坂の途中にある第二公園
- 1 名前:名無し客:04/03/11 22:55
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,,ゞ.ヾ\\ ゞヾ:ゞヾ ノノ ゞヾ . ゞヾ ゞヾ .ゞ;ゞヾ;ゞゞ;ゞ ヾ;ゞゞ;ゞ `
ゞヾ ,,.ゞヾ::ゞヾゞ:ヾ ゞ:.y.ノヾゞ..ヾ .ゞ,'ヾ ゞヾゞ ;ゞヽ,.ゞ:,,ヾゞヾ;ゞゞ;ゞゞヾゞ; `
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- 2 名前:遠坂凛 ◆Rin/.ruSTE :04/03/13 23:26
夜。
わたしこと遠坂凛は、上着も無しで外を歩いていた。
「ち――――ちょっと、アーチャー、一体どういうつもりなのよ……!」
夕食が終わって一息付いて、のんびりと時間を過ごしていたら何時の間にか午後十一時を回っていて。
何を思ったのかいきなり人を外に連れ出したアーチャーに、今も手を引っ張られている。
「返事くらいしなさいったら、もう!」
事情の説明は一切無し。
心当たりも特に無い……と思う。多分。
とにかくただついて来いとしか言わなくて、掴んだわたしの手が開放される気配は無い。
だから仕方無しに歩いてるんだけど――――
「…………っ」
流石に三月半ばではまだ夜は寒いわけで、ちょっとぞくっとしたりもする。
それもこれも出掛けにコートを着てくる時間も寄越さなかったアーチャーが悪いんだけど、
わたしから寒いって言い出すのも何となく癪な気がする。けど、何もしないのはもっと癪だ。
だから、前ばかり見ているアーチャーの横顔に不満を込めた視線を送りながら黙って歩き続けた。
- 3 名前:アーチャー ◆ARCHERBSJw :04/03/13 23:33
- >>2
夜。
連れ出したマスターと、眠りについた街を歩く。
片手に、ちょっとした物を詰めたバッグ。
残る片方には何やら文句を言っている少女の手がある。
第五架空要素で出来ている仮初の肉体でも、掌の温もりを感じられる事が無性に嬉しい。
――――遠い記憶。
無数に積み重なった歴史書。
その最深部の、更に奥深くにある場所に記された衛宮士郎としての記録。
開けば紙魚に食われ、風化したかのように穴だらけの色褪せた記憶だ。
あの時は手に触れられただろうか。
今ではもう、確かめる事さえ出来ない―――――
そういえば、遠坂邸から実体を持ったまま外に出たのはこれが初めてだ。
普段ならば霊体となって、戦いに勝つ為だけに偵察に出る。
それがサーヴァントとして当然の行為。
そういう意味では、今自分が取っている行動はデメリットこそあれ、メリットなど何もない。
だが、これはとても大切な行為。
凛に言わせれば心の贅肉でしかないだろうが、自分としては必要だと思う。
『返事くらいしなさいったら、もう!』
どうやらマスターはご機嫌斜めのようだ。
まあそれも仕方ないだろう。なにせ説明など何もせず、強引に連れ出したのだから。
連れ出した理由を言えばこの少女の事だ、絶対に帰るだの巫山戯てるだのと喚くに決まっている。
…………それに、どうせなら直前まで何も言わずに驚かせてやりたい。
『…………っ』
もう「なんなのよ」と言わんばかりの不満を込めて向けられている視線に、別のものが混じった。
ついでに言えば握った手が僅かに震えている。
……失念していた。幾ら春先とは言え、少々幼さを残す少女にはまだ寒いだろう。
バッグを持った方の手で外套を脱ぎ、こんな時でも文句を言わない跳ねっ返りのマスターに羽織らせる。
「なんだ、寒いのならば寒いと言えばいい。君も変なところで強情だな、凛」
不満の代わりに、何か言い知れぬ殺意のような視線が向けられるが、とりあえず黙殺。
―――――そうして歩く事十数分。
ようやく目的の場所に到着した。
偵察の途中で見つけた、桜の木にぐるりと囲まれた公園。
満開とはいかないが、花見をするには十分なほどに開花している。
握り締めていたせいか、少し汗ばんだ凛の手を離し、予め目をつけていた木の下に歩いていく。
背中に何のつもりだと咎める視線が突き刺さるが、やはり黙殺。
持ってきたバッグからシートを取り出して敷き、茶道具一式とポット、それに菓子の類を並べ――――
「少し早いが、バレンタインのお返しだ。
チョコレートのお礼……それと、君が私のマスターであってくれた事に対する感謝として」
――――後ろで文句を垂れている少女に向き直って、目的を告げた。
- 4 名前:遠坂凛 ◆Rin/.ruSTE :04/03/13 23:36
>>3
唐突に足が止まる。
どうかしたのか、と声に出そうとした瞬間――――
『なんだ、寒いのならば寒いと言えばいい。君も変なところで強情だな、凛』
そんな台詞の後、ふわり、とアーチャーの外套がわたしの身体を包んでいた。
確かに寒いのを我慢したって良いコトなんて一つも無い。
自分から言い出すのは何となく負けたような気がすると思っただけで、要するに見栄。
……それにだ。
現状、寒さを訴えても解決手段はこれしかないわけで。
仄かに体温が残る外套を羽織っていると言う事実が、どうしてか照れ臭い。
「…………五月蝿いわね。それくらい言われなくても察しなさいよ」
それも全部目の前の奴の所為なので、思いっきり睨んでも八つ当たりにはならないだろう。
例え違ってもそういうコトにしておく。
再び歩き出す。
やっぱり手は掴まれていて、顔を見るのは少し気恥ずかしい。
「…………」
視線を足元の方へさ迷わせると、引き摺ってしまいそうなくらい長い外套の裾。
今更のように気付く。
隣を歩く奴はわたしより背が高くて、当然歩幅だって大きいだろう。
なのにわたしが急がなくてもついて行けるのは、隣の奴がそこまで気を回しているってコトなんだろうか。
ちらりと、一瞬だけ横顔を見る。
その目はやっぱり前ばかり見ていて、一人で色々考えているのが馬鹿らしくなった。
だから、わたしもただ歩くコトにした。
それきり言葉も無く、歩いて。
ようやく目的地らしいモノが見えた。
それほど広くない公園。桜の樹が月明かりの下で静かにその花を咲かせている。
そのまま真っ直ぐに敷地の中に入って数歩、繋いでいた手が離された。
今度は一人でどんどん進んでいく背中をじーっと見つめる。
「で、ここが目的地なら、そろそろどういうつもりなのか説明くらいし、」
たらどうなの――――と、続けるつもりだった。
そのつもりだったんだけど、
『少し早いが、バレンタインのお返しだ。
チョコレートのお礼……それと、君が私のマスターであってくれた事に対する感謝として』
なんて言われた所為で言葉が続けられなかった。
……そういえばそうだ。
確かに先月の十四日にはチョコを――それも手作りの――を、出した記憶がある。
と言っても間違ってもハート型のチョコをリボンやらで飾った奴を手渡したとかじゃなくて、
紅茶と一緒にお茶請けとして、だ。
……正直、まったく意識しなかったわけじゃない。
その時期に商店街に買い物に行けば嫌でも目に付くんだし、多少意識するのはむしろ当たり前な筈だ。
けど、別に深い意味とかは無くて、ただチョコ美味しそうだなー、なんて思っただけで――――
気分転換をかねてちょっとお菓子を作ってみたのがたまたま二月の十四日だったって言うだけ。
……そう。本人が言うんだから本当にそれだけったらそれだけなのだ。
「べ、別にお返しとかそういうのいらないって言うか、その――――」
こんな状況でそんなコト言われると、どうして良いか判らなくて、困る。
- 5 名前:アーチャー ◆ARCHERBSJw :04/03/14 01:31
- >>4
『べ、別にお返しとかそういうのいらないって言うか、その――――』
夜を照らす月は本を読めるほど明るい訳でもない。
だが、そんな薄闇の中でもはっきりと判るくらいに凛の顔は真っ赤になっている。
何故そんなに照れるのだろうか。この身は既に終わった身である。
私は英雄と呼ばれ、幾多のヒトを裏切り、その数千倍の人間を救い生を終えた存在だ。
この場に居るのは残留思念、妄執に近い、言わば幽霊のようなもの。
持つ物は何もなく、与えられてもそれに形で応える事が出来ない。
マスターが羽織っている外套でさえ、私が消えれば真夏の蜃気楼のように消えてしまう。
故に、応えるならばそれは形ある物ではなく、感謝の念で応えるしかないのだ。
既存の物を見て複製する―作り出す―存在である自分が、
既にそこに在る何かを利用するしかないとは、皮肉だとしか言いようがない。
それくらい凛も判っているだろうに、何故こんな事で赤面するのか。
驚くとは思ってはいたが、赤面されるとは正直予測していなかった。
沈黙。
ただ向かい合った二人の間で、気が早く生を謳歌し終えた桜が散っていく。
さて、どうしたものか。このまま向かい合っているだけでは埒が明かない。
普段ならば、がーっと吼えて噛み付いてくるマスターだけに、リアクションがないと余計に困る。
いや、これはこれで新鮮でいいのだが。どうにも調子が狂ってしまう。
「……………………………」
耳まで赤くなっているマスターを凝視する。
もしかしたら熱があるのかもしれない。多少暖かくなってきたとは言え、季節の変わり目だ。
肝心な所でドジをやらかすこの少女ならば風邪を引いていてもおかしくないだろう。
いや、それともこの趣向は気に入らなかったのか。
赤くなっているのは怒りを堪えているだけで、噴火する火山寸前なのかもしれない。
偵察の時から中々いい場所だと思っていたのだが…………
「どうした、凛。なにやら顔が赤いが。風邪気味ならばそう言えばいい。
…………それともこういうのはお気に召さないだけか?」
とりあえず意思を確認しないことにはどうにもならないので、一応聞いてみることにした。
- 6 名前:遠坂凛 ◆Rin/.ruSTE :04/03/14 02:08
>>5
わたしには出来たら縁を切りたい弱点が幾つかある。
例えば朝に極端に弱いコト。
例えばここ一番で大ぽかをやらかすコト。
……それと、不意打ちの出来事に遭遇すると素が出てしまうコト。
今の状況は正にそれだった。
何か言わなくちゃいけない。
でも、何をどう言ったら良いのかちゃんと纏められない。
だってこんな、まるで――――
その、デートみたい、な。
そりゃあ二人で行動したコトは何度もある。
でもそれはあくまで聖杯戦争と言うくくりの中でのコトで、今とは似ていても根本的に違うって言うか。
……そもそも、変に良い雰囲気の場所だから悪い。
朧な月明かりに浮かぶ桜は綺麗で、夜は只静かで。
だから、目の前のアイツを必要以上に意識してしまうのだ。そうに違いない。
「………………」
考えるだけ考えて、考えるだけでは埒が開かないコトに思い当たる。
……薄暗いし、ばれないだろう。
決意して、顔をあげ、
『どうした、凛。なにやら顔が赤いが。風邪気味ならばそう言えばいい。
…………それともこういうのはお気に召さないだけか?』
「――――え、あ、いや、何でも無いっ!」
ばれ……って、相手はとんでもなく目が良いんだった。
いくら薄暗かろうと、この距離では気がついて当たり前だ。
つまり、それは赤面した顔を隠しようが無いと言うコト。
……要するに何割か増しで恥ずかしい。
でもまあ、隠せないのなら開き直るしかないってコトだ。
うん、それはそれで判りやすい。
「……別に風邪なんか引いてないから。
それに、こういうのもアンタにしては気が利いてるんじゃない?
せっかくここまで来たんだし、付き合うわよ」
そっぽを向いて言い、広げられたシートへと歩き出した。
- 7 名前:アーチャー ◆ARCHERBSJw :04/03/14 03:13
- >>6
『……別に風邪なんか引いてないから。
それに、こういうのもアンタにしては気が利いてるんじゃない?』
――――どうやら当ては両方とも外れたらしい。
耳まで紅く染めながら、何が気に入らないのかそっぽを向いて歩いてくる。
そこではたと思い当たった。
以前女という歳かと笑ったが……なるほど、一般的に見れば年頃と言えるだろう。
色香が足りず、優雅さも足りず、おまけに日常面に於いて酷く可愛さが判りづらい凛にも、
人並みにそういう感情はあるらしい。
身近にいる者に恋愛感情に似たものを抱く事はよくあるらしいが、まったくお子様な事だ。
『せっかくここまで来たんだし、付き合うわよ』
……まあ、どうせならばその未熟な感情に付き合うのも一興か。
聖杯戦争などという血生臭いモノは「凛」には似合わない。
本当はとても優しいというのに、それを無理に魔術師という仮面で隠す少女。
自分の道を見つけ、横も下も見ず眩しいばかりに進んでいく。
挫折も苦しみも、全て受け入れてそれでも尚強くある。
そんな遠坂凛だからこそ、かつて衛宮士郎だった自分は憧れたのだろう。
顔を背けたまますれ違おうとする少女の腕を掴む。
「―――待て。熱でもあるのではないか? 理由もなく赤面するほど、君は特異体質ではあるまい」
やや強引に腕を引き、振り向いた凛の額に掌を当ててやる。
勿論立っていられないほどの身体異常はない事など、レイラインを通じて判っている。
つまりこの行為は実質的に何の意味も持たないブラフだ。
「……ふむ、熱はないな。寒いのならば上の外套も貸すぞ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
凛。君の悪癖だが、君はどうにも変なところで意地を張る癖がある。矯正するといい」
頬が緩むのを自覚しながらシートにつき、紅茶を淹れる。
凛のお気に入りの春摘み中国茶は淹れるのは難しい。
葉は蒸らしすぎず、湯は熱すぎず、そしてえぐみが出ないように細心の注意を払う。
気を使って使いすぎることなどない。
美味く淹れれば淹れるだけ凛の満足げな笑顔が見られるのならば、
どれだけ注意を払っても足りる事はないだろう。
そうして最高の出来とも言える紅茶をカップに注ぎ、散ってきた桜の花弁を一枚散らし………
「では、紅茶で乾杯というのも変な話だが。改めて―――――――」
感謝の言葉を口にした。
- 8 名前:遠坂凛 ◆Rin/.ruSTE :04/03/14 04:19
>>7
腕を掴まれて。
「ちょ――――な、」
額に、大きな掌が触れた。
火照った顔にはひやりとして感じられ、思いの他心地良い。
後、やっぱり男の人の手だな、とか思ったりする。
……じゃなくて。
こんな予想も想像もしていなかった状況は良くない。
せっかく落ち着きかけた思考がまた浮き足立ってしまう。
「っ――――――――――
だから、風邪なんて引いてないって言ってるでしょ! 寒くも無いってば!」
振り払うように手をどけつつどかどかとシートに上がる。
……そりゃあ、歩調だって荒くもなるだろう。
色々思い浮かんで、それが消えなくて。
すし詰めになった頭の中には、まともな思考を出来る容量なんて残ってない。
歩き方に注意を払う余裕なんて、それにも増して無いのだ。
「別に何処で意地張ったってわたしの勝手でしょ。
ほら、さっさと紅茶淹れなさいよ」
振り返りながら、誤魔化すようにそう口にする。
と。
アイツはわたしを見てにやにやと楽しげに笑っていた。
……もしかして。
いや、もしかしなくてもからかわれたっぽい。
意識しているのまでばれてる。
そう認識してしまえば、余計意識してしまうわけで。
それでも、からかったのを指摘するってコトは図星だったと認めるのと同じだってコトには気が付けた。
それは非常に癪なので、悔しいけど我慢。
「……一体何なのよ、まったく――――」
代わりに、小さく愚痴る。
そうでもしないと落ち着かない。
突っ立っているのもあれだから取り敢えず座って、何気なく紅茶を淹れるアーチャーの手を視線で追った。
前にも思ったけれど、慣れていると言うか、随分洗練された手付きだと改めて思う。
これだけ―――まるで絵のように決まっていると、眺めているだけで待ち時間も気にならない。
……なんて、本人には絶対聞かせられない。
ぽろっと言っちゃわないように気をつけないと。
「確かに変だけど、まあ良いでしょ」
向こうに聞こえない位小さく、同じ言葉を返した。
- 9 名前:アーチャー ◆ARCHERBSJw :04/03/14 05:17
- >>8
花を愛でるでもなく、そうかと言って談笑に興ずるわけでもなく。
なんとも言えない微妙な空気の中で紅茶を啜る。
自分でも最高と断言出来るほどの味なのだが、肝心要の会話が弾まない。
考えてみればそれも当然。
元々マスターとサーヴァントの間には、契約による主従関係しか存在しない。
マスターにとってサーヴァントとは、聖杯を得る為の戦闘手段でしかない。
同様にサーヴァントにとってマスターとは、聖杯に選ばれた媒体を持つ資格者でしかないのだ。
故に過去など詮索する必要はなく、
ただ他の六組を打倒する事だけが主従関係の理由となる。
目的の為にお互いの事を聞く事はあっても、それは「聖杯戦争に勝つ」為に聞くもの。
その内容はどんなものであっても勝つ為という理由に繋がる。
だから、本来の目的である聖杯戦争を度外視した場合、お互いに話す事は殆どない事になる。
生きた時代が違えば、生きた目的も違う。共通項など何処にもない。
仮に過去の自分が生きた時代に召喚されたとしても、
自分が具現した時点で、己が生きた世界とは別の世界の時代に変わっている。
大体、主と深夜に花見に出かけて紅茶を啜るサーヴァントなど、異端としか言いようがない。
―――カップに落ちた花弁に視線を向ける。
濃紅の水にゆらゆらと揺れる淡紅が、艶やかに映えて浮かんでいる。
まるで浮舟。
ささやかな望みを叶えながら、決して叶うはずのない夢を求めた自分。
世界と契約したのは果たして目の前の望みの為だったのか、手の届かない夢の為だったのか。
どちらにせよその契約ゆえに、死して尚自分は守護者などという地獄に落ちた。
怨嗟、嫉妬、背徳、欲望に代表される罪の数々
呪詛にも似た霊長の「罪」によって召喚され、呼び出された場にいる全てを殺し尽くす。
そこに自分の意志はない。
まるで浮舟。
海に終わりは無く、人間は同じ事を繰り返す。
守護者に救いは無く、私は救えずに殺し尽くす。
そんな取り留めのない事を考えながら、ふと或る事を思った。
私は守護者という奴隷に成り下がり、間違いを思い知り、終わりのない虐殺を強いられている。
確かにそこに救いはない。では、今はどうなのだろうか?
自分の意志で、マスターである遠坂凛を連れ出し、紅茶を飲んでいる。
凛が笑うのが嬉しい。
凛が喜ぶ姿が見たい。
凛が照れる姿を愛しく思う。
それは本当にささやかかも知れないが、一時の救いではないだろうか――――――?
- 10 名前:遠坂凛 ◆Rin/.ruSTE :04/03/14 05:51
>>9
アーチャーの顔を見るのは照れ臭くて、かと言って桜の花を鑑賞するには落ち着かない。
自然、顔はうつ向き気味になる。
……手元を見ていても落ち着かないのには変わりないんだけど。
聞こえるのは、時折、梢の揺れる小波のような音だけ。
一度落ちた沈黙は必要以上に重く、跳ね除けられそうな話題も見当たらない。
冷えかけた紅茶を口に運びながら、ちらりとアーチャーの方を盗み見ると。
手にしたカップに、硬い表情で視線を落としていた。
……それが、何となく嫌だった。
別に人を放って物思いに耽るなって言うんじゃなくて、考えてる内容が予想通りだったら嫌だな、と思った。
下ろし掛けたカップをもう一度持ち上げ、一気に飲み干す。
「はい、お願い」
黙考を遮る様に、空になったカップをアーチャーに差し出した。
二杯目の紅茶が注がれるのを見ながら、ふと思いつく。
「……アーチャー、ちょっとそっち向いて? 何でも良いから、ほら」
何か問いたげな視線が背中の向こうに消える。
広い、鋼のような背中を一瞬だけ見つめて、自分も背を向け、とん、と体重を預けた。
「…………ねえ、一つだけ聞いても良い?」
暖かいカップを両手で包むように持ち、気の早い桜の花を眺めながら、呟く様に語り掛ける。
わたしの重さくらいでは小揺るぎもしない背中。
その背中にどれだけの人の想いを背負い、何度戦い、どれだけの傷を負ったのか。
「アンタはさ、十分すぎるくらい頑張ったと思う。
……でも、その報酬を受け取ってないじゃない?」
それは辛いコトだった筈だ。
それは痛いコトだった筈だ。
だから、その辛さが消えてしまうくらい幸せに。
だから、その痛さが消えてしまうくらい幸せに。
それを望む権利がある。
「………………幸せになりたいって思ったコト、無いの?」
……面と向かってなんて、とても聞けない。
けど、どうしても聞いておきたかった。
- 11 名前:アーチャー ◆ARCHERBSJw :04/03/14 23:57
- >>10
『…………ねえ、一つだけ聞いても良い?』
背中に軽い衝撃。
振り向こうとするのを遮るように、微かに震える声が掛かる。
預けられた背中は思いの外軽く、小さく、普段の気丈さからは想像も出来ないほどか弱い。
その背中にどれだけの覚悟を背負い、前を見据えているのか。
逡巡は一瞬。
『アンタはさ、十分すぎるくらい頑張ったと思う。
……でも、その報酬を受け取ってないじゃない?』
以前と同じ内容の問いが、背を震わせて突き刺さる。
あの、剣が無数に突き立った鋼の丘を、凛は見たのだろうか。
躊躇いが混じった声は、どこか答えを聞くことを恐れるかのように震え。
同時に、これだけは聞かなければならないと、強い意志を持った声でもあった。
『………………幸せになりたいって思ったコト、無いの?』
泣き出しそうな声。
凛のそういう声を聞くのはあまり嬉しくない。この少女に悩みなど似合わない。
常に真っ直ぐ、前だけを向き、苦悩も苦痛も撥ね退けてある遠坂凛が、惑う声をするのは辛い。
それが自分の所為であるとなれば尚更だ。
「そうだな…………」
粉雪のように舞う桜を見ながら思いを巡らせる。
散り往く桜は生を謳歌しきったのだろうか。
潔く散る代名詞として使われる桜だが、果たして本当に未練なく散っているのか。
本当に、自分の最後は幸せだったと、満足のいくものだったと言えるのだろうか。
――――――――
正義の味方になりたかった。
目に映る誰をも助けて、救いたかった。
憧れと夢は相反していて、それでも両立させたかった。
周りからは利用され、裏切られ、無情だと恐れられ、離れられていった。
それでもいいと。利用された、裏切りを恨まなかった、無情と思われても良かった。
目的は遠く。繰り返す度に薄れ、消えていき、見失っていった。
自分の望みは漠然としていて、形さえ定かではない。
自分の夢は望みと対極にあって、両立する事は決してない。
だから、
泣く者があればそれを救い、争う者があれば己が身で矛先を受け、走り続けた。
そうする事で答えが出るのではないかと、朧げにでも見えるのではないかと期待した。
それに対する見返りは不要。
何故なら目に映る誰もが笑う事が、救う事そのものが、自分にとってなによりの
見返りであり、幸福でもあったのだから。
偽善者と呼ばれ、馬鹿げた餓鬼の理想だと言われても胸を張って目指し続けた。
…………いつか、本当にいつか。
もしかしたら、誰もが幸せの椅子に座れて、泣く者は誰もいない事があるのではないかと。
そんな有得ない期待を抱いて剣を振るった。
次はそうなるだろうと。次の次はきっとそうだと。
自分の理想を叶えるために理想を裏切り続けた。
常に独り。
ただありとあらゆる剣を作り、剣となり、他者を救う。
剣は己の身を欠けさせ、錆びさせ、他者を守るもの。
自身を殺し、自身を律し、他者を助ける剣になりたかった。
それは正義の味方。
だが、剣はどこまで行っても傷つける事でしか存在意義を持てない。
誰かを犠牲にして誰かを助ける、それが剣(セイギノミカタ)。
どんな剣を振るおうと、その本義は変わらない。
正義の味方では全員を救えない。
理想は誰も犠牲にならない事。
自分が犠牲ならばいい、自分以外が全て笑うならそれがいい。
だが正義の味方である以上、必ず自分以外の誰かを殺して人を助ける。
だから矛盾。
望み(憧れ)は正義の味方。夢は目に映る誰もが幸福である事。
二つが同時に叶うはずが、ない。
そして、その災害に出遭った。
災害の中で、無辜の百人が死ぬその運命を呪う。
世界を、この理不尽を許す全てを、誰も救えない自分自身さえも呪った。
こんなのは嘘だ。
自分は何の為にある。
目の前で死ぬ運命にある者を救えない「衛宮士郎」に何の価値がある…………!
この百人が救えないならば自分は嘘になる。
自分は正義の味方を目指した。目に映る誰をも救うと誓った。
黒い太陽の火の中で、自分の代わりに死んでいった人達全てを背負って誓ったのだ。
次、同じような事があれば貴方達の分まで絶対に助けるから、と。
それが生き残って救われた自分の役目だから。
貴方達を見捨てて、あの地獄でただ一人救われた自分だから。
――――だから、自分はこの百人を、全てを救わなくてはならない。
“契約しよう。我が死後を預ける。その報酬を、ここに貰い受けたい”
そうして英雄の階段を上り、守護者という奴隷となる事を契約した。
その百人を救い、運命を変え、切り捨てる人の数の何千倍もの人間を救った。
その時の百人は、笑っていた筈だ。
それ以前も、それ以後も、自分が誰かを傷つけ、罪を背負って救った「誰か」は笑っていた筈だ。
助かってよかったと、死なないでよかったと、生きていてよかったと。
幸福だと。
だから自分は満足したのだ。
速やかに来た終わりにも、裏切りにも、理想そのものにも、誰にも涙を見せることはなく。
戦う事を止め、自分の心である剣の丘で最後の剣を地に突き立てて、死を迎えた。
望みは叶えた。夢は叶わなかった。
夢は次の、守護者としての自分が叶えられるのだと信じて剣から手を離した。
――――ああ、だから、その時だけは。
道化に堕ちる寸前のエミヤシロウだけは、幸せだったのだろう。
「…………幸せだった。私は幸せだったよ、凛。
裏切った人の数千倍の人を救って、正義の味方に辿り着いたのだから」
それは半分本当で、半分嘘の言葉。
正義の味方というエミヤシロウしては幸せだった。
目に映る誰をも救いたいというエミヤシロウとしては最後まで、否、現在もこの先も、
永久に叶う事のない願いを抱いたまま、守護者であり続けなければならない。
だが、今更後悔しているなどと言ったところでどうとなるわけでもない。
なにより、この少女にこんな事で心を痛めてもらいたくはないのだ。
この身は既に終わった身。どうやった所でその事実は変わらない。
召喚(よば)れ、何れは消滅(きえ)るだけの者の為に心を痛めるなど、「心の贅肉」に他ならない。
「正義の味方として、エミヤシロウは自分の望みを確かに叶えた。私はそれでよかったんだ。
それなら、それは幸せだと言えるのではないか?」
だから、嘘を抱えたまま、自分に言い聞かせるようにそう答えた。
- 12 名前:遠坂凛 ◆Rin/.ruSTE :04/03/14 23:58
>>11
幸せだった。
報われていた。
噛み締めるようにアーチャーはそう告げる。
……そういえば、コイツはそういう奴だ。
自分はどうなっても良い。自分の全部を切り捨ててでも、他の誰かを救えれば良いと。
そして、叶うなら――何時か、目に映る全員を救いたいと。
心の底から思えるような奴だった。
だから、その答えは嘘じゃない。
けど、本音だけでもない。
誤魔化そうって言うんじゃなくて、それはきっと。
「……馬鹿。たまには弱音くらい吐きなさいよ」
わたしの声が震えていた所為。
……本当、馬鹿だ。
こんな時でも自分よりわたしの方を優先するなんて、馬鹿以外に言いようが無いと思う。
って言うか、そんな所ばっかり変わらないのはちょっと卑怯だ。
「救った人たちの笑顔は、アンタにとってこれ以上無いってくらいの報酬だったかもしれない。
けどね、それは自分を削ってまで誰かを救ったアンタには与えられて当然のモノよ」
血を流して、心をすり減らして。
誰かを救ったという行為そのものに対する報酬。
他人の苦痛を引き受けようとして、自身の理想まで傷つけて。
それでもなお、誰かを救おうとする行為に対する報い。
それは、別のモノだ。
「自分の理想を裏切るのが痛くない筈が無い。
誰かを見捨てて裏切るのが辛くない筈が無い」
その、背負わなくても良かったモノの分。
もっともっと、コイツは幸せになるべきだ。
……ううん、ならなくちゃいけない。
「痛い時に痛いって言ったって、誰も責めない。
辛い時に愚痴を零したって、悪くなんて無いんだから……」
例えば。
もし弱音を吐きたくなった時、それを聞いてくれる誰かが傍に居るコト。
迷った時、一緒に考えてくれる誰かが傍に居るコト。
一緒に居て楽しいと思える誰かと一緒に居るコトは、とても幸せなコトなんじゃないだろうか。
でも、今のコイツにそんな誰かなんて居ないだろう。
「だから――――」
仕方ないから、わたしがその誰かの役を引き受けてやるしかないじゃないか。
……うん、そうだ。
仕方が無いから、何時か別れがあるとしても、その時まで。
目一杯、幸せにして――――――――
「……やるんだから…………」
一度も口を付けていないカップを置いて、大きな背中に寄り掛かるようにして夜空を見上げる。
今度は声に出ていないだろうか。少し不安だ。
霞む視界。頬を伝うモノ。
……こんな顔死んでも見せられない。
やっぱり、背中合わせになっておいて良かった。
- 13 名前:アーチャー ◆ARCHERBSJw :04/03/16 01:52
- >>12
その声は消え入りそうなほどに小さく、
ともすれば堰が切れてしまうのを必死に堪えて語り掛けてくる。
そんなのは違うと、辛くない筈がないと。
だから――――
――――背負った分だけ幸せにすると。
私の歪を自身の辛さであるかのように、涙を流してくれている。
その言葉に嘘はない。この優しすぎる少女は本気でそう言ってくれている。
声にならないその声は、合わさった背中を介し、想いとして私に届く。
私が背負った自身の罪を、この少女はせめて一時でも支えると言うのだ。
だからこそ、その言葉が辛かった。
これは自分の罪だ。
叶うはずのない夢を叶うのだと、信じて追い続けたエミヤシロウが選んだ選択肢。
選択は、守護者と、奴隷となる事。
答えは、未来永劫地獄を見せられ、裏切りを続けさせられる事。
その結果として私は今此処に在る。
既に終わった身ではその想いに応えることが出来ない。
何れ消える身。与えてもらったモノに対する礼など出来まい。
だからこそ、その言葉が嬉しかった。
間違っていてもいいと。それが誇れるのならばそれでいいと。
苦しければ弱音を吐いて、辛ければ膝を付けばいい。それを支えるからと言ってくれている。
それは確かに一時の救いにしかならないかも知れない。
だがこの記憶は書庫に送られる。そしてそれは次の「私」にとっての救いとなるだろう。
無数に並ぶ記録。後も先も判らず、ただ羅列されるだけの英霊の記憶。
その中で自身を誇るように輝いている本は既に在る。
“Unlimited Blade Works”
自身の宝具と同じ名を銘打たれたその宝石は、やはり遠坂凛が絡んだ記憶。
ゼロに等しい確率に縋り、別の答えを得たその結末。
きっと、今回の記憶はそれと肩を並べるように輝くだろう。
―――ああ、思えば。
エミヤシロウにとって、遠坂凛という存在はなにより大切な思い出だった。
セイバーも知っている、間桐桜だって知っている。
磨耗して、記憶が朧げであっても、出会った全ての人を「覚えて」いる。
それでも、自分……英霊エミヤにとっては、
遠坂凛という少女が、その不器用さこそが、何よりも懐かしい思い出だったのだ。
応えられぬのならば、せめてその想いそのものを支えとしよう。
今の自分がこの世界に留まっていられる限りは、この少女と共に歩む事を望もう。
一時の救いでもいい。それは自分にとって永遠に続く救いとなる。
片手を着いて身体を反転させる。
そのまま、万感の思いを込めて、泣きじゃくる少女の身体を抱き寄せた。
自分にとって遠坂凛はいつだって前向きで、現実主義者で、これ以上ないほど甘くあって欲しい。
そうでなくては張り合いがない。
それが自分にとって、何よりの救いである「遠坂凛」なのだから。
―――――だから、感謝の気持ちを裏に込めて、普段と変わらない言葉を口にした。
「…………なんだ、泣いているのか、凛。
やれやれ、普段からこの数分の一でも可愛さがあればいいのだがな」
- 14 名前:遠坂凛 ◆Rin/.ruSTE :04/03/16 01:53
>>13
頬を伝い落ちる涙が、胸元に小さな染みを作る。
一つ、二つ。
……なんで、わたし泣いてるんだろ。
「……今こっち向いたら、ただじゃ済まさないから」
涙は止まらない。
後から後から溢れてきて、まるで泣き虫の子供みたいだ。
別に痛い所があるわけでもない。
泣きたいくらい悲しくもない。
……ああ、そっか。
自分の中に理由が無いのなら、それは外にある。
―――わたしは、コイツのために
所為で泣いてるんだ―――
きっと、それは誤魔化しようの無い事実。
だから涙は何時までも止まらなくて。
でも、そんなに悪い気分じゃなかった。
「………………」
俯いて、涙に濡れた顔を隠すように膝を抱える。
何だかペースを握られっぱなしだ。悔しい。
「ねえ、ア――――」
どうやったら一矢報えるだろう、なんて考え出した時。
背中の向こうの気配が動くのを感じた。
「ちょ―――――っ、誰がこっち向いて良いって言ったのよっ!」
反射的に逃げようとして、伸びてきた腕に捕まってしまう。
もちろん、腕はアーチャーのモノだ。
力強い両腕はわたしの身体を包み込むように。背中にはアーチャーの胸板が触れて。
まるで、背後から抱き締められてるみたい、な。
「馬鹿、離しなさいったら――――!」
暴れてはみるものの、力でコイツに敵うわけなんてない。
腕はびくともしなくて、いっそ爪でも立ててやろうかと思う。って言うかちょっと立てた。
なのに、平気な顔をして
『…………なんだ、泣いているのか、凛。
やれやれ、普段からこの数分の一でも可愛さがあればいいのだがな』
なんて言ってくれた。
……これが決め手。
あんまり何時も通りの台詞を吐いてくれやがったりしたので、どうにかして一泡
吹かせてやらないとこっちの気が済まない。
「……わたしはこっち向くなって言ったわよね?
その言葉を無視してわたしに恥ずかしい思いをさせたツケ、払いなさいよ。
…………目、閉じて」
腕の中でもぞもぞと振り返ると、今までにないくらい近い位置にアーチャーの顔がある。
その横顔にそっと顔を寄せて――――
「なんでこんな時ばっかり言うコト聞くのよ。……ひょっとして、何か期待した?」
耳朶に、軽く噛み付いてやった。
「ふんだ。そうそうキスなんてしてやるもんですか。
それに、これくらいじゃまだまだ足りないって言うのよ。
わたしを泣かせた責任、ちゃんと取らせてやるんだから―――――」
言って、アーチャーの胸に顔を押し付けた。
どれくらい、そうしていただろうか。
止めど無いと思っていた涙も何時の間にか止まって、気がつけば空が微かに白んでいる。
……それにしても。
今、何時なんだろ。
昨日も遅かったから、いい加減、眠くなって、きちゃっ、た――――……
- 15 名前:アーチャー ◆ARCHERBSJw :04/03/16 02:07
- >>14
『なんでこんな時ばっかり言うコト聞くのよ。……ひょっとして、何か期待した?』
顔の横に気配を感じると同時、耳朶に何かがそっと触れた。
軽く食い込む硬い感触と、
少し乾いてはいるが、それでも瑞々しさを失わない柔らかい感触。
そして、濡れるほど熱い吐息の感触が耳朶を犯す。
だが、唇と耳朶の微触は一瞬で終わり―――
『わたしを泣かせた責任、ちゃんと取らせてやるんだから―――――』
――――此方の心境などお構いなしに、そんな事を言って
頬を染めながら泣いていた少女は、普段通りの「遠坂凛」へと戻っていった。
胸に押し付けられた顔は、涙に濡れたままだろう。
腕の中で震える肩は、嗚咽を堪える為だろう。
それでも、今、自分に抱かれている少女は間違いなく、嘗ての衛宮士郎が憧れた遠坂凛だった。
泣きじゃくる凛を抱き締めながら、視線を上げる。
桜挿頭の下で、雪が舞う。
生を謳歌しきって散る桜。
だが、桜は散る時こそ、散り往く最中こそ美しい。
それは胸を張って咲き誇り、最後までそれを信じて散るかのよう。
生を終え、死して尚世界に縛られている自分。
それは終わりのない責め苦かもしれない。
それでも、自分の人生は間違っていなかったと胸を張り、
責め苦の中で見つけた支えや答えを大切にして歩ければ、それはどれほど救われる事だろうか。
何れ消える身である事に変わりはない。
それでも、自分を支えると言ってくれた少女との記憶は英霊の書庫に送られる。
ならばそれまで、来る消滅までの時を大切にして、精一杯輝かしい答えを送ってやろう。
自分は間違っていなかったのだと。この時代に、遠坂凛に召喚れてよかったと、
答えと支えを得られた事を忘れぬように、誇れるようにしよう。
―――――――――――――――
―――――――――
―――
気がつけば、空が白んできていた。
耳を打っていた嗚咽は何時の間にか聞こえなくなっている。
その代わり―――
「凛―――………?」
凛は、胸に片耳を寄せ、寄りかかるようにして寝息を立てていた。
苦笑を一つ。
つい先程まで泣いていたかと思えば、今は安らかな顔をして眠っている。
だが、そんな凛だからこそ自分が憧れたのだ。
猫を被っていた遠坂凛ではなく、目の前の遠坂凛に惹かれたのだ。
目を覚まさないように抱え上げ、出口に向かって歩き出す。
きっと、今の自分は胸を張れているだろうと思いながら―――――――――
- 16 名前:遠坂凛 ◆Rin/.ruSTE :04/03/16 02:35
>>15
……なんだか、揺れてる。
眠りに沈んでいた意識が、揺れに煽られて浮かび上がっていく。
「…………ん……」
薄目を開けると、不思議なモノが見えた。
至近距離で斜め下から見上げる感じ。
見上げているのは、明らかに自分の部屋じゃない風景とアーチャーの顔。
「……ん?」
アーチャーの顔?
なんだってそんなモノ見上げてるんだろう。
アイツはあれでもわたしが寝ている部屋に無闇に入ってくるような無神経な奴じゃないし。
……って言うか、ここは何処なんだろ。
家の外で、寝ていて、なんか揺れてて。
揺れる度に風景が流れていくから、移動中みたいだ。
「…………むぅ」
もう少し目を開ける。
アーチャーの腕が見えた。後、自分の足。
背中にも腕の感触があって、これって抱き抱えられたりしてるような。
「……アー、チャー?」
抱き抱えられてる。
間違い無い。
つまり、それが問題だった。
「こら……! 下ろしな――――」
……う、自分の声が響いて頭痛い。
それに、何だかとにかく無性に眠い。
睡眠欲と言う本能は羞恥心なんかよりよっぽど強くて、瞼は勝手にじりじりと閉じていく。
そして、逆らう程の余力も残っていない。
って言うより、寝ていても家に着くんだから逆らうコトなんかないんじゃないだろうか。
……うん、我ながら中々良いアイデアだと思う。
とにかくわたしは眠いのだ。
それ以外は瑣末事で、五月蝿い目覚ましが鳴ってないってコトは寝ていても良いってコトで。
「…………」
ぼんやりとこっちを見ているアイツの顔を見上げながら、わたしは目を閉じるコトにした――――
- 17 名前:アーチャー ◆ARCHERBSJw :04/03/16 05:23
- >>16
朝陽を背にして坂を登り、家路を急ぐ。
じきに夜が明ける。そうすれば人も起きてくるだろう。
自分の服装が現在の社会に適応していない事など判っている。
まして今の自分は腕に少女を抱えている。下手に人に見られては誘拐犯か変質者扱いされかねない。
……と。
『…………むぅ…………アー、チャー?』
―――などと、これ以上ないほど平和に寝惚けた声と共に、今一つ状況を掴みかねているのか
もぞもぞと身体を捩ってマスターが目を明けた。
その顔があまりにもいつも通りだったので、少し嬉しくなる。
『こら……! 下ろしな――――』
一拍の間を置いてようやく状況を認識したらしいが、どうやら眠気がまだ強かったらしい。
まあいいか。と何処か安心したような顔をして開いた目をゆっくりと閉じていく。
……凛は、自分で女、女と言う割にはどうにも羞恥心が少ないように思える。
安心して身を委ねてくれるのは有り難いのだが……これでは将来、この少女と付き合う者は
大変だろうな、と埒も無い事を考えて苦笑する。
――――まあ、それも味か。
遠坂凛は、ありのままが一番可愛らしいのだから。
凛との記憶は、遠い昔も、以前も、そして現在も、自分への救いとなる。
この二つの宝石はきっと胸を暖め続ける。
無限に続く闇の中で、衰える事も磨耗する事も拒絶するような光明となるだろう。
辛くても、苦しくても、倒れても、起き上がって望みを追った。
傷ついても、裏切られても、離れられても、諦めずに理想を追った。
それは行き場をなくした強がりでしかないのだと、少女は言う。
だから自分が支えるのだと、目一杯幸せにしてやるんだと、涙を流しながら言ってくれる。
それは、きっと。
英霊エミヤにとって、何よりの光。
感謝の言葉は幾つ重ねても足りない。
親愛の言葉は幾つ重ねても満たされない。
だから、夢の世界に戻りかけている少女の顔を見下ろして、こう口にする事にした。
自分が本当に、心の底から思ったその想いを言葉にする。
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レ' .l i i i,. : :l i; :l i,: l ヽ: i, `、: i `、:,! _,r''''''''''''''''''''''''''''''ー- i、: : :ト、!
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―――――――凛。君がマスターで、本当に良かった。
朝陽が眩しい。
新しい一日が始まるまであと少し。
さあ、このお姫様がもう一度目覚めないうちに、家に連れて帰るとしよう。
今日もいい一日になりそうだ――――――――――――
- 18 名前:フェイスレス司令 ◆eGKaonaSII :04/03/17 23:17
- 春を愛する人は―――
「……春ねぇ」
桜舞うその公園をゆっくりと歩きながら、僕は呟く。
淡く儚くしかし美しく力強く――そんな矛盾に満ちた色……
いや、そんな理屈はどうでもいい。
この色は――
この花は――
この桜は――
人を引きつける、妖しの如き魅力を持つ。
辺りは喧騒。
恋人が――
家族が――
友が――
妖しに魅かれ今日も、
集い……
語らい……
笑いあう……
春は出会いと別れの季節。
使い古された言い回しだが。
人は人と、笑顔と共に出会い涙で別れる。
全てには始まりがあれば必ず終わりもある。
この美しい花が、永遠に咲きつづける事が無い様に。
出会った者との別離は。
いつか、そう必ず訪れる。
――――それがどんなカタチであれ。
なぜならそれが摂理。
「でも。春はまた巡るよねぇ〜」
スッと日除け眼鏡を外し。
その瞳で直接春の花を見る。
そう。
春はまた巡り来る。
そしてこの花も――『年々歳々花相似たり』――
また、美しく咲くだろう。
決して同じではないが。
ならば人もまた――『歳々年々人同じからず』――
決して同じではないかもしれないが。
だが、また出会えるだろう。
素晴らしき出会いに笑顔――
避けられぬ別れを知るが故に、人は涙で出会いを喜ぶ。
悲しき別れに涙――
再び巡る出会いを知るが故に、人は笑顔で別れを悲しむ。
春は出会いと別れの季節。
春は新たな命芽吹く季節。
春は総ての始まり告げる季節。
素晴らしきかな春。美しきかな春。嬉しきかな春。喜ばしきかな春。
春を称えよ。春を誉めよ。春を誇れよ。春を愛せよ。
春を愛する人は―――
「だけど。僕は大っ嫌いだね」
- 19 名前:フェイスレス司令 ◆eGKaonaSII :04/03/17 23:17
- あの、菜の花咲き乱れる春の日。
「フランシーヌは一度も僕を愛してくれなかった。
兄さんは僕が欲しいもの全部を……はじめから手に入れてたんだ」
春は僕からフランシーヌを奪い。
春は僕から兄さんを奪い。
「アンジェリーナ……どうして……」
僕からアンジェリーナを奪い。
「さよなら人形め! さよならフランシーヌと違う者!」
与えてくれたのは絶望のみ――
僕の春は、あのむせ返る様な匂いの黄色い花と憎悪でカタチ創られる。
「ああでも……」
来年の春は違うだろう。
その時。僕の隣には彼女が居る。
エレオノール。
――僕の3度目の出会い。
――僕の運命の女。
――僕のフランシーヌの生まれ変わり。
そうか。彼女と僕の永遠の愛に、この花は似つかわしいかもしれない。
咲き…散り…そしてまた咲く櫻の花―――
老いてもまた生まれ変わり永遠に愛い続ける僕等―――
別れという摂理すら乗り越え。僕等は永遠に愛し続ける。
「うんそうだ! 来年は、彼女と2人っきりでのお花見ってのもいいねぇ」
そう。
彼女と僕だけで。2人愛を、この花の下で語らいあう。
誰にも邪魔される事無く。
誰にも奪われる事も無く。
永遠の愛を――今度こそ…今度こそ……
春を愛する人は 心清き人―――
「その時。僕はこの春を……好きになれるだろうか―――」
そこで立ち止まり。自分の後を振り返る。
そこには何も無く、
ただ、ヒラヒラと桜が舞っているだけであった。
- 20 名前:八 神 雲 ◆NhPQ0QdbR6 :04/05/03 19:13
- 夜…この公園に
―――南風(ハエ)が拭いた
とびっきりの熱い風が吹き荒んだ。
この風は人を枯らせ恨みと憎しみと怒りが人の心に芽生える。
―――今も何処かで俺をいや…八神流を呪う格闘家達は大勢いる――
翌々思えば俺の祖先達は琉球大交易時代に
世界の在りのあらゆる格闘技を研究しながら
約200年間の間に無数の名のあった闘技の使い手達を
その拳で――殺めながら
歴史の影で完全な闘技として
生まれた闘争術が南王手八神流――
南風が拭いたのはその頃か…と仮説を言ってみたりした。
八神の血が流れているのは事実だが俺は既に“八神流”を捨て新しい生き方を見つけ
世界はまだまだ広い…
俺は夢を叶える為にいつか世界の兵達と
この拳で
――――――――――――――――どつき合う!!
そう…俺はその夢を追い続ける挑戦者なんだと!!
…このナイファンチの構えで俺は突き進む。
――誰いない公園に一人たちながら
右腕を力強く握り締めた拳を眺めていた。
- 21 名前:八 神 雲 ◆NhPQ0QdbR6 :04/05/04 00:21
- 拳を高く掲げ眺めていると…夜空に浮ぶ星は輝き
電信柱の電灯がピカピカとひかりはじめ
耳を済ませば風の音を聞き取れる。
季節は春から夏へと徐々に変りつつあって
まだ生暖かい――
俺の体に拭く生暖かい
この風が“南風”だ。
本当の“南風”は血生臭い匂いを放ちながら
凄艶な瞳を持つ男…そいつの名前が俺の義兄、阿麻王
奴の放つ“南風”は俺の様にあまくはない。
仮にこの場所にいれば小動物の命を絶ち
此処は俺と兄貴の合戦場と化す。
その時、俺はどんな風な心境でやつとむきあっているだろうか?
少なくともやつとは…“兄弟”とは思わない…
慈悲の深さを俺は身近にいる
人達に改めて教えられ俺の空手だけで倒す!
南王手八神流の八 神 雲ではなく
八 神 雲として…俺はやつを倒す!!
やつには俺の拳で“罪”よりも重い物で打ち抜く…
躊躇う事無く。
高く掲げた右腕の拳をおろし
締めた拳の中には一枚の鉢巻が
“南風”によって扇がれ揺れながら
俺は尚も固く心に誓いながらベンチに座る――
- 22 名前:八 神 雲 ◆NhPQ0QdbR6 :04/05/04 01:38
- ベンチに座りそのまま両腕を握り締めあい
俺は何度も――
俺は何度も――
俺は何度も――
―――――頭の中に奴との闘いが思い浮かぶ
鳥肌が立ち嫌な寒気を感じる。
やつと再び闘う時は、俺に圧し掛かるやつの圧力の重さは
この程度ではすまされないが…俺は怯まない
志半ばで倒れていった格闘家達のためでもあるが…何より俺の闘いでもある。
だから俺は戦う時
俺だけの為に戦う!!
歴史の影で完全な闘技として
まれた闘争術 南王手八神流を俺が外側から今度こそぶっ潰す!!
そしてまた俺は…ベンチをたち時計台を眺めて口を開いた
「…そろそろ戻るか…」
夜…この公園に
―――南風(ハエ)が拭いた
とびっきりの熱い風が吹き荒んだ。
だがこの“南風”は“南風”としては恐怖はなく
この公園を静に見守る“南風”だった…
梅雨が過ぎればもう時期、夏の季節が来る。
この“南風”はそれの表れだと俺は信じながら公園を後にした――
- 23 名前:西行寺幽々子 ◆CLAMPx5vFk :04/06/17 15:39
―――――神風にこころやすくぞまかせつる
さくらの宮の花のさかりを―――――
公園の中に何時やらか在った建物。
公園を散歩する人に聞いても何時からその建物があったか知らないと言う。
もしかして最初からあったかもしれないし、昨日出来たのかもしれない。
不思議なのは誰に聞いても、その建物があるのは当然の事と言った感じで返答が来る事である。
建物の入り口の所には『白玉楼』と書いてある。
入り口は開かれており、誰でも気軽に入れそうな感じである。
ただ入り口から中を覗こうとしてもどういう訳か見通せない。
人に聞くとその建物は少女が住んでいると言う。
ある老人は少女は酷く儚げな様子で桜を見ていたと言う。
ある子供は少女は楽しそうな様子で月を見ていたと言う。
ある男性は少女は哀しそうな様子で蛍を見ていたと言う。
ある女性は少女は嬉しそうな様子で雪を見ていたと言う。
話に出てくる少女は不可思議にも人にまるで異なる。
この建物はもしかしたら明日にも消えてしまうかもしれない。
それくらいに希薄な印象を建物から受けるのだ。
一陣の風ともに散る桜の様に、その存在感の痕跡すら残さずして………人の記憶からも。
―――――今在る事実は一つである。
目の前には確かに一つの建物が在り、入り口は開かれている。
訪れる者は拒まれる事はないであろう。
中に居るであろう少女に何か話をしてみるのも良いかもしれない。
単に戯れ、物見遊山程度の気持ちで中を覗いてみても良いかもしれない。
少女はきっと幽雅に笑いながら応対してくれるだろう。
- 24 名前:名無し客:04/06/17 23:55
- (物見遊山程度の気持ちで、ひょいと中を覗いてみる)
ぐわあっっ、こんな所に見るもおぞましい猫の腐乱死体がぁぁっ!!
ttp://www.bateshouse.com/pics/cat.jpg
うー、なまんだぶ、なまんだぶ。
(青ざめた顔で足早に去る)
- 25 名前:西行寺幽々子&魂魄妖夢 ◆CLAMPx5vFk :04/08/07 04:30
- http://appletea.to/~charaneta/ikkoku/img/1079013307/25.jpg (107 KB)
「幽々子様、幾ら何でも二月は空けすぎですよ」
いやいや、妖夢。
悠久の時の流れでは二月なんて空けた内にも入らないわ。
具体的に今まで食べたご飯の数が大体120杯程度増えただけ程度の時間。
「一日三食なら180杯じゃないんですか?」
代わりにパンの枚数が120枚増えたのよ。
ぐろぉばる化の波に従って、洋食にね。
「意味が分かって言ってるんですか………」
何事も形から入るのが重要なのよ。
という訳で再度自己紹介ね。
名前:<華胥の亡霊>西行寺幽々子/<半人半霊>魂魄妖夢
出典:東方妖々夢、東方永夜抄
年齢:妖夢、私たちって何歳だっけ?(亡霊に年齢なんてありませんよ、幽々子さま……)
性別:名無しさんが妖夢を男の子って言ってない?(言ってません!(怒))
国籍:冥界良いとこ、一度はおいで?
(疑問形で言うのはどうかと思われます、それに普通冥界に来るって事は死ぬ事ですし)
職業:亡霊って職業だったんだね、初耳。(そんな訳ないでしょう。令嬢でよろしいかと)
趣味:花見とか昼寝とか読書とか……妖夢、剣の稽古、めんどくさい。
(剣の稽古なんて、ここ一週間全然やってないじゃないですか………)
恋人の有無&好きな異性のタイプ:妖夢、幻想郷で男の人って見かけないね〜。
(書籍の方では居られるみたいですが)
好きな食べ物:そういえば亡霊ってお腹一杯になるのかな?
(説話とかでは食べても食べても平気であるとか言われますね)
最近気になること:満月がなくなった事、月見が出来ないって寂しいわね。
(そんな理由で東方永夜抄は出られたのですか………)
妖夢、月見蕎麦も月見団子も今だと意味が無くなるわ、多分。
一番苦手なもの:饅頭が苦手?
(又疑問形ですか……。それに饅頭こわいなんて今時誰もひっかかりませんよ)
得意な技:
西行寺幽々子
・ショット 「対岸の誘い」
・使い魔 「死蝶霊」
・スペルカード 死符「ギャストリドリーム」
・ラストスペル 死蝶「華胥の永眠」
魂魄妖夢
・ショット 「六道怪奇」
・使い魔 「半幽霊」
・スペルカード 人符「現世斬」
・ラストスペル 人鬼「未来永劫斬」
「幽々子様、これ、一週間スレの使いまわしですよ」
再利用というのは地球資源に優しいらしいわ。
それに形式美というのもあるのよ。
- 26 名前:西行寺幽々子&魂魄妖夢 ◆CLAMPx5vFk :04/08/07 04:31
- >>24 猫の死体
「わ、ししししし、死体!?
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……………」
亡霊に念仏を唱えられると成仏するのかしら?
最も妖夢は半分人間だから、半分だけ成仏出来るとか?
残った半分は猫亡霊として彷徨うのかしらね。
それはそれで一度見てみたいけど、妖夢、この猫、死んでないわよ。
「え………あ、あれ、本当だ」
猫は死ぬ時は自分の死ぬ姿を見せないのよ。
人知れず、この場合は幽霊知れずにひっそりと朽ちていくの。
土から産まれて、土に還る………一番、自然な、本来あるべき姿ね。
輪廻転生。
又何れ、魂は巡って再び産まれる。
その時猫が又猫であるか、それとも別の何かになるかは分からないけど………
それが生と死の境界の向こう側――――延々と連なる輪よ。
……ねえ、妖夢。私は生きていた頃の記憶は全く残って無いわ。
亡霊になってから既に千近い時を重ねているけど、
私1人だけ在るべき輪から外れているというのはどうなのかしら?
「――――幽々子様、森羅万象には須らく意味はあります。
例え、偶然と思える出来事でも必ず何かの意味が込められている。
幽々子様が亡霊として在り続けるのも何か意味があるのでしょう。
人の身とそう変わらぬ未熟な私ではその意味は分かりませんが……………」
何時か、分かる時が来るのかしらね。
千の時を重ねても分からず、次の千の時を重ねてもきっと――――――
「その時まで、いいえ、何時までもこの妖夢がお供します。
今はそれが答えでは駄目でしょうか?」
……そうね。
苺の入ってない苺大福くらい物足りないけど、今はそういう事にしておきましょう。
この今という瞬間もそれなりに楽しいのだしね。
「――――はい」
で、妖夢、この猫、白玉楼の中に入れておいて。
こんなに夏度が高い中に日差しをまともに浴び続けたまま、寝ていたら、
本気で成仏してしまうかもしれないから。
「畏まりました。(こういう所があるから、妖夢は幽々子様についていくのですよ)」
- 27 名前:名無し客:04/08/08 10:47
- 吸血姫美夕スレに居る美夕嬢は幽々子嬢に似通ってる気がします。
姫、従者のオプションつき、不老不死?と共通点多数。
最もあちらの方が遥かに悲観的でありますが・・・・・・幽々子嬢は彼女をどう思いますか?
- 28 名前:西行寺幽々子&魂魄妖夢 ◆CLAMPx5vFk :04/08/19 23:59
うなゐ子がすさみに鳴らす麦笛の声におどろく夏のひるぶし
妖夢………という事で下界に涼みに行くわよ。
下界の里では花火を催すらしいし。
「何が、という事でか、よく分かりませんが?」
いやいや、妖夢。
考えるんじゃないの、感じるのよ。
具体的には河原に腰を下ろして、団扇片手にかき氷を食べながら涼むのよ。
勿論シロップなんてのはかけなくて「すい」。
砂糖水で味わう、これが通の味よ、覚えておきなさい。
「はあ、覚えておきますけど。
とりあえず、下界に向かうと言う事で良いんですね」
そうね、善は急げとも転がる石には苔生えぬとも言うわ。
何事も勢いが肝要なのよ。
「(………苔でも生やして少しは落ち着いてほしいのだけど)」
「幽々子様、花火を見る場所はここの河原で良いんですか?」
そうね、ここで良いわ。
人も居ないし、気持ちよく見れるわ。
亡霊だから虫刺されを心配しなくてもいいし。
「分かりました。
それでは里に行って、かき氷や適当な飲み物を調達してきますね
………幽々子様、知らない人に飴くれるからとかでついていっては駄目ですよ」
そうね、飴ではなくお団子だったらついていくかもしれないわ。
だから、なるべく早く戻ってきなさいね。
「はいはい、急いでいきますよ。
私だって花火を落ち着いて見たいですから」
むすぶ手に涼しき影をそふるかな清水にやどる夏の夜の月
ぼーん、ぼーん、と。
こうやって清流の流れを聞きつつ、月夜を背景に咲く一輪の華。
咲くのは一瞬、散るのも一瞬。
蓋し、花火も………春も桜も人の魂も同じ。
さまざまなものの形の縮図が――――――あれ、あの花火、少しおかしくないかしら?
- 29 名前:霧雨魔理沙 ◆0mM.SPARK2 :04/08/20 00:02
- スターダストレヴァリエ〜、っと。
……んあ?
あー、なんだ死人嬢。あんたも花火見物か?
んじゃ私のもついでに見てくといいぜ。でかい星形の花火っぽいやつ。
お代は見てのお帰りだから気にしなくていいぜ。
- 30 名前:西行寺幽々子 ◆CLAMPx5vFk :04/08/20 00:03
――――――
――――――
――――――
……黒い魔、一体、何を考えているのかしら?
種々に咲き乱れる刹那の華の中に余計な不純物は必要ないの。
花鳥風月、どうして昔から美しいものの代名詞として出されているか分かる?
それ自体既に完成された美だからよ。
そこに何か一点の染みがあるだけでもう駄目なの。
幻想からただの妄想に堕してしまうのよ。
美味しい御萩の上に蜂蜜をかけられたような気分。
それとも黒い魔は蜂蜜をかけた御萩みたいなのが好きなのかしら。
何処かの七色が言っていたけど、それでは本当に黒白二色の油虫の如き、下手物喰いよ。
花火は見て楽しむものということを履き違えてはいけないわ。
黒い魔は不純物を混ぜる事で花火の本来の意味を変えてしまったの。
花火が人を見て楽しんでは本末転倒よ。
- 31 名前:霧雨魔理沙 ◆0mM.SPARK2 :04/08/20 00:05
- 染みとは失敬な。合わせることでより引き立つものだってあるぜ。
それに、世の中にはミスマッチってものもあるらしいしな。
御萩に蜂蜜はそりゃ合わないかも知れないが、胡瓜に蜂蜜ならどこかの果物みたいな味に……
あれ、これはちょっと違うか。
とにかく、組み合わせ次第だ。
そいつ自体が、本当に「既に完成された美」だってんなら話はそこで終わってしまう。
花は日光を浴びて鮮やかに。
鳥は青い空白い雲の中を軽やかに。
風は花吹雪を舞い散らせる。
月明かりには月下美人。
合わせるからより綺麗なんだぜ。
……ま、確かに私の魔符はちょっと自己主張が過ぎたかも知れないけどな。
けれど何事も試行錯誤、挑戦なくして成功なしだ。
だからいいんだよ、今は。
んじゃ、お言葉に甘えて見物するほうに回るか。
庭師が美味いもの持ってきてくれるみたいだしな。胡瓜と蜂蜜とか。
- 32 名前:西行寺幽々子 ◆CLAMPx5vFk :04/08/20 00:05
- そうね。
確かにある意味では黒い魔の言う通りかもしれないわ。
大福の餡の甘さに苺の酸味、これが合うなんて最初誰も考えなかったのと同じね。
試行錯誤の繰り返しで更なる高みに上る。
人が他の獣と違う点はまさにそこの尽きるかもしれないわね。
………でも、黒い魔。
その試行錯誤という言葉の裏にどれだけのものが埋もれているか考えた事はあるかしら?
無数の失敗作、屍の山が積み重ねられている、それを黒い魔は知ってる?
蓋し桜の花があんなに美しく咲くのも、その下に無数の屍があるからこそ。
戯れに聞いてみるわ。
黒い魔の試行錯誤。
そこには何が埋もれているの?
そこから何が生まれてくるの?
- 33 名前:霧雨魔理沙 ◆0mM.SPARK2 :04/08/20 00:42
- 無数の失敗作、屍の山?
おいおい死人嬢、何を言ってる。私は魔法使いだぜ?
失敗作生産はもはや日課だ。屍の山と言うべきものもな。
ていうか実際山出来てるんだがうちの部屋。
いい加減使えそうなのを拾ってあとは処分しないと……ってんなことはどうでもいいか。
で、そこに何が埋もれてるのかそこから何が生まれてくるか、だ?
やれやれ、決まってるだろそんなの。愚問だぜ。
そりゃもちろん……
- 34 名前:霧雨魔理沙 ◆0mM.SPARK2 :04/08/20 00:43
私が知るわけがない。
- 35 名前:霧雨魔理沙 ◆0mM.SPARK2 :04/08/20 00:43
- 当たり前だぜ。
解答の用意されてる計算問題じゃあるまいし、そんなの「今」の私が知るもんか。
私の試行錯誤には?
何かが埋もれてるんだ。そして何かが生まれるんだ。
必要があって作り出すのでも、興味を持って作り出すのでも、なんだってあるぜ。
下手すりゃ、その失敗作の中から新たに生まれたりもしたりな。
そうだぜ。全部、試行錯誤の果てだ。
あの花火だって、そこらの夜店で売ってる食い物だってなんだって。
自分が「今」知らない何かを「いずれ」生み出すための試行錯誤の、その結果。
至って簡単な話だ。だから愚問。
ま、たまには愚問をあれこれ考えるのも楽しいけどな。
あー、これも試行錯誤の一種か?
……つか、何でまたそんなことを聞くんだ死人嬢?
私の魔法に興味でもあるのか?
- 36 名前:西行寺幽々子 ◆CLAMPx5vFk :04/08/20 02:00
- 魔法?
ええ、後で妖夢が持ってくる飲み物と同程度には興味はあるわ。
生者と死者の境界を乗り越えて冥界に飛び込んでくる物好きぐらいは覚えるわ。
これでも物覚えには自信はあるの。
一週間前の献立も詳細にいえるくらいは?
それに人は物事に興味を無くしたら、おしまいよ………最も私は亡霊ですけど。
この前の春を覚えているかしら?
そう、冥界に春度を取り戻しにあなたたちがやってきた時ね。
あの時からなんとなく気になっていたのだけど、無理しているように見えたのよね。
紅白は私や妖夢の弾幕をゆったり半ば微笑しつつかわすのに対して、
黒い魔は歯を食い縛って、必死になってかわしていなかったかしら。
神社に遊びに行った時でも、紅白は何時も自然に応対するわよね、そう誰にでも。
あなたは紅白同様に自然にしているのかしら。
聞けば色々な所、冥界のみならず悪魔の館にも出入りしてるらしいけど、
そこまでして、普通の人や妖怪なら足も踏み入れようとしない所に入り込む理由が気になるのよ。
千年亡霊やっていて、そういうのは余り見なかったしね。
妖夢も似たような所があるのよ。
先代の妖忌を超えようとして懸命に努力する。
真直ぐなのは良いこと。
けど、真直ぐな棒は力を入れすぎると、変な方向から力が入ると容易く折れてしまう。
だから、私は妖夢には何時もやりすぎないようにいっているのだけど―――――無理をしてないの、黒い魔は?
- 37 名前:霧雨魔理沙 ◆0mM.SPARK2 :04/08/20 02:54
- 無理をしてる?
冗談じゃないぜ。私だって自然体だぜ? これ以上ないってぐらいに。
確かに、弾幕避けはちょっと必死になってたかもな。
私の魔法は知っての通り、レーザーもミサイルも真っ直ぐだ。だから正面を取るために必死にもなる。
だが、それでいいんだよ。
相手の弾幕を必死になるぐらいでかいくぐって、私の十八番を叩き込む。
一点集中しかできない私の魔法で、突破してみせるんだ。
そういうのが楽しいからやってるだけだぜ。
無理なんざしてない。至って普通だぜ。
つーか、あっちこっち出入りしてること?
なんだ、そんなに無理してるように見えるのか……? 何だか心外だぜ。
別にそれは
楽しそうだから邪魔しに行ってる。それだけだぜ?
妖怪だって人間だって、いろんな奴が居るからなーこの幻想郷には。
で、せっかくだからあっちこっち付き合ってるだけだ。
人間だろうと妖怪だろうと、面白い奴なら邪魔して一緒に騒ぐ。そうでない奴ならそれなり。
ついでに迷惑な妖怪なら、まあ楽しくもないから場合によっちゃ退治したりもするけどな。
迷惑な妖怪退治だ。これまた普通だぜ。
庭師は確かに無理をしてるのかもな。
峰打ちとか鞘当てとか、そういう搦め手だってあるのにどうしても斬撃に拘ってるような感じだぜ。
私のように無理せず柔軟に考えて、当てられるときに最高の一撃、ってだけでも違うと思うけどな。
ん、まあ私は剣術は素人そのものだから的をはずしてるかもしれないが。
あー。
つーか、本当に興味持ってるのかこの私に。なんだか妙に面映ゆい気分がそこはかとなくするぜ。
私はただの魔法使いだしな。いつだって普通なだけなんだが。
そーいやあんたも割と無理をしないほうだな。
こうして簡単に人里降りてきて花火見物して、ついでにかき氷食べようってぐらいだから当たり前だが。
……お、たーまやー、っと。なるほどこいつは邪魔しないほうが綺麗だったな。
りんご飴でも片手に見たいぜ。庭師買ってきてくれりゃいいが。
んで死人嬢、あんた千年間ずっとこんな調子なのか?
私はそっちが興味あるぜ。興味返しだ。
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