■ 【MONSTER】HOTEL VERSTECK【安らぎの家】

1 名前:◆4Q7lVPOPPE :05/03/14 23:27
――ホテル・フェアシュテック ご案内――

・当ホテルではどなたの宿泊も歓迎致します。(特に関係者歓迎)
・他のお客様、並びに当ホテルの迷惑となる行為はおやめ下さい。

・何か、恐ろしいものを見る事になっても、当ホテルは一切責任を負えません。


2 名前:◆rI4FRANZmc :05/03/14 23:28
君のことをずっとみつめていた……
君のすべてを食い尽くすためにみていた

だが逆に君のすべてが私を浸食した

くずれかかった私が、君にはどのように見えただろうか
くずれかかった私に、君が与えてくれたもの……
君は美しい宝石を残してくれた
あの永遠の生命のような双子……

一番罪なことは、人の名を奪い去ること
名前を取り戻そう。君に名前を返そう
君の名は――

今はただ悲しい……
悲しい……
悲しい……
悲しい……
悲しい……
悲しい……


3 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/14 23:29
……あ、これは失礼しました。考え事をしていたもので。

ええ、最近はだいぶ暖かくなってきました。
もう春もすぐそこです。

本日は、お泊まりでしょうか?
はい、では、すぐにお部屋を用意しましょう。
こちら(>>1)がホテルの案内となっております。ご覧ください。


申し遅れました。
私が、当ホテル・フェアシュテックのオーナー、クラウス・ポッペです。
それでは、何もない所ですがごゆっくり。


4 名前:名無し客:05/03/14 23:39
オーナー テンマはまだヨハンを抹殺するための旅をしているのですか。

5 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/14 23:53
>>4
テンマ……テンマ・ケンゾー。
あの、ドイツ各地でおこっている連続殺人事件の、容疑者の名前ですね。
ええ、一度はプラハで捕まったそうですが、ドイツ国内で脱走したそうです。

噂では、彼はヨハンという青年が、真犯人だと言って追い続けているとか……
…………いずれにしても、もう10年も続く事件です。
無事、解決してくれるといいのですが……


そう、すべて解決してくれれば……


6 名前:名無し客:05/03/16 20:31
長い長い夢を見ていたような気がするよ。

……して、これは現実かね?

7 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/16 22:24
>>6

おはようございます。
ずいぶんと、お疲れだったみたいですね……
……そうですか、夢をごらんに。
長い……長い夢ですか。

ところで、目覚めにお茶はいかがですか?
なかなか海外のいいお茶は手に入りませんが、近所でいただいたハーブティーがあります。
お煎れしますので、そこのテーブルでお待ちください……



……私も、夢を見ることがあります。
どんな夢だったか、目が覚めると……
ですが、目が覚めても、まだ夢の続きではないのかと不安になることもあります。

さあどうぞ。
パンもお持ちしましょうか?
美味しいコケモモのジャムがありましてね。
もし、気に入られれば1つそれに纏わる話でも……


…………「私が蝶の夢を見ているのか、蝶が私の夢をみているのか」。
夢か現実か。そんな時は、さあ、お茶を。
この味は、紛れもなく現実ですよ。

え? ああ、そうですね。
ご馳走の夢には霞んでしまうかもしれません。




「正夢」……というのは、心理学ではどう捉えられているかご存じですか?
ほんらい夢は、記憶の整理のため、或いは記憶の混同により見るものなのです。
現実的な夢ならば、記憶の整理。
抽象的な夢でしたら、記憶の混同のせいで。
どちらも、脳が引き起こす現象ですが、「正夢」だけは心が引き起こす現象なんです。

心に強い不安感がある時などに、あらかじめそのイメージを夢で見る事で、現実に備えさせているんです。
心がバランスを取ろうとしているんですね…………


ああ、失礼しました。
いえ心理学なんて、とてもとても。
以前テレビでやっていた内容ですよ。少し、知ったかぶりをしてしまいました。

ところで、お茶のお代わりはいかがですか?


8 名前:名無し客:05/03/17 02:22
部屋は空いていますか?
一週間ほど逗留したいのですが……

9 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/17 02:43
>>8
おや、こんな夜分に……
さぁ外は寒かったでしょう。早く中に。

まずは体を、暖めてください。
今、お茶を煎れます。
コーヒーの方がいいです? はい。ではコーヒーを、すぐに。
今日は新しい豆を仕入れたばかりでして……

ミルクと砂糖はどうしますか?
はい。どうぞ、暖まりますよ。



ええ、部屋は空いていますよ。
こんな場所ですから……なかなかお客さんも……
そうですね。一週間どころか、一ヶ月でも滞在できますよ。
はは…そうしていただけると、私もありがたいですね。

では、すぐにお部屋の準備を。朝食はどうなさいますか?



では、こちらがお部屋になります。
シャワーはこちらに……
何かありましたら、フロントか私の部屋に。それでは、おやすみなさい。

え?
いやいや、私にはこれが、性に合っているようです。
ここを大々的に広告などしても……



私は、ただ、深く静かに……待ち続けているだけです……


10 名前:名無し客:05/03/20 15:26
名は体を表すといいます……。
けれども……人やモノの本質は……名前だけではないですよね……?
それとも……名前がまず先にあってからこそ……本質が出来上がるので
しょうか……。

教えて下さい……。
教えて……下さい……。

ああ……一晩……お願い……します……。

11 名前:フランツ・ボナパルタ ◆rI4FRANZmc :05/03/20 21:49


名前などいらないんだ……



人は、多くものに縛られている。
家族や友人など人間関係。自身の感情、想い出という記憶。そして名前。
これらは制約となり、人間の可能性を縛り付ける。
新しい、次代を担う者と、その指導者にそんなものは必要ない。

人間は、幼児期からの様々な経験を通して、自己を形成していく。
ならば、優れた者を創り出すには、幼児期から既に手を加えなくてはいけない。


余計な感情などいらない……
必要ない記憶などいらない………

名前などいらないんだ…………









12 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/20 21:51
>>10
ど、どうなさいました!?
そんなにやつれられて……とにかく、さあ、中へ。
ええ、部屋は空いています。ですが、まずは……そうだ、スープでも用意しましょう。



……私に、その答えは……分かりません…………
ですが、これだけは言えます。

名前は、大切にしてください。
何があっても、名前は…名前だけは……







宿帳を、書いておきましょう。あなたの、お名前は?


13 名前:名無し客:05/03/22 01:49
どこかアジアの国では、「コヨミの上では春」……なんて言うそうですよ。
コヨミとはカレンダーのようなものらしいですけどね。
まァ、アジアの概念ってのは、よく分かりませんなァ。

さて、このホテルにも春は……来ますかね、オーナー?

14 名前:名無し客:05/03/22 18:53
夜明けは必ず来る、と人は言う。
けれど、生まれてから一度も夜明けを迎えずに逝ってしまうものもいる……

あなたはどう思います、オーナー。

15 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/22 22:38
>>13
コヨミ……確か、東洋では元々西暦ではなかったそうです。
おそらく、昔のそのコヨミと現在の西暦のズレから、そのような言葉が生まれたのではないでしょうか?


春といえば、「プラハの春」を思い出しますね……
ご存じないですか?
ああ、名前くらいは、ですか。確かに、お客様の年齢でしたら無理もないのかもしれません……


今から30ほど前の話です。
ある昏く重い雲に覆われた国がありました。
初めはその雲も、そのような雲ではありませんでしたが、いつしか雲は変わってしまったのです。

それに気付いた人々は、この雲を打ち払う、光差す春を望みました。
やがて、人々の望みは叶い、その国は春が訪れたのです。
人々は春に喜び、春を謳歌しました……ですが、その国に、また別の雲がやってきました。
赤い雲です。

雲はたちまちに国を覆い尽くし、その国には長い冬が訪れたのです……
この時の春が、「プレハの春」です。



……え?
確かに、これでは後味が悪いですね。でも、物語はいつもハッピーエンドで終わるものです。
この話には、続きがあります。

春は消えてしまいましたが、春に芽吹いた新芽は消えてはいませんでした。
赤い雲は、その芽を枯らそうと、一生懸命になります。
あらゆる手を……手を使って。

ですが、芽は育ち、ついには赤い雲を払い去りました。
長い冬が終わったのです。

……もうこんな時間ですね、お茶をお持ちしましょう。



え、私が? いえいえ、お話を作るだなんて、とてもそんな。
ただ歴史を、それらしく言ってみただけですよ。

――ええ、春はもうすぐです。
春は、何処にでも訪れます。

もちろんここにも。
その時は、またいらして下さい。
野山のハイキングなど、最適です。


16 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/22 22:50
>>14
はい?
夜、ですか。何かのお話みたいですね。


つまり、比喩でしょうか。
確かに、今こうしている瞬間にも、世界では生まれてそしてそのまま死んでいく子どもが大勢います……
子どもに限らず、理不尽に死んでいく人間も。

ですが、生まれた者には、必ず意味があります。
例え夜明けを迎えられなかったとしても、その生には意味があるんです。



夜はいつか明けますよ。
訪れない春がないように、夜も。
ですから、思い詰めないでください。

人生には、意味があります。
ですがそれを、急いで無理に探す事もないんです……



曇ってきましたね。
空が真っ暗だ……でも、いつまでも雨は降りませんよ。
それに、雨が降らないのも困りものですから。





17 名前:◆rI4FRANZmc :05/03/22 22:53


絶対に開かない扉のお話――


闇の王さまと光の女王さまの物語。

光と闇はいつも戦っていたが、実は闇の王さまは光の女王さまが大好き。
光の女王さまが夜寝たすきに誘拐し、闇のお城へ連れて来てしまう。

でも光の女王さまは、どんどん輝きを失くし、死にかける。

闇の王さまは、闇の力のせいだと反省し、
自分の家来達を"真の闇の部屋"に呼び集め、永遠に眠らせてしまう。
次に闇の王さまは、光の女王さまをお城から解放してあげる。
すると光の女王さまは、見る見る輝きをを回復する。

そこで闇の王さまは光の女王さまの前に進み出て、光の力にどんどん小さくなりながら、
今までのことをわび、想いを告白する。

最後の言葉をいった瞬間、闇の王さまはほんのちっぽけな黒点になってしまう。

光の女王さまは闇の王さまを許して受け入れ、それ以来光の女王さまの体には、
小さな闇が入り込んでいる……。


この世から闇は失くなったけれど、もし誰かが真の闇に通じる"絶対に開けちゃいけない扉"を開くと、
闇は再び力を取り戻し、女王さまの中の小さな闇もどんどん大きくなり、
闇と光は、また恐ろしい戦いをしなくちゃいけない……







絶対に明けない夜はない……
振り止まない雨はない……
来ない春は無い……

なら、絶対に……

18 名前:町の女の子:05/03/24 01:26
ねえねえ……。
あの……さ。
絵本……持ってない?
うんと……絵本……持っていませんか?

弟に取られちゃって……あ、弟ってまだちいさいわがままなの。
絵本、全部弟に取られちゃって……う、ううん、貸してあげたんだもん。
まだちいさいから、私、貸し手あげたんだもん。

それでね、ママがね。
フェアシュテックのオーナーが絵本持ってたの見たって言ってたの、思い出したの。
ええと……オーナー?

絵本……持ってるの?
絵本……好きなの?

19 名前:◆D6tVOSS.EY :05/03/24 19:46


あるところに、1人の泥棒がいた。
その泥棒は山あいの町に逃げ込んだ……




20 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/24 19:47
>>18
おや、どうしたんだい。
絵本? 私がかね……
君の絵本はどうしたんだい?
……そうか、弟が。

――よく、我慢した。えらかったね。
弟を怒っちゃダメだよ……
兄弟は、仲良くしないと。仲良くね……


しかし、困った。私には絵本は…………
おじさんのところには、小さな子どがいないからね。
絵本は無いんだよ。

………………。



21 名前:◆D6tVOSS.EY :05/03/24 19:48


泥棒は、その町でもひと稼ぎしようとたくらみ、町の人々を油断させるために、親交を深めていく。
元気なお爺さん。陽気な旦那さん。偏屈だが根は優しいおじさん。笑い好きな青年。
料理好きなお婆さん。気さくな奥さん。おしゃれ好きなお嬢さん。可愛い女の子。




22 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/24 19:49
……そうだ。
ちょっと待ってなさい。

たしかこの辺りに…………あった。


はい、一冊だけあったのを思い出した。
こんな絵本でよかったら、読んでみてくれないかい?
もう10年も前の絵本だが……

そうかい。それじゃ、これはきみにあげよう。
ああ、またおいで。今度は、何かお菓子でも用意していよう。

ああ、さようなら……



23 名前:◆D6tVOSS.EY :05/03/24 19:50


ある日、泥棒は自分が、盗み方を忘れてしまっている事に気が付いた。
泥棒は思った。「もう、盗みはやめよう。この町で静かに暮らそう……」
そして泥棒は、町の人々のために働きながら、静かに暮らしていく――



24 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/24 19:50
はい。ホテル・フェアシュティックです。
ああ奥さん。そうですか、喜んでいただけましたか。

弟と仲良く……それは、良かった。
私もプレゼントしたかいがありました。
いえ、その本はプレゼントしたものですから…………

実は、その絵本は、ある男の忘れ物なんです。
いえいえ、その男はもうここには……ですから、もらっていただければ、彼も喜ぶでしょう。
はい、はい……ええ、そうしてください。



え? ああ、まったく不思議な偶然です……何しろ、そのタイトルが――




25 名前:◆D6tVOSS.EY :05/03/24 19:51



〜DAS RUHENHEIM 安らぎの家〜
                           Helmuth VOSS




26 名前:名無し客:05/03/27 01:02

 あなたの、心の色は、何色だと、思いますか。

27 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/27 02:20
>>26
やあコンラート、ジャムはまだまだ残っているから、当分仕入れる予定はないよ。


――冗談だよ、冗談。
ははは、いつもお前の冗談に笑わせてもらっているからな。たまには、私も言ってもいいだろ?
ああ……ジャムは、盛況だよ。今年の、コケモモジャムも期待しているよ。

それで、チェスでもやるかね。
おいおい、前回は私の勝ちだったじゃないか。……いやいや、まだボケける歳では、ないよ。


まずはお茶でも煎れようか。
昨日、ある方から、ケーキをもらってね。ん、ああちょっとしたお礼さ。
ほら、表通りの――娘さんに、絵本をあげたら喜んでもらえてね。
私の好物の、アンズ入りケーキだ。




なに、私の心の色?
コンラート。お前さん、何か心理学のテレビでも見たのかね。
……ううむ。迂闊なことをいうと、妙な判定をされそうだ。

じゃあ、逆に聞くが。コンラートには、私は何色に見えるんだ?
なに、緑か……どういう意味があるのかね?
おいおい、教えてくれてもいいじゃないか。
だったらこのケーキは、それまで渡せないね。ははは。


……お前さんかね?
そうだな……黄色、だろうか――





28 名前:元編集者トマーシュ・ゾバックの回顧 ◆rI4FRANZmc :05/03/27 02:22


「まるで、『美女と野獣』と『眠り姫』とを、ごっちゃにしたような話だなあ。
陳腐過ぎる。久々に持ってきてくれた話ですが、ボツですよこれじゃ」

久々に、私のもとを訪れた彼――フランツ・ボナパルタは、その言葉にやけにがっかりした顔を見せた。
長年、彼の担当編集者をやってきて、作品案をボツにした事は1度や2度ではない。
だが彼が、ここまで気落ちしたのは初めてだ。話し始めるまで、妙にすがすがしい顔をしていたのだが……
あの、傲慢で自信家(と、前担当者はよくいったものだ)がどうしたのだろうか。

「どうです、久々だし、少しお茶でも飲んでいきませんか。
ケーキもある。あなたが、以前好きだと言っていた、アンズ入りのケーキです」

正直にいえば、彼は断るのではないかと思ったが、以外にも承諾をしてきた。



「緑……? ああ、庭木ですか」

色々と話している内に、話は奇妙な方向へと流れた。
彼は、緑がきれいだといった後、色の心理的特徴というものを教えてくれた。
それによると、緑には人に調和やバランスを感じさせ、気分をリラックスさせてくれるという。
それが、今の自分には眩しいとも、彼は言った。

「少し聞いたことがあるな。
確か、赤は激しい感情を表し、黄色は希望や幸福を表しているんだったな」

黄色には、子どもが好む、甘えたい可愛がって欲しいという欲求も含まれている。
そう私の生知識に彼は補足した。
そして、自分は白だと呟いた。

「白は確か「神聖」「清純」「清浄」などを表すんじゃなかったですかね?」

自分でいいますか? と私が笑うと、彼は少し笑い――どこか哀しい笑いだった気がする……


唐突に、人に憎まれることがこんなにも苦しいことだとは思わなかったと言った。

「その相手にあなたは何をしたんですか?」




彼が帰った後、私は興味に駆られて本で調べてみた。
白は、私がいった意味の他に、「緊張感」や「警戒感」。そして……「後悔」や「喪失感」の象徴でもあるという。

それ以来、二度と彼が私の前に現れることはなかった。


29 名前:名無し客:05/03/29 02:52
どうして、雨上がりの街角は、あんなにも綺麗に見えるのでしょうね。

ただ、雨に濡れて光っているだけではなく。

人も、建物も、地面も、道路も、風も、空気も、そして空も。

何もかもが美しく見えるのです。

30 名前:名無し客:05/03/29 21:38
腹……減った。

31 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/03/30 00:06
>>29

Somewhere, over the rainbow, skies are blue. And the dreams that you dare to dream really do come true……


お帰りなさいませ。
そろそろ夕食をご用意します。
今日はホテルでお取りになるとうかがっていたので……はい。


ああ、この曲ですか。
虹の彼方に (Over The Rainbow)――1938年Harold Arlenが作った曲です。
「オズの魔法使い」の……ええ、スタンダード・ナンバーなのでどこかでお聞きになられているでしょうね。
……いい曲です。




雨上がりの散歩はいかがでしたか?
ええ…ええ……そうですね……
雨上がりの街角は、どうしてあんなにも美しいのか。

虹が…見えるから。
私の、古い友人がこう言っているのを聞いた事があります。

「虹の彼方に、きっといい所がる。それは、家族の居る所だ」と。


……さあ夕食の準備ができました。
まずは、ビルゼンはいかがですか? いい地元のドゥンケルスがあります。
白ソーセージにあうと思いますので、ぜひ試してみてください。





32 名前:あくま ◆rI4FRANZmc :05/03/30 00:08

>>30
とりひきだ。とりひきをしよう。

きみを おなかいっぱいにしてあげよう。


ぱんはやまほど。やきたての いいにおい。
まるまるとふとった しちめんちょうのまるやき。じゅうじゅうと、あぶらのおと。
じゅーすはまるでうみのよう。
たべてもたべても たべつくせないおかしのいえ。



とりひきだ、とりひきをしよう


33 名前:名無し客:05/04/02 02:43
オーナー。
このホテルにゃ、光が足りないよ、光が。
ほら、昼間でも部屋の隅がこんなに暗いじゃないか。
カーテンと窓を開けて、もっと光が入るようにしたらどうかい?
はは、吸血鬼でもあるまいし。ははは。

34 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/04/02 23:34
>>33
いや、だから、ホテルを改装する気はないよ。
部屋の窓は、通りに面しているから、私は陽光で十分だと思うが……
それに、部屋の隅が暗いとおっしゃるが、どこのホテルも似たようなものだと思うがね。

建物自体も、まだまだ十分にもつよ。第一、そんなお金がどこにあると思うかね?
ご覧の通りなかなかお客もいなくてね……

いいや、宣伝などする気はないですから!
それに私は、お客様にくつろいでいただけるホテルをやっていきたいんだよ。
無理に、今風に改装しなくても。



……ふぅ。でしたら、三階の部屋をご覧になって下さい。
日当たりは良好、見晴らしもとてもいいですから。

ああ、ちょうどいい。ヴィム。この方を302号室に案内してあげてくれ。
もし気に入られたら、今夜はここで一泊いかがですか?




え? 吸血鬼……?
そんなもの、ここにはいませんよ。
それに、ヴィムが怖がりますからやめていただけませんか。

いえ…………実は、町の西の丘に「吸血鬼の家」といわれる、廃屋がありまして。
鬱蒼とした林の奥に、ぽつんとあるのでそう呼ばれています。

――まさか。あれは、元々画家か何かがアトリエとして使っていたものです。
吸血鬼とか、フランケンシュタインの怪物だとか、そんなモンスターはこの世に居ませんよ。


ああ。今でもあそこは、個人の所有のはずですから、立ち入らないでください。

35 名前:名無し客:05/04/03 05:05
吸血鬼の家……。
この現代に吸血鬼なんていますかね? ねえ?

さて、吸血鬼は最も恐ろしいmonsterなんて言われますけど、オーナーの考える
「最も恐ろしいmonster」は何ですか?

いや、こんな事、ホテルのオーナーに訪ねても、笑い話にしかなりませんけどね。

36 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/04/07 01:29
>>35
さぁ…どうでしょうか……?
正直、考えたこともありませんね。

お皿をお下げしますね。
食後は、紅茶を? それともコーヒーで?
――かしこまりました。



はあ……もっとも恐ろしい、MONSTERですか?
確かに吸血鬼は怖い怪物ですね。
人の血を吸い仲間とする怪物……私たちが、吸血鬼を恐れる理由は色々ありますが、
研究者が言うには――ああ、つまり民俗学の研究者などですが、
吸血鬼は神の創りたもうた摂理に反する存在、だから恐ろしいんだそうです。

人は死ねば、その身は土に還り、魂は天国、或いは地獄へと……それが摂理です。
しかし、吸血鬼、アンデットはその摂理に反し、死後も生き続ける……
そこに私たちは、神への冒涜を見て、恐怖するんだそうです。


つまり、吸血鬼の怖さとは、言い換えれば神への恐怖心と言えるのでしょうか。
……私は、それほど信心深いわけではありませんが。

そうですね。昔に比べ、信仰心というものが薄れた現代では、
かつて語られた意味での恐怖心もまた薄れているのかもしれません。



『――バイエルン最大のコンツェルン総帥のハンス・シューバルト氏が、再び屋敷に――』

――? ああ、あのシューバルト氏の特集ですね。
例の火災騒動以後、屋敷に篭もったまま人前に出なくなったとか。
ヨーロッパ経済にも大きな影響力を持つ方ですから、その動向が相変わらず注目されていますね。


私が考える「最も恐ろしいmonster」ですか?
そうですね…………この、シューバルト氏などは、とても恐ろしいですね。
え? それは、仮にも私も経営者ですから。


そう言えば、この方も「バイエルンの吸血鬼」と呼ばれていましたね。
やはり、真に恐ろしいのは吸血鬼なんでしょうか。確かに笑えませんね。

もっとも、シューバルト氏と私では、巨像と蟻みたいなものです……し…………!?





37 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/04/07 01:32



『――ご覧のように、あの火災以前。シューバルト氏は、秘書を連れて積極的に活動を再開させ――』



…………………………………………
…………………………………………
…………………………………………
…………………………………………
…………………………………………
…………………………………………
…………………………………………
……………………………………………
………………………………………………
……………………………………………………
…………………………………………………………
…………………………………………………………………………怪物。


38 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/04/07 01:33
http://appletea.to/~charaneta/ikkoku/img/1110810447/38.gif (54KB)



人の……過去を奪い事………………
感情を……記憶を…………名前を、奪う。



…奪い、殺す……操る……何にだって…人間は…………
タブーを犯す…………至上の快楽。人を……自分が……




39 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/04/07 01:34
http://appletea.to/~charaneta/ikkoku/img/1110810447/39.jpg (3KB)


洗脳者……怪物を産み出す怪物…絵本…………
…………実験とは、実験は……実験……わかるかね……



償い…………名前を返そう……
……生まれた…………本当の怪物とは…………




40 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/04/07 01:35
http://appletea.to/~charaneta/ikkoku/img/1110810447/40.gif (13KB)

OBLUDA,KLERA NEMA SVE JMENO……

41 名前:名無し客:05/04/09 16:49
ま、ま、オーナー。
そんな恐い顔しないで下さいよ。
え? してない?
あ、ああ、この季節の陽光の作る影のせいですかね。
オーナーが随分と凄惨な顔をしているように見えたもので。

――まあ、きっと気のせいなのでしょう。きっと。

ああ、紅茶をもう一杯お願いしますよ。
いや、砂糖は要らないな。
うん? いやいや、ミルクはたっぷりとね。
なかなかいい紅茶ですね、これ。
この旅行で初めて美味しい紅茶に出会えましたよ。

いや、なに、変な話をしてすみませんね。
近頃、神か悪魔かモンスターのせいにでもしたくなる事件が勃発しているでしょう?
ま、気にしないで下さいよ。

ところで――――オーナーが「恐い」と思うものは、何ですか?

私は……今はさしずめ「紅茶が恐い、おお紅茶が恐い」、というところですかな。
はは、東洋の国の笑い話ですよ、これは。

42 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :05/04/12 16:03
>>41
――はっ!?
あ、ああ……これは失礼しました。
いえ、しておりません。ええ、窓からの光で出来た陰影のせいですよ。
見間違えです……見間違え………

紅茶のお代りですね。はい、すぐにご用意致します。
はい。砂糖は――ミルクを? ではミルクティーになさいますか。
はい……はい、ではご注文の通りに。




この葉は、この間イギリスに旅行に行かれた方がいらっしゃって。
あちらの有名なお店、どこだったかな……ど忘れしてしまいましたが。
そちらで買い求めていらして。

お茶には一家言もっているのですが、なかなかいい葉手に入らなくて……
少しでも、お客様に楽しんでいただこうと、せめて煎れ方には思考錯誤しています。
ですからそう言って喜んで頂けると、言葉もありません。

……しかし、なんと言うか……お客様の話題は――いえいえ!
私でよければ、いくらでも話相手になりますよ。



確かに、恐ろしい事件が続いています。
そのお気持ちは分かりますが、事件を起すのは人間です。
神も悪魔もモンスターも……創り出したのは人間なんです。

そう創り出したのは………………


え、あ、はい。そうです…ね。そうします。




怖いものですか?
ははっ、それは秘密です。
では私を散々に怖がらせてくれた仕返しに、お茶をどうぞ。


どうです、スコーンなども怖くはないですか? とても恐ろしいコケモモジャムも一緒ですよ。

43 名前:名無し客:2005/04/21(木) 00:25:34
太く短く生きるか。
細く長く生きるか。
若人はしばしばこのような話題で議論をするものです。

オーナーも、この事を議題にして激しく論議した時代があるのではないですか?
人は何をもって「最善」の生き方が出来るのかという命題で議論をした時代が。

44 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/04/22(金) 00:03:00
>>43
おや、何か考え事ですか?
はあ……「太く短く生きる」「細く長く生きる」か、ですか。
なるほど、若い頃はそういうものだったかもしれません。

例え短く終わっても、華々しい人生を選ぶか。
華々しさとは無縁の生涯を送り、天寿を全うするか。
こういった話をし出すのは、10代辺りでしょうか…………

人間が幼少期に、初めて「死」を認識する場合、ただ恐怖しかありません。
「死」という存在を知り、それを想像し、ただ怯える……お客様にも、覚えがあるでしょう?
ですが、やがてそれも克服され、10代にもなるともっと別の形で「死」を考えます。

つまり、自分はどんな人生を送るのか。どんな最後を遂げるのか。
ちょうど、自分の将来を考え始める時期ですから……そのせいでしょうね。




45 名前:フランツ・ボナパルタ ◆rI4FRANZmc :2005/04/22(金) 00:03:41




いいかい、よく聞くんだ…………






46 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/04/22(金) 00:04:18

では、夕食はレストランでお取りになられるのですね。
承知しました。
まだ夕飯には早いですね……散歩でもなさいますか? 宜しければ、見晴らしの――
は? はあ……お客様がそうおっしゃるのでしたら…………


私は若い頃は、随分醒めていましてね。こういった議論を行った記憶は、あまり……
つまらない言い方ですが、結局人生がどうなるか、終わってみないと分かりません。
太く生きたくても、結局寂しい人生を送ったり。逆に、ひっそり生きたくても、それが出来ずに居たり。
ままならないものですよ。


こうして、独り寂しくホテル経営なんてやってる私が、偉そうに言える事などないですが。



47 名前:フランツ・ボナパルタ ◆rI4FRANZmc :2005/04/22(金) 00:05:08




人間はね……何にだってなれるんだよ。





48 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/04/22(金) 00:05:40
お帰りなさいませ。
どうでしたか? あそこは、味付けが独特ですから、好みに合わないかと心配したんですが……
そうですか。ええ、料理の腕前は悪くなかったでしょう?
ただ、味付けがですね――


先ほどの話の続きですか?
私は……人の人生を踏みつけ、華々しく生きるよりは、細々とでも、誰かの為に生きる方がいいです。
ホテルなどやっているのも、誰かの為、という気持ちのせいかもしれません。

今更、この歳で言うのも変ですが。
私は「細く長く」で構いません。別に長くなくてもいい。
私はただ、平穏な人生を望んでいます。




そんな人生を送れる人間に、私はなれるでしょうか…………





49 名前:フランツ・ボナパルタ ◆rI4FRANZmc :2005/04/22(金) 00:06:20




何にだってなれるんだよ――





50 名前:名無し客:2005/05/07(土) 16:56:32
ニホンの漫画やアニメーションが実写化する事が最近よくあるそうで。
しかもハリウッドのような所で大々的に。
今や「事実は小説より奇なり」を地で行っているご時世なのに、やはり
人間ってものはフィクション世界に娯楽を求めるものなんでしょうかねえ?
怪物のような人間が登場する実写映画?
字面だけみると如何にもハリウッド的な映画だねえ、ははは!

そうそう、このフェアシュテックのようなひなびた……じゃなくて、味のある――
ニホンで言うと"ワビ・サビ"、でしたっけ――ホテルを舞台にした映画を作ると
したら、オーナーはどんな脚本を書きますかね?


タイトルは――――「安らぎの家……ホテル・フェアシュテック」……なんてね?

51 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/05/07(土) 22:19:33
>>50
いらっしゃいませ……ご予約の…?
はい、お待ちしておりました。

では、こちらにサインを…………
ええ、いい天気ですね。
昨夜は雨だったんですが、今朝にはもう止んでいまして。
いい具合に、緑が陽光を弾いて、とても奇麗ですよ。

はい、はい、結構でございます。
では、お部屋へご案内致します……





あ、お部屋はいかがでしたか?
いえいえ、なかなかお客さんがいらっしゃらないもので……いつも空いてますよ。
ただいま、飲み物をご用意致します。


ほう、ニホンの……それが、ハリウッドですか。
そうですね、やはり映画などには、現実とは違う計算した楽しさがありますから……
現実との比較は、本当はあまり意味のないのかもしれませんね。

私は……あまり、ハリウッド映画などは見ないのですが。
最近見たのは、もう3〜4年前ですか。「フォレストガンプ」という作品を、友人に誘われて。
怪物だとか、宇宙人だとか、そういったアクション映画はあまり見ませんね。


はは……いえ、確かにここは流行っていませんから。
さぁ。ニホンの文化には、あまり詳しくないもので…………

私が? 脚本ですか。
ふむ、私が、そうですね……仮に、ですが作るとすれば。

主人公は、昔教師をしていた、今は田舎のホテルを経営する男です。
男は、自分の教え子が道を誤った挙げ句に死んでしまった事を悔い、教職を辞した過去を持ちます。
物語は、そんな男の目から見た、ホテル客の様々な人間模様を1つの軸としてえがき。
もう1つ、そのホテルに出入りしている町のある少年と、男の触れあいを軸にした、2つの軸で進みます。

男は人々との出会いから、自分の過去を振り返り、
あの教え子の生の意味、自分のこれまでして来た事、そして自分は何だったのかを考えるのです。

ある日、ホテルに出入りしている少年の身に、大変な自体が起こります。
男は、少年と嘗ての教え子を重ね合わせ――――


……いや、止めておきましょう。
あまり、人気のありそうなお話じゃありませんね。

新聞などを読んでいると、時々思うんです。
今の時代は、人々は何か急かされる様に生きていると。
おかしな話ですよね……文明は発達して、人々は裕福になっているというのに。

急かされる中で、何か大事な物を亡くしてきている。
その亡くした何かを、もう一度考えてくれる様な……そんな、お話をと考えたのですが。
いや、私に、そんな話しは……無理でした。


「安らぎの家……ホテル・フェアシュティック」
ああ…………もし、ここが……そんな場所に、なってくれるなら……





52 名前:記者 ◆rI4FRANZmc :2005/05/07(土) 22:20:47


(以下の文面は通称グリマーノートと呼ばれるメモからの抜粋である。
今は亡きグリマー氏と真実を追いその彼方に消えたヴェルマー・ヴェーバー氏に敬意を表す)

サルトルの『嘔吐』――――店がからっぽになると、やつの頭もからっぽになる……
B、西側の文明を看破。
東側文明は西側に敗北必至→物質主義→西側は繁栄→ユートピアに近い世界出現
→肉体労働激減→週休二日制→娯楽産業発展→趣味の多様性→恋愛の自由化→快楽の追求。
生存のための時間は減少し、余暇のための時間が急増する。
しかし余暇におびえる人々も急増。娯楽への強迫観念。恋愛、セックスへの強迫観念。
他人がいないと何もできない人種(筆者注:これがサルトルの『嘔吐』か?)。
時間を持て余す人種。自己嫌悪。退屈。倦怠。自己否定。自己発見。
自分は運命の神から軽く扱われている。
退屈からの犯罪→殺人=快楽殺人=連続殺人。……Bは、六〇年代すでに、西側に増加する犯罪傾向(新しい殺人者=快楽殺人者の出現)を予測している。恐るべき洞察力!



(これ以降、あのチャコスロヴァキアで行われていた実験の目的が書かれているが――
それは、ヴェルナー・ヴェバー氏と浦沢直樹氏の共著『ANOTER MONSTER』を読まれたし)




53 名前:あくま ◆rI4FRANZmc :2005/05/07(土) 22:23:38

ttp://www.yomiuri.co.jp/hochi/geinou/apr/o20050405_70.htm


「MONSTER」ハリウッド実写映画化
浦沢直樹さん大ヒット漫画

「YAWARA!」などで知られる漫画家・浦沢直樹氏の大ヒット作「MONSTER」がハリウッドで実写映画化される。
「ロード・オブ・ザ・リング」「セブン」などを輩出したハリウッド大手のニューラインシネマが、
このほど浦沢氏と実写映画オプション権を結んだことを5日、小学館が発表したもの。

 ニューラインシネマは全米トップクラスの監督、脚本家を起用する方向だという。
担当プロデューサーは「私は今、最高に幸せです。必ずや『羊たちの沈黙』『セブン』に匹敵する、
身の毛もよだつサイコロジカル・スリラーが誕生するだろう」としている。
「MONSTER」は94年にビッグコミックオリジナルで連載開始、
7年間にわたり人気を爆発させた作品で単行本累計部数2000万部。
日テレ系でアニメ化(火曜・深夜零時40分)されている。製作規模、公開時期は未定。
原作の主人公は日本人医師で、日本人俳優が起用される可能性もある。






          みにおいで。みにおいでよ。
          たのしいえいがだよ。
          さあみにおいで。みにおいでよ。






54 名前:「名前で呼んでください」:2005/05/07(土) 23:32:47
あらすじ


           ,// ノ 丿  i i i ,ヽ
          / //  /’ /   ,i ! ! i i _
.         / // /’  /    / i ,' / ノ `''‐ ,__
    /   / // /  /    / / ノ /,/     `‐, _
  //    ̄~√,`'iフ‐'t‐ ,,ノ,,ノ/彡'        ./
 / /       | 6 ∧  ノ  :l             /
/ /       ∧ヘ/ 〈    ヽ 中国        /
//   /   /,'/ `' 〉 ノ   ,i  解雇     /
    /   ///  〈   i    /          /
  /    /`k,,  ,,〉 く___, ‐'           /
 /   ,/,,   `''v,> ノ,       ,r ,     /
/   ノ  '''''‐,,,, __> .〉.i''v .,,__  |.`ヽ,   /
   彡      `Lvノ' l | i `'/  /   /


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

(からんからん、中華風の地味な少女が一人入ってきた)

「すいません。一夜の宿を良いでしょうか。

 この台帳に書けば良いんですね。
 ………あの、私、名前をそう、主人からも同僚からも忘れ去られたんですけど、ここに何て書けば良いでしょう?」

55 名前:なまえのないかいぶつ ◆rI4FRANZmc :2005/05/08(日) 00:51:02
むかしむかしあるところに、なまえのないかいぶつがいました。
かいぶつは、なまえがほしくてほしくてしかたありませんでした。

そこでかいぶつはたびにでで、なまえをさがすことにしました。
でもせかいはひろいので、
かいぶつはふたつにわかれてたびにでました。

いっぴきはひがしへ、もういっぴきはにしへ。

ひがしへいったかいぶつは、そこでひとりのようかいにであいました。


「ようかいのおじょうさん」
「なに?」
「ぼくにあなたのなまえ…………………………」









「ごめん」







かいぶつはたびにでて、なまえをさがすことにしました。


56 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/05/08(日) 00:51:39
>>54
お泊まりですね。ええどうぞ。
お部屋は空いていますから、ゆっくりしていってください。

東洋の方のようですね。ご旅行ですか?
……ああ、いえ、無理に話されなくてもよろしいのですよ。
それでは、こちらにお名前を――



……名前が…………
名前のない世界……終わりの風景……。この娘も……いや。

そのご主人や同僚は、あなたを何と呼んでいましたか?


――人は、名前を奪われると死んでしまいます。
でもあなたは、こうして生きている。

君には、名前がある。

それは、本当の名前では、ないかもしれない。
だがね、誰かに自分だと分かってもらえる、名前があることはとても幸せなことなんだよ。
君はそれに気が付いていないかもしれない。
でも、きっといつかは気付くはずだ。自分は今、幸せだということに。


君は、あの風景をみてはいけない。
あの世界へいってはいけない。



……じゃあ、こうしましょう。
また、いつかここに泊まりにきて下さい。本当の名前をもって。
その時まで、宿帳の名前は空けておきましょう。

では、お部屋にご案内致しましょう。


57 名前:名無し客:2005/05/15(日) 04:36:38
ホテルの台帳で、様々な国の様々な名前を見てきたのではないかと思います。



     ――――――なまえなんていらないわ。なまえなんてなくてもしあわせよ。



その中で、オーナーが特に素敵だと思った名前を教えて下さい。
東洋の名前なんて、結構響きが素敵ではありませんか?



                    ――――――………、すてきななまえなのに。

58 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/05/16(月) 22:58:31
>>57
どうなさいましたお客さま。
はぁ……面白い名前ですか。
海外の、と言っても、この辺りに旅行に来られる方は少ないですから……
東洋からのお客さまなど、数える程しか来られていません。


ええ、でもそうですね。
やはり多くの名前を目にしてきましたとは思います。
ですが……取り立てて、というものは。

名前は、どれも素敵なものですよ。
もちろんですとも。お客さまの、名前もです。
名前というものは、誰でもあたりまえに持っているので気付きませんが、どれも素晴らしいものなんです。
例えそれがどんな経緯で名付けられたとしても。

「シンデレラ」がその典型ではないでしょうか。
シンデレラとは「灰かぶり=灰まみれの娘」という本来侮蔑の言葉です。
それが、今シンデレラといえば褒め言葉になっています。
重要なのは、初めでなくその後なんですね…………


ああ、失礼しました。話が逸れてしまいましたね。
……この話は、もうよしましょう。え、あ……はあ。お客さまがそう仰るのでしたら、最後に1つ。

名前の素晴らしさ、大切さに気付くとしたら、それは名前を無くした時でしょう。
―――ですが。名前を、人が無くすと言うことは…………



さ、夕飯にしましょうか。
近所の肉屋の娘さんがサービスしてくれましてね。いいソーセージが手に入りました。
ビールにソーセージ。それと、バーのご主人からいただいた豚足もありますよ。



59 名前:フランツ・ボナパルタ ◆rI4FRANZmc :2005/05/16(月) 23:01:22

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60 名前:名無し客:2005/06/20(月) 01:43:26


  嵐の翌朝、浜におびただしい数の魚が打ち上げられた。
  一人の少女が魚を一匹ずつ拾い上げ、生きているとわかると海に投げ返して
  やっていた。

  それを見ていた男が少女に言った。

 「そんなことをして何の意味がある。
  打ち上げられた魚はあまりにも多すぎて、全部を海に戻すなど到底できないことなのに」

  少女は答えた。

 「でも戻した魚は、また泳げるわ」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


……あ、ああ……この本、ですか?
これは、とある国に伝わるお話……なんだそうです。
太平洋に浮かぶ南国だとか、その辺りの国お話……というところまでは覚えているの
ですが、どうにも詳しい事を覚えていなくて。

……どうです、このお話。
ちょっと、いいものだと思いませんか?

61 名前:フランツ・ボナパルタ ◆rI4FRANZmc :2005/06/21(火) 01:41:15
>>60
物語かね?
いや失礼した。オーナーは今買い物に出かけているよ。
私は――客のようなものだ。


それは……太平洋の南国、となるとニューギニア辺りだろうか。
なかなか示唆に富んだはなしだね。
全ての打ち上げられた魚を助ける事はできないが、それでも助かる命はある――


その助かった命と助からなかった命の差は一体なんだったのだろうか?

違いは、打ち上げられたそこに心優しい少女が居たか、居なかったか。
それだけ、そう運というしかない。
偶然と言い換えてもよい。もっとも、それが偶然であるか必然であるかは分からないがね。

いや、少し捻くれて受け止め過ぎたようだ。ところで、こんな話を知っているかね。


何年も前に、アフリカの紛争による飢餓が深刻な地域で写した写真を発表した報道写真家がいた。
写真には、今にも死にそうな少女と、その少女が死ぬのを待ち構えている鳥、という構図でね。
言うまでもないが、このヨーロッパにおいて「独りぼっちの子供」という構図ほど受ける被写体はない。
どういう方向へでもだ。
その写真は大きな反響を呼び、アフリカにおける飢餓の深刻さを世界に啓発する役割を果たした。

だが、そこで写真家ある批判が沸き起こる。
なぜそこ少女を、写真家は助けなかったのか――そう、その写真家は少女を助けなかったのだよ。
当然その事へ批判が集中し、ピューリッツァー賞まで取ったその写真家は自殺してしまった。


彼の使命はその少女を助ける事ではなく、その姿を世界に伝える事で飢餓問題を世界に認知させ、紛争と飢餓を無くす事。
そこでは何万人もの同じ境遇の子供がいて、その少女を助けたとしてもそれは自己満足でしかない。
彼は報道写真家としての責務をまっとうしただけだ。一方ではそんな意見もある。



魚を助けた少女と、少女を見捨てた写真家――――――わかるかね?

62 名前:◆4Q7lVPOPPE :2005/06/21(火) 01:43:17


あるうみのそばにあるまちに、ひとりのしょうねんがいました。
しょうねんは、まいにちまいにち、うみをみながらかんがえごとをしていました。

あるひ、りょうしんがしょうねんにたずねました。
「おまえはてつだいもせず、うみをみてなにをしているんだい?」
「どうしたら、うちのせいかつがらくになるかを、かんがえていたよ」
なんてかぞくおもいのこだと、りょうしんはかんげきしました。

つぎのひ、がっこうのせんせいがしょうねんにたずねました。
「きみはじゅぎょうもうけず、うみをみてなにをしているのかね?」
「どうしたら、もっとべんきょうができるかを、かんがえていました」
このこは、しょうらいえらくなるかもしれないと、せんせいはかんしんしました。

またつぎのひ、まちのしんぷさまがしょうねんにたずねました。
「きょうかいにもこないで、うみをみてなにをしているのですか?」
「どうしたら、みんながあらそわないですむかをかんがえていました」
とてもすばらしいこだと、しんぷさまはおもいました。


そのまたつぎのひ、しょうねんはきょうもうみをみていました。
「なにをしているんだおまえ?」
だれかがしょうねんにたずねました。
「うみをみながら、かんがえていたんだ」
しょうねんはいつものようにこたえました。
「じゃあ、いままではなにをしていたんだおまえ?」
「ずっとかんがえていたよ」
「それでなにかできたのか?」
しょうねんはこまりました。いままでかんがえるだけだったからです。
てつだいも、べんきょうも、おいのりもしていませんでした。
「なにもしていないよ」


「そうか」


とつぜんうみから、おおきなかいぶつああらわれ、おおきなくちでしょうねんをたべてしまいました。

バリバリ グシャグシャ バキバキ ゴクン。

おなかがいっぱいになったかいぶつは、またうみへもどっていきました。


]それから、しょうねんをみかけたひとはいませんでした。

63 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/06/21(火) 01:50:17
大丈夫かねヴィム。
ん、そうか。ちょっと買い込んでしまったな。

どれ、今ドアを開けるから待っていて…………?
はて鍵を閉め忘れていたかね。



…………ふむ、泥棒じゃなさそうだな。
あ、客室はどうだったかね?
そうか。誰もいなかったか。

まあ何も取られてないなら、警察に通報する事もないだろう。
しかし、今日はやけに明るいな…………


さ、夕飯の支度だ。今日は、遅くに来ると予約があってね。久々のお客さんだ。

64 名前:名無し客:2005/06/24(金) 12:09:02
お願い・・・・・・水を・・・ください・・・・・・。(パタッ)

65 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/07/13(水) 00:45:38
>>64
大丈夫ですか。しっかり!
さ、今水を――――



落ち着かれましたか?
それは良かった。……おや、お腹も空いているようですね。

よければ、何か簡単な物を用意しましょうか?
そうだ、昨夜の残り物ですが、スープがあったはずだ。固形物よりは、お腹にもよいでしょう。
暖めますので、少し待って――え?
お金が無い?


お気になさらず。サービスの様なものだと思ってください。
そもそも、人が困っている誰かを助けるのに、理由など要らないんです。
さ、そこの椅子にかけてお待ち下さい。




それにしても、無一文でここまで…………いや。
余計な詮索は止めておきましょう。
貴方が、どういう方であるか。どういう方であったか、私は興味がありません。
ただ重要な事は1つだけ。貴方は、今、ここに居る。
そして、この町はRUHENHEIM(安らぎの家)だと言うこと。
それだけです。

願わくば、ここが貴方にとっても安らぎの家である事を――


あ……いや…………ああ、そうだ。今日の所はうちに宿泊しませんか?
ああ、宿代でしたら少々雑用を手伝ってもらう、と言うことで如何でしょうか。
ちょうど、男手が必要な事がありまして。

その先は……滞在なさるのでしたら、日雇いの仕事でも紹介しますよ。
ははっ。働かざる物食うべからず、です。


66 名前:名無し客:2005/08/31(水) 02:06:24
「やあ、オーナー」

 昨日からホテルに滞在している老人が声を掛けてきた。
 夫婦連れの客であるが、婦人の方は近所を散歩してくるとの事で、
一人外に出てしまっている。

「良いところですね、ここは。静かで、穏やかで……」

 椅子に深く腰掛け、老人はにこやかに語り掛けてくる。

「ツレはもっと賑やかで人の多い観光地がいいって言うんだがね、私はこういう
 のんびりしたところが好きなんだ。
 仕事もとっくにリタイアして、子供も孫の世話でつきっきりでね。
 なかなか顔を見せにも来ないよ。
 後はもう、自分のために、自分の趣味に生きるのみってヤツですよ。
 自分を束縛するものは何もないんだしね、静かに老いるだけですな。
 あ、ああ、ツレには束縛されて、しょっちゅう引っ張り回されていますがね、わはは」

 老人はひとしきり話した後、ふう、と息をついた。
 そしてほんの少し、オーナーの顔色を伺うと、また話し始める。

「ツレはまあ……有名な観光地を回るのを楽しみに生きているようなもんでね。
 いやなに、私もアイツと一緒に各地を回るのが楽しいのさ。
 いろんな土地で、いろんな体験をしてね。
 会社に縛られているときは、そんな事出来やしなかったからね……。
 私はあまり家庭を顧みる方じゃなかったからねえ……」

 老人はそう言うと、窓の外に視線を移す。
 ”安らぎの家”である街の風景を、ゆっくりと眺める。

「こう言っちゃ何だが……まあ、アイツと夫婦になれて、本当に感謝しているんだ。
 幸せと言っちゃァ、幸せだね、私は。
 この歳で初めて分かったようなもんですがね、私はアイツと一緒になれて、
 本当に幸せなんだなあって……」

 老人は自分の言葉に照れたのか、破顔して豊かな白銀の頭を手でぐしゃぐしゃと
かき乱した。

「ああ、いや、何もオーナー相手にノロけようとか、そういうつもりじゃないんだ。
 まあ、人の幸せって、色々あるもんだな……と、ふと思ってしまいましてね。
 こんなごく当たり前の日常が幸せで、ごく普通の生活を喜ぶ自分なんて、
 若い頃には想像していやしなかったもんでね」

 遠い目をしていた老人は一転、オーナーの顔を見据える。

「オーナー、コーヒーを一杯いただけませんか?
 砂糖は結構。入れるのはミルクだけと決めているもんでね」

 そして、一言付け加える。

「……ねえ、オーナー。
 ……まあ……変な質問なんですがね」

 少しだけ、遠慮がちな口調で。

 「オーナーの幸せって、何です?
 何が、喜びだと、思います?

67 名前:フランツ・ボナパルタ ◆rI4FRANZmc :2005/09/01(木) 00:22:10





名前など………いらないんだ。






68 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/09/01(木) 00:22:23
>>66
これはお客さま。
奥様は………ああ、散策ですか。


ええ………ええ、いい街ですね……本当に。
確かに、静かで、散策くらいしかする事のない街ですが。
ですから、その、奥様のおっしゃられる事も分かります………………

それでも、お客様のような方がいらしてくださるので、私もこうしてホテルを続ける事ができます。



ふふ。いえ、お客様は奥様の事を大変愛していらっしゃるのですね。
私も、昔は結婚していましたが…………お客様が大変羨ましい。
結婚し、子を育て、孫の顔を見て、そして――――

幸せとはそういうものじゃないですか?
青い鳥は、常にすぐそばにいるものです。わたしも若かったのですね。
幸せなんて、いくらでもあるんです。それが、見えない………………



それでは、コーヒーを煎れてきます。
そろそろ食事の準備もしないと………あ、はい。承りました。
では、少々お待ち下さい。




え? 私の幸せに喜びですか?
勿論、お客様の楽しんでいただく事が、私の喜びですよ。
そして、「オーナー」と呼んでいただく事。そんな事が幸せなんです。

誰かに自分を呼んでもらう。
青い鳥のように、当たり前の事だから誰も気付かない幸せです。
お客様にオーナーと呼んでもらう。街の人にポッペさんと声をかけてもらう。
それが――――



ああ、ノロけ話などとお気になさらず。
そんな話を聞くのもまた、楽しみですから。


69 名前:◆rI4FRANZmc :2005/09/01(木) 00:22:57

「ぼくになまえをください」



「なまえがついたよ。すてきななまえなんだ」

にしへいったかいぶつはいいました。

「なまえなんていらないわ。なまえなんてなくてもしあわせよ」



「だってわたしたちはなまえのないかいぶつですもの」



――――バリバリ グシャグシャ バキバキ ゴクン



70 名前:名無し客:2005/09/01(木) 14:36:20
(ラジオから歌が流れてきた……)


日が暮れてからカレーのにおいがしてる

どれだけ歩いたら家にたどりつけるかな

僕のお気に入りの肉屋のコロッケは

いつも通りの味で待っててくれるかな

地球の上に夜が来る僕は今家路を急ぐ

来年のことを言うと鬼が笑うっていうなら

笑いたいだけ笑わせとけばいい

僕は言い続けるよ5年先 10年先のことを

50年後も君とこうしているだろうと

地球の上に夜が来る僕は今家路を急ぐ

雨が降っても嵐が来ても槍が降ろうとも

みんな家に帰ろう邪魔させない

誰にも止める権利なんかない

地球の上に夜が来る僕は今家路を急ぐ

世界中に夜が来る世界中が家路を急ぐ

そんな毎日が君のまわりでずっとずっと続きますように

グータララ スーダララ グータララ スーダララ


71 名前:◆rI4FRANZmc :2005/09/08(木) 20:14:28
.



ばんぱく ばんざい
ばんぱく ばんざい



そして
せかいだいとうりょうが
たんじょうするだろう



.

72 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/09/08(木) 20:15:04
>>70
さ、これでどうだいヴィム。
――――――ああ、よし。修理完了だ。
古い機械でも、こうして手入れを怠らなければ使えるものさ。


これは………日本語だね。
私も意味までは分からないが、この最後のフレーズが人の――――あ、お客様!





はい。これでチャックアウトの手続きは……しかし急な出立ですね。
あ、いや……それでは、またお立ち寄りの祭には、ぜひ当ホテルをご利用下さい。


おや、ヴィム。それはどうしたんだい?
忘れ物……お客様! お客様!?
…………タクシーにでも乗られたのだろうか。

これに住所でも書いてあるといいのだが…………

ん? 今のお客様かね。
なんでも、日本の……なんだったかな、アレ……いや違うな。そうか……じゃない。
りっせい……ああ、名前は忘れたが宗教団体の方だそうだ。

もっとも、仕事ではなく"ともだち"のためにわざわざヨーロッパにまで来たそうだ。
この街に寄ったのは偶々らしいがね。
わざわざ日本から、こんな遠くまで"ともだち"のために。

ヴィム。おまえもともだちは大切にするんだ。
ともだちは裏切ってはいけない。でないと、一生後悔する事になる…………


さて、中身を確かめてみようか。




73 名前:◆rI4FRANZmc :2005/09/08(木) 20:15:55

半旗が掲げ――――連本部は深い悲――――
絶交だ
               大統領は――意を表し……英雄の――彼は真の"と――
目をさませ!
      イギリス王室――"とも――勲章の――――――
私はゴジラ、15万人を踏みつぶした
                 ここヴァチカ――ミサ――――彼は今、聖霊とともに――
      ショーだ! 史上最大のショーになる……!!

神は彼をこう名付けました。"ともだち"と………………
絶対にやってみせるからね。世界征服と……人類滅亡計画。

バハハーーーーイ。またね




74 名前:◆rI4FRANZmc :2005/09/08(木) 20:16:30
りりりんとでんわがなって

すべてのじゅんびがととのうだろう





















リリリン リリリン リリリン リリリン リリリン……………………


75 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/09/08(木) 20:17:49

グータララ〜〜〜……スーダララ〜〜〜……

76 名前:名無し客:2005/09/13(火) 13:38:00
御自分に説明書をつけてみてください。

参考

子供に説明書をつけるとしたら
http://life7.2ch.net/test/read.cgi/baby/1107828986/

77 名前:◆rI4FRANZmc :2005/09/16(金) 00:51:06
.

・この製品には故郷がありません。
・この製品には記憶がありません。
・この製品には感情がありません。
・この製品には名前がありません。

・この製品の中にはあなたは存在しません。


,

78 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/09/16(金) 00:52:22
奥さん……いえ、ご主人とは親しくさせていただいていましたから。
ええ、ええ。そうですね今は冥福を祈りましょう。


――――奥さん。
ここには、ご主人が生まれ育ちお二人が暮らされた街。
沢山の思い出が、逆におつらいかもしれない。
だから、今は悲しまれていいと私は思いますよ。

ですが………ご主人は何が幸せだったか。それを、ゆっくりと考えてみてください。
ここはご主人と奥さんの故郷。
ここには思い出があります。ここでお二人は、多くの愛情を育まれた。
それは、とても幸せな事だったはずです。

その幸せが無くなる事はつらい。

いいえ、無くなりはしません。
ここに故郷がある限り。思い出が残る限り。
奥さんに愛がある限り……………


さあ、ご主人の名前を呼んであげてください。
その名前がある限りご主人はあなたの中に、そしてご主人の中にはあなたがあり続けるんです。




いえ………今の私では……こんな程度にしか…………
それでは、奥さん。





――――さようなら。
そっちで会う事は出来ないだろうが………

79 名前:名無し客:2005/10/18(火) 01:33:32
東洋の島国で、こんな質問を投げかける人がいました。


 倫理・宗教・法律を持ち出さず、かつ情に訴える以外の方法で、
 「なぜ人を殺してはいけないか」を説明してください。

 (説明できない・いけない理由はない・ケースバイケース、という類の
  回答はご遠慮ください)


――――オーナーだったら、どう答えますか?


参考サイト
http://www.hatena.ne.jp/1124114353(質問の場所)
http://blog.lv99.com/?eid=247607(解答の参考程度に)

80 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/11/05(土) 01:16:39
>>79
いかがでしたか、今日はいいサーモンが手に入ったのでそちらでまとめてみました。
このテリーヌはなかなか自信作でして…………ありがとうございます。

それでは、食後のコーヒーを。
は? いえ、わたしは……では、お客様がそうおっしゃるのであれば。
お話し相手くらいにはなるでしょう……

ああ、今日はお客様しかお泊りの方はいらっしゃいませんのでお気になさらず。




――――どこで、その質問を…………
いや……何でもありません。
そ、そうですね。私の回答でしたね……


……では、逆に質問させていただきます。
先ほどの私の料理ですが、あれを文化・伝統・社会的判断を持ち出さず、
かつあなたの主観で判断する以外の方法で評価していただけませんか?



81 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/05(土) 01:20:08
(以下の文章はある記者のインタビューより抜粋)


――――あなたがが「朗読会」いくつのときでしたか?

  そうだな、俺が10になったくらいの頃かな。
 親父が党のお偉いさんと知り合いだったらしくてな、それが縁で紹介されたらしい。
 どうやら俺の様な奴は珍しかったらしいんだが、御眼鏡に適ったんだろうな。

――――「朗読会」とフランツ・ボナパルタの印象は?

  ん〜正直、あそこでの事はあまり覚えちゃいないぜ。
  あれの参加者だったっていうやつのインタビューは俺も読んだが、
 俺も覚えている事は大して違わないね。

――――読まれたのですか? インタビューを渋っておられたので、てっきり……

  ああ、結局俺もとらわれているんだろうな。読んだのは『ANOTHER MONSTER』って本だ。

――――「ヨハン事件」を書いた本としては大著ですね。


(中略)


――――それで、フランツ・ボナパルタは絵本を読む以外の事もごく稀に行っていたのですね。

  そうだ。それで思い出したんだが、あの人――俺らはフランツ・ボナパルタの事をそう読んでいた。
  もっとも、あの人に限らずお互いの名前なんて読んだ事なかったがな――がこんな事を聞いてきた。
 「どうして人を殺してはいけないのか説明してごらん?」ってな。ただし、倫理も宗教も法律も情も抜きでだ。

――――それは、彼らしくない気がする問いですね。

 だろ? 実は、あの頃の俺はそうとう捻くれててな。
 何度か彼の質問に捻くれた事返してて、その時もそんな事があった後だったっけ。
 たぶん、彼流の意趣返しだったんじゃないかな。

――――意趣返しですか?

  それも相当、悪意がこもったな。
  そもそもこの質問は前提がおかしいだろ?
 倫理も宗教も法律も情も抜きに「人をなぜ殺してはいけないか」なんて説明出来るはずが無い。
 これは最初から、答えがある様に見せかけて実は相手を思考の袋小路に追い詰めるだけの質問だ。

――――それで、貴方は何と答えたのですか?

 「殺してはいけない理由なんかありません」って答えてやったよ(笑
  そしたら、見事に「朗読会」を追い出されたけどね。

――――それは、フランツ・ボナパルタの真意を見抜かれての答えでしたか?(苦笑)

  まさか。俺はそこまで賢くないよ。
  実は、暫く前にあの「朗読会」に参加してた奴に偶然再会してな。

――――参加者に!?

  ああ。その時そいつが、その話を言ってたんで俺も思い出してさ。
 そいつと別れた後、例の『ANOTHER MONSTER』であの人の考えを知ったらようやく理解できたって訳よ。
 ……今思えば、あいつわざと俺に接触したのかもしれないな。

――――わざとですか?

  どうも、雰囲気が少しおかしかったぜ。
  それにあいつは……そうだな、もしかするとあの人が望んでいたのとは別の方向で、
 何か目覚めちまったのかもしれないな。

  今も、あの「朗読会」にとらわれて、どっかで悪意と気付かない悪意をバラ撒いているのかもしれん。

――――……その人は今どこに?


82 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/11/05(土) 01:20:44
無理ですよね?
そういう事です。答えようがないのですよ。



でも……その質問には、私はこう答えますね。


「人は誰も死にたがってなど無いから」


え……じゃあ、死にたがってる者は人ではないのか?
それは……それは…………それは、それこそMONSTERなのかもしれません。



いえ、気にしないでください。
ところで、その質問はどこでお聞きになったのですか?
はぁ……なるほど、出張で出かけられた東洋の――――


83 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/05(土) 01:22:00
.


  日本に行くと言ってたな。


.

84 名前:名無し客:2005/11/20(日) 23:12:42
……以下のように考えた事はありませんか?

「明日が来なければいいのに」
「今日の次は今日なら、次の日も、また次の日もずっと今日ならいいのに」
「そしたらずっと、同じ自分でいられる」

85 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/25(金) 02:22:02
>>84

「さあ……どうでしょうか」

 私の問いに、オーナーはそう答えた。
 元々、答えなど期待していなかったのでそう落胆はしない。
 ――――訊ねたのは単なる気まぐれからだ。

 そもそも、こんな田舎のホテルオーナーなんかに私の悩みが分かるはずがない。
 こんな変わり映えのない、同じ様な日々が続くだけの片田舎。

「それじゃ、おやすみ」
「はい。おやすみなさいませ。また明日」











「明日なんてこなければいいのに」

 そう思ったのは何時だっただろうか。
 私は、明日に向かって歩くのに疲れ果てていた。

 何をやっても上手くいかない仕事。
 ストレスしか与えてはくれない人間関係。
 不信と不平と不満と不安から無縁ではいられない人生。

「今日の次は今日なら、次の日も、また次の日もずっと今日ならいいのに」

 明日に出会う新しい『何か』は、私にとっての新しい不幸と同義。
 明日を迎えるということは、また新たな苦痛の始まり。

 だけど死ぬのは嫌だった。
 それは耐え切れないし………そんな勇気などありはしない。

 だったら、せめて今日が、明日も明後日も無く、今日が続けば――――

「そしたらずっと、同じ自分でいられる」

 これ以上惨めにならないでいられる。


「………なんてね」
 そう呟くと、読んでいた本を枕元に置く。

 現実は甘くない。
 こうして目を閉じ再び開けば明日は来る。
 世界は私など知ったことじゃないとばかりに回り続ける。
「おやすみ」
 愛しき今日にさようなら。明日よくそったれこんにちは。
 せめて夢くらいはいい夢を見れます様に………………


86 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/11/25(金) 02:22:44


「…………」


.

87 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/25(金) 02:23:42
「おはようございます」
「おはようオーナー」
 フロントに降りると、オーナーの挨拶。
 相変わらずパッとしない声だ。
 今このホテルには、私しか客がいないと昨日チャックインした時に言っていた。当然オーナーと私しかここにはいない。
 オーナーは手早く朝食の用意をすると、窓際の席に座る私の所へ持ってくる。
「お飲み物はいかがいたしましょうか?」
「ミルクを」
 朝は基本的にミルクだ。
 刺激物は寝起きのお腹に良くない。ストレスが多い分体調管理には気を使っている。


「…………」
 さて、今日は何をしようか。
 折角の休暇を利用して、こんな田舎街まで来たのはいいが、こんな所に何があるというのだろうか?
「取り敢えずは、町を散策してみるか」


「天気は……まずますですね。いってらっしゃいませ……」
 相変わらずなオーナーに見送られホテルを後にした。




「見るべきものはなしか」
 軽く1時間ほど、大通りを中心に街を歩いたがこれといって目ぼしい物は何もなかった。
 途中アンティークショップを見つけたが成果はなし。
 店主がジロジロとこちらを見るものだから、長いせずに後にした。
 ま、最初からこんな場所に期待などしてなかったのだけれど。

 と、視線を感じて振り返る。

「…………」
 酔っ払いが辻角からこっちを見ていた。
 酔っ払いである。それはまごうことなく酔っ払いだった。
「…………」
 いけない。目が合ってしまった。
 こうなってしまうと、迂闊に逸らすことも出来ない。
 いくら私の人生が不幸に塗れているからといって、旅行にきて酔っ払いに絡まれるのはあんまりだ。


「ねえ、あんたさ」
 救いの主は、ソーセージ屋の女だった。
「?」
「あんた、観光客でしょう? どうしてこんな退屈な町にきたのよ?」
 垢抜けない化粧が野暮ったい女は、出し抜けにそんな事を訊ねてきた。
 自分の故郷だというのに随分な言い様だこと。
「特に理由はないけど…………」
 本当になんで来たんだろう。
「こんな所じゃなくて、ロマンチック街道を行ったりブレーメンとか……あ、国外もいいわ〜。
 プラハとかウィーンとか! パリ!」

 妙なのに掴まった。
 確かに何も無い町ですることも無い身だが、こうやっているのは浪費以外の何でもない。
 まったくツイてない。いつもこうだ。

「あ!?」
「え?」
 ――パッパー!
 響くクラックション。
 飛び出そうとする子ども。
 猛スピードで駆ける車。
「キャァァァァァーーーーーーーッ!!!」


 子どもが音に驚き立ちすくんだ事が幸いした。
 間一髪、車はそのまま走り去っていってしまった。

 その後、ソーセージ屋の女が子どもに走り寄っていくのが見えたが、私は既にそこを去ろうとしていた。
 そろそろ昼食にしよう。



「ダンケシェーン」
 支払いを済ませ店を出る。
 オーナーに紹介された店だったが、なかなかだった。
 この気分のまま、午後も過ごす事ができれば幸せなんだが………私の人生がそう上手くいかない事はよく分かっている。

「ウォンウォン! ウォンウォン!」
「!?」
 店を出た所で、さっそく犬に吼えられる――――この様だ。
 痛タタタ……少し足を捻ったようだ。

「あらあら、ごめんなさい。ルートヴィヒ、おやめ!」
「ウォンウォン!」
 中年のおばさんは犬を宥めようと悪戦苦闘しているが、一向に静まる気配は無い。
 ――――犬が、飼い主を主と認めていない典型的なパターンだ。家でどんな扱いをしているかが想像できる。

「こーら、ルートヴィヒ。おやめったら」
「大丈夫ですよ。驚きましたけど」
 そういって笑いかける。当然営業スマイルだ。
「あら、ごめんあそばせ」

 ………愚鈍。

「あなた。見かけない顔ね。ご旅行かしら?」
「ええ。昨日から……ホテル・フェアシュテックに…………」
「ポッペさんのところにねえ…………」
 値踏みをするような目。
 いや、これは間違いなく値踏みされてるんだろう。
「また、ベルクバッハのオーナーが愚痴を零すわね。
 あ、いえね。最近お客がフェアシュテックの方にばかりいくものだから、あっちのオーナー、閑古鳥鳴いてるって――」
 おばさん特有の症状が現れ出した。
 困った。これへの処方箋は、逃げの一手しかないんだけど……きっかけがない。


「どうされました、ヒルマン夫人」
 ナイスタイミングです、市民の味方。
「あら、メルケル巡査。いえ、こちらの方と少しお話をね」
 私が一方的に、が抜けている。
 メルケル巡査は、へーと気の無い返事を返しながら、私をしげしげと見た。
「…………よそ者か」

 黙れ公僕。

「大して見るところもない町だろ?」
「いえ、そうでもありませんよ」
 そう言って、この税金泥棒に愛想笑いする。
 あ、胡散臭そうな顔。そっちのおばさんほどは鈍くないようだ。
「あ……それじゃ、私は」
 ともあれ、この機を逃す手は無い。
「ウォンウォン! ウォン!」
「ルートヴィヒ!」
 ほら、犬も行けと行っている。
 私は二人に軽く礼をして、その場を後にした。


 暫く歩き振り返ると、まだ立ち話をしている。
 犬は相変わらず吼えていた。



「いかがでしたか、この町は?」

 ホテルに戻ると、コーヒーを頼み夕飯までの時間は読書で潰した。
 読みかけの本を数冊持ってきてたので、これはこれで有意義な時間だったと思う。
 何より、普段の生活を省みればなんて贅沢な時間の使い方だろう。
 夕飯は出歩くのが億劫だったので、ホテルにお願いした。

「なかなか素敵な町だと思いますよ」
 これはお世辞でもなんでもない。
 この町の在り方は、不信と不平と不満と不安から無縁ではいられない私の日常(せかい)と比べなんて幸せだろうか。
 こんな私でさえ、今日は良い日だと言える一日だった。


 こんな日が毎日続けばいい。
 いや、この幸せも明日には消えてなくなる。なら、この日が永劫続けば――――
 そうすれば、私は惨めな私から少しマシな私のままで、変わることなくい続けられる。
 明日が来なければいいのに。

「そうですか。なんとも嬉しいですね」
 オーナーの髭に隠れた口が、笑っているのが視えた。

「もうこんな時間か……それじゃ、部屋に上がりますね。おやすみなさい、オーナー」
「はい。おやすみなさいませ」

88 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/25(金) 02:25:13

『わたしははじめて彼女が、傷つきやすい女性なのだと気付いた。それを隠すために、傲慢な態度をとっていたのだ。
 わたしが、ワインやアルコールを勧めると彼女は断り、もう一杯コーヒーをいただくわといって、煙草に火をつけた』



 ベッドで本を読むと目を悪くすると、小さい頃親に言われていたことを思い出した。
 今更身に付いた習慣が変わるものでもないが、今日はこれで止めておこう。
 読んでいた本を枕元に置く。

「おやすみ」
 愛しき今日にさようなら。明日よくそったれこんにちは。

.

89 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/25(金) 10:37:33



「おはようございます」
「おはようオーナー」
 フロントに降りると、オーナーの挨拶。
 相変わらずパッとしない声だ。
 今このホテルには、私しか客がいないと昨日チャックインした時に言っていた。当然オーナーと私しかここにはいない。
 オーナーは手早く朝食の用意をすると、窓際の席に座る私の所へ持ってくる。
「お飲み物はいかがいたしましょうか?」
「ミルクを」
 朝は基本的にミルクだ。
 刺激物は寝起きのお腹に良くない。ストレスが多い分体調管理には気を使っている。


「…………」
 さて、今日は何をしようか。
 折角の休暇を利用して、こんな田舎街まで来たのはいいが、こんな所に何があるというのだろうか?
「取り敢えずは、町を散策してみるか」


「天気は……まずますですね。いってらっしゃいませ……」
 相変わらずなオーナーに見送られホテルを後にした。




「見るべきものはなしか」
 軽く1時間ほど、大通りを中心に街を歩いたがこれといって目ぼしい物は何もなかった。
 途中アンティークショップを見つけたが成果はなし。
 店主がジロジロとこちらを見るものだから、長いせずに後にした。
 ま、最初からこんな場所に期待などしてなかったのだけれど。

 と、視線を感じて振り返る。

「…………」
 酔っ払いが辻角からこっちを見ていた。
 酔っ払いである。それはまごうことなく酔っ払いだった。
「…………」
 いけない。目が合ってしまった。
 こうなってしまうと、迂闊に逸らすことも出来ない。
 いくら私の人生が不幸に塗れているからといって、旅行にきて酔っ払いに絡まれるのはあんまりだ。


「ねえ、あんたさ」
 救いの主は、ソーセージ屋の女だった。
「?」
「あんた、観光客でしょう? どうしてこんな退屈な町にきたのよ?」
 垢抜けない化粧が野暮ったい女は、出し抜けにそんな事を訊ねてきた。
 自分の故郷だというのに随分な言い様だこと。
「特に理由はないけど…………」
 本当になんで来たんだろう。
「こんな所じゃなくて、ロマンチック街道を行ったりブレーメンとか……あ、国外もいいわ〜。
 プラハとかウィーンとか! パリ!」

 妙なのに掴まった。
 確かに何も無い町ですることも無い身だが、こうやっているのは浪費以外の何でもない。
 まったくツイてない。いつもこうだ。

「あ!?」
「え?」
 ――パッパー!
 響くクラックション。
 飛び出そうとする子ども。
 猛スピードで駆ける車。
「キャァァァァァーーーーーーーッ!!!」


 子どもが音に驚き立ちすくんだ事が幸いした。
 間一髪、車はそのまま走り去っていってしまった。

 その後、ソーセージ屋の女が子どもに走り寄っていくのが見えたが、私は既にそこを去ろうとしていた。
 そろそろ昼食にしよう。



「ダンケシェーン」
 支払いを済ませ店を出る。
 オーナーに紹介された店だったが、なかなかだった。
 この気分のまま、午後も過ごす事ができれば幸せなんだが………私の人生がそう上手くいかない事はよく分かっている。

「ウォンウォン! ウォンウォン!」
「!?」
 店を出た所で、さっそく犬に吼えられる――――この様だ。
 痛タタタ……少し足を捻ったようだ。

「あらあら、ごめんなさい。ルートヴィヒ、おやめ!」
「ウォンウォン!」
 中年のおばさんは犬を宥めようと悪戦苦闘しているが、一向に静まる気配は無い。
 ――――犬が、飼い主を主と認めていない典型的なパターンだ。家でどんな扱いをしているかが想像できる。

「こーら、ルートヴィヒ。おやめったら」
「大丈夫ですよ。驚きましたけど」
 そういって笑いかける。当然営業スマイルだ。
「あら、ごめんあそばせ」

 ………愚鈍。

「あなた。見かけない顔ね。ご旅行かしら?」
「ええ。昨日から……ホテル・フェアシュテックに…………」
「ポッペさんのところにねえ…………」
 値踏みをするような目。
 いや、これは間違いなく値踏みされてるんだろう。
「また、ベルクバッハのオーナーが愚痴を零すわね。
 あ、いえね。最近お客がフェアシュテックの方にばかりいくものだから、あっちのオーナー、閑古鳥鳴いてるって――」
 おばさん特有の症状が現れ出した。
 困った。これへの処方箋は、逃げの一手しかないんだけど……きっかけがない。


「どうされました、ヒルマン夫人」
 ナイスタイミングです、市民の味方。
「あら、メルケル巡査。いえ、こちらの方と少しお話をね」
 私が一方的に、が抜けている。
 メルケル巡査は、へーと気の無い返事を返しながら、私をしげしげと見た。
「…………よそ者か」

 黙れ公僕。

「大して見るところもない町だろ?」
「いえ、そうでもありませんよ」
 そう言って、この税金泥棒に愛想笑いする。
 あ、胡散臭そうな顔。そっちのおばさんほどは鈍くないようだ。
「あ……それじゃ、私は」
 ともあれ、この機を逃す手は無い。
「ウォンウォン! ウォン!」
「ルートヴィヒ!」
 ほら、犬も行けと行っている。
 私は二人に軽く礼をして、その場を後にした。


 暫く歩き振り返ると、まだ立ち話をしている。
 犬は相変わらず吼えていた。



「いかがでしたか、この町は?」

 ホテルに戻ると、コーヒーを頼み夕飯までの時間は読書で潰した。
 読みかけの本を数冊持ってきてたので、これはこれで有意義な時間だったと思う。
 何より、普段の生活を省みればなんて贅沢な時間の使い方だろう。
 夕飯は出歩くのが億劫だったので、ホテルにお願いした。

「なかなか素敵な町だと思いますよ」
 これはお世辞でもなんでもない。
 この町の在り方は、不信と不平と不満と不安から無縁ではいられない私の日常(せかい)と比べなんて幸せだろうか。
 こんな私でさえ、今日は良い日だと言える一日だった。


 こんな日が毎日続けばいい。
 いや、この幸せも明日には消えてなくなる。なら、この日が永劫続けば――――
 そうすれば、私は惨めな私から少しマシな私のままで、変わることなくい続けられる。
 明日が来なければいいのに。

「そうですか。なんとも嬉しいですね」
 オーナーの髭に隠れた口が、笑っているのが視えた。

「もうこんな時間か……それじゃ、部屋に上がりますね。おやすみなさい、オーナー」
「はい。おやすみなさいませ」





90 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/25(金) 10:37:56
『彼は名前も、そして顔のスケッチもなしという条件でわたしの前に現れた。
 場所はフュッセン。男は、大きな鼻、薄い唇、角ばった顎――かつて凄みのある顔つきだったろうが、
 今では意外なほど柔和な「表情をたたえいる。』


 ベッドで本を読むと目を悪くすると、小さい頃親に言われていたことを思い出した。
 今更身に付いた習慣が変わるものでもないが、今日はこれで止めておこう。
 読んでいた本を枕元に置く。

「おやすみ」
 愛しき今日にさようなら。明日よくそったれこんにちは。

91 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/25(金) 13:25:22
「おはようございます」
「おはようオーナー」
 フロントに降りると、オーナーの挨拶。
 不思議と心休まる声。
 オーナーは手早く朝食の用意をすると、いつもの様に窓際の席に座る私の所へ持ってきてくれた。
「お飲み物はいかがいたしましょうか?」
「ミルクを」
 私は微笑み答えた。
 今の私にストレスなんて無縁だけど、この習慣はそうそう変わるものじゃない。


「…………」
 窓の外を眺める。
 何も無い田舎町。やれることは多くは無い。
「取り敢えずは、町を散策してみるか」


「天気は……まずますですね。いってらっしゃいませ……」
 空には少し雲。
 大丈夫、今日はこれ以上天気が悪くなる事なんてない。




「見るべきものはなしか」
 当たり前だ。むしろ、見るべきものなどあってはいけない。
 アンティークショップに立ち寄り、店主の視線に別れを告げこうして通りに戻ってきた訳だが……

 と、やはり視線を感じて振り返る。

「…………」
「…………」
 大丈夫だ。あの酔っ払いは私に無いもできやしない。
 ただああして、虚ろに私を見ているだけ。
 ――――そしてそれにもうすぐ、

「ねえ、あんたさ」
「?」
「あんた、観光客でしょう? どうしてこんな退屈な町にきたのよ?」
「特に理由はないけど…………」
「こんな所じゃなくて、ロマンチック街道を行ったりブレーメンとか……あ、国外もいいわ〜。
 プラハとかウィーンとか! パリ!」

 どれもそういい所ばかりでもない。
 少なくとも、ここに比べればどれも私には魅力的には映らない。


「あ!?」
「え?」
 ――パッパー!
 響くクラックション。
 飛び出そうとする子ども。
 猛スピードで駆ける車。
「キャァァァァァーーーーーーーッ!!!」

 ――――分かっていても心臓に悪い。
 ソーセージ屋の女が子どもに走り寄っていくのが見えた。
 きっとあの子は大丈夫だ。
 それより、うっかりしていた。次からは気をつけよう。



「ダンケシェーン」
 支払いを済ませ店を出る。
 実はこの店、レストランではなくバーだ。
 オーナーの紹介がなければ気づかなかっただろうし、食事を出されたかすら分からない。

 さて、午後はどうするか?
 そんなことは決まっている。

「ウォンウォン! ウォンウォン!」
「!?」
 店を出た所で、さっそく犬に吼えられる――――この様だ。
 また足を捻る。
「あらあら、ごめんなさい。ルートヴィヒ、おやめ!」
「ウォンウォン!」
 ヒルマン婦人。お願いだから、持て余すペットなんて飼わないでください。

「こーら、ルートヴィヒ。おやめったら」
「大丈夫ですよ。驚きましたけど」
「あら、ごめんあそばせ」
 ………いまさらだ、もういいけど。

「あなた。見かけない顔ね。ご旅行かしら?」
「ええ。昨日から……ホテル・フェアシュテックに…………」
「ポッペさんのところにねえ…………」

「また、ベルクバッハのオーナーが愚痴を零すわね。
 あ、いえね。最近お客がフェアシュテックの方にばかりいくものだから、あっちのオーナー、閑古鳥鳴いてるって――」
 大丈夫、大丈夫。
 これも長くは続かない、だってほら――――

「どうされました、ヒルマン夫人」
「あら、メルケル巡査。いえ、こちらの方と少しお話をね」
「…………よそ者か」

 そいういえばこのタイミング。もしかして見計らっていたのだろうか。

「大して見るところもない町だろ?」
「いえ、そうでもありませんよ」
 タイトル・田舎の警察官。
「あ……それじゃ、私は」
「ウォンウォン! ウォン!」
「ルートヴィヒ!」
 分かってるよルートヴィヒ君。
 私は二人に軽く礼をして、その場を後にした。


 暫く歩き振り返ると、まだ立ち話をしている。
 犬は相変わらず吼えていた。



「いかがでしたか、この町は?」
「なかなか素敵な町だと思いますよ」
 本当に素敵な町だ。
「そうですか。なんとも嬉しいですね」
 オーナーは分かっていない。

「もうこんな時間か……それじゃ、部屋に上がりますね。おやすみなさい、オーナー」
「はい。おやすみなさいませ」


92 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/25(金) 13:26:00
『正直にいって、わたしはこの作家の絵が独特とは思わなかった。むしろどこかで見たような感じさえする。
 だが、これらの作品を一読してみれば、ドイツ人とチェコ人ならすぐ気づくことがある』


 ベッドで本を読むと目を悪くすると、小さい頃親に言われていたことを思い出した。
 今更身に付いた習慣が変わるものでもないが、今日はこれで止めておこう。
 読んでいた本を枕元に置く。

「おやすみ」
 愛しき今日にさようなら。そしてまた。



 私の願いは、こんな田舎町で叶えられたのだ。
 ルーエンハイ。その名の通り、なんて素敵な町だろう。

93 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/25(金) 22:08:45
「おはようございます」
「おはようオーナー」
 清清しい朝の始まり。
 聞きなれたオーナーの声。
「お飲み物はいかがいたしましょうか?」
「ミルクを」
 私はにこやかに答えた。
 オーナーもにこやかにミルクを用意してくれた。



「…………」
 窓の外を眺める。
 何も無い田舎町。やれることは多くは無い。
「取り敢えずは、町を散策してみるか」

 こうしてまた、私の今日がやってきた。


「天気は……まずますですね。いってらっしゃいませ……」
 分かっていることだけど、そんなオーナーに笑いたくなってしまう。
 心配性なんだな。だから心で大丈夫と言ってあげた。



「見るべきものはなしか」
 いつものアンティークショップ。店長はいつものように、私をじろじろと見ていた。
 ああなんだ。あれは、期待している目だったんだ。
 ごめんなさい、あいにく旅行で余計な物は買わない事にしているので。

 心が穏やかだと、こんなにも周りを見る目が違ってくるのかと驚かされる。
 やはり人間、穏やかに生きなくてはだめだ。

 と、いつものように目が合った酔っ払いを見て私は思った。
「…………」
「…………」
 彼が酒に溺れたのにも、きっと何か理由があるのだろう。
 人間関係か仕事か――――彼も、私と同じ幸せを得ることが出来ていれば、ああはならなかっただろうに。

 そして彼女も。
「ねえ、あんたさ」
「?」
「あんた、観光客でしょう? どうしてこんな退屈な町にきたのよ?」
「特に理由はないけど…………」
「こんな所じゃなくて、ロマンチック街道を行ったりブレーメンとか……あ、国外もいいわ〜。
 プラハとかウィーンとか! パリ!」
 逃げ出したい。この変わることない日常から。
 なんて愚か。

 それがどんなに幸せなことかも知らずに貪り、あまつさえ捨てようとする。
 失わなくてはその価値は分からないのだろ。
 いつか、彼女もそれに気づいてくれることを………願わくば、深く傷つく前に。


「あ!?」
「え?」
 ――パッパー!
 響くクラックション。
 飛び出そうとする子ども。
 猛スピードで駆ける車。
「キャァァァァァーーーーーーーッ!!!」

 ――――運転手に注意するべきだろうか。




「ダンケシェーン」
 ここの料理。どうやら隠し味があるみたいだ。
 香辛料の一種だと思うが、どうも分からない。聞いて教えてくれるものだろうか?


「ウォンウォン! ウォンウォン!」
「!?」
 しくじった。考え事をしていたら、また足を…………
「あらあら、ごめんなさい。ルートヴィヒ、おやめ!」
「ウォンウォン!」
「こーら、ルートヴィヒ。おやめったら」
「大丈夫ですよ。驚きましたけど」
 そもそも、あなたじゃ何を言っても無駄ですよヒルマン婦人。
「あら、ごめんあそばせ」
 私としては、専門家に一度しつけを依頼する事をお勧めしたいが、それを言うのも考え物だ。
「あなた。見かけない顔ね。ご旅行かしら?」
「ええ。昨日から……ホテル・フェアシュテックに…………」
「ポッペさんのところにねえ…………」
 そういえば、この人はオーナーとはどういう関係なのだろう。
 オーナーの苦手なタイプだと思うのだが、意外にあれであしらい方を心得ているとか。
「また、ベルクバッハのオーナーが愚痴を零すわね。
 あ、いえね。最近お客がフェアシュテックの方にばかりいくものだから、あっちのオーナー、閑古鳥鳴いてるって――」
「どうされました、ヒルマン夫人」
「あら、メルケル巡査。いえ、こちらの方と少しお話をね」
「…………よそ者か」
 相変わらずこの方だけは、一発殴ってやりたくなる。
 もっとも、それにこの平穏を壊す程の価値はないだろうが。
「大して見るところもない町だろ?」
「いえ、そうでもありませんよ」
 タイトル・田舎の警察官。
「あ……それじゃ、私は」
「ウォンウォン! ウォン!」
「ルートヴィヒ!」


 暫く歩き振り返ると、まだ立ち話をしている。
 一体何を話しているのかと考えたが、あれはヒルマン婦人が一方的に喋り続けているだけだ。
 ――――なるほど。メルケル巡査は、哀れなの旅行者の身代わりになりに来てくれたのか。
 犬は相変わらず、早く逃げろと言いたげに吼えていた。



 夕食も終わり、終身前の一時。
 今日もまた平穏な日であった。
「いかがでしたか、この町は?」
「なかなか素敵な町だと思いますよ」
「そうですか。なんとも嬉しいですね」
 そしてまた、この平穏な日は続くのだ。
「もうこんな時間か……それじゃ、部屋に上がりますね。おやすみなさい、オーナー」
 それは、なんて幸せなことだろう。
「はい。おやすみなさいませ」

94 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/25(金) 22:09:09
『一方でランケ元大佐は、東欧時代の闇経済を完全に牛耳り、その利益を表社会に投入して多数の会社の実質的オーナーとなり、
 今や大臣クラスの閣僚にも発言力を有する実力者で、近く(本名を取り戻して)表社会にうって出るのではないかという根強い噂もある』


 ベッドで本を読むと目を悪くすると、小さい頃親に言われていたことを思い出した。
 今更身に付いた習慣が変わるものでもないが、今日はこれで止めておこう。
 読んでいた本を枕元に置く。

「おやすみ」
 愛しき今日にさようなら。そしてまた。



 何も悩まなくていい。
 何も不安に思わなくていい。

 平穏な日々(きょうというひ)はこうして続く。

 眠り、目覚めればまた――――

95 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/25(金) 23:58:12

「おはようございます」
「おはようオーナー」

 何度目かの今日。きっかけは些細なことだった。

「お飲み物はいかがいたしましょうか?」

 いつもと同じ朝。
 変わらない日々、変わらない私、変わらない人々。

 少しだけ、私が思いついたのはほんの小さなことだった。

 ――――今日はコーヒーにしよう。

「ミルクを」

 私はにこやかに答えた。
 オーナーもにこやかにミルクを用意してくれた。



「…………」

 窓の外を眺める。
 何も無い田舎町。やれることは多くは無い。

 ――――それでも、あれることはあるのだ。

「取り敢えずは、町を散策してみるか」



「天気は……まずますですね。いってらっしゃいませ……」

 高いのか低いのか。いつもの妙な抑揚がきいた声で私を送り出すオーナー。

 さて、今日はどこを歩こうか。
 田舎町だといっても、一日で歩き尽くせるほど狭くはないだろう。

 ――――なら、そこには何かあるはずだ。



「見るべきものはなしか」

 あのアンティークショップ。
 品揃えは悪くはない。チョコ語の古本の充実ぶりなど一見の価値がある。
 だが如何せん、こんな田舎町では買い手に恵まれないだろう。

「…………」
「…………」

 あの酔っ払いは何もしない。
 ただ、ああやっているだけ。

 ――――でも、私が何か反応すればその限りではないはず。

「ねえ、あんたさ」
「?」
「あんた、観光客でしょう? どうしてこんな退屈な町にきたのよ?」
「特に理由はないけど…………」
「こんな所じゃなくて、ロマンチック街道を行ったりブレーメンとか……あ、国外もいいわ〜。
 プラハとかウィーンとか! パリ!」

 1、2、3……

「あ!?」
「え?」

 ――パッパー!
 響くクラックション。
 飛び出そうとする子ども。
 猛スピードで駆ける車。

「キャァァァァァーーーーーーーッ!!!」





「ダンケシェーン」

 しまった。料理について質問してみるつもりだったんだが……

「ウォンウォン! ウォンウォン!」
「!?」

 ………今日の中では、数少ない最悪な出来事の1つ。

「あらあら、ごめんなさい。ルートヴィヒ、おやめ!」
「ウォンウォン!」
「こーら、ルートヴィヒ。おやめったら」
「大丈夫ですよ。驚きましたけど」

 軽く捻った程度だからよかったが、ああでもこれでも一言いっていいのではないだろうか。


「あら、ごめんあそばせ」

 ………いや、この手の人には一度言うべきなんだと思う。

「あなた。見かけない顔ね。ご旅行かしら?」
「ええ。昨日から……ホテル・フェアシュテックに…………」
「ポッペさんのところにねえ…………」

「また、ベルクバッハのオーナーが愚痴を零すわね。
 あ、いえね。最近お客がフェアシュテックの方にばかりいくものだから、あっちのオーナー、閑古鳥鳴いてるって――」
「どうされました、ヒルマン夫人」
「あら、メルケル巡査。いえ、こちらの方と少しお話をね」
「…………よそ者か」

 こいつの真意はともかく、この一言も本心からなんだろう。
 無自覚なだけ性質が悪い。

「大して見るところもない町だろ?」
「いえ、そうでもありませんよ」

 ――――それよりも、私はヒルマン夫人に言ってやらなくてはいけない。

「あ……それじゃ、私は」
「ウォンウォン! ウォン!」
「ルートヴィヒ!」


 暫く歩き振り返ると、まだ立ち話をしている。
 犬の声は相変わらず響いていた。




「いかがでしたか、この町は?」
「なかなか素敵な町だと思いますよ」

 言いたい事はいくらでもある………

「そうですか。なんとも嬉しいですね」
「もうこんな時間か……それじゃ、部屋に上がりますね。おやすみなさい、オーナー」
「はい。おやすみなさいませ」


96 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/25(金) 23:58:49
『それから毎水曜日、わたしは彼の人形劇を見た。
 彼のパフォーマンスやストーリーが健全で、エンターテイメント性が十分あることも理解できた。技術もしっかりしていた』


 ベッドで本を読むと目を悪くすると、小さい頃親に言われていたことを思い出した。
 今更身に付いた習慣が変わるものでもないが、今日はこれで止めておこう。
 読んでいた本を枕元に置く。

「おやすみ」
 今日にさようなら。


 こんなはずじゃない。
 ――――いや、こんなはずだった。まさしくその通りに。

97 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/26(土) 00:22:03

「おはようございます」
「おはようオーナー」
「お飲み物はいかがいたしましょうか?」

 私が飲みたいのはコーヒーだ!
 私が飲みたいのは熱い一杯のコーヒーだ!

「ミルクを」




「…………」

 違う。他にやれる事はある!

「取り敢えずは、町を散策してみるか」



「天気は……まずますですね。いってらっしゃいませ……」

 陰鬱なオーナーの声。

 癪に障る! 癪に障る! 癪に障る! 癪に障る!



「見るべきものはなしか」

 売り手はここの住人なのだ。
 あの店がはやる道理があるはずがない。

「…………」
「…………」

 こっちを見るな!
 何かしろ! 怒鳴れ! 喚け! 殴りかかってきて!

「ねえ、あんたさ」
「?」

 媚びた声。

「あんた、観光客でしょう? どうしてこんな退屈な町にきたのよ?」
「特に理由はないけど…………」
「こんな所じゃなくて、ロマンチック街道を行ったりブレーメンとか……あ、国外もいいわ〜。
 プラハとかウィーンとか! パリ!」

 媚びた笑い。媚びた化粧。媚びた態度!

「あ!?」
「え?」

 ――パッパー!
 響くクラックション。
 飛び出そうとする子ども。
 猛スピードで駆ける車。

「キャァァァァァーーーーーーーッ!!!」

 あと一歩を踏み出せ! ハンドル操作を誤れ!
 こけろ、すべろ、倒れろ――――



「ダンケシェーン」

 同じ料理に同じ酒。
 変わらない。変わりようがない。

「ウォンウォン! ウォンウォン!」
「!?」

 いっそ、この足が折れてしまえば。

「あらあら、ごめんなさい。ルートヴィヒ、おやめ!」

 とめるな。

「ウォンウォン!」

 吼えるな。

「こーら、ルートヴィヒ。おやめったら」
「大丈夫ですよ。驚きましたけど」

 嘘だ。とっくに驚きなどしなくなっている。

「あら、ごめんあそばせ」

「あなた。見かけない顔ね。ご旅行かしら?」
「ええ。昨日から……ホテル・フェアシュテックに…………」

 何度も何度も――――

「ポッペさんのところにねえ…………」

 何度も何度も何度も何度も、たった一夜だけ。

「また、ベルクバッハのオーナーが愚痴を零すわね。
 あ、いえね。最近お客がフェアシュテックの方にばかりいくものだから、あっちのオーナー、閑古鳥鳴いてるって――」

 なら私をそこへ連れて行って。
 おせっかいでも、身勝手な善意でも構わない!
 早く!


「どうされました、ヒルマン夫人」
「あら、メルケル巡査。いえ、こちらの方と少しお話をね」
「…………よそ者か」

 邪魔者だ。

「大して見るところもない町だろ?」
「いえ、そうでもありませんよ」

 () () () 所はすべて見尽くした。

「あ……それじゃ、私は」

 まだ行きたくない。
 ここで、後一歩踏みとどまれば。

「ウォンウォン! ウォン!」
「ルートヴィヒ!」


 振り返る。私に気づいてください。私をそこに呼んでください。
 しかし、犬が私を追い払っている。




「いかがでしたか、この町は?」
「なかなか素敵な町だと思いますよ」

 そう、私が望んだ町だ。

「そうですか。なんとも嬉しいですね」

 そう、私が望んだ日々(きょう)だ。

「もうこんな時間か……それじゃ、部屋に上がりますね。おやすみなさい、オーナー」
「はい。おやすみなさいませ」


98 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/26(土) 00:22:32
『彼はいいました。こういうことすべてを、悪魔の弟子のひとり……あの身なりのいい青年は、嬉々として推理した。
 最後に青年はこういったそうです。あなたの恋人も母親も死にたがっていたのだ、だからあなたはまちがっていない、
 生きる苦悩から開放してあげたのだから、まちがっていない、と』


 ベッドで本を読むと目を悪くすると、小さい頃親に言われていたことを思い出した。
 今更身に付いた習慣が変わるものでもないが、今日はこれで止めておこう。
 読んでいた本を枕元に置く。

「おやすみ」



 今日の次は今日なら、次の日も、また次の日もずっと今日。
 繰り返される『今日』。
 変わらない朝。変わらない挨拶。変わらない出来事。変わらない人。

 だって、そうじゃなければ、それは『今日』じゃない。

99 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/26(土) 00:34:09

「おはようございます」
「おはようオーナー」
「お飲み物はいかがいたしましょうか?」
「ミルクを」




「…………」


「取り敢えずは、町を散策してみるか」



「天気は……まずますですね。いってらっしゃいませ……」



「見るべきものはなしか」




「…………」
「…………」



「ねえ、あんたさ」
「?」
「あんた、観光客でしょう? どうしてこんな退屈な町にきたのよ?」
「特に理由はないけど…………」
「こんな所じゃなくて、ロマンチック街道を行ったりブレーメンとか……あ、国外もいいわ〜。
 プラハとかウィーンとか! パリ!」

「あ!?」
「え?」
「キャァァァァァーーーーーーーッ!!!」




「ダンケシェーン」


「ウォンウォン! ウォンウォン!」
「!?」
「あらあら、ごめんなさい。ルートヴィヒ、おやめ!」
「ウォンウォン!」
「こーら、ルートヴィヒ。おやめったら」
「大丈夫ですよ。驚きましたけど」
「あら、ごめんあそばせ」

「あなた。見かけない顔ね。ご旅行かしら?」
「ええ。昨日から……ホテル・フェアシュテックに…………」
「ポッペさんのところにねえ…………」

「また、ベルクバッハのオーナーが愚痴を零すわね。
 あ、いえね。最近お客がフェアシュテックの方にばかりいくものだから、あっちのオーナー、閑古鳥鳴いてるって――」


「どうされました、ヒルマン夫人」
「あら、メルケル巡査。いえ、こちらの方と少しお話をね」
「…………よそ者か」

「大して見るところもない町だろ?」
「いえ、そうでもありませんよ」

「あ……それじゃ、私は」
「ウォンウォン! ウォン!」
「ルートヴィヒ!」




「いかがでしたか、この町は?」
「なかなか素敵な町だと思いますよ」
「そうですか。なんとも嬉しいですね」
「もうこんな時間か……それじゃ、部屋に上がりますね。おやすみなさい、オーナー」
「はい。おやすみなさいませ」


100 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/26(土) 00:34:38
『決定的だったのは、教室の子供達が殺し合いに近い喧嘩を起こした時だ。
 片方の首謀者は、ミランの息子だった。ミランの息子は施設に収容されたが、首を吊って自殺した……』



「おやすみ」



 何も考えず、何も思わない。
 そんな『今日』も、何度ももたなかった

101 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/26(土) 00:47:05

「おはようございます」

 何回繰り返しただろうか。

「おはようオーナー」

 10回か、100回か、10000回か、1000000回か。

「お飲み物はいかがいたしましょうか?」

 何も変わらない今日。同じことだけが続く今日。

「ミルクを」




「…………」

 確かに私は変わらない。同じままでいられる。

「取り敢えずは、町を散策してみるか」



「天気は……まずますですね。いってらっしゃいませ……」

 でも、人は変わらずに生きていけるものなのだろうか。



「見るべきものはなしか」

 ある神話を思い出す。それはあらゆる災厄を封じた箱。

「…………」

 すべての災厄が解き放たれ、最後に箱に残ったものは未来だという。

「…………」

 明日が分からない。だから、人は明日を信じて生きていける。



「ねえ、あんたさ」

 故に、その最後の災厄の名は希望(あすをしること)

「?」

 明日を信じるということは、今日とは違う何かを求めること。

「あんた、観光客でしょう? どうしてこんな退屈な町にきたのよ?」

 だったら、変わらない『今日』を望むということは、絶望するということではなかったのか。

「特に理由はないけど…………」

 私は確かに変わらない今日を望んだ。

「こんな所じゃなくて、ロマンチック街道を行ったりブレーメンとか……あ、国外もいいわ〜。
 プラハとかウィーンとか! パリ!」


 そして、この『今日』はまったくその通りの今日だ。


「あ!?」

 だけど私は知らなかった。

「え?」

 変わらないと言う事を、

「キャァァァァァーーーーーーーッ!!!」

 繰り返すのがこんなに辛いなんて――――




「ダンケシェーン」

 何か別のことを考えよう。

「ウォンウォン! ウォンウォン!」

 でないと、耐え切れない。

「!?」

 そして、耐え切れない事が永遠に続いていく。

「あらあら、ごめんなさい。ルートヴィヒ、おやめ!」

 でも………

「ウォンウォン!」

 こう考えるのも、

「こーら、ルートヴィヒ。おやめったら」

 いったい何度目なんだろうか?

「大丈夫ですよ。驚きましたけど」

 …………………

「あら、ごめんあそばせ」

 …………………

「あなた。見かけない顔ね。ご旅行かしら?」

 10回か、100回か、10000回か、1000000回か。

「ええ。昨日から……ホテル・フェアシュテックに…………」

 それともこれが1回目だったか。

「ポッペさんのところにねえ…………」

 何か別の事を考えよう。

「また、ベルクバッハのオーナーが愚痴を零すわね。
 あ、いえね。最近お客がフェアシュテックの方にばかりいくものだから、あっちのオーナー、閑古鳥鳴いてるって――」


 でないと、耐え切れない。



「どうされました、ヒルマン夫人」

 そうだ、1つだけ。

「あら、メルケル巡査。いえ、こちらの方と少しお話をね」

 もしかすると、もう何度も考えたことかもしれないのだけど。

「…………よそ者か」

 でも、何か考えていないと耐え切れない。

「大して見るところもない町だろ?」

 だって、もう思いつける思いつき尽くし。

「いえ、そうでもありませんよ」

 想えることは想い尽くし。

「あ……それじゃ、私は」

 考えることは考えつくしたのだから。

「ウォンウォン! ウォン!」

 誰かにも問われた気がする。

「ルートヴィヒ!」

 なぜわたしはこの町に来たのだろう――――



「いかがでしたか、この町は?」

そうだ、何か理由があったんだった。

「なかなか素敵な町だと思いますよ」

 でなければ、どうしてこんな田舎町なんかにくるだろうか。

「そうですか。なんとも嬉しいですね」

 ああ………でも。

「もうこんな時間か……それじゃ、部屋に上がりますね。おやすみなさい、オーナー」

 それが思い出せない。

「はい。おやすみなさいませ」

102 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/26(土) 00:48:06
『テンマは地図から『安らぎの家』……すなわち“ルーエンハイム”という街を探し出し、そこに向かう。
 ドイツ南部は大雨に見舞われる。ルーエンハイムでは警官が殺され。ビアホールで町民が殺し合い、街は死体の山で溢れかえる。
 ホテル・フェアシュテックでは数人の宿泊客と町民が難を逃れていたが、パニックに乗じて謎の襲撃者が襲ってくるのは時間の問題だった』


 ベッドで本を読むと目を悪くすると、小さい頃親に言われていたことを思い出した。
 今更身に付いた習慣が変わるものでもないが、今日はこれで止めておこう。
 読んでいた本を枕元に置く。

「おやすみ」
 さようなら、そしてこんにちは。




 ごめんなさい。『明日』に会わせて下さい………

103 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/26(土) 00:49:01
「おはようございます」
「おはようオーナー」

「お飲み物はいかがいたしましょうか?」
「ミルクを」

 やっぱり朝はやってきた。
 また1日、『今日』を過ごそう。



「…………」

 窓の外は晴れ所により曇り。
 大雨に見舞われる気配なんてどこにもない。

「取り敢えずは、町を散策してみるか」



「天気は……まずますですね。いってらっしゃいませ……」




「見るべきものはなしか」

 アンティークショプを出て、大通りを通る。
 死体の山などどこにもない。

「…………」
「…………」

 酔っ払いは銃など手にしてはいない。

「ねえ、あんたさ」
「?」
「あんた、観光客でしょう? どうしてこんな退屈な町にきたのよ?」
「特に理由はないけど…………」
「こんな所じゃなくて、ロマンチック街道を行ったりブレーメンとか……あ、国外もいいわ〜。
 プラハとかウィーンとか! パリ!」

 彼女を外の世界に導くという、運命の男はまだ現れていないようだ。

「あ!?」
「え?」
「キャァァァァァーーーーーーーッ!!!」

 宝くじを大当てし、慌てる夫婦はそこにはいない。



「ダンケシェーン」

 パブを開くと、そこはパブだった。

「ウォンウォン! ウォンウォン!」
「!?」
「あらあら、ごめんなさい。ルートヴィヒ、おやめ!」
「ウォンウォン!」
「こーら、ルートヴィヒ。おやめったら」
「大丈夫ですよ。驚きましたけど」
「あら、ごめんあそばせ」

 今はただ、吼えて迷惑を振りまくだけの犬と飼い主。

「あなた。見かけない顔ね。ご旅行かしら?」
「ええ。昨日から……ホテル・フェアシュテックに…………」
「ポッペさんのところにねえ…………」

 BKAの警部も、老夫婦も、フリージャーナリストもあのホテルにはいない。

「また、ベルクバッハのオーナーが愚痴を零すわね。
 あ、いえね。最近お客がフェアシュテックの方にばかりいくものだから、あっちのオーナー、閑古鳥鳴いてるって――」

 そしてそっちは閑古鳥が鳴き続けるだろう。



「どうされました、ヒルマン夫人」
「あら、メルケル巡査。いえ、こちらの方と少しお話をね」
「…………よそ者か」

 あなたは正しい。

「大して見るところもない町だろ?」
「いえ、そうでもありませんよ」

 私のとってはそうだけれど。

「あ……それじゃ、私は」
「ウォンウォン! ウォン!」
「ルートヴィヒ!」





「いかがでしたか、この町は?」
「なかなか素敵な町だと思いますよ」

 素敵な街だったのかもしれない。
 でも――――

 私にはもう耐えられない!

 助けてください!

 助けてください!

 助けてください!


「そうですか。なんとも嬉しいですね」

 ――――もうここには喜びも悲しみも、何1つありはしません!

「もうこんな時間か……それじゃ、部屋に上がりますね。おやすみなさい、オーナー」
「はい。おやすみなさいませ。また明日」

104 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/26(土) 00:50:04
『いい知らせと材料がそろったのは、十二月も半ばを過ぎた頃だった』

 ベッドで本を読むと目を悪くすると、小さい頃親に言われていたことを思い出した。
 今更身に付いた習慣が変わるものでもないが、今日はこれで止めておこう。
 読んでいた本を枕元に置く。

「おやすみ」
 くそったれな今日にさようなら。


 さようなら。


105 名前:◆rI4FRANZmc :2005/11/26(土) 00:51:15
「お客さま………お客さま?」

 オーナーの声に起こされ、私は目覚めた。

「申し訳ありません……部屋の外から何度もお呼びしたのですが………
 失礼とは思いましたが、勝手に入らせていただきました……」

 いつもの、奇妙な声色で、申し訳なさそうに謝ってきた。


「あ……………ええっと……」

 私が何を求めているのか、気づいたオーナーは窓に手をかけ、鎧戸を全て開け放ってくれた。



「素晴らしい天気です」

 オーナーはそういって――――








  こんにちは、明日(きょう)

  まちがいなく私は泣いていたと思う。



.

106 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/11/26(土) 00:52:10
>>84

「今日はいったい、どんな新しい事があるんでしょうね」

.

107 名前:名無し客:2005/12/16(金) 01:24:26
誰があなたを識るというのか……?

108 名前:◆rI4FRANZmc :2005/12/18(日) 01:45:19
>>107

アールヌーボ建築の美しい町並み。
丘の上、銀杏の木々が並ぶ瀟洒な住宅街。


――――チェコ、ヤブロネッツ・ナッド・ニソウ

 「お体の具合はいかがですか?」

  そう声を掛けられ、私は窓の外を眺めていた顔を振り向けた。

 「……いい顔色だ」

  そう言うと、サッと窓に近づきカーテンを閉めてしまう。


チクタクチクタクチクタク…………
安物の、機械時計の正確な音だけが響く。
かつてこの地で権勢を誇った男の家具としては、なんと貧相だろう。

白い壁。黒い椅子。灰色の絨毯。赤い照明。青いカーテン。茶色の机。

統一感などまるでなく、しかし確かに一体感を持って何かを生み出している。


 「分かりますか……?」
 「あ………あぁ……」

  声が出ないのではない、それが判らないのでもない。
  それが何であったかが…………

 「――――」

  そんな私を満足そうに見つめ、更に関係の無い話を続ける。

 「彼女が……子供を産んだそうですよ。男の子だそうです」
 「…………」

  何度も聞かされた。
  だが、その話が私と一体何の関係があるのだろうか。
  私の頭は、もう彼女の名前を識らないのだから――――


秋の風は肌を刺す。
それも、家の中まではやってはこない。ただこうして、鎧戸を揺らすだけだ。
その音を、男はもうずっと聞き続けていた。

かつて、ナチスを嫌いチェコのレジスタンスに荷担した英雄。
労働組合による武装蜂起やテロによる脅迫、共産党クーデターの影に居たアジテーションの天才。
恐るべき理論家であり策略家であった、優秀な男。

男の過去と比べれば、この家は見劣りする。
それでも、この家は男が選び、男が暮らし、男が最後にと決めた家だった。


 「あいつは……まぁ、問題の無い男です。きっと、子供は立派に育つでしょう」

  すました顔でそう繰り返す。
  きっと、未練はないのだろうが、心に瑕として残っているのだろう。

  ……何が? あの娘が? あの娘とは?
  どの娘だ。あの美しい娘? この○○が恋した娘? 愛した娘。

  私の名前も識らない、顔も識らない、声も識らない、思い出も識らない。

 「それに、その子は素晴らしい遺伝子を持っている。
  美しい女と、優秀な男の遺伝子を」


  私には識らない話。
  であるから、何も感じない、何も想わない。

 「…………ねえ」

  ○○は、そんな私に、

 「誰があなたを識るというのか……?」


さ あ 立 ち 上 が れ ! ナ チ ス は 国 境 を 越 え た !(日を追うごとに失われていく、この記憶と思い出)
史 上 最 大 の 作 戦 ! ヒ ト ラ ー ! ヒ ト ラ ー ! ヒ ト ラ ー !(私は私の過去も、私の名前すら識らなくなっている)
マ ル ク ス レ ー ニ ン ! 今 こ そ 蜂 起 せ よ !(すべてはこの男の仕業だ)
チ ト ー 主 義 者 を 討 て ! グ ス タ ー フ ・ フ サ ー ク !(これは実験である、人からすべてを奪い去る試み)
ヴ ラ ジ ミ ー ル ・ ク レ メ ン テ ィ ス ! ル ド ル フ ・ ス ラ ー ン ス キ ー !(目的は、復讐でであろうか)
厭 い た ! 飽 い た ! 倦 い た ! 権 力 な ど 遠 に ! あ の 娘 を 得 よ う ! 愛 を 得 よ う !(母と自分を棄てた事への、いやおそらくはもっとそれ以上に)
妻 よ サ ラ バ ! 子 よ サ ラ バ !(今となっては私が識り私を識る者よ)

  ○○よ、私がお前を識り、お前が私を識る限り――――

 「クラウス…………」
 「私は、フランツ・ボナパルタといいます。ヘル」





 「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」






――その「地」に名はなく。
――その「山」に名はなく。
――その「風」に名はなく。
――その「木」に名はなく。
――その「陽」に名はなく。
そして、その「人」にも名はなく。
                                                  『名前のないの世界』




 「もしもし……ああ、病室を1つお願いします」


そして全ては奪われた――



109 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2005/12/18(日) 01:45:43
あ、お客様。どうされました、こんな時間に?
はあ……そうですか。
今夜は風が強いですからね………

え、私ですか?
ははっ……お恥ずかしいですが、誕生日のお祝いを…………あ、いいえ、いえ。
私のではないのです。実は、私の、父の誕生日でして…………
もう亡くなって、30年も経つのですが……おかしいですか?

あ、お飲み物をおいれします…………



昔は、父と折り合いが悪くて……憎んだりした事もありました。
ですが、ここ数年、ふと父の事が思い出されまして。
思い返せば、アレが総ての始まりだったのですからね…………あ、いえ。

先ほど、おかしいと言われましたが、しかし、これも1つの故人を偲ぶ方法ですよ。
……それに、これは別の話ですが。

誰かを覚えているということは、誰かに自分を覚えていてもらえるということです……
誰かに自分を、識っていてもらえる。それが、どれだけ大切な事か。
だから、誰も父を識らなくならないよう、私はこうしている、そうなんだと思います。

――――Herzlichen Glueckwunsch zum Geburtstag.


私ですか?
私のことは、この街の人が、そしてここを訪れたお客様が識ってくださっていますから。


あなたは…………誰が、あなたを識るのでしょうね?


110 名前:名無し客:2006/01/15(日) 03:36:13
遅ればせながら。
Glu"ckliches neues Jahr!

オーナー、今年一年の抱負をお聞かせ下さい。
……もう少し客が来ないと、経営が厳しいのじゃありませんかね?

111 名前:名無し客:2006/01/16(月) 23:56:16
遠く日本の地で、奇しくも二つの「ホテル」の映画が同日に公開されました。
一つはある高級ホテルの群衆喜劇を描いた作品「THE有頂天ホテル」。
一つはある戦地となったホテルにおける悲劇を描いた作品「ホテル・ルワンダ」。

作品の内容を一言で言ってのけてしまうのは愚ではあると思いますが、
オーナーがまず観たいと思うのは、喜劇と悲劇――二つの「ホテル」のどちらですか?




――というような映画が、遠い地で上映しているそうですよ。
ねえ、オーナー。
この……ゆったりとした時が流れる地に建つひなびたすてきなホテルが、
映画の舞台になったら……どんなお話になるのでしょうねえ……?

ねえ、オーナー……?

112 名前:◆rI4FRANZmc :2006/01/20(金) 15:52:54


         かえせ……
     新たな年の始まりに――
         かえせ……
     この喜びにかえて君に―――
         かえせ……
     この幸いにかえて君に―――
         かえせ……



奪われたモノを取り返えそう。
                     奪ったモノを――
失われたモノを与えよう。
                     失わせたモノを――

         名前をかえせ!

  私の罪を償おう。今度こそ、今度こそ。
              ただ待ち続けよう。
  私が生み出した闇と向かい合う時だ。
              雨が全てを洗い流してくれると。

         奪 っ た モ ノ を か え せ !





 私の、贖罪の祈り(ことば)よ、彼女のもとへ――――


         私は……あなたを決して許さない。








君に名前を返そう。
名前こそ全ての源だ。
名前が形をつくり、記憶をつくり、思い出を作る。


         ならば、共に消えさろう……
         名前を奪い、
         記憶を奪い、
         感情を奪いとった者と共に……




 私は罪を償うため、今もここで待ち(にげ)続けている。



.

113 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2006/01/20(金) 15:54:25
>>110
ありがとうございます。
新年にお客様をお迎えするのは、初めてでして……
い、いえ。決して、迷惑だなどと……嬉しい限りです。


そうですね、特にこうと言って、抱負というものも。
私は、今までも、そしてこれからも、ずっと待ち続けているだけですから―――

え? あ、いえ、友人だとか、想い人などではありません。
そうですね……想い人、ではあるかもしれません。
私がお待ちしているのは、お客さまですから。はは、気に入って頂けましたか?


…………お客様のおっしゃる通りです。
確かにこのままでは、その想い人にも巡り会えませんね……
ですが、あまりここは。今までもそうやって…………いや。

今年は……良い年に…………


お客様。ありがとうございます。
今年は、少しだけ、違う事をやってみようと思います…………
そう……今年こそは……もう。


それでは、そろそろ夜の仕度を。
では、失礼致します―――――あ、そうでした!


Alles Gute im neuen Jahr.

114 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2006/01/23(月) 01:00:39
>>111
はあ………あ、いえ。
実は、以前にも似たような事を、お客様に尋ねられた経験がありまして。
いえお気になさらないで下さい。

それにしても、ホテルの映画ですか………
喜劇と悲劇とは、随分と対極な映画が重なりましたね。
ホテルというものは、映画の題材としてよく使われますから、そういう事もあるんでしょうね。


―――コーヒーのお代わりは? はい、では。


ああ、映画の話ですね。
そうですね………お客様のおっしゃる通り、この様なホテルですから………

喜劇の喧騒も、悲劇の悲哀も、どちらとも無縁な。
ただ静かに、観てくださる方の心に暖かなものが染みる………そんな。

………そんな映画に、相応しく。ホテルも、私も………………


115 名前:◆rI4FRANZmc :2006/01/23(月) 01:02:08


へいわのかみさまは、おおいそがし。
かがみをみるひまもなく、まいにち らっぱをふきます。

へいわのかみさまのらっぱは、みんなをしあわせにします。

へいわのかみさまは、おおいそがし。
かがみをみるひまもなく、ふしぎなみずをまきます。

ふしぎなみずはみどりのやまをつくり、はたけをみのらせ、おはなばたけをつくります。

へいわのかみさまは、おおいそがし。
かがみをみるひまもなく、みんなになまえをつけます。

きみのなまえはオットー。きみのなまえはハンス。きみのなまえはトマス。

きみのなまえは――

――はおれいに、じぶんのぼうしをかみさまにあげました。
かみさまはおおよろこび。
そのぼうしをかぶったじぶんがみたくて、はじめてかがみのまえにたちました。

でもかがみにうつったのは、あくまだったのです。



.


116 名前:フランツ・ボナパルタ ◆rI4FRANZmc :2006/01/23(月) 01:03:02
.


「きみはぼく」

.

117 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2006/01/23(月) 01:04:03
.


「ぼくはきみ」


.

118 名前:◆rI4FRANZmc :2006/01/23(月) 01:05:40


どうしよう。
このあくまがいたら、みんなへいわにくらせない。
どうしよう。どうしよう。

こまったかみさまは……






    喜劇は悲しい。
    悲劇は楽しい。

    かみさまはけんをとり、あくまはうたをうたう。

    喜劇は悲しい。
    悲劇は楽しい。

    みんなのへいわをまもるため、かみさまはあくまをたいじします。

    なんて楽しい悲劇。
    なんて悲しい喜劇。


.

119 名前:名無し客:2006/01/25(水) 01:28:05
「忘れものを、届けにきました」

_______________
|                    |
|     / >           |
|    、/#__|             |
|   < ´ 、ミ            |
|    ^^^ノ∩ヽ          |
|     ^^¢l l#\         |
|      |π_/          |
|     __く __<           |
|                     |
|     OBLUDA,        |
|KTERA' NEMA' SVE' JME'NO   |
|                    |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


120 名前:◆rI4FRANZmc :2006/02/12(日) 01:09:21


「これからの話をしよう……」

 男は言った。

「わたしに明日は…もうないが……」

 老いた将軍はそう言った。



.

121 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2006/02/12(日) 01:09:56
お客さま、見つかりましたか?
そうですか……
私は、もう一度ゴミを調べてみます。間違って、捨てられたかもしれませんので……

いえ、これも仕事ですから。
それに、お子様からプレゼントされた、大事な物とお聞きしました。

――――そうですか。では、一度お茶にしましょう。



どうぞ。新しい葉を、出してみました。
そう、気を落とされないで下さい……きっと、見つかります。

いえ、これは私の確信なのですが、あらゆるものは、また元の所へ還ると。
落し物、忘れ物、失った物。
出した手紙がいつかは相手に届く様に、或いは舞い戻る様に。

無くなる事はないんです。
ちょっと見失ってしまっただけで……


…………あるいは、自分が捨てて。



しかし、どこに落とされたのでしょうか。
……おや?
お客様、その椅子に挟まっている物は…………ああ、良かった。
いや、灯台もと暗しという訳ですね。良かった、本当に良かったです。

言ったとおりでしたでしょう?
どんなものも、いつか戻ってくるんです。必ず。

それは、必ず明日がやってくるのと同じくらいに。
どんなに忘れていても、忘れようとしても……

戻らないとしたら、それは最初から無かったのだと思います。



>>119

おや。では、これで失礼します。
また何かあれば、声をおかけください……


お待たせしました。
忘れ物を、わざわざ――――ありがとうございます。

しかし、何を忘れていたのか……
いや、私も歳ですね。忘れた物を忘れています、ははは………………!


122 名前:◆rI4FRANZmc :2006/02/12(日) 01:11:05

_______________
|                    |
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|    、/#__|             |
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|     ^^¢l l#\         |
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|KTERA' NEMA' SVE' JME'NO.  |
|.                    |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



     「 た だ い ま 」

123 名前:間違って配達された手紙。:2006/02/24(金) 01:44:51

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


  助けて。助けてください、ぼくの神様。
  神様、助けてください。


  ぼくの父さんは毎日よっぱらって家に帰ってきます。
  そしてお母さんをたたきます。

  お母さんは「おまえなんかいらないのに」と言いながら
  こんどはぼくをたたきます。

  だから、ぼくはおとうとをたたきます。
  おまえがいるからだ、おまえがいるからたたかれるんだ。

  おとうとはだれもたたきません。
  ぼくがたたくとおとうとは、かなしいめをしてぼくを見つめるのです。
  神様、神様、とくり返しつぶやいてぼくを見つめるのです。

  神様。
  神様。


  神様。

  助けて。

  助けて、ぼくの神様。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

124 名前:◆4Q7lVPOPPE :2006/03/03(金) 01:29:54
>>123

――――開かれた手紙・テーブルの上
――――皺だらけの手・手紙を取る

「また、そうやって逃げるのかい?」
「……わ、私は…………」

――――破り棄てる・手が止まる

「君は何も知らない……何も分からない」

――――男・カップを手に取る
――――苦いコーヒー・一口
――――カップ・再びテーブルへ

「私は分からない………何が、な、なんの事なのか…わ、私には……」

――――震える手・カップへ
――――中身が零れる・少し

「この子が何かも?」

――――濡れたテーブル・ハンカチで拭く

「……何も」


「この子が望むものは?」
「……分かりません」
「この手紙の意味は?」
「……知りません」

「知らない………分からない……何も…………ですが」
「この子は救いを求めている」
「そんな私でも…………私にでも、この子は――」

「神を気取って全て奪い、何一つ返す事が出来ない君が?」

「……!?」

「1986、デュッセルドルフ。あの雨の日」
「私は、何が起きたのか分からない……」
「だったら?」
「これが……何なのか分かるはずがない……」
「――だから?」

「私に救えるものなど何も無い…………」

「気付いてはいけない。救えるものなどあってはいけない。
 さもないと――――恐ろしいモノがやってくるよ」



125 名前:◆4Q7lVPOPPE :2006/03/03(金) 01:30:23
「あのー誰かいませんか?」

 ホテルフェアシュテックに1人の旅行客が訪れる。
 天気は上々。絶好の観光日和。

 ホテルに足を踏み入れると、テーブルにオーナーらしい人物が。
 テーブルの上にはカップが1つ。お茶の時間なだったのだろうか。

「あの。ここで一泊したいのですが、部屋空いてますか?」

 その問いかけに、

「あ……ええ、どの部屋も空いておりますよ」

 オーナーは優しい笑みを浮かべ、

「ようこそ、ホテルフェアシュテックへ」

 暖かく客を迎え入れた。

126 名前:響鬼 ◆ayrNbuKT4w :2006/03/10(金) 23:25:43
イルカがいるぞ たくさんいるぞ そ、そ、そ、そ、そそそそそそそ





そがいるか

127 名前:名無し客:2006/03/12(日) 18:33:38
『人間の感情が極端に走るとき、残酷は生まれる』

日本のとある、サムライ達の話を書いた作家の言葉です。
いわゆる残酷とは、この言葉の通り生まれるのでしょうかね?

128 名前:名無し客:2006/03/15(水) 03:13:40
恐怖の反対側にあるものは何でしょうか。

129 名前:名無し客:2006/03/16(木) 00:57:37
一周年、おめでとうございます。
……あ、いえ、もちろん、この「ホテル」の事ではございませんよ。

そうそう、この「ホテル」自体も、何周年記念かを祝った事はあったのでしょうか?
いえいえ、静かな佇まいですからね、そうそう派手に何かやるとは存じませんが。

130 名前:ヤコブ・ファロベック著「めのおおきなひと くちのおおきなひと」 ◆rI4FRANZmc :2006/03/22(水) 02:08:05


とりひきだ。とりひきをしよう。
あくまがいいました。

いやだ、ぜったいいやだ。
めのおおきなひとがいいました。

いいよ、とりひきしよう。
くちにおおきなひとがいいました。

くちのおおきなひとのにわは、みるみるきれいなはなぞのになりました。


めのおおきなひとは、まずしくてまずしくておなかがすいてしかたありません。
くちのおおきなひとはまいにちたのしくてしかたありません。
はなぞのにみのったくだものでおなかいっぱい。
だからくちのおおきなひとは、きづきませんでした。


はなぞのがみるみるかれていることを。


きづいたときは、もうおそかったのです。

にどとはなのさくことのないにわで、
くちのおおきなひとはおおきなくちをあけておいおいとなきながらつぶやきました。

あくまとなんかとりひきしなければよかった。

めのおおきなひとは、おなかがすいてしにそうです。
おおきなめからぽろぽろなみだをこぼしながらつぶやきました。

あくまととりひきすればよかった。


とりひきだ。とりひきしよう。

あくまがいいました。



.



131 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2006/03/22(水) 02:09:54
>>126
ドレミファミレド、ミラソファ………あ、いえ失礼しました。
思わず………折角の所を、邪魔してしまいました。お許しください。

お客様は歌がお好きなのですか?
――――特に、と言う訳でも……いえ、きっとそれは歌がお好きなのでしょう。
歌が好きだからこそ、思わず口ずさむのですから。


歌はいいですね………人が創り出した、数多あるモノで、歌は特にいい。
素晴らしい歌は、人種も言語も思想も飛び越えてしまいます。

心をこめて歌うだけで、人の心を動かす――
………色々な人間が、人の心を動かそうと、色々な方法を考えてきましたが、
なぜこんな簡単で、そして素晴らしい事に、誰も目を向けなかったのでしょうね――――


もしよろしければ、何か一曲流しましょうか?
お持ちのCD……日本の曲ですね。畏まりました、少しお待ちください。





――Hit the best Keep your best……いい曲です。
歌詞は分かりませんが、心に響きます。誰かの心を揺らす、私には到底………

ほう、この曲はそんなに売れたのですか。素晴らしですね。
世の中なかなか上手くいかないですから、よい曲が売れる曲とは限りませんからね。
よいものが売れるものではない。ですが売れる為に、よいものを曲げるような真似は、見たくないものです……

それは、気づかない内に何かを失っていっているのです。まるで、悪魔との契約の様に―――

132 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2006/03/24(金) 23:19:39
>>127
……残酷、ですか。
そうですね、普通は、感情が薄いほど残酷になると思われていますね。
ですが、考えてみれば、感情が薄ければ残酷になどならないんでしょう。

子どもが、時に悪魔のように残酷な事をすることは、ご存知ですよね?
あれは子どもの感情が豊かで、そして純真であるが故だからです。
大人だって同じではないでしょうか。

物事への正負はともかく、何かに入れ込むには、それだけの感情の偏りが必要です……

そうなれば、人間はどんな事でも成し遂げる―――正に走れば称えられ、負に走れば………
その1つに残酷、というものがあるのでは、ないでしょうか?

そして、一見感情が無いかのように思われる人間ほど、一度感情が走ると、とんでもない事を―――
例えば、美女に恋した野獣の様に…………



ああ……いえ、何でもありません。
と、ところで、人はどういった状況におかれると、より残酷になると思いますか?

ご存じない?
ええ、人はその対象が見えなくなるほど、より残酷になるものなんです。
つまり、それが見えなくなるほど、触れれなくなるほど、感じられなくなるほど、そして距離的に遠くなるほど…………
身近な事で覚えはありませんか。

例えば、本人の居ないところでは悪口がエスカレートしてしまったり。
会社などでは、解雇を告げるにも直接の上司では決断しにくいですが、もっと上の上司だとそれは軽くなります。
或いは戦争など残酷な支持が出される場合、それはしばしば現場とはかけ離れた場所から出されたり―――

恋愛で人を騙す人間は、別れを切りだす時は会う回数を減らした上で、別れを言うそうです。
つまり回数を減らす事で距離ととり、お互いを感じなくしていってるんですね…………


逆を言えば、お互いに近づき思いやりを持てば、残酷は小さく少なくなっていくんです。
人は、人を思いやっていかなければ上手くいかないと、いう事なのでしょうね―――



あ、全部受け売りです。
長い事、ホテルをやっていますと、色々な方に出会いますので……

133 名前:名無し客:2006/03/25(土) 18:19:20
もしリセットできる事柄があるとすれば何をリセットしたいですか。

134 名前:名無し客:2006/03/26(日) 01:30:00
今夜の夕食は何にする予定でしょう?


135 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2006/03/28(火) 00:45:02
>>128
お客様は……あ、いえ。

そうですね。いったい何があるのでしょうか………
生、善、美、喜び……まるで、虹の向こうを追っているみたいに、どこまでいっても手が、私には――

物事は、結局相対でしか捉えられない、そう言った方がいらっしゃいます。
例え不幸な人がいても、その不幸しか知らなければそれを「不幸」とは感じない。
……哀しいですが、でも本人は哀しいということすら気づかないいんでしょうね。

だったら…………恐怖の対の岸にたどり着くには、恐怖がなんなのか、
本当の「恐怖」が一体なんなのかを、自分が…………



そ、それはちょっと怖いですね。
願うなら、「それ」が身近にあってくれる事を。あの青い鳥の様に―――

お茶のお代わりはいかがですか?



136 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2006/05/08(月) 03:29:12
>>129
一周年……ですか…
はあ、ええ、確かにこのホテルの事ではないですね。

いったい……なにの話、なのでしょうか…………?


ですが、何かを祝うというのは、とてもいい事ですね。
私はこうして独り身ですので、なかなかそういった機会もなくて……
こんな田舎のホテルですから……そんな、記念を祝うなんて、そんな事も。


――ですが、節目を付けるというのは、人の一生の中でとても大事な事です。
人の一生なんて……たった60年程度でしかありませんが、それでも、ただ生きていくには長すぎるんですね。
だから、人は何か節目を決めて、それまでの自分を振り返ってみるのでしょう。

中国の古い聖人にコウシという人が居るのですが、彼はこんな事を言ったそうです。

「私は15歳で学問を学ぶ決意をした。
 30歳になって独立した立場を持つ事ができた。
 40歳になってあれこれと迷わないようにし、
 50歳になって自分の運命を知り、
 60歳になって人の言葉を素直に聞く事ができるようになり、
 70歳になると思い通りに振舞っても道徳から外れないようになった」

彼は、自分の人生に節目を付ける事で、自らを正しているのです……
私たちは、聖人ではありませんが……ああ、これは失礼しました。私は、と申しあげるべきでしたね。
ははは、いえ、もちろん冗談だと分かっておりますよ。


まあ、こんな難しく考える必要などないのでしょうが……
お祝いをするという事は、実に楽しい。
それが、人であれ仕事であれ、何であれ。
集い、酒を酌み交わし、笑い合い、祝い合う。そういった、小さな営みの積み重ねが、人の幸福をつくっているのですから。

ああ……思い出しました。
何年か前に、私の友人がホテルの開業記念といって、ささやかに祝ってくれた事がありました。
え? いえ、確か6年だか7年だが。中途半端な記念でしたよ。
実に、ささやかなお祝いでした…………ああ、でも。
こんな私でも、誰かに祝われているのですね……こんな、私でも…………



何だか、無性に何かお祝いをしたくなってきました。
お客様のお話のせいですから、ぜひともご一緒していただきたいですが――――

はい。では、今夜はホテルで夕食ですね。
もちろん、費用は私持ちで結構でございます。ええ、私が無理強いした事ですし……

しかし、何を祝いましょうか…………お客様の滞在記念……流石に、ですか。
え? 来週、お子様が……20歳の誕生日で。
なら……少し早いですが、それを記念いたしましょう。




お子様の誕生日のお祝い?
いいえ、違います。

お客様が、お子様を1人立ちするまで育てられた事への、お祝いです。


137 名前:それは、或いは怪物の…… ◆rI4FRANZmc :2006/05/08(月) 03:30:28

 I shall send you
 the most beatiful flowers.
 I was born to smother you with fiowers.



 I wil pick you up very soon.


「20歳の誕生日、僕は君を迎えに行こう。
 君はあの時、僕を迎えてくれた。だから、今度は僕が迎えに行こう。
 今度は僕が君に言ってあげよう――――」


.

138 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2006/05/26(金) 02:55:30

>>133
――何か、お悩みでもあるのでしょうか……?
あ…突然でしたので、なんとはなく、そうではないかと。


この歳まで生きていますと、リセットしたい事も沢山あるます。
若気の至りや、有頂天になって犯した失敗…………本当に、沢山……

ですが、そういった失敗の1つ1つが、今の私たちにとって大事な事なのではないでしょうか?
後悔を抱えて、それでも後悔をしないで生きていく。
そうすれば、いつかは辛い思い出も消えていくものです。

人間は、昔の記憶を、思い出として美化していく性質があります。
長く人生を積み重ねていく程、後悔は増えていきますが、それはもうその時感じた程には辛くはなくなっているのでしょうね……
リセットというのであれば、それこそリセットと言えるのかもしれません――


何も消し去る必要はないんですよ。
消さなくても、人は新しくやっていけるのです。

後悔を抱え、それでも後悔しないで生きていく――もし、
後悔しないのではなく、そんなものが一切ない人間がいるとすれば、それは……


――お客様。
それでも、リセットしたいと思われるのでしたら、思い切って何もかも捨ててしまえばいいのではないでしょうか?
捨てて、やり直して。そしていつか振り返った時、それはまた自分の手に戻ってきているはずです。
決してかけがえの無い物として……
















「過去は決して消えない――」


139 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2006/05/26(金) 02:56:04
>>134
こんな時間までご苦労だったね、ヴィム。
お客もいない事だし、今夜はここで夕飯を食べておいき。

昨日の食材が余っていてね、使ってしまわないと悪くなる。
……ああ、ヴィムはあれが好物だったね。それじゃあ、腕によりをかけて作らないとな。
手伝ってくれるのかね?
ありがとう。では一緒に作ろうか。




さあ、その棚の皿を出しておくれ。
そうそれだ。

盛り付けは……おっと、こぼさない様に気をつけるんだよ。
ヤケドはしてないね?
さ、テーブルに持っていこう。私とヴィムの合作料理だ。



おや? しおからかったかね。
……チェコ風の味付けだったからか。
ああ、それじゃこっちのスープはどうだい?
豆とたまねぎ、じゃがいもそれに牛肉のスープだ。

気に入ったかね?
そうか…それじゃ、私の分もお食べ。いや、私はもうお腹いっぱいなんだよ。
歳をとってくると、沢山食べれなくてね。ヴィムがその分食べてくれるので、助かるよ。

さ、デザートも用意している。たんとお食べ。



……そうか、お父さんがまた……
大丈夫だ。お父さんは、優しい人だよ。
ただ、周りがそれに気づいてあげれないから、お酒に逃げてしまっているんだ。
お父さんはお前を、愛してくれている。だから、他が何を言っても相手にするな。

お前も、お父さんもダメな人間なんかじゃない。
お前たちが生まれた事にも、生きていく事もに意味があるんだよ……
だからそんなやつらは相手にするんじゃない。



それじゃ、明日はあの自転車を修理するとしようか。
ああ、明日はお客さんもいないから大丈夫だ。

それじゃ、おやすみ、ヴィム。
いい夢を見るんだよ…………




今夜は、星が、綺麗だ――――

140 名前:名無し客:2006/05/27(土) 17:10:43
あなたにとって、神とは何ですか。
あなたにとって、悪魔とは何ですか。

あなたにとって――――――人とは、何ですか。

141 名前:名無し客:2006/06/02(金) 23:44:20
ラジオから旧東ドイツ国歌が流れてきました。

142 名前:フランツ・ボナパルタ ◆rI4FRANZmc :2006/07/11(火) 02:26:12
>>140
例え話をしよう。


もし、この世界が誰かが見る夢の中での出来事だとしたら。
誰かが作り出した世界だとしたら。
世界には何も無くて、どこかの誰かが好き勝手に楽しむためだけに作られたのだとしたら。


今の話は気にすることはない。
さあ、朗読会の時間だ。


.

143 名前:フランツ・ボナパルタ ◆rI4FRANZmc :2006/07/11(火) 02:26:51


では実験を始めよう――


.

144 名前:◆rI4FRANZmc :2006/07/11(火) 02:27:52



食事は終わったかね?
そうか。美味しかったかい?
なるほど。今年の出来はいいようだ。

気候が安定したいてから食材が良かったし、今度入った料理人の腕もいい。
まるで天が特別に与えてくれた幸運だ。


――しかし、それに意味などないんだよ。

私も食べた。他にも食べた者はいる。
この国には、もっと美味しい者を食べている者だっている。世界には、もっと美味しい者を食べている者がいる。

実際には居るかもしれないし、居ないかもしれない。世界は広い。
君だけが特別に与えられた訳ではないのだよ。
特別なものなどなにもない。ただそれは、そこにあっただけだ。




.

145 名前:◆rI4FRANZmc :2006/07/11(火) 02:28:30



今朝、男が何人も人を刺して捕まった。
理由は分からない。相手を怨んでいた訳でもない、利害関係があった訳でもない。
警察には分からないよ。

こういった事件は、今後西側で頻発していくだろう。
まるで悪魔が悪心を吹き込んだかのような犯罪……


――しかし、それに意味などないんだよ。

男は人を殺した。
人を殺した人間など、世界にはごまんといる。
なんの落ち度の無いのに死ぬ人間など数え切れないほどだ。

戦争ともなればそれは日常だ。

なんら特別でもない。
死すらもなんら特別ではないものなのだよ。



先ほど君のお母さんが病院で亡くなったと連絡があった。




.

146 名前:◆rI4FRANZmc :2006/07/11(火) 02:30:00



見たまえ。ここには今、何千人という人間がいる。



――そうだ、君はその一人でしかない。

誰も君を見ようともしないし、気にもかけない。
誰も誰かを見ようとしないし、気にかけようともしない。

君の世界はなんら特別なものではなく、ごく有り触れたものでしかないんだよ。

君が美味しいと思う食べ物も、世界では有り触れたものでしかない。
君が悲しいと思う人の死も、世界では何処ででも起こっている事でしかない。
君が特別だと思っていた自分も、世界の中では無数にいる人々のその一人でしかない。

美味しいと思ったのも、悲しいと思ったのも、特別だと思ったのも。君が勝手にそう思い込んだだけだ。
それは、何の、価値のない事なんだよ。



.

147 名前:◆rI4FRANZmc :2006/07/11(火) 02:30:32
――結局、それはどういう実験だったのでしょうか?

 ニヒリズム的な虚無感。あらゆる価値観の破壊だよ。
 彼は、被験者の中にある「価値」を壊す。人間性の剥奪ともいえる。
 手法は話した通りだ。
 持ち上げ、落とす。特異な事例を一般的として刷り込む。特殊な状況下での思考誘導。
 洗脳手段として有り触れたものだと言える。
 それぞれは大した効果がなくとも、何度も、そして巧妙にそれぞれが影響し合う事で、被験者たちは次々に「価値」を失っていった。
 或いは、自分の中の特別性を信じられなくなっていた。」

――しかしニヒリズムは無政府主義に繋がります。なぜ当局はそのような実験を許可したのでしょうか?

 元々あの実験は上からの要請によるもので、ニヒリズムというのは私の例えだよ。
 あの実験の目的は、存在の実在の否定、人々が持つ価値の否定の上での平等社会の実現だ。

 全ての普遍化させたただ1つの価値観を持つ事で、人々は争うことなく平等になれる。
 なんてことは無い、共産主義国家が今までやっていた事と同じなんだよ。一つの理念の下に人々の平等化をはかるというね。

 彼は、それをあらゆる思想にとっての毒であるニヒリズムに近い形で実験してみせたわけだ。
 全ての価値を破壊するという形で、平等化をやってみせたのだ。

――意に沿わない実験を命じられた、彼流の意趣返しという事でしょうか。

 さあどうだろうな。私は彼の性質によるもだと思うがね。
 それに、彼はあの実験に併せて一つ自分だけの実験も行っている。

――それはどのような?

 あらゆる価値を失った人間に、絶対者・創造主の存在を信じ込ませてみたのだ。
 或いはその実在の可能性を、強く示唆してみせたのか。

――どういう意図があるのか、理解し兼ねますが?

 意図など彼にはなかったのだろう。ただ、興味だけがあったのじゃないかな。

 彼は、被験者の一人に実験前から世界の創造主の実在について吹き込んでおいた。
 実験中、それは何の意味も無かったが、実験終了後、彼はそれを呼び覚ました。

 「世界は誰かに創られたのでは?」「この世界は、誰かの悦楽の為に生まれたのでは?」

 普通の虚無主義者なら笑い飛ばすだろうが、彼は卓越した洗脳者であり被験者は予め仕込まれていた。


148 名前:◆rI4FRANZmc :2006/07/11(火) 02:31:33



世界は、その誰かが作り上げたものだとしたら。

それまであたしは自分がどこか特別な人間のように思ってた。

世界というのは、それの思うが侭に簡単に消されたり生まれたりしているのだとしたら。

それがあたしじゃないのは何故?

それは、自分の楽しみのためだけに、好き勝手に世界を作っているのだとしたら。

あんたは、つまんない世界にうんざりしてたんじゃないの?
特別なことがなにも起こらない、普通の世界なんて、もっと面白いことが起きて欲しいと思わなかったの?



どうするかい?



.

149 名前:◆rI4FRANZmc :2006/07/11(火) 02:32:18
――……それで?

 何者かが世界を自由にしている、出来るという事は、世界に意味などないと言える。
 我々なら一笑に付す事も出来るが、被験者にとって既に世界は価値や意味など無くなっているのだ。

 神も悪魔も、思想も理念も、花も木も、鳥も虫も、雑多な人々も身近な人々も、世界も自分も、全ては灰色。
 明日には消えてしまうかもしれない、そもそも昨日には無かったのかもしれない。
 被験者はそれを事実として信じてしまった。

――その被験者は?

 すぐに自殺したよ。


 私がこうしてインタビューを受けたのはね、警鐘を鳴らす為なんだよ。
 彼のこの話をしたのは、価値というものの重要性を説明するためだ。
 人は自分の中に価値を持つ。
 それが他の価値と出合った時、それと手を取り合い時にぶつかりながら何かを生み出してきた。
 ニヒリズムが否定された理由は、この自分の価値を否定するからだ。

 彼、フランツ・ボナパルタは西側文明の行く末を予見していた。
 例の「グリマーノート」にあった西側に増加する犯罪傾向の洞察などその一つだ。

 彼は言ったよ。やがて西側では、分かりやすい記号と刺激への反射としての選択だけが広がっていく。
 理解の易い記号に人は群がり、それは容易に社会の流れを作る手段となる。
 人は自分の価値に拠らない刺激への反射としての選択を取り、あらゆる行為へのタブーを喪失させる。
 それは、ニヒリズムとは違うだが同じ結果だ、とね。

――既にそういった兆候はありますね。


                       (旧チェコ・スロヴァキア政府高官へのフランツ・ボナパルタに関するインタビューより)


150 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2006/07/11(火) 02:33:07

お、また点が入ったのかね。
これで同点か、なら逆転できるまもしれないな。

……ヴィムは、サッカーが好きだな。
ああ……いや、ここで終わるまで観ていて良いんだよ。観ていきなさい。
私はサッカーが嫌いな訳ではないよ。

ただ……サッカーの試合より、それを観ている観客の方が、楽しいな。


何万人という大勢の観客。
それぞれを観ると、大勢の中の一人にしか過ぎない。
皆、似たような格好で、皆声を張り上げて応援をしている。
誰もが特別でない、同じ観客――――しかしだよ、ヴィム。

彼らは一人として、同じ人生を過ごしてはいないんだよ。
同じように成長し、学校へ行き、社会へ出る……
だが……同じ成長をした者はいない。同じ様に育てられてもだ。
同じ学校で同じクラスに通ったとしても、同じ学校生活を送った者はいない。
同じ社会で、同じ職に就いても、同じ生活をしている人間もいない。

似たものは合っても、同じものはない。
それが、その人にとってどんなにつまらなく、平凡に思える人生でも、それは他に無いと言うだけで特別な人生だ。
ただ一つしかないものを、特別でないというなら、世界から特別なんてものは無くなってしまうだろうね……


私は、あの大勢の人々を見てそう考えるんだよ。
あそこに五万人の人間が居れば、五万の特別がある。この国にはその何千倍もの特別があり、世界には更に多くの特別がある。

それを思うと、実に楽しくなるんだよ……


ああすまない。
つまらない話だったね。さあ、邪魔をしないから観ているといい。
何かおやつを持ってこう。……そうだ、貰ったスモモがある。コンラットが取ってきたものだ。
何処にでもある……有り触れた物だが、しかし確かに美味しい。
観ながら待っていなさい。





だけどね、ヴィム。
このつまらない会話も、私には特別で掛け替えのないものなんだよ。
人にとって人とは、特別な意味をを与えてくれる掛け替えないものだ……いつか、お前も分かるだろう…………



.

151 名前:名無し客:2006/07/11(火) 22:12:40
死の官能性について語ってください。

152 名前:名無し客:2006/07/29(土) 16:06:38
……ここは静かでいいですな。
都会の、夏の慌ただしい空気を忘れてしまいます。
やあ、マスター。ゆっくりさせていただいています。
……いやいや、今は特に何も要りませんよ。

慌ただしいと言ったら、子供の時分は毎日が慌ただしく、忙しかった。
学校のない夏休み中も、勉強に、宿題に、習い事に、遊びに……とにかく
何もない一日なんて、存在しなかった。
毎日が慌ただしく……充実していた。
ねえ、マスター。あなたもそうでしょう?

夏休みの終わり頃になると、それこそ大慌てで「自由研究」に取り組んだり……。
ははっ、聞いて下さいよ、私の子供のときの研究を。
これがなかなか傑作なんですよ。

……
…………
………………

……そうそう。
もし、今「自由研究」をするとしたら、マスターは何に取り組みますかね?

153 名前:sage:2006/08/01(火) 04:01:04
ヨハン…素敵な名前だ…

154 名前:◆rI4FRANZmc :2007/01/11(木) 00:32:560
>>141
ここは もりの かしのきホテル。

「この ホテルは どんな おきゃくも くべつをしないで とめますよ」

「ここは よくないらしい。 こそう、こそう」

「ぼくは みんなの まねなんか しないよ。 そんな ことを するひまに はたらくんだ」

                                   (久保喬作「かしのきホテル」より)

155 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2007/01/11(木) 00:33:260
 Last uns pflugen, last uns bauen,
 Lernt und schafft wie nie zuvor――

……おや? これは。
ああ、お客様のラジオでしたか。

Auferstanden aus Ruinen ……あれから10年と経っていないですが、
もう随分と昔のことのようですね。
未だに、統合後の混乱は余韻を残していますが、それでも、もう、随分と……


はぁ、最近東の音楽などが流行っているのですか?
そうですか。……一種の反動でしょうか。
人は、誰しも昔は良かったと思うものです。それは、今が苦しければなおさら。
旧東西間での格差は大きいですし、旧西側も煽りを受けていますから。……むりも、ないのかもしれません。

ネオ・ナチに走る若者の、話はよくでますが……ある世代には、それよりもむしろ東の時代や思想のほうが、
より身近に……あるいは、懐かしいのでしょうか。


思い出とは美化されるのですね――

156 名前:◆rI4FRANZmc :2007/01/11(木) 00:34:080
「ああっ、ちちち」
「たすけてー」
そのとき、
「こちらへ おいで こちらへ おいで」



「これから どう なるのかしら」

「だいじょうぶ、さむくなっても この ホテルは やすみませんよ」





ttp://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2740.html
ttp://www.go-bubble.com/


157 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2009/01/10(土) 00:17:18
>>151
――ああ……すいません。考え事をしていて……
いえ、ごく個人的な事ですので……どうか、ご容赦ください……


それで、何とお尋ねでしたか……?
「死の官能性」ですか。

なんとも、難しい質問ですね。
私などでは……一般論としてしかお答えできないと思いますが――
そうですね……死、というより殺人行為に官能性を感じる、つまり性的殺人者は……
いや、これはまた違う話ですね……

死そのものが官能を伴うのか、死が何かから官能を呼び起こすのか。
私は「死の官能」というものを感じた事がありませんので……言い切るのは難しいですが……
それは、死を通して別のものを見て……感じているのではないでしょうか?


.

158 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2009/01/10(土) 00:17:46


おはようございます。
ベッドの具合は、いかがだったでしょうか?

――はあ、なるほど。やはり、旅なれていらっしゃる方ですね……

旅は……楽しいですか?
あ、いえ……その――――え、ええ、そうです。
こうやって、ホテルなど経営しておりますと、色々な方を、見かけますので。ちょっと、好奇心から……


好奇心? ああ、なるほど……未知への好奇心。まだ見ていないモノへの、憧れ――ですか。
なるほど…………

ほう? そうですな、確かに、見たことを振り返るのもまた、楽しいものかもしれませんね。
それでは、朝食の前に昨日お出ししたお茶の味を振り返るとしましょうか。
お部屋にお持ちしますので、お待ちください。


.

159 名前:クラウス・ポッペ ◆4Q7lVPOPPE :2009/01/10(土) 00:18:32


いいかい、ヴィム。もう、バカな事は考えちゃいけない。
あんなやつ等の事など、気にするな。お父さんだって、きっと……
前にも言ったがね。君のお父さんは優しい人だ。だけど、いや、だから今は少し心が疲れてしまっているだけだ。
必ず、いつか必ず――だからその日を、ヴィム、お前が待っていてやらなくちゃ。

さあ、さっき言った事などもう忘れてしまいなさい。――うん、そうだ。
じゃあ、奥で待っていなさい。何か仕事をお願いするとしよう。



…………ああ、これは……大変失礼しました。
ご出発ですね。はい、それでは、精算させていただきます。

――え? あ、ああ。いえ、まあ……色々ありまして。
申し訳ありません、あまり、今の事はお聞きにならないでください……
やはりあれは、誰も死を知らないから、ではないでしょうか?


そうだ。先日お尋ねになった、「死の官能性」というやつ。ええ、はい。
やはりあれは、誰も死を知らないから、ではないでしょうか。

俗に臨死体験などと言いますが、結局本当に死を知っている人間は存在しません。
本当に死を知れば、もはや誰にも語れませんからね。
誰も死を知らない――だから、人は死について色々考える。
ある者は恐怖し、また別の者は死を高尚なモノと崇める。或いは、「官能性」を感じる……

人は未知のモノに大きく想像力を働かせます。
ミロのヴィーナスの失われた腕(ミッシングアーム)のような話もありますし、
また、先日お客様がおっしゃられた、旅の楽しみもそうではありませんか?
人生も――先の見えないから、不安になるか。はたまた、未来は見えないものだから、そこに夢をみるか。
そう、神話にでる(パンドラ)のお話ですね。

それは見えるものより見えないものが、善いも悪いも、天使も、怪物(モンスター)も…………


――すいません。余計な時間を……しかも、話もすっかり的外れな流れに……
ああ、そうですそうです。
見えない分からないものが……とは言っても、見えるものや分かるものも疎かにはできません。
そうですね、さしずめ今お客様にとって目に見えて恐ろしいものとして、これなどいかがでしょうか?

はい、宿泊費、合計でこの様になっております――――



それでは、またお立ち寄りの際は、ホテル・フェアシュテックをよろしくお願いいたします。

.



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