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吸血大殲第54章 「汝が臓腑に千の口付けを」

1 名前:『姫』 ◆QhSuCcUBus:2003/05/15(木) 23:00


 このスレとやらは我らのような血を啜り夜を闊歩する"人でなし"と、それを狩ることで
しか己を確立できない哀れな"狩人"、そしてそれら等が生み出す"狂い"に犯された魑魅魍魎
どもがただひたすらに殺し、殺され、亡骸と怨念を積み重ね続ける心踊る狂宴の場じゃ。

 勿論、奴等とて猿の如くただただ殺されているわけでもなければ、殺しているわけでも
ない。愚かにも斯様な場所に迷い込んでしまった名無しどもの質問にも答える事だろう。
 よって、問う事――質問する事を躊躇う必要は無い。
 質問するのならば、どの"人でなし"に答えて欲しいか名指すのが良かろうな。
 
 次のスレとやらは、総容量480kbに超えた時に、"超えさせた者"が立てるのじゃ。
 その者が気付かなかった、或いは忘れていた場合は、個々の判断で代理を見繕うのが良いだろう。
 500kbに達したときには、既に完全移行しているように心がけてくれ。
 
 age/sageは等は汝等の好きにするが良かろう。一つだけ――メール欄とやらに己の出典を入れる事
だけはゆめゆめ忘れるな。

2 名前:『姫』 ◆QhSuCcUBus:2003/05/15(木) 23:01

 
 言っておくが、参加及び闘争を行うにあたって一定の基準を設けておる。
 目を通しておくのだな。
 
 ―参戦基準の判断―
 参戦基準は原則、『吸血鬼』に関係がある者となっておる。
 これは原典が吸血鬼を取り扱ったものであることや参戦者が吸血鬼、あるいは狩人であ
ることを意味するものという定義になるな。
 
 ―逸脱キャラクターの処遇について―
 逸脱キャラクターとは原典が吸血鬼と無関係であるものと定義しておる。
 此処はあくまで『吸血大殲』じゃからな。吸血鬼と無関係な闘争をすれば、そこに絶望的
な矛盾が生まれるのは自明の理だろうて。
 故に使うでない。
 どうしても使いたいと言うのなら、頭を使う事じゃ。
 異端が異端として見られないようにするには、相応の努力と実力が必要になる。
 ここ吸血大殲の可能性には限りが無い。その無限の可能性の片鱗を見出せれば、幾らでもやり
ようはあろうて。
 これは具体的に例を示せる物でもない。
 既存の闘争やZEROスレ(http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=1037803005
などに目を通して、先を往った者達がどのようにやっておったのか学んでおくのも面白いかもしれぬな。
 
 おぬしが思う大殲こそが"真なる"大殲じゃ。しかし、それが他の者に取っての"大殲"には
成り得ぬ。人はみな一人故にな。おぬし以外の人間は全員、おぬしとは違うと言う事じゃ。
 
 参加者はこれらのことを頭の隅にでも置いた上で、幾らでも殺して殺されて死んで死なせて、
私に血と絶叫と死を捧げるが良い。
 
 関連リンクは>>3に、参戦の為の自己紹介テンプレートは>>4にある。
 新規参戦者は>>3のリンクにある『吸血大殲闘争者への手引き』に必ず目を通し、それか
>>4の自己紹介テンプレートを使って名乗りをあげるのだな。

3 名前:『姫』 ◆QhSuCcUBus:2003/05/15(木) 23:02

関連リンクじゃ。

■『吸血大殲闘争者への手引き』
http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Orion/4504/vampirkrieg.html
 
■真・吸血大殲板(屑共の本拠地だ)
http://plan-a.fargaia.com/html/vampbattle/index2.html

■吸血大殲闘争専用会議板(闘争の会議はひたすらここでやれ)
http://jbbs.shitaraba.com/game/1721/
 
■参加者データサイト『吸血大殲 Blood Lust』(左手作成・過去ログも全てこちらにあり)
http://members.tripod.co.jp/humituki5272/taisen/index.html
 
■吸血大殲本家サイト
『From dusk till dawn』
http://www.uranus.dti.ne.jp/~beaker/
 
『戦場には熱い風が吹く』 (仮閉鎖中?)
http://www.geocities.co.jp/Playtown/4875/
 
■前スレ
吸血大殲第52章『鉄血の行軍』
http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=043854167

■太陽板の質問スレ
吸血大殲/陰 其の15 混沌屋敷『眩桃館』地下 〜大殲資料の間〜 
http://www.alfheim.jp/~narikiri/narikiri/test/read.cgi?bbs=TheSun&key=1021881487
 
■広報、情報スレ
吸血大殲ZERO 〜二つ目の序章〜【吸血大殲広報スレ】
http://appletea.to/~charaneta/test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=1037803005

4 名前:『姫』 ◆QhSuCcUBus:2003/05/15(木) 23:02

出典 :
名前 :
年齢 :
性別 :
職業 :
趣味 :
恋人の有無 :
好きな異性のタイプ :
好きな食べ物 :
最近気になること :
一番苦手なもの :
得意な技 :
一番の決めゼリフ :
将来の夢 :
ここの住人として一言 :
ここの仲間たちに一言 :
ここの名無しに一言 :

5 名前:『姫』 ◆QhSuCcUBus:2003/05/15(木) 23:08


・・・誰が誂えたかは知らぬが、テンプレートとやらに不備が在ったらしいな。
正しくはこうじゃ。
 
■前スレ
吸血大殲第53章 Smoke,Soile or Sacrifices
http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=048092550

6 名前:劉貴:2003/05/16(金) 01:40

>>1-5
姫、わざわざ御自らスレ立ての労、まことに大儀にござりまする
こうして姫の立てられたスレッドより戦に参加する事、光栄至極にございます。
 ――――――――――――――――――――――――――――――
 
俺の名は劉貴という。
出典は菊池秀行の「夜叉姫伝」。カテゴリは、そう、Cの吸血鬼という事になる。
元々は「姫」の従者の一人として新宿にやってきた者だ。
尤も、今は姫の下を去った不肖の身なのだがな。
姫の下にいたときの主な仕事は姫の機嫌を損ねた者の始末と、
気紛れなあの方の愛の対象物を務める事。
2000年前、あの荒野で姫に拾われて以来、俺はそうして姫に仕えてきた。
それが良い事だったのかどうかは今でも判らぬが、恩義である事に変わりは無い。
あの方を裏切るなど、俺にはできぬよ。例え、姫の下を離れた今でもそれは変わらん。


名前 :劉貴
年齢 :秦代から今日まで生き…、いや死に続けている
性別 :男
職業 :かつては始皇帝の第一の将。今は姫の下僕だ。俺はあの方に仕える人形にすぎぬ。
出典 :夜叉姫伝
趣味 : 詩吟
恋人の有無 :秀蘭は俺を想ってくれているようだが、俺は応えられぬよ。
好きな異性のタイプ :姫以外の女性に惹かれるわけにはいかぬ。
最近気になること :……この血の渇えを抑える事はできぬのか……
一番苦手なもの :陽光と桃の実
得意な技 : 気効術と妖琴「静夜」を用いた催眠
一番の決めゼリフ :漢詩や故事成語を少々使う事がある
将来の夢 :生きる、ただそれだけだ。
ここの仲間たちに一言 : こんな俺だがよろしく頼む
ここの名無しに一言 : ……逃げろ……間もなく俺は俺でなくなる……。…血を……。

今の俺はただの無宿人だ……。そう……お前達に…危害は……うぅ……
お前の……血を……よこせ……。

7 名前:アハト ◆achtG1oo8M:2003/05/16(金) 14:11

ダンテvsツァーレンシュヴェスタン 『Air』
前スレ>428
 
 くるくると宙を舞う二人の身体。
 ゼクスの焦げ茶色の髪が、ズィーベの銅色の髪が、風に揺られて棚引く。
 アハトはそれを見て、場違いにも感動のような思いを抱いた。
 
 ―――なんて、綺麗。
 
 空に踊る二人を、つい目で追ってしまう。彼女達はくるくると回っていた。
 くるくる、と。
 紅い色の何かを撒き散らしながら、くるくると。
 両手を広げて、空を踊る。くるくると。そう、くるくると。
 くるくると回って踊って、
 
 
 どすん。
 
 
 地面に落ちちゃった。
 ゼクスもズィーベも、もう動かない。
 
「あああああああああああああああああ!?」
 
 じりじりと精神を侵していく恐怖を振り払うかのように、絶叫。絶叫。
 尻餅をついた姿勢で呆然としていたアハトは、突然の恐慌状態に陥った。
 ゼクスが落ちちゃった。ズィーベも落ちちゃった。ノインもフュンフも、みんな、みん
な落ちちゃった。もうわたししかいない。次はわたしだ。わたしが落とされるんだ。
 
 あの、悪魔に!
 
 哀れなゼクスとズィーベが撒き散らした血煙の向こうで、ゆらりと揺れる赤い影。
 血色の衣を纏った悪魔がそこにはいた。
 あれは悪魔だ。あれが悪魔だ。あいつがみんなを落としたんだ。地獄に落としたんだ。
 アハトは「ひぃ」と短い悲鳴を上げて、尻餅をついたまま後ずさる。
 その声に反応してか、ダンテの銀の瞳がアハトに向いた。更にもう一度彼女の悲鳴。
「ひぃ」

8 名前:アハト ◆achtG1oo8M:2003/05/16(金) 14:12

>8
 
 ダンテはそんな恐怖に脅える彼女を、物憂げに見つめている。殺意や憎悪ではなく、底
のない憐れみと慈しみで、見つめている。その視線はとても痛々しく、誰よりもダンテ自
身を傷付けているように窺えた。―――むろん、アハトにはそんな彼の視線に気付く余裕
など無いわけだが。
 
 ―――逃げないと。
 ―――落とされるのは嫌だ。
 ―――だから、
 ―――逃げないと。
 
 そう決めると、行動は早い。跳ねるように立ち上がり、ダンテに背を向けて猛然とダッ
シュ。転げるように、荒野を駆けけた。
 途中何度も躓きながら、アハトは必死で逃げる。
 嫌だ。嫌だ。怖い。落とされたくない。落ちたくない。嫌だ。絶対に嫌だ。
 彼女の中にあるのは、恐怖だけだった。
 
「!?」
 
 三秒ほど、足を駆っただろうか。100メートルは進んだところで、アハトは唐突に立
ち止まる。
 後方には、悪魔。赤いコートを羽ばたかせ、全ての者に等しく恐怖を与えんと佇んでい
る。そして彼女の眼前。前方には、
 
 死神。
 
 何も言わず、何も語らず、ただアハトの進む道を阻むかのように立ち尽くしている。
 表情は相変わらず虚ろで、モスグリーンの瞳は完全に凍り付いていた。
 感情の無い死神がそこにはいた。他の五人とは違う、"本物"の死神が。
 
「フィーア……」
 
 アハトはそこでようやく気付いた。怖いのは悪魔だけでは無かった、と。恐るべきはダ
ンテだけでは無かった、と。
 そして己の過ちにも気付く。敵に背を見せて逃げることが、如何に愚かなことか。
 アハトはこの瞬間、自ら"死神の子供"という立場を捨ててしまったのだ。
 彼女達の中の一つのルールが、アハトの身体を恐怖で凍らせていく。
 
 
 裏切り者には、死を。
 
 
 それはいつでも、絶対だった。

9 名前:フィーア ◆VierFrypjg:2003/05/16(金) 14:12

ダンテvsツァーレンシュヴェスタン 『Air』
>7>8>9
 
 一歩、フィーアが足を踏み出した。同時、びくりとアハトの身体が震えた。
 更に一歩。アハトの瞳が恐怖で染まりきる。フィーアの重圧に負けて、重心を後ろにず
らした。しかし、後ずさりはしない。足が竦んで動かないのだ。
 
 フィーアは、もう完全に冷静を取り戻しているかのように見えた。
 ノインが放った死のイメージに未だ囚われているようには、とても見えない。
 それ程までに彼女は落ち着いており、大地を踏み締める一歩一歩の足取りも、確として
いた。
 
「あ……あ」
 
 喘ぎ声にも似た声が、アハトの喉から漏れた。少女の姿を模した死神は、もうゼクスの
目と鼻の位置にいる。
 すっ、とフィーアの手がアハトの頬に伸びた。
 アハトは凍り付く。息を殺し、目を見開いた。
 
 ―――……殺さ、ないで。
 
 声にはならない懇願の声を、心中でアハトは呟いた。
 
 フィーアの手の平が、アハトの頬を優しく撫でる。彼女の手が首筋まで届いた時、わた
しは喉を抉り取られて死ぬのだろう。何とはなしに、アハトはそう確信した。
 恐怖に縛られながら、ぎこちなく瞳だけを動かしてフィーアを見る。声が恐怖で出ない
のなら、視線で慈悲を訴えようという考え―――いや、本能から来る行動だ。
 アハトの灰色の瞳に写る、少年のような容姿をした少女―――死神は、
 
 
 微笑んでいた。
 
 
 ―――……どうして?
 
 今まで一度として見せたことのない彼女の笑みが、なぜこんな所で見られるのか。
 狂気に逃げた笑みではない。優しく暖かい、いま夜空に浮かぶ月にように安心感のある、
とても柔らかい笑みだ。
 
「大丈夫」アハトの頬から手を引いて、フィーアは――今までの彼女からはとても想像で
きないほど優しい声音で――言った。
「あなたは死なないわ」
 
 フィーアはアハトから視線を離し―――100メートルほど先で立つ、ダンテを睨め付
けた。彼を見るフィーアの瞳は、いつもの如く―――否、いつも以上に鋭く冷たい。
 一歩、また一歩と彼女は歩を進める。フィーアとアハトがすれ違う。アハトは生きてい
た。相手を前にして背中を見せたのに、アハトは生かされていた。なぜ―――
 混乱するアハトを余所に、フィーアは歩み続ける。ダンテとの距離を半分程度詰めたと
ころで立ち止まり、赤き悪魔と相対した。
 フィーアは素手だった。両刃刀は投擲して失っている。
 
「だって、」
 
 か細いフィーアの声に反応して、ゼクスは咄嗟に後ろを振り向いた。彼女の視線の先に
は、僅かに小さくなったフィーアの背中。
 フィーアは自分に言い聞かせるように、言った。
 
 
「わたしが守るもの」

10 名前:ジャック(M):2003/05/17(土) 23:46

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
(導入)

「―――うーわ。ひでぇな、こりゃ」
 
上海警察・対妖怪型監獄棟。
破壊活動を働き、人と相容れようとしなかった人外に用意された、特別誂えのトラ箱。
その一室――――赤で乱雑に塗装された酸鼻きわまる独房を覗き込み、俺は独りごちた。
 
 
ことの起こりは一週間前、切らしたタバコを買いに行った帰り道。
その時俺は事務所への近道って事で、とあるビル密集区画の裏路地を歩いていた。そこへ―――
「ゼェッ・・・はぁ、はぁっ・・・そ、そこをっ…通せーーーーーっ!!」
 
目を血走らせ、明らかに人外のそれと分かる爪を振り回しながら、男がこっちへ走ってくる。
口には長い牙・・・下級の吸血鬼か?
仮に人間だったとしても、ああいう手合いはヤバい。――ん?あれは・・・!
 
「いいモノめーっけ♪」
俺はリボルバーを抜き、装填されていた5発全弾を・・・・・・奴の頭上へ撃った。射線上にあったのは――――
やたらとゴテゴテした、大きな上海ガニの看板。
 
「うぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」
 
――――ずがしゃあぁぁぁぁん!
 
特大のカニ型看板はかなり近所めーわくな音を立て、三下吸血鬼を下敷きにしていた。
奴がカニの残骸の下でもがいてる隙に弾を再装填し、銃口を奴の額に向ける。弾丸は退魔弾。
「さて質問だ・・・吸血鬼。おとなしくあっちの世界に――」
「追いついたぞ!総員確保だーーーーーーーーっ!!」
 
俺の声をさえぎって、奴の後方から大音声。―――上海警察機動第2小隊、通称「妖怪班」の御到着だ。
・・・成程。こいつ、なんかヤバイ商品のバイヤーだったのか。
倒れている男に警官隊が次々と飛び掛かり、あわれ男は強引に対妖怪型のケージへ押し込められる。
 
「思い知ったか上海警察の底力ーーーーーーーーーーっ!!!」
得意満面に勝ち誇り、絶叫する部長サン。
ナイスヒキョー。ってかそいつ捕まえたの俺だし。
「ん?お前妖道士社の!見たか、我々上海警察の実力を!」
今さら気付いたのか、俺に声をかけてくる部長サン。
「やだなぁ、ちゃんと見てたっスよ。相変わらず民間にすがんなきゃ妖怪一匹逮捕できない
 非力な国家権力様の実力は。
 ところで謝礼は?謝礼は?」
犯人逮捕に協力したんだ、金一封ぐらいはもらわねーとな。

11 名前:ジャック(M):2003/05/17(土) 23:49

>>10(続き)
 
何やら部長サンの額に青筋が浮かぶ。高血圧だろうか?大変そうだなー。
「・・・謝礼?くくく・・・」
部長サンは眉間にン十本の皺を寄せながら周囲を一瞥し、仁王様のような笑みで、
 
「・・・犯人逮捕への協力には感謝しよう。君へのプレゼントは――――
そうだな、公共物破損ってことで留置場<スイートルーム>の無料宿泊券と、あっちの大ガニの修理費の請求書だな」
 
・・・はい?
 
――そういやあの上海ガニ、ゴテゴテしてただけあって金のかかってそーな造りだった気が・・・
後ろに目をやると、もはや跡形もないカニ型看板の残骸。
そして、全身に突き刺さるおまわりさん達の白い視線、視線、視線―――。
 
・・・ヤバい。
言いたいことは山ほどあったが、あまりのプレッシャーにそれすらも言い出せない。
 
「あは…は、はは・・・。失礼しましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
それだけ言うと、俺はあらん限りの速度でその場をあとにした。
 
・・・・・・後で届けられた請求書を見た社長の釘バット(金属)が、俺の血を吸ったことは言うまでもない。
 
 
―――あとで聞いた話だが、あの時逮捕された三下吸血鬼は
世界的なチャイニーズマフィア「シ・ファン」の構成員だったらしく、
最近になって頻繁に麻薬の密売を行っていた為、警察も奴をずっと張っていたそうだ。
そして明朝からこいつに、黒幕とその内情をゲロさせるべく、さらなる取調べを行う筈だったのだが・・・・・・・
 
―――情報を流すはずだった口から大量の血を流し、全身をズタズタにして、男は物言わぬ肉塊と化していた。
結局半端者なだけあって、不死性までは持ってなかったらしい。
 
「・・・で部長サン、何でウチの会社が呼ばれたんだ?」
俺を呼んだ張本人、上海警察妖怪班のリー部長に問い質してみた。
依頼が来るのはやぶさかじゃないが、普通こういう事態はウチなんかに回さず警察で処理するだろう。
 
「アレだよ、アレ」
 
部長サンは重苦しさとイライラが同居した顔で、比較的血の飛び散りようが少ない壁面を指差す。
そこには―――
 
             『其次就是妖道士社了(次は、妖道士社)』
 
 
予告とも挑戦状とも取れる文面が、血腥い字体で書き残されていた。

12 名前:悪魔博士(M):2003/05/17(土) 23:53

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>10>>11
 
「不心得者の始末は済んだであろうな」
 
 立ち込める強い線香の煙の中を、皺深い声が流れた。
 薄暗い室内である。所狭しと並ぶ豪奢な家具の一つ、大きな机に声の主は座していた。
 古風な中国服を着た老人だ。
 刃物のように伸ばした爪を差っ引いても、火影に揺らぐ老人の顔は異様に悪魔じみて見えた。
 
 その問い、というより確認の語調に恭しく頭を下げたのは、机の前に立っている少女だった。
 老人と異なり、彼女が既に“死んで”いる事は、陶磁器色の肌や紅い瞳から見て取れる。
 吸血鬼である。
 だから歳の程は判らない。不死者の年齢を外見で判断するのは困難なのだ。
 黒いチャイナ・ドレスを纏った少女は口を開いた。
 
「上海警察での処理は滞りなく完遂致しました。後はあの者の逮捕に関し、尤も罪深き者に
対する返礼のみでございます」
 
 老人は頷いた。長い爪がコツコツと卓上を叩く。
 
「要らざる手出しが如何に愚かであるか、我らは確かな形を以って世に示さねばならぬ。
 我らとの取引を台無しにされた青雲幇に対しては特に、な」
 
 ここ、ロンドンはライムハウスに秘密の居を構えるこの老人が、嘗て世界三大危険人物の
一人に列せられた事実を知れば、総毛立たぬ者はいないであろう。
 古えより中国黒社会(チャイニーズ・マフィア)の中でも最悪を謳われた巨大組織、今なお
世界中に根を下ろす秘密結社「シ・ファン」の大首領こそ彼なのだ。
 “悪魔博士”、“奇妙な死の王”などとも人は呼ぶ。
 
 博士は軽く手を振る。退室の合図に深々と一礼し、少女は部屋を去った。
 香に充ちた室内で博士は瞑目する。
 数日を経ずして届けられるであろう、彼の期待通りの報告を思って。

13 名前:ジャック(M):2003/05/17(土) 23:56

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>11-12
 
      『其次就是妖道士社了(次は、妖道士社)』
 
 
その血腥く、かつあまりにも剣呑な内容の文章に、俺達は息をのんでいた。
 
「―――――で?結局、我々にどうしろと?」
 
「!」
背後から浴びせかけられた冷淡な声で、俺達は我に返った。
 
「しゃ、社長!?」
声の主たるスーツ姿の女――――九尾社長は、眼鏡の奥の冷たい目もそのままに聞き返す。
「だから、これを我々に見せてどうしようというのか聞いているのだ」
 
・・・・・・・・・?
少々ピントがずれている質問だな。いや、あの人の性格だ・・・まさか!
「だから、そちらの会社が狙われてるって事をこうして伝えて・・・」
部長サンがごくごく当たり前の答えを返す。・・・分かってねぇ。
 
「つまり、これは我々への協力要請だと解釈していいわけだな?」
部長サンのことばを遮り、かなり押しの強い口調で社長が言った。・・・嗚呼、やっぱりか。
「ど、どうしてそういう解釈になる!?」
あわてて言い返す部長サン。
―――次の瞬間、社長の眼鏡が光った気がした。その奥の瞳に「商売」の輝きをたたえて。
 
「――簡単な話だ。上海警察は犯人を逮捕し、そしてその犯人は殺害された。
そこでまず第一に、囚人は三下とはいえ吸血鬼、そしてそれを苦もなく殺害してのける刺客は当然、
そこの死体以上の化物。警察には手に負えない人外の可能性もある。
第二に、収監していた囚人が殺害された。しかも上海警察の敷地内で。これは不祥事であり
世間にはさらしたくない醜聞だ。だから内密に処理しておかねば、警察の沽券にかかわる。
第三に、殺された囚人の黒幕。こいつを殺したのは口封じのためだろうし、それだけの刺客を飼っている組織も
おそらく大組織。―――こいつのバックの組織はなんと言った?」
そこで一旦言葉を切り、質問する社長。

14 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:00

>>13(続き)
 
「・・・『シ・ファン』だ」
あっけにとられて答える部長サン。
なるほど、あの『シ・ファン』か・・・ウチも厄介なトコに目をつけられたもんだな・・・。
「・・・あの、『シ・ファン』ってどんな組織なんですか?」
新人のスーアン少年が、後ろで説明を求めてきた。…無理もないか、この業界に入って日が浅いからな。
「『シ・ファン』ってのはね、この上海でもかなり大きなマフィアだよ。物騒なウワサも結構聞いてるけど・・・」
ヤンが説明してくれた。うんうん、いい後輩持って先輩は嬉しいぞ。
「えぇぇぇぇっ!?そんなトコに狙われて僕達大丈夫なんですかっ!!?」
取り乱すスーアン。…仕方ないと思うが落ち着け、少年。
 
そんな俺達をよそに、社長は“説明”を再開していた。
「・・・成程、シ・ファンか。それほどの大組織に着手するというのなら、猫の手も借りたくなる。
で、ちょうど身近に協力するのに手頃な者がいる。これなら、我々に協力を求めても不思議ではあるまい?
さあ、どうする?どうする?さぁ!?」
 
「うぐ・・・」
一気にまくし立てられ、沈黙する部長サン。
「・・・分かった。非公式ではあるがこの一件、妖道士社への協力を要請する」
折れたな。かわいそーに・・・。
だがそこへ、社長が追い討ちをかけるように言った。
 
「ならすべての経費はそちら持ちでいい訳だな?」
 
「んな!!?どーしてそういう話になる!!?関羽事変のときもそーだっただろうが!!」
これには流石にたまりかねたのか、部長サンは抗議の声を上げた。
だが九尾社長はまったく動じずに、
「これも簡単な話だ。我が妖道士社はそちら側――上海警察の捕り物に巻き込まれた結果、
暗殺者に狙われるという不利益を被った。まあこのジャック君が首を突っ込んだという点、
依頼料はまけてもいい。だが我々が協力せねば、この件自体を処理し切れんというのも事実。
そちらがさんざん吹聴している、上海警察の威光にも傷が付いてしまうはずだが?」
 
突きつけられた事実に、絶句する部長サン。そして…とどめが来た。
 
「要はこの件、依頼料はまけてやるうえに一番警察に被害の少ないやり方で暗殺者の処理を
『引き受けてやる』と言っているのだ。
それとも何か?男に二言があるとでも?」
 
「ありましぇん・・・・・・」
もはやグゥの音も出ないまでに言い負かされ、涙だくだく流しながら部長サンは承諾した。

15 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:01

>>14(続き)
 
「―――さて、話のまとまったところで」
びし、とでも効果音が鳴りそうなほど見事に方向転換し、九尾社長がこっちに向き直る。・・・ヤな予感。
次の瞬間、彼女の口から、信じがたいフレーズが飛び出した。
 
 
「いきなりだが、私はこれからしばらく留守にする」

・・・はい?

「はい?」
「ええええええぇっ!?」
「ちょっと何考えてんですか社長っ!!?」
ヤン、スーアン、そして俺の口から、次々に驚きの声が上がる。
当然だろう。かなり物騒な依頼を受けといて、なおかつその直後にお出かけ宣言。しかも社員ほったらかしで。
誰だって抗議の一つ言いたくもなるはずだ。
「何でですか社長!?大マフィアの暗殺者に狙われてるんですよ!僕達どうなるんですか!?」
「なんだってこんな時期に事務所空けるって言うんですか!?しかも暗殺者とコトを構えようって時に!
――はっ!もしかして高とb―――」
俺とスーアンの、至極正当な抗議。しかし俺は、最後まで言い切ることができずに黙り込んだ。
・・・『シャラップ』と書かれた釘バットのために。
 
新たにできた血だまりに倒れる俺を尻目に、九尾社長が説明を始めた。
「・・・誰が受けた依頼を放って高飛びなんぞするか、馬鹿者め。
そろそろ、通常弾も退魔弾も心もとなくなってきていたからな。その仕入れのためだ。
弾がなければ、業務にも差しつかえるだろう?」
うぅ…いちいちごもっともな意見。
 
「――それと、業務は通常通り、滞りなく行え。こんな事で儲けを減らすわけにはいかんからな」
・・・社長、暗殺者とのケンカを「こんな事」で片付けられるアンタは偉い。
 
「・・・で、アサシンはどーするんスか」
どうにか身を起こし、俺は質問した。
「先方はわが社が目当てだ。黙っていてもむこうから来てくれるだろう。その時は――」
 
「その時は?」
オウム返しに聞き返す。
「どうせ相手は人外か、そうでなくてもマフィアの走狗になるようなロクデナシだ。
ジャック君、いっちょ左手でもんでやれ」
……予想通りの答えが返ってきた。やれやれだ。文句の一つも言ってやろうと思ったが――
・・・血で汚れた『シャラップ』がこっちを向いていたので、泣く泣く言葉を飲み込んだ。

16 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:03

>>16(続き)
 
―――それから一昼夜経ち、もう夕方。今のところ襲撃はなく、仕事もなく・・・
俺たち三人は、事務所で所在無く過ごしている。
あの後社長は、その足で夜の街へと姿を消していた。
 
「言ってることは分からなくもないけど、本当何でこんな時に・・・」
「ホントだねー」
「全くだ」
三者三様に言う。…もっとも、ヤンはただの合槌だが。そんな時―――
 
 
               …・・・たーん、すたーん。
 
――――なんだ、この音?
 
「・・・今何か聞こえなかったか?」
「なんですか先輩?あたしには聞こえませんでしたけど」
 
               …すたーん、すたーん、すたーん…
 
やっぱり聞こえる。縄跳びの音をかなりスローモーにしたような…。
そんな事を考えてるうちに、その“縄跳び音”はどんどん近く、大きくなっていき……
ある程度まで来た所で、不意に消えた。
 
「―――?」
一瞬音が消え、訝んだ次の瞬間―――
 
ずごばきゃぁァッ!
 
盛大な音を立て、ドアが砕け散った!

17 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 00:06

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>13>>14>>15>>16
 
 吹き飛ぶ破片を更に跳ね散らかし、大きな何かが部屋の中に飛び込んで来る。
 空中を、まるで深海に潜む魚怪が泳ぐかのように駆け、それは着地した。
 先程の物音は、この人物が跳ねる足音だったらしい。
 両手を前方に突き出した老人であった。
 
 蚯蚓のような皺に埋もれた顔からは、水分というものが完全に失せていた。
 年齢も性別も人種すらも、一見しただけでは判らない。それ程年老いている。
 だが、弱々しい印象はまるでない。
 黄色い中国風の長衣に包まれた巨躯は見上げるばかりに逞しく、両手の先に光る爪は
刃の鋭さと長さを兼ね備えている。
 そして今一つ。
 口元からはみ出ているのは、細長い泥鰌髭と同じ位伸びた――二本の牙だ。
 
 吸血鬼――この国の伝承に倣えば僵尸(キョンシー)であろう。
 死せる闇の生を一世紀以上過ごした不死者を長生者(エルダー)と呼ぶが、この人間に
似た生き物が閲した歴史は、その数倍では到底効くまい。
 最暗黒の巨大組織が飼う、最悪の怪物の一匹だ。
 
 眼を閉じたままの顔が部屋を見渡す。ゆるゆるとした動きはある一点で止まった。
 即、飛んだ。
 白い辮髪を揺らし、長生者の躯は大きく跳ねたのだ。
 床と平行に突き出た両腕両爪が向かう先、それは突如戦場と化した一室には不似合いな、
幼い少年へ向けてであった。

18 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:08

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>17
 
 
「んな―――――!?」
 
不可解な“縄跳び音”の直後、いきなりドアが吹っ飛ばされる。
そして飛び散る破片に紛れて飛び込んできたのは、黄色い装束を着た大柄な老人だった。
それも両手を突き出し、両足を揃え、奇妙な跳ね方をして。―――――成程、僵尸<キョンシー>か!

「おいでなすったな・・・!」
素早く銃を抜き、奴に向ける。
・・・と、そこで奴の動きが止まった。
さっそくいつもの警告と説得を試みる。―――もっとも、先方に聞く耳なんぞハナっからないだろうが。
「さて、一応警―――」
そこまで言った時だった。
 
「キ、僵尸・・・!?」
後ろでスーアンが、今さらながらの驚きの声を漏らす。
 
その声に反応したのか、奴はいきなりスーアンに向けて飛び掛かった!

19 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:13

>>18(続き)
 
 
袖の先から鋭く光る爪をのぞかせ、スーアンに飛び掛かるキョンシー。――――ヤバい!
 
俺やヤンの位置から、スーアンのデスクは少々離れたところにある。
俺は奴を止めようと駆け出すが――――間に合わない!
そしてキョンシーの袖の先がスーアンに届こうとしたその瞬間――――
 
ばちばちばちぃっ!
 
何かが奴とスーアンの間でスパークし、一瞬奴の動きが止まる。
何だか知らねぇが――もらったっ!
 
 
俺は再び走り出し、蹴りを繰り出す。
狙いは―――ちょうど俺と奴の間に山と詰まれた、始末書苦情請求書その他もろもろの山。
 
「おらあッ!」
 
俺の脚は見事に、奴を書類の山ごと蹴り抜いた。
直後、追い討ちとばかりに崩れた書類が奴の上半身を埋める。
日ごろの行いも、こうしてたまには身を助けてくれるってことか?(注:違います)
これで少々は時間が稼げる―――今のうちに!
 
「逃げるぞっ!」
社長のデスク上に置きっぱなしにしてあった銃弾ケースをひっつかむと、俺は外へと飛び出した。
「了解!」
まだ荒い息をついているスーアンの襟首をつかみ、一瞬遅れてヤンも出てくる。
 
こんな人目のあるところじゃ十分に戦えない。それに、事務所が荒らされたら・・・後で社長に殺される!
とりあえずは―――
ガレージの車に全員飛び込むのを確認すると、俺はエンジンをかけた。

20 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 00:16

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>18>>19
 
 吹雪のように舞う紙切れの中から、ヴァンパイアは立ち上がった。
 ふいごじみた息を吐き、開かぬ目蓋で何かを視るかのように周囲を探る。
 事務所の住人らが駆け去ったドアの方に進みかけ、停止した。
 ぴんと双腕を伸ばしたその躯は、踵を中心に半回転し、窓の方を向いた。
 一拍おき。
 長生者は砲弾に等しい勢いで跳んだ。
 
 数メートルの距離を一気に無し、窓ガラスを突き破って街路に飛び出す。
 盛大にぶち割ったガラスの破片が夜気の中で煌く。その美しさと対照的なまでに醜怪な老人は、
漏れ聞こえる車の駆動音の方へ跳ね始めた。

21 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:19

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>20
 
全員が軽乗用車に乗り込んだのを確認し、エンジンをかける。
「ジャックさん、これからどうするんです!?」
かなり慌てた声で、スーアンが聞いてくる。
「決まってんだろ?このままここで戦っても人目があるし、事務所の中なんぞ論外だ。
 ほっといてもどーせ―――」
 
――ぱがしゃぁぁん!
 
「あ、出てきました」
緊迫した状況に、まったく似つかわしくないヤンの声。やっぱそーきますかっ!
「うどわわわぁぁぁっ!?」
わめくスーアン。・・・まったく、君リアクションに事欠かないねぇ。
やはりというかなんと言うか、な事態に辟易しながら、俺は指示を出した。
 
「とりあえず――――ここを離れる!
ヤン!大至急あんま人目につきそーにない広いとこ検索!!」
「了解!」
ヤンの返事を待たず、俺は車を猛スピードで発進させた。

22 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 00:23

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>21
 
 重い響きが連続している。
 みっしりと中身が詰まった皮袋を落とし、ゆっくりと吊り上げてはまた落とす。――そんな音だ。
 間隔は妙に長い。
 跳ねる屍の足音である。
 
 一跳びで三、四メートル以上は稼ぐ。標的の車を、その猛然たるスピードにも負けずに、
付かず離れずに追跡して行く程だ。
 時折擦れ違う対向車のドライバーを仰天させる、奇怪な情景であった。
 
 跳ね音に変化が生じ始めたのは、悪夢の鬼ごっこが始まってから暫くしての事だ。
 間隔が次第に狭まり出したのである。
 飛距離は変わらないのに、跳ねる回数が加速度的に速まっていくのだ。
 始めは徐々に、次第に激しく。
 彼我の距離は確実に縮まっていった。
 
 段々と、段々と。
 長生者が長い手を伸ばせば、もう届きそうな位に。

23 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:27

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>22
 
車を急発進させ、急いでヤツを引き離しにかかる。
こっちは車、あっちは徒歩だ。いくらキョンシーの身体能力でもそうそう追いつきはしないだろう。
 
「なぁスーアン、お前があのキョンシーに飛び掛かられた時、なんか妙なモンがスパークして
攻撃防いでたな。あれは何だったんだ?」
少々心に余裕ができたので、とりあえず疑問を口にしてみた。
「あ、あれは僕が入社する時に持ってきてた呪符ですよ。まさかあんなとこで道士学校の経験が
生きるとは思ってませんでしたけど」
なるほど・・・そういう事だったか。
 
「で、呪符はまだあるんだろ?」
「・・・事務所の中です。だってあの時とっさの事だったし」
「なぬっ!?せ、せっかく対抗手段に使えるかと期待してたのに・・・」
そこまで言った時だった。
 
           ……すた――――ん、すた―――ん・・・
 
車の後ろから、聞きたくもないあの縄跳び音が聞こえてきたのは。―――まだ追って来てる!?
(よくついてくるな・・・)
驚きと呆れをないまぜにしながら、サイドミラーで奴を確認する。だが次の瞬間―――
 
 …・・・すた――――ん、すた―――ん、すた――ん、すたーん、すたんっ、すたっ、すたたたたたたた……!
 
―――か、加速っ!?
追跡者は、陸上選手や物理学者が見たら卒倒するような恐るべきハイペースの両足飛びを繰り返し、
車のすぐ後方にまで迫ってくる!
 
「冗談だろぉぉぉぉぉぉっ!!?」
これには俺もたまげた。なんて野郎だ!
「ああもう、応戦するしかないか!?スーアン、ハンドル頼むっ!
 ヤン、まだ終わんねぇのか!?」
言いながらスーアンを運転席に押し込み、後部座席へ飛び込む。
「まだですっ!」
「うわっ!ボ、ボク無免許ですよ!?」

二人の返事を胸中毒づいて聞きながら、俺は奴のほうに向き直った。 

24 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 00:31

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>23
 
 鉄板と鉄板が高速で衝突し合う。
 そうとでも評するのが適当な轟音と共に、車体が大きく揺れた。
 僵尸の双掌が遂にトランクの端を捉えたのだ。爪は全て車体に食い込んでいる。
 耳障りな擦過音が長い尾を引く。
 下半身を地面と接触させたまま、ヴァンパイアが猛スピードで引き摺られて行くのだ。
 
 長衣や靴が摩擦で破け始めても、長生者はトランクから手を離さない。
 否、片手だけ離れた、と思われた瞬間、更に上部へ叩きつけられた。
 めり込む。
 もう片方がまた離れ、更に上へ、どん。
 吸血鬼は這い上がりつつある。
 
 トランクに上半身を預けながら、皺に塗れた頭部が振り回された。
 相変わらず瞑目したままだ。
 当然、遠心力に釣られて辮髪も回転する。先端部に取り付けられた刺だらけの分銅と一緒に。
 頭がより大きく、振られる。
 
 たっぷりと風を巻きながら、殺戮の鈍器は後部ウインドウを直撃した。

25 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:33

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>24
 
俺が意を決し、こちらへ迫り来るキョンシーに向き直ったその時―――
なにか金属に固いものが食い込む音と同時に、車体が揺れた。
 
「うおっ!?」
「!!」
「わあぁあぁっ!?」
 
衝撃にスーアンがハンドルを取られ、車が危なっかしく蛇行する。
無免許の人間の運転だが、ぶつけたり対向車線にはみ出したりしなかったのは僥倖かもしれない。
我に返って奴の方に目を戻すと―――
 
ずざがががりざりがりざりざりっ!
 
追跡者は見上げた事に、後部トランクドアのふちに爪を突き立て、引き摺られつつもこの車に取り付いていた。
―――ター○ネーターかお前はっ!
そうつっこみたかったのは山々だが、そう言ってられる状況でもない!
奴はいきなりこちらに向けて、頭を思い切り振り回してきた。
頭突きか?―――いや、違うっ!
本能的にイヤな予感をひしひしと感じ、すぐにシートに伏せる。
 
ばしゃあぁぁぁあん!
 
一瞬後、破砕音とともに粉々になったガラスが降り注ぐ。
伏せる瞬間俺に見えたのは、先端にトゲ付き鉄球をつけた、あまりにも物騒な「おさげ」だった。
恐らくあれで後部のガラスを割ったのだろう。まさか暗器まで使うたぁ、さすがに暗殺者だな…!
「だあああああ!?ジャックさんっ!」
「あーもう!黙って前見て運転しろっ!」
取り乱すスーアンをどやしつけ、奴に銃を向ける。

26 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:40

>>25(続き)
 
奴に向かって銃を突き付けた時点で、ほんの一瞬思案する。
 
今、俺の銃に装填されているのは通常弾。――退魔弾を使うか?
……いや、あれは着弾時の霊力の爆圧が強すぎる。
加えて後部座席とトランクには、燃料切れに備えてガソリン入りポリタンクが数個積み込んである。
奴は落ちるかもしれんが―――この車も吹っ飛びかねん!
 
「ええい、ままよ!」
結局通常弾のままで、奴に向けてピストルを撃ちまくる。
 
二発は奴の手元に、引火の危険がない軌道で着弾。
一発は頭を狙ったが―――ブレのせいで当たらず、地面に跳ねる。
残りの二発は、見事奴の胴体に当たった。着弾の衝撃で、奴の体がブレ、バランスを崩す。
―――までは良かったが、ぜんぜんこたえた様子がない。
 
「やっぱダメっすか・・・」
ボヤきが口をついて出た。
が、この状況なら奴もしばらくはたいした事もできないだろう。そこへ――
 
「先輩!検索終わりました!」
ヤンが声をかけてきた。…遅ぇんだよ、ったく!
「どこだ!?―――スーアン、ハンドルよこせ!それと俺の銃に通常弾!」
「ちょうど広めの古倉庫が一軒!ここの道をこうして―――」
スーアンに拳銃を押し付け、ヤンのルート説明を見ながら、後部座席から車を運転する。
 
「近道するぞっ!」
「え?ジャックさん、そっちは―――」
スーアンが声をあげる暇も有らばこそ。
俺は車のハンドルを切り、脇道に入りこむ。そこは――――
 
          夕方の買い物客でごった返す、野菜露店市だった。
 
「うどわわわああぁぁっ!?」
 
野菜や果物をぶっ散らばし、露店やベンチを粉砕しつつ(不思議な事に人は一切巻き込まず)、
俺達の車は野菜市を爆走していた。

27 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 00:42

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>25>>26
 
 逆巻く悲鳴、吹っ飛ぶ青果、そして破砕される屋台。
 露天街に無理やり突入しても、轟然たる車のスピードは変わらない。
 その車体に貼り付いた長生者の姿も。
 服に開いた二つの銃痕からは大した出血もない。特に痛みを感じている風もなかった。
 
 車が撥ね散らかす障害物を、しかし一番まともに喰らっているのはこの化物だ。
 蛇行運転に振り回され、右のビル壁にぶつかり、左のベンチを躯で壊す。
 上から降り注ぎ、或いは横から殴りつける数々の破片に、さしもの吸血鬼が低い唸りを
上げかけたその時。
 どういう加減か、潰した店先からキャベツのたっぷり詰まったダンボールが顔面を直撃したのだ。
 衝撃で爪を立てていた両手が離れた。巨躯が宙を泳ぐ。
 ヴァンパイアはそのまま振り落とされるかに見えた。
 
 事実、この妖魔は一度路上に叩きつけられたのである。刹那。
 両手が“伸びた”。
 袖口からはみ出し数倍の長さに膨張した双腕は、走り去らんとする車体の後部バンパーを
しっかりと引っ掴んだ。
 関節部が複数生まれているらしく、昼の世界の生物にはあり得ぬ奇怪なくねりを見せる。
 
 再び引き摺られて行く僵尸の双眸が開いた。
 毒々しい深緑色を湛える眼は、己が手がもう離さぬ物体、その内部の標的を見据えている。
 眼と同じく、ぱかりと大口が開く。
 猛禽類の如き怪声が轟き渡った。

28 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:47

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>27
 
    ずごんっ!バキャァアアッ!ばりんっ!ぱじゃっ!がしゃああん!
 

激しく右往左往し、クズカゴだの野菜だの看板だの露店だのを蹴散らしながら、なおも俺達の車は爆走を続ける。
フロントガラスは、とうに割れていた。おそらくボンネットは・・・・言及にたえない悲惨なことになっているだろう。
「あああぁぁっ!死ぬっ!死ぬぅぅぅっ!」
車内に少年の絶叫が響く。
 
「・・・いやー、誤算だった。まさかチラシに書いてあった野菜市が今日だったなんてなぁ」
「今さらしみじみとそんな事言わないでくださいっ!」
スーアンが半泣きでツッコミを入れる。
 
そんなことを言っているうちに、もはや何軒目か数えるのも嫌になった八百屋の屋台に突っ込む。
店先に満載された野菜や果物がこぼれ、俺達の車に大量に降り注ぐ!
 
「だあぁ、こなくそっ!」
 
店の人を巻き込まないよう、急ハンドルで回避。
しかし流石に勢いがつきすぎていたのか、後部が店の軒先にぶち当たった。
 
「くぁっ!?」
衝撃が車を襲う。棚でも崩したのか、野菜や果物が割れた窓から入ってきた。
いきなりの光景に一瞬唖然とするが、すぐに我に返って指示を出す。
「は―――早く出せっ!」

29 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:53

>>28(続き)
 
「は―――はいっ!」
極限状態にあるせいか、無免許の割に手際よくエンジンをかけ直すスーアン。
その一瞬後、再発進しようとしたその拍子に、新たにキャベツを満載したダンボールが崩れてきて――――
 
ごすん。
 
即席の大型鈍器と化した厚紙の箱は、しつこく車にしがみ付くキョンシーの顔を強打する。
これには流石にたまりかねたのか、奴の爪が急発進する車から外れた。
暗殺者の巨躯が一瞬宙に舞い、路面を叩く。
 
――やりぃっ!
 
そう思ったのも束の間。ええ、ほんとに束の間。

 
ごきみしぶちぃっ!ばりめきばきぶしゅずるぅっ!――がつがつんっ!
 
 
芸術的までに吐き気を催す、グロテスクな音。
何と奴は腕を数倍の長さに伸ばし、バンパーに爪を引っかけていた!
 
「ーーーーーーーーーーーーーッ!」
人の形を明らかに逸脱した腕の向こうで、しわくちゃの瞼から毒々しく光る目を覗かせ、
引きずられながら奴は咆哮する。
「そんなのアリかよぉぉぉぉぉっ!?」
…何てデタラメな。今までにも仕事でいくらかキョンシーと戦り合っているが、こいつは明らかに毛色が違う!
 
「―――先輩!もう少しです!」
その声に我に返って辺りを見回すと、車はもう露店街を抜け、人気の無い旧区画のビル街へと入っていた。
ヤンの言っていた、使われていないとされる倉庫が正面に見えてくる。
 
「よし、銃よこせスーアン!それからハンドルも!」
「どうするんですか!?」
「いーから!俺が合図するまでアクセルは全開っ!いいな!?」
 
そのまま、目的の建物の敷地内――都合のいいことにかなり開けている――に入り込む。
入口のシャッターをぶち破り、その先の壁にぶつかりそうな間際―――
「今だ、ブレーキ全開!ベタ踏めっ!!」
俺の合図で急ブレーキがかかるその瞬間ハンドルを大きく切り、ドリフトをかける!
 
キュキュルルルル―――――どがっ!
 
耳障りなゴムタイヤの擦過音と衝突音の末、車は壁への衝突を避け、なんとか停車する。
後ろについていたキョンシーは―――振り子の要領で、したたかに壁に打ちつけられた。
「・・・・・・とりあえず逃げるぞっ!」
俺のその声を合図に、俺達は車から飛び出し、奥へ走った。

30 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 00:56

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>28>>29
 
 壁に沿ってずり落ちかける。吸血鬼のその躯は、バネ仕掛けのようにすっくと立った。
 全体のフォルムが異常だ。
 蛇腹と化した長腕は兎も角、掌までもが膨れ上がっている。殆どテニスラケットのサイズだ。
 おまけに首が完全に後ろを向いていた。衝突の際、へし折ったと見える。
 首や手を痙攣させながら、またも化物は全身で跳ねた。
 
 標的らが逃げ込んだ入り口付近に着地する。一跳びである。
 暫し沈黙の後、双腕が垂直に上がった。爪と指が天井を握り締める。
 つ、と中国人は空中に在った。ぶら下がったのだ。
 器械体操の如く、躯を前後に揺すり出す。一回、二回、三回。
 四回目には、躯が地面と平行になる程の勢いがついた。
 五回目で手を離した。大気が唸る。
 稼いだ勢いの全てを駆って、ヴァンパイアは室内へと横一直線に飛び込んだ。
 
 振り回す両腕の当たるを幸い床を抉る、積んであったコンテナを木っ端微塵に砕く。
 旋回しながらの飛翔だ。荒ぶ風に煽られ、襤褸切れに近い長衣がはためく。 
 有り得ぬ加速すら見せて、長生者は最奥部へと迫る。

31 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 00:59

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン〜上海大夜騒会〜
>>30
 
「―――で、どーして残弾がこんだけしか無いんだ?」
「・・・・・・すいません、さっきのカーチェイスのどさくさでばらまいちゃって・・・」
俺の詰問に、昆布涙で謝るスーアン。
 
「――あーもう、勘弁してくれよ・・・」
 
俺たちはあの死に損ないを壁にたたきつけた後即座に、この古倉庫の奥に雑然と積みまくられ、
捨て置かれたコンテナ群―――――その一角に身を隠し、
奴をあっちの世界に送り返す算段を練っていた。
残っている退魔弾および通常弾の弾数を確認し、その上で対抗策を考える――――
はずだったのだが。
モノノケ全般に対して有効打になりうる頼みの綱・退魔弾は、通常弾とともに見事に目減りしていた。
 
「退魔弾は残り3発・・・(むしゃ)、通常弾も装填済み含めて12発か・・・(もりもり)こうなるとキツいですね」
「そう言えばスーアン、おまえ道士学校出身だったよな。キョンシーに効きそうなものって、何か思いつかんか?」
一縷の希望をかけ、後輩の少年に尋ねてみる。
 
「・・・あ、ハイ!それじゃ思いつく限り並べてみますよ。…もち米、鶏の血、銭剣、御札、海水……」
「だーっ!どれもこんなトコで用意できるモンじゃねーじゃねぇか!」
実際挙げられた物品はどれも、こんないかにもな工業系の倉庫で手に入りそうな物ではなかった。
「先輩・・・(むぐむぐ)、声が大きいです、見つかっちゃいますよ…。(もしゃもしゃ)」
隣でヤンがこんな状況にもかかわらず、のほほんと果物をかじりながら俺に言う。
「うるせぇな!大体さっきからのんきに果物なんか――――あ?」
バカ娘を一喝しようと振り返り―――――そこで“あるモノ”に気づく。
「ジャックさん、ひょっとしたらこれも・・・!」
スーアンも気付いたらしい。二人で得心し、未だにその“あるモノ”を頬張り続けるヤンのほうを見つめる。
「あ、これさっき車に入ってきたやつですけど・・・食べます?」
 
 
「―――ヤン、その桃よこせっ!!」
 
・・・その時だった。
金属だの木造物だのコンクリだのを一斉にミキサーにかけたような、異常な轟音が聞こえてきたのは。
 
 
「――――!?」
 
驚いて振り向くとそこには―――
首を向いてはいけない方向にひん曲げ、伸びきった腕を振り回して飛ぶキョンシーの姿。
風車の如くぶん回された腕は、無節操にあちこちを粉砕しながら、
俺達をもその破壊の嵐に巻き込まんと迫り来る。
 
「―――やべぇ、二人とも下がってろ!」
言いつつ、銃を奴に向けて3発発砲。
効くはずも無く、あっさり弾き落とされる銃弾。・・・だがコイツはあくまで牽制だ!
 
「効くかどうかは眉ツバもんだが―――どうだっ!?」
すかさず本命(?)――桃を投げつけた。俺の思いつきが正しけりゃ効くはずだ!
銃弾によって軌道の狂った腕をかいくぐり、仙果が奴の顔に迫る―――!

32 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 01:03

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>31
 
 唸る銃火は胸元に二つ、額に一つの黒穴を穿った。
 それだけの事だ。爪の矛先は少々乱れたものの、吸血鬼の突進は止まらない。
 直後に飛来した物体が、開いた怪物の大口に飛び込むまでは。
 即、顎が閉じる。反射的な動作で噛み潰した。
 聴く者の方が嘔吐を催すような絶叫と共に、大きく方向を変じさせた中国人の躯は、脇の
コンテナへ突っ込んでいた。
 
 鞭のしなりを見せる腕が、己の躯で破壊したコンテナの破片を更に乱打する。絶え間ない
苦鳴の中から、吐瀉物混じりの潰れた果実――桃が飛び出して床を汚した。
 苦痛の咆哮を放つ口が徐々に耳まで裂けていく。
 白煙を上げ頬肉が溶け出しているのだ。黄ばんだ歯列は既に丸見えである。
 桃は古来より邪魅魔障を退ける霊果とされる。
 この吸血鬼は、伝説に忠実な血統であったようだ。
 
 明確な憎悪に燃える緑色の双眸が爛、と標的を捉える。
 躯だけはうずくまったまま、再び長腕が伸び、彼らに襲い掛かった。
 いいや、腕だけではない。牙を剥く顔面もだ。
 うねる蛇体の如く、首までが伸縮自在の生理現象を発現していたのである。
 僵尸の左右の腕と首は、幻怪な横一列を為していた。

33 名前:ジャック(M):2003/05/18(日) 01:07

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>32
 
―――ぱじゅっ!
 
水気を含んだ物がつぶれる音。
投げつけた桃は、ドンピシャで奴の顔を直撃した。
こちらに飛来していたキョンシーが、投げた果物の軌道そのままに吹っ飛ぶ。
普通たかが桃ごときでこんな大ゲサに吹っ飛ぶはずも無いんだが、僵尸に対してそれだけ
桃の霊験があらたかだったという事か。
 
「―――ストライク、ってとこか?」
「効いてますよ、ジャックさん!」
「わぉ、ナイスビーンボール」
後ろから後輩達が、それぞれ好き勝手に感想を述べる。
「ビーンボールってね、お前・・・」
そこまで言った時―――
 
ばきん!ガシャン!ガン!
 
ガラクタを撒き散らし、腕を振り乱し、苦鳴を上げながら奴は身を起こした。
よく見れば顔の肉が溶け崩れて、よりグロテスクな顔に仕上がっている。
相当桃が効いてくれたらしいな―――そう思った刹那。
 
――ごりめきぃぶちっずしゅるっ!
 
またも教育上よろしくない気色悪い音を立て、奴の両手が、そして牙を剥き出しにした首までもが俺たちに迫り来る!
畜生もうなんでもアリかっ!?どこまで出鱈目なんだよ、コイツ!
このままでは後ろのあいつらも巻き込んじまう。――仕方ない、やるか!

34 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 01:13

>>33(続き)
 
腹をくくると、俺は「左手の力」を解放した。
筋肉が盛り上がり皮膚が硬化し、見る間に人のそれから、人外のものへと変わりゆく左腕。
ベキベキと音を立て、俺の爪が伸びてゆき、刃と化す。それは世界のあらゆる物を断つ魔性の爪。
これこそがかつてロンドンで幾多の人々の血を食み、そして今は“こっち側”に仇なす人外を斬る、俺の――――
“斬り裂く者<ジャック・ザ・リッパー>の”腕だ。
  
 
―――あまり使いたくなかったんだがな・・・
嘆息しつつ、後ろのヤン達に声をかける。
 
「お前ら退避してろ!あとはいつも通り俺がやるっ!」
「了解っ!」
「は、はいっ!」
 
二人の返事を背中で聞きながら、俺は襲い来る肉体の凶器へと駆け出した。
すかさず二個目の桃を取り出し、伸び来る三匹の“蛇”に向かって投げつける。
 
「ピッチャー第二球振りかぶって――――投げましたっ!」
  
桃はどれにも当たらず、三つの的の中間へ――――だが、これでいいのだ。
「狙い通りっ!」
弾倉に残る通常弾二発を、両腕と首の間隙に飛び込んだ桃へ撃ち込む。
 
――桃という果実は、キョンシーに強烈な衝撃とダメージを与えうる仙果。
そんな物が至近距離で破裂するとどうなるか?
 
着弾の衝撃ではじけた桃が霊的な爆弾と化して、三つの凶手を弾き飛ばす。
ガラ空きになった奴のふところへ飛び込み、左の爪を大きく振りかぶる!
 
「もらったぁぁぁ!!」

35 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 01:19

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>33>>34
 
 異形の一閃に断たれたものが空を流れる。――中国人の長衣の裾だけが。
 大元の長衣は、四散した桃に再度灼かれ憎悪に歪む僵尸の貌は、青年の頭上一メートルの
高みに在った。
 
 伸びた首と両手を縮める。
 この化物がした事は要するにそれだけだ。
 だが支点として求めたのが躯ではなく、伸ばした先の尖端であった事が、この奇怪事に
拍車を掛けていたと云えるだろう。
 躯全体が、桃の散弾に空中高く弾かれた頭部や手先の方へ引っ張られたのである。
 掃除機のコードを巻き取るようなその過程で、ついでに魔怪の爪と化した青年の斬打を
まんまとかわしてのけ、吸血鬼は元のフォルムを取り戻していたのだ。
 
 一瞬間だけ、あたかも重力の存在が失せたかの如く浮遊した後。
 
 長衣は翻転した。
 旋回エネルギーの全てを集約させ、長生者は右の裏拳を青年の顔面目掛け叩き込んでいた。

36 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 01:22

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>35
 
―――殺った!
 
そう思ったのは一瞬のことだった。
次の瞬間感知できたのは、左手のあまりに軽すぎる手応え。
そして―――視界いっぱいに広がる、肉の凶器。
 
 
「ぶごはっ!?」
ごっ、という鈍い音とともに、顔面に強い衝撃。頭の奥で火花が散る。
ワケもわからないうちに、俺は宙を舞っていた。
 
 
数瞬の浮揚感ののち、盛大な破砕音を立てつつ、木箱の山に突っ込む。
鼻がつぶれたか?あのヤロォ・・・!
頭を振り、歪む視界を強引に是正しつつ身を起こす。
さっきまで俺がいた場所には、奴の服の切れ端。
そして、首や腕が元通りに縮み、人間的なフォルムを取り戻しているキョンシー。
 
冷静になり、先程のヤツの手品がつかめて来た。
おそらく奴は、俺の爪が届く一瞬前に体を“弾いた両手と首を支点にして”縮める事で
空中へ逃げ、そのまま俺にカウンターをくれたのだろう。
理屈では分かる、分かるのだが・・・・・・物理法則を冒涜するにも程がある!
これまでに何度もインチキをやってのけたヤツだが、まったく今回は極めつけだ。
 
「ったく・・・ニュートンが見たら泣くぞ、これ」
軽口を混ぜてボヤきながらも、銃に弾をリロード。
内訳は通常弾4発、退魔弾1発。退魔弾は5発目にくるように込める。
 
キョンシーは俺をふっ飛ばした後、そのまま木箱の破片に埋もれる俺の様子を伺っているようだ。
「さーて、どう攻めたもんかな・・・?」
シリンダーを銃身にはめ直し、そう言ってみる。
実際こっちから行ったところで、ヤツの常識外れな行動で回避されればそこまでだ。
タバコを取り出し、口にくわえて火をつけ、さらに考える。
 
・・・思考終了。出た結論―――
 
「――ま、とりあえず牽制と行きますか!」
ヤツの足を狙い、2発発砲。
さぁ・・・・・・こっからどう出るつもりだ、ご老体?

37 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 01:27

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>36
 
 ぽん、と巨躯は軽く後退った。
 糸のように閉じられた緑の眼に知性の光はなかったが、邪悪な知能の翳りは確かに刷かれている。
 両の膝頭を撃ち抜いた銃ではなく、刃となった青年の左手を、冷たい緑瞳が射た。
 
 突き出した長衣の袖がはためいた。風などないのに。
 と、二の腕から手首にかけてが一挙に膨らんだのである。
 膨張はすぐ、袖口から噴出する奔流となった。赤、青、緑、そして黒。
 輝き、或いはくすむ色彩の洪水が倉庫内を染め上げて行く。
 
 木霊す低い唸りは飛翔音であった。煌く微細な光は鱗粉であった。
 それは、万単位に及ぶ蝶の群れであった。
 強烈な肉食性を有する地獄の虫たちは、餌食を求めて生者達へ殺到する。
 
 使役者たる吸血鬼の姿は、雲霞の何処かに没し去っていた。

38 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 01:33

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>37
 
牽制のつもりで撃った2発は、まったく避けようともしない吸血鬼の膝にあっさりと命中する。
てっきり避けるかと思っていたため、これには拍子抜けした。
「・・・え?」
一瞬唖然としてしまった。すぐに我に返り、奴に意識を戻す。
次の瞬間眼に映ったのは、キョンシーではなく―――
 
 
 
 
蝶。ちょうちょ。バタフライ。
この名詞を聞くと、どっかほのぼのとした、牧歌的なイメージを持つ方もいるかもしれない。
 
しかし俺がそこで見たのは、赤、青、緑、黒、etc...
どいつもこいつも毒々しい色ばかり。
そしてそんな極彩色の群れが俺の視界を、いや俺自身を覆い尽くさんと―――
 
「――――ってちょっと待てぇぇぇぇっ!!!?」
いきなり大量発生した蝶に驚き、滅多やたらに左の爪を振り回して切り払っていくが―――
・・・とても追いつかない、数が多すぎる!!
「くっ、くそ・・・わぶっ!!?」
あっという間に蝶の群れに飲み込まれる俺。
そして直後、全身に無数の、微小な痛みが走る。
「痛っ!?」
毒燐粉か?いや、この感触――――噛まれてる?まさか・・・
(肉食蝶かよ!?)
全くもって厄介な。もう、奴が何やっても驚かねぇっ!
こんな比喩抜きに蝗のような数相手では、左手でも埒があかない。どうすれば・・・・・・?
無数の蝶の中で暴れながら、そう思ったとき――
 
 
がすん。ガラガラガラ・・・
 
 
無闇に振り回した左手が、近くの木箱を切ったらしい。物がこぼれる音。
直後、何かが足に当たる。今ので落ちたものだろうか。
(何だ・・・?)
蝶をうっとうしく感じながらしゃがみ込む。
足元すらロクに見えない状況だが、蝶の隙間から一瞬、「それ」が見えた。
 
…金属の筒?
コレ、ひょっとして―――!

39 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 01:36

>>38(続き)
 
(―――――――しめたっ!)
そう胸中で叫ぶが早いか、足元の「それら」に2発ほどぶっ放す。そう―――
 
足元に転がった、数本の『携 帯 用 ガ ス ボ ン ベ』に向けて!
連続して巻き起こる爆光が、俺と蝶の群れを飲み込む!
 
 
「くぅ・・・〜〜〜〜〜〜っ!!」
 
閃光、爆音、さらに熱波と衝撃。視界が一瞬、白く染まる。可燃性のガスを封入した缶の連鎖爆発によって。
直後、全身を熱と痛みが灼く・・・・・・・・・・き、効くぅっ!
だがその甲斐あってか、先程まで俺を覆い尽くしていた蝶の群れは、
一匹残らず黒焦げになって地に落ちていた。
 
体の状況を確認する。・・・服があちこち焦げているが、大丈夫。弾薬も無事だ。
ダメージもあるにはあるが、それほどではない。まだ十分許容範囲だ。
フツーの人間だったら、まずこんな戦法は採らないだろう。危険すぎるからだ。
俺みたいな人外だからこそ採れる選択肢。
 
続いて、先程俺に蝶の群れを差し向けた張本人、キョンシーじじいに目を移し――――
「・・・って、いない!?」
俺が蝶の群れにたかられている間に、どっかに隠れたか?

40 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 01:39

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>38>>39
 
 蝶から蝶へと燃え移り、鱗粉と火の粉が行き交う炎の中から。
 それは飛んで来た。
 青年のすぐ脇で、吹き散らされる火風と蝶の死骸が諸共に唸る。
 吸血鬼だ。
 
 横倒しにした巨躯は床と水平であり、大車輪の如く回転しながら宙を疾る。
 そして跳躍から転体までの威勢全てが、青年の顎へと蹴り上がる踵の先に集約した。
 
 同時に異音も発せられていた。
 蹴りを繰り出す過程で、またもや右手が異界の伸長を見せたのである。
 余裕の二正面作戦と賞すべきか、単に意地汚い食欲の発露と顔をしかめるべきか。
 とまれ伸びて伸びてまた伸びるその手の向かう先は、少年の白い細首。

41 名前:ヤン(M):2003/05/18(日) 01:42

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>40
 
 
・・・あのあとセンパイに退がる様言われて、あたしはスーアン君と一緒に、二人の闘っている所から
少々離れたコンテナの陰に退避していました。無論、ただ隠れているわけじゃありません。
携帯端末を操作して戦場をモニターし、先輩からの指示があれば、いつでも有利な情報を送れるように。
 
「あ、あの・・・ジャックさん、大丈夫でしょうか」
横手からおずおずと、スーアン君が声をかけてきます。
「だいじょーぶだって。もういい加減慣れたら?キミも入社してそれなりになるんだし」
「それはそうですけど・・・」
「ま、先輩なら心配ないでしょ。センパーイ、生きてますかー?」
心配性な後輩をなだめつつ、とりあえず先輩との回線を開いて――――
 
・・・ぼぅん!!ばちばちぃっががざざぁーーーーーーーーーー
 
「痛っ!!?」
イヤホンから先輩の声代わりに返ってきたのは爆発らしき音と、ひどく耳障りなノイズ。
耳を痛めそうな音に一瞬身をすくませ、スーアン君のほうを向くと―――
彼のむこう側…それも死角から、手が伸びてきていました。――――――手!?
 
「あぶないっ!」
とっさに彼を突き飛ばした次の瞬間、襟首をつかまれて―――――
 
「わお!?」
あたしはその手に引っ張られて、すごい勢いで宙を泳いでいました。

42 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 01:46

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>40>>41
 
「・・・どこ行った?」
先程の蝶の群れの対処に追われている間に、あの死にぞこないは姿をくらましていた。
・・・・・・くそ。見失っちまったか?まさか逃げたわけでもないだろうが――――

そこまで考えたところで、俺の思考は中断された。
横回転しながらこちらへ飛び来る、人外のアサシンのせいで。
 
 
「んな!?」
完全な死角からの回転蹴り。
風切り音でかろうじて反応できたが、むこうも結構な速度で迫ってくる。
左手で斬り払おうにも―――――間合いが近すぎる!
 
「がっ…!」
どうにか左の手のひらを盾にし、蹴りは受け止めた。
が、人外の脚力に猛烈な遠心力が加わっていたせいか、そのまま横手に吹き飛ばされそうになる。
・・・んなろ、調子に乗りやがって!
そのまま左手で蹴り足をつかむと、勢いに圧されつつも銃口を、奴の足に押し当てる。
「―――――おふざけも・・・大概にしやがれっ!」
それだけ言い捨て、俺はトリガーを引いた。
 
 
―――どむッ!!
 
銃に残っていた5発目――退魔弾が、奴の足を粉微塵に吹き飛ばす。
爆発する霊気の余波が、俺の肌をちりちりと灼く。
蹴りに圧されていたこともあり、反動でしりもちをついてしまった。
キョンシーは・・・遠心力に爆発のショックが加わったせいか、きりもみ回転しながら
あさっての方向へ吹っ飛んでいく。
さながら、糸の切れた凧のように――――――“糸”?
そういえば、なんか奴から長い綱みたいなものが伸びている。そして―――
 
「はわぁらららあぅわらららぁ〜〜〜〜〜〜?!」
驚いてこそいるが、それでもどこか緊張感に欠けた声。
 
「・・・・・・・・・は?」
  
あまりに予想外な光景に、しばし唖然とする。
・・・その先端部には見飽きるほど見知った俺の相棒が、これまたきりもみ回転しつつ、
キョンシーに引っ張られて飛んでいた。

  
「・・・・・・何やってんだ、あのバカ・・・」
内心あきれ返りつつ、俺はクイックローダーを取り出した。
最後のリロード。通常弾は3発、退魔弾は2発。退魔弾は4発目と5発目に装填する。
「ったく、まーた面倒な事態にしてくれやがって・・・」
 
 
「―――ギャフッ!」
「―――むぎゅっ!?」
ガン、という音とともに二人の呻き声が聞こえたのは、そうボヤいた直後のことだった。

43 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 01:51

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>41>>42
 
 立ち上がった巨影はすぐに傾いだ。
 銃撃を受けた右膝から下は無い。黒い粘液状の血が滴り落ちているだけだ。
 通常弾とは明らかに違う威力であり、結果であった。
 顔を縦横に走る皺が、更に禍々しい形に歪んで崩れる。
 一本足の体勢を揺らし、吸血鬼は倉庫中に怒声を響かせた。
 
 吼えながら袖を掴んで獲物を引き寄せ、目線の高さまで吊り上げた。
 古びた緑の眼がぎらつく。牙で装飾された大口が開く。
 麝香にも似た口臭が少女の貌に噴きつけた。
 意味する所は一つ。朱い食欲以外の何物でも無い。
 
 ずる、と舌が突き出る。細く長く鋭く、まるで触手だ。
 粘っこい唾液を垂らせて、それは艶やかな少女の頬をねぶろうとした。

44 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 01:53

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>43
 
最後のリロードを終え、激突音の方向へ走る。そこにあった光景は――――

片脚を吹っ飛ばされているにもかかわらず、しっかりと直立しているチャイニーズ・ヴァンパイア。
そしてそいつに高々と抱え上げられている、俺の後輩のバカ娘。
 
・・・予想通りの光景とはいえ、この状況がマズ目だということに変わりはない。
どうしたものかと、攻めあぐねていると―――
 
があ、と言う音を立て、皺だらけの顔に大穴が開く。
その大穴から牙を覗かせ、ヤツの頭がヤンの首に近づいていく。
まさかあいつ―――血を吸うつもりか!?
当のヤンはというと、目を回してノビちまってる。・・・まずいっ!
 
「おいヤン!バカ野郎、さっさと目ェ覚ませ!―――早く起きろ!!」
一瞬我を忘れて、のんきに寝こける後輩に向け、俺はわめき散らしていた。

45 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 01:55

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>44
 
―――ううう・・・目が回る・・・頭痛い・・・
そういえばあたし、どうなったんだろ?
たしか伸びてきた腕に引っ張られて、きりもみ回転して・・・
 
そこまで考えが及んだところで、やっと意識が覚醒しました。
気が付くと恐ろしく長い舌が、あたしの顔をべろべろ舐めまわしてて。
ジャック先輩がなにやら、大声で叫んでいて。
長舌の主……キョンシーが、あたしの首元にむけて大口を開けていて――――!?
 
「わわわっ!?」
我に返って、キョンシーの顔を押し返しにかかります。
しかし流石に人外、しかも暗殺者。普通の状態じゃ押し返せません。
とっさに力を開放し、百目モードになって力を入れますが、しわくちゃ顔は微動だにしないどころかじりじり迫ってきます。
このままじゃマズい。なんとかしないと………!
顔を押しつつ、全身に開いた100の目を総動員して打開策を探します。
 
なにか、なにかこの状況を打開できるものを――――――――――!
首筋にじりじり迫る牙を見ながら、必死に辺りを“別の目”で検索して―――
 
・・・・・そして、“それ”は見つかりました。けっこーな危険物です。
でも、近づく牙はもう首の皮まで2センチもなくて。
確かに危ないけど、躊躇しているヒマなんてありません。
最後の力を振り絞って吸血鬼の顔を押し返し、片手の親指を後ろに向け、一声。
 
「先輩っ!!」

46 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 01:56

>>45は誤爆。すまん。

47 名前:ヤン@百目モード(M):2003/05/18(日) 01:57

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>44
 
―――ううう・・・目が回る・・・頭痛い・・・
そういえばあたし、どうなったんだろ?
たしか伸びてきた腕に引っ張られて、きりもみ回転して・・・
 
そこまで考えが及んだところで、やっと意識が覚醒しました。
気が付くと恐ろしく長い舌が、あたしの顔をべろべろ舐めまわしてて。
ジャック先輩がなにやら、大声で叫んでいて。
長舌の主……キョンシーが、あたしの首元にむけて大口を開けていて――――!?
 
「わわわっ!?」
我に返って、キョンシーの顔を押し返しにかかります。
しかし流石に人外、しかも暗殺者。普通の状態じゃ押し返せません。
とっさに力を開放し、百目モードになって力を入れますが、しわくちゃ顔は微動だにしないどころかじりじり迫ってきます。
このままじゃマズい。なんとかしないと………!
顔を押しつつ、全身に開いた100の目を総動員して打開策を探します。
 
なにか、なにかこの状況を打開できるものを――――――――――!
首筋にじりじり迫る牙を見ながら、必死に辺りを“別の目”で検索して―――
 
・・・・・そして、“それ”は見つかりました。けっこーな危険物です。
でも、近づく牙はもう首の皮まで2センチもなくて。
確かに危ないけど、躊躇しているヒマなんてありません。
最後の力を振り絞って吸血鬼の顔を押し返し、片手の親指を後ろに向け、一声。
 
「先輩っ!!」

48 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 02:02

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>47
 
どうにかヤンの奴は目を覚まして、キョンシーの顔を押し返し始めた。
が、いくら人外同士といえど、少女の腕力と暗殺者の力では結果は見えている。
このままじゃ押し切られて吸血されかねない。流石にそんなのは・・・・・・歓迎できる事態ではない。
 
(―――間に合うか!?)
そう思って駆け出そうとした矢先―――――
 
「先輩っ!!」
 
切羽詰まった声とともにヤンが親指で示したのは、当人達の背後の暗がり。
何があるのかは分からんが、キョンシーの牙はすでに首に届こうとしていた。もはや余裕はない。
俺は指示された場所に向けて、銃のトリガーを引き―――――――
 
 
――――――そして、今日一番の大爆音が、倉庫内に響き渡った。
 
 
「・・・・・・・・・ったく。顔に似合わず無茶をやるねぇ、お前」
ススまみれの顔をひきつらせ、俺はバカ後輩に言う。
あの時コイツが撃てと指示したモノの正体は――――――積み上げられたガソリン缶の山だったのだ。
その爆発の勢いでキョンシーの拘束を脱し、どうにかこうやって喋ってるわけなんだが・・・
それだけの荒事の代償として、俺たちは見事にボロボロのススまみれ。全身がちりちりする。
俺達が人外だったからよかったものの・・・人間なら良くても大火傷、悪けりゃ爆死しててもおかしくない。
服も見事にコゲだらけだ。このスーツ、もう着れねぇだろうな・・・・・・
 
「えへへ・・・まあ助かったわけですし、結果オーライってことで」
やはりススだらけの顔で、にぱ、と笑いながら答えるヤン。
「笑い事じゃねーだろ!殺す気か!!?コイツはホントにもう・・・・・・・ん?」
その時・・・燃え盛る炎の向こうに、一つの黒い影が立ち上がるのが見えた。
・・・どこまでしぶといんだ、こいつ。
 
「おいヤン・・・スーアン回収したら、今度こそ下がってろ。
さぁて、そろそろ決着と行こうか・・・?」
 
相棒を下がらせると、俺は銃を黒い人影―――キョンシーに向け、歩き始めた。

49 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 02:07

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>44>>47>>48
 
 炎を巻いて立つ影は再び揺らぐ。右足が欠けている所為ではない。
 爆風の直撃は左腕を肩の辺りからもぎ取っていたが、その為でもない。
 ヴァンパイアは自らしゃがんだのだ。獲物を前にし、力をたわめる獣の如く。
 
 吹き荒れた火炎の置き土産が、長衣や辮髪の各所に灯っている。
 残った右手で銀光が煌いた。揃えた五指の爪である。
 何時の間にか糸の細さに閉じられていた双眸が、一気に開いた。
 怨嗟に濁る緑の瞳に映した獲物目掛け、中国人は地を蹴った。
 飛んだ。
 吼えた。
 
 尋常でない速度で彼我の距離を狭めつつ、中国人の縮こまっていた躯は伸び、ついでに手も、
これは実際に“伸びる”。
 化物の五体自身が武器と為った。
 標的であり餌である青年の胸板へと飛来する、一振りの凶槍に。

50 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 02:10

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>49
 
炎を背負い――実際に背を燃やしながら、黒い人影―――
隻腕隻脚となったバケモノは、ゆらりと身を起こした。
そいつに銃口を向けたまま、俺は一歩、また一歩と歩を進め、口を開く。
 
「さて、これが最後の警告だ」
 
燃え盛る倉庫に、こつん、こつんと靴音が響く。
その音に伴ってだんだんと近づいてくる、火ダルマのチャイニーズ・ヴァンパイア。
そして業火に負けじとその眼窩に光る、爛々と殺意に燃えた毒々しい緑の眼。
 
「おとなしくあちらの世界に帰るか、否か」
 
しゃがみこみ、右の爪を突き出して力を溜める吸血鬼。
ああ、やっぱそう応えるか―――
 
「そうかい………それがあんたの答えか」
炎の槍と化し、俺を串刺しにせんと飛翔する僵尸。
槍の形を取った殺意へ向け、俺は連続して引き金を絞りこんだ。
 
 
1発目。何の役にも立たず、あっさり弾け跳ぶ。
2発目。やはり通常弾では意味を成さず、1発目と同様の運命をたどる。
3発目・・・退魔弾。
流石に霊力の爆圧は少々効いたらしいが、止めるまでには至らない。
わずかに速度を減じつつも、殺気をみなぎらせ、なおも恐ろしい速度で飛び来る大槍。
 
 
「期待通りの返事・・・・・・」
4発目・・・ラストショットの引き金は――――引かない。
代わりに俺は左手に、一瞬の間にかき集められるありったけの“力”をつぎ込み――――――
 
 
「ありがとよっ!!!」
紅蓮の凶槍を斬り裂かんと、全力で振り下ろした!

51 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 02:13

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>50
 
 白光が迅り、朱線が走った。
 
 人差し指を尖端ごと潰して長い二の腕、一の腕へ、次いで肩から胸部を袈裟懸けに腰まで抜ける。
 斬撃の痕だ。
 青年と飛び違った中国人は、それに沿って割れた。
 凶槍を上回る凶爪の鋭さと、そして飛来する自身の迅さそのものとの複合が、吸血鬼の躯を
真っ二つに切断したのである。
 
 悪臭を放つ汚泥の如き血汐を撒き散らし、落下しかける吸血鬼の半身はその血もろとも
灰へとけぶっていく。
 幾百千の歳月の終点――だが、まだだ。
 首を捻り、化物は青年の方を向いたから。
 
 猛烈な勢いで頚部が変化した。
 既に何度も取ってきた形、蛇身の伸びとしなりを見せて青年に迫る。
 霊果に灼かれ、炎に晒された醜怪な顔は顎関節の限界以上に開き切り、顔面そのものが
大口と化したかのようであった。
 
 如何なる状況下でも、例え己が冥府の門を潜る時さえも捕食と殺戮だけしかしない存在――
それこそが、真の長生者(ヴァンパイア)なのだ。

52 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 02:17

ジャックvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>51
 
 
――――――――――斬。
 
いっそ味気ないとすら思えるほどあっさりした音を立て、俺の爪はバケモノを両断した。
真っ二つに斬り分けられた肉塊―――暗殺者だったモノが、
どろどろの腐肉を焼いたような悪臭のする血煙を上げ、俺の両脇を飛んでいく。
 
 
俺が4発目―――最後の退魔弾を撃たなかったのには、二つ理由があった。
一つは、撃ったらそのまま俺は死んでいただろうから。
3発目に撃った退魔弾は直撃しても、奴を止めることも軌道をずらすこともできなかった。
あのまま4発目を撃っていたら、今頃俺は串刺しになっていただろう。
そして、もう一つは――――――
 
「―――先輩、うしろっ!!」
切迫した声が、俺の思考を一瞬中断した。
――――――ああ、よーく分かってるよ……こいつの出鱈目さ加減は。
 
俺に一矢報いんと、飛びかかって来る狂蛇――暗殺僵尸の成れの果て。
俺は振り向きざま、そいつの開けた大口に自ら、銃を握る右手を突っ込んだ。
そう。これが―――――もう一つの理由。
 
「――――残念。サヨナラだ」
キョンシーの口の中で、一粒の滅びを納めた回転拳銃のシリンダーが回る。
一瞬後の破裂音とともに、この世に繋がれ続けてきた暗殺者は、手荒にあっちの世界へと送られた。
 
 
「先輩、大丈夫ですか?」
ススで体のあちこちを黒く塗装したヤンが、生来の脳天気さか、あくまでもカルめに俺に声をかける。
その脇には、しっかりとスーアンも抱えられていた。
やはりススまみれで気を失ってはいるが、髪がややアフロ気味になっている以外はいたって無事だ。
 
「・・・ああ、なんとかな」
「だったら早いとこ撤収したほうがいいと思いますけど。この火、倉庫にかなり回っちゃってますよ?
 あたし達の車、まだ大丈夫でしょうか」
 
 
「・・・・・・・・・あ゙。」
 
 
一瞬の沈黙。
我に返ると同時に、俺達は走り出していた。
「急げヤン!ただでさえ苦しい営業状態だってのに、この上車までなくしたらシャレにならんっ!!」
「りょーかいっ!」
 
 
燃え盛る倉庫から一台のクラシックカーが走り去るのは、それからきっかり3分後のことだった。

53 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 02:21

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会・後日談〜
>>53(続き)
 
「……………で?な・ん・だ・こ・れ・は?」
すぐ一枚下に噴火寸前のマグマを抱えた永久凍土のような、九尾社長の仮借ない皮肉が事務所に響く。
 
あの大騒動の後、俺達はほうほうの体で倉庫から逃げ出し、事務所へ帰ってきた。
それから、事務所の片付け等のちょっとした後始末をしたりして
その二日後に、ようやく社長が帰ってきたわけなのだが……………
デスク上の書類の山を見るなり、彼女の怒りは頂点に達したようだった。
 
「ウチを狙ってきた暗殺者を返り討ちにしたのはよくやったとほめてやる。だがな――――――
 これだけ大量の書類の山に何を書いてあるんだね一体!?どういうことか説明してもらおうか!!!」
デスクを叩きながら、怜悧な美人社長は怒号する。
 
「道交法違反・器物損壊・その他もろもろでケーサツから苦情が来ました」
「八百屋や果物屋の屋台と品物をダメにした請求書と苦情です・・・・・・」
「火事で全焼した倉庫の持ち主から訴状も来てましたねー」
「説明するな!!!!!――――――――ったく毎度毎度……」
「説明しろっつったのはアンタでしょ、社長。まったく何度同じセリフ言わs」
 
めごっす。

・・・顔面にめり込む釘バットによって、俺は沈黙を余儀なくされた。
「まったく、くだらん仕事を増やしおってからに・・・
 ―――まぁ、もう刺客は現れないということが、唯一救いではあるがな」
 
そうか、もう来ないん―――――何!?
 
「え!?そ、それってどういう――――」
「ふふ・・・企業秘密だ。それよりもう仕事は始まっているんだぞ!
 いい加減この書類の山をなんとかせんか!さっさとせんとまた減俸するぞ!?」
「ええ゙!?ちょっと横暴っスよ社長!?」
「やかましい!分かったらさっさと仕事しろ仕事!!」
 
――――減給をちらつかされては是非もなく、俺達はそれ以上追及するのをやめた。
ちなみにこの事件以来、社長が言ったように刺客は一切来ていない。
一体シ・ファン級の一大裏組織に、どんなマジックを使っ――――――
…………いや、際限なく怖い考えになってしまいそうだ。もう考えるのはやめにしよう。

54 名前:斬り裂く者ジャック・ザ・リッパー(M):2003/05/18(日) 02:27

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>53(続き)
 
取りとめもない妄想を打ち切り、俺は机仕事に戻った。
真相は結局、俺たちにはわからない。
それを知っているのは社長と――――
彼女の帰社時には既に赤サビ色に染まっていた、一本の釘バットだけなのだから。
 
 * * * * * * * 
 
――――ロンドン、ライムハウス。
陽の当たる道を歩けぬ者達の吹き溜まりであり、犯罪とそれを生み出す組織が
肩を並べて闊歩するスラム街。故に平素より治安など期待も出来ぬこの地の一角に、
吸血鬼すら手足として使役する大結社の首領は居を構えている。
ちょうど上海で妖道士社が暗殺者に襲撃されていたのと同じ頃―――――
其処を、一陣の奇風が吹き抜けていた。
 
ある者は己の身から生じた血溜りに倒れ伏し、
                    
                   ―――振るわれる、無数の釘で鎧われた金棒
 
ある者は腕を、足を、あるいは体そのものをあらぬ方向に曲げたまま動かず、
 
                   ―――塵芥の如く蹴散らされ、それきり動かなくなる者達

またある者は蒼ざめた顔で屈み込み、壊れたレコードの様に震え声で「化け物」と繰り返す。
 
                   ―――眼鏡の奥に冷たく光る、どこまでも深遠かつ獰猛な妖眼
 
長年この血腥い裏道を歩き続け、その修練と経験の末に道を究めた手練や、
日光を捨て血を啜ることでヒトを凌駕した人外――吸血鬼などで構成された者達を、かくも容易くあしらう存在。
彼らの目に映ったそれは修羅か、羅刹か。
 
そして、驚嘆すべきことがもう一つ。
この様に累々と倒れ伏す者たちのすべてが、“黄泉の国へ送られることなく”無力化されているということ。
かくの如き奇業を成すものは神か、悪魔か。
 
そして――――ライムハウスの某所、その最下層に位置する書斎。
闇色の重い瘴気に支配されたその場所に、その奇業の張本人は辿りついていた。
部屋の重圧すらものともせぬ妖気と――朱の雫を滴らせる、釘の生えた金属バットを携えて。
 
「――――――こんばんわ。
お初にお目にかかる、『悪魔博士(ファウスト)』フー・マンチュー大人」
 
老人の横に控えていたドラキュリーナが一瞬身構えるが、それを老人は手で制する。
老首領の放つ威風に欠片も怯んだ様子を見せず、闖入者たるスーツ姿の女は口を開いた。
 
「流石に礼儀というものを弁えていらっしゃる………失礼、自己紹介が遅れたな。
 私の名は九尾(くお)。上海でちっぽけな退魔会社を営んでいる者だ。
 今夜は一つあなたに、相談があってやってきた次第。内容は―――――すでにご想像がついているかと思われるが」

55 名前:ミスタ・ヤン(M):2003/05/18(日) 02:30

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>52>>53>>54
 
 応じるように、けたたましい鳴き声と鉄の軋む音がした。
 部屋の隅を占領している巨大な檻からである。中に閉じ込められた二メートルはある類人猿――
にしては体毛がなさすぎ、牙が鋭すぎ、眼が紅すぎるが――の方を、悪魔博士はちらと見遣った。
 何の変哲もない一瞥であったが、鉄格子を揺すっていた獣の叫喚は止んだ。
 この異形の動物の名を“翼手”とは、部屋の主のみが知っている事である。
 
 毫も動揺を見せず、博士は口を開いた。訪問客ではなく傍らの少女へだ。
 
「この後の予定はどうなっていたかな?」
「二十時より『スナーク』の総統(チョントン)との会食、二十三時に『天道連』との今期の
取引に関し、最終的な報告がございます」
 
 なお警戒の色だけは薄めぬ少女に頷き、怪老人は目を細めて不敵な女へと微笑む。
 形だけならば慈父とも見える。あくまで形だけだが。
 
「お聞きの如く、些か多忙な身でな。宴席を設けてご光臨を祝したい所だが、ままならぬ無礼は
お許し願いたい。
 あなたの用件が私の想像通りであるのなら、それはまことに結構な事だ、大姐(ミストレス)」
 
 女が発する妖艶な気と、部屋を淀ます老中国人の異様な気配の混合は、生者と死者の双方に
対し、濃密であると云えよう。
 ただ、光のみ薄い。
 
「ささやかながら影の社会に暮らす中華の民として、あなたの御名にまで行き着けなかった不明、
深く詫びよう。遅きに失した感はあるがな」
 
 体勢は変わらず、少女の顔が目に見えて緊張した。主人が笑いを消したのである。
 静かに博士は云った。
 
「如何であろう、これ以上の手出しは互いに差し控える、という事で納得して頂けまいか。
 無論、既に出してしまった手についての責任は取りかねるが」

56 名前:悪魔博士(M):2003/05/18(日) 02:31

失礼した。
>>55は私だ。

57 名前:九尾社長(M):2003/05/18(日) 02:37

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>55
 
「ほう・・・・・・やはり、すでに私の正体もご存知だったか」
人に非ざる者すら縮み上がる程のプレッシャーの中、女は涼しい顔で言う。
 
 
重厚な空気を歯牙にもかけず、不敵に言葉をつむいでいるスーツの女。
姿形こそどこにでもいるキャリアウーマンだが、見える者には見えていたであろう。
 
 
その華奢な体躯から立ち上る、豪奢なまでの黄金の妖気を。
そこから発散される、威厳すら感じさせる獰猛さを。
そして―――彼女の背後に見えるそれが、九つの帯を成しているという事実を。
・・・否、その九条の金色は見方によっては、長大な獣の尾であったともいえようか。
 
 
「互いに手出しは差し控える、か。私としてもそれを提案するためにここへ来たのだ。
願ってもない話だよ・・・その申し出、謹んで了承する」
 
退魔会社の社長と名乗った女―――九尾は、わずかに頬を緩めると、老首領にそう応じた。
 
「ああ、そちらが出された手についてだが・・・
 この件は元々、こちらの社員がお節介に首を突っ込んだのがそもそもの発端。
 ケジメの意味も込めて、甘んじてお受けしよう。それから―――――
 その結果に関しても、互いに恨み言はなしと言う事でよろしいな?これ以上の抗争を手控えるというのなら」
提案というよりも、むしろ確認、念押しの意を込めた言葉。
 
 
極普通に、淡々と言葉を交わし合う、老人と女。
しかしそこの空気がはらむのは、一般人なら気死もやむなしと云わんばかりの重圧。
余人……いや余人外では立ち入ることも出来ぬその空気に、従者の少女が苦悶の表情を浮かべたその時――――
不意に、九尾は踵を返した。
 
「どこへ行かれる?」
「帰るのだよ。先ほどお聞きしたが、そちらもご多忙の身であるのだろう?
 それに私としても、あの莫迦どもの築く始末書の山の処理に追いまくられることになるだろうしな」
 
老博士の問いに振り返ると、女社長はそう応じ、さらにこう付け加える。
「最後に一つ、言わせていただくが・・・・・・我々の仕事は、人と人ならざるモノの橋渡しだ。
そちらの如きマフィアが裏社会でどういう具合に暗躍しようと、我々の関知するところではない。だが―――――
人外の力を以て、人の世に波風を起こすのは程々に願いたい。人に溶け込み、共存しようと努力する人外の肩身も狭くなる。
上海はいまや人口の0.5%が人外だということ、とうに存じておられるはずだが?
 
―――もしそうなれば我々とて、黙ってはいられなくなるのでな。その辺、ゆめゆめ忘るる事なき様」
 
それだけ告げると、現れた時と同じように悠然とドアをくぐり、女大妖は書斎から退出していった。
紫とも金ともつかぬ、きらびやかな妖気と残り香を残して。

58 名前:悪魔博士(M):2003/05/18(日) 02:41

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>>57
 
「心に留め置くとしよう、大姐」
 
 腕時計を確認でもするかのような口振りで、淡々と博士は云った。
 既に去った女への答辞である。
 深い息一つつき、傍らの女吸血鬼がようやく姿勢を緩めた。博士はそちらへ長い爪を振る。
 
「聞いた通りだ。上海妖道士社と、それに連なる存在全てへの攻撃命令を中止する。全世界の
同胞へ、急ぎ伝えるように」
 
 最優先事項だ、と云って博士は言葉を切った。
 僅かながら不満気な少女の顔色を読んだか、あやすように穏やかに笑った。
 
「組織の全てを以ってすれば、或いは痛打の一つや二つ、与えられるやもしれぬ。
 が、その時には、我らの方こそ遂に再び立つ事叶わぬのは確かだ。
 “あれ”はそういう存在なのだ。千古の昔より、な」
 
 今度こそうそ寒い表情になった少女は一礼し、招かれざる客と同じドアから退って行った。
 博士は目を閉じた。
 ゆったりと椅子に背を預ける。女の艶やかな残り香を愉しむ風でもある。
 
「青雲幇への面目も、相手が“あれ”なら問題は無い。――とは云うものの」
 
 薄く、目が開いた。聞くものなき室内を見るともなく見、猶も呟く。
 
「己が力をうつし世に顕さんとするは人外、その人外の力を欲すが人。――幾星霜経ようと、
この旧き理の変わった試しは無いのだが。まあ、良い」
 
 博士は悠然と立ち上がった。隅の檻で魔獣が身動ぎする。
 
「見解の相違は相違として、今は彼女と事を構えずに済んだ幸運を、素直に慶ぶとしようか。
 今は、な」
 
 刻まれる微笑が深くなる。
 分厚い絨毯によって足音を吸収されながら、忍びやかに笑う悪魔博士は自室を後にした。
 そして主人を追うが如く、部屋のほの灯りは全てが掻き消え――闇社会の一つの中枢は、
言葉そのままの闇黒に包まれた。
 
 
〜終劇〜

59 名前:メリッサ(M):2003/05/18(日) 03:03

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ




「―――哀れな」

かつてはこの村の住人であったのだろう、だが今では忌むべき同属の下僕と成り果てた死者を
土に還し、私は一人ため息をつく。
そう、一人だ。私に忠実であったパーシバルはもういない。父の仇を討つ、もはやそれだけしか
残されていない目的すら、共に分かち合うべき相手がいないのだ。

「くっ・・・」

思わず舌打ちを打つ。眷属どもがいる以上、確かに『あれ』はここに来たのだ。
この極東の島国に。そしてこの地に。『あれ』は。一族滅亡の元凶たる卑劣漢は。

気が逸れていた所に、横合いから小さな手の平が襲ってきた。
まだ子供のようだ。正直に言えば手にかけたくない相手だ。だが、既に救える状態ではない。
故に。

「済まんな」

抜き手で、その小さな体を貫き通す。軽く目を閉じ、黙祷。
祈りはない。ただ願う。この子の魂に安らぎがあらんことを。

背後で物音が聞こえたので、その場で振り返る。と、そこには一人の女性。
ドレスを改造した衣服にマントを羽織った私の姿とは違う、この国独自の装いの女。
ただし、今までこの地で出会った女どもとは多少趣を異にしているように私には思えた。
袖や裾が非常に長い服を着用しているにも拘らず、その身のこなし、立ち振る舞いに
重さというものが感じられないのだ。しかも、何枚も重ね着している観すら見受けられる。

そしてその瞳だ。
隔意でなく、恐怖でなく、ただ相手を滅せんとする決意を秘めたその瞳。

「これは私の仕業ではない。・・・といっても、信じてはくれないだろうがな」

月が雲に隠れ、双方の瞳だけが闇夜に残る。
闇が凝る気配。

「―――――――――――――行くぞ!」

気配を頼りに光術を撃ち放つ。
閃光が闇を切り裂いた。

60 名前:鈴鹿御前 ◆wzY4SUZUKA:2003/05/18(日) 03:04

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>59
 
 その村には、既に生ける者は存在しなかった。
 たった一人、屍の直中に佇立するその女を除いては。
 
 見慣れぬ衣服だった。恐らくは、この国のものではないだろう。中国などのものとも違う。私
の知らぬ、遠い国の装いだった。
 が、私の目を奪うのはそんなものではなかった。見つめるのはただ一点────足下に転
がる少女の胸を射抜いた、赤く濡れる右手。
 
 女が振り向いた。私の姿を認めて僅かに見開かれた瞳は、しかしすぐに平静に帰った。
 自らの無実を訴える言葉は、現実の前には余りにも空しい。
 それを悟ったのだろう。月が雲に隠れ、闇が地上の煉獄を覆い隠した次瞬。
 女が放ったのは、言葉ではなく眩い光だった。
 
 赤く濡れる地を蹴り、飛び来る閃光を躱す。
 着地と同時に女へと駆ける私の手には、既に一振りの刀が握られている。────大通
連、鬼を裂き邪を断つ、鬼の刃。
 
 横殴りの一閃が、女の胴へと奔った。

61 名前:メリッサ(M):2003/05/18(日) 03:05

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>60

眩い白光に、軽く目を細める。
無論、これで終わるはずはなかろうが――――

「ッッ!!?」

己の放った光術が消え去るよりも早く、女の揮う片刃の剣の切っ先が脾腹から胸元へと忍び寄る。
間に――――合わん!!


とっさに突き出した右腕が切り落とされ、足元に転がり落ちる。
拾い上げている暇はない。大きく跳び退り、懐から取り出した懐剣を投げつけ、

走る。
走る。
走る。

森の中へ。
長大な片刃剣を振り回すだけの空間を奪う、あの鬱蒼とした森の中へ。

62 名前:鈴鹿御前 ◆wzY4SUZUKA:2003/05/18(日) 03:06

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>61
 
「──────ちっ!」
 
 飛来した短刀を咄嗟に弾いた時、女は既に近くの森へと駆け入っていた。
 私の足下に、半ばから断ち落とされた右腕を残して。
 
 女の後を追う────その前に、もう一度村の方を振り返った。
 累々たる屍達の無念の顔に、心の中で誓う。
 
 ──敵は必ず取る。だから……そのままにしていくことを許して。
 
 再び駆け出す。
 森はどこまでも昏く、女の姿は既に見えない。
 いつあの闇の中から、先程の光術が襲ってくるか分からない。
 足捌きの柔軟さを損なわぬよう注意を払いながら、私は森へと侵入した。

63 名前:メリッサ(M):2003/05/18(日) 03:10

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>62

女の頭上の樹の梢の上で息を潜めながら攻撃のタイミングを計る。
光術は使えない。一発で居場所がばれてしまう。

「・・・・・・・・・・・・」

斜め前方まで女が足を進めた瞬間を狙って、先ほど拾い集めておいた小枝を投げつける。
すぐさま跳んで次の枝へ。大きな音を立ててしまったが気にしない。
何度も跳び、同じ音を立てれば良いのだ。樹を隠すには森の中。音を隠すなら音の中だ。

腕力を自慢するつもりは毛頭ないが、当たればこの一撃、十分な痛撃となるであろう。
そう願い、もう一度小枝を握って振りかぶった。

64 名前:鈴鹿御前 ◆wzY4SUZUKA:2003/05/18(日) 03:12

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>63
 
 原始の色を残す、鬱蒼たる森。
 月の光も、この深い森の底まではほとんど届かない。
 耳に届くのは、重なり合う枝が風で擦れ合う僅かな音のみ。
 
 その中に聞き取った、ほんの微かな異音。
 反射的に翻った刃が、飛来した細長いそれを両断しようとして……出来なかった。
 密集した木々の一つが、刀身を遮るように立ち塞がっていた。
 
 更に迫り来るそれを、首を傾け辛うじて躱す。
 交差する一瞬見て取ったその正体は、木の枝だった。
 一度当たったくらいでどうなるということはないが、立て続けに仕掛けられれば厄介だ。
 
 枝の飛んできた方向は──上。
 ここでこうしていても、狙い撃ちにされるだけ。────それなら!
 
 地を蹴って、頭上の太い枝を掴む。
 跳躍の勢いをそのままに回転して、枝の上に。もう一度同じ要領で、更に上へ。
 この高さからなら女の姿も────見つけた。
 
 しなる枝を蹴って、女の頭上へと飛翔。
 勢いを乗せ、真っ向からの一刀を撃ち下ろした。

65 名前:その後、妖道士社にて:2003/05/18(日) 03:21

            報告書

ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
レス番まとめ

○騒動の発端(導入)
>>10-11

○〜上海大夜騒会・大騒動〜
>>12>>13>>14>>15>>16>>17>>18>>19>>20>>21>>22
>>23>>24>>25>>26>>27>>28>>29>>30>>31>>32>>33
>>34>>35>>36>>37>>38>>39>>40>>41>>42>>43>>44
>>47>>48>>49>>50>>51>>52>>53

○上海大夜騒会・舞台裏〜終幕
>>54>>55>>56>>57>>58

ご意見、感想、お問い合わせはこちらまで↓
新生吸血大殲 感想スレッド
http://plan-a.fargaia.com/html/vampbattle/res.cgi/1033894737/
一刻館質問スレ感想スレ
http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi/ikkoku/1035898557


九尾「ほほーぅ・・・・ここまでdでもない騒ぎ方を・・・」

ジャック「い、いやこれは仕方ないことであって・・・」

九尾「問答無用!!たまには被害ゼロの仕事が出来んのか貴様らは!!?」

ジャック「いや、無理っす」

九尾「(プチ)・・・・・・貴様ら、給料むこう半年間50%カットだ」

ジャック「ええ゙!!?そ、そりゃいくらなんでも暴挙じゃ!?」

九尾「やかましいっ!!」

66 名前:メリッサ(M):2003/05/18(日) 03:33

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>64

馬鹿な―――――――

慌てて脳裏に過ぎった単語を打ち消してみるが、現実は何も変わらない。
女は月を背に、私の方へと落ちてくる。その手には銀色に輝く秋霜の刃。
膝を落とし梢を撓め、反動を利用してこちらも大きく跳び上がる。
胸元が切り裂か

          視界が赤く染まる。凶悪な感情が頭をもたげて来る。
          痛みが冷静さを失わせる―――煩い!!
          我を失うな――如何なる時にも毅然と対処せよ――
          我が名はメリッサ、真祖の血脈に連なるもの!!

                                        れた。

暴走しかけた思考を無理やり押さえ込み、さかしまの状態で相手の
背後に向かって落ちながら、女の首筋に向かって腕を伸ばし―――

か細いその喉を、思い切り握りしめた。

67 名前:鈴鹿御前 ◆wzY4SUZUKA:2003/05/18(日) 03:59

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>66
 
 ……浅い!
 僅かな手応えに舌打ちする間もなく────
 
 背後から、首を掴まれた。
 人間を簡単に貫通する膂力に落下の勢いが加わり、一気に首の骨が軋む。
 拙い……このままでは、地面に着く前に首が折れる……!
 
 咄嗟の判断が、私に大通連を手放させた。
 虚空へと吸い込まれるように消えるそれを一瞥もせず、首にかけられた女の腕を掴む。
 渾身の力を込め、頸部へと食い込む手をもぎ離すと同時に、背後へと肘を打った。
 鈍い手応えと共に、二人の身体が弾かれるように離れる。
 地面への落着は、それとほぼ同時だった。
 
 転がりながら喉を押さえ、何度も咳き込んでしまう。
 女は────どこだ!?

68 名前:メリッサ(M):2003/05/18(日) 04:32

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>67

かはっ!

突き込まれた肘に呼気を掻き出され、その場に倒れこんだ。
軽く痺れが残っている身体を無理やり起こし、相手に向き直る。
女は―――まだこちらに気づいていない。

足音を殺して再度忍び寄り、至近距離まで近付いていく。
そして左腕を女の方へと突き出し、握り込んだ光の塊を解き放った。

気付こうとも逃れ得ぬこの距離で放つ光術の味、とくとかみ締めるが良い

69 名前:鈴鹿御前 ◆wzY4SUZUKA:2003/05/18(日) 05:09

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>68
 
 不意に視界を覆い尽くす、眩い光────しまった!
 
 思う間もなく、吹き飛ばされる。
 そのまま数本の木をへし折って、ようやく着地。更に数度バウンドしながら転がって、ようや
く止まった。
 
「…………くぅ──!?」
 
 立ち上がろうとした瞬間、こみ上げる灼熱感。
 抑えきれずに解放されたそれは、赤い色をしていた。
 
 
 焼け焦げた腹部に手を当て、ふらつく足を叱咤してようやく立ち上がる。
 膝が震える。目が霞む。
 しかし、ここで倒れるつもりはない。あの村人達の敵を取らぬうちは、再び膝をつかぬと決
めた。
 
「どうした、これで終わりか!?
 村人達を殺したように、私の生命も奪ってみろ!」
 
 挑発的な声は、それとは裏腹に女から遠ざかっていく。
 この森の中では、獲物を自在に使えぬ私が不利。
 
 ────さあ、追ってこい!

70 名前:メリッサ(M):2003/05/19(月) 04:13

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>69

女の言葉がずしりと重く圧し掛かる。
亡者と化した民に止めを差したのは私だ。また、村人たちを血の下僕に変えたのは自分の同属である。
逃げてしまおうか。そうも思った。だが、逃げた所であの女はまた追って来るだろう。
どうする?

「――――――所詮は血塗られた道、か」

考えるまでもない。こちらにもここで引けぬ理由がある。
ならば、打ち破ってでも進むより他あるまい。奴にとってはとんだ災難かも知れんが。

月光を浴び、最大限まで力を活性化させて女の後を追う。
相手の意図する所は明白だ。あの大剣を揮えるだけの空間へおびき寄せる腹であろう。
ならばその前にけりを付ければ良い。追い縋り、追い越し、全力で叩き伏せれば。

森の中を、樹々の間隙を、ただひたすらに奔り抜ける。
否、

跳ぶ。跳ねる。蹴り付ける。踏みしめる。

未だ届かぬ。この距離では必殺にならぬ。近付いて、懐に潜り込んで、この鉤爪で、
一気に心の臓を――――

71 名前:ミズー・ビアンカ ◆c0Ko8pMIZU:2003/05/19(月) 15:10

前スレッド>>409より
蟆霧VSミズー・ビアンカ
イン・ア・フライト (空戦領域)
 
ミズーが男の足を掴むのと、男が紐を切断するのは殆ど同時だった。
何やら悪態をつきつつ男が暴れるが、彼女の手だけは何故か石のように
動かない。その部分も、既にミズーの意思を離れているように。
 
次の瞬間、再び落下が始まった。
業を煮やした吸血鬼が、自らの足を切断する。
正しく必殺ともいえるその行為に、吸血鬼の、ヒカゲの表情が
歓喜に歪んだ。牙を剥き出しにし、嘲笑する。
 
「墜ちろ、カトンボォッ!」
 
だが、少し遅かった。
男がその必殺の動きに入る前、彼女もまた、動いていた。
激痛を無視しながら、微かに残る理性と集中力を総動員し、
ただ、念じる。
思念の通り道。力の通路。
彼女が持つ、目に見えない武器。
念糸を、開放する。
 
彼女が落下する直前、糸はヒカゲの残った右腕に狙い違わず巻き付く。
現在の集中力では、男を丸ごと灰に変えるだけの熱量は出せないが、
元よりそこまでの熱は必要ない。
ただ、男と自分の運命を同じくさせるだけで。それだけで事足りる。
 
 
「―――あなた、もね」
 
 
ヒカゲの右腕が、炎上した。

72 名前:鈴鹿御前 ◆wzY4SUZUKA:2003/05/19(月) 22:18

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>70
 
 森の静寂を、二つの足音が掻き乱していく。
 駆ける私の足音と、追いすがる女のそれ。
 その距離は少しずつ、しかし確実に近づいてくる。
 
 ────来た。
 
 肩越しに女の接近を認める。
 やはり、向こうも逃げるつもりはないようだ。
 それを確認した私の足が、とん、と軽く地面を叩く。
 
 もしこの追いかけっこを俯瞰する者がいたとしたら、そいつは首を捻ったかも知れない。
 私の影だけが、取り残されたようにその場に残っているのだ。
 影は立体化すると同時に、膨れ上がって急速に体積を増していく。
 その姿は既に人型ではない。人よりも遙かに大きい、二つの角を備えた鬼のものだ。
 
 影より生じた漆黒の鬼──私に仕え、常に側に控える使鬼はそのまま身を翻し、迫り来る
女へと正対する。
 樹間より僅かに覗く月に向かって高く吠えると、使鬼はその鋭い爪を女へと打ち下ろした。

73 名前:メリッサ(M):2003/05/20(火) 04:22

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>72

「――――――――何っ!?」

突如女の影の内より現れ出でた化生が、その爪を私に向かって振り下ろす。
女の眷属―――いや、使い魔か!?

「小賢しい!!」

すぐさま意識を切り替え、前方に向かって光術を放つ。だが、手応えがない。
不意に乱れる背後の空気。振り返らず裏拳気味に拳を突き出すが、またしても外れ。
何とか直撃は避けたものの、髪を一房持って行かれた。
低く響く嘲笑。二重に谺する哄笑。焦燥が募る。冷静さを失ってはいけないと思いつつも。

相手は場所を特定させず、突然現れてこちらに一撃を突き込んでくる。
ならばどうすれば良いか。

点では足りない。線でも、面でも不十分だ。だが、

足を止め、意識を深く集中。数撃爪が突き刺さったが、それも無視。
魔力を、最大限までかき集める。私の姿を見ている者がいれば、全身が
淡い光を放っているのが確認できるであろう。

「――――――――――破っ!!!」

溜め込んだ魔力をすべて光術に転換し、全方向へ向け解き放つ。

簡単な話だ。空間ごと光で灼き払ってしまえば、闇は存在出来よう筈がない。
打ち出され他光が影を砕き、闇を砕き―――

化生の生死の確認を待たず、私はまた走り出した。

74 名前:蟆霧 ◆slMAKIRIrI:2003/05/20(火) 16:14

>>71
蟆霧vsミズー・ビアンカ
 
 
 握りつぶされるように燃えた右腕が、オレの躰から剥がれる。
 同時に、かろうじて保たれていたバランスがあっけなく崩され、オレもまたミズー
のあとを追って、空の上へと落ちた。
 
「――――――ィっ」
 
 目眩のする高さが、喉の奥をぞくりとさせる。
 支えのない浮遊感が、頭の中をすっからかんな快楽と恐怖で埋め尽くす。
 この高さから落ちるということは……夜刀の神だって無事で済むわきゃあない。
 
 顔をあげる。
 ミズー・ビアンカがいた。
 鋼のように揺らがない目をもった、ミズー・ビアンカがいた。
 
 絶対殺人武器。
 
「――――ミズー・ビアンカァッ!」
 
 叫びの最後に、目の前を飛ぶ右腕にかぶりついた。飛行機表面を未練がましく
しがみついている左足で蹴って、飛ぶ。
 右手はまだ、しぶとくナイフを握りしめている。
 
 最後に喉を震わせたのは、悲鳴だったか、哄笑だったか、自分でもわかりゃしな
かった。
 
 ミズー・ビアンカに追いつく。首を思い切り振りかぶり、文字通り捨て身で右腕を、
その先のナイフを叩きつけた。

75 名前:鈴鹿御前 ◆wzY4SUZUKA:2003/05/20(火) 22:22

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>73
 
 地を埋め尽くしていた木々が、不意に途切れる。森の外れだ。
 飛ぶように樹間を抜ければ、そこはもう村外れ。私を迎える、村人であった物言わぬ屍達。
 雲間から覗く月が、煌々と辺りを照らし出している。
 
 ────不意に、声なき叫びが心へと飛び込んでくる。足止めにと残してきた、使鬼の断
末魔。
 振り返れば、月のそれとは比べものにならぬ眩い光が、鬱蒼と茂る木々の間から溢れ出
している。
 あの光に使鬼が灼かれたのは、間違いなかった。
 
 瞑目。
 使い捨てにした、見殺しにした使鬼へと、心の中だけで詫びる。
 
 
 目を開けば、そこにいるのは異国の女。
 敵と己の血にその外衣を汚し、私の刃によって右の腕を失いながら、その美しさは何ら損
なわれてはいなかった。
 彼女の瞳の中に、右手に刀を提げた私の姿が見える。
 その表情が自分でも不思議に思うほど静謐なのは、心を決めたからだろう。
 
「……ここで決着をつけましょう。逃がすことも、逃げることもできない」
 
 月が雲に隠れた。
 大通連の柄を握る手に、力がこもる。
 何故か予感していた。
 ……次に雲が姿を見せるその時こそ、最後の決着の時だと。

76 名前:ミズー・ビアンカ ◆c0Ko8pMIZU:2003/05/20(火) 22:22

>>74
蟆霧VSミズー・ビアンカ
イン・ア・フライト (空戦領域)
 
自由落下。
無抵抗飛行路の中でも、重力が働く事を今更ながらに実感する。
彼女の眼前で、男は身体の支えを失い、ミズーと同じように宙に投げ出される。
 
だが吸血鬼の、ヒカゲの紅い瞳は、意思を失っていなかった。
同じく落下していた彼自身の右腕を口で拾い上げ、空を掻いて
ミズーの方へと突進する。
 
殺意と殺意。
純粋な二つの心。
激突に終止符を打てるのは、より強い殺意のみ―――。
 
元々、この袋小路からの脱出用に考えていた、最後の札だった。
そういう意味で、男の最後の足掻きは、ミズーにとっては好都合でもあった。
 
重力に引かれて落下する事に一つの恍惚さえ感じながら。
ミズーは、最後の念糸を紡ぐ。
絶対的な力を、解放するために。
 
(・・・これで、本当にお終い)
心中でごちる。それは、誰に対する決着宣言だっただろうか。
思いながら、ミズーは最短の開門式を呟いた。
 
「―――出よ」
 
ほぼ無にまでに縮まっていた男とミズーの空間を、爆炎が灼いた。
水晶檻に封印されし、巨大なる力。炎の獅子。
それは、無数に連鎖するその戦いの一つに句点を穿つべく、
具現化を果たし、赤色の咆哮をあげた。

77 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 22:31

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>導入

大きな力の波動。
向った先には、直径数キロ及ぶ破壊の後。
そして、その中心で一人立ち尽くす少年の姿。
その背に光る翼を見て、ほんの少し興味が湧いた。

名前は、エミリオ・ミハイロフ。
光を操るサイキッカーであり、その潜在能力は先だって見た通り。
但し、自身の力を忌み嫌っているが故に100%引き出せていない。


 ――ありがちな話。

路地裏で捨てられた子犬の様に眠る少年の夢から出て、思った。
異質な、大きすぎる力を持ち、それに怯えている。
実に人間らしい。

だから――
心の傷を弄んでやろう。苦痛に満ちた悲鳴は、心地良い。
力を振るう愉しさを教えてやろう。殺し、破壊して思うが侭に振舞う事を。
魂を墜としてやろう。無垢の白が闇色に染まる様は、愉快でならない。

その為の仕掛けのタネは蒔いてきた。




数日後、蒔いたタネが芽吹き、静かに根を張り巡らせた頃。

「・・・こんな所でどうしたの? ぼく」

いつもの様に物陰で膝を抱えている少年に、わたしは手を差し伸べた。

78 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 22:34

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>77
 
 気が付いたら、僕は何もない地面――草すらも生えていない、剥き出しの地面に立ち尽くしていた。
「――僕は、またあの力を……忌まわしい力を……」
 そのまま地面に膝を付いて、僕は泣いた。

僕の中にある力。破壊を導く光。

 この力は、どれだけの人を傷付ければ満足するんだろう。
 この力は、どれだけ尊い生命を壊せば満足するんだろう。
 この力は、どれだけ、僕の大切な人を奪っていくんだろう。
  
「もう……いやだよ、こんなの……」
 僕を愛してくれた人は、みんな僕の力で傷つき、生命を落としていった。
 
 僕のそばにいてくれる人は、もう――ダレモイナイ。
 
                    *
  
 僕は誰も訪れる事のない路地裏の片隅で、じっと膝を抱えていた。
 誰にも会わなければ、誰も傷付けなくて済む。
 寂しい事かも知れないけど、誰かを傷付けてしまうよりは、ずっと良い。 
 
                    *
  
 そうして、一人でひっそり過ごしていたある日――
『・・・こんな所でどうしたの? ぼく』
 声をかけられて、顔を上げた。
 綺麗な身なりの、どこかの名家のお嬢様みたいな女の人が、優しそうな笑顔を浮かべて僕に手を差し伸べていた。
 
 僕はその女の人から目をそらした。出来る事なら、僕には誰も関わって欲しくない。
 
 もう、誰も傷つけたくないから。誰かが傷付くのを、見たくないから。

79 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 22:35

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>78

しゃがんで、避ける様に視線を外す少年と同じ高さまで自分の視線も下げる。

 上辺だけの拒絶。判っている。

「・・・辛い事でもあった? 良かったらわたしに話してみない?
 判らないかな・・・」

そう言って、「力」を少し解放する。目の前の子がそれと気付く程度に。

「同じ「力」を持つ者を――何よりそんな顔してる子供、放っておけないでしょ?」
 そう言えば髪の毛の色も同じね、ふふ」

手を伸ばし、綺麗な緑色の髪の毛にそっと触れる。

「とは言っても初対面の人間に話せる事の方が少ないわよね。うん、無理にとは言わない。
 その代わりわたしの散歩の続きに付き合う事。いい?」

返事を待たずに小さな身体を抱き抱える。
淡い紫の魔力に包まれて、二人の身体は夜空に舞い上がった。

「こういう散歩も悪くないわよ? ほら、ちゃんと掴まって」

 わたしはもう知っている。 

手を差し伸べられるのを待っている。
暖かい言葉を求めている。
自分を受け止めてくれる事を望んでいる。
なら、つかの間だけ与えてあげよう。
代償には――何が良いだろうか。

80 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 22:37

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>

 僕の背中の方で、僕のとは違う力が開放される感じがした。
 ここにいるのは、僕と、あの女の人だけ。
 まさか……。
 そう思いながら、振り返って見る。
「……あ……!」
 
 女の人の身体が、淡い紫の燐光に包まれていた。
 
 この人もサイキッカーなの?
 
 僕の戸惑いをよそに、女の人の細い指が僕の髪に触れる。髪の間をすり抜けていく指の感触が……くすぐったくて、懐かしい。

 その余韻に浸る間もなく、僕は女の人に、おとぎ話なんかで、お姫様が王子様にされてるような格好で、抱き上げられた。
僕が軽いのか、それともこの女の人が見かけによらず力持ちなのか、それは分からない。ここしばらく、ちゃんとご飯を食べていないから、多分、僕が軽いんだと思う。

「散歩の続き……? こんな格好でどうやって……って、うっわ!?」
 女の人は、僕を抱えたまま、舞い上がった。
 
 空を飛ぶのは慣れてるし、ここで過ごすようになってからも、時々空の散歩をしたりしていた。
 けれど、こんな形で空を飛ぶのは初めてだから、ちょっとびっくりした。

 女の人に抱えられて、温もりと、何処か懐かしい匂いを鼻に感じながら、僕は思った。

 これは、夢なんだ、って。
 僕は、夢を見ているんだ。
 夢だから……いつ醒めても良いように、今を大事にしていよう。
 夢だから……ずっとこのままでいられるように、しっかりと捕まえていよう。
 
 僕は、女の人の首に回した腕に、ほんの少しだけ、力を込めた。
 
 離れないように。
 温もりが、逃げないように。

81 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 22:39

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>79

 僕の背中の方で、僕のとは違う力が開放される感じがした。
 ここにいるのは、僕と、あの女の人だけ。
 まさか……。
 そう思いながら、振り返って見る。
「……あ……!」
 
 女の人の身体が、淡い紫の燐光に包まれていた。
 
 この人もサイキッカーなの?
 
 僕の戸惑いをよそに、女の人の細い指が僕の髪に触れる。髪の間をすり抜けていく指の感触が……くすぐったくて、懐かしい。

 その余韻に浸る間もなく、僕は女の人に、おとぎ話なんかで、お姫様が王子様にされてるような格好で、抱き上げられた。
僕が軽いのか、それともこの女の人が見かけによらず力持ちなのか、それは分からない。ここしばらく、ちゃんとご飯を食べていないから、多分、僕が軽いんだと思う。

「散歩の続き……? こんな格好でどうやって……って、うっわ!?」
 女の人は、僕を抱えたまま、舞い上がった。
 
 空を飛ぶのは慣れてるし、ここで過ごすようになってからも、時々空の散歩をしたりしていた。けれど、こんな形で空を飛ぶのは初めてだから、ちょっとびっくりした。

 女の人に抱えられて、温もりと、何処か懐かしい匂いを鼻に感じながら、僕は思った。

 これは、夢なんだ、って。
 僕は、夢を見ているんだ。
 夢だから……いつ醒めても良いように、今を大事にしていよう。
 夢だから……ずっとこのままでいられるように、しっかりと捕まえていよう。
 
 僕は、女の人の首に回した腕に、ほんの少しだけ、力を込めた。
  
 離れないように。
 温もりが、逃げないように。

82 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 22:40

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>81

深い深い暗闇。
疎らに散った光が、闇をより深くする。
今夜は満月。
その光が、見る者の心を狂わせる。
流れてゆく夜気が心地良い。

「軽いわね。ちゃんとご飯食べて――ないんでしょうね、この様子じゃあ。
 所でどう? お姫様になった気分。・・・・ふふ、冗談だから怒らないでね?」

思わず漏れる小さな笑い。
会話では無く、縋るように力を篭められた腕を感じたから。

「――で、君に言っておかなければならない事があるの。
 何があったかなんてわたしには判らない。君の気持ちが判る、何て軽々しく言えない。
 ただね、だからって自分の作った殻に閉じこもっていては駄目。
 閉じこもっていればそれ以上傷付く事は無いかもしれない。
 でも、そのままでは傷は癒えないから。そこから前に進めなくなるから。
 自分や周りと正面から向き合うのは辛い事だろうし、勇気が要ると思う。
 少しずつでも、時間が掛かってもいい。
 1歩踏み出せた時には、きっと君は前より強くなっているから、ね?」

歯の浮きそうな、甘ったるい台詞。

「経験者が言うんだから・・・言葉は人の受け売りだけど。
 判ったら返事。早くしないとキスしちゃうわよ? ・・・何てね、これも冗談」

口を開く度に背筋に走る悪寒。
柄でもない役柄を演じるのも、愉しみの為。

 ――夢のような時間でしょうね。

けれど、良い夢も悪い夢も、等しく醒めるモノ。
そして、目覚めてから感じる世界は、えてして見ていた夢すらしのぐ。

83 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 22:42

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロ フ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>82

 鈴のような笑い声と一緒に出てくる軽い冗談。
 僕の目を見つめて、一言ずつを大切にしながら語られる、教訓めいた話。
 そのどれもが、いなくなってしまった彼女を、思い出させる。
 
――この人が、僕の傍にいてくれれば良いのに。
 
 ほんの少しだけそんな事を考えて……すぐに取り消した。
 誰も、僕の傍にいちゃいけない。
 僕がタイセツにしたいものは、みんな、壊れてしまうから。
 
『――判ったら返事。早くしないとキスしちゃうわよ?』
 思わず、ドキッとした。
 キ、キスだなんて、そんな……。僕はまだ14歳だし、それにその……した事……ないし。
『・・・何てね、これも冗談』
 冗談だったのか……ちょっとほっとした。
 けれど、顔の火照りはまだ退かない。心臓の高鳴りも、収まる気配がない。
「え、えっと……きょ、今日は、ありがとうございました……、その、僕は、これで!」
 半ば強引に女の人の腕をすり抜けて、急ぎ足で飛び立った。
 
 
 一人で空を飛びながら、顔の赤さは夜の闇が、早くなっていた心臓の鼓動は、会話が隠してくれていた事を期待した。

84 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 22:43

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>83

「あっ、と・・・もう、待ってってば・・・」

言ってはいるものの、追う気は無い。
一日目はこんな所だろう。
心の隙間にもっと深く入りこむには、まだ時間が要る。



――昨夜と同じ時間、同じ路地裏。

「・・・いた。よかった、居なくなってたらどうしようかと思ってたから」

奥まった、昨夜より少しだけ見つけ難い所に、同じ様に座っていた。
探すつもりではいたんだけどね、と付け加えて隣に腰を下ろす。

「何だか判らないけど昨夜はいきなり行っちゃうし。
 ・・・・・・あ、わたし変な事言った? 迷惑だったとか?」

そんな事は無い。
与えられたモノの偽りの暖かさに、自身からそれを求めてしまいそうになったからだ。

「でもね、やっぱり放っておけないのよ。
 君を見てると思い出すの・・・まるであの頃の自分を見てるみたいで、さ。
 話、聞いてくれるかな?」

幾らでも求めると良い。
それは、依存を深める。
深まった依存は、偽りに満たされる快楽は、見ているだけでわたしを愉しませる。
それに、後の愉しみが更に大きくなるのだから。

85 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 22:44

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロ
フ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>84

『――話、聞いてくれるかな?』
 僕の目を真っ直ぐに見詰めながら、彼女は言った。
「……うん」
 小さく肯く。わざわざ僕を探してまで話したい事がある彼女を、無下に追い返すのはどうかと思ったから。
 
 それだけ? 自分自身に問い掛ける。
 
――違う。彼女なら、きっと分かってくれる。
 何となく、そう思えたから。

 僕がうなずくのを見て、彼女は静かに話を始めた。
 
  
 良家に生まれた事、物心付いた時には“能力”が覚醒していた事、幸い一人娘だった為、『病弱』と言う理由をつけて、家の中で育てられた事、弟が生まれた事により“能力”を疎まれ、地下室に閉じ込められた事、何度か自殺を図った事、そんな彼女を励まし、護ってくれた人の事、“能力”の暴走の事、それを止めようとした『大切な人』の事――。
 
 そこまで一気に話し、彼女は少しだけ、目を伏せた。

 いつしか僕は、彼女と自分を重ね合わせていた。
 生まれや境遇に違いはあったけれど、それでも、彼女の人生は僕と重なる所がある。
 だから……彼女は僕の事を『放っておけない』と言ったんだろう。

「……それで……その人は?」
 答えは、何となくわかっていた。

 でも、聞かずにはいられなかった。

86 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 22:45

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>85

口をつくのは、即興で作り上げた「過去」と言う名前の物語。
似すぎず、違いすぎず。
虚構の中に聞く者が自身を投影してしまうような。
この子の為だけに作り上げた、良く出来たお話。

「わたし、わたしが―――――」

視線を落とし、問いに、そう答える。
それがこの子の聞きたい答えだから。

「・・・ごめん、こんな話して。もう行かないと。
 じゃあ、また明日、同じ時間にね」

2日目はこれで終わり。


3日、4日と時間を重ね、次第に深みに嵌まり込んで行く。
より深く求め、溺れる様に依存してゆく。




その間も、少年の中で芽は育ち続けていた。
「あの時」の夢を眠りのたびに繰り返す。
ほんの少しだけ脚色された夢を。
人ならば誰しもが持つ負の感情が、育って。
心の奥底で膨れ上がったそれは、発露する時を静かに待っていた。

87 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 22:49

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>86
 
                    *
 
――なんで、そんな怖い顔をしてるの? お母さん……。
『エミリオ……お前は、生きていてはいけない子なのよ……』
 え……? お母さん、なんで、ナイフなんて持ってるの?
『――死になさい……悪魔の子!!』
 ナイフの刃に光が当たってる。ランプの灯り?
 なんで、僕動けないの? 
 ――お父さん? どうして、僕を押さえ付けてるの!?
『悪魔め――苦しむように、殺してやる!』
 僕を――殺す!? やめて……! 
 僕は悪魔じゃない、ぼくはあくまなんかじゃない――!

――まっしろになる視界。
    ――まっしろな闇。

 気が付くと、何もない。
               誰もいない。
 何もない地面。
               誰もいない地面。
 
 ただ、夜の闇に、蒼い月が浮かんでいるだけ。
 
                    *
  
「――!」
 弾かれたように起き上がり、慌てて辺りを見回す。
 
 いつもと変わらない路地裏。一人でひっそりと過ごしていた、あの場所。
『どうしたの……? うなされてたみたいだけど』
 彼女が僕を心配そうな目で見つめている。
「……夢を、見たんだ……あの時の夢を……」
 彼女にすがり付いて、胸の中に顔をうずめながら、僕は小さく震えていた。

88 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 22:50

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>87

抱きとめて、そっと髪を梳く。

 ふふ。その夢を見せているのはわたし、なんだけどね。

埋めた頭を撫でながら、妖しく笑う。

――もう、良いだろう。
仕込みは十分過ぎるほどだし、何よりそろそろこんな関係を続けるのも飽きた。
精々愉しませてもらうとしよう。

「あの時の、夢? ・・・そう、嫌な夢を見たのね」

そっと小さな体を抱きながら、優しく語り掛ける。

「目を瞑って。良い所に連れて行ってあげる。
 何も考えずに一人で居られる、静かな、わたしの秘密の場所」

何時かと同じに少年の身体を抱き上げて、飛ぶ。
目指すのは、あの場所。


辺り一面に広がる瓦礫の絨毯。
その一点に降り立つ。

「もう良いわよ、目を開けても」

ここはある街。その残骸。
ここはある場所。街を残骸に変えた少年が立っていた、場所。

89 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 22:52

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>88

『もう良いわよ、目を開けても』
 そう言われて、静かに目を開けた。
 目が闇に慣れて、ぼやけていた輪郭がはっきりとしてくる……

「――――!!」
 冷たい汗が、頬を伝う。
 喉がからからに渇いて、息が詰まる。
 頭が痛む。目が霞む。
 
 頭の中が、白く濁る。
 目の前が、黒く染まる。
 
「う、あ……ああ……」
 寒くないのに、身体が震える。顎が震えて、歯がカチカチと鳴く。
 
――良く知っている場所だった。忘れたくても、忘れられない場所だった。
 
――思い出の残る場所だった。思い出したくも無い場所だった。
 
――淡い夢を見た場所だった。夢を壊してしまった場所だった。
 
「ど……どうして、ここを……」
 渇いた喉で、かすれた声で、それだけ言った。
 
 
 ここは、僕と大切な人がひっそりと暮らしていた街。
 大切な人との思い出が残る街。
 大切な人がずっと傍にいてくれる事を望んだ街。
 
 僕が、全てを壊してしまった街。
 僕が、全てを失くしてしまった街。

90 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 22:53

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>90

震えている。
怯えている。
思わず、笑いが浮かんでいた。

「随分ショックを受けてるみたいね?
 ひょっとしてここで何かあった?」

背を向け、一歩、足を踏み出す。

「――例えば、この街に貴方が住んでいた、とか」

さらに一歩。踊る心のまま、ステップを踏む。

「――例えば、貴方がこの街を瓦礫に変えた、とか」

三歩目で、足を止めて振り返った。

「――例えば、その時貴方はその手で大勢の人を殺した、とか。
 ねぇ? エミリオ・ミハイロフ君?」

一度も聞いていない名前を言ってみせる。

もう、演ずる必要は無い。
語る声は冷えて、それでいて何処か高揚したように。

「・・・全部、知ってたのよ。最初から、ね」

視線で嘲笑いながら、そう告げる。

91 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 22:54

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>89

震えている。
怯えている。
思わず、笑いが浮かんでいた。

「随分ショックを受けてるみたいね?
 ひょっとしてここで何かあった?」

背を向け、一歩、足を踏み出す。

「――例えば、この街に貴方が住んでいた、とか」

さらに一歩。踊る心のまま、ステップを踏む。

「――例えば、貴方がこの街を瓦礫に変えた、とか」

三歩目で、足を止めて振り返った。

「――例えば、その時貴方はその手で大勢の人を殺した、とか。
 ねぇ? エミリオ・ミハイロフ君?」

一度も聞いていない名前を言ってみせる。

もう、演ずる必要は無い。
語る声は冷えて、それでいて何処か高揚したように。

「・・・全部、知ってたのよ。最初から、ね」

視線で嘲笑いながら、そう告げる。

92 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 22:57

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>91

 彼女が僕に背を向けた。その背中は何故か――ひどく愉しげに見えた。
『――例えば、この街に貴方が住んでいた、とか』
 彼女が一歩。                  ――疑問が浮かんだ。
『――例えば、貴方がこの街を瓦礫に変えた、とか』
 彼女が二歩。                  ――心臓が跳ね上がった。
『――例えば、その時貴方はその手で人を殺した、とか』
 彼女が三歩。振り返る。             ――心臓の鼓動が止まった。

「か、っあ――は――」
 胸を押さえながら、地面に膝を付いた。

『――ねぇ? エミリオ・ミハイロフ君?』
 冬の空気のように冷めた声で、愉しそうに僕の名前を呼ぶ。
                         ――あれ?

 僕は、一度だって名乗っていなかったはずなのに。何故、彼女は僕の名前を、知ってるんだろう。
 彼女はさらに続ける。――最初から、全部、知っていた、と。

 胸を切り開かれて、氷を詰め込まれたような感触。
 
「あ……貴女は……」
 
 言葉は、疑問は喉まで出かかっているのに。息が詰まって、言葉が出せなかった。 

93 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 22:58

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>92

待ち望んだ時。
予想通り、期待通り。
うめく様に言葉を吐く姿は、とても辛そうで。
それが、実に愉しい。

「――ふふ。ほんと、嬉しいわ。わたしの見込んだ通りで。
 良い玩具よ? 貴方。さあ、もっとわたしを悦ばせて」

衣装を千切り捨て、闇を纏う。
肌の白に闇の黒に、広げた翼は、大きさだけが歪な――大きな、蝙蝠の翼。
ゆらりと持ち上げる右腕は、今にも地面に突っ伏しそうな少年に向けて。

「立って。死に物狂いで抵抗しなさい。貴方のその力で。
 何人も殺したんだから、もう一人くらい殺せるでしょう?」

 ここまで来たんだから、がっかりさせないでよ?

わたしの苦労が台無しになるから。

「まさか、無理だ、なんて言わないわよね?
 そんなつまらない事言うなら・・・わたしが貴方を殺して終わり。
 貴方の血と肉で我慢してあげるわ」

輝きが集まる。掲げた手の平の前に、紫光が渦を巻く。
左腕で昂ぶる体を抱きながら、光弾を放った。

94 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 23:01

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>93
 
 頭の奥が痺れて、立ち上がれない。身体が、動かない。

 やっとの思いで顔をあげた時には、光の塊が僕のすぐ近くにあった。
「う、あっ……っ!」
 光の塊が僕の胸にぶつかって、弾けた。
 衝撃が全身を駆け抜けて、僕は人形みたいに吹っ飛ぶ。
 吹っ飛んだ身体は、瓦礫の山を崩して止まった。
 
「ぐ……っぅあ……かふぁっ……」
 瓦礫に埋もれながら血を吐いた。
 身体が痛い。ばらばらに砕けてしまいそうなほどに痛い。
 
(裏切られた……)
 身体の痛みよりも、その事実が何よりも痛くて、悲しかった。
 
(こんな……能力(ちから)があるから……)
 だから、温もりを求めちゃいけなかった。誰かが傍にいてくれる事を、望んじゃいけなかった。
 だから、あの日、僕は全てを失った。
 だから、今もまた、僕は全てを失った。
 
(もう……嫌だよ……こんなの……っ!)
「嫌だよ……もう、嫌だ……」
 痛みとか、悲しみとか、色々なものが混ざり合って、頭の中を真っ白に染め上げて行く。
 
 
 気が付くと僕は――光の矢を、彼女に向けて番えていた。
 
  
 あの日の、あの時のように。

95 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 23:02

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>94

肉の塊が宙を舞って、積った瓦礫に飛びこんでゆく。
崩れる音と巻き上がる埃。

「ようやくやる気になったみたいね。・・・良く狙いなさい」

そして、立ち上がる影と光。
引き絞られた弓は、矢を放たんとしている。

「頂戴? 貴方のモノを。わたしの身体をソレで貫いて」

感じさせて。
強く、痛く、激しく、熱く、深い、悦びを。
今、貴方はその為にだけ存在するのだから。

「貴方の目の前の女は敵。自分を裏切り、傷つけた敵。
 憎いでしょう? 許せないでしょう? 目の前から消えて欲しいでしょう?」

素手のまま、弓を引き絞る動き。黒が、空間に凝縮する。
闇より暗い「何か」が、ぎり、と音を立てた。

「その為の力が貴方にはある。使いなさい。敵を否定するの。消すの。その手で殺すのよ。
 ―――今すぐに、全力で」

語尾に重なって、弦が弾ける音と、空を切る音がなった。
弓が黒いのなら、放たれた矢もまた、黒い。

96 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 23:05

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>95

 僕と同じく、彼女も弓を引く。
 違うのは、力の色。僕は白く。彼女は黒い。
 そして、浮かべた表情。僕は泣きながら。彼女は愉しそうに。
 
 限界まで引き絞った彼女の黒い弓が、弾けた。
 矢が風を切る音が、何故か遠くに聞こえる。
  
「ぁぐっ!!」
 黒い矢が僕の左肩を貫いた。
 熱くて、痛い。痛くて、熱い。
 
 放せずにいた右手が――弦を引いていた右手を、痛みのあまり、放してしまった。
 彼女のそれより遅れて、僕の矢が放たれた。
 
『……っ!』
 彼女が小さく息を呑んだ。恐る恐る目を開けてみる。
 
 彼女は左の二の腕を押さえていた。
 腕を押さえている指の隙間から、紅い雫がこぼれて。
 ちょっとだけ顔を歪めて、それでもまだ愉しそうで。
 
 黒い彼女の白い肌に浮かぶ紅い雫。
 
 それは――ひどく綺麗だった。
 
「あ、あ、ああ……は、ああああ……」

 誰も傷つけたくないのに。
             誰も傷つけたくないのに。
                         誰も傷つけたくないのに。
                         
  
             だけど。それでも。

 震える手で、また弓を構える。
 誰かを傷つけたくないけれど、誰かが傷付くのは怖いけれど。
 
 けれど。それでも。
 綺麗なそれを、見たかった。

97 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 23:06

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>96

深く、突き刺さる。
放った矢がもたらしたのは、あの子の傷と、甘く、蕩けそうな匂いの赤。
血。
湯気が出そうなくらい熱く、何よりもわたしを満たしてくれるモノ。
まだほんの前戯なのに、こんなにも昂ぶっている。
与えてあげたい。
与えて欲しい。
快感も痛みも、感じたモノ全部。

「・・・駄目じゃない。良く狙って、って言ったの聞こえなかった?
 そんな所じゃ足りないのよ。ねぇ、判るでしょう?」

腕を押さえている右手を離す。
出血は既に止まっているが、手はそこに怪我でもあるのかと思うほどにべったりと血に塗れて紅い。
ゆっくり口元に運び、おもむろに舐めた。
人差し指と中指の間を、艶かしく濡れた舌が這い回る。

「それとも―――お姉さんのリードが必要? そんな初めての子みたいな事、言わないわよね?
 貴方の経験人数はその辺の殺人鬼より凄いんだから」

まあ、近くの方が良いのならこちらから行こう。
どのみち、まだあの様子では向こうから仕掛けられはしない。

無造作に詰まる距離は、手を伸ばせば触れられる近さに。

「ここよ。ここをそれで貫けばわたしは死ぬ。
 簡単でしょう? 手を放すだけで良い。それだけで、貴方はわたしを殺せる」

左手で、胸を示す。
豊かな双丘の下―――脈打つ心臓を。

98 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 23:07

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>97
 
 ためらいも戸惑いも見せず、彼女は僕に近付く。
 番えた矢の前に、無防備な姿を晒す。
『ここよ。ここをそれで貫けばわたしは死ぬ。
 簡単でしょう? 手を放すだけで良い。それだけで、貴方はわたしを殺せる』
 そう言って指し示すのは――心臓。
 
 矢を番える手の震えは、まだ止まらない。
 
 何故――彼女は僕にその手を汚せと言うのか。
 
「う……あ、あああ、あ……」
 違う。違うんだ。僕は、殺したくなんかない。誰も、殺したくない。
 
 狙いを逸らして、手を放す。放たれた矢は、彼女の右の肩口を掠めて飛んでいった。

「嫌だよ……僕は……誰も殺したくない……」
 泣きながら、言葉を紡ぐ。
 血の色が、紅い色が、目に映る。
 暗闇にあってなお鮮やかなその色。
 
 それを見ているうちに、僕の中で
 
 何かが弾けた。
 何かが産まれた。
 何かが目覚めた。
 
 
「だって……殺しちゃったら……それで終わりじゃないか……」
 僕の目からは止め処なく涙が溢れていた。
 
 
 
 けれど――口元は歪んでいた。

99 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 23:08

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>98

右肩。
傷は―――そう深くない。
でも、先ほどの攻撃よりは確実に深い。

「あら、そう? 生かさず殺さずで長く愉しむのがお好み?
 顔に似合わず良い趣味してるのね・・・」

泣きながら、笑って。
今を受け止めきれずに悲鳴を上げて。
そして、壊れた。
見ているだけで、昂ぶってくる。
身体が震える。ぞくぞくする。

――――もっと、欲しい。

「奇遇よね。わたしもそういうの、嫌いじゃないのよ。
 ・・・心配する事はないわ。もう――わたしのコト、忘れられないでしょう?」

――例えわたしが死んでも。
   忘れられない。ずっと一緒。
   それは終わりじゃない。
   共に在る、というコトよりも強い繋がり。

 わたしの望みとは違うけれど。

わたしへの想いを抱いたまま堕ちてゆく姿も、魅力的かもしれない。
ふと、そう思った。

「・・・さあ、お喋りはお終い。踊りましょう? 貴方が満足するまで付き合ってあげる」

両翼が沸き立つ。小さな泡の様に膨らんでは弾け、ささくれた痕が次々に生まれる。
花の様に咲いた無数の針が、少年へと伸びた。

100 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 23:10

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>99
 
 彼女の背中から伸びた黒い棘が大きく広がる。
 黒い彼女を中心に、左右に開いた、黒く鋭い棘――僕は、何となく怪物の口を連想した。
 
 怪物に魅入られた生贄が自分からその口の中へと進んで行くように。夜よりも昏い彼女に魅入られた僕は、地面を軽く蹴って、棘の中心へ――『踊ろう』と誘ってくれた彼女の元へ――ふわり、と飛び込んだ。
 
 
 棘が、髪を一房切る。頬を裂く。二の腕を削ぎ落とす。
 肩口を掠める。胸を抉る。脇腹を引っ掻く。太腿に突き刺さる。ふくらはぎを貫く。
 
「ぅあ……っ! か……は、ぐっ……」
 痛い。全身が千切れそうなくらい、痛い。そんな言葉さえ陳腐に思えるほど、痛い。
 
――――でも、それ以上に。
 
「はぁ……ぁふぁ……んぅ……っ!!」
 身体全体が、勝手に仰け反る。電気が走るかのように、痙攣する。
 
 身体の痛み以上に――――それ以上に――――
  
  
                                     キモチガイイ

101 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 23:10

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>100

朱色の線を引いて、舞いこんでくる身体を。

「・・・本当、可愛い子」

抱き締めた。何時かと同じように。

「貴方が悪いのよ? 貴方が、貴方だから―――」

抱き締めた。折れそうなくらい。

「―――だから、壊してしまいたくなる」

抱き締めた。ごきりと、音が、した。

早鐘のような鼓動。温かい血の滑る音。荒く乱れた喘ぎ。
それと、骨の折れた音。

「・・・痛い? それとも嬉しいのかしら?」

抱き締めたまま、頬を汚す血を舐め上げる。
顔に掛かる自身の物ではない緑色の髪が、少しくすぐったい。

「正直に言って御覧なさい。・・・ご褒美が欲しいなら、ね」

そこから溢れてくる紅い甘露を求めて頬を這い上がる舌が、辿り着いた傷口をなぞった。

102 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 23:12

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>101
 
 黒しかない世界の中で、温もりを感じた。
 柔らかな感触。ほのかに漂う、甘い香り。

『・・・本当、可愛い子』

 ほんの少しだけ、上擦った声の囁き。
 
『貴方が悪いのよ? 貴方が、貴方だから―――』

 柔らかさと温もりと甘い香りが同居するそれが、僕の身体を包み込む。締め付けられる。

『―――だから、壊してしまいたくなる』

 僕の身体が、軋む。
 軋んで――――砕けた。身体の中で、嫌な音がした。

「――――っ! か……はぁ、ぁぐ……っんっ……っ!」
 息が詰まった。苦しい。
 心臓が高鳴る。苦しい。
 全身を痛みが駆け抜けた。苦しい。
 
 でも――それすらも気持ち良い……。
「……ふ……ぅあ……は……う……つ……」
 僕の口から漏れるのは、言葉にならない息だけ。
 
 痛みと気持ち良さで、気が遠くなる。
 痛みと気持ち良さが、意識を留めている。
 

 湿り気を帯びた温かいモノ――たぶん、彼女の舌だろう――が、僕の頬を撫でた。
『正直に言って御覧なさい。・・・ご褒美が欲しいなら、ね』
 更に、傷口を這い回る。

「……ぼ……ふ――ぅっ……」

 知らなかった。傷付く事が、こんなにも気持ち良い事を。

 だから――――

「い……くぁ……!」
 まだなんとか動く右手で、貫手を放った。

 だから――――僕と一緒に、気持ち良くなろうよ――――。

103 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 23:13

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>102

感じる。
この子の身体を。
髪の毛の感触を。若さに溢れた肌を。雄の匂いを。微かな震えを。幾つもの傷を。
密着している熱いモノを。
今にも限界に達そうとしている、痺れるような快感を。

「・・・そう、素直な子、わたしは好きよ」

感じる。
共に感じている。
揃えた指先が左脇腹に/揃えた指先を左脇腹に。
皮膚に食い込んで破る/皮膚に食い込ませて破る。
筋肉の筋を引き千切り/筋肉の筋を引き千切る。

そして、

内臓に達して掻き回された/内臓に達して掻き回した。
深い。奥まで犯されている。

「ご褒美を、あげ、なくちゃね」

口付けした。
深く深く舌を差し込んで、こみ上げて来る血を流し込む。
長い時間口付けは続き、その間中脇腹の右手は抜けず。
腸を掻き回される悦びもやむ事は無く、自らの血を送り込む事も止めなかった。

 良い子ね・・・

だからお眠りなさい。
わたしの血を受け入れて、夢を見なさい。
抱いていてあげる。
だから、夢を見て―――――


                             そして、墜ちてしまいなさい。

104 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 23:15

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
 
>>
 
 ――ご褒美をあげなくちゃね――
 その言葉が終わるか終わらないかの内に、僕の唇に、柔らかい物が押し付けられた。
それが彼女の唇だと理解したのは、湿り気を帯びてぬめるモノが――彼女の舌が――僕の唇の上を這い回り、こじ開けて、僕の舌を絡め取ってきてからだった。
 
「ふ……ぅ……かぁ……っん……」
 
 抵抗する事も出来ず――するつもりもないけれど――僕の舌は彼女の舌に弄ばれる。
 初めて味わう、懐かしい味が――鉄錆にも似た、舌先が痺れるような、甘い血の味が僕の口の中一杯に広がる。
 そうしている間も、彼女は僕を強く抱きしめ、僕は彼女のお腹に突き立てた右手で中を掻き回す。
 
 吐き気を催しそうな、心地良さ。
 全身を無数の剣で刺し貫かれる、快感。
 天に上るような気分で――落ちる。――墜ちる。――堕ちる。
 
 僕の意識もまた、視界と同じように、深い闇へと落ちていった――。
 
                       *
 
 物音で目を覚ました。窓から射し込む月明かりが、それに反射して、幽かな光を辺りに散らす。
 それは――ナイフか何か。それを、誰かが逆手に持ち、僕に向けて、今まさに振り下ろそうとしていた。
 僕を殺す気か……そうは行かないよ。
 素早く毛布を跳ね上げるのと同時に、人影の大体の位置に向けて光の矢を三本、立て続けに放った。
 
 毛布の向こうから、くぐもった呻き声が聞こえた。静かに、毛布が床に落ちる。
「――!」
 思わず、息を呑んだ。
 僕の放った光の矢で壁に張り付けられたそれは――
「お……母、さん……」
 
 胸を抑えて、僕は床に跪いた。
 胃の中のものが込み上げてきて――全て吐き出した。吐き出す物がなくなって、胃液まで吐いた。
 
 吐けるものも、吐けないものも、何もかも吐き出して、そのまま倒れこんだ。
 
 殺してしまった。死なせてしまった。
 知らなかった。大切な人を二度殺すのが、こんなに苦しい事だったなんて。

 ――二度? 
 
 その疑問を解決する前に、僕の意識はあっという間に薄れていった。
 
                       *
 
 目を覚ますと、そこは見なれた路地裏。建物の間から、青白い月が僕を見下ろしていた。
「……何だろう……身体中が、べたべたする……」
 何だか、嫌な夢を見ていたような気がする。でも、思い出せない。
 
 何となく、目の前を見渡してみる。暗くて良く分からないけれど、随分と湿っているような、そんな感じがした。

105 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 23:16

>>104のレス番指定は>>103です。ゴメンなさい……)

106 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 23:19

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

>>104

回想が必要だろうか。
意識を満たしているこの痛みを、深く刻み付ける為に。
何時途切れるとも知れない今と言う時を、忘れない為に。


手際自体は、まだとても見られた物ではなかった。
けれど、良い顔をしていた。
失血で満足に動かない身体に縋るあの子の顔。
夢現の際をさ迷いながら、触れているわたしの身体を壊してゆくあの子の顔。
千切り、刺し、折り、抉り、溢れる血を全身に浴びて。
白い肌も、綺麗な緑色の髪も、赤黒く乾きかけた血に染まって。
泣きながら薄く笑っている顔が、とても愛しく思えた。

(ねぇ・・・・)

声が出ない。
頭だけでは無理も無いだろうか。
自らの血が作る水溜りの中、傾いだ視界。
見える路地裏は、飛び散った赤の所為で同じ場所なのに違う――まるで異界。
不自然に曲がった足に長さの足りない腕。足が一本足りないのは視界から外れている所為だろうか。
元が何だったのか判らないくらいずたずたな胴。はみ出た臓器が傍らに蟠っていた。
細かく見るまでも無い。それは言葉より明らかな光景。

即ち、死。

バラバラのそれらは、わたしの終わりを示している筈だった。
が、わたしの意識は消えていない。
この夢はまだ――――

目覚めたあの子が視線を漂わせ、わたしを捕らえる。目が合う。
茫としていた瞳が、魅入られた様にわたしを見つめていた。
顔は、傷付いていないのだろうか。少なくとも誰か判る程度には。

それは良い。どうでも良い。
下らない、些細な事実だ。まだ何も終わっていないという事実の前には。
「おいでなさい」と、唇だけを動かした。



そう。
まだ夢は、終わらない。

107 名前:エミリオ・ミハイロフ@14歳 ◆EMILIozylo:2003/05/21(水) 23:21

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』
>>106
 
 声が聞こえた。そんな気がした。
 辺りに人の気配はない。
 ここは、僕以外の人が来ない場所。僕以外の誰も、知らない場所。だから、誰かの声がするはずはない。
 
 違った。一人だけいた。僕以外にここに来て、僕以外にここを知っている人がいる。
 それでも。彼女はここにはいない。だって、人の気配が無いんだから。
 
 それでも――背中の方から、声が聞こえたような気がした。
 振り返る。水溜りの中に、何かの塊が、幾つも散らばっている。目を凝らして、確かめる。
「――――!」
 散らばっていたのは、人の手首。人の腕。人の足。人の身体。
 辛うじて原型を留めているのもあれば、肉片としか言いようのないものもある。
 
 人の気配がないのは当然だ。だって、ここには誰もいなかったんだから。
 人だった『モノ』があるだけだったんだから。
 
 そんな、千切れた肉片や引き裂かれた肉片や砕けた肉片や潰れた肉片がぶちまけられた中に、不思議なくらい無傷な首が転がっていた。

「え……あ……え……?」
 その顔は、生きている時よりも透明で、
                    色鮮やかで、
                     儚げで、
                    とても綺麗だった。
 
 彼女が、うっすらと目を開けた。
 柔らかくて、冷たくて、鋭くて、温かい笑顔。
 
『おいでなさい』
 そんな笑顔で、僕に告げた。
 
 僕は、彼女と同じ笑顔を浮かべ――たつもりで――、自分の足に、右手を――貫手を突き刺した。
 
 
 ちょっと時間はかかるかもしれないけど……待ってて。
 僕もすぐに……貴女と、同じに、なるから。
 
 
 
 
 ふと、彼女が僕を抱きしめてくれたような――そんな感じがした。

108 名前:QhSuCcUBus:2003/05/21(水) 23:28

モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳
『Darkness night, Blue moon.』

レス番纏め

>77 >78 >79 >81 >82 >83 >84 >85 >86 >87 >88 >89 >91 >92 >93
>94 >95 >96 >97 >98 >99 >100 >101 >102 >103 >104 >106 >107


何かあれば、以下のどちらかへ。
http://plan-a.fargaia.com/html/vampbattle/res.cgi/1033894737/
http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi/ikkoku/1035898557





・・・わたしも、夢を見る事はあるの。

109 名前:クイナ&シギ ◆4OSerVANTs:2003/05/22(木) 23:11

クイナ「ここね、あたし達以外にも吸血鬼の集団がいるって言う場所は。
    真田の言うことだから、あてにならないと思ってたけど」
 
シギ「クイナったら、またそんな格好で……あら? もしかして、ここが吸血大殲?
   ……すみません、みっともない所をお見せして。こちらがテンプレになります」
 
出典 : 吸血鬼のおしごと(電撃文庫)
名前 : クイナ
年齢 : 外見年齢十七歳、実年齢数十〜百歳
性別 : 女
職業 : 吸血鬼から人間に戻る研究をする『組織』の一員
趣味 : 昔、三味線をやってたけどやめちゃった。時間があると、後回しでもいいような気がしてね。
恋人の有無 : いないし、作るつもりもない。
好きな異性のタイプ : いないけど、姉さんの相手になる男は、多分誰だって大嫌いだと思う。
好きな食べ物 : 血液。味に男女は関係ないけど、脂ぎった男だけは絶対いやよ。
最近気になること : あたし達のような人が、知らないところできっと増えてるんじゃないか、ってさ。
一番苦手なもの : 姉さんに辛そうな顔をされるのが一番苦手……かな。
得意な技 : ターゲットを視界の中心に入れて、真っ直ぐに突き通す。
        ……もう何十年も、何百万回とイメージトレーニングして来た技。だから、決して、外さない。
一番の決めゼリフ : 「もう、大丈夫よ、姉さん。大丈夫。あいつは、あたしが殺してあげたから」
将来の夢 : 人間に戻って姉さんと二人で幸せに……大丈夫、姉さんはあたしが守ってあげる。
 
 
出典 : 吸血鬼のおしごと(電撃文庫)
名前 : シギ
年齢 : 外見年齢二十歳前後、実年齢数十〜百歳
性別 : 女
職業 : 吸血鬼から人間に戻る研究をする『組織』の一員
趣味 : 妹、クイナの世話をする事、になるんでしょうね。
恋人の有無 : 今は、居ません。それ以上は、聞かないで頂けませんか?
好きな異性のタイプ : ……何時までも共に歩んでいけるような、優しい方です。
好きな食べ物 : ……酸っぱい物や、辛い物でなければ大抵の食べ物は。
最近気になること : 不安になるんです。『組織』の、私達のやっている事は、本当に正しいのか……。
一番苦手なもの : 昔を思い返すのは、余り好きではありません。
得意な技 : 髪を梳いたり、服を整えたりです。もうすっかり慣れてしまいましたから。
一番の決めゼリフ : 「私が悪いんです。私が、私がもっとしっかりしていれば、
              ―――あの子もこんなに苦しむことはなかったのに、それなのに―――」
将来の夢 : 妹と静かに暮らしていけるなら、それだけで構いません。
        でも、もし叶うのなら、もう一度『あの人』と……。
 
シギ「シギ、と申します――よろしくお願いします。……ほら、クイナも」
 
クイナ「ちょっと、やだ、頭抑えないでってば!
    ……『元からの吸血鬼』を、あたしは絶対許さない。殺してやる。化け物どもめ」
 
シギ「……それでは、カテゴリはBでお願いします」

110 名前:ザベル・ザロック(M):2003/05/23(金) 00:56

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
Prologue

 東京都新宿駅南口下広場――
 昼間は会社員や学生でごったがえし、明日のミュージシャンを目指す若人が路上ライブでギターをかき鳴らす。所謂、初めの聖地。
 しかし深夜。終電も終わってしまえば、人影も無く閑散とした広場だけが佇み、昼間の喧騒を遠い異国の夢の彼方へと追いやっている。
 眠らぬ街。魑魅魍魎の闇を、人の光が駆逐した街。
 そんな東京に唯一の闇の時間が訪れた。

――その時だった!
     ,,il,,,,,,,_                                        
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111 名前:ウピエル(M):2003/05/23(金) 00:56

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
Prologue

 突然、耳を劈く快音!
 硬質なヴィブラートはチョーキング!
 弾けるスタッカートはフィンガリング!

Rock!
 それは静寂を吹き飛ばす!
Rock!
 夜の闇ごと吹き飛ばす!

Rock! Rock! Rock! Rock! Rock! Rock! Rock! Rock! 

 JIMI HENDRIX も DUANE ALLMAN も、その高みを目指した!

 魂を根底から揺さぶるビート。

               それが R O C K !

112 名前:ウピエル(M):2003/05/23(金) 00:58

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>110>111

「なんだぁ!?」
 思わず辺りを見回すオレ。
 ここは確かに“音楽家”を目指す連中が集まる所だ。
 集まる所だが、今はそんな時間じゃない。
 どこの莫迦が場違いなソロを演じてやがるんだか――
 オレはその音源を探し歩いた。

113 名前:ザベル・ザロック(M):2003/05/23(金) 01:00

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>112

 かき鳴らす音!
 W.C(ダブルチョーキング)とQ.C(クォーターチョーキング)の複合技!
 その名も『ザロック・チョーキング』!
 俺様のオリジナル・テクを存分に使ったFangorraを弾きチギル。

 と、そこに観客が現われた。
 ひゃはははははは! こりゃ笑いがとまらん!
 ソイツは長身痩躯で長髪金髪。あまつさえギターなんぞ抱えてやがる!
 ロッカーだ!ロッカーに違い無ェ!!

 ――GYYYN!
 ブラッシング・トーンミュートで曲を絞め、俺様はソイツに問いかけた。
「オイ、そこのロッカー・・・ 演奏(や)らないか?」

114 名前:ウピエル(M):2003/05/23(金) 01:01

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>113

 絶句した。
 呆れ果てた。
 そこに居たのは青黒い肌をした痩せすぎの男。ゾンビだ。
 ゾンビがギターをかき鳴らしてる。
 こりゃ悪い冗談か?
 オレは思わず頭を抱えて蹲っちまった―― だが。

「オイ、そこのロッカー・・・ 演奏(や)らないか?」

 何ィ?
 殺らないかだとぉ?
 このオレを、ジグムンド・ウピエルを舐めやがって!

「泣き叫ぶ死霊」SCREAMING−BANSHIEE!

 バースト射撃で発射された3発の銃声がオレの音楽!
 奴のハートに突き刺され!!

115 名前:ザベル・ザロック(M):2003/05/23(金) 01:02

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>114

 腐った血溜まりの心臓と、おまけに周囲の肉引き連れて、奴の弾が背中から遥か彼方へ飛んでいく。
 痛てぇ! ムチャクチャ痛てぇ!

「痛い!ああ、痛いと遺体がわめくってカ?」
 効いてないワケじゃねぇ。確かにダメージもある。何にしろ痛い!
 それでも俺様はゆっくりと奴にむかって歩く。
 さらに三発、三発と合計九発も弾丸のプレゼントを貰いながら着実に近付いて、俺は言ってやったね。
「 聞 か ね ぇ ん だ よ 、 ボ ケ が ! ! 」
 ああ、効いてる。だが聞かねぇ。
 聞いてられねぇ。
 だってよ、奴の音楽と来たら――

「手前ェの音楽にゃハートがねぇ! そんな冷め切った音じゃ“本物のロック”にゃ届かねぇ!!」
「熱い魂のビート!! それを込めた全ての行動!! 血の滾り!!」
 言うや否やギターで殴りつけ。何度も何度も殴りつけ。言い放ってやった!
 そう――

「それが R O C K !」

116 名前:ウピエル(M):2003/05/23(金) 01:04

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>115

 ヤツのギターが。
 そのギターに憑いた顎が。
 オレの身体を打ちのめす――

 だが、そんな物は問題にはならねェ!

 何よりもオレを打ち据えたのはヤツの台詞だ。
 吸血鬼となったオレが味わった挫折を的確に捉えた批判。
 人の生を終えて吸血鬼となった時、作曲家としてのオレも死んだ・・・
 削れ磨り減っていく命の欠片が芸術なら、それも当然の事だ。
 永遠不滅の吸血鬼の命では何も創り出せない―― なのに!!
 ヤツはどうだ!?
 ヤツはそれがRockと言い切った! 自分の音が本物のRockだと!! 熱い魂の滾りだと!!

 スクリーミングバンシーをトリッキーに振りまわし、パフォーマンス・ギタープレイ!
 そこに乗せる音と感情は憤怒!
 そして嫉妬!
 ヤツの音が贋作だと決め付けるのは容易い。
 だが、ヤツのプレイに惹かれて弾かれやって来たのは事実。
 作曲が出来なくなったオレの怒りと、死して尚Rockを奏でるヤツへの嫉妬を乗せてグリッサンド!
 叫べスクリーミングバンシー!!
 Rockと銃声の混声合唱を!!

117 名前:ザベル・ザロック(M):2003/05/23(金) 01:05

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>116

 奴の音が変わった!
 憤怒! 嫉妬! 憤怒! 嫉妬! 憤怒! 嫉妬! 憤怒! 嫉妬! 憤怒!
 Is Rock and Rock and Rock and Rock and Rock!!

「そうだ、それで良い!!」
 狂ったようなギグを続けるロッカーの首根っこを引っ掴み、キス出来るほど顔を寄せて囁く。
 咥えたタバコの火の熱さより熱いロックの囁き!
「吸血鬼のハートが凍り付いてるなんて誰が決めた!?」
「なあ、ウピエル。 怒りも嫉妬も心の叫び・・・つまり R o c k ! 違うか?」
「諦めるなんてロックの辞書にゃ書かれてねぇ・・・ つまり手前ェは――」

 奴がハっと表情をこわばらせ、俺様は対照的にニヤリと嗤う。
 奴が伝説のロッカー、ジグムンド・ウピエルなら俺様はロックの帝王、ザベル・ザロック!
 銃声と音が奴のギグなら、俺様は全て受け止めてやる! 
 なぜなら、

         それが R o c k ! !

「もっとだ! まだまだ足りねぇぞ!! シャウト!シャウト!シャウト!ピッキング&シャウト!!」

118 名前:ウピエル(M):2003/05/23(金) 01:07

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>117

「吸血鬼のハートが凍り付いてるなんて誰が決めた!?」
「なあ、ウピエル。 怒りも嫉妬も心の叫び・・・つまり R o c k ! 違うか?」
「諦めるなんてロックの辞書にゃ書かれてねぇ・・・ つまり手前ェは――」

 ヤラレタ――
 確かにそれが、それこそがRock。
 なら、オレは今まで一体…
 出来ないと諦める事で、自分からRockを棄てちまってたってのか!?
 ちくしょう…
 ちくしょう…
 ちくしょう…
 ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!

 オレは弾いた!
 無駄にした40年を取り戻す勢いで弾いた!
 Machine Head !
 ギタリストなら誰でも一度は聞いたDeep Purpleの古典ハードロック。
 それにオレならではのアレンジを加え弾く。

――そして、ギターソロ

119 名前:ザベル・ザロック(M):2003/05/23(金) 01:08

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>118

 フランク・ザッパはこう言った。
――僕にとってギター・ソロとは即興という名の作曲行為なんだ――

 奴がソロに入る。
 
 オーソドックスにヴォリューム(∠)から入ってハマリング・オンとプリング・オフを素早く繰り返し、音を継続させるトリル(tr)。良い作曲だ。
 だが、まだ足りねぇ・・・
 奴は自分がギタリストだと思ってやがる。だから、そのソロもギタリストのそれだ。
 莫迦が。
 手前ェはロッカーだ! そして吸血鬼だ! ただのギタリストなら世界に五万と居らぁ!!
 良く聞けロッカー!! これがフリークスのロック・フリークスって奴だ!

 行き成りのライト・ハンド!
 そしてNaturalVoiceでFeed Back!

GYYYYYYYYAqHRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAwho!

 文字通りギターが叫ぶ! 叫ぶ! 叫ぶ!
 俺様も全力で叫ぶ! 叫ぶ! 叫ぶ!
 叫んで叫んで叫んだギターの牙に、俺様自身の指を喰わせて叫ばせる!
 剥き出しになった指の骨。
 白い白いピックのような尖った骨。
 これが俺様のフリークス・チョーキング。
 五本の骨とあばら骨を使ったハーモナイズド・ユニゾン・チョーキング!

 奴のMachine Head に併せて合わせるギタープレイ。
 乗っ取るでもなく、サポートするでもない、ただの双奏。

120 名前:ウピエル(M):2003/05/23(金) 01:10

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>119

 ヤツのギターが叫ぶ!
 ヤツのRockがオレのハートをビート!
 さらにテンションを上げてプレイ!
 ピックを投げ捨て、指で直にグリッサンド&ピッキング!
 そして一気にガトリング!

 ただ我武者羅にかき鳴らし続けるギターソロならぬギターデュオ。
 そしてヤツの音が弾けた…
 五本の骨とあばら骨を使ったハーモナイズド・ユニゾン・チョーキングだと!?
 バカな、人間技じゃない!

――そうか、俺達は人間じゃなかった。
 オレは吸血鬼。
 なら吸血鬼にしか出来ない吸血鬼のギタープレイってものがあるはずだ!

 考えろ! 想像しろ! そして創造しろ!!

 ダブル・クロマチック・ラン!
 ハイ・ポジションからロー・ポジションへ左手を高速スライドさせながらトレモロ・ピッキング。
 そしてロー・ポジションからハイ・ポジションへ左手を超高速スライドさせながらトレモロ・ピッキング。
 当然の如く指が裂け、血が噴出す。
 だが、構うものか!
 吸血鬼の再生能力なら、こんな傷は傷の内に入らない。
 それどころか爪をピック代わりに使ったピック・スクラッチ&トレモロ。
 指先から爪から噴出す血が、弦に触れて霧散する。
 血煙のギターパフォーマンス!

121 名前:ザベル・ザロック(M):2003/05/23(金) 01:13

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>120

 奴とは違う音。
 奴とは違う演奏。
 だが同じRock!
 奴のハートを俺様のRockがビート!
 高まった奴のRockが俺様のハートをさらにビート!
 ビート&ビート&ビート&ビート&ビート&ビート&ビート&ビート!!
 俺様たちは奏でる!
 永遠に続く連鎖の双奏即興曲!!

122 名前:ウピエル(M):2003/05/23(金) 01:13

永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>120

 ヤツとは違う音。
 ヤツとは違う演奏。
 だが同じRock!
 ヤツのハートをオレのRockがビート!
 高まったヤツのRockがオレのハートをさらにビート!
 ビート&ビート&ビート&ビート&ビート&ビート&ビート&ビート!!
 オレたちは奏でる!
 永遠に続く連鎖の双奏即興曲!!

123 名前:ザベル・ザロック(M):2003/05/23(金) 01:15

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>122 Epilogue

 そろそろと東の空が白んでくる頃、俺たちのギグは終わった。
 どちらともなく歩み寄り、無言のまますれ違う。
 すれ違い様、高く掲げた手をパンッと打ち合わせ、振り向かず何も言わず離れてゆく。
 当然だ。
 Rockerに言葉は要らない。
 言葉より濃厚なハートをぶつけ合ったのだから・・・

 終わってみれば、何があったのか。何が残ったのか。それすら分からないあっけなさで音は消えた。
 だが、消えたのは音だけだ。
 何の痕跡も残らないギグだったが、気づく奴は居る。
 ここでロックに魂を捧げ、路上ライブを行う若人たちが感じ取る筈だ。
 
なぜなら――

          それが R O C K !

124 名前:ザベル・ザロック(M):2003/05/23(金) 01:21

『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)

レス番纏め

>110>111>112>113>114>115>116>117>118>119>120>121>122>123

短いか?
だがRockは感じたろ?

ああ、ファンレターはここに送ってくれ。
http://plan-a.fargaia.com/html/vampbattle/res.cgi/1033894737/
http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi/ikkoku/1035898557

125 名前:浅倉威 ◆VQma5tOUJA:2003/05/23(金) 02:57

ハァン―――――これがロックってヤツか……。
イライラがすっかり消えた―――――。

126 名前:浅倉威 ◆VQma5tOUJA:2003/05/23(金) 03:08

最高に笑わせてくれたなァ―――――ま、礼を言うぜ……。
クッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!

127 名前:メリッサ(M):2003/05/23(金) 05:04

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>75

「――――いたし方あるまい」

最初は誤解であった。
そして、殺しあった。
立ち止まる理由は、残っていない。

足元に打ち捨てられた自分の腕を拾い、接合させる。
突き立てられた大剣―――騎士パーシバルの形見でもある―――を引き抜き、大上段に構える。
女が人か魔か、結局判別することは適わなかったが、常ならざる存在には違いあるまい。
ならば、この剣も役に立とう。不死者すら殺し得る、この魔剣も。

剣はまさに切り札と呼ぶに相応しい力を持っている。
にも拘らず、私がこの剣を用いようとしなかった理由は二つ。

一つ、剣の魔力が人ならざる身である私にも効果を発揮する為。
まかり間違ってその刃に触れでもした場合、良くて再起不能、悪ければその肉体を崩壊させられる。
また、刃がむき出しになっている状態だと、感覚を大きく狂わせられるのだ。
文字通りの諸刃の剣。本来は従者が扱うものである故、当然と言えばそうなのだが。

もう一つは、私自身が剣の扱いに習熟していない事。
一応基本は理解しているつもりではあるが、やはり熟練者を相手取るには不安が残る。
だから抜かなかった。

だが。

他に手段がない。光術も爪もあれを退かせるまでに足りなかった。
何より、此処を切り抜けねば仇は討てぬ。

「――――――名を、訊いておこうか?」

これで最後になる。そう予感が告げる。
今聞くべきことではないかも知れぬ。だが、訊いた。

自分と同じ瞳を持つ、この女の名を。

128 名前:fFCROSSQsM:2003/05/23(金) 23:47

 
 ――嘗て、天に戦在り。
 
 地は張り裂け、天は焼け落ち、大海は煮え立った。
 世界は焼灼する釜と化し、生命の悉くが死に絶えた。
 天を埋め尽くす数多の軍勢。一瞬千里を駈ける者達の剣戟は雷鳴の如く鳴り渡り、
火山の噴火すら聾する怒号は、正しく世界を埋め尽くした。
 
『おお、悪の元凶よ、悪の創始者よ、
 悪は汝が叛逆するまではこの天上では誰にも知られず、名称さえなかったのだ!
 ……騒擾を起こすなら、地獄で起こすがよい!
 そうだ、この懲罰の剣が断罪の裁きを下す前に、いや、
 何らかの復讐の手が突如として神から放たれ、
 更に激しい苦痛を与えて汝を真っ逆様に堕す前にだ!』
 
 神の子。万軍を率いる天国の申し子は、剣を抜き放ち、叫んだ。
 彼は言う。退け、と。
 苛烈な怒りは天を揺るがし、悪意の悉くは驚き震え、畏れた。
 されど。彼は言う。
 されど彼は言う。悪意の王たる憤怒と傲慢の化身は、言う。
 
『――この闘争をお前は悪だと言うが、我々は栄光の闘争と呼んでいる。
 勿論、勝算がある。
 いや、この天国をお前の言う地獄とやらに変えてやるつもりだ。
 仮令、支配権を握り得なくとも、とにかくここで自由に住むつもりだ。
 それまではお前も全力を尽くすがよい――
 全能者と称する者の援助を求めるのもよかろう。
 兎に角、私は逃げはしない、逃げる所か、
 今までも駈けずり回ってお前を探していた位だ』
 
 今は遠い戦い。
 神に背を向けた一人と、神に傅いた一人。
 光と闇は久遠の双子。
 背を向ける事幾度となく、向かい合う事幾度となく。
 切れぬ輪廻は、くるくると。
 昼と夜は巡り合う。
 終わらぬ邂逅は、久遠を巡る。
 
 
 
 
 ――故に。
 
 幾星霜の巡りの中で、
 その巡り合いは、
 必然だった。
 

129 名前:fFCROSSQsM:2003/05/23(金) 23:51

Duel of the fates -Apocalypse WarU-
 
 
 
 Never despair. But if you do, work on in despair.
(絶望するなかれ。仮令絶望したとしても、絶望の内に働き続けよ)
――Edmund Burke――
 
 
 

130 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/05/24(土) 02:03

 Duel of the fates -April showers bring May flowers- Kresnik vs Arucard
 
 死を想う。
 汝我が恋人、我が妻よ。今ぞ我をその元に引き寄せんや。汝が瞳は底亡き虚。祖が抱
く胸は冷たき氷。
 我は愛しき疎を想う。
 然り。
 
 今ぞ、時は巡る。
 
 
 
 
 ――月が、近い。
 
 闇天を見上げて、息を吐き出した。
 白い。多分、今日は寒いんだろう。蒼くて凍えるような月の元、凍結してしまったよ
うな世界は何処までも閉じている。
 息が詰まりそうな閉塞感が、逆に心地良い。
 走った距離は忘れた。どれだけ足を動かしても、走っても駆けても、それでも疲れは
生じた傍から何処かに失せていく。
 いつ薇を巻いたんだろう。今日の身体はバカらしいくらいに底を知らない。
 泡立つ皮膚。過剰分泌されたアドレナリンは、どうやら血液を全部炭酸水に変えてし
まったらしい。
 
 ――銀色の、月。
 
 薄く蒼い月明りが、地上の全てに影を落とす。
 硝煙だらけの路地裏――無機質なビルの影は、俺と言うちっぽけな影を完全に飲み込
んでしまっていた。
 ……引いては、転がる死体も同じだろう。影に蟠るクズの亡骸は、影に飲まれてただ
のシミとしか映らない。
 こうなってはもう終わり。誰も、気付かない。
 誰も――顧みない。
 
『ブロックアルファ、ポイントチャーリー制圧、クリア。こちらライトニング・ワン』
「……了解。掃討を引き受ける。こちらセンテンスト。
 全隊撤退されたし。全ての善き子等に、主の御加護が在らん事を」
 
 無線の向こう、声が詰まる。
 生真面目なカール。戸惑っているのは一発で解った。
 
『センテンスト、こちらワン。承諾しかねる。この作戦の重要性は――』
「ワン、こちらセンテンスト。
 ブロックチャーリー、ポイントデルタでマスターと思われる二体を排除。
 戦闘ライン撤退後、大司教を連れて離脱してほしい」
『オーケー、センテンスト。チョッパーを向かわせる。それに乗って、』
「作戦は変更されたよ。ライトニング・ワン。
 コレより"センテンスト"は、ライトニング大隊の指揮下を離れる」
 
 目前で影が躍る。臭い匂い――ああ、まだ。
 まだ――生きてたのか。
 殺し尽くしたつもりが、存外に甘かったらしい。
 戸惑いの顔。逃さない。踊り出てきた顔面へポイント。
 トリガーを引き絞る。振り出した両手、握り締めるグリップ。左右上下腕のカバーす
る空間の全範囲へ、マガジンの中身を全部振り撒いた。
 
『な……待て、こちらライトニング・ワン――……今の音は!?
 センテンスト!? 応答しろ、センテンスト!』
「感謝する、ライトニング・ワン。
 ブロックチャーリー、デルタ、ロメオに於いて十割殲滅、制圧完了。
 先に離脱してくれ。君に主の御加護が在らん事を」
『――デム、君は救えない馬鹿だな。クレイジーなんて言葉じゃ終わらない。
 ……撤退の準備は開始されてる。今なら間に合うんだ』
 だけど、俺は。
 笑って、言葉を遮った。
「何て言うか……さ。悪い、頑固なんだ、俺」
 

131 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/05/24(土) 02:08

>>130
 
 沈黙――3秒。
 声は、苦笑を含んで返って来た。
 
『……救えない頑固者に主の御加護が在らん事を。
 君に光が在らん事を。
 常に忠実な御主の僕、焔の剣と共に在れ。オーヴァー』
『ツー。主の加護が君と共に在らん事を……オーヴァー』
『スリー。……勝手に死ぬなよ、ガキ。オーヴァー』
「感謝する、ライトニング・ツー、スリー。オーヴァー」
 
 ――回線2番遮断――5番遮断――8番遮断。
 ――回線3番遮断――6番遮断――9番遮断。
 ――回線4番遮断――7番遮断――10――
 
 通信が片端から途絶えていく。会話が途絶えて、感情が閉じていく。
 意識が隔離されていく。押し込められて鍵が掛かっていく。
 幽かな音さえ失せ、世界には氷のような静寂。
 手を伸ばせば、闇。
 深く、何処までも静かに暗い夜。
 空には、紅いばかりの十六夜一つ。
 駆け足は速度を落として、いつしか歩みに変わって、何時の間にか足を留めた。
 首を空に向けて、ビルに凭れ掛かる。
 星の光は届かない。深い夜のカーテンに阻まれて、弱い星達の灯りは地に落ちる事
さえ赦されやしない。
 こんな寒い空に存在を許されるのは、きっと傲慢な支配者だけなのだろう。
 十六夜。
 冴え渡る月光。禍々しい銀の月は、けれど死んだ光を大地に投げ掛ける。
 矛盾した光は、苛立つ死に彩られて。
 
 ……ああ、これは。
 
 
 
 
 ――あの日と、同じ。
 
 

132 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/05/24(土) 02:22

>>131
 
 護られていた、昔。
 銃杷も握った事がなくて、見るもの全てが珍しくて怖くて、だけど新鮮に鮮明に何
もかもが輝いていたあの頃。
 兄弟が居た。父親が居た。憧れたヒトが居た。
 みんな優しくて、とびきり強くて、何処までも、儚かった。
 好きだった人が居た。
 親友が居た。
 年上で、口が悪くて、器用で、強くて、自分だけのヒーローで。
 そんな、親友だった。
 
 
 春先。
 咲いた桜は、花見の間も無く散ってしまった。
 窓の外には、さらさらと流れる雨。お前の所為だと罵って、溜息を吐く。
 仕方がないから、来年か。枕を抱き締めて、ベッドの上に身を投げる。
 不意に、頭にシーツが降って来た。払い除けてから、顔を上げた。
「花見位いつでも出来るだろ?」頭の上から、声。「何時までむくれてんだよ」
「……煩いな」
「ふふん、男だろ? スッパリ諦めろよ。みっともないぜ?」
 二段ベッドの下は俺。年上のコイツは、上を譲ってくれた事が無い。
 16歳で、俺よりも4つも年上で、未成年のクセに机の上にはウイスキーのボトル
が置きっ放し。だらしないって言っても訊きやしない。
 騎士団の中じゃ俺が一番年下で、次がコイツ。
 銃を握った姿が格好良くて、護ってくれる背中が大きくて、ずっとずっと憧れてい
た。ハリウッドスターみたいな団長よりも、最高のヒーローだった。
 
 俺もお前みたいになれるのかな。誰かを護る事って、できるのかな。――恥ずかし
いから、口に出した事は無かった。
 真っ暗な窓の外では、さらさらと雨が流れ続けている。耳にイヤホンを押し込んで、
再生ボタンに触れて――不意に。
 なあ、とベッドの上から声。
 なんだよ、煩いな。わざとらしく悪態を突いた。考えていた事を読まれたみたいで、
少しだけ恥ずかしかったから。
 お前はさ、と上から声。らしくない。少しだけ躊躇ってから、声は続く。
 妙な気分。イヤホンを耳から外して身を起こす。なあ、何が言いたいんだよ?
 途惑う声、一拍。
 人間止めるのって、厭だよな? ベッドから身を乗り出すと、顔だけ俺の目の前に
ブラ下げて、冗談めかした口調でアイツは言った。
 はあ、と嘆息。何馬鹿なコト言ってんだよ、お前は。そんな事ある筈――
 
「……厭だよな」
 ――顔はちょっとだけ真剣で。だから、俺も嘘は付けなくて。
 だから、もし。
 もし、そうなったなら、俺は。
「……なあ」「――あのさ」
 
「……俺が化物になったら」「人間止めたら――」 
「「――殺してくれる?」」
 
 ――そう言って。
 二人で顔を見合わせて、笑った。
 同じ事を考えたのが、なんだか凄く可笑しかったから。
 
「うるせーな」
 だけど。
「ホントだろ。バーカ。俺より歳食って、泣きゴト言ってんなよ」
 だから、そんなのは冗談だと、思い続けてた。
「あー、うっせーうっせー」
 ずっと一緒だと、信じ続けてた。
「けど、約束したぜ」
 叶わなかった。
 

133 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/05/24(土) 02:30

>>132
 
 ざあ。
 ざああ。
 ざ、ざざ、ざざざ。
 ざああああああああ。
 黙れ。
 黙れ、ノイズ。
 雨のクセに。
 ――雨のクセに、煩い。
 
 うそだ。
 こんなの、うそだ。
 嘘だ。
 昨日一緒にトランプした。
 来週、映画でも見に行こうって約束した。
 チケットは前売り、ヒマな奴等で行こうって、ちゃんと5枚買ってきた。
 机の引出しの一番上に束ねて入れて、無くさないようにちゃんとしまっておいた。
 約束した。
 約束。
 あの時も、
 約束。
 無音に近い筈の雨音なのに――なんで。土砂降りみたいに喧しい、雨。
 
 ざああああああああ。
 
 ――黙れ。
 
 マカオのスラム。震える手で渡されたガバメント。
 初めて握った拳銃は、吸い付くみたいに掌に納まった。
 抱き締められたまま、冷たい身体に抱き締められたまま、ぼろぼろと涙だけが零れて
止まらない。
 いやだ、と叫ぶ。ごめん、と繰り返してぼくを抱き締める、腕。力は強くて、冷えた
身体には脈が無くて、残酷な現実が頭の中をドロドロに掻き混ぜて、
 そうして――
 優しく、残酷に。ぼくの身体は、
 どん、と――身体は――突き離された。
 
「殺してくれ」
 言われた言葉。一つ。
 
「だから、さ。ゴメンな」
 意思とは無関係に腕は持ち上がり
 ――待った。
『はぁ? お前、こんな歌も知らねぇのかよ?』
 愛しい人を照準したサイトは
 ――止めてくれ。
「お前は俺の親友だ。最高で、最初で最後の」
 トリガーに触れた指が
 ――厭だ。
『な訳で、今日からヨロシクっ。おいおい、何だよ。そのシケたツラは』
 静かに微笑う彼の頭部を
 ――待った。止めろ。厭だ。いや……厭だ、厭だ厭だ厭だ止めてくれ!
「お前に逢えて、幸せだった」
 
『まあ、これからいつまでか――頼むぜ? "相棒"』
「さて、上手くやってくれよ? 頼んだぜ、"相棒"」
 淀みなく笑って、親指を立てる彼。
 グッドラック、そう呟いて、
 ぼくの指は、トリガーに触れて、
 

134 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/05/24(土) 02:34

>>133
 
「あ」
 
 バイバイ――と。
 彼は、笑って短く告げた。
 たん、と。
 銃声は、雨の夜に吸い込まれた。
 
 かみさま。
 
 
 何時までも一緒に。願いは叶わなかった。
 二人だけの約束。静かに叶えた。
 現実は残酷だった。助けは無かった。雨は冷たかった。風は冷たかった。世界は冷
たかった。身体は冷たかった。ぼくは冷たかった。
 冷たかった。
 凍えて、寒くて、
 ぼくは、
 
「ああ」
 
 はじめて握った銃で、ぼくははじめて人を殺しました。
 はじめて殺した人は、ぼくのいちばん大事な人でした。
 かみさま。かみさま。
 かみさま――
 
「――あ、ぁあぁあああああぁああああああぁ!」
 
 頬を洗っていたのが、泪なのか雨粒なのか判らなくて。
 体を覆っているのは、慈雨だなんて思えなくて。
 辛さで捩った身は、いつまでも捻れたままくずおれて。
 そのまま、ちっぽけなぼくのちっぽけな心は。
 ぱきん、と。壊れて消えた。
 
 
 その日、ぼくは死んだ。
 その日、俺は生まれた。 
 だから――俺が最初に考えたのは、復讐だった。
 

135 名前:アーカード ◆VAMPKPfGto:2003/05/24(土) 03:18

 Duel of the fates -贄ノ原- Kresnik vs Arucard
>134
 
 その街においての喧騒は、世界の全てだった。
 一人の困惑は二人分の動揺を生み、恐慌は伝染病のように広がっていく。混乱の世界の住人は米海兵
隊一個師団。舞台は、
「ブラヴォー中隊、何してる!? 大通り封鎖急げ!」「突入口が遮断されて………馬鹿な。なんなん
だ、あの連中は。吸血鬼をまるでゴミみたいに…」「ホワイトハウスから許可!? 国防と上層はなに
やってる!」「無茶苦茶だ、出鱈目過ぎるぞ、あの男………誰か止めろ、殺されるぞ!」「ベータ、ガ
ンマ、聞えてるのか! 糞っ垂れ、通信回せ! 生きてるのか!?」
 喧騒、焦燥……時折混じる、驚愕の声。
 局地戦が消滅した時代で、それは正に地獄だった。
「死神が、あの白い死神が連中を、畜生、悪夢だ。まるで悪夢だ、畜生! 化け物ばかりじゃないか、
なんでこんな、こんな、こんな! 俺達に何ができるっていうんだ、こんな、こんな場所でっ!」
 装甲車輌の影に蹲り、恐怖に身を竦めて、制圧用のライアットガンを愛娘のように抱き締めながら歯
を鳴らしていた海兵隊員は、
「良いかな?」
「―――え」
 突然掛けられた声に、唖然と振り返った。
 そこには。
「少々、道を尋ねたいのだが」
 血のように赤い男が。
「その死神の事も」
 彼は、頷く事しかできなかった。
 
 
 ―――――罪に穢れた街。
 
 一時は、世界で最も危険な場所との汚名を受けた地上のソドム、ニューヨーク・サウスブロンクス。
 人種の坩堝であり、ドラッグとセックスが反乱する退廃の壺であり、ラクガキと注射器が彩るモノク
ロームの街。秩序は失われて久しく、回復の兆しを見せ始めてからも、劇的な変化はないままだ。
 或いは、秩序が存在しないという事こそが此処の唯一の秩序なのかもしれない。
 絶対のカオス、改革に置き去りにされた混沌。
 では、それこそが、サウスブロンクスの秩序。訪れる事のない革命を望む廃都こそが、この街の真実
の姿だ。
 認識を少々改めなければならなくなったのは、つい二週間前。その日……サウスブロンクスは、一夜
で正真正銘の魔都と化した。
 住民全員の吸血鬼化。最悪の事態を引き起こした街は、問答無用で国から隔離される。
 海軍一大隊がたえず街の半径十kmを周回し、装甲車や、はてはMBT(主力戦車)まで駆り出して
の完全体勢。だが、大統領のその判断を誰が責められよう? 英断の元、アメリカは一つの街を切り捨
てる道を選んだのだ。
 尋常ならざる事態に警察は慌てふためき、だが、発案された特殊部隊の投入は二度で終了を迎えた。
 隊員全員がミイラ取りになってしまっては当然の方針だろう。世情の世界的な混乱も手伝って、制圧
を大規模に行う事は適わず、結果的に手を拱く羽目になった。
 計画は凍結されたかに見えた………だが。
 政府よりもはるかに早く対策を講じたのは遠く、イタリアとイギリス―――ヴァチカンとプロテスタ
ントの退魔組織であったのは、この事態に照らせば至極自然な成り行きと言えた。
 英国国境騎士団、ヴァチカン所有の騎士団による共同殲滅作戦。ヴァチカン側から提案された作戦概
容は、騎士団が保有する吸血鬼、アーカードの戦力提供だった。
 英国国境騎士団・ヘルシング。イギリスが保持する最強の対ヴァンパイア対抗勢力。
 その戦力の象徴と言い換えていい鬼札である彼がこの地の土を踏んだのは、遡ること一時間を前にす
る。
 街に足を踏み入れた瞬間、大波のように押し寄せてきたのは、銃声と悲鳴、怒声と罵言と絶望の声だ
った。
 漆黒の僧衣の集団、神の国から遣わされた聖なる軍勢は、悪魔の群を追い立て、追い詰め、その最後
の一兵までを駆逐する。知性のないグールが大半の集団では、訓練された彼等に対抗する術などありは
しない。アーカードは薄笑いを浮かべて、その光景を流し見た。
 入り口付近を抜けると、街の様相は一変する。
 街は、臭い立つほどの死で満たされていた。
 

136 名前:鈴鹿御前 ◆wzY4SUZUKA:2003/05/24(土) 20:07

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>127
 
「……私の名は鈴鹿。あなたと同じ、人にあらざる者」
 
 女の目を見る。
 そこに、邪気を見て取ることは出来なかった。
 
 もしかしたら、私は思い違いをしていたのかも知れない。
 この村を滅ぼしたのは、この女とは違う魔物なのかも知れない。
 
 ──────だが。
 もう退くことは出来なかった。
 殺し合う必要はないのかも知れない。剣を交えずして、理解し合う術はあるかも知れない。
 けれど。
 私自身が、彼女との太刀合いを望んでいた。先程までの憎しみとは全く異なる理由。
 彼女の強さを……そして、自分の強さを知りたい。確かめたい。
 たとえそれでどちらかの──或いは両方の命が失われようとも。
 
「私も聞いておきたい──あなたの名を。誇り高き異国の者よ」
 
 内より突き上げる感情が、足を前へと運ぶ。
 だらりと引っ提げていた刀が、すうっと持ち上がる──大上段、青眼の位置へと。
 
 私の瞳に映る女。
 女の瞳に映る私。
 姿形は異なれども、恐らくその内面は、鏡写しのように似通っていた。

137 名前:蟆霧 ◆slMAKIRIrI:2003/05/24(土) 23:44

>>76
蟆霧VSミズー・ビアンカ
 
 
 まっかにもえるライオンさんがでてきました。
 ライオンさんはボクのからだをぱくっとたべちゃいました。
 ボクはまっぷたつにされて、ごうごうもえながらおちていきました。
 以上、終了。一巻の終わり。
 
 下は海。
 殺人的に青い彼方へ狂々々々魔っ逆様。
 奈落まで直行。途中下車はご遠慮願いますってか。オレは飛行機乗ってたのに
なあ。
 
「なんつーか……ナンパした女がトンデモねえアバズレだったときってこんなか」
 
 駄目でした。大駄目でした。
 最悪にこっぴどい大失恋でした。
 もう恋なんてしないなんてーって、もう出来そうにもないワケですが。
 
「まあいいや。そこそこ楽しかったしな、ミズー・ビアンカ。
 それじゃオレは、このクソッタレなこの世から一足先に逝かせてもらうぜ。
 テキトーにこの地獄を楽しんだら、こっちに来いよ。歓迎するぜ。ひゃっひゃっ」
 
 遺言にしちゃあ色気もへったくれもねえってモンだが、まあいいや。
 マジでどうでもいい――――亡霊ライフもこれで終わりさ。
 
 オレは後ろのミズー・ビアンカを振り返ろうとして、オレの躰がそれまでと違う震
動に包まれ、弾かれたように縦に回転し、もちろんオレの墜ち方が異常なのだが、
そんなオレの思考、足の下の空に、遥かな高みに青く、
 海が、
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 なんて、な。ひゃっひゃっ。
 
 
 ぽちゃん。

138 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/05/25(日) 00:15

 Duel of the fates -Jaded love- Kresnik vs Arucard
 
>>135
 
「……ウゼぇ」
 
 悪態を吐いて、目を開ける。
 寒気が副の隙間から入り込む。寝る為に寄り掛かった椅子は硬かったけれど、疲弊
は抜けて体調は万全。寝心地の悪さは、とりあえずプラマイゼロって所。
 周囲の無機質なコンクリートは、一面にケチャップをブチ撒けたように紅い。
 硝煙の香が鼻先を掠めて、頭に染みそうな死臭が一面を覆っていて、
 つまり、ココは。
 はぁ、と溜息を吐いて、誰にでもなく笑った。
 
 ココは最終目的地。大規模吸血鬼化の中心地、全ての元凶になったパンドラのハコ。
 ……フタを開けてみればなんて事はない。
 事件の発端は、計画力もないただのマスターが一人だけ。ロス=スチュワート。イ
ンディアナのマスター=ヴァンパイア。協定を結んでいたNYのヴァンパイア――ディ
ーコン=フロストが滅んでからは、ロスで社交界荒らしをしていた頃の面影は見る影
もない。
 バーに入って、2秒で取り巻きは全部殺した。さて、どう出る? 反撃への警戒は、
杞憂所か拍子抜けに終わった。
 背を向けるスチュワート。逃げ出す背中を、苦笑して眺めた。アレじゃ、放ってお
いても包囲網の中で蜂の巣にされるのがオチだろう。
 やれやれと赤茶けた椅子に腰掛けて、目を閉じて――……到るのは、今。
 
 "作戦"の開始までは、若干の猶予。こんな状況で夢を見られるなんて、俺の頭はど
うかしてるらしい。
 まあ……けど。どうかしてるけど、ラッキーかもしれない。
 最後の夢はこの上ない思い出で、
 忘れていた筈の悪夢で、
 心に押し込んでいた昔で、
 
 ――だけど、逃げちゃいけない記憶だった。
 
 だから、最後の最後にこの夢が見られたのは、神様の心遣いなのかもしれない。
 目元を擦って、気付いて、笑った。
 
「……なんて皮肉だよ、全く」
 
 ……本当、皮肉だ。
 泪。十年以上も枯れていた筈なのに。枯れ果てていた筈なのに。なら――あの時ど
うしてもっと流れなかったんだ。
 けれど、それも……今じゃ、もう遅過ぎて。
 泣くのも悔やむのも、今はもう遅過ぎて。
 下らない、と吐き捨てた。後悔は捨てた。躊躇いは灼いた。今在るのは俺だけ。化
物殺しの器だけ。
 
 冷えた塀に背を預け、小さな窓から覗く十六夜を臨む。
 何の事はない。何時もの住処。俺の生きている場所。
 これから生きて、そして朽ちる場所。
 時計に目を落とす――AM1:30。
 
「――まあ、どうでも良いか」
 
 瞬きを三回。深呼吸して、んっ……と思い切り背を伸ばす。
 準備は完了。用意は整った。
 
「殺してやるよ、化物」
 
 サウスブロンクスの掃討作戦、コード"Matthew's sword"は終焉。現時点、現時刻、
俺の行動を持って、コード"Judah's silver coins"を発動。
 AM1:30、作戦開始。制限時間は3時間。
 殲滅対象は……作戦は、吸血鬼の殲滅。
 対象は、ヘルシング所属の吸血鬼。
 アーカード。
 

139 名前:アーカード ◆VAMPKPfGto:2003/05/25(日) 02:02

Duel of the fates -黒ノ園- Kresnik vs Arucard
>138
 
「ハン」
 街の半ばまで歩き、吐き捨てるようにアーカードは笑った。
「―――なんの手違いがあったかは知らんが」
『だから………っ! 現地はどうなっていると聞いている、アーカード! 答えろ!』
「がなり立てるな、耳が痛い。聞えなかったか? こう言ったのだ。"死に尽くしている≠ニな」
『な、何…?』
「果てていると言う事だ、我が主人。完全な鏖だ。くくくく、一種の芸術だぞ。これは」
 手違いがあったのでなければ説明がつかない。それ程の破壊であり、それ程の破滅であり、それほど
の狂気だった。
「ここまでやれるならば大したものだ。唾棄すべき異常者でも、これならば芸術作品に等しい」
『な―――アーカード! ど、どう………何がどうなっている!』
「十三課が動いたとは思えん。アンデルセンでもここまではやるまいよ。ふふ、これをやったのは正真
証明の化け物だ。狂人だよ。救えないほど狂って壊れている」
『………共同戦線はヴァチカン騎士団という話だ』
「それはない。ありえないな、インテグラ。狂い切っていると言った筈だ。これはもはや正気の沙汰で
はない。ゴッホもピカソもこれには届くまいよ」
 ともすれば、私よりも。囁きは、上司である彼女には届かなかった。
 反論の暇もなくアーカードは畳み掛ける。
「これを平然とやれるのは私くらいのものだ」
 道という道に夥しい量の血液がぶちまかれ、原型すら留めぬ死体が山と転がっている。搭と積みあげ
られた死体の山からは、濁りきって光を失った無数の瞳が、恨めしげに虚空を見上げていた。
 廃墟の街を覆い尽くす屍山血河。屍は人のものではない。それは明白ではあったが、それをしてあま
りにも凄惨な躯だ。まるで、人間として死ぬ事を許されていないかのように、それを許していないかの
ように。行った人間の憎悪が、骸にすら呪詛として刻まれているように。これではまるで呪いだ。人間
以外の全てを憎悪する、狂ってしまいそうなほど巨大な呪詛ではないか。
 気が付いた事が一つある。
 死体の特徴はいずれも同一、ただ一人の存在がこの大虐殺を引き起こしたのは、まず間違いないと言
っていいだろう。
 睨眼でそれらを眺め渡すと、アーカードは心底楽しそうに笑った。無邪気に子供のように。初めてみ
つけた公演を走り回る子供のように………実に楽しげに。
「報告を受けてから一時間だ。一時間の間にこの有様か。一個大隊でも放り込んだのか? ハン、芝居
にしては出来過ぎているぞ、インテグラ」
『チッ………』
 回線の奥で、彼の主人が苛立った声を漏らす。
 アーカードは唇を曲げて、主(あるじ)の言葉を待った。
『・…ヴァチカンに確認を取る。戦闘区域を離脱して待機しろ、アーカード』
「了解(ヤー)」
 想像通りの言葉に、笑み。
 通信機をコートのポケットに押し込むと、アーカードは歩み出す。

140 名前:アーカード ◆VAMPKPfGto:2003/05/25(日) 02:05

>139
 
「地獄。地獄、フン、正にアケロン(地獄)だ。人間も化け物も等しく死んでいく」
 歩く道は屍骸だった。庭園に敷き詰められた石畳の如く、元来の大地を覆い隠すように、肉と骨が敷
き詰められている。
 ネクロフィリアのアーティストは手を叩いて絶賛するだろう。ビルの壁にショーウィンドウ、錆び付
いた廃車に到るまで、腐汁と黒血のアートは塗り残しがない。
 唐突に、彼は足を留めた。
 唇を歪めたまま歩くアーカードの行く手、狭い路地から走ってくる人影が、一つ。長い牙を口の外に
はみ出させた必死の形相は、無様すぎてあまりにも滑稽だった。
「た、助け………助けて」
「誰に追われている?」
「お、お前、吸血鬼だな? た、助けてくれ! は、ハンターだ。真っ白い、真っ白い服の化け物がい
きなり……!」
 足を止めた男を見下ろして、アーカードは静かな口調で尋ねた。
「どこから来た?」
「む、向こうだ! 俺以外はもう………」
 ふむと頷き一つ、アーカードは男が―――吸血鬼が―――指差す方角に目をすがめる。
 そこには、荒み切ったバーが一件。
「お、お前の来た方角はどうなってるんだ! あっちは駄目だ、もう連中の足が回って………」
「そうか、では死ね」
 男の目の前には、唐突に出現した漆黒の銃身。
 頭部を丸ごと消滅させて、男……サウスブロンクス吸血鬼化事件の張本人、ロス・スチュワートは、
こうして至極あっさりと、無慈悲極まりない真の死を迎えた。骸は誰にも顧みられることなく、魂はた
だただ地獄に向かうのみだろう。そこに一切の救いはあるまい。
 そしてもちろん、アーカードにとってそんな事はどうでも良い事柄だった。
 任務は完了した。今直ぐ踵を返し、インテグラへと連絡を取り、空港に向かうべきだ。
 それは、なぜだ? 簡単だ。契約者であり主人である彼女の元へ戻るのは必然であり義務だからだ。
 ならば、私がここを立ち去ろうとしないのはなぜだ?
 その思案は意味をなさない。意思とは独立して動く足の向く先に、全ての答えはある。
 バーの正面で足を止める。アーカードは謳うように褒め称え、唄うように呼び掛けた。
 なぜなら、
「お前が、死神か」 
 白い死神が、そこに冷然と立っていたから。

141 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/05/25(日) 04:32

 Duel of the fates -Luxury of a Grave- Kresnik vs Arucard
 
>>140
 
 口元が歪んだ。
 探すまでもなく目的がそこに居たんだ。手間が省ければ嬉しいのは当然だろう?
 
「死神? ハ、なんだよ、ソイツは」
 
 カソックの袷を開けば、慣れたホルスターはそこ。握るグリップには仰々しい竜と、
斬り掛かる騎士のエングレーヴ。一ヶ月前に死んだガンスリンガー、黄の愛用してい
たマテバM2006。
 トリガーガードに指を通して、硬い感触を確かめる。
 
「……さて、ようこそ不死王。俺の領域へ。俺の世界へ」
 
 せせら笑って、一挙動で引き抜いた。
 装填済みの弾丸はヤケに重い。強化フレームとシリンダーは独自配合の炸薬を抑える
為のアイツの工夫で、薬莢にまで手を加えるのはアイツの拘り。
 化物を払い除け続けた、最後まで足掻き続けた、一人の戦士の拘り。
 俺を理解してくれた、理解者だった、アイツの生きて来た理。
 そうさ、解ってる。大好きだった。大好きだったから、俺の手で始末した。
 夜気を払うように目の前を薙げば、掌に吸い付くような感触。手首を少しだけ傾けて、
水平に銃身を構えて。コレはアイツ好みの構え方。
 形見で貰うには重過ぎた一丁は、静謐にヤツを睨み据える。
 
「そして永久にさようなら、アーカード。
 お前はココで終焉する。ココで果てる。
 我慢ならないから、お前の全てが。壊してしまいそうだから、お前に関わる全てを。
 ――だから。だから、だからだからだからだから!
 だからお前はココで死ぬ。だからお前は殺される。だからお前は終る。だから。
 なあ、だからっ! アーカード!
 消えてくれ、この世から――カケラも残さず消滅してくれ」
 
 紅い影。直立不動のそれにマズルを合わせた。
 ポイントしたまま、左手にグロックを抜く。黒塗りの銃身は月光を飲み込んで、握る
グリップはちきりと音を立てた。
 ヘルシング――対ヴァンパイア殲滅機関。プロテスタントが、イギリスが残した最後
の切札。ヴァンパイアにして人の従者。最強で最悪のヴァンパイア。
 ヤツに向けるのは、殺意。
 コレは協定違反で、教皇庁への謀叛で、救い様のない愚行。
 だけど。けれど、コレだけは譲れない。
 ずっと逢いたかった。
 やっと逢えた。
 今を逃してしまえば、もう二度と機会は巡らない。
 有限と無限。人とバケモノ。定められた命の中でコイツを葬り去る機会は、今を置い
て二度と巡り来ない。
 全ての迷いと還るべき道は、それで途切れた。
 決意の証明は、トリガーに掛けた指先だから。
 振り出した両手は、生きて来た中で最高レベルのポイント。
 
「だからお前は、此処で俺に殺されて死ね」
 
 頭部と胸部と両手両足。
 考えられるだけの正確さで、俺はトリガーを絞り込んだ。
 

142 名前:ミズー・ビアンカ ◆c0Ko8pMIZU:2003/05/26(月) 22:29

>>137
蟆霧VSミズー・ビアンカ
イン・ア・フライト (空戦領域)
 
獣精霊の牙に裂かれ、炎上しつつ落下する吸血鬼を横目に。
ミズーの意識と視界は、急速に減少していった。
 
この絶対死の状況を打破する唯一の策。
それは、精霊により無抵抗飛行路の牢獄を抜け出す事。
ただそれだけの事だった。
彼女の持つ獣精霊・ギーアは、常に彼女を守護するように行動する。
その関係に裏切りは在り得ないし、考える必要も無い。
このまま意識を失ったとしても、この忠実なる精霊は必ず
彼女の身体を陸地へと送り届ける事だろう。
 
思ううち、落下する身体が、唐突に停止した。
ギーアが首尾よく自身の背で彼女を受け止めたらしい。
最早感覚でしか、その事実を捉えることができなかったが。
 
(・・・まったく、なんて、茶番)
 
彼女しか触れる事を許されない、炎で出来た毛並みに身を委ねながら。
消え去りそうな意識で、漠然と、思う。
 
(本当に、いつまで続くの?)
 
その問いに答える者は、何も無い。そのはずだった。
だが、確かにその瞬間、ミズーは声を聞いた気がした。
あの格別に耳に障る、彼女の苛立ちの最たる要因となる、青年の声が。
 
(そうだね・・・たとえば)
 
聞きたくは無かった。いっそ早く、気を失いたかった。
だがそれでも、その声は続けた。
 
(きみが、他の全てを滅ぼすまで、かな?)
 
タイミングを計っていたかのように、その瞬間ミズーの意識は途切れた。

143 名前:c0Ko8pMIZU:2003/05/26(月) 23:31

>>142
エピローグ
 
一ヵ月後 東京 都内某所
 
 
郊外、夜のアパート街は、何時もと同じで、静かだった。
時計は日付が変わって間も無い時刻を指し示しており、
一般的な住人が既に安易な惰眠を貪っている事を証明している。
 
(都内の人間が、500人程人間じゃなくなってる事にも気付かずに、な)
 
朧げなばかりの街灯の光の下、歩みを進めながら、日向夕介は独りごちた。
それに関して、彼が住民に恨み言を言うつもりはなかった。彼らが知っていたら
知っていたで、東京は現状よりもずっと多くのパニックを引き起こしている
はずなのだから。ニュースで断片的な、それでいて核心を突かない
情報が流れる程度。それで充分だった。少なくとも彼ら自身の自衛にはなる。
 
そして住民の預かり知らぬ所で、彼はこの日も人間を辞した存在を
5人ほど纏めて灰の塊に変え、自宅で僅かながらの睡眠を得る所だった。
別に何処で寝たところで一時間と経たず悪夢で目が覚めるのだったが、
彼の住処にはそれそのものが爆弾とも言える存在が居座っている。
何があっても、彼には署内に宿泊せず帰宅しなければならない理由があった。
 
(今度やっていたら・・・本当にやるしかない)
 
ふと、金属で出来た右腕を軋ませている自分に気付く。
思ったよりも、筋肉に余計な力が掛かっていたらしい。
考えながらも、その力を緩めようとはせず、夕介は自分の部屋がある
アパートの階段を登りかけた。

144 名前:c0Ko8pMIZU:2003/05/27(火) 00:12

>>143
ふと、階段の手摺の向こう側の暗闇に、炎が見えた。
一瞬、自分の眼を信頼できず、焦りが生まれる。
 
(違う・・・炎のはずがない)
 
すぐに思い直し、夕介は発声した。自分でも驚愕する程静寂に響く声で。
 
「誰だ? そこにいるのは」
 
炎と見えた物は、人毛だった。
燃える様に紅い、髪を持った、女。
女が、そこに立っていた。
 
視認すると同時、女の全貌が徐々に闇から浮かび上がってくる。
女は、髪の色と同じマントを羽織っており、その下の格好は読み取れない。
およそ東京のこんな僻地に(中心街でも)似つかわしくない衣装ではあったが、
その事に夕介は不思議と違和感を感じる事がなかった。
それよりも彼にとっては、この女がここまでの圧倒的な存在感を持ちながら、
視認されるまで一切の気配を感じさせなかった、その一点が重要だった。
やがて、女がゆっくりと唇を開いた。
 
「日向、夕介。元青雲幣の殺し屋、でいい?」
 
瞬間。夕介の全身から殺意が膨れ上がった。
それを気付かずか気付かない振りをしてか、女はそのまま続ける。
 
「私はミズー・ビアンカ。・・・貴方の、後任よ」
 
この言葉で、夕介は漸く事情を理解した。
しかし警戒を解くことなく、女―――ミズーと名乗った―――に問う。
 
「・・・オレに、何の用だ? オレを始末にでも来たか?」
 
「貴方が持っている『マゴーラカ教団』の情報全て。余さず私に渡しなさい」
 
夕介が言い終わるか言い終わらないかの内に、ミズーは続けた。
その余りの不遜さに、苛立ちを覚える。
元より、そう簡単に見ず知らずの暗殺者に渡せる情報ではない。
胸中で膨れ上がる感情を隠そうとせず、夕介はミズーに向き合って言った。
 
「御免だ、と言ったら?」
 
それに対するミズーの返答は短かった。
 
  
「力づくででも聞くわ」
 
 
今夜はまだ悪夢を見るには早いらしい。日向夕介は、そう胸中で呟いて、
義手に仕込まれし刃を突き出した―――
 
 
Epilogue To Prologue………
                         Never End.

145 名前:蟆霧 ◆slMAKIRIrI:2003/05/27(火) 00:33

「いや」
 
 目覚めて最初の一言は、それだった。
 
「いや、いやいやいや」
 
 何故すっかり忘れていたのだろう。あんまりにもあの女と戯れあうのが楽しすぎ
て忘れていた。再生した腕を水面に突き出し、水をかいて海から飛び出る。
 
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
 おいおい、まだオレは夕介の野郎を殺してねえじゃねぇかよっ!」
 
 そうとも、愛しの愛しの夕介!
 奴を殺さなくっちゃ、まだまだ亡霊ライフは終われない、なあ、そうだろ?
 ちょうどよくあたりを泳いでいたイルカを捕まえると、その背中に思いっきり牙を
突き立てる。飢えを満たす役にゃたたんが、足がわりにはなる。
 夜刀の神となったイルカをしたがえ、オレ様海路を東へよーそろー。
 
「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ! いや、まったくだまったくだ!
 待ってろ、夕介にミズー・ビアンカ! お楽しみはこれからだぜぇ!」
 
 ロデオ気分に口笛吹きながら、オレは喝采をあげた。
 イルカの尾が叩く水面が、複雑な模様を描いて、今しがたの戦いをデカくつづっ
ていた。
 
 
 蟆霧vsミズー・ビアンカ
 イン・ア・フライト (空戦領域) レス番まとめ
 
 49章>978
 50章>408
 51章>382
 52章>366
 53章>429  が、これまでのまとめ

 >71>74>76>137>142>143>144

146 名前:ブラムス ◆vOzBAMUTHU:2003/05/27(火) 20:02

モリガン対ブラムス

王は、いつも其処に居る。

闇色の瘴気に包まれた古城。
淡い月明かりのみが照らす王室の玉座に。
現世の理を外れ闇に生きる不死者、その全ての頂に。

停滞か、静寂か。
王は動かず。場内に蠢く臣下の動きを気にも留めず
座して、待つ。
頭上に在る、巨大な水晶。
その中で眠る、戦乙女を守るかのように。

天窓から、空を仰ぐ。
空の闇、その中に煌く星々の中にあり、一際眩しく映えるは満天の月。
美しい夜。
夢幻の如く、素晴らしい夜。

「…故に、戯れに来たというわけか?」

腹の奥にまで響く、重く低い王の声。
見れば、夜に浮かぶのは星のみにあらず。
妖艶な―――正に人のものならぬ美しさの―――女が視線の先、天窓の淵に居た。

「夜の、女王よ」

不死王ブラムス―――そう名乗り、その名で知られている闇の王は言い放った。
深く、獣のような笑みを浮かべて。

147 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/27(火) 20:04

モリガン対ブラムス

>>146

暗い暗い。
深い深い。

そんな闇。そして、それよりも濃い。
漂う空気が暗い。感じる匂いも暗い。
城は、ただ一人の化け物がいるだけでそうなっている。
磁力にも似た力が城を包み、瘴気と、有象無象の化け物を捕らえて放さない。
日の光でさえも祓えない――魔の結界とでも言えば良いか。

「ただそうしているのも退屈でしょう?」

ふと、空を見上げた。
黒いキャンパスに輝く数え切れないほどの星。
冷たく冴え渡る、一際大きな真円の月。
どちらも綺麗で、気持ちの良い夜だ。

「少しは外に出たら? 今夜は特に良い夜よ」

その上、目の前には格好のパートナーが居る。
何も言う事は無い。
そう、

「まあ、他にも当てが無い事も無いのだけれど……
 貴方の言う通り戯れだからね。大層な理由も要らないでしょう?」

そう、

――――後は、愉しむだけ。

開け放たれた戸を潜り、玉座の前へ進み出る。
偉大な王に謁見する者の持つ畏怖の欠片も無く。

「そういう訳で、お相手して頂けるかしら?」

獰猛な嗤いに何時もと変わらない微笑を、挑発するような妖笑を返した。

148 名前:ブラムス ◆vOzBAMUTHU:2003/05/27(火) 21:16

>>147
モリガン対ブラムス
 
「一向に構わぬが、マキシモフが腹を立てるやもしれぬぞ?」
 
その笑みに、軽い皮肉の意を込めて。王は艶やかな来客に応える。
夜の女王、モリガン。
魔界の三大勢力が一つ、アーンスランド家の若き当主。
しかしてその性分、気まぐれ極まりなく。
成る程、全ては只の戯れ。それ以上でもそれ以下でも無い。
 
ゆっくりと、不死なる王は玉座より立つ。
古風で動き易い衣を纏ったその体躯は雄雄しく、逞しく。
須らく無駄を削ぎ落とされた、岩を思わせるその威容。
 
「…確かに。そのようなものに大層な理由はいらぬな」
 
褐色の貌に浮かべた、その獰猛な笑みが苦笑のそれへと綻ぶ。
一秒の静寂。刹那
 
 
轟。
 
 
吹き荒れる一陣の風。
それは一足で駆け抜け飛び掛る、理を超える王の御業。
正に人外の膂力持ち、神々をも屠る王の力。
狙うは正中、場所は胴。
型は正拳。腰溜めの体勢から、吸い込まれるように右腕を正面へと突き出す。
唸るように、叫ぶように。
風より疾く。どこまでも疾く。
大気を切り裂き、開戦の銅鑼とばかりに拳が吼える。
 
全ては玉座の像が影残す、秒にも満たぬ速さでのこと。

149 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/27(火) 22:13

モリガン対ブラムス

>>148

――――デミトリ・マキシモフ。

その名前は、苦笑しか呼ばない。
何度も何度も、脳裏に焼き付くほどに見た。見飽きた。
変化の無い相手とただ同じ様に戦っているだけでは、もう満たしきれない。

「……良いのよ。あんな男、貴方に比べたら青二才も良い所じゃない。
 わたしが欲しいのなら、もっと良い男になってもらわないとね」

デミトリが弱い訳では無い。だが、同じ憎悪はもう食傷気味だった。
迫る絶望に苦悩する様なら幾ら見ていても飽きはしないのだけれど。

「遊びましょう? 命を掛けて、ね」

重い岩が、音も立てず動いた。
笑みに含まれた薄い寂寥が、また解けて消える。

――貴方も……

長く生きれば、辿り付く所はそう変わらないのだろうか。
それとも、わたしより深い虚ろを抱えているのだろうか。



空気が変わった。
来る。
文字通り一足で自分の間合いを取って、空気を押し潰し空間を軋ませて迫る拳。
速い――が、もちろん付いて行けない訳が無い。これはほんの始まりに過ぎないのだから。

右腕の外に身体を逃がし、肘を押して拳を流す。至近での轟音が遠く聞こえる。
ちりちりと、空気の焼ける幻臭を嗅ぐ。
押す動きは殺さず、更に加速。左足が浮き、弧を描く。
後回し蹴り。触れれば切れるような軌跡を刻みながら、足刀が後頭部目掛けて走った。

150 名前:ブラムス ◆vOzBAMUTHU:2003/05/27(火) 23:08

モリガン対ブラムス『王と女王、其の戯れに過ぎず』
>>149
 
「これは…中々に面白い」
 
後の先。
紙一重で拳を捌き、その勢いのまま蹴りを放つ。
その相手の意外にも巧みな戦い方に、王は思わず感嘆の声を上げる。
兇刃にも等しき蹴り足を、戻して曲げた右腕で防ぎながら。
 
腕の奥から見えるその双眸は爛々と紅く、しかし深き闇を抱え。
不死王の生ならぬ生。
その在り様は孤高であり、何処までも虚ろで。
夢見るのは、まだ見ぬ好敵手の到来であり、決着。
相対する女王もまた、同じなのだろうか。
 
「さて―――」
 
腕を下げ、相手が蹴り足を戻すより早く掴み上げ。
投げる。
放るように、力に任せ。正しく宙へ投げ捨てるように。
同時に跳躍。
瞬く間に目前へ迫り、一言。
 
「地上(あそこ)では、些か狭かろう?」
 
その笑みと、言葉と共に陣風三つ。
前蹴り。    突き貫く槍のように。
左回し蹴り。     刺さり、引っ掛ける鎌のように。
そして踵落とし。     全てを断ち割る戦斧のように。
 
三種の蹴りを一挙動。
神域の速さにて先の打よりも加速して、ハルバードの如く自在な連撃。
空を裂く切れ味すらも身に着けて、他愛も無い必殺の打が奔る。

151 名前:fFCROSSQsM:2003/05/27(火) 23:17

>>141
 
 政府の最終決定は、街の完全浄化――燃料気化爆弾及び、大量のナパームを用いて
の完全焼却。政府は苦渋の決断を強いられた? 体の良い厄介払いだと、ジャック=
クロウは内心で嗤笑した。
 与えられた任務は街に取り残された要人の救出、及び被害地域拡小の為の吸血鬼の
殲滅――要人? は、こんな所に要人が残っているとでも思っているのか。
 だとしたら、ついさっき曲り角で頭欠にしたアレがそうだったのかもしれない。だ
ったら知ったコトか。成すべき事は完全殲滅、そうだろう?
 死に尽きろ、クソ共。殺しの時間だ。
 
 一糸乱れぬ統制を持って、漆黒のカソックを纏った集団が廃墟の街を疾走する。常
人離れした速度を殺す事なく、鍛え抜かれた騎士団の精鋭は殺戮の刃を振るっていく。
 ヴァチカンの所有する秘匿戦力が一つ、教皇直轄のマルタ騎士団。
 儀式法術と秘蹟の数々をその力に、主の御旨を意思に、一切合切の標的を撃ち滅ぼ
し、叩き潰し、滅殺し、剿滅し、灰塵に帰する完全殲滅部隊。
 その行動目的は標的の抹殺であり、その意味は標的の殲滅である。動く時在らば即
ち、完全な死地の具現でしかない。
 辻を隙間すら残さずに埋め尽くす黒衣の一団は、一匹の生物の如く――さながら巨
大な大鴉となって、街道を朱に染めながら走り抜ける。その翼に振れる者の末路は、
例外なく破滅だ。ある者はビルの屋上から屋上へ飛び移り、ある者は壁を蹴り付けて
突き進み、その統制が乱れる事は有り得ない。
 
 現実世界の存在とは思えない精鋭達を遠目に眺め、ジャックは不意にビルから突き
出したヴァンパイアの顔面をガバメントで吹き飛ばした。路地に隠れていた一匹を更
に射殺。
 耳元のノイズ。通信の前兆に、咽喉マイクのスイッチを入れて歩調を整える。走る
のは止めない。止めた時は死ぬ時だ。肺が潰れるまで走る覚悟は出来ている。
 
『……ホーリーランス・アルファより全隊へ。
 "センテンスト"はポイントAからZをクリア。
 総員ラインFまで撤退せよ。
 時は来たれり。"ユダは杯を握った"。繰り返す。"ユダは杯を握った"」
「了解だ」
 
 イヤホンから流れる声に合わせて、ガバメントの銃杷にマガジンを叩き込む。
 冷静にリロード。もしココに居るのがアイツなら――前線で戦い続けている"セン
テンスト"なら、1秒も掛からない内に曲芸めいた再装填をしている所だろう。
 
「……了解、ホーリー・ランス・アルファ。
 こちら、イグニス・ソード・ブラヴォー。"ユダは杯を握った"、確かに了解した。
 ……司教からの命令はどうなってる?」
『イグニス・ソード・ブラヴォー、既に司教への命令は通っている。
 現時点を持って、コードG1―G6までを完全封鎖、
 各自GPSで現在地を確認の上、前線戦闘区域を離脱せよ』
「な――に?」眉を顰めて、ジャックは訊き返した。「――"封鎖"、だと?」
 
 ざざ、と通信機に割り込まれる。
 ノイズは1秒足らず、新たな声が耳朶を叩いた。聞き覚えのある声――若い、落ち
着いた、感情さえ欠いた冷徹な声色。
 ローマ=カトリック、NY大司教。この地に於けるイエズス会の代理人であり、マ
ルタ騎士団団長の代行――そして、若き神の代行者。
 ピーター=カレンツァ。
 

152 名前:ジャック=クロウ ◆8nMUYwJack:2003/05/27(火) 23:30

 Duel of the fates -Into Illusion- Kresnik vs Arucard
 
>>151
 
 ざざ、と通信に割り込まれる。
 ノイズは1秒足らず、新たな声が耳朶を叩いた。聞き覚えのある声――若い、落ち着
いた、感情さえ欠いた冷徹な声色。
 ローマ=カトリック、NY大司教。この地に於けるイエズス会の代理人であり、マル
タ騎士団団長の代行――そして、若き神の代行者。
 ピーター=カレンツァ。
 
『――現時刻を持って、プロジェクト01489、
 コード"Matthew's sword"をクリア、プロジェクト01490へ移行。
 コード"Judah's silver coins"を発動する。Sevens keyは"釘を打て"。
 総員区域より撤退、ラインF以上への進攻を禁止する』
「――アンタ、司教……!?」
『そう、僕だ。予定より10分早い通信だけどね。
 ジャック、早く下がるんだ。その位置は危険だ』
「司教、コイツはどういう――」
 
 コード"Matthew's sword"。サウスブロンクスに於ける吸血鬼掃討作戦。作戦内に於い
て、"ユダは杯を握った"は作戦終了のコードの筈だった。
 なら――これは、この報告はどういう意味だ。
 
『目標変更。標的はHellsing所属のヴァンパイア、アーカード。
 対抗戦力には"センテンスト"一名を持って当たる。
 包囲区間への接近者及び離脱者は全員射殺、全騎士団はサポートに回る』
 
 その一言で、ジャックは凍り付いた。
 
「今――」
 
 今、何て。
 この男は――何て、言った。
 アーカードと……噂に伝え聞くあのバケモノと、誰が、何を――何を。
 漂白される頭蓋。意識のブランク。何を考えていたのか、何を言おうとしたのか、全
てが形を為さないままガラガラ崩れ落ちていく。マイクを喉に押し付ける。感度が変わ
らないのは解っていても、そうせずにいられない。
 
「……何を言いました、司教?」
『時間がないのだけれど』
「正気か、アンタ」
『僕はこの上なく正気だよ、ジャック=クロウ。
 作戦は開始された。退き返すんだ、イグニス・ソード・ブラヴォー』
「そんなに時間は掛からねぇさ。極論で言ってやる。
 この作戦は馬鹿げてる。明らかな越境行為――それ所の騒ぎじゃない。
 これじゃアメリカ政府にケンカ売って、
 挙句にプロテスタントの信頼を丸ごと叩き潰してるのと同じだ。
 解るか? 犯罪だ。法なんてのは何処にもない……!
 それに……それに、アンタは、アイツ一人だけ死なせる事に同意したってのか!?」
『命令だ。ジャック、下がれ』
「――アンタ」
『闇には闇の、夜には夜の、混沌には混沌の法がある。
 けどね、良いかい? 混沌は正しき者の剣で打ち払われるのが道理だ。
 ヤツに朝は訪れない。この宵でヤツの意味は果てる』
 
 それで、一方的な通信は果てた。
 歯を噛み締めてイヤホンを毟り取ると、ジャックは駆け出した。
 目的地は大司教の待機陣――必要なら、握った拳をあのスカしたツラに叩き込んで
やるのを躊躇うつもりは、ない。
 
「クソが……クソが、クソが、クソがクソがクソがっ!
 馬鹿と阿呆しかいないのか、このクソッタレ教会にはっ!」
 
 やり場のない赫怒の横溢が胸を灼く。
 歩幅を上げて、ジャック=クロウは駆け出した。
 

153 名前:ジャック=クロウ ◆8nMUYwJack:2003/05/27(火) 23:55

 Duel of the fates -Into Illusion- Kresnik vs Arucard
 
>>151 >>152を修正。
 
『――現時刻を持って、プロジェクト01489、
 コード"Matthew's sword"をクリア、プロジェクト01490へ移行。
 コード"Judah's silver coins"を発動する。Sevens keyは"釘を打て"。
 総員区域より撤退、ラインF以上への進攻を禁止する』
「――アンタ、司教……!?」
『そう、僕だ。予定より10分早い通信だけどね。
 ジャック、早く下がるんだ。その位置は危険だ』
「司教、コイツはどういう――」
 
 コード"Matthew's sword"。サウスブロンクスに於ける吸血鬼掃討作戦。作戦内に於い
て、"ユダは杯を握った"は作戦終了のコードの筈だった。
 なら――これは、この報告はどういう意味だ。
 
『目標変更。標的はHellsing所属のヴァンパイア、アーカード。
 対抗戦力には"センテンスト"一名を持って当たる。
 包囲区間への接近者及び離脱者は全員射殺、全騎士団はサポートに回る』
 
 その一言で、ジャックは凍り付いた。
 
「今――」
 
 今、何て。
 この男は――何て、言った。
 アーカードと……噂に伝え聞くあのバケモノと、誰が、何を――何を。
 漂白される頭蓋。意識のブランク。何を考えていたのか、何を言おうとしたのか、全
てが形を為さないままガラガラ崩れ落ちていく。マイクを喉に押し付ける。感度が変わ
らないのは解っていても、そうせずにいられない。
 
「……何を言いました、司教?」
『時間がないのだけれど』
「正気か、アンタ」
『僕はこの上なく正気だよ、ジャック=クロウ。
 作戦は開始された。退き返すんだ、イグニス・ソード・ブラヴォー』
「そんなに時間は掛からねぇさ。極論で言ってやる。
 この作戦は馬鹿げてる。明らかな越境行為――それ所の騒ぎじゃない。
 これじゃアメリカ政府にケンカ売って、
 挙句にプロテスタントの信頼を丸ごと叩き潰してるのと同じだ。
 解るか? 犯罪だ。法なんてのは何処にもない……!
 それに……それに、アンタは、アイツ一人だけ死なせる事に同意したってのか!?」
『命令だ。ジャック、下がれ』
「――アンタ」
『闇には闇の、夜には夜の、混沌には混沌の法がある。
 けどね、良いかい? 混沌は正しき者の剣で打ち払われるのが道理だ。
 ヤツに朝は訪れない。この宵でヤツの意味は果てる』
 
 それで、一方的な通信は果てた。
 歯を噛み締めてイヤホンを毟り取ると、ジャックは駆け出した。
 目的地は大司教の待機陣――必要なら、握った拳をあのスカしたツラに叩き込んで
やるのを躊躇うつもりは、ない。
 
「クソが……クソが、クソが、クソがクソがクソがっ!
 馬鹿と阿呆しかいないのか、このクソッタレ教会にはっ!」
 
 やり場のない赫怒の横溢が胸を灼く。
 歩幅を上げて、ジャック=クロウは駆け出した。
 

154 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/28(水) 00:06

モリガン対ブラムス 『王と女王、其の戯れに過ぎず』

>>150

浮遊と言う形容は、現状を表すには些か弱い。
飛翔――それも飛ぶのではなく飛ばされている。

「中々、ね……じゃあ、満足して頂けるように頑張らないとね」

身を捩り、下を向く。
同時に羽ばたきを一つ。身体のコントロールが戻った。

赤い眼。暗い目。
揺れる光は何を感じるのか。想うのか。
座して磨り減ってゆく心を見つめながら、何処かで終わりを期待して――

そんな事を、脳の片隅で思っている。

真っ直ぐに触れれば、例え後に衝撃を逃がしても全ては逃がしきれない。
半身に身体を開き避ける。腹部を舐める熱さにも似た痛み。
更に羽ばたき。直線ではなく円の動き。
背後に廻りこみ、残りの二撃を纏めて回避。

―――空中ではわたしの方が動ける。

翼があるのだから当たり前ではあるし、その程度の事を考え付かなかった訳でも無いだろう。
なら何故?
それを問うのは無駄だ。
そもそも始まりからして理由が有る訳ではないのだから。
相手の世界で不利を味わう気になる事もある。わたしの様に。

「それを言うなら、この城の中こそ狭いんじゃなくて?」

握った拳に色が集う。閃光が凝縮する。
質量すら伴った紫に覆われた双拳を、背骨に沿って四発放った。
魔力を乗せた打撃。ただ疾く打ち込む事のみに専心する。

155 名前:アーカード ◆VAMPKPfGto:2003/05/28(水) 01:36

>153 Duel of the fates -刺ノ空- Kresnik vs Arucard
 
 心底、心から楽しそうに、アーカードは笑った。
 笑うしかあるまい。目の前に佇んでいる人間は、期待を違える事が無いのだ。
 「は」と口を開けたアーカードの顔が縦に裂けた。
 直進してきた弾丸が鼻骨を叩き割ったのだ。
 そして、アーカードは猛射の洗礼を直立不動のまま受け止めた。
 避ける動作も見せなかった理由は二つある。
 一つ、男の反応が予測を越えていた。
 二つ、避けるまでもなかった。
 肺腑に三発、眉間に三発、心臓と両手両足に二発づつ。精密機械が感情を持ったような鋭さで、狩
人の弾丸はアーカードを襲ったのだ。
 腰を折り、首を逸らせ、腹を痙攣させる。かき混ぜられる内蔵。へし曲がる骨と骨と骨。残るはず
た袋と化した肉体の残骸のみ。
 急所への連射。その両手から放たれた瞬きは、高位の吸血鬼すら一瞬で殲滅する物だったに相違な
いだろう。
 頭部を破裂させ、脳漿をこぼし、胸部と腹部を弾けさせ、だらしなく両手両足を垂らしたアーカー
ドは、見る者に、糸の切れた操り人形を連想させた。
 だが………しかし。
 だがしかし、終わりはしない。不死者の王は、アーカードは、道に幾千の死を積みあげた彼が、そ
の程度で終焉を迎える筈がない。何千何万何億の銃火に晒されようと、その身体を微細な肉片に千切
られようと、彼をその程度で滅ぼす事などできない。その程度で止める事ができるのなら、気が狂う
程に長い時を常に戦い、狂おしい時間を"死んできた#゙は、とうにこの世界を去っているだろう。
 月だけが舞う闇の中で、更なる闇が踊る。
「ハッ」
 小さく、しかしその声は朗々と鳴った。
 ず。
 ずる。
 ずるずる。
 ずるずるずる。
 ずるずるずるり。
 筋が、肉が、繊維が傷口から伸びて、お互いを縫合する、絡む、貼り付ける。アーカードの身体は
原型を取り戻す。常識を超えた吸血鬼の再生能力。ヘルシングの技術の粋と歴史を総動員して作られ
たヴァンパイア、その終極にして究極、既存の常識すら踏破したのがアーカードなのだから!
「は………ハあハは、ハはははッ! 大した協定違反だ。正面切って私に挑んでくるなど、アンデル
セン以来の大馬鹿者だ」
 彼は笑う。死すら受け入れぬ器がアーカードであるのなら、佇む白衣を何と呼ぼうか。
 全ての人間はこう言えば納得するだろう。
「死神―――め」
 罪も血も払いのけるように白い姿は、なるほど、死を告げる残酷な使者だ。復元していく己を冷や
やかに見つめるその瞳には、恐れの色は僅かもない。だから、彼は嬉しかったのだ。目の前に立つ男
が、人間が、僅かな時を生きたに過ぎないこの青年の存在が嬉しく、愛しくてたまらない。
 ひどく楽しい。おかしくて仕方がない。こんなに楽しいのは、本当にどれだけ久しぶりだろう。
 長い指先で額を鷲掴みにして、アーカードは笑い続ける。
「クッ、ククッ…ハ、ハハハ……はは。ははは! 面白い、面白いぞ。お前はひどく面白い」
 長い右手が、顔の動きに合わせて揺れる。空いた左手はだらりと下がったままだ。
 彼はそのまま、ひとしきり気の済むまで笑い続けた。
 笑い声が止まるのもまた、唐突だ。
「もっと正しく証明してみせろ、お前の殺意を。これではまだ………些かだが温過ぎる」
 ずらりと、大振りのナイフが抜かれるような異観。
 白手袋に包まれた長い腕は、魔法のように漆黒と白銀、二丁の魔銃を抜いている。
 振れば音でも鳴りそうな長銃身(ロングバレル)は、見ればそれと判る凶器である。突き出され
た両手がゆっくりと伸び切ると、濃厚な殺意が空気に滲み出た。
 まき散らされた巨大な薬莢は複数。揺るがない軌道で、凶弾は悪意を解放した。

156 名前:ブラムス ◆vOzBAMUTHU:2003/05/28(水) 19:39

モリガン対ブラムス『王と女王、其の戯れに過ぎず』
>>154
 
足刀という名の死神の列は、僅か先頭を掠めたのみ。
そして翼有るものの利は、それ無き者よりも歴然として現世に在る。
だが、それが如何したか。
翼あるものは使えば良い、牙有るものは使えば良い。
それは備わった者の力であり、行使すべき当然の力だ。
そう――――どの道、不死王には届かぬ力。その差を覆せぬ力なのだから。
 
「――違いない」
 
再び苦笑。
言の葉を風に乗せ、拳撃の速さに負けじと、蹴りの勢いに乗じながら左に回転。
全身に薄く、しかし強固な紅の光を纏いながら。
一打。間に合わず背の肩口に喰らう。骨が軋んで、罅の入る音。
二打、三打。回転の勢いそのままに、両腕で払い除ける。
四打。同じ腕、同じ形の拳で返し―――否。
打突と思わせたその腕は、絡め巻き込み掴む為のもの。
 
「だがな、モリガンよ」
 
この間合い。この近さ。
組み付くこと即ち間合いの内であり、それ即ち必中。
王は絡めた腕を軸として、そのままの状態で足を曲げ。
その腕一本で全身を持ち上げ屈み、両足を撓め、腰を撓め、全身のばねそのものを撓め。
全ては腕を絡めてから刹那にも満たず。
 
「私の前では天も地も、我が城ですら変わりはせぬ」
 
大気が、衝撃にて爆ぜる。
捕らえた腕を棒と見立て押さえつけ、飛び上がるが如く、限界まで込めた膂力を解き放ち己が両足を前へと突き出す。
その凄まじいまでの勢いと力、それはもはや蹴りに非ず。槍に非ず。
巨人が投げ放ち、山すら砕く豪槍と同義。
そして―――次瞬にはその反動を用いて宙を舞い、城壁へと跳ぶ王の姿があった。

157 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/28(水) 19:44

モリガン対ブラムス 『王と女王、其の戯れに過ぎず』

>>156

拳打―――

渾身の連撃の最中、とっさには反応出来なかった。
身を打つ衝撃を予感して、意識の外で身体が緊張する。
故に掴もうとする手を払えず、巌のような手が肉を締め付ける。

「……女の身体に触れる時は、もう少し優しくした方が悦ばれるわよ?」

膂力の差はそれこそ圧倒的だった。
鋼の腕に揺らぎは無く、最大の利だった動きすら制されている。
このまま捕らえ続けられるのは拙、


悪寒。


直後に世界が高速で後方に流れる。背を向けたまま床に堕ちてゆく。
石の床が砕ける感触を背中で味わい終わった後、血を吐くように息を吸った。
蹴られた――のか。呼吸の度に胸が痛い。罅だけでは済まなかったらしい。

「胸が良いなら、足じゃなくて手でして欲しいモノね」

足を振り上げて逆立ち、両腕で浅く窪んだ床を突き放す。
墜落した場所から逃れるように腕で跳び、黒翼をはためかせて飛んだ。
向こうは遠く離れた城壁に目掛けて離れてゆく所……外に来い、と言う事か。

「―――こういう遊びがあるらしいのよね、人間の子供がやるらしいのだけど」

親指と人差し指で輪を作る。と、その輪に淡く光るカーテンが張られた。
口元に近づけた輪に吐息を吹きかける。
そっと優しく、長く長く。膨らんだカーテンが震えて千切れ、玉になって宙を舞う。
一つ。二つ。三つ四つ。五つ六つ七つ九つ十―――無数に。

「しゃぼんだま飛んだ、屋根まで飛んだ……」

それは儚いはず。なのに、互いが触れても壁に触れても割れずゆらゆらと漂う。
それは儚いはず。仄かに輝くそれは、紫の破壊を内包して。

「……この続きはどうだったかしら。知らない?」


――壊れて、消えてしまえ。

158 名前:ブラムス ◆vOzBAMUTHU:2003/05/28(水) 22:26

モリガン対ブラムス『王と女王、其の戯れに過ぎず』
>>157
飛翔に等しい跳躍のさなか。
 
突如、炸裂音。
褐色の躯を抉りて灼くは、王の往く手を阻む夥しい数の光球。
その動きはゆらゆらと頼りなく、だが空間悉くを埋め尽くす幽玄の檻。
この正体、恐らくは死毒。並みの不死者ならば、容易く終滅へと至るほどの。
 
「フ…これは存外に意地の悪い」
 
凄惨な、それでいて何処か無邪気な笑みを浮かべて王は言う。
遥か後ろに浮かぶ女王の言葉は何処までも軽妙。何処までも洒脱。
だが容赦なく爆ぜる死毒の塊に、王は暗い殺意の顕れを観た。
たかが泡沫と呼ぶには、その像は強くて禍々しく。
王のみを狙い、一つ一つが熱を帯び死を孕む、凝縮された破壊そのもの。
 
「須らく壊れて消える…違ったか?」
 
輝きが増す。王が全身へ張り巡らせた魔力、その幾許かを両手に束ね。
身を捻る。軌道はそのままに両腕を交差し。
足を出す。足元にある雷球の一つを、踏みしめんとばかりに。
当然のように足元が爆裂し、
 
眩い閃光。
 
最初は鞭―――に見えた。当たり構わず薙ぎ払う、太くて長い紅の鞭。
次に見えたのは繚乱する百花。
淡く輝く紫が咲いては消え、繰り返す。
そして轟音。最後には蓬髪なびかせ空を舞う、王の御姿があるばかり。
薙ぎ払ったのだ。
束ねた魔力を一挙に放ち、立ち塞がる障害全てを破壊して華と散らせ。
先程踏んだ恒久は跳躍の勢いを付ける為。故に高度は前よりも高く、高く。
 
その浮遊も数秒に満たず。屋根の頂上に足降ろし、王は夜の女王へと振り返る。
静かに、仁王の如く直立し。月の光を背に浴びて。影となりて貌は見えず。
だが輝く両眼が語っている。

『―――続きだ』と。

159 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/28(水) 23:50

モリガン対ブラムス 『王と女王、其の戯れに過ぎず』

>>158

弾ける。消える。
焼かれて消える。
遊びは遊び。児戯に過ぎないとでも言わんばかりだ。
意地が悪いのはどちらなのか。

――熱そうな赤。

撓り、打ち砕き、焼き尽くす炎。
巨大な蛇の舌のようなそれは次々としゃぼんを捉え、無数にあった儚い泡は露と消えて。
足元を踏み砕いて跳び、拓いた道を抜け、更なる高みへ立ちわたしを見つめている。


いや、見下ろしている。
視線が誘っている。
不意に沸き起こる怒り。侮りを感じた訳でも無いのに。

「―――そういうの、感じ悪くないかしら?」

そちらが来い、と言いたい所だけれど……まあ良い。わたしから行こう。
蝙蝠の翼が大きく動き、力強く上昇する。
屋根まで。そこを越えて。高く。もっと高く。高く高く高く。

眼下には城の全景。小さな的。
小さいが良く見える。姿も、紅い眼も。
目掛けて落ちる。加速。墜ちる。加速。重力を味方にして。それすらも超えて。
天地を逆に、地に向けて飛ぶ。

「寒いの……暖めてくださる? なんてね」

音すらも超えて一個の弾丸の様に。疾く、疾く。
風に流れる双翼は、翼を超えて刃に。風を纏い、切り裂いて。
万物を両断する。
その全ては一人の化け物の為に。ただそれだけの為に。

160 名前:夜香(M):2003/05/29(木) 03:05

浅倉威vs夜香
春がすぎ、夏の手前。この街にも五月の風が吹く。
 
そう、私の住むこの街にも。
人は魔界都市とこの街を呼ぶ。
人ではいられなくなった者達が最後に希望を見出す街。
 
ここに、笑顔で入ってくる者は居ない。
時折、変り種は出てくるものだが。
 
そう、今日の来訪者もそうだった。
 
日が沈み、どうにか私が街を歩ける時間となった時、その男は夕日を連れて歩いていた。
 
そう、歓喜と闘争を望む瞳で夜を謳歌していた。
 
私は、その瞳に魅入られていた。

161 名前:浅倉威 ◆VQma5tOUJA:2003/05/29(木) 03:06

浅倉威vs夜香
>>160
 
ひとつ、深呼吸。
忌々しい空気が肺を満たす。空気は枝のように脳に這いより、棘と化して頭蓋骨を締め上げる。
最高の気分。何もかもぶち壊すのにうってつけの空気だ、この街の空気は。
魔界都市、「新宿」の空気は。
 
ひとつ、溜息。
顔が笑みの表情を形作っているのがわかる。
獲物を探し、俺の眼は大きく見開かれている。
 
ライダーの戦いですら、俺は満足し切れないでいた。
イライラを抑えきれないでいた。
だから、飢えを満たすために、俺は今、『新宿』にいる。
 
ここにはいるんだろう、俺を満足させてくれるヤツが?
俺にはわかる―――――さぁ、来いよ?

162 名前:夜香(M):2003/05/29(木) 03:07

浅倉威vs夜香
>>162
悪くない目だった。この街へ来るもの達は皆、
何かを遠くへ置き忘れてそれに気づかないものが多い。

この男は自分が何を失い、何を求めているか知っている。
そう感じられた。
長としての役目もある。私はこの男をしばらく見たいと思った。
 
どの道、この街を知らぬ男がこの街で生きるには時間が必要だろう。
 
そう、この街を知る時間が。
この街に溢れる怪異もまだ穏やかである季節だ。
 
魔が溢れ、闇が集う夏はまだ遠い。
 
私は男を見守る若干の期待を込めて。
 
そう、私はまた恋を始めたのだろう。

163 名前:浅倉威 ◆VQma5tOUJA:2003/05/29(木) 03:08

浅倉威vs夜香 
>>162
 
「―――――生温いな」
 
この街をしばらくうろつき―――――俺の口から、そんな言葉が漏れる。
俺は今の所、大したモノに巡り合えてはいなかった。
せいぜいサイボーグ化したチンピラや、雑魚くさい妖物を叩きのめしただけだ。
 
期待外れ、というにはまだまだ早すぎるだろうが、既に俺の滾りは収まりがつかなくなっていた。
 
「いないのか……もっと面白いヤツは……いないのか……いないのか……!?」
 
ぶつぶつと呟きながら、俺はさまよい続ける。
俺の飢えを満たしてくれる存在を求めて、歩き、歩き、歩き続け―――――。
やがて歩き疲れ、気付くと俺は公園のベンチに身を預けていた。
 
そこではじめて、俺はそいつの視線に気付いた。
じりじりと首の辺りを炙るような、熱い視線に。
 
その視線に自分の視線をぶつけるように、俺は首だけをゆらりと動かした。
そこにいたのは、怖いくらいに綺麗な顔―――――そして、怖いくらいに強い相手。
俺の表情が、深く笑みを刻む。
 
懐に手を伸ばし、蛇柄のジャケットのすぐ下の素肌を晒しつつ、俺はカードデッキを取り出した。
そして、こう言ってやる。
 
「戦(や)らないか」

164 名前:夜香(M):2003/05/29(木) 03:08

浅倉威vs夜香
>>163
夜のこの街を危なげなく歩く男。
常に自らの求めるものを追いつづける精神。

悪くない。とても悪くない。純粋な精気に満ち溢れていた。
性質こそ悪と呼ぶべきものであったが、
闘志に満ち求めるものへの純粋さは抜きん出ていた。
  
野生の息吹、生きる者の闘志。
飢える瞳。私はそれに魅入られていた。
 
公園を歩く。
私が彼を追い求めてからしばし経った時の事。
 
目が合った。
求めるものを見つけ出した歓喜がこもっていた。
 
男が微笑んだ。
素肌を晒し、それが己の武器である事を教えつつ。
 
男が言う。
『戦(や)らないか』
 
よかろう。私もその歓喜を受け止めよう。
「私の名は夜香と申します。そのお言葉、お待ちしておりました」

165 名前:浅倉威/仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/05/29(木) 03:09

浅倉威vs夜香
>>164
 
「ハァン……話が早いな」
 
歓喜が俺の表情をさらに歪める。
戦いこそが、俺にとっての唯一の快感。
その快感をもたらしてくれるだけの気迫が、目の前の冷たい美貌から迫ってくる。
 
俺はその気迫を受けるだけで、背筋を指でなぞられたような快感を、既に覚えている。
全身が微弱な電流を流されたような気さえしている。
そして、俺は言ってやる。
 
「だったら、とことん喜ばせてやるよ―――――」
 
間違いない。
こいつも俺と同じように、殺し合いで感じるタイプだ。
そうわかったからこその、言葉。
 
素早くカードデッキを取りだし、公園前のバックミラーに翳す。
手を蛇の様に疾走させて、戦いの始まりを告げるために、俺は叫ぶ。
 
「―――――変身!」
 
一瞬、幻像が俺の身を包み、俺の姿は仮面の騎士、仮面ライダー王蛇へと変わる。
これから押し寄せる快感を期待して、自然と溜息が漏れ、俺は首を気だるげに回した。
 
俺の手には既に蛇の尾であり牙である黄金の剣、ベノサーベルが握られている。
 
「があああああああああああああああああッ!」
 
俺は月に吼える。闇に咆哮が響き渡る。自らの叫びが公園に行き渡る前に、俺は駆け出している。
冷たい美貌をぐちゃぐちゃに叩き壊すために、俺はヤツに剣を叩きつける。
あんまり綺麗な物って、壊したくなるだろう?

166 名前:夜香(M):2003/05/29(木) 03:11

浅倉威vs夜香
>>165
微笑がこぼれる。私は今はっきりと自覚した。
恋をしていると。甘く、儚く、そして尊い。
 
男の闘志が、殺意が私の肉体を魂を響かせる。
歓喜と欲情、そして敬意。
この三つの感情がない混ぜとなって男と、私の心を一つに繋げようとしてくれていた。
 
男は鏡に向かって叫ぶ。
この街では、誰もそれを奇妙だとは思わない。
人それぞれに戦う事の意味を知っているからだ。
男の姿が変わる。
 
紫の鎧を纏った騎士へと。
闇の色をした騎士は黄金の剣を取る。
シンプル且つ、合理的な手段を用いる。
それは、私にとっても喜ばしい事だった。
 
男は公園で叫ぶ歓喜を情欲を憎悪を殺意を恋慕を情熱を、
全てぶちまけるように。
 
そして、剣が振るわれる。
その軌跡は月のように美しい弧が描かれていた。
 
このまま断たれたいと思ってしまったほどに。
だが、私は真の美を知っている。
せんべい屋の主人、そして白き魔界医師。
 
美だけでは、この二人には遠く及ばず。
男に対しても非礼である。
私は練っていた気を巡らして気砲を放とうとする。
 
間一髪。
男の太刀を危なげなく受け止める事ができた。

167 名前:夜香(M):2003/05/29(木) 03:14

浅倉威vs夜香
>>165 (>>166はなしで)

微笑がこぼれる。私は今はっきりと自覚した。
恋をしていると。甘く、儚く、そして尊い。
 
男の闘志が、殺意が私の肉体を魂を響かせる。
歓喜と欲情、そして敬意。
この三つの感情がない混ぜとなって男と、私の心を一つに繋げようとしてくれていた。
 
男は鏡に向かって叫ぶ。
この街では、誰もそれを奇妙だとは思わない。
人それぞれに戦う事の意味を知っているからだ。
男の姿が変わる。
 
紫の鎧を纏った騎士へと。
闇の色をした騎士は黄金の剣を取る。
シンプル且つ、合理的な手段を用いる。
それは、私にとっても喜ばしい事だった。
 
男は公園で叫ぶ、歓喜を情欲を憎悪を殺意を恋慕を情熱を全てぶちまけるように。
 
そして、剣が振るわれる。
その軌跡は月のように美しい弧が描かれていた。
 
このまま断たれたいと思ってしまったほどに。
だが、私は真の美を知っている。
せんべい屋の主人、そして白き魔界医師。
 
美だけでは、この二人には遠く及ばず。
男に対しても非礼である。
私は練っていた気を巡らして気砲を放とうとする。
 
間一髪。
男の太刀を危なげなく受け止める事ができた。
 
「ああ、本当に今日はいい日ですね」
 
私はそう言って剣を受け止めたまま男へと蹴りを放った。

168 名前:浅倉威/仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/05/29(木) 03:15

浅倉威vs夜香 
>>167
 
渾身の一撃が、あっさりと止められる。
そうでなくっちゃやりがいはない。だが、イライラする。
顔面を叩き潰させろ。鼻を貫き抉らせろ、血と一緒に眼球を零して顔面にぶちまけろよ。
 
「あぁ―――――いい日は良い日だ……」
 
俺はヤツの蹴りに合わせ、身体を独楽のようにくるりと1回転させて、僅かに距離を取る。
顎のそばを風が吹き抜ける。
背筋を凍りつかせるほど冷たく、素早く、そして心地良い風。
その風に、身がぞくり、と快感に震える。
 
「だが……」
 
剣を引き戻し、だらりとその剣を握った手を垂らす。
 
「このままじゃ収まりがつかないんだよなアァァァァァァァァッ!!」
 
下から跳ね上げるような斬撃と、叫びと。
どっちが先に放たれたのか、自分でもよくわからなかった。

169 名前:メリッサ(M):2003/05/29(木) 05:11

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>136

瞳を閉じ、頬で風を感じながら、
ただ、待った。
そして彼女は答えを返す。

『人に非ず』と。

ふふっ、此処まで似ているか。
ならば違いは何処にあるのであろうな?
生まれか? 瞳や髪や肌の色か?

―――― は、詮無き事か。

いらぬ事を考えている間に、彼女の言も尽きた様だ。
名、か。私の名。もはや呼ぶものもいないその名を尋ねるか。
ならば答えよう。

「――――――Melissa」

我が名はメリッサ、真祖の血脈に連なるもの。


吹き抜ける風が群雲を誘い、
銀盤が隠れ、影が消えた。

駆け抜ける。

虫の音が途切れ、
下草が揺られ、

振り上げる。

足元で爆ぜる石塊。
巻き上がる土煙。
それら全てを打ち払い、

今、交錯する。



―――――――――――――― 斬。

170 名前:夜香(M):2003/05/29(木) 21:31

浅倉威vs夜香
>>168
蹴りに合わせて男は舞った。儚くそして力強く。
鬼気が風を招いた。風がうねり嵐となる。
心が躍り気が引き締まる。この恋を楽しもう。
男の苛立ちが心地よい。いつもは私のほうが焦らされる身であるから余計に。
 
「それは申し訳ない。ですが…」

薄皮一枚、衣服が大きく切り裂かれ私から甘い血しぶきが舞う。
とてもいい香だ。再生が始まり血潮はゆっくりと止まる。
 
「いい一撃でした。次は私から参りましょう」
 
美酒のような苦痛。血の渇きに私はつかの間さいなまれた。
私の目が赤光を放つ。犬歯が欲情に反応して牙となる。
 
空を舞い、幾重にも蹴りを男へと放つ。

171 名前:ブラムス ◆vOzBAMUTHU:2003/05/29(木) 22:01

モリガン対ブラムス『王と女王、其の戯れに過ぎず』
>>159

「―――これは少々、怒らせてしまったようだな」

暗中にて紅い輝き、不死王は己の双眸を細める。
天よりの使者。だが装いは黒く鋭く。
夜気を切り、触れるもの全てを断たんと駆け下りる様は魔翼そのもの。
漆黒。
闇の中に在りながら、尚その存在を主張する降魔の刃。迫り来る死神の鎌。

「…黒、か」

今は遥か彼方の過去。
かつて戦場にて相対した、美しき漆黒の女神。
一瞬、己へ降る夜の女王に戦乙女の姿を視たのは、果たしてただの幻視か否か。
構えた瞬間。
風を受け、寒気に当てられたと同時に感じたは熱。そして

               斬、

と音一つ。
音より疾い一閃は明らかに王を捉え、鋭利な、文字通り刃と化した翼は
確実に肉を抉った。
深き赤。から血潮は流れ出て、報酬とばかりに翼を彩る。
だが、

「ハハ―――赦せ、少々無作法が過ぎたようだ」

止まっている。腹に当たって肉を裂き、臓腑に達した黒翼が。
確かに翼は身に潜り、しかし突き抜けることは決してなく。
見れば噛み合うは左の肘と膝。微動だにせず押さえ込み、決して逃がさぬようにして。
刃を挟み離さぬ様は、まるで獰猛な虎の顎のよう。

「これから先は、気をつける故」

至近の間合い。密着に等しい状態で眼を見、告げる。と同時に膝を下ろし
肘を下げ、震脚一つ。
そのまま流れる動作にて、血塗れた右腕を振り上げ一閃。
屋根を踏み抜き、あごを狙って振り抜いて、高く拳を突き上げる。
風撒いて、天へ届けと突き上げる。

172 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/29(木) 22:55

モリガン対ブラムス 『王と女王、其の戯れに過ぎず』

>>171

黒い翼は闇を吸い、死を孕む風に乗って。
目前にまで迫った的は避ける意思を見せない。

当た、

ぎちっ。
前触れ無く世界が静止する。
血の匂い。
いや、動いている。
慣性が動かす。掛かった負荷に耐えきれず、挟み取られた翼が撓る。
ぎちっ。
わたしの可愛い子達が泣いている。痛がっている。

――っ……!

散、れ。
固着していた闇が、散り散りに舞う。
膝が降りるより刹那早く身体が解き放たれ、今だ残る加速が行く道を得て――但し、片翼は無く。
天を突く拳と紙一重ですれ違う。それの纏う火焔が二の腕を焼いた。肉の焦げる臭い。
屋根に二条の轍を数メートルほど刻み、速度はゼロに。

「……そんな風になってるのに、全然萎えないのね」

改めて見れば、傷は腸にまで達している。
服を染める、辺りに漂う、紅く冷たい、血。血。血。


ほんの少し、食欲が湧く。
化け物の血液は余り美味しくは無い、と判っていても。
それでもやはり、この匂いは良い。

「―――わたしを、昂ぶらせる」

舞い散った闇が影を作る。
それは細く。それは鋭利に。溢れるほどの殺意を具現して。

――刺され。

闇が動く。影が動く。
月光を斬り、夜空に溶けた黒い刃が一点に殺到した。

173 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/05/30(金) 00:52

 Duel of the fates -Running Alone- Kresnik vs Arucard
 
>>155
 
 デタラメな反応速度で撃たれた。
 死ぬ、と思いながら飛んだ。
 死ななかった。
 お返しに4応射。即座にもう一度跳躍して、そのまま近くの車の陰へ。
 タイヤの裏側で屈み込んで小さく息を繰り返す。
 はは、畜生……くそったれ。くそ、生きてるぞ、俺は。
 
「大した威力だ、王様。流石だな、はは。流石に流石、十全だよ……クソが」
 
 余裕の無い悪態くらい見苦しい物はない。にじり寄る焦燥と恐怖――不快な事実。
 灼けた銃身に手の甲を押し付ける――刺すような熱さで、迷いを焼き殺した。左手、
熱いバレルを咥えてマテバをスイングアウト。苦い油が舌を刺激する。
 熱い。熱い熱い熱い熱い。腕が振るえて、脳が揺れて、大気が焦げたような錯覚が
全身を撫で回す。吐き出した言葉は虚ろで、ザラザラしたノイズになって落ちて行く。
 手首側のシリンダーを排莢。クリップで一気にリロードした。急いだつもりはなくて、
だけど指は幽かに震えていて、かち、かち、シリンダーに上手く収まらない弾頭が、
かちん、かちん、金属を何度も、何度も擦る。
 ソレがどうしてだか、おかしい。堪らなく、身体の震えが止まらない。
 逃げ場は断った。ココで殺すしか、
 ……殺すしか――ないんだ。
 
「はは。はは……は、くそ、畜生……!」
 
 身を屈めた廃車の逆側では、馬鹿馬鹿しいまでに巨大な音が連鎖する。どう考えて
もハンドガンの弾丸じゃない――なんて考えてられる俺は、まだ正常なんだろうか。
 ゴミ同然の思考を、クソ以下の自己憐憫と一緒に捻り潰す。正直余裕はない。これっ
ぽっちのカケラも無い――……だから、なんだ。
 駆け出すのが一歩でも遅れれば死んでいた。悪夢みたいに正確なポイントはハッキ
リ言って避けられたのが僥倖だ。
 さて、どうする。焦燥する心と自問自答。そろそろ、この車体も持たない。
 思った瞬間、背中が爆発した。傾ぐ車体。いきなり限界?
 は……クレイジーだよ、全く!
 鉄屑になったルーフが弾かれて目の前に落下――この、
 
「……クソが!」
 
 ルーフを蹴り飛ばす。
 ガラガラと音を立てて、残骸は正面の瓦礫に混じる。
 
 ――ただ。
 
 ただ、ヤツが何であれどうであれ、ココは俺の空間だ。
 この地は、俺の結界。火力と知識とありったけの殺意を込めて用意した俺の世界。
 ぎちりと歯を噛み締めて、脆弱な俺を噛み殺す――殺意が励起する。シナプスが活
動を休息に速め、イカレた速度で理性を殺意に同調させた。
 全ての思考と行動は、コンマ単位の事象と成り果てた。ここは鋭敏化した、透明感に
溢れた殺戮世界。時間の粒子さえ感じ取れるくらい、感覚と身体は逸脱を始めている。
 マテバをホルスターに入れる――懐を探ってグレネードを引き出し、ファイアリングピ
ンを歯で引っこ抜く。背をドアから離すと同時に、後ろ手にグレネードを投擲。
 爆音――爆炎を背に、走った。目的地は決まっている。
 
 サウスブロンクスに張り巡らせたのは知識の結界。温存され、周囲に保管されたまま
の火器もトラップは、充分過ぎるくらい余ってる。
 ナイフや剣で怪異に立ち向かわなければならない時代は過ぎ去った。神話世代では
存在すら予定されなかっただろう銃火器は、神の雷に等しいだろう。
 
「追儺は始まったばかりだ。終の道は今ぞ紡がれる――そうさ。お前は此処で消える。
この俺に消される、消してやる! 終わりだ。何もかも一切合切終焉だ!
 ――逮夜に散れ、吸血鬼!」
 

174 名前:ブラムス ◆vOzBAMUTHU:2003/05/30(金) 00:54

モリガン対ブラムス『王と女王、其の戯れに過ぎず』
>>172
手応えは、無かった。
 
「成る程、良い僕を飼っているな」
 
闇に輝くは殺意の光。瞬く間に散開し、刃と変じる女王の下僕。
蝙蝠だったそれらの闇は、今や血を欲する鋭き黒に。
まるで、主の望みを映すが如く。
 
「―――昂ぶる、か。それは何より」
 
己の生は、真なる不死。例え世界もろとも焼かれても、その魂は滅することなく。
この程度の手傷、望めば再生することは容易かろう。
己の力は、神々の力。数多の神でも抜きん出た主神オーディンと並ぶ破壊の魔力。
あの程度の結界、望めば焼き尽くすことは容易かろう。
だが、
 
「…流石に、それでは無粋だな」
 
その呟きを皮切りに、王の貌から笑みが消える。
開いた足を前後に移し、右手を掲げ。畳んだ左腕は腰まで引き寄せ、握る両の拳は固く。
その構えは、東洋の羅漢さながらに。
見る者全てに惧れを抱かせるその様は、鬼か、鬼神か。
 
片足を上げ、一足。
正面には短剣に変じた殺意の顕現。
縦横無尽、逃げ場すらなく。血に飢えた不遜な刃が四方八方から、迫る、迫る、迫る。
正に刃圏のその中を、疾風と化して駆け抜ける。
 
右。
  左。
    肘。
      左。
        右。
 
一直線へ突き進み、乱打を放ち砕いて弾く。
右拳から左拳、左から右。前後左右、決して大振りではなく、最小限の動きを以って。
弾かれる。折れて曲がった短剣が落ちる。
突き刺さる。だが血が流れるのも気に留めず、駈け抜けることに専心する。
 
そう、全ては戯れ。
肝要なのは如何に斃すかではない。如何に愉しむかだ。
故に―――あえて王は、今ある力のみで往くことを欲した。
 
そのまま女王に―――否、突如として軌道を変え左脇を抜ける。
回転して向き直りながらも、右の拳は手刀の型へ。
慣性を余さず生かして、加速して。袈裟懸けの要領で、焔帯びた右手を振り下ろし。
灼熱の魔剣と見まごう朱の斬撃が、宵闇の中で閃く。

175 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/05/30(金) 00:55

>>173
 
 叫んで、走った。無我夢中で走った。
 薄汚れたファッションモール、ショーウィンドウを叩き割る。
 背中で爆音。銃撃が途切れる。弾切れ? どうだっていい。チャンスは今だけだ。
 だったら走れ。足がもげるまで。
 だから殺せ。命尽きるまで。
 
 ―――死よ、来れ。
    我を糧に、彼の者に汝が冷たき抱擁を。
 
 ドレスを引き剥がした其処には、冷えた無骨な鉄の塊。スチール製のミリタリーケース。
蹴り開け、中身を引っ張り出す。
 そのまま、赤々と燃える背後へとソレを向けた。
 グレネードピストル、"excision"。煌々と天を焦がす焔柱をポイントして、即座にトリガー
を引き絞る――死ね、と口中で小さく呪詛を付け加えるのは忘れない。
 耳を劈く爆音を引いて、大気が焼けた。着弾と同時、慙愧も悪意も害意も敵意も撒き込
んで、渦巻く紅蓮の柱が問答無用で大地を舐め取る。
 ナパームとHEATの合いの子――現代の地獄の釜。装填したのは高密度傷痍剤充填
の特殊弾頭。約八千度の火炎は、粘着性の燃料を食い散らして大地を煮沸した。
 顕現するゲヘナの蠢き。
 脈動する猛威に、大気は焦げ付いて絶命の喘ぎを漏らす。
 
 けど――そう。コレでもヤツは死なない。死ぬ筈が無い、解ってる。
 ギシギシと騒ぐ脳髄と、脈拍を倍化させた心臓が叫んでいる。
 まだ、終わってない。ヤツは死なない。
 これでは、アレは死ぬ筈が無い。
 だから。だから、俺は次の手を打つ。
 今は生きる為に、次の手を打つ。
 空筒を投げ捨てて、背を向けて走り出す。ゴルフバッグからHk50を引き抜いて、後ろ手
にフルオート掃射。スタングレネードを投擲して、ビルとビルのあわいを駆け抜けた。背中
で破裂した人造の太陽は、けれどすぐに闇に潰える。
 
 走り続け、境界を抜ける足――懐を探る。発信機を弄って、起爆コードを作動。
 数珠繋ぎの爆音は合計8つ。オレンジの炸裂。太陽が墜落したみたいな閃きは、背を向
けた俺にまで届いた。発信機がブチ撒いたコードは、アーカード周辺のビル4棟を、指向
性付きRDX爆薬で正確に吹き飛ばしたらしい。
 倒潰するビルは順番だ。1棟は一棟の上に落ち、総計4棟が断罪の十字架と化して中心
を押し潰す――振り返る。
 地鳴りを響かせて足元から倒潰を始める無機質な墓標。凍えた月に突き刺っていた廃墟
の摩天楼が、質量のギロチンとなって地上を薙ぎ払う。
 程度の低いヴァンパイアなら千回死んでお釣りが来る――けど。
 ヤツに、ソレは有り得ない。
 だから、走った。
 逃げて、逃げて、何処までも走った。
 次の手を打つ為に、生きる為に、殺す為に。
 何処までも深い闇で、心と身体を黒く黒く塗り潰しながら駆け抜ける。目の前は闇だけ。
絶望の色が世界を支配して――だけど。
 もう少し……もう少しだけ静かにしてくれ、俺の身体。
 

176 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/30(金) 02:16

モリガン対ブラムス 『王と女王、其の戯れに過ぎず』

>>174

刃の嵐。
一撃二撃ならともかく、この全てを避けうるとは思わない。
だが。

「お褒め頂いて光栄だわ。自慢のパートナーですもの」

だが、仮に幾らかが当たったとして、どれほどのダメージを与えられるのだろうか。

腕が足が閃く度、金属同士がぶつかったような甲高い音。
一つが消える前にもう一つ。次、次、次次次次。合間に、ずぶりと湿った重い音。
だが、それは砕けても折れても消えない。そこに在る。

――戻れ。

屋根に散らばる破片が花開き――もとい、翼開き。
羽音が充満した。
黒片の悉くが本来の姿である蝙蝠に戻り、更にそれが怒涛の如く集う。
主たるわたしの元に馳せる。

「下らない事は考えずに愉しみましょう?
 熱いのも、痛いのも苦しいのも、全部同じ。等しく、わたしを満たしてくれる」


それが、例え一時だけだとしても。


欠けていた片方の翼が根元から再び築き上げられてゆく。
元通りの形を取り戻す頃には、化け物は間近。
吹き抜ける突風は流れを変えて、背後から迫る。煉獄の風と化して。

――貴方のそれで熱くさせて。

反転、炎を上げる手刀を右手で受ける。
まともに止められるとは思っていない。
事実、触れた端から押し潰されて縦に裂けてゆく。そして、炭になってゆく。
ゆっくりと肘を越えて、上腕の半ばでやっと止まる。骨も肉も区別無く粉砕された。
現実感の湧かない光景を、喪失感が強く引き留める。
高揚していた心に痛覚が押し寄せてくる。

――とても、痛い。

わたしは笑っていた。

液体のように崩れた左翼が背を肩を這い、左腕を覆う。
暗く滑る表面に棘が生える。長く、太く、短く細く。
曲がり歪に捻れて湾曲し水平に弧を描き直線の斜めで垂直な、棘。
湾曲し斜めで垂直な捻れて歪に水平に曲がり弧を描き直線の、棘。
棘。棘。棘棘棘棘棘棘棘棘棘棘棘。
禍々しく彩られた左腕を、横一文字に斬線の刻まれた腹部に振るった。

わたしは咲っていた。

振る。
振る。
振る。

わたしは嗤っていた。

177 名前:浅倉威/仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/05/30(金) 02:43

浅倉威vs夜香
>>170
 
幾度となく繰り出される蹴りが、俺を打ち貫いていく。
ガン、ガン、ガン、と、鎧を通して衝撃が痛みとなって襲い来る。
その痛みが、俺の肉体と魂とを突き上げ、昂ぶらせていく。
 
「ああ……いい感じだ……」
 
思わず、吐息が漏れる。
上空からひたすら蹴りに陵辱される屈辱。
しかし、俺にとってはその屈辱さえも快感なのさ。
 
だが―――――ずっと続くってのは気に要らん。
 
「環境には変化が必要だ―――――違うか?」
 
迫り来る蹴りを薙ぎ払うように、俺はベノサーベルを思いっきり振るった。
 
「例えば足の一本なくしてみるとかなァ!」

178 名前:夜香(M):2003/05/30(金) 02:52

浅倉威vs夜香
>>177
陶酔が木霊する。魔鳥の如く夜を駆ける。私は男へ体で話し掛ける。
打撃を積み重ね、蹴りの陵辱を与える。
 
男の声を聞く。微笑みが漏れる。
私が浴びたくても浴びられない太陽の輝きのように感じられる。
いや、黒い太陽というべきか。
 
『環境には変化が必要だ―――――違うか?』
男が問う。
 
「ええ、特に慣れない場合は」
 
うなずく。男が次に何をしてくるかが楽しみになる。
 
斬撃が私の足を薙ぐ。蹴り足を落とされる。
素晴らしい切れ味だった。血潮が吹き出て、私の渇きが加速していた。
 
「ああ、これは素晴らしい。お返しをさせていただきます」
 
背に翼を生やし、体勢を整え着地しながら男へ返す。
左足一本で地を蹴り、気砲でさらに加速する。
 
懐に飛び込んでの肘打ち。
それが私のお返しだった。

179 名前:浅倉威/仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/05/30(金) 03:46

浅倉威vs夜香
>>178
 
ぼとり。
粘度の高い血をまとわりつかせながら、ヤツの足が血に落ちる。
なかなかにいい光景だ。だが、それを堪能している暇はない。
 
がぁん。
肘打ちが強く、俺の顎をカチ上げたのだ。
脳が揺れ、全身が揺れ、俺の身体を震わせる。
気を失いそうなほどの衝撃。悪くない。
 
「だが、こんなんじゃお返しにもならんなァ……」
 
もっとこの感覚を味合わせてくれ――――お前にも味合わせてやるからな。
大きくのけぞった状態から上半身を引き戻し、態勢を立て直す。
そのまま剣を後に放り投げる。
 
「とりあえず、受けた分は利子つけて返すぜ!」
 
頬骨を狙い、腕を撓らせる。中指を尖らせ、大振りの右フックを放つ。

180 名前:夜香(M):2003/05/30(金) 17:54

浅倉威vs夜香
>>179
男はのけぞった。本来ならば胴を狙ったはずが気砲による加速で上向きへとなった。
構わない。私の熱がさらに上がっているのだから。
男もそれに応えて剣を投げはなつ。
 
一本拳によるフック。鼻が曲がる、鼻腔を伝いさらに血が流れる。
熱い、とてつもなく熱い。
血潮による熱さではなく、男の魂の熱さが伝わってくる。 
 
狂おしいとても狂おしい。
こんなにも熱い思いが伝わってくるのは久しぶりだ。
 
私が愛する者はとてもツレない。
それだけに余計に熱く感じる。
ああ、もっともっと愉しもう。
 
「ええ、もっと傷つけあいましょう。
 それが一番の愉しみなので」
 
愉悦を隠さずに私は見ず知らずの男に言った。
こうもさらけ出す私はなんと卑しい男なのだろうか。
私は微笑みながら気砲と腕を軸に残った足で回し蹴りを男へと放つ。

181 名前:浅倉威/仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/05/30(金) 21:09

浅倉威vs夜香
>>180
 
その蹴りはまさしく死を引き連れた旋風だった。
仮面をぶち抜いて頭蓋を振動させ、脳がぐらりと揺らいだのがよくわかる。
ヘルメットがなければ、即死だった。
 
「その蹴り……Yesだな! いいぞ、もっといじめぬけ!」
 
咆哮をあげて、頭痛と吐き気とを追い出し、さらに自分の神経を昂ぶらせる。
俺はもう態勢を立て直しもせず、ぐらついた身体でヤツに踏み込む。
  
「クッハハハハハハ! 死ねよやぁ! 死ぬなよぉ!」
 
戦いの歓喜に哄笑をあげながら、右のボディブローを連打連打連打。
レバーに拳を何度も叩き込む。抉るように胃を突き上げる。
さぁ、充分に攪拌された自分の内臓を吐き出してみせろよ!

182 名前:鈴鹿御前 ◆wzY4SUZUKA:2003/05/30(金) 21:14

『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ
>>169
 
 ──メリッサ。
 耳慣れぬ異国の名。
 自分が倒す相手──或いは、自分を倒す相手の名。
 
 唇の端に、自然と笑みが浮かぶ。
 迷いもない。後悔もない。
 ただ一度──己の最高の一刀を、ただ振り抜くのみ。
 
 
 地を蹴った。
 我と彼の影を映すべき月は群雲に隠れ、風の音も虫の声さえも静かに消える。
 
 地を駆けた。
 この瞳に映るは異国の妖魅。
 外貌は異なれども内面は変わらぬ──そして、この一刀に賭ける意志も。
 
 刀が、大剣が。
 ────風を播いて振り上げられ。
 ────風を切って振り下ろされ。
 
 
 
 そして、二つの影が交差する。

183 名前:鈴鹿御前 ◆wzY4SUZUKA:2003/05/30(金) 21:14

>>169 >>182
 
 ────月にかかる雲を、折からの強風が吹き散らしていく。
 
 
 淡い銀光の下、時折吹く風に下草が揺れるのを除けば、動くものは何一つ無い。
 遠く鳴き交わす虫たちも、森に長嘯する梟も、今夜だけは息を潜めたように黙して語らぬ。
  
 
 静かな世界。
 地面に突き立った二振りの剣だけが、月明かりを受けて澄んだ光を放っていた────
 
 
 
 
 
 『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ 
 レス番纏め
 
 >59 >60 >61 >62 >63 >64 >66 >67 >68 >69 >70 >72 >73 >75
 >127 >136 >169 >182 >183
 
 
 感想等、宛先
 
 http://www.tpot2.com/~vampirkrieg/bbs/test/read.cgi/vampire/1053814090/
 http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi/ikkoku/1035898557/

184 名前:ブラムス ◆vOzBAMUTHU:2003/05/30(金) 22:16

モリガン対ブラムス『王と女王、其の戯れに過ぎず』
>>176
 
それは、鞭でもなければ触手でもなかった。
棘だった。幾重にも束ねられ太く、酷く歪んで捻れていたが、それは明らかに
棘であり、棘以外の何物でもなかった。
 
血が流れるのは偽りではない。
傷口を更に抉る棘。歪な形は肉を裂き、筋を千切り。臓腑を抉り荒れ狂う。
腸が裂け、脾臓、肝臓、肺を尽く破り。
傷と口から鮮血が込み上げては、滝のように噴き出しては散る。
 
血が滾るのは偽りではない。
無意識の内に王は嗤う。獣よりも尚凶暴な、業深き修羅の嗤いを。
痛みが心地よい。
久しく失われていた闘争の味。血を流す醍醐味。
拳足用いて戦い尽くす歓喜を思い出し、嗤う。
 
「…お前には、随分と世話になった」
 
不意に脱力。尚も暴れ闇を裂き、王の体を刻み続ける棘は見ず。
眼差しは正面へ。哄笑を続ける隻腕の女王へと注ぐ。
両腕を垂らし、
 
檄。
 
夜を裂き、弾ける夜気。
腕そのものの視認は出来ない。世界に映るのは残影の軌道のみ。
音を超え、蛇のしなやかさで縦横に。鞭というには重く、打撃というには疾すぎて。
繰り出される両腕。軌道は棘の軌道に触れ、重なり。
 
連続で打ち合う音。その数一秒で十余発。
 
「これは礼だ―――受け取るがいい」
 
逸らして刹那。隙を見つけ、打ち込むのも刹那。
音を超え、正面より八方。死を与えんと拳風が吹く。

185 名前:夜香(M):2003/05/30(金) 23:03

浅倉威vs夜香
>>181
今の蹴りは男に大打撃を与えたようだ。
そう思ったのもつかの間、私は足を掴まれ、動きが固定される。
男は哄笑を上げながら私の腹部へ拳を何度も叩きつけた。
 
矛盾した叫びが聞こえる。いや、矛盾はしていない。
お互いの渇きはまだ癒えていないのだから。
喀血する。私の中から命の源が次々と失われてゆく。
 
「では、私も行きましょう」
 
吐いた血潮と共に、私は吸引する気砲を撃つ。
私の断たれた左足を引き寄せる。
 
「こんなのはどうですか?」
 
血に渇いた眼差しで男を見上げながら左足を片手に振るって男の拳を攻めた。

186 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/30(金) 23:16

モリガン対ブラムス 『王と女王、其の戯れに過ぎず』

>>184

突き刺さる。
笑う。
刺し抉る。
嗤う。
その手応えに笑う。その匂いに嗤う。酔い、溺れる。
没頭した。
何度目か――それは二度目かもしれず、或いは十も繰り返した後かもしれず、
回数は最早問題ではなく、ただその行為を、ひたすらに―――


順序を付ける意味すら虚しいほど、だった。

右頬。内側から爆発したかのよう。
左脇腹。折れていた肋骨が、ずれて肺に食い込む。
肩。腹部。太腿。頭頂部。他にも、他にも。
片腕で防げる筈も無く、そんな勿体無い事をする筈も無く。
成す術も無く蹂躙される。

「……ははっ。あは、はははは。ふふ、は、」

狂笑の下からこみ上げてきたモノを吐く。
零れ落ちる。吐く。とめどなく溢れてくる。
吐いて吐いてやっと止まる。

左腕を覆っていた翼がゴムの様に跳ねて戻る。
右腕を横に掲げる。今は無い、ほぼ焼失した腕。右翼を大きく広げる。
数瞬前まで腕の在った空間に蝙蝠の翼が溶けて流れこむ。
黒い右腕。
それは意思に寄って変容する。

――刃物が良い。それなら、

左腕が斬れる。自分の。

斬った。
右腕と同じ様に腕を造って、落下し始めていた左腕を左腕で掴み、化け物の顔に投げ付ける。
ありったけの愛を込めて。

わたしは右。
                                   『わたし』は左。

急ごう。気ばかりが急く。
僅かなの距離すらもどかしく思いながら間合いを取る。
右腕を上に、左腕を下に。手の平を向かい合わせて前に突き出す。
それらは意思に寄って変容する。
腕だったそれは解け、砲口を象った。
眩く輝く気持ちを込めて。

「「ははっ……。一緒に、いきましょう」」

御し切れない。暴発してしまいそう。
全てを押し流す色彩の奔流を、わたしと『わたし』は解き放った。

187 名前:ブラムス ◆vOzBAMUTHU:2003/05/31(土) 00:59

モリガン対ブラムス 『王と女王、其の戯れに過ぎず』
>>186
 
切り落とした左手を投げつけるのは終幕の合図であり。
それを払い除けずに受け取るのは同意の証。
求愛の主は一人から二人に。
妖笑が双つ。殺意が双つ。狂笑が双つ。
そして今にも溢れ出て、全てを蹂躙せんとする閃光が双つ。
 
「是非も無い」
 
腰落とし、胴を捻り。折り曲げた両手、その掌は開かれ握るように。
掌と掌の間にある空間、凝縮されるは紅蓮の熱量。
満身創痍な『今の』力―――十全ではない、だが今は確実な全力――その全てを
一点に注ぎ込み練り上げて。
赤熱する両手は確かに光れど、その色は奇妙にも深くて暗く。
瞬く間に生じたこれは黄昏の太陽か、赤く光る満月か。
紫電を放ちて紅く輝く、灼熱の球体。
その凄まじい力の胎動に慄いたのか、大気は渦巻き吹きすさぶ。
 
次瞬には自らの両掌を砲口に見立て、奇しくも相手と同じ型、同じ構え。
解放はラプラスの魔の寵愛を受けたかと思えるほど同時に。
 
 
奔流という名の波動。
                            波動という名の破壊。
 
 
互いの力が衝突し、生まれるは恒星さながらの光と衝撃、そして熱。
開闢同然の爆発は夜を照らし、周囲全てを打ち払う。
その圏内、あるもの全てを焼き払う。
修羅と修羅、互いの姿を掻き消し払う。

188 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/05/31(土) 01:36

モリガン対ブラムス 『王と女王、其の戯れに過ぎず』

>>187

ぶつかり合って、飛沫が飛ぶ。
砕けて、赤く、融けて、紫。
虚空を支配する闇すらも駆逐し、二つの力は拮抗する。

――は、

もっと。
熱く激しく。
もっともっともっと。
昂ぶれ感じろ昇り詰めろ。

――っ、

二つの色が揺らいでいる。
ゆらゆら、ゆらゆら。
次第に傾いてゆく。
ゆらゆら、
ゆら、



足りない。

こちらに流れてくる。紫と赤。温度が上がる。
焼ける灼ける。押し戻される。
動けなどしない。

もう、良い。

「「―――また、会いましょう」」

鬼にて奇な縁が、ここではない何処かで交わっていれば。
自身の渾身と相手の渾身。
混ざり合った赤と紫に飲み込まれながら感覚が途絶する。

そして、


意識が、断絶した。

189 名前:アーカード ◆VAMPKPfGto:2003/05/31(土) 01:36

>175 Duel of the fates -鵺- Kresnik vs Arucard
 
 正気の沙汰ではない。
 順を追って回想するならば、それは異常な数秒間。
 言ってしまおうか。全ての破壊は、一瞬で連結したのだ。
 最初に襲いかかってきたのは、塊のような熱波だ。暴力的な爆風が全身をずたずたに切り刻む。
再生が始まるのは即座だったが、直後に再度の爆発。榴弾頭の破片は、下半身を腰から吹き飛ばし
ていた。生まれた火炎は鎮火しない。まるで地獄の釜の底――追撃はすぐだ。炎の壁の奥、弾丸の
雨は一発の洩れもなくアーカードを穿つ。アーカードの再生は即座だが、畳み掛ける破壊もまた、
突風の速さを持って行われた。
 破裂する光の膜。壊れた上半身でアーカードが見たのは、
 
「・………ははは」
 
 空を押し潰す、巨大な墓標。
 轟音が鳴り響く。闇天を貫く古惚けた摩天楼の四つは、正しく墓標となってアーカードをその内
へと押し込めた。
 破滅的な質量が内に存在した車輌も遮蔽物も粉砕し、粉塵を巻き上げ、アスファルトを砕いて地
下通路へとその破壊の手を伸ばす。
 一区画はそれだけで崩壊した。生命の痕跡は完全に消滅した。
 ―――だが。
 がらりと音がする。
 舞い上がる埃と火の粉と、血臭混じりの風の静寂の中、ちいさく、その音は鳴り響く。
 がら。
 連鎖する墓標の最下部、真っ先に倒れたビルが、傾いだ。
 がらり。
 墓標の二つ目。一つ目との接触部分が、砕けて地面に落下する。
 がらがら。
 小さかった音は、もはや小地震だ。四つのビルは小刻みに揺れ動いている。
 がらがらがら―――
 そして。

190 名前:アーカード ◆VAMPKPfGto:2003/05/31(土) 01:39

>189
 
「―――小賢しい」
 
 言いつつ、その口元は笑っていた。最下層のビル、砕けたその一部を片腕で押し上げているのは、
見紛う事もない、アーカード。
 数百トンにも及ぶ質量の爆弾を直撃で受け止め、不死王は笑顔すら浮かべて再起してみせたのだ。
 
「小賢しい人間め………人間め。ははは、あの人間め!」
 
 実際、奴は"やる=B手を叩いて賛辞を述べてやりたいほど。
 二連の爆薬は確実に集束し、炎の渦を人為的に生み出した。直後の掃射は標的を捉えてもいない
というのに、気が違ったような正確さだった。仕上げにビルの崩落。正気とは思えない行動だ。
 大した物だ。とてもとても、これは大した物だ。
 しかし、それでもまだアーカードが冷静を失わないのは、また当然と言えた。
 例えば、どんなバケモノとも違うのは、このアーカードという化物は、形なきモノだという事。
身体の造りから、根本から、この化物はそもそも違っているという事なのだ。
 人が本能的に恐怖を抱くのが闇であるのは、それが先の見えない、予測の出来ない物だからに他
なるまい。その点において、アーカードは――それがどんなモノであろうとも――己を越える化物
の存在を絶無とするのだ。
 
「小賢しい。小賢しい、小賢しい小賢しい………くくく、最高に最悪だ」
 
 彼こそは闇。夜の王にしてその化身。世界が夜に覆われた今であるなら、アーカードは世界だ。
夜の王は万軍を率いる将となり、四十万に潜む闇の全てが彼の兵となる。
 ちらりと気配の逃げさった方向に目をやる。
 影も形も、痕跡すら残さずに―――だが、破壊の痕跡だけはまざまざと刻み付けて―――立ち去
った手際は、全く素晴らしい。化物と正面から戦う人間はいない。
 その通りだ、貴様は自然だ。
 
「そうとも。お前は最悪だ、化け物殺しの人間め」
 
 新たな弾倉を銃杷に押し込んで、二丁に殺意を満たす。
 ばきり。踵が脚下の頭蓋の破片を一つ、踏み砕いた。
 アーカードは歩き出す。この上ない愉悦の元に。

191 名前:ブラムス ◆vOzBAMUTHU:2003/05/31(土) 03:53

モリガン対ブラムス『王と女王、其の戯れに過ぎず』
 
>>188
 
空を彩る美しい月。
その遥か下に聳え立つ、とある古城の頂。
堅牢だった筈の屋根は刻まれ罅割れ、無様に崩れ。
かつて在った筈の尖塔は影も無い。
破壊の痕跡はありありと深く。全壊に至らぬのは奇跡なのか。
 
其処に一人、不死王は佇んでいた。
意識が闇に落ちたのも数刻に満たず、その体は既に傷一つ無く。
ただ紅の眼差しを、天空の彼方へ向けて。
 
「…そうだ、モリガンよ。我等は不死、永劫を往く者」
 
月は何処までも、美しく輝いている。
今宵起こった全てを睥睨し、空に超然と鎮座している。
 
「我等が戦を欲するならば、また会うこともあるだろう」
 
風は冷たく、心地よく。
王の心に感傷は無く、ただ、余韻と僅かな期待を秘めて。
 
「さらばだ――――この場は一先ず、な」
 
美しい、見る者全てを魅了して、狂わせんとばかりに美しい月。
全てはそんな、とある月夜に起こった戯れ。

192 名前:vOzBAMUTHU:2003/05/31(土) 04:00

かくて一つの戯れは終わり。
砕けて散った瓦礫の跡は、この宴の歴程を如実に語る。
まるで、今宵起こった事全てを書き綴るかのように。
 
レス番纏め
>>146 >>147 >>148 >>149 >>150 >>154 >>156 >>157 >>158 >>159
>>171 >>172 >>174 >>176 >>184 >>186 >>187 >>188 >>191
 
感想宛先
http://www.tpot2.com/~vampirkrieg/bbs/test/read.cgi/vampire/1053814090/
http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi/ikkoku/1035898557/

193 名前:ピート(M):2003/05/31(土) 16:48

Prologue


吸血鬼と言う存在は、様々な理由から人間の血液を狙う。
あるものは生命維持のために。あるものはただ快楽のために。
衝動に身を任せて。同類欲しさから。

彼とその一族は、主に己の寿命を延ばすために血を求めていた。
彼の名はピート。『黒き翼を持つ一族』の中でもまだ年若い、一族の新参者である。
彼は好んで子供を狙ってその血を奪う。
彼の外見が小学生程度にしか見えないと言う事もあるが、それよりも成熟していない
人間の方がより強いエネルギーを保有しているから、と言う理由の方が大きい。

今宵もまた獲物を求めて街中を歩いていると、都合よく塾帰りの小学生が見つかった。
内心の歓喜を押し殺し、ゆっくりと少年の方へと向かっていく。


 ―――今夜も、良い夜になりそうですね―――

194 名前:シエル(M):2003/05/31(土) 17:21

 
 輪――1つに繋がったそれは始まりもなければ終わりも無い。
      延々と、同じ過程を辿り、そして、続いていく。
      果てがないと言う意味で正しく無限だろう。
 
 
 1つの輪があった。
 わたしはそれを延々と辿りつづけていた。
 傷つけられ、壊され、殺され、消され―――それでも、わたしは終わる事がなかった。
 
 当然だろう。
 輪には終わりがないのだから、わたしも終わらない。
 世界は自己を保全する為にわたしに終わりを与える事なく、生かし続けた。
 
 
 ――――そして、ここ、極東の地でそれは断ち切られた。
 
 
 わたしを生かし続けた元凶が神域の能力「直死の魔眼」を持つ少年によって消滅し、
 わたしが辿りつづけていた輪もただの直線へと………
 
 ……しかし、何も終わっていないのも現実だ。
 わたしの輪は未だ断ち切れていない。
                         ―――――否、断ち切れる事は無い……

195 名前:シエル(M):2003/05/31(土) 17:21

>>194
 
 ある日を境にそれは起こった。
 
 小学生程度の年齢の子供が次々と大量に血を抜かれる。
 抜かれた子供たちは皆病院で意識不明……
 そして、子供たちには噛み跡とおぼしきものが……
 
 ……子供が襲われる時間は夜半。
 疑うまでも無く、吸血種の仕業、か。
 
 
 輪は続く、何処までも。
 きっと、わたしの生きている限り、果てが無く繰り返されるだろう。
 けれど、わたしはそれを辿るしかない。
 それが『シエル』――弓と名づけられたわたしの業なのだから。
 
 
 
 夜の通りには人気がない。
 件(くだん)の事件のせいだろう。
 ただひんやりとした空気が通りを支配す―――――
 
           ――――――――――
 
 少年らしき悲鳴がそれを突き破った。
 
 もう、来た……!
 まさか、こんなに早く出くわすとは……
 
 内心の焦りを押さえつつ、わたしは声の元に駆ける。
 
 
 
 金髪の少年が1人の少年を襲っていた。
 目を赤く爛々と光らせ、その爪を獲物の首へと………
 
 ひゅんと空気を切り裂く音。
 黒い剣が少年の足元に突き刺さる。
 
「そこまでです、吸血鬼。埋葬機関第7位『弓』のシエルが貴方を在るべき所へと還します」
 
 そして、今夜もわたしは輪を辿りつづける―――――――

196 名前:ピート(M):2003/05/31(土) 17:45

シエルvsピート
>>194 >>195

(クッ、邪魔が入りましたか・・・・・・)

突然の闖入者に好意を中断され、彼は苛立ちを押し殺しながら彼女の方へと向き直る。
カソックを着、投剣を構えて立つ女。
それは、彼らの間では非常に有名な存在であった。

「ハハハッ、これはこれは。ご高名はかねがね伺っていますよ」

犠牲者を振り落とし、彼はその場で姿勢を正す。
ばさり、と背中にしまってあった黒い蝙蝠の二枚羽を展開し、

「失礼、申し遅れました。僕の名前はピート。誇り高き『黒き翼を持つ一族』の一員です」

彼も名乗りを返す。
空中で丁寧に一礼し・・・

次の瞬間、高速で相手の後ろに回りこみ、その耳元に囁きかけた。

「どうぞ、お見知りおきを」

197 名前:DIO(M):2003/05/31(土) 18:12

DIOvsff 〜世界vs最強〜

その部屋には蜘蛛の巣が一面に張り巡らされ、いたる所に埃が詰まっていた。
いつから手入れをされていないのだろうか、ろくにその判断をつけることすらできない。
間違いなく人間が住んでいない、死んだ部屋だった。

しかし、その部屋の主は確かにいた。
古い書物を手に椅子にかけ、静かにその書物に読みふけっていた。
部屋の住人がいるのに「人間が住んでいない」とは奇妙な言葉ではある。
だが、それは事実なのだ。

そしてその事実を証明するには、さらなる奇妙な事実を語らねばならないッ!

その部屋の主の名はディオ・ブランドー。
「石仮面」と呼ばれる古代アステカの恐るべき道具により―――――
「吸血鬼」と化した男なのだッ!

さらにディオは百年の眠りを経て、「スタンド」と呼ばれる能力をも身につけていたッ!

今やディオは世界を脅かす能力!
そして世界を支配するにふさわしい能力を身につけていたッ!

もっとも、誰もがそれを放っておくわけはなかった。
世界を監視する組織、「統和機構」。
その組織が、ディオの元へと最強の刺客を送りこんでいたのだッ!

(ズキュウウウウウウウウウウン!)

198 名前:シエル(M):2003/05/31(土) 18:20

>>196
 
 ばさりと羽を広げながら、慇懃無礼に名乗りを上げる吸血鬼。
 だが、その立ち込める禍々しい気配は全く抑えられていない。
 
「―――――!」
 
 消えた、そうとしか捉えられなかった。
 ぞわりと空気が蠢いて、後ろから囁かれる声。
 
「……随分、余裕ですね、吸血鬼。次の瞬間、滅ぼされているかもしれないというのに」
 
  余裕、といえば余裕なのだろう。
  吸血鬼は人のそれよりはるかに長く生き、物事を織る。
  感覚は長い時間の間に磨耗し、劣化し――――その感覚を以って人の想像を越えた趣味を持つ。
 
  聴く――――悲鳴、絶叫、怨唆
 
  壊す――――人を、物を、肉を
 
  奪う――――血を、赤を、命を
 
 ……黒鍵を持つ右手に自然と力が篭る。
 彼等の思考について考えを巡らしただけで、体温が数度は上昇したような感覚。
 
  これらの行為を一時の戯言として愉しむ、それが吸血鬼。
  血を吸う鬼であり、破壊者であり、簒奪者。
  わたし、否、わたしだったもの<エレイシア>の全てを壊し、奪ったもの――――吸血鬼。
 
 高まる鼓動。熱くなっていく思考。
 それらを押さえつけて、わたしは口を開く。
 
「否、滅ぼします!」
 
 振り返り様に右手の黒鍵の一閃。
 動作の反動で十分に勢いを増した黒鍵がが吸血鬼を滅ぼす為に唸る。

199 名前:リィ舞阪 ◆6qffffffSE:2003/05/31(土) 18:37

>>197
DIOvsff 〜世界vs最強〜
 
こつん、こつん、と物音がする。
何かに何かを打ち付ける――そう、まるで靴を石畳へと打ちつけているような音。
それは「まるで」でも何でもなく、まさに人が石畳の上を歩いているのだ。
歩幅はそれほど広くはない。それらの情報から推測すると、恐らく14,5歳くらいの少年なのだろう。
 
「さて、お前に一つ、聞きたいことがある」
 
ランプの薄明かりに照らされたその人影は、
紫色の体にフィットした服を着た、少年と言える年頃の男だった。
だがその目つきはぎらぎらしており、その印象は少年と呼べたものではない。
 
「お前は最強か? 俺は最強だ?」
 
確かめるように、目の前にいる男に、そして自身に問いかけると、
少年は静かに……そして熱く語り始めた。
 
「俺は、お前が『世界』を脅かす能力を持っている……と、そう聞いている。
 だが、その『世界』が何なのかを俺は知らない。
 もしかしたら、そいつはとてつもなく強えーものなのかもしれない。
 ならば、俺はそいつと戦ってみようと思う」
 
そこまで早口に語ると、急に苦虫を噛み潰したような顔になり、
 
「だがな、俺はそいつと闘う術(すべ)を知らん。
 もしかしたら、いつかそいつの正体がわかって、思う存分戦えるのかもしれん―――が、
 俺は今、そいつと戦ってみたい。ならばどうすれば良いか。答えはおのずと出てくるだろう?」
 
そういうと少年は、右腕を肩の高さまで持ち上げる。
 
「そう、『世界』を脅かす――つまり、世界よりも強いかも知れねー奴と、戦ってみれば良い。
 申し遅れたな。俺の名は“最強”――フォルテッシモと呼ばれている」
 
少年は――フォルテッシモは、まるで戦闘開始のファンファーレと言わんばかりに、
指を「ぱちり」と鳴らした。
 
「本を読むのならば、この俺のために兵法書でも読んでいるのが似合っているぞッ!」
 
DIOの頭部が存在する空間が、音もなく裂け始めた。

200 名前:ピート(M):2003/05/31(土) 18:44

シエルvsピート
>>198

「そうですね。もっとも、あなたの方は余裕が少々足りないようですが」

哄笑を交えながら、彼の肉体は虚空を滑る様に移動を重ねる。
明らかに大したスピードは出ていないように見受けられるののにも拘らず、
投げ付けられた短剣は、ただの一発も彼の元へと届く事はなかった。

「ハハッ、何処を向いているんですか? 僕はこっちですよ」

急加速して眼前まで迫り、その頬を爪で軽くなぞる。
まったく他愛もない。これが音に聞こえた代行者の姿だとは。
まあ、良い。
適当にからかった後、その血を奪って始末すれば良い事だ。
彼女の魔力保有量はかなりのものだと聞いている。
ならばきっと、寿命を延ばすのにも都合が良いだろう。

そんなことを考えながら、再び彼は虚空を駆け回る。
彼女の首筋に牙を突き立てる、その一瞬を夢想しながら。

201 名前:DIO(M):2003/05/31(土) 18:59

DIOvsff 〜世界vs最強〜
>>199
 
ズッギャアァァァァァァァァァァン!!
 
不可視の衝撃波がDIOの存在する空間を襲う。
バリバリと床を裂き、闇のようなクレバスを産み出した。
だが、その深淵にDIOの姿が呑み込まれることはなかった。
何故ならッ! すでにッ! DIOはその場から離れていたからだッ!
 
張り裂けたのは、その場に残された書物だけだったッ!
ふたつに断たれた書物が床に落ちると同時に、DIOの声は意外な場所から響いたッ!
 
「んんん〜〜〜〜〜……すると、君はこう言いたいわけだ、『最強』?」
 
トン、トン、と自分の額を指で突付きながら、そう言って見せるDIO。
何時の間に、どうやって移動したのか、彼はフォルテッシモの背後にいた。
 
「君は自分が『最強』である『安心』を得るために戦っている。
 その『安心』を得るためにこのDIOを倒そう……と、こう言いたいわけだ?」
  
パン、パン、と軽く拍手してみせるDIO。
 
「人は『安心』を得るために戦うものだ。
 だがフォルテッシモ、『最強』という言葉は不安定なものだとは思わないかね?
 自分が『最強』である『保証』は、戦い続けなくては得られない……。
 それは、血を吐きながら続けるマラソンだよ。」
  
DIOはそこで「ニヤ」と、皮肉げに口元を笑みに歪めた。
 
「そこでこのDIOはこう考える……。
 君は私に血を吸われ、私に永遠の忠誠を誓った方がいいのではないか……とね。
 吸血鬼となれば、永き時を生きることができる。永遠に戦うことができる。
 血を吐くことなくマラソンを続けられるぞッ!」

言葉を終えるとともに、DIOは形容しがたい奇妙なポーズを取ったッ!

202 名前:浅倉威/仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/05/31(土) 19:47

浅倉威vs夜香
>>185
 
骨と骨とがぶつかり合い、圧搾され、砕ける音。
ヤツが振るったヤツ自身の足と、俺の振るった俺自身の拳。
その激突が、奇妙で耳障りな音を産み出した。
 
「イラつく音だな―――――」
 
拳の痛みなどはもはや感じない。
戦える歓喜がそれを上回る。
しかし戦いの道具が一個潰れたのは、許せない。
 
半壊した拳で俺は杖を手にし、片手で腰のベルトからカードを抜き、杖に装填。
 
「アドベント」
 
機械音声がミラーワールドに伝わり、バックミラーから紫の蛇が姿を顕わす。
 
「シャワーでも浴びると思えばいいだろ―――――?」
 
俺がそう言うのと同時に、蛇はヤツに対して毒液を吐きかけた。

203 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/05/31(土) 20:21

 Duel of the fates -Fool's game- Kresnik vs Arucard
 
>>190
 
 ――夜は、異世界だ。
 
 夜。
 最も身近に異形の跳梁する、世界から切り離された異界。
 闇で生きて来た俺。それは知悉している。けれど、ヤツは夜その物。
 知る者と、ソレその物。力の差は確かに歴然だ。
 充分見せ付けて貰った。解ったよ、アーカード。オマエは強い。
 だけど、それが何だ? もう充分だ。飽きた。
 
 何を躊躇う事もない。今するべきは落ち着く事。
 たった一つ。
 ただ、ソレだけだ。
 回想するのはいつでも良い。地獄に落ちてから出来る事は後回しだ。
 ズキズキと脳が軋みを上げる。
 ドクドクと脈が暴れ回る。
 動脈を通過する血液の気配すら如実に感じ取れる。
 全身が知覚神経にでもなったような感触。
 ……勿論、そんなのは錯覚だ。
 極大の緊張感が神経を昂ぶらせているに過ぎない――それでも。
 それでも。
 
 ――それでも、今はこの感触に身を任せたい。
 
 視線は月より低く、家々より高い。
 一際高い廃墟のビルの16階は、地上約30メートル。
 標的は2キロの向こう――窓から望む、サイトの中を悠然と歩く紅い影。
 スコープに神経がマウントされる。視覚はデジタルズームされたクロスラインに直
結して指先はトリガーと一体化する。
 アンチマテリアルライフル、"Spear of s'nt George"。
 全長3メートル、重量195キロ。長大なオクタゴンバレルから発射されるのは、口
径25ミリのフレシェット。先端の巨大なマズルブレーキは、まるでトライデントの穂
先だ。弾頭は儀式用のエノク語とヘブライ語で覆われ、メタルコートした内部には聖
体が弾芯と一緒に埋めてある。弾殻内部の充填装薬は、榴弾と傷痍効果内包の特
性エクスプローシヴ――まるでバケモノ。正気の沙汰じゃない。
 最大射程3.5キロの炸薬が生み出す初速は現存するどんなライフルも上回るコト
だろう。
 けど――まあ。そんなスペックなんてどうでも良い。
 ……見えてるか? アーカード。俺には見える。
 オマエにとって、俺は事実上の不可視。空気に等しい存在だ。
 オマエの全てを補足している。後はクロスラインに補足して、トリガーを思い切り押
し込むだけ。Right Between The Eyes Pointe Blank、サヨナラだ。
 逃げられない。
 逃しやしない。
 お前は死ぬ……死ぬんだ。
 油の匂いが鼻を突く。頬に押し当てた銃底が、冷えた夜気と一緒に脳髄をクール
ダウンさせてくれる。
 

204 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/05/31(土) 20:30

>>203
 
 ――昔。ずっと、ずっと昔。
 
 寒くて凍えていた俺が、温もりを得る事が出来た大切な時間。
 二度と独りになりたくないと思った。
 やっぱり叶わなかった。死んだ。みんなは死んだ。俺が殺した。俺に殺された。
 そう。そうだ。仕方無かった。
 アイツは人間じゃなくなって、殺さなきゃいけなくて。
 くそ、殺してくれなんて言わないでくれ。殺した、お前を。お前等を。大好きなお前達
を、無慈悲に、無情に、冷酷に殺した! 何様のつもりだ、俺は!?
 殺した。
 殺したくないのに殺して、殺して殺して殺して、
 馬鹿。何処が仕方ないんだ。お前達を、殺して、俺は。
 俺は、まだ生きてる。生き延びてる。
 なんて傑作。この矛盾。この馬鹿馬鹿しさ!
 くく……は、はは! 傑作過ぎるな。この、ゲスめ。
 素晴らしいさ。素晴らしい、この馬鹿さ加減が! お前は自分が神だとでも思ってる
のか? 自分の卑小さを棚に上げ、家族の命を奪っていいとでも思ってるのか!?
 ふふ、はは、バカな俺。意味のない俺、だから、だからだから!
 ……はは、この、馬鹿。
 自分で居場所を無くして、自分で拠り所を無くして、それで、それで、それで!?
 その結果がコレか!
 く――くく! 傑作だぞ、この馬鹿め!
 救い様のない愚者。そうさ、俺には救いなんて要らない。救われて良い筈もない。
 救いが必要なのはこの世界の全て。最悪の道化は俺。終わりもしないサーカスで、
観客も無しに踊り続ける無様なピエロ。
 
 ……いや。
 
「それは、別に良いんだ」
 
 俺が望んだ事だ。ソレは良い。
 さあ、今宵の観客はヘカテー、貴女1人。
 最後までこの劇を公演し尽くしてみせましょう。さあお立会い、クズの観客の皆様。
 この俺にラストまでお付き合い下さいませ。本日のゲストはヴァンパイア=ロード、
アーカード。最高のヴァンパイアに御座います。
 回想は終えた、躊躇いは潰えた。標的は捉えた。白く濁った世界。レティクルの赤
い十字線には紅い影。
 軽く息を吸って、緩く吐き出して、雑念と呼吸をそこで殺す。筋肉と骨をライフルに
同調させる。小さな螺旋を描き続けていた銃口が、それで完全停止した。
 完成したのは殺戮空間。人差し指の数センチが作り出す破壊の意味。
 さあ、終わろう。終わりにしよう。一切合財死んでくれ、アーカード。
 
「Ashes to ashes,dust to dust.Big adios, Arcard――」
 
 十字線。標的に合一するサイト。連動する指先。
 緩みは限界まで行き渡り、絞りの直前まで人差し指は引き込まれる。張り詰めた
弦と化した10キロオーヴァーのトリガープルは、後は既に解放を待つだけ。
 口元だけを歪めて――俺は、トリガーを。
 
「――Die」
 
 ズン、と。鎖骨が揺れた。
 肩で衝撃が無造作に暴れる。
 跳ね上がった四つの大口径薬莢のアーチは、ヤケにゆっくりと感じられた。
 

205 名前:シエル(M):2003/05/31(土) 20:49

>>200
 
 黒鍵は虚しく宙を斬ったのみ―――続く吸血鬼の嘲笑。
 
 右へ、左へ、上へ、下へ。
 幾本もの黒鍵が吸血鬼へと飛ぶ。
 ……どれ1つとして当たらない、全て虚しく虚空へと消えるのみ。
 
『ハハッ、何処を向いているんですか? 僕はこっちですよ』
 
 ぐんと迫ってくる吸血鬼、否、もう迫ってきていた。
 血のように真っ赤な瞳がわたしを見据え、笑う。
 血の気のない白い唇がぐにゃりと歪んで、嗤う。
 
             血のように真っ赤な瞳で玩具を見据えて、笑った。
             血の気のない白い唇をぐにゃりと歪ませて、嗤った。
 
 ほおになぞる白い指。
 氷のように冷たいその指。
 
             ほおをなぞった白い指
             氷のように冷たかったその指。
 
 ―――現在の光景
 
             ―――過去の幻視
 
 現在と過去が交差し、悪夢が脳裏によぎる。
 額から汗が流れ、僅かながら呼吸が乱れ、身体が震える。
 
 
             バサリ
 
 
 一瞬の忘我は吸血鬼の羽音で破られる。
 吸血鬼はわたしから離れ、縦横無尽に宙を舞っていた。
 
 はぁ……はぁ――――
 
 落ち着け、これでは相手の思う壺だ。
 過去の幻視などに構ってられない。
 吸血鬼を倒す事を、滅ぼす事を考えなければ………
 
 はぁ――――
 
 ―――あのスピードを、殺さなければ、わたしに勝ち目はない。
 
 考えられる手は……これしかない――――か。
 
「好きなだけ飛び回るといいです。最後は撃ち落されて墜落するんですから――――!」
 
 通りを駆ける。
 コンクリートの道路を蹴って、飛翔する。
 黒鍵を投げる。
 吸血鬼に狙いを定めて、次々に投擲する。
 
 駆ける、跳ぶ、投げる―――吸血鬼を滅ぼしうるその瞬間を作る為に

206 名前:ピート(M):2003/05/31(土) 21:23

シエルvsピート
>>205

「やれやれ、多少は変わった芸の一つも見せて頂けると思ったら・・・」

投剣の乱舞など、先ほどとまったく変わらないではないか。
多少興醒めしたものの、それもまた一興ではないかと思い直す。
彼女のその必死な態度が、彼の嗜虐心を刺激するのだ。

「飛ぶ鳥の一つも落とせないようでは、『弓』の名が泣きますよ?」

ゆっくりと、小馬鹿にするかの様に周囲を飛び回りながら、飛来する
短剣をかわし続ける。

周囲を轟かせる爆発音。まったくの無意味だ。
手持ちの武器を使い切ったら、一体どうするつもりなのだろうか?
それとも、なにやら策の一つでも用意していると?

「―――さて」

彼女の斜め上方、左肩上のあたりで逆さまに静止しながら、彼は宣言する。

「そろそろ飽きました。あなたの血を」

反転して背後に回り、

「頂きます」

その首筋に牙を突き立て―――

207 名前:アーカード ◆VAMPKPfGto:2003/05/31(土) 21:57

>204 Duel of the fates -逢魔ヶ刻- Kresnik vs Arucard
 
 完全な死角から飛来した弾丸は、一瞬一撃で頭部を粉砕した。
 槍のような弾頭の狂った速度と精度と破壊力は、鉄筋製のビルの支柱でも破壊したに違いない。
 思考を断ち切られる、次弾に続く弾丸は直列に首筋へ、胸、腰へと連続。
 成す術もなくアーカードは壊された。
 禍々しい痕跡。頭頂部から股下まで、巨大な斧で叩き潰されたように欠損したアーカードが、今
にも地に伏せようとしていた下半身と両腕が―――ビクンッ! 感電したように震える。
 ―――誰が考えるというのだ?
 四散した頭部で、アーカードは思考する。
 ―――誰が成すというのだ?
 凄まじい、彼は思う。凄まじい、彼は感嘆する。
 これこそが人間なのだ。この暗黒、人間の身での超長距離射撃だ。
 一段目は機会のような精密さで頭部を、続いて飛来した二撃目は胸部を、更に脊椎、繰り返すよ
うに頭部への再狙撃。あの弾丸を使ってこの精度など、どこの人間が成そうというのか。
 ぞろり。
 脇腹に目が生えた。肉を割り、服を割り、生み出された眼球は合計二十を超えた。
 その瞳で、アーカードは見た。
 二kmを越えた狙撃点―――遠く聳えるビルの十六階、そこだ。あたかも昼のように―――否、
吸血種特有の昼よりも優れた視力で、アーカードの視覚はその姿を追尾する。
 そして、その姿を捉えて慄然とした。
 工作重機のように巨大なライフルを端然と構え、凍て付く視線をスコープに置き、今にも風に滲
み出んとする殺意を押し殺して佇む真白い男。
 槍とばかり突き出される凶暴な銃口。立ち登る硝煙は風にくゆり、開戦の狼煙を上げる。どれ程
の狂気だ。神とやらはよほど狂人を作る才能に長けていたに違いない。
 
「ははっ、ははは、はははは! ふふあはは………あははは!」
 
 寸断され、衝撃とエネルギーにペーストされたアーカードの瞳は今や完全に復元している。今し
がた自身を貫いた弾丸を振り返り、そしてまた笑った。大地に突き立つ巨大な針は、まさしく槍。
なるほど、あれではこの結果は当然だろう。奴は聖槍すら持ち出したのだ。
 ―――実に。
 素晴らしい。凄まじい。この領域に辿り着いた事を称賛しよう。ためらいもなく実行した判断を、
手を叩いて賛美しよう、ここまでバケモノらしい人間は億を数えても希有に違いない。
 ちぎれ落ちそうになる右腕が持ち上がる。
 その指が触れるのは、漆黒の対吸血鬼装備、ハンドキャノン『ジャッカル』の引鉄。
 淀みなく、それは三度引かれた。
 跳ね上がる三つの薬莢。異形を浮かび上がらせたマズルフレア。着弾点は目標通り、はるか彼方、
白法衣の死神へ。
 
「いい。いいぞ。実にいい。まずは及第点だ、やはりお前は面白い」
 
 割れた身体は、薬莢が着地する前には起き上がっている。
 全ての傷は、何事もなかったかのように消えて失せた。
 身を戦慄かせる喚起に、アーカードは柔らかく楽しげに、笑った。
 

208 名前:シエル(M):2003/05/31(土) 22:15

>>206
 
 驚異的な速さで吸血鬼は避け続ける。
 全ての黒鍵は暗闇の縁へと消えていく。
 黒鍵の間を巧みに縫って、小馬鹿にした笑いを張り付かせ吸血鬼は宣言する。
 
 ――――あなたの血を
 
 迫る吸血鬼。
 暗い通り。
 誰も居ない空間。
 
         逃げる獲物。
         街の教会。
         周囲には死体の山。
 
 ――――いただきます
 
         上気する頬。
         流れる血。
         
 乱れる呼吸。
 流れる汗。
 
 
 視界が赤く染まって……
 
   過去――――
   そう、わたしは殺した、吸血鬼として………
 
   街の教会、小さな片田舎には立派すぎるその教会。
   豪奢な白亜の建物は真っ赤に染まりきっていた。
                                 こんなことは………
   染めたのは他ならぬわたし。
   血という名前の塗料はそれでも余った。
   面倒なので、そのまま血の池として放置した。
                                 やりたくなかったのに………
   その中を這い回るモノ。
   手足をもがれて棒のようになった生き物が這い回る。
   見つめながら、特にする事もないので笑った。
                                 わたしは………
 
 かりっという音。
 ずきりという痛み。
 
 ……視界が色を取り戻す。
 
 ――――吸血鬼がわたしの血を嚥下していた。
 
 思考が白く染まった――――――
 右手で黒鍵を作り出し、
 吸血鬼の腹に突き刺し、
 
                ズブリ、という嫌な感触。  

209 名前:ピート(M):2003/05/31(土) 23:29

シエルvsピート
>>208

突き立てた牙から伝う血液を啜り、口の中で転がし、舌先で舐め、ゆっくりと嚥下する。
甘い。中々の美味だ。
魔力の方も申し分ない。ここはもう少し―――

「―――はぐっ!!?」

腹部を貫かれた。
血が零れ落ちる。
激痛は、容易く怒りへと転嫁された。

「やって、くれますね・・・」

乱暴に突き放し、口の周りに付いた血を拭う。
キッと睨みつけ、片腕を前に突き出した。

「『黒犬』!! 来い!」

呼び声に答え、魔獣が虚空より姿を現す。
全身を黒く染め、頭部が大型犬のそれに酷似した、巨大な蛇の如き魔獣が。
魔獣は一声鳴くと、いまだ地面に横たわる代行者に向かって襲い掛かった。

210 名前:シエル(M):2003/06/01(日) 00:33

>>209
 
 吸血鬼の口から漏れる、怒りの声/怨唆の声。
 大気が震撼し、現れたのは巨大な黒い蛇。
 
「くっ………」
 
 立ち上がろうとした瞬間に襲い来る全身を襲う気だるい感覚。
 身体に力が入らない。
 血を吸われたのが存外に効いたらしい。
 
 吼える獣。
 襲い来る牙。
 開かれる巨大な顎(あぎと)。
 
 迷う暇は無い――――――
 
 膝にぐっと力を込める。
 足首をしならせて、は跳ぶ―――――魔獣の口の中へと。
 
 
 ……わたしの全身が飛び込むのとその顎(あぎと)が閉じられるのはほぼ同時だった。
 
 
 赤黒く脈動する体内。
 どうやら、中身は普通の蛇と変わりないらしい。
 ならば、打つ手は1つ、狙うは蛇の脳幹、ただ1つ。
 
 黒鍵をそのまま上に向かって突き刺す。
 大きく回りが振動し、わたしという異物を排除しようにかかる。
 
 ――――その前に、排除される前に、わたしは黒鍵の火葬式典を発動し、爆発させた……
 
 
 再び、顎(あぎと)は開かれ、わたしはそこから飛び出す。
 ……外から見た蛇は頭を破壊されてのた打ち回って―――――そして、力尽きた。
 わたしはそれを一瞥した後、吸血鬼を見やる。
 
「……随分、大袈裟な出し物でしたけど、見掛け倒しでしたね。
 まさか、これでおしまいという訳ではありませんよね?」
 
 唇を吊り上げて、吸血鬼を嗤う。
 ……勿論、追い詰められているのはわたし、だ。
 噛まれて、大量に魔力を奪われた上に、タイムリミットまで課せられてしまった。
 
 あの吸血鬼を滅ぼして、然るべき処置を取らなければ、わたしの身体は半日を経たずして、
 死徒のそれと同じモノになるだろう。
 
 ――――そう、8年前、忌まわしい惨劇を起こした身体と同じものになる。
 
「では、続きを始めましょうか、吸血鬼。
 こうして話しているだけでも何ですし………」
 
 力の入らない足に渇を入れて、通りを駆ける。
 力の入らない腕に渇を入れて、黒鍵を投げる。
 
 向かうは路地裏。
 あの狭い空間ならあの吸血鬼の動きも限定されるはず――――――!

211 名前:ピート(M):2003/06/01(日) 02:00

シエルvsピート
>>210

「は、たった一匹の『黒犬』を始末したくらいでいい気なものですね」

同種の魔獣を数匹呼び出しつつ、苦笑する吸血鬼。
だが―――

「また追いかけっこですか。よっぽど気に入ってるみたいですね、っと!」

飛んでくる投剣を魔獣を盾にして防ぎながら、相手の動向を観察する。
走って、走って、更に奥へと・・・ふむ。

(誘い、という訳ですか・・・・・・)

この期に及んで何を考えてるかは判らないが、少しばかりは乗ってやっても良いだろう。
そう考えると少年は魔獣を送還し、己の翼を持って再び追撃を始めた。

ギリギリまで近づき、爪を振るう。
当たろうと当たるまいとどちらでも良い。
要は楽しめるかどうか、それだけなのだから。

212 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE:2003/06/01(日) 05:47

ダンテvsツァーレンシュヴェスタン 『Air』
>>7>>8>>9
 
 
 重い一歩を、踏みだす。砂塵を踏みにじる。ブーツの底が、礫をはかなく潰して
砂に戻した。
 
「近所にガキがいたんだ」
 
 百メートルなどは無いに等しかった。相手は逃げない。オレも逃げない。大剣を
肩にかつぐ。ひとつひとつの動作が激痛をともなうが、贖罪には軽すぎる。距離は
どんどん詰まっていく。
 
「いつも仔犬をつれていた。その女の子も、仔犬も、チビで、薄汚れてて、オレを見
るとキャンキャン鳴きやがる。そのくせ食い物をおごってやると手のひら返したよ
うににこにこしてやがった」
 
 残り五十メートル。
 
「アイスクリームを買ってやった。たいそうお気に召したらしく、それから百個は買
わされた。チョコレートボンボンをひとつだけやった。なんてモノ食わせるんだって
ひっぱたかれた。服を一緒に見にいった。もっとかわいいのを着ろっていったのに、
照れて地味なのしか選ばなかったな。遊園地にも、レストランにも行った。最初は
気後れしてたけど、最後には笑ってくれてた。部屋の掃除のバイトをしてもらった
こともあったよ。初めての給料で、生意気にも露店のアクセを買って、オレにくれる
だってさ。いちばん安いやつだったけどな。少し胸が熱くなった。よく頭を撫でてや
った。やめろっていうんだけどな、撫でてやるといい笑顔してくれたんだ。
 少し、後ろのその子に似てたよ」
 
 残り十メートル。踏み込めばもう刃が届く。
 手に力が入る。剣を肩から浮かせる。夜の砂漠を照らす、冷たい月の光を浴び
て、凶悪な刃が静かにかがやく。
 さながら、死神の鎌のように。
 
 残りニメートル。
 剣が届く。

213 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE:2003/06/01(日) 05:48

>212
 
 
 
  剣を、振り下ろした。
 
 
 
 

214 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE:2003/06/01(日) 05:50

>213
 
 
 思わず目をつぶったフィーアが、おそるおそる目を開ける。
 剣は、彼女の身体を抉ってはいなかった。毛筋ほどの傷もつけず、大剣は彼女
をはずれ、すぐ隣の砂に突き刺さっている。
 オレは剣を手放した。もう必要ない。
 剣は、あまりにも強く打ち込みすぎて、砂に突き立ってしまっている。さながら、
それは墓標のようにも見えた。
 
「ここにいた吸血鬼は、みんな死んだ――もう誰も、誰も殺さない」
 
 そうとも、殺す必要なんてない。
 フィーアは吸血鬼に身をやつしても、それでも心を、仲間を思いやる気持ちを無
くしちゃいない。人の心だ。人の思いだ。
 ならば、オレはそれを信じよう。そう思った。
 それに――もうオレには、こんな剣は重すぎるんだ。
 人を殺すためだけの剣など。
 
 振り返る。
 今しがた屠った、四つの骸がそこにある。
 どれもついさっきまで、動いていたんだ。オレよりずっと年下のガキばかりだった。
ほんとうなら、この子らにはもっとずっと先まで、もっとずっとマシな人生があった
はずなんだ――
 なんで――なんでこの子らが、こんな目に逢わなきゃならないんだ。
 
「……誰か、教えてくれ」
 
 呟いた。
 言葉はろくに音にもならずに、夜の砂漠に吸い込まれる。
 
「オレはあと何回、あの子とあの仔犬を殺せばいいんだ……」
 
 親父の血は、オレに何も言ってはくれない。
 誰か、教えてくれ。なあ、誰か――――

215 名前:シエル(M):2003/06/01(日) 14:51

>>211
 
 駆ける、ふらつく足を叱責して、
 駆ける、気だるい身体を抱えて、
 
 駆ける――――唯一の勝機を得られるあの場所へ
 
 わたしの周りを疾走する影。
 吸血鬼の光る鋭利な爪。
 
 腕、肩、腹……、刻まれていく身体。
 肉は抉られ、血はとめどなく流れ、法衣を赤く染める。
 痛覚は正確にわたしに痛みを伝える。
 身体は逐次、わたしに限界を訴える。
 
 けれど――――わたしはまだ走れる、戦える。
 
 
     もっと、痛かっただろう、わたしがこの手にかけた人達は………
     もっと、辛かっただろう、わたしがこの手にかけた人達は………
 
     忘れない、血に塗れた両親の顔を。
     この手で母の腹を抉り、父の首をへし折った。
     喰らいついた、2人の喉に。
     その感触はとても柔らかくて、暖かくて――――キモチワルカッタ
 
     忘れない、際限なく苦悶に塗れていた友人たちを。
     友人たちをある時は爪で抉り、ある時は四肢をもぎ取った。
     身体と魂を陵辱し続けた。
     その感触はとても愉しくて、面白くて――――ツラカッタ
 
 
     この罪は消えない 犯した罪は罰を以って償うしかない。
     この環は切れない、わたしがこうやって生きている限り。
 
     どうしようもない自己欺瞞かもしれない。
     偽善と言われても仕方ないかもしれない。
 
     けれど、無限に生き続ける環から解放された時、決意した。
     守ろう―――平穏に過ごしている人達を。
     救おう―――出来うる限り多くの生命を。
 
     もう、悲劇は繰り返させない。
 
     償われることのない罪であっても、
     終わりのない無限の環であっても、
 
     ――――わたしは償い続け、環を巡りつづける。
 
 
 だから――――――――わたしはまだ走れる、戦える。
 
 身体は逐次、わたしに限界を―――限界など存在しない。
 痛覚は正確にわたしに痛みを―――この程度、痛くない。
 肉は抉られ、血はとめどなく流れ、地面を赤く染める。
 首、胸、脚……、刻まれて続ける身体。
 
 
 
 ――――――そして、ようやく、わたしは辿り着いた、路地裏へと………

216 名前:ピート(M):2003/06/01(日) 15:40

シエルvsピート
>>215

追い詰めたのか追い詰められたのか。
少なくともこちらと向こうでは、ずいぶん余裕に差があると言うことだけは事実である。
その事実が揺らがない限り、恐れる必要は何処にもない。

「ずいぶん引き回してくれたみたいですが、もう終わりですか?」

ここは路地裏。
三方をビル壁に、一方をアスファルトに固められ、道幅は狭く、障害物が多い。
恐らく彼女はこれでこちらの機動力を殺したつもりなのだろう。
だが、何か忘れてはいないか?
ここは屋内ではない。
つまり、高低差だけは埋めきれないのだ。

「覚悟は出来たみたいですね。それでは」

背中の翼をを後方に流すように立ててスペースを確保し、急降下してその手を突き出す。
落下速度を利用した、必殺の抜き手だ。

「終わりです」

217 名前:シエル(M):2003/06/01(日) 16:41

>>216
 
 勝ち誇った吸血鬼の声。
 繰り出される魔手。
 今のわたしにはそれをかわす手はない。
 ……否、かわす必要もない。
 
 ここに誘い込んだ狙いは1つ。
 路地裏という限定空間で吸血鬼の攻撃軌道を絞らせること。
 
 吸血鬼が知らないわたしの手札。
 わたしは死なない。
 心臓を潰されようが死なない、死ねない。
 魔力の根源たる頭を潰されない限り、わたしは死ぬことはない。
 
 
 そして、これは賭けだった。
 ここでもし、吸血鬼がわたしの頭に狙いを定めていたら、わたしは為す術もなく、
 頭を潰されて死んでいただろう。
 
 駆けの結果は――――――
 
 ずぶりという音。
 わたしの身体の真中に開く大きな穴。
 ごぼりという音。
 わたしの口から吐き出される血の塊。
 
 ――――――けれど、これではわたしは死なない。
 
「……残念でしたね、これぐらいじゃ、わたし、死なないんです」
 
 唇を歪めて吸血鬼を笑う。
 吸血鬼の身体は今、わたしの身体で固定されている。
 これならば、攻撃を外す事は決して無い。
 
 吸血鬼の背中に生える黒い剣―――腹を貫通して背中まで。
 光り、弾ける黒鍵。
 ――――吸血鬼の身体は炎に包まれて、くずおれる……
 
「これでようやくおしまいでしょうか……、やれやれ……」
 
 吸血鬼の腕を引き抜きながら、呟く。
 死なないといっても瀕死の重傷であることには変わりはない。
 それに噛まれた跡の処置もしなければならない。
 
 まだやる事は山積み、のようだ………

218 名前:夜香(M):2003/06/01(日) 18:54

浅倉威vs夜香
>>202
打撃が効を制した。しかし、私の心は深く沈んでいった。
何故なのだろう。やはり何かが足りない。
足りないのだ。血に渇くだけではない、心に開いた穴をどうにかせねばと私はあがく。
 
目に見えて欠けている部分、そう左足を繋ぎ合わせる。
粘着質な音を立てて足が繋がる。これでもまだ足りない。
 
気の流れに異変を感じると鏡から蛇が出た。妖物、いやそれとは違う異形。
人の心が生み出したとでもいう鋼の大蛇。
 
私の虚ろが止まらない。私は知りたい、私は埋めたい、私は癒したい。
大蛇が毒液を放とうとする時、私の体が反応する。
気を巡らしての鎧。直撃は避けられたが、体中が苦痛を上げる。
だが、どこか充足している自分を感じられた。
 
そうか、私に足りなかったのは心の痛みではなく、体の痛みだったのだ。
心が病んで痛みをあげているのに体はすぐに癒える。
その矛盾が私の中に虚ろとしてあったのだ。
ああ、私はなんと愚かなのだろうか。
 
傷つけ合ってこその私なのに私は無傷でありすぎた。
渇きを癒そう。そして男の渇きもまた。
 
「素晴らしい…」
 
私は溶けた上着を脱ぎ捨てて男へと加速する。
組み付き、大地へと叩きつけんと。

219 名前:ピート(M):2003/06/02(月) 04:03

シエルvsピート
>>217

何故死なないのだ。
何故笑っていられるのだ。
腹を破られ、腸を掻き回され、脊椎を傷つけられて、何故。

「・・・・・・中々非常識ですね、あなたも」

あちらの不敵な笑みを苦笑で返し、今一度抉、

激痛。
激痛激痛激痛。
灼熱灼熱灼熱。

燃えている。体が、制御、バランス、倒れ

翼が燃えている。
『黒き翼を持つ一族』の象徴である翼が燃えている。
『闇の竜』の血を引く事を示す翼が焼け落ちる。
痛みよりも、傷よりも。
何より、翼を奪われたと言う事実が、
事実が、

「許しませんよ、あなた。人の分際でまったく、油断も隙もありゃしない」

何よりも、許せない。

懐から小瓶を取り出し、中身をあおる。
飲み込んだのは『闇のしずく』と呼ばれる、黒色の液体。
遥かな祖の力、血の内に眠る『闇の竜』の力を引き出す禁断の魔薬により、

全身が膨張する。
張り詰めた筋肉が傷口を無理やり塞ぐ。
まとわり付いていた血液が沸騰し、蒸発する。

『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!』

咆哮。

その姿はもはや少年とは呼べまい。
身の丈2メートルを超す、翼をもがれた

双角巨腕の怪物だ。

220 名前:浅倉威/仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/06/02(月) 19:41

浅倉威vs夜香
>>218
 
服を脱ぎ捨て、素肌を晒してヤツは突っかかってくる。
その身に痛みを受け入れようとでも言うのか、面白い。
 
「なんでも試してみるのさ、きっといい感じだぜ―――――」
 
もっともっと痛めつけたり痛めつけられたりしようぜ?
 
溜息を漏らし、首を回しながら、迫ってくるヤツをしっかと見据える。
ギリギリまで引き付けて、俺は地を蹴った。
ヤツの吶喊に合わせ、両足を揃えた飛び蹴りで応じる。

221 名前:夜香(M):2003/06/02(月) 20:05

浅倉威vs夜香
>>220
男が肯定の声を出す。喜びが私の心を包んだ。
大地を蹴って駆け寄る私に合わせ、飛び蹴りを放ってくる。
走る勢いは止められず、止めたところで避けるのは性にはあわなかった。
顎を蹴り抜かれ、地を大きく転がる。
「あはははははははははは!!」 
 
血反吐を吐きながら私は笑う。久々に私は大声を出しながら笑っていた。
心が躍る、ああこんなにも世界は輝いているのだ。
私は世の邪悪にばかり目をとられ、永遠の諦観に沈み込んでいた。
苦しみだけに目を向け、闇の底へと沈んでいたのだ。
 
だが、自らが邪悪であっても生き抜こうとする男が居る。
闘争だけが自分の生きる場所と戦い抜こうとする男が居る。
 
こんなにも生きることを喜ぶ男が居る。
それは、酷くわかりやすく私にとって喜びであった。
 
「私も。もっと愉しまねばなりませんでしたね。
 ご無礼つかまつりました」
 
苦笑しながら私は身を起こし、加速して背の翼で男へと切りかかる。

222 名前:浅倉威/仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/06/02(月) 20:40

浅倉威vs夜香
>>218
 
翼が刃と化して俺の装甲を破り、皮膚をこそぎとって略奪していく。
焼けるような熱さに、俺は滾る。
激痛と歓喜とが脳をもみくちゃに蹂躙し、俺は一瞬、果てた。
 
「クッハハハハハハハハ! いいぜ、鉄みたいに熱く感じた……」
 
ヤツに対し、俺は感謝の言葉さえ漏らした。
快感の余韻に首を揺らしつつ、俺は再び杖を手に取る。
 
「だが……そろそろ俺も新しい戦いの相手が欲しくなってきたようだぜ」
 
俺の腰から、黄金の蛇の紋章が描かれたカードが抜かれる。
 
「もう充分だ―――――これでフィニッシュと行こう……ぜ!」
『ファイナルベント』
 
機械音声が、とどめを刺すために発せられる。
俺はそれに合わせ駆け出し、蛇もまた俺について走る。 
 
「うああああああああ!」
 
咆哮とともに跳躍、反転し、俺は無数の蹴りをヤツ目掛けて叩き込む。

223 名前:夜香(M):2003/06/02(月) 21:48

浅倉威vs夜香
>>222
男を切り裂き、血潮を受ける。渇いていた身体が癒えてゆく。
浅ましいなんと浅ましいのだろうか。
うつろな心がまた再び蘇ろうとする。
否、私に先ほどの虚ろはない。戦いへの歓喜に目覚めたいまの私に虚ろの蟲は動かない。
 
男がどうやらこれで決めるらしい。ならば私も気の力を最大にしよう。
死に触れるものだからこそ扱える万物を死へと導く気、死気を気砲として放とう。
 
機械の声が全ての終わりを告げようとしていた。
 
「魔天にてお待ちしましょう」
 
嵐のような蹴りが私めがけて放たれようとしていた。
勢いがそのままに私へぶつけられる時、死気は男へと降り注いだ。
私の身体がクダケ、消え去ってゆく…。
 
(夜香、死亡)

224 名前:浅倉威/仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/06/02(月) 22:10

浅倉威vs夜香
>>223
 
ヤツの姿が張り裂け、肉塊となる寸前。
俺を襲うべく、奇妙な衝撃波をヤツは放っていた。
 
「もうお前には飽きたんだ……地獄にまでついてけるかよ……」

俺は蛇に命じ、燃え盛るような毒液を吐かせる。
自らの身に浴びせ掛けさせるために。
焼けるように熱く、身体が溶けてしまいそうだ。
 
だが、身を纏う毒液は、激痛と引き換えにその衝撃波も焼き払った。
かすかな余波を受けただけで、かなり意識が吹き飛びそうになる。
まともに食らっていれば、やはり死んでいたかも知れない。
 
蹴りを受けて、死体も残さず消え去っていく、ヤツの姿。
それを見ながら、俺は変身を解き、せせら笑う。
 
「ハァン……俺にはお前は必要ないんだよ―――――」
 
言い終えもしない内に、俺は背を向けた。
 
「俺には俺さえいれば……な!」
 
そう言い残して俺は、魔界都市の闇の中に、その姿を溶かして行った。

225 名前:魔界医師メフィスト(M):2003/06/02(月) 22:31

<魔カルテX>
ある日、魔界医師の病院へ一人の男の欠片が届けられた。
それは、戸山住宅の長であった男の死骸だった。
「ほう、これが…」
 
美影身が久々に面白いものを見たとつぶやく。
それを聞くためならば己の魂すら投げ打つ者は多いだろう。
そして、白き魔界医師はカルテを書く。
患者を≪再生室≫に送る為のカルテを。
カルテにはこう記されていた。
≪浅倉威vs夜香闘争レス番まとめ≫と。 

>160>161>162>163>164>165>167>168>170>177>178>179>180
>181>185>202>218>220>221>222>223>224
 
備考としてこの闘争への感想その他はこのスレッドへ、
と連絡先が記されていた。
  
一刻館用
http://appletea.to/~charaneta/test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=1035898557
 
吸血大殲感想スレッド
http://www.tpot2.com/~vampirkrieg/bbs//test/read.cgi?bbs=vampire&key=1053814090
 
と。
 
そして手術が開始された。
                                    <了>

226 名前:リィ舞阪 ◆6qffffffSE:2003/06/03(火) 23:17

>>201
DIOvsff 〜世界vs最強〜
 
「ふ、ふふふふふ……!」
 
 驚きも見せず、感嘆も述べず、ただフォルテッシモは笑い出した。
 
「人は『安心』を得るために戦う……か。残念ながら、俺の場合はちと違う。
 仮に、だ。仮にここに、『自動洗濯機に放り込まれた赤ん坊』がいたとしよう。
 そいつは生き延びようと、足掻くだろう。
 この場合、生き延びると言うことは洗濯機の呪縛から逃れる、ということだ。
 そいつは何故か……俺はこう考える。死にたくないから、だとな」
 
 両の腕を組みながら、フォルテッシモはなおも続ける。
 
「あんたは今、『安心』を得るために戦うといったが、ふつうの人間の場合はそうだと思う。
 だが、俺が求めているのはそんな自分の足で歩くことのできない小鹿のような、脆弱な相手ではない。
 あくまで自分一人で立っているもの。つまり、誰よりも強きものだ。
 俺を含め、そういったやつは――『安心』のために戦ってるわけじゃねーんだな」
 
 そういうと、ギラつく眼光はそのままに、少しだけ眉をしかめた。
 視線もDIOをまっすぐと見つめているわけではなく、ちょうどフォルテッシモとDIOの間の空間に向けられている。
 だが、それでもこの少年の発する雰囲気は、何者をも寄せ付けない、張り詰めたものだった。
 
「俺は退屈なんだ。
 退屈なこの時間を、俺と同じ土俵に立てるものと戦うことで、埋めて行こうと言うんだ。
 そんななかで、永遠の時間などをもらってどうするという?
 ただでさえ持て余してる時間が、さらに増えるってことじゃねーか。俺はそいつは御免被る」
 
 そこでがらりと口調を変え、
           、 、 、 、 、、  、、 、 、 、 、 、 、 、 、、、 、 、 、 、
「しかし、DIOよ。俺がお前なら、いつまでも俺のそばにはいないがね……」
 
 フォルテッシモは突き出した指を、くんっと引き曲げた。
 ぴしり、と床に亀裂が入る。急激にかかる力。地球の中心へと、引きこまれる重力。
 がらがらと瓦礫の音に飲まれながら、『世界』と“最強”は、深遠の闇へと投げ出された。

227 名前:DIO(M):2003/06/03(火) 23:40

DIOvsff 〜世界vs最強〜
>>226

「フン、ならばしょうがない……」
 
DIOは颯爽と両手を腰に当て、胸を張ってみせる。
 
「死ぬしかないな、フォルッテシモッ!」
 
その叫びを合図に、DIOの傍らにアクアラングを背負ったような姿の、奇妙な姿の戦士が姿を見せた。
 
それがッ! それがッ! それこそがDIOの『スタンド』!
世界を支配する能力ッ! 『世界(ザ・ワールド)』だッ!
 
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……とその場に響いた音は、破砕された床の発する音ではなくッ!
DIOの放つブルドーザーのエンジン音のような『すごみ』だったッ!
 
崩れた床と共に、DIOとフォルッテシモは動く間もなく落下する。
――――――――――はずだった。
 
しかし、フォルテッシモが次の瞬間見たものはッ!
いつの間にか自分の目の前に現れたDIOの姿だったッ!
 
「愚か者がァ! 空手の達人がモグラ叩きに踵落としするように叩き潰してくれるッ!」
 
『世界』は凄まじい勢いで拳を引き、フォルテッシモの顎へとパンチを放った

228 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/06/04(水) 01:36

 Duel of the fates -Final resistance / Holy thunderforce - Kresnik vs Arucard
 
>>207
 
 硝煙と血臭の中を駆け抜けた。
 屍骸、肉片、腐汁――騎士団の通り抜けた痕は、死体の獣道とでも呼べば一番適
切なイメージを得られると思う。
 激戦区が近いというのに、あるのは死が匂い立つ静寂一つだ。
 漸く銃火の唱和が近付き、ガバメントのグリップを握り締めたジャックは、
 
「……な」喘ぎが、喉に絡む。「一体――」
 
 愕然と呟いて、足を止めて立ち尽くす。
 MLRに到着した所を迎えたのは、耳を劈くフルオートの銃声だった。
 精密機械の速度と精緻さでSMGをポイント。人間離れした手並みの速射――瞬時
に三体の吸血鬼を塵に変える。叫び声を上げるより遥かに早く、ジャックの眼前を覆
っていた連中は一握の灰と化した。
 マルタ騎士団団長、"外科医"タルジェノ。
 噂に伝え聞く半ば伝説染みた騎士団の象徴――過去、東欧に蔓延った病原菌の如
き無数の吸血鬼を、ただ一人の智謀と技量とを持って潰滅した男。市井に知られる事
もなく、ただヴァチカンの暗部……その奥深くに在って尚も畏怖される殺戮機械。
 東ヨーロッパで蛆虫のように沸いた吸血鬼は、キリスト教とマシンガンを背負ったこ
の男一人によって絶滅危惧に晒され――抵抗空しく絶滅したのだ。土地と言う患者の
患部を、文字通り切除して根絶した手並を持って、男は"ドクター"と呼ばれるようにな
った……――生きた伝説。
 
 何年殺し続ければあれだけの技量を得られるのだろう。
 下らない事を考えたのは束の間、瞼は思い切り見開かされた。
 眩い閃光。幾つもの悲鳴。炎。爆散する肉片。手が震え、指が弛緩して、声は喘ぎに
なって白い息を吐き出す。
 輝き眩いばかりの閃光の中、その人影は平然と立っていた。
 ローマ・カトリックに於ける最重要人物の一人、現NY大司教――ピーター=カレンツ
ァ。掌に紫電めいた輝きの残滓を残したまま、ゴミでも払うかのように吸血鬼の残骸を
払い落とす。
 当年30歳、アメリカを国籍とするにも関わらず、最も教皇に近いと目される青年。
 彼の起こした"奇跡"は平然と、尚且つ自然に受け止められている。復活、破壊、殺
戮――今しも眼前で吸血鬼を葬り去ったのも、恐らくは。
 明らかに"違う"存在。意識して、戦慄した。
 脇で冷然と立っていたタルジェノがMP5を腰の脇に下ろして、軽く目礼する。慌てて
返した。タルジェノ。騎士団の最高幹部。大司教を中心に銃を掲げる黒衣の騎士達。
 ヴァチカンの本体は、間違いなくこの地に降臨しているのだ。
 
 油断なく視線を彷徨わせていたタルジェノが、軽く眉を顰めてバイザー連動型のHU
Dを調節、無表情のままカレンツァへ向き直る。
 
「司教」良く通るバスは、カレンツァを振り向かせるには充分だ。「……ガエタノとプレス
トンがA、Bポイントを抑えました。いつでも"鍵は回せ"ます」
「――"Sevens Key"に通達、"開錠"。後は騎士団と合流してFラインまで撤退しろ。
"Undertaker"は各ポイントはへ移動後、全状況開始。通信IFFレスポンスは?」
「HRI2KU、間違いなく」バイザーを落としたまま、タルジェノは報告を続ける。「七鍵結
界発動……3、2、1、完了。セクション1、クリア。発動確認」
 
 頷き一つ、カレンツァは右手を薙ぐように振り払った。
 
「破邪式結界、「GOSHIKIHUDOU」準備。現時刻を持ってセクション2へ移行。これ以
降、ポイントへの接近対象は悉く殲滅対象となる。如何なる物体であれ、発見次第破
壊殺傷せよ。繰り返す。これ以降、如何なる者の邪魔も赦すな」
「各部隊レスポンス、『Request order』」
「Order only one.――殺し尽くせ。近付く者を生かして返すな。何であれ、だ」
 

229 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/06/04(水) 01:41

>>228
 
 空気も凍り付くような声色。
 凡そ司祭に似つかわしくないスタイルよりも何よりもカレンツァをカレンツァとして異質
たらしめているのは、間違いなくソレだ。
 冷徹を通り越した静けさ。
 まるでメフィストフェレス。氷の様な思考、判断力、絶対的なカリスマ。
 キリストの再来と教皇庁で噂されるこの男に真っ先に抱いた感情は、不快感すら生
温い恐怖と畏れだ。キリスト? ……サタナエルじゃないか。
 
 乾き始めた唇が、口の動きで罅割れる。
 思い出したように舌で舐めたのは、自分でも時間稼ぎと解った。
 カレンツァに向けて一歩を踏み出して――それだけで顔面に汗が吹き出てくる。
 出来るなら視線を逸らしてしまえば、踵を返して命令通りに戦闘ラインから撤退して
しまえば――……フザけるな。
 フザけるなよ、ジャック=クロウ。フザけるな、ピーター=カレンツァ。
 俺が此処に来たのは、お前の手品を見る為じゃないんだ。
 
「司教……カレンツァ大司教」
「作戦開始以来だね、ジャック=クロウ」ジャックを見る事もなく、カレンツァは独り言の
ように続けた。「撤退しろ、と告げた筈だけど」
 
 足音を鳴らして近付く――ジャックの無言の抗議。
 周囲の騎士達は視線を向けただけで、即座に周辺の索敵作業に戻った。
 大層なコトだ。裏切りは気にも止めていない? それとも、俺にはこの大司教を殺す
事なんて出来ないとでも思ってるのか。
 ――全く、その通りだ。
 
「撤退? 願ったり叶ったりだ。このクソ同然のゴミ溜めから抜けられるなら、アンタの
指にキスするのだって惜しかない――だがな、訊く事が山積みだ。説明もなしに退け
る訳がない」
「説明はした筈だ。此処を退け、とね。今から此処は戦場に――違うな、これは少し違
う。今から此処は闘技場になる。世界で最も薄汚れ、最も罪悪と穢れに満ちた、最大
最高のコロシアムになるんだ」
「……ワケの解らないメタファーはウンザリだ!」舌打ち一つ、ジャックは激昂した。
「どういう事だ! 撤退!? だってのに作戦の変更!? オマケにあのバケモノ相手
にアイツをだ!? 納得出来る事なんぞ一つもないんだよ!」
 
 子供を相手にするような仕種――軽く肩を竦めると、カレンツァはジャックの射殺すよ
うな視線を平然と受け流した。
 
「その質問に答えるなら、ジャック=クロウ。僕は結論から口にしよう」
 
 蒼い瞳。自身と同じ色のソレは、色彩以外の面で完全に別物だった。
 見据えられるだけで、全身が凍る。
 心臓を氷で作られた手で鷲掴みにされているような感覚。
 金縛り同然のジャックへと、カレンツァは事もなげに言い放った。
 
「たった今、政府が手遅れ気味の断を下した。
 ――サウスブロンクスは、後2時間で地上から消滅する」
 

230 名前:ジャック=クロウ ◆8nMUYwJack:2003/06/04(水) 22:12

 Duel of the fates -Final resistance / Holy thunderforce - Kresnik vs Arucard
 
>>207 >>228修正
 
 硝煙と血臭の中を駆け抜けた。
 屍骸、肉片、腐汁――騎士団の通り抜けた痕は、死体の獣道とでも呼べば一番適
切なイメージを得られると思う。
 激戦区が近いというのに、あるのは死が匂い立つ静寂一つだ。
 漸く銃火の唱和が近付き、ガバメントのグリップを握り締めたジャックは、
 
「……な」喘ぎが、喉に絡む。「一体――」
 
 愕然と呟いて、足を止めて立ち尽くす。
 MLRに到着した所を迎えたのは、耳を劈くフルオートの銃声だった。
 精密機械の速度と精緻さでSMGをポイント。人間離れした手並みの速射――瞬時
に三体の吸血鬼を塵に変える。叫び声を上げるより遥かに早く、ジャックの眼前を覆
っていた連中は一握の灰と化した。
 マルタ騎士団員、"外科医"タルジェノ。
 噂に伝え聞く半ば伝説染みた騎士団の象徴――過去、東欧に蔓延った病原菌の如
き無数の吸血鬼を、ただ一人の智謀と技量とを持って潰滅した男。市井に知られる事
もなく、ただヴァチカンの暗部……その奥深くに在って尚も畏怖される殺戮機械。
 東ヨーロッパで蛆虫のように沸いた吸血鬼は、キリスト教とマシンガンを背負ったこ
の男一人によって絶滅危惧に晒され――抵抗空しく絶滅したのだ。土地と言う患者の
患部を、文字通り切除して根絶した手並を持って、男は"ドクター"と呼ばれるようにな
った……――生きた伝説。
 
 何年殺し続ければあれだけの技量を得られるのだろう。
 下らない事を考えたのは束の間、瞼は思い切り見開かされた。
 眩い閃光。幾つもの悲鳴。炎。爆散する肉片。手が震え、指が弛緩して、声は喘ぎに
なって白い息を吐き出す。
 輝き眩いばかりの閃光の中、その人影は平然と立っていた。
 ローマ・カトリックに於ける最重要人物の一人、現NY大司教――ピーター=カレンツ
ァ。掌に紫電めいた輝きの残滓を残したまま、ゴミでも払うかのように吸血鬼の残骸を
払い落とす。
 当年30歳、アメリカを国籍とするにも関わらず、最も教皇に近いと目される青年。
 彼の起こした"奇跡"は平然と、尚且つ自然に受け止められている。復活、破壊、殺
戮――今しも眼前で吸血鬼を葬り去ったのも、恐らくは。
 明らかに"違う"存在。意識して、戦慄した。
 脇で冷然と立っていたタルジェノがMP5を腰の脇に下ろして、軽く目礼する。慌てて
返した。タルジェノ。騎士団の最高幹部。大司教を中心に銃を掲げる黒衣の騎士達。
 ヴァチカンの本体は、間違いなくこの地に降臨しているのだ。
 
 油断なく視線を彷徨わせていたタルジェノが、軽く眉を顰めてバイザー連動型のHU
Dを調節、無表情のままカレンツァへ向き直る。
 
「司教」良く通るバスは、カレンツァを振り向かせるには充分だ。「……ガエタノとプレス
トンがA、Bポイントを抑えました。いつでも"鍵は回せ"ます」
「――"Sevens Key"に通達、"開錠"。後は騎士団と合流してFラインまで撤退しろ。
"Undertaker"は各ポイントへ移動後、全状況開始。通信IFFレスポンスは?」
「HRI2KU、間違いなく」バイザーを落としたまま、タルジェノは報告を続ける。「七鍵結
界発動……3、2、1、完了。セクション1、クリア。発動確認」
 
 頷き一つ、カレンツァは右手を薙ぐように振り払った。
 
「破邪式結界、「GOSHIKIHUDOU」準備。現時刻を持ってセクション2へ移行。これ以
降、ポイントへの接近対象は悉く殲滅対象となる。如何なる物体であれ、発見次第破
壊殺傷せよ。繰り返す。これ以降、如何なる者の邪魔も赦すな」
「各部隊レスポンス、『Request order』」
「Order only one.――殺し尽くせ。近付く者を生かして返すな。何であれ、だ」
 

231 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/06/04(水) 22:18

 Duel of the fates -Overload- Kresnik vs Arucard
 
>>207 >>230
 
 衝撃は全身だった。
 違和感は左の肩だ。
 寒く凍えた夜の中、左肩だけがヤケに熱い。
 熱が痛みに変わるのに、大した時間は掛からなかった。冷えた肉が、思い出したみ
たいに激痛を訴えた。血管に、有刺鉄線を詰められたみたいな痛み。灼熱の針が傷
周りを這い上がって、激痛は神経を引き裂いて視界を蔭らせる。見えないナイフが断
続的に傷口を抉る。
 ……熱源は、見るまでもなく明らか。
 撃たれた。
 直撃じゃない。一発はマズルブレーキを叩き砕いて破片を散らし、一発はバレル中
程を掠めて削って、減じた威力のままに俺の肩を抉って抜けた。
 2キロだ。
 軽く見積もって2キロメートルの距離から――奴は、俺を撃ち抜いた。
 ……何だよ、それ。
 こっちはスコープ越しの狙撃で、アイツはただのハンドガンで、
 そんなの、
 そんなのは、ないじゃないか。
 
「あ……はは」
 
 生命体レベルでの違いを叩き込まれた。
 敢えて言うなら……はは、敢えて言うなら、そんな所、だろうか。
 寒い。背筋が際限なく冷え切って行く。
 こんなにか。こんなに違うって言うんだろうか。
 あの笑顔を、ヤツの笑顔を見て、理解した。
 獲物は、ヤツにとってのそれは――……成る程。
 はは、成る程。そうか、当然だ。トラップを正面から撃破した者に許される笑み。狩人
の意思表示。今から俺を殺すって、宣言。
 は、はは。あは、は、はははは。はは、はぁ、く――く……、く。
 コレは。
 こんなのは。
 ……なんて酷い――侮辱だ。
 
「クソ――が」
 
 ……畜、生っ!
 がり、と、奥歯が軋む音。悔しさで目の奥が熱くなる。
 次の手を打たなければならない。早急に。デッドウェイトでしかないライフルを捨て
て、立ち上がって、棺桶にしかならないこの部屋を飛び出す。
 単純なプロセス。逃げ出す、という行動は生物的な本能にも等しい、のに。
 壁に爪を立てて身を起こして、起こす、起こし――立ち上がれない。どうして。
 足が縺れて、指が震えて、起きようとして、だけど壁から背中が離れなくて、
 ……クソが!
 トリガーに食い込んだ指が離れない。左手で右手を掴む。梃子を入れるようにして
指を引き剥がす。親指から人差し指まで十秒掛かった。
 早く、早く早くしろっ! 離れろ! 言う事を訊け、今だけでも、頼むから――
 時間が無い、俺は怖がってない! だから、早く!
 がちゃん。恐慌の接着剤は残滓を残して引き剥れ、ライフルが重い音を立てて剥き
出しのコンクリートに沈む。
 

232 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/06/04(水) 22:22

>>231
 
「……畜生。畜生、ちくしょう、畜生ちくしょう畜生!」
 
 フザけるな! こんなのが、こんな現実が在って堪るか!
 強く、強く強く身体を抱き締めた。
 右手で左手の肩を、左手で右を、骨が軋む位強く強く。
 痛む肩。押え付けて、灼けた痛みが走り回って、それでもこの寒さよりずっと良かった。
 寒い。夜だから、夜だから寒い。昼じゃないから、寒い。
 それは当たり前のコトだ。まだ、大丈夫。まだ、まだ俺は壊れてない。
 なら、何で。
 今までは寒くなかったのに、今が寒い。どうして、解らない、どうして、
 
「く……く――く、くく、は」
 
 はは。はははは。――くそ。畜生……くそ。クソが!
 ガツン。殴り付けた壁が砕けて、コンクリートの破片と血が舞って、ズキズキと痛み
だけが手には留まって。
 痛み。お前は、煩い。少し……黙れ。
 それで、もう少し。お前は、お前はもう少しだけ力を貸せ、俺の身体。
 床を蹴った。視野は狭く、足が縺れないのが不思議なほど。
 蜘蛛の巣を千切って錆びた配管を蹴って、コンクリートに足音を叩き付ける。
 ドアも朽ちた16階フロアを飛び出して、鉄錆の匂いが充満した廊下を尻目に、通路
逆側の部屋の扉を蹴り開ける。
 ガラス張りの窓。スピードは少しも緩めないで加速して、
 蹴り破った。
 スローモーションで漂うガラスの飛沫。冷えた風が身体を弄う。
 着地して、すぐに見付けた。市警のパトカーを改装擬装した突撃車輌。シートに身
を滑らせてキーを回して、サイドシートにゴルフバッグを投げ置いて、バックシートか
ら突き出したグリップを握ってそのまま座席に引き戻した。
 M2QCB。弾薬リンクを後部座席から引いたまま左手で保持。
 振り下ろした脚でアクセルを限界まで踏み込んだ。全開した窓から冷気が侵入す
る。並んでたピクニックテーブルを跳ね上げて、路地に積んだ死体を踏み散らして、
一気に120マイルまで加速して――はは、
 
「はは……あ……――はははははははははははは!」
 
 ビルを反転して、あぁ、くそ。いた。やっぱり変わらない。
 ……はは、無傷。傷も無いのか。あれで。アレだけやって。
 アーカード。睨み付けて、アイツはやっぱり笑ってて――だから。叩き割ったフロ
ントガラスからマズルを思い切り向けてやった。
 ズキズキと頭が軋む。かちかちと歯が鳴る。小脳の当りか、こんなに熱いのは。
焼ける、騒ぐ。殺せ――殺せ。殺せ、解ってる、今、今殺してやる。
 アイツは、今、此処で、
 煌々とマズルフラッシュが耀く。跳ね回る薬莢が視界を汚す。擦れ違うまでに叩
き込んだ50口径弾は総計100。車体が浮くくらい思い切りステアリングを切って、
そのまま反転。ストックは腋で保持したまま再ポイント。
 なあ――アーカード。お前は。お前は……まだ踊れるか?
 
「Hey……Shall we dance?」
 
 俺は――そろそろ限界なんだ。
 
「――Let`s Dance……!」
 
 一緒に、逝こうぜ。
 

233 名前:シエル(M):2003/06/05(木) 00:02

>>219
 
 肉の焼ける音。
 据えたような匂い。
 倒れ伏す吸血鬼。
 
 自然の理に反したモノは自然の理によって滅び、一握の灰へ―――――――
 
 
 
 ―――――還らなかった。
 
 並の吸血鬼なら確実に致命傷。
 数度は滅ぼされてもおかしくない炎で焼かれても、まだ生きていた。
 
 
 膨れ上がる吸血鬼の―――
 
                   身体
                       黒く
                   悪意
                       禍々しく
                   殺意  
                       おぞましい―――
 
『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!』
 
 吼えるケモノ。
 震える空気。
 揺れる大地。
 
「くっ………」
 
 最早、感覚の無い、手に、脚に、力を込める。
 ケモノを滅ぼす為に今一度、黒鍵を握る手に力を込める。
 
               ―――――――迫るケモノにわたしは横薙ぎに黒鍵を振るう……

234 名前:ピート(M):2003/06/05(木) 00:23

シエルvsピート
>>233

咆哮する。
そこには既に理性の色はない。
あるのはただ、感情の赴くままに拳を振り上げ、叩き潰さんとする殺意のみ。

猪突猛進と言う言葉を体現したかのように突進し、代行者めがけて襲い掛かる。
得物のリーチの差で僅かばかり斬りつけられたが、腰の入っていない一撃など何の意味もない。
ただ、無視した。
間合いの内側に入り込み、疲労と恐怖で引き攣った顔面を見下ろしながら―――

その背中に、組んだ両腕を振り下ろした。

235 名前:アーカード ◆VAMPKPfGto:2003/06/06(金) 17:04

>232 Duel of the fates -血ノ禊- Kresnik vs Arucard
 
 獰猛なモーターの叫び。
 ビルの陰から出現したのは、猛然と叫ぶモーターの声だ。このサウスブロンクスという異界で、
その音はひどく不自然でひどく際立つ。
 だから、不意を突かれた。
 白い車体を認識するのと、腹に大穴が開くのは殆ど同時だったからだ。
 最初の一撃で右脇腹が抉れた。この時点で認識できたのは走りこんでくる車体、その正面で輝く
マズルフレアだ。
 着弾は続く。右足が付け根から吹き飛んだ。左脚は腿からちぎれた。
 大口径弾という事は容易に知れる。問題は正確さだ、問題は一人で車体を操りながら、この精度
で射撃を行う出鱈目さだ。化物以上に化物らしい奴ならば、走り回る車体からこちらに集中させる
事も恐らく造作もないだろうか。アーカードはそう思い、
 
「―――」
 
 次瞬には、想像は現実となった。
 銃火の花が咲いた。
 身体をいびつに曲げ、アーカードの身体は血のつまったズタ袋と化し、着弾の衝撃にタンゴを踊
る。濁ったケチャップとなって跳ね散る身体は、狭い路地のアスファルトとビル壁をペイントした。
 車輌が脇を通過した時には、骸など虫に食いあらされたリンゴに等しい。
 襤褸屑となったアーカードを過ぎ去って、車輌が反転する。再度の疾走。ならばその目的は、完
全破壊を目標とした射撃と轢殺だろう。
 アーカードは、こう思う。学習する事もなく―――対応できないのか―――ただ銃弾を叩き込む
その一途さを、アーカードはこう思う。
 ―――優秀だが、愚かだ。
 ひき潰された闇が、壁に飛び散った肉片が蠢いた。ざわりざわりと、びくびくと。
 迫る車輌……距離十mを切った、その位置。
 闇が形を得た。ざあと四方へ広がった闇は翼。襤褸の躯は、無数の蝙蝠となって上空に舞いあが
る。唐突に車輌の視界から消えただろう闇の残骸―――蝙蝠―――は、上空で形を得た。
 すなわち、緋色の魔王へ変じて。
 凶鳥のようにひるがえる真紅のコート。
 風を含んだ裾がなびき、真下に見下ろす車輌目掛けて落雷の如く下った。
 じゃんと、耳朶をつんざく破砕音。
 フロントガラスは衝撃で微塵に粉砕され、轟音を振りまいて長身はボンネットの上に着陸する。
 叩き割られたガラス。蜘蛛のようなその中へ、水のように両手が流れ込む。
 液体が滑るような動き。わずか、その動作が鈍ったのは青年に知れたろうか。世界を包んだ違和
感を、アーカードは気にも止めない。
 一射、死神の肩口をかすめた弾丸がその背後のシートを綿のように粉砕した。
 死神の眼前へ突きつける一対の銃口。
 男の黒瞳と、魔王の赤眼が、絡んだ。
 今度こそ狂気と歓喜を交えて、アーカードは狂喜の笑みを浮かべる。
 
「さあ、王手詰み(チェックメイト)だ」
 
 笑う魔王。両手に握る銃口は暗く、それが睨む的は混じりなく、白い。

236 名前:シエル(M):2003/06/07(土) 00:54

>>234
 
 最初に、ぶんと音がした。
 大きな黒い拳が空気を引き裂いた音だった。
 
 次に、ぐちゃりと音がした。
 わたしの腹の中が爆ぜた音だった。
 
 そして、どんと音がした。
 わたしの身体が建物の壁に叩き付けられた音だった。
 
 加えて、こぶりという音がした。
 わたしの口から血の塊がコンクリートの路上に吐き出された音だった。
 
 
 ………あの吸血鬼を倒さない、と。
 黒鍵を握る手に力を込める。
 
              ―――からん、と渇いた音とともに黒鍵が地面に転がる。
 
 ………あの吸血鬼を滅ぼさない、と。
 立ち上がろうと足に力を込める。
 
              ―――びくん、と足は痙攣するばかりで動かない。
 
 
 どすどすとコンクリートの路面を踏み砕く音。
 迫り来る吸血鬼のどす黒い殺意。

237 名前:シエル(M):2003/06/07(土) 00:56

>>236
 
 
 
  ―――手は、足は動かない。
     吸血鬼を滅ぼすべき剣は振るえず、
     吸血鬼をいなすべき足は動かない。
 
 ただ、考える、吸血鬼を滅ぼす事を。
 
  ―――1つの悪夢。
 
     街の広場で、天雷の理を以って、撃たれる肉。
     肉が焦げる匂い。
     肉が発する怨唆。
 
     再び、撃たれる肉。
     肉が焦げる匂い。
     肉が発する怨――――
 
                    ――――何時の間にか、それは変わっていた、懇願へと……
 
     ……モウ、イヤダ
 
             ……ナニモミエナイ
 
   ……クルシイデス
   
          ……オネガイシマス
 
                  ……モウ
 
                        ―――――――コロシテクダサイ
 

238 名前:シエル(M):2003/06/07(土) 00:56

>>237
 
 ……吸血鬼として、わたしはその力を以って、命を弄んだ。
 友人たちをそうやって、わたしは弄んで、捨てた。
 
 ―――だから、使わなかった、使えなかった。
 どうしても、思い出してしまうから……
 
 父の苦悶の叫びを、母の恐怖に歪んだ顔を、
 友人たちの生を渇望し、死を望む声を。
 
 
 怖かった、それらに立ち向かうことが。
 思い出すだけで、身体が悪寒に震える。
 罪の記憶がわたしの思考を白く塗りつぶす。
 
 
 ―――けれど、このままわたしが殺されたらどうなるだろう?
 この吸血鬼は繰りかえすだろう、あの悪夢を。
 わたしの知った人たちが苦悶をあげ、肉を抉られ、血を流して消えていく悪夢を―――――
 
 わたしは死ぬのは構わない。
 それは当然の報いだから、
 わたしが背負った罪に対する、父を、母を、友人を殺した罪に対する……

239 名前:シエル(M):2003/06/07(土) 00:57

>>238
 
 だが、こんな形での環からの解放は望まない。
 わたしの罪は決して消えないけれど、それでも、贖罪しなければならない。
 それがこの手で殺した皆へのせめてもの―――――
 
 だから、もう逃げない、わたし自身の悪夢から。
 だから、もう迷わない、わたし自身の禁忌へと。
 
 それで護れるのなら、迷う事なんか、ない。
 
「―――A―――――Y―――――――」
 
 途切れ途切れにわたしの口から漏れる言葉。
 それは世界に語りかける言葉。
 それは現象を呼び起こす言葉。
 
 ……吸血鬼の足音が間近まで迫る。
 
「――――B―――――――W――――」
 
 わたしの口から、編まれていく言葉。
 在るべき法則は一瞬だけ捻じ曲げられる。
 在るべき世界は一瞬だけ変革させられる。
 
 
 
                ―――――――人、それを魔術という……
 
 
 ……言葉を紡ぎ終えると同時に大気が震撼する。
 在るべき世界はほんのわずかの間だけ、わたしの意思で書き換えられる。
 吸血鬼を滅ぼすというわたしの意思の元、1つの現象が起きる。
 
 激しい光に路地裏が包まれる。
 耳をつんざく轟音が路地裏に満ちる。
 
           ―――――紫電が縦横無尽に路地裏に駆け巡る……
 
                   吸血鬼をこの世界から排除する、ただそれだけのために―――――
 

240 名前:ピート(M):2003/06/07(土) 02:16

シエルvsピート
>>236>>237>>238>239

気付くのが遅れたのは血と殺戮の狂気に酔っていたからだろうか。
か細い、だが確かに『力』を込められたその単語を聞き逃したのは彼の落ち度の一つである。

閃光が荒れ狂う。
複雑に絡み合う紫電の蛇が一斉に鎌首を擡げ、その舌を伸ばし、狭い路地裏を跳ね回る。
水溜りが弾け、紙くずが燃え尽き、街灯が砕け散る。

中央にいた彼の肉体にも、等しく雷撃は降り注いで来た。
大きく後方へと弾き飛ばされる。
もっとも、確かにそのダメージは大きいものの、耐えられない程ではない。

しかし、
ここでもう一つ、彼が見落としていた事がある。
膨張させた筋肉によって強引に塞いだ傷口に突き刺さったままの投剣の存在である。
当然刃の部分は金属で構成されており、また性質上、その剣は魔術との親和性が非常に高い。
その短剣の、彼の背中から突き出た切っ先を伝って、
必殺の電流が、
体内に、


<<ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!>>


灼き尽くされる。
その肉体を構成する一粒子まで、容赦なく。

だが、彼は止まらない。
身体を引きずり、代行者の下へと近づいていく。

その拳を振り上げ――――




そこで、崩れ去った。

241 名前:伊藤惣太(M) ◆VJEDOuwb.c:2003/06/08(日) 15:10

羽村亮vs闇惣太
俺は夜の闇を駆ける。ただ駆け抜ける。渇く、渇えている。
道を踏み外したあの夜から、俺の子(ゲット)を連れ、夜を駆ける。
 
俺は、あの時。誰も助けられなかった。
それだけならまだ良かったのに、俺は助けようとしてくれた奴を皆、
闇へと引きずり込んでしまった。
 
渇く、渇く。俺はこのまま渇いて死んでしまいたかった。
だが、それでは済まされない。俺はもっと苦しまねばならない。
 
子達を餓えさせて一人楽になれない。
 
見知らぬ高校が見える。あの頃を思い出す。
 
  ――――――平和な時間、優しい時間
 
    ――――――太陽とともに生きた日々
  
それは、愛と光があった時――――――
 
            もう、戻れない。
 
そう、俺は戻れない。血袋を得て、子達にやらねばならない。
 
また、繰り返すのか。また、狂うのか。
 
俺は血に狂いながら血袋を求め、二つの月を見上げていた。

242 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/08(日) 15:32

>>241
 闇惣太vs羽村亮

 蒼い月の声が聞こえたような気がした。
 
 だから、俺はここに立っている。
 
 最近、猟奇殺人が相次いでいる。行方不明者も多い。
 蒼い月の眷属『光狩』の仕業かと思ったが、最近は殆ど姿を見せていない。
 そして、その代わりに夜を跋扈するようになった存在がある。
 
 『吸血鬼』だ。
 
 吸血鬼の存在なんて、公に認められている訳じゃない。
 だが、元々夜を往く者だった俺達は、早い内にその正体に行き着いた。
 光狩を狩る『火者』だった俺は、今、吸血鬼を狩っている。
 
 夜空には、紅と蒼の月。
 夜を往くものだけが見る双月夜。
 
 蒼い月の輝きが増した。
 真月の声なき声が聞こえたような気がした。
 
 だから、俺は校門の前に立っている。
 蒼い月に導かれるように、首にかけた『火者の護章』を手に取った。
 紅い月に誘われるように、夜を駆ける者が姿を現わした。
 
 蒼い月の光が世界を閉じる。
 凍夜と呼ばれる、夢に沈んだ異空間だ。
 
 今日もまた、悪夢と戦う夜が来る。

243 名前:伊藤惣太(M) ◆VJEDOuwb.c:2003/06/08(日) 15:37

羽村亮vs闇惣太
>>242
一体、何時からこうなってしまったのだろうか。俺は月を見上げていた。
二つの月を。
           蒼い、なんて蒼い。
           
紅い、なんて紅い。
 
月が紅いのは黄砂によるものだと、昔聞いた。
 
――――――だが、二つの月が何時からあるのか、俺は覚えていなかった。
 
分からない。時々月が二つあるから俺はこうなってしまったのかとも思ってしまう。
月に当たっても仕方がないのに。
  
子達が待っている。彼女達は自らの意思では血を飲まないのだから。
無理にでも飲ませなければならない。
   
命を持って命を食らい。ただ永遠に今を続けているそんな、生。
 
空気が変わる、森の奥のように、誰も見たことがない聖域のように。
 
「これは……?」
 
そして、吸血鬼としての俺に分かる気配があった。
 
  ――――――それは、闘気。
   
    それは闘志――――――
     
それは純粋な怒り。
 
           俺は敵の存在を知った。
            
             
そして、ナイフを持って俺を呼ぶ気配の下まで走る。
そう、生きている事を思い出す為に。

244 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/08(日) 15:57

 羽村亮vs闇惣太
 >>243
 
 吸血鬼が真っ直ぐに飛び込んでくる。
 その手に握られているのは凶悪な形状のナイフだ。
 
 蒼い月に、『火者の護章』を翳す。
 地面に落ちる影から、一振りの木刀が浮きあがる。
 人外と戦う力を秘めた木刀を手に取り、精神を集中する。
 
 感覚が広がって行く。
 風が、ざわめく木々が、全ての動きが全身を通して感じられる。
 『重ね』と呼ばれる異能。俺の火者である由縁。
 動く物を目に頼らずに知覚する力だ。
 
 その感覚が眼前の生ける死者に集中して行く。
 
 速度、慣性、運動、反応。
 
 吸血鬼の動きに合わせ、木刀を片手で構える。
 動体知覚能力者独特の戦法に特化した完全なカウンターの構え。
 
 交差の一瞬を、全神経を研ぎ澄ませて待つ。

 目で見ているのか、感覚が見ているのか。
 吸血鬼の姿が、はっきりと見える。
 それは、どこか悲しげな姿に見えた。

245 名前:伊藤惣太(M) ◆VJEDOuwb.c:2003/06/08(日) 17:06

羽村亮vs闇惣太
>>244
敵は男だった。優しそうな目に闘志を湛え月夜に立つ。
  
――――――剣を構えるその姿はどこか、懐かしいものを感じさせる。
 
すぐ思い出せた。いい月だからだろう。
 
 ――――――あれは、俺。絶望を知らぬ頃の俺だ。
 
罪を犯し、血を啜り、子を犯す。

 それに慣れきった俺ではない俺。
 
誰よりも人であろうとした頃の俺。 
そんな俺。
              
              これが俺の犯した罪か――――――
               
良いだろう。受けて立ってやる。お前が俺だというのならば、俺を力づくで黙らせろ。
 
そう思いながら校庭を蹴る。

 ――――――加速に次ぐ加速吸血鬼の、夜の一族が出せる力。
 
「よう。元気でやってるか?」
 
相手は動かない、恐怖に怯えているわけじゃない。
逆だろう闘志に滾り、この殺し合いに臨む姿は恐怖ではない。
 
目の前の男はカウンターを狙っている。
そうだろう、人間が吸血鬼の速度に追いつくには動作の無駄を徹底的に排除した攻撃か、
超長距離からの狙撃、元々の弱点をつくなどなど色々あるが、
この状況で俺に相対するには紙一重からのカウンター以外ないだろう。
 
ハ、良いだろう付き合ってやる。
ただし、俺のやり方で。
 
いまだに使っている異形のナイフ、
サド公爵の愉悦のグリップを俺は握り締め抉りこむ連突きを放つ。

246 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/08(日) 17:54

羽村亮vs闇惣太
>>245

 そうだ。
 もっと、もっと加速しろ!
 
 人間の身では、吸血鬼の反射速度には到底追い付けない。
 死角の無い感覚、そして得物のリーチの差が勝機になる。
 加速すると言うことはこっちが不利になるように思えるだろう。
 だが、加速すればするほど咄嗟の小回りは効かなくなる。
 その方が俺には好都合だ。
 
 吸血鬼のナイフが閃く。
 合わせて木刀を突き込む。
 
 間合いはこっちが取った。
 だが、凄まじい連撃が瞬時に俺の手足を切り裂いた。
 それでも切っ先は揺るがない。
 吸血鬼の喉にめがけ、真っ直ぐに突き込む。
 
 吸血鬼の顔を見た。
 俺と大して違わない少年にも見えた。
 憎悪の形相を見た。
 だが、それは今にも泣き出しそうな顔に見えた。
 
 木刀に、手応えを感じた。
 
 「ああ、俺は元気だよ─―――――アンタと違ってな」

247 名前:伊藤惣太(M) ◆VJEDOuwb.c:2003/06/08(日) 18:32

羽村亮vs闇惣太
>>246
喉を突かれる。俺の速度とカウンターの突きがあいまって喉仏と頚骨を少し砕く。
痛い、息が出来ない。だが、吸血鬼の身体はそんなことにお構いなしに治る。
相手に突きこんだナイフも行動を制限するようなやり方ではない。
 
飛び退り、距離を取る。
 
「そりゃなによりだ」
 
――――――俺は久々に笑った気がした。
 
相手のカウンターは完璧だった。
木刀でなければ恐らく、頸部を切断され、
動きが鈍ったところを心臓を刺されて終わりだったに違いない。
 
「どうだ?この頃は」
 
同い年の真っ当な感性を持った人間と話すのは久々だ。
すこし、会話をしたいと思った。
 
 ――――――罪は消えるはずも無く
                  
        ただの自己憐憫に過ぎない――――――
        
俺は狂っている。絶望しているだけならただ、太陽の前に出れば良いだけだろう。
最初の子、彼女のように。
 
 ――――――惣太さん、ごめんなさい。私、やっぱり出来ない。
 
彼女は優しすぎた。彼女は美しすぎた。
あの時、俺は何故止めなかったのだろう?俺は恐れている。

                     ――――――勇気を
   
  人の愛を――――――
                 
                 ただのバケモノに過ぎない。
                 
餓えがこみ上げる。俺が吸った子らは皆、本能に反して血を吸わずに生きようとしている。
故に弱り、死にかけようとしている。
させない、そうはさせない。死なせて堪るか。失って堪るか。
 
俺はナイフを足につけたホルダーに無造作に差込み、背中につけた異形の剣。
旋風の暴帝を引き抜く。
三つ刃の剣をたたんだ状態のまま、俺は月夜にただ、たたずみ待った。
 
来いよ。

248 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/08(日) 18:50

羽村亮vs闇惣太
>>247
 
 「近頃は・・・ちょっとしんどいな」
 
 呼びかけに応える。
 この吸血鬼は何を言っているんだろう?
 そう思わないでもないが、向うが問いかけて来る理由は何となくわかる気がした。
 
 望んでいなかったんだろう。
 後悔しているんだろう。
 
 吸血鬼にされてしまった事を。
 吸血鬼となった事を。
 
 相手の取り出した武器を見て、眉をひそめる。
 投擲武器。
 しかも、半端じゃない破壊力のありそうなシロモノだ。
 
 リーチの点で勝っていたのはあっさりと覆される。
 吸血鬼の脚力で投擲武器の距離を維持されたら、絶対にこちらの攻撃は届かない。
 拙い事態だ。
 だが、まだ勝機はある。
 
 「なぁ、そっちはどうなんだ?
  最近は・・・辛いんじゃ無いか?」
 
 言葉と共に、吸血鬼に向かって走る。
 無謀に見えながら、咄嗟の行動が可能な姿勢を保って。
 やや大振りに木刀を振るう。
 

249 名前:伊藤惣太(M) ◆VJEDOuwb.c:2003/06/08(日) 19:33

羽村亮vs闇惣太
>>248
「そっか。多分なんとかなるだろう」
吸血鬼である事を忘れて俺は返す。掛け値無しにそう思えるから。
 
――――――やめて!彼を殺さないで!
         
         ―――殺しはしない。だが貰う―――

奪い尽くす。甘い味。甘党じゃなかったのにこういう台詞が自然に出る。
喉越しが柔らかく刺激的で求める渇きが癒える。
 
欲情し、思うが侭に貪る。人並みにそういう感情はあったが止まらない。
柔らかさと弾力を味わい、奪ったものを返すように放つ。
 
「割りと……そうだな。充実してるとは言いがたいな」
 
肉が躍る。女の嬌声。睦言。そして断末魔。
 
死に救いは無く――――――
                 ――――――俺はただ怯えている。
                 
ナイフが閃く。それは次に渇くまでの抑えを繋ぐ為の儀式。
溢れ出た命の素を袋に詰め、彼女達に偽る。
 
「まあ、そっちほど上手くは行かないさ」
 
男が突撃してくる。旋風の暴帝は投擲に使う気はない。
だが、フェイントには充分だろう。
 
ギリギリまで男を待つ。吸血鬼の時間感覚はあいまいだ。
素早い動作も1秒も掛けずに行えるのに何かを待つのにはちっとも待てやしない。
一歩、一歩高速の踏み込みで来ているのを苛立ちながら期待しながら待つ。
 
振りかぶられた木刀を剣圧の差を考えて避ける。
あの時から使いつづけている拘束衣の胸が大きく裂けていた。
 
「やるなぁ」
 
俺はのんびりといいながら男の背後をつこうとする。

250 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/08(日) 19:51

羽村亮vs闇惣太
>>249
 
 「俺だって上手く行ってるわけじゃない」
 
 投擲しない?
 
 武器の形状は投擲武器だと踏んだ。
 だが、向うはそれを投げて使う意図が無いようだった。
 なら再びカウンターの構えに移るか。
 
 そう思ったとき、既に吸血鬼の「動き」は背後にあった。
 完全な死角。
 
 ただし、常人なら、と言う条件付きでだ。
 俺の『重ね』は背後であろうと確実に動きを感知する。
 
 振り向きもせず、逆手に持ち替えた木刀を背後に突き出す。
 
 「だけど・・・おまえ、上手く行くとかそう言うんじゃないだろ・・・?」
 
 避けられた。
 
 だが、木刀が吸血鬼の服・・・レザー製の拘束具のような・・・に引っ掛かる。
 そのまま引き寄せ、木刀と一緒に担ぎ上げる。
 技とも言えないようなデタラメな技だが、そんな事には頓着しない。
 思いきり形を崩した1本背負いのように、吸血鬼を投げた。
 
 「凄く、辛そうだぜ?」

251 名前:伊藤惣太(M) ◆VJEDOuwb.c:2003/06/08(日) 20:15

羽村亮vs闇惣太
>>250
気になる事があった。先のカウンターは偶発ではないだろう。
しかし、修練を積み重ねたとかそういうものではない。
ハンターはそれぞれに特技を持っている。でなければ生きてゆけないからだ。
 
俺にはそれが気になった。それを確かめる為に、俺は背後をとる。
特訓とかそういうものではなかなかに対処できない領域からの一撃。
これは奇貨だ。試してみなければ通用するか分からない。
 
「多分な」
 
声と同時に旋風の暴帝を横薙ぎへと振るおうとする。
突きこまれる木刀。これは達人ならどうにかできると俺は思う。
紅い騎士ならばその一撃で俺は死んでいたはずだ。
 
かろうじて避けた。そう思った時拘束衣のベルトに引っかかる。
 
疑問が一つ、解けた。相手は俺の攻撃が予測できる。
血が騒ぐ。
                  ――――――いやぁ…
  
泣きたければ、もっと泣きなよあたしがいてあげるから――――――

嬌声、慈母の声。                
 
「そうだな。そうかもしれないな」
認めてはいるが認めたくない。
 
俺は空を飛ぶ。放り投げられ、そのまま地を転がって相手から距離を取る。
 
「まあ、それでもなかなか…な」
 
適度な距離を取ったところで旋風の暴帝を構え、投げる。
無論、牽制ぐらいにしか効くまい。相手の能力を把握する。
これが最優先事項だ。

252 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/08(日) 20:40

羽村亮vs闇惣太
>>251
 
 「それでもなかなか・・・か」
 
 投げた。
 吸血鬼が、手にしている巨大なプロペラ状の三つ葉刀を投擲した。
 
 電動鋸のような回転が、弧を描くような軌道が、皮膚を通して脳内へと飛び込む。
 回転速度、ベクトル、空気抵抗、モーメント。
 難しい事はわからない。ただ、『動き』を感じるままに反応する。
 
 ナイフを振るった時のような小回りの効く攻撃じゃない。
 身体を捻って躱し、吸血鬼の動きを追う。
 完全に木刀の範囲外だ。
 人間の足で追うのは論外だろう。
 
 ならば
 
 木刀が青白い月光と化して崩れ去る。
 また火者の護章を手に取る。
 ポケットから白銀の石を取り出し、護章に3つある窪みへと填め込む。
 
 再び、火者の護章を蒼い月に翳す。
 
 手の内に顕れるのは、苦無。
 投擲にも適した、日本古来の短剣だ。
 
 「もう、どうにもならない・・・みたいだな」
 
 彼がどう言う経緯で吸血鬼になったかはわからない。
 だが、現状が望まなかったものだというのは察するに余りあった。
 その心情を思うと、思わず決心が鈍りそうになる。
 
 だが。彼がもうどうにもならないと判っているなら。
 方法は一つしかない。
 
 吸血鬼へと、苦無を投げる。
 ただ、真っ直ぐに刃が宙を疾った。

253 名前:伊藤惣太(M) ◆VJEDOuwb.c:2003/06/08(日) 22:13

羽村亮vs闇惣太
>>252
当然のことながら回避される。読心の類ではないだろう。それでは遅すぎる。
攻撃がどう来るか理解できる。予知に近いものだろう。
でなければ俺が今することに対して奴は対応できるはずだ。
 
精神を集中し、あの力を呼び覚ます。夜魔の森の女王、リァノーンの形見を。
俺は彼女を殺した。だが、時は遅すぎた。
吸血鬼化が進行し切り、そして俺は吸血鬼のままだった。
 
――――――ごめん、リァノーン。俺は戻れないままに君を殺してしまった。
手刀を引き抜き、跪く。
 
貴方はまだ――――――人間?
  
閃くハンマーをねじ伏せ挽肉屋を背後へ撃つ。
挽肉屋の名に相応しくハンターの腕と足がズタズタに変わる。
そのまま両腕を砕き脊椎を破壊する。
彼女を引き裂き血を浴びせ燃え盛る建物を逃げ出した。

惣太くん?どうしたの―――――― 
 
抱き寄せ服を裂き唇をよせ全てを奪う。
 
惣太――――――?
 
恐れながら泣きながら掻き抱き血を啜る。

                   俺は――――――バケモノだ。
                   ――――泣きなよ。泣いていいよ。
                   
                   太陽の差す出口へ向かって彼女は走る。
                   俺は疲れで動けなかった。
                   
      「ああ、そうだな。でもよ」
男が木刀を光に変える。
 
   「死ねば楽になるってもんじゃないんだ。ただでさえ色々やっちまってるんでな」 
   
光は連なって忍者の手裏剣のような姿へ変わる。                  
 
ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。それは銀の閃き。
あの光に対しては吸血鬼のスピードでも避けきれない。
 
過去を思いながら右拳に精神を集中させる。
紅の騎士は剣に念動力を込め、剣圧を高めた。
             
             ――――――できるもんだな。
             
俺も練習は欠かさなかった。
             自分の手が巨大な網のように思う。
             
             
    それは一瞬の煌きだった。
               
苦無を受け止める俺の手はそのまま男へと打ち返そうとしていた。

254 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/08(日) 22:36

羽村亮vs闇惣太
>>253
 
 苦無の動きが空中で変わる。それは、力学上ありえるはずの無い動き。
 
 「念動ッ!?」
 
 咄嗟に護章へと念じる。
 吸血鬼の手に落ちた苦無は、また月光へと還る。
 
 同じように投げてはいけない。同じ結果になるだけだ。
 
 ポケットから蒼い石を二つ取り出す。
 護章の窪み、銀の石を填めた部分の両脇、残り2つの窪みにそれぞれを填め込む。
 
 「・・・もう・・・終れよ。これ以上自分虐めて楽しいのかよ・・・!?」
 
 新たな刃を手元に喚び出し再び構えた。
 ただし、具現化する苦無は三本。
 
 脳の神経が斬れるのでは無いかというくらいに、精神を集中する。
 現在の動きすら超越し、未来の動きすら感知できるほどに。
 全身の感覚が『重ね』へと変わって行く。
 
 1本目を、投擲した。吸血鬼へと、真っ直ぐに。

255 名前:伊藤惣太(M) ◆VJEDOuwb.c:2003/06/09(月) 22:04

羽村亮vs闇惣太
>>254
「楽しいわけじゃない」
そう返した。死ねば楽になれるかもしれない。そこで終わりなのだから。
それは逃避ではないのだろう。ここまでやって死なないと言うのは流石にアンフェアだろう。
 
――――――俺一人なら。
 
子、いや彼女達を免罪符に使っているにすぎないのだろう。        
渇く、渇く。再び渇き始める。本当に渇いているのは体か、心か、魂か。
 
男に会った最初の時を思い出す。奴に殺されるのは構わない。
だが、堕ちた俺より強ければの話だ。力ではなく、その意志の強さが。
 
男が苦無を再び出す。奴の特技は武器を何処かから出すことと、攻撃の予測。
ならば、と俺は思考する。
 
俺は吸血鬼、男は人間。
 
処理能力を超える量の攻撃をすればいい。
苦無は投擲武器。 
 
愛用しつづけている小型の銃剣がついたリボルバー、レイジングブルマキシカスタム。
――――――こうなってから銃を撃つのは余りしなくなっていた。
 
銃声が厄介な奴らを呼び寄せると思ったからだ。
あの男相手に出し惜しみはしても意味がない。
俺は誘うように動きながら構え、一気に全弾を撃つ。
 
同時に急所を両腕でガードして間合いを一気に詰めようとする。
この距離では俺にとって不利すぎる。
 
投擲された苦無が俺の左肘ごと脇腹を抉りぬく。
 
         ――――――喪失感
              
            ――――――灼熱感
              
              ――――――そして、安堵。
あの苦無、ただの武器じゃないのは分かっていたがここまでとは。
しかし、この距離は俺にとって有利なはずだ。 
左腕が使えなくなった。姿勢は何とかなる。いや、する。
足を止めずに、飛び蹴り。昔見たドロップキックを放つ。

「つらくたって、止まるわけにも行かないだろうが」

256 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/09(月) 23:26

羽村亮vs闇惣太
>>255
 
 抜き撃ちの瞬間の動作から射角を特定する。
 手首の動きからトリガーを引く瞬間を知覚する。
 
 (早い!)
 
 吸血鬼の反射にあらためて舌を巻く。
 
 凍った夜に響く銃声。
 リボルバーとは信じられないくらいの脅威的な連射だ。
 見るからに凶暴な外観の銃から放たれた弾丸の動きが、
 まるでスローモーションの様に感じられる。
 
 吸血鬼の意図は読めた。
 こちらの『重ね』に気付き、処理能力を上回る密度で攻撃をしかける腹積もりだ。
 
 (やっぱり、オマエ・・・俺に似てるよ)
 
 そう思った。思いつつ身体が動いた。
 
 身体の動きが異様に鈍く感じられる。
 失血の影響もあるが、吸血鬼の行動に合わせて動こうとした場合、
 人間の肉体はいかにも鈍重だ。
 それでも、予測される弾丸の軌道を出来る限り避けるべく身体を動かす。
 
 1発は避けた。
 姿勢は崩していない。
 こめかみを銃弾が掠めた。
 衝撃波だけで脳震盪を起しそうになる。
 右太腿の肉が抉れ、血と肉片が飛んだ。
 激痛がさらに意識を揺さぶる。
 左肩が盛大に血飛沫を上げる。
 こちらは既に痛みも感じない。
 最後の一発。
 右腕に持った苦無を投擲するのと交差する様に、弾丸が右腕を砕いた。
 
 こちらの意図も、吸血鬼とほぼ同じ。
 対処できない攻撃をしかける事。
 
 投擲動作は一度。再び吸血鬼を狙い刃が閃く。
 完全なフェイント。一度の動作でニ本の投擲。
 三本目はニ本目の影に隠れるようになり、吸血鬼からは見えない。
 だが、それさえ牽制にすぎない。
 
 「なら・・・止めてやる。俺が、おまえの痛みを。オマエの乾きを。御前の全てを」
 
 そして吸血鬼のドロップキック。
 そう来る事はわかっていた。
 吸血鬼の姿勢が、動作の「溜め」が、何よりその表情が、
 直接的な攻撃をしてくると語っていた。
 
 こちらの両腕はもう使えない。
 だが、両腕を犠牲にしてまで得たもの。
 
 こちらの姿勢の安定と、相手の姿勢の乱れ。
 『動き』を知る事が行動の全ての起点である俺の戦いにおいて、
 もっとも有利な局面。
 
 一本目の苦無が光と化して崩れ、再び俺の元で実体化する。
 俺の口に咥えられて。
 
 吸血鬼とは言え、空中での姿勢制御には限度がある。
 俺には、その限度を読みぬく自信がある。
 
 奥歯が砕けるほどに強く苦無を噛み締め、身体を翻し、渾身の力で首を振るった。

257 名前:伊藤惣太(M) ◆VJEDOuwb.c:2003/06/10(火) 20:25

羽村亮vs闇惣太
>>256
思い出す、あの日々を。思い出す、あの安らぎを。
思い出す、あの死闘を。思い出す、あの悲しみを。
 
――――――俺は思い出した。
 
彼女を抱いた時。
               ――――――噛んでもいいですよ。
               
               
できない、できないよ――――――
               
――――――帰れ!帰るんだ!!
           
           飲みきらなかったんですね――――――
           
俺は臆病者だ。優しい人なんかじゃない。
空中に身を置く事は翼のない身では自殺行為なのだろう。
これで死ぬのならそれまでの事だ。
全体重を加速してたたきつけるドロップキックを男はのけぞって避ける。

行ける。例のカウンターはこない。後は組み付いて血を吸って――――――
 
――――――どうすると言うんだ。
               
      この男にも俺と同じ苦しみを味あわせるのか。
      友を傷つけ、愛しい者を陵辱する道を歩ませるのか。
      
――――――何、迷ってんだよ。吸っちまえ。吸って愉しもうぜ。
 
      奴も同じにしちまおうそうすれば俺は――――――
       
      滅ぼしたはずの影が言う。黙れ。
      お前はもう居ない。妄念に過ぎない。
      もう一度言う、黙れ。
       
               ああ、もう居ないぜ。だって――――――
               
      言うな。黙れ。俺は、俺は、俺は――――――!!
       
空中での思考の閃きは一瞬にも満ちていなかったのだろう。
着地もできず、地面に無様に転がる。
 
何が起こった?

そう思うのもつかの間、足がない。カウンターは確かにあったのだ。
奴は本当に似ているようだ。
こっちが処理速度を上回る攻撃を出そうとしたのをさらに読み、
力をカウンターの一瞬まで温存しきる。
 
「は、はははははははははは!!!」
 
大声で笑った。今日は本当に久しぶりな事が多い。
 
「やるなぁ、本当に面白いや」
 
這いずる。残った右腕を地面に突き立て、ぐいぐいと。
這いずる。牙を剥き出しにして爛々と目を輝かせ。
 
体中が泡立つ感覚。再生が加速する。今やるべき事はただ一つ。
 
――――――吸血鬼は血を吸う。
 
その絶対のルールを守る為に俺は男の元へ急いだ。

258 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/10(火) 21:17

羽村亮vs闇惣太
>>256
 
 失血に意識が揺らぐ。
 
 カウンターの一撃は、吸血鬼に確かに大きなダメージを与えた。
 だが、対吸血鬼の戦闘に大きなダメージ等と言う物はさして意味が無い。
 
 こちらは立っているのがやっとだ。

 吸血鬼が這い寄ってくる。
 吸血鬼の体力を持ってしても這いずるのがやっとの傷だが、それも徐々に再生している。
 
 俺は吸血鬼に歩み寄る。
 
 あいつの意図する事は良くわかる。
 吸血鬼が吸血鬼であるための条件。
 血を吸うこと。
 
 「俺は面白くなんてねーぞ」
 
 俺の言葉は、どこか拗ねたような口調になった。
 
 自分のダメージを確認する。
 右腕は銃弾で半ば砕かれ、まともに動かない。
 左腕は肩に重傷。動きに激痛が伴い、反応も鈍い。
 両足は銃創とナイフの傷で出血が酷い。機敏な動きは不可能だ。
 むしろ、ぶっ倒れてないのが不思議なくらいだと思う。
 
 吸血鬼が這い寄る。ホラー映画の怪物のようなスプラッタな姿はむしろ滑稽だ。
 だが、滑稽さを嗤う事は出来ない。その姿が、あまりに痛々しいから。
 
 「ほら・・・掴まれよ」
 
 まるで、握手を求める様に。いや、事実、俺は握手を求めていたのかもしれない。
 そう言って、俺はまともに動かない右腕を吸血鬼に差し出した。

259 名前:伊藤惣太(M) ◆VJEDOuwb.c:2003/06/11(水) 20:34

羽村亮vs闇惣太
>>258
突き抜ける痛みが元の場所へと俺を戻そうとする。
こみ上げる餓えが暗い場所へと俺を引きずろうとする。
 
餓え、そして渇き。吸血鬼は血を吸う鬼だ。
血を吸うからだけで吸血鬼ではない。 
その根源に渇きと殺意、そして歪んだ愛があるから。
 
むず痒い。体が癒える感覚が。
腹立たしい、こうまでして永らえようとする俺自身が。
 
そして今から血を獲ようとするのを喜んでいる自分がいた。
 
「悪いな、娯楽が少なくてな」
 
クソッタレ――――――
             ――――――我慢するなよ
    
 黙りやがれ――――――
            ――――――無理しなくていいんだぜ? 
            
男が手を差し伸べる。諦めたわけではないだろう。
        
「どうにも、みっともなくてすまねぇ」
 
手を掴む。できるだけ痛くならないように。できるだけ勇気がもてるように。
吸血鬼に噛まれた者は吸血鬼になる。それは絶対のルール。
その中にも例外はある。俺自身その例外だったのだから。
奴がそこまで知っているか分からない。だが、それを狙っているのなら。
 
――――――同じ道を歩むと思うか?
      
   いいや、奴はその道は選ばない――――――
    
     
     ――――――そう思いたいか?
            
            思いたいね――――――
             
             でなきゃ、どうしようもないだろう――――――
             
     ――――――まあな。
     
餓えと渇きによる無意識との対話。
這い登り、牙を突き立てる。飲みすぎないように気をつけながら。
ここで、我を忘れたら本当にどうしようもないのだから。

260 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/11(水) 21:45

羽村亮vs闇惣太
>>258
 
 全身が冷たくなって行く。
 冷える。寒い。凍えてしまう。
 暗い衝動が肉体の内に染み入って来る。
 
 聞こえる。
 慟哭の声が。
 悔恨の絶叫が。
 これが血盟─―吸血鬼特有の親と子の精神感応─―なのだろうか。
 彼の、吸血鬼の記憶が垣間見えた。
 
 健康的な、気の強そうな少女の、哀しそうな顔。
 眼鏡をかけた、内気そうな少女の、慈母めいた笑顔。
 儚げな、神秘的な雰囲気を湛えた美しい少女の、虚ろな顔。
 金髪の、決意を秘めた瞳を持つ幼い少女の絶望の顔。
 
 (おまえ、こんなに暗くて冷たい所で・・・ずっと耐えてたんだな・・・)
 
 全身から涌きあがってくる、怨嗟、呪詛、憤怒。
 そして全てを圧倒する血の渇望。
 
 自分が、何か別のモノに変わっていく。
 
 その苦痛、絶望、恐怖、快楽、歓喜を、ようやく俺も理解した。
 
 大切なものを自らの手で壊してしまった後に襲ってくる、底冷えするような絶望。
 人間の尊厳を蹂躪せんと執拗に誘惑する、血の快楽。
 堕ちる、堕ちて行く、その深淵に引きずり込まれそうになる精神を叱咤し、
 どうにか踏みとどまった。
 
 肉体の痛みが引いてきた。
 傷の再生が、ゆっくりながら始まっている。
 犬歯が疼く。
 脳内が、視界が紅く染まって行く。
 俺の瞳は・・・凍夜に、蒼く、燃える様に輝く俺の瞳は、今何色なのだろう?
 
 「オマエ・・・本当に、俺に似てるな。他人とは思えないよ」
 
 彼の記憶を覗き、彼の精神に触れた正直な感慨だ。
 だからこそ、彼をこのままにして置けない。
 
 左手に石を取った。
 夜の闇を思わせる漆黒の石を、護章に填め込む。
 
 首筋に牙を立てる吸血鬼を、抱く様に抱えたまま、護章を真月に掲げる。
 
 月の光を集めて実体化するのは、大きな十字架。
 否、十字架を模した聖剣だ。
 その銘を『セイント』と言う。
 魔を祓い邪を断つ聖別された剣は、柄を握る俺の手をも容赦なく灼く。
 
 吸血鬼の哀しげな姿を見て萎えそうになる決意を奮い起こし─――――
 
 「さよなら、もう一人の俺。悪夢の夜はもう終りだ」
 
 吸血鬼の肉体に刃を突き立てた。

261 名前:伊藤惣太(M) ◆VJEDOuwb.c:2003/06/11(水) 23:43

羽村亮vs闇惣太
>>260
男の思念が伝わる。吸血の際、時折起こる精神感応。
友人、恋人、からかわれ、求め合う。そんなたわいのない日々。
 
そこには、太陽が在った。
そこには、喜びが在った。
そこには、愛が在った。
 
願っても望んでも祈っても今の俺にはけして得られない。
いや、自ら捨ててしまったものがそこに在った。
 
――――――悔しいな
            まあな――――――
 
  ――――――でも、なんかいいな。
 
               確かにな――――――
  
    ――――――これ以外に会ってたら面白かったかもな。
 
                 尻にしかれ同士とかな――――――
 
 ――――――微妙にやるせないがそれでもいいな
 
                  ああ、俺もそう思う――――――
 
渇きが満ちる。もっと飲みたい。もっと吸いたい。
狂いそうなほどに、味わいたい。
 
「そうだな、本当に…」
 
苦笑する。これも久しぶりだな。と思った。
眠気が来る。今まで、ろくに眠れなかったなと思った。
 
夜の光が優しさを帯びてきた。男の手には聖なる力を秘めた剣。
 
「悪いな。本当に」

激痛と呼ぶには、優しすぎる刺激。
苦痛と呼ぶには、優しすぎる感覚。
 
 
              消えてゆく。悲しみも憎しみも怒りも後悔も。
              戻ってゆく。安らぎが慈しみが喜びが希望が。
 
「羽村。もし、彼女に会えたら伝えてくれ。『ごめん』って」 
精神感応でやっと知ることができた男の名前を呼ぶ。
 
そして、俺は在るべき所へ戻っていった。
 
――――――最期に、太陽と風を感じながら。

262 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/12(木) 20:33

羽村亮vs闇惣太
>>261
 
 「ああ・・・お休み、伊藤惣太。もう、苦しまないでくれよ」
 
 腕の中で、灰と化して崩れ落ちる吸血鬼。
 
 彼に別れの挨拶を送る。
 気の利いた言葉は浮かばないから、随分と陳腐な言葉しかかけられなかった。
 ほんの僅かなつきあいだった。お互い、名乗りもしなかった。
 だが、そんな事は関係無いくらいにお互いを理解できただろう。
 並みの人間が10年付き合うよりも遥かに深く。
 
 気付いたら、頬が濡れている。
 俺は泣いていた。
 まだ視界が紅い。
 目の毛細血管が破裂していたのだろう。
 俺の頬に、血の涙が流れ落ちていた。
 
 ─――なんだか、古い友人を喪ったような気がした。
 
 あれだけ深かった傷はもうすっかり癒えていた。
 失血による倦怠感はあるが、身体はむしろ軽い。
 だが、人間を・・・友人をその手にかけたような気がして、心は暗く沈む。
 後悔はしない。
 あれが彼のためだったと信じている。
 だが、心に残る罪悪感は消えない。
 
 それでも、悪夢がこの世に顕現する限り、俺達の戦いは終らない。
 後悔も懺悔も、全て心に閉じ込めて。
 俺はまた歩き出す。
 
 涙をぬぐった。
 
 東の空が白む。
 今日もまた夜が終って朝が来る。
 風が吹き、一握の灰を・・・惣太の存在した痕跡を巻き上げ、無へと返す。
 
 ─――いつもより夜明けが眩しいような気がした。
 
 太陽に照らされると、ようやく激戦を思い出したように疲労が襲ってきた。
 気が緩んだせいか、夜闇に慣れた目で太陽を見てしまったせいか。
 また、少しだけ涙が出た。
 
 疲れ果てた肉体を引きずって、俺は行く。
 彼の最後の言葉を叶えるために。
 もしも助からないなら、彼女達にも悪夢の終りをもたらすために。
 
 明日もまた、必ず夜が来るのだから。

263 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/06/12(木) 20:40

 羽村亮vs闇惣太
 レス番纏め
 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>249 >>250 >>251
 >>252 >>253 >>254 >>255 >>256 >>257 >>258 >>259 >>260 >>261 >>262
 
 さよなら、惣太。やっぱり、おまえの事他人だって思えないよ・・・
 
 ・・・エロゲ主人公同士だから似てて当然とかって意見は却下。

264 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:01

朝霧曜子VSエレン 導入
 
「みなさ〜ん、わたし、一年A組の朝霧曜子。
 転校してきたばかりだけど――よろしくね」
 
 壇上に上がる話題の転校生、手にはグロック17、響き渡る銃声、崩れ落ちる校長。
 平和であったはずの全校朝礼は、そんな非日常の宣言から始まった。
 
 朝霧曜子――季節外れの転校生、男女が羨む容姿の持ち主。
 転校生というモノはただでさえ目立つが、それにおまけが付くとなると注目度もひとしおである。
 一度お目通りしておこうと考える者もいれば遠巻きに眺めるだけの者、くだらないと一蹴する者。
 そして、何だかんだで大多数である無関心な者。
 そんな喧噪も当人にとっては慣れたものらしく、決して悪印象を抱かせずに柔らかく対処していく。
 評判は鰻登ることこそあれ、決して下がる事はなかった。
 
 そんな騒がしい幕開けとなった一日、学校の幕開けである全校朝礼。
 人当たりのいい転校生を演じていた吸血鬼は、一転してその仮面をテロリストへと脱ぎ替えた。
 硝煙を上げる拳銃と少女を、何処かモニター越しの悲劇であるかのような表情で見つめる教師に生徒達。
 だが、そんな間も一瞬、日常の中で生きてきた一般人達は、こんな非常識に相対する術を知らない。
 パニックが始まるまでさほどの間を必要とせず、そのパニックを鎮める者達と銃声もまた姿を現した。
 ある生徒が、突撃銃に足を撃ち抜かれて絶叫し、銃創を押さえながら無様に、無力に地面を転がり回る。
 テロリスト達が持つ武器、屋根に向けての威嚇射撃が、一同にパニックへの逃避すら許さなかった。
 
「やっぱり時間には正確ねえ。安心したわ、シラギ」
 
 転校生の発した言葉に、黒衣の男が応じる。
 何やら聞き慣れない言葉を交わした後、今度は無力な人間達へと向き直って、
 
「おとなしくしてれば、とりあえず殺さないわ。とりあえずは、ね」
 
 抵抗の意志を示す者は、いないように思えた。

265 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:04

>264
朝霧曜子VSエレン

 講堂の中は、奇妙なざわめきに満ちていた。
 床に転がった少年の呻き声。そして、全ての生徒からあふれる不安や、嘆きの声。

「…一体……何が起こったの?」
「ちょ……何なのよ、これは……」

 吾妻江漣の両脇で、彼女のクラスメイトである藤枝美緒と窪田早苗が怯えた声をあげる。
 彼女たちと肩を寄せ合うようにしながらも、江漣は周囲の状況を具に観察していた。

 講堂を襲ったテロリストたちは、壇上の朝霧曜子。
 そして、今まさに入り口から入ってきた男達が五人。
 シラギと呼ばれた黒衣の男。
 眼鏡を掛けたやせぎすの男。
 サングラスを掛けた男。
 ガム噛んでるロシア系の肥満漢。
 最後の一人は、特に特徴のない、おそらくはスラブ系の男。
 
 今、怜二は別件で香港に行っており、ここにはいない。
 手持ちの武器は、背中に隠してあるコルト・パイソン一丁。
 敵は全部で六人。こちらの装弾数も六発。
 ミスは許されない。
 今、不用意に動くわけには行かない。

266 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:05

>>265 朝霧曜子VSエレン
 
 パニックは収束しつつも、何処かざわめいた空気を残す講堂の中。
 床には天井への発砲で撃ち抜かれた照明の破片が散らばっている。
 何を思ってか、窓という窓には暗幕が取り付けられていた。
 足を撃ち抜かれた生徒は、おざなりに傷を治療されてそこらに転がされている。
 
 その生徒も含めて、講堂内にいる全ての人間が、彼らによって中央に集められていた。
 たまに反抗の意志を示す者もいるが、それらは例外なくすぐ押し黙る事になった。
 圧倒的な暴力の前に、戦いを知らない人は為す術を持たない。
 
 そんな彼らを囲むように、四本の柱状の機械が設置された。
 高さ約3メートル、それらが正確に正方形を描くように配置されている。
 機械の根元では、眼鏡を掛けたアングロサクソン系のやせぎすが、何やら作業をしていた。
 鼻歌を歌いながら、しかし異様に瞬きの回数が多い。
 どうやら神経質らしい。
 柱から伸びたコードを、トランク状の物体に接続していく。
 回りでは武装した男達が、油断なく全体の動きに目を配っていた。
 
「作業終了……」
 
 呟いて、眼鏡の男が立ち上がる。
 舞台下にいる黒ずくめの男――シラギと呼ばれていた――に目配せする。
 何も言わず、シラギは首肯する。
 それを受けて煙草を取り出し、火を付けると、
 
「ねえキミ達、ちょっとこっちに注目してくれないかなあ!」
 
 手を叩いて、無理矢理に注目を集める。
 そんな事をしなくても、皆の目は眼鏡の男に集中していたが。
 それに満足したかのように笑うと、煙草の煙を肺にたっぷりと吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
 ――――副流煙が、柱と柱を結ぶ赤いレーザー――赤外線を浮かび上がらせた。
 
「クックックッ……このセンサーはね、こっちのとそっちのでっかい箱に繋がってる。
 中に入ってるのはTNT――爆薬だ。火薬としては旧式だけど、量がハンパじゃない。
 君たちの中の誰かが、このセンサーに引っかかったら――――」
 
 握った手を、パッと開くジェスチャー。
 
「ドガーン! 体育館がなくなるのは保証するよ」
 
 一瞬の静寂の後、方々で泣き声が上がり始めた。
 本格的な動揺と絶望が、彼らの中に浸透していく。
 
 舞台下に作られた即席の本陣で、ノートPCを覗き込んでいる朝霧曜子。
 その隣で直立不動のシラギ、少し離れた場所で銃を構えて辺りを牽制するサングラスの男――ロン。
 舞台から右側で監視を続ける、スラブ系の男、ゴッチ。
 その反対側で、ガムを噛んでいるロシア系の肥満漢、ユスチノフ。
 爆破装置を弄くっていた眼鏡の男、クーリエ。
 以上、六人が現在講堂を占拠している。
 
 だが、その目的は……?

267 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:07

>>266
朝霧曜子VSエレン

 江漣は一瞬の躊躇いが、致命的な遅れに通じたことを痛感していた。
 四方を取り囲むセンサーに爆薬。
 解体している余裕はないだろう。だとすれば、狙いはセンサーと爆薬の接合部。

 テロリスト達の立ち位置を改めて確認する。
 中央の集められた際、美緒達とは既に離れている。
 江漣はじっと息を潜めつつ、獲物を狙う猫のように全身の力を溜め始めた。

268 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:07

>>267 朝霧曜子VSエレン
 
「……まだ九時三十分か。太陽が完全に凋落するまで残り約八時間半……どう?」
「今のところ、全ては順調――予定通りだ」
 
 曜子の問いに、シラギが答える。
 
「そぉ。じゃ、初めてちょうだい。出来るだけ、活きのいいのを見繕ってね」
 
 シラギは頷くと、サングラスの男に目を移し、
 
「ロン!」
 
 呼ばれた男はサングラスを外し、軍用ベストのポケットに収めた。
 替わりにコームを取り出し、オールバックの頭を撫で付ける。
 
「構わん、始めろ」
「オーケイ、ミスター」
 
 ロンは頷くと、人質達にアゴをしゃくりながら、
 
「ゴッチ、ユスチノフ! 選別開始だ!」
 
 応えて、スラブ系とロシア系の男がセンサーをくぐって囲みの中へ入っていく。
 眼鏡が機械をいじって、一時的に解除しているらしい。
 すぐにロンも後を追う。
 
 そして、彼らは奇妙な行動を始めた。
 まず、リュックからスタンガンのような、奇妙な機械を取り出した。
 スタンガンと違うのは、グリップの上部に液晶パネルがある事か。
 銃を油断なく向けたまま、手前まで生徒達を来させると、腕まくりさせてその機械を押し当てた。
 
「痛っ……!」
 
 痛みを伴うらしいその行為の後に、液晶パネルに映った数値をロンが確認する。
 ライフルのマズルでその生徒を自分の後ろへ追いやった。
 そうやって、次々と生徒達を『仕分けて』いく。
 教師達は端から対象外らしく、測定もさないまま一塊りに放置された。
 一割程度の生徒が他とより分けられているが、その基準は少なくとも一見しただけでは分からない。
 
 そして、エレンの――ファントムの順番がやってくる。

269 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:08

>>268
朝霧曜子VSエレン
 
 テロリスト達は、明らかに油断していた。
 彼らの放った不用意な脅し文句。
 
「体育館がなくなるのは保証するよ」
 
 つまり、その爆発はテロリスト自身も破滅することを意味している。
 ならば少々派手に暴れたところで、爆弾が爆発する心配はない。
 
 
 謎の測定器を持った男の手が、江漣の袖に伸びる。
 その手が袖を捲り上げた瞬間、彼女の右手には、まるで魔法のように一丁の拳銃が出現していた。
 
 同時に轟音が響く。
 
 眼前の男、ロンの眉間を正確に打ち抜き、江漣は引き絞られた弓から矢が放たれるが如く
生徒達の輪から飛び出していった。
 
 こんな騒ぎが起きてしまった以上、この学院に留まり続ける事は既に不可能。
 ならば、現在の目的は唯一つ。
 
 
         生き残ること
 
 
 あらゆる枷かせから解き放たれた今、江漣の肉体はしなやかに加速していく。
 狙いは、一団のリーダーらしき黒衣の男。

270 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:09

>>269 朝霧曜子VSエレン
 
「What……!?」
 
 反射的に、英語で驚嘆の声を漏らす男達。
 何が起こったのか、瞬時には理解できない。
 脳漿をまき散らし、ゆっくりとロンが後ろへと倒れていく。
 無抵抗に地面に倒れた音を聞いて、ようやく彼らは正気を取り戻した。
 
「Shoot……shoot,shoot!」
 
 誰かが叫び、銃を構えようとし……突如として巻き起こったパニックの波に飲み込まれた。
 従順をかなぐり捨て、ただ生への欲求のみに従って暴走する人達の群れ。
 もみくちゃにされて、一瞬ゴッチとユスチノフがエレンを見失った。
 
「どけ……どけぇ!」
 
 人混みをかき分け、時に叩き潰しながら前に出ようとするが、いかにも遅い。
 既にエレンは、シラギを射程範囲に捕らえ……。
 
「わたしを無視してんじゃねーわよ」
 
 横合いから聞こえる声。
 何時の間に肉薄したのか、右僅か1メートルの距離に曜子。
 跳ね上がる腕にあるグロック17が、冷たい銃口をエレンへと向ける。
 
「勘違いしないで、こいつらを束ねてるのはわたし。
 ま、それはそれとして――わたしをシカトってのはむかつく」
 
 言って、男達へ視線を向ける。
 
「ボケッとしてないで、人質逃がしちゃ駄目よ。いろいろ面倒だから」
 
 言われて、慌てて出口に向けてトリガーを引く男達。
 セミオートで吐き出される銃弾が扉を叩き、今まさに扉を開けようとしていた教師をのけ反らせた。
 だが、一度爆発してしまった群集心理は、その程度では収まらない。
 勇敢にも――あるいは無謀にも、幾人かの教師や生徒が男達へと掴みかかろうとした。
 そいつらが教師であり、大多数に振り分けられた生徒であることを顔で判別し……突撃銃が火を噴いた。
 つまり、用なしの掃除も兼ねているという事だ。
 血煙と肉片と骨と内臓をまき散らしながら、無惨な肉塊へと化けていく人間だったモノ。
 それを面白くもなさそうに横目で眺めながら、曜子はエレンへと視線を向け直した。
 
「で、アンタは何なの? 平均的な日本人は、銃なんて持ち歩いてないと思うけど?」
 
 決して油断せずに銃口を向け、注意を配り、質問を投げかける。
 
「今なら許してあげるから、その銃をシラギの足下に投げ捨てて、地面に伏せなさい」

271 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:10

>>270
朝霧曜子VSエレン
 
 ほんの至近距離から掛けられた声に、江漣は驚きを隠せなかった。
 彼女は確かに自分が動き出す寸前、舞台下でノートPCを覗き込んでいたはず。
 
「貴方こそ何? その動き、とても平均的な日本人には不可能よ」
 
 顔だけは曜子を睨みつつも、右手を開き、足元に銃を落とす。

272 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:10

>>271 朝霧曜子VSエレン
 
「物わかりのいい子って好きよ」
 
 そう言いながら、油断なく足で銃をシラギの方へと蹴飛ばす。
 体育館の地面を滑って、銃はシラギの足の下に収まった。
 
「そう? ま、だったら何だと言われたらそれは教えてあげられないけど」
 
 そんな事はどうでもいいとでも言いたげに、冷たい視線をエレンへと向ける。
 
「さぁ、おとなしく伏せなさい。その上でちょっと身の上を尋ねたいわね」

273 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:11

>>272
朝霧曜子VSエレン

 血と硝煙の臭い。悲鳴と銃声。
 
 そう、ここは既に戦場だった。
 
 しかしそれでも尚、テロリスト達には僅かな油断があった。
 それは余裕と言い換えても良いだろう。

 ここが日本であったこと。何一つ有効な反撃が無いこと。
 理由はいくらでも挙げられる。
 
 そしてそれは、リーダーを自称する朝霧曜子においても同様であった。
 だから彼女はまだ、江漣が仕掛けた罠に陥ったことに気付いてはいない。
 しかし、それも無理はあるまい。
 江漣は彼女を罠にはめる為、自分の最大の武器である拳銃を餌として使用したのだ。
 
 曜子が最初江漣に声を掛けた距離。 それは、飛び道具にとって絶対的な間合いであった。
 拳銃を初めとする飛び道具は、使用するためにはどうしても構え、狙い、撃つといういくつかのステップを必要とする。
 そのため、あの状況で江漣が曜子に先んじて発砲することは不可能であった。
 
 しかし、今は違う。
 江漣が落とした銃を蹴る為、曜子は一歩踏み出す必要があった。
 
 
 そして、その一歩が、銃の絶対的優位を崩壊させた。
 
 
 曜子の指示に従うように腰を落とした江漣の体が、突如バネ仕掛けの人形のように跳ね上がる。
 この間合い……この距離なら……
 
「ナイフは銃よりも速い」
 
 左袖に仕込んだナイフを引き抜くと同時に踏み込み、斬戟を放つ。
 
 狙いは、親指。
 グロッグを握る曜子の右手親指!

274 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:12

>>273 朝霧曜子VSエレン
 
「つァッ……!」
 
 気が付いた時には遅い、指を切り落とされて銃を取り落としてしまっている。
 だが、その程度でどうにかなるワケもない。
 何故なら、曜子はバケモノだから。
 
「やってくれるじゃない!」
 
 すぐさま無事な方の左手を突き出して、エレンの首をひっ掴みに行く。
 銃がないなら、素手で縊り殺すまでだ。
 
 その様子を見て、シラギがFAMASの銃口をゆっくりと上げた。
 まだ加勢は必要ではあるまい、しかし、万一という事は何時だってあり得るのだ。
 備えておくに越した事はあるまい。
 
 ゴッチとユスチノフは、未だ収まる気配を見せない人質達を牽制し続けている。
 今はもう反抗はしてこないが、さりとて従順ともほど遠い気配だ。
 いつ爆発するか知れたモノではない。
 
 三様の世界が繰り広げられる講堂内。
 血と硝煙と死臭に満ちた異界。
 その死臭は、決して死体のみがもたらしているのではない事に気付く者は、果たしていたのだろうか?

275 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:13

>>274
朝霧曜子VSエレン
 
「……」
 
 曜子が落とした銃を、伸ばした左足のつま先で引っ掛け、そのまま蹴り上げる。
 再び中に舞い上がった銃を、軽く屈み込み左手でキャッチした。
 しかし、同時に
 
「かっ…………っっっ!!」
 
 同時に首に感じる、途方も無い圧迫感。
 親指を霧飛ばされた直後だというのに、この少女は痛みを感じていないのであろうか?
 しかし、江漣も躊躇わず至近距離の相手の胸部と腹部に数発の弾丸を叩き込む。
 
『これで二人』
 
 声に出すことなくカウントする。しかし……
 
 「くっっが…………」
 首の圧迫感は、弱まるどころか、更に圧力を増していく。
 
 「……な……っっに…………」
 江漣の目が驚愕に見開かれた。

276 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:13

>>275 朝霧曜子VSエレン
 
「……いったいわねェ! 血が流れちゃうじゃないの、勿体ない」
 
 右手で腹部を押さえながらも、左手の力は微塵も緩まない。
 むしろいっそうの力を込めてすらいる。
 皮膚の、骨の軋む音。
 曜子の顔が喜悦を刻む。
 
「……渇くわね」
 
 ぽつり、呟く声。
 大したダメージではない、それでも失血はダメージだ。
 だが、今は自制せねばならない――状況は全く予断を許さないのだから。
 
「とりあえず……差し当たってはアンタをどうにかしないとねぇ!」
 
 片手でエレンを持ち上げ、反対側へ投げ飛ばす。
 軽々と宙を舞い、壁が迫ってくる――――!
 
「……Thirsty」
 
ぼそりと呟いたのは、曜子に替わってノートPCの監視をしているクーリエだ。
ステアーAUGを下げながら、ポリポリと腕を掻く。
やけに長い爪が死んだ角質層を剥がし、ぱらぱらと音を立てて落ちていく……凄まじい量だ。
何かを我慢するかのように、ウズウズと落ち着かない。
瞳が、狂的な色を帯びていた。

277 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:14

>>276
朝霧曜子VSエレン
 
 信じられない勢いで江漣の体が中に舞う。
 
 いや、信じられないこと等、他に幾つもあった。
 なぜ、少女の細腕でこんなことが出来るのか。
 それ以前に江漣が放った銃弾は、全て致命傷を与えていたはずである。
 
 しかし、今、現実に江漣の体はまるでボールの様に軽々と宙を舞い
二階渡り廊下を囲んでいる手摺りに直撃し停止した。
 
「……!!」
 
 全身が粉々になりそうな衝撃に、江漣が声にならない悲鳴をあげる。
 その直後、彼女の体は重力に引かれるまま落下を開始する。
 
「っっ!」
 
 しかし、咄嗟に伸ばした右腕で手摺りを掴み体制を整えると、そのまま手を離し
足元にあったバスケットゴールを足場に跳び上がる。
 そのまま再び手摺りを掴むと、勢いを殺すことなくトンボをきり、渡り廊下へと着地した。

278 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:14

>>277 朝霧曜子VSエレン
 
「まさか、あそこからあんな風に動けるなんてね。アクション女優で食ってけるんじゃない?」
 
 等と軽口を叩きつつ、軽々と地面を蹴って二階へと飛ぼうとする曜子。
 既に腹の傷は塞がり、指も僅かに肉芽のようなモノが盛り上がってきている。
 人にあるまじき再生力、そして運動能力。
 
 だが、曜子の意図を挫くようなタイミングでクーリエが、
 
「下手に追いかけるより、こっちのが楽だろ!」
 
 言って、ステアーAUGの銃口をエレンへと向ける。
 曜子がそちらを見て目を剥くが、もう遅い。
 トリガー、フルオートで銃弾が吐き出された。
 
 ある銃弾は手すりを叩いて火花を上げるが、ほとんどはその向こうのエレンを指向している。
 が、当たらない……間一髪でかわされた、というか狙いが粗雑すぎた。
 舌打ちしながら、再度狙いを定める銃口、そこでクーリエは自らの愚行に気付いた。
 
「あのバカッ!」
 
 慌てて、曜子が走り出す。
 ゴッチとユスチノフ、シラギも影を探して首を巡らせる。
 一人――クーリエは逃げ遅れた。
 
 暗幕の一部が、銃弾でズタズタにされて落ちていく。
 刹那、薄闇に閉ざされていた講堂内に陽光が降り注ぎ……クーリエが絶叫した。
 
「God dumn! Eyes,my eyes! I'm blinnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnd!」
 
 光を浴びてのたうち回り、それもあっという間に弱々しく、力をなくし――物言わぬ死体と化した。
 誰もが理解できないといった風情で、その様を見ていた……テロリスト達以外は。
 当のテロリスト達――曜子、シラギ、ゴッチ、ユスチノフ――は、気が付けば影に退避している。
 視線は度し難い愚か者であるクーリエの死体に注がれていた。
 
 皆の注視の中、死体が更なる変化を見せる。
 人型をしていたそれが、突如として崩れ始めた……否、人型の石灰と成り果てた。
 陽光を浴びて灰になる生物……否、それは生物ではない。
 何故なら、既に死んでいるから。
 
 それは、俗に吸血鬼と呼ばれている。

279 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:14

>>278
朝霧曜子VSエレン
 
 痩せ過ぎの男、クーリエを尋常ならざる死体を目の当たりにしながらも、江漣の行動には一切の躊躇は無かった。
 そう、今は理由などどうでも良い。
 
 彼らが行動に入ってきていた時、暗幕が全て閉じられていたという事実。
 そして、暗幕が外れると同時に奇妙な死体をさらした男。
 
 江漣は一瞬前のアクションで、奇跡的に手放さなかったグロッグを右手に持ち替えると、
左手を伸ばし、勢いよく走り出した。
 伸ばした左手は暗幕を引っ掛け、江漣が走る勢いそのままに、次々と開かれていった。

280 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:15

>>279 朝霧曜子VSエレン
 
「バレたわね……」
 
 苦々しげに、陽光に満ちた講堂内を見渡して毒づく曜子。
 そう、今や暗幕はエレンの手によって完璧に除去されてしまっている。
 僅かに残る影に身を潜めながら、どうするか思考する。
 
 動ける範囲はかなり限られてしまった。
 武器は、今のところない。
 もっとも、ノートPCの側に置いてあるギターケース――に模した武器入れまで辿り着ければ。
 そこに行くのは、影から影へと伝えば不可能ではない。
 陽光を浴びたといっても、短時間なら耐える事もできる。
 
 決断し、残る仲間に呼びかける。
 
「ゴッチ、ユスチノフ! アンタらは適当な人間見繕って窓を塞ぎに行って!
 シラギはとりあえずあの女を牽制、わたしを援護しなさい」
 
 簡潔な命令に、残された仲間達は無言で頷く。
 
「こうなったら仕方ないわ、まずは生き残る事を優先しなさい」
 
 言い残して、ダッシュ。
 次いでシラギが、物陰から階上のエレンへFAMASを象った殺意を向けて引き金を絞る。
 ゴッチとユスチノフは、すぐに適当な女生徒を人質から引っ張り出してきて、銃で脅す。
 そのまま押すように、上へと登るために舞台裏へと消えていった。

281 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:15

>>280
朝霧曜子VSエレン
 
 江漣の行動は予想通り、テロリスト達の動きを制限することに成功した。
 しかし、状況は江漣にとってそれほどの好転をもたらしてはくれなかった。
 
 逃げ場の無い、体育館をぐるりと取り囲むだけの渡り廊下の上では
銃を持った相手に対して、位置的な不利はそう簡単に逆転できるものではない。
 
「くっっ!!」
 
 さして幅の無い体育館の渡り廊下を精一杯使いジグザグに走ることで、
なんとか直撃弾だけは回避することに成功していた。
 しかし、音速で迫る7.5×54mmの牙は、容赦なく江漣の肉体を殺いでいく。
 彼女の目的は唯一つ。階下へと降りる階段。
 たとえそれが、地獄へ通じていたとしても、ここに留まる限り、待っているのは明確な”死”のみ。
 
 だから、必死で走る江漣には気付くことは出来なかった。
 渡り廊下からの自分の影が、曜子達に必要な”道”を作り出してしまっていたことに……
 
 
 そして、現在、この空間は奇妙な目的意識に満ち溢れてている。
 江漣、テロリスト、そしてその他の教師生徒達。
 彼ら全てが、たった一つの目的のために動いていた。
 
 
      生き残る
 
 
 そう、今、ここに狩猟者は居ない。
 哀れな獲物同士が蠢く、地獄の釜の底。
 果たして、生き残るのは一体誰なのか?

282 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:16

>>281 朝霧曜子VSエレン
 
「ハハッ、神様ってのも粋なマネしてくれるじゃない!?」
 
 千載一遇のチャンス、伸びる影法師を橋に曜子は走る。
 元々距離的には大した事はない、すぐさまノートPC側の武器入れまで辿り着いた。
 多少乱暴に蓋を開けて、中身を改める。
 そこにあるのは、大小用途様々の銃であり銃であり火器類。
 その中から、迷わず二挺の銃を掴み取った。
 
 ストレイヤー・ヴォイト インフィニティ 6インチ――ガバメントカスタム。
 装弾数15のダブルカラム、シンプルに直線的なフォルム、故に簡素な力強さを感じさせるハンドガン。
 事実ハイパワー――45口径なそれは、撃つ者に確かな手応えを返してくる。
 
 その二挺に加えてもう一挺別の銃を、腰の後ろに挟んでおく。
 後はマガジンを適当に数個ひっ掴んでポケットに突っ込み、口にも一つくわえておいた。
 準備は万全、未だ逃げ回るエレンを見て、小さく呟く。
 
「調子に乗んなクソガキ――アンタは殺(バラ)して犯(バラ)して解体(バラ)して晒(バラ)す」
 
 一方、曜子が無事に武器を手に入れたのを見て、シラギも行動を開始した。
 エレンへの威嚇射撃は怠らずに、爆弾の側にあるクーリエのリュックへと走り出す。
 多少陽の当たる場所を通らざるを得ないが、それもそう長い時間ではない。
 すぐさまリュックをさらって再度物陰へとダッシュ。
 一度銃を置いて、リュックの中を探る……あった。
 いざという時のための、耐陽光装備……というほど大げさな代物ではないが。
 サングラス、フード、防塵マスク、手袋。
 長時間の行動は難しいが、動き方を考えればまず問題ない。
 それらを身に付け、改めて動き出す――陽光の下へと。
 
「いい加減に思い知らせてやらんとな……」
 
 その場飛びの跳躍で、あっさりと二階の手すりに手を掛けて乗り越える。
 陽光を取り入れている窓の前を、多少苦しげな顔をしながら疾走する。
 エレンの姿を間近に捉え、小銃の牙を解き放つ――――!
 
 一方、ゴッチとユスチノフも、暗幕を抱えた女生徒を連れて、二階へと顔を出した。
 少し離れた場所から――陽光を浴びてはたまったモノではない――銃で少女を脅しつける。
 言われるがままに、窓へと暗幕を張り直していく、が遅々として進まない。
 イライラが募るが、どうしようもない。
 何事か口汚く罵りながら、それでも少しずつ作業を進めていく。
 
 状況は、全く予断を許さない。

283 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:16

>>282
朝霧曜子VSエレン
 
 階下への階段まで後僅かの距離まで迫った瞬間、
まるで、突如空間から現れたとしか思えない唐突さで男が現れた。
 
「!!」
 
 しかし、驚く暇も無く男が小銃を構える。
 獰猛な銃口が自らに向けられた瞬間、手にしていた暗幕を思い切り握ると
そのまま、体ごと窓へと体ごとぶつかっていった。
 
 ガラスの割れる音が響く。
 同時に負荷に耐えかねた暗幕の金具の幾つかが、音を立てて弾け飛ぶ。
 そして僅かに残った金具を支点に宙を舞った江漣の体が綺麗な弧を描く。
 
 左手一本で自らの体を支えながら、江漣は窓越しの男――シラギに対して
右手のグロッグを乱射した。
 同時に、窓の中からシラギの銃口からもマズルフラッシュが迸る。
 
 たとえ陽光の下に出てきたとはいえ、今の彼の姿はそれが弱点であると如実に語っていた。
 ならば、狙いは一つ。
 
 外と内からの乱射により、蜂の巣となったガラスを体ごと突き破る。
 速度の乗った江漣の体は、その勢いを殺すことなくシラギを目指して飛び込んでいく。
 同時にカーテンから手を離すと、そのまま跳び膝蹴りを男の顔目掛けてはなつのだった。

284 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:17

>>283 朝霧曜子VSエレン
 
 エレンの動きに、シラギはついていけなかった。
 猛スピードで迫る膝をまともに顔面に喰らって、そのままもつれ合うように階下まで落下。
 下敷きになったのは、シラギだった。
 背中を痛打して、うめき声を漏らす。
 だが、その程度は大したダメージではない。
 
 そのまま、手に持った小銃のストックを、エレンの頭目掛けて振るう。
 この至近距離で銃を撃つ事は無理に近い。
 無理に撃たなくとも、膂力に訴えれば充分に勝機はある。
 
 それを見て、少し曜子は戸惑う。
 このまま発砲したら、シラギに当たる可能性もある。
 当たったからといって大した事はないが、今手出しするのは単純に得策ではあるまい。
 二挺拳銃をぶら下げた両手を腰に当てて、様子を見る。
 ふと視線を上に上げると、暗幕の修復はのろのろとでも続いていた。
 現在の進行状況は全体の三分の一といったところか。
 それでも、かなり動ける範囲は多くなっていた。
 
「君子危うきに近寄らずって言うんだっけ、こういうの?」
 
 他愛もない台詞。
 エレンとシラギの行方を、じっと見守る。
 万が一シラギがどうにかなったら……。
 
 腕の中の銃を、いつでも構えられるように力を込める。

285 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:17

>>284
朝霧曜子VSエレン
 
 凄まじい風切り音を伴うストックが頭蓋骨を砕く寸前、なんとか左腕でブロックすることに成功した。
 しかし、シラギの膂力は、ブロックごと江漣の体を吹き飛ばす。
 
「くぅっ――」
 
 吹き飛ばされながらも数発の銃弾を叩き込む。
 そのまま江漣の体は壇上へと転げ込み、演壇に背中から激突すると、
その上のマイクと水差しを激しく揺らすことでなんとか止まった。
 
「っ――」
 
 左腕に激痛が走る。折れてこそいないものの、確実にヒビははいっているだろう。
 その苦痛を意志の力だけで何とか押さえ込むと、江漣は自分の体を無理やり立ち上がらせた。
 
 しかし、既に状況は江漣にとって圧倒的に不利になっていた。
 それは絶望的と言い換えても良い。
 
 それでも江漣は諦めなかった。
 諦めが、絶望が人を殺す。そう教えてくれた人がいるから。

286 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:18

>>285 朝霧曜子VSエレン
 
 空いた距離を利して、トリガーを引くシラギ。
 被弾数はかなりに昇っているが、気に留める気配すらもない。
 再生は既に開始している、なら問題はないのだ。
 フルオートでエレンに向けられる鉄牙――――!
 
「ハン、これであいつも終わりね。……あー、何だってのよもうケチ付きまくり。
 ま、概ね計画通りか。今回は上客だし、しくじるワケにはいかないのよ」
 
 ぼやきながら、両手から力を抜く。
 勝利の確信から来る油断。
 まだ牙は折れていないのに――――。

287 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:19

>>286
朝霧曜子VSエレン
 
 雷雲の中の雷鳴に似た銃声は、鳴り始めた時と同じく、呆気ないほど唐突に鳴り止んだ。
 硝煙の晴れた先、穴だらけになった演壇が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
 カラン――と、コードのちぎれたマイクが、寂しい音を立てて転がる。
 後は、僅かな血痕が確認できるだけである。
 
 それを確認したかしないかのタイミングで、シラギと曜子の顔面を衝撃が襲う。
 放たれた銃弾が二人の眼球を性格に射抜く。
 
 その程度の傷は、数瞬後には回復してしまうとしても、
”人”の姿をしている以上――
 
「何も見えないでしょう」
 
 目標目掛け、手にした”モノ”を放り投げる。
 狙い過たず、緩やかな放物線を描きながら江漣が放った水差しがシラギの頭上へと飛んで行く。
 直後、サイドスローで全弾撃ち尽くしたグロッグを水差し目掛け投げ付ける。
 
――――パリン
 
 乾いた音をたて、ほんの僅かな、局所的な雨を吸血鬼の頭上に降らせるのだった。

288 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:20

>>287 朝霧曜子VSエレン
 
「グッ……!」
 
 目を撃ち抜かれて呻くシラギと曜子。
 目に頼っているモノであれば何であれ、唐突に訪れた暗闇には混乱を来す。
 落ち着けば何とかなると分かっていても、ましてやすぐに再生すると理解していても、だ。
 
「鬱陶しいわねッ、クソガキッ!」
 
 曜子が叫びながら、両手の拳銃を盲滅法に振り回してやたらめったらに引き金を引く。
 銃声とマズルフラッシュが派手に咲き、鉄塊が講堂内を無差別に打ち砕く。
 どさくさに紛れてかなりの人質達が脱出していたが、それでもまだ残っていた人質達から悲鳴が上がる。
 被弾し、撃ち抜かれ、撃ち砕かれて倒れていく。
 だが、肝心のエレンには当たらない、当たるワケがない――そんな乱射に当たるファントムではない。
 
 その時、銃声に紛れそうな程に小さな破砕音と水音が、果たして曜子に聞こえたかどうか。
 ……間違いなく、シラギは聞いて戦慄していたが。
 見えないと分かっていながらも、思わず頭上を見上げてしまう。
 降り注ぐ水を浴びて、襲いくる脱力感に思わず片膝を突きかけ……踏みとどまった。
 
(大丈夫だ……大した量ではない。ましてやこれ以上の水量を用意できる筈もない)
 
 ならば、致命傷にはなり得ない。
 それにしても……と思う。
 
(確実にこちらの正体を看破し、弱点を突いてくる……。
 知識として知っていても、それを信じて実践できるだけの者がどれほどいるのか――一体、何者だ?)
 
 胸中で問い掛けても答えはない、本人に問い掛けても仕方あるまい。
 それよりも今は、事態の打開を急がなければならない。
 水を浴びたことによって多少萎えた身体を、まだ少しふらつく意識を叱咤しなければ。

289 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:21

>>288
朝霧曜子VSエレン
 
 シラギ目指して一直線に駆け寄る江漣。
 その姿は直撃弾こそ受けていないものの、見るも無残な姿になっている。
 
 しかしそれでも、その走る姿から躍動感が殺がれてはいなかった。
 
 走りながら、右手で制服の襟から両端にリングがついた極細のワイヤー
──ジーリーソー──を引き出すと、右手人差し指をリングに引っ掛けたまま、
投げつけるようにして、シラギの首にワイヤーを巻き付けた。

 巻き付いた時の勢いを失わずに未だ宙を舞っている片端のリングを口でキャッチすると
素早く背後へと回り込み、地蔵背負いの体勢に移行する。
 同時に、右手を斜め上に突き上げると、勢いよくジーリーソーを引いた。
 
 江漣の膂力とシラギ自身の体重に引かれ、本来脳外科手術の頭蓋骨切断に使用される
ワイヤー製ののこぎりは、ぞぷりと音を立て、吸血鬼の首へと食い込んだ。

290 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:22

>>289 朝霧曜子VSエレン
 
「しまっ……ゴハッ!」
 
 全ては遅きに失した、失しすぎた、言葉すら最後まで言わせてはもらえない。
 既に声帯が切断され、なお刃は喰い込んでくる。
 ドクドクと、止めどなく血が流れ出す。
 もがこうが静かにしようが、このギロチンから逃れる術は、もうない。
 そして、如何に吸血鬼と言えども首を切られては再生できない。
 それでお終いだ、死の生はそこで潰える。
 
(何だ……何なんだこいつは……ッ!?)
 
 不理解だ、理不尽だ、非常識だ。
 何故、吸血鬼が人間に敗れる?
 今まで人間に遅れを取ったことなどないのに?
 こんな、何でもないはずの仕事で?
 そもそも、こいつは一体何だ?
 
 ――――不理解だ、理不尽だ、非常識だ。
 
「……Grim Reaper……Phan……tom……」
 
 それを辞世の句にして、シラギの首は胴体との別離を果たした。
 頭部を失った胴体が、ずるりとエレンの背中を滑り落ちる。
 制服に、血の跡を盛大に引きながらどさりと床に落ち、くずおれてゆく。
 
 その瞬間を、ようやく視力の回復した朝霧曜子は確かに見た。
 怖気と共に理解する、自分達が唯一人の少女に追いつめられていることを。
 自分達は狩猟者であったはずだ――だが、その立場は今やあの少女にこそ相応しい。
 
 ……だから、どうした?
 
 唇を舐める――そんなモノでごまかしきれる渇きではなかったが。
 素早く、まだ体勢を立て直し切れていない少女に向けて二挺拳銃を向ける。
 迷いも慈悲もなくトリガー、トリガートリガートリガー。
 幾つもの火線が、中空に傷痕を残して少女へと殺到してゆく……!
 
「もういい! 仕事も依頼もどうでもいい! アンタを殺して生き残ればそれでいい!
 ガキだなんて侮らない、全力で殺してやるゥッ!」
 
 叫び、二階へと目を向ける。
 
「ゴッチ! ユスチノフ! そっちはいいから今すぐそいつを殺せッ!」
 
 既に、講堂の半分ほどは再び闇に覆われていた。
 それだけの暗黒があれば充分だ。
 何よりも、今最大の障害は目の前のこいつ……そう、こいつさえ……!
 
 二階の手すりを飛び越え、二人が飛び降りてくる。
 暗幕を貼っていた少女――窪田早苗を残して。

291 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:23

>>290
朝霧曜子VSエレン

「かっ……ハァ────」

 口に咥えていたせいで、唾液塗れになったジーリーソーのリングを吐き出す。
 ダラダラと零れる唾液を拭う暇もなく、
今度は、渡り廊下から飛び降りてきた二つの人影が襲い掛かってくる。
 
 首を失い、半分消滅しかけた死体からFAMASを奪い取ると
人影目掛け躊躇うことなく引き金を引いた。
 しかし、怪我した左腕では3連バーストをフルオート並みの速度で撃ち出す
FAMASの反動を抑えきることは出来ず、単に無駄弾を撒き散らす結果に終わる。
 
「────────っ」
 
 奥歯を噛締め激痛を何とか堪える江漣。
 しかし、左腕の痛み以上に、全身をくまなく覆っている擦り傷、切り傷が
彼女の体力を徐々に奪っていた。

292 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:24

>>291 朝霧曜子VSエレン
 
 絶え間なく銃弾を吐き出し続ける、二挺のストレイヤー・ヴォイト インフィニティ6インチ。
 致命打こそ未だないものの、ダメージは確実に蓄積されている筈だ。
 同時に飛び降りながら、ゴッチとユスチノフもそれぞれの銃器をフルオートで斉射し続けている。
 なのに……致命打はない。
 その事実に焦りを感じつつも、三方向からの集中砲火は続く。
 
「死ね……死ねッ!」
 
 口汚く罵りながら、弾切れのマガジンを排出、装弾。
 そして天井近くまで跳躍し……エレン目掛けて急降下しながら発砲発砲発砲!
 ゴッチとユスチノフも着地し、エレンへと走り寄りながらトリガーを引き続ける。
 
 床には積もるほどの空薬莢が、寂しげな金属音を重ね合わせ続けていた。

293 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:25

>>292
朝霧曜子VSエレン
 
 薬莢が跳ねる。銃弾が乱れ飛ぶ。
 バスケットゴールが撃ち抜かれ、床板が削られ、
清掃用ロッカーが蜂の巣になり、垂直跳び測定用のボードが砕け散る。
 
 ダッシュ、ストップ、ターン───
 鳴り止まぬ銃声と数々の破壊音をバックに、まるで踊るように、舞うように、
江漣の小柄な体が跳ね回る。
 
 遮蔽物の無い体育館において、動きを止めることは、即、死に直結する。
 しかし、いかに幼いころから暗殺者としての訓練を受けていたとはいえ、
人間である以上、江漣の体力とて無限ではない。
 
 徐々に、徐々にではあるが、その動きは鈍っていく。
 そして、破局は唐突に訪れた。
 
 ターンのために踏込んだ江漣の右足が、銃弾によって脆くなった床板を踏み抜いてしまった。
 声を上げる暇もなく、崩れ落ちる江漣の体。
 唐突に鳴り止む銃声。
 
 その姿を見つめる六つの瞳が、愉悦に歪む。
 ゆっくりと、正確に四つの銃口が、倒れた獲物に向けられる。
 
 絶対的な死の予感。
 後は、彼らの人差し指が僅かに動くだけで、
音速に匹敵する速度をもった小さな死神の集団が、少女の体を物言わぬ肉塊へと変えるだろう。
 
「くっ───」
 
 それでも尚、必死でFAMASの銃口をに向けようと足掻く。
 その姿を嘲笑うように、僅かに口元を歪めると、二人の吸血鬼は、
引鉄にかかった指に、ほんの僅かな力を込める。
 
 直後、
 
 
 
     ──救いの手は、文字通り光速で差し伸べられた──
 
 
 
 闇に覆われた体育館を切り裂くサーチライトのように、
光が───陽光が───江漣とゴッチ、ユスチノフの体を一直線に照らし出す。
 
 硬直する吸血鬼。
 鳴り響く銃声。
 薬莢が床を叩き、硝煙が立ち昇る。
 
         死神の鎌は、一瞬にしてその矛先を変えた。
 
 
 そして、全弾撃ち尽したFAMASを投げ捨て、見上げた江漣の瞳に映ったものは、
 
   大きな眼鏡の奥で目に涙を一杯に溜め、怒っているような、泣いているような、
   笑っているような不思議な表情で、たった今自分が捲くった暗幕にしがみ付き、
   腰を抜かしたようにへたり込んでいる──
                           ──窪田早苗の姿だった。

294 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:25

>>293 朝霧曜子VSエレン
 
 降り注ぐ陽光、大地に恵みを与え、吸血鬼に断罪を与える陽光がまたも講堂内を満たす。
 
「Shit!! 何で殺してないのよ! You son of a bitch!!」
 
 反射的に顔を腕で覆いながら、声高に罵る曜子。
 その腕がボコボコと水泡を発生させている。
 地面に着地し、転がるようにして物陰へと逃げ込んでいく。
 
 罵られた当の二人はそれどころではなかった。
 近くに適当な物陰もない、陽光を遮断する装備すらない。
 暖かな光が、二人を侵食していく。
 ゴッチの全身で水泡が弾け、ドロドロになった体液――あるいは、肉体の成れの果てが流れ出す。
 そのまま目を見開いて絶命した。
 ユスチノフも似たような状態でピクリとも動かない。
 二人の死体にヒビが入って、崩れてゆく。
 後には、二人分の灰だけが残った。
 
 講堂の舞台袖に隠れて座り込んで荒い息を吐きながら、朝霧曜子はその様を見ていた。
 ――――遂に、自分一人になってしまった。
 一体、何がどうなっているのか理解できない。
 何処をどう間違えれば、こんなあり得ない事態になってしまうというのか。
 
「Thirst……give me blood……」
 
 唐突に、渇ききった自分を自覚した。
 最前の陽光は相当酷いダメージとなって残っている。
 血の渇きも限界だ、補給する必要があるが、輸血パックは手元にない――――
 
 ガタリと、人の気配。
 
 首を向けるとそこには……今し方二階から降りてきた窪田早苗の姿があった。
 
「ちょうどいいわ……アンタ、わたしのエサになりなさい!
 さっきの借りもまとめて返さないとねェ!」
 
 ふらりと立ち上がり、飛びかかる。
 鋭い爪が、闇に閉ざされた舞台裏で閃いた。

295 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:26

>>294
朝霧曜子VSエレン
 
 閃きに、轟音が重なった。
 
 衝撃が、振り上げた曜子の掌に暗い穴を穿つ。
 
 未だ闇に閉ざされた舞台の上で、ゴム底が床板を擦る音がキュッと響く。
 
 しかし、闇を見通す吸血鬼の瞳は、その姿を明確に捉えていた。
 
 原形を留めぬほどボロボロになった制服。
 至る所、傷だらけの体。
 数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの血の染み。
 ドス黒い痣の残る首筋。
 内出血によって、醜く腫上がった左腕。
 そして右手には、小柄な体に不釣合いな大型拳銃。
 
 
 圧倒的な”死”を身に纏った少女が、そこに在った。

296 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:26

>>295 朝霧曜子VSエレン
 
 掌を撃たれた衝撃でぐらつきながら、曜子はその姿を見た。
 全身傷だらけ、満身創痍と表しても何ら問題のない姿。
 それなのにこの少女は、こんなにも死神として自分の目の前にいる――――
 
 歯ぎしり。
 
 右手はまだ使えない、ので左手の銃だけをエレンへ向ける。
 もう一挺の銃は、先ほど座り込んでいた場所に置き去りのまま。
 震える銃口を抑えつけるように、腕に力を込める。
 
「よくもやってくれたモンだわ……もう全部がパー!
 まさか、アンタみたいなのにここまでしてやられるとはね! あぁッ、むかつく!」
 
 震えが、止まった。
 
「今飲みそこなった分、たっぷりアンタの死体から吸ってあげる! ミイラになるくらいね!」
 
 闇に、大輪のマズルフラッシュが閃いた。

297 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:27

>>296
朝霧曜子VSエレン

 銃声は、二発鳴り響いた。
 
 舞台裏から放たれた銃弾は、壇上の少女の右肩を正確に貫いた。
 少女は、まるで壊れたオルゴール人形のようなぎこちないステップを踏む。
 右肩から流れ出た血がが、まるで舞台衣装のように緋色の軌跡を描く。
 歪なターンを二度ほど繰り返された後、江漣はそのまま舞台の上に倒れ臥した。
 
 江漣の右手から離れた拳銃は、まるで出番を終えた舞台俳優のように
カラカラと音をたて、舞台のそでへと転がってゆく。
 
 何とか立ち上がろうと足掻くが、とたんにバランスを崩し、
自らが作り出した血溜まりへと突っ伏す。
 既に彼女の、両腕は自身の体重を支えることも叶わないでいた。

298 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:27

>>297 朝霧曜子VSエレン
 
「あっははは! 無様ねぇアンタ! ようやく憂さが晴らせそうだわ!」
 
 倒れてもがくエレンを、これ見よがしに嘲笑する曜子。
 そうでもしないと自分を保てないという事に、果たして気付いていたかどうか。
 銃口を油断なく頭部へとポイントしながら歩み寄る。
 足下に、ボロクズのように倒れている少女が嗜虐心を煽る。
 頭を踏み付けにして、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら、
 
「こういう時日本じゃ何て言うんだったかしら……あぁそうそう――ざまぁねぇな。
 あっはははははははは!」
 
 笑声を上げながら、エレンの髪を掴んで無理矢理立ち上がらせる。
 顎の下に銃口を押しつけながら、囁くように告げた。
 
「死体から吸うよりも、当然輸血パックからよりも、生き血がやっぱり最高よねぇ?
 ちょっと血が流れすぎてて勿体ない気もするけど……まぁいいわ。
 一滴残らず吸い尽くしてあげる――あぁ、その前に」
 
 思い出したように付け加える。
 
「アンタ、一体何なの? 銃持ってるちょっと変わった女子高生なんて冗談、通用しないからね」
 
 問い掛けながらも牙を剥き、首筋へと唇を寄せていく――――

299 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:29

>>298
朝霧曜子VSエレン
 
 真っ赤な唇が一度、軽く少女の首筋に触れた。
 再び開かれた口から、異常に発達した犬歯が姿を現す。
 牙の先が、江漣の頚動脈を正確に捉え
 
「――――――!!?」
 
 しかし、その牙が食込むことは無かった。
 
 呆然と自らの胸元を見下ろす曜子。
 そこには、一本の茶色の棒が突き立っていた。
 
 彼女が息をする度、棒の端についた金具がカチャカチャと静かな音を立てる。
 
 直後、江漣が体ごと曜子に抱きついてきた。
 
「な!―――」
「モップの柄よ」
 
 言いながら、江漣はほとんど力の入らない両腕を曜子の体に巻きつけ、
自らの体で、それを押し込んでいく。
 それは、確かにモップの柄であった。
 しかし、先ほどまでの銃撃戦によって清掃用具入れごと撃ち抜かれたそれは、
中ほどから折れ、鋭い断面を晒していた。
 
 そう、それは既にモップの柄などではない。
                     それは、木杭であった。
 
「吸血鬼。人の血をすい生きる化け物――――でもね、」
 残った力を振り絞り、曜子へとしがみつく江漣。
「私は、人を殺すために生きている―――――――――――亡霊なのよ」
 
 
 
「ヴァンパイア(あなた)でも、ファントム(わたし)は殺せない」

300 名前:朝霧曜子(M):2003/06/16(月) 23:30

>>299 朝霧曜子VSエレン
 
「な……こんなモノでェ!?」
 
 あり得ない、あり得ない、あり得ない、何だコレはコレはコレは!?
 脳裏でいくら否定しても現実は揺るがず、穿たれた穴からは止めどなく血が噴き出してくる。
 それはつまり吸血鬼の糧であり、生命そのもの。
 それが、奪われていく、失われていく――終わっていく。
 
 膝を突く、腕を突く、倒れ伏す刹那にエレンの台詞を聞いて……かっと目を見開いた。
 
「亡霊…………Phantom!?」
 
 裏社会に生きていても、その名の真偽を知っている者は希だろう。
 曜子は、何百年と生きてきた間に築き上げてきたネットワークの末端からその名を知った。
 自分と関わることはあるまいと、今の今まで記憶の端に昇ってきた事すらなかったが。
 
 全くピースの足りないパズルの、一部分だけが噛み合う。
 全貌の見えないパズル、一体何がどうなっているのか理解できない。
 だが、確実に感じる感情……それは理不尽。
 納得できるはずがなかった。
 
 死にゆく身体で最後の力を振り絞る。
 腰の後ろに挟んではさんでおいた銃――ザウエルP232を抜き放ち、エレンへ向けた。
 
「どういう事よ……インフェルノの走狗のファントムが何でこんなところにいるの!?
 何でインフェルノは此処を襲うように指示したの? サイス・マスターは一体何を――――ッ!」
 
 叫びと共に発砲し、崩れ落ちる。
 放った弾の行方すら見届けられぬまま、朝霧曜子――レディは絶命した。
 死体は速やかに風化してゆき、灰となってゆく。
 
 後には、何も残らなかった。

301 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:31

>>300
朝霧曜子VSエレン(エピローグ)
 
 悲鳴のような歓声が上がる。
 いや、歓声のような悲鳴だろうか?
 
 ともかく講堂の扉は次々と開かれ、血の色にも似た夕焼けの光が入ってくる。
 
 一人、舞台に立つ江漣に声をかける人間は、誰も居ない。
 舞台裏へと目を向けると、誰かに助け出されたのか早苗の姿も既に無かった。
 
 講堂から人の姿が無くなり、人の叫びも聞こえなくなったことを確認すると
江漣は、講堂中央に建つ四本の柱へと近づいていった。
 
 その脇に置かれた箱を、慎重に開く。
 内部の火薬量を確認し、軽く頷くと、江漣も講堂を後にした。
 
 
 遠くにけたたましくサイレンが響きだした頃、
                   突如、講堂が吹き飛んだ。
 
 吹き上がった炎は、夕日をより赤く染め上げ、炎は、天にも届けとばかりにそびえたった。
 
 
 
 
 
 後日、この事件の行方不明者の一覧には、吾妻怜二、江漣兄妹の名が載っていた――

302 名前:サイス・マスター(M):2003/06/16(月) 23:32

>>301 朝霧曜子VSエレン エピローグ
 
「そうか、報告御苦労」
 
 一部始終を聞き届けて、フィーアを下がらせる。
 襲撃は失敗、アインとツヴァイは消息を絶った――成果は芳しくなかった。
 せいぜい、昼間の襲撃が有効でないという事、人質も大して要をなさないが証明されたくらいだ。
 もっとも、それはツヴァイならともかく、アインなら容易に予想できたことだが。
 
 インフェルノは、近々イノヴェルチの傘下に入る。
 手土産というか、自分達の食料も兼ねて血が大量にいるというのがマグワイヤからの指令だった。
 ならばと、吸血鬼用血液ブローカーであるレディ一派に依頼……これが表向き。
 サイスのみの思惑――真相は、アインとツヴァイ両名との交戦時における一つのシミュレーション。
 昼間の襲撃、人質の有効性など。
 
 まぁ、ついででしかない事ではあったが。
 
 ドライがまたキレるかもしれない――ようやく掴んだ二人の消息を逃したとあっては。
 どのみちサイスもこのまま逃がすつもりはない。
 インフェルノの情報網の手は長く、深く、何処までも狡猾。
 逃がしはしない、彼らも逃げ切れると本気で思っているかは疑問だ。
 どれだけ時間が掛かろうと、どれだけ金を使おうと、どれだけ人を使い潰そうとも逃がしはしない。
 
 ……自分の思考が大胆に、破壊衝動的になっているのを自覚する。
 以前の自分には、こんな発想はできなかったに違いない。
 『なる』前は懐疑的だったが、なってみれば案外悪くないモノだと思う。
 
 ――――朱い瞳と鋭い犬歯を剥き出しにして、サイスは愉悦の表情を象った。
 自らが手掛けた至高の芸術、それを自らの毒牙に掛けるという背徳。
 その夢想――妄想に、バケモノと化したサイス・マスターは酔いしれていた。
 
 To be continued……?

303 名前:江漣 ◆tSElen1cxc:2003/06/16(月) 23:36

朝霧曜子VSエレン 
レス番まとめ
 
>>264>>265>>266>>267>>268>>269>>270>>271>>272>>273>>274
>>275>>276>>277>>278>>279>>280>>281>>282>>283>>284>>285
>>286>>287>>288>>289>>290>>291>>292>>293>>294>>295>>296
>>297>>298>>299>>300>>301>>302

改めて振り返ると、随分と長かったのね。
曜子、付き合ってくれてありがとう。

304 名前:ジョン=プレストン ◆fFCROSSQsM:2003/06/22(日) 03:30

 Duel of the fates -Guilty claims- Kresnik vs Arucard
 
>>235
 
 ――理解らなかった。
 
 神父に銃口を突き付けた二人の吸血鬼は理解出来なかった。どうして握っていた筈
のAUGが自分をポイントしているのか、どうして死の淵に立っているのか解らない。
 人間を相手に此処まで劣勢に立たされるのが理解出来ないなら、銃口を掴まれて
逆に顔面に突き付けられていた――等という事実は到底に認め難く、赦し難く信じ難
い現実だったからだ。
 これは夢だ、と彼等は思う。驚愕の表情を浮かべ、痴呆のような笑みを浮かべる相
棒の顔を見てこれは悪夢だと笑う。
 だから。最後まで笑っていられた。
 無慈悲なマズルフラッシュ。
 掠れて閉じていく視界の中で見たのは、鏡のように同じ体勢で崩れていく相棒――
 そして、淡々と他の同族を殺しに向かう漆黒の死神の姿。
 悪い夢だと彼等は嘲って、世界からその意味を完全に停止した。
 
 
 
 真実を語るなら。
 この瞬間の真実を語るなら。
 全ては吸血鬼達の夢でも妄想でもなかった。左右のこめかみに突き付けられたアサ
ルトライフルのバレルを手刀で叩く――吸血鬼の掌の中、反転するライフル。向けられ
たバレルはストックへと転じ、一瞬で奪取。直後のトリガーで2体を射殺。
 マルタ騎士団員であるジョン=プレストンは、架せられた任務を機械の様に遂行した。
 扇状にプレストンを包囲した吸血鬼/かつての廃都の支配者達は、狂ったように銃火
器のトリガーを引き絞る。怒号を圧する銃声、闇を斬り裂くマズルフラッシュ――霰のよ
うな弾幕。
 無駄だ。
 プレストンを掠める弾丸は、千に届く弾丸の内で一発たりとも存在しない。
 仮に弾丸が直撃したとしても騎士団で法儀と再生の秘儀――"プロジウム"による薬
物強化を受けたプレストンは構わず突き進み、射手の首を跳ね飛ばすだろう。
 一切の射線が虚しく虚空へと抜ける。大輪の花の如く閃くマズルフラッシュの中、プレ
ストンは瞬き一つせずに一団へと接近し、
 
 全てを、瞬時に殺し尽くした。
 
 両手のベレッタ=センチュリオンカスタム、"リブリア"・"Equilibrium"のフルオート掃射
は、20体からのマスターの頭部を微塵に粉砕し、悉く塵に還した。
 プレストンの――騎士団の基本に組み込まれた戦闘術。空間内の生物遮蔽物、その
全を瞬間的に把握解析、目標のみを瞬滅する。"銃器の型"とでも呼称するべきこれは、
マルタ騎士団の前身から受継がれて来たモノ。ただ一人の戦力を二倍にも十倍にも跳
ね上げる、マーシャルアーツと射撃技術のハイブリッド。
 それはプレストンの、タルジェノの……そして、"センテンスト"の戦闘術だ。訓練所で共
に切磋琢磨した彼の顔を、数少ない友人の顔を、プレストンはけして忘れない。
 だから。今も死線に立つ彼を、プレストンは生涯忘れまいと誓った。
 
「イグニス・ソード・エコー、ジョン=プレストン。ブロック制圧――」
 

305 名前:ジャック=クロウ ◆8nMUYwJack:2003/06/22(日) 03:35

>>304
 
 ――殴ろうと思った。
 
 カレンツァは全てを語った。淡々と、機械の用に事務的に。
 全ては布石だった。サウスブロンクスの制圧、アーカードの出向。全ては、アーカード
一体を抹消する為のトラップ。政府の"滅菌"作戦遅延の理由は、潜り込んだ工作員の
手引き。残す2時間足らずを経過すれば、サウスブロンクスは局地的空爆で地上から
消滅する。
 だから、その前に殺さなければ。
 全てはヴァチカンが――この言い方は正確ではない。カレンツァがアーカードを破壊
する為の地均しに過ぎなかった。プロテスタントへの絶対的優位を誇示する為の示威
行動。確実な滅びを叩きつける為の絶対戦略。ミサイルを叩き込むよりも確実に、暗殺
よりも的確に、不死を停止させる特殊能力者を使って抹殺する。
 それは良かった。文句を付ける必要もなかった。何より赦せなかったのは――アーカ
ードへの対抗戦力にただ一人の人間を割り当てた事。
 赦せる筈はなかった。ただ一人の人間は、何故なら友人だったから。
 歯を軋らせる。カレンツァに歩み寄って拳を振り上げる。動かないカレンツァ。瞳に浮く
のは、ただただ冷徹で冷然とした普遍意思。結構だ。上等じゃないか、ピーター=カレン
ツァ。現代のキリスト。無礼打ちで殺してみせろ。
 出し抜けに、異音。
 空間を振るわせるノイズ――鳴り響く無線。カレンツァが耳に当てた無線機から流れた
声を確認すると、状況も確認せずにその手から毟り取った。
 カレンツァは肩を竦めただけだ。一瞥を睨みに変えながら、ジャックは叫ぶ。
 
「……プレストン、手前ぇ!」
『どうした』
 抑揚を欠いた声。疑いない知人を無線越しに確認する。目の前に立っていたなら、間
違いなく襟首を掴んでいたに違いない。「……知ってたのか!? 今回の理由を! ア
イツがこんな形で関わってる事を、お前は――」
『騎士団の事情だ。お前には関係ない』
「だったら助けに行けないのかよ!? 騎士団の連中も、お前も! でなきゃ俺が――」
『無理だ』感情の失せた声が、ジャックの神経を抉る。『投入された特殊装備は全て彼専
用にカスタマイズされている。私達でも扱えない……――それに』
 
 僅か、声の音程が振れた。
 知り合って僅か――"アイツ"のツテで知り合ってから二度目。父でもある彼の子供の
話題の際、一度だけ覗かせた感情混じりの声で、プレストンは言った。
 
『――これは彼の戦いだ』
 

306 名前:ジャック=クロウ ◆8nMUYwJack:2003/06/22(日) 03:38

>>305
 
 その一言で、頭の中が漂白された。
 意味が解らない、と叫べなかった。説明しろ、と問い詰められなかった。
 半分だけ理解した頭がストッパーになって、それ以上の知覚を拒否する。それ以上知
ってはいけないという回答が、危惧していた推測へ這い寄っていく。
「なんで……――」
 二の句は次げなかった。
 出し抜けに錐の様に伸びてきた鋭利な爪を、ジャックは反射的に通信機で受け止めた。
中央を打ち抜かれ、淡い蒼電を散らした通信機がガラクタに変わる。 
 足元から伸びた爪――殺した筈の吸血鬼。
 結果、爪が届く事はなかった。
 踊り掛かる吸血鬼は、落雷に打たれたように行動を停止する。
 目にしたのは、突如として吸血鬼の胴体に走った紅の十字架だ。頭頂部から股下、左
脇から右脇――吸血鬼の身体に走った朱線が、
 一拍を置いて、その身体を4つのパーツに解体した。
 
「な……」
 
 跳ね散る血飛沫、分断された肉塊。濃厚な赤い霧。
 モノとなって死滅した遮蔽物の向こう、
 
「しっかりしてくれないと困るな。……これじゃ最強の騎士団の名も泣く」
 
 黒い人影は、呟いた。
 
「カレンツァ司教、その辺り――どうなんです?」
 
 黒い風は、人の姿を持って顕現した。
 あまりにも唐突なタイミングで、あまりにも奇術めいたタイミングで、あまりにも忽然に、
まるで窮地を狙い済ましたヒーローのように、何事もなかったかのように、瑣末事ですら
なかったように、ソレは。
 彼は――何処までも平然と悠然と立っている。
 長身と痩躯を覆うのは漆黒のカソック。幅広のシャベルハット、三日月型の柄と十字
架の柄頭――濁った血を滴らせる刀身は、テンプル騎士団から受け継がれた聖剣だ
という事を、ジャックは知っていた。
 知っているのだ。旧知の友であるこの男の事は。
 "ソードマスター"、シアン=アンジェロ=カヴァリニの後継者にして、異端者への最後
通牒。馳せる死宣。生粋の異端審問官、フランク=ケリー。
 まるで告死天使のパーティーだと、ジャックは虚ろに思った。今此処に存在する連中
だけで、SEALSの師団すら軽く壊滅させてしまえるだろう。この時勢なら大統領の首す
ら狩れるに違いない。極限の処刑人達の中、場違いなのは俺だけだ。
 ケリーに視線を這わせる。
 黒衣の死神。旧知の殺戮者。例を言う必要がある筈で、言うべき事はある筈で、現状
の説明を求める必要がありながら。
 頭の中ではぐるぐると言葉が回り――絞り出たのは結局、面白みもない一言だった。
 

307 名前:ジャック=クロウ ◆8nMUYwJack:2003/06/22(日) 03:47

>>306
 
「ケリー……どうして、なんでお前が、」
「久し振りだね、ジャック。再開を祝してワインでも空けたいけど……残念だ。グラスを用
意する時間がない」瞳と口から笑みを殺して、ケリーはカレンツァに視線を向けた――凍
えた視線。敬意と敵意の相克。「司教、結界は完成しましたよ。貴方の思惑通り、今やこ
の街は殺害のテトラグラマトンだ」
「オーケイ、ご苦労様。チェルラ所長とミーマ枢機卿に宜しくね」
 
 ケリーは皮肉に笑った。カレンツァに歩み寄り、死臭に満ちた街を見回す。声亡き
嗤笑は大地に、カレンツァに、何よりケリー自信に向けられていた。
 
「此処は地獄さ。貴方の望んだ地獄、貴方の用意した地獄、貴方の作った地獄――最
後の騎士が戦って死んでいく。誰も彼も死に絶えた。貴方は――世界すら殺す気か」
「彼が願った地獄、彼が祈った地獄、そして彼が戦う地獄――聖戦だよ。創世記の死線
の再開だ。ベルゼブブが槍を振るい、アブディエルが空を翔け、ミカエルがサタンと組み
打つ運命の闘争だ。この地に於いて、僕は傍観者でしかない」
 
 だから、と。
 カレンツァは瞳を細める。
 
「我等は立ち上がる。乾いた砂漠から立ち上がる。我等は建設する。古きエルサレレ
ムを建設する。彼が剣を持って戦いを起こすなら、我は角笛を吹き鳴らしてエリコの
城壁を崩そう。我等の祈りは彼と共に。彼の御霊は主と共に――」
「――司教。ポイントから状況報告が」タルジェノは冷淡に告げた。
「オーケイ、頼もう」
 
 先行部隊――"sevens key"によってサウスブロンクスの七箇所、惑星層を描く配置
に突き立てられた柱/鍵は、気脈を活性化させるポンプだ。霊的に枯れた大地は、そ
うして開け放たれた扉と化す――内包したエネルギーを搾り出す為の。
 全ては布石だ。励起した地脈は莫大なエネルギーの発電所。サウスブロンクスに突
き刺さる5つの鉄柱は檻を成し、街一つを巨大な結界へと変じる。看守はキリスト。地獄
の蓋を抉じ開けた神の御子、ピーター=カレンツァ。
 
「"Ophiel"、"Zachaiel"、"Samael"、"Michael"、"Anael"、"Rphael"、"Gabriel"、
各配置状況完了。気脈の調整、調律は破綻。120%時点で上下が複数」
「構わない」カレンツァは吐き捨てて首を振る。「この地が張り裂けようと知ったコトじゃな
い。神意は下った。此処は終末の戦場だ」
「了解。出力安定開始、始め」
 
 カレンツァはポケットから小ぶりのナイフを取り出すと、微塵の躊躇もなく掌を裂いた。
流れ落ちる鮮血もそのままに、突き立つ鉄柱に押し付ける。
 
「――東方西方北方南方、央の軸打ちて、いざ敷かんや反滅の秘。わが真血振りて紅
と成し、七重の陣囲みて極陣とせん。紅蒼金色白黒や、我は此処に赤持ちて地を縛さん。
 ……いざ還れ、理を反する外道共! 滅せよ! 此処は我が地、我が掌中なり!」
 
 20メートルを越す鉄柱が、血色を吸って仄かな紅に染まる。淀んだ空気が一瞬で殺
され、息苦しいほどの静謐が取って変わった。
 街一つを束縛する檻は、こうして完成する。
 高々と血塗れた右手を掲げ、カレンツァは宣言した。
 
「僕にラファエルの寛容はなく、ベリアルの怠惰は在り得ない。
 さあ。謳い上げるんだ、天上の熾天使――僕は此処に絶滅の陣を敷く」
 
 AM2:30――ソドムは、亡者にとっての地獄と化した。
 

308 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/06/22(日) 09:09

 Duel of the fates -「……Aren't you Dead it?」- Kresnik vs Arucard
 
>>307
 
 ――目の前、に。
 水晶みたいに光って散ったガラスの中、黒い、真っ黒な、
 アーカードの腕――不快な、笑み。
 
「…………っ!」
 
 言葉を全部飲み込んで、ハンドルから手を離した。
 息が詰まる。脳が焼け付く。
 向けられた視線は紅蓮。込み上がる吐き気と悪寒。
 寒い。
 アーカード。何処から、何処から湧いてきた!? 銃口、ポイントされている、離
れろ。ダメだ遅い。逃げられない、どうする、距離は――無い。
 無い。
 無い。
 生きる方法は、無い。
 このまま、
 このまま、死ぬ。
 
 死――――――
 
 厭、だ。
 最後の最後、こんな所で臆病風に吹かれるのは、厭だ。
 最後まで睨み付けて、銃口向けて、悪態吐きながら死んでやる。
 だから――退くのは厭、
 厭、
 ……いや、だ。
 死ぬのは――厭。
 死にたく、ない。
 まだ、死にたくない。
 薄れた激情、湧き上がる後悔。そもそも、こんなバケモノに勝てる訳がなかった
んじゃないのか。
 ……あんなに必死にやった。けど、駄目だった。
 俺は、英雄なんかじゃない。
 ダメだ……厭だ、今俺が死んだら、誰がみんなの事を覚えてられるんだ。
 このまま、じゃ。
 このままじゃ、
 本当に――みんなは消えてしまう。
 運命。俺を潰そうとする定命の歯車。
 まだ、動かないで。まだ、少し――まだ、俺を殺さないで。
 俺は、そうやって殺してきた。
 だから、俺は――俺もこのまま。
 このまま、
 厭。
 厭、だ。
 違う。
 そんなのは、違う。
 ソレは、認めない。
 そんなのは、俺が認めない。
 まだ。
 
 ――まだ、だ。
 

309 名前:Kresnik ◆fFCROSSQsM:2003/06/22(日) 09:18

>>308
 
「――あ、ぁああああああああ!」
 
 振り出した両手で奴の両手をポイントした。考えるより速く抜いていた。意識する
より早くトリガーを引いていた。
 右手はマテバ、左手にファイヴセヴン。両肘に収束させてトリガーを引いて引い
て引いた。マズルフラッシュが網膜を焼いて、反響する銃声が鼓膜を焦いて、跳ね
回る薬莢がダンスして、死なない、まだ。まだ、まだ、まだだ!
 俺は。俺は、まだ、俺はまだ死なない!
 集弾が奴の両手を寸断して、吹き飛んだ腕は車体の中。割れたガラスが血に塗
れたままシートを汚して、アタマの中は熱くて、がらがら、がらがら、恐慌の澱は脳
の中をどんどん侵食していく。
 たまらなく寒くて。だから、
 寒気を吹き払う為に、引いた。トリガーを、カチン、ダン、チン、引いて、着弾して、
引いて引いて、跳ね飛んだ薬莢がサイドドアにぶつかって澄んだ音を奏でて、
 早く。
 死ね、死んでくれ、死んで、消えてくれ。もう在るのは止めてくれ!
 叫び声と着弾音の不協和音。撃鉄とスライドの奏でる狂想曲。なのに。
 消えない、そこに在る、在り続ける、アーカードの、顔。
 
 ――あ。
 
「あ、あああ、ああああぁあアぁカァドォォォッ!」
 
 両手を顔面に向けた。
 ガチン。かちんかちんか、あ――れ? 指はトリガーを引いて、引け、ない。
 どうして、どうして弾が!? あ、ああ、あああ! 違う、ホールドオープンしたファ
イヴセヴン、硝煙だけを燻らせるマテバ、弾はない。撃てない。戦えない。
 殺される。まだ死ねない。どうする、どう、
 シートに転がったアーカードの腕。ぴくんと動い、今、動い、
 
「――――ッ! ぁああああああああァアァッ!」
 
 左手を振り下ろした。指を叩き潰して、黒い巨銃をもぎ取って――重い。握って、
腕を振り払って、棍棒みたいな銃身をヤツの顔に叩き付けて、それで少しだけ恐怖
は和らいで、唇を噛み締めて現実に意識を縛り付けて、
 まだ……俺は、狂ってない。まだ、まだ俺の殺意で戦える。
 サイドドアを蹴り飛ばした。外気に触れた肌が小さな開放感を全身に伝える。死か
ら逃れた安堵。けれど勿論、そんなモノは長く続かない。
 震えが全身を襲う。寒気が体を覆う。
 全身を外に押し出して、足が縺れて、それでも転がり出る際でペダル脇の遅延信
管のスイッチを蹴った。車内に満載したTNTへ起爆を発令。
 後は、転げた。
 頭から落ちるみたいに転がった。三転してブザマに起きて立ち上がる。そのまま
走った。10メートルは一瞬、20メートル、30、35、4じゅ
 ……意識が蔭っていた。1秒か、10秒か――くそ、どうでもいい。背中を押す熱い
風に振り向く。爆散する車体、吹き上がる爆炎――オレンジ色の焔。
 解っている事は一つで、他の事はどうでも良くて、だからソレを認識する。
 俺は――……アイツは、まだ、死んでない。
 夜を染め上げる破壊の熱波。足止めしたのは多分一瞬。だから逃げて――今は。
 手の中の感触が、現実に意識を引き摺り込んだ。まだ終わってない、逃げられな
い。バカみたいに重い銃の気配が伝えてくる。
 唇を噛んで、銃をベルトの背中側に突っ込んで、また走り出す。
 まだ終わってない。
 殺す為に、生きる為に、殺す必要の為に、今は速く、速く走らないといけない。
 主よ、我をお救い下さい。昔いまし今いまし、やがて来たり給う救い主の見立て。
 走った。
 反芻する言葉に意識を縛り付けて、辛うじて鼓つ心臓に任せて、ただ、
 ただ、走った。
 

310 名前:アーカード ◆VAMPKPfGto:2003/06/22(日) 20:53

>307 >309 Duel of the fates -澱ミノ宴- Kresnik vs Arucard
 
 血が逆流する。
 あまりにも唐突だ。百万本の白木の杭で貫かれたような激痛と嫌悪の感覚に、指先から頭部まで、
アーカードは行動に強制停止を強いられた。
 ―――今のは、なんだ。
 その思考は愚行。男に突きつけた銃口は、引き金に掛けた人差し指は、一時ながら己の務めを忘
却した。
 その代償は大きい。次いで襲い掛かってきたのは感覚の刃ではなく、正面からの銃火だった。
 右腕をもがれ、片目を潰され、首を半分程持っていかれた。反撃の暇はない。顔面を横殴りにし
たのは、鉛の棍棒のようなジャッカルの銃身だ。
 瞬間に降りかかった殺意の雨―――が、不死王の資産は強大だった。
 人の身には返し切れぬ代償とて、彼に取ってみれば瑣末な事でしかない。
 腕を再生し、振りかぶり、顔面に叩きつけて破壊する………それだけでいい。積み重ねられた屈
辱も、それだけで返してやれるだろう。
 出来なかった。腕を振りかぶる事も、叩きつける事も、そもそも腕を再生する事も。
 前身を苛みつづける感覚の杭が、魔王の成せる超常再生すら阻害したのだ。
 ここまではアーカードの回想。
 なぜならこの1秒後、アーカードの頭部は全身は、炸裂する猛火と暴圧に飲みこまれ、荒れ狂う
金属片の中で四散したからだ。
 
「……く…く、くっ」
 
 がら。
 がらがら。
 がらりと破片を押し退ける。炎上したパトカーは逃げるなと言わんばかりに業火で背中を飾り、
しかしアーカードはちらとも振り返らない。"生えた♂E手を握っては開き、感覚を確かめる。
 やはり再生が遅い。
 違和感の正体を探る。見れば、先ほどまで転がっていたヴァンパイアの死体―――これも奴の仕
業だろう、頭部が綺麗になくなっている―――は、日の出をまたずして灰と変わっていた。
 結界か。
 ただの結界ではあるまい。閉じ込めるのでも縛るのでもなく、抹殺する。コスト度外視の戦略か、
この広範囲に巡った違和感をすれば、街一つを結界が覆っていることは容易に知れた。
 街の災禍に包まれている最中に使わず今になって持ち出す辺り、笑えるほど皮肉が利いている。
 いや、違うとアーカードは笑った。
 真に可笑しいのは、これだけの結界を張り巡らせる連中ではない。
 あの男だ。あの死地から、この躯を破壊し遁走してみせたあの男。

311 名前:アーカード ◆VAMPKPfGto:2003/06/22(日) 20:54

>310
 
「くく………く、くくクっ、ははっ、ハッ、はは、はははははは!」
 
 ………ああ、全く、なんという奴なのだろう。右手をもがれたのは久し振りだが、銃を奪われた
のは初めてだ。カラの右手を見下ろして、アーカードは哄笑を上げる。
 化け物め。笑いつつ、吹き飛んで炎上を続ける車体からマシンガンを剥がした。
 引鉄を引けば、ビルを穿つ弾幕。正常な作動を確認すると、アーカードは弾薬帯を身体に直接巻
きつけた。合計四十kgを軽く越える本体と、誘爆を免れた二百発近い弾薬を玩具のように抱えあ
げると、闇の中に目をこらす。
 口元が釣り上がった。
 軽く跳ねると、ビルの外壁に足をつけ、その身を壁へと溶かし―――溶かした。大地が雨を吸う
がごとく、その身をコンクリートへと―――数秒後、アーカードの長躯は、屋上の床から"生えた=B
吸血鬼の為せる外法の超抜能力。物理法則を足蹴にした行為で、彼は十階の距離を一息に縮めたのだ。
 ずるり。液体から抜けるようにコンクリから這い出すと、迷路を思わせる街並みを眼下にする。
 ―――見付けた。
 赤々と燃える火をともした廃墟の中、常人離れした足取りでビルの合間を駆け抜ける白装束。
 狭い通路を突風のように走る姿は、だが箱庭を走る鼠のようで滑稽だ。
 ―――お前を、見付けた。
 これ以上距離を離されても面白くない。私は、お前を見付けた。
 
「―――捕まえた」
 
 腕力を銃架に、銃身は軽々と片手で固定される。もちろんそれは、普通の人間には考えも及ばな
い、マシンガンの誤った使い方。だが、吸血鬼にとって―――アーカードにとってのそれは、拳銃
を持ち上げるにも等しい行動でしかない。
 下方に向けられたブロウニングが、けたたましい銃声とともに発射炎を吐き出す。
 とぎれる事なきマズルフレアが照らすのは、空薬莢の反射と、弾丸に砕け散るビルの破片のみ。
 
「さあ………逃げてみせろ、生きてみせろ、私はお前を捕まえた!」

312 名前:シエル(M):2003/06/27(金) 22:56

>>240
 
 ……終わった。
 吸血鬼は理に従い、灰になり、無に還る。
 
 ……終わらない。
 私はただ、環を辿りつづける。
 
 ―――――――
 
 視界は霞み、足に力は入らず、立つ事も覚束ない。
 
 ―――――――
 
 視界は揺れて、足は震えて、歩くことも難しい。
 
 ―――――――
 
 黒鍵を杖代わりにして、歩く。
 
 
 
 そう、終わらない。
 私が、シエルという存在は、まだ終われない。
 
  背負った罪は消えない。
  この手を紅に染めた過去は消える事は無い。
 
  架された罰は重い。
  シエルという存在を押し潰しそうな程に重い。
 
 けれど、歩く、環の上を――――――
 
 その果てに答えはあるのかもしれない。
 もしかすると何もないのかもしれない。
 ただ、絶望があるだけかもしれない
 
                   ――――――――それでも、歩く。
 
 私には立ち止まる事は許されず、歩くしかないのだから。
 
 
 
 天上の月は蒼く、煌々と輝いている。
 1年後、10年後、月は変わらず輝きつづけるだろう。
 その時、私は何を思うのか、考えるのか………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               私の、シエルという名の罪人の環はまだ終わらない―――――――

313 名前:シエル(M):2003/06/27(金) 23:00

と、遅くなりましたけど、シエルvsピートのレス番纏めですね。
 
>194>195>196>198>200>205>206>208>209>210>211>215
>216>217>219>233>234>236>237>238>239>240

314 名前:ン・ダグバ・ゼバ(人間体) ◆v9BpDAGUBA:2003/06/30(月) 21:54

ン・ダグバ・ゼバvs伊藤惣太
〜導入〜
 
 いい世の中になった。心から思う。
 
 夜なのに、明かりが灯っているというだけで、何の警戒もせずに出歩く奴等の群れ。
 良い狩り場が近くににある、というのは退屈しなくていい。
 
 今日も人間(リント)は、手を伸ばせば届く距離を、無防備に歩く。
 標的がある。それだけで、遊戯(ゲゲル)の準備は出来ている。
 
 さて、『狩り』の始まりだ。
 
「よーい、どん」
 
 僕が知っている数少ない始めの合図を呟く。
 最初の獲物は見ずに殺してみよう。思いつきのまま右腕を振る。
 ふむ、この手応えは……腹の辺りかな?
 
 指に絡み付いてくる肉と血管の感触。
 ゆっくり楽しみたい所だけど、速くしないと周りが逃げ出すから、一息で引き千切る。
 血と一緒に色々な物を辺りにばら撒いて、上下二つに分かれた人間が崩れ落ちる。
 
 あれ、指に何か引っ掛かってる。鬱陶しいからさっさと振り落と―――
 
 視界の隅に、頭から血を被って悲鳴を上げようとした女が居た。
 そっちを見るのと殆ど同じ。気付いたら、頭を握り潰していた。
 
「……はは」
 
 濃い赤だったり、粘った白色だったり。
 ずいぶん手が変な色になった。少し楽しくなって、笑う。
 
 そして、掌を見ていると、ちょっとした疑問が浮かんだ。
 
『全員殺したら、何色になるんだろう?』
 
 ああ、面白そうだ。早速、試してみよう。

315 名前:伊藤惣太 ◆amVJEDOGOs:2003/06/30(月) 21:55

>>314 ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
 
 ――――何もかもが、死に絶えた街。
 
 見渡す限りの屍、屍、屍……見下ろしても見上げても屍、足の下にも屍。
 一歩踏み出せば屍を踏みつぶし、足を取られる。
 吸う息は死臭しかせず、呼吸をしているという実感すらない。
 違和感と拒絶反応が嘔吐感となって、食道をせり上がってきた。
 咄嗟に手で抑えて飲み下す。
 ふらつく、膝を突いて死体を潰す――一体、何が、起こった?
 
 街に無差別殺人鬼が現れたと聞いたのがほんの二時間前。
 香織と弥沙子が街に繰り出していたのを思い出して、大急ぎでモーラ達とコンタクトを取った。
 燦月との関連も考えられるのでモーラとフリッツが先行したのだが、途中で連絡が取れなくなった。
 嫌な予感に襲われて急いで来てみたら……目の前に地獄。
 死に満ちた街、僅か数時間前は人で賑わっていたはずなのに。
 
 歩く、死体の海を歩く。
 何処だ、何処にいるんだモーラ……フリッツ……弥沙子――――香織!
 
 ――――――――――――いた。
 
 目の、前、に、イヤに、な、るほど、見慣れ、て、た、筈の……だけど初めて見た死に顔。
 死んでいるのに、死んだことを理解していない、そんな呆然とした表情を浮かべて……。
 毎朝毎朝見慣れてて、でも初めてで死んでて理解不理解――――
 
「うわあァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
 
 絶叫している事に、俺は気付かなかった。

316 名前:ン・ダグバ・ゼバ(人間体) ◆v9BpDAGUBA:2003/06/30(月) 21:57

ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
>>315
 
「あっと、そこで止まってくれないかな」
 
 妙に取り乱してる奴を一人、『遊び』を中断して手で制する。
 全く、人が至福の時間を味わってるのに風情の無い奴だ。
 気分を害されたけど、まぁいい。続きをしよう。
 
 無造作に投げ捨てた『玩具』達をざっと見渡す。
 リントはどれも同じに見えるからな……。一度見失うと、どれだか判別出来ない。
 どうせ二度と見ない奴なんだから、覚える気が無いのが本当だけどね。
 
「どれだったか……」
 
 顔に火傷のある男……は違う。
 こいつは面白い顔だったから、色々弄くってみた。
 でも、半分が骨になったから、遊び甲斐が無くなって捨てた。
 
 それじゃ、と思って隣を引っ繰り返すと……また違う。女は女だけどこんなに背は高くない。
 似たような背のが、もう一人居たから両方の四肢を外して繋げて遊んでみた。
 あんまり変わらない事に気付いて、飽きて捨てた。
 
「ああ、これだこれだ」
 
 あんまり小さいから、見落としていたらしい。
 金髪の小柄な女―――さっきまで遊んでいた『玩具』を拾い上げる。
 生きていた時も、中々面白かった。
 
 リントにしては強くて、速くて、綺麗な奴。
 だけど、脚を折ってしまえばどうという事は無い。
 後はゆっくりと仕留めるだけの話さ。
 腹を引き裂いて、それで終わり。
 
「途中で終わらせるのは、スッキリしないからね」
 
 力が失せ、人形のようになった体を片手で抱え上げる。
 遊びの続きをしよう。腹の中の、幾つもの塊を、順に並べる遊びの。
 
 綺麗だから、箱から宝石を取り出してるみたいで、とてもワクワクする。
 
 さぁ、宝物はまだまだある。
 全部取り出して、キチンと並べてあげよう―――

317 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/06/30(月) 21:58

>>316 ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
 
 ――――――――――何も、見えない、聞こえない、考えられない。
 ついさっきまで確かにあった筈の現実が、今は壊れて目の前に。
 バラバラにチグハグにアベコベに晒され壊され犯され殺され弄ばれ奇形のパズルが並べられ――――
 
 昨日まであった日常と、非日常は終わった――あまりにも唐突に、理不尽に。
 下される審判に抗うことすら許されず、何も出来ないまま、俺の大事な人達は壊された。
 何も、何も、何も――――――!
 
 ドン、ドン、ドン、ドン……。
 耳元で、叩きつけるような鼓動の暴走。
 
 ――――あァ、分かってる、もうちょっと待てよ……そう慌てんな、あいつは殺す。
 
 ナイフを取り出す、振り上げる、腹部に突き刺す、抜く、突き刺す、抜く、突き刺す。
 吐血しながら刺す、刺す、刺す。
 楽しげに狂ったかのように何度も何度も何度も何度も。
 破壊され尽くした内臓と大量の出血……やがて俺の身体から生者の力が失われ――死者の力が満ちる。
 コレで、俺も辺りを埋め尽くす死体の仲間入りってワケだ――――
 
 モーラの身体を破壊している男の元へ一歩、二歩、三歩。
 眼下で死体解体に興じてる奴は、他が目に入らないのか没頭しきってこちらに気付かない。
 
「おい」
 
 言葉と同時に殴りつけた。
 慈悲も手加減も自分への配慮も何もかもがない一撃。
 拳の骨が砕けたが知るか。
 傾ぐ男の頭部を、今度は蹴りつけた。
 脛がへし折れる、構うか、どうせすぐにくっつく。
 
 サド侯爵の愉悦をぶら下げながら、一切の感情が消失した朱い瞳で男を見下ろした。
 
「立てよ、殺してやるから」
 
 あァ、一つだけ訂正しよう。
 感情がないんじゃない、唯一つの感情しか、今の瞳には凝ってないんだ――つまり、殺意しか。

318 名前:ン・ダグバ・ゼバ(人間体) ◆v9BpDAGUBA:2003/06/30(月) 21:59

ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
>>317
 
 全く、何処までも鬱陶しい奴だ。
 どうせ面白くないんだから、せめて邪魔だけはしないで欲しいんだけどな。
 視界が逆転したままでぼんやりと思う。
 
 首を持ち上げて、そっちを見るのも面倒だし。
 やれやれ、手間のかかる――――
 
「……へえ。いいね、君はとても楽しそうで。
 そんな目の奴を見たのは、久しぶりだよ」
 
 懐かしい。
 僕を殺す事だけを考えて向かってくる奴。
 何もかも捨てて、ただ殺し合いにだけ没頭しようとする奴。
 ―――そんな奴が、遥か昔に一人だけ居た。
 
「いいね、とても、いい」
 
 立ち上がる間も、頭の中は酷く冷めている。
 
「遊んであげたく―――いや、」
 
 なのに、体は熱い。
 それは多分、僕が喜んでいるからなんだろう。
 全身が細胞単位で喜んでいる。
 楽しい相手に巡り合えた、その幸福に。
 
「バラバラにしてあげたくなる目だ」
 
 片腕に力を篭め、純白の装甲で皮膚を覆う。
 本当は全身に行き渡らせる物だけど、まだその必要は無い。
 楽しみは何度も噛みしめないと、味が出ない物だから。
 
 指を全て揃え、一振りの剣に見立てて腕を振るう。
 まずは胴体へ一閃。もちろん、死なない程度に手は抜いてる。
 真っ二つになっても、それはそれで面白いけどね。

319 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/06/30(月) 22:00

>>318 ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
 
 刃に見立てて振り下ろされる手刀、ならば俺も刃で迎え撃つまでだ。
 一直線の軌跡を描いている腕に向けて、下からまっすぐに突き立てたナイフを振り上げる。
 唸りを上げる白腕と白刃が、甲高い音と火花を散らして激突した。
 耳に残る残響音が、まるで耳鳴りのように俺を苛む。
 独りぼっちの俺を嘲笑うかのように――――
 
 なるほど、大したパワーだ、だが……。
 
「その腕で、みんなを殺したのか」
 
 手首を掴んで捻りながら振り下ろし、次いで膝で蹴り上げて肘関節を破壊。
 連続して骨が砕け、筋が千切れ、関節の外れる耳障りな音が響く。
 壊死したかのように垂れ下がる腕を放り投げるように解放して、胸の真ん中目掛けてナイフを突き込む。
 心臓があると思しき位置へ、一直線に。
 
「まだ死ぬなよ、こんなんで死なれちゃみんながかわいそうだ」
 
 そうだ、簡単には殺さない。
 泣き喚け、許しを請え、痛みを感じろ、懺悔しろ後悔しろ地面を舐めろ死体に謝れ――――
 それからゆっくりと解体してやる。

320 名前:ン・ダグバ・ゼバ ◆v9BpDAGUBA:2003/06/30(月) 22:02

ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
>>319
 
 身動き一つせず、殺意をそのままに受け止める。
 こんなに素晴らしい感情を無碍にするなんて、出来ない。
 心地良さに身を浸しながら、口を開く。
 
「当然だろう?
 こいつ等は狩られる為に生きてるだけの、獲物さ。
 そして、獲物を殺さない狩人なんて、何処にも居ない」
 
 入り込んでくる刃。
 指一本動かす事の出来ない腕。
 全ての違和感が、激痛という形で襲い掛かる。
 
 堪らないな―――この感覚だけは何時になっても忘れられない。
 命を削る事で得られる快感。
 滅多に味わう事の出来ない、最上の愉しみ。
 
「まだ、まだ」
 
 全身に神経を張り巡らせるようなイメージを描き、装甲を発生させる。
 これからが本番、といった所かな。
 
「もっと楽しんでからじゃないと、死ねないね」
 
 胸に突き立つナイフを、より奥へ奥へと自分で押し込む。
 は、ははは。痛いな。痛い。これはとても痛い。
 でも、痛みが無ければ楽しくない。
 面白おかしく遊ぶ為には、必要な儀式だ。
 
「……ほら、これで逃げられない」
 
 言いながら、腕を半ばまで胸に埋め込む。
 刃が心臓に食い込んでいるらしいけど、大した事じゃない。
 
「それじゃ、思いっ切り楽しもうか」
 
 相手の体を固定したまま、顔面に向けて拳を放つ。
 さっき首を折られたお返しだ。
 今度はそっちの首も、圧し折ってあげよう。

321 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/06/30(月) 22:03

>>320 ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
 
「――――獲物、だと?」
 
 腕を固定されたまま拳を叩き込まれ、余りの衝撃に頸骨が逝った。
 首から聞こえる嫌な破滅の音。
 首があらぬ角度に曲がり、視界は反転白濁狭窄。
 
 だが、そんな状態で目の前の、徐々に違うモノへ変貌していく奴の姿を見、声を出す。
 そうだ、こいつは――かけがえのない、大事な人達を……獲物と言った。
 あァ、もう駄目だ……何も考えられない。
 
 ――――殺(バラ)すことしか。
 
「だったら……狩人よ」
 
 ナイフは奴の身体に捕らえられてるが問題ない。
 更にナイフの刃を抉り込んで手を放し……指を奴の体内で開いた。
 
 吸血鬼の指先には、ほぼ例外なく鈎爪を備えている。
 開いた指先に備えられた鈎爪が、奴の体内を切り裂き、蹂躙する。
 肉が裂け、破れ、血がまとわりついてくる。
 構わず、手を内部で掻き回す。
 肉を、血管を、神経を、内臓を――命を破壊して破壊して破壊する。
 
「当然、獲物に狩り殺される覚悟もあるんだよな?」
 
 手に、何かの内臓が当たった。
 心臓か肝臓か腎臓か、何かは知らねェが、
 
「そうでなきゃ……フェアじゃねェだろ?」
 
 握り潰した、呆気ない手応えと共に。
 
「牙なき者を手に掛けて……何が狩人だッ!」
 
 空いた手にレイジングブル・マキシカスタムを抜いて、眉間をポイント。
 トリガートリガートリガートリガートリガートリガー。
 マズルフラッシュ銃声フラッシュ銃声フラッシュ銃声フラッシュ銃声フラッシュ銃声フラッシュ銃声。
 トリガートリガートリガートリガートリガートリガー……ガチガチガチガチガチガチ。
 空しく空回る撃鉄――その音を聞きながら、暴走する意識のまま、唯トリガーを引き続ける。
 頬を伝う、血涙もそのままに。
 
 ガチ、ガチガチ、ガチガチガチ、ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ――――

322 名前:ン・ダグバ・ゼバ ◆v9BpDAGUBA:2003/06/30(月) 22:03

ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
>>321
 
 ぐちゃぐちゃに掻き混ぜられた内臓が酷く不快で快感で。
 飛び散る脳漿を他人事のように見ている自分が可笑しい。
 痛みも何もかも消し飛んで、白く光る膜の向こうに突き抜ける。
 
「ハ、ハハハハハハハ――――」
 
 笑う哂うワラウ。
 可笑しくて我慢が出来ない。
 何も見えなくても。何も考えられなくても。
 楽しむべき事は常に一つ。理由も何も関係ない。
 
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
 
 清々しい。
 狩り―――いや、殺しは最高の娯楽だ。
 存分に味わい尽くそう。どちらかが二度と動けなくなるまで。
 それまでは止まっちゃいけない。肉片になってでも動くつもりでやるんだ。
 何故かって?
 
 ――――だって、面白いじゃないか。
 
「ハは、楽しクなッてきタねぇ!」
 
 流石に脳がやられると、体を動かすのが難しい。
 それでも膝は自動的に跳ね上がって、相手の腹を捉える。
 
「もッとモっト遊ボうよ!!」
 
 血を頭から被りながら、吐き出しながら。
 全身を真っ赤に染めて、装甲と一体化した、肘の刃で袈裟懸けの斬撃。
 まだまだ血が足りない、傷が足りない――――
 
 悦びが足りない!

323 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/06/30(月) 22:04

>>322 ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
 
 ボタボタとボタボタと、栓の壊れた蛇口のように血と吐瀉物が地面へ叩きつけられる。
 内臓がズルリとはみ出してくる――邪魔だ――鈎爪で引きちぎった。
 あるはずの激痛を、忘却の彼方に押しやってくれる殺意に、感謝の念を抱く。
 砕けた頭部に鈎爪を突っ込む、グチュグチュでバラバラの脳味噌をかき分けていく。
 鈎爪が脳幹に触れる、ぶっ壊す。
 奇妙な、今まで味わったことのない手応え……命を鷲掴みにするかのような感触。
 
 混濁した意識が、嗤う。
 
「グ……ハハハハハハハハッ!」
 
 何が楽しいのか何が苦しいのか何が悲しいのか何が面白いのか何が辛いのか――――
 何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も分からず――――
 ガンガンガンと脳内に叩きつけられる無数のシグナルを全て叩き潰して殺戮へ破壊へ没頭していく。
 
 頭部に突っ込んだ腕を、そのまま地面へ叩きつける。
 粉々に砕けたアスファルトのクレーターに埋まる頭部。
 取り出すのは三つ刃の暴力――旋風の暴帝。
 刃を広げて振り上げて……首へ向けて振り下ろす、振り下ろす、振り下ろす。
 刃を首筋に当てて、引く、押す、引く、押す、引く押す引く押す引く押す引く押す引く押す――――
 クソ、固いな……だが、
 
「バラしがいがあるなテメェ――――」
 
 押す引く押す引く押す引く押す引く押す引く押す引く押す引く押す引く押す引く押す引く押す――――

324 名前:ン・ダグバ・ゼバ ◆v9BpDAGUBA:2003/06/30(月) 22:05

ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
>>323
 
 繰り返し自分の頭が叩き付けられる音は、とても気分がいい。
 聞き様によっては、リズムを取っているようにすら思えた。
 
「ア、ハ、ハ、グブ、ハハハ」
 
 向こうも乗ってきたらしい。
 妙な形の刃で、僕を細切れにしようとしている。
 そうだ、それでいい。
 もっと『こっち』に来るんだ。何もかも、忘れて。
 
「ハァ、ハ、ハ、ガ、ハ、グ、ハハハ!!」
 
 体が痙攣する。笑い声が寸断される。
 神経が一つ一つ断ち切られる。常に働く再生能力も追いつかない。
 何が起こって何がしたくて何をして―――
 
 装甲を食い破る刃を握り、骨に誘導して固定。
 そのまま折って自分の手に握る。
 三本もあるんだ。一本や二本くらい貰っても構わないだろう。
 
「ハハ―――」
 
 強く握り締めると、指が千切れそうになる。
 だけど気にしていても仕方ない。
 
「ハァッ!」
 
 肉体が、心が、魂が。歓喜を受け止めて動いた。
 握った刃を奴の脳天に突き立てる。
 其処は要らない。ただ殺せばいいだけなんだから。
 
「―――――!!」
 
 纏わり付く血液のせいで、声にならない叫びを上げながら拳の連打。
 当たる度に減り込む拳を引き抜いて新しい穴を穿つ。
 
 ああ、そういえば気付いているかな?
 
 僕には聞こえないけど、分かるんだ。
 互いの血を流し、内臓を引き裂き、骨を砕く度に。
 君の笑いが―――大きくなっているのを。

325 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/06/30(月) 22:05

>>324 ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
 
 頭蓋へ侵入してくる暴帝の一欠け、脳への異物が気持ち悪くて気持ちいい。
 額から鋼刃を生やしたまま、笑う嗤うワラウ。
 
「ハ! ハハ! ハハハッ!」
 
 叩き潰したくて消し去りたくて殺したくてバラしたくてワラウ。
 俺に穴を穿つ拳が痛くて楽しくて笑う。
 失われていく血と命と尊厳に嗤う。
 嗤うことが楽しくて笑うことが苦しくてワラウ。
 
 もう、何でワラってるのかワカラナイ。
 
 聖者の絶叫の、穂先部だけを取り出す。
 柄はいらない、邪魔だし面倒だし必要ない。
 中程を握って腹部へ突き刺す、抉って抉り込む、引き上げてまた刺して抉る。
 円を描くように、愛おしむように慈しむように嬲るようにいたぶるようにじっくりとゆっくりと。
 さっきから吐血が止まらないけど噴き出す何かも止まらない。
 止まらないから止められない、止める気もない。
 腹から屹立する鉄棒に拳を叩きつける叩きつける叩きつける。
 棒がひしゃげても拳がひしゃげても内臓がひしゃげても叩きつけて叩きつける。
 
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――――!」
 
 無事な四肢も肉体も内臓も精神も一欠片もなくて、それでも唯々殺し合う、そんな俺の終わり。

326 名前:ン・ダグバ・ゼバ ◆v9BpDAGUBA:2003/06/30(月) 22:07

ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
>>325
 
「―――ヒュ、ハ、」
 
 噴出す血液が減って来た。限界が近いんだろうか。
 浴びる血と流す血が多過ぎて、判断出来ない。
 
 まぁ、いいか。
 
「ハ。ハ、ハ」
 
 口から零れ出す肉片のせいで、どうしても切れ切れになる。
 大声で笑いたいのに笑えないなんて、酷い話だ。
 僕も笑いたい。あんな風に、愉しそうに―――。
 
「――――ガ、ァ!」
 
 一際大きな塊を吐き、溜まっていた笑いを解放する。
 
「ハハ、ハハハハハハハハハハハ!」
 
 抉られながらも、休まず打ち出していた拳の軌道を変更。
 真っ向から迫る拳に叩き付ける。
 互いの腕の半ばまで、ひしゃげて砕けた。
 これで、おあいこだ。
 
 体を食い破った刃が更に深くへ沈み込むのも構わずに前へ踏み出す。
 途端に膝が崩れた。
 でも、位置的には好都合。
 
「ハハハハハハ、ハァ!!」
 
 笑いながら、肩から激突。
 全身に行き渡る衝撃を感じながら踏み込む。
 一度崩れた体勢を立て直す気にもならず、そのまま駆ける。
 行く手の建物に向かって、真っ直ぐに――――

327 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/06/30(月) 22:07

>>326 ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
 
 破砕音、崩壊音、俺の内部からも同じ音。
 壁面に叩きつけられた俺の身体は、既にグシャグシャだ。
 ゴボ、ゴボ、ゴボと、喉の奥で血が鳴っている。
 鼻からも口からも耳からも目からも血を流す――世界が、朱い。
 意識はグルグルグルグルグルグル回って何処とも知れぬ奈落へと。
 
 ひしゃげた腕を諦めて、突き刺したままだった腕を引き抜く。
 黒いボンデージスーツを、血と肉と内臓の欠片と心筋がマダラな赤グロい色に染め上げている。
 ボタ、ボタ、ボタリと地面に落ちてシミになる。
 俺は最後の武器を取り出そうとして――投げ捨てた。
 
 俺に残された武器……SPAS12改『挽肉屋』は、壁面との激突時にメチャクチャにひしゃげちまってた。
 銃身は折れ曲がり、斧の刃は粉々だ。
 つまり――――
 
 武器は、尽きた。
 
 ――――否、まだある。
 健在の片腕、そこに備えられた鈎爪……吸血鬼の最も基本的な殺傷兵器。
 だが、今までの武装を全て使い潰した相手に、鈎爪が何の役に立つ。
 
「……知ったことか」
 
 ある武器で、こいつをバラす。
 唯、それだけだ。
 
 振り上げた鈎爪を、腹部へ突き降ろす――――!

328 名前:ン・ダグバ・ゼバ ◆v9BpDAGUBA:2003/06/30(月) 22:09

ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
>>327
 
 がくがく揺れる。
 ぎしぎし軋む。
 罅割れた視界がやけに綺麗だ。
 
「……ハ、ハァ」
 
 一旦崩れた姿勢が、そのまま崩壊してしまいそうだった。
 でも止まらない。止まってたまるか。
 こんな愉しい時間を簡単に終わらせてどうするんだ。
 
 加速する思考に反して、動きは鈍い。
 苛立つ位に自分の動きが遅い。
 こんなんじゃ楽しめない。もっと早く。
 もっとだ、もっともっともっともっと――――
 
「あ、はは、は」
 
 閃いた爪を、ひしゃげた腕に突き刺して防ぐ。
 肩の辺りまで食い込むと、ようやく止まった。
 いいね。まだまだ元気そうで、嬉しいよ。
 
「は、はははは!」
 
 体全体で相手を振り回し、蹴りを叩き付けて飛ばす。
 でも、自分の勢いも殺し切れずに、そのまま独楽みたいに倒れてしまった。
 
「……は、はは」
 
 立ち上がれない。
 指が全部違う方向を向いてると、やっぱり無理か。
 なら、骨を突き立てればいい。
 折れた骨を支えにして立ち上がり、進む。
 
「あ、は、は、は、はは、は」
 
 一歩を踏み出すだけで、心臓が高鳴った。
 血臭が近付くだけで、全身が震えた。
 
 あぁ―――――愉しいなぁ。

329 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/06/30(月) 22:09

>>328 ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
 
 背骨まで逝きそうな蹴りを喰らって、滑るように吹っ飛ぶ。
 宙に、肉と鮮血と内臓片の軌跡を残しながら。
 失速し、墜落――アスファルトと屍体の海に激突して息が詰まった。
 咳き込むが……出入りするのは血の塊だけ。
 酸素が取り入れられない、視界が脳が眩む。
 とっくに限界を超えてしまっている肉体に、精神が従おうとしてしまっている。
 まだ……まだだ! あいつを殺すまで俺は……ッ!
 頭を振ろうと目を横に向けて……飛び込んできたモノに凍り付いた。
 
 フランス人形の様な服装で小さくて、端正な顔立ちをした少女の……壊れた死体。
 虚ろな瞳の中には死しかなく、それはもうどうしようもなくそこにあって……。
 俺を――間に合わなかった、助けられなかった、何も出来ない俺を道連れにしようと――――
 
 フリッツの屍体が、香織の屍体が、弥沙子の屍体が屍体が屍体が物言わぬ屍体の群れが、俺を――――!
 
 いや、まだだ……待ってくれ、まだ早い。
 もう少しだけ――あいつをアンタ達の元に送るまで、もうちょっとだけでいい。
 そうしたら、俺もモーラ達の後を追うよ――――
 
 どうやって戦うのかと、囁く声がする――諦めなければ、手はいくらでもある。
 もう手は潰えたと、嘲笑う声がする――いいや、俺は戦う術を手に入れた。
 死んでしまえば楽になれると、誘う声がする――俺だけが楽になるなんて、許されてたまるか。
 諦めろと、虚無へ引きずり込む声がする――諦めて、たまるかッ!
 
 ――――俺は手に取る、最後の武器を。
 
 俺の居場所を探るように、じっと動かないバケモノ。
 生の気配が死に絶えた、圧倒的な静寂が場を支配するか……に思えた刹那。
 屍体の海を割って、死臭に満ちた大気を裂いて、一本の銀色をした殺意が、バケモノへと飛んでいく。
 それは狙い過たずバケモノの咽喉を突き破り、背後の壁に縫い止めた。
 次いで磔の死刑囚に次々と次々と降り注いでいく、フルオートの銃弾の群れ。
 動けない白い身体に、慈悲なく容赦なく満遍なく突き刺さり蹂躙していく。
 
 銃のトリガーを引き続けたまま、屍体の下から立ち上がる。
 その銃の名は、M4 ウィッチハンター――COLT M4のR.I.Sに銀の矢を放つボウガンを取り付けた奇形銃。
 今はもういない、フリッツの愛銃だ。
 
「覚悟はいいか?」
 
 一歩一歩、哀れな磔の殺人鬼に歩み寄ってゆく。
 その間にも引き金を引き続け、休める暇は与えない。
 弾が切れたところで銃を放り捨てて……走り出した。
 肩にずっしりと掛かる重みも意に介さず、唯そこにいる奴に向けて走る走る走る。
 
 ――――何だ、こんなのどうやったら振り回せるんだって思ってたけど、案外簡単じゃないか。
 
 最後の距離を一っ飛びでゼロにし、手の中の巨大な鉄塊を振り上げる。
 そこにあるのは、あり得ない重量、純然たる暴力――モーラ愛用のハンマー。
 そうあるだけで破壊を思わせる凶器が、唸りを上げて男へと断罪を振り下ろす――――
 
「殺戮の時間だ」

330 名前:ン・ダグバ・ゼバ ◆v9BpDAGUBA:2003/06/30(月) 22:10

ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ
>>329
 
「……は、」
 
 止まった。喉に突き立つ銀の矢が―――止めた。
 やっと出せた笑いも、ひゅうひゅうと空気になって抜けていく。
 
 間を置かずに、襲い掛かってくる無数の飛礫。
 体に流れる物は殆ど出し尽くした体でさえも、それは容赦なく喰らい付いた。
 
「……あ、ぐ、あ」
 
 矢尻は喉を突き抜けて、後ろの壁にまで刺さっていた。
 抜き取る手段もなく、動けない。
 それでも、笑っている。
 楽しいから笑ってる。それ以外に理由は無い。
 
「あ、は――――」
 
 声が、出せる。
 妙に嬉しい。それだけなのに、とても楽しい。
 
 あぁ、なんて愉しいんだろう。
 間違いなく、最高のゲームをした。
 何もかも消して、只管に殺し合う最高の遊戯を。
 
「は、はははは―――」
 
 伝わるだろうか、この楽しさが。
 
「はは、はははは、は―――」
 
 伝わるだろうか、この気持ちが。
 
「ハハハハハハハハハハハハハハ!!」
 
 理解してくれただろうか。
 
 殺戮の、快感を。
 
 残った全ての力を注ぎ込んで、笑った。
 迫る圧倒的な『死』も、感覚が消え失せた体もどうでも良かった。
 ただ、楽しくて。
 ただ、面白くて。
 
 ――――笑い声だけを、響かせた。

331 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/06/30(月) 22:11

>>330 ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ エピローグ
 
 圧倒的質量が、男の頭部を圧殺した――その、笑い声ごと。
 圧壊した頭蓋が脳味噌が、肉体と同化したかのようにひしゃげてなくなってしまった。
 間違いない、死んだ、この上なく間違えようもなく、こいつは死んだ。
 これじゃ吸血鬼だって生きているか怪しい。
 だのに、どうして――――
 
「笑うなァァァァァァァァァッ!!」
 
 笑い声が、聞こえ、るんだ。
 頭に響く、俺を苛む、俺を嘲笑う、俺を俺じゃなくする――――
 
「――――死人が、笑うなァッ!」
 
 フルスイングの一撃を、胸に叩き込む。
 骨が粉々に砕けて、潰れた肉、臓腑とシェイクされる。
 
 笑い声は止まない。
 
 右足を軸に身体を一回転させて――モーラがそうしていたように――遠心力の乗った一撃を腹へ。
 ただでさえメチャクチャだった腹の中身が、圧力で穴という穴から噴出した。
 否、肉体すら突き破って溢れ出す、ハンマーの刻印によって、壁面のシミとなる。
 
 笑いごエは病まナい。
 
「笑うな……笑うな……笑うなァッ!!」
 
 振り上げる振り下ろす回る回す叩き付ける叩き潰す粉砕する殴り付ける潰す潰す潰す。
 砕く殴るミンチにする肉片にするすり潰す打ち砕く粉々にする壊す壊す壊す壊す壊す。
 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す何度でも幾度でも何十何百何千回と何度でも殺す――――!
 
 ワライゴエハヤマナイ。
 
 呆れるほど、数え切れないほど鉄塊を振るい、奴の肉片が瓦礫と同化して、シミと区別できなくなって。
 口元に手を当てて、その形を確認してようやく――――
 
 他ならぬ俺が、壊れた笑い袋のように虚ろな笑い声を――破壊の最中も上げ続けていたのに気付いた。
 
「ハ……ハハハ……ハハ、ハ……」
 
 自覚してなお、笑い声は止まらない。
 無気力に無自覚に、止める術を忘れてしまったかのように。
 そのことに疲れ、絶望し……それでもなお笑いながら、力を失くした手から、ハンマーが滑り落ちる。
 アスファルトを砕いて、地面にまっすぐ立っている、膝を突く、笑いながら。

332 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/06/30(月) 22:11

>>331 続き
 
 手を伸ばせば届く場所にあるハンマーの柄を、笑いながら捻る。
 血肉のこびり付いた破砕面から、鋭く尖った白木の杭が突き出した。
 笑いながらそれを取り外し、じっと見つめる。
 身も心もバケモノへ堕ちてしまった俺の心臓へ、笑いながら先端を向ける。
 後は、これを突き入れれば――全て終われる。
 思えば、自分がバケモノになった時にこうしておくべきだったのかもしれない。
 元に戻れるとでも思っていたのか? バカバカしい。
 
 弥沙子、香織、モーラ……ついでにフリッツ、今逝くよ――――
 贖罪の切っ先が浅く皮膚を裂き、肉へと潜って……。
 
 僅か、ほんの僅か、俺の脳髄に絡み付く思念の糸。
 あるかなきかの接触を、俺は敏感に感じ取った。
 引き留める意志を、織り交ぜて。
 あァ、そういえばそうだった……危うく忘れるとこだったよ。
 
 全ての元凶の存在を。
 
 そうだ、こんなどうしようもないバケモノでも、身体だけは人に戻って死ねるんだ。
 君を……リァノーンを殺してしまえば。
 そもそも君だけ残って、俺が死ぬのはおかしいじゃないか!
 こうなったのも全て君のせいだっていうのに!
 君を殺して燦月の連中も悉く鏖殺してしまえば、俺というバケモノがいた証は、全てこの世から消える。
 それからでも、遅くはない。
 
「ハハ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――!」
 
 今までよりも一際大きく、キチガった哄笑を張り上げながら、デスモドゥスに飛び乗る。
 肩にM4 ウィッチハンターとモーラのハンマーを担ぎながら。
 屍体の海を踏みしだいて、殺戮とスピードの権化が闇夜へと発進していく。
 その背に嗤う悪鬼を背負って、屍体の夜に嗤笑を刻んで。
 
 待っててくれリァノーン……今惨殺しに行くから!
 
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――!」
 
(TO DEAD END……)

333 名前:v9BpDAGUBA:2003/06/30(月) 22:28

ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ(レス番纏め)
>314 >315 >316 >317 >318 >319 >320 >321
>322 >323 >324 >325 >326 >327 >328 >329
>330 >331 >332

(感想・その他はこちらへ)
http://www.tpot2.com/~vampirkrieg/bbs/test/read.cgi?bbs=vampire&key=1053814090

http://www.appletea.to/~charaneta//test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=1035898557

334 名前:ジャック=クロウ ◆8nMUYwJack:2003/07/02(水) 00:14

 
 街を縛る五芒星。
 サウスブロンクスを包囲する配置で突き立てられた巨大な柱/結界媒体は、不動の
テトラグラマトンとなって街を清浄の檻で包み込んだ。
 死体は塵に帰り、動く死体/ヴァンパイアは足掻く間もなく灰へと変わって散っていく。
 馬鹿馬鹿しくなるほどの脅威を横目で流して、ジャックは黙したままのカレンツァへ詰
め寄った。ケリーは止めない。タルジェノが片眉を上げたが、ジャックは無視した。カレ
ンツァはタルジェノを制して、
 ジャックは、カレンツァを睨み付ける。
 カレンツァは――息を吐いて、
 
 ――そうだな、と。顛末を語り出した。
 
「マウリティウス……騎士団?」
「そう。最小最強のヴァチカンの切札。君達がけして知る事のなかった、抹消された名
を冠する騎士達さ」
 
 頭の中が、霞む。
 事実を処理しきれない。
 見知った筈の人間が急に離れて行くような違和感と喪失感。
 その名前も知らない騎士団の中に、アイツが、
 
「君がまだコロンビアに居た頃、彼は年端も行かない少年の頃。君以外の友が居て、
君とは違う理想を抱いていた頃の話だ。君に"チーム=クロウ"が在るように、彼には
仲間達が在った」
 
 ジャックは押し黙り、次いで語気を荒げてピーターを睨んだ。
 
「訊いた事もな――いいや違う。そんなモノ有る訳がない。何処の妄言だ? 超人部
隊? 生体兵器? 狂人の戯言かコミックの世界だ」
「有る訳がない? 正にその通り。これは実験で、同時に生きた部隊だったんだ。超
人を――いや。創始者の司教に習うなら、神の戦士を作り出す狂事。一人居れば旧
世代の突撃銃で師団でも殺し尽くして、ナイフ一本でドラゴンでも捌いてくれるだろう。
そう"造られた"騎士達は、歴史所かヴァチカンからも秘匿されていた。いつでも消え
る事が出来るように、痕跡すら残さずに終われるように」
「……出来の悪い冗談だ」
「冗談は嫌いだよ」
「戯言に付き合ってる時間はないんだよ、大司教」
「事実だ」ピーターは静かに続ける。「否定するならすればいい」
 
 血が滲むほど、唇を噛んだ。
 タルジェノの視線も受け流し、彼我の立場も他所にして、ジャックは激昂する。
 

335 名前:アン・フューリー(M):2003/07/03(木) 20:49

アン・フューリー(M)VS高木由美子(M)
導入

 ここはアメリカの中南部のとある州にある、スローター・ハウス孤児院。
高木由美子は、そこでシスターとして働いていた。何も好き好んで働いているのではない。
別件で異教徒を殲滅しに近くまで来たはいいが、そのままハインケルとはぐれてしまったのである。
ちなみに財布はハインケルが持っていた。
……野垂れ死に掛けていた由美子を救ったのが、カトリック系のこの孤児院の院長だった。
 院長は親切にも、迎えが来るまで泊めてくれると言ってくれたが、根が真面目な由美子としては、
ただで泊めてもらうのは気が引ける。ということで、この孤児院で奉仕することになったのだ。
だいぶおっちょこちょいであったが、優しく熱心なシスターはすぐに子供たちの人気者になった。

336 名前:アン・フューリー(M):2003/07/03(木) 20:50

>335

 アンは普通の女の子。かわいいかわいい女の子。だけれど、ただ一つ彼女が他の人間と違うところは、
彼女は化物なのでありました。

 ある夜のことです。アンは、いつものように近くをさまよう野犬や、
ミルクを取るために孤児院が飼っている乳牛を喰らっていました。
ただいつもと違ったところは、その姿をマーティーに見られてしまったのです。
 幸いマーティーはまだ小さかったので、何が起こっているかはっきりわかりませんでした。
だからアンはこう言ったのです。
「ねえ、マーティー。少しの間だけ、目をつぶっていてくれるかしら?」
「うん、解ったよ。なに、アンおねえちゃん?」
 アンは答えずマーティーに近づいていきます。すっかり少年の近くまで来ると、
アンは大きく口を開けました。
 そうすると、口の中から怪物の手が出てきました。その手にもまた口はあります。
手が哀れなマーティーの頭を握りつぶすと、
手についている口がマーティーを素早く咀嚼し始めました。骨が砕ける嫌な音が聞こえます。
血を啜るどくっ、どくっ、という音が辺りに響きます。
 3分も立たず、まるで手品のようにマーティー少年の体はこの世から消えてしまいました。
 アンの悪い癖は、こうやって食事をしている時、周りに注意がいっていないことです。
ほら、今回もまた、食事の姿を人に見られてしまいました。今度は眼鏡を掛けた若いシスターです。
彼女はトイレに行ったきり帰ってこないマーティー君を探しにきたのですけれど、その途中でアンの
食事シーンを見てしまったのです。
 アンは、悪びれる風もなくにっこり笑いながら言いました。
「今晩は、由美子さん。いい夜ね」
 そうやってなんでもないような足取りで彼女の元へ歩いてゆきます。
あらあら、今度は彼女も食べるつもりなのでしょうか。ねえアン、こんな夜中に食べ過ぎると、健康に良くありませんよ。

337 名前:高木由美子(M) ◆2xFanatics:2003/07/03(木) 22:20

アン・フューリー(M)VS高木由美子(M)

>335 >336

「よい、しょっ……ふぅ」

抱えていた洗濯物の山を降ろして一息。
子供物とは言ってもこれだけ数があれば結構な量になる。
取り込むだけでも一苦労で、畳むのにまた一苦労。
その前には勿論洗って干さなければいけない訳で、洗濯だけでも重労働極まりない。
神父様とシスターの二人ではとても手が廻らないように――事実、わたしが仕事を手伝う
と言った時はとても有り難がられ、こそばゆいくらいだった。

「こらー、もうお休みの時間ですよー。早く寝なさーい」

孤児院の廊下を走りまわる子供たちに声を掛けながら、布の山に挑み始める。
仕事の多さにそれなりの疲れは感じるけれど、それは寧ろ心地よい疲れ。
何時もの『仕事』に比べれば、癒されるくらいだった。

「……こういう仕事の方が、やっぱり良いなぁ」

この所立て続けで、その上アメリカまで来て仕事。まさか終わった後で逸れるとは思わなかった。
何処かが疲れていたのかもしれない。
でも、少しくらいこういう時間があっても良いだろうと思う。

「―――でも、局長になんて言われるやら……」

想像して少し鬱。
と、視界の隅に廊下を横切る小さな影が見えた。方向からしてトイレだろう。
暫く洗濯物を畳み続けて、おかしな事に気が付く。大分経つのにトイレから戻った気配が無い。
何でも無いだろうとは思う。確認するのは念の為に過ぎない筈だった。
廊下の突き当たり、閉め損なったのか細く空いた外へと繋がるドアの向こう。

音が聞こえる。
濡れた音。くぐもった音。骨の砕ける音。噛む音。飲み込む音。

―――何かを、咀嚼する音。

覗きこんだ隙間から見える。
異形の口の中に消える足が。
血の臭いが霧の様に立ち込める只中に居る、アンが。

「え、あ、あれ?」

口元や着ている服の胸元を赤く汚して。
答えは一つしかないのに、認識が追い付かない。
ドアの隙間越しに見つめ合いながら、近寄ってくるアンから逃げる様に後退った。

338 名前:アン・フューリー(M):2003/07/03(木) 22:37

アン・フューリー(M)VS高木由美子(M)

>337

 見られた。見られてしまった。まったく、なんてドジだろう。これで今夜は二人目だ。
アンは心の中で舌打ちしたが、表情は変えない。今までにも、何度かこんなことはあった。
今度もそのうちの一つになるだけ。何も問題はないわ。
――だが。違うところは、ここは孤児院だということだ。アンはここが気に入っている。
なるべくなら、ここで騒ぎを起こしたくなかった。食事はもっと時間を掛けて味わうべきだ。
一気に沢山喰らうなんて、下の下である。第一、美容に悪いわ。
「由美子さん。逃げると、ここの人も巻き込まれちゃうわよ。あたしは、孤児院の人に迷惑をかけたく
 ないの。――だから」
 おとなしく、食べられて頂戴。
相変わらずニコニコしながら、近づいていく。さあ、シスターまではあと数歩だ。

339 名前:高木由美子(M) ◆2xFanatics:2003/07/03(木) 22:56

アン・フューリー(M)VS高木由美子(M)

>338

逃げるなと言う。
食べられろと言う。

凍った思考は動き出さなくて、壁に背を擦り付けながらただ退がる。
逃げたい。
でも、そうすればここの子供たちも神父様たちも殺される。
それを防ぐ方法は一つだけ。

『起こす』事。そして、アンを殺す事。
違う。

―――子供を食べた化け物を殺す事、だ。

廊下の曲がり角に背中がぶつかる。もう退れない。
ナンヴェールが宙に舞って、俯いた顔から眼鏡が落ちた。

「………」

俯いたまま走り出す。
アレがある自分の部屋は、そう遠くない。

340 名前:人修羅:2003/07/03(木) 23:23

容量がやばくなったので、新スレを立てた。順次移動してくれ。
吸血大殲第55章「ドグラ・マグラ」
http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi/ikkoku/057241929/l50

341 名前:高木由美子(M) ◆2xFanatics:2003/07/03(木) 23:28

アン・フューリー(M)VS高木由美子(M)中間纏め

>>335 >>336 >>337 >>338 >>339


http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi/ikkoku/057241929

……罪は血で償わせてやる、クソ化け物。

342 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE:2003/07/05(土) 21:48

Dante vs Zahlenschwestern, "Air".
 
>7>8>9>212>213>214
 
 神――神、か。クソったれな神様。若し見ているのなら、すべての人間に慈愛
を注いでくれるなら、たったひとつだけ、その加護を。慈悲を。
 決着は、人間の手でつける――どうか手を、出さないで。

343 名前:代理まとめ人:2003/07/06(日) 01:06

Duel of the fates  Kresnik vs Arucard レス番まとめ
 
>128 >129 >130 >131 >132 >133 >134 >135 >138 >139
>140 >141 >151 >153 >155 >173 >175 >189 >190 >203
>204 >207 >229 >230 >231 >232 >235 >304 >305 >306
>307 >308 >309 >310 >311 >334

344 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE:2003/07/06(日) 01:57

>65 ジャック・ザ・リッパーvsミスタ・ヤン 〜上海大夜騒会〜
>108 モリガン・アーンスランドvsエミリオ・ミハイロフ@14歳 『Darkness night, Blue moon.』
>124 『永遠の夜の双奏即興曲』ザベル(M)vsウピエル(M)
>145 蟆霧vsミズー・ビアンカ イン・ア・フライト (空戦領域) 
>183 『戦国吸血絵巻 〜双の鬼姫の踊る夜〜』 鈴鹿御前vsメリッサ 
>192 モリガン対ブラムス『王と女王、其の戯れに過ぎず』
>225 浅倉威vs夜香
>263 羽村亮vs闇惣太
>303 朝霧曜子VSエレン 
>313 シエルvsピート
>333 ヴェドゴニアVSン・ダグバ・ゼバ

中間まとめ
>341 アン・フューリー(M)VS高木由美子(M)中間纏め
>342 Dante vs Zahlenschwestern, "Air".
>343 Duel of the fates  Kresnik vs Arucard 
 
 
 
 
 
 
「ハン」
 
 血染めのストリートアート。書き付けられた文字と数字の羅列。無機の有機。
腐った水の臭いがする。終幕の臭いだ。みんな死んでいる。
 化物と人間と怪物と人類と夜族と生物と狂人と常人と必殺と不殺と嗜虐と慈悲
と醜悪と可憐と好意と嫌悪と行為と険阻と試練と打破と超常と日常と知識と意識
と有為と無為と未知と既知と快楽と苦痛と精神と血肉と記憶と忘却と真夜と真昼
と埋没と復活と勝利と敗北と死と生と、
 すべての、
 果て。
 終結。
 
「終わるか?」
 
 ニガーが呟いた。サングラスに黒コート、趣味悪いぜって何度言っても聞きや
しない。知ったことじゃないが。とても気に入らない奴だ。とても気に入らないが、
信頼できる友だ。
 
「終わらないさ」
 
 オレたちには、次の戦場がある。次の次の戦場がある。次の次の戦場がある。
終わらない闘争がある。終わらせてはならない誰かがいる。
 だからこそ、戦える。
 だからこそ、死ねるんだ。
 地に刺さった剣を引き抜いた。ざくっ、と軽い音を立てて、柔らかな土から切っ
先が姿を見せる。
 
「だから、終わらせにいこうぜ、ブレイド」
「――無論だ」
 
 友と拳を合わせた。再会を誓う契約だった。
 飛んだ。真紅と漆黒、ふたつのコートを翻し、オレたちは吸血鬼に埋め尽くされ
た地平へと、何のためらいもなく飛び込んでいった。
 
 
 
                        →2BContinued on the 55th battle field.

345 名前:fFCROSSQsM:2003/07/06(日) 23:55

 -chocolate parfait-
 
 かちゃん。
 スプーンがパフェのグラスに投げ込まれる。軽く店内のBGMを掻き乱して、ソイツ
は口を開いた。
 
「唐突だが質問だ、ディアフレンド」
「代金俺持ちって発言以外なら」
「それは質問とは言わない気が――……なあ、オズの魔法使いで、誰が一番好き?」
「何を言い出すかと思えば……」
 
 まあ、だが。
 その答えは簡単だ。
 
「……ライオンだな。アイツは本当は強かった」
「俺はオズだ」
 
 立ち上がって、ふっと笑う。
 センスの悪い丸サングラスを外すと、15ドルを置いてボックス席を離れる。
 
 ……何故だか。
 
 何故だか無性に、厭な予感がする。
 立ち上がった背中。
 それは。
 今にも、消えてしまいそうな。
 今にも、手を伸ばせば透けて通ってしまいそうな、希薄さで。
 
「Somewhere Over The Rainbow……、ってか。楽園はある。なあ、ジャック」
「……なんだ?」
「オズはさ……ペテン師だったけど、魔法使いだった」
 
 消えそうなソイツは、背を向けたまま声を投げた。
 
「ドロシー達の魔法使いだったのは間違いないと思うんだ、俺は」
「お前」
「紛い物だって、誰かの本物になれる」
 
 ……ニセモノで、
 だけど、それはホンモノ。
 
「口にクソ突っ込まれたみたいな顔してるぜ、おい」
「……あぁ?」――拍子抜け。なんだ、やっぱり俺の勘違、
「――楽しかったよ、色々」
 
 消える背中。
 BGM。虫の鳴き声。濁るほどに暑い外。
 
「……何なんだよ、ったく」
 
 これは。
 全てが終局へ向かう一ヶ月前。
 全てが終極する一ヶ月前。
 無為な終曲が奏でられる一ヶ月前。
 世界が褶曲する一ヶ月前。
 
 陽射しがヤケに眩しい、
 それは。
 別れの日だった。
 
 
『Duel of the fates  Kresnik vs Arucard』 >>334修正
 
>128>129>130>131>132>133>134>135>138>139>140>141>151>153>155>173>175>189>190>203
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 ――最期へ。
 

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真・スレッドストッパー。。。( ̄ー ̄)ニヤリッ

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