吸血大殲第56章「散り往く者に墓碑銘は無く」
- 1 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ:2003/08/16(土) 02:21
- このスレは血を啜り夜に閉じこめられたバケモノ――吸血鬼と、昼の世界を守り続けるハンター達の戦場だ。
もう、誰が何時始めてどれくらいの間続き続けて来たのか忘れるほど、その歴史は長く、深く凄惨。
そして決して終わらない、そんな戦場だ。
だが、そんな戦場にもたまには質問などという酔狂な迷い人もいるだろう、遠慮はいらん。
その場合、回答者を指名するのもいいだろう……気が付けば返答があるはずだ。
次スレは、総容量480Kを超えた時に、"超えさせた奴"が立てるようになってりう。
だが、そいつが気付いていない時などもあるだろう……臨機応変に対応するのが上策だ。
500Kが完全移行の目安となる。
age/sageは各人の任意だ。下がりすぎている場合は上げるなどの配慮があればなおいい。
ただし、メール欄に自分の出典は必ず入れろ、コレは絶対だ。
- 2 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ:2003/08/16(土) 02:22
- だが、殺し殺され塵と骨だけが残る殲争にもルールというモノはある。
以下を熟読し、闘争に備えるのだな。
―参戦基準の判断―
参戦基準は原則、『吸血鬼』に関係がある者とする。
これは原典が吸血鬼を取り扱っている、参戦者が吸血鬼、あるいは狩人である事と定義する。
―逸脱キャラクターの処遇について―
逸脱キャラクターとは原典が吸血鬼と無関係であるものと定義する。
此処はあくまで『吸血大殲』なのだから、吸血鬼と無関係な闘争は決して許されん。
認められるのは、あくまでも『吸血』というロジックに従った闘争のみだ。
逸脱者を使いたいのであれば、その闘争を『吸血大殲』に仕立て上げろ。
雰囲気がどうこう、という問題ではない。
明確かつ説得力を伴った『吸血』のロジック、それのみが必要となる。
異端が異端として見られないようにするには、相応の努力と実力が必要だ。
可能性は無限だ。やりようはいくらでもある。
既存の闘争やZEROスレ(http://www.appletea.to/~charaneta//test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=059908024)
などに目を通して、先達の闘争を参考にするのも手だろうな。
参加者は以上のことを念頭に置いて戦え――――生き残るため、明日を勝ち取るため、復讐を果たすため。
関連リンクは>>3、参戦の為の自己紹介テンプレートは>>4だ。
新規参戦者は>>3のリンクにある『吸血大殲闘争者への手引き』に目を通し、>>4の自己紹介テンプレートを使って自己紹介をしろ。
- 3 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ:2003/08/16(土) 02:22
- 関連リンクだ。
■『吸血大殲闘争者への手引き』
http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Orion/4504/vampirkrieg.html
■吸血大殲予備板(名称不定、現在の本拠地)
http://www.tpot2.com/~vampirkrieg/bbs/vampire/index.html
■吸血大殲闘争専用会議板(闘争の会議専用)
http://jbbs.shitaraba.com/game/1721/
■参加者データサイト『吸血大殲 Blood Lust』(左手作成・過去ログも全てこちらにあり)
http://members.tripod.co.jp/humituki5272/taisen/index.html
■吸血大殲本家サイト
『From dusk till dawn』
http://www.uranus.dti.ne.jp/~beaker/
『戦場には熱い風が吹く』
http://www.vesta.dti.ne.jp/~hagane/
■前スレ
吸血大殲第55章「ドグラ・マグラ」
http://www.appletea.to/~charaneta//test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=057241929
■太陽板の質問スレ
吸血大殲/陰 其の15 混沌屋敷『眩桃館』地下 〜大殲資料の間〜
http://www.alfheim.jp/~narikiri/narikiri/test/read.cgi?bbs=TheSun&key=1021881487
■広報、情報スレ
吸血大殲ZERO 〜二つ目の序章〜【吸血大殲広報スレ】
http://appletea.to/~charaneta/test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=1037803005
吸血大殲ZERO 2 〜続・序章〜【吸血大殲広報スレ2】
http://www.appletea.to/~charaneta//test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=059908024
- 4 名前:エンハウンス ◆SqaveNgerQ:2003/08/16(土) 02:23
- 出典 :
名前 :
年齢 :
性別 :
職業 :
趣味 :
恋人の有無 :
好きな異性のタイプ :
好きな食べ物 :
最近気になること :
一番苦手なもの :
得意な技 :
一番の決めゼリフ :
将来の夢 :
ここの住人として一言 :
ここの仲間たちに一言 :
ここの名無しに一言 :
- 5 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:22
くらい――――――最初に感じたこと
苦しい――――――次に感じたこと
喉が……………
―――――――渇いた
最後に感じたこと
側にあった蛇口を捻る。
勢い良く透明な液体が吹き出る。
ゴクリ、ゴクリ、ゴクリ……、一心不乱にそれを飲む。
灼ける
やける
ヤケル
喉が焼け付いて、貼り付いて――――――――――――
これだけ飲んだのに渇いて、乾いて、たまらない。
ダメだ………、これでは―――――――癒されない。
- 6 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:23
- >>5
―――――コツン、とコンクリートの床を叩く音……
振り向くと、そこには一人のおじさんが居た。
スーツ姿、仕事帰り……?
ドクン、とそこで跳ねた――――――――
ドクン、とそこで弾けた――――――――
私の心臓が……
私の何かが……
たんと、地面を蹴った。
おじさんの姿が大きくなった。
どんと、ぶつかった。
おじさんがうめき声をあげてとんだ。
後のことは………あんまり、覚えてない。
何時の間にか、あの死にそうなくらいの喉の渇きがおさまって、
何時の間にか、おじさんがいなくなって、目の前に灰があって、
何時の間にか、わたしの両手が真っ赤に染まってた………
そこで気づく。
――――あ、わたし、今、公園に居るんだ……
- 7 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:24
- >>6
わたしは弓塚さつきだ。
わたしは高校生だ。
わたしは人間―――――――じゃない。
わたしは化物―――――――なんだ。
………この事実を理解するのに、結構な時間が必要だった。
いや、多分、理解はしていたと思う。
ただ、認める事が出来なかっただけ。
大体、昨日まで普通の女子高生だったわたしが何故、こんな目にあっているのだろう?
わたしをとり囲む世界は全くの別世界で………
はるか向こうの夜空の星まで見渡せる眼。
遠い繁華街の喧騒すら聞き取れるこの耳。
感覚が変わっただけで、昨日のわたしの持っていた常識はこうも脆く崩れ去ってしまうものだろうか?
「……―――!」
そして、それは不意にやってきた。
あつい
くるしい
いたい
きもち――――――わるい………
この渇きは普通のものじゃ癒されない。
誰か、何か、人を、食事を、血を、手に入れないと――――――
公園の中を走る。
だれか、なにか、ひとを、しょくじを、ちを―――――――
眼を凝らす、耳を澄ます――――コツン。
駆ける、駆ける、駆ける。
足音に向かって、ただ、駆ける。
わたしの視界の中に入ってきた一人のおじさん。
考えるより、先に手を、足を動かす。
わたしの足は地面を蹴って、
わたしの身体は大きく空中を跳んで、
わたしの手はおじさんの頭に振り下ろされ、
- 8 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:24
- >>7
気絶したおじさんを暗がりに引きずり込む。
わたしは――――――
おじさんの首に指をかける。
ドクン―――ドクン――ドクン………
早くなっていくわたしの鼓動。
おじさんの首に唇を重ねる。
はあ―はあ――はあ―――はあ―――――
乱れていくわたしの呼吸。
おじさんの首に歯を立てる。
ごくり、ごくり、ごくり……
規則正しく脈動するわたしの喉。
「はっ―――あ、う…………!!」
こんなにたくさん飲んだのに、満たされない、加速する痛み。
ごぶりとわたしの口から赤い塊が吐き出される。
ぜえぜえと乱れる呼吸。
がくがくと震える身体。
こほこほと赤い咳。
もしかして―――――――
「―――――無闇に吸ってもダメ……?
質のいい、キレイな血じゃないと、体に合わないのかな―――」
何でもいい、とにかく、この苦痛が治まってくれるなら、構わない。
灰になっていくおじさんを尻目にわたしは再び、駆け出した。
- 9 名前:ロゼット&クロノ:03/09/06 21:25
- >>8
弓塚さつき vs ロゼット&クロノ
「Quo Vadis」
その日、私とクロノは所用でマグダラのとある支部に出頭していた。
仕事そのものは動ということものもない雑務だったのだが・・・・・
昼ごろには帰路に着くつもりが、向こうを出たのはもう日が沈み始めていた。
「思ったより遅くなっちゃったわね〜・・・・・」
「まあ、僕もあそこまで書類の処理に時間がかかるとは思わなかったよ・・・・」
ちら、と車の外に目を向ける。
窓の外ではいくつも外灯が点き、人々がその日の疲れを癒さんと街に繰り出していた。
これは本部に着くのは遅くなっちゃうな・・・・・。
「・・・・・うあ、渋滞だよ」
クロノが、目の前の車の列を見て顔をしかめる。
「うーん・・・・参ったな・・・こんなのに巻き込まれてたら帰りがさらに遅く・・・・よし!」
私は、ハンドルを切って路地裏へと車を進めた。
「・・・・ロゼット?」
「近道するの! 並んでなんていられないでしょ?」
怪訝な表情を浮かべながら問いかけるクロノに、私はさらりと答える。
「道・・・わかるの?」
「んーん、全然。でも、何とかなるでしょ!」
「やれやれ・・・・」
気楽な私の答えに嘆息しつつも、クロノも疲れが溜まっていたのか
特に反論することもなくぼふっとシートに体を沈めた。
私のハンドルさばきに答え、車が狭い路地を右に左にと曲がる。
「そろそろ・・・抜けるはずなんだけど・・・・・」
私が、何度目かの角を曲がろうとしたとき――――
「ロゼットッ?!」
「――――ッッ!!!」
路地裏から、いきなり飛び出してくる影!
あわててブレーキを踏む。
スピードが出ていなかったせいもあり、ブレーキの甲高い音を立てて車は影の直前で止まった。
「ちょ・・・・アンタ! 危ないじゃな・・・・・?」
車のドアを開けて、目の前の影に向かって文句を言おうとした私の言葉が、途中で切れる。
飛び出してきた影は・・・・女の子だった。
年は私と同じほど、服や手を紅く・・・そう赤く染めて荒い息をしている。
これは・・・・・!
「だ、大丈夫?! 怪我してるの?!」
私とクロノはあわてて車を降りると、彼女の元へと駆け寄った。
- 10 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:26
- >>9
――――――寒い……
今までに経験したことのあるどの寒さとも違う。
身体の中から、感覚が薄れて、壊れていく、寒さ――――――――
――――――痛い……
今までに経験したことのあるどの痛みとも違う。
身体の中から、神経がぶちぶち途切れていくような痛み―――――――――
はぁ……はぁ……………はぁ……はぁ…………
呼吸はますます不規則に乱れて、
どくん……どくん………どくん……どくん……
鼓動はどんどん不規則に乱れて、
―――――キキイッ!
……………
……………
酷く、渇いた、味気の無いそれがわたしの中の雑音を一瞬、打ち消す。
『ちょ・・・・アンタ! 危ないじゃな・・・・・?』
声―――――女の子の………
喉が渇く………
昼間の砂漠に取り残されたら、こんな感じだろうなってくらい、喉が………
『だ、大丈夫?! 怪我してるの?!』
……わたしを覗き込むシスターの格好をした女の子。
必要なのは血。
この渇きは水では癒されない………
「……………」
女の子をじっと見据える。
うん、この子なら丁度いいかも………
質のいい、キレイな血をしてそう………
……右の手を女の子の右脇腹へと突き出した―――――――
- 11 名前:ロゼット&クロノ:03/09/06 21:27
- >>10
弓塚さつき vs ロゼット&クロノ
「Quo Vadis」
『・・・・・・・・・』
荒い息の下、彼女が私を睨みつける。
その目は、酷く充血してまるで血を流したように――――いや。
彼女の瞳は、本当に「赤」かった。
「・・・・・・・」
彼女と目が合う。
その赤は、深く紅い。その瞳に見据えられていると、なんだか・・・・意識が・・・・とお・・・・
「ロゼット!」
どん! と体が押し飛ばされる。
ッ・・・・・? な、にが?!
たたらを踏みながら体勢を立て直しつつ、私を突き飛ばした張本人のクロノへと視線を向けた。
そして、私は見た。
クロノが、右手で目の前の彼女の手を必死で押さえ込んでいる。
もし、クロノが開いた腕で私を突き飛ばさなければ、彼女の腕は私を抉っていただろう。
「あんた――?!」
私は、思わずホルスターから銃を抜き、両手で構えつつ彼女へ向けた。
クロノは、ぐるんと宙返りをしながら私の隣へと音もなく着地する。
「・・・・・ロゼット、気をつけて。 コイツは、『人間じゃない』!」
・・・・・ッ!
その言葉に私は劇鉄を引き起こす。
その銃口の先には、紅い、紅い瞳の、少女。
冷や汗が、背中を伝った。
- 12 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:28
- >>11
飛び込んで来た黒い影、女の子はそれに突き飛ばされて………
「え……?」
その黒い影がわたしの右手をがっしり掴んでいた。
『あんた――?!』
黒い影―男の子がわたしを睨みつつ、わたしを押しやって、後退する。
『・・・・・ロゼット、気をつけて。 コイツは、『人間じゃない』!』
男の子の叫び――――――それはわたしの胸にずぶり、と突き刺さる。
「――――あはは、そうなんだ。わたし、もう人間じゃないんだよね」
けど、凄く痛い、その言葉、その指摘。
もう、普通のひとから見ても、わたし、人間に見えないんだ………
……ただ、その事実がわたしにはショックだった。
「夢だと思いたい、今、わたしに起こってること……」
突きつけられる事実。
認めたくない、目を背けたい真実。
けれど――――
渇きが
ひりひりと焼け付くような喉
寒さが
がくがくと震えつづける身体
痛みが
ずきずきと悲鳴を挙げる身体
これらがわたしに現実を突きつける。
「痛いんだ、わたしの身体が中から悲鳴を挙げて、壊れていってる………」
ガチリという鈍い音。
女の子の手に握られる黒い鉄の塊。
普段ならブラウン管の向こうでしか目にしないモノ。
……それが今、わたしに突きつけられてる。
もう、夢じゃないんだね。
わたしの身体も、目の前の簡単にひとを殺せる道具も、確かな現実として、此処にある。
――――わたしの、痛みも、寒さも、渇きも、
――――女の子の手の中の銃も、その殺意も、
みんな、現実なんだ――――
「この痛みを、和らげてくれるのはね、赤い、真っ赤な血しかないの」
ゆっくりと女の子のに近づいていく。
女の子のトリガーにかかった指を見ながら、一歩一歩、ゆっくりと………
「だから、わたしはあなたの血をもらうんだ。そうすれば少しは楽になれるから――――」
ある程度、近づいたところでわたしは地面を蹴る。
女の子の頭が一瞬でわたしの左腕の届く範囲へと……
……わたしは左腕を大きく振りかぶって、左手を女の子の頭へと振り下ろした。
- 13 名前:ロゼット&クロノ:03/09/06 21:29
- >>12
弓塚さつき vs ロゼット&クロノ
「Quo Vadis」
笑う。目の前の彼女が笑う。その笑いのなんと悲しいことか。
「あ・・・・・・」
そんな彼女の姿に、私は思わず憐憫の思いを抱く。
この子は本当に人間じゃないのか? そんな考えが私の頭をよぎった。
「クロノ・・・・この子本当に?!」
車から予備の武器パックを引き出しているクロノに向かって問う。
クロノは彼女を一瞬見て、彼女の動きを警戒しながら叫んだ。
「―――間違いない。
『元は』人間だったんだろうけど・・・・・彼女の体から霊子(アストラル)がどんどん流れ出てる。
おまけに、全身を呪詛が駆けずり回って組織が『組み変わり』はじめて・・・!」
―――く。
どうしようもないのか。助けられないのか。私に出来ることはないのか。
私は、銃口を彼女に向けながら苦悩していた。
『痛いんだ、わたしの身体が中から悲鳴を挙げて、壊れていってる………』
彼女が足を一歩進める。動きにあわせて一歩下がる。
『この痛みを、和らげてくれるのはね、赤い、真っ赤な血しかないの』
彼女が足を一歩進める。動きにあわせて一歩下がる。
『だから、わたしはあなたの血をもらうんだ。そうすれば少しは楽になれるから――――』
彼女が跳ねる。
渇きと、飢えと、そして生けるものに対する羨望の入り混じった感情を放ちながら。
「ロゼット!」
「くッ!?」
私は、ポシェットから十字のオブジェクト―反響体(エコーズ)―を取り出し、構える!
反響体が淡く輝き、彼女の腕がまるで見えない壁に阻まれたかのように止まった。
反響体は配置することによって強大な結界となるが、それ単体でも簡易的な防御結界にもなる。
「はッ!」
私は、短く息を吐くと反響体を投げ捨てながら、後ろへと跳ねた。
力を失い、反響体がばきりと音を立てて砕け散る。
「コレ! 受け取って!」
「わかってる!」
クロノが、私に向かって【聖火弾(セイクリッド)―聖油を炸薬代わりに詰めた浄化弾―】が装填されたマガジンを投げた。
私はソレを片手で受け取ると手にしたガバメント・カスタムにセットする。
ああ、こういう形でしか私は彼女を救えないのか。
「主よ――迷える魂に、安寧を!」
祈りの言葉を口にし、指を引き絞る。
十字のマズルフラッシュとともに、邪を滅する弾丸が銃口から放たれた。
- 14 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:34
- >>13
女の子が掲げられた十字架みたいなモノ。 女の子へ振り下ろされるわたしの爪。
それは淡く光り出して、 それは何かにぶつかり、
ばきん、と見えない何かが砕け、壊れるおと
後退する女の子。
男の子が投げる黒いモノ。
ぎらりと不気味に光る女の子の銃。
『主よ――迷える魂に、安寧を!』
女の子の叫びとともに黒い銃口から吐き出される白い光。
……次の瞬間、わたしの左肩が十字架のカタチをした光に包まれ……
白い肉が無数の肉片となって弾けて、
赤い血が無数の飛沫となって弾けて、
……次に来たのは痛み。
本当はあるべき場所が失われた、壊された痛み。
わたしの身体は中から悲鳴を上げて、壊れていく、その痛み。
女の子の銃弾で外から悲鳴を上げて、壊れていく、その痛み。
中と外、ふたつの痛みがわたしを責めたてる。
「――――痛い、もの凄く痛いよ……」
本当に痛くて、苦しい。
いっそのこと、気が狂った方が楽かと思うくらい、いたくて、くるしい―――――
どうして、わたしがこんな目に会わないとダメなんだろう?
わたしは昨日まで本当にただの、普通の、女子高生だったのに……
……どうして―――――?
- 15 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:34
- >>14
―――カチリ
鈍い鉄のおと。
わたしはそれで目の前の現実に引き戻される。
「そうなんだよね、殺すか、殺される、それしかないんだよね………」
つらくて、きびしくて、いたい、現実はわたしに一瞬の幻想(ゆめ)も見せてくれない。
けど、これで、何も分からない間に殺されるのはいや。
だから、わたしは………
「あなたを殺すしかないんだ………」
女の子の銃口を見る。
狙いはわたしの―――――、なら………
姿勢を低くして、そのまま女の子の懐へと駆ける。
ずれる女の子の銃口。
一瞬だけど、わたしが消えたように見えたせいか……
赤く光るわたしの爪。
何人ものひとの肉を引き裂いて、血を啜った爪。
震えて、裂ける空気。
銃声が木霊して、わたしの爪が空気を引き裂いて、
そして――――――――
- 16 名前:ロゼット&クロノ:03/09/06 21:35
- >>15
弓塚さつき vs ロゼット&クロノ
「Quo Vadis」
着弾。
彼女の左肩が閃光とともに爆ぜて、消し飛ぶ。
同時に、ばしゃりと音を立てて血が飛び散った。
「・・・・・く」
その血が、私を一瞬躊躇させる。
彼女の流す血は、人外というにはあまりに赤かった。
わかっている。彼女の身体能力は明らかに人間のそれを凌駕している。
彼女はどう考えても「人」をやめた存在だ。
けれど、今、目の前で傷の痛みに耐える彼女はあまりにも「人間」すぎる。
「ロゼット、しっかりするんだ!」
クロノの叫び声。
そして。
『そうなんだよね、殺すか、殺される、それしかないんだよね………』
低い、痛みをこらえた彼女の声。
・・・・そうだ。今、私と彼女は殺し合いをしている。
躊躇すれば、死ぬのは私で――そして、私はまだまだ死ぬわけにいかない。
気持ちを、切り替えなきゃ!
「・・・・許して、なんて言わないけど・・・・!」
私は、銃を構えなおし――――?!
視界から彼女の姿が消える。
どこ?!
「ロゼットぉッッッ!」
クロノの叫び声と、全身を走る悪寒。
目の前。足下から迫る殺気!
彼女が、体を地面すれすれまで落とし這うように私に迫っていた!
光る爪。その爪が私の体を引き裂かんと振るわれる!
ちぃ―――ッ?!
言葉を口に出す暇も無い。私は、狙いもろくに定めずに彼女めがけて銃を放つ!
「・・・・・疾ィィィィィィィイィィィッッ!!」
銃声。
何かを裂く音。
そして金属音。
「うっく・・・・・う」
ぱた、ぱたと地面に落ちる赤い雫。
それは、私の体から流れ落ちた血。
彼女の爪は私の服を裂き、私のわき腹に軽く食い込み、ナイフによって「止められて」いる。
「間に合った・・・・みたいだね?!」
クロノが私と彼女の間に入り、武器のパックから出したであろうナイフを片手に、笑う。
おそらく、祝福された銀か何かのナイフなのだろう。
華奢に見えるそれは彼女の爪をしっかりと阻んでいる。
「・・・痛ぅッ!」
私は、その場を飛びのきながらわき腹を押さえた。
大丈夫、傷は浅い。
クロノはその場に残り彼女の爪とつばぜり合いを続けている。
・・・・・・よし!
「クロノ! そのまま暫く彼女を抑えて!」
「了解!」
クロノにそう伝えると、私は反響体をポシェットから取り出す。
体を動かすたびに痛みが走るが、それでも動くことはできる。
反響体をその場に設置。ヴン、と音を立てて反響体が輝いた。
まずは、一つ! 私は、わき腹を押さえながら走る。
十字結界(エンジェルス)を発動させるために!
- 17 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:36
- >>16
『ロゼットぉッッッ!』
叫び。
空気が動いて、影が飛び込んで来て……
柔らかい、暖かい、にく。
暖かい、柔らかい、ち。
気持ちいい、その感触は、けれど、一瞬。
冷たくて、硬い、やいば。
気持ち悪い、その感触が、男の子のナイフが、わたしの爪を阻む。
「…………!」
苦悶の表情で後ろに下がっていく女の子。
必死の表情で爪を受け止めている男の子。
「邪魔を……しないでっ!」
右手にぐっと力を込める。
それでも、刃は悲鳴を上げるだけで折れてくれない。
どうして、折れないんだろう? ……その疑問には、誰も答えてくれない。
いたくて、さむくて、つらいだけのこの身体。
唯一の取り得が、運動神経なのに――――――
どうして、上手くいかないんだろう? ……その疑問には、誰も答えてくれない。
わたしが欲しいのは、ほんのちょっとした安息なのに。
この痛みが、寒気が、ほんのちょっとだけでも軽くなってくれれば、それでいいのに。
―――でも、このままだと、わたしは殺される。
相手はふたりで、わたしはひとり、数だけでも歴然とした差。
いやだよ、死にたくないよ。
こんな降ってわいたような事で死ぬなんて、いやだよ。
わたしはまだ、やりたい事だって、たくさんあるのに。
左腕に力を入れる。
左肩がはじけ飛んでいるせいか、満足に動いてくれない。
そのせいか、男の子の注意は向いてない、だったら……
わたしはね、まだやりたいこと、たくさんあるんだ。
学校でも、家でも、たくさんあるんだ。
それに遠野くんにも、まだ、何も言ってないのに……
「こんなことで死にたくないよっ!」
左手が跳ね上がる。
ぶちぶち、と左肩のにくが切れる音。
びしゃびしゃ、と飛び散るち。
ずきり、と襲い来るいたみ。
……これで、わたしの左腕はもう終わっちゃった。
けれど、わたしの左手の爪は風切り音を立てながら、男の子へと――――――
- 18 名前:ロゼット&クロノ:03/09/06 21:37
- >>17
弓塚さつき vs ロゼット&クロノ
「Quo Vadis」
「なんとぉッ?!」
彼女が、叫びながら左腕を振り上げる。
僕、クロノは上体をそらしつつ地面を蹴ってスウェーする。
そのままバク転しながら彼女から距離をとった。
いくら彼女の体が人外へと変貌していたとしても――
いや、むしろ変貌の過程である現在では傷ついた体を再生するのは困難なはずだ。
・・・彼女はひょっとして自分の体に何が起こっているのか理解しきっていないのか?
「・・・・・・」
手にしたナイフを順手に持ち替える。
やってくれる! 祝福された銀製の刃が、彼女の爪の一撃で少し欠けてしまった。
視線の端でロゼットが二つ目の『反響体(エコーズ)』を設置しているのが見える。
わき腹を押さえながら、痛みに耐えて走るロゼット。
構えたナイフを油断無く彼女に突きつけながら、じりじりと彼女との距離を詰める。
「――――いいかな?」
口を開く。
「君は、吸血種に血を吸われたんだ。
・・・本来なら血を吸われた被害者は自意識のない『生ける屍』になるのが普通だ」
時間稼ぎ。姑息な手段だと思う。
「本来ならばその過程を経て吸血種になるのが普通なんだよ。
なのに君はその過程を経ずに吸血種へと変わろうとしている。
これは、あまりにも稀有な例。自覚してなかったんだろうけど君はそういう『素質』があったんだ」
じり、と腰を落とす。
「―――つまり、君は人間にとって十二分に脅威足りうる存在へと成ろうとしている。
悔しいけど、僕らには君を元に戻す手段も手立てもない。だから――――」
無力だ。僕らは。
吸血衝動は、誰かを求める、他人を求める、孤独を癒したいという感情に比例する。
彼女の死にたくないという願いを、誰かを求めるその切な願いを踏みにじる事しかできない。
「・・・・・僕らはここで君を『救済』する」
彼女が先ほどしたように、体勢を低くして一気に駆ける。
駆けながら、僕は手にしたナイフを彼女の心臓めがけて突き上げた!
- 19 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:37
- >>18
―――叫びとともに男の子が跳ねた。
ぶん、と虚しく空気を切るわたしのの爪。
とん、と後方に着地する男の子。
だらりと力なく垂れ下がるわたしの左腕。
わたしの意思にもう左腕は応えてくれない、動いてくれない。
ただ、ずきりずきりと痛みだけを左腕は訴えつづける。
『――――いいかな?』
言葉。
ギラリと輝くナイフ。
『君は、吸血種に血を吸われたんだ。
・・・本来なら血を吸われた被害者は自意識のない『生ける屍』になるのが普通だ』
何を言いたいの……?
わたしはここにいる。
わたしは――――こんな所で死にたくない………
―――それは確かなわたしの意識
わたしは生きている。
わたしは――――これからも生きていたい………
―――それは確かなわたしの意思
わたしはまだ何もやってない。
学校で遠野くんとお話する事だって満足にやってない。
………遠野くんにわたしを覚えてもらってすらいない。
だから、明日こそ、覚えてもらうんだ、わたしのこと。
―――それは確かなわたしの願い
それの何処がわたしの意思じゃないとでもいうの……?
『本来ならばその過程を経て吸血種になるのが普通なんだよ。
なのに君はその過程を経ずに吸血種へと変わろうとしている。
これは、あまりにも稀有な例。自覚してなかったんだろうけど君はそういう『素質』があったんだ』
男の子の右手に輝くナイフ―――さっき、わたしのを抉ろうとしたもの。
男の子が語る言葉のナイフ―――今、わたしのこころを抉っているもの。
痛い……、わたしの身体はぎしぎしと軋んで、悲鳴をあげている。
さっき、壊れた左肩がズキリと痛んで、
身体の中が所々、壊れていって痛んで、
いたい……、わたしのこころがぎしぎしときしんで、ひめいをあげている。
わたしがばけものなのがどうしようもなくいたくて、
わたしがにんげんじゃないのがいたくてくるしくて、
- 20 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:38
- >>19
『―――つまり、君は人間にとって十二分に脅威足りうる存在へと成ろうとしている。
悔しいけど、僕らには君を元に戻す手段も手立てもない。だから――――』
――――そして、もうひとに戻れないのがどうしようもなく痛かった………
わたしはもう全部、無くしたんだ。
みんなと過ごす、何気ない日常を
わたしが思い描いていた未来を
……本当に小さな幸せでもわたしは満足だったのに、それも無くしたんだ――――
『・・・・・僕らはここで君を『救済』する』
男の子が駆ける、澱んだ空気がざわめく。
ナイフが昏い路地裏に光る、濁った空気が引き裂かれる。
救済―――わたしを殺すんだ?
みんな、無くしちゃったわたしからまだ奪うんだ?
何も無いわたしから奪うんだ?
この鼓動さえも、命さえも、奪うつもりなんだ?
閃光がわたしの左胸へ――――左手はもう動かない、けど、右手はまだ動く。
ぴたりと止まる閃光。
切り裂かれるわたしの右手。
ぽたりぽたりと足元に落ちる赤い雫。
……痛い、痛いけど、死ぬよりはよっぽどまし。
「どうしてかな……? どうして、わたし、何もしてないのに殺されないといけないのかな?」
分からない、本当に分からないんだ。
目が覚めたら、こんな身体になってた。
何も分からなかった。
―――――ただ、痛かった、身体が壊れていくようで………
「……わたしは死にたくない、死にたくないんだ。
わたしを殺すっていうなら、わたしもあなたたちを殺して、生き延びるしかないよ!」
ぐっと右腕に力を込めて、男の子を引き寄せる。
更に切れる手、流れる血。
……でも、大丈夫、これくらいなら、まだ右手は十分に使える。
そのまま、ボールを投げるように男の子を壁へと投げた。
ぶんと大きな肉の塊が壁に向かって、勢いよく飛んでいった。
- 21 名前:ロゼット&クロノ:03/09/06 21:43
- >>20
弓塚さつき vs ロゼット&クロノ
「Quo Vadis」
わき腹が血でぬるぬるする。
足を一歩一歩差し出すたびに、ずきりずきりと痛みが走るのが少し辛い。
傷は深くないけれど、どうやら血管を大きく傷つけてしまったのかもしれない。
そんな痛みに耐えながら、私は手にした反響体をがしりと地面に突き立てる。
ちょうど、彼女を中心にした十字(クロス)の再頂点にあたうであろう位置に。
これで、みっつ!!
反響体は、単品でも簡易的な防御結界を形成するが―――それは本来の使い方ではない。
この反響体を正しい配置、十字に配置することで邪な対象を捕縛する捕縛結界、
『十字結界』を発動することができる。
そして、これは形成される十字の大きさに比例して強くなる。
彼女の力がどれほどの物か分からないが『大天使級(アークエンジェル)十字結界』で何とかなるだろうか。
私は結界を完成させる最後の一個を配置しようと走る。
その時!
「くぅあぁぁぁぁぁぁぁッ?!」
クロノが、悲鳴を上げながら私の目の前に向かって投げ飛ばされてきた!
「クロノッ!?」
思わず足を止めた私の目の前で、クロノが壁へと叩きつけられる。
めきり、という嫌な音とぶち、っという肉の潰れるような音。
「が・・・は・・・・ッ」
「クロノ、クロノッ?!」
私は、ずるりと地面に転がるクロノを抱きかかえて傷を確認した。
コレは・・・・・・『開放』しないと怪我を直すのはムリだ・・・・・!
そんな私の焦燥などお構い無しに、倒れふすクロノと私に向かって彼女が迫る。
「・・・・・くぅッ」
私はわき腹を押さえる手を離し、ホルスターからガバメントカスタムを引き抜いた。
彼女が迫る。
殆ど取れかかった左腕をだらりとたらして。
貫かれた右腕から血をぼたぼたとたらしながら。
外灯を逆光にしたその顔が、どのような表情を浮かべているのかは私には分からない。
それでも。
彼女が泣いているのだけが、私には、何故か、分かった。
- 22 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:43
- >>21
―――苦悶の叫びを上げる男の子。
こつん、と路地裏に響くわたしの足音。
そう、痛いんだ……?
痛いよね、だって、肉がぐちゃりとひしゃげる音がしたんだから。
痛くない方がおかしいよ。
―――男の子の名前を叫ぶ女の子。
ぴちゃり、と地面に滴るわたしの血。
でもね、それくらいじゃ、まだ大丈夫。
まだ、痛いとか、苦しいうちにも入らない。
だって、わたしの方がもっともっと痛いし、苦しいんだから。
―――女の子の手に光る黒い銃口。
たん、とコンクリートの地面をを蹴る音。
痛いんだよ、すごく。
左腕は動いてくれないし、右手も血が止まらない。
そして、今、この間にもわたしの身体の中がぶちぶちと壊れていってる。
女の子がトリガーをその指で引こうと―――わたしの右手が銃に向かって伸びる。
―――路地裏に一瞬の静寂。
めきり、と黒い鉄の塊が軋む音。
あなたたちにはわたしの痛み、苦しみはわからないと思う。
けど、今、この瞬間、少しは感じたかな。
さっきのわたしの気持ちを、死にたくない、生きていたいって気持ちを………
わたしの右手が女の子の銃をただの鉄屑に変えるのはほんの数瞬のことだった。
「……もう、いいかな。
わたしは生きる為にあなたたちを殺して、その血を啜るんだ。
痛くて、苦しくて、どうしようもないから、あなたたちを殺すんだ……」
わたしは女の子の白い首へと、右手がゆらりと伸ばす、そして―――――
- 23 名前:ロゼット&クロノ:03/09/06 21:44
- >>22
弓塚さつき vs ロゼット&クロノ
「Quo Vadis」
私の手から引き剥がされる私の銃。
しまっ・・・・・?!
油断していたわけじゃない、単純に彼女の速さが私の認知能力をオーヴァーしていただけのこと。
私は、慌ててもう片方のホルスターに手を伸ば――――んなッ?
彼女は、まるで飴細工か何かのように奪い取った拳銃を握りつぶす。
そのあまりの出来事に、私は一瞬我を忘れてしまった。
『……もう、いいかな。
わたしは生きる為にあなたたちを殺して、その血を啜るんだ。
痛くて、苦しくて、どうしようもないから、あなたたちを殺すんだ……』
彼女のその言葉に私は我に帰る。だが少し遅すぎた。
彼女の腕が、細いて、華奢で、赤くて、そして、人をあっさりと殺しさる脅威の腕が、
私の首めがけて伸びてくる。
「ロゼ・・・・ット・・・・・逃げ・・・・・!」
背後から聞こえてくるクロノのうめき声。
彼女の顔が、近づいてくる。
彼女は言った。苦しいと、辛いと、死にたくないと。
だから、生き延びたいから私たちを殺す、と。
そこには、悲しいまでの生への執着があった。
生き延びるためならば他人から全てを略奪することも厭わないまでの、執着。
「う、うあ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ?!」
怖い。はじめてその時、私は本当に彼女を『怖い』と思った。
必死にもう片方のホルスターからモーゼルを引き抜く。
そして、銃口を彼女の眉間へと向けた。
- 24 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:44
- >>23
恐怖―――死ぬってことを前にひきつる女の子の顔。
『う、うあ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ?!』
叫び―――生きたいって気持ちが込められた声。
……瞬間、わたしの脳裏にさっきの光景が浮かんだ。
『こんなことで死にたくないよっ!』
叫びとともに男の子に爪を振るうわたし。
わたしも死にたくない。
わたしも生きたい。
そんな気持ちが込められた言葉。
なんでだろう?
何故か、その瞬間、確かにわたしの手がぴたりと止まった。
今すぐにでも、この手で女の子を殺さないと、殺されるのはわたしなのに………
――――――――
――――そうだよね……
誰だって、死にたくないんだ、わたしもあなたも、死にたくなんかないよね……?
痛いのも、苦しいのも、誰だって嫌なんだ。
―――ガチリ……
「え………?」
わたしの思考はその鈍い音で破られた。
何時の間にか女の子の手には大きな黒い銃が………
まずい、まずい、なんとかしなくちゃ、なんとか―――
足に力を入れ――女の子の指がトリガーを――――わたしの身体が右に跳ね―――かわいたおと。
右のこめかみに鋭くて熱い痛み。
焼けた何かこめかみを抉って――――
「痛っ―――――――」
右の視界が真っ赤に染まる。
ねとりとした熱い感触がわたしの右頬を伝っていく。
……そして、銃を構えた女の子がわたしの左の瞳にしっかりと映って――――――
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――」
叫んだ。
熱くて、痛くて、混乱する思考の中で叫んだ。
シニタクナイ―――――
「ぁぁぁぁぁぁぁ―――――」
跳んだ。
赤くて、ぐるぐる回る世界の中で跳んだ。
しにたくない―――――
「―――――――」
振り下ろした。
わたしが生きる為に、彼女を殺すために、爪を―――
死にたくない―――――!
- 25 名前:ロゼット&クロノ:03/09/06 21:45
- >>24
弓塚さつき vs ロゼット&クロノ
「Quo Vadis」
それは、もう本能のなせる行動だったと思う。
何も頭に無かった。
理性など吹き飛んでいた。
恐怖だけがただそこにあった。
死にたくないという渇望だけがそこにあった。
手に来る確かな銃の反動、相手に死を運ぶ一撃が放たれた証拠。
けれど――――驚異的な運動神経でもって、彼女はその一撃を回避してみせた。
それでも完全には回避できなかったのか、額が裂けて血を流す彼女。
その血は彼女の目を伝い―――まるで、血涙のように顎へと伝う。
叫び声。
跳ねる影。
襲い掛かる彼女。
死ぬ。私は今度こそ死ぬ。
さっきのように、体が動いてはくれない。
私は悲鳴をあげることもできず、目をきつく閉じた。
風を切りながら振り下ろされる、斬爪。
ケープがその爪の一撃を受け、真っ二つになり中に舞う。
それは一瞬の出来事のはずなのに、私には何故か酷く永く感じられた――――。
けれど。
私に訪れるであろう死は、一向に私を神の御許へと運ぶ様子を見せない。
閉じた目を恐る恐る開いてみる。
そこには目の前で聖なる力に捕縛され、体を光に拘束される彼女の姿!
これは―――大天使級十字結界?! 誰が?!
「まに・・・あったね・・・・」
声に振り向けば、そこには這いずりながら最後の反響体を設置するクロノの姿があった。
- 26 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:46
- >>25
―――振り下ろし………
――――――
――――――
――――――
止まった。
あと、数センチ、女の子まであと数センチというところで止まった。
わたしの身体が
わたしの爪が
止まった。
右手にぐっと力を込める。
足を踏ん張る。
………それでも動かない、動いてくれない。
わたしの意思は前に行く。
女の子を切り裂こうとする。
わたしの身体は前に行かない。
女の子を切り裂けない。
―――意思はこんなにも動くことを望んでいるのに、身体は動いてくれない。
なんで!?
どうして!?
あと、あと数センチで、
もう、もう一瞬あれば、
女の子を殺せるのに―――――――!
生きる事が出来るのに―――――――!
動いて、動いて、動いて……!
わたしは生きるんだ、絶対!
どんな事をしてでも、殺してでも、血を啜ってでも!
そうしないと、わたしは……!
死ぬのは嫌、絶対に!
こんな理不尽で死ぬのは嫌!
……動かないこの身体。
痛みとか渇きとか訴えるばかりのこの身体。
遂にわたし自身まで裏切って、動こうとしないこの身体。
わたしの意思はくるくると空回りするばっかりで………
……それでも、不自由なこの身体は今も痛みとか渇きを苦痛ばかりをわたしに伝えて、
――――――
――――――
――――――
――――――かちり、と何か音がした。
それはとても嫌な感じの音で、
それはとても不吉な予感がして、
それはとても――――――――――――――
- 27 名前:ロゼット&クロノ:03/09/06 21:47
- >>26
弓塚さつき vs ロゼット&クロノ
「Quo Vadis」
「クロ・・・・・・っつう!」
私はクロノに近寄ろうとして、わき腹の傷の痛みに思わずうずくまる。
そんな私の手元に摩擦音を立てながら転がってくる黒い塊。
これは・・・・?
それの転がってきた方向へ顔を上げれば、そこには荒い息をするクロノの姿。
「ガバメント用の福音弾・・・は使えない・・・・
モーゼルの聖火弾だけじゃ・・・滅ぼしきれない・・・・・
けど・・・・『ソレ』なら・・・・・!」
・・・・確かに。コレを使えば、確実に彼女に止めをさせるだろう。
私はクロノに向かって頷くと、モーゼルをホルスターに収め、それを握る。
それは、回転式拳銃(リボルバー)。聖別された銀を鋳造した弾を打ち出す銃。
聖火弾の『面』の破壊力ではなく、『点』の貫通力を持った武器。
吸血鬼の究極の弱点たる『心臓』を狙うには、これが確実だ。
「・・・・・・・・・・・!」
『Cast in the name of GOD』とグリップに彫られたリボルバーを両手で構える。
銃口を彼女の胸元、心臓の上に向けた。
かちりと劇鉄を引き起こす。
かりりりという音ともにシリンダーが回転していく。
銃口の向こうには結界にとらわれながらも尚も足掻く彼女の姿。
――――死にたくないのだ。彼女も私と同じように。
私には死ねない理由がある、彼女にも死ねない理由がある。
だから足掻く、足掻いて足掻いて、生き延びようとする。
けれど、彼女は。彼女という存在は。
もう人の世界に在ってはいけない。
彼女は人から奪い、人を傷つけることでしか生きられない生き物。
だから排除する、人の勝手な都合で。
理不尽なことを言っているのは分かっている、分かっていても・・・・・
だからといって私は誰かが彼女の手にかかる事を許す事はできない。
これが、彼女の救いだなんて言えない。
私がこれからするのは、神様の名前を借りた傲慢。
けど―――せめて――――――。
「狼の牙に休息を。迷える子羊に安寧を」
聖句を口にしながら引き金に指をかける。
「―――――AMEN!」
轟音が、路地裏に響いた。
- 28 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:49
- >>27
うごかない―――――
うごかない―――――
うごかない―――――
どんなにあがいても
どんなにもがいても
―――――うごかない
『狼の牙に休息を。迷える子羊に安寧を』
路地裏に響く声。
背中に走る悪寒。
『―――――AMEN!』
響く轟音。
走る閃光。
「あ…………」
ぽっかりとわたしの左の胸に開いた穴。
がっくりと抜けていくわたしの力。
どくどくと左の胸から流れ出る血。
「――――――――」
何か喋ろうとしても、声が出ない。
代わりにわたしの口から漏れるのはごぶりという音と赤い血の塊。
手を動かそうとする。
感覚が無い。
足を動かそうとする。
感覚が無い。
……手を動かそうとした。
動かすべき手はなくて、そこに灰があっただけだった。
……足を動かそうとした。
動かすべき足はなくて、そこに灰があっただけだった。
- 29 名前:弓塚さつき ◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:51
- >>28
痛い、とか、苦しい、とか感じる前に既に感じるべきモノがなかった。
分かった……
―――――わたし、死ぬんだ……
分からない……
―――――どうして、わたしはこんな目に会っているのかな。
昨日まで普通の女子高生だったのに……
どうして、わたしは死なないといけないのかな。
まだ、やりたい事、たくさんあるのに……
誰もその疑問に答えてくれない。
ただ、考えた――――なんで、わたしがこんな目にあったんだろうって?
ただ、思った――――生きたいよ、死にたくないよ……
そうやって……
感覚はすりへって………きえていって、
思考はすりへって………きえていって、
からだはすりへって………きえていって、
こころはすりへって………きえていっ――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――さいごにひとかたまりのはいがのこった………
- 30 名前:an epilogue:03/09/06 21:54
- >>29
そこは何の変哲もない路地裏――――ただ、冷たいコンクリートが在るだけ……
誰もこの路地裏でで何があったか知る術はない。
誰もここでの灰となった少女の心は分からない。
彼女は―――何も分からなかった。
ただ、思ったのだ、生きていたい、と。
ただ、望んだのだ、楽になりたい、と。
―――もたらされたのは自身の消滅というカタチでの解放。
何時からかは分からない。
路地裏の隅にひっそりと花が咲いた。
誰も来ない、誰も気づかない所にただ静かに咲いていた。
―――――オレンジ色の、ちいさな菊の花
山椒菊と呼ばれるその花の意味は――――――『生きる』
嘗て、少女がただ、一心に望んだ言葉である―――――――
- 31 名前:◆PXROOKIEj2 :03/09/06 21:56
- 弓塚さつき vs ロゼット&クロノ「Quo Vadis」 レス番纏め
>5>6>7>8>9>10>11>12>13>14>15
>16>17>18>19>20>21>22>23>24>25
>26>27>28>29
エピローグ
>30
(空白欄の改行がかちゅーしゃでは反映されないのでプラウザでの閲覧を推奨します)
- 32 名前:来須蒼真:03/09/14 23:13
- ああ、分かってる。此処は関係ない奴が来ていいところじゃない。
だけど、だ。俺にはその関係というのが大いにある。
その理由が…
(突如、圧倒的な闇の気配が青年の周囲を包む。
見れば青年の髪は金色を帯び、その瞳は赤い輝きを放っている)
…これさ。
俺の中にはドラキュラ…あの吸血鬼にして魔王の力が受け継がれてる。
厳密には奴の力と、俺の魂は元々一つのものらしい。
俺自身戦いは好まない…けど、力を狙う悪党や俺を殺そうとしてくるバケモノに容赦は出来ない。
降りかかる火の粉は払わせてもらう。
俺の戦い方は支配の力…俺の中にあるモンスターの力を引き出しての戦いが主になる。
剣とかの武器も使えるが、普段から携帯しているわけにもいかないだろ?
あと、ここでの俺は本編終了後、混沌を退けたトゥルーエンドのものとさせてもらいたい。
カテゴリはDでありたいけど、恐らくはB…吸血殲鬼になるだろうな。
出典 :キャッスルバニア 暁月の円舞曲(GBA)
名前 :来須蒼真 (くるすそうま)
年齢 :18歳
性別 :男
職業 :高校生。
趣味 :大したものは無いな。人から無趣味って言われることもよくある。
恋人の有無 :居ない。いや、だから弥那とは幼馴染でそんなんじゃ…(汗
好きな異性のタイプ :大人っぽい人…かな。
好きな食べ物 :これも特には無いな。
最近気になること :俺の中にはドラキュラの、魔王の力がまだ眠っている。それが一番気がかりだな。
一番苦手なもの :アルカー…有角だな。色々あったけど、あいつだけはやっぱり苦手だ。
得意な技 :倒した魔物の魂を奪い、多種多様な魔力を駆使する事。
一番の決めゼリフ :「今…すべてわかった…。俺が…俺がドラキュラだったんだ…」
将来の夢 :(半ば神祖化して)…この力を制御して、人として生きられればそれで良い。
ここの住人として一言 :とりあえず宜しくかな。
ここの仲間たちに一言 :神祖としてじゃない、俺という一人の人間としてよろしく頼む。
ここの名無しに一言 :俺はまだ人間だ。それだけは忘れないで欲しい。
- 33 名前:名無し客:03/09/24 15:53
- 玉葱chのキャラネタ&なりきり板にも来てね。
2chと違って細かい規制も無いし、IPも取ってないよ。
もちろんかちゅ〜しゃ等の2chブラウザにも対応してるよ。
ttp://gungnir.versus.jp/charaneta/
- 34 名前:人修羅(M):03/10/04 23:19
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
砂嵐が巻起こるボルテクス界。荒廃した世界の中、俺は悪魔となって生きていた。
なぜ? 病院にお見舞いに行って、祐子先生の話を聞いて、それから――
金髪の子どもと喪服の老婆に、変な虫を埋め込まれた。それがきっかけか。
変な虫――老婆の言葉を借りるなら、悪魔の力を宿せし禍なる魂――マガタマ。
それは、俺に圧倒的な力を与えてくれた。
少々の攻撃にびくともしない打たれ強さ、大地を駆ける瞬発力、悪魔の肉体をも貫く拳の力。
最近では、氷の息まで吐けるようになった。
だんだん、びっくり人間ショーみたいになってるな――って、もう人間じゃないのか。
力に溺れる、という訳では無論ないが、これからどんどん厳しくなる戦いに当たって
一つでも多くのマガタマが欲しい。だから俺はマガタマの情報を集めていた。
「本当か!?」
「ああ、本当だ。トウキョウタワーに新たなるマガタマが眠っている。お主の力の助けとなるだろう」
ここは邪教の館。悪魔を合体させ、新たな悪魔を作り出すという秘儀を行っている場所。
そこで俺は、マガタマに関する話を聞いた。トウキョウタワー……ギンザからは近いな。
行ってみるだけの価値はある、か。俺は出来たばかりの仲魔を従え、館を後にした。
俺は――このとき、知る由もなかった。これが実は仕組まれていた事を。
金髪の子どもの退屈を紛らわすためだけに、魔界に名だたる実力者であるアーンスランド家当主
と戦う羽目になる事を。
- 35 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/04 23:34
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>34
展望台の屋根に腰掛けて、上を見上げていた。
辺りは暗い。
空も暗い。
「空、じゃないわね……」
見上げているのは天井だ。
辺りも暗いが、以前の夜と同じではない。
かつての世界なら、夜が幾日も続きはしないから。
かつての世界なら、夜はもっと明るいから。
かつての世界は、一度死んだから。
一度死んで……例えるなら、今は胎内。
時満ちるまで其処に留まって、何時か、もう一度生れ落ちる。
それが何時か。
判らない。
そもそも、死んだ理由もわたしには判らない。
それほどに、突然だった。
「………」
器が亡くなれば、其処に生きる者もまた運命を共にする。
人間は丁度片手で足りるだけ――五人しか、居ない。
代わりに居るのは、何処かで見たような異形の姿。
悪魔ばかりだった。
まるで魔界だった。
――酷く、退屈だった。
- 36 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/04 23:35
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>35
見飽きていたから。
関わりが煩わしかったから。
だから、こちらに来ていたのに。
「……何をして、遊びましょうか」
手の中のソレを弄いながら、思う。
全ては聞いた話だ。
老婆を連れた金髪の少年と、聞くともなしに耳に入ってきた噂。
人から悪魔になった青年の事と、その青年が求めている物。
手の中のソレを弄いながら、想う。
会った事の無い青年。
見た事の無い顔を思い浮かべ、声を想像する。
彼がこの世界で何を思い、どう感じているのかを考える。
待たされるのは好きではない。
けれど。
こうやって待つのは、それなりに良い。
「早く、ここまで……わたしの所まで、来て」
――――わたしはこんなにも、待ち焦がれているのだから。
- 37 名前:人修羅(M):03/10/04 23:38
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>36
「ねーねー知ってる? 最近トウキョウタワーにサキュバスが住み着いたんだって」
「サキュバス? なんだよそれ」
「えー知らないの? 夢の中に入って人間の精気を吸う夢魔よ。中でもね、今いるのは
魔界の実力者なんだから!」
「実力者?」
「うん。モリガン・アーンスランドって言ってね、すっごく強いのに遊び歩いている変な人。
何でボルテクス界にいるのかわかんないけど、きっと退屈なんじゃない?」
「そうか、知らなかったよ。ありがとな」
「いいよ、別に。それじゃあ、またね!」
「あ、ちょっと、よければ俺の仲魔に……」
「あたし弱い悪魔は嫌いなの。もっと強くなってから来てね。それじゃね!」
ああ……また振られた。これで何回目だよ?
俺は、去ってゆく女性悪魔を未練そうにみつめていた。
「まあまあ、いいじゃありませんか。マスターにはわたくしが付いておりますわ。
ほら、さっき見つけた宝玉です。これで元気を出してください」
「キニスルナ、主。オンナ タクサン イル」
「妖精と犬に慰められたってちっとも嬉しくないやい……」
俺は涙を拭きながら、ハイピクシーから差し出された宝玉をポケットにしまった。
妖精ハイピクシー、魔獣イヌガミ。どちらも初期からいる気の置けない仲魔だ。
こいつらには本当に感謝しているのだが、それでも欲しいのは等身大の女性の温もりで……
「サキュバスですか。相手にとって不足はありませんね」
「いや、戦うことはないだろ? こっちが欲しいのはマガタマだけなんだから。
話せば向こうも分かってくれるさ」
こいつは天使アークエンジェル。天使の癖に妙に好戦的なんだよな、こいつ。
人間を助ける天使ってより悪と戦う天使だから仕方ないとは思うが。
「いえ、邪悪は滅ぼさねばなりません。それが私の務めなんです」
「だから、邪悪だと決まったわけでもないじゃないか。何が正しくて何が間違っているかも、
俺たちが決めることじゃないだろ? いいか、もし会ってもいきなり攻撃するんじゃないぞ」
「……わかりました。あなたがそういうなら」
そんな話をしながらも、俺たちはトウキョウタワーにやってきた。日本最大の高さの電波塔。
旧東京の観光名所。東京者のご多分に漏れず俺はそこに上ったことはなかったので、
実は少なからず期待していたのだが――ま、マジかよ?
「止まってる……」
エレベーターはびくともしなかった。電気の供給がなされていないのだ。
まあ、当たり前といえば当たり前だが――それはつまり、この高い塔を階段で移動することになる。
……骨が折れそうだ。ああ、何で俺の背中には翼が生えていないんだ?
仲魔は全て空を飛べるのに、俺だけ地に足つけて階段を登らなきゃいけない。酷く不公平だ。
心の中で罵りと悪態を付きながらも、俺は展望台目指してゆっくりと階段を登り始めた。
- 38 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/04 23:41
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>37
特に何かをするわけでもなく、過ぎてゆく時間。
それでも、わたしを、ほんの少しだけ埋めてくれる。
「……あんまり、女を待たせるものじゃないわ」
ただ待って、もどかしさに身を任せている。
気持ちを抑えて、高ぶらせる。
それにも、限界はある。
元々、気が長い方なわけでも無い。
景色を眺めるのにも飽きて、展望台の中に戻ろう――そう思った時。
上へと近付いてくる気配に気付いた。
因みに、タワーには他の気配は一切無い。
来た時に一匹残らず一掃して、寄って来る連中も戯れに一匹殺し、二匹殺し。
そんな事をしている内に、すぐにタワーは無人になった。
どれも「遊べる」程の相手では無く、殺すだけの愉しみしかない。
少量の水では、この乾いた喉を潤すには足りない。
手慰みにしたその行為は、乾きを増すばかりだった。
――だから、もう待ち切れない。
今すぐにでも会いに行きたい。
近くに来ていると判ると、その衝動は抑え難い程に膨れ上がった。
「駄目、よ……折角今ま、で待った―――んだ、から」
身体が熱くなる。
鼓動が激しくなる。
まるで思春期の人間のよう。
軽く胸元に当てていた手が、ある意図を持って動き始めるまでそう時間は掛からなかった。
そして。
階段から展望台内部へと繋がるドアが開き、それが閉じられても。
手の動きは、止まらなかった。
- 39 名前:人修羅(M):03/10/04 23:44
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>38
規則正しい靴音を立てて、階段を上がる。
疲れはしない。この体となってから、底なしの体力を得た気がする。
モリガンというサキュバスについて得た情報。それを総合すると一つの結論が浮かぶ。
それは、つまり。
「いい女、ってことだよな」
夢魔ってのは聖職者とかの夢に入って人間の精気を吸い取る――つまり、
夢の中でアレでナニなことをするって訳だ。
「きっと、とんでもなくセクシーなんだろうなあ。マガタマ貰ったら、
ついでに仲魔に誘ってみようかな? それでもって、俺と……にへへへへ」
自然と笑みがこぼれる。ちょっと前までは健全な高校生だったのだ。
そういうことにちょっと、いやかなり興味があるお年頃なのだ。
俺がどんな想像をしてもまあ仕方ないことだよな。うん。
ぽかり。
叩かれた。後頭部に衝撃が走る。何すんだよと抗議の声を上げたら、
後ろからいつもの甲高い声が聞こえた。
「なにぼけっとしてるんですか! さっきから一体も悪魔が出てこないじゃないですか!
彼女の仕業に違いありませんわ! もっと注意してくださいな」
小うるさい奴だな。まあ、ハイピクシーの言ってることも確かだし、少しは警戒しよう。
……しかし、やっぱり真面目な顔を維持するのは難しかった。すぐに顔がにやける。
期待と想像に胸を膨らませつつ、俺は階段を登る足を強めた。
展望台には誰もいなかった。マガタマがある様子も無し。彼女、留守にしてるのかな?
だったら待たせてもらっても――な、なんだぁ?
俺の少しばかり性能が良くなった耳に女性の声が聞こえてきた。
どんな声かというと……その、アダルティなビデオでよく聞く感じの。
まさかと思いつつ天井から展望台の屋根を覗いてみた。
- 40 名前:人修羅(M):03/10/04 23:45
- >>39
そのまさか、だった。
カグツチの光に照らされた女性の姿。それは、とても美しかった。
緑に濡れた長髪に、背中に生えた蝙蝠の翼。
恍惚の表情を浮かべる整った顔に、
扇情的なボンテージファッション。
すらりと伸びた両手。その両手が向かう先は――先は――
ええっと。どうなってるんだ? どうすりゃいいんだ?
つまり、彼女はオタノシミ中なわけで。
でも、俺たちが来てる事には気付いてるはずだよな?
結構大きな音も立てたし。話し声も聞こえたはずだろ?
それでも、自分で弄ぶのをやめてないのは。
誘ってるのか? 誘ってるんだな? 純真な若者を誘ってますか?
俺は、ついふらふらと彼女に近づき――
ぽかり。
叩かれた。そのショックで我に帰る。あ……魅了されてた?
さすがサキュバスだ。気をしっかり持たないとな。
「お、お取り込み中のところすいません。モリガンさん……ですよね。
あ、俺怪しいものじゃないんですけど、その……これっくらいの大きさの
変な虫知りませんか? それ、俺が探してるんですけど……」
我ながら、声が上ずっているな。
美人を前に緊張している……つうか、目の前で喘いでる人に気圧されてるんだろう。
この人、ちゃんと話聞いてくれんのかな?
- 41 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/04 23:46
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>39 >>40
焦点の合っていない、ぼんやり夢見るような視線。
不思議と風の凪いだ展望台上は、甘い――わたしの匂いで満ちていた。
近づいてくる青年に聞かせる為に。現れた青年に見せ付けるように。
音を立て、手を大きく動かす。
「ん……、は――あ、ぁっ」
青年は上半身裸だった。
引き締まって良い身体をしている。そう思った。
瞳にはわたしが映っている。
わたしだけが。
――来て。
欲しい。
でも、その前に――――
連れている仲魔に軽く殴られて、青年の目に理性が戻る。
そうでなくてはいけない。
この程度で本当に虜になられたら待っていた甲斐が無い。
若干名残惜しく思いながら、手の動きを止めた。
「……そんな格好で言っても、説得力に欠けるとは思わない?
ま、わたしも人の事言えないけどね、ふふ」
三匹の悪魔に一瞥をくれ、青年に視線を戻す。
髪の毛からつま先まで嘗める様に、そこから顔までもう一度視線を這わせ、
目を見つめながら歩み寄った。
「――――ええ。持ってると言うか、貰ったんだけどね。貴方が探してるのも知ってる。
……そんなに欲しい?」
少し動けば触れそうな距離。
「なら、探しなさい。わたしの身体を隅々まで。中も外も残らず。
今もちゃんと持ってるから、ね?」
まだ上気した吐息で耳朶をくすぐる様に、囁いた。
- 42 名前:人修羅(M):03/10/04 23:47
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>41
な、中も外もって、どういう意味ですかぁ?
ああ、俺誘惑に負けそうです……
今すぐ体に飛びつきたいけど、なんかその瞬間いろんなことが終わりな気がする。
仲魔の信頼とか。ひょっとすると自分の命も。
吸い込まれそうな瞳。形のいい唇。蕩けるような体臭……
モリガンさんの甘い息が耳をくすぐる。
思わず視線をそらすと、その先にあるものは二つの膨らみ。
う、上から見ると、全然隠れてないんですけど……
ていうか見えそう。
やっぱり、ものを隠すって言ったらここ……かなぁ?
でも、探すには触らなきゃいかんし……
いやいや、モリガンさんは触れと仰ってる!
ならばここで男として引くわけにはいかない!
俺は確固たる意思を以て、両手を彼女の双球へ……胸へ……
できるかっ!!
臆病者、意気地なしと言いたければ言うがいいさ!
だけど、やっぱこんなの何か間違ってないか!?
こういうことはちゃんと手順を踏まないと駄目なんだ!
第一モリガンさんはサキュバスで、
きっと俺の精気が目当てに違いない。
以前リリムに魅了されて仲魔を裏切ったこととか思い返しても、
みすみす相手の罠に嵌るわけには行かないんだ。
だから俺は、毅然とした態度でもってこう言った。
「悪いけど、そういうことするわけには行かないよ。
ふざけずに、マガタマ出してくれませんか?
お礼はなんでもしますから」
……両手が胸を触ってなくて、顔がにやけてなくて、
でもって鼻血とか出てなければ、それなりに決まってたんだろうなあ。
- 43 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/04 23:54
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>42
自分の物ではない指が食い込む感触。
無意識なのか少し痛いくらいのそれも、刺激には違いない。
他人の、それも男の与える。
「そう……? こう言うのは嫌い?」
胸に食い込んだ青年の手の上に、手を重ねる。
自分の手より一回り大きくて、ごつごつとした手。
「顔はそう言っていないけれど……」
重ねた手を更に押し付ける。
額と額を触れ合わせて、舌を伸ばした。
「鼻血まで出して、そんなに興奮した?」
そのまま、嘗めとっては嚥下する、を繰り返す。
甘い。
量が足りない。
もっと欲しい。
「因みに、そこは外れ。さあ、次は何処を調べる?
……ああ、でも――――その前に一つ、罰ゲーム、ね」
顔を首筋に近づけ、口付ける。
「……頂きます」
食い千切るつもりで、歯を立てた。
- 44 名前:人修羅(M):03/10/04 23:56
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>43
首筋に酷い激痛。
同時に、自分の血が吸われていくのが分かる。
俺の精神を襲う官能。
このまま全てを委ねたくなる。
だがそんなわけにも行かない。何とかしなきゃ……
けど、密着したままじゃ何も出来ない。
手は塞がれてるし、俺の腕をつかむ手がだんだんと痛くなってくる。
簡単に離してくれそうにない。
仕方ない、そっちが口を使うなら、こっちも使ってやる!
俺は大きく息を吸い込むと、氷の息を吐き出した!
解説しよう! 俺は悪魔となったおかげで、体の中の悪魔袋から自由に炎や氷の息が吐けるようになったのだ!
……あー、自分で言ってて欝だよ。
でも、この特技のおかげで幾度も命を助けられた。今回もそうだ。
俺が吐いた冷気に驚いたのか、彼女の噛む力が少し弱まった。
その隙に腹に膝を入れる。よし脱出完了!
だらだら首から流れる血を押さえつつ、俺はモリガンさんから離れた。
ハイピクシーが俺に癒しの呪文をかけてくれる。
みるみる傷口が塞がっていく。
まだ体がふらふらするけど、出血は抑えられたみたいだ。
「もう! だから油断するなといったでしょう!?」
ハイピクシーの小言もなんだか耳に心地よい。
それと同時に、アークエンジェルとイヌガミがモリガンさんに飛び込む!
「正体を現したか! 八つ裂きにした後じっくりと調べてあげましょう!」
「グルル…オマエ、主 キズツケタ! オレサマ オマエ マルカジリ!」
剣が、牙が彼女を狙う。普通なら避けられる間合いじゃないが……
- 45 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:01
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>45
噛んで、音を立てて啜った。
咽喉を鳴らして飲んだ。
それが食道を滑り落ちていく感触は震えるほど。
食べたい。
溢れてきた血を飲む為に中断していた、噛む、と言う行為を再開しようとした。
その瞬間。
文字通り背筋が凍った。
口を離すより速く、膝蹴りが水月の辺りを叩く。
それに押されるまま、息を吐きながら後ろへ飛んだ。
深く呼吸しながら軽く身を捩る。薄氷を踏み割る様な音。
身体の火照りはあっさりと引いていた。
「……今の、口から吐いたの?」
纏わり付く違和感を振り払う為に犬の様に身体を震わせながら、聞いた。
目は自然と首筋に行く。
わたしの跡。
押さえていた手が離れたそこは、血に塗れていても傷跡は無い。
「食べたかったのに、な」
微妙に足元の覚束ない青年の両脇から何かがこちらに来る。
気に入らない。
その二匹ではなく、青年の側に居るアレが気に入らない。
牙を剥く白く細長い獣の方を向き、一歩前に出る。
「オレサマ、なんて言う言葉使いの悪い口はこれかしら?」
右手で鼻っ面を鷲掴みして、下から左の拳で顎を突き上げた。
両手で挟み込んだままくるりと振り返り、
「――――貴方も、邪魔よ」
遠心力をたっぷり乗せて、朱い羽根の天使が振るう剣に叩き付けた。
横――青年へと小さく跳び、回転の余韻で身体を捻りながら着地、深く膝を沈める。
もう一度、今度は大きく跳ぶ。回転は止まっていない。
背中に生えた翼の縁は、鈍く光っていた。
- 46 名前:人修羅(M):03/10/05 00:02
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>45
そう、避けられる間合いじゃない。タイミングも間合いもばっちり、
ナイスコンビネーションと手を叩いてほめられてもいい筈だった。
なのに。
モリガンさんは両手でイヌガミの頭を掴むと、それを天使の断罪の剣に叩きつけた。
あわてて剣を引くアークエンジェルだが、間に合わず小さくイヌガミを傷つけてしまう。
そして、モリガンさんはこちらに向かって跳んだ。
くるくる回りながら俺たちの目の前で着地し、再び回転、跳躍。
彼女の背中には、黒光りする刃のような翼が――やばい!
俺はとっさにハイピクシーを庇った。
自分の肌が切り裂かれるというのは、何度味わっても慣れるものじゃない。
剣で、爪で、風で。だがしかし、翼というのは初めてだった。
大きく背中を裂かれながらも、俺の頭は痛みではなく怒りが支配していた。
――彼女、俺じゃなくハイピクシーを狙った。
回復役を狙うというのは正しい判断だろう。
だが、彼女がハイピクシーを狙ったのはそれだけじゃない気がする。
例えるなら――嫉妬か?
まさか、と頭を振りながらも、俺はモリガンさん――いや、モリガンを見据えた。
「今の――こいつに当たってたら、間違いなく死んでた」
ぎり。歯を噛みしめながら言う。
「そっちがそうくるなら……悪いけど、本気でやらせてもらう」
俺の臓器にあるもう一つの器官。そのことを意識する。
体中が氷になるようなイメージ。おかげで頭も冴えた。
そんなに見たいなら――もう一度見せてやる!
俺はモリガンに向かって氷の息吹を吐いた。
同時に彼女を挟んで対面にいるイヌガミが口から灼熱の息を吐く。
炎と氷、相容れぬ特性。両方から来られたんじゃ、少しは惑うだろう。
だけどこれはいわばカモフラージュ。本命の攻撃は――
上空から飛来する一体の天使。その剣を振り下ろす先は、
魔界の君主、夜の女王、モリガン・アーンスランド。
- 47 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:04
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>46
予定よりずっと浅い手応え。
再び流れ出した血。
匂いを嗅いで、少しだけ気分が晴れた。
「死ぬ? 勿論。殺すつもりだったもの」
翼に付いた血に指先で触れる。
「ソレ、貴方の傷、塞いだでしょう? だから気に入らないの」
眼前に持ってきた指を汚すそれに見入り、そっと舌を伸ばす。
音を立ててしゃぶりながら、視線をちらりと背後に送る。
「血の匂いがしなくなっちゃうじゃない。この赤い色、もっと見たいのよ」
青年が息を吸う。吐くのと同時に屋根を蹴った。
寸前まで自分がいた位置で、煌く冷気と灼ける熱気がぶつかり合う。
まだだ。
もう一匹。
斜め後方からの殺気。
断罪の剣が広げた翼に触れ、切っ先は何の抵抗も無くそれを斬り――
「……残念」
翼の中ほどで唐突にそれは止まる。
固定された切っ先から鍔元、柄の表面を黒いモノが侵食していく。
そして、柄尻にまで達した刹那。
「お痛が過ぎる手ね。お仕置きも痛いわよ?」
棘。棘。棘。棘が棘が棘が棘棘棘棘棘無数の棘が。
柄だけでなく、黒く覆われた剣の表面全体から膨大な数の棘が咲いた。
- 48 名前:人修羅(M):03/10/05 00:06
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>47
俺とイヌガミが吐いたブレスは何もない空間を焦がし、凍てつかせた。
発生した蒸気が辺りに漂う。
こっちは失敗したか! じゃあ、上は?
空にいるのは天使と夢魔。天使の剣は夢魔の翼を切り裂いた。
だがそれは途中まで。剣はぴたりと動きを止める。
必死に剣を動かそうとするアークエンジェル。
それに翼から生まれた黒いものがまとわりつく。
そして、その黒い物体は数千の棘へと姿を変えた。
長く伸びた棘は、天使の手甲をも貫く。
激痛に耐えつつも、手を放さないアークエンジェル。
既に剣はその形を保っておらず、何か黒い物体と化している。
「アークエンジェル、いったん戻れ! そのままじゃ無理だ!」
俺は叫ぶが、聞き耳を持っていない。
あいつ、前から意地っ張りだったしな……ってそんなこといってる場合じゃない!
なんとかしなくちゃ……くそ、俺に空が飛べたら……
無いものをねだったって仕方がない。俺に出来ることをしよう。
「イヌガミ! フォッグブレスだ」
俺の呼びかけに応えてイヌガミが吐いたのは、霧のブレス。
攻撃力は全くないが、相手の視界を塞ぐ役には立つだろう。
戦闘の基本。それは敵の弱点と不意をつくこと。
サキュバスの弱点が何か分からない以上、せめて不意はつきたい。
妖精と魔獣を従え、頂上へと向かう階段へ急いだ。
- 49 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:08
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>48
翼を通しての手応えが、見るまでも無い結果を伝える。
まるで映像の様に。
この子達はわたしの手。
この子達が触れているモノには、わたしも触れている。
この子達はわたしの完全なる僕。
わたしの意思が、この子達の全て。
「……この子達はわたしの耳であり目」
―――この子達が聞き、見たモノは、わたしも知る。
霧が満ちた。
けれど、わたしの蝙蝠達は『聞いたモノを見る』。
無数の羽ばたき。
両翼が影と霞み消え、身体が屋根に落ちる。
天使の手に残った剣の棘は時を巻き戻したかの様に短くなり、剣表面の黒に溶けて、
間を置かずその黒も薄れていった。
「鬼ごっこでもしたいのかしら。でも、そっちに行ったら逃げ場が無いんじゃない?」
言って、歩き出す。
青年の消えた階段へと。
- 50 名前:人修羅(M):03/10/05 00:10
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>49
階段を登りながら、傍の仲魔に作戦を説明する。
「霧が晴れる前にやつらの上へ行く。それで、上空からジャンプ。こうすりゃ相手に攻撃が届く」
空が飛べない俺に出来ることといったら、これしか思いつかなかった。
即興で考えた割にはなかなかの作戦だと我ながら思う。
「あの、マスター。深い霧の中、どうやって敵と味方を見分けるんですか?」
…………考えてなかった。大げさに二体がため息をつくのが聞こえる。
な、なんとかなるだろ。これでも運は良いほうで――
突然、霧の中から蝙蝠が出現した。何匹も何十匹も。いや、もっとか?
黒の塊が空に広がる。そしてその一部は、俺たちを取り囲んだ。
蝙蝠は凶暴な動物だ。血を吸うだけじゃなく、肉を食い破ったりする。
今はなぜかその場に留まっているだけだが、
一斉に襲い掛かられたらひとたまりもない。
下手な攻撃は奴らを刺激するだけだろう。
さて、どうする――――?
その均衡を破ったのは、朱き翼を持つ天使だった。
天使はその大きな翼を羽ばたかせると、そこから生まれる疾風で
蝙蝠たちを薙ぎ払った。
アークエンジェルは蝙蝠の包囲を突破し
俺達がいる階段の踊り場へ降り立った。
「大丈夫だったか!?」
「ええ、なんとか。ただ、剣を持つのは無理でしょうが」
見ると、アークエンジェルの右手は棘のせいでずたずたになっていた。
ハイピクシーが必死に治しているが、この戦闘中の回復は無理だろう。それほどひどい傷だった。
「剣も落としてきました。利き腕が使えない今、あの悪魔に傷を付けるのは難しいでしょう」
「分かった。それで、こいつらは何だ? どうすればいい?」
蝙蝠は一時は怯んだものの、再び俺たちを取り囲んでいた。
他の場所にいた蝙蝠も今の風でこちらに感づき、さらに数を増している。
大体これだけの数の蝙蝠、どこから湧いて出たんだよ?
「おそらくモリガンの使い魔ですわ。わたくし達を牽制しているつもりでしょう」
なるほど、使い魔か。だけどどこから召喚したんだ?
その疑問はすぐに晴れた。俺たちの後ろから階段を登ってきたモリガンには、
そのトレードマークである蝙蝠の翼が生えていなかったからだ。
上空には多数の蝙蝠、階段の下にはモリガン。
逃げ場は、ない。――――元々なかったか。
覚悟を決めると、俺たちは一斉に攻撃を開始した。
ハイピクシーは魔力の雷でモリガンを撃つ。
アークエンジェルは全員の力を上げるタルカジャの魔法を唱えた。
イヌガミは大音声で吼え、蝙蝠を牽制している。
そして、俺は――彼女へ向けて殴りかかった。
……なんか俺だけ仲魔との距離を感じるなあ。畜生、俺にも特技が欲しいや。
- 51 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:11
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>50
風。
煽られて感覚の一部にノイズが入った。
攪拌された霧に斑が出来る。
濃淡は、そこに映る影の様。
段差の手前まで近づくと、やっと目で捉えられた。
「あら……? 上には行かないのかしら?」
行けないのは判っている。
あれだけの数では全てには対応しきれないし、ましてや階段の半ばだ。
仲魔との連携も取り辛いだろう。
だから、敢えてこちらからあの子達を嗾けはしない。
「それとも気が変わった? やっぱり触りたい、とか」
上を見て、下を見て、目付きが変わる。
仕掛けてくるつもりなのが理解できてしまう。
思わず苦笑が浮かんだ。
「正直なのは良いけど……ポーカーフェイス、苦手なの?」
雷を飛び退いてやり過ごす。
避けた先に、拳を振り上げた青年が来る。
「――――おいで」
青年に掛けた言葉。
そして、屋根に転がった剣に掛けた言葉。
跳ね上がったそれは、見えない糸に引かれた様にわたしの右手へ。
寝かせた切っ先に左手を添え、剣の腹で拳を受ける。
思っていたよりもずっと重い。
「当てた拳はすぐに引く。じゃないと、」
見た目は天使が持っていた時のまま。触れた感触もそのままの筈だ。
なのに、刀身の表面にある形が浮き上がった。
「噛みつかれるわよ?」
盛り上がり、開く。中にはびっしりと牙が生えていた。伸びる。
言い終えるのと同時に、青年の肘の辺りに噛みつこうとした。
- 52 名前:人修羅(M):03/10/05 00:13
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>51
高低差を生かしてモリガンに拳を突き出した。
固そうな翼がない以上、接近戦なら俺のほうが有利だ。
そう思っていたのだが……
どこからか出現した剣に受けられた。
あれはアークエンジェルが捨てたはずの剣か。
何の変哲もない剣だったはず。
しかし夢魔が持つそれは、口をあけ牙が生え俺に噛み付こうとしている。
――――悪い夢だ。
けどボルテクス界に来てから、いやこの身を悪魔に変えられてから、
俺はそんな夢を見続けているのだ。今更どうってことはないさ。
覚悟と痛みとは別だ。右肘を噛まれた。
肉を食いちぎられる前に左手で剣の柄を強打し叩き落す。
階段に落ちた剣を足で蹴り飛ばす。残る足で彼女の脇腹を蹴ろうとして――
再び出現した剣に止められた。あわてて足を引き、距離をとる。
何度でも彼女の手元に戻ってくる魔剣。しかも凶暴な口付き。
右肘からだらだらと流れる血。
ちらりと仲魔を見ると、蝙蝠とじゃれあっていた。
一匹の蝙蝠にさらわれそうになるハイピクシーを見て思わず笑みをこぼす。
あれでは治癒してもらうことは無理そうだ。
どころか、仲魔の援護も難しいだろう。
さて、どうするか? 見たとここっちが優ってるのは耐久力と力だけだ。
リーチも向こうのほうが上、技量もあっちが上、そして何より。
――戦闘経験が圧倒的に足りない。
こちとら数週間前に悪魔になったばかりのド新米、
対して向こうは百年以上前から色々と遊んできた大悪魔だ。
――叶う相手じゃない。少なくとも、今は。
唯一付け込む隙は、相手は俺のことをからかっているということ。
さっきから何度も技を繰り出しているが、避けたり剣で受けるだけで
ちっとも反撃してこない。その気になればいつでも殺せるということか。
おそらく、彼女の興味を引けなくなった時、俺は死ぬのだろう。
戦いながら、いや弄ばれながら、俺はモリガンの顔を見た。
そこに張り付いているのは艶笑。……いや。何だ?
その眼は。何かを求めるような口は。
視線の先は……血を流している肘。これか!
「さっきの話……まだ有効だよな?」
言いながら、滴る血をすくい取り、モリガンへ向けて飛ばす。
不意を付けば充分位に思っていたが、幸運なことに片目に入る。
その隙を付き接近。くるりと背後に回りこむ。
「今の俺には、どうしてもマガタマが必要なんだっ!」
悪魔の力を持つ禍なる霊、マガタマ。
その力を借りれば、あるいは彼女と渡り合えるかもしれない。
どこに隠してあるんだか分からないけど、小さい可能性に賭けるしかない。
俺は彼女の長い髪と、その中で自己主張する蝙蝠の耳飾りに手を伸ばした。
- 53 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:17
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>53
剣は、青年に敵対する。
正確には、剣を覆っている使い魔が。
剣に意思など無く、意思に答える筈も無い、とは言い切れないが、少なくともあの剣はそうだ。
故に今のままではわたし以外は触れられない。
わたし以外に敵対する。
例え剣を砕いても、使い魔をどうにかしない限りその破片が敵対する。
「……剣がそんなに気になるなら、跡形も無く消してしまいなさい」
受け、弾き、逸らし、流す。
じゃれ合いたい訳では無い。
それなのにこれでは。
「――――駄目ね」
これでは。
物足りない。
……退屈。
意識が思考に引き付けられて、注意が薄れて。
反応が遅れて、右目を赤い液体が叩いた。
反射的に閉じた瞼。生まれた死角へ青年が消える。
――忘れているのだろうか。
わたしが目を開けていなくても、それが見えている事を。
髪に触れられた感触。
……退屈。
掴んだ。
青年の手が髪飾りを。
そして、わたしの髪が青年の手を。
絡め取った、の方が判り易いかもしれない。
「もっと、死に物狂いになるには――――」
片腕を髪の毛で拘束したまま振り向き、青年の首に左腕を回す。
「――――理由が、いるのかしら?」
唇を奪いながら、右手の剣を仲魔の内の一匹、治癒の力を持つアレへと投げた。
空いた右手も合わせて青年の口を開かせ、肺の中の空気を吸う。
「わたし」が口付けしているのに、そこまでする必要は無いかもしれない。
けれど、流石にあの息を直接吹き込まれるのは避けたい。
これは嘘。
そうしたいと――奪ってあげたいと思った。
奪いたいと思った。
マガタマの事を考える余裕なんて、奪いたいと思った。
- 54 名前:アークエンジェル(M):03/10/05 00:19
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>53
不覚。不覚。不覚。
右手を抉られ、剣を奪われ。
今は蝙蝠と戯れているだけで、主君を助けに行くことも出来ぬ。
魔を滅ぼすことは、神の意志の代行者たる我々の役目の一つだ。
そのための力も頂いている。だというのに、今のこの体たらく――
己を許すことが出来ぬ。
人修羅。その名はミロクの預言書に由来する。
人ではなく、完全なる悪魔でもない存在。聖と邪が同居しているその心。
非常に興味深かった。
故に仲魔となった。自らの力を売り込む形で。
彼に付いていけば、力の研鑽と破邪とが同時に叶うから。
そして眼前にいるのは紛うことなき邪。
幾人もの聖人を欲に溺れさせたサキュバス。
神の敵。なのに、私には如何様にもできぬのだ。
私の剣がこちらへ飛来する。その行く末は力ある妖精、ハイピクシー。
考えるより先に体が動いた。
悪を払うはずの剣が悪に取り込まれ、天の御使いである私を傷つける。誠に滑稽。
背中から胸へ突き抜けた剣は、内側から私を喰い尽くしていく。
夢魔の投擲の強さか、使い魔の力か。私の体で勢いを殺しきれなかった剣は、
ハイピクシーの羽根を切り裂いていた。もう飛ぶことは出来ないだろう。
それは私も同じ。志半ばで果てるのか。いや。その前にすることがある。
「不浄なる、剣、よ……せめて私が、浄化してくれよう……」
――――ハマ。
私の呼びかけに応え、地面から呪符が出現し、空へはためく。
その札が、私と不浄なる剣を包み込む。
ハマとはその名の通り破魔の力。天の御使いである私には効果はないが、
闇の力で動くこの剣には――
思った通り。私の体内から魔が祓われていくのが解る。
醜悪な口と鋭利な牙が消えるまでに、
さほどの時を必要としなかった。
これで憂いなく、主君は戦に専念できよう。
惜しむらくは、この魔法を直接ぶつけることが出来なかったこと――
あともう少し、あの場でモリガンを引き止めていれば。
ハマを食らえば、いかに老練なサキュバスとて、ただではすまなかったろうに。
無念、だ……
- 55 名前:人修羅(M):03/10/05 00:20
- >>54
目の前で、仲魔が死んだ。
俺のせいで。俺の力が足りなかったばかりに。
悪魔に唇を奪われ、体から命が吸われていく。
片手を緑の髪に絡め取られ、ぎりぎり締められていく。
そんなこともどこか他人事のようだった。
俺の迷いが。俺の甘さが。
仲魔を、殺した。
たぶん、このとき初めて。敵に対して。悪魔に対して。
殺意を抱いた。
そんな気持ちも知らず、モリガンは俺の口内に舌を侵入させる。
いや、知っているのか。それとも自分の魅了に自信を持っているのか。
どっちでも良かった。
自分の口に入ってきた異物を、鋭い歯で切断する。
ちょうどアークエンジェルが異形の口に襲われたように。
髪の束縛が少しだけ緩む。腕を髪から引き抜いた。
拳を握る。力を込める。
いくら技量があろうが、戦闘経験があろうが。
殴られれば痛い。
俺はモリガンの横っ面を思いっきり殴って吹っ飛ばした。
追撃しようとして足がぐらついた。
思った以上に精気を吸われた。
関係ない。もっと。もっと。もっとあいつを滅茶苦茶にしてやりたい。
俺の中の悪魔の炎が大きく燃える。
俺は悪魔だ。人間じゃない。
噛み切った舌が口の中で鬱陶しい。
こんなにごろごろしているのか。
まるで出来の悪い虫のよう。……虫?
手の中に吐き出す。
それは確かに虫だった。蠢くそれは、丸くなるとちょうど勾玉のような形になる。
――マガタマ。こんな所にあったのか。
初期目的は達成した。いつもの俺なら、余計な戦いはせずにそのまま逃げ出していたろう。
だけど。
オトシマエをつけてやる。
カグツチは、ぎらぎらと輝いていた――
- 56 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:23
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>54 >>55
青年の唇を味わいながら、その光景を見た。
狙いは外れたけれど、目的は果たした。
青年の歯が、舌を食い千切った。
喪失感を塗り潰す痛み。
溢れる血。
気が付いたら、頬を殴り飛ばされていた。
軽く浮いて、屋根を少し転がる。
――――なんて、心地良いのだろう。
与えた苦痛が、与えられた苦痛が。
睨み殺すような視線が。
マガタマは渡したのに、わたしを見ている。
マガタマは渡したのに、わたしの事を思っている。
わたしを、殺そうとしている。
口の中一杯に溜まった血を吐きながら、笑っていた。
こうでなくてはいけない。
こうでなくては、愉しめない。
マガタマも、結果も他の事もどうでも良い。
今は、殺し合おう。
立ち上がって、間合いを詰める。
一歩。
二歩目を踏み切った時には、背中の翼は半ばまで再構築されていた。
それが終わるのと同時に翼は無数の刀身と化し、絡み合いながら青年の四肢を目指す。
右腕が震える。
爪が手の平に食い込む。
赤く染まった鉤爪を、青年の顔面に向けて振り下ろした。
上手く声が出ない。
それでも笑い続けた。
- 57 名前:人修羅(M):03/10/05 00:24
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>56
翼の刃が俺を狙う。鋭い鉤爪が俺に迫る。
まともに受ければ手足が飛ぶ。まともに食らえば肉が抉られる。
ならば、まともに食らわなければいい。
翼が伸びきる前に、爪が下ろされる前に、モリガンとの距離を詰める。
左手と右足が貫かれた。――まだ。
鉤爪の狙いが逸れて肩に食い込む。――――まだまだ。
そんなものじゃあ死なない。
無事な右手でモリガンを殴る。
動く左足で彼女のつま先を踏み砕く。
そうして固定しておいて、もう一度俺は冷気を吐いた。
まさかこれで凍るなんて思っていない。それほどの魔力は俺にはない。
ただ、ほんの少しだけ。一瞬だけ動きが止まれば。一瞬だけ翼を使えなくなれば。
動きが鈍ったモリガンを「押してやる」。
重力に導かれ、彼女は階段をすべり落ちていく。
それを尻目に俺は、階段の柵を飛び越え展望台の屋根へと身を投げた。
高さ、およそ15メートル。人間なら即死だろう。
だけど俺は生憎悪魔の体。悪魔の身体能力なら、このくらいの高さどうってことない。
サンシャインの屋上から飛び降りたって平気な気がする。
予想通り、着地成功……と言いたいが。今しがたやられた右足のおかげで、
かなりの衝撃を食らう。もしかして折れたかもしれない。
上空から仲魔が降りてきた。
羽根を裂かれて飛べない妖精を背に乗せ、白い毛皮の獣が傍に来る。
ハイピクシーが慌てて俺を回復しようとするが、俺はそれを押しとどめた。
どうせ気休めにしかならない。それに、モリガンを刺激したくもない。
もうこれ以上、仲魔を死なせたくない。
俺のうなじにはある器官が付いている。触角とも角とも付かぬ出っ張り。
悪魔の印の一つ。そこに意識を集中させる。
――――タケミナカタ、来てくれ。お前の力が必要だ。
そう念じ、右腕を上へ上げる。
俺の呼びかけに答え、空間がひしゃげる。
そこから現れたのは、身の丈2メートルを超える偉丈夫。頭には二本の角。
御角髪結い、古代日本の服を身に着け、縄で肉体を拘束されている。
その体には、両の腕が欠けていた。
緑の肌持つ鬼。いや、八百万の神の一柱。
――鬼神タケミナカタ。今日造ったばかりの、新しい俺の仲魔。
「悪魔使いよ。我を使役せよ。我は強者との戦を望まん」
頼もしい言葉だ。しばらく時間稼ぎを頼むぜ。
マガタマを取り出す。びち、びちと跳ねるマガタマ。ずいぶんと活きがいい。
それを飲み込んだ。さあ、吉と出るか凶とでるか。
- 58 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:28
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>57
ヒールが鉄板を打つ音の残滓。
混じり聞こえる、肉を貫く湿った響き。
伝わる暖かさ。
爪で裂いた皮膚の感触。
飛び散る赤。
奥歯を噛み締めて堪えている表情。
ぶれる視界。
こめかみから広がる波のような熱。
足を縫い止める衝撃。
良く判らない間があって、
落ちた。
バウンドする度に薄く凍った肌が割れる。
世界が横になり、
逆さになり、
縦になり、
斜めになって止まる。
愉しくて仕方が無い。
身体を起こそうと手をついて、指が一本折れている事に気付く。
痛み。
腕には無数の朱色の刻み。
足にも。
下りてくるむず痒さ。
身体の表面を覆い尽くす熱。
視線を巡らせれば、彼はすぐそこに居た。
間に邪魔なモノが一つ。
右腕を掲げて、
ゆっくりと歩きながら撃つ。
紫の光芒を、
撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って
撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃った。
愉しくて仕方が無い。
笑いが止まらない。
- 59 名前:人修羅(M):03/10/05 00:29
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>58
連射される魔力の光。
その数数十条。
それが俺たち……特にタケミナカタに襲い掛かる。
腕が欠けた鬼は避けるそぶりも見せない。ただ一声。
「その程度の魔力で……我は倒せぬ!」
叫びと共に、電撃を起こす。広範囲に広がる魔力の雷が
紫の光弾と混ざり合い、その殆どを無力化した。
続けてタケミナカタが一声叫ぶと、モリガンの近くにさらに強力な雷が発生した。
そのまま彼女を飲み込もうとする。
「右、右!いえ、左! あ、当るぅぅ〜〜!?」
「スコシ ダマレ! オレサマ ウマク トベナイ!!」
魔力の嵐の中、2体は右に左に、ある意味器用に魔力光をかわしていた。
体をくねらせて避けるイヌガミ。それに必死にしがみつくハイピクシー。
……こいつらは、元気そうだな。ほっといても大丈夫か。
体の中でマガタマが暴れる。
力を求めて俺を飲み込もうとしている。
どうやらこいつはかなりのじゃじゃ馬のようだった。
衝動を押さえ込むのに苦労しそうだ。
泉の聖女から聞いた言葉。
マガタマが暴れ、それを抑えることが出来ないと――俺の体は呪いを受ける。
聞くところによると、破壊衝動と殺戮願望のままに動くらしい。
今そうなったら、間違いなく俺たちは全滅だ。力押しじゃ、彼女には勝てない。
そうならない為に、俺は必死でマガタマを押さえ込んでいた。
……だから、接近してくる紫の魔弾に気付いていながら、どうすることも出来なかった。
直撃。
無様に、地面に倒れこむ。息が出来ない。目が霞む。
俺の意識を乗っ取ろうとするかのように、マガタマがさらに暴れだす。
このままじゃ……やばいな。
俺の眼前に光を放つ玉が転がってくる。
その玉の意味がわかると同時に、俺はそれを口に入れ、思わず噛み砕いていた。
- 60 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:33
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>59
雷で編まれた網が、紫光を絡め取る。
薄れ溶け合い、飲み込まれていく。
邪魔だ。
幾つかが網を越え後ろに居るモノに届、かない。
するすると隙間を泳ぐ様な動きには届かない。
邪魔だ。
更にその内の一つが、青年を捕らえた。たった一発。
倒れる様を見て背筋が震えた。
もっと近くであの顔を見たい。
掲げたままの右腕を片翼で包み、鋼に変える。
迫る雷光の束にこちらから腕を差し出した。
注ぎ込まれる力は溢れ、鋼の下の肉を焼く。
冷たく感じるほどの熱。血の焦げる匂い。
感じる。
蕩けるような痛みと、総毛立つ快感。
分け与えてやりたくなる。
分け与えてやろう。
代わりに、
五指を揃えて貫手を作り、跳ぶ様に踏み込む。
紫電を纏う鋼の手刀を、緑の巨体へと突き出した。
死ね。
愉しみの邪魔だから。
使役されるだけの存在など不快だから。
だから、消えろ。
- 61 名前:人修羅(M):03/10/05 00:34
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>60
俺のポケットから出てきた玉、それは傷を塞ぎ骨を繋げ精気を漲らせる、魔法の玉。
宝玉。
ここに来る前、ハイピクシーから受け取った物だ。
今の今まですっかり忘れていた。
砕き、粉々になったそれを嚥下する。活力が湧く。まだ、戦える。
まだ続くマガタマの蠢動を、力でねじ伏せようとする。今ならそれが出来る。
あと、もう少し。もう少し、持ちこたえてくれ。
吸精鬼の貫手が鬼神を襲う。
鉄の重さ、鋭さ。踏み込む力、跳躍による重量の移動。そして何より、悪魔の力。
全てが重なった突きは、鍛え上げた武神の腹筋を容易く貫いた。
臓器――あるのかないのか俺にはわからないが――まで到達しただろう。
だがそれだけだった。
巨体は揺らぐ様子もない。
自らの雷と、モリガンの魔力。
それが溶け合い、混ざり合い、タケミナカタの体の中を魔力の奔流が吹き荒れる。
タケミナカタに電撃は効かない。悪魔にはそれぞれ相性と言うものがあり、
火に弱い奴もいれば、打撃攻撃に弱い奴もいる。
そういう特徴の一つとして、タケミナカタは電撃による攻撃を全く問題としない。
むしろ相手に跳ね返してしまうだろう。だが――
体の内側から雷を流されたせいか、あるいはモリガンの魔力と融合したせいか。
紫光は鬼神の肉を灼いた。
「我に雷で疵をつけるか! その力――気に入った!」
タケミナカタは嬉しそうに叫ぶ。
その昔、国譲りの際、建御雷之男神と力競べをしたのが、武御名方神だ。
昔のことを思い出したのだろうか。
さらに嬉しそうに、続ける。
「然らば、我が力、汝が力、どちらが優れたるか! いざや力競べせん!」
自らも魔力の雷をモリガンに流し込む。さらに高まる魔力の雷光が、二体を包み込んだ。
それと同時に、俺の中で暴れ回っていたマガタマがようやく落ち着きを取り戻す。
これも宝玉のおかげ、さらにいえばハイピクシーのおかげ。
無事で帰れたら、あいつの好きな物でも買ってやろうか。
無事で――生きて帰る。これ以上誰も死なせはしない。
手にエネルギーを集中させながら、俺はモリガンの元へと駆けた。
- 62 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:36
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>61
雷は消えない。
翼に包まれた腕は最早原型など留めていないだろう。
腕の事はどうでも良い。
ただ、痛みが――――
『力競べせん!』
その言葉で、意識が目の前のモノに引き付けられる。
どういう意味だろうか。
ひょっとして、それはこのわたしに向けられた言葉なのだろうか。
力競べ。
つまり同じ土俵に居ると?
可笑しくて可笑しくて笑い死んでしまいそうだった。
不快過ぎて脳が焼き切れてしまいそうだった。
腹に刺したままだった腕を伝い、雷が流れ込んでくる。
笑いながら、右腕を更に押し込んだ。
部分的だった衝撃が全身を無秩序に駆け巡り、内側に傷を刻んでいく。
嗤いながら、腕を捏ね回した。
脳が沸く。身体から紅い蒸気が立ち昇る。
嘲笑いながら、
――喰え。
そう、右腕に命じた。
それ以上、深く刺そうとも、抉ろうともしない。
雷に撃たれながら立っているだけだ。
わたしは。
ぐちゃり。
漏れ聞こえる音と。
にちゃ。
その感触に。
ぶつん。
喜悦を感じていた。
右腕を形作る使い魔が目の前のモノの体内を掻き毟り、或いは歯を立て、啜り、噛み、嚥下する。
その感覚。
とても、良い。
痛みすら引くような手応えをただ味わっていた。
- 63 名前:人修羅(M):03/10/05 00:39
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>62
集中。圧縮。集中。圧縮。ついでに凝縮。ええと、あと何かあったかな?
言葉はどうだっていい。要するに、全てはイメージなんだ。
俺が4体目の仲魔を加えたとき、一度に召喚できる仲魔は3体までと気付いた。
じゃあ、どうすれば良いのか。そんな時、頭にこんなイメージが浮かんだ。
こことは別の場所に、仲魔をストックしている。それは俺の呼びかけでいつでも呼び出せる。
そう、念じてみた。その通りになった。
俺が、ワダツミのマガタマを手に入れたとき。
なんとなく、氷の息が吐けるんじゃないかという気になった。
試してみた。その通りになった。
ややこしいことは解らない。全てはイメージ。出来る、と思えば、それは出来る。
モリガンから奪ったマガタマ……カムドを支配した瞬間から、
頭の中に新しいイメージ――いや、概念とか呼んだ方が良いのか?――が浮かんだ。
掌にエネルギーを集め、それを剣の形にする。それが出来るような気がした。
そして、その通りになった。
蝋燭の炎のような暖色の光を剣が発している。
柄もあれば鍔もある。芸が細かい。その割には西洋のような幅広剣だが。
これを出したまま維持するのは、かなり疲れることがわかった。
短期決戦用だな。元から、これ以上長引かせるつもりもない。
モリガンが射程に入った。
彼女は笑っていた。哂っていた。嗤っていた。
彼女だけではなく、その使い魔も肉を裂き骨を砕き血を啜りながら笑って哂って嗤っていた。
何が可笑しいのか――肉を砕く感触を愉しんでいるのか、
俺のことを、仲魔のことを嘲っているのか――
興味はない。やることは一つしかない。
タケミナカタに帰還を命じる。
うなじの角に意識をやり念じるだけでいい。
原理は解らない。これもイメージだ。
武神の顔に、勝負を半ばで放り出したことへの悔しさが浮かぶ。
そしてタケミナカタの周りの空間がひしゃげ、元の場所へ戻っていった。
呼び出したばかりで、こんな無茶なことさせてすまなかった。
一緒に強くなろうぜ。心の中で、そう念じる。伝わった気がした。
光が輝きを増す。
この剣は、直接斬り付けなくても効果があるようだ。
誰に教えられたわけでもないが、それが「わかった」。
この技の名前も浮かんできた。必殺技を使う時は、叫ばなきゃいけない。
ガキの頃見てた変身ヒーローが、そうしていたように。
「ヒィィィーーート! ウェェーーーーーブ!」
叫びと共に、剣を横薙ぎに振るう。エネルギーの塊が、放射状に伸びて
吸精鬼に襲い掛かる。
さらに距離を詰めながら、上段から振り下ろすように斬る。
翼を使われないように。空に逃げられないように。
この一撃で、終わってくれ。
- 64 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:41
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>63
唐突に違和感に包まれて。
それが何かを判断するより速く、目の前のモノが跡形も無く消えた。
愉しんでいた感覚が消えて、少し悲しくなる。
その向こう、走り来る青年の姿を見て目的を思い出す。
そうだった。
時間にしたら僅かだけれど、忘れていてごめん。
不味かったけれど、アレの血と肉のおかげでまだ動けるから。
二人で、続けましょう。
浮かべたつもりの小さな微笑みは、彼に届くだろうか。
空を斬る剣。
軌跡を埋める暖かな光が灼熱へと昇華して、波を起こす。
空中を渡る熱の波に形は無い。
いかに防いでもそこに居れば呑み込まれる。
前へ。
残った左の翼を前面に展開し、飛び込む。
ぴしぴしと罅割れる音、無数に上がる声の無い悲鳴。渇き。
暑い。焼ける様に。
干乾びた左翼を叩き落す。
丁度、頭の上に輝く剣が落ちてくる所だった。
右腕で受ける。剣の筈なのに、ハンマーを叩き付けられた気分になった。
砕けかかる膝を――そして全身を流し込んだ魔力で誤魔化しながら、
左手を青年の左胸に当てる。
体温と、鼓動を確かに感じる。
一発で良い。
それが、遅々として集まらない。
焦燥を感じる余裕も無いまま、かき集めた力を形に変えようとした。
- 65 名前:人修羅(M):03/10/05 00:43
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>64
俺の魔力が精力が力となって剣に流れ込む。
いわば俺の全てのエネルギーを剣に注ぎ込んでいるのだ。それなのに。
俺の渾身の斬りを、モリガンは片手で受けた。
力を篭めているのに、ちっとも退がる様子がない。
これが格の違いか。数百年の年を生きた夜魔と、ただの平悪魔との。
負けるのか――? 俺は?
遠くで、仲魔が何か叫んでいる。やけに遠くから聞こえた。
彼女はゆっくりと俺の胸に左手を重ねる。
その優雅な動き。繊細な指先。長い爪。暖かい温もり。
一つ一つを見て、感じて。
俺は。
この人が好きになった。
俺はこの人の期待に応えなきゃいけない。
多分、この人はずっと。
退屈だったのだ。
世界が壊れて、人間がいなくなって。
その退屈しのぎの相手に、俺は選ばれた。
それは、きっととても光栄なことなんだ。
ただ簡単に、殺されてはならない。
それでいい筈がない。
あっさりと、諦めちゃいけない。
最後まで――足掻いてやる!
剣を振るう右腕はそのままに。
余った左拳を握り締める。
気合いだ! 気合いを入れろ!
ここで踏ん張れ、耐えろ!
負けて――たまるか!
左手を、下から突き出すように彼女の腹へ。
俺のパンチと、彼女の魔力。
どっちが速いかは、カグツチのみぞ知る、か。
- 66 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:46
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>65
余り巧く動かない左腕、翳した手の普段に比べれば多少弱い輝き。
押さえ込むように力を篭める右腕、握り締められた左手。
集束する、光の帯。
風を切る拳。
鳩尾にめり込む。
解き放つ直前に霧散する力。
つまり、終わりだった。
皮膚が破け、肉が潰れ、肋骨が砕け、背骨が折れる。
身体の中に響く音も感覚も無い。
ただ、左拳が当たったのは判ったし、見たら手首まで埋まっていたから、
きっとそうなっているだろう。
痛覚すら麻痺させるような衝撃が全身を包んでいて、良く判らなかったけれど。
まあ、愉しかった。
欲を言えば二人きりならなお良かったけれど、それは「後に取っておこう」。
弾き出され、宙を飛ぶ。
青年が急速に遠ざかるから判る。
こんな風にされるのは今日二度目だったか、三度目だったか。
飛んだ距離はどれくらいだろうか。背中から屋根に落ちた。
転がらず、滑るようにその先にあるはずの屋根の終わりへ。
世界が横たわり、足元へと流れていく。
わたしは一度止まり、
世界が逆立ちして、
また動き出す。
上に、
墜ちてゆく。
視界の中で、髪の毛が踊る。
随分長く落ちているような気がする。
遠くに見えるアレは、なんだったか。
流転する思考の中、少なからぬ苦労をして右腕に集中する。
無数の羽ばたきの中、意識を維持するのを止めた。
- 67 名前:人修羅(M):03/10/05 00:48
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>66
どうやら俺のほうが速かったらしい。
拳がモリガンの体にめり込むのが感触で判った。
同時に、彼女の左手に篭められた魔力も霧散していく。
静止。
一瞬の後、殴った自分でも吃驚するほどに彼女の体は
後方へ向かってすっ飛んでいった。屋根に激突しても、勢いはそのまま。
摩擦によるスピード減少なんていう物理法則を無視しているようだった。
空を自在に飛翔できるであろうその翼は背中にはない。
加えて、彼女は殆ど意識を失っているようだった。
さらにいうなら、俺と彼女が最後にぶつかり合ったのは
展望台の中心部ではなく少し外れたところで、モリガンは外側にいたという事実。
これらを総合して考えると、結論はただ一つ。
それに思い至るまで少しの時間を必要とした俺は馬鹿だ。
答えに到った後は迷わなかった。
ただ、時間だけが問題だった。
間に合うかどうか。既に吸精鬼の体は屋根の縁まで到達している。
後はボルテクス界の重力に身を委ねるのみだ。
俺は、落ちていくその体に向かって必死で手を伸ばした。
- 68 名前:人修羅(M):03/10/05 00:49
- >>67
「……なぜ、助けようと思ったのですか?」
それまで支配していた静寂を打ち破ったのは、ハイピクシーの言葉だった。
あれから。俺たちは地面を捜索したが、夜魔の死体は見つからなかった。
肉食の悪魔に貪られたのか、夜の女王のプライドが無惨な墜落死体を見せるのを拒んだのか。
後者であって欲しいと、俺は思った。
「……わからない」
本心だ。この気持ちが理解できない。仲魔を傷つけられ、自分も殺されそうになって。
それなのに、彼女を憎めなかった。考えるより先に体が動いたのだ。
マガタマを手にしたときは、生かしておけない、殺してやると思ったはずなのに。
最後のパンチが入ったときには、助けたい、死んでほしくないと思っていた。
半端なのだ、俺は。本物の悪魔のように、非情になりきれない。
この世界で、情けを見せることがどれだけ危険なことか、充分知っていたはずなのに。
「モリガンがいい女だったから、かな」
とりあえず軽口を言ってみる。ハイピクシーがなにやらわめきだしたが、
右から左に流すことにする。
歩きながら考える。とりあえず街まで着いたら、傷を癒して、
ハイピクシーの機嫌でもとってやって――それから、ラグの店主にちょっと頼み込んで、
俺が今まで会った中でもとびっきりの美女に宝石を手向けてやろう。
- 69 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 00:50
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)
>>68
数日後。
わたしは、またここに居た。
あの時と同じように。
何をするでもなく待ちながら、ぼんやりと思い出していた。
ちょうど、ある青年が宝石を受け取りに行く前の夜の事を。
―――夢の中。
『……こんばんは』
そう、声だけを掛ける。
まだ身体は他人に見せられた物ではなかったから。
『別に、驚くほどの事じゃないわ。わたしにはまだ「右の翼」が残っていたもの』
予想を上回るリアクションに――そして、「私が死んでいなかった事に対する安堵」に
思わず頬を綻ばせながら、消失のトリックを明かした。
『……まあ、それは良いの。今話したいのは……』
貴方の仲魔を殺してしまった事。そして、それを気にしている事。
貴方達が強かった事。そして、貴方が気に入った事。
本心に幾らかの嘘をまぶして、そんな事を告白した。
『―――それで、暫く貴方に付き合っても良いと思っているの。
ただ、ね。わたしは少し飽きっぽいから、方法が必要だと思うのよ。
そう難しい事じゃないわ。
例えば……時折、貴方を少し、味わせてくれる、とか』
言葉の意味を問うかのような沈黙。
『……わたしを、貴方の身体で繋ぎ止めるの』
諭すようにもう一度繰り返す。
『……考えておいて?』
待っているから、とだけ告げた。
これは昨夜の話。
それからずっとここに居た。
何処とは告げなかったのに、階段を駆け上がってくる足音の主を待って。
- 70 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/05 02:10
- モリガン・アーンスランドvs人修羅(M)レス番纏め
>34 >35 >36 >37 >38 >39 >40 >41 >42 >43 >44 >45
>46 >47 >48 >49 >50 >51 >52 >53 >54 >55 >56 >57
>58 >59 >60 >61 >62 >63 >64 >65 >66 >67 >68 >69
……これが、わたし達の繋がりの始まり。
切れてしまうまでの間だけれど、取り敢えず―――
コンゴトモヨロシク。
- 71 名前:侍女 ◆pdoMaiDQNs :03/10/06 03:21
- ようこそ、永遠の夜の街へ。私はレオニード様の侍女を務めさせて頂いておりますものです。(静かに一礼
これより始まります闘争は、少しばかり趣向が違っておりまして。
お客様には、色々と知っておいて頂きたいことも多かろうと存じ上げます。
まず、第一にこちらのお話は異聞、俗に言うアナザーストーリー仕立てとなっております。
http://big.freett.com/vanp/taisenrog37.html
>30>51>71>92>112>157>175>220>252(レオニード様側)
>13>58>83>104>143>165>182>240(モリガン様側)
上記のアドレスに格納されております闘いの記録、通称“中世大殲”の後日談と言うことになっております。
こちらの方は祭典形式でございまして、少し長いかと思われますので、
つきましては、お客様方の判断に一存致します。
少し気になってから、目を通して頂ける程度でもよろしいかと存じますよ。
元々自由度の高い原典が故、多様なる可能性の追求と考えて頂ければ幸いでございます。
それでは、そろそろ幕が上がります。私はこの辺で失礼いたしますね。では、よい夜を───(一礼
- 72 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/06 03:24
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>
『貴方が攻めてくれないとわたしも燃えないから……もっと頂戴、ね?』
――――――ゆめ、を。
『……貴方達にも分けてあげるわ。一緒にのぼりつめましょ?』
――――――夢、を。
『良かったわ、貴方。――そうね、次の満月の夜にでも会いましょう?
ここで、愉しみに待ってるから』
――――――夢を。
「ん…………」
――――――夢を、見ていた。
そう遠くない、けれどとても遠い頃の夢。
「あの方」と出会う前の夢。
何で、そんな事を……
思い出す必要など無い記憶。
なのに何故、こうも立て続けに夢に見るのか。
引っ掛かるモノ、忘れられない、忘れてはいけないモノでもあると言うのか。
- 73 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/06 03:25
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>72
「―――まさか」
長い、長いだけの時を只、生きた。
殺し、数え切れないほど、殺した。
その間、常に虚ろだった。
その間、常に満たされなかった。
退屈で、退屈で、虚しく、虚しく。
飽きて、それでも終わりにする理由も見つからず。
「あの頃の何が……」
わたしの心を揺らすと言うのか。
違う。違う。違う。
わたしの心が揺れる筈は無い。
「そう、だって―――――」
「あの方」を思うだけで、こんなにも満たされている。
虚ろなど無く。虚しさも無く。
思う。
あの時の事を。
血と共に全て奪われ、染み込んでくる何かが細胞の1つまで犯してゆく。
「……あぁ」
身体をかき抱く。
震えるような快感が甦って、熱い。
―――早、く。
待ち遠しい。狂おしいほどに。
だが、「あの方」が目覚めるにはまだ時間がある。
「――――しょうがない、か」
眠ろう。
そして、「あの方」の夢を見よう。
- 74 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :03/10/06 03:29
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>72 >>73
もどかしかった。
見ていられなかった。
だから、何とかしようと思った。
昔。
1つになる時の事。
リリスは負けて、地面に転がっていた。
歩み寄ってくるモリガンの目が、怖かった。
奪われる。
何もかも全部。殺され、る。
逃げたくても身体が動かない。
速く、動け、動け、動いて。
距離はもう無い。
どうしようもなくその時は来て。
吸い込まれるように、意識が絶たれた。
しばらくして気が付いた。
気が付いた。つまり、まだ消えていない。
その事を不思議に思うより先に、打ちのめされた。
とても辛い。悲しい。寂しい。
そんな色々な感情を飲み込んでしまうくらい大きな穴が、あった。
何となく、モリガンと自分は似たようなモノだ、と、根拠無く思っていた。
けれど、違った。
こんな虚ろは、リリスの中には無いから。
どれほどの時を過ごせば、どんな物を見れば心にこんな穴が開くのか。
それを考えると、酷く打ちのめされた。
1つになろう。
このままで良い。1つになろう。
虚ろな器を全て満たす事は出来なくても。
少しでもそれを埋められるのなら、一緒になろう。
そうする事が自然に思えた。
- 75 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :03/10/06 03:30
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>72 >>73 >>74
今のモリガンは違う。
薄汚い隷属に満たされていると感じている。
嘘だらけの、充足。
だから、見ていられない。
だから、夢を見せた。
心を揺らす為に。隙間を作る為に。
それももう、十分だった。
行こう。
二人を縛る朱い鎖を断ち切りに。
ゆっくり身体を起こす。
押さえきれない開放感を感じながら目を開けた。
「ふぅー……」
ベッドから降りて、伸びを1つ。
ふと、何処に行こうか、と思ってしまった。
「―――いけないいけない」
振り返れば、ベッドの上にはモリガンがいる。
その身を堕としても変わらない、綺麗な顔。
「ちゃんとリリスが助けてあげるから……じゃ、行ってくるね」
雪の様に白い頬に唇でそっと触れる。
――目的地は判っていた。
さあ、行こう。
- 76 名前:レオニード(M) ◆nzLeonidhs :03/10/06 03:33
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>75
─────夜の明けぬ街がある。朝の来ない街がある。悠久と永遠の夜がある。
丘の上の古城には、吸血鬼の伯爵が住むという。
一年に一度、街の娘を一人選んでその血を啜り城に囲い永遠の時を生きる不死の王、レオニード。
大きな戦があった。いくつもの国と魂を巻き込んで。その渦中にレオニードの姿もあった。
その戦でレオニードは偶然、次の妃を城に迎えることになる。
レオニードが手に入れし次の妃はあの名高き夜の女王モリガン・アーンスランド。
その威光も今や消えつつあるが。
常夜の街に、降り積もる雪。その時を、その自然の摂理に逆らった夜を覆い隠すように。
レオニードが己の掟以外で血を吸ったことなど何年、いや何十、何百年ぶりだろうか?
一瞬の闇。明けぬ夜よりも暗い深淵のごとき闇。長き時を生き、なお衰えぬ吸血鬼としての本能。
棺が開く。常夜の王は眠りより覚める。
無造作に置かれた金塊に彩られた部屋の扉を開く。吹雪の中より空を望む。
雲の切れ間に銀色の月が顔を覗かせる。闇にレオニードの鴇色の髪が流れる。
玉座に座る。静かな城に羽音が響く。
レオニードの肩に使い魔がとまる。城下の世界の状況を告げていく。
世界の変容も、もはや聞き飽きたのかもしれない。それほど変わらない世界。
永き夜は、何を欠落させたか?自分で自分を嘲笑う。この夜に囚われたは、果たして私か?
雪が止む。覗いた月の光が城の中に射す。ああ、そう言えば、喉が───渇いた。
潤しに行こう。彼女の血で、我が喉を、この永き夜の退屈を─────。
─────常夜の王は玉座を離れる。空を舞うように静かに進む。
願わくば、私の欠落を忘れさせてくれる錯覚と、そして快楽を─────。
- 77 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :03/10/06 03:36
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>76
―――何処かで繋がっているから。
目覚めたのが判る。
「……さて、と」
踏み出した足が絨毯に深く沈む。
壁に掛かってるあの絵も、良く判らないけど高そうな感じがする。
そして、暗い。
時間は良く判らなかったけど――ひょっとしたら、ここは何時もこうなのかもしれなかった。
「どうしてくれようか、まったく」
独り言が多いのは、自覚はしていなかったけど緊張しているのかも。
無理も無いって言う事にしておこう。
遠い気配が近づいてくる。
……少しくらい遊んでも良いよね。
脇の通路に逸れ、気配を消す。こういうのは、何となくどきどきする。
物陰で、胸を躍らせながら通り過ぎるのを待った。
頭の上のシルクハットを手に取って、敵の背後に歩み出る。
纏っている服は着替えた――というより作り変えた。
どちらの足音も、敷き詰められた絨毯が消してくれている。
ちょっとは驚いてくれるだろうか。
「―――はあぃ、おじさん。
モリガンの所に行く前にちょっとリリスに付き合ってくれない?」
振り向くより速く、言葉と同時に手にしたそれを投げる。
手袋代わりの決闘の合図として。
がらじゃないけど、引けないから。
覚悟は決めないといけない。
- 78 名前:レオニード(M) ◆nzLeonidhs :03/10/06 03:38
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>77
─────雲が月を隠す。通路は暗闇に還る。
闇を縫うは鴇色の髪。赤く彩られた絨毯の少し上を舞うように飛ぶ。
一枚の絵が掛けられている。この絵を画商より買ったのは、いつの日だったか。
何年前か、何十年前か、それとも何百年前か?
欠落した時を思い起こす。ふと立ち止まる。欠落した時は還らない。
今一度、自分の身の哀れさを思う。永遠という名の退屈を嗤った。
その刹那、後ろに、気配を、感じた。
『―――はあぃ、おじさん。
モリガンの所に行く前にちょっとリリスに付き合ってくれない?』
その言葉と同時に、闇の中を白いシルクハットが踊る。
それをレオニードは、片手で払い除け、振り返る。
移ろう雲は、再び銀色の月を地面にさらけ出す。
レオニードの姿を不気味に照らす。そして、常夜の王は呟く。
「影か。また一興な者が現れたものだな………して、その目的は?」
─────判っている。だが、それでも訊いておこうか。
夜はまだ永い。時間は幾らでも、掃いて捨てるほどにある。
- 79 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :03/10/06 03:40
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>78
つまらない。
あんまり驚いてくれなかった事に対する落胆が少し。
「うん……デートして欲しいの。パパ。……なんてね、あは」
まあ、それはどうでも良い事か。
果たすべき目的は他に。
次は無いんだから、失敗は出来ない。
「ほんとは、リリスと戦って欲しいの」
タキシードの胸元を掴んで、引き剥がす。
もちろんその下は何時もの格好。
千切れて舞う服は溶けて翼に。床に落ちたシルクハットも解けて消えた。
「でね? ―――出来れば死んで」
舞台の幕は上がった。
踊ろう。
出来るだけ上手く、シナリオの通りに。
血に彩られた束の間のショーを。
- 80 名前:レオニード(M) ◆nzLeonidhs :03/10/06 03:42
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>79
─────確か、話には聞いた事がある。
冥王の造りし仮初めの身体にとどまる、夜の女王の現し身。
モリガンの血を奪ったときに、消えたものだと思ったが、こういう形で姿を現すか。
『うん・・・デートして欲しいの。パパ。・・・なんてね、あは』
笑った、嗤うのではなく、腹の底から。私を父と呼ぶか?
その理屈、理解できなくはないが、あまりに、荒唐無稽。
娶った妻は多いかも知れぬ、だか、娘を名乗られたのは、己が生涯の中で初めてだ。
悠久の時を生きながらえて、初めてという可笑しさ。
─────ふむ、一興だ。腹を抱えて笑ったのも、一体何年ぶりになる?
それより前に、先刻まで間近にあった悠久の年月が、今や遙か彼方に消え失せたかのような高揚感。
目の前にいるタキシードを纏った『娘』を凝視する。バランスは取れていて、相応に美しい。
その艶めかしい外見は、かの女王とは違ったが、これはこれで趣がある。
『ほんとは、リリスと戦って欲しいの』
やはり、予想はしていたが。……………鎖を断ちに来たか。
レオニードはどこかで悟ったような、あきらめにも似た笑みを浮かべてから、大きく溜め息を一つ。
まあ、良い。何はともあれ、今宵は退屈せずにすみそうなのだから。
『娘』、リリスは胸に手を当てて、そのタキシードを脱ぎ捨てる。
千切れて舞う、その服は蝙蝠となり、娘は、かの女王と同じ衣装へと姿を変えて。
『それでね? ―――出来れば死んで』
─────ああ、夜はまだ始まったばかりだ。それなのに、もう殺し合うのか、我が娘よ?
ふむ、少し玩具などを出してみるか。悠久無限の永い夜だ。これぐらい刹那にもならぬ。
レオニードは手を叩く。数多の亡霊の呻き声が城に木霊する。
そして法則も統一もなく、ただ一点に集まり魔物として具現する。─────屍眼。
これらの集いし亡霊の願いは一つ、叩き、潰し、肉を喰らい、魂を奪うこと。
不死の王の力でそれを支配し、その方向性を少し変える。襲いかからせて、まずは娘の機嫌を伺おう。
「─────さあ、我が娘よ。愉しませてくれ?この永き夜をな……………」
- 81 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :03/10/06 03:43
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>80
……笑われた。
これ以上無いくらい盛大に。外見からは想像も付かないような顔で。
「……むー。そんなに笑われると何となく釈然としないなあ」
まるっきり無視されるよりはましかもしれないけど。
照れを隠す為の、やつ当たり気味の怒りがこみ上げて来る。
逆切れ上等。
そもそも殺し合うんだから、戦意に加算されるなら何だって良い。
―――時折モリガンが浮べるそれに似た自嘲まじりの笑みは、見えなかった事にした。
そんな物を見せられても、躊躇う理由には遠い。
「……「この」夜は長くないよ。もうすぐ終わるからね」
拍手に惹かれて、形無き意思が集まってくる。
負にばかり傾いた、下らない妄執。
混じり物は多いし何より不味そうな外見は、見ているのも不快だ。
あんまり触りたくない。
二匹の内の一匹に踏み込みつつ、弓を引くように右手を引く。
ずるり、と引かれた手に翼が巻き付く。さながら腕が黒い刀身と化した。
目の前の大きな一つ目を突く。肘まで埋まっている。
抉って刃の向きを変えて、刺さったまま振り抜いた。斬り裂きながら抜けた。
そのまま黒刃が走る先には、残りの一匹。輪切りには浅いけど、半分以上斬った。
飛び退いた直後、噴出した汚液と薄気味悪い肉塊が絨毯を打った。
「―――うぇぇ、汚い。それに面倒だし。もう呼ばないで欲しいなあ、コレ」
濡れた右の翼をばたばたと動かしながら言った。
- 82 名前:レオニード(M) ◆nzLeonidhs :03/10/06 03:44
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>81
『・・・「この」夜は長くないよ。もうすぐ終わるからね』
─────どうやら、娘の機嫌を損ねてしまったらしい。
まず、笑いすぎた。それに玩具も不評のようだ。
呼び寄せた屍眼が一瞬にして肉の塊に還る。絨毯が汚れたが、大した問題ではない。
『―――うぇぇ、汚い。それに面倒だし。もう呼ばないで欲しいなあ、コレ』
しかし、綺麗だ。まるで舞を見ているよう。
さすがは夜の女王と呼ばれたモリガンの現し身。自在にてしなやかたるその身体。
ますます、娘がかわいく見える。今すぐにでもその血を啜りたい。
脳髄は焼き切れたか、こんな親子などという俗な感情というのも、また一興に思える。
「娘よ、すまなかったな。気に入らぬ玩具などで、気を損ねたかな?」
眼前の娘に微笑みかけて、深く謝罪の礼を取る。
顔を上げて、もう一度微笑み。懐から、一本の小さな短剣を取り出す。
「ならば、これならどうか。もう少し、楽しんで貰えると思うが?」
刃渡りは中指より少し長いぐらいの小さな短剣を指に挟み、娘の首をかすめて一突き。
願わくば、闇の本能あるがまま、ただ我が娘と血しぶきの中で舞いたいと。
- 83 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :03/10/06 03:45
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>82
自身の血の色を知ったのは何時頃だったろうか。
吸い込まれるような深紅。
それは痛みと共に。
蕩かすような香り。
それは悦びと共に。
「―――そう言うの、嫌いじゃないけど、」
首筋を掠めるナイフが皮一枚だけを斬る。
そう、こう言うのは嫌いじゃない。けど。
「今回だけは違うんだよ?」
判っていない。
リリスが何の為に、どれほどの覚悟でここに居るのか。
それを真に理解していない。
だから、あれほど気の入っていない攻撃が出来る。
それは良い。寧ろ好都合だ。
憤りを全部ぶつけてやりたい所だけど、それも目的からすれば些細な事。
「……まあ、良いや。死んでくれればそれで我慢するから」
突き出された腕を掴んで、その上から翼で絡め取る。
締め付けて絞る。肉を食い破り骨に食い込め、と。
同時に空いている方の翼が窄まり、尖る。ずるりと伸びて心臓へと疾った。
- 84 名前:レオニード(M) ◆nzLeonidhs :03/10/06 03:46
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>83
短剣を掠めた首筋から流れ落ちる娘の血の香に、灼けるような快楽を覚える。
喉が渇く。早く啜りたいと渇望する。もっと、欲しいと懇願する。
『―――そう言うの、嫌いじゃないけど、』
悲しむような虚ろな視線。息をのみ、はっと、我に返る。
『今回だけは違うんだよ?』
覚悟を秘めた目線。何年ぶりか、その目を見るのも。
そこでやっと気付く、なんだ、そう言うことかね。そして、嘲笑。
無論、自身に。眠っていたか、目を開けて、悠久の時を生きて、死んでいたか。
この錯覚に、堕ちていた。いや、一興だったよ。親娘というのも。
『……まあ、良いや。死んでくれればそれで我慢するから』
刹那。突き出したままの腕を翼で絡め取られて、そのまま締め付けられる。
何、これほどの痛み。その覚悟に比べれば。その腕を力ずくで払い除け、
同時に刃へと変わる、対の翼を身に纏う闇で翻し、短剣を翼の付け根に刺して地に転ばす。
冷たく赤いその瞳を、娘に向け伯爵は悲しそうに短剣をかざす。
「娘よ。その覚悟、受け取ったとも。なれば、幻と消える前に………」
かざした短剣を、鋭く廻転させてそのまま突く。螺旋の真空波が駆け抜ける。
「……………死ねぬこの身体あるがまま、もう一度、次は本気で舞を踊ってくれようか」
私は死ねぬ、だから娘の望みは叶えられないかも知れぬ。だから、ただ舞うのみこの長き夜を。
─────目覚めさせてくれた娘に最大の敬意を払って。仮初めの父として。
- 85 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :03/10/06 03:47
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>84
腕を強引に振り払われ、身体が泳ぐ。
僅かに、それでも十分に逸れてしまった片翼はあっさりと流された。
また少し身体が泳ぐ。
背中に突き刺さる鋭利な鋼。痛い。
とん、と押されて泳いでいた身体は立っていられないほどに傾いだ。
床にぶつかった。背中の傷が痛い。
―――痛い?
ただの肉の痛みがどれほどの物か。治れば消えてそれでお終い。
本当に痛いのは心の傷。身をもって経験したから。
本当に辛いのは心の傷。待っていても癒えはしないから。
だから、リリスは今ここに居る。
「受け取らなくて良いし、本気なんて出さなくても良いよ」
仰向けに転がって頭の脇に両手をつき、両足で床を蹴って発条の様に体を縮める。
短剣が直前まで寝ていた位置を穿つのと同時、両腕を突き放した。
両足で突き上げる様に顎を狙う。
――のはフェイク。
両足を開いて頭を挟み、上体を起こしながら太腿の間の顔に笑いかける。
「幸せ? ……どうでも良いけど、娘なんて呼ばないでよ。鳥肌立っちゃうから」
両手も添えて固定して、思いっきり、捻った。
- 86 名前:レオニード(M) ◆nzLeonidhs :03/10/06 03:47
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>85
『受け取らなくて良いし、本気なんて出さなくても良いよ』
伯爵が掛けた望みはあっさりと否定される。
少しばかり呆然としていた瞬間、娘が空を舞う。
顎を狙った一閃の蹴り────を避けようと身体を反らして、仕掛けられた罠にかかる。
『幸せ? ……どうでも良いけど、娘なんて呼ばないでよ。鳥肌立っちゃうから』
そのまま、首を取られ捻られながら赤い絨毯の上に叩きつけられる。
錯覚は、やはり個人的な感傷か。掴まれた身体を剥がし、捻られた首を戻しつつ。
「ふむ。良い夢だったよ、娘…いや、幻とはいえ君もまた夢魔の端くれか………」
ああ、夜の女王の現し身である以上。彼女もまた夢魔。
須く、全ての事柄は泡沫の夢幻であると。嗤い声が城内に響く。
狂気に満ちた冷笑、自分を、目の前の一夜の夢を。ただ嗤う。
一夜?いや、この夜は永遠だというのに。ああ、朝など来ない。
その無限の中で、私は眠っていたらしい。親娘というありふれた夢の中で。
もう一度短剣を手に取り、射程範囲の外から夢魔に向け、斬りつける。
「………起きよ!」
剣に、そして夢に躍った、この私へ─────命じる。
短剣が本来の形を取る。身の丈、それこそ目の前にいるあの夢魔と同じ程度の大剣に。
マスカレイド、今は無き旧友聖王の残した遺物にて、今の友、ロアーヌ候の所有する魔剣。
理由あって、しばらく私が預かることになったが。
「この夢も幕が近いか………さあ、夢の代償、存分に払ってくれる!」
言うが早いか、紅に染まる魔剣を風車のように振り回して、遠心力に任せて、斬りつける。
肉体のダメージも再生のサイクルを越えたようだ。ああ早く、この夢から醒めねば。
そしてまた血でこの喉を潤そう。ああ、あの夜の女王と呼ばれた者の麗しい血液で。
- 87 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :03/10/06 03:48
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>86
首を折った程度では殺せないだろうし、元々殺すのが目的って訳でもない。
傾いた肩の上から降りて、一歩後ろに下がる。
仕込みは上々――だろうか。
今度はこっちの準備だ。
そして、仕上げのタイミングを間違えなければそれで完成。
「……良い夢? 冗談じゃない」
顔を顰めながら、意識の大半を割いて『潜る』。
目指すのは自分と繋がっているモリガンの心。
外部からの刺激に対する反応は確実に低下するけど、やむを得ない。
……始めから、決めていた事だから。
離れて振るわれた短剣は、届かないと判断した。
故に大剣による一撃は避けきれなかった。
横一文字に走る切っ先が仰け反る胸元を掠め、斬線を刻む。
飛び退きながら翼を鋼に変え、続けざまに振るわれる大剣を流し、払い、逸らす。
押されるままに防戦一方と言うよりは、防ぐ事しか出来ないと言った方が正しい。
それも次第に精度が落ち、肌に刻まれる朱が一本ずつ増えてゆく。
考えていた事がある。
何故リリスはこんな風に思えるのか。
出た答えがこの方法をくれた。
もうすぐ、完成する。
- 88 名前:レオニード(M) ◆nzLeonidhs :03/10/06 03:49
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>87
紅い風車が夢魔の肌に血の線を一本、また一本と描いてゆく。
引いた剣についた血を舐める。甘く美しい、まるで今宵の夢の味。
振り返り、夢魔の方を向けば、心ここにあらずという表情でこちらを向いている。
何を思っているのだろうか?などと思案を巡らせて。
そうだ、何も最初からわかっていたではないか。夢魔の求める行動はたった一つ。
この紅い主従の鎖を解き放つこと。なれば躊躇している暇はない。
ああ、未だ夢に躍っていた。私は自身で気付いていたことすら簡単に忘れ去ってしまったのだから。
一旦、うつむいてから顔を上げ、もう一度、剣を構える。
静かに絨毯の上を舞うように近づいて。
常夜の闇に舞う雪のように静かに剣をおろし、
空に浮かぶ月を描くように弓なりに打ち払い、静かに言い放つ。
「せめて、最期は血の花の中で眠れ………私が出来うる唯一の弔いだ」
その身体に刻まれた紅い線の中点を一気に払い抜けんと、軽い足音と共に伯爵が舞う。
- 89 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :03/10/06 03:50
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>89
吸血鬼に血を吸われれば、吸われた者は僕になる。
今更確認するまでも無い事実。
けれど、それだけでは今の状況を説明しきれない。
モリガンに逆らう気持ちは無い。
なら、モリガンと一つな筈の自分はどうなのか。
反感を抱いている。それに、殺意も。
―――リリスは縛られてない。
原因は良く判らない。
とにかく重要なのはそこ。
何故なら、モリガンが良い様にやられた相手に勝てるとは思えないから。
だから方法を考えないといけない。
リリスが亡くなっても、目的を果たせるような。
肌を濡らす血は滴り、床の絨毯をより赤く染めてゆく。
随分流れた。身体が重い。
でも、もう良い。
準備は出来た。
鎖は、今この身を縛している。
戻るのは一瞬で、次に来たのは身体を満たす疼くような痛み。
そして、思い。
血に強制された想い。
逆らおうなんてそもそも思えない。
でも、逆らわなくても、ただ立っているだけで良かった。
刃はそこに来ているから。
斬られる感触を味わいながら笑った。
どういう笑いなのか、自分でも判らない。
判るのは、リリスが引き受けた鎖が断たれた事。
この身が断たれた事。
モリガンが、目覚めた事。
形が亡くなってゆく。
笑ったまま、夢の様に消えた。
- 90 名前:レオニード(M) ◆nzLeonidhs :03/10/06 03:51
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>89
一閃。小さな身体から大輪の血の花が鮮やかに咲き乱れて、散る。
同時に自らの身体を何かが駆け抜ける音を訊いた。
「─────まさか!」
その音の重みに、一瞬すぎる出来事に。声を荒げて叫んでいた。
目の前にいるのは、幻であり、夢魔であり。モリガンの現し身なのだ。
そして、静かに笑みを浮かべて消えていく。身体に残るのは何かが、ほどけていく感覚。
そう、この鎖が解ければ夜の女王との血盟が消えることを意味する。
走った。ただ、モリガンの部屋へ。
気がかりなのは、その悟りきった笑み。
未だ、その鎖が解けていないことをただ願いながら。
願わくば、この夢、いまだ醒めぬように、と。
心の中で、先刻までと矛盾した望みを抱いていたことを心で嗤って。
- 91 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/06 04:00
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>90
――――そこには、既に居なかった。
そして、その事実さえ些細に感じるほどのもう一つの『事実』が部屋の中一杯に満ちていた。
ベッドが切れている。
絨毯が切れている。
ソファーが切れている。
タンスが切れている。
それだけではない。
ドアも窓も壁も床も天井も何もかもが切れている。
一度や二度やでは足りない、と言う風に。
三度や四度でも足りない、と言う風に。
五度でも六度でも七度でも八度でも九度でも足りるはずが無い、と言わんばかりに。
頭ではぶつけるべき相手が判っていても、そうせずにはいられなかった。
沸き起こる感情が直接身体を動かしていた。
気が狂いそうだから。
切り刻めれば良かった。
辺鄙な場所にある城を出て、歩いて街に向かう。
邪魔なモノもそうでないモノも、行く手にあれば切った。
生きているモノはなるべく良い声で鳴くように時間を掛け、最後に臓腑をぶち撒けて殺した。
生きていなければ切って切って切って微塵になるまで刻んだ。
歩きながら考える。
これから、どうしようか。
「……全部、壊しちゃいましょうか。ねぇ?」
暗闇に沈んだ街。
薄く笑いながら、一人目に右手を振り下ろした。
- 92 名前:レオニード(M) ◆nzLeonidhs :03/10/06 04:01
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
>>91 EPILOGUE -Noblesse oblige-
伯爵は諦めの笑みを浮かべる。
どうやら、完璧にしてやられた。と言うことらしい。
幼き夢魔は、我らが契約の鎖を断ったのだ。
良くやったものだ、と。渇いた嘲笑を響かせて部屋をもう一度見やる。
切り裂かれた無惨な部屋には、もはや誰も居はしない。
それが、ああ、この永き夢は終わったのだ、と実感させる。
なれば、私のすることは一つ。外で獣が呻いている。
悠久の昔の約束を、過去と今代の親友との約束を果たそう。
封ぜられたこの常闇の地を守るのが、伯爵レオニードの役目なれば。
この幕は自らの手で引かねばならぬ。
城を出れば、むせかえる血と死の臭い。
身体を全て引き裂かれ、臓物をまき散らした獣の群れ。
微塵になるまで切り裂かれた、魔の植物。
一抹の不安が伯爵の頭をよぎる。
街へ降りて、まだ惨劇が現実になっていないことに胸をなで下ろす。
そして、再び両者は相まみえる。あの麗しい気品に充ち満ちた、
まさに夜の女王と呼ぶにふさわしい姿で、モリガン・アーンスランドはそこにいた。
刹那、偶然その場に居合わせたの街の住人にその右手を刃に変えて振り下ろした。
見とれている隙に、遂に犠牲が一人。これで振る舞いは決まったも同じ。
幸い、気付かれていない。後ろに無音で近づいてその手を取る。
「……………止めてもらおう。アーンスランド卿。
礼は言おう。良い夢だった。だが、犠牲も出てしまったことだ。
これ以上、聖王より封ぜられしポドールイ。汚されるわけにもゆかぬのでな。
この地と伯として命ずる。これ以上の危害を加えるならば、早々に立ち去ってもらおうか!」
久し振りにこの胸が躍った、血に、そして自らの衝動に。
夢魔の残したこの夢は永久に忘れることなど無いのだろう。
だが、吸血鬼としての業よりも、我が約束は重いのならば。
そして、それが高貴なる者の務めならば。
この邯鄲の夢の幕を引こう。
例えそれが、終わり無き悪夢の始まりだとしても。
- 93 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :03/10/06 04:09
- レオニード(M)vsリリス(M) 「籠の中の小鳥」
レス番纏め
>71 >72 >73 >74 >75 >76 >77 >78 >79 >80 >81
>82 >83 >84 >85 >86 >87 >88 >89 >90 >91 >92
―――終わらない。
誰も彼も殺し尽くすまでは。
―――止まらない。
残らず殺し尽くすまでは。
- 94 名前:水無瀬綾乃 ◆LESSER/8gM :03/10/20 00:24
- ここが……吸血大殲…………。
あ、あの……回覧板を見て、それで……えっ? 書類、ですか……。
はい、これ……ですね、わかりました……。
出典 : 今宵も召しませ▼ Alicetale
名前 : 水無瀬 綾乃(みなせ あやの)
年齢 : 大体40歳前後(世間的には高校生程度で通っている)
性別 : 女性です。
職業 : 学生を……しています。
趣味 : アロマテラピーを少し…………。
恋人の有無 : ……い、いません!
好きな異性のタイプ : ……怖いんです、男の人が…………。
好きな食べ物 : 好き嫌いはないですけど……強いて言うなら、栄養……のあるものかしら。
最近気になること : ……お隣の、庄司さん、が……。
一番苦手なもの : 人付き合いが苦手で……未育ちゃん――管理人さんのお嬢さんがいなかったら、
きっとどなたともお話できなかったでしょうね……。
得意な技 : 家事全般、くらいしか……。
一番の決めゼリフ :
「でも、もう私に……優しくしないで下さい……」
「庄司さんには、アリスちゃんがいるじゃないですか……。
これ以上、庄司さんに優しくされたら……私、勘違いしちゃうかも知れないから……」
将来の夢 : ……幸せに、なりたいです、けど……だめなんです…………。
ここの住人として一言 : 邪魔するものは、誰だろうと容赦しませんから……。
ここの仲間たちに一言 : あの、よろしくお願いします……ね?
ここの名無しに一言 : あまり近づかない方がいいです……何が起こるか分かりませんから。
こんな感じでいいんですか……?
カテゴリは、そうですね……Dでお願いします。
ただ、ご主人様の命に従っている時は、私……傍観者の限りじゃないかもしれません。
戦闘スタイルは……左右の手に三本ずつ装着されたワイヤーを主軸にした、中距離戦闘が得意です。
ただし、いくら極細ワイヤーといえども、肉体をスライスするほどの鋭さはありません。
ですから主な使い方は対象の拘束や……飛来するものを払いのけること、などでしょうか。
あっ……もうこんな時間。
そろそろ私、これで……失礼しますね。
それじゃ、また……。
- 95 名前:エンジェルダスト ◆E41h4Ax32s :03/10/23 17:29
- 僕は…エンジェルダスト。
ちょっと特異な立場なので『吸血大殲』には不向きかもしれないけど…。
以後、よろしくお願いします。
出典 :オリキャラ
名前 :エンジェルダスト…本名はもう忘れちゃった
年齢 :14歳…だったと思う
性別 :男だよ
職業 :…狩人
趣味 :特に無いと思う
恋人の有無 :いないよ。 …誰も道連れにしたくないから
好きな異性のタイプ :よくわからないよ
好きな食べ物 :何だろう…忘れちゃった
最近気になること :僕のやっていることは…正しい…の…かな…?
一番苦手なもの :悲しそうな泣き顔…だね
得意な技 :邪剣マーダーを振るうこと
一番の決めゼリフ :「行け! 邪剣マーダー!」
将来の夢 :皆が幸せな笑顔でいられる世界を…
ここの住人として一言 :僕は…エンジェルダスト。 …狩人だ
ここの仲間たちに一言 :はじめまして、よろしくおねがいします
ここの名無しに一言 :魅せる戦いを心掛けます
僕は剣を使うけど剣術は素人で、
実のところ僕自信には戦闘能力は無いです。
でも、僕の使う剣『邪剣マーダー』は、
インテリジェンスソード(知性と意思を持った剣)で、
僕が構えるだけで人間の血肉を求めて敵へと向かうんです。
世界大戦中、絶対殺戮兵器として、
魔法と科学の合成技術によって造られた『邪剣マーダー』は、
『人間』に対しては非常に強力な武器となります。
『邪剣マーダー』の具体的な性能に関しては、こんな感じです。
1.知性と意思を有し、使用者の意識と同調する
(邪剣マーダーの知識と思考は邪剣マーダーの使い手へと伝わり、使い手の知識と思考は邪剣マーダーへ伝わる)
2.人間は、刀身に触れただけでその部位を喰われる(ただ当たっただけで、場所によっては致命傷になる)
3.状況に応じて高速で変形する(遠距離から攻める事ができ、銃火器や多勢にも引けを取らない)
4.「2.」によって取り込んだ養分は、使用者に流れ込む(邪剣マーダーの使い手は、空腹を覚えることはない)
と、こんなところです。
だから僕の戦闘スタイルは、遠距離から邪剣マーダーの動きやすいように
場所や構えを整えるような形になります。
邪剣マーダーは人間以外を喰らいません。
そのため僕は人間の属性を持つものとしか闘えません。
具体的には『人間』、そして『人間と魔族のハーフ』や『人間から魔性へとなった者』ですね。
また、僕は『狩るべき者』しか……滅ぼしません。
『狩るべき者』とは、この場合
「『殺人快楽主義者』やそれに類するもの」
だと思ってください。
かなり異質な立場の僕ですが、
どうぞよろしくおねがいいします。
- 96 名前:名無しダンピィル:03/10/23 19:31
- >>95 エンジェルダスト氏
さて、最近は顔を出す事すらなかったZEROスレの特別講師・名無しダンピィルおにーさんです。
本日は出張講義に参りました。スレ汚しの程、失礼いたします(ぺこり)。
さて、エンジェルダストさん。
まずは何も考えずにこのスレの>>2をご覧下さい。
>―参戦基準の判断―
>参戦基準は原則、『吸血鬼』に関係がある者とする。
>これは原典が吸血鬼を取り扱っている、参戦者が吸血鬼、あるいは狩人である事と定義する。
>―逸脱キャラクターの処遇について―
>逸脱キャラクターとは原典が吸血鬼と無関係であるものと定義する。
>此処はあくまで『吸血大殲』なのだから、吸血鬼と無関係な闘争は決して許されん。
>認められるのは、あくまでも『吸血』というロジックに従った闘争のみだ。
>逸脱者を使いたいのであれば、その闘争を『吸血大殲』に仕立て上げろ。
>雰囲気がどうこう、という問題ではない。
>明確かつ説得力を伴った『吸血』のロジック、それのみが必要となる。
はい、分かりましたね。
此処で注目して欲しいのは『吸血鬼』と『原典』の二語です。
失礼ですがエンジェルダストさん、オリキャラです。
その上、吸血鬼ともまったく関係ありません。
その状態で参戦する、仰られましても非常に厳しいものがあるんです。
何故か?
『吸血』のロジックの成立させる方法が、完全に相手任せになるからです。
次に、参戦基準と逸脱の処遇について分かれている、と言う点にも注目しましょう。
参戦基準のなかに、逸脱キャラを認める、と言う項目はありません。
あくまで『逸脱キャラによる闘争を条件付で認める』です。
また、オリキャラは最初から歓迎されていません。
クルースニク氏や或るクルースニク氏、無銘クドラク氏はオリキャラでは
ないか、と言う声もありますが、彼らはグレーゾーンギリギリとは言えあくまで
伝承と言うバックボーンを持つ、『吸血鬼』と関係のあるキャラクターです。
まったくのオリジナルキャラではありませんし、吸血鬼と無関係な戦闘能力
保持者でもありません。
……理解に及んで頂けたでしょうか。
貴方の参戦意思は歓迎したい所ではありますが、此処は貴方と言うキャラクターを
受け入れられる場所では、残念ながらないのです。
どうしても、と言うのであれば、独自にスレを立てて頑張ってみては如何でしょう?
その際、相談スレなどで同士を募ってみるのも良いかもしれません。
以上、出張講義を終了させていただきます。
ご清聴、有難う御座いました。
- 97 名前:エンジェルダスト ◆E41h4Ax32s :03/10/23 20:31
- >>96
一応、注意書き等には目を通したのですが、
>また、オリキャラは最初から歓迎されていません。
ここまではっきり書かれてはいなかったため、
勘違いをしてしまいました。
丁寧なご講釈、ありがとうございました。
スレ汚し、大変失礼致しました。
- 98 名前:プロローグ:03/10/24 23:10
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
これは過ぎ行く夏の終わりに起こった怪奇憚。
発条と滑車と血の巻き起こす闇色草紙。
では皆様、ごゆるりとお楽しみください。
それは、燦々たる日差しはやわらぎ、灯篭は流れ去り、空蝉は逝き、祭囃子の声は遠く、
線香花火のさびしい灯りの似合うようなそんな夏も終わりに近づいた夜のことでございました。
紅玉色の太陽が沈むと、天蓋には満天の星と大きな月が浮かび、やわらかな光を下界に投げかけておりました。
虫の鳴く声は穏やかで、夜風は涼しく刻々と近づく秋の訪れを感じさせました。
街には、ゆっくりと、だが確実に、秋の気配が近づいてきておりました。
古人の詠みし歌のごとく、目にはさやかに見えねども、でございます。
そう、この世には目には見えなくとも、ゆっくりと、だが確実に近づいてくるモノが存在するのでございます。
そう、この世には。
そう、この夜には。
たとえば、闇にまぎれて這い寄る魑魅魍魎のように。
たとえば、長い牙を持った血を啜る鬼の様に。
たとえば、からくり仕掛けの自動人形の様に。
- 99 名前:プロローグ:03/10/24 23:11
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>98
川に沿って伸びた道をを一人の少女が歩いておりました。
川を渡る風は涼しく、水の音も夏の盛りのような力強い音ではなく、どこか哀愁すら感じさせる穏やかな音でございました。
穏やかな風に吹かれながら、少女は月を見上げると、過ぎ行く夏を惜しむかのようにそっと目を細めたのです。
ひときわ目を引く少女でございました。
それは仏蘭西人形のような少女でございました。
鈍く光る麦藁のような髪。ミルク色に一刷毛、淡紅を刷いた肌。空よりも碧い碧い眼。
引きずるほどに裾の長い、レースのたくさんついた古めかしいデザインの白いドレスを着て、
ほっそりとした脚は黒い長靴下に包まれておりました。
鎖国が解けてよりかなりの月日が流れたとはいえ、いまだ異人の珍しいこの街で、異貌の少女は一際目立っておりました。
しばし散策を続けた後、少女はふと足をとめ、眉をひそめて辺りを見回しました。
きりきりと奇妙な音が聞こえてきたのです。
しばらく辺りを見回すと、少女はようやく夜の闇がいっそう深くなっている部分を見つけました。
その闇は年若い女性の姿をしておりました。
怪異と怪異は引かれ合うのでありましょうか、それが互いにとって最初で最後の出会いとなったのです。
そう、吸血鬼と自動人形の互いにとってでございます。
- 100 名前:プロローグ:03/10/24 23:12
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
>>99
風の音にぞおどろかれぬる、とも何処かの古人は詠みました。
吹き抜いていく涼風の中に、異国の少女は何を聴いたのでしょうか。
ともあれ、その不思議な軋りは最初から無かったように鳴りをひそめ、若い娘は暗がりの奥から
近付いて参りました。
金髪の少女の前まで来ると、娘は丁寧なお辞儀を一つして、今晩はといいました。
「お嬢様、私に御用という事ですけれど」
金髪の少女の麗しさは、これは誰しも口に任せて称える所ですが、何、こちらの娘だとて中々な
ものといえました。
品の良い柄の着物と袴、それに編み上げブーツがよく似合う、物静かで整った造作です。
ちょっと困ったように笑いながら、着物の娘は小首をかしげました。
「もう、こんなに暗くなっていますのに。――お父様に叱られましてよ?」
この可憐な顔を持つ娘は、名を大澤操といいました。
- 101 名前:プロローグ:03/10/24 23:12
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>100
ことの起こりは一体の人形でございました。
黄金色の髪の少女。
彼女の父親が街の古物屋で精緻な人形を買ってきたことがこの物語のきっかけとなったのでございます。
その人形は、透き通るほどに白い肌と長い黒髪の美しい日本人形でそれはそれは見事なものでございました。
気難しい少女も気に入った様子で、ことのほか大切に扱っておりました。
それがなんとしたことでありましょうか、その日人形を少女の兄が誤って壊したしまったのです。
不幸中の幸いか顔にこそ傷は付きませんでしたが、それでも傷は傷。
見栄えこそが華である人形にとってはそれは大変な瑕瑾となってしまいました。
少女はたいそう気落ちし、少年も罪悪感に胸つぶるる思いでした。
それをかわいそうに思った父親は壊れた人形をもって、それを購入した古物商に相談へと参りました。
するとその古物商は知り合いの人形師を少女の父親に紹介したのでございます。
そして、その人形師こそが大澤操その人でありました。
父親は大澤操に修繕を頼のみ、彼女はそれを快く引き受けたのでありました。
そして十日あまりの月日は流れ、人形はみごと修繕されて少女の手元へと帰ってまいりました。
本来ならばここで話は終わっていたことでしょう。
ですがそうはなりませんでした。
少女が屋敷へと人形を届けにきた大澤操に目を留めたのでございます。
- 102 名前:ナレーション:03/10/24 23:14
- 幻燈夏夜
〜〜ojyousama ha kyuuketuki〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>101
お嬢さまの名前はルルベル。
ごく普通の彼女は、ごく普通の大使の家庭に生まれ、ごく普通の生活をしておりました。
ただひとつ違っていたのは、お嬢さまは吸血鬼だったのでございます!
- 103 名前:プロローグ:03/10/24 23:15
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>102
ねえ、貴女と二人きりで会いたいわ。
.
- 104 名前:プロローグ:03/10/24 23:16
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>103
そうして今は宵のうち。
少女と彼女は向かい合い、異人と邦人は向き合って、月の光に照らされる。
二人は光に切り取られ、白く白く浮かび上がる。
それは傍目には美しくもどこか恐ろしげな印象を与える光景でございました。
まるで見てはならないものを見るようなそんな気持ちを抱かせる光景でございました。
碧い瞳で少女は大澤操を見つめました。
碧い碧い瞳で、少女は大澤操を見つめたのです。
その深い碧色はまるで見るものの思考を奪うかのような、不可思議な光を湛えておりました。
そして少女はゆっくりと操に近づくと、その首に手をまわし、抱き寄せ、その白い首すじに顔を近づけたのです。
まるで口付けでもするかの様にその白い肌に紅い口を近づけていったのです。
そう、それはある意味口付けでございました。
ただし、愛情を表すそれでなく、暗く冷たい死の接吻でございましたが。
そうしてルルベルはそのほっそりとした首に長い長い牙をうずめたのでございます。
- 105 名前:大澤操:03/10/24 23:51
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>104
交叉した二人の躯は、そのまま影と一緒に白い月明かりの中に融けていくかと思われる、それは
何とも蠱惑的な秘図でございました。
白鷺のような首筋に触れた紅唇が、まるで似合わない音を立てるまでは。
かちん。
確かに、そうとしか表しようの無い響きでした。。
硬い物が硬い物に当たった時、こうなります。鋭い牙が柔らかな肉を貫いた結果ではありません。
少女の片方はにっこりと笑います。それは確かに大澤操の顔、大澤操の表情でありましたけれど。
けれど、矢ッ張り大澤操の顔でも表情でもないのでした。
何時の間にか絶えていたあの奇妙な響きが、何時の間にかまた聞こえ出していました。
きりきり、きりきり、と。悪夢のように狂い無く。
「おいたは、め」
無機質に呟く娘の着物の両袖から、何かが姿を現しました。
ほっそりとした繊手を差し置き、真っ黒いそのものは凄まじい力で少女のドレスの肩に
掴みかかったのです。
それは、黒い具足を纏った巨腕でございました。
- 106 名前:ルルベル:03/10/25 00:14
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>105
少女の腕が無骨な鉄の豪腕へと変わり、自分に向かって掴みかかってくる。
その異常な事態には流石のルルベルも心底驚いたのか目を零れ落ちんばかりに見開いて、
口は呆けたかのように半開きになり、まるで人形のように立ちすくんでしまいました。
それでも紙一重でかわしたのは、さすがというべきでしょう。
それぞ血のなせる業といったものでしょうか。
襲い来る鉄腕を小さなステップで何とか避けると、今度は大きく連続して跳び退り、
10mほどの距離を開けて大澤操へと――――――否、大澤操の姿をした<何か>へと向き直ったのです。
離れた場所から見る<大澤操>の姿はひときわ異様なものでした。
ほっそりとした美しい少女。その体から異貌の腕が生え出ているのです。
鎧甲冑を纏った腕が、品の良い着物の袖口から、逆しまに突き出ているのです。
「驚いたわ。あなた人間じゃないのね」
自分のことは棚に上げルルベルは引きつった口元でそういいました。
内心とても驚いておりましたが、ひどく利かん気で強情なルルベルはそれをどうにか顔に出さす、
異貌の少女をみつめたのでした。
そうして大きく深呼吸をすると、恐ろしいまでの歯切れよさで言葉を一気に言い放ったのです。
「わかったわ、遊んであげる。来なさい!あは、あははははははは!」
引きつり笑いは哄笑へと変わり、驚愕に見開いていた目は楽しむかのように細められ、
そしてその顔は不思議な昂揚に上気していたのです。
- 107 名前:大澤操:03/10/25 01:22
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>104
大澤操の形――を半分留めたものも笑っていましたけれど、少女の狂笑とは裏腹に、のっぺりと
して薄暗い表情でした。
昂ぶりなど欠片もありません。元々が、“これ”はそんなものを持ってはいないのですが。
転瞬、でございました。
娘の着物は割れました。
破れたのではございません。急に柔らか味を失い、板切れの硬質を得た着物は割れたというより
開いたのです。
まず開いた両肩で、内から覗くのは五臓六腑ではありません。
それは廻り続ける滑車でした。歯車でした。
木組みと木組みを繋ぎ、動きを連鎖させる脱進機でした。
突き出た巨腕で鋼の甲冑もまた開き、たおやかな元の腕を内部に収納します。
脚部でも同じ事でした。胴体でも。
編み上げブーツが消え、逆に内部から数多の機巧が広がり出し、新たな形を造っていく流れ。
機を織るかのように、淀みも無駄もございません。
最後に頭部が体内に折り込まれた時、娘の姿はもう何所にもありませんでした。
大地を踏み締め立っているのは、身の丈八尺になんなんとする荒武者でございました。
兜の前立ては三日月状。そのおもては鬼もかくやの面頬に覆われて、先刻までの可憐なかんばせ
など嘘のよう。腰には大太刀すら佩いています。
自動人形、という発明は歴史が記しております。
しかしこれはそんな物とは比較にならぬ、日の当たらぬ場所で燦然と輝く闇の技術の所産なので
ございました。
鎧武者は両手を軽く上げました。と、手首から先が、鉄拳だけが緩々と回り始めます。
回転率は次第に上がり、瞬く間に旋風の勢いを呼び、殆ど静止しているのではとさえ思える域に
達し、不意に動きを止めました。
同時に武者人形は腰を落としていました。身構えたのです。
猛然と、人形は疾走を開始しました。巨体からは信じられぬ馳駆ぶりで、少女目掛けて突進して
いくのでした。
- 108 名前:ルルベル:03/10/25 02:00
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>107
ミルクのように白い腕。
ルルベルはその繊手を鍵爪のように折り曲げると、四足獣のように上体を倒し、全身の筋肉をたわませたのでした。
血を吸う鬼の端くれといえど、幼く小柄なルルベルでは力はたかが知れたもの。
重厚な鉄(くろがね)の 鎧をただ殴って壊せるとは思えませんでした。
それは彼女自身もよくわかっていたのでしょう。
ですから彼女はきわめてまっとうな手段をとりました。
筋力は弱く質量は小さくとも速度が上がれば破壊力は増すのです。
むろんそれは相手も同じ、いえ、明らかに質量で勝る以上、その破壊力は少女のものより数段上となるでしょう。
ですがルルベルは吸血鬼。腕一本程度ならすぐさま治る常ならざる体。
たとえ腕がもげたとて、さほど気にすることではありません。
全身の筋肉を凝縮し、極限までばねをたわめると、
抉れるほどに勢いよく地を蹴って、異貌の鎧武者へと向けて突き進みました。
それでも真っ向からは流石にあたらず、僅かばかり軌道を変えてすれ違いざまに武者の胴を薙ぎました。
鈍い嫌な音がして、ルルベルの右手はあらぬほうへと折れ曲がり、
しかし武者の鎧には傷一つついてはおりませんでした。
興奮のあまり大量に分泌される脳内物質で痛みはありませんでしたが、
傷口から飛び出た骨は見るも無残な有様でした。
ですがそれを見たルルベルは、おびえるどころかよりいっそう興奮して頬を紅く染めたのです。
白いドレスを翻し、体の向きをぐいと代え、勢い殺さずベクトルかえる。
弧を描いて地面を抉り、三日月のような軌跡を残し、再度、鎧武者へと向けて突き進みます。
疾る、疾る、疾る、疾る!
迫り来る両腕を上体を∞のマークのように振って回避すると、なんとか懐に入りこみ、
回避運動の勢いを生かしたまま、連続して掌底を叩き込んだのです。
折れた右手を気にもせず両手で武者を殴ったのです。
何度も何度も殴ったのです。
- 109 名前:大澤操:03/10/25 02:54
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>108
何度も何度も殴られたのです。
敵のではなく自分の血肉と骨片を飛び散らせる少女の両手に、武者は殴られたのです。
それは学名も定かでない、この世のものですらない蝶々が舞うような酸鼻さでありました。
その酷さ故に、少女はとても輝いていたのです。
そこには昼の世界の言葉では表現できない、夜に息づくものたちの美がございました。
武者が立ち往生している風なのは、真逆その輝きに圧倒されたからではありません。
確かに目も眩むような連打ですけれど、例えば何発ゴム鉄砲を撃ったとて、戦車の装甲を破る事
は出来ないのです。
この場合、彼我の戦力差はそこまでではありませんが、結局効き目が無いので同じだと断じる
事になりましょう。
黒い装甲は、何だかあちこちがへこんだようにも見えました。それが少女の可愛らしい拳の
生んだ戦果でした。
まだ殴られている人形は、そのまま右の剛腕を振り被りました。
上がる右手が、またも高速回転し出したのはこの時の事です。
今度は拳ではありません。手首に嵌められた分厚い金輪だけでした。
只の輪っかではありません。
この鉄の輪には、細かい溝が幾条も掘られているのでした。恐ろしい速度で回転度を速める、
いってみれば魔界の削岩機に触れられたならば、何であれ抉られてしまう事でしょう。
それは、尋常な人間の想像と心胆を最も寒からしめる形を取る筈です。
まだまだ殴られながら、そしてこの鎧武者は殴り返したのでありました。
そこには拍子を読むといった動きは、全く何もありませんでした。
ただただ、旋回する破壊の腕を叩きつけただけでした。
- 110 名前:ルルベル:03/10/25 21:24
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>109
頭上に落ちた影を見て、間一髪で身体をひねりました。
気付くのがあと僅かばかり遅れていれば、脳髄内蔵撒き散らし、
ルルベルは醜い肉塊へと姿を変えていたことでしょう。
ですがこたびは何とかスカートのすそが僅かばかり破れるにとどまりました。
無駄でした。
無駄でした。何度殴ろうとも無駄でした。少女の力では鎧を壊すことは出来ませんでした。
いわゆる一つの無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!というやつでございます。うりぃぃ。
己の血で血まみれになった両手を見やり、無傷の相手をその先に眺め、流石にこれは無謀だと思ったのでしょう、
ルルベルはきびすを返すと脱兎のごとく逃げ出したのです。
しかしそれは恐ろしくて逃げ出したのではありませんでした。
相手を傷つけることの出来る牙を探すために一時その場を離れたのです。
大きな月を頭上に仰ぎ、水薫のただよう夜の道をルルベルはひたすら駆けてゆきました。
蒼白い月光の降り注ぐなかを恐ろしい速さで駆けてゆく少女。
それは幻想めいた、あるいは悪夢めいた奇妙な光景でございました。
しばし街路を駆け抜けて、それらしき家を見つけると、その家の庭えと忍び込んだのでした。
そしてそのまま裏手へと進み、大きな風呂がまを目に留めると、よく辺りを見回したのです。
それは無用心にも少し離れた軒の下に立てかけてありました。
それは少し刃こぼれした、だが薪を叩き切るには十分なほどの切れ味を持つ一本の無骨な斧でした。
その頃にはすっかり治った両腕で大きな斧を担ぎ上げると、ゆっくりと後ろを振り返り、
いつの間にか現れた、鋼の荒武者に向き直ったのです。
そうして黄金色の髪を不器用にかきあげながら陶酔した声で叫んだのです。
「断首台だよ、断首台だ。さあ、お前たち、断首台へお行き。お前の首を嫌というほどすっぱりと切ってやる!」
- 111 名前:大澤操:03/10/25 21:57
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>110
つかず離れず少女の後を追いかけ追いついた武者は、彼女の高らかな宣言を聴いておりました。
本当の所が如何なのかは誰にも判りますまいが、傍目にはそう見えたのです。
仁王立ちした姿は、さてこれから如何しようと考えている風情ともいえました。
思考と選択には、さして時を必要としなかったのでしょう。武者は両手を前に突き出しました。
少なくとも、少女の物言い通りに首を刎ねられる積りは欠片もないようでした。
かしゃり、と音がして、その二の腕の左右から刃が生えたのです。
斧状の刃でした。少女が持つ得物と異なり、刃の縁は蒼褪めた夜光もすっぱり斬れそうなくらい、
研ぎ澄まされているのでありました。
聴く者の腹腔に、ずしりとした塊を生じさせたような、突如湧いたのはそんな砲声じみた音で
ございます。
一瞬武者の両肘から先が無くなったように、或いは見えたかもしれません。無論違いました。
両腕が高速度で撃ち出されたのです。握り拳を弾頭代わりにして。
また射出された拳と肘の間には、一本の直線が引かれております。断面と断面は鎖で連結されて
いるのです。
少女を打ち砕いてやろうと、また合計四枚の刃で切り裂いてやろうと、二個の鉄拳は喧しい唸り
を上げて空を飛ぶのでした。
- 112 名前:ルルベル:03/10/25 22:21
- 幻燈夏夜
〜〜The End of Summer〜〜
大澤操 vs ルルベル
>>111
闇裂き迫る鉄刃を、不敵な笑みを浮かべたまま、少女は宙へと飛び上がり、蜻蛉をきってかわしたのです。
そうして宙に浮いたまま、ちらりと視線を流したのです。
その碧い瞳を近くの大木の枝へと向けたのです。奇妙な光を湛える碧い瞳を。
するとどうしたことでしょう木の葉がざわめき膨れ上がったのです。
いえそれは葉ではありませんでした。膨れ上がったように見えたもの、それは無数の蝙蝠でした。
蝙蝠は碧い光に酔わされて、異人の少女に操られ、狂ったように飛び回ったのです。
それは漆黒の帳となって視界をすべて塞いだのです。
その闇色の嵐のなか、ルルベルは宙を走ります。
比喩ではございません。少女は蝙蝠を足場とし、軽やかに宙を駆けたのです。
そうしてからくり武者へと近づくと、無造作に斧を振るったのです。
まるでバトンを回すがごとく、無骨な斧を頭上で回し、首筋めがけて叩きつけたのです。
- 113 名前:大澤操:03/10/25 23:03
- 幻燈夏夜
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大澤操 vs ルルベル
>>112
血の通わぬ人形といっても、外界を認識する部位は人間と変わりません。
乱舞する蝙蝠たちに目を奪われた人形は、先ず防備を固める事が先決だと判断したのでしょう。
鼓膜をつんざく軋りを発し、両腕で鎖が内部に巻き取られます。
不発に終わった空飛ぶ拳は重い響きと一緒に腕に嵌り直し、全ての刃も引っ込みます。
素早い所作ではありましたが、生じた隙は致命的なものでした。いえ、少女の動きが、それを
致命的な域にまで押し上げさせたのでしょう。
斧を引っ下げて少女が跳躍して来たのです。妖蝶のように。
関節部の装甲がどうしても薄くなるのは、これも人間と同様なのでした。そこを突かれたのでは
堪りますまい。
細腕の振るう武骨な武器は、より武骨な人形の首の根にめり込んだのでございます。
木切れが散りました。
規則だった歯車の音は僅かに調子を崩し、巨体は少しく揺らいだようでした。
すぐに元通りになったのですが。
斬りつけられた斧を少女ごと腕で払って、鋼造りの武人は飛び退ります。
数メートル背後に着地した時には、人形は抜いた腰間の秋水を右肩につけておりました。
長い刀です。
乱世の侍を武勲の花で飾った長大剣、戦場往来の野太刀を彷彿とさせるものでした。
とてもとても抜けば粉散る赤鰯どころではありません。玉を散らせて滴らす、それは非情な
氷の刃でございました。
一歩、武者は進み出します。途端に銀光が幾重にも生み出されたのです。
武者人形が放った、袈裟懸けから続く連撃でございました。
- 114 名前:ルルベル:03/10/25 23:42
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>>113
喜劇のようにあっさりと、少女は弾き飛ばされて、木の葉のように宙を舞う。
枯れ木のごとくあばらは折れて、襤褸ぬののごとく皮膚は裂ける。
少女は壁に追突し、滑り落ちて地に伏せる。
それでも斧を杖として、震える脚で立ち上がる。
たち吹き荒れる剣嵐に、その身はきりきり斬りもまれ、紅い血潮が宙に舞う。
何とか即死は免れど、血流乱れて身体は弱る。
それでも斧を振り上げて、くるりくるりと回しては、縦横無尽に斬りかかる。
ぬばたまの夜を切り裂いて、銀の軌跡が突き進む。黒い鎧は重厚に、鋼の刃を受け止める。
銀と黒は弾きあい、ぶつかりあっては火花を散らす。
まばゆい火花が闇夜を照らし、それはすぐさま闇に消える。
すぐに闇に消えれども、すぐさま新たに光るので、途切れるまもなく火花は輝く。
そうこうしているそのうちに、いつの間にやらだんだんと少女の傷は減っていく。
できる傷と治る傷。はじめは前者が圧倒したがいまでは後者が僅かに上回る。
タネを明かせば簡単なこと。
無数の蝙蝠が楯となり、その漆黒が鎧となりて少女の身体は守られる。
一匹だけなら容易いが、十、二十も集まれば、少女に届くその前に僅かに速度は鈍ってしまう。
幼いといえど血を吸う鬼、紙一重で避けるには、それだけあれば十分なこと。
嵐のような激しさで、疾風のような素早さで武者と少女は斬りあい続ける。
- 115 名前:大澤操:03/10/26 00:27
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>>114
かりそめの主人を護り、片端から斬り捨てられる黒い小獣の屍を、千々に乱れ咲く剣光が照らす。
きりが無い。只人なれば舌打ちの一つもしただろう。
異様な機巧の塊の癖に、鎧武者はそんな単純な動作も行えはしなかった。
代わりに、人形は右手を大きく振り被った。少女の斧を捌く得物を左の篭手に一任する。
刀の柄が伸びた。内部の構造は如何なっているのか、倍も長くなる。
それよりもっと大きな変化が刀身で起こっていた。
刃が大きくなったのである。
歪曲し、幅を五、六倍にも膨らませた形は、大陸で青竜刀と称される剣によく似ていた。
避けきれぬ斧を喰らう上体をしならせ、槍投げの体勢でもって大刀は投擲された。闇の宙天に
向かって。
明後日の方に飛び去った――のではなかった。
その明後日の方角で大音響が発せられたのである。付近の民家の屋根を二つに裂いたのだ。
それだけではなかった。
遠心力の力学は、豪州で使用される狩猟武器の理屈を採用したらしい。
屋根に阿呆らしい深さの痕をこしらえて勢いも落とさず、廻る刃は舞い戻ってきたのだ。
大車輪の如く地面と水平に旋回し、水流代わりに夜気と月光を刎ね散らす妖刃は、当然ながら
美少女を射程にいれていた。
小刻みな瑕疵が無駄ならば、理非を断つ大威力を以ってすれば話は済む。
詰まりは、そういう事なのだった。
- 116 名前:ルルベル:03/10/26 01:30
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>>115
それはあまりに速過ぎた。
気付いたときには手遅れで、できることなど僅かしかなかった。
それでもその『僅か』をやったことこそが、即死を免れた理由だったのだろう。
背後に迫る巨大な刃。
一目見て、避け切れないと判断し、それでも精一杯身をひねり、古びた斧に身を隠す。
鋼の刃はささくれて、斧は大きく罅入りて、それでも重厚な様子だったけれど、
迫り来る旋刃の前にはあまりにも頼りなさすぎた。
素早く斧を持ち替えて、刃の腹でそれを受ける。角度をつけてそれを受ける。
斧は力に耐え切れず、折れて砕けて夜に散る。
刃は斧を断ち割って、少女の血潮を夜に散らす。
だがしかし、その努力が実ったか、魔刃の軌跡は僅かに変わる。
その大太刀は胴をなぎ、半ばほどまで切り裂いて、少女は血飛沫まきあげる。
その一撃は重過ぎて、切り裂くだけにとどまらず、ルルベルは宙に飛ばされる。
即死だけは免れて、少女は大きく宙を舞う。
飛ばされた先は民家の窓。硝子の破片を撒き散らし、畳の上へと転げ落ちる。
幸運だったのは異人の少女。
不運だったのはその家の住民。
闇夜に生きるもの達の、剣戟の音を耳にして、目を覚ましたのが運のつき。
少女は「にやり」と笑いかけ、碧い瞳で家人を睨み、思う存分血をすする。
少女の傷は癒えていき、家人は亡者へと成り果てる。
一人だけでは済まさずに、一人は二人、二人は四人、鼠算式に膨らんで、瞬くうちに増えていく。
一軒だけでは収まらず、一軒は二軒、二軒は四軒、鼠算式に膨らんで、瞬くうちに増えていく。
阿鼻叫喚の地獄絵図。血なまぐさい聖餐の刻。
そうしてわずかな時の後、数十あまりの亡者を率い、少女は再び異貌の武者と相対する。
- 117 名前:ルルベル:03/10/30 18:59
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>>116
その家は大きな家でございました。
そしてその庭はさらに大きく、建物の庭に面した面には木製の雨戸が閉まっておりました。
まず開いたのは雨戸でした。縁側をはさんで次に障子。そうして襖が開いたのです。
するすると、そうするすると、襖が開いていったのでございます。
まるでもったいぶるように、外に面した襖から、部屋の内へとだんだんに、襖が開いていったのでございます。
そうして最後の襖が開きますと、そこには嫣然と微笑む彼女がいたのでございます。
さてはどこから持ち出したのでしょうか、
血に汚れたドレスに変わり、絹の着物は雪の色。
薄紫の帯を締め、黒い羽織は鮮やかに、それより黒い百合の柄。
そうして挙句のその果てに、刃渡り一尺に達するほどの、身よりも長い薙鎌を、携えていたのでございます。
ただしその足元は、長い黒の靴下に変わらぬ革の靴でございました。
彼女は一人ではありませんでした。
老いも若いも入れ入り乱れ、男も女も区別なく、無数のしびとが彼女を取り巻いていたのでございます。
斧に包丁、鉈、つるはし。鍬に鉄槌、鉄縄に鎌。刀や弓まで揃い踏み、
各々雑多な得物をもって、数十のぼる人々が、彼らが女王に付き従っていたのです。
そう襖の向こうには、屍人の従者を引き連れて、声もなく笑うルルベルがいたのです。
彼女は大きく手を振り上げると、何の言葉も発さずに、ただ手を振り下ろしたのでございます。
無言で、ただし満面の笑みを浮かべて、その繊手を振り下ろしたのでございます。
そうして、無数のしびとが主が敵へと襲い掛かって行ったのです。
- 118 名前:大澤操:03/11/01 20:39
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>>117
首が飛んだ。四つか五つばかり、一息に。
一拍遅れて赤い噴水が立ち昇る。からくり武者の周囲で倒れ伏す躯の方は、全て胸と腰で分たれ
済みだったので、大地を必要以上の血の沼へと変えた。
受け止めた時には元の形状を取り戻していた妖刀を一振りし、鎧武者は刀身の血糊を飛ばした。
剣尖が持ち上がる。血の痕一筋止めぬ刀身が映す影、また影。
孤剣に対し、血風を物ともせず連なる刀葉林は幾十を数えていた。
人形と対峙していたのは魔少女只一人だった筈である。それなのに。
何時しか敵は屍の軍団となっていた。
おまけにその群れに、鎧武者は十重二十重と囲まれかけている。
人間なら絶望の吐息でもついたろうが、矢張りその手の機能は搭載されていないようだった。
相手の事情など斟酌せず、牙を剥く生き物たちは文字通り殺到した。
右手のみの一閃が寝巻きをはだけた中年男を十文字に寸断し、左手で叩き落した老婆の頭部を
鉄槌の踵が踏みしだく。
多分兄弟だろう、よく似た幼い子供らは、高速回転する左の鉄輪が順繰りに血泥にした。
右拳も回転を開始した。引っ掴んだ刀も一緒だ。
群がり来たる妖兵団へと、人形は風を巻く抹殺の太刀を揮った。
死の旋風という言葉が大仰でもなんでもない。飛行機のプロペラに何かを放り込んだ場合を
考えてみれば良い。まともな人間なら想像したくもないだろうし、また少し前までは想像した事も
なかったであろう人々は、不幸にも自らの身でそれを体験する羽目になる。
草むす血汐の海の中に、屍(かばね)は紅く水漬いて続々と量産されていった。
吸血鬼は大抵の事では死なないのである。もう生きてはいないのである。
故に、それ相応の処置が必要なのであった。
- 119 名前:ルルベル:03/11/01 21:05
- 幻燈夏夜
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>>118
あかんぼ連れた母親は ミンチにされて さようなら
いつまでも 誓った二人は 仲良く輪切り
うそだろう なげく父親 ドリルの餌食
永遠に 生まれることの 無い胎児
幼い双子の女の子 どちらのパーツかわからない
- 120 名前:ルルベル:03/11/01 21:06
- 幻燈夏夜
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>>119
臓物脳髄千切れ飛ぶ、世にも恐ろしいその光景。
紅い血潮が地にたまり、骨と肉は潰れて落ちて、黄色い脂肪がぶちまけられる。
佳人はそれを目に留めて、ああ興奮のあまりにか、強く指をしゃぶりだす。
その薔薇色の唇に、紅い唇のその端に、透明なよだれが一筋うかび、ついにとうとうこぼれおち、
頬、顎、首に胸元と柔肌の上を流れてゆく。
しばし見とれていたけれど、ついに我慢の限界か、快感まじりのためいき吐くと、
無骨な薙鎌ひっさげて、自ら庭へと踊りでる。
弾むようなその足で、従者の間をすり抜けて、鋼の傀儡に迫っていく。
彼女を取り巻く兵達は、さながら彼女の手足のごとく、命ぜられずともおのずから、
彼女の楯と鎧となって、武者の一撃より彼女を守り、彼女の姿を間に隠す。
そして彼女の矛となり、つぎつぎ武者へと襲い掛かる。
斧、鉈、包丁、つるはし、鍬、鉄槌、鋤、刀、弓、槍、角材。
全方位から襲い掛かる。
真正面から打ち込んで、回る腕に貫かれて、背中側から斬りかかり、回る刀に斬り飛ばされて、
きりもみうって飛び込んで、鉄の拳で潰されて、屋根の上から矢を放ち、射出された拳の刃に両断される。
それでも屍兵の攻撃はやまず、ただひたすらに前進し、恐れ抱かず突撃し、
斬られて、潰され、また斬られ、殴って殴ってまた殴る。
彼らがあるじに導かれ、ただひたすらに襲いかかる。
- 121 名前:大澤操:03/11/01 21:37
- 幻燈夏夜
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>>120
黒糸威(くろいとおどし)の鎧が返り血で塗り替えられても、生ける屍は夜に溢れていた。
それだけの数である。斬る端から受ける打撃の蓄積は少なからぬ損傷を生じさせているのだが、
頑丈なものである。自動人形は自動的に敵を斬り伏せ続ける。
人間にも、これ程の武者振りを見せつける輩はそうはいまい。
まあ人間と人形を同列に語っても、詮方ない事ではあるけれど。
そも、からくり人形の歴史は浅いものでは無い。
遠く世紀を遡った希臘(ギリシャ)では、既に青銅造りの防人が使役されていたという。
となれば山河隔てて幾星霜、時の歯車の巡り合わせは、至芸に如何なる奇怪さを加えた事か。
この鎧武者に代表されるように、それは最早妖しの業ではあったろう。
人は、闇を畏れるばかりではないのである。時に魅せられ取り込まれ、挙句闇より昏い何物かを
造り出してしまう事だって――。
撃ち出した拳を戻し、鎧武者は腰を落とした。その腰で、かしゃかしゃと乾いた音が陸続する。
腰周りを覆う草摺(くさずり)の表面で、十数個の突起が生じたのだ。
槍の穂先状あり、丸い鉄球あり。棘が密生する鉄球あり、また錨型あり。全て鈍く光る鋼だ。
次いで生まれたのは火花、そして先の拳が発射された時にも勝る轟きである。
鉄刃は一斉に射出された。矢張り拳と同じく、凄い迅さで鉄鎖を棚引かせていた。
銛を発射する捕鯨砲のように――実際こんなもので蜂の巣にされたら鯨とて動きを止める――
飛来する一本の槍先は四、五人の土手ッ腹、更に庭の立ち木を貫いたに止まらず、その奥の土塀へ
深々と突き立った。
またある鉄片は――実は同じだ。
尖っているものは貫き、丸まっているものは粉砕し、幅の大きいものは引き千切る。後は喰らって
吹っ飛ぶ部位が頭か躯か。
その程度の差異しかない。
広がる鉄鎖の蜘蛛の巣に絡め取られた獲物たちは例外なく、死んでも動く仮死からもう動かない
真の死へと到る。
- 122 名前:ルルベル:03/11/01 22:41
- 幻燈夏夜
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>>121
地獄の釜の底のように凄惨な光景だった。
あるいは、はなはだ喜劇めいた光景だった。
どちらにしても、その光景を見たものは、笑う以外の行動をとる事は出来ないだろう。
思考停止の虚ろ笑いか、気が触れた果ての狂笑か、はたまた嗜虐心を満たしたゆえの笑いかは解らないけれども。
足の踏み場も無いとはこのことを言うのだろう。
一歩足を踏み出せば、はみ出た腸に足をとられ、もう一歩足を踏み出せば、ねちょりと灰色の脳みそが糸を引く。
美しかった庭園は、死屍累々の山となり、清き水をたたえた池は、肉片の浮かぶ血の池へと変わる。
見渡す限りの死者の山。溢れんばかりの屍の園。
その中に、金の髪の魔少女が、半ばうっとりとし、半ば放心したような顔ですらりと地に立っていた。
いや、もしかしたらその貌(かお)は、興奮のあまりの忘我の境地だったのだろうか。
よほどの悪運がついているのだろうか、とくに大きな傷は無く、ただし配下の血にまみれ、
白い着物は朱色に変わり、白い肌は紅(くれない)に染まる。
ぐるり辺りを見回せば、従う不死者は10人余り。並みの相手なら十分だろうが、それならこうはなっていまい。
少女は2、3度瞬きすると、気を取り直すように薙鎌かまえ、手近な下散(げさん)に斬りつける。
ぴんと張った鋼線を、下から鎌ですくい上げる。
鎌の刃派はこぼれて、下散は半ばより切断される。
素早く4、5回繰り返し、手近な鋼線を斬って落とす。
飽きた玩具を捨てるよう、手の薙鎌を配下に投げると、いま切断した下散をつかみ、自らの方へ手繰り寄せる。
鉄球付きの鋼線を両手でぐいと引き寄せる。
そうして縄を手に絡ませて、両手でぴんと引き絞り、鋼線の上に舌はしらせる。
だえきがたらたらと流れ落ち、鋼の縄をしたたり落ちて、透明な糸を走らせる。
彼女は、ただただ微笑して、柔らかに言葉をつむぎだす。
- 123 名前:ルルベル:03/11/01 22:41
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>>122
――――――縊り殺してさしあげるわ――――――
.
- 124 名前:ルルベル:03/11/01 22:42
- 幻燈夏夜
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>>123
見れば配下の不死兵も、鋼の縄を諸手に構える。
ただしこちらは二人で1本。
五組のしびとが縄構え、余りのしびとが得物を構える。
はじめに動いたのは余った死人。
ただひたすらに突撃し、あっさり斬って落とされる。
だがしかし、それはただの無駄死にではない。
次に動いたのは五組のしびと。
武者が切り落としたその隙に、飛び散る肉片すり抜けて、からくり武者へと肉薄する。
五組はそのまま駆け抜ける。からくり武者の鋼の四肢に、すれ違いざま縄ひっかけて。
そうして縄を引き絞り、鋼の武者のその身を縛る。
最後に動いたは吸血少女。
その手に鉄球引っさげて、武者へ向かって疾走し、その股下を潜り抜け、そうしてそのまま駆け抜けて、
背後の大木に飛び上がり、木のみき蹴って跳躍し、宙でぐるりと向きを変え、からくり武者へと襲い掛かる。
宙でぐるりと回転し、遠心力を鉄球にのせ、渾身の力で殴りつける。
- 125 名前:大澤操:03/11/01 23:49
- 幻燈夏夜
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>>124
牛裂きの刑の如く、四肢を縛された人形は夜空を見上げる。
天駆ける少女は金色で、紅くて白くて、そして如何しようもなく黒い。
時間をかければ縛鎖を解く事は可能だが、状況がそれを許さないだろう。
何しろ少女の天下らせる鉄の球は風を押し潰し、人形目掛けて襲い来ている。
手首の捻りが、辛うじて剣尖のみを少女へと定めた。
柄がまた伸びた。
今度は鍔も伸びた。と云うか横に広がったのだ。
この人形を動かす機構と同じく、仕組みは判らない。
只、刀身は伸びた。恐ろしい速度で伸び続けた。
雲の高みに達せんとばかりに。
刀の幅は広がった。鍔に収まるまでぐんぐんと。
万物を断つ重さを得んが為に。
大きく、太く。
剣と云い切るには、形状は兎も角大きさの点で大いに疑問だ。
括るなら、武器より最早兵器の範疇だろう。工事現場に転がってでもいた方が自然である。
そんな大魔刃の変成(へんじょう)は、即ちそれ自体が必殺の突きとなる。
魔剣が姿を変え終えた時、充分以上の力と重みを持った鉄球は兜を潰し、武者の頭部にめり込んだ。
- 126 名前:ルルベル:03/11/02 00:33
- 幻燈夏夜
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>>125
よほどその巨大刀とは相性が悪いらしい。
先に斬られたとは反対の胴を、断たれんほどに貫かれ、受身も取れずに地に落とされる。
地に伏すのは魔性の少女。身を縛られるは鋼の巨体。
武者は恐るべき怪力ふるい、じわりじわりと呪縛を緩め、ついに自由を取り戻す。
自由になったその四肢で、己を縛ったしびとの兵を、次から次へと微塵に刻む。
対する少女はどうだろう。
自分の腕に牙付きたてて、己の血をすすりあげる。
他人の血は甘美だが、己の血はなぜか苦い。
傷はまだまだ癒えないけれど、無骨な鉄球引っさげて、からくり武者へ疾走する。
鋼の鉄球回転させて鋼の武者へと近寄っていく。
まだまだ間合いのその外で、ひときわ大きく回転させて、地面すれすれに鉄球を薙ぐ。
そこにあったは子供の生首。鉄球食い込み半分つぶれ、玉突きのごとく飛び上がり、
からくり武者のその顔へ、血とそのほかを撒き散らし、勢いつけて飛んでいく。
そのあと何度か繰り返し、いくつも転がる生首が、次から次へと飛んでいく。
その間には、つぶても混じり、武者の顔へと飛んでいく。
人形は顔が命です。
それを布石に接近し、するりと間合いに入りこみ、くるり回って鉄球が、からくり武者へと襲い掛かる。
しかし間合いを間違ったのか、鉄球は頭部より僅かに後ろを通り過ぎ、否、その瞬間にルルベルは
鉄球をつなぐ鋼線に、腕ひっかけて支点とし、その軌道を急激に変える。
軌道をかえた鉄球は武者の頭部に命中し、その巨体を僅かに揺るがす。
そうして作ったその隙に武者の肩へと飛び乗って、首の上へとまたがって、その細腕で頭を掴み、
首引き抜かんと、首ねじ切らんと、彼女の渾身の力を込める。
ねらいは僅かな首の傷。ほんの僅かな過去のこと、斧でつけた傷のあと。
少女の身体は力によって、己の渾身の力に押され、爪割れ、皮裂け、血が流れ、細い血管は破裂する。
それでも彼女は力を込める。ただひたすらに力を込める。
ぎちりギチリと嫌な音。ほんの僅かな首の傷、いまでは中身が見えるほど。
武者は少女を潰そうとするが、僅かに残った少女の配下、武者にうるさく付きまとい、それを何とか防ごうとする。
ぎちりギチリと嫌な音。ほんの僅かな首の傷、いまでは拳が入るほど。
だがしかし、少女の身体は耐え切れず、力に腕が耐え切れず、皮裂け骨みえ肉ちぎれ、
まずは右手が千切れ落ち、続いて左も千切れとぶ。
そうして少女は地に落ちる。
そうして少女は地に落ちる。
- 127 名前:大澤操:03/11/02 01:48
- 幻燈夏夜
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>>126
血塗られた大剣が旋回した。
構える為であったのに、描く弧の線上にいた最後の数人は巻き込まれ、あえなく切断された。
ついでにぶちあたった背後の家屋では、二階部分が半壊する。
ころり、と眼球が落ちて地面を転がった。
人形のものではない。滅多矢鱈にぶつけられた首の肉片が頭部にこびり付いていたのである。
破損箇所で露出した機巧は、鮮血でたっぷりと濡れていた。
右八双の構えを取ると共に、未だ体内より引き摺ったままだった鎖分銅、半ばで断たれたままの
全てが根元の部分で弾ける。
着脱された鉄鎖は、引き千切れた少女の両腕の上に折り重なり、その酸鼻さを幾分か覆い隠す。
武者人形は大地で蠢く少女を見下ろした。
両腕の無い少女。芋虫のような無惨さに眼を背ける――訳もない。
内部で廻る歯車の正確さは、ごく自然に大太刀を振り下ろさせた。
風が吹き過ぎた。秋の訪いを告げる微風ではなく、極北の全てを凍てつかせる寒風が。
獅子洞入の秘剣は横に流れ、大きく振り抜かれている。
依然として少女はそこにいた。血を噴く下半身だけだが。
更に無惨にも、一閃は少女を腰で二つにしてのけていた。常ならぬ太刀行きの迅さについて
行けず、下半身のみ千切れて残ったのである。
では上半身は?
きりきりと軋みながら、武者の首が横を向く。少女はそこにいた。
巨大で真ッ赤な鉄板の上には――刃が断ち切った少女の腰から上が載っていた。
- 128 名前:エピローグ:03/11/02 01:58
- 幻燈夏夜
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>>127
そうしてルルベルは死にました。
ですがこれでは物語は終わりませんでした。
からくり武者の去りしあと、
庭にたまった血だまりが少しずつ量を減らし、泣き別れになった彼女の身体が寄り集まり、
しばらくのときが流れ、そうして少女は復活を遂げたのでございます。
決まった「法」を用いなければ滅ぼすことはかなわない、
吸血鬼とはそういう存在なのでございます。
復活を遂げたルルベルは、よろめく足で何とか立ち上がると、自分の家へ向けて歩き出しました。
ですがやはり限界だったのでしょう。道半ばまで行く前に力尽き、道の端に倒れ伏してしまったのでございます。
消えゆく意識の中、ふと、足音が聞こえたような気がしました。
気のせいでしょうか。いいえそうではありませんでした。
その足音の主はゆっくりルルベルの傍へと近寄ってきたのでございます。
意識の消えかけていたルルベルも、何かが月光をさえぎり、辺りが暗くなったことに気が付きました。
そうしてルルベルは、顔を上げ、目を開いたのでございます。
その碧い瞳を開いたのでございます。
- 129 名前:木下京太郎:03/11/02 01:59
- 幻燈夏夜
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>>128
その日は私の患者の病状が悪化し
岐路に着いたときにはすでに日付が変わっていた
患者は何とか安静を取り戻し
どうにか私の首もつながった
その帰り道
私は道の端に異人の少女がうずくまっているのを見つけたのだ
関わる気は無かった筈だが
気が付くとなぜか
私は少女の前に立っていた
するとその少女は
私の気配に気付いたのか
うっすらとまぶたを上げたのだ
そうして私はその少女の瞳が碧いことに気付いたのだ
その碧い瞳が
碧い碧い瞳が私を見つめるのだ
だから私は
その少女を拾って帰った
- 130 名前:名無し客:03/11/02 03:42
- 幻燈夏夜
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レス番纏め
>98 >99 >100 >101 >102 >103 >104 >105 >106 >107 >108 >109 >110 >111 >112 >113
>114 >115 >116 >117 >118 >119 >120 >121 >122 >123 >124 >125 >126 >127 >128 >129
- 131 名前:詩人吸血鬼(M):03/12/16 21:34
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
「……不愉快だな」
最近、近所で起こる謎の殺人事件。
それだけなら、わたしの気を引くことは無かっただろう。
だが、実際にその事件は私の気を引いた。
死因が大量出血にも関らず、一滴たりとも外部に血液が毀れてはいないという変死体。
そして、死体の首筋に空いていたという二つの穴。
それを聞いた時。わたしは一連の殺人事件が同族の仕業だと、直感的に理解した。
非常に不愉快な気分になった。そいつは、わたしに一言の断りも無しにこの街で吸血行為をしているのだ。
滅ぼすか、警告で済ませるか。その二つの選択肢を胸中に思い浮かべ―――――僅かな逡巡もなく滅ぼすことに決めた。
(久方ぶりに感じる感情だ、存分に楽しむとするか)
唇が笑いの形にめくりあがる。今のわたしの顔を見たものは、間違いなくある存在を思い浮かべるだろう。
わたしの正体。血を啜り、永劫の時を生きるもの。"吸血鬼"と。
端女を連れ、わたしは奴の館へと足を踏み入れる。
殺すために。滅ぼすために。愉しむために。嗤うために。
「―――――風を捲いて、へばりついた犬の遠吠えが…
こすっても、こすっても… 三日月の形に落ち込んでいく…
真直ぐな深淵は―――――
ななめに歪む夜に、虚しく咳きこんで… ぼくをうつす―――――。
ぼくはあさましくない―――――。 もう、一人の家に行こう。」
満月を見上げながら口ずさんだ詩が。闇へと溶け出していく。
いい夜だ。本当にいい夜だ。月の光に。夜の闇の濃さに。血が、力が漲る。
―――――ああ、愚かで、哀れで、貧弱な同族よ。お前はわたしの無聊を慰めるため、良い声で鳴いておくれ。
- 132 名前:漆黒の王子(M):03/12/16 21:36
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>131
旅は続く。
ただ、歩むのみ。
そう、孤影は歩む。夜の街を。
だが時として足を止める事もある。
その影の名は吸血鬼。
最初の殺人を犯した者の末裔。
太陽に当っては灰と化し、風に消え去る者。
血に渇き、夜な夜な月とともに彷徨う者。
館に仮初めの住まいを築き、それは飢えを満たす。
「かつて、私のような者を詠った詩があったようだがな。
フン、まったく思いだせんとは……。
私もこの旅で大分疲れているようだな…」
影のもう一つの名は漆黒の王子。
七つの月がしろしめす大地、ルナルの地に生まれし者。
いや既に闇に落ちたモノ。
上位者たる鉄の姫の命を受け、
魔法の力を込めし武具を駆り集める旅の最中にあった。
そして永劫の渇きを耐えることなく、
旅先の小さな町で館を得、そこで浅ましい欲望に身を任せていた。
「ふむ……、思い出せん。
だが、この事に思考を巡らす事で退屈を紛らわす必要はなくなったようだな……。
ようこそ、客人……。いや先住者よ私はお前を歓待しよう……」
使い魔のざわめきから来訪者の存在を知ると漆黒の王子、
真の名をヴォルグレイ・アーカムと言う“それ”は、
僕の野犬や屍人達を動かし、歓迎の準備を整えた。
- 133 名前:詩人吸血鬼(M):03/12/16 21:38
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>132
「下衆な同族よ。わたしの歓迎に、このような下劣な輩は相応しくはない。彼等の相手は端女に勤ませよう」
連れてきた下僕に一言、命令を下した。
下僕達はわたしの命を受け。それまでの人形じみた無表情から、鬼女の形相へと変貌し、屍人達へと襲い掛かる。
絡み合う幾つもの肉隗。
吹き出す血と肉と骨片が、床を、壁を、天井へとぶつかる。
生命亡き物体と化したそれは、砕け、飛び散っては、耳障りの良い音を奏でた。
悪夢の曲を作曲したのはわたし。演奏するのは可愛い下僕たち。
時間が経ち、曲が流れていくごとに、下僕と屍人どもは原形を留めなくなっていく。
それらを満足げに一瞥し、わたしは背中を蝙蝠の翼へと変化させ、軽やかに宙に浮いた。
そのまま滑らかに空を滑る。無様な歓迎の礼を、ここの主にするために。
「今からそちらへ行く、主自らの壮大な歓迎を楽しみにしているぞ」
哄笑と共に言い捨てた台詞。
広大な館に木霊するそれを、心地よく耳に留めていく。
わたしは姿を闇に溶け込ませていった。
深い深い闇に。光など一筋も差さない闇の中に。わたしが住むべき闇の中に―――――
- 134 名前:漆黒の王子(M):03/12/16 21:39
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>133
屍と屍が互いに互いを喰らいあう。
干からびた屍が看護婦の腕を食いちぎる。
看護婦は紅い目の野犬を手刀で貫き通す。
その、どれもが人ではいられなくなった者。
スレイブ。
血族となるためには運と美貌、
そして“親”の気まぐれが必要だ。
そのどれもが無く吸血鬼に血を吸われた末路。
それがスレイブ。
眠れる奴隷ですらなく操り人形としての生、いや死を得たもの。
漆黒の王子は得たばかりの贄の血を吸いながら笑う。
「なかなかの趣味の良さだ……。
効率も良い。この街は非常にいいところだな。
なあ、先住者よ」
漆黒の王子は振り返る。
吟じようとした詩を生み出した詩人と知らずに。
満面の笑みを浮かべ、幾人もいる贄の一人を指しながら。
「なかなかの美味だ。良くいらっしゃった。
貴殿もいかがかな?」
- 135 名前:詩人吸血鬼(M):03/12/16 21:40
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>134
「は……ははっははははははははははは!!」
哄笑。止まらない。胸の奥から湧き出るもの。
怒り。目をつけていた獲物を横取りされたことに対する、憤怒。
悦び。殺戮の予感に打ち震える、歓喜。
憤怒と歓喜が混じりあい、混沌となっていく。―――――愉しい。
「卑しい同族よ。下賎な人間よりも、なお下等な同族よ。それはわたしのものだ。
"わたしのために用意された料理"だ。人の皿に手を出すとは、卑しいにもほどがあるな」
ああ、お母さん。あなたとわたしの同族に、この様な汚物がいたなんて。
わたしには、とても耐えることはできそうにありません。
「それは、お前を殺してからゆっくりと味あわせてもらおう」
わたしは念力を額から放つ。狙いは奴が噛んでいる贄。
殺戮の幕開けとして血のシャワーを降らせよう。さあ、殺し合いという名のショーの幕を開けよう。
- 136 名前:漆黒の王子(M):03/12/16 21:40
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>135
何を言っているのだ、この愚かな者は。
と、真に侮蔑する目で漆黒の王子は先住者を見る。
「ああ、夜を生きる者よ。先住者よ。
お前はなんて愚かなのだ。
地に住まう人は全て、我らの糧。
浅ましいのはどちらの方かね?お里が知れるぞ、この田舎者が」
自らの力とそして若き誇りを抱いて漆黒の王子は言う。
馬鹿らしい、と。
「今宵は祭り。血を愛す者達の宴。
自らの糧の拘り、美学を解さぬ者などただ、滅び去るがいい」
念動を受けた贄の首を掴み、先住者へと放り投げる。
散華する贄は、辺りの空気を真紅へと染め上げる。
奇跡的に首のみが原型を止め、贄の娘であった者の手の中に落ちる。
「……お、…か…あ……さん、おかあさん…」
「では、裁きの時間と行こうか?」
漆黒の王子は細剣を構え、優雅に先住者へと時を加速させる術をかすかに唱えながら歩を進める。
少女の意識が戻ろうとしている事に気が付かずに。
- 137 名前:詩人吸血鬼(M):03/12/16 21:41
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>136
「ははは、そんな玩具を振り回してどうしようと言うのかい?」
くすり、と笑いを溢す。存分に嘲りを込めて。
わたしの眼には、今にもぽっきりと折れそうな金属の板を構える、愚者の姿が映
りだされている。
実に無様だ。まるで人間のように武器などを構えるなど。
わたし達には、下等な人間のように真似事など必要ないのだ。
ここはひとつ教えてやらねばなるまい。
―――――吸血鬼としての戦い方を。
「仮にも同族であるなら、この位はしてもらいたいものだな。
――――もっとも、下等すぎてこの程度すらできないと言うのならば謝罪しよう」
肩が持ち上がっていく。まるで、中から何かが出ようと言うかのように。
膨れ上がる肩。それは徐々に何かを象っていく。
キィ。
"それ"が声を上げた。わたしの肩から生まれ出でた存在が産声を上げる。
それは蝙蝠。吸血鬼の忠実な使い魔として知られているものの一つ。
わたしは自らの肉体の一部を蝙蝠としたのだ。
滴り落ちた影ような"それ"の身体は、徐々に実体を伴っていく。
影から、物体への変化。
現身を得た"それ"は、歓喜と共に獲物へと飛び掛った。
- 138 名前:漆黒の王子(M):03/12/16 21:42
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>137
階下では死人たちの宴がまだ続いている。
互いに原型を止めず、よどんだ水溜りのように混ざり、
うねり、かき回されている。
そして、蔑むような笑みはまだ漆黒の王子に張り付いている。
「ああ、愚かな。なんて愚かな。
自らの剣の腕も磨かずに夜の貴族を名乗るとは。
ああ、お前は本当に愚かなのだな」
先住者の肉体より生み出された使い魔達が殺到する中、
漆黒の王子の呪が完成する。
《倍速》
それは、高速で動く為の呪文。
吸血鬼の速度を更に越え、漆黒の王子は滑り這う影のように動く。
真紅の細剣が閃き、蝙蝠や犬、名状しがたいケモノ達を次々と突き刺し、
抉りぬいていった。
「は、は、は、は、は、は、は。
できる?できるかだと?
貴様のような奴に見せてやる謂れはない。
貴様は、ただ、朽ちてゆけ」
マントをはためかせ、漆黒の王子は黒い竜巻と化して先住者へと向かう。
銀の光が竜巻の中の雷光のように先住者を襲う。
異形と異形がぶつかり合う中、
「お、かぁさん…。おかあさん。
おかあさん…おかああさん……」
眼前で母を失った少女の目に再び光がともり始めていた。
- 139 名前:詩人吸血鬼(M):03/12/16 21:42
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>138
「愚かだ、実に愚かだな。このわたしに、吸血鬼に武器などが通用するはずがないだろう?」
愚者は醜き鉄の塊を振い、わたしの使い魔をバラバラに切り刻む。
だが無駄だ。吸血鬼にただの武器は通用しない。聖別された物であれば別であろうが、そんなものを手にし
ては、持つ腕が無事でいられない。
それは吸血鬼である限り絶対のルール。いかに強力な存在であろうとも、自分の身を傷つけるものをリスク
無しで使うことは出来ない。
諸刃の刃は、振う本人すら傷つけるのだ。
疾風のごとく迫る間抜けは無視し、細切れと化した僕を元に戻そうとし―――――
(何だと?)
おかしい、わたしの呼びかけに僕が応えない……
ただの鉄塊で切り刻まれた程度で僕は滅びるはずが―――――まさか!?
あることに気が付き、身を翻した時には既に遅すぎた。
肩に入った冷たき刃が肺を通り抜け腰へと抜ける。
斜めに走る紅き線。噴きだす血潮は激痛と屈辱をわたしに与える。
呻き声を堪えながらわたしは身体を霧に変え、追い討ちから逃れた。
どのような理屈かは知らないが、奴の剣はわたしに……いや、吸血鬼に傷を与えられることができる。
迂闊だった。見縊りすぎていた。身に穿たれた傷は消して浅くは無い。
ならばこの場は退くのが上策というものか……
わたしは無様にも敗走した。
霧と化した身体が定型をとらず、姿をぼかしているのがせめてもの救いであった。
- 140 名前:漆黒の王子(M):03/12/16 21:43
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>139
この世には幾千もの退魔の武具がある。
その殆どは己を握る魔の存在に対し、何の反応も齎さない。
ただ、振るわれた時、その瞬間に力を解放するばかり。
たとえ、それが真の退魔の武具であったとしても、漆黒の王子には何の痛痒も齎さない。
そう、それが武具である限り。
死人たちの宴も最高潮になりかけたとき傷つき、焦りにまみれた男が飛び降りる。
それを追って狂喜にまみれた顔の男、
漆黒の王子が舞い降りる。
「どうしたのかね?貴族のたしなみである剣の腕を磨かず、
己の肉体の力のみで動き、そして敗れた気分は?」
漆黒の王子は苦笑しつつ、死人たちの最後の一体をその剣にかける。
「これで、互いの手駒もほぼ消えた。次はどうするかね?」
そして、意識ある身として一人部屋に残った少女は母の残骸にしがみつき、泣きじゃくる。
そして、一本の杭にその指が触れていた。
- 141 名前:詩人吸血鬼(M):03/12/16 21:44
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>140
霧と無数の蝙蝠に姿を変え、わたしは病院へと逃げ帰った。
そのままわき目も振らず奥の部屋へと転がり込んだ。
恐怖に犯された心を拭い去ってくれるのは、アレしかない。
奥の部屋……"ぼく"のお母さんが描かれた絵がある部屋。
「お母さん……奴が……奴がくるよ……下賎な同族がわたしを殺そうと追ってくるよぉぉぉぉぉぉ」
お母さんの姿を書いた絵画にすがりつく、ぼく。
泣き言を聞いてくれるお母さん。声の無い言葉で励ましてくれるお母さん。
お母さんを見ていると、恐怖が薄れていく。
(ああ、そうだね―――――ぼくがあんな下賎な吸血鬼に負けるはずは無いんだ)
わたしはゆっくりと立ち上がる。
恐怖などというものは、もう存在しない。
いい月だ。鈍く、冷たい満月が虚ろなわたしの心を満たす。
ここは相応しくない。
さあ、移動しよう。
あの愚者を始末するのに相応しき場所。
過去の栄光を微かに残し、朽ち果てた教会へ。
- 142 名前:漆黒の王子(M):03/12/16 21:45
- 漆黒の王子vs詩人吸血鬼『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>141
熱く、燃え盛る。冷たく、凍りつく。
これは、人の世の理。そう、人の世界の常識。
夜の、闇の世を歩く者にはその理も、常識も遠いもの。
冷たく燃える。 熱く凍りつく。
今の漆黒の王子は己の内の衝動と戦っていた。
横たわるものと立ち上がるもの。
生と死を正しく指す十字。
十字架に吸血鬼の真髄が恐怖する。不浄を許さぬ正しき光。
漆黒の王子は恐れた。先住者である吸血鬼ではなく、光を。
―――――聖域を。
「ああ、先住者よ。お前は確かに凄いのだな。
ああ、お前はこの十字の元に潜めたのか。
そうだろう、私よりも長く在るのだから。
そうだろう、私よりも血統を誇るのだろうから」
漆黒の王子はため息をつく。生きている者のフリだけではなく、
正しき者の威光に怯え。
漆黒の王子は顔を地に向ける。己の感情を隠すかのように。
そして、天を見上げ赤く、満ちた月を見る。
歓喜を、隠し切れずに笑う。嘲笑する。
「ははははは。
ああ、いいだろう。お前はかけがいがない。
ああ、いいだろう。十字の威光も気にならぬ。
いざ行こう、先住者よ。お前のすべてを貰い受けよう」
嘲笑の声が高まり、漆黒の王子は門を開き、光の中の闇へと入り込んだ。
そして、生贄であった少女は泣くのを止めた。
- 143 名前:詩人吸血鬼(M):03/12/16 21:46
- 漆黒の王子vs詩人 『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>142
「……来たな」
カツン、と音がした。
生者の存在しない空間に、虚しく乾いた音が響く。
姿を隠す気は無い。その必要は無いからだ。
「下等な存在で、臆さずここまで来たことは誉めてやろう」
身体をゆっくりと霧にしていく。
肩から胸へ、胸から腹へ、ゆっくり分解する。
「褒美を与えてやる。歓喜に咽びながら、消えろ」
そしてわたしの身体は、一塊の霧と化して奴を覆うべく動き始めた。
- 144 名前:漆黒の王子(M):03/12/16 21:46
- 漆黒の王子vs詩人吸血鬼『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>143
夜の教会へ入る。静謐な闇が迎え入れる。
血が沸き立つ。恐怖ではなく快感として。この殺し合いに欲情する。
漆黒の王子は細剣を構え、マントをなびかせながら礼拝堂へと入った。
「来たぞ。先住者よ」
低く、声を押さえながら。
しかしその動きはぎこちなくうっすらと霧をまとって。
月光が漆黒の王子を照らす。
その顔は別人。躯がマントと細剣を持って立っている。
「考えることが同じだったか…」
声に歓喜と呆れが伴う。
「互いに手は尽きたか?」
少女は手に杭を持つ。己の憎悪を燃やし怒りを胸に、悲しみを糧として。
- 145 名前:漆黒の王子(M):03/12/16 21:49
- >>144続き
躯から、教会の内から声が響く。
それは、悪、それは欠落、そして歪み―――――
得られるものなどない闇の奥のざわめき。
「本当に、互いの手は尽きたか?ならば、我が覚悟を知るがよい」
躯が動く。体に爆薬を巻きつけたまま。
躯が動く。手に持っていたライターを最後のタバコにつけながら。
躯が動く。無念の思いを引きずって火をつけて。
轟音が炸裂した。
- 146 名前:詩人吸血鬼(M):03/12/16 21:50
- 漆黒の王子vs詩人吸血鬼『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>144 >>145
「――――愚か者が、賢しい知恵を振り絞ったところで、このわたしを欺けるものかよ」
霧と化したわたしの身体。
"傀儡"の首に触れるそれは瞬時に獣の顎となりて、その首へと牙を走らせる。
異変はその瞬間に起った。
傀儡の躯が内からの圧力に一瞬膨れ、弾け、炎と衝撃を辺り一面に撒き散らす。
霧と化していた肉体の大部分が、炎に飲み込まれ、蒸発し、消滅する。
わたしは身体を集めた、霧が集まり肉体を再構築していく。
だが、足りない。
炎により消滅した部分は欠落している。
虫食いだらけの肉体が形成された。
ボロボロというのもおこがましい、このわたしでもこのままでは死んでしまう。
ならばどうする?
決まっている、血を、血を、血を、血をっ!
浴びるほどに血を飲み、力を取り戻すために。
謳い、這うように、身体を引きずる。
「―――――風を捲いて、へばりついた犬の遠吠えが…
こすっても、こすっても… 三日月の形に落ち込んでいく…
真直ぐな深淵は―――――
ななめに歪む夜に、虚しく咳きこんで… ぼくをうつす―――――。
ぼくはあさましくない―――――。 もう、一人の家に行こう。」
囁き、人の営みの場へと蠢く。
血だ、血を寄越せ、と。
紅く甘い液体、わたしたちにとっての生命の水を。
- 147 名前:漆黒の王子(M):03/12/16 21:51
- 漆黒の王子vs詩人吸血鬼『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>146
狂おしい詩が続く、続く。延々と終る事のない夜のように。
吟ずれば吟ずるほどに夜が深まると信じているかのように。
ああ、こんなにも暗く。
ああ、こんなにも渇くのに。
私は求める。
――――――――――あの、甘く全てを癒す赤き血を。
詩を吟じていた吸血鬼の前に一人の少女が立つ。
俯き、顔を見せずに。
その腕の中には母の首を抱き――――――――――――
漆黒の王子は這いずり、地べたを残された部位で渇きを癒す血を求めていた。
吸血鬼は火に弱い。それは火が、炎が命を表すからか。
正しき炎は歪んだ命を許さぬからか。
「待っていろ、私がこの私がここまでなった以上、
貴様もまたそれ以上に傷ついているはずだ。
貴様を啜り、そして私は生き残る、生き残るぞ……!」
もはや眼も爆ぜ怨念を吐き出すかのように通りを挟んで詩人を探す。
渇き、飢え、醜くも儚い姿を晒しながら。
- 148 名前:詩人吸血鬼(M):03/12/16 21:53
- 漆黒の王子vs詩人吸血鬼『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>147
血の、匂いがした。
自分の好みからは少し年を取った女の匂い、だが血には違いない。
甘い血の香りに誘われるようにして、私は顔を上げた。
ごくん、と喉が鳴った。
見上げた目に映る少女は、月明りに映し出され、女神のように美しい。
一瞬、少女の顔と両の腕に抱かれる女の生首に見覚えがある気がしたが、そのように
些細なことは血の渇望の前に脳裏から消えた。
そして私は少女を腕の内に招き入れる。
その白き首に脈打つ血管、それに牙を突き立てる快感を想像しながら、私は口を近づけた。
- 149 名前:漆黒の王子(M):03/12/16 21:54
- 漆黒の王子vs詩人吸血鬼『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>149
夜は夜明け前が一番暗いと人は言う。
濃い闇は人の心を迷わせる。闇は人の心を恐怖させる。
否、闇は何処にでもある。そう、人の心の中にも。
人の心の闇は恐怖は、殺意へと繋がる。
――――そう、バケモノを殺すのは何時だって人間なのだ。
少女は詩人の腕の中にいる。母の首を抱き、呆けたように。
白い牙が少女の白い首へと迫る。
甘い血を飲み干す為に。命の輝きを塗りつぶす為に。
ぽとり、と少女の母の首が落ちる。
それは、復讐の光。殺意の煌き。
白い、白い杭が詩人の心臓を抉り貫いていた。
そして、漆黒の王子は詩人の居場所を知る。
哄笑、嘲笑。
それは醜い笑みであった。
「は、はぁぁぁっはっはっはっは!!なんという事だ、なんと言う事だ!
先住者よ!先住者よ!
貴様は…!!貴様という者は!!
私の手に掛かるまでもなかったのか!
ああ、少女よ少女よ!!
私の元へきたまえ!私が、祝福を与えてやろう!」
漆黒の王子は詩人へと止めを刺さんと、少女を喰らわんと、
塵のような、泡のような体を引きずり、近づきつづけていた。
- 150 名前:詩人吸血鬼(M):03/12/16 21:54
- 漆黒の王子vs詩人吸血鬼『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>149
「あ……がっ?」
私の胸に杭が突き刺さる。
それだけで今の私には致命的であった。
さしたる抵抗も無く少女の非力な力で押し込まれる杭は、私に確実な死を与えていく。
心臓を貫き、杭の先端が私の背中から出ると、少女は私から離れた。
もはやどう足掻いても死は免れないことを悟る私の目に、空に浮かぶ月が映る。
昇ろうとする陽の光を反射しているのか、赤く染められた月。
まるで出来の悪い太陽のようなそれは闇の眷属としての私に対する皮肉だろうか?
ただ悪くは無い、このようなところで死ぬ愚かな吸血鬼には、こんな月に看取られて逝くのが相応しいだろう。
陽は昇り続けているのか、足の先に光が触れ、それた部分は灰と化す。
だが陽の光が昇りきる前に、心臓を打ち抜いた杭によって私は滅びるだろう。
杭から全身に広がる破滅を感じながら、私は自らの創った詩の最後の節を口にした。
自らの葬送曲の代わりとして。
―――――母さん、母さん……
僕は……病んでいるんだね……
- 151 名前:漆黒の王子(M):03/12/16 21:55
- 漆黒の王子vs詩人吸血鬼『吟ずるは眩闇の詩なり』
>>150
闇は深く、暗く、昏く、最後の瞬間まで暗黒を残そうと在った。
だが、今、朝が訪れようとしていた。
―――――漆黒の王子は焦った。
ようやく敵を倒したと言うのに、朝の陽に貫かれ、果てるのではないかと。
付近の人家に忍び込み、夜を待つ他ない、と決意する。
「さあ、乙女よ。我が祝福を受け、その美を、永遠に―――――!」
赤き凶眼を受けても少女は魅入られなかった。
既に、漆黒の王子のもたらす闇よりも深い憎悪の奥に魅入られていた。
ただ、無言で少女は漆黒から後ずさる。
「なぜだ!なぜ、我が祝福を受けない!」
欠けた心と欠けた肉体をもって、必死に這いずる。
血を、滋養を得ねばと思いながらも。
後、もう少し、後もう少しで滋養を得て、陽のあたらない場所へ隠れられる。
そうすれば後は―――――
漆黒の王子が進むたびに、少女は差を広げてあとずさる。
東へ、東へ―――――。
再生が進み、漆黒の王子の体は少しずつ、少しずつ少女を追い詰める。
後ずさる少女の足がもつれ、漆黒の王子はわが意を得たりと、
覆いかぶさり、その、血を命を啜ろうとする。
「ならば!貴様はただの餌として我が力となるがよい!」
漆黒の王子は哄笑を上げながら少女を貪ろうと、
毒牙を白い首筋へと突き立てるために大きく首を上げる。
その時、天は、否、人の意志は闇の残滓を許さなかった。
曙光、そう、夜の闇は終わり、人の生きる時間と告げる光が漆黒の王子を燃やし尽くす。
「そ、ん、な…!そんなバカな!私がッ!この私がッ!!」
絶望の中、太陽から少女から逃げようとする漆黒の王子の足を、
少女はつかみ、離さなかった。
蹴って逃れようとするも太陽に焼かれ、そして足が、腕が、次々に崩れ、灰となる。
「私が、私が愚かだったと言うのか!この私が!」
そして、心の歪みの果てに、吸血鬼は真に滅んだ。
―――――夜を憎む無言の瞳を受けながら。
- 152 名前:ダブ(M):03/12/16 22:09
- 漆黒の王子vs詩人吸血鬼『吟ずるは眩闇の詩なり』
終章『夜を殺す者たち』
その日はよく晴れていた。
陽気で明るい一日を約束されていただろう。
だが、その約束はすぐに潰えさった。
幼い少女が、道に倒れていたからだ。
しかし、それを目撃したのは丸い、丸い男。
ゴムマリのように丸く、そして弾むように歩いていた。
見た目に合ったかのように陽気に、朗らかに少女へと話しかける。
「お嬢ちゃんどうしたい?この、ダブ様が助けてやろうじゃないか。
色々教えてあげるよん?」
少女を見て、言うのならばこの声は的外れであっただろう。
男が、ダブと名乗る男が少女を見ていたのならば。
ダブが見ていたのは二つの灰の塊。
少女がいまだに見つめ、視線で射抜いていた灰。
今、ようやく夜の名残を消し去る風が吹いて消え去った灰を。
それに気づくと少女は、ダブにぽつりぽつりと話していた。
「いいっていいって、じゃ、友達ン所へ行きながら話そう。
刈夜もきっとそうだし、夕南子ちゃんも聞きたがるだろうし!」
ダブに連れられ、少女は話し始める。
自分が夜を殺す者へとなる物語を―――――。
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- 153 名前:ダン・マルソー#ケルベロス:04/01/10 16:57
- ほ、此処があの血で血を洗う戦場か、体がなまってきた所じゃ
わしも参加させて貰おうか。
出典 :新ジャングルの王者ターちゃん
名前 :ダン・マルソー
年齢 :数えるた事もないな、数千年と言った所かの
性別 :男じゃ
職業 :小さな国だが王をやっておる。
趣味 :いろいろあるが、弟子達に格闘を仕込む事じゃ
恋人の有無 :勿論、妻達がいたぞ。皆わしより早く逝ってしまったがの
好きな異性のタイプ :乳は大きい方がいいぞ
好きな食べ物 :わしの嫌いな物を探す方が難しいぞ
最近気になること :最近目が悪くなって……な。年かの
一番苦手なもの :特にないな
得意な技 :世界中のあらゆる格闘技じゃ
一番の決めゼリフ :サモトラケのニケの像の首を折ったのは、わしじゃ
将来の夢 :王国の繁栄じゃ
ここの住人として一言 :皆、よろしく頼む
ここの仲間たちに一言 :手柔らかに頼むぞ
ここの名無しに一言 :気が向いたら応援してくれ
カテゴリーについてじゃがおそらくわしはDに含まれる。
わしはほとんど素手で闘うがそのスタイルは決まっておらぬ
数千年世界を旅し世界中の格闘技を覚えたのでな、ただし他の攻撃方法は持たぬから
わしの間合いは手と足が届く所だけじゃ。
吸血鬼の例に漏れずわしも再生能力を持っておる。生半可な銃撃なぞわしにとって
何の意味も持たぬ、それ以前にわしは銃弾を回避できるがな。
それとわしの体は即座に負荷に順応し体が角質化する。つまり二度同じ事は通じんぞ。
わしは理由もなく血を吸わんが、わしに血を吸われた人間は強大な力を得るがわしの
操り人形となる。さらに他の者の血を吸わねば(勿論この時に吸われた者も同じ結果が待っておる)
一夜にして年老いて死ぬ。助ける方法はわしの血を飲む事だけじゃ。
それと聖別した武器は効果がない。吸血鬼と言われてはおるがヴァンパイアウイルス
と言うものに感染している人間じゃからな。もちろん太陽の光も同じじゃ。
ではよろしく頼むぞ。
- 154 名前:ダン・マルソー ◆9sS7mnXqVw :04/01/10 17:11
- すまん。トリップがおかしかった
- 155 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:19
- エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
ガランガランと鈴の音が、まだ夜も開けきらない社の境内に響きわたる。
ベッドタウンの片隅にある、それほど大きくもない神社。
鳥居の上には「谷尻神社」の名が掲げられている。
普段であれば閑古鳥が鳴いているこの場所も、流石に元旦ともなるとそうは行かない。
「わぁ、この時間でも随分人が居るのね」
「だから言ったでしょ。早めに出てきて正解ね」
「そんな事言って、寸前まで寝てたの早苗じゃない」
赤い鳥居の袂に立つ三人の少女。吾妻江漣、久保田早苗、藤枝美緒は白い息を吐きつつ、
そんな他愛もない会話を交わす。
「でも、初詣なんて久しぶり〜」
「そっか、吾妻ん家ってずっと香港だったもんね。どう、久しぶりに味わう日本の正月は?」
「ん、やっぱり良いわね」
久しぶりどころか、江漣にとって日本で迎える新年など、これが初めての経験である。
にも拘らず、そんな事は微塵も感じさせない笑顔で答える。
「ほら、二人とも、そろそろ行かない? 早く行かないともっと混んじゃうよ」
早苗達の会話の区切りを待って、美緒が声をかける。
その言葉に促されるように、三人は境内へと足を踏み入れるのだった。
- 156 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:22
- エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
・・・或いは、少しボタンを掛け違ってしまった歴史の中・・・
「船長、少し遅れているようだが」
低い機械音の響くブリッヂで、黒い軍服に身を固めた青年が倍ほどの歳の壮年の男に声をかける。
その声には、僅かながら苛立ちが感じられる。
それを敏感に感じ取ったか、船長と呼ばれた男はびくりと体を震わせながら答えた。
「いえ、中佐殿。数分のズレは発生していますが誤差の範囲であろうかと」
中佐殿と呼ばれた青年は、今度はあからさまにその秀麗な顔をしかめながらも首肯する。
確かに僅か数分の誤差で目標地点に到達したのは僥倖とも言えることを承知していたからだ。
だが、それでも不機嫌さが治まらないのは任務に対する不満があってのことだった。
(この私が小娘一人のために極東の島国に足を運ばねばならんなど・・・いまいましい)
エバンス・シュタイナー中佐。
それが彼の名前だ。
本来であれば、総統閣下の身辺を守るべき地位の彼がこのような極東の地にいるのは勅命があったからだ
彼の受けた任務はティーンエイジの少女を確保すること。
有り体に言えば誘拐だ。
本来であれば、彼のような高級士官が受ける任務ではない。
しかし、今回はかの総統閣下の勅命だ。
それだけ彼女が特異な存在だと言うことだが、それにしても不満がないと言うわけにはいかない。
それが少々表に出ても仕方のないことだろう。
「中佐殿、で、これから降下作戦を・・・」
船長が声をかける。
「私一人で十分だ。貴様らは逆に邪魔になりかねん」
それに相も変わらぬ不機嫌な顔で中佐は返した。
そしてそのまま、ブリッヂと外界とを遮る窓へと向かう。
「ちゅ、中佐殿、何を・・・?」
意図を理解出来ず、戸惑った声を上げる船長。
「時間に遅れている以上、最速の方法を取る」
事も無げに中佐は言い放つ。
「最速・・・?」
胡乱げに問いかける船長を無視し、中佐はまるで楽団の指揮者がタクトを振り下ろすかのような動作で腕を振るった。
ばかん。
気の抜けた音とともに、船窓、いや、中佐の前方の壁が割れた。
冷たい夜気がブリッヂに注ぎ込む。
「では、任務に就く。貴様らはこのまま待機せよ」
不遜に言い放ち、中佐はその身を宙空に投げ出した。
「・・・!?」
船長の驚愕した顔がすぐに遠ざかる。
そして、月を背に巨大な楕円の影。
その影には「GRAF ZEPPELINU」とあった。
それを見ながら、中佐は哄笑した。
「くは、はははははははは!! 待っていろ亡霊! 私の糸が貴様の五体を、貴様の心を縛りにゆく!」
- 157 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:24
- >156
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「しかし、こんなマイナーな神社にも随分と人が来るものねー」
手水舎にて人ごみを眺めつつ、早苗がそんな言葉を漏らす。
境内は足の踏み場もないというほどの混雑でもないが、参拝客目当ての屋台なども立ち並び、
結構な人入りになっている。
「マイナーって……霊験ある御神体を祭ってあるとかで、この辺じゃ由緒ある神社なのよ?」
手水の冷たさにわずかに顔をしかめつつ、美緒が答える。
「御神体?」
こちらは平然と漱ぎながら江漣が聞き返す。
「ええ、何でも天から賜った御神体なんですって」
「なんだそりゃ? UFOでも降りてきたっての?」
口を漱いだ水を吐き出しながら、早苗が呆れ顔を返す。
「しかし、相変わらず妙な事に詳しいのぅ、この娘は」
言いながら悪戯っぽい笑顔を浮かべると、その両手を美緒の頬へと伸ばす。
「きゃっ! 冷たっ!! もう、早苗」
「あはは。許せ許せ」
そんな二人のやり取りをよそに、江漣は自分の手をじっと見つめていた。
穢れを濯ぐといわれる手水舎の水に濡れた、己の両手を……
- 158 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:26
- >157
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「どうした? 今更その両の手が赤く染まっていることを気にしても始まるまい?」
江漣の背後から、馬鹿にしたような声が聞こえる。
はっ、と振り向くが、そこには誰もいない。
いや、いる。
だが、それはあり得ない光景だった。
「宙に・・・浮いている?」
そう、声を発した人影は宙空に浮かんでいた。
あたかも神が地上を見下すように。
事の異常さに気付いた他の参拝客が騒ぎ出す。
それを見やり、人影は溜息を一つ付き・・・
血飛沫が舞った。
参拝客の先頭にいた男の両腕の肘から先がなくなり、おびただしい血が噴き出していた。
「少しここは騒がしいがまあ、いい。私はキミに用があるのだ、吾妻江漣・・・いや」
人影が、僅かに口元を笑みの形に歪める。
「ファントム・アイン」
その胸元に、鉤十字の徽章が鈍く光った。
- 159 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:27
- >158
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
月を背後に従えた男が、古い名前で彼女を呼んだ。
呼ばれ慣れた名前、嗅ぎ慣れた生臭い臭い。
その臭いが、鋭く硬い冬の夜気をじんわりと鈍らせていく。
鈍った空気が人々に行渡った瞬間、悲鳴が上がった。
悲鳴は恐怖を呼び、恐怖は容易くパニックを引き起こす。
「くっ……」
油断していたわけではない。事実、襲撃に対しての備えは今だって持っている。
しかし流石の江漣にとっても、この人ごみの中での襲撃は驚愕の出来事であった。
だがその驚きも、男の胸の徽章を見つけた時納得へと変わる。
「――ナチ」
その瞬間、考えるよりも先に体が反応していた。
手水舎から柄杓を引ったくり、原始的な投石器の要領で思い切り振り抜く。
しかるべき勢いを持って放たれた水は、十分な武器になる。
が、勿論、こんな攻撃がダメージを与えられるとは思っていない。
一瞬で良い。相手の意識を逸らせる事さえ出来れば。
同時に、美緒の背中を押す。
「走って。鳥居をくぐり、階段を下りて。振り返らずに」
彼女は、自分達にとっての切り札の一つ。こんな不測の事態で失うわけにはいかない。
だから、
「走って! 早く!!」
再び、強く背中を押すと、自分は逆方向。本社へ向けて走り出した。
- 160 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:28
- >159
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「下らん」
視線を僅かにやるだけで、江漣が放った水の弾は四散した。
そして、江漣の後を追うようにゆっくりと足を運ぶ。
それだけであるのに必死に走る江漣は引き離せない。
「鬼ごっこかね? 私はそれほど暇ではないのだが・・・」
シュタイナーの瞳が妖しく煌めき、すっ、とその腕が流麗に動く。
「まあ、いい。鬼なら、そこのお嬢さんたちがしてくれるようだよ」
その言葉とともに、先ほど江漣が逃がしたはずの早苗と美緒が江漣を追ってくる。
その瞳はどこか虚ろでまるで人形のようだ。
「さて、お嬢さん方・・・やりたまえ」
シュタイナーが指をタクトのように振る。
それに呼応するように、早苗と美緒が銃を構え・・・江漣に向けて発砲した。
- 161 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:30
- >160
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「っっ……」
思わず舌打ちがこぼれる。
矢張り、そう簡単に見逃してはくれないらしい。
自慢げに飾られた胸の徽章は伊達ではないということか。
「でも、それなら――」
頭を切り替えるまでだ。
どうやって二人を操っているのかは分からないが、肉体は日本の少女のそれだ。
気絶させるのは、難しくはないだろう。
「問題は――っ!」
間近を銃弾がすり抜ける。
音を立てて砂利を蹴飛ばしながら手近な樹の陰に転がり込む。
次々と音を立て、盾にした樹の表皮を銃弾が抉る。
既に大量に結び付けられていたおみくじが、まるで花のように揺れた。
銃声が僅かに弱まる。
その瞬間、江漣は躊躇うことなく樹の陰から飛び出していた。
そこには彼女の想像したとおり、一人が装弾の交換を行っている。
今、銃を撃っているのは―――早苗一人。
「ふっ――」
鋭い呼気とともに振るわれた柄杓から、散弾のごとく玉砂利がほとばしる。
玉砂利は早苗の右手を襲い、銃をもぎ取る。
そのまま二人の懐まで一気に踏み込むと、今度は打撃武器と化した柄杓で美緒の手を打ち付ける。
どこか間の抜けた音を響かせながら、柄杓が銃を叩き落す。
しかし、柄杓もその衝撃に耐え切れず、柄の半ばで折れてしまった。
「少し眠ってて、美緒」
江漣は手の中でそれを素早く回転させると、折れていない側の柄を美緒に向けて突き出した。
- 162 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:31
- >161
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
江漣の突きだした柄杓の柄が美緒の鳩尾にめり込む。
そのまま、美緒はくずおれるようにして倒れた。
弾倉交換のタイミングを計って、近接。
しかる後に武器を奪っての無力化。
まるで教本にでもあるかのような見事な近接戦闘。
「なるほど、的確な状況判断と言ったところか」
だが、それを見てもシュタイナーは余裕を崩さない。
「確かに通常であれば最高の判断なのだろうが・・・甘い」
つい、とシュタイナーの腕が持ち上がる。
「捕らえろ」
短い命令の言葉。
それとともに、倒れた美緒が起きあがる。
だらんと意識を失ったままの身体が、まるで操り人形のように動く。
そして、それに合わせるようにして、銃を失った早苗も江漣に向かって走る。
「さて、どうするかな、ファントム?」
- 163 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:33
- >162
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
その一撃は、確実に美緒の意識を断ち切ったはずであった。
しかし、一度崩れ落ちた美緒の体は、上空の男の命令に従いぎこちなく起き上がってきた。
「なっ!!」
流石の江漣にも一瞬動揺がはしる。
するとまるでその隙を狙っていたかのように、背後から早苗が襲いかかってきた。
その腕が首に巻きつく寸前、体を沈み込ませ頭を抜く。
同時に腕を取ると、足の裏ですねを蹴り上げ背負い投げの要領で、早苗の体を美緒に向かって投げ飛ばす。
もつれ合いながら倒れこむ二人。
そんな光景を尻目に、江漣はある目的に向かい駆け出していた。
気絶していたにもかかわらず向かってきた美緒。
薬物や、暗示による操作ではない。明らかに外部的な手段による肉体操作。
そして、宙に佇む男。
江漣の頭に閃くものがあった。
たどり着いたのは、お好み焼きの屋台。既に逃げ出したのか、屋台内に人の姿はない。
躊躇なく屋台に手を突っ込むと、ポリバケツ一杯に作られていた生地の素を一緒に入れてあったカップですくい出す。
それを再び立ち上がってきた美緒達二人の頭の少し上を通過するように投げつける。
素早く二杯目をすくうと、ナチス姿の男の足元めがけぶちまけた。
- 164 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:35
- >163
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「なるほど……考えたものだな」
シュタイナーの足下にぶちまけられた生地の素の幾分かは、ありえないことに宙空に留まっていた。
ぽたり、ぽたりと垂れる雫はあるモノの存在を露わにしていた。
それは糸。
肉眼ではおいそれと確認出来ないほど極細の糸が、あたかも蜘蛛の巣のように無数に張り巡らされているのだ。
それがシュタイナーの足場となり、美緒と早苗を操る糸となっていた・・・
「今まで、この仕掛けを見破った者はなかったが・・・さすがはファントムといったところか」
しかし、あくまでシュタイナーは冷静だ。
「フッ・・・糸を見破ったくらいでいい気になってもらっては困るな」
顔に冷笑すら浮かべながら優雅に腕を振るう。
それだけで何十もの糸がキュイ、と江漣に向かって収束する。
「見えるか? おまえの廻りにはすでに糸が縦横に張り巡らされている。まさに、蜘蛛の巣にかかった哀れな蝶のようにな」
笑みが深くなる。
もはやそれは笑みではなく、笑みの形をした虚ろのように。
その口元に、ぎらりと光る牙が覗いた。
「そう、この私・・・ヒトラー様にクモ型獣性細胞を賜ったエバンス・シュタイナーの前では、亡霊といえども哀れな蝶に過ぎない。
そう、このようにな!」
幾条もの糸が、江漣目掛けて走った。
- 165 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:37
- >164
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
シュタイナーと名乗った男の攻撃。
しかし、それを目視する事は出来ない。
だが、今までの美緒達を操っていた動作や、参拝客を襲った戯れの攻撃とは明確に違う。
確かに、嘲りからくる戯れな攻撃である事は否めないが、それまでとは違う。
確実な意思。明確な「殺意」が今回の攻撃には乗せられている。
その一撃に、江漣は何かを感じていた。
小柄な体が、舞うように跳ねる。
寸前まで居た足元の玉砂利が、音を立てて弾け飛ぶ。
一撃、二撃、三撃……
その攻撃は、玉砂利を弾け飛ばすだけでなく、屋台を切り裂き、木々を薙ぎ倒し、そして、人間を切り裂く。
実際、人間という名のブラインドは多い。
しかし、そのブラインドは悲鳴を上げて減り続けている。
幾度目かのステップの後、江漣の体が屋台の天幕の陰に隠れる。
しかし、寸毫の間もおかず天幕は、不可視の攻撃によって切り裂かれてしまう。
そこに、彼女は居た。
右手に握るは鈍く輝く拳銃。
コルトパイソン357マグナム4インチ。
それは、あたかも一対の工芸品の如く彼女の手に納まっている。
僅かに動く指。同時に轟音。
弾丸は狙い過たず、以前彼女が立っていたすぐ脇を貫く。
お好み焼き屋の脇。屋台に火力を通すための小型ガスボタンク。
轟音。閃光。業火。
炎が、江漣とシュタイナーの間を焼く。
糸は、不可視だとはいえ物理空間を無視した攻撃ではない。
炎により焼かれるか、さもなくば焼け焦げ自在な動きを失うか
あるいは、炎による上昇気流で操作が困難になるか……
燃え上がる炎を越え、、静かに立ち上がった江漣の視線がシュタイナーを貫く。
「さあ、そろそろ降りてきたらどう? 人形遣い(パペットマスター)?」
再び銃声。
直後、佇むシュタイナーの眉間に虚ろな穴が穿たれた!
- 166 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:39
- >165
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「なるほど、無駄のない動きに……」
糸が奔り、血飛沫が舞う。
江漣の前にいた、哀れな酔漢の血だ。
「……勘も良い」
確かにさほど狙いも付けずに放っている糸とは言え、不可視のそれを躱し続けるのは簡単なことではない。
だが、江漣は……目の前の亡霊はそれを為している。
人としては最高峰とも言える速度と判断力で。
(なるほど、ヒトラー様が気に入られるのも無理はない……これはまたとない素材だ)
だが、いつまでも躱し続けられるほどシュタイナーの糸は甘くない。
屋台という遮蔽物に逃げ込んだ江漣目掛け、無数の糸が奔る。
「チェックメイト・・・だ」
その言葉通り、中のエレンも無傷ではすまないだろうと思えるほど激しく、屋台は弾け飛んだ。
しかし、そこに残ったのは傷付き怯える少女ではなく、傷も意に介さず死のみを運ぶ亡霊。
銃声が響き、そして炎が渦巻いた。
「くっ、何が・・・!?」
初めて、シュタイナーの声に動揺が混じった。
それを冷ややかに射抜くは、虚ろな亡霊の視線と・・・銃弾。
ぽっかりと。
シュタイナーの眉間に穴が穿たれた。
- 167 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:40
- >166
そして、その首は力を失い、かくりと落ち・・・なかった。
- 168 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:40
- >167
「外れだぁぁぁ、ファントム!!」
シュタイナーの腕が交差し、振り下ろされる。
そして奔るは白い糸。
そう、不可視ではなく目に見えるほどの太さの糸だ。
炎の壁と言えども、その火勢は視線が通らぬほど強いわけでもない。
であるならば・・・
「束ねた糸であれば、その壁も越えることが出来る! 捕らえたぞ、ファントムッ!」
幾重にも巻かれた糸の核は粘つく粘着糸。
周りを覆っていた糸は焼け焦げようとも、その糸は焼けることもなく走った。
- 169 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:42
- >168
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「なっ!!」
この一撃は、必殺の意思を込めていた。
事実、その一撃は、正確に相手の眉間を貫いていた。
では、この糸は何だ。
炎の壁さえ貫き、いやそれ以上に眉間に虚を穿ったまま動き続けるあの男は「何」!?
動揺に揺れながらも、今まで培ってきた生存の本能が、江漣に左手を突き出せた。
躊躇うことなくその腕を絡みとる糸。
抗うべく、パイソンを連射する江漣。
狙い過たず、銃弾はシュタイナーの体を次々と抉る。
しかし―――
- 170 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:43
- >169
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
しかし――
それだけだった。
体中を穴だらけにしながら、シュタイナーは哄笑していた。
「はははははははははは! 超人たるこの私に、そんなものが通じるものか!」
事実、シュタイナーの身体に穿たれた穴はじくじくと埋まっていく。
再生能力・・・獣性細胞が宿主の肉体を保全する、その作用だ。
「しかし、少々おいたが過ぎるな・・・」
にんまりと笑みを浮かべながら、シュタイナーは江漣に巻き付いた糸を引いた。
腕に縛りついたそれは強い粘着力と剛性を持ち、江漣の細い身体を引っ張る。
半ば鎮火気味の炎の壁を無理矢理越えさせられ、江漣がシュタイナーの眼前に引きずり出された。
その身体は少し煤にまみれてはいるものの、大した火傷もない。
「よくやったよ、ファントム・・・だが、終わりだな、これで」
いやらしい笑みを浮かべながら、勝利を宣言するシュタイナー。
その視線はちろちろと蛇のように江漣の身体の上を這い回る。
「・・・少し、傷の治りが遅い」
視線はそのままに、シュタイナーは呟く。
「なあ、ファントム・・・傷を癒すには十分な栄養が必要だとは思わないか?」
ひゅるり、と腕が閃く。
江漣の身体が、ゆっくりとシュタイナーに近づく。
「そう、ちょうど・・・」
江漣の首筋に、ゆっくりとシュタイナーが顔を近づける。
「新鮮な血が、いい」
そして、牙がぞぶりと食い込んだ。
- 171 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:45
- >170
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「超人?」
首筋に熱い吐息を感じつつも、江漣には一片の戸惑いすらなかった。
「なるほど」
糸で絡み取られたはずの左手も、ここまで接近していればその拘束力を失う。
「だから貴方は人間を侮っているのね」
左手が襟に伸びたかと思うと、抜き手も見せずに翻る。
「常に天を見るものは、足元をすくわれる」
僅かな軌跡を残し、ワイヤーが男の首に巻きつく。
「貴方の事よ」
銃を構えた薬指でもう一端を掴み、ジーリーソー(ワイヤーで出来た糸状の鋸)を筋力全開で引き絞る。
ワイヤーに引き裂かれた咽喉もとから鮮血かほとばしる。
「その咽喉で飲めるというなら、飲み込んでみなさい」
- 172 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:47
- >171
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
声が出ない。
喉から溢れる血が、気管を塞ぎ声を声として出すことを許さない。
だが、そのような状況にあってなお、シュタイナーは笑っていた。
声のない笑い。
音のない笑い。
口元と喉、二つの弧が二重に奏でる邪悪な笑い。
楽団の指揮者がタクトを振るうように、腕が持ち上がり、そして振り下ろされた。
それと共にびくり、と江漣の身体が震えた。
「……ぉれ……麻痺糸」
ひゅう、ひゅうと呼気を漏らしながら、にんまりと笑みを浮かべたまま言葉を紡ぐ。
その言葉通り、江漣の身体から力が失われていく。
「再生、完了……やってくれたものだな、ファントム」
穴だらけ傷だらけの肉体を修復し終えた怪物は、網に掛かった哀れな蝶に冷たい微笑を向けた。
- 173 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:48
- >172
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
腕を振るう。
江漣に認識できたのは、ただその行動だけであった。
しかし――
「えっ!?」
カクン、とまるで糸の切れた操り人形のように、体の力が抜ける。
乾いた音を立て銃口が石畳の参道をたたく。
かろうじて人差し指がトリガーガードに引っかかっているものの、この状態で武器として使用する事は不可能だ。
「くっ」
左袖からナイフを引き出す。
ただそれだけの事さえ、今の体にはひどく億劫に感じる。
普段と比べればあまりにも緩慢な動作で引き出したナイフを、躊躇うことなく己の左足に突き立てる。
「っっ――!!」
激痛とそれに伴う筋肉の反射が、なんとか体を突き動かす。
美技手に引っかかっていた拳銃を口に銜えると、突き立てたナイフを右手で引き抜く。
引き抜きながら、左手に絡みついた糸を切り裂く。
間合いを離すため、素早く立ち上が……れない――
足に力が入らない。再び、今度は右足にナイフを突き立てる。
意識と気力と筋力を無理やり奮い立たせ、足を引きずりながら何とか移動を開始する。
まずい、マズイ、拙い―――
頭の中で警鐘が鳴り響く。
それでも生き延びるため、不自由な体を無理矢理に動かし始めた。
- 174 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:49
- >173
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「ダメだなあ、ダメだダメだ」
酷薄な笑みを浮かべながら、シュタイナーは言う。
「ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ」
チッチッ、と指を振りながら、余裕綽々に。
「もうチェックメイトだと言っただろう、ファントム」
すうっ、と両の腕を優雅に振り上げ。
「キミはもはや、私という蜘蛛の網に掛かった哀れな蝶」
ゆっくりと振り下ろした。
空気が震え、そして、江漣の纏っていた衣服が四散した。
「網に掛かった蝶はそのまま震えて待つがいい。私の顎にかかる迄ね」
ゆったりとした動作で、シュタイナーは江漣に近づいていく。
- 175 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:50
- >174
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「!!」
振るわれる腕。
見えぬ攻撃。
しかし、そこに予測された痛覚が襲ってくることは遂に無かった。
替わりに肌を襲う、引き裂くような寒さ。
自らの体を見下ろす江漣。
夜の闇に、染みひとつ無い純白の下着が幽玄の如く浮かび上がる。
その光景を、眉一つ動かさず眺める。
しかし、直後表情を歪めると腕が己が体を抱くように動くと、口にした拳銃がこぼれ落ちる。
玉砂利を踏む音が近づいてくる。
一歩……二歩……
落ちた拳銃が地面につく寸前、左足が銃を拾う。
足の甲に銃を乗せると、足首の動きだけで蹴り上げる。
間近まで迫っていた両者の間を、ふわり、と拳銃が舞い上がる。
僅かにシュタイナーの視線が流れる。
直後、僅かに残っていた江漣の袖口から現れたCOPポリスが魔法の如く右手に握られていた。
刹那、グリップを両手で握ると4連デリンジャーの引き金を両手で絞る。
寸毫の間もおかず銃声が4度吼える!
- 176 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:52
- >175
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「く、あ……!!」
銃弾が再びシュタイナーの身体を引き裂いた。
だが、先程と違い、シュタイナーの顔から余裕が消えていた。
左胸、心臓のあたりから漏れる血に顔色を失う。
「おのれぇっ……ファントムッ!」
そして、かっ、と白くなっていた頬に朱が指す。
怒りの叫びと共に、平手で江漣の頬を張った。
「ヒトラー様の命でなければ、五体を引き裂いているところだ……っ」
右手を振う。
指先から延びた白い糸が、江漣の両手を縛り付けた。
- 177 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:53
- >176
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
左頬に走る衝撃。
痛みによる反射で、左手が思わず頬に伸びる。
しかし動かない。
「!!」
寸前の感触とは違う。力が入らないのではなく、どんなに力を入れても動かない。
文字通り両腕をを縛り上げられる感触。
そのまま、二発、三発と乾いた音が響き渡る。
半端ない威力の平手に、首だけでなく体ごと左右に舞う。
切れた唇から鮮血が舞った。
それでもなお、彼女は諦めない。
生き残ることを。そして、そのために圧倒的な強さを見せるこの男を殺すことを。
- 178 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:54
- >177
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「気に入らないなぁ」
平手を止め、じっ、と江漣を見やりつつ呟く。
「その、瞳だ。これほど絶望的な状況にあってなお、光を失わないそれだ!」
怒りに醜く歪んだ貌。
だが、一瞬でその表情は消え、冷徹な支配者の面と変わる。
「・・・助けが、来るとでも思っているのか?」
ぽつり、と。
まるで侮蔑したかのような声音で呟く。
「あの・・・吾妻玲二という男のところには既に別働隊が行っている。
念には念を入れて、降下猟兵を一個中隊な」
希望を叩き毀す、その一言。
「そう、お前はもうひとりぼっちだ。einはeinzig(唯一)になったのだ」
その瞳は優越感に満ちていて。
「だが、安心するがいい。我が主はお前を受け入れてくださる。
人を殺めるしか出来ぬお前でも・・・否、そのお前をこそ受け入れてくださるのだ」
だが、その言葉は甘く。
「だから、来るがいい。ファントム・アイン。
我が主こそが、お前という亡霊を支配する唯一の存在」
その腕は闇へと誘う。
- 179 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:56
- >178
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
闇からの誘い。
闇の奥で、悪魔が詠う。
ココへ来い。と――
嘲笑を浮かべた口で、されど、真なる言葉で
「来ればお前に居場所をやろう」
かつて、彼女はソレを求めた。
ソレを与えてくれた者は、彼女にとっては文字通り創造主(マスター)であった。
だから、マスターのために命をかけられた。
マスターのために死ぬ事に、僅かな疑問も躊躇いも無かった。
しかし、今、彼女の前にマスターは居ない。
そこに現れた男が言う。
「我が主(マスター)がお前を受け入れてくれよう」と―――
だから、
『君に名前をあげる』
少女は、
『殺し屋でも』
真直ぐに相手を見詰めると、
『人形でもなく』
ゆっくりと口を開いた。
『君が君として生きていくための名前だ』
「お断りよ」
言葉に意思を、
「それに――」
瞳に決意をのせ、
「アインなんて呼ばないで。私の名前は」
少女は、自らの名を名乗る。
「『エレン』」
- 180 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:57
- >179
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
シュタイナーは糸に絡め取った獲物を見やる。
身体には麻痺毒が流し込まれ、両手を封じられた哀れな獲物。
だが、その意思だけを剣として在る。
その刃の鋭さに、その視線の強さに一瞬、ほんの一瞬だけ・・・気圧された。
怒りがこみ上げる。
圧倒的優位にあるはずの自分が、これではまるで敗者のようではないか。
「何故恐怖しない!」
右の平手。
「何故絶望しない!」
左の平手。
「何故命乞いをしない!」
また右の平手。
「もう助けは来ない、もうお前は一人、もうお前の命は私の手にあるのに!」
そして左の平手。
「何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ
何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ
何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ
何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!!」
平手平手平手平手。
だが、その暴虐の中にあってなお江漣の瞳は光を、希望を、そして闘志を失わない。
「・・・構わん。貴様はここで殺す。ヒトラー様には抵抗に遭いやむなくと言えばいい・・・」
江漣の身体を目の前に横たわらせ、まるで一世一代の晴れ舞台を前にした指揮者のように、
大仰に、そして精緻に腕を振り上げる。
「・・・お別れだ、ファントム・アイン!」
- 181 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 00:58
- >180
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
あの腕が振り下ろされたとき、必殺の斬撃が来る。
斬撃の正体は糸。されど、その攻撃は不可視。
振り上げられた手が振り下ろされる直前、
江漣の頬が僅かにすぼまると、その唇から鋭く何かが噴出された。
血の糸を引きながら、ソレ――平手打ちによって折られた奥歯――は、
狙い過たずシュタイナーの右目を直撃する。
流石にこの攻撃は効いたらしく、江漣を拘束していた糸が緩む。
それを僅かに残った衣服ごと剥ぎ取る。
指先に僅かな痺れは残るものの、先程の脱力感は既に無い。
しかし、最早武器は残って無い。
江漣は大きく距離をとると、素早く周囲へと視線を走らせた。
- 182 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 00:59
- >181
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「ぐ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
右の目に鋭い痛みが走る。
裂け砕けた眼球がどろりとした硝子体を垂らし、さらにその奥から赤い血が漏れる。
如何に獣性細胞の持ち主といえども、痛みは抑えられるはずもない。
獣のように苦痛の叫びをあげるシュタイナー。
「お、おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇぇ!!」
狙いも付けず、ただ衝動のままに切断糸を放つ。
玉砂利が弾け、人の胴回りほどもあるような木がなぎ倒される。
だが、そのような糸では亡霊を捕らえられない。
- 183 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 01:01
- >182
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
絵馬かけが切り裂かれ、飛び散った絵馬が乾いた音を立てる。
狂乱状態の斬撃は、正確に江漣の体を捕らえる事は無いが、
逆にその状態ゆえに、見切りにくいものとなっていた。
今も、絵馬かけごと切り裂かれた肩口から、新たな鮮血が舞い上がる。
他にも、太腿やわき腹など、致命傷にこそなっていないものの、決して小さくは無い傷口が増え続けていく。
しかし、丸腰の状態では反撃もままなりはしない。
身を隠す場所を求め、江漣は社の本殿へと向かい走る。
- 184 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 01:02
- >183
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「くひゃははははははははぁぁっっっ!!」
狂ったように嗤いながら、糸を放ち放ち放つ。
まるで人型の嵐のように、あたりのものを切り刻み、磨り潰し、薙ぎ倒す。
だが、それでも亡霊を殺すことは出来ない。
ぼたり、と白いものが右目のあたりから落ちる。
硝子体を失った眼球がばらけたモノだ。
それとともに、ぴたり、と嗤いと腕を止めるシュタイナー。
その右の眼窩には、ないはずの眼球があった。
「・・・再生、完了」
右半面を真っ赤に染め、凄惨な笑みを浮かべる。
それは先ほどまでの狂的な笑みとは違う、だがそれ以上に禍々しい笑みだ。
「そして、ファントム・・・チェックメイトだ」
その言葉とともに、江漣の足下から網状の糸が、その身体を捕らえるべく浮かび上がった。
- 185 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 01:04
- >184
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
ぞくり―と、言いようの無い悪寒が足元から這い上がる。
「!!」
江漣が飛び上がるのと、網状の糸が大地から湧き出てきたのはほぼ同時だった。
「くっ」
咄嗟に伸ばした手が、本殿に吊るされた鈴の紐を掴む。
けたたましい音を響かせ、鈴が鳴り響く。
そのまま脚で勢いを付けると、前方の賽銭箱、次いで本殿へと飛び移る。
足元に散らばる、賽銭箱から外れた小銭を拾い上げると、指弾の要領でシュタイナーへと撃ちだした。
- 186 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 01:05
- >185
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「避けたか・・・さすがはファントムと言ったところか」
にぃぃ、とまるで肉食獣が獲物を狩るときの風情にも似た、厭らしい笑みを浮かべる。
だが、相手も牙持たぬ存在ではない。
ファントム・・・亡霊の名を冠する、人類最強の暗殺者だ。
だが・・・
「は!」
ちぃん!
飛来する硬貨を糸で弾く。
獣性細胞の力を持つシュタイナーにとっては、指弾程度ものの数ではない。
「それで終わりか? そこまでかファントム!」
笑みが深くなる。
それは、勝利を確信した故か。
「今度こそ・・・チェックメイトだ」
大きく揮った腕が、切断糸を縦横に放つ。
まるで爆発でもしたように、本殿は吹き飛んだ。
- 187 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 01:08
- >186
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
轟音が響く。
切り裂かれた社の残骸が、まるで紙吹雪のように舞う。
しかし、それも一瞬の事。
舞い上がった瓦礫は、地響きを上げ崩れ落ちる。
濛々と吹き荒れる土煙の中、そこに人影は無い。
所々、染みのように残る血痕。
しかし、江漣の姿は既にどこにも見当たらない。
- 188 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 01:09
- >187
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「フン! 土煙に紛れて、それで隠れたつもりか」
江漣を見失いながらも、シュタイナーは動じない。
「たとえ目視出来ずとも、私には関係ない・・・」
その足下にはかすかに光る糸の網。
「この『探索網(サーチネット)』がお前の呼吸を――――足音を、滴る血を糸電話のように伝えてくるのだ!」
その顔には、勝利を確信した笑みが浮かんでいた。
- 189 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 01:11
- >188
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
息を潜め、気配を殺し、闇に潜む。
大地に体を密着させ、滴り落ちる血の音さえたてず、ただ静かに機会を待つ。
永劫とも思える時間の果て、遂にそれが訪れた。
切欠はほんの些細なもの。
切り裂かれた賽銭箱からあふれ出た小銭の山が、僅かに崩れた。
しかし、その崩れは怒涛を伴い山全てに伝播する。
数え切れぬほどの小銭が、騒音と振動を伴い止まることなく崩れ落ちていく。
シュタイナーの意識が僅かにそれる。
直後、江漣を覆っていた瓦礫が爆発したように吹き飛ぶ。
そのまま躊躇うことなく一直線にシュタイナーへと向かう。
右手に握られるは、一本の破魔矢。
縁起物として売られているものではなく、この神社の御神体として祀られていたもので、
ちゃんと鏃(やじり)がついている。
九死の中、文字通り神から賜った最後の武器。
しかしそれを突き立てるには、二人の間合いは広すぎた。
「フッ…愚かな」
嘲笑とともに軍服の右手が振り下ろされる。
風切音一つ立てずに遅い来る、不可視の斬撃。
だが――
「手の内を……見せ過ぎよ」
僅かに右へステップを踏む事で、その斬撃をかわす。
確かに、糸による斬撃自体を見切る事は出来ない。
しかし「糸」という武器の性質上、その攻撃は振るった延長上にしかこない。
ならば、その腕の振りを見極める事は、決して不可能ではない!!
「っっ!!」
僅かに掠めた攻撃が、江漣の右肩口の皮膚をまとめて斬り飛ばす。
吹き出した血がスクリーンのように広がる。
液体をぶちまける不快な音がするのとほぼ同時に、
二つの影が重なった。
- 190 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 01:12
- >189
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「ぬっ!?」
じゃらじゃらと騒々しい音が響く。
溢れた賽銭が零れるその音に、シュタイナーの意識が一瞬それる。
そして、その一瞬こそ最大にして最後の好機。
手に持った破魔矢の鏃がぎらり、と光を反射する。
その光と同じぐらいに速く、江漣は駆けた。
だが、それでも光より速く駆けることは、できない。
「・・・間合いが・・・遠いぞ、ファントム!」
必殺の斬糸が右手から迸る。
それは不可視にして神速。
しかし、その一閃は空を切った。
「・・・な!?」
シュタイナーの顔が驚愕に歪む。
結局、彼は甘く見すぎていたのだ・・・亡霊の恐ろしさを。
慌てて左手の斬糸を放とうとするが、遅すぎた。
次の瞬間、シュタイナーの左胸に破魔矢が深々と突き立っていた。
- 191 名前:エバンス・シュタイナー(M):04/01/18 01:13
- >190
「く、この程度の苦し紛れの攻撃・・・ぬ?」
獣性細胞を身に宿したシュタイナーにとって、
この程度の一撃は指先をほんの少し傷つけたものと変わらない・・・はずだった。
では、この身を灼くような苦痛はなんだ?
脳髄を火箸で掻き混ぜるかのような痛みはなんなのだ?
「・・・な、にを・・・した・・・ファントム・・・ッ」
足が崩れる。
文字通りに「崩れた」のだ。
肉体が崩壊していく。
「こ、れは・・・T・・・鉱石・・・の結晶・・・体・・・」
そう、破魔矢の鏃は隕石から造られていたのだ。
それもただの隕石ではない。
あろうことか、T鉱を含んだ隕石だ。
いかなる偶然が呼んだのか、それともこれは必然か。
いずれにせよ、ご神体と呼ばれていた破魔矢の鏃はT鉱製であった。
T鉱と獣性細胞は奇妙な共生関係にある。
T鉱石は獣性細胞を安定・制御するための制御核として、宿主に埋め込まれる。
だが、高度に精製されたT鉱石が獣性細胞に接触した瞬間、その関係は一変する。
獣性細胞はアレルギーのような過剰反応を示し、ついには壊死してしまう。
それこそが、今シュタイナーの肉体で発生している現象だ。
「・・・星の・・・光が・・・私の・・・から、だ・・・を・・・っ」
その間にも、シュタイナーの身体が崩れていく。
そして、ついには一山の灰だけが残った。
- 192 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 01:17
- >191
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
人間の体が崩れていく。
その現象に、流石の江漣も驚きを隠せずに居た。
だが、それと同時に、奇妙な安堵感も湧き上がる。
そう――自分は、勝った……生き延びたのだ。
確信した瞬間、カクンと膝から力が抜ける。
そして、こちらも崩れ落ちるように地面にへたり込む。
怪我と疲労から霞がかかり始めた視線が、シュタイナーのそれと絡み合う。
「何故……と聞いたわね」
朦朧とし始めた意識のもとで、江漣の口から言葉がこぼれる。
「ファントムは、恐怖もしないし、絶望もしない」
その口調は弱々しく、シュタイナーに届いているかすら怪しい。
「でも、ファントムは……生き残ろうと必死になったりも……しない」
しかし、それでも視線だけは逸らすことなく崩れ落ちる人影を捕らえ続けている。
「生き残ろうとしたのは…人間、吾妻…………エレン……」
それだけを告げると、少女の体はぐらりと揺れ、そのままゆっくりと倒れ伏した。
その言葉は果たしてシュタイナーへと届いたのか。
江漣の前には一山の灰が、もの言わず積もるのみであった―――
- 193 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 01:22
- >192
エレンvsシュタイナー 「ブラッディ・ニューイヤーズディ」
「エピローグ」
谷尻神社に祭られている破魔矢は、かつて空から降ってきた石をいつか再び空へ返すためにと、
刀匠でもあった神主が、鏃へと加工したものだと伝えられている。
(中略)
この破魔矢にはいくつかの伝説がある。
戦国時代、敵の襲来を知らせるために放った矢文が三里の距離を飛び続け、本丸にまでたどり着いたと言うものや、
第二次大戦中、爆撃により梁の折れた天井をこの破魔矢一本が支え続けたなどというものだ。
(中略)
なお、T鉱石から発生するガスには、反重力作用があることは第二次大戦中のナチスドイツによって既に証明されている。
もしこの空から落ちてきた石がT鉱石であったとするならば、これらの伝説が真実であったことを証明するのは、そう難しい話ではないだろう。
(ある民俗学者の手記より、一部抜粋)
レス番まとめ
>155>156>157>158>159>160>161>162>163>164>165>166>167>168>169>170>171>172>173>174>175>176>177>178>179>
180>181>182>183>184>185>186>187>188>189>190>191>192
- 194 名前:江漣 ◆tSElen1cxc :04/01/18 01:26
- レス番まとめに少しミスがあったから、そこだけ修正版。
レス番まとめ
>155>156>157>158>159>160>161>162>163>164>165>166
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>191>192
それじゃあ、また。血と硝煙の地獄で会いましょう。
- 195 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM :04/01/27 01:27
- Duel of the fates -Hollow Heart- Kresnik vs Arucard
55章>>392
傍ら、には。
倒壊したビル。崩壊した世界。
破滅があった。
其処彼処は破滅していた。
其処彼処に灰塵が在った。
――あぁ、そうだ。
俺は。
まだ、生きてる。
雑然としたスラム。俺が過ごしてきた世界の象徴で、現状で語るなら本当の意味でスラム
で、死人の街で――そして、魔王の世界で、
「アイツの墓標だよ」
自分で言って、馬鹿馬鹿しい位に空々しかった。
木屑とコンクリートの破片を服から叩き落として、肩口の引き攣る痛みに笑った。
鈍足で再生する今しがたの行動と結果。たかだかグレネード一発で死滅するようなバケモ
ノなら、SWATも自衛隊もいらない。
そう、だからヤツは"バケモノ"だ。
……俺と。
俺と同じ、バケモノ。
ヤツが黒なら俺は白。ルールは単純、チェスか囲碁。ただし、コマに性能差があるって前
提条件付きで。
まあ、でも。それでも。
些かハンデが有り過ぎるゲームでは有るにせよ、ゲームにはルールがある。プレイヤー
が居る。ゲームとはつまり互いに思考し、手段を揃え、手駒を配して敵陣を制圧し、王を殺
れば勝利する。それは至極単純明快な理屈だ。
さあ、現状を整理してみよう。俺はズタボロで人間で、装備すら果てている。片やヤツ、ヴァ
ンパイアロード・アーカード。神話の魔王かと見紛うヤツは今や空を覆い尽くす程にその身
を肥大させ、この世界と同化しつつある。兵を失い、女王は無く、残された惨めな王はただ
一人、強大な敵陣と向かい合うという訳だ。……いいや、最初からその王は一人だったか。
孤独な王と巨大な王。
手駒の配分は俺とヤツで2:8、はたまた1:9か。
Q.思考は整っていますか? A.カラダすらマトモに動きません。
Q.コマは残っていますか? A.コマもタマも尽き掛けています。
Q.成すべき事は? A.それは。
Q.クオ・ヴァディス?(何処へ往かれるのですか?)
A.――地獄へ。
マテバの弾倉はゼロ。グロックは撃ち尽きて、グレネードの残弾は一発。泣くより先に笑い
たくなる状況で、やっぱり俺は笑っていた。
気の効いたジョークは浮かばない。痛みに喘ぐ身体を慰める理由も見付からない。
決壊していく理性。
破滅があった。其処彼処は破滅していた。
灰塵が在った。ただただ、全ては焦土と化していた。
ただ、笑えた。
武装の保険は尽き果てた。支援の保護は切り捨てた。この身の保証は棄てて来た。俺の
後ろには何もない。ただただ周囲には敵意と害意だけが渦巻いて。だから――けど、一つ
だけ解ってる事がある。
……そうさ。
コレで最期だ、ヴァンパイア=ロード。
空から注いだ閃光から身を翻す/チェーンガンの一斉掃射を避ける。
爆発にも等しい着弾音に抉られるビルの壁。
鋭敏に鋭角に。何処までも自分を尖らせて行く様をイメージする。
そんなモノ、どうだっていい。
刃物をブラッシングするように。切先をポリッシングするように。
俺は刃。研ぎ澄まされた霊散る鋼。地を断ち天を断ち、我を絶ち奴を絶ち――世界の全
てを断ち切るイメージを脳裏に構築する。肯定する。我に絶てぬモノは無し。
人も。
物の怪も。
異神も。
魔王も。
殺せないモノは、無い。
ズキズキと煌びやかに浮き上がる痛覚を押し込めば、世界は肌と匂いと視覚で演算可
能な認識世界へと変転する。猟師が羽音で鳥を感じるように。ハッカーが0と1で世界を感
じ取るように。屍骸と死骸と遺骸で造られた世界、血臭と死臭で埋め尽くされたバイナリコ
ードの中から、
俺は、この世の誰より身近に死生の境界を認識する。
- 196 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM :04/01/27 01:29
- >>195
「くっく……洒落にもならないな、本当に」
なる?
なるか? なるなら教えてくれ。俺を轢き殺そうとする車両。運転手は無し。速度の違いを
抜きにすれば、現状10台を超えるクルマの群が全速力で突っ走ってくる最中だ。全てが
等速ならまだしも、時間差を付けられたこの車両群を回避し切る事なんて不可能だ。本来
車は人間を轢く為に作られているワケじゃないから――だから、それが純粋な暴力へと変
化した時、車体の重量と速度は悪夢へと変わる。
ああ、けど。
けど、何だろうな。
何でだろうな、アーカード。
俺は狂ってなんていないのに。
俺がこんなに笑えるのは。
俺がこんなに可笑しいのは。
――"この程度は"どうにでもなると思えるのは。
背を追うチェーンガンの筋を身体の軸を動かして回避。
背中と両手側からも響くタイヤの轟音を半ば無視して、正面の普通車両へ駆ける。つま
り俺は車両の正面へ突っ込んだ。スタントマンなら授賞モノだ、要らないが。
10メートル/クソ喧しいエンジン音、テメエは黙れよ。
9メートル/主よ、我が蛮勇に祝福を。
ジリジリと焼け付くような視界。
空は黒く覆われ、天は墜落するように近く、隔離された月は遠い。
堕天使の王。全ての天使の兄。光り輝く明けの明星。お前は何を思って主に背を向けた。
俺には理解出来ない。したくもない。
コイツを殺して証明する。俺の正しさを。皆の正義を。絶対の正義を。
8メートルに迫って、俺はカソックの裾を跳ね上げる/7メートル。
視線を落とすまでもなく、左腰から背に掛けて帯びた硬い感触は認識している。
6メートル。5メートル――4メートル。
俺は"それ"を握る。
冷たい感触は黒塗りのゴム製グリップ。兵器開発を生業にするマッド・サイエンティスト、
フランク="デビル・ドライヴァー"=ジェイムスが作った特殊チタン製の"カタナ"。柄と刀
身に埋め込まれた聖遺物が何を意味するか。決まってる、これは聖剣だ。コスト度外視の
試作品、たった一本だけ作られたアーサー王のエクスカリバー。
近代技術で俺の憎悪と怨恨とを虚無で固めた、邪悪を薙ぎ払う聖刃だ。
残り、3メートル。
2メートル/1――俺は右足を一歩、正面へと突き出して、タイヤの摩擦音と向き直る。
鼻先に、タイヤの摩擦音。……ああ、でもこれっぽっちも恐くなんてない。
音高らかに轢殺される、その寸前。
路地を埋め尽くしかねないギリギリの車幅から身を翻し、擦れ違いざまに。
抜刀の一撃で、一瞬に。
悉く。
ざかん。
確絶の意思で以って、障害を斬断した。
スポンジケーキにナイフを通すみたいに、特別誂の"カタナ"はフロントバンパーから後
部トランクまで、シャーシとタイヤの境界で丁寧懇切に二つに割り飛ばした。
そのまま惰性で横滑りして背後へ流れるカローラ。薙ぎの勢いで回転したまま、左手に
抜いたUziで追撃。
外科手術を行う医者の正確さで、35発、全弾。
一発残らず余さず機関部へと叩き込んだ。
背に浴びる爆音。
マズルと刃を同時に払って、マズルスモークと刀身に付いた鉄クズを吹き散らす。
暗天を仰ぐ。
す、と息を吸い込んで、天に旋回するヤツへと声を張り上げた。
「……さあ、来いよアーカード! 来いよ、ココへ来い! 俺は此処だ! チマチマやって
ないで俺達の世界にカタを付けようぜ、キング・オブ・ヴァンパイア!」
振り出すグレネードピストルを無造作に背中へ向けて発砲。直後の爆音。それはダイ
ナマイト30本分の特殊炸薬が集結した車両の群を一掃した雄叫びだ。
手近なビルのガラスを叩き割って中に飛び込む。背中を冷たい壁に預けて、冷えてク
ールな思考を再確認。はあ、と息を吐き出す。さあ、俺は冷静だ。くすくすと笑い声が喉
から漏れる。
邪魔はいらない。
カタを付けようぜ。
ゴミ溜めの王様。
死神の清掃人がお相手だ。
- 197 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM :04/01/27 01:39
- >>196
飛び掛る吸血鬼の爪撃へ、釣竿の様なマシンガンの銃床で腹部へのカウンター。カ
エルの様な悲鳴を上げたソレへ、手品のように掌に出現させた刃渡り9インチの小剣
で頚椎を一閃。"外科医"の施術は速やかに終了する。
タルジェノ。聖マルタ騎士団現団長にして、伝説的な元諜報部員。
畏怖と恐怖を以って仲間内からは"天使の歎き"と呼称される巨大なマシンガンが、
風すら焼け付く速度で50口径弾を空間にバラ撒く。
場の吸血鬼には敗走すら許されなかった。
残された殺戮の痕跡を意識から除外して、タルジェノが不意に顔を顰めた。HUDを
内蔵したバイザーに連結するイヤホンタイプの通信機を耳に押し付ける。
彼が耳を澄ます間隔は1秒に満たなかった、が。
司教、と無感情に言う声には、僅かな苦さがあった。
「空軍が動きました。総戦力はF−15Eが六機……目的は、燃料気化爆弾による対象
の完全破壊。この街(ソドム)を完全に消滅させるつもりか。魔王のローストを作る為
に、対外への面子を捨てる気でしょう」
淡々と言うタルジェノの顔からは、既に狼狽の色は失せている。キリストの傍らに立
つこの冷徹なペテロは、状況を"状況以上"の物と捉える事はない。世界の終末が目
の前に差し迫ろうと、自らを世界を回す一顧の歯車と徹する態度に変化はないだろう。
対するピーターの反応は微かな苛立ちを隠さなかったが。
「……何処のバカが早まったんだろうね。予定よりもずっと早いじゃないか」
「混乱が予想以上に酷いと言う事でしょう。制圧部隊が軒並み全滅してからの作戦展
開だったのも影響している物と思われます」
「破壊予想区域は?」
「BS09160-33―CF081257-87、ブロック単位でサウスブロンクス中心から、ほぼ全域。
総員への退避命令を推奨します」
「彼は?」
「主の加護があれば生き残るでしょう」
「FAEの焔から?」カレンツァの声が氷の冷たさでタルジェノに牙を向く。「フザけて貰
っちゃ困るな。僕が彼を死線に送り込んだのは、こんな馬鹿げた結末を傍観する為じ
ゃない」
「……お言葉だがね、カレンツァ」
タルジェノが両目を覆ったバイザーを外す。細められた瞳で、遠く離れた戦地の闇
天を見上げる。遠目にも解る。空一面を覆う、辺りで果てている不様な吸血鬼とはケ
タの外れた――モノ。
「あのバケモノが、"その程度"で滅びると思うのか?」
「……まさか」
「アイツは、あのバケモノを"あそこまで追い詰めた"。アイツは本当の――」
純白の殺意。
タルジェノは世界を切り刻む意志を秘めた黒瞳を脳裏に描く。
「本当の、死神だ。……死神に死を告げるモノなど、世界にはいないよ」
- 198 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM :04/01/27 01:51
- >>197
――マウリティウス。
その名前を最初に訊いたのは、団長の号を前団長のスフォルツァから受継いだそ
の日……――酒精と、それまでの労の労いから口を軽くした彼からだ。
その前身にヨハネ騎士団を持つマルタの騎士達は、約五百年を戦火を寝床として
生きてきた。第二次世界大戦下では戦禍を利用し、あらゆる精鋭的情報組織と陰か
ら陰への戦いを繰り広げ、その悉くに勝利してきた。言わば彼等は、ヴァチカンの全
ての陰部を内包した存在だ。活動の一辺でもマスコミに漏れれば、それだけで世界
情勢が蒼くなると噂されるというのは、けして大袈裟な比喩ではない。
CIAに、モサドに専門家を派遣する見返りに――あのヴァチカンが、だ――相手側
で開発された軍事技術の提供を受け、パイプを広げる。そこに加えてのピーター=
カレンツァというカリスマは、若きカトリックの盟主としてマスメディアに知られる所の
彼は民間から絶大な支持を集め、ヴァチカンを表と裏で強大無比なモノへと変えて
いる。今や各国の首脳/軍部に於いてカレンツァの名を知らぬ者は無く――そして、
騎士団の影響を受けないで済む物はない。
それがマルタ騎士団。ヴァチカン全ての騎士団を統括する最大最強の"影"だ。
いち早く古来の戦闘技術を現代火器と融合させ、デルタもモサドも考えすら及ばな
いだろう精度の体術をしてそれを振るう。あらゆる場への侵入技術は言うに及ばず、
拠点防衛戦術から各種車両と通信設備の操作技術すら教練の基本項目に設定さ
れている。
個人を戦闘機械に作り上げる為だけの機関。
各方面から、「サイボーグ製造施設」や「人体改造機関」の謗りを受けるのも頷け
る所ではあった。事実、個としてタルジェノと向き合って生存を許されるモノなど、地
球上には騎士団のごく一部か――それこそ傍らの絶対者、ピーター=カレンツァく
らいの物なのだから。
――だが、それ故にタルジェノは思う事がある。
自己を犠牲に戦い抜いた騎士の聖人。
マウリティウス騎士団。歴史に屠られた陰の中の陰、ヴァチカンの最深部に存在
した、生きた死神達。
唯一、マルタを凌駕するとされた亡霊の騎士団。
昔取った杵柄とでも言えば良いか、タルジェノは一度それを調べようとした事があ
る。最高の情報員として通った彼に調べられない物は無かった。時間さえあれば大
統領の近辺状況から朝食のメニュー、昼間に何処でデザートを食べたかまで事細
かに調べ上げられる彼は、昼夜を問わず、団長の権限を使ってまであらゆる資料
を調べ上げた。あらゆる人間にコンタクトを取り、何から何まで、手が届く限り――教
皇権限でのみ閲覧を許される黙秘資料を覗いて、だが――調べ尽くした。
解ったのは一つだけ。
それが、"触れてはならないモノだった"という真理だけだった。
彼と言えど切り抜けられない数の騎士団の面々に銃口を向けられたのは、調べ
初めて3日目。
資料室を出たその場で、マルタの騎士全員に殺意を当てられた時だ。
絶対の死線を切り抜けられたのは、正に運命の悪戯か。
無感情な表情に絶対の殺意を燈す騎士団特務部隊長、ジョン=プレストンの傍
ら、新しくNY支部の大司教に就任したピーター=カレンツァが立っていた。
彼はタルジェノを一瞥すると、ただ一言。
「……やれやれ、新団長殿は驚いておられる。さあ、ドッキリは終了だ。僕は彼と話
がある。各自持ち場へ戻ってくれ」
立ち去る騎士達を見送って苦笑いを浮かべるタルジェノに、カレンツァはにこやか
に笑ってみせた。
「若気の到り、にしては……君は達観し過ぎていると思うね」
それから――カレンツァは、タルジェノに己が識る限りの"マウリティウス"の情報
を提供した。
曰く、「僕も調べたんだ。何故かって? 友人の過去を知りたいと思うのは悪い事
なのかな?」
友人、と反芻するタルジェノに、カレンツァは微笑んでから繰り返した。
「親友さ」
- 199 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM :04/01/27 01:55
- >>198
マウリティウス騎士団。
影にして、影。陰に孕まれた、陰。
その成立は、まだ百人に満たない最古のホスピタル騎士団に端を発した。聖地に
戦いに赴く騎士達の影、騎士団内での叛逆者を抹消する為に生まれた最も古き異
端審問者達。彼等は身内の、騎士団の殺害をいつしか生業と変えていた。
その対象が内と外とに広がったのは、"家族殺し"として暗殺特化し過ぎた技術を
買われれば当然だった――騎士の名を継ぐ死神達。
発生から影であったが故に彼らに変転は無い。ローマの暗黒時代は教会の為に
異端者を片端から粛清し斬滅し、同時に、雨の如くと生まれた異端の魔術をその内
へ取り込んだ。
第二次世界大戦――彼等はヴァチカンの最も忌わしいとされる陰部となった。
ピオ十一世の命を受け、戦争終結直前にナチス将校の敗走をサポートした者達が
いた――詳細不明の特殊部隊。そして、十一世崩御後に将校等全員が原因不明の
死を遂げたのは一部では有名な話だ。"原因を除いては"。
彼等は殺戮者に加担するのを良しとしなかった。ただ、それだけの話だった。
彼等はヴァチカンの影だ。
ただ、そこには誇りが在った。信念が在った。
戦争終結後、彼等は本来の任務へとその身を投じる。
その目的は即ち、神の世界に在りうるベからずモノの掃討。
人外なるモノの剿滅。
余りにも長い影の歴史の中で、彼等は己を生物の域を越えた死神へと昇華させた。
あらゆる生物を効率良く殺し、あらゆる亡者を効率良く排除する。その技術には異端
とされる魔術を使用する事すら躊躇せず、自らの肉体さえ薬物を以って造り替え、た
だただ殺戮に適応した身体へと"進化させた"。
彼等の鍛錬は肉体の変異と言い換えてもいい。マルタと同じくして現代火器のサポ
ートを受けるも、その精度に於いては他の追随を一切許さない。
マウリティウス。追い求めた亡霊達。
時は流れる。
カレンツァの紹介を受け、彼は一人の青年と出逢う。
『……この世界で何が一番恐ろしいか、解るか? バケモノか? バカデカい城や森
林を丸ごと根城にするような、一国を背後にして暗躍する太古の怪物か? 違うね。
連中に成長はない。定命ではないが故に安穏と鍛錬を忘れ、蓄積した知識とやらも
錆付きが隠せない。近付けばミンチにされるような絶対の剛力? だったら当たって
やる義理はない。アウトレンジから射殺してやるだけでいい。弾丸が通じない? 通じ
る弾丸を使うだけさ。で……何が一番恐ろしいかって? 正解を言ったばかりろ。
人間だよ。
俺達は弱い。この身体のスペックを考えてみろ。当たり所によっては22LR弾一発
でも致命傷だ。知識に到っちゃ、生きられる中で詰め込めるだけの知識を書物で補い
つつ生きるだけ、しかも忘却からは逃げられない』――だがな、と"彼"は続けた。『弱
いからこそ、人間は工夫する。考える。知謀を以って奸知を凝らして対象を陥れる。
世界を見てみろ、人間の繁栄を。ボタン一つで全てを焼却する末日の劫火を。人間の
常識で測れないバケモノだろうが、バケモノの常識じゃ人間を測る事は出来やしない。
どんな理不尽な暴力だろうと、俺達はそれ以上の暴力で連中を凌駕する。スマートに
この世を殺し尽くせる唯一の生命体、それが俺達だ』
そうやって、まるで囁くように彼は言う。
『――全部、みんなからの受け売りだけどね』
マウリティウスの全てを受継いだ最後の人間は、世間話をするようにマルタの団長
に向かってそう言ったのだ。
当たり前過ぎて、納得するのも馬鹿馬鹿しい内容をしっかりと聞き届けた後、タルジ
ェノは改めて戦慄した。
そう。
彼等は、恐ろしいほどに"人間"だったのだ。
「僕はね、彼の決断に水を刺そうとする連中が気に食わない。これで結末に影響でも
出たらどうしてくれる? そんなのは許されないし、この僕が赦さない」
「……結末?」
「結末さ。物語には必ず最後がある」カレンツァは空を見上げる。「サタンはミカエルに
切られて地獄へ落ちた。だけどこれは、ミルトンが遥か以前に記した終極の戦場、光
と闇の代理戦争だよ」
ピーターの視線が向く先に、最後の騎士は居る。
亡霊の全てを受継いだ最高傑作。カレンツァは彼を天使に喩えた。天使と堕天使。
その勝敗は明らかだ。天に愛されたモノに、堕ちたモノでは抗えない。
だが。
「……もしも、堕天使と堕天使だったら?」
「そんなのは決まってるよ。強い方が勝つ」
だから、決まっているんだ――カレンツァは続ける。
「強いのは、僕が認めた彼だ」
タルジェノはカレンツァの視線を追った。
言葉を認識して、ソレを認める為に。
この夜は晴れる。
朝は来る、と確信する。
- 200 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 07:18
- リリリン……とまあ、今宵も姦し我が家の電話、と。
そう急くなって。慌てなくても、オレは逃げたりしないさ。受話器を取る。
「“デビル メイ クライ”」
『よう、久しぶりだな。ダンテ』
「……悪いな、今日はもう閉店だ」
ただし……まあ、オレにも客を選ぶ権利ってのはあるもんで。女と同じでな。
回線の向こう、厄介事とゴミ掃除を押し付けることに関しちゃ天才的な男の声を遠くに聞きながら、
黒い受話器をそのまま降ろす――
『おいおい! まあ、待てよダンテ! 今日は別に悪い話じゃあないんだよ』
言ってな。詐欺が通用するのは一度目だけだ。
『なんせ、“あの”アルカード! HELLSING機関のイカサマの常套アルカード!
裏切札アルカード! 奴をおおっぴらに殺せるってハナシなんだからな!』
ぴたり、電話を切るミリ手前で止まる。
手を返し、何度か逡巡。奴の腐ったような声を聞くか? どうにも、そいつは乗り気にゃなれない。
けど……<アルカード>! 大きく出やがった。
我慢する価値くらい、見出してやる。ああ、もう一度だけ騙されてやるさ。
「よう、妹さんは元気してるか?」
『へっ、ようやく聞く姿勢になりやがったか、ダンテ』
そう言って、フリッツ=ハールマンは下卑た笑い声をたてた。
- 201 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 07:19
- >200
『奴はな、HELLSINGを出奔しやがったのさ』
ひゅう、と口笛。こっちとあっちで唱和。こういうところが、オレが奴をキライな理由だ。次逢ったら
とりあえず殴ろう。
「へえ、そりゃまた。何故」
『知るか。化物の思考も都合も知ったことかよ。俺が知ってるのは、奴はHELLSINGから抹消され、
今は野良吸血鬼をやってるという、至極単純明快な事実だけだ』
「はっ」
鼻先で、軽く笑って。
「そうかい……そうか」
あのクソ野郎のツラを、思い浮かべる。
『ダンテ、てめえは確か、奴とは因縁があるんだろ?』
「ハールマン兄妹。この業界切っての凄腕。情報を売るからにゃ、タダじゃないだろ?」
『おいおい、親友にその態度か? 俺はただ、常日頃ケツ拭かせてる礼がしたいだけさ』
――あの二人の今度の標的は、齢二千を数えるロードヴァンパイアだってのは、有名な話しだ。
姫様を守るはヴァンパイア三銃士。流石の兄妹も、これ以上余計なモノの介入は避けたいところ。
そんなところか。
クク、どうでもいい話だ。
あの火傷面が、何を考え、何を企み。あの金髪の嬢ちゃんが、何を憎しみ、何を殺すのか。
そんなことよりも、オレは、ただ単純に。
あの吸血鬼に、返さなければならないものがある。ただ、それだけのことだ。
YESと返答し、りん、と澄んだ音を聞いて。紅いコートを翻し、店を出る。
血のように朱い満月に、壁に掛けた悪魔の首が、哭いた。
- 202 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 07:22
- >201
夜を照らすのは、薄暗い月明かり……ではなく、けばけばしく光るネオン
サイン。
路は繁華街へと足を運ぶ人ごみで溢れ、それを一人でも多く引き込もう
と、路上に掲げられたネオンサインは、夜をも昼に変えんばかりに必死に
自身をアピールする。壁面に描かれた芸術とも言えるストリートアートは、
創作性の欠片もない悪趣味なサインが自らの上から書きなぐられる事も
知らず、道往く人々の目を楽しませていた。
ニューヨーク。
後に魔都と呼ばれる事になる街の夜は、だが、その頃はまだ、人の支配
する物で有り得た。
だが、それでも。
"彼ら"は、地下で、路地裏で、或いは人の中に、確実に浸透していた。
そう、"彼ら"は存在している。確実に。その赤い双眸をギラつかせながら、
その口に長く伸びた牙を、人の世に立てることを夢見ながら。
ニューヨークのメインストリートから大きく外れた、人の世の象徴である
ネオンの明かりも届かないような路地裏にあるこの酒場も、そんな彼らの
根城の一つだった
名前は、ない。
いや、あったのかもしれないが、軒先にぶら下げられた看板はチェーン
が千切れかけ、薄汚い字で奇妙なサイン――勿論、吸血鬼の領土を示す
サインである――が書きなぐられている為に、元々書いてあった文字を識
別することが出来ないのだ。
- 203 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 07:23
- >202
・
・
・
「そういえば、こんな話を聞いたんだがよ」
酒場の看板娘を縊り殺し、その甘い血に酔い痴れていた吸血鬼が、同
じように死肉を貪る――彼らの中には、血より肉を好む物もいる――同胞
に、そう声を掛けた。
「あん?」
「いや、おれも又聞きだから詳しくは知らねえんだが。最近、俺らに喧嘩を
売って歩いてる妙なのがいるらしい」
「ハッ、なんだそりゃ? 嘘つくならもうちっとマシな嘘付けよ、この間抜け」
「嘘じゃねえよ。アモンって新入りがいただろ。あいつが、それに殺された
って話だ。それに、ベックも」
「ほーう。で? そいつはどんな奴なんだ? 聞かせてみろよ、俺に、詳し
く」
男が口ごもる。
彼自身、噂に聞いたそいつの容貌は尋常ではないと思っていたし、もし
それをこの、自分の言う事を欠片も信じていない男に話したところで、荒
唐無稽だと一蹴されるのは、明白であったから。
だがそれでも、男は一息つくと、決心したように口を開いた。
「結構でかい奴らしい。190くらいあるつったかな……男だ。いっつもニヤつ
いてて、それで……」
「それで、どうした?」
「……紅い。とにかく、着てるもの全部……帽子も、コートも、サングラスま
で、とにかく紅一色らしい」
真面目な顔をして阿呆な事を話す男の表情に、堪えきれないと言ったよ
うに、死肉を貪る男はその手を止めて、大声を上げて笑い始める。
もう血を飲む事を止めた男は、予想通りの反応に顔を顰めた。
- 204 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 07:23
- >203
「笑うなよ」
「おまえ、これで笑わねえヤツはいねえだろう! 紅いだぁ? そんな格好
で街中うろつくやつは、ただの馬鹿か、そうでなけりゃよっぽどの馬」
男は、最後まで言葉を続ける事は出来なかった。
ドッ、という低い音が響いたかと思うと、胸元に深々と突き刺さった白木の
杭が、彼を一握りの灰へと還したから。
男は、恐怖に引き攣った顔を、ゆっくりと酒場の入り口へと巡らせた。
それは、男だった。長身だった。何より、紅かった。
紅いコートに紅い帽子を目深に被り、掛けたサングラスは噂と違って黒
かったが、その奥に隠れた双眸は、紛れも無く紅かった。
「結構気に入ってるんだけどねぇ、このコート。そんなに馬鹿みたいか?
これさ」
「それ」は、ニヤつきながら、からかうようにそう言った。
からかわれた男は、恐怖に顔を引き攣らせ、わけのわからない事を叫び
ながら裏手に向かって駆け出し……その背中を容赦なく白木の杭が貫い
て、彼は酒場から消える前に、この世から消え去った。
一連の騒ぎに、酒場が騒然となる。
居合わせた吸血鬼たちの視線が、「それ」へと注がれた。
「さあ、小僧ども、愉快なお遊戯の時間だよ。精々愉しんで逝ってくれると、
俺も嬉しいんだけどね」
その言葉に、酒場の吸血鬼たちが、牙を剥き出しにして敵意を表す。
「それ」は、その情景に満足そうに腕を広げると、手に持った長大な銃身
を持つ銃の引き金を引いた。
- 205 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 07:27
- >202-204
“奴”と逢ったのは、やはり、こんな酒場での話。
やはり、こんな朱い満月の夜の話。
依頼を受けたオレは、吸血鬼どもをブチ殺しに向かい、そこで奴と出遭った。
完全敗北だった。
向き合った瞬間、手が止まり、足が止まり、頭が止まって心臓も止まった。油汗だけが背を伝い、
目は大きく見開いたまま硬直し、唇は戦慄き、膝は笑ってないのが奇跡だった。
ニヤ、と嗤って、悠々と隣を抜けるアイツを、オレはただ見送ることしか、いや、硬直していてそれ
すら出来ないまま、突っ立っているしかなかった。
屈辱だった。
存在そのものを否定される屈辱だった。
あれから、五年だ。
あの日を再現しよう。
酒場裏口を蹴り破る。そこに居た吸血鬼に銃弾を雨霰と注ぎ、慌てて横手から襲い掛かってくる
もう一匹を切り上げる。力任せの斬撃に宙に浮いた化物に、にや、と笑って心臓に集弾。落ちてくる
ころには、両方とも灰燼と帰している。
ドアを開けて飛び込んでくる吸血鬼を、二度刻み、首を刎ねる。すぐ後ろに続いていた奴の顔面
にジャックポット。
そして、ドアを開け、
カウンター越しに、あの赤黒い影を見て、
「――――――よう、久しぶりだな。大将 !!」
喜悦に顔を歪めて。
五年越しの雪辱を込めた弾を、奴のいけ好かない顔に叩き込んだ。
- 206 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 07:30
- >205
飛来した弾丸は、アルカードの、そのニヤついた顔の、あと一ミリという
所まで距離を縮め――しかし、鉛で出来た凶弾は、白い手袋に握りつぶ
され、彼の顔を砕く事は出来なかった。
「……あん?」
不信気な声。
真紅で統一した男――「元」英国国教騎士団所属の"吸血鬼"アルカー
ドは、突如飛来した銃弾を手の中で揉み砕きながら、闖入者の方へと視
線を向けた。
その真紅の双瞳が、闖入者を捉えて薄められた。
口の端がつりあがり、その長い牙を剥き出しにして、嗤う。
「これはこれは……お前が来ちまったのか、トニー・レッドグレイヴ。真紅
のコートで長身の男――確かに条件もピッタリだよなぁ」
真紅のコートを羽織った男が、ニューヨークの夜を闊歩している。
そんな情報を聞いたのは、アルカードがニューヨーク――この大都市を
訪れてから、一ヵ月後のことだった。
それを聞いて、アルカードは、嗤った。
彼は、人を待っていた。それは、紅いコートを好んで羽織るような時代錯
誤な男で、そんな酔狂なヤツは自分のほかには、あいつしかいないと思っ
ていたのだが。
だから、それを聞いてからの一週間は、それまで以上に暴れ回った。
わざわざハンターの監視網に捉えられるように動き回り、彼らの話題に
なるくらい、派手に吸血鬼を殺しまわった。
それもこれも、全て「彼」に見つけて貰うための仕込みだった。
これくらい派手に動いておけば、「彼」も見付けてくれる事だろう。
だが、現実は違った。
確かに、追跡者はアルカードを見付ける事には成功した――だが、それ
は、アルカードが予想していた「彼」とは、まったくの別人だったのだ。
- 207 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 07:31
- >206
トニー・レッドグレイヴ。
今、自分に銃口を向けるこの男と出会ったのは、五年程前、アルカード
がイギリスの地方都市を"仕事"で訪れた時だった。
それは、つまらない仕事だった。
一匹の吸血鬼が、街の酒場を根城にして、食屍鬼を増やしている――
それを早急に始末しろ。ありふれた仕事だ。
一時間予定の所を三十分で殺し終えて、帰路につこうと回れ右したその
先に、トニー・レッドグレイヴは立っていた。
ニィ、と嗤って見せる。
仮にもハンターだ、掛かってくるかとも思ったが、そいつはただ、一切合
財、世界が全て停止してしまったかのように棒立ちになり、それっきり動か
なくなってしまった。
――――――まあ、こんなもんだよな。
そう大して期待していたわけでもない。
アルカードは、棒立ちになった若者の肩をぽんぽん、と軽く叩いてやると、
そのまま脇を通り過ぎて、ヘルシング本部へと帰還した。
それから、五年。
あの時の若者が、自分を狙っている、という話は、なんとなくは聞いてい
た。その便利屋としての腕も、あの頃から格段に上がっているだろう。現
に、トニー・レッドグレイヴの名前は、至る所で耳にしている。
だから、少し考えれば、この事態も有り得ない事でないことは、容易に想
像出来たはずだったのだが、いかんせん、「彼」の到来を待ち焦がれてい
たアルカードの頭の中からは、その可能性がすっぽりと抜け落ちていたよ
うだった。
- 208 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 07:31
- >207
「まあ、いいや」
不測の事態を、一言で片付ける。
どっちにしろ、「彼」がその内に自分を追って現れるのは間違いない。
どうせ、自分の一生は長い。なら、気長に待つくらいが丁度いいとアルカ
ードは思っているし、それに、五年ぶりの再会だ。少しくらい、この若者と、
親交を深めてみるのも面白いだろう。
「で、小僧。ここに来たっつーことは、吸血鬼と戦う心構えは出来たんだよ
な?」
床に倒れた吸血鬼には目もくれず、その胸に銃口を向けてトリガー。
放たれた白木の杭は、狙い違わず足元の吸血鬼の胸元を抉り、哀れな
彼女を灰燼に帰した。
「白木の杭は持ってきたか? 銀の弾丸は? 聖水は?」
一歩。また一歩。言葉と共に、アルカードは足を進める。
嘗て恐怖に屈し、何を何を為すまでも無く敗北した若者の、その反応を
愉しむかのように、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。
「今度は愉しませてくれるのか? これでも期待してるんだぜ、トニー」
真紅の吸血鬼は嗤う。
その顔に、神でさえ嘲笑うかのような、不遜な笑みを浮かべながら。
- 209 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 07:45
- >206-208
相変わらずだ。
反吐が出るほど濃い瘴気。こっちもイカレるほどの狂気。
まだ駆け出しだったオレは――こいつの前に、指一本動かせなかった。
動けば殺される。神経の末端すみずみまでが、ただその一念を確信し、狂信した。
あれには、勝てない。
無力な暴力。恐怖という毒は、ただ一度の邂逅で、五年に渡る致命傷をオレにつけた。
だが、もうオレはひよっこだったトニー・レッドグレイブじゃない。
「トニー・レッドグレイブは死んだよ……たった今、な」
負け犬は力をつけ、牙を砥ぎ、心胆を鍛え、負けられない理由を手に入れて。
死神を嘲笑うようになった。
こいつはけじめだ。過去を斬り捨て、今を肯定し、未来に進むための。亡霊を断ち切り、本当の
意味で乗り越えるための儀式。
コイツを倒す。
それが可能であることを証明する。
式は整った。計算は成った。試験はここに開かれた。
只、高らかに一言だけ告げよう。
我はただ証し明らかにする。
我は悪魔狩人。
我は、
「オレの名はダンテ。これからアンタを地獄に送る名さ」
床を割れるほど蹴りつけ、カウンターを一跳びに越える。大きく振りかぶった大剣の刃に片手を
添え、弓のように撓らせて力を溜める。
落下の瞬間、指を離す。
アルカードめがけ、雷鎚の一刀が直下する。まずは挨拶代わり……喰らいな。
- 210 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 07:47
- >209
迫リ来る大剣の一撃に、アルカードは銃を持って相対する。
鉄と鉄とを打ち合わせた不快な音が、溢れかえらんばかりの死と、そし
て、それ故に訪れていた静寂の支配を切り裂いた。
「ククッ……クハ、ハハハ、クハはハハハはハハ……!!」
哄笑。
アルカードは、自らに向けられた狩人の敵意を、殺意を、ただ単純に悦
んでいた。相対しただけでわかる、殺意を感じ取っただけでわかる――こ
いつは、あの時とは違う。確かに、成長しているようだ。
「地獄、地獄か……クク、俺には似合いの場所だねぇ、よくわかってんじゃ
ねぇの、お前」
アルカードは、常にこう考えている。化物を倒すのは、人間である、と。
ならば、今、眼前で、その顔に喜悦さえ浮かべ、吸血鬼と言う「化物」に
臆する事無く立ち向かおうとするこの男は、化物を――自分を倒す資格を
持ち合わせていた。
だが、それはあくまでスタートラインに立った、ということに過ぎない。
彼が何処までやれるのか……それは、アルカードにもわからない。
人の一生は短い。だからこそ、短時間のうちに、不死者である自分には
想像もつかない程の成長を遂げる時もある。
彼が、この五年という時間で、一体どれ程の成長を遂げたのか――それ
を考えると、自然、アルカードの口は緩んでいた。
打ち合った銃を横に払い、軽く腹を蹴りつけてやる。
その衝撃で、ダンテの身体は宙を舞い、アルカードとの距離が開いた。
それを見遣りながら、アルカードはククッ、と嗤うと、
「休みをやるよ、クロムウェル――ちょっとは愉しめそうだ、コイツはな」
――――――瞬間、空気が震えた。
バチン、という猛獣を押さえつける拘束具のようなものが破られる音。
聞くだけで戦慄を覚えるその音は、だがしかし、次に起こった変化に比べ
れば、まだ甘いものに感じられた。
見た目には、何も変わらない。
何時もと同じように軽薄な笑みを浮かべ、だらしなく突っ立ったアルカー
ド。それ以上の変化もなければ、それ以下の変化も無い。
だが、その身に纏った空気と言うものが、先程までとは比べ物にならない
モノに変化していた。死の静謐など生温い程の、圧倒的なまでの圧迫感。
それは、自らを縛る拘束から、アルカードが解き放たれた証。
"吸血鬼"アルカードは、その身に更なる瘴気を従えて、本来の力を取り
戻した。
- 211 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 07:51
- >210
空中でくるんと一回転。
ハ、ハ! そう来なくっちゃな! アンタこそは最強最悪、無辺不在の大亡鬼。どうしようもなく
埒外で気違いのクソ野郎だ。
そうでなくっちゃ、乗り越える甲斐がないってもんだろ!
「――――Let's ROCK, Baby !!」
エボニー&アイボリーをドロウ。空中で狙いをつけて、BANG。続けざま何度も弾丸を叩き込む。
フルオートのSMG並の連射が正確にアルカードを捉え、リコイルはオレを空中に縫い付ける。
着地の瞬間、脚に満身の力を込め、全身を送り出す。
腰を限界まで捻り、繰り出す紫電の刺突で弾丸の後追い。――撃ち貫いてやるよ。その心臓。
- 212 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 07:56
- >211
心臓と顔を庇うように持ち上げた腕が、呆気ないほどに、いっそ清々しい
まで簡単に、防護するべき対象とともに――即ち、頭とともに吹き飛んだ。
辺りに血と脳漿を撒き散らし、紅くぐずぐずした肉を、壁といわず床といわ
ず、至る所に飛び散らせる。
それだけでは終わらない。
飛来する弾丸は、アルカードのその全身に次々に穴を穿っていく。
まるで永遠のように思われる一瞬、降り注いだ鉛玉の雨は、アルカード
をぼろ雑巾に変え、溢れ出る血は全身を濡らした。
だが、それでも。
アルカードは、倒れない。穴の空いたぼろ雑巾のような身体を地面に垂
直に、案山子のように突っ立ちながら、欠けた頭に唯一残った口をニィと歪
ませ、嗤った。
まるでそれが、可笑しな事であるかのように。
そうある事が、まるで当然であるかのように自然な振る舞いで。
ただ、嗤う。
「いい銃使ってるじゃねぇの、ええ?」
頭欠のアルカードはその箇所を再生させることなく、手に持った異様に
長い銃身を持つ銃……彼専用にあつらえられた"吸血鬼殺し"の銃口を、
紫電の速さで駆け抜ける若者に向けた。
「たっぷり喰らいな、白木の弾丸だよ。人にはあんまり効かないけどね」
その引き金に掛かった指に、力が篭められる。
アルカードは、ダンテを見ていない。正確には、見る事が出来ないのだ、
彼の目は失われているのだから。
だが、その狙いは正確に。
銃弾の嵐は、駆け抜けるダンテを捉えていた。
- 213 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 07:59
- >212
弾丸は完全に見えていて。
オレには、それを避けることが出来ただろう。
だが、それは攻撃の機が潰えることと同義だ。
敢えて避けず、僅かに身を沈めるに留める。
顔を掠める弾丸。耳を引き千切っていく白木の、かすかな土の匂い。燃えるような痛みを笑い飛
ばし、風を切る音を聞く。
親父譲りの大剣が、深々と根本までアルカードに突き立った。
――外した。
必中の筈の攻撃は、しかし心臓を捉えてはいなかった。――チッ、やっぱり弾丸を少しでも避け
たのが効いてる。
ここまで、多分計算のウチなんだろうな。ハッ、踊らされてるわけだ。
「お褒めにあずかり、どーも……ッ」
言葉とともに息を吐いて、腹にブローを叩き込む。並の化物ならこれ一発で腹の中身全部ブチ撒
けるんだがね。
クソッタレ、嗤ってやがるぜ。
ミドルキックで追い打ちを掛け、反動で奴の身体から剣を引き抜く。
すかさず拳銃を引き抜き、心臓にポイント。
「気に入ったんなら、幾らでも喰らわせてやるよ」
手動で三点バーストの真似事。
玄妙に狙いをずらしてある。一発止めりゃ、他の二発は止められまい。
- 214 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 08:02
- >213
吸血鬼の、その紅い身体が宙を飛んだ。
椅子と言わずテーブルと言わず、酒場の中に派手な破砕音が響き渡り、
アルカードはその瓦礫の山の中で、静かに身を沈めている。
ピクリとも動く様子は無い、それは完全な死体だった。
追い討ちをかけるような発砲音。
殺意で塗り固められた弾丸は、死体に更なる死を与えようと迫る。
一発。ビクン。
二発。ビクン。
心臓に叩き込まれた銃弾が、その度に吸血鬼の身体を大きく揺らした。
全身を弛緩させ、口からは血の泡を吹き、手を大きく仰け反らせるアル
カード。三発目の弾丸は、狙い違わず心臓へと加速し、三度目の衝撃を
与えようと迫る。
だが、次の瞬間。
だらしなく垂れたその腕が電光のごとく閃き、迫る三発目の銃弾を、一撃
の元に叩き潰した。
動いた? そう、動いた、当然だ。
ノスフェラトゥが――ヴァンパイアが、ノーライフキングが、この程度で屍
を晒す? 否。有り得ない話である。
彼らは、――特に、吸血鬼と呼ばれる存在は、もう死んでいるのだから。
死体をもう一度殺す等という事は、並大抵の労苦ではない。
「ク、ククク……」
殴られ、蹴りつけられ、刺され、身体中に、原型を残さぬほどの穴を穿
たれて、それでもなお、嗤う。
それが仕事だとでも言うように嗤う、嗤い続ける。
この身に刻まれる傷一つ一つが、彼にとっての愉悦、快感、そして悦楽。
自らに対抗し得る「人間」の存在が、知らず彼を嗤わせていた。
- 215 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 08:02
- >214
「クック……クックック……」
その嗤い声は、低く、昏く。
聞く者を老若男女、人間どころか化物までをも、残らず戦慄させるように。
その低い嗤い声は、死が溢れた酒場に木霊した。
「それじゃあ無理だよ、小僧。吸血鬼はね、そんなことじゃ死なねぇの」
ざわり。
空気が、不快に蠢いた。
夜の闇が、ゆっくりとアルカードを包み込む。
時間にして、一秒にも満たない。だがそれは、アルカードという吸血鬼の、
その欠けた部分が補われるには、余りある程の猶予。
変化は、闇だけに留まらない。
流れ出た血が、飛び散った脳漿が、ぶちまけられた肉片が。
酒場の中に拡散されたアルカードの「一部」が、ぐずぐずと、不気味に自身
を振るわせ始めた。
蠢きだした血は、肉は、脳漿は、床に、壁に、天井に、次第にゆっくりと染
み込んでいき、やがて黒い染みへと変化し―――次瞬、その大量の染みは、
酒場を覆い尽くすほどの蝙蝠の群れへと姿を変えた。
「ククッ……ク、ハ……クハ、ハハハハハハハ!」
哄笑は止まらない。
我先に、とばかりにダンテへその鋭い牙を突き立てようとする蝙蝠の群
れを眺めながら、紅い吸血鬼はゆっくりと立ち上がった。
"吸血鬼殺し"のマガジンを入れ替える。
吸血鬼を殺すのには白木の杭が必要だ。なら、人間を殺すには、鉛の
弾が必要だろう。
一面の蝙蝠の中、いい加減な見当を付けられて、銃の引き金は絞られた。
- 216 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 08:08
- >214-215
「ハ……ハ、なんだよコイツは」
ちょいとばかり悪趣味がすぎるってもんだ。きいきい鳴く黒い闇が、瞬く間に酒場を覆っていく。
切れ切れのブラックカーテンは、漣みたくざわめく……羽音だ。
燐、と。
一斉に赤眼が浮いた。
蝙蝠が一斉に啼いた。
オレには聞き取れない領域の音が爆発し、鼓膜が痛くなる。
空間に浮く無数の牙。上下二対かけることの、沢山。質量・体積ともに、もはや分厚い重みすら
感じさせる蝙蝠の群れが、黒い塊となって襲い掛かってきやがる。
エボニー&アイボリーが掌中で踊り、次の瞬間にはオレのサイドを固める。猛火をあげる銃口。
ピアノの早弾きのように、軽やか、かつ雄々しく舞う拳銃。銃声交響曲を引き連れる速射が、蝙蝠
を片端から薙ぎ払うが、如何せん数が多すぎる。
腕を、顔を脚を腹を、ところかまわず貪欲に齧る蝙蝠ども。チッ、いちいち撃ち落してられないぜ。
銃をしまうと、素手で無造作に掴み、力のままに掴み潰す。牙が肌を滑り、余計に深い傷跡を刻む
が、無視して何十匹を一時に掴み潰し続ける。手が黒毛と血でドス黒く染まっていく。
がきん。撃鉄の音。
直感が叫ぶままに、横に跳び、さらに剣を引き抜く。放たれた弾丸の一発が元の位置を素通りし、
一発を振るった剣で弾き、次の二発を貰った。大口径の直撃がオレの身体を吹っ飛ばす。
テーブルを二、三個跳ね飛ばして、ようやくオレの身体は止まった。
潰し損ねた蝙蝠が。
潰れて再生した蝙蝠が。
しぶとく、オレの生き血を啜ってやがる……クソ。
強い。
- 217 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 08:10
- >216
「ヒュウ」
場に不釣合いな、小気味のいい音。
咽返るほどの血の香りの中からダンテの流血を嗅ぎ分けると、アルカー
ドは嬉しそうに口笛を鳴らした。
「こう言う時はなんて言うんだっけ? ……ああ、そうそう、思い出したよ」
未だ晴れぬ視界の中、その先にいるダンテを見据えながら、
「……ジャックポット、ってな」
目を細め、おどけたように口を歪めて、吸血鬼は、笑った。
同時に、視線の先に照準を合わせ、トリガー。
尻を叩かれた銃弾は、さざめくカーテンを突き抜けて、その向こう側に居
るダンテへとその牙を剥いた。
一発、
二発、
三、
四、
五―――
呆れる程に、馬鹿の一つ覚えのように、吸血鬼はトリガーを引き絞る。
床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、縦横無尽に酒場の中を駆け巡りながら、
アルカードは引き金を絞るという、ただそれだけを繰り返す。
時間にして、十数秒。地面に落ちた空薬莢は、数えるのも馬鹿馬鹿しい。
ガチン、マガジンの中身が尽きる音。
同時に、壁を力の限り蹴りつけると、アルカードは漆黒のカーテンに突っ
込んだ。
視界が黒で覆われる、カーテンが発するキィキィという音が、耳に喧しい。
だが、それも時間にして一瞬。
視界が晴れる。幕に隠れたダンテを視界に捉え、アルカードはその左手
の指先をキッチリと揃えて、神速の勢いで突き出した。
「ハッハァ!」
- 218 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 08:12
- >217
大口径の直撃に、血のダンスを踊らされる。自分の意思とは関係なく、着弾の衝撃が身体を吹き
飛ばし、滑稽に捻じ曲げ、無様に圧し折り、風穴を開ける。
血は、流れすぎて、どうしようもなく流れすぎて、どいつがオレの血だか、それとも一緒くたに撃ち
抜かれた蝙蝠のモンだか判りやしない。
「クク……ククク、ハハハハハハハハ!」
嗤いながら、手近に落ちてたショットガンを拾い上げる。指先で舞わし、向けるのは――オレの方。
トリガー。耳を裂く撃音と痛撃。何十という散弾がオレごと蝙蝠を撃ち潰す。再度トリガー。衝撃に
吹っ飛びながら、再度トリガー。トリガー。トリガー。ククク。
弾切れを告げる金属音が、幾度となく鳴る。
ショットガンを投げ捨てた。オレに群がっていた蝙蝠どもも、さっきのでまとめてくたばっている。
「御生憎様。悪魔狩人のダンテも、この程度じゃ死ねないのさ」
蝙蝠の幕を突き破って唸る貫手。まともに受ければ腕ごと砕けるだろうな。そう認識するより速く、
身体は奴の血に飢えて動く。
身体が跳ね、脚の軌跡が円を描く。下から上に紡がれる脚線螺旋。廻し蹴りが奴の肘を的確に
捉え、力が絶頂に達する前に受け止める。
しばし、そのまま硬直。
ハ。こっちは脚で、しかも力の溜まりきらない腕の連結点、肘を狙って。
それでやっと互角か。コイツがアンタとの力量ってワケだ。
けどな。それだけで勝負はつかない。
「最後まで踊ってもらうぜ、アルカード」
大きく奴の腕を蹴り上げて、素早くインファイトに潜り込む。零距離から叩き込むブローの連打。
足元も疎かにしない。ローキックで脛を蹴り砕きにかかる。
- 219 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 08:14
- >218
ダンテの拳が、アルカードの鳩尾を抉った。
一度、二度、三度、四度、五度……、自らの身に受けた銃弾の衝撃を、
そのままアルカードに返すかのように、重く鋭い一撃が、アルカードの鳩
尾を何度となく捉える。
紅い吸血鬼は、その身を大きく折り曲げる。
瞬間、狙ったように、ローキックが脛を抉った。
「がはァ……! はッ、げッは、ハ、ははッ……!!」
意味を為さない咆哮が、口から漏れる。
蹴りをまともに受け止めた脛は、完全に砕けた。
バランスが悪かったせいもあるが、それほどまでにダンテの一撃は重かった。
だが、倒れない。
身体はくの字に折れ曲がり、踏み止まるハズの脛が砕けているにも関わらず。
吸血鬼は、その白い牙を剥き出しにして苦悶の声を上げ、そして、その声とは
不釣合いな程に、これ以上ない喜悦を浮かべながら、
「ク、ハ……最後まで踊れっ……とはな」
可笑しそうに一人ごちる。
口から血反吐を吐き出しながら、アルカードは顔を上げた。
「吠える様になったな、小僧、ええ? クック、いいぜ、相手をつとめてやる」
頬が歪み、白い牙を露わにして、吸血鬼は嗤う。
同時に、ダンテの肩を掴み、その鳩尾に膝蹴りを叩き込むと、その身体
を突き飛ばし、右手の手刀を大きく振りかぶる。
「豚のような、悲鳴を上げろ……人間!」
- 220 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 08:17
- >219
その蹴り一発だけで、砲弾の直撃のように感じた。惜しげもなく吐瀉物を撒き散らし、ついでに血
もごっそりと吐き出しながら、覚束なく後退る。
意識が飛び、激痛で目を覚ます。一秒の十分の一にも満たない地獄。
もはや倒れるしかないというところまで仰け反る。
背の大剣が、床を叩く感触。
次瞬、電光石火の抜刀。今にも胸を貫かんがばかりだったアルカードの手刀と切り結び、血の赤
を飛ばす。
二合、三合と打ち合うも、一歩も譲らない。クク、格闘ではいくらか後れを取っちまったが、こいつ。
親父の剣がありゃ、また話は別物さ。アンタとも互角にやりあってみせる。
「ハ……クッ、クハハ、ハハハハハ! 悲鳴をあげるのはそっちさ、MONSTER !!」
唇からしたたる血を舐めとりながら、大剣を叩きつける。肉厚の刀身が生み出す破壊は切るじゃ
なくて斬るだ。重量と力任せの斬撃が、肉を裂き、骨を筋ごと断ち切る。小奇麗なナイフなんかじゃ
ちょっと出来ない、圧倒的で完膚なく、そして凄惨な壊し方だ。
袈裟斬り、払い斬り、逆袈裟二連に斬り下ろし。死ぬまでだ。死ぬまで百八でも、千二十四でも、
気が済むまで解体してやるよ。
- 221 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 08:19
- >220
肉の繊維質を断ち斬られる、ブチブチという感触。
それが、骨に達した。
大剣の重量と、それに掛けられた圧力とが、一瞬のうちに骨を粉砕する。
紅い吸血鬼が両断される、あまりにもあっさりと。
右腕が、地面に落ちた。次の瞬間、その上半身が下半身とサヨナラする。
分断された上半身が、さらに斜めに三等分され、止めとばかりに振り下ろさ
れた大剣が、アルカードを、脳天から真っ二つに引き裂いた。
ゆっくりと崩れ落ちる、アルカード"だったモノ″。
その、紅い吸血鬼の残滓が……斬られ、壊され、これ以上ないほどに
破壊されて、スローモーションで崩れ去る、その残骸が―――
――――――"ニィ"
まるで、そこには初めから何もなかったかのように。
それらはゆっくりと――だが確実に、さらさらと闇へとその姿を変えていく。
溶け出した闇は、ダンテを覆い、酒場を覆い、夜の帳すら覆い尽くして、世
界を単色に染め上げる。
ざわ――ダンテの背後の闇が、不意に蠢いた。
瞬間、大剣が閃き、背後に立つそれを両断する。
断ち斬られた黒い影の、それを構成するパーツたる蝙蝠達は、キィキィ
と何度か声を上げると、ニューヨークの夜へと飛び去った。
闇を割って現れた見事な毛並みの黒狼が、ダンテの喉下へとその牙を
剥き、一刀の元に両断される。
一つ一つの要素と比べれば、ダンテは圧倒的に勝っていた。
右に現れた影を斬り捨て、その鋭い牙をダンテへ埋めようとする黒狼の
首を跳ね飛ばし、地面を這いずり、足に絡みついてその肉を貪ろうと鎌首
をもたげる蛇の背に、大剣を突き立てる。
だが、それは単体と比べた場合。複数となると、話は別だ。
少しずつ、少しずつ……闇は、ダンテのその身体を侵蝕していく。
闇の中、剣を払い、突き刺し、右へと、左へとステップを踏み、ターンし、
また剣を振るい……そうやって、一人闇の中を彷徨うダンテのその姿は、
さながら剣舞を舞っているかのようにも見えた。
- 222 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 08:22
- >221
――踊ってる……?
否、そんなんじゃない。踊ってるなんて、そんなスタイリッシュなモンじゃないぜ、これは。
今のオレは、踊らされてる。用意された舞台で、相手の掛ける曲につられ、繰り出されるテンポと
リズムで踊る、道化。
とんだ茶番だ。
最悪なのは、その茶番はどんどん加速していく……ってことだ。
狼の頭を割り、蝙蝠を掴んで千切り、黒き影には鉄火の打撃を、獰猛な炯眼には鋭刃の裁きを。
何度も殴り飛ばし、何度も斬り捨て、何度も引き金を絞る。
その度に、倍へ倍へと増えていく獣ども。
は、このオレの腕前をもってしても、流石に相手しきれない量になってきやがった。何度も執拗に
迫る牙が、爪が、肉を深く抉りとる。
消耗戦だ。
最悪の展開。
――血が、足りてねえぜ。まったく。足元がふらつきやがる。
ずる、と感触。……ったく、言わんこっちゃないってことか。血で滑った床に足を取られ、身体が
大きく傾ぐ。
泳ぐ上半身で無理に剣を振り、床に突きたてて杖代わりに。転倒こそ免れたものの……ハ、ハ。
一度止まった身体は、もうこれ以上動きたくないと悲鳴をあげている。膝がけたけた笑ってやがる
ぜ。
そろそろ、幕引き、か……。
ニヒルに笑む。最後まで、クールに笑っていてやる。怖けるのはもう沢山なんだよ。
もう、うんざりなんだ。
- 223 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 08:28
- >222
肉の繊維質を断ち斬られる、ブチブチという感触。
それが、骨に達した。
大剣の重量と、それに掛けられた圧力とが、一瞬のうちに骨を粉砕する。
紅い吸血鬼が両断される、あまりにもあっさりと。
右腕が、地面に落ちた。次の瞬間、その上半身が下半身とサヨナラする。
分断された上半身が、さらに斜めに三等分され、止めとばかりに振り下ろさ
れた大剣が、アルカードを、脳天から真っ二つに引き裂いた。
ゆっくりと崩れ落ちる、アルカード"だったモノ″。
その、紅い吸血鬼の残滓が……斬られ、壊され、これ以上ないほどに
破壊されて、スローモーションで崩れ去る、その残骸が―――
――――――"ニィ"
まるで、そこには初めから何もなかったかのように。
それらはゆっくりと――だが確実に、さらさらと闇へとその姿を変えていく。
溶け出した闇は、ダンテを覆い、酒場を覆い、夜の帳すら覆い尽くして、世
界を単色に染め上げる。
ざわ――ダンテの背後の闇が、不意に蠢いた。
瞬間、大剣が閃き、背後に立つそれを両断する。
断ち斬られた黒い影の、それを構成するパーツたる蝙蝠達は、キィキィ
と何度か声を上げると、ニューヨークの夜へと飛び去った。
闇を割って現れた見事な毛並みの黒狼が、ダンテの喉下へとその牙を
剥き、一刀の元に両断される。
一つ一つの要素と比べれば、ダンテは圧倒的に勝っていた。
右に現れた影を斬り捨て、その鋭い牙をダンテへ埋めようとする黒狼の
首を跳ね飛ばし、地面を這いずり、足に絡みついてその肉を貪ろうと鎌首
をもたげる蛇の背に、大剣を突き立てる。
だが、それは単体と比べた場合。複数となると、話は別だ。
少しずつ、少しずつ……闇は、ダンテのその身体を侵蝕していく。
闇の中、剣を払い、突き刺し、右へと、左へとステップを踏み、ターンし、
また剣を振るい……そうやって、一人闇の中を彷徨うダンテのその姿は、
さながら剣舞を舞っているかのようにも見えた。
- 224 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 08:29
- >222
「ク、ハハ!」
闇の中、アルカードの笑い声が響く。
興奮し、熱を帯びた声が。
「クック、そこで笑うなんぞ、随分余裕があるじゃねぇか」
それは、からかうような響きを持って、ダンテの耳に届いた。
アルカードにはわかっている……いや、誰が見たところで、今のダンテに
余裕などが存在する隙がないことは、一目瞭然だったろう。
身体の至る所から血が噴き出し、それを拭う事もせず。
例え拭われたとしても、その腕に付着した血が、新たにその場所を汚す
その様は、まさに血で血を洗うと言う言葉が相応しい。
既に足元もおぼつかず、自力で立っていることすらままならず。
大剣を地に突き刺し、そうやって辛うじて立つ事を許されただけの状態。
「我慢しない方がいいんじゃねぇの? あの時(五年前)みたいにね」
ざわり、と、闇がさざめいた。
瞬間、二桁を越える不死の王(ノーライフキング)の分身達が闇の中か
ら生み出され、ダンテへとその牙を剥く。
震える身体に鞭を打ち、ダンテがそれらを叩き潰す。
だが、次の瞬間には、それと同数の、いや、それ以上の獣たちが闇の中
から産み落とされ、獲物へ向けて走り出す。
獣たちは、二十の命を消費して、一つの傷痕をダンテへと刻み込んだ。
消耗戦。
しかし、それは一方的なモノであることに、ダンテは気付いているだろうか?
獣たちは、一つ一つは別な形を取っているとはいえ、それらは不死の王(ノ
ーライフキング)たるアルカードの分身に他ならない。
彼らに、死という概念はない。
潰されれば、切り捨てられれば、確かに、その動きは止まり、血も流す。
だが、死なない。
アルカードを滅ぼすのに何らかの手段が必要なように、ただ殺すだけの
手段では、彼の使い魔を滅ぼすことなど不可能なのである。
「あの時みたいにガクガク震えて、怯えて、恐怖して、そして諦めちまった
方が……お前の為だよ、小僧」
明らかに嘲笑するような響きを持つその言葉。
その声を聞く者は、アルカードの、その神をも嘲笑うかのような不遜な表
情まで、正確に脳裏に思い浮かべられたことだろう。
ざわり。
もう何度目になるだろうか、数えるのも馬鹿馬鹿しい。
現れた獣たちを、叩き、潰し、切り伏せ。
しかし、圧倒的なまでの物量は、次第にダンテのそれを上回り始めていた。
ダンテと言う存在が、黒で塗り潰されていく。
まずは、足から。
次に、腕を。
胸を。
頭を。
胴を。
それらは、次第に、ゆっくりと、確実に対象を塗り潰していき。
やがて、最後に残った一部分に蝙蝠が張り付いて、その牙を埋めた時。
ダンテと言う存在は、闇の中へと消えた。
- 225 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 08:41
- >224
その、血生臭い、焼けるような痛みと闇の中で。
ただ、両手の拳銃に、力を込める。
臓腑に刺さる牙が、銀のアクセサリに絡まって音をたてる。
その拍子で、コートの内側から、小瓶が青い筋を空に引いて落ちた。
真っ直ぐそのまま、床へと向かうその小瓶こそは……ク、ク。情けない話のようだが、
オレが大枚はたいて手に入れた、とっておきの切り札って奴。
ジョーカー、切らせてもらうぜ。
床上で割れる寸前、纏わりつく獣ごと足を動かし、爪先で小瓶を蹴りあげる。電気の
頼りない光を青く乱反射する瓶を、さらにハイキックで叩き割る。
中の液体が、『オレのまわりに集められた』使い魔どもに降りかかり――
燃えた。
青い燐光を放ちながら、断末魔の悲鳴とともに、使い魔どもは液体の触れたところ
から全身を焼け爛らせ、そのまま跡形もなく消え失せていく。一匹の例外もなく、青く
燃え上がって灰になる。
まさしく一網打尽。例外なく全滅死滅。
ハ、ハ! 流石は最高級の聖水サマ。青い炎の中で笑う。
そう、肉を切らせて骨を断たせ、命を囮にアンタから引き出せるすべてを引き出して
やった。後先も次手もいっさい考えなしに。故の切り札。最後の最期に切るべき札。
悪魔の魂は赤い結晶になる。結晶は砕くと欠片になる。欠片を割ると、光と純聖な
水がうまれる。
それこそは至高の聖水。低位の怪異を文字通り消滅させる、至上の奇跡。
これで、アルカードの使い魔は消えた。
代償は、満足に見えない目と、ろくに聞こえない耳と、上手く動かなくなった躰。
それがどうした。
青い炎がすべて消えても、まだオレの中の炎は消えていない。この両手の極光だけ
は、未だに消えず、逆に清浄な水の禊ぎでさらにその勢いを増している。
使い魔に肉を齧られながら、ずっと溜め続けてきたオーラの光。
黒白双方の銃身に蓄えられた、目が灼けるほどの力の奔流。
こいつが、今のオレ、最強の一撃だ。
「もう……逃げない。オレは。二度と」
銃把を軋むほど握り締める。見えない目を見開き、奴の姿を捉える。
手が跳ねる。飛び上がって自動的に構えを取る。躰がおぼえている。
身体の前で両腕を交差させる、何千何万と繰り返した銃撃のポーズ。
狙うは、あのときからずっと狙っていた標的。
「――――――Jackpot !!」
トリガーを絞る。蒼く輝く火線が、吸い込まれるようにアルカードへと飛んでいった。
- 226 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 08:44
- >225
蒼白く輝く燐光が、暗闇に彩られた世界を、ただ、走った。
それはまるで、世界を切り裂くような……いや、黒い世界の上を駆けるよ
うに、ゆっくりと、スローモーションで、目標へ向かって直線に走る。
その先にいるのは、黒い世界の只中で、一人だけ彩を纏ったモノ。
この暗闇の主にして、生態系の頂点に立つ存在。
それは、ノスフェラトゥとも、ノーライフキングとも呼ばれる、化物。
――――――そいつの名前は、アルカードという。
暗闇の中で一人、紅を纏って立つその男は、迫る弾丸を避けようともせ
ずに、相も変らぬ軽薄ゆえに酷薄な表情を顔に浮かべながら、ただ、それ
を、じっと、魅入ったように見つめていた。
弾丸が走る。
それが、ゆっくりと、ゆっくりと、まるでコマ送りにでもなったかのようなス
ロースピードで、アルカードの、その紅いコートに吸い込まれる。
ドン。
音がした。
アルカードの心臓を食い破った弾丸が、体内を貫通し、大量の肉と血を
道連れにして、背中から飛び出す。
アルカードは、嗤う。何時ものように。
飛び散った肉片は背後の壁に汚らしく付着し、飛び出した血は床といわ
ず壁といわず、至る所に自らの跡を残し。
そして、アルカードの傷はいつも通りに――――――再生、しなかった。
- 227 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 08:45
- >226
「な、に……?」
驚愕に目を見開きながら、アルカードはゆっくりと崩れ落ちる。
夜に……それも自らの領域の中で、吸血鬼が、ノスフェラトゥが、自らの
再生を行えないなどと。
そんな馬鹿な話が、あるとは思っていなかったのだ。
奇跡。
それは、そう呼ばれる類の物だったのだろう。
不可能を可能にすること……それを奇跡と呼ばずして、何を奇跡と言う
のだろうか?
「クック……やれば、出来るじゃねえの……」
驚愕に見開かれたアルカードの双眸は、だが、それも一瞬で。
そのサングラスの奥に隠れた紅い双眸は、自らが朽ち果てようとしてい
るにも関わらず、愉快そうに細められ、その顔は、やはりいつも通りに、神
をも嘲笑うかのような、軽薄な笑みをたたえていた。
「そう、それだよ……これだから人間ってヤツは面白い」
誰に言うでもなく呟きながら、アルカードは崩れ落ちる。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
――――――パン。
不意に、何かが弾けるような、そんな音が響いた。
同時に、アルカードのその紅い巨躯が、まるでそこには最初から何も無
かったかのように、跡形も無く掻き消えた。
闇が晴れる。
その場に残されたものは、散々に荒らされた酒場の内装と、咽返らんば
かりの血の臭いと、そして、何物も抗い難い、圧倒的なまでの静寂と。
窓から見上げる夜空には、蒼白い満月が輝いていた。
- 228 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 08:49
- >226-227
弾痕と排莢と血に濡れた酒場は――微かに甘い、アルコールの匂い。
目を開ける。二秒くらい気を失っていたらしい。
かしん、と踏み出した足を止めた床の軋む音。今にも崩れそうな建物の、断末魔の声
だろうか。
アルカード。あの赤と黒の極地の姿は――ない。何処にも。
まだ前に向けたままの銃口を、ゆっくりと横に。そして上下互い違いに。天井の染み、
隅に蔓延る影、割れたボトルのつくる陰影も、ぶち開いた空に続く穴も。
余すことなく、銃を向けて、そこに何もいないことを検分する。
そう、たとえば。
こんな話を知っているか。
吸血鬼は、死ぬと灰になる。
緊張を解き、浅く長く、息を吐く。同時に銃口を下ろし、瞼を閉じ、開く。急に全身を苛む
激痛がその重みを増した。
生きている。
そして、奴は――
「…………ハ……へへっ」
引きつるように笑うと、剣を引き抜き、背に佩きなおす。
「……ま、今回は、オレの勝ちってことにしておいてやるよ」
散った酒の染みに、そのあたりに落ちていたライターに火をつけて放る。度数の高い
ウォッカが勢いよく燃え上がって、すぐに火の舌は店全体にまわりはじめる。
踊る焔を、ただしばらく、見るともなしに見て、紅蓮のコートを翻す。
魔除けのアクセサリーが、しゃらんと鳴った。
鎮魂の鐘のように。
戸口に手をかけて、出て行く前に。
最後に一度、中を振り返る。今や轟音とともに燃え盛る炎の、さらに奥。昼日中みたく
赤く焼ける酒場の、宵闇よりなお暗く燃える一線。
その先に、銃を向ける。
その先の、何よりも赤く、黒い影に。
「またな。アルカード」
――ジャックポット。
月の照らす道が、青く輝いている。
オレは歩き出した。もう後ろは振り向かなかった。
- 229 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 08:53
- >228
ずる……。
ずる……。
ネオンの灯りすら届かない暗い路地裏に、何かを引き摺るような奇妙な
音が響いていた。
ずる……。
ずる……。
身を引き摺って歩く影を、何者か判別する事は出来ない。
数多の超高層ビルに阻まれて月明かりすら届かぬニューヨークの路地
裏は、まさにこの街の闇を象徴していた。闇を覗き暴く事は、昼を生きる人
間の目には叶わぬ事なのだ。
路地裏に延々と響く、醜悪な音。
影は、一体何処を目指しているのか。
それは、影自身にもわからない事だった。
影が思っていることは唯一つ、「あの場に留まればきっと格好悪いだろう
なぁ」という事だけであり、とにかくあの場所―――つまり、今まさに炎上し
ている酒場だ―――から移動できれば、後の事はどうなろうとも知った事
ではなかったのだ。
ずる……。
ずるずる……。
ずる―――
「何処へ行く気だ、アルカード?」
不意に。
影の歩みを遮るように、その背中に向けて声が投げかけられた。
影―――アルカードと呼ばれたそれは、声の主も確かめずにゆっくりと
歩みを止め、小汚い壁に背を預けた。
確かめるまでもない。
"人の目には闇を見通し暴く事など出来ない"。
出来るとすれば、それは―――。
「夜こそノスフェラトゥが世界、闇こそヴァンパイアが領土―――ならば我
らにとって、これほど適した世界は望めまい」
声が告げる。逃げ場はないと。
元より、影に逃げているつもりなどなかった。
影―――アルカードは、ずっと彼を待っていたのだ。
イギリスというヨーロッパの小さな島国から、アメリカくんだりまでわざわ
ざ自分を追うためだけにやってきているだろう彼の事を。
待ち人は来たれり。
しかし―――。
- 230 名前:アルカード ◆Knight7J2A :04/02/11 08:53
- >229
アルカードは壁に背を預けたままごそごそと懐を漁ると、小さなケースを
取り出し、さらに中から煙草を一本つまみ出して口にくわえた。
キン、という甲高い音。
吸血鬼御用達の煙草を堪能しながら、アルカードは薄く笑った。
「旦那……せっかくのところ悪いんだけど、今日はちょっと日が悪ぃんだよ。
また後日ってわけには―――」
瞬間、闇がニィ、という音を立てて歪んだ。
もちろん、実際に空間が歪んだわけではない。だがそれは、そうとしか形
容出来ない出来事だった。
並の人間ならば―――いや、化物ですら、それの前には萎縮してしまう
だろう。そんな例えようもない気配だった。
「―――いかねぇよな、やっぱり」
しかし、そんな重圧を一身に受けているにも関わらず、アルカードの顔
に浮かんだ軽薄な笑みは変わらない。彼とてノスフェラトゥの王と呼ばれ
恐れられたヴァンパイアなのだ。ヴァンパイアがヴァンパイアに怯える等
と、そんな事は彼らの常識の中にはない事だった。
一分か、或いは二分か。
永遠とも思える数分―――アルカードのくわえた煙草が、その三分の四
を灰へと変えた時。
不意に、アルカードは彼へと問うた。
「……旦那。覚悟は出来てるか? 泣き叫んで命乞いして、無様な屍を晒
す覚悟だよ。始まったらもう生きてイギリスの土は踏めねェぜ。インテグラ
にお別れの挨拶は済ませてきたか?」
彼は答えない。
ただ、愉しそうに、さも愉しそうに―――口の端をニヤリと歪めて、アルカ
ードへの答えとした。
「さてと……それじゃ」
煙草を踏み潰す。
恐らく、この先二度と吸う事もないだろう。
不味い煙草だったが、そう思って見ると妙に未練がましく思えた。
だが、それも一瞬。
アルカードは壁から背を離すと、正面から彼を見据え、同じようにニヤリ
と哂ってみせた。それはいつもと同じ、傲岸不遜で酷薄な笑み。
「はじめようか――――――アーカード」
- 231 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE :04/02/11 09:48
- レス番まとめ
>200>201>202>203>204>205>206>207>208>209
>210>211>212>213>214>215>216>217>218>219
>220>221>222>224>225>226>227>228>229>230
かくして名前すら亡いテストは終了した。
結果は見てのとおりさ。完全無欠の零点、だが満場一致の合格だ。
だからオレはアンタの目の前にいる。悪魔狩人、ダンテとして。
いままで無数の化物を屠り、これから無尽の化物を殺す。
どうぞ、今後とも宜しく。
……だがね、別にナンにも終わっちゃいないんだよなぁ。
考えてもみな?
前半(ファースト)は確かに負けた。敗北した。完膚無くボロ負けさ。
でもさ。後半(セカンド)は勝った。完全とは言わないさ。まあ……紙一重とも言うが、とにかく勝った。
つまり、1−1さ。
――延長戦やらなきゃ、収まりが悪いだろう?
ま、だからって急いたりはしないさ。
こっちが生きてるかぎり、奴とは否応なしにまた出会う。
それだけは確実さ。ああ、絶対だ。
何せあの野郎、死に損なうってコトに関しちゃ完全に窮まっちまった奇術師なんだから――
Dead end.
- 232 名前:導入:04/03/04 01:17
- EPISODE IF
山城友香vsン・ダグバ・ゼバ(M)『連獄』
※ ※ ※ ※ ※
某月某日
警察庁未確認対策本部報告書
・未確認生命体0号は長野から松本方面へと移動中。
今までは何の規則性もなく全国各地に出現し有効策を構築できなかったが先日4:26、
0号の所在を検知するレーダーシステムの完成によって場所の特定が可能となった。
未確認生命体0号による犠牲者はこの一ヵ月半で3万人以上にも達しており、至急管轄
の長野県警に、0号がいると思しき周辺20km範囲内に緊急避難勧告を発動させる予定。
・未確認生命体は今年の1月中旬、長野市内の連続暴行殺人をきっかけに長野近郊で二件
の犯行、以後首都圏に移動し、“殺人ゲーム”を幾度となく繰り返している。
新たな個体の行動が確認されるたびに一件の被害者数は増加する傾向にあり、検察側から
は何らかの法則性が存在すると報告。今回の0号の移動も何らかの動機がある可能性が高い。
・なお0号の攻撃能力はこれまでの未確認生命体、及び協力者である4号の能力をはるか
に凌駕しており、早急に専用の神経断裂弾の完成が待たれる。
現在確認される殺傷方法は――――――
・
・
・
・
・
- 233 名前:アルビノ“山城友香” ◆0DYuka/8vc :04/03/04 01:26
- opening
雪山。それは一面の銀世界。眼前に広がる白い白いゲレンデ。
ど ん 。
「あいたたた〜。ごめんなさ〜い。」
『………は?ったく、人居んのか。気をつけろよ。』
その中で人と人のぶつかる音。いや、正確には。片方が人ではないのだが。
これで数えて十人目だ。休みを利用してスキーに来たのは良いけれど。
驚く人がほとんど。中には、人いるのかよ!と今や古くなった三村ツッコミをしていく人まで。
さて、なんでこんなことになったかというと。
私の服装に問題があるのか。全身に白のスキーウェアを纏っているからだろうか。
『─────レンタルでも借りればいいよ。』
普通に友達のそんな言葉だけ信じて、ほとんどなんの準備もしなかった罰だろうか。
自分のサイズに合う服が、たまたま白しか無かったという偶然。
雪から照り返す太陽が、日やけ止めを塗っていたとしてもかなり辛い。
(………やっぱり、場違いなのかな。)
少しばかりの憂いを抱いて、スキー場にぽつんと佇む。
雪は好きだ。でも、こんな太陽は嫌い。一面の銀世界は綺麗。でも、地獄みたい。
スキーもそんなに上手く滑れないし。少し、失敗したかな〜、なんていまさらながらに。
───話は、数日前に遡る。スキーのお誘いがあった。
いつもは、そんなに話はしないクラスの子から。
少し、スキーにも興味があった。そして、一面の雪山。夜になれば星も輝きだす。
ちょうど休みに少し暇があったので、喜んでお誘いに乗ることにした。
さて、その結果がこれだ。少し、早合点だったかなとか思いながら。
真白の吸血眷属、山城友香はリフトに乗って山の上を目指す。
ただ、リフトの入り口に書いてある。『上級者向け』と言う肩書きが少し以上に気になるが。
- 234 名前:ン・ダグバ・ゼバ(M):04/03/04 01:36
- >>233
白い雪、白い大地、この風景が妙に懐かしい。
目覚めて、だいたい一年くらいになるか。
僕が完全体になってからなら一月。
あれから、沢山焼いて殺してたった一ヶ月。
始まりのあの場所で、あいつが来るのを待ち続けて。
僕とあいつで、思う存分殴りあって、傷つけあって、殺しあって―――
心から楽しむ日を待っていた。けど、
「少し、飽きたかな」
最初はただの暇つぶしだった。
まあ意外だったかな。出歩いた先にリントが居たのは。
それも、あれだけ殺したのにあんなに沢山。湧いて出てくる虫みたいだ。
獲物が見つかった嬉しさ以上に現実感が薄い、最初はなぜか夢かと思った。
だから、夢かどうか確かめるために。
『あん? 何だあんtァッ』
ごりん、と鈍い音を立てて、首が縦に一回転。
何が起きたか分からないといった表情がまた面白い。
面白いから人形みたいに引き千切った。
赤くてきれいな血が流れるその首を、つがいかな? 逃げる奴に向かって投げつける。
風を切って…うん、見事に当たった。
投げた頭と当たった頭が、丁度トマトのようにひしゃげて潰れて、それが綺麗で。
ハハッ。夢じゃなかった。つい笑みがこぼれる。
この首の骨が軋んで折れる音も、割れた頭から漏れる灰色と赤も全て本物だ。
- 235 名前:ン・ダグバ・ゼバ(M):04/03/04 01:38
- >>234
ん? ああ、ようやく異常だと判断したんだろう。
見ていた連中が、パニックを起こして一斉に逃げ惑う。
やれやれ、分かってないな。
みんな殺すのに逃げちゃつまらないのに。
まあ良いや。
やっぱり、逃げる獲物を追って殺すのは基本だからね。
とりあえず手近な一匹。腰が抜けて動けない奴から殺す。
震えて声にならない声で、必死でなにやら呟いている奴だ。
これは多分、命乞いでもしているんだろう。
恐怖と驚きで歪んで、涙と鼻水で汚れている顔を想像すると―――ああ、笑える。
実際に顔を見たいところだけど、まあ、時間を掛けるのも良くない。
それより潰したときに飛び散る脳漿が見たい。
うん、そうしよう。怯えている顔というのは他の獲物も見れるからね。
『助けて…助けけけて…命だけは…おね…おね…』
だけど、向こうを向いているから見えてないのが残念だな。
姿の変わった僕のことを。
雪と同じ真っ白な色、昆虫のような鎧に身を包んで一体化した、僕の本当の姿を。
君達が未確認生命体と呼んでいる僕を。
何人も何百人も君達を狩って殺した、グロンギの長である僕を。
見えてれば、もっと良い顔が見れたかもしれない。
―――けど、それは次の獲物でいいや。
軽く頭を踏みつけて力をゆっくりと入れて、そのまま
『助けて助けけて助てたすたたつすうけけkkt――――――』
ぐしゃり、と。使った足が赤紫に染まる。
僕は笑っている。声を上げて、とても嬉しそうに。
何だ。やっぱりそうか。退屈だったのか。
じゃあ、やる事は一つだ。そう――
「究極の闇を始めるよ!」
僕はそいつの頭を踏み潰したまま、宣言した。
- 236 名前:アルビノ“山城友香” ◆0DYuka/8vc :04/03/04 01:41
- 山城友香vsン・ダグバ・ゼバ 〜連獄〜
>>234>>235
リフトを降りて眼の前に広がる景色に友香は感嘆の声を上げた。
「─────うわぁ〜……………」
綺麗という言葉では到底言い表せない自然界の神秘に、息を飲む。
全てを忘れてしまうほどの白い雪に包まれた銀世界。
でも、心臓が高鳴るのは何故だろう?
標高差220メートル。滑走距離おおよそ1キロにも渡るゲレンデ。
末恐ろしいことに、これでも初級者向けのコースらしい。
いつものようにあたふた、おろおろしていたら転けていた。
起きあがれなかったから、スキー板を外して立ち上がる。
どうして、こんなところに迷い込んでしまったんだろう?
不意なそんなことが頭をよぎる。妙な不安。まるで下駄の鼻緒が切れたような。
いつのまにか、回りが静かになった。
自分が怯えて耳を閉ざしたか、それとも別の理由かは解らない。
でも、不安は雪崩のように押し寄せてくる。怖い、コワイ、こわい。
それでも。滑らなければ戻れないから、わからないままだから。ストックを握って、覚悟を決めて。
その一歩を踏み出した………まではいい。
ただ、友香ちゃん一つとっても大事なことを忘れていた。
そう、この娘。スキーは全くの初心者で、滑り方はこれから教わるはずだったことを。
だから、直滑降でゲレンデを駆け抜ける。
まるで昔の唱歌にあるとおり。直滑降で風を切る。風になる。
小雪が舞い立って、まるで霧のように。
スキーってどうやって止まるんだろうと考えても、スキーは止まってくれない。
まるでブレーキの壊れたバイクに乗っているように。
もう、前は見えない。いつのまにか目を閉じていたから。
そうして、いつの間にかジャンプ台から空へ。
それでも、怖いから力を振り絞って精神のバリアを張る。
気休めにしかならなくたって、それに縋っていたいから。
何か、私の中の不安を打ち消したくて。
あたふた、おろおろしてるから。いつの間にか流されるように物事が進む。
そんな自分から目をそらして。自分だけを守って。怖いからと周りも見ずに。
いつの間にか、私は白い弾丸になって。誰かに思いっきり激突していた。
流れるように、いつものように。たぶん、私はきっと私のままで。
- 237 名前:ン・ダグバ・ゼバ(M):04/03/04 01:45
- 「うん、こんなところかな?」
引き千切って楽しむ。
叩き潰して愉しむ。
焼き尽くしてタノシム。
最初の数人は手足を一本一本千切ってみた。
痙攣しながら息絶えるまでを見るのが楽しかった、が三人目くらいで飽きた。
次は獲物の形を変えてみた。
相手の体を圧し折って曲げる。腸を巻きつけて絡める。
最後に首を捻じ切って、棒に串刺し。
面白いけど、反応が直ぐ無くなるのが分かって止めた。
そうやって、かれこれ10分か。
逃げる奴を追いかけて殺して、遠くにいる奴は焼いて。
真っ白な雪原に血の赤と、肉と骨の斑を描く。
ときどき混じる黒い染みは、遠くの獲物を焼き殺した証拠だ。
もがく様子が面白い代わりに感触が伝わらないから、焼いたのは本当に少しだけどね。
それにしても、何の面白みもない風景が僕好みに染まるのは気分がいい。
けど、困ったな。
見渡す限り、もう動いてる獲物が居なくなった。
…ああ、そうだ。次はあの遠くに見える建物に行ってみよう。
あの手の場所にはリントが集まっているものだからね。
よし、今度は獲物を探す遊びだ。
これはこれで楽しめそう―――
その時だった。
びゅう、と空気を裂く、風切り音というのか。
徐々に近づいてくる、同じく肌で感じる僅かな、だけど鋭い風圧。
何だろうと思い体を向けた瞬間。
かなり昔、それも何千年も前だ。
断崖から落下する岩を受けた事があった。
リントが罠で落としたのか、それとも僕等の力試しで行ったかは覚えていない。
で、何だったか。
ああ、そうそう。あの時と同じだ。
腹の正面にドシンと来る衝撃と、この息が詰まる圧迫感。
一瞬、真っ暗になる視界と裏腹に
頭は空白が支配して、
そのまま、僕はものの見事に吹き飛ばされた。
- 238 名前:ン・ダグバ・ゼバ(M):04/03/04 01:48
- (>>237は>>236へのレス)
- 239 名前:アルビノ“山城友香” ◆0DYuka/8vc :04/03/04 01:49
- 山城友香vsン・ダグバ・ゼバ 〜連獄〜
>>237
それでようやくスキーは止まってくれた。
誰かにぶつかったおかげって、言うのも変だけど。
一応、張っておいたサイコバリアで私はほぼ無傷。
でも、なぜなんだろう。嫌な予感がする。
こう忌まわしいあの血が騒いで騒いでしょうがないのは。
─────だから、怖くて、目が開けられなかった。
開けたら、なんだか引き返して来れそうにないから。
それでも。私はぶつかった方には。謝らなきゃいけない。
そこに、どんな結果が待っていたとしても。鼻を突くような匂いは幻想で幻覚。
そう、きっと、私の血が見せた幻なんだから。戻らなきゃいけない、現実に。
戻って、謝らなきゃ。そうすることが、私にとっても普通。そう思って、重い目を開いた。
開いちゃダメって云う、まぶたにかかる重圧は、精神的なものだから。
……………でも、その予感は当たっていて。
目の前に広がっていたのは、真っ赤な真っ赤な大パノラマの地獄絵図。
ぐちゃぐちゃにされてところどころ焼けただれた人の形をしてたものが散乱している。
息がつまった。なんで。なんで、私はこんなところにいるんだろう。
どうして、目をつぶっている間に、私は違う世界に迷い込んでしまったのか?
目を閉じて開けてみたけど、そこにあることは変わらない。
意識が遠のく。頭がくらくらする。立とうと思っても足がすくむ。
それが足についていたスキーなんだって簡単なことにも気付けなかった。
─────逃げ出したかった。
でも、視線の先には私がさっき吹っ飛ばした方がいた。
なんだろう、あの真っ赤に染まった手は。そして、なんであの方も無傷なんだろう、と。
それが重大な事実を指し示しているのを、気付かないふりをしているのは罪?
そうして、私はその光景を震えて見てた。きっと、心はここには亡くて。ただ、空を見てた。
- 240 名前:ン・ダグバ・ゼバ(M):04/03/04 01:52
- >>239
意識が軽く混濁して、視界が少しだけ揺らぐ。
腹部の鈍痛が気持ちいい。僅かだけど久しぶりの痛みなのが良い。
逆流した胃液がこみ上げるのを我慢しながら、笑う。
面白いな、うん。面白い。
こんな不意打ちがあるなんて予想もしなかったよ。
やって来たのは今までとは少し違う、活きのいい獲物。
雪と同じ真っ白な肌と髪。
それらとは対照的なまでに赤い、宝石みたいに綺麗な目がふるふると震えている。
華奢な体とあいまって、まるで人形みたいな少女だ。
そういえば、この娘はどんな内臓の色をしてるんだろう。
やはり活きがいいから赤みがかってのか。それとも淡いピンク色なのか。
どの道、それはとても綺麗に違いない。
そうだ、見たいなら見ればいいじゃないか。
そうと決まったら話は早い。
早速、力いっぱい右手を開いて、肉を抉り取れる様にする。
まるで獣の爪のような形。ねっとりした血が指の隙間から糸を引く。
そして右腕を畳んで、次の瞬間
ぶん
と風を切って、棒立ちの相手へ一足飛び。
真っ直ぐ走って、そのまま手を伸ばして振りかぶる。
ぶちっ、
と皮が千切れて
ごきっ、
と肋骨が折れて
ぐちゃっ、
と肉が潰れる。
想像した通りに胴を抉り、生暖かい血と内臓を掴んで僕は笑みを―――
「…あれ?」
何か、感触が違う。
肉が少し固いし、何より冷たい。ちょっとした違和感。
それがついさっき僕が殺した獲物だと気付くのは一瞬後、
棒に突き刺さった、苦悶の表情をした生首を見てからだった。
- 241 名前:アルビノ“山城友香” ◆0DYuka/8vc :04/03/04 01:59
- 山城友香vsン・ダグバ・ゼバ 〜連獄〜
>>240
空を見ながら、ふと思い出す。いつだったか、確か中学校の修学旅行だったっけ?
良く思い出せないけど、その時に行ったお寺で、こんな話を聞いた。
─────紅蓮地獄って云うのは、真っ赤に燃える地獄じゃなくて。
酷寒が身を切り裂いて、流れた血が凍って紅色した蓮の花を咲かせるからだって。
突然、何でこんな話を思い出したかは、わからない。
現実逃避の為に、そんな話でお茶を濁したかっただけなのかもしれない。
でも、だとすれば。ここはきっと、紅蓮の地獄で。
肌を切り裂く寒さと、肌を焼く太陽。真っ白な雪はもうわからないぐらいに血で染まってて。
そうやって、遠くを見てた。現実を受け入れない為に。
でも、現実は一番残酷な方法で私に牙を剥く。そう“一番”ザンコクな方法で。
目の前の男が立ち上がる。私を見つめる。獲物を捕らえた猛禽の目。
力の限りに広げた右手はまるで獣。開いた指から、赤い糸。
それを畳んで、私のもとまでひとっ飛び。事の顛末はそういうこと。
それで、普通の人なら一巻の終わり。でも、私はそうならない。
なぜって、私は普通でもなければ、人でもなかっただけだから。
そんなことが、頭を駆けていったら。次元と次元をするりとぬけて今度は私がひとっ飛び。
だけど。現実って。こんなにも。
残酷なんだってことは、眼前の光景を直視させられるまで忘れていた。
忘れていたかった。頭が自動的にモザイクをかけていた。
ぶちりと皮の千切れる音がする。目の前を呆然と見つめる。
気分が遠のく。それはまぎれもない現実だったから。
─────モザイク模様が外されていく。
骨がごきりと折れる音。そう、現実から逃れることなんて出来やしない。
血が抜けていって、身体が凍り付いていく感覚。嫌な予感が警告する。
─────この先にあるものは全て現実です、と。
ぐちゃりと肉が潰れる音を聞いて。一瞬、小首をかしげた彼の影から見えたモノで。
私はそれを知ってしまった。一番知りたくなかった、一番起きてほしくなかった現実を。
─────串刺しになった生首。
今は、もう、何も語れなくなってしまったけど。
その首は雄弁すぎるほど色々と私に語ってくれる。
お互い少しだけしか、話せなかったけれど。
それでも、スキーに来る間は色んなことを話したよね。
これから始まるはずだったことがあって。
これからも続いていくはずだったことがあった。
─────それが、こんなカタチで終わりを告げて。告げさせられてしまったこと。
そして、やっと理解が出来た。こんなに心が静かなのは嵐の前触れ。
抜けていた血が身体に戻ってきた。忌まわしさは却って心地良い。こんなことはじめて。
目の色はとうに赤から蒼に変わって。太陽には前にも増して嫌われてる。
「聞くまでもないけれど、殺したのは、アナタよね?
ええと、うまく言えないんだけれどね。………知ってるかしら、吸血鬼って。」
蒼い瞳で睨みつけてから、私はそう囁くように言い付けてやる。
それが、相手にとって恐怖になるのなら。幾らでも、この忌々しい名前を云おうと決めて。
目の前の友人の亡骸を、そして友人を殺した忌々しい白いソレを、今度こそ直視した。
- 242 名前:ン・ダグバ・ゼバ(M):04/03/04 02:04
- >>241
後ろへ向き直ったのは、殺してないという現実を認識してから一瞬だけ後。
理由は考えるまでもないし考える必要もない。
強い気配を感じたから、それだけだ。
さっきの獲物は、別人みたいに瞳の色が変わっていた。
鮮やかな赤から深みのある青へ。
海の奥底を思わせるような暗さを湛えた色。
そして殺気だけじゃない、何十倍にも膨れ上がったこの子の気配。
声までも寒空のように冷たくて暗い。
変身して姿を変えたみたいな感覚。僕等と同じなのかな?
とにかく、狩り甲斐のある獲物になったのは確かだ。
吸血鬼?
ああ、ゴオマみたいな奴の事か。
ゲゲルの時に血を吸って殺すんだっけ。
…だけど、違うな。この子はゴオマみたく姑息で弱そうじゃない。
むしろ何があろうと僕を倒そうとするこの感じは、まるであいつみたいだ。
「うん、少しは知ってるよ。けど君は少し違うね。
どちらかというと君の目は僕達―――いや、戦士(クウガ)に近い」
注がれる視線は凍て付くように冷たい。
叩き付けられるとは違う、突き刺すような殺意。
連想するのは一振りの尖ったナイフだ。
何て清清しい、気持ちのいい殺意なんだろう。
アハハハ。うん、これだ。
この絶対に殺してやるという強い憎しみと怒り。
ゲームというのはやっぱりこうじゃないと駄目だ。
「ああ、言うまでもないけど全部僕の仕業さ。
けど正確には殺したんじゃない――――」
よし、僕も少し本気を出そう。
身を屈めて両手を広げる。
今度はたった一回じゃない。開いた指が十本と、腕についた刃も使う。
一回、二回、三回…そう、何度も何度も引き裂いてあげよう。
原形を留めないくらいズタズタにして、その全身を真っ赤に染め上げるんだ。
ああ、楽しみだなあ。つい口元が緩んじゃうよ。
僕の楽しそうなこの表情、仮面のおかげで見せられないのが惜しいなあ。
「殺してる最中なんだ」
ほら、今度こそ一直線。
前と同じ動作で前よりも速く。
心の中で決めたとおり、何重もの軌跡を描いて指と刃が疾る。
- 243 名前:アルビノ“山城友香” ◆0DYuka/8vc :04/03/04 02:06
- 山城友香vsン・ダグバ・ゼバ 〜連獄〜
>>242
太陽が刺すように痛い。キラキラと光が雪から反射して。
此処はきっと針の山の上。気分はまるで地獄巡り。
『うん、少しは知ってるよ。けど君は少し違うね。
どちらかというと君の目は僕達―――いや、戦士(クウガ)に近い』
「………そう、そのクウガって言うのは知らないけど、ね。」
クスリと冷たい笑みを浮かべる。ソレに剥き出しの殺意を突き刺してやる。
でも、目の前の白いモノの目には喜びこそあれ、恐怖はない。だから、無性に腹が立つ。
蒼い血が煮えくりかえるように私の中を駆けていく。ああ、醒めているんだってわかる。
醒めているのに、きっと私は私のまんまで。
同じで違うはずなのに、私は私と一緒の場所に立ってた。
『ああ、言うまでもないけど全部僕の仕業さ。
けど正確には殺したんじゃない――――』
そんなことを云った。アハハと嘲るように笑ってやる。
白いモノは身をかがめて、両手を広げる。開いた指と、腕についている、その刃。
きっと、それは必殺の構え。仮面の下に見えるのは、きっと殺人者の歪んだ愉悦。
『殺してる最中なんだ』
ああ、さっきまで、私は何に震えていたんだろうのか。悔しさがこみ上げてきた。
─────きっと、そうして、殺されたんだね。って。
何も出来なくて、無力に絶望を浮かべて、殺されたあの顔が忘れられない。
だから、ためらってなんかいられない、その愉悦をへし折って、その顔を恐怖で歪めさせてあげる。
次元を跳ぶ。今度はその場で。闇の血が色濃くなってしまったから、それが限界だけど、もう十分。
気付いたら、足に良い物があったから蹴り上げて、着いていたスキーの板を投げ跳ばした。
はじめよう。地獄の鬼の所業と云うなら、もっと恐ろしい鬼を見せてやる。
はじめよう。その忌々しき闇に彩られた蒼い血が狂おしく叫ぶ。
禁呪を唱えて。握りしめたのは名も無き魔剣。その長け、私の身体の三分の一程度。
こんな、地獄の幽鬼、私が裁いて、捌いてバラバラにしてしまおう。
「───アナタの血、何色?」
笑うように、剣に静かな怒りと憎しみをありったけ込めて、突きつけてやる。
血で彩られた地獄を巡り巡って、私は鬼を屠る。
- 244 名前:ン・ダグバ・ゼバ(M):04/03/04 03:46
- >>243
また同じ違和感。いや、やっぱり実感そのものが無い。空を切った空虚な感覚。
そういえば届く寸前、一瞬見える姿が歪んで消えた。
何故かと考える暇も無く、蹴り上げられた板が鳩尾を突く。
また嘔吐感がこみ上げてから、仮面の中に吐瀉物を撒き散らしかけたところで追い討ち。
何時の間にか振り下ろされた刃が肩口に潜り込む。
一気に鎖骨を両断されて、白い装甲の亀裂から赤いのが吹き出る。
ああ、そうだ。うん、それだよそれ。
こういうのを待ってたんだ。
僅かな肉を破って骨がごりごりと断たれる不快感。
神経を切られる痛み。血が流れる喪失感。
全部がいい。一つ一つが痺れるように快感で、心地よくて、充実する。
肩が震えて笑い声が漏れる。こんな面白い獲物は久しぶりだよ。
「血が何色かって?
見た限りだけど、そうだね。どうせならお互いに確かめようじゃないか」
刃を動ける方の手で握って止めて、そう答えた。
新しい遊びだ。
お互いに全身を切り裂きあって、最後の一滴まで血を流し合う。
白い体が鮮烈な朱に染まるんだ――ハハ、とても楽しそうじゃないか。
さて、それなら僕も道具が必要だ。
相手を刃ごと突き飛ばして後ろに跳躍。
地面に刺さっている棒を手に取る。
そして深くイメージする。ただの棒じゃない、これは全てを切り払うもの――
そこで変哲の無い棒は形を失う。
更にイメージする。それは分解された物質の再構成。
此処に有るのは肉厚の鋼。
鋼が帯びる刃は両刃。切り裂くために鋭く、断ち切るために重く。
握る為の柄があり、揮う為の刀身がある。
身の丈半分以上ある一振りの剣。
あらゆる物は、とても微細な粒で出来ている。
その構成を変えれば形だけでなく力も変わる。
それを僕達グロンギは知り、形を組み替え力とする。
自分の姿を変えるだけじゃない、ただの物を武器に変える事すら可能だ。
例えば、こんな風に。
右手の鉄棒は、一瞬で長大な剣へと姿を変えていた。
獲物が構えたそれよりも大きく幅広な刃。
肩の再生が終わった次瞬、その長い柄を両手で握って走り出す。
「アハ、アハハハハハハハ!」
切っ先を突き上げる。
そこから振り下ろす、振り上げる、振り下ろす。
間断なく何度でも繰り返し、振り子のように打ち込み続ける。
ただ、自分の体に刻まれた動きにしたがって。
少しずつ、けど確実に加速しながら。一撃の重さは変わらずに。
鋼の打ち合う音が響いて火花が散って散り続ける。
間隔は段々と短く早く。僕の笑い声だけが一定のリズムで木霊する。
楽しいな、君は何時まで耐えられるんだろう。
愉しみだ、君は何度目で耐えられなくなるんだろう。
先ずはお返しだ。僕と同じように肩を断ち切ってあげよう。
きっと、それは綺麗な血の色が見られるんだろうな。
- 245 名前:アルビノ“山城友香”(覚醒) ◆0DYuka/8vc :04/03/05 23:13
- 山城友香vsン・ダグバ・ゼバ 〜連獄〜
>>244
スキー板が鳩尾を突いて、咽せる瞬間を逃さない。
その鎖骨を振り落とした切っ先で剔る。赤い血しぶきが上がる。
『血が何色かって?
見た限りだけど、そうだね。どうせならお互いに確かめようじゃないか』
刹那、剣を持った腕が止められた。ぞくりと剔りとられるような悪寒に、鳥肌が立つ。
本能レベルのアラートサイン。アレは後ろに引いているって言うのに、この違和感は何?
─────絶対的な支配者の余裕はそこからくるのか。
持ち上げたスキー板は一瞬でカタチを失って。
物質が再構成される。目に映るのは一振りの大剣。
この剣では太刀打ちが出来ないから、手にあった魔剣をすっと消した。
禁呪はまた一瞬のうちに紡がれて、空に浮かんだ魔法陣から剣を抜き出す。
長さは向こうのそれに近い、黒の剣を呼び出す。こちらも剣を変えてやる。
騒ぎ出す。闇の本能が。走る。その一太刀、一太刀が見て取れる。
だから、それに合わせて。隙を見て、断ち切って、バラバラにする。
笑い声がリズムを刻む。それとは非対称に早まっていく鋼の音。狙いは先に私が切り裂いた場所。
それは支配者の余裕とは対照的な、子供のような狂気。
先に隙が生まれたのは、残念だけど私の方。急所は逸らしたけれど、肩口を刃が貫いて。
─────蒼い血しぶきが上がって。そのまま後ろに下がった。
「………あはは、お生憎様だったわね。
私の血の色は見たとおり蒼なんだけれど?満足できたかしら。」
カラカラに渇くような笑いを上げて、ひび割れる錯覚と共に、肩の傷が元に戻っていく。
ああ、無性に腹が立つ。刻みつける、アイツを。刻みつけてやる。バラバラになれ。
だから、疾(はし)った。闇の本能そのままに。その剣に魔力を込めて切り刻む。
─────もう一度、咲かせてあげる。赤い血の花。
「………逝かせてあげるわ。ホンモノの死の地獄に、ね!」
まるで等活地獄。分かち分かたれる身体、咲き乱れる赤と蒼の血の花、華。
いつの間にか、雲のかかった空は鈍色。地吹雪散らして荒ぶ風。
刻み刻まれ、バラバラになるまで、切り斬り、斬る切る。
それでも、肌を刺すよな寒風吹けば、私の身体は、ほら元通り。
狂ったように笑うけれど、この風のようにカラカラと、どこまでも渇いてた。
巡り巡って、いつか辿り着く。地獄巡りの果ての果て。待っているのは地獄の奈落?
駆けていくのは闇の本能、気付けば、私の目は、あの蒼に染まって、完全に醒めていた。
- 246 名前:ン・ダグバ・ゼバ(M):04/03/07 00:23
- >>245 山城友香vsン・ダグバ・ゼバ(M)「連獄」
「ガア、ハハハハガ、アハ、アガハハア、ハハハ!」
なんて楽しいんだろう。
何て綺麗で心躍る光景なんだろう。
口から沢山の血を吹き出しながら、その楽しさを笑い声で表現する。
血塊が喉に絡まって声にならないけど、こんな楽しい遊びを前に黙ってなんていられない。
お互いにお互いを切り刻んで、幾つもの傷から噴水のように吹き出し続ける血。
視界が縦に横にと分断されて、装甲の破片が中の肉ごと切り落とされて飛び散る。
そうしてバラバラの一歩手前に成りながら二人同時に再生。
そこから体を容赦なく引き裂きあうタイミングも完璧に同じ。
二人とも楽しさで笑い続けるのも同じだ。
僕は傷の入った装甲に蒼い返り血。
彼女は所々破けた服と、そこから覗く肌に赤い返り血が。
そして辺りは彼女の蒼い血と僕の真っ赤な血が混ざり合う。
真っ白な世界を、紫色の色彩が見事なまでに侵食して染め上げる。
血の色の違いなんてもうどうだっていい。
こんな背筋がぞくぞくするくらい楽しいゲームが出来るなら、そんなのは些細な事だ。
「アハガ、アア、ハハハハハハ!ハハハハハハ!」
楽しさで他の感覚が薄らいでいく中、耳に入った言葉を思い出す。
―――地獄だって?そんな所が何処かにあるのか。
知らなかったよ。今より面白いところが存在するなんて。
よし、今からそこに行こう。
一瞬だけの強い集中。頭の神経が焼ききれそうになる。
代わりに世界が灰色に変化、全身の感覚が針のように鋭くなっていく。
一秒一秒が長くなって全てが手に取るように。長い時間は出来ないけどこれで十分。
ほら、君が袈裟懸けに切りかかる所がゆっくりとよく見える。
それを空けた右手で握って、僕の腹部に深々と突き刺して止めてあげよう。
力を入れて筋肉も引き締める、これで当分は抜けなくなった。
「行かせる? 違うな、君も行くんだよ。
今よりもっと面白い場所に、二人して辿り着こうじゃないか」
仕上げに僕の剣も相手に突き刺す。
こっちは手首を利かせて、深く捻りこむように力を込める。
内臓をかき回す感触が柄ごしに伝わってきて堪らない。けど、これはまだ序の口。
そして、お互いに刀身が潜り込んでいるのを確認した、次瞬。
視線の向こう、ごつごつと灰色の地肌を晒した岩場の方へ走り出す。
間に生い茂る林の中を突き抜けて。全力で風を切って、風よりも疾く。
ほら、もっと笑うんだ。君も面白くて堪らないだろう?
こんな風に何も考えず、僕のように。
そう、いい感じだ。
だから、もっと僕を笑顔にしてよ。
- 247 名前:ジェニー・バートリー:04/03/07 14:01
- その教会は町外れにあった。
人気の無い、寂しい立地だ。
元々は町の中心近くに建てられていたが、年月とともに町の開発が進むにつれ、教会は郊外に押しやられた。
数年前まで老神父が一人この教会を守っていたが、
いかに一世紀を経た教会といえど、人が集まらなければ意義は無い。
老神父もとうとう町に移り住み、そうして、この教会は無人となった。
ほとんど知るもののいないことだが、老神父は今でも一月に一度、教会を訪れては細々とした世話を焼いていた。
それがゆえに、この教会は人のいなくなった家屋の絶望的な荒廃というものから、かろうじて免れていた。
それだけが唯一の救いだった。
そして……
ジェニー・バートリーは、優雅とさえ言える手つきで、教会の入り口にかけられていた南京錠を外し、教会に入り込んだ。
月の欠けた夜、明かりの無い教会。
窓から入りこむ星明りはあまりに細く、闇と言って良い空間を、
臆することも無く、まるで危なげ無い足取りで、彼女は演壇のほうへと歩いていく。
ほどなく、炎の揺らめく光が古びた教会を淡く照らした。
彼女は燭台を取り上げ、いくつかの蝋燭に火を点して回っていく。
ほの赤い光に照らされ、赤いエナメル質のスーツが浮かび上がる。
彼女のルージュと同じく、赤く、濡れたような光沢を放つそれは、
炎の揺らめきにあわせて、血のようにぬらぬらと輝いている。
教会は、わずかに往時の面影を取り戻していた。
炎の投げかける柔らかな光が、かつてのミサの雰囲気を呼び戻している。
その中で、ジェニー・バートリーは十字架と……磔刑に処せられた男と向かい合った。
ボブに切りそろえられたブロンドが炎の光を反射する。
大きく胸元の開いた赤いスーツは、その容貌とあいまって彼女に妖艶な印象を与えていたが、表情は敬虔なものだ。
やがて……彼女の唇から、低い、落ち着いたメロディが流れ出した。
それは、炎の揺らめく光に合わせるように、低く、静かに教会を満たし、震わせた――
- 248 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/03/07 14:04
- ─ある危険意思共有集団本部内でのシスターの回想──
ごいすーな教祖さん。おっ死ぬ前にその聞きたい?
忠実なデスメタル嗜好を持つその耳でも聞けるなら、言ってやろうじゃん。
あたしはこう語る。
全然それは真新しいことじゃなく。
あばずれたビッグアップル。その一昔前の地下鉄Bronx方面のフォーム内に
打ち付けられた、背徳の文句の中にすらまぎれている真理。
言い換えると神様って、寛大。うわー。うつくしすぎる、って当たり前の事なんだけど。
全てのものに平等に、等しく愛の一滴を。
その愛は地上を多い、神の栄光はこの地に至福の安寧をもたらすでしょう。
──のハズなのに。っていうか決定稿なのにね。
もしかしたら、この国の住民は上水道に寄生虫でも混ぜられてるんじゃないだろうか。
それともこいつら、電波に当てられノイローゼになったお可哀想な子羊だとでも?
こいつら、ヒューズがどこか逝かれてる。
即座にあたしは平和の鳩の群れに命じたい。
その無垢な瞳は罪人の盲目な眼球を啄ばみ、ケツの毛までも掻き毟る。
光の使徒達はオリーブの枝を持ち、歪み一つない心でその祝福を体腔より振りまき
異端の糞便みたいな脳漿を洗い清める。
路頭に迷い豚のラブシーンみたいな悲鳴を口走るパラノイア達。
疑うべきもなく正しい力=白亜の鳥達は悪魔の使いの住処を、異端ごと根こそぎ
穿り焼き払ってくれる──
─────────
もしもしー。。Deadなら尻尾ふりな。Andeadなら自爆しなー
あー。
…よかったね。終わりで。あんたの宗教は十分終わりを目指す過程を
楽しんだのだから。
ちょっと慈悲ぶか過ぎる?あたしたち13課<<イスカリオテ>>も。
- 249 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/03/07 14:07
- >>247>>248 ジェニーVS高木由美江
あー。たるい。
そんな事を思い出したのは、スイスのその異端組織を打ち砕いた後すぐに
また「そういう異端の模範解答の採点」ありがたーく拝命しちゃったを「疲労分(二重線否定)」
→「(訂正)身に余る光栄」の所為にきまってる。
エアメールで送られてきた写真を手にあたしはユーロトンネルを抜けた先の島国に立った。
今回の事件は局長の差し出した一枚の写真で始まったのよね、これが。
その郵便の中身。
マクスウェル13課局長が自分の怪しげなコレクションを間違えて差し出したのかなどとは
カケラほども思ってないし、そんな衝動により刀の柄に思わず手が伸びたのも事実無根…。
局長をそこまで疑いたくないしー。別に疲れてなんかいないですわ。
だってあたし、女の子だもん。
そんな封筒の詳細を言うとイングランドにあるウラブレタ一枚の教会の写真と、三流雑誌の
写真切り抜き、─金髪のボディコンシャスを強調した女─だった。
細かい内容など一切記されていない、ただそれだけのエアメール。
その意味する命令<オーダー>は。。。。
- 250 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/03/07 14:09
- >>249 ジェニーVS高木由美江
粛々と教会の敷地を進む。
ここはイングランドの中で最古の聖ベネディクトの思想を受け継ぐ教会。
奥方と別れたいだけの理由で神に泥を被せたサディスティックな異常嗜好者の群集の
中での最後の希望にして、聖地。
──それが、あたしの、イスカリオテの、ヴァチカンの中での位置だった。
ああ、何でそこにアンタみたいのがスペシャルに涌いてくるのか。
迷惑だ。神のおあたえになる試練はかくも重くてあたしの財布はそろそろピンチ。
ありえぬ存在。サタンの囁きに耳を傾けるドアホが作った存在、獣人風情...。
情報収奪の容疑で各国の裏で指名手配の塵芥。
何?世の男ってヴァカ?こんなのにハァハァしてるって気付かないのかね。。
嘆きたくなるわ、ほんっと。
「どうしてなのマイゴッド。我らイスカリオテはカンバンを用意することを提案しまーす。
曰くところの「異端出没注意」。」
両開きのドアを恭しく開けて、一番由美江、呟きます。
「良い提案だと思わない?クソ売女」
- 251 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/03/07 14:10
- >>248は>>247宛。
- 252 名前:ジェニー・バートリー:04/03/07 14:29
- >>250 ジェニーVS高木由美江
「来るころだと思ってたわ……迷わずに来れた? お嬢ちゃん」
売女という言葉を聞き捨て、ジェニーは振り返った。
「看板をかけてどうするつもり? 猟師に鉄砲もて追わせるとでも?
私のお勧めはこうね。
『この土地は異端者保護区につき、信者は立ち入り禁止』」
そう言って彼女は相手を見返し……そして、かすかに失望の色を見せた。
ヴァチカンとの唯一の接触の機会としてあえて積極的に出てきたはいいが……
――――異端審問を旨とする、純然たる刺客相手に言葉を連ねることに、早くも彼女は倦み始めていた。
「放っておいてくれ、ただそれだけの望みを、神様は聞いてくれないのかしら?」
- 253 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/03/07 15:13
- >>252 ジェニーVS高木由美江
「迷う?臭いから、アンタ。」
匂うんだよねー。そういう表情を作るまでもなく、あたしはしてるさ。
法衣の背中に手を入れ込み、ゴミ処理用の身の丈ほどの仕事道具を肩に担げば
聞こえてくるだろ赤裸々な罪。陰気なサタニストの嘆き。
まわりをつと見て、今更気付く。
教会汚す禍々しい焔は欲望の赤。けーせーよー…。いーのーるーなー。
ここは神の場所だー。あたしらのだー。
アンタの祈りなんて↓
1.「豊胸の祈り?」2.「食べても太らない祈り?」3.「倒錯性的嗜好の充足の祈り?」
4.「枝毛にならない祈り?」5.「自分の神の統べる世の中」
過去の腐れの祈りからしてこんなトコロ?
この化物も似たようなものだし。ってか体が異端だし。態度でかいし
偉そうだし。
二番もまたまた由美江ー、お仕事道具使っていきます。
…。
ざんばらんに舞う写真をブーツの裏で地面とキスさせましたとさ。
「臭い生ゴミの処理…大変だもん。昔の黒死病の頃の教訓?
ヴァチカンの医療支援活動も佳境よ」
刀の峰を法衣の肩に置いて、死んでも戻ってこないように言って置く。
「それに。
ここは神様の作った世界だし。信じないやつなんて住居侵入と同じだって
気付かないやつ、多くってね」
- 254 名前:ジェニー・バートリー:04/03/07 15:47
- >>253 ジェニーVS高木由美江
「そう…………」
自分が異邦人であるか否か、それは古びた疑問であり、今となっては効力を失った疑念だ。
自分がどこから来たものであろうと。
ジェニーはさりげない様で一歩を踏み出した。ヒールが床を、コツリと刻む。
「私はこれでも神を信じているのだけれど。
神がこの世界を創ったのなら、私を創ったのも神ではないの?」
コツリ、コツリと。歩みは心臓の鼓動を映している。
「私のいるべき場所が無いというなら、それでもいいのよ。
私はそれを、私の手で手に入れるから。
少なくとも、あなたにそれを邪魔されるつもりはないわ」
結局は……そう、結局は。
彼らが彼女を否定するならば、生き続けることこそが最大の返礼であろう。
老いもせず、死も遠く。そんな自分を彼らがどう見ているか……知ったことではない。
「"神"という文字に、魂を売り渡した売女には、ね」
刃の下に身を晒し、己が生きる証を立てよ。
そう、心中でつぶやいたときには、彼女はすでに”刃”へ向けて、駆け出している。
- 255 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/03/07 16:48
- >>254 ジェニーVS高木由美江
「言うね。化物[フリークス]言ったね吸血鬼[ヴァンピール]!!
…あたしは誰だ?。あたしのこの刃はなんだい?
──我ら熱心党[イスカリオテ]!!
──我ら13課[イスカリオテ]!!──我ら刺客[イスカリオテ]!!
──我ら逆徒!![イスカリオテ]。──我ら使徒[イスカリオテ]!!」
あたしはイスカリオテのユダ。
理想の狭間に溺死する教祖を、教義のために殺す者なり。
異端を滅ぼし、審判の日にギルティの烙印を押されるとも煉獄で幾千万の悪を屠る者なり。
そのあたしサマに大層なご意見ご要望デスカー?
ねぇあんた、少し変だよ♪ごきげんよう、さようなら。また会う日まで。
──もう会わねーけど。
あたしは聞いた。自分、神が否定する化物が神を信じるだってー。
悪魔の脳味噌のスープに骨髄まで茹って壊死した神経は罪深いのにも程がある。Amen。
愛する神。偉大なる神。始まりにして終わりの神。
神の予定にないものが神を愛の対象と言う。化物が神を作り上げる。愛の対象すら
自ら作り上げる罪深さは…アンタがパパやママの体から抜け落ちる以前の原罪じゃん。
アンタは…最初から生きていない[Dead]。Dead。Dead。そうだDead。
──テメェさんの全てを、全殺しだ。
異端審問局局長殿ほどではないが、歪んだ瞳、唇。しかめながら後足半歩退き間合いを譲る。
両の手に半身力を混め。一振り、業物の刃を青眼に定め…短冊様に割り割く剣尖。
吶喊の獣人に後の先を取り、裂く。
- 256 名前:ジェニー・バートリー:04/03/07 17:32
- >>255 ジェニーVS高木由美江
剣の間合いにとらわれることを知りつつ、彼女は速度を緩めない。
敵手の沈められた重心、構えられた刃、その先端を見据えつつ――
間境を越す直前、彼女は己がスーツを引き剥がし、叩きつけた。
相手の視界へと。
直後、彼女は跳躍している。
人にできる跳躍ではない。
白刃が赤いスーツを切り裂いていく上を跳び、さらに敵手の頭上を越えていく軌道である。
その瞬間、由美江の頭上を、布帆が風をはらむような、そんな音が響いていた。
翼が宙空を打ち、それがジェニーの体を持ち上げたのだ。
裸身ではない。その肌を柔毛が覆っている。
両腕に翼を備え、足先には鋭い爪が生えていた。
彼女の――本来の姿だった。
蝙蝠の獣人は、刀をかついだ狂信者と宙空をすれ違い様、
その爪の殖わった脚を、彼女の後頭部に振り下ろしていた。
- 257 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/03/08 23:04
- >>256 ジェニーVS高木由美江
とっておきのあたしのスタイルはいつでも一途。
愛しの愛しのマイソウルで、アンタの衣服を狩り刻む。
もう皮は打ち止め…お後は獣欲獣面にきっちりくっきり十字の御印つけてやるけんね。
でもでもー高い天井のほうは見ない。腐れ○○○○丸出しの匂いしてっから目が腐るしー。
よーするに出たね、出たってことさね、人でなしが。
視界はアンタを捉えなくても、わかる。わかるさ、あんたの醜さが。
あたしー狩るほう、アンタ狩られるほう。わっかる?アズイージーアズABC。
羽で飛び、バックから責めるのかい?
獲ったりとあたしの後ろにその脚を、ってかい?
クハハハハ…ハッハァ────目を、閉じた。
勢い余り、刃は地面を穿ち…刹那、風は止み、亦動く。
雑音、風に衣擦れ、凶り迫る獣面。
腰の鉄鞘は今や右手にあり。
『島原抜刀居合流───烈風──』の我の声に腰部関節、肩部関節に神の意思を混め。
軋む異音が総身より生じ、上半身のみ右旋、グルリと異端とと正対し…
我が力、体躯の回転力と共に鞘に乗り流れる…毛斑の脚部を薙ぎ、下半身も元に直すのでした。[まる]
- 258 名前:ジェニー・バートリー:04/03/08 23:49
- >>257 ジェニーVS高木由美江
ジェニーは……半獣半人の女は、その一撃を足の爪で受けた。
重い一撃にずしりとした音が響く。
後ろからの一撃にわずかに体制が崩れかかり…彼女はそのまま、鉄鞘を脚で掴んだ。
宿木に止まる鳥――蝙蝠なのだが――のように。
掴んだままに、軽く羽ばたき……
「あなたが私に向けられた刃だと言うのなら……」
その声には、奇妙に甲高く、蝙蝠のようなキィキィといったノイズが乗っていた――
「私はそれを砕くまで」
向き直りながらさらに羽ばたく。
両の手――長く伸びた指の間に張られた皮膜が風を掴み、巨大な揚力を生じさせる。
それをもって、彼女は鉄鞘を斜め上へ引いた。
引きざま、旋回した勢いで右足を由美江に向けて振り出す。
鋭い爪が繰り出された先は、頚動脈か、あるいは顔か。
- 259 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/03/10 23:37
- >>258 ジェニーVS高木由美江
脚部に阻まれ自由の利かぬ鞘は、何事もバランスだから今はサヨウナラ。
「その姿、お似合いじゃん──」
至近距離での異端の視覚嗅覚に、あたしの中の柔らかい本能はハレルヤを歌っちゃう。
引き伸ばされ、裏返されたような耳。鱗のない毒魚のような皮膚翼、鉤爪。獣相。
どいつもこいつも灼熱のショウタイムに相応しく栄えてない?
────その蹴りも、イイ…。快感に身が打ちひしがれる。
だから化物を狩るのって一度やったら辞められない。レッツジョイアス。
鞘を奪われた後に迫るは三文娼婦の痴話げんか後のピンヒール。
空からの鋭い蹴撃。
あたしは鞘を掴み上げられた力を利用し、自らの視界を逆転する。
倒立し、足を伸ばす事で繰り出される蹴りで、蹴りの相殺を試み──。
黒いブーツの踵は闘争の色にも変わらぬ蒼白色の腿を下方から突き上げた。
その僅かな間断に───あたしは飛びずさり、朽ちたフローリングに刺さる切っ先を抜く。
未だ落下中途の鉄鞘を手中に戻すことも忘れない。
そうそう、即座に地を蹴りながら法衣の裾を故意に割く。
白地に『過去にあり今にあり永久に在る』と刻まれたグラブも口で直したし。
武装はこれで完了──。
後はただ、刃と鞘のトゥーハンズは空の敵へ進めるだけ。
シャーベットみたいな反吐を流しな。呻きながらゲヘナへ堕ちるのは見届けてやるよ。
ママにキス、パパにはジョーク。余裕をかます蝙蝠には、袈裟掛けから派生する多段斬りの乱舞を。
猛襲の白刃はステンドグラスに彩られ、切っ先4尺1寸は唸り唸る死の呼び声となる。
- 260 名前:ジェニー・バートリー@werebat:04/03/12 22:24
- >>259 ジェニーVS高木由美江
一撃。
白刃をジェニーは真っ向から蹴りで受けた。
脚部の爪が噛み合い、硬質化したそれは、表皮を数ミリ削られつつも刃を止める。
地上と空中、足場のある無しはそのまま優劣となり、ジェニーは刀の一撃に押されるように宙を後退した。
羽根が軽く空気をはらみ、数メートル先に緩やかに着地する。
完全なバランスを保ちつつ、片足で。
逆足は胸のあたりまで引き上げられ、軽く捻って構えられている。
その口元が、ちらと笑った――ような気がした。二本の牙が一瞬、炎の光に白く光った。
ジェニーは片足立ちの半身で、殺到する由美江に応戦した。
上体を後ろに急所をかばい、長い足を限界まで長く使って突きかかる。
翼を使ってバランスをとり、一本足で器用に間合いを測り……
刀と鉤爪が、斬刃と蹴りが乱れた。
切っ先がお互いの肌をかすめ、その軌跡が、宙に薄く血の赤を引く。
- 261 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/03/14 16:08
- >>260 ジェニーVS高木由美江
散る散る散ったよ火花と紅。
自称信心深い異端諸君、眩く尊い日の光を、アンタは見たことがあるかい?他の何もが見えなくなるまで。
目の中まで突き抜けて世界を覆う第七天<seven’s heaven>の灯火に、身も心も委ねてみな。
そうすればきっと、分かるさ。神様の御心とアンタの醜さが。
あるイラン民主党軍事教義会員は、礼拝時にメッカにケツを晒したまま豚のような断末魔をあげた。
亜米利加の悲嘆主義宗教の頭目は、悲しげな顔も出来ないままにおっ死んだ。
スリランカの内紛で結果として教会を焼払ったあるタミル人組織の幹部は額に証みたいな貫通痕
をつくって逝った。
この刀だ。この刀が殺ったのさ。ブラックも!ホワイトも!イエローも!混血も!化物すらも!
異端はこの刃で、皆同じ顔でくたばりやがる。
だが今のアタシには、堪らなくそれが詰まらなく思えて仕方ない。
それでも進撃<マーチ>!進撃<マーチ>だ。進軍だ。
斬激背もたれの下に小さな書架のある長椅子に追い詰めていく。
ローに刀の腹を乗せ打ち上げ、『貰い』とあたCー,鞘を喉笛へ。──翼が払い、交代するミディアン。
互いの管楽器の二重奏はきっとブルーズで、聞くヤツはきっと脳髄に100まで残る。
おいおいおい、なんか手、痛いぞコラ。3割流れたら死ぬじゃんー。
死ぬのはあんただろ、順番守れやオバンー。
- 262 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/03/14 16:10
- 陽光が髪を透かし透き通った色は、歴史を綴る茶扱けた壁に薄紅色の文様を塗りこめてる。
人<<アタシ>>の朱と人に在らざる者の朱を、そのままの形で写している。奇麗に、赤色に。
やっぱりそれが堪らなく、今のあたしには詰まらなく思えて仕方ない。
アタシは見たいと思った。マーブルの血液の中でなお輝く自分の生命を。ヤハウェに分けられた熱い流れを。
だって、あまりに理不尽だと思ったから。
鋭利さと醜悪さ以外にとりえの無い脚部がローに流れる時。刃を収め、臀部をアンタにくれてやる。
痛みって言うのは冴えるように突き抜ける感じ?
刺激強すぎのケツには、あたしの同郷の機関員のコーヒーへのクリープ並に祈りをたっぷりと注いであげようかしら。
『うふっ。ドウイタシマシテ』(あたしのケツの声w)
瞬時には抜けぬ爪。逃さないさ。この時を。
くらいな、この剣。垂直に構えた鞘から抜き出す変則的な抜刀を。
『島原抜刀流──────
───・・・腰間秋水鉄可断・・・"秋水"───────────────』
あたしの腰からも、もっと噴出したよ、真っ赤に。みてみて。凄い凄い。
見ろ。ほら、見なよ!!売女<<ベイベロン>>!!比べてみなよ阿婆擦れ<<ビッチ>>が!
あたしの血の方が赤いだろ?奇麗に見えるだろう?
それが、わからないのなら、アンタはまごうこと亡き異端さ。
くたばる価値も無いくらいにそれまでっていう、そういう事さ。
袖から袋入りの『レモンキャンディー』を取り出し舐め頬張った味。
ヤツなんて無視して、あたしは舐めたレモンキャンディ。少しいがらっぽいが、きっとこれは太陽の味なんじゃねーの?
クハハハハ。
- 263 名前:ジェニー・バートリー@werebat:04/03/21 12:30
- >>262 ジェニーVS高木由美江
揺らぐ炎しか照明が無い悪条件下で、舞い狂う白刃から彼女は身をかわし続けた。
それができたのは、ひとつには獣人としての並外れた反射神経であり、
もうひとつは生来のソナー感覚だった。
超音波を発し、その反射時間で距離を測るそれは、とりわけ距離感に関しては両眼視の数段上の精度を持つ。
肌――体表に負った創傷は軽い。
獣人の生命力に、出血はとまりつつある。
一方で着実に手傷を負わせつつ――――彼女は追い詰められつつあった。
一瞬たりとも、攻撃が緩まない。
手傷に怯む事も無い。疲労に鈍ることもない。
跳び離れることも、宙に逃れることもできない、
その瞬間の無防備に自分が叩き切られるであろうことを、彼女は不気味なほどリアルに知覚している。
この局面において、自分が追い込まれつつあるのを自覚する。
牽制が牽制とならない。命を捨ててかかる敵との相対。
じりじりと後退する。斬撃はますます鋭さを増し――
右のロー。
牽制のつもりの一撃、受け手は無い――いや……
受けに来られた。必要以上に肉に食い込む爪、同時に構えられる剣。
悪寒に背筋を舐め尽くされながら、ジェニーは左足で地を蹴った。
上体を地面と平行になるほど倒す。
右足を――肉に食い込んだ爪を軸に全身が旋回する。地を蹴った左足で、刀を蹴り上げようと――
間に合わない。
鍔鳴りの音と共にジェニーの体は解放され、後方へ飛んだ。
同時、血の筋を引きながら宙を飛んだ、棒状の物体があった。
くるくると回転しながら祭壇の方へと飛んだそれは、
膝のすぐ上から断ち切られた、ジェニー・バートリーの右足だった。
- 264 名前:ジェニー・バートリー@werebat:04/03/21 12:35
- >>263 ジェニーVS高木由美江
その斬撃は、腹膜とあばらを二本、掠めていった。
長椅子に叩き付けられた彼女は、片足ですくと立ち上がった。
右足の切断面からは血が噴出しているが、それは収まりつつあった。
異常なまでの生命力がなせる業だ。
痛みはある。脚一本を断ち切られ、しかしショックを起こすほどではない。
そんなやわな神経は、彼女ら神話に埋もれた種には存在しない。
だが、その痛みは生存本能を掻き立てる。
怒りではなく、生への執着が彼女の表情をゆがめた。
跳躍する。
左足の爪が、手近にあった椅子の背もたれを引っ掛けた。
羽根を一打ちし、滞空しながら投擲する。
木造の椅子が宙を舞い、嘲る狂信者に投擲される。
彼女は続けざまに三個の椅子を投擲し、さらにそれを追って滑空した。
飛び散る木片に紛れて間合いに入り、片足で連続蹴りを放つ。
痛みが、その動きに獰猛さを上乗せした。
喉に、顔面に、こめかみに、延髄に、鋭い爪が乱舞し、襲い掛かる。
- 265 名前:武器商人:04/04/10 01:48
- ちょいとそこいく狩人さんら、面白いモノが入ったよ。
ほおら、こいつなんだがね。
見た目はただのサンドイッチとオレンジジュースなんだけどーーー、あ、
いやいや、馬鹿になんかしちゃいないって。
い〜から最後まで聞きな。
見た目は旨そうな料理なんだけどよ、これほど見た目を裏切る存在もそう
そうありゃしないぜ?
なんてったって、これと同じモノを食わせた吸血鬼は、口に入れたとたん
に七転八倒!!泡吹いて灰だか塵だかに早変わり。
そこらで売ってる銀の弾丸とは比べものにならんほど強力なシロモノだ。
狩人さんら、おひとつどうだい?安くしとくぜぇ?
- 266 名前:ひやかし:04/04/10 01:50
- 是非とも作った人を知りたいね。
それとも企業秘密ってやつかい?
- 267 名前:アドルフ・ヒトラー ◆sLAdoLfKkE :04/04/10 02:53
- >265>266
散り際の夜桜につられてきてみたら・・・こんなところで商売とはな。
余程の恐れ知らずか、気が触れてでもいるのかのどちらかだな。
此処は血を吸う鬼とそれに抗うモノが血を以て相争う闘争の地だ。
此の地に来るものでかようなものを欲する者もいなければ、
下らぬ児戯で死ぬような愚か者もいない。
そのような戯れはこのあたりで行うがいい。
吸血大殲ZERO 2 〜続・序章〜【吸血大殲広報スレ2】
http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi/ikkoku/059908024/
さあ理解ったなら立ち去れ。
今日は花と月が綺麗だから見逃してやるが・・・次はないと思いたまえ。
- 268 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 22:43
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
特注の修道服を身にまとった少女は、傍目にも分かるほどむくれていた。
その幼げな外見にもかかわらず、彼女は修道防疫会の中でもトップクラスの戦闘力を持つ。
ソリア七会士の一人、「閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ」が彼女の洗礼名だ。
「てやんでェ!
なんだって、オレっちが吸血鬼でもねえ野郎をとっ捕まえて来なきゃなんねえんだ!?」
その強い訛りの怒声に答えたのは薬読(くすよみ)のアンナロッテ。
彼女も同じくソリア七会士の一人である。
歳もサンタミカエラに近く、本来の二人の仲は悪いものではないが
現在は非常に険悪な空気が漂っていた。
「あなたでなければこの任は勤まらないのです。サンタミカエラ」
だが実際の所は、一方的にサンタミカエラが食って掛かっているだけで
アンナロッテの口調は、いつもどおりの歳不相応な静かさを保っている。
「サンタペルタの重度狂血病患者を殺害した剣士
――そう、コン・タオローという名の異国の男は確かに吸血鬼ではありません。
それは街に居たもの全てが証言しています。
ですが、その剣の冴えは人の身を遥かに越えているとの証言も全地区一致のものでした。
銃弾すらもかわすほどの腕だと」
黙り込んだサンタミカエラの心情を慮りつつも、アンナロッテは平坦な口調で言葉を続けた。
「狂血病浄滅の任に付いていた修道会の者たちは、かろうじて息がありましたが……
もはや通常任務につく事すら難しいでしょう。
それほどの者を、殺害で無く捕獲が可能なものは防疫修道会でも
あなたか『算術のクラナッハ』しかおりません。
クラナッハは別任務中ですので、結局あなたしかいないのですよ」
その時、ついさっきまで仏頂面だったサンタミカエラは突然言葉を挟んだ。
「もし手加減し損ねて、そいつが黒焦げになっちまっても文句はねぇんだな?」
「――ええ。万が一そのような事があっても、あなたの責任を問うことはありません」
「よっしゃ、そういう条件なら引き受けたぜ。今すぐ出発すらぁ」
先程とはうってかわったサンタミカエラの表情に、今度はアンナロッテの方がかすかに表情を揺らす。
サンタミカエラの顔には、吸血鬼と戦う時に見せる圧倒的な怒りとわずかな喜悦の混じった表情があった。
「サンタミカエラ……」
「ごちゃごちゃ言うなぃ、オレっちがその狂犬野郎をぶちのめすって事でOKだろが?」
これ以上は聞く耳を持たない、とでも言いたげに小走りに去っていく背中を見つめているうちに
アンナロッテは一つの心当たりに思い至った。
サンタペルタは、サンタミカエラの産まれた街から程近い。
だからあれほどの闘志を見せているのだろう、と。
だが、それは理由の半分でしかなかった。
重態の修道士の中に、サンタミカエラの旧知の友人が居たことなど、
薬読の名を持つアンナロッテですら知る由もなかったのだ。
- 269 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 22:54
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞(仮)−
>>268
部屋の中にはシングルのベッドが二つ。
煙草の煙で黒ずんだ壁に大きくも小さくもない窓が一つあるだけ。
ベッドに腰を下ろした濤羅には窓を通して目に映る風景に生命を感じとれなかった。
砂と岩の乾燥しきった土地に今にも雪が降りそうな天気。
風と雨に削られて細くそびえたった岩々は異形の塔のようで、どこまでも平坦な砂の大
地の上ではこの上なく目立つ。
所々に散見するサボテンは奇妙な形をしていて植物どころか怪物のように見える。
アメリカ。故郷の上海から遠く離れたこの国まで濤羅が来たのは、ユーラシア大陸にい
るそれとは別種の吸血鬼と出会うためだった。
一口に吸血鬼といってもその言葉が指し示すモノは多岐にわたる。
寿命は無限といって良いほど永く、生存のために人の血を吸い、身体能力は人間のそれ
をはるかに凌駕する。
共通する点といえばそんなもの。食事と長所だけ。
それだけとって見れば全て同じ種と言えないこともないがその他の面、即ち弱点および
その他という観点から見ると全く違う種と言っていいくらいだ。
十字架を恐れるモノ、恐れないモノ。
強力な呪詛によってなったモノ、ある種のウィルスによってなったモノ。
銀にアレルギーを起こすモノ、聖別してなければ銀であろうと平気なモノ。
陽光で灰になるモノ、陽光を克服したモノetc.etc...
吸血鬼の持つこうした多様性は人間側にとって非情に厄介だ。日中だと安心して道を歩
いていたら路地裏に引きずり込まれて血を吸われたり、御守りに持ち歩いていた十字架が
何の御利益もなかったりと一般の人間には対処するのは不可能と言って良いだろう。
さらに年経た古株はそれなりに弱点を克服していたりするので始末に負えない。
結論を言えば吸血鬼には多々の弱点があれどこうした理由故に彼らは人間にとって非常
に厄介な存在となっている。
特に、彼らと対峙する吸血鬼ハンターにとっては。
- 270 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 22:55
- >>268(>>269続き)
アメリカ。ただ広く、ただ大きく、それゆえ存在する公的機関もまた多数。
例えば司法機関:地方警察。郡保安官事務所。FBI。ATF。DEA。それぞれの担
当する範囲は微妙に交錯しあい、随所に法の抜け穴を形作る。
唯一の例外は吸血鬼に関して。
一般の衆目には狂血病患者として知られるモノへの対処は西部開拓時代からただ一つの
組織に一任されている。
防疫修道会。キリスト教はカトリックの流れに属する組織。
その所業は一口に言って外道。目的である吸血鬼殲滅のためには手段を選ばず、その大
義名分のもと一般市民を手にかけることもしばしばある。
なぜ濤羅がそこまで知っているかといえば、ここに来るまでに彼らの風聞を聞いていた
ことと、そして実際に接触したことがあるからだ。
サンタペルタという、それまで名前さえ聞いたこともない街に吸血鬼が現われたという
情報を受けた濤羅がその街で見たものは、吸血鬼と同等かそれ以上の暴虐振りをやっての
ける防疫修道会の狩人たちだった。
一日部屋にこもっただけで射殺。
人より少し目が赤っぽいというだけで射殺。
余所者というだけで射殺。
その矛先は濤羅にも向かい、無論濤羅は殺されてやるつもりもなく、さりとて黙って見
過ごせるほど寛容でもなく……
つまり濤羅はそいつらを残らず無力化した。
人目があったために殺すまでには至らなかったが、それでも修道会の狩人たちがかなり
の重傷を負ったことは間違いない。
その大部分が二度と自分の二本の足で歩くことができなくなっただろう。
しかし濤羅には罪悪感はなかった。
自業自得としか思えなかったのだ。
もっとも、と濤羅は考える。
防疫修道会の面々の中にもまともなやつはいた。
例えばむやみと市民に銃を向ける方針に徹頭徹尾異を唱えていたあの男。
最後まで踏みとどまって濤羅に向かい、それゆえ自然としんがりの役目をになうはめに
なった男。
実直。愚かなほどに実直で、その性分故に損をした男。
濤羅に出会わなくともあの男は、周囲に感化され外道働きをするようになっていたのだ
ろうか。
それとも正義感溢れる狩人として大成しただろうか。
繰り返して言う。濤羅は罪悪感など感じてはいなかった。
ただ、無性に虚しかった。
- 271 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 22:56
- >>268(>>270続き)
アメリカ。濤羅にとっては単に通り過ぎるだけの場所に過ぎない。上海へ戻るまで続く
旅のほんの一環だ。
吸血鬼を確実に殺すだけの技と心を身に付けるための旅。武者修業といえば聞こえは良
いが実際はそんな物ではない。
全ては吸血鬼に噛まれ、自らも吸血鬼となった瑞麗をわが手で殺すためだ。
そのための旅だった。そのためのアメリカ行きだった。
吸血鬼の領地へ踏みこみ、吸血鬼の被害者を殺し、吸血鬼を殺す。
吸血鬼の暴虐を知り、吸血鬼を憎むようになり、人の形をした“それ”を殺すことに塵
ほどの憐憫も覚えない。
己を修羅と為す。
己を鬼と化す。
そうあらねばならぬと思いこみ、そうあるように生きてきた。
あの日、マカオで豪軍の裏切りを知ったときから。
吸血鬼となった瑞麗を斬らねばならぬと思い定めたその時から。
だが、その果てにあるあり方が、もしもあの防疫修道会の狩人たちのようなものだとす
ればどうだ?
それでもなお自分はこの道を進めるか?
いらぬ考えを巡らしているな、と濤羅は自覚する。
そういった迷いこそ己が捨て去ろうとした物だったはずだ。
たとえ行く先に何があろうと恐れぬ、躊躇わぬと決意したはずだ。
常に肌身離さず持ち歩いている倭刀を引き寄せ、その重みと鞘に包まれてなお冷たい刃
に心を集約させる。
この一剣。かつては振るうことを忌避していた時期もあった。
しかし今では迷いから逃れるために、内に巣食う憎悪の昏さから目を背けるために、嬉
々として剣と執っている自分を否定できない。
今また、濤羅は剣戟を望んでいる。
その望みはすぐに叶えられる事になる。
- 272 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 22:59
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>269>>270>>271
移民の多いこの新大陸でも東洋人は珍しい。
サンタミカエラは、あっさりと目的の男の居場所を突き止める事が出来た。
吸血鬼を殺すならば、街を避けての野宿には意味がない。
吸血鬼と人とは、ある意味密接な関係にある。だからこそ、強い憎悪の関係にあるのだ。
そう考えたアンナロッテの指示で、荒野での探索を全く行わなかった点を差し引いても
彼女は幸運だったといえるだろう。
モーテルの主人を他の客と一緒に追い払い、サンタミカエラは閃姫(ひらめき)の名の由来でもある
手の甲と足首に付けられた電撃装備に電莢(カートリッジ)を装填した。
戦闘準備を整え、サンタミカエラは小柄な身体を一杯に使って大きく深呼吸をした。
ソリア七会士が吸血鬼以外の者を相手にするというのは、非常にまれな事態である。
完全な単独行もかなり珍しい。
だが、今の彼女は全く気にしていない。
今の彼女の頭にある事は、その東洋人――孔濤羅を叩きのめす事、ただ一つ。
一応は半殺しの予定だが、少々手を滑らせたとしても彼女は全く気にしないだろう。
防疫修道会の末端に不心得な者がいると言うことは、サンタミカエラもよく知っている。
人ならぬ者を相手にするためには、そのような者も戦力の内と割り切れたのは
ごく最近の事だ。
だからこそ、純粋な信仰を持つ「彼」の事を好きだったし。ある意味で尊敬もしていた。
歳の離れた七会士の仲間よりも、一緒に会話した時間はずっと多い。
なにせ、サンタミカエラとその青年とは防疫修道会に入る前からの知り合いであったのだ。
恋人などと甘い関係ではなかったが、家族同然の付合いをしていた。
サンタミカエラの父と母が死んだ時に
最初に声を掛けてくれたのも、最後まで慰めてくれたのも彼だった。
ほんの少しだけ潤んだ目を隠すように、額のゴーグルをきちんと目に掛け直す。
「オラアッ! 大人しくお縄に付きやがれっ!」
安普請のドアを一蹴りで叩き壊し、サンタミカエラは狭い部屋の中に飛び込んだ。
- 273 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:02
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>272
不意に敵意を感じた。
その発生源がただ一つであり、既にモーテルの敷地の中に入っていることを認識した瞬
間に、濤羅の脳裏からは悩みも迷いも消えうせていた。
心気を澄まして立ち上がる。窓に身を晒さぬよう注意しながら外をうかがう。
こちらの動きを探らんとする気配も、動きあらば撃たんとする殺意もない。
やはり単独。
そう濤羅は確認する。
司法組織の類ではない。彼らは常に多対一で物事にあたるり、その組織力こそが強みで
ある。
最小でも二人一組。その原則が崩れることは有り得ない。
ことに、こうした荒事の類にかけては。
隣室に宿泊していた客が静かに、しかし慌しく退出する気配。敵意の向けられる先が濤
羅であること、相手が民間人にそれなりの影響力を及ぼし得る組織の一員であることがこ
れでわかった。
初めてアメリカを訪れる濤羅を狙う可能性のある組織。
そんな物があるとすればハンターたる濤羅を邪魔に思う吸血鬼の差し金か、それとも……
それとも先日叩きのめした防疫修道会の意趣返しか。
前者の可能性は極めて低い。
いかに人間ばなれした剣の腕を誇ろうとも濤羅は吸血鬼ハンターとしては新参者である。
恐れられ、疎まれるほど名は売れてはいない。
故に可能性が高いのは後者だ。
それだけ考えて濤羅は行動に移った。
どちらかであるかはすぐにわかることであり、いずれにせよ話し合いの通じる相手では
ない。
それが、何よりありがたい。
気配は真っ直ぐドアに向かって近づいてくる。
濤羅は掛け金を外して窓を開くと、足音を立てずにドア横の部屋の隅に貼りついた。
下緒を解いて口にくわえて倭刀を保持するとそのまま垂直に跳躍。壁と天井に手足を突っ
張って貼りついた。
この間、一切無音。
ホテルの部屋はドアから入ってすぐ右がバスルームになっている。そのため入り口の付
近は狭くなっている。
入ってくる人間は完全に間合の内だ。
ドアの外で隠そうともしない足音が聞こえる。近づいてくる。その中に発条と歯車の噛
み合うような音が聞こえるが、あれはなんなのだろう?
足音が、敵意が、ドアの前で止まる。
敵意が殺意に転換し、大きく膨れ上がる。
罵声。
蹴り破られて室内に倒れこむドア。それを踏み越えて躍り込む小柄な人影。身にまとう
は変形の修道服。
相手は聖職者。即ち背後にいるのは防疫修道会。
それを見てとり脳が思考するより早く濤羅の身体は行動開始。
突っ張った四肢と下緒を咥えた顎の力を抜いて自由落下に身を任せ、左手を鞘に、右手
を柄に走らせる。
抜刀。
天井を掠めるようにして袈裟懸けに振り下ろされた白刃が小さな背中目掛けて走る。
仕掛けも太刀筋も容赦のないものであり、手心を加えぬ必殺の一刀ではある。
しかし濤羅はこの一刀が外れることを、相手が反撃の一撃を見舞ってくることを、心の
どこかで期待していたのだった。
- 274 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:04
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>273
「でぇっ!?」
攻撃は予想していたが、流石のサンタミカエラと言えども
天井近くから降ってきた刃にかなりの意表を突かれたようだ。
実際、彼女の身長が後30cmも高かったら脳天にその剣が突き刺さっていただろう。
猫が身を丸めるようにして床に転がり、壁を蹴る勢いを利用して立ち上がる。
孔濤羅が持つ剣が、見たこともない形の剣である事に気付いたのは
そうやって立ち上がった後の事だった。
「けっ、聞く耳持たねえってか!? 上等ォ!」
サンタミカエラはゴーグル越しに、黒いコートを翻す東洋人を睨み付けた。
その視線は、手にする剣よりもなお昏い輝きを秘めているように思える。
一瞬、ほんの一瞬だけ。うなじの毛が逆立つような感覚が彼女を襲う。
その感覚を振り払うかのように、サンタミカエラは
先程よりもさらに大きな声を張り上げた。
「てめえがコン・タオローとかいう野郎なんは間違いねえってわけだな!
オレっちは閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ。ソリア七会士の一人だぜ!!」
剣と拳。どちらが有利かは言うまでもないが、屋内でなら充分渡り合える。
何より、彼女の動きの速さは、銃を持った相手すら凌駕しうるのだ。
「その様子だと、何でオレっちが来たかは、よっくわかってんな?
叩きのめしてからじっくり反省させてやるから覚悟しやがれ!!」
その閃姫の洗礼名にふさわしく、閃光のごときスピードで間合いを詰めるサンタミカエラ。
必殺の電撃ナックルが、孔濤羅の腹部目掛けてアッパーカット気味に繰り出された。
- 275 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:06
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>274
己が一刀が躱された。そのことが堪らなく嬉しく感じる。
相手の技量が己の予想を上回っていた。そのことが幸福でならない。
戦えるのだ。
剣を振るう。ただそのことだけに没頭し、何もかも忘れることができるのだ。
鬼にとってこれほどの幸福があろうか。
胸のうちに沸き起こる喜びを押し殺す。抑えきれなかった歓喜は顔の筋肉を笑みのかた
ちに歪ませた。見るものをぞっとさせる狂気の笑み。
鬼の笑みだった。
その笑みを貼りつかせたまま濤羅は闖入者を見やる。ゴーグルで目を隠し、勇ましい口
調だが年齢は隠せない。まだ歳若いことが一目瞭然だった。
そのことを、しかし濤羅は嘲笑いはしない。
単身濤羅の追手に選ばれたことが、少女の肩書きが、何より濤羅の一刀を躱してのけた
事実が、少女の――サンタミカエラの技量を裏付けている。
サンタミカエラが走った。問答無用。それは濤羅にとってもありがたい。
繰り出された拳。そこにかすかに電流のスパークが散っているのを濤羅の目が認めた瞬
間、未だ鞘を握ったままの左手が動いていた。
倭刀ではなく鞘で腕を抑える。瞬間、拳から火花が飛び散った。
電撃仕込みの拳。
衝突の反動を肩で殺さず背後へ飛びながらそう認識する。
倭刀を鞘に収めつつ地に足をつけたのは入り口の付近。そのまま狭い室内から逃げる、
と見せて濤羅は真上に跳躍。
さらに壁を蹴って少女の背後に着地。右手は柄を握ったまま、左手で鞘の中ほどを持つ。
鞘に収めた倭刀を棒術の要領で振り、鐺で突き。少女を外へと吹き飛ばさんとする。
- 276 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:08
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>275
サンタミカエラは七会士の中でも飛び抜けて歳が若い。
だが、戦闘力に関しては他の六人に劣るとは全く思っていない。
戦う者としては小柄なその身体を見て油断した吸血鬼は、
全て電撃によって黒焦げの炭にして屠ってきた。
だから、孔濤羅の口元に浮かんだ笑みは何時も自分に向けられる嘲笑だと思った。
だが、違う。
あの笑みは違う。ある意味では吸血鬼の笑みにも等しい。
獲物を前にした獣の目――この場合の獲物はサンタミカエラではない。
あの目は何かもっと別のものを求める目。
そしてきっと、人間が求めるべきでないモノを求める目。
ちなみに、今の攻撃の踏み込みと腰の捻りは完璧だった。
むしろ拳を繰り出す際にはそちらの方が重要とさえ言えるのだが――
その拳は、孔が左手に持つ短い杖のような物であっさりと逸らされる。
電莢が無駄になったわけではないので、そのまま第二撃を叩き込もうとした刹那
孔の身体は音もなく宙に舞う。
「はん! 逃がすかよっ!!」
あんな目をした男に、逃げる気などあるはずもないが思わず悪態が口を付いて出る。
虚勢ではない。こういう生き方をしてきたのがサンタミカエラなのだ。
そして、再び孔が跳躍した際にも驚きはしなかった。
頭の上を越えようとする黒い影の下を、わずかに身をかがめてかいくぐる。
さっきは気付かなかったが、杖の様な物は鞘であったらしい。
どうやらそれで背中を突かれたらしいが、前に走っていたせいでダメージはない。
「んなもんが二度通じるかっ!!」
そして、そのままドアの外に走り出た。
もちろんサンタミカエラとて逃げる気など毛頭ない。
そのまま反対側の部屋のドアを蹴り――いや、勢いのままに駆け上り
勢いを殺さないようにして空中で転回。
逆しまになった視界の中で、鞘を目掛けて蹴りを叩き込む。
新大陸ではあまり人気のないスポーツだが、その姿を見る物が見たならば
最高レベルのサッカー選手が放つオーバーヘッドキックにも匹敵する、と賞賛しただろう。
- 277 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:09
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>276
突きの勢いは流れていった。
そのことを知ってなお、濤羅の心に驚愕が入りこむ余地はない。
こんな一撃で仕留められるようなやわな相手だとは濤羅は思っていないからだ。
もとよりこのように変則的な使い方をするのには少女の電撃を警戒しているためだ。
防疫修道会の相手は吸血鬼以外に有り得ず、サンタミカエラの装備もまた吸血鬼浄滅を
目的とした物のはずである。
人間よりもはるかに頑丈な身体を持つ吸血鬼を屠るだけの力を持つ電撃。その出力は市
販のスタンガンなど及びもつかないだろう。
たとえ衣服の上からでも触れられればその時点で決着する。
刀身で拳足を防ぐのも危ない。柄木と柄巻、鮫皮を通して電流が到達する可能性もある。
故に刃を見せるのは一瞬。
確実に斬れるという確信が持てぬ限り抜刀せず、それまではひたすら打突で勝負する。
不利な状況だ。
慣れぬ技を使わずにはおれぬ相手の仕掛け。
だが、それが楽しくて仕方がない。
少女を追って部屋の入り口をくぐった濤羅に蹴りが振り下ろされる。
鞘を爪先が打ち据える。濤羅はその勢いに逆らわない。
倭刀は濤羅の左手を中心に回転。鞘は引き戻されて左脇へ移動。身体にあたって停止す
る。反動で刀は半ば以上抜けていた。
濤羅の構えもまたそれに応じて変化していた。
左前から右前へと。
即ち抜刀の構えに。
斬撃。
白刃の一閃が地から天へと走って昇った。
- 278 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:11
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>277
通常の剣撃であるなら、鉄板を貼ってあるブーツの底で受け止められる。
それだけの技量と蹴撃の速度がサンタミカエラにはあるが
この男の剣を受け止めるには、たっぷり1フィートの厚さの靴底が必要だろう。
ゆえにその抜刀を受け止める事は不可能と、孔の構えを見ただけで彼女は判断する。
お互いに一撃必殺。銃での闘いなどよりもよほど致命率は高い。
閃く刃は、背筋をのけぞらせたサンタミカエラの顔面ギリギリを掠めていった。
彼女の鼻がもう3cm高ければ、その高さの分削がれていただろうし、
ゴーグルに至っては、レンズの部分だけが綺麗に切り取られて、素通しになってしまっている。
「このぉ! 高ぇんだぞ、こいつぁ!!」
左手で用をなさなくなったゴーグルをむしりつつ、再び構えを取る。
狭い廊下での対峙。剣が有利か素手が有利かは微妙な所だ。
この空間では突きしか考えられないが、サンタミカエラの移動も大きく制限される。
リーチは向こうが上、だがそれをかいくぐって一撃当てさえすれば彼女の勝ちだ。
ぐっと大きく腰をかがめて地面を蹴り―― さらに壁を蹴って反対側の壁へ。
廊下全てを己の大地として、閃姫の名を持つ少女が飛び回る。
身体全体を回転させるようにして、火花が散る右拳が振り下ろされる。
銃器を使わぬサンタミカエラではあったが、その姿は輝く弾丸の様にも見えた。
- 279 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:13
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>278
――これを、躱すか。
そう、濤羅は内心で舌を巻く。
サンタミカエラが絶妙のバランス感覚を有していたことと空中で技を放った後の不安定
な姿勢を狙うため少々遠い間合から仕掛けたのが仇になった。多少遅れてもいいから一足
踏みこんで抜くべきだったと反省する。
そこで、ようやく自分が斬人に没頭していたことに気がついた。
戦いが始まるまであれほど悩んでいたのが嘘のようだと思う。
俺も随分と鬼らしくなったじゃないかと思う。
それで構わないと思う。
そうだ。迷うのは後で良い。
今はただ斬ることに、この少女を殺すことに没頭しよう。
英語で紡がれる早口の罵声。
上手く聞き取れなかった。
まくし立てると少女らしさが一際目立つな、とそんな感想が浮かんだだけだった。
自分の言葉に乗るようにしてサンタミカエラは床を蹴る。
再度倭刀は鞘の中へ。
構えらしい構えも見せずにただ濤羅は待ちうける。
自分から仕掛けることは決してせずに、相手の技を見極めたのち捌いて返す。それが速
きをもって遅きを制し、後手に回ってなお先を取る内家剣術の真骨頂である。
少女が壁へ飛ぶ。それは騙し。本命は……
反対の壁へ移っての右の拳だ。
鞘込めの倭刀が生き物のように動いた。
振り下ろされる拳を真っ向から受けとめるでなく、逆に絡め取って勢いを加えてベクト
ルを逸らしたその技は、まさしく戴天流の『波濤任櫂』
壁に立つという不安定な姿勢はいとも簡単に崩れ少女は床に落ちる。
そのときには既に刃は鞘から引き抜かれている。
床に危うく着地したサンタミカエラに向けて濤羅の刺突が走った。
狙いは心臓。
- 280 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:14
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>279
完璧なフェイントであったが、孔濤羅はその虚実を見抜き――いや、虚の方には見向きもしなかった。
少なくとも、サンタミカエラにはそう思えた。
自らの勢いがたたって大きくバランスを崩して着地した彼女の末期は、
バーベキューのごとき串刺しのみ。と、誰もが目を伏せたろう。
だが……
「てっ…やんでェ!」
体勢を立て直すのが間に合わないと見たサンタミカエラは、勢いを殺さずに前へ向けて転がった。
変形の修道服が切り裂かれる。背中に走るかすかに冷たい感覚と、刹那の間を空けて走る熱い感覚。
彼女の背には赤い線が一本走っていた。清潔とはいえない廊下に、血の滴が撒き散らされる。
まだ痛みなど感じておらず、腱を傷つけられたわけでもないのだが、少女は回転しつつわずかに顔をしかめた。
(ちくしょお、また疵が残ったらどうしてくれんだ!?)
意外にと言っては失礼だろうが、歳相応な思いを抱きながら、
サンタミカエラはごろごろと転がりつつ、反撃の機会を窺ってただ両の手足に力を込める。
孔濤羅の刀はすでに鞘におさまっている。
その黒い鞘は、サンタミカエラにとっては火の点いた大砲に等しく思えた。
あれが放たれた時には、自分など真っ二つ。
……そう。お互いにたった一撃。
その一撃の難しさをサンタミカエラはこのわずかなやりとりで思い知っていた。
闘う者として、自分の力量を知る事。相手の力量を推し量る事。
そして力量など超えたところにある気迫――何もかもが負けているような気がする。
死神は大鎌を持つと言うが、コートを翻しながらも、冷徹に次の一振りの機会を待つ孔の姿は
寓話の世界から抜け出してきた、刀を持った黒い死神にも思えた。
(何弱気になってんだよ、閃姫ぃ! あいつの仇を討つんじゃなかったのか、てめぇは!?)
自分自身を叱咤するサンタミカエラ。そう、こんな事では決して挫けない。
両親が「死んだ」あの夜、そう誓った。
目の前の男に斬られた、たった一人残った「弟」の苦しそうな寝顔に誓った。
世界中の吸血鬼を、そして吸血鬼を統べる黒衣の男をこの手で叩きのめす。
そう誓いなおした瞬間、ゴツ、とブーツが固いものに触れる。
「――げ、マジかよっ!?」
コートの東洋人の姿をとった黒き死の壁だけでなく、古びた木材で出来た廊下の壁までもが
サンタミカエラの行く先に立ちはだかっていた。
- 281 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:16
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>280
倭刀に血振りをくれてから再び鞘に納めた。
構えは最前と変わらず、ただ違うのは間合を詰めていくのが濤羅だということだ。
平生と変わらぬ足取りに見える。一見無防備と思える。
しかし見るべき目を持ってすれば、それは恐るべき歩法と移っただろう。
正中線に揺らぎはなく、故に隙は皆無。
さらに一足歩くごとに内力が全身に満ちて行く。
それはまるで飢えた肉食獣が獲物との間合を詰めていくかのようだった。
互いに持てる技は一撃必殺。なのに濤羅がなぜ自分から動くのかといえば、それは少女
のすぐ後ろに壁があるのを目にしたからだ。
少女の踵が壁に当たったその音がやけに大きく響いた。
その瞬間に濤羅は床を蹴っていた。
少女が動揺しているその隙に。背後の壁に意識が向かったその空白に。
最前サンタミカエラの取った回避行動は最上のものというしかない。
足下を転がりながらすりぬけていくその姿を見ながら濤羅はそう評価した。
これすらも躱してのけるかと、濤羅の心に驚きに満ちた喜びが沸き起こった。
確かに背は切り裂かれた。
しかしほんの皮一枚程度。負傷のうちにも入らない。
まだまだ自分はは戦える。立ち上がった少女の目はそう言っていた。身体も意志も挫けてはいないと
告げていた。
それを思い出して濤羅は笑う。
心身ともに歳若いながら見事なまでに鍛え上げられている。
だが、これが躱せるか!?
そんな思いを抱きながら濤羅は鐺を正確にサンタミカエラの眉間に向けて突き出した。
正確で、速い。
彼女の目からすれば、黒い楕円が徐々に広がっていくように見えるだろう。
眉間は一種の死角である。
飛来する物との遠近感は取りにくい。
さらに視界の中心であるためどちらの手で受けるべきか一瞬迷ってしまいがちだ。
ただでさえ躱しにくい一撃。しかしそこにもう一つ濤羅は仕掛けを加えた。
少女は気付いただろうか?
この突きに内力が込められていないことに。
濤羅の前足が不自然なほどに内向きに絞られていることに。
倭刀が音もなく鞘から抜き出されようとしていることに。
眉間への飛来物はやけに大きく見えるものだ。そこに飛んでくる物に対して人の意識が
もっとも優先して向けられるためである。
故に他への注意が払いにくくなる。
その陰に隠れて濤羅の身体が回る。
前足が絞り込まれている、その方向に。
それはまごう事無き、斬撃への“溜め”だった。
- 282 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:18
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>281
年齢を推し量りにくい東洋人の容貌に誤魔化されていただけで、
目の前の男は百年も千年も闘い続けてきた本物の悪魔ではないだろうか?
そんな感慨がふっとサンタミカエラの心に浮かぶ。
それならば、それでいい。今この瞬間に自分に会った事を後悔させてやる。
閃姫の名にかけて目の前の闇を打ち破る。
ただ一心のその思いが、彼女の心臓(ダイナモ)を回すエネルギーとなっていた。
真っ直ぐに突立てられようとする黒い鞘をどちらの手で受け止めるか?
サンタミカエラは迷わなかった。
両者の間に存在する膂力差。それが皮肉にも彼女の判断を助けたのだ。
右腕と左腕を、拳を作ったまま十字に組む。
上に鞘を逸らした後、必殺の蹴りを――――
(軽いっ!?)
軽すぎる。こんな突きを放つ男なら、100回はぶちのめしてお釣りが来る。
その突きには、さっきの様な触れただけで凍てつきそうな殺意は込められていない。
つまり……
(フェイントかっ!)
- 283 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:19
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>282
後ろにあった右足が前足である左を追い越す。そこから濤羅の身体の回転は始まった。
移動していた右足が地面につくより前から始まっていた体重の移動が淀みなく継続され、
抜き放った倭刀を持つ右手は、既に斬る為の握りの形となっている。
その手を通じて内力が倭刀の刃に流れこんでいく。
突いた鐺の先に確実に手応えを感じた。
その感触で間合がわかる。サンタミカエラの力の向きがわかる。
回る際に後ろを向いたときが一番危ない所だ。
しかしこれなら少女が下に潜ろうが上に跳ぼうがそれに応じて太刀筋を変化させられる。
狭い廊下だ。横に動いて斬撃を躱しきることはできない。
真後ろに下がれば間合から逃れられようが、後ろが壁ではそれもできない。
故に必殺。
そう判断する。
そのときふと濤羅の胸に疑念が生じた。
これまで戦いに興じ没頭していたが、何か大切なものを忘れている気がする。
果たしてそれはなんであろうか。
しかしその疑問は今この斬撃に没頭することに比べて全く些細なことに思えた。
だから濤羅は無視した。
あとで考えればいいとそう思ったのだった。
倭刀の切っ先が左の壁に食い込んだ。
構わず濤羅は振りぬく。木造の壁をあっさりと切り裂きながら刃が進む。
横薙ぎの一刀はその勢いをほとんど殺さず少女へと向かう。
斬りにいくまでの布石という点でも威力という点でも完璧な一撃だった。
濤羅の技に過ちを見出すとすればそれはただ一つ。殺意を漏らしていること。
そして濤羅は己の殺意が洩れていることに気付いていない。
だからこの一撃が迎えたのは当然と言える結末だった。
- 284 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:22
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>283
絶体絶命の危機に見えるが、サンタミカエラに大きく有利な点が二つあった。
一つは廊下の幅だ。突きならばともかく、斬撃にはわずかに狭い。
そしてもう一つは、彼女は次の攻撃こそが本命であると知っている点。
大きいのは二点目だ。フェイントと見抜かれたフェイントは死に技も同然になる。
一方、彼女にとって不利な点は……後退できない点だ。
フットワークを生かした闘いを心情とする者にとっては致命的である。
倭刀の間合いから逃げることが出来ない。
上下左右どちらへ逃げようと、必殺の一太刀は容易く彼女を捉えるだろう。
前に間合いを詰め一撃を喰らわせる程の踏み込みは、この体勢からでは既に不可能だった。
孔濤羅の抜刀速度では、動作を見てからでは絶対に間に合わない。
ならば、迫り来る死神の手から逃げる場所は一つ。
「おぉらぁっ!!」
振り上げた腕をそのまま頭部のガードに使う。
サンタミカエラと孔の足元には影が落ちていた。
すなわち、振り向かずともその逆の方向には窓がある。
華々しくガラスを散らせながら、いっそ華麗とも言えるフォームで少女は宙へと舞う。
煌々と輝く破片が、降り始めた雪に交じり大地へと降り注ぐ。
背中がかすかに痛んだが、彼女は純粋に「――綺麗だな」と感じることができた。
一瞬だけくるっと背を丸め、猫のように軽やかに着地。
修道衣はまた切られてしまったが身体に大きな傷はない。
上出来だ。まだ闘える。
そう、吸血鬼の蔓延るような世の中をぶち壊す為に……
自分はその為に立っているのだ。あんな殺人鬼に負けてなんかいられない。
サンタミカエラはガツっと拳を打ち鳴らした。
「仕切直しだぜ、とっとと降りてこい!!」
- 285 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:23
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>284
濤羅の顔が今度こそ驚愕に歪んだ。
目は、サンタミカエラが窓から飛び降りたことを見、頭は二階から落ちた程度であの少
女が死んだりしないことを理解している。
だったら殺すしかない。
今すぐ追いかけて行って挑まなければならない。
少女が増援を呼ぶかもしれない。
そうでなくても住民の通報で官憲がやって来るかもしれない。
だから濤羅は速やかに少女を殺さなくてはならないのだ。
だが、どうやって?
必殺であるはずの斬撃で殺せなかった。
躱されるはずのない一刀が躱された。
何故だ?
それが自分にはわからない。
殺さなくてはならないのに殺せるという自信がわかない。
自分の技の見切りがつかない。
このまま戦って、自分は生き残れるのか?
外へ出たくはなかった。
逃げる、という思考さえ湧き起こった。
しかし濤羅には躊躇っている暇は与えられなかった。
少女の呼び声に答えるようにして、剣に突き動かされるようにして、濤羅の身体は窓か
ら外へと飛び出していた。
殺気はない。飛び出しても今すぐの危険はない。
そんなことだけは良く認識できた。
そのことがとても苛立たしかった。
視界を白い欠片がよぎる。
見れば、雪。
- 286 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:24
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>285
「??」
サンタミカエラは戸惑っていた。
目の前の男は、さっきまでの黒き死神ではない。本能がそう語っている。
全く同じ黒いコート、同じ刀であるのに、まるで黄金と金メッキほどにも違う。
陽光の下で雪が溶けるかのように、先程までは可視範囲に達するかと思われた鬼気は
大きく揺らいで、今にも消えそうだった。
「ざっけんな、てめぇ!!」
脚に噴射機でも付いているかようなの加速で、サンタミカエラは大きく踏み込んだ。
閃姫の名は、電撃ではなくこの脚力から付けられたのかもしれない。
煌めく火花を纏った拳が、空気を引き裂いて孔濤羅に迫る。
真正面から、いっそ無防備ともいえる攻撃。
だが、サンタミカエラには孔の姿は自分以上に無防備に見えていた。
男の剣先からは、さっきまでの威圧感が全く感じられない。
「今さら、腑抜けてんじゃねぇぞ!?」
拳だけでなく、身体全体で振り抜く見事なフォロースルー。
それだけ正確に孔の身体を捉えたと言うことだ。
サンタミカエラは右の拳をさらに握り込む。
大きな作動音を立てて、拳の上にあるナックルガードから電莢が排出され
次の分が自動的に装填される。
ゴーグルを掛け直そうとして、さっき捨ててしまった事に気付いたサンタミカエラの顔が
さらに不機嫌そうになった。
フン、と鼻を鳴らす。
「まあいい。
てめぇはきっちりブチのめして、自分でやってきた事を思い知らせてやるぜ!」
- 287 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:26
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>286
飛んで来た拳は見えていた。
この程度の打撃、サイボーグのそれにも吸血鬼のそれにも遠く及ばない。
拳が纏っている電撃さえなければ。
全身を痛みが走った。
身体の筋肉が意思に反して痙攣を起こした。
死なずにすんだのは少女の電流が衣服に遮られたからだろう。その主たる役割は厚手の
対環境コートが担ったのか、コートは所々薄煙すら上げている。
そうでなければ即死していただろう。
やってきたこと。
自分がこれまでにやってきたこと。
殺し。
それ以外になかった。それ以外に思いつかなかった。
殺した。
人も、吸血鬼も、数え切れぬほどこの手にかけた。
今また俺はこの少女を殺そうとしていて、そして逆に殺されそうになっている。
それは、ならば自業自得というべきなのか。
少女が再び地を蹴る。
その拳の向かう先は今度こそ濤羅の頭部だ。
濤羅は見ていた。
今度は拳ではなく、地面を。そこにわずか積もった雪と、その上に滴り落ちた血を。
血と雪。白と赤。
その対比は濤羅に何かを思い出させた。
- 288 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:27
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>287
呼気と吸気のバランスとリズムを整える。
電撃はあくまでも上乗せ、基本は拳での一撃。それがサンタミカエラの技だ。
先程の孔と対照的に直線的な動きにも見えるが、
身体中の筋肉は的確に捻り、引き絞られ、一個の弓にも等しい。
「トドメだっ! 黒焦げにしてやらぁ!!」
身長差も力量の差も(悔しくはあったが、その差は彼女も認めざるを得なかった)
気にはならない。
かすかに積もり始めた雪を蹴散らして走る。
風切り音さえも立てて唸りをあげる、まさしく神鳴る拳が
上向きのストレートとなって孔の顔面を捉えんと襲いかかる。
サンタミカエラには、この瞬間孔の目が何を見ているかなど分らなかったし――
そんな事はどうでも良かった。
- 289 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:29
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>288
サンタミカエラの拳は濤羅の左掌で受けとめられていた。
ただの掌打ではない。
その手には紫電がまとわりついている。
戴天流の電磁発勁、“紫電掌”。体内で発声したEMPを集約し手に集めて叩きつけるそ
の技を、濤羅は防御に使ったのだった。
込められた内力に押されてサンタミカエラがあとずさる。
濤羅の方も無傷ではない。
力を力で真っ向から受けとめる最悪の方法。
掌に鈍い鈍痛が残っていた。
しかし濤羅の意識はそんな所にはない。
もっと奥深い所に、己の内に向いている。
忘れていた。
いかに殺すかを追求するあまり、どうやって斬るかに没頭するあまり、大切なことを忘
れてしまっていた。
そう。瑞麗のことを忘れていた。
例え片時でも、それは許されることではない。
そのことを血の赤と雪の白さが思い起こさせてくれた。
血と雪。白と赤。白い肌と赤い瞳。新雪のごとき死人の肌色と血色に染まった懐かしい
眼差し。
濤羅の目に焼きついてはなれない記憶と言う名の呪わしい悪夢。
だからこれは己に与えられた罰だ。
この痛みこそが。
- 290 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:30
- >>288(>>289続き)
さあ。思い出せ。
自分が修羅となったその理由はなんだ? こうして鬼どもを狩りつづけている理由はな
んだった?
全て瑞麗のためだろうが。全てあいつを救うためだろうが。
ひとたび吸血鬼となった者を救う術はない。吸血鬼という呪いは魂の奥底にまで深く刻
み込まれて解くことはかなわず、彼らの寿命は死という解放すら拒絶する。
例え殺されることはあったとしても、ただ灰になって飛び散るだけ。後には死体すら残
らない。
おまけに滅びる直前まで死と恐怖を撒き散らしていたために人に憎まれ疎まれ、死んで
ありがたく思う者はいても悲しむ者はいない。人々は彼乃至彼女のことを忘れようと努め、
そして事実そのようにする。
それが鬼の末路。
死者への救いも慰めもなく、ただ忘れ去られる。それだけの最期。
例えそれが何百年何千年先の話だとしても、瑞麗がそんな死に方をするのは耐えられな
い、と……
――そう言ったのは、どこの誰だった?
忘れたとは言わせない。
そう言ったのは他ならぬ俺だ。
孔瑞麗という人間がこの世にいたことを記憶にとどめ、その死を悼み、現世を去るその
魂の安らかならんことを祈る。
他のやつは決してそういうことはしないだろう。
それができるのはただひとり、俺だけだ。
その意味で瑞麗を救えるのは俺だけしかいないのだ。
だから俺が瑞麗を殺す。
哭きながら殺すのではだめだ。
迷いながら殺すのでもだめだ。
何の苦痛も感じさせることなく、速やかに、殺してやらなくてはならない。
自分は瑞麗をかつて愛していた。
今でも愛している。
やがて来るであろうあいつと向き合う時、その時も愛しているだろうし、そうでなけれ
ばならない。
瑞麗を愛した自分、そのままの自分でいなくてはならない。
それでもなおあいつを斬ることに没頭できるように、自分はこうして左道を歩みつづけ
ている。
そのために、あいつを噛んだやつらと同じ闇に身を浸し、やつらと同じ、否、やつら以
上の鬼となる。
それが、鬼の誓い。
瑞麗の“生前”の面影に約束した、ただ一つのこと。
ただ一つ、瑞麗のためにしてやれること。
- 291 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:30
- >>288(>>290続き)
濤羅はゆっくりと倭刀を手に持った。既に刃は鞘の内。
がくがくと震える膝。思うままに動かない手。背筋にも腹筋にも上手く力が入らず体は
ぐらぐらと揺れている。
ただ頭だけが、今降り、これから降るであろう雪の全てを積めこんだように冷たく冴え
渡っていた。
先ほどまでの熱に浮かされたような戦いへの渇望はもはやどこかに消えうせていた。
互いに互いの間合の内。
もはや小細工は意味を為さず、ただ技の速さだけが勝負を決する。
濤羅にはそれがよくわかった。
認識しながら濤羅は思う。
ありがとう、サンタミカエラ。
お前には感謝してもしきれない。
他の何よりも大事な瑞麗のことを、お前は思い出させてくれた。
だから――
「終わりにしよう」
俺は、お前に感謝しながら、お前を、殺してみせよう――
- 292 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:32
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>289>>290>>291
結果は理解出来るが、何が起こったかは理解できない。
孔濤羅の手から放たれた紫電は、完全とは言えないまでも「閃姫」の拳を素手で止めたのだ。
しかし、サンタミカエラはそれ以上考える事を止めた。
先程、彼女は「仕切直し」と叫んだ。
だが、少し早過ぎたらしい。たった今、この瞬間が本当の仕切直し。
目の前の男は、確かに黒き死神に戻っていた。
それでも、もはやそんな事に恐怖はない。
目の前の男が本物の死神であろうとも、立ち止まるわけにも逃げるわけにもいかない。
なぜなら。
――同じだ、こいつの目はあん時と同じだ。
そう、彼女が大好きだった父と母。
――真っ暗な中で目をギラギラさせて、獲物を探している吸血鬼と同じだ。
そして、狂血病となって自分の血を吸おうとした父と母。
――だから自分は負けない。吸血鬼などに負けるわけにはいかない。
もう一人の「黒衣の者」をこの手で倒すために彼女は闘って来た。
全ての元凶を、大事な父と母を奪ったあの男を自らの手で滅ぼすために。
こんな所で引き返すために走ってきたわけでは無いのだ。
身体中の力を抜いて、自然体に近いファイティングポーズを取った。
全ての力をただこの一瞬に賭ける。
そんなサンタミカエラの姿は、発火の瞬間を待つ弾丸の熱さを帯びていた。
彼女の頬に触れた雪が、小さな水滴となって流れ落ちる。
「ああ、終わりだぜ―― あばよ、コン・タオロー」
- 293 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:33
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>292
少女の瞳。
怒りと憎しみに燃えた、それでいて真っ直ぐな瞳だった。
その目を孔濤羅は知っていた。何度も自分に向けられたことがあった。
人でありながら鬼になったものを見る目。
人のかたちをしながら人に仇なす者を見る目。
吸血鬼を見た人間の目だった。
その目が濤羅を見ている。
濤羅こそが鬼だと言っている。
否定するつもりはない。
否定することなど出来ない。
そうだ。俺は鬼だ。
人でなしの鬼だ。
己の欲するものを手に入れるためなら何をしようと悔いることはない、人道を外れた一
匹の剣鬼。
だが、それで構わない。
剣を執り戦うのは瑞麗のためだ。
ただ斬ることに没頭するのも瑞麗のためだ。
己のよって立つべきは剣にあらず。ただ瑞麗のみ。
人であることをやめた苦しみから逃れてはならない。
苦しみのあまり戦いに逃げることは許されない。
楽になぞなってはならない。
そんなことをしたら、自分の瑞麗への想いまで否定してしまう。
だから迷う必要などない。
ただひたすらにこの道を駆けぬけろ。
鬼は鬼らしく我が身を血に染め、地獄の業火で焼かれていればいい。
少女の目は炎のようだった。
目だけでなく全身から殺気が立ち上り、めらめらと焔が立ち上っているかのようだった。
濤羅の目は静かな、夜の湖水のようだった。
殺気も“意”も、毫も外に洩らさず、ただ静かにそこに立っていた。
- 294 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:35
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>293
いつしか、サンタミカエラの呼吸はひどくゆっくりしたものとなっていた。
見る者が見れば、その呼吸音が風の音と同調しようとしている事に気付いただろう。
孔が動く気配はまるで掴めない。まるで物言わぬ彫像を前にしているかのようだ。
だから、相手の隙を突いたりはしない。ただ自分の持てる全てを一閃に込める。
その為には、自分の力だけでなく周りにある全てを使う。
一際強い風が吹いた。
粉雪が、天から落ちてきたことを悲しむかのように逆さに舞い上がる。
少女の背を突風が強く後押しする。
――彼女が待っていたのはこの瞬間。
(今だっ!)
風に乗り、まさしく閃くがごとくサンタミカエラは駆けた。
その一歩一歩が雪を跳ね上げ、夕日を反射してかすかに煌めく。
彼女自身は飛ぶでも跳ねるでもなく、大地を確かに踏みしめて
たった一撃に全ての力を込めた。
「吹っ飛び――やがれっ!!」
拳を包む火花が、薄闇の中でひときわ強く輝いた。
- 295 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:36
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>294
鼻から吸いこんだ空気は冷たく粘膜を焼く。
不思議な天気だった。
雪は静かに降りしきり、そのくせ地平線には今にも沈みそうな太陽がかかっている。
建物も、道も、雪も、人も。夕陽に照らされて全てが赤い。
舞い落ちる粉雪の一片一片が血の雨のようだった。
赤一色の世界の中で濤羅とサンタミカエラもまた赤かった。
濤羅は周囲全てを観じていた。
雪片が地に落ちる音を聞き、吹き抜ける風の圧力に触れ、流れ落ちた血の匂いを嗅ぐ。
目は炎の少女を見据え、心は彼女の“意”を捕らえ、手中の倭刀の重みを感じる。
膨大な数の情報が濤羅の頭をよぎっていく。
それらを認識しながら一つ一つにとらわれることはない。
ただ忘我する。
剣と一つになる。
生死の境を分かつその一瞬に備える。
そしてその時が来た。
銀光と火花の交差。火花は刃を照らし出し、刃は火花の光を受けて一層輝いた。
粉雪が狂おしく舞い落ちる中、総身を赤く染めた二つの影が交錯し、そして片方だけが
倒れ伏した。
- 296 名前:サンタミカエラ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:38
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>295
色の抜けた髪を、まだ大人とは呼べないあどけない顔を
自らの血で赤く染めながら、サンタミカエラは倒れ伏した。
「が、ふっ……」
孔濤羅の倭刀は彼女の手甲を斬り飛ばした上に、
胸骨すらをも大きく切り裂く程の威力を持っていた。
凄絶なまでのカウンター。彼女の体格が充分であったら、逆に胸部は両断されていただろう。
だが、なお。
それでもなお。
彼女の目からはまだ光は失われていない。
「て…やんでぇ… 相打ち…上等ぉ……」
夕陽の赤よりも濃い紅に身を染め、残った力を延命ではなく闘いに使う。
吸血鬼に負けたくはない、ただその一心で。
わずかに足を動かす。ただそれだけで、サンタミカエラの命の灯火は大きく揺らぐ。
それでも、足を投げ出すようにして、
彼女はブーツを自らの血で出来た血溜まりに浸した。
「血ってなあ… 電気を…通すんだぜ……?
シエラマドレ…まで……吹っ飛びやがれっ……!」
閃姫と名付けられた少女の、最後の命が閃光となり
雷鳴を伴って夕闇に青白く輝いた。
――――まるで、星が地上に産まれたかの様に。
- 297 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:39
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>296
己が血に塗れ紅に染まりながらなおも少女は止まらない。
その脚に仕込まれた雷を今また解放しようとしている。
せめて一太刀などという慎み深い一撃ではなかった。
命そのものを用いてでも確実に相手を屠らんとするほど肥大化した殺意に突き動かされ
た技だった。
濤羅は避けようとしなかった。
代わりに自分が立ち、少女が横たわる血だまりの中へ紫電を纏った左掌を叩きこんだ。
雷が落ちたような衝撃があった
視界が真っ白に染まり、何も聞こえない一瞬の空白が訪れる。
それが過ぎ去ってみればその場で生きていたのは孔濤羅ただ一人だけだった。
最初に感じたのはやけに静かだということだった。
先ほどの轟音が嘘のようだ。あたりは真空にでもなったかのように物音一つしない。
閃光を直視したせいか視界は白くかすんでいる。
ならば先ほどからやけに静かなのは雷鳴で耳が聞こえなくなっているからだろう。
この静寂は死者を送るにはふさわしいと濤羅は思った。
赤い花のように広がった血だまりが目に焼きついた。
目に映るもの全てに白い靄がかかっている。
サンタミカエラの死顔は、だから濤羅の目には映ることはなかった。
立ちあがった。
足取りはさらに覚束なく今にも倒れそうだったが、ここから離れるだけならなんの問題
もない。
振り返ることなく濤羅は、その街を後にした。
太陽はまさに落ちんとしていた。
- 298 名前:アンナロッテ(M) ◆ysRtSORIAw :04/04/18 23:41
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>297 (エピローグ)
薬読と呼ばれる少女が、かつて閃姫と呼ばれた少女の……その遺体の側で祈る。
彼女は大きく目を見開いたまま息絶えていた。
最後にその瞳で見たものは何だろうか?
神ならぬ身であるアンナロッテには想像する事しか出来ない。
燭台には蝋燭の明かりが灯る。
生前のサンタミカエラは暗闇を嫌っていた。
闇に潜むものを恐れるわけではなく、闇に沈んだ過去を思い出してしまうからだろう。
だから、アンナロッテは明かりを灯して静かに祈り続けた。
静寂の中で、蝋燭の炎が暖かく揺らぐ。
――彼女の行く先に、せめて光がありますように。
――――そして、この大地から光が消える事の無きように。
- 299 名前:孔濤羅 ◆dTAoloUdks :04/04/18 23:43
- “紫電掌”孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
>>298 (エピローグ)
旅を続ける。
赤く刻まれた点の連なりは西から東へ。地図の上に残した足跡はいずれも残忍で血にま
みれている。
あまりに多くを失い、あまりに少なきを得、ぬぐいきれぬ罪を背負った。
背負った罪の形。それは濤羅を見つめる目。
濤羅が殺し、あるいは見捨てた者達の目。
幾つもの目が時折記憶の中からよみがえり、無言で濤羅に視線を据える。
例えばサンタミカエラ。
記憶の中の少女はいつも決まって濤羅を、あの鬼を見る目で見つめている。
例えサンタミカエラという名前は忘れても、その目を忘れることは出来そうにない。
旅の始まる前から刻み込まれた罪。血に塗れた旅を始めた理由。
樟賈寶、朱笑嫣、呉榮成、斌偉信、劉豪軍。五人の仇。
瑞麗。奪われたもの。
瑞麗。最も重い罪の名前。
瑞麗。濤羅の人たる所以。
瑞麗。その幸せを心から願った。
瑞麗。彼女の守護を心に誓った。
瑞麗。全ては灰燼に帰した。
人の形をした濤羅の罪。拭い去ることも消し去ることも出来ず、無論償うことも出来は
しない。血の上に血を塗り重ね、死の上に死を積み上げ、罪の上に罪を背負う。
旅を続ける。
人たる所以はとうに葬り去った。多くの咎なき者を見捨てた。それよりはるかに多くの
咎ある者を殺した。
なした善行はあまりに少なく、もたらした救いはごくわずか。
自分の罪深さに恐れおののく。
憎しみに焦がされ、眠れぬ夜を過ごす。
もうどこにもいない瑞麗を思う。
恐れと憎悪と思慕が混濁する。
混濁に取り付かれている。
剣を取る間だけ瑞麗への思いが純化される。
剣を納めれば、より強くなった思いが空回りする。
孔濤羅は旅を続ける。
瑞麗を殺すために。彼女の魂をその手で安んずるために。
いつか彼女に会いに行く。
暗くなった後で。
- 300 名前:◆dTAoloUdks :04/04/18 23:52
- “紫電掌"孔濤羅VS閃姫(ひらめき)のサンタミカエラ −電雷雪霞−
レス番まとめ
導入
>268>269>270>271
闘争
>272>273>274>275>276>277>278>279>280>281>282>283>284
>285>286>287>288>289>290>291>292>293>294>295>296>297
エピローグ
>298>299
- 301 名前:名無し客:04/05/28 17:52
- 最近、吸血大殲の存在を知り、過去ログを漁ったりしている身です、はじめまして
個々の戦闘SSも非常に練られていて楽しいのですが、
また全員登場の血祭りみたいなのは、もうやらないのですか?という事で
一つリクエストしてもいいでしょうか?
- 302 名前:魔刃シャハル ◆HesAhAr5go :04/05/29 19:09
- >>301
いらっしゃいませ、<s> Pia♥キャロット </s>吸血大殲スレへようこそ。
さて、
>また全員登場の血祭りみたいなのは、もうやらないのですか?
と言うことですけれど、そういったリクエスト等々はよろしければ
吸血大殲ZERO 2 〜続・序章〜【吸血大殲広報スレ2】
http://appletea.to/~charaneta/test/read.cgi/ikkoku/059908024/
こちらにお願いいたします。
――と、これだけでは不親切ですので。
参加されている方々が現在では不定期のようで、リアルタイム進行の闘争も
少なくなってきています。
頭を悩ませたりすることなく、思うさま死んだり死なせたり殺したり殺されたり
したいところなのですけれどもね。
恐らく真性の闘争狂であるこちらの方々ならば、気が向いたときにでも突然
始めたりするかも知れません。
よろしければ生暖かい目でお見守り下さいますようお願いいたします。
- 303 名前:魔刃シャハル ◆HesAhAr5go :04/05/29 19:11
- タグミスは気にしない方向で。
というかタグは実装されないのですか。
- 304 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/06/06 16:09
- >>264 ジェニーVS高木由美江
はーいはいはい。天地身命あるぱちかむと。我が身を剣とし、その身を砕かん。
可愛いアンヨをお忘れよ。
「はぁぁぁ…はいやー」
得物に落ちた脚を根元まで突き刺し 手の甲で傷口に気を入れて噴出す血液を誇らしげに見せよう。
『由美子の』血潮はこんなにも赤く、神サマを思っております…、と。
神サマー見ているのならアタシを梳く舞わせ。アタシがアタシの神のモノで居るために。
来るが良い、まだまだこんなにも我が身は軽く。
迫る椅子は刃を登頂に構え宙に前転、唐竹に割り、翻る獣に刀を突き衝き吐き搗き。
宙の血潮に自分のが多くになった事を、アタシは逆ににぃぃと微笑み勇む。
防御不要、剣戟と蹴は強いほうが勝つだけだ。
背の裏で刃を持ち替え、左より脚へ平突き──
踏み込み、迫る事で威力を殺すクソの動き、そこからのチャランボ──
膝をあわせ、仰け反り、さける。
ヴァチカンの掃除屋。それが、たった一つのあったしダメ子なユミエの由美子との契約だっつー因果なコトだ。
そんな役目ばかり押し付けられて、ぼーくぼーくまいっちゃいます。
恋をするなんてー。もう恋なんてしないなんてー…んなことあるかい。愛があれば大丈夫ー。
そう、愛。ラブってエモーション?…たった一人への愛という名の忠誠心。アンタを斬ることが愛なのさ。
「愛があるかい?あんたのその顔に。そんなにイヤかい?消えるのが。
神代から消えることが運命付けられたフリークスが死ぬのを恐れるのかい?」
楽しそうに流れる裂迫の空気、四方の色窓から日はひとつの時を混濁させ…
木片の上、きぃぃいいん、震える硬質の音、抜刀流槌の踵は
刃を振るうのを身体は既に忘れていた。腕が世界の美しさに上がらなくなっている。
朱は散る量を1絲毎に増え…
美しく散る朱は何時しか床に花を散らすほどになり。
その光景はあまりにも儚く奇麗…
例えるなら「正義の歴代ヒーロー大集合!ただし、予算の都合で全員イエロー」
くらいに眩しい世界───
……──その光は、恍惚?……アタシの意識は彈指の間だけ、凡て空に散り消えた。
- 305 名前:高木由美江 ◆YumieAKhCc :04/06/06 16:19
- >>304
地べたにアタシが、アタシが張ってる?
頬骨と歯が砕かれた音は、視界の隅に割れた奥歯が遠ざかったから理解できた。
ああ、でもきっと奇麗に見てくれてるかい?
それだけが気がかりだ。
それがかなえられないのなら、由美子への裏切りの、裏切りで裏切っちゃうことになる。
地べたへの襲撃に木製ソファーの背を引き寄せ、背に乗り、裏へと回り立つ。
鞘を再び、縦に構える。
刃をびゅううと振り、自分の起動を空に残した。僅かに傾いた陽光の薄い部分、
闇に示された軌道は剣の結界。
此方と其方での世界を隔てるアケロンの河。黄泉平良坂となる。
息が整わないのはきっと…ああ、そうだ。奥歯がない所為にきまっている。
血反吐を歯と歯の隙間からぴゅーっと飛ばして遊んでみる。
……幼児か、アタシは。…くっくっく。
奥歯の空いた場所が尚更寂し楽しく思えたので、思わず私は言葉にしてしまった。
「タンマ。これ、もってないの?」
左手で自分の唇を指差し、人差し指と中指で投げキスみたいな仕草で──スパスパとやってやる。
此方のほうがどうして、さまになる。よい子の由美子、真に神さまの子である『あの子』と
『アタシ』は違うのだから。
投げてよこすようにカムカム、の手招き。
もらったシガレットはShort hope。『お吸い物』の名前なんて皆そんなものだが…
…「Short Hope」なんざ、気の聞かない名前の物をむさむさと噴かしてアタシは遠くを見つめる。
見える景色は古いながらもよく磨かれた。相変わらずのステンドグラスだけだった。
アタシは嬉しくて仕方がない。──だから
「アタシーー。神様ってやつ、大好きでね」──笑いが
「I love , you マイゴッド!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」Love is kill、Kili is a cool!
I love you I love you Ilove you らーびゅー」───泊まらない。
Short Hopeの短い希望も、舌に押し付け、じゅわと消す。笑いが、やっと止まった。
化物の希望はやっぱり不味い。オーラスだ。これは。
べろを、見せびらかした。黒焦げの後の付いたべろを、まざまざと。
「”死ぬ前”に聞っけど。化物なんてやってて楽しい?」
- 306 名前:アーヴィング・ナイトウォーカー ◆v8e3UHook2 :04/07/02 20:21
- 格子付きの窓越しに空を見た。相変わらずのヨドミ模様。
太陽の光はうっすらと、灰色の雲越しにしか伺えない。
―――もう夏だって言うのに。
この、肌を刺す冷気は何だろう。
吐く息は白く、厚手のレザーコートを羽織ってもまた震えが来る。
三、四年前まではまだ正常だったはずだ。"夏は暑い"という常識を守ってくれていた。
ただ、少しばかり暑すぎて、高齢者や幼児はとても外に出れたモノでは無かったけど。
それでも夏は暑かった。その点だけはちゃんと常識を守ってくれていたと思う。
それが今ではこれだ。夏なのに寒いというのは、正直よく分からない。
―――きっと、壊れちゃったんだろうな。
消耗しないモノなんて、この世には無い。
エアコンやテレビだって使い続ければいつかは消耗してガタが来る。
地球や社会だって、きっとそうなんだろう。
でも、エアコンとかテレビと違って地球や社会は一つしかない。
完璧に壊れてしまったら、自分達は一体どうすれば良いんだろう。
「別に。無いなら無いで、何とかなるんじゃない」
やけに分厚い本から目も離さずに、ミラはそう答えた。
ああ、そうか、と頷く。
そうだよね。よく考えれば、此処にはエアコンもテレビもないもんね。
- 307 名前:アーヴィング・ナイトウォーカー ◆v8e3UHook2 :04/07/02 20:21
甲高いサイレン音が近づいてくる。そして、タイヤがアスファルトを噛む音。
それも一つじゃない。複数のブレーキ音。
―――まただ。
ここからじゃ聞こえないけど、きっと大勢の足音や鉄と鉄が合わさる音、それに無線越
しに指示する大人の声なんかも聞こえたりするんだろう。
即ち機動警察隊の地獄の行進(マーチ)。
もちろん地獄行きするの方は役人さんの方で。
より正確に言うと地獄への行進だったりする。
「無駄ね」
言ってミラはぱたんと本を閉じた。
「警察程度じゃどうにもならないわよ、ここは」
同感だったから、何も言わなかった。
ここは世界規模でミシンを製造・輸出していた工場で、一時期は世界のミシンは全てこ
こで作られている、とまで言われていたんけど、社長さんが調子に乗りすぎて規模拡大し
過ぎてミシンなんてそんな沢山必要ないのに作り過ぎちゃって結局捌ききれずに余っちゃ
ってそれで潰れちゃった工場。その直後の環境大変異なんかもあって、今は完全に廃工場
になっていて、土地も国が押収しちゃっている。
でもこの工場、すっごい大きくて管理もまるでされてないから、浮浪者の吹き溜まりに
なっちゃったんだよね。それも、一つのコミュニティが出来上がるくらいの規模に。
そう。ちっぽけなバケモノの社会。
ここは浮浪者の吹き溜まり。
家が無い、家に帰れない者なら誰であろうと迎え入れるごみ集積所。
例え殺人鬼だろうと。例え吸血鬼だろうと。
警察がその事実に気付いた時にはもう遅い。
この社会は地域警察なんかじゃ太刀打ちできないほどの規模になっていた。
ワケありのミラや自分に取っては、この上なく居心地の良い社会だ。
この土地から出て行く算段がつくまで、ここで寝泊りをするつもりだった。
ぱんぱんぱん、と渇いた音が響いている。ミラの言う通り、無駄だ。どうせ後10分も
すれば、すぐ引き返すだろう。一度正面からぶつかって大惨事になって以来、警察も威嚇
以上のコトをしてこようとはしない。やれば負けると分かっているんだ。
突然、ミラがすくりと立ち上がった。
慌てて顔を上げる。
「図書室よ。もうこれ、読み終わっちゃったのから」
図書室というのは、下の階に降りてすぐの休憩室を改造した部屋の事だ。
ここからそんなに離れている訳でもない。
気をつけて、と言って手を振った。ミラも片手で振り替えしてくれる。
何だろう。銃声はまだ続いている。ミラの背中を見つめながら思った。
何か、起きそうだ。
日が暮れる、前に。
アーヴィング・ナイトウォーカーはかちり、と義手をならしてから空を見上げた。
相変わらず太陽は隠れていた。
- 308 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :04/07/02 22:56
- >>307
喧騒が流れる。
市警の連中が絶え間なくパトカーを走らせる。
工場に殺到する警官、拡声器で怒声を張り上げる警部補。
ビル屋上からの眺めは下界の喧騒をテレビゲームさながらに俯瞰させる。工場前に集結した警
察一個師団は、野良吸血鬼を相手に奮戦中。
轟々と響く建築機械の流れは、鉄球を装備したクレーン車か。業を煮やした警察は最終手段に
移る事にしたらしい。作戦決行は何日後か何分後か、さてさて。
「日が暮れるぜ。いや、朝になる。寝起きを襲うかい? フェアじゃないな。今すぐパーティーに混
ぜて貰ってバン−バンが一番だぜ」
「黙ってろよハーフフリークス。どうしてお前はそう考えがない……だが今回は同感だ。夜になる
前に片を付けたい」
「……あぁ!? テメエこそ黙れっつーの半吸血鬼のニグロ! ……おい、どうすんだ結局!」(出来損ない)
背中に声が掛けられる。ちょっと待ってろ、と自販機にコインを投入。コーラとポカリが売り切れ
た偏り過ぎの自販機は、国民性を表していて微笑ましい。
キリマンジャロの加糖を二本、無糖を一本。両手に掴み出して振り返り、「どうするもこうするも」
と応じた。「とりあえずブレイクしようぜ。なぁに、殺したいくらいハナがひん曲がりそうなのを我慢
して、キリングジャンキー二人に声掛けたんだ。連中が騒いだ所で地獄の三丁目にノシ付けて放
り込んでやるよ」
缶コーヒーを放り投げる。一本、二本。一本は無糖、残りの二本は加糖のキリマンジャロ。
口々に文句を言いながらも受け取る二人は黒と赤。黒い方は「コーヒーは好きじゃないんだが」
とほざき、赤い方は「コーヒーかよ」とのたまった。しっかり開封している辺りは文句を言われる筋
もないと思う。
黒、ニグロのヴァンパイア・ハンター、ブレイド――ヴァンパイアのエボラ・ウィルス。コートもイン
ナーも黒、挙句にスキンも黒、黒尽くめの死神。ゴミ掃除屋の死神。
赤、ハーフ・デーモンのデビルハンター、ダンテ――甘党の何でも屋。時代錯誤の赤コートに、
背負うは阿呆のように長い大剣。悪魔だってぶった切る、とは本人の弁。
誰が見ても周囲から浮き上がるこの面子を揃える羽目になったのに、大した理由はなかった。
ヴァチカンからの命令――集まった吸血鬼を掃除しろ。
警察がウロ付いていて面倒だ――NY支部に来ていたジャック・クロウ審問官に電話を入れると、
「それじゃ手伝いを寄越す」と返事。待ち合わせ場所に着いた俺を愕然とさせるインパクトを備えて、
赤と黒が睨み合っていた。おめでとう。
その場で両方撃ち殺せば幸せになれると一瞬錯覚した物の、やはり好意を無駄にするのも良く
ない。後は車で目的まで移動して、今に至る敬意の回想は終了。
柵に凭れて状況を観察する。ライアットガンの音が断続的に響き、時折には明らかにSMGの音に
しか聞こえない銃声も響いた。いいのかよ、禁止州だぞ。
「連中も解ってんのさ。やらなきゃならんが、やれない。だが、仕事だ」
ダンテが肩を竦める。銀髪が風に流れ、全身に結び付けたシルバーアクセがじゃらりと鳴った。
「だから連中は増長する。奴等は銃声もカートゥーンのBGMくらいにしか思ってない」
ブレイドが吐き捨てる。スチールの空き缶がべこりとへこんだ。
ダンテは「そろそろだ」と笑い、ブレイドは「夜が来る」と笑い、俺は、
「……まあ、頃合だな」
笑って、呟く。
「だぁな」
「始めるか」
返答は二つ。
飲み干した缶コーヒーの缶は同時に三つ、空を舞い――
がこん、とゴミ箱にシュートされた痕跡を残し、同時に三つ、ビル柵を越えて影が空を待った。
- 309 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :04/07/02 23:01
- >>308
「俺は真中――両端任せた!」
ビル壁を蹴りながら叫ぶ。
自由落下の法則を従えて、落下速度を壁を蹴る足でコントロールする。走り出したら止まらない。目
的地はただ一つ。走って走って辿り着け。そこが狩場で奴等の墓場。
風切り音を鼓膜に響かせてライドする。スパイダーマンだって目じゃあない。白と黒と赤は、眼下の
廃屋へ頭上から急襲を決行する。
地上が迫る――器用にビル両翼へと駆けて行く二人を視界の隅で見送って、俺はただ下界を見据
えた。
目的地。
破壊すべきモノ。
火は翳り、雨は近い。雨を嫌う連中が空を見上げるだろうか? オーケイ、そのまま眠っていろ。眠
ったままの方が涅槃は近い。壁を蹴り、飛ぶ――地上25メートル、廃屋の屋根へと両足で着地。
ブレイドもダンテも地上30メートル地点にして視界から消えていた。失敗はない。
手筈は単純、俺が真中を、ブレイドとダンテは両翼を。三方からバン―バン―バン。片っ端からロー
ストしよう。
ゴルフバックからグレネードピストルを抜いて、足元に照準。
「それじゃ――」
無造作に、トリガーを。
「逝こうか、お客さん」
引いた。
耳を弄する轟音、蒸し暑い熱気を掻き混ぜる熱風を伴って、グレネードは天井に大穴を開け――
「こんにちは――それと」
荒れ狂う爆炎と解け崩れた屋根と、降り注ぐ破片と。
それ等全部を浴びながら、俺は工場の中心に立っている。
両手にグロックを、死に逝く者に花束を。
とりあえず両脇、大口を開けていたバカ二人を微笑みながら射殺した。
「――Party is over」
- 310 名前:アーヴィング・ナイトウォーカー ◆v8e3UHook2 :04/07/02 23:07
- >>308
それは閉じる瞼を相手に必死の抵抗を試みてる最中の出来事。一発で目が覚めた
飛び散るガラス片と吹き上がる埃、そして床を揺るがす轟音。
近いなんてモンじゃない。ここが現場だ。
爆発も一回で終わらない。こうして呆然としている間にも更に一回、また一回。
銃撃音も聞こえる。昨日まで外で鳴っていた爆竹なんかとは違う。今にも硝煙が立ち込
めてきそうな現実の銃撃だ。耳を澄ませば弾丸が壁を跳ねる音だって聞こえるだろう。
畜生、とがなりながら銀髪のお兄さんが廊下へと飛び出していく。その手には無骨なマ
グナムが握られていた。
廊下が慌しい。廊下だけではない。天井―――の更にその上も、気のせいか落ち着かない。
きっと、住民が迎撃にかかったんだろう。
外での威嚇とは違う。これは歴然とした"攻撃"なんだから。
―――どうする。
おれは、どうする。
やっぱ一緒に戦わなくちゃいけないのか。
おれも、ここの住民だから。
一緒に戦わなくちゃいけないのか。
正直、無謀だと思う。おれなんかじゃ役に立てるかどうかも怪しいモノだ。
それに出来る事なら、争い事は避けたかった。役人さんが出て行けと言うのなら仕方が
無い。また別の寝床を探したって良いと思う。それで喧嘩とかしないで済むのなら、そっ
ちのほうが余程に建設的だ。
ああ、でも。ここの人たちはそうは思わないんだ。基本的に血液が沸騰しているから。
ここで参加しなかったら、後で間違いなく苛められる。
そうでなくとも、多少なりともここの人達には恩は受けているんだ。さっき飛び出して
いったライカンスロープのお兄さんだって、おれに毛布をくれたじゃないか。ぼろぼろで
臭かったけど、あれが無ければここの夜は越せなかった。
ミラなんて、おれ以上に世話になっているはずだし。やっぱりここは―――。
また連続する発砲音。今度は一つじゃない。かなり多い。銃撃戦が始まった。
途切れ途切れに叫び声も聞こえてくる。
あれ、これってもしかしてかなり雲行き悪いんじゃないか。
まさか負けそうだとか。
どうしよう。
負ける勝負に助太刀するなんて、おれは構わないけどミラは絶対に嫌がる。
そんなの暇人のする事だって。
おれ達って暇人じゃないのかな、って聞くと今度は怒る。
どうしよう。
取りあえず。
取りあえず、ミラに聞いてみよう。
荷物はいつでも飛びだせるように、常に一つに纏めてある。
引っ手繰るように肩にかけて、駆け出す。
一度目の爆発が鳴り響いた時から手にしていたエンチャント・マグナムは、いつでもト
リガーを引けるようにハンマーは上げていた。
- 311 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :04/07/03 02:03
- >>310
どうにもならない。
どうにもさせてやらない。
何も反論させない。何も反撃させない。何もさせない――圧倒的な力の差を叩き付けて踏み躙る。
連中が世界にしてきたことを、そっくりそのまま、叩き返す。
それがせめてもの、これがせめてもの、俺にできる無辜の民への言葉の投げ掛けだ。
辛かったろう。悲しかったろう。
無駄に生きる寄生虫にあたら命を散らされる人間は、跡を絶たない。
後を絶たない。
絶つ。
根絶する。
クズを。
一匹、残らず。
殺到する混乱に紛れて、片っ端からトリガーを引く。
すっこんでろ、と目の前に出てきたガキの顔面を蹴り飛ばす。後頭部をドラム缶にぶつけて蹲った
所を速射でスイカに変えた。
背中に気配――感じるまでもなく、腋の下から構えたグロックで射殺。バン−バン−バン。三匹分の
悲鳴。さっきまでコーヒーを飲んでいた馬鹿を思い出させる銀髪が、足元で壊れた頭蓋に減り込んで
散っている。踏み砕く。アイツはアイツで暴れているんだろう。
鉄パイプが降ってくる。半歩間合いを逸らして横合いからパイプを奪う。顔面にフルスイング。頭を
スッ飛ばした。ホームラン。背後の馬鹿に直撃した頭部は、もう一つ頭部を破壊して飛沫に散った。
鉄パイプを捨て、走りながら左右にハンドグレネードを撒く。連鎖する爆音と悲鳴。死んで、死んだ後
にまた死んだ。
工場内はそれなりに広く、悲鳴の範囲はそれに比例して広い。
目的が工場内の完全殲滅である以上、何処を何処、と決めて戦闘するのは無意味だ。
グロックのマガジンを入れ替えながら駆け、掃射しつつ駆け、また殺して駆け回る。
連中の武装は通常銃器から最高で分隊支援火器――調整が悪いのか、回転の悪いミニミを優先
的に排除。足元や眼前で散華する銃火、鉛と鉄骨の接触音。遠慮なく連中が鉛弾をバラ撒くのは、
銀弾でなければ致命傷には繋がらないと思っているからだ。
悲しいかな、腐った脳ミソには蛮勇と勝利を直結させて思考してしまう程度の領域しかないらしい。
正面でSMGの銃声が響く――遅い。吸血鬼がトリガーに指を掛けた瞬間、俺は懐に飛び込んでい
る。眼前に顔。ひっ、と小さな悲鳴。嘲笑う。
「イイ加減、」
顔面を掴む。
眼下に指を突き入れる。
悲鳴を上げる馬鹿の頭を壁に叩き付ける。
「大人しく、」
そのまま、俺は。
「寝てろぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
走った。
耳が擦れ頬が擦れ骨が抉れ、顔面が半分に擦り切れて脳漿が噴出するクズの身体を引き摺って
駆け抜ける。
轟き渡る銃声。
頭部が半分欠けた状態のそれを振り出して盾に、序に銃撃の方向に投げ飛ばした。
まだ残党が居たらしい。
転がっていたUZIを拾い上げて一掃射。黙った。
UZIを放り捨てて首を振って見回す。
辺り一面は硝煙と小火災に覆われていて、生存(元から生きちゃいないが)を確かめるのは難しい。
反撃の色が沈黙した所を見れば、これで終結したと言ってもいいのかもしれない。と――
不意に、倒れた板を蹴り上げ(パーティションだったのだろう)て、そこに階段を見付けた。
「……地下?」
一人ごちる。
冷静に考えれば、グレネードの数発でも放り込めばいい。
冷静に考えれば、ここには人間はいない。
冷静に考えて、
ひょこりと顔を出した少女と視線を合わせた。
「――あっ、ぶ……な」
思わず突き出したグロックを引く。
ハードカバーの本を両手で抱えて階段を上がろうとしていた少女は、俺との距離数メートルを境界
にして足を止めている。
浚われてきたのか迷い込んでしまったのか、
「……もう大丈夫、ほら。こっち」
俺は少女に手を伸ばす。煤けた顔は、唐突に振ってきた災厄など予期もしていなかったのだろう。
責任の一旦は俺にある。
早く連れ帰らないと。「ほら」と手を差し出した。
こくりと頷く少女。地下の暗闇から明るい外へと金髪が曝け出し、
真紅の瞳が光に晒され、
「――死ね」
左手で首を掴んでから、右手のグロックを口の中に突っ込んだ。
- 312 名前:アーヴィング・ナイトウォーカー ◆v8e3UHook2 :04/07/03 18:22
- >>311
襲撃については、別に何とも思っていなかった。
ここの規模は見過ごせないほど大きくなっていたし、犯罪の温床にもなっていた。
"彼等"が始末を付けに来るのは当然だ。
いつか来るとは分かっていたから、それが今日でも驚きはない。
覚悟はしていたし、楽観もしていた。
その程度なら、アーヴィがどうとでも切り抜けてくれる、と。
―――さすがに調子に乗りすぎちゃったかもね……。
お陰でいきなり突っ込まれた。さすがにこれは始めての体験だ。
ミラはお口にアレをくわえたまま嘆息した。
この状態じゃ声も出させない。半端に抵抗しようものなら、すぐにでも後ろの壁に柘榴
の実を実らせる事になるだろう。
それに何より、冷酷と言う憎悪が篭った眼差しで自分で見つめるこの青年。
やばい、と思った。
似ている。異質だけど、似通っている。
人としての何かが欠けているために、人外の境地へ足を踏み入れる事を許された人間。
きっと彼は次の瞬間には引鉄を引いてる事だろう。
だけど―――。
「あ、あ、あ、あの、すいません神父さん……おれ、その、神父さんがその……それを口
に突っ込んでる女の子の、し、知り合いというか……きょ、兄妹なんですよ」
いつの間に、そこにいたのか。ミラはもちろん、青年にすら気取られず彼はそこにいた。
アーヴィング・ナイトウォーカー。ミラの危機に必ず駆けつける、彼女だけのナイト様だ。
「で、そ、その娘――ミラって言うんですけど――は……神父さんがアレを突っ込むよう
な娘じゃないです。だ、だって……」
青年の背中に縋り付いて、アーヴィは必死に懇願してみせる。
「だって、ミラは人間だから」
表情に殺気は無かった。ただミラを離してくれと、それだけを言っている。
けど、アーヴィの理性と本能は既に切り離されていて、
「神父さんはバケモノを狩るのが仕事なんですよね。だったら、ミラは許してあげてください」
青年の背中に深く突き立てたミスリルの刃を、更にぐいと抉った。
- 313 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :04/07/07 01:01
- >>312
「まーなぁ」
呟く。呟いたら背中が痛かった。
衝撃が背中にある。
突き刺されたから当然だ。しかも捻りやがった。冷たいブレードの感触が一気に赤灼した感覚に取
って代わる。
「薄汚いダニ相手に、突っ込むつもりもしゃぶらせるつもりもねぇよ。こうやって一ミリ指動かしてバン、
バン、それで終いだ」
ああしかし痛い。
まあ、そりゃ痛い。刺されてるんだから痛くない訳もない。
まあ。
まあ、だが。
気付いていなかった訳でもない。
ただ、この馬鹿を殺そうとしていて思考が沸騰していただけの話だ。つまりはミスだ。頭に来る。
「肝臓を狙うべきだったな」それでも俺が生き残っているのは天運か実力か、早い話――この馬鹿は
ここに来る器じゃない。俺と戦う器じゃない。生きていられる器じゃない。つまり、だ。「つーかいつまで
刺してんだ、」
右足を前方に振り出し、強く床を踏むステップ。一、二。
三。
「この、」
だん、とコンクリートを蹴る勢いでその場で反転。コマさながらに回転して、グリップで馬鹿の顔面を
張り飛ばした。転がっていく転がっていく。馬鹿が回って転がって、背後の壁に激突した。足元にスッ
転がったナイフに連射してブチ折る。やれやれ。なんでこんな馬鹿が魔法鋼使ってんだ。これでサリ
エルかカマエルのサークルが構築されてたらヤバかっただろう――そう思うと少し胸が悪くなった。
「――タコがぁ……ったく」
あー、痛てぇ。
背中に傷に触れてみる。
肉は抉れている。骨は折れていない。臓器の損傷は――ない。軽症だ。
傷が回復するまでに時間は大して掛かるまい。意識を集中して欠損部分から痛覚を除去。
戦闘支障率、ゼロ。
「……あーと、しかしなんだ」なんだっけ。何でこんな奴に時間取ってるんだっけ。頭に来る。「一匹、
二匹……妙だな、まだ残ったっけ。いやまあ良いや」
左手で首を掴んだまま視線を据える。
ブロンド、華奢な矮躯、紅の瞳――ヴァンパイアのクソ売女。
クソ食らえ。
「そうさ、安心しろ。こいつは人間じゃない。だから――」
キス出来る距離まで顔を近付ける。怯えのない顔は人形さながら、ナイフでも突き刺せばさぞかし
面白いだろう。
ゆっくり掴んでいた手を離して、背後のマットへ突き飛ばした。
「――Catch you later」
首を左右に一度振る。
こきりと二度鳴った所で、それじゃあ、と吹き飛ばした馬鹿を振り返った。
スイッチを入れる。世界が粘着質の空気に包まれる。知覚は思考と加速して、肉体と反応を一気に
突き放す。理解できる。感覚できる。今の俺は、世界を食らっている。
理解している。俺は理解している。
理想など虚ろだ。
幻想など捨てた。
夢想など届かず。
真実だけ追って。
現実だけ信じて。
だから、結論する。
不要で不快でどうしようもないクソったれのこの連中は、どうにもこうにも死ぬしかない。
「失礼、言い遅れたな。――だから、テメエは要らねぇ。とりあえずここで死んどけよ」
言いざまトリガーを引いた。
跳ね落ちる薬莢がアーチを描くのを眺めながら蹲る馬鹿に掃射。空気が弾ける音、世界が弾ける
音、残らず集弾させた9パラが飛来する空気の波さえ手に取れる。
何もかもが認識できる。
何もかもが理解できる。
だったら殺せる。殺してやろう。
撃って、撃って、銃身が焼けるまで正面で転がった馬鹿に撃ち込んだ。
- 314 名前:アーヴィング・ナイトウォーカー ◆v8e3UHook2 :04/07/08 03:57
- >>313
殴られた。しかも拳銃のグリップで。
拳銃のグリップって、要は鉄の塊なんだろう。
なら、鉄鎚で殴られたのと同じ事なんじゃないのかな。
ああ、でもあの拳銃はプラスチックで出来ているんだったっけ。
なら、まだ痛みは少ない方なのかもしれない。
こんなに痛いって言うのに。
視点は定まらず世界は回っている。
頭の中では衝撃の音が未だ谺していて、意識は朦朧。
なのに頬から疾る痛みだけは強烈に自己を訴えてくる。
「あ―――は、は―――はは」
ずたずたに引き裂かれた口内。息苦しくて、溜まった血反吐をどうにか吐き出した。
赤いコートの裾が更に朱に染まる。
ついでに白い欠片も吐いた。きっと奥歯の破片だ。酷いな。
「は、はは――やめて、くださいよ、神父さん」
痛みを堪えて、吐き捨てるように言葉を紡いだ。
だからおれは人間なんですって神父さん。あんたと同じ人間なんだ。
そう言いかけた瞬間、視界が光で満たされた。
時間にすれば一瞬。
その一瞬、全身のばねを用いて跳ね上がり、壁に足をつけて更に跳ねた。
駆け抜ける銃弾を眼下で感じつつ、手は懐へ。
コートが翻る。それは自然に、神父へと向けられ。
トリガー。
セイフティを外して、ハンマーをあげてトリガー。その決められた動作をいつものよう
にこなして、撃ち込んだ。
- 315 名前:ちょぃと失礼:04/07/08 22:17
- 未完の闘争報告
『殺人貴』vs 遠野秋葉(反転)&弓塚さつき(死徒27祖Ver.)
アルクェイドVSダイ・アモン&タバサ&アーカード(M)VSシエル
アドルフ&江漣 in 魔界のピラミッド
量産型セリオ(リオ戦闘特化型) vs HMX−13serio(試作型セリオ)
これらの続きが気になります。
それと、間違いがあれば言ってください。
- 316 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :04/08/11 23:38
- >>314
着弾音は水っぽくはなく、爆ぜたのは血飛沫でも肉片でも骨でも脳漿でもない。ホロウポイントが
壁を抉る独特の撃砕音。
ヤツは避けている。弾が届くより早く、ヤツは地を蹴り頭上へと舞っているからだ。
悪くない動き。悪くないゴミだ。翻るコート下、ヤツの隻腕と義手が露になる。更に壁を蹴ってスパ
イダーマンか忍者の三角飛び宜しくヤツは廃屋の濁り空を舞い――その姿勢も不安定に視認での
照準もそこそこ、
濁り空でマズルフラッシュが瞬いた。
直後に首を傾ける。更に直後、頬を掠める風と背後を穿つ撃砕音。ドラム缶が拉げるような残響を
耳に残響する。その場で床を蹴り飛ばす――姿勢ベクトルは後方へ。
十メートルの距離を飛び離し、視界下にマグナムサイズの着弾で中央が大きく拉げたドラム缶を
確認。着地の寸前、着地に移っていたヤツへとドラム缶を蹴ッ飛ばす――「INFLAMMABLE」。正面
から拉げた鋼製ドラムは逆方向からヘシ曲がりつつ正面へスッ飛び、
速射――着弾、散逸。
俺とヤツの境界で、粉塵と瓦礫と死体を巻き上げて熱の波が席巻した。崩壊する肉片、散逸する
瓦礫、弾け飛ぶドラム缶の破片――加速した知覚の中、コンマ送りでヤツと俺の境界が粉砕されて
いく。更に床を蹴って天上へ。倉庫内をぐるり一周する足場の手摺に着地。攪拌された下界の噴煙
と靄は形を変え行く灰色のシュークリームのように見えた。両手のグロックを握り潰し、肘と手首を曲
げてカソック袖内のスリーブシステムを解除。
掌に送り込まれた新たな死神。グロック17、しめて二丁。17×2、34度の告死状。
「ヘイ、ミスター・ヴァンパイア? 全く以ってココはクソのようだな。いいや、お前等がクソに変えちま
ったのさ。全てがクソに変わっちまった。だからさ。だから――」
一階は粉塵と爆炎の余波で靄に閉じている。
下界の流れを眺めつつ、懐から9ミリ×21のロングマガジンを四つ引き摺り出す。天上までの高さ
を確認――更にここから約10メートル。大した高さだ。
さあ踊ろう。
アンチ・ヒューマン。
アンチ・クライスト。
アンチ・デーモンがお相手だ。
引き出したマガジン四つ――残らず天上まで投げ上げる。
「俺は憎むヤツを憎み、強姦するヤツをレイプする。――アンチ・レイピスト、アンチ・デーモン、アン
チ・ヴァンパイア。見ろよ。見てるか? まだ死んでないか? 死んでないだろうな。だからさ」
両手を眼下の靄に照準し、両の指を感覚で連動し、一、二、三、四度――疾駆する弾丸が靄を攪
拌し、空気を焦げ付かせる。手摺を蹴り、再度汚濁の宙へと。死刑執行のランデブー。
舞う空はホコリと煙、灰色のカオス。傾ぐ姿勢に合わせて腕を調整し、五、六、七――姿勢は身体
と床が垂直、倒立前転の体勢へ。八、九、十、十一、十二、十三、ユダの数字を数えた所で逆側の
壁へ。十四、壁を蹴り、勢いを付けて中心部、ヤツの在るだろう靄の奥へ――十五。
死神のギグを踊って、腐った脳ミソをブチ撒けよう。着地音は十六回目の銃声に紛れた。
靄の奥の気配へ向けた両手――罪を弾劾する二発の十七度目を湛える。
「――さっさと消えちまえ」
- 317 名前:アーヴィング・ナイトウォーカー ◆v8e3UHook2 :04/08/11 23:39
- >>316
着地と同時に迫るドラム缶に銃口を向け、トリガーを絞る―――直前、視界に光が広が
り続いて爆音。最後に熱波と爆風が全身を襲った。
弾ける無数の破片のうち、とても避け切れそうにない一部に向けてトリガー、粉砕する。
爆発自体は大して規模じゃなく、ダメージもないと言っていい。煤けた髪の臭いを感じ
つつ、入れ違いに跳んだ神父を目で追った。
硝煙と吹き上がる爆風で遮られつつある視界の中、あの人はしっかりと見下ろしていた。
蔑むように。しかし憎悪に燃えつつ、冷酷に。
鼓動が更に穏やかに。頭の中は整然とされ、必要以上に落ち着いていく。
オーケー。おれは心中でほくそ笑む。あんたがそこまで言うのなら、おれは構わない。
あんたの言うその役回りでやろう。
おれはあんたの言うくそ野郎で、ファンギーで。
あんたは人間だ。
意思なんて無視して、勝手に身体が跳んだ。同時に穿たれる地面。無数の孔がアスファ
ルトに飛び散る。続いて腰が回り、左の義手が空気薙いで銃弾を弾く。痺れが肩まで奔り、
その快感に思わず口笛を漏らした。
続け様に襲い来る弾丸をかわしながら、ああ、と納得する。身体が勝手に動いているん
じゃない。ただ意識より疾く反応しているだけなんだ、と。
なら、追い付かなくちゃ。意識が。疾く。意識が身体に追い付かなくちゃ。おれなんて
存在は、この身体には一切不要ってコトになってしまうじゃないか―――。
身体を躍らせて跳んで、転がり、立ち上がってステップを踏んで、雨の如く降り注ぐ弾
丸をとにかく避けまくる。間に合わない銃弾は、義手で払い落とした。左腕の感覚はもう
殆ど無い。このまま義手もろとも砕け散るのも時間の問題だろう。
いったい何時までこの雨は続くんだろう、と思ったトコロで小休止。その一瞬後に一発。
頬を掠めて地面に着弾。動いたな―――弾道から射手の居所を読み取り、銃口を向ける。
が、トリガーを絞る一瞬前に左肩に衝撃。そのまま床に片膝をついた。
見なくても分かる。銃創から流れる赤々とした血。止まると撃たれるコトを承知してい
る身体は、床に血糊を撒きつつ回避行動を取った。
更に一発をすれすれでかわす。近い―――あの人はもう、降りている。
床を蹴って跳んだ。Eマグの残弾は四発。ミラのリロードは期待しちゃいけない。ミラ
を危険には晒せない。なら、ここは―――
一発はかわしたけど、もう一発が脇腹を抉った。鮮血が飛び散る。大丈夫。勢いは殺さ
れていない。肩の痛みを無視して振り上げる義手。硝煙が割れ、その向こうにいる黒髪頭
に向けて鋼の義手をハンマーよろしく振り下ろした。
- 318 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :04/08/14 02:31
- >>317
グリップを振り上げる。反応は思考より速く、行動は認識より速い。
強化プラスチックで鋼鉄製の義手を受け止める――行動を口にするなら端的明快だ。
鉛が降って来た。そう錯覚せざるを得ない、フザけた質量が落ちてきた。
「の、非常識バカが――」
17回目の弾音。34発の告死。全部を避けた挙句、馬鹿はまだ健在。
心中での舌打ち三回、グリップを力任せに振り切って義手を弾き挙げる。断続的に加
速する思考、肉体を置き去りにする速度。
毒性の空気を吸い込んだ心境だ。何かの悪い夢のように全てがノロマで、自分の声さえ
遠い次元の彼方から飛んでくるような気分。
右手、薙ぐように振り切ったグリップ――そのまま右手側に体重を、体勢を預ける。グ
ロックの腹を床に接触させる。弾切れした銃身に暴発は無い。右足が浮く。左足が釣ら
れて浮く。左手が床に触れる。両手で全体重を支える。
ドロドロに濁った空気と、ライフル弾がカメに等しい速度に思える知覚加速で倒立状態。
逆さの視界で見上げるバカのツラ。
いいよ。まだ生きてんだろ、テメエ。常識の範疇内ならテメエ何回死んでんだよ。
解ったよいいよもう。いいよ。いいよもう死ねテメエ。
――とっとと死ね、ブタ野郎。
倒立から右足は絞るように、蹴り足の左足を伸ばして。
カポエラの真似事――狙いはヤツの首筋。
ドライバーでネジを巻くように、全身を左から右へ絞り切った。
- 319 名前:夜羽子・アシュレイ ◆8PrVG1UoXs :04/08/15 04:07
- ふーん これが噂の吸血大殲ね。
ま、私も力を貸してあげよっか。
人間でない者が生きられるのは人間でない社会だけ …だからね。
出典 :アクエリアンエイジ(カードゲームね。知ってるかな。)
名前 :夜羽子・アシュレイ(アシュレイはパパの名前、クォーターなんだ。)
見た目:背は低め、赤目、青緑色の髪、赤いブレザー、八重歯だよ。
年齢 :15(吸血鬼の血に目覚めたのは中学に入ってからかな。)
性別 :女の子だよー
職業 :花も恥らう中学生?
「ダークロア」の幹部だよ
ヴァンパイア
生息地:東京の郊外。中流上位の家庭かな。
あと、富士山麓の樹海。ダークロアの日本支部があるから良く行くよ。
趣味 :棺桶で昼寝。
恋人の有無 :はいはい、いませーん、好きな人はいるけどね。
女の子も嫌いじゃないけど
好きな異性のタイプ :アルカード様。
好きな食べ物 :トマトジュース
最近気になること :人間の友達に「夜羽子って隠れて残酷」って言われたんだ。
そうなのかな。考えても仕方ないけど。
一番苦手なもの :大蒜
十字架には耐性があるよ。しょっちゅうWIZDOMの魔道士と闘ってるし。
得意な技 :生気を奪い取る。敵の能力を激減させる。
精神力の少ない者を魅了して仲間にする。
影を動いて移動できる
一番の決めゼリフ :「もー許してあげない」
将来の夢 :ダークロアの覇権だよ。
ここの住人として一言 :私達と仲良くなれそうなな人たちが一杯いるなぁ。
ここの仲間たちに一言 :人間でない者達が本当に自分たちらしく生きれる世界をつくるため
一緒に頑張ろうよ。
ここの名無しに一言 :よっろしくねえ。
えーと、
少し補足しておくね。私はダークロアって言う組織に所属してるんだ。
一応日本支部では幹部の一人かな。腕には自信があるよ。
(一応、ダークロアの主人公だしさ)
むかしっから、地球では三つの勢力が戦ってきたんだ。
西洋の魔術結社 「WIZ-DOM」(魔女とか錬金術師とか)
東洋の霊能力者集団 「阿羅耶識」(巫女とか武道家とか)
そして人間でない血を伝える者、人狼、鬼、吸血鬼、妖精、エルフなんかが
所属し世界の覇権の奪回を目的にしている「ダークロア」ね。
…まあ、最近では「EGO」とかいう第四の勢力があらわれて、四つ巴の戦いに
なってるけどね。何だか、超能力を使う「進化した人類」が所属している組織みたい。
私が聞いた話によるとね… 大昔は私達「闇の種族」が世界の覇権を持ってたらしいんだ。
でも人間の魔術師達が力を得て私達のご先祖様を追放したらしいんだ。
まあ、人間達がこの世界の覇権を手に入れてから何だか地球の方もおかしくなっちゃってるし。
そろそろ、人間がはばをきかせる世界はおわりにしなきゃね。
(ここまでが原作の世界観の設定だよ。興味ないOR不都合なら無視してね)
とりあえず毎日見てるから私の力が必要な時は何時でも呼んでねえ。
んじゃ。ね。
- 320 名前:アーヴィング・ナイトウォーカー ◆v8e3UHook2 :04/08/16 14:18
- >>318
火花が散った。弾ける義手。
防がれた。
足捌きと筋肉の流れ、それに呼吸が完璧にシンクロし、極め付けにタイミングまでもが
ブレンドされたこの一撃が。まさに"死ななければいけない"ほどの説得力を持って振り下
ろされたこの一撃が。
防がれた。
この人は非常識と罵ったけど。
おれにはもう、
何が非常識か分からないよ。
考えなしの渾身の一撃を放った代償は、まず姿勢に現われる。
もつれる足元。揺らぐ重心。崩れる体勢―――流れる視界。
世界が、反転した。
違う。
反転したのは、神父さんだ。
彼だけが天に足を―――
そして今度はおれのターン。
視界にある全てが縦横無尽に揺れ、崩れ、流れて回った。
爽快とすら思える衝撃。頬が裂け、骨が砕けた。歯は散り、鮮血が視界を染める。
フライフィッシュのスカイハイ。おれは跳んでいる、空を。舞っている、宙を。きりも
みしながらも。鼻血を吹き散らしながらも。
渾身の一撃は、渾身の一蹴によって返された。崩れた姿勢が幸か不幸か、あの人の狙い
よりやや上、左頬にクリーンヒット。脱力状態だったこの身体は面白いほどに跳んで、回
った。
あの衝撃を受けて、まだ首と頭が繋がっている。頭蓋骨は砕けておらず、脳漿は散って
いない。その事実に感嘆と若干の残念を覚えながら、墜落。アスファルトに肩から落下し
たその姿勢のまま――― 一発。神父さんの眉間に向けてトリガーを絞った。
視界の端、僅かに紅く染まったそこに、ミラがいた。
いつものように大人っぽい無邪気な笑みを浮かべていない。
表情は強張り、真紅の瞳は涙で揺れていた。
ああ、どうしてミラ。君は一体何が不安なんだ。
- 321 名前:名無し客:04/08/16 20:41
- >>319
http://www.tpot2.com/~vampirkrieg/bbs/test/read.cgi/vampire/1053882432/
↑
闘争を御所望であれば、上記のスレッドで募集されては如何でしょうか。
呼べばきっと応える人が居る(予定)。
- 322 名前:名無し客:04/09/04 16:35
- あ
- 323 名前:緋皇宮神耶 ◆Hiogu1XLj2 :04/09/13 10:50
- 闇の中から、一人の少女が歩いてきた。
身の丈を軽く越える巨大なトランクケースを背負った、赤い瞳の少女が。
「……此処にも、魔物がいる――」
少女の呟きに応えるように、背のケースがわずかに開き、人あらざる瞳が覗く。
<ええ、そのようですね。どうしますか、神耶>
背の声に、神耶と呼ばれた少女は応える。
「別に……魔物は、全部殺すわ……ルヴァウル……」
出典 : 大番長(アリスソフト制作)
名前 : 緋皇宮神耶(ひおうぐう・かぐや)
年齢 : 知らない……
性別 : 女
職業 : ハンター……なのかな……
趣味 : なし
恋人の有無 : なし
好きな異性のタイプ : なし
好きな食べ物 : ……ケーキ。白くて、ふわふわしてて、美味しいから――
最近気になること : 自分の身体
一番苦手なもの : 人と関わりあうこと
得意な技 : 背のトランクケースに住む魔物、「ルヴァウル」による直接攻撃
後、杭を打ったりするぐらいなら……出来るから。
一番の決めゼリフ : 「私は、お前達の存在を許さない……
私はお前達を…完全に…完膚無きまでに……殺す……」
将来の夢 : 魔物を皆殺しにすること
ここの住人として一言 : ……別に、無いけど。
ここの仲間たちに一言 : 利用できるなら、利用するから。
ここの名無しに一言 :巻き込まれても、知らないよ。
魔物を狩る……って言っても、ちゃんと吸血鬼と戦っているから……ここへの参戦資格……あるよね?
カテゴリーは、どうしたらいいのかな……?
私、人間じゃない……この身体は、魔物の肉で出来ているから――
でも、ハンターだけど血を吸わないから、吸血殲鬼じゃないし――
<困りましたねぇ。とりあえず暫定でD、ということにしておきましょうか。
といっても、細かいカテゴリー分類ならばBよりのDなのでしょうが>
- 324 名前:ジェイソン・ホービーズ ◆vn/WMETVxI :04/09/27 23:07
生い茂る林、霧に包まれた奇怪な森。
その奥から、重苦しいという表現の似合いそうな足取りで歩いてくる大男。
顔には苔生したホッケーマスク。
服装は苔生した上に虫喰いだらけの、デニム地のシャツとジーンズ。
その巨大な肉体からは朽ち果て、腐臭が漂っている。
何故動いているのかすら、理解不能になってしまったモノ――
ジェイソン・ボーヒーズ。
クリスタルレイクで水死した少年が、死後、成長した姿。
怨念のみで殺し続ける、不死身の殺人鬼である。
出典 :十三日の金曜日
名前 :ジェイソン・ホービーズ
年齢 :不明(六十歳以上?)
性別 :男性
職業 :無職
趣味 :不明(殺人?)
恋人の有無 :無し
好きな異性のタイプ :不明(とりあえず、セックスばかりしてる女は嫌いらしい)
好きな食べ物 :不明(食事の描写が存在しない)
最近気になること :「…………」(クリスタルレイクとエルム街って結構近い)
一番苦手なもの :水
得意な技 :その時によって様々な武器を使用して人を殺す。鉈、斧の類が多い。
一番の決めゼリフ :無し
将来の夢 :不明
ここの住人として一言 :「…………」
ここの仲間たちに一言 :「…………」
ここの名無しに一言 :「…………」
また、心臓を貫かれようが鉄骨が突き刺さろうが、簡単には死なない。
基本的に銃は効かず、魔術や退魔術、聖なる法術の類も通用しないと思われる。
彼を殺す為には、肉体を消し去るか、耐久力を上回る物理攻撃を与えるしかない。
クリスタルレイクに近付くモノは、何であろうと容赦なく殺す。
何度殺されても蘇り、殺人を繰り返す古参の殺人鬼の一人である。
吸血鬼でも無ければ吸血殲鬼でもなく、既に人とは呼べぬ体。
死んでいると言うべきなのだろうが、生憎ながら心臓は動いている。
消去法で考えるならば、カテゴリーはDという事になるのだろう。
彼は挨拶代わりに、近くの車のカップルを殺害し、森の中へ戻っていった……
- 325 名前:◆WEISS0lzjQ :04/09/27 23:50
- >>320
某州郊外・PM9:06
銃が重い。手が痛い。肩も重い――ああ畜生、これだったらガバは止めてベレッタにする
べきだった。
ぜぇと荒い息を繰り返す。防弾仕様ジープのドアにぴったり背を貼り付けて、ボブ=ジョイ
ス陸軍二等軍曹は耳の横に構えたガバメントの重量を心の底から呪った。そろそろこの手
を降ろしても良いんじゃないかと自問自答して、一時間前までひっきり無しに続いていた銃
声を思い出して身震いする。駄目だっての、くそ。降ろすな俺。
ジープの逆側、今は静かな廃工場からは、耳が割れるような発砲が響いていたのだ。蜂
の巣になった警官は回収出来ず、一番古い死体はそろそろ臭いがキツくなってきている。
生き地獄。
まったく冗談じゃない。ここはベトナムか? 眠りたい時に眠れるのがこの国じゃなかった
か? シット。それ以前の問題だ。
"牙付き"、"血吸い"、"ドラキュリアン"――ヤツ等に背を向ける事なんて出来やしない。
一撃必殺、初弾でブチ殺すのがベターなセオリー。噛まれる前に殺れ。
だからわざわざ時代遅れのガバなんて使ってるってのに。
なのに、クソが。
「なんで動かねェんだ、連中」
「さぁな。フィットネスクラブにでも移動したか、それともブタと牛の血で晩酌か――オイオイ、
"恋する十字架"の再放送だったんだぜ、今日。レベッカとLAPDの宿直室でコーラ片手に
鑑賞会の予定だったのによ。で、冷房の効いた部屋でファック三昧バンザイ」
返答は開きっぱなしの運転席窓から返って来た。
舌打ちして吐き捨てる。
「くたばっちまえ」
「僻むなよ」
デム。このクソ相棒をさっさとアンタの御許に送ってくれ。
改良ジープの運転席に座ったまま、ティムはくすくす笑って無線機を弄っている。
若い相棒に毒づいて、ボブは自分の仕事に戻った。
役割分担――スナイプの名手、ベトナム戦争ホワイト小隊の英雄、ボブ・ジョイスは司令
車周辺での迎撃と防御、CIAからの出向組に当たるアーサー・アレクテンセンはリアルタイ
ムで有線電話での盗聴を繰り返す。世論に押されて陸軍の出向が不可能な地域である此
処に警察所属の人間以外が派遣される理由は、結論して"くたばってもいい"アウトサイダ
ーの処理と置換できる。体の良い厄介払い。新世代を迎え、吸血鬼を迎え、傭兵制度を復
活させたような徴兵には感謝したが、この扱いは極北と断言していい。
だが、それでも。それでもこれはいかにも不公平じゃないか。ここまでの肉体労働はワリ
に合わない。また舌打ちして、凭れたドアを左手の甲で叩く。
「おい、アース」
「あんだよ」
「タバコ。手が離せねェ」
「ケチってオレの吸う気だろ」
「当たり前だ」
「けッ、セコいっつーの」
"タト2"で刺れたと自慢していたカブキのタトゥーが入った右手でデカいパソコンを弄りな
がら、アーサーはあいよ、とゴロワーズをボブの口に咥えさせた。言いつつの片手でのブラ
インド・タッチ。ジープ運転席に据え付けられた十のモニターに視線を走らせる元・アングラ
ネットの支配者階級は、CIAの鬼ッ子――外れ者だ。いつの時代も生まれる、生まれてしま
う、時代に排斥されるべき存在。
排斥される事を嫌い、時代を押し流す力を持った異端者。"中"の連中と同じ――いやいや、
違う。それは違う。ボブは心の中で首を振る。
連中はただのクズだ。
- 326 名前:◆WEISS0lzjQ :04/09/28 00:08
- >>325
「火は?」
「要らん。持ってるよ」
ジッポを弾く。焼くような火力で火を点ける。吐き出す煙の奥、見上げた空は五時間前の地
獄の快晴から開放されて、気持ちばかり涼しい暗色だ。
だが気を付けろ。この時間、この瞬間、"ヤツ等"は一番元気になる。コウモリのように、猫
のように。
保健所職員が駆り出されるのは、だから決まって夜で――ああ、なのに。
「……冗談じゃねぇ」
「なんか言ったかよ、オッサン」
「言ったぜ。ビールが飲みてぇ――ウソだよ。いかにも動きがない。なさ過ぎる。クレーン・ハ
ンマーの到着予定は四時間前で、突入予定の最終期限は三時間前、午後の六時だ。夕食
時だ。ヤンキースの試合の時間だったんだ。それがよ」
「動かねーな、確かに――あ。あー、だけど一つ」
「あン?」
窓から運転席に身を乗り入れる。入れて後悔した。アーサーの操作している機械の煩雑さ、
雑多さは、コンピューター・ナードの領域以外の何物でもない。インターネットに繋ぐ事さえ一
苦労のボブには目の毒だ。
知ってか知らずか――知っていても多分知った事じゃないだろうアーサーは、無遠慮にキ
ーを叩いて画面を幾度も切り替えて見せる。真っ黒な画面。グラフ。ノイズ――意味不明。
無線とM16だけで戦えた時代が懐かしい。
「見ろよ、これ」
「見たよ。見ても解らん」
「あン中の電話記録だよ。ちょっと前まではイタズラ電話とかQ2のエロ会話が少しはあったっ
つーのに――アレだ、急に切れた。一ミリグラムも聞こえねー……ああ、これマジだ。確認取
れた。テレピだけなら兎も角よー、回線上に置いたダミーの盗聴器までダマりやがった。ああ
くそ、何だこれマジで有り得ね……あ」
「待て。俺に解るように説明し、」
口中で煙を転がし、アーサーに顔を向けて――顔の前に「待て」と手を差し出された。キカ
イ音痴への待遇はそれか。舌打ち。
「ちょい黙ってオッサン――、――――、――あ? ああ? ……――なぁ、オッサン。"中"に
スリーパー潜らせたりヒューミントさせてるってハナシ、聞いてる?」
「あぁ? 知ってるだろうが、"連中"は死人とそうでないモノを嗅ぎ分けるからな。諜報なんぞ
無理だ。机上の空論がお得意の上層部も、敢えてミイラを増殖させるつもりはねェよ」
云う。アーサーは頷き、再度キーを叩き――眉をひん曲げて、「だよな。その筈、だ――が、
――あ? あぁ!?」ヒスったように叫んだ。「オイなんだこれ盗聴器全滅だァ!? ッざけん
な、あのクソッタレ共がオレ様の介入を遮断なんぞ――」
ボブは落ち着け、とアーサーの肩を抑え――抑えた瞬間、ボブの背中が爆発した。
いや。
正確には背中のジープの更に背中、工場がロケットで弾けるような爆発を起こした。黒煙が
天を突き、オレンジ色の炎波が外へと漏れ出している。痕跡から見るも明らかな、疑いない内
部からの爆発だった。
ジープから降りてきたアーサーと顔を見合わせる。運転席から飛び降りるハッカーにバック
アップ用のグロックを渡して、ゆっくりと車体の陰から工場を伺う。
他の要員は別所の警備――呼びに行く時間は? A.「NO」。
「……オッサン」
「お仕事の時間だ――行くぞ。ナイス・ジョブを心掛けな」
反応、ナシ――飛び込むように身を躍らせた。
ガバを油断なく工場に向ける。あたふたと後を付いてくるアーサーもグロックを工場に向けて
いる。心音が弾ける。今にもあの中から、あの夜の中から、首筋目掛けてケモノが飛び掛って
くるような錯覚がある。
逃げ出したい。今、すぐに。
「……お、オイ、オッサン、取り合えず戻らねぇ……? これさ、なんかオレ達だけじゃいかにも
ヤベぇっつーか、」
「そういえばな」
「な、なんだよ」
「ガチンコなら連中一匹でSASの一個小隊と相打ちらしい」
「だっ、解ってんじゃねーかよアンタ!? だったら戻――」
唐突にアーサーが口を閉じた。息を呑んでグロックを握り締める――素人の悪いクセ、力み
過ぎ。その異変に気付いて視線の先を追ったボブは、
「退けッ!」
舌打ちして、アーサーの前に踊り出た。
脚は肩幅に開き、両手を突き出し、FBI式シューティングで工場へ銃口を向ける。
工場から走り出してきた、一つの影に。
- 327 名前:◆WEISS0lzjQ :04/09/28 00:22
- >>326
「フリーズだよ、クソ野郎! 一歩でも動けば――」
「た、助け――助けっ、」
問答無用でトリガーを絞ろうとして、違和感に動きを止める。
「助けて」? 追われている――誰に? 隊員に? それともコイツはただの住民?
――フェイクなのか?
くそ、なんだって――
「お、オイオッサン!? う、撃てよっ! アイツどう見てもあれ、"連中"じゃねーかよ!」
「黙ってろ! 解って――」――解ってる。誤射で同僚を撃ち殺した最低のアウトサイダーにだ
って、俺にだって、それくらいは、「くッ……!」
手が震える。
アレは敵なのか。殺してもいいのか。間違いじゃないのか。もう俺は間違えていないのか。
トリガーを引く、その寸前、
「助――げ」
走り出してきた男の口から、銀色の舌が伸びた。
「――な」
舌は男の頭部から迫り出したかと思うと、次瞬には一条の銀光となってボブの眼前を掠め、
そのまま弧を描き――工場の方向へと飛んでいく。飛んでいく銀の光。
断ち切られて飛び上がった、男の頭部。
「な……ん、だあぁ……ッ!?」
アーサーがヒキガエルのような声を上げた。
それも当然、走り出してきた男は銃弾に吹き飛ばされた訳でもなければ、そもそも銃声もな
かった。ならば説明がつかない。頭部を半分の位置で切り取られ、スプリンクラーのように血
を流す男の説明が付かない。
そして。
漸く自分の死を認識したように、しぶしぶと地面に倒れ伏す身体――その向こうに。
死神を、見た。
「――逃げられると思ってたのか」
底冷えするような声が耳に痛い。だが――死神の声なら、或いはそれが当然なのかもしれ
ない。心底、そう思う。そこに立っていたモノを表現するに、ボブは"死神"という単語を選んだ
が、それはけして大袈裟ではない。
いや、確信する。それは事実だと。
漆黒の全身。黒の肌、黒のボディスーツ、黒のパンツ、黒のマント――右手には銀色の、
あれは、まるで、そう。ニホンの、カタナ。ニホン贔屓の死神。
左手を見て、ボブは息を詰まらせた。銀色のブーメラン。まるで刃のような――刃その物。
その銀色の舌のようなブーメランを左手に、死神はカツカツと歩いてくる。
歩みは止まらない。無造作に、冷淡に、こちらへ。
あまりに無造作で無作為なその様に、アーサーが奇声を上げて発砲した。幾発かは胴体
に命中したが、死神は顔色一つ変えず歩いてくる。
人間じゃ――ない。
- 328 名前:◆WEISS0lzjQ :04/09/28 00:34
- >>327
「ひッ……」
アーサーが一歩引き、序にブザマに転んだ。死神は歩いてくる。カタナを片手に、ブーメラン
を片手に。
ちょっと待て、待てよくそ。状況くらい説明しろ。
殺される寸前までワケが解らずに地獄行きか。笑えねぇ――声は出ない。身体が動かない。
これは死か。これが。これが、死――クソ。クソが。
フザけた死に方だ。ヴァンパイアと勘違いされて死んだアイツも同じ事を思ってたんだろうか。
これが報いかよ神様。気の効かねぇ。ああ、くそ。
いいさ、やれよ。
だったらせめて俺は人間のまま死んで、
「おい」
人間のまま、
「アンタ人間か?」
「あ?」
誰かが言った。アーサー。いつまで寝てんだテメェ。寝て――気絶かよ。待てよオイ。
なら誰が言って、
誰が人間かって言われても、俺が人間かってそんなの見れば、
「……あ、え?」
「アンタが人間かって言ったんだ……ふん、まあいい。聞くまでもなかったな。――ああ、だが
それよりそっちのだ。いきなり撃ってくるってのはどんな了見だ? 最近の警察は『動く物を見
たら撃て』ってのが指導方針に変わったのか? どこの猟師の教えか知らんが、痛かったぜ」
気付けば、そこに――死神が、目の前に立っていた。
ソレがポンポンと腹の辺りを叩くと、ポロポロとアーサーの放った弾丸が零れ落ちる。潰れた
9ミリホロウポイント。
そう、目を凝らせばボディアーマー状のプレートが胸に当てられていた。これなら確かに弾
丸も受けられる――いや、それでも弾丸の衝撃にうめきもしないのはどんな理屈か解らない。
声を絞り出す。息を飲む。唾を飲み込む。
「……あ、アンタ」
「なんだ」
「アンタ、に、人――間?」
死神は鼻を鳴らし、ブーメランを懐に仕舞った。次いでカタナを放り投げ――キリモミして落
ちてきた刀身は見事に死神の背に納まる。死と隣り合わせの一発芸。
「人間か、と言われれば――」ひょい、と肩を竦める死神。「半分はな」
「え?」
「なんでもないさ。……ああ、それよりアンタ、警察の人間か?」
「え、あ、ああ」
「なら丁度いい。周辺の連中を全員撤退させろ。早急に、一人残らずだ」
「あ、ああ……あ?」
「撤退させろ、と言ったんだ。工場の中はとっくにロースト・ヴァンパイアで埋まってる。手足を
離して転がしてやったからな。ハデに焼けるだろうよ」
混乱が加速した。
つまり――つまり、この男は、
「あ、アンタ……あの中の連中と」
「アレなら殺してきた」にべもない返答が返って来た。「戦ってきた」ではなく、「殺してきた」か。
過去形の脅威。「中に有ったC4をありったけ仕掛けてやったからな。あの様子じゃそろそろ持
たんだろうが――ああ待て、中に居たのは俺一人じゃないんだ」額を抑え、溜息でも吐くように
続ける。「……誰か見なかったか? 外に出てきたのは俺だけだったか?」
「だ、誰か?」
そうだな、と死神は顎を撫でる。
「……趣味の悪い真っ赤な服を着てダサいシルバーで飾って背中に馬鹿にデカい剣を背負っ
たバカと――真っ白な服を着て世界を呪うみたいな目付きをしたガキだ。どっちにも特徴があ
るからな。見たら忘れやしないと思うんだが」
見なかったか――と言われても困る。
つまりそれは、この死神があと二人居ると言う事なのか。
軍隊が突入を諦めていた場所から出てきたあの地獄から歩いて生還したこの男は、一体ど
んな化け物なのか。
「見てない……が、待ってくれよくそ、アンタ一体なんなんだ? X−MENのメンバーとか言わ
ないでくれ。現実が信じられなくなりそうだ」
口元を吊り上げ、死神は工場を振り返った。
「安心しろよ」
炎を吹き上げる砂上の楼閣。三年に渡って恐怖の城と成り果てた工場は一秒先にも崩れ落
ちそうな様相を呈している。
「連中が居るって時点でこの世は奇想天外なんだ。しかし――やってられんな。遊び過ぎだ、
あの馬鹿共。さっさと出て来いってのに」
気絶した相棒。
燃え上がる目標。
正体不明の救世主。
ボブは天を見上げて、居やしないと吐き捨てる神に祈った。
――主よ。俺を現実世界に戻して下さい。
- 329 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :04/09/28 01:07
- >>328
某州郊外/廃工場内・PM9:06
蹴り飛ばした。首を捻るように足先で巻き込んだ。ああ、なのに。
なのに――殺してない。今のは。
今のは、殺し損ねだ。
だから、直後に反撃が来た。
体重を支える両手――力を込めて地面を突けば、反動で跳ねた身体の真下、擦過音が掠め
て過ぎる。直後の着弾音は壁を削った、と確信。大口径、ホロウポイント。当たれば面白くない
結果が透けて見える。
「ったく……冗談じゃねぇっつーの――」
全く、本当。冗談にならない。なりやしない。
あの体勢から、ソレか。
ゴジラの首でも千切る自信は有った一蹴り、直撃は避けたとしても、昏倒必死、脳震盪確定
の逆立ち回転蹴り――……だった、んだけど。
ああもう、自信喪失。なんだよそれ。
なんで生きてんだ。
お前は、生きてちゃいけないだろう。
タイミングは完璧、振り抜く角度も悪くない。10点中9.5点は確実に固い一撃だ。あれで不合格
なら合格点は十点満点のみ。ああ畜生、厳しい採点基準だなオイ。
オーケイ、認めるよ。お前は俺に合格だ。認めてやる、お前は優秀だ。
眼下――崩れ、こちらに照準するヤツを見ながら思う。
そうさ、お前は優秀だ。
まるで機械。マシーンのように冷静で、可愛いくらいに安定したロボット射撃。クール&タフネ
ス、ドライ&ファイア。俺とは真逆、煮え滾った頭で殺しの聖歌を暗誦耽読する俺とは、お前は
在り方から違ってる。だが――だから、そうだ。
悪いな、お前とは友達にはなれそうにない。
だってさ、お前今、何処見てるんだよ。俺を見てんのが筋だろ。その女は後でバラすって言っ
たろ。お前――なあ、お前、そういう所、お前、ホントにムカ付くんだ。殺したいくらい。
ああでもさ、よくやったからさ。ホントによくやった――それは認める。だからさ。
だから、そろそろもう死ねよ。
必死の一撃を避けられ、絶死の一撃を避け、両者イーブン、やや俺が優勢のままに状況推
移。姿勢を曲げて落ち降りる――崩れたヤツと同じ目線、視線の高さ。
そう、このタイミング。
縷縷と説明するまでもなく、狙いは単純ただ一つ。両手で同時にマガジンリリース。迅疾剽
疾流れは殺さず、そのまま両手をぐるりと返す。
タイミングは、ここ。
位置は、ここ。
ワン/両手を羽のように伸ばす。上向くグリップ、天井に向けて開く穴二つ。
ツー/遥か上空、0.1秒未満で距離を殺し、石原荒野へ降りるマガジン二つ。確認。
スリー/銃杷内に落ちる感触二つ、両手を眼前へ滑らせ、銃杷と銃杷を叩き付ける。
ガチン、と快音。
しっかり押し込めマガジン装填。全弾装填。
可愛い外見に熱い鉄の火。外面似菩薩内心如夜叉、グロック17完全復活。
十七×二、三四度の殺意は再臨。
百分の一、歪む時間。
千分の一、壊れる相対速度。
静寂に臥す主観の世界。音は死に、感覚は落ち、ただ筋肉と血液の動きばかりが認識野
を埋め尽くす。俺が俺の中に閉じ込められる。世界が映像だけになる。
ここは全てがノロマな世界。だから頑張って動けば、俺は誰より速くなれるだろう。
だから――この世界で一番速いのは今の俺。
正面で構えた銃口と銃口。トリガーを引く――スライドが前後し、薬莢が跳ね、
跳ねる薬莢に続く薬莢が重なった。
バン-バン-バン、バン、バン。絶え間ない、間断ない、トリガーとスライドを限界まで酷使す
る速射と連射。繰り返す。
僅か数センチのトリガーを一度押し込むだけの時間がノロマだ。歪んだ時間の毒に侵され
て、脳は一秒と千秒の区別を忘れたらしい。ガンガン、ガンガン。速射の弾幕を張り尽くす。
肉体限界を超えて弾き上げる鉄火の共鳴。ガンガン、弾音はまるでささくれたノイズ。一度響
く度に耳で百秒も留まって、消える前には次が鳴る。難聴にでもなりそうだ。
SFXの映画さながら、空間を侵食する弾丸合計三四。次を避けられるならスゲェぜお前、
だけど無理だろうから――もっと無理にしてやるよ。
マガジンリリース。体勢は変えず、再度両手を逆向ける――マガジンに落ち込む感触、同
時に両手で二つ。
十七×二。邪悪を祓へと神文鉄火の誓いを両手に、天火神火の三四弾。
そうとも。これぞ御神火束ねて怨敵その身に穿つ、絶対正義の象徴だ。
フィナーレを掻き鳴らす。ショパンの調べ。鎮魂歌にサヨナラを乗せて。
三十四足す三十四、空間席巻の弾丸結界。
時間の歪んだ世界を、酷くノロマに走り抜ける弾丸の群。それを――まるで小魚の群れの
ようだと、思考のノロマな頭でぼんやりと考えた。
考える。ヤツはアレから逃げられるだろうか。
掃滅を謡う、世界を席巻する、三四×二、六十八の死音の調べ。
その心、表せば一言。
『ここで死ね』
- 330 名前:アーヴィング・ナイトウォーカー ◆v8e3UHook2 :04/09/30 15:39
- >>325>>326>>327>>328>>329
何て言ったってさっきの蹴り。あれが効いた。あの一撃で、意識なんて言えるモノの粗
方が蹴散らされた。
視界は暗黒を通り越して銀色。落下の衝撃を全身で受けた四肢には痺れが迸っている。
床に口付けた唇から、とめどなく朱いのが溢れ出してた。
朱い。なんて、朱い。
これは痛いや。
そして重い。どうしようもなく。
頭も、身体も、瞼も。
空気でさえその重みで身体を地面に縛り付け、呼吸を圧迫している。
ほんとにもう、駄目なんだ。駄目、なんだ。
けど、それでも銃口の先には、どうしようもなく正確にカソック姿の彼がいて。
リアサイトとフロントサイトに並んで、神父さんの眉間があった。
ハンマーはいつの間にか上がっている。
トリガーにはとっくに指がかかっている。
何も問題はない。いつも以上に自分はいつも通りだ。
違うのは、トリガーを引いたのが、神父さんの方が圧倒的に速かっただけの話で。
全身の毛が逆立つ感触。
意識の必要以上な覚醒。
神経がオーバーヒート寸前の悲鳴を上げて唸り狂う。
感覚が―――感覚が時間すら凌駕せんと猛る、この瞬間。
弾丸が、見えた。
ゆっくりと確実に迫るその数は六十三。いや、銃弾の真裏に二発発見。六十五発。更に
三発見つけた。六十八発。多分これで全部。
全ての狙いはまるで面白みも無く正確。自らの意思で駆ける様に、おれの身体へと吸い
寄せられていく。
見えているのに―――ああ、見えているのに、避けられない。研ぎ澄まされすぎた神経。
頭で知覚しても、筋肉が追いつけない。
這い寄る死。
今まで何度と無く見てきたけど、ここまではっきりと見えたのは初めてだ。
ど、くり。ど、くり。心臓の鼓動が、酷くゆっくりと聞こえた。
死ぬのか、おれは。
- 331 名前:ミラ・ヘルシング ◆KpWAN/OGRE :04/09/30 15:39
- >>330
男って、ほんとに馬鹿な生き物なのね。
文字通り血肉を削ぎ合って殺し合う二人を見てのミラの感想は、そればかりだった。
まるで虎と虎が、牙を剥いてじゃれ合っているみたいだ。本人たちは必死のつもりなの
だろうが、ミラにはそうとしか見えない。第三者に徹するしかないミラとしては、それは
退屈以外の何者でもなかった。
大体、お互い何故にあそこまでムキになってるのか。
神父姿の青年。あれは所謂"ヴァンパイアハンター"だろう。先程のミラへの態度と、
の戦い振り。指揮官か戦士かの違いはあると言え、彼女の父もそうであったから分かる。
あの青年は狩人だ。
だと言うのに何故、こんなトコロで油を売っているのか。
アーヴィが人間だと言うコトぐらい、その道のプロならば一目で分かるだろう。自分と
てまだ三割もなりきれていない上、呪いで進行が"停滞"している半端者だ。この広大な工
場には、純粋なバケモノなんていくら惨殺に斬殺を重ねても、まだまだ多い。それ程まで
の規模に育った此処の"完全浄化"を任務として来たのなら、アーヴィやミラになど構う余
裕なんて無いはずだ。なのに、この男は―――
アーヴィもアーヴィだ。
どうしてそこまであの男に拘るのか。普段の彼ならば初めの一、二発で容易には殺せな
いと判断したら、人間離れしたその俊足で逃亡を試みるはずだ。少なくとも、銃弾を何発
も受け、血を垂れ流し、意識が壊れるまで粘るのは、まったくもって彼らしくない。
一体どうしたと言うのだ。
神父も、アーヴィも、理解できない。分かることと言えばお互い、まったく引こうとし
ないコトで、ミラから見ればそれは「馬鹿みたい」と嘆息する他無いのである。
が、事此処に至ると、さすがのミラも笑えない。
血を吐き、床に崩れ落ちるアーヴィ。三発目を数える彼のマグナム弾をかわす神父。あ
の"ザ・フック"の銃弾を三発も。バケモノを唾棄するあの男の方が、余程にバケモノでは
ないか。
電光石火の早業で、空になってマガジンを吐き捨て、返す動作でリロードを為す神父。
アーヴィは床に這い蹲ったまま、銃口を神父の眉間へと定めている。神父の方が疾い。素
人でも見て分かるほどに、それは圧倒的だった。
アーヴィが、負ける。
ぽつり、と。
「アーヴィ……」
本音を漏らしてみた。
「こんなの、わたしつまんない」
あんな男、もう放っておこうよ。
- 332 名前:アーヴィング・ナイトウォーカー ◆v8e3UHook2 :04/09/30 15:40
それは―――
「ああ」
左腕、義手に引っかかる継ぎ目の感触。
「そう、だよね」
ごめん、ミラ。
「じゃあ、」
帰ろうか。
- 333 名前:アーヴィング・ナイトウォーカー ◆v8e3UHook2 :04/09/30 15:40
- >>331>>332
ミラに声に応えるように、意識が隅々まで晴れ渡る。
おお、と唸り、取っ掛かりを見つけた左手を引き上げる。重い。筋肉の膨張が限界に達
する。撃ち抜かれた左肩から、ぶしりと鮮血が吹いた。構わず力を込める。左腕の毛細血
管の悉くが膨れ上がり、そして破裂した。これも別に構いやしない。ええい、と。引き剥
がしたコンクリートの床板を、そのまま跳ね起こした。
こう、ちょうどおれと神父さんとの間に薄い壁が出来る。そんな感じ。
ふと左手を見ると、義手の爪がいつの間にか根元から折れていた。負担に耐え切れなか
ったのか。今度はもっと丈夫なヤツを買おうと心に決める。
壁の向こう側では、地面に雨が叩くような勢いで弾丸が遮蔽物を穿っていた。
何発かは貫通。
お返し、と言わんばかりにおれは壁にEマグを突き付けて、
一発。
二発。
そして三発。
撃ち尽くしてやった。
三発の五十口径弾は、壁に風穴を空けて神父さんの下へと。
更に、身体を躍らせて何とか飛び起きる。その勢いをそのまま回し蹴りに利用して、聳
え立つコンクリート壁に叩き込んだ。勢いよくすっ飛ぶ床板。反動はまだまだ殺せない。
その勢いを使って、逆方向に疾走。神父さんに背中を向けたその姿勢のまま、工場を駆け
抜けた。
二秒とかからずミラの下へと辿り着く。左腕はもう、使い物にならない。Eマグをコー
トのポケットに突っ込む。スピードはまったく落とさずに、駆けたまま、呆然とするミラ
を右手一本で拾い上げる。そのまま抱かかえて、更に疾走。それにまた疾走を重ねて、半
開きの非常扉の奥に転がり込んだ。
どうにか逃げられた。
しかし、あの神父さんはまだ生きてる。
それがやけに心残りだった。
あの人を黙らせたかった。
けど、今は出来ない。
「ミラ……」
非常扉の鍵を捻って閉め、防火扉のシャッターも降ろす。
ミラは抱かかえられたまま、膨れ面でそっぽを向いている。
「ごめんよ」
嘘、と彼女は断言する。アーヴィは本気で謝っていない、と。
「あの神父を、まだ殺したいと思っているんでしょう」
―――ん、どうなんだろう。分からないや。
馬鹿じゃないの、と彼女は言う。「殺したければ、さっさと殺しちゃえばいいのに」
そう、だよね。けど、どうしてだろう。それが、出来なかったんだ。
簡単な。
凄く簡単なコトのはずなのに。
出来なかったんだ。
「でも、今は、取りあえず逃げよう」
賛成、とミラも頷く。
呼吸は整った。じゃあ行こうか、と言って、おれはまた駆け始めた。
血は相変わらず流れて止まらない。身体は重かった。
- 334 名前:緋皇宮神耶 ◆Hiogu1XLj2 :04/10/12 17:03
- 闘争メンバーに連絡……
私……カテゴリーDにしてたけど、やっぱりカテゴリーを変更する。
データサイト覗いて、いろいろ考えた結果……D(その他)から、B(狩人・吸血殲鬼)に乗り換える……
見る限り、血を吸わない、人外のハンターでもBにカテゴライズされているみたいだから……
じゃあ……そういうことにしておいて……それじゃ。
- 335 名前:望月ジロー ◆BBB.k09/yM :04/10/19 02:38
- (宙を浮かぶ黒い棺桶が夜空から降りてくると、静かに着地する。
中から出てきた者は――赤いコートとスーツを纏った、黒髪黒目の長身の青年だった)
おはようございます、皆さん。ご機嫌はいかがですか?
コタロウ「兄者、兄者! 寝ぼけてロシア語になってるよ」
……おや、コタロウ。おはようございます。いい夜ですね。
それはさておき寝起きで失礼しますが、私もこの吸血大殲に参加を表明させていただきます。
あの『九龍ショック』とも前後して、ここ暫く特区の外も騒がしくなってきてるそうですから。
おそらく『カンパニー』としても、結構気になってたみたいですからね…
だから私の派遣なんかを決定したんでしょう。いいように使われたものです。
出典 : BLACK BLOOD BROTHERS(あざの耕平・富士見ファンタジア文庫刊)
名前 : 望月ジロー
年齢 : えーと……大体百と十数年、ってところでしょうか。少なくとも吸血鬼になってからは百年経ってます。
性別 : 男
外見 : 黒い長髪、黒眼の長身。赤いスーツに赤コート、赤い帽子に首からゴーグルを提げている。
職業 : 今は弟ともども、人間と吸血鬼の調停組織「オーダー・コフィン・カンパニー」の
調停員・葛城ミミコさんに護衛として雇われてますね。
趣味 : ――と言うほどのものでもありませんが、手のかかる弟でも見守るのは楽しいものです。
恋人の有無 : ……私の愛した彼女は、もういません。ですが、今でもこうして私の傍に居てくれてます。
そう、私の一番身近に。
好きな異性のタイプ : どうせなら有能な方がいいですね。世情に通じ、深い見識を持ち、妙な偏見に
捕らわれる事のない理知的な方が。美しい妙齢の女性なら言うことなしです。
好きな食べ物 : 『レッド・ブラッド』――即ち人間の血です。処女の血なら言うことはありませんね。
最近気になること : 騒がしくも楽しい弟や雇い主との日々、あとは『カンパニー』上層部の無粋な思惑ですか。
一番苦手なもの : 流水、十字架、ニンニク、太陽光、聖書、銀、etc…世間一般の吸血鬼の弱点は
大概が駄目ですけど……一番勘弁して欲しいのは弟のやんちゃですよ。
得意な技 : 力場思念、視経侵攻、幻術…色々ありますが、
一番得意なのはこの吸血鬼殺しの日本刀『銀刀』を扱っての剣技ですね。
一番の決めゼリフ : 『我が血統の宿命、わかるなどとは決して言わせません。
吸血鬼はただ、そのときが来るまで在ればいいのです』
将来の夢 : 弟――コタロウが一人前になるその時、笑ってそれを見届けてあげることですね。
ここの住人として一言 : ……特区や聖域の外は相も変わらず、血生臭いものですねえ。
ここの仲間たちに一言 : 私の二つ名『銀刀』の由来――得と思い知らせて上げましょう。
ここの名無しに一言 : あまり一般人の無駄な犠牲は好きじゃありませんから……分かりますよね?
コタロウ「……でも兄者、身内のことはあんまり詳しく言うもんじゃないってこないだ――」
……それはそれ、これはこれです。
お前もそろそろ臨機応変とかそのへんの察しを良くしてもいいんじゃないですか?
ミミコ
「はい、ここでジローさんとコタロウ君の雇い主のカンパニー調停員こと
私葛城ミミコが、ジローさんのことについて二、三補足しておきます!
普段は減らず口が多くてひねくれた物言いする上に、吸血鬼のあらゆる弱点がダメな
あきれた吸血鬼なんだけど……いざ吸血鬼との戦闘に入ると滅法強くて。
実は彼、十年前に香港全土を汚染した一大吸血鬼禍『九龍ショック』を終息させた最大の功労者らしいの。
その手に振るう銀の刀で次から次へと、「九龍の血統」化した吸血鬼を斬り捨てていったそうで…
鎮圧側に属したどんな大血族の吸血鬼や人間よりも大きく働いたことから
ついたあだ名が――――『同族殺し』、そして『銀刀』ってわけ。
十年経った今でもあちこちでは語り草、ってことになってるらしいわ。
それから力場思念と>視経侵攻について。
力場思念は……ありていに言えば念動力ね。
壁歩きや天井歩きに使ったり、手を触れずに物を動かしたり。
あと視経侵攻ってのは……視線を合わせることで文字通り相手の体のコントロールを奪っちゃう力。
幻術は……言わずもがなね」
――ミミコさん、説明ご苦労様です。
そういうわけで私のカテゴリはB…『狩人・吸血殲鬼』ということになるのでしょうかね。
……まあ、別に無条件でそっちに味方してる訳でもありませんが。
ミミコ「もうっ、またそんな事言ってっ。
それはともかく吸血鬼関連のトラブルの相談はぜひ
『オーダー・コフィン・カンパニー』までご一報を。
依頼を確認次第、すぐ伺ってご相談に応じますのでっ!」
……誰が面倒を引き受けると思ってるんですかねえ………はあ。
コタロウ「兄者、ドンマイっ。
とにかくみんな、そういうことでひとつよろしくー♪」
- 336 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :04/10/21 03:08
- >>333
さあ、想像してくれ。
音速カッ切る銃弾、その数六十八。頭部頚椎心臓肺、急所を含めて手足間接重要部に集中
弾雨。避けるとか避けないとかじゃなく、死ぬか死ぬか死ぬか、しか選択肢は無い。
無い。皆無で絶無だ。
だったら、
「ちょっ」
あれは。
「と、」
なんだ。
「待ち――……やがれっ……って、オイ!」
壁が起きた。いや。床が起きて壁になった。ジーザスニンジャ。ニンジャ・マジック、タタミガ
エシ。クールだ。クールな退避方法だ。クールだけど何処のハットリ君だテメェ――俺が撃ち
込んだ弾丸は起き上がる床に遮られ、更に床を刳り貫いて迫る弾丸三つ――アレを回避した。
しやがった。その上で、反撃。
面白くない。これっぽっちも現実味のない最悪だ。
まったく。デタラメ。最低最悪のマッドな悪夢。
状況は推移。俺のターンは終わり、ヤツのターン。防御と反撃、加えて逃走。ワンターンで三
動作は反則だ。
クールな事実。怜悧な現実。
突き付けられたリアル――迫る弾丸、総計三。
数え間違いはない。三つ。全部で、三つだ。
オーライ。やる気なら、やってやる。
右足に力を集中する。全神経の束を足首に集中させるようなイメージ。足先に起爆剤を溜
め込むように想像。身体を弾ける鏃に変えるイメージに乗せて、一気に。
爆ぜた。
真正面へ。弾丸に向けて。コンパクトに飛び上がる――顔面スレスレを弾丸が掠め、足先
を掠め――擦れ違う。三発、纏めて飛び越した。これで俺はヤツのド正面に、
「って、」
(……オイオイ)
床が。
いや。
壁が。
壁が、ブッ飛んで来た。
(待て、オイっ!)
- 337 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :04/10/21 03:15
- >>336
綺麗に三発分、(ホロウポイント弾だろうに)虫食いよろしく刳り貫かれたコンクリート壁(て
いうか床)は、俺目掛けて殺人的なスピードと勢いでカッ飛んで来ている真っ最中。ヤツが蹴
り飛ばしたか殴り飛ばしたか、どちらにしろ悪意満載の質量凶器。当たれば痛いし、タダじゃ
済まない。済むかどうか知らないが、試してみようとは思えない。
くそ。
ああくそ。
逃げる。
あいつが逃げる。
っとに、マジで、テメェ、
「っナメてんじゃねェぞ、」
もう知るか。当たれば痛い? ああそうか、そうだろうよ。当たればな。
ヤツはこれを持ち上げた。大したモンだ、ミスター・クール。――オウライ。
なら、コイツでどうだよ。
拳を振り被る。
四メートル/壁が迫る。
二メートル/助走を掛ける、
一メートル/拳を、
叩き付けた。
「――ンの、クソがあぁぁッ!」
がん、だか、ぐしゃ、だか知らないが、いっそ爽快な破砕音。俺を避けて背後にスッ飛ぶコ
ンクリの破片。
正面では閉ざされた緊急用の門扉が一つ。既に逃げ去った後も明らかな、念の入った対
処法だ。実に、
ウゼぇ。
勢いそのまま俺は正面へ乗り出して――中空、砕けた破片の一塊を引っ掴み、「――スッ
飛べ」――ブン投げた。
盛大に風切り音を巻き上げて四十センチ四方のコンクリ塊は飛翔、更に盛大な轟音を立
てて、非常扉をブチ抜いた。
拉げて破れた非常扉へ視線を投げる。
人影は皆無で、その上どうやら二重にロックされていたらしく、コンクリ塊は非常扉の奥、
防火シャッターを軽く凹ませて床に転がっていた。
――逃げられた。
遠く、遠い。ヤツの姿は何処にもない。
天井を見上げる。噴煙は収まり始めている。
周囲を見渡した。死骸の山は死臭を放っている。
扉奥を見詰めた。ヤツは、いない。
肩を竦め、それから首を曲げて鳴らし、状況を整理した。やれやれ――これは、つまり、
そう。
- 338 名前:Kresnik ◆WEISS0lzjQ :04/10/21 03:46
- >>337
「く……くくっ、は、ははは」
はは、ふふ、ふ――まったく。全く、お前は。お前やってヤツはよ。
無茶をする。
無茶をするにも程がある。
今月の「驚いた事」にランクを付けるなら、ブッ千切りで上位の五位にはランクインだ。
「解った。よォォく解ったぜ、てめェ。理解した。お前の言い分はよォ、カンペキに理解した。
オーライ、オーケイ……そう、無問題ってヤツだ」
ガツン。
コンクリの破片を踏み砕く。踵で磨り潰す。苛立ちが加速する。焦燥が焼ける。
ヤツの姿はとうにない。消えている。五十メートル走でもやらせれば、とりあえずオリンピ
ックの代表にはなれるだろう。判断力に優れ、速く、狡猾で、そして、つまりはクズだ。ヤツ
は人間だろうが、ヴァンパイアに組する人間はクズ以外の何者でもない。
そうとも。そうさ。
オーライ、理解した。俺はお前の理解者だ。そうともハレルヤ、俺こそがお前を地球上で
ナンバーワンに理解した。髪を掻き上げる――扉の先に消えたヤツの姿を想像する。あの
速度で一秒一瞬に駆ける距離を暗算。遠い。あの俊足ならば、既に遠い。
参ったな、速く追わなきゃならないか。
舌打ち。死体を足で掻き分ける。
適当に三つ蹴り分けた所で、虫の息の一匹を発見。グロックのマガジンを詰め替えた。
チェック。
パン、と心地好い火薬のリズム。びくんと跳ねる身体――続けて頭に。ばつん。
クソが。気分悪い。悪い。悪い、悪い。
悪いんだよ、ゴミクソが!
欠けた頭蓋を踏み砕く。探し物は何ですかぁ、探し物は見付かりません。
焦れる。ヤツはどのくらい走ったろうか――焦れながら倉庫を探す事四十三秒、漸く目的
のモノを見付けた。最初に殺し散らした時、俺を照準していたエカーテ2。正規品のこれが
フランス軍崩れから流れたか提供先が襲われたかは知った事じゃないが、結論、手元にあ
るなら話は早くて結果は同じ。
転がったナイフを拾い上げる―― 一閃。
マズルを機関部スレスレまで切り落とし、返す刀でストックも切り落とす。死体を蹴り起こ
して、予備弾倉を纏めて引き剥がした。少々――大分ゴツいが、即席の超大口径ハンドガ
ン、一丁上がり。
「俺の今のこの気分を例えるならよォ……そうだな。手に入らなくなった絶版CDを中古の
ワゴンセールスで見付けた時の心情っつーか、ソールドアウト直前のチケットを横から掻
っ攫われた心情っつーか……解るか? なぁ?」
解って欲しい相手は居ない。ヴァンパイアのガキを連れて逃避行の真っ最中。
フザけんな。
何処か、近くで爆発音が聞こえた。
恐らくはブレイドかダンテ――派手好きの馬鹿はこれだから。人生には余裕を。道行に
は演劇を。俺はオーソン・ウェルズのように在りたいモノだ。
さて。
即席ハンド・ライフルを腰に吊るし、転がった死体からグレネードを幾つか、ナイフを数十
本、ついでにこれまた軍流れと思わしきMG42を拝借。機関部とトリガー、残弾チェック。弾
帯は邪魔にならない程度に腰に下げて垂らした。ドラムマガジンが有れば良かったが、生
憎とそこまでの贅沢は要求出来まい。礼の一念を込めて死体に手を合わせて、慈悲を込
めて顔面を蹴り飛ばした。外れた首は壁にぶつかってトマトに変わる。
「鬼ごっこっつーのは久し振りだけどよォ……」
ヤツは速い。
だが、俺はもっと速い。
少し、走る必要が有りそうだった。
「――速攻でブチ撒けてやるよ、てめェ」
非常扉の残骸を蹴り砕いて身を滑り込ませ、防火シャッターに抜き手を打ち込んだ。
力任せに抉じ開けて、途中でウザくなって千切って捨てた。
スマートじゃない。お前の所為だよ、クソ野郎。
笑みが毀れた。聴覚と神経をギリギリまで尖らせる。ヤツの足音を嗅ぎ取るれるように。
長く狭い通路の先に思いを馳せて、五十メートルも百メートルも区別無く駆け出した。
- 339 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:21
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
導入
まるで――そう、まるで、捨てられた猫みたいな眼をしていたから――。
「そりゃ、お前」
吐いた紫煙の輪が溶け消えてから、長谷川虎蔵は続けた。
「誑かされてんだよ」
- 340 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:23
- >>339 続き
うむうと唸ったきり、木下京太郎は腕を組む。暫く経って、眼鏡の奥底の不安を隠し切れぬ声で
訊いた。
「……矢張り、そういった類いのものなのか、あれは」
「お前も飽きないね」と間接話法で答え、虎蔵は一つ伸びをした。力を抜き、ちゃぶ台に頬杖を
つく。生欠伸をこれまた一つ。
左しか無い涙目をこすりつつ、呆れたように云う。
「何度目か知らんが。大体犬猫は気安く拾うなって、親父かお袋に教わらなかったんか?」
「そんな殊勝な親でも無かったがね。――ちょっと待てよ、それじゃ私が頻繁に訳ありの餓鬼とか
攫って来るみたいに聞こえるじゃないか」
「この前のは舶来もんだろうに。またその前にもおったなー、金髪の」
ぐ、と京太郎はつまる。
「そう云うのは、一般的に世間様じゃ度々とかちょくちょくとか称するらしいぜ。他にも――」
「オソウジガ、アリマス。キレイニスルノハ、ヨロコブデス。
ウセル、イイデシタ。ヘヤヲ、デマス……デス? デスダヨ?」
たどたどしい声を背後から掛けられ、二人は振り返る。
すらりとした小麦色の肢体に海色の瞳。美麗な銀髪を手拭いで纏めた割烹着姿でも、決して所帯
臭くなど見えない異国の美女がそこにいた。
「……これもじゃん」
- 341 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:24
- >>340 続き
少し前、とある寂れた漁村で起こったとんでもない事件の渦中、京太郎が“拾って来た”女性だ。
辛うじて出目が西蔵(チベット)辺りと判っただけで、今に到るも殆ど言葉が通じない為――
片言でもここまで日本語を身につけられたのは、彼等の知人である麻倉美津里の尽力だった――、
名前すら碌に知れたものではない。
で、椎名マコトなるいい加減過ぎる仮名を授かった彼女は、何故か木下家の居候となった。
色々な意味で無聊を持て余したか、専ら掃除や炊事に勤しむ毎日である。家主との恋路やら何や
は別にないけれど。
“しーなさん”若しくは“マコト”が箪笥にハタキを掛け始めたので、へいへいへいと男二人
は腰を上げ、灰皿やら湯飲みやらを持って縁側の方に立った。
きゃはは、と明るい声が響いて来る。
煙草と物臭の香りしかせぬこの家には似つかわしくない、若々しい笑声である。
西日の射し始めた縁側には、小洒落たドレスの少女がいた。
歳の頃は十代半ばか。初見で欧州辺りの産と当たりはつけたものの、例によって例の如く、それ
以上の事は、京太郎には何一つ判らない。
只、愛くるしい。
世に憚るような趣味持ちでなくとも、誰でもそう云うだろう。やる気もやる能力もない藪医者に
判断がつくのは、精々その程度でしかない。
だからと云って、酷いなりで行き倒れていたのをそのまま連れ帰って良い訳はない、と云う事位
は京太郎にも判るのである。――判るだけは。
幼い笑い声は、けたたましい動物の鳴き声に掻き消されがちだった。
何所からか紛れ込んだ野良猫と遊んでいるのだ。
それはあくまで彼女にとっての戯れであり、両の後ろ足を掴まれぶら下げられ、前後に揺すられ
つつ、悲鳴と共にもがいている猫は、多分違う意見を持っているに相違ない。
虎蔵は煙草を咥え直した。曰く云い難い表情で少女を眺める京太郎を尻目に、煩わしそうに、
「で、これ――か」
えへへへと、少女は二人を見て屈託無く笑った。
- 342 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 22:26
>>341
わたしは、追いかけっこをしていた。
始めたのは一週間程前。そして、それは今なお進行中。
つまり、未だに追いつけていない。
「…………ふぅ」
焦らすのは良い。焦らされるのも嫌いでは無い。
だが、それも限度を超えなければの話。
それ程気が長い方でも無いし―――単調な作業は、わたしにとって何よりも忌むべき物だった。
――いい加減に捜し飽きた。
割いた時間の分だけ募る徒労感と苛立ちに、いっそ止めてしまえば良いとも思う。
そんな心を繋ぎ止めるモノが、二つある。
一つは、大方絞り込みが終わったと言う事実。
これまでの捜索は空振りだったが、それはまだ捜していない所に居ると言う事でもある。
『まだ捜していない所』はもう残り少ない。
そして、残る一つは――――
――――思い出す。
最初から結果は判りきった勝負だった。
元々一つだったモノ同士。
ただ、同質の力ではあっても、その大きさはわたしの方が上回っていた。
それを証明するようにわたしの何かは常に相手のそれを凌駕していた。
だと言うのに、最後の最後で逃亡を許してしまった。
無意識の油断が自身に返ってきたのかもしれない。
だが、だ。
だとしても、逃げられた事は屈辱以外の何物でも無かった。
面子も評判もどうでも良い。
只、わたしの誇りのみがそれを許さない。
「……聞き分けの無い子には、お仕置きが必要よね」
捜索を続けるべく、止めていた足を再び動かし始めた。
- 343 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 22:28
>>342
その一角に踏み込んですぐに気付く。
残り香のように漂う気配の足跡。
人間ではない。有り得ない。
何をするでもなく歩いただけでこんな『跡』を残せるようなモノは、人の形をしているだけの
別のモノ―――もしくは、以前は人間だったにしろ、とうの昔にその範疇から逸脱してしまった
モノのどちらかだろう。
気を抜いているのか、そもそも跡を辿られようがどうでも良いのか。
どちらにせよ―――――
酷く食指を動かされる気配では、あった。
迷う。
刺激に飢えた今のわたしには、跡を辿った先に居るモノは贅を尽くした食事に等しい。
想像するだけで絶えがたくなりそうなほど。
考える。
魔と魔、人間外のモノ同士は引き付け合う。
なら、何らかの経緯を経てリリスも引かれている可能性は無いだろうか。
例えば今、わたしがこの気配に気付き、惹き付けられている様に。
「そう、ね―――――」
あくまで結論は決まっている。
悩んでいるのはどちらを先にするか、と言う順序だけ。
「……まあ、ひとまず行ってみましょうか」
歩き始めてから程無くして、目的地らしい一軒の家に着く。
その頃には、順序などどうでも良くて。
「こんにちは。どなたかいらっしゃるかしら?」
引き戸を開け声を掛けるわたしの胸は、期待に高鳴っていた。
- 344 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:29
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>343
「客だぜ」
「客だな」
訪(おとな)いに対しての、居候と家主の反応である。
居候は兎も角、家主ですら炬燵に収まったままだ。実に不精たらしい。
「じゃあ出れ。さっさと」
「虎蔵。お前、出てくれんかな」
何で、と云う言葉を表情と、ついでに煙草を京太郎の方へひと吹きするという行動で
以って、虎蔵は示してみせた。京太郎は目を逸らす。煙そうだからではないらしい。
「今日は手のかかる患者が多くてね。少々疲れているんだ、私は。それにほら、わざわざ
回診専門の所に来る客なんぞ、面倒な手合いに決まっているし。……だから、その」
「要するに門前払いして来いと、そう云う事かね」
「そうとも云う」
「そうとしか云えんだろうが」
煙草を灰皿で消し、虎蔵は苦笑する。
「ふくらし粉の匙加減でそんなに気疲れするんか。大した医者だよ、今更だけどさ。
そう云う雑用こそマコトに――ああ、美津里の所にお使いに行ったんだっけ」
やれやれとぼやき、それでも虎蔵は炬燵から出た。羽織を引っ掛けたまま部屋を後にする。
京太郎はほっとした顔で湯飲みを傾けた。厄介事を芽の内に摘めて、彼は満足であった。
だから虎蔵が障子を閉める際、
「しかしま、何でこう、分際に余る女とばかりややこしくなるかね、お前」
と呟き、隻眼を光らせた事には――木下京太郎は全く気付かなかったのである。
「ふむ、予想的中。――いや何、こっちの話」
虎蔵はニヤけている。玄関口でである。
酒、女、そして荒事。最後の一つは別として、その他は大方の男が好むものだ。
虎蔵は――時と場合は一応選ぶが――全てを好む。それが至極であるならば尚更に。
なので長谷川虎蔵は今、とても気分が良い。
この異国からの客は頗るつきの美女であるし、加えて彼の嗅覚は、三つ目の予感をも
確かに嗅ぎ分けていたから。
これで酒があると最高だな、と莫迦な考えをよぎらせつつ虎蔵は云った。
「悪いね、今ここのセンセイは手が離せないんだが。何の御用かな?」
- 345 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 22:32
>>344
「……予想、ね」
予想が当たった。
丁度自分が考えていたのと同じ台詞が、目の前の男の口から漏れる。
奇遇―――でも何でも無く、単にわたしも気配を隠していなかっただけの話で、
これも概ね予想の内だ。
「用と言うほどでも無いのだけれど……
最近、この家に居候が増えたりしていないかが聞きたくて」
この位の、と左手で身長を示しつつ、男の背後に伸びる廊下をちらりと覗く。
漂う独特の匂いからして家主は薬を日常的に扱う職らしい。
けれど、どう控え目に見ても応対に出てきた男はその手の職についているようには見えない。
と言うより、一つしかない瞳に宿る色を見れば判る。
人の常識からこれほど逸脱したモノを、自身の家に住まわせる人間。
――居候が居候なら家主も家主、と言う事かしらね。
「わたしの連れだから、もし居たら引き取りたいのだけれど」
一応そう話しつつも、考えているのは別の事。
確かに予想通りではある。
だが、想像以上だった。
何処まで期待に応えてくれるのか。
それを考えるだけで震えが来そうだ。
「あの子をこの家に置いていても、良い事なんて一つも無いと思うのだけれど。
……貴方なら判るでしょう?」
少なくとも、わたしのような来訪者は家主にとって『良い』とは言えないだろう。
目の前の男は酷く愉しそうだったが。
- 346 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:34
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>345
「いやホント、仰る通りだと、俺も思うんだ」
顎を撫で撫で虎蔵は頷く。
概ね美人とは、また概ねよく似た印象を与えがちだ。万人須く歪である造作が整理されて
いると云う出来事は、かえって個性を没しせしめるきらいがある。
この女はそうではなかった。
美しくはあったが、類型的ではない彼女の美貌は彼女だけのものだった。――少なくとも
虎蔵はそう思っているらしく、大いに感心の態である。
「只、うちの大家は阿呆でね。……そうさな、とろ火の鍋に掛けられた蛙みたいなもんだ。
先々の察せられん訳でもなかろうに、まだ大丈夫、いやいやもう少し、と煮え切らん内に、
自分が煮られちまうタイプだな、あれは。――ああ、大丈夫だって」
先程から奥を伺う様子の女へ、虎蔵はひらひらと手を振り、
「何しろ名うての末生(うらな)りだからさ、ごねた所であんたを如何こう出来やせんて。
そうなると、詰まる所は」
むふん、と更に笑み崩れた。
「月並みだが――話題の当人の希望次第って奴じゃ、ないのかね?」
- 347 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 22:37
>>346
「あらあら……そんな事言ってしまって良いの? 聞こえているかもしれないわよ?」
揶揄する調子の男の言葉に、薄く笑って返す。
尤も、恐らく聞かれても構わないから言っているのだろうが。
なんにせよ、顔を出さない大家とやらとこの男にはそれなりの付き合いがあるという事らしい。
どんな人物なのか。
少なからず湧いた興味は、けれど溶けて消えてしまう。
「そうなるのかもしれないけれど……
判りやすく言うと、わたしはあの子に嫌われていてね。
素直に会ってくれるとも思えないし、居るのなら連れて来てもらえると助かるのだけれど。
顔を合わせない事には、説得も出来ないでしょう?」
言葉で説き伏せられる筈も無く、元々そんな気も無い。
力でわたしの意を押し通すだけ。
男はそれを止めはしないだろう。
本気になれる理由を、作った方が良いだろうか。
- 348 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:39
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>347
虎蔵は軽く手を叩いた。
「うん、じゃあそれにしよう」
浮き浮きした調子で云う。意味不明である。
「あのな、俺、餓鬼嫌いなの。うざったいんだよね。
ごたごたつきだっつーし、愚図るの無理に引っ立てて来いなんざ、悪いけど御免蒙るわ。
なんで、お前さんの頼みは聞けないの。それを“理由”にしようって事さ」
済まんね、とあくまで形式だけ謝って、虎蔵は羽織の襟元を整えた。
「まあ、あんた等相手なら錠前有りの寝間で、でも大歓迎だけど。
男と女がお互いその気なんだ。寝技だろうが切った張っただろうが、云い訳にゃ充分だろ」
肩をすくめる。羽織にちりばめられた派手々々しい花模様も少し揺れる。
「――如何かねその辺?」
- 349 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 22:42
>>348
『それにしよう』。唐突な言葉。
咄嗟には意味を掴みかねた。
……そして、続いた台詞に答えるより早く。
「――――ふふっ。そう言う事」
自然と笑みが浮かんだ。
「お互いその気なのだから、小難しい駆け引きなんて要らないわよね。
ごめんなさい、察しが悪くて」
殴ったり殴られたり、斬ったり刺されたり。
大した理由も無いそういうやりとりが愉しくて仕方が無い。
相手が強ければ強いだけ心が踊る。
男が終始楽しそうだったのは、つまりそう言う事。
「じゃあ――――良いから連れて来なさいっ! って叫んだ方が雰囲気出るかしら?」
それはわたしも、同じ。
「ま、始めましょうか。何なら二回戦は寝間で……大家さんも混ぜる?」
浮かべた笑みは誘うように。
わたしは男の言葉に応えた。
- 350 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:42
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>349
いーのいーの、と虎蔵は顔をほころばせる。
形としては確かに微笑なのだが、些か剣呑に過ぎる表情だ。これを笑みと認識出来るのは本人
か、本人と同類の輩だけであろう。つまり虎蔵の眼前の女のような、である。
女もまた笑みを浮かべている。只事でない婀娜っぽさと云える。
媚びるのではなく、押し付けがましい色香でもない。それは誘う微笑だった。
虎蔵は返事をした。
ごく僅か、裸足の爪先を前に摺らせたのだ。
半歩にも当たらぬ移動だが、今この場にあっては途方も無い大胆さには違いない。
女が訪れ、男が迎え入れた。
その時から、平凡な上がり框(かまち)は地雷原以上の危険地帯と化していたのだから。
「いやいや、あれ如きにゃ、あんたは勿体無過ぎるって。俺がぜーんぶ」
羽織りの百花が眩い軌跡と変わる。半歩未満は猛烈な体勢移動と化した。
「――戴き」
言葉ごと、唸る空気は弧を描く。
虎蔵の右掌底は恐るべき鉤突き(フック)となって放たれていた。
- 351 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 22:44
>>350
前へ。男の足が僅かに動いた。
間合いの淵すれすれだったものが、その内側へ。
明らかな意思を持って侵入した。
「独り占めしたい? まあ、貴方になら考えなくも無いけれど、」
床に触れたままの足裏、篭められた力に床板が軋む。
上方から打ち下ろす右の掌。
このまま頭に貰えば、少しばかり不味い事になりそうだ。
だ、が。
こんなに判り易いモノ、受ける気にもならない。
「――――それなら、もっと目一杯やってくれないと」
腰を落とす。
振るわれた腕を潜り、その外へ抜ける。
巻き起こされた風が髪を乱した。
「……手を抜いているわけじゃなくても、まだ本気には程遠いでしょう?」
服を『解く』。
爆発するように湧いた黒い影が、そう広くない土間に満ちる。
無数の羽ばたきを縫って、五指を揃えた右腕を横に薙いだ。
- 352 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:45
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵
>>351
ちくり、と虎蔵は胸が痛む。
檸檬味の切なさだの、すぐりのような秘めた想いだの、その手の感情には縁遠い男である。
また、そんな状況でもない。上衣の襟元のみをかすらせた積りが、皮一枚まで持っていかれた
だけの事だった。
玄関口と云う空間を重々把握した足捌きで、虎蔵は女が振るう半円の斬線から脱した。
「前戯はお好きでない?」
群がる蝙蝠の向うへ言葉を放り、返事も待たず土間へ飛ぶ。
声にはやや焦りの色がみえる。先の女の反応はそれほど鋭かったのだ。
衣も変わり、それまでの色気など朝茶の子な妖艶さとは裏腹である。
いやな汗は出ていても、虎蔵の反射神経に支障はない。
女の脇へと無理やり割り込んだ土間で、とん、と両手をついた。
瞬く間に躯は浮き、滑らす手と連動させた腰の捻りによって、脚は開いて旋回する。
流れるような動作は全て、狭隘さを吟味した上での最小限の働きだ。
蚊喰鳥の渦を裂いて幾太刀、黒い足刀が斬りつけられた。
- 353 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 22:48
>>352
手の平から水が逃げる様に、するりと男が身を躱す。
届いたのは辛うじて爪の先だけ。
「別に嫌いなわけでもないけれど……
やっぱり、ここまで来て焦らされるのはもどかしいじゃない?」
逃げる水は止まらず、より低い所――わたしの傍らへと流れる。
溜まった黒い水が男の姿を取り戻した時には、もう動き始めていた。
廻る羽根が、風を起こす。
たった二枚の羽根は四枚にも見える。
それが起こすのは、巻き込んだモノを須く破壊する暴風。
「準備は出来ているんだから、速く満たして欲しい――――みたいな時は、ね」
跳びざま、翼を紡ぐ。
一つ、二つまでは受けて流し――――
――っ!
三つ目を、流し切れずに受けてしまう。
宙に浮いた身体は、半ば押し付けられる形で容易く壁に叩き付けられた。
背中から抜けた衝撃に、刹那呼吸が止まる。
「――――少し、狭いわね。広く……しましょうか」
波打つ翼は無数の生きた刃と化し。
全くの区別無く、周囲の悉くを切り裂かんと渦を巻いた。
- 354 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:48
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>353
魔の翼が取り始める危険な形を逆さに映し、ぎょっと一つ目が剥かれる。
虎蔵は両腕の発条のみで跳ねた。倒立状態から一息で反転しながら、
「いやおい、ちょっ、待」
慌てきった台詞を含め、妖女の翼が起こす風は二人のぐるりを吹き過ぎた。
一つの線が出来た。裂け目とも云う。
周囲の壁土は深々と抉られ、引き戸には綺麗に横一文字が引かれている。
破砕音は遅れてやって来た。
反響が喧しく跳ね返る中で、ついでに云えば、隻眼の男は胸の辺りで輪切りになっていた。
刃以上の魔翼の鋭利さゆえか、切断面からは血糊一滴溢れない。顔面も呆けたままだ。
しかし虎蔵は二つになった。これは確かな事だ。
ではあるが、それは極々僅かな間だけではあった。
泣き別れとなった上下半身は、両斬されたのとほぼ同時に破裂したのである。
破裂したように見えた、と云うべきだろう。音もなく闇黒を撒き散らした躯も、その闇に呑み込まれ、
同じ闇となって失せた。
闇は細かった。長く、幾条もあった。
思い切りよく裁ち裂いた天鵞絨(ビロード)にも、また飛び立つ鴉が捨てていった翼の欠片
にも見える。
無数のそれは世界に広がった。――少なくとも玄関先だけには。
重なり、連なりながら触れ合わず、夜の帳の残片はたゆたう。
濃い霧中と同じだ。ぼんやりとしか先を見通せない。
長い長い時間をかけて水底に堆積する塵芥のように、あるかなしの対流の存在を思わせて、ゆるり
ゆるりと闇は――烏羽は舞う。
ひどく深々と散る羽の音は、女が生じさせた破壊の響きも吸い取って行くようである。
黒衣の男の形影は、そのしじまの何処かに没し去っていた。
- 355 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 22:50
>>354
生き物には、独特の手応えがある。
犬でも猫でも人間でも、生きて『いる』それと生きて『いた』それでは、斬った感触が違う。
もちろん人間外のモノでも同じ。
それが無かった以上、どう見えていても斬れてはいない。
例え、男が上下二つに断たれたように見えても。
そもそも、ただ振り回しただけの刃に当たる間抜けでも無いだろう。
「…………気が利いてるわね、思ったより」
忽然と沸いて辺りを丸ごと飲み込んだのは、暗い暗い闇色の羽根。
幾重にも重なり合う形ある闇は深い。雑音も何処か遠く聞こえるほどに。
「けれど――――」
男の姿も、その黒に溶けて影すら見えない。
「暗いのが駄目な夢魔なんて、」
見えない。けれどわたしには判る。
「流石にどうかと思わない?」
崩れ落ちる壁の形が、降り注ぐ瓦礫の数が。
「貴方も」
闇の底に映る翼の陰が、這い寄って厚さの無い牙を剥いた。
- 356 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:51
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>355
まるで影のような黒い流れには、だが影と違って何がしかの質量は在ったようだ。
何故ならば、その闇のけものは稲光に貫き止められたから。
勿論貫いたのは本物の雷ではなく一本の日本刀であり、刺した刀の柄を支点に躍り上がって
舌打ち混じりに、
「――同感だがッ!」
と叫ぶや蹴りを放ったのは、当然の如く長谷川虎蔵である。但し女に向けてではない。
上へだ。
周囲の壁に引き続き、天井板も傍若無人な破壊音に文字通り一蹴された。
その上の梁や屋根もだ。大人が楽に通れる程の大穴を開け、虎蔵は現した姿をまた消した。
えらく風通しのよくなった玄関口には、半壊した各所から黄昏の残光が闖入し始めている。
かりそめの闇は嘘のように消え、床には派手な布切れが散乱していた。
と云うより、これが本来の形なのだ。
虎蔵が肩にかけていた羽織りがその正体である。
布一枚のみ裂かせて爪を逃れ、かつ花々を散らした切れ端を以って闇黒を演出してみせた
妖しの手際は、本人が変り身だの隠れ身だのと称する秘術の一変形なのだった。
その胡乱な技も通じず、一旦尻に帆かけた男は、屋根瓦の上で綽々と下駄を履いた。
跳ぶ前、土間からすりとったものだ。油断や隙はあっても抜け目は無い。
日は殆ど沈んでいるが、辺りはまだ明るかった。暮色の薄青が一面に刷かれ出している。
何所からともなく漂ってくる夕餉の匂いに、この場合虎蔵は鼻をひくつかせた。
「芳流閣と洒落込むにゃ、平屋じゃ眺めが貧しいか。――おーい、早よ上がって来いよ」
数メートル先の大穴の下へ声をかけ、右腕を振ると、手には抜き身の一刀があった。
先の刀もこの伝で出したらしい。虎蔵の十八番の一つで、暗器術と云う。
峰で首筋を軽く叩きながら、男は快活な調子で女を呼んだ。
「褥(しとね)は内でも外でも構わんが、血の雨降らすにゃこっちが良かろ?」
- 357 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:51
- >>356 続き
――また虎の奴騒ぎ起こしよった、と炬燵で頭を抱えている藪医者が、自分以外の森羅万象
を呪詛し始めたのはこの時だが、それは本人の存在同様、特筆すべき事でもなかった。
- 358 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 22:53
>>356
溢れる暗闇の中、それすら切り裂くような音が一つ。
這わせたモノが縫い止められた事を悟るのは、音とも言えない悲鳴と同時だった。
「…………」
忽然と沸いた気配が蹴り開けた道を抜けて上へ行くのを見送った後、視線を下に移すと、
つい数分前の面影も無い玄関の上がり框だった辺りに、刀身の半ばまで突き刺さった日本刀と、
それに貫かれた色濃い影があった。
「……案外、多芸なのね。
人は見かけによらないとは言うけれど、人でなくても同じなのかしら」
呼ぶ声には答えずに、歪んだ戸口から歩いて外へ出る。
時折聞こえる崩壊の音を背に翼を広げ、舞い上がった。
屋根の高さに倍する高さで静止する。
「同じ身体を動かすんでも、布団の上だけでは済まないだろうし、ね」
屋根の上に立つ男の手には新たな刀。
次から次へと武器が出てくる様に、顔見知りの死体の事を思い出した。
「所で、ちょっとした疑問があるのだけれど――――」
翳した左手に誘われて、両翼の縁から黒いモノが幾つも漂い出る。
するすると伸びるそれの長さが1mほどになった時、足の下から高く澄んだ音が響いた。
「これで一振り、それで二振り。貴方は後何振り持っているのかしら?」
言い終えて腕を振り下ろすと、一斉に鎌首を擡げた黒いモノが豪雨の様に男へと降り注いだ。
- 359 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:54
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>358
「なんぼでも」
蝙翼が生んだ剣の嵐と相撃ったのは、素っ気ない高言そのままに一本だけではなかった。
先ず右手で一つ。掌で生き物のように半回転し、逆手に握り直されて横殴りの太刀となる。
もう一つはその反対、拳を開いたまま突き入れた左手の内手首にあった。
無い袖は振れぬ、と世間ではのたまう。
袖がある場合、別のものが振り出されるらしい。
切っ尖が、と見る間に現れた一振りは、ニ尺六寸六分の刃渡りを主張して飛び出た。
柄を引っ掴み、鞘――はないので袖走らせた勢いに乗せて、小刻みに突く。
右の払いも呼応させ、視界を埋める刃状の黒い群れを、虎蔵は迎え撃った。
恐ろしい速さで迫る尖端、或いはその側面を、同速度で受けつつ外し、逸らして流す。
刃が刃を捌く残響の連続は、数珠に繋がって一個の音符のようである。
女と剣の音階を合奏しながら、虎蔵はある事を窺っている。
それは一拍の瞬間である。
連撃を放つ際、必ず何所かで浮かび上がる攻撃と攻撃の切れ目だ。
時折弾くのをしくじり、肩や二の腕を浅く斬られながらも、いずれ相手が曝け出すに違い
ないその隙には、待ち受けるだけの値が十二分にあるのだった。
- 360 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 22:57
>>359
台詞通り、本当に限りが無いのかもしれない。
そう思わせるほどに、気負い無く男は言った。
「へえ、大きく出たわね」
男が腕を振るう度、音の嵐が巻き起こる。
起こった音が消えるより遥かに早く次、その次。
間断無く襲い掛かる切っ先の大半は音と共に軌道を変え、男には届かない。
悉くを防ぐ事が出来る程の量では無いにしろ、男が受け切れなくなるまで続ける事は出来ない。
「……どんなに酷い雨だって、確かに何時かは止む」
音が絶える。
周囲は突き立った刃の密林と化していても、男を貫けなかった一撃に意味は薄い。
――――但し、薄くても零で無い以上それは確かにある。
「けど、降り注いだ雨水は」
ぶつり。
全ての刃が同時に根元から千切れ、
「まだ其処にある」
鋭さはそのまま男を飲み込む網を形造り、収束した。
- 361 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 22:59
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>360
虎蔵が行った迎撃の一手目は、自身の一つ目を細める事だった。
とても細く。肉食獣の視覚が獲物を捉えた場合の鋭さに。
刀を逆手握りにした右手では親指が柄頭を弾いた。柄が半分がた折れ、と云うより外れて飛
んだ時、虎蔵の姿は研ぎ澄まされた網の目に覆い隠された。
生じた一拍の間すら攻撃に転じさせた女の手練である。隙を突く間もあればあれ、憐れ虎蔵
はずたずたに引き裂かれ――
はしなかった。
代わりに斬破され散らばったのは、襲い掛かった無数の妖鞭の方だった。
風が起こっている。胸の前に突き出した虎蔵の手の中でだ。
風を巻き、黒雨の乱舞を斬って捨てたのは高速回転する得物の仕業だった。
それは両手に構えていたニ刀であり、今はそうではない。
二本の刀は一本になっていた。刃の向きを互い違いに、柄頭と柄頭で連結していたのである。
「五風十雨は蛇の目でしのぐ」
繋がった柄同士を中心点とし、異形剣を風車のように回転させながら虎蔵は嘯いた。
剣は円を描き続けている。蛇の目傘の紋様を思わせる軌跡だ。
毫秒の間に双身刀に組み替わった仕掛け刀二振りは、襲来した痛打の大半を弾き落としたと
は云え――女の放った魔天の網は恢恢であり且つ疎でもなかったので、虎蔵の全身至る所では
裂傷が開き、血花が咲いている。
穏やか過ぎる程の笑みを虎蔵は浮かべた。
口元だけだ。隻眼は血走り、双身刀の旋回が振り上がる。
「女の秋波(ながしめ)、背でしのぐ――っつうてな」
- 362 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 23:01
>>361
風が吹いた。
それだけで、網はあっさりと吹き散らされた。
一本一本を細く絞った状態ではアレは止められない。
だから網がばらばらに切り崩されるのは仕方ないし、
風の唸りと共に落ちてくるモノを『身体で受けなければいけない』のも仕方ない。
「――――っ、ぁ」
斜めに翳した左腕の外側、手首のやや下に刃が入る。
切り落とされるまでは一瞬。
「あ、ぁ」
その刹那前、切っ先が骨に触れるのに合わせて添えていた右腕に力を篭める。
押した。
左腕が伸びる。
角度が浅くなる。
円を描く筈の弧が、
「っ――――」
骨の上で滑って逸れた。
代償はごっそり削ぎ落とされた手首から肘までの肉と、そこから溢れ出る紅い血。
得たモノは傷と痛み。それを上回る興奮。
そして、ちょっとした好機。
刀身を遡り、柄を握る腕を伝い、男の背へと回り込む。
「……ふふ、痛い痛い」
散りじりになった網の残骸が、背の翼に吸い寄せられる。
黒いが翼に触れると、吸い込まれるように融けて消えてゆく。
「痛すぎて――――我慢が出来なくなっちゃったわ」
背の翼が重みを取り戻していくのを感じながら、思いの他色の白い首筋に、歯を立てた。
- 363 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:03
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>362
振り抜いた姿勢のままの刀身は小刻みに揺れ、斬ったばかりの血糊を滴り落とす。
ぐおう、と虎蔵は獣的な唸りを発した。
苦痛からではなく、寧ろ反対に快楽(けらく)の絶頂がもたらしたものだった為、それは
一層獣じみている。
如何な天魔波旬にも一歩も譲らぬ――まあ本人がその類いではある――長谷川虎蔵だが、
引くどころかその場にへたりこみそうな感覚に必死で抗っていた。
進む足を止めさせるのは辛苦ではなく、えてして快楽である事の方が多い。
この場合も然り。
回り込まれた背中で感得される女の躯、その描線の甘やかさときたら。押しつけられる
乳房のまろみ、白い粘液のようでいて弾力に充ちた肢体。
甘酸っぱい女の匂いは血腥さをも無す。ただ甘いのではない、人を酔わす芳烈さだ。
しかし何より恐るべきは、首筋に重ねられた唇であった。
女の紅唇が触れた時、先ず虎蔵は熱泥の迸り出るような快美を感じた。
股間ではなく、唇が吸いついた場所でだ。
まるでそこの皮膚が虎蔵の「男」に――有態に云えば、今まさに達した瞬間のそれに変じた
かのような官能は終わらなかった。尋常の数倍とも思える欲情の滾りは、沸点を越えても猶
止まる所を知らず、筆舌につくし難い放出感もまた止まない。
実際それは“出している”のではなかった。
“吸われている”のだ。
「……閨で女は泣かしても、泣かされた事は俺ァ無いんだ、が」
脳髄が芯部から霞んでいくが如き恍惚感の最中、漸う強がりを絞り出し、虎蔵は口の端を
ひん曲げた。
「やばいね。泣いちゃいそうだぜ?」
- 364 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 23:06
>>363
食い込んだ歯が、ぶつんという感触を伝えて噛み合う。
口の中に転がってきたソレを、迷わず噛んで嚥下した。
「こういうのが特別好きってわけじゃないけど……貴方のは特別。
血も肉も美味しくて、蕩けてしまいそうだわ」
たっぷり唾液を乗せた舌で首筋を舐めた。
今しがた作った傷口も、そうでない所も。
背後から回した手で胸板をゆるゆると撫でながら、何度も舌を這わせる。
「……泣かせる、か」
男から奪った精は、殆どそのまま左腕の治癒に回した。
おかげで、流れた血の跡はあっても傷跡は影も形も無い。
満足に動くようになった左手で、男の太腿に触れる。
肌と肌で触れ合うのを邪魔する布が何とも言えずもどかしい。
そんなもどかしさすら、次の瞬間の快楽へと代わっていく。
「その点で言えばわたしの勝ちかしらね」
左右の手を下腹部へと伸ばす。
但し、そこから先へは行かない。
焦らすように、周辺だけを行き来させる。
「天にも上るような――――
いいえ、ようなじゃなくて本当に天国にいかせてあげましょうか?」
男の耳元で囁いた後、耳朶を舌で犯した。
- 365 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:06
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>364
首から耳にかけてを軟体動物そっくりの舌が、ある一部分を除いた躯の各所を柔美な手指が、
蠢き弄り、摩擦し合う。
「味なものが手に触った――いんや、触られた、ってか」
声は震えている。何処ぞの上人気取りの軽口が、虎蔵のせめてもの足掻きだった。
えもいわれぬ微風を纏わりつかせ、また甘蜜を塗りたくられるかとも思われる濃厚極まりない
女の指戯だ。精髄を直接吸う接吻に及ばずとも、常人ならこれだけで木乃伊にされかねない。
耐えかねたように、虎蔵の二つ刀がだらりと垂れた。揺らぐ切っ先が屋根瓦を擦る。
但し柄は固く握り締められていた。
「地獄極楽紙一重、共に奈落になるわいな……なんつっちゃっちゃあ、男の沽券に関わろう、
てなもんでな。――真っ平ァ!」
吼えて一声、淫魔のいざないを斥けて、虎蔵は双身刀を屋根に突き立てた。
「御免だ!」
絶叫を青白い発光が彩り、読んで字の如く雷瞬遅れて天地をどよもす大音声が鳴り渡った。
虎蔵の五体より発せられた雷電であった。
五行木気の通ずる所、この黒衣の風来坊は破魔の雷を呼ぶ。そこいらの妖魅など丸焼きにして
余る勢いの雷気だが、幾分か光量足らずと疑わせるのは、まだ誰そ彼時の残り陽が消え切って
いない所為ばかりでもない。
魔女に精を吸い取られたのが尾を引いているのだ。
さしもの長谷川虎蔵も、刀を刺す動作でとろける淫風から一時気を逸らし、要するに気合いを
入れなければ雷を発せられなかった程なのである。
ともあれ、躯を重ねた状態で撃った雷気だ。悩ましい拘束は緩んだ。
飛鳥の軽さで虎蔵は跳んだ。雷気の帯を引きずって数メートル先に降り立ったその足取りは、
一週間ばかり流連(いつづけ)の挙句、廓から朝帰りの遊治郎のようであった。
- 366 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 23:09
>>365
得物を持つ腕が弛緩する。
声色は揺れていてる。
それでも、吐く言葉は変わらない。
「我慢は身体に毒よ……?」
更に動かそうとした手を止める。
正確には止めさせられた。依然として震えた声の男が振り上げた腕に。
背後のわたしに向けたそれではない。
なら何を、と考える間に腕は振り下ろされ、
「くあ、ぁ……っ!?」
身体の内を縦横に焼く熱が幾重にもわたしを犯していた。
視界まで白く灼けた一瞬。
硬直した自身の腕の間から男が抜け出た事を、間を空けて立つその姿で知る。
「…………は」
息を吸って肺が痛む。
声を出した拍子に喉が痛む。
「はは……、ははは」
瞬きした瞼が引き攣る様に痛い。
開いた唇が罅割れて痛い。
「あれだけ吸ったのに元気なのね。良いわ」
――けれど、身体は動く。
「もっと熱いのを頂戴。もっと激しくもっと深くもっと激しく……!」
――――だから、もっと愉しめる。
翼から伸びた刃で、男がしたように屋根瓦を突き刺す。
一つ、二つ、三つ、四つ、と前方へ飛ばし、同時に踏み込んだ。
- 367 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:09
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>366
「女の絶倫は大概にしーや」
毒づく虎蔵は左手の人差し指と中指のみを立てた。
後は握る。方術で剣指と云う呪を結んだのを皮切りに、連続して象形を変化させた。機でも織
るような目まぐるしさであり、乱れの無さである。
「四方六合狭間に生ず、山川草木悉皆魔性。上下分かれて両儀と成れば――」
手と連動した速さで呪を紡ぎつつ、指の腹を刀の鍔元へ当てる。秘言の最後を一息に、虎蔵は
切っ先まで指を横滑りさせた。
「剣魂一擲、全て不捨!!」
燐光が生じた。
刃でだ。ぼうと煙る青白い光が、剣指が通った刀身全体に灯っている。
双刀を反転させ、もう一方の刃も鮮血滴る同じ指でなぞる。同様の結果が生じた。
間髪入れず、薄闇を斜め格子状の白光が走り過ぎ――あられのような音が屋根瓦で弾ける。
充分に殺傷可能な速度で飛来したつぶては、全て斬って落とされていた。
対象は瓦、陶物だ。それを砕くのでも割るのでもなく、虎蔵の刀は「斬った」のである。
青光る尖りが女を射た。
指先の血を触媒に、霊妙なる木気の通力を付与した血塗(けつず)の剣――その剣ごと躯ごと、
虎蔵は突きを叩き込んだ。
一撃だけではなかった。
突き、引き、また突く。この往復運動の高速循環は十数合に及ぶ刺突撃の奔騰となって、妖女
へと送り込まれるのだった。
- 368 名前:拾われた少女:04/10/26 23:12
>>367
「しいな」、あるいは「まこと」と呼ばれている女性の傍ら、少女は彼女の腰に縋り付くように
その家を伺っていた。
目的地から聞こえる尋常でない物音に、二人の足は随分前から止まったままだ。
……響く何度目かの破壊音。
それを聞く小さな影は俯いて薄く笑う。
余りに思い通りに行き過ぎているから。
屋根の上の二人を見て考える。
今なら逃げるのも簡単だ。
けれど、これなら――――
「何とかなりそうだよね」
はっきりとは聞き取れない小さな、けれど楽しそうな声で呟いて、少女はそっと女性から離れる。
よほど目の前の光景に気を取られているのか、女性が気付いた様子は無い。
小さな影はそのまま音も無く遠ざかり、濃くなり始めた闇に融ける様に消えた。
- 369 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 23:14
>>368
茫と光る刃が空中の瓦を斬って落とす。
詰めた距離は半分。
それは無手のわたしには少し遠く、男にとっては程の良い間合い。
「っ――――」
押し寄せる切っ先はさながら壁の様。
受けられる体勢で無い以上、避けるしかなかった。
まだ翼から伸びたままの刃を残らず屋根に突き立てて前に出る勢いを殺し、
稼いだ刹那に踏み込んだ足で自身の身体を後ろへ跳ばす。
頬を、腕を、胸を、脇腹を尾を引く光が掠め貫き、血飛沫が咲く。
――ああ。
ぞくぞくと背筋を震わせる痛みに、唇だけで笑う。
傷付くのも愉しい。
傷付けるのも愉しい。
達する直前の感覚にも似た悦び。
「……貴方は、こういう女は嫌い?」
跳び退り、罅割れた瓦の上に片膝を突いて問い、
「わたしは貴方みたいな人、好きよ」
屋根に刺さったまま後ろに跳んだ分ずるずる伸びていた刃を――その、屋根の下に潜りこんだ
部分だけを更に送り出して、一斉に真上へ斬り上げた。
- 370 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:15
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>369
女が退いた分、躍って追った虎蔵は失策に気付いたのかもしれない。
屋根を断ち割って刃が飛び出す僅か前、愕然とした表情をみせたからだ。
どちらにせよ避けるには遅すぎた。
血は刃が伸び行く方向に、逆流れにしぶいた。朱に染まる黒衣が体勢を崩す。
「そら良かった」
こう応じたのは、虎蔵であって虎蔵ではなかった。
同じ姿形、同じ眼、同じ双刀を持ち、得物を八双に構えつつはあったが、少なくとも斬られた
虎蔵ではない。
その虎蔵は女の背後にいた。――いた、と云うか、忽然と姿を現したのである。
“今”この時に。
「俺もさ」
崩れ落ちる自分に換わって血塗れの愛の求めに答え、もう一人の――或いは真物の長谷川
虎蔵は、袈裟懸けに眩い太刀を斬り下ろした。
- 371 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 23:16
>>370
まばらに降る血の雫。
繰り糸を断ち切られた操り人形が崩れ落ちる寸前のような一瞬の静止。
伝わる手応えに陶然とする時間は、然程与えられなかった。
――うし、
ろ? と疑問に思う前に気付く。
コレはフェイク。
そう判断しつつ、身体は跪いた体勢から立ち上がる動きを始めていた。
右に避けるのでも左に躱すのでも前に逃げるのでもなく、後ろへ。
弧を描く男の腕を、肩で下からかち上げるように。
「本当、色々出来るのね。驚いたわ」
双身のどちらかが背を浅く斬り、しかし乱れた弧はそれ以上わたしを傷付ける事は無く。
それだけの間があれば、先ほど振るったモノを反転させるには十分だった。
「けれど――――」
同じような手品を使う以上、タネも想像が付く。
肩で触れた感触が想像を裏付けもした。
それも理由。
けれどそれ以上に、背後のモノがわたしを感じさせられるとは思えなかった。
「もっと上手くやらないと、わたしは騙せないわよ」
弧を描き、或いは真っ直ぐに、黒い鞭がもう一人の男へと疾る。
肉を打ち絡み付き、縊り落とす為に。
- 372 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:18
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>371
闇のしなりは丸太を幾片かに斬り分けた。
丸太――そう、小振りな丸太だ。女の後ろを取った虎蔵では断じてない。
ハンカチと、妙な形の紙切れが纏わりついている。大の字に切り抜き、神字を記した和紙、
これは方術で形代(かたしろ)と云う霊符である。
先刻階下で披露した変り身の術――と見せかけ、瞬時に己の分け身を放った手妻であった。
即ち、
「だからさ」
女の前方で、半ば伏しかけていた黒衣が躍動した。
「全部嘘なんだって」
女の背後に現れた虎蔵も嘘なら、しゃあしゃあと応じた台詞も嘘なのだ。
本当なのは一閃を喰らった事だけである。疵ついたその状態から、一矢報いる為に湧かせた
出鱈目なのだった。
千切れ飛ぶ分身に換わって血塗れの愛の求めを斥け、もう一人の――これは真物の長谷川
虎蔵は、袈裟懸けに眩い太刀を斬り下ろした。
- 373 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 23:18
>>372
背後のモノは容易く捕られ、七個ほどのパーツに分割される。
まるでそうさせる事が狙いだったかのように。
つまり、わたしは。
眼前で今正に振り下ろされつつある一撃を受ける為の武器を、既に使ってしまっていた。
間に合うか――間に合わせなければ。
これほどに愉しい時間がもう終わりになって、しまう。
左の翼を変形させる。――遅い。半端な盾にしかならない。
同時に硬化、時間が許す限りの魔力を送り込む。――足りない。あの切れ味を何処まで防げるか。
身を引きながら、予想される痛みへの覚悟を決めた。
「――――――…………ふふ」
思わず愚痴でも零したくなる位あっさり盾が切り裂かれる感触。
そのまま、止まる事無くわたしの肉に跡を刻み抜けた。冷たく感じるほどに熱い。
一拍置いて血を撒き散らす長い傷口に右手で触れ、使い魔で埋める。
もう、それ以上出来る事は無い。
「多少、は、期待してたん、だけど」
左の翼は盾、右は身体を埋めるのに使って、無理に後ろに逃げたおかげで体勢も崩れて。
返しの一刀で斬断される自身の姿を、ぼんやりと脳裏に幻視した。
- 374 名前:拾われた少女:04/10/26 23:27
>>373
闇から影へ、影から闇へ。
気配を殺して半ば倒壊した一軒の家へと忍ぶのは、先刻の小さな影。
「…………」
ここまでが余りに容易すぎて。
後一歩で念願が達成できるから。
諸々がない交ぜになってともすれば洩れてしまいそうな笑い声を何とか押し殺して、
少女は天井を見上げていた。
外に残してきた一匹の使い魔のおかげで、この上の状況は把握している。
――もうすぐ。
ほら、アレは当たる。
当たった。
今。
少女が着ていたドレスの背が弾け、そこから溢れた黒いモノの群れが凄まじい速さで天井へと疾った。
- 375 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:29
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>374
「何、あんたは好きだぜ」
刀を回転させ、下方から薙ぎ上げる体勢にあった虎蔵は云った。
「でも本気になっちゃいそうな女は好かねーの」
双刀は再度閃いた。
その太刀行きを止めたのはこの男の魔的な感覚だろうし、止め得たのは技量だろう。
先般の再現のように、屋根瓦を貫いて突出した闇の刀林を避け、虎蔵は大きく飛び退った。
片膝をつく。虎蔵とて不死ではないし、現在無事でもない。並大抵のものではない女の斬撃
を幾度も身に受けているのだ。
「……やーまと男子(をのこ)と生まれなばー、3P戦のはーなと散れー」
嫌そうな節回しで歌い、虎蔵は血混じりの唾、と云うより唾混じりの血を吐き捨てた。
- 376 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus :04/10/26 23:31
>>375
「――――、え?」
斬られるのではなく貫かれた。
正面ではなく、下から。
数は、今の感覚では多いとしか判らない。
足首。脹脛。太腿。腹。胸。肩。上腕。前腕。手。それに首。
残らず複数の何かが貫通していて、まるでピンで留められた昆虫か何かだ。
苦痛に身を捩る事すら出来ない。そのくせ重要な臓器と頭部は全くの無傷。
おかげで、目の前を抜けている何かを見る事が出来た。
「こ……れ」
これは。
この刃は。
わたしのそれに良く似たこの黒い刃は――――
- 377 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :04/10/26 23:33
>>376
役に立たなくなった服の残骸が邪魔。力任せに引き千切る。
何時ものデザインで身体を鎧って、展開している双翼から更に刃を一本ずつ。
刺し捕らえたモリガンの傍らを丸く斬り抜いて屋根の上に出た。
「あはははは。モリガン、随分楽しそうだったね。
あんまり楽しそうだったから、リリスも混ざりに来ちゃった――――なんてね、あはは」
ほとんど冗談だったけど、すこしだけ本気だったりもする。
「……いっぱいダメージ受けただろうし、もう動けないかな? まあいいや、ついでに、こう」
モリガンに刺さった刃をぐるりと捻ってから、戻す。
仰向けに崩れ落ちたモリガンの上半身に覆い被さって、
「ね、気分はどう? こわい? くやしい? ……あはは、そんなこわい顔でにらまないでよ」
――――さあ、一つになろう」
血塗れのモリガンに身体を重ね、唇も重ねた。
- 378 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:35
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>377
虎蔵は呆れた様な顔で――事実呆れて、その惨麗かつ妖美な痴戯を眺めていた。
「おーい、三人でやるんなら、二人の世界を盛り上げてるばっかじゃ駄目だぞ」
流石に「俺も混ぜて」とまで軽口は叩けない。何より、膝をついた姿勢から身を起こせてい
なかった。
胸や手足の疵も酷いが、問題は体力の消耗の方だ。異常な脱力感だけならまだしも、それが
ある種の快感を伴っていると来ては。
吸精鬼の接吻を受けた効果である。段平を振り回している間は意識はせずとも、一息入れた
途端、それは甘美な毒を躯中に回らせるのだった。
刀を杖代わりに漸う虎蔵は立ち上がる。足元が少しふらついた。
聞くだけで赤面しそうな、粘っこい調べはまだ終わらない。
絡み合う二つの媚影に声をかけようとして、“女”も“餓鬼”も名前を知らない事に今更思い
当たり、結局虎蔵は間の抜けた問いを放った。
「そう云やあんた――名前は?」
“一体自分はどちらに訊いているのか”と、そう首をひねりながら。
- 379 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :04/10/26 23:39
>>378
指と指を絡め、身体の下の豊かな胸を押し潰すように密着する。
血に塗れた肌を全身で感じる。
「んぅ……あ、は…………」
どこを触ってもやわらかくてきもち良い。
特に胸。
大きくてちょっと羨ましい。
一つになったら、リリスの胸も大きくなるのかな。
そんな事を考えながら、モリガンの口の中に舌を入れて吸った。
長く、長く。
「………………」
更に吸う。
唐突に、ソレが見えた。
「――――――――――――」
映像。
音。
記憶。想い。意思。知識。経験。それに――――大きな大きな、虚ろな孔。
「……っ、はあ――――」
掻き回される。
思考が、認識が、感覚が、魂が。
どれが自分でどれがモリガンなのか見失いそうになる。
欠片である自分が押し潰されそうになる。
怖い。
すごく怖い。
けど、そんな事より、心に開いたこの孔は、まるで身体にまで孔が開いているようで――――
「あ――――……れ?」
思わず胸に手を当てようとして、伸し掛かってきている何かに気付く。
それに、あちこち痛い。
これは……
「……ああ、そっか。本当の身体はこっちだから、こうなるのか」
さっき自分で開けてしまった身体中の刺し傷を、自分の使い魔で応急処置。
冥王を名乗る男に与えられた仮初めの身体を押し退け、起き上がった。
こうなってみると、あの身体も少し名残惜しい。
「あー、待たせてごめ、ん」
舌がもつれた。
痛んではいるけど何処もまだ十分動く筈の身体が、上手く動かない。
「名前? わた、違う、リリスって、言うの」
口調が引き摺られる。
おまけに、気が緩むと意識が遠のく。
「…………だけど、今はちょっと違う……かも」
集中しなおして、続ける言葉を選ぶ。
「リリス+モリガンで、リリガン、とか? なんかいまいちだけど。
……で、どうする? 続きでもやりたい?」
- 380 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:40
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>379
リリスにモリガン、と鸚鵡返しに呟く虎蔵の首はひねられたままだ。
「……ああ、続きな。そらまあ、ここまで来て床離れじゃ収まらんて」
億劫さと嬉しさがない交ぜになった顔でそう云い、虎蔵は左手を振った。また一本、刀が手の
中に現れる。
「こっちの名乗りはまだだっけ。――ロングだ。エドワード・ロング」
幾つも持つ変名の一つを告げて、エドワード・ロングこと長谷川虎蔵は、出したばかりの刀を
手裏剣打ちに投じた。
無造作な動作とも思えない必殺の速度で、何本目かの大刀は女へと飛ぶ。
「仁義八行、彼宿の霊玉、天風矢来の豪雨と成りて、疾く彼の辣奸を撃ち射抜け――」
素早く呪言を叫ぶ口と一つ目が、同じ角度に引ッ裂けた。
「……喝ッ!」
雷瞬、唸り飛ぶ一刀は無数の珠に変じた。
数珠一連をほどいたような、しかし一顆は握り拳に余る大きさだ。煩悩の数程あるかは不明
だが、少なくともそれを疑わせる量の、且つ刀だった時に勝る殺傷速度の流星雨である。
雷念を駆使して珠を操りながら、虎蔵は舌の上で二人の女の言霊を転がしてみる。
霊玉で狙いをつけたのは、勿論起き上がった方だ。
しかし何処かたどたどしい喋り方、何より気配は先日から木下家に居候していた娘のようで
もあり、またそうでないようでもあり。
リリスとモリガン。
二人だったものが一人になったのか、はたまた今までがその逆だったのか――判断材料が少な
過ぎるので虎蔵には判らない。また、この男には如何でも良い事だった。
取り合えず、霊珠は呪令に導かれるまま幾何的軌道を描き、二人乃至一人へとひた走る。
- 381 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :04/10/26 23:44
>>380
動作を確認するように、両の手を握って開いてみる。
「うーん…………」
やっぱり、動きはなんだかぎこちない。
強く気持ちを張って、じっと意識をそこに集中してようやく、って感じ。
この違和感はなんなんだろう。
「……おっと、いけないいけない」
新たな刀を手に取った男の人に意識を向けなおす。
なにしろモリガンがこんなにされたのだ。
向こうも無傷ではないとは言え、それはこの身体も同じ。
他の事を考えながら遊べる相手じゃない。
「――――――」
空気を裂いて迫りつつあった刀が、爆発したように見えた。
弾けた沢山の破片が四方に飛び――――気が付けば、珠に。
全部が別々の軌道を描いて、更に速く。
八方から迫る。
認識に反応が追い付かない。
翼を――個別に迎撃出来る程器用には動かせない。
……なら、的があろうが無かろうが刃を振るう事しかない。
振るう。
振るう。
翼の刃を可能な限り作り出して、周囲の空間に振るう。
振るい、振るい、振るい、振るい、振るい、振るい、振るい、振るい、振るい、振るい、振るい、
振るって振るって振るって振るって振るって振るって振るって振るって振るって振るって振るって、
間合いの中の何もかもを切り刻む。
どうせ、珠は自分から斬断の渦の中に入ってくる。
「やっぱり――――」
普段なら何気なく出来る使い魔のコントロールさえ、上手く出来ない。
撃ち漏らした粒の大きな欠片が、幾つも身体にめり込んだ。
やっぱり、こんな状態で遊べる相手じゃ無さそう。
「誘うようなこと言っておいて、ごめんね。ロング」
屋根も、傍らの自身の抜け殻も、珠も、諸々を微塵に刻んだ血色の塵。
「……でも、また会いに来るよ。必ず」
立ちこめるそれを巻き上げ、飛び立った。
- 382 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:45
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>381
剽風に長髪が乱される中、爛と虎蔵の眼が光る。
独眼ではなく、無い方が眼帯を透かして青光りしたのだ。刀身とよく似た、逆巻く血煙り
塵あくたをすがめる様な輝きはふっと消え、虎蔵は苦笑混じりに舌打ちをした。
「……どろんされちったよ」
まだ闇風は完全に収まってはいなかったが、女の姿は既に無い。
暗い空の何処かに舞い上がった美影を捉えるのは、最早この男にも不可能事だった。
追うべきであったし、虎蔵もそうする心算だったのだが、一足出遅れた。
それは負傷の所為でもあり、また再び甦ってきた虚脱感の所為でもある。寧ろ後者の比率が
大きかったかもしれない。
面倒臭そうに、薄く光る碧血神剣(グリーン・デスティニー)をざくりと屋根へ突き立てる。
「まァ――揚代は払ってなかったしな。次はきっちり受け取って貰うけどさ」
満更負け惜しみの様でもなしに云って、虎蔵はそう結論づけた。
- 383 名前:リリス(M) ◆desireVl9E :04/10/26 23:47
>>382
「………」
暗く、狭い、穴倉の中。
隅に蹲って膝を抱える。
腕を掴む手には、知らない内に力が入ってしまう。
『リリス』を、繋ぎ止める為に。
寒いわけじゃないのに身体はブルブル震え、腕に食い込む爪の下から赤いモノが滲み出す。
でも力は緩めない。
むしろ強める。
そうして、必死に耐える。
――無駄な努力は止めて、諦めなさい。
「……う」
耐えるんじゃない。ねじ伏せる。
――わたしの身体に引き摺られている癖に。
「…がう」
この身体はもうリリスのだ。モリガンのじゃない。
――本当にそうなら、今何に耐えているの? わたしの身体の中で。
「ちがう」
わた、ちがう、リリス、の、モノだ。
――ほら。貴方は自分のつもりでいても、既にわたしに犯されている。
「ちがうちがうちがうちがうちがう!!」
頭の中に響く声を否定する。
それだけでは声は消えない。
肉に食い込む爪を、更に深く立てる。
それでも声は消えない。
力任せに腕を掻き毟る。
まだまだ声は消えない。
背中を預けている岩盤に後頭部を打ち付ける。
声を否定しながら、何度も、何度も。
暫くそうしつづけて、ようやく、静かになった。
背中は岩に預けたまま手足を投げ出して、思い出す。
あの顔と、約束を。
「…………もうちょっとだけ、待ってて。絶対、また――――」
心の中の隻眼の顔に語り掛けて、目を閉じる。
途端に、五日ぶりの眠りへと意識は落ちていった。
- 384 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:48
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』
>>383
「それにしても、最近風が冷たくなったねえトラゾウ君」
「いやはや全く。もうそんな季節だねえキョウタロウ君」
「寒いのは玄関が縄文以前の様式になっているからだ。はよ大工入れろ」
縁側で寝煙草をきめ込んでいた虎蔵は、何か唸りながら半回転して京太郎に背を向けた。
ついでに「あ痛てて」と舌打ちをする。躯中、あちこち包帯だらけなのである。
「まあ、もうちっと待たんか。何せ俺、空ッケツでさ、おあしがさー」
「売るものなら幾らでもあるだろう、段平とか、血とか内蔵とか。後の方なら周旋するが」
「……小便キツくなんのはヤだなあ」
腎臓を片方売った算段でもしたのか、虎蔵は顔を顰めた。と、急にヘラヘラ笑い出し、首だ
け後ろにねじって、冷ややかな表情を崩さぬ京太郎を見た。
「いやお前、寒いのはさ、夜の寝床の湯たんぽ係がいなくなったからじゃねーの?」
「……何だね、それは」
訳が判らん、と云う顔の京太郎の更に背から、
「オソウジガ、ハジメマシタ。ハタキニ、ジャマデシタ。ミンナデタ、ヨカッタデシタ」
涼やかな声がした。
“マコト”がハタキを掛け始めたので、はいはいはいと男二人は腰を上げ、灰皿やら湯飲み
やらを持って別室の方に立った。
少し前に現れ、少し前に姿を消した少女が来る前も後も、この家は全く変わっていない。
十年一日の如く何処かが、或いは何処もかしこもだらけている逢魔が時であった。
- 385 名前:長谷川虎蔵 ◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:49
- >>384 続き
それは暫く経ってからの事。
玄関で――又は嘗て玄関だった場所で、訪(おとな)いの声がした。女性のものである。
“マコト”は掃除の手を止め、応対に向かった。
木下京太郎は読んでいた本から顔を上げ、大儀そうにまた目を落とした。
残りの一人は、
にっと笑った。
多分、美しき来訪者と瓜二つの笑顔で。
【終劇】
- 386 名前:◆QaSCroWhZg :04/10/26 23:58
- モリガン・アーンスランドvs長谷川虎蔵 『いさかいめ』 レス番纏め
>339 >340 >341 >342 >343 >344 >345 >346 >347 >348 >349 >350
>351 >352 >353 >354 >355 >356 >357 >358 >359 >360 >361 >362
>363 >364 >365 >366 >367 >368 >369 >370 >371 >372 >373 >374
>375 >376 >377 >378 >379 >380 >381 >382 >383 >384 >385
- 387 名前:緋皇宮神耶:04/10/31 10:34
- 総容量500オーバー……次スレッドに移行して……
吸血大殲第57章−汝、狩り人たれ−
http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi/ikkoku/1099185710/l50
- 388 名前:ミラ・ヘルシング ◆KpWAN/OGRE :04/10/31 15:22
- まったく……不意をつかされちゃったわ。スレ移動なんて、一年ぶり以上だから。
アーヴィは殺し合いに熱中しているし……もぅ。
つまらないけど、途中経過はわたしは貼ってあげる。
クルースニクvsアーヴィング・ナイトウォーカー
途中経過レス番纏め
>306>307>308>309>310>311>312>313>314
>316>317>318>320>325>326>327>328>329
>330>331>332>333>336
……次のスレも見てくれないと駄目よ。
じゃないとあなたの頭に……真っ赤な花を、咲かせちゃうから。
- 389 名前:ミラ・ヘルシング ◆KpWAN/OGRE :04/10/31 15:27
- クルースニクvsアーヴィング・ナイトウォーカー
途中経過レス番纏め 訂正版
>306>307>308>309>310>311>312>313>314
>316>317>318>320>325>326>327>328>329
>330>331>332>333>336>337>338
……なに見てるのよ。
間違いぐらい、誰にだってあるわ。
- 390 名前:アルビノ“山城友香”(覚醒) ◆0DYuka/8vc :04/12/31 02:20
- 山城友香vsン・ダクバ・ゼバ 〜連獄〜
- interlude -
>232>233>234>235>236>237>238>239
>240>241>242>243>244>245>246>247
そうね、また雪が降り出したから。近いうちに再開したいと思うわ。
- 391 名前:アルビノ“山城友香”(覚醒) ◆0DYuka/8vc :04/12/31 02:22
- 訂正。最後の>247はミス。それじゃ、また地獄の果てで。
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