く。
私が恐れているものは何だ。
それは……
それに答えるかのように姿を現した影。
一人は黒いロングスカートに長袖のメイド服に身を包んだ十六夜咲夜。
今一人はボロボロの私服に大きな鞄を肩からかけた十六夜咲夜。
二人はその左の手にそれぞれ、懐中時計と、ナイフを、持っている。
「これは……」
自分そっくりの影を見た動揺だけでなく別の要因でもうろたえる私を
冷たい視線で見つめながら二人が口を開く。
『私は紅魔館のメイド長、十六夜咲夜』
『私は夜霧の幻影殺人鬼、十六夜咲夜』
順に朗々と名乗りを上げる。
そして、続いて二人同時に口を開き、私に問いかけた。
『『あなたはだあれ?』』
絶句。
これ以上に相応しい表現が他にあるだろうか。
私はもっとも畏れていた質問を、もっとも欲しくない相手から放たれたのだ。
「わ、私は……」
答えられない。
言葉が見つからない。
動揺が脳を麻痺させる。
メイド長でもない、殺人鬼でもない、今の私は……何だ?
『答えられないのですか』
侮蔑の表情で。
『じゃあ、教えてあげるわね』
愉悦の表情で。
十六夜咲夜が言葉を紡ぐ。
私は無意識に一歩下がった。背がアマダ様にあたる。
これから言われる言葉が予測できたからだ。
これまでに何度繰り返したか分からない自問自答の中で、幾度と無く自分に叩きつけて来た言葉。
それが他人の目の前で、
それもシロー・アマダの前で再生されるというのか。
それはアマダ様の質問への答えそのものだった。
やめろ!
やめて頂戴!
内心の絶叫も空しく、二人の十六夜咲夜は言った。
『『お前は十六夜咲夜の搾りカス。不要な部分なのではないの?』』
「あ、ああああああああ!?」
ガタガタと膝が笑う。
両肩を自ら押し抱き、ふらふらと地面が揺らぐ。
- 654 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/07(木) 00:47:57
- >>653
めまぐるしく状況が変化する。
二人の咲夜、一人の咲夜。
現実、触れられるのはそばにいる先ほどまで確かに話していた咲夜だ。
しかし…あの二人は一体?
彼女らは順々に己の言葉を言う。シンメトリーの人形のよう。
形無い舞台の上で劇が続く。
『紅魔館のメイド長』『夜霧の幻影殺人鬼』。
登場人物が自身の役名を名乗り上げる。感情も一切に無く、決められた台詞どおりに。
「…こいつは一体」
そう呟きながら動き続ける役者達を呆然と見ていたら咲夜が後ろに下がり、俺にぶつかった。
横顔から感じ取れたのは間違いなくれっきとした恐怖。
彼女らの言葉が、そのまま彼女が最も恐れていたものそのもの。
そうでなければ、彼女がここまで取り乱したりするはずが無い。
そして突きつけられる死刑宣告にも似た言葉。
自身の存在の否定にも等しい。
現実世界の十六夜咲夜そのものの意義を失わせる呪いの一言。
別の誰からならば、簡単に否定できるようなこの言葉は。
彼女の心に深々と突き刺さるナイフなのだ。
大きな悲鳴を上げて彼女がガタガタと震えだす。
最も恐れていたんだ。やっぱり何かを恐れていたんだ。
「…咲夜」
声をかける。しかし彼女の意識は遠いところ。
「咲夜ッ!」
肩を掴んで視線をこちらに向ける。
しっかりしろと言わんがばかりに肩を揺らして意識をこちら側に引き戻そうとした。
彼女は今、試練に立たされている。逃がすわけには行かない。
- 655 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/07(木) 00:56:59
- >>654
周囲全てが暗闇になってしまったのような絶望。
限りない悪夢。
心も体も魂も全てがガラスのように砕け散ろうとしたその時。
声が聞こえた。
「あ……アマダ……様?」
変わらぬ姿でシロー・アマダがそこにいた。
あの時の。
そう、妹様に立ち向かったときのあの表情で。
呪わしい反面、ひどく安心した。
それが自分でも意外で、戸惑ってしまう。
「私は……」
その戸惑いを刺激するかのように人形が嗤う。
『あら、踏みとどまったわ』
『自力でないのが情けないわね』
『自分で自分を処理できないのなら』
『私たちが手伝ってあげなくては』
『急いでお掃除しましょう』
『楽しい狩りの時間よ』
二人の咲夜がしずしずと歩いて交差する。
交差した瞬間、二人の咲夜が一人になった。
ミニスカートと半そでのメイド服に身を包み、マフラーを首に巻いた十六夜咲夜。
完璧で瀟洒なメイド。
彼女の姿が一瞬ぶれたと思った直後、
眼前に並ぶナイフの列。
考えるより先に体が動いた。
横っ飛び。
アマダ様に体当たりして押し倒す。
間一髪。
通り過ぎたナイフは私のロングスカートに裂け目を作るに留まった。
「時間の停止を……知覚できなかった……?」
呆然と呟く。
瀟洒なメイドは私たちを見下ろしてクスクスと笑っていた。
悪魔の狗の笑みで。
「アマダ様、お逃げください。
時間を止められない私に……貴方を守って戦うことはできません。
でも、止められないまでも、稼いでご覧にいれますので」
時間を。
いつもと逆の言い回し。
ひどく苛立たしい思いだ。
いつもの私はこんなにも傲慢なのか……。
- 656 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/07(木) 01:19:31
- >>655
「なあ、咲夜。あれも確かにお前だよ。だけど…」
相変わらずのシンメトリーで笑う劇役者達。
投げかける言葉は全て目の前の友人を侮辱するもの。
しかしこの言葉自身が、彼女の心の中に背負い込まれていた言葉なのだろう。
…俺は第三者だ。しかし、感じられる。
あの道化達は間違いの無い彼女自身の一つ。
フランは自分自身の力で無意識に発現させていたが、これも何かしらの力を受けて発現した
彼女自身の影なのだ。
「…やる気か?」
もう二人の咲夜―――いや、今はもう一人の、か―――に問いかける。
返礼は無数のナイフ。知覚の出来ない時間停止の技をトッピングして。
慌てて回避行動に移るけど間に合いそうに無い。
痛みに耐えようとするため歯を食いしばった直後、何者かが俺を押し倒した。
咲夜だ。身を挺して助けてくれた。
「クッ、すまない…!」
その直後に発せられた言葉に俺は眉をひそめる。
時間停止が出来ない。彼女最大の武器が奪われた…か?
咲夜も状況の最悪さを痛感しているようだった。だから俺に時間を稼ぐから逃げろとの言葉。
…さて、俺がどういう反応するのか判りきったことだろうが。
咲夜を抱きかかえるようにしながら立ち、目の前の邪悪な笑みを浮かべるもう一人の咲夜を睨みつける。
そしてもう一度逃げろと言う咲夜と目を合わせる。その目は早くしろと言わんばかりに。
俺はコートの雪を払いながら言った。
「おいおい…逃げろって何を言ってるんだ?」
ホルスターからすばやく銃を取り出し、安全装置の解除とスライドを引いてチェンバーへの初弾の装填を行う。
己の額を冷たい銃身で軽く叩いた。
「倒すぞ、アレ」
視線は既に笑う咲夜へ。次はかわせる。
目の良さには自信が有った。
- 657 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/07(木) 01:27:37
- >>656
呆気にとられてアマダ様を眺める。
そうだ、そうだった。
この人はこういう人だった。
しかし倒すと言ってもどうやって……
私が援護したとして、銃弾を「私」に当てられるだろうか?
時間を止められる「私」に。
『アマダ様の方が冷静ですね。
時間を止められない。投擲ナイフも持っていない。
そもそも貴方、どうやって時間を稼ぐと言うの?』
瀟洒なメイドの言葉に反射的に懐を探る。
無い。先ほどまで持っていた投擲ナイフが。全て。
何故……!?
『アマダ様、お間違いになってはいけません。
私が「十六夜咲夜」ですわ、そこのはただの影です』
影?
……私が?
私のほうが影なのか?
……そうなのかもしれない。
どう見ても彼女の方が完璧で瀟洒なメイドだろう。
時間も止められずナイフも投げられない今の私に何ができる。
そうか、不純物があったから、私は誰も救えなくなっていたのかもしれない。
『迷い』
それが私か。
確かにあの時のアマダ様になく、私にある物だ。
アマダ様の一貫した態度に、一時は燃え始めた闘志の炎もみるみると小さくなってゆく。
私はがくりと膝をついた。
私は、消える、べきなのだろうか?
『そう、私ならば迷いません。
お嬢様の意に適うべく、ただ鋭く在りましょう。
そう、妹様を止める事も。
お嬢様の命とあらば両手両足切り落としてでも止めてご覧に入れますわ』
なに?
いま、なにか違和感を感じた。ような。
- 658 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/07(木) 01:48:58
- >>657
ナイフならあるよ、一本だけだけど。
こっそりと、彼女の手の中にナイフの柄を収めて、握らせる。
リアサイトとフロントサイトの結ぶ線の置くには歪んだ感情を全開にした十六夜咲夜が居た。
「んー、まあ、確かにそうかもしれない。時間も止められないしナイフも持ってないし
おろおろうろたえていて、咲夜の評判とは全く持って違っちゃあいる」
彼女は自身が本質で、自分自身を見失った俺の側にいる女は影だと言う。
咲夜の余分なものとはっきりと言い放つ。
確かに目の前にいるのは『紅魔館のメイド長』で『夜霧の幻影殺人鬼』に相応しい。
「悪いな、くすんだお前よりこっちの方が光り輝いて魅力的だから間違えたよ」
そう言って膝を突いていた目の前の彼女の手首を引っつかみ耳元でしっかりと着いて来いと言い聞かせた。
それと共に片手で銃の引き金を引く。
マズルフラッシュが夜闇を照らし、ハンマーが銃弾を叩いた音が静けさの中に木霊する。
当たるか当たらないかは二の次、多少の葉が残った木々の中を手を引っ張りながら駆け抜けた。
後方を警戒し、時折銃声を轟かせながら走り続ける。
「…いいか!?俺にだってフランを撃つときに迷いが無かったわけじゃないんだ…!
お前だって…!いざ暴れているフランと相対したらどうやって穏便に止めるか考えるだろうが…!
それが無いからあいつはくすんでいる!それがあるからお前は輝いているんだよ!
俺は一応アレと戦う…!だけど、な…」
離しながら話すと、より疲れる。
喉の奥にたまった唾を飲み込み、もう一度後方に銃を撃った。
でもまいったな。確かこの先崖だったような。
「決着をつけるのはおまえ自身だ!あれはお前でお前はあれ!
よく考えて自分自身に折り合いをつけろ!」
- 659 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/07(木) 02:05:40
- >>658
何と言った?
魅力的?私が?
あの瀟洒なメイドよりも?
私を引き起こし、銃声を鳴らすアマダ様に引かれるがまま、後に続く。
逃げる。
ああ、そうだ。
私の得意技じゃないか。
私は逃げることすら忘れていた。
そしてアマダ様の対処は正しい。
狙わずに放たれる銃弾は視線から軌道が読めない。
走っていては銃口から軌道を読むのも難しい。
だから、いちいち時間を止めて確認し、叩き落し、そうしながらでなければ迫れない。
さらに距離をとって森の中を逃げれば追うのは非常に困難だ。
アマダ様も迷っていた。
あの瀟洒なメイドにそれはない。
……輝きと言うのは……
そして逃げる私たちの目前に迫る崖。
そこには
いつか寄りかかり、斃れ、切られた、あの切り株があった。
フラッシュバックする数々の出来事。
そうだ。この高台に来たのは瀟洒なメイドでも殺人ドールでもない。
そう……
私は立ち止まって後ろを振り向く。
顔を、上げた。
「そう、そうですね。
私は影じゃない。今はっきり分かりました。
私は……きっと『感情』ですわ、アマダ様」
何かは分からないが感情が私をギリギリで引き止めた。
フラン様をお嬢様の妹というモノとしか見ない発言。
ソレを平然と口にする『自分』に対する憤りもまた、感情だ。
アマダ様に今唯一の銀のナイフを再び預ける。
「考えがあります。アレと戦いましょう。
その作戦では、これはアマダ様に使って欲しいのです」
耳元に口を寄せ、小声で伝える。
私がナイフを投げても、アイツは予測するだろう。
だからきっと当たらない。
だが……
『まだ諦めないのですか?
もう逃げる先もありませんが。
ああ、アマダ様を抱えて飛ぶ、なんていわないで下さいね?』
背後に追いついてきた影が笑う。
「生憎と……逃げるのはやめることにしました」
- 660 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/07(木) 02:09:28
『威勢の良い事……けれど届かない。
私の無数のナイフを防ぐ術はなく。そして私を倒す術もない。
今の貴方には何もない』
瀟洒なメイドのフリをした影は再び時を止め……たのだろう。
無数のナイフが正面に頭上に展開される。
アマダ様にも向かっているが……先ほどと違い、彼は既に十分に避ける態勢をつくっている。
彼を信じて自分に向かうナイフへの対応に集中する。
私は慌てない。
もう、わかったから。
アマダ様のおかげで、わかったのだ。
私にはかつて何もなかった。
その思いがこの高台へ足を向けさせ、一人物思う時をつくった。
それがこの影を作り出したのだろう。
だが、ならば今も私には何も無いのか?
違う。
ここへ通った幾度もの機会は私に何も与えなかったのか。
違う。
今の私には在る。
かつてなかったものが。
私は腰の後ろからナイフを引き抜き、弧月の如く真円を描く軌道で斬撃を放った。
飛来するナイフ群がたった一本のナイフに次々に撃墜されていく。
そう、超合金Zのナイフはいともたやすく、銀のナイフを叩き落した。
『……!』
直後、驚愕する影の視線の先、
つい今さっきまで私が居た場所には数枚のトランプが舞っている。
【バニシングエブリシング】
空間操作。
私はすでに影の目前に迫っていた。
超合金Zの刃が影の頚動脈を一閃。
が、まったく傷がつかない。
私はバックステップで影から距離をとった。
時間を止められる相手の目前でのんびりするつもりはない。
- 661 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/07(木) 02:35:44
- >>659
やっとこさたどり着いたか…まったく。
普遍的に転がっているどこにでもある陳腐な答えだろう。
「もしもお前が不要で、追いかけてくるあいつしか残っていないのだとしたら…」
『こんばんは、良い月ですね』
始まりにあったのは月と、この切り株の上にあった木だった。
紡がれていく確かな過去と道程。
変わることの無いここに訪れた人間の軌跡。
「レミリアだってお前なんて雇ってなかっただろうに…!
人間ってのは不完全な感情があるから輝きと面白さがあるもんなんだよ…!」
『…私の名はシロー・アマダ、と申します。あなた様の名は?』 『ご丁寧に有難う、十字星の騎士様』
馬鹿をやった恥ずかしい記憶もある。
しかしこれもまた不完全な感情のもたらすもの。
人の輝きの記憶の一部。
「…ッと!これで退路はもう絶たれたか。
だけど、あれに負けるわけには絶対に行かないさ。あれはお前を模しているが
似ても似つかない。今ここにいる、心が欠けているからな」
『そうですねぇ……ちょっとした知人を訪ねたら、既に居なくなっていた事を知った。
そのような感じですわね』
切り株よ、お前も見ているか?
そのちょっとした知人は今から大きな試練を乗り越えようとしている。
心して、見守ってくれ。
「考え、か。よし、お前に任せた。
あくまで俺はただのアシストだからな。主役はお前だ。グランドフィナーレを飾るのも」
『こんばんはアマダ様、
脅かさないように地上に降りたのだけど、かえって驚かせてしまいましたね』
『いや、そりゃびっくりするだろ。普通人間は突然ワープなんてしないんだって、知ってるか?』
『・・・・・・・・・・愛しの君でも現れたような慌て方じゃな、少尉。あそこまで見事なコケッぷりは
久々だて』
老齢の大将を交えての軽口の叩きあい大会。
3人とも楽しそうに笑っていた。
何気ないこの雑談が、とても面白かった。
「その通り。逃げるのはこれで御終いだ。
窮鼠猫を噛む。追い詰められた狐はジャッカルよりも凶暴。
…況や、人間はどうだろうな?」
- 662 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/07(木) 02:44:48
- テスト
- 663 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/07(木) 02:45:50
- >>661
「本当、そうですね……自己嫌悪してしまいそう」
ペロリと舌を出して苦笑する。
アマダ様が見守ってくれている以上、たとえ時が止まっても対処は出来る気がした。
門番のおかげで対処法は分かっている。
動いた瞬間に全て反射で動けばいい。
今の私の集中力ならば不可能ではないはず。
『正直、驚いたわ』
首をさすりながら影が笑う。
余裕綽々に。
『でも鉛の弾やただのナイフでは私は傷つかない。
悪魔の館のメイドがそんなもので斃れてはお笑い種ですものね』
…………。
……なんだと?
今、なんて言ったか?
あまりの台詞に私は思わず面食らった。
面食らってそして……
「ふっ……くくっ!」
『なにが可笑しいの?』
影の負け惜しみに思わず吹き出した。
だって、これが笑わずに居れるだろうか。
こいつは今、自分で正体をばらしたのだから。
私の影?
笑わせる。
なんだ、私の一部ですらないじゃないか。
「アマダ様、こいつはただの悪魔ですわ……」
『な、なにを言うか!?』
「勉強が足りないわね。十六夜咲夜は誇りあるお嬢様の『人間の』従者よ。
依然、変わりなく。永劫、変わることなく」
『あっ……!?』
覿面に動揺する影。
もういい。この反応だけで十分だ。
だいたい分かってきた。
これはお嬢様の仕組んだものに違いない。
おそらく、私の目を覚まさせるために。
なんて優しい主人なのでしょう。涙が出るわ。笑いすぎて。
「……アマダ様、ちょっと予定が変わりましたが作戦は変わりません。
[援護]お願いします。
あれが悪魔なら、私と貴方の手の中に[切り札]はあるはずですから」
悪魔に聞こえないよう小声でアマダ様に伝えると、私は地を蹴った。
スカートの内側、腿の外側にベルトで固定してあったあるお守りを引き抜き、駆ける。
まっすぐに。
アマダ様が援護してくれるのだ。
隙は、出来る。
だから、まっすぐに「賭」けた。
- 664 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/07(木) 03:07:04
- 様々な想いが体中を駆け巡っている。
ああ、これだ。
これが人の温かみなんだ。
「…クッ!」
空間が歪むと感知した瞬間に横に飛ぶ。
何も無い空間を無数の銀のナイフが横切った。
視線を再び二人の咲夜に戻せば、影に向かって一気に飛び掛っていた。
瞬間移動。彼女は本来を取り戻そうとしている。
勢いをつけた彼女は影に一矢報いるまでに本来を、いや、以前よりも輝きを増した
十六夜咲夜と言う自分自身を手に入れていた。
ふと、会話に違和感が生じる。
咲夜も笑い、影を影ですらないと否定する。
ただの、悪魔と…。
…ああ、なるほど。
正体が大体見えすえてきたな。
一体誰が扮しているのか、それとも仕込んだのか。
「おいおい多分これが、自己嫌悪の結果だよ。おかげでとんでもない親心を発揮しているようだ。
いつになく」
新しいマガジンを銃の中につめる。
隙を作れ、か。一般人になかなか難しい注文をする。
しかしこのまま撃てばいずれは彼女が射線に入ってしまうだろう。
ならば攻撃目標は…。
出し惜しみせずに連射する。
地の雪を跳ね飛ばし、梢に窪みを作り、葉を跳ね飛ばす。
大部分が悪魔の周囲にすら当たらなかった、が。まあいい。
「あー、確か以前風呂を悪魔が楽しんでいたが…」
バキッ、と不吉な音がする。ガサリ、ガサリと転げ落ちるような音。
そういえば今日は一日中雪だったな。日照時間は殆ど無かった。
「今回は趣向を変えて雪風呂、気に入ってくれるか?」
彼女の上に、昨日より葉に積もっていた大量の雪が落下していった。
- 665 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/07(木) 03:23:57
- >>664
『だから鉛玉など効かないと……』
気にも留めず、まっすぐ突っ込む私から視線を外さない悪魔。
しかし、直後その頭上から大量の雪が降り注ぐ。
『な、なんだっ!?何が起きた!?』
愚問ね。
貴方に、不幸が、起きたのよ。
我々にとってはそうではないけれど。
【 借符『血文字の碑刃』 】
手にした石の剣。
いつかこの高台で友人に貰った守り刀をまっすぐに悪魔に叩き込む。
――Atha gior leolam adonai.
石剣の表面に記された緋色で描かれた呪文が鈍い光と共に唸り声を上げる。
それはまるで狼の声のように聞こえた。
『ぎ や ああああああああ あ!?』
どづん。
石剣の刺さった回りがえぐれるように消失。
動きが止まった。
悲鳴を上げる悪魔を蹴って身を放す。
苦悶に震える悪魔の姿が薄く透け、宙に浮かぶ懐中時計が見える。
あとはとどめをさすだけ。
アマダ様の持つ銀のナイフでなら……
彼に視線で合図を送った。
- 666 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/07(木) 03:42:36
- >>665
想いが、全てに勝ったのだ。
俺は咲夜の信頼にこたえ、彼女は見慣れぬ石剣を突き立てる。
その技の発動は、何故か見覚えのある人物の微かな記憶を呼び起こした。
そうだな、彼も一人の想いを持った人間だろう。
誰とも違わずに。
そう信じることにしよう。
さあて、これでこの馬鹿騒ぎも全て御終いだ。
彼女は強い自身を取り戻したし、首謀者も見当はついた。
この探求の果てにたどり着いた真実は納得の行く、またと無い輝きを放っていた。
最後の解決の鍵は、俺が握っている。
渡されたばかりだと言うのに、早速悪魔祓いの仕事に使うことになったのだ。
銃をホルスターに仕舞いながら駆ける。
駆けながら銀の短剣を抜く。
逆手に持たれた聖なる力を込めたダガーは、本来の役割通り、悪魔の命を絶ちにいった。
【 正義『真理貫く白銀の短剣』】
悪魔の喉元に深々と銀が刺さる。
これが俺達の信じた最後の回答。
呪われた身をもつ者よ、この場から去れ。
我々は無二の理を知った。
- 667 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/07(木) 03:49:33
- >>666
一発必中。
迷いの無い投擲、威力は十分以上。
そして、軌道は私の空間制御で補正する。
かくしてナイフは木々の間を縫い稲妻のように悪魔に吸い込まれた。
かちり
命中したナイフが悪魔の咽もとの奥深く懐中時計の針をさえぎり……
止めた。
瀟洒なメイドの影が崩れる。
やがて霧のように拡散し、雲間から差し込む月光の元、消えていった。
と、ガラスが割れるような音をたてて、周囲の空間が現実に復帰する。
そこは崖際でなく、森の中でもなく、最初にアマダ様にナイフを手渡したあの場所だった。
懐には懐中時計もナイフも変わりなく存在した。
ここへ来た時、そのままに。
時間停止も、ナイフ群も、森も、崖も、すべては幻だったのだろうか。
私は溜息をついて、アマダ様の方へ振り向く。
出会う前に感じていた恐怖はキレイさっぱりなくなっていたが、
代わりに奇妙な気恥ずかしさがあって、やっぱり落ち着かない。
「……その、なんというか。
終ったみたいです……」
だから、ただ、結論を告げた。
- 668 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/07(木) 04:08:15
- >>667
真理を貫くべく投げ出されたその銀の剣は
最後には辺りを覆っていたまやかしすらも打ち払った。
…最初から、仕組まれていたものなのかもしれないが。
「…ん、そうだな。だけど悪い夢じゃなかった」
するりと、いつの間にか―――最初からなんだろうけど―――腰の鞘の中に
戻っていた銀のナイフを眺める。
素人の投擲はまっすぐと言うわけには行かないか。
もともとから趣味の範囲の技能だし、暇を見つけて訓練してもいいかな。
「咲夜」
ナイフを片手に彼女に語りかける。
「この友がくれた銀の短刀はその真理を示す架け橋となってくれた。
感情とは決して空虚なものじゃない。
信頼とは決して無力なものじゃない。
何よりも、時には困難からは逃げるよりも、立ち向かう勇気が必要なのだと。
最後の一擲が―――今回俺が確かめることが出来た正義だ」
人間は、何かしら些細なことでも大きなものを学ぶ。
学んだ結果、人は自身の生き方を確固としたものとして立するのだ。
ナイフを再び仕舞うときに、笑顔で大事にするよと言った。
「…そうだな、怖いものは解決したし、最後に質問。今回の事件で咲夜は何を見つけた?」
- 669 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/07(木) 04:25:29
- >>668
「私は……相変わらず正義というものはよく分かりません。
かつての私の敵ですし。
ただ、それがアマダ様にとって大事なものだということは分かります」
柵に腰掛けながら空を見上げる。
やはり先ほどの月光は幻だったのだろうか。
雲は厚く垂れ込め、再び小雪がちらつきはじめていた。
「私は何も見つけていませんわ。
でも、わからないものが自分の中にあってもいいのだと。
そんな風に思うようになりました。
どうしてか分からないけれど行動してしまっても、いい。
そんな時もあるものなのね」
お嬢様が見ていた漫画にあったフレーズを思い出す。
『よくわからないけど、それって違うだろう』
『何も考えずに走れ』
私は小賢しすぎたのだろうか?
よく、分からなかった。
だというのに、あまり悪い気分ではない。
「文字通りの私事に手を貸してくれて有難う御座いました」
きっといつかご恩はお返ししますわ。
内心でだけ呟く。
声にすればきっと気にするから。
この人はそう言う人だ。
「……と、ああ、そうそう。
そう言えば、私、怖いものが出来たんです」
ふわりと浮かんで口元に人差し指を立てて微笑む。
「シロー、貴方がとっても怖いわ」
どんどん近づいて行きたくなってしまうから。
連邦きってのプレイボーイだもの、おおこわいこわい。
次の瞬間、時間が止まる。
再び動き出した時、メイドの姿はどこにもなく、
今私が腰掛けていた柵の棒の上にはキレイにデコレートされたクッキーの袋が置かれていた。
だって、私の得意技は逃げること、ですから。
<了>
- 670 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/07(木) 04:53:19
- >>669
社会正義、だとかいろいろあるけど
本当は違うんだ。
正義ってのは大人数で共有するもんじゃないのさ。
「それは正義、の意味合いが違うのさ。
これは決して敵だとか異端だとかを打ち倒すための免罪符じゃない。
どんなときでも折れること無く、貫くべき己の信条なんだ」
雪が降っても先ほどとは違いただ単純な寒さは消えうせている。
ほのかにゆったりで暖かい雰囲気が、辺りに漂っていた。
「『何も見つけていない』を見つけた。
うん、とてもいい。人間の心全てを知ろうなんて傲慢以外の何者でもない。
極めて曖昧で、抽象的なのが感情なんだからさ」
俺は言葉にしてしっかりと固めた。
だけど、咲夜のような答えのおき方もいいものだ。
明確にせずに、フワフワと透明なままにすれば色々な解釈が自分で出来る。
彼女らしさが表れているようだった。
「…俺は連邦軍一のお節介焼きだからそれほど気にするなよ」
まったくもって、どうしようもない。
周りのことを自分のことのように思って干渉してしまう癖は直らないようだ。
これもまた『自分らしさ』?なのだろうか。
「ん、怖いものって…」
そう彼女と向き直った瞬間、指先がビシッと向けられる。
何事かと思えば…。そうかい、存分に怖がって結構。
お節介を焼かれたくなかったらどんどん逃げるがいいさ。
はてさて、目の前には美味しそうなクッキーが。
なるほど怖いものか。
「それじゃあ俺もクッキーが怖いんでこいつを持って帰って食うとしよう」
きっと食い終わったころには熱い茶が怖いと言い始めるだろうしさ。
【退場】
- 671 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/11(月) 21:08:49
- ざっ
うっすらと道に積もった雪を踏みつけて立つ少女が一人。
その背には蝙蝠のような羽が。
その口元に覗くのは牙。
吸血鬼。
紅い悪魔。
幼きデーモンロード。
永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットの姿がそこに在った。
「ふふん、ここも見納めか」
腕を組んで周囲を睥睨する。
楽しい日々を与えてくれるよう付与した運命は、早速面白い見世物を用意してくれた。
そして、おそらくはこれからも時折見せてくれるのだろう。
数奇な出会いというやつを。
だが、自らが訪れるのはこれが最後になりそうだ。
そんな感傷を愉しむために彼女は今宵ここを訪れた。
- 672 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/11(月) 21:14:45
- ベンチの雪をはらって腰掛ける。
普段座っている椅子に比べれば板切れもいいところだが、
こういう場所ではそれが風情と言うものだ。
レミリア・スカーレットはわがままな君主だが、粋を愛する暴君である。
郷に入りて郷に従うにやぶさかでない。
要はそこで何をどう愉しむのか。
問題はそこにあるのだ。
「ふふん、どうやら忙しいと見えるね。
まぁ、触りようもないだろうし、優先順位は低くて当然だけども」
何気なく魔法で異空間を覗き込む。
まだ、知り合いの悪魔に頼んだ空間記憶の処理は終っていないようだ。
だからこそ、こうやってのんびりしているというのも無いではないのだが。
- 673 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/11(月) 21:22:39
首だけ傾けて、ベンチ越しに背後を眺める。
「ははぁ、あれがねぇ」
木々の合間に見える崖際の切り株。
あれがうちの子が踏みとどまった最後の一歩か。
「多分、お前がイレギュラーだったな」
計算外だ。
あんなちっぽけな、どうでもいい、ただの背景ごときに
それほどの力があるとは思わなかった。
些細なきっかけが思い出とやらのキーとなったんだろう。
うちのメイドがあの切り株に何を見たのか、察しようも無いが……
たしかに監視の下では読み取れないなにかがあったのだろう。
そう言えば、前に使い魔を同行させたときにも切り株に座り込んでいたっけね。
「ままならないもんだね」
目を閉じて天を仰ぐ。
あのメイドがからむと運命が読みづらくなる。
時間を止めて動かれると因果が狂う。
その上、あれは運命に抗う人間のひとりだ。
「だから、面白いんだよねぇ」
悪魔は楽しそうに笑っていた。
- 674 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/11(月) 21:34:47
「さて、高台に与えた運命は私にも効果を発揮するのかね?
それとも仕組んだ張本人は例外かな?」
どちらもありそうな話ではある。
ま、後者でも仕方があるまいとは思いながらレミリアは悠然と笑う。
「ふふ、色々と私のやり方は強引だからねぇ」
そんなの今更の話だが。
ベンチに座ったまま膝を組んで、その上に組んだ両の手のひらをのせる。
吐き出す白い霧が空中に拡散するのを眺めながら自嘲した。
寒さは感じない。
吸血鬼だから。
「ま、今更変えられないさ」
思うのは490年閉じ込めた妹のこと。
そこも、私は強引に過ぎたのか。
結局、妹が変化をはじめたのはつい最近のこと。
その良し悪しもまだ分からない。
結果が出るにはもう少し時間がかかるだろう。
まだ、あの子は別れを思い知っていないのだから。
- 675 名前:名無し客:2010/01/11(月) 21:35:01
- | |
| |∧_∧
|_| ゚∀゚) あの・・ブラディマリー(ホット)
|悪| o o旦~ ですけど…どうぞ…
| ̄|―u'
""""""""""
- 676 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/11(月) 21:42:39
- >>675
「フフ、有難う。
すくなくとも、効果は皆無じゃないと分かったよ」
名も無き差し入れにらしくもない微笑を向け、杯を受け取る。
ブラッディー・マリー。
ああ、たしか我がままで処刑された人間の女王だかにちなんだ酒だっけね。
「なかなかに皮肉が利いてるね、あんたセンスがあるな」
受け取った酒をちびりと舐めつつ我が身を振り返る。
私が行き過ぎた時、ちゃんと部下に処刑してもらえるのだろうか?
咲夜はダメだな。
ちょっと可愛がりすぎてしまった。
友人と妹に期待するしかないだろうか。
あるいは長年のつきあいの門番のここぞで決める気質に期待していいのか?
「どうかな、ダメかもなぁ」
トマトとウォッカベースのその味は、血とは似ても似つかなかった。
- 677 名前:名無し客:2010/01/11(月) 21:50:57
- クリスマスからズット冷凍庫に死蔵していた
血の滴る鴨肉をローストして参りました・・・・・アルミホイルで。
- 678 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/11(月) 21:57:00
座っているのにも飽きて、杯を片手にちびちびやりながら坂を下る。
その先は崖、そして廃墟。
先に自分が破壊せしめた領域。
瓦礫と砂と無残に露出した土砂が散見する小さな荒野。
「昔はよく見慣れた光景だったんだが、
最近はとんと見なくなっていたね、幻想郷は平和だから」
そう、瓦礫も廃墟もかつてはよく見かけたものだ。
人の手で出来たか、それ以外の手によるものか。
理由など様々だ。
度重なる人の戦争、執拗な神の使徒の攻撃、徹底的な殲滅。
結果、出来上がるのは決まって瓦礫と廃墟と屍の山。
それが日常だった。
「やっぱり皮肉が利いてるよ。あいつ、天才だな」
酒の差し入れをした名も無き人間を賞賛しながら、残った酒を一気に飲み干す。
気分だけは血を飲み干したかのように。
>>677
「おいおい、歩きながらパクつくには重たすぎるだろ」
鳥の肉を指差して悪魔が苦笑する。
そりゃ、ここで酒盛りを始めるのも悪くはなかろうが。
「まぁ、折角だからもらおうかね」
瓦礫のひとつに腰掛けて空になった杯を置き、
ひとかけ爪で引き裂いて口に運ぶ。
「……ッ!?」
直後、悪魔は銀紙を噛んでのたうちまわった。
はかったな!?
- 679 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2010/01/11(月) 21:58:30
- 詰まるところ、たとえ新年であろうと連休であろうと世が押並べて休日であることはない。
例えば彼のような職業がそれだ。
―――霊的に安定した筈であった“特異点”の再活性化。
年の瀬に突如として発生した廃墟は、彼らの機関の言葉を借りればこの一言に尽きた。
それだけならばまだしも、これを引き起こした首謀者と思しき人物。
その情報が彼らを、否、彼を動かすに決定的だった。
“ツェペシュ”の末裔。
“串刺し公”とは“ヴラド”の異名であり、それはもう一つの重要な呼び名と意味を持つ。
そしてその名前が出てきたのならば、彼が駆り出されるのは最早必然ですらあった。
何故ならば彼こそは。
その、呪わしき名と最も関わりある存在に他ならないからだ。
目下の任務は確認と調査。
これらの因果がまごう事なく“末裔”の仕業であるならば確証を得た上で、必要な情報を収集する。
それが機関、否、男――――ツェペシュの“継嗣”である彼の役目である。
「……“末裔”、か…」
無意識に零した言葉が、閑散とした月下の闇に消えてゆく。
夜に溶けるように黒いコートを羽織ったスーツ姿が、淀まぬ歩みで高台への道を往く。
スーツと鮮やかなる漆黒の長髪と対照的な白い容貌。
肌の白さを含めた所作と配置、そして冷徹なまでに鋭い双眸。
その人並みを外れた端正さは、もはや絶世の芸術家が遺した渾身の一作にも等しいか。
かくて、彼――――有角幻也はこの廃墟へと赴いた。
不死(ノーライフ)が作り上げた瓦礫(ノーライフ)の世界、運命を弄ばれた遊び場へ。
- 680 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2010/01/11(月) 22:04:19
-
(…やはり、異常が感じられるのは此処だけか)
高台を登りきった所で、幻也の推測は確信へと変わっていた。
彼と仲間の数人は地脈、気脈、霊脈―――今までこの区域一帯の“流れ”を観測していたのである。
その結果は、全てシロ。天地を常と流れる無形の力、その相は一切の異常も異変もない
正しく平穏そのものであった。―――無論、この高台を除いてはだが。
平穏を装った未解決乱数の坩堝。
教会の或る機関が唱える現象概念に当てはめるならば、高台の霊位相は正にそれだ。
功名に偽装された平穏の下に隠れる、混沌を思わせる魔力概念の乱舞。
だがその更に裏側には、多次元より力を掻き集める為だけに構築された式が隠されている。
そう、集める“だけ”だ。
その誘導せしめた力の流れを結集し、他の作用へと転化されるような―――もっと有り体に
言えば、流れを一点に集める以外の一切の作用を持たないのである。
呪いじみた式を組み込まれ、力―――存在が集まるよう仕組まれた謎の廃墟。
そしてその首謀者らしき吸血鬼の存在。
彼と、彼が属する機関によって得られた情報は此処までである。
後は現地に赴き、地道な実地検証と情報収集を行う他はなかった。
とはいえ、それもまた今知りえている以上の成果を得られるとは思えなかったが。
――――しかし、此処で“運命”は思わぬ形へと流転する。
「…誰かいるのか?」
其の“力”の波動は高台を支配する“式”と同じく―――――
其の“力”の波動は一人の少女から出ずると同じく―――――
そして其の“力”の波動は、彼が決して忘れぬあの男を――――――
――――かくて、“運命”は邂逅する。
- 681 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/11(月) 22:06:14
- >>679-680
ふと、気配に顔を上げる。
この気配は随分となつかしい気配だ。
そう、あの人と似た気配。
刹那、周囲を探り、そして吸血鬼の全てを見通す目は一瞬で対象のイメージをとらえた。
黒いコートとスーツに身を包んだ端正な顔つきの男。
おそらく逆もまたしかり、向こうもこちらのイメージをとらえたことだろう。
「おや、夜の住人がもう一人お越しかな?」
瓦礫にもたれて腕を組む、蝙蝠の翼もつドレスの少女。
優美にして妖艶、悪魔の貫禄を見せていた。
銀紙を噛んだせいで涙目である事と、
足元に食べかけの鶏肉の乗った皿が置いてある事を除けば、だが。
- 682 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/11(月) 22:39:10
「ヴラド・ツェペシュ……か」
ふわりと皿を浮かせて鶏肉を手に取る。
今度は銀紙を丁寧に剥がしてからひとかけ口に放り込んだ。
あまりに気配が似すぎていて、一瞬当人かと思った。
だが、違う。
上手く言えないが気質の違いとでも言うか……
ぶっちゃけ、彼ほど血の匂いがしない。
彼と会ったのはどれほど昔だろうか。
魔の城で魔王になった彼の事は実は良く知らない。
彼と会ったとき、彼は一人だったから。
杯に手をやり、空なのに気付く。
「お酒のおかわりってないの?」
のんびりと舞台袖の名も無い人間に声をかけながら、気配が近づくのをゆったりと待った。
どうも迎える側がこちらのようだ。
ならばひょこひょこ近づくのも風情がないだろうから。
- 683 名前:“動かない大図書館”パチュリー・ノーレッジ ◆fPATcHE/tU :2010/01/11(月) 22:48:42
- 風がそよぐ。
そよそよと、ざわざわと。
風が、流れる。
流れて、魔女を運ぶ。
パチュリー・ノーレッジは、移動する際の手段として風の精霊の手を多く用いる。
それが、精霊すべてを掌握する彼女にとって、多くの場合徒歩よりもたやすい手段だからである。
だからこの時、彼女が高台に登るための手段として徒歩ではなく飛行を選んだのも、
彼女にとっては至極当然のことだった。
パチュリー・ノーレッジは、真理の徒であり、賢しきを愛する賢者である。
そこが彼女の友人との差であり……彼女たちが友人でいる理由でもあった。
何故と問うなかれ。女心は複雑なのだ。
高台よりはるか高き場所から、パチュリーは眼下を睥睨する。
高台が真下にある事を確認して、風の精霊に降下を命じた。
声なき声を聞き取った精霊たちが、パチュリーの体を緩やかに地面へと近づける。
そこで、彼女が目にしたのは。
一人の男と(>>679-680)
パチュリーの友人(>>681-682)
そして、いくらか食べられた鴨肉のロースト(>>677)
「……生誕祭はもうずいぶん前。割礼年初も過ぎてるわよ、レミィ」
場違いな料理を前に、思わず零す。
そんな間の抜けた声とともに、パチュリーはレミリアの背後に降り立った。
- 684 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2010/01/11(月) 22:52:27
- >>681-682
――――かつて、魔王には後継者がいた。
彼の凶行に反逆した継嗣とは異なる、彼が持つ闇の魔力を受け継ぐべき後継者候補が。
時間操作と混沌介入を応用した因果介入、いわば“運命操作”とでも名付けるべき秘術に
より、先天的な素養を必然的に持たされた候補者達。
それは魔王自身が無限に甦る呪いとはまた別の、ひとつの保険として編み出されたともいう。
たとえ魔王が滅びようとも、いずれ彼の志を継ぐ者が世界を呪い滅ぼすように。
この恐るべし秘術により、魔王は自らの憎悪を代行する後継者を、時空の壁を越えてまで
生み出そうとしたのだ。
その鈴音のような声は、余さず幻也の耳へと入った。
「そんな事はどうでもいい」
常と代わらぬ口癖(最近では1日に15回、前より増えた)で彼は応える。
だが彼の眼差しとが纏う空気は、人間の日常とは交わらざるものへと変じていた。
ドレスで着飾った一人の少女。
人形のような美しさとは裏腹に、異様なるを隠さず装っている。
その異様さの正体とは言うまでもない。人間大にまで膨れ上がった、一対の蝙蝠の翼。
正に、かの種族が自らの異形たるを示す証―――悪魔の黒き翼である。
(食べかけの鶏肉には気付いたが触れないでおく)
「もう一人ということは、先に居る一人は夜の住人だということだ」
しごく簡単な数式の解がごとき明解な結論。
其れほどにまで眼前の少女―――否、彼女は己の正体を誇示していた。
未だ正体には思い至らないが間違いあるまい。
“此れ”は、この少女の姿をした悪魔は間違いなく只者ではない。
幻也の関知した魔力の波動は、彼女の種族を告げていた。
己と近似するが決定的に違う闇の魔力。
感じる魔力の質は、一種の呪いを中核とした種族特有の感覚を彼に教えている。
ならば。
そう、ならば後は全てを決定付けるべき言葉を発するのみ。
彼の疑問を、懸念を、推測を。確信へと昇華させる“問い”の一言を発するのみ。
「ならば答えてもらおう。
――――お前は何者で、何故ここに赴いたのか。
お前が何者かであれば答えられるはずだ。
吸血鬼―――――ノーライフキングに位置する祖(ロード)ヴァンパイアよ」
男は問いかける。
其れは己の務めであるから。
男は問い掛ける。
其れは己に課した宿命であるから。
そう、男は問い掛ける。
――――“あの男”の、全ての始まりであるあの男の名を聞いたが故に。
――――かくして、その目論見は成就する。
魔王が真の滅びを迎えた決戦の刻。
機能していた因果操作の秘術は一人の生まれざる生命の“運命”に介入し、転生の器とした。
それが後に『暁月』『蒼月』と称される新たな戦い――――
現代における魔王『ドラキュラ・ヴラド・ツェペシュ』の復活と、それを企てる者達の暗躍、
そしてその再来を阻止せんとする彼とベルモンド末裔達との戦いの系譜となったのだ。
- 685 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/11(月) 22:57:14
- >>683
「これは差し入れだよ。
文句は名無しに言ってほしいね」
鶏肉の皿を持ち上げて親友に「食べる?」と尋ね、微笑む。
我が友ながら珍しい来訪だ。
外出なんて滅多にしないというのに。
ああ、そう言えば雪降る町に実験に行ったりとか最近はよく出歩いていたっけ?
「出されたものを無下にするのも無粋だからねぇ」
普通であればどういう風の吹き回しかと尋ねるところだろうが、今更だ。
百年来の友人にそんなこと聞いてどうする。
彼女なりに興味が湧いた、あるいは興が乗った、はたまた目的がある。
だから来た。
それだけのこと。
「ヴラドによく似た気配の夜の住人がお出ましらしいよ」
だから理由は尋ねず、状況だけ口にする。
知識・情報はいつだってこの友人にとって大好物なのだから。
- 686 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/11(月) 23:07:49
- >>684
とげとげしい気配を隠そうともしない彼に
傍らの魔女にちらりと視線を向けるとレミリア・スカーレットは肩をすくめる。
「ツレないねぇ、同族なんて最近滅多に会うこともないってのに。
まぁ、でもようこそ、ミディアン。何もない高台だが、歓迎するよ」
歓迎の言葉にも構わず質問を重ねる彼に面食らったように黙り込む。
何者か。
哲学的だねぇ。なんて言うと逆撫でてしまうのだろうか?
「答えてあげよう、私が何かは知ってのとおり。
吸血鬼にして悪魔。レミリア・スカーレットと申しますわ。
どうして此処に来たのかは『暇つぶし』だよ」
悪魔は嘘はつかない。
咲夜は嘘つきまくりだが、いっしょにしないでいただきたい。
レミリアは目を細めると返して問うた。
「さて、私は礼儀に気を払っているつもりなんだがな。
あんたはどうだね?
たしか人間の世の中じゃ、人に素性を尋ねるときは自分から名乗るもんじゃなかったかな?」
あまり無礼るなよ、ご同輩?
ざわり、と彼女の影の奥の闇が蠢いた。
- 687 名前:“動かない大図書館”パチュリー・ノーレッジ ◆fPATcHE/tU :2010/01/11(月) 23:47:32
- >>685
「きっと余り物でしょうねぇ。
まあ、悪くなっていなければ別にいいけれど」
もらうわ、といつもの仏頂面で答える。
珍しいと思われているだろうが、それもまあ当然。
パチュリーが外を出歩くことはめったにないのだ。
最近では去年の夏、天界に行ったことと、スキマ経由でとある城に長期滞在したこと、
それに、年初に神社に顔を出したぐらい。
それでも「最近はよく外に出る」と思う程、彼女は外出をしていなかった。
「それはまあ、当然。勿体ないものね」
そんな彼女がなぜここに来たかと言えば、何の事はない。
レミリアが珍しく遠出したと聞いて、興が乗ったのだ。
最近妹様や咲夜が外に出て色々と面白い事になっている、と言う話は小悪魔経由で蒐集している。
その相伴に与ろうとパチュリーが思ったとしても、不思議はあるまい。
「ふうん……珍しい」
その気まぐれは正解だったようだ。
普段できない邂逅ができるのだから。
パチュリーはいつも通りの半眼で、そのヴラドに似ているという男を見つめた。
- 688 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/12(火) 00:03:51
- >>684
余り物。
ああ、そう言えば名無しがそんな事言っていたような気がする。
まぁ、悪くなってはいなそうだし問題ないだろ。
銀紙噛むと泣けるよ、と注意しつつ彼女に皿を向けた。
「ああ、珍しいね。
ただでさえ吸血鬼に会うのは珍しいってのに彼に近しいのだなんて。
これほど数奇と呼ぶに相応しい事は無い。いいね、どきどきするよ」
たしかに彼の真面目くさった不機嫌な顔はヴラドを思い出させるものがあった。
ん?
あれ……もしかして?
記憶のどこかにひっかかるものを感じて考え込む。
こいつはもしかすると……
- 689 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2010/01/12(火) 00:10:29
-
――――さて、此処で一つ疑問が残る。
仕組まれたドラキュラの後継者は、果たしてその一人だけだったのであろうか?
>>683
その時、彼はもう一つの“動き”と気配を察する。
大気を操る風精の動き。それも人為的な方向を与えられた精霊魔術による動きである。
気配の正体は考えを巡らせるまでもなかった。
風精を使役する―――即ち飛翔の術を使っていた本人が降り立ったのだから。
白い肌に紫の長髪を流す少女。
―――否、並ならぬ魔力がその容貌から想起すべきものを否定する。
術と魔力を行使する女の皮を被ったそれを、ヒトは魔女と呼ぶ。
同じく彼の鼻をつくのは古い紙の臭い。
「久しぶりだな、爺」
「これはこれはアルカード様。一体何の用ですかな?」
「悪いが、手を貸して欲しい」
「お言葉ですが、ドラキュラ様に牙を剥いたお方に協力するわけには…」
「…分かっている。それなりの礼はする」
「そうですか。それならば、何なりとお申し付け下され…ヒッヒッヒ」
――――そんな、過去の断片を幻視した。
恐らく、そんな事はどうでも良いことなのであろうが。
>>686
――――魔王候補。
そう名乗る者が現れたのは、意外にも現代へ入ってからである。
陰が蠢く。
闇が蠢く。
陰に隠れる“魔”が、秘していた牙を磨ぐ。
闇に紛れる“暴”が、潜めていた爪を砥ぐ。
幻也の問いに彼女――レミリアは答えた。
そしてレミリアが問う。紅を名とするロードが、彼に返礼を尽くせと云う。
――――隠しきる事は不可能か。
今の彼は有角幻也。
有りし日の幻也(まぼろしなり)とあるべき存在、それ以上でもそれ以下でもない。
だが、この紅き悪魔は其の名を良しとはしないだろう。
それに、彼女は幻也をミディアンと呼んだ。同族と呼んだ。
それは他でもなく、彼の隠微していた筈の魔力が見破られていた事を意味する。
気安い言葉の中に込められた半分の真実。
―――止むをえん、か。
この少女を模したヴァンパイアは、騙しきるには難い相手であると幻也は見切る。
それに今の状態―――『有角幻也』の姿では彼女が実力行使に出た場合、
抑えきれる自信は無かった。
自らの行動を『暇つぶし』と答えるような夜族は、往々にして力の箍は緩い。
それでも大方はその知性から力を揮うのを控えるが、あくまで大方だ。
今や、ここの地相は目の前の彼女と魔力の位相を同じくする。
彼女が此処に存在する限り、この高台は彼女の支配する領地ですらあった。
加えて、彼はそもそもこの廃墟の謎を調べるために来たのである。
そして全ての元凶たる本人が前にいる。
ならば、情報を引き出し問いただすのに何の逡巡が有り得ようか。
―――そう、ならば明かさねばなるまい。
己の真の名を。
レミリア、スカーレットに。吸血鬼にして悪魔に。
そして、狂ったあの男が因果に選んだ“末裔”に。
「…そうだな。
ならば名乗るとしよう。私は―――――」
―――――解除術式緊急開放 承認
―――――隠微術式 “グラント” 開放
―――――擬態術式“サイファ” 開放
―――――拘束術式“ラルフ” 開放
―――――偽典拘束術式 開放―――――
緊急事態を想定して組み上げた解除術式。
其れを一切の躊躇無く発動させ、友の名が組み込まれた拘束術式を彼は解放する。
- 690 名前:アドリアン=ファーレンハイト=ツェペシュ ◆rX9kn4Mz02 :2010/01/12(火) 00:15:34
- >>689
――――其処には、悲境の貴公子がいた。
銀砂を思わせる細やかな銀髪が風に靡き、闇の黒を支配する。
纏う黒衣は金糸を織り込んだ貴族の装束(ジュストコール)。
その繊維一本一本に編みこまれた魔力と相まってか、闇の漆黒を従える鋭さと豪奢を夜に示す。
―――そして、その相貌は。
其の相貌は月の儚さと暗さを湛えるかのように白く、美しく月下の闇夜に浮かび上がっていた。
「……アルカード。アドリアン=ファーレンハイト=ツェペシュ。
父ドラキュラ=ヴラド=ツェペシュの子にして、父を我が手で滅ぼしたものだ」
一振りの名剣、魔剣、名刀―――それらだけが持つ清廉ですらある鋭さは他でもない。
夜の魔力を従え月下に佇む、彼アルカードの気配そのものである。
「そしてツェペシュの子にして反する者として、其の上で問う。
レミリア=スカーレット。
お前は何故、この高台の流れを―――――“運命”を操った?」
理由如何によれば――――そう、美しき反逆者は心の中で付け加え、そして切った。
世界の誰よりも幻想的で、誰よりも鋭い者。
世界の誰よりも冷酷たれと誓い、誰よりも儚き者。
世界の誰よりも闇を知り、誰よりも光を知った者。
苛烈なる十字架を背負った“半ばなる者(ダンピィル)”は、末裔へと問い掛ける。
――――此処に一つの書がある。
当時の世俗を記したこれは、かの串刺し公の城内に於ける日々を記したものだ。
――――此処に一つの名前がある。
当時の城内を記したこれは、かの串刺し公と縁深かったという二人の少女の
- 691 名前:名無し客:2010/01/12(火) 00:21:14
- 〜そして空に「満月」が昇る〜
【この「満月」は夜の担い手達の望む色を写す】
- 692 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/12(火) 00:37:30
- >>689
拘束術式が解かれる波動。
ひとつ紐がほどける度に近づく気配。
彼に近づく気配。
ああ、成る程。
この時、心中に芽生えた小さな疑問はほとんど確信に近づいていた。
そんなに近しい気配を放てる吸血鬼はどのくらいいる?
10人か?5人か?
いや、2人だ。
二人以外は考えられない。
あとは消去法、こいつがヴラドなら、伯爵本人なら私を知らないはずはない。
なら、こいつは……
>>690
「やっぱり息子殿か……」
しかし意外だったのは彼が息子に討たれていたこと。
魔城に篭った彼が魔王と化したと噂は聞いたが、
その頃、既に私はヨーロッパから大陸を東へと離れていたから、
事の顛末は知らなかったのである。
刃のような魔力。
半分は人間であろうにその膨大な魔力は父に迫る勢いだ。
それは彼の感情が生み出す魔力であろうか。
レミリアは鶏肉の乗った皿を傍らの瓦礫に下ろし、
あらためて彼に向き直る。
緊張?
いいや、逆だ。
レミリア・スカーレットは先ほどまでよりもリラックスしたかのように気安く話し始めた。
「悪魔の子は人の側についたのか、世の中面白いねぇ。
伯爵は復活待ち?それとももう滅んでしまわれたのかな?」
楽しそうに。
面白いよねと傍らの魔女に砕けた口調で零しながらも
こともなげに雑談を続ける。
「ああ、そうそう。
高台の運命を操った理由だっけ?
なんでだったかね?いくつか理由はあるんだが……
おおまかにまとめれば、『その方が楽しそうだから』『都合がよかったから』
そして『寂しかったから』かな?」
>>691
背後に上る真紅の月。
いつの間にか雪雲は薄れ、夜の世界に淡く紅い光が降り注ぐ。
「ただ、消えていく運命だったこの高台を闇から引きずり出す。
遊び場のひとつとして、ね。
それが私が運命をいじった理由だよ、アドリアン」
年の近い吸血鬼に逢うなど本当に珍しい。
確かにこの高台は与えたとおりの運命を私にも提供したのだ。
数奇な出会い。
それは確かにここにあった。
- 693 名前:アドリアン=ファーレンハイト=ツェペシュ ◆rX9kn4Mz02 :2010/01/12(火) 01:32:53
- >>692
――――結論から言おう。
そのもう一組の“後継者”は、魔王として君臨することは無かった。
彼の魔王が組み上げた、悪意ある限り復活する呪詛が完全に機能し続けていたから?
無論、それもある。
だが本来の理由は、最大の“器”が生まれ得なかった理由がもう一つあるのだ。
「……得心がいったようだな」
今度こそ―――そう、今度こそ常と変わらぬ声色でアルカードは呟く。
父であるドラキュラ公が未だ優れた魔導の徒であった頃、彼の下には二人の少女がいた。
其の片方はラプラスに魅入られた悪魔の子。
そしてもう片方は、名も無き“破壊”に魅入だされた悪魔の子。
その類希なる素養を見出した父が付けたのか、或いは彼女らが名乗ったのか。
紅き瞳をした二人の幼き姉妹。其の名を――――――
「“今は”人の側だ。
人間が自らで滅びるのなら止めはしないが、元より闇の眷属の側に付く気などないのでな」
“悪魔の子”
――――嗚呼、そう。彼は悪魔の子であった。
ヴラド=ツェペシュが其の名を名乗る前より魔導を極めた吸血鬼であったならば彼、
アドリアンは吸血鬼と人の子、半人半魔のダンピィル。それが彼の生まれついた宿星であった。
「父は……いや、ドラキュラは既に滅ぼした。
力の源である城を切り離し、封印した上で完全に―――俺とベルモンドの手によってな。
二度と復活することはない。
そう……奴の因果に選ばれた“後継者”が覚醒しない限りはな」
“後継者”。
その強調された言葉には、アルカードにとって只の記号以上の意味がある。
魔王の座に近きもの。
其れは魔王に選ばれた素養ある者、そのようにして“運命”を与えられた者である。
―――そして、其れは若し魔王となったならば。
彼、アルカードにとって命を賭して滅ぼさねばならぬ存在となる。
だが、同時に彼はそのような運命を背負わせたくなどなかった。
もはや魔王はもう居ない。
ドラキュラ・ヴラド・ツェペシュは自らを構築する呪いと共に滅んだ。
自我は既になく、表層を繕った世界の憎悪と悪意が形を取るだけの哀れな人形。
――――それが、父が狂気の果てに辿りついた、“魔王”という名のおぞましい呪いの姿だった。
憎しみを織り成した悲しみも、愛も。全ての原因すら失って残った、たった一つの呪いの姿。
――――そんなものは。
そんなものは、最早この世にあるべきではない。
全ての因果は終わるべきであり、十字架を背負うのは自分だけで良い。
これ以上、もう誰も悲しむべきではないのだ。もう誰も犠牲になるべきではないのだ。
このような愚かなドラキュラの呪いに、自分以外はもう誰も。
だからこそ、彼は此処に居る。
ドラキュラの残した呪いの全てを断ち切る為に、幻となりて人の世に立つのだ。
『父を止める』。
それが愛する母との誓いであり、絆を得た彼らとの誓いであるのだから。
――――その彼の根幹を成す誓いと思い。
末裔を自称するレミリアを見る眼差しに、奥底に隠していた筈のそれが現れていたのを
果たして彼は気付いたか。
「――――成る程な。要は、お前の気紛れというわけか」
――――多分、気付いていないのだろう。
そんな運命の呟く声も聞こえず、ツェペシュの継嗣は嘆息交じりにそう答えた。
吸血鬼の精神年齢は外見に準拠することが多い。
それはたとえ永遠の命を得たとしても、自身の環境に引きずられざるを得ないという証左であろうか。
恐らくは、この永遠に幼い吸血鬼もそういった志向があるのだろう。
「……理由は理解した。後で報告書に起こすには苦労しそうな理由だがな。
…それで、この“運命”は何時まで作用する?
調べたところ周辺への影響は無いようだがな…既に消えゆく運命だった所だ。
あまりに長期間になるならば、周囲の環境に歪みを発生させる。
たとえどれだけ巧妙に操作しても、それだけ強い力が働くならば同じことだ。
ここの地相が特異点なのは承知の上だが……
長期間の変異に対する揺り戻しを無効化できるほど、此処は地力の強い場所ではない」
そもそも此処に赴いた本当の理由。そして懸念。
仮初の顔を務めとする彼は隠さずに、どこか緊張の解かれた空気の中レミリアに問うた。
- 694 名前:“動かない大図書館”パチュリー・ノーレッジ ◆fPATcHE/tU :2010/01/12(火) 01:52:25
- >>688
やっぱりね、と呟きつつ、手元に金属製の刃を閃かせ、鴨をいくらか切り分ける。
メイド長謹製銀のナイフ……ではなく、彼女の精霊謹製鋼の刃だ。
メイド長のようにはいかないが、そこそこ取りやすい形状に手際よく切り分け、刃を皿に置く。
そうそう噛まないわよ、レミィじゃあるまいし、と返して、皿から適当な大きさの切れ端をとり、口に運んだ。
「自分で仕組んだ数奇でもどきどきするのかしら?
まあ、だからこそどきどきするのがレミィだったわね。愚問だったわ」
そのあたりの感覚は、運命を操れるレミリアならではの物だろう。
夕飯に好きな物を出してくれるよう頼んでその通りになったみたいな感じでしょうか、と言ったのはパチュリーの使い魔だったか。
大体あってる、とパチュリーが返したらレミリアは渋い顔になったものだ。
と。レミリアが何かを感じたらしく、考え込むような表情になる。
どうしたの、珍しい、と軽く声をかけようとした時。
>>689-690
魔力が解放され、眼前の男が変貌する。
なるほど。これならば彼女の友人の言を聞くまでもない。
彼は吸血鬼だ。それも、生粋の。
男は名乗る。Alucardと。
そして、直系の血を受け継ぎ、しかし、その血を滅した者だと。
数奇なる運命、などという言葉で語るのはもはや無粋ですらあった。
ここまで近しい、しかし反した者とレミリアが出会うとは。
パチュリーは言葉にできない感触を覚えつつ、この場に居合わせられた幸運を密かに祝った。
男は問う。なぜ、この高台の運命を操ったのか、と。
男にとっては必然の問いだろうが、パチュリーにとっては愚問であった。
レミィの事だから、どうせ……。
>>692
まあ、面白いけど、と苦笑いを傍らの友人に返した。
レミィはこんな時でも相変わらずだ。
いや、こんな時だからこそ、だろうか。
そして。
>おおまかにまとめれば、『その方が楽しそうだから』『都合がよかったから』
>そして『寂しかったから』かな?」
「大方そんな事だろうとは思ったけれど、いつも通りね」
そう、この吸血鬼様はいつもそうだ。
先日月に行こうとした時も、『楽しそうだから』『面白そうだから』だった。
彼女はいつでも、彼女の赴くままに行動する。
「まあ、悪気はないのだけれどね、レミィの場合。
大体、これを聞いたあなたの反応は二通り。怒り出すか、呆れるか」
いつの間にか、空には赤い紅い月(>>691)。紅い光が支配する中、魔女は呟く。
>>693
「……でも、どちらでも無かったみたいね。
事実を事実として受容する、あなたみたいなタイプも居る訳か」
そして、小さく溜息をついた。
「報告書ね。まあ、そのまま書いておけばいいんじゃないかしら。
よくある事じゃない。力ある者の気まぐれ」
軽く肩をすくめる。
それに少なからずひっぱりまわされた事のある身としては、少々思うところがあるようだった。
「運命操作の事はレミィにしか分からないわね。私は邪魔者だったかしら。
せっかくこんな物も用意してきたのにねえ」
懐から取り出したのは、赤ワインの瓶。
ラベルは古びているが、「デアル・マーレ」の印字がかろうじて読み取れた。
- 695 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/12(火) 02:03:32
- >>694
>どうしたの、珍しい、と軽く声をかけようとした時。
いぶかしむ視線を感じて
いや、実は心当たりが、と言おうと思ったが、
彼が変貌をするのを見てそのまま黙り込む。
パチェが見てわからないはずもない。
この説明は不要だろ。
>>693
「ふふん、直接の面識はなかったからね。
気付くのが遅れたのは許してもらおうか」
得心は行った。
ああ、確かに得心はいったとも。
ヴラドが滅び、魔城は封印され、世界から消えた。
それは事実なのだろう。
いささかの郷愁と寂寥が無いではないが、所詮夜に生きるもの。
人を取って食らう以上は、逆に討ち果たされるのも運命。
伯爵もまた、その例外ではなかったというだけのことだろう。
この男が敵したのであれば説得力は十分に。
だが、きっと伯爵は人に倒されたのだと思う。
いや、彼を知るレミリアにしてみれば、そう思いたかった。
「成る程ねぇ、道理で最近うちの『紅魔館』が魔力を急速に高めていると思ったよ」
ぽつりと、彼にとって聞き捨てなら無いであろう言葉を落とす。
事実だ。
かつてただの洋館であったはずの紅魔館は明らかに長い年月の末、魔力を帯び始めている。
そうでなくて、親友の魔女の魔法があるとはいえ、
どうしてフランを閉じ込めて置けようか。
どうしてスキマ妖怪との戦争において妖怪たちの侵攻を防ぎきれようか。
そして、どうしてあんなにも妖精たちが集まってくるものか。
レミリア自身の魔力やカリスマのせいではあるだろう。
だが、それだけとも思いがたかった。
これはただの推測だが……
おそらく、魔城のもつ魔力が少しずつ記憶の彼方に去って行っているのだろう。
幻想入りした魔力はこのツェペシュの末裔の住まう館に届いているのかもしれない。
無論、そうでないかもしれないが。
「気まぐれ、そう気まぐれだ。
いつだってそうだよ。
私はきまぐれでわがままなんだ。
だからこの高台は歴史の彼方に去らずにいまだここに在る」
くつくつと咽の奥で笑いながら皮肉な現実を愉しむ。
まぁ、本当に遊ぶためだけの事だ。
立場はともかくとして問題はさほどなかろう。
これだけの魔力をこんなくだらないことに費やすなど理解はできないかもしれないが、
生憎とこのレミリア・スカーレットは何事も全力で愉しむのが身上でね。
「魔力はもって春まで、呼び込む運命が多ければもっと速く尽きるかもね。
私は悪魔で人の味方じゃあないが、憎悪で人を襲ったりもしない。
それにね、既に幻想の彼方に去ってしまった存在なんだよ。
外の世界でどうこうってのは本当に予定が無い。
安心していいよ、お優しいご親戚殿」
襲っていないとは言っていないがね。
内心ぽつりと呟いて、彼を眺めやる。
>>694
>「大方そんな事だろうとは思ったけれど、いつも通りね」
「そうだよ。いつも通りさ。
いつも違うことばかり言っていたら信用ならないだろ?」
私はこれでも芯が通っているんだよ。
まぁ、パチェに今更言うようなことでもないが。
だが、館が魔力を帯びている件は実は前から少し気になっていたことでもある。
今までは私やパチェやフランの魔力がしみついてきたせいだろうと思っていたが……
そのうちパチェに調べてもらった方がいいかもしれない。
いつのまにか紅魔館に「悪魔城の末裔」なんて二つ名がついてたら笑うしかなくなってしまう。
「おいおい、いいもの持ってるじゃない。
鶏肉だけで咽かわいてきてたんだよ。
なぁ、息子殿、折角の邂逅にあわせて一杯やらないか?」
パチェのワインを指差して、屈託無く笑った。
幻想郷で学んだ事、大抵の問題は酒を一杯傾ける間にどうでもよくなるものなんだってね。
- 696 名前:アドリアン=ファーレンハイト=ツェペシュ ◆rX9kn4Mz02 :2010/01/12(火) 02:52:53
- >>694
「……それで済めば苦労はないのだが、な。
最近は、最もな理由が書いて無ければ受理されん事も多い」
…私は兎も角、仲間が適当に書く所為で特にな。
そう続けて魔女に返し、アルカードは空を見上げた。
最近は特に機関の管轄になる仕事が多い。
異界と繋がる穴が生じる異変や(それで機関員が2名今も行方不明である、それも2度目)
異界と融合して世界が崩壊しかける異変や(それも2度、2度目は少女の気紛れであったという)
富士の霊脈が超兵器の影響で日本語と沈没しかける異変や(一説にはヤンデレ少女の凶行という説あり)
―――前言訂正。
半分は彼の機関の受け持ちになる仕事が多い。それも理由に困る者が幾つか。
(よもや、魔王の力を持つあいつの影響ではないだろうが…)
母上、そろそろ俺の限界も近いようです。
そんな事を思ったかどうかは定かではないが、その眼差しはどこか遥か遠くへと向けられていた。
>>695
――――結論から言おう。
そのもう一組の“後継者”は、魔王として君臨することは無かった。
何故ならば、其れは明快にして至極。
即ち、その姉妹は。
彼の呪いが在る世界に存在しなかったからである。
「―――成る程な。その期間が魔力が及ぶ限界という訳か。
了解した。レミリア=スカーレット。
その言葉、俺と母の名の下に真(まこと)と信じよう」
そうして―――彼が持っていた疑問/懸念への答えは得られた。
この地に掛けられた運命の操作は強制ではない。
軽い無意識で引き寄せられる事はあるだろうが、決して人心を誘い引き付ける
呪いではないようだ。
加えて、彼女の外界で人を襲う気はないという言葉。
彼女自身の気紛れは考慮すべきとしても、今この言葉に嘘はないと信用できた。
それに例えもし、嘘であったとしても―――その時は、彼が命を賭するまでだ。
力とその主の正体を知りえた以上、彼には対策を練る事が出来る。
それも、彼の知る相手ならば。
―――其処まで決意し、彼はその悲業なる宿命を再び思い知らされた。
そして――――。
――――結論から言おう。
そのもう一組の“後継者”は、魔王として君臨することは無かった。
何故ならば、其れは明快にして
―――人々より忘れ去られしものを幻想と呼ぶ。
幻想の存在しうる地は、同じく幻想に囲われし異郷のみ。
その姉妹は、幻想に入ることで世界との縁を切ったといえよう。
だが。
「最後に一つだけ教えてくれ、レミリア・スカーレット。
父ドラキュラは愛する者を失い、狂気に身を染めて魔王となった。
そしてその魔王の力と“座”は―――悪魔城は今も尚、月の狭間に封印されている」
そして、ツェペシュの直系は末裔に。
意外にも、屈託が無い皮肉な笑みを浮かべるレミリアに声を掛けた。
「城は城主を欲している。
封印されている今も尚、魔王となり玉座に座るべき者をな」
そう、彼は訊かねばならなかった。
たとえ今此処で彼女と剣を交えることになろうとも。
たとえ、今此処で最後の血族と決別することになろうとも。
――――たとえ、今此処で最後の親族を、我が手で殺す事になろうとも。
だが。
縁は所詮縁に過ぎず。因果は所詮因果に過ぎず。
「…お前達姉妹は数少ない、ドラキュラの“後継者”として―――
ツェペシュの“末裔”として運命に選ばれたものだ。
故にこそ、私はお前に訊かなくてはならない。そう―――――」
『それにね、既に幻想の彼方に去ってしまった存在なんだよ。
外の世界でどうこうってのは本当に予定が無い。
安心していいよ、お優しいご親戚殿』
「お前達は――――」
――――“魔王(ドラキュラ)”になる気はないのか?
その悲壮な覚悟を秘めた問い掛けを、心の奥底に仕舞いこんだ。
「……優しいは余計だ、まったくな」
―――気付かれていたか。
そんな心の声を、誰とも知られることなく苦笑混ざりに呟いた。
が、どうやらその緩みは身にも出てしまっていたらしい。
気付けば、彼は僅かにだが苦笑していた。
「そうだな、ならば貰うとしよう。
忘れゆく幻想の末裔と、現世に残された俺との邂逅を祝い――――」
(……今は。
今はこれで良いのですね、母上。
己の宿命を悔いる資格もなくば、その宿命に背を向けた訳でもない。
だが、だが今一度だけは。
この親族の言葉を信じたい、たとえこれが悪魔の甘言であろうとしても)
『アルカード。もしあの子達に会ったのなら―――彼女達を、あの子達をお願いね』
(―――母上。
貴女の言葉を、今は信じさせてもらう。
誰が命じたのでもない。貴女の子である俺自身の意思で。
たとえこれが悪魔との相乗りであろうとも、今は。この悪魔の誓いを、言葉を信じよう)
「――――――乾杯(プロージット)」
しかし、それでも、しかし。
運命とは流動に過ぎず。宿命とは編まれる糸の一つに過ぎず。
その後の幻想入りした“運命”が如何なるか。
それはそう、このサンジェルマンの力を以ってしても知り得ないのです。
かくして、邂逅という名の“運命”は演目を終える。
その後の未来はまた押並べて然り。全て万事はことも無く、かく或る場所へと帰るであろう。
末裔は幻想へ。
継嗣は現世へ。
これより先、再び運命は分岐する。
だが今は杯の向く侭に。この数奇な邂逅を祝うとしよう。
- 697 名前:アドリアン=ファーレンハイト=ツェペシュ ◆rX9kn4Mz02 :2010/01/12(火) 03:00:20
- >>691
そして城を封ずる蒼月が、夜天の頂より彼と彼女らを見下ろしていた。
<了>
【アルカードのレスは此処で終了です、遅くなりましたがありがとう御座いました。 by語り部サンジェルマン】
- 698 名前:レミリア・スカーレット ◆RED/0ioHUI :2010/01/12(火) 03:15:42
- >>696
「ふふん、私は悪魔だと既に言ったろ?
由緒正しい悪魔は嘘はつかないものさ」
魔女からの贈り物を杯の中で転がしながら、彼のそれと軽くうちあわせる。
きっともう会えないだろう。
彼の背後に浮かび上がる運命を少し寂しく眺めながら、ワインを咽に流し込む。
「何を心配しているのか知らないが、
私は既に魔王(デーモンロード)だよ、遠き輩よ。
だが、それは悪魔城の城主を意味しない。
私の住まうべきは紅魔館であり、統べるべき悪魔たちもまた既に存在する。
ヴラドの事はそれなりに尊敬しているが……」
そこで言葉を切ると、レミリアはそこではじめて本来の年相応の表情を浮かべた。
「お下がりは要らんな」
なにかの間違いで運命が交錯したらいつでも討ちにきたまえよ。
もっとも、その時は既にあんたは世界から忘れ去られていることだろうけどもね。
「そんな不思議そうな顔をするなよ。
運命の悪魔は忘却の彼方に旅立ったんだ。
その方が面白そうだったから。理由はそれさ。いつものように、いつものごとく」
そして、傍らの魔女に声をかける。
「さて、パチェ、そろそろ時間切れだね。
帰りのバスが出る時間が近いよ。
遅刻してスキマにイヤミを言われるのも面倒だし、ぼちぼち帰ろうか」
ま、それなりに楽しめた。
まさかこの高台にしかけた小細工でヴラドの継嗣に会えるとは思いもしなかった。
たしかに運命を仕組んだのは私だけど、このカードが出る事まで決めたわけじゃないからね。
運命は未来じゃないんだよ。
だから、未来にはいつだってドキドキしていられる。
私は未来に生きるデーモンロードだからね。
そうしてレミリア・スカーレットは親友を促し、帰路に着いたのであった。
<幕>
- 699 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/17(日) 00:08:33
信じた神に裏切られ、半ば廃墟と化した街。
それでも人々は嘗ての暮らしを取り戻そうと真直ぐ今を生きている。
だが困ったことに…そんな未だ復興途上の街を、平気で踏み荒らす奴等は後を絶たない。
今の俺の仕事は街の復興を支援しつつ、その邪魔者共を蹴散らすという
いわば二足の草鞋稼業だ。
「‘Devil May Cry’…わかった、すぐ行く。
5分で片付けてくるぜ!クソどもを生かしちゃおけねェ!」
今日も退屈なほど楽勝な仕事だ。
実際いつものカカシとトカゲの群れぐらいなら5分どころか3分と要らない。
そうして一仕事終えて気分転換と行こう…丁度そんな腹で小雪交じりの微風に当てられつつ
再び訪れた、一画無残に砕かれたこの積雪の高台。
前回同様のスタイルで、恰も誰かが予め括った糸に引っ張られるが如く―――
ヴィジュアル
ttp://www.capcom.co.jp/devil4/images/character/cg_nero.jpg
- 700 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/17(日) 00:30:21
付近のベンチの雪を払いのけて腰掛けヘッドフォンを耳に当てつつ、
右手のグラブを引き抜くと光と共に一本の蒼白い刀が姿を現す。
何とはなしに鞘から半分だけ抜いたその刀身を、気づけば薄眼でボンヤリ見つめていた。
―――常々思うが、この刀に触れているとどこか心が安らぐ。
恰も刀と俺の魂が相互に共鳴しているかのようだ。
俺が一度生命を落としかけた時、折れていたこの刀はその姿をすぐさま復元させ
吸い込まれるように俺の手元に飛び込み俺に生命を吹き込んだのだ。
この刀もまた、俺を求めていた…そんな気がした。
謂わばこの刀は俺の魂の一部、もう一人の俺そのものなのだ。
- 701 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/17(日) 00:56:34
- >>700
かちり。
唐突に高台のベンチの前にコートを着たメイドが姿を現した。
一瞬で。
いや、一瞬以下で。
「……半身の刀を見つめて考え事ですか?
これは辻斬りの現場になりかねないシーンに出くわしてしまったわね。
この場合、定番のパターンだと被害者は私かしら?」
呆れ半分、苦笑半分で呟いた。
かつて神父にナイフを見つめている所を見られて
恥ずかしい思いをした身としてはあまり笑えない話ではある。
通りすがりについ、目にしてしまい、声をかけるのを我慢できなかった。
黙って通り過ぎるべきだったような気もしないでもないのだが、まぁ、過ぎた事だ。
- 702 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/17(日) 00:57:04
この刀に秘められた魂。
それはきっと俺だけが解り得るものなのだろう。
そう―――「同じ魂」を持った俺だけが。
俺はこれからもこいつと共に戦い続ける。飽くなき想いと共に。
光と共に刀を右手に収め、グラブを嵌めるとそのまま
雪風吹き流れる高台を後に。
【退場】
- 703 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/17(日) 01:06:43
- >>702
「……あら」
気配を消したつもりも小声のつもりもなかったが
夢中なのか、それとも、なにか想いに支配されているのか。
彼はこちらに気付かずそのまま立ち去ってしまうようだ。
「まぁ、恥をかかせなくて済んだのだから、これはこれでよかったかしら?」
溜息が白く霧をなし、そして散って消える。
これもめぐり合わせと言うものか。
ま、仕方があるまい。
私は立ち去るネロの背中に心中で挨拶を送ると、
一人、彼と逆方向、廃墟の方向へ歩き始めた。
せっかく降り立った以上、きびすを返すのもなんだか勿体無い気がしたのだ。
- 704 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/17(日) 01:13:17
- 切り株を横目に踵で崖を滑り降りる。
ブーツがガリガリと速度を殺し、やがて私は瓦礫の支配するエリアへ降り立った。
何の気なしに降りてしまったが、考えてみれば飛べば済む話だ。
降りてから気付く辺り、暢気なものだな。
そんなことを考えながら辺りを見回す。
廃墟、構造物の残骸、落ち着かないはずの光景はなぜか私を落ち着かせた。
平和なはずの幻想郷も所詮は一般論。
そうでない場所も幾多存在する。
紅魔館の地下もそのひとつ、妹様……フラン様が暴れるせいで破損が絶えない。
それらの補修もまた私、ないしは門番の仕事のひとつだった。
だから瓦礫は見慣れている。
いや、紅魔館に来るよりもっと前から、これらは近しい存在だった。
- 705 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/17(日) 01:22:39
「風情のないこと。
……あるいは逆にこういうものに風情を見出すべきなのかしらね」
うっすらと雪がベールをかける瓦礫を眺めやりながら、
ちょうど雪をさけられそうに張り出した構造物跡の影に入る。
わびだとかさびだとか、生憎とさっぱり理解できない。
カビや錆びならなんとかなるのだが。
お嬢様に仕えるに当たってはそう行った事も学ばずにはおれまい。
しかし、誰に聞いたものか。
霊夢に分かるとも思えないしねぇ。
- 706 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/17(日) 01:26:49
>>701.703-704
ふと帰路へ足を向けようとしたとき、背後辺りで人の気配を捉える。
振り向けば見覚えのある姿だった。
そのまま帰るのも勿体無い気がするが、かと言って
ここで彼女に絡む理由は特にあるのだろうか?
いや、別に無くてもいいか。
何かに流されるがままか?
否―――流されてるんじゃない、流れに乗ってるだけだ。
足を逆方向に向け、サクヤが降りていった崖の方へ―――そのままダイブ、着地。
屈み込み、瓦の一枚を拾いながらふと零す。
「見事に粉々だな…崩れてるのがここだけってのがよく解んねェが」
- 707 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/17(日) 01:41:12
- >>706
背後に再び現れた気配に、振り返ると先ほどの彼の姿。
悪戯っぽく微笑むと軽く会釈をひとつ。
「あら、帰った振りして後ろから……だなんて手が込んでますわね。
こんばんは、ネロ様。
私を被害者にでも変えにいらしまして?」
冗談めかせておどけてみせる。
何、先ほどの話が聞こえていたのかどうか
カマをかけてみているだけなのだが。
我ながら疑い深いこと。
自分が嘘つきだから他人を信じられないのね。
幾分か、雪の勢いは緩やかになったように見えた。
- 708 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/17(日) 02:04:18
>>707
被害者に…と。
どうやら俺が先ほど刀を引っ張り出してたのを見てたらしい。
その冗句にふと溜息が洩れる。
「ありゃただの刀鑑定みたいなもんだ。何しろいつ見ても物珍しいヤツだしよ。
大体、便利屋って言っても殺人まで請け負った覚えは無い」
ただ…前職ではその殺人すら幾度も任されたものだ。所謂汚れ仕事。
厳密には人間でないとはいえ、正直アレの後はメシの味がひどく落ちた。
「しかしよ…ホントどういうヤツの悪戯なんだろうなコレ?」
気紛れで壊すようなのなら、相当傲慢な手合いだろう。
そう―――いつぞどこぞの救世主気取りのような。
- 709 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/01/17(日) 02:25:31
- >>708
お仕着せの数に内心で肩をすくめる。
どうやら先ほどは本当に聞こえていなかったようだ。
「なんでも必要だったとか。
なにがどう作用してそうなるのは、私にもさっぱりですけど」
私に運命を読み取る能力は無い。
分かるのはそれに嘘がないことくらいのものだ。
しかし、そこでふと……買い物の途中であった事を思い出す。
「あ、いけない、あまり長居できないんでした」
瓦礫に預けた身を話すと、ネロに一礼し、私は静かに高台を後にした。
お嬢様が起き出す前には用を済ませて戻らなくてはね。
「それでは御機嫌よう。
また、運命がふれる時があれば、お会いいたしましょう」
かちり。
こうして針が刻んだ時とともにメイドは現れたときと同様に
音も無く、立ち去ったのであった。
<了>
- 710 名前:ネロ ◆XovfKnNero :2010/01/17(日) 02:36:58
>>709
「必要、ね…」
まあある意味必要ではあったのだろう、そいつの気分的に。
壊された方としてはいい迷惑だろうが。
礼と共に例によって映画のシーンカットの如く姿を消すサクヤ。
俺もここらで引き上げ時としたいところだったし、丁度いい。
お互い、また何か―運命とでもしておくか―に引っ張られるようなことがあればまた会うだろう。
要するに流れに乗って流れを楽しむ…そういうサーフィンみたいなものだろうから。
踵を返し、改めて帰路へ。
【退場】
- 711 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 21:15:51
「And my heart will go on and on 〜♪」
歌を口ずさみながら悪魔が歩く。
ひょこひょこと軽快な足取りで小雪のちらつく高台を。
姿は小さな少女。
金の髪に赤い服、その背は七色の宝石が彩り、
手には「災い」の名を受けた魔杖が握られている。
彼女の名はフランドール・スカーレット。
先だってこの地の運命を操作した吸血鬼、レミリアの実の妹であった。
- 712 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 21:24:48
「話には聞いていたけれど」
不機嫌そうに呟くフランドール。
「胡乱」という言葉が相応しい視線を周囲になげかけ、舌打ちする。
「ここ、紅魔館と同じニオイがするようになったね。
あいつが運命をいじったニオイ」
不愉快だわ。
そう言って空を見上げる。
舞い降りる雪からはあいつの魔力を感じない。
きっとこの雪がすこしずつあいつの魔力を奪っていって、
いずれはこの高台も解放されるのだろう。
しかし、今はまだ、ここはあいつの領域だ。
どかーんしてやろうかしら。
「でも、壊したところで何も変わらないんだよね」
フランが今制御している力の範囲では記憶層にまで破壊が及ばない。
物理的には壊せない物は無い。
魔法的にも破壊できない魔術は無い。
しかし、世界の記録に記述された文脈法則はまだ直接破壊できない。
いずれ成長してそこに手が届くようになるのかどうかは分からないが……
少なくとも、今はまだ。
よって運命は悪魔を阻み、閉じ込める檻となる。
無論、フランが構造的に理解しているわけではない。
彼女は単に経験則から、まだ運命を破壊できないことを知っているだけだ。
むしろ、構造まで理解できていたら、あるいはあっさりと破壊できるのかもしれない。
いずれにせよ、彼女には成長と勉強が足りていなかった。
- 713 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 21:36:28
「でも、なんにもない高台なんだよね。
なんであいつはここを掬い上げようと思ったのかしら?」
魔杖を肩にかつぎながら周囲を見渡す。
ベンチ、道、木立、柵、崖、そして瓦礫と廃墟。
空には薄雲がかかり、月も星も見えない。
ただ、雪がちらつくのみ。
ふと、フランはあることに気付いた。
「月が出ていない?」
おかしい。
それはおかしな話だ。
吸血鬼が自らの領域をつくりだすならば月が見えない工夫など必要ない。
いや、逆に月が出る工夫をしても良いくらいだ。
満月の元と規定された空間ならば、そこは絶好の領地になる筈、
なら、なぜあいつはそうしなかった?
「……ミステリーだね、燃えてきたよ」
続いてフランは廃墟に目を留める。
これもおかしい。
なぜ中途半端に瓦礫を作り出す必要があるのか。
壊すなら徹底的に壊せばいい。
作り変えるなら徹底的に作り変えればいい。
何故、一部を書き換えるだけなのか。
「ふむ……」
魔杖を虚空にかき消すと、フランは首を傾げながら
ベンチにうっすらとつもった雪を払って腰掛けた。
- 714 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 21:44:23
まず怪しいのはお姉様の性格だ。
ルールがあればその中で、ハンデがあればその中で、
極力、レギュレーションを守って遊ぼうとするのがレミリア・スカーレットだ。
その性格が今の状況に対しての理由付けである可能性はあるだろう。
今心中で挙げた疑問点は、月と、廃墟。
その理由になるだろうか?
月はダメだ。
たしかここはこうなる前には月が出ていたはずだ。
この場のルールを維持するためになら、月は依然出ていて然るべきだ。
だから、この雪は別の理由で設置されたものであるはず。
廃墟はどうだろうか。
全部を壊さなかったのはこの高台を維持するため。
この理由はありえる。
しかし、それなら壊さずにいたほうが妥当だ。
となれば一部は壊す理由があったんだろう。
「情報が足りないなぁ」
フランは再びベンチから立ち上がると高台を歩き始めた。
腕組みをしながら「んー」とアタマを悩ませながら。
- 715 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 21:49:53
「そうだ。
月が雪に隠されているなら、破壊で隠されたものは無いかしら?」
思いついてぽんと手を打ち、廃墟を見渡せる境界に立つ。
見下ろす一帯は無残に崩壊し、瓦礫が散乱する異界と化していた。
ここには何があっただろうか。
必死に少ない記憶を手繰る。
「ん〜〜」
高台から下る道。
こちらには来ただろうか?
そう、たしかエリスと出会ったあの時にこっちの方に来たはずだ。
その時、ここには何があった?
言いがかりをつけて神父を殴り飛ばすエリス。
吹き飛ぶ神父。
社のある池に落ちて岩を破壊して……
「あ」
- 716 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 22:00:47
そうだ、この辺りには社と池があったはず。
今は影も形も無い。
社は力を持っていたのだろうか?
破壊してしまう必要があったのだろうか?
残念ながら自分には来歴感知の妖力はなく、
また、社に祀られたモノが何かを知る術もない。
今は破壊で隠されたもののひとつとして頭の片隅に置いておこう。
月と社は隠された。
だが、これだけでは意味は推測できない。
アタマが煮詰まるといけないので、一端視点を切り替えよう。
フランは直前と直後に何があったのかを考える事にした。
「……直後、あれは年末だったから……そうか、年明けに咲夜が出かけたっけ。
直前は……なんか高台が壊れたり直ったりしたんだよね」
直ったその後は立ち入り禁止になってたらしい。
直後の咲夜がここで何をしたのかはよく分からない。
分かるのは何度かここに来た後、突然自分に構いに来るようになったことくらい。
なんでだよと聞いたら嬉しそうに「分からないけどお構いしたくて」とかほざいた。
自信たっぷりなのは昔からだけど、明らかに前の咲夜と違う雰囲気。
解せぬ。
一方、直前には何があったんだろう。
どうしてここは壊れたんだろう。
どうしてここは直ったんだろう。
何故、その後、人は入れなくなったんだろう?
ふと入り口に立て看板があったのを思い出す。
見直してみよう。
フランは高台の入り口へと飛翔した。
- 717 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/17(日) 22:06:43
- 「Private eyes〜They're watching you〜♪」
調子はずれな古い歌を口ずさみながら自転車を押して高台へと昇る。
なんとなく通りがかったのでなんとなく登る。
本当にここは不思議な場所だ。自転車を押す労力を使用することに辟易するがない。
こんな雪が降っているし、あの場所には何も無いというのに、それでも登らせようとする魅力がある。
はてさて…一体どういうことなのか。
「んむ?」
高台の入り口に差し掛かったころ、誰かがこちらに飛んでくるのが見えた。
空を飛べる友人は比較的多い―――俺も大概常識を無くして来た様だ―――が、雪を掻い潜りながら
こちらに来る少女の正体はあの特徴的な羽から容易に特定できた。
「よお、フラン。久しぶり」
からからと笑って、久しい友人との再会を喜んだ。
- 718 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 22:12:37
「ああ、思い出した」
立て看板を前に悪魔が一人呟く。
ここは期間限定で解放された場所だった。
そろそろ最終日だからと出かけたのは当の自分ではないか。
なら、あの時あった事はなんだっけ。
そう……たしかエリスに会って……その後居間でエリスが……
「成る程、ここを壊したのはエリスだね?」
あるいは、エリスを倒したという例の二人の方かも知れない。
そしてそうならここを直したのはその事件の関係者か。
それとも先ほどの失われた社の神か。
いずれにせよ、ここが崩壊したのはあの日て、直ったのはその直後だろう。
さて、そろそろ整理してみようか。
>>717
と思った所で知っている声がした。
「…………」
はて、どうしたことだろうか。
なぜか「やあ、アマダ」という声がすんなり出ない。
「……やぁ、アマダ。また会えたね」
振り返ってアマダのいつもどおりの軽い笑顔を見てなんとか言葉を振り絞るが、
これではまるで狂気にブレてる時の私の台詞じゃないか。
ちょっと自分で自分に戸惑った。
「あ、違うのよ。
別に『また壊しにきたよ、ゲハハハハ!』とかそういうノリじゃないって」
慌ててぶんぶん手を振ってフォローする。
- 719 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/17(日) 22:24:22
- >>718
ああ、やっぱりなあ。気にするもんだよな、そりゃ。
なんか優しい人がくれた魔法の薬のおかげで俺は無事に正月を
越すことが出来たんだけど。
「んなことお前の目を見りゃ判るっての」
今は透き通ったルビー色の美しい眼差しをしている。
月の光を反射して綺麗に…ん?月の光?
思い当たることがあって少し空を見上げてみた。
「そういえば今日は月が見えないなあ。雪降っているから当然か?」
そういえばコロニーには月は無かったなあ。
ガラス越しの漆黒の空にはいくつもの煌く星々が見えてはいたんだが
地球からの風景ほど美しいとは思わなかった。身近すぎたのかもしれない。
「っと、ああ。前のことはそう気にすんなよ。俺だって今はぴんぴんしてるんだし」
あわてて手を振り回しているフランに苦笑した。
まあまあ、そう気に揉めるなっての。
- 720 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 22:30:49
- >>719
「うん……
こういう時、謝っちゃだめだってめーりんが言ってた。
だから、アマダ、あの時は有難う」
ごめんねを飲み込んでフランは呟いた。
不安げに目を伏せてはいるが、それでもちらちらと目を合わせる努力をしている。
だが、フランの態度の原因はソレだけではなかったのだ。
「それと……ねえ、アマダ」
依然不安げな態度はそのままにもじもじと手を組み合わせながら
フランドール・スカーレットはシロー・アマダに対してかくの如く問うた。
「……咲夜となにかあった?」
- 721 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 22:41:44
月が見えないな。
さっきのアマダのその言葉に再び、止まっていた思考が動きだす。
そう、整理してみようと思ったところだっけ。
ええと……
一つ、あいつはここを自分の領地にするつもりはなかった。
何故ならその気があるなら月を隠す必要がないから。
一つ、一部は破壊する必要があった。そしてその一部に社と池が含まれる。
何故なら必要がないなら壊す魔力が無駄だから。
一つ、あいつがちょっかいを出さなければここは解放期間を終えていて訪れることができなくなっていた。
何故なら立て看板が書き換えられているから。
一つ、あいつが運命を弄る理由は「そうするより他に方法がない」か「面白いから」のどちらか。
基本的に他の理由で運命に触る所を見た事が無い。
無理に推理をでっちあげるなら……
高台を継続させるのがあいつの目的。
そのためには運命を操るしかなく、さらに破壊が不可欠だった。
……なんだろうか。
もう少しで答えに辿り着けそうなのだが、
あと一歩分の情報が足りない気がする。
高台を継続させたい理由は何だろう。
破壊が不可欠だった理由は何だろう。
結局最初の疑問が解決しない。
- 722 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/17(日) 22:43:43
- >>720
「何かあったといわれたら何かあったようなでも実際には突っ立ってただけのような…」
頭をガリガリ掻きながらどう答えたらいいのか考える。
今の俺にはいつものサバイバルナイフに加えて銀色の対魔物用のナイフがある。
実際はあれを受け取ったというただそれだけのことなんだけど…幻覚の件があるからなあ。
咲夜が詳細を話さないということはそう周知させるようなことでもないということなんだが。
「どこかの悪魔がプロデュースした彼女の自分探しの小旅行に付き添ったんだよ。
…咲夜はあれから変わりがあったか?」
今までのように妙に思いつめているってことは今は無いと思う。
彼女はしっかり自身を見つめなおし、自身の心の一部を不要ではないと認めた。
それだけで大きな心境の変化があったはずだ。
今は殺人鬼でも悪魔のペットでもなく、ただ自分が唯一の個であることを把握したのだから。
- 723 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 22:52:18
- >>722
「どこかの悪魔……」
あいつか。
また、あいつの仕業か。
高台の運命だけでなく咲夜にもなにかしたんだ。
いや、それはいい。
高台だって別に迷惑をうけたわけじゃない。
ちょっぴり高台の雰囲気が不愉快なオーラをまとうようになっただけだ。
咲夜だってあいつのペットであって私のじゃない。
何か文句を言う必要もない。
フランドールにしてみればそういうことだ。
けど、アマダを巻き込んだのがフランドールには苛立たしい。
アマダは咲夜はどこか変わったかと言った。
変わったよ、なんだかよくわからないけど、妙に強気だ。
それに……
「アマダにちょっかい出さないでって言ったら笑顔で断られた」
端的に告げてみる。
「ああ、それはお断りしますわ」
「なんで!?」
「なぜでしょうか。自分でもわかりません♪」
なんだあの反応。
今までの咲夜とは思えない。
アマダとなにかあったからに違いない。だが、何が?
それはフランドールにとっては重大なミステリーであった。
あるいはこの高台の運命よりも。
- 724 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/17(日) 23:11:09
- >>723
何でだろう、俺は知り合いの女の子に玩具扱いされやすい気がする。
「いや…まあ。レミリアとは違って実害加えてくることは無いからいいんだけど。
すっぱい蜜柑を食わしたり、茶を飲み干したり、熱い茶を飲まさしたりとかしないし」
姉の方がいたずら好きで困るよ。
妹もその影響を受けているといえば受けているけれど。
「…まあ、交友関係を大事にするってのは悪いことじゃあないだろ?
あいつは…多分大事にするようになったんだと思うよ。自分を。そして周囲を。
過去やら肩書きやらに縛られてちゃあ誰かを大事にするという行為がおろそかになるからさ」
他人を尊重するってのは大事だし、自分も疎かには出来ない。
それにフランに関しては少し、離れたところから接している節があったが強気になったという。
それならば。
「後は他人を怖がるのをやめたんだよ。踏み込む勇気を持つことでさ」
- 725 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 23:23:53
- >>724
「あいつはいいんだよ。もうアマダをいじめないって約束させたから」
ぷくー。
ほっぺを膨らませてアマダをジト目で見る。
「でも、その咲夜になにがあったらそんなに変わるって言うのさ。
どう変わったかってのはまぁ……アマダの言うとおりかもしれないけども。
小旅行って、旅するだけでそんなに変われるものなの?」
旅。
……旅か。
お姉様はヨーロッパからアジアへ旅して、そして最後には幻想郷まで辿り着いた。
咲夜は霧の街の夜から、めーりんはアジアの山中から、魔女も西洋から、それぞれ幻想郷へ。
私は旅してない。
お姉様が移動する先へこの紅魔館ごとついていっただけだ。
私に足りないものはそれなんだろうか。
「アマダは旅をしたことはあるの?」
- 726 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/17(日) 23:45:41
- >>725
「はいはい、ありがとうな、フラン」
口を手で押さえて笑いをこらえながら頬を可愛く膨らませたフランを見た。
大人のように振舞う一方、妙なところで子供っぽい。
いじめっ子からいじめられっ子を守るような働きをされても年上には到底思えないのだ。
「まあ、外を出歩かなかったらその狭い世界から飛び出すことが出来ないしさ。
無理してとは言わないけど、やって損はしないさ」
旅をしたことはあるかといわれればそれはある。
戦争が起きなければ月に修学旅行をしたぐらいしかなかったかもしれないが
今では故郷は無くなり、地球という大きな星に居る。
「…ここに来た事自体が旅なのかもしれないな」
多くの不思議を発見したのもこの土地だ。
出会いと別れを積み重ねて、更に思い出深くなっていく。
「それ以前は戦時中を東南アジアで過ごし、それ以後は作戦人員の不足で
オーストラリアに呼ばれたことがあったっけ」
東南アジアでは掛け替えの無い仲間と妻を。
オーストラリアでは人類の愚行を間近で見ることが出来た。
これも大きな経験なのだ。
「…もしかしてさ。お前も、旅行してみたいのか?」
- 727 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/17(日) 23:53:18
- >>726
旅の話をするアマダはひどく遠い所を見ているように感じた。
なにかを思い出すような。
なにかを仕舞い込むような。
「そりゃ、ね。
でも私はお外に出られない。
旅をするためにはお姉様とスキマ妖怪を殴り倒さなきゃいけないのさ」
正直を言えば、前までは外に出ようとも思わなかったけど。
今は違う。
前ほどブレることが多くなくなったからか。
それとも、此処最近、色々な人たちに会ったからだろうか。
外への期待は高まるばかり。
- 728 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/18(月) 00:09:40
- >>727
「…や、そいつは大変だな。確かに羽あるからあんまり人目がつくところ歩けないし…」
結構大きいからなあ、この不思議な水晶の羽。
服で隠すには大きすぎる。
魔法か何かで隠す方法があればいいんだけど。
「でもさ、この高台やら…近頃は温泉やら。
ここら辺の地域一帯にも見所は結構あるんだ。暫くはそれを見てみるのも旅かもしれないよ。
子供だって自分の家の周りを冒険しながら大きくなるもんだし」
宝の地図を描き、秘密の隠れ家を作り…なんてことは
最近は出来るのだろうか?
こういった経験は誰にしろ必要なものだと思うけど今は違うのだろうか。
- 729 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/01/18(月) 00:19:36
- >>728
「どうして羽があると人目のあるところを歩けないの?」
きょとんとした顔でフランドールが首をかしげる。
羽があるから驚くニンゲンなど、まだ見た事がない。
すくなくともここの高台と温泉では。
いや、一人いたか。
だが、そのニンゲンは羽を見て驚いたのか、それ以外を見て驚いたのか、
結局その時分からなかったのでフランドールの認識には薄い。
「まぁ、いいや。
でもさ、これじゃ旅にはならないよ。
だって本で読んでるのと、魔女の魔法で見てるのと変わらないもの」
溜息をつきながらアマダに右手を翳してみせる。
その右手は指先から少しずつ、透けて小さな光の粒になって行くところであった。
「いつか、旅が出来る日がくるといいな。今は篭の鳥だからね。
そんな日がきたら、アマダは付き添ってくれるのかしら?」
諦めたような儚い笑みを浮かべて、分身は少しずつ魔力の粒に分解していく。
【スペルブレイク『禁忌「フォーオブアカインド」』】
「それじゃアマダ、またね」
こうして、高台から悪魔は静かに姿を消した。
<了>
- 730 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/01/18(月) 00:27:04
- >>729
あー…一般常識人が少ないからなあ。
普通は羽があると人は驚くんだ。空も飛べないし魔法も使えない。
普通ってなんだろうな。
「…旅の日、か。
まあ、長期だと苦しいかもしれないけど、もしそのときが来たら保護者代わりにくらいはなってやるよ。
現代だと魔法を使うのは厳禁だからな。交通機関の案内は必要だろう?」
次第に体が空気へと溶けていくフラン。
儚くも、少し美しいかな、とも思ってしまった。
彼女にとってはこれが拘束されているという事実そのものだというのに。
「…それじゃあまた。今は旅が出来なくとも雑談ならいつでも付き合ってやるよ」
残光の最後の一片まで消え去ったのを見送って俺は自転車を押した。
月の無い今日は、やけに寒い。
【退場】
- 731 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/01/28(木) 23:36:13
- ふよふよと漂う少女。
恐ろしく違和感のある表現だが、悲しい事にそれは現実の光景だった。
両手を翼の如く左右にひろげ、空中をふわふわと浮遊しながら移動しているのは紛れも無く少女。
金髪にリボン、黒い服に身を包み、緊張感の無い顔でぼんやりと移動している。
その表情は暢気で明るいが、どこか疲労の色が見て取れた。
「あ゛ーつかれたのだー」
ベンチをみつけて地上に降り立ち、ベンチの上に突っ伏すようにうつぶせに横になる。
舌を出して溜息をつく仕草はどこか動物のような愛くるしさがあった。
「早苗はメイド長より人使いが荒いのかー」
境内ひろいのだなどと小さく愚痴りながら、少女は疲労をベンチに託す。
- 732 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/01/29(金) 00:18:43
「んー」
がばっと起き上がってベンチに座りなおす。
このところ大量に食べていたわけであるから空腹なわけではないが、
なんだか物足りないような気分なのだ。
とは言え、早苗と約束した以上は食べるわけにもいかない。
スキマが用意する食べ物を待つしかないだろう。
「なーんか、力に満ちている割には物悲しい空気だなー」
ようやく周囲に目を留める余裕が出てきたのか、少女はあたりを眺めやる。
静かに空を舞うは粉雪。
積もることも無く地面にしみこみ消えるのみ。
「冬なのかー」
ぼんやりと空を見上げながら呟く。
薄い雲に覆われた空に光は無い。
しかし、隙間を透過した光のせいか、あたりは妙に明るかった。
- 733 名前:名無し客:2010/01/29(金) 00:24:03
- よく見ると辺りで復旧工事の準備がしてありました。
作業車や木材などが置かれております。
- 734 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/01/29(金) 00:36:33
- >>733
「あれはなんだろ。キカイかー?
河童があんなのもってたっけ〜」
ひょいっとベンチからおりてとことこと興味の的を見に近づく。
作業用の重機や資材がおかれているようだが、
生憎とルーミアの知識で理解できるものではない。
なんとか、道か橋でも作るのかと察したが、橋をかけるような場所でもないので道だろうか。
「ここは人間のテリトリーなのかー?」
機械が無用心に放置されていることを思えばそうなのだろう。
しかし、どことなくこの場に魔力が満ちているのも感じる。
あまり人間の領域らしくは無い気配。
「魔法使いでもいるのかなー」
首をかしげるとまた、ひょこひょこと歩き始めた。
- 735 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/01/29(金) 00:48:27
人の跡はこんなにもたくさんあるのに、人の居ない高台。
今、其処に居るのは妖怪が一匹。
食べるためでなく、なぜそこにいるのか。
魔力に誘われて?
それとももっと大きな流れに誘われて?
当然、妖怪本人には分かっていない。
分かるつもりもないのだ。
分かろうはずもない。
なにより、その妖怪は自分の行動に理由を必要としていなかった。
「……お」
自販機の前で立ち止まる。
屈みこんで取り出し口に手を突っ込み取り出したのは炭酸飲料。
誰かが取り忘れたか、ミスで複数落下したのだろうか。
「なんだこれ」
- 736 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/01/29(金) 01:06:48
缶をためすがめつ眺めて悩む。
似た物にすら心当たりが……あった。
あれはたしかスキマが飲んでいたお酒。
「おー」
きっとこれもそうに違いないと開け方を探る。
が。
フタ。なし。
まわしても開かない。
「むむむ……」
プルトップに気付かないルーミアはついに右手の爪を伸ばした。
ギラリ。
自前の獲物、切れ味には自信がある。
これで上の方をスパーとやれば……
そんなことを考えてルーミアは左手でしっかりと缶を支えると右手を大きく振りかぶった。
- 737 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/01/29(金) 01:22:03
- 果たして、切れ味はなかなかのものだった。
爪は見事に缶の上端をやや斜めに切り裂いた。
そして、当然のように切った口から炭酸が泡となって吹き出す。
「うわっ!?うわっ!?」
ぶしゅうとこぼれたのを見て見た目相応に取り乱す。
「こぼれてしまう=もったいない」
思考の中心はそこだ。
ルーミアはあわてて缶を持ち上げると零れ落ちるのを受け止めるべく口を開ける。
「ん〜?
お酒っぽくない〜?」
再び首を傾げる。
スキマが飲んでいたものとは違うのだろうか?
- 738 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/01/29(金) 01:33:29
「う〜びしょ濡れだし、そろそろかえるのだ〜」
いくら妖怪が寒暖に強いとは言え、濡れた服に雪はさすがに堪える。
ルーミアはふわふわと宙を浮遊しながら、高台を後にした。
<退場>
- 739 名前:水橋パルスィ ◆envyBdLf1k :2010/01/31(日) 21:14:02
/
_,,.. - '' "´  ̄ ̄`゙'' 、 / 情 こ
,. ''´ \ | 報 こ
/ , `ヽ. ',. | に が
/ / i ,ハ 、/!_ ,' ! ! ! あ
! ,' 、__ハ_. / レ' _」__/ , ,' .八 < っ
_ノ ,i /__レ' '´ r‐ 、Y // \ | た
`! / | ,7´ r-、 j__rリハ /_フ ヽ.. ! 高
八/.!/| 八. j__r! . ⊂⊃ | ! '、 台
| <._⊂⊃ , ‐-、 / ハ ,| / \ ね___
/ | ハ、 !__ ノ ,.イ /、| / レ'
,' /| / `iァ=ー-rァ' _ノ|/r-'!、∠_
|/レ' |/ヽ、」__,,!イト- ノ /X./:::::::::`7ヽ.
/´:::::/X/>こ7-<_/X./::::::::::::/ト./|
r<:::::::::::7X |/ / |:::::::/.X /:::::::::/|/\.
,\ト\::/|X,/ !:::::/.X /::::i/レ' \ .
/ \'7:::! く_r、」:::/X /:::::::|//\ ,. -‐ヽ
/`ヽ、 /`!:::', X∨:::::::/X /::::::::::/ >'_ 〉
i  ̄`ヽ. r|:::::', X.',:::::/X /:::::イ/ r'"´ /
'、 /´`7、〉`7ー--‐'─ '"´ ̄{ /`ヽ /
(橋姫様がinしました)
- 740 名前:水橋パルスィ ◆envyBdLf1k :2010/01/31(日) 21:23:37
(缶コーヒー片手にベンチに座るパルスィ)
(ベンチにはトレンチコートにサングラスの杉n・・・もとい、男が座っている)
(煙草を取り出し火をつけようとしてライターを探す男)
パル「火、お使いになります?」
男「や、これはありがたい」
(指先に灯した鬼火で煙草に火をつけてやるパルスィ)
(火を貰う仕草にまぎれてパルスィに畳まれた紙を渡す男)
男「ありがとうございます」
パル「いえいえ」
- 741 名前:水橋パルスィ ◆envyBdLf1k :2010/01/31(日) 21:28:51
- (周囲に視線を一瞬走らせた後、缶コーヒーを飲む仕草にまぎれて畳まれた紙を広げるパルスィ)
(一瞬険しい表情になった後、紙をくしゃくしゃにまるめてポッケにしまうパルスィ)
パル「雪が続きますね」
男「この辺はいつもこんな感じですわ」
パル「もうすぐバレンタインだというのにね」
男「ああ、そうですな。
ですが、来週の土曜には晴れそうですよ。良い天気になりそうで」
パル「土曜か」
男「土曜です」
パル「では花見の準備でもしましょうか」
男「はは、いくらなんでも早いでしょう」
パル「うふふ、そうですね。準備の準備、かしら」
男「ああ、せいぜいそんなもんでしょう」
- 742 名前:水橋パルスィ ◆envyBdLf1k :2010/01/31(日) 21:35:01
(缶コーヒーを啜りながら片手を挙げるパルスィ)
(背後の木立の中の気配が少しずつ消失していく)
男「さて、私は引き上げます。
あねg……お嬢さんは人待ちですか?」
パル「いいえ、待人なんかいないわ。
単にもう少し時間をつぶしてから帰ろうと思って」
男「そうですか、それではお先に」
パル「はい、貴方もお気をつけて」
(意味深な視線をかわすと帰っていく男)
(残り半分ほどの缶コーヒーをちゃぷちゃぷさせながらそれを眺めるパルスィ)
- 743 名前:水橋パルスィ ◆envyBdLf1k :2010/01/31(日) 22:08:31
- 「・・・バレンタインか」
(飲み干した缶コーヒーを傍らに置いて溜息をつくパルスィ)
(けだるげな表情から悲痛な表情、そして怒りの表情へ変わっていく)
「ねたましいわ・・・」
,,----- ---、,----- -----、
':, ', / / ヽ / あ
':, ,. / / / \ | あ
':, / 人 | 妬
': / / ヽ i. ま
. \ .| r ) | し
\ | ,' ,'! / 人 ヽ ( | い
人! / ! _. /:::::\ i i ! ハ! i\ ヽ | :
`"'' 、..,,_ / / )/)/)/)/::::::::::::::)/)/)/)/ヽ、」ニ/'7 | ') |. !!!
(..( \( レ r ヽililililiililililir ヽ:::.,、/ | / ∠
─-- ) ) 人 O ノllllllllllllllllllll、 O ノ! // | / `ヽ
/ ヽ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::!/ | i. ( ` ' ー---
,. -──-'、 , 人::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::| !. | \
ヽ.ソ `: :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ 人 )
妬 あ i )ーナ::::::::::::::::::::::::::::::::::::/,___ | )/
ま あ .|__ノ|/レへ:::::::::::::::::::::::::::::::::ノ)ノヽノ)ノ (
し ! _イ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::r
い | /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ.
: .| /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
(こわい)
- 744 名前:水橋パルスィ ◆envyBdLf1k :2010/01/31(日) 22:14:46
「・・・落ち着け、落ち着くのよパルスィ。
既に策は用意した、そうじゃないの」
(深呼吸するパルスィ。落ち着きをとり戻し不敵な笑みを浮かべる)
「そう、すでに罠の準備はした、かかるアベックどもは片端からこの私の手で。
ふふ・・・ふふふ・・・」
_ _ _
, '" "'" "' _
/ `" `
,' , '" ヽ i
/ / i "' ;::ヽ li
/ / ,' ! ヾリ_ノ:l
/ ,' ,' / i 、ー'" 「そう・・・クリスマスの時とは違う・・・」
/ i ::::,' ::パー- .ル 人 ',
イ ,' ::/ :::/ i / | ::::::/ーメ_', :::::::!:::::::!
',ー亠― i ::::i ::::仆ーメ 、 l :::/::/ }i ::::!:::i:::::::l
ゝ、 ノ:::::人 ::::::lトーrJ`i` i/ l∠- ―テリ :::::i:::l:::::::l|
! ` ' く _ _ゝ::ハ 、__ ノ `{r'Jヽノ/人:::::ノ:ノ::::ノ
ヽ i ::::::::|::::::ヽ トゝ 、_ . ' 彳ノハ| ノノ ''‐- _
`リヽ::::::::!::::::::::リ::八 、 人イァ、くi、 ,_ -‐ '"
` 、,i人::::卅i二 ゝ ` ー ' _イ >へヽ `フ
,rリ`、 `, ミト` ‐- イ " フフ、::i ノ i
, -"::::::::ヽ ,ゝ! ̄`ミく / く::::::i、, l、,, _
i ::::::::ゝ、 >"__ ,二ミi〆 vゝ く,, _ ノ::::::::::ゝ
|:: :::::冫ヽ刀二i リ 不ノni:: :::! "''ソゝ ,,_リフフヽ、)
ハ::: :::::了 Vゝノ ', リ,#i:::::ソ, くニ=" 「次は私とホワイトが直接出張る・・・!」
i:::::::: _, -‐ = = Vi: / ヽク_=三ト i
/_, -''><>< 升 i / ゝ! ノ
/><></~`、 ゝ,,人∠-‐ リ 彡不ゝ
/×_ -‐  ̄人 ',_大、 ト、 _ノノ`'
く " ,::_:::::;;;;::::入 ヽ;リ ノ二=ノ 「ククク・・・アーッハハハハハ!!」
 ̄ `' く ' , _! i_ く 人, -"
/ ::ヽヽ-< "二ゝニフ~ヘ _
, - " :::::ヽ, "ニ廾ー-フ:::::::::::::::::::`-. _
, '" ::::ヽ / i 人::::::::::::::::::::::::::::::‐- ,
(やっぱりこわい)
- 745 名前:ミケル・ニノリッチ ◆08MSwPc.vs :2010/01/31(日) 22:21:27
- 2009年のクリスマス。
しっと団地球連邦軍一刻館方面軍支部は壊滅した。
事前、連邦軍諜報部により計画が発覚したり、残った少数も計画後逮捕されたり。
しかし…しっとの炎は潰えていなかった!
「…姉御、姉御!」
がさりと草むらからギリースーツを身に着けた男が立ち上がる。
彼の名前はミケル・ニノリッチ伍長。かつてタイ夕二ック号を恐怖(?)のどん底に陥れた
しっと団員達の生き残りである。
ちなみに彼の着ている特殊迷彩に関して確かに高台の内部では見事なまでに背景に溶け込んではいるが
これって高台降りた後は余計目立たないかという疑問があるだろうが気にしてはならない。
「ここにおられるという情報を聞いて跳んできましたよ!」
満面の笑みを浮かべ、新たなる決戦のときへの高揚感が隠せないようであった。
クリスチャンの習慣を勘違いした男女達によって汚されるという大いなる恥辱の刻が迫っている。
彼の握り拳は何を内に詰め、何に落とそうとしているのか。
「新たなる計画を立案されたのですね!?もう自分は待ちきれませんよ!」
彼のしっとの炎に燃えている炎が崇拝する少女を捕らえる。
辺りを駆け抜ける一陣の風が木の葉を揺らし、騒々しいまでに決戦の怒号を急き立てていた。
- 746 名前:水橋パルスィ ◆envyBdLf1k :2010/01/31(日) 22:32:34
- >>745
「来たのね、ミケルくん……」
(ベンチの前に腕組みで不敵な笑みを浮かべるパルスィ)
(表情が一瞬曇り、心配するような瞳の色)
(しかし、振り払うように頭をふってミケルの方へ振り返る)
「ならば答えなさい!」
_,,... --‐─- 、.,
, '´ `' .、
,. '"´ ヽ. /L,
/ ヽ '、 / /
/ ,〈 i / ! ', ヽ、 // 「ミケルくん!バレンタインとはなんであるか!?」
,' | ,! ト、 | />‐くハ ,| `ヽ. ´
! ,ハ __八| \|'´ i´ ハ〉! /'ト-‐ァ / ',
', i .|./ ,!-、 ゝ-゚' レ'| .ハン\ / ! ;'´i ,.-、
)八 !.イ !,ハ ⊂⊃/´ !/ / (`ヽ. ./ .レ' /!
'´ \,ハ ゝ' ' ハ __/ / _.〉 i/ / .//
/ /ー-!⊃ ‐ ´ ∨ `Y:::`X>ー-ァ'´ ' /
!/ ト 、 ,ハ //:::;「 rハ、__r‐-、_,.イ、
,' ,ハ |`7ァ=rァ'i´-‐' ,./、::::::/ /ゝ-、__ r、__ノ)
! /∨\ レ',..イ:::〉、__ノ/::::::>/ ! ` ̄ !
)' )/´ |∨::|__/::/::/::/ 八 /
/ |∧/ / !/:へ:::/ /|::::ヽ 、 ノ ,'
/ |/ |::::/:/ ト、_,ハ !
/´`ァ.、/ , ,'::く::::;' .,' rァ-! !
>、'::::/ /.! /:::::::>i / ∧. ヘ. /
,r/ `く.__/-|_/|:::/:/ /.// ヽ、.,_ __/
/ ゝ、.,_,..ヘ 八::::|:::K::/ _/´ 〈  ̄
- 747 名前:ミケル・ニノリッチ ◆08MSwPc.vs :2010/01/31(日) 22:48:52
- >>746
ミケルは敬礼と共に息を大きく吸い込み、一息に憎悪と嫉妬を吐き出した。
「マム!非道なるローマ皇帝による結婚への弾圧の下で
博愛と勇気を兼ね備えた偉大なる聖人ヴァレンティヌス司教の伝説に肖り
カードや菓子などを恋人や家族や友人などに送るキリスト教圏の儀式でございます!」
もともとカトリック教徒であるミケル伍長。
決して熱心というわけではないが今の彼の目には日本のバレンタインは
かなりクレイジーで馬鹿げた祭事としか見えていない。
「しかし今現在この地において、そのような崇高な意思を民衆の間に自分は見出せません!
かつての殉職者に対する敬意をもって過ごさなければならぬこの日は資本主義によって穢れました!
最早、祭りの本義を失っております!有るのは脳みそが甘ったれたアベックと巨大菓子業者の陰謀のみ!」
よって断固粉砕しなければならない。そう彼の目は嫉妬レディに訴えかけていた。
- 748 名前:水橋パルスィ ◆envyBdLf1k :2010/01/31(日) 22:56:07
「その通り!バレンタインは腐ってしまった!」
(大きく腕を振り天を掴むように右手を高らかにあげるパルスィ)
(空をひきずりおろすかのように右手を握り、顔の前に引き降ろすパルスィ)
「くさった儀式に首までつかった連中の目を覚まさせてやらねばならない!
そう、バレンタインは我らしっと団が裁く!」
(びっしとミケルに指をさすパルスィ)
「ここへ現れたからにはミケルくんにもその中核を担ってもらうわ」
\ ', | / / , '
\ ', | / / , '
\ / , '
,-''"´ ̄ ̄ ̄ ̄`''-、 , '
` 、 / /´ ヽ. \
/ | ! | _ ヽ
/ . | 、 !∧ ./!__」イ´ . | -- ──
─-- / '、 ! ,>t、 \/'´l'ハ`ヽ./ ∧
ヽ \| 7 l,ハ !_ソ ノレ' |フ 「つまり、バレンタイン当日!」
ヽ /レヘ、 ゝ' ' ⊂⊃ !, '⌒ヽ.
レイ ⊂⊃ rァ'´ ̄`ヽ. / ! 7 |
/ ,ハ、 ! ノ / /__,' /
| /| /> 、.,_ _,. イ'|/:::::/ / 「私といっしょに囮の偽アベックをつとめてもらう!」
∨ レ' __,. イ「こ__/ /:::::::::/ ,'-、_
/ /!/::|/ム| /::::_/ /`ヽ._ \
/´`'ー--く |:::/ i´ ̄ ̄ ,' / `ヽ.ヽ、
,r/ r)// '、__,.、 ー! / / )Y 「つまり、我々はバカップルを吊り上げるための呼び餌よ!」
l 7、 ,.イイ |ヽ| /ヽ.,_ `ーヽ._/ /| .|
/ゝ、_>-<_」こ>r‐イ]::::', '、:::::`ー`ヽ、_ `ン::/ ./
r/ `ーァ' i、::::: ̄ ̄::::::::::\\::::::::::::::::::: ̄::://
- 749 名前:ミケル・ニノリッチ ◆08MSwPc.vs :2010/01/31(日) 23:11:36
- >>748
「バレンタインの腐敗っぷりは目に余ります!
ただもてるものともてないものの格差を徒に広め、悲しみと怨嗟の声で町が満ちる!
そんな不幸な状況を作り出しているにもかかわらず、アベックどもはいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃと!
許せませんよ、この暴挙は!正に聖人の名を悪用した暴力です!
結局、遅かれ早かれこんなしっとだけが広まってバレンタインを押しつぶすのだ…アベック、何故それがわからない!?」
正にテンションは有頂天。
盛り上がりが最高潮に達し、しっとの暗い想いが高台を包み込む。
ある種、開き直りの極みであった。
>「ここへ現れたからにはミケルくんにもその中核を担ってもらうわ」
「自分に出来ることなら何なりと!あなたを見た瞬間から心に決めていました!
この命の炎が尽きようとも一生あなたに付いていくって!
自分はしっとの殉教者として世の中のモテナイ男の救済を導く柱になりましょう!」
>「つまり、バレンタイン当日!」
>「私といっしょに囮の偽アベックをつとめてもらう!」
「はッ!了解し―――」
ここで彼は思い返す。なにやら不穏な発言は無かったかと。
「………あの、姉御。偽とはいえ、その。アベックを、演じるんですか?自分と、姉御で」
- 750 名前:水橋パルスィ ◆envyBdLf1k :2010/01/31(日) 23:18:34
- >>749
. -‐  ̄ ̄` .、_
. ´ 、 `\
/ \ }
. / / / ヽ '. 「・・・なによ今更」
/ / i | '.
. / f/ / /〃| | ',
.,' . ,' |-l'--、! /l斗|-|-| i i
| ./ | l.rtッ‐、| / };ハ|;ハハ! i イ/!
レ'i | | 、_ ハ/ r‐tッ―-、} / ノ/ト
| ∧ {  ̄ ヽ __冫/「 ̄アハ. > 「居間でも言ったじゃない?」
∨,ハ \  ̄ ̄ } |イ´ / /
∨\ >.、`__ . ィ / /ノ (
) ! /∨ノ } ,イ/ )
レ' V/:´i:X`[_7|´::|/X::::\ , /
/:::::::::i:X/ !X:::::/:::::::::::}、/
{_::::::::::::::l/ / |X/::::::::::::::::::::::\
)::ン´::::<.,__/ |´:::::::::::::::::::::::::__》,
{::::{:::::::::::/:::X\_」::::::::::::::::::::/´:::::::}
メ、:丶:::::i:::X::::::::/::::::::::::::::::::::./:::::::::::{
ヽx_::x「::::i::::::::X:/::::::::::::::::::::::f/:::::::::::::|
i }:::::l::X::::::i::::::::::::::::::::::〈::::::::::::::::::::ゝ
l {:::::i:::::::X:::l::::::::::::::::::::::::}::ー::::-::::イ
i ト 」_::::_ /、::::::::::::::::::::j_X::_::x_::xゝ
l `{ ` ̄`ヽ/ /
(どっかとベンチに腰掛けなおすパルスィ)
「……クリスマス、我々はやりすぎたのよ。
開催地の誘導、怒涛のような攻勢、集中砲火。
受けて立った神父と蓬莱人がいたからこそ、成り立った。
だが、次は本番にもかかわらず、本来は場所を選ぶ必要の無いイベントなの」
(あいかわらずの三白眼でミケルを眺めるパルスィ)
「誘い出さねば裁くこともできないのよ、ミケルくん。
他人のスレに乗り込んで占拠することはさすがにできないわ。
でもわざわざ用意されたスレなんて怪しんで近寄ってこないのは明白。
だからこその囮!」
- 751 名前:水橋パルスィ ◆envyBdLf1k :2010/01/31(日) 23:35:28
- (頭をかきながらベンチから立ち上がるパルスィ)
(空になった缶コーヒーを腰の紐にくくる)
「ま、ミケルくんが嫌なら別にいいわ。
無理してやってもボロがでるだけだしね。
それならそれで当初の予定通りホワイトとやるってだけで・・・あ・・・れ・・・?」
(歩み去ろうとしたところでふらついて倒れるパルスィ)
「・・・と、いけないいけない。
妖力尽きかかってるってのに今日は働きすぎたかしらね・・・」
(両手をつくがすぐには立ち上がれないパルスィ)
- 752 名前:ミケル・ニノリッチ ◆08MSwPc.vs :2010/01/31(日) 23:36:29
- >>750
(マジかよ…そんなこと言ったっけ…居間の日の記憶無いんだけど…)
その日のことを記憶の底から引っ張り出そうとするミケル伍長。
しかし霞がかってどうにも古い地層からはそんな言葉を言った覚えは出てこない。
今の彼にはザクのままとはいえ抱きついたことすら忘却の彼方なのである。
「…ふむ、なるほど判りました。それじゃあ我々が用意した罠満載のパーティー会場に
一刻館に溢れるアベックどもを引き寄せるということですね?自分と姉御はその会場のサクラであると」
それならば彼には合点がいった。
例えバレンタイン会場ここですと言ったって七夕における笹の葉やクリスマスにおけるモミの木といった
シンボル的なものが実際存在しないのだ。
集まらせるといってもクリスマスのときの客船のような会場が存在しない以上
散発的にあちこちで配られてはい終わりなんて苦々しい結末だって待っているわけだ。
「なるほど、それならば…例えば『恋人が結ばれる噴水広場(はぁと』なんてスレッドを用意して
自分達が先ずそこでいちゃつく。予めそのスレッドでチョコレートを渡すと永遠に結ばれるなんて
虚偽の伝説を流布すると。それで案の定釣られる人間が幾つか出てくるだろうから
程よく集まったところでかかったなアホが!といった風に襲うと…そういうわけですか?」
なかなかの知略ですねと感心した風で腕を組むミケル。
橋姫という神社にも祭られる妖怪の性質にもマッチしているのだろう。
- 753 名前:ミケル・ニノリッチ ◆08MSwPc.vs :2010/01/31(日) 23:44:14
- >>751
「だ、大丈夫ですか、姉御!?」
慌てた風に倒れた尊敬する少女の下に駆け寄り両手を持って引き上げる。
そのとき彼女の緑色の目を真っ直ぐ彼の目が捕らえた。
「あ…」
暫し見つめたまま沈黙。
震える声で、次の言葉を何とか引き出した。
「そ、そのですね…。自分、女の子の気持ちだって履き違えたりとか
アルコール中毒気味だったりするようなそんな…馬鹿な男ですけど。
あ、姉御が嫌じゃないと言うならその…作戦、喜んで手伝わさせていただきます。
自分…頑張りますから。姉御が望むとおりに、頑張りますから」
フェイスペイントが施された顔は真剣そのものの表情を浮かべていた。
- 754 名前:水橋パルスィ ◆envyBdLf1k :2010/01/31(日) 23:54:32
- >>752-753
「ふふ・・・そういうことよ。
ここじゃ誰かに聞かれてるかもしれないから、
あんまり詳しく説明しないで欲しいんだけどねー」
(手を借りたおかげでよろめきながらもなんとか立ち上がるパルスィ)
「ま、最早止められない所まできてるから喋ってるんだけども・・・
詳しくはまた今度ね。今日はもう寝る事にするわ」
(苦笑しつつぽっけからまるめたメモを取り出して鬼火で焼くパルスィ)
(心配げなミケルの視線に気付いたパルスィ)
「ああ、大したことじゃないわ。大したことじゃない。
スキマ妖怪なら苦も無くやってのけることよ」
(目を伏せたまま頭を振るパルスィ)
「仮にも境界を司る妖怪のはしくれだから私でもなんとか・・・と思ったんだけどね。
自在に操れるわけでもないのに無理してるからツケがね・・・。
書物と現実の境界を騙して、一人呼び寄せ、そして実体化させつづけてる、
それだけのことなんだけど、相手の方が自分より大妖怪だからね。
さすがに私には無理があったかなー」
(苦笑するパルスィ)
「大丈夫、本番まではもつから」
(額に汗をうかべながらも強い意志のこもった視線でミケルをみつめるパルスィ)
「バレンタイン!バカップルどもにイチャイチャなどさせるものですか!
ねたましい!ねたましいわ!
・・・ああ、あとミケルくん、ひとつだけ」
-‐…‐ __
, ´ ∠二 `ヽ、
/ // / ヘ
// / / 〃`ヽ、 / ∧
{{|、-─|. //ィスメ \イ/ / / ,
ノ ヽ、 |/l/ ぱル′∠ィ__ ′ ||
└ ミ `ぇ、 ` ,ヶx`ヌ / ∧l
x─ミー-小 _ ' 〈ヤイ1 ′`
/ ソ ハ ヽ、`` ノ ,ハ从{
/ ヽ_`_不 、 ̄ /'´ { ヾ='
xヘ、 ', 〈┘ ∨x‐ 、/ ',
くフ¨ヽ、`¨二ニヽ、 } ',、 `ー┐`ス_ノリ
__「`ヽ、∠二二´>' / ノ \ 、 ハ'´ \
ヽ ノ 丿 ,/ / }ヽ\ ゝイ´ 「・・・ありがと」
ノ´ / / / .ノ,ハ }__ノ
/ 〈 / / / '/, V、
_ェ──┴- ゝ‐x ´/ハ r^>-、ー、 「こんなイヤな女と組んでくれて」
` < `ヽ、 / }_/ヾ_ノ 圦,し'_ハ ヽ
「・・・じゃ、また会いましょう」
(緑色の燐光と共に消失するパルスィ)
(退場)
- 755 名前:ミケル・ニノリッチ ◆08MSwPc.vs :2010/02/01(月) 00:14:28
- >>754
しっとますくWhiteの姿が彼の頭の中に思い浮かんだ。
もっとも強大な助っ人ではあるけれどもそれをこの世界に繋ぎ止めているのが
パルスィ本人であればその負担はどれほどのものか。
「む、無理だけはしないでくださいね!
確かに一人でもバカップルを修正してやらなければなりませんけれども…
姉御の無事が有っての完勝なんですから!われらのしっとレディは大いなる感情、しっとの象徴なんです!」
本番まであと2週間。クリスマスを挟みながらの長時間に及ぶ妖力の消耗は
パルスィにとって酷い負担であるのが容易に想像できた。
だけど彼女と彼には使命があった。バレンタインに何としてでもアルマゲドンを起こすと。
「ええ、ええ!妬ましい愚民どもに我々の英知を授けてやりましょう!
あなたは自分を自己嫌悪の底から救ってくれた恩人なんです。
当日頑張りましょう!駄目な俺ですが、精一杯頑張りますので!」
泣き笑いの表情で消えていくパルスィを見送るミケル。
彼には固い意志が宿った。正しき祝日の過ごし方を広め、虐げられたものを救おうという意思を。
しっと団の夜明けは近いのだ。
【退場】
- 756 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/03(水) 23:00:03
- 「よっと」
無人の資材置き場にある木材の上に飛び乗った。
片足分の広さの丸太が積まれた山の上で両手を広げてバランスを取る。
左右への揺れが収まってきたところで一歩一歩その足を進めて恐れを知らない
子供のようにその不安定さを楽しんだ。
「………よいしょっと!」
向こう側までたどり着いたところで少しの跳躍、わざわざ挑戦的な技法を
使用して丸太の上で向きを転換する。
当然不安定さはより増し、どれだけ体のバランスをコントロールできるかが問われる。
手をめい一杯に広げてぐらつく足元をどうにか安定させようと踏ん張り、次第に
その揺れは収まってきた。
「…ふう、こんなことやるの久々だな。ガキみたいだ…フフ」
静かに笑いがこぼれた。
故郷に帰れなくなってからどれだけの時間が過ぎただろうか。
公園ではわざと遊具の正式な使用法を無視して危険な遊び方をするのが子供の常であった。
滑り台の階段は使われることが無くなり、ブランコからは乗った童が射出される。
痛い目に遭えばそれはそれで教訓となった。
そんな日々は過ぎ去り俺も年を取ってしまった。
「…ん、そういや今日節分だっけ。豆食うの忘れてたな」
なんとなく先祖の風習を思い出した。
- 757 名前:不確定名:魔女 ◆C.C.DTH9Wk :2010/02/04(木) 01:12:19
- >>756
いつの間に現れたのか。
冬物のコートと黒い帽子に身を包み、緑の長髪をなびかせた魔女が一人。
「……夜中にこんなところでアスレチックじみた運動とは、
世の中には変なヤツが居るものだな」
資材置き場の丸太で遊ぶ男を呆れ顔で眺める。
見たところ30代と言ったところだろうか。
実直そうな顔に似合わず……いや、見た目どおりのヤツの方が少ないか、この世界は。
- 758 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/04(木) 01:19:39
- >>757
「何奴ッ!?」
微かに聞こえる足音に反射的に振り向き―――バランスが急激に崩れた。
手をばたつかせて必死で頂点から落ちまいと奮闘する。
「おわったったったったぁっ!?」
たたらを踏めば余慶に追い詰められる。
手をばたつかせれば瞬間回復するがその後に余計に安定度が失われる。
不安定な右足のやり場に困っているうちにどんどんと重心の変更に惑わされる。
これを解決する手段は………あるッ!たった一つの冴えたやり方がッ!
―――トン。
素直に丸太の山から飛び降りた。
風が嘲笑うかのようにカサカサと葉を揺らす音を立てている。
俺は一つ咳をして仕切りなおしを図ってみたが、どう弁明すればいいのか全く持って思い浮かばなかった。
- 759 名前:C.C. ◆C.C.DTH9Wk :2010/02/04(木) 01:27:22
- そう言えば、あの娘もおかしな子だった。
その想い人も、そして神すらも。
時間と空間の限定されたエリアに入ってしまった知人に思いを馳せる。
精神が全てを規定する法則世界で、彼女は神に届くのか。
あるいはそのまま閉ざされてしまうのか。
見届けると決めたからには、立ち去ることもできず、
あてどもなく終結の時を待つ。
なに、大したことはない。
百や二百年待ったところでどうということもない。
私も彼女も時間はある。
いずれ会えぬということもない。
しかし、考えてみれば此処の所、おかしなヤツ以外の相手に会っていないような気がする。
脳内イメージの彼らが一斉に「お前が言うな」と合唱しているが、
そんなものは届きはしない。
傲慢?横暴?
何をバカな……甘く見ないでも貰おう。
私はC.C.なんだぞ?
>>758
「…………。」
いかん。
私としたことが現実逃避していたようだ。
華麗に丸太から舞い降りた男に言葉が出ない。
何だろうこの……何……?
「……その……私らしくない台詞なんだがな……
もしかして邪魔したかな……?」
このC.C.にしては随分と自信なさげな声だったと思う。
- 760 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/04(木) 01:37:00
- >>759
…どうしたものだろうか、この空気は。
視線が冷たい。大気が冷たい。なのに何で俺の額に汗が浮かんでるんだろう。
丸太渡りをやっていたから体が暖まったなどという理由じゃないのは確かだ。
「ああ、いや、そのだな。別に邪魔だとか邪魔じゃないとか、そういった
言葉はあんまり意味を成さないというか…ビルの上に渡された鉄骨を渡る練習ってわけでもないし…
そもそも俺の行動自体に深い意味もないし…」
何だろう…この…何?
ちょっと、止めてくれないか、そんな珍種を見るような目は。
「…あれだよ、歩道と道路を区切る線の上を歩きたくなる心理現象みたいなもんだよ」
いまいち、判り辛い。
- 761 名前:C.C. ◆C.C.DTH9Wk :2010/02/04(木) 01:44:57
- >>760
「とりあえず、お前が変なヤツであることはよくわかったが……」
それで十分のような気がする。
まぁ、そんな気分のこともあるんだろう。
普段鬱屈した生活を送っていれば、奇抜な行動を取りたくなったからと言って何だと言うのだ。
そのくらい、笑って見送ってやるのが年長者の思いやりと言うものだろう。
「いや、いい。
お前は悪くない。ストレスにまみれた現代社会がきっと悪いのだろう」
ああ、ルルーシュ。
世界は優しくなったかもしれないが、それでも世間の冷たい波は人を苛んでいるようだぞ。
変化と言うものは劇的に見えて、緩慢にしか動かぬものなのかもしれないな。
- 762 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/04(木) 01:55:47
- >>761
「いやいやいや!?そんなことよくわからなくてもいいよ!?」
ああ、何時だったか温泉で桶魔人などと名乗った記憶が呼び起こされる。
本当にストレスに苛まれているのかもしれない。
…って認めちゃ駄目だって!
「ああもう…何時だったかこの高台は崩壊してるし、こんな季節だし
雪降ってるしで人なんて知人ぐらいしか滅多に来ないと思ったのに…」
知人に見られてもちょっとアレなんだけどねー。
誤魔化すように額抑えて頭をガリガリ掻いているがもう過ぎ去った過去はどうしようもない。
やっぱり妻持ちの23にもなる男がやることじゃないのだろうか。
- 763 名前:C.C. ◆C.C.DTH9Wk :2010/02/04(木) 02:04:26
- >>762
「ほう……崩壊か。
確かに復旧作業の重機や資材があるな」
破壊の痕跡を目にして眼を細める。
範囲が限定されている、十中八九、人為的なものだろうな。
戦争か、テロでもあったか。
平和そうに見えて、ここもそれなりに不穏というわけか。
ため息をつく。
「……そんな不穏な場所だというのにこの男はこんな夜中に暢気に丸太で遊んで……
お前、可哀想な子だな……よしよし、お姉さんがあとでピザを奢ってやるからな」
礼儀もクソも知ったことではない。
魔女は眼を伏せながら初対面のその男の頭を撫でた。
- 764 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/04(木) 02:14:24
- >>763
「うにっ!?」
ざざっと後ずさって撫でられた部分を押さえた。
いや、ちょ、なにすんのよ。
「くっ、このシロー・アマダ23歳妻持ち、軍で少尉をやっている以上危機管理は出来てるッ!
なんとなくだが安全っぽいので大丈夫だって踏んだんだ!舐めるなッ!撫でるなッ!」
なんか動揺して理屈に合わないこと喋っているようだが頭が上手く回らない。
ここ最近だとアイナにしか撫でさせたことが無いのに!
何をするだぁー!
- 765 名前:C.C. ◆C.C.DTH9Wk :2010/02/04(木) 02:26:48
- >>764
少し驚いた。
23だと?
思ったより若かったな。
もう少し上かと思ったが……年に見合わぬ苦労を積んできた故……という事だろうか。
「ほう? ……おかしなヤツだな。
なら、そんなに焦ることはないだろう?
妻もちのエリート軍人が頭を撫でられたくらいで動揺するものじゃあない。
……違うか?」
ふふ……
正直、純朴な反応に悪戯心を刺激された。
いかにも挑発的な発言。
面白くなってきてしまったので仕方が無い。
「しかし……『うにっ』か。
随分と可愛らしい声が出たな?くっくっく……」
- 766 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/04(木) 02:35:00
- >>765
「なななななななななな、何をいうかッ!?かわいらしい声言うなっ!
うろたえてなんかいないッ!連邦軍人はうろたえないッ!」
とか言っても動揺まるわかりだよな。
ちょっと待て、深呼吸だ深呼吸。スーハースーハー。
よし、お、落ち着いた。
………すーはー。落ちつついた!
「エリートだったらここにいるものか。馬鹿騒ぎ起こして軍法会議にかけられて
終戦後はこんな僻地行きだよ。出世コースからは思いっきり外れたっての」
時間だ、今は時間を稼ぐしか有るまい。
撫でられたことによる心臓へのダメージが思ったよりも大きい。
「ま、まあ…それでも悪くはないんだけどな。ここ、いい所だし」
- 767 名前:C.C. ◆C.C.DTH9Wk :2010/02/04(木) 02:40:08
- >>766
「ま、いいさ。
そういうことにしておこうじゃないか」
深呼吸するボウヤを眺めて少し、優しい笑みが浮かんだ。
さて、なにか思うところでもあったかな?
悪い魔女には心当たりも無いが。
「普通23で少尉なら十分だとは思うが……
しかし、出世から外れたにしては未練がなさそうだな。
ここがいい所であるから、それだけには見えん。
……なぜかな?」
少尉の瞳を覗き込む。
ボウヤの考えていることなどショックイメージを応用せずとも
おおよその事はその眼を見れば分かるものだ。
「……その妻のおかげか?」
ニヤリと笑った。
- 768 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/04(木) 02:48:46
- >>767
うぐ…。そんな下から目を覗き込んでくれるな。
そちらから覗かれるということは自然とこちらも覗いてしまうわけで。
ずいぶんと挑発的。でもずいぶんと深い。真意を汲み取るのは難しそうだった。
「ま、まあ…と言うか妻の件が原因なんだけど…射殺寸前だったというか…」
あんまり多くは話さない方がいいだろう。
笑われるだけだろうな、こういった人には特に。
「士官学校出てりゃ少尉ぐらいにはなれるさ。
…問題は時間がたてば自然と中尉に上がるはずなんだけど俺にはその道が無くなったってだけで」
うう、だからあんまりこっちの瞳を覗くな。
顔が赤くなるだろうが。
- 769 名前:C.C. ◆C.C.DTH9Wk :2010/02/04(木) 02:58:03
- >>768
「まぁ、色々あるだろう。妻が原因なら。
ドラマティックな生き方というのはいいものだ。
ただ、経験を重ねるだけを生きるとは言わない。
それは生きているってことなのだろうさ」
頬の紅潮するぼうやを眺めやりつつ、少し距離を離す。
手を振りながら笑ってやる。
「フフ、それに、そいつは悪い兆候じゃないな。
某国の軍なんていくつも見てきたが、ひどいものだぞ?
意に沿おうが沿うまいが、有能であればぽんぽん階級が上がる。
上げざるを得ないのさ、上がどんどん死ぬからな」
出世を外れたわりに所属への恨み言がでないのだ。
それなりに自陣営に誇りはあるのだと踏んだ。
なら、気休めもいいだろう。
「もっとも、逆にどこかを滅ぼす側に回ろうとしている兆候の可能性は無いでもないが」
勝利と増長はパターンだ。
何度も、何度でも繰り返される。
人があまた繰り返してきた愚行のループ。
なんとなく言ったが、彼には酷な話だろうか?
- 770 名前:C.C. ◆C.C.DTH9Wk :2010/02/04(木) 02:58:57
- ×某国
○亡国
- 771 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/04(木) 03:14:56
- >>769
どこかを滅ぼす側。
その言葉に今度は悪い意味で―――さっきのが『良い』とは思わないが―――
ドキリとした。
エゥーゴ。反地球連邦組織。家の基地にも少なからず内通者がいる。
1年戦争終了後も未だに増加するジオン軍残党によるゲリラ作戦に業を煮やした
地球連邦軍が現在構想中の部隊、ティターンズに反発する一派である。
体制テロ組織へと増長の兆しを見せている中、スペースノイドの数が少なくない
地球連邦軍中でそのような派閥が生まれるのも仕方が無かった。
そして俺はスペースノイドで出世から外れた元エリート。
それに加えて1年戦争中にパイロットをやっていたため実戦経験はそれなりに豊富。
エゥーゴから誘いが来る条件は満たしていた。
「…ああ、まあ。俺は軍人として有能じゃないからな。味方からのお墨付きだからさ。
それに有能でなくても頂点にまで上り詰めるケースは多いさ。
戦争は出来レース。ノブレス・オブリージュなんて失われた今じゃさ、安全なところで書類いじくっているだけで
後は親と世渡りの関係で大将……いるものさ。ま、俺みたいな凡人は出世街道行ってても精々大佐止まりだろうし」
こいつは本当だ。
実質今の軍部は腐敗が極度に進んでいる。今のところトップに多いのは
財界の大物や政治家との深い繋がりを持っている人間だ。ゴップ大将とか、ゴップ大将とか、ゴップ大将とか。
- 772 名前:C.C. ◆C.C.DTH9Wk :2010/02/04(木) 03:24:40
- >>771
思い当たる節でもあるのか、ぼうやの顔が暗くなる。
ああ、ここでもループか。
世界は変わらないな。
変わっているようで変わらず、変わらないようで変わっていく。
変化を追うのも大変なものだよ。
「汚らしい力も力に変わりは無い。
ソレも計算に入れるようで無いと偉くはなれんだろうな。
まぁ、ボウヤのシュミには逢いそうもないが」
文字通り手段を選ばないというのがどういうことか、
そういえば、最近の時を共に過ごした相棒が教えてくれたことだ。
……ふむ。
空の星を見上げてひとつ声を付く。
ああ、思い出した。
「さて、そろそろ行くか。
特等席で日の出を見るために寒い中歩いてきたんでな。
これで失礼させてもらうよ」
あいつに見て回ると約束したんでな。この世界を。
あちこち見て回って、たっぷり土産話を用意しようと思う。
そうしたら……
「邪魔をしたな、ぼうや。
それなりに楽しかった、だからな……
喜べ、恥ずかしい所を目撃したことは忘れておいてやることにしたぞ」
だから、機会があればまた会おう。
手を振って魔女は高台からさらに高所へと歩み去っていった。
<退場>
- 773 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/04(木) 03:48:23
- >>772
「んー…出来ればどっかのタイミングでこういった血生臭い仕事からは離れたいんだけどな。
家族がさ、心配するから」
そう言って苦笑する。やはりどっかで安全な仕事につきたいものだ。
それは農家なり、どっかに雇ってもらうなり…。
とりあえず妻を近くに置いておきたいのだ。子供だってほしいしさ。
「そいつはどうも。綺麗な太陽があんたに顔を見せてくれるように祈ってるよ」
肩をすくめて冷たい大気が立ち込める中頂上へと向かう女を見送る。
外見年齢と中身の年齢が合っていない。
この地で何度もあった感覚だがいい加減慣れてきた。
…年齢。そうだ、節分。
「…どっかに豆売っているところ無いかな」
なんだかんだで、伝統行事なのだ。
いくつもの代を重ねても、宇宙に飛び出しても、形骸化していたとしても。
忘れるさることの出来ないはっきりと存在していた文化の軌跡なのである。
「んー…節分はなんだかんだで過ぎたが…探すか、売ってるとこ」
そう言って俺は自転車に駆け寄り、炒り豆を求めて高台から町へと下った。
24時間営業の店ならばあるいは。
【退場】
- 774 名前:M60A3:2010/02/07(日) 01:38:54
- 深夜。何処からとも無く現れた一台の戦車が、エンジン音を木霊させながら鉄屑の間をゆっくりと進んでいた。
「……」
ヘッドライトも付けずに、暗闇の中であちらへ行き、こちらへ行きを繰り返す。
それでも鉄屑にぶつからないのは、優秀な暗視装置を積んでいるお陰なのであろう。
こちらに車体背面を見せているのか、時折小さな赤い尾燈が見えている。
- 775 名前:M60A3:2010/02/07(日) 01:44:42
- 『ガッシャン!』
訂正。暗視装置はあまり優秀ではないようだ。
- 776 名前:M60A3:2010/02/07(日) 03:20:34
- どれほど経っただろうか。
突然に戦車の影は高台を下り、ディーゼルエンジンの轟音と尾灯の明かりを引きながら去っていった。
【退場】
- 777 名前:M60A3&M88A1:2010/02/11(木) 00:36:47
- 静かな。そして深い高台の闇を、履帯が駆動輪と噛み合い擦れ合う耳障りな金属音と。
ターボディーゼルエンジンの腹に響く轟音が引き裂く。
そんな騒々しい輩が、今日は2両もいる。辺りの山々に反響したエンジン音と駆動音が、出鱈目な喧しさをさらに加速させる。
そして先日と同じ様に鉄屑の山の中に2両で入っていく。
尾灯の赤い明かりが一際強くきらめいたかと思うと、2台の戦車はその場で急停車した。
そして唐突に、後ろに居た戦車がサーチライトの明かりを灯す。
サーチライトが照らす先。土に半ば埋まった鉄屑たちが、指向性の強い光を浴びて浮かび上がっていた。
唐突に高まるエンジン音。前に居た戦車が、前面に付けられた排土板を下ろし、鉄屑を掘り返し始める。
深夜の土木工事が、今始まった。
【入場】
- 778 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 00:50:43
- 音がした方を、男が見つめる。大出力のエンジン特有の重低音。
無限軌道特有の耳障りな音。男の網膜には丘の上を照らし出す
サーチライトと、それに映し出される影が映っていた。
鉄屑の山と格闘する二台の重車輌。それだけならば、男は大した
興味を抱かなかったに違いない。だが、サーチライトを搭載している
車輌には、工事用の重機には絶対に搭載されていない筈のものが
ついている。
砲身。
であるならば、戦車。かつて、毎日のように戦車を扱っていた男は
踵を返し、丘へと向かう。歩きながら煙草へ火をつけた。男の部下が
その場にいれば、上官がひどく機嫌がよいことを察しただろう。
「一体何事だ?」
丘へとたどり着いた男は、二両の装甲車輌――戦車と戦車回収車を
見つめながら呟く。答えを期待してはいなかった。この男は、戦車が
見れればそれで大満足というある意味救いがたい趣味の持ち主だった
から、それでも不都合はない。
- 779 名前:M60A3&M88A1:2010/02/11(木) 01:05:53
- M88A1「おいM60。こんな物穿り返してどうするんだよ?」
あぁ、まただよコイツ。さっきここ来る途中で説明したんだがなぁ。
「あのな。ここら辺の鉄屑拾って売って。俺のリアクティブアーマー購入費用に充てるって説明したろ?」
クルン!っと砲塔を回転させて、105mm砲をM88A1に向ける。
M88A1「うわっ!砲身こっち向けんな!」
ライトは点けたままM88がバックし、M60の主砲の射線上から逃れる。
「大体なぁ……」
>>778
そこで説教を始めようとした所で、上ってくる人影に気付いた。それも真っ直ぐ、こちらに。だ。
「不味いな。見つかったぞ」
おかしいなぁ。暗視装置使ってる筈だから、人間の目では見えない筈なのに……。
M88A1「あ、俺赤外線ライトじゃなくて、キノセンライト照射してた……」
「お前バカだろ」
やっぱりコイツはこういう奴だ。どこか抜けてる。
>「一体何事だ?」
む。明かりが届く所まで来たから気がついたが、この人は何時ぞやの自衛隊員ではないか。
しかし……。あんまり勝手に俺らがしゃべって大丈夫だろうか。
戦車長辺りを載せていれば、人間同士で説明してもらう事も出来るが。
「……」
M88A1「……」
どうしよう。この状況。
- 780 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 01:22:33
- >>779
まるで男の呟きに反応するように、二両が突然動きを止めた。
「M60にM88ねぇ・・・」
男はなおも煙草をふかしながら、一人ごちる。どちらも、彼の属する組織では・・・
すなわち、彼が守るべき国家では使われていない車輌だった。たしか、戦車の方は
開発国でも殆どが退役していたはずだったな。そもそも、ここは米軍用地じゃない。
で、あるならば?
自分の国が、いかに同盟相手に遠慮をする国であるかを知っていた男はある種の
結論に達した。少なくとも今は、自分が――日本国陸上自衛隊二等陸佐である
自分が「彼ら」に遭遇することはまずいだろう。
男は咥えていた煙草を靴底で消し、丁寧に携帯灰皿へと入れると戦車へ向けて
歩き始める。
「ほぉ。何かの撮影かな?さっきの動きを見る限り、本物にしか見えなかったけど。
あれか?戦車やら何やらが変形してロボットになるとかいうふざけた映画かな。
たしか、アニメ版では喋ってくれたと思うんだが。」
敢えて大声で近づいていく。パッと見、撮影現場に紛れ込んだ場違いなオタクと
言ったところか。あとは、戦車側がこれにノッてくれると良いんだが。
男は苦笑しながら考えた。ま、これだけ戦車に近づけるのも久しぶりだ。
なかなか良い休日というべきだろうな。
救いがたい人種というべきだった。
- 781 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/11(木) 01:35:18
ざくりざくり
街灯の光が、闇夜を舞う粉雪が、闇に食われてぽっかりと黒く塗りつぶされる。
球体状に真っ暗となった領域がふわふわと、ふらふらと高台の道を進んでゆく。
異様な光景。
そう、これはありえない光景だ。
怪奇現象の中核であるその闇は、そのまま侵攻を続け、そして……
ガンッ
木にぶち当たった。
「お、おおおお……!?」
搾り出すようなうめき声。
相当痛かったのであろうか、闇の中から漏れ出たそのひきつるようなその声は小さな少女のような声質であった。
<入場>
- 782 名前:M60A3&M88A1:2010/02/11(木) 01:35:26
- >>780
どうやらM88と言い争ってる間に、件の中佐殿は同軸機銃が届きそうな所にまで迫っていた。
「お前のせいだかんな……」
恨み言を中佐殿に聞こえぬよう呟き、砲塔を中佐殿に向けなおす。当然砲身は仰角を取って。だ。
> 「ほぉ。何かの撮影かな?さっきの動きを見る限り、本物にしか見えなかったけど。
> あれか?戦車やら何やらが変形してロボットになるとかいうふざけた映画かな。
> たしか、アニメ版では喋ってくれたと思うんだが。」
なるほど。流石諜報畑を歩いてる人間だけある。
この場には俺たちだけしか居ないとは言え、下手に接触を持つのがヤバイというのはあちらも良く判っている。
ほっとしつつ、その内容にありがたく載せて貰おう。
「まぁそんなとこ……」
M88A1「金属泥棒中です!中佐殿!」
……あーもうバカぁ!!
- 783 名前:M60A3&M88A1:2010/02/11(木) 01:42:24
- 「お前この場で撃破してやる!」
M88A1「嘘つくより正直に話した方がいいだろう!」
>>781
>ガンッ
何かがぶつかる音。ソコから先の行動は早かった。
俺はM88と互いに距離をとり、M88はさっきの中佐殿を庇う形で音のした方向に立ちはだかり。
こちらは砲身に俯角を掛けて音発信源に砲身を向ける。ついでに機銃塔も。
一瞬高まったエンジン音が再びアイドリングに戻るとともに、言い知れぬ緊迫が感じられた。
- 784 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/11(木) 01:44:15
ぞわっ
‐==≠エエコェェ 、__
`⌒`守ヲ⌒狂土ェ 、
tェィ _, 夂才寸土ェ 、
__ 狂 」! 狂土土ュ、
,ィ ,ィ. ,jコ会x豸し'Z_ _ ,ィf生ヲ寸土土ェ、
,イヲ 豕{ _rr企王ヲ'´ `ハ、 、__,仆 ´ 了 tェイ王王土ェ、
∠存 <h r劣王王王ヲ′ 丿.l ヽ狂{_ _八 狂王土土土ュ、
∠王迅 _、 狂王ヲ'´ / ,ゝ / {、__圧王壬王王王土土土ュ
,j王王ゝ 、ェェr企ュ生王l j ノ‐ ´,へ|王王王王王王土土土土土、
,j王ヲ′ __ 狂王王王! l ! ! ハ 、ヾ、/ヾ⌒´ ト守王王王王王王王王土土ュ
,j王ヲ __ 狂生王王王ハ | | |、L|_ {ヽ } }. ヾ狂王王王王王王王王土土ェ、
.圧王王王迅ェ生王王王王迅、ヽ|ヽΝ┬ミ_| .// 、 }}王王王王王王王王土土土ュ
圧王王王王王王王王ヲ守ヲ,イ! ヽ __ `"´!// ,ィ} リ王王王王王王王王王土土土
.i王王王王王王王迅´Y::O:::::狂ハ_,ィ、`ァェェァノ'´ィ ,〈迅イ王王王王王王王王王土土土ェ
.!王王王王王王王王7ム:::::;:イ王王迅ェ{'´/ィf´ /,ィ´ `守王王王王王王王王王土土土土
l|王王王王王王王王ハ、__ ノ ``⌒`モヲ j'´Zユイ迅 __|l王王王王王王王王王王土土土!
|王王王王王王王王王王迅、 く ,j王迅'´:O::::::ヾヨ去王王王王王王王土土土ェ!
!土土王王王王王王王王王王迅、_,ィ企j王王{:::::::::ハ::::ハリ,イ王王王王王王王土土土士
|土土王王王王王王王王王王王王王王王王王{Y::::} .}::j 狂王王王王王王王土土王存
.!土王王王王王王王王王王王王王王王王王王、!_`/ ノ' ,.イ王王王王王王王土土王王7
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寸土土王王王土土土土土土王王王土土土土土土土土土土土フ′
寸土王王王土土土土土土土土土土土土土土土土王王土フ′
`ヾ土土土土土土土土土土土土土土土土土土王王王才
`ヾ土土土土土土土土土土土土土土土土土土才´
`ー=エ土土土土土土土土土土土土エ‐"´
` ー==ニ土土土土ニ==-‐ ´
耐えかねて闇を解く。
赤外線すらも遮断する妖しの真なる闇の中から現れたのは、金髪の端をリボンで結わえた小さな少女。
その頭にはおおきなたんこぶができており、彼女は涙目であたまを両手でさすっていた。
「ほわああ!
え、枝が……ッ!
枝のトガってるところは痛すぎるのだー!
……ってあれ?」
ようやく人が居る事に気付く。
そして機械が居る事にも。
「えーと、こんばんは」
まだ右手であたまをさすりながらもおずおずと挨拶の言葉を舌に載せた。
- 785 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 01:52:09
- >>782
>M60A3「まぁそんなとこ……」
>M88A1「金属泥棒中です!中佐殿!」
戦車と戦車回収車から、声が聞こえてくる。その内容を理解した瞬間、
男は笑みを浮かべた。なるほど、のってくれたわけだ。さすが合衆国。
冗談を解してくれると見える。レオパルドじゃあ、こうはいかなかったろうな。
ドイツ人に関する幾つかのジョークを思い浮かべながら、男は声を上げる。
「正直で宜しい、戦車回収車!」
演習場にこそ相応しい口調で言った後、一転ニヤリとして付け加える。
「しかし、そこまで補給が途絶えているのかい?君らの国は、後方支援が
尋常な無いことで知られていたと思うけど。」
トイレットペーパーから戦艦まで。戦場で必要なありとあらゆる物を用意できる
と豪語する軍隊。たまに撃つ 弾が無いのが たまに瑕なんていう我らJGSDFとは
段違いだろうに。
- 786 名前:M60A3&M88A1:2010/02/11(木) 02:03:19
- >>784
なんだ今の?被っていたゴミ袋か何かを脱ぎ捨てたのか?
それにしては熱分布カメラに何も映ってなかったが。
中から出てきたのは少女。いや。幼女と形容するのが正しいか。
それこそ体験搭乗で戦車に乗せられたりされたら、泣いて喚いて怖がりそうな。そんな印象だ。
「……」
M88A1「……」
だがそんな印象がいけない。無抵抗な子供や動物に爆弾を巻き付けて自爆攻撃させるのは、テロリストの常套手段だ。
>「えーと、こんばんは」
「こんばんは。お嬢さん」
緊張は解かない。いつでも全力射撃が出来る姿勢はキープしておく。
>>785
>「しかし、そこまで補給が途絶えているのかい?君らの国は、後方支援が
> 尋常な無いことで知られていたと思うけど。」
ぐ。絶妙な所を突かれてしまった。
「いやぁ……まぁその。M1戦車に車種変更に伴って、部品が生産されなくなってしまいまして……」
真実だ。実際、消耗品パーツなんかは価格が高騰している。
「州軍の予算では足りないので、こうして少しでも足しに成らないかと」
みんな貧乏が悪いんだ!!と毒づきたくなったがココはこらえよう。
- 787 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 02:05:21
- >>784
音がした方向。敢えて無視していたその方向に、戦車がライトと砲身を向ける。
照らし出されたものを見た浅岡は、黒い巻紙の煙草に火をつけた。
まったく、最悪のタイミングで現れたな。
男の網膜が捉えたものは。
金髪の少女。
可愛らしいリボンの少女。
外国人の少女。
傷を負い、涙目の少女。
目の前には戦車。
自衛官の制服を着た自分。
M60と七四式なり九〇式なりの区別がつく国民がどれだけいるか?
それが分かる新聞記者がどれだけいるか?わかったとして、説明しようとする
報道人がどれだけいるか?
少なくとも、朝の太陽をモチーフにした新聞の関係者がここにいないことを
祈ろう。特にカメラマンは最悪だ。
「散歩には遅すぎる時間だと思うけどな。」
男は、怪しげな少女の挨拶に形ばかりの笑顔で応えた。
- 788 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/11(木) 02:12:14
- >>786
怖れない。
驚かない。
しかし、警戒は解かない。
そんな空気を感じ取れた。
戦車という概念を持たぬ少女にとって、戦車はなんだかよく分からない動くものとして認識された。
すなわちニンゲンでないもの。
つまり、バケモノ。
「なんだか見覚えの無い妖怪だなー
よく似てるけど、兄弟なのかー?」
地べたにぺたんとすわってあたまをさすりながら、
二両の戦車を眺めて暢気につぶやく。
>>787
少女はなにやら僅かに顔をしかめた男を不思議そうに眺める。
小首を傾げると男の言葉を反芻した。
「散歩には遅すぎるのかー?」
まだこんな時間なのに。
まだ夜も明けていないのに。
少女と男の認識の間には山よりも高く、海よりも深いずれがあるようだった。
「ところでおじさんは……」
満面の笑みを浮かべて少女は問う。
その口の端に鋭利な牙をわずかにのぞかせて。
異質な気配と異様な落ち着きがそこにある。
本能的な危険、それとはうらはらの暢気な声。
この少女はどこかおかしいと判断する材料はふんだんにあった。
,.へ _,,.. --─- 、..,,_
` ̄ ,. '"´ `'ヽ.,
l> ./ ヽ. ,ヘ
/ / 、 ヽ/∧',
,' i / ;' /i , ヽ.r‐┐///、_
i i /|‐ハ- | / | /_|_ Yニi' ニ二7/ おじさんは
| ノ ! ,アi''`ヽ!/ |/ | ` i i___,!`"''r-'
レヘ ハi ト リ ァ;‐-'!、ハ | .| |
,ヘ .7 ` ヽ-' ト ハ| / / |
/ ,ハ "" ' !、_ン ノ|/|/ | 食べてもいい人類なのかー?
,' ヽ、 rァ--、 ,,,,,´/ . | i. |
|へ/| / \ _ノ ,.イ i | | |
レヽ, /´ i`''ーr‐ァ ´/ / ,ハ|、 ハ ノ
,'ヽ.i::::::::|Y___/!/レ'::/ヽ. イ
| |::::::,レへ/ /::::::/ _,.':,
', |:::::LOO___/::::::::i / ',
',.|:::::::〈/ヽ〉:::::::::::::::',/ |
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____ _k、:::::::::::|::::::::::::::::::::::::::::;ゝ、 /
rノ´__;;:::二ニ=-:>、!__::::::::::::::::::::_;:イ、ヽイ
r-'''"´:::::::_,,.. -‐'":::/::::7 ̄`i´ ̄:::::::ヽ、:::`ヽ、__
r/::::::::-‐''"::::::::::::::::/:::::::,':::::::::::|:::::::::::::::::::::',:::::::::ヽへ
- 789 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 02:20:54
- >>786
>「いやぁ……まぁその。M1戦車に車種変更に伴って、部品が生産されなくなってしまいまして……」
>「州軍の予算では足りないので、こうして少しでも足しに成らないかと」
あまりにそれらしい、しかし決して笑えない理由を聞いて男は笑う。
「あぁ、州軍。あの事件以来、警備にも金がかかっているようだしね。」
元戦車兵が、乗っ取ったM60でハイウェイを爆走した事件は日本でも話題になった。
ただし、バラエティで取り上げられたばかりで陸自の戦車管理が話題になったことはない。
これは陸自が信頼されているからなのか、それとも忘れられているだけなのか。前者だと
断言できる根拠を、男は持っていない。
「まぁ、戦車なんて壊れるのが常識・・・ということを、いまいち理解していないからね。
戦車の移動には可能な限り輸送車なり列車なりを使いたいし、戦車を全速で走らせた
あとは整備中隊に徹底的に見てもらいたい。にも関わらず・・・・・・・・」
ここまで言って男は「嗤う」。
「まぁ、これ以上は言わぬが花か。君らの傷を抉ることも無いし、僕らの無能をさらけ出す
こともない・・・・・そうだ、ところで君はまさか砲塔の駆動油が発火したりしないだろうね?」
こんなところで花火はゴメンだからね、と嘯く。なかなかに難しい男だった。
- 790 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 02:28:30
- >>788
>食べてもいい人類なのかー?
あぁ、なるほど。そういうことか。
男は意図的に低いレベルで少女を誤解した。つまりは、可哀想な少女。
娘が持っている様々な雰囲気はこの際無視する。となれば、公僕の
一員である男に取れる態度は限られていた。
「いや、食べられては困るな。」
優しげな笑みを浮かべながら、男は答える。煙草の煙が少女の方へと
向かないようにしながら、続ける。
「おじさんには、愛する女房も子供もいるからね。まだ食べられてあげる
訳にはいかない。それに、色々と妙なものを着けてるから食べづらいよ。」
金属製の肩章。プラスチック製の名札。ホルスターに収められた9mm拳銃。
どれも栄養はなさそうだ。
- 791 名前:M60A3&M88A1:2010/02/11(木) 02:38:57
- >>788
>「なんだか見覚えの無い妖怪だなー
> よく似てるけど、兄弟なのかー?」
今このガキなんて言った?コレと兄弟?
一瞬怒りが沸点に達しそうになるが、ソコは抑える。
「兄弟……とは違うな。俺から見ると叔父さん……かな?」
話しながらM88にストップランプでモールスを送る。
『M88。中佐にコイツを近寄せるな。ヤバイ』
“妖怪”や“人を食べる”という言動で判った。コイツはこの辺に住むとか言う悪魔だろう。
怒らせさえしなければ大丈夫だろうと思うが。念には念だ。いざとなったら俺が囮をやるしかない。
まぁ、いざとなったら阿部さんごっこでもするさ。
>>789
>「あぁ、州軍。あの事件以来、警備にも金がかかっているようだしね。」
「ブッ!?」
まさにピンポイント。その州軍に所属してるなんて言ったら、この中佐殿はなんと言うのだろうか。
>「君はまさか砲塔の駆動油が発火したりしないだろうね?」
この人は一体何を聞きたいのだろう?M60系の発火率の高さは良く知ってるだろうし、それへの根本的な対策は無いのに。
少々何を期待してるのかを判らなくなりつつも、俺は回答に精を出す。
「クルスクのパンターじゃ無し、早々火は付きませんよ。この場でドンパチでもやらかさない限りは……」
出来ればそれは最も望まない事だけどねと、ごにょごにょと付け加える。
- 792 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/11(木) 02:47:01
- >>790
「んー。
たしかに金属がごてごてしてて食べづらそうなのだー」
指をくわえて男をじろじろと見回すと溜息をひとつ。
強い煙草の香りとほのかな火薬の香りも少女から食欲を失わせる一因だった。
「残念。ひょっとして軍人かなって思ったのに。
たしか軍人は食べてもいい人類だって聞いたことが……」
ぶつぶつと剣呑な台詞を呟く。
しかし、どうやら既にその気はないようだ。
いや……あるいは最初からその気はなかったのかもしれない。
聞いてみたのは彼女なりの儀式みたいなものだったのであろうか。
「ところでそっちのバケモノはおじさんの知り合いなのかー?」
>>791
「オジサンなのかー
やっぱりよく似てるわ。
どっちもツノがあって回る帯の足があって、どっしり重そう〜」
眼がふたつあって鼻がひとつで、口がひとつなのよ。
そんなレベルの識別。
いや、少女にしてはこれでも随分と観察している方ではあった。
そもそも双子?と聞かなかっただけでも大したものである。
「わっわっ!?」
急な悲鳴。
手を目の前にかかげて顔を背ける。
光にでも弱いのか、車体の灯りが明滅したのを嫌がっているようだ。
- 793 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 02:50:41
- >>791
>「クルスクのパンターじゃ無し、早々火は付きませんよ。この場でドンパチでもやらかさない限りは……」
戦車からの声を聞いて、男は笑い声を上げる。
「あぁ、いや済まないね。別に『君』を揶揄するつもりは無いんだ。本当に。」
両手を挙げて顔を振ってみせる。B級映画に出てくる詐欺師のような動きだった。
「ただ、僕のような人種は気になったら聞かないと気がすまない性質でね。
そっちにもいないかい?基地開放日なんかになると、戦車に群がって大喜び
する子供のような大人が。」
かつて戦車に大喜びで乗っていた元戦車指揮官は、笑いながら付け加える。
「まぁ、ドンパチの必要はなさそうだよ。僕を守る必要もね。」
視線の先には、光から逃げようとする少女の姿があった。
- 794 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 03:04:12
- >>792
少女の言動に、男は笑みを大きくする。
彼女が何者であるかを理解した(と本人は考えている)男は
少女の言葉にもいちいち反応せず、表情をそのままに小さく
頷くだけだった。
>「ところでそっちのバケモノはおじさんの知り合いなのかー?」
「あぁ、さっき知り合ってね。どちらも、まぁ傑作だよ。特にこっちの
M60君は色んな国から愛される人気者だ。」
その後に小声で続ける。
ま、今や僕と同じく前線からは遠ざけられてしまったけれど。
- 795 名前:M60A3&M88A1:2010/02/11(木) 03:15:09
- >>792
>「オジサンなのかー
> やっぱりよく似てるわ。
> どっちもツノがあって回る帯の足があって、どっしり重そう〜」
私をあまり怒らせない方がいい……(ビキビキ
しかしツノって言うのは……M88はAフレームクレーンの事を言ってるのかな?
M88A1「……きもけーね?」
いきなり相棒が変な事を言い出した。
「ナニそれ?」
M88A1「いや、ツノがあって重そうって発言で思い出した」
思い出した事をポロって口に出すなオメェ……。
>「わっわっ!?」
突然の悲鳴に驚いて背後を見ると、M88A1がヘッドライトでさっきのモールスの返事をしたようだ。
「なるほど……」
明るいのが嫌いなわけか。だからサーチライト点けっぱなしのM88の方を向かないんだな。
>>783
>「基地開放日なんかになると、戦車に群がって大喜びする子供のような大人が」
それはどっちかといえば日本に多かったような。
「残念と言うべきか、喜ばしいと言うべきか。ステイツにそういう人種は少なかったですね。
ナチス戦車に喜んで飛び乗る奴とかは多かったですが」
自国戦車は、どうせ徴兵されれば乗ったり触ったり出来る訳だし。特に俺たちM60系統は海兵・陸軍両方に供されたし。
珍しい物でもなかった分、あまり一般に受けは良くなかったようだ。
>「まぁ、ドンパチの必要はなさそうだよ。僕を守る必要もね。」
「しなくて済むなら、それに越した事は無いんですがね」
明かりを嫌がる少女に、生ぬるい視線を送りつつ中佐の発言に相槌を打つ。
なんだか小動物チックでかわいいなぁ。
- 796 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/11(木) 03:27:14
- >>793-794
「ケッサク?
そこの二人はお笑いなのかー?」
愛されるバケモノ?
国に?
個人に愛されたバケモノは居る。
村や町に愛されたバケモノも皆無ではない。
だが、国に愛されたバケモノの話は聞いた事が無い。
「んー……」
少女は違和感を感じ始めているようだった。
「……それで、おじさんは何者かしら?
てっきり軍人だと思ったのだけど、落ち着き振りが普通じゃないね?
ただものでない軍人なのかー?」
ぺたんと地べたに座り込んだ姿勢はそのまま
愛嬌もどこかのんびりした話しぶりも変わらず。
しかし、どこか鋭さを増した視線を少女は向けてきていた。
先ほどまでとわずかに違う気配。
>>795
「きもけーねとか……あんた勇気あるな。
そんなこと言って先生に頭突きされても知らないよ?」
少しおびえたような仕草でおののく少女。
灯りに視線を向けたくないのか、横目でM88を眺めつつ
おずおずと立ち上がる。
「うー……夜は良く見えるはずなのに。
こうもあちこちぴかぴかしてるんじゃ昼とかわんないのだー」
ずずずずず……
少女の周囲の光が失われていく。
くらく、くらく、闇が湧き上がる。
からみつくように少女の周囲を暗闇で包み始め、
やがて、先ほど木にぶつかった時とおなじく暗闇の球体へと変化した。
「出すかどうか悩ましいけど、やっぱ念のため出しとくね。
顔を合わせてお話しないのは失礼だけど、闇の妖怪のその明かりはしんどいものがあるわ。
それに……」
それ以降は声が小さく聞き取れなかった。
- 797 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 03:32:05
- >>795
>「残念と言うべきか、喜ばしいと言うべきか。ステイツにそういう人種は少なかったですね。
> ナチス戦車に喜んで飛び乗る奴とかは多かったですが」
なるほどな。男は呟く。
「戦車が『実際に使われるもの』として定着している国じゃ、そんなものか。
僕らは、怪獣映画と災害派遣でしか戦車は動かせないからね。」
男が大仰に肩をすくめる。
「ま、戦車オタクだけが喜んで見に来るってのいうのも一種の平和だけどね。
国民の歓呼に送られて戦車は戦場へ・・・よりはマシさ。」
多分、分かってはもらえないだろうな。男は内心でそう付け足した。
- 798 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 03:45:34
- >>796
いまいち、理解していないようだった。まぁ、普通の娘だったとしても
この年齢では仕方ないか。ましてや。
男はそこまで考えた後、ペタンと座り込んだ少女へ顔を向ける。
>ただものでない軍人なのかー?
「わりと普通のただものだよ、僕は。」
煙草をもみ消し、吸殻を携帯灰皿へと入れる。
「まぁ、落ち着いて見えるのは現実を冷静に捉え、希望的観測を持ち込まぬこと。
そういう教育を受けているからね。事実と観測を別物として見る癖が身についてる。」
そう言った後、少し難しかったかなと言わんばかりに言い直す。ライトがずらされた。
「つまりは、ただの軍人――どこにでもいる自衛官だよ。こちらからは撃てない武器と
部隊単位では滅多に出れない駐屯地に陣取った、ね。」
ライトから逃れた少女の姿は、なぜか暗闇に包まれて見えない。男は、おそらく
少女がいるであろう方向へ向けて声をかけた。
「ところで、君は誰なのかな?」
- 799 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/11(木) 03:57:34
- >>798
闇にひそんだ少女を見ても、自衛隊員はうろたえない。
ゆるがない。怖れない。
「ああ。おじさんは食べてはいけない人類なのね」
得心したように闇の中から声がする。
妖怪を怖れる人間は食べてもいい人類。
悪い人間は食べてもいい人類。
どちらでもないのは食べてはいけない人類。
外の世界のニンゲンは妖怪を怖れることをやめてしまった。
そんなこと随分前から分かっていたことなのに。
闇の中で少女は悲しげに笑っていた。
しかし、それは誰にも見えない。
見えることは無い。
「私はルーミアだよ。
闇に潜み闇を操り、人を喰らう、悪い悪い怖い怖い妖怪なのだー」
ぎゃおー
演出のつもりか口にした擬音は悲しいかな、外の世界では怪獣の18番であった。
「そういうおじさんはどなたさま?
なまえをおしえてくれるなら、今後のために覚えておくわ」
今度会ったときのために。
もしも、軍がルーミアを退治に来たときのために。
そのすこし沈んだ声は少女の見た目とは裏腹の重ねられた時の流れを感じさせた。
- 800 名前:M60A3&M88A1:2010/02/11(木) 04:00:51
- >>796
>「ケッサク?
> そこの二人はお笑いなのかー?」
「ドつき漫才やってお金貰って。それが上手かっただけに兄弟が2万両もいりゃ、傑作と言われても仕方ないかも」
なぁ。と言いつつM88の方に銃塔だけ向ける。
M88A1「戦争をドつき漫才と言い切る、お前の神経がわからない」
さらりと酷い事言いやがるなコイツ。
>「きもけーねとか……あんた勇気あるな。
> そんなこと言って先生に頭突きされても知らないよ?」
M88A1「んー☆真実だから仕方ないじゃないかぁ〜」
真実でも言っていいことと悪い事があると思うぞ。
「おーい。かわいそうだからキノセン灯切ってやれ。ポジション灯点いてれば見えるだろ」
M88A1「もちろんさぁ☆と言いたいが。切ったとたんに襲い掛かられたら困るぞ」
「じゃぁせめてずらしてやれ」
へいへいと気の無い返事をしつつM88が車体を振ると、少女の周りは先ほどに比べればずいぶん暗くなった。
>「出すかどうか悩ましいけど、やっぱ念のため出しとくね。
> 顔を合わせてお話しないのは失礼だけど、闇の妖怪のその明かりはしんどいものがあるわ。
> それに……」
「それにしても、その黒いゴミ袋便利だな。内側にアルミ蒸着でもしてあるのか?」
>>797
>「ま、戦車オタクだけが喜んで見に来るってのいうのも一種の平和だけどね。
> 国民の歓呼に送られて戦車は戦場へ・・・よりはマシさ。」
「……戦場に行くだけくらいならマシさ。反吐が出るのは送り出す時は喝采で送り出して置きながら、帰って来たら“赤ん坊殺し”とか非難で迎える」
この間のイラク戦争とかな。湾岸の時もそれで迷惑被ったって、戦車長が言ってたな。
「平和もいい。それに漬かり過ぎてボケるのも……まぁ大概に留めて欲しいがいい。けどな、守るべきだと思った人達に『人殺し』と罵られる事がどれだけ辛いか……」
と、そこまで言った所で気がついた。
「……申し訳ありません。つい口が滑りました。どうかこのことはご内密に」
思わず本音が出た。
- 801 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/11(木) 04:13:10
- >>800
「2万両役者なのかー?
千両役者の20倍くらいすごいんだなー」
わかったのかわかっていないのか。
妖怪の役者だなんて世界は広いなどと一人納得しつつ少女は闇の中で頷く。
「む。失礼な。
ルーミアは妖怪をおそったりなんかめったにしないのだー。
それにそこのニンゲンは食べてはいけない人類だし、
そもそも早苗にここでは攻撃されなきゃ喰っちゃだめって言われてる。
襲ったりなんかしないのだー」
仮に襲ったとしても難しいだろう。
ルーミアの弾幕では装甲を抜けるか怪しい所だ。
まして爪では論外だろう。
昔ならいざ知らず、今のルーミアに人の乗っていない戦車を倒す術はない。
「それにこれは闇!
人里指定の不透明ゴミ袋なんかじゃないのだー!」
だが機械のセンサー的にはゴミ袋でも被ったようにしか見えないのである。
- 802 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 04:14:35
- >>799
>「ああ。おじさんは食べてはいけない人類なのね」
暗闇から声が響く。なるほど、結構雰囲気があるもんだな。
男は妙なところで感心した。廃墟と化した地で暗闇から聞こえる
少女の声。はは。砲兵森の旧軍の幽霊も真っ青だ。
男が沈黙のうちに笑みを浮かべると、少女のいるらしい方向から
可愛らしい「咆哮」が聞こえた。
>なまえをおしえてくれるなら、今後のために覚えておくわ
「浅岡だよ、お嬢さん。」
浅岡二等陸佐は優しげに答える。別段、彼女の調子に合わせた訳
ではない。彼の理解に拠れば、この娘はどこからか逃げ出してきた
可哀想な少女。であるならば、刺激をせずに最低限の応答で
済ませるべきだろう。それに。
浅岡は様々な噂のある男であり、その評価も多岐に分かれる。だが、
その中に子供に冷酷であるというものは一つもなかった。
「今後があるかどうかは分からないが、まぁ覚えておいてくれるかな。」
- 803 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 04:21:43
- >>800
>本音
人殺し。給料泥棒。軍国主義者。時代遅れの殺人嗜好者。
どれもこれも、八〇年代には廃れた罵詈雑言だ。だが、
浅岡の属する組織は未だその種の風評を酷く恐れている。
広島で定期的に開かれるなんとかいう集会で「お前らは人殺しだ」
という人々に取り巻かれ、司会者に「なにか言いたいことは?」と
問い詰められた若い自衛官が「そういう人たちも守るのが自衛隊です」
と答えたのは何年前だったか。
色々と面倒だった・・・いや、未だに面倒な問題を抱えている組織に
属する浅岡は、戦車の側面あたりを叩いて言った。
「まぁ、彼らが君らをそう罵れるのもお互いに生きていればこそだ。
任務を全うしたと胸を張っておけばいい。雑音は―――」
再び煙草に火をつけながら笑う。
「キューポラを全部締めて、聞き流せ。僕はそうした。」
- 804 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/11(木) 04:37:12
- >>802
「あさおか……覚えたわ、浅岡のおじさん。
今後がない生き物なんていないわ。
誰だって未来はある、食べられでもしない限りは。
だからその今後のために浅岡も一つ覚えておいて欲しいのだー」
闇の領域が一気に拡大した。
一瞬、周囲全てが真の闇に包まれる。
何も見えず、何もない。
音だけの世界。
そこでルーミアの声はなぜか耳元で囁くように聞こえた気がした。
「実はルーミアは子供扱いされるの好きじゃないのよ。
浅岡は相手が嫌がることを続けるような人間じゃないよね?
だから、今度会ったら……ルーミアはルーミアって呼んでほしいのだー」
直後、世界に光が戻る。
奇妙な闇はどこにもない。
栄養が偏って目の調子でも悪かったのであろうか?
「それじゃ、闇の妖怪はお日様が顔を出す前に消えるのだー
鉄の車の妖怪さんたち、それに浅岡。またねー」
風に乗って暢気な別れの挨拶が聞こえた。
ルーミアの姿は何処にも無いと言うのに。
あるいは耳の調子も悪いのかもしれない。
<退場>
- 805 名前:M60A3&M88A1:2010/02/11(木) 04:41:53
- >>801
>「2万両役者なのかー?
> 千両役者の20倍くらいすごいんだなー」
両って確か旧日本の貨幣単位であったんだっけ?
まぁわざわざ解くような誤解じゃないし、普通に話し合わせるか。
>「襲ったりなんかしないのだー」
そうか。むしろ襲う気なら、あのゴミ袋を脱ぎ捨てる必要も無い訳よな。
>「それにこれは闇!
> 人里指定の不透明ゴミ袋なんかじゃないのだー!」
訂正。闇な。
M88A1「そうか。じゃぁお詫びに美味いものをあげよう。長く保存が利くから、2〜3ヶ月は平気だぞ」
コマンダーハッチからMREのカートンを1箱だしてM88が近寄っていく。
M88A1「お腹が空いてるときに食べるといい」
……飯で幼女を釣ろうとするのは感心しないなぁ。
>>804
とかやってるうちに、どうやら彼女はお帰りになったようだ。
「ルーミア……ね」
後で調べてみるか。
「またなルーミア!」
- 806 名前:M60A3&M88A1:2010/02/11(木) 04:58:19
- >>803
>「まぁ、彼らが君らをそう罵れるのもお互いに生きていればこそだ。
> 任務を全うしたと胸を張っておけばいい。雑音は―――」
>「キューポラを全部締めて、聞き流せ。僕はそうした。」
なるほど。確かにそれは合理的だ。
確かに一々相手にしていたら埒が明かないと言うのは頷ける。しかし―
「しかし聞き流していると、いつの間にか有ること無い事を尾鰭つけて話し出しますからね。そういう奴らは」
劣化ウランで放射能汚染が起こると言っていたのは誰だったか。重金属汚染の心配の間違いではなかったか。
「中に外に。ステイツの軍隊は常に敵が必要なんです。銃を持つ敵以外にも……」
- 807 名前:二等陸佐 ◆AdJGSDF26. :2010/02/11(木) 05:13:50
- >>804
ルーミアと名乗った少女の声が急速に遠ざかっていく。
「・・・一体何者なんだか。」
周囲の風景を見渡す。ああいった少女が収容されそうな病院の類は
見えない。だとするならば?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二等陸佐は、フィルター近くまで吸った煙草を靴で踏みにじり・・・・
そのままにした。生憎と記憶力は優れているほうだった。
>>806
>「中に外に。ステイツの軍隊は常に敵が必要なんです。銃を持つ敵以外にも……」
声を聞いた浅岡は、奇妙に頬をゆがめて笑う。
「国防組織としての軍隊と、政治組織としての軍隊。たしかにそれぞれに敵は
必要かもしれない。目標とか敵とかを失った組織は崩壊するみたいだから。」
砲身を見つめながら続ける。
「冷戦終結後、2001年までの君らがそうなりかけていたようにね。もしくは、
90年代以降の我が国そのものでも良いかもしれない。」
喉の奥にひっかかるような嫌な笑い方をいた二等陸佐は、あぁ、そうだ。と
思い出したように付け加える。
「いや、すっかり『撮影』の邪魔をしてしまって。申し訳ないことをした。
公開されたら家族で見に行くから、それで許してくれよ?」
言うだけ言って、踵を返す。もうすぐ朝が始まる。彼のきらいな朝が。
誰もが一生懸命にその日に順応していこうとする。全てに余裕が
失われる。なんと不愉快な時間。まともな朝食が食べられなければ、
決して耐えられるようなものではない。
あぁ、そろそろ女房が朝食の準備を始める時間だな。仕事以外で
朝帰りなんてどれくらいぶりだろう?
<退場>
- 808 名前:M60A3&M88A1:2010/02/11(木) 05:33:07
- >>807
>「冷戦終結後、2001年までの君らがそうなりかけていたようにね。もしくは、
> 90年代以降の我が国そのものでも良いかもしれない。」
確かに。ソビエトが崩壊してからの数年間。明確な敵はステイツには無かった。
だから92年にソマリアへの、人道支援の名目で派遣が決まったりしたのだろう。
「だから何かを無視するとか。そういうのが出来んのですよ……。」
目の前で笑う自衛官から、遠くの稜線を照準器で見やる。
>「いや、すっかり『撮影』の邪魔をしてしまって。申し訳ないことをした。
> 公開されたら家族で見に行くから、それで許してくれよ?」
M88A1「いや鉄屑泥棒……」
空気を読まないM88の背後に、思い切り105mmを擦り付ける。
「撮影だったよな?」
M88A1「はいぃぃぃ……」
二人でバカをやってる間にも、中佐殿は丘を下っていた。
「さて、皆さんお帰りに成られましたな」
M88A1「それは良いけど、鉄屑どうするんだ?」
「無論拾ってく。残さずな。」
その後、ぎゃぁぎゃぁと言い合いながら、いくらかの鉄屑を集めて2両の戦車と戦車回収車は、丘を下って行った。
またいつか。ココに来れる事を期待して。そして新たな出会いを期待して。
【退場】
- 809 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/11(木) 23:16:30
- 妙だな、何かが妙だ。
「作業車は確かに高台に存在してるんだけど…うーん」
履帯の軌跡を見て首を捻る。
高台に残された4つの凸凹の道。
確かにこの高台は工事中ではあるんだけど、どうにも納得がいかない。
「でも、まさかなあ…確かに吸血鬼やらメイドやらが来るけど…」
行き着く先には掘り下げたらしい跡が残っていた。
間違いなく排土板を使用したであろう。
そしてこの場所には俺の記憶が正しければ…以前は鉄屑が積んであったはずだ。
「…一体何故?」
もう一度俺は首を捻った。
- 810 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/02/11(木) 23:54:43
- カチリ
「……今日のシローは探偵さんですか?」
掘り返したような跡を見下ろして首をひねっているシローの横に並んで
同じように跡を見下ろすのは厚手のコートに身を包んだ銀髪の女性。
コートの下はいつものロングのメイド服なのだろう、頭のヘッドドレスがコートから浮いて異質だ。
腰の後で手を組んでのんびりと声を出すが、1秒前までは確かに存在しなかったのは確か。
またぞろ停止した時間の中を歩いてきたのであろう。
「ああ、呼ばれた気がしたので」
質問を予測してしれっと先に答える。
涼しい顔だが瞳には悪戯っぽい光があった。
<入場>
- 811 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/12(金) 00:07:39
- >>810
「ぐむ…時間止めるだけじゃなくて未来を読む能力でも手に入れたのか、お前は」
わざと不機嫌そうな顔構えを作って後ろを振り向く。
予想通りそこにいたのはよく知る友人のメイドだった。
雪も降っていて寒いのは当然、コート姿が二つそろった。
こっちは当然ながら軍用なんだけど。中も軍服のまま。
「や、こんばんは咲夜。
こっちの高台で復旧工事が始まったみたいでさ、もしかしたら春までには元通り
綺麗な所になるんじゃないかなってさ」
だからちょくちょく様子を見に来て進捗を確かめている、と。
なんだかんだで色々と思い入れのある高台だ。
寒いし昇るのに少し苦労はするけど、でも復旧している様を見るのは
なかなか面白い。
「…でまあ、ちょっと今日は妙な物を発見したんだ。これだよ」
指差した先には無限軌道の跡。
一見何の変哲も無いようで、実際はおかしな所だらけなのである。
- 812 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/02/12(金) 00:20:09
- >>811
不機嫌そうなシローとは裏腹にメイドはどこか機嫌が良さそうだ。
ボヤキに対しても人差し指を立てて、白い吐息と共にちちちと舌を鳴らす。
「未来を読むだなんて畏れ多い。
突然予期せぬ来訪を受けたらまずかける言葉なんて大方決まってます。
どうして?なにかあったの?どういう風の吹き回し?
簡単な推理ですわ、ワトソンくん、もとい、シロー?」
復旧作業の現場に目をやる。
瓦礫は随分と減ったようだ。
およそ8割がた、作業の進行具合はそんなところか。
それで元通り。
いや、これを気にリフォームされるのか。
「綺麗な所……そうね、終る頃には桜の花でも咲いているかも……
つまり、もう春も目前と言うわけね」
かわったものを。
シローの言葉に誘導されるまま、指差す先に目をやる。
一定間隔でついた細長い棒を規則正しく押し付けたかのような跡。
さほど多くは無いが、見覚えがある。
これは……
「……戦車?こんなところに?」
確かに、重機のものとはサイズが異なる。
平和な高台にはいささか似合わぬおかしな形跡のようだ。
- 813 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/12(金) 00:47:45
- >>812
か、簡単な推理、ねえ。
次にお前はなんとかかんとかと言うの応用みたいなものだろうか。
「ワトソン君って…。案外推理小説でも好きなのか?
もしくは最近読んだか」
まあ、すぐに呼んだものに影響を受けたりするのはどちらかと言えば
レミリアの性分だと思うけど。
なんだかんだで妙に子供っぽいんだよ、あいつ。
「んー、そうだなあ。秋にここでお前と会ったがその時は紅葉が綺麗だった。
そのときには一回りする季節…まあ、終焉の美って言うか、そんなものを感じ取ったけど。
次の月ぐらいには秋とは間逆の風景が見られるかもしれない」
そのときには改めて酒でも持ってきて過ごそうかな、と零した。
正月は過ぎたが、本当に新しい1年だなと感じるのはなんだかんだで春だったりする。
生命が生まれ、成長し、衰え、眠る。そのサイクル。
今は眠りの季節。生まれまでもう少し。
「そう、見た限りこういった跡を残すのは戦車以外に考えられない。
まずそこにおいてある作業車の残している跡と繋がっていない。
次に履帯と履帯の間が大規模な土木工事でもないのに広すぎる。
そして…跡がはっきりとしすぎてるんだ。かなり重量のある車両だろう。
ここから予想される事実はお前の言った通り。戦車が来たんだよ。ここに。しかも二台」
だがそうだとすれば更なる疑問が湧いてくる。
ズバリ。
「…でもなんで戦車なんかが来たんだ?なんか予想できるか、ホームズ?」
この理由がいまだワトソンには思いつかない。
- 814 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/02/12(金) 01:03:20
- >>813
「フラン様がお好きなので、最近ドイルとアガサ・クリスティは読んでみたわ」
でも影響されたわけではないんですよ?
ちょっとしたお茶目ですわ。
そう言ってメイド、十六夜咲夜は笑った。
「お花見の季節ですものね。
ふふ、それは遠まわしに誘っておいでですか?」
無意識に決まっているだろうが、一応ちょっかいをかけておく。
彼は天然だ。
こうやって相手に与える影響を逐次説明してやった方が彼のためになる。
最近の咲夜はそんな風に彼のことを考えていた。
それはそうとシローの言葉に先の無限軌道跡に視線を落とす。
2台?ああ、成る程、よく見ればたしかにそうだ。
さすがにこういった観察は普段から近しいシローの方が一枚上手らしい。
「素直に考えれば戦車の用途。そうでなければ状況の変化がその目的。
そんなところですか?
なにか変わったところがあるようにも見えませんけれど。
もちろん、戦争の形跡も」
おでこに手をやって遠くを眺める仕草をする。
正確に言えば、変化など真面目に分析しては居ない。
だって仕方が無いだろう。
最近はここに立ち寄っていなかったので
十六夜咲夜としては変化の形跡など自信を持てる情報根拠にかけるのだから。
- 815 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/12(金) 01:31:52
- >>814
「ふーん、あいつ推理小説が好きなのか…。
ホームズやらルパンやら…読んだのが随分昔でもう話覚えてないんだよなあ」
今度読み直してみるかな。
あと茶目っ気は程ほどに。とんでもないことになりかねないんだよ。
お互いにさ。
それにしても何であんなことやったのか…今でも少し後悔している。
「あ、いや、その…。
…まあ、どうせこんな高台に夜に来る人間は少ないんだ。
いずれ遇うことになるだろうさ。美味い物食べながら桜眺めてたいってのも…いや、確かにあるけど」
それは春を迎えてからのお楽しみってことで。
冬の寒さももうすぐ和らぐだろうさ。
「うーん、だけど…そもそもの問題としてここには敵勢力がいない。
演習にしたってこんな場所を選ぶのははっきり言って不自然だよ。
大体戦車が動かされたって言うなら俺達の耳に入らないはずが無いし…。
誰かが動かしたり盗んだりすればそれこそ新聞沙汰だな…」
サンディエゴで確かそんな事件があったっけか。
- 816 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/02/12(金) 01:47:27
- >>815
「ふふ、冗談よ。
でも機会があったらお弁当でもつくってはせ参じましょうか。
此花咲くや咲かざるや、咲くなら興の一つも乗って然るべきでしょうからね」
ならば咲くまで待とうホトトギス。
かつて春を集めて無理やりにでも桜を咲かせようとした事件があったわね。
花開く光景はかくも人にとって魅力的なものか。
個人的には生より死の瞬間の方が見ていて楽しいのだが。
「演習ねぇ……
ねぇ、シロー?
演習って言うのをやるとして、場所は兎も角、
動員するのは戦車二台で済むものなのかしら?」
戦車で決闘?
バカな。そんな冗談みたいな状況、そうそうあるとは思えない。
中世以前の戦争でもあるまいに。
- 817 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/12(金) 02:12:05
- >>816
「適度に知り合いでも誘ったら良いかもしれないな。
弁当は多人数で摘みあった方が美味い。特に花見だとかの席だとな」
上を見上げていまだ花を咲かせぬ木を見つめる。
どうやら桜は寒さが和らぎ、日照時間が伸びてきたら咲くようだ。
それまであとどれ程だろうか。
「んー…普通なら歩兵がついてくるはずなんだよ。
戦車単独での行動は自殺行為に等しいしなあ。
それに制空権の確保とかもしないといけないから航空機がビュンビュン飛ぶ。
…まあ、あとは狭いから2台だけ、じゃなくて2台しかこれなかったって言う可能性もあるけど」
と言うか、ここを制圧する意味が見出せないんだよ。
戦車にとって入り組んだ地形は大敵だし、高地のアドバンテージを生かすにしても
それならば砲兵でも配置しておけばいいんじゃないか。
- 818 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/02/12(金) 02:21:04
- >>817
「つまり、それらは目的ではなかった可能性が高い……ということね?
では目的は何かしら?」
当てる気など余り無いのだろう。
咲夜はのんびりとしたものだ。
作戦行動ではないのではないかという推測はそうかもしれないが……
「案外、観光しに来たのかもしれませんわよ?
戦車そのものが」
そんなはずもない推測を上げることからも確かなようだ。
まぁ、それはそうだろう。
そもそも前提になる情報が少なすぎる。
それに十六夜咲夜の推理は適当な事で有名だ。
伊達に天気異変の時にレミリアに命を受けたにもかかわらず、
片っ端から出会う相手を容疑者としてレミリアの元に連れて行っては居ない。
「それとも運命にでもひかれてきたのかしら?」
- 819 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/12(金) 02:36:40
- >>818
「目的が謎過ぎるんだよなあ…。
戦車の仕事と言えば要地の占領か敵戦車の撃破だけど…」
更なる思案を重ねようと舌先に出された咲夜の推理。
観光しに来た。
運命に引かれた。
ううむ…ありと言えばあり…なのかな?
「確かに吸血鬼が人型巨大兵器を壊すこのご時世だけどさあ…。
良いのか、戦車が人の心を持ったみたいに高台に上って景色を眺めるなんて」
改めて高台から町並みを見下ろした。
もう夜遅いためか明かりをつけた家は殆ど存在していない。
ただ雪がちらつき、平和な町並みが見えるだけである。
絶景ではないが悪くは無い。
ありきたりな日常がそこにあった。
…ん?ああ、戦車だし、な。もしかしたら。
「んー、そうかもな。案外そうかもしれない」
- 820 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/02/12(金) 02:47:06
- >>819
「ま、戦車にせよ、戦車に乗った人にせよ、
気分転換というのが一番怪しい可能性と見ましたわ」
だって、私がそうだから。
殺人鬼の気分転換になるのなら殺戮兵器の気分転換になってもおかしくもなかろう。
仮に作戦行動中だとしてもその目標が自分で無いなら同じこと。
なら、なるべく気に病まぬ答えだと思っておくに越した事は無い。
「さて、私も気分転換はこの辺にして仕事に戻るわね。
あまりサボっていると門番を叱ってもしまらないし」
シローに背をむけてひらひらと頭上で手を振る。
失礼ともとれる仕草だが、咲夜にしてみれば背を見せると言うのは
逆に警戒をしていないというポーズでもある。
つまり、信用の証みたいなものだ。
「それじゃ、またねシロー。
時と運命の交錯する頃、またお会いしましょう」
そうしてメイド長は夜の闇に消えて行ったのであった。
<退場>
- 821 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/02/12(金) 02:58:58
- >>820
「戦車ってさ、拠点の制圧とかにも使うわけだよ。
装甲に守られているから機関銃や小銃じゃあ歯が立たないんだ。
当然矢面に立たされるのは戦車の前面。歩兵が自分の砲撃や
味方の射撃に倒されていくのを最初に見るのも戦車」
気分転換ってのもありな線かもしれない。
戦車長ならば歩いてここにくれば良いだけだ。
ならばやっぱり望んだのは戦車だろうか。
「だからかもなあ。車庫を飛び出して日常を見たくなったのかもしれない。
こんなのんびりした町並みをさ」
冷たい風が雪をかき混ぜ、木の葉を揺らした。
戦いを虚しく、悲しいと思う心が殺戮兵器にも宿っていたのかもしれない。
人間はそれにも気付かずただ兵器として運用するだけなのに。
「まあまあ、無駄な行動とかってのは人間には欠かせないさ。
この無限軌道の跡はさっきので結論付いたと片付けよう」
俺も無事に工事が進んでいると確認できたのでこれにて失礼するとしよう。
「うん、それじゃあ咲夜」
竹馬の友にかけるような気楽な声で彼女を見送った。
俺も履帯の跡にガタガタ自転車を揺らしながら帰るとしようか。
【退場】
- 822 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/19(金) 23:46:00
<入場>
両手をひろげてふらふらと高台を駆ける少女がひとり。
その広げた両手はまっすぐに左右に伸ばされている。
聖者は十字架に磔にされましたとでも言うのか。
「ら〜らら〜♪」
月は厚い雲にかくれ、工事区画の影響か、今晩は街灯もその明かりはまばらだ。
そのうす暗さの恩恵を受け、彼女は闇もまとわずに上機嫌。
拍子の外れた唄を謳いながらベンチをみつけてそこに腰掛ける。
「おさんぽおさんぽ楽しいな〜」
彼女の名はルーミア。
宵闇の妖怪だ。
趣味は居眠りと散歩。
真夜中の遊行というわけである。
- 823 名前:M60A3:2010/02/19(金) 23:55:45
- 耳障りな駆動音。ぼんやりと路面を照らす赤い尾灯。
工事の下見に、再び高台を訪れる。
「おんや?」
はて?なーんか見慣れたような見慣れないような顔がいるなぁ……。
とりあえずライト切って暗視装置に切り替えるか。
【入場】
- 824 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/19(金) 23:56:51
「んー」
なにかを気にしているのか頭の上で手を握ったり開いたりしている。
そう、ちょうどリボンのあるところ。
決してリボンには触れずに、おさまりでも悪いのだろうか?
「さっきひっぱってもらったせいかなぁ?
なーんか緩んでるような気がするのだー」
もぞもぞと居心地悪そうに身をよじった。
でも彼女には触れない。
リボンは特殊な呪符で出来ているが故に妖怪には触れられない。
結果として彼女はもぞもぞすることしかできないのである。
- 825 名前:M60A3:2010/02/20(土) 00:04:12
- とりあえず丘を登り切る。
多少距離があるものの、ベンチに座る彼女の姿は、暗視装置越しにはっきり見える。
えーと、確か名前は……そうだ。
「ようルーミア。また夜中のお散歩か。今日は木にぶつかってないか?」
闇夜のしじまを割く……とは言い難いが、少々声を張り気味に喋る。
まぁ、今日は何も明かりを点けてないし。この間のように警戒される事も無いだろう。
- 826 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/20(土) 00:10:54
- >>825
「ん?」
声に気付いて頭の上から意識を移すとそこにはいつかの装甲戦闘車輌の姿があった。
当然ルーミアの知識に戦車などというものはない。
戦車といわれてルーミアが連想するのは馬に繋いで走らせる戦争用の二輪車。
つまり、チャリオットだ。
だからルーミアはその車をこう呼んだ。
「あ、こないだの車の妖怪なのかー?」
ひさしぶりー
と、手を振ってベンチから飛び降りるとぱたぱたと戦車に駆け寄る。
先日は近くで見たわけではない。
やはり物珍しいのであろう。
「木にぶつかるのなんていつものことだよ〜
いちいち気にしてたら日が昇っちゃうのだ〜」
- 827 名前:M60A3:2010/02/20(土) 00:22:12
- >>826
>「あ、こないだの車の妖怪なのかー?」
俺のサスペンションがトーションじゃなく、74式の様な油圧サスだったら片側に『コケ』て居ただろうな。
名前覚えてないんですかあんたは……。
って、あれ?この間の時名前……。
「久しぶり……って程かもう。ってか、車の妖怪って止してほしいなぁ。コレでも一応名前あるんだぜ。型番号だけど」
パタパタと駆け寄ってくる様が、以前駐屯地に来た犬の様でかわいらしい。
なるほど、こうして見ると普通の女の子だな。
>「木にぶつかるのなんていつものことだよ〜
> いちいち気にしてたら日が昇っちゃうのだ〜」
いつも……?
「あー。俺が言うのもなんだが……前。ちゃんと見ろよ?」
伊達にM1A2にお釜は掘ってないぜ!はっはっはっ!
- 828 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/20(土) 00:29:29
- >>827
「名前があるのかー?
どんな名前?クルマコとかなのかー?」
ぺたぺたと装甲をさわりながらきょろきょろと車体を見まわす。
頭に当たる部分を認識できないため、どこと目をあわせていいのかわからないのだ。
しまいには砲身を覗き込もうと背伸びし始める始末。
今、発射されたら簡単に頭が吹っ飛ぶだろう。
「前?前は見えないよ。
いつも闇をまとっているし、闇は真っ暗なんだもの。
闇の中ではなーんにも見えなくなるのだー」
なーんにも、でばっと両手をひろげる。
大仰な身振り。
そう、普段ルーミアは闇を周囲に展開して散歩する。
その闇は真の闇、光も炎も導にならない。
よって当然の帰結としてルーミアもなにひとつ見えない状態になり、
結果、木にぶちあたるのである。
森を散歩すれば木に当たる。
それはルーミアにとってはコーラを飲んだらゲップがでるくらい当たり前のことなのだった。
- 829 名前:M60A3:2010/02/20(土) 00:46:29
- >>828
>「名前があるのかー?
> どんな名前?クルマコとかなのかー?」
ソコで俺は重大な失態に気付いた。俺。前回名乗ってない……。
「いやー。そういう安直で覚えやすい名前ならよかったんだけどねぇ……」
ルーミアが車体をべたべた触りながら、砲身を覗き込もうとしたので、思わず仰角を取る。
いくら弾が入っていないとは言え、砲身を覗かれるのはあまり気分が良くない。
「そうか。俺、自己紹介してなかったんだな。俺はM60A3主力戦車。呼び難ければ『パットン』でいいぜ」
簡単に自己紹介をしておく。とは言え……。
「物珍しいのは判るけどさ。あんまりスキマに手を突っ込んだりするの、止めて貰えるか?下手すると指噛み千切っちまう」
申し訳ないんだがと付け加えながら、お願いしておく。今居るのが車体全面で、可動部が少ないからそういう心配は少ないが。
車体下に潜り込んでいて、気がつかずに轢いちゃったなんて洒落にならないしなぁ……。
>「前?前は見えないよ。
> いつも闇をまとっているし、闇は真っ暗なんだもの。
> 闇の中ではなーんにも見えなくなるのだー」
目隠し状態でいつも歩いてるんですか貴方は……。
「そういえば明かりが嫌いだったな。あのゴ……闇も不便なんだなぁ」
思わずしんみりとつぶやく。
暗視装置や熱分布カメラ。その他色々で闇を見通そうとする俺たちにとって、彼女の言動はカルチャーショック以外の何者でもなかった。
- 830 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/20(土) 00:55:59
- >>829
解せぬ。
そんな表情だった。
指を唇に当てて横に頭を傾ける。
ん〜と小さく唸って考え込む。
「呼びにくいからバットンって呼ぶね」
意外にも宵闇妖怪は賢明だった。
しかも、注意を受けても平然としている。
指を噛み千切られたら噛み返さないとなーなどと
冗談とも本気ともつかぬ事を言いながらのほほんと笑っているのだ。
幻想郷の妖怪は基本的に頑丈である。
四肢の欠損程度では死ぬことは無い。
いや、ヘタをすると上下まっぷたつになってもまだ生きていられるかもしれない程に頑丈だ。
幻想郷の妖怪は肉体より精神の方がプライオリティが高い。
つまり、妖怪が死ぬ時は体でなく精神が死ぬ時なのである。
>「そういえば明かりが嫌いだったな。あのゴ……闇も不便なんだなぁ」
「なんで不便なの?
闇の中に居れば太陽の光もさえぎれるし、夏でも涼しいんだよ〜?」
きょとんとまた頭をかしげる。
ルーミアにとって真っ暗な方が当たり前。感覚に明確なずれがあるのだろう。
それでも、冬は寒いけどなーと苦笑してはいるが。
- 831 名前:M60A3:2010/02/20(土) 01:19:51
- >>830
>「呼びにくいからバットンって呼ぶね」
……ち ょ っ と 待 て 。
「いやバットンって何さ?ソレなんて新種ゾイド?パットンだ。パットン」
思わず砲身を、ルーミアの頭上に振り下ろしそうになる。あまりの事に意味不明な事まで口走っていた。
些細な間違い……といえばソレまでだが、やはり訂正しないのは肖った人物に対して申し訳ないだろう。
しかしぺたぺたと飽きもせず触ってるな……。
「そんなに俺が珍しいか?正直、もう半世紀近く昔に作られたロートルなんだがな……」
そう言えば、彼女は自身を「妖怪」と表現していた。
妖怪と言えば、垢なめやサガリ。つるべ落としとかが思い浮かぶ。
やっぱり人に有らざる国の住人なんだろうか?
>「なんで不便なの?
> 闇の中に居れば太陽の光もさえぎれるし、夏でも涼しいんだよ〜?」
太陽の光が遮れると聞いて、思わず感想を漏らす。
「太陽光を遮断できるのは、サウジなんかに行った時はありがたい機能だなぁ。砂塵なんかも遮れるのか?」
昔の頃を想い出し、砂漠の嵐作戦の時は暑かったなぁ等と漏らす。
「ま、不便って言うのは俺たちの場合鼻が利かないからな。」
「頼れる情報は視覚と聴覚。つまり見たものと聞こえる物が全てだからさ」
得られる情報は少しでも多いほうがいいからね。と付け加える。
- 832 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/20(土) 01:34:34
- >>831
「え?パッドン?……ハッ!?殺気!?
う、うん、パットンね、パットン。
聞き間違えてないよ。言い間違えても無いよ」
なにかにおびえる様にあたりをきょろきょろと見回す妖怪少女。
なにか言ってはいけない間違い方でもしたのだろうか。
ともあれ、気を取り直してルーミアも改めて自己紹介で返す。
「私はルーミア。前にも言ったね。
ルーミアは闇を操る宵闇の妖怪なのだー」
ほら、こんな風に。
指差した木の根元から闇が吹き上がり、その姿を覆い隠す。
「砂を防ぐのは……できるけど、疲れるし美味しくないしなぁ……」
やるならこんな風に。
先ほど木を包んだ闇を再び指差すと闇の中から不穏な音が響きはじめた。
ガリッ……バキッ……
ほどなくしてルーミアが闇を消すと、そこにはボロボロに齧り尽くされた木の残骸が残っていた。
「砂って美味しくないからなー」
ルーミアは宵闇の妖怪だ。
それも人間にとってかなり危険な部類の妖怪だった。
「サウジってアラビアかー?
ずいぶん遠くまで狩りに行くのね。
近くには獲物がいないのかー?」
そんなことよりと、ルーミアは砲身に向かって語りかける。
先ほどまでの動きから、ソレを顔にあたるものと認識するに至ったらしい。
- 833 名前:M60A3:2010/02/20(土) 02:01:49
- >>832
>「え?パッドン?
ゾワリ
「!?」
驚いて辺りに銃塔を廻らす。明確な殺意。所謂殺気だ。
兵器ゆえにその手の気配は感じ取りやすい。ただソレはRPGを持った兵士の様に静かな物ではない。
むしろ復讐心に燃えるテロリストのような激しい物だった。
> う、うん、パットンね、パットン。
> 聞き間違えてないよ。言い間違えても無いよ」
辺りをきょろきょろと見回す少女と、銃塔をぐるぐる回す戦車。傍から見たらさぞかし滑稽な眺めだろう。
辺りを見つつも、ルーミアの自己紹介に礼を述べる。
「丁寧にありがとう。しかし妖怪っておとぎ話の妖怪……だよな?」
「親戚にかまいたちとか、ティンカーベルとかいるのかい?」
妖怪全てが親類縁者って訳ではないだろうが、そう聴いて見るのが一番近いような気がした。
>「砂って美味しくないからなー」
俺は自分の照準器を疑ったね。闇で木を覆ったかと思ったら、異音がして。次に姿を現したときには木が齧られているんだ物。
「へ……へぇ。そうなのか」
なるほど。コイツは人間業じゃねぇ……。
>「サウジってアラビアかー?
> ずいぶん遠くまで狩りに行くのね。
> 近くには獲物がいないのかー?」
「おう。良く知ってるな。昔あの辺りで戦争があってさ。」
砲塔を少し回して、ルーミアを照準する。
「まぁ、俺たちの獲物は取って喰うためじゃなく、国に勝利をもたらす為の狩り。つまり戦争だからな……」
ルーミアから、人が顔反らす様に砲塔を反らして、曇天に照準器を向ける。
「獲物と言っても、いっそあんたと人間ほど種族が違えば、まだ割り切りもつくんだろうけど」
「俺が未熟なのかな。同属殺しにゃまだ慣れないや」
笑いが乾く。きっと人間や妖怪なら、こういう時泣くのだろうか?
- 834 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/20(土) 02:14:03
- >>833
「御伽噺をつくるのも話すのも人間だよ。
人間が語り継ぐ理解できないナニカが妖怪。
そう言う意味じゃみんな仲間だし、仲間じゃないとも言えるのだー」
幼い容貌とは裏腹に冷めた口調で親戚を語る。
ルーミアは宵闇の妖怪。
一個一種族の一族を持たぬ妖怪。
只でさえ仲間意識の弱い妖怪の中においてもさらに意識は希薄だ。
友達は居るが、家族を感じたことは無い。
>「まぁ、俺たちの獲物は取って喰うためじゃなく、国に勝利をもたらす為の狩り。つまり戦争だからな……」
「ふぅん。まるで人間みたいね。
昔から不思議だったのだー。
なんで人間は食べもしないのに殺すんだろって。
死体をほったらかしにして勿体無いなぁって思ったこと、ない?
食べないなら狩らなくてもいいような気がするんだよね」
人喰いの妖怪はさも不思議そうに言った。
人間と妖怪、どちらがおかしいのだろうか。
些細なようでいて実に大きな問題であろう。
「人間につきあって戦争するなんてパットンも変わった妖怪なのかー」
- 835 名前:M60A3:2010/02/20(土) 02:30:56
- >>834
>「御伽噺をつくるのも話すのも人間だよ。
> 人間が語り継ぐ理解できないナニカが妖怪。
> そう言う意味じゃみんな仲間だし、仲間じゃないとも言えるのだー」
なるほど。人には人の物語が。鋼の獣には獣の物語が。
妖怪には、妖怪の物語がある。そしてそれぞれが混ざり溶け合う事は無いという訳か。
「なるほどな。他称をいつの間にか自称してたのか」
「悪かった。妖怪ってのは一部を除いて仲間同士って繋がりを大事にする物だと思ってたんでさ」
声音と言い方に、あまり軽々しく触れる事ではなかったと思い。砲身を下げて謝る。
> 死体をほったらかしにして勿体無いなぁって思ったこと、ない?
「勿体無いと思ったことは無いが……。片付けろよとは思ったことはあるな」
トラックの中で丸焦げになった死体。砲弾で細切れ肉のようになった死体。銃弾に眉間を貫かれて倒れている死体。
数多くの死体を見てきたけれども、勿体無いと思った事が無いのは事実だ。
>「食べないなら狩らなくてもいいような気がするんだよね」
「そうさな。ちょっと例え話をしよう。ルーミアは誰か嫌いな奴とか居るかい?」
少し質問をぶつけてみる。
人間と妖怪。考える事にどれほどの差があるのだろう。
価値観ですらアレだけ違うのだ。考える事だって大きく違うかもしれない。
「嫌いな奴が居ないなら、憎い奴とか……さ」
- 836 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/20(土) 02:40:00
- >>835
ぱたぱたと手を振る。
気にしなくても良いというジェスチュアなのだろう。
「中には仲間意識強い子もいるよ。
単にルーミアがそういうの面倒くさいってだけなんだなー」
そのルーミアでさえも幻想郷で起きた数少ない戦争に置いては、特定の陣営で戦う事もある。
とは言え、ルーミアにとっては戦争は狩りの延長に過ぎない。
獲物を選ぶだけ。
それ以上のなにかはないのだ。
>「そうさな。ちょっと例え話をしよう。ルーミアは誰か嫌いな奴とか居るかい?」
少し悩むように腕組みして考えた後。
相変わらずの不思議そうな顔でルーミアは口を開いた。
「言いたいことはなんとなく分かるんだけど……
スキとかキライとか憎いとか妬ましいとか。
そういうのって戦争しないと解決できないほどのものなのかー?」
人間は言ってる事とやってる事が裏腹すぎて時々悩ましいのだー
ひょいとパットンの砲塔の上に腰掛けると砲身の先を眺めながらそんなことを呟いた。
- 837 名前:M60A3:2010/02/20(土) 03:04:47
- >>836
>「中には仲間意識強い子もいるよ。
> 単にルーミアがそういうの面倒くさいってだけなんだなー」
「ありがとう。そうか。みんながみんな仲間意識が希薄な訳じゃないんだな」
大きく間違った事を言ったのかと思って、内心冷や汗物だったぜ。
「でも仲間や友達ってのは良いもんだよ。特に生死を共にしたトモダチってヤツは……」
>「言いたいことはなんとなく分かるんだけど……
> スキとかキライとか憎いとか妬ましいとか。
> そういうのって戦争しないと解決できないほどのものなのかー?」
「人間にとっては、隣人を嫌いになると同じ空気を吸うのも嫌になるそうだ」
身軽に砲塔の上に登ったルーミアに、昔聞いた話を聞かせてみる。
「あと、妖怪には興味無いかもしれないが資源や領土。ま、簡単に言えばお金やソレを生み出す物だな」
「そうした物を欲しがる、物欲から起こす戦争」
「好き嫌いで起こる戦争。他にも物の弾みで起こした戦争とかな」
最後のヤツはサッカー戦争が有名か。
「相手を殺したいほど強烈な憎悪が戦争を起こす。語弊が有るけどそんな所だな」
「もちろん。そうしなくても解決できる事はある」
「けど片方が話を全く聞かなかったり、言う事を全く聞かなかったり。ソレがエスカレートして戦争になるのさ」
巻き込まれる俺らはたまった物じゃないけどな。
「そして俺の場合。創造主である人間に忠を尽くしてるだけさ」
「同属である相手の戦車に、恨みも憎しみも欠片も無い」
「場合によっちゃ、その相手が親兄弟だって事もあるんだ」
けれどもと言葉をつなぐ。
「それでも戦うのは、人間が脆弱だからさ」
- 838 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/20(土) 03:15:33
- >>837
戦車の言葉にルーミアは過去を思う。
彼女の知る範囲で戦争を起こした妖怪は二人。
一人はスキマ妖怪、一人は吸血鬼。
前者が挑んだのは月の民、後者が挑んだのは幻想郷の妖怪たち。
彼女たちは憎しみで戦争を起こしたのだろうか?
それとも欲望で戦争を起こしたのだろうか?
「……ルーミアにはよくわかんないんだなー」
智慧熱でも出そうだ。
リボンで止めたあたりの頭がチリチリするような気がして思考を停止した。
「でも、妖怪も戦争起こすようなヤツはおんなじようなカンジなんだと思う。
じゃあ、人間と妖怪の違いって何なのかしら?
戦争をするやつとしないやつの違いって何なのかしら?」
そんなことを考えてたら頭いたくなりそうなのだー
笑ってルーミアは戦車から飛び降りた。
「親を子は選べないけど、子は一人でも生きていける。
それは人間も動物も妖怪も同じことでしょ?
なら、きっとキカイもおんなじなんじゃないかな。
パットンがやりたいことをして生きていける世の中になるといいのにね」
その瞬間。
ひどく大人びた表情で言葉を紡いだルーミアのリボンは、何故かほどけかかって見えた。
「じゃ、ルーミアはそろそろ帰るのだー。
まだ日の出までは時間はあるけど、帰りつく前にお日様が出てきたらいやだものね」
それじゃ、ばいばい。
また会う日まで。
宵闇の妖怪は何度も振り返って手を振りながらそうやって高台を立ち去っていったのであった。
<退場>
- 839 名前:M60A3:2010/02/20(土) 03:47:53
- >>838
>「……ルーミアにはよくわかんないんだなー」
「まぁ、そういう事は判らない方が幸せかもしれないな」
砲塔から飛び降りたルーミアに、砲塔を向ける。
彼女は笑っていた。屈託の無い、人の子供が見せる笑顔。
100年以上の時を生きると言う妖怪ですら、こんな顔をするのに……。
戦争をする奴、しない奴。人と妖怪。その違いはどれほどの物なのか。
いつも戦争を決めるのは政府の偉い人で、死ぬのは下っ端。敵味方にその違いがあるものか。とは……言えねぇよなぁ。
>「親を子は選べないけど、子は一人でも生きていける。
> それは人間も動物も妖怪も同じことでしょ?
> なら、きっとキカイもおんなじなんじゃないかな。
> パットンがやりたいことをして生きていける世の中になるといいのにね」
「そうだな……」
真剣なルーミアの瞳を見ながら、それだけ搾り出すのが精一杯だった。
子は1人でも生きていける。兵器が単独で生きることなど……出来るだろうか。
「おっと帰るか、じゃあな。仲のいい妖怪達によろしくとでも言っておいてくれ。おやすみ」
砲身を高々と挙げ、振り返り振り返り高台を降りていくルーミアを見送る。
願わくば、次に会う場所が戦場でない事を。俺の本当の姿を見られぬ様。
- 840 名前:M60A3:2010/02/21(日) 00:19:48
- 「さて。すっかり遅くなったが仕事を片付けておくか」
エンジンデッキに載せてあった杭を、砲身で上手く挟んで地面に立て。排土板で叩いて無理やり立てる。
排土版で叩かれるたびに、木杭が悲鳴のような音を立てるが気には留めない。
全ての杭を、高台の3分の1程度を遮るように立て終わると、頂点部分に『KEEP OUT』と書かれた粘着テープを張り巡らせる。
最後に立て看板を取り出し、同じ様に排土版で立てる。
『 CAUTION
本高台のご利用まことにありがとうございます。
このたび高台内に散乱する、ガレキ等の撤去工事を行います。
なお、期間中は工事区画への立ち入りを厳に禁じさせていただきます。
それ以外の区画につきましては、平常通りご利用いただけます。
ご利用の皆々様にはご迷惑をお掛けいたしますが、なにとぞご協力をお願いいたします。
工事期間:2月27日〜3月13日
施工者:California State army
施工内容:ガレキ撤去・植樹 』
「作戦完了っと……」
こういう地域環境への奉仕も必要だろう。
一つ大きくエンジンを吹かすと、土を削りながら信地旋回し、俺は高台をゆっくり降りる。
【退場】
- 841 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/27(土) 23:16:04
「うーん……」
ふらふらと宙を漂いながら現れたのはいつかの宵闇妖怪。
今日は闇を展開せずそのままの姿。
そのせいかまぶしそうに目の前で手を広げ、街灯の灯りを避けている。
ベンチに辿り着くと静かに腰掛ける。
以前と違い元気がないようだ。
それもそのはず、あちこち包帯を巻いて怪我だらけのようだ。
お腹が一番ひどいのか。
意識に、無意識にお腹を手でおさえている。
「おなかすいたのだー」
……別の理由だったかもしれない。
<入場>
- 842 名前:大空 みぎり ◆WAS/AhBOVI :2010/02/27(土) 23:44:21
- 『トレーニングウェアに身を包んだ一人の少女が、バッグを提げて歩いてくる。
ただ、彼女の周囲の空間が魚眼レンズのように歪んで見える。
……いや、違う。 彼女自身の縮尺が周囲のそれと比べて明らかにおかしいのだ。
対比物があるとよく分かる。 彼女は、少女というにはあまりに大きく、分厚く、そして大雑把に過ぎた。』
まぁー。 失礼ですねぇ。
『空気を読まずにナレーションにツッコミを入れるこの少女。
身長、公称190cm。 おそらく現在の身長はそれ以上であろう』
乙女の秘密を暴露しないで欲しいですぅ〜…。
- 843 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/27(土) 23:58:31
- >>842
声が聞こえて顔をあげた。
大柄な少女がのんびりと歩いてくる。
反射的に爪がうずいたが、ここは森じゃない。
そして今日は休業だ。
食べることができないんじゃ、そもそも人間を襲う理由が無い。
.|\ く|
 ̄ ,. '"´ ̄ ̄`"'' ヽ、/ヽ、__
こ / //`ー∠ ×
ん / , ヽ!_/ヽ> ×
ば i / i !__ ハ ハ-‐!- 「__rイ´',
ん ! i /´!/レ' レ,.-‐-、ハ |/ i
は レヘ/ i '⌒ ,,,, ! |. |
| | !7" ,-─ 、 | .|. |
.| 人 ! i .| | i |
レヘハ>.、.,___ ,.イヘ,/ヽ.ハ/
,.ィV二ヽ.
/7∞!::::::ハ
./ !:: ̄:::::/'´ !
/ !:::::::::::/ |
,くヽ、〉--:〈 .____.!
`し'/:::i::::::::!__ンヽ、
宵闇妖怪はとりあえず挨拶してみた。
- 844 名前:大空 みぎり ◆WAS/AhBOVI :2010/02/28(日) 00:15:43
- 「こんばんわ〜」
その女の子は、みぎりの体躯からすればずっと小さかった。
何やら、お腹が空いているような感じである。 が、みぎりにそんな空気が読めるはずもない。
「そういえば、貰い物がありましたねぇ〜」
間延びした口調で独り言を言うと、鞄からマスクメロンを取り出した。
そして、彼女は、それを、 割った。
まるで、剥いた温州みかんを二つに割るような気軽さで。
二つ、四つ、八つ。 こともなげにメロンを『引き裂く』と、もぐもぐと食べ始めた。
- 845 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/28(日) 00:21:34
- >>844
目の前で果物を割って食べだす少女。
ルーミアはぽかんとそれを眺めていた。
メロンなど見た事がないので興味津々である。
「人間にしては随分おおきなおやつなんだなー。
お姉さんは戦う人なのかー?」
ルーミアは愚かな妖怪とよく噂されるが、その噂とは裏腹に妙に鋭いところがある。
少女の体格、筋肉のつき方、歩き方から「なんとなく」察したのだ。
幻想郷の人里には妖怪退治屋もいる。
その中には武術を使うものも当然いるわけで、察する材料としては
そういった人々を見てきた経験と言うものもあった。
- 846 名前:大空 みぎり ◆WAS/AhBOVI :2010/02/28(日) 00:33:18
- >>845
「あら〜、欲しいんですか〜?」
そう言うと八つに裂いたメロンを一片差し出した。
普通の人にとっては大きなメロンも、彼女にとっては少し大きな林檎ぐらいの感覚である。
「え〜? そんなに大きくないです〜」
確かにその少女はよく見ていた。
みぎりの肉体は、全身がバネのような筋肉の塊である。 その体格と比してもなお並外れた怪力と、それに似つかわしくない
跳躍力とスピード。
圧倒的な破壊力で相手レスラーを破壊してきたみぎりには、『生物災害』…いつしかそんな二つ名がつけられていた。
「う〜ん、戦う人、なんですかねぇ〜。
本当はあんまり好きじゃないんですけど〜、それしかやることがなかったからそうなんですかねぇ〜」
眉を顰める辺り、あまりそういう風に言われるのは好まないようだ。
「でも、普通の女の子なんですよ〜」
- 847 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/28(日) 00:44:08
- >>846
「くれるのかー?ありがとー」
おなかがぶち抜かれてからちょうど一昼夜。
なんとか穴は再生しているが、機能は最低限しか働いていない。
そんなおなかでもこの甘い果物の果肉くらいなら受け付けそうだった。
「お、おいしい……はぁー幸せを噛み締めるのだー」
再生に妖力と体力を喰われておなかぺこぺこだった宵闇妖怪にとってはまさに至福。
ほっぺに両手をあてて余韻に浸る。
「んー?」
眉を顰める少女を怪訝そうに見上げる。
なにか変なことを言ったかと検証し、該当しそうな部分を絞り込んだ。
「戦うと普通じゃなくなるのかー?」
ぴんとこないので小首をかしげる
- 848 名前:大空 みぎり ◆WAS/AhBOVI :2010/02/28(日) 01:00:18
- >>848
「え〜、戦うのは普通の女の子の仕事じゃないんですよぉ〜」
プロレスという場に身を置きながら、みぎりはそれを本意としていない。
格闘技の出身者ではなく、本来の進路から放逐されてやむなくその身体能力を生かすためにこの道に入ったからだ。
「本当は殴ったり蹴ったりとかは好きじゃないんです〜…だって痛いじゃないですか〜。
痛いのが好きな人はいませんよ〜」
そう言いながらメロンをもぐもぐ食べている。
小柄な金髪の少女が一片を食べ終えたら、もう一片を渡す。
「それに〜…私と戦った人はすぐ壊れちゃうんです〜……」
何気に物騒なことを言う。
事実、みぎりは『クラッシャー』として業界では敬遠気味である。 彼女の攻めを受け切れるレスラーは数少ないからだ。
- 849 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/28(日) 01:08:38
- >>848
「多分それは違うんじゃないかなー」
メロンの汁のついた指をぺろりと舐めながらルーミアは呟く。
壊れてしまう云々のことは良くわからないが、
戦う事を日常としつつ、それをよしとしていないのは伝わってきた。
その上で、とは言え、これはただの推測でしかない。
だから多分。
「『戦わないのが普通』なんじゃなくて、
『おねーさんが望む状態が普通』みたいな感覚に聞こえるのだー
普通に戦ってる女の子はきっと居るんじゃない?
じゃ、おねーさんはどうして戦うのがキライなのにやめてないのだー?」
あまりに端的過ぎる質問。
頭を使わないから、思いつく点と気になる点を素直にあげるのだ。
これもルーミアが愚かだが鋭いといわれる理由のひとつ。
相手がそれを受けてどう思うか、そこがルーミアには想像が追いつかない
- 850 名前:大空 みぎり ◆WAS/AhBOVI :2010/02/28(日) 01:23:51
- >>849
「え〜と、他に行き場がないからなんですよね〜…」
悲しそうに言う。
みぎりの容姿は端正だが、190cm超の巨体とあり余る怪力は、普通の社会では『異形』の部類に入るのだ。
そして、異形の存在の行き場所は、非日常にしかない。
「それに〜、お仕事しないとごはんが食べられないじゃないですか〜」
その通りである。
この身体を維持するには、常人より遥かにお金がかかる。
食べる物だけでも普通の少女の数倍、着る物もすべてメンズかオーダーである。
だから手取りのいいこの仕事しか選択肢がなかった。
「いつまでもお父さんお母さんに面倒はかけられませんし〜」
- 851 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/28(日) 01:32:49
- >>850
「じゃあ、おねーさんは他に行き場があったらすぐ戦うのをやめるのかー?」
今そこで戦ってる理由は本当にそれだけなの?
まるでそんなことを訪ねているかのようなルーミアの瞳。
もっとも、本人はそこまで深い事を考えていないだろうが。
「ルーミアは普通じゃなくても楽しそうに生きてる人間をたくさん見てきたよ?
妖怪退治屋さんの中には女の人もいたし、普通の仕事ができないからって人もいた。
でも、戦うのをやめなかったなー。
なんかさ、笑顔のために戦うとか言ってたのだー」
それ以上は言わない。
だって、その人々は結局……この宵闇妖怪が喰ったのだから。
- 852 名前:大空 みぎり ◆WAS/AhBOVI :2010/02/28(日) 01:45:53
- >>851
「ん〜……
そうですね〜、止めるんじゃないですかね〜。
今はまだ、このお仕事を続ける理由が見つからないですし〜」
少し首を捻ると、そう答えた。
ファンのため、とかこの仕事が楽しいから、というのは今の彼女にはなかった。
「…誰かの笑顔のためとか、よく分からないんですよねぇ〜」
プロ意識の欠如。 他のレスラーからしてみればそう映るだろう。
なまじ圧倒的な力を持ち過ぎた故の陥穽。 持ち前の空気の読めなさは、つまり他者への関心の薄さや思いやりの欠如でもある。
『何やってるのみぎりちゃん〜!』
どうやら、他の選手が探しに来たらしい。
「それじゃあ、行きますね〜」
そう言って呼ばれた方へ、急ぐでもなくのんびり歩いていく。
この大器が、『空気を読める』ようになって真の意味で開花するのはまだ先の話だった。
【退場】
- 853 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/28(日) 01:54:11
- >>852
「そーなのかー
仕事に困ったら幻想郷に来るといいよ。
人里じゃ体力ある人は重宝されるって里長が言ってたのだー」
首をかしげる少女に微笑みながらルーミアは言う。
退治屋にはならない方がいいよ。
とまではさすがに言わなかったが。
「うん、果物ありがとー。
好きになれるような出来事があるといいね」
手を振って見送る。
キライより、スキの方がいい。
それは食べ物でも人でも仕事でも、何だってそうだ。
「……そー言えば、怖いだけだったはずの幽香が今はなんでかあんまり怖くないなー」
いや、正確ではない。
怖いことは怖い。
しかし、なぜか近づきたくなる感覚が胸のうちのどこかにあるのだ。
前までは離れることばかり考えていたはずなのに。
その原因をルーミアは思い出せない。
思い出せないなら、まぁ、いいや。
そんな風に結論付ける。
もうあの戦う少女の姿は見えなくなっていた。
- 854 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/02/28(日) 02:16:48
「よいしょ……いてて」
ベンチから重い腰をあげる。
まだ治り切っていないお腹が痛む。
さっきのくだものにがっついて活動しているのだろうか?
そう言えば幽香はもうだいぶなおっているみたいだった。
一日で治っちゃうとか、幽香とか門番とかみんな頑丈だなぁ。
ふわりと浮き上がり、来た道を戻る。
そう言えば、なんで幽香はケガしてたんだろう?
覚えてないけど、ルーミアといっしょに居るときに二人とも何かに襲われたのであろうか?
まさか元凶が自分だなどとは思いもよらないルーミアは、
首をかしげながら真夜中の高台を後にして帰っていった。
<退場>
- 855 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/05(金) 00:18:52
- 「うーん…そうか、もう3月なんだよな」
立て札の前で最近かなり降雪量が減ったことに納得した。
空を見上げれば曇り空で高台に備え付けてある(どうやら新しく増設したらしい)電灯だけが
周りを照らし出している。
立入禁止区の植林状況を見ればすぐに元のようになるだろう事が容易に想像できた。
いまだ寒々しい空気があるが、この場は殺風景でなくなったことで幾許かの
温かみが戻ろうとしている。
「よいしょっと…ふう、このベンチは相変わらずだな」
周りと違って年配であろう木のベンチに座り、外套のポケットから
缶コーヒーを取り出した。
温かみが未だに手に心地よい。
俺はのんびりと、コーヒーをすすりながらこの高台の未来図について
思いを馳せる事にした。
- 856 名前:不確定名:暗闇 ◆Dark.ociCM :2010/03/05(金) 00:34:19
- ふつ……ふつ……
遠くからから順に光が消える。
街灯が順番に消えていく。
不自然に灯りが闇に呑まれていく。
あたりの光量が下がったような気がするのは街灯が消えたせいだけだろうか?
いつしか増設された電灯までもが不自然に消えた。
まるで夜に溶けてしまったかのように。
周囲は闇に包まれつつあった。
- 857 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/05(金) 00:47:44
- >>856
「ん…故障か?作ったばっかりなのに」
急に暗くなったり明るくなったり、もしかして点滅している?
そう思い顔を上げるとそこには超常現象が。
順々に電灯が消えていく。点滅なんてもんじゃない。
いや、故障でもない。電灯が消えたのではなく、電灯が消えたんだ。
闇に包まれて、消えた。
「っ!?」
急激に暗くなるこの現象にただならぬ寒気を感じた。
こういうときばかり勘が冴える。危険だ。
危険な何者かがいる。
利き手はショルダーに手が伸び、もう片手は外套の中の
銀の短剣へ。
意識を鋭く張り巡らし、臨戦態勢をとる。
さあて、鬼が出るか蛇が出るか…少なくともウサギじゃあ無さそうだ。
- 858 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/03/05(金) 00:50:10
- 深まる闇の中。
……染み出すように背後で声が聞こえた。
も 話
__ /~) 食 あ ら は
_. ´ ` 丶{_/ ハヽ い べ な っ 聞
/ \ {:::;X:::::} } い て た た か
' / / ヽ _',_\ ヾー' 人 も が わ せ
/ /__/ヽ '!´ _} ` ヽ \ 類 て
/ / /´{ハ{ ヽj f::;;::,i ハ ヽ ね
/'´{ / f::::;;:, 弋;;ノレ′i } } ?
Vヽ{ 代;;:ノ__ -‐ 、"/{_. -リ-リ、 _ -- 、
/ ヘヽ、!>'"{、 ,! '´ ;: } , イ'´ ヽ
――{ { !} }――‐ ∠._ / ノ―‐´‐┴―{ ヽ―――
`^¨´ ´ ,. -‐'′、ヽ / ヽー---ヘ
└/ }┴ ''´ ヽ f'´ \
し{ i } J {`¨¨`ヽ._ノヽ
`^´ ヽ ト_┬ 、 ノ
ノ-、 ` ー‐´
'⌒
<入場>
- 859 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/05(金) 01:00:19
- >>858
ドクン
「…………ハア…」
ドクン
暗い。次からは暗視ゴーグルも携帯するべきか?
後はフラッシュバンも欲しいな。街中そんなの持って歩きたくは
ないんだけど。
ドクン
「……ハア…ハア……」
息だけが無駄に荒くなる。
汗が額を伝う。周囲は本当に真っ暗だ。
視覚に頼ってはいけない。聴覚と嗅覚と勘が残っている。
ドクン
どこだ…どこにいる…どこから来る…
ドク話は聞k
声が聞こえた瞬間俺は後ろ足でベンチを蹴り飛ばした。
次いで前方へと駆け出し、ホルスターから銃を、シースから銀のナイフを取り出す。
振り向き、声をかけた。
「…生憎ながら食えない男、何だよ」
小隊の連中や咲夜が聞いたら爆笑しそうだな、これ。
- 860 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/03/05(金) 01:04:30
- >>859
ベンチを蹴り飛ばして声から距離をとり構える男性。
ベンチのうしろからその男性に近づこうとしたルーミアは……
「オウフ」
. __
ノゝ [P]
ξ, -──-´ン、 , ´  ̄
# , ヽ ノ
ノ ルレ_,,iノ 〜[B]
/ゝ ─、_(_ノ_ ノ/_ノ ━(
, , ⌒、─ゝ ヽi i`/  ̄ ̄ ̄ ヽ 、 ピチューン
(_(_ ノ___ノ __ ノ_____ゝ ____i ヽ
ピチュった。
- 861 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/05(金) 01:16:41
- >>860
「…………」
えー…いや、これは無いだろ。
なんか俺が悪いみたいじゃないか。
暗闇が晴れてみたらそこには鼠一匹、いや少女一人。
侮れないのは判るけど幾らなんでもなー。
「むう…」
どうせ銃は聞かないだろうしホルスターに仕舞い直す。
銀の刃を利き腕に持ち替え、警戒しながらベンチの下敷きになった少女に声をかける。
「おーい、大丈夫かー?」
- 862 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/03/05(金) 01:24:59
- >>861
「うーん……ベンチの角が脳天直撃せがさたーんなのだー」
よほど当たり所が悪かったのだろう。
ふらふらと頭をまわしながら、なんとか上体を起こすものの
まだ衝撃がぬけていなかいのか座り込んだままだ。
「うおっ、まぶしーのだー」
電灯の明かりから目をかくすように手をかかげる。
そうしてようやく、男性を見上げた。
「……あれ、なんだ食べれない人類だったのか。
なーんだ、せっかく久しぶりの狩りだと思ったのにー」
ちらりと男性が手に持ったナイフを見やると、落胆したように息をついた。
見覚えがあるナイフだ。
見たことは無いが、この男も紅魔館の関係者なんだろう。
じゃダメだ。
食べると後でなんか言われて面倒な事になる。
- 863 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/05(金) 01:42:02
- >>862
土星さんが頭上を回っているようだ。ぽえーん。
頭を抑えているが、随分と痛そうである。
まあでも、とりあえず襲う気をなくしてくれたのは良しとしよう。
ナイフを見てから反応が変わったので、おそらく咲夜の知り合いか何かか。
まあ、これ以上は威嚇する必要性も無いだろうしまたコートの中に仕舞っておこう。
「角?あー、そりゃ痛いわな。ちょっと見せてみろよ」
セミロングの金髪をどけて打ったらしい所を調べてみる。
あー、たんこぶ出来てる。痛いに決まってるな。
「…ちょっと待て、冷やした方が直りが早い」
常備してよかったミネラルウォーター。
備えあれば憂い無しというが、正にそれが発揮される時だな。
ハンカチに水をしみこませてこぶに当てる。
「軽く抑えとけ。暫くはあんまり動こうとはするなよ?」
- 864 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/03/05(金) 01:49:33
- >>863
「うん……」
言われるままに頭を押さえようとしてリボンに触れそうになってしまい、
静電気にでもあたったかのように手が弾かれる。
しかし、痛ッと軽く声をあげつつも、いつものことなのか、
気にした様子も無くハンカチに手をあてなおした。
「やっぱりまだ本調子じゃないのかなー
今晩はけっこー上手く真っ暗に出来たかと思ったのに。
おにーさんは夜の散歩なのかー?」
- 865 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/05(金) 02:05:55
- >>864
リボン…なのか、これ?
髪を掻き揚げるときにちょっと触れたけどなんとも無かったけどなあ。
ちょっと気になるが…まあ、本人の問題っぽいし放っておくことにしよう。
「俺?俺はそうだな…ここの高台の様子を見にきたんだよ。
もうすぐ春だし、桜も咲き始める季節かなって思って」
まだ寒いけどな、と苦笑いにしがら付け加える。
春の到来はまだもう少し先のようだ。
だんだんと暖かくなってきたから期待も同時に高まっていた。
「さっき、周囲を暗くしたのはお前の…あー…能力?そんな何かなのか?」
本調子じゃないってことは更に暗く出来るというのか。
まあしかし、例え暗くなったとしても声まで闇に紛らせることなんて出来ない。
とっさの判断でベンチを蹴飛ばしたらこの子にタンコブ作ることになったけど。
- 866 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/03/05(金) 02:12:01
- >>865
「そうだよー、ルーミアはこわいこわーい宵闇の妖怪なのだー」
大きく手を広げてわはーと笑う。
足元から闇が噴出しルーミアを包み込む。
街灯の照らす光の下、黒い球体としか表現のしようのないものがそこにあった。
はっきり言って目立つ。
「小さい春小さい春小さい春みーつけたーなのかー?
春がきたら妖精が飛んでくるんだよねー」
そして冬はさようなら。
綺麗な花が咲く季節。
- 867 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/05(金) 02:26:30
- >>866
「…そうかい。やっぱり妖怪なのか…。
俺、シロー・アマダは物好きなただの軍人なんだけどなあ」
本当にこういったのと縁があるようになってしまった。
そのうち常識が捨てられて
\ /
● ●
" ▽ "
こっち見んな、緑髪のシャーマン。
とにかく、常識は保つとしてもそのうち妖怪化とかしないだろうか。
吸血鬼少女に血をやった後はもしかしたらとか思ったけど
別にそんなことは無かった。
スパイダーマン見たいな展開を期待したがミケルの昼食のトレイに
手を伸ばしても何も起こらなかった。
「妖精使いなら知り合いにいるが生憎見えないんだよ。大人なせいかな。
…いや、別の知り合いには見える妖精も確かにいるけど」
そういや最初、音を消して俺を後ろから海に突き落とそうとしてたっけなー。
- 868 名前:ルーミア ◆Dark.ociCM :2010/03/05(金) 03:21:48
- >>867
「あはは。妖怪に妖精かー
つまりアレだね、類は友を呼ぶんだなー。
そして友、遠方より来るなのだー」
ふよふよと宙に浮いた黒い球体の中でルーミアが笑う。
「まぁ、人間捨てるのなんていいことないと思うよ。
みんな自分らしく生きていくのが一番だと思うのだー」
そいじゃ、食べれない人類しか居ないし、そろそろ帰るね。
またいつかどこかで……
そうして宵闇妖怪は闇に消えていったのである。
<退場>
- 869 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/05(金) 03:30:27
- >>869
「マジかよ…そのうち飛べるようになるってか?」
アイキャンフライとな。
コロニーの中なら一応飛べるって言うか浮くって言うかなんていうか。
地球なら絶対に航空機の力を頼らないといけないんだけどな。
しかしこの球体に包まれていたら表情が見えないな…。
「判ってるよ。人間は人間らしく生を全うするのが一番さ。
…ああ、判ってるよ」
永遠の命だとかそういうのはろくでもないって話は多い。
自分だけが取り残されるというのはどういう気分なのか。
そんな友人は進んで語りたがらない。
「じゃあな。しっかりこぶは直せよー?」
作った原因が言うのもなんだけどな。
…さて、俺も帰るとしよう。桜はまた春も深まってから。
【退場】
- 870 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2010/03/06(土) 23:11:53
「冬来たりなば春遠からじ。
ま、当たり前のことなんだけど、時の歩みは順調そうでなによりってとこかな」
高台へ続く坂を歩きながら長い紅髪をなびかせて長身の女性が歩いていた。
手の甲に触れた小さな雪の粒から随分と弱くなってきた寒気を感じて天を見上げる。
曇天。
雪は本当にちらつく程度。
もう冬も終わりなのだろう。
入り口の看板には春まで解放などと大雑把な事が書かれていたが、
ここもあと幾晩の間、立ち入れるものなのだろうか。
もっとも滅多に休暇などない自分にはそれがあと何日でも同じ事だが。
「まぁ、こういう気分の日もあるよね」
その晩、高台には紅魔館の門を守る正体不明の妖怪、紅美鈴の姿があった。
<入場>
- 871 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2010/03/06(土) 23:20:59
坂の途中。
崖の上、ちょうど高台から眼下を一望できる場所で
柵のポールに飛び乗って景色を眺める。
遠くに見える街の灯りはとても美しく、
まるで天ではなく地に星が住み替えてしまったかのようだ。
「あ、いやいや、そいつは縁起が悪かったか」
地の星と自分で言っておいて過日の地の下の星を象徴とする凶神の一件を思い出して苦笑する。
しかし、綺羅綺羅と輝きが目に染みる。
これにくらべえば昔見た街の灯など貧弱にも程がある。
外の世界は発達したと頭では理解しているつもりだったが、
その差を直接に目で実感したように思い、少し感慨深かった。
「……しかし、少し光が強すぎるようにも思うなぁ」
もっと謙虚な光でも良くはないだろうか?
余計なお世話か。
人間はいつだって好き勝手生きてきた。そして好き勝手生きていくだろう。
好き勝手生きている象徴とも言える妖怪がしたり顔で何か言うのも滑稽だ。
苦笑はそのままに、暫し風景に見とれていた。
- 872 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2010/03/06(土) 23:29:34
ポールから飛び降り、ふわりと音も無く地に降り立つ。
景色は綺麗だが、帰りにでも見れるもの。
夢中になることもない。
再び紅美鈴は歩き出した。
「お嬢様が弄繰り回したと咲夜さんからは聞いたけど、思ったほどいじってないみたいね。
珍しい、よほどお気に召したのかしら」
周囲の気脈を探りながら呟く。
魔力をもって変形を起こす場合、気脈と地脈には大きな影響が出る。
例えば砂場につくったままごとの川を人の手で流れを変えるように。
いびつな痕跡が残るものだ。
たしかに一度乱された気配は感じる。
しかし、大雑把でいい加減な主の業としてはあまりに綺麗なものだ。
おそらく乱されたのは最初の破壊と修復の折のものだろう。
お嬢様はあれでほとんどここには手を加えなかったに違いない。
「ま、運命の操作云々のあたりはいまだによくわかんないんですけどね」
まぁ、嘘でもないのだろう。
殺しあった相手の自分がこうやってのほほんと配下に加わって門を守っているのだ。
それが運命の所作だと言うなら納得のひとつもできよう。
- 873 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2010/03/06(土) 23:40:20
「お、あったあった」
お目当てのものを見つけ出して思わず口にする。
そう言えば門番をするようになってから独り言が増えたような気がする。
まぁ、誰が困るわけでもないわけだし、構わないのだが。
のんびりとベンチに歩み寄り、ぽんぽんとその座をはたく。
これは意外、余り濡れていないようだ。
懐から取り出した布を敷いて腰掛けた。
「出来すぎよねぇ、こんなベンチがここの地脈の中心点だなんて」
そう、ここがこの場所の肝とも言える場所だった。
おそらく意識無意識でこのベンチには人が集っていたことだろう。
そう言う場所にツボはできやすい。
いや、ツボだからこそ惹きつけられるのだ。
静かに息をつくと目を閉じて精神を集中する。
すると紅美鈴の全身がほのかに光を放ち始めたではないか。
そう、地脈からわずかずつ気を汲み上げ、自らの中に導いているのだ。
先日、門前で起こった事件。
いまだに夢か現か判別のつかぬそれだが、ひとつ確実なことがあった。
そこで自分は蓄積していた気を随分と放出してしまっていたのだ。
あれが現実だったからこそ消耗したのか。
それとも精神攻撃を受けたために消耗したのか。
理由は分からない。
結局、痕跡は自分の不自然な傷と失った気だけだったのだから。
「ま、楽しい夢ではあったけれど〜」
目を閉じたままくすくすと笑った。
楽しい理由はひどく剣呑なものであったが。
- 874 名前:妖怪仙人“奎 白霞” ◆8lHAKUKADg :2010/03/06(土) 23:54:52
- それは白い霞のように這い寄るのだ。小雪が舞ったらまるで吹雪いているように見えてしまうのだが。
水に定まった形などないように、始めからこの戦跡に存在していたかのように。
仙道の果ての妖怪はそこにいた。折角の悪戯にあんな悪戯をされ返されたのだ。
黙っていられる性分でもないのだ。千の時など、とうに越えた私が一番知っている。
「………久しー、とゆーべきか?それとも、始めましてってゆーべきかな?」
随分と屈折した挨拶で、随分と屈折した場所に立つ。
ここは結界の揺らぎなんかではとてもとても語れない特異点。
─────だから、こんな夢の続きもたまには起こりえる。
<入場>
- 875 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2010/03/07(日) 00:03:15
- >>874
笑みが凍りついた。
いましがた思い起こして霞のかかった記憶を反芻していたらこれだよ!
ぼんやりと聞き覚えのある声で、
ぼんやりと馴染みのある独特の口調で、
ぼんやりと感じた記憶のある希薄な気質を伴って、
閉じたまぶたの向こうに誰か立っているようだ。
「うわー、目もあけたくねーよーな。
歓喜の叫びで続きを始めてしまいたいよーな……」
あんまりな台詞が飛び出す。
軽口はこっちも同様に相変わらず。
真面目なんだか不真面目なんだかわからないとよくメイド長に叱られます。
「おかしいなぁ、居眠りはしてないつもりだったんだけど……
今晩は、未不知名的白霞娘」
気を汲み上げるのをやめて、溜息混じりに目を開けて、そして苦笑した。
やはり、眼に映るは覚えのある顔だった。
- 876 名前:妖怪仙人“奎 白霞” ◆8lHAKUKADg :2010/03/07(日) 00:17:39
- >>875
地に龍の脈が走る。なるほど、廃墟としてみれば不可思議なことも古跡としてみれば合点がいく。
これだけの気があれば、廃墟と化したとしても修復は可能だ。誰がやった知らないけれど。
─────知りたくもないけれどね?そんな運命。
でなければ、この場所はもっと酷い有様を晒していただろう。
だからか、この場所は先にも言った通り特異点。
故に、結界突破だとかこまかいことはどうでもいいんだ。よね?
重ならない平行が交わることも、時には起こりえるのだ。
「─────目を開けたくないのかー?だけど、目を開けないと、さ。
再び悪夢へ真っ逆さまだよ?いひひひひー!」
我ながら嫌な性格だとは認識してるんだけどね?これでも。それでも。
だけど。うん、だから。これまで辛口の皮肉で挨拶を交わすのだ。対面するのは初めてなのに。
「まー。今日は続きをする気はないから、安心して残念がって?
挨拶ぐらいは済ませておこうと思ってさー。なー、紅の館の門番さん?」
名前は己の在り方なのだ。私の場合は特に。不吉をこの身で体現すると言う大仰な誇大広告。
だから、意外と当てられると癪に障るというか。あえて答えない当たり、意外と私も分かり易いね?
地に眠る龍の目蓋が静かに動く。獲物を食いちぎる顎を小さく揺らしてあくびを一つ。
そして、再び眠りについたのを確認して、門番が警戒を解いたのを察知した。
- 877 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2010/03/07(日) 00:29:14
- >>876
ずだん。
震脚が生み出した音が高台に響き渡った。
ベンチが一瞬宙に浮き上がる。
そしてその衝撃が生み出した爆発的な反動に乗って門番の姿がぶれる。
座っていたはずの紅美鈴は3歩ほどすっとばして仙の目前に瞬間的に移動。
胸元で小さくまとめた両手はそのまま込められた気と共に仙に吸い込まれ……
……るかに見えたその瞬間。
紅美鈴の両手は妖怪仙人の右手をとって勝手に握手の形をつくっていた。
「初めまして師叔、私は美鈴、紅美鈴です。
いつかのように戦うには時も場所も悪いけれど、再び会えた幸運に感謝を」
ニコニコ笑って手をぶんぶん。
始めましてなのに再び会えたなどとおかしいにも程があるが、
彼女は今「続きをする気は」と発言した。
すなわちあれが嘘でなかった事の証明と、初対面でない証。
先ほどまでは確証がなかったため、先方がこちらを知らないなどという可能性を鑑み、
言葉を選んでいたが、もう確信は得られた。
コレはあの仙人、本人に間違いない。
だからって縮地で距離をつめなくてもいいだろうとつっこまれれば返す言葉も無いが、
無意識にでてしまったのだから仕方が無い。
どうやら、彼女のことは気に入ってしまったようなのだから。
まさに夢見るようにね。
- 878 名前:妖怪仙人“奎 白霞” ◆8lHAKUKADg :2010/03/07(日) 00:47:38
- >>877
震脚一閃。地を縮めると書いて縮地の極意。けどさ、意外と趣が粗雑だよ?
どうせ、同じ事をやるのならこうだ。優雅に次元を曲げて、軽やかに跳べ。
瞬間で後ろに回り、それから跳躍。そのまま空に逆さで留まる。何故か重力に逆らうチャイナドレス。
ああ、これぐらいの奇々怪々さを持って妖であり怪であり仙であるのだ。と、笑う。
「─────拝師を与えたつもりはないんだけどな?ふーん、美鈴ねー?覚えといてやるー!
夢とはいえ面白いもの見せて貰った。そこは素直に礼を呉れてやるー。
そーだ。私の敗北宣言は受け取ってもらえた?」
屈託のないの笑顔で握手に応える。私は今さかさまだけど。気持ちはさかさまじゃないんだよ?
いや、それでも、しかし。見た目って大事だよね?この見た目はこういうときに本当に便利だ。
手を取られて振られるもので宙をぶんぶん。いや、わかってて乗ってるんだけど。
「夢とは言えど。負けを喫した以上、次は本気。本気で殺るからな?」
いつになるかはわからないけど、なーんてつまらないことはぶんぶんと回るこの虚空に投げ捨てよう。
しかし、幸運ねえ?まあ、確かに幸運の星は私にいつでも隠されてるから紙一重のところにあるんだけど。
- 879 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2010/03/07(日) 01:02:46
- >>878
逆さまになったのは意地か、それとも照れ隠しか。
笑顔で握手に答えつつも相変わらずの毒を吐き続ける仙人に苦笑する。
「敗北ねぇ……さて、どうだったやら。
夢のことは霞がかかったようにぼんやりとしか覚えてないんですよ」
挑戦的な視線で応える。
だから、いずれそのあたりしっかり確認できるといい。
そういうことにしておこうと思った。
霧のような気質をもっているくせに意外とはっきりさせるのに拘るものだ。
美鈴にしてみればそのへんはどうでもいい。
勝ち負けなんてのは第三者が考えることだ。
試合なら兎も角、あれは死合のつもりだった。
どっちかが死んだら、生きてるほうが勝者。
そのくらいに思っている。
むしろ、遊びでした。次は本気でいきますなんて言葉。
そっちの方が気に喰わない。
だから意地悪を言いたくなった。
「おや、買い被られたもんですねぇ。
紅魔館の全てを味わいつくすなーんて言ったのに、
門番程度で本気になってちゃあ先が思いやられましてよ?」
握手した手を離して人差し指で額をつん。
あ、いけね、つい。
先ほどの握手にあわせてぶんぶんと宙をゆれる仙を見てちょっと可愛らしく感じてしまった。
- 880 名前:妖怪仙人“奎 白霞” ◆8lHAKUKADg :2010/03/07(日) 01:14:56
- >>879
近いは遠く。遠くは近い。この世は不条理と矛盾で出来てたりする。
だから、言ってることが食い違ってても気にしたら負け。そうゆうふうに回ってる。
「呵々!霞が掛かって見えないのだとしたら、私の在り方も大した物だねー?
せっかく、ズルを認めて反則負けを分かり易く体現してやったのにー。」
ああ。なるほど。私はあの最後の悪戯は意外と傑作だったからそれにこだわってたんだ。
だから、ここまでこだわってる。垂らした針に掛からぬ魚が憎いかのように。
だって、最初からズルをして。最後ぐらいはまじめに意地悪したんだから。もっと顔を歪めろ。
次に死合うなら前よりもっと楽しもうね?って言うせっかくのお誘いなのにさー。
つくづく姑娘だとは思うけど。永遠を生きるならそれぐらいでちょうど良い。………良いんだって。
「そーだなー。確かに。そこで本気を出していたら先が知れるねー?
でもさ?それは貴様の尺度で、私の先なんて見せてつもりもないんだけどなー。いひひひひー!」
つん。と突かれて。宙をくるくる。そのまますとんと着地。少しは楽しめただろと笑いながら。
果てのない霞に隠れたその先に、さてはて私なんて存在、存在するのでしょうか、存在したのでしょうか?
- 881 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2010/03/07(日) 01:31:15
- >>880
予想通りの答えがかえってきた。
相変わらずはお互い様。
「いえいえ、底を見透かそうだなんてしませんよ。
言いませんでしたっけ?
私はね、こまけーことはどーでもいいんです。
だから婉曲も皮肉も棚の上にほい。
要は、楽しく遊びましょうってことなんでしょう?」
肩をすくめて数歩を戻り、よいしょとベンチに腰を下ろしなおす。
あんたがそういう人だってのに気付くのに随分かかっちゃいましたけどね
そう、気質から少しずつ分かってきてはいた。
でも分からないフリ。
本質の有無が不明だからこその霞。
それが彼女の強さであり、逆鱗でもあるのだろう。
だから触れない。
こういうのなんて言うんでしたっけ。
シュレディンガーの犬?
「ま、私としちゃ相性的には辛い相手でしたねぇ。
お互い隠し札を何枚か見せちゃったので次回はこっちは困ったもんですよ。
どうやって盛り上げたものか。
新たな宴会芸の練習でもしなくちゃいけないかしら〜」
にこにこ笑ってあけすけに語る。
死合と試合は美鈴にとって明確に違いがある。
しかし、だからと言って美鈴自身が変わるわけではない。
死闘の後で平然と悪魔に仕える程。
美鈴は基本的にこういう妖怪なのであった。
まぁ、幻想郷そのものをどうにかしようなんて動きに出たらそうも言ってられなくなるが。
- 882 名前:妖怪仙人“奎 白霞” ◆8lHAKUKADg :2010/03/07(日) 01:51:49
- >>881
さてはて、行く先は大きく分けて2つあって。どちらに進むかなんて私にすらわからない。
だからその先の分岐点なんかわかるつもりもないし、そこまで悪戯しないだろう?運命ってヤツは。
「そーゆーことー。私も策を練ってるとき以外は細かいこと気にしない主義だしねー?」
その策が転がって転がってどこへ行くかわからなくなったとき無理矢理まとめ上げるだけなんだけども。
それでも策士だ。策を弄してこの掌上で弄ぶ。我こそが不吉の体現。不吉の権現。
「ズル自体が最大の隠し札だったことは否めないんだけどね?最後にゃ気付かれちゃったみたいだし。」
実験で使ったとは言え、気付かれてしまってはすでにあの札は白紙同然。二度は使えそうにない。
「だから。次はもっと凄いの魅せてやる!楽しみにしておくと良ーよ?」
たとえば。何処ぞの英雄が帝国に介入してきて、ソイツが持ってる陣があまりに私向きだった、とかね?
あれの解析はすでに終えた。核の部分を使えなくとも、私の流儀で使うならアレで充分だ。
「─────それに、次は現実だぞ?もっと楽しーに決まってる!
同じ札を切ったとしても、同じに動くとは限らない、そーだろ、美鈴?」
などと言って宙にあぐらをかいてみた。今度はさかさまにならずに。
意外と、この虹の使い手を気に入っているのだな。と今更妖仙は思って宙に放り投げた。
本格的にやるなら、それで良し。やらないなら私一人の単独行。どうにかなるかはその時次第。
世は全てこともなく。それで、意外と回るんだ。不思議なことに。不思議じゃないことには。
- 883 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2010/03/07(日) 02:06:56
- >>882
宙にあぐらでふわりと浮かび、どうやら落ち着いたらしい仙人を見上げて
一瞬、あの不審な凶神について尋ねてみようかと思ったが止める。
あれはきっとこっちの要因によるものだろう。
マレビトに尋ねて解決すべき問題ではないように感じたのだ。
「あはは、言ったじゃないですか。
喧嘩にズルもくそもありますかよ、ってね」
バーリトードとかいうんでしたっけ?
なんでもあり。
古来より戦いの根本はそれだ。
最近はスペカルールやら弾幕ごっこやらでお行儀がよくていけない。
なりゆきまかせが信条とは言え、どうにも無意識下でストレスはたまっていたらしい。
昔はよかったとまでは言わないが。
「戦ってる最中は夢だなんて実感ありませんでしたよ。
次の手が、流れが、結末が異なるとしたら、それは夢うつつの違いじゃないわ。
単にお互いの経験が生んだ違いってものよ」
中華妖怪に一度見た技は通じない、これは最早常識!
というわけでもないが、それでも戦ったことのある相手ってのはやはり違うものだ。
呼吸や癖、気質に嗜好、いろいろ先を読む材料は増える。お互いに。
- 884 名前:妖怪仙人“奎 白霞” ◆8lHAKUKADg :2010/03/07(日) 02:23:33
- >>883
総合して、あの術の実験自体は大成功の部類にはいるらしい。
夢か現か、気付かせない。その点においてはこれ以上なくびっくりどっきり大成功?
「んー?ズルを仕掛けた側からするとさー。ズルを知らずに引っ掛かって呉れる様はさー。
あまりにも可愛くて可愛くて仕方なかったぐらいだよ?食べちゃいたいぐらいに。」
戦いに掟なんて無い。そもそもこの世に掟など存在しない。ただ、在った方が良いだけ。
そうして存在している大凡の法が時に私達を縛り付ける。たまには解き放たれても良いよね?
行儀は悪くてなんぼだ。妖で怪で仙人だよ?ここまで揃って正々堂々とか滑稽通り越して笑えない。
「お褒めにあずかり光栄の極みー。そこまでゆってもらえるともったいなくなってくるなー。
ズルして褒められるのも実は戦の常道なんだけどさ?」
奇策なんて聞こえが良すぎて虫酸が走る時がある。結局、ズルで十分だろ?わかりやすくてさ。
「ほー、なら全く同じ技を使ってどー避けるか見るのも意外と楽しそうだね?」
全く同じ、がむしろ不整合感を産む。疑心暗鬼のその先で仙人様は高らかに笑ってやるのだ。
そうして、笑ってきたし、笑っているんだ。おそらく。それこそ永遠に飽きずに。
- 885 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2010/03/07(日) 02:29:35
- >>884
「ズルだなんて卑下しなくてもいいんじゃない?
ルールなんてかえって意識の死角を突くのに都合がいいくらいなんだし。
ほら、こういうのはなんだ。
えげつないとかそういう風に婉曲表現すればいいのよ〜」
ルールがあるなら好都合だ。
守ると約束していないのならなおさらだ。
無意識を縛ることこそ戦術の、いや奇策の妙であろう。
理屈ではなく経験則から紅美鈴はそれを知っていた。
そして、そうやって呼吸するようにズルを打つから「えげつない」と呼ばれるのだ。
「ま、やればわかるわけだし、お楽しみでいいんじゃないかしら?」
腰の後ろに手をやり取り出したるは酒の入った瓢箪。
せっかくのオフを高台で過ごそうというのだ。
気脈から失敬するだけでは勿体無い。
火の様なその酒を一口飲んで、息をつく。
そして仙人の方にも差し出した。
「飲みますか?大したものじゃありませんが」
過日の酒の陣を思えば、飲みませんかもないものだろうに。
酔い殺されそうになっても呑むのはやめられない。
そう言えば、昔知り合いの仙人が言っていた。
戦いの後は酒で色々流してしまえと。
考えても見れば中華系の妖怪に会うのも久しぶりだ。
酒を飲む理由はいくらでも出てきそうだった。
- 886 名前:妖怪仙人“奎 白霞” ◆8lHAKUKADg :2010/03/07(日) 02:46:12
- >>884
「ん?あの夢の術にはまだ名前がないからなー?だから便宜上『ズル』、何か問題在る?」
そんなやりとりこそがそもそもズルだと言うに。
でも、もはやこんな在り方で永遠を来た。だから、後の永遠もこうして往くのだろう。
「でもね?気に入ってるからこそ、ズルなんて使ったらもったいない表現を使うんだよ?」
後付けだが、我ながら上出来な後付けだ。卑下してるつもりなんてさらさら無いが、
そう捉えられるなら、その認識を変えてやるにはおそらく最良の出来だ。
「ま。それまで精々楽しみにしておく。今は持ってない物も手に入るかも知れないしな、お互い?」
それを繰り返して、生だ。それを謳歌してこその生だ。そうだろ?
さて。こちらも酒を取り出そうと思ったところで、門番が酒を出してきた。
だから寛大な仙人様は虚空より一双の杯を取り出して応えてやるのだ。意地悪に笑いながら。
「あれー?仙人様は酒に対して恐怖を植え付けたつもりだったんだけど、今、酒を勧められてるぞ?
それを知って、受けぬ酒でもあるまいに。そーゆーものだろー?我々の大本があったとしたら。
あ、代わりの酒ならいくらでも取り出せるから安心しておくと良ーよ?」
引いた水盤の水が全て酒に変わるなど、昔から仙の者には造作もない挨拶程度のことなのだから。
そして、似たもの同士。在ったのかもわからない互いの故郷を思い、満ちる杯を見やるのだ。
- 887 名前:紅美鈴 ◆HONGidIKL2 :2010/03/07(日) 02:57:10
- >>886
おや、杯をふたつ出してきましたね。
前にもこんなことがあったっけ。
ラッパ飲みはお行儀が悪かったか。
「ズルは勿体無い表現ですか……あー成る程。
つまりあれですね?
『汚いは……褒め言葉だ!』というやつですか。了解、把握しました」
ズルい仙人の杯に酒を注ぎながらカラカラと笑う。
幻想郷に酒の嫌いな妖怪など存在しませんよ。
神主的な意味で。
「まぁ、理由は何でもいいんですが、そうですね。
去り往く冬と予期せぬ邂逅にかんぱーい、とでも」
こうして静かな高台での小さな酒宴は始まった。
楽しすぎたのか、度を越して呑んだ紅美鈴がオフの時間がとっくに終っている事に気付いたのは
太陽が昇ってからの事だったと言う。
帰った門番にメイド長のナイフが全周囲配置されたのはまた別のおはなし。
めでたしめでたし
<退場>
- 888 名前:妖怪仙人“奎 白霞” ◆8lHAKUKADg :2010/03/07(日) 03:10:31
- >>887
八って末広がりで縁起が良いから中華系には良く好かれる数なんだよ?
え、なんの話だって?上でも見ろ。それで良いじゃないか。たまにはそんな偶然も、さ?
「うむ。確かに、策士なんて因果なものでさー。汚いはいつしか褒め言葉でね?」
あれだけの精神的外傷を呉れてやっても酒を怖がらないのか。幻想郷恐るべし!神主的な意味で。
「そして、いずれ来たる春と我らの約束に、─────乾杯!」
宴はどんなに小さくても宴だ。楽しめねば意味などあるまい。
そもそも意味など無いのだから。楽しむことこそ意味などだ。
色々と思う節はあったが、所詮不死たる我が身には詮の無いこと。今はこの酒に酔うとしようか。
ああ。ここまで僥倖が続いてるから、門番の影に不吉が近づいてる気がするのだけど。
具体的には周囲に張り巡らされた無数の刃。だけど、ね?そんな凶兆を見たとしても。
妖怪仙人様は不吉の権現なので、それは酒に溶かして飲み干して忘れることにした。
<退場>
- 889 名前:M60A3&M88A1:2010/03/13(土) 23:51:49
- http://charaneta.sakura.ne.jp/ikkoku/img/1252155551/891.jpg (45KB)
「あーやべぇやべぇ」
ガレキの撤去は概ね終わったが、最後の仕事が残っていた。
M88A1「おーい待ってくれ。この樹結構重いんだが……」
慌てて高台を駆け上がっていく俺に、M88が情けない悲鳴を上げていた。
「何だよお前。だからパワープラント代えとけって言ったのに」
最後の大仕事。根元から折れていた樹の代わりを植える事だ。
【入場……というか、高台の麓】
- 890 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/14(日) 00:12:38
- <入場>
「そろそろ冬も終わりかしらね」
マフラーを首から解いて呟く。
空は相変わらずの曇天だが、さすがに雪も降らぬ様子。
春までというあの看板が正しいならば、
おそらくさほどの時を待たず、ここも解放を終えるのであろう。
春ならば、春らしいものでも探そうか。
最初にここに来たころ、秋らしい食材を考えながら散歩した事もあった。
今回、お嬢様は春らしいものをなどとまだ仰られては居ないが、
自発的に探していけないものでもない。
それにここが終わるなら挨拶しておきたい存在もあった。
感謝すべきただの背景さんに。
とりあえずそうして春らしいものを思いつくまま
脳内に候補を並べながら歩いていると、奇妙な光景が見えた。
>>889
「……!」
軍用車両だろうか。
無骨な車体の無限軌道車が坂を行軍している。
昔の経験と、幻想郷では見ないその存在に自然と緊張が背を奔る。
迂闊。
しかし、それらの車両からは人の気配は感じ取れなかったのだ。
分厚い装甲を間に置いたからか?
それとも腑抜けていたというのか。
突然身を隠すのはかえって危険と判断し、そのまま立ち尽くして其れを眺める。
もっとも、いつでも時を止められるよう精神を研ぎ澄ましているのだが。
- 891 名前:M60A3&M88A1:2010/03/14(日) 00:33:46
- 「全く。いいか、牽くぞ!」
車体のフック同士を苦労して繋ぎ、2台で丘の上まで登る。
タダでさえ重い戦車が、車体の倍は有ろうかと言う樹を牽いているのだ。あたり一面に轟音が響く。
「後……もうチョイ……!」
M88A1「く……ぐぉ!」
ピストンがシリンダーヘッドをブチ抜くんじゃなかろうかと思えるほど回転を上げ、何とか樹を高台の上にまで引き上げる。
「あがったぁ……」
M88A1「やったぁ……あー。燃料結構使っちまったなぁ」
確かに、タンクの2/3程度使ってしまっただろうか。
まぁ残りの作業片付けるくらいは大丈夫だろうと、M88から樹の牽引チェーンを受け取り、予定位置に牽いて行こうとした。
>>890
「おや?」
高台の下で、女性が1人こちらを見ているのに気が付いた。
「あちゃぁ……」
M88A1「どうし……ありゃー」
砲塔をM88A1に向けると『俺に振るな』と言わんばかりに後ろに下がった。
さて、如何するべきか……。
- 892 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/14(日) 00:42:16
- >>891
どうやら木を運んでいるようだ。
高台の植樹……にしては車のチョイスがおかしい。
何故軍用車両で木を運ぶのか。
それも先ほどから運用している人間の姿が見えない。
遠くからなのでよく聞こえないが、声自体はしているのに気配が無い。
この状況を一言で言うならば「不審」
私は手に持ったままだったマフラーを腰にくくると、歩みを再開した。
車両に近づいてみる事にしたのだ。
危険ではあるが、好奇心と自分の能力への信頼がそれをさせた。
あれが軍事行動中であれば、なんらかの反応は得られる事だろう。
それが発砲だとしても。
- 893 名前:M60A3&M88A1:2010/03/14(日) 00:54:40
- >>892
高台に設置した街灯の明かりが、僅かながら届いているためおぼろげにだが、女性が歩みを再開したのを把握できた。
「上がって来たな……」
ぼそぼそとM88に呟く。
M88A1「ああ。どうする?」
見た所、何度か会った妖怪では無いようだ。背が大きい。
それに距離が離れているのでまだ良く判らないが、対戦車兵器や爆弾の類を持ってるようにも見えない。
「ふつーの人間っぽいな。多分さっきのエンジン音の苦情でも言いに来たんだろう」
M88A1「なら謝って、早々にお帰り願うか?」
『そうしよう』と小声でささやき、再び樹を牽きだす。
- 894 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/14(日) 01:00:41
- >>893
「……?」
幾通りか想像した可能性のすべてがハズレ。
車両はしばし動きを止めた後、再び作業を再開したのだ。
軍事作戦ではないということか。
それとも確実に抑えられる配置まで泳がせて油断させようということか。
まぁ、良い。
その局面に至れば否が応でも分かる事。
すこし楽しくなってきた。
私は反応を期待して車両に近づいていく。
作戦行動中に長袖ロングスカートのメイドに無防備に接近される軍人の気持ちはどんなものであろうか。
- 895 名前:M60A3&M88A1:2010/03/14(日) 01:13:23
- >>894
やっぱり女性はこちらに用があるらしい。足取りはこちらを向いている。
顔立ちは、美人と言うべきなのだろうか。良く基準が判らないが、プレイボーイ辺りに載っていても可笑しくない。
ぼんやりそんな事を考えながら、熱分布カメラを向けてみる。
「……え?」
胸元。厳密に言えば女性の象徴全体と、太ももに棒状の冷たい物がある。
自爆テロ。配置はおかしいが、爆弾とリモコンに違いない!
「M88。逃げる用意をしろ。あの女テロリスト……かもしれん。」
いざとなったら……轢こう。
- 896 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/14(日) 01:21:53
- >>895
ほのかな苛立ち。
なんだろう。
今、すごく失礼な事を想像された気がする。
胸元にナイフはないんですがナニが見えましたかねえ?
こほん。
いや、何も分からない。
私はエスパーではないのだから。
しかし、相変わらず人の気配はない。
全力で注意を向けているのだが、周辺のみならず、車両にすら気配が無い。
不審だ。その上、今の苛立ち。
私は勘を信じてみる事にした。
カチリ
世界から色が消える。
動きが消える。
時間の停止。
動いているのは私と、この懐中時計だけ。
カチリ
静止中に移動し、時を解放する。
時間が動き出した時、私は近い方の戦車の砲塔の上に腰掛けていた。
「……今晩は、軍人さん。良い夜ですわね?」
搭乗口と思しき場所へ向けて声を掛けてみる。
- 897 名前:M60A3&M88A1:2010/03/14(日) 01:39:37
- >>896
じっと女性の挙動を眺めながら、所定位置まで樹を牽いて……
>「……今晩は、軍人さん。良い夜ですわね?」
「!?」
思わずフルブレーキ。低速だった事も幸いして、エンジンデッキ上の資材が落ちるような事は無かったようだ。
しかし、さっきの声は一体……。そこへ怯えた声でM88が話しかけてきた。
M88A1「M60……上」
上?銃塔をぐるりと回すが、何も居ない。
「おいM88。ふざけるのも大概……」
M88A1「お前のガンターレットの上に、さっきの女が居るんだよ!!」
なに!?いやいや。ソレって瞬間移動したってことか!
クソッ!やっぱりコイツも妖怪の一種って事かよ。
しかし車内に飛び込まれたわけでもない。砲塔上に乗られたのなら、自爆されても臓物が降りかかる程度で被害は少ない。
そう思い直し、M88を叱り飛ばす。
「落ち着け!この位で慌てふためいてどうする」
そこで言葉を切り、砲塔上の女性に懇切丁寧な口調で謝罪と挨拶の言葉を並べる。
「大変失礼しました。良い夜ですが、貴女が乗っていると作業に支障を来たします。降りて頂けませんでしょうか?」
正直、こうやって言葉を交わすのはやむ得まい。幸運だったのは、彼女が操縦者が乗っていると勘違いしていてくれている事か。
コレなら、なんとか誤魔化せそうだ。
- 898 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/14(日) 01:47:26
- >>897
私はふわりと宙に浮かんで戦車の車体から身を離し、
今度は空中に腰掛けなおした。
「失礼……言い換えた方が良さそうですね。
今晩は、戦車さん。
こんな夜に高台で一体何の催しですかしら?」
今の反応で確信を得たのだ。
この戦車、誰も乗っていない。
気配をつかめずおかしいと思っていたが、それもそのはず、
人が乗っていないのなら気配が無くても仕方が無い。
しゃべる戦車など初めて見る。
幻想郷に来る前の自分であれば有り得ないと動揺のひとつもしていたかもしれない。
しかし、今はそうではない。
今の私は、この世界に不思議なことなどひとつもなく、
不思議でないこともまた、ひとつもないのだ、と知っている。
しかし作業とは。
自立行動する戦車が何故木を運んでいるのか。
しかもこんな夜中に。
いつか、シローが悩んでいた事件の真実が目の前にある気がした。
- 899 名前:M60A3&M88A1:2010/03/14(日) 02:01:22
- >>898
おらぁ、もう驚かねぇ。今度は空中に腰掛けた。コレが本当の『空気椅子』って奴か……。
>「失礼……言い換えた方が良さそうですね。
> 今晩は、戦車さん。
> こんな夜に高台で一体何の催しですかしら?」
ギク!
バレてる?いやいやいやいやいや。車内も覗いてないのに何故確信が持てる。
カマ掛けだカマ掛け。
「改めてこんばんは。えーと……お嬢さん。
ご質問ですが、こちらのガレキ撤去の残り作業をやっておりまして」
砲塔を回し、砲身で看板(>>840)を指し示す。
「本当であれば、日中に終わらすべき作業だったのですが、この樹の到着が遅くなりまして……」
我ながら在り来たりな言い訳だなと思うが、この際は仕方ない。
M88に樹のチェーンを渡し、『行け』と指示する。
- 900 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/14(日) 02:11:52
- >>899
砲身で看板を指し示す戦車。
この段階においても乗員が姿を見せない以上、
この戦車がしゃべっているという疑惑はもはや疑惑ではなく事実だろう。
遠隔操作という可能性もあるが、
残念ながら私にとって外の世界の技術力はそれほど高いものという認識が無い。
よってその発想にはたどり着かない。たどり着けない。
「ああ、別にお邪魔をするつもりではないのです。
ちょっと好奇心からなる興味がありまして」
手を振って敵意がないことをアピール。
人間でないものを刻む趣味は無い。
そしてこれらが妖怪だとしてもお嬢様の命令もない以上、退治する気も無い。
シローがいぶかしんでいた戦車の駆動跡。
まず間違いなくこの二両によるものだろう。
樹を運ぶというのは車載しているものからも嘘ではないと思うが……
「ひとつだけ分からないのですが、なぜ運搬車両でなく戦車が?」
運搬車両や重機の方が都合が良いだろうに。
- 901 名前:M60A3&M88A1:2010/03/14(日) 02:29:09
- >>900
何かまだ疑わしげな雰囲気を纏わせているが、まぁ誤魔化すためには仕方ない。
>「ああ、別にお邪魔をするつもりではないのです。
> ちょっと好奇心からなる興味がありまして」
「いえいえ。こちらこそ深夜に騒音をかき鳴らし、皆さんの睡眠を邪魔して申し訳無く思っています」
とりあえずこの件に関しても謝っておく。人里からは離れているから、問題ないと思ったのが間違いだった。妖怪は居るんだ。
手を振っては居るが、何時豹変するかわからない。ともかく下手に出続けるのが得策だろう。齧られたらたまらん。
>「ひとつだけ分からないのですが、なぜ運搬車両でなく戦車が?」
……上手いいい訳を考えていなかったなぁ。
「我々はカリフォルニア州軍の車両なのですが、最近地震が有ったのはご存知ですか?」
と、訊いて気が付く我が間抜けさよ。ルーミアが地理を知っていたから、この女性も知っているとは限らないだろうに。
「あー言い直します。最近地震が多発している地方の所属でして。そうした災害救助訓練として、今回奉仕させていただいています」
彼女の言うとおり。戦車や戦車回収車で土木工事なんて普通はやらない。
まさか鉄屑泥棒の御返しと真実を告げても、意味が判らないだろうし。
- 902 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/14(日) 02:43:05
- >>901
ボランティア。
軍が?
…………。
不審だ。
私の記憶の中の軍は確かにそういった民への義務みたいなものを美化する傾向にはあった。
他の国の軍であっても組織と面子が関われば多かれ少なかれそういった事情はあっておかしくない。
だから、ボランティア自体は納得できる。
しかし、戦車を使う理由にはなるまい。
軍には運搬車両があるはずだ。
「軍は……合理的で効率的な運用を好む人々だったと思うのだけど、
なぜ運搬車両でなく戦車を?
周辺住民を威圧してしまう可能性をおしてまで」
……疑問を呟くが、おそらくこれ以上は答えないだろう。
答える義務がないはずだ。
こちらとて別に軍の監査機関の人間というわけではない。
勘ぐる権限などない。
ふと顔を上げると雲間の月が随分と傾いているのが目に入った。
あまり長居をしているわけにもいかないか。
「……仕方ないわね。
時間も無いことだし……いいわ、そういうことにしておきましょう。
なにか縁があればまた会いましょう、戦車さん。
私が浮いたのに驚かないのだし、貴方も超常の存在なのでしょう?
ただ、勘違いしないで下さいね、私はこれでもただの人間ですので」
ふわりと高度を上げ笑顔で戦車に手を振る。
かちり。
旧い時計のような音がしたかと思うと、
次の瞬間、そこには誰も居なくなっていた。
<退場>
- 903 名前:M60A3&M88A1:2010/03/14(日) 03:23:11
- >>902
なおさら不信感を高める結果に終わったようだ。
>「軍は……合理的で効率的な運用を好む人々だったと思うのだけど、
> なぜ運搬車両でなく戦車を?
> 周辺住民を威圧してしまう可能性をおしてまで」
漏れ聴こえた呟きに、なんと答えるべきかと思索を廻らす。
ロマ・プリータ地震を上回る地震で、装輪車両が使用できない状況を想定しているから。
しかし目の前の女性は意外と聡明なようだ。この説明で納得するとは思えない。
>「……仕方ないわね。
> 時間も無いことだし……いいわ、そういうことにしておきましょう。
> なにか縁があればまた会いましょう、戦車さん。
> 私が浮いたのに驚かないのだし、貴方も超常の存在なのでしょう?
> ただ、勘違いしないで下さいね、私はこれでもただの人間ですので」
『超常の存在』と言われて、少々面食らう。違うと否定も出来ないし。かと言って妖怪ほど非日常の存在でもない。
動揺している間に、女性は空へ飛び上がり、その場から消えていた。砲塔の上に現れた時のように。
周りを索敵するが、先ほどの女性らしき姿は見えない。どうやら言ったとおりに帰ったようだ。
「ただの人?ご冗談を。ただの人ならこんな事出来やしないでしょうよ」
呟いたとき、M88が背後から声を掛けてきた。
M88A1「おい。お前があの女と話しこんでたから、俺1台で植樹終わらせたぞ」
見れば牽いてきた樹は、まるで長い間そこに有ったかのように、切り株の横にそびえていた。
「悪かったな。今度借りを返すよ」
M88A1「そう言って返す気も無いんだろ?さっさと帰ろうぜ。もう燃料が殆ど空だ」
『そうだな』とM88に返し、看板や柵を回収して高台を降りる準備を始める。
砲身にトラベルロックを掛け、それらを積み込み。物を元あったところに返す。
そしてスローギアで、高台から降りる時に重要な事を思い出した。
「俺……また自己紹介忘れた」
【退場】
- 904 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/14(日) 22:41:12
- 『自分はもうちょっと登ります。今日は月が綺麗なんで』
「わかった。それじゃあ後は各自解散。あんまり飲みすぎるなよ?」
『分かってますって。それでは』
苦笑しながら俺の部下、ミケルが高台の頂に向けて昇っていく。
そうだ、今日は3月14日。ここら一帯ではホワイトデーと言われる日だ。
本来のキリスト教の習慣にそんなものはないのだが
伝わっていくうちに独自の発展を遂げていったらしい。
バレンタインの日にチョコレートを贈ってくれた異性に対する感謝の日としてだ。
で、あいつはそのチョコレートを贈ってくれた相手と一緒にのんびりするらしい。
人はすぐにしがらみから抜け出せるわけでもないし、また抜け出してはいけないものもある。
あいつなりの気持ちの整理の仕方なのだろう。
「…工事も終わったことだろうし見て回ろうと思ったけど」
また、か。
巨大なキャタピラの跡。作業車にしては大きすぎる。
謎の戦車二台の残した足跡。
どうやら植えたばかりの樹木周辺に向かっているようだが。
「…や、この前結論付けたのはいいんだけど別に個々からじゃあ
町を眺められるわけじゃあないからなあ。…相変わらず謎だな、この戦車の跡は」
ふう、と溜息をついて俺はベンチに座った。
相変わらずだが落ち着ける場所だよなあ、ここ。
- 905 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/15(月) 02:35:24
- 「なるほど、さっぱりわからん」
あれこれと無限軌道の跡を調べ続けて出た結論。
行動が意味不明すぎる。一体何を目的としてこの高台に登ったのだ?
…別に新しく植え直された木が踏み潰されているってわけじゃないんだけど。
「…しょうがない。また改めて出直してみるか。
もしかしたらそのうち戦車にばったり…したら怖いな。でもジャベリンとかリジーナとか
持ち歩くわけには行かないからなあ…どうしようか」
今現在閃光手榴弾がコートの内側にあるだけでも嫌なのだ。
C4でも持ち出してみるか?なんか嫌だなあ。
「だけど戦車ならどんなに古臭くても住民の脅威にはなるし…」
そもそも生身で近づきたくない相手だ。
MSを持ち出しさえすれば鎧袖一触できるんだけど。
おもに90mmという大口径のマシンガンを打ち込んだりビームサーベルで溶断したり。
「…いや、それ以前にこんなところでドンパチしたくないし」
個々の住民相手にドンパチするのは大変だからねえ。
いや、住民じゃなくて住戦車?
…どっちだっていいや。そろそろ遅くなったし帰るとしよう。
届ける物だってあるしな。
【退場】
- 906 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/21(日) 21:36:23
ぽり
口に含んだクッキーがくだけて仄かな甘味を滲ませる。
クッキーの小袋を片手にメイドが歩く。
今宵は散歩。
そしてちょっとした挨拶を。
それが訪れた目的。
要は自分に対する言い訳だ。
真実の所は単に珍しく暇になったから、というだけに過ぎないのだが。
お嬢様は珍しくなにか調べ物があると言ってパチュリー様と図書館に篭っている。
最初はお茶でもと思ったのだが
小悪魔が図書館に居る時くらいは任せてくださいというので、引き下がる事にしたのである。
<入場>
- 907 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/21(日) 21:45:25
- のんびりと歩いて所定の場所へ。
つまり、木立の中の例の木の切り株の所へ。
「……最初はただ寄りかかっただけだというのに。
縁と言うのは不思議なものね」
奇妙な愛着を感じている自分に苦笑しながら目的のものを探す。
果たして、それは変わらず、そこに在った。
「こんばんは。名も知らぬ切り株さん」
これは何の木、気になる木。
久々に見る切り株は引き抜かれて撤去されることもなく、
この公園(と言っていいのかどうか分からないが)の風景の一部として溶け込んでいた。
ただ、ひとつだけ違うことがひとつ。
腰掛けようとして気がつき、それをやめる。
- 908 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/21(日) 21:50:43
切り株の端から小さな芽が出ていた。
へぇ、と驚きの声が出る。
根元近くからへし折れても、死んだわけではなかったらしい。
こんな切り株になってもまだ芽を伸ばし再び成長をしようとする姿に
強い生命力を感じてかつての自分を自嘲する。
なにが、触れたものみな死を招く殺人鬼だ。
そうそう脆いものばかりではないではないか。
クッキーをもうひとつ口に頬張り、
そして、ひとつを切り株の根元にちょんと置く。
「いつかは有難う」
幻に包まれた夜、自分の気持ちを切り替えるきっかけになってくれたこと、
いや、正確には自分が勝手にきっかけにしたというだけのことだが、
それでも、それに感謝の念を抱いた事をなにかの形で徴にしたかった。
貰い物で悪いけれど、お裾分けよ。
自己満足というのは大事な事だ。
独善的だろうがなんだろうが、心の平衡を得られるならば。
- 909 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/21(日) 21:57:42
「そして、お別れを言っておくわ」
おそらくこの高台の解放が終れば、再び会うことはないだろう。
袖すりあうも他生の縁。
背を預け、刹那の拠り所となってもらったのだ。
別れの挨拶くらいはしても罰は当たるまい。
「さようなら」
そっと切り株から伸びた新芽に触れると、私は立ち上がって切り株に背を向ける。
そうして、ふと、お互い生きての別れはあまり経験が無い事に気付いた。
大抵は相手は現世を去り行く状態での別れが常であったから。
「変わったことだらけだったわね、ここも」
これも運命の導きか、悪戯か。
いずれにせよ、構うまい。
悪魔の狗となった今の自分ならば、数奇な運命を楽しむくらいでなくては勤まらないだろうから。
来たときと同じくのんびりとした歩調で木立を戻って抜ける。
そこはいつも人と会う、あのベンチと見晴らしの良い崖上の柵のあるあの広場。
- 910 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/21(日) 22:31:06
- このまま帰っても何があるわけでもなし。
なんとなく、そう、なんとなく私はベンチに腰掛けた。
以前にも抱いた感想だが……
街灯の明かりが星空を霞ませ、街の灯りが地上に星空を描く。
高台から見える景色は幻想郷よりも幻想的に見えた。
だが、この光と闇の影に潜んで人は妖怪の代わりを十分以上に果たす。
幻想郷で夜に里の外の森を一人歩きすれば妖怪に食われるが、
外では夜に街の裏通りを一人歩きすれば人に襲われる。
外の世界において妖怪と人の間に区別などない。
あるのは人を襲うか、そうでないかの区別だ。
そう言う意味では私は外では妖怪の代わりを務めた人間の一人であったのだろう。
それが今は悪魔の狗ながら人の側で妖怪を退治している。
主の意向と友人との縁ゆえのこととは言え、星のめぐりと言うのは本当に面白いものだ。
- 911 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/21(日) 22:35:52
- 「うわっ、風つええ!?」
昨日は暴風吹き荒れ物が吹き飛び窓がガタガタいう夜であった。
でも今日はどうだろうか?多少マシになっていることを期待しつつ
自転車を漕いのだが…いやはや。
後ろから一定方向に受けられたら楽かなーなんて妄想をしてみるものの
現実には真正面から受けたり横殴りされたり
冬も終わって春だなーなんて油断してたらあっという間に手がガチガチになったり。
「うー…くそう。花全部散ったりしないのか、これ?」
といっても今だ咲いてはいない桜たち。
早いところではもう開花宣言がなされたとか。
花見の季節…か。まあ酒でも飲みながらゆるゆるとするのが一番で…。
「…ん?」
ベンチに座っている少女が一人。
相変わらずのメイドスタイル。街中歩くわけじゃないので別にいいんだけど。
「よう、花見にはちょっと早かったな」
相変わらず強い風の中、自転車を押しながら陽気に挨拶をした。
- 912 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/21(日) 22:43:18
- >>911
遠くから聞こえる自転車の音。
思い当たるところもあるので何の気なしに視線をやると予想通りの人物の姿。
わざわざアップダウンの多い高台に自転車で来る人間など彼しか知らない。
季節が移り変わっても彼は相変わらずのようだ。
こちらに気付いたらしい自転車の上の人物に声をかける。
「今晩は、シロー。
先日はクッキー、有難う」
言ってクッキーをひとつ口に入れる。
生憎とこれは彼からもらったものではないが。
口の中の甘味にふと、紅茶でも持ってくれば良かっただろうか、と思った。
- 913 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/21(日) 22:59:36
- >>912
花見か。
そう言えばそんな話もしたような気がする。
昨年は博霊神社で花見をしたっけ。
お嬢様がそんなチャンスを見逃すはずもない。
今年もいずこかではやることになるだろう。
また神社か、あるいは噂のヒソーテンソクを見ながら川辺でか。
それとも意外に白玉楼で花見というのも可能性はゼロじゃないかもしれない。
しかし、それとは別に個人的にどこかで花見の延長戦というのもいいかもしれないなと思った。
ここの解放期間がいつまでなのか分からないが、機会があれば……
- 914 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/21(日) 23:01:28
- >>912
「喜んでもらえて何よりだ。別段何か工夫しようかなーとか思ったけど
中華風だったらクリスマスのときと被るからさ。今回シンプルに焼いてみたけどどうだった?」
割合と料理と言うのは好きなほうである。
中華云々は…まあ、その。ちょっとした前世の記憶のようなものである。
本気でやればぶっ飛ぶ面白料理空間の出来上がり。
泣きながらぶつぶつ言わせちゃうのでわざと手を抜いたりしないといけない。
…とまあ、それはいいや。
「あ、送ったクッキーの量、割合多かっただろう?
部下も作りたいって言うから色々忙しくやっているうちに分量少し間違えてさ。
でも向こうは館の住人結構いるよなーって思ってそのまま送らせてもらったよ」
それに折角作ったのだから多くの人に味わってもらいたいと思うのも事実。
自信があればひょんな事でやってきた客に思わず振舞いたくなるようなそんな感情。
ちょっとした子供っぽい、成果を人に見てもらいたい欲求だ。
- 915 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/21(日) 23:11:15
- >>914
「ええ、美味しく頂戴しました。
でも、シローが料理上手とは意外だったわ。
てっきりそういうのは後回しにするタイプかと思っていたから」
失礼かな、とちょっと思ったが、
思っていたのは事実なので、まぁ、いいかとそのまま口にした。
これなら雇われ執事くらいは務まりそうねと言って笑う。
しかし、みんなの分の話になってちょっと視線が泳いだ。
いや、まぁ……
「ええと、大半はフラン様にたいらげられてしまったので……
みんなにはあまり渡らなかったかな……」
『たくさんあるんだから私が食べてもいいよね?』
そう言ったフラン様の目は全く笑っていなかったのを思い出す。
なにかプライドに差し障る部分があるんだろうが、困ったものだ。
……ああ、そう言えば。
「あ、シロー、その後ね。
いつかの戦車の謎、解けたわよ?」
- 916 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/21(日) 23:31:39
- >>915
意外ってのはよく言われること。だけど作った料理を見せると
納得されることはよくある。性格が出てるのだろう。
中華出すと豪い事になるんだけど。
「昔っからキャンプとか結構好きだったからなあ。
レトルトだけだとなんか面白みがなかったから手早く作れる物を少し研究したんだよ」
格安の短距離シャトルに友人と一緒に乗ってキャンプ用コロニーによく行ったっけ。
定番といえばカレーなんだけど、それだけだとなんなのでポトフとか作ったりして食ってたなあ。
思い出したら食いたくなったから今度作るか。
「…それと嫁さん、料理作れなかったんだよ、最初。没落したとは言え良い所育ちのせいかな…。
だから自分も教えられるようすこし複雑なやつも作ったりしたっけ」
仕方ないといえば仕方ないけどなあ。
貴族の育ちだし…でも教えたらどんどん上達して言ったのは驚いた。
多分今では俺より上手い。流石アイナだ。
「フランが?…よく食うなあ、あいつも。育ち盛りか?」
ってそもそも吸血鬼にそんなものあるのかっての。
育つならば普通血を吸ったりするだろう。
ああ、ただの惨劇にしかならない。指から全身の血を抜かれたりしてな。
「…戦車、か。俺も瓦礫がなくなった頃だと思って見に来たらキャタピラの跡があってなあ。
それで結局犯人は何だったんだ?何を目的に高台に?」
- 917 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/21(日) 23:41:57
- >>916
「成る程ね、料理ってやっぱりあれこれ試しているときが一番楽しいし、
楽しみを分かってしまえばそうなるというのは分かる話だわ。
大抵ニガテな人はそういう時間をとらなかったりそもそも味見をしなかったりな人だし」
へぇ、シローがべた惚れする奥さんだからパーフェクト超人みたいなのかと思ったけれど、
料理が弱点だったとは、どうやらそうでもなかったらしい。
つまり、シローが料理の話をする相手は日常的には少なそうだという事か。
……いい事を聞いたかもしれない。
「戦車は……」
ちょっと小首をかしげる。
この説明で大丈夫だろうか?
まぁ、でも事実だし、これしか言いようもないか。
そう思ってありのまま話す事にした。
「意思をもった戦車が2台ほど、高台の修復や植樹のために活動してたみたいですよ。
ボランティアですって」
喋ってから、ああ、この説明はないわ、と思ったが時既に時間切れ。
ファイナル後の祭りである。
- 918 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/21(日) 23:59:21
- >>917
「一つの料理は本を読みながらの反復で始めるけど
なれてきて少しずつ変更を加えていくとなかなか面白い味になったりするからなあ。
あと料理が下手な人間には慣れてないのに冒険しすぎる傾向も良く見られるかな」
分量に疑問を持ったりとかこれ入れるともっと美味しくなるんじゃないのとか
魅力的に見える変更は実際コースアウトという罠である。
分量どおりに作って失敗して凹む時もしばしば。その時は失敗の原因を
考えて次に生かせばいいんだけど。
…意思を持った戦車?なにそれこわい。
「…や、別に高台修復するのは戦車でなくても良くないかな。
それと自律して行動できる兵器って人間にかなりの脅威になると思うんだ」
それこそ審判の日を向かえ外にはロボット兵器が跳梁跋扈する世紀末。
人間は人間の手によって滅ぶのではなく、人間が作ったAIが滅ぼしにかかるのだ。
そんな少し古いSFを乾いた声で笑い飛ばした。
「…なあ、それマジか?」
- 919 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/22(月) 00:07:14
- >>918
「人間や妖怪の尻拭いを意思をもった戦闘兵器がするなんてなかなか面白い話ね。
しかも植樹までするって言うんだから、これはもう機械に人が管理される日も遠くないかも」
肩をすくめて笑う。
意思持つ機械には運命の力は及ばないのか、
それとも運命が導いたが故に機械は姿をあらわしたのか。
いずれにせよ、高台が補修され、すでにお嬢様の運命の加護はこの地から失われたであろう事は確かだ。
その証拠に、私は今日ここに来るのに随分と苦労した。
切り株に挨拶をという理由が無ければ辿り着けなかったかもしれない。
「嘘?ああ、もちろん嘘よ。
ほら、私は嘘つきですので」
かくして嘘つきは答えて曰く「コレは嘘です」と。
- 920 名前:M60A3:2010/03/22(月) 00:10:37
- 今日も今日とて、高台の様子を見に街道を走る。
さほど速度も出さず。かと言って歩兵直協をするほど遅くも無く。所謂巡航速度という奴だ。
「うーむ」
近づいた所で、先客が居るらしい事に気が付く。
片方はこの間の女性。もう片方は……見慣れない軍服を着た野郎。
まぁ、高台を下から見上げるだけでもよしとしよう。
【一応入場】
- 921 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/22(月) 00:23:29
- >>919
「気がついたらもう遅い。数多くのSF作家が指摘したとおり人間は進歩しすぎた科学によって奴隷にされるわけだ」
それが実現すれば多くの預言者の忠告を人間は無視した事になるのだろうか。
限界が見られないからといって調子に乗ってどんどん進歩していったらいつの間にか
創造主とその子供の立場が逆転し、機械が主権を握るようになる。
「…しかし人に脅威を与え恐怖をばら撒いてきた道具が植林を行うとは
どういった風の吹き回しか。ボランティア精神が兵器にあったとは驚きだよ」
しかしどうしてボランティア?
何だろう、今まで人を圧倒してきたので改心して善行を積みますって感じだろうか。
どんだけ高度な人工知能なんだよ。最早機械に心があるじゃないか。
嘘。
嘘か。
なーんだ。
「ハハハ、嘘なら仕方ないな」
なんか大型車両が下を通っている気もしなくはない。
でも多分嘘なんだろう。戦車なんていなかったんだ。
- 922 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/22(月) 00:30:48
- >>920-921
「あら、シローにしては間抜けた事を言うのね?」
私はベンチから立ち上がると柵へ歩み寄る。
そこから眼下を見下ろしながら言った。
「人に脅威を与え恐怖をばら撒いてきたのは人間でしょ?
戦車だろうがナイフだろうが、道具は道具だわ」
ボランティアに繋がるかはともかくとして、
ナイフの罪を問うほど馬鹿馬鹿しい話もない。
霧の街の連続殺人の罪は私のもの。私だけのものだ。
その罪を一部分でも道具や境遇のせいになどと分けてやるつもりはない。
「嘘つきの言ったとおりね。
ほら、渦中の戦車がお越しみたいよ?」
嘘つきが嘘と言うのだから本当なのだ。
眼下に現れた車輌はいつかの戦車に他ならない。
植樹の終った今、どんな用事があるのかは分からないが……
眼下を視線でさして、シローに冷たく笑って見せた。
- 923 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/22(月) 00:41:50
- >>922
「長い間使ってきたものに魂が宿るってのは日本の考え方だろ?」
柵へと歩み寄る咲夜を目で追いながら答える。
自分の身につけている武器との付き合いは長ければ長いほど手放しがたくなる。
戦いの道具に愛着を持つというのも不幸な話だろう。
「罪は人間にしか背負わされないが、影で兵器は気に病んでいるのかもしれないよ?
どれだけ汝に罪無しといわれようと他人の命令で命を奪うんだからな。
それに例え動かないと判っていても―――銃を向けられると怖いだろ?」
何か面白いものでも見つけたのだろうか、こちらに笑みを向けてきた。
戦車を見つけた、か。
からかっているのだろうがまあそれに乗ってやろう。
引っかかったとからかわれてもそれはs
―――――戦車だ。
え、戦車?マジで?
「咲夜…ジャベリンでもそこら辺に生えてないか?」
生えてるわけねえだろ。
- 924 名前:M60A3:2010/03/22(月) 00:51:12
- >>922−923
クソッ。面白くねぇ。
あの女は少々むかつく笑みでこちらを一瞥し、横の野郎は鳩が豆鉄砲食らったような顔してやがる。
二人の眼下で、フルブレーキで急停車し方向転換。高台へと続く道を登る。
とは言え。あんまり不特定多数の人間と話するの嫌なんだが……。
走りながら、一時の衝動で高台へ登る事を決めたのを、少し後悔し始めていた。
「まぁいいや。前回自己紹介してなかったし……な」
- 925 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/22(月) 00:53:29
- >>923-924
「日本人じゃない私にはピンとこない考え方ね」
物に魂が宿る、か。
それならそんなこともあるのだろうか。
しかし魂が宿っても悲劇のもとにしかなりそうもないな。
私のナイフに意志がやどったとしてどう考えるだろうか?
想像が及ばないが……興味は無くもない。
ま、消耗品と考えているような持ち主では恨み言くらいしか生まれないだろうが。
「RGM-122はさすがにその辺にはころがってそうにないわね」
柵から眺めるに、どうやらこちらに登ってくるつもりらしい戦車に向かって
笑顔で手を振りながらシローの冗談に冗談で返した。
- 926 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/22(月) 01:09:39
- >>925
「そうかい。俺はなんとなく判るんだけどな。
人型の兵器なんて身近にいるとよりいっそう、な」
Ez-8が俺に喋りかけてくるならばどのようなことを言うだろうか。
といっても無理やり戦場に狩り出して銃弾を受け止めている以上恨まれはしても感謝されることはないだろう。
喋らなくて良かった。
頭を切り替えこちらへと向かってくる戦車をどう対処しようかと考える。
どうやら随伴歩兵はいない様子。
でもこっちも対戦車兵器なんて一つも持ってないのでこちら側が圧倒的不利。
幾ら咲夜でもナイフで装甲を貫くなんて芸当は無理だろう。
本当にC4でも持ってきたほうが良かったかな。
「…で、すっとぼけるのはいいんだけどどうするの?
その口調なら遭遇したことはあるようだけど友好的なのか、あの戦車」
ジオンが乗り回してるなんてことはないだろうけど…なあ。
ボランティアをしてくれるような心優しい戦車なのだろうか。
- 927 名前:M60A3:2010/03/22(月) 01:21:56
- >>925-926
高台への坂を登り切り、園内の植生を踏み散らかさないよう。
けれども、対戦車兵器の照準が付けにくいよう二人に対し斜めに走りながら近寄る。
幸いにして、俺たちの作業道は未だに芝に覆われておらず。二人の居るベンチへは楽に行けた。
ここで少し悪戯でもしてやろう。
俺はスピードを落とさず二人の元に急接近し、ギリギリでフルブレーキ。
車体を大きく前のめらせ、履帯の制動能力を披露した後、言葉を発した。
「よう。初めまして、見知らぬ兵士殿。そしてこんばんは、お嬢さん。」
- 928 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/22(月) 01:27:07
- >>926
「ええ、前に会って少し話したけれど、
時間を止めて上に腰掛けてみても攻撃してこない程度には友好的みたいね」
目撃者をどうこうすると言うのなら戦車で人を攻撃する方が非効率的だ。
実際の火力は相当なものだから心配する気持ちはよくわかるが、
「シローもお話してみたらどうかしら」
ひょっとしたら私では聞けない情報も手に入るかもしれないし。
一応、軍人ですしね。
>>927
と。
減速する気配を見せずに向かってくる戦車に目を細める。
時間を止めるかどうか考えていると、戦車は急制動をかけた。
成る程、おどかしてやろうという茶目っ気というわけだ。
でも、それなら砲で狙いをつける方が効率的だろうに。
「こんばんは戦車さん、またお会いしましたね」
- 929 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/22(月) 01:43:17
- >>927
待て。
待てッ!?
何でそこでスピードを落とさないんだ、コラッ!?
避けるべきか避けないべきか、それが問題だが…。
いや、咲夜の言葉にかけよう。話し合いが出来る程度には友好的。
止まれと言おうとした直前、ギリギリで車体は急停止した。
「…見事な腕前だ。挽肉にされるかと思ったよ。
アンタがボランティア精神で高台の修復を請け負った心優しい戦車か?」
旧世紀の戦車…なんだったかな、こいつの名前。
>>928
「いや、それは単に攻撃できなかっただけじゃないかな…。
見たところ機銃も撃てないようだし」
というか指令が乗ってない。まったくの無人なのだ。
完全自律の兵器は何かと問題点も多く宇宙世紀でも多くの課題を残しているのだが
こいつは驚いたことに意思も感情も持っている。悪戯なんて人間臭いことしやがって。
「まあ、話して見る事に話して見るけどさあ…」
いや、なんにしろ先ず所属辺りから尋ねたほうがいいか。
確か米軍の戦車だったよな、これ。
- 930 名前:M60A3:2010/03/22(月) 01:58:43
- >>928
>「こんばんは戦車さん、またお会いしましたね」
ぬぅ。どうもこの人は苦手だなぁ。
以前基地祭で、観客席に飛び込みかけた時は、みなパニックになっていたのに。
まあいいさ。コレで互いに攻撃し辛く成った事位、聡いこの人なら判るだろう。
「前回は失礼。名乗りもせずにずらずら事情を説明しましてね。俺っとっと。自分はM60A3。まぁ呼び辛いので『パットン』と呼んでください」
>>929
……いや。あんたは驚いちゃダメだろ。と言うか、真面目に見たことの無い軍服だ。
顔立ちからして日系人か?しかし自衛隊にタンカラーの制服なんか有っただろうか?
>「…見事な腕前だ。挽肉にされるかと思ったよ。
「驚かせて失礼しました」
とりあえず砲身低く謝罪しておく。
> アンタがボランティア精神で高台の修復を請け負った心優しい戦車か?」
あちゃー。訓練名目の暇つぶしをやったせいで、そんな話になってるのか。失敗したな。
「厳密には訓練の一環ですが、確かに高台補修は自分達が行いました。
車種名に付きましては、先ほどこちらのお嬢さんに名乗らせていただきましたので、割合させていただきます」
- 931 名前:十六夜咲夜 ◆kiLL.Hxa7E :2010/03/22(月) 02:03:08
- 天から舞い降りる蝙蝠。
これはお嬢様のサーヴァントフライヤー?
「……?」
『咲夜戻れ、急いで』
人前で使い魔を喋らせた!?
何事かと思ったが肩にとりついた蝙蝠の瞳に真剣さを感じて心を決める。
「戦車さん、それにシロー、せっかくこれからと言う時にすいませんが、
なにやらお嬢様がお呼びのようですので今晩はこれで失礼します。
ちょっと様子が尋常ではありませんので……」
本当すみません。
言って私はひとつお辞儀をすると時間を止めてその場から消え去った。
一刻でも、一秒でも早くお嬢様の元にはせ参じるために。
<退場>
- 932 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/22(月) 02:19:01
- >>930
そりゃ所属不明戦車が高速で近づいて来たら驚くわ。
咲夜もいるからどうしたものかと考えていたが…まあここでジハードやる気はないし
そもそも爆薬とかは持ってないし。
「まあいいさ。折角直った高台でドンパチするのも無粋だしさ」
しかしパットン…パットン戦車。
冷戦のときのMBTか。一体どうしてこんな所にいるんだろう。
というか何故これがボランティア活動に狩り出されるのだろうか。
「へえ…訓練の一環、か。『自分達』ってことは他にも…おそらくあと1台も参加しているな?
それと、何の訓練だ?わざわざ主力戦車引っ張り出して瓦礫撤去ってのは?」
>>931
蝙蝠が喋るなんて事はあっただろうか。
だけどその声から判る。レミリアがかなり急いでいることを。
「…なにやら不穏な動きがあったみたいだな。
こちら側で何か協力できそうなことがあれば言ってくれよ。力を貸そう」
カチリ
慌てた様子で咲夜はその場からいなくなった。
残った強い風は、不吉な空気を乗せて辺りを震わせた。
- 933 名前:M60A3:2010/03/22(月) 02:37:22
- >>931
おんや?突然コウモリが、お嬢さんの肩に舞い降りた。
確かコウモリって、こういう事はしないよなぁ等と考えていると。
>『咲夜戻れ、急いで』
「!?」
イマ、コノこうもり喋リマセンデシタカ?
なんともまぁ。この高台に来ると想像の範疇外の事が起きて、本当に楽しいわ。うん。
目の前の現象に驚き感心していると、お嬢さんは帰らねばならない旨を述べ、その事を詫びてお辞儀をすると、その場から消えた。
この間と全く同じ様に。その空間から消え去った。
あまりに早いその一連の動作に、全てが終わってからやっと呟く。
彼女には聴こえていないであろうと思うが、言葉にはするべきだろう。
「自分の事は気にせず、お気をつけて。幸運を」
>>932
『失礼じゃねェよバカ野郎』と言いたげな表情を、一瞬見せる兵士。
しかし直後に苦笑を浮かべると、呆れた風に戦意が無い事を告げてきた。
なるほど。ポーカーには向かない顔だな。俺にも顔があれば、こういう表情を作れるのだろうか?
>「へえ…訓練の一環、か。『自分達』ってことは他にも…おそらくあと1台も参加しているな?
> それと、何の訓練だ?わざわざ主力戦車引っ張り出して瓦礫撤去ってのは?」
はて?同じ質問を誰かにされたような……。さっきのお嬢さんか。
「ハイ。自分たちはカリフォルニア州軍所属で、ロマ・プリータ地震を上回る地震災害を想定した訓練です。
詳しく申し上げますならば、装輪車両が使用困難な状況下で、州軍装備装軌車両でやれるべき事をこなせるようにと」
そこまで一息に喋ってから、声を潜ませて続ける。
「と言うのは建前で、実は金属泥棒です。州軍予算が足りなくて……」
思いっきりぶっちゃける。まぁ、たいした金額には成らなかったけど、かろうじて黒字だったり。
- 934 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/22(月) 02:56:32
- >>933
なるほど、州兵か。
だから一世代―――俺達にしてみればかなり前の時代の戦車になるんだが―――前の
戦車を所持していると。
「…災害救助訓練?戦車でか?」
うーん、無限軌道を持った車両なら他にもあるだろうに。
何故わざわざ主力戦車なのだろうか。
その疑問は次の一言によって完全に氷解した。
「…き、金属泥棒とは…感心はせんなあ…。
そりゃ対テロ戦争に悩まされ経済的にも厳しい情勢が続いているのは判るが…」
わざわざ出張して金属泥棒ってお前…。
大きく溜息をついた。なんてこった。
戦いの中で傷つきその心まで錆付いてしまった悲しき戦車が植林という世のため人のための
奉仕活動に従事することで流した涙の分人を喜ばせようと決心したとかそんな
感動ストーリーでもあるのかと思えば…金属…。
「…まあ、いいさ。ここはお気に入りの場所でさ。
そこを綺麗にしてくれたって言うのなら感謝してもいいくらいさ」
- 935 名前:M60A3:2010/03/22(月) 03:23:45
- >>934
日に当てられて溶けたアイスのような顔で、呆れ口調の兵士。
まぁしょうがねぇ。ここの金属盗もうと言い出したのは俺だが、そこから『全部根こそぎ持ってこう』。
『なら偽装的に整理してやれ』。『じゃぁ、あの災害に備えた訓練が名目だ!』と発展したのは、サンディエゴ駐屯隊がバカ揃いだからだろう。
>「…まあ、いいさ。ここはお気に入りの場所でさ。
> そこを綺麗にしてくれたって言うのなら感謝してもいいくらいさ」
感謝……ねぇ。
「ありがとうございます」
言葉だけでは何とでも言える。今だってそうだ、感謝されてもそれは相手の都合であって、俺にとっては何の関係も無い。
ソレに対して、礼を言うなんて筋違いもいい所だろうと思うが、ソレが常識なのだから常識に従う。
そろそろいい時間だ。戻らないと点呼の時間になってしまう。
「さて。それでは自分はそろそろ失礼します。駐屯地に戻らないと、また騒ぎになるので」
そう言って、ゆっくり作業道をバックして、入り口付近で方向を転換。
兵士に挨拶をするがごとく一度エンジンを吹かし、ゆっくり高台を降りる。
まぁ、また合間見えることもあるだろう。そん時は敵でないことを祈ろう。
【退場】
- 936 名前:シロー・アマダ ◆08MSwPc.vs :2010/03/22(月) 03:35:06
- >>935
ゆっくりと地に履帯の跡を刻みつけながら去っていくパットン戦車。
ああ、なるほど。真相はこうだったのだ。
戦車による瓦礫撤去と見せかけた金属泥棒。
ちょっと悲しくなった。
「ん、また友好的に話せる事を願って。それじゃあな」
戦車の排ガスの臭いが鼻を突いた。
残ったのは俺と強い風だけ。
独りになった途端風の音が激しくなったように感じた。
「…ここもそろそろお終い、か。寂しくなるなあ」
背景は遠くへと流れて。
生きた書割は役目を終えればただ過去に向かうだけ。
でも忘却の果てには追いやらないよ。
一人でも覚えている人間がいる限りはさ。
俺は欠伸一つして自転車のスタンドを外した。
また来ることはあるだろうか?そう疑問を抱きながら。
【退場】
- 937 名前:M60A3:2010/03/28(日) 01:17:46
- 今日も高台へ続く坂道を登る。名無しの質問に答える為と、胸糞悪くなったからだ。胸無いけど。
登り切って方向転換。高台から、街を見下ろせる場所まで移動する。
「ふうむ」
なるほど。宝石箱をひっくり返したような……とまでは行かないが、人の営みを示す灯りが見える。
星空の元、街灯りを眺めれば人は『綺麗』と言うのだろう。人の営みに感動するのだろう。
「湾岸戦争が始まった日のようだな……」
煌く星は、炎を曳いて飛び交う曳光弾を思い出させ。
街明かりは、地上から夜空を照らしていたイラクの町並みを連想させた。
あまりいい物じゃない。そう一言つぶやいて、眺めた感想をどう纏めようかと考える。
そこではたと気が付いた。エンジン音を止めて、自分の灯りを落とせば少しは、受ける印象も変わるかも知れない。
早速エンジンを止め。ライトも切って町並みを眺める。
静寂。銃声も爆発音も。金属の触れ合う音も人の息遣いも聞こえない。
時折。吹く風が木々を揺らすざわめきが、この場所を支配する。自然は偉大なのだ。
【入場】
- 938 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/03/28(日) 02:36:12
- 春だというのに、まだ寒い。ミッションを終えて立ち寄ってみたこの高台も然り。
それでも桜が咲き始めているというから、自然と言うのは不思議なモノだ。
見上げる木々も、一人で見れば哀愁しか起きない。これなら騒がしく激しい戦場の方がましというものだ。
或いは、「彼ら」に巻き込まれている時か。
……これが彼女が居た頃なら、またきっと違ってみたのだろうが。
【入場】
>>973
見れば戦車が止まっているのが見えた。一体誰が止まっているんだ。
ミッションがここであるでもなし。泥棒が盗むにも大分無理がある筈だが……。
「何をしている。GUNの隊員か?それとも他の国の軍隊か?」
他国の軍隊が来ているなどとは、聞いた記憶がない。そんな事があれば情報が来ている筈なのだ。
- 939 名前:M60A3:2010/03/28(日) 02:49:21
- 「難しいもんだな……」
来たときに比べると、眼下の街明かりは殆ど消え、幾つかの常夜灯らしき灯り以外は闇に包まれていた。
黒々と切り取られた稜線と、その上の星空のコントラストが際立って見えた。
>>938
>「何をしている。GUNの隊員か?それとも他の国の軍隊か?」
ぼんやり稜線を眺めていると、唐突に聞いた事の無い声が聞こえた。
また目撃者作ったかと、内心愚痴る。砲塔を回そうかとも思ったが、無駄な動きをして誤解されても面倒だ。
「景色を眺めてるだけだ。アメリカ合衆国カリフォルニア州軍所属のM60A3。パットンで構わない」
砲身も銃塔も。全く明後日の方向を向いているから無駄な誤解をされる心配は無いと思うが。
「俺は名乗った。今度はそっちの番じゃないか?」
- 940 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/03/28(日) 03:03:27
- >>939
眉をひそめる。景色を眺めているだけ?戦車に乗って?
第一、今は戦車がこんな所に出るような事はない筈なのだ。またあの科学者が企んでいるでもない限り。
「名乗った?名乗っていないだろう」
名前を聞いていない。戦車の事など、誰が聞くものか。
或いは自分を兵器と一心同体とでも思っているのだろうか。そうだとしたら、さぞ滑稽な話だが。
「僕はシャドウ、シャドウ・ザ・ヘッジホッグだ。連邦大統領直属のエージェントをしている」
尤も、殆どGUNの狗と言った方が正しい状態だが、と皮肉を言った。
各国の軍隊の中でも、名前くらいは知っている者もいるだろう。それだけ「危険」な存在だ。
- 941 名前:M60A3:2010/03/28(日) 03:21:13
- >>940
>「名乗った?名乗っていないだろう」
あぁ。この人はあの妖怪や兵士ほど、カンが鋭いわけじゃないのか。
最近ココで会う人間が、妙に勘が鋭いから勘違いしていた。しかし、下手に言い訳してもなぁ……。
「信じる。信じないはご自由にどうぞ。一から説明しても構いませんけどね」
そうだよなぁ。自分で考え動く戦車なんて、彼らからしてみれば異常事態だよなぁ。
>「僕はシャドウ、シャドウ・ザ・ヘッジホッグだ。連邦大統領直属のエージェントをしている」
ソ連邦大統領。ずいぶん時代錯誤な事を言い出したものだ。
そして対戦兵器の影……。偽名臭い。とは言え、エージェントなら偽名の一つや二つ持っていてもおかしくは無いだろう。
「へぇ……。おっと失礼。そのような方が、こちらへはどの様な御用向きで?」
まさか視察とかそういうのじゃないよなぁ……。犬が云々と言っていたが、人の事を言える訳じゃないので聞き流す。
- 942 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/03/28(日) 03:31:51
- >>941
違和感を覚える会話。何か、まるで嘘で塗り固められているような感覚。
例えるなら、過去に記憶を一時的に失っていた時に似ている。
一体どういう事だろうか。何処かから認識が間違っているのか?
>「信じる。信じないはご自由にどうぞ。一から説明しても構いませんけどね」
あの発言が引っかかる。
搭乗者に対して、姿を見せろ、という意図で言った言葉に対してのそれ。
……まさか本当に無人戦車?おまけに、自我を持っている、と?
可能性としてはなくはない。仕事で共闘する者にロボットが多い上に、彼らは皆自我を持っていた・
大量生産には向かないとは思うが。
従うと、これはGUNの極秘案件か何かで作成されたのか。
とは言え、齟齬は拭えない。
「…僕は、仕事を終えたばかりでな。偶々立ち寄っただけだ」
嘘は言っていない。これで少しは相手の出方をうかがえるか。
- 943 名前:M60A3:2010/03/28(日) 03:45:28
- (ちょっと説明:へジホックとは、WWIIに米海軍が開発した対潜兵器に冠された名称でも有ります)
>>942
挑発と取られかねない言い方だったが、どうやら真面目な人のようだ。
『嘘だろう?』的な表情が消え、表情が引き締まった。
>「…僕は、仕事を終えたばかりでな。偶々立ち寄っただけだ」
「なるほど。そうやって憩いの場として使っていただけるなら、州軍兵器総出でこの高台を修復した甲斐がありますよ」
笑いを混ぜて答える。
「ほんの数日前まで、ココはほとんど廃墟も同然だったんですよ。何時までも修復が始まらないのに業を煮やして……ね」
「まぁ、本当の所は散らばってた金属を回収するついでだったんですが」
洗いざらいぶっちゃける。面倒だ。
- 944 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/03/28(日) 04:03:33
- >>943
憩いの場。そういう場所なのだろうなとは確かに周囲を見て思った。
改めて見渡せば、誰かが修復した後も見える。何故そうなったのかは聞かないでおこう。
同じような事を街中でやらかす科学者とハリネズミを、知っているから。
「心がけとしてはよいと思うがな」
兵器が自ら、こういった場所を直す。そういう事もあるのはいい事だ。
人の過ちを止める存在にもなるかもしれない。それこそ、人類にチャンスを与えられるような存在に。
彼らに劣るとは、究極と言う割には、情けない。
適当な場所に腰を下ろすと、風に揺れる桜の木を見上げた。
「(君がこの場所に居たなら、きっと楽しそうに笑うのだろうな)」
戦車にも優しい人が居るのね、と。想像して、少し笑みが浮かんだ。
- 945 名前:M60A3:2010/03/28(日) 04:19:49
- >>944
>「心がけとしてはよいと思うがな」
思わず笑いが漏れる。
「くくっ……申し訳ない。別の人から『金属泥棒は感心しない』と咎められたばっかりだったので」
心がけ。そうか、心がけか。
確かにM1A2あたりなら、金属だけ盗んでその後に駐留する奴らの事など考えないだろう。
ソレも合理的といえば、合理的な考え方なんだろうが。どうにも好きになれないのは俺が旧いからだろうか。
そんな事を考えていると、腰を下ろしたシャドウが、桜の樹を見上げて笑みを浮かべているのがペリスコープに映った。
「……どちら様の事でも思い出されましたかな?」
桜か。ワシントンDCにも桜並木があったが、見に行った事は無かったな……。
- 946 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/03/28(日) 04:29:28
- >>945
>「……どちら様の事でも思い出されましたかな?」
「……ちょっとな」
もうずっと前に命を落とした者の話など、今しても仕方あるまい。
…よくよく考えれば、自分が今協力しているのは、その命を奪った相手であったりするのだが。
運命とは皮肉だ。イレギュラーな自分の居場所を、こんな所に用意しておくなどと。
或いは、自分はそんな世界を変える為に敢えてこの場所に遣わされたのか。
「……例えば君に大事な人が居たとして」
自然と、言葉が口を突いて出ていた。何故こんな話を始めているのだろう。
「その人物は、外に出る事を許されない身だ。外に出ては死ぬというのに、その人物は外へ行きたいという・
君なら、どんな事をする?」
自分の知っている人間は、彼女の為に「箱舟」を作り、その苦しみから解き放つ為に自分を生み出し。
……最後には、孫娘の命を奪った全てへの復讐に燃えながら、死んでいったから。
- 947 名前:M60A3:2010/03/28(日) 04:53:21
- >>946
表情が暗い。なんとなくの予想は付くが……。
>「……例えば君に大事な人が居たとして」
>「その人物は、外に出る事を許されない身だ。外に出ては死ぬというのに、その人物は外へ行きたいという・
> 君なら、どんな事をする?」
「……大事だからこそ、俺が人間なら檻から解き放つでしょうね」
あまり考えなくとも、答えは直ぐに出た。
「その人にとって、世界が檻の中しかないうちは閉じ込めておけばいい。知らない世界をわざわざ教える必要も無い」
「けれども外の世界を知ってしまえば、その事実は心の錘になるであろうと考えます」
そこで一度言葉を切る。
「……人の命は一度きりです。そして世界を図る物差も人それぞれです。であるならば」
「一度きりの人生。好きな事を好きな様にやらせてやるのが、一番幸せだと思いますよ」
「心残りに塗れて死ぬより、一つでも心残りを減らしてやるのが優しさではないかと」
死神に手を掴まれている人間ならば、最後は好きにさせてやるべきだろう。
「そして、今際の際に苦しまぬよう。自らの手に掛ける勇気も」
- 948 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/03/28(日) 05:09:06
- >>947
「……そうか」
答えた言葉は、質問の重さと比べればあっさりとした言葉だった。
様々な人間の思惑と、宇宙からの来訪者と、病という未知の敵に振り回されたのに近かった、彼女。
尤も来訪者は自分を生み出すきっかけでしかなかったが。
唯普通の少女として、祖父に愛され、限りはあっても大切な命を全う出来ていたのなら。それもまた、幸せな人生であったのだろうが。
彼の言ったような事は、自分には出来ずじまいだった。彼女に、助けられたのが最後の思い出で。
「……所詮僕も、箱舟に乗せられた動物か」
神によって選定され、一人の人間の手によって生み出された箱舟に揺られるだけの、存在。
運命から逃れる事など、出来ないままに。乗らないという意思表示も出来ないままに。
皮肉めいた呟きは、どうも自分らしくないなと感じた。
桜のせい、だろうか。この花は哀愁を強く呼び起こす。
- 949 名前:M60A3:2010/03/28(日) 05:36:57
- >>948
>「……所詮僕も、箱舟に乗せられた動物か」
「そいつは違うでしょう」
ばっさりと切り捨てる。微塵の優しさも無く。
「動物なら、その人の事などとうに忘れているでしょう」
動物にとって、過去に死んだ仲間など物も同然。場合によっては食料として利用する。
兵器も似たような物だ。故障した仲間から部品を剥ぎ。撃破された車両を盾にする。
「死んだ者。去った者を偲んで居られるのは、それだけ余裕があるということです」
「野生動物にそんな余裕は無い。生きるか死ぬか。戦場でもそれは同じ事」
だから弱った仲間を見捨てる事も、時として必要になる。
「けれども人は思い出すことが出来る。後から故人を偲ぶ事が出来る」
「故人を忘れずに語り継ぐ事。それは人にしか出来ない事だと思います」
「そして箱舟に乗ってでも生き延びる気概が無くては、語り継ぐことも出来ない」
もうじき夜が明ける。稜線が白み始めた。
「語り継がれる限り。その人は生き続ける。語られた人の心の中でね」
- 950 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/03/28(日) 05:48:50
- >>949
意図せずに呟いただけのつもりだった。本当に、それだけの。
まさか言葉が変えるとは思ってもみなかった。
>「動物なら、その人の事などとうに忘れているでしょう」
>「死んだ者。去った者を偲んで居られるのは、それだけ余裕があるということです」
>「故人を忘れずに語り継ぐ事。それは人にしか出来ない事だと思います」
ああ、確かにそうなのだろう。
自分達ケモノは、動物とも人間とも違う存在だ。何より、自分は人が生み出したモノ。
それでも、誰かを思う事が出来る。この意志ある戦車のように。
最近殺伐とした事ばかりだったから、余計にそんな、当たり前の事を忘れてしまっていた。
>「語り継がれる限り。その人は生き続ける。語られた人の心の中でね」
「……君の言うとおりだな」
箱舟に乗って生き残った者には、次の世界を築く礎。人々にチャンスを与える為の。
そうなのだ。彼女が言おうとしていた事も、つまりはそういう事。
ならば自分は、その礎をまた作っていこうじゃないか。
立ち上がり、随分時間が経っていた事に気付く。もう朝が近い。
流石に不死とは言え睡眠がなければ辛かろう、帰宅途中だったのを思い出し、歩き始めた。
「……君のような、面白いモノに出会えてよかった」
また会おう、と言葉を残し、片手にした赤い宝石が光ると、その姿を消した。
【退場】
- 951 名前:M60A3:2010/03/28(日) 06:08:45
- >>950
エンジン始動。ターボジャージドディーゼルが、不機嫌に唸り始める。
なんだか、久しぶりにかけたような気がするぜ。
>「……君の言うとおりだな」
「ご賛同頂けたのなら幸い」
とは言え、コレ確か誰かの受け売りだった気がする。
だが、自分自身も人の名を冠された兵器だ。ソレを別の人間が語り継ぐ。
没後60年経とうとしてる人物の名を、自分が伝えていると思うと、この説明にも頷けるものが有る。
>「……君のような、面白いモノに出会えてよかった」
「こちらもね」
銃塔を横にくるりと回し、ペリスコープで彼の姿を確認したとき唖然とした……。
「ハリ……ネズミ」
うぁぁぁぁぁぁ!?さっき俺『人にしか出来ない』とか言っちゃったよね!
何処が人だ!思い切りバカ丸出しじゃねぇか!!さっきは暗くてよく見えなかったんだよ!
「うわぁぁぁぁぁぁん!」
俺は恥ずかしさに、泣き声を上げながら高台を駆け降りた。落し物をして……。
【退場】
- 952 名前:不確定名:U.N.オーエン ◆iQUnoWeNWM :2010/04/01(木) 00:18:47
- <入場>
轟音。
空が割れる音と共に高台に起こる爆発。
もうもうとあがる土煙の中から咳き込みながら姿を現したのは小さな女の子だった。
白い被り物、紅い服、そして背には七色の宝石を閃かせ
顔の前を手でぱたぱたと扇いで埃を追い払いながら歩み出る。
「うぅ……ひさしぶりだから加減を誤ったかな……」
その手で縄をつかんでずるずるとひっぱっているのは酒樽らしい。
ミスマッチにも程がある。
その姿はおよそ見た目に似つかわしくないと言える。
だが、彼女は気にした様子もなく酒樽をひっぱってベンチに向かうと、
そこにちょこんとこしかけた。
彼女の名はフランドール・スカーレット。
「恐ろしい妹」と呼ばれる危険人物にして紅魔館の秘密兵器たる魔法少女である。
- 953 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/01(木) 00:38:04
- ベンチに腰掛けて足をぶらぶらさせながら傍らの酒樽をぽんぽんと叩く。
内側に反響した音がさながら太鼓のようで少し楽しい。
「えへへ」
彼女にとって久方ぶりの「おそと」
それも姉の許可あってのものは数ヶ月ぶりになろうか。
木陰からこちらを見つめる使い魔の姿こそあれ、彼女は大いに開放感に酔いしれていた。
「やっぱ分身とは違うよね」
いつものフォー・オブ・アカインドとは違い本体での外出。
気のせいか、肌に触れる空気までもが別物に感じられた。
まだ少し花見には早い肌寒さだが、吸血鬼にとっては如何程の事もない。
- 954 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/01(木) 01:49:22
- ぽんこぽんこ。
太鼓のリズムをとりながら空を眺める。
薄雲越しに満月を3日ほど経過したやや欠けた月が淡い光を投げかけている。
「そういえば、ここ綺麗にかたづいたね。
お姉様の魔力のニオイも消えたしさ」
辺りを見回して溜息をつく。
お姉様の魔力が切れて、そしたら運命の引力も失われてしまったのだろうか?
それとも、きっと誰かに会えるはずなんて考えが甘かったか。
冷たい夜風に揺れる宝石がしゃんと澄んだ音をたてた。
「今晩また、でなおそうかな……」
言って、ベンチを飛び降りてフラフラと姿を消した。
<退場>
- 955 名前:M60A3:2010/04/01(木) 22:21:34
- 轟音。昨晩鳴り響いたソレとは異なる轟音。
甲高いターボチャージャーの吸気音。擦れ合いガタガタと音を立てる履帯。けたたましく爆音を上げるディーセルエンジン。
名付けるならば『オーケストラ・騒音』。今日もバカな戦車がやってきた。
「って、誰が馬鹿やねん。俺は大馬鹿だっつーの」
自分で自分の感想に突っ込む。暇つぶしの1人漫才も飽きてきた。
下から高台を見上げると、特に異常は無し。外灯も倒れたりはしていない。
「異常無しか。明け方の爆発音なんだったんだろうなぁ……」
ぶつぶつと呟きながら、いつもの坂を通り過ぎ。高台部分の裏手に回る。
途中から道を外れ、密林に近い場所を抜け、ほぼ公園となった高台裏の林の中に身を潜める。
エンジンOFF。本当なら辺りの植生を車体に載せたい所だが、乗員が居ない今では望むべくも無い。
「さあ来い。待ち伏せは得意じゃないが、お前らの計画は阻止してやるぞテロリスト」
【入定……じゃない入場】
- 956 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/01(木) 22:30:22
がらんごろん
高台を転がる酒樽。
どういう理屈か、横倒しの状態で転がる酒樽の上で
腕組みした少女がバランスをとって前進させているのだ。
ちょうど円の上で後進することで前へ転がしていると言う按配。
しかし、それで坂を上れるというのはどういうことだろう。
そんな器用な真似をしつつも少女の表情はあまり晴れたものではなかった。
面白く無さそうに頬を膨らませている。
「あーあ……せっかく張り切ってお外に出たのになぁ」
がらんごろん
少女は木立に潜む車輌にはまったく気付かず、その脇に通りかかる。
目指す先はどうやら展望台のある広場。
視線の先から見てそのベンチであろうか。
<入場>
- 957 名前:M60A3:2010/04/01(木) 22:36:28
- >>956
なんだ?子供?
しかも樽の上でバランス取ってるぞ。ヴォリショイサーカス団員か!!
「……」
馬鹿馬鹿し。ベンチに向かう女の子を銃塔のペリスコープで見送った後、入り口に視線を戻す。
ペリスコープのガラスが光を反射したかもだが、まぁ気が付かれないだろう。
- 958 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/01(木) 22:50:42
目的地についたのだろう。
少女が足を止める。
と、酒樽もぴたりとその回転を止めた。
飛び降りる際の振動でその背中の七色の鉱石のような翼が澄んだ硬質な音を立てる。
「よっと」
地面に降り立った少女は依然木陰の存在には気がついた様子も無い。
つま先でひょいと酒樽を起こしてベンチの横に据える。
軽々とした仕草だが、もし中身が酒ならば重量をつま先だけで支えた事になり、
うってかわって異常な光景を意味する事になる。
「あーたいくつー!
おそとならたいくつしないとおもったのに結局これじゃ地下とかわんないよー!」
どかっとベンチにこしかけてうーがーと叫びを上げる。
しかし、一転、頭上で振り回した腕を止め、頭の後ろで組んで溜息をつく。
「いつかといっしょだね」
視線はどこか遠くに。
意識もまたどこか遠くに。
「お姉様がいなくなったあの日、紅魔館からみんないなくなった。
結局、お姉様の『妹様』である私の素の部分。
ただのフランドールの部分ってこの程度のものなのさ」
その瞳には確かに渾沌の色があったが、
しかし、その狂気ですら、今宵は諦観に蝕まれているようだ。
ギラギラとした光はくすみ、暗く濁っていた。
- 959 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/01(木) 23:04:29
無造作に右手をかかげ。
じろりと路上の小石に目を落とす。
そして握る。
コナゴナに砕け散る小石。
きゅっとして、どかーん。
「破壊こそが与えられた宿命なら、何も考えずにその宿命に身をゆだねた方が幸せなのか。
それとも幸せなんてものがそもそも幻想に過ぎないのか」
詰まらなさそうに呟きながら宙空に魔杖を召喚する。
ねじくれた杖の先でとんと酒樽の蓋を叩くと、
ちょうどたたいた所に小さな穴がぽんと開いた。
「空しいよねぇ。それこそ酒でも飲まなきゃやってらんないよ」
そしてさらに魔杖をひとふり。
コミカルな音とケムリと共に現れたグラスが空中で静止する。
先ほどの穴から酒がひとりでに噴出し、綺麗にグラスの中に溜まった。
それは魔法のような、いや、魔法そのものの光景。
しかし、相変わらず少女の顔色は優れない。
「格好つけといて結局一人酒だね。
私の最大の敵はお姉様じゃなくて、孤独ってやつかもしれないよ」
好奇心は猫を殺すと言う。
ならば孤独におびえる心は悪魔を殺すのだろうか?
グラスとにらめっこしながらフランドール・スカーレットは息をつく。
「そんなの、どうやって倒せばいいのさ」
- 960 名前:M60A3:2010/04/01(木) 23:08:22
- >>958
>「あーたいくつー!
> おそとならたいくつしないとおもったのに結局これじゃ地下とかわんないよー!」
退屈か。正直、アンブッシュほど暇で暇でしょうがない事も無いんだが……。
ええんじゃよ嬢ちゃん。表でも暇で気が狂いそうになる事は多いって覚えて行け。
そう言えば『サバイバルで一番の敵は暇だ』と誰かが言ってた様な、言っていなかったような。
しかし……。前回の爆発音が聞こえたのは午前0時代。もうじき0時か。
「……」
このままあの子供を放置して置くと、爆破試験をやってたんであろう連中と鉢合わせしかねない。
それに今日来るかどうかもわからないしなぁ。だったら暇つぶしに付き合ってやってもいいか。
モーターで砲塔を回し、砲身をベンチに向ける。間違いなくこの音は聞こえたはず。
「おーい嬢ちゃん。こんな夜中にウロウロしてっど、人食い妖怪に喰われっど!」
言った所で気が付いた。彼女の背中から生えてる木の根とアクリル板はなんだ?
- 961 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/01(木) 23:15:00
- >>960
ちょうどグラスに口をつけようとした時。
「んあ?」
声が聞こえたのでそっちに顔を向ける。
いや、声だけでなくなにか軋むような音も聞こえたような気がする。
しかし、木立の中動くものの姿は見えず、血のにおいもしない。
おばけに喰われるぞ的な意味合いのことを言われたような気もするが、
一体なにが喋ったのだろうか?
「……なんだ、猫か」
顔を戻しつつも横目で様子はうかがったまま。
闇を見通す悪魔の瞳に映るのは森ととめてある鉄の車のみ。
なにも不自然なところはない。
どうやら少女はとりあえずボケをかまして反応を見てみようと思ったらしい。
- 962 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/01(木) 23:24:10
- >>959
「……どこ行ったんだ、あのアホは」
既視感――でもない。
ないが、少し申し訳ない思い出が詰まった場所なので(公共施設への損害的な意味で)、来るのには
気が引けた。
が、それでも同行者はそんなモン知ったことかとばかりに安酒を煽りながら花見を慣行しやがったの
で、俺としては自分の溜息など追いつつ花見遊行と洒落込むしかないのである。
見慣れた場所だけに散策には苦労しないが、問題は山でヒト一人探す難易度で――訂正。
山頂付近、バカでかい酒樽を担いだ巨漢が一人。見紛うハズもない探し人である。正確に言うなら探
したくもなかった探し人で、俺の役割はご近所の皆さんが不審者と間違って全身イレズミの大男を通報
する前にそいつを連れ戻すことだ。
「おい、エリ――」
呼ぼうとして、視界の先、ヤケに背の高い桜の木の前に見慣れたガキが坐っているのを発見する。
「ス、って……何やってんだ、テメエ」
「あン? テメエこそ何やってんだイル。オレぁ花見酒だ――で」
ぐるりと桜の木の下に目をやって、エリスはくっ、と喉を鳴らす。
酷く楽しげに。
「ガキがガキらしくもねェことホザいてたんでな――肴にしようと思った訳だ。どうだよイル、昔のお前か
らよく聞かされたセリフじゃねェか――何が一人酒だ、あァ、フランドール? 景気の悪いツラで酒を扱
うんじゃねェよ。勿体ねェだろうが」
言って、巨漢は桜の木の下に歩み寄る。
そこには――いつかのガキ、もとい、どこかの吸血鬼が所在なさげなツラで坐っていたからだ。
何やってんだか。
精々わざとらしく肩を竦めて、よお、とそいつに話し掛ける。
「ガキが一人酒ってのは――らしくねえよな、フランドール」
というか。
ガキが酒って時点でらしくはねえのだけれども。
- 963 名前:M60A3:2010/04/01(木) 23:27:55
- >>961
なんだコイツ!砲身が自分の方向いてても無関心かよ!?
まぁ良いや。エンジン始動。
さっき止めたばかりで冷え切っていないから、調子よく動き出し。
燃料が送られたことにゴキゲンな、750馬力の唸り声が高台に響いた。
バックギアで後退。もと来た道を戻り、高台下を通って坂を登り。高台の入り口にまで這い上がる。
そのままローギアで彼女の元まで進み、10mほど手前で停まり。言葉を発する。
「よう。“猫”だぜ」
……言ってから気が付いた。M18ヘルキャットジーさん連れてくりゃ良かった。
- 964 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/01(木) 23:40:16
- >>963
「うわっ!?」
まったく人の気配の無かった車の始動に思わず声が出る。
グラスをあやうく取り落とすところだった。
じろじろと茂みから進み出てきた車を眺めやる。
さっきの声は、そして、今の声はどこからでたんだろ。
中から外は見えるんだろうがしかし。
そんなことを思いながら、それでもなんとか挨拶に応じる。
「こ、こんばんは。
猫さん、面白い乗り物にのってるんだねぇ。
見抜けなかった……私の目をもってしても……
最近の猫は長靴をはくだけじゃなくて車も乗り回すとはねぇ」
どこに視線をむけていいものか、
とまどいながら「ネコさん」を探す。
>>962
と、背後から聞き覚えのある声が。
ばばっと振り返り、目に映ったものにしばし硬直。
ぽかーん
そんな擬音が丁度いい。
「恐ろしい妹」はそんなていで来訪者を迎えた。
予想はしていなかったらしい。
閉じた運命の向こうにいると思っていたから。
放心した表情に徐々に表情が戻ってくる。
頬に朱が指している所をみると格好の悪い姿を見られたのが恥ずかしいのだろう。
「……だよねぇ、だからなかなか口をつけづらかったんだ」
一人酒はすきじゃない、気分の乗らない時に呑むのは勿体無い。
それでも口をつけるのを決めるほどにフランドールは滅入っていたのだ。
逃避の手段として。
「こんばんは、我が友エリス、それから甘ったれ神父」
あんまりな言い草だろう。
明らかに要らないトゲである。
このトゲがいずこから生じたものであるかと言えば、羨望。
一途に思うべき相手を見つけたご同輩への嫉妬であろうか。
素直であるかのようで、その実、素直でないのだ、この娘は。
- 965 名前:M60A3:2010/04/01(木) 23:57:28
- >>962
おんや?どうやら下を走っている間に、もう1人。いや2人か?お客さんが来ていた様だ。
しかし雰囲気は……。うん。兵士とよく似た匂いがする。
そっち関係のお仕事か。はたまた爆破試験やってた奴らか。
しかし挨拶無しで居るのも具合が悪い。よく考えた上で俺が取った行動は……。
「コバノシ」
と銃塔を向け、機銃身を上下に振ってやる事だった。
>>964
>「こ、こんばんは。
> 猫さん、面白い乗り物にのってるんだねぇ。
> 見抜けなかった……私の目をもってしても……
> 最近の猫は長靴をはくだけじゃなくて車も乗り回すとはねぇ」
なるほど。コノ子はカンがそれほど鋭い訳ではないようだ。もしくは判っててとぼけているか。
「そうだな。こんばんは」
挨拶にはちゃんと返しておいた方が、後腐れが無い。まぁこの状況下で挨拶出来るのは、外観年齢より冷静なようだ。
「面白いだろう?退屈さが少しは紛れたか?」
じろじろと車体を見回しているが、好奇心からだろうか?ルーミアみたいだなこの娘。
- 966 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/02(金) 00:05:13
- >>965
「面白い?」
眉をひそめてネコさんをみやる。
退屈はたしかにまぎれた。
それについては感謝してあまりある。
しかし……面白いかどうかと言うのはどうだろう。
発言の意図を考える。
挨拶も車内から、顔をあわせるつもりはないようだ。
この状況で面白いだろうと言う意図。
ひとつ、車がめずらしいので面白がるだろうと思っている。
ひとつ、顔も出さないなんて面白いだろうとケンカを売っている。
ひとつ、子供だと思って車そのものがしゃべっていると思わせようとからかっている。
ぷくー
頬がふくれる。
どのパターンでも子ども扱いされていることに違いは無いと判断して機嫌のメーターがさがっていく。
「……面白くないね。
私はまだ酔っ払ってもいなければ、分別のつかない子供でもないんだよ、オジさん」
睨みつけて呼称を変更。
ネコさんからオジさんに格下げしてみた。
- 967 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/02(金) 00:07:11
- >>964
俺が頬を引き攣らせるのに構わず、エリスはどっかりと桜の木の下に腰を下ろす。
「おう。多少はマシなツラになったじゃねェか――ガキはガキらしくしてりゃイイんだよ。辛気臭ェ面を見せられる
とアタマに来るんでな」
言いつつ、いきなり放られた酒樽(四十リットル)を受け止める。言うまでもないがそんな扱い方をしていいよう
なシロモノではない。
「それはテメエの勝手であってだな……」
「辛気臭ェ事に理由を付けて言い訳するヤツはそれよりアタマに来る」
「……え。なに。酒席の端からケンカ売られてんの俺」
がしがしとアタマを掻いて、酒樽を脇に桜の木に凭れ掛かる。雰囲気的には、ここでケンカにでも雪崩れ込もう
物なら二対一で明らかに分が悪い。二対一でこの巨漢を辛うじて沈めた俺としては、更に悪い状況でド突き合い
をしたい相手ではないのだ。
と、そこで無意識に胸元を撫でていた自分に気付く。そこに下がっているペンダントは、考えてみればこのガキ
――の、知り合いから譲り受けたモノだったっけか。
ガキ、と一人称上連呼してはいるが、もちろん名前はあるにはある。聞くには聞いたし憶えてもいる。
一転して子供っぽい表情を取り戻したコイツは――そう。
「で、フランドール――フランドール・スカーレット。俺のどこが甘ったれだ? ブツクサ呟きながら「ワタシ寂しい
んです」なんてホザいてたヤツには言われたくないセリフNo.1なんだが」
そして――そんな呟きを恐らくは間違いなく聞いていただろうエリスは、肩を揺らして笑い、俺に視線を寄越す。
「イルよ、そりゃお前に言えたセリフでもbねェよな――いつだかここで例の女が来なかったら、そのツラを延々ブ
ラ下げたままだったのがお前だぜ」
「……」
……なんというか。
図体の割にイチイチと細かい巨漢である。
>>963
「……っつーか、あのさ」
「あん?」
「あの戦車、何」
俺が置いた酒樽の蓋を引き剥がしつつ(比喩ではなく文字通りに)、エリスは傍らのオブジェに目をやった。
戦車。語弊ではない。見間違いでもない。そして恐らくだが、この街が過疎対策に打ち出した振興プロジェク
トの一環でもない。
「M60A3(パットン)だろうがよ。湾岸で何度かツブした憶えがあンぜ――実物見るのは久し振りだな」
「いや、そうじゃなくてさ」
「酔って壊すなよ」
「それはお前だよ!? ていうか違ぇ! 根本的に問題が違っております! 考えろよ! なんで! 山の頂上
に! 戦車があるのか!」
「アート?」
「絶対違う……」
- 968 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/04/02(金) 00:15:16
- カツン、硬質な音が響いた。とは言っても、ささやかな音だ。
先日来たこの高台に、気付けば再びやって来てしまった。何故だろうか。
桜が呼んだんだ、と言えば幻想的だろうが、生憎自分にはそういったフレーズは似合わない。
強いて言うなら、興味。
先日の一件で見た、未知のテクノロジー。あれがどういったものなのか、結局はまともに聞かずじまいだった。
下手をすれば、悪用も出来る技術だ。放ってはおけない。
それに……唯、桜を楽しむのも悪くはないと、そう思ったのだ。
遠くからそこを見れば、先客が居た。
先日の戦車、それに……少女と、他にも成人が何人か。
こんな時間に少女?妙な事だ、と思った。
【入場】
- 969 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/02(金) 00:19:24
- >>967
「もう!我が友はいつだって子供あつかいするよね。
これでももう500超えそうなレディなんだぜ?
そういうパパ気取りの目線はむかつく一方で新鮮なんだよ、くそ」
非難なのか賞賛なのかさっぱりわからない憎まれ口を叩いてほっぺたを掻き、
エリスの方へ苦笑を向ける。
そして神父に対しては……
「うん。ごめんね。
羨ましいからついつい。
でも、良かったよ。おかげで楽しくお酒を飲めそうだわ」
素直に詫びた。
ニコニコと満面の笑みを浮かべてベンチを離れ、
エリスと神父に向かい合って地べたに座り込む。
とがっただけでもう十分なのだ。
神父の態度も立場も境遇にも思うところがないでもないが、そんなことすらどうでも良い。
それよりも一人酒でなく、みんなでわいわいできることの喜びの方がはるかに大きい。
今のフランにはこれ以上とがる必要性をどこにも見出せなかった。
「はい、神父もどうぞ」
魔法で呼び出したグラスに傍らの酒樽から酒をついで渡そうと掲げる。
ちなみに、フランドールは神父の酒の耐性の強弱など知る由もない。
当然だが。
「あの車、戦車って言うの?
てっきり戦車って馬がついてて真空旋風衝を跳ね返す盾を装備した二輪車のことだとばっかり……」
- 970 名前:M60A3:2010/04/02(金) 00:24:45
- >>966
日本で、新年に食べるという焼き餅の様に頬を膨らませると、彼女は機嫌を損ねたようだった。
「おんや。そいつはすまなかったな……」
ちょいと声のトーンが下がる。ついでに砲身も銃身も下げる。
>「……面白くないね。
> 私はまだ酔っ払ってもいなければ、分別のつかない子供でもないんだよ、オジさん」
子供の飲酒については、10代で煙草OKな国もある訳だし。そこの所は聞き流して。
「おじさんか。こう見えても80年代生産のロートルだ。おじさんってのは正鵠を得てるよ」
後継のM1だって、A2が登場するほどだからな。時代遅れなのは認めるさ。M60-2000は絶対認めないけどな。
「けど、分別付くのなら夜中に出歩いて、退屈と騒いじゃいけないんじゃ無いのかぁ?」
ご近所迷惑だぞと付け加える。
>>968
ペリスコープの片隅に影が映る。砲塔をぐるりと廻らせ、高台の入り口へ照準器を向けると……
「おんや?この間のハリネズミ」
名前はたしか……そうそう。
「ようヘッジホッグ!また会ったな」
- 971 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/02(金) 00:26:16
- >>968
フランドールは気付いていない。
気配への敏感さに置いてフランは紅魔館で下から数えた方が良い位置にいる。
メイド長のように殺気や音に敏感なわけでもなく、
門番のように気配感知に恐るべき精度をもっているわけでもなく、
魔女のように神経質であるが故に聡いわけでもなく、
主人のように運命から事態を悟るわけでもない。
その上、今のフランは状況に舞い上がっている。
こんな状況で、物音ひとつに気付くほど彼女は耳ざとくなかった。
もっとも近づけば気配のみならず匂いで気がつくことだろう。
吸血鬼の基礎知覚は人よりも高いのだから。
- 972 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/04/02(金) 00:34:51
- >>970
「……シャドウ、だ」
それじゃ種族名になってしまう。こういう呼ばれ方をされるのも初めてだ。
普通はファーストネームを呼ぶものじゃないのか?
訂正しながら高台へ向かう。せめてそれだけはして帰らねば、気が済まないのだ。
彼にとって、名前も立派なアイデンティティーなのだから。
他の者はどうも驚いているようだった。多分、自分のような存在を見た事がないのだろう。
その事自体は珍しくないが、にしても、何故少女はこちらを見ないのか。
そしてあそこに置いてある樽はなんなのか。
- 973 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/02(金) 00:35:05
- >>970
地べたに座ってグラスの酒をちびちび舐めながら話を聞いていた彼女は怪訝な顔をする。
彼女は察知能力はともかくとして推理力には自信があるタイプだ。
その発言の端々に思うところがあったのだろう。
「生産、後継……面白い言い回しをするね、オジさん?
オジさんは一体何者だって言うのさ?」
そしてフランドールは続いての車上の人物の言葉から自己紹介の必要を認めた。
「吸血鬼が夜出歩いて何が悪いっていうのさ?」
みしり。
脳の奥でゆれる感覚が周囲の空間そのものを揺らす。
「まさかとは思うけど……そレとモ?
私がお外に出ちゃダメだっていいたいのカ……?」
そう、ありえない。
車上の人物が何者であれ、フランドールの立場をさっせるはずもない。
出ると迷惑だと?
ぎしぎし唸る精神のタガを感じながらも身の内の渾沌をなだめる。
彼は、私を知らないだけだ。
その……はずなのだから。
>「ようヘッジホッグ!また会ったな」
……と、砲塔の動きにつられて視線が追いかけた先に、ヒト型の獣の姿を認める。
妖獣だろうか?
「あれ、こんばんは。はじめまして」
とりあえず、ご挨拶申し上げたのはレディとして及第点だったと思う。
- 974 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/02(金) 00:47:44
- >>969
「いや、騎馬戦車スコルピオンとか! マニアック過ぎて解り辛ぇよ!」
というか。
思わず詳細に突っ込んでしまった。
ガキだのなんだの言ってはみたものの、フランドールは文字通りに人形ライクな美形で、ミンメイ知識を披露するのに
相応しい外見ではない。
「東郷剛毅戦の先方だろうがよ」
「解るの!?」
「男塾じゃなかったら危ねェところだったな」
後はドラゴンボールと北斗の拳な、と付け加えるエリス。八十年代のマンガってスゲェなぁ。
「まあ、江田島平八とか普通に知られてるからな……」
フランドールに渡された酒盃を煽りつつ(やべぇ割とキツい)エリスを見やると、ふと何かを思案するような表情で、この
男にしては深刻な表情を浮かべている。
なんだ、と聞く俺に、エリスは眉を顰め、
「イル」
「だからなんだっつーの」
「江田島平八の弟弟子で千歩気功拳を使った中国人はなんて名前だった」
「そんなどうでもいいこと考えてたの!?」
あと洪師範な!
一応!
一人で重大そうに唸った挙句、「ああ、ナンタラ師範だ」と自信MAXで納得するエリスのツラは、「デイヴ・ムステインって
のはどこのバンドにいたヤツだっけ……ああ、そうだメタリカだ」と自慢げに言っていた時のツラにそっくりで、つまり間違っ
てはいないのだが非常に惜しい。突っ込む時間は更に惜しいので省略省略。
「……まあ、時代が違うからな。現代の戦車ってのは概ねあんな感じだよ。ファランクス敷いて騎馬兵とド突き合ってたの
はローマ兵の全盛期で終わりだ」
まあ。
五百年前には未知のシロモノだったから仕方ないのだろうが。
「……にしても、友ねぇ」
エリスにそれとなく視線を向ける。笑いながら怒り、笑いながら憎悪し、笑いながら殺すこの男のツラには、それ以外の
表情が欠け落ちている。
何故なら――地球が滅びても確実に生き残る墓標の巨漢は、全てを笑いながら見送ると決めているからだ。
見送る者。
全てを見果てる墓標。
コイツを『友』と呼べるヤツがいるのは、我乍ら――正直、驚きでしかない。
「ま、俺が言うことでもないんだけどさ」
>>968
「おいエリス」
「なんだイル」
酒が回り過ぎたのだろうか。
ずるずると甘ったるいアルコールを流し込みながら、俺は視線の先に疑問を投じる。
「なんかネズミがいる」
「ネズミがどうした」
「なんかデカいネズミがいる。酔ってんのかな俺」
「だったら帰って寝てろ――オレにも見えてるからな。幻覚の類じゃねェだろうよ」
- 975 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/04/02(金) 00:53:45
- >>973
>「あれ、こんばんは。はじめまして」
意外にも彼女は驚かなかった。他の二人は驚いていたので、意外だった。
その姿は……少々異質だった。
背中に輝く七色のガラス状の何かは、翼のようにも見えた。
あどけない顔に金の髪、白い肌は記憶の中の一人を思い起こさせたが、彼女よりは幼い。
何より、瞳の色。赤いそれは、自分と同じだった。
「…こんばんは。君は…」
保護者は、と聞こうとしたが、もしかしたら、そこの男性達が保護者なのだろうか。
同伴なら、心配する必要もないか。
>>974
対して、他の二人は……どうも酒が回っているらしい。
実は自分の事もまともに認識出来ていないのかもしれない。
酔い潰れるという感覚がない自分には、あまり縁のない事だ。この肉体はアルコールを物ともしない。
- 976 名前:M60A3:2010/04/02(金) 00:56:13
- 漏れ聴こえてくる会話から、女の子はフランドール・スカーレットと言うらしい。
「キャプテン・スカーレットなら知ってるんだがなぁ」
何故か、イギリスで製作された人形劇が思いこされた。あの青々しい髭はナントカならなかったのか?と常々思うが。
>>972
>「……シャドウ、だ」
ファミリーネームだと思っていたが、どうやらそちらで呼ばれるのは嫌いらしい。
「じゃぁMr.シャドウ。改めてこんばんは。……男だよな?」
言ってから、どうしてこう見も蓋も無い言い方しか出来ないのか。自分の発言に少々イラだった。
>>973
>「生産、後継……面白い言い回しをするね、オジさん?
> オジさんは一体何者だって言うのさ?」
「そうだな。世界の自由を守る公務員……なんか違うか。公務用品って所か」
燃料・弾薬って形で給料頂いてる訳だから、員でも間違いじゃないが。何か違う感じがする。
「たいていの人間は驚く『喋る戦車』って所だ」
乗員が居ないと、同軸7.62mm機銃しか撃てないけどなー。と冗談めかす。
>「吸血鬼が夜出歩いて何が悪いっていうのさ?」
>「まさかとは思うけど……そレとモ?
> 私がお外に出ちゃダメだっていいたいのカ……?」
「妖怪に続いて吸血鬼もご登場かよ!勘弁して欲しいね」
銃身・砲身を天に突き上げてアキレを表現する。なんか陽炎っぽい物が体から吹き出たが気にしない。妖気だろう。
「なら前言撤回だ。すまねぇ」
砲身を下げて謝罪を表す。
「単に夜中に騒ぐなって言いたかったんだがな。ヴァンパイアならしかたねぇや」
- 977 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/02(金) 01:02:43
- >>974
>「いや、騎馬戦車スコルピオンとか! マニアック過ぎて解り辛ぇよ!」
「やはりちがうのか!
すると、やっぱりあの車も外装をパージしてスピードタイプに変身するんだね!?
オレの剣をしゃぶれッ!とか言うんだね!?」
なにい知っているのか神父!とでも言いそうな雰囲気で少女が身を乗り出す。
彼女の知識では戦車=チャリオットであって、タンクではないのだろう。
実の所、幻想郷にもタンクはあるのだが、
長年地下に押し込められていた彼女はそれに出会ったことがない。
>「……にしても、友ねぇ」
「不思議?」
先ほどまでの冗談めかせた態度がウソのようにまっすぐな瞳で彼を見つめる。
エリスにはばかることはしない。
それが不要だとフランドールは直感的に理解しているから。
彼と一生懸命会話を絡みあわせなくても、お互い気分よくなる事はできると、
フランドールは理解していた。
ただ、この場を共にすればそれでいい。
時折、片方が片方の開いた杯に黙って酒を注ぐ。
彼女はそれだけのことがただただ、楽しいと感じているのだ。
「敵同士でもトモダチになれるってのに、なんで立場とか生きる時間なんか気にする必要があるのさ?
あんたはそれをわかるはずなのに……不思議なの?」
お前が思慕する相手の生きる時間のギャップが
フランとエリスの間の距離とそう違うものであるとは彼女には到底思えないのだ。
だから、まっすぐ尋ねた。
- 978 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/02(金) 01:06:40
- >>965
「おいエリス」
「なんだイル」
「戦車が動いた」
「戦車だからな」
「機銃が動いたんだが」
「戦車だからな」
ていうか喋ったよ今。
「……何、誰か乗ってんの?」
>>973
いい加減にアルコールが回り過ぎて桜の木にハグなどカマしそうになっていた視界で、不意にエリスの
巨体がブレるのを捉える。
ブレる、というか――真実実際、エリスは「そこにいること」を否定することで空間を渡る。波動関数を操
作するのに等しい動作は、傍から見れば連続するフィルムの一部を切り取って強引に一本に繋いだよう
にしか見えない。世界の墓標は世界に偏在するが故に場所を選ばない――離散的な(バラけた)集合と
しての肉体。
「オイ、フランドール」
――それが、フランドールの真正面に構築されていた。
前触れはない。タイムラグはない――というか、意味合いとしては時間が存在するのと同様の意味で、
エリスは当然のように一点から一点に渡る。
馬鹿でかい人差し指を握りこみ、
「何やってんだ」
パン、と軽く額に弾いていた。
見た目通り、触れるように――ではあるのだが。
「テメェはオレと飲んでたんじゃなかったか――ケンカすんならピッタリの相手だって教えてやったハズだ
がな。それとも何か? テメェの言うダチってのは途中で放り出せるほどつまんねェ関係だったか」
口の端を吊り上げて笑う巨漢。
「あのなぁ、エリス、てめえ……」
「前にも言ったろうが――テメェはオレを壊すんだろうがよ。余所見してんじゃねェぞ」
処置なし。
なので、肩を竦めて、ちびちびと酒を舐める事にする。
……さて。
街一つ吹き飛ばすようなケンカになったらさっさと退散しようかな、などと考えながら。
- 979 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/02(金) 01:11:39
- >>975
まじまじと見つめられてるのを感じてみじろぐ。
長年の軟禁生活で注目される事に慣れていない少女は居心地が悪そうだ。
「ん……私はフランドールよ。吸血鬼にして悪魔にして魔法少女。
名前も知らない妖獣さん、貴方も一杯いかがかしら?」
無邪気に笑う口元の牙はたしかに吸血鬼らしくはあろう。
しかし、爛漫な笑顔は悪魔に似つかわしいものではない。
強いて言えば先ほど立ち込めさせた暗いオーラがその根拠足りえるか……
とにかくフランドールはなんとなく苗字を名乗る事を避けた。
今晩だけはただのフランドールとしてここに在りたいと無意識に感じていたのだろうか。
>>976
「セカイのジユウねぇ……」
好きではない言葉がいくつも並ぶが、
そういうものがあることを理解できないわけではない。
文句を言ってもはじまらないのだ。
それがセカイのジョウシキ。
「喋る戦車って……ホントに乗ってる人はいないんだ?
へぇー、ツクモガミってやつ?」
日本では年経た道具は意思が宿るという。
ならばこの戦車もその仲間なのだろうか?
「いいんだ。気にしないで。
さすがにそんな意図だと思ったわけじゃないんだから。
それより、乗ってる人がいないんじゃお酒も飲めないってわけ?」
こともあろうに飲酒運転を勧める幼女。警告されるね。
「せめておつまみの氷砂糖でもあげようか?」
そんなもの燃料の中に放り込んだら動かなくなるのだが。
- 980 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/02(金) 01:22:31
- >>978
「あいた!?」
両手で額をおさえながらびっくりしたようにエリスを見る。
きょとんとしながら彼の言を聞き……そしてやおらクスクスと笑い出した。
「心配性だねぇ、エリスは。
大丈夫だよ、私の相棒はね、もっとずっと圧倒的で膨大なんだ。
溢れ出す時はガマンなんか効かずに一気に私の意識を押し流しちゃうよ」
このくらいのブレは問題にもならない。
そう言って笑う。
「そうなったらそうだね。エリスにあそんでもらうよ。
でも前に言ったでしょ?
そう簡単にブレてやらない、けど、それを忌避もしないってさ。
こたつのあるお部屋でだったかな?
……だからキレないよ。大丈夫」
以前あった時とは違う点。
今のフランの瞳の中の渾沌は昔とちがっておしのけるように広がるのではなく、
混ざり合うように満ちる傾向にあった。
かつてと違い、狂気を排除するのではなく、向き合い始めたからこその変化だ。
その分普段の振動は起こりやすいのが問題ではあるが。
「ところで、エリス。
私に余所見もするなってさぁ……?」
と、悪戯っぽい表情に変わった。
/| ______/\ ,. -/\___
| / _,. -‐''"´ ̄  ̄ `ヾ、/::::::::::::::/
|/ ,.. '´ Y::::/|
_______ / / _,ゝ-ァ'二v二ヽ-、_ノ i'´:::::::|
\_____Y / _r'ア-‐'´  ̄ヽ、_)、ノ_へ、」、
| __!、,ゝ‐ァ'´ / / i i , ヽ、ノ、 Y
| .!´ / _ノi ./ ハ ´i ̄|`ハ /'l ハ Y |
| Y'Y´ .ノ i ./,ィ'ア7=ー!;、| / |/ ̄i` | i | まるでそういう意味みたいだよねぇ?
______. / . 、i / ノノi ,ゝ、,_c! レ' ァ-,rァ| ハ | | |
\___\| . | レ'´| i ! """ ゞ-' /レ' `ハ! |
| | ヽ.i l l', ' ""'!ハ / | !
| | i ,ハ.___',ヽ、 (`'ァ、.,_,,..イ,._-'‐- 、!/
| ハ | , '"´ `ヽ.!_>.、.,,_´>、.,  ̄ ヽ!
\i´〈rヘ!/ ヽ>‐'iァ'、.,_し>、.,_ i
__,ゝ、 i Yヽ、_r'_」_/ヽ!`ヽ. `i' |
∠___/ `ヾハ _」___rイ>::::::::/ ハ:::::', ', | |
ゝ、.,,_`r' `Y:::::::/___,ヘ」:::::! ヽ| |
`ヽ;:ヘ ':,:::::::::::::i::::::::::::',rン'7 |
ヽ;:::':, ':;::::::::::ハ::::::::::::i-' ! ノ
ゝヽ':, ';"´ ._.`''-、. ! ` ´
_,, -‐'"゛;::::::::':, ´゙'ー''''"'',.ゝ
,.. -''''"゛:::::::::::::::::::::::::::::::':, ':;:::::::::::::::::::Y
- 981 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/04/02(金) 01:23:49
- >>976
「男以外の何かに見えているなら、一度修理するべきだな」
こんな低い声の女が居たら見てみたい。何をどう見てそう思ったのだろうか。
近くに腰を下ろすと、手持無沙汰な様子で少女に視線を向けた。
>>979
吸血鬼、と来たか。
宇宙人だ自我あるロボットだと色々見てきた上、自分も人造生物と言うべきシャドウだ。然程驚かなかった。
唯、「やはり世の中は広い」と思っただけで。
「フランドール、か。すまない、少し知り合いを思い出した。僕の事はシャドウ、でいい」
一杯、酒か。
混ざるのも悪くはない。酔える自信はあまりないのだが。
……しかし、妖獣か。僕もそういう、不可思議な存在に思われるものなのか。
- 982 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/02(金) 01:27:04
- >>977
「妹紅は――」
言われて、言葉に詰まる。
例外だ、と言ったところで通じないだろう。
誰がどんな状況で誰にとって掛け替えのないモノになるかは、堆積した記憶と構築された脳神経の間に厳密に設
定されている。それが人間とそれ以外で価値観をどう隔てるかと言えば――こうして会話できている以上、パーソナ
リティにそれほどの差はないのだろう。
ないのだとしても――ないだろうからこそ、俺は首を振る。
「不思議っつーワケじゃねぇよ。セシルもそうだし――お前も知ってるだろ、俺と一緒にいたガキ。あいつはまあ、俺の
『友達』っつっていいだろうよ。お前の定義ならな。けど、俺達はお互いに『友達』なんて考えたことはない」
説明し辛いけどさ、と付け加えて、複雑な虹彩を湛えた羽(らしい)を眺め回す。似たような基底色を横たえながら、
宝石じみた羽色が微妙に変化していく様は、モニター上に再現された高次元物質の切り口を思わせる。現実味がこ
れっぽっちもないクセに、この上なく現実感だけは押し付けてくる。
「けど、お前の理解は単純すぎて俺には辛い。聞くけどよ、フランドール。だったらさ、好きなヤツが敵に回ったらどう
する。そいつが自分と全く違う思想を持ってたらどうする。俺はさ、そういうのが冗談みたいに辛い。好きなヤツを好き
なままでいられないのがキツいんだ。そんな目にまた会うくらいなら、最初から友達なんていない方がマシだって思
うよ。そいつと一緒に過ごした時間がどれだけ尊くても、そいつと最悪の仲違いをしたと考えたらどうだ――思い出だ
の記憶だのは記憶の瓦礫になるぜ」
違うか、と俺は言う。
「お前にはできるかもしれないけど――俺には無理だ。そのシンプルさはとんでもなく強くてすげぇ羨ましいけど、頼
まれてもマネはできない」
- 983 名前:M60A3:2010/04/02(金) 01:33:09
- >>978
>「……何、誰か乗ってんの?」
銃塔をくりくりと振り。
「いや。誰も?」
実際誰も乗ってないから仕方ない。
>>979
怪訝というか、露骨に『好きじゃないね』って顔してるな。
>「喋る戦車って……ホントに乗ってる人はいないんだ?
> へぇー、ツクモガミってやつ?」
ツクモガミって言うと、道具が100年経つと魂を持つって奴か。
「少し違うな。製作時に魂を込められた、といった方が正しい表現かもしれん。『船魂』が一番近いか?」
言って、かつての同僚の姿を思い出す。あの人は魂だけに成れたが、俺にはどうしても出来なかった。
何が違うのか。戦車と戦艦って違いはあったが。
>「せめておつまみの氷砂糖でもあげようか?」
「おう!くれるんなら貰っとくぜ。袋ごとな」
この戦車、強欲である。いや、せっかくのご好意勿体無いじゃん。
>>981
>「男以外の何かに見えているなら、一度修理するべきだな」
「この間、分解整備受けたばっかりなんだがな」
理解できないといった表情を浮かべるシャドウに、言葉を返す。
「男以外と言うか、人間以外の男女の見分けがなかなか付けられなくてね。すまねぇ」
- 984 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/02(金) 01:42:00
- >>983
「九十九神ってシフターは海外にもあったんだな……」
しゃもじだの唐傘だのに意思が(そう、意思が!)宿る、というのは江戸の黄草子の定番だったのが、
なるほど、考えてみればこの種の噂話は海外にも絶えない。
というより、むしろ頻繁だったように思う。六年前のカブールで、スーダンで――PKOに混じって狩りを
強制されていた頃、俺はその種の話を頻繁に聞かされた。元Uボート乗りが語るセイレーンの歎き、砂
漠を走る戦車部隊の亡霊。死と隣り合わせにある場所において、なぜか連中はそれを本当に怖がって
いた。
矛盾だ、という向きもあるだろう。が、それでも人間の脳は「それ」を恐れることができるように出来て
はいるらしい。俺はといえば、無神論の国の出身者らしく、笑いながらそれを退けてはいたのだが。
「……まあ、なんだ。よろしく、でいいのかな」
いいんだろう、たぶん。無機物に感情移入できるのはミラーニューロンの基礎資質だ。
というより、なんだろう。意識を宿らせる要素をどこに担保しているのかは壮絶に不思議ではある。
見た目複雑性ゼロというか、八十年代の戦車にそんなハイレベルな機構が組まれているなら奇跡だ。
いつからこの世界の設定は似非スチームパンクに移行したのか製作者に問い合わせなければいけな
いのかもしれない。
「ってーか、そうか。戦車だと八十年代でもロートルなんだ」
何気なく呟いて、これも異種族間の価値観の相違か、などと納得してみた。
多分何かが根本的に違うのだけど。
- 985 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/02(金) 01:44:48
- >>981
「知り合いって……
何々?シャドウには私に似てる知り合いがいるの?」
グラスを渡すと、自前の方のグラスを勝手にこつんとぶつけてあおる。
自分みたいなヤツをろくに知らないフランとしては興味を抱かずにおれないのだ。
「それはシャドウの友達?恋人?それとも娘?」
しかし、彼女の尋ね方はなにかにつけ端的に過ぎるきらいはあった。
>>982
ああ、あの。
過日の無表情な少女を思い出す。
天を無数の刃に変え、目の前で心臓を取り出して見せてフランの神経をさかなでた少女。
せしる?
そういえばそんな名前だったか。
続く神父の述懐を聞いていてイライラが蘇る。
こいつ。
なんで前に私がして悶々としてた事をそのまま再生してくれるんだ。
「……なんかさ」
仏頂面になった自分を自覚しつつもグラスを空けて、エリスに注いでもらいながらも続ける。
「お姉様が言うのよ。
信じろってさ。信じてみろって。
お前が信じる限り、それはお前の中でだけは揺るがぬ真実だとか。
お得意の知ったかに違いないね。不愉快だよ」
でも。
「でもね、信じるとか置いといてさ、決めたんだよ、エリスをトモダチにするんだって。
一人でセカイに殉じる気取り屋さんを一人にしてやらないのさ、って。
信じてるんじゃなくて意固地になってるのかもね。
でも、だから、揺らいでやらない」
神父と自分は違う。
似てるとかなんとか言われても違うのは間違いない。
だから神父をどうこう言うつもりはない。
自分がどうなのかって言うのを自分で振り返ってみただけ。
でも、自分にとって不利益では無いと、そうおもった。
>>983
「魂『だけ』になることってそんなに大事かな?
今、あんたとこうやって話をしてる事の方が私にとっては大事だけどね」
よくわかんない。
そう言いつつもフランは懐から本当に氷砂糖を取り出すと
何処に渡していいものか迷ったあげく、車体脇の搭乗用の足掛けにヒモでくくった。
「……どうやって食べるの?」
実に素朴な疑問。
おさえきれずに尋ねてしまう。
- 986 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/04/02(金) 01:50:50
- >>983
「……なるほど」
それは確かに、分かりにくいかもしれない。
自分達は人に近いから、首から下を見れば何となく察する事も可能だ。だが、不可能なモノもある。
まあ、キツイ物言いは先程のお返しも少々あったが。…我ながら結構大人げない。
>>985
興味津々に聞いてくる姿に笑みが漏れた。吸血鬼などとは到底思えない、少女の顔だ。
だが、帯びる雰囲気はそんじょそこらではお目にかかれないものだという事も彼は悟った。
「似ている、というか。連想するような女性だな。……僕の姉のような人だった」
病弱だったから色白で、金色の髪ももう少し長かったが。こんな無邪気ともとれる表情はしていた。
相変わらず、引きずっているらしい。過去は捨てたつもりであったのだが。
- 987 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/02(金) 02:13:40
- >>986
過去完了形、すなわち……。
「だった?
……あ、ごめん。
まずいこと聞いたかしら?」
ちょっとバツが悪そうにフランは謝った。
同時に自分を連想するようなその人物に会う機会は
決しておとずれないのだろうという事も理解し、少し、残念に思った。
- 988 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/02(金) 02:13:56
- >>980,>>985
――と。
見た目と反比例するほど蠱惑的に笑ったフランドールに、
「馬ァ鹿――百年早ェよ、ガキ」
クッ、と喉を鳴らしておかしげに巨漢は笑い返す。
百年も何も、吸血鬼の基準で百年はどんなものなのか考慮する必要があるのだが、それを言っても
詮無いことだろう。
「だが、そこらもちったぁマシになったみてェだな――まァ、悪かねェ。中々に重畳だ。どうしようもなく抱
え込んでツブれるヤツもいたからな――そこを整理できただけ、オマエはウチのガキよりもガキの度合
いが低い」
「……誰だよ、ガキって」
苛立たしげなニュアンスを声に混じらせたフランドールに協調して、こっちの声のトーンも二つほど下
がるのを自覚する。
「自覚があるならテメェも少しはマシになったな――危うくこの世界ごとブチ殺そうとしたヤツがオレの知
り合いにいてな。そいつはそいつで死人に責任を背負おうとしてやがったワケだ――テメェがそれまで
殺した相手の全部にな」
「はん。なんか間違ってるか? 誰かを殺したら――殺した責任があるんだよ。殺人鬼同士でツルんで
みたところで、そんなもんは傷の舐め合いだ」
「当然だ。『この世界』が人殺しだのなんだのを認めてねえからな」
面倒だが、と巨漢は司祭らしからぬセリフを吐き捨てる。
「だから殺した相手を忘れるヤツは最低だ――それはいい。世界と折り合えって言われて折り合う馬鹿
よりは余程にマシだ。殺した相手を忘れて幸せに、なんてヨタをホザくよりはな」
「だから――」
「――だから、てめえはそんな『世界』なんぞに従ってなんかを好きになってみるのも否定すンのか。そ
れこそ阿呆だろう。世界と折り合えって言われて折り合えないヤツは仕方ねえからな。そうやってアタマ
ん中を作られちまった以上、ソイツぁどうしようもねェからな。そいつらに責任を取ってねェだのなんだの
とホザく連中に限って、テメェのアタマで『責任』の意味すら考えちゃいねェってのが定番だ。折り合いを
付けろ? 付ければラクになれる? 付けられるヤツはハナっからその世界で有利に振る舞えるっての
に、そいつらの道理をハイそうですと受け入れるのは業腹だろう」
「……そりゃ、まあ。いや、話がズレて――」
「ねえよ馬鹿。矛盾しねえって言ッてんだよオレは――」
「矛盾……」
「この世界のクソ道理をシカトすんのと、テメエらがテメエらを理解できるヤツを探していいって道理とは
矛盾しねえって言ってんだ――地獄にゃ地獄の飼い馴らし方がある。断言してやるぜ。
地獄は悪い場所じゃあねえんだよ」
それは――まあ。
「解ってるよ、ンなのは」
「ハッ、だったら実行しろよ――テメェに比べたら、まだフランドールの方が実践に近い」
「解っててもやり辛いことがあるんだよ。……いいだろ、別に。俺は妹紅が理解できればそれでいい」
「だとさ。処置なしだぜ、このガキは――なあ、フランドール」
樽を直接傾けて、ガハハと巨漢が笑う。
……酔いがキツくなってきたアタマに、なんとも響く笑声ではあった。
- 989 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/04/02(金) 02:19:17
- >>987
「気にするな。僕が勝手に想像しただけの事だ」
謝ってくれているのだし、と呟き、グラスを煽る。悪くはない。
体質的に酔えないシャドウだが、ワインだ酒だの類は付き合いで飲む事もある。味は分かるつもりだった。
…金髪の少女など珍しくもないのに、何故だろう。その浮世から外れているような雰囲気が、そう思わせたか。
外界から隔離されたような、そういう雰囲気。吸血鬼、という存在だからか。
外界から隔離などと言われれば、シャドウもそれに当てはまってしまうのだが。封印に近いが。
- 990 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/02(金) 02:20:58
- >>975
「つーことは、こっちも九十九……いや。厭魅の類――」
でもないか。
そんな後ろ暗い要素を感じない、というか、日本で有名な動物霊と言えば何はともあれ御狐様で
あって、八幡稲荷が優勢のこの国にネズミの霊で有名なのは、それこそ頼豪鼠くらいのモノだ。
でもって、そんな怨霊具合満点の鉄鼠敵要素はこちらからは感じられない。
ていうかこっちも喋ってるしね。
幽霊モノの法則その一。喋る悪霊は怖くない。その五辺りまであった気がするが、今は思い出す
必要もないので省略。第一、こちらは雰囲気的にはエリア51とかに住んでそうなアレだ。
「まあ、珍しいっちゃ珍しいよな……なんていうか、よろしく」
で、いいんだろうか。
どうにも話しそびれていたんだけど。
- 991 名前:M60A3:2010/04/02(金) 02:24:07
- >>984
何か納得したような表情で、男が頷いていた。
>「……まあ、なんだ。よろしく、でいいのかな」
「良いんじゃねぇか?カリフォルニア州軍のM60A3。ご友人は良くご存知そうだから細かい紹介は端折るぜ」
俺としてはそれだけで十分だ。今のところ敵対の意思は無いという表明として受け取れるから。
流石に兄弟を潰したと発言できる人間達に、同軸しか使えない状態で戦いたくもないし。
>「ってーか、そうか。戦車だと八十年代でもロートルなんだ」
「基本設計は60年代だからねぇ。改良に改良加えて80年代でも耐えられる仕様になった訳で」
80年代に生産されたとは言え、基本的な設計はM60A1兄貴と大差は無い。
「基本設計は半世紀前。生産から四半世紀以上経ってると、兵器としてはロートルもいい所だね」
「運が無ければスクラップか、博物館逝きさ」
>>985
>「お姉様が言うのよ。
> 信じろってさ。信じてみろって。
「フランドールの姉さんが言う事も、俺には理解はできるなぁ」
ポツリと呟く。
「現に俺を最初に見て、乗員に馬鹿にされてると思っただろ?つまり信じてなかった訳だ」
抑揚も無く、棒読みに近い喋りになってきたが、まぁどうでも良い。
「けど今は、目の前に『喋る戦車』が居るってのを信じる気にはなったろ?『真実』を『信じる』気になったのさ」
「もし、フランドールが乗員に馬鹿にされてると信じ続ければ、ソレがフランドールの中での『信じ得る真実』って事で」
「真実なんて、命の数だけ存在すると思えばいいのさ。それぞれにとっての正義が違うようにさ」
自由を信じて戦うも真実。復讐を信じて自爆するも真実。ってね。
「まぁ、理解はするが。押し付けるのは関心せんなぁ」
>「魂『だけ』になることってそんなに大事かな?
> 今、あんたとこうやって話をしてる事の方が私にとっては大事だけどね」
「率直に言えば不便」
思いっきり不機嫌に言ってやる。
「前にもここでメイドと兵隊と妖怪に会ったが、メイドから不審がられてしょうがなかったわ」
あー思い返すだけでもムカつくぜ。
>「……どうやって食べるの?」
「……いや。多分戦車長辺りが食うと思うよ。俺食えないから」
- 992 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/02(金) 02:38:56
- >>988
殺したやつの責任……ねぇ……
もちろん意味は分かる。
いや、分かる様になってきた、だけど。
吸血鬼である以上、命を奪い続けて生きている。
それらのことは頭ではいちいち覚えてはいれないが、吸血鬼は血でそれらを忘れない。
血は命の通貨だそうだ。
喰った相手のログは吸血鬼の血の中で力となって残り続ける。
ああ、そういえばウチにはヒトゴロシが大好きな元快楽殺人鬼がいたっけ。
殺した相手の重みでつぶれるだなんて、彼女に聞かせてやりたい台詞だ。
鼻で笑いそうではあるが。
「自覚があるわけじゃないよ、お姉様に言われるがままなんだ。
……今はね」
そんなことより、覚悟してよね。
フランはなんとエリスにからんだ。
指差しつきつけて不敵に笑う。
「おい、我が友エリスめ、ひとり超越者の大人を気取りやがって。
そのうち同じ土俵にひっぱりだしてやるからね。
あんたも。お姉様も、だ」
>>989
「わかったよ、程ほどに気にする。
私が勝手に済まなく思ったことだからね」
言ってニヤリと笑った。
お互い勝手なら、そういうことだろう。
おかたい人だろうがなんだろうがフランは区別しない。
いや、区別の仕方を知らないのだ。
500年の軟禁生活は彼女にその経験を与えなかったのだから。
だから相手がなんでもフランの調子は変わらない。
>>991
「分かるから不愉快なんじゃないか。
お姉様はいつだって正しいのよ、それが腹立たしいんだ。
あいつ運命はお見通しです、みたいな済ました顔しやがって」
ぶちぶち言いながらフランは嘆息する。
喰えないならこーだっ!
八つ当たりっぽくアルコールを車体にちょびっとかけたりする。
「押し付けはよくないよねぇ。
でも、オジさんの真実って何なのかちょっと知りたいかなぁ?
それがセカイのセイギってやつなの?」
- 993 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/02(金) 02:43:40
- >>991
「ん……んじゃ、それで。俺はあんま違いとか気にしなことないんだ。悪い。あれだ、もしかしたらそっ
ちから見ると人間のツラなんて全部同じに見えてんじゃないかな、とか思うんだけど」
などと。
適当に言いながら、もしかしたらそれはありえる仮説なんじゃないか、などと考えてみる。人間が犬
猫の顔に根本的な差異を見付けられないように、戦車の知覚がそれを気にするとは――いやでも、
思いっきり人間の価値観で喋ってるしなあ……。
「俺はアレだ、十年以上前にボスニアでM36ってのを何台かツブし――いや、戦ったことがあるよ。う
ん、日本人は米軍製兵器から見たらどう映るのか、ってのはテーマとしちゃ割とアリだよな」
とはいえ――。
「……俺が見た戦車よりは大分、こう……なんだ、セクシーだな。機能的だ。……俺が知ってるヤツ
はもっと……味があるっつーかなんつーか……まあ、兵器は俺達と違って性能の更新が早いって
のはあるよな。俺達は数世紀掛けて漸く感情だの知識だのの基盤を作って、でもって文化との相互
作用やらなんやらを想定に入れないと動けないんだ……挙句、不要になったパーツは全部引き摺
りながら進化に振り回されるんだからイヤになる。脳髄なんて一度全面改訂するのが正しい在り方
だよ、ホントの話」
- 994 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/04/02(金) 02:44:31
- >>990
>「つーことは、こっちも九十九……いや。厭魅の類――」
自分はそんなに珍しいのだろうか。或いは、そういうモノとすら出会わない辺境の地の出身者か。
もしかしたら時空自体が歪んだ場所なのかもしれないが。
……まあ、いい。偶には理屈抜きでこうやって過ごすのもありだ。知り合いの一人なら、きっとそうするだろうし。
>「まあ、珍しいっちゃ珍しいよな……なんていうか、よろしく」
「ああ、宜しく」
控え目に返して、ちらりと視線を送った。
一体何をしているのかは定かではないが、それ以上に……酔い潰れるんじゃないだろうか。
>>992
対して、彼女は初めての相手とは思えない程に気軽に話しかけてくる。
誰かに似ていると思ったが、なるほど、「彼」か。
「……今。君に似ている奴をもう一人思い出した。君のように、何処か掴みどころのない奴でな」
むしろ掴めるのなどシャドウくらいだろうか。
種族の垣根も何もかも越えて走り抜けてしまう、音速の名を持つ彼であるから。
根本的な部分はまるで違うが、似ていると思った。
- 995 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/02(金) 03:03:50
- >>992
「大人だから言ってンだ――ガキはガキらしくしてりゃいい。テメエがウチのガキだったら、とっくに
解るまで解るようにさせてるところだ」
「それ、ローマとか微塵だよな、絶対……」
「何の為の騎士団だよ」
「テメエらの親子ゲンカだか痴話ゲンカだかを止める為の騎士団じゃねえのは確実だよ」
「ッたく、つくづく役に立たねェ連中だ――」
「お前は俺達をなんだと思ってたの!?」
酔いが醒めた。
こんなアホな話で覚醒させられるとかビックリである。
「まあ、だが――」
エリスは言いたいことをいいように言いたくったフランドールの指に馬鹿でかい手をそっと重ねて
そのまま降ろし、
「――悪かァねェよ。てめえも――コイツも。どうにもならねェてめえらが、どうにもならねェって決
め付けるのがオレには我慢ならねェってだけだからな――」
不意に笑って、そんな――意味の解らないことを言った。
解らない。
そういう事にしておきたい。
「エリス」
「なんだ」
「自分を一気に変えるのは、自殺と同じだと思わねえか」
「だったら一気に変えなきゃイイだけだ――振り回されてんじゃねえよ、ガキ」
チッ、と舌打ちしながらフランドールに視線を振る。
そういえば――コイツは常々姉がどうの、と言っていたんだったか。予め何もかも見た上で話す
ような口振りが、どうにも既視感を誘うヤツだったのを憶えている。
「……ま、精々頑張ってくれ。俺は巻き込まれなきゃそれで――あ、いや」
そういえば、と付け加える。
「……フランドール。そっちにいる俺の知り合い――いや、知り合いっつーか、まあ、その、あれだ。
妹紅とよく会うなら、その、宜しく言っといてくれ」
ていうかむしろ今度連れてってくれ。
そこまで言えないのがなんとも辛いところではあったのだが。
- 996 名前:フランドール・スカーレット ◆iQUnoWeNWM :2010/04/02(金) 03:12:16
- >>994
「んー、そんなに似てるヤツがごろごろいるものかな?
もしかしてシャドウってさ、私の部分を見て、似た部分をもってるヤツを想ってるの?
だとしたら……セカイは似たもの同士ばっかりなんじゃない?」
それがいいことか悪い事か、それはわかんないけどね。
それを言うならそうやって取り澄ました顔するのはうちのメイド長そっくりだよ。
>>995
「やーだよー」
だが断る。
まさかの反逆!
と思いきや、単に会う機会が少ないだけである。
「なんてね。妹紅になんて片手で数えるほどしか会ってないよ。
そういうのは自分で頑張りなよ、それも楽しみのうちでしょ?」
エリスの言の方は、まぁ悔しいので答えない。
お姉様といいエリスといい勝手なものだ。
なんでこんなに連中は自信満々なんだろうか。
自分の道に迷いがないのは何故なんだろう。
彼らを内側で支えているものはなんなんだろうか。
そんなこんなで確かこのメンツで朝まで呑んでいたような気がする。
朝日に焦げる寸前に誰かが迎えに来たような気がするが、
後日、そのあたりは思い出せなかった。
覚えているのは結局たるはからになったという事くらいだ。
<退場>
- 997 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2010/04/02(金) 03:18:50
- >>996
「全体でなら、君は君にしかならないだろう?」
部分で被るモノなら沢山あるのはその通りだ。だが、全体を全て合わせた存在などこの世に一人ずつしかいまい。
それが当たり前で、だからこそ似通った部分を探してしまうものなのだろう。案外自分も人間じみている。
この世に自分や、彼女とまるきり同じ経歴を持つ人間が居るなら、是非とも見てみたいものだが。
きっととても確立の低い事だ。
そして当然ながら、自分も誰かに似ている。
フランドールの顔から似ている者を連想されたのだと悟って、久しぶりに自然と笑いが上がっていた。
それからはあれこれと下らない事を話していた気がする。
仲間が見れば「シャドウが!?」と思う事だったのだろうが、彼とてそういう日はある。
やがて朝の間際に、一人迎えに来た姿を見届けてから(吸血鬼と言えども少女だ、放ってはおけまい)、自身も帰宅した。
珍しく、楽しい気分になったと、そう思いながら。
【退場】
- 998 名前:M60A3:2010/04/02(金) 03:22:11
- >>992
「あぁ悪い。年かな……最近理解力が落ちた気がするぜ」
変な所まで人間じみてきた。本当に面白くないぜ。
そうやってため息など言っていたら、フランドールが酒をブッ掛けてきやがった!
「ちょっ!おま!」
やめてよね。匂い残ったらまた戦車長達に迷惑掛かるじゃない。
>「押し付けはよくないよねぇ。
> でも、オジさんの真実って何なのかちょっと知りたいかなぁ?
> それがセカイのセイギってやつなの?」
「俺の真実ねぇ。正直な所、照準器に映る物が全てで、真実なんかそこいらに転がってる」
そこまで言って、ふと笑いがこみ上げてきた。
「ふふ。俺の真実を語っても、使う側にはどうでもいいし、使い勝手が良ければ反戦主義者でも別にいいのさ」
「真実が何かなんて些細な事。大事なのは自分の意に沿うかどうか。だな」
暗に『意に沿わない真実を無視・排除する』と言うニュアンスを混ぜる。
>>993
>「俺はアレだ、十年以上前にボスニアでM36ってのを何台かツブし――いや、戦ったことがあるよ。う
>ん、日本人は米軍製兵器から見たらどう映るのか、ってのはテーマとしちゃ割とアリだよな」
「M36?ジャクソン戦車駆逐車ジーさんか。潰し潰されッてのは気にしなくてもいいぜ」
「何せ俺の親父。M48って戦車は同じ車種同士で潰しあいをやった、珍しい戦車だからな」
くっくっと笑う。M60やM48の他にも、系列的に同様のM47は世界中に売れたベストセラー戦車だ。
同じ軍に所属するより、敵同士で戦う可能性のほうが強いんだから皮肉な物さ。
>挙句、不要になったパーツは全部引き摺りながら進化に振り回されるんだからイヤになる。
「それは俺も同じさ。俺の先々代が色々欠陥抱えてたために先代が生まれ。先代を上回る敵が居たから俺が産まれたからね」
M47は照準機構に問題が有り、少数で生産が終わった。M48は傑作だったがT-54の登場で一気に旧式化した。
「ま。そんな話はどうでもいいか」
>>997 >>996
気が付けばフランドールやシャドウは既に去っていた。
「ここらが潮時か。じゃぁな」
- 999 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/02(金) 03:25:55
- >>994
……とは言ったものの。
NASAかエリア51の職員にでも報告してやった方がいいのか迷うところではある。
いやまあ、宇宙人と知り合いとかレアケースなのでそんな無粋はやらないが。
「んじゃま、乾杯……って、もうカラだっけ」
やれやれ、と笑って、グラスを置く。
戦車に宇宙人に吸血鬼。……百鬼夜行とは言い難いが、状態としてはそれよりも希少だろう。
>>996
「な……っ!?」
いきなり断られた。
ザックリと。
……まあ、しかし言い分は正しいので認めるしかない。
「ま、解ってるよ。言ってみただけだ、言ってみただけ――酔ってるからな、ヨタの類だよ。お前に
なんか頼もうなんて思っちゃいない」
言って――そこで、目の前に落ちてくる桜の花弁に気付いた。
空を見上げる天井に桜の天蓋。
どんな奇縁だ、と苦笑しながら、グラスに代わりを注ぐ。……まあ、こんな日が偶にはあっても
いいだろう。
無理矢理自分を納得させて、それとなく自分の限界まで酔いに付き合う事にした。
まあ。
二日酔いなんかはとりあえず考慮せずに。
(退場)
- 1000 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2010/04/02(金) 03:29:13
-
空には月。
月を蓋するのは桜の枝。
風流には程遠いが、それでも――まあ。
「エリス」
「あん?」
「……ここ、ロクな思い出がないけどさ」
「なんだ」
「それでも――まあ、楽しい事もあったよなって」
「今更気付いたのか――当然だ、阿呆」
言わせるままに、だろうよ、と頷く。
これはこれで――多分、悪くはないのだろう。
地獄に桜が咲いていけない道理はない。
- 1001 名前:1001 :Over 1000 Thread
- このスレッドは1000を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
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