■ 【季節限定】桜が満開の公園【雑談】

1 名前:名無し客:2009/03/26(木) 00:48:31
   ;;;   :::: ...        ::::: ::;;;:::.....
;;;; ,,, 、、   ,i'            :;;::.,,:  丶;;:;;:
      ヾヾ              ゞ  ```
ゞゝ;;;ヾ  :::,r'  `  `          i、;;;ヽ;;;  ヾ;;;
i;;;::::′~^        `    `        ;;; ″~  ~
ii;;::iヽ /      `               ゞ:,,,:: ヾ 〃::;:
iii;::i `                `          ii;;;;::: ::    `    `
iii;;::i     `      `          `      iii;;;;::: ::
iiiii;;::i      `               `       iii;;;;::: ::
iii.,ii;;:i,                          iii;;;;::: :::
iiiii゚i;;:i                     `      iiiii;;; :::::
iiiiiii;;::i                        ||iiii;;;;::::
iiiiiii;;::::ヽ;;,,';;"'';;";;""~"`"`;.";;""'"~"`~"'';;,,,   /iiiiii;;;;o;;;
iiiiiii;;::;';;"                    `;;/i:ii iii;;;;;::::


・このスレは4月末までの期間限定スレッドです。
・マナーを守って楽しくお使いください。
・ゆっくり花見をしていってね!!!

2 名前:名無し客:2009/03/26(木) 01:37:43
Cherry blossom ヒラヒラと 桜舞い散る夜に

3 名前:名無し客:2009/03/28(土) 00:54:29
桜吹雪に混じって紙吹雪も舞っている

4 名前:名無し客:2009/03/28(土) 16:06:15
〜♪〜♪♪〜〜♪〜♪
(大河ドラマ「花の乱」のOPテーマが聞こえてくる…)

5 名前:名無し客:2009/03/29(日) 01:46:17
無数の桜の中に一本だけ紫色の花を咲かせる桜がある。
見ていて不思議と「引き寄せられる」感覚を感じないでもない。

6 名前:シャドウ・ザ・ヘッジホッグ ◆GHap51.yps :2009/03/31(火) 23:07:29
……もう桜の季節、か。
生憎、僕にはこういう場所は似合わない。色も黒いしな。
女性の方がよく似合う。と思うのは流石に偏見か。

(たまたま通りかかって桜を眺めているようだ)

7 名前:柊かがみ ◆5kAGaMinlY :2009/04/01(水) 17:42:16
埼玉はもうすぐ満開。
んーお花見したいわねえ。

8 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/04/05(日) 19:00:06


 遠くに日暮れが見える。流れる光は茜に染まって静かに遠山へ沈んでゆく。
 夜桜の時間が近い。

「……ちょっと早すぎた、かな?」

 誰ともなく呟いて、担いできた茣蓙を下ろして広げる。
 以前から目星をつけていた一番たくましくて気難しそうな桜の木。
 花は六分から八分咲きといったところか。他の木よりも少し遅い。
 そこが気に入って花見に選んだのである。
 ……珍しく誰かを誘っての花見だった。
 気まぐれか運命の悪戯かは知らないが――少なくとも一人。
 私の横に座ることが確定している人物がいる。
 早めに来たのは誰かを待たせるのが嫌いだから、予定より一時間は早い。
 時間が時間だからか、人影はとりあえず見る限りではほとんどいない。
 たまに誰かが通り過ぎるくらいだろう。

 風は穏やかで、まだ春先の冷たさは気にならなかった。

9 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/04/05(日) 20:21:53


 やがて日は沈み、空は緋色から紫、そして海の底のような青色になっていた。
 月が出ているせいか、辺りはぼんやりと明るい。
 薄暗い中、桜の色が白く透けて見えた。

 時間としてはそろそろだろうか。
 ラベルの無い瓶をもてあそぶ。そばに赤い杯二つ。
 酔いを楽しむ境界はわりとギリギリの部分にある。
 正体不明になってはならず、さりとて素面でもつまらない。
 酒は微酔に飲む。ほどよく酔ってから見える世界の姿。幻想の色彩。
 交わされるであろう言葉はどこへ行くのか。

 根の間に腰を置き、幹を背に、木を見上げた。
 虚や傷の目立つ八重桜。
 彼はそんなものどうということはない、という風に花を咲かせていた。

10 名前:名無し客:2009/04/05(日) 20:39:16
そういえば千年前はソメイヨシノは無かったんだよな

11 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 20:39:24
 
 ――こんな事を言いたくはないんだが。
 
 ――すまない。
 
 ――君は、もう長くはない。
 
 だろうな、と吐き出した声は、我ながら素っ気なさ過ぎた。反省はしているが、後悔はまるでない。
 けどまあ、それも当然だ。分かっていた事実を再確認したところで大した感慨が湧くこともない。
 
「……それはいいけどさ、今日一日でヤバいことになったりはしないよな」
 
 そうだね、と苦笑する白衣姿の小娘一人。イームズのラウンジチェアに腰を埋めた俺と正対し、慣れた手付きで
腕に刺さったピンを抜いていく。
 
「ぼくの見立てでいいのなら些少の進言と忠言を。――無理をしなきゃ大丈夫だ。君は無事に今日を生きられるよ、
イル」
「ならいい。けどその無理ってどの程度?」
「君のカラを捨てないこと。運動したり戦ったりする分には問題ない。できればそれも止めてほしいけど、ぼくが言
えることじゃない」
 
 キャラメルティーの匂いが染み付いた診察室は、俺が通い詰めて数年、不変かつ聖省に普遍の佇まいだ。汚れ
ることもなければ煤けることもなく、ここまで来るといっそ不気味ですらある。……人外魔境の巣窟に常識を当て嵌
めようとする方が間違いなので、そんな雑念を飲み込みつつ天井を見上げる。淡いピンクとサワやかな青の建材で
敷き詰められた部屋は、足元の床板を除けばこの棟全体に共通する基底色だ。
 入り口から一階、通常カウンセリング室の床は青で壁はピンク。二階から三階、重度と判定された患者が放り込ま
れる部屋は青一色だ。
 ……鎮静効果が第一基準、安定効果が第二基準。
 目的は突発的な自殺の防止と、精神の錯乱抑制。
 お題目は『色彩が人体に及ぼす視覚的外界認識の感情超越』云々――要は、色が人間についてどんな意味合い
を持っているか、というエラく単純なテーマがこの施設を多い尽くしたテーゼの正体だ。外から一見すれば、ホコリっ
ぽい図書館にしか見えない施設だが、一歩玄関を潜ればこの通りである。イエス異界。
 どうしてこんなバカな建築物が作られるに至ったかと言うと、あれはグラスゴーのSIS用カウンセリング施設だった
か、IRAの監視要員だったSASの兵士が受け付けの女性に「やあ!」と微笑みつつ自分の口に銃口を押し込んで壁
に脳漿アートを描いたのだ。もう超前衛。自動車爆弾をガンガンぶっ飛ばしていたIRA対策にSASの人員まで秘密
裏に借り出して対応していたSISは、極度のストレスで壊れていく兵士、という第二次大戦以降の脅威とガチで向か
い合うハメになり、困り果てた英国国防省は提携関係にあるSMOMを通してヴァチカンの外事省――というか、要は
異端審問局なのだが――付けだった医療研究機関に要請を出したのだ。いわく、
『あのさ、兵士の修理って効率化できない?』
 できるよ、と回答したのがヴァチカンである。
 

12 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 20:45:56
>>11
 
 いやもう、言う方も言う方だが、対応する方はもっと重症だ。
 外情報適応指向プログラム――”人間の外”に存在するあらゆる条件を最適化する、という機械論の権化みたい
なプロジェクト――は、数年前からマルタ騎士団(言うまでもないが、マルタ島に本拠地を置く”騎士団”は世界から
『国家』として認知されている)をスポンサーに進められていた。依頼があった時期はテストケースに丁度良かった
のか、ノリノリでヴァチカンはこのアホな建物の設立を決意したのだ。
 残念ながら効果は抜群で、今のところ成果を疑う理由はビタイチ見付かってない――色は人間の視覚から神経
を通じて脳を掌握し、脳は身体に感情けつろんを流し込む。薄暗いライブハウスがケンカに持って来いであるように、ブルー
とピンクで統一された世界は全身麻酔と同義ですらある。
 なので、サイケ一歩直前で整えられた世界は実は結界に等しい。
 初めてここに入る人間はまず面食らい、それから怖気付き、中に入ってから忘我に至って、最後には弛緩した表
情でこの異界に取り込まれる。……体性のない人間が入って、ここから出たくないなどと言い出すことも珍しくない
ので、三階には五十人ほど収容できる宿泊施設が整えられている――冗談みたいな話だが、(世界に対して)申し
訳ないことに本当の話だ。
 ここに足を向けるようになって半年。俺がこの最果てに押し込められるようになったのには訳があって――どんな
訳かというと、つまり俺が八回ほど自殺しかけたのだ。
 ナイフで首を掻き切ろうとしたのが三回、こめかみに銃口を当てたのが四回、残りの一回は自分の首をヘシ折ろ
うとしたところ、セシルに腕をヘシ折られた。アメリカでは最もポピュラーな手段である拳銃自殺に四回も失敗した
のは、ひとえにセシルの尽力に尽きるだろう。俺は自殺する度に腕を折られ鳩尾をブン殴られ、気付けばベッドの
上で目を覚ます、というブザマを数回繰り返し、強制的に重カウンセリングを課せられるハメになったというわけだ。
 いやまあ、自業自得ではあるのだが。
 
「……で、今日はこれから日本に? 里帰りかな?」
「ああ」
 
 ぐりぐりと針の刺さっていた皮膚をガーゼで揉み解す。
 
「昨日の今日でこれか。無理はしないようにね。――イスラエルの方は片付いたのかい?」
 
 そりゃな、と肩をすくめる。
 

13 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 20:52:34
>>12
 
 生憎こっち、宿題を放り出して遊びにくるほどヤンチャではない。
 宿題の内訳は地理と社会。
 『アフガニスタンで栽培した麻薬をパキスタンの地元勢力がロシアマフィアに安値で売買しようとしています。流
れ込んでくる麻薬を警戒中のイギリスは中東展開中のPMF傘下のダミー会社からそんな情報を得たのですが、
さてどうしましょう?』――いえあの。どうしましょうと言われても。
 プーチンが大統領になってからこっち――というか、ロシアが資本経済に歩み寄りを見せてから、ロシア国内で
は麻薬ビジネスへの締め付けが強化され続けた。旨みの薄くなったロシアマフィアがどう動いたかと言うと、資金
と武器の提供を中東の武装勢力に持ち掛けて、ヨーロッパ方面への輸出ルートに一枚噛むことを希望したのだ。
 たっぷりの武器とたっぷりの麻薬。
 冷戦が終わって、ジョークみたいな量の武器の不良在庫を抱えたロシアでは、今でも二束三文で武器が売買さ
れている。CD一枚分の値段でアサルトライフルが買えたりBOX一つ分の値段で対戦車砲が買えたりするのは、こ
れが冗談でもなんでもなかったりする。――加えて、ケシ栽培が”国家的”な商売になったアフガニスタン周辺では、
イスラエルと日夜ケンカを続けるパキスタンが麻薬の密売ルートを開拓していて、ヨーロッパで買うヘロイン一グラ
ム分の札束で、一キログラム分の純正ヘロインを横長ししていたりする。
 ロシアのマフィアがパキスタンのテロ屋と肩を組んで、イギリス政府が怒り狂う。
 いやまったく、実にグローバルな大ゲンカである。
 どうしてそれで俺が関係あるのか。
 ……ぶっちゃければ、これもハタ迷惑な話だ。イタリアでもマフィアの収入源になっている麻薬がいい加減目障り
になってきたので、そろそろどうにかしようぜ、という審問局からのお触れが出たのである。
 言うまでもなく、白羽の矢が立ったのが俺だ。
 プランは明快。要素は明瞭。
 バイヤーを殺してロシア野郎を皆殺しにして、同士討ちに見せ掛ける。
 要はロシア政府黙認、イギリス政府提供の暗殺プランで、パキスタンの資金源が強化されることを嫌うイスラエ
ルにとってはホット過ぎるボーナスである。その証拠というか証明に、現地で俺を迎えてくれた空軍の武官は骨が
折れそうな勢いでハグを求めて、ついでにディープなキスまで求めてくれようとしたほどで、パキスタンから鹵獲し
たシリアルナンバー抹消済みAKをトラック一杯提供してくれようとしてくれたくらいだ。
 まあ。なので。
 俺は錆びたナイフと古びたAKを借り受けて、連中を殺すことにした。
 中東展開中のイギリス政府傘下のPMFのジープで移動、SAS隊員のエスコートを受けて現地到着から三時間
で目的地に到着。目標はバイヤー三十人、ロシア野郎四十人。武装は軽装で、通常部隊を相手にするならとも
かく、マタイの騎士を相手にするには貧相すぎた。
 

14 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 21:05:14
>>13
 
 連中は死んだ――どうしてかと言うと、俺が殺したからだ。
 砲撃と銃撃で外壁を削られたモスクの前で、麻袋をトラックに積み込むターバン連中を速やかに射殺/銃殺/
爆殺した後、速やかにロシア人を皆殺しに。華麗に同士討ちを演出したモスクの前には、行き場を失った大量の
武器と過分な麻薬。
 それでどれだけの効果があるかは解らないが、少なくとも「信頼できない相手」というイメージを両者に放り込む
ことには成功している。
 その『成功の度合い』を俺が試算することに意味はない。イギリスにとっての成功の度合いとロシアにとっての
成功の度合いは別物だし、現状としては一度の取引をツブしただけのイスラエルにとっては即効性の薄いプラン
だったことは容易に知れる。
 だが。
 プランを纏め上げた聖省の聖策立案部は、朗らかにロシアとイギリス、イスラエルに宣言した。
 つまり、『連中を殺せば少し世界は良くなりますよ』と。
 ……実際、まあ、それはそうなのだろう。
 それは託宣だ。
 世界とはつまり聖省にとっての世界で、ヴァチカンにとっての世界だ。今回に限ってはロシアとイギリスとイスラ
エルも『世界』の一員ではある。
 その『世界』の構成員は国に税金を納める人間であったり、お布施を施してくれる教徒であったり、企業経営で
国家を潤すロビイストだったりする――最大多数の最大幸福は世の倣いである。
 ミニマックス的な平和を歌う神の託宣。
 
「……浮かない顔だね、イル。大丈夫?」
「ん、あ、まあな」
 
 真正面から顔を覗き込まれて軽く身を引いた。と、あはは、と軽い笑声が返る。
 ……いや、だってな。
 典型的なアーリア人の顔立ちは無駄に整っていて、この距離はちょっとばかり心臓に悪いのだ。
 
「ぼくの役割はあくまで君の調整だ。心理的傾向のチェックは仕事の内だよ。出来れば話して貰えると助かるな」
「じゃ、聞く。……あのさ、テロ屋に人権ってないよな?」
「……なんだ。いきなりな質問だな」
 

15 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 21:11:22
>>14
 
 苦笑して紅茶を啜るアーリア人。象牙の塔の管理人は、そうだな、と一拍置いて、
 
「少なくとも、ぼく達――いや、君を送り込んだ聖省にとって、彼等は人としての権利を認められていなかっただろ
うね」
「……それ、どういう意味で?」
「彼等は敵にしかなれなかった。……この世界が今の大勢を構成する規範ルールに啓蒙されて以来、社会は裏切りゲー
ムを前提としなくなった。裏切れば罰がある。社会に奉仕し続けてこそ社会の中で生きることができる。況や、社会
とはこの世界と同義になった――うん、昔はそうでなくてもよかった。ぼく達が世界を見ていた頃はね。たとえば前
近代の原始社会では、山奥で孤立して暮らすことは珍しくなかった。人口比率は今よりも少なかったし、人間が人
間を意識しなくても生きていくことはできたからね」
「今は無理だ、と」
「それは君の方が良く知ってる。だろう?」
 
 もちろん。
 世界が産業革命で経験した真理は一つ、繁栄の為には生贄が必要だ、ということだ。
 貧しい国から安値で資源を買い叩き、自国の発展にその成果を注ぎ込み、それをルーチン化しなければならない、
ということだ。貧者の国は貧者のままに。無論、それが人道的な対応、と言うことはできない。とはいえ、巨大産業で
成り立ってしまった国は、更に資源を必要とするのが常ではある。畢竟、「もっと高く買ってくれ」と悲鳴を上げる国の
声を黙殺するしかないというのは、これもまた真実だ。
 悲鳴が怒声に変わり、嘆きが憤怒に転化するのに時間は掛からない――大半の怒声と憤怒が諦めに落ちていく
中、数割のそれは憎悪に成長して世界にブチ撒けられる。それを世界が思い知ったのは、二千一年の九月十一日
に、世界の警察を名乗る大国に生えた巨大な二つのビルに、航空機がカミカゼを決行したからだ。
 かくして、世界は寛容を失った。
 敵は殺さなければならなくなった。
 要約すれば、これはそういうことだ。
 法を犯せば罰がある、という基本原理は、突き詰めれば『世界という強者の原理』だ。
 それが間違っているのかと問うのなら、現代人の七割が自殺するしかない。アメリカは正義で、イギリスは正義で、
ロシアは正義だ――大勢の人間が生きられる世界は正義でなければならないし、正しくなければならない、、、、、、、、、、、。人間に
とっての正しさとは、人間の生存を確保する正当性だ。その正当性を俯瞰するのなら、『より多くの人間が生きられ
ること』へと結論は収束する。
 

16 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 21:17:48
>>15
 
 そんなのは当然だ。生物のテーゼが生存である以上、種を活かすのは数の原理に他ならない。
 なので、テロリストは等しく悪で、ブチ殺されるしかない。
 第二次大戦が終了してからこっち、戦争は一律化した。正規軍同士の衝突は不可能事になった。。
 小競り合いの大半はLIC低強度紛争に移行して、その紛争の趨勢は完全に一方的だ。
 完全武装のアメリカ軍がタリバン兵を蹂躙する。NATOがセルビア人の武装集団を空爆する。
 それを戦闘と呼ぶのは畸形過ぎる。
 業務的に遂行される虐殺。
 全ての戦闘は効率化し、自動化し、混沌ではなく秩序の中に収められる要素でしかなくなった。
 紛争は絶えない、とニュースは悲観的に語るが、その実態はというと、豊かな軍隊が貧しい軍隊しか持たないテロ
リストをボコって終了、というのがセオリーだ。正規軍に被害が出れば騒ぎ立てるメディアは、実のところ日々こうして
ブチ殺され続けているテロ屋の素性などこれっぽっちも語らない。9.11を持ち出すメディアはまだまだ健在でも、米軍
がミライ村でやらかしたホロコースト紛いの虐殺を語るメディアはない。
 それが何故か、というのなら。
 俺達にとって、テロ屋のことが心底どうでもいいからだ。
 イスラエルを放逐された民と、ロシアでは窒息するしかなかった連中がどんな経緯で繋がったかは知らないし興味
もない。誰だってそうだし、これからもそうだ。……世界に生きる大半の人間にとってリベリアやソマリアの存在が埒外
であるように、パキスタンとイスラエルの存在が埒外であるように。
 ニュースや新聞でしか世界を知ることのできない人間にとって、世界とは自分の目に映る景色以上ではない。地球
の裏側で何千人が死に続けようと、世界はそれを黙殺する。
 ……断言してもいい。
 そんな景色を覗き続けることに、恐らく大半の人間は耐えられない。
 認めよう。
 だからこそ。
 だからこそ、俺にとって連中はどうでもいい――今までも、これからも。
 その連中がどうでもいい存在で在り続ける為に、俺達は連中を殺しているのだ、と言ってもいい。
 

17 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 21:23:44
>>16
 
「イル」
「ああ」
「人間は、知ることができるコトしか知ることができない。違うかな」
「……ああ」
 
 そうするしかなかった人間、、、、、、、、、、、、達の群。
 マフィアになることしか選べなかったヤツがいれば、テロリストになるしかなかったヤツもいる。
 そこに選択権はない。
 そうしなければ死ぬ、という厳然な事実の前に、自由意志だの選択性だのは戯言でしかない。
 とはいえ、そんな連中は大体において少数派だ。
 マフィアに参入した連中の思考を辿るのは難しい――シチリアとチェチェンでマフィアになることを選ぶ連中にとって、
その理由はまったくの別物だ。俺が殺した連中の内訳は八割がロシア人で、残り二割がフランス人だった。殺し屋崩れ
のフランス人傭兵がロシアマフィアに雇われることは珍しくないし、紛争中に築いたコネクションをマフィア業務に転用す
るチェチェン人も珍しくはない。
 どうしてそんなマネをするのか、と問えば――連中は言うだろう。
 生きる為に、と。
 それは正論だ。
 正論だが、それは――だからそれだけのことだ。
 連中が生きる為に殺すように、俺達も生きる為に連中を殺す。
 ふと思う。国を追われ、強盗を続けることでしか家族と生きることができなかった人間がいることを世界中の人間はど
う考えるのか――もちろん、何も考えない。
 知らないから考える必要がないし、それを知ったところで世界の誰かが誰かを救えることなどありはしない。
 余分な情報は、世界が成り立つ上で毒にしかならない。
 そんな諸々の情報を制御することでこそ、先進国家の体裁は保たれている。互いの国家間で火種になりそうな情報
をやりとりし、引火する前に鎮火する。テロリストが幾ら情報を集めてそんな国家の裏を囲うと頑張っても、『頑張って
いる』ことを知っている先進国家はその頑張りを踏み潰す。そこに例外はなく、無論だがあってはならない。
 墓碑のように屹立するペンタゴンやフォートミード、ヴォクスホールの情報本部――その種の界隈に蓄えられた情報
は、世界から『テロリストの描く理想』と言う版図を適切にケズり取っていく。
 

18 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 21:29:10
>>18
 
「君はそうするしかなかった」
 
 言われて、顔を上げる。
 辛そうに笑みを浮かべるコイツは、聖省では殆ど例外的な常識人だ。
 他のカウンセラーだったら、ここは「なんでそんなツラをしてる?」とでも言いたげに眉を潜めている。今浮かべている
自分の表情のブザマさは相当なモノだろう。
「……聖省が君を送り込んだなら、恐らく君が最も適任だったからだ」
 だろうな、と俺は言う。
 俺の外見は現地の人間と背丈も大差なく、アジア人という立場はバカなボランティアを装うにはうってつけだった。事実、
歩哨に立っていたロシア人は、ヘラヘラと笑いながら俺に近付いてきて、首を引き千切られるまで俺がどんな目的でそ
こに来たのかも解らなかった。
「君が現地で彼等を殺さなかったら、補助の要員が彼等を殺していた――仮に殺さなければ、武器を獲得したテロリスト
は小競り合いで無関係の人間を殺したよ」
 パキスタンの台所事情を考えれば、それは当然だ。強い軍隊と強い兵隊。栄養バランスの取れたケータリングで身体
を頑健に保った兵士達が、痩せたテロリストを一斉操車で薙ぎ倒す――それがイスラエルとパキスタンの関係だ。
 強者が妥協しない以上、弱者は悪者として振舞うしかない。
 そして俺は殺し屋で、ヴァチカンのパーツで、世界の歯車だ。
 俺は殺すしかなかったし、殺すことでしか自分に意味を見出せない――これまでの全てがそうだったし、恐らくはこれ
からの全てもそうだろう。
 

19 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 21:45:29
>>18
 
 そこに迷いはない。
 
「ロシアの方への対応は?」
「いや、それはどうでもいい。つーか、後はもうイスラエルの料理次第だろ。下拵えは済ませたんだ、これ以上付き合っ
てらんねえよ。うん、むしろもうどうでもいいっす」
 
 だよねー、とイリヤのジジイさながら気楽に言わないのがコイツの偉い所だ。外見不相応の落ち着いた苦笑を浮かべ
た小娘は、テーブルの上の小瓶を脇のデスクの上にトントンと並べていく。机に敷き詰められた示現板Precipitation Plateが薬品の情報を
読み取って半透明のホログラフを空気分子に描き出す。
 細い指でホログラフのパネルをタッチしつつ、それで、と小娘はこ首を傾げた。
 
「日本へは何をしに?」
 
 何をしに、と仰いますか。
 
「……まあ、会いたいヤツがいてさ」
 
 なるほどね、と含み笑いを漏らす小娘と、なんだよ、と不貞腐れる俺。
 
「ううん、なにも。楽しんでくるといいよ、イル」
 
 成分情報を分子単位で調整した小瓶から粉末を取り出すと、手際よくそれをカプセルにパッケージしていく。
 そうして手渡される強度の精神安定剤――というか、情緒調整薬。
 処方箋をポケットに突っ込んで立ち上がる。じゃあな、と背を向けたところで、
 
「ぼくからも聞きたいんだ、イル」
 
 少し迷ったような声音に呼び止められた。なんだ、と肩越しに振り返る。
 
「君は――自分で選んで世界を殺したい、と願うことができるのかな」
 
 ……。
 なるほど、それは難しい問いだろう。
 さあな、と肩をすくめて外に出る。
 ピンクの視界を抜けた空は無闇に青い。
 なんというか、これ。
 壮大なイヤガラセなんだろうか。
 

20 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 21:57:34
>>20
 
 異界から異界へ。
 
 戦場を非日常だ、とは世の意見ではあるのだが(それに異を唱えようとは思わないし)、空港というのは総じて非日常
との境界である。
 対空砲火が眼下を横切るようなキプロスは元より(専用機でもないとそんな地域には飛んでいけないが)、姦しく賑わ
う香港の空港も、寸刻みで時間を告げる日本の空港も――飛行機から降りた瞬間、世界は断絶する。
 それまでの世界がなかったことになる、とでも言うように。
 ……AKとクレイモアが転がる荒地から、土産物とコーヒーハウスで満たされた静寂へ。
 
 そんな訳で日本である。
 
 時間の関係上省略すると、目的地である。
 満開の桜とそこかしこで騒ぐ酔客の群れ、ここぞとばかりに出陣するテキ屋部隊。
 典型的な日本の花見の風景、と言っていい。
 いいのだが。
 
「……」
 
 広い公園――とは聞いていたのだが。
 
「広いっつーか、広さが広過ぎだろ、これ……」
 
 いかん、パニくっている。
 時計を確認する。待ち合わせは八時。現在の時刻は十時前。
 
「……いや、マジでどうしよう」
 
 携帯電話を取り出してみるが、考えてみれば相手は携帯を持っていないのだ。
 途方に暮れつつ、桜並木の間を歩き出すことにした。
 

21 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/04/05(日) 22:15:51
>>20


 閑話休題。
 久々に見た外の世界は目も当てられないくらいブッ壊れてた。
 少なくとも私みたいな異邦人が普通に街中をある程度にはグローバル化していた。が、
戦争も無駄にグローバル化。それは相殺を超えて侵食をかまし、サイバーパンク的な不吉
の未来を暗に提示している。
 半分、というかほとんどをこの暢気な日本で、なおかつ山人か仙人かといわんばかりの
暮らしをしている私にとっては無縁のこと……というわけでもない。気まぐれに外へ渡る
うちに顔の利く相手の一人や二人、勝手に増えるものだ。
 もちろん、その中には実際に戦場を渡り歩いたり、社会の裏側を突っ走っているような
連中も珍しくは無い。というより、普通の暮らしをしてる奴のほうが珍しいかもしれない。
 そこから手に入れる情報の断片―――テロ/戦争/報復。日常の非日常に対する弾圧。
 始まりは――遠くは新大陸で高層ビルに航空機が突っ込んだことだった。
 知り合いの建築家はもっと早くに見学しておくべきだったと涙を流して悔やんでいたが、
あの事件で重要なのは近代芸術的な建物の価値ではなく、テロリズムの転換と、対テロ戦
に対する認識の過激化だろう。
 無理もない。中東で怪気炎を上げてる小さな連中が、世界最大で最強の国家に、大打撃
を与えたからだ。衝撃度で言えば先の大戦さえも上回るだろう。
 そして、脅威に対してあらゆる生物が起こす最適な行動は―――殲滅だ。
 単純な闘争の原理だが、武器も人数も資源、そしてしがらみもでかくなった現代では、
地図が何枚あっても足りないほど複雑怪奇で、誰が誰と何のために戦っているのかさえも
曖昧なまま前線で兵士が命のやり取りをしている。
 そしてそれは、遠く離れた場所の出来事としてメディアの中に封じられている。
 そうして非日常を隔離しないと怖くて生きていけないのが普通の人間だ。
 それを咎める気はない。
 が―――


 で、まあそんなことを考えているうちに二時間。
 こない。まだこない。

「……女待たせるなんていい度胸だな、アイツ」

 来るまで取っておこうと思った無名の酒はすでに開けている。
 春先とはいえまだ寒い。桜の薄紅色も知らず、まだ風は冷たいまま。
 日が落ちてるからなおさらだろう。
 桜の方はうすぼんやりとライトアップされているから困りはしないが。
「またなんか鉄火場にいるんじゃないだろうな……うーん」
 まあ、多少の遅刻も考えて時間設定はしたのだが―――
 ここまでブッチされるとさすがに不安になる。
 どっかで死んでやしないだろうなアイツ。
 死んでたらぶん殴ってカンオケから連れ戻そう。割と本気で。

「……ん、やっとか」

 遠目に目立つ白のカソック。見間違えるはずもないくらい個性的な姿。
 とりあえず手を振ってみた。幸いにして周辺は無人。人違いということはあるまい。
 来たら文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、なんとなくそれは自重した。

 気のせいだといいのだけど、何となく彼が儚げに見えたから。

22 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 22:35:20
>>21
 
「しかし、まあ……なんっつーか」
 
 見事なモンである。
 一面の桜。
 突端は霞がかったように暈けて、視界を覆う花弁の先は夜と同化している。
 百本二百本、なんて数じゃない。
 優に千本を超えた桜の海。
 
 現界と異界を隔てるのはひとえに現実感(しゅかん)でしかないが、その主観が曖昧に溶けていく。
 溶けていくのはいいとして、現実感に付随する時間まで溶けるのは困りモノだ。
 
「ヤバい……くそ、アイツ、時間とかでキレたりしないよな……」
 
 そういうヤツではないのだが。
 百年も千年も生きている人間、というとジョークそのものだが、そんなジョークを常態にしている連中が
身近に溢れている立場としてはそれも常態ではある。
 なので問題は一つ、待っている相手の腹積もり一つだ。
 桜を一つづつ潜り、できるだけ喧騒の少ない方角へと足を向ける。この手の賑わいはキライじゃないが、
探し人は風流人なので、あまり典雅でないこの雰囲気に浸されているのは考え難い。
 と。
 遠目の巨木。
 満艦飾の桜の下。
 桜の濃淡に同化するように、目的は見付かった。
 ……非現実的な光景だ。
 古めかしい茣蓙に横たわる長い銀髪。色素の薄い肌は、遠目には夜と均質化している。
 なので。
 色々な意味で近付き難い非現実がブンブンとこちらに手を振っている光景と言うのは、ちょっとしたミス
テリーの域に達している。
 軽く手を振り返して気付く。
 
 ……しまった。土産の一つも持ってくるべきだった。
 
「あー……その。遅れて悪い」
 
 茣蓙に辿り付いて最初の一言は、我ながら最低すぎた。
 

23 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/04/05(日) 22:54:25
>>22

 正解。ようやく着いてくれたみたいで。
 生きてくれていたようでなにより。
 それで二時間が帰ってくるわけじゃないけど。
 ……まー、別に死ぬわけでもないから、とりあえず置いておこう。

「まったく……てっきりうっかり死んじゃってるのかと思ったじゃないの、このまま日付
が変わるまでこなかったら、そっちの職場に殴りこみに行こうかと思ってたよ」

 いちおう文句は言っておくけど、顔で笑ってるのが自分でも分かるからあんまり意味は
ないだろう。待たせた分の借りはいつかちゃんと清算してもらうから後でいいや。

「まあ、まずは遠路はるばるお疲れ様。もう先に始めちゃってるよ。酒(こっち)の方は
あんたの好みに合わせて持ってきたから。甘い奴の方がいいでしょ、確か。わざわざ出来
たての奴を持ってきたんだ」

 その手土産はすでに四分の一くらい量を減らしてるけど。
 まあ、一升持ってきたから二人で飲むならむしろ多いくらいだろう。

「さて、えーと、……ああ、遠慮しないで座ってよ」

 そういってとりあえず用意してた赤い朱塗りの器を渡した。
 後はまあ、そこに注いで。

「それじゃ、冬の終わりを祝って、かんぱーい」

 遠くの騒がしさの十分の一くらいの声で、自家製の濁酒を飲み干した。
 ……こっちじゃ違法? いいえ、こっちには法なんてありませんでした。

24 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/05(日) 23:23:18
>>23
 
「あ……と、悪い――あのさ」
 
 怒ってる? と顔を覗き込んでみても、相変わらずの泰然自若に変化はない。
 あれ?
 ……怒ってない?
 アレか?
 「待った?」「ううん、全然!」って例の王道か?
 違いますね、すいません。
 
 薦められるまま茣蓙に座る。
 酒と桜の匂いが鼻を突く。差し出された杯は、今時珍しい朱塗りの器だ。
 乾杯、と言い置いて口を付ける。想定外の甘みが鼻を突く――噎せるような香りは、酒か
桜のどちらだったか。
 
「久し振りだな、ほんと」
 
 見上げれば桜。
 目の前には――。
 ……機内で飲んだ情緒調整薬が、適度に感慨を調節する。
 危ないところだ。ヘタをすれば泣き崩れていたかもしれない。
 
「……まあ、色々と言いたいことはあるんだけどさ」
 
 杯を干して、よし、と一息。
 言いたいことだけ言ってしまおう。
 
「会いたかった。本当に」
 

25 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/04/05(日) 23:37:03
>>24


「そうだね。まあその割にはあちこちで顔は合わせてたけど……こうしてサシで居るのは
久しぶりだよ。奇妙な縁じゃないかなあ、いつもは何気なく顔を合わせてるのに、互いに
自分から会いに行こうと思うのが今回で初めて、なんてさ」

 いいながら、注いで、また干す。
 向こうの方は―――たぶん、大丈夫、かな。
 普通に売られてるのと比べても飲みやすいものだけど、それでもまあハードドリンクに
変わりはないから。むしろ飲みやすいのが却ってブレーキを忘れさせることもある。
 見た感じお酒慣れはしてないっぽいし、その辺はまあ、年長者の義務で面倒は見よう。

「……ああ。遅刻の帳尻は後で合わせてね?」

 意地の悪い顔でさらっと釘を刺すのも忘れない。
 ほら、仏の顔も三度までとか何とか。
 まあ、何はともあれ。

 会いたかった、と言ってくれたんだ。

「―――そういってくれるなら、待ってた甲斐があったよ」

 私もそう返した。

 さて、せっかく顔を合わせられたんだ、色々と話も積もっている。
 どこから聞くか、それとも自分から話すか―――



26 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/06(月) 00:07:55
>>25
 
 満面の笑みが返ってくる。
 ……。
 とりあえず。
 これだけで、今日ここ来た目的は果たされている。
 
「……どんな風にでも。うん、お前が死ねって言えば死ぬよ」
 
 注がれた二杯目に口を付ける。
 正直アルコールの強さに自信はないが、そこはそれ、肝臓の防御力に任せるとしよう。
 体内で活動を始めている調整剤は、神経細胞の受容体に反応して「適度な」反応を作り上げる。みっともなく
酔っ払うことはあっても、話していけないようなことまで口にするような愚は冒さないハズだ。
 感情、というモノは実にところ厄介で、俺達みたいな人種には容易く天敵になったりする。
 国境線でトラックを襲撃する少年兵達をピンヘッドしている最中、要人暗殺のスケープゴートを仕立てる為に
屋敷のメイドだの使用人だのの首をナイフで掻き切る最中、感情は遠慮仮借なく論理判断に強制割り込みを
しかけてくる。
 だからまあ、それを抑制するのは必然事項で、必須事項だった。
 こんな利用法があるのはちょっとした副産物と言ったところだろう。
 
 藤原、と掠れる声に出して、何を言いたかったのか、ふと、自分でもそれを忘れている事に気付いた。
 ここに来られただけで満足だった、というのはある。
 が――。
 単純に、言葉が像を結ばない。何を言おうとしていたのか、正直自分でもチグハグになっている。
 
「――その。最近はどうしてたんだ?」
 
 ……。
 幾らなんでもそりゃないだろう、と自分のヘタレ具合に辟易としつつ杯を空ける。
 

27 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/04/06(月) 00:26:14
>>26

 ……いや、流石に死ぬとかそういうのはちょっと困る。
 つーか、普段は死にそうにないくらいの雰囲気なのに今日はどうしたんだろう。
 実は瀕死なのか。怪我も病気もしてなさそうだけど。

「……じゃあ、死なれたらすごく困るから死なないで。……OK?
 期限は寿命が切れるまで、でいいからさ」

 そんな風に返しながら……ちょっとだけ色々と考えてみる。
 元から色々と悩みの深い人物だというのは枝葉末節に渡るまで知っている。まあそこら
の話は心理学の範疇だったり形而上学的な何かだったりで、私ではどうにもならない部分
も多いということも、よく知っている。
 でも、なんだかんだいって。
 普段の彼はもっと生気が満ちていたはずだ。例えるなら白い狼のように。
 今は、なんか麻酔をかけて眠ってるみたいだ。

「……あー、まあ、いつもどおり、かな。本当に申し訳ないくらい好き勝手やってるよ。
こっちの情勢仕入れたり、花見に誰かを誘うくらいにはね。本当はあんまり外に出ない方
がいいんだけど……まあ、“人間”なら大丈夫でしょ。ちょっと遊ぶくらいならね」

 いいながら―――とりあえず、今日は聞き役に徹しようと心を固めた。

「……で、さ。何かあったの? いつもより元気なさそうだけどさ」

 酒を飲み干すように、さらっと話を促した。
 彼は日本刀のように鋭い。
 同じように、あっさりと欠けてしまいそうな部分もある。
 だからもし―――■れてしまいそうなら。
 きちんと私がなんとかしようと思う。
 いつかは忘れたけど―――かつて結んだ約束のとおりに。



28 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :2009/04/06(月) 01:07:11
>>27
  
 殆ど刺すように、言葉が滑り込んでくる。
 
「なにかって……うそ、そんな風に見えるか、俺」
 
 マズったな、と頬に触れてみる。
 酔いが回っているとは思わないが、自律神経系と内分泌系の調整には僅かに時間が掛かる。
 ……が。
 単純に、こっちを見透かされた、という公算の方が大きいことに思い至って苦笑する。
 杯を傾けながら、藤原の姿勢にはブレがない。
 いや――コイツがブレたところを、俺はこれまで見たことがない。
 
 変わらない、ということに価値を見出すのはどんな種類の人間で、死なない、ということに意味を見出す
のはどんな類の人間だろう。
 
 前者は人形に執着できる類の人間で、後者は錬金術師の末裔たる科学者達、と言えるかもしれない。
 藤原――藤原妹紅は、実のところその疑問に解答を用意した人間でもある。
 死なない人間がいる、といえば大半の人間はアタマを疑ってくれるだろうが、生憎とこれはマジのマジで、
藤原は「死ぬことがない」のだ。……が、それ自体は驚くようなモノでもなかったりする。聖省が擁する審問
官達も似たようなモノで、アタマを吹き飛ばされようが核爆発の爆心地に立っていようが、この世界に記述
された連中は、次の瞬間には平然とその場に立っている。
 恒常分子哲学。
 身体と、それに付随するあらゆる要素を分子の配分とカオス化したパターンに還元した審問官達は、一
瞬ごとに「世界に記述され続けて」いる。畢竟、アタマを吹き飛ばされようが爆殺されようが、次の瞬間には
世界が連中を記述する、、、、、、、、、、
 そんな連中が人間の真理について出した結論は実に単純で、デカルトすら真正面から刺殺するような解
答だった。
 
 ――即ち人間に意味はなく、感情は遍く世界に満ちた色彩に過ぎない。
 
 ある意味で、俺はそれに同意する。
 こうしてアルコールに脳を浸している今の俺は――恐らく、調整剤で制御されていなければ、藤原の知っ
ている”俺”ではいられなかった筈だ。とはいえ、調整され続けている俺は既に”俺という状態”をブッ千切っ
てしまっている。
 恒常的な判断を求められるようになって、俺達は”俺達を続ける”ことを求められた。
 世界の歯車であるように。
 この世界に意味を求めない部品であるように。
 
 慣れれば慣れるモノで、俺はそうあることを受け入れられるようになった。
 自分が自分でしか在れないうこと。
 自分は自分で在るべきだということ。
 それを否定するのは、これまでの全てを冒涜するのと同義だ。
 俺は殺し屋にしかなれなかった。――それはいい。そんなことは問題じゃない。
 
 ただ、と思う。
 あらゆる生の帰結を知るほどに生きてしまえば、感情が割り込んでくる余地など失せているのが常であ
る筈なのだ。
 俺の知っている審問官達は、自分が自分であることに拘泥していなかった――自分、という領域がまだ
そこにあることが煩わしいとでも言うように、歌うように世界を書き換え続ける演算機関。
 その事実を、俺は妙だとは思わない。
 兵器が機械であるか生物であるかに大した違いはない。馬から鉄の車へと戦車が推移したのと同じで、
俺達せいぶつは効率化を求めるようにできている。
 
 だからこそ。
 生きている限り俺達はどこかの部品であることを望まなければならない。
 無根拠に生きることなど、俺には到底想定できない。
 
 だから、と俺は藤原に聞いてみたい。
 お前の何十分の一程度しか生きていないガキは、たかだかそれだけ生きてきただけでこのザマなのに、
 お前はどうしてそうやって笑っていられるのか。
 
 ――笑っているフリをしているワケじゃ、ないんだろうに。
 
 俺は俺でしかいられなかったし、これからもそうするしかない。 
 ない、のだろう。
 酒が喉を滑り落ちる。
 瞬間、形容し難い感情が脳をコンマ一秒で焼いた。崩れ落ちそうになる姿勢を調整剤が仕切り直す。
 ……問題ない。
 外見には出ていない。
 
「……あのさ」
 
 戯れた言葉が喉を滑る。
 
「例えばの話だけどさ」
 
 額を押さえる。
 喉元まで競り上がった本音をギリギリで噛み殺す。
 
「例えば――俺がお前の傍に居たいって言ったら、どうする?」
 
 例えば――。
 俺を殺してくれと言ったら。
 キッチリ飲み込めた言葉を、酒と一緒に嚥下した。
 

29 名前:『蓬莱の人の形』藤原 妹紅 ◆zPhoEniXzw :2009/04/06(月) 01:43:14
>>28


「うん。……まあ、本当に何となく、なんだけど」

 まあ直感の閾値内での話だけど、どうやら図星だったらしい。
 私のカンはまだまだ当てになるようだ。出来れば当たって欲しくなかったけど。
 当たっていたならそれは――笑い話に出来るようなレベルじゃなくなるからだ。
 こと、普通の常識から一歩以上踏み出している私たちの身の上を思えば。
 普通の人間の悩みなどまあ可愛い。それと違う人間や生き物の悩みを思うと――自分を
省みたとしても、ぞっとするほど深く重いものがある。私自身もそうだったし、同じく私
と縁のある人妖もまたきっとそうだろう。
 なまじ「普通」を知っているから、その解決不能の懊悩の恐ろしさを知っている。
 ……そう、普通の人間なら。

「まあ、なんだ……何か抱え込んでるなら。酒の席だし遠慮なく……て、え?」

 え?
 どんなものかと考え込もうとしたところで、とんでもないノイズが割り込んできた。
 割り込んできて―――思わず息を呑んだ。

『例えば――俺がお前の傍に居たいって言ったら、どうする?』

 私の。そばに。そばに? 誰が? ……彼が。
 今のこの状況を指してる? いや、それなら言うまでも無いだろう。
 とするとその奥にある意味は―――ヤバい。酒以外で顔が赤くなってきた。
 ……落ち着け……素数を数えて落ち着くんだ……って落ち着けねーよ!

「い、いきなり何……」

 いってんだ、と大きな声を上げそうになって。
 瞳に気づいた。表情に気づいた。気配に―――感情に。
 息を呑む。壮絶に深い何かを見た気がした。
 初めての感覚―――初めての深入り(ディープ・シンク)。

「……まあ、その。それの答えはちょっと保留させて欲しいかな。即答するにはなんか、
すごく重い話な気がするから……その、色々と。だからとりあえず一つだけ聞かせて」

 多分、ここから先は誰であろうと引き返せなくなりそうな領域だ。
 そう、酒で飲んでアルコールに流すには不可能にもほどがあるレベルの。
 本当はこんな場で語るわけには行かないような、隠されたモノがある。

 ……「それ」自体は大まかながら私も気づいている。普通から離れていれば離れている
ほど深く重く硬い、自分の存在まで吹き飛ばしてしまいそうな爆弾が入っている。かつて
話したときに「自分は爆弾みたいなものだ」なんて話もしていた覚えがあるけど……それ
にしたってこれは、自分ひとりを吹き飛ばすには大きすぎる。
 クレスニク。
 彼がソレで、ソレがどういうタイプの奴かくらいは、私も知っている。
 そして、そういう能力を持った連中が最終的に抱えるモノも。

「―――もしかして、現状。アンタってすごくヤバい状態なの?」

 だから、私は一歩「踏み出した」。
 どうなるか分からない/巻き込まれるかも知れない/何も出来ないかも知れない。
 触れなければ良かった―――そんな後悔もする、かも知れない。
 けれど、避けて通ったときの後悔の方が、当たり前だけど、どうしようもなくでかい。
 少なくとも私は、避けて行くことは出来ない。そして、避けるつもりも無い。

 そしてなにより。
 自分の「どうにかしてやりたい」という気持ちに、嘘は絶対に吐きたくなかった。


(To be continued...)


30 名前: ◆zPhoEniXzw :2009/04/06(月) 01:49:19
<CAUTION!!>
 このテキストはまだ終了(クリア)されていません。
 これからこのスレッドをご利用する方は以上のテキストを無視して下さい。

31 名前:名無し客:2009/04/18(土) 23:51:29
風と共に桜の花弁が舞い散る…。


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