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DIARY

1 名前::04/02/10 03:15






タスケテ




       

2 名前:琥珀@幼少:04/03/01 11:33

地下深く。
光はなく、誰一人訪れないゆえに音もなく、この体は人形であるゆえに感触もない。


――――そんな、そんな地下深くでただ眠れればよかったのに。


光はカーテンからわずかに差込、目の前からは荒い息使いが聞こえてくる。
この体は人形なはずなのに、それでもまだ人形にはなりきれていないのか。
体は痛み、心は不快を訴える。

人形になりきれていないから? それとも、早く人形になりたいから?



   DIARY



あの人からわたしへの、ただ一つの贈り物。
何の気まぐれか、あの人の一欠けらの優しさか。

ただ、残り少ない心で疑問に思う。
どうして、ベッドの中で渡したんですか、槙久様?



―――どうしていつもわたしのこの日記を眺めては、ベットの中では笑い


      普段は難しく顔を歪めながら少し怯えるようにこっちを見るんですか?――――



槙久様は二つの顔を持っている。
器用だな、とわたしは思う。
わたしに当たり、猫を殺し、犬を殺し、物を壊す。
四季さまに優しくし、秋葉さまに優しくし、わたしから目を背ける。
二つも自分を持っていて、疲れませんか、槙久さま?

だってなければこんなに楽。
一つだって大変だから、自分を消してしまえばいい。
そうすればほら、こんなに楽……。




               タスケテ




3 名前:DIARY:04/03/01 11:34

ただ一言の羅列であるこの日記が陽の目を見る必要はなく、見てはいけない。

そうであるがゆえにこの日記は常に太陽より遠ざけ、人の目に触れないように扱うこと。

あげず、下げ続け、常に地下深くへと眠らせる。

年月をへ、一つの思いが集められしものには念が宿り、呪いとなる。

我は少女とともにありし物。

日の本にあげることを許さず、他者からの書き込みを受け付けない。

ただし何がしか言葉を連ねたいものがあれば、我には書き込まず我を下げる要因となるべき欄に書き込むこと。

場合によっては少女が答えることもあろう。


4 名前:名無し客:04/03/01 11:35

 

5 名前:琥珀@幼少:04/03/01 11:37

今日も窓から外を眺める。
四季さま、秋葉さま、翡翠ちゃん―――名前も知らない男の子。

楽しそうに外を走り回っている。
外で走ることって、楽しかったかな?
ほら、秋葉さまはついていくのが大変そう。
息を切らして、その場で座り込んで。
それでもみんな笑っている。
あれ? 息を切らすことってそんなに楽しかったっけ?
わたしはいつでも―――息苦しいときは……。



   「ニャ―――――――ッ!!」



それはわたしの立つ窓からすぐ近くの部屋から聞こえてきた。
さて、後もう少ししたら片付けにいかないと。



それまではすることもなく、ただ窓の外を眺め続ける。


不意に―――名前も知らない男の子と目があった。



     ま   た   だ


どうしてあの子はあんなに楽しそうに手を振るんだろう。
わたしに向かって手を振るんだろう。


 バタン


横の部屋の扉が開き、中から槙久さまがやってくる。
いつものように入れ替わりで部屋の中に入ろうとすると、腕を掴まれる。

―――ああ、今日はまだ足りないんですね。




 ゆらゆら                     がたがた
         ふらふら
                                ぐらぐら

              ばらばら
     ばたばた
                        ぽたぽた


          赤い液、ぽたぽた


今日は、1、2、3、……6。
白、黒、茶……。
でも今はどれも赤いブチが入っている。


    猫さん猫さん痛かった?

    でもきっと――――



今赤いブチに包まれて動かない猫さんたちと、体をゆすられながら何も感じないわたし。

まだ暖かい猫さんと、暖かいか冷たいかも分からないわたしは―――きっと何も変わらない。


わたしと猫さんは、一緒だね……。








               タスケテ




6 名前:琥珀@幼少:04/05/27 18:39

今日は雨が降っている。
だからみんなお屋敷の中にいる。

ガタガタガタガタ

走り抜けていく二人の男の子。
お屋敷の中にいても、外にいても、やることは変わらない。

「シキ、シキ、待ちなさい」

槙久さまの『優しい』声。
いつも不思議だったけれど、雨が降る日は槙久さまは優しい。
けれど雨の日の『夜』は、それを吐き出すかのように怖い……。


ガタガタガタガタ


また二階へ男の子たちが走ってくる。


ドンッ


その内の一人と肩がぶつかって、わたしは床に座ってしまう。

「あ……」

二人が走るのをやめて、止まる。

「悪かったな、ほら」

男の子は右手をわたしに差し出してくる。

「シキ、シキ。ようやく落ち着いたか。屋敷の中は走ってはいけないと……」

槙久さまが二階に上がってきて、座り込んだわたしに目を向ける。

ドンドンドンドン――――パンッ、『バキッ』

槙久さまはわたしを見ると、急に早足で近寄って、一人の男の子の頬を叩き、
もう一人の頬を『殴りつけた』

「屋敷内は走るなといったはずだ……。分かったら今すぐに部屋に戻れ」

「……はい」
「……はい」

槙久さまが手加減しているようには見えなかった。
殴られたほうの男の子は文字とおり『吹き飛ばされて』いた。
それでもともかく言われたとおりにしようと、ふらつきながら二階のある部屋に
戻っていく。


「―――がっ」


後は同じ。
いつもと同じ。
違うのはわたしが呼ばれていくのでなくて、今日は手をつかまれ、
引きずられて部屋に入ったというだけの違い。

後は何も変わらない。
することは何も変わらない。

する?
                      それはおかしい

だってわたしは人形だから

           するんじゃない
  何もしないだけ
                       あれ?

 どうしてだろう……。
                        それじゃあどうして


  あの男の子は『人形』を倒して手なんかを差し出したんだろう?


人形は倒したなら起こすもの。
持って行きたいなら引きずるもの。
今、槙久さまがそうしてきたように。

あの差し出された右手に――――どんな意味があるのか。

今はもう分からない。
ただ思考を止めるだけ。
だってそうしないと痛い。
だってそうしないと気持ち悪い。


それでも――――あの右手が差し出されたとき、
        確かに口にしようと思った言葉があったような……。




               タスケテ

7 名前:琥珀:04/05/27 18:41



―――――そう言えばあの日





               手を差し伸べてくれたのは




        どっちの男の子だっただろう?

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