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吸血大殲第52章『鉄血の行軍』

1 名前:ルドル・フォン・シュトロハイム ◆fRVt1STORM:2003/01/30(木) 00:29

総員、配備につけ!
このスレは、吸血鬼(ミディアン)や狩人(ハンター)、あるいはそれに類する戦争狂どもが闘争を繰り広げる場だッ!
無論闘争だけではなく、名無し達の質問も随時受け付けているッ!
気軽に質問をするといい。ドイツ軍人はうろたえないッ!
質問については、回答を望むキャラハンを指定するといいぞ。
キャラハンも積極的に答るように。
これは貴者の債務だ。
 
次スレ移行は、容量上の関係から>>400>>420までだ。

>>450で完全移行となるので、そのつもりで各員臨め。
 
また、age進行推奨の一刻館だが、我が大殲だけは特別的にsage進行とする。
しかし、己の出典紹介。メールを使用して、何か伝えたいことがある場合はこの限りではない。
その場合でも、sageをメール欄に入れておけば大丈夫だ。
“基本的にsage進行”ということを頭に置いておいてくれれば、age/sageの判断は利用者に任せる。
 
なお、参加及び闘争を行うにあたって一定の基準を設けている。
これは絶対厳守だ。基準は以下の通り。
 
―参戦基準の判断―
参戦基準は原則、『吸血鬼』に関係がある者とする。
これは原典が吸血鬼を取り扱ったものであることや参戦者が吸血鬼、あるいは狩人であることを意味するものと定義する。
 
―逸脱キャラクターの処遇について―
逸脱キャラクターとは原典が吸血鬼と無関係であるものと定義する。
此処はあくまで『吸血大殲』であることから、吸血鬼と無関係な闘争をする事は許されん。
逸脱キャラクターは『相手が吸血鬼』か『闘争において吸血鬼が関与する背景』が必要だ。
これに関しては一切の例外は認められない。
且つ、逸脱キャラクターはこの要件を満たした上で闘争を行ったとしても、全く評価されない可能性もある。
場合によっては非難すらうけるだろう。それを覚悟した上で行うように。
 
参加者はこれを厳守した上で好き勝手絶頂に闘争を愉しむこと。
血沸き肉踊る闘争を魅せてくれ。 
 
関連リンクは>>2に、参戦の為の自己紹介テンプレートは>>3にある。
新規参戦者は>>3の自己紹介テンプレートを使っての自己紹介を忘れるな。

2 名前:ルドル・フォン・シュトロハイム ◆fRVt1STORM:2003/01/30(木) 00:30

関連リンクだッ!

■『吸血大殲闘争者への手引き』
http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Orion/4504/vampirkrieg.html
 
■専用掲示板(雑談・闘争の打ち合わせなどはこちら)
http://plan-a.fargaia.com/html/vampbattle/index2.html

 
関連リンクだ。
 
■参加者データサイト『吸血大殲 Blood Lust』(左手作成・過去ログも全てこちらにあり)
http://members.tripod.co.jp/humituki5272/taisen/index.html
 
■吸血大殲本家サイト
『From dusk till dawn』
http://www.uranus.dti.ne.jp/~beaker/
 
『戦場には熱い風が吹く』 (仮閉鎖中)
http://www.geocities.co.jp/Playtown/4875/
 
■前スレ
吸血大殲 第51章 生か、死か、さらなる闇か
http://appletea.to/~charaneta/test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=1040664373
 
■太陽板の質問スレ
吸血大殲/陰 其の15 混沌屋敷『眩桃館』地下 〜大殲資料の間〜 
http://www.alfheim.jp/~narikiri/narikiri/test/read.cgi?bbs=TheSun&key=1021881487
 
■広報、情報スレ
吸血大殲ZERO 〜二つ目の序章〜【吸血大殲広報スレ】
http://appletea.to/~charaneta/test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=1037803005

3 名前:ルドル・フォン・シュトロハイム ◆fRVt1STORM:2003/01/30(木) 00:31

出典 :
名前 :
年齢 :
性別 :
職業 :
趣味 :
恋人の有無 :
好きな異性のタイプ :
好きな食べ物 :
最近気になること :
一番苦手なもの :
得意な技 :
一番の決めゼリフ :
将来の夢 :
ここの住人として一言 :
ここの仲間たちに一言 :
ここの名無しに一言 :

4 名前:ビリー・ジョーンズ ◆YuzBillyCM:2003/01/30(木) 01:01

>前スレ378

『呪的処理を施された』『大口径の拳銃から吐き出される』『銀製の弾丸』を、素手で受け止める吸血鬼。
まさしく怪物。大吸血鬼の名は伊達ではない様だ。

「五月蝿いよ、吸血鬼。お前たちに幸せなんて必要ないだろ?」

しかし、少年は慌てず間の前のテーブルを蹴倒して即席のバリケードを築き、シリンダーを引き出して
未使用の弾丸ごと薬莢をイジェクト。
弾丸を特別成型のプラジュニャー・パラミット弾――本来は20mm種字バルカン用のそれを
拳銃用にカスタマイズした滅相系の銃弾―――に交換すると、再び吸血鬼に向かって銃爪を引く。

『ロ奄!!』

気合一閃。
対象を昇華し、強制的に成仏させる『有難い』弾丸が、怪物目掛けて襲い掛かった。

5 名前:アンジェラ(M):2003/01/30(木) 01:29

>4
 
 咄嗟に左腕で受け止める。焼けた掌を貫通して肘まで破砕し弾丸は抜けて行く。
あとには何も残らなかった。左手だけが仏となり、極楽に昇る。
 やれやれ、くっつける断片も残らない……っていうのは。
 再生に時間を食いそう。
 
「ま、キミたちの血を吸って生きてる身だし。
 その気持ちはわからないでもないけど」
 
 それも、実際のモノとは違うんだろうけど。
 
 指先で空をついと撫でる。
 部屋の隅に置いてあった鞭が、床を滑り、足を駆け上って右腕に納まった。
 その鞭の柄を左腕に突き刺す。骨に沿わせて固定。血が接着剤のように粘る。
 これで多少は武器になるだろう。
 
「力が無くちゃ、主張も通らないよ」
 
 試しに左手を振る。
 美しく撓る鞭先が、机と壁を薄紙のように切り裂き、甲高い音とともに少年を襲っ
た。

6 名前:ビリー・ジョーンズ ◆YuzBillyCM:2003/01/30(木) 01:54

>5

大気を切り裂き、焼き、間隙すら穿つ程鋭く響く皮鞭の擦過音。
音速を超えて迫るその先端が、

額を割り、
コートを切り裂き、
左腕から流れ出る血を啜り、

半挙動で本人の手元へと巻き戻る。

「―――――痛いな・・・」

まるで他人事であるかの様に呟き、鞭の間合いの外へとバックステップ。
振り返って、コートの裏に吊るされた聖榴弾を引き千切ると、アンダースローで投げつける。

「力なんてなくたって―――」

爆発。

「お前らを、殺せる」

7 名前:アンジェラ(M):2003/01/30(木) 02:22

>6
 
 やっぱり遅いな。手首も肘関節も使えないのが痛い。正確さもまるでない。もう
少し、慣らさないと駄目そうだ。
 慣れる前に、終わらせたいけど。
 
「――っと」
 
 足元に転がってきた榴弾が爆発。右手を翳し、背から翼を開いた。
 掌に浮かぶ奇形の紋様――『神の手』と呼ばれる呪紋が、イメージどおりに盾に
なる。聖光を放ちながら突き刺さろうとする破片を叩き落しつつ、爆風を翼に受け、
少し下がる。
 
「あまり家を壊さないでくれるかな。キリエに怒られるから」
 
 防御を縫って脇腹に刺さった破片を抜き、血で濡れた指を舐めた。
 鞭を一振り。粉塵が風圧で割れる。
 少年の姿を見つけると、少しジャンプ。脚力だけで壁に張り付きながら、少年の
元に走る。
 ナイフを鞘から抜く。さて、白兵戦は苦手と見たけど。

8 名前:ビリー・ジョーンズ ◆YuzBillyCM:2003/01/30(木) 02:36

>7

斜めに引き裂かれた粉塵と粉塵との隙間を駆け抜け、翼を広げた吸血鬼が
ナイフ片手に迫ってくる。
だが、圧倒的に身体能力の勝る吸血鬼を相手にして、わざわざ近接戦闘を受けるような愚行は犯さない。
回り込むように移動しながら、トリガー、トリガー、トリガー。

「心配する必要なんかないさ。お前に未来は残さない。当然―――」

立ち位置を先ほどもう一匹の吸血鬼が逃げたドアの前へと移し、

「逃げた、片割れの方もね」

するり、と滑り込んだ。

9 名前:アンジェラ(M):2003/01/30(木) 03:14

>8
 
 まったく――
 
「無粋、だなッ!」
 
 弾丸をナイフの切っ先ではたき、小さな背を追いかける。キリエはワタシの従者
だけど、吸血鬼じゃない。戦う力なんてない。
 キリエは逃がした。距離は稼いだはず。辿り着く前に、このハンターは叩き臥せ
られるだろう。
 扉を蹴り開け、裏口から路地へ。そこに、
 
 少年と、小柄なあの子の姿。
 
「――マ、マスター……」
 
 口をぱくぱくと開閉し、そしてやっと言葉を紡ぎ出す、赤毛の小さなその姿。
 
「この……バカッ!」
 
 そうだ、あの子は、ワタシを置いて逃げるなんて出来ない子だった。迂闊なまで
に戦闘慣れしていない、その無防備な胸。
 狩人の銃口が、あがる。
 血が沸騰する。土を蹴る。翼が風を捉えて速度を増す。
 鞭を振り下ろした。もう手加減も無く、ただ殺意のままに。雷霆と化し落ちる鞭。
 
 指先を、伸ばす。
 キリエ――!

10 名前:ビリー・ジョーンズ ◆YuzBillyCM:2003/01/30(木) 03:24

>9





疾風が、駆け抜ける―――――――






11 名前:ビリー・ジョーンズ ◆YuzBillyCM:2003/01/30(木) 03:35

>10

まったく同時だった。

女の鞭が少年の利き手を切り落とし、
少年の銃が咆哮を上げ、
少女の胸に、大輪の花が咲き、

静寂が、再び空間を支配する。

「があぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

思わず悲鳴があふれ出た。
流血の止まらぬ左腕は鉛のように重く、手首から先を失った右腕は
灼熱の業火に焼かれているかのよう。

「くそ、くそ、くそ・・・・・・!!」

両腕の自由が利かぬ以上、自分に勝利はありえない。
そう悟った少年は、右手と共に落ちたハンドガンを蹴り上げて掴むと、
身を翻して一番近くの窓から脱出する。

「―――――次は、絶対殺すから」

陳腐な捨て台詞が、轟音に掻き消された。

12 名前:エジャール:2003/01/30(木) 10:47

ご機嫌よう、諸君。私の名はエジャール。
人間どもが愚かにも<闇の種族>と呼ぶ一族の上級眷属にして、吸血鬼でもある。
カテゴリーは言うまでも無く、C(吸血鬼/妖魔)だな。
私の原典、小説『ラグナロク』は、かなりメジャーな作品なので、既に私のことを知って
いる者も多いかも知れないが・・・・・

何?知らないだと!?
ま、まあ、無理もあるまい。何しろ、原典での私は登場枚数が僅かに五十頁弱で、お世辞
にもインパクトが強いとは言えなかった。原作者が整いすぎると描写した顔は、イラスト
に少しも反映されなかったし、しかも二枚しかないイラストの半分は美形のびも出てこな
い化け物面だ!!
あまりに扱いが酷いせいか、ファンサイトのキャラ紹介ページでも私の紹介が載ることは
稀だ。一巻に登場したシャルヴィルト(吸血鬼)が載っていることは有っても、私は――。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
おおお、何故だ!何故なのだ!私の方が(設定の上では)顔も、能力も、格も上だという
のに、何故あの若造が私よりメジャーなのだ!原作者もファンも私を愛していないのか!
クソッ!クソッ!クソッ!

ハァ、ハァ、ハァ・・・すまない。私としたことがつい取り乱してしまった。
気を取り直して、自己紹介に移ろうか。まずは、闘争豚どもが最も気になっているであろ
う、能力からだ。

【不死性・再生能力】
再生能力に富む上級眷属の中でも、私たち吸血鬼の不死性は飛びぬけている。
腕を一本切り落とされても、数秒間の内に再生してしまうだろう。
私の場合、さらに心臓が二つ以上があり、一回心臓を潰されたぐらいでは死ぬことは無い。
首を切られても、遠隔操作で身体を動かせるし、脳の八割を破壊されも即死しなかった。
なお、十字架も、太陽も、一般に吸血鬼の弱点と呼ばれているものは、私には効かない。
つまり、私を完全に滅ぼしたかったら、身体か脳を原型も留めないほどに破壊するしかな
いということだな。

【空間操作能力】
私たちを上級眷属の筆頭たらしめている能力だ。私たち、ラグナロク世界の吸血鬼は自由
に空間を折り曲げ、繋げることができる。
ただし、空間を切り裂いたりすることはできないらしい。主な使い方は以下のとおり。
・空間衝撃波
空間を歪曲させ、その反動で敵を攻撃する能力だ。その威力は、容易に一つの建物や街を
覆い尽くすらしい。まあ、前者はともかく、後者はあまりにも大げさだし、闘争的にも面
白みに欠ける。よほどの相手で無い限り、使うことは無いだろうな。
また、この攻撃は物理的防御で防ぐことができる。あ、こら!そこ、微妙な顔をするな!
私の世界において、歪曲空間と一般相対性理論における重力はあまり関係が無い。むしろ、
空気のようなものだと想像した方が分かりやすいだろう。だから、物理防御も通用する。
もっとも、大砲に等しい破壊力を受け止めきれる防具があるとすればの話だがな。
・空渡り
所謂、瞬間移動だ。私たちは、これを歩くのと同じか、それ以上に容易に行う。
さらに、服だけを残して敵の背後に回りこむと言ったような空蝉の術も可能だ。
・防御壁
空間を捻じ曲げられるのだから、当然敵の攻撃の軌道も捻じ曲げられる。
ただし、あくまで攻撃のベクトルを逸らしているだけで、相殺しているわけではない。
・引き寄せ
遠くにある物体を手元に引き寄せる、とりよせバッグみたいな能力だ。
原典では、主人公のリロイに対抗するために、どこかにあった剣を引き寄せた。
敵の武器を奪うのに使わなかったのを見るところと、どうやら固定してある物を引き寄せ
ることは不可能なようだ。

能力の説明が少し長く成り過ぎたな。
このままだと見づらいので、続きとテンプレートは次のレスで書かせてもらうとするか。

13 名前:エジャール:2003/01/30(木) 10:51

【念動力】
私に翼は無いが、この能力を使って空を飛ぶことができる。
また、切り落とされた首を手元に引き寄せるのにもこの力を使った。
空間衝撃波などから見ると、威力の面で見劣りするので、この能力を直接攻撃に使うこと
はない。

【邪視】
私たちの切り札だ。この目で一睨みされた相手は、精神力の弱い者ならば、精神を支配さ
れて奴隷に成り下がるか、精神を破壊されて廃人となる。
例え、精神力の強い者でも、何発も精神攻撃を受ければ、きっと無事ではすまないはずだ。

【超身体能力】
数々の超能力に隠れて目立たないが、私の身体能力もかなりのものだ。腕力は、巨人に殴
られても、大砲に等しい念動力を受けても壊れなかったリロイの鎖骨を折って、頭蓋骨を
軋ませた。スピードは主人公にこそ一歩劣るが、上級眷属の中でもトップの部類に入るだ
ろう。肉体の耐久力はマシンガンの直撃を受けて傷もつかず、剣術の腕も、五千年を生き、
かつ自身も剣であるラグナロクをして無駄が無いと言わせしめるほどだ。
・・・・なんだか、主人公以外比較対象がない上に、分かりづらい説明だが、勘弁してくれ。
何しろ、原典における私の出番は――(以下略)

以上が私のオフィシャルな能力だ。この他にも、敵に再生不能ダメージを与える爪牙や、
高周波で脳を破壊する超音波攻撃などの能力があると思われる。
ただし、これらは私ではなく、シャルヴィルトの若造が使っていた能力だ。
私よりはるかに格下の奴にできることが、私にできないとは考え難いが、原典に無い能力
を使うのも何なので、広域衝撃波と同じく強敵以外には封印と言うことにしておこう。

出典 :ラグナロク四巻「青の双珠」
名前 :エジャール
年齢 :不明。推定二千歳以上だ(適当)外見はナイスミドルらしいぞ。
性別 :男だ。
職業 :上級眷属。役割は裏切り者どもの暗殺者といったところか?
趣味 :機械いじりだ。列車のブレーキ―を壊して、暴走させるぐらいは朝飯前だ(捏造)
恋人の有無 :――――恋人の紹介ができるほど、出番をもらえなかったものでね。
好きな異性のタイプ:同じ事を二回も言わせる気かね?(ちょっと青筋)
好きな食べ物 :一番の好物は人間の血だが、同じ闇の眷属の血も吸うぞ。
最近気になること :原作で私が再登場するか、否か。可能性は小数点以下だろうが、希
          望をもつことは、罪では有るまい?
一番苦手なもの : 列車にひき潰されること―――冗談だ。本気にするな。本当は同属
          である吸血鬼の血だ。
          高い不死性を誇る私だが、同じ吸血鬼の血だけは例外で、ほんの少
          しでも体内に入れただけでも激烈な拒否反応が起きる。これは他の
          吸血鬼が私の血を体内に入れた場合でも同じだ。闘争相手の許可さ
          え貰えれば、自分の血を利用したかなりトリッキーな戦いができる
だろう。
得意な技 :空間操作と剣術。
一番の決めゼリフ :―――特に無いな。誰かいい台詞を見つけてくれないか?
将来の夢 :吸血大殲を通して原典で少なかった出番を取り戻すことだ。出番を!もっと
      出番を!もっともっと出番を!!・・・でも、背後の出現率が高くないので、
     この夢も儚く消えそうだな(ため息)
ここの住人として一言 :能力の説明を見てのとおり、私はかなりの高スペックキャラだ。
            それ故に、世間で言うところの『無敵キャラ』のような振る舞
            いをすることもあるかもしれない。私自身は可能な限り気をつ
            けるが、もし戦闘中に不服や疑問を感じたら、遠慮なく感想掲
            示板で指摘して欲しい。
ここの仲間たちに一言 :毒の血などという嫌な設定を持っているが、敬遠しないでくれ。
            こう見えても、寂しがり屋なものでね。
ここの名無しに一言 :批評、意見の類は喜んで受け付ける。一行でもいいから、感想を
           書いてもらえれば非常に嬉しい。

14 名前:カーン:2003/01/30(木) 20:47

ここらしいですね。
ヴァンパイアとそのヴァンパイアを狩る者達が闘っている場所というのは
おっと。まずは自己紹介をしておきましょうか。
私の名前はカーン・マリィ。ヴァンパイアハンターのマリィ家の血を引くヴァンパイアハンターです。
というわけで私も参戦させてもらいますよ、それがヴァンパイアハンターの宿命と感じますからね。

私の戦闘スタイルですが。
基本は、対アンデットの破魔紋章を使います。その破魔の紋章の能力ですが
小言、敵単体に多少のダメージを与える(アンデット系には通常の倍の効果あり)
気合、戦闘不能を回復・・・・と言ってもこれはここでは使いそうにありませんね。
破魔、敵全体に大ダメージを与える(アンデット系には効果は大でしょうね)
かつ(喝)、味方(自分を含む)に体力を回復させる。
破魔の紋章に関してはこれだけの能力があります。
それと、私の接近戦等の武器ですが、暗器。
暗器と言っても色々とあるでしょうが、私のは小刀のような形状ですね。
クリティカル次は三つ又の燭台のような形にしてますがね。
大体はこんなところでしょうかね、それではテンプレに答えておきましょう。

出典 :幻想水滸伝2
名前 :カーン・マリィ
年齢 :32歳
性別 :男
職業 :ヴァンパイアハンター
趣味 :読書
恋人の有無 :居ませんね。
好きな異性のタイプ :物静かな方
好きな食べ物 :サラダ・・・・・と言っても嫌いな食べて物も特に無いんですがね。
最近気になること :シエラ長老の被害者が増えていないかどうか。
一番苦手なもの :ヴァンパイア やはり、あまり好きにはなれないものですね。
得意な技 :小言、破魔、かつ
一番の決めゼリフ :星辰剣ですね。
将来の夢 :鉱山学者にでもなりたいもんですね。
ここの住人として一言 :私の使える紋章は破魔の紋章だけじゃありませんからね。
ここの仲間たちに一言 :仲間ですか、そうですね同業者も吸血鬼も・・・・・一時休戦と行きませんか?
ここの名無しに一言 :ネクロードは?とか聞くのはタブーにしませんか?
           ネクロードに関しては時と場合によって色々と使えるでしょうからね。

15 名前:紅鈴 ◆TBEnisz2Ro:2003/01/31(金) 00:38

はあ、こんなに同族がいるなんてね。
思っても見なかった。
 
ま、いいや。
あたしは紅鈴。
日本に住む吸血鬼、闇神(やがみ)の最後の一人。
で、カテゴリっていうの? あれについてなんだけど、
あたしは別に使命とか持ってないから。
だからD。
あと、詳しいことは下を見な。
 
出典 :「ダークサイド・エンジェル 紅鈴」
名前 :紅鈴(べにすず)って読むんだ。
年齢 :……400歳だよ。悪かったね、ババアで。
性別 :見ての通り女だよ。
職業 :……風俗とか、そっち方面。
趣味 :テレビ見ることかな?
恋人の有無 :いたよ。昔、欣治ってのがね。
       もう死んじまったけどさ。
       ヨシキとは……どうなるんだろ。
好きな異性のタイプ :欣治みたいなタイプ……って、こう言ってもわかんないか。
              なんて言ったらいいんだろ?
              ええと……可愛い系?
好きな食べ物 :あたしは生き血以外は体が受けつけないんだよ。
          だから好きな食べ物って言われても、ちょっと、ねえ……。
最近気になること :極心会ってヤクザ。
          ちょっといざこざがあったんでね。
一番苦手なもの :太陽。というか、強い光なら全部。
得意な技 :映画やアニメじゃあるまいし、必殺技なんて持ってないよ。
一番の決めゼリフ :っていわれてもねえ……。
将来の夢 :そうだね。夢ってのとは少し違うかもしれないけど……
        このままヨシキと一緒に暮らせたら、いいだろうね。
ここの住人として一言 :あたしはあまり、斬った張ったに関わりたくないんだけどね。
                振りかかる火の粉は払わなくちゃいけないのさ。
ここの仲間たちに一言 :仲間ってえと、ここじゃ吸血鬼になるのかあ。
                あまり係わり合いになりたくないね。
                あたしはこうして静かに暮らしてられりゃ、それでいいから。
ここの名無しに一言 :あたしはやたらに人を殺したりしないから。
              そういうわけなんでよろしく。

16 名前:名無し客:2003/01/31(金) 23:32

友人と会わなくなってどれくらいですか?

17 名前:名無し客:2003/01/31(金) 23:33

生活のリズムは乱れていませんか?

18 名前:アンジェラ(M):2003/02/01(土) 00:44

>11

「キリエ!」
 
 緋を散らして、キリエが落ちる。芯を失った躰が、頽れて地に伏す。駆け寄って
抱き起こす。手が瞬く間に血に濡れて、ずるりと肉に食い込む。
 傷なんてレベルじゃなかった。胸に空いた、穴。肩から脇腹まで、左胸をごっそり
と抉る穴。左腕は根本から吹き飛び、少し先にまるごと落ちている。破砕面からは
弾けた肺、割れた心臓、すべてが剥きだしになっていた。
 
「キリエ!」
 
 キリエの唇が動いた。言葉よりも先に血が吹き出た。
 
「キリエ!」
 
 今から力のすべてを注ぎ込めば、命を救えるか――
 無理だ。頭の中の、ひどく冷徹な部分が判断した。力を与え終わる前に、血が
死ぬ。滅相された肉体の崩壊が始まっている。致命的に力が足りない。神の手を
使ったとしても、死んでしまったものは黄泉帰らせることはできない――
 
「キリエ!」
 
 キリエの唇が動いた。
 何かを言ったような気がした。
 
「キリエ!」
 
 にこり。
 
 笑った。
 
 ふっと、重みが消えた。力を亡くした細胞の一欠けらまでが灰より細かく散り散り
に消え、思わず手を伸ばして――神の手が、虚空を掻いた。

19 名前:アンジェラ(M):2003/02/01(土) 00:45

>18

 昼が来て、
 夜が過ぎた。
 
 
 何もする気になれず、ただベッドを枕に、床に躰を投げ出して、眠っていた。
 まただ。
 また、守れなかった。
 喉が渇いて、しかし水も血も飲みたくはなかった。コーンスープが野みたい気が
したが、あの不味い味が欲しかったが、それを作れるヒトはもういない。
 
 そういえば、と思い出す。キリエを殺したハンター。復讐。少しだけ考えて、面倒
になった。あの子供を殺しても、キリエは還らない。とても億劫だ。キリエのいない
世界に意味はない。
 
 けれど、あのときもそう思ったんだっけ。
 ガーネットが死んだ、あのときにも。
 
 なのに、ワタシはキリエを見つけた。見つけられた。
 
 この痛みも、悲しみも、いつか消えていくのだろう。
 それが、吸血鬼というものだ。人間よりもはるかに長い永い時を生きる。強靭で
しなやかな精神。ただ、つらさだけを忘れていく。
 それがたまらなく寂しい。
 
「キリエ」
 
 返事がない。
 もう、あの胸の温もりはない。
 
「キリエはここにいたよね」
 
                                  ――――ハイ、マスター。
                                    私、マスターと一緒で、
                                         幸せでしたよ。
 
 懐かしい声を聞いた気がして、またひとしずく涙が流れた。
 この痛みがあるかぎり、まだキリエは、ワタシの傍にいる。そう感じられる。
 
 終わっていく幸せを――ワタシはただ、胸に抱いて、また眠った。

20 名前:アンジェラ(M):2003/02/01(土) 01:01

 眠りから醒めて、眠りたくて、寝付けなくて、指先を彷徨わせた。
 右に、左に――意図もなく、シーツに這わせる指先。爪が少しだけ引っかかって、
鉤裂きになる。
 この家も、もうボロボロだし。
 この街も、潮時だろう。
 
 寝返りを打つ。裂けたシーツが目に入る。
 形をなしているように見えた。
 
「……レス番、まとめ、か……」
 
 
  アンジェラvsビリーJr
  前スレ>380に中間まとめ
  今スレ>4>5>6>7>8>9>10>11>18>19
 
 
 笑えた。
 馬鹿のようだと、少しだけ笑った。

21 名前:アンジェラ(M):2003/02/01(土) 01:33

 さて……行こうかな。
 
 
 と、その前に。
 質問ぐらい、答えておくかな。
 
 >16(友人と会わなくなってどれくらいですか?)
 友人なんて居ないよ。
 ワタシは変わり者でね、ニンゲンのことが好きな吸血鬼なのさ。
 だから、同族の友人は離れるか、敵になるかだった。
 それでも、ワタシは吸血鬼だから――
 ニンゲンの友達もいない。
 
 キリエだけが、ワタシのそばにいてくれたのさ。
 
 >17(生活のリズムは乱れていませんか?)
 さぁ、ね。
 キミほどじゃないと思うけど。
 日が暮れた頃に起きて、朝が来たら眠る。
 規則正しいモンだよ、ワタシの生活なんて。
 
 別に、日光くらい平気だけどね。
 やっぱり、嫌いだから。夜型なんだよ。
 けど、それだけ。
 
 
 じゃ、さようなら。
 また縁があれば、ね。

22 名前:名無し客:2003/02/01(土) 02:00

 >21 (ニンゲンの友達もいない。
  キリエだけが、ワタシのそばにいてくれたのさ)

……ガーネットたんの立場無し……。
 

23 名前:アンジェラ(M):2003/02/01(土) 02:13

 >22(……ガーネットたんの立場無し……。)
 ……細かいね、キミも。
 ああ、忘れてたわけじゃないケド――
 
 いいだろ……結局ガーネットも死んじゃったんだから。
 ついこの間まで、ワタシの傍にいてくれたのはキリエだけさ。
 
 ――なんだか言い訳がましいカンジだね。
 なんでワタシがこんなに焦らなくちゃいけないのか……ったく。

24 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:06

<両儀式vsシオン・エルトナム・アトラシア/死徒 〜虚構の夏 [Another Hologram Summer]〜>
 
 一体、何処で私は解を間違えたのだろう―――?
 
 
 私が産まれた時から?
 
 否、私は貴いエルトナムの血を引く者だ。
 ただ、そのエルトナムの理に従って来ただけ。
 
 ―――だから、間違ってなんか、ない。
 
                            『アトラシア』の称号を得た時からか?
 
                            私はただ優等生であろうとしただけ。
                            周囲に私に勝る者がいなかっただけ。
 
                            ―――だから、間違ってなんか、ない。
 
                3年前にタタリに噛まれた時から?
 
                私はその時から半吸血鬼となった。
                私は人から何かを奪うという事は嫌だった。
                ……たから、タタリを追った。
 
                ―――私の選択に間違いなんか、ない。
 
        私自身がタタリになってしまった時から?
 
        否定。これも予測式の内だった。
        3年という時間は私の身体を蝕むには十分すぎた。
        私の吸血衝動は限界に達していた。
        タタリを討てなかった時は、タタリを取り込み、
        自身がタタリとなり、死徒となるしかなかった。
 
        ―――間違いなんか、何処にも、ない。
 
 
 そう、全ては予め予測していた事、予定調和として為るべくして成った事。
 およそ考えられる範囲で最悪の事態となったが、私に後悔なんて、ない、はず………
 だって―――
          あれほど、苦しかった熱も、
          あれほど、乾いていた喉も、
                            ―――今は苦痛と感じないのだから……
          私を脅かすモノは何もない、
                            ―――もう私を悩ませるモノなんてない。
 
 ………違う、悩む権利さえありはしない。
 それなのに、この釈然としないモノはなんだろう?
 どうして、こんなに私の胸は苦しいのだろう?

25 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:07

>>24
「……夜を待たないと」
 
 夜を待って街を出る。
 それでおしまい。この街であった事も得た物も全ておしまい。
 私の淡い友情も、恋愛も―――そう、全ておしまい。
 
 
 
 シュライン<神殿>と名づけられた高層ビルを前に私は居た。
 何故だろう、もう、立ち去ると決めたのに、此処に足が向いてしまった。
 そう、志貴と友人の契約を交わしたこの場所に来てしまった……
 
 ――――――
 ―――
 ―
    ――――遠くに人影が見える、アレは………
 
 他ならぬ遠野志貴だった。
 私が初めて接した異性、自己嫌悪するだけの私に、感情とは、友人とは何かを教えてくれた彼。
 
          ――――ドクン
 
 視界が赤く染まる。
 『欲しい』と思った、彼の血を、彼の苦悶を、彼の絶叫を――――
 
「―――否定、否定、否定! 今の思考はカット、考えてはいけない」
 
 私は遠くから叫びながら駆けてくる彼を視界に入れないようにして、ただ、駆け出した―――――

26 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:08

>>25
 
 ――――私は逃げた………
 
       最初にして最後の友人、遠野志貴との契約を一方的に破棄し、逃げ出した――――― 
 
 ただ、この極東の地を当てもなく彷徨う。
 もう、シオン・エルトナム・アトラシアには討つべき敵も無く、果たすべき目的も無い。
 血の通わない死体が街から街へと渡り歩く。
 
 しかし、私はどうしても、血を吸う事が出来なかった。
 獲物となる人間を襲って、その喉に牙を突きたてようとしても、
 いざとなると何年前から抱いていた疑問が、未だ枷となり、シオン・エルトナム・アトラシアを縛り付ける。
 
 
 ……時が流れ、晩夏となった頃、未だ、血を吸えない私の身体に異変が起き始めた。
 
 死徒は血が必要だ、生物としてその性能が優れているのだから、相応の栄養が必要となる。
 赤色で、血液は、苦悶より、絶叫を―――そういった背徳のみが死徒の神経を繋げてくれる。
 死徒は他者の血液を摂取する事により、自らの遺伝子の欠損を補充していくのだ。
  
 ぶちん、ぶちんと身体の神経が、感覚が少しずつ断線していくのが分かる。
 
                        ――――血を吸えない私の身体は崩壊を始めていた……

27 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:09

>>26
 
        ――――熱い、、、暑い、、、灼い、、、
 
 こんなにも辛く、苦しいのなら吸ってしまえと吸血鬼の本能が囁く。
                             ――――そう、それは正しい、何の間違いもない
 エルトナムの名を汚したあの男と同じ行為は平気なのかと自身が囁く。
                             ――――でも、私はもうあの男と同じ「タタリ」だから
 
 
 カット、カットカットカット――――、今は考えるより、行動しなければ………
 
 私は今夜も街へと繰り出した。
 
 ――――――
 ―――
 ―
 
 視界に全身黒ずくめの服装の柔らかそうな雰囲気の眼鏡の青年が入った。
 
「……志貴?」
 
 意図せず、漏れる素っ頓狂な声。
 漏らしてしまってからはたと気づく。
 ああ、彼が遠野志貴であるはずがない。
 第一、住む街も全然、違うし………
 
 ――――だが、感じる雰囲気は同じ。
       あの真っ直ぐな瞳――何者にも屈せず、そして、何者も受け入れてくれる――――
 
 青と黒という瞳の色は違えど、道行く彼に志貴と同じモノを私は感じとった。
 そして、思った……
 
 志貴と、もう一度、友人としての契約が出来ればどんなにそれは楽しい事だろうか?
 あの彼は志貴と同じく、私と友人としての契約を結んでくれるだろうか?
 
            ――――ドクン
 
「ぁ、ぐ───っ……!」
 
 真っ赤に染まる視界、からからに乾く喉、込み上げる衝動。
  
 ――――私は彼を欲しい
       彼の赤色を―――――
 
 思考が完全な結論を出す前に、私の身体は跳ね、彼の首筋に手刀を打ち込んだ……

28 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:10

>>27
 路地裏で気絶した彼を見降ろしながら、思考を巡らす。
 そして、ある一つの結論にたどり着いた。
 
 吸血鬼として、余りに未熟な私を突き動かす衝動は―――
 
                   ―――「他者を欲する」なんていうシンプルな感情だった事を。
 
 そして、ある事実―――欲した相手は死んでしまうしかないって事に気づいて、笑ってしまう。
 だって、吸血鬼に血を吸われれば死ぬのは当然であり、必然だもの。
 なんだ、私は、シオン・エルトナム・アトラシアは欲しいと思っても何も手に入れる事は出来ないのか。
 
 ……けど、志貴と限りなく近い彼を最初にするのなら悪くは無い。
 彼の血を吸う事で、少しは私も死徒らしく振舞えるようになるだろう。
 こんな感情に振り回される事もなくなるだろう、いや、無くなって欲しい。
 
 そこで、ふと、思った。
 此処まで志貴とそっくりな彼は何を見て、聞いて、生きてきたのだろう、と―――
 そうだ、彼の見聞きしてきたものを織ってからでも遅くは無い。
 その後にシオン・エルトナム・アトラシアの死徒としての最初の儀式を始めよう。
 
           ――――私は彼の頭にエーテライトを打ち込み、彼の記憶を読み始めた……

29 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:14

>>28 

――――――――――――――――夢を見た。
 
 
一匹の蜘蛛が巣を作っている。
明るい木漏れ日の下で、懸命に巣を作っている。
 
だけどそれは、獲物を狩る罠には余りにも明解で、巣と呼ぶには余りにも小さい。
 
それでも蜘蛛は楽しそうに巣を作る。
 
それは、自分の巣を作っているから。決して獲物をとる為の罠などではないから。
 
 
ごく稀に、そんなちっぽけな巣に引っかかる物も居る。
いや、だからこそ、自ら飛び込んでしまったのかもしれない。
 
見た目は美しいが中に毒を孕んだもの。
全身棘だらけで、触れることさえ間々ならないもの。
暴れ周り、蜘蛛を傷つけようとするもの。
 
 
蜘蛛は彼らにそっと近づき、自分が黙々と作っていた巣を切り離して
引っかかったものを助ける。
 
そして、蜘蛛は「良かった、良かった」と嬉しそうに呟くのだ。
 
 
―――――――――――――それなら、巣を作らなきゃ良いじゃない。
 
 
巣に絡まった蝶(わたし)は蜘蛛に問い正す。
 
すると蜘蛛は変わらぬ笑顔で私を見つめこう答えたのだった
 
 
「――――――――――――――――」
 

30 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:15

>>29
黒板に白墨走らせる音が教室内に木霊する。
 
 
シンと静まり返った教室の中には机に向かって一生懸命にノートを写し書きする生徒。
規則正しく並んだ机の前に皆で座って同じ作業を繰り返している。
 
それを下らないとは思わない、けれど、私にはどうしても彼らと同じ事をする気にはなれなかった。
 
 
ずうっと昔から校庭に佇んでいるであろう古い樹木から聞こえる音。
さわさわと、若い葉が生温い風と戯れている。
 
校庭の向こう側から聞こえる楽しげな子供の声。
けたたましく耳に響く自動車どもの騒音。
 
そして、教師の破棄の無い声。
 
陽は少し前まで空の真上に上がって、今は西へ移動を始めていた。
 
 
窓側に向かって頬杖を付いていた私は、ふと教室を見回す。
 
 
――――――――――――――全てが死の世界であふれる。
 
 
黒板に多く伝う沢山の線。 もう長い事使われているのだろう。
過去に雨漏りをした天井の一部分に点が視える。
授業を行っている教師の左脇腹には特にきつく点が。おそらく肝臓を患っている。
生徒たちに走る沢山の線、線、線、線、線。
 
確かに――――――――――――ナゾレバ、シヌヨナ。
 
 
あの忌まわしい事件が終わってから、もう幾つの夜を迎えただろうか。
 
殺人鬼の来襲。
過去に何人もの人間を惨い手口で殺したとされる、この街では畏怖すべき出来事。
ある者は手足をバラバラにされ、ある者は歪な死のオブジェを象られ。
夜はまさに別世界と化して、まともに歩くことすらできなかった。
殺人鬼が我が物顔で往来する日々。
それは、未解決のまま三年が過ぎ、そして去年の冬に再来。
 
 
殺人鬼の死と言う最悪の形で終わりを迎えた。

31 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:17

>>30
「私が殺したんだ―――――――――」
 
 
誰に告げることなく、そして誰の耳にも届くことの無い声。
 
 
殺人鬼の正体は、私達の身近に居た人物、白純里緒と言う一人の男だった。
自分の殺人衝動に終止符を打つ為に始めた私の殺人鬼捜索は、
その男を殺し、私に罪を残し、そして、大切な人の目を奪った。
 
 
思えば、なんとも滑稽な結末だろう。
 
そして――――――――――――――――なんて、悲しい
 
 
「――――――――――――――――」
 
 
けれど、私に残されたたった一つの居場所を確保することができた。
私が殺人と言う大罪を犯しそしてなお、あり続ける居場所。
それは掛け替えの無い大切な人間。
 
それは気が付けば傍に居た。
詰まらない話題を私に持ちかけては、一人で笑って。
私がうざったくなって何処かへ行こうとしよう物ならば、産まれたばかりの子犬のように
後からひょこひょことついて来る。
それでいて、いつも危ないことに首を突っ込んでは危険な目にあったり。
 
本当に、馬鹿な奴。
 
けれど、私にとっては大切な人。
 
 
―――――――――――――だから、私は、もう、殺さない。
 
 
_
 

32 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:18

>>31
「あん?なんだ…式か」
 
廃墟のビルには一人の魔術師が住んでいる。
 
「お前、今日は学校なんじゃなかったのか?」
 
若い女の魔術師は咥えタバコで、椅子に深く腰掛け、目の前に居る人間に脇目も振らずに
黙々と新聞を読み漁っている。
 
「保健室に行くって言って、そのまま帰ってきた」
 
「ははは、相変わらず不良生徒だな」
 
短い話だから、私は目の前にある椅子にも座らずに壁に背を預ける。
思えば、あの事件からこの事務所にもあまり顔を出していない。
この魔術師から、何度か人殺し等の依頼を受けてはそれに乗って、さまざまな事件に
出会ってきた。
 
高層マンションに浮かぶ幽霊。
 
物を歪曲させる少女。
 
連日同じ夜を迎える螺旋の建物。
 
それも、今では懐かしい思い出になっている。
 
 
「――――――――――――それで」
 
読み終わった新聞を見るからに古く、そして高級そうな机の上に置いて、私のほうを見やる。
 
「何しにきた?殺しの仕事なら今のところ無いぞ」
 
私は魔術師の顔を睨み、言葉を紡ぐ。
 
「最近、噂が流れてる」
 
「ほう、どんな噂だ?」
 
「しらばっくれるな」
 
私は壁に背をつけたまま身を起こし、睨む目をさらにきつくする。
対する魔術師は肩を竦め、やれやれと溜息を吐いた。
その態度が鼻についたが、気にせずに私は相手を睨んだまま話を続ける。
 
「お前、幹也を調査に出しているだろ」
 
「黒桐が言ったんだな…やれやれ」

33 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:20

>>32
最近、一つの噂が街に流れている。
新たな殺人鬼の出現。
それが謳い文句だ。
夜な夜な街を歩いている人間に襲い掛かっては命を奪うと言うそんなありふれた噂。
 
だが、不思議なことに誰一人として死人は出ていない。
 
噂が流れたからには、被害者がいるものなのだが
襲われた、襲われるのを見たなどと言う者多数居るものの、彼ら自身は無傷。
誰一人として命を奪われたものなど存在しないのだ。
 
一人歩きする噂。
過去にも似たような物があったが、この街にはさまざまな『前科』がある。
只の噂だと故意には出来ない。
 
 
徐に魔術師は純白のシャツの胸ポケットに手をやり、シガーレットの箱を取り出す。
 
 
「今すぐ止めさせろ」
 
「ん?今すぐって言ってもな、今日から始めたばかりだからどうしようもない。あいつは携帯も
 持ってないから連絡をつけようも無いし―――――――――」
 
苛々を募らせ、私は歩み出る。
それを何事も無かったかのようにタバコに火をつける魔術師。
こいつに脅しは効かないと分かっていても、ついこんな行動に出てしまう。
 
「じゃあ帰ってきてからで良い」
 
「そんなにムキになるな。只の調査だ、噂が何処から発生し、そしてどのようなルートで街中に広がったか。
 只の噂なら万々歳だし、何か怪しげな雰囲気なら其処で調査は打ち切り。お前の出番って訳だ。」
 
「もしも―――――――――――」
 
私は目を伏せ、言葉に詰まる。
 
「もしも、幹也に何かあったらどうするつもりだ」
 
「だから、只の調査だと――――――――」
 
「何かあったら!!―――――――――――何かあったら、私は」
 
突然目を丸くし、そのまま私を見つめる魔術師。
そして、キィっと椅子の音を鳴らし、背後にあった窓の方へと向き変えた。
見れば微かに肩が震えて口元に手をやっている。
 
泣いている訳ではない、あれは――――――――――――
 
「何が可笑しい」
 
「私、私か」
 
「――――――」
 
「式、お前、冬のあの日に何があったのかは知らないが―――――――――――」
 
 
魔術師はもう一度私の方を向く。
それは悲しそうな顔で、とても辛そうな顔で、
そして、こんな姿になってしまった私を―――――――――哀れんでいる。
 
 
「ずいぶんと優しい目になったもんだな」
 
 
私はその言葉を聞き、オフィスを飛び出した。

34 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:22

>>33
 
 
 
人ごみはまるで古い映画のように、行き交う人間がすべてモノクロに見えた。
 
灰色の人間達は皆、無表情で私の肩を掠め、そして私の知らない何処かへと消えてゆく。
足取りはとても忙しく、けれど、その様子からは何を求めているとも知れない。
ただ、何かを求めて、自分の開いた胸の穴を埋める為にさ迷い歩いている様に見えた。
 
 
「私は―――――――――こんなにも満たされていると言うのに」
 
 
――――――だと言うのに、こんなにも心が苦しい。
無色の人々とは対照的に、私にだけは鮮やかな色が映し出される。
川のように流れる人々、まるで氾濫した川の上に辛うじて自分を保っている杭の様に
私はその場に立ち尽くしている。その川の流れは私にはとても痛い。
流れに逆らい、その存在を保っていると言うことが既に在り方としての意義を疑われる。
 
 
そう、それは――――――――――――――――嘗て見た『 』、そのものだった。
 
 
それは、存在するだけでもイレギュラー。
完全なる無の中での有はそれだけでも完璧な存在で。
けれども、それが由とはされずに、無からは拒絶される。
拒絶に至る排除行動などはまったくない、何故ならばそれは排除すらない、排除の必要が無い
場所なのだから。在ると言う事はそれは無ではなくなる、けれど、私は無の中に無として在る。
 
 
気が、狂いそうだった。
 
 
歩行者を押しつぶすような威圧感漂う建物が立ち並ぶ。
一つ一つが過度な自己主張を止め様とはせず、煌びやかなネオンが街中に溢れ出す。
その中で浮いた様に小さく古びたブティック。
其処のウィンドウに私の顔が映し出される。
 
綺麗に整った顔。
髪も前より少し長くなり、より女性に近づいている。
そして、優しい瞳。
 
不意に、橙色の魔術師の言葉を思い出す。
 
 
「―――――――――誰だよ、お前」
 
 
自身に侮蔑の言葉を投げかけ、再び私は歩き出した。
私の存在を繋ぎとめる存在を探しに。
 
 
向かった先は、私が始めて人を殺した場所。
黒桐幹也と両儀式が一つの約束をしたあの場所へ。

35 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:26

>>34
「何てこと――――」
 
 私は彼――黒桐幹也の記憶にただ、絶句するしかなかった。
 あまりに予想外に彼の経験に、彼を取り囲む人物達に………
 
 
      蒼崎橙子―――3原色の1つ、赤の称号を得た稀代の人形師 <伽藍の堂>
 
          巫条霧絵―――空に憧れ、ただ、空を望んでいた少女 <俯瞰風景>
 
     浅上藤乃―――螺旋という名の超能力を持つ内に殺人衝動を抱えた少女 <痛覚残留』>
 
               荒耶宗蓮―――根源の渦に幾度となく挑んだ漆黒の魔術師 <矛盾螺旋>
 
   玄霧皐月―――『偽神の書』、統一言語師、アトラス院の産み出した怪物 <忘却録音>
 
            白純里緒―――『食べる』という起源覚醒者、殺人鬼 <殺人考察>
 
 
 そして、両儀式、彼、黒桐幹也が最も強く想っている少女 <空の境界>
 彼女は―――
          志貴と同じ力、直死の魔眼の持ち主
                                ―――偶然というは余りに馬鹿馬鹿しい、否、最早必然か
          ズェビアが求めた『 』、根源の器
                                ―――笑ってしまう、アイツが求めた結果が存在する事に

36 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:27

>>35
 けれど、これらはシオン・エルトナム・アトラシアにとっては些細な事実に過ぎない。
 そう、黒桐幹也と言う人間がただ、一身に、無償に、笑顔で、両儀式を埋めた事実に比べれば―――
 
 黒桐幹也は志貴と限りなく近しい男性だった。
 笑顔で受け入れ、肯定してくれる、そんな人。
 誰にでも、手を差し伸べて、助けてくれる人。
 
 ……私は覚えている、あの感動は忘れていない。
 初めて接した同年代の異性――志貴の手は、そう大きくて気持ち良かった。
 『握手』、何でもない唯の行為だけど、それまでの私を打ち崩すには十分な行為だった。
 緊張でガチガチの私の手を志貴は笑顔で握ってくれて―――
                                       ―――そして、友人という名の契約が始まった
 
 
 目の前の彼、黒桐幹也も、志貴と同じように暖かい無償の笑顔を向けてくれるだろうか?
                            その大きな手で握手をしてくれるだろうか?
                            友人という名の契約を結んでくれるだろうか?
 
 有りえない、望み得ない、夢を見た瞬間に―――――
 
           ――――ドクン
 
「はっ、ぐぅぅぅぅ―――――!」
 
 吐き気が込み上げ、視界が真っ赤に染まった。
 もう、限界だ、私はこれ以上、我慢出来ない。
 
    ただ、欲しい、志貴と同じ、彼の、黒桐幹也の血を―――――
 
 彼の首筋に私の手がかかり、そして……

37 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:28

>>36
 
 
 
学校に居た時に真上に上がっていた陽も、既には疲れ果て、地平線の底へと消えていく。
空には暗闇のカーテンが空いっぱいに広げられ、宝石箱をひっくり返したように広がる
星達が、揃って地上を見守っている。
 
それど、足りない。
 
それには月が無いから。
月がないというだけで、こんなにも不安になるのだろうか。
だから、新月の夜に夜の散歩には出歩かない無いようにしている。
自分が月と同じように、ある日突然何処かへと消えてしまいそうで――――――――――
 
 
足を止める。
さすがに街の外れの方まで歩くのは女の細足では堪える物がある。
 
顔を上げた先には、幾棟かの古い倉庫。
こんな夜では誰一人として中には居ないだろうけれど、昼間まで人が存在していた香りが漂っている。
そんな何の変哲も無い倉庫。
ここで、私は始めて殺人と言う罪を背負うことになった。
 
祖父は言った。人は一人の命しか背負うことが出来ないと。
だから、人は生涯で一度、人を殺す。
其れは自身の命。決して他人の命を犯してはいけない。
きっと、そういうことなのだろう。
 
けれど私は、それを犯してしまった―――――――
 
 
辛いだろう、苦しいだろう。
けれど、私は大丈夫、彼が居るかぎ――――――――――――――――
 
 
「――――――――――」
 
 
急に空気が張り詰める感覚。
私の周りに流れる空気がまるでコンクリートのように固まって、肺の中に酸素が送り込めなくなる。
余りの苦しさに喉元に手を添える。けれど、その行動が気休めにもならないほど胸が苦しくなる。
 
何かがおかしい。
倉庫の中から、何か。
何かが。い。る。
 
 
不安に掻き立てられ。私は駆け足で闇が広がる倉庫の中へを足を進めた。

38 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:30

>>37
倉庫の中はあの日と変わっていない。
変わっていない。
何も変わっていない。
何も。
 
 
ただ、何が変わっているのかと言えば。
 
其処に居る。
1人の存在。
 
 
ありふれた景色の中に、只一つだけ存在する欠点とも言える。
 
名画の中に存在する、絵の具の染み。
 
それが存在するだけで、もうダメなのだ。
別の意味へと変えてしまう。
 
それは、居てはいけない。
ここに居てはいけない。
 
 
「何をしてるんだ、お前」
 
 
その存在の傍らに、
見慣れた間抜け顔が、
居ることに気が付いたのは、
ほんの数秒後だった。

39 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:33

>>38
 はぁはぁと荒い吐息が彼の首筋に掛かる。
 私の鋭く伸びた牙が彼の首を打ち抜こうとした瞬間――――倉庫の空気が、氷のように、張り詰めた……
 
「―――――」
 
 異様な空気に当てられ、真っ赤に染まっていたしていた私の思考は急速に冷却していく。
 彼の首筋から静かに手を離し、そして、振り向く。
 
「―――両儀式……」
 
 倉庫の入り口に彼女は立っていた。
 
 最初に浮かんだ疑問は、何故、彼女が此処に? という疑問。
 けれど、それはすぐに氷解した、何故なら、此処は……
 
      『式。君を…………一生、許(はな)さない』
 
 そう、両儀式と黒桐幹也が永遠の契約を果たした場所であるのだから。
 
 なんと言う因果だろう―――私の死徒としての最初の儀式の舞台が彼らの永遠の契約の場所だったなんて……
 
                 ――どくん――
 
 ナンテ、ウラヤマシイ―――ワタシニハ、モウダレモ、フリムイテクレナイノニ、ナニモナイノニ………
 
                カット、カット、カット
 
 高まる、早まる、荒れる鼓動を押さえつけ/余計な思考をカットして、両儀式を見据える。
 そう、これは私のミスだ、認めざるを得ない。
 黒桐幹也の記憶をリードした時点で、彼を別所に連れ去るなりすべきだった。
 このような事態は錬金術師なら予測して当然の事態であるはずだったのに。
 
 逃げる? 
 否定。
 彼女を相手に逃げる事はまず不可能だ。
 
                話し合う?
                不可能。
                黒桐幹也を害しようとした私と彼女が話し合いを出来る余地はない。
 
    戦う?
    ………肯定。
    彼女のデータは黒桐幹也を通して、手に入れた。
    ……それに、他の選択肢が無い以上、これを選ぶしかない。
 
「こんばんは、両儀式」
 ――形式だけの挨拶の言葉。
「私の名前はシオン・エルトナム・アトラシア。アトラスの錬金術師であり、死徒」
 ――無意味な自己紹介
「そして、両儀式、黒桐幹也の命を奪う者です」
 ―――カチャリと銃の劇鉄を起こす音
「……抵抗するなら、ご自由にどうぞ。結果は判り切っていますから」
 ―――渇いた銃声とともに私と両儀式との殺し合いが火蓋が切って落とされた……

40 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:35

>>39
銃声を聞いたと同時に、式の体は宙を舞う。
銃弾が命中したわけではなく、その銃声で反射的に式は体を飛び上がらせた。
 
「幹也は――――――――」
 
式は黒桐の位置を確認する。
いつもの黒ずくめの服は赤く染まっても居ないし、何処に傷が有るとも分からない。
 
 
「なら―――――――――大丈夫」
 
空中で体を反転させて式はそのまま地面に着地。床に手を添えた。
目の前に居る『敵』に鋭い眼光を向ける。
美しく宙を舞い、着地したその様は
猫又か、白狐か、それとも―――――――――――――
 
見れば、敵は年端も行かぬ少女に見える。
おそらく式と同世代か、その辺り。
それでも式は油断などしない、ほんの数ヶ月前までは『そんなモノ』と
ギリギリの殺し合いをしていたのだから。
 
カチャリ、と
鉄が絡む音が聞こえた。式自身は銃には詳しくは無いが、本能的にそれが危険だと咄嗟に
判断。歩き疲れた足に無理矢理発破をかけ、物陰へと走る。
 
何も分からぬ人間が見れば、地面が爆発したかに見えるほどの脚力。
軽い式の体は一蹴りで有に4,5メートルくらい横に飛ぶ。
銃弾が式のジャンパーを掠めるのと、物陰の中に身を隠すのはほぼ同時だった。
 
 
「くくく、良い顔してるな」
 
物陰に無造作に置かれていた鏡の束に映った自身を見つめる式。
その表情に、先ほどまでの優しい瞳は虚空の彼方へと置かれ、其処に居るのは
まったくの別人、いや、別人などではなく、其処に有る、両儀式と言う殺人鬼だった。
 
「幹也も、助けたい」
 
それは、心からの言葉。
今の式にとって、彼を無くしてはここに居られない。
自身の存在、心の中にある伽藍に耐え切れずに潰されてしまうだろう。
だけど、今の式にはそれ以上に―――――――――
 
 
「殺、したい」
 
 
式は右手を挙げ、力いっぱい鏡を叩き割る。
脆いガラスは一瞬で粉々に崩れ、放射線状に破片を飛び散らせる。
 
式の目の前が赤い世界に染まる。
右手からの出血。ガラスの破片が飛び散り、切った頬。
そして、映った顔は
 
 
――――――――――――――――さぁ、殺しあおうか
 
 
ナイフに似た形の鏡の破片を手に取り、式は再び少女の下へと疾けだした。
 
 
そして、映った顔は、艶(うつ)くしい、人殺し(しょうじょ)の笑顔だった。

41 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:37

>>40
「早いっ――――!」
 
 疾風の如き動きで、両儀式は弾丸を回避する。
 死徒になった私の動体視力を以ってしても、それは明らかに異常だった。
 ……予測の範疇ではある。
 けれど、あくまでその肉体は人にしか過ぎない両儀式。
 それが容易く銃弾をかわし、死徒顔負けの跳躍をする……
 
 
   両儀式を人と考えてはいけない、
   両儀式は一匹の死徒以上のモノと捉えるべきだ。
  『抑止力』たる彼女は人を軽く凌駕する。
 
                      まずは計測を、両儀式の行動パターンを予測する。
                      過去のデータを見る限り、その数はおよそ500。
                      パターンとしては、遠野志貴の7倍にも及ぶ。
 
        だが、究極的には彼女の目的は1つに収束される。
        その直死の魔眼を以って、対象の死点を観測する。
        その点においては遠野志貴と同一である。
 
                      接近のパターン、刃物による斬撃のパターン。
                      体術のパターン、暗器による攻撃のパターン。
                      全てにおいて、彼女は志貴を凌駕している。
 
        しかし、両儀式には直死の魔眼の限界が無い。
        脳への過度の負荷による頭痛など一切の反動が無い。
        その意味で彼女こそ、真の直死の魔眼の所有者と言えよう。
 
                      技術精度においても、両儀式と志貴との差は明確である。
                      戦闘経験、修練の年数に於いても、両儀式は志貴を上回る。
                      志貴との戦闘データはこの際、参考にならない。
 
   一介の死徒である私と『抑止力』の彼女との戦力差。
   その差は歴然であるといえる。
   技術精度、戦闘経験等、彼女は私を圧倒する。
 
 
 ……両儀式がガラスの破片を武器にして、私へと駆け寄って来る。
 一切の余分な思考はカット。
 そう、冷静に、ただ、彼女を殺すことのみを―――――思考する。
 
 
     拳銃で彼女を仕留める事は?
     否定。
     先ほどの動きから発砲した瞬間に隙を突かれる可能性が高い。
     両儀式はあの動きの速さに加えて、気配をも読む。
 
                   近接戦闘で仕留める?
                   ……条件付き肯定。
                   両儀式のフォーマットはあくまで人間の身体である。
                   強度においては、死徒の私と比べるべくもない。
 
                   近接戦闘を肯定として、如何なる手段で仕留めるか?
                   極論、死点を突かれなければ、私は致命傷は負わない。
                   死線を斬られた程度であれば、治癒が可能である。
                   以上、これを前提として、方法を模索する。
 
     彼女の第一撃は上段からの斬撃、80%。
     後ろに跳んでかわす?
     否定、彼女は容易に追いつける。
     右側面に回りこんでのカウンター?
     肯定、少なくともそれなら、死点は突かれない。
 
 
 ……来た。
 両儀式の斬撃を身体を沈ませて、彼女に右側面に回りこみながら回避する。
 完全に予想通りだ、そして、私が一瞬、早い……!
 
 そのまま、右手に持ったエーテライトを振り上げる。
 鞭と化したエーテライトが鋭い風切り音を立てつつ、両儀式を襲う……

42 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:39

>>41
影から姿を現すと同時に、式は少女へ襲い掛かった。
暗殺者のそれに近いが、真正面から切りかかると言う面で言えば
彼女は自身の流派を守っていると言えよう。
もっとも、流派に型などは無いが、剣術は正面から切りかかるのが定石。
 
 
彼女が体を低く屈め、少女の元へと駆けるのは秒単位では計れない程の
例えるならば、瞬間移動とも言える速さだ。
 
その瞬間、式の目の前にあの世界が広がった。
昼間の教室で見たあの景色となんら変わりない、何時もの様に
目の前に在るキモチワルイ線。
 
式にとって日常とそうでない物とを隔てる壁など存在しない。
在るとすれば、それは愉しいか、愉しくないかの違うなのだろう。
 
式は死が広がる空間の中で一つの女性の輪郭を辿る。
彼女に伝う線は、例えば子供の落書き。
無造作に書き殴られた幾重の直線が彼女の体を覆う。
頭に、体に腕に足。全てが線で埋め尽くされる様に覆われている。
普通の人間でも、何処をなぞれば死ぬと言う弱点の表現のような物なのに。
彼女の場合は―――――――――――――
 
 
――――――――――触れれば倒れてしまう
 
 
―――砂浜に忘れられた、崩れ掛けの砂城を思わせた。
 
 
「―――関係ないっ!!」
 
そう、相手が人間ではなかろうが、彼女には関係ない。
式は、目の前に居る『人』を殺すだけ。
それがどんな存在であろうが、彼女の衝動は留まる事はない。
距離が一気に縮まり、式の刃圏へと入り、
 
「―――――――――――」
 
 
右肩から幾重にも重なった線へ真っ直ぐに線を切り裂いた。

43 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:40

>>42
「―――――――――――な、に」
 
一撃で終わると、彼女は思っていた。
だが、目の前に居た筈の少女の姿は既に其処には無く。
 
気が付けば、式は天井を見つめていた。
肩が酷く痛む。
何が起こったかまったくわからない。
ただ在るのは、彼女の攻撃がかわされ、こうして何らかの攻撃を受けて地面に転がされていると言う事実。
 
「く…っ」
 
彼女が普通の人間ではないことは判る。
それは線を視た時から判ったいた。けれど、確かに自身の刃圏に入った時には
彼女は一歩も動いてはいなかった。動いたのは、式がガラス破を振り上げよう
とした瞬間だった。
振り上げた瞬間にかわすのならば納得できる、だがしかし、
 
 
―――――――――――彼女は攻撃する前に攻撃することを察知した。
 
 
「―――――――――――」
 
 
そこで、式は一つの綻びを見つける。
 
 
こんばんは、両儀式―――――――――
 
 
「お前」
 
彼女が最初に発した言葉(こえ)。
それは確かに式の名前其の物だった。
 
不意に遠く、鮮明に思い浮かんだ昔のことを思い出す。
 
未来視。
 
この世界には式と同じ魔眼と言う物を持つ物が存在する。
過去に出会った魔眼保有者で、唯一式が知りうる存在。
静音と言う小さな少女。
出会って、ほんの数時間だけ言葉を交わした彼女の事に何故か不安を覚えた。
 
それは、これを暗示していたものなのか、それは式自身にもわからない。
 
 
「お前は――――――――未来が視えるのか?」
 
 
馬鹿馬鹿しい、そんな事ならば、彼女だって見つかると判っている場所に来たりはしない。

44 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:42

>>43
 
 エーテライトの一撃を喰らって、両儀式は吹き飛ばされる。
 予測どおりの展開、しかし、此処で追撃という選択は無い。
 あくまで両儀式を仕留めるのは、文字通り、必殺できる瞬間だけだ。
 その瞬間を作り出し、確実にその瞬間に仕留める。
 
 立ち上がり、彼女は問う、未来が視えるのか、と………
 
「いいえ、未来が視えるではありません。ただ、未来を予測しているだけです。
 黒桐幹也から引き出した貴女のデータを元に……」
 
                      そう、未来が視えているなら、私は、
                      こんなにも苦悩は、絶望はしない。
 
「両儀式、嘗て、貴女が戦った玄霧皐月、彼も私と同じアトラス院の魔術師です。
 最も彼は異端中の異端で、世界の記憶そのものを引き出し、それを積み上げていったのですが……」
 
                      もし、最初から、未来が、結末が視えていたのなら、
                      どんなに楽だっただろう?
 
「本来、アトラスの錬金術師は、情報を集積し、計算し、未来を織ることがその本懐。
 私達には世界は味方せず、ただ、己が脳のみが味方する」
 
   次の両儀式の行動は9割の確率で跳躍からの斬撃、
   そこから連続しての斬撃――――
 
                      視えていたなら、わずかな未来の変動の可能性に賭けて、
                      タタリを追う事も無かった……
 
「その頭脳を以って、計算を繰り返し、予測式を組み立て、未知を既知するとする。
 ………いずれにしろ、貴女の死という予測式には変更はありませんが」
 
   これは完全にいなせない。
   だが、此処が逆に最大の勝機でもある。
 
                      シオン・エルトナム・アトラシアが最初に知った感情が、
                      絶望であれば、以降は何も欲する事は無かったのに……
 
「さて、話は此処までです。殺し合いを再開しましょう。
 私は貴女の死という予測式を具現化させないといけませんから」
 
                      そう、私は私の感情が完全に擦り切って、
                      1個の完成した死徒と成る為に彼女を殺す……
 
                      そうすれば、楽になれるから、苦しまずに済むから……
 
   腕の一本程度は断たれよう。
   要は死点を突かれなければいい。
 
 
 ――――思考にノイズが入っている……
 集中しないと、殺す事に、カットしないと余分な思考を……
 考えてはいけない、欲してはいけない、カットカット――――
 
 
                             ――――5番停止――――
 
   とにかく、両儀式に対する必殺の瞬間を作らなければ。
   この腕で一撃でも直撃させればそれで勝負は決する。
 
 
 右手のエーテライトを横薙ぎに振るう
 銀の糸が宙を切り裂き、両儀式へと再度、唸りを上げて飛んで行く。

45 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:44

>>44
――――――――――――――――
 
 
長い台詞をべらべらと喋る女。
良くも噛まずに言えるものだと感心する。
 
用はあの女は私の行動を知っている訳ではない。
私の行動を予測して、その上で次への対策を立てているのだ。
 
「はっ、用は割の高い博打って訳か」
 
手品の種が分かった所で私の戦い方は変わらない。
只敵に向かって走り、線を斬る。それだけで勝負は決する。
痛む体を起し、痛覚を一時的に無視し、摺り足で相手との距離を測る。
 
 
すぅっと、夜風が凪いだ。
 
暦の上ではもう夏を過ぎていると言うのに暑さは
其れを無かったかのように無視してこの街に広がる。
夜を迎えれば、熱帯夜。
そんな、地獄のような熱波の中にこの夜風は疲れた体を癒す清涼剤の様に
体の隅まで行き届き、心までも浄化してくれる。
 
 
そんな、風に、少しでも近づくために。

46 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:44

>>45
 
 
私は少しの助走を加え、勢いよく飛び上がる。
下から見れば倉庫の天井に届くのではないかと言うほどの勢いで飛び上がり
そして、下に居る獲物を一閃――――――――――
 
女は案の定私の攻撃を紙一重のところでかわす。
彼女の体は反転し、私の攻撃範囲から一寸離れた場所に立つ。
手には、例の細く綺麗な糸。
 
「――――――――」
 
着地でしゃがみ込んだ自身の体をばねの様に使い、其のまま女へ
下から上に斬り上げる。
あいも変わらず、線だらけの体。
 
 
思えば、何故こんな体になってまで存在しようとするのか。
 
お前は、そんな体で何をしようと言うのか。
死を目の前にお前は何を望むのか。
壊れかけの体で、何をそんなに意固地になって動こうとするのか、
 
 
存在するのか、生きているのか、居るのか、
死なないのか、消えないのか、
去らないのか、
消えろっ――――――――――――――――
 
私が線を斬った場所は腕。
彼女の右腕は完全にその生涯を終えて、力なくだらりと垂れ下がり、
安からに眠りに付く。
 
だが、不思議なことに女の表情は依然として変わらない。
 
 
胸を狙ったはずの一撃は外れ。女が前もって手を翳していた所為だろう。
けれど、もう彼女自身を守る盾は存在しない。
私はがら空きになった女の体に向けて、ガラスの刃を振りかざす。
 
そして、余分な力を省き、そのまま彼女の胸にさ――――――

47 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:45

>>46
 スッと両儀式のナイフが私に右腕をなぞった。
 それだけで、右腕の感覚が消え、文字通り、私の右腕は『死んだ』。
 これが『直死』、死徒の復元呪詛を以っても、最早、永遠に私に右腕は生き返る事は無い。
 
 
  ……だが、それは両儀式の思考での話だ。
  両儀式の常識ではその眼で『殺された』モノは完全に無だ。
  『直死』で殺されれば、死ぬ、それは道理。
  両儀式には何の誤りも無い、彼女は正しい。
 
               時に未知と言うのは最大の武器になる。
               知らないが故に、脅威という事は確かにありえるのだ。
               どんな手品も種が観客に未知であるからこそ驚きがある。
 
  両儀式はただ、知らなかっただけ。
  それが彼女の敗因であり、私の勝因でもある。
  彼女の常識は私には常識でないのだから。
 
               だからこそ、私は両儀式にとっての未知を切り札とした。
               『直死』で殺されたモノでも動かす事が出来る。
               これが彼女の未知であり、私の既知。
 
  手品の種はエーテライト。
  元々、これは医療用として開発された神経だ。
  これを直死で殺された腕の神経の代わりとして代用する。
 
 
 殺された右腕の神経をエーテライトで繋ぐ。
 右腕に感覚が、力が戻ってくる。
 ……右腕は生き返った―――両儀式にとってはまだ私の右腕は『死んで』いるのだろうが。
 
 もう、両儀式は私に打つ手は無いと判断したのか、おそらくは私の胸にあるであろう死点を突いて来る。
 まだ、彼女にとっては私の右腕は死んでいる。
 彼女の意識には最早、私の右腕は無いだろう。
 …彼女には私の右腕は完全に死角、意識の外。
 
 これが私の勝算――彼女の身体は所詮は人間の強度しかないのだから、
 私の、死徒の膂力で以って、この瞬間に右腕で彼女を打ち抜く――!
 
 両儀式のナイフが私の胸に吸い込まれる寸前に、力なく垂れていた私の右腕が動きを取り戻し、
 
    両儀式の脇腹に向かって、私は右手で貫手を繰り出した―――――
 
       ――――これで、私は初めて人をその手にかけ………
 
             私の死徒しての最初の儀式はその幕を開ける――――
 
 
                ズキリ――――
 
       胸が痛む……、何か、大切なパーツを失った気がする………
 
       ……問題は、無い。
       一人前の死徒になるためには余計な物はカットしないと――――
       そう、何も、問題は無い……
 
                ―――――ズキリ

48 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:48

>>47
腹部が熱く灼ける。
女の右手は私を付き抜け、美しい真赤な飛沫と共にその形を作る。
ぞぶり、と聞き慣れぬ音を伴わせ出来上がったその形は出来損ないの前衛芸術にも
似た常識から外れた形をしている。
常識と言っても、芸術性からの視点ではなく同じ生き物としての視点からなのだが。
 
切れた肉のぬめぬめした感覚は、異物を挿入させられた本人が一番
良く感じ取れる。
冷たい氷に手をつけて、それが熱いと錯覚するように、感覚のプラスマイナスが逆転している。
 
―――――――――自分は今、痛いのか…………?
 
 
「微かに、震えてる」
 
赤い塊と同時に、私の口から出たのはそんな言葉だった。
 
まさか、殺したと思った右腕が動くとは思わなかった。
が、しかし刹那に相手の殺気で反射的に飛びのいていた私の体。つくづく死に辛い体なんだと
失笑していしまう。
脇腹を少し抉られ頬って置けば死ぬほどの大怪我、けれど、致命傷に至るまでには程遠い。
ならば。
 
「離せよ」
 
突き刺すようなまなざしを向け、突き刺さった相手の腕を自分の手で引き抜く。
激しい痛みよりも、再び肉のこすれる感覚味わうのが嫌だった。
引き抜いた腕の後には真赤な穴。
ぼたぼたと毀れる血液は、まるでペンキの様に塊になって地面にボタボタと零れ落ちる。

49 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:50

>>48
「ははっ…なんだ?お前人を殺したこと無いのか?」
 
倉庫内に渇いた笑い声が響く、その声は弱弱しく、こんな空気の透き通った夜出なければ
聞き取ることすら難しい程のか細い声。
それは消して虚勢ではなく、じわじわと、確実に相手に重圧を与える言葉だった。
 
「なんで、お前が私を襲うのかは知らないけれど―――――――ああ、いや、そんなのはどうでもいいか」
 
喉下から空気が出入りして、笛のように高い音を奏でる。
今が夏だと言うことを忘れてしまいそうな急激な寒さは、火照った頭を冷やすのには持って来いだろう。
 
「人を殺すって事がどういうことなのか、わかってやってるのか?
 コクトーの頭の中身を覗いたって言ってたな。丁度良いや、もういっぺん覗いてみろよ」
 
女の手から出ている細いピアノ線のような紐は、未だ幹也の頭へ繋がっている。
けれど、女は此方を睨んだまま動こうとはしない。
 
「巫条霧絵は、自分の連れていった奴らと楽しそうに飛んでたか?
 浅上藤乃は殺戮の後に何が残った?
 白純里緒って殺人鬼の死に様はどうだった?
 ―――――――――もしかして、私が何も失っていないとでも?
 お前は、そんな崩れかけの体で、何も無い自身で。これ以上何を無くそうとする?」
 
嘗て出会った様々な異常者達。
思惑や目的は違えど、皆、人を殺した事によって大切な物を失っている。
生きる目的。幸せな未来。自分自身。
そして、私も――――――――――
 
「お前の目の前にいるのは、もう一生罪の十字架を背負って生きてゆく人殺しだ。中途半端な覚悟で殺し合いなんてするな――――っ!」
 
体が震えている。
目の前が暗い。
力が抜ける。
 
 
――――――――――――――――限界も――――――――近い

50 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:55

>>49
 私の右手は両儀式の脇腹を打ち抜いた。
 これでおしまい、そう、これで人としてのシオン・エルトナム・アトラシアはおしまい……
 
                ズキリ―――――
 
       最後の一線をこれで踏み越えた……
       これで、私は死徒らしくなれるはず……
 
       ……問題は、無い。
       人の血を、人の命を奪う簒奪者に人の感情なんて不要だもの。
 
                ―――――ズキリ
 
『微かに、震えてる』
 
 ―――――両儀式の口から、漏れる言葉。
 理解できない。
 致命傷、そう、致命傷のはずだ。
 彼女の言っている事は理解できない。
 何故、このようなことをいう?
 
                         震えている――――?
                         一体、どういう意味なのか?
                         私が何に震えているというのか?
 
『離せよ』
 
 両儀式の視線が私を射抜く。
 
  ……固まっている場合ではない。
  早く、両儀式にトドメを刺さないと……
  後、一撃だ、一撃で彼女は死に至る。
 
  ――――心はそう命じているのに身体は動かない
 
                         私は震えてなんかいない。
                         覚悟は既に出来ている。
                         その私が、一体、何に怯えるというのか?
 
                         ――――引き抜かれた私の右腕は震えていた……
 
 彼女は私の右腕を難なく引き抜き、言葉を紡ぐ。
 
『ははっ…なんだ? お前人を殺したこと無いのか?』
 
 静かに倉庫に響く彼女の嘲笑。
 
  ……そう、私はまだ殺した事がない。
  殺したと思った貴女はまだ生きている。
  だから、私はまだ、誰も殺していない。
 
  ―――だから、殺さないといけない
 
               殺していない、まだ、私は殺していない。
               最後の一線は踏み越えていない。
                  
               ―――何処かで、安堵の溜息を漏らす私
 
                         何故、私は震える?
                         覚悟は出来ていたはずだ。
                         私は完全に両儀式を殺すつもりで貫手を放った。
 
                         ――――理解できない、何故?

51 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:56

>>50
『――人を殺すって事がどういうことなのか、わかってやってるのか?
 コクトーの頭の中身を覗いたって言ってたな。丁度良いや、もういっぺん覗いてみろよ』
 
  五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い。
  私は死徒に、簒奪者に成る為に殺すだけ。
  そこに意味なんてない、意味を求めてはいけない!
 
                人を殺すって事は人の命を奪う事。
                血とか、赤とか、絶叫とかを撒き散らさせる事。
                私はこんなにも奪う事を嫌悪していたのに―――
                赤色なんて嫌いだったのに―――
 
                         私の意思が望むだけで彼の記憶は読み取れる。
                         けど、私は読み取らなかった、否、読み取れなかった。
                         エーテライトを操る指先が震えている。
 
                         ――――どうして、こうも悪寒を感じるのか?
 
『巫条霧絵は―――。浅上藤乃は―――。白純里緒って――――。
 ―――――――――もしかして、私が何も失っていないとでも?
 お前は、そんな崩れかけの体で、何も無い自身で。これ以上何を無くそうとする?』
 
  もう、私に無くすモノなんて無い。
  殺しても失うモノなんて無い。
  ただ、死徒らしくある為に殺して奪う。
 
  ―――何の、間違いも、無い、筈……
 
                 あの3人は様々なモノを失った。
                 消えない十字架を背負った。
                 奪ったモノ以上に自身を失った。
 
                 ―――私は何を失おうとしている?
 
                          そう、貴女は失った。
                          自身の罪を背負えなくなった。
                          守って来たモノを自身で放棄してしまった。
 
                          ―――貴女は自身の伽藍に潰されそうになった。

52 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 10:57

>>51
『お前の目の前にいるのは、もう一生罪の十字架を背負って生きてゆく人殺しだ。
 中途半端な覚悟で殺し合いなんてするな――――っ!』
 
  ――――――――
 
  そう、私は中途半端だ。
  私は私自身も騙せてない。
  私は奪いたくない、これは事実だ。
 
  けれど――――カット、カットしないと……
 
 ノイズが酷い、私の頭の中は―――
 
                 ――――――――
                 
                 私はただ、逃げているだけ。
                 私は自身が間違えているのを知っている
                 私はつまらない存在だから―――
 
                 けれど―――駄目、考えては……
 
 雑音が渦巻いている。
 思考が先ほどから全く統率が取れない。
 
                          ――――――――
                          
                          貴女は失った穴を埋めてくれる存在を手に入れた。
                          私は埋めてくれるかもしれない存在を手放した。
                          この差は一体、何?
 
                          何故、貴女は―――危険、思考を停……
 
 全ての思考のは全く別のベクトルに思考を巡らす。
 ノイズがあまりに酷くて、止められない。
 ノイズの発生源は誰?
                         ―――――他ならぬ両儀式、だ。
 
 アレを止めない、と、私は壊れてしまう―――――
 おそらく、彼女は正しい、正しいノイズは止められない。
 消すしかない、彼女をカット、カットしないと……!
 
「――――黙れ! 私にこれ以上、雑音を撒き散らすなっ、両儀式――――!!」
 
 彼女の心臓を狙って再度、貫手を繰り出す。
 
                ―――けれど、そのカタチはあまりに不恰好で、不自然で、不出来で……

53 名前:両儀式:2003/02/01(土) 10:59

>>52
倉庫の中は、静寂と慟哭に包まれていた。
脈打つ血の匂いが漂う。
 
 
式に放たれた貫き手は最早、型を成してはいなかった。
力任せに放たれた指は只勢いだけが強く、敵の胸を突き刺し抉ると言う動作を忘れ
只闇雲に感情だけが先走る。
式に向けられた感情。
苛立ち、狼狽、憤怒。
 
もう、目の前の敵を殲滅する武器にすら遠い。
 
 
「黙るのは――――――――お前の方だ」
 
その攻撃を看破するのは、痛手を負った式にでも容易い。
否、痛手を負い、自らの危機により一層敏感になった式には何の恐怖にもならなかった。
その手を掴み、力任せに自らの体へ引き寄せる。
 
「私はもう人を殺さない。殺せない。……けど、そんな姿を、それ以上にそんな心を持ってるお前は人間じゃない」
 
膝車の要領で足を掛け、少女の小さな体を式の百合の茎ように華奢な腕で引き倒す。
小さな体は地面いっぱいに広がる砂の大地に勢いよく叩きつけられ、空気の抜けたゴム鞠を力いっぱい投げつけた
様に、ぼすっと言う鈍い音をあげて、大きく弾んだ。
 
苦悶の表情を浮かべる少女。
それでも、式の手は少女の弱弱しい腕を掴んだまま離さない。
少女の腕に式の指が強く突き刺さり、式の爪もまた柔肌に絡まり真っ赤に染まっている。
 
反対側に持っている式の武器。
何の変哲も無い只のガラス片。割れた鏡の屑。
だが、式と言う人間が持つ、物を壊すと言うだけに存在すると言えるその蒼い瞳の前では
そんな脆い道具でも、大陸の破山剣など足元にも及ばない凶器となり得る。

54 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:01

>>53
 
 
――――――――――死ね
 
 
たった一言。
式の口から漏れた言葉。
それは斬首刑を待つ罪人と同等の場所に存在する少女にとってはどれだけの恐怖を与えたのか。
 
ガラスの破片を強く握った式の手からは痛々しいほどの血が、指の間から零れ落ちる。
ぎりぎりと、肉と金属が擦れ合う音が微かに木霊する。
 
 
一閃。
 
どのような攻撃が来ると判っていても、避けられない。
 
一閃。
 
少女の腕は一度はだらりと垂れるものの、布切れに糸が絡むような音を
漏らして、再び動き出す。
 
一閃。二閃。
 
同じ事の繰り返し。
式の細い腕が少女の体を地面に押さえつけ、何度も。
そう、何度も何度も線をなぞる。
 
一閃二閃三閃
 
袈裟斬りから始まり肩から股に下ろされそこから
90度上に上がり横に沿い左に首下になぞられ斜
め下に再び下ろしそこからまっすぐ上に斬りきざ
みZ型の型を象り下に下がり45度の角度で下に
斬り右に行き左に行き右往左往上から下に真っ二
つに――――――――――――――――

55 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 11:02

>>54
『黙るのは――――――――お前の方だ』
 
 彼女は苦も無く、私の腕を掴み………
 
『私はもう人を殺さない。殺せない。
 ……けど、そんな姿を、それ以上にそんな心を持ってるお前は人間じゃない』
 
  生まれながらの殺人鬼が何を言う。
  誰よりも死に特化した存在が……!
  
  ―――私は殺したいのに、殺せない……
 
                     そう、もう、私は人間じゃない。
                     心身とも正しく化物だ、吸血鬼だ。
                     
                     ―――なのに、まだ、私はヒトに執着している。
 
        私の心……
        数日、人と、志貴と触れ合っただけで……
 
        ―――私は人の感情を持ってしまった。
 
 私の頭の中はノイズしか流れない。
 正しいノイズが私の中に渦巻く……
 私に雑音をカットする術はない……
 
「あぐっ!?」 
 
 視界が反転、一瞬後には私はしたたかに地面に叩きつけられた。
 
  私は何処までも半端だ。
  人にもなれないし、死徒に―――
 
                     何故、私はこんなにもヒトに執着するのか?
                     奪う事は最早、死徒の私には――――
 
        感情というものは不規則で不自由。
        けれど、それはとても心地よく――――

56 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 11:02

>>55
  
 
         <<――――――――――死ね>>
 
 
  ――――――……
  
                     ――――――……
 
        ――――――……
 
 死神の宣告に全ての思考が凍りつく。
 両儀式の貌(かお)には殺意しか無い。
 そして、直後に来たのは狂おしい程の痛み、感覚の断裂……
 
 エーテライトで『殺された』神経を再生させる。
 
 又、死線を断たれての激痛、感覚の断裂、神経の再生。
 
 ――――激痛、断裂、再生、激痛、断裂、再生、激痛、断裂、再生、激痛、断裂、再生………
 
 ……無限に続く煉獄だ。
 両儀式は延々とシオン・エルトナム・アトラシアを殺し続ける―――――
 
  ……―――両儀式はそんなに私が憎いのか?
  延々と殺し続ける程に私が憎いのか?
 
                         ……―――何故、両儀式に戦いを挑んだのか?
                         『抑止力』たる彼女に勝てる可能性など絶無。
 
 両儀式がその兇刃を振るいつづける中で、
 気が狂いそうな痛みを受けつづける中で、
 
  憎いから、殺す……、それは道理だ。
  私も私怨でタタリを追いつづけたのだから。
 
                         もっと、別の手段があったのではないか?
                         黒桐幹也を利用しての交渉もありえたはずだ。
 
 黒い霧が、タタリを継承した私の力が、両儀式の背後にゆっくりと広がっていた。
 
  ならば、私が両儀式を殺そうとした行為は?
  私は両儀式を憎いから、殺そうとしたのか?
 
                         なのに、私は彼女に戦いを挑んだ。
                         錬金術師にあるまじき不合理さ、だ。
 
 黒い霧が1つの巨大な爪へと具現化……
 
  ―――――――――――――――肯定。
  認めたくない、認めたくないが……
  私は、シオン・エルトナム・アトラシアは……
 
                         否、不合理なモノこそ感情、それを私はよく知っている。
                         他ならぬ遠野志貴との接触で知ってしまった。
                         私は、シオン・エルトナム・アトラシアは……
 
 そして、それは無音で両儀式へと振り下ろされた―――――
 
 
            両儀式が、、、、憎い―――――――――!

57 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:04

>>56
斬斬と、永遠とも言えるほどの斬撃を繰り返す。
それこそ、式の体力が尽きるまで。尽きようものならば、再び立ち上がり
きっとまた繰り返される。
尖った刃を握る式の手から飛び散る血飛沫は砂に幾度と無く飲み込まれる。
それこそ、地面の砂の一粒一粒が血の味を覚え、それだけでは飽き足らずに
人を襲い始めると思うほどに。
 
 
線を何度往復した頃だろうか、ざわっと全身の毛穴が膨れ上がる。
周りの空気がひやりと冷たく式の周りを覆う。常温とはほんの少しだけ、一度とも違わないその誤差に
式の体が反応する。
 
 
来る―――――――――――
 
 
思った時には、既に背後から黒い影が襲い掛かっていた。
振り返らずとも、それが何で在るかも判らない。理解してからでは既に遅い。
 
式の体は無意識に横に飛び、転がり、倒れる。
その間、手は刃を握って闇雲に空を斬っていた。
 
 
「―――――――――――――チッ」
 
舌打ちをして、口の中に溜まった砂の塊を吐き出す。
其れは微かに砂の味。血の砂の味がした。
自分が転がった軌道上には石灰石を撒いた様に点々と続く血液のトラック。
その先に、黒い霧で出来た爪のような物体があった。
 
「邪魔」
 
と言った瞬間には、式の体は既に黒い霧の懐へ潜り込んでいる。
 
一閃。
 
この世に存在する物の死を具現化させた点を貫き、霧は文字道理霧散した。
 
 
シンと静まり返る夜。
外には、我侭な星空と無表情の闇が此方を覗き込む。
全てを飲み込むその夜は人の心も飲み込んでしまう。
 
闇に囚われた心が2つ
 
満たされた虚無と求を拒む略奪
 
 
「死者が其処までして、生きたいのか。」
 
式は問う。
 
「お前は―――――――――何を望んでいる」

58 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 11:06

>>57
 
 黒い爪は両儀式の一撃で、瞬く間に虚空に消えた……
 ……彼女は問う。
 
『死者が其処までして、生きたいのか』
 
     ―――分割した思考は1つとなり、結論を形作る―――
 
 私は最早、生きる理由も無い、かと言って、死ぬ理由もありはしない。
 けれど……
 
『お前は―――――――――何を望んでいる』
 
 私は奪わなければいけないこの吸血鬼の身体が嫌だった。
 理屈では奪う事は正しいと分かっていても、堪えられなかった。
 奪う、それしか出来ないタタリに同類と見なされ、眷属とされた。
 
 ――――だから、私はタタリを憎悪し、タタリを追いかけた。
 
「私は――――――」
 
 両儀式は本来、何もない虚無の存在だった。  私はただ、情報のみを糧とし、生きていく存在だった。
 虚無として産まれ、消えていく存在だった。    情報を己の存在意義とし、感情等は不要な存在だった。
 
             ―――そこで間違いが起こった
 
「両儀式、貴女が―――――」
 
 両儀式は黒桐幹也と出会った。          私は遠野志貴と出会った。
 虚無の器は存在の共有で満たされる。     感情を知って、人間になってしまった。
 
    ―――両儀式は黒桐幹也と契約を結び、私は遠野志貴との契約を破棄した―――

59 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 11:08

>>58

 彼女は満たされ続け、私は失い続ける………
 私は満たされる彼女が――――
 
「憎い――――――――――!」
 
 ――――――――憎い!
 本来は、貴女も、私も、感情等、不要.。ただの道具としての存在だったはず。
 それなのに、貴女は……
 
「――――貴女はそんなにも満たされているのに、私はこうやって失うだけ……」
 
 器としての性能は前の何倍にもなったのに奪わないといけないこの身体。
 性能と引き換えに何か失っていく、何かが欠けて行く不出来なこの身体。
 
「――認めざるを得ない、貴女を殺そうとするのはただの私怨。私は―――――――」
 
 ……満たされている、貴女が目の前にいるのが我慢ならない!
           ――――こんなにも、私は苦しいのに、辛いのに……!!
 
 ……一度は禁忌を犯し、失うべき所を黒桐幹也に救われた貴女が気に食わない!
            ――――私は友人を、遠野志貴を失うべくして、失ったのに!!
 
 
 右手に握られる拳銃、銃口は両儀式に向けられ……
 
「――――貴女の全てが我慢ならない!
 失った癖に、満たされている貴女が―――――!
 憎い、本当に、私は、貴女が、憎い―――――!」
 
 
 ――――数発の渇いた銃声が倉庫に響き渡った……

60 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:11

>>59
少女の口からは怨みの言葉しか出てこない。
何の因果があって自分に恨みを持たれてるのかは判らない。
 
彼女はかくかたる。
失い、そして満たされている式が憎いと。
それでも式は判らない。何故彼女に憾まれるのかが。
 
「何でだ」
 
傷だらけの体で尚も問い続ける。
何故、何故か。
確かに自分は織と言う自分を失い、心に伽藍が生まれ、そして
何年も死に溢れた虚無の世界で自分が何かもわからなくなり、
殺し合いでしか自分の居場所さえも掴めず、挙句の果てには
自分が大切にしてきた律を破り、最後には愛する人間の一部を
失わせる事となった。
 
「何が、満たされているもんか」
 
彼女は今、幸せだ。
好きな人と一緒に過ごし、嫌々ながらも学校へ赴く。
偶に殺しの仕事が在ろうものならば、きっと手放しで
喜ぶのだろう。
 
 
だけど、必ず在る。
 
 
――――――――――――幸福感ゆえの不安感
 
 
何時誰かに奪われてしまうのではないか。
いつか、この幸せがガラスの様に壊れて消えてしまうのではないか。
 
そんな、胸を引き裂かれるような不安に、いつも苛まれて――――――
 
 
「自分が無いから、他人の物を壊すって言うのか」
 
黒い銃口が式の体へ向けられる。
少女の悲痛の表情とは裏腹に、握られた手の上で貌の無き
殺人機が憮然として其処に佇む。
 
「お前は…お前の望むものは……他人の幸せをぶち壊すことなのかよっ!!」

61 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:12

>>60 
 
 
発砲の渇いた音が夜空に響き渡る。
 
―――――――――――崩れ落ちる式の体は酷く小さく見えて
 
 
「………私は……織の夢を続けたかっただけなのに」
 
 
――――――――――――細く、小さな指が砂を噛む
 
 
「こんな事したって………お前も報われるわけ無いじゃないか」
 
 
――――――――――――――まっかにそまったしょうじょがかたる
 
 
「お願いだから………私の幸せを…私の幹也(いばしょ)を奪わないで…」
 
 
一滴、小さな少女の頬を伝う涙。
それは、ほんの些細な事で、それはどんなに遠くて、どんなに望んで
どんなに欲しかったか。
彼女の幸せは、自分の欲望を満たすことなどでは無く。
 
 
―――――ただ、誰か傍に居て欲しかっただけなのだ――――――
 
 
そして、少女は眠りにつく。
 
 
_________
 
 
それは、述べる。
 
 
初めまして、シオン、と。

62 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 11:14

>>61
 
『何でだ―――』
 
 貴女は―――
 
 満たされている!
 壊れそうな世界を支えてくれる人が居る!!
 永遠の契約を結んでくれる人がいる!!!
 
『――――何が、満たされているもんか』
 
 私は―――
 
 唯、失うだけ!
 崩壊していく世界をただ震えながら、見つめるだけ!!
 もう、私には契約してくれる友人も居ない、失った!!!
 
『自分が無いから、他人の物を壊すって言うのか』
 
 だから、私は貴女に言った―――貴女を殺すのは他ならぬ私怨だと……
 
 私にはまだ、在る。
 友人だった遠野志貴との契約で与えられた感情が――――
 
   信頼―――彼との握手、初めての異性に暖かく手を握られた感触は忘れない
   
   協力―――彼は私とのタタリとの関係を詮索せず、ただ笑顔で協力してくれた
 
 友人って何て気持ちのいいものだろう、と思った。
 感情って何て気持ちのいいものだろう、と感じた。
 
 けれど、完全に死徒の身体と化した身ではそれらは枷になるだけ。
 
『お前は…お前の望むものは……他人の幸せをぶち壊すことなのかよっ!!』
 
 ―――壊したくない、奪いたくない、これはまごうことなき私の本音。
 
 けれど、私にはこの渇き、苦しみは堪えられない。
 感情がある故に、人間であるが故に、こんなにも苦しいなら、こんなものはいらない――――!
 
 だから、私は貴女を憎む。
 私に無いモノを持っている貴女が憎い。
 友人を、感情を持っている貴女が憎い。
 
     ――――両儀式は弾丸をかわす事も弾く事もせずに、その身に受けた……

63 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 11:15

>>62
『………私は……織の夢を続けたかっただけなのに』
 
 胸が苦しい、今、取り返しのつかない事をした気がして……
                                 ―――これでいい……
 ドクンと弾ける鼓動、乱れる呼吸……
                                 ―――今、苦しんでおかないと……
 胸を掻き毟る、治まらない鼓動、掻き毟った傷口から溢れ出す血……
                                 ―――今、痛みを感じておかないと……
 
『こんな事したって………お前も報われるわけ無いじゃないか』
 
 報われない、そんな事は分かっている。
                                 ―――だから、すり減らさないと
 
 視界が赤い、吸血衝動? 否、私は泣いている、血の涙を流している……
                                 ―――今、泣いておかないと
 
『お願いだから………私の幸せを…私の幹也(いばしょ)を奪わないで…』
 
 その言葉を最後に眼を閉じる両儀式―――
 
「―――ごめんなさい」
 
 意図せず、漏れる懺悔の言葉。
 ああ、矢張り、私は後悔している……
                                 ―――今、後悔しておかないと
 
 ―――――――――――
 
 
           <<初めまして、シオン>>
 
 立ち上がったソレはそう言った。
 何故、確かに殺したはずなのに……
 
「貴女は、誰――――?」
 
 私はソレに問う――――――

64 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:19

>>63
クスッと、口元に手を当てて優しく微笑む。
毒気の抜けた顔、そんな表現がそれには当てはまるのかもしれない。
今こうして微笑んでいる仕草も純粋な物で、笑顔をそのまま形にした
その物だった。
 
だが、それは酷く無機質。
言うなれば、完全なる作り物の笑顔。
 
なぜならば、彼女は嬉しいなどと感じたことは無かったから――――――――
 
 
先ほどの重苦しい空気は、何時の間にやら何処かへ消えうせ、
其処に在るのは只静寂のみだった。
人の足音はおろか、車の音や建物の音。
波の音から、風の音まで。
 
全てが虚無によって奪われてしまったかのような、そう。
死んだような静けさだった。
 
真っ赤な袖を揺らしながら、それは笑い、目の前の若い錬金術師を
見定めた。
 
錬金術師は問う。貴女は誰、と。
 
答えるは、それ。
 
 
――――わたしは両儀式。けれど、式でも織でも無いわ。
 
 
矛盾している。
自らを両儀式と証したそれ自身も矛盾と感じている。
だが、それは事実。矛盾していることすら事実。
故に、それが『ここに存在していることも事実であり、また矛盾』なのだ。
 
それは問う。貴女は何故ここにいるの、と
 
錬金術師は答えない。
 
 
答えなくても結果は変わらない。
それは言葉通り、全てを知っている――――――――

65 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:20

>>64
 
 
ゆっくりと踏み出す。
 
錬金術師は銃を構え、銃口をそれの頭へと向ける。
嘗て出会ったことの無い存在と対峙した為か心なしか
銃を構える仕草も硬い。
 
悠然と歩き出す。
無駄の無い歩き方。
トップモデルのように魅せる歩き方でも、女優のように誘うような
歩き方でもない。
けれど、どこか綺麗で、例えるならヴァージンロードを歩み行く
花嫁のような無垢さを覚えた。
 
 
距離は縮まり、錬金術師の緊張感がまして行く中、それは平然と
歩み寄る。
 
 
―――――――――――発砲
 
 
放たれた凶弾はそれを掠めるが、当たることは無い。
当たることなど在りえないのだ。
例え、それが歩みを止めなくとも、錬金術師が標準を間違えることなく
確実に眉間を狙って打ったとしても、絶対に、当たることは無い。
 
 
それは、錬金術師の持つ銃の名を紡ぐ。
 
そして、一言。
 
 
綺麗な容ね、と、言った。

66 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 11:21

>>65
 文字通り、世界が変わった。
 血の匂いに充満していた倉庫は静寂という言葉を体現したかのような空間に変貌した。
 
 私のソレへの問い……
 ……私はもうその問いへの解答を知っていた。
 私は黒桐幹也の記憶でソレを見ているのだから……
 
 ただ、認めたくなかった、そう、これは唯の確認行為に過ぎない。
 だって、アレは、アレは、あってはいけないもの、見てはいけないもの。
 
 <<――――わたしは両儀式。けれど、式でも織でも無いわ>>
 
 ―――アレは決して人の手に届かぬもの。
 ―――ズェビアがタタリと化してまで求めつづけたもの
 ―――数多の魔術師の目標となりつつも、決して、たどり着けないもの
 
 そう、アレは―――
 
       因果の果てにあるもの、根源の渦、『 』
 
 <<貴女は何故ここにいるの>>
 
 ――――――言葉が出ない。
 喉がからからに渇く。
 身体が動かない、四肢の隅々まで私の意思が行き渡らない。
 
 ――――アレがゆっくりと静かに歩み寄ってくる……
 
 全く働かない私の意思とは別に私の右手の拳銃はアレの額に照準を定める。
 銃声が静寂を突き破る―――何も変わらない……この距離で外す事はないはずなのに当たらない……
 
 ……アレは私の銃の名前の名を呼び、そして、こう評した。
 
 <<綺麗な容ね>>
 
 ―――――――
 
 ――――
 
 ――
 
 有りえないことなのだ、本来は……
 両儀式が私の拳銃―ブラックバレルレプリカの事なんか知る術なんてないのだから。
 けれ、アレは知っている、そう、知っていて当然だ。
 アレが知らない事は何もなく、そして、出来ない事は何もない――――
 
「―――――――」
 
 ただ、堪えられなかった、目の前の存在に………
 両儀式を憎くて、消そうとしたのは、全く別個に、私はアレを消さないといけない。
 そうでないと、私が潰れてしまう……!
 
 ……アレが居る場所には他には何も居てはいけないし、
 ……私が居る場所にアレは居るべきでもない。
 
 ――――ならば、どちらかが消えなければならないのは道理だ!
 
「―――消えなさい!」
 
 バレルレプリカが軋みを挙げるほどに引き金を引き続ける――――

67 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:23

>>66
凶弾が尚もそれを襲う。
渇いた音を、何も無いこの空間の中で響かせて、銃口から
放たれた人殺しの鉛が射出される。
 
銃の引き金を引けば、弾丸が放たれる。
 
それは誰もが知ること。
 
弾丸は真っ直ぐに向かう。
 
それは誰もが知ること。
 
弾丸に当たれば人は傷つく。
 
それは誰もが知ること。
 
けれど、それには当たらない。
 
――――――『それも誰もが知る事』―――――――
 
 
かちりかちり、金属を叩く音が銃から響く。
それでも一心不乱に引き金を引き続ける錬金術師。
ふぅ、と悩ましげな溜息を吐くが見るものが見れば、それも
見るに絶えない演技に見えてしまう。
ゆっくりと伸ばされた手の先には黒い小さな銃を持つ少女の手。
 
無骨な兵器と美しい少女の二律背反は確かに綺麗に見えるのかもしれないが、
それは思う。
この少女にこの姿は似合わないと。
 
 
優しくそれの手が少女の手を包み、銃を強く握り締める指を引き剥がす。
一本一本、少女の指が傷つかぬよう、少女の心がこれ以上傷つかぬよう。
其れもまた、それの行う人間の仕草を真似た行為。
 
 
―――――神殺し
 
 
一人呟く。
 
 
――――――――――――――バカね、神なんてこの世の何処にも居ないのに
 
 
銃が地面に落ちる。
 
 
其れは、少女を見つめる。

68 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 11:25

>>67 
「――――!」
 
 撃てども撃てども当たらない。
 この距離でかわせるはずなんて無いの当たらない。
 
    かちり、かちり、かちり――――弾が尽きる……
 
 私を護るべき銃はただの鉄塊と化し、その役目は果たさなくなる。
 ソレはふぅと溜息を吐き、本当に、極々自然な動作で、銃を、静かに私の手から引き剥がした……
 
 <<―――――神殺し>>
 
 <<――――――――――――――バカね、神なんてこの世の何処にも居ないのに>>
 
 透き通るようなソレの声とともに銃が地面に落ちる……
 此処に至って、ようやく、私は思考を取り戻した。
 
「そう、貴女の言う通り、神なんて居ない。それは正しい――――」
 
 多分、私はもう知っている。
 『 』が知っているように、私は、シオン・エルトナム・アトラシアの結末に気づいてしまった。
 
「けれど、そのような事など今は些細な事。
 今、決定すべき事は貴女か、私、どちらが消えるべきかと言うことですから」
 
 何処で、私は間違えたのか? ―――とうとう、最後まで解は出なかった。
 もっとも、今更気づいても仕方の無いことだけど……
 
「私はもう戻る事なんて出来ない。自身の全てを磨り減らして、消していくだけ。
 それが死徒としての在るべき、正しい姿でしょうから」
 
 だって、仮に解が出たとしても、私はつまらない存在なのだから……
 それに、私は矛盾だらけだもの。
 こんなになってまで手に入らないもの―友人や感情、を渇望して、恨んで、足掻いていたのだから。
 そんなもの手に入れるべきではないし、手に入らないものであるのに……
 
 だから、全部、無意味だって……
 こんなにも矛盾だらけな私は解なんて出しても、意味の無いことだって…・…
 
「―――私は貴女を消して、自身を消して、タタリになる」
 
 黒い霧が再び、彼女の後ろに集まり、1つのカタチを取る。
 それは――――
 
「嘘を真実とし、虚言の夜を具現化する。さようなら、『両儀式』―――――!」
 
 嘗て、シオン・エルトナム・アトラシアが友人と呼んだ男性、遠野志貴のカタチだった……
 ずっと、渇望していたのだろう、友人と呼べるような存在を。
 ずっと、後悔していたのだろう、彼との契約を破棄した事を。
 だから、最後の私の切り札としても、遠野志貴が具現化された。
                              
     ―――最も、それは酷く出来の悪いレプリカ……
     ―――本物はもう私がどんなに望んでも手に入らないもの……
 
 ……彼は『 』に対して、ナイフで斬りつける。
 17の閃光――――それと同時に私も『 』に向かって貫手を繰り出した……
 
 
                     ―――――そう、もう、結末は分かっているのに……

69 名前:シオン・エルトナム・アトラシア/死徒 ◆z6ZaBLOODY:2003/02/01(土) 11:26

>>68
 
 
 ……この瞬間に夢想した事がある。
 もし、あの時、遠野志貴との契約を私が破棄しなければどうなっていたんだろうなって。
 
 彼は微笑んでくれただろうか?
 私をたすけてくれただろうか?
 
 少し嬉しい。
 こんな死徒の身でも、死徒の心でも、最後の刻だけは人間らしい、幸せな夢を垣間見るのだから――――

70 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:29

>>69
「いいえ」
 
そう言った。
 
 
影がそれに向かって斬りかかる。
凡そ、17回の斬撃は過去にあの真祖をも殺したとされる狂気の刃。
けれども、その攻撃には狂気も殺意も見当たらない。
在るのは只、目の前の敵を倒さんとする単純な行動。
 
 
そんなものはそれ―――――――――全ての根源とも言える『 』の前では無力過ぎた。
 
 
17もの多数の閃光はたった一振りの少女の手によってあしらわれる。
『 』は少女に静かに声を。
 
「其処に在るのは貴女の欲するもの。けれど、貴女が欲しいのはそんなものではないでしょう?」
 
貫き手で迫る少女に向けられた『 』の視線は何処か切なげで、
少女を哀れむと言うよりも、むしろ羨んでいる様にも感じられた。
『 』は既に全てを手中に収めることが出来る。
けれども、それゆえに手に入れる事さえ『 』には意味の無いことなのだ。
 
そう、全てを持つと言うことは、そう言う事なのだ。
 
 
「わたしは消えないわ。そして、貴女の今の願いもきっと叶わない」
 
繰り出された貫き手をすり抜けて、少女の胸へ飛び込む。
それは自らも貫き手で返す。
何の抵抗も無く、それの手を少女の体へと進入してゆく。
血は出ない。きっと少女にも痛みは無いだろう。
 
少女の背中から手が顔を出したときには、少女の命は既に絶たれていた。
その死に顔は安らかで、泣いた後の子供の様に満足に満ち溢れていた。
 
 
死ぬことで全てが許されるわけではない。
 
 
けれど、やっと今彼女は自分自身を満たすことが出来たのだ。
 
 
それはどんなに近くにあって、どんなに遠く見えて、どんなに欲したか。
ただ、少女は純粋ゆえに悩み、苦しみ、そしてそれゆえに自分と言う存在を
望んだ。
 
それは、誰もが持ちえていて、当たり前とされるものでも、
自分が持ちえなければ、やはりそれは満たされることが無いのだ。

71 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:30

>>70
「―――――――――――なんて、悲しい」
 
 
亡(ぼう)っと虚空を見つめる『 』の姿は全てに満たされ、全てに欠けて。
崩れ落ちる少女の体は深い眠りにつく。
長い夢の先に2人の姿が再び重なり合うことは無い。
 
 
「さようなら、シオン。永遠に」
 
 
 
 
 
――――――――――――そして、虚無は虚無へと還る

72 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:33

>>71 
 
 
「死ねばよかったのに」
 
 
それが式が目覚めて言われた一言だった。
呪いの言葉を彼女に投げかけたのは式の良く知る少女。
これから先、もしかしたら自分の妹になるかもしれない人物だった。
 
「それなら見舞いになんて来るなよな」
 
式は不貞腐れながらも、病院のベッドの上で横になったまま答えた。
 
 
空は快晴、風は無風。
遠足や運動会があるならば、こういう日に限ると言った天気だ。
純白のカーテンは優しく陽を孕み、病室内を優しく包み込む。
窓から溢れるその光を受けながら、
少女――――――――――黒桐鮮花は花瓶に花を生けていた。
 
その様子を見て
 
「へたくそ。私がやる」
「うるさい、ばかシキ」
 
そんな心にも無い罵倒を浴びせあい、漸く式に笑顔が戻る。
笑いながらも表情が曇る鮮花。
その様子に心配になった式が問いかけようとした時、鮮花
が答えた。
 
「私だって、アンタの見舞いになんか来たくなかったけど。
 幹也の落ち込んでる顔を見るよりはましだったし」
 
 
黒桐幹也、式が今生きている全てとも言える存在。
 
――――あの後、先に意識を取り戻したのは幹也の方だった。
血だらけの式を見るなり、急いで病院へ連れて行ったのも彼だった。
 
 
式は想像する。
必死になりながらも一人で血だらけの小さな少女を負う姿。
何も知らずに只幹也の背中で眠り、そして、幹也は自分を
責めながら、きっと泣き顔で病院を探し回ったのだろう。

73 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:33

>>72
「あのバカ」
 
その言葉に悪意は無い。
自分のために必死になってくれる人間が傍に居てくれる。
こんな幸せは何処にでも在るものじゃない。
式はそれを知っている。それが愛する人ならば尚更。
そして、好きな人達でも、変わらない。
人間嫌いの式でも、そう思うのだ。
 
「はい、これ」
 
鮮花は一つの封筒をベッドの上に投げる。
 
「なんだよ」
「橙子さんから預かってきたのよ。次の仕事だって」
 
ふぅん、と生返事をして、再びベッドの中にもぞもぞと潜り込む。
その姿を見てあきれる鮮花。一度投げた封筒を花瓶の横へと沿え
溜息を漏らした。
 
「どうするの、これ」
「眠い、今は寝る」
 
今日は良い夢を見れる気がしていた。
こんな、何気ない日常だからこそ見れる夢。
それは妄想でもなく、自分の欲望でもない。
ただ、そこに溢れる、自分の居場所。
 
 
廊下から、けたたましく聞こえる一つの足音が聞こえた

74 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:34

>>73
 
 
____________________________
 
 
―――――――――――――それなら、巣を作らなきゃ良いじゃない。
 
 
巣に絡まった蝶(わたし)は蜘蛛に問い正す。
 
すると蜘蛛は変わらぬ笑顔で私を見つめこう答えたのだった
 
 
「君はすぐ何処かに飛んでしまうから。だからこうして帰る場所を作ってる。
 傷が癒えたらまた飛んでいきなよ。ずっと、待ってるから。」
 
 
私は笑顔で、静かに頷いた。

75 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:37

>>74
廃墟のビルには、一人の魔術師が住んでいる。
彼女は三原色と呼ばれる最高位の魔術師の称号を持つ。
魔法の領域に届く程の技術をもった人形使い。
 
 
けれども、彼女。蒼崎橙子は全てを捨てて、ここに居る。
その理由は誰も知らない。
 
 
「一応は受け取りましたけど、どうなんでしょうね」
 
鮮花は式専用のソファーにどっかりと腰を下ろす。
オフィスの主はやはり自分用の机の椅子に深く腰を下ろし、静かに
タバコを燻らせる。
 
「何、あいつの事だ、怪我が癒えたら食らい付いて来るさ」
 
「もしかしたら、アイツもう殺しはしないかもしれないじゃないですか」
 
口から紫煙を吐き出しながら橙子は含み笑いを浮かべる。
 
「アイツは何も望まない。故に、望んだものに固執する。いや、固執と言うよりも
 博愛といった方が良いか。普段何も望まない分、その反動が激しい。一般に反転
 衝動と呼ばれるものに近いのかもな。だから、黒桐を自分の物にしたくらいで満
 足する玉じゃないよ。あいつは。」

76 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:37

>>75
黒桐を自分の物にと言った所から少し不機嫌になる鮮花。
このまま行くと式ののろけ話を他人の口から聞きそうになりそうなので
話題を変えることにいた。
 
「そう言えば、今度三咲町に新しい建物ができるんですけど、知ってますか?」
 
「――――――――何?」
 
渋い顔をする橙子。自分が何か悪いことを言ったのかと思いながらも
平然と話を続けるのは鮮花か、もしくは式でしかできないことだろう。
女性は強い。
 
「知りませんか?今度三咲町にシュラインって建物が建設られるらしいんですよ
 まだ、建設途中らしいんですけど」
 
徐に机の引き出しを開けて、一つの写真を取り出す橙子。
 
「建設途中、か」
 
「ええ、もうすぐ出来上がるんじゃないかなって思ってるんですけど
 あ、でもつい最近またあの町で吸血鬼の噂が流れてるらしいんですよ
 きっとその内、私達の町にもそういう噂が流れてきそうですね。たとえば―――」
 
「新たな殺人鬼の出現、か?」
 
「え?…ええ」
 
自分が言おうとしていたことを先に言われて、首をかしげる鮮花。
それに対して、橙子は愉快そうに写真を机の下にしまった。
 
「神様はサイコロを振らない、か」
 
「アインシュタインですか?」
 
「ああ、最近思うんだが、神様はサイコロを振らない訳じゃなくて、
 振ったサイコロを無かったことにする。だから、普通の人間では
 そのインチキを看破できないんだ。だから万能に見えるのかもしれんな」
 
 
机の中にしまわれた写真。
 
神殿と呼ばれる建物と共に映る、橙色のネクタイを締めた一人の女性建築家の姿があった。

77 名前:両儀式:2003/02/01(土) 11:52

<両儀式vsシオン・エルトナム・アトラシア/死徒 〜虚構の夏 [Another Hologram Summer]〜>

導入
>>24>>25>>26>>27>>28>>29>>30>>31>>32>>33
>>34>>35>>36>>37>>38>>39

闘争本編
>>40>>41>>42>>43>>44>>45>>46>>47>>48>>49
>>50>>52>>53>>54>>55>>56>>57>>58>>59>>60
>>61>>62>>63>>64>>65>>66>>67>>68>>69>>70
>>71

エピローグ
>>72>>73>>74>>75>>76


―――――――その後の病室


幹也「式!」
式「この病室は現在使われておりません、お入りになった
  病室をお確かめの上――――」
幹也「ああ、よかった、無事だったんだね(し か と」
式「……ようやく思い出した。おまえ、昔からその手の
  ボケをあっさり流すんだよな。(怒」

78 名前:高橋幸児(吸血鬼)(M):2003/02/01(土) 13:23

>ttp://www.appletea.to/~charaneta//test/read.cgi/ikkoku/1040664373/339
高橋幸児(吸血鬼)VS前園日出子
(中間まとめは>ttp://www.appletea.to/~charaneta//test/read.cgi/ikkoku/1040664373/384に)
 
 ズブリ、と刃が首筋へ潜り込んだ。
 傷口から鼓動がない故に勢いのない大量の血があふれ出し流れ落ち、高橋幸児の屍衣を朱く染め上げる。
 顎が外れて歪んだ形状になっている頭部にある目を、驚愕に見開きながら衝動的に手を横に振った。
 ナイフから手を離し、即座に回避を選択する前園日出子。
 空を切る腕から、大量の血しぶきが虚空へと放たれ、視界を朱く塗りつぶす。
 
 顔を、前園日出子に向ける、首筋のナイフを引き抜く。
 憎悪と歓喜と怒りと……数え上げるのも馬鹿々々しいほどの感情がない交ぜになった瞳。
 一体、何がそれを高橋幸児にもたらしたのかは判然としない。
 だが、確かに――――。
 
「五月蠅いぞ……。白髪犬が吠えるな!」
 
 本人すら、何を叫んだのか自覚していないのかもしれない。
 だが、確かに意味のある言葉を吐いて、高橋幸児はナイフを振り上げ、跳ぶ。
 天井すれすれの高度を滑空し、天井を蹴って降下。
 血と白刃の尾を引きながら落下する高橋幸児。
 眼下には前園日出子――白髪犬。
 
 あれほど求めてやまなかった白髪犬の命、今それに手を掛けているという実感。
 死の中での生、終わりの中での充足。
 本当の終わりは少しずつ、少しずつゆっくりと、しかし着実に近付き……。
 
 そして――――――――。

79 名前:前園日出子 ◆ehc.hideko:2003/02/01(土) 20:46

高橋幸児(吸血鬼)VS前園日出子
>78

「ははっ」
 
 日出子は頬にかかった高橋幸児の血を舐めた。肉の匂いがすると笑った。
 
「馬鹿は死んでも治らないか」
 
 死に損なったから治らなかったのかも知れない。
 くだらない、と日出子は吐き捨てた。
 
 ほとんど頭上から落ちてくる一刀を、手で弾く。
 指を切り落とされながらも押し上げる力が、首に切り込む太刀筋をずらし、右頬
を深く刻むに留める。
 痛みに眉根を寄せ、その怒りをまるごと掌底に叩き込む。外れた顎の骨をその
まま砕き、首そのものをもぎかねないカウンターの一撃。
 衝撃に浮く高橋幸児の首を掴み、引き寄せて落とす。
 
「お前は――その白髪犬に負けた負け犬だ!」
 
 そして、膝に叩きつけた。同時に首を持つ手に力を込める。
 背骨と頚骨を同時に破壊する。そういう一撃だ。
 ははっ、あはははははは! 日出子は笑いながら、次はコイツをどう壊そうかと
ゆっくり考える。

80 名前:高橋幸児(吸血鬼)(M):2003/02/01(土) 22:46

>>79 高橋幸児(吸血鬼)VS前園日出子

「かっ……」
 
 脊髄と頸骨が軋み、悲鳴を上げる。
 全身をはい回る苦痛も、しかし吸血鬼であるが故に致命傷にはなり得ない。
 もがきながらも前園日出子の顎をかち上げてのけ反らせ、距離を取る。
 
「五月蠅い……人間の飼い犬風情が!」
 
 もはや高橋幸児は、目の前にいるのが誰か認識できていないのかもしれない。
 その言葉は果たして前園日出子へ向けられたモノか、あるいはいもしない片倉優樹か――――――。
 唯一つ確かなのは、白い頭髪へ向けられる殺意のみ。
 それのみが、高橋幸児という存在のよすが。
 例え、死んでいようとも……それが彼を吸血鬼として復活させたらしめた一つの原動力。
 
 ふらつきながらも再度突進、今度は下からすくい上げる様な一撃。
 だが、その一撃には明らかに力がない。
 彼には、既に終わりが近付いているのだろう。
 片腕を、片足を失くし、首を貫かれ、頸骨と脊髄が苦鳴を訴えかけてくる。
 失血も相当な量にのぼっている。
 なりかけには、少々きついダメージと言わざるを得ない。
 
 それは即ち終わりの始まり――。

81 名前:ミズー・ビアンカ ◆c0Ko8pMIZU:2003/02/02(日) 00:31

前スレ>>338より
蟆霧VSミズー・ビアンカ
イン・ア・フライト (空戦領域)
 
意識が明瞭になった。
覚醒感と共に、周囲を見渡しつつ、自分自身の中から記憶を呼び起こす。
最初の三人を灰にしたところまでは確かに覚えていたが、それ以降がはっきりしない。
だが周囲の状況を確認すると、どうやら立っているのはミズーひとりらしかった。
 
次に自らの状況を確認すべく動こうとして、胃が急激に収縮する。
同時にこみ上げる吐き気を抑える事もままならぬまま、ミズーはその場で
激しく嘔吐した。
喉に詰まった胃液にむせぶうちに、全身に痛みが甦っていく。
 
一通り空の胃から胃液をぶちまけた所で、改めて傷の具合を見る。
裂傷、打撲、刺傷・・・およそ負傷と呼べる全てがそこには揃っていた。
全身はその所為で、鈍痛鋭痛の区別も付かないほどひっきりなしに痛んでいる。
ただ一つ、噛み傷が無かったのは単なる奇跡とも呼べる偶然なのか、
それとも本能的な防衛か。ミズーにはそれこそ判別できなかった。
 
震える手を辛うじて御しながら足元の剣を掴み、それを松葉杖代わりに
立ち上がる。重傷であることは自覚していたが、動く事はできる。
そう見切りをつけ、記憶の底にあった、ヒカゲが逃げた方向―――
操縦室へ向けて歩き出そうとした。

その時、気付いた。
彼女のいる空間が、漠然とした違和感に包まれている事に。
 
(これは―――何?)
自答し、思い出す。彼女は嘗て、この違和感を体験した事が確かにある。
再び記憶を探り―――そして、行き着いた。一つの事実に。
 
(馬鹿な・・・そんなことが)
それは、限られた能力者―――念糸使い。精霊に近き者のみが
知ることの出来る感覚。精霊の通り道。この世界とは違う空間。
 
(この飛行機は―――)
 
この飛行機は、「無抵抗飛行路を飛んでいる」。
 
余りにも常識から外れた、この事態に。
ミズー・ビアンカは混乱した。

82 名前:ミズー・ビアンカ ◆c0Ko8pMIZU:2003/02/02(日) 00:58

>>81 続き
 
一度暴走した思想を押さえつけ、冷静に考え直す。
現状は並外れた異常事態である、それは間違いがない。
だが現実として起こってしまっている以上は、それを受け入れなければならないのだろう。
 
(全く・・・どこまでも馬鹿にするのね)
心中で毒づきながら、考えた。
無抵抗飛行路は精霊のみが入ることを許されるというのは、
理屈そのものを理解できない人間が後付けした、勝手なルールだ。
何かのはずみでこの世ならぬ力を受けた者―――そう、例えば吸血鬼。
その中には、あるいは世界に重なりし無抵抗飛行路を知覚できる者も
いるのかも知れない。
 
(とにかく、あの男を探さないと)
飛行路を抜け出すにしても、先ずは事態を引き起こした張本人と思われる、
あの男を仕留めない限りは話が続かない。
まともに動かない身体で、何処まで戦えるかは疑問符が付くが。
それでも彼女は、やるしかなかった。

(報いは―――受けさせる)
 
重い身体を引きずるようにして、操縦室の前へと辿り着く。
 
(わたしを―――侮蔑した報いを!)
想像以上に重く感じた扉が、開け放たれた。

83 名前:ビリー・龍 ◆OClOnGFAng:2003/02/02(日) 01:22

――通りすがりに答えておくさね。

>>16(友人と会わなくなってどれくらいですか?)

友人ねぇ。
ま、どういう奴を友人と呼ぶかによる。
俺の正体を知ってて友達付き合いをする奴なんざ、そうそうはいねーからな。

ただの酒飲み友達なら昨夜も飲んだぜ?

>>17 生活リズム
仕事メインだよ。張り付いてる相手が昼型なら昼型、夜型なら夜型さ。
乱れてるといえば乱れてるな。まぁ仕方あるまいよ。

今?
仕事ねーからな、のんびり夜型だよ。

84 名前:前園日出子 ◆ehc.hideko:2003/02/02(日) 02:27

高橋幸児(吸血鬼)VS前園日出子
>80
 
 襤褸切れのような躰が、必死に腕を持ち上げる様は、壊れた人形のようで哀しく
すらあったが、日出子に同情する理由はなかった。彼女もまた、恨みに拠って立
っている。高橋幸児に折られ罅割れた骨は、まだ彼女のなかで軋んでいる。
 殺意と憎悪と、血への欲情で、その瞳は濡れている。
 
 向かってくるナイフを軽くいなし、日出子は高橋幸児の顔に膝を叩き込む。鼻骨
が砕けるほどよい感触。
 血に塗れた頭を床に叩きつけつ、手からナイフをもぎとる。
 
「犬、犬、犬……飼い犬と負け犬のドッグファイトか。はっ!」
 
 完全なマウントポジション。
 ナイフを高橋幸児の残った腕に突き立てる。大振りの刃は腕の三分の二ほどを
やすやすと分断する。
 
「いいじゃないか。闘犬らしく、潰しあうのもね」
 
 続けて二度、三度と振り下ろす。一切の容赦なく刃が高橋幸児を刻む。荒々しく、
何度も何度も、やりたいように刃を刺して、日出子は笑う。
 時折刃の血を舐める姿が、とても嬉しそうだった。

85 名前:slMAKIRIrI:2003/02/02(日) 12:10

>81-82
 
 扉を開けたミズーがまず最初に見たのは、機長の姿だった。
 機長は床に座り込み、時折あーとかうーとか幼児のように唸るだけで、特に動き
らしいものをしようともしなかった。
 当然ともいえた。彼には四肢がなかった。
 
 肩口と股の部分から、手も足もばっさりと切り落とされており、それらは無造作に
脇に転がされていた。機長が人間なら死んでいる。死んでいないのは夜刀の神だ
からである。
 何のために四肢を落としたのか――それは簡単に推測がついた。筆にするため
の他にはない。
 
 
                   『Come up !!』
 
 
 フロントガラスには、血で象られた文字が、所狭しと踊り狂っていた。

86 名前:高橋幸児(吸血鬼)(M):2003/02/02(日) 14:47

>>84 高橋幸児(吸血鬼)VS前園日出子
 
 圧倒的に、絶望的に叩きつけられる暴力、蹂躙、破壊。
 肌を切り裂く刃が無数に降り注ぎ、高橋幸児を文字通りの――中身がない――ボロキレへと変えていく。
 組み敷かれている高橋幸児は、抵抗らしい抵抗もせず、否、できずに少しずつ解体されていく。
 もはや死まで秒読みに入って、しかし、それでも瞳だけはまっすぐに前園日出子を睨み付ける。
 死にゆく者でありながら、その光だけは頑強に生を主張し続けていた。
 
「犬、犬って五月蠅いぞ……それしか言うことがないのかこの白髪犬は……っ!」
 
 力無く、しかしそれでも確かに言葉を吐き、叩きつける。
 それだけが、自分に残された最後の抵抗とでも言うように。
 だが、もはや自分が一番理解していた――終わりを。
 終わりの間際に立って、いくつもの疑問が湧き出てくる。
 自分が何でこんな事になっているのか、一体何があったのか、何故自分はここにいるのか。
 何故、自分は――――。
 
 こんなにも白髪犬を憎んでいたのか。
 
 そして、それらの疑問に何一つ答えが与えられる事はない。
 疑問を発することもなく、回答も得られないままに解体は続く。
 もう、痛いと思うことすら叶わない。
 回答を考えることすら叶わない。
 白髪犬を殺すことすらも――――――。
 
「くっ……あ……」
 
 何かを言おうとして、それが苦鳴に取って代わる。
 もう、言葉を発する事すら叶わなくなった。
 振るわれる刃の音と、裂かれ、突き破られる肌の音が妙に大きく響いている。
 今、高橋幸児が感じられるのはそれだけだから。
 
(ああ、そうだ。一つ白に言っておこう)
 
「ぼくは……白が……」
 
 濁った思考がはじき出した、それが、最後の、言葉。
 だが、それが終わる前に前園日出子の一閃が、高橋幸児の首を斬り飛ばした。
 勢いに押されて地面を一度、二度、三度と転がる高橋幸児の首。
 転がった後には血の一本道が描き出されている。
 壁に当たって止まり、死んだ視線は前園日出子を凝視し続けていた。
 
 遺言を最後まで言わせてもらえなかった事を責めるかの様に。

87 名前:前園日出子 ◆ehc.hideko:2003/02/02(日) 15:22

高橋幸児(吸血鬼)VS前園日出子
>86

「馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿」
 
 首を飛ばしてもしばらく日出子はナイフを刺すことをやめなかったが、高橋幸児
がまるで無反応なので、次第に酔いが醒めるように正気に戻った。
 しばらく茫っと、浸るように死体を見る。
 
 馬乗りの状態をやめると、今度は丁寧に腕の指を殺ぎ落とした。ひょっとすると、
また動き出しかねないと思い、その時に備えてのことだった。ついでに念入りに歯
を折った。
 ことの終わりを察知したか、一般の警察官が駆け寄ってくる。日出子は煩わしげ
に一瞥すると、腰をあげる。
 
「あたり全部浚って。それを日光に晒しなさい。また黄泉還らないとも限らないから」
 
 警官は震える声ではいと答えた。血濡れの日出子の姿が恐ろしかったのだろう。
朱に輝く眼とは視線を合わせようとしない。
 日出子の靴に何かがぶつかった。高橋幸児の首だった。未練がましい視線が
じっと日出子を睨んでいる。
 
「……どいつもこいつも、オカマ野郎だ。くそったれ」
 
 ナイフをその首に落とす。
 そして刃先で、何やら細々とした作業を始めた。

88 名前:前園日出子 ◆ehc.hideko:2003/02/02(日) 15:54

高橋幸児(吸血鬼)VS前園日出子 エピローグ
>87
 
「夕介、あなた暇そうね」
 
 日出子は射撃場の隅で訓練している日向夕介に声をかけた。左手だけで見事
にサークルを撃ち抜いている。
 
「訓練中だ」
「仕事をしてないのなら暇よ。お使いに行ってきて」
 
 舌打ちをする夕介。彼とて今すぐにでも夜刀の神を殺してまわりたいところだろう。
だが右手に嵌める義手が届かないかぎりそれも難しい。
 何より、彼は飼ってもらっている身だ。上司には逆らえない。
 
「これを、新宿の捜査六課、片倉優樹巡査部長の所まで持っていって頂戴」
 
 そういって日出子が渡したのは、円筒形の容器だった。コーヒーの缶程度のサ
イズで、ラベルがべたべたと貼り付けてあり、何が入っているのかは見えない。
 
「それと、託け。後始末ぐらい自分でしろって伝えておきなさい」
「中身は?」
 
 そう聞かれて、日出子は抑揚なく、もうそれ以上のことは知らないとでもいうよう
な、このことと自分は、結局無関係だとでも言うような、ひどくなげやりで無関心な
口調で言い捨てた。
 
 
「眼よ」
 
 
 
                                ――――終劇――――

89 名前:前園日出子 ◆ehc.hideko:2003/02/02(日) 16:09

高橋幸児(吸血鬼)VS前園日出子
前スレのまとめはttp://www.appletea.to/~charaneta//test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=1040664373/384
現スレ分
>78>79>80>84>86>87>88
 
くだらないったらないわね。まったく。

90 名前:名無し客:2003/02/03(月) 11:11

ラジオ番組を一つ持ってイイ! という話が某所からきました。
どんな番組を考えますか?

91 名前:名無し客:2003/02/03(月) 14:52

21世紀の吸血大殲って、どんな感じなんでしょうね。

92 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/03(月) 18:53

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

 始まりは、血と悲鳴。そして―――――死から始まった。
 惨劇の幕が開いたのは、月が人影に遮られたほんの一瞬の間。
 月光を遮りテラスから舞い降りたのは一人の男。その手には、月明り
を受け不気味な光を放つ一振りの大剣があった。

―――――ざん。

 骨もろとも肉を断ち切る鈍い音。大剣が振りぬかれ、身近に居た数人
の貴婦人は悲鳴はおろか、何が起きたのかすら認識する間も無く肉塊と化す。
 
 悲鳴と怒声は次の瞬間に起こった。
 怒声は、この招かれざる侵入者に対して。
 そして悲鳴は――――"肉塊となってもまだ生きていた貴婦人"から。

 もっとも次の瞬間に、肉塊は頭を踏み潰され悲鳴は止んだが。

 既に物言わぬ肉の塊と化した貴婦人。彼女は―――――いや、この場
にいる侵入者を除く全ての者は、人ではなかった。
 ヴァンパイア。吸血鬼とも呼ばれる種族や、その眷属が招いた同じ人外の存在。
 今宵ここで開かれていたのは、人ならざりし者によるパーティ。

 侵入者だけが、人間であった。 

 罵声をあげた一人の紳士―――これも人ではない―――が、侵入者へ
と殴りかかる。
 その動きは、獣もかくやというほどに鋭く、速い。
 だが侵入者の動きはそれを遥かに越えていた。
 
 切り上げられた大剣は、紳士の股間から頭頂までをバターのように切
り裂いた。左右対称に切り裂かれた身体は、殴りかかった勢いのまま、
内容物をあたり構わずぶちまける。二つになった肉体は、半身との別れ
を惜しむかのように、血の糸で繋がったまま床に転がった。

 そして男は笑う。口を吊り上げ、愉しそうに。
 返り血に染まった顔は、まるで……そう、まるで……

―――――形を取った闇のようであった。

 そして一方的な……本当に一方的な虐殺が始まった。
 その場での力関係は、通常とは逆であった。
 常ならば、闇の住人達の獲物であるはずの人間。
 だが、この場に置いて狩られる無力な獲物は、闇に住む者達の方で
あった。

 僅か数刻の時。それがこの場に居る、一人を除いた全ての化け物が、
死に絶えるまでにかかった時間だった。

 動くものが何もなくなった広間。返り血に全身を紅く染めた姿で男は
口を開く。たった一人残った、最後にして最大の敵へ向けて……

「残りはてめェだけだ……」 

93 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/03(月) 18:55

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>92

普段なら、無視した。
小物の開く下らない宴など。
招きに応じる気になったのは、1人の人間の話を聞いたからだった。

 へえ・・・面白そう。

宴などより、余程。
何処から嗅ぎ付けたのかは知らないが、人間が魔物――人に在らざるモノ達が集う
場所へ乗り込んでくる。
それも、たった一人で。
正気の沙汰ではない。
小物の城とはいえ、並のハンターなどでは会場のホールまで辿り着けもしない。

試してみよう。
小さなアクシデントにしかならないのか、宴に終わりを告げる事が出来るのか。

わたしを、感じさせてくれるのかどうか。



「期待を―――裏切らなかった、ってコトかしらね」

敢えて男の事は伝えなかった。
飛び入りの客がいた方が盛り上がるだろうと思ったから。

そして今、夜に生きるモノの宴には、血が、狂乱の叫びが。
男は、人間と言うより、こちら側に近いように見える。
提げた大剣に、身に纏う雰囲気。
殺しながら笑い、壊しながら嗤う。
赤に塗れ、漂う香りに酔ったように。

 ・・・良かった。

当たりだった。
本当に愉しそう。愉しめそう。
予感に、身体が微かに震えていた。

「良く来てくれたわね、こんな辺鄙な場所まで。
 この城の主はさっき貴方が殺してしまったから、代わりに歓迎させてもらうわ」

身に着けた闇色のドレス。
裾を摘み上げて、ことさら丁寧に頭を下げる。

「わたしはモリガン・アーンスランド。『夜の女王』とも呼ばれているわ。
 ・・・貴方は? 名前くらい、聞かせてもらえるわよね?」

94 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/03(月) 19:42

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>93

「オレの名はミカエル=ラージネス。第十三代目悪魔狩りと言えば通じるだろ」

 そう言い終えると、ミカエルは剣を構え直した。身の丈ほどの刀身を持つ大剣が、
まるで普通の剣であるかのように持ち上がる。
 剣にこびついた肉片と血が、糸を引き、滴り落ちた。

 想像以上の大物だ。
 魔界の中でも名を轟かせる、"ドーマ"、"アーンスランド"、"ヴォシュタル"の三
つの家名。
 その内の一つ。アーンスランド家の当主が、今この場に居る。

「アーンスランド家当主じきじきの歓迎か……こいつァ愉しめそうだな」

95 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/03(月) 20:53

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>94

「そう・・・良い名前ね」

ちろり、と赤い舌が唇をなぞる。
やりたい事は決まっている――だから。

「では、不躾だけれど・・・踊って頂けるかしら?
 一曲と言わず―――どちらかが果ててしまうまで」

ああ、なるほど。
あの『悪魔狩り』を継ぐ者ならば。

「人に在らざるモノとそれを狩る者に相応しい踊りを、ね」

刃持て、血に彩られた踊りを。
殺意持て、狂気に彩られた踊りを。

互いの全てを持って、相手を犯す踊りを。

「始めましょう。貴方にも――悦んで貰えると思うのだけれど」

只の踊りに誘うように、手を差し伸べて一歩。
踏み出した足の下で、眼球が弾けて潰れた。

96 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/03(月) 21:55

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>95

「折角のお誘いだ、喜んで受けてやるよ」

 差し伸べられた手に応じるかのように、足を進ませた。
 踏み潰された眼球の欠片が、頬に当たる。

 身体にこびり付いた血は、既に乾き始め。結晶となった血は、動くたびにパラパラ
と舞い落ち、血溜まりに落ちて波紋を広げていく。
 
「さあ―――――ダンスの始まりだ」
 
 疾走。人間の領域を超えた筋力による加速は、弾かれた矢の如き速度へと、身体を押し上げる。
 その勢い全てを使い薙ぎ払われる大剣―――堕天の剣と呼ばれし魔剣。
 それは風を断ち、轟音を上げ、逆袈裟に放物線を描いた。

97 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/03(月) 22:53

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>96

振るわれた刃の内に踏み込み、更に奥へ。
剣を掴む手首にそっと自身の右手を添えて、押されるままに背後へ。
左腕をミカエルの腰に回し、身体を預ける。
血と腸の匂い。
噎せ返るほどに。古いものと、新しいものと。

 ――ああ。

「じゃあ、まずはワルツでも如何?」

耳元で囁く。
無骨な鎧越しの身体は思いの外華奢で。
どくん。
熱い鼓動が聞こえた。

 ――もう少し。

自制には、多少の努力が必要だった。

「激しいのは、もう少しだけ後で、ね」

左の脇腹に爪を立て抉る。
少しずつ、深く、深く。
痛みより傷つけられていると言う事実の方が強い程度。

「もっと、色々と愉しみましょう?」

ずぶり。
食い込んだ指に力が篭った。

98 名前:サドカン:2003/02/04(火) 17:24

ブラウザのUserAgentに、Javaのスクリプト打ち込んどくとだな、
掲示板等で自分のUserAgentが晒された時に、そのスクリプト、
実行させられるらしいで。

これ、便利でねえかい?

99 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/04(火) 21:41

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>97

 最初に熱。次に激痛。
 腹に捻じ込まれた指。掴む腕は意味をなさず、肉が抉られ、筋肉が千切れていく。
 穿たれた孔から流れでる命。
 
 無様だなと、込み上げてくる生暖かい血を飲み下しながらミカエルは自嘲する。
 ほんの一瞬の油断の代償がこの有り様。殺されてないだけ運がいい。

 ミカエルの貌を光が照らす。
 光源を探し見上げた空には、何て弱いんだ、何て醜いんだ……と冷たく嗤う満月。
 五月蝿い黙れと、声にはせず胸の内で叫んだ。
 
 闇が蟠る。止まる事無く深遠から湧き出し、渦を巻く。
 握る腕から鈍い音が響く。
 濡れた音をたて、真新しい鮮血と共に指が引き抜かれた。
 握られた腕が軋む音をたてる。
 拮抗していた力はそのバランスを崩し、剣持つ腕はミカエルへと引き戻される。

「リードが下手すぎるぜ……これじゃ踊れねェな」

 空いた左手が短剣の柄を握る。反転と同時にそれは抜き放たれ、月光を切り裂き、弧を描いた。

100 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/04(火) 22:15

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>99

翻る身体。
煌く軌跡を描いて走る左腕。

舞う、血飛沫。

「あら、お気に召さなかった? じゃあ、少し趣向を変えましょうか」

左腕は折られ、脇腹に突き入れていた手は、手首の半ばまで切断されていた。
頼りなげに揺れ動く左手にを見つめ、深く開いた傷口のやや下に右の手刀を当てる。

「貴方、血は好きかしら? 飲んでみた事はある? まあ、普通は無いわよね。
 わたし達にとっては――そう、人間で言うところのワインみたいなものかしらね」

折れた部位共々、切り落とした。
落下するそれを空中で捕らえる。

「モノによるんだけれど・・・良いモノは本当に言葉に出来ないくらい」

ぴちゃり。
ぴちゃり。

「やっぱり、自分の血は駄目ね。美味しいモノが欲しくなるばかりだわ。
 ・・・貴方も試してみる? わたしの、血」

                                     ゆっくりと、熱が。
意識を覆って。
                       ゆく。

「プレゼント、受け取って?」

痛みは快感に。
快感は更なる快感に。

右手に握ったモノをミカエルへ放り投げた。

101 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/05(水) 00:07

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>100

 返答は矢のように放った短剣。左手が翳み、そこから一筋の閃光が疾る。
 放られたモノを貫いて、モリガンへと繋がる軌道。

 これはただの前戯。続く殺し合いを愉しむための掛け合い。
 ミカエルは走り出した。
 その動きは怪我を負っているにも拘らず、今までとは比較ならないほど―――――速い。

102 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/05(水) 00:32

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>101

人間と魔。
ましてや狩人と狩られるモノ。
相応しい贈り物は、刃か牙、鉤爪辺りだったらしい。
物騒な返答を右手で摘み取った。

「つれないわね、本当。女に恥をかかせるのは感心しないわよ?」

手にとっても貰えなかった『プレゼント』。
最早肉の塊にすぎないそれが、短剣に穿たれて。


一拍置いて、爆ぜた。

「―――貴方が嫌だと言っても、受け取ってもらう」

溢れ出たのは、黒。
いく筋かに分かれた流れは、駆け寄るミカエルの元へ伸びる。

「感じて頂戴。わたしの気持ち」

右眼、喉、左胸、鳩尾、左腕、右太腿。
流れは黒い矢と変じていた。

103 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/05(水) 00:59

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>102

 黒きの矢の奔流は、幾筋にも分かれてミカエルへと殺到する。
 既に十分な速度を得た身体は、横への方向転換を不可能としている。
 仮に横に跳んだとしても、この相対距離と速度では避けきれるはずがない。
 
 残るは上。ミカエルは地を蹴り、宙に身を翻した。
 その足を矢が切り裂いていく。
 だが浅い。貫くことが目的である矢による傷は、皮を切り裂いただけに止まる。
 
 辿り着くは一瞬。構えは最上段。
 ミカエルの貌に浮かんだ表情は、声無き悪魔の哄笑のごとく闇に映えた。

104 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/05(水) 11:20

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>103

頭頂目掛け、落ちてくる黒い刀身。
動き自体は悪くない。が、

 ――馬鹿にされて、いるのか。

「・・・幾らなんでも、大振り過ぎる」

余りがっかりさせないで。

短剣を握ったまま、右腕を上げる。
大剣の腹に短剣の刃で軽く触れ、落ちてくる勢いに横のベクトルを加えてやる。
流れた一撃はドレスのスカートのみを切り裂いて、床に。

「それから、何度も言うようだけど―――」

たった今出来たスリットから覗く足。
雪の様に白く、それでいて艶かしく。
その肌を、細く朱い線が汚していた。

「このわたしが受け取って、と言った。その意味を理解なさい」

避けた筈の黒い矢――が、向きを変じていた。
のみならず、数すら倍に増やして。
最早数え切れぬほどの矢が、着地直後のミカエルの背中へ襲い掛かる。

105 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/05(水) 12:04

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>104

 目に映るは敵の姿のみ。それ以外は全て障害に過ぎない。
 無数の矢。―――――それがどうした。
 
 堕天の剣を一閃する。
 刀身に触れし矢はその魔力を啖われ、破裂するように消し飛んでいく。
 だが振り向き様の一撃は、全ての矢を捕らえたわけではなかった。
 肩に、腿に、灼熱が走る。


 オレは嗤った。
  

 貌へと迫る一本。それだけを左手で掴み、握りつぶす。
 黒い欠片が零れ落ち、床に小さな砂山を築く。

 右腕に握る堕天の剣の一振り。
 それだけで身体に刺さる矢は、無へと帰した。

106 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/05(水) 15:38

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>105

痛み、という感覚。
疼きと熱と、悦びと。

「・・・どう? わたしのプレゼント、悦んでもらえたかしら?」

ずるり。
左腕の断面から、手が、生えた。

「さあ、続きを。まだ足りないのよ。まだ足りないでしょう?」

刃物のような煌き――五指の先端、爪。
疼く。
傷が、爪が、身体が。

「――――今度は、貴方の」

欲している。
指が、舌が、身体が。

「――――貴方の、血が欲しい」

縦横に両腕を振るい、振るい、振るい・・・前置き無しにその場でくるり、回る。
舞い上がる暗い色のスカートの裾。
鞭のしなやかさに比類ない切れ味を併せ持ったそれが、
ミカエルの左の脇腹から右の肩口へと切り上げる様に走った。

107 名前:浅倉威 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 20:49

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトvs仮面ライダー王蛇 プロローグ
 
かーん。かーん。かーん。
リノリウム貼りの床に、罅が入っていく。
何度も何度も、鉄パイプが床に叩き付けられていく。
その乾いた音だけが、一帯の空気を震わせている。
ぶよぶよとした静寂に身体が沈められているようだ。
不快な生暖かい皮膜で全身を覆い尽くされているようだ。
イライラするイライラするイライラする。
 
「あぁ・・・イライラする――――――――――」
 
体中を這い回る虫のような感覚を吐き出そうとして、俺は言葉を吐き出した。
少し前まで、死と苦痛と嗚咽と絶望と絶叫と俺の哄笑の蔓延っていた空間で。
その少し前の出来事を思い出して、俺は脳髄まで絡みつくような粘り気を焼き払おうとした。
 
ここは燦月製薬とか言う会社の施設だ。
ここの社員に殺しの現場を見られたのが原因で、俺は投獄された。
ライダーとなって脱獄した目的の一つは、俺を牢屋なんぞに放りこんだ連中への復讐だ。
俺をイラつかせるヤツは、潰す。
俺はずっとそうやって生きてきたし、そういう生き方こそ、俺にとっての快楽だ。
 
だから、俺はこの施設に殴りこんだってわけだ。
ちょうど契約モンスターたちも腹を空かせていた頃で、ちょうど良かった。
 
受付嬢は紫の蛇に頭から噛みつかれ肩をわずかに残した歯型となった。
駆け付けた黒服は物凄い勢いでエイに首を跳ね飛ばされ、その首は天井に当たって砕けた。
零れ落ちる脳の破片を見て俺は粒入りオレンジジュースを思い出した。
逃げ出そうとする白衣の男は、背中から鋼鉄の犀に突き飛ばされた。
そいつは肺の辺りに風穴を開けられて、壁に叩きつけられた。
ミンチと化して壁に貼りついたそいつの体は、あかい浮き彫りの壁画のようだった。
 
血飛沫と肉片、恐怖と絶叫。
最高の光景をイキそうになりながら俺は眺めていたが――――――――――
急激に、飽きた。
 
何の抵抗もして来ない連中を相手にしても、イマイチ楽しくなかったからだ。
甚振るだけじゃ物足りない。俺のことも痛めつけてくれよ。
オマケにどうやら俺が狙ってたヤツはココにはいないようだ。
全くの、無駄足だったってワケだ。
 
逃げていく連中はもう放っておいて、俺はただ、こうして床を叩いていた。
前まで血みどろに汚れていたこの辺りも、モンスター連中は綺麗に食い尽くしている。
あまりにも、退屈な光景しかここには残っていなかった。
 
からーん。
俺は鉄パイプを床を殴るように投げ捨て、一際大きな音が一瞬だけ響いた。
音の反響もすぐに消え、静寂が辺りを包み込んだ。
 
ちょうどその時だ、そいつらの気配を感じたのは。
気配だけで妙な期待感に、身が震えた。
 
「誰だ♪ 誰だ♪ 誰だ♪」
 
歌を口ずさみながら、俺はその気配へと近づいていく。
足音は、どうやら2人。
ここの社員か? それとも違うのか?
 
「く〜ろ〜い〜スーツの〜・・・かいしゃい〜ん」
 
調子の外れた替え歌を歌いつつ、俺は角を曲がる。
そしてそこで、そいつと出くわした。

108 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 20:50

仮面ライダー王蛇vsヴェドゴニア&仮面ライダーアギト
>>107
 
少女、モーラによってイノヴェルチの存在を知った沢木哲也はすぐさま警察の依頼者に通報しようとした。
が、モーラとその兄によって止められる。
 
警察内部にもイノヴェルチの手が伸びていると聞かされ、
依頼者には『現在、探索中』との虚偽の報告をしなければならなかった。
 
だが、それで事が済むわけではない。
沢木自身、イノヴェルチの存在を許せないと強く感じていた。
 
伊藤惣太とともに、沢木はアギトに変身し、
モーラと兄と組んでイノヴェルチの傘下、燦月製薬の工場に対してローラー作戦を行っていた。
 
そして…、伊藤惣太の知人が巻き込まれそうになり、
間一髪の所を沢木が救出する事に成功する。
だが、一刻も早くリァノーンを見つけ出さねばならない事には変わりない。
 
その中、或る場所において夜魔の森の女王、
リァノーンが居ると思われるところがあった。
燦月製薬の支社……そこには大規模な兵力があると思われ、
伊藤惣太と沢木哲也の二人の力を合わせてそこを攻め落とさんとしていた。
「惣太くん、聴こえる?意外と……、話しづらいわけじゃないね、これ」
アギトは乗騎マシントルネイダースライダーモードで先行し、
兵力の確認をしながらヴェドゴニアとなった伊藤惣太へ骨振動マイクで話す。
 
「今の所、燦月製薬の方には動きは見られないけど…、
 ん?ちょっと待って。今、何か…逃げている?」
  
燦月製薬から逃げ出す者達の姿を見て怪訝に思う。
「どうやら、中で何かあったみたいだ。
 モーラちゃん達にそっちは任せて中に入ろう」
  
乗騎を降り、施設内へアギトは歩む。
装甲の硬い、アギトが先行する事でモーラ達の負担を更に軽減する為に。
そして、空虚な空間で一人たたずむ男に出会った。
 
「お、お前は……?」

109 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/02/05(水) 20:51

>>107 >>108 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
 いつも通りの燦月製薬襲撃に、今日からは新しい仲間が増えた。
 沢木とかいうそいつは、仮面ライダーとかいうのに変身して戦うらしい。
 一時は誤解から奴と戦うことになったが、紆余曲折を経て共に戦うことになった。
 その時に、奴の力は身に染みて分かった。
 奴になら、安心して先遣隊を任せられる。
 沢木が先行して状況を調べ、場合によっては露払い、そして俺が突撃、フリッツとモーラが情報収集。
 これが、沢木が来てからの俺たちのスタイルになっていた。
 
 今回も同じように先行する沢木を後から俺が追いかけて――と、前を行く沢木から通信が入った。
 
『今の所、燦月製薬の方には動きは見られないけど…、
 ん?ちょっと待って。今、何か…逃げている?』
『どうやら、中で何かあったみたいだ。
 モーラちゃん達にそっちは任せて中に入ろう』
「何かあっただって? あんまり深入りすんなよ」
 
 それだけを忠告しておいて、俺もデスモドゥスに跨って後を追う。
 胸の辺りでざわつく、嫌な予感を抑えながら……。
 
『お、お前は……?』
 
 !?
 呟くような沢木の声が骨振動マイクから聞こえてきた。
 
「おい、どうした沢木……沢木?」
 
 拙い、何かが拙い――――!
 早く、間に合ってくれ!

110 名前:浅倉威 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 20:53

>>108 >>109 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
「ハァ……」
 
俺の目の前にいたのは、金色のクワガタみたいな妙な奴だった。
ま、外見なんかはどうでもいい。そのクワガタからは覇気が伝わって来た。
俺にはわかる。こいつは歯応えのある相手だ。その直感が、俺の顔を笑みの形に歪めた。
ベノスネーカーの奴もそいつを感じ取ったのか、窓ガラスから再度実体化しようとする。
 
「おい……お前はもう充分食ったろう?」
 
紫の蛇を押さえつつ、俺はカードデッキを取り出す。
本来鏡の中で戦うためのそのデッキの力を、こっちの世界で使うために。
 
「俺のディナータイムだよ……今からは、な……」
 
言いながら、左手でデッキを窓に映す。
それに反応して金属質のベルトが陽炎の様に現れ、腰に装填される。
ゆっくりと右手を目の前に構え―――――
 
「―――――変身!」
 
俺は右手を素早く動かし、叫びをあげる。
同時にベルトへとカードデッキを装填し、鏡の中から幻像が顕現し、俺の身を包む。
一瞬後には、俺の姿は変貌した。
 
紫に妖しく煌く、蛇を思わせる鎧を纏った騎士に。
仮面ライダー王蛇にその身を変えた俺は、戦いの期待にゆらり、と首を回した。
ああ、鏡の中から力が流れ込んで来やがる。
 
「ハァ―――――食わせてもらうぜ、お前を……」
 
蝋燭の炎のように、ゆらゆらと首を、全身を揺らしつつ、俺はそいつの元へゆっくりと歩く。
ゆっくりと、ゆっくりと。諸手をあげて歓迎のポーズ。鎧が擦れる金属音。
自分をじらすのもここまでが限界。全く我ながら手が速い。
一声吼えると、俺の歩みは疾走に変わった。床を蹴る音が耳に心地良い。
間合いが瞬時に消滅し、クワガタを引き裂くべく頭部へと手刀を振り下ろす。
 
「アジの開きにでもしてやるよ!」

111 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 20:53

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>109 >>110
『おい、どうした沢木……沢木?』
強烈な殺意。
 
全てを憎み、撃ち滅ぼしたいと言う欲求。
目の前の男はその渦を抱え、生きて来たに違いない。
金属を擦り合わせたような異音を聞く。
視界の片隅に、紫色の金属の外観を持った蛇を見る。
だが、アギトは動けない。伊藤の返事を求める声にも答えられない。
魔獣とも言うべき蛇よりも遥かに目の前の男の方が危険としか見えないからだ。
 
かつて、事件を調査していた時に遭遇した長髪から血を吸う吸血鬼よりも、
感じられる気のようなものでは確かに人間なのに人間として、『何か』が欠けていると思った。
 
男は紫の蛇を抑えると鏡に箱のようなものをかざし、言った。
『―――――変身!』
今までに見た事がないものだった。
いや、どこか遠い場所、今とは違う時期に似た存在に出会った気がした。
それは遠い記憶。消された事象。

「アギトとも、吸血鬼たちとも違う?お前は―――――――なんだ?」

アギトは問う。
今までのものが漠然としたものに過ぎなかったかのように凝縮された殺意を受け、
アギトは身構えるよりも先に頭上へと振り下ろされた手刀を右腕で払い、
掌底を紫色の騎士へと打ち出す。

112 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/02/05(水) 20:54

>>110 >>111 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
「チッ……!」
 
 沢木からの通信が途絶えた。
 どうやら、誰かと交戦しているのではないかと思われる。
 先走るなと言っておいたのに……もっとも、不測の事態に巻き込まれた可能性も否定できないが。
 
(間に合ってくれよ……ッ!)
 
 俺はデスモドゥスのアクセルを限界まで開けてかっ飛ばす。
 ほどなく、目的の建物と沢木のバイクが見えてきた。
 沢木はいない、やはり建物の中か……。
 デスモドゥスを止め、俺も中へと入っていく。
 万一に備え、右手にレイジングブル・マキシカスタムを、左手にサド侯爵の愉悦を抜きながら。
 
「沢木! 何処にいる? 返事しろォッ!」
 
 敵に見つかる可能性を無視して、大声で沢木を呼ぶ。
 それにしてもおかしい……何で、こうも人の気配が途絶えているんだ?
 普通は燦月の研究員や何も知らず働いている一般人、警備の人間やキメラヴァンプがいるモンだが……。
 
「クソッ……!」
 
 嫌な予感を振り切りながら、俺は建物の奥へと走った。

113 名前:仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 20:55

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>111 >>112
 
クワガタがこちらへと掌底を突き出してくる。勢いは良い。
だが、その一撃には戸惑いが混じっていた。俺に当てるにゃ遅い。丸見えだ。
あっさりと避けて、風切り音を聞く。伸びきった腕を掴み取ってやる。
 
「何だろうがどうでもいいだろ……? お前こそなんだ? 新しいライダーか?」
 
そのクワガタは、俺の知るライダーとはどこか質感が違っていた。
鎧じゃなく、生身の肉体が変質したような感覚。何か妙なヤツだ。
一瞬だけ興味が湧いて、すぐにそんな事はどうでも良くなる。
それよりイライラする。頭の中が白く煮えている。視界も妙に白濁してやがる。
気分が悪い、本気でイラつく。殴るか、殴られるか。それだけがイライラを吹き飛ばせる。
いや、もうひとつだけ方法があった。殴っても殴られてもいい状況、つまりは戦いだ。
 
「ま、どっちでもいいな……それより戦ってくれよ!」
 
気だるい。口調にまで気分の悪さが混じってるなおい。
掴んだままの腕の、肘を狙って膝を入れる。膝の骨と肘の骨が硬質の音を立てる。
懐に入り込んで二発ボディブロー。コンクリみたいに固い。
だが、ぶちぶちと裂けるのはやっぱ筋肉の感触。やっぱ生き物なのかねこれ。
何にせよ良い感触なのは間違いない。体が快感にぞくっと震え、溜息が漏れた。
 
「ハァ―――――――全力で来ないと……即死だぜ?」
 
とどめとばかりに手を離し、顎を目掛けてハイキック。
決まれば蹴りで倒れて床にぶつかって、それで脳味噌二重シェイク。
でも、これでオヤスミナサイってのだけは勘弁な。
 
さらなる抵抗を期待しつつ、俺は手元に杖・ベノバイザーを引き寄せた。

114 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 20:56

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトvs仮面ライダー王蛇
>>112 >>113
砕かれ、引き裂かれる。
装甲は硬くても、中身をジリジリと焦がす憎悪の炎がアギトを蝕む。
「新しい?お前以外にもいるのか?」
目の前の男と同じような存在、この施設にいた人間、
おそらくはキメラヴァンプですら、造作もなく滅ぼせる者。
それは、アギトの存在も意味がなくなるほどに危険だと悟る。

牙を剥き、腕を振り払おうとした時、手を放され頭部に蹴りが放たれる。
何かが、キレた。
振りかぶられた斧のような蹴りを前に出ながら払い、胸へ拳を打ち放つ。
逆襲の一撃は確かに紫の騎士に一撃を与える。
大して効いていないかのように紫の騎士は杖をどこからともなく取り出し、
ベルトから何かを取り出そうとしている。
 
アギトの本能が全力で先んじなければと、
クロスホーンを開きライダーキックの体制へとプッシュする。
そして、アギトは魂のどこかから火がつくのを感じつつ吼える。
 
「やってやろうじゃないか……ッ!!」

常に発散されていたアギトの力を大地から汲み上げ、
アギトの紋章を一瞬地に焼付け、轟音とともに天へと昇る竜のように蹴りを放つ。

115 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/02/05(水) 20:57

>>113 >>114 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
 長い廊下を走る、戦いの音が近くなってくる……と、視界が開けて広いホールに出た。
 そこで沢木が、同質の異形と交戦している。
 何だ――アレは? 沢木と似てるが、違う?
 いや、あの禍々しさは……違う!
 
 とにかく、迷ってる暇はねェ。
 沢木も決して負けてないが、ダメージは小さくない、楽観はできない。。
 レイジングブルの銃口を向けるが……二人とも姿が似ていて判別しづらい!
 しかもじっとしていないから、狙いが一向に定まりゃしない。
 俺の焦りを反映するかのように、揺れる銃口。
 焦るな、焦るな……俺なら上手くやれる、沢木も上手くやる……!
 
「沢木、離れろォ! 二人でやるぞ!」
 
 一言それだけ叫び、状況を確認する間もなく紫色の異形に向けてトリガー。
 重苦しい銃声と454カスールの鉄塊が、広いホールを切り裂いていく。
 気付いてくれよ、沢木……!

116 名前:遠野秋葉 ◆xkLa2AKIHA:2003/02/05(水) 20:58

さてと、随分、本スレにはご無沙汰ですね。
闘争はしていない訳でもないのですけど………
とりあえず、質問に答えますね。
 
>>16 友人と会わなくなってどれくらいですか?
私には友人と呼べる人は然程、多くないのですけど、まだ、別れというのは経験していません。
まあ、それでも心を許せる友人は何人か居るのですけど……
 
 
―――本来、私は冷たい人間。
兄さんが居なかったら、誰にでも冷たい人間だったかもしれない。
……遠野の魔性の血を継いでいる以上、どんなに取り繕おうとも絶対に人と同じにはなれないのだから、
違うと自分を認めて、他者を拒絶する壁を作る。
それこそが自分達のような人であらざるモノの生き方だと思っていた……
 
けれど、それでも、皆に嫌われたくなかった。
遠野の後継ぎとして、心を擦り減らす教育の中で、私の何処かは悲鳴を上げていた。
気づけば、誰かを求めて、冷たい自分のままで出来る限り、誰かに笑いかけ、
誰かを笑わせてあげれば、きっと、兄さんと同じようになれると思ったのだろう……。
 
そうして、私は偽装した――――
けど、その偽装が思いの他、楽しくて、
いつのまにかどこからが芝居でどこからが本音なのか分からなくなって、
いつのまにか遠野秋葉という自分がここにいる。
 
――――私は冷たいと思い込んでいただけで、思いの外、暖かい神経を持った人間だったのかもしれない……
 
だから、そんな偽装の中で手に入れた友人達は遠野秋葉には本当に楽しくて、大切な者。
別れは出来れば経験したくないけど、出会いがある以上、別れがあるのは必然。
 
      その時は笑顔で別れを、そして、再会を約したい―――――
 
>>17 生活のリズムは乱れていませんか?
ええ、乱れていません。
遠野家当主たる者、自己管理は出来て、当然。
規則正しい生活を送るのは当主として、必然。
これは遠野家家訓でもありますから。
 
夜の11時には就寝、朝5時には起床。
居間で優雅に紅茶を啜りながら、朝刊を見る。
そして、もし、兄さんが奇跡的に起きてくれば、一緒に朝食を取ります。
その後は隣県の浅上女学院まで、車で通学。
 
夕方5時には帰宅。
遠野グループの書類を決裁したり、学校の課題をこなします。
7時から夕食、この時は兄さんも当然に同席させます。
相変わらず、テーブルマナーが身についてないのが目につくのですけど……
 
8時から9時30分までは、学習や遠野グループの執務。
その後、入浴。
10時からは恒例の夜のお茶会で、兄さん、琥珀、翡翠を交えて歓談。
そして、就寝ですね。
 
……それに引き換え、兄さんの自堕落ぶりは目に余ります―――――!
朝は定時通りに起きた試しがない。
兄さんの起床を促す翡翠も翡翠で、最近は、兄さんの寝顔に見入る始末。
酷い時には、口にトーストを咥えたまま、学校に向かう始末。
何かの漫画じゃないんですから………(ブツブツ
 
帰宅後も割と平静を保っていると思いきや、いきなり、琥珀が夕食を用意しているにも関わらず、
それを無視して、外に食べに行く始末。
聞けば、最近は屋台とかいう移動レストラン巡りに兄さんははまっているとか――――
来月からの小遣いも考えないと………(ブツブツ
 
そして、兄さんは就寝後も油断が出来ません。
兄さんは何にしろ、深夜徘徊が趣味ですから。
テディベアを無理やり改造したモノを無理矢理、改造したモノをベッドに突っ込んで、
あの泥棒猫のところに出かけたりする始末――――――!
ああ、もう、兄さんの部屋には脱出禁止用にメカ翡翠を数体配置しないと………(ブツブツ
 
遠野家当主として、遠野志貴はなんとしても遠野家長男に相応しい人になってもらわねばなりません。
その為に手段はもう選ぶべきではないですね。
遠野家家訓『結果良ければ、全て良し』ですから………、ふふふふふふ…………

117 名前:仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 20:58

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>114 >>115
 
びょう、と強烈な風を巻き起こして、飛び蹴りが俺に迫る。
恐らくは必殺の威力が篭った蹴り。当たれば即死。ああ、怖い怖い。
 
「おいおい……いきなりフィニッシュかよ? 早過ぎないか?」
 
首をわずかに傾げ、俺はせせら笑ってみせる。
内心本気の攻撃が来たことに喜びつつ、俺は腰からカードを引き抜いた。
蛇の紋章が描かれたカードを、手元の杖に装填する。
 
『ファイナルベント』
 
無機質な音声が、エネルギーを俺に注ぎ込む。窓から蛇が実体化する。
蛇が床を這って馳せる。何か叫びと銃声が聞こえる。煩い。今は目の前のこいつを食わせろ。
両足を揃え、強く地を蹴る。宙に躍り、反転して弧を描く俺の体。
 
「うああああああああああああああああッ!!」
 
絶叫。蛇の吐く毒液。その二つを纏い、牙で噛み砕くように蹴りを乱打乱打乱打。
迫り来る銃弾を蹴り飛ばす。重くて少し足が痺れる。この銃弾の主も面白そうだ。
だが、この目の前のクワガタの蹴りを叩き潰すのが先だ。邪魔するな。
 
ぎらつく殺意を両足に込めて、蹴りと蹴りとを激突させる――――――――――

118 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 20:59

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>115 >>117
『おいおい……いきなりフィニッシュかよ? 早過ぎないか?』
せせら笑う声に無言で蹴りを進める。
 
周囲の動体反応はほとんどない。
既にこの男に先を越された時点でこのビルは死んだも同然。
 
今の自分の最大威力で即効で片をつけなければ手がかりどころか、
もっと恐ろしい事態が巻き起こるだろう。
アギトは焦りながらも本能の呼び覚ますままに蹴りの体制から、
さらに空を押すように加速する意志を奮い立たせる。
 
『ファイナルベント』
 
機械音声が叫ぶ。
紫の蛇が、鏡から湧き出でる。
驚愕する時間すら惜しい。
蹴りの連撃がアギトと噛み合おうとする。
重い、確かに総合しても重さではアギトの蹴りの方が上だろう。
だが、連続した蹴りはその重さを打ち払うかのようなスピードで繰り出される。
 
『沢木、離れろォ! 二人でやるぞ!』
伊藤の声と同時に銃弾が蹴りと蹴りが激突した瞬間に来た。
 
「気をつけて!こいつは……!」
警告の声を出そうとしたとき、遂に蹴りの嵐に重みのこもったライダーキックが弾き飛ばされた。
 
アギトは窓ガラスを突き破るように吹き飛ばされ、すぐ外の植木に叩きつけられ沢木哲也の姿をさらす。

119 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/02/05(水) 21:00

>>117 >>118 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
 おいおい……454カスールの銃弾を蹴っ飛ばしただと?
 突如として現れた紫色の蛇にも驚愕を禁じ得ないが……んなこたどうでもいい!
 
「沢木!」
 
 吹っ飛ばされた沢木が、生身の姿に戻っている。
 やばい、とにかく時間を稼がないと。
 SPAS12改『挽肉屋』を取り出し、間髪入れず狙撃。
 吐き出される散弾が、紫野郎と蛇目掛けて飛んでいく。
 装甲は貫けないかもしれないが、吹っ飛ばすなり何なりで時間が稼げれば御の字だ。
 
 同時に、沢木の方へと向けて走り出した。
 目とレイジングブルの銃口は、油断なく紫野郎に向けてある。
 そうそうあんな防ぎ方もできねえだろ。
 こちらへ向かってくるようなら、遠慮なく鉛弾を喰らわしてやる。

120 名前:仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 21:02

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>118 >>119
 
あらゆる感情をその蹴りに込めて、ヤツに叩き込む。
苛苛を叩き込む、憎悪を叩き込む、殺意を叩き込む。
歓喜を叩き込む、快楽を叩き込む、愉悦を叩き込む。
矛盾した感情がセックスして産まれたような、破壊衝動を叩き込む。
 
俺の足が肉に食い込み引き裂き骨を豆腐みたいにぐずぐずに砕いていく。
肉体が壊れる音を確かに聞きながら、俺はクワガタの体を外にまで蹴り飛ばした。
植木にぶつかって人間の姿になる。あれだけ食らってまだ生きてるようだ。
すやすやと寝息を立ててやがる。愛い奴。蛇は鏡ん中に戻って、俺も床に着地。
 
「ハァ―――――……」
 
敵を蹴り飛ばした快楽に、俺は溜息を漏らした。
強烈なまでの恍惚の余韻に身をひたす。ああ、いい感じだ。
だが、余韻を堪能してる暇も無かった。
 
「オウ……シット!?」
 
突然、俺の体が大きく仰け反ったのだ。
熱くて硬いモノに、胸をぶち抜かれるような衝撃に襲われたから。
 
胸元を殴られて肺から空気を追い出される。少しの間軽い酸欠。
内臓が裏返りそうな程痛い。胸元は焼けるようだ。背筋は逆に凍りついたように寒い。
それが、ああ、気持ち良い。気持ち良過ぎて歓喜という靄に頭ん中がけぶる。視界も霞む。
ゆらり、と銃弾の方向へ目を向ける。黒い服装の、銃を手にした新しい獲物。
 
「いいねぇ……今のは。まだ頭がぼんやりしてやがる」
 
杖を取り直す。ダメージの残った重い体で、よたよたと奴に向かう。
カードを引き抜く。駆け足になる。体はまだ重い。戦えるんなら苦にはならない。
奴の方に馳せながらカードを装填。『ソードベント』と俺には聞き慣れた声。
鏡代わりの硝子から、俺の手元に蛇の尾の様に捻れた剣、ベノサーベルが召喚される。
 
「ぼんやりしてるんだ……。ああ……お前のせいだ―――――。どうしてくれる!?」
 
歓喜は怒りに一瞬で転換。殺せ殺せ殺せ。ああ、殺さないと収まらない。
とりあえずフッ飛ばしてやる。ホームランだ。準備OK、間合いもちょうどいい。
俺は殺意とともに、そいつ目掛けてベノサーベルを横薙ぎに振るった。

121 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 21:02

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>119  >>120
轟音が装甲を打ち鳴らす。
乱打する蹴りが雨にも似て衝撃と欲情、飢えがアギトの精神を襲う。
木々のおかげで致命打はかろうじて避けた。
「こいつは……。凄い……」
くじけない、諦めない。
歯を食いしばり、沢木哲也は立ち上がる。
 
銃撃を放つ殲鬼に迫る紫の騎士、いやライダーの動きを見る。
千変万化、本能で動く蛇。
息を深く吸い、意識を集中する。
肉体の隅々にいきわたっていたアギトの力が変身ベルトオルタリングを腰に浮き上がらせる。
 
「変身ッ!!」
アレに対抗するには剛よく柔を制すと、灼熱の力を呼び起こす。
人類の進化の形の一つ、アギトの一形態バーニングフォームとなり、
両端に刃のついた槍、シャイニングカリバー・シングルモードをオルタリングから取り出し、
紫のライダー、王蛇へと突進を開始した。

122 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/02/05(水) 21:04

>>120 >>121 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
 向かってくる、紫野郎に対して発砲発砲……駄目だ、止まらねェ。
 レイジングブルをくるくると回しながらホルスターにしまい、替わって旋風の暴帝を取り出す。
 バネの弾ける音、広がる三つ刃。
 全身を捻り、フルスイングで迎撃。
 紫野郎の振るった得物と激突して、激しい火花が散った。
 
「戦闘中にぼんやりしてるとか巫山戯た事抜かしてんじゃねェ!」
 
 少しだけのけ反り、すぐさま体勢を立て直して左手のサド侯爵の愉悦を腹部へと振るう。
 立て続けに、旋風の暴帝を脳天唐竹割の要領で真上から叩きつけた。
 
 視界の端で、沢木が立ち上がってこちらへと向かっている。
 だが、こちらにたどり着くまでもう少し時間がありそうだ。
 よし……。
 
「沢木! 奴の後ろに回り込め!」
 
 首を気持ち後ろに傾けながら、離れた場所にいる沢木へと叫ぶ、さもすぐそこまで来てるかのように。
 さて、これで紫野郎の気が逸れたら御の字だけどな?

123 名前:仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 21:05

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>121 >>122
 
冷たい刃の感触が腹を通り過ぎる。装甲を破ることはないが、痛む。
ナイフの冷気が焼け付くような痛みに変わる。眩暈が加速する。世界は歪む。
さらに頭上に突風が吹き付ける。頭上に落ちてくる歪な形の、三つ刃の剣。
直撃が決まれば頭がぐっしゃり潰れちまうだろう。
怖いヤバイ楽しい死ぬ楽しいあんなの食らったら頭が吹き飛ぶ怖い楽しい。
 
「ハッハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!!」
 
恐怖と快楽が入り混じる。俺の喉からは笑いが漏れる。
喉も涸れよ肺も破れろと言わんばかりに俺は高く笑う。頭上の凶器をベノサーベルで受け止める。
がぎっ、と金属がぶつかり合う音。次の瞬間には鉄塊を薙ぎ払う。
なんか言ってやがる。後ろに回り込め、だ? 
ああ、勝手にしろ。後のことなんかどうでもいい。今戦えりゃそれでいい。
 
「いいから今戦えよ……! 俺を愉しませろ……!」
 
俺の、今この瞬間の意識は、黒い服装のこいつにだけ向いている。
その意識を殺意に凝固させ、そいつをベノサーベルの刃に込めて、顎の辺りに叩き付けた。

124 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/05(水) 21:05

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>106

 爪が振り下ろされるのと同じ回数だけ、光が閃く。
 打ち合わされる回数も同じ。異なるは互いの武器の描く軌道のみ。
 
 モリガンの身体が旋回する。
 オレは僅かにさがり、突きを放っていた。
 刃と化したスカートが、鎧を削り火花を散らし、肩を抜ける。
 薄い刃で肌を切り裂かれる感触。
 さがった分だけ傷は浅くなり、斬られたのは薄皮一枚に過ぎない。

 その程度ではオレを止めることは出来ない。
 十分な加速と、力。そして殺意を乗せた一撃。
 その刀身に死霊のごとき文様を浮かばせた堕天の剣は、心臓へと吸い込まれていった。

125 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 21:06

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトvs仮面ライダー王蛇

>>122 >>123
一刻も早くたどり着かなくてはならない。
床を蹴る、反作用を使って壁を蹴る。
ショートカットできるルートを瞬時に計算しつつ、王蛇へと迫る。
 
「ヤバイヤバイヤバイ……ッ!」

早く、速く迅く―――――!

ナイフと三つ刃の剣の二刀で押す惣太。
蛇のように黄金剣を唸らせる王蛇。
凶暴な剣舞を舞う二人の動作。

王蛇が惣太の隙を付き、黄金の剣を突きこもうとする。
無造作で、大胆な動きの中に一瞬の隙と窮地を見る。
王蛇を攻撃すれば、倒せるかもしれないが惣太は重傷を負うだろう。
彼には時間がない。
ここで重傷を負えば吸血鬼化は加速してしまう。
どちらを優先させるかはいうまでもない。
 
「あぶなああああああああイッ!」

壁を蹴り、天井を蹴る。
黄金剣の一撃をこれで防げれば―――――。
アギトはそう祈りながら、
跳躍の中でシャイニングカリバーを突くように投げつける。

126 名前:仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 21:07

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>125 
 
風が手元に吹き付けた。ぞくり、と自分の背筋を襲う危機感とともに。
俺には今しか見えちゃいない。だが、それだけによく見える。今そこにある危機が。
投げられた槍の威力は凄い。手元の剣を奪われるだけでなく、手まで使い物にならんかも知れない。
それはそれで最悪に最高だが、そこまで行くにはまだ早い。
 
俺は刃を振るう手を途中で止めて、逆の手で黒いヤツの腕を取る。
 
「さぁ……ダンスと行こうぜ?」
 
片足を軸にして、一瞬のうちに180度ターン。
そいつの腕を強く掴み、槍の飛んでくる方角に無理矢理引き寄せてやった。

127 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/02/05(水) 21:08

>>123 >>125 >>126 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
「ガッ……!」
 
 腕を捻られて、思わず苦悶の声を漏らすが……それどころじゃねェ!
 沢木の放った一撃が、今や俺を目指して飛んでくる一撃に化けている。
 冗談じゃねェ……あんなの喰らえるか!
 
 旋風の暴帝を――腕を掴まれている状態じゃ全身のバネは使えない――腕力だけで投擲。
 三つ刃に絡め取られて、沢木の武器は勢いをなくす。
 そのまま、地面に絡み合いながら落ちた。
 
 間髪入れず、捻られてる腕を軸に前転、ヘッドスプリングで立ち上がり際に顎へ肘を入れる。
 ほんの少しのけ反った隙にレイジングブルを抜き放ち、顎下に銃口を突きつける。
 
「派手に吹っ飛べェ!」
 
 トリガーを引きっぱなしにして、手で撃鉄を弾く。
 残りの弾丸を一気に撃ち切って、紫野郎が宙に浮く。
 すかさずシリンダーをスイングアウト、スピードローダーで弾丸を押し込む。
 倒れている紫野郎の胸板を踏み付けながら、容赦なくトリガートリガートリガートリガー。
 これでも死なねェか、こいつは!?
 
「頑丈だな、テメェ!?」
 
 いっそ、四肢をへし折ってやるのが一番早い気もしてきたぜ……。

128 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 21:09

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>126  >>127

窮地を救うはずの槍の投擲は王蛇によって窮地に追い込む物となってしまった。
投擲の姿勢をそのままに地面へと前のめりに倒れこみ、
体操の床運動のように王蛇への距離をさらに縮めようとする。
 
幸いにも惣太が危機を脱してくれた事に安堵しつつ、
床に倒れ伏した飛び込みのひじ打ちを放たんと身を反らせた惣太の横をかいくぐり、
自身の体重をかけた一撃を―――――

129 名前:仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 21:10

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>127 >>128 
 
顎から脳天にかけて衝撃が突き抜ける。視界が真っ白な閃光に包まれる。
ぶっ倒れた所を踏まれる。おいおい、踏まれてやがるよ。
凄い屈辱的。そんな状況の中で何度も何度も何度も何度も銃弾が俺を殴りつける。
ヤバイな、これ。踏まれた上に銃弾でぶち抜かれまくってる。だがこんなんで死ねるか。
もっと強く踏め、もっと撃って撃って撃って撃って撃って撃ちまくれ、もっと俺を痛めつけろ。
ああ、弾丸が熱い痛い熱い痛い熱い痛い焼けるイく逝くイく逝きそうで最悪に最高だ。
嬲られるのも、そのツケを払わせる想像をするのも、震える程に愉しく、気持ちいい。
 
だが、永劫に続けってなくらいの鉛玉の乱射が、一瞬だけ止まった。弾切れか。
お仕置きターイムってわけか。腹に乗っかっていた足を手刀で薙ぎ払った。黒い方が倒れる。
赤い姿になって飛んで来るクワガタ野郎の一撃を転がって避け、バン、と床を素早く叩く。
叩いた反動で、白い空間の中に、俺は紫の体を溶かす様な残像を引き連れて立ち上がった。
その俺の横でクワガタ野郎も無様にぶっ倒れた。
 
「いいねぇ……もっと痛めつけてくれよ! 俺は痛くされるのが好きなんだ……」
 
俺の言葉に応じたわけでもなかろうが、2人が俺を挟み撃ちの態勢で立ち上がる。
2人とも、いい感じに殺意を持ってくれてる。殺意で前と後から突き抜かれてるみたいだ。
本当にいい感じだ。カ・イ・カ・ン♪ 戦いに昂ぶり、酔いしれ、乱れる呼吸。
荒い吐息を受けて俺の紫の手甲は妖しく煌き、貫手となって黒いヤツ目掛けて疾駆した。
 
「痛くしてやるのもなァ!」
 
叫んで貫手を黒いヤツの腹に突き入れる。指先がずぶずぶと皮膚を破る。指先が少しずつ沈む。
指を濡らす血の感触。指に纏わりつく肉の感触。熱く。重く。ねばつく感触。
だが悪くない。それどころかむしろそそられる。ハァ。ひとつ溜息を漏らす。ゾクゾクする。
腹の中で指を広げる。指先へと絡み付いて来た筋肉をぶちぶちと引き千切る。
赤い液体で指が全部しとどに濡れる。指を動かす。くちゅくちゅと水分が含まれた音を立てる。
肉を掴む。やけに固い肉。固くても肉は肉。独特の手触りが伝わってくる。
ゆらりと首を回転させながら、ガムテープでも引き剥がすように、俺は腹の肉を毟り取ってやる。
俺はくるりと振り向く。赤い姿のクワガタの顔面目掛け、その姿より赤い肉片を叩き付ける。
掌低の一撃とともに、べったりと、血と肉とがクワガタの顔にへばりつく。
 
「顔面パックだ……! フッハッハッハッハッハッハッ……!!」

130 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/02/05(水) 21:10

>>128 >>129 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
「グ……ガァッ!」
 
 腹へと突き入れられる貫手が、俺の内臓を滅茶苦茶に掻き回す。
 肉が、腸が千切れ、血が噴き出す。
 苦痛が、俺の中の手を中心に全身へ広がっていく。
 覆面の中で、吐血が弾けた。
 
 手を引き抜き、沢木へと一撃を加えるする紫野郎。
 ……こんな程度で俺がやられると思ってるのか? 甘ェよ。
 
 ゆらりと立ち上がり、後頭部をひっ掴む。
 片腕だけで持ち上げて振り回して振り回して振り回し、思いっきり壁へと放り投げた。
 盛大に壁が砕け、瓦礫に埋もれる紫野郎。
 
「俺を……舐めてんじゃねェよ」
 
 奴にさんざやられた腹は、もう既に塞がりかけている……痛くないワケじゃねェが。
 テメェが誰だか知らねェが、吸血鬼の再生力を舐めてんじゃねェぞ。
 
「俺を止めたけりゃ、俺を殺す事だな」
 
 吸血殲鬼と化した俺は、生半可な事じゃ死にはしない。
 そして、吸血鬼を滅ぼすルールといえば、心臓に杭だ。
 俺は心臓をやられない限りは死なない。
 もっとも、目の前のこいつがそれを知ってるかどうかは知らねェけどな。
 
 瓦礫の下、反応のない奴の方へと歩み寄っていく。
 油断なくレイジングブルの銃口を向けながら。

131 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 21:11

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>129 >>130
ダイビングエルボーが避けられ、地に落ちる。
「チッ―――――!」
 
舌打ちする心を0.2秒で封印。
ここで油断したら一気に押される。
王蛇が惣太に貫手を打ち込む。
吸血鬼の再生能力は並々ならない。
この事件にかかわって調べた文献には塵からでも再生する存在もいた。
惣太はその類ではないかもしれないがこの程度では死なない。
大丈夫だ。そう、今はまだ。
戦友を救わんと焦りと怒りにアギトは掛け声を掛けて回し蹴りを打ち込もうとする。
 
「ハッ!」
回転する合間を縫われ掌底を顔面に打ちこまれ、のけぞりながらバク転からの蹴りを撃つ。
同時に惣太の逆襲によって王蛇が壁へと投げられ瓦礫の山をつくりあげる。
また、耳鳴りを感じた。
アギトの感覚からも何かがこちらに来ようとしているのが感じられる。
「鏡からデカイ蛇が出る、気をつけて!」
先の遭遇より判断しそう警告する。
惣太の背後を護り、シャイニングカリバーを己も構える。
そして惣太がレイジングブルを構え、王蛇に迫ろうとした時複数の鏡が揺らいだ。
 
「蛇だけじゃ―――――ない!?」

132 名前:仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 21:12

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>130 >>131 
 
赤い方の蹴りが胸をぶち抜き、次瞬には黒っぽいのが俺を掴む。
あん? 貫手を突っ込んだ腹が塞がってやがる? 
一瞬それが視界に映り、そして次の瞬間景色がぐるぐる大回転。回る回るよ世界は回る。
振り回されて放り投げられて、しまいにゃ壁に叩き付けられた。壁が粉々になって俺をぶちのめす。
壁の破片に殴られまくる。背骨が肩甲骨が腹が胸が腕が足がどんちゃん騒ぎを起こす。
あげく俺の身体は瓦礫の中に埋もれてやがる。いしのなかにいる! ってわけだ。
 
瓦礫の闇の中で、声が聞こえる。
 
埋まってる俺に、黒っぽいのが何か言ってやがる。止めたきゃ殺せ、だとよ。
おいおい勘違いされちゃ困るぜハニー。俺はお前を殺したいけど止めたくはない。
わかってくれ、死んでも止まらないってのが理想なんだよ。確かに俺は本気でお前が憎い。
理由? そんなもの要らない。殺意と憎悪は産まれた時には根付いていた。
だからぶっ殺したい。だがただ殺したってつまらない。俺は戦いたい。
ってなわけで壁の奥で素直な心情を吐露してやる。
 
「止まってもらっちゃ困るな……もっとだ! もっと戦えよ……!」
 
そうだとも、もっと俺と戦え、戦えよ。
 
もっと俺のために動け、愉しい愉しい戦いを続けろ。
もっと俺のために進め、全身が血でベトベトに汚れるような戦いを続けろ。
もっと俺のために踊れ、ぐちゃぐちゃでゲロ吐きそうで気が狂いそうなほどに素敵な戦いを続けろ。
もっと俺を撃て、俺が他のヤツからもらえるのはそれだけだ。
もっと俺を斬れ、俺が他のヤツに求めているのもそれだけだ。
もっと俺を殴れ、俺が他のヤツと繋がる手段は、それだけしかない。
もっと俺の手で苦しめ、それが全てにイラつく俺に許された、たったひとつの快感。
もっと俺の手で痛がれ、それが全てにイラつく俺に許された、たったひとつのコミュニケーション。
もっと俺の憎悪を受けて涙を流せ。もっと俺の殺意を食らって血を流せ。
もっと俺に傷を付けろ。もっと俺に叩きのめされろ。もっと俺をぶちのめせ。
もっと俺に感じさせろ。もっと俺を壊せ。もっと俺の身体をバラバラにしろ。
もっと俺の前で泣き喚け。もっと俺に血反吐を吐かせろ。もっと俺に苦悶の表情を見せろ。
もっと俺の骨を砕け。もっと俺に肉を潰させろ。もっと俺に破壊させろ。もっと俺を殺せ。
もっと俺と戦え、もっと俺と戦え、もっと俺と戦え、もっと俺と戦え、もっと俺と戦え。
 
もっともっともっともっともっとだ!
 
「死んでも止まるな、俺が満足できるまではなァ!」

133 名前:仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 21:13

>>132 続き
俺は俺の上に乗っかっていた重っ苦しい瓦礫を叩き壊す。
闇の中から光の世界にこんにちは、ってとこか。電灯の光だがな。
黒いのと赤いのとに視線をやる。黒い方、やっぱりぶち抜いたはずの傷は消えてやがる。
杖を取り直し、ホラー映画のゾンビよろしく這い上がって、俺は言ってやる。
  
「フフゥン――――? お前みたいなのがいれば、食糧不足とか回避できるなァ……!
 食っても食ってもそんな風に戻ってくんだろ……? お前の体は……。
 いいぜちょうど腹が減ってるんだ……! 俺が試食してやる。食わせろよ……。
 何度でも食ってやる……。何度でも―――――逝かせてやるよ!」
 
自分のセリフが終わらない内にカードを杖に装填。2枚無理矢理押し込んでやる。
『アドベント』
 
機械音声とともに、そばの窓から犀の姿をした鋼鉄の塊が飛び出した。
爆走する重機関車にも匹敵する重量を持った犀と、ギロチンみたいな鰭を備えたエイ。
その2つが赤い方へと吶喊だァ。エイで首刎ねられてから犀にでも潰されろ。

黒い方までそいつらにに意識を取られる前に、俺はベノサーベルを拾いあげ、黒いのへと駆け出す。
なんで傷が消えてるのかわからんが、面白い相手なのだけは間違い無い。
 
黒い方の銃声が辺りの空気を砕く。唸りをあげたのは黒いヤツの銃。
おいおい、お前こそ銃なんざで俺を止める気デスカ? 無駄無駄。
空間の哭き声を聞きながら、俺はベノサーベルを振るう。銃弾と刃とがガギンガギンと激突。
歯軋りのような金属音。何度もその音を立てて、俺は重い弾丸をことごとく床に叩き落していく。
着弾の衝撃は腕に伝わり腹に伝わりあげく脳天までぶち抜く。あ、あと股間の辺りも。クヒヒ。
ヤバイねぇ。ボロボロの全身がビリビリしやがる。
  
だが当然俺は止まらない。あっという間に抱きしめてやれるくらいにヤツに近づく。
ぶんぶん風を撒き散らして、俺は剣でヤツを何度もぶちのめしてやる。
袈裟斬り逆袈裟突き袈裟突き突き横薙ぎ袈裟逆袈裟袈裟突き突き突きで唐竹割り。
 
だが、出鱈目に振りまわしてるンでちゃんと斬り裂く事はできず殴りまくってるようなもンだ。
その上ガタが来かけた身体を無理に動かしてるせいで全身が引き千切れそうで気持ち悪い。
全身が吐き気に包まれてるみたいだ。筋肉は悲鳴をあげて肺はゼハゼハ言ってやがる。
でもほら、血が飛び散り始めたし。肉もかな? 身体中が砕け散ろうがやめられるか。
剣の産む暴風に血と肉の粒が飛び散るのがすげぇ愉しくて、俺は知らず唄い始めていた。
 
「からだからだからだ〜……♪ からだ〜を〜……食べ〜る……とぉアっ!」
 
唄いながら俺は、黒っぽいのが付けてる金属の覆面に思いっきり突きをぶち込んでやる。
中身ごとそのお面を粉々にしてやるよ。顎バキ砕いて顔面はベトベト血のお化粧ってな。
ああ、さぞかし綺麗なツラになるだろうなァ!

134 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/02/05(水) 21:14

>>131 >>132 >>133 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
 全身にめったやたらと叩きつけられる打撃斬撃痛撃。
 肉まで抉られ、俺の周囲が朱い霧に包まれるほどだ。
 防戦一方、バケモノ二体に襲われている沢木のフォローに行く余裕もない。
 クソックソックソッ!
 
「クッ……あんまり調子に乗るんじゃねェ!」
 
 そうそう好き勝手やらせねェよ!
 マスク目掛けて振るわれた一撃へ、むしろ進んで突っ込んでいく。
 狂った距離感で叩き込まれた杖は、十分な威力を発揮せずにマスクの表面を叩いて滑った。
 俺は止まらない、そのまま紫野郎の腕をガイドにして前進。
 勢いを利してまずは頭突き一発。
 のけ反った紫野郎の喉元に、抜き放ったサド侯爵の愉悦を突き込んだ。
 
「俺を喰ったら食あたりどころか腹ン中からぶっ殺してやるよ!」

135 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 21:14

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>132 >>133 >>134
金属の光沢を持ったエイとサイ、空気を揺るがせながらエイが首を刎ねようとする。

「ハッ!」

アギトはエイの顔を掴み、上半身の力で自分を持ち上げエイの背に飛び乗る。
エイが振り落とそうとする際に尻尾を掴み天井へ叩きつけられるのをかろうじて防ぐ。
 
「惣太くん!そろそろ逆襲と行こうか!」
エイの背から飛び降り、エイから背を攻められないようにサイと組み合いながらそう叫ぶ。
 
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
アギトの力を結集し、サイことメタルゲラスの両腕を持ち上げ、迫ろうとしたエイへと投げつける!

136 名前:仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 21:15

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>134  >>135
 
頭突きで視界がぶれる。間髪入れず顎に迫るナイフ。腹の中から殺すだ?
 
「グァッ!? クハハァ―――――ッ……。そいつは愉しみだな……ウアアッ!?」
 
咄嗟に掌で刃を防ぐ。だが切っ先は止まらず俺の手を貫いた。先端が微かに顎を傷つける。
突きの衝撃は全く殺せず俺の脳を揺らす。俺の身体は大きく仰け反る。吐き気がする。
更にメタルゲラスがこっちに放り投げられるのを、不安定な俺の視界が捉えた。
 
「気に入らなかったか? だが返品は効かないぜ……?」
 
殴られた衝撃を利用し、俺は大きく後方へと跳躍する。
背中で窓ガラスを叩き割り、外へと飛び出す。着地と同時に、足元にメタルゲラスが落下。軽く地面が揺れる。
まだ気分は悪い。吐き気を無理矢理押し殺して、穴の穿たれた手でカードを抜く。
 
「もっとデカイのをくれてやるよ……お前らにはな」
 
掌から流れる血が、カードをつたって一筋零れ落ちた。気にせず、杖へと装填する。
 
『ユナイトベント』
 
機械音声が紫の蛇、鋼の犀、赤いエイの3体を同時に俺の傍まで引き寄せ、その3匹を閃光に包む。
閃光がモンスターどもを融合させる。鉄甲を纏った邪悪な巨龍、獣帝ジェノサイダーへと。
 
ジェノサイダーは大きく咆哮。その咆哮が大気をびりびりと振るわせる。
俺は杖を軽く振る。それに応じて、獣帝は再び咆哮。
全てを焼き尽くすブレスを、ヤツら目掛けて吐き出した。

137 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/02/05(水) 21:16

>>135 >>136 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
 あァもうおまえらが理屈抜きに馬鹿馬鹿しいのは分かったからちったぁ俺の事も考えやがれ!
 何だ何だ何なんだこのバカでかい鉄のバケモノは!?
 三体が一見出鱈目に、しかし奇妙に整合の取れた一つのバケモノへと変貌している。
 ちょっと不格好なドラゴンってなところか?
 
 ってな感想はどうでもいい!
 ドラゴンの口から吐き出された火球を両腕交差でブロック、俺の腕で炎が爆発。
 爆風に吹き嬲られて派手に吹っ飛び、地面を転がる。
 転がって転がって壁に全身を強く打ち付ける、痛みが全身を駆けめぐって俺をのたうち回らせる。
 こいつは、ちょっとばかりハードだな……。
 
 覚束ない足取りで立ち上がり、バケモノと紫野郎の方を見る。
 悠然とそこにある二つ、俺がこんなになってるってのに気に入らねェ……。
 
 
 ――――頭の中で、何かの音が弾けた。
 
 
 世界が疼く、痛みが殺意へと転化されていく、脳が拗くれて視界が歪む。
 視界に映るモノは朱く、そして狭まって排除されていく。
 何もかもが狭窄されていき、あるのは俺と二つ。
 俺を塗り込めていくのは渇きの朱、どす黒い塊。
 凝り固まった殺意が、衝動と化して俺の胸の裡で膨張していく。
 何処までも膨張していくかと思われた刹那、衝動が弾けて俺を突き動かす、ただまっすぐに。
 
 マスクの下からくぐもった意味不明の叫びを漏らしながら唯走る。
 紫に殺意を全て叩きつける為に、ブチ殺す為に、血を飲み干して肉片に変えてやる為に、武器も持たず。
 奴はこの爪で微塵に引き裂いてやる!

138 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 21:16

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>136 >>137
三つのケモノが魔竜となる。
魔竜が稲妻を口中から発し、火球が次々に弾ける。
 
腕で、体で次々に防御するもじわじわと削れて行く。
焦りと熱さ。
 
「まだだ!まだ終わらないッ!」
一歩、一歩と大地を踏みしめ、前へ進む。
 
熱い。脳が焼け落ちそうに熱い。
 
だが、歩は止まらない。
ここで止まるわけには行かない。
 
『世界』が軋んだ。
目がくらむような殺意が脇から出でる。
 
「惣太くん……ッ?!」
吸血鬼化が進行し、衝動のままに動く状態が見られた。
このままでは惣太も、王蛇すら残らないまま全員が果ててしまう。
 
シャイニングカリバーを構え、アギトは惣太より更に前に出る。
「惣太くん、ゴメン。デカイ方は……おれがやる!」
空気をパワーのみで蹴散らして前へ進む。
上半身のバネを最大限に活かしての槍の突撃。

王蛇に挟まれる危険性もあるが、
広範囲攻撃を得意とする魔竜を討たなければこの窮地は脱せられない。
そう信じてアギトは進む。
  
「惣太くん、後は……任せた!」
 
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
シャイニングカリバーを構え、ドリルのように突撃する。

139 名前:仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 21:17

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>137 >>138
 
黒いヤツが駆ける。こちらへと爪を振るう。
ぞぐり。いやな音が耳を刺す。
 
「がはァッ!?」
 
激痛。咆哮。鉤爪が鎧を抉り肺まで貫く。血を吐く。
顔半分を熱い液体が覆う。思い通りにならない呼吸。酸素まで血の味がする。
赤く煮え滾る脳髄。赤くざらつくノイズ。吐き気で意識は赤く歪む。憎悪で世界が赤く染まる。
誰のせいでこんなことになってる?
 
「お前か……そうかお前か! お前かァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
 
再度咆哮。ヤツを蹴り飛ばし鉤爪を引き剥がす。突き立ったままの爪がかさぶたのように剥がれる。
バリベリ。ヤツの指から噴き出す血の礫が顔を叩く。視界をさらに赤く染める。
胸を掻き毟る。だが肺を抉る爪は抜けない。痛い。イライラする。
 
だから俺は、憎悪を回し蹴りに変えて叩き込んでやる。
ヤツの胸元を卵でも砕くように蹴り破る。胸と服を破って肋骨の破片が飛び出す。
仰け反りながらも、ヤツは更に爪を振るってくる。俺は避けるために跳躍。その頭上を飛び越える。
俺とジェノサイダーとで、ヤツを挟み込むような態勢を取る。
 
ジェノサイダーにクワガタ野郎が突っ込んで行く。ああ、邪魔なんだよお前は。
獣帝が腕を思いっ切り振るう。クワガタ野郎を吹き飛ばし、視界から追い出す。
今は目の前のヤツだ。ヤツを消す。
 
「ウザくなってきた……完全に……消えろ!」
『ファイナルベント』
 
言葉と共に振り向き、カードを装填。機械音声。
それに応じてジェノサイダーの腹部がバリバリと裂け、暗黒のクレバスを晒す。
純粋なまでの虚無と飢えを湛えたブラックホールが、そこにはあった。
その虚無を、飢えを満たすために、その深淵があらゆる物を吸い込もうとする。
 
目の前のお前も、だ。
 
「ハァッ!」
 
構えを取り、地を蹴り、身を捻り―――――
 
「でぃやぁ!」
 
ブラックホールで消し飛ばすため、錐揉みを加えた飛び蹴りを、黒いヤツへと叩き込む。

140 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/02/05(水) 21:18

>>138 >>139 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
「ハ、ハハ……」
 
 おかしい、おかしくてたまらない。
 世界はこんなに複雑怪奇で理不尽に俺へと降りかかる。
 金属のバケモノが開き……ブラックホール?
 非常識に対して麻痺した心は、それを見て嗤う。
 
「ハハハハハ……」
 
 俺をブラックホールに蹴り込もうとする紫野郎の跳び蹴りへ、真正面から立ち向かう。
 上等だよ……逃げも隠れもしねェ。
 真っ正面から叩き潰してやる!
 
「ハハハハハハハハ!」
 
 嗤いながら、じっと一点を凝視する。
 そう、狙うはさっきからカードを取り出しているベルトのバックルだ。
 何が何だか分からないが、アレが全ての元凶には違いない。
 アレさえ壊してしまえば奴は無力になる、はずだ。
 
 剥がれた爪は既に再生を果たしていた。
 武器を構えている余裕などない、この腕一つあれば足りる。
 ギリ、と指を、腕をたわめ、全身を捻って力を溜めて、溜めて、溜めて……迫る紫野郎に向けて解放。
 地面を踏みしめた足から腰へ、腰から肩、肩から腕へと蓄えられた力が余すことなく伝えられる。
 螺旋を描く力が、腕から放出される。
 完璧なフォームから繰り出された一撃が、紫野郎のベルトバックルに吸い込まれ……。
 
 爪が奴のバックルへ叩きつけられ、蹴りが俺の胸板を捉えた。
 バックルがピシリと言う崩壊の音を響かせながらひび割れていく。
 間違いない、手応えはあった、バックルは程なくぶっ壊れるはずだ、だが……。
 俺も蹴りを喰らい、肋骨が数本へし折れ――ブラックホールへと為す術なく吹っ飛ばされていく。
 拙い、という思考がチラと頭を掠めたがどうにもならない。
 奴を黙らせる為に全力を尽くした代償がコレか――このままでは……!

141 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 21:19

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
>>139 >>140
灼熱の力を持って狂竜へ歩を進める。
稲光がアギトを次々に打ち据える。
竜の腹に虚無の門が開いた時、アギトの思考がクリアーになる。
アギトの感覚を司るクロスホーンから周囲の情報が伝わってくる。
そう、為すべき事はただ一つ。
 
「……惣太くん、悪い」
 
轟音と共に蹴り込まれてきた惣太の身体を抱きとめる。
吸血鬼の肉体であろうとも、ただ受け止めただけならこの衝撃は致命的。
故に、アギトは自らの身体へそっくり衝撃を奪い取ると惣太を狂竜の門の脇へと押しやるように投げる。
 
「……あの時と、似てるかな……?」
 
そうつぶやきながらエネルギー保存量の法則に従い、惣太から奪い取った運動エネルギーを糧に自ら狂竜の門へと飛び込む。
 
「そう、あの時と同じくおれの答えは決まっている」
 
超高圧の重力がアギトの肉体を、
先んじて持っていたシャイニングカリバーを引き裂き始め、全ては光に変わろうとしていた。
 
「おれは……」
仮面の奥でアギトは目を閉じる。
諦観ではなく、生き抜くための覚悟を誓うために。
 
「おれは…生きる!」
シャイニングカリバーが耐え切れず、重力崩壊による発光の瞬間、
アギトは真の光となった。
 
おおおおおおおッッッ!!
 
虚無への門が閉じようとした時狂竜が悶え、苦しむ。
 
エイの翼が大きく膨れ上がり、狂竜の装甲が花のように開く。
銀の光を帯びたアギトが現れ、大きく息をつく。
「はーーーーー…」
アギトは光の姿、シャイニングフォームとなり狂竜の門をこじ開けたのだ。
 
「これで…、終わりだ…!」
アギトはそのまま床を走り、更なる光となる。
飛び上がり、アギトの紋章の光が狂竜にかざされる。
狂竜に止めをささんとシャイニングライダーキックを放った。

142 名前:仮面ライダー王蛇 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 21:20

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>140 >>141
 
俺は倒れる。次の瞬間鏡が砕け散るような音。耳に刺さる。ああ、イライラする。
 
ジェノサイダーのヤツは白くなったクワガタの、閃光のような蹴りに消し飛ばされた。
俺はあの黒い吸血鬼野郎にキツイ一撃をもらっちまった。
そして腰のカードデッキには罅が入っている。蜘蛛の巣状の罅がパキパキと広がる。
すぐに蜘蛛の巣はデッキを覆い尽くす。そして、ぱりんってわけだ。
 
鏡の割れるような音と共に、俺のデッキとライダーの装甲とが、あっさり砕け散る。
戦う力が失われる。胸には犬の墓標の割り箸みたいに剥がれた爪が突き刺さってやがる。
視界の半分が赤い。胸元も赤い。顔半分と胸元とを、べったりと染める赤い血。
息が出来ない。体が重い。全身が痛い。だがそれでも足りない。まだまだ戦い足りない。
 
「足りないんだよこれじゃあ! もっと戦えェェェェェ!!」
 
俺は大きく咆哮。ガタが来た身体を無理矢理に引き起こす。赤く染まった俺の視界。
その視界の中に、俺は確かにあの吸血鬼を捉えた。
胸元に突き刺さったヤツ自身の爪を引き抜く。変身が解けたおかげで逆に簡単に抜ける。
血の奔流が帯になって、ビールみたいに零れ出す。血が肺にも染み込む。
 
もう1つ大きく咆哮。血が喉にまで登って来てガボガボと自分の血でうがいをする羽目になる。
苦しい。だがそんなものどうでもいい。戦いを続けられればそれでいい。
俺は吸血鬼の爪を指に挟み、吸血鬼へと駆け出す。声にもならない叫びとともに。
お前の爪でお前自身を殺してやるよ!
ただ殺意だけを抱いて、俺は吸血鬼野郎へと殴りかかろうと―――――
 
することも、できなかった。

143 名前:浅倉威 ◆VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 21:20

>>142
 
渾身の力を篭めたはずの拳は、葉っぱでも吹き付けたみたいにしかならなかった。
逆に吸血鬼野郎に懐に潜り込まれる。吸血鬼が爪を振るう。腕が消え、風になったようにも見えた。
バリバリと、ガキがクリスマスプレゼントの包みを破るような音がする。
それが自分の皮膚が引き裂かれる音だっていうんだから、これ程微笑ましい光景もない。
喉の奥をくつくつと鳴らして、俺は嗤い始める。
 
吸血鬼はとうとう牙まで剥き出しにして、俺の首筋にそいつを近づけてくる。
ああ、来る、来る、来る、来る……キタ―――――――――――――――!!
メインディッシュの時間か。俺の喉を見事に抉ってるなぁ、頚動脈の歯応えはどうだ?
 
鉤爪は、腹に食い込んでいる。
牙は、喉元に食い込んでいる。
 
爪は俺の腸をズタズタに切り裂いて肝臓を抉りグチャグチャにして掻き回してシェイク。
牙は頚動脈を貫きドロドロの血を啜り俺の命も啜られて目の前が真っ白にスパーク。
イタイ激痛鋭痛鈍痛頭痛腹痛疼痛イタイ本気でイタイありとあらゆる痛みがミックス。
感じたこともないような痛みという形でお前は死ぬのだと俺の脳髄が全力で警告。
俺は死ぬ。
 
「俺は―――――死ぬのか? 死ぬのか俺は?」
 
泡だった口腔の奥から、何故かその言葉ははっきりと発音された。
自分の言葉を聞いて、死の確信が恐怖に転換。狂気と融合。脳内麻薬がその感情を反転。
もう死ぬだけの俺から、苦痛はすっかり消えた。快感だけが俺の全身を襲い、犯し、陵辱する。
そして目の前のお前。そうだお前だ。俺を散々イラつかせた吸血鬼野郎。
 
俺が、お前も陵辱してやる。
 
俺は嗤う。ひたすら嗤う。ただただ嗤う。
喉ももう限界を弁えず、ヤツの鼓膜を突き破ってやると言わんばかりに嗤って嗤って嗤いまくる。
 
ひとしきり嗤い、俺は自分の歯を剥き、がぁ、と掠れた声で吼える。
お返しだ、そう言いたかったが声には出ない。
そして俺は、自分の歯を、目の前の吸血鬼の首筋に突きたててやる。がぶり、とな。
 
完全にぶっ壊れてバカみたいな俺の口筋力が、ヤツの首の肉を、ぞぐり、と略奪した。
ヤツは噛まれてうめきながらも、俺に牙を突き立てて血を吸ってやがる。ハァ、滑稽だな。
ヤツのどろりとした粘質の血を嚥下し、肉をガムみたいにくちゃくちゃと咀嚼。
しかし飲み込み切れずに、結局は吐き出す羽目になった。
 
反吐と俺の血とヤツの血と俺の生きるよすがですらあったイライラと。
それら全てを、俺は酸っぱい不気味なぶよぶよの塊として嘔吐した。
 
そこまでやって、やっと俺は、イライラから解放された。
頭が今までにないほどスッキリして、安らかで、あとはただ、眠りたい。
あとは幸せな眠りが待っているだけだろう。
 
死ぬ間際の幻覚? 知ったことか、幻でも夢でもいい。
俺は今―――――はじめて幸せだ。
さぁ、眠ろう。身を横たえて。

144 名前:VQma5tOUJA:2003/02/05(水) 21:21

>>143 
 
 
 
 
そして、浅倉威の意識は深淵の闇へと、飲み込まれた。
  
  
  
  
  
(浅倉威・死亡)

145 名前:ヴェドゴニア ◆amVJEDOGOs:2003/02/05(水) 21:22

>>141 >>142 >>143 >>144 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
 
 ……どうやら、終わったらしい。
 あれだけしぶとかった紫野郎も、その装甲がなくなれば脆いモノだ。
 血を啜ってすっかり人間に戻った俺は、眼下のボロキレを見下ろす。
 人間ってのはこんなにもズダボロになれるモンなのか、と思わせるほどに破壊し尽くされた死体。
 いや、やったのが吸血殲鬼の俺だからか。
 
 全身血塗れ、吐瀉物塗れ、気持ち悪ィ……。
 凄絶な異臭と惨状に塗り込められた光景は、その下に当たり前の現実を、常識を隠している様に見える。
 コレが、おまえの生きる世界だ、と何かが俺に囁きかけるように。
 ――人間に戻りたい俺を嘲笑うように。
 
 グラリ、と視界が揺れる。
 何故……ダメージは人間に戻った時に消えたはずだ。
 あァ、そうか、こんなにもバカげた世界で戦い続けた心が悲鳴を上げてるのか。
 堪えきれずに尻餅をつく、そのまま大の字に横たわる。
 バシャリと、血の海に倒れ込んだ音がした。
 思わず苦笑いが漏れる、横たわっただけでコレかよ。
 
 眠りたい、何も考えずに眠りたい……。
 血溜まりの中で、それだけを願って目を閉じる。
 
「沢木……悪ィが後は頼んだ」
 
 そう沢木に言い残して、俺は深い深い眠りについた――――。

146 名前:仮面ライダーアギト ◆SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 21:23

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトVS仮面ライダー王蛇
>>142 >>143 >>144 >>145
吐瀉物、肉塊、粉砕された床。
ぶち抜かれた壁。
 
折り重なって倒れる二人の男。
 
真っ赤に染まった通路の中、アギトは一人立ち尽くす。
 
吸血鬼に血を吸われた者は吸血鬼となる。
 
目の前の男は確かに死んだ。
だが、蘇るかもしれない。
アギトは、危険だからという理由ではなく。
もう、この男を眠らせてやりたいと思う。
 
「いつか、行くよ。……ゴメン」
 
手刀を構え静かに、
速やかにアギトは名も知れぬ男の心臓へと滑り込ませた。
 
体温を失い冷たく、硬直し始めた感触がアギトの手に返る。
自らの行いを知り、決意を込めて握りつぶす。
 
吸血鬼に備わるV酵素が活動し始めていたらしく、
男、いや警察のファイルで見たことがあった浅倉威の体は徐々に灰と化していった。
 
「こういうことすら、忘れて行っちゃうんだね……」
 
そして、携帯無線に連絡が入る。
沢木は伝えられた事に驚愕する。
「え。モーラちゃんがさらわれた!?
 貴女は誰ですか!。
 こ、英国国教騎士団って、なんで……」
 
見知らぬ女性の声。
「貴女もヴェドゴニア!?
 え?ヴァチカンの部隊がこっちに来る!?。
 ……詳しい話を聞かせてください。
 すぐ行きますんで」
  
モーラの誘拐事件。モーラの兄が重傷を負っている事。。
わざわざ日本までやってきた英国国教騎士団の存在。
友を守る為、彼女を救う為。
沢木哲也は伊藤惣太を抱え、連絡を入れた女性の下へと合流しようとしていった…。
 
 
A   Ω
 
  
   
Ω   A

147 名前:SNAGITOv0E:2003/02/05(水) 21:30

ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトvs仮面ライダー王蛇
闘争レス番纏め。 

>107>108>109>110>111>112>113>114>115>117>118>119>120
>121>122>123>125>126>127>128>129>130>131>132>133>134
>135>136>137>138>139>140>141>142>143>144>145>146
 
次回予告:
「貴方が、ヴァチカンの……?」
沢木哲也は問う。吸血鬼を撃ち滅ぼす機関の少女に。
 
「友達を守るのは当たり前じゃないですか」
最強の盾として言う。
 
「ダメだ!全員で生きて帰る。これでなきゃあの不死の王になんて絶対に勝てない!」
叫ぶ。
 
ただ、生を信じて。

148 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/05(水) 22:03

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>124

浅い?
否。
反応出来る余地を残しておいただけだ。

「・・・案外、人が良いのね?」

回転は止まらない。
むしろ、その勢いを増して。
突き込まれる切っ先を右の鉤爪が跳ね上げた。

「でも、わたし達のようなモノのする事を額面通りに受け取らない方が身の為よ」

左――切り落とした筈の左手。
遠心力を上乗せした力で弾いた大剣を尻目に、貫手となってミカエルの顔面に――

「気を、つけてね?」

色が、変わり。
左手が文字通り、『伸びた』。
黒く、冷たい鋼の色を湛え、刃そのものと化して。

149 名前:遠野秋葉 ◆xkLa2AKIHA:2003/02/05(水) 23:47

>>90 ラジオ番組を持っていいと話が来ました。どんな番組を?
ラジオ?
生憎、私はラジオは聞きませんので………
正直、どういう風に運営すればいいか、分りかねます。
 
――――――?
蒼香と羽居、何故、此処に?
え、ちょ、ちょっと―――――――――――
(羽ぴんのミラクルハンマーが後頭部に直撃)
 
⊂⌒〜⊃。Д。)⊃ …………

150 名前:月姫蒼香&三澤羽居:2003/02/05(水) 23:48

羽居「はいは〜い、今夜も来ました、蒼ちゃんとわたし、三澤羽居の何でもお悩み相談室〜!」
蒼香「今夜『も』って、今夜が最初だろう、羽居?」
羽居「うん、そういう言い方もあるよね」
蒼香「やれやれ………」
羽居「えへへ、わたし、いつも、秋葉ちゃんばかり、ちょっとずるいと思ってたんだ」
蒼香「いや、こんな殺伐時空にあたし達の出番なんかそれこそ絶無だと思うが………」
羽居「大丈夫、蒼ちゃんと『人呼んで、浅女のセブンフォース』のわたしのコンビはむてきだよ、うん」
蒼香「………ま、グチグチ、言っても仕方ないか。どの道、賽は投げられんたんだ」
羽居「それじゃ、蒼ちゃんと羽居の何でもお悩み相談室をはじめるよ〜」
 
蒼香「じゃ、>>90からだね。ま、答えはもう見ての通りだが………」
羽居「秋葉ちゃん、何だかんだいって、目立ちたがり屋さんだからね〜」
蒼香「まあ、あたし達も出番が欲しくないと言えば、そりゃ嘘になるが………」
羽居「蒼ちゃん、蒼ちゃん、知ってた?」
蒼香「ん、何だい? 又、どうせ、しょうもないことだろうが」
羽居「うーん、『歌月十夜』と『MELTYBLOOD』はパラレルワールドなんだよ」
蒼香「……つまり、どちらも同じ夏の出来事でどちらか一方しか選べないって訳かい?」
羽居「そういうことだね、蒼ちゃん。『MELTYBLOOD』の世界じゃ、わたしたちに出番は無いんだよ」
蒼香「ふむ、又、あの菌糸類(*原作者)は珍妙な事をするもんだねえ」
羽居「だから、蒼ちゃん、此処らでアピールしとかないとわたしたち、忘れられちゃうかもしれないんだよ」
蒼香「ああ、道理で羽居、お前さんは最近、巾着やミラクルハンマーの手入れを欠かさないのか」
羽居「そうそう、もう、わたしの巾着は某猫型ロボットさん顔負けの五次元ポケットなんだよ」
蒼香「――――つまり、何か? おまえさん、殺る気満々ってことかい?」
羽居「どうだろうね、蒼ちゃん? それこそ、神の味噌汁だよ」
蒼香「……みぞ知る、だ」

151 名前:月姫蒼香&三澤羽居:2003/02/06(木) 00:10

>>91 21世紀の吸血大殲は?
羽居「うーん、それが大変革が起きるんだよ、21世紀の吸血大殲は………」
蒼香「(どうも嫌な予感が……)で、どういう変革だい?」
羽居「うーんとね、王立国教騎士団、埋葬機関、Ax、イノヴェルチ、死徒27祖等の組織がね……」
蒼香「これらの組織が?」
羽居「大不況の煽りを喰らって、倒産寸前なんだよ、蒼ちゃん」
蒼香「そんな馬鹿な――――――!?」
羽居「それでね、これらの組織の人達が毎回ランダムで決まる目的地を目指していくの。サイコロ、振ってね」
蒼香「待て、それは――――――」
羽居「中々、目的地にたどり着けないんだよね、ピッタリの数字が出ないから………」
蒼香「いや、そりゃ、確かに出ないが―――――」
羽居「冬にマイナスの駅に止まるのはダメだし、スリの銀二さんにも気をつけないとね」
蒼香「……………」
羽居「物件を買い占め方もコツがあるんだよね〜」
蒼香「……あたしは農林関係を手堅く買い占めるタイプだが」
羽居「という訳で200X年○月△日に発売の『吸血大殲〜the twenty-first century〜』は全編 フルポリゴンで発売だよ、宜しくね〜」
蒼香「(あたしは何てツッコめばいいんだ?)」

152 名前:名無し客:2003/02/06(木) 13:02

自分の理想の家を作れるとしたら、どんな家にしたいですか?
土地の広さは自由、資金も無尽蔵にあるものとします。

153 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/06(木) 20:04

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>148

 蹴り上げられると同時、ミカエルは大剣を握る手を離した。
 宙を舞う大剣には目もくれず、流れるように中腰の姿勢へと移る。
 右前、残るもう一振りの短剣は腰に提げたまま、柄に手を沿える。動の前の静止―――抜刀の前動作。
 
「教えてやるよ―――――」

 モリガンの左手が貌へと突き出されたときには、既に行動に移っていた。
 流水の如く擦れ違い、斬る。
 右腕は残像すら残さず。過ぎ去りし後に風が悲鳴をあげ、己が身を無数に切り刻む刃の存在を知らせる。

「これが悪魔狩りだ」

154 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/06(木) 22:26

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>153

吹き抜ける、冷えた。
冷えた、風。

「――――――・・・」

右の首筋から入った刃は第4、第5頚骨の間を通って左へ抜け
翻って左上腕骨を斜めに断ち切りつつ腹腔を斜めに切り裂き再
び向きを変えて左右の大腿骨を諸共に輪切りにし左第12肋骨
から第7胸椎を押し切って右第1肋骨及び鎖骨を両断した。

「あ――――――――」

その声。
それが引き金になって。
身体の至る所に浮き上がっていた真紅の輪が。

ずれた。

両足が、左腕が、斜めに切断された上体が。
首が。
バラバラと床に落ちた。



「よいしょっ、と。・・・『わたし』を殺した気分はどう?」

床に転がったモノと同じ顔。

「『殺す』って行為は、肉体だけじゃなくて命まで蹂躙する。
 『殺される』って行為は、肉体だけじゃなくて命まで蹂躙されている。
 そう思わないかしら? そして・・・どちらも酷く興奮する」

バラバラになった筈のモノと同じ声。

「愉しいわ、本当。来て正解だった」

拾い上げた大剣――ミカエルの物、を月に翳す。

「コレ、わたしが貰っても良いかしら? 安心して、じゃじゃ馬を乗りこなすのは得意なのよ」

ドレスが波立つ。
蠢く。
その刹那、わたしは何時もの姿に戻っていた。

155 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 22:47

 これから語るのは、ほんのちっぽけな話。 
 ある青年の生きる道すがら。醜く曇る、汚れた生き物。 
 
 人よ。 
 人よ。 
 
 どうか、俺を見ないでください。 
 どうか、俺の生き様を見ないでください。 
 どうか、気に留めずに見過ごしてください。 
 
 どうかどうか、人よ。 
 お願いします。 

156 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 22:48

>155 の続き。  
 
 その青年は、溜息を吐きながら立ち尽くしていた。 
 冬も半ば、寒さの山を迎えた頃のこと。 
 大型のディスカウントストアが出来たと聞いて、足を向けたのは偶然だった。 
 動植物に家具と雑貨、電化製品と……気付いたら登山用具が並ぶ一角。 
 ショーウィンドゥに陳列される、大小様々なナイフの前だった。 
 はぁ、高いものだな。 
 青年は気も無く眺める。どれも買えたものじゃない。 
 
 ――なら、どうやって手に入れる? 
 
 ふいに後頭部が引っ張られる感覚。 
 頭だけでなく、大脳まで引きずり出される錯覚。 
 襲われ、青年は目眩を感じた。 
 なんだ、これは? 
 
 ――ならどうやって、力を得る? 
 
 ひ、人目はないからガラスさえ割れれば…… 
 思わず辺りを見渡す。確かに、誰もいない。 
 開店セールから離れたここには、店員の目すらなかった。 
 手にハンマーを握る。 
 振りかぶる。 
 叩き付ける。 
 小さな音。強化ガラス? ヒビが奔りぱらぱらと崩れる。 
 
 ――得ろ、おまえにはそれが必要だ。 
 
 手を伸ばし、一番刃渡りの長いナイフを手に取った。 
 ジャケットの内に忍ばせ、店を後にした。 
 開店の祭りは、ちっぽけな窃盗者を見逃してなお盛大に広がりを見せた。 
 
「……俺、何をやってるんだ?」 
 
 走る。 
 恐ろしくなって、走る。 
 
「なんで、なんで俺盗みなんてしてるんだよ!」 
 
 人混みを斬るように足が利かなくなるまで、走る走る走る。 
 街を縦に割り、道を駆け上り、何処までも何処までも遠くへ。 
 
「――なんで……俺、は…………?」 
 
 肺に残った息を絞り出し、青年は潰れた。 
 両肩を落とし膝を地に着け、嘔吐感を顕わに体を震わせる。 
 立ち上がろうとしても力が入らず、寒空の元しばし身を屈め続けた。 
 顔を上げる。 
 いつの間にか落ちきった日は空を真黒に煎り上げて、夜の星空を作り上げた。 
 それを見上げ、青年は気付く。隠れるように建つ、一軒の教会に。 
 
「入、れ? ここに何の用が……」 
 
 導かれるように、誘われるように、青年は扉をそっと押し込んだ。 

157 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 22:49

>156 の続き。  
 
 そして、青年は咎を負う。(http://members.tripod.co.jp/tadao_y/tousou_box/other01.html ) 
 青年は老人を侮蔑した。 
 青年は魔を恐れた。 
 青年は老人の死を、喜んだ。 
 青年は――殺した。 
 魔を、老神父を。 
 殺してしまった。 
 もう戻れない。 
 
「俺は――」 
 
 天を仰ぐ。 
 左肩は痛くて、空は重くて、世は何処までも平和で。何処までも気に障って。 
 
「どう、すりゃ良いんだよ……」 
 
 呟きは雑踏に飲まれて、消えていった。 

158 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 22:50

>157 の続き。 
 
 人よ。 
 人よ。 
 これが俺の罪です。 
 これが俺の願いです。 
 これが俺の生き様です。 
 
 今一度願います。 
 人よ。 
 どうか、俺を見ないでください。 
 
 それでも見るというなら、人よ。 
 ここに今一度、物語を語りましょう。 
 哀れで愚かで蛆にも劣る俺の姿を。 
 
 そして、どうか人よ。 
 あなたは俺にならないでください。 

159 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 22:51

>155>156>157>158 
 
 或るクルースニク 対 前園日出子 導入 
 
 午前一時三〇分。 
 見上げた時計はそう指し示し、小さく音を立てた。 
 空は嘆きの様に曇り、重く冷たい雨粒を降らし続ける。 
 いつもならば酔っぱらいやホームレスが少なからず居るこの公園も、 
 今日ばかりは死んだように静まり返っていた。 
 静寂。 
 聞こえるのは古びた時計が時を刻む音と、ざああざああと降る雨音だけ。 
 ざああざああ。 
 直接耳に当たる雨粒は脳の髄まで冒して、冷たさと寂しさを塗り込んだ。 
 
「寒い、な」 
 
 肩を抱く。 
 砕けた肩はずきりと痛んだけれど、それも馴れてきた。 
 けれど今度は動きが鈍くなってきて、ああ不随になるな、と本能的が教えてくれた。 
 もう左腕は使えない。 
 もう行くあてもない。 
 もう生きる事も叶わない。 
 
 死ぬのか? 
 そう考えると悔しいと思う気持ちと安心する気持ちがいっぺんに起こって、 
 俺の心をごちゃぐちゃに掻き混ぜた。 
 どうしたい? 
 どうすればいい? 
 俺は、何の為にここにいる? 
 
 わからなかった。 
 もう、何一つわからなかった。 
 考えるのも億劫で、身体は寒くて、雨はざああざああと降り続いて、 
 何の為に生きるとか何の為に死ぬとか、どうでも良かった。 
 逃げたい。 
 この苦しみから、この苦難から、この苦悩から。 
 総てを放り出して逃げたい。 
 雨に打たれながら、俺は、そればかりを願っていた。 
 
 ああ、総てよ。 
 俺の夢の中であれ。 
 
 ざああ。 
 ざああ。 
 午前一時四八分。 
 雨降る公園で青年は、身を小さくして朝を待っていた。 
 妄想と眠りが果てる朝を。 
 運命が夢と消える朝を。

160 名前:前園日出子 ◆aIMPDwdopM:2003/02/06(木) 22:54

或るクルースニクvs前園日出子
>>159
 
「間違いないっすね。このアンちゃん、ちょっと前からここらにたむろってますわ」
 
 私が指で挟んで見せた写真に対し、その中年の浮浪者は自信ありげに頷いた。
 写真をスーツの内ポケットに仕舞う。
 代わりに出した千円札数枚は、雨粒が濡らす前に男の垢じみた手へと移った。
 黒ずんだ服に夏目漱石を押し込み、男は何度もお辞儀しながら、しのつく雨の何処かに去った。
 差した傘の向うに広がる、淀んだ水底のような世界を眺める。直ぐに止した。
 浮浪者と入れ替わるように、私は人気の無い公園の中へ歩き出した。
 
 寂れた教会での神父殺し。
 センセーショナルと云えばそうだし、昨今じゃよくあると切って捨てれば、それはそう。
 少なくとも今の所、ワイドショーに続報の出ない日が無い事だけは確かだ。
 で、連日コメンテーターがしたり顔で批判するまでもなく、所轄署の一係は仕事を全うしていた。
 短期間でマルヒ(被疑者)のヤサヅケ(住居の特定)に粗方成功したのだから。
 尤もこのマルヒ、事後の足取りが割と明白なのだけど。
 後は彼が任意同行に応じれば良し、さもなければキンタイ(緊急逮捕)して万事解決。
 
 ――に、なる所に横槍を入れたのが私だった訳だ。

161 名前:前園日出子 ◆aIMPDwdopM:2003/02/06(木) 22:56

>>160 の続き。
 
 所轄の担当はさぞかし腹に据えかねているだろう。
 事実、物凄く婉曲かつ韜晦した物云いを正確に翻訳するならば、連中が私に語った内容は
『人のシマを良い様に掻き回した挙句、手柄だけ攫って行く公安は恥を知れ。第一男の職場に
女が入るな、すっこめ帰れ』……というものだったから。
 何時もの事だし、マルエム相手の私達にそんな罵声を斟酌している暇は無い。
 
 マルエム。“マゴーラカ神教”の頭文字であり、同組織を構成する吸血鬼――夜刀の神の事だ。
 癌細胞の速さと悪辣さを以って、奴らは東京中に転移し、夜を侵食しつつある。
 それを逐一狩り立てて行くのが私達、警視庁公安部マゴーラカ神教対策課の仕事だ。
 
 ではあるが――このヤマが夜刀の神絡みとは到底思えない。
 確かに神父殺害の手口は残忍極まる。だが猟奇殺人なんて今や日常茶飯事、吸血鬼の専売特許
という訳でもない。
 ならば何故、と訊かれると――それを一番知りたいのは私だ。
 
 左手が軋んだ。
 歩きながらつい、下げた細長い布袋に力を入れ過ぎたようだ。力を緩めた。
 あの殺害現場を見た時に直感したから、が理由か。曖昧すぎて自分でも嫌になる。
 先の神父殺害を一人で為した――か如何かは判らない。
 しかしあの場にいて、そこから去って、今この公園の何処かにいる奴は。
 
 この私とは絶対に相容れない存在だ。

162 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:00

>160>161 対 前園日出子 
 
 騒々しさに目を開ける。 
 違う、煩いのは俺だ。歯の根が合わず震えている。 
 ガチガチ、ガチガチ。 
 骨を伝わる重み、目の前を食い尽くす闇、ジクジクと痛む後頭部。 
 感覚の消えた左肩、蒼く染まる指先、白く白く染まる息。 
 越せない、かな。 
 なんとなく思った。 
 身を起こす。頭を持ち上げる。 
 頭上の時計が指し示たのは、午前二時二二分。 
 キリが良いぞろ目が、何より不吉だった。 
 
 夜明けまであと、四時間。 
 たった四時間、けれど四時間。 
 生と死とを分けるちっぽけなラインだった。 
 それに今、俺は差し掛かっている。既に越えたかも知れない。 
 頭の中心が空洞になる。 
 思考がそこに流れ込んで、奈落へと落ちる。 
 感情だけが穴から這い出て、寒い寒いと声を上げる。 
 ああ、そうか。 
 俺は寒いのか。 
 
「寒い、な」 
 
 新聞を深く被りながら、ビニールシートを引き寄せる。 
 微塵も温かくならない。寒い。どんどん熱は逃げる。 
 霧まで立ち込めてきた。薄い靄に覆われたかの様に視界が通らない。 
 伸ばした手先もぶれて消える。時計の文字盤も歪んで滲んだ。 
 
「本当に寒いな、息が真っ白だ」 
 
 霞む吐息を眺めて、これは霧じゃないか、と脳が理解しだした。 
 ああ、なんだ。もう俺の目は、俺はもう…… 
 
「は、ははは、ははは――――」 
 
 ワケもなく笑う。笑って、喉を震わせる。それもすぐに凍えて止まった。 
 震える視野の向こうで霞は濃くなる。街灯すらも和紙で覆ったように儚く、遠い。 
「――っ、は、はは……はぁ――」
 
 胸が跳ねた。呼気に雨粒が混じって酷く噎せる。 
 身を折って地を打って肩を弾ませて……、酷く惨めで。 
 呪って呪詛を吐いて、それさえも舌が絡んで―― 

163 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:00

>162 の続き。 
 
「……っ、何、だ?」 
 
 不意に、世界が変わった。 
 雨粒の重みが、静かに蝕む風が、体を撃ち抜く。 
 冷たくて、凍えて、悴んで。すべての神経が剥き出しになるような錯覚、 
 砥石を掛けたように鋭さを増す感覚。夜風に触れてザラザラと痛んだ。 
 痛い。 
 痛い、痛い痛い痛い。 
 
「――――――――――――ッ!」 
 
 身を屈める。 
 全身の皮膚を剥がれ、塩を擦り込まれる。 
 焼けた鉄板の上で、踊らされる。 
 今まで奪われ続けてきた物が、腹の奥底で一気に膨れあがる。 
 熱が。焼けるほどの熱が、痛い。 
 
 ドクン。 
 飛び切りに苦痛が、生じた。 
 
 ドクン、ドクン。 
 焼けた鉄の棒が、後頭部に押し込まれた。 
 髪を焼き、皮膚を抉り、骨をごりごりと削る。 
 
「あっ、あ、あああああああああああああああああっ!」 
 
 ドクドクドクドク…… 
 先端が脳に触れた。崩れる視界、吼えるコトしかできない激痛と熱。 
 腹の奥で、何かが。何かが俺の体を食い破ろうとしていた。 
 そいつが吼え、腸を喰らい、熱を出す。 
 身を捩る。地を繰り返し叩く。 
 俺の冷え切った臓腑を喰らいながら其奴は、小さく笑うと―― 
 
 テキ、ガ、イル。 
 
 小声で呟いた。 
 ゆっくりとゆっくりと、立ち上がる。 
 見えるのは闇。だけれど、鮮明で浮き上がるような漆黒。 
 掴める闇を掻き分けながら、俺は懐に手を伸ばす。 
 捨てようとして、捨てられなかった鋼鉄に触れて。 
 俺は――何をしようと言うのだろう。

164 名前:前園日出子 ◆aIMPDwdopM:2003/02/06(木) 23:03

或るクルースニクvs前園日出子
>>162>>163
 
 そして奴は立っていた。
 午前二時半近い時刻を差す園内の時計の下に。
 
 最前、黒い雨の何処からか声が聞こえて来た。
 呻きだか悲鳴だか判らない。それを辿った。
 それだけの事で、奴と私は六、七メートルの距離を置いて相対していた。
 闇中、相手は傘も差さしていない。手配書の写真通りの若い顔だ。
 何処にでもいそうな今風の青年。駅前で石を投げれば、当たった男は大抵こんな人相だろう。
 相当な憔悴っぷりと、なりの貧相さを除けばだが。
 
 私は傘を下ろした。途端に躯が濡れそぼつ。
 冷たい水けぶりに骨身まで沁みる手から、風は私の傘をもぎ取っていった。
 空いた右手を棒状の包みにかけ、布を剥ぐ左手と一緒に揮う。
 来た。見た。判った。
 直感通りで未だ説明はできないが、奴は危険だ。恐ろしいまでに。
 
 くるまれていた凶器の本体を顕にし、二メートル弱の棒がしなる。
 私の得物、数限りない夜刀の神を屠った薙刀だ。
 周囲の夜気に切れ込みが入った。――軌跡はそう見えたかもしれない。
 私は旋回を止めた。半身になって左足をやや前に出し、中段の構えを取っている。
 鋼の切っ先と奴のみぞおちとは一直線に結ばれていた。
 
「警視庁公安部、前園日出子警部補だ」
 
 瞳の紅い輝きが増す。犬歯がうずく。
 何故だ。輸血パックの食餌はとうに済ませている。渇きの周期にはまだ早いのに。
 唸りを押し殺して、私は漸う吐き捨てた。
  
「任意同行を願う。無論、先日の一件についてね」

165 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:05

>>164 対 前園日出子 
 
 袖口に鋼が潜り込む。手の甲を相手に向けて、柄も隠す。 
 決して外に出すな、決して気取られるな。 
 正面からやって、勝てる相手ではない。 
 そんな思考が沸き起こった事に歯軋りしながら、俺は、 
 
「任意……同行?」 
 
 反芻するように繰り返した。 
 任意同行、よくドラマなんかで聞く言葉……ああ、そうだ。 
 刑事物、推理物なんかで聞く犯人をしょっ引く時の台詞だ。 
 
「刑事、さん?」 
 
 恐る恐る、訪ねる。 
 訪ねながら視線を奔らせ、探る。 
 探りながら体を落とし、足を弛緩させる。 
 隙は――無い。熟練の度合いが次元を隔てるほどに違う。 
 しかも向こうは長柄、こちらは小柄。間合いの差も致命的。 
 考えろ。 
 戦う術を、生き残る術を。 
 
 待てよ! 
 
 俺は、何をしようとしている? 
 戦う必要がどこにある、警察なんだぞ。保護を求めるか、逃げるか。 
 いや、保護なんて求めてどうする。 
 俺は殺人犯、それはもう覆せない。 
 はは、そうだ。そうだとも。 
 誰が信じる? 
 吸血鬼、クルースニク、人ならざる存在。 
 夢物語だ、猟奇じみた妄想だ、出来の悪い小説だ。 
 
「誰が、首を縦に振るものかよ」 
 
 自然と声が出た。言葉が零れ出て、耳に入り、意識へ叩き込まれる。 
 
「刑事さん、悪いけど俺――」 
 
 体の芯が熱い。 
 凍えきってたはずの四肢が熱を帯び、筋肉が小刻みに震えた。 
 走れる。 
 直感的に感じ取る。 
 
「捕まる気も、出頭する気もありませんから!」 
 
 言葉と同時に、地を蹴る。 
 大きく一歩下がり、反転、疾走。体の内に生まれた熱を吐き出すように。 
 走る。走って走って走る。 
 驚くほどに体が軽い。 
 羽根になった身を跳ねさせ、漆黒の中を駆け抜けた。 
 
 時は午前二時三〇分。 
 まだ夜明けは遠い。 
 それに気が回らないほど、脳は昂揚していた。

166 名前:前園日出子 ◆aIMPDwdopM:2003/02/06(木) 23:08

或るクルースニクvs前園日出子
>>165
 
 ……何だ、こいつ。
 遠ざかって行く奴の背を眺め、私は三秒ほど呆然としていた。
 警官が来たから逃げる。後ろ暗い所のある者としては驚くに当たらない。
 だがこれがか? 私が感じていた異様な不安感の正体がか?
 
 四秒で我に返った。待て、と叫びかけて止す。
 そう云われて待った犯罪者には、今までお目にかかった事が無い。
 舌打ちして頭を振る。いらつく心も何処かへ振り払えれば良いのだが。
 私は構えを解いて走り出した。奴のも私のも、水飛沫を跳ね散らかす足音は雨音に紛れて
よく聞こえない。
 疲れていたんだ。きっとそうだ。
 だからあんなタマ無し野郎の事を、不必要に勘繰ったりしたんだ。
 
 黒色の世界。色も温みも無い世界。
 寒夜を逃げる奴の足は思ったより速い。ちんぴらの特技は皆これだ。
 私も負けない位には速いが。――人間じゃないから。
 ほら、奴の背中が段々大きくなってきた。
 
 走りながら、両手で頭上に振り上げた薙刀を一回転させる。向けるのは刃ではなく石突きの方。
 大きく出した左足が水溜りを踏み抜く。間合い良し。
 風が唸る。
 袈裟懸けに薙ぎつけた。
 
 男の両脛を払いつつ、私は所轄の連中に対する云い訳を考えていた。

167 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:10

>166 対 前園日出子 
 
 ――来た。 
 
 存在し得ない感覚器が音も影もない其奴の姿を気取り、 
 合図代わりに後頭部へ鉛を突き入れる。また、この熱さ。思わず胸が縮む。 
 苦痛、不鮮明になる感触、鳥肌立つ感触は意識を尖らせて身を屈めさせた。 
 後ろ、早すぎる…… 
 声を出す事も敵わず、衝撃。足先が跳ねて転がり、空へ飛んだ。 
 頭上に見える、くすんだスニーカー。 
 洗いもせず、土を噛み血を噛み肉を噛んだそれは、草臥れきった色をしていた。 
 
 あれ、俺、どうしてこんなになるまで放っておいたんだ? 
 これ、お気に入りだったのに……新しいの買わないと。 
 また出費だな。ああ、なんか最近こういうの多い。 
 つまんない事で怪我して、つまんない事で服を駄目にして―― 
 
 バシャン。 
 落着。 
 水溜まりの上に、大の字になって寝転がる。 
 打ち付けた背中に熱が集まって、ズキズキと脳を叩くような痛み。 
 それもすぐに雨粒が熱を削ぎ取って、体には冷たさと静寂が戻ってきた。 
 
「ああ」 
 
 すべてを納得した、一息。 
 俺はもう、追いつかれたらしい。 
 それも簡単に転ばされて、黒しかない空を見上げている。 
 肌に雨粒が弾け、顔を全部水に変えた。 
 瞳を汚れた水で覆い、滲んだ世界を見る。そこまた、漆黒。 
 何一つ変わりはしない。 
 そうだ、どんなに走っても、どんなに急いでも。 
 
「変わるわけ、ない……」 
 
 胸の奥が疼く。食い荒らされた腹の底が鈍い痛みを持つ。 
 それも手を置くと幻肢痛の様に消えて無くなった。 

168 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:10

>167 の続き。  
 
「刑事さん、俺……やってないって言って、信じてもらえますか?」 
 
 視界の端に刑事を納めつつ、半身を持ち上げる。 
 雨が酷いけれど、水のヴェール越しに見える彼女はとても美しく、 
 とても恐ろしく、とても憎かった。 
 理屈なんかない。理由なんて思いもよらない。 
 けれど、体を成す因子の総てが憎い憎いと声を挙げる。 
 
「吸血鬼に追われて、吸血鬼を殺して」 
 
 右の袖口を確かめる。ある。まだそこには鋼鉄の刃が一降り、残されていた。 
 あの長柄には到底及ばないが、それでも其奴を切り裂ける力が。 
 柄を引き出し、握る。 
 
「神父さんでしょ、あの人を殺した奴を追ってるんでしょう」 
 
 ジクジクと痛みは増す。 
 左肩? 違う、これは……後頭部。さっきと同じ、鋭い痛みだった。 
 ……吸血鬼? 
 そうか、吸血鬼だ。彼奴と同じ、伊達男と同じ化物だ。 
 なんだ、そうだったのか。この女性は―― 
 
「アンタが……吸血鬼、だから?」 
 
 ざああ。ざああ。 
 雨粒の数は増し、更に雨は強く強く降りしきる。 
 まだ、夜明けは遠い刻限だった。 

169 名前:前園日出子 ◆aIMPDwdopM:2003/02/06(木) 23:14

或るクルースニクvs前園日出子
>>167-168
 
「一緒にするな! 私を奴らと同列に語るな!」
 
 激情のままに放った怒鳴り声が雨音を圧する。そうよ、私は化物なんかじゃない。
 ――そこで人間だと胸を張れたらどんなに良いか。
 だけどそれは出来ない。私は化物でも人間でもない。
 
 昼の世界は私を嫌ってる。
 夜の闇は私が憎んでいる。
 どちらにも居られず、どちらからも謗られる半端者。それが私。
 夜刀の神に血を吸われながら、人の精神をどうにか残した『夜刀の神つかい』。
 判ってる、ええ、判ってる。
 充分過ぎる程、私は奴らのお仲間だ。
 
 ふと我に返った。何でこの男はそれを知っている。
 吸血鬼がどうのと云ってるが、矢張りマルエム関係者か。
 大体目付きが気に食わない。
 やっとの風情で上半身を起こした奴。しょぼくれ切って、心底ブルってる癖に――その何処か
憎々しげな眼は何だ。
 
「お決まりの云い種だな。“私はやってません”」
 
 雨と同じ温度で冷く笑い、薙刀を持ち替える。石突きを前に、刃を右斜めにした八相の構え。
 濡れて躯に張り付いたスーツが気持ち悪い。動きに障る程ではないが。
 おや、袖に何を隠しているの? 腑抜けの分際で。
 
「だから私達の対応も変わらない。――“話は署で訊く”」
 
 まあ訊ける部分が残っていたら、だが。
 奴の脳天目掛け、私は鋼の尖端を斬り下ろした。

170 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:16

>169 対 前園日出子  
 
 否定した。 
 否定しなかった。 
 奴らと言った。 
 一緒にするなと言った。 
 違う。違う、違う、違う違う違う! 
 俺が訊きたいのは、そんな言葉じゃなくて―― 
 
 銀が、尾を引いた。 
 
 署で訊く、言って放つのは致死の斬撃。眉間に振り下ろされる白銀の刃だ。 
 は、ははは。警察がこれか、これなのか。 
 端から殺す気で俺に近づいて、吸血鬼と口にしただけで殺す。 
 
 咄嗟に動けたのは右腕だけ。 
 けれど、あの鋭い刃の前では暖簾の代わりにもなりやしない。 
 あえなく断たれて、頭も割られる。砕け止まる思考、飛び散る脳漿、零れる血。 
 それを脳裏に描いた時……不思議と、気が落ち着いた。 
 吹っ切れたのか、肝が据わったのか。判別できない。 
 だけど、だ。 
 死にたくない。 
 死にたくないんだ。 
 追い詰められて、転げ落ちて、この先に光がないとわかっていても。 
 死にたくなかった、己の存在に縋りたかった。 
 
 右手を返す。袖を破って出てきたのは、一降りの包丁。 
 それも安物で所々に錆が浮いていた。 
 あの時、教会から持ち出せた数少ない武器を手に俺は吼える。 
 
「そう、じゃない、だろ……」 
 
 鋼と鋼、銀と銀が噛み合う。 
 鉄と空の間を無に変えて、耳障りな協奏曲を奏でる二振りの刃。 
 方や研ぎ澄まされた長刀で、方やボロクズのような包丁で。 
 火花が夜闇を照らす中、腕は浅く切られ血を流し、刃は手から飛び転がった。 
 映し出された女性の目を見据えながら、俺は、肺臓の呼気を激しく打つ。 
 
「吸血鬼なんかいない、って言えよ」 
 
 衝撃が酷い。 
 受け零した斬撃の余波は俺の体を後ろへ後ろへと流し、滑らせた。 
 土砂降りの影響か、足下がぬかるんで沼のよう。 
 
「妄想を語る気持ち悪いガキだって、そんな目で見ろよ」 
 
 がっ、と息を漏らす。背が屑籠に当たって、ようやく止まったらしい。 
 距離にして数メートル、ただの一降りでここまで差が出るのか。 
 考えたくなかった。 
 だから、考えなければならなかった。 
 萎え掛けの足を叱咤して、朽ち掛けの体を起こしながら。 
 
「否定しろよ、もっと根底から――全部、全部幻で終わらせてくれよ!」 
 
 噎せる喉をごまかしながら、繰り返し吼える。 
 こんな巫山戯た現実、夢想で終わる事を祈りながら。 

171 名前:前園日出子 ◆aIMPDwdopM:2003/02/06(木) 23:19

或るクルースニクvs前園日出子
>>170
 
 刑法第九十五条適用。公務執行妨害につき、三年以下の懲役又は禁錮。
 ――で、済むと思うのか馬鹿が。
 
「甘ったれた事をぬかすな!」
 
 詳細は知らない。けれど奴らと関わって“向こう側”があると知った者が、今更寝惚けた事を云う。
 ああ。この現実に付いて行けない腑抜けなんだろう、こいつは。
 人間の癖に。
 当たり前のように時計の針を進められる、人間の癖に。
 
「認めろ。眼を背けるな。お前のいるこの世界は、夢でも幻でもない」
 
 青年は泥塗れで立ち上がろうとしている。包丁を出すだけじゃなく、立つ根性もあるんだな。
 送り足で奴へと前進しつつ、刃を横に寝かせて突く。瞬、戻してまた突く。
 咽喉部、胸、腹、腿。目まぐるしく突きながら叫ぶ。
 
「イカれて捻れて歪んでる、如何しようもない現実だ!」

172 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:19

>>171 対 前園日出子 
 
「こんな、現実……」 
 
 ぶつりぶつり。張り詰めた布に針を通すように、ぶつぶつ。 
 薄皮一枚裂くような、浅く甘い連撃。 
 避ける事も受ける事も敵わず、俺は雪崩れ込む銀光に嬲られた。 
 裂ける音が皮の上を奔って鼓膜まで届く。 
 視界の片隅で朱色の筋がいくつも生まれて、 
 濡れそぼった服に朱色の花をいくつも咲かせる。 
 
 痛い。痛いな。 
 こんなに痛いなんて、やっぱり夢じゃないのか。 
 はは、こんなのが現実で。こんなのが真実で。 
 その中で俺は犯罪者で、警察に追われて、殺されかけて。 
 
「クソっ、クソ……」 
 
 叫ぶ間にも刃は肩を裂き喉を裂き胸を裂く。 
 無力な木偶に成り下がり、俺は落ち葉よりも容易く揺れ踊った。 
 死ぬ、か。 
 幾度となく触れかけた死という、絶対の闇。 
 それが一ミリ、二ミリと近づいてくる。三ミリ、四ミリ。 
 闇はどんどんと膨れあがり、瞬く間に距離が詰まった。 
 五センチ、六センチ、七センチ…… 
 
 シニタイカ? 
 シニタクナイカ? 
 
 聞き慣れない、慣れたくない、内からの声。俺の声。 
 其奴が低い声を挙げた。 
 臓物を食い散らしただけでは飽き足らず、俺の耳元にまで昇って 
 獣の咆吼を撒き散らす。愉快で、楽しげな、耳に付く笑いと一緒に。 
 振り返る。 
 そこには目の前より更に濃い闇がドロドロとのたうっていた。 
 ああ、まただ。こいつが出てきた。 
 一歩、踏みだそうとする。 
 一歩、死の漆黒が近づく。 
 一歩、身を引こうとする。 
 一歩、其奴の中に踏み入れる。 
 あとは随分と簡単だった。心の闇は膨れあがり、 
 幾つもの触手を伸ばし体の内へ潜り込む。 
 指の神経を食い潰し、肩に巣くい、脳へ線を通す。 
 
「だったら、さ」 
 
 呼吸が徐々に落ち着いてきた。 
 頭痛が嘘のように消え、視野も思考も白いペンキで塗り潰したように鮮明。 
 刑事のふるう刃の先が、網膜に焼き付けられる程、鋭く鋭く尖った。 
 やっぱり同じだ。教会の時と、伊達男の時と。 
 また俺は、俺ではない俺に突き動かされるのか。 
 困惑する感慨は、一笑に伏す。 
 何を言うんだよ。生きるんだろ? 
 泥水啜って生きてきたんだろ? 
 今更、取り繕う対面なんざ、あるものか。 

173 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:19

>>172 の続き。  
  
「アンタもクソッタレな現実に、踊らされてるってのか」 
 
 そう言う舌は、とても軽かった。 
 
「世界に唾吐いてでも生きるのは、そんなに悪いのかよっ!」 
 
 右腕が、撓った。 
 左腕が、喚起した。 
 屑籠から缶を一つ拾い上げる。指先で潰しながら神経をとがらせ―― 
 重ねる。 
 突き出された長刀の刃。 
 突き出した空き缶の口。 
 それが噛み合い、刃は缶に覆われた。 
 
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 
 
 死んだ筈の左手に血を注ぎ、肘を跳ね起こす。 
 そこまでで力尽き、左の腕は再び弛緩。今度こそ不随、だ。 
 代わりに投げつけたのは、拾い上げた瓶。それも割れて、鋭い奴だった。 
 
 自らを裏切る動きにも慣れ、俺は……ベルトから次の刃物を引き抜いた。 
 一降りのペーパーナイフ。 
 鋭さも切れ味も足りない、棒切れを掴みながら、踏み込む。 
 考え得る思いっきりの殺意、思いっきりの敵意。 
 内に残された熱、総てを突っ込んで。

174 名前:前園日出子 ◆aIMPDwdopM:2003/02/06(木) 23:21

或るクルースニクvs前園日出子
>>172-173
 
 賢しい手を。喚くな、五月蝿い。
 私は素早く左手を柄の中心へと置き、切っ先を後ろに向けて振り返した。
 刃に刺さった空き缶が、遠心力プラス手首の微妙な捻りで素っ飛ぶ。
 ついで跳ね上がった柄の下部で飛来する瓶を打ち落とす、両構えの防ぎ技だ。
 
 が、誤算だった。
 甲高い音を立てて割った瓶、四散するその軌跡を読み違えたのだ。
 破片の幾つかが私の両眼に飛び込んで来た。
 
 鋭い痛みを伴う紅い闇。
 思わず呻いて後退る。見えない、判らない。
 奴は、あのチキン野郎は何処に行った。
 
 夜刀の神は視覚に頼らず外界を視る。とは云っても、生前の習慣は一朝には拭えない。
 眼を潰せば、容易く恐慌状態に陥ってしまうのだ。
 今の私みたいに。
 
 落ち着け、大丈夫だ。
 眼球が少し切れただけ、潰れた訳じゃない。そうだとしたって私なら“治る”。
 その時、唐突に閃いた。
 肌を背筋を冷やすのは雨粒ではない。
 殺気だ。あの男の殺気だ。
 噴き付ける風向きは――前。来る。いや、もうそこまで。
 
 失策その二だ。長柄の制空圏を侵され過ぎた。
 瓶を砕いた体勢のままだったので、穂先ではなく石突きの方だったが構いやしない。
 真一文字に直突き。
 見えないが視える敵へと叫び、私は突き込んだ。
 
「唾吐く性根もない屑の! 云う台詞かぁッ!」

175 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:22

>>174 対 前園日出子  
 
「屑、じゃなきゃ――」 
 
 全身の筋が悲鳴を上げる。過負荷が繊維を断ち関節を潰し、破断音を立てた。 
 
「こんな……っ」 
 
 石突き。 
 死角から殺した筈の長刀が跳ね上がった。 
 身を捩りかわす――余裕も速度もない。 
 
「……っ、台詞がぁ……吐けるかよっ!」 
 
 鳩尾を抉られ、息と肺と血が言葉と一緒に吹き出る。 
 浮き上がる、そう思う程に身は激しく突き上げられ、足下が狂った。 
 速度と殺意を保ったまま踏み込み、ペーパーナイフを―― 
 
 薙げない。 
 膝が崩れた。 
 不格好に短すぎる刃を振り下ろすと、俺の魔法は切れた。 
 ブツリ。 
 両足から熱が零れ、右腕が怠く鈍く痺れる。 
 爪の一枚までが重く、髪の一本までもが鬱陶しい。 
 
 奇しくも。 
 頬を打つ雨粒は途絶え、漆黒の夜に切れ目が差した。 
 黄色い黄色い、月。月光に照らされ、俺の顔は青白く燃える。 
 まるで死人のように。いや、既に死人なのかも知れない。 
 今、こうしているのはあの時死んだ残滓。 
 残滓が淀み、死に損なっていた。 
 
「そうやって、アンタの世界で俺を計るな」 
 
 刑事の眼が開く。酷い案配。 
 まったくもって、何一つ笑えない事態だった。 
 熱は萎えた。腕も萎えた。脚も萎えた。 
 萎えないのはただ、意志ばかり。 
 
 昂揚する意識と取り留めのない敵意を剥き出しに、 
 俺はただひたすら、視線に死を塗り込んで刑事を睨んでいた。 

176 名前:前園日出子 ◆aIMPDwdopM:2003/02/06(木) 23:24

或るクルースニクvs前園日出子
>>175
 
 少し下がり、距離を取る。
 戻って来た視覚に頼るまでもなく、こいつはもうズタボロだ。
 どうやら左手は元々疵を負っていたようでもある。裂傷やら擦過傷は数え切れない。
 
 なのに、なんでそんな眼が出来る?
 一丁前に、殺意だけは不必要なまでにギラつかせて。
 
 私は得物を頭上に掲げた。雨晴れて冴える月光が鋼に宿る。
 廻し出した。
 始めはゆっくりと。一回転ごとに僅かずつ速度を上げ、水車の如く。
 長大な武器の穂先は、いつしか巡る円運動の中で光刃と化していた。
 
 薙刀。時代劇では大抵、奥女中なんかが使っている。何故だと思う。
 女が揮ってさえも、十分以上に男を圧倒し得る為だ。
 武士の魂としての象徴を刀槍に取って代わられたのは、持ち運びがかさばるという瑣末な一点
からに過ぎない。
 槍の突きと剣の斬りを自在に繰り出せる威力、そして剣法より勝るのは、これ。
 
「――違うな。私の物差しですら計れる、そんなお前が悪い」
 
 呟き捨てる。摺り足で進み、旋回する刃を下方へ向かわす。水分を含んだ大気が灼けた。
 狙いは足。これこそ剣を凌ぐ技だ。
 剣の有効射程範囲外、即ち下半身へ対しても必殺の一太刀を入れられるのがその理由。
 
 奴に受ける手立ては無い。ならば避けるか?
 無駄だ。
 飛び退こうものなら、瞬時に跳ね上がった刃風はお前を股間から真っ二つにするだろう。
 お前を。
 己を屑呼ばわりして憚らない、屑を。

177 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:25

>>176 対 前園日出子 
 
 俺が悪いのか。 
 そう思う気持ちがある。生穢く這いずり回るなど、人のする事ではないと。 
 俺が悪いんじゃない。 
 そう思う気持ちがある。生まれた事実を信じ、意味を果たすまで死ねないと。 
 
 どっちだろうな。言われ、交錯する思考。 
 生きようとする行為自体が悪なのか、生きるのを諦めるのが悪なのか。 
 けれど、まだ死にたくなかった。 
 己に価値がないなんて、思いたくなかった。 
 屑でも塵でも、意義があると信じたかった。 
 それが如何な幻想であっても、捨て去れやしなかった。 
 
 其処へ、音が一筋。 
 大気が割れるのを感じ、顔を上げると銀の切っ先が空を仰いでいた。 
 そのまま旋風と化す。円月を描き続ける長刀と、南天の月。 
 二つが折り重なり、静寂の公園は幽かなざわめきを起こす。 
 
 ――と、下の月が霞んだ。 
 ああ、来るな。 
 脳は理解したが、体が言う事を聞かない。 
 断たれるのか。 
 でも、嫌だな。 
 痛いだろうな、苦しいだろうな、死にたくないな。 
 落ち着いていた。感情を失したかと思う程。 
 意識は冷たく、瞳はあの女性だけを映し込み、手は千切れるまでナイフを握る。 
 そんな状態でも、そんな成りになっても、思い描く言葉は一つ。 
 
「死にたく、ない」 
 
 女々しいと思う。 
 何を今更、って感じだった。 
 
「死にたく、ない」 
 
 もう一度、口に出す。 
 銀と金の煌めきが一片に起こって、大気が遠雷の様に蠢いた。 
 手先が翻る。 
 斬撃。 
 
「う、うわ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!」 
 
 絶叫が、悲痛で哀れで無惨で、取るに足らない声が、意識に触れた。 
 後頭部が引かれる感触。カチリ、スイッチの入る音。 
 あの時と同じ――意識が過剰に窄まる現象か。 
 それを境に、俺の世界が、変わった。 
 モノクロで、静寂で、あの女性と俺だけが存在する世界に。 

178 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:26

>>177 の続き。  
 
 神経が軋みを上げ、視野が握り拳二つ分まで狭まる。 
 白と黒だけで形作られた世界は、加速する意識に合わせ緩慢に流れた。 
 足下へ振り下ろされる、長刀の先端も。 
 死力を奮い、立ち上がろうとする俺の脚も。 
 風に落ちる鋭い木々の葉も。 
 
 どうする? 
 刃は、早い。逃げようとして逃げ切れそうもなかった。 
 受ける得物もない。このペーパーナイフでは確実に折れる。 
 引けず、受けられず、残るは……攻める。 
 脚に力を再度、込める。 
 これが最後だから、と誤魔化し誤魔化し宥め賺せ、地を撃たせた。 
 背筋を叱咤し、腕を激励し、肺に有りっ丈の空気を吸い込んで。 
 俺は走る。 
 刃の園へ。 
 
 緩慢な時の中、一歩、二歩と踏み込む。 
 刃は音を切り裂き、俺の体へ躍りかかる。 
 触れるまであと、1メートル、八十センチ、五十センチ、二十センチ…… 
 三歩目、自己新でも出せそうな勢いで走る。 
 ゼロ。怒り猛る鋼は俺を喰らおうと、研ぎ澄ました牙を突き立てる。 
 ゴッ。 
 鈍い鈍い音。 
 ズッ。 
 刃が食い込み、服の裂ける音。 
 長刀の、刃と柄の間が俺の脚を捉えた。 
 ゆっくりゆっくり、加速した感覚に痛みが伝わる。 
 皮膚を通し、筋に渡り、神経を伝達して電流が脳を撃った。 
 
 だが、脚はまだ付いている。 
 だが、俺はまだ走れる。 
 
 四歩、五歩。 
 長刀を振り抜くより先に、俺と刑事は肉薄した。 
 背中には大気へ躍りかかる長刀、胸元には銀のペーパーナイフ。 
 狙うべきところはわかる。いや、知っている。 
 心臓、其処に突き立てれば、終わる。 
 終わる、終わるが、終わるって。 
 
 ――何が、終わるんだろう。 
 
 世界が復元した。 
 時は1秒1秒世界に刻み込まれ、風も冷気も痛みも、順繰りにやってくる。 
 俺の意識は発散し、再び漆黒と月明かりの公園を照らし出していた。 
 揺れるナイフの切っ先。初めて交わる俺と彼女の目。 
 だから、気付いたら俺は―― 
 
「なんで、そんなに殺したい?」 
 
 驚くほど低く澄んだ声。 
 その穂先は震え、定まらなかった。 

179 名前:前園日出子 ◆aIMPDwdopM:2003/02/06(木) 23:27

或るクルースニクvs前園日出子
>>177-178
 
 月の下、見つめ合うこいつと私。何ともしけた面ね。
 刃越しではロマンチックに程遠いし、シチュエーションも人選もこちらから願い下げだ。
 
 奴を斬り捨てる筈だった連撃は、無理やり阻止されていた。
 なりふり構わず突っ込んで来て。おまけに死にたくないと連呼して。
 つくづく惨めで醜い。
 事実の再確認になるがこいつは屑だ。
 
 屑だが――人間だ。
 足掻いて、生きて、人間をやっている。
 
「逆に訊く。――何故殺さない?」
 
 問いと等分の静けさで問い返し、私は薙刀から両手を離した。
 完全に懐に入り込まれている。もうこれの間合いじゃない。
 得物が地面で小さく水を跳ね散らした時。
 左胸の上で、奴の刃先が震えるのを止めた。
 止めさせたのだ、私が。
 左手で相手の右手首を握り締めて。
 
「一刺しすれば斃せるのに。こうするだけで」
 
 ぐいっと。
 私は、奴の刃で自分の左胸を貫いた。
 
 尖端は僅かばかり心臓から逸らしてはいたものの、やっぱり肝が冷えた。
 その代償のように、疵口はひどく熱い。歯を食い縛らないと訳の判らない事を叫び出しそう。
 刀身を半ばまで埋める。手応えと衝撃で、双眸が否応無しに血走っていく。
 肉を斬らせて――それでも骨を断てないお前には出来ないだろう、こういう真似は。
 根性無しめ。この甘ちゃんの、人間め。

180 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:27

>>179 対 前園日出子  
 
 トク、トク、トク…… 
 震える。伝わる。鼓動が、彼女の心臓が脈打つ音が。 
 血流の流れに合わせ、脈拍に合わせ揺れるペーパーナイフ。 
 冷たい銀が幽かな熱を受けて、朱の飛沫は腕まで跳ねて、生きているのだな 
 と噛み締めさせる。生きている。例え、それが不死者であっても。 
 
 ナイフの矛先は――俺に戻ってきた。 
 あやふやな刃が手首を返し、俺の心臓に突き立てられる。 
 銀のナイフと言葉の事実。互いの胸に突き刺しながら、呻く。 
 
「俺は……俺、は……」 
 
 押し込め。押し込み、心臓を切り裂き、死をくれてやれ。 
 こいつは吸血鬼だぞ。死に損ないに死をくれてやるのは慈悲だろう。 
 
「だけど、その、俺は」 
 
 躊躇うな。 
 迷うな。 
 己が使命を果たせ。 
 
「――質問に、質問で、返すなよ」 
 
 指が絡まる。 
 健が延ばされ爪が白く染まった。 
 一つ一つが銀に食い込み、曲がる程に握り締める。 
 
「アンタを殺さなきゃ、道がないってのに。選べないってのに」 
 
 薄ら笑う。 
 互いに笑いかける。 
 硬質で無意味で冷え切った笑いで。 
 
「狡いんだよ、誰も彼も! 
 逃げ道全部塞いで、それで選べって。それがおまえの道だって」 
 
 軽く、突く。 
 肉の弾性、先が血管に触れる。トクトク、脈が伝わった。 
 生きて、いる。 
 生きて、生き抜いて、きっと成すべきコトがあって。 
 
「俺はどの道も望んじゃいないのに、望むわけがないのに」 
 
 右腕五指が跳ねる。 
 
「チクショウッ!」 
 
 それは違うことなく、右へ――胸を深く切り裂き、銀の太刀筋は夜へ飲まれた。 
 跡は朱の残影と、果てかけた命と、目の前の女性と。 
 返す手先で刃を構える。 
 
 もし、俺の生が死を成す事でしか繋げないのなら。 
 どうか、最期は俺の手でその道を紡ぎたかった。 

181 名前:前園日出子 ◆aIMPDwdopM:2003/02/06(木) 23:29

或るクルースニクvs前園日出子
>>180
 
 躯中ずぶ濡れの中で、一番重く濡れている左胸が気持ち悪い。
 自分で刺して、相手に裂かれた疵口が中々塞がらないのだ。
 瘧(おこり)みたいに震えも止まらない。
 
 何時の間にか、脳髄の中は並立する食欲と性欲で一杯だ。それが狂おしいまでに求める。
 こいつを犯したい。
 あそこから血を吸ってやったらこのチェリー、どんな声で啼くだろう。
 寧ろ食べてしまいたいな。噛み千切ってもぐもぐゴクン。
 締めは手足を斬り落として、薙刀で肛門から脳天まで串刺し。火事場の纏みたく振り回すの。
 ぶんぶん、ぶんぶんって。
 はははは。うふ。
 えへへへへ。
 
 ――え?
 神経症めいた自分の笑い声で我に返った。よろめく。
 今、私は何を考えていた?
 厭だ、吸いたい。
 嘘だ、吸いたくない。どっちだ。
 何で今、私の半身を支配する闇がこんなにも騒ぐ。
 
 お前か。
 うだうだと餓鬼の小理屈を垂れるお前の所為か、全部。
 光り物なんぞ構えて。はん、そんなへっぴり腰じゃ、化物どころか人だって殺せない。
 電光の速さで懐に飛んだ私の両手は二本の白刃を抜く。愛用のナイフだ。
 
「どんな答えだろうと、出した答えはお前の答えだ。
 どれほど狭い選択肢しかなくたって、選んだのはお前なんだから」

 だから――責任取れ。
  
 水飛沫を散らして地を蹴った。奴の首筋目掛けて左の一閃、心臓目掛けて右の刺突。
 お前は人間だ。夜刀の神つかいを怯えさせた人間だ。
 だから――夜刀の神と同じやり方で屠って上げる。

182 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:30

>>181 対 前園日出子 
 
 咄嗟に思いついたのは、避けよう、だった。 
 それが何を生むのか、それが何の為であるか。 
 脊椎は其処まで考えてくれやしない。より原始的な本能の行動だった。 
 生命は生きようとする。何があっても己を守ろうとする。 
 例え死にたくても。 
 例え命に価値が無くても。 
 本能は吼える、生きたい生きたいと魂の絶叫を。 
 
 だから、俺は身を引いた。 
 地を蹴った。 
 右足が体を跳ね上げた。 
 左足が動かなかった。 
 
 折れていた、長刀の一閃で。 
 高揚した意識と鈍く遠い感覚の中で、気付くのが遅れた。 
 遅かった。遅すぎた。けれどそれも良いか、と思った。 
 俺の体は不器用に横に転がり、首筋の太刀は逸れて外れる。 
 胸へ突き出されるナイフは、いとも簡単に俺の胸板を食い千切った。 
 
 そこで俺は、ようやく俺を縛っているモノの姿を見た。 
 黒く濁り淀み澱の様な、ぼやけたヒトガタの化物を。 
 こいつが、俺を突き動かし俺を煽り俺を化物にした奴。 
 クルースニク。 
 其奴は既に俺から離れ、薄く靄と成って消える最中だった。 
 はは、なんだ。宿主がおっ死ぬ際にはさっさと逃げ出すのかよ。 
 随分頼りがいのある方だな、クルースニク。 
 
 其奴は振り返る。驚愕と落胆と絶望を浮かべると、踵を返し駆け出した。 
 逃げる気か、追い縋る。徹底的に、走って、追い縋る。 
 手を伸ばせ! 
 脚を有りっ丈回せ! 
 鼓動を上げて一気に飛び掛かれ! 
 躍り掛かる。 
 黒煙と成った体を掴み、殴る。 
 殴る。殴る。何度も何度も、拳を突き立てる。 
 10、20、30。拳の皮が剥けて痛みを感じるまで殴った。 
 幾度も幾度も叩き付けられ、其奴は……霧散する。 
 残滓すらなく、クルースニクは消えた。 
 消え、果てた。 
 
「ざまぁ、みろ……」 
 
 果たして、それは声になったのか。 
 俺の耳は何一つ音を拾ってくれなかった。 

183 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:31

>>182 の続き。 
 
 痛みが鼓動を伴って現実に受胎する。激しく強く儚く俺の心臓が高鳴った。 
 高鳴りに合わせ焼け付く感覚が胸に生まれる。ドッ、ドッ、その音に応えて、 
 胸の奥の方に取り除きたくても取り除けない、焼けた鉄の塊が埋め込まれた。 
 手を当てる。指に熱く絡みつく。血。止まらない。痛い。熱い。でも。 
 直ぐに、痛みは引いた。 
 脳が耐えきれなくなって焼け切れたのか、神経の方か。 
 不思議と不自然と、気持ちは澄んで落ち着き払っていた。 
 
 ああ、死ぬのか。 
 
 言葉にするとえらく簡単だったけど、実現するまでえらく時間が要った。 
 
 結局、俺は何を成せたかな。 
 結局、俺は何の為に生きたのかな。 
 結局、俺は死ぬしかなかったのかな。 
 
 辛くなってきたから、体を横たえる。ぬかるんだ公園の水溜まりも、 
 今は気にならなかった。気にも留まらなかった。 
 目線を上げる。其処にはまだ赤い瞳をした刑事さんが佇んでいた。 
 
「刑事、さん……」 
 
 肺に残った僅かな空気を押し出して声を作る。途中喉がゴボリ、 
 と鳴って血が吹き出た。喉の筋すら怠い。横隔膜を動かすのも重労働だった。 
 
「お仕事……、を」 
 
 手を伸ばそうとした。ああ、駄目だ。左手は動かないし、右手も切れてた。 
 骨は繋がってるけど、筋肉が言う事を聞かない。こっちも、駄目。 
 
「頑張って、ください、ね」 
 
 この人には成す事がある。 
 この人には成すべき事がある。 
 なら、この人は生きるべきだ。 
 なら、俺が死ぬしかない。 
 分かり易かった。単純だった。当然だった。 
 だから、酷く悲しかった。泣きたかった。 
 
 まだ、生きていたかった。 
 
 でも、俺は死ぬ。 

184 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:31

>>183  
 
 不意に――痛みが起こった。 
 とっくに切れたと思った神経は、まだ繋がっていたらしい。 
 ぎゅうぎゅうと押しつけるように、ソレは胸へと入り込んでいく。 
 痛い。痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い…… 
 呼吸が痛い。体が裂ける。胸が割れる。 
 息が出来ない。喉が割れる。 
 がっ、はっ、止めろよ。死ぬって、わかったんだから。 
 し、死ぬ時、ぐらい…… 
 
「がはっ……」 
 
 喉が鳴った。血が吹き出た。胃液と唾液も混じって、幾度も幾度も吹き出た。 
 動かないと思っていた右手が暴れ、胸を掻きむしる。皮膚に赤の傷を開くと、 
 内を掻き出すように何度も何度も往復した。 
 目が真っ赤に染まる。世界が真っ赤に染まる。 
 脳の中に手を突っ込まれ、ガチガチに掻き混ぜられる。 
 神経の末端まで引きずり出されて、丹念に酸を塗り込められる。 
 裂け、折れ、割れ、潰され。 
 デタラメに走った神経が、体を不規則にねじ曲げて絶叫した。 
 
 ああ、あああ、チクショウ。チクショウ。 
 万力で血管を挟んで強く強く締め上げる。
 なんでだよ、なんでなんだよ! 
 こんな目にあって、こんな様になって! 
 髪を纏めて頭皮ごと引き千切られる。
 死ななくちゃいけなくて、死ぬしかなくて、死ねと言われて。 
 理解できるかよ、出来るわけねぇよ。 
 どうして俺なんだよ。他にいなかったのかよ。 
 俺が、俺ばっかりがこんな目に遭って。 
 胸を車に念入りに挽き潰される。 
 俺だって、俺だって―――― 
 
「やだ、いやだ。死にたくない。死にたくない! 
 俺はまだ、何にもしてない。したい事、何も果たしてない。 
 まだ、まだ誰にも、必要とされていない! 
 そんなまま死にたくない。死にたくない……」 
 
 声にすらならない。 
 違うことなく生きた者ではない、惨めで無惨な残骸は呻き続ける。 
 死にたくない、と。 
 
 肺に開いた穴から空気は入り込み続け、膨れあがる胸。 
 それが弾けた時――ちっぽけな命が、消えた。

185 名前:前園日出子 ◆aIMPDwdopM:2003/02/06(木) 23:33

或るクルースニクvs前園日出子
>>182-184
 
「これで、確保」
 
 地面に転がる骸を前に、ぼんやりと宣言してみた。身柄をではなく死体をだが。
 男は死んだ。足掻いてもがいて苦しんで、死ぬのは嫌だと泣き喚いて死んだ。
 何だかひどく億劫だった。血糊を拭いもせずナイフを仕舞う。
 
 死顔を眺め遣る。そこには苦悶の痕しかない。
 この男は何だったのだろう。
 どうして私は、初見でこいつを殺そうと思ったのだろう。
 後者については簡単だ。殺らねば殺られると思ったから。
 私は、逢わない内からこいつを畏れていたから。
 まるで天敵みたいに。
 
 そこで疑問は振り出しに戻る。――何故、この男なのかと。
 問いは抜け出られぬ輪の中を巡り、もう答えは何一つ浮かんで来ない。
 人間ならば、答えは自分で見つけると強がれるかもしれない。
 だが私は人間じゃない。
 こいつみたいな人間じゃない。
 
 お仕事頑張って、か。奴が最期に云っていた。
 私の仕事は化物達との殺し合いだ。先も果ても見えない無間地獄だ。
 知ってか知らずか、それを頑張れと云う。――死に急げ、というこいつなりの呪詛だった
のかもしれない。
 
 首からスカーフを取る。びしょ濡れなのも構わず頭に巻いて、顔を覆った。
 夜は万物を黒くする。私の紅い瞳も鋭い牙も、全てを隠してくれる。
 でも、今だけは。
 ――今だけは、闇にすら晒したくなかった。
 
 人間を殺めた化物の貌を。

186 名前:或るクルースニク ◆Otheryt1e2:2003/02/06(木) 23:34

>>185 対 前園日出子 ――エピローグ―― 
 
 一週間後、午後三時二十五分。 
 郊外の火葬場で俺を構成していた因子と総ての要素は炎に包まれる。 
 立ち上る細い煙だけ残して、遺骸は紅蓮に伏された。 
 俺の正体はわからなかったらしい。警察も積極的に探すつもりもなく、 
 死体の受取手が現れなかった時、俺は無縁仏として処理される事になった。 
 そして、解剖も終え今日、荼毘に伏される。 
 身元不明名前不明、総てが不明のままの遺体が。 
 轟々と燃えさかる炎の後……残されたのは一壷の灰だった。 
 
 名も無き墓標が一つ増える。しんとした静寂ばかりが居座る墓地の事。 
 《或るクルースニク》と走り書きを残して、誰の記憶からも消えていった。

187 名前:或る結末:2003/02/06(木) 23:41

或るクルースニク 対 前園日出子 
レス番纏め。 
 
導入 ――発端と結果と―― 
>>155>>156>>157>>158>>159 
>>160>>161 
 
闘争 ――夜の明けない公園で―― 
>>162>>163>>164>>165>>167>>168 
>>169>>170>>171>>172>>173>>174 
>>175>>176>>177>>178>>179>>180 
>>181>>182>>183>>184 
 
結末 ――或る青年の死―― 
>>185 
>>186>>187 
 
 これが結末です。 
 哀れで、愚かで、どうしようもない男の。 
 足掻き、足掻いて、何一つ手に入れられなかった男の。 
 
 人よ。 
 人よ。 
 
 この男から何も学ばないでください。 
 この男の死に涙しないでください。 
 価値無き命に価値を与えないでください。 
 最期の最期まで屑であった俺に、どうぞ、侮蔑の視線を送ってください。 
 
 そして、忘れてください。風にまみれ消える、枯れ葉の様に。 
 俺という存在を消してしまう為に。 
 せめて、誰の記憶の中にも屑の姿を留めない為に。 

188 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/07(金) 10:02

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>154

 バラバラになった残骸が溶けていく。
 混ざり合うピンクの肉と白い神経。薄汚れた骨の白に染みわたる灰白色の脳味噌。
 消えていくその様が、魔力により作られた分身であることを何よりも雄弁に語る。

 くだらないトリックだと、ミカエルは思う。
 背を向けた瞬間に感じた違和感から、どんな罠を仕掛けたのかと思えば。ただ単に、分身を身代わ
りにしただけ。
 あれでは物足りない。殺したりない。闇に染まりきれない。

「安心したぜ……あれで終わりだとしたら、とんだ肩透かしだ」

 床に転がる短剣を蹴り上げ、左手で掴む。
 これで双剣が揃った。
 心持ち身体が開くように構えを取る。
 闇は尽きる事無く満ちていく。
 だがこれでもまだ足りない。"あいつ"がいる闇の底はまだ見えてはいない……

 闇を求める。―――――何のために?
 光を拒む。―――――何故?

 内に響く問いに、ミカエルは答える。
 決まっている、"あいつ"を殺すためだ。"あいつ"を殺すために、オレはこの道を選んだ。
 奴を殺せるのは、それ以上の悪魔か本物の神だけだ。
 あの時に決めた……今と同じケバい満月の光の下で、オレは悪魔狩りとして生きることを。
 
 彼我の距離を詰める。
 零となるのは僅かな時間。
 舞踏の如く両手に持つ短剣が踊った。

189 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/07(金) 10:35

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>188

割れたステンドガラスから覗く月。
降り注ぐ光が、掲げた剣の肌を照らす。

「・・・あらあら。むしろ、それはこちらの台詞よ?」

漆黒に見えたそれには、良く見れば朧に影が浮き。

「良いわねぇ、コレ。きっと、さぞかし大勢食べたんでしょうね」

耳を澄ませば、声が聞こえるよう。
苦痛に泣き叫ぶ声が。
憎悪に身を焦がす声が。
絶望に暮れる声が。

「―――さて、それじゃあ続けましょうか。今度は、リードして下さるかしら?」

身の丈よりも幾らか長く、重さにいたっては倍では効かないであろう大きな剣。
確かに握っている。片手で、事も無げに。
まるで、それが張りぼてにでもなったかのようだった。

背後に一歩。
開いた距離に割って入った分厚い剣の腹が、追い縋る二刀を悉く受け止めた。
右斜め前に一歩。
双刃を、全力で左へ弾く。

「テンポ、上げても構わないけれど?」

更に右へ、ミカエルの死角へ。
入り込みざま、叩き付けるように寝かせた剣を振るった。

190 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/07(金) 11:29

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>189

「テンポを上げるなら早くしな……てめェの剣はトロ過ぎる」

 傷口が開き、鮮血が服に滲む。
 先の一撃が防がれたのは傷の所為。
 痛みは感じない、だが肉体に穿たれた傷は、物理的な影響をもって動きを阻害する。

 それでも死ぬ気はしない。
 剣……『力』のみで数多の闇を屠り生きてきたミカエルにとって、モリガンの振う剣はあまりにも拙く。
 少なくとも剣技において、ミカエルはモリガンを遥かに凌駕していた。

 だから打ち合える。
 これだけの傷を受け動きが鈍っていても、互角に渡り合うことができる。

 左手が翳み、大剣を上へと打ち払う。
 右手が翳み、無数の斬閃を描く。

191 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/07(金) 12:17

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>190

近すぎる間合い。
不慣れな、大きすぎる剣。
小回りの効く短剣相手なら、よくやっている、と言えない事も無い。

「辛辣ね。ま、良いわ。テンポをあげましょうか・・・」

言えない事も無い、が。

 ――分を、弁えなさい。

屈辱もまた、昂ぶりを引き立てるスパイスに他ならない。

上へ跳ね上がる剣に引かれるままに、両腕を上へ。
打ち込まれる斬撃に応ずるのは――右の翼。
斬撃の数だけ枝分かれした切っ先が、受け、流し、凌ぐ。

「リードが単調なのが少々不満だけど、ね」

左足を引き、上段の剣を落とす。
そのまま、半身に開いた身体の前を通してもう一度上へ。
加速した刀身が、床を断ち割って逆風に走った。

192 名前:天草四郎時貞(M) ◆LDMAJIN4ww:2003/02/09(日) 14:11

『蒼月転生』 羽村亮vs天草四郎時貞
>>http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=1040664373/335
 
「くくく・・・・・・・もはや万策尽きたようだなぁ?なかなか楽しい時間であったが」
 
天草は丸腰になった亮にふくみ声をたてて笑った。
 
「それもこれで終わりよ。うぬの魂、闇へと飛ばしてやろう!」
 
そのとたんに、亮の後方から、足元から、うねるような触手が飛来して彼の両腕と胴に巻きついた。
笑い声をあげつつ、四郎が合図したのである。その場に潜んでいた光狩が一斉にその触手で捕らえたのである。
普段の亮であれば、あるいはこれをかわしたやもしれぬ。
それだけに、その姿を見た光狩どもの歓喜はざわめきとなって木霊した。
 
「その無様な格好のまま、地獄へ落ちるがよい。安心せい、そこな女子はわしが眷属に迎え入れてやる故に」
 
四郎は妖しい殺気を放ちつつ、手首を指先で浅く傷つける。
それから漏れる血を掌に貯めるや、それは赤き小さな玉へと変化していくではないか。
その玉をかざし、亮へと向ける。その玉はゆっくりと回転をはじめた。
それと同時に、亮の周囲に円が生じ、中に五芒星が描かれていくではないか。
それが描ききった瞬間、眩いばかりの雷が亮へと放たれる。
 
「忍法封鳳撃!!」
 
全てを焼き尽くす地獄の雷ならば、もはや亮とて生きてはいまい。
愉悦の表情で、四郎はその光を見つめていた。
 

193 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/02/09(日) 14:51

『蒼月転生』 羽村亮vs天草四郎時貞
>192

 新しい剣を─――――――――
そう思って護章と石を手にした瞬間、うねる触手状の光狩に全身が拘束される。

剣を失って気が動転していたらしい・・・が、それにしてもこんな下等な光狩にしてやられるとは。

(無様だな─――――――)

戦いなれしたと言っても、この程度か。軽く自己嫌悪を感じる。

天草の妖気が高まり、その手の血珠に集約され、俺の周りには光の魔法陣が描かれる。
直感でわかる。コレはヤバい。
もっとも、直感が鋭くなくても仰々しさで只事じゃない攻撃が来る事ぐらいはわかるだろうが─―――

天草の叫びとともに視界が電光に灼き尽くされる。
腕が、脚が、腹が、胸が、背中が、全身が、拘束する光狩とともに激しい雷光に焼かれて行く。
灼かれる痛覚神経。脳髄が痺れるような苦痛が身体の隅々まで駆け巡る。

痛みを堪え、痺れる肉体を叱咤して、右手に握った護章に、同じ手の中にあったいくつかの銀色の石の内、
中くらいのものを填め込む。
全身から力を振り絞り、ありったけの霊力を手中の護章に集中すると、
殆ど目に見える燐光となった護章の力が雷光を弾きながら全身を包む。
俺の意思が、魂が天草の放つ地獄の電撃を拒む。

「そうだ─――――――テメェみたいな外道に殺られる訳にはいかないんだよ!!」

永劫とも思える一瞬の後、雷が去った。
ぶすぶすと音を立て、全身から黒煙が上がる。
身体中の其処彼処に炭化した傷が有るだろう。数えるのも馬鹿馬鹿しい。どれも恐らく深層火傷だ。
だが。

(痛みは無視しろ!俺の身体は─――――――動く!)

幸運にも手の内にあった中程度の銀の石は、『耐雷』の力を持っている。
かなりの霊力を使ったが、そのおかげで俺はまだ動ける。

右腕に力を込める。半ば炭化した光狩が引き千切られ、右腕だけが自由になる。
それで充分。
ポケットから石を掴み出し、護章の三つの窪みに填め込む。
三角の下の頂点の窪みには大振りな銀色の石。
そして、左右の窪みには、やや大振りな青い石とやや小さめの銀の石。
もう何百回と繰り返した変成の儀。
火者を初めて1年は先輩に頼り切りだった作業だが、今はもう一瞬で可能な程に慣れた動作でもある。

次の瞬間、蒼い月光の破片が形を為した。
掌に収まるくらいの刃が煌き、手足を拘束する光狩を切り裂く。

月の影より生じた第二の剣は『手裏剣』だ。
投擲の為に洗練された鋭利な短剣。火者の秘紋が刻印され、外見よりも遥かに恐るべき威力を発揮する。
天草に接近する事が難しいと判断しての選択だった。

刃を振るうと同時に跳ね起き、天草へ手にした手裏剣を投げ打つ。

「シャァァァッ!」

苦痛を払いのけ、怒りと気迫を奮い起こす裂帛の呼吸を吐く。
影から涌き出るように現れる無数の手裏剣を手にし、連続して手裏剣を打ち放った。
闇夜に解け込む漆黒の刃が、無数の閃きと化して天草を襲う。

194 名前:天草四郎時貞(M) ◆LDMAJIN4ww:2003/02/09(日) 15:51

『蒼月転生』 羽村亮vs天草四郎時貞
>>193
 
愉悦の表情で光を眺めていた四郎は、
形容しがたい肉の音と共に連続的に痙攣した。
数本の手裏剣がその身に突き刺さったためであった。
 
憤怒の表情を浮かべ、身に突き刺さった刃を抜き取ると、
その掌の中でひねり潰す。
 
「まだ生きておったとはな・・・・・・・ますます持って殺すには惜しい男よ。
 だが・・・・・・・わが身を傷つけたとあっては、それも適わぬなぁ」
 
その美しい顔を紅に染めた四郎は、掌の玉をふわっと浮かせた。
両の掌に挟まれたそれは、小さい雷を放ちながら次第に黒ずんでいく。
すると、どうしたことであろう、周囲が少しずつ歪んでいくではないか。
 
「わが術をことごとく破ったうぬには、冥土の土産に見せてやろう!
 とくとその目に焼き付けるが良いぞ!忍法黒魔球!」
 
その叫びと共に黒の魔球は亮めがけて一直線に突き進んでいく。
ミニブラックホールとでも言うべきその魔球は、全てを吸い尽くすべくその牙を剥いた。
 

195 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/02/09(日) 16:26

『蒼月転生』 羽村亮vs天草四郎時貞
>194


それはまさに極小のブラックホールだ。
凄まじい勢いで周囲のものを食らい尽くし、真っ直ぐこちらに迫る。

咄嗟に飛び退り距離を取るが、凄まじい重力がそれを阻む。
火者の護章に填め込んだ青い石の賦与能力で、身のこなしは各段に増している。
それでも、思うように距離を取る事が出来ない。

渦を巻き吸い込まれて行く世界をスローモーションのような感覚が捉える。
まるで『重ね』が狂ってしまったかのような感覚。
無数の物体、空気の動きが皮膚感覚のように感じられ、脳内を掻き回すような吐き気へと変わる。
これまでか、と言う思いが脳裏を過ぎる。

だが。

(渦を巻く物体・・・重力・・・・・・ブラックホール・・・!?)

どれも、桜水台学園の火者達が隠れ蓑とする天文部で馴染みのある単語だ。
掻き回される脳内に閃く天啓。
宇宙論や天体解説書などの記述が脳裏を走る。

吐き気が消えた。
全身の神経が『動き』を捉える目となって渦の動きを読む。
吸い込まれて行く物体の動き。

そこに見える一筋の道(ライン)に向かって、全力で手裏剣を投げ込む。

それは、外惑星探査機が速度を稼ぐために行う常套手段、スウィング・バイ。
それも、天草による極小のブラックホールを使った、スウィング・バイだ。
重力の方向に向かって斜めに投げ込まれた手裏剣は、ブラックホールの重力で加速し、
脱出不能半径〜シュヴァルツシルト半径〜に達する前に脱出速度に達する。

無限大に等しい重力で凄まじい速度に達した手裏剣が、『重ね』によって見出された弾道に従って宙を疾る。
音速を軽く超えた鋭利な砲弾は、真っ直ぐ天草へと飛翔した。

196 名前:天草四郎時貞(M) ◆LDMAJIN4ww:2003/02/09(日) 16:46

『蒼月転生』 羽村亮vs天草四郎時貞
>195
 
それは一瞬の出来事だった。四郎の体に再び衝撃が走ったのである。
だが、それは先刻の比ではない。
見下ろした目に映ったのは、体を通り抜けた刃の跡と、
そこから湯水の如く溢れ出す己の血であった。
 
「お・・・・・・おのれ、小癪な真似を!」
 
憤懣の余り、四郎の集中が乱れた。それと共に魔球の動きもまた乱れた。
それは迷走した挙句、マコト目掛けて飛んで行く。
もはや動けぬ体では避けよいもない。
魔球は新たなる獲物を見つけた歓喜に吼えた。
 

197 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/02/09(日) 17:14

『蒼月転生』 羽村亮vs天草四郎時貞
>196

「なッ!?しまった!!」

魔力の制御が失敗する事を狙った反撃は、半ば成功した。
だが、残り半分の失敗は最悪だ。

「マコトっ!」

慌てて走るが、走った所であのブラックホールそのものを如何にかできるのだろうか?
手段はある。だが、今、それが使えるか。
戦闘に傷つき、霊力は消耗している。そして、剣を生成するのに必要な月光の破片も心許ない。

だけど・・・やるしかないっ!

ブラックホールの重力に捕われる。
凄まじい力に引き寄せられながら、石を取りだし、付け代える。
どれも大きいが微妙に違うサイズの赤い石、青い石、銀色の石。
最も大きな赤い石、次に大きな青い石、比較的小さな銀色の石の順に填め込む。

「頼む、応えてくれ・・・真月よ!」

青い青い月の光に浮かび上がる、二振りの剣の影。
右手に握る長い剣は『霊獣剣』。左手に握る長い刀は『自由剣・刃』。
傾いだ十文字に刃が走る。輝く剣閃。

 二 刀 一 閃 

それは、宇宙を切り裂くと言われる伝説の刃。
迸る衝撃が暗黒の小天体を両断する!

198 名前:天草四郎時貞(M) ◆LDMAJIN4ww:2003/02/09(日) 17:30

『蒼月転生』 羽村亮vs天草四郎時貞
>>197
 
「な・・・・・・・!?は・・・・・・・羽村亮っ!!」
 
黒魔球をも破られたことに、四郎の怒りはもはや止めるべくもなく膨れ上がった。
もはやその面貌はヒトとは思えぬほどに変貌している。
美しき悪鬼と化した四郎は跳んだ。
黒い闇を背後に宙に浮かぶその姿は、将に魔鳥のそれであった。
 
「黒魔球を破ったは見事とほめてやろう。が、最早立つのもやっとの貴様にわしは殺せんなぁ!」
 
かつての仲間であった武蔵ですら極められなんだ二刀流、
亮如きに扱えるはずもない。いわんや、今の状態では。
亮の両断する姿を思いながら、四郎は上空から亮めがけ、黒き刃を豁然と振り下ろした。
 

199 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/02/09(日) 17:46

『蒼月転生』 羽村亮vs天草四郎時貞
>198

剣を通して全身に力が漲る。
失った霊力が回復した訳でも、ましてや傷が癒えたわけでもない。
だが、二刀を再び振るうには充分だ。

「夜よ─――――――――――――――――」

宙に舞い跳ぶ天草の姿を見据える。
身体が自然に動く。技も力も何も無い。だが、一片の無駄も躊躇も無い。

「─――――――――終われッっ!!」

再び二刀が閃き、発せられた衝撃が空間を切り裂く。

夜空に輝く閃光の十字架。
それは、かつて天草の捨てた信仰の印だった。

200 名前:天草四郎時貞(M) ◆LDMAJIN4ww:2003/02/09(日) 18:00

『蒼月転生』 羽村亮vs天草四郎時貞
>>199
 
四郎の目に二刀を振るう亮の姿が映った。
それとほぼ同時に、髪切丸が弾かれる。
斬人斬馬、触るれば鉄をも斬る忍法髪切丸は最早完全に破られた。
同時にそれは、四郎の死をも意味していた。
 
どさり、と体が落ちた。クルスの形に斬られたその体は四つに分かたれ、
あちらこちらに散らばっている。だが、四郎の顔には笑みがあった。
この世全ての呪詛を、悪念を固めたような、悪魔の笑みが。
 
「見事、わしの術を打ち破ったものよ。うぬの勝ちじゃ。
 勝ったものは生き残り負けたものは地獄へ落ちる。
 しかし、これだけは覚えておくがいい。
 勝ったものは常に負けたものの恨みと怨念を背負って生き続けていくのじゃ。
 それが戦って生きていくものの運命じゃ。
 その重みに、うぬは耐えられるのか?わしは地獄で苦しむ様を楽しむとしよう
 せいぜい、わしを楽しませて欲しいものよなぁ」
 
それだけ吐き捨てると、四郎の体は灰となって消えた。
魔性の笑みを亮の目に焼きつかせて。
 
(天草四郎時貞、敗死)

201 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/02/09(日) 18:34

『蒼月転生』 羽村亮vs天草四郎時貞
>>200

凍夜が終る。一面に広がった青い世界が元の色を取り戻して行く。

殺した。
殺した。
完膚なきまでに。
その命を絶った。

相手は吸血鬼。紛い物の命しか持たない動く屍だ。
だが、そう思っても人の姿をした何かを殺したと言う思いは消えない。
光狩だけではなく吸血鬼とも戦い始めた時から、この罪悪感は付き纏い続けている。
だが、それも勝った者の身勝手な感傷だ。
自分で選んだ戦いだから、この重い気分と折り合いを付けて行くしかない。

破壊された周囲の惨状に目を向ける。
倒れたマコトの姿を確認する。
そうだ。呪いも恨みも怨念も、俺を必要としてくれる仲間の思いが軽くしてくれる。
決して消える事は無いだろうけど、背負った重みに耐えかねて倒れるのはまだまだ先だ。

そう思った瞬間に気が抜けたんだろう。
今にも失神しそうな激痛が全身を走る。立っている事すら辛い。

仲間を呼ぼう。
そう思って携帯電話を取り出して絶句する。
電撃で見事に黒焦げになっていた。

「見事な呪いだぜ、畜生」

仕方が無い。
遠のく意識を叱咤して、気絶したマコトを担ぎ、歩き出す。

夜が終り、朝が来る。
何時の間にか、朝焼けの光が東の空を紫に染めていた。
(END)

202 名前:羽村 亮 ◆qvxHEROsHs:2003/02/10(月) 02:24

ああ、もう酷い目にあったぜ。
相手がどんなヤツでもやっぱり人間の姿をしてるとやり難いな・・・甘いってのは判ってるけどな。
まぁ、兎に角レス番まとめだ。

前スレ
http://www.appletea.to/~charaneta//test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=1040664373
>>245 >>246 >>247 >>248 >>249 >>250 >>251 >>253 >>254 >>304 >>310
>>331 >>333 >>334 >>335 

現スレ
>>192 >>193 >>194 >>195 >>196 >>197 >>198 >>199 >>200 >>201

203 名前:アベル・ナイトロード ◆GTxKresNik:2003/02/15(土) 21:15

>>152(自分の理想の家を作れるとしたら、どんな家にしたいですか? 土地の広さは自由、
     資金も無尽蔵にあるものとします。)
 
 理想の家──        (これで、あの狭い司祭寮ともおさらば……)
 土地の広さは自由──   (自分だけの庭で、誰憚ることなく家庭菜園を造れる……)
 無尽蔵の資金──     (余った資金で、あんな物やこんな物を……)
  
 …
 ……
 ………
 …………はっ。
 失礼しました。余りのお話に、ついぼうっとしてしまったんですが、考えてみれば仮想の話
なんですよねぇ、「作れるとしたら」なんですから……。
 そして冷静に考えてみると、出張でローマを離れることが多い私の場合、理想の家を建て
たところでほとんど住むことも出来ないと言う事実。
 
 
 それでも、一応考えてみましょう。考えるだけなら無料ですし。
 まずは、チカチカ点滅しない電灯と、雨漏りしない天井の備わった部屋。破れていたり、シ
ミの付いていたりしないカーテンがあればなお良しです。
 無論、寝返りを打つ度にギシギシ揺れるベッドなど論外です。
 それに、ちゃんとお湯の出るシャワールームがあれば、もう言うことはありません。
 
 ……あ、あともう1つだけ、どうしても欲しい物がありました。
 それは──庭です。
 いえ、私趣味で家庭菜園なんてやってるんですけどね、今の司祭寮だと、見つかると怒ら
れるんで、こっそりやるしかないんですよ。
 庭さえあれば、誰憚ることもなく、堂々と菜園を開けると言うものです。
 余った野菜を売れば、生活費の足しにも──……
 
 
 ────私、何か言いました?

204 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/15(土) 23:09

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>191

  言っただろ―――――

 身を退く、刃の軌道を見切った身体移動のみでの回避。
 ただし単に身体を刃から遠ざけるだけの動きでは無く、次の手を打つための伏線も兼ねる。
 
 不細工な曲線を描く大剣は、半歩だけ身を退けたミカエルの胸へと吸い込まれていく。
 鈍い斬撃が鎧を断つ様相は、斬るというよりも砕くという表現がよく似合った。
 
 皮一枚。剣とミカエルの間に開いてるのは僅かそれだけの隙間。
 微かに身震いでもすれば、触れてしまうかのような距離。
 そんなギリギリの見切りでかわされた刃が、床を穿ち跳ね上がった。

  ―――――てめェの剣はトロ過ぎるんだよ!!

 大剣が跳ね上がる瞬間に踏み込み、双剣を振う。
 甲高い金属音。弾かれ、流星の如く飛び出してきたのは、鍔元から折れた短剣の刃。
 流れた星は一つだけ。もう一方は折れる形相も無く、大剣と噛みあっている。
 相手の間に存在してるのは、金属の欠片と化し宙を漂う砕けた鎧だけ。
 さして量があるわけではない、十分に視界を隠せるはずが無い。
 だがそれで十分だ。ただ一つの行動を隠すには、それだけで十分すぎる。

 折れた刀身は口で受け止めた、投擲するまでの時間は刹那。
 口に広がっていく鉄錆の味を舌が感じる間も無かった。
 虚空を貫く閃光はまっすぐにモリガンの貌へと走る。

205 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/16(日) 12:13

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>204

一滴の血も舞わず、手応えは浅いどころか無い。
捉らえたのは鎧のみ。
そして、砕けたそれの隙間を縫う、煌き。

 また、遅いって言われそうね。

見えた時にはぎりぎりの位置。慣れない剣の所為でいくらかの遅れ。
飛来した刀身を掴んだ右手は骨が覗くほどに切れ、切っ先は眼球に届いていた。

「・・・はは。あははははは」

左手から抜け落ちた剣が床に転がる。
切っ先の抜けた左の眼窩は赤い洞のようで、とめどなく血が流れ出す。

「ああ、可笑しい。まったく、良い笑い者よね、本当」

何て無様。
負った傷は何だ。受けた侮蔑は何だ。
無様。無様、無様、無様、無様無様無様無様無様無様無様。
無様にも程がある。

「もう、格好をつけることも無いわよね」

自らの血に塗れ、あの剣に喰わせてやったおかげで魔力もさほど残っていない。
ふと、自嘲の笑みが浮かぶ。

「拾ったら? 邪魔はしないわ。で、そろそろ終わりにしましょう」

一歩下がって右手の中の物を投げ捨てる。
身体の力を抜いて、待った。

206 名前:蛭児:2003/02/18(火) 22:33

蛭児VSマリアベル〜導入〜
 
「では本題に入りましょうか。マリアベル・アーミティッジ嬢」
 
月夜の晩、古びた洋館の食堂。
ワインの芳醇な香りを嗜みながら、私と『彼女』はテーブル越しに対峙していた。
主は一人。宣教師に似た黒服とビロードのマントに身を包み、黒髪と蒼い瞳を湛えたこの私。
客もまた一人。白磁の肌に金色の髪、加えて紅き瞳をした少女…まあ実際には千年以上も生きているのだが。
『彼女』に会うには少々骨を折った。此処ファルガイアの古き民である、ノーブルレッド最後の生き残りである彼女には。まあ消息が分かればで、次は如何にして会うかが問題だったわけだが、幸いにも私の商人としての顔が役に立った。
 
「御約束の品はこれです…ものがものですので今は図面だけですが。無論、お望みならば外にて実物をお見せしましょう」
 
そう言い放ち、私は控えているメイドの一人にとある冊子を差し出させる。
それは私の所有する巨人ゴーレム―――正確には、かの高名な錬金術師エベラールの作りし機械人形―――の絵図面。最も、彼女のコレクションと比べれば只の骨董品に過ぎない代物だが。
しかしまあ、私の品を前にどうやら彼女は喜んでくれたらしい。
平静を装いつつも、瞳に湛えた好奇心と喜びは隠しきれない様子。
 
「何、商人がお望みの品を用意するのは当然のこと」
 
いやいや、全く微笑ましい。
旧式とはいえ、この商品がとても気に入ったようだ。
何時の間にか召使達が貴方の後ろに回ったことすら気づいてないのだから。
 
「まあ、その代金は…」
 
手元にあった呼び鈴を鳴らした次瞬、我がしもべ達が一斉に動きだす。
闇に至った眷属の力で肩を掴まれ、捉えられたその様は正に滑稽。
驚きを隠せぬその表情がまた、実に可愛らしい。
 
「貴方のゴーレムに貴方の技術――――そして、貴方の命そのものを頂きますが」
 
一歩一歩進み、本来持ちえる牙を伸ばしながらも一言。
ようやく、ようやくだ。
鬼や幻魔の一族に劣らぬノーブルレッドの技術と力……その全てを手にすることが出来る。
忌々しき彼奴らに大海へ放り出されたこの屈辱を晴らし。
再び大和の国へ返り咲くこの願いを叶える、その第一歩を踏みしめられる。
この者の血を啜ることによって、この者をしもべに加えることによって。
 
「神たる私の僕として生きていけるのです、光栄に思って頂けなければね『支配者殿』」
 
ああ、これはいけませんね。
早くその首筋に牙を埋めたくて仕方が無い。血を飲み干したくて仕方が無い。
さっき血を飲んだばかりだというのにもう喉が渇いてしまった。最近は特にこうだ。
では…早速その高貴なる血の味、堪能させてもらいましょうか。

207 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/18(火) 22:35

>206 蛭児VSマリアベル・アーミティッジ
 
「ええい――離せ、離さぬか!」
 
不意に肩を掴まれたわらわは、なにやら薄ら寒いものを感じ声を張り上げた。
じゃが・・・しかしと言おうか、案の定と言おうか。
いかに声を上げ、身を揺すって振りほどこうとしても、全ては徒労に終わってしまう。
 
――この力、明らかに人の物ではない。
わらわも確かに非力ではあるが、わらわを押さえつけるメイドの力は見た目よりも遙かに強い。
何より、かのメイドの口元から、そして目の前の商人・・・いや、ただの商人であるはずの彼奴の口元から覗く牙が
彼奴らの正体を雄弁に語っておる。
 
すなわち、我らノーブルレッドと似て非なる者たち――吸血鬼。
 
 
事は、ただの取引である・・・はずであった。
 
『音に聞こえし錬金術師・エベラールの作りしゴーレムを譲る』
そう言って、この商人はわらわに接触してきたのだ。
 
その言葉自体には、些かの間違いもなかった。
見せられた絵図面は我らの技術にこそ劣るものの、どこぞの馬の骨などには決して真似のできぬ
機能美と芸術性の備わったカラクリである事を如実に示しておった。
・・・そう、思わず見入ってしまうほどに。
 
 
そうしてその結果が、今のこの状況。
いかに興味があったとはいえ、進んで彼奴の罠に飛び込んでしまうとは・・・わらわも焼きが回ったか。
じゃが。
 
「ふん、おぬしの僕として生きていくじゃと? 冗談も休み休み言うが良いわ!」
 
彼奴の目を真正面から見据えながら、彼奴の言葉にそう返してやる。
こうなれば、このような場所に長居は無用。
 
「さあ、離せと言っておる。わらわの声が聞こえんのか?
 ならば――ちと、痛い目を見て貰うぞ!」
 
叫ぶと同時に“力”を、レッドパワー『バスターコレダー』を行使。
瞬間、帯電した空気が高電圧の稲妻となりてわらわを掴んでおったメイドを、
そして他の召使たちの体を灼き尽くす。
 
無論、これだけではない。
 
「アカ、アオ・・・GO!」
 
テーブルの隅で休眠状態にあった精神感応デバイス『アカ&アオ』に起動命令。
瞬時に二体はかの商人へと襲いかかり、怯んだ隙に件の絵図面をひったくって
自由になったわらわの元へと戻ってきた。
よしよし、愛いやつじゃ。
 
「・・・もはや、おぬしになぞ用はない。わらわは帰らせてもらうぞ」
 
絵図面を懐に入れてそう言い、わらわは部屋を後にした。
 
――もっとも、このままで済まされようはずもないが。

208 名前:蛭児 ◆2ul119KAMI:2003/02/18(火) 23:41

蛭児VSマリアベル
>>207
「何…!?」
 
一瞬だった。少女を捕らえていた筈のしもべ達が瞬く間に焼き尽くされ、他の者たちも荒れ狂う雷を浴び、黒焦げに。そして奇怪な物体が私を襲い図面を奪うのも束の間、僕の束縛を離れたあの少女が走り去っていく。
 
ノーブルレッドが特殊な力を有している事は知っていたがよもや、このような術を会得していたとは。
クッ…まあいい。
これで相手がこちらの予想以上に役立つことが分かっただけ、良しとしましょう。
さて、これより如何したものか。あの少女の行き先…私から逃げるというならば、やはり出口か。しかし扉は堅く閉ざされている筈。ふむ、裏口や二階にいった可能性もあるか…
 
ふむ?
 
「蛭児様……お助けを…」
 
弱弱しく私を呼ぶ声とは、ほお、私以外に生きのびている者が居ましたか。下半身が消し炭になっているのに息があるとは、流石は私の寵愛を受けた闇の眷属というもの。
 
「ああ、少し待て。今助けてやる」
 
冷静に、落ち着いてしもべの下へ駆け寄り
 

ずぶり

「蛭児…様…!?」
 
おや、何ですその顔は?
貴方の体に爪を突き立てたのがそんなに驚くようなことですか?
 
「折角苦しみから助けてあげたというのに…少しは嬉しい顔をしてもらいたいものだ」
 
そう言って突き立てた爪を開き、心臓を鷲掴みに。ふむ、死にかけだというのに良く動く。これだけ生命力があるなら一人だけ生きていたのも道理か。
 
「ああ、感謝してください。貴方の血で、今負った私の傷が癒されるのですから」
 
そう言って、心臓を抉り出すのも一瞬。握り潰したそれから果汁のように滴り落ちる血を飲み干し回復を図る。人間ではない上に男なのが少し物足りないが、まあ傷が癒えるならば構わないか。
 
「行け。私から逃げた少女を捜すのだ」
 
その言葉を皮切りに、闇の中から蠢きだす漆黒の群れ。
これぞ私の真なる下僕、無数の吸血蝙蝠達。
この館自体は大して広くない…使い魔の如く私の目となり、耳となる彼らを用いれば見つかるのは時間の問題というもの。
そして私は最も確立の高い場所――――即ち屋敷の入り口へと歩を進める。
探索の網は張った以上、後は可能性の高い所へ行くのが道理というもの。

そんな私を見送るかのように、ぱくぱくと口を動かす僕―――先ほど心臓を抉られた僕の一人。
ああ、言わずとも分かりますよ。嬉しいのでしょう?
“助けて下さってありがとうございます、蛭児様”と言いたいのでしょう?
この神たる私の、何と慈悲深いことか。貴方の尊い犠牲は無駄にしませんよ。
灰になっていく下僕を背に、私は少女を追いかける。

209 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/19(水) 00:08

>>208 蛭児VSマリアベル・アーミティッジ
 
薄暗い廊下――もっとも、わらわにとっては十分な光量じゃが――を、早足で駆ける。
玄関まではさして遠くはない。事実、すぐにたどり着く事が出来た。
 
が、これまたやはりと言おうか・・・玄関は厳重に施錠されておった。
あやつはどうあっても、わらわをここから出す気はないと見える。
 
試しにとレッドパワーをぶつけようとして・・・ヤメ。
錠前に何らかの術的措置が施されておった場合、徒労に終わるどころか下手をすればより状況が悪化するやもしれぬ。
例えそれが杞憂であったとしても、ここで冒険するよりは他の道を探したほうが手っ取り早いじゃろう。
――そう考え、わらわは別の廊下へと入っていった。
 
ひとまず目指すべきは、裏口か。
倉庫などでもあれば、そこから外へと抜け出す事も、或いは・・・

210 名前:蛭児 ◆2ul119KAMI:2003/02/19(水) 00:39

蛭児VSマリアベル
>>209
闇の中、床を走る私は玄関にたどり着く。が、居ない…?
いや、実に幽かながらにも残り香はある。人の域を超えた五感の一つ、嗅覚はさっきまで其処に居たという事実を如実に伝えていた。
成る程、一足遅かったという訳か。
 
「ならば…」
 
思考を絞り、集中する。
蝙蝠どもは私の手足。彼らの目は私の目、彼らの耳は私の耳。使い魔のそれと同じく感覚を共有し、微に入り細に入り知覚を巡らせる。
屋敷の各部に解き放たれたしもべ達は空を舞い、私に見たもの全てを余すとこなく伝える。
 
飛び交え、集え、探し出せ。
殺さぬ程度に血を吸って構わぬ、嬲って構わぬ、この屋敷から決して逃すな。
 
 
 
 
 
―――――そして、ある一群がその牙を向いた。

211 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/19(水) 01:30

>>210 蛭児VSマリアベル・アーミティッジ
 
別の廊下を、急ぐ。
――程なくして、奥まった場所にそれらしき扉を発見できた。
ここから出られればよいのじゃが・・・いや、まずは入ってみなくては。
そう思い、扉に手を掛けた時。
 
――――甲高い鳴き声と共に、それは襲ってきた。
 
「な・・・こ、こやつら!?」
 
驚き、思わず声を上げてしまう。
 
蝙蝠。
いや、それ自体はさして珍しいものではないが――その数はどうじゃ。これは10や20では下るまい。
 
しかも・・・それは、一斉にわらわに襲いかかってきた。
まるで他の者など眼中に無いように。
まるで――あやつの、あの商人の意志が乗り移っておるかのように。
 
「わ、いた、いたた・・・こやつら、まさか!」
 
次々と食いつかれ、血を吸われる。
このわらわの血を啜るとは、まったくけしからん奴らじゃが・・・その中で、ある疑念が沸き起こる。
じゃが――今は、それを確かめるすべもなければ、確かめる余裕もない。
まずはこやつらをなんとかせねばなるまいが、数が多すぎてアカやアオでは対処しきれん。
レッドパワーで蹴散らすしかあるまいが・・・このような廊下では些か分が悪い。
出口かもしれぬ場所が目の前にあるというに――ええい、どうすれば!
 
「出口、倉庫・・・そ、そうじゃ!」
 
閃いた。
ひとまず蝙蝠共を振り払って、倉庫の中へと駆け込む。
好都合な事に、中はそこそこの広さをもっておる。
よし――――!
 
「たかだか蝙蝠風情が・・・分を弁えよッ!」
 
振り向き、蝙蝠共を見据え――レッドパワー「クリメイション」発動。
地獄の業火の如き猛烈な炎が、蝙蝠達を焼き・・・同時に、倉庫内にあった荷に引火。
どうじゃ、これならば・・・炎に煽られ、あやつらは入っては来られまい。
 
この間に出口を探そう。
見つからなければ・・・その時は、その時じゃ。

212 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/19(水) 22:02

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>205

 腹を貫かれた傷が、身体の感覚を無くすほど血を垂れ流してやがる。
 使い慣れたはずの大剣を握る手の感覚も、徐々に失せはじめてきた。
 
「最後のダンスは愉しんだか?そろそろ幕を下ろしてやるよ、てめェの命と一緒にな……」

 無作為な構え。
 この戦いに理由はなかった。
 殺意も、憎しみも、怒りも、快楽も、何もなかった。
 唯一あったのは"悪魔狩り"という存在の意味。
 それだけで殺しあうのには十分だった。

213 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/19(水) 22:49

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>212

大剣を拾い上げるのを見届け、更に数度後方へ跳躍。
足の裏の下で、紅い飛沫が飛ぶ。

 濃くなってきた・・・?

瘴気――違う。怨念とでも言うか。
拡散していたそれが、一つの意思の元に統合されていた。
即ち。
殺せ。憎い。許せない。殺せ。
殺せ。生かしておくな。殺せ。
殺せ。殺せ。

殺せ。あの男を、殺せ。

「――――ええ、堪能したわ」

 幕は、派手に引こう。その為に――

この小物達に、最後に一役買ってもらおう。
軽くきっかけを与えてやるだけで良い。

「――――例えば、こんな」

大きく広げた両翼を、打つ。
足元の赤い海に小さな小さな波が起こる。

「フィナーレよ。全力で・・・わたしを殺しなさい」

波が走る。小さな、いや、小さかった波が走る。
最早、それは只の波ではなく――津波。
ホールの中心から広がり、更なる血を得て大きさを増し、総てを飲み込んで。

霞む視界。その中で、かき集めた力を練る。


幕は、自らの手で引こう。

214 名前:蛭児 ◆2ul119KAMI:2003/02/19(水) 23:44

蛭児VSマリアベル
>>211
 
「クク…見つけましたよ」
 
焼かれたが如き痛み。しかしそれは、標的を見つけたという証。
使い魔と一体化した感覚は、標的の所在を余すところなく私に伝える。
垣間見えた光景は幾重にも積まれた荷物に、燃え盛る炎。
そして、白磁の肌に金髪のノーブルレッド。
成る程…倉庫か。となれば目指しているのは、其処から一番近い出入り口。そう、裏口。
 
確信を得た時には既に、私は一人駆け出していた。
人間如きのそれを超えた俊足を以って。
残った蝙蝠には監視の命を。手を出させず追い立てず、場所を伝える目としてのみ用いる。
大まかな場所は知れている、後は一動を確認できれば良い。
 
「逃れられませんよ…神であるこの私からはね」
 
何時の間にか、私は笑みを浮かべていた。
ああ、どうも懐かしいと思えば、これは狩りの喜びか。確かにこの感覚、かつてワラキアの串刺し公時代に行った人間狩りを思い出す。自らの手で獲物を狩り、血を啜る快楽。
此度の行動は一介の手段としてのみ見ていたが、ふむ、これも中々良い。
 
そして背から翼を――――漆黒の、蝙蝠の如き翼を――――出し、低空を飛ぶ。
地上から空中へ。更なる速さで廊下を進み、曲がる際に壁を蹴り勢いを増す。
刻一刻と、私は獲物への距離を縮めていった。

215 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/20(木) 23:05

>>214 蛭児VSマリアベル・アーミティッジ
 
「むう・・・当てが外れたか」
 
炎の赤が揺らめく倉庫の中で、一つ溜息をつく。
すぐさま出口を探しに見回したはよいが・・・それらしき扉の類はどの壁にも見つからなかった。
まさか、どこぞの娯楽小説のように隠し扉があるとも思えん。これは他を探すしかあるまい。
 
「さて、となると後は窓――うわっ、あち、あちち!」
 
――――荷に燃え移った火で愛用のマントが引火しかけ、慌ててもみ消す。
たはは・・・やれやれ、ちとやりすぎたかのう?
 
「ふう・・・ま、これのおかげであの蝙蝠達も入っては来れ―――??」
 
おかしい。
蝙蝠たちの様子、炎を避けておると言うよりは・・・まるで、こちらを観察しておるかのように鳴りを潜めておる。
ということは・・・やはり、わらわの読み通りということか?
 
すなわち、あれは使い魔。彼奴めの手足、いや末端となりて動く下僕。
推測が正しければ、彼奴はあの蝙蝠達を己が目や耳のごとくすることが出来うるはず。
となれば・・・ええい、あの蝙蝠達から逃れられぬ限り、逃げ切る事は不可能ということか!
 
 
とにかくここを出ねばならん。そしてあの蝙蝠達を振り切らねば。しかしどうやって・・・
 
「おお、そうじゃ! アレがあるではないか!」
 
思わず快哉を叫ぶ。
よもやこのような状況で役に立つ日が来ようとは思わんかったが、絶好の機会であろう。
よし、では早速。
 
「アカ、アオ。わらわを守れ!」
 
言うが早いか、先ほどは言ってきた出入り口へとわらわは駆け出す。
そうしながら、アカとアオが蝙蝠達を牽制し始めるのを尻目にバッグから目的のものをひっ掴んだ。
 
取りいだしたるは・・・これまた愛用のマイクと、乙女の必需品・自作の痴漢撃退用ブザー。
しかも取り上げられても大丈夫なようにリモコン式。
うむ、我ながら用意周到♪
 
駆けながらこれらを組み合わせ、マイクのスイッチを入れ準備完了。
倉庫を飛び出し、すぐ近くに見えた部屋の扉を開けアカとアオと共に駆け込み、マイク付きブザーを蝙蝠達へと放り投げ――
耳をふさいでポチっとな。
 
 
ビ ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ! ! ! !
 
 
耳をふさいでなおメチャクチャに五月蠅い大音声が響き渡る。
蝙蝠は音に敏感だと憶え聞く。これならば、ある程度は攪乱できるじゃろう。
わらわは今のうちに・・・窓へと、外へと!

216 名前:ペトレスク神父 ◆BADANszQYw:2003/02/20(木) 23:37

第一次遭遇〜世界一短い闘争〜
導入
 
変身

217 名前:Reiot Steighnberg ◆LOSJACkEtA:2003/02/20(木) 23:38

>216 第一次遭遇 〜世界一短い闘争〜
 
導入2
 
 
 
              登場

218 名前:横島忠夫 ◆iN.TadAo.Y:2003/02/20(木) 23:38

第一次遭遇 〜世界一短い闘争〜 
>216 ペトレスク神父 


                 投石 
 

 
 
 

219 名前:ペトレスク神父 ◆BADANszQYw:2003/02/20(木) 23:39

第一次遭遇 〜世界一短い闘争〜
>217>218
 
 
             爆     発

220 名前:Reiot Steighnberg ◆LOSJACkEtA:2003/02/20(木) 23:40

第一次遭遇 〜世界一短い闘争〜 
>219 ペトレスク神父 
 
 
                帰還

221 名前:横島忠夫 ◆iN.TadAo.Y:2003/02/20(木) 23:40

第一次遭遇 〜世界一短い闘争〜 
>219 ペトレスク神父 
 
 
 
 
 
 
 
                     連   爆  
 
 
 
 
 
 
 
  

222 名前:Reiot Steighnberg ◆LOSJACkEtA:2003/02/20(木) 23:41

第一次遭遇 〜世界一短い闘争〜 
>221 横島忠夫
 
 
 
 
        誘
                
                  爆
 
 

223 名前:ペトレスク神父 ◆BADANszQYw:2003/02/20(木) 23:43

第一次遭遇〜世界一短い闘争〜
レス番纏め
 
>>216-222

提供は大殲ボンクラーズでお届け致しました。

224 名前:名無し客:2003/02/21(金) 00:10

>216-223
…お前ら…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                              馬鹿だろ?(誉め言葉)

225 名前:蛭児 ◆2ul119KAMI:2003/02/21(金) 01:36

蛭児VSマリアベル
>>215
…何だ?
立ち止まる?
見慣れぬ機械?
飛び出して廊下に?
駆け込む。一室。何処だ?
 
 
何か、鳴っ―――――――――――――――――――!!!???
 
 
其処で一瞬、私の思考は掻き消された。
真っ白な、世界。
麻痺。静寂。
それが聴き取りきれないほどの音だということは、耳から脳に激痛が響き渡った頃だった。
次に見えたのは、天井。バランスを失い転落、倒れていた事に気づいたのはその後だ。
 
「…ふざけた…真似を…!」
 
不覚だった。
末端として使い魔を操るということは、少なからず五感を共有するということ。
音に敏感な蝙蝠、ましてや私の眷属故の優れた感覚が逆に仇となったのか。
最早蝙蝠は使えまい。大半が気を失った上に、今一度あれを遣われる危険を考えれば是非も無い。
世界が揺れる。
例え不老不死の私とて、回復には暫しの時間がかかる。
そして、その僅かな時間が致命的な失敗へと結びつきかねぬのだ。即ち、獲物の逃亡。
―――だが、そうは断じてさせぬ。
 
頭を抱え足を引きずり、倉庫の前へと辿り着く。元より距離は詰めていたのだ。
この廊下に、部屋は三つ。一つは倉庫で、向かい側に窓のあるのが二つ。
確率は二分の一。少なくは無い。しかし、しくじれば確実に逃がすだけの暇を与えてしまうのもまた事実。ならば…

226 名前:蛭児 ◆2ul119KAMI:2003/02/21(金) 01:37

>>225 続き
 
「逃げるのですか?この大陸の真の支配者と謳われたノーブルレッドが?
 高貴なる存在が、一介の賊に尻尾を巻いて?」
 
わざと聞こえんばかりに大声で、私は侮蔑の言葉を叫ぶ。
大仰にして傲然に、まるでオペラの主役の如く。
 
「これでは落ちぶれるわけだ!没落もするわけだ!
焔の災厄に弄ばれ、一族を悉く失う訳だ!」

これだけの大声だ、扉の向こうであっても聞こえるだろう。
これらの言葉は概ね事実…最も彼女らに関する文献を調べて得たものにすぎないが。
真に永き時を生きたのならば、この言葉は何よりも響く筈。そして何より、支配者と自称するその誇りが、この侮蔑を赦しはしまい。
クク…よもや、文献の写本を手にしてまで彼らを調べ上げたことがこのような形で役立つとは。
 
「成る程、己を脅かす者からは須らく逃げる訳か!誇りは微塵も無いわけか!
ハハハハハハハハハハ…高貴な血脈も語るに堕ちたな、ノーブルレッド!」
 
さて…感覚が戻った。
確信と確認。嘲笑いながら、二つのドアの丁度中間に立つ。爪を伸ばして足を撓める。
これで何時でも飛びかかれる。
私の速さを以ってして、出てきた所を捉えてくれよう。怒りに駆られた所を捉えてくれよう。
だが此処まで馬鹿にしてくれたのだ、只では済まさぬ。
先ずは足を切り落としてくれよう。歩けなくして戦意を挫こう。それで動くなら次は両腕だ。
どの道不死の眷属に引き入れる身、四肢を刻んだところで死なせなければそれで良い。

227 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE:2003/02/21(金) 18:05

 リャンは三年前に攫われ、オレの前から姿を消した。
 別にそう珍しいことじゃない。チャイニーズ・タウンは暗黒街と直結していて、そこ
では子供がひとり消えることくらい日常茶飯事だった。
 今回は運悪く、リャンの番だった。それだけのことだ。
 
 だから、オレは唯、忘れなかった。
 頭を撫でてやると、この上なく嬉しそうに笑った、とても小さな少女のことを。
 
   ―――― ―― ― ―
 
 剣の腹で撫でてやると、警衛兵は呆気なく眠りについた。ぐったりと床に伏す男
の手元からスコーピオンを蹴り上げると、片手で保持。銃爪は軽かった。鉛の雨
風がキメラヴァンプの山羊面を吹き飛ばす。
 弾倉はすぐに尽きた。SMGを手放すと、キメラヴァンプの再生が間に合わぬうち
に間合いを詰める。脇まで大剣を引き、放つ。切っ先は垂直に心臓を抜いた。
 
 灰と化す吸血鬼にはもう目もくれず、先に進むと、轟音が足元を揺らした。
 通廊の左右から押し迫る隔壁。BC兵器を取り扱う場所だ。流石に備えは万全か。
少しだけ含み笑いを漏らす。
 
 ――ただ、運が悪かった。
 相手がこの“悪魔狩人”ダンテでさえなければ――
 
 閉じた隔壁の、有るか無きかの境目に指を掛ける。
 そして目を閉じ――ふたつの拳銃、そのどちらでもない、
 オレの引き金を、引いた。
 
 躰が一瞬で変容する。
 漆黒の皮膚は岩のごとく膨れ上がった筋肉をよろい、、噴き出る赤黒いオーラは
オレの力を 数十倍に高める。躰の芯がマグマのように熱い。猛る力の奔流。
 見るも悍ましく、暴虐なまでの恐怖を振るう、
 これが、悪魔狩人だ。
 知れ。
 
 指先に力を込めた。
 数十センチも厚みのある隔壁が、重い響きとともに無理矢理抉じ開けられる。
 そのまま二枚目の隔壁を殴りつける。べっこりとへこんだそれは、二撃目で無残
な空洞を晒した。
 最後の一枚は、腕が放つ炎が、飴のように溶かしきった。
 
 部屋の中にいる科学者は、皆驚愕と恐怖に青ざめ、抵抗をするどころか声すら
あげられない始末だったので、オレは、
 「失せな、屑共」
 と告げるだけで済んだ。ありがたい話だ。
 

228 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE:2003/02/21(金) 18:10

>227
 
 ハールマン兄妹の今度の標的はサイス・マスター。新参だが、よく知恵のまわる
吸血鬼だという。
 合衆国黒社会の中枢を占める『インフェルノ』の、幹部格であるサイスを仕留め
るには、やはりそれなりの仕掛けと手順が必要らしい。ふたりは有力な策のひとつ
として、オレにコンタクトを取った。
 依頼を受けたのは――単純に割がよかったのもあるが――
 
「……クソったれ」
 
 研究員共が逃げ去った室内で、培養槽に浮かぶ人影に、思わず悪罵を吐く。
見渡すかぎり、男女を問わない、ティーンの子供の姿――そのどれもが、吸血鬼
になりかけているという事実に、 ひどく胸が悪くなる。
 
 ――オレが依頼を受けたのは。
 ここが、次世代型兵士、『ゲシュペンスト』の製造工場だと知らされたからだ。
 吸血鬼化と薬物洗脳で、手っ取り早く量産された、優秀な兵器。
 吐き気を通り越して、怒りで目の前が暗くなった。
 
 もう手遅れなこいつらを、元に戻す方法はない。
 ひどく自分を無力に感じる。化け物をいくら屠ろうとも、目の前のガキひとりすら
救えない。
 オレは三年前から、何も変わっちゃいない。
 
 コンソールをはじき、必要な情報を検索して抜き出す。インフェルノの他のアジト、
そことの連絡状況、侵入経路に警備体制――
 ふと、パネルを横切った情報が目にとまる。
 
  ――実験成功例 六ケース
     各員はサイス・マスター管理下に移行済み
     識別名称 フィーア フュンフ ゼクス ズィーベ アハト ノイン
 
 名前の隣には、ご丁寧にバストアップの画像がついている。やはりどれも少女
の域を出ない。いい趣味してるな、サイス・マスター。ディスプレイを殴りつける。
 その拍子に、画像のひとつが目にとまる。
 アハト。
 その顔がひっかかる。何故だかはわからないが……
 
 頭を振る。しっかりしろ、ダンテ。今やるべきことはそうじゃないだろ。
 いくつかのブレイカーを手動で切り、コンソールに指を走らせる。これですぐに
地下の発電施設が暴走状態に陥り、ここは文字通り塵芥に帰すだろう。
 目の前の培養槽を見る。
 悪いな……オレにできるのは、せめて眠ったまま、殺してやることだけだ。
 
 紅蓮のコートを返し、背を向ける。魔除けの銀細工が小さく鳴った。
 非常灯の赤に包まれる所内を、オレは振り返らなかった。振り返れなかった。

229 名前:サイス・マスター ◆OwwuSICEoc:2003/02/21(金) 18:12

 >>227>>228
 
 
 
 ――――その1000メートル上空にて。
 
 
「間に合わなかったか……」 
 
 サイスは壊滅したイノヴェルチ・メキシコ支部が写し出されたディスプレイを見つめな
がら、空々しく言った。その表情からは悔しさなど微塵も窺えず、ただただ冷笑を浮かべ
続けている。
 
 イノヴェルチの戦術顧問サイス・マスターがいまいる場所は、全翼型長距離輸送航空機
"イージス"の管制室の一角。マットの硬い椅子にふんぞり返り、眼前のディスプレイにモ
ニタリングされる研究所の警備カメラからの映像を見入っている。
 どのカメラから写される映像も破壊、破壊、破壊。破壊ばかりだ。やれやれ、とわざと
らしく嘆息すると、サイスはディスプレイから視線を離した。
 
「例の"悪魔狩人"は何処にいる?」
 
 管制室を陣取るオペレーターの一人に問いかける。返答はすぐに返ってきた。
 
「施設内には確認できませんね……既に屋外に退避した模様です」
 
 現在、この輸送機の管制室は施設の警備システムとリンクしている。正確に言うと無理
矢理"侵入"した、が正しいのだが。
 
「外か……直接落とせるな。座標の特定を急いでくれ」
 
 はい、と短く返事するオペレーターを余所に、サイスは別のオペレーターに言葉を投げ
た。
 
「そろそろ彼女達を起こして、落とす準備をさせてくれ。寝ぼけ半分で行かれては、格好
もつくまい」
「了解、高度を500まで下げて"柩"を開きます」
 
 目にも留まらぬ速度でキーボートを打つオペレーター達。その全ては人間だ。この輸送
機の乗組員は、サイスと"彼女達"以外全員人間で構成されていた。飛行機の操縦やオペレ
ートなどの細かい作業は、吸血鬼には不可能、というのがサイスの持論だからである。サ
イスは吸血鬼の力を、努めて過信しないようにしていた。
 私達は脆弱だ―――そのことを常に意識しておかないと、途端に灰となってしまうのが
吸血鬼だ。吸血鬼がいくら不老不死とは言っても、その平均年齢は十歳程度である。生ま
れて一年と経たずに死に行く愚か者達が、吸血鬼の大半を占めているからだ。
 
「四番から九番までの"柩"、全解放」
 
 サイスは、オペレーターの報告を「"渇望"の度合いはどうだ?」と、問いで返した。
 
「十分に渇いていますが……いや、むしろ渇きすぎと言えます。少し危険では?」
「構わん。それくらいのほうが面白い」
 
 報告と確認の応酬は止まることなく、今度はサイスの背中越しに声が響いた。
 
「投下準備完了しました。目標の座標も確認。いつでも投下できます」
「うむ、すぐに落とすぞ」
「了解、後部ハッチ開け」
 
 サイスは更に言葉を重ねる。
 
「地表到達と同時にこの空域を離脱。地上の回収班も出させろ。彼等が着く頃には、既に
片づいているはずだ」
 
 空軍の緊急輸送という名目で飛んでいるが、軍の上層部は組織内のイノヴェルチ浸透に
気付き始めた、という噂もある。長い間空に居座って面白いことはない。

230 名前:サイス・マスター ◆OwwuSICEoc:2003/02/21(金) 18:12

>>227>>228
>>229


 サイスは脇の無線マイクを手に取ると、「私だ」とマイク越しに"彼女達"に言葉をかけ
た。無線は"彼女達"が待機する格納庫に繋がっている。
 
「相手は悪魔と人間のカクテルらしい。しっかりと味わってきなさい」
 
 向こうにはスピーカーはあっても交信用の無線は無いため、サイスが"彼女達"の言葉を
聞くことはできない。しかし、"念"と呼ぶ"彼女達"の想いがサイスの頭の中に直接飛び込
んできている。感じる限り常態は万全だ。サイスは「よし、落とせ!」と短く叫んだ。
 
「了解、投下開始!」
 
 メインディスプレイに、点滅する六つのオレンジの光芒が浮かび上がった。管制室が、
慌ただしく動き始める。
 
「四番投下、五番投下、六番投下、七番投下、八番投下、九番投下―――ツァーレンシュ
ヴェスタン、全番投下完了しました」
「四番地表到達まであと五秒です。四、三、二……」
 
 明滅する光芒が、次々と落下してゆく。ディスプレイを見つめるサイスは、満足気に微
笑んでいた。実戦では初の直接投下だが、どうやら上手く行きそうである。
 
「ツァーレンシュヴェスタン全番、着地を確認。当機は離脱を開始します」
「回収車両、出発しました。到着まで約三十分です」
 
 「うむ」サイスは頷くと、誰にともなく言った。
 
「メキシコ支部の緊急支援要請は間に合わなかった以上、ここは撤退するのが得策かもし
れない。だが、あそこは私の私的な実験施設でもあったのだよ。"未来有望"な私の子供達
の夢を途絶えさせた君を、親であるこの私がどうして許せようものか。
 ミスタ・ダンテ、君には私の"夢の残骸"を見せてやる。見せて付けてやる。それを存分
に堪能してから死にたまえ」
 
 その言葉は管制室にいる人間達にかけたわけではなく、たったいま地上に足を付けた吸
血鬼達にかけたわけでもない。単身でメキシコ支部に乗り込み、壊滅させた最高の"馬鹿"
へかけた言葉だった。
 
 急速に離れてゆくイノヴェルチ・メキシコ支部。そこで今から始まる饗宴を見れないこ
とだけが、サイスは残念で仕方がなかった。

231 名前:ツァーレンシュヴェスタン ◆rnZahlFMLU:2003/02/21(金) 18:13

>>227>>228
>>229>>230
 
 
 始まりは唐突にして性急だった。
 
 ダンテが空から何かの気配を感じた―――と思った瞬間、それは"舞い降りた"。いや、
落下して地面に"ぶち当たった"、のほうがより正しい表現と言えよう。
 ダンテの眼前、十メートルちょっと手前の位置で地表に激しく激突した人影。着地姿勢
も何もあったものではない。落下地点に舞い上がった砂埃は、接地の瞬間に起こった衝撃
の凄まじさをありありと物語っている。
 
 砂埃に影が写る。重力という自然の力によって地面に叩き付けられた人影は、何事も無
かったかのように立ち上がると、その幼き身体をダンテに向けた。
 
 短く刈り込まれたモスグリーンのベリーショート。生々しいドロリ、とした質感を持つ
真紅の双眸。かさかさに荒れた死人の如き土気色の肌。
 衣装は病室を彷彿とさせる純白。イメージ的に、ノースリーブのロングチャイナドレス
に近い。深くカットされたスリットから覗く白い素足は、悩ましさよりも倒錯的な何かを
引き立たせている。
 
 少女の名は、四番目の死神。―――フィーア。
 
 フィーアがダンテと相対した、と同時に残る五つの人影がダンテの周囲に落下した。
 みなフィーアと同じで、壮絶な衝撃に表情すら変えはしない。ゆっくりと立ち上がり、
身体を殲滅対象である"悪魔狩人"ダンテへと向ける。
 瞳の色はみな真紅。肌の色はみな蒼白。衣装も、獲物も、顔立ちと頭髪の色以外、彼女
等は全てが同一だった。
 
 少女達の名は、ツァーレンシュヴェスタン。数字の姉妹。サイス・マスターの子供達。
二度目のチャンスを貰いし死神。
 
 少女達はリサイクル品だった。同時に実験体でもあった。サイスの新しい人生と命題。
最強の戦士と吸血鬼。全ての答えを解き明かすためのモルモット。
 一度無惨にも全滅の憂き目にあったツァーレンシュヴェスタンの少女達に、サイスは
大した愛を持っていない。いま、自由に使える中で最強の手駒が彼女達だけだから使って
いるに過ぎない。その程度の想いしか寄せてはいなかった。
 だから、こんな使い捨て同然の投下作戦も強行できたのだ。サイス自身、一匹や二匹
は犠牲になっても構わない、と思っていた。それで貴重なデーターさえ得られるのであ
れば。
 
 彼女達自身、それは気付いている。次の失敗はそれ即ち"廃棄"だということも。だが、
だからと言って何かが変わると言うのか。マスターに命令されたことを、実践する。それ
だけは夜を歩く身体になろうと、決して変わることのない"絶対"だ。
 
 六人は、一斉に片手に持つ両刃の大剣を構えた。
 
 言い表すのなら、それは全長が彼女等自身の身長と大差ない長方形の鉄板、だろうか。
その中央部をくり抜き、柄にしてハンドガードを付ける。四辺に刃をとし、角を削り、両
先端に丸みを帯びさせれば、少女達が手に持つ無骨な大剣と化す。それはそういうものだ
った。
 あまりにも大雑把で、それでいながら何処か洗練されたイメージを持つ一振り。六人の
少女は思い思いの構えを取り、一定の距離を開けてダンテを円形に囲んでいた。
 
 夜を流れる息吹すらも妨げる、張り詰めた空気。九番目の少女―――ノインの喉が、ご
くりと鳴った。
 
 渇いている。飢えている。
 飲みたい。食べたい。潤したい。癒したい。
 
 氷の如き冷徹な心と、マグマの如き吸血衝動の狭間で、六人の少女達は剣を構える。

232 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE:2003/02/21(金) 22:16

vsツァーレンシュヴェスタン
>231
 
 随分とお早い再会だ。六人の少女を見渡す。
 幼い顔立ちに、獰猛な無表情。空恐ろしいまでの兵器の顔。悪趣味にもほどが
ある。胸中で毒づく。
 六人が降ってきたはるか上空にある、航空機の影。ツァーレンシュヴェスタンは
サイス・マスター直属の部隊なのだから、おそらくサイスはあそこだろう。ハールマ
ン兄妹の目論見はうまくいかなかったようだ。オレを陽動に使ったつもりだったん
だろうが、それに本命が引っかかっちゃ意味ない。
 
 懐から懐中時計を取り出す。相手が銃を持っていないことから来る余裕――で
はなく。
 
「安全圏まで逃げる時間を考慮して……残り、二分と少し」
 
 発電施設の暴走による、支部の消滅までの時間。
 
「一人につき二十秒、か。――悪いな。それでカタをつける」
 
 その間、我慢してくれ。
 それで、オレがおまえたちを、その縛鎖から解き放ってやる。
 それが、オレの施せる救いだ。
 
 砂を蹴った。
 剣の腹に右手を添え、ツァーレンシュヴェスタンのひとりに吶喊、砂を切るように
切っ先を跳ね上げる。
 素早く反応した少女の、無骨な鉄板と切り結び、激しい金属音。
 同時、切り上げと一緒に飛んだ砂塵が、少女の目を潰す。
 思わず目を閉じた少女が、また瞳を開いたときには、オレは少女の剣の上に飛
び乗っている。
 驚愕にこわばる顔。その首を、一閃で飛ばした。
 
「――――ひとつ」
 
 血を噴いて崩れる肢体を蹴り、飛ぶ。
 刃は、既に次の獲物を向いている。

233 名前:ミズー・ビアンカ ◆c0Ko8pMIZU:2003/02/21(金) 22:47

>>85
蟆霧VSミズー・ビアンカ
イン・ア・フライト (空戦領域)

ぎり。
発せられた僅かな音に、ミズーは敏感に反応する。
同時に発信源を探り、それが自らの口腔より発せられた軋音だと気付く。
その事に呆れるほどの馬鹿らしさを感じながら、ミズーは苦笑する。
 
もう、限界だった。
 
全身の痛みを一時忘れて、力任せに剣を振り上げる。
突き落とされた剣は、床に転がる哀れな機長の中心に乱暴に突き立った。
およそ人間が、緊急時ですら発することの無いような奇怪な異音が室内を満たし、
機長の顎と眼が限界を超えて開け放たれる。
心臓を外した。
舌打ちしつつ片足でその胴体を押さえつけ、力任せに剣を引き抜く。
もう一撃。
二度目の絶叫と共に、機長の身体は灰と化し消え去った。
 
肩で荒く息をついていると、冷静な判断力が少しづつ戻ってくる。
その中で、残り少ない体力の何割かを消費してしまった愚かさに気付き、
ミズーは自らを強く恥じた。
(正に奴の思う壺ね・・・自制しなさい、ミズー・ビアンカ)
言い聞かせる。同時に、全身の痛みが限界を超えて麻痺し始めている
ことにも気付く。決して良い兆候とはいえないが、これからの数瞬を
戦うにはむしろ有益と言ってもいいだろう。全身が麻痺するのと
どちらが早いかはわからないが。

「いいわ。後悔させてやる。絶対殺人武器と、相対したことをね」

心ではなく言葉にそう出して、ミズーは外へと繋がる道を開ける為、
室内の計器類を物色し始めた。

234 名前:ツァーレンシュヴェスタン ◆rnZahlFMLU:2003/02/21(金) 22:52

ダンテvsツァーレンシュヴェスタン
『Air』
 
>>232
 
「―――ノイン!?」
 
 五番目の少女、フュンフが悲鳴混じりの叫び声を上げた。
 弧を描いて宙を飛ぶ首。舞い散る銀髪。がくり、と首無しのノインは地面に両膝を突い
た。一瞬の間を置いて、切り口から噴き出す鮮血のシャワー。純白のドレスが自らの血に
染まる。
 
「ああああああああ!?」
 
 フュンフは、我も忘れて首の無いノインの下へと駆け寄った。
 
 戦闘中の感情の発露。明らかにツァーレンシュヴェスタンとしての禁忌を犯している。
しかし、この場においてそれを責め立てる者はいない。残る四人の少女はみな、ダンテの
下へと殺到していた。
 
 刃と刃が噛み合わさり火花が散った。ノインの首を飛ばしたダンテが、次に選んだ標的
は七番目の少女、ズィーベ。正面から振り下ろされた大剣を、ズィーベが己の両刃刀の腹
で受け止めたのだ。
 衝撃で数歩よろめくズィーベ。明らかに力負けをしていた。無理もない、馴れない武器
の上、少女達とダンテでは膂力にかなりの差があった。
 
 が、その差は連携というロジックで十分に覆せる差だ。
 
 ダンテの背後数メートルの位置には六番目の少女、ゼクス。自重の三倍はあろうかとい
う両刃刀を振りかぶり、駿足を用いて駆け寄ってくる。このままだと、彼女の刃圏にダン
テが入るまで、二秒とかからないだろう。
 そして、右からはフィーアと八番目の少女、アハト。こちらも三秒と経たずにダンテを
己の間合いに入れることが可能だろう。
 
 駆け寄る三人と、受ける一人。獲物はダンテが持つ大剣よりも更に無骨な両刃刀。少女
の華奢な身体と相成って、更に巨大に見せている。
 実際、重量もかなりものだった。ツァーレンシュヴェスタンの少女達が持つ吸血鬼の膂
力を以てさえ、軽々と振り回せないほどだ。
 使い勝手も最悪。破壊力はあるが、小回りは当然のように利かない。ナイフの方が千倍
はマシだ、というのが素直な感想かもしれない。
 が、少女達はそのような思考には至らない。至れない。彼女達には武器を選ぶ権利は無
いのだから。
 与えられた獲物を最大限に利用して敵を倒す。殺す。例えそれが核弾頭だろうが水鉄砲
だろうが、使えとマスターに言われたら使うしか無いのだ。
 
 そして、そのマスターは―――狂った感性の持ち主だった。
 
「いやあああああああああああああ!!」
 
 フュンフの絶叫をバックコーラスに、ズィーベ、アハト、フィーア、三人の少女が地を
蹴った。

235 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/22(土) 20:50

>>225>>226 蛭児VSマリアベル・アーミティッジ
 
「う――ま、またもやりすぎてしまったかのう・・・」
 
部屋の窓――幸いにも特殊な施錠なぞはない――の鍵をはずしながら、思わず呻く。
 
何せ、先ほどのブザー音・・・正確にはその残響とも言うべきものが耳の奥で鳴り響いて仕方がない。
耳をふさぎ、しかもすぐに止めたのにも関わらずその音量は凄まじかった。
もう少し、マイクの音量を絞っておくべきであった・・・ううむ、不覚。
 
もっとも、あれを直接聞いた蝙蝠達、ひいてはあやつらを操っておった彼奴自身へは
わらわ以上の効果があったはずじゃ。
これでようやく、ここから出る事が出来る――――
 
 
『逃げるのですか?この大陸の真の支配者と謳われたノーブルレッドが?
 高貴なる存在が、一介の賊に尻尾を巻いて?』
 
 
――――その時、そのわらわの耳に彼奴めの声が響いた。
 
それ自体は、ただの陳腐な挑発、侮蔑、愚弄。律儀に反応する必要もない言葉の羅列。
その目的がわらわを逃がすまいとしてであろう事は十分に察せられる。
 
じゃが、たとえそうであっても。
 
「・・・ああまで好き勝手言われて、逃げるわけにはいかぬ、か」
 
そう。
ここで逃げては、まさにその挑発を裏付ける事になってしまう。
このわらわが、ファルガイアの真の支配者たるこのわらわが彼奴めの言葉を認めるわけにはいかぬ。
まして――我らノーブルレッドが落ちぶれた、などとはどうあっても、じゃ。
 
 
開けるつもりであった窓から手を離し、部屋の入口へと向き直る。
 
さて、ではどうする?
このままのこのこと出て行っては彼奴めの思うつぼじゃし。
・・・お、そうじゃ♪
 
「ふん、そうまで言われては逃げるわけにはいかぬのう! おぬしの望み通り相手をしてやるわい!
 どうした、かかってこんのか? わらわならばここにおるぞ!
 それともおぬしは、口先だけの臆病者か!?」
 
あやつに負けぬほどの大きな声で――先ほどのマイクでもあればなお良かったかのう?――奴を煽る。
挑発には挑発、じゃ♪

236 名前:蛭児 ◆2ul119KAMI:2003/02/22(土) 22:56

蛭児VSマリアベル
>>235
出ては来ず挑発どまり、か。
成る程、どうやら激昂して出てくる程愚かではないようだ。
 
「臆病者ね…では、貴方は何です?」
 
ふむ、右か。
つまる所、私の狙いは獲物の把握。
のこのこ出てこなかったのは見事だが、わざわざ挑発に乗るとはやはり甘い。
最も、これも支配者を名乗る性質上、止むを得ぬというものか。
 
「他の者どもがのさばる事を許し」
 
思い出すのは遠い過去。昔日の果て、私と醜き幻魔、粗暴な鬼どもと争っていたあの時代。
奴らはあろうことかこの私を貶め、幽閉し海へ流した。
部屋の前に立ち、伸ばした爪で一薙ぎ。
爪は易々と蝶番を裂き、その勢いで戸が外側にどうと倒れた。
奥に見えるは、腕組みした獲物が一匹。
 
「数も増やさず、力も振るわず、支配せず」
 
次瞬、殺到させるは蝙蝠の群れ。無理に使役させたのは、目をくらまし狙いをつけさせぬが為。
もはや二度とあの轍は踏まぬ。
二度と、大和の国の支配者の座を明け渡すわけにはいかぬ。
 
「これを没落と言わず何と言うのか?」
 
己にも言い聞かせるように、言葉を続ける。
私の力と速さ、そして翼を持ってすれば距離を詰めるのは容易い。
一足、そして羽ばたき。相手の脇を駆け抜けるのも束の間、左肩を掴み壁へ押し付ける。
 
「だから、救ってさしあげようというのですよ」
 
掴んだ左手は其の侭に、右手の爪を更に伸ばして右肩に突き立てる。
ああ、この光景、見覚えがあると思えば採集の為に繋ぎとめられた虫だ。
皮膚が裂け滴る血と、もがき苦しむ表情が実に滑稽。
安い挑発ではあるが私を侮辱したのだ、少しは苦しんでもらわなくては。
 
「神である、この私がね」
 
目線を相手の高さまで下げ、言い放つ。
私は神だ。生きとし生ける者全ては、私に従わねばならない。

237 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/22(土) 23:17

vs 金票
 《導入》

 ……日が、沈みかけていた。
 わたしの視界は真っ赤に染まる。溶鉱炉の中のように。
 きっとわたしも朱色に染まっているのだろう。白い肌も、銀の髪も、血と同じ色の瞳も、全て。
 
 ここは、とある街の一角。住宅地であるが故に人通りが少ない場所。
 歩むわたしの影は遠く遠く伸びて、まるで巨人にでもなったかのよう。
 ちょっと面白いかもしれない。自分の目が微かにしなるのが解った。
 
 黒いコート越しに感じるひんやりとした陽光は、最早心地よいレベルまで下がっている。
 生まれたばかりの生命力あふれる朝日に比べれば、これから沈もうとしている夕日はむ
しろ死の気配さえ漂わせるからだ。
 死の気配。わたしに身近な物。夜に生きる者に身近な物。太陽の下で生きている者達が
忌み嫌い避け滅ぼそうとする物。
 それが、漂い始める時間。わたしの食事の日常とわたしの日常が交差する時間。
 だからこそ、この時間を「逢魔ヶ刻」と呼ぶのかもしれない。そう、わたしは思った。
 
 紅い太陽。紅い世界。
 朱に染まり、しんと静まりかえった道。
 時は冬。大気が軋みをあげて冷えていくことを伝える。
 軽く雲が浮かんだ朱色の空の下、わたしは歩く。ブーツの音がアスファルトにひびく。
 かつん、かつん。
 目指す先は特にない。有ると言えばあるが、無いと言えば無い。
 目標のない旅だ。一所に居れないから、旅をするだけ。
 強いて今の目標を言えば、少しお腹が減ったか。そろそろご飯をどこかで拾って食べな
いといけない。
 遅くなれば遅くなるほど、人の通りは少なくなる。
 旅の基本は自給自足。ご飯は自分で手に入れる。
 
 ――――どこか遠くで、カラスが、啼いた。
 
 ふと、視線の先には下り坂。下から食事の子供が駆けてくる。実にいいタイミング。

 ――さあ、急いで、急いで。早くおうちに帰らないと、コワイ物がやってくるよ。とっ
ても、とってもコワイ物がやってくるよ――

 ああ、でも駄目か。わたしが居るからおうちには帰れない。だけど大丈夫。わたしは怖
くなんか無いから。
 大丈夫。ただ、貴方を食べるだけ――ほら、怖くない。
 
 微笑みかけながら子供の前に歩を進める。行く手を遮るように。
 いぶかしげにこちらを見る子供。
 朱がさした頬は、夕日の朱に紛れて解らない。
 なら、血が混じったとしても目立つことはないだろう。
 むしろ、この朱色の世界にもう一色紅を加えるから、褒めてくれるかもしれない。
 きっと褒めてくれるのだろう。
 
 微笑みかけながら子供の前に歩を進める。
 ――――間合いに入った。子供は逃げない。
 ――――視線と視線がかち合う。子供は逃げない。
 ――――手が届く距離。子供は逃げない。
 ――――抱きしめた。子供は逃げない。
 
 「ほら。怖くないよ」
 
 優しく問い掛けながら、首筋に舌を這わす。ああ、美味しそうな、臭いだ。
 無垢な、酷く真っ白な、味がする。一気に食い破って噛み千切ってしまいたい欲望にか
られるが、我慢する。
 我慢我慢我――――はい、我慢終了。食事の時間。
 相手の身体を抱き留めたまま、わたしはその首筋に牙を突き立てようとした。まずは一
度軽く血を吸って、それから心臓を抜いて、食べよう。
 いつもの、食べ方だ。

238 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/22(土) 23:22

vs 名も無き女クドラク(導入)

―――夕刻、とある閑静な住宅街の公園。
昼間はあどけない子供達の声で満たされるその場所に、およそ似つかわしくない黒衣の男が佇んでいた。
男は水道の排水溝をふさぎ、そこに張った水の上に八角形の板を浮かべ、しばしそれを凝視する。
「―――あちらか」
黒衣の男はそれだけ言うと板を取り上げ、複雑な文字が書かれたその「板」の示した先へ走り出した。
右目に三本の傷を持ち、黒いスーツに殺気を纏い疾走する男。
その男は、通り名を「金票(ひょう)」といった。


ことの起こりは数日前、いつもの如く妖(バケモノ)を殺す依頼を受けた事から始まった。

「お願いだ・・・私の家族を奪ったあの女、いやさバケモノを、殺してくれ・・・」

重傷を負い、病院のベッドに横たわる男からの依頼。
依頼をしてきたその男は、数ヶ月前まではごく普通に所帯を持ち、生活していた普通の男だった。
が、妻と子をつれて一緒に歩いていたある日の夜道――――その平穏は打ち砕かれた。
どこからともなく現れた一人の女。
「それ」はあまりにも不可思議な力で男の妻子を奪い取ると、その首に喰らいつき、血を啜る。
半狂乱で抵抗する男を一方的に蹂躙し、満足げな笑みを浮かべると、
「女」は攫った妻子から心臓を引きずり出し―――そして喰らった。
絶叫する男を尻目に、その女は宵闇に姿を消したという―――。

「わたしはどうしても忘れる事はできない。胸から紅いかたまりを抜き取られ、崩れ落ちてゆく妻子の姿を…!
・・・・・・そして愉悦に染まった、あのバケモノの顔を!!

――あなたがはした金で仕事をしないことは聞いている。だが金なら一生かかっても、必ず全額払う。
だからお願いだ、私の妻子の仇を…あのバケモノを必ず・・・・・・!」
「……金は払ってもらうぞ」
懇願する男にそう応じると、金票は病室をあとにした。

――――そして、人通りがほぼゼロとなり、赤暗く黄昏に染まりゆく住宅街を走り続け―――
大きな坂道まで来た所に、それは居た。身じろぎもしない子供を抱きしめ、その首に牙を埋めんとして。

「―――させん!」
殺し屋の手から、黒い尾を引く一条の銀光が女の顔めがけて疾る。
「金票」――主たる符咒師の通り名をもつ菱形の刃は女の頬をかすめ、その先の坂道に突き立った。
女は一瞬それに驚き、抱いていた子供を離す。また子供も気を失ったのか、
解放された直後、そのまま路上に横たわった。

「おまえはその子供の血を、一滴たりとも飲むことはできない。
私の名は金票。―――字名だ、本名は捨てた。」
黒き符咒師の右目が、夕闇を払うように蒼く輝いた。

239 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/22(土) 23:26

>>238>>237あてだ。

240 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/22(土) 23:28

>238
 vs金票

 殺気。風を切る音。わたしの頬に走る痛みとも言えない痛み。
 次弾を放ってくるかと思って後に飛んだ。子供は放りッ放し。
 かつ、とブーツが音を立てて地面に触れれば浮遊間は終わり、わたしの頬にちょっとしたむず痒さが生じて、消えた。治ったみたいだ。
 どうやらわたしが触れても平気な物で出来てるみたい。好都合かな。一応。
 
 ちょっと待ってみた。
 でも、次弾は、来ない。

 黒金の刃が飛んできた方向を見据える。なんか変なオス。
 よく解らないことを口走っている。
 口走っているだけで、すぐに攻撃を仕掛けてこようとはしない。
 ――――興が、殺がれた。
 冷める。ご飯を食べる雰囲気ではなくなってしまった。
 
「…………はぁ」
 
 吐息。迷惑だ。こちらはただ単にご飯を食べようとしているだけだというのに。
 こう何時もいつも邪魔されては叶わない。大人しくご飯を食べさせてくれないのだろうか。
 思えば前の街にいたときも、似たようなのに食事を邪魔された。
 更にその前の街では鼻歌を歌いながら歩いていただけで攻撃された。
 更にその前の前では公園で伸びをしていただけで攻撃された。
 
 …………気にくわない。気にくわない。
 どうして何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も…………ッ
 わたしはただお腹がすいただけなのに。
 わたしはただご飯が食べたいだけなのに。
 
 考えてたら胸がむかむかしてきた。こういう状態は体に悪い。だから、目の前の変な人に責任をとって貰うとしよう。
 まあ、簡単に言うと遊んで貰うだけ。遊びはフラストレーションの解消に最適だ、と聞いたことがある。ふらすとれーしょんてなんだろうか。
 ああ、この男はどんな声で啼くのだろうか。多分野太くて汚いのだろう。
 この男はどんな血の味をしているのだろうか。多分とても不味いのだろう。
 まあ、どうせ、大したことのない奴に決まっている。自己紹介するくらいなら銃弾の10発、剣閃の6発位を叩きつけるのがわたしと遊びたい人たちの基本。
 それをしない、つまりは勝とうとは思ってない。要するにマゾ?まぞってなんだろう。

「――――自己紹介ご苦労様。要するにわたしと、遊びたいんでしょ?」

 まあ、こういうのはちょっと特別な方法でじわじわやってくのが面白い。
 思うだけで、面白そうだと思える。
 面白そうなら実行するのが基本。
 
「いいよ。遊んであげる」
 
 そう、微笑みながら答える。微笑みながら右手で印を描き呪術の発動を促す。
 描く印は簡単な物。魔力をブーストするといっても極僅か。
 描くイメージは散らばる小石。具体的に小石を撃つわけではないけど、こういうイメージは大事。

「まずは、これをあげるね」

 直後、腕を振るう。相手と指先とわたしの視線が一直線になったところで、術式を解放。
 低く鈍い音がして大気の群が撃ち出されたのが解った。
 大きさは指先大、数は無数。個々の威力は大の大人の全力パンチくらい。
 ただ、見えない。大気だから。
 空気弾の群が、変な格好の変なオスに向かって飛ぶ。

241 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/22(土) 23:30

vs名も無き女クドラク
>>240

女の頬に刻まれた傷が、見る間に消えてゆく。
―――流石に、咒力も込めていない金票ではこの程度か。

「…自己紹介ご苦労様。要するに私と、遊びたいんでしょ?」
―――遊び?この妖はこういった行為を遊びととらえているのか。
ふざけた態度に、少々不快感を感じたそのとき―――

「――いいよ、遊んであげる」
空気が“変わる”。女のまわりにわずかながら妖気が集まり、
それが無数の、小さな空気のつぶてとなって定着する。
金票の蒼い右目は、妖の右手に浮かぶ魔法の印陣をとらえていた。
「まずは、これをあげるね」
無邪気な女の一言とともに、大量の空気の弾丸が金票に飛来する。

「・・・遊び?確かに児戯だな」
金票はそう呟くと、扇状に持った数枚の咒符を眼前にかざす。

「―――禁!」
その一声とともに、金票にせまる空気の弾丸は、一つ残らず直前でかき消された。
燃えカスとなった符が、金票の手から崩れ落ちる。
「吸血鬼―――夜の世界に棲む浅学なうじ虫に教えてやろう。
天地より万物に至るまで、気をまちて以て生ぜざるもの無き也―――
この世を司る森羅万象の“気”の流れより生まれ、生かされていないものはない。・・・夜と不幸の化生たる貴様もだ」

言いつつ走り、子供と女の間に割り込み――符を刺し、咒力を込めた金票を数本投げつけた。
刃は女を捕らえない。が、その後ろに付いた黒い紐が女の手を、足を、腰をからめ取る。

「よってお前がどんな妖(バケモノ)であろうと、私はただこう告げるのみ」
一瞬意表を突かれ、あっさりからめ取られる女。

           「禁」

その言葉とともに妖の存在そのものを禁じる「気の力」は紐を伝い、妖の体にほとばしった。

242 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/22(土) 23:33

そういえばハイリン推奨……
>>241
 vs金票

対 金票

 ほんの少しだけ気を緩めた瞬間。わたしの身体はぴりぴりする奇妙で切れにくそうな黒
い紐に絡め取られていましたとさ。めでたしめでたし。
 ――――くだらない。この様な紐でどうにか出来ると思っているのだろうか。相も変わ
らずこの手のご飯は頭が悪い。超特級。
 何らかの呪術がかかっているのであろうこの紐。わたしみたいな物を絡め取るための物
らしい。……酷く、頼りない束縛もあった物だ。

 わたしの放った空気弾を奇妙な術で無効化した相手の放つ言葉。
 それに逢わせて、わたしは言葉と心を少しだけ解放した。

           「禁」
           「無駄」

 一言を返す。それだけで、ぴりりとした感覚を持った紐は燃え尽きた。タネは簡単。糸
との接合部から、ほんの少しだけ黒炎を飛沫かせただけ。
 燃え尽きた糸の残滓から漂うのは、妙な気配の力。
 この力――さすがに、直撃はごめん被りたい触感。
 でも、燃やすのはちょっと勿体なかったかもしれない。見たことのない技術だったから
暇つぶしに研究するにはもってこいだったかもしれないから。
 ……よく考えたら、この変なオスを殺せば手にはいるだろう。わたしを狩るつもりで、
手持ちがあれだけとはとても思えない。
 これで、目的がもう一つ出来たわけだ。目的は多ければ多い程良い。やる気を失わない
ためにも重要。
 やる気不足はここぞと言うところで勝率を下げる。どこかで聞いた話。

 ぱらぱらと相手の使った符の切れ端が風に舞う夕暮れ。さして状況に変化はない。
 相手は未だわたしに対抗する意志と力と威力を持っているわけで。
 わたしはまだまだ全然遊び足りないわけで。
 利害の一致。意識の一致。
 素晴らしきかな方向性の一致はより面白い遊戯を生み出してくれるに違いない。多分。

 次は何をしてみようか――――思考しながら、言葉のキャッチボールをしてみようと考
える。これだけ変な格好だからきっと考えることも変に違いない。
 先程の戯れ言だけで充分変だし、ご飯は須く変な思考の持ち主。
 変な思考と会話するのは意外と面白い。未知との遭遇。素晴らしきかなミステリアス。

「浅学な蛆虫? ああ、そうだね。でも、あなた達こそ本当に馬鹿な蛆虫」

 浅学、というのは少し納得行かないけれどそこら辺は今回は割愛する。所詮ご飯の時間
では学べること等たかがしれているだろうから。
 ……夕闇が迫ってきた。
 夜のとばりはわたしの身体に心地よい活性感を与えてくれる。冷ややかな夜気が髪をな
でれば、わたしの瞳はより力を増す。
 ひんやりとした太陽が出ているときよりも、更によく見えるようになった視界で相手を
見据えながらわたしは言葉を続ける。

243 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/22(土) 23:33

>>242(続き)

「あなた達『ご飯』の役目は、後にも先にも二つだけ。わたしのご飯か、遊び相手か。
 用途は二つ、結末は一つ。とりあえず――――死ぬ」

 どこかで聞いたような台詞。自分の言った台詞の内容に苦笑して、懐に手を突っ込んだ。
 直後、全力後退。一足飛びで十数メートルを飛び退き、懐の中に吊してある「或る物」
を両手で思い切り引き抜く。
 ぺらぺらと、力なさげに風に揺れるそれは、天地開闢の頃より伝わりし符法。
 大陸の山脈で教わった物だ。特殊な製法で造られたこの符は、様々な効果と強大な力を
持って、携帯性も良い。実に便利。
 ただ、使い捨て、と言うことだけが欠点だけど。
 どうせだから、相手と同じ土俵で戦ってみようというわけ。相手の技量も、自分の技量
も知る良いチャンス。自分を知ることはとても大事。

 ――符に大地から吸い上げた気を流し込む。足下はコンクリート。気の流れは弱く、い
まいち集まりが弱い……それでも、相手を痛めつけるには十分なほど。
 符に力がこもり、ピンと張れば準備は完了。
 口訣と共に投げればそれだけで符に込められた力が解放される。本当に便利な物だ。
 と言うわけで早速投擲。

「怨――――疾ッ」

 右手のスナップだけでまずは4枚を投げる。続けて左のスナップで更に4枚。
 符に描かれた一種の魔術回路は魔力を帯びて口訣と共に飛翔。その途中で己の意味を果
たすために姿を転じる。
 一瞬だけ黒い霧のように符がその姿を霞ませて、すぐに変化は訪れた。

 先の四枚は、黒狼となって大地を駆ける。
 後の四枚は、黒鷹となって夕空を馳せる。

 沈んでいく日ともに濃くなりつつある闇に融けるように、符から生まれた獣たちはわた
しに仇なす物へと牙をむき、ひたむきに純粋に殺戮することを求めて進む。

244 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/22(土) 23:36

vs名も無き女クドラク
>>242-243

金票の手から放たれた刃の黒き尾は、しっかりと女の体にからみついていた。
そしてそのまま、いつもの如く禁言を唱え―――そこで異変は起きた。


     「禁」
     「無駄」


―――何っ!?

金票の禁言に間髪入れず放たれた、女吸血鬼の拒絶のコトバ。
それとともに巻き起こった黒い炎が、かなりの高位妖怪ですら封じうる紐を焼き切ったのだ。
伝わるべき道を無くし、あっさりと霧散する“禁ずる力”。

この禁咒は、いままでさまざまな妖怪に対して振るわれてきた。
力を受け、簡単に滅んだ妖。一撃では滅びなかった妖。真正面からまともに受けてなお、涼しい顔をしていた妖すら居た。
しかし、目の前の女はそのいずれでもない。実際、力押しで禁咒そのものを破ってのけたのだ。
「―――成程、伊達に世の『不幸』の一端を担う存在ではないらしいな・・・」

金票の驚愕をよそに、女はひととおり己の“持論”を並べ立てると、コートに両手を突っ込んだ。
そのまま一足飛びに結構な距離を飛びすさり、そして取り出したのは―――左右併せて8枚の符。
直後、女の手の中の符が大地からの霊力を吸い上げ―――女の口訣とともに投擲された。

「怨――――疾ッ」

初めに投げられた四枚は狼に、残りの四枚は黒い鷹に姿を変えて金票に襲い掛かる。

(今度は式符術だと・・・!?全く、伊達に長生きはしていないという事か・・・厄介な)

妖(バケモノ)が符法術――即ちヒトの業にもかなり精通していることに内心驚きながらも
口の端に呪を上せつつ、迎撃体制をとる。
そして女の手から放たれた8匹の禽獣が間合いに入る刹那―――金票は禁咒を発動させた。

「十五雷正法―――『五斧』!」

その一声とともに、金票は束ねた咒符を地に叩きつけた。
それとともに、冠された名にたがわぬ、戦斧のごとき五条の霊力の斬撃が打ち下ろされる。

245 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/22(土) 23:37

vs名も無き女クドラク
>21(続き)

五本の霊気の斧が、向かい来る式禽、式獣どもを一度に叩き潰す。だが、次の瞬間―――

「ぐぅっ・・・!」

仕留め損なった一羽の鷹が左肩に、そして半欠けになった一匹の狼が、右腕に喰らいついていた。
驚きと痛みにひるむ金票。そして、その様子を見てほくそ笑む女。
その女の姿を視界に捉えた刹那、先ほどの女の“持論”が再度頭をよぎる。

“浅学なうじ虫?そうだね。でも貴方達こそ本当に馬鹿な蛆虫。あなた達『御飯』の役目は、後にも先にも二つだけ”

―――この妖(バケモノ)―――

“私のご飯か、遊び相手か。用途は二つ、結末は一つ。とりあえず――――死ぬ”

―――まるで、あいつの様だ。

“あいつ”―――金票の妻子を殺した憎き仇敵、黒き獣。
15年前、まだ「金票」と名乗ってはいなかった男の妻と娘を喰い殺したその上で、
己の悪戯心のゆえに男を殺さず、もがき苦しむさまを見て愉しんでいた――――あの妖。

目の前の女――妖に、“奴”の姿が二重写しになる。
そしてその瞬間、金票の右目―――全てのあやかしを払い、その本質を見通す“浄眼”が、蒼き光を強めた。
金票の中にあった昏き炎が、激しく燃え上がる。

「――――ふ、やはり口で言っても、貴様如きには理解できぬ話だったな・・・」

右腕に噛み付く狼に、左手に握り締めて霊力を込めた金票を振り下ろし、その頭を砕く。

「ならば、もっと明快に教えてやろう。森羅万象の理というものを」

続いて肩にまつわりつく鷹を自由になった右手で掴み、握りつぶす。

「貴様そのものを直に―――禁じることによってな!」
そして禁咒を詠唱しつつ、黒き殺し屋は妖のもとへ駆け出した。


「―――邪怪禁呪悪業を成す精魅、天地万物の理をもちて微塵と成す!」
半端な小技は通用しない相手。ならば強力な攻撃を幾度も重ね、以て崩すべし。

「鬼怪駆逐十五雷正法―――――『九爪』!」

矢のように駆け、一瞬のうちに間合いをゼロとする。
そのまま飛翔し、握り締めた菱形の刃――禁咒の詠唱、そして刺した符の力により、数倍に収束・増幅された
斬れ味と禁力をまとう金票――で、女に向けて袈裟懸けに斬りつけた。

「禁!」
刃が妖の肉を、そして妖気を斬り裂く感触。―――手応えあり。
斬撃の勢いもそのままに、黒衣の符咒師は、女の背後数メートルに着地する。
衝撃でのけぞる女。だがその様を蒼い右眼で用心深く見据え、そして金票は確信する。

ダメージはあったようだが――――まだだ。

246 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/22(土) 23:37

>245は誤爆・・・

247 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/22(土) 23:39

vs名も無き女クドラク
>>244(続き)

五本の霊気の斧が、向かい来る式禽、式獣どもを一度に叩き潰す。だが、次の瞬間―――

「ぐぅっ・・・!」

仕留め損なった一羽の鷹が左肩に、そして半欠けになった一匹の狼が、右腕に喰らいついていた。
驚きと痛みにひるむ金票。そして、その様子を見てほくそ笑む女。
その女の姿を視界に捉えた刹那、先ほどの女の“持論”が再度頭をよぎる。

“浅学なうじ虫?そうだね。でも貴方達こそ本当に馬鹿な蛆虫。あなた達『御飯』の役目は、後にも先にも二つだけ”

―――この妖(バケモノ)―――

“私のご飯か、遊び相手か。用途は二つ、結末は一つ。とりあえず――――死ぬ”

―――まるで、あいつの様だ。

“あいつ”―――金票の妻子を殺した憎き仇敵、黒き獣。
15年前、まだ「金票」と名乗ってはいなかった男の妻と娘を喰い殺したその上で、
己の悪戯心のゆえに男を殺さず、もがき苦しむさまを見て愉しんでいた――――あの妖。

目の前の女――妖に、“奴”の姿が二重写しになる。
そしてその瞬間、金票の右目―――全てのあやかしを払い、その本質を見通す“浄眼”が、蒼き光を強めた。
金票の中にあった昏き炎が、激しく燃え上がる。

「――――ふ、やはり口で言っても、貴様如きには理解できぬ話だったな・・・」

右腕に噛み付く狼に、左手に握り締めて霊力を込めた金票を振り下ろし、その頭を砕く。

「ならば、もっと明快に教えてやろう。森羅万象の理というものを」

続いて肩にまつわりつく鷹を自由になった右手で掴み、握りつぶす。

「貴様そのものを直に―――禁じることによってな!」
そして禁咒を詠唱しつつ、黒き殺し屋は妖のもとへ駆け出した。


「―――邪怪禁呪悪業を成す精魅、天地万物の理をもちて微塵と成す!」
半端な小技は通用しない相手。ならば強力な攻撃を幾度も重ね、以て崩すべし。

「鬼怪駆逐十五雷正法―――――『九爪』!」

矢のように駆け、一瞬のうちに間合いをゼロとする。
そのまま飛翔し、握り締めた菱形の刃――禁咒の詠唱、そして刺した符の力により、数倍に収束・増幅された
斬れ味と禁力をまとう金票――で、女に向けて袈裟懸けに斬りつけた。

「禁!」
刃が妖の肉を、そして妖気を斬り裂く感触。―――手応えあり。
斬撃の勢いもそのままに、黒衣の符咒師は、女の背後数メートルに着地する。
衝撃でのけぞる女。だがその様を蒼い右眼で用心深く見据え、そして金票は確信する。

ダメージはあったようだが――――まだだ。

248 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/22(土) 23:41

>>247
vs金票

対 金票

 ――――斬られた。
 のけぞる身体を無理矢理後に突き出した左足で保ち堪える。衝撃力はかなりの物。骨が、
微かにきしんだ。
 油断していたらこのざま。自分が情けないったら有りはしない。
 斬閃は見えていた。見えていたなら動けた。動けたなら避けられた。
 なのに、避けれなかった。相手の符術をかいくぐって痛手を与え、ちょっとした満足感
と失望感を感じていた矢先だ。
 自分自身の怠慢さに頭が来る。なんて、馬鹿な、わたし。
 じくじくと疼く傷口。骨まで達しているか――痛い、痛いね。
 痛いというのは生きてる証。感謝感激、遊んでいるときくらいしかこの様な感触は味わ
えない。この痛みすら娯楽の過程。
 意識の片隅を占領する灼熱の感触。それが痛み。

 傷口に指を這わして、軽くなぶる。ぢりぢりとした痛みと共に、骨肉が灰になる感触。
 ああ、つまり。相手の符術には、わたしみたいなのを滅ぼす効果が有るみたいだ。
 普通にわたしと遊びたがるご飯達はちりちりする銀やそれに類する物で武装しているけ
れど、それとはまた違った感触。
 面白い。弄ってみたら、きっと面白いだろう。

 ――ああ、でもこれで決まった。割と本気で遊んでも、保ちそうだ。このご飯は。
 自分の口元が動くのが解る。
 久しぶりに、頑丈で、丈夫で、耐久力のある遊び相手が見つかった。ならば、やることは少ない。
 とりあえず、傷口を弄るのはヤメにして、相手の方に向き直る。動く左手で懐から再び
符を数枚引き抜いて気を込める。

「速かった。痛かった」

 口元から、笑みが零れる。やっぱり、嬉しさは隠せないらしい。
 本当に、久しぶりだから。銃剣を投げつけてきた変な神父以来、久しぶりにわたしを殺
しそうな人が来たから。
 殺されるのは嫌だ。痛いのは嫌だ。死ぬのは嫌だ。
 でも、心の奥の何かがそれを受け入れてくれる。
 傷口が段々と、しかし遙かに遅く塞がっていくのを感じながらわたしは話す。
 
「――――天地の理。
 それは、存在する物が在るように在ると言うこと」
 
 相手の間合いよりも半歩外の位置を保ちつつ、徐々に後退。
 滴る血が左手を伝い、地面に滴っては水飛沫の音を立てる。耳に涼しい。
 風が吹いて、血が徐々に乾いて、気化潜熱がわたしの身体から熱を奪う。頭に残る灼熱
感も、徐々に奪い取ってくる心地よさ。

249 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/22(土) 23:42

>>248(続き)
 
「貴方が在るように、わたしもこの天と地の狭間に在る」
 
 左肩の骨が繋がった。手指腕が動くことを確認。大丈夫。いける。
 時間稼ぎにも飽きてきた頃だ。相手の動きを伺いつつ、再び両手をコートの中に突っ込
んで、必要な物を取り出す準備。
 左手にはさらさらと乾いた紙の感触。
 右手には冷たい鉄の感触。
 両方とも、わたしにとってはとても馴染みのある物だ。特に右手に握り込んだ物は、わ
たしの呪の要。
 これを使用しないわたしの術は、小手試しと言っても良いだろう。

「つまり、貴方がしようとしている事こそ、天地の理を崩す行為
                          ――――違う?」

 微笑して両手に握り込んだ物をそれぞれ引き抜く。
 左手にはやや大きめの符が一枚。先程投げたのよりも、遙かにびっしりと呪言と祭文が
書き連ねてある。
 わたしが予想していた奴と間違えたみたいだけど、これはこれで構わない。強いし。
 右手には、古ぼけた鉄剣。それも、ただの鉄剣じゃない。
 6本の枝刃がついた、祭儀用の剣――――七肢刀。
 流し込んだ呪力に反応して、刃がキンと啼く。振るえば朔風が巻き起こり、蕭々と涼や
かな音を立てた。何時も通りの感触を確かめた後、コンクリートの地面に突き立てる。

「ならば、わたしがこれからするのは理を正すこと」

 段々と紫色に転じる空。陽が沈み、星が降り、私たちの時間がやってくる。
 突き立てた七肢刀を媒介に吸い上げるのは大地の精気。身体の芯を通り抜けていく感覚
に目を細めながら、、符を起動させる準備。
 背筋がぞくぞくするほどの量の気を流し込んで作り上げるのは、わたしの持ってる符の
中でも割と強力な部類に入る物。

「だから、大人しく足掻いて、わたしを楽しませてね?」
 符を投げ、その中心点……点穴を指で突き、口訣を唱える。

「怨――――――――雷薙ッ」

 たったそれだけのプロセスが、符に封じ込められた呪いと大地の気を昇華させて世界に
魔術を顕現させる儀式。
 言葉と気を流し込むという儀式を経て生み出されたのは、雷撃。
 これで終わるとは思っていない。これで終わるのだったらこの先わたしが遊ぶ意味がない。
 網、と言うよりは柱という規模の電撃が道路を舐め尽くして相手に迫る中、わたしは相
手の反撃を予感して更に距離を取った。
 気付けば、背後は川。だけど、未だ横に逃げる道はある。それだけを確認して。
 ……さあ、どうでるのかな?

250 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/22(土) 23:45

vs 名も無き女クドラク
>>248-249

「九爪」をその身に受け、派手にのけぞりつつも、女は態勢を立て直した。
「―――速かった。痛かった」
言葉とは裏腹に愉悦の笑みすら浮かべ、再度コートに手を入れ、中をまさぐる女。

―――ちっ、やはり決定打にはならなかったか・・・
舌打ちする金票に、女が更に言葉を投げかけて来る。

「――天地の理。それは存在する者が、在る様に在るということ。
つまり、貴方がしようとしている事こそ、天地の理を崩す行為――――違う?」
それは、先ほどの金票の言に対する反論だった。
そして、その言葉とともに抜かれたのは先程よりも長大かつ強い“気”を秘めていると思しき呪符。
そして古ぼけた剣―――太古より呪術に用いられてきた、七支刀だった。

「ならば、私がこれからするのは理を正す事」

女の不敵な――あるいは不遜とも取れる言葉とともに、
先刻とは段違いの霊気が、呪力が、吸血鬼のもとへ収束してゆく。

―――――拙い。大技か?
感じた悪感に、とっさに懐中の金票と符に手を伸ばす。
浄眼に映るのは、馬鹿馬鹿しいほどに膨れ上がった妖気・霊気・呪力の混合体。

「だから大人しく足掻いて、わたしを楽しませてね?」
“力”の集中が収まる。その中心点の符は、もはや破裂寸前まで力を溜め込んでいた。
女が符を投げ上げた。妖の指が点穴を突き、その口から口訣が発せられる。
刹那、浄眼が捉えた気は――――雷気。

「怨―――――――――雷薙ッ」
視界を埋め尽くす雷の嵐が、金票を吹き飛ばさんと迫る。

251 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/22(土) 23:49

vs名も無き女クドラク
>>250(続き)

「――――くっ!」
先ほどの悪感は、稲妻となって金票に襲い来る。
とっさに符を刺した金票を大量に地面に突き立て、さらに扇状に持った符の束をかざし、
対雷撃の禁咒を詠唱する。

「―――九天応元雷神普化天尊!呼神雷部・制邪雷法・禁雷法縛!
雷気轟来すれど我神気金剋を以てこれを避く―――――雷気よ退けぃ!禁!!」
雷禁咒発動。地面に突き立てた金票を境に、稲妻の嵐が遮蔽される――――が。

ばきばきばきぃっ!

雷撃の負荷に耐えかね、足元の金票が砕ける。
結界がほころび、禁じ切れなかった数条の雷が金票を打った。
「ぐぉぉぉぉぉっ・・・!?」

そして雷の嵐が去った後、ボロボロになりながらも、黒衣の殺し屋はまだ立っていた。
だがしかし、その眼に宿るは―――さらに昏く、蒼く輝く炎。
笑みすら顔に貼り付かせ、符咒師は口を開いた。

「天地の理を崩す行為・・・?違うな、吸血鬼。
貴様の『在る様に在る』という言葉、確かに一理ある。だがお前は人の『あるべき様』をすでに崩している。
そして、それを破壊するものに抗うもまた、人のあるべき姿」

懐に手を差し込み、さらに金票は続ける。

「だがそれより何より、貴様には滅ぶべき理由がある」

懐から取り出すは十数本の金票と、その先端に刺さった符。

「お前は…子供を殺した。理由はそれで十分だ・・・・・・!」

腰を落として、霊力を高め、両手に満載した金票を振りかぶる。そして禁咒詠唱。

「十五雷正法――――『七排』!」
金票の手から一斉に放たれた菱形の刃が女を現世から排斥せんと、禁力を纏って飛ぶ。

252 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/22(土) 23:52

>>250-251
 vs金票

 相手は、雷撃を防いだ。まあ、予想通りと言えば予想通り。
 だからといって何が変わるわけでも無し。わたしの傷はじわじわといやされていく。
 けれど、相手の損傷はそう易々とはいやされない。
 バイタリティの差。いかんともしがたい、決定的な差だ。

 あの、ぴりぴりとした妙な短剣を腹に抉り込まれたら、さすがに死ぬほど痛いだろう。
 でも、痛いだけだ。死ぬほどに。死ぬほどなだけで、実際に死ぬ訳じゃない。
 じゃあ、相手はどうだろうか?
 相手はご飯だ。所詮は被食者。腹にそんな物をおもいきり打ち込まれたら悪くて即死、
良くて致命傷。
 もろい。今度の相手は丈夫な方だろうけれど、それでも脆いことに代わりはない。

 そんなことを考えていたら、何か軽く音を立てて飛んできた。黒い、嫌な気をまとわり
つかせた、あの短剣が数本だ。
 見た。
 見えた。
 先程も思ったように、見えるなら動ける。動けるなら躱せる。
 回避は防御と違って一切ダメージを受けないのが利点。必要なのは速度と技量。
 でも、それはご飯達の場合。

「――――まだ、解らないのかな?」

 前に進む。短剣の嵐の中に身を滑り込ませる。
 びりびりとした結界の中に突っ込んだような感じ。それでも、直撃しなければどうと言
うことはない。そして、直撃はしない。
 それが、わたし。夜に生き、血をすする者、らしい。
 いつかだれか、わたしに似た人が教えてくれた。教えてくれるまでもなく知っていた確
固たる事実。不変の方程式。
 見える物なら避けれる。そして、銃弾すらわたしには見える。
 普通のご飯が全力で投げるよりも遙かに鋭い短剣。それでも、音速の壁を越えるのには
遠すぎて、わたしにとっては遅すぎる。
 普通に、見える位置から見えるように見える速度で投げたのならば、どうぞ避けてくだ
さいと言っているような物。

 額に刺さる寸前、首を捻って回避。
 傷を負った左肩に刺さりそうだった数本は身を捻ってコートでたたき落とし、脇腹に直
進していた二本は急速な風の動きに翻弄されてコートを引き裂いて終わり。
 右膝に向かっていた一本は七肢刀で払い飛ばす。きぃん、と涼しげな一音が鳴ったその
瞬間も足は前に前に前に。
 受ければ血肉が灰になる。でも、当たらない。回避して回避して回避する。
 身体の隅々をぱりぱりした気配が通り抜けていって、それにゾクゾクとした物を感じな
がらも直進前進疾駆。
 あれだけ開いていた距離はどんどんと縮まる。
 目の前に黒い愚者がどんどんと近づいてくる。

 目の前で急停止。

253 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/22(土) 23:52

>>252(続き)


「――――食べやすいものを食べるのは生存の基本。その程度も知らなかった?」

 その左腕に軽く触れるようにして先程取り出してそのままにしていた符を張り付けて、
後に回る。一連の流れるような高速動作。
 自分でもちょっと自惚れても罰は当たらないだろう。
 そして、背後から、囁きかけるように

「ああ、ごめん。無学な蛆虫だったっけ、貴方――――」

 微笑してあげる。
 直後、反撃を避けるために大跳躍。近くの電柱(とか言う名前だったと思う)の上に着
地して、軽く七肢刀を振るう。
 風が巻き、いい音を立てた。夜気に簫音が響くこの感覚がわたしは好きだ。
 そのまま、電柱を二本三本と飛び移る。途中で空を見渡して月の具合を確認。
 割と中途半端な欠け方の月。まるで、相手の技量の様。

「さて――――もうちょっと面白い催し物はない?」

 相手を見下げながら問う。黒い相手は夜闇に紛れて見えにくそう。でも、月の明かりは
わたしの味方。はっきりくっきりと相手の姿を映しだしてくれる。
 相手を見据えながら考える。
 無いのならこの場で殺す。

「有るなら、もうちょっと付き合ってあげても良いよ?」

 微笑して、待つ。そういえば、答え次第では、この後すぐに夕食を探しに行かなくては
ならない。よく考えれば、この愚者のお陰でご飯を食べ損ねていた。
 この街の何処に、ご飯が集まるんだっけ。思い出さなきゃ。

254 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/22(土) 23:54

vs 名も無き女クドラク
>>252-253


――――疾い。

ほんの一瞬だったが、そのとき金票はそんな感想を抱いた。
『七排』の―――十数本の金票の群れに飛び込む女吸血鬼。
襲い掛かる菱形の刃をあるいは避け、あるいはやり過ごし、あるいは叩き落す。
まさに神速――鎌鼬もかくやと思わせるような、なめらかかつ素早い動きで金票の群れを抜け、
妖は符咒師に猛速で近づいてくる。

――迎撃せねば。
そう思ったが、先刻の雷撃の影響か体が一瞬しびれ、反応が遅れる。
そして、金票と妖の距離がゼロになる刹那――――
不意に、妖が金票の視界から外れた。左腕に何かが貼り付けられる。
直後、すぐ左後方―――ほとんど耳元といってもいいぐらい近くから、女の声がした。

「――――食べやすいものを食べるのは生存の基本。その程度も知らなかった?…ああ、ごめん。
無学なうじ虫だったっけ、貴方―――」
「!!」

とっさに後方に金票を振り抜くが、女はそれをあざ笑うかのごとく、大跳躍でそれをかわす。
手近な電柱の上に着地して七支刀を一振りした後、三たび別の電柱へ飛び移り、空を見上げる妖。
例の無邪気な口調を崩さぬまま、女は上から声をかけてきた。

「さて―――もうちょっと面白い催し物はない?あるなら、もうちょっと付き合ってあげてもいいよ?」
ふざけている。遊んでいる。相変わらず、眼下の殺し屋をオモチャとしか認識していない―――
そんな態度が、ありありと表れた言動。

「…無学なうじ虫、か。ではそのうじ虫から、一つ学の浅い年長者に言葉を贈ろう。――灯台下暗し」
蒼い光をたたえた右眼で吸血鬼を見上げつつ、金票は口を開いた。
左手に貼られた物――女の呪符をはがすと、取り出した一本の金票にそれを刺す。

「忘れ物だ―――返しておこう」
符を刺した金票を、女の方向へ投げつける。ただし―――やや下方気味に。

255 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/22(土) 23:58

vs 名も無き女クドラク
>>254(続き)

「―――――?」
少し的を外して飛ぶ金票に、一瞬きょとんとする女。
投擲された菱形の刃は、そのまま辿ってきた軌道に忠実に、女の足より数十センチ下に向かう。
そしてそれは過たず、電柱の高圧電流を抑える制御機器―――アースに突き刺さった。

「―――禁!」
刹那、金票の禁言とともに爆砕する金票。
禁力の爆発に、即座に刺してあった呪符の魔力回路が誘爆し、上乗せされる。
そして、アースの爆破によって抑圧から一度に開放された、凄まじい量の電気が放たれる。
爆発と先程の雷術にも劣らぬ高圧電流が、すぐ真下から女に牙を剥いた。

先程のあの態度に、挑発の意図があるのはわかりきっていた。
そして足場の不安定な空中戦では、人外である吸血鬼に分があることも。
相手が有利である空中に踏み入るのは愚の骨頂。ではどうするか?


―――自分の領域に引き摺り下ろすまでだ。


爆焔から抜け出てくる女を蒼い目で油断なく睨みすえ、金票は告げた。
「高い視点でモノを見るのも結構だが、それではえてして足元が見えなくなる。
人間を無学と呼ばわる前に、まずは自分の足元から見直すのだな。浅学な長生者よ」

冷厳と言い放ち、殺し屋はさらに新たな金票を抜き放つ。

256 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/23(日) 00:00

>>255
vs金票

 「灯台下暗し」と、それは言って例の黒い短刀を投げつけてきた。わたしの張り付けた
符と一緒にして。
 予想できた範囲の行動だ。別に勿体なかったから張り付けたと言うだけで、アレその物
は張り付けて使用するタイプの符ではない。
 刃は一直線にわたしに向かって――――こない?わたしよりやや下方。電柱に突き刺さ
る軌道を鋭く突き進んでいる。

「――――?」

 投げを失敗した? 否。ありえない。これまで投げてきたあの黒刃の精度から言って投
擲に失敗するとは考えにくい。
 ならば、相手は何かを狙っているのか。
 …………この「電柱」は、高圧電流を流す鋼線によって他の物と連結している。それく
らいは知っている。それに触れては危険だと言うこともよく解る。
 鋼線を切ってどうにかするというのなら未だ解るけど、電柱その物を狙って――その物?
 ふと、気になって。視界を下方へ向ける。
 刃の突き進む先、当たる寸前、そこには、奇妙な箱が――――

「――――」

 直後、わたしの視界が流転していた。見上げた月の近さで空を飛んでいる、と言うこと
に気付いた瞬

「っっっっっっっっっっっっっっっっっっくあああああああああああああAAA!!!」

 し、シカ、視界が朱に染ま――全身を駆けめぐる雷撃――――四肢を引きちぎらんばか
りの爆――――発
 三半規管が悲―――鳴、音が聞こえない、耳から血が出てるのを感じる、意識が白んで、
遠く遠く遠く――――雷撃に乗った呪がわたしを根こそぎ吹き飛ばそうとして。
 
 最後に見えたのは、堅そうな、冷たそうな、地面

―――――――暗転――――――


 ――――ああ、死んだな、と。そう、思考した。
 思考した次の瞬間には、わたしは夜空を見上げていた。
 こうして、空を見上げて、意識も肉体感覚も全て揃っているのに。

「…………」

 意識がまとまらない。頭がぼーっとする。
 寝起きみたいだ。そう、何時も思う。
 生き返った――――死に返った後は。
 死んでいたのは一瞬だったらしい。衝撃とわたしを封じようとする力がわたしの存在維
持力を超えて、わたしを殺した。
 その分、外傷は少なかったみたいで。心臓も脳も、雷撃に灼かれはしたけれど比較的無
事だったみたい。
 故に、蘇生が速く済んだのだろうけれど。
 
 わたしは、殺されても滅びない。わたしを完全に滅ぼすにはある手段が必要。
 残念。もうちょっとだったのに。本当に残念だったね。

 全身に残る気怠い死の気配を無視して、無理矢理起きあがろうとする。
 コートは殆ど焼けこげて。内側の呪符も使える物はほとんどない。
 起きあがった。驚きの表情でわたしを見る相手。

「ああ、死ぬかと思った――――本当に」

 ふらふらとおぼつかない足取りで後退、後退。時間稼ぎ。せめて、両足の感覚が戻るまで。
 意味もなく、口元が歪むのが解る。余り上がろうとしないテンション。このままだと、
また殺されるのが関の山。
 まあ、ソレでも良いかと思う。

「先程の講釈、最後まで聞けなかったけど、返礼を返してあげる」

 両足……膝の再生が、遅い。拙い、かも。
 とりあえず、ふらつかずに歩くことは出来そうだけれど、しばらくは走れない。きっと。
 でも、こういうシチュエーションも面白い。今まで、割と無かったから。

「戦の理は三つ」

 言って、姿勢を墜とす。四つん這い。使えない両足の代わりに使うのは両手。
 大地を掴み、全身のバネを溜める。

「一つ目。速度は戦場に置いて攻撃力と直結する――」

 跳ねた。側壁めがけて、飛び込むように、地面と水平方向に跳躍。
 壁に手を突き、反動で向かいの壁へ。そのままどんどん近づいていく。
 サイドに、回り、再び、耳元で。

「――二つ目。力は戦場に置いて打撃力と直結する。
 この二つに置いてわたしに劣る貴方達は、絶対に、勝てない」

 側頭部に全力で打撃。遠慮なく、一撃で頭を飛ばし、屠る。

257 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/23(日) 00:03

>>236 蛭児VSマリアベル・アーミティッジ
 
(ふふん、久々のご対面じゃのう)
 
扉を破り現れた彼奴を、片目をつむり腕を組んで見下ろす。
たまーにリルカやらに「えらそーだ」とか言われる、いつものお気に入りのポーズ。
無論、すぐに攻撃に移れるようアカとアオをわらわの上空で待機させて、じゃが。
 
さて、どう出てくるか――と、思うまでもなく彼奴は仕掛けてきた。
問いかけの言を発しながら、またしても蝙蝠達をけしかけてくる。
やれやれ、バカの一つ覚え――――な!!?
 
 
次の瞬間・・・一陣の風のごとく急接近した彼奴によって、わらわは左肩を壁に叩きつけられておった。
レッドパワーを用いる暇もあらばこそ、アカとアオの――わらわが造り、調整した小型自律兵器の反応速度さえも上回って。
 
そしてさらに、右肩を彼奴の爪で貫かれる。
 
「ッ・・・! あ、あ・・・」
 
激痛に、知らず声を漏らす。
彼奴自身、吸血鬼ならばそれなりの力を持ち合わせておるとは踏んでおったが・・・この速さ、ちと予想外であった。
まさか、これほどとは・・・
 
じゃが・・・まだ、終わらぬわいッ!
 
「あ、く・・・ふ、何を、愚かな・・・
 ごたくを、並べる前に――何か忘れておらぬかッ!?」
 
痛みに構わず、言い放つ。
――瞬間、アカとアオが、彼奴の左右からその丸い機体で躍りかかる!

258 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/23(日) 00:04

vs 名も無き女クドラク
>>256

「・・・ちぃっ!」
爆発と電撃に灼かれ、地面にしたたかに打ちつけられてもなお身を起こし、女吸血鬼は飛び掛かってくる。
両の手で跳躍し、左右の壁でジグザグに跳ね、鎌鼬を思わせる猛速で。
そして、金票が気付いた時には――――――

すぐ右―――真隣に、拳。
それも成人男性の頭を粉砕するのには十分な意志、力――そして疾さをもって。
「くっ!」
符咒師の手が動く。そして、次の瞬間―――――

バキャッ!

何かが砕ける音とともに、殺し屋の体が、宙を舞っていた。

「がっ・・・!」
苦鳴とともに、硬いアスファルトに転がる黒衣。
頭は・・・・・・どうにか残っていた。
ただ、頭からは少なからず血を流しているため、完全に無事とは言えなかったが。
砕けた金票の欠片と符の燃えカスが、酷使への不平を訴えるように、主の周りに散らばっていた。

吸血鬼の拳が側頭部に打ちつけられる、その瞬間―――
符咒師はとっさに持っていた三本の金票をかざし、そこに符を差し込んで超小型の結界を張り、
それを即席の盾として妖の拳を受けたのだ。そのため、ヒトの頭を粉砕せしめるに十分な力をもっていた拳も
その破壊力を大きく減じ、金票は殴り飛ばされるのみにとどまったのである。

「ふ、ふふ・・・。絶対に、勝てぬ…だと?それに、戦の・・・理?――――――笑わせるな。
やはりおまえは浅学だよ、妖(バケモノ)」
拳から煙を立ち上らせる女を、未だ歪みつつある視界に捉えつつ、金票は立ち上がる。
地獄の悪鬼どもすら恐怖させるような、凄絶な笑みを顔に貼り付かせて。

「学の浅い長生者に、お前が『無学なうじ虫』と呼ぶものからもうひとつ教えてやる。
“兵を形するの極は、無形に至れり。妄進は只擒わるるべき也”―――
いかに強大な力があろうとも、それをただ無闇に振り回すだけでは戦には勝てぬのだ。
今からそれを、お前の身を持って証明してやる」

それだけ言い終えると、金票はスーツの袖から、十数本の紐の付いた金票を地面に垂らした。

259 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/23(日) 00:05

>>258
vs金票

 ――――気にくわない。
 何が気にくわないのか。わたしが死ねと思ったのに死なない。それが主な不機嫌の理由。
 兎に角、うっとうしい。お腹が減った。
 ご飯食べたい。牛乳飲みたい。昼寝したい。
 部屋に帰って日記描かなきゃいけない。術式の研究しなきゃいけない。
 やりたいこと、やらなきゃいけない事まだ一杯あるのに、一つのことにかまけてなんか居られない。
 まあ、とどのつまり。「これ」で遊ぶのに飽きた。
 わたしを殺したことには敬意を表するけれど。ただ、それだけ。
 殺すのも面倒くさい。でも、禍根を残すと困る。と思う。

 面白いけれど詰まらない。
 面白いのに詰まらない。
 面白いのに面白くならない。
 心も体も冷めたまま。ああ、まあこんな日もあるのだろうけれど。
 兎に角。遊戯としては物足りない。
 興奮が長く続かないのがその証拠。

 だけれども。「無学」と言われるのはそれなりに腹が立つ。何故かは知らないけれど。
 とりあえずは、その言葉だけでも訂正して貰おうか。
 それで、見逃してあげよう。うん、わたしって優しいね。良いことだ。
 溜め息つきつつ

「はぁ…………飽きた」

 まずは意思表示。意志表現は大切。いくら相手が浅学な蛆虫でも。
 ――――それにしても、ただ謝らせるだけじゃ面白くない。
 そう。拳骨のもう一発でも入れていこうか。間違ったことはちゃんと正してあげないと。
 愛の鞭。――血反吐が出そうな語感。特に「愛」の辺り。

「拳骨一発で許してあげる……とりあえず、わたしのこと馬鹿って言ったの取り消して……。
 それで許す……お腹減ったし」

 もう一つ溜息。
 返事を待たずに七肢刀を……ああ、そういえばコート焼き切れてたっけ。
 とりあえずその辺の地面に突き立てる。
 突き立てた反動が膝にキモチワルイ。帰ったら治療しなくちゃ。
 
 暗闇の中改めて相手を見据える。
 糸の着いた件の短刀が地面に散らばっている…………無視。一発殴る。
 ああ、そう言えば講釈の返事をしないと。礼儀。

「ああ、それでも。
 あらゆる計略は速度によって無効化されあらゆる技は剛力によって粉砕される。
 電撃戦における速度は打撃力に比例する――って誰かが言ってた」

 敵の防陣の中に突撃慣行。ああ、さっさと終わらせてご飯食べたい。
 とりあえず、頭に当てると死にそうだから腹に一撃入れようか。全力で。

260 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/23(日) 00:08

vs. 名も無き女クドラク
>>259

攻撃を待ち構える態勢に入る符咒師に、目の前の吸血鬼は不機嫌そうな顔をする。
先程の打撃で殺せなかった事がよほど気に食わなかったらしい。
そのまま、なにやらぶつぶつと呟き始める女。

―――また新たな呪か?
いぶかしみ、神経を尖らせる金票に向けられたものは――――魔法や呪術の類ではなかった。
それは殺し合いの場にはあまりに場違いな、
しかしこの妖の気性を考えればもっともと言える発言の羅列。

「はぁ…………飽きた」

――――飽きた、だと?
・・・・・・事ここに至って、未だにゲーム感覚か。

「拳骨一発で許してあげる……とりあえず、わたしのこと馬鹿って言ったの取り消して……。
 それで許す……お腹減ったし」

――――“馬鹿って言ったの取り消して”?“許してあげる”?
・・・・・・許しを請う立場にいるのはおまえの方だ。もとより、許すつもりなど毛頭ない。
そしてそんな事も分かろうとしない、世の理を理解しえぬ貴様のような奴の事を、愚者というのだ。

―――“お腹減ったし”?そうして貴様はまた戯れに人を殺し、
血肉を喰らって飢えを満たすのだろう。
私に殺しを依頼してきた、あの男の一家にしたように。
私の右眼を、私の妻子を、わたしの人生を蹂躙した、あの黒い字伏のように・・・!!!

加速する憎悪を心中に押し込め、殺し屋は再度女を凝視する。
また例の“口上”を並べつつ、常人には到底出せぬ速度で飛び込んでくる女。
相手の妖気と意思の流れを、周囲の気の流れを知覚する周天の構えで感じ取り、
浄眼でつぶさに追い、動きを察する。

―――ヤツは疾い。確かに疾いが・・・・・・それだけだ。

261 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/23(日) 00:15

>>260(続き)

「ふっ!」
短い呼気とともに、金票は両手を勢いよく振り上げた。
それと同時に、地面に垂らされていた十数本の金票が一斉に蛇の如く
鎌首をもたげ、女のほうへ飛んでゆく。
おもむろに、殺し屋は口を開いた。
「・・・力を頼みに迫りし敵、力で以て抗するは下なり」

先程と同じような刃の群れに、相貌に軽い失望を浮かべる吸血鬼。
そのまま先程と同じように金票の群に身を滑り込ませ、突破しようと試みる。

「力を逸し、力を殺し―――――あらゆる角度から攻撃するべし」

この不幸の権化たる妖は、果たして気付いていたのだろうか。
直進する動きは破壊力と突進力こそ比類ない反面、その単純さゆえ至極読まれやすいと言う点に。
そして、飛び来る白刃の群れには、魔封じの黒い紐が付いていたということに。
そして男の足は、北斗の印を踏んだ。

「妖魅は土に還るべし・・・鬼怪駆逐。
――――十五雷正法、『十二散』!」
男の一喝と同時に、女の飛び込んだ金票の群れが、それに結ばれた紐が、一斉に爆発した。
無数の刃の欠片が、極大化された禁力の爆発が、封魔の紐の残滓が、全方位ゼロ距離から吸血鬼を襲う。
だが、それでもまだ符咒師は手を休めない。
右手を腰に回し、左手で印を組み、口訣を唱える。
それは、数瞬の間だけ力を顕す高速飛翔の咒。
「十五雷正法、『十翼』!!」

爆焔から飛び出さんとする女めがけ、腰から引き抜いたものを両手で構え、符咒師は跳ぶ。
それはまさしく、剛弓から放たれた一条の矢。
両手に握り締めるは、封魔の霊木トネリコの杭。
狙うは吸血鬼の急所、心臓。

262 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/23(日) 00:16

>>260-261
vs金票

 予想通り。周囲の短剣は飛び上がってわたしを突き刺そうと飛翔。
 くっついた紐は件の黒い紐。絡め取られたら事だけど。絡め取られなければどうと言うこともないのが事実。
 迎撃の術にしては稚拙すぎる。恐らく、何か隠し玉があるのだろう。
 気にしない。アレの全てを超越する速度でもって打撃を入れる。
 打撃は手加減するつもり。でも、速度は手加減無しだ。

 ふと。乱舞する短剣に、妙な気配が宿る。
 …………なんだろうか。
 意識の一部が警鐘を鳴らす。危ない。何かを見落としている。致命的な情報の欠落。
 何かがおかしい――――何がおかしい?
 周囲の上方は全て把握。相手の隠し玉がなんなのかは不明だけれど予測は可能。
 危険なのは解る。どう危険なのかが解らない。
 飛ぶ短剣。踊る黒紐。妙な気配。
 短剣に呪力はない。頬の傷は完全に癒えた。
 此処で剣に呪力が突然宿るのはおかしい。
 そして、黒紐には呪がかかっている。わたしを束縛して、妙な気配を――

「――黒紐は呪力を通す」

 気付いた瞬間、周囲が白く染まった。

「ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああっ!!」

 体中が灼かれる感触。残っていた衣服の切れ端も全て灼かれた。
 髪の毛が焼ける。皮膚が灼ける。わたしが灼けて灰になる。肉が焼ける臭いが一瞬で鼻腔を満たし、そして感覚過多で消えた。
 意識も消えそうに。だけど、まだ――まだ、一発入れてない。
 こんな処で終わっても目覚めた後にもっと詰まらなくなるだけだ。
 爆炎の中、上手く動かない足で地面を更に蹴る。膝の感触はぎしぎしと悲鳴を上げて。

 未だ抜けない。高速化した思考はただ単に全身から送られてくる痛みの信号だけを受信して視界に移る映像はただ真っ白なまま。
 痛い。それだけでなく熱い。痛みはそのまま全てが灼熱感に転化して、爆熱がそれを更に加速する。
 ……砂漠にいるようだ。砂に足を取られてなかなか前に進めないところも、そっくり。

 未だ抜けない。全身が徐々に灰になる感触。自分の身体が段々と削られていく感触。
 大陸の処刑方で、身体を何十回も浅く斬りつけてじわじわと殺す方法があるという。
 それをこの身に受けているような感覚。

 未だ抜けない。抜けない。抜けない。抜けない。
 抜けた。

「は」

 止めていた息を吐き出して肺に新鮮な夜気を送り込んだ瞬間に見えたのは白木の杭を持ってこちらに飛翔してくる黒いアレ。
 ――セイヨウサンザシじゃあないみたいだけど。滅びかねない。
 軌道を確認。駄目だ。このままだと心臓に刺さる。
 滅ぶ?
 滅びたくない。
 死ぬのは嫌だ。
 滅びるのも嫌だ。

 嫌だ。

 全力で身を捻る。再生中だった左手が動きについてこれなくて千切れ飛んだ。
 軸にした左足の関節が外れた。関節の類の損傷は治りにくい――滅びるよりはマシ。
 兎に角、その杭の先端から身を、心臓を必死で逸らそうとする。
 四肢の損失に伴って崩れたバランスを無視して――

263 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/23(日) 00:18

vs. 名も無き女クドラク
>69

「おおおおおぉぉぉぉぉォォ!!」

咆哮しつつ、黒い弾丸と化した男が妖へ迫る。
瞬間、急所を避けんと身をひねる女。
その間にも、その弾頭――白木の杭が、女の胴へ吸い込まれ―――

どっ。
くぐもった音を立て、魔を退ける霊樹の牙が、吸血鬼の腹に食い込む。
食い込み、皮膚を貫き、肉を破って――――それでもなお、黒い弾丸は止まらない。
重なり合った二つの人影は、そのままの勢いでさらに突き進み―――

ガコォォォン!

鈍くも大きい衝突音が、夜のしじまに高々と鳴り響く。
折り重なった殺し屋と吸血鬼は後ろの壁にぶち当たり、そこで止まった。
――まだだ。
まだ、終わってはいない。

「ぬああああ!」
殺し屋は右拳を振り上げ、全身全霊をこめて杭に打ちつけた。
黒衣の全身から飛び散る紅い飛沫が、足元のアスファルトを斑に染める。そして―――

「…………禁……!!」
残った最後の禁力を、杭を媒介に流し込む。
どん、と音を立て、注ぎ込まれた“力”が妖の体内をほとばしった。
見る者が見れば、女の体内で光が爆ぜたように見えたであろう。


不幸を司る吸血鬼・クドラクの肉体は、ゆっくりと崩壊を始めた。

264 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/23(日) 00:19

>>263誤爆。すまん。

265 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/23(日) 00:20

vs. 名も無き女クドラク
>>262

「おおおおおぉぉぉぉぉォォ!!」

咆哮しつつ、黒い弾丸と化した男が妖へ迫る。
瞬間、急所を避けんと身をひねる女。
その間にも、その弾頭――白木の杭が、女の胴へ吸い込まれ―――

どっ。
くぐもった音を立て、魔を退ける霊樹の牙が、吸血鬼の腹に食い込む。
食い込み、皮膚を貫き、肉を破って――――それでもなお、黒い弾丸は止まらない。
重なり合った二つの人影は、そのままの勢いでさらに突き進み―――

ガコォォォン!

鈍くも大きい衝突音が、夜のしじまに高々と鳴り響く。
折り重なった殺し屋と吸血鬼は後ろの壁にぶち当たり、そこで止まった。
――まだだ。
まだ、終わってはいない。

「ぬああああ!」
殺し屋は右拳を振り上げ、全身全霊をこめて杭に打ちつけた。
黒衣の全身から飛び散る紅い飛沫が、足元のアスファルトを斑に染める。そして―――

「…………禁……!!」
残った最後の禁力を、杭を媒介に流し込む。
どん、と音を立て、注ぎ込まれた“力”が妖の体内をほとばしった。
見る者が見れば、女の体内で光が爆ぜたように見えたであろう。

不幸を司る吸血鬼・クドラクの肉体は、ゆっくりと崩壊を始めた。

266 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/23(日) 00:21

>>265
vs金票

「か」

 ――気付けば。腹腔にこれまでとは比べ物にならないほど鋭い痛み。爆炎の灼熱感すら
まるで前菜に思えた。
 ほとばしる閃光のような霊気。わたしを封じようとする力。
 がらがらと崩れ落ちていく四肢感触。
 ぼろぼろと砕け落ちていく末端神経。
 バラバラに割れ落ちていく自我意識。
 末端神経まで張り巡らされた意識の手綱は男の禁という叫びによって簡単に紐解かれる。
 解かれた紐は糸になってはらはらと燃え墜ちるが定め。

 臓腑が一瞬で灰になるのが解った。身体のバランスが取れない。前に倒れそう。
 絶体絶命。でも、思うのはそんな事じゃない。
 ははは。まあ、良かった。此処なら、滅びない。此処なら、刺されても、滅びない。
 絶望的なまでに痛くて笑いがこみ上げてくる。
 滅びない。それなら大丈夫だ。大丈夫大丈夫。良かった。大丈夫。

「あはは……」

 嬉しくて。安心して。笑みが漏れる。
 ああ、本当に良かった。死ぬだろうけれど、滅びなかった。
 死ぬのは痛い。痛いのは嫌だ。でも、滅びるよりは良い。本当に。痛い方が良い。

「本当に。びっくりした……もう、刺すなら、此処だよ。
 此処じゃないと、わたしは滅びないんだから」

 そう言って、胸を残っている右腕で指し示してあげる。
 うん。これで、別の奴相手には間違えないだろう。嬉しさの残滓が微笑みとなって漏れ続ける。
 自分じゃ止められない。思考は混乱。
 相手を殺したくて殺したくて絶望の淵に陥れたくて。でもわたしの中の炎は燃えるどこ
ろかさめざめと溜息。
 どうにも。身体が言うことを、聞かない。良くないことだ。
 
「じゃあ、一発入れるから。歯ぁ食いしばって」

 中身が灰になってがらんどうな身体を前に進める。
 相手の手がずぶずぶとわたしの身体に入っていく感覚――砂地に突き込んでいく感触。
 わたしの臓腑は灰になったのだから当たり前と言えば当たり前か。
 なんだか、酷く時間がかかって拳が届く位置に。
 腰を入れることが出来ないのが残念だけど。右腕を振りかぶって、相手の腹にめがけて
最速の、最高の直線打撃――
 

                   ――届く寸前に、わたしの拳と意識は灰になった。

267 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/23(日) 00:23

金票vs名も無き女クドラク エピローグ
>>266

「――――まったくもう!こんな遅くまでどこで遊んでたの?」

午後8時32分。
日もとうに暮れ、すっかり辺りが暗くなってから帰ってきた子供を、母親が叱る。

――ボク、いつのまにうちについたのかな?それに、どうしてこんなにおそくかえったんだろう?

母親のお小言に顔をしかめながら考える。
しかしどんなに首をかしげても、子供にはそれを思い出す事ができなかった。
頭に浮かぶのは、ただただ蒼く澄んだ光のみ。


        *  *  *  *  *  *


金票は気を失っていた子供を抱き起こすと、浄眼の力で暗示をかけ、家へ帰らせた。
ふらふらと家路に就く小さな背中を見送りつつ、吸血鬼の最期に思いを致す。


女が最後の力で振り下ろした拳は、しかし金票に届くことなく崩れ去った。
そしてそれを皮切りに、みるみるうちに吸血鬼の体はその輪郭というものを失っていき、
ひどく黒ずんだ灰と化してこぼれ落ちてゆく。
最後に吹き込んだ一陣の風がその灰を吹き散らし――――――クドラクと呼ばれていた妖は消えた。
後にはただ、ひび割れたアスファルトにコンクリート塀、
そしてそこに深々と打ち込まれた白木の杭が残るのみ。
張り詰めていたものが切れたのか、金票は一瞬大きくよろめくと、近くの塀にもたれかかった。

268 名前:金票 ◆f3FUJuSHiA:2003/02/23(日) 00:24

>>267(続き)


だがしかし、その崩壊の様は金票の心に釈然としないものを残していた。
・・・本当に、あの妖は滅びたのだろうか?
灰になる間際に、女が己の左胸を指差しながら残した言葉―――

“本当に。びっくりした……もう、刺すなら、此処だよ。此処じゃないと、わたしは滅びないんだから”

確かにあの時杭が捉えたのは、吸血鬼の心臓ではなく腹であった。
吸血鬼が体をひねった事で、心臓への狙いがそれたのは事実。しかし、禁力を直に
体内に流し込まれ、あまつさえ灰になった妖が滅ばずにいられようものなのか?
だが女の言を裏付けるように、灰が吹き散る際に一瞬だけ浄眼に映った妖気が、その疑念を
より深いものとしていた。


しばしの黙考。
金票はかぶりを振ると、子供の行った道とは正反対の方向へ歩き出した。

そう、仮にヤツが滅びを免れ、蘇ったとしても・・・その時には再び、今度は完膚なきまでに
その存在を禁じるだけのことだ。だがそれも―――
「・・・生きて再びまみえる事があれば、の話だがな」
考えの後半を口に出しつつ、黒衣は夜の道を歩き続ける。
ほの暗く輝く半月が、男の背中をぼんやりと照らし出していた。


                             (終幕)

269 名前:無名kudlak ◆RgKUDLAKUQ:2003/02/23(日) 01:04

――――――夕闇の街を黒衣の少女が歩いている。
その髪は銀。その瞳は朱。空を見上げれば昏い空に銀の満月。

地面につき立ったままの七肢刀を引き抜きながら、少女は告げた。

「……さて。次は何処に行こうか」

くすくすと笑みをこぼしながら、黒衣の殺し屋との遊戯を思い出す。

導入
>>237 >>238

闘争
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>247 >>248 >>249
>>250 >>251 >>252 >>253 >>254 >>255 >>256 >258
>>259 >>260 >>261 >>262>>265 >>266

エピローグ
>>267

「感想は……このへん、かな」
http://plan-a.fargaia.com/html/vampbattle/res.cgi/1033894737/

270 名前:蛭児 ◆2ul119KAMI:2003/02/23(日) 01:07

蛭児対マリアベル
>>257
『――何か忘れておらぬか?』
 
その言葉を聞き終える前より早く、大気を裂く音が耳を劈く。
恐らくは先刻蝙蝠達の目で垣間見た、赤と青の球体二つ。
この種族なりの使い魔か。
 
クッ…拙い。思わず顔が歪んでいるのが己でも分かる。
この速さ、そしてこの位置。図らずして私の弱点である頭を狙っているではないか。
例え心臓を貫かれようと死にはしないが、今の肉体を司る脳がやられては話にならん!
 
「鬱陶しい…!」
 
思考は刹那、行動は迅速。
右手を引き抜くと同時に回転。
身を翻し諸手を広げ、もはや砲弾と化した球体を爪で払い落とさんと狙う。
手応えは…あった!
舞い散る火花が闇を彩り、片方は横からの一撃を喰らい吹き飛ぶ。
もう片方は
 
――――――!!
 
ふん…こちらは軌道を逸らしただけに留まったか。
肋骨を数本へし折られ、折れた骨が肺腑と心臓に突き刺さる。
神経を経由した、怒涛とも言える痛みが脳を駆け巡る。
だが、それだけだ。痛みなど所詮は状態の道標。
精々こみ上げた血が口から流れ、皮膚を破って突き出た肋骨が見苦しいというだけのこと。
この程度の外傷ならば、不死身である私を死に至らしめるには程遠い。
 
「その程度で、私を倒せると思ったか?」
 
言うが早く、私は相手へ向き直る。下段――――少女の足へと爪を振り下ろすと同時に。
少々いたぶるつもりだったが、気が変わった。
この獲物を侮るべきではない。少しでも嗜虐に駈られれば、反撃に遭うは必至。
即刻血を吸い、我が下僕にしてくれる。
それに気丈な眼差し…あの鬼どもを思い出すその瞳…反吐が出る。

271 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE:2003/02/23(日) 01:22

vsツァーレンシュヴェスタン
『Air』
>>234
 
 ズィーベを力で押し込みながら、頭では冷静に危惧を感じていた。よく統制のと
れた連携は実力を増幅させる。二人なら四倍、三人なら九倍――五人なら二十
五倍、だ。
 ズィーベを切り伏せるよりも早く、三人の剣がオレに届く。
 ならば。
 
 三つの剣が、それぞれの軌道で同時に振り下ろされる。
 それに合わせて、大剣を力任せに跳ね上げた。
 ズィーベもろともアハトの剣を受け、弾く。流石に二人分の斬撃を凌ぐには無理
があり、剣が自ずからオレの手を抜けて空を舞うが、無視。
 続けてフィーアの剣がこっちの躰に到達する前に、自分から懐に飛び込み、当
身で姿勢を崩す。
 わずかに遅れてゼクスの一撃。動きが止まっている今は躱しようがない。その
一刀を、横からはたいて軌道をずらす。剣は横から見れば、ただの金属の板だ。
見切れさえすればたやすい。
 
 四刀、すべて凌ぎきったあとには、
 哭き叫ぶ少女、フュンフへと至る道だけが残る。
 
 指先を強く尖らせ、貫き手の構え。
 少女の胸を射貫かんと走る。
 
 ただ、聞くに堪えなかった。胸をざわめかす哀しみのままに、駆けた。

272 名前:フュンフ:2003/02/23(日) 01:23

ダンテvsツァーレンシュヴェスタン 
『Air』 
 
>>271
 
 激しく火花を打ち散らす"戦場"を背に、フュンフは首を無くしたノイン"だったもの"を
抱き抱え、涙を流す。激しい嗚咽。何かを否定するように、頑なに拒否するように、フュ
ンフは首を横に振り続けた。
 
 ―――もう、イヤ……。
 
 それは、数字の名を与えられた彼女達に取っては、決して辿り着いてはいけない思考。
 
 ―――こんな想いを二度もして……それで結局、何の意味が……。
 
 もしもこの場にフィーアが立ち合っていたら、優しく言ってくれただろう。意味なんて
無い、と。意味なんて求めてはいけない、と。しかしフィーアは戦場の渦中にいる。フュ
ンフの悲哀になど、気付いてもいなかった。
 
 ―――イヤ、イヤ、イヤ。ノイン……ねぇ、ノイン。
 
 首無し死体を揺さぶる。返事はない。
 
 ノインはツァーレンシュヴェスタンの中では所謂"落ちこぼれ"だった。才能が無いとい
うわけではない。その才能の使い方をなかなか覚えられなかったのだ。
 自閉気味の感があったノインは、常に最底の成績を打ち出す自分を責め立て塞ぎ込むこ
とが多々あった。
 
 そんな彼女を慰め、励ましたのがフュンフだった。
 
 ノインはフュンフによく懐いた。フュンフもノインを妹のように可愛がった。二人は、
ツァーレンシュヴェスタンの中でも目立って仲が良かった。
 お互い、何かが欠けてしまった人間である。一緒になれば、その欠けた部分が満たされ
る、とでも思ったのだろうか。充足を求めて、二人は次第に関係を持っていった。

273 名前:フュンフ:2003/02/23(日) 01:24

>>271>>272

 ツァーレンシュヴェスタンは元々、感情を亡くした少女達の集団ではない。不安定なが
らも感情はあった。趣味嗜好もあった。ただ、戦闘時にはスイッチが切り替わったかのよ
うに無表情、無感情の殺人人形となるのだ。
 四六時中、常に表情を消し、感情を消し、自分をも消す。そのタイプの少女は、一番目
の少女にして最強のファントム―――アインを除くと、フィーアしかいなかった。フィー
アだけは他の五人とは違い、常に冷徹だった。
 
 自分もフィーアのようになれば、こんな想いに苛まれることも無いんだろうか。フュン
フは自分に問うた。答えは既に分かっている。―――なれるはずがない。ノインと自分、
二人がかりでも勝てない彼女に、自分一人でなれるはずがない。
 
 ノインとフュンフ。二人で初めて一個の人間となれる。ずっとそう信じてきた。いまも
その想いは変わらない。二人で一つなのだ。欠けてしまったノインという部分。足りない
自分。いまのわたしでは何も、何もできない。戦うことも、生きることも、従うことも。
 
 一体、どうすれば良いのか――――
 
 教えて欲しかった、フィーアに。
 導いて欲しかった、マスターに。
 慰めて欲しかった、ノインに。
 
 しかし、過去の記憶の中で、フュンフに答えを与えてくれたのはそのどれでも無かった。
 
 ―――んな簡単なことも分からねえのか? 足りないのなら、補えばいいんだよ。
 
 それは一体、誰の言葉だろうか。分からない。思い出せない。でも、それが真理のよう
に思えた。そう、足りないのなら補えば良いのだ。
 
 足りない自分。酷く、飢えていた。
 
 フュンフは泣くのを止めると、ノインの未成熟な身体を優しく撫でた。その表情は落ち
着いており、微笑みまで浮かべている有様だ。
 何かを吹っ切った微笑み。安心を得た微笑み。フュンフはゆっくりと口を開いた。
 
「ノイン……今度こそ、一緒になろうね……」
 
 言って、ノインの脇腹に噛み付いた。
 肉を引きちぎり、骨を噛み砕き、内臓を租借し、血を飲み下して、食べて食べて食べて
食べた。一緒になるために。足りない部分を補うために。
 
 美味しい―――素直にそう思えた。当たり前だ、わたしのノインなのだから。不味いは
ずがない。だからもっと、もっと食べたい。もっと一緒になりたい。
 
 臓腑を掻き分けて、牙を突き立てる。貪るようにノインを食べた。彼女を求めて、一緒
になった。
 フュンフの表情、穏やかな微笑みに包まれていた。

274 名前:フィーア ◆VierFrypjg:2003/02/23(日) 01:25

ダンテvsツァーレンシュヴェスタン
『Air』 
 
>>271>>272>>273>>274
 
 受け、躱し、捌き、―――死神が振り下ろした断罪の鎌三つ。それらが、ダンテの肉体
に食い込むことはなかった。
 フィーアとゼクス。二人の間を、ダンテは彼の長身からは想像できないほど小さく、縫
うようにすり抜け、少女達の間合いから急速に離脱していく。
 
 反射的にダンテの背中を追ったのは二人。ゼクスとアハト。先程と同じように、両刃刀
を振り上げての突貫。容姿に似合わぬ大雑把な闘い方だが、ダンテの並はずれた瞬発力と
俊敏さに翻弄されている現状では、他に方法は無かった。
 
 一瞬遅れて、ズィーベもダンテを追う。先の剣戟で崩れた姿勢を整えるのに、行動まで
の僅かなタイムラグを作ってしまったのだ。
 
 そしてフィーアは―――動かない。
 ダンテから受けた当て身は、フィーアの姿勢を崩す以上のことはできなかった。今は平
然と立ち尽くしている。
 その瞳は、ダンテへと向いていた。
 
 ダンテを追う三人。走るダンテ。彼の狙いはフュンフ。
 このままで行けば、フュンフは死ぬだろう、間違いなく。ゼクス等三人の追撃は、間に
合いそうになかった。
 フュンフも迎撃する気は無さそうに見える。それ所か、ダンテが接近していることにす
ら気付いてない。
 五番目の死神、フュンフ。どうやら完全に"壊れて"しまったようだ。
 無理もない。元々、不安定な感情を薬物投与と洗脳で無理矢理押し殺してきたのがツァ
ーレンシュヴェスタンである。
 吸血鬼化してからはより一掃激しく燃え盛る感情という名の炎。熱を帯びる血液。吸血
衝動。破壊衝動。それらを全て殺し、人形であり続けるのは極めて困難だ。フュンフに限
らず、他のツァーレンシュヴェスタンの面々が壊れるのも時間の問題だろう。
 
 ―――フィーアを除いて、の話だが。
 
 過剰に過剰を重ねた薬物投与。戦闘技能すら二の次で、徹底的に叩き込まれた精神制御。
それ等の遺産が、フィーアの中で滾る吸血鬼の血を、絶対零度にまで引き下げてくれてい
た。
 人間だった頃、ツァーレンシュヴェスタンの中でもっとも"人間らしくなかった"自分が、
吸血鬼となったいま、一番"人間らしい"のは一体どういう皮肉なのだろうか。
 
 答えはない。
 
 元々、答えなど求めていない。
 
 ぶん、と風を切る音。手に持つ両刃刀を大きく振りかぶる。
 右手で柄を持ち、左手は剣の切っ先に添える。その腕はまるで限界まで引き絞られた弦
のそれだ。
 フィーアの身体はさながら、張り詰められた弓。
 両刃の刀は矢。
 赤き瞳は悪魔狩人へと向けられている。
 
 一歩、軽く地面を蹴った。テンポ良く逆の足を踏み出し、二歩目。身体が浮いた。三歩
目の足が地面を穿つ同時、全身の筋肉の総動員させて、振りかぶった刃を―――投擲。
 風圧がフィーアの髪を揺らした。
 銃弾……いや、砲弾よろしく一直線に駆け抜けるフィーアの両刃刀は、ゼクス、アハト、
ズィーベの三人を一瞬で追い越し、ダンテの背中へと牙を剥いた。

275 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/23(日) 01:46

>>270 蛭児VSマリアベル・アーミティッジ
 
「な、に・・・おぬし・・・?」
 
爪が引き抜かれた肩を押さえながら、わらわは目の前の奴が平然としておるのを見、思わず呻いた。
 
アカとアオ、その片方こそ彼奴に返り討ちにあってしまったが、もう片方は確かに奴を捉えた。
クリーンヒット間違いなし、何せああして肋骨が飛び出しておるほどなのじゃ。
心臓は確実に、己が肋骨に貫かれておるはず。
まさか、こやつは不死身か――!?
 
 
って、ちょっと待て。
ならばなにゆえに、彼奴はあれほどまでにアカとアオの攻撃に過剰に反応したのじゃ?
・・・不死身ではない、確かな弱点があるということか?
 
考えねばならん。
じゃが、さすがに彼奴はそのような暇を与える気はないらしい。
飛び出た肋骨も、口から流れ出た血もお構いなしに、わらわのほうへと向き直りながら爪を振り上げる。
やはりレッドパワーを使える暇もなく、さりとてアカとアオも攻撃の直後。
もはや、打つ手無しか・・・ッ!?
 
 
・・・なんて、な♪
 
 
爪が振り下ろされる。わらわの足に。当然のごとく激痛が走る。
じゃがそれでも、不敵な笑みをわらわは彼奴に向かって浮かべて見せた。
 
おぬしが忘れておるのは、アカとアオの事だけではない。
そう、このわらわもまた吸血種であるという事を――忘れてはおらぬか!?
 
足を抉った爪が、それを持つ彼奴の腕が引き戻される前に両手で掴む。
そしてわらわは口を開け・・・牙を、その彼奴の腕へと思いっきり突き立て、噛み付いた。

276 名前:ダンテ ◆JvmjyDANTE:2003/02/23(日) 02:22

vsツァーレンシュヴェスタン
『Air』 
>272>273>274

 背に強い灼熱感を覚え、見れば胸から鉄の切っ先が生えている。剣を投げつけ
られたか。
 真っ直ぐ胸を貫いている。いい腕だ。
 衝撃に崩れかける躰を、
 衝動に駆られた足が支える。
 何としても止まるわけにはいかない。その願いと、意地が、オレの躰を支えてい
る。
 
 刹那も止まらず、5の名を持つ少女に駆け寄った。
 血と、唾液と、咀嚼された肉の色に染まっているその口を蹴り上げる。
 
 肉を噛み千切りながら、鬼女さながらの顔が明らかになる。なまじ幼いだけに、
その凄惨さが浮き彫りにされている。
 愛の営みを邪魔されたんだ。その怒りは計り知れないだろう。眼を炯々と赫く光
らせ、長い牙を剥き、オレに飛び掛ってくる。
 これ以上なく開かれた口から吐き出されるのは、呪詛か、怒りか、嘆きか、狂喜
か。
 その牙を、左腕で受け止めた。
 
 骨まで達し、血を啜る牙。唸り声がくぐもって聞こえる。
 痛みより、少女の恍惚とした表情のほうが堪えがたかった
 
「ふたつ」
 
 囁くと、少女の胸に指を突き入れ、心臓を握り潰した。
 
 陶酔にとろけた顔で、彼女は二度と動かなくなった。オレは立ち上がった。次を
倒さなければならない。
 表情は変えない。変えてはならない。同情はできない。許されない。情けをかけ
れば、それだけ彼女達は苦しむ。能面の無表情を保つ。
 ただ、もう笑えそうにはなかった。

277 名前:ツァーレンシュヴェスタン ◆rnZahlFMLU:2003/02/23(日) 03:54

ダンテvsツァーレンシュヴェスタン
『Air』 
 
>>276
 
 灰へと還ってゆくフュンフ。最期の言葉、というものは無かった。何も語らず、何も遺
さず、ただ死んだ。殺された。
 ―――しかし、それはあくまでダンテが知覚できる"世界"での事象。ダンテの真実と、
ツァーレンシュヴェスタンの真実は違う。
 
 彼女等は姉妹だ。同じ血の因子の持ちし姉妹だ。その絆は人間の血縁などとは比べもの
にならないほど、深い。
 フュンフが死んだその瞬間、彼女が何を考え、何を想っていたのか。その全てが強力な
念となり、残る四人の頭の中に直接叩き込まれた。
 抗うことはできなかった。自分の感情を殺せるほどの精神制御を施された彼女達が、為
す術もなく、強制的にフュンフの死の絶叫を聞かされたのだ。
 
 ―――……死ぬのは、イヤ。
 
 フュンフは死の瞬間、それ程までに強い想いを抱いたということである。
 
 ―――……死ぬのは、イヤ。
 
 やっと一緒になれたと思ったのに。もう二度と離ればなれにはならないと思ったのに。
せっかく、せっかくここまで生きて、ようやくなれたと思ったのに。そう、"人間"に。
 ああ、なのに終わっちゃうの? もう終わっちゃうの? まだ生きたかった。もっと一
つでいたかった。酷い、酷いよこんなの。イヤ。まだ生きたい。イヤ。怖い、怖いよノイ
ン。イヤ、イヤ。死ぬのは、イヤ。
 
 ―――……死ぬのは、イヤ。
 
 フュンフのその最期の想いは、残る四人の精神を容赦なく蝕んだ。
 
 ―――……死ぬのは、イヤ。
 
 だから、死ぬのはイヤ。まだ、死ぬのはイヤ。だから、死ぬのはイヤ。まだ、死ぬのは
イヤ。だから、死ぬのはイヤ。まだ、死ぬのはイヤ。だから、死ぬのはイヤ。まだ、死ぬ
のはイヤ。だから、死ぬのはイヤ。まだ、死ぬのはイヤ。だから、死ぬのはイヤ。まだ、
死ぬのはイヤ。だから、死ぬのはイヤ。まだ、死ぬのはイヤ。だから、死ぬのはイヤ。ま
だ、死ぬのはイヤ。だから、死ぬのはイヤ。まだ、死ぬのはイヤ。だから、死ぬのはイヤ。
 死ぬのは、イヤ。
 死ぬのは、イヤ。
 死ぬのは、イヤ。
 死ぬのは、
 
「いやあああああああああああ!?」
 
 アハトの絶叫。ダンテの背中目掛けて駆けていた彼女は、耳を両手で抑え、その場に泣
き崩れた。
 フィーアは虚ろな視線を地面に向け、震え始めた。かちかち、と歯を打ち鳴らし、両手
で自らの肩を抱き、静かに震え続けた。完全に茫然自失の状態に陥っていた。

278 名前:ツァーレンシュヴェスタン ◆rnZahlFMLU:2003/02/23(日) 03:54

>>276>>277
 
 ゼクスは嗤っていた。ヒヒヒ、と喉を鳴らして嗤っていた。嗤いながらも―――立ち止
まらずに、駆けていた。走る先には立つ人影の正体は、言うまでもなく悪魔狩人ダンテそ
の人。嗤いながら両刃刀を振りかぶり、嗤いながら地面を走り抜ける。
 
 そして、それは―――ズィーベも同じだった。
 
「うわああああああああああああああああ!!」
 
 頭の中で谺するフュンフの声。それを掻き消すかのように、ズィーベは雄叫びを上げる。
 恐怖に引きつった顔面。血走った瞳。吊り上がる口元。ズィーベは、声帯は潰れるその
瞬間までは、叫び続けた。
 彼女とダンテの距離は―――もう、数メートルも無い。
 目に写る悪魔。恐かった。殺されたくなかった。だから、殺す。殺されるぐらいなら、
殺してヤル。
 
「あああああああああああああああああ!!」
 
 ズィーベは無我夢中で刃を振るった。形も何も無い。ただ闇雲に振り回した。
 
 ツァーレンシュヴェスタン。死神の姉妹と呼ばれた少女達。もう、ここにはいない。ど
こにもいない。こにいるのは、一匹の悪魔と恐怖に脅える少女五人だけだ。
 日本国東京都八王子市篠倉学園で一度死んだあの日から、ずっと罅の入り続けてきた少
女達。とうとう、壊れてしまった。

279 名前:蛭児 ◆2ul119KAMI:2003/02/23(日) 22:56

蛭児対マリアベル
>>275
チッ、足を切られたくらいでは止まらんか。
よく足掻くと褒めてやりたいところだが、そうもいかん。
このまま返す爪で―――――――何!?
 
驚愕も一瞬。次に感じたのは痛みと喪失感。
血が流れに抗い吸い上げられていく……まさか!
 
「…巫山戯るな!」
 
噛み付かれたままの腕を全力で振るい、力に任せて投げ捨てる。
これは全くの予想外だった。いや、予想外でしかなかった。
あの小娘も吸血種とは知っていたが、よもやこのような所で血を吸うとは。
だが、それも虚しい抵抗だ。
如何に吸血主といえど、所詮は力に劣る存在。
夥しい出血でもなければ噛み千切られる力も無い。いわば無傷も同然。
 
「神である私の血を吸うとは、何たる不遜か」
 
この小娘、断じて赦さん。
散々こけにしたのみならず、あろうことか神である私から血を奪うとは…!
この怒り、例えるなら滾る炎か。あの小娘を心ゆくまで焼きつくしたくなる衝動。
しかし思考とは奇異なものだ。
怒れば怒るほど思考はより冷静に、氷のように冷徹になっていく。
 
見れば、『あれ』はよろよろと立ち上がり、所々から血を滲ませている。
ああ。先程の派手な破砕音は机にぶつかったからか。
木片が肌を裂いて傷を作らせたか、成る程。無様だな。
おかげで少しは溜飲が下がった。だが、まだだ。こんなもので終わらせるか。
 
「先程の続きだ…貴方はやはり愚かでしかない」
 
全身の力をたわめる。
緊張? いや、これは準備だ。瞬時にあの小娘に飛び掛るための。
力を使わせる前に、仕掛ける。
 
「己を支配者と謳いながら、何も支配していない」
 
睥睨? いや、確認だ。この距離この位置このタイミング、全てはこの小娘を手中に得るための。
最も、血を吸う前に死の寸前まで切り刻んでやるが。
 
「そんな様では、落ちぶれたという他無いでしょう?」
 
何度も打ち据え両腕を切り落として両足を引き千切って、ああ、目も抉ろう。
その前にあの小賢しい球体を潰すことも忘れてはならないな。
私は問いの答えも聞かぬまま、一足飛びで襲い掛かり――――――

280 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/24(月) 00:31

>>279 蛭児VSマリアベル・アーミティッジ
 
「く・・・ふん、不味い血じゃのう」
 
叩きつけられた体を起こしながら、目の前の自称神とやらにそう言ってやる。
さすがに全身が痛む・・・が、すぐのその痛みは僅かずつではあるが和らぎはじめた。
肩や足を初めとする傷も、出血が止まっていき激痛は鈍痛へとすり替わっていく。
 
吸血による回復力促進――血の味とは無関係に、うまく効果は現れておるようじゃ。
これで、まだまだ彼奴の相手が出来る。
 
が、彼奴のほうはもはや悠長に事を構える気はないらしい。
問いかけをしながらも、彼奴がわらわに一撃を与えんと体勢を変え、そして襲いかかって来――――
 
 
――――それを、わらわは避けた。
横でもなく後ろでもなく、上へ・・・背に、彼奴と同じ漆黒の羽をはためかせ。
 
「ふふ・・・何を驚いておるのじゃ『神様』?」
 
数瞬前まで無かったはずのその羽を自在に操りながら、彼奴を見下ろし挑発する。
 
無論、これはわらわの本来持ち得る力ではない。
これこそが、彼奴の血を吸った本当の理由。逆転の切り札。
 
「アビリティドレイン」――相手の血を以て力をコピーし、我がものとするノーブルレッド特有の能力。
えらそーなことを言う割に、彼奴は我らのこの力を知らなかったと見える。
まったく、勉強不足も甚だしいのう。
 
教えてやらねばの・・・わらわの選んだ道を。

281 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/24(月) 00:32

>>280続き
 
「で、なんであったか・・・ああそうそう、落ちぶれた云々であったのう」
 
さらに挑発するように、部屋を飛び回りながら言葉を続ける。
 
「支配支配と言うが、果たして力で蹂躙することが真に支配と呼べるのか?
 ネズミやらゴキブリのごとく数を増やすことが、か?
 ・・・わらわは、断じてそうは思わぬ」
 
・・・この地に、もはやノーブルレッドはわらわ一人きり。
そして、この地は・・・
 
「・・・この地に住むは人間達。
 ならばあやつらが道を誤らぬよう見守り、この地を汚す者あらば然るべき目に遭わせ、この地を護る。
 ――それこそがこのわらわの、『ファルガイアの真の支配者』たる者の支配、じゃ」
 
彼奴の動きに警戒しつつも言葉を紡ぎ、途中で再起動したアカとアオを伴い再び窓際へと降り立つ。
そして。
 
「ま、おぬしのような不味ーい血を持つ小物には、判らぬのも道理じゃがの♪」
 
アカとアオが窓枠を破るのと同時に、声高らかにビシッと言い放つ。
うむ、決まった♪
 
さあ、これからじゃ。
さすがにオリジナルたる彼奴には一歩劣るじゃろうが、吸血によって彼奴の力と呼べるものは全て奪い取った。
今のわらわには、彼奴と同じように空を駆け望むならば己が爪を刃と化せしめることも出来うる。
そしてわらわの傍らには、精神感応デバイス・アカとアオ。
 
すなわち、仕掛けるべきは空中戦。
わらわはアカとアオの破った窓から、黒き羽を羽ばたかせ外へ、星々きらめく空へと躍り出た。
――ここからが本番じゃ、追ってくるが良いッ!

282 名前:蛭児 ◆2ul119KAMI:2003/02/24(月) 01:43

蛭児対マリアベル
>>280 >>281
予想外の力、成る程、写本には無かったな。
 
「ほう…私を此処まで侮蔑するとは…」
 
何故だろう。
笑いが止まらない。
此処まで調子に乗っていると、最早面白くすら感じてしまうのか。
それにしても私という存在、その本能が取った采配に感謝しなくては。
私への侮辱、そう、この上ない侮辱。
此処まで罵倒されたというのに、此処まで怒りに滾っているというのに、頭は至って冴え渡る。
かの氷結地獄もかくやと言わんばかりにだ。最もその下には煉獄が渦巻いているが。
 
成る程、外か。
 
跳躍一つ。皮の翼をはためかせ、瞬く間に空高く駆け上がる。
例え空を飛ぼうが所詮は付け焼刃、私の速さには一歩及ばない。
死角から死角へ。
夜の闇を裂き、横、背後、上空と、自在に爪を閃かせる。
 
「…それで、平静を失うとでも思いましたか?」
 
この翼この爪この力この速さ、そして私のこの頭脳。
流浪と異国の地での生活。そして再起のために闇にて蠢いてきた。
世界には幻魔が潜み、人の世は常に争乱。
その程度で我を忘れては、生きてなぞいられん。
私を侮辱した罪、今此処で贖わせて差し上げましょう。

だから、
                      
喜んで切り裂かれろ、小娘。

283 名前:ミカエル=ラージネス:2003/02/24(月) 17:13

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>213

 剣を掲げた。
 最上段に構え、真っ向から津波に向かい振り下ろす。
 轟、という唸り。
 二つに切り裂かれた津波を背に走る。
 
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!」

―――――宴の時間はもう終わりだ。

284 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/24(月) 21:15

>>282 蛭児VSマリアベル・アーミティッジ
 
「わ、と、とと・・・っ」
 
縦横無尽に閃く彼奴の爪。
さすがに彼奴は、戦い方を心得ておる。
彼奴の爪、そのいくつかはわらわの服を、そして肌を切り裂いていく。回避出来たとしてもギリギリ。
そうして出来た傷が鮮血を滴らせ、また新たな痛みを訴え始める。吸血による回復効果なぞとうに無い。
・・・まったく、傷を作って戦うなぞわらわのキャラではないのじゃがのう。
 
じゃが、そんなわらわのことなぞお構いなしとばかりに爪は閃き続ける。
鋭く、そして――精細さを欠いて。
 
そう・・・彼奴の攻撃は明らかに先ほどよりも狙いが甘い。
それはすなわち、彼奴が平静さを装っておきながら、その実怒り心頭に来ておることの証。
・・・ま、わらわのような可憐な美少女にあれだけコケにされたのじゃ、無理もない無理もない♪
 
そしてそれゆえに――突破口は開けられる。
 
 
「・・・平静? よく言うのう本当はわらわをズタズタにしたくて仕方がないのであろうに!
 このような掠り傷ではなく、のう!」
 
間合いを計りつつ、さらに煽る。
それはそれで危険なやり方には違いないが、彼奴が冷静さを欠けば欠くほどこちらに好機が訪れる。
そうして、彼奴の大振りの一撃を誘い・・・
 
「痛っ・・・アカ、アオッ!」
 
その爪が服を、肌を、わらわの自慢の髪を切り裂いてゆくのにも構わず、隙をついて二機に命ずる。
狙いは、まったく先ほどと同じ場所・・・頭部のあたり。
わらわの読みが、正しければ――!

285 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/02/24(月) 22:43

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>283

雄叫び。
駆けるミカエル。

「リード、してくれるのなら・・・」

必要なのは、圧倒的な破壊。あの剣の吸収スピードに勝る力。
残りの魔力だけでは足りない。
それは判っていた。
不足分をどう補うかは、もう決めていた。

加速度に遠心力を加えて放たれる、一回転からの右の薙ぎ払い。
今までのどれよりも速く、鋭い。

切っ先が風を裂く音が、途切れた。
同時に、一切の音が消えた。

剣の形をした死は、すぐ其処に迫っている。

それでも、動きより意思の方が速い。
そう、解き放つだけで良い。
わたしの、全てを。

「最後まで、して、貰えるわよね・・・?」

かき集めた魔力を触媒に、命そのものを力に変える。
イメージしたのは、何時ものように紫の光だった。
視界を、何もかもを飲み込む光。

286 名前:蛭児 ◆2ul119KAMI:2003/02/24(月) 23:00

蛭児対マリアベル
>>284
空を舞い腕を振るい爪で切る。小娘の服が裂け肌が裂け鮮血が散る。
何度も斬り何度も突き何度も閃く。
はは、生傷が徐々に増えるということは回復が追いつかないということか。
傷が浅い。血化粧は良いが効果的ではない。
煽るか?黙れ。ならば踏み込んで一撃。
 
待て。
空を裂き迫る球体。
この位置この軌道この角度―――――――狙っているのは、私の頭か!
振るった腕を戻すも間に合わぬ。
空いた腕を翳して防いだが、完全とはいかなかった。
片方が掠って頬を裂き、血が滴る。
急速に心が冷え込む。顔が引きつっていると気付いたのは数瞬後だ。
まさか、私の弱点が気付かれたとでもいうのか…!
魂の奥底に垣間見えるは漆黒の極み―――――純然たる…恐怖!?
ばかな!?
恐れている…私が、恐れているだと…!?
 
「…ふざけるな小娘!」
 
一喝、己の意識を揺り起こす。
私は神だ。神がこの程度で死んでなるものか。
こんな所で隙を突かれ、無様に死んでなるものか。
そうだとも、このようにコケにされ、我を失っては神ではない。
頭が醒める、心も醒める。
あるのは如何にして弄るかではない、如何にして勝つかだ。
これ以上は、やらせん。
 
滞空したが好機とばかりに、再び頭部を狙いに来る赤い球と青い球。
確かに疾いが、そんなことは如何でもいい。今から振るう私の爪が間に合うならば。
鋼を打つ音。
へし折れんばかりの衝撃。だが、逸れた。
そして羽ばたき一度の上昇。身をひねり、それの背に足を。
  
全ては一瞬。
打ち払った球体を足場とし跳躍。悟られるより一足早く真上を取り、鋭い爪を振り下ろす。
狙うは肩口。肌を晒したその小さき体、今二つに裂いてやる。
ともすれば殺してしまうが、止むを得ん。神を本気にさせたのだから。

287 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/25(火) 00:38

>>286 蛭児VSマリアベル・アーミティッジ
 
推測が、確信へと変わる。
今の一撃に顔をしかめつつ、しかしわらわははっきりと見た。
彼奴の顔が、驚愕とそして恐怖に引きつるのを。
 
もはや相違あるまい、彼奴は心臓などではなく頭こそが弱点!
それを落とせれば・・・この戦いを、終わらせられるはずじゃ。
 
 
傷を負った彼奴の顔めがけて、再びアカとアオが猛攻する。
もはや命ずるまでもない、あやつらもどこを狙えばよいか十分に理解しておる。
例えこれが防がれても、あとはわらわが務めを果たせばよい。
さあ、これで終わり――――
 
 
「――――え?」
 
まるで、その一瞬だけ時間が止まったように感じた。
まったく予想外の方法で、彼奴は羽ばたくわらわのさらに真上へと躍り出た。
そして急降下、爪を振り上げ、わらわはその瞬間に自らの甘さと絶望を感じ取り・・・

288 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/25(火) 00:38

>>287続き
 
――思わず目をつむったわらわの耳に、金属質の音が響いた。
 
目を、開ける。
・・・視界に飛び込んできたのは、彼奴と、彼奴の爪と・・・それをわらわのすぐ目の前で受け止めた、アオの丸い機体。
まさか。アオは先ほどの一撃、もろに食らっておったはずじゃ。
もはや機能停止寸前、であるはずなのに――特攻を?
 
 
・・・好機じゃ。またとない好機。
これを無駄にすることなぞ、わらわには出来ん!
 
 
背の羽を、音を立てて羽ばたかせ一瞬だけ間合いを離しすぐさま肉薄、
身を回転させるように彼奴の頭めがけて爪を一閃。
そして再び向き直り――風の刃、レッドパワー「エアスラッシュ」を走らせる。
・・・アビリティドレイン中ゆえに威力は通常より弱い。
じゃが、ほぼゼロ距離ならば――――!

289 名前:蛭児 ◆2ul119KAMI:2003/02/25(火) 23:09

蛭児対マリアベル
>>287 >>288
「――――――何、だと!?」
 
これを驚愕と言わずして何と言うのか。
スピードとタイミングは完璧だった。確実に虚を突いた一撃だ、その筈だった。
だが耳にしたのは肉を断ち切る鈍い音ではなく、甲高い金属音。
この使い魔…!
私を責めるのみならず、私の行く手すら阻むというのか!
 
間合いを離されたのも一瞬、回転の勢いをつけ、首めがけせまり来る爪。
私は湧き上がる憤りを隠さず一閃。
返す刀で小娘を横薙ぎに――――――できなかった。
相手の一撃を空いた爪で防いだのは覚えている。
次瞬、大気を裂いた何かが飛んできて首筋を撫でた。一振りの刃にも見えた。
 
“あの爪は――――囮!?”
 
熱い。
感触はそれだけだった。
首を刎ねられたと分かったのは、視界が胴体を捉えてからだ。
 
「馬鹿、な――――!?」
 
落ちてゆく、天の理に従って。
堕ちてゆく、力無きこの体―――――アアこの体ハ、もウ限界ダ。
 
このママでは私ノ本体でアる巨大な蛭モ死ぬオシマイ終わりダ
早クハヤクはやくハヤクはやく次ノ体ヲテニイレナケレバ本当にオワル死ヌ死んでしまう
首ノ切断面カラコノ本体ヲ蛭ヲ逃げなければ出なければ
アノ女アノ小娘そうだヤツニ乗り移らなけレバソレガイイダガトドカナ
ソンナ馬鹿ナ私ハカミダ純然タルカミナノダ刻一刻ト大地ガオノレキサマコノワタシガ
カミデアルコノワタシガコノヨウナトコロデ
チカイチカイダイチガワタシニチカヅイテクツブレ―――――――
 
 
(蛭児:死滅)

290 名前:マリアベル・アーミティッジ ◆nOblerEDv.:2003/02/25(火) 23:10

>>290 蛭児VSマリアベル・アーミティッジ
 
・・・羽をはためかせながら、ゆっくりと降下し地へと降り立つ。
 
「う、わ・・・と、っとと・・・」
 
降り立った拍子に体がふらついた。倒れそうになるのをなんとか堪える。
正直、体が重い。もはや限界じゃ・・・
維持しきれなくなった羽が消失し、爪も元の長さへと戻る。
 
それにしても・・・と、思う。
今の一瞬、まさしくクリティカルヒットでもって彼奴を倒したのは僥倖という他はない。
あの時アオが身を挺して――修復不能なほどのダメージを覚悟で――彼奴の爪を防いでなければどうなっておったことやら。
 
先に地面に落下しておったアカとアオを拾い上げ、軽く様子を調べる。
・・・ギリギリ、致命的なダメージは受けておらんようじゃった。ほっと一息つく。
お前たちは、まったくもって愛いやつらじゃ。開発者冥利に尽きるぞ・・・本当に。
 
 
アカとアオを拾ったまま、重い体を引きずって屋敷の中へと戻る。
本当の事を言えばすぐにでもわらわの城に戻り、棺桶に入ってぐっすりと寝入ってしまいたいところではあるが・・・
いかんせん、城に戻る気力もほとんど残っておらぬ上に、夜が明けてしまうのもそう遠くはない。
屋敷の中ならば、もはや危険は少ないじゃろうし・・・まだ倉庫に火が残っておるかもしれぬが、まあ延焼はすまい。
そう決めたったらそう決めた。
 
とにかくベッドじゃ。なるべく日の光の入らぬ部屋で、さらに遮光カーテンを引いて、それで・・・
そう思いながら玄関へと回り、魔力施錠の外れた扉を開け中に入り、扉を閉め――
 
 
 
 
 
「ん・・・・・・すー、すー・・・」

291 名前:マリアベルの日記 ◆nOblerEDv.:2003/02/25(火) 23:10

二月二十五日。
 
ようやっと、城に戻ってこれた。
結局あのまま、扉に背を預けて寝入ってしまった・・・まったく、我ながら情けない。
まあしかし、あんな恥ずかしい形でとはいえとにかく昼の間ぐっすりと眠って体力はいくらか回復できたことじゃし
そのおかげでこうして戻ってこられた。
まずは一安心か。
 
とにかく、昨夜のことを纏めておくとしよう。
 
蛭児VSマリアベル・アーミティッジ レス番纏め
>206 >207 >208 >209 >210 >211 >214 >215 >225 >226 
>235 >236 >257 >270 >275 >279 >280 >281 >282 >284 
>286 >287 >288 >289 >290 >291(纏め)
 
それにしても、彼奴は一体何者であったのか?
彼奴の首が落下していく時、なにやら蛭のようなおぞましい物体が首の切断面から這い出るのが見えたような気もする。
はっきり言って死体なぞ、ましてや我が手によるものとはいえすっぱりと切断された首なぞ見たくもなかったゆえ
しっかりと確認しなかったが。
 
(・・・まさか、アレが彼奴の本体とか? いや、そう考えれば心臓を貫かれても平気であったことに合点がいく。
 うむ、となると・・・下手をすれば、わらわが彼奴に乗っ取られておった可能性も!?
 あの気持ち悪いのがわらわを・・・うわー!)
 
 
書いてる途中でイヤな想像をしてしまった・・・このことは伏せてしまおう。正直二度と思い出したくもない。
 
それに、本来の目的通りゴーレムと絵図面も持ち帰ったのだし
これで良しとしてしまおう。うむ。
 
今日は、ここまで。

292 名前:アレクサンド・アンデルセン(M):2003/03/02(日) 09:28

 
 擬音闘争
  
 
 
 
               発   動
 
 
 
 

293 名前:アレクサンド・アンデルセン(M):2003/03/02(日) 09:30

 
 カッカッカッカッカッ
  
    カッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ  
 
                       カツン
    カツン
        カツ
           ……カツ
 
 
     ギシ……
          ギシッギシッ
   
 
 
 
               スラァッ
 
 
 ニイッ

294 名前:無名kudlak ◆KUDLAKtda2:2003/03/02(日) 09:35

擬音闘争
>>293
 
 
 スタスタスタ
                        カツカツカツ
 
 
           スウッ……
                     ピタリ
 
    ―――クスクスクスクス……
                   ……クスクスクスクス―――
 
         シャラリ……
 
            ヒュパパッ        ヒュパパッ
 
    ヒュパパッ                        ヒュパパッ
 
            ヒュパパッ        ヒュパパッ
 

 
                                     クスクスクス

295 名前:ガロン ◆VTGALON.As:2003/03/02(日) 09:40

擬音闘争
>>293 >>294
 
ザッザッザッザッザッ・・・・・・・
                          バリバリバリバリ
 
アオーーーーーーーーーーン
 
 
                    ゴォォォォォォォォォォォォォッ
 

296 名前:アレクサンド・アンデルセン(M):2003/03/02(日) 09:49

>>294-295
 
   ドウッ
       バン 
               バンッ!
  
      
                     シャガァッ 
  シィィィィィィィィィィッ
  
 
          ヒュヒュヒュ ヒュバッ
     
  ドドヒュッ
 

297 名前:無名kudlak ◆KUDLAKtda2:2003/03/02(日) 09:54

>>295
………フイ
 
>>296
    ―――!?
                 ヒュパッ ヒュパッ ヒュパッ―――
 
          ガシュドス
              ドスドスドスドスドス――――――ズバンッ
  
 
        ギチギチギチギチ……
            ギリギリギリ――――――

        ―――ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス
        ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス―――
 
                    ドカンッ!!
 
            ガチガチガチ……
                    ……ズルリ……ズル…・・ガクリ

                               サァァァ
 
 
                                    (無名kudlak 死亡

298 名前:ガロン ◆VTGALON.As:2003/03/02(日) 09:58

>>296
 
ドギャアッ
                 ドシュドシュドシュドシュ
 
 グギャァァァァァァァァアァァッァァァァアッ
 
               ズザァッ
 
             ズリ・・・・・・・ズリ・・・・・・ズ・・・・・・・リ・・・・・・・

   
(ガロン 死亡         

299 名前:アレクサンド・アンデルセン(M):2003/03/02(日) 10:06

>>297-298
 
     カツン
         カツ
               
   
 ゲァハハハハハハハハハハハ
             ハハハハハハハハハァ
 
  
         ギシ……
              ギシ
 
 
 
     ばらあぁぁ 
          ブァサアアアアアアアア
 
 
(アンデルセン(M)・撤退)

300 名前:アレクサンド・アンデルセン(M):2003/03/02(日) 10:08

擬音闘争
>>292-299

301 名前:トバルカイン・アルハンブラ(M) ◆6TRUMPkWW.:2003/03/03(月) 01:07

トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
〜導入〜
 
 午前二時。
 短針を見て後悔をしながら、彼は一つ溜息をついた。
 本来ならば自宅に帰って暖かい布団の中で眠る筈の時間。
 その時間を彼は今、警備員のアルバイト―――労働の時間として過ごしていた。
 
「……まだやってるのか」
 
 収録が長引いているらしく、まだ光の漏れる部屋を見上げてぼんやりと呟く。
 そして、此処でのアルバイトを選んだのは失敗だったな、と痛感する。
 何故なら此処は人々に24時間の娯楽を提供する場所、TV局なのだ。
 
 受け取る側が24時間居るのならば、TV局もまた24時間働かなくてはいけない。
 それに付随する仕事の者もまた同様だ。
 
「あそこにアテナちゃんが居るんだよなぁ……ああ、一目でいいから会いたいなぁ……」
 
 うなだれてまた一つ、溜息。
 憧れのアイドルに近い職場だといっても、所詮はこの程度。
 空しい現実を再確認して顔を上げると――――
 
「ん?」
 
 ガラス越しに、歩み寄る人影を認めた。
 影は、白い鍔広帽と白のタキシードを上下共にきっちりと着こなしている。
 整った身形からタレントか、とも思えたがこの後暫く、ここでの収録は無い。
 この時間に来客というのも有り得ない。
 
 では、誰だろう?
 
「失礼」
「え、あ、あれ?」
 
 自動ドアが開いた事すら感じさせず、何時の間にか男は眼前に立っていた。
 中年でありながらも精悍さを備えた顔立ちによく似合う、褐色の肌に銜え煙草。
 外人タレントも真っ青になりそうな程の『伊達男』だ。
 
「何か御用でしょうか……?」
 
 恐る恐る尋ねる。
 すると、笑顔を近づけながら、こう言った。
 
「何、ちょっとした宣戦布告だよ」
 
 尋ね返そうとした警備員の首筋に『伊達男』が喰らい付く。
 後から後から溢れ出す血潮を、ワインでも飲むように気軽に嚥下する。
 暫くして、すっかり皮膚から血の気の失せた警備員が放り捨てられる。
 ハンカチで拭った口元には―――隠し様の無い、二本の牙が覗いていた。
 
「ふむ。あそこか」
 
 収録中のスタジオへ向けて『伊達男』は歩き出した。
 リズムを刻むような、軽やかな靴音を響かせて。

302 名前:麻宮アテナ ◆qZESP0jjgI:2003/03/03(月) 01:10

 トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ 導入
>>301
 
 私は21時にスタジオ入りしました。22時にしゅうろくをはじめて、
1じかんたらずでステージがはねて24時にはもうお家にかえって
お風呂に入ってきがえて眠っているよていでした。
 
 でも私はひかえしつのすみっこでステージいしょうのままひざを抱えています。
じかんは25時30分をまわったところです。自分のうでにつっぷしていると
とおくから聞こえてくる歌がいいぐあいにこもりうたになってあ〜これわぁ。
 
 (くぼぞのまゆさんのしんきょくだぁしょしゅ〜さんじゅーはちいおめでとございますぅ)
 
 かちゃりなぁんてどあのあくおと……。
 
 「麻宮さんそろそろお願いします」
 「はいっ!」
 
 
 
 ” ♪ … 口移しにメルヘンください 夢見がちな気持ちをください ”
 ” ♪ いけないことは いけないことと たまにはきちんと叱ってください … ”
 
 収録中。いくら眠くてもいくら疲れていても、2本の足で立って動ける以上は歌います。
そして歌っている時はいつでも最良の状態。これでもプロの端くれなのです。
集音マイク、カメラ、照明、各スタッフの動き、移動可能範囲の広さ……。
集中した意識が周囲の状況をあまさず掌握し、この場を私のものにします。
 
 ……でもそのとき、”状況“の中に違和感。来る。もうそこまで来てる?
2番を歌い終わって、あとは間奏後のリピート部分だけ。もう少しで終わるから……。
 
 (私に用があるなら待ってて……おねがいだから入ってこないでくださいよぉ……!)

303 名前:トバルカイン・アルハンブラ(M) ◆6TRUMPkWW.:2003/03/03(月) 01:45

トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>302
 
 扉の前へ辿り着き、男はその足を止めた。
 タイを締め直し、襟を整えて僅かな着衣の乱れを正す。
 男の名はトバルカイン・アルハンブラ。
 『伊達男』の二つ名で呼ばれ、それに違わぬ姿勢の男だ。
 
「さて、ご対面と行くかね」
 
 両手を扉に掛けて一気に開け放つ。
 
 突然の乱入者に、スタジオ内は静まり返った。
 呆気に取られたような雰囲気が辺りを包む。
 その中を確かな足取りで、悠然と伊達男は進んだ。
 
「……お、おい!」
 
 冷静になったスタッフがトバルカインの前に立ち塞がる。
 収録も大詰めなのだ。誰であっても邪魔をされる訳には行かない。
 そう、誰であってもだ。
 
「ああ、失礼。別に邪魔をするつもりは無いんですよ」
 
 一歩引き、伊達男が非礼を詫びる。
 スタッフはそれを好機と見て、一歩前に出る。
 
 、二人の間に一枚のトランプカードが現れた。
 風で舞い上がる木の葉のように、静かに、札が浮き上がる。
 
「ただ少し―――」
 
 微笑を浮かべながら、伊達男が指を鳴らす。
  
 すると、意志を持ったようにカードは空気を裂いて疾走。
 何が起こったかすら理解出来ていないスタッフの首を、切り飛ばした。
 
「撮りたい絵が有るので」
 
 頭部が失われた体から噴き出した血液が雨となって、辺りに降り注ぐ。
 その中であっても、タキシードに染み一つ残さずにトバルカインは進んだ。
 崩れ落ちたスタッフの首から流れる血の流れも、ひょいと避けて見せる。
 
 歩きながらも袖口からはトランプが次々と溢れ出し、伊達男の周囲に渦巻いた。
 
「余計な方々は、ご退場願えますかねェ!」
 
 カードの渦から、数枚が飛び出した。
 それらは各々の目標―――他の騒然となるスタッフ達に向けて殺到。
 舞台に不要な邪魔者を鏖殺せんと、暴威を振るった。

304 名前:麻宮アテナ ◆qZESP0jjgI:2003/03/03(月) 02:27

 トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>303
 
 ばん。両開きのドアが大きく開け放たれました。
 
 (入ってこないでってお願いしたのに!)
 当然ながら私の胸中など無視して、悠然と姿をあらわす男性ひとり。誰?
たぶん初対面の相手です。でも、どこかで会ったことがあるような。
 
 『ああ、失礼。別に邪魔をするつもりは無いんですよ』
 嘘でしょう。本番収録中に押しかけてくる人が吐き出す言葉ではありませんよ。
胸の飾り紐をしゅるしゅる引き出して髪の毛を纏めます。たぶん狙いは私。
 
 『ただ少し―――』
 うそ、速い! これで3人!?
 『撮りたい絵が有るので』
 いいかげんに……。
 『余計な方々は、ご退場願えますかねェ!』
 「どっちがぁ!!」
 最大半径いっぱいにシールドを展開。生き残ったみんなをなんとかカバーする障壁が、
殺戮撒き散らすカードの群れを蹴散らします。きつい……!
 
 「……誰です」
 今度はなんとか防御。でも全員を守りながら戦うのは無理。とにかく1対1に持ちこまないと。
 
 「まさかこれだけ騒ぎをおこして名乗らない、なんてことありませんよねぇ色男さん」
 なんて蓮っ葉な台詞。自分の口から出た言葉に腹が立ちますが、それよりなにより
時間が欲しいのです。みんなが逃げおおせるだけの時間が。
 
 「お名乗りあそばせ殿方。私に用があって来たんでしょ?」
 スカートの両端を裂いて動きやすくすると同時に、ささやかな挑発。最低の夜。

305 名前:トバルカイン・アルハンブラ(M) ◆6TRUMPkWW.:2003/03/03(月) 03:10

 トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>304
 
「いやはや―――」
 
 さも驚いた、といった様子で伊達男が首を振る。
 大袈裟な身振りではあるが、癇に障る類の物では無い。
 
「流石は名高い超能力者、麻宮アテナ嬢。
 まさか、こうもあっさりと私の技が防がれるとは」
 
 弾き返されたカードを渦の中へ再度取り込み、恭しく一礼。
 
「ああ、申し遅れましたが―――私の名はトバルカイン・アルハンブラ。
 近しい者には『伊達男』と呼ばれる事もあります。以後お見知りおきを」
 
 名乗り終えると、トバルカインは渦の中へ腕を沈めた。
 そして、暴れる札の群れから一枚だけを器用に取り出してみせる。
 
「しかし、いけませんねェ」
 
 ビッ、とカードを挟んだまま少女を指差す。
 絵柄は、剣を表すスペードのA。
 
「貴女はアイドルである前に、淑女(レディ)であるというのに。
 その様な言葉を使うのは感心できませんよ」
 
 手首のスナップを利かせて、トバルカインがカードを放つ。
 そのカードは何の変哲も無い、薄っぺらく、貧弱な一枚の紙切れ。
 だが、『伊達男』の手にかかれば―――それは戦斧にも勝る刃へと変化する。
 
「本来の目的を果たす前に、私が一つ教育して差し上げましょう」
 
 空間が軋むような異音を上げ、トランプは宙を奔った。

306 名前:麻宮アテナ ◆qZESP0jjgI:2003/03/03(月) 03:46

 トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>305
 
 『流石は名高い超能力者、麻宮アテナ嬢。まさか、こうもあっさりと私の技が防がれるとは』
 ……ばれてる。出し惜しみは無意味ということでしょうか。
それにしても、投擲武器を回収できるなんてずるい。じんわりした不安。
 
 『ああ、申し遅れましたが―――私の名はトバルカイン・アルハンブラ。
 近しい者には『伊達男』と呼ばれる事もあります。以後お見知りおきを』
 伊達男とはなんとまぁ。理香ちゃんなら、相手が涙目になるほど罵声を浴びせるところです。
そんな私の胸中にはやっぱり構わず、勝手に喋りつづける彼。その間に退避するみなさん。
こうなると、お喋りというのはありがたいことです。
 
 『しかし、いけませんねェ』
 動作がいちいち気障。カード屋さんよりホストにでもなれば良かったのに。
 
 『貴女はアイドルである前に、淑女(レディ)であるというのに。
 その様な言葉を使うのは感心できませんよ』
 「ごめんなさい」
 くっ。反射的に謝っちゃった。頭を下げるのはいいとしても相手くらいは選ばないと。
 
 『本来の目的を果たす前に、私が一つ教育して差し上げましょう』
 かまわず突進。右手に展開したサイコソードでカードを弾き飛ばします。
ほぼ同時に左のニ刀目で脛切り。足を潰せば、そのままラッシュで押し込める!

307 名前:トバルカイン・アルハンブラ(M) ◆6TRUMPkWW.:2003/03/03(月) 04:22

トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>305
 
「素直で宜しい」
 
 こちらに向かってくる相手を認めながらも、伊達男は微動だにしない。
 自分の攻撃を防がれた事など、まるで問題では無いとでも言うように。
 
 力場の剣が足元に振るわれる。
 回避は不可能な、完璧なタイミングだった。
 
「だが―――」
 
 虚しく、刃は空を切る。
 トバルカインの足が在った筈の場所には、影が落ちているのみ。
 煙草を銜えたままの口から、微かな笑いが漏れる。
 
 何故刃は届かなかったのか―――その解答は、彼の足元にあった。
 
 伊達男の革靴が置かれているのは、地面では無い。
 渦を形作っていたトランプの何枚かが寄り集まり、空中に足場を成していた。
 寸前で作り上げた其処に飛び乗り、この男は斬撃を避けてみせたのだ。
 
 わざわざ、自分の力を見せ付けるように。 

「それは同時に、愚かと言う事ですな」
 
 嘲りの響きを持った言葉。
 それを投げかけつつ、トバルカインは掌を閃かせる。
 袖口から滑り出すのは三枚のカード。
 
「だからこそ、生贄としては申し分無い訳ですが」
 
 足場は崩れ、伊達男が上方から飛び掛る形となった。
 重力を加味したカードの一閃が、振り下ろされる。

308 名前:麻宮アテナ ◆qZESP0jjgI:2003/03/03(月) 15:20

 トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>307
 
 光刃一閃。相手の両足をまとめて叩き斬る斬撃はしかし、地面すれすれを薙いだだけ。
 「うそっ!?」
 相手の攻撃に乗じて仕掛けたのに、当たらない。
 
 私を見下ろす彼と、目が合いました。笑ってるの? いやだよ怖いよ。
 
 『だからこそ、生贄としては申し分無い訳ですが』
 同時に三枚、近過ぎる! 凶器が彼の手から離れる瞬間に横っ飛び。
一枚は床に突き刺さり、一枚はなんとか弾き飛ばし、最後の一枚が。
 「……うぅ!」
 脚に裂傷。勢いに任せて床を三転しながら跳ね起きます。白いニーソックスが真っ赤。
 
 (いけない、あぶない……)
 周りの人はみんな逃げ出して、首尾良く1対1にはなりました。でも。
 
 胸の中の不安が、プチプチと音をたてながら寒気に変わっていきます。
足を潰すつもりが、逆に潰されそうになりました。怖い。
しかもこの傷、なぜかヒーリングでも治りが遅いのです。だったら。
 
 ジャンプ、そのまま念動で浮き上がります。地面の上では勝てなくても……。
 「……3次元戦闘!」
 左右合わせて毎秒約10連射。中型拳銃に匹敵する光弾を、ろくに狙いもつけずに
ばら撒きながら力を収束して収束して収束。次に仕掛けてきたときにカウンターで……。
 
 (……風穴空けて、勝つ!)

309 名前:トバルカイン・アルハンブラ(M) ◆6TRUMPkWW.:2003/03/05(水) 00:09

トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>308

「そう、そうやって立ち向かってくる事が肝要だ」
 
 誰にともなく語る―――芝居の台詞のような口調で、伊達男は呟き始めた。
 飛来する光弾に対しては、落ち着いてカードを取り出すのみ。
 
「ただ無残に死ぬだけなら誰にでも出来る」
 
 弾丸に向かいカードを振るう。
 光と接触したトランプは、その威力を無にして弾け飛んだ。
 凄まじい速度で迫る弾丸を淡々と切り払い、捌く。
 
「『偶像』が『勇敢に戦って』、」
 
 自分の語りに陶酔しているのか、とも思えるその調子。
 だが、消し飛ぶ度に新しいカードを取り出しての撃墜は正確だ。
 ピンポイントな防御しか出来ないトランプで連撃を凌ぎつつ、語り続ける。
 
 トバルカインの余裕が、まざまざと見て取れた。
 
「『無駄に終わり、死ぬ』―――このシナリオこそが必要なのだ」
 
 訪れる弾丸の切れ目。
 その隙を狙い、伊達男はカードを疾駆させる。
 大気を断ち割り、二条の衝撃波が牙を剥いた。
 
「戦争の、開幕には!」
 
 たった二人となった、寂しいスタジオに声が響く。
 其処に観客は居ない。
 其処には只、いずれ生まれる観客の為に映像を焼き付ける、カメラが回っているだけ。

310 名前:麻宮アテナ ◆qZESP0jjgI:2003/03/05(水) 00:56

 トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>309
 
 連射につぐ連射。尾を引いて次々と流れる光弾はしかし、彼を傷つけることはできません。
 (ぜったい人間じゃないでしょあなたっ!?)
 連射による牽制と次手への準備。慣れてはいても、こういう平行作業はきついです。
 
 それにしても、さっき無理して全力展開したシールドでの消耗に祟られます。
「10人守るんだから、燃費も10倍になっちゃうね☆」と簡単な掛け算で
解決できればよかったのですが、現実はもうすこし複雑で意地悪です。
身も蓋もなく白状すると、消耗戦になってしまえば最後まで戦いぬく余力がありません。
このままいけば私は、薄幸の美少女よろしくパタリと気を失って……そのあとの運命は
考えないことにしましょう。
 
 『『偶像』が『勇敢に戦って』、』
 『『無駄に終わり、死ぬ』―――このシナリオこそが必要なのだ』
 だから考えないようにしましょうってば。
 
 伊達男さんの脚本をムリヤリ書きかえるべく、いつもより余計に時間をかけて
超高収束したエネルギーを精製。このサイコスピアなら、飛んでくるトランプもろとも
彼に風穴空けることができます。ぜったい、だいじょうぶだよ。
 
 だって、いくらでも引っ張り出せる貴方と違ってこっちには……。
 『戦争の、開幕には!』
 「……元手がかかってるんですよっ!!」
 
 一方の攻撃をかわしながら、もう一方に光の投げ槍を叩きつけます。
衝突の余波に煽られた私の身体が、真後ろに向かって吹き飛ばされました。

311 名前:トバルカイン・アルハンブラ(M) ◆6TRUMPkWW.:2003/03/05(水) 01:57

トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>310

 トランプを撃ち抜き、それに伴う衝撃波をも撃ち抜き。
 煌く槍は一直線にトバルカインへと突き進む。
 
「無駄な事をッ!」
 
 光弾を叩き落した時と同様に、右腕に携えたカードを振り翳す。
 紙切れの壁でありながら、強固な防壁であるその札。
 槍の先端に触れた時―――それは、右手ごと、吹き飛んだ。
 
「な……に?」
 
 有り得ない事態に驚愕しつつ、冷静に分析を行う。
 導き出される答えは一つ。この子娘は予測を超えている。
 歯噛みしながら伊達男はそう認識した。
 
 ならば、どうするか。
 
 決まっている。
 
「……どうやら、脚本は変更しなければいけないようですな」
 
 血を滴らせながら再生を始める右手。
 だらりとぶら下げたまま、左手に五枚のトランプを握る。
 
「『勇敢に戦う』パートを――大幅カットさせてもらいましょうかねェ!」
 
 たった一本の腕が、大蛇がのたうつように躍る。
 一振りされる度に放たれるトランプ。
 縦横無尽に突き進む、その一撃一撃。
 それらは、大気の分子が断ち切られる様が幻視出来る程に苛烈だった。

312 名前:麻宮アテナ ◆qZESP0jjgI:2003/03/05(水) 02:33

 トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>311
 
 右腕潰した、と喜ぶ暇もなく残った左腕での連続投擲。さっきの私の両手での連射と
ほとんど同レベル。おまけになくなったはずの右手まで生えかけるなんて。
避け避け避け……とても全部はかわせない! 致命傷になりそうなものだけシールドして、
耐えられそうなものは耐える!
 
 いくらもしないうち、全身に裂傷を負ってまみれ。オリエ・カヤマのデザインによる
新品のステージ衣装も、ズタズタになってほとんど身を包む役目を果していません。
それでも脱いでしまえないのが、女としての恥じらいでしょうか。痛い。血が。
 
 ……ところで、家庭用100ボルトの電流でさえ、場合によっては
感電死の原因になり得ます。ましてテレビ局。このスタジオの一室だけでも、
はたしてどれだけ大量の電気が使われているか。
 
 「じ、じつは私……コンピューターとかあんまり得意じゃないんです。そのせいで、
やり方はわかってても実際にはできない、なんてことがけっこうありまして……。
あは……『勉強しろ』って言われちゃったらそれまでなんですけどね……」
 
 伊達男さん、気づいていますか? いませんよね……。ふたりの共同作業のせいで
めちゃめちゃに荒れた室内。辺り一面、でたらめに散乱しているように見える
壊れた機材のコードの切り口がぜんぶ、さりげなくあなたの方を向いていることに。
 
 「伊達男さんは漫画とか好きですか? よくありますよね……超能力で電子機器を
コントロールしたり。ひっくるめてエレクトロキネシスと呼ぶらしいんですが、
まぁこの分野にかんして私は落ちこぼれということで。あ、あは……」
 
 でも、コンピューターに弱くてもできることはある。たとえば、もともと存在する電流を
増幅・発射することとか。これなら血まみれの私でもなんとかなります。
たくさんの太いコード。それが切れたせいで行き場をなくしている電力。
人間なら確実に感電死する、この電流たちをおもいっきり彼に……。
 
 「へっぽこ星人はへっぽこ星人なりにものを考える、ということでひとつ」
 
 四方から叩きつけました。

313 名前:トバルカイン・アルハンブラ(M) ◆6TRUMPkWW.:2003/03/05(水) 03:33

トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>312

「ハ、ハハ! 何を言い出すかと思えば!!」
 
 訳の分からない説明を始めた少女を哂う。
 それがどうした。今のお前は無様な『やられ役』だ。
 元の主役などでは、無い。
 屍を晒すだけの、ただの人間だ。
 何かを企んでももう遅い。 
 
 死は、決定した。

「戯言をほざくのはその程度で十分かね!?」
 
 叫びつつ、トバルカインは最後のカードを抜き放つ。
 隙だらけの彼女へ向けて最後の一撃を叩き込む為に。

「これで、終わ―――」 
 
 正に電光の速度で、指からカードが離れる瞬間。
 コードから迸った『本物』の電流が伊達男の身を灼いた。
 
「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」 
 
 大電流は満遍なく伊達男の体を蹂躙し、破壊を隅々まで行き渡らせる。
 それに抵抗する術は無く、トバルカインは悶え苦しむのみ。

「き、キィざマあぁぁアァ!!」
 
 焼け爛れる皮膚の感覚が鬱陶しい。
 神経に一本ずつ釘を打ち込んでいくような激痛が鬱陶しい。
 出鱈目な電気信号に痙攣する筋肉も鬱陶しい。
 全てが、鬱陶しい事この上ない。
 
 この苦痛を与えたのは、誰だ。
 そうか、目の前に居るお前か。
 消し飛ばしてやる―――。
  
 その思考に反応したのは、彼の力であるトランプの群れ。
 トバルカインの周囲に漂っていたカードの渦が一点へと、収束してゆく。
 
 今まで紳士然として来た男の、激情を全て叩きつけるかのように。
 
「キ、エうせロォォォッ!」 
 
 八つ裂きにしてもまだ足りぬ。
 百でも千でもいい、粉々になるまで切り刻んでやる。
 風切り音が呪詛にも聞こえる、おぞましい唸りを上げて――――渦は、激流に変わった。

314 名前:麻宮アテナ ◆qZESP0jjgI:2003/03/06(木) 00:40

 トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>314
 
 『あ、あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?』
 
 耳を塞ぎたくなるほどおぞましい悲鳴。でもそんな力も時間も惜しい。
自力回復が頼りにならない以上、はやく病院に……。
 
 「はぁ、はぁ、はぁ」
 失血で足下が。くるしい。目がまわる。いたいよぅ……。
 
 『き、キィざマあぁぁアァ!!』
 おねがい。もう倒れて。冗談じゃなく。そろそろ本当に。
2時間前に食べた仕出しのお弁当吐きそう。これ以上突つかれたら。
だめ。もう。どっか行ってください……。
 
 『キ、エうせロォォォッ!』
 「もう知らない……!」
 
 爆発。巻き起こした力が周囲の温度を一瞬で4桁に叩き上げます。
その場にあることごとくが燃焼溶解赤熱。焼けた空気は熱風になって出口に殺到し、
災厄の中心たる私は……。
 
 鳥。
 
 まとった炎で飛来物を焼き落とし、報復の業火を吐きつける火の鳥。
けっきょく化物には化物。私も疑いなく化物。私の方がもっと化物。
化物は化物に燃やされて……。
 
 (どっかにいっちゃええええ!!)
 
 叫びは金切り声になって、炎と一緒に叩きつけられる。

315 名前:トバルカイン・アルハンブラ(M) ◆6TRUMPkWW.:2003/03/06(木) 01:24

トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>314
 
(来る、な)
 
 ズタズタの思考の中で、その一言だけを強く想う。
 
 電撃が全身にダメージを与えたといっても、致命傷という訳では無い。
 落ち着いて血をたらふく飲もう、三日もあれば治癒だろう。
 そんな打算が、何処かにあった。
 
(来るな、来るな、)
 
 それすらも忘れて、伊達男は只一つの事だけを考え続けた。
 如何に逃れるか。如何に奴を追い払うか。
 
 向かって来るのはなんだ?
 世間知らずのアイドルか?
 それとも、人間を越えた超能力者?
 
 どれも違う。
 来るのは化け物だ。吸血鬼である自分を越える化け物。
 来るのは―――『死』だ。
 
(来るなクルナ来るなクルナ来るな――――!)
 
 とにかく、無我夢中だった。
 鳥の形を取った『死』から逃れようと、ありったけのカードを繰り出す。
 全てが焼かれ塵となって行くのを認めつつも、只々繰り返す。
 
「く、ル―――」
 
 内側から膨れ上がる恐怖に耐え切れず、理性が決壊したらしい。
 畏怖の声が、自然と口から溢れ出した。
 
「なァァァァァ!!」
 
 一杯に見開いた眼球を埋め尽くす、紅蓮の鳥。
 それがトバルカインの見た―――最後の光景になった。
 
 
(トバルカイン・アルハンブラ:死亡)

316 名前:麻宮アテナ ◆qZESP0jjgI:2003/03/06(木) 02:07

 トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>315
 
 『なァァァァァ!!』
 がしっぐちゃっ。
 
 化物がもう一方の化物を叩き潰しました。所要時間きっかり1分。
その直後、力の爆走による自滅を防ぐために不随意の精神力が発動。
私の身体は私の意思を無視して元に戻りました。
 
 「うっくうぅ……」
 化物がいなくなっても、まだ燃え続けている室内。
はやく逃げないと焼死したうえに失血死。そんなの、いや。
出口。窓。ここ3階。でもほかにない。苦しいよ。死んじゃうよ。
なんでここ、さっきより、広くなってるの……?
 
 ガラスが吹き飛んだ窓から身を乗り出します。いつもなら飛び降りられるけど、
今はタダじゃすまないかな。でも、真っ赤に燃える部屋にはもういられない……。
 
 「……でうっ」
 飛び降りる、というより転がり落ちるような落下。植え込みをばらばらにしながら
衝突じみた着地。受身をとったとき、左腕で「ごっ」と嫌な音がしました。
 (あ、折れた……?)
 そう思った瞬間。
 
 この日の唯一のラッキーでしょうか。私の意識は
さらなる痛みを感じないうちに、ふっと溶けて暗闇の中へ。

317 名前:シュレディンガー准尉(M):2003/03/06(木) 03:08

トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>316
 
「ダメダメだねぇ、全く」
 
 炎が燃え盛る中、唐突にボーイソプラノが響いた。
 先ほどまで、確かに無人だった場所。
 其処に、半袖の軍服に身を包んだ少年が立っていた。
 
「広報くらいなら出来ると思ってたんだけど。
 まさかここまでボンクラだとは思わなかったよ。失敗失敗」
 
 灰と化したトバルカインの腕を踏みつけ、少年は歩く。
 髪から覗く獣の耳を見る限り、彼もまた人間では無いのだろう。
 その中性的な風貌も、何処か人間離れした物を感じさせる。
 
「あ、あったあった」
 
 目的地―――カメラの前に辿り着くと、少年はテープを手際よく取り出した。
 残念ながら、このテープはお蔵入りだ。
 撮影しようと思っていた映像とも、違う物が撮れてしまった。

 国民的なアイドルを無残に引き裂く、そんな茶番劇。
 それを開戦の合図と共に、平和ボケした人々に叩きつける。
 伊達男の実行しようとした計画の概要は、こんな所だ。
 
 考えたのでは彼ではない。指令を出した者は別に居る。
 一体誰が、そんな大した効果も無い、酔狂な事をやろうというのか?
 
 それは、トバルカイン、そしてこの少年が所属する『最後の大隊』。
 吸血鬼1000人によって構成される彼等は、戦争という最高の『酔狂』を好むのだ。
 
 この程度の事は――きっと、酔狂の内にも入らないのだろう。
 
「ま、失敗するだろうとは思ってたけどさ。
 それじゃあね、トバルカイン」
 
 ささやかな土産を携え、少年は消え失せた。
 現れた時と同様に、予兆も無く、痕跡すら残さずに。

318 名前:麻宮アテナ ◆qZESP0jjgI:2003/03/06(木) 03:13

 トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>317
 
 気がついたら病院のベッドの上でした。身体中に裂傷約30箇所。
左腕骨折と全身打撲。体表面の10%にU度熱傷。その他。
  
 「しっかしそのありさまじゃ、百年の恋もいっぺんに冷めるよな。いや、ホンマ」
 ああああ理香ちゃんは相変わらずです。こういうときは、なんというかそのもっと
はーとをーみんぐな言葉をかけてくれてもバチは当たらないと思うのですが。
 
 「その歳で嫁かず後家大決定? うぎゃあお気の毒ぅ」
 「そう思うんなら理香ちゃんがもらってくれると助かるんですけど」
 「ヤだね。あたしにゃそういうシュミは無い」
 さいですか。
 
 ……それにしても、伊達男さんが言っていた言葉。
 
 『本来の目的を果たす前に』
 『戦争の、開幕には』
 
 文字通りに捉えるなら。彼らの目的は私なんかじゃなく、もっと別の
大きなことだったのでしょうか。戦争、という言葉を使ったということは
どこかに仲間(それも大人数の)がいる?
 
 やがて面会時間も終わり、薄暗い病室には私ひとりが残されました。
 
 私の身体は3週間もあれば元通りになるでしょう。でも問題はそういうことでは
ないのです。ああいう文字通りの化物さんが、人知れず世の中に入りこんでいる。
彼らの言う『戦争』のために……。
 
 考えるうちに怖くなったので、頭からお布団をかぶりこみました。
どうかどうか、もうへんなことがおきませんように。
 
 もうぜったい、へんなことがおきませんように。

319 名前:シュレディンガー准尉(M):2003/03/06(木) 03:24

トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ(レス番纏め)
>301>302>303>304>305>306
>307>308>309>310>311>312
>313>314>315>316>317>318
 
……つまんない映像残したね、アイツも。
えー? だからって、僕に文句言ってもしょうがないでしょ?
言いたい事があるならこっちに言ってやってよ。
http://plan-a.fargaia.com/html/test/read.cgi?bbs=vampbattle&key=1033894737

320 名前:黒岩省吾 ◆vQsChIjITA:2003/03/08(土) 23:42

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー 導入
 
日本有数の製薬会社、燦月製薬。
それが吸血鬼信奉団体、イノヴェルチの隠れ蓑になっていることを知る者はほとんどいない。
だが、日本全国に点在する支社の1つ、その一角にある部屋にいる男はその事実を知っていた。
 
東京都知事、黒岩省吾。すなわち、俺のことだ。
俺の前には蒼白い顔の男が座り、俺の座る椅子の傍らには一人の女が倒れていた。
女は国籍不明の密航者。燦月製薬が実験のために集めた人間たちの一人だった。
そして男は、イノヴェルチに協力する吸血鬼の一体なのだ。
男が俺に、本来の名前で呼びかける。
 
「ガウザー様、我々と吸血鬼のための世界を作る気は、もうないのですか?」
「ああ。所詮我々は我々のままでは、闇の世界でこそこそ生きることしかできん」
 
吸血鬼の亜種たる闇の眷属、人間の精気「ラーム」を吸って生きるダークザイド。
それが俺の正体なのだ。
目の前の吸血鬼は、イノヴェルチに送り込んだ俺の部下。一種のスパイだった。
 
「それよりも人間として生き、人間界の権力を手にする……」
 
そこで言葉を区切り、この俺がラームを吸ったために死んだ女に、ちらりと視線を向ける。
だが、すぐに興味をなくし、目の前の部下に語りかける。
 
「それこそが、人間界を真に支配する方法なのだ。イノヴェルチはそのために……せいぜい利用させてもらうがな。」
「しかし、二十七祖やヴァンパイア三銃士にも匹敵する能力を持つあなたが……」
 
部下の言葉をさえぎって、俺は席を立つ。
 
「……言うな。ああ、その女の礼は言わせてもらうぞ。では……引き続き仕事を頼む」
 
不服そうな顔で、部下が頷いた瞬間だった。それを合図にしたかのように、突如爆音が轟く。
辺り一面に警報が鳴り響く。イノヴェルチに敵対する「ハンター」どもの襲撃というわけか。
 
「よりによって俺がいる時に……だが、面白い!」
 
俺は口元を笑みの形に歪めると、部下の静止も振り切って外へと出る。
俺は騎士の名を冠するダークザイドなのだ。戦いの誘惑に、打ち勝てるわけがなかった。

321 名前:ヴェドゴニア(M):2003/03/08(土) 23:47

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>320
 
 合図を兼ねた爆発が、正面玄関を派手に吹き飛ばした。
 収まるのが早いかどうか、というタイミングで轟音と炎の残る空間を一気に駆け抜ける。
 踏んだガラスが、がしゃ、と抗議めいた音を立てる。
 
 足元のガラスに映るのは、黒の拘束衣と手を組み合わせたような銀色のマスク。
 そして、人間とかけ離れた長身手長の人影。
 俺の、半端な吸血鬼―――“ヴェドゴニア”としての姿だ。
 
 ……見たから何が変わるって訳じゃない。
 ガラスから視線を外して、顔を上げる。
 雑魚が寄って来る前に、出来るだけ進んでおかないとな。
 
『居たぞ、あそこだ!』
 
 ……チッ、思ったより早いじゃねェか!
 駆けつけたイノヴェルチの私兵が、手にしたアサルトライフルを発砲して来る。
 寸前で弾道を見切った俺は、横っ飛びで射線から逃れた。
 
『クソッ―――化け物め!』
 
 何時しか当たり前になった罵倒を受けながら、腰から銃を抜き放つ。
 握るのは、銀の光沢と凶暴なフォルムを持つリボルバー。
 その銃―――“レイジングブル・マキシカスタム”の銃口を上げる。
 
 ざっと見て敵は三人。
 なら、やる事は決まってる。
 トリガーを三回引くだけだ。
 
 マズルフラッシュが回廊を照らし、弾丸が大気を切り裂く。
 着弾の轟音と共に、兵士達の胴や頭部が柘榴みたく弾け飛んだ。 
 
「さて、と」
 
 正面から突入して撹乱するのが、俺の役割。
 その間に裏から突入したモーラやフリッツが仕事を終える手筈になってる。
 暴れるだけ、と言えば楽そうではある。でも実際はそんなに甘くねぇ。
  
 向こうが躍起になって探してる“ヴェドゴニア”がわざわざ殴り込んで来たんだ。
 今頃、寄って集って蜂の巣にしてやろうと思ってんだろう。
 やれるモンなら、やってみろ。覆面の内側で薄く笑ってやる。
 
「今回も、派手に引っ掻き回してやるか!」
 
 確か、重要な施設は上の階だったな……。
 頭に叩き込んだ図面を思い出しながら、俺は階段へ向けて走り出した。

322 名前:黒岩省吾 ◆vQsChIjITA:2003/03/08(土) 23:49

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー 
>>321
 
階下から迫る黒い影は、銀色の金具のようなマスクをしていた。
影の正体、イノヴェルチに敵対する吸血殲鬼、リァノーンの継嗣、「ヴェドゴニア」だろう。
そのヴェドゴニアを階上から見下ろしながら、俺は階段の上に颯爽と姿を見せてやる。
 
「フッ……はじめまして、ヴェドゴニア。いや……伊藤惣太、と呼んだ方が良いかね?」
 
その俺の言葉に、ヴェドゴニアの動きが一瞬止まった。
俺の都知事としての情報網は、既にヴェドゴニアの正体が梅論高校の生徒、伊藤惣太であることを掴んでいた。
正体を知られていることに戸惑ったらしい吸血殲鬼に、俺はさらに追い討ちをかける。
びゅっ、と唸りをあげる風とともに、俺は階下へと指を突きつけ、薀蓄を語り始めた。
 
「知っているか!?
 世界ではじめての学校は紀元前387年代ギリシャの哲学者プラトンによって作られた
 その学校アカデメイアは、西洋の学校の手本となったという……!」
  
俺の頭脳に蓄えられている、数多くの人間界の知識。
そのわずかな片鱗を語るだけで、ヤツの動きはさらに止まった。
恐るべきは迸る俺の知性。決して呆れているだけ、などということはないだろう。

323 名前:ヴェドゴニア(M):2003/03/09(日) 00:36

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>322
 
(―――はぁ?)
 
 スーツ野郎の、突拍子も無い行動で口があんぐり開きそうになる。
 ああ、マスクが有って良かった。
 無様なカッコを見せずに済んだ、今だけは感謝する。
 
 気を取り直して、ヤツと向き合う。
 背筋にビリビリ来る感覚、不気味は威圧感。
 ふざけてるやがるが、コイツは―――間違い無く強い。
 キメラヴァンプみたいな紛い物とは、比べ物にならない程に。
 
(……逃げられる訳も無いな、通るしかねェか)
 
 リボルバーの銃口を、ゆっくりと持ち上げる。
 デタラメな早撃ちじゃ当たる気がしない。
 少しでも隙を見せれば、負ける。
 
 対峙した時に、そう直感した。
 
(今は一分一秒が惜しいんだ―――そこ、退いてもらうぜ!)
 
 決意を込めて、引き金を引く。
 空間を抉り抜くようにして、弾丸は男へと直進した。
 
(只の人間なら、この一発でミンチだ。そうじゃなけりゃ……)
 
 常人なら吹っ飛びかねない反動(リコイル)を殺しつつ、俺は次の行動を考える。
 どうしても、この一撃で終わるとは思えない。
 不安にも似た感情が、俺の中で膨れ上がっていた。

324 名前:暗黒騎士ガウザー ◆vQsChIjITA:2003/03/09(日) 00:55

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>323 
 
銃口が火を噴き、弾丸が俺の身体を突き刺すべく恐るべき速度で迫る。
だが、俺は暗黒騎士とまで呼ばれた男。
狙いはいいようだが、銃弾の一発程度なら苦もなく避けられる。
 
何気なく身を横に逸らすだけで、耳に轟音を残しながらも、鉛の牙は飛び去っていく。
 
「甘く見ないで欲しいな?」
 
口の端を持ち上げ皮肉な笑みを浮かべつつ、俺は顔の前に手を翳す。
 
「ブラックアウト!」
 
変身ワードに応じ、蒼い瘴気が俺の身体を包み込む。
その瘴気が俺を、ダークザイドとしての姿、暗黒騎士ガウザーに変貌させた。
 
「さぁ……登って来い!」
 
背負った刀に手をかけつつ、俺は挑発的な口調でヴェドゴニアを誘った。

325 名前:ヴェドゴニア(M):2003/03/09(日) 01:31

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>324
 
 ヤツの誘いを受けて、自然と顔が悦びに歪む。
 余裕綽々って奴か……気に入らねぇな。
 
(―――上等だ!)
 
 挑発に唸りで応じると、床を蹴って短く跳躍。
 階段に足を掛けて、トリガー。
 数段近くをすっ飛ばしながら、一陣の風になって駆け上がる。
 上りながらクイックローダーで装弾、またトリガーを何度も引き絞る。
 
(こんな乱射じゃ、銃弾は避けられる)
 
 狂ったような速射に耐え切れず、流石のレイジングブルも悲鳴を上げ始めた。
 まだだ、まだ耐えろよ……。
 
(本命は―――)
 
 最後の一段をより強く踏み切り、俺自身も弾丸の一つになって突進する。
 それと同時に、弾丸を撃ち尽くした銃を一振り。
 銃身の下に備えられた銃剣が姿を現し、ギラリと輝いた。
  
(コイツだッ!!)
 
 裂帛の気合を込めて、刃を突き出す。
 刃の切っ先が向かうのは―――ヤツの、喉!

326 名前:暗黒騎士ガウザー ◆vQsChIjITA:2003/03/09(日) 02:22

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>325
 
無数の火箭を撃ち出しつつ、ヴェドゴニア自身も弾丸の如き速度で迫り来る。
それを合図にして、俺もまた背負った剣を掠れる金属音とともに抜き放った。
俺に襲いかかる弾丸をあるいは身を翻し、あるいはその刀で叩き落として防いでいく。
 
無数の火花が煌き、階段に散っていく。粗削りな金属音を残して。
だがそれもやがて止まる。銃弾が尽きた事を悟る間もなく、ヤツの銃剣は俺の喉を抉ろうとしていた。
 
「なかなか早いな……さすがはリァノーンの継嗣!」
 
感嘆の声と共に、一撃を剣で受けとめる。
重い。幾多のキメラヴァンプを屠ってきただけのことはある。
だが、まだまだ俺には及ばない。
 
言い終えると、俺は剣で銃口を弾き飛ばす。
しかし、銃口が断たれることも、ヤツが得物を取り落とすこともなかった。やはり、やる。
刀はそのまま動きを止めず、首筋へと斬撃を送り込んで行く。
 
「その力、俺のために使ってみる気はないか? ヴェドゴニア!」
 
その誘いは冗談ではない。俺の野望のために、こいつは充分使える手駒だ。
もっとも、この俺の一刀を避けられれば、の話だが。

327 名前:ヴェドゴニア(M):2003/03/09(日) 22:57

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>326 
 
 俺の力を、お前のために、使う?
  
 ハン、何時かはそう言うヤツが出て来るだろうと思ってたさ。
 そして、答えはとっくに決まってる。
 “半端者”であっても俺は俺だ。誰かに操られるなんて―――
 
「お断りだ!!」
  
 叫び、衝撃で取り落としそうになった拳銃を強く握り締める。
 向こうは既に体勢を立て直して刃を振るっていた。
 
(間に合うか……!?)
 
 腕をムリヤリ捻って、グリップ下のバンパーで何とか受け止める。
 ……ッ! なんて力だ!?
 威力を受け止め切れずに、バンパーが砕けてグリップにまで刃が食い込んだ。
 
(ヤバイ! このままだと腕までやられる!!)
 
 咄嗟の判断で銃を手放し、俺は階段の半ばまで大きく飛び退いた。
 甲高い音を立てて拳銃が跳ね飛ばされる。
 
 着地する頃には収まってるだろうと思ったが、まだ腕が痺れてやがる……。
 予想以上なんてモンじゃねぇ。桁違いの強さだ。
 ……だからって、退く気はさらさらねェけどな。
 
「どうしても、って言うんなら」
 
 腰に提げた“棒”と“刃”を取り出し、眼前で組み合わせる。
 金属同士の噛み合う確かな手応え。二つのパーツが、一つの武器へと組み上がる。
 完成した長刀の名は“聖者の絶叫(エリ=エリ=レマ=サバタクニ)”。
 かなり嵩張るのが難点だが、破壊力って点じゃ手持ちで一番の武器だ。
 
「殺してから再利用でもしてみろよ」
 
 今度は駆け上がるのではなく、膝を撓めて一気に跳躍。
 ヤツの頭上まで高々と跳び上がってやった。
 
 上昇の頂点で振り上げた長刀が天井を削る。
 多少、勢いが殺がれるのも構わず振り下ろした。
 雷よろしく降り注ぐ白刃が、ヤツの脳天に叩き付けられる!

328 名前:暗黒騎士ガウザー ◆vQsChIjITA:2003/03/09(日) 23:30

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>327
 
「この吸血鬼のできそこないがッ!」
 
俺の誘いを断ったヴェドゴニアは大きく跳躍。
天井の欠片を舞い散らし、猛獣の如き唸りをあげて長槍で俺の脳髄を砕かんとする。
全体重の乗った一撃を防ぐ、咄嗟に刀の背に腕を添え、上に掲げた。
 
ギィィィィィィィィィィン、と、耳が痺れるような金属音が長く響く。
槍は受けとめることができたものの、耳だけでなく腕までもが痺れている。
だが、ヴェドゴニアにとって、跳躍したのは浅い考えだった。
今のヤツはまだ着地し切っていない無防備な態勢。
俺は素早く前蹴りを繰りだし、それだけで剣と腕とにかかる重圧を蹴り飛ばした。
ヤツは吹き飛んで壁にぶつかり、くず折れる。
 
「優れたものが世界を支配する……それがこの人間界の摂理だろう?」
 
倒れたとは言え、まだまだ立てるはず。
その期待を抱きながら、刀を携えて一歩一歩ヤツに近づく。
 
「貴様にはその資格があるはずだ。それがわからんのなら……」
 
両手で刀を握り締めると、弓を引き絞る様に構えを取る。
 
「所詮、貴様は半端者だ!」
 
かっ、とリノリウムの床を蹴る音が響き、俺は一筋の矢と化した。
その向かう先は、ヤツの心臓。吸血鬼の急所だ。

329 名前:ヴェドゴニア(M):2003/03/10(月) 00:58

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>328
 
「出来損ないだろうが……」
 
 痛みを堪えつつ、“聖者の絶叫”を杖代わりにして立ち上がる。
 
「半端者だろうが……」
 
 腹の、疼くような痛みが徐々に引いていく。
 この程度はどうって事ねぇが、立ち上がるまでのタイムラグは致命的だ。
 風の唸りを引き連れ、突進して来るヤツからは逃れられない。
 
 覚悟を決めて、俺は右手だけで長刀を構え直す。
 
「他人を踏み躙るようなヤツになるよりかは、マシだ!」
 
 マスクに遮られても、ただただ声を張り上げた。
 
 一歩でも踏み外せば直ぐに吸血鬼に堕ちる。
 そんな綱渡りの、頼り無いくらいに細い一本のロープ。
 体が化け物であっても、心まで化け物にはならない。
 俺が縋れるのは―――只それだけだ。
 
 迫る刃に対して、俺の取った行動は体を僅かにズラすだけ。
 肉を裂いて骨を砕き、刀は左肩を抉り抜いた。
 激痛で拡散する意識を、無理やりに掻き集める。
 
(左はくれてやる……)
 
 筋肉が軋むほどに右手の槍を引く。
 技術でも、身体能力でも劣ってる俺がヤツにダメージを与えるのは難しい。
 だけどな……この距離なら、外さねェ。
 
 しなる右腕が、加速された長刀を突き出す。
 身を捻ったせいで、激痛が走った。
 柄を握る手が緩む―――
   
(……クソ、どうせならオマケだ。コイツもくれてやる!)
 
 敢えて、そのまま手放して槍を撃ち出した。
 ここまで密着してりゃ、持ってようが持ってまいが同じだ。
 
 ―――串刺しに、なりやがれ。

330 名前:暗黒騎士ガウザー ◆vQsChIjITA:2003/03/10(月) 10:21

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>329
 
来る!
 
至近距離で槍が投げられたのを目に留めた俺は、素早く引き下がろうとする。
危険ではあるが、避けられないことはなかった。剣が、ヤツに突き刺さってさえいなければ。
刃を引き抜くのに必要な、ほんのわずかな時間のロスさえなければ。
 
後方に跳躍し、着地する。
その一瞬、自分の脇腹の感覚は、完全に消失していた。
ぴちゃ、と液体が床を叩く音がして、その音が俺に脇腹の感覚を取り戻す。
あまりに苦しく、重い感覚を。この感覚は知っている。これは、激痛だ。
 
脇腹を大きく裂かれ、溢れた血は足元まで流れている。
あの長刀の威力は、見掛け倒しではなかったということか。
いや、それだけでこうまで俺を傷つけることはできまい。恐らく、こいつ自身の力が優れているのだ。
純粋な能力だけでなく、生き延びようとするその意志の力が。
 
「やはり……やるな」
 
荒い息を聞かせないように、抑えた声で俺はヤツに問い掛ける。
これだけ血を流していれば虚勢など無意味だろう。しかし、俺にもプライドはある。
 
「それだけに理解できん……なぜ、その力をもっと有効に活用しない?」
 
俺は刀を払い、それだけで白刃を汚していた鮮血を振るい落とす。
 
「他者を蹴落とし、自分こそが優位に立とうとする、それこそが人間の本性ではないのか?」
 
刀をゆっくりと八双に構え直し、再びヤツへと歩を詰めていく。
 
「吸血鬼化など……その本性をほんの少し後押しするだけだろう!?」
 
そう、こいつの考えは俺には理解しがたい。それがどうしようもなく不快だった。
理解できないというのなら利用もできまい。ならば、切り捨てるまでだ。
裂帛の気合をあげて、俺は問いの答えも待たずに刃を頭上へと振り下ろした。

331 名前:ヴェドゴニア(M):2003/03/11(火) 00:29

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>330
 
「……だからだよッ!」
 
 吐き捨てて、俺は腰から唯一残った武器――ナイフ、“サド侯爵の愉悦”を抜いた。
 頭上に掲げると、刃と刃が噛み合い、耳障りな異音を上げる。
 
 ヤバイ、右腕一本じゃ抑え切れねぇ!
 自分では受けたつもりだったが、実際は僅かに軌道を逸らす程度でしかなかった。
 ザックリと胸を切り裂かれて、たたらを踏む。
  
(の、ヤロウ……!)
 
 胸から腕から、冷たい喪失感と共に血が流れ落ちる。
 足元は瞬く間に朱色へと染まっていった。
 血が床を汚すように―――俺の中でドス黒い怒りが侵食を始めた。
 衝動のままに、一歩を強く踏み出す。。
 
「生意気なんだよ、人間みたいな事言いやがって!」
 
 ……人間、みたい?
 熱くなる頭の中にそれが引っ掛かった。
 考えてみれば、コイツの言ってる事は何処かがおかしい。
 まるで、人間を羨ましいとすら思っているような……。
 
 思考と剥離した身体は、何時の間にかナイフを振るっていた。
 照明を反射する横薙ぎの一閃が、胴へと向かう。

332 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/12(水) 00:09

上弦vsフランク・グレイ
 
軽井沢の死闘から、数週間が過ぎた。
俺はママが死んでから、秋月のアニキの所へ行く気にも、
何かをする気にもなれず日本中をぶらついていた。
 
遺産も、自前のも金もそこそこにあるもんだからゴク潰しの俺でも何とか、生活は出来た。
 
だが、やっぱり血を飲むならナンパやらなんやらに成功してからにしたいもんだ。
 
そう思い、夜の街を一人歩く。
土地のニュースやママの残した手下達の情報も聞くべきなんだろうが、気が乗らない。
 
そして見た。
長い黒髪、白い肌、着物。
 
おい、着物?
浴衣並の薄着?
寒いとは思わないのかよ。
 
吐く息は白くない。
体温が低い証。 
言わずと知れた“お仲間”の証だった。
 
まあ、それでも顔がかなりイイ。
と、言う事でお近づきになろうと声をかけた。
 
不意に、アニキが俺に言った事を思い出した。
『お前、女に声をかける時は自分の顔に、気をつけろよ。
 無茶苦茶崩れてるぜ?』
  
そう、思いっきり目尻が垂れ下がり、鼻の穴おっぴろげて、
笑い出すより前に確実に退く顔つきになったままなのに気づいた。

333 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/12(水) 00:16

上弦vsフランク・グレイ
>>332

「寄るな」
 
 簡潔な一言だけを、少女は言い放った。
 その外見に似合わぬ、酷く冷徹な声で。
 年頃はどう見ても十代の前半としか見えない。
 だが、彼女の纏う空気には、威圧感すら混じっていた。
 
 それもその筈。彼女は七百年の時を生きた化け物なのだから。
 血を啜り、永劫の時を生きる鬼。
 吸血鬼。人の世では、そう呼ばれる妖だ。
 
「見た所『仲間』のようだが……」
 
 言いながら、少女は自分に言い寄って来た男を観察する。
 力の『感知』を使うまでも無い―――この男は同類、吸血鬼だ。
 
 流水を渡る事が出来ない彼女にとっては、初めて出会う異国の同類。
 だが、不思議と感慨は沸かず、ただ苛立ちだけが募った。
 
「下賤の輩の言葉など、聞く耳持たぬ」
 
 現代の若者を思わせる金髪も。
 馴れ馴れしいその態度も。
 妙に人間臭いその全てが気に障る。
 
 化生として高潔であろうとする彼女にとって、男は不愉快の具現と言えた。
 
「消え失せろ、下衆」
 
 言い置くと、少女は男に背を向けた。
 闇から紡ぎ出したような黒髪と、同色の単が翻る。
 夜に浮かび、触れる事の出来ない、月のような姿。
 
 その姿に相応しく、彼女の名は今宵の月と同じ―――『上弦』と言った。

334 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/12(水) 00:49

上弦vsフランク・グレイ
>>333
 
うわ、コレはまた古風な。
随分年代がかった物言いだな。
俺よりは年は上かも知れないがまあ、ママより年を食ったって事はないだろう。
しかし、それにしても浮世離れが激しいな。
この現代で世間擦れしていない“ご同輩”は珍しい。
大抵、現代に迎合して古風な雰囲気を持った奴が少なくなってる今日この頃だ。
 
以前、アメリカに行った時、30年前は照明におびえてた“ご同輩”が、
つい最近あったらインターネットで変な画像をDLして『地雷だった!』とか抜かしたのには流石に参ったもんだ。
 
それはともかくとして、こういう機会は滅多にない。
外見が幼いのは少々ヤバイ気がするが、茶飲み友達から始めてみてもいいかも知れない。
 
要は、がぜん燃えてきたという事だ。
萌えでない事を内心祈ってみつつ、俺は懲りずに話し掛ける。
 
「そんな事言うなよ。寂しくなっちまう」
 
飄々と俺は追いかける。
今夜の月のようにどこか尖った少女の背を追い越して向き直る。
 
「一人は寂しいもんだぜ?特に今夜のような月の夜はな」

335 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/12(水) 01:45

上弦vsフランク・グレイ
>>334
 
「――――」
 
 上弦は言葉を無くした。
 蝿のように纏わり付く男の、一言に打たれて。
 
 唯一無二の想い人。
 共に永遠を生きられると信じていた、彼の想い出。
 かけがえの無い――そして、取り戻す為の物。
 
 そんな古い想い出を、何故か、男の言葉から想起した。
 
「もう良い」
 
 ――――ギシ。
 
 変わらぬ表情の中で、怒りを受け止めた犬歯が軋む。
 こんな男が、想い出に関わってはいけない。
 一点の汚れも無い記憶に、こんな下郎が踏み込んではいけない。
 
 例えるならば、それは宝物に蝿が集ったのと同じ事。
 見るだけで不愉快な、恥知らずの蝿をどうして許せるだろう。
 蝿は、即座に追い払わなければ――――
 
「それ以上、耳障りな音を出すな」
 
 一先ず、視界から押し退けるべく、上弦が掌で男を突き飛ばす。
 突き飛ばす――といっても吸血鬼の筋力でそれを行ったのだ。
 暴れ馬が正面から衝突するのと、変わりは無い。

336 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/12(水) 01:59

上弦vsフランク・グレイ
>>335
触れられたくない所に触れちまったみたいだ。
 
見る見る泣き出しそうな感じになって手を伸ばしてくる。
思いっきり背を伸ばし、力の限りで押し飛ばそうと―――――――押された。
 
感情が暴発して見えて、動作も見え見えだったが…。
女の子を泣かしちまったんだ、まあ避けるのも酷かろう。
 
ぽーーーーーん!っと俺は押し飛ばされ、ビルのシャッターにぶち当たりそうになる。
流石にカタギに迷惑をかける事は拙いだろう。
 
勢いからトンボを切ってやんわりと着地する。
 
「悪ぃ、悪ぃ。まぁ、なんだ。詫びと言ってはなんだが…。
 去るのはやだから、俺の血でも飲むか?」
 
そう言ってみる。
俺は腹もそれなりに満ちているし、この娘が腹が減ってたとしてもどうにでもなる気がした。
 
それに……。俺の中で“この娘の血はどんな味がするのだろうか?”という興味がどんどん強くなってきていた。

337 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/12(水) 02:28

上弦vsフランク・グレイ
>>336
 
「黙れ」
 
 眼が細められ、辺りの空気が緊張する。
 能面のような表情は、依然変わらぬまま。
 
「下衆なお前の血など、泥水にも劣る」
 
 騒然となって逃げ出す人々の中でも、声は響く。
 
「泥水のように―――」
 
 一歩一歩、静かな足取りで歩み寄る。
 その右手に蟠るは黒い靄。
 靄が掻き消えた次瞬には、爪は狼のそれへと変化していた。
 吸血鬼の中でも、生まれながらの吸血鬼『主人』のみが使用出来る『部分変化』。
 
「地に全て、流れ落ちろ」
 
 風に煽られた着物が宙に浮き、人形のように細い脚を露にする。
 刹那の間に、上弦が男へと詰め寄ったのだ。
 一枚の絵画のように美しい一瞬。
 しかし、それは同時に―――爪を閃かせ、死を送り出す一瞬でもあった。

338 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/12(水) 02:53

上弦vsフランク・グレイ
>>337
ああ、やっぱりまだ怒ってるか。娘の手から黒い霧が沸いて出る。
変化を得意とする血統のようだ。
 
パンピーに見られてもどうってことなくなる位か……。
見境なくなるまで怒らせちまったのは、少々拙いとは思うが面白ぇ。
ギャラリーが逃げちまったのはちょっとつまらないが、ケンカは大好きだ。

ますます、この娘の血が飲んでみたくなった。
着物からこぼれる脚に目を取られつつ、つつ……。
おいおいおいおいおいおい、ここまで世間知らずか?
履いてないとか言わないだろうな……。
 
地水火風の力を呼び込んで攻撃するのも気が引ける。
ガチでもう少し遊びましょうってな。
 
「血は命なんだぜ?もったいないだろうが……よっと!」
 
左腕で綺麗なラインを描く死神の鎌、娘の爪を受け止める。
生脚に気を取られたのが拙かったか、爪が腕にジャストミート。
痛ぇ。だが、筋肉を締め付けてそう簡単には抜けないようにして脚払いを決めてみる。
“ご同輩”につけられた傷は治りが遅いが、まあコレくらい仕方ない。
 
すッ転んだりすれば俺の疑問が解けるかもしれない。
もし、予想通りだったとするならばそれはそれで怖いが。

339 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/12(水) 03:25

上弦vsフランク・グレイ
>>338
 
 筋肉に阻まれた爪を抜く暇も無く、足元を掬うような蹴りが襲う。
 男の下卑た笑いが顔に張り付いているのを見ると、つまらない妄想でもしているのだろう。
 
「―――何処まで卑しいか」
 
 足払いを受けて、上弦の体が宙に舞う。
 バランスを失った体は、このまま仰向けに倒れると思われた。
  
 だが、実際の映像は違う物となった。
 上弦は突き刺さった爪を支点にして、自ら『跳んだ』のだ。
 その勢いで爪を引き抜き、男の頭上を跳び越す。
 
「恥を知れ」
 
 音も無く着地した上弦に遅れ、着衣の裾がふわりと降りる。
 激しい動きに耐え切れず、単は若干乱れを見せ始めていた。
 
 構わず、再び『部分変化』。
 爪のみの変化であった右手を、獣の顎へと変換して振るう。
 狼が、延髄を食い千切る悦びの予感に震え―――吼えた。

340 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/12(水) 03:49

上弦vsフランク・グレイ
>>339
またやっちまってたか。表情がどうにもならないほど緩んでたらしい。
 
高く、飛ぶ娘の影を見送りつつ俺はそう思った。
「あーーーー、悪ぃ。なかなか治んねぇんだ。
 あと、俺からも一つ。お前、そういう無防備すぎる格好はそろそろヤバイぞ?」
ショボくれつつ返す。いい出会いってやつがないのは、
俺のコレが大半を占めてるのは分かってるがなかなか治らない。
表情って奴はまったくどうしたモンかと自分でも思う。
また火に油を注いだと思いながら間合いと状態を観察していたら娘の右腕がまた変化した。
 
今度は狼だ。流石にアレで噛まれると痛そうだ。ガチでぶっ潰す。
ダッシュで間合いを詰め、狼の舌を掴むように左手をねじ込む。
気合の入った拳なら、そうそう食いちぎられはしまい。
 
「チェーンデスマッチの変形ってな!」
 
女の顔は殴りたくないし、殴るとしたらまだ、腹だろう。
頭突きをフェイントで打ち込みつつボディブローだ!

341 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/12(水) 04:20

上弦vsフランク・グレイ
>>340
 
「囀(さえず)るな。お前ははいちいち癇に障る」
 
 不機嫌な声と共に、拳を銜え込んだ狼が悔しげに呻く。
 迫る頭部を首を逸らして避けるも、腹部への拳は見落としていた。
 鈍い衝撃が内臓を駆け巡る。
 
 ――――小者が。
 
 痛みに若干身を捩るも、直ぐに激痛は追い払われる。
 後には熾火のような疼痛だけが残った。
 
「……注いだ『力』が足りないか」
 
 呟き、狼に意識を集中。
 上弦は今まで『力』を大分出し惜しみしていた。
 直ぐに片付く雑魚と思ったのが、間違いだったようだ。
 
 ―――少し、遊んでやるか。
 
 紅を引いた訳でも無いのに、鮮やかな朱色の唇が歪む。
 
「存分に、喰らえ」
 
 その一言が引き金だったかのように、狼の大きさが一回り膨れ上がった。
 掌大から、人間の子供程の大きさへと。
 この大きさならば、拳どころか―――腕全体を易々と呑み込めるだろう。
 主人と同じように口元を歪めた獣が、喰らい付く。

342 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/12(水) 04:34

上弦vsフランク・グレイ
>>341
はっはっは、ようやくこっちをまともに見るようになってきたな?
 
「あいにくとコミュニケーションを豊富に取りたがるクチでね」
 
ボディブローをかました後、狼から手を引き抜いて間合いを調整する。
……予定だった。
左腕が丸呑みされかけてる。
キツイ。このままじゃ持ってかれる。
仕方ねぇ。俺は飲み込まれたままの左手で小さな印を切る。
夜の一族が脈々と伝えている技。地水火風を呼び寄せる力を使う。
 
ゴク潰しの俺でもこれぐらいはできるんだぜ…っと!
狼の体の中に冷気を大量に生み出させる。
俺の血もかなり凍るが……。
体液が凍る事で狼もさぞ、苦しいだろうな!
狼がひるんだ所で俺は氷でパリパリになった左腕を取り出し、側の街路樹に火を打ち込む。
 
瞬く間に発火して多少は楽になった。
 
「うーーーーー、寒すぎる……。
 温かい血を飲みつつベッドの上でゴロゴロしたいぜ」
 
決めた。トコトン押し捲る。この娘を組み伏せ、血を吸ってやる。
徹底的に飲んで味わってやる。
 
「お互い、出し惜しみが多いようだな?ええ」
爛々と瞳を赤く輝かせ、牙を剥き出しにして微笑む。
 
ああ、先ほどとは違った意味で俺は卑しい顔をしているのだろうな。
構わない。それが夜の一族、吸血鬼ってもんさ。

343 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/12(水) 05:01

上弦vsフランク・グレイ
>>342
 
 狼の腕を元に戻し、凍傷の残る腕を眺める。
 再生の遅い神経に達していなければ問題は無い。
 ぐずぐずの皮膚を、左手で引き剥がす。
 滞っていた血流が一気に噴出し、上弦の頬に掛かった。
 
「……ほう」
 
 血の滴が落ちる前に、再生は完全に終わっていた。
 治り難い怪我の場合は、こうした方が早く再生出来る。
 これも、かの想い人に教わった治療法だ。
 
 如何に従者を作るか。如何に戦うか。
 全てを想い人―――あの方から教えられた。
 
「そんな顔も出来るか」
 
 腕を伝う自らの血を、舐め取る。
 ゆっくりと、何かを確かめるように。
 
「面白い奴よ」
 
 口の端から血液が零れ落ちる。
 そんな事は気にも留めず、牙を見せ付けるように哂う。
 
「だが、所詮は下衆か―――」
 
 両手に黒い霞がかかる。
 先刻は右手だけだった爪が、今度は左手にも備えられていた。
 飛燕の速度で、少女の繊手が躍る。

344 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/12(水) 05:17

上弦vsフランク・グレイ
>>343
変身が得意な血統ほど再生能力は高いようだ。
その分、どこかしら弱点が多いと予測できる。
 
「ハッ、こっちこそ俺らの本領だろうが」
 
頭の中が冷たくなってくる。
思考が加速し、いかに娘の血を飲むかという目的を果たす為の計算と衝動がぶつかり合う。
 
「あとな、俺の名前はフランク・グレイってんだよ」
 
今度は両手が爪となったようだ。ああ、あの血は美味そうだ。
血を啜りたい、肉を味わいたい。
 
役立たずの衝動をねじ伏せ、思考する。
印を切っての術は準備がかかりすぎる。
近接格闘あるのみ。 
 
負けずにこちらも体にさらに気合を入れ、振るわれた両腕をつかみ、
爪を食いこまさせる。ここまではさっきと同じ。
だが、こう来ると思ってくれたのなら最高だな。
 
ダブルアームスープレックス。
かなり体勢がきついが、頭を大地へと力とタイミングを合わせて叩きつけてやるよ。

345 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/12(水) 05:43

上弦vsフランク・グレイ
>>344
 
 有り得ない方向に曲げられる骨が、悲鳴を上げた。
 折れるのは一向に構わないが―――叩き付けられるのは少し拙い。
 上弦は、敢えて相手の力と逆の方向へ力を加えた。
 
 軋みを感じたのはほんの僅かな時間だけだった。
 瞬時に生木を折るような鈍い音がして、両腕の骨が砕ける。
 しかし、これで骨という戒めは消えた。
 腕を引き抜く際の痛みは、意図的に無視する。
 
「名前などどうでもいい」
 
 だらり、とぶら下がる両腕に引かれ肩も落ちる。
 元より乱れ始めていた単はずり落ち、優美な曲線を描く首筋を露出させた。
 
「お前は、ただ滅ぶだけなのだから」
 
 腕の再生は間に合わない。
 そう判断した上弦は脚を跳ね上げ、中段へと蹴りを放つ。

346 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/12(水) 06:02

上弦vsフランク・グレイ
>>345
 
「は、は……はははははははははは!!」
俺は溢れてくる笑いをこらえられなかった。
馬鹿げてる、最高だ。
腕を自ら折る事で失神から自分を守った。
人間のレスラーでもそういう事をする奴は滅多にいない。
 
夜の一族だからこそできる芸当だ。
最高に気分がいい。茶飲み友達なんてレベルじゃない。
肩口が露出し、美味そうな白い喉がはっきりと見える。
 
むしゃぶりつきたい、ねじ伏せ、屈服させ、血を、意志を飲み干したい。
そう思った矢先、遠くからサイレンの音が響いた。
 
御当地の警察が動き出したようだ。
せっかく乗ってきたがこういうややこしいのはキツイ。
 
「滅びる?馬鹿な事言ってんじゃねぇよ。俺は、お前をぶちのめす」
 
答えながらここの周囲を暗黒で包み、二人きりでやりあえる場所を確保する。
 
“フランクの暗黒”
 
闇の中の闇。この中では、無機物ですら己の方向を見出せず、迷うばかり。
 
そして、暗黒を張り巡らせたと同時に娘が仕掛けてきた。
 
「甘いよ」
 
着物がはだけ、その下の裸体が一瞬垣間見えた。いいだろう、喰らってやるぜ。
蹴りが俺の体を横薙ぎに突き抜ける。
 
痛い。背骨や肋骨が軋み、一部折れる音が体に響く。
だが死ぬほどじゃない。“フランクの暗黒”もまだ解けやしない。
牙を食いしばりながら、蹴り脚をつかみ、折る。
そして……、押し倒すように倒れこみながら肘撃ちを娘の鳩尾へ叩き込む!

347 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/12(水) 21:54

上弦vsフランク・グレイ
>>346

 突然に、闇の濃度が増す。
 最も慣れ親しんだ筈の闇。その中で、彼女は自分の位置を見失った。
 
(……なんだ、これは?)
 
 注意が逸れた隙に蹴り足を掴まれる。
 失敗に気づいた時にはもう、ぼぎん、という痛々しい音が静寂の中に響き渡っていた。
 次いで、腹に突き込まれる肘。
 
「か―――はっ」
 
 痛烈な一撃が肺から空気を搾り出し、苦しみに喘ぐ声が漏れた。
 呼吸の必要が無いとはいえ、痛みは伴う物なのだ。
 直ぐに引く痛みとはいえ、完全に殺す事は難しい。
 
(しまっ……)
 
 衝撃で後方へ向けて体が傾ぐ。
 しかし、腕の骨は再生したものの、神経が未だ繋がっていない為動かせない。
 今折れた足はそれよりも酷い状態になっている。
 その結果――――
 
 成す術無く、上弦は地へと背中を叩き付けられた。

348 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/12(水) 23:10

上弦vsフランク・グレイ
>>
体中が悲鳴をあげている。肋骨はへし折れ、心臓には逝かないまでも内臓にいくつか突き刺さり、 
両腕は夜の一族による傷ですぐ動くか怪しい。
再生しきるには少しばかり、時間がかかるだろう。
 
何も栄養を取らなければ、の話だが。
 
目の前に倒れる娘。同じ夜の一族。その血は濃く、必要な栄養がたっぷりだろう。
両腕はそろそろ治る頃だろう、だが動きへとはまだ繋がらないはず。
 
体重を込めて両膝を娘の腹へ叩き込む。
そのまま、キスをねだるように頭突きを娘に放つ!
 
「そろそろ、ケリと行こうぜ!どっちにしろ早いとここの場を離れないとなッ!」
 
そうして、俺は娘の首筋に牙を埋めようとしていた。

349 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/12(水) 23:20

悪ぃ、>>348>>349へのレスな。

350 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/12(水) 23:24

>349はミス…。
>348は>347へのレス…

351 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/13(木) 00:14

上弦vsフランク・グレイ
>>348
 
 二度の打撃が、背中の痛打に重なり全身を打ちのめす。
 残留する痛みが、体の芯から熱を持ったような錯覚となって襲う。
 
「………る……な」
 
 か細い声が何かを呟く。
 小声だからといって、怯えている声では無かった。
 その声には何処か、弾んでいる。
 
「寄るな……」
 
 最初の警告と同じセリフ。
 だが、明確な拒絶の響きは無い。
 逸る気持ちを抑え付ける、押し殺した声だ。
  
「お前などに……」
 
 牙が首筋に触れた。
 先端の穿った穴から、滑った血液が溢れ出す。
 腕は僅かに動くのみ。脚も同様。
 反撃は不可能―――そう、思われた。
 
「『吸血』を、したくは無いのだ」
 
 まだ武器はある。吸血鬼の象徴とも言える武器が。
 それは、男と同じ、二本の牙。
 
 頭に置いておいた手ではあるが、それだけはしたくなかった。
 卑しい吸血鬼の血など飲みたくは無い。どうせ不味いに決まっている。
 しかし、それ以上に再生等による疲労が大きい。
 
(汚水でも、喉を潤すくらいは出来るか)
 
 男の牙が食い込むのとほぼ同時に、上弦も男の首筋へと食らい付いた。
 傷口に舌を差込み、相手よりも貪欲に血を啜る―――

352 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/13(木) 01:31

上弦vsフランク・グレイ
>>351
甘い。いい匂いと甘い味。血から思いが、歳月が流れ込む。
俺はこの娘が生きてきた700年の歳月をじっくりと味わっていた。
少し、体が動く。娘の頭を抱え、梳るように髪を撫でる。
そして、そのまま娘の体を愛撫する。
血を吸うリズムも強く、強く、弱く、弱く、強く、弱くと緩急をつける。
拒絶の言葉にも力が感じられなくなってくる。
 
そして、俺の首筋にも優しい感覚が来た。
「へっ……。だから最初に飲めよって言ったじゃないか……」 
最近自分でも幾つか忘れた年月を持った血だ。
じっくり味わえよ……。
相手が吸うピッチを上げてくる。
こいつは効く……。
俺も、同じくピッチを引き上げて抱きかかえてこの場から出ようと考える。
 
気分が出ても、河岸を変えなきゃヤバイ。
道楽者だった俺にもこの国にある対夜族の組織があることぐらい分かる。
そろそろそういう奴らが集まってもおかしくはない。
 
「もっと吸い合おうぜ……。河岸だけは変えさせてもらうが…」
抱きかかえる手に力を込め、抱きしめる。
夜の街の奥へ奥へと俺は娘を抱え、飛び始めた。

353 名前:暗黒騎士ガウザー ◆vQsChIjITA:2003/03/13(木) 01:41

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>331
 
「人間みたい……だと? 俺は暗黒騎士とまで呼ばれた男! 人間などと……」
 
そこで、言葉が続かなくなった。
そう、力を求め、人間界を支配することこそが、俺の目的だったはず。
なのになぜ、支配すべき人間に似ていると言われただけで、俺はこうも動けなくなっているのか。
 
わからない。
本当に―――――わからない。
 
言葉だけでなく、動きまで止まっていることに気付かせたのは、また痛みだった。
ナイフが腹部に食い込む感触。金属の冷たさと血の熱さ。
相反する感覚が、激痛という形でひとつになって、俺を苛む。
 
「貴様ァ!」
 
俺は上段の蹴りを放ち、ヴェドゴニアをナイフごと引き剥がそうとする。

354 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/13(木) 02:10

上弦vsフランク・グレイ
>>352
 
「あ……」
 
 今まで幾度となく、『餌』から血を吸う事はあった。
 しかし、自分が吸われる感覚を味わうのは初めての体験だ。
 
 血だけで無く、意識まで奪われるような喪失感。
 心地良くすらある、その感触を確かめながら息を吐く。
 
「……っ、」
 
 思わず上げそうになる声を喉で留める。
 再び舌が傷へと侵入し、傷口を広げる為に動いた。
 湧き上がる血液を、男と競うように飲み下す。
 
「はぁ――――」
 
 場所が移ったのも気づかず、吸血にだけ没頭していた上弦が口を離した。
 陶然とするような溜め息だけが漏れる。
 その目の焦点は定まっておらず、既に虚ろ。
 抵抗する様子さえ無く、男に吸われている。
 
 ただ、されるがままに。

355 名前:ヴェドゴニア(M):2003/03/14(金) 00:10

吸血殲鬼ヴェドゴニア(M)vs暗黒騎士ガウザー
>>353
 
 なんだ……動揺してるのか、コイツ?
 俺なんかとは違う、生粋のバケモノの癖に。
 それが妙に滑稽で、自然と哂いが零れた。
 
「ハ、」
 
 直後に襲い掛かったのは側頭部への蹴り。俺は大きく吹き飛んだ。
 だが、すぐさま跳ね起きて、逆手にナイフを構え直し突進する。
 地を這う低姿勢で、死角に滑り込むようにして。
 
「散々コケにしてくれたけどよ―――」
 
 疾走の勢いで、刀身に絡み付いた血が振り落とされていく。
 
「テメェの方が、よっぽど“半端者”じゃねぇか!!」
 
 言葉を叩き付け、下方からナイフを一閃。
 まだ血液のこびり付いた刃が、紅い軌道を描く。
 その途上にある―――ヤツの心臓を切り裂く軌道を。

356 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/14(金) 00:24

上弦vsフランク・グレイ
>>353
信号を無視し、夜の街を駆け、闇の中で俺の思考は一秒間に数十回はこの状態をシミュレートしていた。
フラレ状態が長い分、俺はこの状況を凄く疑問に思いつつも、
喜びとかにどうしようか迷っていた。
 
さて、そこで問題だ。このおっけーな状況をいかにかわすか?
 
三択だ。
1:ハンサムのフランクは突如この状態を打破し、
  友人関係を築く為のアイディアがひらめく。
 
2:ハンターかこの娘の保護者がきて(状況を)助けてくれる。
 
3:諦めてそのままごー。
 
 
俺が○を付けたいのは2だが期待は出来ない……。
確かに俺とこの娘はしばらく天下の往来でド突き合っていたが、
あと数秒の間に吸血鬼である俺たちを狙ってハンターが来る事も、この娘の保護者ないしはお付きが都合よく現れて、
アメリカンコミック・ヒーローのようにジャジャーンと登場して、
「やい、お前は何をしている?」のようなイカス台詞とともに戦闘になったりして、この状態がお流れになるのはある意味バッドだが、
まだ、救いはあるような気がする。
逆にお付きの奴とかが別の騒動を巻き起こしているかもしれない。
 
3は……。茶飲み友達が欲しいとは思ったが、
そういう段階をすっ飛ばしてしまうのは気が引ける。
 
例外として、
 
4:タイムアップ。白けた空気の中で喧嘩別れ。
 
があるが最悪だ。それだけはなんとしても避けたい。
 
「やはり、答えは1しかねぇようだな……」
 
傷は大方治ってはいる。栄養補給としてそこらにいた不運な酔っ払いから少々頂く。
 
よし、これでもう一回吸われても平気だ。
さっきの場所から走って3km先のここまでで1分40秒。
驚異的なスピードを通り越して激しくうそ臭い。
 
人間、やれば何とかなるものだ。まあ、俺は吸血鬼だが。
そして、俺は1を実行する為に娘をよく見た。
 
―――――――しまった、全部脱げていた。
 
上気したように見える頬、ぼんやりとして妖艶さをかもし出した目、抵抗らしい抵抗も見えず、全てを誘う雰囲気。
 
 
答え:B
        B
            B
 
最悪だ。

357 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/14(金) 00:38

本気で最悪だ…。
>356は>>354へのレスだ……。

358 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/14(金) 23:17

上弦vsフランク・グレイ
>>356 
 
 着崩れていた単は、走行の勢いで落ちてしまったのだろう。
 何時の間にか、その全身が夜風に曝されていた。
 染み一つ、傷一つ無い素肌が、月光に冴える。
 
「ぁ――く―――」
 
 時折上げる切なげな、声。
 新雪のように真白な、身体。
 其処に流れ落ちる、緋の線。
 全てが完璧な調和を生み出している。
 そう思わずには居られないような、美しい光景だった。
 
「あ、はは―――」
 
 笑う。ただ、被虐の悦びに身を浸して。
 そして、男の顔へそっと手を伸ばした。
 顔を自らの元へ引き寄せ、囁く――――
 
 
 
「下手くそが」
 
 
 
 衣がその身を隠すように、あの靄が全身を覆った。
 腕が、漆黒の獣毛の生え揃った前肢へと変化して行く。
 『全身変換』。
 多大な力でその身全てを変化させる能力が発動していた。
 
「受け身に回る、というのも中々に面白い物だな。
 新鮮な体験をさせてもらった」
  
 爪を男の頬に立て、今度は嗜虐の笑みを浮かべる。
 今まで無抵抗だったのは『遊び』だったのだ。
 何時もとは逆の立場に立ってみる、ほんの気紛れ。
 
「不味い血と下手な男だったのが、心残りだが」
 
 先程までの反応は、あくまで本心からの反応。
 だが、余りにも拙いこの男の手際に上弦は白けてしまった。
 がっつくような、余裕の無い責めでは一時しか愉しめない。
 絶対的な経験の不足――――それが浮き彫りになったという事だ。
 
「最期に、十分楽しめただろう?」
 
 吸血の最中にも見せなかった、心底楽しそうな笑顔。
 それが息を呑む間に、狼の顔に置き換わった。
 
「心おきなく、逝け」
 
 風切り音だけを残し、顎が襲い掛かる。
 結局、何処までも不快であった男を、噛み砕く為に。

359 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/15(土) 01:00

上弦vsフランク・グレイ
>>358
俺は欲求のままに、血を啜る。
リズムをつけ、ほかもフォローを入れつつ……。
だが、こういう状態はいくらなんでも焦りすぎだなと自分でも思っていた。
眷属あたりなら時々吸っていたのだが、こういう状況での吸血は初めてだ。
かなりがっついているのが自分でもよく分かる。
 
そして、アポカリプスは来た。
『下手くそが』
 
そうだろうな……。その、なんだ。まあ、初めてだし……。
「すまん」
 
とりあえず、素直に謝りたい気持ちがあった。
が、真っ黒な獣が俺の腕の中にいた。
『最期に、十分楽しめただろう?』
切り替わる気持ち。
 
「よせやい。最期なんて言うなよ」
 
やはり、俺にはこっちがいい。
完全に避けるには間に合わない。仕方ねぇ。
右腕をくれてやる。
食いちぎられる指先。そして手首。鮮血が俺と娘の変じた狼を汚す。
 
痛ぇ。声にならない叫びが俺を突き動かす。
意志が収束され、夜の一族の力を再び俺の体に呼び込む。
 
これで決まらなけりゃ、屍を晒すのは俺だなと思いながら地水火風の力、
火を呼び出して暴発させる。
俺も殆ど死に体だが変化の力を持っていてもそう、やすやすとは避けられないだろう。 
 
「俺の取って置きだ!喰らいやがれッ!」 

360 名前:上弦(M) ◆g4KgMOONuY:2003/03/16(日) 21:41

上弦vsフランク・グレイ
>>359 
 
 ―――ぱん。
  
 そんな音が聞こえそうな程に、呆気なく。
 暴れ狂う火炎に押され、狼の巨体は千切れ飛んだ。
 
「……く、く」
 
 哄笑が聞こえる。
 バラバラに砕け散った筈の欠片から。
 何故か欠片は血に落ちず、宙に浮かんだまま。
 
「芸はそれで終わりか」
 
 良く見れば、それは肉片では無い。
 動いている。耳障りな羽音を響かせて。
 それは―――無数の小さなコウモリが羽ばたいているのだ。
 
「惜しかったぞ、今のはな」
 
 火炎が炸裂する一瞬に我が身を『全身変換』。
 上弦は、多数のパーツに分離する事で炎から逃れたのだ。
 無論、多大な『力』を使用しているが、彼女はそれを難無くこなす。
 これが、七百年の間に積み重ねてきた『力』の成果。
 
 コウモリ達は素早く男の背後に集合して、人を形作る。
 人の形をした、バケモノを。
 
「では、今度こそ、さらばだ」
 
 その身体が構成された所で、上弦が後ろから男の心臓へ貫手を疾らせた。
 狼の爪こそ無いものの、その力があれば容易く肉体は破壊されるだろう。
 最も単純で―――そして、致命的な一撃。
 
「―――フランク・グレイ」
 
 微かに呼んだ男の名が……彼には、聞こえただろうか?

361 名前:フランク・グレイ(M) ◆GRAY0/z4BQ:2003/03/16(日) 21:50

心臓を貫かれた吸血鬼は滅び去るのみ。 
 
そう思いながら俺の体は急速に朽ちていった。 
風が吹く。
 
朽ちていった俺の体が文字を作ったかに見えた。
 
上弦VSフランク・グレイ  闘争レス番纏め
>332>333>334>335>336>337>338>339>340>341>342>343>344>345>346
>347>348>351>352>354>356>358>359>360 
 
もう、俺は滅んでいるはずなのにそう見えたのは滑稽だな、と思った。
 
そして、最後に 
 
“感想、その他は
ttp://plan-a.fargaia.com/html/test/read.cgi/vampbattle/1033894737/
 まで”
 
という文字とあの娘がようやく俺の名前を呼んでくれた事が感じられた。
ああ、あの娘の名前を聞けなかったのが残念だな、と思いながら俺の意識は完全に消えた。

362 名前:ミカエル=ラージネス:2003/03/19(水) 18:07

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
>>285

 堕天の剣をもってしても食い尽くせないほどの絶大な魔力が、オレを
焼き尽くし、城を崩壊させる。
 壊れていく世界、その中で唯一確かなもの。

―――――まだ生きている。

 焼け爛れた左腕がモリガンの頭を掴む。
 際限なく込められる力は指を砕き、突き出た骨が肉に埋まる。
 血は流れていない。流れるほどの血は残っていない。
 視界は闇。死はとうの昔に訪れていた。
 オレは残骸だ、悪魔狩りは悪魔を殺すという意味だけで動いている薄汚れた屍。

 自壊する肉体に、本能による制止は無い。
 当然だ。残り数秒でくたばる絞りカスに、生きるための本能も糞も無い。
 目的は相手の死。それ以外はなにもねェ。
 
 いまだ剣を握る右腕に振りぬけと力を込める。
 断裂していく肉と神経の響きだけが、剣を通じて伝わった。

363 名前:モリガン・アーンスランド ◆QhSuCcUBus:2003/03/19(水) 18:10

モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜

>>362

次は、色のようだった。
少しずつ霞んでゆく。薄れてゆく。白く。

―――遠くなる視界を切り裂く、黒。

斬撃を止める気も避ける気も無かった。
違う。
止められはしなかったし、避けられもしなかった。だから、左の脇腹に食い込んだ。
痛みは無い。もう、痛みも感じないらしい。

「繋ぎ止めていたモノ」がほどけて、「わたし」が亡くなって。
解けるように、はらはらと。
指が、髪が、腕が、風の中に消えて。
その光景すら、滲み広がる黒に消えて。


全部、堕ちて。

消えた。

山間の古城も、夜の女王も、悪魔狩りも。
ただ―――

ただ一つ、墓標の如く突き立った漆黒の大剣を残して。

364 名前:QhSuCcUBus:2003/03/19(水) 18:22

何処からかやってきた蝙蝠の群れが、剣の傍を飛んで。
キイ、と一声鳴いて去って行った。

>92 >93 >94 >95 >96 >97 >99 >100 >101 >102
>103 >104 >105 >106 >124 >148 >153 >154 >188 >189
>190 >191 >204 >205 >212 >213 >283 >285 >362 >363



(モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜 レス番纏め)

365 名前:遠野四季 ◆MC7218th56:2003/03/20(木) 01:52

 ここは今からオレと秋葉の"家"となる。
 "家"は家族以外を必要としない。
 オレの家族は秋葉だけだ。
 だからキサマ等は退け!!
 
 吸血大殲第53章 Smoke,Soile or Sacrifices
 http://www.appletea.to/~charaneta/test/read.cgi?bbs=ikkoku&key=048092550

 次の場に移れ! 
 ここはオレと秋葉、二人だけの世界となるのだ!!

366 名前:蟆霧 ◆slMAKIRIrI:2003/03/25(火) 23:16

か、か、終わらないねえ。
 
ミズー・ビアンカvs蟆霧
>81>82>85>233

367 名前:フィーア ◆VierFrypjg:2003/03/28(金) 04:07

 
ダンテvsツァーレンシュヴェスタン
『Air』
闘争レス番纏め
>>227>>228>>229>>230>>231>>232>>234
>>271>>272>>273>>274>>276>>277>>278
 
 これは……涙。
 わたし、泣いているの……?

368 名前:フォルテッシモ ◆40gff/DQNQ:2003/04/02(水) 22:01

 ―――リベンジ。
 
 やあ、"最強"へと続く階段を昇る資格を得た強者共(注:>>155以外)よ、待たせたな。
 俺の名はフォルテッシモ。おまえ等(注:>>162以外)がひたすらに目指す"高み"に立つ男だ。
 さあ、どうする?
 おまえ等(注:>>165以外)が夢見て飢えて欲する"最強"が此処にあるんだぜ?
 どうする? どうする?
 どうするどうするどうするってんだよ貴様等(注:>>168以外)が―――ッ!!
 
 ふん……良いだろう、ならば雌雄を決して白黒はっきりさせてやろうじゃないか。 
 
 第52章『鉄血の行軍』レス番纏めインデックス
 
>>20 アンジェラvsビリーJr
>>147 ヴェドゴニア&仮面ライダーアギトvs仮面ライダー王蛇
>>187 パンピースニクvs前園日出子
>>202 羽村亮vs天草四郎時貞『蒼月転生』
>>223 第一次遭遇〜世界一短い闘争〜
>>269 名無しクドラクvsヒョウ
>>291 蛭児vsマリアベル・アーミティッジ
>>319 トバルカイン・アルハンブラvs麻宮アテナ
>>361 フランク・グレイvs上弦
>>364 モリガンvsミカエル 〜闇と闇〜
 
 
中間レス番纏め
 
>>366 ミズー・ビアンカvs蟆霧
>>367 ダンテvsツァーレンシュヴェスタン『Air』
 
 さて……おまえ達(注:>>187は帰って良いです)、このフォルテッシモと相見える覚悟はできたか?

369 名前:或るクルースニク ◆KUZUSNiK6Y:2003/04/02(水) 22:47

……え、あ、いや。 
そりゃ、最強なんて興味ないよ。 
縁もないし、望めもしないし、望みたくもない。 
 
だけど……だけどさぁ! 
そう、露骨にすることもないだろ。 
俺に、恨みでもあるって言うならわかるけど。 
知らない顔だし、そんな事言われる筋合いもないし、 
でも俺が言い返してどうなるものでもないし…… 
 
わかった。 
わかったよ。 
帰る、帰ります。 
だからあんた、もうそうやって人のことを何度も出すの、辞めてくれよ! 
それにその”パンピースニク”って呼び方も気に入らない! 
俺は俺だ、妙な呼び方をしないでくれ! 
 
――――む。 
(ここでこうやって、マトモに取り合うだけ無駄……ぽいよな。 
 むしろ、変に逆らうだけ定着したりして。 
 それは――イヤだな。ここは適当にやり過ごすか。 
 やり過ごせるよな?)  
 
……あ、ああ、いや。 
やっぱりいいや。 
呼びたいように呼べばいいし、好きなだけ名前も出していい。 
それは、俺じゃないから。 
うん、俺に似た別の誰かだ。 
だから、俺は関係ない……関係ない! 
 
だったら、俺がここにいる理由なんて無いよな。 
邪魔しましたっと。 
 
(そくささと撤退)

370 名前:名無し:03/09/04 15:46

ハァハァ

371 名前:書けませんよ。。。:停止

真・スレッドストッパー。。。( ̄ー ̄)ニヤリッ

372 名前:書けませんよ。。。:停止

真・スレッドストッパー。。。( ̄ー ̄)ニヤリッ

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